653: 2014/05/31(土) 22:34:28.37 ID:3frAuQwfO
勇者「……zZZ」

「……勇者君、起きなさい」

勇者「……zZZ」

「勇者君、もう朝ですよ……起きなさい……」

勇者「んっ……もう朝か……いやぁ、昨日の一件でまだ筋肉痛だよ……痛ててて……」

「……昨日はお疲れ様でした。流石、私の勇者君です」

勇者「……ん? ところで、あんた誰?」

「私は神様です」

勇者「えっ!?」


第一話 「お前は今日氏ぬ!」

第二話 「Hしないと氏ぬ!?」

第三話 「褒められないと氏ぬ!」

第四話 「約束破ると氏ぬ!」

第五話 「優しくしないと氏ぬ!」




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654: 2014/05/31(土) 22:40:27.39 ID:3frAuQwfO
神様「今日は貴方に、お話があってやってきました」

勇者「えっ……? 神様がわざわざくるってなんだよ……俺、何にも悪い事してねぇぞ!?」アセアセ

神様「いいえ。違います、その逆です」

勇者「……逆?」

神様「最近の勇者君の頑張りはとても素晴らしいです。もう、勇者君はダメ人間なんかじゃないでしょう」

勇者「あっ……ありがとうございます……」

神様「もう……勇者君は一人前です……」ニコッ

勇者「……えっ?」

神様「もう……勇者君には命題なんて必要ありません……あなたはこれから、自由な人生を歩むべきでしょう」

勇者「!」

655: 2014/05/31(土) 22:47:08.65 ID:3frAuQwfO
神様「……」

勇者「マ、マジかよっ……! やったっ! これで俺もついに命題から解放されるっ……!」

神様「……きろ」

勇者「うわぁ……こんな夢みたいな話……俺、信じられないやっ!」

神様「……きろ……んだ……きろ!」

勇者「あれっ……? 神様、急に変な事言い出してるけど、どうしたの……?」

神様「……起きろ……起きろ」モヤモヤ

勇者「あれ……? 神様の顔がぼやけて……な~んか、見た事のある顔に変わっていってるような……」アセアセ


天童「おいっ、起きろっ! 何、都合のいい夢みてんだよっ! とっとと起きろっ!」

勇者「!」

656: 2014/05/31(土) 22:53:54.00 ID:3frAuQwfO
勇者「うわあああっ!」ガバッ

天童「……おめぇはよぉ、複雑な夢を見るんだな!?」

勇者「えっ…… あれ? ど、何処までが夢だ……? 命題は……? もう、やらなくていいのかな……?」

天童「おめぇがよぉ! 天界からの命題をクリアしないと氏ぬってのは明白な事実なのー! これが現実なのー!」

勇者「……なんだよ、夢かよ。 せっかく命題なしになったと思ったのに」

天童「もっと、ポジティブシンキングになれよ! もっとやる気を出せよ! 朝からグズんなよ!」

勇者「……おめぇが朝から元気すぎるだけだろが」

657: 2014/05/31(土) 23:04:37.88 ID:3frAuQwfO
天童「……で、今日はどうするんだ? おめぇのポジティブシンキングな考えを聞かせてくれよ?」ニヤニヤ

勇者「う~ん、そうだな……そろそろ大陸移動してみようかと思ってる……」

天童「あらっ、意外? まさか、そんなしっかりした計画があるなんて!」

勇者「……そう? やっぱり、こっちの大陸に魔物が増えたのもさぁ、あっちの魔王城がある大陸から、流れてきてるんだし、向こうの大陸をなんとかしないといけないじゃん?」

天童「……おめぇ、成長してきたなぁ?」

勇者「……そう?」

天童「あぁ、そうだよ。一昔前までのおめぇなら『魔王城がある大陸なんておっかなくていけんば~い』なんて言ってただろ?」

勇者「……言わねぇよ。それに博多弁も使わねぇよ」

658: 2014/05/31(土) 23:10:17.46 ID:3frAuQwfO
天童「まぁ、そういう事なら早い事出発するか!」

勇者「そうだね……あっ! でも、街長さんにお礼だけ言っておこうか?」

天童「……ん?」

勇者「いやぁ……塔の魔物を倒したのもあるけどさぁ……流石に、こんないい部屋に泊めてもらって、ご馳走にまでなってさぁ……?」

天童「……おぉ」

勇者「やっぱり、人としてさぁ……? お礼の一つでも言っておくってのが筋ってもんでしょ?」

天童「……なぁ~んか、真人間に近づいてるじゃねぇか? いい事だけども~、ちょっとムカつく~」

勇者「……なんだよ、ソレ」

659: 2014/05/31(土) 23:18:00.90 ID:3frAuQwfO
天童「……しかし、勇者?」

勇者「……ん?」

天童「真人間になってるおめぇには悪いが、朝から一つやる事があるぞ……?」

勇者「えっ……? あっ、まさか……!」

天童「……それは」

勇者「まさか……命題……」ゴクリ

天童「……」

勇者「……」

天童「うんこっ~!」

勇者「……はぁ?」

天童「ちょっと五分だけトイレ行かせてよ? 朝からどぎついのかましてきますばいっ!」

勇者「……」

天童「テッテテレッテ♪ テッテレッテッテ♪ お~い、ちゃ~んと、待っておいてくれよ~! どぎついうんこかましてくるからよぉ!?」


勇者「……あいつ、絶対天使じゃねぇ。うんこする天使なんて、いるわけねぇ」

660: 2014/05/31(土) 23:24:40.69 ID:3frAuQwfO
ーーーーー


街長「いや~、君達には本当に助けられたよ! ありがとうっ!」

天童「いやいや~、まぁ、全部この私のおかげですばいっ!」

勇者「……おめぇは、何にもしてねぇだろ」

街長「それで……これから、君達はどうするんだね……?」

天童「あっ! 魔王城のある大陸に移動して人助け等をしたいと考えておりますっ! ちなみに、これも私が考えた計画ですっ!」

勇者「……おめぇは、本当によぉ?」

街長「大陸を移動する……? ちょっと、それはマズいかもな……?」

天童「?」

勇者「……どうかしたんですか?」

661: 2014/05/31(土) 23:33:28.55 ID:3frAuQwfO
街長「大陸に繋がる橋があるだろう……? どうやら、あの橋が昨日、君達が塔に行ってる間に嵐で破壊されたらしい」

天童「あらっ?」

勇者「うわぁ……」

街長「ひょっとしたら、昨日塔に行かずに大陸に向かっていたら、巻き込まれていたかもしれないね?」

天童「あら~」

勇者「あ、危なかった……」

街長「君達が我々を助けてくれたおかげで、そういう自体を避けれたのは、不幸中の幸いだけれども……」

天童「……」

勇者「……」

街長「橋の修理や、船の準備が整うまで二三日はかかりそうかな……? まぁ、それまでは私達が面倒をみよう」

662: 2014/05/31(土) 23:40:53.91 ID:3frAuQwfO
ーーーーー


女僧侶「……勇者さんと天童さん、部屋にいませんね? どうしたんでしょう?」

男賢者「女僧侶ちゃん、おはよう」

女僧侶「あっ、男賢者さん! おはようございます」

男賢者「ねぇ? 昨日の話、考えてくれた?」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「僕と……冒険するか……それとも、勇者君と冒険するか……」

