299: 2018/04/26(木) 19:01:33.03 ID:39X8SGGB0
少し空いてしまいましたが投下します
照「京ちゃんなんて知らない」京太郎「」【前編】


301: 2018/04/26(木) 19:04:33.78 ID:39X8SGGB0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
尭深「…お茶だよ」コトン

京太郎「ありがとうございます」

誠子「お疲れ様です、部長」

菫「ああ、…やっとひと息つけるよ」ノビー

照「……」モキュモキュ

淡「あっ、テルー美味しそうなの食べてる!」

尭深「淡ちゃんの分もあるよ」

淡「食べる!」

菫「……ほどほどにな」

京太郎「…先輩お疲れですね」

菫「そう見える?……まあ、そうだな」

菫「先輩たちの偉大さを噛み締めてるよ」フッ

咲-Saki- 25巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
302: 2018/04/26(木) 19:08:36.93 ID:39X8SGGB0


菫「さっきの繰り返しになるが…第一部室、そしてチーム虎姫へ二人ともようこそ」

菫「各自面識もあるようだし…自己紹介は省略しよう」

京太郎「先輩、昇格は嬉しいんですけど」

菫「なんだ?」

京太郎「俺なんかがここにいてもいいんでしょうか?全国目指すチームなのに、しかも一人男子で」

菫「…その説明を今からしようとしていたんだが」

京太郎「す、すみません」

菫「須賀君は自己評価が低すぎる。謙虚は美徳だが…行きすぎると卑屈に見える」

淡「やーい怒られてやんのー」

京太郎「うるせえ」

菫「淡はもう少し謙虚に、うーん……そうだな、自慢気になるのをもう少し抑えた方がいい」

淡「えー」

京太郎「やーい怒られてやんの」

淡「ふん!」

誠子(仲良いなこいつら)

303: 2018/04/26(木) 19:25:29.28 ID:39X8SGGB0


菫「だいいち、君の身柄を虎姫預かりにするのは私の発案だ」

京太郎「部長の…ですか?」

菫「そう、入部の時にも話しただろう?」


京太郎「……ああっ!?もしかしなくてもこいつのことですか?」

淡「私がどーかしたの」

京太郎「いや、淡の世話役だか操縦役だか欲しいとかなんとか」

淡「えっ!きょーたろーお世話してくれるの!?お菓子作ってよお菓子」

照「…その話、詳しく」ズイッ

菫「わかりやすい食いつき方をするな!話が本題から逸れるだろう」

照「…後で聞く」シレッ

菫「こいつ…」

304: 2018/04/26(木) 20:20:16.36 ID:39X8SGGB0


菫「…まあ、淡のブレーキ役として買った面もなくはない」

京太郎「マジっすか…」

誠子「…それ冗談じゃなかったんですね」

菫「…当たり前だがメインはそっちじゃないから安心してく、れ……」



淡「それでねー、いつか作ってきてくれるって!きっとリッパなやつ!」

照「どんなの作れるんだろう。リクエストできるかな」ウズウズ


尭深「……」ズズズッ

尭深「ふぅ」



誠子「…まあ、こんな感じだから」

京太郎「…お察しします」

菫「……」

305: 2018/04/26(木) 20:28:38.74 ID:39X8SGGB0

菫「淡、照……『後で話す』と言ってなかったか」ゴゴゴ

菫「その話は私のする話より大事だってことだな」ゴゴゴ

照「…失礼しました」

淡「あわっ…はーいごめんなさーい」

菫「まったく…」



菫「話を戻すぞ」

306: 2018/04/26(木) 20:38:42.57 ID:39X8SGGB0

菫「須賀君には、うちのチームに帯同してもらうつもりにしている」

淡「たいどう…?マネージャーってこと?」

菫「…もちろんそういう仕事をしてもらうこともあるかもしれないが、幸いうちの部員は多いからな。そういうことじゃない」


菫「須賀君には個人戦での出場を目指してほしい。あの時そう伝えた」

菫「まだ校内代表すら決まってないわけだけれど…わたしはこのチームで全国に、そして頂点まで届くと信じている」

菫「だから須賀君にとっても、ここが最善の練習場所だと思ってね」

京太郎「先輩…」

307: 2018/04/26(木) 20:57:03.04 ID:39X8SGGB0


誠子「要は全国狙えるレベルと判断されたってことだよ、少年」

菫「…実力がまだ伴ってないようなら下でもう少し磨いて、秋以降頑張ってもらうつもりだった」

菫「もし大会に参加することになれば、もちろん私たちと共に行動する機会も増える。前々から連帯感を持てるよう、できれば普段から一緒に練習しておきたい」

菫「ただ私たちもインターハイ制覇を目指して必氏になってやっているから…練習の質を下げるわけにはいかない」

菫「けれどそんな心配は無用だったようだ……私たちは君の実力と将来性を買って、君をぜひチーム虎姫に迎え入れたいと考えた」

菫「私たちと一緒に目指そう、全国を」

京太郎「…はい!どうぞよろしくお願いします!」ペコリ

308: 2018/04/26(木) 21:15:23.11 ID:39X8SGGB0



淡「ねえねえ、私には何かないの?」ウニョウニョ

菫「あー、そうだな……」

淡「……」キラキラ

菫「お前の実力は今までも見せられてきたわけだが…」

菫「この部内でもずば抜けている、と思う。白糸台がトップに居続けるために……淡が必要だ」

菫「あまり言うと調子に乗るからこれくらいにしておくが」

淡「えー、そんなことないよー」ムフー

尭深「二人とも、よろしくね」

照「……よろしく」




310: 2018/04/26(木) 23:16:58.63 ID:39X8SGGB0


菫「この後はチームごとの時間になっているから…早速打とうか」

淡「はいはーい!私打ちたーい!」

京太郎「…俺も、俺も打ちます!」

菫「じゃあまずは一年と二年で。終わったらじっくり牌譜検討しよう」

「「「「はーい」」」」





1位 淡 2位 誠子 3位 尭深 4位 京太郎

淡「やった!」

京太郎「あぁ…なんてことだ…なんてことだ…」チーン

尭深「出遅れちゃったのが痛かったなぁ」ズズッ

誠子「その…須賀も悪くなかったと思うよ?鋭い早仕掛けとか。和了れなかったけどさ」

京太郎「そうなんすよね…和了れてればね…」ズーン

312: 2018/04/27(金) 00:02:12.41 ID:gcaStWGo0

照「お疲れ様」

菫「淡がトップか…さすが、と言っておこう」

淡「えへへ…」

菫「ただ捨て牌、手作りや押し引き、まだまだ甘い部分も多い」

淡「えー」

菫「…淡は感覚派だろうからな…実践できるかはともかく、その辺り注意して見てみよう」


菫「須賀君も悪くはない。点も大きく引き離されたわけじゃないし直撃も小さいのを一発だけ」

京太郎「…喜んで打ち始めたわりに緊張してました」

菫「…そういう要素もあるかもしれない」

菫「ちょっと受け身過ぎたんじゃないか?この局に関しては」

菫「まあ一つの結果にこだわり過ぎないこと。今までもそうしてきたように長い目で見ていくように」

京太郎「わかりました」

菫「じゃあ一局目から順にやっていこうか。親は尭深……」




318: 2018/05/02(水) 21:41:41.33 ID:nzaZ/Zxl0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








菫「飲み物は何がいい?」

照「…カフェオレとか。ある?」

菫「奇遇だな、私もちょうど飲みたかった」


コトン サッー


照「氷は二つ」

菫「わかった」

トプトプトプ
カラン カラン


319: 2018/05/02(水) 21:45:25.90 ID:nzaZ/Zxl0



照「菫」

菫「どうした?」

照「合宿お疲れ様」

菫「まだ明日があるじゃないか」

照「…明日は締めの挨拶するだけで、あとは普通の練習なんでしょ?」

菫「まあそうだけど」


照「だからとりあえず、お疲れ様」

320: 2018/05/02(水) 21:48:57.19 ID:nzaZ/Zxl0


菫「……お互い様だろう」フイッ

照「……」

照「…私にはできない仕事を菫はたくさんやってくれてる」

照「ちゃんと知ってるから」

菫「……そう」

菫「ほら、ご注文の品だ」コトン

照「……」

照「…ありがとう、菫」

菫「…うん」


321: 2018/05/02(水) 22:12:22.26 ID:nzaZ/Zxl0


照「それで」

照「なにか話があるんだよね」

菫「まあ、な」





菫「…単刀直入に言おう。須賀君のことだ」

照「……」チュー


菫「もう少し正確に言うと、お前と須賀君の関係のことだ」

322: 2018/05/02(水) 22:15:11.46 ID:nzaZ/Zxl0

照「……」

照「…いつ気づいたの?」

菫「別に確証があったわけじゃないが。合宿初日に彼と鉢合わせただろう?」

照「…うん」

菫「…初対面にしては、お前は妙にサバサバしていた。私の時とは違って愛想笑いもない」

菫「そこに少し違和感があった…まるでよく見知った相手、今の私や、虎姫のメンバーに接するのと同じような空気だった」

照「……」

323: 2018/05/02(水) 22:16:51.56 ID:nzaZ/Zxl0


菫「男子だからかと思ったが…今まで照が男性に対して態度が違うなどとは聞いたことないし自分も見たことない」

菫「苦手なら真っ先に駆けつけて看護したりしないだろうしな」


菫「それに…須賀君は長野出身だと、聞いた」

照「……そっか」

照「それなら菫にしかわからないね」

菫「照…」

324: 2018/05/02(水) 22:39:01.84 ID:nzaZ/Zxl0



照「菫には、早いうちに説明するつもりだった」

照「ごめんなさい」

菫「…こちらこそ詮索したようですまない」

照「構わない。菫は善意でやってるって、知ってるから」

菫「しかし……」



コンコン



照「…誰か呼んでたの」

菫「…ああ。当事者だ」


菫「…開いてるよ!」



京太郎「失礼しまーす」

325: 2018/05/02(水) 22:49:32.95 ID:nzaZ/Zxl0

照「……」

京太郎「と……あれ、まだお二人ですか」

菫「…ああ、これで全員だ」

京太郎「え?虎姫の今後の打ち合わせをするからって先輩」

菫「……すまない、少し嘘ついた」

京太郎「……そうですか」

菫「照」

照「…大丈夫。続けよう」

菫「…わかった」

菫「須賀君、騙したようで申し訳ないが、君に害を及ぼそうとかそんな気はない」

京太郎「もちろんそんなこと思いませんよ」アセアセ

菫「まあとにかく座ってくれ。照の隣に頼む」

菫「飲み物は?」

京太郎「先輩そんな…俺別になくても」

菫「いいから。詫びだと思って」

京太郎「…じゃあ、コーヒーなんかあれば」

菫「インスタントでいい?」

京太郎「はい、ありがとうございます」

326: 2018/05/02(水) 22:57:14.70 ID:nzaZ/Zxl0

京太郎「…宮永先輩、隣失礼します」ストン


照「……そんなに呼びにくい?“宮永先輩”って」


京太郎「…え?」

照「…そういうところは隠せないんだね」

京太郎「ちょっ、急に何言って…部長に聞こえますって」ボソボソッ



菫「…あー、悪いな須賀君、その件で君にわざわざ来てもらったんだ」

京太郎「え」

照「……心配しなくていい。私から話したようなものだから」

京太郎「あっそう、…え?そ、そうですか…」

菫「まあ一杯飲んで落ち着いて…何か入れる?」コトン

京太郎「…ブラックでいいです。ありがとうございます」



照「……」ジーッ

京太郎「…俺の顔に何かついてますか?」

照「ううん、何でもない」フイッ

照(ブラック……飲めるんだ)

328: 2018/05/02(水) 23:03:38.56 ID:nzaZ/Zxl0




菫「さて…どこから話そうか」

京太郎「えっと……部長は、どこまで知ってるんですか」

菫「私に分かるのは……照がもともと君と顔見知りだということ」

菫「…照には妹がいるということ」

京太郎「!」

菫「それくらいだ」


照「……」

京太郎「そう、ですか……」

329: 2018/05/02(水) 23:29:47.41 ID:nzaZ/Zxl0

菫「……須賀君の口からも一応聞いておきたい」

京太郎「…いいんですね」チラッ

照「……」コクン

京太郎「えっと…俺と先輩…照さんは、照さんが長野にいた頃の幼馴染で」

京太郎「俺と照さん、照さんの……妹の咲と三人でよく麻雀を打ってました」

京太郎「もっと言えば…俺が麻雀を教わったのは照さんからです」

菫「…なるほど」


菫「それで」

京太郎「…ある日、照さんは俺たちの前からいなくなりました」

照「……」

京太郎「大まかな事情は子どもながらに聞かされました。全ては理解も納得もできませんでしたけど」

菫「…だろうな」

330: 2018/05/03(木) 00:31:47.80 ID:esxLwc/W0


菫「…すまない」

菫「他人の私が本来入るべき話ではないんだが…二人にわだかまりがあってはいけないと思ったんだ」

菫「お互いに一歩引いてるような、そんな気がしてな」

京太郎「俺は…」

照「…他人のふりをしてって私が言った」

京太郎「照さん…」

菫「……」

照「名前呼びもしないように私がお願いした」

菫「…それで須賀君は」

京太郎「照さんには何か考えがあったんだと思ってました」

京太郎「部のエースともともと知り合いだってわかったら、俺が色眼鏡で見られるかもしれない」

照「……」

京太郎「もちろん白糸台のみんながそんなことする人たちだなんて、思ってませんよ?」

京太郎「でも俺は…お陰で変な重荷を背負わずに、ここまで来れたんだと思います」

菫「須賀君…」

331: 2018/05/03(木) 00:34:11.53 ID:esxLwc/W0


菫「…照の妹さんのことは、私しか知らない」

照「…菫にしか、言ってない」

京太郎「……」

菫「…須賀君のことを伏せていたのも、……そうなんだろう?」

照「……」コクン

菫「だから……君ら二人の過去は、変わらず他の部員には秘密にしておきたい。違うか?」

照「…よくわかるね」

菫「…まあな」


332: 2018/05/03(木) 00:35:33.28 ID:esxLwc/W0


菫「須賀君は」

京太郎「照さんがそうしたいというなら、俺は構いません」

京太郎「伏せてて困ることでもないですし」ハハッ

照「……」

菫「……そうか」


菫(君ならそう言うと思っていた…)

菫(そう期待していた私が思うのもおかしな話だが、須賀君はそれでいいのか?)

