649: 2013/11/10(日) 23:32:05.71 ID:YDA3x8gto
雷帝「デモ、デモ、デモ……たぁいへんですねー、帝国は……デモもストライキもねぇからさっさと賠償金くださいよ賠償金」

敵兵「……」

雷帝「そう思いません? どーでしょ」

ブラウニー「どうなんでしょ」

ピクシー「わかりません」

雷帝「ふふん、あなた方魔物……失礼、魔王軍も物好きですねー。こんな氏に体のボロ雑巾にいちいち執成して」

ブラウニー「上の者の意向なんでー」

ピクシー「戻って来いって言われたら、すぐにでも北西帰りますー」

雷帝「あらー薄情、さすが魔物」

敵兵「(……怖い……怖い……もともとのオレの上司……ずっとずっと上の上司……!)」

雷帝「(メェンドクセー、心底メンドクセー……7年前の事ァ忘れちゃいねェぞ、クソどもが……魔物、魔物魔物……!)」

敵兵「(オレは善良な共和国出のいち兵士……ちょっと東方の血が混じった……)」

雷帝「(このゴミどもがしゃしゃり出て来なけりゃ……あの攻勢は西部へのヨスガとなったものをよぉー……氏んでくれねェかなぁーっと)」

ブラウニー「顔が怖い」

ピクシー「眉間のしわが怖い」
田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている(1) (マガジンポケットコミックス)
≪過去スレ≫

女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」第二章
女騎士「絶対に死んでたまるか!!絶対にだ!!」第三章
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」第四章
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」第五章 前編
女騎士「私が死ぬと思ってるの? バカなの? 死ぬの?」第五章 後編
女騎士「近くにいたお前が悪い」第六章
女騎士「私の事を好きにならない人間は邪魔なんだよ」第七章

653: 2013/11/10(日) 23:55:45.57 ID:YDA3x8gto
敵兵「ええと……次の予定はっと」

ピクシー「旧帝側との日程調整会議ですかね。連合の視察との兼ね合いもあるんで、こら長丁場になりますわ」

敵兵「(長丁場と言っても、仕事してんのはあのティタニアさんだよなぁ……)」

ブラウニー「旧帝側って言うと……情報部がしゃしゃり出てくるのかなー」

敵兵「情報部……あの気が強そうな金髪と顔を合わせなきゃあいけないのか」

ブラウニー「あー」

ピクシー「あのアジ=ダハーカの姪だか言いましたっけ?」

敵兵「どうもあのテの顔つきを見ると拒否反応が出てしまって」

ブラウニー「金髪碧眼は大方ダメって事すか」

敵兵「……さっきの雷帝閣下も苦手だ」

ピクシー「あれはまぁ……ヒトの話聞きそうもないタイプですし。先の首脳会談でもあんな調子でしたんでね」

敵兵「あれは酷かった。おじいちゃ……エルフが茶化し、閣下が騒ぎ、北西諸島が睨みつけ……あのクズは寝てるだけマシだったが」






妹「ごきげんよう、魔王軍の皆々様。どうぞよしなにぃ」

おかっぱ「……ククク、ごきげんよう。おやおやおや、何やら見知った顔が……気のせいかなぁ? どうなのかなぁ?」

敵兵「」

将軍丙「……」

敵兵「なん……えっ……え? 何? 何がどうなってんの……?」

ブラウニー「さあ……」

敵兵「(ば、幕府が情報部に取り入った……? そ、それにあのクズにそっくりな彼女……?)」

654: 2013/11/11(月) 00:10:09.65 ID:MJhHnfWjo
敵兵「あ、あの……これって一体どういう……」

将軍丙「ご覧の通り。あなたなら、彼女と面識があるのではなくて?」

おかっぱ「元気そうで何より。尻軽男」

妹「仲がよろしいようで、羨ましい限りですわぁ」

敵兵「……オ、オレ、か、かかか、帰……」

おかっぱ「帰んなよォー、アタシが何かしたみてェじゃあねーか。黙って話聞いてけよ」

敵兵「あ、ああ、あんた、何でのこのこ魔王軍と……まさか、あのおじいちゃんの差し金……!?」

おかっぱ「ばかたれが。幕府の士がいつまでもあんなところで腐っていてたまるかよ」

敵兵「は……」

おかっぱ「頃合いだと思ってなぁー。前に言わなかったっけ? アタシらは別に、大陸に暴れに来たわけじゃあないんだぜ。
頭の悪いお前らのさ・い・きょ・う・い・くをしに来てやったんだよ。どぅーゆーあんだすたん?」

敵兵「……はあ」

妹「黙って聞いていりゃあ、好き勝手を抜かす鼻ペチャですこと。ピーチクパーチク鬱陶しい事この上ありませんわね、土人」

おかっぱ「クク……あの姉貴にしてこの妹ありだ、家系まるごと病んでやがるぜ」

敵兵「家系って……じゃ、じゃあ……やっぱり、その人……」

将軍丙「……アジ・ダハーカとの関連性はともかく……彼女は先任の情報部長の叔母にあたる一人。つまり……」

おかっぱ「あのクソ姉妹の末っ子って事だ。どぅーゆーあんだすたん?」

妹「理解しました? 頭、働いてます? カカカ……」

658: 2013/11/11(月) 00:26:53.11 ID:MJhHnfWjo
敵兵「か、彼女が今の情報部長って……あ、あのクズを追っかけてたあの人は!?」

将軍丙「先代部長……彼女、先のテロ事件から行方が分からないそうなの。ああしてあの騎士が堂々と公の場に姿を現した事を考えると……」

妹「どこかでお腹を空かせて困っているんでしょうね。お気の毒に……お可哀想に」

敵兵「(……うう、間違いねェ)」

将軍丙「戦闘が発生した区域周辺の病院にも確認を取ったけれど、随伴の人員ともども音沙汰なし……残念だけれど」

妹「任務の最中にいなくなっちゃうだなんて、少し若気の至りが過ぎますわ……姪とはいえ、毅然とした対応をしませんと」

おかっぱ「そうして無理くり席から蹴り落としたわけだ。クソ姉妹……クソの血筋だこいつは」

妹「人聞きの悪い! 周囲からの栄誉ある推薦で就任したんですのよ?」

おかっぱ「クソの血筋については反論なし。それでこそだな……」

敵兵「(間違いなく……あのクズに近い人間だ……姪の彼女とは全然違ぇ……)」

妹「だってクソ……下痢みたいなものですわよぉ? ああおぞましい、あのゴミ姉貴二匹と半分は同じ体液が流れているなんて。
怖気が走りますわ!! お父様もお父様です、この私をあんな売春宿に叩き込まなければあんな目にはならなかったのに……」

敵兵「(お、お父様……さすがにこいつらも、気の股から産まれたってわけじゃあ)」

妹「体中に水銀を溜めて、全身の軟骨を軋ませながらベッドで呻いているでしょうねぇ……ああ可哀想、でも私は悪くありませんわ。
悪いのは水銀を垂れ流した帝国そのものですもの、『私』はまったく悪くございませぇん。天罰ってやつですわぁ」

敵兵「」

662: 2013/11/11(月) 00:44:04.95 ID:MJhHnfWjo
敵兵「そ、それで……そもそも、この面子は何なんですか、旧帝側との会合じゃあ」

将軍丙「そう、ね。間違ってはいないわ。かつての帝国との提携に関する話し合い……」

おかっぱ「アタシがいるって時点で気づかないか? この面子でどんな事をするかはよぉ」

敵兵「……」

ブラウニー「こっち見んな」

ピクシー「私らに分かるわけないだろ」

おかっぱ「大まかな指標としては……連合を北東の奥に押し込む事。大昔の騎馬民族にまで分裂させてやりたいもんだがね。そして――――」

妹「アジ・ダハーカを叩き潰し……覇権を私たちが手に入れるのです」

敵兵「」

妹「このままあの女が祭り上げられれば、カネも、名声も……東西戦争を生き延びた英雄として、
西方諸国で持ち上げられるのは時間の問題です。それでは困るでしょう? ねえ、魔物のみなさん?」

将軍丙「……大方、わかるでしょう。利害の一致よ、それ以上でも以下でもない」

敵兵「ですよねぇ……」

妹「だぁってぇ、だいたいズルくありません? 私がおいしい汁をすすれてないとかおかしくありませぇん?」

敵兵「」

妹「この私が対して持ち合わせもない失業者相手に小遣い稼ぎしてる間、お姉様がたったら贅沢三昧! ズルいですわズルいですわ。
姉妹なら幸せをおすそわけするべきでしょう? そう思いましょう? だぁって、そもそも世界は私を中心に回ってるんですからぁ」

敵兵「(あー、『あの血』だわコレ。まごうことなき『あの血』流れてるわ)」

663: 2013/11/11(月) 01:09:10.00 ID:MJhHnfWjo
敵兵「というか……帝国情報部では、すでにアジ・ダハーカがあのクズだという物的証拠が掴めているのか?」

妹「ハァ? どうしてそんなのが必要なんです?」

敵兵「」

妹「先の会談で、既に小姉様の御尊顔をこの目で確認しておりましてよ。それで十分ですわ」

ピクシー「うっわくそ短絡的」

妹「あなた方魔物は、小姉様がお嫌いなのでしょ? アジ・ダハーカなのでしょ? だいだい大嫌いなのでしょ?
ならそれで十分です、私にとっては十分なのです。あの女の四肢をもいで、私の目の前に届けてくれるなら何でもいいんですのよ」

おかっぱ「とまぁ、そもそもこの女は帝国の未来について執着がない。扱いやすいとは思わないか?」

敵兵「これはひどい」

将軍丙「……けど、こちらにとってはかなり好都合ではあるのよ。アジ・ダハーカの確保は我々にとっての急務。
加えて、先にも増して連合の牽制を情報部がしてくれるとなれば……」

おかっぱ「ゆくゆくは、そちらの勇者サマかその辺りが、帝国の頭になる。魔族のあんたらにはこちらの条件を呑んでもらうが……
まあ、悪いようにはしない。我々の信仰形態を受け入れてくれればな」

敵兵「……うちの頭がそれをすんなり呑むものですかねぇ」

おかっぱ「『うち』ときたか。どこまでも根無し草な男だ。そこの将軍さんが保証してくれたんだ、呑んでくれんと困る」

将軍丙「約束……するわ。恐らく、勇者君の方は……きっと、こっちに引き込める」

おかっぱ「昨日の狂犬が頼もしい番犬か。嬉しいものだなぁ、え?」

敵兵「はい……」

665: 2013/11/11(月) 01:35:04.71 ID:MJhHnfWjo
妹「あなた……魔物どもに信頼を置いているんですの?」

おかっぱ「私が? まさか!!」

妹「あらぁ?」

おかっぱ「この先の勝者が連合以外ならどっこでもいいんだよ、魔王軍が勝とうが北西諸島が勝とうが共和国が勝とうが知った事じゃあない」

妹「無責任ですのねぇ」

おかっぱ「我々の目的の一つである信仰改革……言っちまえばなあ、その勝者に便乗すりゃあいいのさ。
神はエライんだ、長いものにはみんな巻かれたがる。人魔断絶を理解させるのは、勝者と懇ろになってからよ。
まあ、もっともこのまま行けば、アタシらと組むのは予定通り魔王軍になりそうだけど」

妹「ならぁ、万一この私が勝ったら? 私にベットする気はあるぅ?」

おかっぱ「場合によるが……お気の毒、今の所選択の範疇にない。おたくら貴族が好き勝手した事による打撃の跡……
加えて、多民族帝国としての寿命がすぐそばに近づいている。先のデモの混乱、地域主義と民族主義の隆盛……ククク」

妹「ああ、見てられませんわねぇ」

おかっぱ「聞けば、かつての帝国もあんたらダッチェス……高位の貴族階級を元とする西部の原帝国、
東部領邦を元とする領邦帝国と、二重帝国の体を為してたって言うじゃあないか。それが連合から殴られて転々バラバラ、
今になってもお祭り騒ぎは止みゃしない……悲惨だねぇ、誰が頭になってもきっと変わりゃしない」

妹「どうしようもないですわねぇ……だれが責任取るんだか」

おかっぱ「他人事だな」

妹「もちろん。こんな国、さっさと滅べばいいんですのよ。貴族の家系にある人間を国土ごと駆除した上で……
そこで、私がのんびーり暮らせればそれでいいんですわ。魔物と東方の土人がいなければ、もうなんでもいいんですのよ」

真神「(うーんこのクズども)」

761: 2013/11/19(火) 17:07:53.08 ID:oYYoPUgmo
雷帝「お前らが困っていると聞いて、雷帝さんはご機嫌です! はははのはー!」

勇者「ええ、非常に困っています……」

雷帝「何だって何だって? 巨人頃しの下手人がまーだ見つかってないって? 御愁傷様wwwww

勇者「その件に着いても伺いたく、こうして参上いたしました」

雷帝「その件っつったってねー。これ雷帝さん気分良くないよー、普通は不愉快やろこれ。
おのれが殺ったんかいって言われてるようなもんやし。恫喝されてるようなもんやし」

僧侶「け、決してそのような事では……」

雷帝「巨人族の……グレンデル王とか言いましたっけ?」

勇者「はい。魔王軍がオフィシャルクランの有力者でもありました」

雷帝「情報……情報ねぇ。ふふん、確かにわが軍にもケンタウリ、魔族兵団は少なからず存在する。
巨人族への嫌悪も……私のような単なる猿人に比べ、若干濃い事もあろうよ。古代の巨人信仰に排斥された神性もいるからな。
手当たり次第に、魔族が中心として構築された集団、組織を有する勢力に顔出して回ってるって事ぉ?」

勇者「手当たり次第とは語弊がありますが……我々としても、組織内に頃しの疑惑など抱え続けておくわけにはいかないのです」

雷帝「でしょうねぇ。ただでさえ、あの旧帝国以上に多種多様の民族を背負って立っているわけだ。お上は気が気でないのでは?」

勇者「魔王本人も、非常に遺憾に想っております。一刻も早く、この状況を解決せねばなるまいと奔走しております」

雷帝「結構結構……しかぁーしー、お手伝いして差し上げたいのはヤマヤマなんですがね。私も人の子、わずかばかりの欲は心得ておりまして」

僧侶「……?」

762: 2013/11/19(火) 17:22:54.73 ID:oYYoPUgmo
雷帝「さすがに私のような純情可憐にして八面玲瓏たるこの雷帝さんの、イジらしぃいラブラブ交換日記の中身は見せられませんでぇ」

僧侶「」

雷帝「それにですねー、そもそもあんたらみたいな協商関係ってだけの連中に情報庁の大事な観音様、見せらんないんですわー」

勇者「はあ」

雷帝「ああもどかしい、知っていたとしても教える事かなわず……しかしですねー、この雷帝さんも悪魔じゃあありません」

勇者「と言うと?」

雷帝「あなた方の腹を捌いて、オナカの中身の病巣を確認してやる事はできましてよ? 誰かに刺されたか、それとも単なる食あたりか」

僧侶「(やっぱり疑ってるよ……怖いですよこの子……)」

勇者「……」

雷帝「それにちょっと色でも付けてくれたら、全力で犯人探しに協力してやりましょう。
ああ、なんて心が広いんだ雷帝さんは……ほんと雷帝さんの御心は三千世界に澄み渡る蒼穹のようやでぇ」

