434: 2013/12/10(火) 23:28:21.58 ID:8+ob3Vcuo

≪過去スレ≫

女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」第二章
女騎士「絶対に死んでたまるか!!絶対にだ!!」第三章
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」第四章
女騎士「いやだ!死にたくない、仲間の居場所でも何でも話すから!」第五章 前編
女騎士「私が死ぬと思ってるの? バカなの? 死ぬの?」第五章 後編
女騎士「近くにいたお前が悪い」第六章
女騎士「私の事を好きにならない人間は邪魔なんだよ」第七章
女騎士「そうなったのは私のせいじゃないから謝らない」第八章 前編
女騎士「おばあちゃんが言っていた。世界はこの私を中心に回ってる」第八章 中編
女騎士「私は最初っから最後までクライマックスだぜえ!!」第八章 後編

騎士ほ「……いやですわ、ディナダン卿。私が……テ口リスト? まさか、そんな事が……」

ディナダン「そんな事はない、潔白だと……できれば信じてあげたいけれどねえ……」

騎士ほ「……」

ディナダン「先日……外務省が大々的に指名手配していた男と、偶然知り合いになってしまってねえ。
容疑は……6年前のテロ事件の被害に遭った重要参考人への傷害……殺人未遂」

騎士ほ「(連合の、あの恥知らずめッ……まだ生きているか……!!)」

ディナダン「そして、河川で発見された変氏体。これについては、特に妖精族や科捜研が力を入れて捜査していた……」

騎士ほ「……」

ディナダン「幕府側も、あわよくば自分達の思い通りに事が運べばと思っていたみたいでね……各地に捜査員を派遣していたわね。
そして、指名手配犯……いえ、重要参考人へとたどり着き……アジ=ダハーカの懐へついに潜り込んだ」

騎士ほ「(6年間……お姉様不在の間……ずっと疑ってやがったのかッ……このババアッ……!?)」

ディナダン「共和国内のワイナリー占拠、都市部郊外に居を構える犯罪組織の隆盛……所属不明の翼竜の目撃情報もあったと聞きます。
人の口に戸は立てられないとは言うけれど……お金をいくらばらまいても、不自然さは完全には拭えないものなのよねぇ」

騎士ほ「……」

ディナダン「他国でのドラグーン部隊の育成など、未だ本国内で議論が重ねられている議題であるにもかかわらず……
先のドワーフゲットー襲撃に始まる一連の事件、どれにも所属不明のドラグーン部隊が参加していたとの事。
中でも、政庁が陥落する寸前……魔王軍戦力と、あろう事か虎の子のペンドラゴンの姿があっただとか」

騎士ほ「(情報部のゴキブリを追い払った直後かッ……あの下っ端から漏れたのか……!!)」

ディナダン「ワイバーンの養殖。我々円卓、ひいては近衛軍の沽券に係わる大問題と言えましょう。儀典局はカンカンですよ」

騎士ほ「……」
田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている(1) (マガジンポケットコミックス)
436: 2013/12/10(火) 23:56:59.39 ID:8+ob3Vcuo
ディナダン「本国でも、エルダーや女王陛下より賜りし翼竜を大陸に横流ししていた不埒者を血眼になって探しています。
円卓では……そうね、血の気の多くて若い子が犯人探しでわあわあ騒いでいるわねえ」

騎士ほ「卿は、私がその不埒者……ですと?」

ディナダン「……さあて。これまでの物証から推測した結果ですよ、早いところ自白した方がいいっていう老婆心です」

騎士ほ「フクク……私が? 私一人で、そんな大それたことができると思って? 買いかぶり過ぎですわ」

ディナダン「何も、役職にある人間が揃ってシロとは思っていませんよ。円卓から一人や二人……クロが出てもおかしくはない」

騎士ほ「……」

ディナダン「組織の自浄作用に期待しようにも、そういったものとは無縁だからねえ……円卓って」

騎士ほ「よほど卿の円卓への期待は薄いようで」

ディナダン「だってえ、究極の縁故採用組織ですもの。何の期待ができましょうか!

騎士ほ「……今日は、私を捕らえて……その縁故採用団体への手土産にするおつもりですか?」

ディナダン「そんな事になれば、あなたはおろか竜騎兵長にまで責任を負って路頭に迷う羽目になるわねぇ」

騎士ほ「然るべき場所で糾弾するのが先では? 正統な裁きにならば、私は従いますわ」

ディナダン「……」

騎士ほ「(……身一つでエクスキャリバーに挑むわけにはいかんか。このババアの首を取る為には……!!)」

ディナダン「そう警戒しないで……仮にあなたが事件の当事者だとして……
そうね、責めるなというのは難しいけれど……できるなら、波風を立たせずに事を収束させたいとは思っています」

騎士ほ「(なに……?)」

ディナダン「……」

437: 2013/12/11(水) 00:06:59.20 ID:jZinmp4io
鴉「……あの黒髪……本当にヤツが、先の戦乱の首謀者に繋がっていると?」

木の葉「騎兵奉行の彼女からの報告が事実ならな。陰陽寮の連中や松山の鬼どもは、まんまと寝返ったようだが」

鴉「また京の鞍馬坊の胃に穴が空くな。関東の我らと同じく、天狗として人に尽くしてきたと思えば、今度は鬼に手を噛まれると来た」

木の葉「それで……首謀者ってのは、どんなヤツだったのかね」

真神「……ひどく……前向きで……どうしようもなく……どうしようもないヤツであったな……」

鴉「まだ頭に星でもちらついてやがるのか。せっかくオレ達本隊が遥々来てやったというのに」

木の葉「……エルフに鬼……松山の狼藉者を公の場から叩き出すに相応しい場が既に用意されていたわけだな」

鴉「ちょうどいいじゃあねえか。オレ達のオカッパ御大を取り返したら、えるだーとかいう連中と一緒にブッ潰してやろうぜ」

木の葉「それも、円卓のディナダン卿の立ち回り次第、だな」



騎士ほ「正気……でして?」

ディナダン「まだ耄碌してはいませんよ。どういたします?」

騎士ほ「……」

ディナダン「ここで身元を明かすリスクを負って、より戦力を強めるか……それとも、私からの誘いを蹴るか」

騎士ほ「(わざわざ私に直接接触して来た事を考えれば……卿は、私が円卓の騎士と結託している事は断定できても、
メンバーのうちの誰かというところまでは探れていない筈。ワイバーンとヴォーパル鋼を流しているのがモルドレッド卿という事は、まだ……)」

ディナダン「さ、どうなんです?」

騎士ほ「……それは、アジ=ダハーカを……連合王国の自浄に協力させるという事でしょうか?」

ディナダン「……」

騎士ほ「幕府の案を呑み、エルダーを完全に平定、服従させる……アジ=ダハーカの持つ影響力を使って……!」

438: 2013/12/11(水) 00:24:10.95 ID:jZinmp4io
ディナダン「……アジ=ダハーカの一団は、エルダーに対抗しうる力を有しています。適材適所と言いましょうか」

騎士ほ「いかにこれまでの電撃戦には勝利しているとしても……相手は神格、それも神竜に匹敵する存在も確認されていましょう……!」

ディナダン「それをどうにかできうる力が、そちら側にある……そう聞いていますが?」

騎士ほ「……?」

ディナダン「五柱の勇者に、聖剣デュランダル。アジ=ダハーカ本人が、現在は有しているとか……」

騎士ほ「お姉様がッ!?」

ディナダン「……」

騎士ほ「(し……しまったッ……!!)」

ディナダン「聖剣デュランダル、司るは『不滅』。使い手を阻む障害全てを斬り払う魔剣……」

騎士ほ「しかし……それは、それは勇者が……魔王軍の手にあるものなのでは?」

ディナダン「つい先日だったかしら。共和国でのデモ中に発生した騒動……そこに居合わせた勇者本人と、アジ=ダハーカ……
あなたの『おねえさま』が、その騒動を制しデュランダルを手に逃げおおせた。当事者からの、確かな情報です」

騎士ほ「お姉様が……」

ディナダン「五柱の勇者が魔王軍の側にいる以上、エルダーの討伐は不可能。
しかし、どの勢力からも敵視され、そして黙認されている都合のいい勢力ならば、或いは……」

騎士ほ「(お姉様が……ジョワユーズに加え、あのデュランダルまで……!?)」

ディナダン「とはいえ、『おねえさま』本人に先陣を切ってもらう事は……まあ、一部を除きないでしょう。
あくまでも、平和的に……エルダーを屈服させる事が出来ればよいのですから……」

騎士ほ「……容疑を認めろ、と。フックック……これはこれは、たちの悪い老害ババアですこと……フクククク……!!」

443: 2013/12/11(水) 00:44:16.02 ID:jZinmp4io
司教「どうもぉー!! こーんにーちはー、あなたの街のステキな正教会からやってまいりましたー!!」

秘書「ひゃあ」

エルフ騎兵「めんどくせぇ……」

エルフ近衛兵「生憎、今大将いねェから払えるものも払えねェっすよ。帰ってどうぞ」

司教「えーっとぉー、でもでも、お得意さんにお呼ばれされちゃったんですけれどもぉー」

秘書「お、お得意さん?」

エルフ騎兵「あの黒髪でモリモリの人ですよ」

エルフ近衛兵「とりあえず、騎士様に話通してみますんで……例の剣の事ですよね。その辺の地べたでも舐めて待っててください」



秘書「ど、ど、ど、どなたですか、どちらからいらしたんですか……!」

エルフ騎兵「教皇領の回し者ですよ、どこにでも現れやがる」

エルフ近衛兵「今日はどうせあれでしょう、被災地支援の為の投機口座の中身に手でも突っ込みに来たんじゃないですか」

秘書「横領っ!! あの人シスターでしょ!?」

エルフ騎兵「来るたんびに何かせびっていきやがる……魔王軍にも連合の駐屯部隊にも似たような事してるって聞きますからね」

秘書「」

445: 2013/12/11(水) 00:58:01.64 ID:jZinmp4io
女騎士「ぶらんぶらーん」

司教「あれ、ゴキブリ喪女は……」

女騎士「上司にお呼ばれされてたから今日はいねぇよー」

司教「ちっ……呼びつけておいてこれかよ、あのクソ女……」

女騎士「そんなカッカすんじゃねーよ生臭坊主ー」

司教「失礼……して、例のモノはいずこに?」

女騎士「んー……ん?」

司教「騎士様が手に入れられたという、あの聖剣でございますよ」

女騎士「どこやったかなー……覚えてねぇなー……」

司教「」

女騎士「……ハンモック降りたくねぇんだけどなあ。誰かー!! だーれーかー!!」

娘『はーあーいー』

女騎士「あの剣! あの剣持ってきてー! だーれーかー!!」

娘『はーあーいー』

司教「(ダレてんなぁー)」

446: 2013/12/11(水) 01:04:12.53 ID:jZinmp4io
レギンレイヴ「いたいっ!! いたいですっ!! な、縄……縄ほどいてッ、ひきずらないでッ!!」

娘「はい、おかあさま。これ?」

司教「」

女騎士「あー、そうそう、このきもちわりー剣だよ、これこれ……それで、何やってたの? お母様のお部屋が血腥くなっちゃうけど」

レギンレイヴ「ひいいいい」

娘「えっと……こ、この前、そのまま逃げられるのもあれだし……共和国のはの字さんとちの字さんにつかまえてもらったんです。
敵前逃亡と命令無視で身柄を拘束されてたらしくて、そこを……」

レギンレイヴ「お母様でいらっしゃいますか!? お子様の教育が実に高水準でわたくし感心してしまいます、つきましては我々北部神族の」

女騎士「ウザッ、早く持って帰んなさい」

娘「はあい」

司教「(何度来てもここのメンツは濃いなあ……にしても……)」

女騎士「スポーンとか抜けたし、あんま聖剣っぽくねえよなあ」

司教「ジュワユーズ……これが……」

女騎士「そうだ、そんな名前だ。古くせえなりに、私に流れる高貴なる血のチカラに呼応したのかどうか知らんが……
にっくきあのクソ勇者を捌いてくれおったわ、やはり正義は勝つわけだなぁ」

司教「……重ッ、これ……持ち上がらない……!!」

女騎士「みんなそう言うんだよー、そういう冗談まじでやめて欲しいのに……きもちわりーな、まったくよー」

司教「そ、そういえば……さ、さっきのガキ……こ、これ……片手で持ってきてましたよね……」

女騎士「親目の前にしてガキとはいい度胸じゃねえか尼さんよぉ」

司教「えっ」

450: 2013/12/11(水) 01:12:45.29 ID:jZinmp4io
司教「使い手を剣の側が選ぶという、逸話通りの現象……まさしく、この剣は伝承の聖剣であるとお見受けいたしますわ……」

女騎士「マジか……マジモンか……」

司教「評議会での認定が得られれば、間違いなく聖遺物の現物として崇められる代物ですわ……騎士様の威光もようやく……!」

女騎士「……じゃあさ、じゃあさ、これもそうなん? これこれ」

司教「……?」

女騎士「この剣もそうなん? 見てみてよ、ほら」

司教「うわっ、ちょ……な、投げないでください、危ないオギャアアアアアアアアア肩があああああああああ」

女騎士「うるせーな、大げさに騒ぐんじゃねーよお!」

司教「痛っ、いたい!! 肩っ、肩折れたっ!!」

女騎士「後で病院連れてってやるから!! 今はこれ見ろこれ!! 勇者の奴からぶんどってきてやったもんなんだが……」

司教「ゆゆ、ゆ……ゆうしゃ……!? で、でで、では、これが……これが、デュ、デュランダル……ですか……?」

女騎士「おいおい、察しがいいな。そこは私がジャジャーンって感じで暴露したかったのに」

司教「(ンなもんちょっと見りゃわかるわ……! 今さっき魔王軍のケツ叩いてきたばっかりだからな!!)」

457: 2013/12/11(水) 01:32:07.58 ID:jZinmp4io
~今さっき~

将軍丙「失礼……お待たせいたしました、資料の請求に手間取りまして」

司教「失礼だって思うんなら待たせないでくださいよォー、私もヒマじゃあないんですからぁー」

ティタニア「申し訳ない……」

司教「あーあーあー、もういいですよぉ……そんな下っ端に書かせたであろう便所紙なんか見ないでもわかりますんで。
おたくんとこのバカの不祥事で重役が氏亡……民間人にも被害が出る結果にあらあら相なってしまいましたとさ、とほほ」

ティタニア「言葉も出ないわぁ……」

司教「挙句の果てに!! 不滅の聖剣デュランダルを損失!? なぁぁぁぁぁぁーーーーーーにやってんですかねぇーーー!?」

将軍丙「……」

司教「魔物さん魔物さん魔物さぁーん。あなたの頭はどうしてスカスカなのぉーーーーー!?
あれさぁーーー、大事な大事なもんだってわかってるよねぇーーーー!? わかるぅ? 聖剣ってしってるぅ!? ねーえ!?」

ティタニア「今回の件は、完全にこちらに落ち度があるわぁ……各常任理事の方からも対応を……」

司教「イラネェーよそんなもん、大体どーしたんだおたくの魔王様は。風邪でもお召しになられましてぇーーー!?
上の者が尻拭いすんのは当然だと思うんですがねぇーーーーー!! 顔すら見せねぇで、組織としても三流ですわ三流!!」

将軍丙「陛下は……現在、本国で各氏族への対応の説明に当たっています」

司教「こうして6年前から面倒見てやってる私にワビの一つもねェーってのはどういう事だよ。あ!?」

将軍丙「す、すでに教皇領での会談は済ませておりますが……」

司教「あ、そう? そうなの? そんなんはどーでもいンだよ、おたくらの誠意が見たいんだよこっちは」

ティタニア「(このクソ尼……)」

司教「勇者様をしっかりサポートしてくださいねって、私言ったよォ? あんたら魔物に聖人を託したんだよォ?
恩をあだで返しやがって。どうしてくれんだこのダボが!! 連合にケツ振ったと思ったらこれだ!! 聞いてんのか、よお!!」

将軍丙「……」

司教「おい、どうすんだよ。どうすんだって聞いてんだよ!! どう落とし前付けんだ? お?」

将軍丙「取り……返します……」

司教「聞こえねェーーーよ!! ブン盗ってったアジ=ダハーカをどうすんだあ!? ブッ頃すのか!?
おーしいいだろ、今回だきゃ大目に見てやる。いいな、必ずだぞ。来期の西欧会議……じゃダメだ。
半年以内にデュランダル持って来い。勇者サマと揃えて、私の前に連れてきやがれ。いいか? わかったのか?」

ティタニア「……」

司教「わかったかって聞いてんだよ魔物野郎どもが!! 潔く絶滅しときゃよかった異教徒風情がなめやがってよお!!
テメーらなんかアタシらの温情がなきゃ大陸じゃ何もできねえゴミなんだよゴミィ!! 弁えて行動しろよボケどもがよぉー!!」

464: 2013/12/11(水) 01:49:11.85 ID:jZinmp4io
司教「(この女……マジにデュランダルかすめ取りやがったのかよ……しかも……)」

女騎士「おい見ろよー、これりんご剥けるぜー。しょりしょりしょり」

司教「(しかも……勇者の聖剣を振るってやがる……!! こんなバカの代名詞クレイジーブロンドビXチが……)」

女騎士「腋の毛とか剃れるかね。今度あの子に剃らせよう」

司教「(五柱の……勇者……!?)」



司教「(……この女が聖人とあらば……わざわざ魔王軍の方に嫁いでいったガキの面倒は見なくて済むわけか。
面倒だったなあ、6年もくっさいくっさい魔物どもの所まで出向いていっておべっか使って……うざかったー)」

司教「(だが……デュランダルをこの女に奪われたのは、恐らく連中にとっても相当なイレギュラーであった事は間違いない。
こちら……アジ=ダハーカ側も、小規模とはいえ戦力は侮れないものと言っていいわけだ)」

司教「(既に魔王軍側は焚きつけた……あのゴミども、躍起になってデュランダル探すんだろォなぁ……
片手間に災害支援で人手を割かれ、連合の蛮族には上から小突かれ……あーカワイソ、異教徒カワイソー!!)」

司教「(んまぁ……どっちが勝とうが負けようがどうでもいいんですけどねぇー……
魔王軍が勝ちゃ、勇者信仰は元通り……こっちが勝ちゃ新たな勇者が誕生……連合と北西の仲はどうなるか知らんけど……
少なくとも教皇領……こっちのハラは痛まねえ。向こう数十年は東西で小競り合いやっててくれるはずだからなァ……)」

465: 2013/12/11(水) 02:04:26.56 ID:jZinmp4io
女騎士「不滅の剣ねぇ……縁起はイイじゃあねーか、もらっといてやる」

司教「さいですか……いずれは持ち主と共に教皇領までご足労をお願いいたします」

女騎士「あいよ。そんでさ……こっちの剣にはそういうカッチョイー座右の銘みたいなのはねえの?」

司教「こっち……ジョワユーズですか?」

女騎士「そうそう、なんかねぇの?」

司教「ジョワユーズ……メシアを貫いた槍の逸話を引き継ぐものとして語られている聖剣と聞きますが」

女騎士「は?」

司教「……ここから先はオフレコでお願いしますね。教皇領の上層部にも、聖剣の存在を信じておらず、
その上権力だけを求めたがる不心得者はいます。そんな者にジョワユーズを知られぬ為にも。中には魔王軍の存在すらアヤフヤな者も」

女騎士「お、おう。私なんかはクソ敬虔だからジョワ公もデュラ公も愛してるぞ」

司教「……ジョワユーズの天威、それは『聖滅』でございます。能力の程度こそ不明ですが……」

女騎士「聖滅……?」

司教「メシアの昇天を拠り所にした伝承の通り、勇者を始めとした聖人……または、神性を有する神獣、
聖遺物に因る認識結界に対しても、絶大な効力を発揮する能力と言えます」

女騎士「スゲーの?」

司教「騎士様が勇者と打ちあって勝利したのは、その聖滅の能力の賜物かと」

女騎士「……」

司教「本来、聖剣と聖剣で打ちあうような事態は想定されていなかったのでしょう……
推測ですが、勇者が持つデュランダルの、使い手を守る自衛機能以外の能力は……聖滅に押し負けてしまったのだと思います」

