71: 2008/11/18(火) 10:51:41 ID:mxTTnzhm
その日は珍しく、501統合戦闘航空団は開店休業状態だった。
ごく数名を除いて、隊員のほぼ全員が酷い風邪にかかってしまったのだ。
だがそんな時に限って、ネウロイの行動は活発化する。
「最近、夜間におけるネウロイの動きに変化が見られるわ」
マップを示しながらミーナが言った。言葉の所々に咳が混じる。
「と言う事は、また暫く夜間戦闘を想定したシフトを組む方が良いか」
扶桑から持ち込んだどてらをがっつり着込んだ美緒がミーナに問う。
「と言いたいところだけど……」
ぐだぐだの一同を見回して、指揮官ふたりは溜め息をついた。
そして咳き込み、ぶるっと震えた。
「でさー、あのぺたんこったら酷いんだよ。シャーリーのストライカーの
チューンがイマイチだとかなってないとか文句たれてさー」
「……」
ブリタニア近海の上空を飛行する、ルッキーニとサーニャ。
現在体調万全でまともに動けるのはこの二人だけ……と言う事で、
ミーナは仕方なく臨時のシフトを組んだ。
他の者はあらかたベッドの上で風邪と格闘中。
寝ている訳にもいかないミーナと美緒も無理矢理厚着し
身体を震わせながら司令所で指示を出していた。
そんな惨状にお構いなしのルッキーニはせわしなくサーニャの周りをくるくると
回りながら話し掛けていたが、サーニャの反応の無さを見て、一言。
「ねえサーニャ聞いてる?」
「……うん」
ごく数名を除いて、隊員のほぼ全員が酷い風邪にかかってしまったのだ。
だがそんな時に限って、ネウロイの行動は活発化する。
「最近、夜間におけるネウロイの動きに変化が見られるわ」
マップを示しながらミーナが言った。言葉の所々に咳が混じる。
「と言う事は、また暫く夜間戦闘を想定したシフトを組む方が良いか」
扶桑から持ち込んだどてらをがっつり着込んだ美緒がミーナに問う。
「と言いたいところだけど……」
ぐだぐだの一同を見回して、指揮官ふたりは溜め息をついた。
そして咳き込み、ぶるっと震えた。
「でさー、あのぺたんこったら酷いんだよ。シャーリーのストライカーの
チューンがイマイチだとかなってないとか文句たれてさー」
「……」
ブリタニア近海の上空を飛行する、ルッキーニとサーニャ。
現在体調万全でまともに動けるのはこの二人だけ……と言う事で、
ミーナは仕方なく臨時のシフトを組んだ。
他の者はあらかたベッドの上で風邪と格闘中。
寝ている訳にもいかないミーナと美緒も無理矢理厚着し
身体を震わせながら司令所で指示を出していた。
そんな惨状にお構いなしのルッキーニはせわしなくサーニャの周りをくるくると
回りながら話し掛けていたが、サーニャの反応の無さを見て、一言。
「ねえサーニャ聞いてる?」
「……うん」
72: 2008/11/18(火) 10:52:42 ID:mxTTnzhm
つまんな~い。ルッキーニは大きなあくびをしながら心の中でそう呟いた。
いつもそう。サーニャは無口で、無愛想で。構ってるのは変わり者のエイラ位じゃん。
あー、シャーリー居ればなあ。思わず声に出しかけたが、サーニャの何処か寝惚けた
様な、それでいて真剣に何かを探す顔つきを見て、思わず言葉を変えた。
「ねえ、ネウロイ何処? あたしには見えないけど」
「今は雲の中。動いてる」
「どっちの方角?」
「ここから北北西……いま、北に進路を変えた」
ミーナからの無線で追跡する様指示を受ける。ネウロイに合わせて進路を変更する。
夜戦に慣れない、そもそもあまり夜更かしをしないルッキーニには、直接戦闘の無い
夜間哨戒は酷い眠気と退屈の塊でしかない。
「う~ん……あたしも一緒に飛ぶ意味あったのかな~」
思わず口にする。サーニャの返事は無い。
「ねえ、聞いてる?」
「待って」
「?」
突然フリーガーハマーの安全装置を外し、構えるサーニャ。ルッキーニの真横で
吹かされるバックブラスト。一発、二発と立て続けに撃ち込んだ。
雲を裂き、弾頭ははるか先で爆発した。
「ネウロイ? やった?」
「ダメージは与えた。でも様子がヘン」
「ヘンって?」
「ちょっと待って」
サーニャは無線を呼び出すとミーナに報告をした。
「ミーナ中佐。敵にダメージを与えました。でも動きが……」
『サーニャさん、こちらでも動きをある程度把握しているわ。今からそちらに
増援を出すから、それまで持ち堪えて。増援が付近に到着したら、
改めて指示を出すから』
「はい」
『深追いは禁物だぞ、いいな。くれぐれも注意しろよ』
ミーナと美緒から指示が飛んでくる。
「了解しました」
「ねえねえサーニャ。様子がヘンってどう言う事?」
「それは……」
とっさにうまく説明出来ないサーニャに、ルッキーニは苛立った。
「もう、わかんな~い! もうちょい近付いて、とどめさそうよ」
「え、でも」
「大丈夫、あたし射撃うまいんだよ? ちょっと先行くだけだから平気」
ルッキーニは躊躇うサーニャの腕を取り、ネウロイの後を追った。
突然、二人の周囲を濃い霧が包んだ。
「?」
「なにこれ? 辺りが全然見えない」
「私も……レーダーの反応が……」
「え? どう言う事? 戻る?」
「位置が……」
「ウニャ? ……あれ? さっきまで見えてた星が……」
いつもそう。サーニャは無口で、無愛想で。構ってるのは変わり者のエイラ位じゃん。
あー、シャーリー居ればなあ。思わず声に出しかけたが、サーニャの何処か寝惚けた
様な、それでいて真剣に何かを探す顔つきを見て、思わず言葉を変えた。
「ねえ、ネウロイ何処? あたしには見えないけど」
「今は雲の中。動いてる」
「どっちの方角?」
「ここから北北西……いま、北に進路を変えた」
ミーナからの無線で追跡する様指示を受ける。ネウロイに合わせて進路を変更する。
夜戦に慣れない、そもそもあまり夜更かしをしないルッキーニには、直接戦闘の無い
夜間哨戒は酷い眠気と退屈の塊でしかない。
「う~ん……あたしも一緒に飛ぶ意味あったのかな~」
思わず口にする。サーニャの返事は無い。
「ねえ、聞いてる?」
「待って」
「?」
突然フリーガーハマーの安全装置を外し、構えるサーニャ。ルッキーニの真横で
吹かされるバックブラスト。一発、二発と立て続けに撃ち込んだ。
雲を裂き、弾頭ははるか先で爆発した。
「ネウロイ? やった?」
「ダメージは与えた。でも様子がヘン」
「ヘンって?」
「ちょっと待って」
サーニャは無線を呼び出すとミーナに報告をした。
「ミーナ中佐。敵にダメージを与えました。でも動きが……」
『サーニャさん、こちらでも動きをある程度把握しているわ。今からそちらに
増援を出すから、それまで持ち堪えて。増援が付近に到着したら、
改めて指示を出すから』
「はい」
『深追いは禁物だぞ、いいな。くれぐれも注意しろよ』
ミーナと美緒から指示が飛んでくる。
「了解しました」
「ねえねえサーニャ。様子がヘンってどう言う事?」
「それは……」
とっさにうまく説明出来ないサーニャに、ルッキーニは苛立った。
「もう、わかんな~い! もうちょい近付いて、とどめさそうよ」
「え、でも」
「大丈夫、あたし射撃うまいんだよ? ちょっと先行くだけだから平気」
ルッキーニは躊躇うサーニャの腕を取り、ネウロイの後を追った。
突然、二人の周囲を濃い霧が包んだ。
「?」
「なにこれ? 辺りが全然見えない」
「私も……レーダーの反応が……」
「え? どう言う事? 戻る?」
「位置が……」
「ウニャ? ……あれ? さっきまで見えてた星が……」
73: 2008/11/18(火) 10:53:45 ID:mxTTnzhm
「連絡が取れないだと?」
叫んだ直後に豪快なくしゃみをかます美緒。
「今度のネウロイもやっぱりおかしいわ。この動き、絶対何か有る」
ごほごほ、と咳混じりに答えるミーナ。
「呼び戻せるか?」
「無理よ」
「なら、増援組に警告を……まさか、既にこっちも?」
74: 2008/11/18(火) 10:54:29 ID:mxTTnzhm
「う~、寒いナ」
「当たり前だろう? 雨の中を飛んでるんだから。スオムスじゃこの程度の寒さ
なんて普通じゃないの?」
「そう言う寒さじゃナイ。……て言うか大尉こそ顔赤いけど大丈夫カ?」
「見ての通り、熱くて仕方ないよ。そう言うエイラは顔真っ青だけど」
後発の増援組、エイラ、シャーリーの二人は隊員の中では
比較的症状が軽い(と無理矢理に自己申告した)ので、
ミーナから指示を受け、迷走するネウロイを追撃する段取りで飛行を開始した。
だが激しい雨中、そして二人共風邪っぴきと言う事で、飛行状態は普段に比べて
かなりルーズだった。
「もうすぐネウロイの居るエリアだナ」
「さっさと終わらせて、早く帰って寝たいよ。身体だるいったら」
「……ン? 今指揮所から何か通信が無かったカ?」
「いや? 何にも? エイラには何か聞こえたのか?」
「……おかしいナ。空耳かナ」
通信機の状態を確認する。通信機自体は正常に動いている様だが、肝心の通信……
司令所や遠方の味方との連絡が通じない。
「ただの雨ならここまで通信状況が悪くなる筈無いんダケド」
考えを巡らせるエイラ。思わずぞくぞくと身体を震わせる。
「やっぱ寒い?」
つつと手を握るシャーリー。エイラの手はぞっとする程冷たかった。
「冷たっ!」
「大尉の手が熱いんダ!」
「じゃあ、二人合わせればちょうどよくならないか? どうよ」
「どうよって言われてもナー」
「ほら、おでこもこんなに温度違う」
飛行しながらおでこを合わせる。
確かにエイラの額は冷たく、シャーリーのおでこは真逆だった。
ちょっとキモチいいかも、と錯覚するふたり。
「だあっ! 何やってんダ私達? 早くサーニャと連絡取って」
あたふたと頭を振って慌てふためくエイラ。
「連絡……つうか、隊長から指示が出るから、先行してる二人と合流して
追撃するんじゃないの?」
素に戻って肝心の事を思い出すシャーリー。
「そうソレ! その後!」
「その後? サーニャがやっぱり気になる?」
ふふーん、とハナで笑うシャーリー。
「な、なんだヨ。ルッキーニも一緒だろ? 大尉も心配とかしなくていいのカヨ」
「あ、そうだった! あいつ夜戦あんまし得意じゃなかった気がするんだよなー」
「尚更じゃないカ」
「でも、心配はしてないよ。あいつはあいつで、やるときゃやるからさ」
「ほう。まるでルッキーニの全部を知ってるみたいな言い方ダナ」
ニヤリとするエイラ。
「あんたら程じゃないよ」
気丈に会話しつつも、シャーリーは若干目のかすみを感じていた。雨のせいか、
霧のせいか、風邪のせいか。
ふと見ると、エイラも目をごしごしとこすっては、辺りをしきりと気にしていた。
「エイラどうした」
「いや、何か、いつもの雨と違わないカ?」
「確かに、あたしも妙な感じがする」
「このままでは方位が分からないナ。一旦雲の上に出ヨウ」
「了ぉ解」
二人は勢い良く上昇を始めた。
「当たり前だろう? 雨の中を飛んでるんだから。スオムスじゃこの程度の寒さ
なんて普通じゃないの?」
「そう言う寒さじゃナイ。……て言うか大尉こそ顔赤いけど大丈夫カ?」
「見ての通り、熱くて仕方ないよ。そう言うエイラは顔真っ青だけど」
後発の増援組、エイラ、シャーリーの二人は隊員の中では