僧侶「(色を付けるって……既に散々ふんだくられてますよね、勇者様。連合の駐屯地の運営費だって魔王軍が……)」

雷帝「何か文句でもおありでぇ? こちとらマズメシ食らいの北西諸島とのご近所関係にピリピリしてる最中に、
帝国騎士団の栄えある英雄さんの粗探しまでしてやってるんですがねぇ? あぁ心が痛む、アジ・ダハーカなんて本当にいるんですかねぇ」

勇者「……」

雷帝「……私ら、もうちょっとメリット欲しいところなんですがねぇ」

僧侶「……」

勇者「……」

雷帝「聞ィとんのかこのクソガキどもが!! アァ!? 見返りはナンボじゃ言うとるんじゃボケェ!! ナンボ出すんじゃオラァ!?」

766: 2013/11/19(火) 17:48:00.23 ID:oYYoPUgmo
勇者「この大陸に生ける人々の為です。我々がより密接な関係を築いていくための一歩でもあると」

雷帝「知るかガキ!! おのれらの口先三寸手八丁には飽き飽きしとるんじゃボケ、貰うもん貰ろとかんアホがおるか!!」

僧侶「」

雷帝「おぅコラ? こんアタシがクソ忙しい中わざわざ顔貸してやっとんのに、
言うに事欠いてまーた余計な注文付ける気か? 人コケにすんのも大概にしとけよボケェ」

僧侶「(私は関係ないですから……こっちに矛先飛んでこないでください、お願いお願いお願い!)」

雷帝「大体、あの魔王ちゅーのはどこで何しとんじゃ、お? お前らみたいな毛ェも生えとらんようなクソガキ寄越してどういうつもりじゃ。
魔物風情が、少しその気にさせたったら調子ん乗りよって、挙句にこっちの痛くもない腹探らせぇ言うんか?」

僧侶「(……そんな事言ってないのに)」

勇者「先に指定した金額、それに一部の領地では満足いただけないと?」

雷帝「あんなミソッカスで何ができるんじゃコラ、北西相手にどうコビ売れるんじゃ? 
土地だきゃこちとらいくらでもあんねん、お前らからいくら毟るんはアタシらが決めるんじゃいボケェ!!」

勇者「ガリア=ベルギガの剣を出すと言っても、聞き入れてはくれませんか」

僧侶「……?」

雷帝「……」

勇者「6年前、あなた達連合が帝国に宣戦布告した真の目的でしょう。現共和国領ガリア=ベルギガに眠る聖遺物」

雷帝「……どこから嗅ぎ付けたんでしょうねー、雷帝さん不思議」

勇者「信仰改革という名目の下で、教皇領や国教会とのコネを構築した上で捜索を開始する腹積もりだった……違います?」

雷帝「あなたがそれを、今ここでホイッと引き渡せるんですかねぇ……」

勇者「性質上、それは不可能です。何分、僕を始めとした『勇者』の家系の人間でなければ、その……」

雷帝「……」

勇者「その『剣』は抜けません、そして行使する事すら叶いません、そして……」

僧侶「(……今度実家帰ったら、教会で戸籍調べてみよう)」

勇者「勇者がいなければ、『幽世への門』についても調べる事すらできません……」

767: 2013/11/19(火) 18:03:55.75 ID:oYYoPUgmo
雷帝「……くっく、数代にもわたる口伝で伝承そのものの存在が危ぶまれていたと聞きましたが」

勇者「おかげさまで、かの『勇者』の血筋にほど近い僕の家には残っていました。泉の剣についての伝承が……」

雷帝「神学者どもが無い知恵絞って伝承を紐解いたところによれば、ガリア=ベルギガに残る聖遺物それこそが『叡智の教義』との事ですが」

勇者「東方の学説については存じませんが……その泉の剣が叡智の教義と同一であるかどうかは、さすがに定かではありません。しかし……」

雷帝「6年前の上層部が求めていたものには、限りなく近いものであると……そうあなたは言いたいわけだ」

勇者「少なくとも、我々の魔王軍の土地よりかは魅力的でしょう」

雷帝「……勇者の剣に幽世の門……マユツバ甚だしい、しかし北西との交渉の材料になる……」

勇者「はい。連合が6年前の戦争についての再調査と、我々魔王軍との健全な関係を築いてくれるのなら、
僕は喜んで……そうですね、連合がちょっぴり有利になるよう、勇者のチカラを使いましょう」

雷帝「……」

僧侶「……」

雷帝「糞外道ども……そんなにアジ・ダハーカにお熱ってか。いいでしょう、考えておいてあげましょう」

勇者「ありがとうございます、閣下……!」



雷帝「……」

768: 2013/11/19(火) 18:19:52.86 ID:oYYoPUgmo
雷帝「ぶわぁーーーーーかwwwwwwwwwwwwwwwwww」

雷帝「あのブロンドバカ女がアジ・ダハーカ。ンな事ァとっくのとうにわかりきってんだよwwwwwwwwwww」

雷帝「この雷帝さんが6年間ボッケーとしてるわけなかろうにwwwwwwwwwwwwwwwなめとったらあかんでwwwwwwww」

雷帝「キモチのワリィバケモノの集団が、人間サマに対当になろうなんざ数兆年遅ェんだよwwwwwwwww」

雷帝「叡智wwwwwwwwwのwww教義wwwwwwwwwだっておwwwwww頭湧いてるwwwwwwww勇者wwwwwwwwwwwwww」

雷帝「あのガキいくつだよwwwwwwwwwwww15過ぎてあんな事言ってんだったら相当やべぇですぅwwwwwwwwwwwww」

雷帝「でもwwwwwでもまぁねwwwwww載せられてやりますよwwwwwあいつらバカなんでねwwww膿んでるくらいバカなんでねwwww」

雷帝「ここからがwwwwwアタシらの『宗教改革』の始まりって事ですわwwwwwwwwwwwwwwwねぇwwwケイ卿さぁんwwwww」



ケイ「……」

雷帝「カカカカ、安心しなさいなー。魔王軍がガサ入れに来たって事は……あんたが持ってきた書類は本物だったって証明されたんですわよー」

ケイ「……そうか」

雷帝「しかし……そんなにおカネが大切ですかねー。これが円卓でバレたらどうなりますかねー」

ケイ「……」

雷帝「ヤリOンのラーンスロットもギンギンになってカチ切れますかねぇwwwww山羊とでもヤってろぶわぁーーーーーかwwwwwww」

ケイ「所望とあらば、6年前の空戦の当事者も用意するが」

雷帝「慌てなさんな……確か、停戦の宣言が出された直後の非公式な空戦だった、あれかな……?」

ケイ「そうだ。交戦勢力や団員名簿すら、公の記録には残っていない……『謎のブロンドの民間人』、
そして『北西諸島にはいないはずのブルネット』を回収した部隊……当ては既についているぞ」

雷帝「(カカカカ……アジ・ダハーカさんたら、6年前から色々やってるんですねぇ……
オモチロイ、実にオモチロイんで……引き続き引っ掻き回してくれたら……雷帝、ちょっぴり嬉しいですねぇ……wwwwwww)」

771: 2013/11/19(火) 18:37:12.66 ID:oYYoPUgmo
姉「ご趣味はなんですかぁ」

エルフ三男「マスカキです」

姉「わたしもぉ。ところで、マスカキって何ですかぁ」

エルフ三男「はぁ……」

姉「楽しいですねぇ」

エルフ三男「そっすか」

侍女「……」

姉「えっとぉ……大将さんは、知りたい事ありますかぁ?」

エルフ三男「今までいくつタマゴ産んだんスか」

姉「?」



女騎士「あいつやべぇwwwwwwwwwwwwwww」

騎士は「ふてくされてるwwwwwwwwwwwwww」

騎士ち「侍女のwwwww顔wwwww引き攣ってますわwwwwwwww」

女騎士「あの顔wwwwwww超イヤそうwwwwwwwwwww」

エルフ騎兵「今まで見合いは何回かあったのにwwwwwwwww何だあの顔wwwww」

エルフ近衛兵「閣下wwwwwwwwドングリ閣下wwwwwwwwエルフ三男グリドンwwwwwwww」

774: 2013/11/19(火) 18:50:35.71 ID:oYYoPUgmo
姉「これおいしー。おいしいですわ、おいしいですわ」

エルフ三男「そっすか」

姉「これは何のお肉? 牛さん? 豚さん?」

エルフ三男「(どう見ても鶏肉だろ……)」



女騎士「バッカ姉wwwwwwwwwwwww」

エルフ騎兵「ニワトリ観た事ないんすかwwwwwwwwww」

女騎士「きっとあいつスズメとカエルの区別つかねぇよwwwwwwwww」



姉「ご家族はぁ? 御兄弟はいらっしゃいますのぉ?」

エルフ三男「兄が二人と……妹が一人……」

姉「まぁ……そんなに少ないんですのぉ?」

エルフ三男「(更に二人氏んでるからな……)」

姉「えっと……わたしはぁ、おとうさまとぉ、おかあさまとぉ」

エルフ三男「(帰りてぇ……騎士様ァ……500年でいちばん不毛な時間ですぅ……)」

姉「それでねぇ、妹がねぇ、ひい、ふう、みい、よお……全員には会った事ないの」

エルフ三男「……そっすか」

姉「それでね、わたしの子どもはねぇ……何人だっけ?」

侍女「一昨年で17人目です、お嬢様」

エルフ三男「」



騎士ち「クソビXチですわwwwwwwwwwwwwwwwww」

女騎士「初潮から数えてほぼ子宮が満員御礼かよぱねぇwwwwwwメス牛wwwwwwwwww」

775: 2013/11/19(火) 18:59:22.71 ID:oYYoPUgmo
エルフ三男「」

女騎士「お疲れちゃーんwwwwwwwwwwww」

エルフ三男「騎士様……」

エルフ騎兵「かわいい女性じゃないですかwwwwwwwwwww」

エルフ近衛兵「お胸もお尻もふくよかでいいじゃないですかwwwwwwww」

エルフ三男「お前らはマジでブッ頃すぞ」

女騎士「どうだよwwwww私の姉貴はwwwwwwwww」

エルフ三男「……」

女騎士「言ーえーよーwwwwwww何とか言ーえーよーwwwwwwwwwwwww」

エルフ三男「騎士様ッ、お願いです!! どうか、どうか僕に御慈悲をくださいまし!!
貴女の仰ることならば、例えあの腐れ爛れた女とでも一晩を共にしましょう……ただ、ただ……!!」

女騎士「ただ?」

エルフ三男「ぼっ、僕の500年を、騎士様の暖かな柔肌に」

女騎士「ヤダよバーカ、そう簡単に私のバージンやれるか」

エルフ三男「えっ」

女騎士「ん?」

778: 2013/11/19(火) 19:08:35.80 ID:oYYoPUgmo
女騎士「ん?」

エルフ三男「……」

女騎士「何かな?」

エルフ三男「申し訳ございません」

女騎士「何かな?」

エルフ三男「本当に、重ね重ね、申し訳ございません」

女騎士「私は?」

エルフ三男「麗しの騎士様でございます」

女騎士「は?」

エルフ三男「処O神に愛されし騎士様にございます」

女騎士「でしょ? でもだめだわ……大将の童Oは帝国の新たな礎にならなきゃいけないしなー……」

エルフ三男「そんなっ……殺生なっ……」

女騎士「……それじゃあ、あの子とやる?」

エルフ三男「は?」

女騎士「ほーらほら。おいでー、ほらおいでー」



娘「はい、お母様。今日もご機嫌麗しゅう」

エルフ三男「」

女騎士「いいよ、アンタならヤっちゃってもオッケー。顔は良いしカネ持ってるし、どうぞ」

エルフ三男「」

娘「はい、大将閣下。何かご用でしょうか?」

エルフ三男「そんな……馬鹿な」

娘「閣下……?」

エルフ三男「(ゆ、揺らいでしまいそうだ……彼女の配慮とはいえ……こんな倫理に背いた妥協案にッ……!!)」

782: 2013/11/19(火) 19:15:51.44 ID:oYYoPUgmo
女騎士「あなたは閣下をどう想う?」

娘「どうって……な、何ですか、お母様」

女騎士「簡単でいいの、あなたは彼をどう感じるかよ」

娘「どう……す、素敵な方だと思います」

エルフ三男「(や、やめろっ……やめてくれ……)」

女騎士「へぇ……どのあたりが?」

娘「やさしいし……頭もよくて……それに、お母様と同じきらきらのブロンドですもの」

エルフ三男「(やめてください……僕は……口リコンじゃない、口リコンじゃ……)」

エルフ騎兵「(閣下が繁殖欲と闘っておられる……)」

エルフ近衛兵「(両刀ぶってたけど、やっぱりファッションだったか……)」

785: 2013/11/19(火) 19:27:15.25 ID:oYYoPUgmo
妹「あらぁ、あらあら……お久しぶりでございます、小姉様。いつぶりだったかしら」

秘書「……小……姉様……?」

女騎士「……」

妹「大姉様のお見合いと聞いて、お相手の方のお顔でもと思ったのですが。まさか、小姉様までいらっしゃるなんて……」

女騎士「フフ……会えて嬉しいわ、元気そうで良かった」

妹「小姉様こそ、息災で何よりですわ。6年もの間、一体どこにおられたんですの?」

女騎士「共和国で……帝国の人々の暮らしが少しでも善くなるようにと、為政の勉強をね」

妹「まあ、小姉様は政治家になられるの? 素晴らしいですわ、きっとお父様もお喜びになりますわ」

秘書「(すげぇ……すげぇネコかぶってる……)」

妹「道理で……二人のお子さんも利発そうなわけですわね。旦那様はどんな方なんでしょう?」

女騎士「……」

秘書「!!」

女騎士「何を言ってるの? 私、まだ独り身なのだけれど」

妹「あら? おかしいですわね……私の聞き間違いかしら。小姉様が御子息をお産みになったと、風のうわさで」

女騎士「てめぇケンカ売ってんのか頃すぞ(まあ、誰がそんな根も葉もないうわさを。困ったものね)」

妹「やってみなクソビXチ、ドラゴンマダムさァん?(でも、すこし残念ですわ。小姉様のお子さんなら、きっと玉のように愛らしいでしょうに)」

秘書「」

790: 2013/11/19(火) 19:46:14.21 ID:oYYoPUgmo
妹「共和国のゴシップ誌に……そんな事が書いてありましたっけねぇ」

女騎士「いやだわ……ドラゴンマダム? 一体何の事?」

妹「何でも、竜に子供を孕まされた哀れな女性がいるとかいないとか……
根も葉もないオカルトですわ、気にしないでくださいまし……そう、小姉様のお子さんとおんなじオカルトですので」