女僧侶「いえっ……あのっ……急にそんな事、言われても……」アセアセ

男賢者「あんまり、悩んでるのは女僧侶ちゃんらしくないんじゃない?」

女僧侶「でもっ……あのっ……私、勇者さんの気持ち、はっきり聞いてませんし……」モジモジ


男魔法使い「話は聞かせてもらったよっ!」

664: 2014/05/31(土) 23:49:17.55 ID:3frAuQwfO
男賢者「あっ……お父様……?」


男魔法使い「あのねぇ、男賢者? いくら、君が私に似て男前だからと言って、人様の彼女を取っちゃいかんよ! 人様の彼女を!」

女僧侶「あっ……! いえっ……! 私と勇者さんは付き合ってませんっ……!」アセアセ

男魔法使い「あら、そうなの? だったら、私達のパーティーに加わりなさいよ? 私達も回復役が欲しいと思ってたんだよ」

女僧侶「あの……でも……私、勇者さんの気持ちがちょっとわからなくて……」

男魔法使い「……?」

女僧侶「男賢者さんは私を必要としてくれていますけど……勇者さんが私を必要としてくれているのか……よく、わからなくて……」

男魔法使い「あ~、なる程! じゃあ、こうしようっ!」

女僧侶「?」

666: 2014/05/31(土) 23:55:23.11 ID:3frAuQwfO
男魔法使い「決闘しようっ! 決闘! ねっ?」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「うちの、男賢者と勇者君で、決闘して……勝った方が、女僧侶ちゃんをパーティーに入れれる、と!」

男賢者「……お父様? なんですか、それ?」

男魔法使い「あれ、知らない? WWEってプロレス団体ではね、こういう勝者が女性をモノに出来るって試合形式が結構あるんだよ?」

女僧侶「……は、はぁ」

男魔法使い「それにね……この試合形式ただ強いだけじゃダメなんだ」

男賢者「ほぅ……どうしてですか……?」

男魔法使い「彼女のを必ず、自分のモノにするという前向きな思いっ……! そして、愛がないと絶対に勝てない試合なんだっ!」

667: 2014/06/01(日) 00:02:36.40 ID:qFZXZG+bO
女僧侶「前向きな気持ちと……愛ですか……」

男魔法使い「ねっ、面白そうでしょ? ちょっと、WWEに興味持ってくれた?」

男賢者「それなら……僕は負けない自身がありますね……」

男魔法使い「おっ? なんだ、男賢者、やる気になってくれたか? いや~、これはいい試合が見れそうだな~」

女僧侶「……」

男魔法使い「……女僧侶ちゃん?」

女僧侶「……はい?」

男魔法使い「君が二人の事を心配するのはよくわかるけどさ……?」

女僧侶「……」

男魔法使い「君達はまだ若いんだ……言葉を知らなさすぎるんだ……お互いの気持ちを確認し合うのには、こういう方法もあるんじゃないかな?」

女僧侶「……」

668: 2014/06/01(日) 00:03:42.55 ID:qFZXZG+bO
あっ、くそID変わったか
今日はここまで

672: 2014/06/01(日) 22:32:50.03 ID:qFZXZG+bO
ーーーーー


天童「カァ~! 二三日足止めかよ、どうする? 勇者?」

勇者「う~ん……でも、最近ずっと冒険してたから、骨休みってのも悪くないんじゃい?」

天童「おめぇはよぉ? ちっとは真人間になってきたと思ったのに、ま~だ、そんな事言ってんのか!?」

勇者「……えっ?」

天童「ぐーたらぐーたらしようとあいてんじゃねぇよ! こんな世の中だってのに、休んでる暇なんかねぇだろ!」

勇者「……じゃあ、どうしたら」モジモジ


街長「……それでは、一つ頼み事をしたいのだが」

勇者「……ん?」

673: 2014/06/01(日) 22:39:47.70 ID:qFZXZG+bO
街長「塔の魔物を倒してくれた君達に……続けてこんな事を頼むのは申し訳ないんだが……」

天童「あっ、構いませんよ! なんでも、引き受けるんで、どんどん頼んで下さい」

勇者「……どうせ、おめぇはやんねぇんだろ。でも、話は聞きますよ?」

街長「ありがとう……助かるよ……」

天童「……で、頼みってのは何なのですか?」

勇者「あんまり、ややこしい事はやめて下さいね……?」

街長「いや、塔の魔物を倒した君達なら、簡単な事だ。見ての通り、我々の街には老人が多い」

天童「そうですね、可愛いお姉ちゃん、いませんよねぇ!?」

勇者「……おい」

街長「……」

天童「あっ、 すんましぇ~んっ! どうぞ、話を続けて下さいっ!」アセアセ

674: 2014/06/01(日) 22:50:47.31 ID:qFZXZG+bO
街長「彼等の中には健康状態の思わしくない人間も大勢いるんだ」

勇者「そうですね……やっぱり歳ですもんね……」

街長「我々の街では、彼等の治療にこの薬草を使っている」

天童「あらっ? 綺麗な薬草。 ピンク色の薬草なんて珍しいですね?」

街長「この薬草は、過酷な環境の中成長した薬草でね……非常に高い効能を持っているんだ」

勇者「……えっ? 過酷な環境?」

街長「そんなに心配する事はない、ただの洞窟だ。 まぁ、小物の魔物なんかはいるだろうがね」

675: 2014/06/01(日) 23:00:52.86 ID:qFZXZG+bO
勇者「うわぁ……魔物がいるのか……」

街長「若い連中は随分と準備をして行っていたようだが……それでも、怪我人や氏者などは、一人もでなかったよ?」

勇者「……う~ん」

街長「それから……塔に魔物が住み着いて……若い奴らは、皆命を失って……薬草を採りに行く人間がいなくなって……」

勇者「なるほど……」

街長「……もう、この薬草が殆ど残ってないんだ」

勇者「……そういう事だったら、しょうがないのかなぁ?」

街長「勿論、引き受けてくれたら、この街にいる間……そして、これからの冒険……我々は全力で支援させてもらう」

勇者「う~ん……」

街長「塔の魔物を倒した君達なら、簡単だと思うんだが……やってくれないかな?」

勇者「……」

676: 2014/06/01(日) 23:06:07.07 ID:qFZXZG+bO
ーーーーー

天童「……どうすんだ?」

勇者「う~ん……どうしよかなぁ……」

天童「……おめぇはよぉ?」

勇者「……まぁ、でもさ?」

天童「……ん?」

勇者「今日一日暇だし、別にやる事ねぇんだから、引き受けてもいいんじゃね?」

天童「おっ!」

勇者「たまにはこういう事もしないとね! 良くしてくれた街長さんに恩返しってのもいいでしょ?」

天童「おめぇ、成長したなぁ! でもよぉ! 一つだけ、警告しておく事があるぜ!?」

勇者「……警告?」

677: 2014/06/01(日) 23:11:51.26 ID:qFZXZG+bO
天童「……じゃ~ん」スッ

勇者「あっ……! その封筒っ……! それって……!」

天童「そうです、命題です! さっき神様から届きました」

勇者「おい、待てよ……命題は昨日、やったばっかりじゃねぇか!? 連続なんて聞いてねぇぞ!?」

天童「まっ、来たもんはしょうがないね……とにかく、今日一日暇……って、ワケじゃなくなったからよ? 気をつけろよ?」

勇者「も~う……」

天童「まぁ、とりあえず、何て書いてあるか見てみようぜ?」

勇者「も~う……え~っと……」ガサゴソ

678: 2014/06/01(日) 23:17:06.14 ID:qFZXZG+bO





勇者
X月X日 午後6時までに

一番大切な物を守らないと即・氏亡!