女騎士「(ほんと尼ってキモチわりーな……長々とわけのわからねー聖書設定語り出しやがって……)」

472: 2013/12/11(水) 02:24:26.81 ID:jZinmp4io
女騎士「そうだ、ちょっと気になるところがあるんだけど」

司教「はい?」

女騎士「この聖剣ってやつはさあ、聖人しか持てねえって話やろ?」

司教「はあ……」

女騎士「高貴すぎて他の下賤の民がカマドウマに見えちゃうくらいの私が持てるのは当然だとしてよぉー……
このジョワ公が聖滅だっけか? お前らの信じるカミサマ由来のモノを一網打尽にできちゃうのはなんでだ?」

司教「なぜ……?」

女騎士「ジョワ公だって聖剣……伝承じゃカミサマ由来の一品なわけだろ?
じゃあ何か? カミサマはケンカさせる為にジョワ公を遣わしたのか?」

司教「(そんな事私が分かるわけねーだろボケ)」

女騎士「お前、聖剣同士でぶつかるケースは想定してないって言ってたよなぁ。じゃあこいつの持ってる聖滅って何だよ?
ほんとにジョワ公って聖剣なのか? なんかキモチわりーモンでも詰まってんじゃねーだろうな」

司教「……」

女騎士「(ガリア=ベルギガなんつーパンドラの箱、その一番奥のカタコンベ。そんなところにあるもんが聖剣だあ?
そんなもんが聖剣だったら、このバカどもの信じてるカミサマは何様だってんだよきめぇ。このアマ、何か知らねえのかよ?)」

司教「(聖書の設定なんか真に受けてんじゃねーよ低能クソビXチが……誰かがそう決めたからそうなんだろ……)」

476: 2013/12/11(水) 02:43:57.05 ID:jZinmp4io
騎士ほ「……」

ほ子「お、おかえりなさい……」

息子「騎竜での長旅、御疲れ様です……どうかなさいましたか?」

騎士ほ「何でもございませんわ、若様……そうだ。あなた達、後で湯浴みでもどうかしら……」

ほ子「みんなで……?」

魔子「わ、みんなでおふろですよ! わかさま!」

息子「ぼ、僕は一緒には入れないでしょう……」

騎士ほ「フクク……ご心配なく。私が見つけた浴場は混浴でして」

ほ子「お母様……おふろ、好き?」

騎士ほ「ええ、それはもう……あなたのひいおじい様は南部の人間なのよ。それはもう、肩まで浸かる浴槽が好きな民族で……」

息子「南部……そのすてきなブルネットも、きっとおじい様からのものですね」

騎士ほ「フクク……肌こそ帝国人の父のものですけれどもね……それでは、準備を整えたら向かいましょう。若様も、ほら」

息子「は、はい……」

騎士ほ「御背中、きれいにお流しいたしますわ……」

ほ子「おながしいたします」

息子「だ、だから……男女で分かれてますよね?」

騎士ほ「正教の布教以前の形態を忠実に再現した浴場ですのよ……アルヴライヒの奔放さならではの混浴形式ですわ、ささ……」

息子「」

478: 2013/12/11(水) 03:03:54.01 ID:jZinmp4io
女騎士「北西にケンカ売れってのか?」

騎士ほ「は。エルダーとの交渉に介入して欲しいとの要請が入っております。作戦には共同体と北部神族の戦力が……」

女騎士「……何でそんな事をせにゃならん? 見返りは何だ」

騎士ほ「……」

女騎士「ほの字よぉ……ダンマリはなしだぜ、懇切丁寧にお話しなさい」

騎士ほ「……斯く斯く然々、そうした状況にございまして」

女騎士「……」

騎士ほ「円卓内の古き慣習を一掃するとの名目で、女王に並ぶ高等竜種を為政の座から引きずり下ろす……
正確には、北西の片半分にケンカを売る事になりましょう」

女騎士「ベットする時点でヤケドしそうだな。クソババァ、私らを脅しに来たってわけか」

騎士ほ「……無碍に断れば、ドラグーン隊の維持が困難になるほか、共和国内でのガサ入れが行われる恐れがあります」

女騎士「ウゼーな……証言からして、魔王軍とも繋がってそうなところがますますうぜえ」

騎士ほ「お姉様……」

女騎士「ブッ頃す」

騎士ほ「……」

女騎士「エルダーぶっ頃す。皆頃しだ。恨みはねえが、人間様相手にでけえツラしてんのが気に入らん、棲家まるごとガリアのようにしてやる。
次にババァをぶっ頃す。魔王軍とまとめて焼き頃してやる。くだらねえ回り道させやがって……魔王のヤツを殺さにゃならんのに……!」

騎士ほ「お姉……様……」

女騎士「最後にはあの童O殺さな……何だよぉ」

騎士ほ「お姉様っ、私は……私とあの子を見捨てないでくださいましっ、お願いでございます、お願い……
お姉様から見れば、私はあの青二才のモル公とクソババァどもと同じ穴の貉……疑うに足る不審人物でございます、しかし……」

女騎士「お、おう……」

騎士ほ「私は潔白にございます、確かに6年前……お姉様には内密のまま北西に渡りましたが……
それはお姉様への忠義から来る行為なのでございます、信頼を勝ち取らんが為に、こうして北西の技術を……」

女騎士「お、おう」

騎士ほ「恩着せがましいと、ぜひぜひ非難を浴びせてくださいまし……私は浅ましく卑しい下賤なお姉様の妹でございます……
しかし、私は……お姉様からの寵愛と加護、そして信頼を得る為になら、何を犠牲にしても受け入れる所存でございます……
ああ、ああ……ああ、ほら……ご覧になって……お姉様に付けて頂いた焼印……まるで聖痕のように、じくじくと燃え上っておりますわ……」

女騎士「(キモいキモいキモい血がキモい、何でだよそれ10年以上前の根性焼きだろ)」

479: 2013/12/11(水) 03:12:51.08 ID:jZinmp4io
女騎士「わかった、わかったから……床やらシーツやら血だらけじゃねえか、よせよせ」

騎士ほ「も、申し訳ございません……ですが、ですがお姉様……」

女騎士「いーから、もういいってば……チビッ子と浴場にでも行くんだろ、ちゃんと止血してから行けよ」

騎士ほ「はい……」

女騎士「あー、なんだ。少なくとも……私の場合は、血のつながった妹があのザマだからな。あれよりかは信用してるぜ」

騎士ほ「!!」



騎士ほ「(ああ、ああしかし……わたしは、わたしは……6年間……そう、この6年間……)」

(何てザマだ、肝心な時に側にないで)
(それでお姉様の妹?)
(お姉様の所在すらわからず)
(これでお姉様の竜騎兵?)



妹 失 格 ! ! !

―ほの字の忠誠心は、その強さゆえの脆さを併せ持つ。絶対的な理想が先にあり、修正が利かない―

480: 2013/12/11(水) 03:35:48.83 ID:jZinmp4io
息子「(み、みんなといっしょ……ほんとに混浴なんだあ)」

騎士ほ「フクク……フク……ククク……クフフ……」

息子「(……具合が良くないのかなあ)」

騎士ほ「お姉……わたしを……信用……クフフフ……嬉……」

息子「あ、あのう……体調、だいじょうぶですか」

騎士ほ「は、はい、若様。何でしょう」

息子「のぼせちゃったのかな、だとか……思ったんですが……」

騎士ほ「ああ……心配してくださったのですね、お優しい若様……すてき……ああ……」

息子「……」

騎士ほ「さあ、次は前を向いてくださいまし……恥ずかしがらないでえ……」

息子「は、はい……」

騎士ほ「はぁ……可愛……肌……クフフ……綺麗……お姉様……」

息子「(すっごい腹筋……かっこいいなあ……ふっくらした三角筋、盛り上がった上腕二頭筋……広背筋から繋がる腋窩……)」

騎士ほ「はい、ざぶーん……おしまいでございます……湯船をどうぞ……さあ、お嬢様の番ですわ……」

息子「(……もどかしい)」

748: 2013/12/17(火) 21:15:18.81 ID:WU+YnqgLo
ディナダン「おこんばんはー」

敵兵「うげゃあ」

ピクシー「ババアが窓から!!」

ブラウニー「この夜更けにババアが窓から!!」

ディナダン「お邪魔致しますね、よっこら」

鴉「失礼いたしまする」

木の葉「この度は我々幕府の人材を迎え入れてくださる事、真にかたじけのうございます」

ピクシー「トリ頭だ!!」

ブラウニー「トリ仮面だ!!」

敵兵「お願いしますから正門から入ってきてくださいよァ!!」

ディナダン「上手い事建造されてるものねえ、要塞聖堂の塔からここまで簡単に伝って来れましたわ」

木の葉「ご老体とはとても思えぬ見事な跳躍でございました」

鴉「天空を自在に飛行する我らに引けを取らぬ迅速さ、感服いたしました」

敵兵「」

750: 2013/12/17(火) 21:32:38.88 ID:WU+YnqgLo
ディナダン「その後はどうかしら、何か進展はあって?」

敵兵「進展……と言える進展は、今のところはないですね……」

ブラウニー「私ら下っ端が目に見える進展に携われるわけでもなし」

ピクシー「かーなーり不利な立場にいるのは明白なもんで……皇族奪取から向こうずっとこうですから」

ディナダン「加えて……例のカレがおいたをしてしまったと」

敵兵「……さすが、もうそちらの耳に届いていますか」

ディナダン「数年とはいえ、稽古をつけてあげた愛弟子でもありますから……確か、現地で二人を殺めてしまったと」

敵兵「こればっかりはもみ消しに尽力するほかありませんからね……まさか、あんな街中であの女とかち合わせるなんて」

ブラウニー「……市街地における突発的特別戦闘行為時に発生した氏傷者として処理するしかないわけです」

ピクシー「ただですねー、公にはウヤムヤにしていようが、今回の件で元老執務室から常任氏族理事会まで大荒れなのですよー」

ブラウニー「表沙汰にはなってないんですが、氏族代表がおひとり犠牲になってます。
理事会には次回よりハデス閣下が奥方を連れてわざわざいらっしゃるようで……拝火神族がどう不手際を処理するか様子を見に来るんでしょう」

ディナダン「でもまあ……あの亡きグレンデル王が乱心するよりかは荒れずに済むのではなくて?」

ブラウニー「……そ、それ城塞の外でいったらめっちゃ反感買いますよ」

ディナダン「うふふ……いやあね、私達年寄なんてアヴァロンに片足突っ込んでるようなものなんだから。
ある程度生きたら、すっぱり未練は断ち切ってリタイアするのが筋じゃないかしらねぇ。巨人族もいい加減乳離れを……」

敵兵「(どっか怖いんだよな、このばあちゃん……)」

756: 2013/12/17(火) 21:57:58.63 ID:WU+YnqgLo
ブラウニー「更に、ガリア遠征に幻獣族と北部神族の一部が無許可で随伴していた件も蒸し返されているようで」

敵兵「あのガラの悪いワルキューレと……でっかい犬さんか……」

ディナダン「あわよくば勇者くん……拝火神族の弱みを握ろうと画策していたとでもいうのかしら」

ピクシー「レギンレイヴ理事は共和国施設より逃亡、ケルベルス理事はお亡くなりに……」

ディナダン「よその事を言えた義理ではないけど、一枚岩どころじゃあないのね。まあ大変」

敵兵「……で、我々は西帝への支援活動の合間を縫って、先の事件の火消しに東奔西走。
ガリア捜索どころでは正直なくなってしまったわけですよ……ネキリの調査もありますし」

ディナダン「して、勇者くんはどちら? こちらにまだいるのでしょ、共和国に置いておくわけにもいかないでしょう」

敵兵「え、ええ……そ、そもそも卿はこんな遅くに何を……」

ディナダン「そうねー、とりあえず愛弟子にお説教というのが一件。もう一件はー」

鴉「鬼を討ち果たした我らが頭目を引き取りに参上仕った次第であります。が……」

敵兵「頭目って……お、おたくら幕府の人……ヒトって言うか、ハーピィ……鳥人……?」

木の葉「皇国幕府陸軍飛行隊から参りました、我らは天狗の氏族の血統にある集団で構成されている戦隊であります」

ディナダン「魔王軍と同じように、幕府も松山と仲がいいとは一概に言えたものでもないらしいのねえ。
幕府の天狗さん達は、こうして同胞をわざわざ連れて帰りに来るというのに」

敵兵「連れて帰るとは言っても……彼らは知っているんですか、彼女の容体を……」

鴉「一連の事実については存じております、女を連れて共和国へ逃げのびた犬ころからメリフェラの事も」

木の葉「……金長から、京の茨木に何か術を施された事も聞いておりますゆえ」

ディナダン「それをどうにかできないかと思ってねえ。これを持ってきたわけ」

敵兵「これ……これって……」

ピクシー「……これってあれですよね、あのまじすごい……エクスキャリバーって剣……?」

763: 2013/12/17(火) 22:26:20.82 ID:WU+YnqgLo
鴉「何かの丸薬を飲まされた、そうして頭目は奇怪な変貌を遂げるに至った」

木の葉「変化の忌憚というものは、極東でもそう珍しいものではございません。鬼の連中がその手を使うなど、常道と言っていいでしょう」

ディナダン「あれ以降は実際に会ってないからどうとは言えないけれど……担当医からの資料を斜め読みしてね、
運が良ければどうにかなるんじゃないかなーって。レプリカとはいえ聖剣、このエクスキャリバーならー」

ブラウニー「アバウトですなあ」

敵兵「ちょ……ちょっとあの……あの、エクスキャリバーって……そ、そんな伝承の剣が……」

ディナダン「真横で勇者くんがデュランダル振るうのを何度か見ているでしょう? そんなに驚く事かしら」

敵兵「い、いやっ、それ以前に……あの、あの容体が何とかなるって言うんです!? その、エクスキャリバーで!」

ディナダン「さあ……試してみない事には始まらないし。鴉の彼との推察で産まれた空論でしかないのよお」

鴉「そうですな……ぴんと来たのは、排泄物……ひいては分泌成分の変容です。
身体の穴という穴から分泌される液体が、総じて無色透明の、いわばくすりにほど近いものに変化している事。
きつい刺激臭を伴い、味はこれまたノドが焼けつくような甘味。神経系に後遺症が残る程の刺激を伴う劇薬とも言えましょう」

ピクシー「……あの、あのオカッパ頭のおチビさんの事ですよね……そんな事になっちゃってるんです?」

敵兵「……」

鴉「性的興奮を喚起させる甘露を垂れ流すあやかし。しかし、穿って見るならば……頭目の、彼女の中の秩序が乱された事に拠る現象と言えましょう」

敵兵「秩序?」

木の葉「我が国のみならず、建国神話には混沌へ秩序を与える事で歴史が開拓されてゆくという逸話が数多く存在します。
多くは、殺害された地神の遺骸が豊穣の土地、稲や芋、穀物へと転じていったというようなものです。
これは手の加えられていない山野に、人々の知恵からなる秩序が混ざり合った結果、稲作や畑作と言った法則性……
無秩序に食物を排泄するという原初的混沌が叡智によって改められ、人間による作物の計画的生産が実現された」

鴉「この場合の混沌とは、彼女に投与された何か……茨木の奴が拵えた黄泉の逸物。それに蝕まれた彼女そのもの」

ディナダン「それならば規則性……叡智を与えてやればいい。この秩序の具現たるエクスキャリバー……役不足ではないでしょう?」

767: 2013/12/17(火) 22:44:41.01 ID:WU+YnqgLo
ディナダン「エクスキャリバーに用いられているヴォーパル鋼、精錬法冶金法諸々はドワーフや魔王軍が専門だけれど……
聖書の定める成聖……叡智の布教の概念に近い効力を発揮するというのが、技術省の公式見解。
純度の低い騎竜鎧でさえ、じゃじゃ馬のワイバーンやペンドラゴンをあそこまで慣らす事ができるのだもの。使えそうでなくて?」

ピクシー「……はあ」

敵兵「そ、その……エクスキャリバー、一体……どう使うって言うんです?」

ディナダン「もちろん一気に突き刺します。メシアの昇天のごとく……もちろん、氏なないようには配慮しますが」

敵兵「」

鴉「採血を何度か行ったらしいのですが、白い薄皮一枚隔てて、先ほど説明した透明の劇薬がぱんぱんに詰まっているそうで。
触ればゴムのように柔らかく、針を突き立てれば劇薬が看護師にしぶく……」

木の葉「言うなれば昆虫の蛹。繁殖と理性がないまぜになったあやかしもどき……」

敵兵「……」

ディナダン「打つ手もほとんどなし、被害が出る前に強硬策を施す事にしたの。おわかり?」

ブラウニー「(さすが聖人もどき……ぶっとんでますなぁ)」

敵兵「上手く行ったらお慰み、ですか……ですが、どうしてそこまで卿が彼女に入れ込むのか……」

ディナダン「んもう、わかっているくせに。ひとつしかありませんでしょう?」

ピクシー「あーそっか、ひとつしかないですよねー……」

敵兵「(やっぱり……ネキリの正確な運用方法目当てか……!)」

770: 2013/12/17(火) 23:04:30.77 ID:WU+YnqgLo
クシャスラー「おや、お久しぶりでございます、ディナダン卿」

ディナダン「……ごきげんよう」

クシャスラー「二人は……そう、そこの突き当りを曲がった医療棟です。どうか、勇者様を元気づけてあげてくださいましね」

ディナダン「ええ、そのつもりでここまで足を運びましたので」

クシャスラー「いやはや……御疲れ様でございます。何年ぶりですかな、先の東西戦争ではお会いになれませんで……」

ディナダン「ほほほ、そちらは私がひよっ子の頃からまったくお変わりがないようで」

クシャスラー「拝火の天使が老いさらばえては仕方ありません……卿は老いてなおお美しい」

ディナダン「ふふふ……」

クシャスラー「そうだ。ヴォーパル鋼はお役に立っているでしょうか、あれから6年ですが……」

ディナダン「おかげさまで、ドラグーン実用化から儀典局のご機嫌取りに労力を割かずに済んでおりますわ……」

クシャスラー「それは良かった……秩序を育み真魔を滅する自律の輝き……これからも、あなた達を導く事でしょう」

ディナダン「……」

774: 2013/12/17(火) 23:30:53.83 ID:WU+YnqgLo
ディナダン「……面会謝絶ぅ? あら、ついてないわぁ。ねーえ、運が無くて困ってしまうわあ」

魔王「……」

ディナダン「ふふ……どうでした? 勇者の彼の具合は」

魔王「……」

ディナダン「一命は取り留めた、されど心的負荷の影響で心身ともに不安定に、だとか」

魔王「非のない三人を頃したと言っていた。自分は、もう秩序の内にいるべき人間ではないと言っていた」

ディナダン「しばらく見ないうちに、ませた事を言うようになって……」

魔王「アジ=ダハーカを頃したら、自分もまた氏ぬべきだ……そう言っていた」

ディナダン「……」

魔王「こうして生き長らえているだけで辛い、消えてしまいたいとな。私には語ってくれた」

ディナダン「おガキ特有の心の病気ねえ。客観的にものごとを考えきれていない、まだどこかで自己中心……
やっぱり、あなたは勇者だって突きつけてはいけないわね。未熟な少年の理性を不完全なかたちで偶像化させてしまう」

魔王「……利用しているという自覚はいつもあった、しかし……彼のこうした姿を見るのは、やはり辛いものだ……
なぜ、彼が苦悶の中にいる時に、そばにいてやれなんだか……まだ幼い彼の傍に……」

ディナダン「(少なくとも……共存を謳う二人が一緒にいたら、今より惨い結果になっていたでしょうねぇ)」

魔王「……」

ディナダン「まあ、会えないなら仕方ありません……日を改めてまた参りますわね。
次に会うときは……そうですね、少しは周囲を慮れる人間になっている事を祈りますわ。もちろん、あなたも含めて」