女騎士「そうよねぇ。修道院に預けられて売春三昧、便器生活を謳歌してる最中にオークの襲撃に遭ってズタボロなんかより
ずっとずっとずっとずーっとマシよね、彼女」

妹「テメェーが豚どもおびき寄せたんじゃねェーーーのかクソ女が!!(小姉様ちょっと口が過ぎますわ。ここ、食事処でしてよ)」

女騎士「やぁーーーーい、入れ食いバージン食べ残しーーーー!!(あら、ごめんあそばせ……)」

妹「ドラゴンさんのごんぶとはどんなお味だったんでしょうねぇ? もう人間のじゃサイズ合わないんじゃないっすかねぇーーー!!」

女騎士「便所風アイスバイン~くっさいくっさい浮浪者のこくまろソース和え~の分際で何言ってやがんだぁーーー!?」

妹「経産婦が処Oぶったところで滑稽なだけですわよぉ? 色素沈着クロズンダーwwwwwwwwww」

女騎士「青春の9割を売春に捧げた豚のツガイは肥料でも食ってその辺に転がってな、テメェに喰わせるのは馬糞だがなあ!!」


秘書「汚いっ!! 汚すぎるっ!!」

796: 2013/11/19(火) 19:57:03.90 ID:oYYoPUgmo
おかっぱ「何やってんだてめぇ!!」

敵兵「情報を引き出すんじゃなかったのか!!」

妹「うるっさいですわね!! 何か……何か勝手に出ちゃったんですのよ!!」

おかっぱ「もう一回行け、今んとこお前、アホ晒しただけだぞ!?」

妹「土人が……!! 私に指図する気ですの!?」




娘「だ、誰ですか、あの人……」

息子「お母様のお知り合いですか」

女騎士「取るに足らないゲス女だから、早く忘れた方がいいわ」

娘「はぁい……」

秘書「(この人んちの血、濃すぎィ!!)」

797: 2013/11/19(火) 20:18:43.08 ID:oYYoPUgmo
おかっぱ「というか……お前、アタシらの身が危うくなるような事は言わなかったろうな」

妹「はぁ? 言う訳ありませんわ、私を誰だと思っていまして?」

敵兵「(ヤベッ……なんか……クズっちゃクズなんだが……ちょっと違うかもしれん)」

妹「そ、そもそもあの自分の事しか考えてない重度自己愛のバカ姉貴に、難しい事なんて考えられっこありませんわ」

敵兵「そういう逃避はよくないぞ……」

妹「きっとドラゴンに妙な病気でも貰って脳が委縮してますわ」



女騎士「(あのビチグソの言及から察するに、私が共和国に戻ったいきさつはともかく……
ある程度継続的に私やアルヴライヒ外務省を調査できる手段を有する勢力がバックにいることは間違いなかろう。
候補としては連合か魔王軍……もしくは共同体だろうが、あのバカ姉の今日の行先を知っていた事を踏まえると、
旧帝国のポストに就いているだろうな……とすると連合にほど近い位置か。小癪なクソガキが……!)」

妹「お母様……?」

女騎士「……はい、はいはい?」

息子「今日はこの後……その、共和国に戻るんだよね? 明日、行く場所があるって」

女騎士「……」

847: 2013/11/23(土) 04:24:04.47 ID:5OmB+p04o
敵兵「終わった! 終わったぞ!!」

ブラウニー「何がー? 借金返済?」

敵兵「違うァ!! 仕事ですよ、お仕事!」

ピクシー「何やってんですか、もう5時過ぎたのに。非国民ですか」

敵兵「30分も過ぎてないじゃないですァ!!」

ブラウニー「仕事とプライベートのけじめもつけられないような男の人って引くわ……」

敵兵「残業のうちにもはいらないですよ、こんなん……」

ピクシー「でもさー、私らが残業申請するとさー、若い士官なんかすっげぇ嫌な顔するよね」

ブラウニー「労組がくそ強いからねー。帝国内の人権活動家が暴れてくれたおかげなんだけど」

敵兵「なんてすばらしい労働環境なんだ」

ピクシー「最底辺から昇ってきた人はそう思うでしょうねぇ……」

ブラウニー「でもでもぉ、ちょおっとやりすぎなトコも無きにしも非ず、なんですよねー」

敵兵「……やりすぎとは?」

ピクシー「だからー、大陸における猿人優遇社会体系への批判。北西の女性参画気風が流れ込んで、ここ二十年で一気に広まりましたよね」

ブラウニー「旧教やブルジョワジー、帝国貴族なんかにとっては目の上のタンコブ。えらい勢いで火種まきまくってましたよねー」

敵兵「」

ピクシー「……状況、わかってる?」

敵兵「な、なんとなく……5年は共和国にいたしな」

848: 2013/11/23(土) 04:50:08.39 ID:5OmB+p04o
敵兵「でも、共和国ではそこまで感じなかったな……帝国じゃ基本的な人権すら貴族の間ではアヤフヤだったみたいだが」

ブラウニー「そりゃ、共和国や……それに北西は別格ですよ、叡智の教義以前の時代から続いてますもの。
国民の権利請願や幾多の革命で、初めて国権から『人権』の概念をつくりあげた大元ですから」

ピクシー「それでも、法整備って面じゃあ猿人の肩を持つ権利偏重が目立つもんだから共同体がぶちぶち文句を言いーの……」

敵兵「……帝国のゲットーを見ると、まさしくそんな感じだったな」

ブラウニー「そこで帝国を出すのも極端なんですけど……まあ、わかりやすくはありますね。
民族まるごと括って差別をするのは、議席を欲しがる右翼政党にとって非常に有効な手段なんでしょうね」

敵兵「政党ぐるみでゲットー周囲にアコギなパネル設置してたしな……
都市部なんか、これ見よがしに『景観整備にご協力ください』だの、『正統なる帝国の復古を!』だの……」

ブラウニー「それを逆手にとって票稼ぎをする共同体寄りの議員もいるみたいなんですよねぇ。
帝国が東西に分かれた現在では、特に西側で顕著ですね。連合を快く思わない共同体のテコ入れがあるんでしょうが」

敵兵「うへぇ……政治家ってどこ行ってもおっかねぇもんだ」

ピクシー「帝国の田舎なんてとばっちり凄かったみたいですよぉ、一夜にして農作業もろもろができなくなっちゃったりして。
馬人たちと共同で生活してた集落なんて、『諸形態に関する権利憲章』なんてもんのせいで完全に分裂です」

敵兵「なんか、ろくでもなさそうな感じがぷんぷんするな……」

ブラウニー「もちろん、共同体シンパの左翼政党からの発案だったみたいです。
要するに……『猿人が馬人に騎乗したりするのは中世以前の野蛮な侵害行為を連想させるからやめろ』みたいな条文が作用してるってわけです」

敵兵「時代錯誤も甚だしいだろ……」

ピクシー「他にも『馬人その他四足人種ならびに魚人種の職場には然るべき施工をしろ、経費はスズメの涙』とか、
『四足人種ならびに魚人種が傷病を負った場合、領主および雇用主に対し任意で事情聴取、調査団の経費は国庫から出します』とか」

敵兵「カネ食いすぎだろ……」

ピクシー「そして……そのおカネの行きつく先は……」

敵兵「待ってくれ……皆まで言わなくても、何となくわかるぞ……」

ブラウニー「もちろん国教騎士団みたいですね……
公にはなっていないし、仮に今さら難癖付けたとしても無駄でしょう」

849: 2013/11/23(土) 04:56:52.13 ID:5OmB+p04o
敵兵「レイシストならレイシストらしくそれを貫けよ……」

ピクシー「とにかくお金が手に入ればそれでいいみたいですよね……」

敵兵「ポリシーもくそもねぇな、それでいて教皇領ゆすろうとしてやがったのか」

ブラウニー「そういう歪な政策もあってか……ちょっと、声のボリューム落としますね。
……魔王軍からも、巨人族を筆頭に旧帝左翼に鞍替えしようって連中が少なからずいるんですよ」

敵兵「げっ……き、巨人……族……」

ブラウニー「そうです、あの殺されたグレンデル王も……もしかすると……」

ピクシー「近いうちに、大規模なクーデターでも起こす気だったとか……?」

敵兵「こ、こっちに来てまでそういうのはマジで勘弁してください……」

ピクシー「まあ、あくまで噂です、噂。根も葉もない流言です」

ブラウニー「そもそも、言っちゃ悪いけど既に帝国なんか氏に体もいいとこですよ?
政党を通して共同体に媚びを売るにしても、メリットが薄すぎますよ。魔王軍から連合に擦り寄った方が断然お得です」

敵兵「(ずいぶん達観した妖精さん達だなぁ……)」

850: 2013/11/23(土) 05:12:55.71 ID:5OmB+p04o
ピクシー「さあさ、続きは一杯やりながらにしましょう。これ以上一分たりとも職場に居たくありません」

ブラウニー「どうせ裏切り者なんかに大した仕事回ってきてないでしょう、さっさとアルコール補充に行きましょう!」

敵兵「もっと歯に衣を着せろァ!!」

ブラウニー「かてえ事言わんでくださいよ!! オフになったら妖精なんかこれもんでさぁ!!
小うるせえ将軍閣下もティタニア様も、表情のわからん極東のおのぼりさんもいない!」

ピクシー「そういえば、あのおチビさんは今日は見ませんでしたね」

敵兵「正午には、共和国からこっちへ戻ってくると聞いたんですが。列車が遅れてるのか」

ピクシー「……まだ、あのイカレたエルフどもと袂を分けてないんですか?」

敵兵「極東の戦力も、一部はエルフ預かりらしいしな……」

ブラウニー「ダブルスパイもほどほどにしないとマジ危なくないですかね、あの人」

敵兵「(魔王軍にも、完全な味方とは思ってもらえてないわけなんだなこりゃ。
将軍の墨付きって事で、とりあえずは安心できるんだろうが)」



敵兵「そうだ、ちょっといいですかね」

ブラウニー「はいはい?」

敵兵「さっきの書類業務の折に、こんなものが混じっていたんですが」

ピクシー「……軍務には関係なさそうですね、私的な手紙?」

ブラウニー「うげぇ、中身なんじゃこりゃ。どこの国の言葉ぁ? ミミズがのたくってますよ」

敵兵「翻訳しようにも、大学教授や言語学者の伝手なんてないですし。
極東の彼女の受け持ちに混ざってたから、きっと重要なものなんだと思って」

ブラウニー「なんだ、そんなら簡単だ。ワン公に頼めばいい。おうい、マカミのワン公!! どっかにいるんだろ、出てこい!!」

敵兵「(所帯染みちゃったなぁ、わんわんお……)」

851: 2013/11/23(土) 05:23:06.01 ID:5OmB+p04o
ブラウニー「よーしよしよしよしよしワン公、読めたかわんわん」

真神「……」

敵兵「(一応、神性なんだよな……極東のカミって……)」

真神「……確かにあやつの……あの士官の私物……ではあるが……」

ピクシー「あー、やっぱり向こうの国の文字でしたか。読めないわけだ」

敵兵「極東側からの指令だったりしたら、君の方で秘匿しておいて構わないが」

真神「……そういった類のモノでは……ない……これは……しかるに……」

ブラウニー「ああもう、そういうのいいからさっさと翻訳してくださいよ。私達すっげー口硬いんで。
将軍閣下の財布のヒモより硬いんで。あの肌の青い女の方ですよ? 野郎の方は財布もシモもユッルユルですんで」

真神「……」

ピクシー「極東の妖精はシャイなのよ!! 引いてるじゃない!!」

ブラウニー「なによ!!!1!!!」

敵兵「……ぶっちゃけ、オレも気になってきた」

真神「そうか……」



真神「『だーりんに会いたいようっ! このお手紙が届くのはきっと何か月も先なんだろうけどね、でもでもだーりんならきっと』」

敵兵「」

ブラウニー「」

ピクシー「」

真神「『あたしの愛に気づいてくれるって信じてる! だって、あたしとだぁりんはいっぱいいっぱいぎゅーした仲だもん!』」

敵兵「どれぐらい続くんだ」

真神「まだ……この四行目しか……訳せておらんが……」

ピクシー「二枚に渡ってこんなクソ文が綴られているのですか!?」

ブラウニー「おぞましき邪教の文言だわ……!!」

真神「……続ける……か……?」

ブラウニー「こいつはいい酒の肴ができたな……」

敵兵「」

852: 2013/11/23(土) 05:26:52.07 ID:5OmB+p04o
ピクシー「横隔膜がビクビクきますわね……これは久々に大物です……」

ブラウニー「何て恥ずかしいんだ……こんなの暴露されたら自頃するわ……」

真神「……」

敵兵「……」

真神「……」

敵兵「おいっ、止めるな!! 気になるだろ、早く続きを読んでくれ!!」

ピクシー「早くしてっ!! 舌がカレの指の隙間を艶めかしく這って、それからどうしたの!?」

ブラウニー「肴だ、もっと肴をくれ!!」


おかっぱ「貴様らをまとめて肴に加工してやってもいいのだが」

敵兵「」

ブラウニー「」

ピクシー「」

真神「」

853: 2013/11/23(土) 05:36:44.40 ID:5OmB+p04o
おかっぱ「残業してまで検閲作業とは精が出るな、なあヒモ男よぉ」

敵兵「(こわい)」

ブラウニー「ご苦労様であります」

ピクシー「現在、異常を発見したため状況を見定めているのであります」

おかっぱ「ハエ風情がアタシに向かって……! おい、早くそれを返せ」

真神「……」

おかっぱ「……」

真神「これを……返したら……もっと我を……崇めてくれるか……?」

おかっぱ「ああ、約束する。今ある神棚に加えてお前の神体も用意してやろう」

真神「だが断る」

おかっぱ「」

真神「この真神の……最も好ましき事のひとつは……己を強者であると思っている者に『否』と断ってやることだ……」

おかっぱ「クソ犬が……!!」

ブラウニー「ヘーイ、ヘルメット頭びびってるー?」

ピクシー「どういう事か説明しないと、暴露大会終わりませんわよぉー?」

おかっぱ「オイッ、クソニート!! やめさせろ、このアホどもを……!!」

敵兵「……」

おかっぱ「聞いているのか、オイッ!!」

敵兵「いや、その……今の所、『4対1』なんで……」

おかっぱ「この裏切り者がァ!!」

854: 2013/11/23(土) 05:48:00.82 ID:5OmB+p04o
ピクシー「……」

ブラウニー「まあその……なんですか、先人のイタイ詩集に毒された貴族さん達とそう変わんないじゃないですか」

ピクシー「どんな王侯貴族も、書き手に回ったら恋文なんて『好きです!! ハメたいです!』『愛してる!! ハメさせて!!』
ってーのをこねくりまわしてるだけですから……気にしない方がいいですよ」