679: 2014/06/01(日) 23:25:05.99 ID:qFZXZG+bO
天童「ふ~む……『一番大切な物を守らないと即・氏亡!』か……」

勇者「えっ……?」

天童「今、午前9時だから後9時間……だな……?」

勇者「ちょっと待てちょっと待て! 今回、タイムリミット短ぇぞ、おいっ!」

天童「いや~、やっぱり……これくらいがいいんじゃねぇか? おじさん、そう思うよ?」

勇者「何だよ! 連続の命題でよぉ、しかもタイムリミットは9時間だなんて、どんだけ緊急の命題なんだよ!?」

天童「緊急の命題なんだよっ! 神様、ちゃんと見てるんだと思うぜ!?」

勇者「なんだよそれ……も~う……」

681: 2014/06/01(日) 23:32:40.70 ID:qFZXZG+bO
天童「まぁ、でもよぉ? 今回の命題は簡単だから、とっとと始めちまおうぜ?」

勇者「……はぁ?」

天童「まず、勇者……おめぇの大切な物って、何だ……?」

勇者「そうか……まず、何を守らないといけないか考えなきゃいけないよな……」

天童「そうそう! そこからさ、ゆっくり思い出してみようよ?」

勇者「え~? でも、俺の大切な物って、大体は家が家事になった時に燃えちまったからなぁ?」

天童「……おめぇ、あの小汚ぇ部屋に何があったんだよ?」

勇者「えっ……? 工口本コレクションとか……カップラーメンの容器コレクションとか……」

天童「……おめぇは根暗だねぇ? そんなゴミ集めて何になるんだ」

勇者「あっ! 人の趣味、馬鹿にすんじゃねぇよっ!」

天童「……次ィ!」

682: 2014/06/01(日) 23:41:30.03 ID:qFZXZG+bO
勇者「次って……もうねぇよ? だって、全部燃えちまったんだから……」

天童「じゃあさ? そこからさ、今までの旅で手にした物とか順々に言ってみなよ!? そしたら、バカな勇者君でも思い出すでしょ?」イライラ

勇者「えっ……? まず……おめぇと出会って胡散臭い名刺貰っただろ……? あっ、一応ね、まだとってあるよ?」

天童「だから、俺は本物の天使だって言ってんだろがっ! 『名刺とっててくれたんだ?』なんて、褒める気にもならんわっ!」

勇者「それで、そこからお前と装備買いに行って……」

天童「……抜けとる抜けとる。もう、抜けとる」ブツブツ

勇者「それで……そこから、魔物討伐して男戦士さんに餞別貰ったでしょ……まぁ、殆ど使っちゃたけど」

天童「……なんで、そんなどうでもいい事は覚えてるんだよ」

勇者「それで……女商人さんと出会って……あっ! そういや、鞄もらったやっ!」

天童「!」

683: 2014/06/01(日) 23:49:36.84 ID:qFZXZG+bO
勇者「俺の持ち物って言ったら、これくらいだし……これか!? 大事な物ってこの鞄か!?」

天童「……女商人さん」グスッ

勇者「って、事はこの鞄を後、9時間守れって事なのか!? おい、天童! そういう事なんだろ!?」

天童「……勇者」

勇者「……ん?」

天童「その鞄は……大事にしないといけない……だって、それには女商人さんの気持ちが女商人さんの気持ちが詰まってるんだからよぉ……」グスッ

勇者「でしょ? 守らなくちゃいけない物って、この鞄でしょ!?」

天童「おめぇはバカかっ! なんで、鞄が一番大事なんだ! もっと大切な物、あるだろうがっ!」ギャーギャー

勇者「だから、俺の大切な物は家が燃えてなくなったって言ってんだろがっ!」ギャーギャー


「あっ、勇者君ここにいたんだ?」


勇者「……ん?」

男賢者「少し、話があるんだけど……いいかな……?」

勇者「……どうしたんですか? 真面目な顔して」

688: 2014/06/02(月) 22:12:17.74 ID:dgBiU0kWO
男賢者「君は女僧侶ちゃんの事をどう思っているんだい?」

勇者「……はぁ?」

男賢者「僕は……彼女の事が好きだ。彼女の事を守ってあげたいと真剣に思っている」

勇者「……はぁ」

男賢者「彼女は……僕にとって、大切な人なんだ」

勇者「はぁ……大切な人ですか……んっ……?」

男賢者「……君は、彼女の事を大切にしている?」

勇者「ちょっと待て……大切な物って……あ、あれっ……?」アセアセ

689: 2014/06/02(月) 22:18:24.54 ID:dgBiU0kWO
男賢者「いくら自分に自信がないからって……魔物討伐で大切な人と協力し合わないなんて……僕には考えられない……」

勇者「い、いやっ……! 違うんですよっ……! あれには理由がありまして、ね……?」

男賢者「僕の方が絶対に、彼女を大切にするという自信があるよ」

勇者「いやいやいやいやっ……! 俺だって、大切にしますよ!? 女僧侶ちゃんは大切な仲間ですもんっ!」アセアセ

男賢者「……僕はそれ以上の感情を彼女に抱いている。仲間以上のね」

勇者「いや……でも……」

男賢者「……君にはそんな感情が彼女にあるのかい?」

勇者「……えっ?」

690: 2014/06/02(月) 22:25:48.30 ID:dgBiU0kWO
男賢者「……彼女の事をどう思ってるんだい? 仲間以上の感情が君にはあるのかい?」