比較的症状が軽い(と無理矢理に自己申告した)ので、
ミーナから指示を受け、迷走するネウロイを追撃する段取りで飛行を開始した。
だが激しい雨中、そして二人共風邪っぴきと言う事で、飛行状態は普段に比べて
かなりルーズだった。
「もうすぐネウロイの居るエリアだナ」
「さっさと終わらせて、早く帰って寝たいよ。身体だるいったら」
「……ン? 今指揮所から何か通信が無かったカ?」
「いや? 何にも? エイラには何か聞こえたのか?」
「……おかしいナ。空耳かナ」
通信機の状態を確認する。通信機自体は正常に動いている様だが、肝心の通信……
司令所や遠方の味方との連絡が通じない。
「ただの雨ならここまで通信状況が悪くなる筈無いんダケド」
考えを巡らせるエイラ。思わずぞくぞくと身体を震わせる。
「やっぱ寒い?」
つつと手を握るシャーリー。エイラの手はぞっとする程冷たかった。
「冷たっ!」
「大尉の手が熱いんダ!」
「じゃあ、二人合わせればちょうどよくならないか? どうよ」
「どうよって言われてもナー」
「ほら、おでこもこんなに温度違う」
飛行しながらおでこを合わせる。
確かにエイラの額は冷たく、シャーリーのおでこは真逆だった。
ちょっとキモチいいかも、と錯覚するふたり。
「だあっ! 何やってんダ私達? 早くサーニャと連絡取って」
あたふたと頭を振って慌てふためくエイラ。
「連絡……つうか、隊長から指示が出るから、先行してる二人と合流して
追撃するんじゃないの?」
素に戻って肝心の事を思い出すシャーリー。
「そうソレ! その後!」
「その後? サーニャがやっぱり気になる?」
ふふーん、とハナで笑うシャーリー。
「な、なんだヨ。ルッキーニも一緒だろ? 大尉も心配とかしなくていいのカヨ」
「あ、そうだった! あいつ夜戦あんまし得意じゃなかった気がするんだよなー」
「尚更じゃないカ」
「でも、心配はしてないよ。あいつはあいつで、やるときゃやるからさ」
「ほう。まるでルッキーニの全部を知ってるみたいな言い方ダナ」
ニヤリとするエイラ。
「あんたら程じゃないよ」
気丈に会話しつつも、シャーリーは若干目のかすみを感じていた。雨のせいか、
霧のせいか、風邪のせいか。
ふと見ると、エイラも目をごしごしとこすっては、辺りをしきりと気にしていた。
「エイラどうした」
「いや、何か、いつもの雨と違わないカ?」
「確かに、あたしも妙な感じがする」
「このままでは方位が分からないナ。一旦雲の上に出ヨウ」
「了ぉ解」
二人は勢い良く上昇を始めた。
75: 2008/11/18(火) 10:56:31 ID:mxTTnzhm
サーニャはじりじりとノイズばかり拾うレーダーから、“動き”を捉えた。
「居た」
「どこ? どっちの方角?」
「ええっと……」
星も見えない。いつの間にか方位も見失っている。言葉で指し示す手段が無くなった
サーニャは、ルッキーニに近付くと、指さした。
「ここからまっすぐ、こっちの方角。距離、4500。加速した。上昇してる」
「全然見えないよ~」
「もう少し上を狙って。私も一緒に撃つから」
「分かった」
「そう、その辺り……あと3秒」
「当たれ~!」
二人は射撃を開始した。
エイラは激しい悪寒を感じた。横を飛んでいたシャーリーの腕を強引にひっつかむと、
急下降した。
「ちょ、ちょっと、エイラどうした?」
慌てるシャーリー。しかし直後、二人が居たであろう場所に、数発のビームと実弾が
飛来し、通り過ぎ、やがて爆発した。
「な、なんだ?」
「ネウロイ?」
“的”にされぬ様、そのまま腕を組んだ状態でジグザグに飛行する二人。
「とりあえず、礼を言っとくよ」
熱のせいか顔が紅いシャーリーはにやっと笑った。
「ひとつ貸しだからナ」
エイラも青白いながら、いつもの戦闘の時に見せる、精悍な顔つきに変わっていた。
「外した」
「え? マジで?」
驚きを隠せない二人。夜戦で腕を鳴らしたサーニャ、元々遠距離射撃には
絶対の自信を持っていたルッキーニの二人がかりでも、弾はかすめもしない。
「警戒して、不規則な動きに変わった。距離ほぼ変わらず、4400」
「サーニャ、どうする? もう一回撃ってみる?」
「動きをよく見てから……待って、また上昇しようとしてる。そこを狙う」
「もしかしてさ」
「?」
「さっき、指示のタイミングがずれたから外したとか?」
「そ、それは無いと思う」
「わかんないよ?」
ルッキーニは悪戯っぽく笑うと、サーニャと肩を組んだ。ぴくりと肩を
一瞬震わせるサーニャ。
「こうすれば、タイミングもバッチシ。いけるっしょ」
「う、うん……」
「サーニャは」
「?」
「エイラとこう言う事したりしないの?」
「え?」
「肩組んだり、おんぶしたり、だっこしたり、肩車したり」
「……しない」
「まあ、普通に戦う時はフツーに飛んでればいいけど、そうじゃない時もあるし」
無邪気に笑うルッキーニをぽけっとした眼差しで見るサーニャ。
(そう……だから、ルッキーニちゃんはイェーガー大尉と)
少しだけ謎が解けた気がする。
「じゃあ、もう一度行くよ。……方角はあっち、距離4300、次に上昇に転じた所を
狙う……今!」
フリーガーハマーとM1919A6が同時に火を噴いた。
「居た」
「どこ? どっちの方角?」
「ええっと……」
星も見えない。いつの間にか方位も見失っている。言葉で指し示す手段が無くなった
サーニャは、ルッキーニに近付くと、指さした。
「ここからまっすぐ、こっちの方角。距離、4500。加速した。上昇してる」
「全然見えないよ~」
「もう少し上を狙って。私も一緒に撃つから」
「分かった」
「そう、その辺り……あと3秒」
「当たれ~!」
二人は射撃を開始した。
エイラは激しい悪寒を感じた。横を飛んでいたシャーリーの腕を強引にひっつかむと、
急下降した。
「ちょ、ちょっと、エイラどうした?」
慌てるシャーリー。しかし直後、二人が居たであろう場所に、数発のビームと実弾が
飛来し、通り過ぎ、やがて爆発した。
「な、なんだ?」
「ネウロイ?」
“的”にされぬ様、そのまま腕を組んだ状態でジグザグに飛行する二人。
「とりあえず、礼を言っとくよ」
熱のせいか顔が紅いシャーリーはにやっと笑った。
「ひとつ貸しだからナ」
エイラも青白いながら、いつもの戦闘の時に見せる、精悍な顔つきに変わっていた。
「外した」
「え? マジで?」
驚きを隠せない二人。夜戦で腕を鳴らしたサーニャ、元々遠距離射撃には
絶対の自信を持っていたルッキーニの二人がかりでも、弾はかすめもしない。
「警戒して、不規則な動きに変わった。距離ほぼ変わらず、4400」
「サーニャ、どうする? もう一回撃ってみる?」
「動きをよく見てから……待って、また上昇しようとしてる。そこを狙う」
「もしかしてさ」
「?」
「さっき、指示のタイミングがずれたから外したとか?」
「そ、それは無いと思う」
「わかんないよ?」
ルッキーニは悪戯っぽく笑うと、サーニャと肩を組んだ。ぴくりと肩を
一瞬震わせるサーニャ。
「こうすれば、タイミングもバッチシ。いけるっしょ」
「う、うん……」
「サーニャは」
「?」
「エイラとこう言う事したりしないの?」
「え?」
「肩組んだり、おんぶしたり、だっこしたり、肩車したり」
「……しない」
「まあ、普通に戦う時はフツーに飛んでればいいけど、そうじゃない時もあるし」
無邪気に笑うルッキーニをぽけっとした眼差しで見るサーニャ。
(そう……だから、ルッキーニちゃんはイェーガー大尉と)
少しだけ謎が解けた気がする。
「じゃあ、もう一度行くよ。……方角はあっち、距離4300、次に上昇に転じた所を
狙う……今!」
フリーガーハマーとM1919A6が同時に火を噴いた。
76: 2008/11/18(火) 10:59:01 ID:mxTTnzhm
エイラはシャーリーの手を取り、上昇から突然のロール、そして急降下に移った。
「エイラって案外過激な機動するねえ……うわっ」
念押しのループ。またしても、数発の散発的なビーム、そして数発の実弾が
すぐ脇をかすめる。背後で爆風を撒き散らす実弾があった。
「またかよ?」
「上昇しようとすると狙われる。しかも正確ニ」
「ずっと雲の中に押し留めとくつもりかよ?」
とりあえず回避運動を続けながら周囲を旋回する。
「ありゃなんだ?」
「ネウロイなのカ?」
「でも、実弾も有ったよな?」
「さっきのあれ……、サーニャのフリーガーハマーなのカ?」
「一緒に飛んで来た曳航弾も、なんかどっかで……まさか」
青ざめるシャーリー。
「もしかしてあたし達、ネウロイと、先行してる二人の戦闘に巻き込まれてる?」
「うーん」
「なら離脱した方が良いんじゃない? このままだと誰にやられるか分からないよ」
「それが、妙なんダ」
「何が?」
「私達の方向にばかり来る。ビームもそうだけど、何故か必ず実弾が飛んでくる。
おかしいとは思わないカ?」
「どう言う事だ?」
「この霧と雨……」
エイラに言われて辺りを見回すシャーリー。
「敵も味方も見えない。方角も分からない。おまけに通信もダメ。
そして攻撃だけやってくる。さて、どうするか」
う~ん、と首を回して少し考えた後、シャーリーは唐突に提案した。
「試しに撃ってみるか?」
M1911A1の銃口を諸々の弾が来た方向に向ける。
「ま、待っタ!」
エイラが腕を引っ張る。
「? なんで?」
「同士討ちの危険が」
「そんな、まさか……」
「私達は、私の先読みの能力があるから、今まで無傷で済んでるんダ。
でもあの二人にはそんな能力は無い。もし当たったら」
「ま、まさか……」
固まる二人。
はっとするエイラ。咄嗟にシャーリーの腰に腕を回して精一杯右に逸れる。
またしても、ビームと実弾が襲い来る。
「大胆な事するね」
感心するシャーリー。なにせエイラが腰に腕を回してひしと抱きしめた状態に
なっている。誰かが見たら明らかに勘違いするであろう格好だ。
「うう……仕方ないダロ。何回貸しが出来たと思ってるんダ?」
「はいはい。感謝してますよっと。今度エイラのストライカー、チューンしてやる
からさ」
「洗濯当番の交代でいいゾ」
「なんかやけに現実的な要求だな……基地に帰ってから決めない?」
「エイラって案外過激な機動するねえ……うわっ」
念押しのループ。またしても、数発の散発的なビーム、そして数発の実弾が
すぐ脇をかすめる。背後で爆風を撒き散らす実弾があった。
「またかよ?」
「上昇しようとすると狙われる。しかも正確ニ」
「ずっと雲の中に押し留めとくつもりかよ?」
とりあえず回避運動を続けながら周囲を旋回する。
「ありゃなんだ?」
「ネウロイなのカ?」
「でも、実弾も有ったよな?」
「さっきのあれ……、サーニャのフリーガーハマーなのカ?」
「一緒に飛んで来た曳航弾も、なんかどっかで……まさか」
青ざめるシャーリー。
「もしかしてあたし達、ネウロイと、先行してる二人の戦闘に巻き込まれてる?」
「うーん」
「なら離脱した方が良いんじゃない? このままだと誰にやられるか分からないよ」
「それが、妙なんダ」
「何が?」
「私達の方向にばかり来る。ビームもそうだけど、何故か必ず実弾が飛んでくる。
おかしいとは思わないカ?」