菫(……そんなこと、照の前で言えるわけがない)


333: 2018/05/03(木) 00:37:14.70 ID:esxLwc/W0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『…照の妹さんのことは…私しか知らない』

京太郎(…寝つけない)ゴロン

京太郎(弘世先輩が事情を知っていたのは…半分驚き、半分納得…かな)

京太郎(……つまり照さんも、咲のことが気にかかってないわけじゃない、ということ)

京太郎(少し…少しだけれど光明が見えた気がする)

京太郎(照さんから話したかどうかはこの際問題じゃない。部長はよく気がつく…人をよく見てる人だ)

京太郎(……照さんのこと、部長とも一度サシで話さないとな)

京太郎(きっと、…きっと助けになってくれる)

京太郎(……)ゴロン

京太郎(照さん、あなたは……)

339: 2018/05/06(日) 23:06:58.11 ID:oaJzdMfi0

===============================






京太郎『さきー!あそぼーぜ!』

咲『ちょ、ちょっとまって…このおはなしよみおわったら』

京太郎『また本ばっかりよんでる…へんなの』

咲『女の子にそんなこというなんてしつれいだよ』


咲『そうだ、京ちゃんにいいわすれてた』パタン

京太郎『えっ、なに?』

咲『こんどうちにあそびにきてよ』

京太郎『ほんと!?』

咲『いつも京ちゃんちによばれてるっていったら、『たまにはうちにきてもらいなさい』って、お姉ちゃんが』

京太郎『お姉ちゃん?さき姉ちゃんいるの?何年生?』

咲『三年生だよ。京ちゃんは、…そっか一人っ子だったっけ』


341: 2018/05/06(日) 23:17:17.74 ID:oaJzdMfi0


京太郎『あのさあのさ、姉ちゃんってどんなかんじ?こわい?』

咲『ううん、ぜんぜん』

咲『えっと…やさしくて、かわいくて、あと麻雀がつよい』

京太郎『まーじゃん?って、あのマージャン?さきもマージャンできるの?』

咲『うん、うちの家族はみんなでよくするんだよ』

京太郎『へー、さきすごいな!』キラキラ

咲『京ちゃんちかいよ…』





342: 2018/05/06(日) 23:27:31.02 ID:oaJzdMfi0







京太郎『おそくなった!』ガッサガッサ

咲『だいじょうぶだよ。なに持ってきたの?』

京太郎『さきんちにいくっていったら、うちのおかあさんがもっていけって』

咲『京ちゃんちのお母さんやさしいもんね』

京太郎『え、でもおこったらこわいよ』

咲『ふつうそうなんじゃないかな…たぶん』

京太郎『たぶん?』

咲『…なんでもないよ』


343: 2018/05/06(日) 23:37:25.46 ID:oaJzdMfi0



咲『…京ちゃん』

京太郎『なに?』

咲『…お姉ちゃん、おこってるわけじゃないから』

京太郎『え?どういうこと?』

咲『会えばわかるよ。ただいまー』ガチャ

京太郎『え?え?』



咲『どうぞあがって』

京太郎『…お、おじゃまします!』

咲『こっちだよ』トコトコ


344: 2018/05/06(日) 23:47:37.11 ID:oaJzdMfi0


照『……』テクテク



京太郎(…あれが咲の姉ちゃん、かな?)

照『おかえり、友達連れてき…た…』

照『……』ゴゴゴゴ
※京太郎目線

京太郎(ひぃっ!)


京太郎(まって!ぜんぜんわらわないでこっちじっと見てる!)

345: 2018/05/06(日) 23:52:03.33 ID:oaJzdMfi0


照『咲、ちょっとこっち』チョイチョイ

咲『はーい…あ、座っててね京ちゃん』テクテク

京太郎『う、うん』

ガチャ バタン


京太郎『…はぁ』

京太郎(こわくないっていってたのに!めちゃめちゃこわいんだけど!)

京太郎(でもおこってるわけじゃないって、さきはいってた)

京太郎(うーん…)


346: 2018/05/06(日) 23:58:11.15 ID:oaJzdMfi0


照『咲に確認です』

咲『なぁに?』

照『確かにお友達の京ちゃんを家に呼ぶ、って言ってました』

咲『うん』

照『…男の子だなんて、聞いてないんだけど』ジトー

咲『あれ?えっと…えっ、あっ、言って…なかった、かも』

照『…きょうちゃんきょうちゃんって言うから、きょうこちゃんかきょうかちゃんか悩んだのに』

咲『…ごめんなさい』

照『…別にいいんだけどね』ポンポン

咲『ほんと?』

照『…私の心の準備ができなかっただけ、もう大丈夫だから』

照『行こうか。京ちゃん待たせてるしね』

咲『うん!』


347: 2018/05/07(月) 00:13:41.98 ID:iUM0sAxh0



ガチャ テクテク


照『ごめんね、挨拶もしないで』

京太郎『だ、だいじょうぶです…』

照『いつもうちの咲がお世話になってます』ペコリ

京太郎『こ、これ…つ、つまらないものですがどうぞ』

咲『なになに』ヒョコッ

照『咲、お行儀が悪いよ』メッ

京太郎『みんなで食べてって、うちのかあさんが』ガサッ

照『プリンだ!』ガタッ

京太郎『!』ビクッ

京太郎(すごい、目がギラギラしてる)

咲『お姉ちゃん、おぎょうぎわるいよ…』


348: 2018/05/07(月) 00:17:39.95 ID:iUM0sAxh0


照『……はっ、いけない』

照『まだ自己紹介してなかったね』

照『咲のお姉ちゃんの、宮永照です。よろしく』

京太郎『ぼ、ぼくはすがきょうたろうといいます!よろしくおねがいします!』ペコリ

照『…ふーん、きょうたろうできょうちゃん、か』

京太郎『え…ぼくの名前…?』

照『知ってるよ。咲と遊んでくれてる京ちゃんのことは』

照『咲がいっつも京ちゃんの話してるから』

咲『もう!そんないっつもじゃないよ!』


349: 2018/05/07(月) 01:29:21.34 ID:iUM0sAxh0



照『そんな京ちゃんにお礼。……麻雀、やってみたいんだってね』

京太郎『…うん!やりたい!』

照『いい返事。ルールを覚えるのが少し大変だけど…』

照『とりあえず簡単なところだけ教えてあげる。そのあと三人で打ってみようか』

京太郎『やった!』






咲『このボタンをおすとね』

カチャン スッ

京太郎『すごい!きれいにならんでる』

照『全自動卓っていうの。ちょっと難しいけど』

355: 2018/05/08(火) 01:02:45.69 ID:ybyK8Ltp0


照『最初は牌をオープンにしてやってみよう。絵柄がみんなに見えるように倒して』

京太郎『こう?』

照『そう。そして理牌…自分がわかるように順番を入れ替えて』

咲『同じしゅるいのをまとめるといいよ、京ちゃん』

京太郎『…できた!』

照『じゃあ説明しながら打っていこう。まずは……』





京太郎『え、えっと、ロン!』

照『そうだね。私がいま出したのが京ちゃんの当たり牌。点数はどうかな?』

京太郎『えっと…リーチで1、タンヤオで1、あとは…うーん』

咲『平和もついてるよ』

照『平和は最初は分かりづらいよね……京ちゃんの手は3900点だね』

京太郎『…すごい、そんなすぐにわかるんだ』

咲『たくさんやってるからね』フフン

照『京ちゃんもたくさん打ったらすぐにわかるようになるよ』

356: 2018/05/08(火) 01:09:35.85 ID:ybyK8Ltp0



照『じゃあ次は普通通りに、牌も立てて』

照『…いつもどんな風にやってるか、ちょっとだけ見せてあげる。咲もお願い』

咲『…わかった!』ゴッ

京太郎『……?』

京太郎(いまなんか、さきが……気のせいかな)



咲『カン!』

照『……ポン』

京太郎『……これ』タンッ

照『ロン。タンヤオのみ、1000点』パタッ

咲『お姉ちゃん早いよ…』

照『咲の手が進んでたからね』

照『それより……』チラッ

京太郎『…え、ぼくなにか』

照『…なんでもない。次行こうか』

357: 2018/05/08(火) 01:12:11.21 ID:ybyK8Ltp0






咲『……』チラッ

照『……』タンッ

京太郎『ポン!』

照『…いい鳴きだね。ちょっとわかってきたかな』

照『けど』

京太郎『?』

咲『…カン!』

咲『カン!…もいっこカン!』

京太郎『…!』

咲『ツモ…嶺上開花、三暗刻三槓子で6000オール!』

照『…まあこうなっちゃうんだけど。あと咲、三麻だから9000オールだね』

京太郎『……』


358: 2018/05/08(火) 01:20:11.02 ID:ybyK8Ltp0

咲『……京ちゃん』

京太郎『……す』

照『す?』

京太郎『すっごい!』ガタッ

咲『え』

京太郎『なにいまの!りんしゃんかいほー?っいうの?めっちゃかっこいい!』キラキラ

咲『おちついて、おちついてよ京ちゃん…』





359: 2018/05/08(火) 01:42:53.50 ID:ybyK8Ltp0

照『…どう、だった?』

京太郎『すっごいたのしかった、です!』

咲『わたしも京ちゃんと麻雀できて楽しかった!』

照『咲はあとでちょっとお話し。……それでね京ちゃん』

照『もっと麻雀できるようになりたい?』

京太郎『なりたい!』

照『…それならまたうちに来て。よかったら私と麻雀の特訓しよう』

京太郎『とっくん?……なんかかっこいい!』

咲『とっくん?どういうこと?』

360: 2018/05/08(火) 01:47:47.58 ID:ybyK8Ltp0



照『京ちゃんと打ってみてわかった。京ちゃんはもっとずっと強くなれる』

照『さっき咲が本気出した時、少し変な感じがしなかった?』

京太郎『うーん、なんか……ちょっとゾクっとした』

咲『』ガーン


照『そう。…それが京ちゃんの力。今日は詳しく言わないけど…』

照『でもまだ京ちゃんも本気を出せてない。それに麻雀に詳しくなれば、もっと…』


361: 2018/05/08(火) 01:49:51.89 ID:ybyK8Ltp0

京太郎『じゃあ、さきのお姉ちゃんが麻雀のせんせーしてくれるってこと?』

照『うん。京ちゃんがやりたいならだけど』

京太郎『…みやなが先生って、よんだほうがいいですか?』

咲『わたしもみやながだよ』

京太郎『そっか…じゃあ、てる先生』

照『うーん、先生っていうのはちょっと、なんか』


京太郎『じゃあ、……てるさん!てるさんってよんでもいい?』

照『…ちゃん付けでいいんだけどな』


照『でもいいよ。わたしは宮永照、照さんだよ、京ちゃん』

370: 2018/05/19(土) 23:53:52.95 ID:vZxFid0j0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

照『卓についたら、そっと目を閉じる』

京太郎『……』ギュッ

照『“今から麻雀を打つんだ”って頭の中で繰り返す』

照『そして目を開けて』

京太郎『……』カッ

照『意識を卓にグッと押し付ける』

京太郎『……?』

照『……例えば、京ちゃんが卓に寝転んでいるのを想像して』

照『そこから体を溶かしていって、卓にそのまま溶け込んでいくの』

京太郎『……』

照『……』

京太郎『……むずかしい』

照『……ごめん、私もたとえが悪いと思う』

371: 2018/05/19(土) 23:55:36.12 ID:vZxFid0j0




京太郎『さきはどうやってカンできるようになったの?』ゴクゴク

咲『うーん……気がついたらわかるようになってたし、ふつうだと思ってたから…』

京太郎『そっか…』

京太郎『相手の力がなんとなくわかるようになるって、てるさん』

照『はむっ……そう。私の“鏡”に似ている』

京太郎『てるさんのかがみ?はさいしょからあったんですか?』

照『…どうなんだろう。気がついたら私の中にあった』

372: 2018/05/20(日) 00:01:17.42 ID:ytWb/FWu0


照『京ちゃんの中でその力がどんな形になるのか、それはまだわからない』モックモック

照『何がきっかけになるのかも…ただ京ちゃんがそれを理解しようとする、わかろうとするのが大切』

京太郎『りかい…』

照『すこし難しい話をするけど、他の人のことをわかろうとするとき、自分と比べて考えるのはよくあること』

咲『…お姉ちゃんはごはん食べたあとでもおやつをペロッて食べちゃう。わたしはおなかいっぱいじゃ食べられないから、お姉ちゃんは本当にあまいものすきなんだなぁって』

照『……コホン。だから自分にそういう力があることをまず信じること』

京太郎『?てるさんが見てくれたんだからあるんだよね?』

照『ああ、……うん、それならいいの』

373: 2018/05/20(日) 00:03:50.59 ID:ytWb/FWu0


照『あとは……咲じゃないけど、それが普通だと思うこと』

照『あって当然だと自分に思い込ませる。そうすればいつかすっと出てくる…と思う』ハムハム

京太郎『…目をつぶったりあけたりするのはどうしてですか?』

照『あれは今から力を使う、そのとっかかりを作るというか、おまじないみたいなもの』

照『だから京ちゃんにぴったりかどうかはわからない。……ごめんね』

京太郎『れんしゅう…してみます』

374: 2018/05/20(日) 00:05:54.17 ID:ytWb/FWu0


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




照『麻雀のゲーム。そんなのがあるんだ』

京太郎『お父さんに麻雀のれんしゅうしてるって言ったら教えてくれて。家ではそれでべんきょうしてます』

咲『…京ちゃんパソコン使えるの!?』

京太郎『う、うん…そんなにおかしいかな』

咲『だ、だって…変にさわったらピーピー鳴ったり、ばくはつしたりしない?』

京太郎『しないよ…咲は本の読みすぎ。だれでもつかえるよ』

照『……そうなんだ』ボソッ

京太郎『え?』

照『なんでもない』キリッ

375: 2018/05/20(日) 00:08:48.62 ID:ytWb/FWu0






照『そろそろ休憩しようか』パタッ

咲『おやつ持ってくるね』トテトテ

京太郎『ふぅ…』

照『お疲れ様、京ちゃん』

京太郎『うん、つかれた…』



照『……頑張ってるね、京ちゃん』

京太郎『?』

照『まだ始めて三ヶ月くらいだけど、ルールも用語もわかるようになってる』

照『さっきの待ちの問題も点数計算もすぐ答えられるようになったし』

照『偉いなあって』

京太郎『…そうかな』

照『そうだよ』

376: 2018/05/20(日) 00:16:46.60 ID:ytWb/FWu0



京太郎『だって…ちゃんと打ちたいし』

京太郎『てるさんと、さきといっしょに』

照『…そっか』

照『……』ナデナデ

京太郎『わわっ……どうしてなでるの』

照『……偉いなあって、思っただけ』

京太郎『もう、そればっかり』

バタン

咲『あー、お姉ちゃんが京ちゃんを子どもあつかいしてる』

京太郎『そんなんじゃない!』

照『……』フッ

383: 2018/05/25(金) 23:56:00.05 ID:bwR2rCE90


======================





カランカラン

イラッシャイマセ




京太郎「すみません、お待たせして」

菫「気にしないでくれ。早く来たくて来てるんだから」

菫「遠くまで来てもらってむしろ申し訳ないくらいだよ」

京太郎「いえそんな。……喫茶店なんて初めて来たかも」

菫「いい雰囲気の店だろう?少し遠いのが玉に瑕だが」

384: 2018/05/25(金) 23:57:59.97 ID:bwR2rCE90



菫「さあ、メニューはこっち。好きなのを注文してくれ」

京太郎「いいんですか?自分の分は出しますよ」

菫「気にしないで、昇格祝いとでも思って」

京太郎「…ありがとうございます」

菫「いろいろあるよ。この『カツカレー 920円』とか」

京太郎「まだ夕食には早いですよ」フフッ

菫「まあ、おすすめはこのケーキセットA、かな。ケーキはお好みで。あとここのコーヒーは美味しい」

京太郎「じゃあそれにしてみます。すみませーん!」


385: 2018/05/26(土) 00:10:25.74 ID:S2TodTq+0


京太郎「他の部員と一緒に来たりもするんですか?照先輩とか」フキフキ

菫「照は何度か一緒に来たかな…ただ通うにはなんせ少し遠いからね。学校から二駅、そこから徒歩十分」

菫「あいつは近所にちゃっかり行きつけを確保してるし」

京太郎「スイーツ目当てですよね」

菫「あいつはな…でも一人では行かないらしい。『読書はどこででもできる』とか言って」

京太郎「読書好きですよね、照さん」

菫「お菓子とどちらが好きかな…昔からそうなのか?」

京太郎「それはもう…いつも本読んでましたよ。で、読み終わったらお菓子、と」

菫「今とさほど変わらないじゃないか…」

京太郎「そうですか」

菫「…嬉しそうだな」

京太郎「…そうですか?」

菫「…まあ、いいんだけど」

386: 2018/05/26(土) 00:18:28.68 ID:S2TodTq+0


菫「さて改めて…いきなり呼び出してすまない。合宿終わったその日で忙しないのは重々承知だ」

菫「…一応名目上は部員との個人面談だけどな」

京太郎「…全員とするんですか」

菫「新入部員だけだけど、ひととおりね。そんなに長く時間かけるものでもないし、大抵は部活中に済ませているから…君が思っているほど忙しくはないよ」

京太郎「……部長の仕事って大変ですね」


菫「さて個人面談らしく…最初は須賀君、君についてだ」

菫「…まあ改めて言うことはないかな。昨日も散々ほめた通り。…よくやってると思うよ」

京太郎「…恐れ入ります」

387: 2018/05/26(土) 00:50:42.93 ID:S2TodTq+0

菫「さて照の見立て、というより元から知ってて当たり前だったんだが…君もまた少し変わった打ち手だそうだな」ペラッ

菫「同卓の打ち方の変化…ありていに言えばオカルトの発動を察知できる」

京太郎「…間違いないです。……照さんのおかげで使えるようになったんですから」

菫「…そうか。…照が師匠か」フッ

京太郎「おかしいですか?」

菫「まあ、ちょっとね。麻雀の腕は一級品だが…普段があんな感じだから」

京太郎「…否定はしませんけど」

菫「とにかく、君はその自分にできることをしっかりと理解して活用している。だからこそ、今の結果に結びついているんだろう」

菫「…目標は全国だ。引き続きともに頑張っていこう」

京太郎「はい、よろしくお願いします」

392: 2018/05/27(日) 00:45:22.08 ID:MV0lo4sF0


菫「……まったく」

京太郎「…なにか?」

菫「いやなに、照とは一度も対局してなかっただろう?」

菫「だのに君の力に関しての照の描写が具体的だった。これはもっと早く気づけたはず」

京太郎「いや十分早いですって…」


京太郎「ところでそのレポートみたいなのは」

菫「ああ、照がまとめてくれた。私が頼んだんだ」

京太郎「昨日受け取りました?」

菫「…そうだね、最終的に全員分揃ったのは昨日だったかな…それが?」

京太郎「いえ、ちょっと確認したかっただけです」

>オマタセシマシター





393: 2018/05/27(日) 00:47:32.11 ID:MV0lo4sF0





菫「少し話はそれるが…淡のことだ」

京太郎「……また何か」

菫「あいつが何かやらかすのはいつものことだ。もういい加減慣れた」

菫「それよりだな…あいつのクラスでの様子を聞きたい」

京太郎(…おかんかな?)