勇者「そ、それは……」モジモジ

男賢者「……君にはないんでしょ?」

勇者「そ、そんな事ありませんよっ……!」

男賢者「……」

勇者「俺……童Oだから、愛だとか恋だとかは、よくわかりませんけど……」モジモジ

男賢者「……」

勇者「女僧侶ちゃんは……俺が引き篭もってダメだった時も……ずっと側にいて、優しくしてくれたし……」

男賢者「……」

勇者「冒険始めて……右も左もわからなかった俺に……ずっと優しくしててくれたし……」

男賢者「……」

勇者「恋愛とかは……よく、わかりませんけど……とにかく! 女僧侶ちゃんはただの仲間なんかじゃありませんよ!」

男賢者「……」

勇者「俺にとっても、大切な仲間なんですよ! 貴方には渡しませんよ!」

691: 2014/06/02(月) 22:33:39.20 ID:dgBiU0kWO
男賢者「……そう言うと思ってたよ」

勇者「……」

男賢者「だから……僕と君で決闘をしよう?」

勇者「……はぁ!?」

男賢者「僕と君で……勝負して、勝った方が女僧侶ちゃんをパーティーに加える事が出来る……どうだい?」

勇者「あのですね……? 女僧侶ちゃんは物じゃないんですから……こういうのは、本人の意思が一番大事でしょ?」

男賢者「……女僧侶ちゃんは、この条件に納得している」

勇者「……えっ?」

男賢者「僕と君で決闘して……勝った方のパーティーに加わるそうだ……」

勇者「……嘘、でしょ?」

男賢者「決闘の時間は5時からだ……お父様曰く、女僧侶ちゃん争奪1時間一本勝負だそうだ……」

勇者「!」

男賢者「5時になったら、街の広場に来てほしい。 伝えたからね?」

693: 2014/06/02(月) 22:40:11.97 ID:dgBiU0kWO
ーーーーー


勇者「うわぁぁ……一番大切な物って……コレかぁ……」

天童「……」

勇者「決闘の時間も……タイムリミットとぴったりだし……間違いねぇよなぁ……」

天童「……まぁ、そういう事だね? 気づくのが遅ぇんだよ、バーカ!」

勇者「そういや、ここ数日、女僧侶ちゃんの様子がおかしいと思ってたんだよ……」

天童「……」

勇者「でも、なんで女僧侶ちゃんがあんな条件飲んじゃったんだろ……? 俺、なんか嫌われる様な事、しちゃったかなぁ?」

天童「あのな、勇者……?」

勇者「?」

695: 2014/06/02(月) 22:47:50.57 ID:dgBiU0kWO
天童「永遠に変わらねぇ関係なんてねぇんだよ? ましてや、男と女の関係だったら、尚更だよ」