「どう言う事だ?」
「この霧と雨……」
エイラに言われて辺りを見回すシャーリー。
「敵も味方も見えない。方角も分からない。おまけに通信もダメ。
そして攻撃だけやってくる。さて、どうするか」
う~ん、と首を回して少し考えた後、シャーリーは唐突に提案した。
「試しに撃ってみるか?」
M1911A1の銃口を諸々の弾が来た方向に向ける。
「ま、待っタ!」
エイラが腕を引っ張る。
「? なんで?」
「同士討ちの危険が」
「そんな、まさか……」
「私達は、私の先読みの能力があるから、今まで無傷で済んでるんダ。
でもあの二人にはそんな能力は無い。もし当たったら」
「ま、まさか……」
固まる二人。
はっとするエイラ。咄嗟にシャーリーの腰に腕を回して精一杯右に逸れる。
またしても、ビームと実弾が襲い来る。
「大胆な事するね」
感心するシャーリー。なにせエイラが腰に腕を回してひしと抱きしめた状態に
なっている。誰かが見たら明らかに勘違いするであろう格好だ。
「うう……仕方ないダロ。何回貸しが出来たと思ってるんダ?」
「はいはい。感謝してますよっと。今度エイラのストライカー、チューンしてやる
からさ」
「洗濯当番の交代でいいゾ」
「なんかやけに現実的な要求だな……基地に帰ってから決めない?」
77: 2008/11/18(火) 11:00:01 ID:mxTTnzhm
「当たらない」
焦りの色を隠せないサーニャ。その顔色を見て心なしかうろたえるルッキーニ。
「どうしよう。何も見えないんじゃサーニャだけが頼りなのにぃ~」
「どうして? 反撃してこない……」
思わず呟く。
まさか前と同じ手を? サーニャは、以前芳佳とエイラとの三人で経験した
夜間戦闘を思い出す。同じネウロイだとしたら……。
「ねえねえ、どうしたの? なんか分かった?」
「前に交戦したネウロイも、最初はやっぱり何もしてこなかった」
「じゃあ今度のネウロイもそいつと同じって事?」
サーニャは、分からないとばかりに首を振った。
「もう、どうすんの? その時はどうしたの?」
「色々有って、最後には倒したけど……」
「それじゃ答えになってない!」
「とにかく、私達も、頑張って当てないと。じゃないと……」
「分かった。もう一度撃ってみる? 残り弾数大丈夫?」
「あと四発」
「あたしも残り少ないよ。よく狙おう」
こくりとサーニャは頷いた。
息を整える。サーニャの呼吸が、ルッキーニにも伝わる。
ふと、ルッキーニはサーニャの顔をまじまじと見つめ、声を掛けた。
「サーニャ、何か少し変わった?」
えっと言う顔をするサーニャ。
「昔よりも、少し力強く見えるって言うか……」
よくわかんないけど~、と最後を締めくくるルッキーニ。
「私達、チームでしょ? ……負けられないから。絶対に」
少し前の出来事を思い返しながら、サーニャは言葉を選んだ。
焦りの色を隠せないサーニャ。その顔色を見て心なしかうろたえるルッキーニ。
「どうしよう。何も見えないんじゃサーニャだけが頼りなのにぃ~」
「どうして? 反撃してこない……」
思わず呟く。
まさか前と同じ手を? サーニャは、以前芳佳とエイラとの三人で経験した
夜間戦闘を思い出す。同じネウロイだとしたら……。
「ねえねえ、どうしたの? なんか分かった?」
「前に交戦したネウロイも、最初はやっぱり何もしてこなかった」
「じゃあ今度のネウロイもそいつと同じって事?」
サーニャは、分からないとばかりに首を振った。
「もう、どうすんの? その時はどうしたの?」
「色々有って、最後には倒したけど……」
「それじゃ答えになってない!」
「とにかく、私達も、頑張って当てないと。じゃないと……」
「分かった。もう一度撃ってみる? 残り弾数大丈夫?」
「あと四発」
「あたしも残り少ないよ。よく狙おう」
こくりとサーニャは頷いた。
息を整える。サーニャの呼吸が、ルッキーニにも伝わる。
ふと、ルッキーニはサーニャの顔をまじまじと見つめ、声を掛けた。
「サーニャ、何か少し変わった?」
えっと言う顔をするサーニャ。
「昔よりも、少し力強く見えるって言うか……」
よくわかんないけど~、と最後を締めくくるルッキーニ。
「私達、チームでしょ? ……負けられないから。絶対に」
少し前の出来事を思い返しながら、サーニャは言葉を選んだ。
78: 2008/11/18(火) 11:00:52 ID:mxTTnzhm
いつ攻撃を受けるか分からない状況の中、エイラとシャーリーは
お互いに抱き合った格好で回避運動を続けながら、考えを巡らせていた。
「で、どうすれば良い?」
「私は、反撃には反対ダ。さっきの見たダロ? あの弾、どう見てもサーニャと
ルッキーニのじゃないカ」
「もしかして、ネウロイに操られてるのかもよ? だとしたらどうするんだ」
「ビームも撃って来るのカヨ? そもそも、ネウロイに操られるなんて事……」
ここではっと思い出すエイラ。
数年前、スオムスのカウハバ基地で起きたとされる、ネウロイ絡みの“噂”。
あくまでも噂だが、もしも同じ様な事がサーニャ(とルッキーニ)の身に
起きているとしたら……。もし噂通りの事が起きているなら、サーニャを……
「だ、ダメだ、私は……」
「情けないヤツだなあ」
「じゃあ、大尉は撃てるのかヨ? 仲間を」
エイラの、困惑を超えてある意味懇願の顔で見つめられるシャーリー。
「そりゃあ……その……」
尻すぼみな返事になってしまうシャーリー。ルッキーニの弾ける様な笑顔を
思い出すと、トリガーを引く気にはなれない。気が進まない。微妙、かも。
押し黙ってしまう二人。うつむき、どうするか困惑する。
ちらりとエイラはシャーリーを見た。シャーリーもつられてエイラを見た。
二人は、お互いの表情を見ると、なんだかおかしくなって小さな笑みをこぼした。
同じ顔をしてる。
「あたし達、意外と似たモノ同士かもね~」
「な、なんダいきなり?」
紅潮したシャーリーの顔には、いつしか、ひとつの決意がみなぎっていた。
「よし、分かった」
「?」
「この雨と霧に包まれててもラチが開かない。一気に距離を詰めよう」
「ネウロイに向かって突進するのカ?」
「エイラは攻撃を先読み出来るから、あたし達は大丈夫だろ?」
「まあネ」
「それにこっちが撃たなければ、少なくともあいつらはあたし達の銃弾では
傷付かないだろう。多分」
「楽観的だナア」
「それに、もしかしたらこっちが急激に動く事でネウロイの動きを逆に攪乱させる
事だって出来るんじゃない?」
「ナルホド。そうしたら、……そうか、サーニャ達の弾もネウロイに当たるかも
しれないって事カ?」
「いや、そこまでは考えてなかった」
苦笑いするシャーリー。
「考えて無かったのカヨ。ネウロイの遠隔操作だったらどうすんだヨ」
「その時はその時で、ネウロイとは別に二人に会えるだろうから良いじゃない」
「まあ……確かにそうだけド」
「あたしは音速を超えたんだ。どんなネウロイでも追いついて突っ切ってみせるよ」
「でも、サーニャ達と正面衝突だけは勘弁するんダナ」
「それはエイラが先読みしてくれよ」
「それは多分無理ダナ……」
「じゃあ決まりだな。良いよな?」
「どうせ返事は聞いてないんダロ?」
「ご名答! そのまま掴まって! いっくよ!」
シャーリーとエイラは抱き合ったまま、ビームと銃弾が飛んで来た方向へ
一直線に加速した。
「回避は任せたよエイラ! 一気にひとっ飛びだ!」
今までに無いスピードで、シャーリーとエイラは霧の中、突っ込んで行った。
お互いに抱き合った格好で回避運動を続けながら、考えを巡らせていた。
「で、どうすれば良い?」
「私は、反撃には反対ダ。さっきの見たダロ? あの弾、どう見てもサーニャと
ルッキーニのじゃないカ」
「もしかして、ネウロイに操られてるのかもよ? だとしたらどうするんだ」
「ビームも撃って来るのカヨ? そもそも、ネウロイに操られるなんて事……」
ここではっと思い出すエイラ。
数年前、スオムスのカウハバ基地で起きたとされる、ネウロイ絡みの“噂”。
あくまでも噂だが、もしも同じ様な事がサーニャ(とルッキーニ)の身に
起きているとしたら……。もし噂通りの事が起きているなら、サーニャを……
「だ、ダメだ、私は……」
「情けないヤツだなあ」
「じゃあ、大尉は撃てるのかヨ? 仲間を」
エイラの、困惑を超えてある意味懇願の顔で見つめられるシャーリー。
「そりゃあ……その……」
尻すぼみな返事になってしまうシャーリー。ルッキーニの弾ける様な笑顔を
思い出すと、トリガーを引く気にはなれない。気が進まない。微妙、かも。
押し黙ってしまう二人。うつむき、どうするか困惑する。
ちらりとエイラはシャーリーを見た。シャーリーもつられてエイラを見た。
二人は、お互いの表情を見ると、なんだかおかしくなって小さな笑みをこぼした。
同じ顔をしてる。
「あたし達、意外と似たモノ同士かもね~」
「な、なんダいきなり?」
紅潮したシャーリーの顔には、いつしか、ひとつの決意がみなぎっていた。
「よし、分かった」
「?」
「この雨と霧に包まれててもラチが開かない。一気に距離を詰めよう」
「ネウロイに向かって突進するのカ?」
「エイラは攻撃を先読み出来るから、あたし達は大丈夫だろ?」
「まあネ」
「それにこっちが撃たなければ、少なくともあいつらはあたし達の銃弾では
傷付かないだろう。多分」
「楽観的だナア」
「それに、もしかしたらこっちが急激に動く事でネウロイの動きを逆に攪乱させる
事だって出来るんじゃない?」
「ナルホド。そうしたら、……そうか、サーニャ達の弾もネウロイに当たるかも
しれないって事カ?」
「いや、そこまでは考えてなかった」
苦笑いするシャーリー。
「考えて無かったのカヨ。ネウロイの遠隔操作だったらどうすんだヨ」
「その時はその時で、ネウロイとは別に二人に会えるだろうから良いじゃない」
「まあ……確かにそうだけド」
「あたしは音速を超えたんだ。どんなネウロイでも追いついて突っ切ってみせるよ」
「でも、サーニャ達と正面衝突だけは勘弁するんダナ」
「それはエイラが先読みしてくれよ」
「それは多分無理ダナ……」
「じゃあ決まりだな。良いよな?」
「どうせ返事は聞いてないんダロ?」
「ご名答! そのまま掴まって! いっくよ!」
シャーリーとエイラは抱き合ったまま、ビームと銃弾が飛んで来た方向へ
一直線に加速した。
「回避は任せたよエイラ! 一気にひとっ飛びだ!」
今までに無いスピードで、シャーリーとエイラは霧の中、突っ込んで行った。
79: 2008/11/18(火) 11:01:45 ID:mxTTnzhm
「!」
「どうかした?」
「こっちに向かって来る。この速度……やっぱり通常の航空機じゃない」
「じゃあ、ネウロイ?」
「この前のと、同じ……」
フリーガーハマーを構えるサーニャ。
しかし、レーダーは奇妙な違和感を捉えていた。
焦点が、かすんで、ダブる。
「違う」
「なにもう、どっちよ?」
「ルッキーニちゃん、こっち。構えて」
「え? こう?」
「距離3500……3200……速い……2800……」
サーニャは“胸騒ぎ”を覚えていた。嫌な予感と言うか、ある種の直感が頭に響く。
違う。
この前のネウロイじゃない。
もしかして……仲間?