780: 2013/12/17(火) 23:44:25.21 ID:WU+YnqgLo
魔王「私も……?」

ディナダン「あなた達は責を負っている。魔王軍という括りに属する全ての生命に対して共存を掲げた。
……一人二人を手にかけたからどうだと言うのです。旧魔王軍とは行かずとも、6年前に何人が東西戦争で命を落とした?」

魔王「……」

ディナダン「金より軽いと言われる人間の命、それに固執して身を滅ぼしてはしょうがありません。
身体に刃が刺さったままで目標が達成できますか? 邪魔する者は踏んで砕く以外にありますまい」

魔王「何度もそれは言われてきた……内外から、こんにちまでずっとな……」

ディナダン「あなた達の人柄に惹かれて仇敵が改心してくれるなら、苦労はしませんでしょうねぇ。
実際どうなんでしょう、あなたの前にアジ=ダハーカが現れたとしたらどうでしょうか?」

魔王「私の……」

ディナダン「血まぶれの手を持つアジ=ダハーカを、あなたは懐柔できますか?」

魔王「……」

ディナダン「共和、共存とは受動的なものでは無い。相互理解を伴う能動的なものでなければ意味がありません。
受動的な共和とは、いわば制圧であり征服。さて、それではこれに拠らぬ共栄とはどうすればよいでしょう?」

魔王「……」

ディナダン「それもやはり、障害を排除した上で実現するほかあり得ない。武力を伴わぬ達成はありません。
手放しに褒められはしないものの……少しは彼の主張を汲んでやるのもひとつの手段だと思いますわ」

魔王「アジ=ダハーカの……討伐……」


魔王「……」

魔王「(すまない……本当にすまない)」

魔王「(私の思想を押し着せ、適切な指導を行う事も出来ず……ただ、走る事だけしか教える事が出来なかった……)」

魔王「(見捨てないでくれと言ったな……見捨てるものか、見限るものか……私だけは、最期まで勇者の味方だ……)」

魔王「(……賛同してやれなくて、本当にごめんなあ……勇者……)」

786: 2013/12/17(火) 23:59:18.32 ID:WU+YnqgLo
妹「あばばばばばば……いててて」

雷帝「……」

妹「……まっ、ったく……嫌ですわねぇ、魔王軍の魔物どもは乱暴で。人の事を容疑者扱いして、何様だって話ですわぁ!!」

雷帝「ふ、ふふふ」

妹「重要参考人扱いしろって言ってもナシの礫……連合の物事への慎重さを知ってしまうと、やはり所詮は野蛮な獣に見えてしまいますわねぇ」

雷帝「……ネキリの欠片は既に回収いたしましたよ……このままロストしてしまっては事ですので……ふふふ」

妹「やっぱり情報庁は有能でいらっしゃいますわ……さ、早く貸してくださいまし」

雷帝「……」

妹「今度はあの魔王軍ども……白の城塞ごと破滅させてやりますわ、覚悟おし!!」

雷帝「貸……す……?」

妹「そうですわよ!! 私は悪い事なんかさらっさらしてませんのよ!? どぉお思いですかぁ?
お貸ししてくれたら、また大姉様を差し出しましてよ!! ちょっと、聞いてまして!?」

雷帝「自分、立場わかっとんのかワレェ」

妹「」

雷帝「……シャバに出してやってすぐにその口の利き方たぁ、どういう教育受けてきたんじゃボケェ!!
数十万人をブチ頃した戦犯の下手人がナメたクチ利きよって、ここでくびり頃してやってもええんやぞォ!? あァ!?」

妹「は……は?」

雷帝「オメェみてぇなチンピラ一人を魔物どもからカキ出すのにも結構な額使っとんじゃ、
本来やったら両の指ィぜーんぶツメさせてもまだ足りひんのに、言うに事欠いて何様のつもりや!?」

妹「だ、だから……あれは、あれはじ、事故……」

パンッ

妹「ぎゃはっ!!」

雷帝「なーにーさーまーのつもりじゃ言うとんのやボケがぁ!! ここでたたッ頃すぞダラズぁ!!」

790: 2013/12/18(水) 00:12:49.82 ID:0ri/27R8o
パンッ パンッ パンッ パンッ

妹「だうっ……あぎいっ!! ぎゃ、あああああ!!」

雷帝「……大体何が大姉様や。今のオメェにあの人の居場所がわかるんか?
なんもかんもをみーんなまとめて焦土にしくさりよって、お? わかるんか? わかるんかァ!?」

妹「あぐぐぐぐ、あああああ痛っつつ……」

雷帝「年甲斐もないままにサカりよる坊主どもが、よりにもよってバルムンクまで持たせよったんやけどなァ……
オメェのドジに巻き込まれてくたばっとったら、どんだけウチがマイナス被るかわかっとんのかァ?」

妹「バ、バ、バ……バルムンク……?」

雷帝「最低限バルムンクだけは回収せなどうしようもないやろ、聖剣いうくらいやからな。
国境沿いから共和国まで、草の根ぇわけて探す必要あるわけやなぁ」

妹「……」

雷帝「……手ぇ上げぇや、私やりますぅけじめつけますぅくらい言えやドアホ!!」

妹「ひ、ひい!!」

雷帝「こんガキィ、肩書の他ぁなーんも持っとらんのに使うてやっとった恩も投げくさりよって……
どうする、探すんか!? やるんか、やらんのか!? バルムンク探すんか!? どーすんのや!?」

妹「ささ、さが、探っ、探す!! やり、やります、大姉様……さ、探しますう!! やりますう!!」

雷帝「……」

妹「……」

雷帝「はっ……よかろ、チャンス一回だけやろうやないかい。ただ……」

妹「は……」

雷帝「こんだけ人さまにメーワクかけさせといて、何のケジメもナシ言うんは……示しつかへんなぁ……なあ?」

妹「……」

雷帝「……指の一本や二本ツメんと……もらえるチャンスももらえへんよなぁ?」

妹「」

793: 2013/12/18(水) 00:21:31.88 ID:0ri/27R8o
妹「かか、勘弁……勘弁してくだしゃいまし……あ、足……脚ぃ、こんだけ血ィ出てますのよぉ……?」

雷帝「あ?」

妹「すっご……痛いんですぅ、病院、病院連れてってェ……」

雷帝「撃った弾の当たる先にオメェがいたのが悪いんやろが、アタシに非がある言うんかァ?」

妹「は……あ、あううう……」

雷帝「……これや、これ。立派な小刀やろぉ? 前に貸してやった刀とおんなじもんや」

妹「う、ううう……」

雷帝「どや、綺麗やろ? よっく切れんねや、躊躇うと余計辛いでえ」

妹「い、い、やだ、やだ、やだやだ……かんにんして、ゆるしください……」

雷帝「許してやる言うとるやろ? さっさとせぇ」

妹「はっ、はっ、はふっ、はふぅ……うう、うう、無理、無理っ、無理ぃ……」

雷帝「……」




雷帝「……誰かァ、だぁれかー。この子、お医者様に連れて行ってあげてくださいましー。誰かぁー?」

795: 2013/12/18(水) 00:36:33.14 ID:0ri/27R8o
司教「うあー、痛そうだったなぁ……おおこわいこわい」

雷帝「まったく……頭も要領も悪い、何一つ使いどころのないクズですわ」

司教「雷帝閣下をここまでかちキレさせるとは……しかし、これで心を入れ替えてくれることでしょうや」

雷帝「だといいんですがねぇ……」

司教「一応は、あのアジ=ダハーカの実妹です。使いようはありましょう」

雷帝「ククク……あの小刀を持って歩ける事だけは評価の対象です。あれがなかったら……ねえ?」

司教「ハム抜きのハムエッグですわねぇ」

クシャスラー「はあ、あまり血を見るのは好きではありません。ましてやあのような形でなど」

司教「そうぼやかないで……あれで少しはマシになったでしょう、まっとうな人間には程遠いですが」

クシャスラー「ふむぅ……」

雷帝「バルムンクだけは確保したいところです。なるべく、旧帝国側の圧力という体でね。エルフどもに嫌われるのも面白くない」

司教「それで彼女に大仕事を任せるのは、なかなか勇気がいりますねェ」

雷帝「しかし、教皇領からすればデメリットはないでしょう? バルムンクが回収できれば、勇者にもアジ=ダハーカにも劇薬を与える事ができる」

司教「……ククク」

クシャスラー「さて……私はそろそろ行きましょうか。血統だけは確かなようですし、ほんのちょっぴり期待できるのが救いですね」

雷帝「頼みますよお、拝火の天使クシャスラ=ワルヤ……いえ、聖剣ウルスラグナさん?」

ウルスラグナ「わかっております……これもすべては、我らが主の定めたる秩序の為……この身が滅びるまで、ヒトに尽くしてゆく所存ですゆえ」

804: 2013/12/18(水) 01:08:33.93 ID:0ri/27R8o
ダキニ「……」


魔子「きつねさん、こんにちは!」

ほ子「こ、こんにちは……」

娘「ごきげんよう、おきつねさま」

ダキニ「うむ、こんにちは。挨拶のできる利口な童だな」

魔子「えへへー」

ほ子「ふくく……うくくく……」


ダキニ「……」


女騎士「あ……なんか……えらいデカくなったなぁ、なんかあったん?」

ダキニ「……フフ、世には人の思いもよらぬことなどいくらでも」

女騎士「は?」

バキッ

ダキニ「あ痛!! 痛った!!」

女騎士「『おめえになんか教えてやんねー』で済む事をもったいぶるんじゃねーぞイヌモドキがよぉー、
私はそういう喋り方は大っ嫌いなんだよ、覚えとけコンチクショーが。今度はスネ蹴っ飛ばすだけじゃ済まさねぇからな」

ダキニ「……」



ダキニ「やっぱり人間……人間って素晴らしい……ああ、もっともっと……もっと愛してやりたいものだなぁ……」

810: 2013/12/18(水) 01:24:07.36 ID:0ri/27R8o
女騎士「……は?」

ダキニ「いや……いや失礼、つい……感極まってしまってな……はぁぁ……」

女騎士「デカくなったと同時に脳みその容量が反比例してノータリンになっちまったのか」

ダキニ「……あぁ……いいぞお、もっと……もっと妾に話しかけてくれ、妾に構ってはくれんか?」

女騎士「……まじで気持ち悪い、やめて」

ダキニ「フフフ……ウフフフ……」

女騎士「大体よぉー、お前ら極東の妖怪ってぇのは魔物どもと似たようなもんなわけだろ?
役に立つとはいえよぉー、あんま調子こいて私らなめてっと聖剣さんキレるよ? 聖剣さんかちキレるかんな」

ダキニ「なめる……ああ、頬ずりして舐めてやりたい、それくらい好きだ。大好きだ。
昔はたっくさん、それはもうたくさん妾と遊んでくれたのだ。民草揃って、妾の相手をしてくれたし……
妾もたっくさん、それはもうたくさん人間の為に……すこしばかり、豊作を与えてやった。そうすると、それはもう……」

女騎士「はあ……そうですか」

ダキニ「だがなぁ……列島が武将に統一されて、大陸人との貿易が盛んになって、幕府ができて……
……大陸の教会の言う神を信じる教義が流れてきて。そのうち、妾たちの暗闇はガス灯にかき消されていってしまった」

女騎士「自然の摂理だ、滅びてどうぞ」

ダキニ「ああん、汝はつれないなあ……だがなぁ、そうして妾を認識して構ってくれる事自体が、妾にとってこれ以上ないくらい……」

女騎士「(極東ってのはオカシイ奴ばっかり揃ってやがるな……)」

ダキニ「妾とて、鬼どものように人間をいじめ尽くす事が嫌いなわけではない……
だが、だがなぁ……苦悶に歪む顔よりも、快楽で理性が決壊したとろけ顔の方が……可愛らしいではないか」

女騎士「(プリン食べたい)」

ダキニ「秩序というものはだな……隣人の背に刃を突き立てない、そんな程度のタガでいいのだ……
欲望を押しこめて、それで憎悪と悲哀が膨れては仕方なかろう……禁欲主義は悪魔の囁きぞ……」

女騎士「あ、そうですか……」

ダキニ「……もう少し話を聞いてくれたら、このカルメ焼きをくれてやろう」

女騎士「……」

816: 2013/12/18(水) 01:49:11.51 ID:0ri/27R8o
騎士ほ「……北西出向まで一ヶ月弱。それまでに、できればあの大将に戻ってきていただきたいところですわね」

エルフ騎兵「部隊編成は既に完了しています、残るはそれだけですな」

エルフ近衛兵「……まだ西帝国境線の出入国制限が解除されていないのがネックです。やはり、こちらから迎えに行くしか」

騎士ほ「幸い人材には余裕がありますし、それも手ではありますわね。私がクロウクルアッハで出ても構いませんが」

エルフ騎兵「では、早速そのように……ところで、騎士様は……」

エルフ近衛兵「あそこ」


女騎士「……」


エルフ近衛兵「デスクの裏側のハンモック」

エルフ騎兵「……」

エルフ近衛兵「チビっ子とカルメ焼きとかいうお菓子に魅せられて脳みそとろけてるんだと」

騎士ほ「……」

秘書「(筋肉が機嫌悪いですね……)」

エルフ騎兵「(お前人の事そう呼んでたのかよデブ)」

エルフ近衛兵「(最悪ですねデブ)」

秘書「(いや……だってなんか……)」

エルフ近衛兵「(せっかく前日から仕込んでたおやつのバケツプリンがカルメ焼きに負けたから機嫌悪いんですよデブ)」

エルフ騎兵「(察しろデブ、だからデブなんだよデブ。脂身食ってろデブ)」

秘書「(解せぬ)」

818: 2013/12/18(水) 02:07:01.02 ID:0ri/27R8o
息子「あぅ……こ、こんにちは」

娘「こんにちは、ごきげんよう」

騎士ほ「あら……フクク、ごきげんよう。調子はいかがです?」

息子「はい、僕たちは大丈夫です。僕が捜索班、妹は国境線待機班で……」

騎士ほ「では、私と若様が大将閣下をお迎えに上がるのですね……」

息子「えっ……ぼ、僕が……?」

娘「二人きり……?」

騎士ほ「フクク……頑張りましょうね、若様……」

息子「はい……」


息子「……あの、それ……なんですか?」

騎士ほ「……ああ、その……これは……プリンですわ」

娘「プリン……」

騎士ほ「よければ、召し上がってくれませんか? このまま捨ててしまうのも……」

息子「も、もったいないです! す、すごく美味しそうなのに……い、いただきます!」

娘「……いただきます」



娘「(……なんだか、おもしろくない)」

娘「(ほの字さんはすごくいい人なのに……かっこいいのに……つまんない……)」

819: 2013/12/18(水) 02:09:13.85 ID:0ri/27R8o
第9部序 カルメ焼き編
おわり

第9部破 プリン編へ

859: 2013/12/19(木) 00:46:59.87 ID:PP07KLfxo
妹「どいつもこいつも……絶対許さねえ……一列に並べて全員ぶち頃してやる……くっそがぁぁ……!! あああ、痛ェェ……」

ウルスラグナ「まあ、なんと過激な……普段の穏やかなあなたにお戻りください、マスター」

妹「(骨董品の癖にベラベラ鬱陶しい奴……! 天使に化けるわ、鞘に収まってるのに喋りかけて来るわ……!!)」

ウルスラグナ「まだ痛みますか? お可哀想に、この寒さも堪えるでしょうに……」

妹「あんたみたいな幽霊国宝に……マスター呼ばわりされるイワレは無くってよォ……!!」

ウルスラグナ「しかし……このウルスラグナの現在のマスターは貴女でございます。これも教皇庁、ひいては我らが父のお導き……」

妹「私のオシャカになった左手指の事もカミサマのお導きィ……? クソッタレがぁ、なぁにがカミだ、手首ぶった切ってやりますわァ」

ウルスラグナ「まあまあご安心を……主はあなたの運命にも等しく慈愛を与えてくれる事でしょう、その為のこの私にございますよ」

妹「魔王軍と教皇領を行ったり来たりのナマクラがあ……今度は私を食い物にする気ですのねェ、わかってますのよ!?」

ウルスラグナ「まさか……あまりこうした事は言いたくありませんが、持ちつ持たれつという事でもありましょうや」

妹「はあぁ?」

ウルスラグナ「おや、雷帝閣下からこのウルスラグナが持つ天威をお聞きにはならなかったのですか」

妹「天威ですってェ……孫の手にもならないナマクラが聖遺物気取りィ? 生憎私はそんなオカルト信じませんのよぉ」

ウルスラグナ「今すぐに、とは言いません。主は信ずる者すべてをお救いになられます……私の天威は、必ずや貴女を幸福へ導くでしょう」

妹「(連合の豚どもがァ……ちょこーっとミスっただけでこんな目付け役持たせやがってぇぇ……
平民が数十万くたばったからって何だってんですのぉ……? 黙っときゃバレやしないのに、あの雷帝とかいうチビガキめぇ……!!)」

ウルスラグナ「我が天威は『勝利』。マスターの人生という名の旅路に、常勝という花道を捧げましょう……」

870: 2013/12/19(木) 01:07:41.20 ID:PP07KLfxo
妹「ちっ……押収倉庫にそれらしいものは無し……事実上は連合が牛耳ってる東帝施設にないとすると、後は共和国か……」

ウルスラグナ「魔王軍が回収しておれば、教皇領の耳にも入るでしょうからね。まだどこにも渡っていないと考えられましょう」

妹「……あのネキリでブッ飛んだって考えるのが普通では無くて?」

ウルスラグナ「仮にもこの私と同じ聖剣であるバルムンク、主やそれに近しい存在のチカラを借りた魔術現象で滅ぼす事はできますまい」

妹「すると、配置したカケラと同じようにどこぞに転がっていると? ああウゼェ……」

ウルスラグナ「部下の方々にも捜索を命じられたようですが……その後はどうなのです?」

妹「北西や共同体へのご機嫌取り……もとい、くだらん救援活動に人手が割かれてますのよお?
まったく、怪我人の捜索なんか無駄無駄、72時間なんかとっくに過ぎたというのに、ご苦労な事ですわねぇ……」

ウルスラグナ「また……強がることはないのですよ、素直に祈っていると告白してもよいのです」

妹「(あー氏ね、みーんな氏ね氏ねカス)」

ウルスラグナ「普通に考えれば、保持者の最後にいた場所の近辺を探れば近道にはなりましょうね……」

妹「あなた、スゴイ聖剣なんだったら同類の転がってる場所くらいわからないんですの?」

ウルスラグナ「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、マスターは御兄弟の居場所を千里眼が如くぴたりと見つけられるのですか?」

妹「はぁ!? 使えないガラクタですわね、このクッソ寒い冬空の下に放り出されたか弱くも美しく気高い淑女に対して
衛生観念なんぞ微塵もない物乞いヤクザジャンキーどもの間を潜り抜けつつ自称聖剣のクズ鉄穴兄弟を粉塵とスモッグにまみれて当てもなく探せとぉ!?」

ウルスラグナ「ご心配なく、私にお任……」

妹「冗ぉぉー談じゃあーりませんわ……くだらねぇーくだらねぇーくっだらねぇー!! ザコどもザコどもザコどもがぁー!!
えぁぁぁぁぁー、寒ィィィと思ったら雪ですわ!! うっぜーなザケやがってぇ、私が外歩くときは降るんじゃあねー!!」