菫「あんな性格してるから正直迷惑ばかりかけてるんじゃないかと心配で」

菫「淡に直接尋ねても大丈夫大丈夫!としか返ってこないし」

菫「部員でしかも同じチームの一員として教育が行き届かないのは私にも責任はあるし」

京太郎(おかんだなこれ)

395: 2018/05/27(日) 00:53:52.84 ID:MV0lo4sF0

京太郎「…まああんなんですけど仲良くやってますよ、心配しすぎです」

菫「…そうかな」

京太郎「俺が保証しますよ。…うちの部員だったら一応◯◯さんと××さんも同じクラスで割と親しくしてるので、尋ねてみてもいいかもしれません」

菫「わかった。そうしてみよう」

京太郎「…部長、俺にできることならやりますから、何もかも背負い込まないでくださいね」

菫「…背負えるほど広い背中でもないさ」


カチャカチャ

菫「……ふぅ、やはり美味しいな」

京太郎「先輩もブラックですか」

菫「気分にもよるけどな。甘いケーキにはブラックが合う」

京太郎「同感です」フッ

396: 2018/05/27(日) 01:05:20.01 ID:MV0lo4sF0


菫「さて、本題に入ろうか」

京太郎「…はい」


京太郎(先輩の雰囲気が変わった)

京太郎(眼光は鋭く普通よりもさらに精悍で、底まで見透かされる…そんな気さえする)

京太郎(かといって圧制的でもない、温かさも確かに感じられる)

京太郎(…親衛隊の皆さんの気持ちが少しわかる気がする。これが…カリスマってやつか)




菫「まずお互いにスタンスをはっきりさせておきたい」

京太郎(スタンス…?)

菫「今からここにいるのは部長としてではなく、照の一友人としての弘世菫だ」

菫「…照はうちの大エース、不可欠な存在だが……




それ以前に、私にとっては大切な友人だ」

京太郎「……」

菫「君は妹さんとも親交があるから、きっと私よりも考えなければならないことが多いはずだ」

菫「だが私は…照のことを第一に考えて発言する。気を悪くしないでくれ」

京太郎「…わかりました」

397: 2018/05/27(日) 01:16:21.64 ID:MV0lo4sF0


京太郎(俺の…番だな)

京太郎「俺は…照さんと咲に仲直りして欲しいと思っています、できれば」

京太郎「でも、部にとっても照さんにとってもこれからの時期が大事だとわかってるつもりです」

京太郎「それに強制できるものでもないですし…突き詰めると二人の問題じゃないですか」

菫「…明け透けだな」

京太郎「…いろいろ悩んだ末です」

菫「そうか。すまない」

京太郎「いえ。……それに今は白糸台麻雀部の一員ですから。マイナスになるようなことはしたくないです」

菫「照にとってプラスでも、部にとってマイナスになるようなことだったら?」

京太郎「その時は部長がさっき宣言した、そのスタンスで行動します」

菫「…一本取られたな」

京太郎「いえ……自分の言葉でなくてすみません」

菫「いや十分伝わったよ、君の気持ちは」


398: 2018/05/27(日) 01:20:54.31 ID:MV0lo4sF0


菫「認識のすり合わせから…始めていこう」

菫「…どんなことで仲違いしたかは聞いているか?」

京太郎「ぼんやりとですが。…先輩は?」

菫「…麻雀は好きではないと、あいつは言ってた」

京太郎「……」

菫「何があったかは知らないが……照と妹さんの…咲ちゃんは麻雀が原因で険悪な仲になった」

菫「きっかけは些細なことだったのかもしれない。でも積もり積もった感情はある日爆発して、日常に大きな亀裂が走った」

京太郎「…さすがですね」

菫「褒められても嬉しくはないがな。……タイミングがよくなかったんだろう?」

京太郎「はい。照さんと咲の両親は、……すでにその時別居することを決めていたようです。照さんは」

京太郎「何も言わずに何処かへ行ってしまいました」

菫「君にも別れを告げずに?」

京太郎「…はい」

399: 2018/05/27(日) 01:28:43.26 ID:MV0lo4sF0


菫「……どう思った?」

京太郎「…辛かったですよ。照さんと咲と三人で過ごす時間は…かけがえのないものでした、俺にとって」

京太郎「それが消えた、二度と手に入らないところへ行ってしまった。そう感じました」

京太郎「咲は…泣いてました。私が悪いんだって。私がお姉ちゃんを怒らせちゃったって。それも辛かった。責める気にすらなれなかった」

菫「……」

京太郎「…でも結局は、

自分が何もできなかったのが一番辛かったんだと思います」



京太郎「俺が咲から事実を聞いた時は、もう照さんがその場にいた証拠のようなものは全部なくなっていて」

京太郎「もう三人で打てない麻雀卓が残っていただけで」


京太郎「…照さんがいなくてよかったと、一瞬思いました」



菫「…どういうことだ?」


400: 2018/05/27(日) 01:35:04.07 ID:MV0lo4sF0

京太郎「……万が一照さんに会えていたところで、引きとめられていた自信もなかったんですよ」

京太郎「弟子気取りの小学生が何か言ったところで…いや、何も言えなかったかもしれない」

京太郎「拒絶されるのも怖かった。想像するだけで……だから、俺は安心したんです。そういう可能性を目の当たりにせずに済んで」

菫「……」

京太郎「…嫌われるとかそういうことを考えたこともなかった、そういう間柄だったんです。少なくとも俺にとってこの三人は」

京太郎「だからなおさら混乱しました。混乱しながら、泣きじゃくる咲を目の前にしておろおろしていました」

京太郎「その時約束したんです。『必ず仲直りさせてやる』って」

菫「それは…」

京太郎「考えなしに口から出てきたんです。…俺もどうしたらいいかわからなかった。でも行動の指針が欲しかったんでしょう」

京太郎「だからそれは無意識ながらの自分への誓いでした。…咲には申し訳ないですけど」

401: 2018/05/27(日) 01:43:44.85 ID:MV0lo4sF0


菫「…でもそれで今の君があるんだろう?」

菫「たとえそれが自分に向けられた言葉ではないにしても、咲ちゃんは勇気づけられたはずだ」

京太郎「…照さんのことだけ考えて発言するんじゃなかったんですか」

菫「…君のことを気遣っちゃいけない理由はないだろう」

菫「君もよく頑張ったんだな、須賀くん」

京太郎「…ありがとうございます」

菫「泣いてもいいぞ、胸は貸せないがハンカチくらいなら貸してやる」

京太郎「大丈夫です、ちゃんと持ってきてますので」

菫「…つれないな」

412: 2018/06/10(日) 00:14:11.41 ID:FihcutRs0




菫「さて、私も少し照について話すとしようか」

菫「君とさほど変わらない…二年と少しの付き合いだが」

京太郎「…お願いします」スッ




・(咲–saki–17巻参照)








菫「とまあ…あいつが麻雀部に入るまではこんなところかな」フゥ

京太郎「やはりお菓子なんですね…」

菫「ああ、単純なやつだと私も思ったさ…その時は」

菫「だがさらに付き合って行くうちに、違う印象を抱くようになった」コトン


413: 2018/06/10(日) 00:16:26.43 ID:FihcutRs0


菫「あいつは結局、麻雀に関わらずにはいられないんだと思う」

京太郎「…というと?」

菫「…好きではないと言いながら、あいつは麻雀に対して常に真摯だ」

菫「手を抜いたりしないし、いやいややってるようなそぶりを見せない。照のその姿勢がかえって人を惹きつける」

菫「そしてあの実力だ……きっと照がどこに入学したとしても、いずれ麻雀にかかわることになったはずだ。全く触れられない学校なんてまずないしな」

菫「そして照はそれを悟っている…自分にできることが誰かに役立つのなら、自分の多少の感情は押し殺せる。あいつはそういうやつなんだ」

414: 2018/06/10(日) 00:18:46.31 ID:FihcutRs0


菫「…私は、照に麻雀を楽しんでほしい」

京太郎「……」

菫「…勝てるから、というわけではないんだが」

菫「私が高校生活を、麻雀部を楽しめてこれたのは、間違いなくあいつのおかげなんだ」

菫「照のアドバイスで自分や部員が明らかに強くなるのを感じられて、それでも照の実力というのは遥か上をいっていて……」

菫「全国レベル、いや違うな…プロ級の打ち手をすぐそばで見られて、それだけでも私たちは幸せ者だ」

京太郎「…恵まれてたんですね、俺って」

菫「…そうだな」

415: 2018/06/10(日) 00:50:14.94 ID:FihcutRs0


菫「私が部長としてなんとかやっていけているのも…照のおかげだ」

菫「あいつはそんなことないと否定するだろうし、きっと自分ではそうとはわかっていない」

菫「だが、私にはできないことをあいつはやってくれてる」

菫「正直、私の実力では皆を全国に連れて行くことはできない」

京太郎「…そんなこと」

菫「いいんだ、自分のことは自分が一番わかってるつもりだ」

菫「……もっとも照にはもっと多くのことが見えているんだろうけど」


416: 2018/06/10(日) 00:53:22.12 ID:FihcutRs0


菫「だから、だからな」

菫「あいつに、照に返せてないものが多すぎるんだよ」

京太郎「……」

京太郎「…ふだん部長に迷惑かけてるって、照さん言ってましたよ」

菫「……まあ、ささいなことだ」

京太郎「…間がありましたね」

菫「…スルーしてくれ、頼む」

417: 2018/06/10(日) 00:58:40.30 ID:FihcutRs0


菫「……照はたまに、どこか遠くを見つめるような顔をすることがあったんだ。ひどく憂鬱そうに」

京太郎「…いつからですか」

菫「最初から。正確に言うと部に馴染んですぐくらいから」

菫「何か思い悩んでいることがあると聞き出すのに数ヶ月、妹がいると教えてくれたのがさらに数ヶ月後」

菫「…基本自分のことを話そうとしないんだ、あいつは」

京太郎「…詮索されたくないからですか?」

菫「わからない。ただ…それだけではないとは思うんだが」

京太郎「他の部員は」

菫「何も知らない。照も何も言っていないはず」

京太郎「それなら俺との間柄を伏せるのも納得がいきます」


418: 2018/06/10(日) 01:00:14.52 ID:FihcutRs0

菫「そう、それだ」

菫「嫌じゃなかったのか」


京太郎「…正直戸惑いましたよ。そんなこと言われるとは思ってなかったんで」

京太郎「でもまあ……すっかり忘れられているのも覚悟してたんで、大したことなかったですよ」


京太郎「覚えててくれただけで、十分嬉しかった」

菫「ふぅん…」

菫「愛されてるな、あいつ」

京太郎「…誰にですか?」

菫「君にだよ」





京太郎「……え?」

菫「……え、ってなんだ」

京太郎「いや、違いますよ?」

菫「え?」


419: 2018/06/10(日) 01:05:39.91 ID:FihcutRs0



京太郎「いやいや、無いですって。確かに一人の人として好きですし尊敬してますけど、男女のどうとかそんな」

菫「はぁ」

京太郎「だいいち今そんな余裕もないですから」

菫「余裕があったらあり得るのか?」

京太郎「いやそれは……そんなこと考えたことなくて」

菫「子どもか」

京太郎「子どもですみませんね。……そんな風に見えます?」

菫「わざわざ照を追いかけてはるばる一人で来るくらいだから、そういうことだろうと」

京太郎「……やっぱりおかしいですかね」

菫「事情が事情だからわからんでもないが……まあ普通じゃないな」

京太郎「…何より照さんが嫌がりますよ、そんな」

菫「私はそうは思わないが」

菫「…つまらないな」

京太郎「…先輩案外そういう話題好きですよね」ジトー

菫「私も女子高生だということだ。悪く思うなよ」フフッ

京太郎「勘弁してくださいよ…」


420: 2018/06/10(日) 01:07:14.35 ID:FihcutRs0



京太郎「とにかく、俺にそんな下心はないです。今は恋愛してる場合じゃないですし」

菫「…まあなんでもいいさ。君がそうなら私は何も言わない」

京太郎「なんですかその含みのある言い方は」

菫「…いや、恋の一つでもしておくべきだったなと自分を省みてね」

京太郎「…先輩ならラブレターの一つや二つもらってそうですけど」

菫「…君の言葉は妙に鋭いな。黙秘権を行使させていただこう」

京太郎「どういうことですか…」





421: 2018/06/10(日) 01:08:38.30 ID:FihcutRs0


スタスタ スタスタ

京太郎「忙しい中ありがとうございました」

京太郎「ご馳走にまでなってしまって」

菫「これくらいはさせてくれ。君も疲れてただろうに」

京太郎「部長よりは体力あると思いますよ。さすがに男ですし」

菫「そうか…まあ、そうだな」


菫「……今日話したことは他言無用だ。むろん照にも言うなよ」

京太郎「もちろんです」

京太郎「…先輩」

菫「なんだ」

京太郎「思ってることはちゃんと伝えてあげてくださいね」

菫「…参考にさせてもらう」


422: 2018/06/10(日) 01:30:48.99 ID:FihcutRs0


菫「……結果論でしかないが、君の秘密を早く知れて良かった」

京太郎「……」

菫「一人で抱えるには…大きすぎる」

菫「だから君も遠慮なく、私に頼れ」

京太郎「…男前ですね部長」

菫「…褒めてるのかそれは」

京太郎「もちろんですよ。……ありがとうございます」

菫「最初からそう言え」プイッ


423: 2018/06/10(日) 01:32:03.05 ID:FihcutRs0


菫「…私も、照には仲直りしてほしい」

菫「照が麻雀を楽しむ、そのための必要条件だから」

菫「…私のわがままかな?」

京太郎「俺は何も言えませんよ」

菫「わかってるさ」



菫「…どうか、力を貸してくれ」

京太郎「…こちらこそ、よろしくお願いします」


424: 2018/06/10(日) 01:39:53.77 ID:FihcutRs0





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おめでとう、京ちゃん。頑張ったんだね」

「…そんな私なんて、……うん」

「でも、京ちゃんがそっちで頑張ったのが一番だと思うよ。……当然だよ」



「お姉ちゃんは元気?……そう、それなら安心」

「……そっか。……ううん、京ちゃんが謝ることじゃないよ」

「行かないって決めたのは私だから。……だから連絡をお願いしてるんだよ?」

「……ふふっ。……だから気にしないでね。……うん」

425: 2018/06/10(日) 01:40:51.63 ID:FihcutRs0





「ところで、さ」



「京ちゃん明日も練習?」

「……そっか、じゃあちょっと長くお話ししても大丈夫かな」

「うん、ちょっとね。大事な話。」

「……びっくりする?…かもね」

「ねえ、聞いてくれる?ずっと言いたかったこと」

「あのね、京ちゃん……私ね」

431: 2018/06/11(月) 23:12:14.62 ID:IyXyq8hz0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