考えていたつもりが思わず声にでてしまう。
「仲間ってどう言う事よ?」
「音速に近い速度で飛べる飛行物体って、ネウロイの他に……」
「いるよ! シャーリー、この前音速を超えたんだよ?」
はっとする。そして、思い出す。
いつも、そばにいるあのひとの顔。
突然、目の前が赤く染まる。
反射的に回避するも、禍々しい赤色の光線に撃たれ、サーニャのストライカーが
一部破損する。
「サーニャ! 大丈夫!?」
「これくらい平気」
「やっぱりネウロイじゃん!」
サーニャは攻撃される瞬間、今までレーダーで捉えていたものとは“別”の何かが
同軸線上にある事を感知していた。今はまた反応が消えているが、間違いない。
サーニャは慌てるルッキーニに言った。
「目の前に居るのは、ネウロイだけじゃない」
「え?」
「私達を狙ってるのは、確かにネウロイ」
「ジャジャジャ、どうすればいいの?」
「距離2000……1800……構えて、もう少し下を狙って」
「え? こう?」
サーニャはルッキーニに片腕を沿え、直接照準を指示した。
「今よ、撃って」
訳が分からないまま、ルッキーニは弾丸を連続発射した。
「良いの? もし……」
「大丈夫」
コンマ数秒遅れてフリーガーハマーを全弾発射したサーニャには、ある確信があった。
「エイラなら」
「どうかした?」
「こっちに向かって来る。この速度……やっぱり通常の航空機じゃない」
「じゃあ、ネウロイ?」
「この前のと、同じ……」
フリーガーハマーを構えるサーニャ。
しかし、レーダーは奇妙な違和感を捉えていた。
焦点が、かすんで、ダブる。
「違う」
「なにもう、どっちよ?」
「ルッキーニちゃん、こっち。構えて」
「え? こう?」
「距離3500……3200……速い……2800……」
サーニャは“胸騒ぎ”を覚えていた。嫌な予感と言うか、ある種の直感が頭に響く。
違う。
この前のネウロイじゃない。
もしかして……仲間?
考えていたつもりが思わず声にでてしまう。
「仲間ってどう言う事よ?」
「音速に近い速度で飛べる飛行物体って、ネウロイの他に……」
「いるよ! シャーリー、この前音速を超えたんだよ?」
はっとする。そして、思い出す。
いつも、そばにいるあのひとの顔。
突然、目の前が赤く染まる。
反射的に回避するも、禍々しい赤色の光線に撃たれ、サーニャのストライカーが
一部破損する。
「サーニャ! 大丈夫!?」
「これくらい平気」
「やっぱりネウロイじゃん!」
サーニャは攻撃される瞬間、今までレーダーで捉えていたものとは“別”の何かが
同軸線上にある事を感知していた。今はまた反応が消えているが、間違いない。
サーニャは慌てるルッキーニに言った。
「目の前に居るのは、ネウロイだけじゃない」
「え?」
「私達を狙ってるのは、確かにネウロイ」
「ジャジャジャ、どうすればいいの?」
「距離2000……1800……構えて、もう少し下を狙って」
「え? こう?」
サーニャはルッキーニに片腕を沿え、直接照準を指示した。
「今よ、撃って」
訳が分からないまま、ルッキーニは弾丸を連続発射した。
「良いの? もし……」
「大丈夫」
コンマ数秒遅れてフリーガーハマーを全弾発射したサーニャには、ある確信があった。
「エイラなら」
80: 2008/11/18(火) 11:11:22 ID:mxTTnzhm
エイラはシャーリーに的確な指示を出していた。
「チョイ右、下、次左」
紙一重で、ビームと曳航弾が脇をかすめ通って行く。
前方で、激しい爆発音が聞こえた。唐突に霧が晴れる。
「おお!」
「出タ!」
円形の、サラダボウルを重ねた様な不思議な物体。明らかにネウロイだった。
それが目の前で突然裏側から激しいフリーガーハマーの攻撃に晒され、
コアが露出し、砕け、爆発した。
「うわッ!」
慌てて防御シールドを張るシャーリーとエイラ。二重になった強固なシールドは
ネウロイの破片を弾き飛ばす。
「た大尉、止まレ! ぶつかる!」
「え? ……うひゃああああ」
「ウワアアアアアアアアアア」
二人とも声にならない声を出した。ネウロイの破片を突き抜けた先に、
サーニャとルッキーニが居る。
シャーリーは止まろうと急制動を試みたが速度に負けてしまい急に止まれない。
それを見越していたエイラは何とか衝突を避けようと目一杯急反転を試みた。
二人の無理な機動が功を奏したのか、ぎりぎりの速度で……体当たりに近いかたちで
……スピンしながら、二組は交錯した。
エイラはルッキーニの腹に頭から突っ込んでいた。シャーリーは肩をサーニャの胸に
押しつけるかたちで停止していた。
「エイラ、いきなり酷い! 痛いよ!」
「私のせいじゃないんだナ……」
怒りを爆発させるルッキーニ。霧の中、いきなり爆発したネウロイの真っ直中から
猛スピードで直進し(しかも直前に機動が乱れて)ぶつかった衝撃は
かなりのものだ。元居た場所から数メートル以上も後退していた。
「大尉……それ私の武器」
「え? あ、ああ」
一方のシャーリーは、何とかしようともがいた挙げ句、身体をサーニャに預け、
何故かサーニャのフリーガーハマーをがしっと握りしめていた。
それぞれが抱きかかえられ、何とか体勢を元に戻す。
ここではじめて、四人がそれぞれの顔を、落ち着いた状況で見る事が出来た。
はあ、と安堵の溜め息を付く暇もなく、ルッキーニがシャーリーに詰め寄る。
「シャーリー! 何で連絡くれなかったの!? 何でこんな無茶したのよ?」
「いや、仕方なかったって言うか……お前らも通信途絶えてただろ?」
「だからって……」
「ごめんよルッキーニ。この通り」
「心配したんだからぁ」
すねるルッキーニを優しく包み込むシャーリー。
端で二人のやり取りをみていたエイラとサーニャ。
サーニャがそっとエイラの袖を引っ張る。
「うん? どうしたサーニャ? どっか悪いのカ?
……て言うか被弾してるじゃないカ! 大丈夫カ!?
さっきのネウロイにやられたのカ?」
「私は平気。エイラ」
そっと腕を回し、エイラを抱きしめる。エイラの胸に顔を埋め、
大きく息を吸い、吐いた。吐息がエイラの服を通して、暖かく伝わる。
「エイラならきっと……って信じてたから」
「そっか。良かっタ」
エイラは少し震える手で、サーニャの頭を撫でて、呟いた。
「私達の方が撃たなくて、ホント良かっタ」
『……ぇるか? シャーリー、エイラ、サーニャ、ルッキーニ、応答せよ!
繰り返す、シャーリー、エイラ、サーニャ、ルッキーニ、返事しろ!』
所々にくしゃみが混じる怒号が四人の通信機に響く。
「少佐……今頃かよ」
ルッキーニをハグしていたシャーリーは苦笑いした。
つられて、エイラとサーニャも笑顔を見せた。
「チョイ右、下、次左」
紙一重で、ビームと曳航弾が脇をかすめ通って行く。
前方で、激しい爆発音が聞こえた。唐突に霧が晴れる。
「おお!」
「出タ!」
円形の、サラダボウルを重ねた様な不思議な物体。明らかにネウロイだった。
それが目の前で突然裏側から激しいフリーガーハマーの攻撃に晒され、
コアが露出し、砕け、爆発した。
「うわッ!」
慌てて防御シールドを張るシャーリーとエイラ。二重になった強固なシールドは
ネウロイの破片を弾き飛ばす。
「た大尉、止まレ! ぶつかる!」
「え? ……うひゃああああ」
「ウワアアアアアアアアアア」
二人とも声にならない声を出した。ネウロイの破片を突き抜けた先に、
サーニャとルッキーニが居る。
シャーリーは止まろうと急制動を試みたが速度に負けてしまい急に止まれない。
それを見越していたエイラは何とか衝突を避けようと目一杯急反転を試みた。
二人の無理な機動が功を奏したのか、ぎりぎりの速度で……体当たりに近いかたちで
……スピンしながら、二組は交錯した。
エイラはルッキーニの腹に頭から突っ込んでいた。シャーリーは肩をサーニャの胸に
押しつけるかたちで停止していた。
「エイラ、いきなり酷い! 痛いよ!」
「私のせいじゃないんだナ……」
怒りを爆発させるルッキーニ。霧の中、いきなり爆発したネウロイの真っ直中から
猛スピードで直進し(しかも直前に機動が乱れて)ぶつかった衝撃は
かなりのものだ。元居た場所から数メートル以上も後退していた。
「大尉……それ私の武器」
「え? あ、ああ」
一方のシャーリーは、何とかしようともがいた挙げ句、身体をサーニャに預け、
何故かサーニャのフリーガーハマーをがしっと握りしめていた。
それぞれが抱きかかえられ、何とか体勢を元に戻す。
ここではじめて、四人がそれぞれの顔を、落ち着いた状況で見る事が出来た。
はあ、と安堵の溜め息を付く暇もなく、ルッキーニがシャーリーに詰め寄る。
「シャーリー! 何で連絡くれなかったの!? 何でこんな無茶したのよ?」
「いや、仕方なかったって言うか……お前らも通信途絶えてただろ?」
「だからって……」
「ごめんよルッキーニ。この通り」
「心配したんだからぁ」
すねるルッキーニを優しく包み込むシャーリー。
端で二人のやり取りをみていたエイラとサーニャ。
サーニャがそっとエイラの袖を引っ張る。
「うん? どうしたサーニャ? どっか悪いのカ?
……て言うか被弾してるじゃないカ! 大丈夫カ!?
さっきのネウロイにやられたのカ?」
「私は平気。エイラ」
そっと腕を回し、エイラを抱きしめる。エイラの胸に顔を埋め、
大きく息を吸い、吐いた。吐息がエイラの服を通して、暖かく伝わる。
「エイラならきっと……って信じてたから」
「そっか。良かっタ」
エイラは少し震える手で、サーニャの頭を撫でて、呟いた。
「私達の方が撃たなくて、ホント良かっタ」
『……ぇるか? シャーリー、エイラ、サーニャ、ルッキーニ、応答せよ!