おかっぱ「お前らが言うなァ!!」

敵兵「……ちなみに、マジにああやって頭のネジ緩んだ感じで書いてあったの?」

おかっぱ「このバカ犬の意訳に決まってるだろ!! 私の文はもっと高尚で瀟洒で……!!」

真神「『好きです!! ハメたいです!!』」

おかっぱ「おまっ……おまえ……おまえ!!!!」

敵兵「す、すいません……調子に乗りました……」

ブラウニー「泣かんでください……」

おかっぱ「うっせーーーバーカ!! お前らなんかに列島に続く恋文の文化なぞわかってたまるか!! しね!!」

真神「……やはり……あの馬人との関係は……続いているのだな……」

ピクシー「馬人のカレシかぁ……」

おかっぱ「口閉じろ!! 縫い合わせて吠えられなくしてやる!!」

真神「『愛してる!! ハメさせてぇ!!』」

敵兵「やめたげてよぉ!!」

855: 2013/11/23(土) 06:08:07.06 ID:5OmB+p04o
ピクシー「ちょっとこれは根掘り葉掘り聞かないとだめですねー……」

ブラウニー「カレとはいつ、どこで会ったんですかねぇ……初体験はいつですか? キスはどんな味ですか? 馬糞?」

おかっぱ「ビチグソどもめ……!!」

ピクシー「こんなお下品な言動が目立つ彼女ですが、きっとカレシさんの前では『キャーステキ! 抱いて!』と大股広げておっぱじめ」

おかっぱ「会ったのは数えで十一! 接吻も本番もまだだ!」

ブラウニー「いやん、オボコじゃないの」

敵兵「……そもそもおいくつでしたっけ、あなた」

おかっぱ「……」

真神「『チガウ……今までの男とは何かが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを』」

おかっぱ「数えで二〇! 世が世なら年増もいいところだろ!」

敵兵「ウソだろ!? てっきり一三、四かと……」

おかっぱ「その頃はもうすでに奉公先飛び出してたわ!」

ブラウニー「で、カレシとの出会いは……」

おかっぱ「ぐ……」

真神「……」

おかっぱ「……丁稚奉公に出された先で……せ、先生が算術の巡業してる時に……だ」

敵兵「巡業?」

おかっぱ「算術士のな、こっちじゃ算術が農民の娯楽の一つなんだ。天元術に幾何学は、中世の検地から広まった分野だからな」

敵兵「幾何学……?」

おかっぱ「田畑の面積を求める際に……また、年貢等々の計算にも用いるだろ。アタシなんかは相当に恵まれてる方だったが……」

敵兵「(士官学校に入って……弾道計算だとかにうざったい公式の暗記をイヤイヤやった事くらいなんですがそれは)」

856: 2013/11/23(土) 06:19:24.50 ID:5OmB+p04o
おかっぱ「それからこんにちに至るまで、先生とは何もなし!! 残念だったな!!」

ブラウニー「センセイだって……」

ピクシー「ヒッポケンタウリのセンセイ……」

ブラウニー「馬センセイの(夜の)教鞭、すっごく厳しいナリィ……」

おかっぱ「どこまでも人をコケにしたハエどもだ……!!」

敵兵「……」

おかっぱ「何だ、まだ笑い足りないか」

敵兵「いや……安心しただけです、あのクズと違ってすっげぇ人間味が」

おかっぱ「あれと比べるな、けがらわしい! 怖気が走るわ」

ピクシー「サンジュツの巡業って事は……なんか、サーカスみたいな?」

おかっぱ「そんな仰々しいものでもない。各地の寺子屋を渡り歩いて、簡単な講義と引き換えに寝食を提供してもらう、それだけだ」

ブラウニー「ヒッポケンタウリと年端も行かぬ童女の二人旅……」

ピクシー「帝国じゃ誘拐があってもケンタウリだからって理由で即時釈放、女の子側は泣き寝入りの事案ですねー」

おかっぱ「よほど貴様らは先生を性犯罪者にしたいようだが」

ブラウニー「なんだインポか」

おかっぱ「ブッ頃すぞ」

898: 2013/11/25(月) 02:27:05.63 ID:WHnwlFvJo
秘書「あー! やっと来た、遅いですよお」

おかっぱ「私用に手間取ってな。二日も三日も席を空けるとは思わなかったのだ」

秘書「発車の時刻ギリギリですよお。もう騎士さん達、食堂車でおいしい思いしてるんですよお」

おかっぱ「犬猫は連れて入ってもいいのか?」

真神「……」

金長狸「キカンシャはじめてー!」

秘書「……」

おかっぱ「粗相はどうすればいい?」

秘書「さあ……」

おかっぱ「共和国までの旅路、そこまで時間はかからんだろうが」

秘書「いや、でも……今から行くメリフェラ領って、ほんとに共和国の辺境にあるみたいなんですね。ですから」

おかっぱ「窓からしろとのお達しだ、腰抜かして落ちるなよ」

金長狸「」

おかっぱ「この蒸気機関車とかいうの、軍馬の三倍の速度を叩き出すそうだ。もし落ちたらミンチだから覚悟しておけ」

真神「」

900: 2013/11/25(月) 02:38:48.40 ID:WHnwlFvJo
真神「……」

おかっぱ「……」

真神「あ……あまり……気に病むでないぞ……」

おかっぱ「案ずるな。私は最初から帝、ひいては皇国の臣民の為を想って行動しているだけだ。そこには何の憂いもない」

真神「現地語では……ニュアンスの表現が……少々歪になってしまうのも……致し方ないではないか……」

おかっぱ「それをひっぱるんだったら窓から私が直々に叩き落すぞ」

真神「わん! わん! わんわんお!」

金長狸「にゃんにゃんお!」

おかっぱ「刀の錆になりたいのかっ、妖怪変化ども!」

金長狸「そんなイライラしないでよう、生理?」

おかっぱ「イライラもするわ!」



真神「……しかし……あの女狐は……大丈夫か……?」

金長狸「さあ……名目上は、松山の祭司や術士への報告と現地における活動方針の見直し……って事だけど」

真神「あのエルフの将軍、そして鬼どもの監視……あの小娘に……そこまでできるものか」

金長狸「早めに手を打たないとぉ……幕府側の発言力も枯れちゃうかもしれないんだよねぇ……鬼さん、こわいこわい」

901: 2013/11/25(月) 03:00:04.70 ID:WHnwlFvJo
おかっぱ「何の為に、出がけギリギリまでアタシが松山の重役に老中ともども頭を下げに、下野国くんだりまで足を運んだのだと思うね」

真神「……」

おかっぱ「これ以上、将軍の膝元で薄汚い下衆な百鬼どもにでかい顔をさせるわけにはいかねェんだよ。違うか?」

金長狸「(ん? 私らえっらいディスられてない?)」

おかっぱ「言うに事欠いて、奉行のアタシに向かって帝の勅命を放棄した謀反者だあ? 何様のつもりだ、鬼ども……!!」

真神「そう……いきり立つな……」

おかっぱ「そっちがそのつもりならいいだろう、肉も骨も髪も焼いてやる、駆逐してやるよ……
ヴォーパル鋼とドワーフ……魔王軍の連中、言ってる事こそどうしようもないが……なかなか使えそうなものを取り揃えている」

真神「……楔に杭……それに……呪式正当性の目途が……ついたのか……?」

おかっぱ「魔王軍の魔術研究スタッフの支援が得られたとはいえ、起動実験もなしに……しかも未知のこの大陸でそんな大それたことはまずできん。
それに、せっかくドワーフを連合の支配下からあのクズ、そして魔王軍の側に選り分ける事が出来たんだ。どうせなら正確なリターンが欲しい」

金長狸「すっごいなぁ、魔王軍って……」

おかっぱ「……そうだ、今では見る影もないがな。魔王軍のポテンシャルは、こんなものではない。だからこそ、隠遁してもらわねばならない」

902: 2013/11/25(月) 03:07:55.17 ID:WHnwlFvJo
外交官「ようこそ、メリフェラへ。長旅でお疲れでしょう、すぐにホテルへご案内いたします」

秘書「」

女騎士「おういデブ、つったってんなよぉ。何時間も揺られて吐きそうなんか?」

秘書「だだだだだ、だってだってだって……」

ポニテ「彼女には私がつきます、騎士様はお先にお休みになってください」

女騎士「あら、そう? じゃあお願いするわー」

外交官「どうぞ、こちらへ……ところで、試作の品はどちらに?」

女騎士「後で研究スタッフに卸させるよ、それよかお風呂! ごはん! 早急に!」

秘書「あああ、ああれあれあれ、あの……ヒト」

903: 2013/11/25(月) 03:22:19.04 ID:WHnwlFvJo
ポニテ「彼らはメリフェラ領の固有種……節足人種とでも言いましょうか」

秘書「せせせせ、節足……だってあの、あの人……虫、虫ですよお。厚ぼったい服でしたけど……は、蜂……蜂さんです……!」

おかっぱ「確かに……蜂を基にした種は初めてだな」

秘書「い、いやに落ち着いてますが……」

おかっぱ「同僚にクモそのものがいた職場だったからな」

真神「しかも……ケンタウリに恋い焦がれて……」

おかっぱ「しばくぞ」

ポニテ「……帝国や共同体領で、彼らの事を虫だのと言ってごらんなさい。彼らではない彼らの権利を守りたがる連中がタカりにきますよ」

秘書「ひぃ」

ポニテ「あの外交の彼でも、かなり猿人に近しい形質の持ち主です。いや、彼女……かな?」

秘書「た、確かに……髪の毛だとか、口元は私とおんなじような感じだったけど……」

ポニテ「私もそこまで詳しくはないのですが……節足人種(インセクトリアン)もまた、
かつての勇者による革命で理性を得た種族だと聞いています。現在では、魔族という大きな括りとは異なる事を自他ともに認めていますが」

秘書「……でで、でも……あのアゴって言うんですかあれ……すっげー怖い……頭からかじられて肉団子にされちゃう……」

ポニテ「カタギならまずその心配はないでしょうね。節足人種による犯罪、共同体や帝国で聞いた事がありますか?」

秘書「……ない、かも」

ポニテ「敬虔な教徒である彼らは、その倫理や哲学の中心に教義に基づく道徳のほか、所属する家系の女王が存在しています」

秘書「女王……? 北西みたいな?」

ポニテ「それより、更に神格化されているでしょうね。ナショナリズムそのものと言っても過言ではありません。
現在の女王が猿人絶滅政策でも出さない限り、彼らは友好的この上ない隣人でいてくれることでしょう」

秘書「……」

おかっぱ「叡智の教義、ねえ……」

904: 2013/11/25(月) 03:35:02.20 ID:WHnwlFvJo
女騎士「……こぉんな田舎くんだりまで来させて。また何か悪巧みしてんのかぁ?」

騎士ほ「フククク……久しぶりの再会ですのに、つれないお姉様……」

女騎士「体面としては、アルヴライヒとメリフェラによる高熱量食品の臨床実験への立会……」

騎士ほ「ええ……先の二回のアタックで……かなりおカネを使ってしまいましたでしょ?」

女騎士「使うのもそうだが、入る量もなかなかなもんでなぁ。エルフどものカネに関する汚さは筋金入りだ」

騎士ほ「ドワーフ筋の成金やボンクラ貴族に預金させて……のちに不思議な非業の氏を遂げさせる……フククク……」

女騎士「……それで? 私をさしおいて莫大なカネを北西から吸い上げてるお前が何の用なの?」

騎士ほ「はぁん……嫉妬……? お姉様、私に嫉妬なさってるの……? そんな……いけません、お姉様は下賤な私などとは一線を画す崇高な」

女騎士「(そうだ……思い出してきた、こいつメンドくせぇんだよな……)」

騎士ほ「フクク……きわめてシンプルな事ですわ……」

女騎士「……」

騎士ほ「……お姉様は、ゆくゆくは大陸はおろか……北西の高等竜種(エルダー)までもを統べるべきお方……その足掛かりとして……
フッククク……ガリア=ベルギガの主となって頂きたく思いまして……」

女騎士「やだ」

騎士ほ「」

905: 2013/11/25(月) 03:49:47.36 ID:WHnwlFvJo
騎士ほ「ゆ、勇者伝説の聖地をその足で」

女騎士「やだ」

騎士ほ「あ、あらゆる信徒をひざまずかせる事ができましてよ……!」

女騎士「ヤダよォー、アンタがやりゃいいじゃんかよォー、メンドクセーじゃんそんなの。
大体なんだよガリア=ベルギガってよォー。テメーらの内だけで話進めてんじゃねーぞボケェー」

騎士ほ「……」

女騎士「あー不愉快、すっげ不愉快だわー。お前の傀儡みたいに言われて不愉快だわー」

騎士ほ「お、お姉様……」

女騎士「私ゃ別に神様に縋るアホ神官タコ教徒スチャラカ牧師にゃあ興味ねぇんだよ、新教と旧教の区別もつきゃしねぇからな。
そんなバカどもに崇められてもぜんっぜんキモチよくねーの。だってそうだろ? いかれたそいつらの頭の根底にあるのは、
どこの誰だかわからん『神様』なわけだろ? うっへーきもちわる、そういう奴はみんな氏ぬべきだ。弾圧しろ」

騎士ほ「」

女騎士「……お前さぁ、なぁんか勘違いしてない? 私の今したい事さぁ」

騎士ほ「それは……」

女騎士「私さぁ、別にエラくなりたいわけじゃねーのよ。そもそも私って誰よりもエライ訳だし、それは私がこの世に生れ落ちたその瞬間から決まってるわけだし。
エライエラくないって概念は、私以外の凡人達の間で適用されるもんだろ? そんなもんを私に適用するなんてナンセンスやん?」

騎士ほ「は、はひぃ」

女騎士「私の今したい事はなぁ……」

騎士ほ「……」

女騎士「まず勇者をブッ頃す!! 勇者だとか名乗ってるくせに、魔物に肩入れしてやがるあのクサレガキを八つ裂きにしてやる事だ!!
三日三晩……いや、十日はぶっ続けでコチョコチョの刑に処す!! 楽には氏なせん!!」


女騎士「次にあの魔王とかいうメスガキだ!! 何から何まで目障りだ、人間を惑わす邪悪な魔物野郎め!!
あのトンチキ勇者の目の前で丸太でも叩き込んでぶち壊しにしてやらあ!! こっちは二十日は煮込み通しにしてやんよ!!」


女騎士「そしてあの甲斐性ナシのクソ男だ!! 6年前に私を捕らえた事、そして私の人生をムチャクチャにしてくれたあの野郎だ!!
あのビチグソだけは念を入れて苦しめてやる、業火で熱した鉄板でつま先からじわじわと輪切りにしていってやる……!!」


騎士ほ「んはぁぁん……お姉様っ、素敵ぃ……!!」

906: 2013/11/25(月) 04:08:44.70 ID:WHnwlFvJo
騎士ほ「……しかしお姉様、そうなるとやはり……ガリア=ベルギガを押さえるのが近道なのではないでしょうか」

女騎士「しつけえな、大体勇者様の故郷なんかになんの価値があるってんだよ」

騎士ほ「……」

女騎士「私とてスッカラカンなわけじゃあないぞ? 東帝においては、連合の差し金だか何だか知らんが……
終末思想に並んで反貴族思想、そして救世主である勇者を待望する声が目立ち始めている。
この状況で西欧会議に臨めば……一方的に負ける事こそないにしても、苦戦は強いられる事だろうよ」