照「……」ペラッ

照「……」





京太郎「すみません、お待たせして」

照「……読書してたから」

京太郎「図書室で正解でしたね、待ち合わせ」

照「……」ペラッ


京太郎「何読んでたんですか?」

照「……ノルウェイの森。村上春樹」

京太郎「村上春樹…ですか」

照「知らない?」

京太郎「……聞いたことはあります」

照「……あなたにはまだ早い」パタン

京太郎「えー」

432: 2018/06/11(月) 23:21:22.92 ID:IyXyq8hz0

照「……それで、何の話?」

京太郎「はい。話、というか、ご報告というか……」ポリポリ

京太郎「昨日、咲と電話しまして」

照「……」ピクッ












京太郎「咲が、麻雀部に入りました」





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434: 2018/06/12(火) 00:08:33.91 ID:KULevrv60




京太郎『……そっか』

咲『…思ったより反応薄いなぁ』

京太郎『いや、驚きすぎて言葉が出なかった』

咲『そんなにびっくりした?』

京太郎『びっくりした、そりゃあもう』

京太郎『…え?あれだけ麻雀はイヤって言ってたのに』

咲『…そうだね』

435: 2018/06/12(火) 00:16:18.33 ID:KULevrv60



京太郎『だいたいあの咲がなぁ…誰かに勧誘されたとか?』

咲『ううん、自分で決めたの。……あのって何、あのって』

京太郎『いやぁ…だってお前知らない人と話せるタイプじゃないじゃん』

咲『んぐっ』

京太郎『中学も昼は中庭か教室で読書、放課後は図書室に通い詰めで司書の先生とは仲良かったけどさ』

京太郎『こう、…必要がないと積極的に人と絡もうとはしない…でしょ?』

咲『…私だって頑張ってるもん』プクー


436: 2018/06/12(火) 00:24:49.44 ID:KULevrv60



京太郎『…照さんに、会うためなんだろ』

咲『……こういう時は察しが早いよね、京ちゃん』

京太郎『咲だからな』

咲『そうでもないと思うけどな…』

京太郎『なんだよそれ』

咲『京ちゃんには教えてあーげない』フフッ

京太郎『なっ!?』

437: 2018/06/12(火) 00:32:20.30 ID:KULevrv60


咲『あのね、京ちゃん』

京太郎『…なんだよ』

咲『私は、待ってるだけじゃダメだと思った』

京太郎『……』

咲『京ちゃんが私とお姉ちゃんのために頑張ってる』

京太郎『……自分のためだよ』

咲『それでも、別にいい』

咲『私も、頑張らないとって思ったから』

咲『できることをやりたいって思ったから』

438: 2018/06/12(火) 00:45:16.46 ID:KULevrv60



咲『だから、私は勝って全国に行くよ。京ちゃんがお世話になった龍門渕の人たちも倒して』

京太郎『…そうか』

咲『なに?がっかりした?』

京太郎『まさか』

京太郎『側にいたら頭くしゃくしゃに撫でてる』

咲『もう、また子ども扱いするー』

京太郎『咲の頭が撫でやすい位置にあるのが悪い』

咲『今度会ったらそう出来ないくらい大きくなってたりするもん』

京太郎『ねーよ、絶対ない』

咲『ふんだ。京ちゃんのバカ』

京太郎『…なあ、咲』

咲『なに?』

京太郎『頑張れよ』

咲『……ありがと』


439: 2018/06/12(火) 00:59:24.53 ID:KULevrv60


=================================



照「……」

京太郎「連休前にはもう入部してたみたいで…毎日練習しているとか」

京太郎「団体と個人、両方にエントリーする、と」

照「……そう」




照「…それで」

照「私にどうしてほしいの?」



京太郎「……俺は」

440: 2018/06/12(火) 01:07:04.37 ID:KULevrv60


京太郎「俺は、何かを求めたりしません」

京太郎「そんな立場じゃないですから」

照「…そういうことじゃない」

京太郎「そういうことです」

照「……」

京太郎「先輩なら、どうするべきか判断できるはずです」

京太郎「…俺だって、咲の件は想定外だったんです」

照「……」

京太郎「あいつはあいつなりに、前向きに取り組もうとしている」

京太郎「俺はそれを伝えたかった。……それだけです」

441: 2018/06/12(火) 01:41:46.11 ID:KULevrv60



照「…一つ聞いてもいい」

照「…どうして、白糸台(ここ)に来たの?」

京太郎「……『お姉ちゃんをよろしく』」

照「……」ピクッ

京太郎「そう、頼まれたからです」


京太郎「…困った顔しないでください」

照「…だって」

京太郎「俺はどうあっても先輩の味方です」

照「っ……」

京太郎「だから……だから、焦らなくていいんです」

京太郎「俺、ちゃんと待ってますから」

照「……」

京太郎「俺も頑張りますよ」

京太郎「一緒に全国行きたいですからね」ニカッ



442: 2018/06/12(火) 01:50:16.90 ID:KULevrv60





京太郎(ああ調子乗った!変にカッコつけてない?『待ってますから』キリッってなに?)

京太郎(照さんドン引きだったらどうしよう…うわモウシニタイ)ブンブン

ママーナニアノヒト
シー ミチャイケマセン



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『一緒に全国行きたいですからね』ニカッ


照(……)



照「……ズルいよ」





449: 2018/06/16(土) 23:41:24.35 ID:z9vm2FUP0
サッカー傍目に見ながら投下
>>446 (まだ)落ちません!(頑な)

450: 2018/06/16(土) 23:49:59.09 ID:z9vm2FUP0

四月某日








『咲ちゃんのお弁当、美味しそう』

咲『そ、そうかな』

『ダメだよ咲ちゃん油断したら。この子隙をついて食べちゃうかも』

『そんなことしないよ!』

咲『あはは……』


451: 2018/06/16(土) 23:56:38.29 ID:z9vm2FUP0





『午後の授業なんだったっけ』

『確か現文と、数Ⅰ?』

『えー、数学かぁ……やだぁ、因数分解全然わかんない』

咲『私も数学はちょっと…』

『でも、咲ちゃんこの前のテストまあまあよかったでしょ?国語とか特に』

『そうだよ。いいなぁ…咲ちゃんみたいにたくさん本読めばいいのかな』

咲『うーん…どうかな』





ガララッ
??『しっつれいするじぇ!』

452: 2018/06/17(日) 00:00:53.34 ID:68a1Kfhr0

ババーン



『ん?』



パタパタ

?『ゆーき待ってくださいっ』


ザワッ

『隣のクラスの子だね』

『カチコミに来たのかな』

『なんでそうなるの…』



453: 2018/06/17(日) 00:06:07.11 ID:68a1Kfhr0


??『……』スゥ…

??『この中に、宮永咲ちゃんはおるかー!』

?『う、打ち合わせと違うじゃないですかゆーき…』




『呼ばれたよ咲ちゃん』

『これはカチコミだね咲ちゃん』ワクワク

咲『ひぇっ…』
no title


『怖がらせてどうするの』ズビシッ

『痛い…冗談だよじょうだん』

455: 2018/06/17(日) 00:26:24.73 ID:68a1Kfhr0



咲『は、はい…私、です』スクッ

『お、いった』



??『お?…よかったよかった、私の読みは間違ってなかったじぇ、のどちゃん』

?『そ、そうですね…』


スタスタ
??『君が宮永咲ちゃんか…ほぉー……ふーん……』

咲『え、えぇっと…』

?『……ゆーき』

??『よし咲ちゃん、悪いがわれわれとご同行願うじょ』

?『ちょっとゆーき!?』ボソボソ


咲『あ……うん。わかりました』


『…咲ちゃん大丈夫?』

咲『うん、心当たりあるから。ちょっと行ってくるね』

『そっか。いってらっしゃーい』フリフリ

『いってらー』



456: 2018/06/17(日) 00:29:10.01 ID:68a1Kfhr0

パタパタ

?『すみません皆さん、お騒がせしました』ペコリ

タッタッタッ




『……デカいね』

『デカいね。…なんなんだろうね』

『ねー』






?『ごめんなさい宮永さん。訳も言わずに連れ出してしまって』

??『…あれ、私説明してなかったか?』

?『…してないですよ』ジトー

??『そうか、ごめんな咲ちゃん…』

咲『ううん、私は大丈夫…だよ?』

457: 2018/06/17(日) 00:31:18.92 ID:68a1Kfhr0



『自己紹介が遅れてすみません。私は隣のクラスで麻雀部所属の、原村和と申します。そしてこちらが』

『のどちゃんと同じクラスで同じく麻雀部の片岡優希、だじぇ!気軽に優希と呼んでくれて構わないじょ』

咲『あ、あぁぁえっと……私は宮永咲、です』

和『知ってますよ』ニコッ

咲『あぁぁ、そうだった…』

優希『咲ちゃん面白いじぇ』

458: 2018/06/17(日) 00:35:38.76 ID:68a1Kfhr0



和『それで、今日は学生議会長の代理で私たちが来ました……こう言えば分かると言付かったんですが』

咲『あ……うん、たぶん大丈夫…』

和『では、いまどこに向かっているかわかりますか?』

咲『…いつも移動教室に使う道だとはわかるけど……』

優希『それは間違いないじぇ。ここをまっすぐ行くと美術室や音楽室にとうちゃーく!だからな』

和『今日はこっちの渡り廊下へと向かいます。そして階段を上ると…』


459: 2018/06/17(日) 00:37:19.14 ID:68a1Kfhr0



和『こちらが、麻雀部室です』

優希『部長に染谷先輩!お待たせしたじょ!』バーン

和『ノックくらいしたらどうですか、ゆーき…』

咲『わわっ…』



??『おっ、ようやく来たかの』

?『さあ、遠慮せず入った入った』


460: 2018/06/17(日) 00:40:02.72 ID:68a1Kfhr0



咲『会長さん…』

久『あら、私が麻雀部員だって知ってたんじゃないの?』

咲『いえ…お昼休みにいるとは思わなくて…』

久『それはこのお手紙のおかげよ』パラッ

久『見覚え、あるでしょ?』

咲『…私が書きました』



まこ『なんじゃ、それは』

和『…染谷先輩もご存じないんですか?』

まこ『久が昼休みに部室に来とけと。事情は何も聞いとらん』

久『だってー、お楽しみは直前まで秘密のほうがその分楽しめるでしょ?』

優希『それもそうだ!何味かわからないタコスにかぶりつくのもスリリングでまた一興だじょ』

和『全然違う話だと思いますよ、それは』



461: 2018/06/17(日) 00:59:23.68 ID:68a1Kfhr0



久『内容を要約するとこうね。





「麻雀部に入部したいんですが場所がわかりません。


迎えに来てください 宮永咲」』




和『…なるほどですね』

まこ『…どういうことじゃあ』

咲『え、えっとぉ……その…私、方向音痴で』

久『どうしてこれが学生議会の投書箱に入っていたのかしら?』

咲『移動教室の途中に投書箱があったのはなんとなく目についてて。そういえば会長が麻雀部の紹介で出てたなって、ふと思い出して…』

まこ『…方向音痴はそんなにひどいんかのう』

咲『…今日も連れて来てもらったけど、一人で来れるかというとそんな自信は全然ないです』

まこ『そ、そうか』


468: 2018/06/25(月) 00:02:41.32 ID:yyCUWWCY0


久『……活動は基本放課後、テスト休みとかは校則やら指導やらに準じつつ臨機応変に、ね。設備は見ての通りよ』

咲『あ、あの』

久『なにかしら?』

咲『…インハイには、参加できますか』



まこ『インハイ、か』

優希『咲ちゃんが入れば、五人揃うじょ』

和『団体戦にエントリーできますね。でも…』


久『どうして』
キーンコーン カーンコーン

469: 2018/06/25(月) 00:12:11.43 ID:yyCUWWCY0


久『予鈴ね…続きは放課後、というところかしら』

久『…宮永さんがどれくらい打てるか見ないといけないし。インハイにしたってそれ次第』

久『来てもらえる?』

咲『わかりました』

久『まこ、今日は部活出られるのよね?』

まこ『ああ。…お前さんは?』

久『ちょっと会長として野暮用がねー。少し遅れるけど終わったら行くわ』

久『鍵開けお願いね。で、揃ったら四人で打ってて』

まこ『わかった』

久『優希、和、放課後に宮永さんをまた迎えに行ってもらえる?』

優希『了解だじょ』

和『わかりました』

470: 2018/06/25(月) 00:17:37.15 ID:yyCUWWCY0






久『おっまたせー、みんなやってるー?』


優希『そんな…そんなこと…』

和『SOASOASOA』





久『えっ何これ』

まこ『やっと来おったか…見ての通りじゃ』


471: 2018/06/25(月) 00:26:24.09 ID:yyCUWWCY0


久『三連続プラマイゼロ…ね』

久『…でもそれじゃ大会では勝てない。インハイになんて出られない』

久『そうでしょ?』

まこ『久…』

咲『わかってます』

久『…どうしてあなたがインハイにこだわるか、聞いてもいいかしら』

咲『……』




咲『……私、麻雀があまり好きじゃないんです』

472: 2018/06/25(月) 00:33:16.18 ID:yyCUWWCY0


『……』

咲『もう少しちゃんと言うと、好きじゃなくなった。楽しい思い出があったけど…辛いことがあって。全部上書きされてしまったんです。私が悪いんですけどね』

咲『でも……私がまた麻雀を心から楽しめるように、頑張ってくれてる人が、いるんです』

咲『私と同じ思い出を共有していて…自分も辛かったはずなのに、私を責めたりしなかった』

優希『その人とインハイで会う約束をしてるってことか?』

咲『約束はしてないけど…でも、絶対来る。それに…』

咲『今回が最初で最後のチャンスなんです。お姉ちゃんと打てるかもしれない、ラストチャンスなんです』

咲『インハイに出て、卓を囲まないと私の気持ちはきっと伝わらない』

久『えっと…?つまり「その人」と宮永さんは幼馴染みたいな関係で、そこにお姉さんが関わっている、と』


473: 2018/06/25(月) 00:45:24.38 ID:yyCUWWCY0



咲『…そうですね。隠してもしょうがないのでもう言っちゃいますけど』

咲『お姉ちゃんと喧嘩別れ、しちゃったんです。……もう何年も会ってなくて』

まこ『そのお姉さんっちゅうのは、一人で?』

咲『…丁度そのタイミングで両親が別居しちゃって』

まこ『…すまんのう、嫌なこと思い出させて』

咲『大丈夫です。…それで私の幼馴染は、私たちが仲直りできるように…わざわざお姉ちゃんの学校に、麻雀部に入ってくれたんです』


474: 2018/06/25(月) 01:02:59.56 ID:yyCUWWCY0



優希『「絶対来る」ってことは……お姉さんもその人もきっと麻雀強いんだな』

まこ『…ちょっと待ちぃ、宮永って、まさか』

久『宮永照。…言わずと知れたチャンピオン、かしら』

優希『なんと』

咲『…やっぱりわかっちゃいますよね。他の人には秘密で…』

久『それは構わないけど…なんとまあ』

475: 2018/06/25(月) 01:10:37.34 ID:yyCUWWCY0


久『…さっきから大人しいわね和。そんなにびっくりした?』

和『いえ、その…』

和『宮永さんってこんなに話すんだな、と。ちょっと意外に思いまして』

咲『…うん。私は…まあ今もですけど、すごく引っ込み思案で』

咲『ずっとその幼馴染に頼りっぱなしで。その…お姉ちゃんのこともあってから、ますますそういうふうになっていって』

咲『…もうそのままでもいいと思う自分もいました。でも、京ちゃんはそうじゃなかった』



咲『京ちゃんが白糸台に行きたいとわかって、私も自分を変えないといけない、と思った』

477: 2018/06/25(月) 01:47:10.08 ID:yyCUWWCY0
咲『だから…だから、自分で言うのもあれなんですけど……結構頑張って、る、つもりで……』