繰り返す、シャーリー、エイラ、サーニャ、ルッキーニ、返事しろ!』
所々にくしゃみが混じる怒号が四人の通信機に響く。
「少佐……今頃かよ」
ルッキーニをハグしていたシャーリーは苦笑いした。
つられて、エイラとサーニャも笑顔を見せた。
81: 2008/11/18(火) 11:22:54 ID:mxTTnzhm
「今回のネウロイは、明らかに同士討ちを狙ったものだった」
「そうね。外部との通信、位置情報を遮断した上で別方向からの攻撃を
同士討ちへと持ち込むとは……」
「相当に高度かつ変則的なネウロイ、と言わざるを得ないな。
……上の連中には、この事を何処まで報告する?」
「そうね……今回は本当に偶然で倒せたから良かった様なものの」
「偶然、か?」
「必然と言いたいの?」
「私はそう信じたい。ミーナは?」
「同感だわ」
「ともかく、うかうかしてはいられない、か」
「早く治さないとね」
ミーナは同じベッドで隣に寝転がる美緒に声を掛けた。
「八度四分か……少しは下がった」
「私は八度三分……」
「私こそ、うかうかしてはいられないな」
美緒はミーナに苦笑いした。ミーナは美緒に向かい、微笑みかけた。
end
----
以上です。長くなって申し訳ないです。
以上、スレ汚し失礼致しました。
「そうね。外部との通信、位置情報を遮断した上で別方向からの攻撃を
同士討ちへと持ち込むとは……」
「相当に高度かつ変則的なネウロイ、と言わざるを得ないな。
……上の連中には、この事を何処まで報告する?」
「そうね……今回は本当に偶然で倒せたから良かった様なものの」
「偶然、か?」
「必然と言いたいの?」
「私はそう信じたい。ミーナは?」
「同感だわ」
「ともかく、うかうかしてはいられない、か」
「早く治さないとね」
ミーナは同じベッドで隣に寝転がる美緒に声を掛けた。
「八度四分か……少しは下がった」
「私は八度三分……」
「私こそ、うかうかしてはいられないな」
美緒はミーナに苦笑いした。ミーナは美緒に向かい、微笑みかけた。
end
----
以上です。長くなって申し訳ないです。
以上、スレ汚し失礼致しました。
193: 2008/11/21(金) 10:36:54 ID:svHYH5NL
夕日が射し込むミーナの執務室。だいぶ体調を持ち直してきた四人が、先日の件で集まっていた。
「結局、例のネウロイはシャーリーとエイラ以外見ていないのか」
うーむ、と唸るトゥルーデ。
「ずっと雲と怪しげな霧に隠れていたからな」
当事者達から事情を聞いた美緒が簡単に説明する。
「けど、そんなやり口のネウロイなんて聞いた事ないよ。……私達だったらちょっとやばかったかもね?」
エーリカは悪戯っぽく笑うとトゥルーデの小脇をつついた。
「なっ! 私はあんな無謀な事はしない! ぞ?」
妙にムキになって反論するトゥルーデを、ミーナがたしなめた。
「とにかく、今後また同種のネウロイが出現した時の為に、対抗策を考える必要が有りそうね。
一度全員で話をしたいところだけど……」
「暫く先だな」
美緒がぽつりと答えた。
「あいつら……何をやってるんだ一体」
軽いいらつきを覚えるトゥルーデ。
その“大尉殿”から名指しされた“あいつら”は、何も出来ていなかった。
そもそも魔力の限界ぎりぎりまで戦闘と飛行をしていた上、エイラとシャーリーは風邪をおしての強行軍。
この二人は風邪をこじらせてしまい、自室ではなく、医務室のベッドにしっかりと寝かしつけられていた。
「……だるいナ」
「あたしも」
氷枕で頭を冷やしつつ、ぐったりとベッドに沈むエイラとシャーリー。
シャーリーは氷嚢の位置をずらしながら愚痴をこぼした。
「なんであたしらだけ医務室に隔離されてんだよ?」
「具合が特に悪いからダロ? だから医務室で寝かしてくれてるんじゃナイカ?」
「そういうもんかね? あたしは自分の部屋でゆっくり寝てたいよ」
「氷枕とか氷嚢の替えはすぐ来ないゾ?」
「……それは困る」
「薬も飲んだし、今日は休めヨ」
しばしの沈黙。
「暇だなー。誰か遊びに来てくれないかな~」
誰に聞こえるとでもなく、シャーリーは口にした。
「みんなまだ風邪治ってないんダ。それに任務も有るし、無理に決まってんダロ」
「あー、暇過ぎる」
「じゃあ、タロットでもやろウ?」
「遠慮しとく」
「なんで即答なんだヨ」
「誰か来ないかなあ~」
シャーリーからは、エイラのタロットから出来るだけ話を遠ざけたい感じが伝わってくる。
「そんなに言うならルッキーニでも呼んだらどうダ」
「それがさ。何処にも居ないんだって」
「大尉のとこにならすぐにでも飛んで来そうなモンだけどナ」
「風邪ひいたから避けられてるのかな~。まあ、来てうつしちゃったりしたらそれこそ可哀想だけどさ」
寂しそうに呟くシャーリー。ぼけっと天井を見つめ、ふとエイラに質問する。
「そう言えばサーニャは来ないのか?」
「魔力を使い果たして寝てると思う。来ないナ」
「あーぁ。お互いはぐれモノ同士かー」
「そんなんじゃネエヨ。で、洗濯当番の交代はどうなったンダ? だいぶ貸しが有るゾ?」
「治ったらね……」
適当にだらだらと会話しているうちに、薬が効いてきたのか、ゆるゆると眠気がやって来る。
やがて二人とも口を閉ざし、瞼を下ろし、静かになった。
「結局、例のネウロイはシャーリーとエイラ以外見ていないのか」
うーむ、と唸るトゥルーデ。
「ずっと雲と怪しげな霧に隠れていたからな」
当事者達から事情を聞いた美緒が簡単に説明する。
「けど、そんなやり口のネウロイなんて聞いた事ないよ。……私達だったらちょっとやばかったかもね?」
エーリカは悪戯っぽく笑うとトゥルーデの小脇をつついた。
「なっ! 私はあんな無謀な事はしない! ぞ?」
妙にムキになって反論するトゥルーデを、ミーナがたしなめた。
「とにかく、今後また同種のネウロイが出現した時の為に、対抗策を考える必要が有りそうね。
一度全員で話をしたいところだけど……」
「暫く先だな」
美緒がぽつりと答えた。
「あいつら……何をやってるんだ一体」
軽いいらつきを覚えるトゥルーデ。
その“大尉殿”から名指しされた“あいつら”は、何も出来ていなかった。
そもそも魔力の限界ぎりぎりまで戦闘と飛行をしていた上、エイラとシャーリーは風邪をおしての強行軍。
この二人は風邪をこじらせてしまい、自室ではなく、医務室のベッドにしっかりと寝かしつけられていた。
「……だるいナ」
「あたしも」
氷枕で頭を冷やしつつ、ぐったりとベッドに沈むエイラとシャーリー。
シャーリーは氷嚢の位置をずらしながら愚痴をこぼした。
「なんであたしらだけ医務室に隔離されてんだよ?」
「具合が特に悪いからダロ? だから医務室で寝かしてくれてるんじゃナイカ?」
「そういうもんかね? あたしは自分の部屋でゆっくり寝てたいよ」
「氷枕とか氷嚢の替えはすぐ来ないゾ?」
「……それは困る」
「薬も飲んだし、今日は休めヨ」
しばしの沈黙。
「暇だなー。誰か遊びに来てくれないかな~」
誰に聞こえるとでもなく、シャーリーは口にした。
「みんなまだ風邪治ってないんダ。それに任務も有るし、無理に決まってんダロ」
「あー、暇過ぎる」
「じゃあ、タロットでもやろウ?」
「遠慮しとく」
「なんで即答なんだヨ」
「誰か来ないかなあ~」
シャーリーからは、エイラのタロットから出来るだけ話を遠ざけたい感じが伝わってくる。
「そんなに言うならルッキーニでも呼んだらどうダ」
「それがさ。何処にも居ないんだって」
「大尉のとこにならすぐにでも飛んで来そうなモンだけどナ」
「風邪ひいたから避けられてるのかな~。まあ、来てうつしちゃったりしたらそれこそ可哀想だけどさ」
寂しそうに呟くシャーリー。ぼけっと天井を見つめ、ふとエイラに質問する。
「そう言えばサーニャは来ないのか?」
「魔力を使い果たして寝てると思う。来ないナ」
「あーぁ。お互いはぐれモノ同士かー」
「そんなんじゃネエヨ。で、洗濯当番の交代はどうなったンダ? だいぶ貸しが有るゾ?」
「治ったらね……」
適当にだらだらと会話しているうちに、薬が効いてきたのか、ゆるゆると眠気がやって来る。
やがて二人とも口を閉ざし、瞼を下ろし、静かになった。
194: 2008/11/21(金) 10:37:34 ID:svHYH5NL
「エイラ、ねえ、エイラ。エイラったら」
うん? と目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしい。
部屋の中は、ほのかにランプが点いている以外は暗く、窓の外も闇に覆われている。
思わず寝惚けて「キョウダケダカンナー」と言いかけ、ぎくりとする。
目の前に居るのはルッキーニ。湯気たちのぼる鍋を脇のテーブルに置き、手にはスープ皿を持っている。
「なんだ、ルッキーニかヨ。何の用ダ?」
「シャーリーに食べて貰おうと思ってがんばって作ったのに、起きてくんないんだもん」
シャーリーに目を向ける。熱でうなされていた。ルッキーニに無理矢理揺さぶられたのか、妙な寝言も呟いている。
「ば、バカ。あの状態で起こす奴があるカ? ちょうど薬も効いてきて、ようやく眠って……」
「一緒に起こそう?」
「やめろっテ。氏ぬほど疲れてるんダ。そっとしといてやれヨ」
「えーっ。せっかくがんばって作ったのにィ。特製のスープ……」
指をくわえていじけるルッキーニ。
「後で起きたら、食べさせてやれよ。喜ぶゾ」
「ダメなの!」
「何がダヨ。大声出すなっテ」
「いっぱいいっぱい、おいしくなーれ、風邪なおれーっておまじない込めたんだよ?
今すぐ食べなきゃダメなのぉ!」
「だから人の話聞けヨ。病人はそっとしておかないと治りも……」
「じゃあエイラ。これエイラが食べてよ」
「何でそうなるんダ……私も病人なんだゾ一応」
うう、と呟いてベッドに倒れ込むエイラ。
数秒の沈黙。
戦闘の先読みではないが、何となく次にルッキーニがやりそうな事が分かる。
「つぅまぁんなぁ~い!」と医務室中で騒ぎ出すんだきっと。
ルッキーニの顔を見る。確かにつまらなそうな顔をしてはいたが、どこか悲しげで、
寂しさが漂っていた。
「んもう、しょうがないナァ」
エイラは重い身体を起こすと、ルッキーニと向き合った。
「おいしい?」
身を乗り出してしきりに質問するルッキーニ。
「おっ、薄味か? これは胃に優しいゾ。ちゃんと病人の事考えてるんダナ」
感心するエイラ。
「えっ? シャーリー濃いめの味付け好きだから、すっごい濃くしたんだけど」
「……舌が鈍ってるのか私ハ」
エイラの皿から一口すくって味見したルッキーニは「ウニュッ」と言って一瞬顔をしかめた。
「お前……どんな味付けしたんダヨ」
「普通の作り方だとね、もうちょっと味薄いんだよ?」
「今の私には分からない……困ったナ。でもとにかくな、ルッキーニ。
病気の時はあんまり濃い味の料理は良くないンダゾ」
「シャーリーなら大丈夫だもん。普段から濃い味好きだもん」
「そう言う問題じゃないし……私はシャーリーじゃないんダナ」
さっきまで何ともなかったみぞおちの部分が急激に重く、焼ける感じになる。
「なんか、胃が痛くなってきたゾ……うう」
青白い顔になったエイラはもぞもぞと毛布にくるまり、ぐったりとベッドの上にのびた。
「ちょっとエイラ! なんで寝ちゃうのよ! ……つまんなーい!」
うん? と目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしい。
部屋の中は、ほのかにランプが点いている以外は暗く、窓の外も闇に覆われている。
思わず寝惚けて「キョウダケダカンナー」と言いかけ、ぎくりとする。
目の前に居るのはルッキーニ。湯気たちのぼる鍋を脇のテーブルに置き、手にはスープ皿を持っている。
「なんだ、ルッキーニかヨ。何の用ダ?」
「シャーリーに食べて貰おうと思ってがんばって作ったのに、起きてくんないんだもん」
シャーリーに目を向ける。熱でうなされていた。ルッキーニに無理矢理揺さぶられたのか、妙な寝言も呟いている。
「ば、バカ。あの状態で起こす奴があるカ? ちょうど薬も効いてきて、ようやく眠って……」
「一緒に起こそう?」
「やめろっテ。氏ぬほど疲れてるんダ。そっとしといてやれヨ」
「えーっ。せっかくがんばって作ったのにィ。特製のスープ……」
指をくわえていじけるルッキーニ。
「後で起きたら、食べさせてやれよ。喜ぶゾ」
「ダメなの!」
「何がダヨ。大声出すなっテ」
「いっぱいいっぱい、おいしくなーれ、風邪なおれーっておまじない込めたんだよ?