勇者「……えっ?」

天童「人と人の関係ってのは、毎日同じ様に接していても、やっぱり、ちょ~っとずつ変わっていくもんなんだよ?」

勇者「……」

天童「ちょっとした優しさで、好きになったり……ちょっとした誤解で嫌いになったり……な?」

勇者「……うん」

天童「そういうのを、何度も何度も繰り返しながら……より良い人間関係ってのは出来ていくんだよ」

勇者「……」

天童「おめぇと女僧侶ちゃんはよぉ? 多分、もう次のステップに行く時期なんかじゃねぇか?」

勇者「……えっ?」

天童「このまま、グズグズグズグズよぉ……? 幼馴染の関係を続けても、お互いの為にはなんねぇんじゃねぇのか? ……って、神様は思ったんじゃねぇか?」

勇者「……うん」

696: 2014/06/02(月) 22:54:11.58 ID:dgBiU0kWO
天童「さぁ、後9時間だ……どうするよ?」

勇者「どうするって……そんなの、どうもこうもないでしょ……?」

天童「……ん?」

勇者「女僧侶ちゃんは……やっぱり、俺にとっても必要な人だし……決闘するしかないでしょ……?」

天童「……おっ?」ニヤニヤ

勇者「今回の件はさぁ……? 命題なんて関係ないよ」

天童「おっ? おおっ!?」

勇者「女僧侶ちゃんを失うのはさぁ……俺、絶対嫌だもんっ!」

天童「おっ!? おめぇ、珍しく気合入ってるじゃねぇか!?」

勇者「命題なんてただのきっかけだよ……俺は女僧侶ちゃんの事……あの人に負けないぐらい、想ってるよ!」

天童「カァ~! いいねぇ~! 青春真っ盛りっ!」

697: 2014/06/02(月) 22:59:41.29 ID:dgBiU0kWO
天童「よしっ! じゃあ、5時まで後8時間っ……! 特訓でもするかっ!?」

勇者「そうだね! あの人、強そうだし、特訓でもしなきゃっ! 天童、悪いけど付き合ってくれっ!」

天童「よ~しっ! じゃあ、『ロッキー』式と、『ベスト・キッド』式! どっちがいいか選べっ!」

勇者「へ……? ロッキー……? ベスト・キッド……? 何、それ……?」

天童「おめぇ、知らねぇのか!? 名作なのに、なぁ~んで観てねぇんだよ!?」

勇者「映画か何かの話……? じゃあ、よくわかんねぇけど……『ベスト・キッド』式でお願いします……」

698: 2014/06/02(月) 23:04:38.52 ID:dgBiU0kWO
天童「よしっ! じゃあ、勇者っ! 先ず、服を脱げっ!」

勇者「まぁ、修行っていったら、脱がないとね……はい、脱いだよ?」ヌギヌギ

天童「よしっ! じゃあ、次はその服を着なさいっ!」

勇者「……はぁ?」

天童「服を着るんだよぉ? ほれっ! とっとと着ろっ!」

勇者「……なんで、脱いだもんまた着るんだよ? 意味わかんねぇよ?」

天童「いいから、早く着なさいっ! このバカチンがぁ~!」

勇者「わかったよ……わかったから、着ればいいんだろ……よっと、服着たよ?」

天童「よしっ! じゃあ、次はその服を着なさいっ!」

勇者「……はぁ?」

699: 2014/06/02(月) 23:10:31.24 ID:dgBiU0kWO
天童「いいから、早く服を脱げってんだよぉ!」

勇者「おめぇ、さっきから服を脱がしたり、着させたりしてるけど、何がしてぇんだよ?」

天童「大丈夫だって! これが『ベスト・キッド』式練習方法だから!」

勇者「これ、なんの意味があるんだよ?」

天童「……信じられねぇかもしれねぇけどよぉ? この特訓終わる時には、カン・フーの達人になってるんだぜぇ?」

勇者「……はぁ?」

天童「映画の俳優もよぉ? おめぇと同じリアクションしてたよ? でも、ちゃ~んとカン・フーの達人になったからよぉ?」

勇者「……本当?」

天童「いいからいいからっ! 騙されたと思って、やってみなさいっ! ほれっ! 服を脱ぎなさいっ!」

勇者「……う、うん」ヌギヌギ

700: 2014/06/02(月) 23:18:56.55 ID:dgBiU0kWO
二時後ーー


天童「いいですかぁ~? 勇者君~? 貴方はもう、カン・フーの達人です……」

勇者「服を脱いだり着たりを繰り返してただけだけどなぁ?」

天童「いえっ! そんな事は、ありませんっ! これがベスト・キッド式練習方法っ! ィェァ、ビバ、カン・フー!」

勇者「……俺、強くなった気が一切しねぇんだけどなぁ」

天童「そんな事はありません~。 今から、私が勇者君目掛けて、パンチをしますが……勇者君はカン・フーの力によって、見事に受け止める事ができま~す」

勇者「……嘘臭ぇなぁ」

天童「では……いきますよ……?」

勇者「お、おう……」

天童「……」

勇者「……」

天童「……ホワチャッ!」シュッ

勇者「……ぐべぁ」


バターンッ


天童「ア、アレ……? おっかしいなぁ……ジャッキー先生の映画じゃ上手い事いったんだけどなぁ……」アセアセ

701: 2014/06/02(月) 23:26:28.91 ID:dgBiU0kWO
勇者「おめぇはよぉっ!」

天童「おっ……おおっ! 勇者、大丈夫だったか!?」

勇者「なんだ、この特訓はっ! 二時間丸々無駄にしたじゃねぇかよっ!」

天童「映画では上手くいってたんだよ、映画では。 面白い映画だからさ? 勇者君も、『ベスト・キッド』見てみなよ?」

勇者「うるせっ! おめぇのくだらねぇ特訓のせいで、後7時間しかねぇじゃねぇかっ!?」

天童「……やっぱり、無難に『ロッキー』式の方がよかったかな?」

勇者「うるせっ! おめぇの話はもう信用しねぇぞっ! このダメ天使!」

天童「あっ……また、おめぇダメ天使って言いやがったな?」

勇者「今の特訓は完全にダメ天使だろうがっ! 何処で覚えたんだよ、あんな特訓!?」グゥー

天童「だから、ジャッキー先生の映画じゃ上手くいってたんだよぉ!」グゥー

勇者「……ん?」

天童「……あれ?」


勇者「……とりあえず、飯でも食いに行こうか?」

天童「……そ、そうだね」

702: 2014/06/02(月) 23:34:27.33 ID:dgBiU0kWO
勇者「え~っと……飯屋……飯屋……っと……」

天童「今日は特訓で頑張った自分への御褒美に、特大パスタな気分♪」

勇者「うるせ、バーカっ! ……ん?」

天童「おい……どうしたんだ……?」


「ゴホッ、ゴホッ……」

「……お婆ちゃん、大丈夫? 最近、咳ばかりしてるよ?」

「ゴホッ……大丈夫じゃ……ゴホッ、ゴホッ……」

「……ねぇ、街長さんの所に行って、薬草を分けてもらおうよ?」

「ゴホッ……な~に、ワシはまだ大丈夫じゃよ……ゴホッ……それに、薬草も残り少ないんじゃ……ワシみたいなもんに使うのは勿体ない……ゴホッ、ゴホッ……」

「……でも」


勇者「……」

天童「おっ? お~い、勇者! 飯屋あったぞ! 早く行こうぜ!」

勇者「あっ……う、うん……」

703: 2014/06/02(月) 23:39:45.47 ID:dgBiU0kWO
ーーーーー


天童「飯も食って12時か……タイムリミットまで、後6時間……決闘までは後5時間だな……」

勇者「……」

天童「午後の特訓はよぉ? 『ロッキー』式にしようと思うからよぉ? おめぇも、頑張ってスタローンみてぇになれよ?」

勇者「……」

天童「おい……おめぇ、話聞いてんのか……? あっ、それともスタローン知らねぇのか?」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「……ん? どうした?」

勇者「……午後の特訓はもう、いいよ」

天童「……はぁ?」

705: 2014/06/02(月) 23:45:13.10 ID:dgBiU0kWO
勇者「……さっき、病気のお婆ちゃんいたの覚えてる?」

天童「……おぉ」

勇者「凄く辛そうだった……でも、他の人に気を使って、薬草を使うのは遠慮してた……」

天童「……そうだな」

勇者「薬草はさぁ? あるんだよ! 俺達が採りに行けば、皆救われるんだよ!」

天童「そうだな……でも、命題はどうすんだ……?」

勇者「……えっ?」

天童「薬草を採りに行くのはいいけどよぉ……? 時間内に帰って来れなかったら……おめぇ、女僧侶ちゃんも失っちまうし……氏んじまうんだぞ……?」

勇者「……そ、それは」モジモジ

天童「……ど~うすんだ? 勇者?」

勇者「……」

706: 2014/06/02(月) 23:51:28.21 ID:dgBiU0kWO
勇者「女僧侶ちゃんは……俺にとって、大事な人だから……絶対に失いたくはないっ……!」

天童「……」

勇者「命題だって……それ、やらなきゃ氏んじゃうんだから……無視する事なんて出来ない……」

天童「……」

勇者「でもさぁ……? 俺、無理だよ! やっぱり、無理だよっ……!」

天童「……」

勇者「大事な物は沢山あるけどさぁ……? それの為に、目の前に起こってる事を無視するなんて、俺には出来ないよっ!」

天童「……」

勇者「天童……ごめんっ……! 俺、ちょっと、洞窟に行って薬草採ってくるよっ……!」ダッ

天童「勇者っ! 待てっ!」

勇者「?」

707: 2014/06/02(月) 23:59:36.73 ID:dgBiU0kWO
天童「……おめぇの言うとおりだよ」ビリビリ

勇者「えっ? 天童、なんで命題の紙破ってんの!?」

天童「こ~んなもんに、かまけてらんねぇだろ? 今から、二人で薬草採りに行くのによぉ?」

勇者「……天童」

天童「今回の命題はよぉ? 失敗しても、俺が神様に頼み込んでやるからよぉ? おめぇは思った通りに行動しろっ!」

勇者「天童……ありがとう……」

天童「でもよぉ? 命題クリアする事に越した事はねぇからな? おめぇだって、氏ぬのは免除されたけど、女僧侶ちゃんを失いました……ってのは嫌だろ?」

勇者「う、うん……じゃあ、5時までに……なんとか薬草を採って来なくちゃね……」

天童「よしっ! 勇者っ! そうと決まれば、急ぐぞっ!」

勇者「う、うんっ……!」

711: 2014/06/03(火) 22:10:00.36 ID:pS8m3Z4SO
ーーーーー


女僧侶「……あっ」

男魔法使い「ん……? どうしたんだい、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「あっ……今、勇者さんと、天童さんが街の外へ出て行ったんですよ……」

男魔法使い「5時から決闘だってのに?」

女僧侶「はい……何処へ行くつもりなんでしょうかねぇ……?」

男魔法使い「う~ん……まさか、うちの男賢者にビビって逃げたってワケじゃないだろうねぇ……?」

女僧侶「……」

712: 2014/06/03(火) 22:16:02.94 ID:pS8m3Z4SO
男魔法使い「……まぁ、あの二人の事だからさ?」

女僧侶「……」

男魔法使い「『ロッキー』とかの真似してさぁ? 街の外でおバカな特訓でもしてるんじゃないかな?」

女僧侶「……ロッキー?」

男魔法使い「『エイドリアンである女僧侶ちゃんを取り戻す為に特訓だぁ!』なんて、言ってさ?」

女僧侶「……エイドリアン?」

男魔法使い「あれ? 女僧侶ちゃん、もしかして『ロッキー』知らない?」

女僧侶「え~っと……映画の話か何かですかね……?」

男魔法使い「超名作だよ、超名作っ! あのね……ボクシングの話なんだけどね……」


女僧侶(勇者さん達、どうしたんでしょう……? 気になりますね……)