咲『……』カァッ

優希『咲ちゃん真っ赤だじぇ』

咲『ご、ごめんなさい…急に恥ずかしくなって……』





479: 2018/06/25(月) 19:42:07.01 ID:udokaBqd0


======================





もうあれから、二ヶ月くらい経つ。

その後京ちゃんが男の子だってわかってまた一騒動あったのは、また別のお話。





「勝つ」ための打ち方が、私にはどうしても必要だった。だから急いだ。

ありがたいことに、清澄のみんなは個性豊かで実力十分な打ち手ばかりだ。去年まで大会に出ていないのがおかしいくらい。

それに…すごくいい人たち。基本マイペースでおっちょこちょいな私がどうにかやれてるんだから、間違いない。


そして……

480: 2018/06/25(月) 19:45:07.45 ID:udokaBqd0



和「あとはお願いしますね、宮永さん」

咲「うん。頑張るね」




県大会決勝。清澄高校がトップで、私の出番。



咲「ぅ……」ゾクッ

和「宮永さん?」

咲「…何でもないよ」ニコッ



さっきからひどい圧を感じ取っているけれど…別に怖いとは思わない。

むしろ、楽しみ。




ああ、麻雀ってこんなに楽しかったんだ、って。きっと今日、そう思えるはずだ。
京ちゃんのおかげで、私はやっとスタートラインに立てた。


咲「…いってくるね」


インハイで待っててね、京ちゃん。…お姉ちゃんをよろしくね。
そして……会いに行くからね、お姉ちゃん。


481: 2018/06/25(月) 20:12:56.68 ID:udokaBqd0



同日




淡『リーチ!』



京太郎「あー、やっちゃいましたね」

尭深「やっちゃったね」

誠子「やっちゃったな」

照「……」

菫「…まあ、ここまで出さなかったことは褒めておこう」

京太郎「無罪放免ですか?」

菫「いや?いつも通り叱りつけるよ。…あの手は図に乗せたらダメだからな」


482: 2018/06/26(火) 00:43:32.58 ID:Lpk0o0rV0


京太郎「ともかく、地区大会優勝おめでとうございます」

菫「…次は君の番だよ」

尭深「女子も同時進行だから付きっきりにはなれないけど…応援してる、からね」

誠子「頑張りなよ」ポンポン

京太郎「ありがとうございます。…頑張ります」

照「……」


淡「じゃっじゃーん!淡ちゃんが帰ってきたよ!」

誠子「お、ダブリー淡だ」

淡「ねえ見た?すごかったでしょあれ!リーチ!ってやってバーンってしてドカーンって」

菫「ああ見たぞ淡。そこのモニターでばっちりな」

淡「す…すみれせんぱい?…こえが…かおもこわいのは…どうしてかなー」

菫「お前わかってて言ってるなこの!」グリグリ

淡「むひゃー!ぎぶ、ぎぶぎぶぎぶ」


483: 2018/06/26(火) 00:56:19.08 ID:Lpk0o0rV0


照「……」

テクテク
ペタン

京太郎(て、照さんがすぐ隣に)

京太郎「…先輩、向こうも空いてますよ?」

照「近くは嫌なの?」

京太郎「…そんなことはないです」


照「……私は頑張ってとは言わない」ボソボソ

京太郎「……」

照「今までだって十二分に頑張ってる。それに」

照「…実力は私がよく知ってる。普段通りにできれば、きっと」

京太郎「…先輩からそう言われると、心強いですね」



照「…それだけ」スクッ

京太郎「あっ…」

テクテク

京太郎(行ってしまった…)

484: 2018/06/26(火) 01:03:32.99 ID:Lpk0o0rV0


<あれだけ念を押しておいたのに、なんでまた
<だって、点数負けたくなかったんだもん


照「淡お疲れ様。よく頑張ったね」

淡「テルー!スミレがねー……」






京太郎(まっそうだよね、俺に特別声かけたとか、そんなわけないよな)

京太郎(よし!明日に集中集中!)パンパン


494: 2018/07/16(月) 00:43:38.18 ID:t5kCHPMG0







「須賀、お前全国大会出るんだって?」

京太郎「まあな。…情報早いな、俺誰にも言ってないのに」

「…いやいや、みんな知ってるぞ」

「ただでさえ女子が黄金時代なのに男子も全国出場、そりゃあ盛り上がること間違いない」

京太郎「…そんなもんかね」

「そんなもんだ。……頑張れよ」

「放送あったら見るからな、応援してるぞ」

京太郎「おう。サンキューな」

495: 2018/07/16(月) 00:52:16.20 ID:t5kCHPMG0


「ところでどうなのさ、麻雀部」

京太郎「何が?」

「何がって、そりゃ…お前…」

「聞いたところでは実質男子一人だって」

京太郎「ああ…まあ、そうだな」

「俺ならぜってー無理。胃に穴あきそう」

「え?めっちゃイイじゃん。男なら憧れるだろ?は・あ・れ・む」

「お前自分の顔を鏡で見てからそういうこと言えよ」

「なん…だと……まあ、そう、だけどさ…」ズーン

京太郎「一人で盛り上がって一人で落ち込むなよ…」

496: 2018/07/16(月) 01:03:09.36 ID:t5kCHPMG0


「お前はいいさ、須賀はな……。で?」

京太郎「で?」

「実際どうなのさ、麻雀部」

京太郎「どうって…まあ、楽しいよ。普通に」

「出た!当たり障りのない回答」

「女子となに話すの?」

京太郎「何って…その日の授業がどうだったとか先生がどうとか」

京太郎「あの動画が面白かったとか雨よく降りますねとか。普通よ普通。…そんな困ることある?」

「……見ろこれが男須賀だぞ同士」

「…こいつやはり俺たちとは違う」

497: 2018/07/16(月) 01:07:17.75 ID:t5kCHPMG0


京太郎「ああ、そうか…俺の場合、幼馴染で慣れてたってこともあるな」

「…女子のか」

京太郎「…そりゃあ、まあ…そうじゃないと文脈的におかしいだろ」

「聞きました?奥さん」

「ええ、幼馴染ですって」

「想像上の産物とばかり思っていたものを…この男は!」

「しかもそれがなんでもないように!この裏切り者!」

京太郎「さっきから大丈夫かお前ら」

498: 2018/07/16(月) 01:15:33.35 ID:t5kCHPMG0




「でさ、まあそういう答えを求めてるんじゃなくて…」

京太郎「なんで急に小声になるんだよ」

「いや、こう……わかる?男子高校生のリビドー…そいつを刺激するような…俺はそういうのを求めてるんだ」

「そんなことでキメ顔すんな気持ち悪い」

京太郎「…なに、浮いた話が欲しいの?」

「浮いた話…うーん、ちょっと違うけど…許す」

京太郎「なんで上から目線なんだよしばくぞコラ」

499: 2018/07/16(月) 01:30:28.93 ID:t5kCHPMG0



トタタタタ

京太郎「走んな走んな」

「きょーたろー!ノート貸して!」

京太郎「ボリューム下げろよ聞こえてるから…古典?数学?」

淡「どっちも」ムフー

京太郎「お前授業中何してたんだよ」ガサゴソ

淡「古典はぽけーっとしてて、数学は寝てた」ドヤァ

京太郎「また部長から叱られるぞそんなんじゃ…ほらこれ」

淡「ふっ、やっぱり持つべきものはきょーたろーだね…」

京太郎「何言ってんだお前」

淡「ちょっと借りとくね、ありがとー」ニヘラ

トタタタタ


京太郎「…忙しいやつ」

500: 2018/07/16(月) 01:42:53.95 ID:t5kCHPMG0


「……ほら、例えば今の大星淡」

京太郎「淡がどうかしたか」


<よし、これでだいじょーぶ
<淡この前もそんなこと言ってたけど全然だったじゃん
<うけるー



「容姿だけならA、部活も強豪麻雀部のレギュラーで大将、性格は高飛車で少々難ありとも言われるが俺は無視できるレベルとみなしている…」

「お前は谷口か」

「WAWAWA…じゃねえよ!まっ、とにかく大星への評価を総括すると『ちょっととっつき辛いけどぜひお近づきになりたい美少女』ってとこだな」

京太郎「…過大評価じゃねえかな、うん」

「…独占欲?」

京太郎「いやいや、本当のあいつを知らんからそんなこと言えるんだ」

「お近づきにすらなれん俺たちへの皮肉かそれは」

京太郎「そうじゃねえけどさ」

501: 2018/07/16(月) 01:52:51.93 ID:t5kCHPMG0



「そんな大星とお前は名前で呼び合う関係なんだぜ」

「うん、こいつの言ってることは気持ち悪いけどそこは本当にすごいと思う。言ってることは気持ち悪いけど」

「なぜ二回言ったし」

京太郎「そう言われても…名前呼び提案してきたの向こうからだし」

「は?」

「え?」

京太郎「え?」

「ならなおさらじゃん…あの大星だよ?お前以外の男子と話してるのろくに見たことないぞ」

「…須賀さぁ、なにかメソッドでもあんの?女子と仲良くなる方法」

京太郎「そう言われてもなあ」

507: 2018/07/17(火) 00:47:21.76 ID:/px7g58C0


「じゃあさ。お前的には大星はありなの?無しなの?」

京太郎「え、なにその修学旅行の深夜にするような話題」

「今更でしょ」

京太郎「えぇ……」

「ほらハリーハリー」

京太郎「いや、この前も似たような話をしたんだけどさ」

「また女子とか」

京太郎「ああ、まあ…先輩とな」

「ほーん」

京太郎「今はそれはいいだろ…でまあ、今は部活だったりに集中しててそういうことまで考える余裕がない」

「…なにそれ」

「引くわーないわー」

京太郎「お前ら辛辣すぎんだろ」


508: 2018/07/17(火) 00:54:00.64 ID:/px7g58C0



「…それが良かったかどうかともかく」

「確かに結果出せてんだからな、俺たちは何も言えねえ」

「まあそうだな」

「だがな、須賀」ズビシッ

京太郎「…なんだよ」

「高校生活はたった三年間。恋の一つもしないと損だぜ」

「その人のために頑張れるとか、そういうプラス面もあると思うし」

「…別に今すぐ誰かと付き合えとか、そういうこと言ってんじゃない。ただそういう選択肢もお前にあるってことよ。それを忘れんな」

京太郎「…おう。肝に銘じとく」

「…きっと人の恋バナ聞いて楽しみたいとかそんなとこだと思うけどね、こいつの場合」

「あ、バレた?」

京太郎「…ふざけんなよテメエ」

509: 2018/07/17(火) 01:05:35.28 ID:/px7g58C0





淡「なんでほーかごまで勉強しないといけないかなー」

菫「理由を教えてやろうか淡」

淡「ひゃっ」

菫「一つ、期末テスト前であること。一つ、大星淡は中間テストであまり良い成績を残せていないこと」

菫「そしてもう一つ、赤点など取ろうものなら全国大会への出場も怪しくなるということ」

淡「マジで!?」

菫「マジもマジ、大マジだ。…さて、説明されているはずのそんなことをなぜ把握していないのかお前に根掘り葉掘り尋ねたいんだが構わないか」

ゴゴゴ ゴゴゴ

淡「助けてきょーたろー!」

京太郎「諦めて勉強しろ、まだ時間はあるから」カキカキ

淡「そ、そんな…来ないで、いやぁ…ぎにゃー!」


510: 2018/07/17(火) 01:09:48.30 ID:/px7g58C0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