今すぐ食べなきゃダメなのぉ!」
「だから人の話聞けヨ。病人はそっとしておかないと治りも……」
「じゃあエイラ。これエイラが食べてよ」
「何でそうなるんダ……私も病人なんだゾ一応」
うう、と呟いてベッドに倒れ込むエイラ。
数秒の沈黙。
戦闘の先読みではないが、何となく次にルッキーニがやりそうな事が分かる。
「つぅまぁんなぁ~い!」と医務室中で騒ぎ出すんだきっと。
ルッキーニの顔を見る。確かにつまらなそうな顔をしてはいたが、どこか悲しげで、
寂しさが漂っていた。
「んもう、しょうがないナァ」
エイラは重い身体を起こすと、ルッキーニと向き合った。
「おいしい?」
身を乗り出してしきりに質問するルッキーニ。
「おっ、薄味か? これは胃に優しいゾ。ちゃんと病人の事考えてるんダナ」
感心するエイラ。
「えっ? シャーリー濃いめの味付け好きだから、すっごい濃くしたんだけど」
「……舌が鈍ってるのか私ハ」
エイラの皿から一口すくって味見したルッキーニは「ウニュッ」と言って一瞬顔をしかめた。
「お前……どんな味付けしたんダヨ」
「普通の作り方だとね、もうちょっと味薄いんだよ?」
「今の私には分からない……困ったナ。でもとにかくな、ルッキーニ。
病気の時はあんまり濃い味の料理は良くないンダゾ」
「シャーリーなら大丈夫だもん。普段から濃い味好きだもん」
「そう言う問題じゃないし……私はシャーリーじゃないんダナ」
さっきまで何ともなかったみぞおちの部分が急激に重く、焼ける感じになる。
「なんか、胃が痛くなってきたゾ……うう」
青白い顔になったエイラはもぞもぞと毛布にくるまり、ぐったりとベッドの上にのびた。
「ちょっとエイラ! なんで寝ちゃうのよ! ……つまんなーい!」
195: 2008/11/21(金) 10:38:29 ID:svHYH5NL
「……あれ? ルッキーニ? お前何やってるんだこんなとこで?」
「あ! シャーリー起きた!」
ちょっとした騒ぎに気付いて上半身を起こしたシャーリーの胸にすかさず飛び込むルッキーニ。
いつもの様に顔をこすりつけて、満面の笑みを浮かべる。
「さっきね、シャーリー起こそうってエイラに言ったんだけど、エイラがダメだって言うから」
「あたし、寝てたのか……全然気付かなかったよ」
「そんでね。シャーリーのために、がんばってスープ作ったんだよ! 食べて!」
「おお、嬉しいね。ちょうど腹減ってたんだ」
「少し冷めたけど、いい?」
「ルッキーニの作ったものならなんでも」
弾ける笑顔を見せるルッキーニ。
「ジャジャーン! あたし特製、麦と香味野菜のスープ、シャーリー専用スペシャルバージョンだよ!
シャーリー元気にな~れって、おまじないいっぱい込めたんだよ?」
「楽しみだなあ。どれどれ? お、うまそうな匂い」
「たくさん食べて元気になってね!」
「ありがとう。……うん、うまい。おいしいよルッキーニ」
「ホント? うれしい!」
「わ、飛びつくなって、スープこぼれる」
「だって、エイラったら、濃すぎるとか文句ばっかり言うんだもん」
あはは、と朗らかに笑うシャーリー。
「あいつには少し合わないかもなぁ。あたしに味合わせてくれたんだろ?」
「なんでわかったの?」
「そりゃ、見て分かるし、匂いでも味でも分かるし、ルッキーニの顔見ればすぐに分かるさ」
それにさっき“あたし専用”って言ってたし、と内心呟くシャーリー。
「やったー! さすがシャーリー!」
満面の笑みを見せるルッキーニの横で、シャーリーは食欲を満たすべく、スープを無心でかきこみ、
何杯もおかわりをした。何度かスープ皿がシャーリーと鍋の間を往復した後、ルッキーニが言った。
「シャーリー、もうないよ」
「あれ、全部食べちゃったか」
「もう少し作れば良かった~。ごめんシャーリー」
「良いって。あんまし食べ過ぎても良くないし。ありがとな、ルッキーニ」
スープ皿を横のテーブルに置く。
ルッキーニはそれを見るやぴょんとベッドに飛び乗り、シャーリーに身体を預けた。
「ねえシャーリー。いつ風邪治る?」
「じきに治るさ。おいしいスープももらったし。あとは一晩も寝れば大丈夫」
「すぐ元気になれるおまじない」
ルッキーニは肩に腕を回し、少し背を伸ばすと、シャーリーのおでこにキスをした。
その後少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、シャーリーの懐に顔を埋めた。
「早く元気になって。お願い」
「ありがとう。やっぱりルッキーニは最高だ。もう元気になった」
「ホント?」
「あたしは嘘は言わないよ。ほら」
ルッキーニを両腕で抱えると、改めて自分の身体の上に乗せ、そのままそっと唇を重ねた。
ほんのりとした軽いものだったが、二人の気持ちを確かめるには十分だった。
「シャーリー、大胆~」
「もうこんだけ出来るって事さ。心配要らないよ」
「うん。シャーリー大好き」
ルッキーニはシャーリーに抱きついた。シャーリーも優しく抱き留める。
二人だけの時間が流れていく。
ずっとこうしていたいけど、このままだとシャーリー治らない。ルッキーニは軽い矛盾に戸惑いながらも、
シャーリーの落ち着いた笑顔を見て、改めて笑顔を見せた。
シャーリーも、同じ事を考えていたのか、きゅっとルッキーニを抱く力を強めた。
しかし壁に掛かる大時計はとても残酷で、刻の鐘でふたりの時の終わりを告げる。
「……あ、もうこんな時間」
「あれ、いつの間に」
「じゃ、そろそろあたし戻るね。また来るからね」
「大丈夫、明日にはあたしの方から行くよ」
ルッキーニは部屋から去る間際、シャーリーの顔を見ようと何度も振り返った。
「あ! シャーリー起きた!」
ちょっとした騒ぎに気付いて上半身を起こしたシャーリーの胸にすかさず飛び込むルッキーニ。
いつもの様に顔をこすりつけて、満面の笑みを浮かべる。
「さっきね、シャーリー起こそうってエイラに言ったんだけど、エイラがダメだって言うから」
「あたし、寝てたのか……全然気付かなかったよ」
「そんでね。シャーリーのために、がんばってスープ作ったんだよ! 食べて!」
「おお、嬉しいね。ちょうど腹減ってたんだ」
「少し冷めたけど、いい?」
「ルッキーニの作ったものならなんでも」
弾ける笑顔を見せるルッキーニ。
「ジャジャーン! あたし特製、麦と香味野菜のスープ、シャーリー専用スペシャルバージョンだよ!