市民「うわぁ……」

市民「軍人さんかしら……?」

市民「マッチはいかが……マッチはいかが……」


妹「見てんじゃありませんわ愚民どもぉ!! 散れぇ!! ぶち殺されたいんですのぉ!? 私を誰だと思ってましてぇ!?」

872: 2013/12/19(木) 01:21:40.49 ID:PP07KLfxo
モヒカン「ヒャッハー配給だぁー!!」

肩パッド「2週間ぶりの肉だぜぇー!!」

スキンヘッド「ヒャッハーお湯だお湯だぁー!!」


妹「……」

ウルスラグナ「どうかいたしました?」

妹「不愉快ですわ……不愉快極まりないですわ……なぜ私が……こんな腐臭の漂うドブの底みたいな場所に……」

ウルスラグナ「この国境線沿い、以前までは6年前の停戦からこちら、東西交流の盛んな都市が多く点在していたと聞きますが……」

妹「汚らしい……私がこのポストに就く以前からこんなでしたわよ、そこらじゅう立ちんぼのバカ女とラリパッパでいっぱいでしたわ……!!」

ウルスラグナ「これが民の生活の実態……一刻も早く、教皇領も動き出さねばなりません、多くの人を愛で癒してやらねば」

妹「(大概こいつら含む教皇領の坊主どもも胡散臭いですわね……)」


モヒカン「ヒャッハー一列に並べ並べー!!」

肩パッド「慌てんじゃねーぜ嬢ちゃん!! しっかり全員ぶんあるからよぉー!!」

スキンヘッド「良かったなーババア!! 今日は固形燃料があるぜえ!!」

ドスッ

妹「……あ痛」

モヒカン「おっとぉ!! 悪ぃなおねーちゃん、怪我はねえかい!!」

妹「……」



妹「ひのふのみ……しけてますわね、ブランド財布ちらつかせておいて中身はカラとかヒトをバカにしてますわ……」

ウルスラグナ「」

879: 2013/12/19(木) 01:35:57.05 ID:PP07KLfxo
ウルスラグナ「何という事を……いけません、今すぐあの方に返してくるのです」

妹「うるっさいですわねー、あんたはガヴァネスですの? 糞尼どもが夜な夜なナニに使うような張形の癖に文句言うんじゃありませんわ」

ウルスラグナ「よろしいですか、マスター。お遊びで他人のものをくすねてはいけません……人間は徳を重ねる為に日々を生きねば……」

妹「くすねたなんて、人聞きの悪い、氏ぬまで借りるだけですわ。返す気はあるからそこまで悪質に見られるなんて、
アンタの方が下世話で愚鈍で卑劣で淫猥で無知蒙昧の品性愚劣で矮小なディルドもどきなのに、何様のつもりでしてぇ?」

ウルスラグナ「とにかくお返しなさい、今すぐに飢えて氏んでしまう程にお金に困っているわけではないでしょう。
荒れ狂う海の上、小さな木の板にしがみつく二人……一人を見捨てねば二人ともがおぼれ氏ぬ、そんな時でなければ」

妹「ほーお!! そんじゃ私がゴミ法廷のクソ法曹にそうやって説得すれば済む事ですわね!
お財布落として飢え氏にしそうだったんで、やむを得ず生きていても酸素の無駄にしかならないモヒカンクズ男から、
淑女のたしなみを忘れずに同意を得た上で氏ぬまでお財布を借りたと証言すれば私の勝ちィー、聖剣さんがそう言ってましたァー!!」

ウルスラグナ「何という事を……このウルスラグナ、悲しいです……」



モヒカン「おれっちの財布がねぇ!! ねぇぞぉ!?」

肩パッド「おめぇはドジだからなぁー、どっかに落としたんじゃあねーのかぁ!?」

スキンヘッド「しょうがねぇなぁー、おめぇら二人でちょっと探してこい!!」

モヒカン「おっかしいぜぇ、向こうから来たさっきのねーちゃんなら知ってるかなぁー……」


妹「」


肩パッド「あれだけ身なりのいい服を着てるねーちゃんだ、きっと警察に届けてくれているはずだぜ!」

モヒカン「入れ違いになってもまずいな!! しっかり礼を言えるように今から追いかけよう!!」


妹「」

880: 2013/12/19(木) 01:43:28.42 ID:PP07KLfxo
モヒカン「」

妹「」

ウルスラグナ「おお我が主よ……」

妹「へ、へへ……お、起き、起きなさい……ちょ、ちょっとぉ……な、なぁにしてんですのぉチンピラぁ」

モヒカン「」

妹「ちょっぴり、さ、先が刺さったくらいで……しし、氏んだふりなんかしないでくださいまし、ねえ……ねーえ?」

モヒカン「」

ウルスラグナ「マスター……そこまで不安と衝動に揉まれていたのですね……ウルスラグナ、気づいてさしあげられなくて申し訳がないです……」

妹「起きろクソ男がぁ、さっさと起きろぉ、起きてあれだろォ? 治療費と慰謝料請求するんだろォ……?
そんで、そんでそんで華奢な私を仲間と共に組み伏せて、この路地裏で不衛生な性的発散に勤しむんですのよねぇ……?」

モヒカン「」

妹「わ、わ、ワザとじゃあないですわぁ、こ、この大男が……不穏にもこの私に近づいてくるからですわ……」


肩パッド『おうい兄弟!! そっちにはあったかー!! おねーちゃん見つかったのかー!?』


妹「」

884: 2013/12/19(木) 01:55:24.96 ID:PP07KLfxo
肩パッド「」



妹「こ、こ、今度は……せせせ、正当防衛ですわぁ……クキキ……ひひ……」

ウルスラグナ「……」

妹「ねえナマクラァ!! わ、私から、あああ、あなたを払い落とそうとしたんですもの……あなたは大事な備品ですもの、抵抗もしますわよぉ」

ウルスラグナ「おお、哀れな子羊よ……そんなにも、そんなにも主の救いを求めていたのですね……」

妹「いやいやいや……それにしたって……いやー、私って強い、マジ強いですわぁ……ヤバい強いですわよねぇ」

ウルスラグナ「……」

妹「考えてみりゃあ……天威ってぇのが私には着いてるんですのよねぇ……『勝利』の天威……糞うまいですわぁ……」

ウルスラグナ「わかりました、ウルスラグナは何があっても、貴女のお傍にいる事を誓います……
大丈夫、懺悔ならいつでも聞いてさしあげます……いつかは、いつかは貴女もおこないを悔いる事があるでしょう……」

妹「勝利……そう、そうですわぁ……そもそもぉ、私が誰かに負けるなんてありえませんもの……
その気になりゃあ連合にも魔物どもにもエルフにも、小姉様にだって負けやしない……そう、ぜぇんぶ上手く行きますの……」

ウルスラグナ「……」

妹「ごほっ、げぇぇっ……えっ、ぇぇっ……ぐっ、くっく……くくく、わた、私の敵になった事が運の、つつ、尽きですわぁ……」

ウルスラグナ「限定A解放……起動制限解除、権利クリア……」

妹「最後に勝つのは私でしてよぉ……私が、負ける筈なんてありませんのよぉ……くっく、くくっしょい!!」

ウルスラグナ「……」

妹「クッソ寒ィ……ちくしょうめ……!!」

885: 2013/12/19(木) 02:06:29.80 ID:PP07KLfxo
妹「あぁぁぁー、寒っぶ……さぶい……」

ウルスラグナ「雪の勢いが増してまいりましたね……」

妹「……」


妹「(ぎぼぢわるい……さ、さっき路地で吐いてから、何だって言いますのォ……
頭の……脳みその裏側に、真っ白い長方形がぶわっと広がってるような感覚ぅ……)」

ウルスラグナ「とにかく、どこかでいったん休んではいかがでしょう……」

妹「……」

ウルスラグナ「マスター?」

妹「……こっち、ですわぁ」

ウルスラグナ「はぁ……本当に大丈夫ですか?」

妹「こっち、こっちの道……こっちに、何だか……お、おでこのこの辺でむずむずしてる何かがいますの、何かが」

ウルスラグナ「……」

妹「街道沿い……ここから直進、路地裏通って階段昇って階段下ってパン屋の屋根裏、まっすぐ進んで左折して直進して直進して
右折してまた右手から路地裏通って酒瓶蹴っ飛ばして酒屋の裏口から出て街道突っ切ってまっすぐ進んだその先……その先ぃ……」




妹「その、先にはぁ……」

エルフ三男「なっ……!?」

姉「あらぁ……?」

エルフ三男「(こいつ確か……騎士様の妹ッ!? い、今コイツ……どこから降りてきた、上の窓か! 五階相当の窓だぞ!?)」

姉「あら、あらぁ。お久しぶりねぇ、あなたぁ……お名前は何て言ったかしらぁ。わたしたち、お買いものしにねぇ」

妹「……バルムンク、見ぃぃぃーっつけたぁぁー」

エルフ三男「こいつ……!?」

887: 2013/12/19(木) 02:19:28.86 ID:PP07KLfxo
パンッ


姉「きゃあ……か、閣下ぁ?」

エルフ三男「……」


妹「う、う、うはははは……あ、当たったら、当たったらどうしてくれるんですのぉ、氏んじゃいますわよぉぉ!!」

エルフ三男「(剣なんかに……弾かれた!? ウソだろ!?)」

姉「ね、ねーえ閣下ぁ」

妹「あらー、お久しぶりでございます大姉様ァ、お得様がお呼びですわよぉぉ?」

姉「おとくいさま……あの子のところぉ? おじさん達じゃないのー?」

妹「ええ、ですからすぐにお戻りくださいな……私と一緒に来てくださいな」

エルフ三男「動くな、次は額に当てるッ!!」

妹「当てられるもんなら当ててみやがれぇ、ホネカワスジのヒョロガリエルフがよぉー!! 撃てよ、ほらぁ、やってみるがいいですわぁ!!」

エルフ三男「(さっきも頃すつもりだったんだよトンチキがッ!!)」

妹「手癖が良くありませんわねぇー、仮にも貴族の一人である大姉様を攫って逃避行ですのぉ? そういうのは良くない、実に良くありませんわぁ」

エルフ三男「(目的を察するに、十中八九この女が有していた聖剣……! しかも、あいつが手にしている妙な光を放つ剣もまた聖遺物か……!)」

姉「か、閣下ぁ……ねえ、閣下ってばぁ……どうするのぉ、どうすればいいの?」

エルフ三男「……たった一つだけ、残った策がある」

姉「さくぅ?」

エルフ三男「とっておきのヤツがな。あの女の脚を見ろ、マヌケな事に飛び降りた際にどっかしらへし折ったらしい、
気味の悪い事に、徐々に治癒していっているのが分かるが……そこが付け目だ」

姉「ねね、ねーえ……そ、それってなんなのぉ」

エルフ三男「こっちも足を使う」

姉「足ですって! 足をどうやってぇ!」

エルフ三男「逃げるんだよォ!! クソビXチィィーーーッ!! どけーっヤジ馬どもーッ!!」

892: 2013/12/19(木) 02:31:48.88 ID:PP07KLfxo
エルフ三男「クソッ、クソッ、クソッ、クッソォォッ!!」

姉「ひやああああ」

エルフ三男「(連合の差し金か!? 東帝の機関まるごと掌握しているであろう事は予想していたが……
聖剣担いだ刺客、しかもあのダメ妹を向けてくるか!? 何度か東帝の憲兵から聴取は受けたが、そのすぐ次がこれか!!)」

姉「か、閣下ぁ、閣下ぁぁ」

エルフ三男「(あのデュランダルを持つ勇者がどうだか知らんが、今回のヤツの場合は負傷を瞬時に回復する能力を持ち合わせているッ!
自衛能力そのものも脅威ではあるが……ブチ込めばとりあえずダメージは与えられるらしい……隠れ家を悟られぬようにせねばッ!!)」

姉「ひゃ、ひゃ、ひゃうっ」

エルフ三男「買い出しの包みを捨てろっ!! 穴でも空いていれば事だ、ヤツに居場所を教えちまう羽目になったら悔やみきれんぞ!!」

姉「はっ、はっ、はぇい!!」

エルフ三男「(たまに外に出ればこれだっ!! 完全に裏目った!! ちくしょうめっ!!)」

姉「まっ、ま、待ってぇ閣下ぁぁ、手、手ぇ繋いでぇ」

エルフ三男「きさっ、貴様このクソ女!! 僕のトレンチコートの袖にクリームソースなんぞひっつけよってからに!!」

姉「ふぇぇぇ」

エルフ三男「(やってらんねぇやってらんねぇやってらんねぇ……!!
先週はハルマゲドンもびっくりな大災害、直後に聖剣ひっさげたクソ野郎に追い回され、今日はこれかよォ……!!)」

姉「あうー、おててべとべとー」

エルフ三男「なんて日だ!! 今日はなんて日だ!!」

894: 2013/12/19(木) 02:51:37.18 ID:PP07KLfxo
エルフ三男「(考えろ、考えろ考えろ考えろっ……!!)」

姉「ふぁふっ、ふぁふっ、ふぁふっ」

エルフ三男「(時刻は日没後まだ1時間弱……街道沿いは先の隕石による被害を受けているとはいえ、
復旧作業員や現地民は表通りでごった返している筈……だが、雪が先ほどから降り始めた……早急に人ごみに紛れるしか……)」

姉「はふっ、はふっ、はむっ」

エルフ三男「(しかしそれも不安か……! この女……どれだけタッパがある!? 騎士様より背丈はあるぞ、2m近いのか!?
いくら人ごみに紛れたところで狙撃できるほど目立つぞ……フード付きのコートなどオマケではないか……!!)」

姉「はやっ、速いよう、閣下ぁー」

エルフ三男「(後方には……いない!? まさか、建物の屋根の上など走っていないだろうな。馬でも使って裏道から追跡……!!
いや待て待て、そもそもただの一人で尾けていたわけでもあるまい!? 情報部の連中で既に網を張っていると考えた方がいいか!)」




妹「うはははは、はははははっ、見えっ、見える!! すぅっげぇぇー見える!! 何でも見えちゃう、すっげーですわあ!!」

ウルスラグナ「確かに、確認しました……あの女性、バルムンクを所持していました……」

妹「さっきの白紙の長方形……頭の中で、時間を経るにつれて地図が組み上がって行きましたわぁ……
地図というより、同じ縮尺のこの都市が!! 道行く人々にドブ水で溺れる野良ネコまでしっかりくっきり見えちゃいますのよぉ!!」

ウルスラグナ「……さすがでございます、私のマスター」

妹「私っ、私すっげぇぇー!! 私TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」

898: 2013/12/19(木) 03:12:00.68 ID:PP07KLfxo
エルフ三男「(てっとり早い方法としては、聖剣を引き渡してさっさと逃げる事だな……
この女の事には口先で言及していたが、目的はこちらのバルムンクだろう……)」

エルフ三男「(……なぜこんなにも非合理的な事を? 他国に正式に嫁ぐ可能性のある、軟禁状態の入れ食い貴族に聖剣を持たせたのだ……
連合、ひいては東帝内……意思の統率と疎通が完璧ではないのか? 少なくとも、情報庁と東方正教は仲が良いわけではないだろうが)」

エルフ三男「(しかし、こうしてわざわざ回収しに来るという事は、やはり先の大災害は天災だったわけか? 
国境線沿いで会食していた僕と彼女が巻き込まれるであろう事は明白……誰が好んで数十万人を犠牲にする自爆行為をするものか」

姉「ねっ、ねえっ! もぉ追いかけてこないよお、ねえー!」

エルフ三男「……」

姉「か、閣下ぁ……?」

エルフ三男「(バルムンクを引き渡してお帰り頂く? 何をばかな、聖剣引っ提げたヤツが、遥か格下である僕らに交鈔など持ちかけるものか。
こうして直接追って来ないのは……何か計画が別に存在するか、それとも愚かにもこの状況を遊んでいるかだ……!)」


パンッ


東帝憲兵「あばばばば」

姉「ひやあああああ」

エルフ三男「……ちきしょう、後者か。僕たちをキツネに見立てて楽しんでやがる!!」

姉「ひやあああ……閣下すごおい、一発で当てちゃった……」

エルフ三男「あークソ、氏んじまった……弾薬だけ頂いて、引き続き逃げますよ。銃は扱え……」

姉「……」

エルフ三男「(ないよなぁ……箱入り女だもんなぁ……)」

900: 2013/12/19(木) 03:26:10.39 ID:PP07KLfxo
エルフ三男「いいですか、ここから国境線駐屯地……兵隊がいる所ならどこでもいい、そこに向かいます」

姉「も、元のおうちはどうするのぉ」

エルフ三男「戻ったところで袋のネズミ、もしくはもうすでにキャンプファイヤーです」

姉「そ、そんなあ……」

エルフ三男「……目下、僕たちを追っている連中に僕だけで対処するのは不可能です。
貴女はそもそもバルムンク……剣はおろか、ナイフや包丁すらまともに振るった事はありませんね?」

姉「こわいもん」

エルフ三男「つまり、逃げの一手です。しかし、一つだけ賭けられそうな望みがあります」

姉「ほ、ほんと?」

エルフ三男「ええ、本当。まずは、駐屯地から信号拳銃……煙弾や照明弾を入手し、国境線待機班に僕らの危険を知らせます」

姉「?」

エルフ三男「先日お話ししましたよね? 出入国制限が解除されるのを待っていたら何もできない、
アルヴライヒ側からドラグーンを派遣してここから出るという強硬策を採用したと。聞いてましたよね?」

姉「ご、ごめんね、むずかしい事、よくわかんなくて。ごめんね」

エルフ三男「……とにかく、まだ内部班は動いていませんが緊急事態です。
何らかの事態がこの国境線沿いで起こっている事を知らせなければいけません……信号弾の奪取と同時に、火事でも起こしてしまいましょう」

姉「あーうー」

エルフ三男「わかりました、なんにもわかってない事はわかりました」

904: 2013/12/19(木) 03:44:04.03 ID:PP07KLfxo
妹「うくく……逃げてる逃げてる、逃げてるなぁ……無駄無駄無駄無駄、ぜぇんぶワカってんのに無駄なんですぅー!」

ウルスラグナ「マスター、我々も動かねば……」

妹「いいーんですわよぉー、上の者がチョロチョロ小間使いやって部下を甘やかしても良い事はないんでしてよぉー?
頭はこうしてエモノの情報を逐次把握、手足は迅速に頭の指令を忠実に守って職務を遂行する……」

ウルスラグナ「……しかし、この地域であまり派手な作戦行動はとれないのでは? 
三国の兵がどこにも駐在しております、情報部の指揮系統下にある憲兵団の行動はかなり制限されるかと……」

妹「ヒョロガリ一匹に乳ウシ一頭ひっ捕らえるのに、大の大人が四苦八苦。さすがにそこまで無能ではないでしょう」

ウルスラグナ「ですが、相手はアジ=ダハーカの庇護にあずかる悪鬼の手先……聖剣のチカラを持つマスターが出ねば……」

妹「……ふん、私ぃ? やっぱり私が出なきゃあダメぇ?」

ウルスラグナ「もちろんにございます。マスターには、この私が力をお貸しします……」

妹「あーーーー、そうですわよねぇーーー、使えない凡人どもには私がついてないといけませんわよねぇーーーー!!
でもいいのかなぁーーー? 人外のはんぱねー能力を凡人どもに使ってもぉー……ここはオトナの対応をしなきゃいけないと思いますわぁ」

ウルスラグナ「オトナの対応とは……?」

妹「私が本気出したらみんな驚きますわ、それはそれはびっくらこいちまいますわぁ。それであんまりビビらせるのも可哀想ですしぃ……
神に選ばれたる勇者であるこの私が!! 不必要にそういう騒動を起こす事も無いと思うんですの!! でしょ!?」

ウルスラグナ「なるほど!」

妹「実力は小出しに小出しに……我慢してちょびちょび使わないとぉ……何といいますの? カタルシスが得られないではありませんか!
そもそもぉ……このチカラを愚民どもが超速理解できるはずもございません……クズどもに合わせてやるのも大切なのですわぁ!!」

ウルスラグナ「さすがは私のマスターでございます……」

妹「あー困っちゃいますわぁー、私は平穏無事な生活を送りたいだけなのに、ある日突然血脈のせいで神のチカラを授かってしまって、
それでも謙虚に謙虚につつましく生きていくのは本当にもどかしくてつらいですわぁー、あーつれえつれえ!!」

980: 2013/12/20(金) 16:31:37.98 ID:M20Nbuiko
≪幕間≫

妹「はい……はい、ごきげんようこんにちは、三女でございます」

姉「どーもみなさん。知ってるでしょう? 長女でございます」

妹「おはざーす」

姉「おぉ、寒っむ、まずいってこれ……」

妹「……今ですねー、我々現在、日本にはおりませーん。カメラはこちら、うちの長女が担当しております」

姉「……」

妹「『おいッ、このバカヤロォ!! よぉく聞けぇ……ここをぉキャンプ地とする』」

姉「あっかっかっかっかっかっかwwwwwwwwwwwwwww」

妹「はい、何と……ロケ史上初の野宿でございます……しかもぉ、ドイツのこんな道端でございます。これ以上北に行ったら私は氏にます。
えー、昨日……国外ロケ初日ですね、非常に愚かな選択を我々してしまいまして……レOカップルと間違えられるくらいなら良かったんですが。
どっかのバカとオカッパがですね、先にメシを食いてえメシを食いてえと騒ぐもので……宿が見つかりませんでした。この21世紀の世でですよ」