京太郎『勉強会、ですか』

菫『そうだ。…もちろん淡がメインなんだが』

京太郎『すみません、俺が付いていながら』

菫『いやいや、そこまで把握しておけとは言えないさ。あいつの自己責任だしな…だが』

京太郎『あいつが出れないのは困りますね』

菫『白糸台にとっても、淡にとってもな。なんとしても頑張ってもらわなければ』

京太郎『部室使って大丈夫なんですか?』

菫『事情を説明したら先生も快く許可を出してくれた。心配までしてくれたよ』ハァ

京太郎『……お察しします』

菫『普段から君にはよくサポートしてもらっているから申し訳ないが…協力頼みたい」

京太郎『もちろん、どんとこいですよ』

菫『助かるよ』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

511: 2018/07/17(火) 01:24:16.88 ID:/px7g58C0


京太郎「淡さーん、生きてますかー?」

淡「だめ…100年分くらいべんきょーした…もうマヂむり…」プスプス

誠子「魂抜けてキャラおかしくなってない?」

菫「一時間で音を上げるのか…」

尭深「お茶入れようか?」

淡「ふえぇぇ…」




京太郎「すみません、先輩たちにも付き合わせてしまって」

誠子「いいのいいの。私も一人だとサボりがちになるし、ちょうど良かったってことで」

淡「淡ちゃんふっかーつ!」

尭深「二人も良かったらどうぞ」コトン

誠子「お、サンキュ尭深」

京太郎「ありがとうございます」

淡「ねえ、聞いてた?ねえったらねえ」


512: 2018/07/17(火) 01:33:28.14 ID:/px7g58C0



照「……」ペラッ

菫「…余裕だな」

照「…今日の予定の八割は済んだから。ちょっと気分転換」

菫「…そういうところはちゃんとしてるのが本当に不思議だよ」

照「どういうこと?」

菫「いや、気にするな独り言だ」

照「そう」ペラッ


淡「あっ、テルー本読んでる」

菫「淡もこれくらいできれば…いや、それは求めすぎか…」

淡「?…本は読めるよ!あ、いやでも…あんまり読まなかったり…」

菫「あ、あぁ…そうか」

淡「えっと……スプー…とオニク?」

照「スプートニクの恋人」

淡「スプートニクの恋人!……全然わかんない!」

照「わからなくても別に困らないから大丈夫」


516: 2018/07/22(日) 20:53:37.91 ID:lB/Tlg/A0


淡「恋人…って、恋バナってこと?」

照「…ある意味そうかな」

淡「おもしろい?」

照「私は好き。……淡には少し難しいかもしれないけど」

菫「現代文の問題で見たことあるな」

淡「うげっ、現代文……楽しい話?」

照「楽し…くはないかな。ちょっともの悲しい、あと不思議な感じ」

淡「えー…楽しい話じゃないのに好きなの?」

照「……そうだね」パタン

菫「そうそう、『すみれ』という女の子が出てきたはずだ。それで覚えてたんだ」

淡「だから読んだの?」

照「そういう訳じゃないけど」

淡「ちょっと見てもいい?」ペラッ

照「どうぞ」

517: 2018/07/22(日) 20:55:12.52 ID:lB/Tlg/A0

ザーッ


淡「…あー、駄目。眠くなっちゃいそう」

照「…それは残念」

菫「じゃあ淡、続きに戻るぞ」

淡「えー、うー…はーい」

照「……」


ザーッ


照「楽しくないのに好き、か」ボソッ

菫「何か言ったか?」

照「……雨すごいね、って」

菫「ああ…梅雨の本領発揮というところだな」

518: 2018/07/22(日) 22:51:43.42 ID:lB/Tlg/A0


ザーッ

京太郎「…よく降りますね」チラッ

尭深「そうだね。予報どおり」

誠子「週末も雨だっけ。これじゃ釣りの一つも行けないや」

京太郎「先輩試験前なのに余裕ですね」

誠子「冗談だって。……余裕なんてとんでもないない、私は普通の成績しか取れないよ」

尭深「須賀くんは成績よさそうだけど」

京太郎「そう見えます?」ハハッ

誠子「淡によく頼られてるだろ?宿題とかノートとか」

京太郎「まあ最低限…部活に支障がないようにはしたかったんで。中の上くらいですかね」

京太郎「渋谷先輩は?」

尭深「私はそんなたいしたことないよ」

誠子「と言いつつ…私よりいつも上じゃん」

尭深「それは誠子が本気出してないから…」

誠子「そうそう、本気出せばいつだってオール90越え…ってな訳ないでしょ!これでもホント頑張ってんだって」

京太郎「おお、綺麗なノリツッコミ」


519: 2018/07/22(日) 22:53:30.31 ID:lB/Tlg/A0



菫「須賀君、ちょっといいか」チョイチョイ

京太郎「はい?」



(紙の山)ガサァッ

淡「…あ、あはは…」

菫「この通り、真っ新なプリントが山ほどある」

京太郎「こんなバラバラで…お前プリント無くしたりしてない?」

淡「…ちょっとわかんないかな」

京太郎「ちゃんと整理くらいしろよ…男子かお前」

淡「むっ、淡ちゃんはぴちぴちのじぇーけー?だもん!」

菫「そんなこと言ってる場合か」コツン

淡「あいたっ」

520: 2018/07/22(日) 22:54:33.15 ID:lB/Tlg/A0


菫「…穴埋めするだけで済むものは後で見せてやってくれ。全部網羅しようとしなくていい」

菫「とりあえずこの時間は問題の解き方を押さえさせて…この辺の対策プリントとか」

京太郎「…ここから出すって先生も言ってました」

菫「そうだろう。……私も教えられなくはないが少々思い出すのに時間がかかる」

淡「じゃあきょーたろーよろしくね」ニヒッ

菫「何がよろしくねだ、よろしくお願いしますだろうが」




照「……」

521: 2018/07/22(日) 22:56:27.04 ID:lB/Tlg/A0



トコトコ

照「…私も、手伝おうか」

京太郎「……?」

菫「や、それは助かるんだが…いいのか」

照「私はだいたい終わったし…菫も自分の勉強があるだろうから」

淡「えっ、テルー教えてくれるの!?」

菫「…っ、そうだな。お言葉に甘えさせてもらうよ」

淡「やった!テルーだいすきー!」ヒシッ

京太郎「…ほら席付け淡。時間ないぞ」

淡「はーい」

522: 2018/07/22(日) 22:58:42.42 ID:lB/Tlg/A0


京太郎「先輩、プリントが…とりあえずこの辺りですかね」

照「うん、そうだね…」ペラッ

照「……ごめん、数学はちょっと自信ない」

京太郎「あ、はい。えっとじゃあ……こっちが古典文法なんですけど」

照「……うん、これはたぶん大丈夫」

京太郎「よかったです、俺うまく説明できるかわかんなかったんで。目を通しててもらえますか?」

照「わかった」

京太郎「…それじゃ、第2ラウンドスタートだ。歯ァ食いしばれよ淡ィ!」

淡「あわっ、ひっ、ちょ、ちょっと待って!」



>ンギャー

523: 2018/07/22(日) 23:08:53.27 ID:lB/Tlg/A0







菫「鍵閉めるぞー」

「「「はーい」」」



シトシト

京太郎「お疲れ、淡」

淡「うぅ……」

京太郎「必要そうなプリントは後でL○NEで送っとくから、ちゃんと見とけよ」

淡「うん……みんなありがとう……私はもう…おやすみー」ポケー

京太郎「…やれやれ」


524: 2018/07/22(日) 23:10:11.97 ID:lB/Tlg/A0



京太郎「先輩」

照「……お疲れ様」

京太郎「お陰で助かりました。一人じゃ手に負えなかったんで」

照「……」

京太郎「…先輩?」

照「…テスト頑張ってね」

京太郎「あ、はい…」



京太郎(いつもクールに見せてる照さんだけど、今日は輪をかけて何考えてるかわかんねえ…)

京太郎(俺何かやっちゃったかな…?いや、でも…)


525: 2018/07/22(日) 23:13:43.06 ID:lB/Tlg/A0



テクテク

照(雨降り続くあじさい通り)

照(…傘差さなきゃ、きっと風邪ひいちゃう)



チラッ ピタッ

照(……止まない、な)


照(止みそうにないよ、私も)

テクテク



526: 2018/07/22(日) 23:25:53.72 ID:lB/Tlg/A0


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

淡「じゃじゃーん!」

京太郎「…おう」

誠子「…なんとか赤点回避…してるね」

菫「褒められた点数ではないがな」

尭深「よかったね、淡ちゃん」

淡「ふっふーん」


ガチャ

照「…私が最後」

淡「テルー、見て見てー!ほらっ」

照「……あっ、テスト」ドーン

菫「それ以外何があるんだ」

527: 2018/07/22(日) 23:27:18.92 ID:lB/Tlg/A0
>>526ミス


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

淡「じゃじゃーん!」

京太郎「…おう」

誠子「…なんとか赤点回避…してるね」

菫「褒められた点数ではないがな」

尭深「よかったね、淡ちゃん」

淡「ふっふーん」


ガチャ

照「…私が最後」

淡「テルー、見て見てー!ほらっ」ドーン

照「……あっ、テスト」

菫「それ以外何があるんだ」


528: 2018/07/22(日) 23:41:03.46 ID:lB/Tlg/A0



照「淡、お礼は言った?」

淡「えっ?」

照「みんな時間を空けて勉強会に集まったんだよ」

淡「あっ…えぇー、うーんと……」

淡「…このたびは、みんなのおかげで赤点取らずにすみました」

淡「本当にありがとうございました」ペコリン

照「うん、偉かったね」ナデナデ

淡「えへへー」




529: 2018/07/22(日) 23:58:59.48 ID:lB/Tlg/A0


菫「じゃあ、須賀君、あと尭深も」

京太郎「はい、今準備を」

尭深「了解です」

誠子「えっ、何かあるんですか」

菫「まあ、すぐにわかるさ」


淡「え、なになに?」

京太郎「なんだと思う?」

淡「冷蔵庫の前…たかみーが準備…あっ、おいしいお菓子を買ってきてくれたの?」

京太郎「…惜しい。ほぼ正解なんだけど…ほら」

照「……チョコレートケーキ。しかも手作り」ヒョコッ

淡「…あっ、合宿の時の約束!」

京太郎「ご名答。切り分けるからちょっと待っとけ」

淡「やったー!」

530: 2018/07/23(月) 00:12:53.50 ID:SzYbM05y0






淡「なにこれおいしー!」

菫「甘いがしつこくない…しっとりしたチョコとこのゴツゴツした生地…これは」

京太郎「コーンフレークを砕いて溶かしバターと練って皿に敷くんです。湯せんしたチョコレートに生クリームなどなど混ぜて流し込んで冷やして完成。簡単ですよ」ニコッ

誠子「…だめだ、女子力で負けてる気がする」

尭深「美味しいから、いいよ、うん」

誠子「でもぉー…うん、いいや…美味しいなあ」

531: 2018/07/23(月) 00:15:11.57 ID:SzYbM05y0


照「……」モックモック

京太郎「…いかがでしょうか」

照「……」

京太郎「……お口に合いませんでしたか…?」

照「……」フルフル

照「…すごく美味しかった」

照「ちょっとびっくりして、言葉にできなかっただけ」

京太郎「…あぁぁ…よかった、それならよかったです」

照「毎日作って欲しいくらい」

京太郎「」



誠子「おお、先輩大胆」

尭深「……たぶんそこまで考えてないと思うよ」

菫「…さてな」

淡「むっ……おかわり!おかわりちょーだい!」


538: 2018/08/07(火) 00:06:04.03 ID:P3QddE7m0


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







淡「…あつーい」

京太郎「さっきも聞いた…余計暑くなるからやめてくれ、頼む」

淡「だってありえないでしょ!エアコン故障するなんてさ」




誠子「うへぇ…窓から風は入るけどヌルいやこれ…」

尭深「…やっぱり上の階は熱くなるね」パタパタ


539: 2018/08/07(火) 00:11:24.76 ID:P3QddE7m0


京太郎「……」パタパタ

淡「ねえきょーたろー」

京太郎「なんだ」

淡「あおいで」グデー

京太郎「やなこった」

淡「あおげ!…けちー」



ガチャッ



菫「…皆揃っているか」

照「……」

540: 2018/08/07(火) 00:13:45.53 ID:P3QddE7m0


尭深「お二人とも、お疲れ様です」

誠子「部長…先生はなんて」

菫「ああ…修理は今すぐにとはいかないらしい。土曜日だからな」

菫「この週末でどうにかするとは言っていたが…どちらにしても、今日は部室は使うなと」

淡「えー」

菫「この暑さだし、熱中症とかになられても困るんだろう」

照「……仕方がない」



誠子「…じゃあ、今日はこれで解散?」

京太郎「それも何かもったいない気がしますね…」

尭深「……」パタパタ


541: 2018/08/07(火) 00:15:56.79 ID:P3QddE7m0


淡「……」ムー

淡「……」ポクポクポクポク

淡「……」ポクポクポクポク

淡「!」キュピーン

淡「…そうだ!」








淡「ねえ、プール行こうよ!」


542: 2018/08/07(火) 00:17:51.39 ID:P3QddE7m0



京太郎「あ?」

誠子「え?」

菫「は?」

照「……」

尭深「…魅力的」パタパタ

淡「でっしょー!プールだよプール!涼しいよー」アワアワ



菫「…水中は涼しいだろうな」

誠子「…部長が淡の意見を否定しない、だと…」

照「…明日雪が降る」

京太郎「降ってほしいですね」

菫「私をなんだと思って…まあ、ただの個人的感想だ」

543: 2018/08/07(火) 00:20:07.40 ID:P3QddE7m0


菫「淡」

淡「はいはーい!」

菫「非常に魅力的な提案だが…水着はどうするんだ」

淡「……ハッ!」


誠子「…いつも通りだな」

尭深「そうだねー」パタパタ



菫「今すぐは行けないし、一度家に戻るのも手間だ。…急な話でもあるし」

淡「…うー」

菫「だから今日は今日で別のことをする。ただ……

明日はどうだ?」

淡「…へ?」


544: 2018/08/07(火) 00:23:04.11 ID:P3QddE7m0


尭深「私は行きます」キリッ

誠子「食いつき早っ!…あー、私も暇だし、行こうかな」

照「……別に構わない」


淡「ほんと!?…スミレありがとー!」ヒシッ

淡「…うわあっつ!」バッ

菫「寄れば暑いだろうそれは…」


545: 2018/08/07(火) 00:26:41.22 ID:P3QddE7m0


京太郎「…イイハナシダナー」

菫「…なぜ他人事なんだ」

淡「きょーたろーも行くよね?」ズイッ

京太郎「え?……いいんすか俺行っても」

菫「男一人は嫌か?」

京太郎「いえ、願ったり叶ったりですけど…他の先輩方は」


誠子「え?別にいいんじゃない?」

尭深「…一人置いてけぼりは、可哀想…」パタパタ

照「……そうだね」


京太郎「みなさん……」ジーン

菫「ま、そういうことだ。男子だから別行動とか、そんな味気ないこと言わないさ」

京太郎「……合宿、雀卓、ケーキバイキング…うっ、頭が……」

淡「何言ってんのきょーたろー」

京太郎「…ハッ、俺は何を」

淡「変なきょーたろー」クスクス


557: 2018/08/19(日) 20:07:29.87 ID:LczO9Obi0



誠子「…じゃあ、今日はどうするんですか?」

菫「これからちょっと移動する。プールほどじゃないが、まあまあ涼しいぞ」

京太郎「…というと?」







淡「あー…暑かった涼しー!」

尭深「ね、ほんとうに涼しい」

菫「大声出すなよ、他のお客さんに迷惑だから」

照「…雀荘、久しぶり」

558: 2018/08/19(日) 20:08:23.91 ID:LczO9Obi0


菫「学校の設備が充実するとな、こんなことでもない限りなかなか来る機会はない。特にウチは」

京太郎「他校に研究されると困るからですか」

菫「そう。余計な情報を漏らしたくないからな。幸いウチは選手層も厚いし練習相手には困らない」

誠子「いいんですか、出てきて」

菫「うん、だから他の人とは打たず一つの卓を借りて六人で回す。都合のいいことにこの店は個室付きだ」

京太郎「カラオケボックスみたいですね…あ、ドリンクバー」

菫「ちょっとここで待っててくれ。…すみません!予約していた弘世ですが……」







559: 2018/08/19(日) 20:11:12.48 ID:LczO9Obi0


淡「起家かぁ」

照「……(お菓子ないのかな)」

菫「尭深がラス親じゃないだけまだいいかな」

尭深「……頑張ります」




京太郎「そういえば雀荘ってあんまり来たことないかもです」ストン

誠子「そうなの?昔から打ってるって言ってたし、てっきり」

京太郎「龍門渕は屋敷の中に立派な麻雀部屋がありましてね…(遠い目)」

誠子「あっ、なるほど」


560: 2018/08/19(日) 20:13:32.64 ID:LczO9Obi0


菫「ロン、3900」

淡「…ぶー、狙ったなー」




誠子「…待って、冷静に考えたら……あの天江衣とか、龍門渕透華とかと練習してたってことでしょ?」

京太郎「…確かに打ってましたけど……そんないつもいつもじゃないですよ?」

誠子「いやそれでもさ」



照「ツモ、500オール」

淡「あ、始まった」ワクワク

菫「なぜワクワクしてる」

尭深「……」ズズッ


561: 2018/08/19(日) 20:26:36.79 ID:LczO9Obi0



京太郎「やっぱり、学年同じだと気になります?」

誠子「まあね、去年の私は見てただけだったから……一年だけであの活躍は眩しかった」

京太郎「確かにオール一年で勝ち抜くのは夢がありますね」

誠子「運とかじゃなく実力で勝ち進んでたからね、去年の龍門渕は」

誠子「…まさか予選で消えちゃうとはね」







照「ロン。2900の一本場は3200」



照「ツモ、1600オール」


誠子「…こうなるとなかなか止められないね」

京太郎「ええ、早い上に読みづらいですし…」

562: 2018/08/19(日) 20:34:12.57 ID:LczO9Obi0



照「……」タンッ

スッ

京太郎「…ん?」

誠子「どした?」

京太郎「いや…」

京太郎「(今、……この感触からすると照さんは意識的に和了りから離れた)」

京太郎「(ここで鳴くと、一向聴は変わらないけど……ほら、次で聴牌できたのに)」ジー

誠子「?」

563: 2018/08/19(日) 20:42:47.21 ID:LczO9Obi0



菫「(まずいな……この辺か)」タンッ

尭深「ロン。1000点の三本場で1900」

菫「……やれやれ、どうにか止められた」

淡「むー、聴牌してたのにー」

尭深「淡ちゃん、今日は全然ダブリーしないんだね」

淡「だってテルー相手だと取られちゃうこと多いし…」


京太郎(…ふむ)


564: 2018/08/19(日) 20:51:49.09 ID:LczO9Obi0



誠子「…須賀はさぁ」

京太郎「はい?」

誠子「…長野に残ったままでも十分強くなれたんじゃない?麻雀」

京太郎「……強くなるためだけにここに来たんじゃないですし。それに…先輩方に会えて嬉しいですよ、俺は」

誠子「…そう。そこには私も入ってんのかな?」

京太郎「もちろんですよ。…何度も言わせないでくださいけっこう恥ずかしかったんで」

誠子「ふーん」ニヤニヤ


565: 2018/08/19(日) 21:10:01.62 ID:LczO9Obi0






尭深「ツモ。裏は…残念、倍満です」

照「…もう少しだったね」

尭深「部長が早和了りしかけてきたので…リーチするしか。もう少し待ちたかったんですけど」

菫「それなら私のハッタリにも効果があったということだな」ジャラッ

淡「わっ!聴牌してない」

尭深「…一本取られました」



誠子「部長さっすがー」

京太郎「呼びました?」

誠子「呼んでない呼んでない。…じゃっ、打ちますかね」コキッ コキッ


566: 2018/08/19(日) 22:20:47.40 ID:LczO9Obi0



尭深「淡ちゃん、ジュース持ってきたよ」コトッ

淡「ありがとー」ニヘラ



京太郎「…前ほど勝ち負けどうこう言わなくなりましたね、淡」

菫「ああ。どこかの誰かが『負けてもそこから学べばいい』とか言ってくれたらしいからな」

誠子「……」

京太郎「それは初耳…あれ?亦野先輩どうしたんですか?」

誠子「な、なんでもない!早く打つよ!」

照「……」


567: 2018/08/19(日) 22:22:23.40 ID:LczO9Obi0


照「……」タンッ

京太郎(照さんと打つのもまあ、こっちに来て何度目かになるわけだけど)タンッ

誠子「チー」

京太郎(…合宿最終日に久しぶりに打てて…相変わらず強いと思った)

京太郎(でも昔みたいに、ただ教える側と教えられる側ってわけじゃなく……もちろん対等じゃないけど、相手になれる)

京太郎(俺はそうありたい、と思ってるのかな)

京太郎(…さて。やっぱり東一は照魔鏡か)チラッ

照「……」タンッ

京太郎「……」タンッ

京太郎(…もう何回も視てるんだ、わからないはずはない)

京太郎(照さんはどんな気持ちで…いや、考えてもしょうがない。今は全力でぶつかるだけだ!)