713: 2014/06/03(火) 22:20:37.46 ID:pS8m3Z4SO
洞窟前ーー


天童「はぁ、はぁ……よしっ、洞窟についたぞ」

勇者「天童、今何時!?」

天童「時間は、気にしなくていいかよぉ……? とっとと薬草、採りに行こうぜ……?」

勇者「いや、でもさぁ……? 一応、確認だけ……? 今、何時?」

天童「……」

勇者「うん、わかってるっ! 時間は気にしないからさ……? 確認だけ……」アセアセ

天童「……今は、1時だ」

714: 2014/06/03(火) 22:25:16.66 ID:pS8m3Z4SO
勇者「って、事は……来るのに一時間かかったから……帰りも、一時間かかるんだな……」

天童「……」

勇者「え~っと……5時から決闘だから、4時には戻らないといけないだろ……?」

天童「……」

勇者「そうなると……洞窟にいられる時間は……え~っと……」アセアセ

天童「……なぁ、勇者?」

勇者「え~っと……え~っと……」

天童「おいっ! 勇者っ!」

勇者「あっ……天童、どうしたの……?」

715: 2014/06/03(火) 22:31:55.10 ID:pS8m3Z4SO
天童「……早く、洞窟行こうぜ?」

勇者「えっ……?」

天童「おめぇ、頭悪ぃんだからよぉ? そうやって、計算してる時間が勿体ねぇよ」

勇者「あっ……ごめん……」アセアセ

天童「パッと行って、サッと採って、ガッと帰ればいいだけだろ?」

勇者「う、うん……」

天童「そんでよぉ? ボゴッて男賢者さん倒して、ギュッて女僧侶ちゃん取り戻すだけだろ?」

勇者「な、なんか変な擬音多いね……?」

天童「簡単な話じゃねぇか? なっ? あんまり難しく考えんなって?」

勇者「う、うん……そうだね……」

天童「よしっ! じゃあ、行きますかっ! チャチャっとやりましょう! チャチャっと!」

勇者「うんっ……!」

716: 2014/06/03(火) 22:35:30.20 ID:pS8m3Z4SO
ーーーーー


男賢者「……お父様」

男魔法使い「んっ……? どうしたんだい、男賢者?」

男賢者「……少し、稽古をつけてもらってよろしいでしょうか?」

男魔法使い「え~!? ヤダよ~! 男賢者、私より強いじゃん~!」

男賢者「お願いします……」

男魔法使い「……」

男賢者「……」

男魔法使い「……」

男賢者「……お父様、お願いします」

717: 2014/06/03(火) 22:41:28.02 ID:pS8m3Z4SO
男魔法使い「……ねぇねぇ、男賢者? どうして、君そんなに気合入ってるの?」