シャーリー元気にな~れって、おまじないいっぱい込めたんだよ?」
「楽しみだなあ。どれどれ? お、うまそうな匂い」
「たくさん食べて元気になってね!」
「ありがとう。……うん、うまい。おいしいよルッキーニ」
「ホント? うれしい!」
「わ、飛びつくなって、スープこぼれる」
「だって、エイラったら、濃すぎるとか文句ばっかり言うんだもん」
あはは、と朗らかに笑うシャーリー。
「あいつには少し合わないかもなぁ。あたしに味合わせてくれたんだろ?」
「なんでわかったの?」
「そりゃ、見て分かるし、匂いでも味でも分かるし、ルッキーニの顔見ればすぐに分かるさ」
それにさっき“あたし専用”って言ってたし、と内心呟くシャーリー。
「やったー! さすがシャーリー!」
満面の笑みを見せるルッキーニの横で、シャーリーは食欲を満たすべく、スープを無心でかきこみ、
何杯もおかわりをした。何度かスープ皿がシャーリーと鍋の間を往復した後、ルッキーニが言った。
「シャーリー、もうないよ」
「あれ、全部食べちゃったか」
「もう少し作れば良かった~。ごめんシャーリー」
「良いって。あんまし食べ過ぎても良くないし。ありがとな、ルッキーニ」
スープ皿を横のテーブルに置く。
ルッキーニはそれを見るやぴょんとベッドに飛び乗り、シャーリーに身体を預けた。
「ねえシャーリー。いつ風邪治る?」
「じきに治るさ。おいしいスープももらったし。あとは一晩も寝れば大丈夫」
「すぐ元気になれるおまじない」
ルッキーニは肩に腕を回し、少し背を伸ばすと、シャーリーのおでこにキスをした。
その後少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、シャーリーの懐に顔を埋めた。
「早く元気になって。お願い」
「ありがとう。やっぱりルッキーニは最高だ。もう元気になった」
「ホント?」
「あたしは嘘は言わないよ。ほら」
ルッキーニを両腕で抱えると、改めて自分の身体の上に乗せ、そのままそっと唇を重ねた。
ほんのりとした軽いものだったが、二人の気持ちを確かめるには十分だった。
「シャーリー、大胆~」
「もうこんだけ出来るって事さ。心配要らないよ」
「うん。シャーリー大好き」
ルッキーニはシャーリーに抱きついた。シャーリーも優しく抱き留める。
二人だけの時間が流れていく。
ずっとこうしていたいけど、このままだとシャーリー治らない。ルッキーニは軽い矛盾に戸惑いながらも、
シャーリーの落ち着いた笑顔を見て、改めて笑顔を見せた。
シャーリーも、同じ事を考えていたのか、きゅっとルッキーニを抱く力を強めた。
しかし壁に掛かる大時計はとても残酷で、刻の鐘でふたりの時の終わりを告げる。
「……あ、もうこんな時間」
「あれ、いつの間に」
「じゃ、そろそろあたし戻るね。また来るからね」
「大丈夫、明日にはあたしの方から行くよ」
ルッキーニは部屋から去る間際、シャーリーの顔を見ようと何度も振り返った。
196: 2008/11/21(金) 10:39:18 ID:svHYH5NL
暫く経って、医務室に現れた影がひとつ。
ぴくりとも動かないエイラのベッドを見つけると、音もなくそばに寄る。様子を伺う。
「あれ、エイラ……」
返事がない。ぐったりと寝込んでいる。
隣のベッドからもそもそと起きたシャーリーがサーニャの姿をみとめ、声を掛けた。
「あー、悪い。ルッキーニが何かしたみたいでさ。エイラ氏ぬほど疲れてるんだ」
少し落胆した表情をつくるサーニャに、シャーリーは詫びを入れた。
「ごめんな」
「別に大尉が謝る事でも」
「いや、なんか、ね」
苦笑いをするシャーリー。
「お、その小鍋。もしかしてエイラに?」
うつむくサーニャ。
「優しいな。エイラ起きたらきっと喜ぶよ」
「冷めたら、美味しくなくなる」
「また温め直せば良いじゃないか」
こくりと頷くサーニャ。
「エイラが起きるまで、そばにいてあげたい」
うはー見せつけてくれるねーと内心思ったが、先程のルッキーニとの手前、
そんな事が言える筈もなく、シャーリーはベッドの横にある椅子を指した。
「まあ、立ってるのもなんだから、座りなよ」
サーニャはエイラの横にちょこんと腰掛けた。
黙ったままのサーニャに、シャーリーは問い掛けた。
「今日のスケジュールは?」
「この後、夜間哨戒」
「そっか。昨日の今日でもう夜間シフトか。きついなー。誰か援護は付かないのか?」
「私一人」
「ええっ? そりゃないよ中佐。あんなネウロイが居たって言うのに」
「他の人、まだ皆調子良くないから」
「サーニャだってヘトヘトになってたじゃないか。幾ら風邪引いてないからって酷いな」
「私が言ったの。一人でいいからって」
「なんで? また例の奴が出て来たらどうするんだ」
「この前倒したから、暫くはネウロイも出てこないから大丈夫だろうって、坂本少佐も言ってた」
「それとこれとは話が違うよ。出る出ないの問題じゃなくてさ」
「でも良いの」
そう言ったきりうつむくサーニャを見て、シャーリーは感心と呆れが混ざった表情を作った。
「いつもなら、何があっても一緒に飛ぶって奴が居るんだけどな、そこに」
言われた当の本人は起きる気配もない。
「あたしが飛べたら一緒についてやるんだけどな……さすがにちょっと今はまだきついかな」
「無理しなくて良いから」
「悪いね」
「あの」
唐突にサーニャから話を切り出されて、うん? と首を傾げるシャーリー。
「この前の戦闘……エイラを守ってくれて、ありがとう」
「サーニャは何を言ってるんだ? 守ってもらったのはあたしの方だよ」
きょとんとするサーニャに、シャーリーは言葉を続けた。
「エイラの予知能力が無ければ、あたしは今頃蜂の巣だったろうし」
「でも、大尉の速度が無ければ」
「とにかくさ、いいじゃない。みんな無事に帰ってこれてさ」
笑顔を見せるシャーリー。まだ何か言いたそうなサーニャに向かって、言った。
「エイラには貸しが有るくらいさ。ま、それも洗濯当番の交代で済むらしいけどね」
サーニャの顔が少しほころんだところを見計らって、シャーリーはベッドに潜った。
「悪いけど、少し眠いから寝るわ。エイラはそのうち起きると思う」
「ありがとう」
「じゃ、おやすみ」
シャーリーはそのまま静かになり、安らかな寝息が聞こえてきた。
サーニャはエイラの傍らで、静かに待った。
ぴくりとも動かないエイラのベッドを見つけると、音もなくそばに寄る。様子を伺う。
「あれ、エイラ……」
返事がない。ぐったりと寝込んでいる。
隣のベッドからもそもそと起きたシャーリーがサーニャの姿をみとめ、声を掛けた。
「あー、悪い。ルッキーニが何かしたみたいでさ。エイラ氏ぬほど疲れてるんだ」
少し落胆した表情をつくるサーニャに、シャーリーは詫びを入れた。
「ごめんな」
「別に大尉が謝る事でも」
「いや、なんか、ね」
苦笑いをするシャーリー。
「お、その小鍋。もしかしてエイラに?」
うつむくサーニャ。
「優しいな。エイラ起きたらきっと喜ぶよ」
「冷めたら、美味しくなくなる」
「また温め直せば良いじゃないか」
こくりと頷くサーニャ。
「エイラが起きるまで、そばにいてあげたい」
うはー見せつけてくれるねーと内心思ったが、先程のルッキーニとの手前、
そんな事が言える筈もなく、シャーリーはベッドの横にある椅子を指した。
「まあ、立ってるのもなんだから、座りなよ」
サーニャはエイラの横にちょこんと腰掛けた。
黙ったままのサーニャに、シャーリーは問い掛けた。
「今日のスケジュールは?」
「この後、夜間哨戒」
「そっか。昨日の今日でもう夜間シフトか。きついなー。誰か援護は付かないのか?」
「私一人」
「ええっ? そりゃないよ中佐。あんなネウロイが居たって言うのに」
「他の人、まだ皆調子良くないから」
「サーニャだってヘトヘトになってたじゃないか。幾ら風邪引いてないからって酷いな」
「私が言ったの。一人でいいからって」
「なんで? また例の奴が出て来たらどうするんだ」
「この前倒したから、暫くはネウロイも出てこないから大丈夫だろうって、坂本少佐も言ってた」
「それとこれとは話が違うよ。出る出ないの問題じゃなくてさ」
「でも良いの」
そう言ったきりうつむくサーニャを見て、シャーリーは感心と呆れが混ざった表情を作った。
「いつもなら、何があっても一緒に飛ぶって奴が居るんだけどな、そこに」
言われた当の本人は起きる気配もない。
「あたしが飛べたら一緒についてやるんだけどな……さすがにちょっと今はまだきついかな」
「無理しなくて良いから」
「悪いね」
「あの」
唐突にサーニャから話を切り出されて、うん? と首を傾げるシャーリー。
「この前の戦闘……エイラを守ってくれて、ありがとう」
「サーニャは何を言ってるんだ? 守ってもらったのはあたしの方だよ」
きょとんとするサーニャに、シャーリーは言葉を続けた。
「エイラの予知能力が無ければ、あたしは今頃蜂の巣だったろうし」
「でも、大尉の速度が無ければ」
「とにかくさ、いいじゃない。みんな無事に帰ってこれてさ」
笑顔を見せるシャーリー。まだ何か言いたそうなサーニャに向かって、言った。
「エイラには貸しが有るくらいさ。ま、それも洗濯当番の交代で済むらしいけどね」
サーニャの顔が少しほころんだところを見計らって、シャーリーはベッドに潜った。
「悪いけど、少し眠いから寝るわ。エイラはそのうち起きると思う」
「ありがとう」
「じゃ、おやすみ」
シャーリーはそのまま静かになり、安らかな寝息が聞こえてきた。
サーニャはエイラの傍らで、静かに待った。
197: 2008/11/21(金) 10:40:25 ID:svHYH5NL
エイラは背後に何者かの気配を感じ、振り返った。
「ぅわ、サーニャ。どうした? 具合でも悪くなったカ?」
「エイラ、それ貴方」
「う」
自然と身体が跳ね起き、上体を起こしてサーニャと向かい合う。
「顔色良くない。まだ具合悪いの?」
「具合、悪くされたンダナ……いや、何でもナイ。サーニャ、悪いけど水くれないか?」
言われるまま、ベッドの横に置かれたボトルから水をコップに注ぎ、エイラに渡す。
自然と、手と手が触れ合う。
「サーニャ、手、冷たいゾ。どうした?」
「別に……」
「心配してくれるのは……スゴク嬉しいけど、サーニャは戻った方がイイ。私の風邪がうつるゾ」
「それで、いいの」
「な、なんで?」
「芳佳ちゃんが言ってた。扶桑の言い伝えで『風邪をうつすと、うつした方はすぐ治る』って」
「そんな迷惑な治し方が有るカ!? 私は嫌だかンナ。サーニャにうつすだなんて」
「エイラ」
サーニャに真正面から見つめられる。思わずどきりとするエイラ。
「早く、元気になって欲しいの」
そっと手を重ねる。
サーニャのてのひらは小さくて、冷たくて、力もか弱くて。でもエイラには分かる。
エイラの事を、何よりも大切に思ってくれるサーニャ。痛い程に分かる。
だから、エイラはサーニャの事が心配で、守りたくて……、でも言葉はいつも向こう側に跳んでしまう。
「そそそそう言えば、私も、どっかで誰かに聞いた事が、有ル。手が冷たい人は心が暖かい人だっテ」
じっと見つめるサーニャ。エイラはしどろもどろになりながら、言葉を続けた。
「だからサーニャ、その……」
「エイラの手、暖かい」
「風邪ひいてるから当たり前なんダナ」
「じゃあ、エイラは心が冷たいの?」
「そ、そんな訳あるカ! 私は……ええっと、その、ナンダ」
言葉に詰まる。あたふたと周囲に視線を彷徨わせる姿を見て、サーニャは微笑んだ。
「おかしなエイラ」
「と、とにかく、お見舞いアリガトナ。私は寝ル」
恥ずかしくなってベッドに横になろうとしたところを、ぐい、と予想外の力で手を引かれる。
ぎくりとするエイラに向かって、サーニャはぽつりと言った。
「ここに、ボルシチあるから……食べられたら、食べて」
席を立とうとするサーニャを、今度はエイラが押し留めた。
「まま待ってクレ」
「どうしたの?」
「そ、その……」
言葉が出てこない。自分の思いとはてんで違う方向の言葉が口に出る。
「ボルシチ食べたいんダ。……もう行くのカ?」
「もうすぐ、夜間哨戒の時間だから」
「そ、そっカ……」
行かないでクレ!
心の中でエイラは叫んだ。
でもサーニャの手はするりと抜け……
鍋を持ってサーニャは医務室から姿を消した。
「ぅわ、サーニャ。どうした? 具合でも悪くなったカ?」
「エイラ、それ貴方」
「う」
自然と身体が跳ね起き、上体を起こしてサーニャと向かい合う。
「顔色良くない。まだ具合悪いの?」
「具合、悪くされたンダナ……いや、何でもナイ。サーニャ、悪いけど水くれないか?」
言われるまま、ベッドの横に置かれたボトルから水をコップに注ぎ、エイラに渡す。
自然と、手と手が触れ合う。
「サーニャ、手、冷たいゾ。どうした?」
「別に……」
「心配してくれるのは……スゴク嬉しいけど、サーニャは戻った方がイイ。私の風邪がうつるゾ」
「それで、いいの」
「な、なんで?」
「芳佳ちゃんが言ってた。扶桑の言い伝えで『風邪をうつすと、うつした方はすぐ治る』って」
「そんな迷惑な治し方が有るカ!? 私は嫌だかンナ。サーニャにうつすだなんて」
「エイラ」
サーニャに真正面から見つめられる。思わずどきりとするエイラ。
「早く、元気になって欲しいの」
そっと手を重ねる。
サーニャのてのひらは小さくて、冷たくて、力もか弱くて。でもエイラには分かる。
エイラの事を、何よりも大切に思ってくれるサーニャ。痛い程に分かる。
だから、エイラはサーニャの事が心配で、守りたくて……、でも言葉はいつも向こう側に跳んでしまう。
「そそそそう言えば、私も、どっかで誰かに聞いた事が、有ル。手が冷たい人は心が暖かい人だっテ」
じっと見つめるサーニャ。エイラはしどろもどろになりながら、言葉を続けた。
「だからサーニャ、その……」
「エイラの手、暖かい」
「風邪ひいてるから当たり前なんダナ」
「じゃあ、エイラは心が冷たいの?」
「そ、そんな訳あるカ! 私は……ええっと、その、ナンダ」
言葉に詰まる。あたふたと周囲に視線を彷徨わせる姿を見て、サーニャは微笑んだ。
「おかしなエイラ」
「と、とにかく、お見舞いアリガトナ。私は寝ル」
恥ずかしくなってベッドに横になろうとしたところを、ぐい、と予想外の力で手を引かれる。
ぎくりとするエイラに向かって、サーニャはぽつりと言った。
「ここに、ボルシチあるから……食べられたら、食べて」
席を立とうとするサーニャを、今度はエイラが押し留めた。
「まま待ってクレ」
「どうしたの?」
「そ、その……」
言葉が出てこない。自分の思いとはてんで違う方向の言葉が口に出る。
「ボルシチ食べたいんダ。……もう行くのカ?」
「もうすぐ、夜間哨戒の時間だから」
「そ、そっカ……」
行かないでクレ!