568: 2018/08/19(日) 22:24:47.33 ID:LczO9Obi0


誠子「ポンッ」カチャン

京太郎(先輩の鳴き麻雀は…俺のスタイルと相性がいい。言わないけど)

京太郎(今ずれて…こっちの気配。さっきの感触と合わせると…)

菫「……」タンッ 白

京太郎(そう…ここで鳴けば聴牌が取れる。でも…それじゃ上手くいかないんだよね)スルー

京太郎(…正直、『牌を引き寄せる』って点においては俺はポンコツだよな。運頼みにも程がある)

京太郎(だけど…)

誠子「……」タンッ

京太郎「ポン」カチャン

京太郎(上手くいくときは上手くいく。これで後は…)

569: 2018/08/19(日) 22:26:14.09 ID:LczO9Obi0



誠子(手読まれてるなー…三つ目が鳴けない)タンッ

菫(先制したかったが…仕方ない。切り替えていく)タンッ

照「……」タンッ 白

京太郎「ロン。3900」

照「!……びっくりした」

京太郎「あ……いや、ちょっと頑張りました」

京太郎「(相変わらず器用ですね、表情変えずに驚くなんて)」

京太郎(……なんて言いかけた、気ぃ緩みすぎだわこれ)パシパシ

誠子(ちょっと頑張ったって…狙ったってこと?照先輩を?)

菫(これは…まだ何かあるな、照)ハァ

570: 2018/08/19(日) 22:27:18.44 ID:LczO9Obi0






照「ツモ。300・500」


照「ロン、1600」


照「ロン。2000の一本場は2300」


照「ロン。2600の二本場は3200」





菫「それだ照。ロン、3900の…五本場は5400」

照「…狙い撃って来たね」

菫「当然、独走されるわけにはいかない」

571: 2018/08/19(日) 22:28:50.00 ID:LczO9Obi0




誠子「……ツモッ!3900オール!」

京太郎「っ…これで、ラス転落か」

菫「亦野の独壇場だったな」

誠子「配牌が良かったです。さて…連荘したいけどなぁ」


京太郎「ロン。2000の一本場は2300」

誠子「ギャフン」

菫「フラグ回収お疲れ様」






1位照 2位菫 3位京太郎 4位誠子

菫「…亦野の課題は防御だな。いつも言っているが」

誠子「いつも言われてます、はい…」ガクッ

菫「まあ、ちゃんと分かってるならいいんだ。さて、次は須賀君と私が抜けよう」

572: 2018/08/19(日) 22:42:24.23 ID:LczO9Obi0




淡「あー、お腹いっぱい打った!」

誠子「ドリンクでお腹いっぱいの間違いじゃないの?」

淡「それもそう……あっ、そんなこと言うから…ちょっとお手洗い!」モゾモゾ

菫「入り口で待ってるからなー」


京太郎「お疲れ様です、渋谷先輩」

尭深「うん、お疲れ様。涼しかったね」

京太郎「ですね…ってそこですか」


573: 2018/08/19(日) 23:49:23.94 ID:LczO9Obi0



京太郎「先輩って暑がりなんですね、意外です」

尭深「そうかなぁ」

京太郎「いつもお茶淹れて飲んでるじゃないですか」

尭深「…緑茶って意外と、体を冷やす効果があるんだよ」

京太郎「マジっすか」

尭深「マジ、だよ」ニコッ



淡「おまたせー」ピョコピョコ

菫「揃ったな。……さて、今日の費用だが、特例で部費から出せることになった」

京太郎「おぉ」

淡「えー、じゃあもっといろいろ頼めばよかった…ピザ食べたかったな」

菫「もちろん場所代だけだぞ」

淡「…ちぇー」

菫「さて、一度学校に戻って、報告してから解散だ。…行こうか」

574: 2018/08/20(月) 00:00:59.54 ID:0ugZz3Py0
スタスタ ワイワイ

京太郎「お疲れ様でした、先輩」

照「……うん」

京太郎「夕方なのにまだ暑いですね」

照「…無理してない?」

京太郎「えっ?」

照「体調とか」

京太郎「…ああ、麻雀でってことですね。…流石にぶっ倒れたりはしませんよ」

京太郎「俺も付き合い方がわかって来たみたいで。ちょっと体が重く感じたらあんまり動かないようにとか」

照「…そう、それならいい」

京太郎「また淡がダブリー連発して来たりしたらわかんないですけど」ハハッ

照「……笑えない冗談」

575: 2018/08/20(月) 00:04:20.55 ID:0ugZz3Py0




京太郎「先輩は…みんなの先生ですね」

照「…急に、なに」

京太郎「さっきふと思ったんです。…最初の局で、まだ連荘できたのにあえてそうしなかったでしょう?」

照「……そうだね、わかるよね」

京太郎「わざと隙を作って、他の人がどう対応するか…結果渋谷先輩の安手に部長が差し込んだわけですけど」

京太郎「大声じゃ言えないですけど…懐かしい気持ちになりました」

照「…他の人には言わないでもらえる?」

京太郎「もちろんですよ」

576: 2018/08/20(月) 00:07:00.99 ID:0ugZz3Py0


淡「きょーたろー!テルー!」タッタッタッ

照「…走ったら暑いよ」

京太郎「どした?」

淡「えっとね…なんだっけ」

「「え?」」

淡「…あっ、明日!明日ね、朝10時に〇〇公園に集合!水着とおさいふをわすれないよーに」

京太郎「お前もな…了解」

照「……わかった」

淡「きょーたろー、遅れたら罰金だよ!」ニッ タッタッタッ

京太郎「なんで俺だけ……」

照「……」

577: 2018/08/20(月) 00:08:34.20 ID:0ugZz3Py0


照「淡と、仲が良いね」

京太郎「まあ…否定はできませんけど」

照「……やっぱり付き合ってる?」

京太郎「それ何ヶ月前の話引きずってるんですか……ない、ないですって」

照「そう…ならいいけど」

京太郎「なんでいいんですか、泣きますよ」

照「…募集中?」

京太郎「別にそう言うわけじゃ…やけに食いつきますね」

照「…ちょっとした、気まぐれだから。……うん、そう」

京太郎「…そうですか」

照「……」

583: 2018/08/20(月) 22:29:27.41 ID:0ugZz3Py0


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


京太郎「…やっべ、もしかして俺がラスか」ザーッ キキーッ



淡「おっそーい!」

京太郎「…いやいやいや、まだ10時前だろうが」

京太郎「確かに先輩たち待たせたのは悪かったですけど……ほんとすみません」ペコリ

菫「気にするな、こいつ一人が騒いでるだけだ」

淡「でもー、早く来てくれれば早く行けたのにー」ブーブー

誠子「そらそうでしょうよ、なに当たり前のこと言ってんの」

京太郎「…わかった、プール行ったらアイスか何かおごってやるから」

淡「…ほんと!?ぜったいだよ!」

京太郎「先輩たちの分も、出させていただきます」

誠子「そんな、別にいいのに」

尭深「でも、おごってくれるって言うなら…お言葉に甘えちゃおうかなぁ」

照「…行こう、早く行こう」

菫「おいこら」

京太郎「あはは…」


584: 2018/08/20(月) 22:44:51.84 ID:0ugZz3Py0











京太郎(さて、場所取りも完了っと……)

ガヤガヤ キャッキャッ

京太郎(…日曜だからか?けっこう多いな)

京太郎(あっ、……あれかな)

京太郎「おーい、こっちこっちー」ブンブン

タッタッタッ


585: 2018/08/20(月) 23:02:37.86 ID:0ugZz3Py0



淡「たいぎであったー、ほめてつかわすよきょーたろー」ドーン

尭深「…日差しが…あつい」ドタプーン

京太郎(で…デカい!ナニとは言わないが…)

菫「だから走るなと……ハァ」

誠子「いやぁ、場所取りありがとねー、助かるよ」

照「……日陰」

京太郎(あれ……天国はこんなところにあったのか)フリーズ

菫「……どうした?」

京太郎「ハッ……みなさんどうぞ陰に。渋谷先輩、その荷物は…?」

尭深「みんな喉乾くだろうから…冷茶持ってきたの」

京太郎「おぉ…助かります」ヒョイッ




587: 2018/08/20(月) 23:17:19.85 ID:0ugZz3Py0


淡「ねえきょーたろー」ズイッ

京太郎「…なんだこれは」

淡「えっ…どう見てもビーチボールだよ」

京太郎「そりゃわかってんだよ、それを俺に突きつけてどうしろと」

淡「膨らませて?」ニコッ

京太郎「…ですよねー、自分でやれよ自分で」ブツブツ

尭深「あっ…」

京太郎「……先輩、後ろ手に隠さないでいいですから。浮き輪ですか?」

尭深「うん。……あの」

京太郎「一つも二つも変わんないですし、任せてください」

尭深「ありがとう…よろしくね」


淡「…なんで私のときと態度が違うの」

京太郎「普段の行いの差…だな」

淡「ひどーい」

フゥッ フゥーーー

588: 2018/08/20(月) 23:21:59.94 ID:0ugZz3Py0



~準備体操中~

京太郎「何時頃まで泳ぎます?」イッチニ

菫「…淡が満足するまで、……まあ3時か4時くらいまでかな」サーンシ

誠子「…インハイ前にちゃんと遊び倒す、最後のチャンスかもねー」ゴーロク

淡「えー、まだあちこち行きたいのに」シッチハチ

照「…インハイ終わっても、夏休みはまだあるから」コキッコキッ

淡「…それもそうか。さすがテルー!」

尭深「あはは…」

589: 2018/08/20(月) 23:26:15.75 ID:0ugZz3Py0


淡「いっちばーん!」タタタッ

ザッパーン

菫「飛び込むな…と遅かったか」チッ

淡「きゃはっ、冷たくてきもちーよー!はやくおいでよー」

尭深「…行くしかない」トコトコ

チャポン

誠子「んじゃ私も…ってそうか、荷物番が」

京太郎「じゃあ俺とりあえず見ときますから、先輩たちお先にどうぞ」

誠子「あっそう?じゃあ、お言葉に甘えて」テクテク

菫「…すまないな、すぐに交代するから」

京太郎「いえいえ、お気になさらず」

菫「ほら、照も行くぞ」

照「…よろしくね」

京太郎「いってらっしゃーい」


590: 2018/08/20(月) 23:35:18.17 ID:0ugZz3Py0




京太郎(……ふぅ。流石に水着の女の子五人に囲まれて平常心でいられるほどできてねーっての)ギシッ

<キャハハ こら淡!
<捕まえてみろー

京太郎(……)モンモン

京太郎(…いかんいかん。……しまった、泳いだ方がむしろ良かったか)ゴロン






ミーンミーン ジー


京太郎(空が、青い…)

京太郎(夏、インハイ……三連覇)

京太郎(当然だけど、照さんや部長にとっては最後の、夏)

京太郎(俺に、まだできることは…)


591: 2018/08/21(火) 00:34:10.62 ID:BuAov55Q0





「泳いできたら?」

京太郎(…と、この声は照さん)

京太郎「早かったですね(クルッ)ってグフッ!」

照「?」

京太郎(いつのまにか頭のすぐ横に照さんが立ってて…ふ、太ももやら何やらが近い!)

京太郎(そして…(チラッ)ローアングルからの照さん…こう…ふにっ、としてそう。いや、してる(断言))

京太郎(これは、これで……じゃなくて!)ガバッ

照(急に顔を隠して……どうしたんだろう)ハテ?

592: 2018/08/21(火) 00:45:35.59 ID:BuAov55Q0



京太郎「と、とりあえず…そこにお座りになって……」

照「うん」ギシッ

チラッ

京太郎(よし、さっきの暴力的な距離からはどうにか…やれやれ。最悪の結果は免れそうだ)

京太郎「……ふぅ」ムクッ

照「…どうかしたの」

京太郎「いえ…自分と戦ってました」

照「…そう」

593: 2018/08/21(火) 00:55:50.18 ID:BuAov55Q0


京太郎「冷たかったですか?」

照「…日で少し温まって、ちょうどいいくらい」

照「…泳ぎたい、でしょう?」

京太郎「でも、先輩ちょっとしか」

照「まだ時間もあるから。……本だって持ってきてる」ペラッ

京太郎「……すみません、行ってきます」バッ

照「……いってらっしゃい」




603: 2018/08/26(日) 22:56:12.91 ID:IiMMbo420


~流れるプール~








尭深「……」プカプカ

菫「……」プカプカ

京太郎「……」プカプカ

604: 2018/08/26(日) 23:01:32.91 ID:IiMMbo420



京太郎「……ずっとこうしてたんですか?」

尭深「…最初は淡ちゃんと遊んでたんだけど…あちこち行っちゃうから」プカーン

京太郎「テンション高かったですからね…」プカーン

菫「淡には亦野がついてくれてるから、まあ…大丈夫だろうと」プカーン

京太郎「…こういうときくらいは羽を伸ばしててください部長」

菫「…うん」

尭深「……」プカーン

京太郎「……」プカーン

菫「…たまにはこういうのも、悪くないだろう?」プカーン

京太郎「……そうですね」

尭深「……」パチャパチャ


605: 2018/08/26(日) 23:24:09.84 ID:IiMMbo420



~ビーチバレー~

尭深「頑張ってー」フリフリ

淡「行くぞー!」バシッ

菫「速っ…おっと」ポ-ン

京太郎(…意外!部長の素早い身のこなし)

誠子「はいはーい……ほいっと」パシン

京太郎「はい拾いまーす…先輩次!」トスッ

照「あっ…えっ……えいっ」

バスッ

菫「あっ」

尭深「えっ」

誠子「先輩?」

淡「て、…テルーの頭に、ボール……」

京太郎「」

607: 2018/08/26(日) 23:40:24.29 ID:IiMMbo420


コロコロコロ…

淡「きょーたろー…オニ!アクマ!」ジト-

京太郎「…っ!」

タタッ
京太郎「先輩!すみませんでした!」

照「…気にしないで」

京太郎「ほんとうに、いや、お怪我は…」アタフタ

照「…大丈夫。大丈夫だから……」

ガヤガヤ どーしたどーした
修羅場か?ん?