男賢者「……」

男魔法使い「そこまでして、あの子パーティーに入れたいの? 私だってね、多少は回復魔法使えるよ?」

男賢者「……」

男魔法使い「恋は盲目……なんて言葉もあるけどさ……? あっ、私と母さんの馴れ初めの話でも聞かせてあげようか?」

男賢者「……お父様、稽古をお願いします」

男魔法使い「……」

男賢者「……」

男魔法使い「……もう、しょうがないなぁ。付き合ってあげるけど、あんまりいじめないでね?」

男賢者「……ありがとうございます」

718: 2014/06/03(火) 22:44:38.18 ID:pS8m3Z4SO





PM2:00

ーータイムリミットまで後、4時間






719: 2014/06/03(火) 22:49:30.82 ID:pS8m3Z4SO
天童「……ったく、迷路みたいな洞窟だな? 薬草は一体何処にあるんだよ?」

勇者「そ、そうだね……早く探さなきゃ……んっ……?」チラッ

天童「……おっ? どうした?」

勇者「……あっちに、何かピンク色の物が見えた」

天童「おっ!? ピンクっていったら、薬草じゃねぇか! 意外と早く見つかったなっ!」

勇者「行ってみよう!」ダッ

天童「おうっ! なんか、思ってたより、簡単だったなっ!」ダッ

720: 2014/06/03(火) 22:55:26.31 ID:pS8m3Z4SO
蝶「……」


勇者「……あっ」

天童「ん……? どうした……?」

勇者「天童……さっき見えたピンクのは薬草じゃなくて、蝶々だったみたい」

天童「こ~んな洞窟に蝶々なんているのか……って、あら、本当だ」


蝶「……」


勇者「これ……ピンクの綺麗な蝶々だけど、何か薬草と関係してるのかなぁ……?」

天童「……とりあえず、捕まえてみっか?」ヒョイッ


蝶「……」ヒラヒラ


勇者「……あっ、逃げちゃった」

721: 2014/06/03(火) 23:03:31.80 ID:pS8m3Z4SO
天童「ビエックシっ!」クシュンッ

勇者「うおっ! 汚ねぇなぁ……! どうしたんだ、おめぇ!」

天童「鱗粉が……鼻に入って……花粉症っ……! ビエックシっ……!」クシュンッ

勇者「……あら、綺麗な五・七・五」

天童「……おう。季語は『花粉症』だ。どうだ、上手いだろ?」

勇者「でもよぉ? 鱗粉は花粉症とは違うんじゃねぇか?」

天童「粉を吸いこむから、似たようなもんなんじゃねぇのか……? まぁ、じゃあ別パターン考えてみっか……?」

勇者「いや、もういいから……ほら、早い所薬草探しに行くよ……」テクテク

天童「え~っと、え~っと……蝶々の……鱗粉吸って……ビエックシっ! あっ、これどうよ!? ねぇねぇ、勇者君、コレ上手くない?」テクテク


蝶「……」

722: 2014/06/03(火) 23:10:46.98 ID:pS8m3Z4SO
ーーーーー


女僧侶「……やっぱり、勇者さん達の事が気になります」

女僧侶「街から出て行った勇者さんの顔……あれは昔の勇者さんの顔でした……」

女僧侶「何か、特訓とか……そういう事ではなく……他に理由があるような気がします……」

女僧侶「私も、こんな所でただ待っているのは、自分らしくありません……」

女僧侶「男魔法使いさんに話して、決闘なんて、中止してもらいましょう」

723: 2014/06/03(火) 23:13:39.53 ID:pS8m3Z4SO
コンコン


女僧侶「……あれ?」


コンコン


女僧侶「あれ……? どうしたんでしょう? 男魔法使いさん、入りますよ~?」


ガチャ


女僧侶「……あ、あれ?」

女僧侶「……」

女僧侶「男魔法使いさん……どうしたんでしょう? 男賢者さんの部屋ですかね……?」

724: 2014/06/03(火) 23:16:33.54 ID:pS8m3Z4SO





PM3:00

タイムリミットまで後、3時間






725: 2014/06/03(火) 23:21:14.74 ID:pS8m3Z4SO
勇者「な、なぁ……天童……? なかなか見つからないね……?」アセアセ

天童「……勇者、焦るんじゃねぇよ。まだ、時間はあるんだからよぉ?」

勇者「……でもさぁ?」

天童「おめぇは余計な事を考えんなってのっ!」


「グルルルル……」


勇者「……ん?」

天童「今、何か声がしたなぁ……? くそ、魔物か……?」


魔物「グルルルル……」

726: 2014/06/03(火) 23:29:33.67 ID:pS8m3Z4SO
勇者「も~う……時間がないってのに……天童っ! 戦うよっ!」

天童「まぁ、今回特別に俺も手伝ってやるよっ!」

魔物「ガル? (あれっ? この冒険者達、『アレ』準備してきてねぇのか?)」

勇者「……おめぇさぁ? 弱そうな魔物だから、そんな事言ってんだろ?」

天童「バ、バカ~んっ! 時間がねぇから、特別出血大サービスしてやってんのに、なんでそんな言い方しかできねぇかねぇ!?」

魔物「グル(あっ、わかった……こいつら、知らねぇんだ……って、事は……)」

勇者「あっ、そうだ……! 時間ないんだ……早くしなきゃ……!」アセアセ

天童「あっ……! いや、時間はよぉ? べ、別に焦らなくてもいいんじゃねぇか? なっ、なっ?」

魔物「ガル(って、事は……ここは一時撤退ですな……)」ヒョイ


勇者「……あ、あれっ?」

天童「あいつ……勝手に逃げていきやがったぞ……?」

727: 2014/06/03(火) 23:38:14.29 ID:pS8m3Z4SO
勇者「あいつ……何だったんだろ……?」

天童「……まぁ、でも余計な事で時間とられねぇでよかったんじゃねぇか?」

勇者「そうだね……じゃあ、早い所薬草を……ビエックシっ!」クシュンッ

天童「うおっ……! 汚ねぇなぁ! 何してんだよ、お前!?」

勇者「いや、だってさぁ……? この洞窟、なんか蝶々多くない? 俺も、鱗粉吸いこんじゃってさぁ……?」

天童「よしっ! じゃあ、今の気持ちを五・七・五で言ってみろっ!」

勇者「……な~に、言ってんだ。ホレ、とっとと薬草探しに行くぞ」

天童「まぁ、いいじゃんいいじゃん! 余計な事を考えるよりかはさ? こういう事、言ってた方がいいって!」

勇者「え~っと、じゃあ……蝶々が……多くて俺も……ビエックシっ……」テクテク

天童「あっ! おめぇ、人のネタパクってんじゃねぇよっ! オリジナリティを出せ! オリジナリティをよぉ!」テクテク

勇者「……うるせぇ。さっさと行くよ」


蝶「……」

729: 2014/06/04(水) 21:37:32.50 ID:cOZXTkn8O
ーーーーー


男賢者「……はっ!」ドヒュンッ

男魔法使い「……ぬぅんっ! 結界魔法っ!」

男賢者「くっ……流石、お父様ですね……」

男魔法使い「……ねぇ、もう疲れたからさ? そろそろ休憩しない?」

男賢者「しかし……これだけの力を溜めた魔法弾なら、いくらお父様の結界でも……」

男魔法使い「ちょっと、ちょっと……ここ何処だと思ってるのよ!? そんな魔法弾撃ったら、氏人が出るよ!?」

男賢者「……うおぉぉっ!」

男魔法使い「はいはいっ! ストップストップっ! 私の負けっ! 私の負けだから、もうやめなさい!」

730: 2014/06/04(水) 21:42:14.22 ID:cOZXTkn8O
男魔法使い「う~ん……まぁ、それだけ出来れば、勇者君にも勝てるよ。きっと」

男賢者「……ありがとうございます」

男魔法使い「やっぱり、君は私に似て優秀だね? 凄い力を持ってるよ」

男賢者「……全ては、お父様の教育のおかげです」

男魔法使い「……でもさぁ?」

男賢者「?」

男魔法使い「力の使い方は間違っちゃいけないよ? 君、その力何の為に使おうとしてるの?」

男賢者「それは……」

男魔法使い「うん」

男賢者「……大切な物を守る為です」

732: 2014/06/04(水) 21:49:33.79 ID:cOZXTkn8O
男魔法使い「そんなにあの子の事が大切なんだ? そんなにあの子に惚れているんだ?」

男賢者「……はい」

男魔法使い「まぁ、惚れた女を守る為に力を使う……なんてのは、言い方は格好いいんだけどね……」

男賢者「……」

男魔法使い「……君、誰から守るつもりなの? その力、誰にぶつけるつもりなの?」

男賢者「……」

男魔法使い「あの子は迷ってるみたいだから、父さん、決闘とか提案したけどさぁ?」

男賢者「……」

男魔法使い「万が一、勇者君に大怪我とかさせちゃったら、その後……上手くいかない気がするよ?」

男賢者「……」

男魔法使い「……あんまり熱くならずに、ちっとは頭冷やしなさい」

男賢者「……」

733: 2014/06/04(水) 21:51:24.12 ID:cOZXTkn8O





PM4:00

タイムリミットまで後、2時間






734: 2014/06/04(水) 21:56:50.51 ID:cOZXTkn8O
勇者「なぁ、天童!? 今、何時!?」

天童「……あんまり、時間は気にしねぇ方がいいんじゃねぇか?」

勇者「いや、でもさぁ……命題クリア出来なきゃ……女僧侶ちゃんがさぁ……」

天童「……なぁ、勇者? 不安なのはわかるけどよぉ?」

勇者「……う、うん」

天童「あれも、これも……なんて、色々考えててもさぁ? 絶対、いい結果なんて出ねぇよ」

勇者「……う、うん」

天童「それよりさぁ? 目の前の事に集中して、一つ一つの事をちゃ~んとしていこうぜ? なっ?」

勇者「……」

735: 2014/06/04(水) 22:03:32.35 ID:cOZXTkn8O
天童「今、おめぇはよぉ? 命題無視してるよ? やべぇ事かもしんねぇよ?」

勇者「うん……」

天童「……でもよぉ? 間違いなく、正しい事をしてると思うからよ! 今は余計な事を考えんなって!」

勇者「ごめん……」

天童「何かあっても、俺が全部ケツ拭いてやるからよぉ! 今は目の前の事だけに集中しようぜ?」

勇者「わかった。天童、ごめんね?」

天童「おぅ! 気ぃ使ってんじゃねぇよ! 気持ち悪いからやめろよっ!」

勇者「あはは、それもそうだね? じゃあ、薬草探そうか?」


天童(……くそっ、4時か。そろそろやべぇな。でもよぉ、神様、今回はアイツ間違ってねぇぜ!?)