騎士ほ「仰る通りで」

女騎士「わざわざ重役にのし上がったお前が共和国のこんな田舎くんだりまで来るって事は……
そのガリア=ベルギガ……よほどのモンが隠れてると見える。実際んとこはどうなんだよ、おい」

騎士ほ「……そう、よほどのモン……エルダードラゴンをも統べる事ができるほどの宝具が眠っているとの……」

女騎士「そういうオカルトは信じてねえんだよ、おとといきやがれ」

騎士ほ「情報元が円卓だとしても?」

女騎士「……円卓?」

騎士ほ「北西の為政に直接口を挟む事の出来る、カビの生えくさった組織……円卓の騎士が一人からの情報です」

女騎士「……」

騎士ほ「幽世の門を拓き、真実へと探求者を導く鍵……そう、彼は夢想していましたわ」

女騎士「夢遊病かよきめぇな」

907: 2013/11/25(月) 04:17:25.22 ID:WHnwlFvJo
女騎士「……一つ聞きたいんだけどさぁー」

騎士ほ「はい」

女騎士「そこをどうにかしたらさぁ、勇者怒るかなぁ」

騎士ほ「……」

女騎士「いやさぁ、ゴルフ場にしたり、焼き払ったりしたら」

騎士ほ「はい?」

女騎士「くっそ恥ずかしい上に柄じゃねーけど、迷いの森みてぇな場所に入り込んじまったって言ったじゃん?」

騎士ほ「はい。あの古竜から聞いております」

女騎士「じゃあ最後まで聞いてねえのか。ククク、あんたにも見せてやりたかったぜ。
ふわふわお脳どもの土地が焦土と化していく様をよお! ガリア=ベルギガとやらもあそこみてぇにしてやったら……」

騎士ほ「」

女騎士「……?」

騎士ほ「……焦……土……?」

女騎士「ああ、ソレイとかいうレOプ奨励集団もまとめて焼き頃してやった」

騎士ほ「ガ……リア……の……祖霊を……焼き……焼……き……」

女騎士「で、その土地はどこにあるんだ? 共和国内だったらラクなんだが」

騎士ほ「勇者の聖地を……や、や、焼いてしまわれたんですの……?」

女騎士「は?」

908: 2013/11/25(月) 04:26:19.23 ID:WHnwlFvJo
第8部 ガリア=ベルギガ編 壱

おわり

第8部 ガリア=ベルギガ編 弐へ

959: 2013/11/26(火) 22:54:31.78 ID:k5CP0dyDo
ポニテ「おはようございます!」

秘書「……」

ポニテ「おはようございます! 今朝は素晴らしい天気ですよ!」

秘書「まだ5時半じゃあないですかぁ」

ポニテ「早起きして得する事こそあれ、損などいたしません。それとも、体調がよろしくないので?」

秘書「……ちょっと、カルチャーギャップをもよおして」

ポニテ「はあ……」

秘書「み、道行く女の人……み、みんなみんなすっごい太……ふくよかじゃあありませんでした?」

ポニテ「(お前が言うな)」

秘書「お尻も……む、胸もぷーっと膨れてて。そもそも、猿人の方が少ないってのもあるんですけど……」

ポニテ「節足人種の上位ワーカーは、そうした女性を好むと聞いております」

秘書「上位……?」

ポニテ「節足人種……現在のメリフェラにおける為政を司る蟻型形質人種の人種のひとつです。
種の代表として外界との接触を行う為に、隆盛している猿人にほど近く進化した上位種ですね。
基本的に、彼らは上位種にカテゴライズされる上流家系を除く下位ワーカーは生殖器官が未発達な為か、
同種族との間と公的な婚姻を結ぶ事は稀なのです。例外の上位種だけが猿人の形質を色濃く取り込んでいった結果……」

秘書「まさしく人並みに性愛を併せ持つようになったと……」

ポニテ「仰る通り。上位ワーカーの平均的な収入を見たらぶっ飛びますよ。
土地自体は非常に肥沃ですから、生産力はアルヴライヒに並びますし。田舎恐るべし、です」

秘書「玉の輿……でも虫さんのお嫁さんか……」

960: 2013/11/26(火) 23:01:43.13 ID:k5CP0dyDo
ポニテ「雄の上位ワーカーの美意識は、オークや一部のケンタウリと同じく豊満な雌に向けられるようです。
特に、ヒップが体幹からどれだけせり出しているか……彼らの女王に対する母性意識の表れと言えましょう」

秘書「……」

ポニテ「本気で玉の輿狙うなら、もっとお肉付けるべきですかね」

秘書「ね、狙ってないですし!!」

ポニテ「生憎、私のような身体つきではふられてしまいましょう。女王蜂のように、ふかふかの尾腹を持っていないと」

秘書「……」



外交官「おはようございます、昨日の疲れは取れましたでしょうか」

秘書「……」

外交官「騎士様はまだお休みで?」

ポニテ「はい、昨晩は遅くまでお客人と語らっていたようで」

秘書「……」

外交官「……何か?」

ポニテ「この人は女性ですよ」

秘書「マジでっ!?」

965: 2013/11/26(火) 23:21:12.96 ID:k5CP0dyDo
外交官「玉の輿ですか……こちらとしても願ったり叶ったりですね。後押しなしに我々の同胞が外界で生活基盤を構築するのは、極めて稀な事ですし」

秘書「いや、別にそんな……」

外交官「男たちは、やわらかくて手触りの良い房が、それはもう大好きです。子を為せなかろうが、そうした事に興味を持たない者はいません」

ポニテ「ワンチャンありますよ、この際もっと太ってみませんか」

秘書「博打にも程があります!!」

外交官「いやいや……猿人の方が羨ましいですわ。私のような枯れ枝では、そもそもモテませんしね。
我々ワーカーは、子供が産める体かどうかは、10歳前後で決まりますし。女王陛下と同じように子を孕めるのは雌雄ともに2割に満たないのです」

秘書「……はあ」

ポニテ「その為の借り腹……昨今、評議されている代理母産業の確立というわけですね」

外交官「はい。中央会議での可決と、教皇領からの許しが得られれば……私にも子供ができるかもしれません」

秘書「かりばら?」

外交官「旧魔王軍全盛時……我々の先祖の中には、他の生物の胎内に子種を植え付けて育てさせるという種もありました。
しかし、勇者様からもたらされた叡智の教義、そして我らが天にまします主との誓いによって、我々は貴き理性を手に入れました。
他の生物を、己の種の存続の為にのみ苗床のように扱う行為は、不義というほかにありません」

ポニテ「そこで、双方の同意の下で子を為す方法が思案されるようになった。
種の繁栄は生物の本能……いくら理性を育とうとも、それを押さえつける事はできますまい」

外交官「恥ずかしながら……この私にも、拙いながらも母性というものが備わっているようでして」

秘書「あのう、かりばらっていうのは……」

ポニテ「我々のお腹の中で彼らの卵を育てて、代わりに出産をしてあげるという事です」

秘書「」

967: 2013/11/26(火) 23:35:07.04 ID:k5CP0dyDo
ポニテ「そこ、ヒかない! 嫌そうな顔しない! 場所が場所なら差別でしょっぴかれますよ!」

秘書「ふぇぇ」

外交官「まあまあ……ここメリフェラでも、公の場ではタブー視されてきた議題ですので。お気持ちはわかります」

秘書「おおおお、オナカにたた、たまご……」

ポニテ「豊満な身体つきの女性ならば、それも不可能ではない。上位種の彼らの好みも、理にかなっていると言えますね」

外交官「女の私からも、そうした猿人やケンタウリの女性は魅力的に見えますわ」

秘書「借り腹って……しし、氏んじゃったりしないんですか?」

外交官「残念ながら……氏亡例は皆無とは言えません、しかし……」

ポニテ「ご謙遜を。インセクトリアン由来の薬品の質は、エルフのそれと引けを取らないほどに高い。
流行病や流れ弾、日常での事故で障害を負うよりよほど確率は低いでしょう」

秘書「……そういうもんなんですか」

ポニテ「まあ、身体器官の肥大に伴って自力での移動が困難になるという弊害もあるとは聞きますが」

外交官「それにつきましては、最大限のケアをさせていただく所存です。現在こうして議論される以前から
代理母出産という方法は行われていましたが、明文化の暁には国家レベルで支援をしていこうと考えています」

秘書「い……移動が……困難……ねぇ……」

968: 2013/11/26(火) 23:46:05.05 ID:k5CP0dyDo
外交官「ただ……やはり、母体の健康維持には少なからずコストがかかります。
我々ワーカーが自由に子孫を残す事ができるのは、まだ先の事になりましょう」

ポニテ「それを解消する為の、これでしょう?」

秘書「……? 何ですか、それ。はちみつ?」

ポニテ「似たようなものですが……お味見してみます?」

秘書「よろこんで!」

外交官「……」

秘書「……甘ッ!! あンまい!! 何これ!?」

外交官「ふふ、私達でも希釈して口にしますのに」

秘書「き、希釈ァ!? 何なんですかこれァ!?」

ポニテ「大将閣下率いる、アルヴライヒのスタッフが開発していた高熱量流動食です。今口にしたのは、スプーン一杯……
とすれば、成人男性5日分の熱量が摂取できたことになりますね」

秘書「」

ポニテ「6年前から臨床実験をまじえて、ようやくメリフェラ国内での試用が行えるまでになったと聞きます」

外交官「まさしく、我々にとっての命の糧と言えるものになり得ましょう。我々ワーカーは、その……あなた方に比べて燃費が悪いと言いましょうか」



ポニテ「(要は、これを売り込む為に大将は我々をメリフェラによこしたわけです。片手間の暇つぶしがお金を産むなら、これ以上の事は……)」

秘書「(それより私のこの体に取り込まれた元気いっぱいのカ口リーはどうしてくれるんですかね)」

970: 2013/11/26(火) 23:59:50.36 ID:k5CP0dyDo
騎士ほ「……」

おかっぱ「……」

騎士ほ「……はぁ」

おかっぱ「……どうも」

騎士ほ「あら……あら、どうも……」

おかっぱ「あんたは……エルフと繋がってる口かな。あの騎士の……」

騎士ほ「そう言うあなたは、極東皇国の? フクク……こうして顔を合わせるのは初めてかしらね……」

おかっぱ「ああ、よろしく……」

騎士ほ「……」

おかっぱ「ずいぶん、疲れているようだが……資材の搬入なら、私やエルフの近衛に任せてもいいぞ」

騎士ほ「大丈夫でしてよ……ちょっと、昨晩……あっただけでして」

おかっぱ「昨晩?」

騎士ほ「……」

973: 2013/11/27(水) 00:15:06.04 ID:EjjdeINVo
~昨晩~

女騎士「は? 何? ガリアうんちゃらって……あ、あそこだったん?」

騎士ほ「そこ以外にどこにあると思いまして……!? 」

女騎士「いや、なんかスゲー財宝があんだったらそんな事しねぇよ! 知ってたらぶんどってから燃やすって!」

騎士ほ「も、燃やしてはいけませんわ……!! 聖地が現存している事に意義があるのです……!! ああ、ああ……」

女騎士「知らねェよぉ!! あん時ゃああするしかなかったんだってばよ!!」

騎士ほ「モルドレッド卿……あの青二才をどうダマくらかせば……ああ、ああ……!! 円卓の座が……お姉様の座が……!!」

女騎士「ブツクサ狼狽えるんじゃねェーぞッ、オジャンになっちまったもんはしょーがねェーだろォー!?」

騎士ほ「大陸に二つとない伝説の法具が安置されているかもしれない聖地でしてよ!?」

女騎士「テメェ誰に向かって吠えてんだオラァ!? 珍しくガーガー吠えたと思ったら私に転嫁しやがってよォー!! たたっ殺されてぇか!?」

騎士ほ「ひいっ……ご、ごめ、ごめんなしゃい」

女騎士「円卓の老害どもダマすんならダマしゃいいだろが!! ブツがあろうがなかろうが、とりあえずあるように見せかけろ!!」

騎士ほ「そ、そんな事……いかに煮凝りのごとく腐りきった円卓でも、さすがにバレ……」

女騎士「バレねぇようなパチこきゃいんだよ!! バレてねぇウソは真実だ!! 私が命じた事だから真実だ!! いいな!! カラスは何色だ!!」

騎士ほ「く、黒……」

女騎士「虹色だ!! 今日からカラスはサイケなレインボー彩色だ!! わかったな!?」

騎士ほ「……は、はひぃ」

女騎士「ふん……とりあえず、もう一度そこに戻ってみる必要があるってわけだな。更地に何があんだか知らねェが……」

騎士ほ「……」

女騎士「おい、それよか秘宝ってなァ何だと思うよ? そのモル公はもっと他に言ってねぇのか?」

騎士ほ「……そ、それ以上に……情報はないのです……ごめんなさい、ごめんなさいお姉様」

女騎士「……」


女騎士「ほの字、ほの字、ほの字、ほの字よォ~~~、私はアンタを信じてるんだ。私がさっきアンタを怒った事なら『自信を持て』……
アンタの地位と名声は、その気になりゃあ何者にも負けねーモンじゃあねーか? そうだろ?」

騎士ほ「……」

女騎士「アンタが持ってきた『情報』はものスゴク怪しいんだ。ここが正念場だぜほの字! 私達は勇者どもを追い詰めてる!!」

騎士ほ「姉貴ィ!!」

979: 2013/11/27(水) 00:27:57.77 ID:EjjdeINVo
騎士ほ「今からよくよく考えたら、何も解決してない事に気が付きましたの……」

おかっぱ「何があったか知らんが……大変だな」

騎士ほ「フクク……あなたこそ、わざわざ極東くんだりからこんなところまで来て」

おかっぱ「よく言われる」

騎士ほ「……真面目な人。東洋人は表情が探りにくいと言いますけれど、あなたはすごく勤勉そう」

おかっぱ「おだてても何も出んぞ」

騎士ほ「フックク……頑張りましょうね。大陸から、汚いものをすべて祓うまで……」

おかっぱ「(井戸から這い出てきそうな髪しやがって……)」

982: 2013/11/27(水) 00:45:46.86 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「……衛生面では、共和国の医療施設顔負けだな」

騎士ほ「メリフェラ王室からも、かなりの額が動いていると聞いています。
上位ワーカー主体の少子化対策は、国を挙げてのプロジェクトと言えましょう」

おかっぱ「子を為す為の、種の強化政策か……」

騎士ほ「子供は国の宝ですわ。国力を形作る根幹です」

おかっぱ「(あのボンクラ大将主導の計画も、たまには他人の役に立つという事か……?)」

騎士ほ「共同体と違って、メリフェラは内陸にも関わらず開発の手が及んでおりません。
森を抜けた以南には貧乏諸国、さらに南下したところで北西の痩せた植民地がズラリと並ぶくらい……」

おかっぱ「言いたいのは、共同体のケンタウリや巨人と違って大人しいから与しやすい、という事だろ?」

騎士ほ「フクク……猿人から見た目が遠ければ遠いほど、西欧会議でも教皇領を相手にした交渉でも、
やりようによっては心証は底抜けに良くなりましょう。バカな聖職者どもの頭の中には、当たり障りのない猿人しか住んでおりませんもの……」