心の中でエイラは叫んだ。
でもサーニャの手はするりと抜け……
鍋を持ってサーニャは医務室から姿を消した。
198: 2008/11/21(金) 10:41:19 ID:svHYH5NL
嗚呼、と落胆するエイラ。幾ら考えても、心のつかえが取れない。じっと両手を見る。
最悪だ。せっかく来てくれたのに、何だかんだで追い払ってしまった……。
目の前が真っ暗になるエイラの傍らに、そっと湯気立ち上るスープ皿が置かれた。
驚いて振り向くエイラの横には、サーニャが立っていた。
「サーニャ? 何でここに? 夜間哨戒は?」
「お鍋温めて来たんだけど……どうかした?」
「た、頼みが有るンダ」
きょとんとするサーニャの手をそっと掴むと、エイラは、震える声、からからの喉を振り絞って、言った。
「私と、一緒に居てクレ。行かないでクレ」
言葉を聞くなり泣きそうな顔をするサーニャ。ぎくりとするエイラの傍らに腰掛け、優しく抱きしめた。
「何処にも行かないから。安心して」
「ほ、ホントカ? 良いノカ?」
「私も、エイラと一緒に居たい」
エイラは天にも召される気持ちで、サーニャを抱き返した。横でほのかに湯気を立てるスープ皿に目がいく。
「温めたのに、また冷めちゃう」
「サーニャが居てくれれば、それだけで良イ」
「それで良いなら」
「ああ、でも、食べるゾ。サーニャの作ったモノなら何でも食べるゾ」
「じゃあ、はい」
サーニャはスープ皿とスプーンを取ると一口すくってエイラの口元にそっと差し出した。
「じ、自分で食べられるから……その、……あーん」
抗しきれず、サーニャにスプーンで食べさせて貰う。嬉しさと興奮が混じり、心拍数が一気に跳ね上がる。
「お、美味しい」
「本当? 頑張って作って良かった……無理しないでね? はい、あーんして」
「あーん……」
サーニャに言われるがまま、子供みたいに口を開いたり閉じたりするエイラ。
エイラの妙に真剣で必氏なさまを見て、サーニャは微笑んだ。
「急がないで。大丈夫」
そっとタオルで口の周りを拭いてあげるサーニャ。
「ありがとナ。なんか急に元気になってきたゾ」
スープ皿の中身が空になる頃、またしても大時計が大きな鐘の音で“とき”を告げる。
「時間じゃないノカ」
「エイラのそばに居る」
「嬉しいけど……ミーナ中佐に怒られるんじゃナイカ?」
「大丈夫。もう断ってきたから」
「うぇえエ!? いつの間に?」
「エイラ、とっても悲しい顔してたから」
表情で伝わってしまってたのか、と内心汗をかく。
「でも、何て言い訳したんダ? ミーナ中佐そんな簡単にシフトの変更許可してくれたのカ?」
「『無理しないで』って言ってくれた。替わりに他の人が飛んでくれる事になったの」
「そっか。替わってくれた人に今度お礼を……」
「ペリーヌさん……」
「なんダ、ツンツンメガネか。勝手に飛ばせとこう」
「エイラ、ひどい」
言いながらも、くすりと笑うサーニャ。食器を片付けると、エイラの横に座った。
エイラが手を伸ばし今度こそ肩を抱こうかと考えあぐねているところに、ぽふっと、サーニャの身体が預けられた。
軽さと柔らかさに、自然と肩を抱き寄せる格好になる。そのまま顔が近付き、胸が合わさる。互いの名を呼ぶ。
「サーニャ」
「エイラ」
お互いの鼓動が聞こえる。吐息が頬をかすめる。瞳の奥の深い部分に、吸い込まれそうになる。
寸前まで近付いて微妙な躊躇いを見せたエイラに、サーニャは迷わず、そっと口吻を交わした。
目を閉じる。
感じるのは、唇を通した、お互いの感覚。ふたりだけの空間。
五感を通じて伝わる、お互いのキモチ。
サーニャを抱くエイラの手は、少し震えていた。風邪のせいか、心の過敏さか。
サーニャはエイラに手を重ね、指を絡ませた。震えが不思議と止まる。
いつしか、ベッドに横たわり、抱きしめ合って、何度も口吻を重ね、心を確かめ合った。
最悪だ。せっかく来てくれたのに、何だかんだで追い払ってしまった……。
目の前が真っ暗になるエイラの傍らに、そっと湯気立ち上るスープ皿が置かれた。
驚いて振り向くエイラの横には、サーニャが立っていた。
「サーニャ? 何でここに? 夜間哨戒は?」
「お鍋温めて来たんだけど……どうかした?」
「た、頼みが有るンダ」
きょとんとするサーニャの手をそっと掴むと、エイラは、震える声、からからの喉を振り絞って、言った。
「私と、一緒に居てクレ。行かないでクレ」
言葉を聞くなり泣きそうな顔をするサーニャ。ぎくりとするエイラの傍らに腰掛け、優しく抱きしめた。
「何処にも行かないから。安心して」
「ほ、ホントカ? 良いノカ?」
「私も、エイラと一緒に居たい」
エイラは天にも召される気持ちで、サーニャを抱き返した。横でほのかに湯気を立てるスープ皿に目がいく。
「温めたのに、また冷めちゃう」
「サーニャが居てくれれば、それだけで良イ」
「それで良いなら」
「ああ、でも、食べるゾ。サーニャの作ったモノなら何でも食べるゾ」
「じゃあ、はい」
サーニャはスープ皿とスプーンを取ると一口すくってエイラの口元にそっと差し出した。
「じ、自分で食べられるから……その、……あーん」
抗しきれず、サーニャにスプーンで食べさせて貰う。嬉しさと興奮が混じり、心拍数が一気に跳ね上がる。
「お、美味しい」
「本当? 頑張って作って良かった……無理しないでね? はい、あーんして」
「あーん……」
サーニャに言われるがまま、子供みたいに口を開いたり閉じたりするエイラ。
エイラの妙に真剣で必氏なさまを見て、サーニャは微笑んだ。
「急がないで。大丈夫」
そっとタオルで口の周りを拭いてあげるサーニャ。
「ありがとナ。なんか急に元気になってきたゾ」
スープ皿の中身が空になる頃、またしても大時計が大きな鐘の音で“とき”を告げる。
「時間じゃないノカ」
「エイラのそばに居る」
「嬉しいけど……ミーナ中佐に怒られるんじゃナイカ?」
「大丈夫。もう断ってきたから」
「うぇえエ!? いつの間に?」
「エイラ、とっても悲しい顔してたから」
表情で伝わってしまってたのか、と内心汗をかく。
「でも、何て言い訳したんダ? ミーナ中佐そんな簡単にシフトの変更許可してくれたのカ?」
「『無理しないで』って言ってくれた。替わりに他の人が飛んでくれる事になったの」
「そっか。替わってくれた人に今度お礼を……」
「ペリーヌさん……」
「なんダ、ツンツンメガネか。勝手に飛ばせとこう」
「エイラ、ひどい」
言いながらも、くすりと笑うサーニャ。食器を片付けると、エイラの横に座った。
エイラが手を伸ばし今度こそ肩を抱こうかと考えあぐねているところに、ぽふっと、サーニャの身体が預けられた。
軽さと柔らかさに、自然と肩を抱き寄せる格好になる。そのまま顔が近付き、胸が合わさる。互いの名を呼ぶ。
「サーニャ」
「エイラ」
お互いの鼓動が聞こえる。吐息が頬をかすめる。瞳の奥の深い部分に、吸い込まれそうになる。
寸前まで近付いて微妙な躊躇いを見せたエイラに、サーニャは迷わず、そっと口吻を交わした。
目を閉じる。
感じるのは、唇を通した、お互いの感覚。ふたりだけの空間。
五感を通じて伝わる、お互いのキモチ。
サーニャを抱くエイラの手は、少し震えていた。風邪のせいか、心の過敏さか。
サーニャはエイラに手を重ね、指を絡ませた。震えが不思議と止まる。
いつしか、ベッドに横たわり、抱きしめ合って、何度も口吻を重ね、心を確かめ合った。
199: 2008/11/21(金) 10:42:41 ID:svHYH5NL
夜明け前。
台所でひとり片付けをするサーニャ。
誰が先にやったのか、鍋がぞんざいにシンクに放り込まれ油まみれになっていた。
ルッキーニちゃんかな、と推測するサーニャ。鍋からほのかに漂う残り香は、ロマーニャの家庭料理を連想させる。
鍋と皿を綺麗に洗って、脇の棚に乾かす。ついでにもうひとつ片付けてしまおう。
きっと大尉も、ルッキーニちゃんの料理を食べて笑顔になったに違いない。
そしてきっと、二人ともすぐ元気になる。またみんなで空を飛ぼう。
そんな事を考えると、鍋洗いも楽しくなる。
「あらサーニャさん、早いのね」
ミーナだった。
美緒の朝は早い事で有名だが、ミーナも起床は早い方だ。たまに一緒のタイミングで姿を現す事もある。
慌てて返事をするつもりが、小さくくしゃみをしてしまう。
「あらあら。気を付けた方がいいわよ。みんな風邪ひいてるから、うつされない様にね?」
優しい笑顔で忠告をくれるミーナに、サーニャははにかんだ笑みを見せた。
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またまた長いのをすいません。
ご期待にこたえられたかどうかは解りませんorz
甘々のカプは難しいですね(滝汗
また勉強してまいります。たびたびのスレ汚し失礼しました。
台所でひとり片付けをするサーニャ。
誰が先にやったのか、鍋がぞんざいにシンクに放り込まれ油まみれになっていた。
ルッキーニちゃんかな、と推測するサーニャ。鍋からほのかに漂う残り香は、ロマーニャの家庭料理を連想させる。
鍋と皿を綺麗に洗って、脇の棚に乾かす。ついでにもうひとつ片付けてしまおう。
きっと大尉も、ルッキーニちゃんの料理を食べて笑顔になったに違いない。
そしてきっと、二人ともすぐ元気になる。またみんなで空を飛ぼう。
そんな事を考えると、鍋洗いも楽しくなる。
「あらサーニャさん、早いのね」
ミーナだった。
美緒の朝は早い事で有名だが、ミーナも起床は早い方だ。たまに一緒のタイミングで姿を現す事もある。
慌てて返事をするつもりが、小さくくしゃみをしてしまう。
「あらあら。気を付けた方がいいわよ。みんな風邪ひいてるから、うつされない様にね?」
優しい笑顔で忠告をくれるミーナに、サーニャははにかんだ笑みを見せた。
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またまた長いのをすいません。
ご期待にこたえられたかどうかは解りませんorz
甘々のカプは難しいですね(滝汗
また勉強してまいります。たびたびのスレ汚し失礼しました。
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