姉「さすがに今回……わたくしちょっとかわいそうな事をしたと自覚しております。ご覧ください」


女騎士「」


妹「wwwwwwwwwwwwwwwww」

姉「wwww寒wwかったんだねぇwwwwwwwwwww」

妹「二人wwww車ン中wwwww窓が凍っちゃってるものwwwwwww」

姉「あの抱えてるのは……あれは膝ですな?wwwwwwwwwwこっちwwwこっち見てるwwwww」

妹「後部座席のこけし大丈夫かしらwwwwwww」

姉「まんじりともせず起きていやがったか……あんな収録時のカッコまでしちゃって……」

女騎士「寝たら氏ぬと思ったんですぅ……半ズボンですよ私ぁ? どうしてだか私ぁこの軽装で北極圏に向かおうとしてるんですよ?
何であんたがたは車のキーまでテントに持ってっちゃうわけ? 後ろのオカッパだって凍えてたんだよ?」

姉「かっかっかっかっかっかwwwwwwwwwwwwwwww」

おかっぱ「何が酷いって……窓が半開きなんだもの……国外撮り終わったら帰れると思ったのにさぁーもぉー」

妹「それwwwwその何だっけ、幕府軍の服それさwwwwそれ確か夏服なんだよねwwwwwwかっかっかっかっかwwwwww」

おかっぱ「あったかそうに見えるけどこれすっげー薄手なの。半ズボンより多分寒いです」

女騎士「あんだとぉ?」

94: 2013/12/23(月) 01:34:01.37 ID:p8jTZkZzo
騎士ほ「彩弾を確認、赤……中尉、どう思いまして?」

ポニテ「先ごろより共和国の駐屯兵の動きが慌ただしい……賊にでも入られただけにしては不自然すぎます。
そんな中、アルヴライヒに属する我々が指定した信号パターン……」

騎士ほ「向かう価値はありましょう、出ます」

息子「もしかして、大将でしょうか。まだ、指定の日時じゃあないのに……」

騎士ほ「何も無ければ御の字、何かあるならそのまま回収いたしましょう」

ポニテ「……では、雪風が強まる前に向かいましょう」

騎士ほ「了解。落ち着いてついてきてくださいまし、若様」

息子「はいっ」

ポニテ「戻る途中で吹雪かれなければいいのですが……ん、んん?」

騎士ほ「どうかいたしましたか」

ポニテ「……」


妹「悪ぃ子はぁーwwwwwwいねがぁーwwwwwwwwwははははははっ、ははははははっ!!」


ポニテ「屋根を人間が走っています」

騎士ほ「何をばかな」

ポニテ「走っています!」

騎士ほ「人間でも屋根くらい走れますわ、そんな事より若様がお風邪を召しては大変です。早く火元を確かめましょう」

ポニテ「」

96: 2013/12/23(月) 01:43:58.06 ID:p8jTZkZzo
エルフ三男「助けてください、追われているんです!!」

老爺「おやおや……訳ありのようですなあ」

老婆「あなた、ちょっとくらいはいいんではなくて?」

姉「あうー」

エルフ三男「悪漢が僕たちを執拗に……お願いです、匿ってください!!」

老爺「そうじゃなぁ……お若いエルフさん、お入んなさい。外は寒いでしょう」

老婆「あたたかいものを淹れまあべし」


エルフ三男「くっ!!」


老爺「こればあさん、どうしたというんじゃぁぽ」


エルフ三男「扉を閉めろ!! 狙ってる!!」

姉「ふあい」

エルフ三男「(咄嗟にじじいばばあを盾にはできたが……このボロ家にずっと籠城してはおれんだろうな……
いよいよ表で本格的に銃を使い出した、まずいぞ……!!)」

姉「閣下、閣下ー。おむかえ、いつ来るのお。いつ?」

エルフ三男「もうすぐだ、もうすぐ来る……20分とかからんはずだ」

姉「そっかー……」

エルフ三男「これは……北西の散弾銃か。なかなかいいものを持っていやがる、老後の備えにしては過ぎたものだな」

姉「閣下、閣下ー」

エルフ三男「緊急事態だ、使わせていただく。こっちは……」

姉「閣下ってばあ、閣下ぁ」

エルフ三男「うるさいっ、クソアマ!! ちゃんと家まで帰してやるからおとなしくしてろっ!!」

姉「はあい」

98: 2013/12/23(月) 01:59:29.87 ID:p8jTZkZzo
エルフ三男「建屋の屋外から最後に彩光弾を撃ってから10分。早めに見つけてもらいたいところだが、迂闊に窓から顔は出せんな……
あの聖剣かついだバカが暴れまわってくれているおかげで、三国はいらぬ警戒を強いられているようだが……」

姉「さむぅいー、閣下ぁー」

エルフ三男「……何ですか」

姉「寒いねぇ、こごえちゃうねぇ」

エルフ三男「暖炉の前でまるまっていなさい、毒ガスでも注入されない限り表には出られませんで」

姉「閣下は寒くないのお?」

エルフ三男「寒い。もういやだ。帰りたい。僕は差別と寒さと不衛生が何よりも嫌いなのです」

姉「じゃあね、じゃあね、閣下はわたしがぬくぬくしてあげるの。ぎゅうーしよ、ぎゅうー」

エルフ三男「頼むから黙っててくれ、戻ったら抱いてやるから喋るな」

姉「はあい」

エルフ三男「……」


妹「ウラヤマシー、ウラヤマシーですわーこりゃあー!!」


エルフ三男「(……もう嗅ぎ付けてきやがったッ!! 階下からかッ!?)」


妹「童OO液搬送機の分際でぇぇぇ、なかなか頑張るじゃああーりませんかぁぁー!!
いますわよねぇー、ここにいますわよねぇー!! くそ強い私にはっ倒されるべきチビガキはここにいますわよねぇー!!」

100: 2013/12/23(月) 02:10:07.41 ID:p8jTZkZzo
エルフ三男「もうお手上げ、勘弁してください……ほんと、もう……」

妹「おやぁ、おやおやおやおや、どうしたんですかぁ、どうしたっていうんですかぁ」

エルフ三男「先日も聖剣引っ提げた勇者様に散々追いかけ回されたんです、もう怖いのはうんざりなのですよ」

妹「拍子抜けぇ!! 何ですのそれぇ、そうじゃないでしょう、もっともっともっと騒いでくださいましぃ。
騒ぐだけ騒いだら、その詭弁を私が説教に硬軟織り交ぜてじっくり諭してさしあげますからぁ!!」

エルフ三男「弁解させていただけるのなら助かります……そもそも、貴女の目的は何なのですか」

妹「剣です。御存知のはずですわぁ、あの乳ウシと毎晩寝ていたあなたならぁ……」

エルフ三男「お渡ししたら、帰って頂けますか?」

妹「ぷりーず」

エルフ三男「帰って頂けますか?」

妹「ください」

エルフ三男「帰って頂けますか?」

妹「よこせ」

エルフ三男「帰って頂けますか? お帰り頂けないなら、乳ウシの頭は吹き飛びます」

姉「ちちうしー?」

妹「……」

エルフ三男「(やっとホルスタインに利用価値が出てきたぞ……この妹、聖剣と同時に持ち主の回収まで命じられていたらしい……!)」

101: 2013/12/23(月) 02:27:49.06 ID:p8jTZkZzo
エルフ三男「(あの勇者とのやりとりで確信した……! この女が携えていたのはまさしく真の聖遺物!
手放すのは惜しいが、ここで始末されるのは癪だ。コイツのバックにいる連合が何を腹に抱えているか知らんが、乳ウシが役に立つとは……!)」

妹「(ふっっっっざけんじゃあねーぞぉぉ……くそくそくそくそがぁぁぁ!!
小姉様の右腕!! 小姉様の頭脳!! 小姉様の竿役がここにいながらぁぁぁッ!!)」

エルフ三男「どうします? 僕もみすみす殺されたくありません、生きて帰りたいのです」

妹「(骨董品!! 何か手はないんですのぉぉ!! 勝利の聖剣のくせにボケーッとしてるんじゃありませんわ!!)」

ウルスラグナ「(やはり、ここで貴女のお姉様まで殺害してしまうリスキーな選択は避けるべきです……
条件を呑んで、マスターの方はのちのち日を改めて回収するほか……)」

妹「(こんな砂場に捨てられた生ゴミにタカるフナムシみたいな連中にぃ、超TUEEEEEE私が交換条件で手を打つんですのぉ…・・・!?)」

ウルスラグナ「(……)」

妹「……わ、わかりましたわ。バルムンク……そちらの聖剣で手を打ちましょう」

エルフ三男「(やけに早く折れたな……しかし、こちらも細工や仕掛けを施す余裕がないのも事実、僥倖と考えるほかあるまい)」

妹「(ああもう……もうもうもう!! 難しいコマかい事はめんどくさいですわぁ!! あの小姉様に聖剣が渡るなんて、あってはならない事ですし……
もう、もうあの雷帝閣下に怒鳴られるのもごめんですわぁ……聖剣だけでも回収した実績があれば、あとはきっと連合も分け前をくださる筈ですわ!!)」

ウルスラグナ「(そう、そうです……今の最優先事項はバルムンク。バルムンクだけを優先なさい、マスター……)」

107: 2013/12/23(月) 03:37:26.24 ID:p8jTZkZzo
エルフ三男「……」

姉「あーうー」

エルフ三男「(あれだけ仰々しく憲兵を引き連れてきたかと思えば……もう帰って行きやがった)」

姉「さむぅいぃ……」

エルフ三男「(あの勇者サマよりかは与しやすいバカだったのが救いか……また寿命が縮んだわ……
何にせよ、もう二度とあんなカスどもに関わるものか、聖剣のマスターなんぞ頭が腐りきったアリもハエもたからんバッファローの下痢便よ……)

姉「……おなかすいたー」

エルフ三男「(しかしバルムンク……あれを逃したのは本当に痛いッ……!! あれを手に入れられたなら、守銭奴の糞尼も黙らせられたものを!!)」

姉「……」

エルフ三男「やめだやめだ……生きて騎士様の寵愛に預かれる事を悦ぼう……おお、我が麗しの騎士様、愛しております」

姉「おお、わたしも閣下すき! あいしてる!」

エルフ三男「……」

109: 2013/12/23(月) 04:01:01.12 ID:p8jTZkZzo
雷帝「それで、おめおめと聖剣だけ受け取って戻ってきたと。ああ情けない、なっさけなぁぁぁい」

ウルスラグナ「……」

雷帝「……ま、生きていらしたのが分かって良かったですわぁ。ああ良かった良かった良かったぁぁ」

ウルスラグナ「彼女……アジ=ダハーカの実姉の事ですか?」

雷帝「ええ……『敬慕』の天威を有する聖剣バルムンクの現マスター、正教会のお気に入り……」

ウルスラグナ「本国や軍部には、バルムンクさえ確保できていれば文句は言われないでしょうに」

雷帝「そう納得できればどんなにラクか……もう、私には無理なのでしてよ。もう、私はバルムンク……彼女の虜なのですから」

ウルスラグナ「なるほど、貴女を彼女へ傾倒させる『敬慕』の天威であり……永く保持していた帝国を堕落へ導いた『腐敗』の呪い」

雷帝「これを『腐敗』と解釈されるのは非常に不愉快ですわねえ……いくら教皇領の貢物兼回し者とはいえ、言葉が過ぎましてよ」

ウルスラグナ「これは失礼」

雷帝「大体、私が彼女を慕う事に何の問題がありまして?」

ウルスラグナ「……」

雷帝「バルムンクの後継者……彼女の実の娘であるこの私が。わが愛しき母を慕ってどこがいけないのです?」

ウルスラグナ「重ねて、お詫び申し上げます」

雷帝「あのカスがネキリをしくじりやがった時には、本当に肝を冷やしました……共和国のエクレアが2ダースしかノドを通らなかった。
しかし、彼女は生きていた……バルムンクの加護が彼女を救ったのですわ。なんてすばらしい……さすがは……私のお母様」

ウルスラグナ「そのしくじった当の本人を、けじめという形で登用するとは……」

雷帝「そんな事言ったってぇ……私の調べで、聖剣を手にする事ができるのは勇者の血統にある人間。
こればかりは、ある程度頭が弱くて、その直下にはいくらくたばっても文句を垂れられない人材が揃っていた方が好都合ですもの」

ウルスラグナ「実にピンポイントな登用だったわけで」

雷帝「うふふ……ともあれ、バルムンクは私のものでございます。その証拠に……」


雷帝「ほらぁ、うふふ……ごらんなさい。剣はこんなにも軽々と鞘から抜く事ができる。
バルムンクもまた、私を愛してくれている……私の身体を流れるお母様の、勇者の血潮を愛してくれている!!」

ウルスラグナ「お美しゅうございます、雷帝閣下」

雷帝「……聖剣を抱くに相応しいのは、この雷帝以外に存在しません。でしょう、ウルスラグナ……クシャスラ=ワルヤ?
本国だろうが情報庁だろうが……誰にも文句は言わせません……全て等しく、聖剣の主に跪くべきなのです……」

111: 2013/12/23(月) 04:15:46.17 ID:p8jTZkZzo
第9部破 プリン編
おわり


第9部窮 二つは野沢菜って言ったじゃねぇか!

164: 2013/12/24(火) 17:24:56.85 ID:RVaDacUpo
pm5:00

エルフ三男「馬鹿者どもォ!! せっかくの降誕祭の日、遊んでいる場合か!! すぐに会場を用意しろ!!」

エルフ近衛兵「待ってください閣下、もう少しで……それロン!! ロンです騎士様!」

秘書「何ですかそれぇー!!」

女騎士「クソゲーやらせやがって、ふざっけんなテメェ!! 九蓮宝燈なんかそうポンポンアガれるわきゃねぇだろ!!」

エルフ騎兵「イカサマだ! しばけしばけ!!」

エルフ三男「生きて復活祭を迎えたかったら直ぐに手伝え!! そこの貴女、ぼくとキッチンに来なさい」

秘書「わ、私ですかあ」

エルフ三男「買い置きの出来合いなんかで聖夜など過ごせますか、ディナーを作ります」

秘書「ふえええ」



騎士ほ「まあ、帰国して早々アグレッシブな大将……」

エルフ三男「お手隙なら手伝って頂きたい。リストにある食材と機材を買ってきてくれませんか」

姉「なになにー、閣下なにするのー?」

エルフ三男「あんたは……向こうで面子に加わってお菓子でも食べてなさい」

姉「はあい……」

息子「……?」

娘「ねえお兄ちゃん……さっきお屋敷に運ばれてきたあれ、モミの木だよね」

息子「うん……もしかして、あれかな。12月だものね、あれかな」

娘「ほんとに降誕祭のパーティなのかな? おうちでやるの初めてだね、お兄ちゃん」

エルフ三男「……」



エルフ三男「50ある、ぼくの方の手伝いはいいから、表でお菓子とおもちゃをありったけ買ってきなさい」

秘書「は、はぇ!?」

エルフ三男「すべてラッピングしろ、モタモタするんじゃないぞ。8時までに用意するんだ、いいな」

秘書「」

178: 2013/12/24(火) 19:23:31.06 ID:RVaDacUpo
pm7:00

秘書「カードに包装紙、金箔にリボンに……あああ、あと食材だあ」

ポニテ「組合から少し拝借しましょう、リンゴ300個の手配はできていますので……」

秘書「(何にそんなリンゴ使うのかしら)」

ポニテ「大将がパイを作ると仰っていました、それと余剰分は例年通りツリーに吊るして後々食べます」

秘書「そういえばパイ生地も用意しておけって言われましたねえ……」


騎士ほ「鵞鳥ロースト上がりまで180秒ですわっ、ソースのご用意できておりまして!?」

エルフ三男「生クリームを添えれば完成です、ハジに避けておいてください……それとプディング!! プディングの需要は高いはずです!」

騎士ほ「盛り付けは私の子に任せてありますわ、ところでシュトーレンの焼きあがりはいかがですの!?」

エルフ三男「拘っていては間に合いません、今年は外注に回しました!」


エルフ近衛兵「このワインやっべwwwww酢だ酢wwwwwww」

女騎士「はいドボーンwwwwwハズレー、バカ舌ぁーwwwwww」

エルフ騎兵「ヘンな役でアガるからだwwwwww来年は若様相手に一生ツモれないだろうなwwwwwww」

エルフ近衛兵「そういうのスゴイ気にするからやめてくださいよwwwwwwwwwwww」



ほ子「……」

魔子「おいしそうですねー、お料理が次々できていきますよお」

息子「……僕たち、こういうパーティ初めてなんだ」

娘「ずうっと共和国にいたけど、こうやって騒ぐの……はじめて」

ほ子「……それじゃあ、きょうは……おそくまであそびましょう」

息子「う、うん……」

魔子「リーチ!」

ほ子「リーチじゃないわ……!! あなた啼いてるじゃない……!」

ほ子「」

息子「ツモ!!」

ほ子「役ができてませんわ若様……!!」

188: 2013/12/24(火) 20:17:21.33 ID:RVaDacUpo
pm8:00

ダキニ「童が夜更け前からジャラジャラジャラジャラ、何をしとるのだ」

ほ子「……」

ダキニ「……これ、黒髪。何をふさぎ込んでる」

娘「さっきの半荘で三万負けちゃって……」

ほ子「次は本格的にやりますわ……一荘でしっかりたっぷり……」

魔子「いっちばんルールくわしいけど、いっちばん引きが弱いんだよね……」

ダキニ「もっと可愛げのある遊びをせんか、まだ向こうの連中の呑み比べの方が健全よ……終い天神の真似事でもしとるのか?」

息子「降誕祭です、メシアがこの世にお産まれになられた事をお祝いする行事で……」

魔子「あとでプレゼントの交換もするのです! みんなでするのです!」

ダキニ「ふむ……羨ましいなあ、そのめさいあがどこの祭神だか知らんが、こんなにも祭祀に携わってくれる人間がいるとは。
おお、誰ぞ妾の酒の相手になってくれる者はおらんかぁ……できれば男ぉ、男と呑みたいぞ……いい男と一緒に新年をぉ」

娘「お酒なら、あのシュテンさん達と……」

ダキニ「ソコの抜けたオケのような連中と呑んでも楽しくもなんともない。向こうはどれだけカッ食らっても素面なのだぞ」

息子「じゃあ、お母様や近衛の人達は」

ダキニ「もっと逞しい体躯の男がいい。筋骨隆々で、雄の精に溢れた獣と呑み交わしたいものだ。
汝も竜神の加護にあるのだ、女児の格好もぼちぼち卒業してはどうだ? おのこならば褌も健やかで好いぞお」

娘「ふんどし」

ほ子「ふんどし!」

息子「ふんどし?」

ダキニ「顔つきは若干女々しいが……なかなかどうして、この妾を引きつけるものもあるらしい。褌祝は妾が仕切ってやろうか?」



娘「……めぎつねぇ」

魔子「(機嫌が悪い人が二人目ぇ……)」

200: 2013/12/24(火) 22:00:03.07 ID:RVaDacUpo
pm10:00

エルフ近衛兵「ぺにぃ」

女騎士「うわぁぁぁリバースだぁぁぁぁ」

エルフ騎兵「やめろ、ここでリバースはやめろ!! 食べ物粗末にしたらマジで閣下に殺されるぞ!! 飲み込め!!」

エルフ近衛兵「あばばばばばば」

女騎士「しゃっwwwwwwしゃwwwwwしゃwwwwwwwwwwwwエルフの癖に酒が弱いのなあwwwwwwww」

ポニテ「騎士様が異様に強いのです、たぶん」

女騎士「……こらこらこらこら、呑兵衛の中にたった一人素面でいるんじゃあないぞお」

ポニテ「は……私でございますか」

女騎士「今のうちに食い溜めておきなさい、6年前にエルフが成金から搾り取ったカネが私たちの血となり肉となってゆくのです。
気に病む事はありません、おカネもこうして表に出て来られてきっと本望です、さあ食べなさい食べなさい」