おかっぱ「あまり田舎者から巻き上げるのは感心しないな」

騎士ほ「対当なビジネスというものですわ、あくまで対等なもの……こっちだって、非常にレアな被検体を提供するのですから……」

おかっぱ「北西を始め、列強に片っ端から不平等な条約を結ばされたこちらの心情も汲んでほしいものだ」

騎士ほ「フクク……御愁傷様……」

おかっぱ「(レアな被検体……? 内陸のエルダードラゴンでも捕獲していたのか?
しかも、難民支援や少子化対策の為の高熱量流動食の関わる取引で……被検体など扱うものなのか?)」

983: 2013/11/27(水) 00:58:45.75 ID:EjjdeINVo
エルフ看護師「さ、どうぞ。ご確認をお願いいたします」

おかっぱ「うっ……!?」

騎士ほ「……」

おかっぱ「何だ……何だ、これは……」

騎士ほ「私も、直接見るのは初めてですが……よくここまで大きくなったものですわね……」

おかっぱ「(このニオイ……悪臭というわけではないが……何だ? 例えるなら、異様な乳臭さ……!)」

騎士ほ「このカタマリこそが、メリフェラに明け渡す被検体……そう聞いておりますわ」

おかっぱ「被検体……まさか、まさかこれが……人間なのか!?」

騎士ほ「そうは見えませんけれども……ね」

エルフ看護師「そうです、れっきとした女の子なんですからね」

おかっぱ「……」

エルフ看護師「触ってみてあげてください。ああ、ちゃんと手袋はしてくださいね。雑菌がつくといけませんから」

騎士ほ「ぷよぷよのフカフカ……大きなクッションみたいですわね。あら、この垂れてるお肉は……」

おかっぱ「……」

エルフ看護師「いやですわ、それは……それ、おっOいですよ」

騎士ほ「あら、ごめんあそばせ。なーでなーで」

おかっぱ「……まさか、あの……モップの先が乗っかったような、あれが」

エルフ看護師「ええ、お顔はここです。あ、おはよ。目が覚めた? もう少しでご飯だからね、いい子にしてようねー」

987: 2013/11/27(水) 01:14:18.03 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「(デタラメに肉が積み重なった……文字通りの肉塊ではないか……)」

エルフ看護師「ほら、お口あけるよ? 我慢してねー」

おかっぱ「(ああしてチューブで流動食を流し込むわけか……猿人による高熱量流動食の摂取、その結果がこれか)」

騎士ほ「……代理母の母体としても、最適らしいですわね」

エルフ看護師「はい、生理周期も安定していますし。血糖値の調整を怠らなければ、出産も可能だと思われます。
外交の方もたいへん喜んでおられましたよ。なんと美しい姿かとね」

騎士ほ「……温厚な方々ですけれど、美的感覚というのは千差万別と思い知らされますわね」

エルフ看護師「えーっ、可愛いじゃないですかぁ。ねー、女の子だもんねー」

おかっぱ「(あれが頭だとすると、あの大きな塊が腹の肉……牛でも詰まってるのか……?
そうすれば、左右に広がっているのはO房……手足はそれぞれ肉に埋まってわからんか……)」

騎士ほ「(……反吐が出そう)」

おかっぱ「少し、その顔を見せてもらってもいいか?」

エルフ看護師「ええ、かまいませんよ。直接よじ登るのはやめてくださいね、傷がつくといけないから脚立で……」

おかっぱ「ああ、わかった」


おかっぱ「(首回りの肉が蛇腹になって……頭が埋まってしまっているな。悲惨なものだ……
顔も頬の肉で押しつぶされて……肌の血色が良いのが皮肉だな、健康そうだ……)」

騎士ほ「私、先に書類を外交の方に渡してまいりますわ。失礼いたします」

おかっぱ「(赤毛に、碧眼……その他身体的特徴がもっと知りたい……歯並びでも構わんのだが)」

エルフ看護師「あのう、どうかいたしました?」

おかっぱ「その……もっと顔を見てやりたくて。チューブを取ってやることはできるか? それとも、虫歯で顔が腫れてるか? なんてな」

エルフ看護師「あははは、虫歯だなんて。もう歯は全部抜いちゃってますよ」

おかっぱ「……そうか」

990: 2013/11/27(水) 01:24:48.51 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「(引き渡しの書類にも、役に立ちそうなものはなし……そりゃそうだ、あの大将が主導でやってた実験だからな)」

おかっぱ「(だが、城の城塞で知らされた情報とは合致する。飴色に近い赤毛、深い碧眼……旋毛の位置……)」

おかっぱ「(あの肉のカタマリ……見世物小屋にいそうな寝肥りだかヌッペフホフだかが……)」



おかっぱ「ゲホッ、げえっ!! うぇぇっ!!」

真神「ど、どうした……あまりの胸の無さに吐き気を催したか……」

おかっぱ「……生憎、もっと胸糞の悪い事を目の当たりにしたもんでな」

金長狸「胸糞……?」

おかっぱ「メリフェラに明け渡したあの肉塊が……話に聞いていた人物本人ならば……
あの大将、性根はあの騎士と勝るとも劣らぬほどに腐っているな……クソ、どうかしてる……!!」

金長狸「ね、ねえ……何があったの?」

おかっぱ「くそったれ!! どこまでも胸糞の悪い!!」

金長狸「ひぃ」

真神「お、大声を出すな、こわい……」

おかっぱ「魔王軍……勇者のヘイトを、事もあろうに……何の罪もないメリフェラの側に向ける気か……!?
それが理性ある人間のやる事か……ふざけるな……!!」

8: 2013/11/27(水) 02:51:10.36 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「こんなところにいられるか……一秒たりとも……」

真神「……」

おかっぱ「(出来る事ならあれを……彼女をあそこから出してやりたい。
魔王軍に身柄を移せば、クズどもを糾弾する手札にもなり得よう。だが、どうする?
あれほどの巨体だ、コンテナに詰めた上に滑車とワイヤを使ってやっと運ぶ事ができるというほどだ……)」

おかっぱ「(しかし、口頭で事実を伝えたとて、魔王軍が動くとは思えん。
ましてや、エルフを揺さぶるには諸国から多々の容疑がかかっている魔王軍ではいささか荷が勝ちすぎる。
非常に癪だが、旧帝国情報部や連合のガサ入れが必要だろうな。可能ならば、北西に査察を頼みたいところだが……)」

おかっぱ「(いや、待てよ。何も、魔王軍を構築するクランの連中を説得せずとも、勇者とやらの関心さえ引ければいいわけか。
それならば、発破をかけるのは幾分か楽になろう……頭髪の束でも切り取って物証にすれば、アクションを起こすはずだ)」

おかっぱ「(そこで気になるのは彼女の安否だが……メリフェラのインセクトリアンにとっては女神も同然、
さすがにあのクズどもも引き渡し直後に始末するとは考え辛い。まだ猶予があるとみていいだろう……)」

おかっぱ「(さて、ここからは推察……懸念にすぎんが、否定できるだけの材料はない。
アルヴライヒがメリフェラをトカゲのしっぽ切りに利用し、各国の憎悪のベクトルをメリフェラに向ける……
勇者の敵という明確な存在は少なからず国教徒に浸透し、ゆくゆくは西欧世界でのアドバンテージになり得る。
既にメリフェラ王室側からカネは流れていると考えれば、エルフにとってメリフェラはクズ騎士のスケープゴートでしかない……)」


おかっぱ「お前達、いいか。一度しか言わん、よく聞け」

真神「な、何だ……保険を付けてくれ……二回言ってくれ……」

おかっぱ「ふざけろ」

金長狸「どうしたの、さっきから……顔色わるいよお」

おかっぱ「……クズどもを叩き潰す第一歩を今から踏み出す。氏にたくなかったら言う通りにしろ」

9: 2013/11/27(水) 03:07:40.80 ID:EjjdeINVo
金長狸「ま、まじで? いや、さすがに……どうしょもないとは思ってたけどさあ。こ、心の準備が」

おかっぱ「メリフェラが魔王軍、それも勇者の妾をかどわかした上にあんな肉塊にされたなど国際的に吹聴されてみろ。
クズどもが増長し、今度はメリフェラを内包する共和国に連合がなだれ込むぞ。わかるか?」

真神「それは……困るな……連合にこれ以上勢いづかれては……」

おかっぱ「アタシらはエルフの味方をしに来たんでも、連合の侵略を手助けしに来たんでもない。
大陸のうつけどもを、一神教なんつうくだらん哲学モドキから脱却させてやりに来たんだろうが」

金長狸「あうう……」

おかっぱ「……連合の蛮族どもに、これ以上でけえ顔されても困んだろォが。ここらが潮時なんだよ」

真神「そう、か……」

おかっぱ「この数か月で、有力な証拠はある程度集まった。致命的な暴露にはつながらんだろうが、
そこは魔王軍のテコ入れで奴らを殺せるまでに研磨していけばいい」

金長狸「そうねえ……」

おかっぱ「京の鬼どもとも、これでおさらばだ。目に余る暴虐の数々……二度と皇国の土が踏めると思うなよ……!!」

10: 2013/11/27(水) 03:29:47.05 ID:EjjdeINVo
エルフ看護師「あら、忘れ物ですか? みなさん、もうホテルへ戻られましたけれど」

おかっぱ「ああ、忘れ物だ。すごく大事な忘れ物なんだ」

エルフ看護師「まあ……どこかで落とされにゃ」パンッ

おかっぱ「……今、けっこう銃声響いちまったな」

エルフ看護婦「ひゃあ……ああ……」

真神「問題……ない。今のところは……」

おかっぱ「搬入してからまだ1時間弱……メリフェラの連中が然るべき場所に持ってくまで猶予はある。
ああ、にゃんこ。そこのお姉ちゃん黙らせろ。証人だ、しっかり連れてく」

金長狸「がってん」

おかっぱ「……うわ、ごっつい錠前揃ってやがんな。これ、外してくれよ」

エルフ看護婦「い、嫌ああ、無理っ、無理!! あ、あなたなんなのよォ!! 外務省だとか近衛だとかの人じゃあ……」

おかっぱ「あんなゴミどもと一緒にすんじゃねぇや。さっさと開けておくれよ、そんで頼みたい事があるんだ」

エルフ看護婦「は、はあ?」

おかっぱ「そこにあるハサミでもメスでも使って、彼女の髪の毛をちょっとばかし切ってほしいんだ。それだけでいい」

エルフ看護婦「いや……いやあ、助っ……」

おかっぱ「頼むってばよ、こうしてわざわざブチ殺さないでお願いしてやってんだからさぁ。すげぇシンプルなお願いだろ?」

エルフ看護婦「ひ……は、はい……」

おかっぱ「……それと、この辺の書類も貸しておくれよ。使った早急に返却するから」

真神「(人相が日を追うごとに悪くなっていくな……)」

11: 2013/11/27(水) 03:46:02.35 ID:EjjdeINVo
エルフ看護師「こ、これで……いいの……?」

おかっぱ「はぁい、ありがと。そんじゃあ次はだな……」

真神「……まだ余裕はある……なるべくメリフェラ側には……波風は立てたくないものだがな……」

おかっぱ「真神。アンタは彼女を連れて、共和国沿岸に駐留している『幕府の』本隊に合流しろ。
いいな? 間違っても、京のカスどもや松山に戻るな。アタシの本隊に戻るんだ」

真神「」

おかっぱ「必ず旧帝国領を経由してからだ。わかるな? 鉄道の使い方は教えた通りだ」

真神「ま、待て……こ、こわい」

おかっぱ「旧帝国領には現在、魔王軍が心証良くするために必氏こいて警察活動を行っている。
勇者サマや魔王サマの息のかかったモルダヴィア……もしくは妖精族の連中に助けを乞え。そのまま駐屯地まで護衛でも頼み込め」

真神「……マジでか」

おかっぱ「できれば魔王軍預かりになった方が安全ではあるが……連中のバックには連合がいる。
都合のいい便利屋としては扱いづらい、まだ北西の方がマシだ。敢えてここは欲をかく、幕府本隊まで何としても戻れ」

真神「も、もう一度言ってくれ……」

おかっぱ「そして金長。アンタはアタシと東帝へ向かう。今手に入れた頭髪を始めとする物証だけは、魔王軍……
勇者へと渡さねばならん。郵送もダメだ、一度でもアルヴライヒを経由する物流にのればアタシ達の負けだ。直接運ぶ必要がある」

金長「は、はえええ……カ、カレと一緒に本隊へ戻るんじゃダメなのん?」

おかっぱ「本日中か、それとも明日一番か……いつアルヴライヒの大将がメリフェラを切るかわからん。
時は一刻を争うぞ、何としても北西や魔王軍に、早急に動いてもらわねばならん」

真神「それでは連合に貸しを作ってしまうのでは……」

おかっぱ「そうならない為にアタシ本人が行くんだよ。あのクソ騎士を刺し頃す為だけに集まった連中のもとにな」

27: 2013/11/27(水) 18:02:35.09 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「……上手く共和国の人間の顔つきに化けたな……よし、アホ犬の方は大丈夫そうか」

金長狸「わ、私らも列車に乗らないと……けっこう時間推してますよ、早く」

おかっぱ「わかっている。ここから東部方面行きに乗り込み、共和国のいずこかで南部行きに乗り換え……」

金長狸「……」

おかっぱ「ちっ、実際の時刻表から20分もずれているではないか。大雑把な大陸人め……ダイヤグラムの美しさを知らんのか」

金長狸「あのう、マナイタさん?」

おかっぱ「尻尾でも切ってやろうかこのやろう」

金長狸「……」

おかっぱ「少し時間を遅らせてでも、魔王軍の領有地まで急ぎたい……くそ、待つしかないか」

金長狸「……ちょおっと、いいですかねえ」

おかっぱ「うるさいな!」



おかっぱ「……何だというのだ、手短に話せ」

金長狸「できるだけ目線を動かさんでくださいな。こうしたまんま……そう、そうです。たまにニコッと笑って談笑してるように」

おかっぱ「……」

金長狸「改札から15メートル、ベルを持った初老の駅員の位置から10メートル。我々からざっと40メートル」

おかっぱ「……」

金長狸「……茨木の奴が、手ぐすね引いて待ち構えております」

おかっぱ「なに……!?」

金長狸「田舎とは言え、まだ正午までまだ時間がある。この駅舎の人混みはまだ解消しますまい、手を出さないのはそれが理由かと」

おかっぱ「……アルヴライヒであの大将を押さえる役を買って出た事は、ハナから偽りだったわけだ。
下衆な鬼どもの気まぐれか、それともどこかであの大将が鬼どもを飼い馴らしたか……くそ、最悪だ!!」

29: 2013/11/27(水) 18:22:41.34 ID:EjjdeINVo
金長狸「それと……あんまり嗅ぎたくない匂いも、ちょっとばかし感じるんですがねぇ」