照「……」

京太郎「……先輩?」

照「…あまり、騒がないで」プルプル

京太郎「…すみません」

608: 2018/08/27(月) 00:13:00.97 ID:0jC1cMEA0





in 尭深
out 照 京太郎


そーれ はーいよっと


京太郎「…先輩、怒ってますね」

照「怒ってない」

京太郎「無表情装っても…分かりますよ」

照「っ…装ってない、もともとこんな顔してる」

609: 2018/08/27(月) 00:14:26.31 ID:0jC1cMEA0


京太郎「さて、どうでしょうかね…っと」パスッ

ボールこっちー パースパース

京太郎「はいはーい!……よいしょー」


ありがとー


京太郎「どーもー」

照「…行ってくればいいのに」

京太郎「このまま置いていけないですって。……俺もさっきはどうかしてました」

照「……」

610: 2018/08/27(月) 00:15:27.33 ID:0jC1cMEA0

京太郎「でも…その……あのですね」

照「…何?」

京太郎「えっと…まあその、心配なわけです。先輩」

照「……」

京太郎「危なっかしいところがあって、目が離せない……ってすみません、子供扱いしたいわけじゃなくて」

照「いい」

京太郎「……」

照「心配してくれるのは、嬉しくないわけじゃない……から」


611: 2018/08/27(月) 00:21:48.28 ID:0jC1cMEA0


京太郎「……」

照「……」


ポスン う゛わ゛っ
あははー スミレこけてんのー
こいつ… 次はお前だ淡!


「「ねえ/あの」」

京太郎「……先輩からどうぞ」

照「…お先に、どうぞ」

京太郎「いや……まあその、気持ちだけでもお詫びということで…先輩だけソフトクリームもう一本、付けさせていただけませんか」

照「…それは嬉しい。…バニラとチョコ一つずつ、よろしくね」

京太郎「もうメニュー把握してるんですか…」

照「さっき見てきた。バニラとチョコとミックスの三種類。正直迷ってたから、二つ食べられるなら嬉しい」

京太郎「…迷うなら間とってミックスっていう選択肢は…」

照「ない。ミックスで間にはならない。ミックスはミックスを食べたい時に食べる」フンス

京太郎「なるほど。……それで、先輩の用事は?」

照「……忘れるくらいだから、大したことじゃない」

京太郎「さいですか……」

612: 2018/08/27(月) 00:39:32.65 ID:0jC1cMEA0


~ウォータースライダー~

ガヤガヤ

誠子「来たからにはね、やっぱりこれ行かなきゃ」カツカツ

京太郎「ですよねー」カツカツ

菫「…にしても…結構高いな」カツカツ

京太郎「いちいち階段上らないといけないのが玉に瑕、ですかね」カツカツ

誠子「もう少し若い頃は何度も上ってきてたけどなぁ…正直少し、キツい」カツカツ

菫「誠子がそんなんで…私はどうなるんだ私は」

京太郎「ま、まあ…あとちょっとですから」

613: 2018/08/27(月) 00:49:46.32 ID:0jC1cMEA0



カツカツ
京太郎「はい、到着」

誠子「ひょー!たっかいなぁ」

菫「荷物を置いたのはあちらの方だから……あそこで漂っているのが尭深かな」チラッ

<次の方どうぞー

誠子「じゃあ、私いくよ。それぃ!」

シュ-

京太郎「慣れてますね」

菫「あぁ。…これ、どのくらいのスピードになる?」

京太郎「えっ…あっ、もしかしてあまり滑ったことない、とか」

菫「ん。なんとなくついてきてしまったが」

京太郎「えっとですね…この看板にもありますけど」

デ-ン

京太郎「座った状態で滑ります。体を寝かせればスピードが出る感じで」

菫「なるほど。調整できるんだな」

616: 2018/08/27(月) 01:08:23.30 ID:0jC1cMEA0


>次どうぞー

菫「じゃ、行ってくるとするよ」ビシッ

シュ-

京太郎(やだなんかイケメン)


>はい次どうぞー

京太郎(どうせ行くなら、ハイスピードで…勢いつけて、そらっ!)

ドシュ-

京太郎(来た来た、この爽快感…たまんねー)
ヒャッホ-ウ

617: 2018/08/27(月) 01:11:24.97 ID:0jC1cMEA0



菫(滑り台といい…人は速度を体感したがる生き物なのか)

菫(それとも重力に任せて動いていくところに面白さを見出すのか)

菫(いずれにしても…なるほど、悪くない)

菫(…そろそろゴールかな?)

ゴゴゴ

菫「な、何だ?」

京太郎「や、やっべ!ブレーキ!ブレーキ!」

菫(お、追いついてきただと?のんびり行き過ぎたか、でもあと)

ゴスッ

京太郎(あ、足がジャストミート)

菫「グヘッ」

京太郎「ぶちょぉぉぉー!」

ザッパ-ン


619: 2018/08/27(月) 01:13:11.57 ID:0jC1cMEA0








京太郎「すいませんでした!」ドゲザ-

>またあの人謝ってる… やーねーほんと

菫「気にするな…私にも非があった、9:1くらいで」

誠子「痣とかにはなってないみたいで…よかったね須賀、親衛隊がいたら今頃袋叩きだよ」

京太郎「返す言葉もございません…出しちゃいけないような声も出させてしまって」

菫「忘れろ」

京太郎「あっはい」


620: 2018/08/27(月) 01:26:45.97 ID:0jC1cMEA0



京太郎「あの…お詫びと言っちゃなんですが…ソフトクリームもう一本」

菫「私が二本も平らげると思ってるのかな?」

京太郎「あ…いえ、その」

菫「その様子だと…照に同じ手を使ったろう?」

京太郎「なぜそれを…」

菫「……全く。君は照に甘いんだから」

京太郎「そ、そうですかね?」

誠子「自覚無しときましたよ部長」ヒソヒソ

菫「ああ。重体だなこれは」ヒソヒソ

京太郎「?」

621: 2018/08/27(月) 01:27:48.95 ID:0jC1cMEA0



菫「…まあとにかく、これに懲りて羽目を外し過ぎなければ、それでいいから」

京太郎「ははー、寛大なご処置ありがとうございます」

菫「…私は真面目に言ってるんだが」

京太郎「すみません調子乗りました」

誠子「やれやれ」



622: 2018/08/27(月) 01:31:24.22 ID:0jC1cMEA0



~???~

京太郎(…はぁ、そんなつもりじゃないんだがなぁ…)

京太郎(ん…?あれは…)




淡「だーかーら!一人じゃないのー!」

「でもさー、誰も来そうじゃないしー」

「ねーいいじゃーん、俺たちとちょっと遊ぶくらいさー」

淡「嫌って言ったら嫌なの!」


京太郎(ナンパ…だな)

京太郎(見た目だけで判断したら後悔するぞ…じゃなくて)

623: 2018/08/27(月) 01:39:53.89 ID:0jC1cMEA0


京太郎(…世話が焼けるな…しゃーなし)ダッ


京太郎「はいちょっとすみませーん」

「あ?」

京太郎「待たせたな、ほら行くぞ」ガシッ

淡「あっ…」

「…ちっ、兄貴か」

「冷めたわ…次いこ次」

624: 2018/08/27(月) 01:41:33.07 ID:0jC1cMEA0



淡「……」

京太郎「……ふぅ、なんとかなったな」

淡「……」

京太郎「淡さん?そんなに手を強く握られると痛いんだけど」

淡「ギニャッ!」バシッ

京太郎「痛っ…そんな振りほどかなくてもいいじゃん」ブツブツ

淡「あっ…な、なんできょーたろーが兄貴なの!?」

京太郎「知らねーよ…金髪同士だし、兄妹に見えたんだろ」

淡「そんなの……納得いかない、私の方が誕生日先だしー」

京太郎「落ち着きないからな、しゃーない」ハハハ

淡「なにをー!」ウガ-

625: 2018/08/27(月) 01:43:30.80 ID:0jC1cMEA0






菫「すまない、私が淡と一緒にいればこんなことには」

京太郎「いや、それを言ったら俺だってそうです」

淡「むー」プク-

尭深「よしよし、怖かったね」


菫「ともかくありがとう。さっきの蹴りを帳消しにして余りあるよ」

京太郎「先輩!その話は」

照「…菫を蹴ったの?」

京太郎「違うんです!不可抗力で…部長ぉ!」


淡「…兄妹、兄妹じゃなくて…」

淡「か、か……」

淡「……///」

尭深「どうしたの?」

淡「な、何でもないよ!?何でもない!」ブンブン




626: 2018/08/27(月) 01:47:19.79 ID:0jC1cMEA0
というベタな展開を見せてここまで
なぜこんな長くなったし
次回は今週中を予定、照のマスコミ用顔のお話

635: 2018/09/02(日) 20:31:31.82 ID:B/ao/0720






京太郎「取材…ですか」

菫「うん。ほら、そこの棚に揃ってるだろう?Weekly麻雀TODAY」

京太郎「…ああ、例の」

照「…いつも、来る」

誠子「そりゃあ、うちが全国トップなんですから。来ないわけないですよ」ハハッ

菫「…まあ、いわゆる強豪校と全国出場校には一通り来るようだからな。ウチだけ特に多いなんてことはないさ」

淡「えー…めんどくさい…」

菫「これから先も付き合うんだ、面倒がってはいられないぞ」

尭深「……」ズズッ


636: 2018/09/02(日) 20:55:37.97 ID:B/ao/0720



菫「というわけで淡、お前は個人レッスンな」

淡「なんで!?」

菫「取材されるときの最低限のマナー、それにあることないこと話さないように教育しなきゃならんからな」ゴゴゴ

淡「スミレ、こわい!こわいから!」

京太郎「あ、あのー…俺は聞かなくてもいいんですか」

菫「ん、須賀君は多分問題ない」

京太郎(いいのかそんな適当で)

菫「…そこのバックナンバーに付箋が付いているだろう?過去の白糸台の記事につけてあるから、参考までに皆で目を通しておいてくれ」

淡「そ、そっちの方が楽しそうだなーあはは」ズルズル

誠子「い、いってらっしゃい…」

バタン

637: 2018/09/02(日) 21:28:00.63 ID:B/ao/0720



照「…尭深、付箋付きのもの探して持って来てもらえる?」

尭深「わかりました」


京太郎「あっ、俺も手伝いますよ。かさばると重いでしょうし」

照「…じゃあお願い。誠子」

誠子「はい」

照「冷蔵庫にカスタ○ドケ○キが入ってたはずだから出して。みんなで食べよう」ワクワク

誠子「紙コップも出しときますね」

照「気がきくね、よろしく」


638: 2018/09/02(日) 22:05:48.64 ID:B/ao/0720


パラッ ペラッ

誠子「最初は扱いちっちゃいですね」

尭深「…この黄色い付箋は、ただ白糸台に触れただけの記事についてるみたい」

京太郎「桃色のだと…部員や顧問のコメントが出てますね。……部長が分類したんだろうか」

照「……」モックモック



京太郎「これも桃色…あっ」

誠子「どうかした?」

照「表紙の…瑞原プロ?」

京太郎「違います!……二年前の、インハイ出場決めたときの記事です」



尭深「『白糸台高校、悲願の出場!』ですか…」

誠子「照先輩や部長が入る前までは強豪校止まりだったんですよね?さすが…」

照「……」

京太郎(…懐かしいな)


639: 2018/09/02(日) 23:36:03.75 ID:B/ao/0720
=========================



小さい頃には、時間なんていくらでもあるものだと、そう錯覚していた。



だから季節が巡って年が変わり、背丈が伸びてもっと物事が良くわかるようになるにつれ、俺が根拠もなく心の隅に置いていた希望ーーつまり、


照さんがひょっこりと帰ってくるだとか、連絡してきてくれるだとか、とにかくまた昔のように三人で麻雀ができるようになるーーそんな願望はますます現実味を失っていく、それでいて諦めだけはつかないのは俺がまだ子どもだったからかもしれない。



『昔のように』……なんて言葉を使うほど、それでもその頃には時間の経過というものを十二分に体感していて、俺と咲は中学生になっていた。

640: 2018/09/02(日) 23:38:59.81 ID:B/ao/0720


『京ちゃん、顔こわいよ?』

『……眠たいの。部活は相変わらずだし』

『ふーん…』

俺は麻雀部……ではなく、ハンドボール部に入っていた。
理由の一つ目、体力と無駄に大きくなった図体を持て余していたこと。
二つ目、麻雀で照さんが活躍したという話は聞かず、中学で麻雀をやっても出会える可能性は低いと思われること。
三つ目、麻雀以外の何かに打ち込むことで、それに付随するオカルトめいた力に目覚める期待ができること。

そういう理由、もとい言い訳。


641: 2018/09/03(月) 00:03:17.52 ID:uI7kawhG0


『仲直りさせる』という目標を掲げながらそのための手段は何も持ち合わせていなくて、麻雀が彼女との唯一の接点であり それすら危ういことには、子どもの俺にもすぐに気づけたのだった。

宮永家の雀卓は埃をかぶり、部屋の隅に追いやられ、ついには見なくなった。物置部屋にしまったのだと聞いて少しほっとした。
咲はそれらのことについても聞かないと何も言わないほど、自分を極力麻雀から遠ざけているようだった。俺はその話を早々に切り上げたのを覚えている。


それでも、照さんと咲に教えられた麻雀の熱は俺の中で、消えることだけはしなかった。嫌いになるなど考えたこともなく、頻度は減ったが週一回はネット麻雀に精を出し、そこで知り合いもできた。俺はそれなりに麻雀を楽しんでいたのだ。
ただ部活でやるほどの熱意はなく、期待もない。そんな中途半端な状況で、中二の夏を迎えようとしていた。



642: 2018/09/03(月) 00:06:12.33 ID:uI7kawhG0



その日の夕刻、部活の帰り道。本屋に立ち寄ったのは少年誌を立ち読みしたかったからに違いない。

読みたいものを読んで名残惜しくパラパラめくってまた積み直して、ふと視界に入ったはやりん…瑞原プロの表紙に惹かれて手にとったとしても責められる謂れはないはずだ。だって中学生だもん。
数年前に創刊されたWeekly麻雀TODAYの存在は知っていたし、何らかの痕跡を探してめくってみた事も何度かあった。そしてその度に何も得られずにがっかりして、そのうち見る事もなくなっていた。


嘘か真か「執事」という職業だというネト麻の知り合い曰く、本当に強くても中学で麻雀をするとは限らない、と。
『そういう知り合い…いえ、お仕えする主人がそうなのですが』とそんなことを言っていたのもまあ、頭のどこかにひっかかっていたのかもしれない。


ともかく俺はその号を手にとって「インハイ特集~今年の優勝候補はココだ!」なんて記事を見つけ目を落とし、やがて数十秒後にはレジに駆け込むことになる。


643: 2018/09/03(月) 00:07:28.54 ID:uI7kawhG0
地の文読み辛ければ申し訳ないです
この辺で一旦

646: 2018/10/15(月) 06:39:35.90 ID:7bKi0pUao
速報復旧したね 続き待ってます

647: 2018/10/15(月) 08:43:12.28 ID:Y1SO8cPR0
起きたら復旧してたのでびっくり
一両日中に再開予定ですとりとり

649: 2018/10/15(月) 11:45:34.36 ID:X1uAxpU1o
待ってます

引用: 照「京ちゃんなんて知らない」京太郎「」