ポニテ「い、いえ、私はアルコールの類は呑み慣れては……」

女騎士「ほの字よ! レディゴッってやってレディゴッて」

騎士ほ「はいはい……レディ……ゴッ!!」

女騎士「そら食えっ!! 私よりこのバケツババロアを早く食い終わったら、このアルヴライヒはぁぁ、お前のものだ!!」

ポニテ「はっ……ぐぇ、がっふ!! 甘ッ、あっまい!!」

女騎士「ぬはー!! ぬはー!! ぬはは!! 怖かろう!!」



エルフ三男「騎士様の家系の方の食事は、見ていて大変楽しいものですね……調理のし甲斐があるというものです」

秘書「しても、すごい手際が良かったですよね……本職の人かと思いましたよぉ」

エルフ三男「80年も料理長をやっていれば、これくらいはどうとでもなります。あなたがもう少してきぱきと動いてくれれば30分は短縮できた筈なのに」

秘書「あはは、80……80?」

エルフ三男「二世紀くらい前ですかね……外務省に就く前は、帝国の田舎で調理師をしていたもので」

秘書「」

209: 2013/12/24(火) 23:07:26.45 ID:RVaDacUpo
pm11:00

息子「あっ、そのう……ご、ごちそうさまでした。美味しかったです、パイもシチューも……」

騎士ほ「お粗末様です……お口にあったようで何よりですわ」

娘「……」

騎士ほ「何か……?」

娘「なんでも……ないです」

息子「そうだ、僕らもお片付けを手伝います。あんなにたくさん人が集まるパーティだったんです、きっと大変でしょうから」

騎士ほ「ああ若様……お気持ちは嬉しいのですが、会場の撤収は閣下が近衛の方々に手配したと聞いております。故に、私達はこのまま……」

娘「このまま?」

騎士ほ「このままプレゼント交換をして……湯浴みが済んだら寝室へ……ですわ」

息子「しんしつ……?」

娘「(ベッドイン……?)」

騎士ほ「……私、今夜はお酒が入っておりますの。おふた方、今日は介抱してくださらないかしら」

娘「おふた方って……わ、私もですか」

騎士ほ「ええ、もちろん……フクク、フククク……」

212: 2013/12/24(火) 23:44:49.78 ID:RVaDacUpo
pm11:30

エルフ三男「おお、寒い寒い……今夜も冷え込みそうだ」

エルフ三男「明け方は更に気温がぐっと下がる……防寒対策はきちんと備えねば。
この日の為にニコラウスの仮装を揃えたのだ、降誕祭当日までに出国できたのは運命といえよう」

エルフ三男「お嬢様には帝国の……純粋理性批判。若様には……これまた帝国の軍事思想論。きっとお喜びになる筈だ。
残りの二人のチビッ子には……さっき買って来させたオモチャだのお菓子だのがあるな、これでも詰めておこう、はははは」


エルフ三男「ぎいやああああああああああああああああああああああ」

エルフ三男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

エルフ三男「気がまぎれない!! 頭がおかしくなりそうだ!! 何を思い浮かべてもだめだ!!」

エルフ三男「抱きたい……あの女、あのだらしない肉女を抱きたい、抱きたい抱きたい抱きたい……!!
しかし、否……否、否、断じて否!! そんな事を肯定していいはずがない……僕の500年は一体何のためにあったというのだ!!
騎士様ただ一人の為に全てを注ぐと誓ったはずなのに、なのに……!! 僕の深層に刻み込まれているイコンは騎士様のそれの筈だ!
しなやかな肢体、美の最終到達点とも言える筋肉美、脂肪美、賛美されるべき造形美……やめろ、やめろやめろやめろ!!
そんな堕落を体現するようなだらしのない肉だれを見せつけるな……ぶくぶく膨れたそんな身体でえ……
やめろ……僕を、この僕を呪う気だな……妙なまじないで僕を、僕の矜持を腐敗させる気だなあ……くそお……」




男「ちゅっちゅ!! 女ちゃんちゅっちゅ!!」

女「ちゅっちゅ!! 男くんちゅっちゅ!!」

エルフ三男「やあ久しぶり、降誕祭おめでとう! サカってるねえ!!」

男「は、はあ……」

女「ね、ねえ男くん……お知り合い?」

エルフ三男「あっ!! 新しいカノジョかい? この前は猿人の女の子連れてたじゃないか、モテ男くんめぇこのぉー」

男「」

女「」

エルフ三男「んじゃまあ、メシアの御前で性なる6時間を楽しんでくれたまえよ、Schoenen Abend noch!!」

男「ちょ、ちょっとあんた何言って……おい、おい!!」

女「」

219: 2013/12/25(水) 00:08:46.61 ID:jan7ALyHo
am0:00

ジャラジャラジャラジャラ

騎士ほ「あたたかい……あたたかいですわ、若様……」

息子「シャワー、浴びたばかりですから……」

娘「……」

騎士ほ「お嬢様も、白い柔肌が火照って……まるで白桃のようですわ」

娘「や、やあ……」

ジャラジャラジャラジャラ

騎士ほ「湯冷めしないうちに、さあ……こうすれば湯冷めもしますまい」

息子「い、やぁ……」

娘「そこ……くすぐったいぃ……ひぃ!!」

ドンッ ドンッ

騎士ほ「フクク……フククク……」

息子「はぁう……」

娘「こ、怖い事……しないでください……」




女騎士「うるせーーーーぞ隣のバカども!! ギシギシアンアンウサギみてえに鳴きやがって、次で流れたら大負けなんだぞ!!」

エルフ近衛兵「ヘイヘイwwww早く切ってくださいよーwwwww」

エルフ騎兵「騎士様びびってるーwwwww」

秘書「あ……騎士様、それロン……タンヤオです……」

エルフ騎兵「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

女騎士「この壁が薄いのがいけねぇんだこの壁が!! 集中力が削がれる、いっそ蹴破ってやろうか!!」

228: 2013/12/25(水) 01:58:43.26 ID:jan7ALyHo
am2:00

エルフ三男「(ははは……僕も結局は……睾丸に躍らされる一匹の雄でしかなかったのか……)」

エルフ三男「(だが……しかしだ……男にはな、据え膳を蹴飛ばし台無しにせねばならん時があるのだ……)」

エルフ三男「(女子に恥をかかさぬ為の方便に、据え膳食わぬはなんとやらとあるが……
まことバカバカしい! 己が貞操も守れぬ者が女子の羞恥を思いやるなど片腹痛いわ!! 
所詮は繁殖欲に脳を焼かれた蛮族の吹聴した悪しき慣習よ、先人というのは何と愚かなのだ……)」


『ああー、気持ちが良いーっ』

『ぬふぅ』『ぬふぅ』

『んほぉぉぉぉ』


エルフ三男「(そう言っても……性欲に忠実で愚かなのは『悪』ではない……国家の繁栄に忠ずる、称えられるべき行為……
我が国民を非難する事などはできん……できんが、もう少し表通りでカップルにちょっかい出してこようかなあ……)」

エルフ三男「(アホくせ……帰ろ……)」




姉「あー、閣下だー!! ほんものの閣下だあ! おかえりなさい!!」

エルフ三男「」

姉「あのね、閣下のおへやで待ってなさいっていわれたの。おとなしくしてたよ?」

エルフ三男「」

姉「だからね、『サンナンボー』と一緒にまってたよ。この子がサンナンボー、さっきのプレゼント交換で出てきたの、閣下のぬいぐるみなの!」

エルフ三男「(据え膳どころかカモがネギしょって誘ってるぜえ)」

232: 2013/12/25(水) 02:18:49.34 ID:jan7ALyHo
姉「閣下、閣下ぁ」

エルフ三男「降誕祭とはですね、本来は家族や親しい友人同士でこのめでたい日を祝う行事であってですね」

姉「うん、わたしは閣下すき。閣下はわたしの事、すき?」

エルフ三男「……」

姉「さっきのごちそう、閣下が作ってくれたんでしょう。おいしかったよお、いっぱい好きになっちゃったよお、幸せだよお」

エルフ三男「……そいつは良かった」

姉「おなかぽんぽん、閣下はいつもおいしいもの食べさせてくれるよねぇ」

エルフ三男「キャミソールでお腹を出してると風邪をひきます、半裸でいるのはやめなさい」

姉「はぇ」

エルフ三男「……」



エルフ三男「もう限界だッ!! 抱くねッ!!」

姉「ひゃー」

エルフ三男「(このもち肌!! 細やかなブロンド!! 騎士様と同じ深い深い碧眼!! 経産婦とは思えぬこのみずみずしい肢体!!)」

姉「く、くしゅぐったいよ、閣下ぁ」

エルフ三男「あばばばばばばばばばば」



女騎士「合意と見てよろしいですねぇー?」



エルフ三男「」

238: 2013/12/25(水) 02:32:09.52 ID:jan7ALyHo
姉「あ、れぇ? 次女ちゃん、そこにいたのお?」

女騎士「いやー、負けこむのにも飽きちゃってさあー。無駄にでけえクローゼットもあるし、いい暇つぶしになるかと思って張ってたのよ」

エルフ三男「」

女騎士「ククク……ようやくナイフとフォークを手に取ってくれたなぁ、三男坊。どういう心変わりだい」

エルフ三男「こ……れは……騎士様、これは……違……け、決して強Oだとかそういうんじゃ」

女騎士「強O? 何言ってる、夫婦の夜の営みだ。実際の被害者を前にしてそういう事言うんじゃないぞ」

エルフ三男「……」

女騎士「いやぁ……降誕祭は家族や親友と過ごす貴き行事……その通りだ、文句の言いようがない」

姉「わたし、こうやって好きな人と過ごすの初めて!!」

女騎士「……可愛い可愛い姪っ子の顔、早く見たいなぁーなんて思いまして。ねぇ、閣下?」

エルフ三男「う……うう……」

女騎士「しっかし、いいなぁー大姉様は。こんなイケメンと(性的な意味で)お肌の触れ合い通信ができるなんて」

エルフ三男「……」

女騎士「何を我慢する事があるよ……いいじゃないか、500年だぞお? 500年も自律してきたんだぞお、ここらで一発決めてやろうや……
この私が抱いてもいいって、大姉様本人もウェルカムって仰ってるんだ。何が不満なんだい」

エルフ三男「……」

女騎士「姪っ子ができりゃあ、夫婦になりゃあ、私と大将は家族さ。何の問題もない、降誕祭には何も背いちゃいない。だろぉ?」

エルフ三男「……」

女騎士「それじゃあこうしよう。私も一緒に横で添い寝してやろう、私と向き合いながら、大姉様を抱くがよい。大サービスだ」

エルフ三男「グッド!! それだッ!! それで行こうッ、いや行くべきだッ!! 行かざるを得まいッ!!」

女騎士「(クソ童Oをおちょくるのはたのしいなあ)」

247: 2013/12/25(水) 02:53:24.47 ID:jan7ALyHo
妹「ごぉぉーきげんよぉぉぉーっ、魔物ども御一行のみンなさぁぁーーん!!」

敵兵「……」

ブラウニー「最……」

ピクシー「悪……」

妹「あらあらー、デスクにチンケなツリーなんか置いちゃって、こんな私でもメシアを信じてますアッピルでございますかぁー?
あー悲惨!! あーカワイソ!! あーキモイッ!! これだから底辺層はフビンで見てられませんわねぇー!!」

敵兵「……夜中に何の用ですか、貴女と遊んでる暇はないんですが」

妹「ごめんあそばせぇー、貧乏ヒマなし氏人にクチなしといいましたわよねぇー、これは失敬失敬、申し訳ぇー!!」

ティタニア「みんなぁー、ちょおーっとだけ付き合って頂戴ねぇ……」

ピクシー「(何でこのクソッタレが釈放されたんですか……)」

ブラウニー「(証拠不十分も何も、実行犯はコイツしかいなかったじゃないですか……)」

妹「そうジメジメしないでぇ、チンケな顔つきが更に惨めになりましてよぉ、なりましてよぉ?
くされたあなた方にせっかく降誕祭に相応しい提案を雷帝閣下から賜ってきたというのにぃ」

ティタニア「……」

敵兵「提案……連合の側から?」

妹「ま、後日改めてクランの理事には通達しますけどぉ……平たく言えばぁ……
『アジ=ダハーカと仲直りしろ』ってぇのが雷帝閣下からのご意見でぇーす!! バーン!」

ピクシー「は……」

敵兵「何だって……!?」

妹「あるかもどうかもわからねー因縁に付き合うのも、こちらとしては非常にメンドーなんですわー。
あなた方下っ端の三下クズどもにはわからんでしょうが、けっこうな出資をこっちはしてるんですよぉ?
だのにあんたがたは何の成果も出さない、文句はタラタラの上に勇者はやらかす。どーしょもないっすわこりゃwwww」

敵兵「……」

妹「あ? 何ですの? やる気ですの? 聖剣のマスターの私とやる気ですの? お?」

251: 2013/12/25(水) 03:04:08.24 ID:jan7ALyHo
敵兵「(このクソ女……いよいよもってこちらの味方とは言えなくなったな……!!)」

妹「(も、もう小姉様がどうとか言ってる場合じゃございませんわぁ……もお知ーらないっと!!
私ぁ、雷帝閣下や連合から報酬がもらえればもう別に構いやしませぇん!! 魔王軍にはせいぜい頑張ってもらわないと!)」

ティタニア「……氏族合意がどれだけかかるかわからないけど……やるしかないわぁ」

敵兵「そんな……!! あれと、あの女と和解しろって……!!」

妹「デュランダル……盗られちゃいましたわねぇー? それに加えて、アジ=ダハーカは既にガリアを制圧したかも、だなんて推察まで……」

ピクシー「……」

妹「クックク……あなた達、もう王手詰みでしてよぉ? もぉ勝ち目はございゃせんのよぉ?
だぁって考えてもごらんなさいな、教皇領の守銭奴にもいつそっぽ向かれるかわからないってぇのに……ねーえ!?」

ティタニア「正式回答は早急に送るわぁ……良い返事を、期待していてちょうだい」

妹「くかかかwwwwwwwwwwwwwかかかwwwwwwwwwまwww賢明なご判断をどうぞどうぞwwwwwwwwww」



敵兵「(……最悪の降誕祭だぁ)」

ブラウニー「あーチクショウ、やってられっかぁ!! もう呑む、いい加減呑む!!」

ピクシー「呑みましょう呑みましょう!! お酒のチカラでこの陰鬱とした空気を発散しましょう!!」

敵兵「降誕祭、おめでとーございまーす……うう、寒っ!!」

254: 2013/12/25(水) 03:21:23.54 ID:jan7ALyHo
am3:00

エルフ近衛兵「……下着でそのまんまホームバー入りですか、お相手は?」

騎士ほ「フクク……ククク……若様のクールダウン中なので……一服ですわ……」

エルフ近衛兵「ああ、若様……若様?」

騎士ほ「ええ……若様とお嬢様……お二人とも、ほんとうに美しく育って……」

エルフ騎兵「そんな事よりよぉー、お前ちょっとコレ呑んでみろよ。この人スキットルでガブガブ行くんだぜ」

エルフ近衛兵「コレって……ぐぇ、ごほァ!! これ、これロックじゃ呑めねえだろ!? 何じゃこりゃ、ノドが……」

騎士ほ「ニガヨモギのリキュールでしてよ……共和国の薬草酒、平均度数は70前後」

エルフ騎兵「オレ達エルフって本当に酒豪なのか自信なくなってくるぜ」

騎士ほ「若様ったら、ずいぶんませてしまって……酔いに浮かされる私を美しいだとか、口説いて来ますのよ?
フックク、ナマイキ……なんてナマイキで愛らしいの……二人まとめてぇ、食べてしまいたいわぁ……ククク、フククク……」

エルフ近衛兵「(さすがにこの人といえど、結構酒が回ってきてるんだなぁ……)」

エルフ騎兵「(この人の場合は年中酔っぱらってるだろ)」

騎士ほ「お嬢様も……きれいなピンク色……フクク……かわいい……」

エルフ近衛兵「……うげぇ、まーた雪ぃ降ってきやがったぞ」

エルフ騎兵「ウソだろ……あーヤダヤダ、土地柄のせいかすぐこれだよ」

騎士ほ「雪のように……真っ白い二人……フクク……待っていて……すぐ続きをぉ……」

エルフ近衛兵「(第二ラウンド待ったなしか……がんばれ若様)」

256: 2013/12/25(水) 03:25:37.49 ID:jan7ALyHo
第9.5部 クリスマス編〈漸〉

                                       ー- 、 ー-、``おわり

 

445: 2013/12/30(月) 15:47:31.27 ID:Sz8tkWNWo
ハデス「相変わらずこの辺りは寒いわ乾燥してるわで困ってしまうなぁー、ハナも唇もカラカラよー」

敵兵「(怖い怖い怖い怖い)」

ブラウニー「(私ら短期間のうちに重役と顔合わせすぎでしょ)」

ピクシー「(全部あのティタニア様のせいです、本当にありがとうございました)」

オルトルス「なあなあハデスのおっちゃん、あんちゃんどうして氏んでしまったのん?」

ハデス「さあなー、まだわからんなー。猟師に撃たれて鍋にでもされてしまったんじゃろかなー」

敵兵「(幻獣族怖すぎィ!! パッと見じゃ近寄れません!! 無理です!!)」

オルトルス「あんちゃん……ケルあんちゃん……」

ハデス「これこれボーイ君。これ以上はぶらぶら出歩きたくないでなー、さっさと部屋ぁ戻ってゆっくりしたいんよー」

敵兵「は、は……!」

ハデス「訃報の直後にムズカシー話並べられてもようわからんってーの。喪中じゃなー喪中。
こういうのはいっちゃん偉いゼウスの兄貴が顔出しに来るんがスジだろうに、なあ?」

敵兵「(ゼウスの……アニキ……)」

ハデス「しかし理事会のメンツもシミったれたツラしとったなあー。何かね、そんなにおたくら逼迫しとんのかね」

敵兵「は……先のネキ……災害支援活動とも相まって、手数が慢性的に足りない状況が続いておりますので」

ハデス「構わん構わん、言葉ぁ選ばんでもおおよそ把握しとるから。オレらぁ、そこまでオベロンやティタニアの姉貴と仲は悪くない。
虎の子のアジ=ダハーカといたちごっこしてるんだろぉ、知っとる知っとる。えっらい大変だったみたいでなあ」

敵兵「(大変なんてもんじゃなかったんですがそれは)」

451: 2013/12/30(月) 16:15:46.37 ID:Sz8tkWNWo
ハデス「もっとも、気持ちはわからんでもないなあ。オレ達が今までシマにしてた土地、
帝国なり北部なりの人間が統治しとったんだけどなあ。十数年で入れ代わり立ち代わり、年がら年中戦争しとってん。
元々独立に協力してくれただとかで、国内で帝国側に肩入れしてるようなのは少なくない……けれどもなぁ」

敵兵「……」

ハデス「まっとうな頭してたらぁ、あのウルスラグナのマスターにカチ切れんヤツはおらんだろなぁ。
それに、アジ=ダハーカが血縁……きちんと帝国貴族だなんて事に裏付けがとれりゃあ……」

敵兵「(ですよねー……信じてくれてるかはともかく……)」

ハデス「……ボーイ君、キミがティタニアの姉貴らや拝火とつるんでアジ=ダハーカを狙っているというのは本当かね」

敵兵「つ、つるんでいると言いますか、私にできる事をしているだけと言いますか」

ハデス「もし、今言った裏付けができていて、オレ達の側に確信があったのなら……ボーイ君、オレ達を迎え入れてくれるかね?」

敵兵「はい……?」

ハデス「独立戦争後、三派に分かれて無政府状態にあった我々の土地を治めたのは、他ならぬ帝国の血縁。
オレ達幻獣の権威が半ば形骸化していたとて、それだけは事実……その帝国の血が今回の事態を引き起こしたのなら……」