おかっぱ「匂い……? まさか」

金長狸「ワンコには劣りますが……人さまよりかは鼻は利くもんで。そのまさか、芥子に近い硫黄臭……」

おかっぱ「出所不明の有毒ガス……!? 鬼どもが持ち込んだわけでもあるまいに……」

金長狸「さあ、そこまではわかりませんで……ここでガスなんか本格的に撒かれ始めたら……」

おかっぱ「……」

金長狸「ど、どうしましょう……メリフェラ側の警察機関に知らせなきゃあ」

おかっぱ「事情聴取で何時間も費やせるほど、アタシ達はヒマを持て余してるのか!?」

金長狸「で、でも……」

おかっぱ「……ああクソ……! 仮にガス流出が真実なら、鉄道各駅で駅舎の不審物捜索でも始まるだろうよ。
最悪、上下線ともに停まっちまう。ふざけんじゃねぇ……人質に加えて鉄道まで停めてくる気か……!?」

金長狸「ああ、あうう……どうしよう、どうしよお!! 停まっちゃったら、わんわんの方も足止め食らっちゃいますよぉ!!」

おかっぱ「共和国領の一部はクズどもの息のかかったマフィアが占めている……そこで締め出されればおしまいだな。
ああクソ、仮に我々が運よく魔王軍に保護されたとしても、いくつか問題が浮上するか。
ドワーフゲットーを壊滅させたガスの持ち主はエルフ……となれば万々歳だが、京の鬼の仕業となると我々まで疑われる……」

金長狸「ガ、ガスを止めようにも……ムリだよお、絶対ムリ!」

おかっぱ「……」

金長狸「だって……わ、私たちだけで茨木の相手するとか……無理……っていうか不可能でしょお……?」

32: 2013/11/27(水) 18:36:46.30 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「……マジに最悪な事態に陥ったら、あの鬼とやりあう可能性も無きにしも非ずだな」

金長狸「」

おかっぱ「あーははは、あーチクショウ、泣きたくなってきた。やってらんねぇよ……」

金長狸「そ、そうだ! 翼竜、ワイバーンでも探せば……」

おかっぱ「それぞれある程度の距離を単独飛行できる節足人種たちの領内にそんなものがあるものか。
そもそもメリフェラでは酪農や畜産は土地を活かしての輸出分の最低限しか行われておらん、主産業は穀物だ。
更に平地や森林が多く、家畜は山羊や羊止まり。肉食竜を運用するには致命的に向いていない」

金長狸「……」

おかっぱ「……共和国までの森林を馬で突っ切るしかないな。一か所で留まる事にもリスクが伴う、その都度馬を乗り換える必要がある」

金長狸「あーうー」

おかっぱ「……善は急げだ、適当に馬を奪って逃げるぞ」

金長狸「ガ、ガスは……」

おかっぱ「うっせーなあ!! これ以上アタシにどうしろって言うんだ!? どうにもなんねェーだろぉーがよォ!!」

金長狸「ひ……」

おかっぱ「こちとらテメェらみてーなオモシロ動物じゃねェーンだよ!! 撃たれりゃ氏ぬし刺されても氏ぬ!
アタシは無謀な自己犠牲なんざごめんだからな!! 虫どもとガスで燻られて心中だなんてまっぴらだ!!」

金長狸「……」

おかっぱ「絶対に氏んでたまるか……絶対にだ!!」

40: 2013/11/27(水) 18:59:45.70 ID:EjjdeINVo
金長狸「ああ、御免よう、御免よう。大事なお馬さん借りていきますねえ」

おかっぱ「生きて戻れたら金一封渡してやろうぜ」

金長狸「馬に乗るタヌキとはこれいかに」

おかっぱ「自分で言うかね」

金長狸「はて、実に面妖な光景也。面白き事は善き事也」

おかっぱ「(帝国製9ミリ拳銃二丁にカットラス。鬼斬りの逸話でも持つ名刀の一本や二本欲しいところだ、こんなんじゃどうにもならん……)」

金長狸「……」

おかっぱ「純銀弾と一緒に一丁渡しておく、鬼の餌になりたくなかったら使え」

金長狸「うああああいやだあああああもお四国にかえりたいよおおおおおおお」

おかっぱ「お前から神様に祈ってくれるとかはしてくれんのか」

金長狸「おじい様ぁぁぁ、ひいおじい様ぁぁぁ、胃袋に収まって京の都の行脚なんて嫌ですううううう」

おかっぱ「うるせーよ!! こっちも泣きてーくらいなんだよ!! びーびー騒ぐな!!」

45: 2013/11/27(水) 19:22:54.63 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「後方、どうだ! 何か追ってきているか!」

金長狸「い、今のところは何も……! ガスの匂いも流れてこないし、ドラグーンっぽいのも来てない!」

おかっぱ「わかった。このまま森林部に入るぞ」

金長狸「あー、なんか記念碑みたいなの立ってますね」

おかっぱ「ここから南部王国領まで森続きだ、ところどころでペースを落とさねば馬が潰れるな」

金長狸「そ、そんなに広いんですか……」

おかっぱ「帝国にまたがる巨大森林地帯に北東側で繋がっているからな、帝国内で入り込んだら生きて出られんぞ」

金長狸「」

おかっぱ「(なんで狸に猿人のアタシが山林の怖さを説いてるんだ)」

金長狸「……」

おかっぱ「タヌキの癖に……」



茨木「ナマイキこの上ありんせん……四国の社ごと焼き払ってあげんしょか」

46: 2013/11/27(水) 19:38:46.73 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「四時方向! 茨木だ、構うな!」

金長狸「ひやああああああ」

おかっぱ「くそったれ、馬に追いついてくるんじゃあないぞ……!!」

金長狸「と、飛ばしすぎると危ないし! 木にぶちあたって氏んじゃったら目も当てらんないし!」

おかっぱ「この馬上で銃も使えんか……軍馬でもない馬で発砲でもして転倒されたら敵わん!」

金長狸「色即是空空即是色、全てこの世は夢幻よ、目を覚ませばすべて解決っ、喝ーッ!!」

おかっぱ「現実逃避をやめろっ!! 縁起でもない、この世は夢でも幻でもないわ!!」

金長狸「一介の豆タヌキに鬼退治だなんてそんな大それたことができるわけないでしょうが!!」

おかっぱ「気を削ぐような事を言うでないわ!! いいか、あの木を越えたら二手に分かれるぞ!!」

金長狸「ふふ、二手に……?」

おかっぱ「いいな、手筈通りに! 楔と杭の使い方も頭に入っているな!?」

金長狸「は、は、は、はひっ!!」

おかっぱ「あくまで保険だ! 私とて命を捨てる気はない! 祭祀の巫女は私が担当する、わかったな!?」

48: 2013/11/27(水) 20:00:24.63 ID:EjjdeINVo
茨木「……」



茨木「(状況だけ見れば……木に激突して重症。いくら小柄だとて、まず助かるまい……
馬は……そのままか。発砲でもして、馬の神経でも逆撫でしたか? 
……少なく見積もっても、時速四十は出ていた。あの速さなら、頸部は粉々……)」

茨木「(あの阿波のタヌキも……撒いたか。幕府の雇い主を見捨てて……)」

茨木「(にしても、大将の推察通りこんなに早く尻尾を出すとは。喧嘩っ早いというか、我慢が足りないというか……
火事と喧嘩は江戸の華? 思慮の足りないボンクラ……所詮は下民の産まれ……幕府も、こんな娘を我らを並べるなんて……)」

茨木「(あの肉玉の世話人を襲い、何らかの証拠を掴んだうえで、魔王軍かに亡命……
世話人はどこぞで始末されているか? 何にせよ、張っていたこの茨木には気づかなかったようだが)」

茨木「(……念には念を入れるべきだな、刻んで埋めておくくらいは)」



茨木「……運に見捨てられんしたね、お気の毒にぃ」

おかっぱ「」

49: 2013/11/27(水) 20:13:53.80 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「……氏ねっ、クソ鬼ぃ!!」

茨木「!?」




茨木「……少し驚きんしたけど……もう少し足りんせん……。
不純物の混じった安物の銀弾でおすものを……やぁやわぁ」

おかっぱ「くっそ……てめぇ……離っ、せ……」

茨木「好かんわぁ……いい人ぉの為に、わっちらを冷やかして回る旅人衆は……」

おかっぱ「(片足首っ……斬り飛ばしてやったのに……三発はぶち込んでやったのにっ……!!)」

茨木「さあさ……首の骨ぇが今度こそばらけるまで、きちんと話しておくんなんし」

おかっぱ「い……いや……いやだ……」

茨木「……」

おかっぱ「や、やだ……じ、じにだくない、じぬのはいやだ……」

茨木「そうやって心配せんでも、幕府の世ももう御仕舞……老中も将軍も、先逝くあんさんと一緒でありんす」

おかっぱ「な、何でもっ……何でも話す……何でも……すっからぁ……」

54: 2013/11/27(水) 20:39:24.59 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「アタ、アタシは悪くねェんだよォ……ぜ、全部ぅ……あ、あの大将がやれって言ったんだァ」

茨木「はあ?」

おかっぱ「きょ……極東が……京と幕府で分裂してるのを知ってェ……ア、アタシに持ちかけたんだよォ……」

茨木「……」

おかっぱ「離……離してくれェ……大将のところに……幕府の部隊がいるのは知ってんだろォ……人質なんだよォ……」

茨木「(命乞い……? 出まかせにしか思えんが……)」

おかっぱ「アタシらだって……京とケンカしてえわけじゃないんだよォ……下野国までネキリを取りに行ったのだって……
あんたら鬼と戦争するつもりなんかじゃなかったんだ、開国に向けて……み、帝に大政を返す気でいるんだよォ……
ア、アタシが帰らないと……また極東が荒れちまうんだよォ……」

茨木「ネキリ……?」

おかっぱ「そう……さぁ、ネキリの太刀の杭……今は、あの狸がこの周囲に配置して回ってるはずだ」

茨木「!?」

おかっぱ「(手が……緩んだ!!)」

56: 2013/11/27(水) 20:58:13.63 ID:EjjdeINVo
おかっぱ「お前らしみったれた怪異の住まう根の国までを両断する為に誂えられた陣術なんだけどさあ……」

茨木「こんガキ……!!」

おかっぱ「アタシに構ってていいのかなあ……ネキリの欠片で囲った範囲内がそのまま術の範囲になるんだぜ。
どうしてタヌキの方を追わなかったのかなぁ……エルフの大将に植えられた先入観かぁ?」

茨木「(陣術……大陸の魔法円……円陣を陰陽寮の連中が皇国龍脈を通じ組み替えたものだが……!?)」

おかっぱ「ほれ、さっさとタヌキを潰さねえと、アタシと心中する事になるぜ。
テストの回数は悲しいくらいこなせてないが、魔王軍のヴォーパル鋼での改修は受けている。どうなるかはさてさて御立合い……」

茨木「せっかく手に入れた物証まで消えてしまう事に……」

おかっぱ「物証まるごとタヌキが持っていたとしたら? テメェはまんまと引っかかっちゃったバカって事になるなあ」


(引っかかれ……追いかけろ!! 範囲はここから半径200m前後、コイツがダマくらかされてる間に範囲から出れば……!


茨木「って顔してんす、ねっ!……」

おかっぱ「がうっ!!」

茨木「ちびタヌキ!! 氏なないように刻みながら鍋にしてやる、そこで怯えながら待ってろ!!」

おかっぱ「(利き腕……ちくしょう、砕かれたっ……!!)」

103: 2013/11/28(木) 23:07:26.59 ID:qgMZeYXWo
おかっぱ「いぎゃあああっ、痛、痛っ……」

茨木「年増の癖にぃ、童みたく騒ぐんじゃあありんせん。わっちが片腕持って行かれた時よりかは……」

おかっぱ「示談……和解案にしちゃあ……乱暴だな……」

茨木「和解ィ? 冗談言いなんし、わっちがぬしら幕府と対等だと?」

おかっぱ「そうだよなあ……対等……なんかじゃあねえよなあ……」

茨木「ち……ぐだぐだ言わんでも、命までは取りんせん」

おかっぱ「ありがたい事で……できれば、もう……殴ったりしないでほしいが……」

茨木「ただ……皇国に凱旋する時には、ぬしのノドは焼き潰れて使い物にならなくなっているやもしれませんなあ」

おかっぱ「……」


茨木「……ドブタヌキ!! 今こそ雇い主に報いるべきじゃあないのかあ!? 
屋島の老いぼれも悲しむだろう、次代を担う若狸がはらわた散らして腐ってゆく様を見てなあ!!」

おかっぱ「(くされ鬼め……!!)」

茨木「お雇い主も、さっさと折れてくださいませんと……」

おかっぱ「んぐ……っ!?」

茨木「ん……ちゅ……」

おかっぱ「(こいつっ……き、気持ち悪ィ……離せ、離せえ……し、舌を入れて……やめろお……)」

茨木「……」

おかっぱ「がっ……げほ、ごっほ……てめ……てめえ……な、何……呑ませやがった……この野郎っ……!!」

108: 2013/11/28(木) 23:30:43.49 ID:qgMZeYXWo
茨木「……その様子を見ると、ああ、なんて初心な年増だこと!」

おかっぱ「……」

茨木「なに……毒だとかそうしたものじゃあありんせん。我々松山も、魔王軍と同じく開国を受けての実験をいくつか行っているだけで」

おかっぱ「実……験……?」

茨木「大陸の勇者の五柱……既にアニマ、アニムス……そして、未確認ながらも、シャドウやグレイトマザーまでが顕現していると聞いとります。
北西にこれ以上借りを作るわけにはいきんせん、こちらも態度で示さんと……」

おかっぱ「オカルト連中は……やっぱりオカルトに惹かれるもんなんだなあ!それじゃあ、勇者が五人いるみてえじゃあねえか……!」

茨木「逆にお聞きしたいんでありんすが……聖人に匹敵する勇者がたった1人だなんて、それこそ思い込みなのでは?」

おかっぱ「……?」

茨木「もっとも……」

おかっぱ「(……答える気はねえか……頃合いか……!)」

茨木「あんたはもう仕舞いや、大人しく江戸の長屋で客でもとっとれ、この婢僕が」

おかっぱ「猶予二十、範囲指定術士依存、起動確認! そこから離れろっ、金長!!」

茨木「(タヌキは後ろ……八時か!?)」


おかっぱ「『ネキリの杭』、反転許可……さあて、どうなるもんかね……!」


109: 2013/11/28(木) 23:33:20.83 ID:qgMZeYXWo
爆発

116: 2013/11/28(木) 23:45:51.17 ID:qgMZeYXWo
金長狸「うわ……うわ……やっべ……くそやっべ……」


金長狸「(で……でーっかい毛玉が広がって……かーっと森じゅう光って……
木が力任せに薙ぎ倒されて……マナイタさんだいじょぶかな、まじで……氏んじゃったりしてないかな……)」

金長狸「(それに、馬だって……私の馬はともかくさあ……今のってやっぱり……魔王軍と企んでた『魔術』でしょお……?
根々斬りの太刀の伝承を使った陣術……もぉ、何なのぉ。おうち帰りたい……もうやだ……)」



おかっぱ「……お疲れー、やっべーくそやっべ……くそ疲れた。前が見えねえ」

金長狸「ひやああああああ」

おかっぱ「ネキリ……アンタが生きてるって事は……範囲限定は上手く行ったんだなあ……」

金長狸「うひゃあああああ」

おかっぱ「クソ鬼……体中の皮膚撒き散らして、その辺にぶっ倒れてんだろ……ざまぁ……」

金長狸「だ、大丈夫すかぁ……だ、大丈夫じゃないよねえ……」

おかっぱ「……逃げ遅れた。片腕台無しになっちまったっぽい、自分でもよくわからん」

金長狸「び、病院! お医者!! モルヒネ!!」

おかっぱ「さっき打った……泣くほど痛いもんで、喉焼けちまった。つれえ」

金長狸「(ちょっと……ネ、ネキリって何なの……ほんと、何なの……もうやだ辞表出す帰りたい)」

117: 2013/11/28(木) 23:54:34.76 ID:qgMZeYXWo
金長狸「あ、あの……そ、その辺の転がってるの……ととと、等身大のお人形じゃあないですよねえ……?」

おかっぱ「知らん……気づいたら、辺りでケイレンしてやがって……アタシが知るか……」

金長狸「(まじもんの氏体……いや、ほとんど動かないけど生きてる……?
ネクタイ締めたフォーマルな格好の男もいれば、下着だったり薄着の若いのも……
それに……おっきな鉄の塊だったり、連合の戦車みたいなのだったりも……)」

おかっぱ「……」

金長狸「(……で、そのど真ん中で……多分、あの鬼? 仰向けになって痙攣してる……
あのう……これは一体、どういう状況なんでしょうかね……)」

おかっぱ「……さみい」



金長狸「うぇぇぇーん」

金長狸「だぁれかぁー、だれかぁー、たすけてくださぁーい……」

金長狸「うぇぇぇーん!!」

128: 2013/11/29(金) 00:25:53.42 ID:DKZ1+0y4o
ティタニア「南部王国外務省から。あちらが保護した東洋人と……イヌ型妖精は、例の幕府の子達だという事が判明したわぁ」

敵兵「ほ、保護……」

ピクシー「あー、なんかバレちゃったんですかねー」

ブラウニー「ちょっとマズいんじゃないですかー……エルフの側にいらん刺激を与えちゃった感が……」

ティタニア「……先の情報部の彼女の二の舞だけは避けたい所ねぇ。あの女将軍もピリピリしてるし。
モルダヴィアあたり……デュラハン女史の部隊と共同で、彼女達を魔王軍領へ護送するのが最善かしらねぇ」

敵兵「何事もなければいいんですが」

ティタニア「それがー……タヌキちゃんの方はきゃんきゃん騒げるくらい元気らしいの。ただ、オカッパ頭ちゃんの方がねぇ……」

敵兵「……」

ティタニア「アテクシも専門じゃあないんだけどぉ……右前腕、右手骨を複雑骨折、きわめて重度の筋損傷を併発。
また、左腕部は上腕部まるごと切断。鎮痛が切れた搬送直後なんかは阿鼻叫喚だったとかぁ」

敵兵「マジですか……」

ブラウニー「あのお澄ましムッツリチビがねえ」

敵兵「(吐きそうだ……)」

136: 2013/11/29(金) 00:44:44.17 ID:DKZ1+0y4o
ブラウニー「っていうかサァ、水さして悪いんですけど。板についてきましたよねー、この職場」

敵兵「は、はあ」

ピクシー「なんか抵抗とかないんですか? 私ら妖精と働くこの職場ぁ」

ブラウニー「世の中には、私らとまぐわりたがる趣向をお持ちの男性もいるとかいないとか」

ピクシー「氏にゃしないでしょうがねぇ、性の世界は奥深いですわねぇ。本番専門でお仕事してる私の友達いるんですけどぉ」

敵兵「……」

ピクシー「……」

ブラウニー「うわぁ、空気読めてなさすぎー……このタイミングで夜の話題とかマジないわー」

ピクシー「あなたに言われたくないんですがー」

敵兵「いやもう……デスクワーク主体の職場がここまでラクとは思わなかったもので……ありがたいです」

ピクシー「(気持ち悪い)」

ブラウニー「(ボケろよ東方人)」

138: 2013/11/29(金) 01:00:06.74 ID:DKZ1+0y4o
デュラハン「ご苦労さまでございます。迅速な対応、痛み入ります」

将軍丙「初動が遅れると厄介でしょうからね。ただでさえ共和国と南部王国の国境にほど近い森林が現場ですもの、早めに着いて良かったわ」

デュラハン「……まだ、エルフとアジ=ダハーカの勢力からの表明はないのですか」

将軍丙「まだ確認していないわ。このまま知らぬ存ぜぬで通すのか、それともどこかに擦り付けるつもりなのか……」

デュラハン「その重症の東洋人の方は、エルフの側に潜り込んでいたスパイだと聞いておりますわ。
公式に動きを見せるとは……考え辛いかと。そもそも、彼女に傷を負わせたのは本当にアジ=ダハーカの勢力だったので?」

将軍丙「タヌちゃんからの話によれば……同じ極東からやってきたイバラキの追撃に遭った……だとか」

デュラハン「……仲間割れ?」

妹「ハッ、極東の土人はやっぱり愚かですわねぇー。ろくに統制も取れない家畜ですわね、家畜」

将軍丙「(うわぁ……)」

デュラハン「……」

ゴーストアーマー「(誰だよこいつ検証に連れてきた奴)」

レプラコーン「知るかよ」

ゴーストアーマー「(お前ら妖精どもじゃねぇのかよ)」

スプリガン「(勝手に着いてきたんでしょ)」

妹「で、なんかオモチロイものはありまして? ねえちょっと、教えなさいな」

ゴーストアーマー「(こっちくんな)」

140: 2013/11/29(金) 01:18:22.03 ID:DKZ1+0y4o
妹「うっひゃあ。何なんですのぉ、森の中でここ一帯だけゴミ捨て場みたいな有様じゃあありませんかぁ」

ブラウニー「なに勝手に入ってきてるんですかあの人!!」

妹「よくわからない鉄くずがゴロゴロ……ここでやっぱり何かあったんですわねぇ!!」

敵兵「ちょ、ちょっと!! 部外者でないにしても……そのカッコは何ですか!?」

妹「新色のオーダーメイドでしてよ、あなたの月収何か月ぶんかしらぁ?」

敵兵「そんなヒラヒラフリフリで現場検証来るなァ!!」



デュラハン「発見した蹄鉄の跡からも、やはりここで陣術が起動したのでしょう。それでこのような惨状に……」

将軍丙「……」

ティタニア「確か……あのチビ子ちゃんが接触して、ヴォーパル鋼を少し見繕ってあげたのよね?」

将軍丙「ええ。幕府……皇国の持っている冶金技術はこちらとしても魅力的だった。
勇者くんや魔王……様が有している魔術兵装の改修に有用だと」

ティタニア「……そう、天使どもが吹き込んだわけ?」

デュラハン「クシャスラーにアスモデウス……本当に信用できるので?」

将軍丙「仮にも拝火神族を古来から支えてきた存在よ。教皇領にもある程度顔が利く……愛想良くしておいて損はないはずよ」

デュラハン「そうして完成したのが、この陣術……ネキリの杭、と」

将軍丙「正直言って、状況だけ目の当たりにしても……」

ティタニア「何がどうなってるかワカンナイわねぇ。椀状にクレーターができてて、その上には妙な服を纏った男女の遺体、
そこここに転がる見た事も無い鉄屑……そのイバラキを屠る為にやむを得ずこれを起動したとして、これは一体どういう事なの?」

デュラハン「神格に対抗する為の御業……字面では叡智の教義にほど近いもののようには感じますが」

将軍丙「……見当もつかないわ」


ゴーストアーマー「(あの青肌将軍ってあんまり頭良くないんじゃないかな)」

142: 2013/11/29(金) 01:34:20.12 ID:DKZ1+0y4o
妹「なになになになんですのぉ? ネキリ? の? クイ? 詳しく聞かせなさいな、私は情報部長ですのよ?」

デュラハン「それぞれ配布した資料にはすでに記載が……」

妹「あんな長い文なんか読めやしませんわ!! 端的に要点だけ教えなさいな、だるい連中ですわね!!」

ティタニア「ちょ……あなた、手ぶらで来たわけぇ?」

妹「御冗談を! 避妊薬にコンドーム、チョコにクッキーにビスケット、エクレアにタルトに……」

デュラハン「書類は……」

妹「捨てましたわよあんなの! 私、三行以上の長文は読む気しませんの!!」

ティタニア「確かにクセが強くてクドイ文章だったけど、それはあんまりに非常識よぉ」

敵兵「」

妹「わかってませんわね、私が常識に従う? ナンセンス! 常識は私の歩いた後に芽吹くものでしてよ? 私が最初にナプキンを取るのです!」

敵兵「(俺の文ってそんなにクドイのかな……)」

デュラハン「いいですか、ネキリというのはお教えした通り……」

妹「あ、おなかすきましたわ! お湯をくださいまし!」

敵兵「(あの首がない人……よくブチ切れないなあ……)」

147: 2013/11/29(金) 01:46:39.42 ID:DKZ1+0y4o
金長狸「……ひいっ!! やだ、やめて!! わたしに乱暴する気でしょ! 春画みたいに!!」

デュラハン「乱暴なんかしません、しませんから……」

ティタニア「あなたと幕府の方が用いたネキリの杭について、聞きたい事があるのよぉ」

金長狸「は、はぇ」

ティタニア「銘は不詳……シモツケノクニのネネキリ、そんな剣を媒介に使用したのよねぇ?」

金長狸「そ、そう……し、下野はわかります、根斬りそのものも……た、ただ……
何が起こったかなんて、私もよくわかんないです、ほんとです。茨木から逃げるのに必氏で必氏で」

妹「はぁ~? つっかえない証人ですわねぇ、ひっぱたきますわよぉ?」

金長狸「ひやあああああ」

デュラハン「お、おやめなさいな! 怖がっていますでしょう」

妹「ひゃっwwwwwwひゃっwwwwwひゃwwwwwざっこwwwwwwwwwwwwww」

ティタニア「……続けてくれるぅ?」

金長狸「はい……えっと、あのう……さっき言ったように、も、森に入って、二手に分かれて……
それで、その……根斬りの太刀の欠片を……配置したんです。森の中に、陣を敷くように……こんな円になるように、ええと」

妹「うらーwwwwwwwwww」

金長狸「ひやあああああ」

ティタニア「つまみ出しますわよぉ!?」

妹「あばばばばばwwwwwwwwwwwwwww」


151: 2013/11/29(金) 01:56:57.75 ID:DKZ1+0y4o
ティタニア「剣の欠片ってこれよねぇ? クレーターの周囲を捜索して発見したものだけどぉ」

金長狸「は、はい……間違いないです、私が地面に刺したの……」

デュラハン「現場付近に放られていたカットラスとも異なる金属で精製されています。
極東諸島に伝わる玉鋼……それに、折り返しの鍛練手法を用いた、カタナと呼ばれる刀剣ですね」

金長狸「……わ、私……もう帰りたいです、四国のふるさと帰りたい……」

妹「んまあwwwイヌモドキの住めるような山も森もないでしょうねえwwwwwきっと開発で潰されてますわwwwwご冥福ぅwwww」

ティタニア「しばきますわよぉ!?」

妹「おおwwwwwwwwwこわいこわいwwwwwwwwwwwwww」

敵兵「(まったく、これじゃあの姉貴の方が……)」


敵兵「……」

ブラウニー「あー……クズだなぁ、あの情報部長。倒木に潰されて氏ねばいいのに」

敵兵「ゲボッ、オェェェェェェッ!!!!」

ピクシー「童O中尉がリバースですわ!!」

ブラウニー「現場汚さないでくださいよ!!」

敵兵「(一瞬……一瞬でも、あのクズの方がマシと思ってしまった……だと……?)」

155: 2013/11/29(金) 02:22:02.55 ID:DKZ1+0y4o
勇者「……」

将軍丙「タヌちゃんと、幕府の彼女が命を賭して持ち帰ったものよ」

勇者「……そうか。手間をかけさせて、ごめんね」

将軍丙「私も、ここまで来たらもうドロップアウトなんてまっぴらだわ。西欧でやるべき事ができたもの、手間だなんて」

勇者「……」

敵兵「あ、あの……あの髪の毛って」

将軍丙「……」

敵兵「勇者さんとこの……お、幼馴染……」

勇者「……ふふ、腐れ縁です。何と言ったららいいかわかりませんが……
とりあえずは……『生きていてくれて良かった』とでもしておいてください」

ティタニア「タヌ子ちゃんの言う通りなら……何だかもう、底抜けに趣味が悪い連中よねぇ……エルフってぇ」

デュラハン「メリフェラを利用して、国際社会での心証を有利な方向に向かわせる気だったと……?」

将軍丙「状況証拠だけしか揃ってないとはいえ、あのアジ=ダハーカが背後にいると考えれば、何があってもおかしくはないわ」

勇者「……ありがとう。ネキリの杭についても、引き続き調べておいてくれるかな」

将軍丙「え……ええ。それはもう、本国へメカニズムの解明は申請してあるわ」

勇者「助かる。今はアジ=ダハーカの最大戦力を僕たちのみで抑えられるだけの確定材料が欲しい」

デュラハン「イバラキを屠ったネキリの杭の実戦運用……ですか?」

勇者「勝てる可能性があるなら、使わない手はない。無論、当面は抑止として運用するべきだとは思うけどね」

ティタニア「(ま、当然よねぇ……あんな榴弾何百発ぶんの威力を持つようなもの……クランの間でも反感を買うでしょうねぇ)」

勇者「……」





妹「榴弾何百発ぶん……鬼をも殺せる超兵器……ネキリの杭……」

妹「くききwwwwwwwwww小姉様もそんなん持ってねェーだろォーなァーwwwwwwwwwwwwwwざっこwwwwwwwwwざっっっこwwwwwww」

妹「あーwwwwやっべwwwwww欲しくなっちったなぁーwwwwwwwどーしょっかなぁーwwwwwwwどーやってぶんどろっかなぁーwwwww」

156: 2013/11/29(金) 02:28:44.56 ID:DKZ1+0y4o
第8部 ガリア=ベルギガ編 弐
おわり 

第8部 ガリア=ベルギガ編 惨へ

157: 2013/11/29(金) 02:44:40.12 ID:aVT4XG4E0

敵兵っていつ中尉に昇格したっけ?
にしても敵兵は今や第一種国家公務員の文官か、一兵卒の身からかなり出世したよな経歴とか割と凄いことになってるし

158: 2013/11/29(金) 02:46:37.03 ID:ctMJf/1s0

まあ敵兵は一回勇者と魔王の命救ってるからある意味納得やな

女騎士「おばあちゃんが言っていた。世界はこの私を中心に回ってる」第八章 中編

引用: 女騎士「おばあちゃんが言っていた。世界はこの私を中心に回ってる」