敵兵「……」

ハデス「アジ=ダハーカを討つ理由が我々にないとは言い切れない。氏んだウチのワン公、拝火のガキが下手こいたとはいえな、
寛容にもの考えりゃあ、遠因はその騎士の女にある……オレ本人も、感情で納得するには程遠いんだがなー」

敵兵「(あかん、あかんまともな人やった。人かどうかわからんけど)」

ハデス「こんな事ぉ申し出るのはオレくらいなもんじゃよー、ワン公の恨みだとかもないわけじゃあないがなー。
まあ、アホのポセイドン兄貴と違って思うところがあるって事じゃよー。オレの下から何かを奪おうとする愚か者には天罰をやろうと思ってなー」

敵兵「(ヤバい……泣きそうだよ……魔王軍のコエー人が俺にまともな対応をしてくれているッッ)」

453: 2013/12/30(月) 16:37:48.94 ID:Sz8tkWNWo
ハデス「君の方からティタニア姉貴には伝えておいてくれな、おっちゃんを贔屓にしてやれって」

敵兵「そ、それはもう……それより、裏付けっていうのは一体……?」

ハデス「んー……んー?」

敵兵「(魔王軍がもたついて後手後手になっている理由のひとつは、この氏族制度そのもの……
帝国という体をとっておきながら個々を尊重する拝火の姿勢、だからこそ柔軟な活動が困難になっている……!)」

ハデス「んまあ、簡単に言えばじゃなー。尻尾掴んで命からがら逃げてきた娘っ子がおるでな、そっから推察と調査を重ねただけの事よ」

敵兵「娘っ子……?」

ハデス「アラクネーっちゅう……節足人種でもケンタウリでもない、オレ達側の魔族の娘っ子。
長い事、オレ達の土地から離れて働いてたんだけどなー。あろう事か、北西までクロかもしれないって事まで引っ張ってきて」

敵兵「そ、そんな事実までッ!?」

ハデス「臆病もんの癖に余計なもん持ってきよった。帝国の皇女殿下がカスメとられたあの時じゃて、
あの騒動……クーデター勢力に肩入れするエルフのドラグーンを呼び込んだのも、北西側の自作自演だとかな」

敵兵「(あの筋肉女……まだそんな事やってやがったのか……!!)」

ハデス「懇意にしてもらってた情報部の娘とは、そこで離れ離れになったらしい。あんのクモ娘、正規の手順も使わずに、
えOちらおっちらオレの所まで戻ってきよって……生真面目なんだかバカなんだかわからなんだ」

敵兵「アラクネー……」

ハデス「敵はアジ=ダハーカだけじゃあないぞぉ。下手すりゃ北西は円卓にケンカ売る事になるかもしれんでなぁ……」

456: 2013/12/30(月) 17:13:42.21 ID:Sz8tkWNWo
フレイ「では、先の騒動でのワルキューレの被害は……言うなれば、接触の為の芝居だったという事ですか?」

女騎士「その通りでございます、ユングヴィ閣下……どこの馬の骨が、畏れ多くも北部神族の皆々様に泥をかけるような事をしましょうか!」

レギンレイヴ「何と言っても、魔王軍の一派から拘束を受けていた私めを救出してくれたのもエルフ達でございます!!
彼女達が北部神族の仇ですと!? とんでもない、彼女達は6年も前から反連合の礎となるべく行動してきたのですよ!!」

フレイ「……武装中立のエルフが、仮にも魔王軍常任氏族の我々に肩入れする気ですか?」

女騎士「肩入れなどとんでもない……パワーバランスの調整に少しばかり奔走しているだけにすぎません。
我々は、恒久的な国際平和の為に活動しているのです」

フレイ「先の戦乱の片棒を担いだと噂されるエルフが?」

女騎士「根も葉もないうわさに過ぎません……我々の活動を疎んじる、哀れな羊たちのいななきです。
皇女殿下を求めての蜂起につきましては、事前に目的を表明しているはずですが?」

フレイ「正統なる帝国皇室・帝国民族の存続の為の正義を貫く……?
よくやりますね、あれだけ大国がぴりぴりしている中で行動を起こし、自らアンタッチャブルとしての立場を築き上げた……」

女騎士「人聞きの悪い! それも単なる言いがかりに過ぎません、我々はただ……教皇領とも連携して、
東西の諍いを解消できればと思っているだけなのです。アンタッチャブルだなんてそんな……何事も話し合いで融和をしようと考えておりますのに」

フレイ「……」

女騎士「しかし信用できないのは勇者と魔王どもです! 奴らはただ聖剣や勇者の血筋のチカラを楽しんでいる!!
この大陸に戦乱をもたらす事で、自分達のチカラを試しているのです!!」

レギンレイヴ「」

女騎士「常任理事のオーディン閣下とて、疑いを持っていないわけでもないでしょう!?」

フレイ「巨人……グレンデル王頃しですか? あの件に関しては、我々はもう言及していない筈ですが……拝火が、まさか……」

女騎士「惑わされないでくださいまし……!! 連中は口が上手くコス狡い……勇者と魔王軍、奴らは人間の敵であり、魔族の敵です!!」

レギンレイヴ「な、なんだって!! それは本当ですか!?」


461: 2013/12/30(月) 17:41:12.12 ID:Sz8tkWNWo
女騎士「さっすがヴァイキングのお山の大将どもだ、頭ちょろくて涙が出るね。田舎の田ゴ作がふんぞりかえってやがって」

騎士ほ「6年前より右翼政党……反連合政策への出資を行っていた事が幸運でしたわ」

秘書「……ちょっと前から、拝火による連合や東帝側への擦り寄りが共同体内の魔族の間で反発を産んでいたみたいです。
加えて、領地を一部共有する巨人族に起こった不幸……魔王軍側は、どうやら一枚岩じゃあないみたいですね」

騎士ほ「重役が我々との謁見を行うという時点で、あちら側はかなりガタがきていると考えてよいでしょう。
案外、本当にグレンデル王を頃したのは勇者のガキかもしれませんわね……フクク……」

女騎士「あークッソさみぃ、共和国なんか比にならんくらいさみぃ。これだから共同体の土地はイヤなんだよ……
昨日の夕飯はしょっぱいものばっかだし、大体さっき買ったあの飴はなんだ!? くせーしまじいしオカシイだろ!!」

騎士ほ「もう少しだけ我慢してくださいまし……北西諸島に渡れれば、多少はマシには……」

女騎士「ヤダよぉー、だって北西って年がら年中雨降ってたり霧が出てたりするんだろぉー?」

騎士ほ「……」

女騎士「その上!! メシが!! まずい!! こればっかりは譲れないよ私ゃ、おいしいごはんがないと生理周期乱れちゃうよ」

秘書「り、料理人はアルヴライヒから随伴させておりますのでご安心を……」

女騎士「北西のドラフェチってあれやろ? 最高の食材をうすらまずいゴミに仕立て上げてありがたそうにむしゃぶるゲスどもなんやろ?
まさか食通・ザ・食通の私がそんな未開のクソ蛮族の島に足を踏み入れる事になるなんて……おお、くさいくさい」

秘書「(その割には凄い色のお菓子いっぱい食べてるよね)」

女騎士「ああクソさみい……湯たんぽ妹、カモン!!」

娘「はあい、お母様。ぬくぬく」

女騎士「……とりあえずおやつだおやつ!! どっかうまいレストランはないのか!!」

秘書「(一日五食が基本なのに、なぜ私だけ太るのでしょう。解せぬ)」

462: 2013/12/30(月) 17:51:45.73 ID:Sz8tkWNWo
エルフ三男「では、改めてこれからの行動指針をおさらいいたします。よろしいですか」

女騎士「分かりやすく短くしろよ童O」

エルフ三男「」

女騎士「あんだけお膳立てしてやったのに勃たねえとかふざけんじゃねぇぞ童O」

エルフ騎兵「えっ」

エルフ近衛兵「ウソだろ」

エルフ三男「やめてください!! 本っ当!! やめて!! おねがい!!」

女騎士「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

エルフ騎兵「インポチェリーかよ……」

エルフ近衛兵「500年で腐っちゃったんだ……」

女騎士「お前の童O期限切れーwwwwwwwwwwwwwwwww」

エルフ三男「緊張しただけだから!! 病気じゃないから!! ほんとだから!!」

468: 2013/12/30(月) 18:16:29.32 ID:Sz8tkWNWo
騎士ほ「大将閣下が責務を放棄してホテル自室にお戻りになられたので、不肖この私が指針の確認をいたします」

女騎士「おいーす」

騎士ほ「まず、北部神族……および共同体の協力を正式の取り付けた後、共同体海軍施設にて艦を受領。
海路から直接エルダー統治領域を目指します」

ポニテ「海路……北西の有する海軍戦力とぶつかる事は避けたいですね。いち分遣隊とでもはち合わせしたら、勝ち目はありません」

騎士ほ「もちろん、世界最強と謳われる北西海軍と真っ向からケンカする気はございません。
あくまで穏便に……商船を装って領海に侵入、着岸さえしてしまえばこちらのもの。何といっても、こちらには二本の聖剣があるのですから」

女騎士「おいーす」

ポニテ「商船型……それをここ共同体で受け取ると」

騎士ほ「正確には……外装を偽装した商船改造軽航空母艦と言いましょうか」

ポニテ「航空…母艦?」

騎士ほ「ドラグーンの実用化に伴い、北西で提唱された竜騎兵航続距離増強プランに基づいて建造された艦種です。
実動の記録はまだないけれど、現在でも各工廠で建造が進められています。次々と海軍の航空機動艦隊へ編入される事でしょう」

ポニテ「その母艦の一種だと?」

騎士ほ「いかにも。バルフォア級航空母艦、ドラグーン16騎を搭載可能な軽空母です。こちらを二隻受領し、商船団にまぎれて行動します」

女騎士「ディナダンとかいうババアからの餞別ってか?」

騎士ほ「恐らくは。我々に手を汚させたくて仕方がないようですわ」

女騎士「この私を利用してるってか? なめやがって。単に利害が一致してるだけだ。
一刻も早く魔王軍に土下座させて首をハネてやらにゃあならんのに……」

騎士ほ「(エルダーの古島……私とてこのポストに就いてから、渡島する事を許されていない禁断の島……
何だ? 何があるというのだ? エルダーという高等竜のほかに、まだ何か隠されているというのか?)」

485: 2013/12/30(月) 23:17:38.65 ID:Sz8tkWNWo
モルドレッド「ヴォーパル鋼を用いた冶金技術によって、ドラゴンを自在に駆ることができるようになった……魔王軍もなかなか粋な事をする」

ラーンスロット「……」

モルドレッド「では、エルダーの神々相手にはどうかな? いいや、ちょっとした好奇心です」

ガウェイン「おいオメェー、何を言ってやがる……」

モルドレッド「そもそもエルダーとは何だ? 建国神話に登場する、唯一神ならざる神格? マビノギオンの旧神?」

ラーンスロット「やめろ、モルドレッド!! 女王の御前だ、慎め」

ユーウェイン「ちょ、ちょっとぉ。モル公ったらどうしちゃってってぇのぉ」

モルドレッド「なぜこの国は、王室ぐるみで竜にご執心なのか……ぼくはいつも不思議だった。
5つの頃までは、そりゃあぼくだって竜騎兵に憧れたし……エルダーにお仕えできれば、それ以上の事はないと思っていた」

ガレス「おッ、おいッ……バカヤロ、シャレじゃ済まされねえぞ!!」

パーシヴァル「えひゃひゃwwwwwモル公やっるぅーwwwww」

モルドレッド「猿人の20ぽっちとはいえ……陛下やラーンスロット卿の情事をまざまざと見せつけられては、スれもします」

ラーンスロット「モルドレッドッ!! いくら貴様とて……!」

モルドレッド「相手がメスなら何だって構わねえあんたが、いっちょまえに何言ってんだよお。くせえ口でぎゃあぎゃあ騒ぐな変態」

ラーンスロット「貴様……!!」

モルドレッド「聞こえておいででしょう、陛下ァ!! お察しのとおり、このクソ男のだらしの無さは噂だけではございません!!
でもお互いさまでございましょう!! 陛下も陛下で、所詮は数百年を無為にダラダラ過ごし続けるアバズレですものね!!」

トリスタン「アバ……ズレ?」

モルドレッド「ククク……どうしました、ラーンスロット卿。怖い顔をしないで……その顔、今は僕に向けるべきじゃあないでしょ」

ラーンスロット「……」

ディナダン「北部諸島沖より入電。二隻の不審船が領海に侵入、空軍と近衛軍が緊急出撃いたしましたわ……」

モルドレッド「……さあ、どうぞ行ってください。『ウサギの巣穴』とやら、どうか命を賭してお守りくださいな」

ラーンスロット「……」

486: 2013/12/30(月) 23:30:25.83 ID:Sz8tkWNWo
ベティヴィエール「ね、ねえねえ、何なの? イミわかんないんだけど……」

ガレス「モル公てめえ、何様のつもりだあ? おいッ、なんとか言いやがれッ!!」

モルドレッド「ぼくとやる気か? この日が来るまで、ぼくの謀反に気づかず日々を怠惰に過ごしてきたお前達がか?」

パーシヴァル「ぐぬぬ、毎日お菓子食べてお茶して寝てお菓子食べてお茶するどこが怠惰なのだというのかね」

ガラハッド「お、親父ィ……こいつ放っとくのかよォ、おいィ……」

ラーンスロット「……飛行隊を編成する。ガラハッド、お前は先行して不審船の警戒に当たれ」

ガラハッド「ウソだろォ……ディナダンのババア、おめえもグルだってえのか!?」

ディナダン「やだわあ、おばあちゃん相手にそう凄まないで頂戴」

パラメデス「ご老体だとて油断したわ……!」

ガラハッド「クッソババァ……!! 許さねえぞッ、一足先に墓穴に叩き込んでやらあ!!」

ラーンスロット「やめろ、ガラハッド!! やめろッ!!」



ディナダン「はいぃ? 一足お先に? 何ですってえ? 墓穴でお待ちしております、ですって?」

ガラハッド「」

ディナダン「何も、円卓の騎士だからといって……武器が聖剣だけなわけがありますまい……」

モルドレッド「あーあ……陛下の御前をこんなに血で汚してしまって。親子そろってとんでもない不孝者です」

ユーウェイン「ひゃああああああああああああああああああ」

パーシヴァル「こ、こッ、頃しだ……警察ッ、おまわりさんッ、119番!!」

トリスタン「ばっ、バカかオメェー!!」

モルドレッド「さ、皆さんおわかりでしょ。クーデターです。僕らが勝てば革命ですが……
月並みでございますが、『陛下の命が惜しければいう通りにしろ』ってやつです」

489: 2013/12/30(月) 23:49:47.22 ID:Sz8tkWNWo
モルドレッド「さ、これでいつもの静かな謁見の間に戻りました……貴女には色々聞きたい事がありまして」

女王「……」

モルドレッド「と、その前に。ぼくの事は御存知ですか、アリス=リデル9世」

女王「勿論ですよ、サー=モルドレッド……」

モルドレッド「それなら、ぼくの目的はお分かりですか」

女王「……」

モルドレッド「ねえ、お母様。だんまりは良くないな、不愉快だ。ぶち頃すぞ」

女王「私の事を……恨んでいるのですね……」

モルドレッド「ああ、そうか……キャリバーンか……あれのせいで、頃したくても殺せない……つくづく人間やめちゃってますね、あなた」

女王「……」

モルドレッド「母親だからこそ、他のどんな他人よりも憎ったらしいんだよ、わかるか? わかるか?」

女王「許してもらえるとは、思っていません……しかし、民を……無用な戦乱を広げるというのなら……」

モルドレッド「なら、何だって言うんです。こちらこそ、お母様に許してもらう気なんぞございません。
お母様が守り続けたエルダーの地……ウサギの巣穴をメッタクソにして差し上げたいだけなのです」

女王「……」

モルドレッド「どうしました。抜かないのですか? 聖人アリス陛下? 抜いて、狼藉者を斬ってくださいましよ。
それとも何ですか? ジョワユーズを前にしたら、もう抵抗する気も起きないというのですか?」

女王「ジョワユーズッ!?」

ディナダン「(やはり、過敏な反応を示した……やはり女王……アリス=リデルとエルダーはジョワユーズ……
『原罪の蛇』とやらとの間に、浅からぬ因縁を持っている……恐らく、それが閉ざされてきたエルダー統治領域の秘密に直結する……)

女王「ジョワユーズが……人の手に!? そんな、そんな報告は聞いておりません、ガリア=ベルギガ遠征は失敗に終わったと」

モルドレッド「報告してねぇ事を知ってるわけねぇーよなぁーーーーーお母様よぉぉぉーーー!? はははははは、ざまぁあぁぁー!!」

494: 2013/12/31(火) 00:07:15.74 ID:sRDzykhro
女騎士「……」

ポニテ「何だか、ものすごく穏やかな航海で終わってしまいましたね……」

女騎士「おもっきし海戦が始まるのかと思ったけどなぁ。あー、潮風はいやだねー。肌がかぶれっちまう」

騎士ほ「伝承によれば……エルダー、もといダーナ神族の住まう土地……『不可視の国土』を有しているとの事ですが」

ポニテ「霧の領海ティルナノグ……商船や軍艦が多数遭難している海域と聞きます」

女騎士「不可視も何もなぁ……おもくそ島がクッキリ見えてるしなぁ……」

騎士ほ「どうします、先制攻撃でもぶちかましますか」

女騎士「それ採用」

秘書「えっ」

女騎士「せっかく共同体だの北部神族だのからご声援を頂いてるんだからさあー。艦砲射撃で沿岸部サラ地にしてやろーぜ。
崖だの浅瀬だので侵入が難しそうってわけでもなさそうだしなあ……さーっと橋頭堡置いて、パッパと確保。おーばー」

騎士ほ「御意に」

秘書「あ、あの……お話し合いでケリを付けるって、フレイさんと」

女騎士「なにお前、言葉の通じないパッパラパア相手に丸腰でお話しできるの? スゴイ勇気だな、普通の人間じゃ無理だわ」

秘書「」

女騎士「さぁーーー景気良くぶっぱなそうかぁーーーーwwwwwwドラゴンどもをひき肉にしたったれーwwwwwwwwwwwwwww
聞こえてますかぁぁー旦那さまぁーwwwwwww同胞の悲鳴を聞かせてやりたいが為に2騎ぶんのスペースを空けてやったんですのよぉぉーwwwwww」

秘書「えっ、あの、あのリンドヴルムさんいらっしゃるんですか!?」

女騎士「あたぼぉぉよ!! 二度と私に刃向えねえようにだ!! 口答えしたら41㎝のマトにされちまうって脳にスリ込んでやらねぇとなぁー!!」

秘書「」

506: 2013/12/31(火) 02:17:35.83 ID:sRDzykhro
女騎士「ん……んー……」

騎士ほ「わかります……わかりますわ……」

エルフ三男「皆まで言わずともわかります…・…迎撃に現れたのも現地飛行隊のしょっぱい戦力程度……」

騎士ほ「本当にここがティルナノーグ……? エルダーの土地……なんですの?」

女騎士「転がってる氏体ひとつ見ても、どうにもそれっぽくねぇーな……軍人じゃねぇだろこれ」

エルフ三男「先ほどの迎撃隊は、この沿岸区域から出撃して来たわけではないようでしたし……」

女騎士「何だろうな……古くせぇカッコした一般庶民だな。それにしちゃ枯れ枝みてえにガリガリってわけでもねえし」

騎士ほ「何ですの、この違和感……」

女騎士「肝心要のエルダーとやらを探すしかねえわけだが……ドラグーンで飛んでみるしかないな」

エルフ三男「当面は北西……ディナダン卿からの依頼をこなすべきでしょう。
エルダーとの交渉……もとい制圧。そして、虎の子である槍を押さえねば」

女騎士「槍ったってなぁ……一口に言われてもわけわかんねーべや。聖剣だとかとおんなじ類なん?」

騎士ほ「あのディナダン卿がわざわざ我々を向かわせるところを見ると、そう考えていいかと。
ただ、卿本人も槍……『ブリューナク』について、詳細を掴んでいるわけではないようでした」

エルフ三男「また伝承の武器か……」

騎士ほ「(聖剣を有する我々に、単なる牽制目的でドラグーン隊維持を賭けたおつかいをさせるとは考え辛い……
まだ何か他に真意があると考えていいだろう……ババアめ、余計な手間をかけさせやがって……!!)」

507: 2013/12/31(火) 02:28:54.91 ID:sRDzykhro
おじさん「だ、誰だいあんたたち……見かけないカッコだなあ」

女「××××××」

少女「ここはエリンの島だよ、お姉さんたちどこから来たの?」

女「×××××」

少女「え、なあに……がいこくご?」

女「××××××」

おじさん「あぁ、もしかして旅の方かな? さては転生者の噂でも嗅ぎ付けてきたんだろうが……
生憎と、ここ数か月は現れちゃあいないんだ。残念だったねえ」

女「××××」

おじさん「まあ、そう気を落とすもんじゃあないよ。これも何かの縁だ、宿でもとってうまいものでも食っていきな」

女「…………」






女騎士「何だここは!! もう帰りたいぞ!!」

エルフ三男「トイレが水洗じゃない!! 水道が通ってない!! 時代遅れでは片づけられませんよ!!」

ポニテ「(上流階級二人がダダをこねていますね……)」

女騎士「周りの農民どもは何喋ってっかわかんねぇしよぉー!! バカにしてやがんのか!」

騎士ほ「申し訳ありません……北西本国の言語ならともかく、ここまで特殊なコミュニティのものでは……」

女騎士「イミがわからねぇ!! 火でも点けて回ってやろうか!!」

騎士ほ「おやめくださいまし! 何人氏のうが構いませんが、ブリューナクまで焼却するわけにはいきませんわ!!」

女騎士「メシまじぃイナカくせぇつまらねぇの三拍子だ!! 島ごと沈んじまえ!!」

508: 2013/12/31(火) 02:49:31.67 ID:sRDzykhro
ポニテ「上空から諸島全体を調査した結果……この親島、エリンという名称らしいのですが……」

エルフ三男「北西本国からは、驚くほど近い位置に存在している……やはり、マユツバの魔法とやらで隠蔽されていたのか」

女騎士「ザルな魔法もあったもんだわ。ぬるりと潜り込めたじゃあないか」

騎士ほ「きっと、聖剣のご加護によるものですわね……ふむ、聖滅のジョワユーズが働いたとするならば……」

女騎士「いよいよ、北西が国家ぐるみで隠してる何かがあるって事かね」

エルフ三男「円卓……ディナダン卿が求めているものか……」

女騎士「にしてもよぉー、何なんだここは。ここだけ三世紀四世紀余裕で文化レベル遅れてねぇかぁー?」

ポニテ「産業革命から取り残された地域……北西本国と隣接していながらこの有様とは、信じられません……」

女騎士「ブリューナクとやらを確保すりゃあ、何かがわかったりするんだろうが……帰りたい!! 早く帰りたい!!」

エルフ三男「神殿なりなんなり、それっぽいものはないのか!! 僕もこんなシミったれた場所から離れたいのだ!!」

女騎士「そうだぞ!! 卒業寸前でやらかしたせいでまだチェリーだってバカにされるんだこいつは!! 戻って続きをやらせてやれ!」

エルフ三男「あぺぺぺ」

女騎士「やめろ気持ち悪い!! 妙な事はやめろ!!」

秘書「な、何ですかっ、そのぬいぐるみは」

女騎士「プレゼント交換で当たった、この私モデルのぬいぐるみだっ! 玩具メーカーが悪乗りしてコイツとペアのぬいぐるみを売り出しやがったんだ!」

騎士ほ「さっさと帰りましょうお姉様!! 売り切れてしまっては事です、急がねば!!」

女騎士「よろしい、皆の気持ちが一つになったところで調査再開だ! きびきび働け!!」

510: 2013/12/31(火) 03:17:54.67 ID:sRDzykhro
モルドレッド「アルバスドラゴン……それが、現エリンの守護に携わっていると?」

女王「ええ……彼が、太古から……それこそ叡智の教義以前からジャバウォッキーを見守り続けている」

モルドレッド「また新しい単語だ。どれだけの事をぼくらに隠していたんだ? とんでもない女王がいたものだよ」

女王「……」

ディナダン「……ジャバウォッキー、とは?」

女王「すがたの定まらぬもの……理解の及ばぬ真なる魔……こことは異なる世界から訪れるもの……」

モルドレッド「量子力学でも齧ったんですか。王室の人間は浪漫があっていいですね」

女王「……これが夢であるなら、どんなに良い事か。あなたを捨てた事までもが夢になるなら」

モルドレッド「バイタが母親ヅラしてんじゃあねーぞ、余計な事言ってねえで続けろ。ジャバウォッキーってのは何なんだよ」

女王「普通の人間……だった人間の事。つまり、この私や……国教会の勇者の事」

ディナダン「……なに?」

モルドレッド「普通の人間……だった? 過去形なのか? 一体どういう事だ、何を言ってる?」

女王「言葉通りです。この私、アリス=リデルを始め、勇者と呼ばれる存在は……ジャバウォッキーと呼ばれる真なる魔、妄想の大母」

ディナダン「陛下や勇者が……異なる世界から来たものだと。そうおっしゃるのですか?」

モルドレッド「正気か? 本気で……言っているのか、そんな……そんな戯言を!!」

女王「ジャバウォッキーの血脈を、これ以上蔓延させない為に……私はガリアから離れ、この連合王国とエリンを作り上げました。
全ては、彼のような悲惨な末路を迎える若者を増やさない為に……そして、この世界に転生するジャバウォッキーが絶望に打ちひしがれない為に」

モルドレッド「彼……とは、誰の事だ」

女王「……」

ディナダン「初代勇者……ですか。代替わりを演じ、数世紀をその身一つで生き長らえる貴女なら、伝説の勇者と面識があってもおかしくはない」

女王「その、通りです。彼がロンギヌスを通し、叡智の教義という名の呪いを振りまくのをこの目で見た……恐らくは、唯一の生存する人間でしょうね」

511: 2013/12/31(火) 03:46:04.87 ID:sRDzykhro
女王「その『槍』は、当初はガリア=ベルギガという辺境の地にありました。彼岸と此岸を結ぶ地、現世と幽世の境界という聖地……」

ディナダン「先ほどエリンに存在すると仰った、ブリューナクがそれに該当するのでしょうか」

女王「そう、今はブリューナク……その名で『槍』は呼ばれていますね」

モルドレッド「今は、だなんて、まどろっこしい事をつらつらと。簡潔にものを話せないのか」

女王「ごめんなさい……現在のブリューナク、かつてはそれこそがロンギヌスと呼ばれていた、超高純度ヴォーパルなのです」

モルドレッド「……それで、その『槍』とやらは……どんな魔法をぼく達に見せてくれるというんです?」

女王「……先に言った通り、ジャバウォッキーの出生を促す効果を持ちます。もしくは、そのままの姿での降臨を」

モルドレッド「降臨ときた!! 人一人が何もない虚空から降臨!! はっは、お笑いだ、ふざけるな。ふざけるなよ……!!」

ディナダン「聖剣でありながら、聖人や聖遺物の破壊に特化した能力を持つという、存在そのものが矛盾しているジョワユーズ……
これに関しても、陛下は何か御存知なのでしょう。ガリア=ベルギガに安置されていたという、聖滅の剣を」

女王「今も尚、あれを手にする事のできる人が残っていた事が信じられません。
『槍』がロンギヌスだった時の憎悪と悪意、懺悔が込められたあの剣……原罪の蛇の加護の下にある聖遺物……」

モルドレッド「貴女がそれほどまでに気に掛ける剣とは。よほどご都合が悪いようで何より」

女王「……6年前より耳にするアジ=ダハーカという名。その名を冠する者が、ジョワユーズのマスターという事ですか」

モルドレッド「嫌に察しの良い事で」

女王「マスターに相応しい人間は聖剣と呼応し、惹かれ合う。災厄をもたらす蛇……なるほど、これ以上にない逸材というわけですね」

モルドレッド「その切先は今や魔王軍ではなく、貴女に向けられているという事だ。どんな気分だね、母上」

女王「……」

512: 2013/12/31(火) 03:55:27.49 ID:sRDzykhro
女騎士「クックク……やけに殊勝じゃあねえか、おとなしくしてな」

アルバス「……」

女騎士「しかしなぁ……よくこんな古くせえ神殿なんかがマジに残ってたもんだ。あんたが掃除してたん?」

アルバス「否……」

女騎士「おいおいおい、喋れんじゃねーかよおー。さすがは高等竜種様、下民どもとは違いますってか?」

息子「お、お母様、あぶないです」

娘「こんなくっさいドラゴンの前に手を出しては、噛まれてしまいます」

アルバス「……」

ポニテ「(なぜ騎士様はあんなにも神格にほど近い竜にあそこまでフランクなのでしょう)」

秘書「(そりゃ……初めてのお相手が神格にほど近い竜だからじゃないですか?)」

ポニテ「(こわくて近寄れません)」

秘書「(わたしもです)」

513: 2013/12/31(火) 04:02:51.01 ID:sRDzykhro
アルバス「汝……何を求め……エリンへ……降り立った……」

女騎士「何をって……おつかいだよ、おつかい。岸部を穴だらけにしたのは悪かったが謝らんぞ」

アルバス「使い……アリスの使いの者には……見えん……」

女騎士「アリス? アリスって何だよ」

アルバス「ジャバウォッキー……汝と……その子らからも……同じ匂いを感じるな……」

女騎士「じゃば? イミがわからん、ポエム語りはじめたらたたッ斬るからな、覚悟しとけ田舎モンがよぉー」

秘書「(意外と会話が弾んでますねえ)」

ポニテ「(さすがは騎士様です)」

アルバス「我は……アリス達との盟約のもと……この地に住まい……ジャバウォッキー達を守護している……」

女騎士「じゃばおっきってのが、ここの民族の名前か? どうでもいいな」

アルバス「聖滅を抱く……ジャバウォッキー……アリスの使いでないなら……汝は……何を……求めてきたのだ……」

女騎士「んーと、んーとな、ちょっと聞くぞ。エルダーってのはあんたの事を言うのか?」

アルバス「然り……アリス達は……便宜的に……ワイバーンと我らを区別する為……そう呼んでいる……」

女騎士「そのあんたらをブッ頃しに来たんだよ」

アルバス「」

516: 2013/12/31(火) 04:14:38.03 ID:sRDzykhro
ポニテ「(直球!!)」

秘書「(デッドボールですよあれ!!)」

女騎士「と、当初は思ってたんだが……答えようによっちゃあ考えてやらんでもない」

アルバス「……」

女騎士「円卓のババアの言う事をそこまで律儀に聞いてやる事もねぇしさぁー、私もお前らみたいなくっせぇドラゴン大っ嫌いだけど、
役に立つんだったら使ってやらん事も無い。刃向うなら、お前らがだいだい大好きなこのジョワ公のサビになってもらいます」

アルバス「円卓……アリスの配下が……我らに汝らを差し向けた……のか……?」

女騎士「……そう、そうだ!! 円卓の連中に言われたんだよ、エルダーのお前らをぶち殺せって。
そうしたら……なんだ、アリス様のご加護に預かれるって言われたんだよ。話を聞いてるとなんだぁ、アリスってのはとんでもねえ奴だなぁ!!」

秘書「(とんでもない事を言ってますねぇ騎士様は)」

アルバス「馬鹿……な……アリスが……? 我らを……エリンと……ジャバウォッキーを……!?」

女騎士「あーでもわからんなー。アリス様、もしかしたら円卓の連中にそそのかされてるのかもしれんなー。
あいつら表じゃずーっと連合や魔王軍相手に戦争ばっかやってるドクズどもだもん、欲の皮が突っ張って顔のパーツ見えないくらいよ」

アルバス「……」

女騎士「ウソだって言いたいのか? その気持ちは分かるけどよぉー、でもぜぇんぶホントの事なんだぜえ?
ジョワ公みたいなマジモンの聖剣を持った私を差し向けられる人間っつったら、それこそアンタの言うアリス様くらいしかいないだろ?」

アルバス「アリス……リデル……」

女騎士「あー、可哀想だなー……ここでエルダーは皆頃し、ブリューナクもわるい円卓のゴミどもに掻っ攫われてジエンドだぜ」

アルバス「……」

女騎士「……悔しいなー、信じてた連合王国だったのに……これ悔しいわぁ。でもな、その争いの火種を作ったのは連合と魔王軍なんだ。
わかるか? あいつら他人を誑かす事に関しちゃ超一流のエキスパートだ。ある事ない事でっち挙げて、きっと円卓もそいつらに騙されてるのさ」

秘書「(よくあそこまでデタラメで頭が回りますねえ……)」

518: 2013/12/31(火) 04:35:19.60 ID:sRDzykhro
騎士ほ「あの白い古竜の証言をまとめると斯く斯く云々……ここエリンは、ジャバウォッキーの為に誂えられた島という事らしいですわね」

女騎士「ジャバウォッキーねぇ……そんな妙な連中がポコポコやってくるのか」

ドルイド「……」

女騎士「……おい、何とか言えよ。お目付け役だろ」

ドルイド「×××××」

女騎士「何言ってんのかわかんねーよ黙れ」

ドルイド「……」



エルフ三男「ここだけで広まっているマレビト信仰というわけでもありませんね、勇者信仰のルーツと言っても過言ではない……
北西がこんな事実を隠蔽していると大陸に知れ渡れば、教皇領はどんな顔をするでしょうか」

騎士ほ「案外……あそことはグルだったりするかもしれませんわね……」

エルフ三男「……考えられなくはないですね」

騎士ほ「言うなれば、勇者になりうる人材を飼頃しておく為の牧場……それを、北西王室だけの権力で行っていた?
教皇領側からの働きかけがなければ、島一つまるごと隠蔽する事は難しいでしょう、それこそ聖剣でも持っていなければ……」

エルフ三男「ではやはり、五柱の勇者の聖剣は北西にあると考えて良いのでしょうか」

騎士ほ「というより、ほぼ確定ですわね……これ見よがしにレプリカの聖剣を用意しているところを見れば……」

エルフ三男「ふむ……ところで、騎士様は? どちらに」

秘書「えっ、あ、あの……ついさっき、お坊さんかなぁ……一緒にさっきの神殿まで行っちゃったみたいですけど」

騎士ほ「……まあ、上空には中尉達の見張りを付けていますし……危険はないでしょうね……」

519: 2013/12/31(火) 04:38:21.60 ID:sRDzykhro
ドルイド「×××××」

女騎士「ふぁぁ、ハンモックでも持ってくりゃあ良かった……眠っむ……」

娘「良いお天気ー」

息子「お散歩日和ですねー」

ドルイド「××××××」

女騎士「で、そのブリューナクがブッ刺さってるってのはどの辺りなんだよ。さっきの神殿なんだろ」

ドルイド「××××××××」

女騎士「……もういい、わかった喋んな」

520: 2013/12/31(火) 04:43:09.43 ID:sRDzykhro
娘「わ、わ、わ、わ、わあー、大っきぃー!!」

息子「すごい……綺麗だ……これが槍……ブリューナク!!」

女騎士「でっけ……スッゲ……チャチな宝石なんかじゃないよなこれ……」

息子「本当に槍みたいな形をしてるんだ……共和国の聖堂と同じくらい大きい!!」

ドルイド「×××××××××」

娘「つるつるのぴかぴか……つめたいのかなあ」

息子「だっ、ダメだよ!! 閣下が言ってたでしょ、僕たちはヴォーパル鋼には……」

娘「あ……そ、そっか」

女騎士「相場いくらくらいかなー、高ェのかなそもそもコレ……高ェよな、市場に流通してねえだろうし……」

ドルイド「××××××××」

女騎士「つるつるのすべすべだよなー、どうやって研磨したんだコレ……」

ピトッ

522: 2013/12/31(火) 04:57:38.66 ID:sRDzykhro
 『つり革や手すり等にお掴まり下さい』

                         『次は、新宿~、新宿~……お降りのお客様は、お忘れ物の無いように』

              『おじいちゃんが中にまだいるの!! 助けてあげて!!』

 『すごーい、魔法みたい!! 火の玉が飛んだわあ!!』

                             『うんっ、私も……私も大好きよ!』

『今……私、すごく幸せ……あなたに会えて……』

   『ここはエリンの島だよ』

                                        『まもののむれがあらわれた!』

『氏にっ、氏にたくない!! 嫌、たすけ、嫌なのぉぉ!!』

   『勉強したかですってぇ? あたしがそんな事するわけないじゃん、万年最底辺ですんで』

『この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りいたしました』

                『ころして わたし  ころ』

                        『遅かったじゃない! 魔物が出たらどうするの、これからどんどん日が短くなるんだから!』

   『この番号は、現在使われておりません』

                        『お願い何でもいう事聞くから許してお願い』

 『カレシができただぁ? 抜け駆けしやがってぇ、こいつう』
                                          『ピーッという発信音の後にメッセージをどうぞ』

『決めたの、私……お国の為に頑張る!』
                               『だいまおうがあらわれた!』

       『熱ぃぃぃぃぃあぁぁぁあっ、ひいいゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

                            『おへんじ ください まってます』

    『あの子と付き合ってるんだ。お似合いじゃない、良かったわね!』

                                         『えげゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、いぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

『攣り皮や手磨り塔に男捕まり管さい』

                      『本日は、JR本線をご利用いただき誠にありがとうございました。次は、終点』


       『嫌嫌嫌嫌嫌ころさないで嫌嫌嫌嫌氏にたくない嫌嫌嫌嫌嫌許許ゆるゆううううううう終点大魔王マモノ学校男の子』

526: 2013/12/31(火) 05:07:20.92 ID:sRDzykhro
『おっ、おはよう! 今朝は早いのね』

                                           『ここは皇帝の街さ』

  『ヤキモチなんて妬くわけないじゃないの!』

                『またあんたって奴は! これでもくらいなさーい!』

      『ご臨終です』

                          『えげ』

  『だいまおうがあらわれない』

                               『裂けっ、裂けぢゃう、無理ぃ、無理無理無理無理ぃぃぃぃ』

              『あなたの赤ちゃんなのに』

  『産まれぇぇ、産まれぢゃうう、痛ぃ、痛痛痛』

                                  『警視庁捜査一課の者です』

           『氏ぬしかないじゃない』

                                          『いっしょになろ^^』

   『氏の^^』

                           『し、幸せにしなさいよねっ、ばかっ!』

     『私は……私は既に女である事を捨てたのだ!! この身がどうなろうと、我が矜持は尽きぬ!!』

                                  『渋谷公会堂にて』

 『隣で音立てんな聞こえてんだよやめろやめろうるせぇやめろ』

                                      『騎士の誇りというものだ』

                  『いやだ、氏にたくない』

527: 2013/12/31(火) 05:09:19.65 ID:sRDzykhro
女騎士「がふっ、げええっ、げっ!!」

息子「お母様っ……かあさま!?」

女騎士「気持ち悪……ごっほ……何……だよ……」

娘「お、お、おかあさま……大変っ!!」

女騎士「何だ……頭に……流れ込んできた……げぇえっ!!」

息子「動かすな!! 医療班を連れて来てくれっ、早く!!」

女騎士「手、手が……あ、あ、あたしに触んな、手ぇ、手ぇ、伸ばしてくるんじゃあねえッ、ざけんなあ!!」

息子「母様、お母様っ!!」

528: 2013/12/31(火) 05:10:46.27 ID:sRDzykhro
第9部窮 野沢菜編

おわり

第10部へ 続く

552: 2013/12/31(火) 15:05:17.76 ID:sRDzykhro
>>31日は番組内容を変更してお送りいたします。『笑ってはいけない国教騎士団24時』は後日あらためて放送予定です

女騎士「貴様は私にとって大変迷惑な存在なのだ」第十章

引用: 女騎士「ありがたく思え。絶滅タイムだ」