736: 2014/06/04(水) 22:07:42.84 ID:cOZXTkn8O
勇者「……あっ! 天童っ!」

天童「どうした、勇者っ!?」

勇者「ほら、見て!? 薬草あったよっ! ほら、こんなに沢山っ!」

天童「よしっ! これで、爺婆救う事ができるなっ!」

勇者「じゃあ、さっさと摘んで帰ろ……ん……?」


魔物「グルルルル……」

魔物「ガルルルル……」

魔物「……キシャー!」

740: 2014/06/04(水) 22:12:32.32 ID:cOZXTkn8O
勇者「うわぁ……魔物だぁ……」

天童「……まっ、しょうがないね。でもよぉ、小物だから早い所、片付けちまおうぜ?」

勇者「よしっ! じゃあ、天童! お前も手伝ってくれっ!」

天童「……まっ、今回は特別だからな? その変わり、後で酒奢ってもらうからよぅ!」


魔物「グルルルル……」

勇者「よしっ……いくぞっ……! たあっ!」


スカッ


勇者「……あれ?」

741: 2014/06/04(水) 22:16:40.22 ID:cOZXTkn8O
天童「おめぇはよぉ! 何やってんだよ! バカが!」

勇者「あれっ……あれっ……?」

天童「チンタラ鈍い動きしやがってよぉ! もっと気合入れろってのっ!」

勇者「あれっ……何か、おかしい……なんだろ……」アセアセ

天童「俺がよぉ? 手本見せてやるから、よく見とけっ! おりゃっ!」


スカッ


天童「あ、あれ……?」

勇者「お、おい……天童……? おめぇも、動き鈍いぞ……? どうしたんだ?」


魔物「ニヤニヤ」

742: 2014/06/04(水) 22:21:29.67 ID:cOZXTkn8O
魔物「ガアアアッ!」

勇者「……ぐっ!」

魔物「ギャアアッ!」

天童「うおっ……!」


勇者「ど、どうしたんだろ……? なんか、身体が重い……」

天童「くそっ、なんでだ……毒でも受けてんのか、コレ……」

勇者「でも、毒なんて受けた覚えないし……どうして……」

天童「くそっ……わからんっ……でも、この身体の異常は何か理由があるだろ……!」

勇者「理由って……なんだよ……」


蝶「ヒラヒラ」


勇者「……ん?」

744: 2014/06/04(水) 22:26:46.03 ID:cOZXTkn8O
勇者「……なぁ? 天童?」

天童「……どうした!?」

勇者「もしかして……この蝶、毒持ってるんじゃね……?」

天童「そ、そうかっ……!」

勇者「ほらっ……俺達、この蝶の鱗粉沢山吸い込んじゃったし……」

天童「効能のいい薬草がこんな場所にある、ってのも……この毒に耐える為の免疫力、って考えれば納得がいくな!」


魔物「グフフ……(や~っと、気づいたか、遅ぇんだよ、バーカ!)」

747: 2014/06/04(水) 22:36:55.80 ID:cOZXTkn8O
魔物「グフフ……(俺様はお前達に毒がまわるのを、この場所でじっくり待ってたってワケさ)」

勇者「く、くそぉ……天童、解毒薬とか持ってねぇの……?」

天童「くそぉ……今までは女僧侶ちゃんに任せっきりだったからよぉ……そうそう都合良くあるってワケじゃねぇな……」

魔物「グフフ……(この洞窟に来る冒険者達は、皆この薬草目当てだからなぁ? 飛んで火に入る夏の虫ってヤツですな)」

勇者「くそっ……なんで、こんな肝心な時に持ってねぇんだ、お前!」

天童「うるせっ! 俺はドラえもんじゃねぇ~んだからよぉ! 文句ばっかり言ってんじゃねぇよっ!」

魔物「グフフ……(しかし、お前ら間抜けだねぇ? 今までの冒険者達は、マスク持ってきたり、僧侶連れてきたり、してたぜ?)」

勇者「街長さんが言ってた『準備』って……この事だったのか……!」

天童「くそっ……とにかく、今は出来る事をやるしかねぇっ! 身体はダルいけど、戦うしかねぇよっ!」

魔物「グフフ……(まっ、準備を怠ったのがお前らの敗因だね。それじゃあ、久しぶりのご馳走……いただきますっと!)」

749: 2014/06/04(水) 22:45:07.24 ID:cOZXTkn8O
ーーーーー


男魔法使い「……うんしょ、うんしょ、あ~重たいっ! どっこいしょっとっ!」

女僧侶「……男魔法使いさん、椅子なんか運んで、何してるんですか?」

男魔法使い「あ~、女僧侶ちゃん? いや~、もう1時間で決闘始まるでしょ? だから、会場作りしてるのよ」

女僧侶「……会場?」

男魔法使い「まっ、折角だからこの街の皆さんにも、楽しんで貰おうと思ってね? 小規模だけど、格闘大会みたいなもんだよ」

女僧侶「……はぁ」

男魔法使い「やっぱり、こんな世の中じゃ娯楽も少ないからね? 我々冒険者が、こうやってバカやって、少しでも笑ってもらえれば嬉しいじゃん?」

女僧侶「……そういう事なんですか」

男魔法使い「……まっ、ウチのが無茶しなければ、いいんだけどね?」

女僧侶「?」

750: 2014/06/04(水) 22:50:50.80 ID:cOZXTkn8O
男魔法使い「……ところで、勇者君と天童さんは?」キョロキョロ

女僧侶「あっ……それが、街の外に行ったっきり、戻って来ないんですよ……」

男魔法使い「ええっ!? 彼らがいないと、このイベント成立しないじゃん!? どうしたものかなぁ~」

女僧侶「男魔法使いさんは……勇者さん、私の事なんてどうでもよくて……逃げたと思います……?」

男魔法使い「……ん?」

女僧侶「それとも……他に何か、理由あると思います……?」

男魔法使い「……う~ん」

女僧侶「……」

752: 2014/06/04(水) 22:55:56.83 ID:cOZXTkn8O
男魔法使い「まぁ、正直私は、ウチの息子にビビって、逃げたと思うね!ワハハハハ!」

女僧侶「……」

男魔法使い「いやぁ~、なんたって、ウチの息子は私に似て優秀だから! 私に似てね!」

女僧侶「……じゃあ、やっぱり」

男魔法使い「……まぁ、でもそれは私が男賢者の方が付き合い長いからだね」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「やっぱり、昨日会ったばかりの勇者君の事なんて、よくわからないよ。そういうのは女僧侶ちゃんの方がよくわかるんじゃない?」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「君の方がずっと付き合い長いでしょ? 君はどう思うの?」

女僧侶「……私は」

753: 2014/06/04(水) 23:00:27.40 ID:cOZXTkn8O
男魔法使い「……逃げたと思う?」

女僧侶「……」

男魔法使い「それとも、君の為に……ここに戦いに来ると思う……?」

女僧侶「私は……」

男魔法使い「うん」

女僧侶「最近、勇者さんの考えてる事がよくわからなくて……勇者さんとの距離が離れてるような気もするんですが……」

男魔法使い「……うん」

女僧侶「やっぱり、勇者さんは逃げてないと思います。前向きな気持ちで、ここに戦いに来ると思います」

男魔法使い「うんっ! じゃあ、待とう! 彼を信じて待とう!」

754: 2014/06/04(水) 23:10:14.36 ID:cOZXTkn8O
ーーーーー


魔物「ガアアアッ!」

勇者「……ぐっ!」

魔物「ギャアアっ!」

天童「くそっ……身体が重くて動かねぇ……」


魔物「グフっ!(あら~? 意外と粘るねぇ? かなり、毒回ってきてるはずなのにねぇ?)」


勇者「くそっ……天童、このままじゃ……」

天童「あぁ……このままじゃ、ジリ貧だよ……」

魔物「グフっ!(よしっ! じゃあ、あっちの若い兄ちゃんからやっちまうかっ! 皆、意外にかかれっ!)」


魔物「グギャアアっ!」

魔物「ギャアアっ!」

魔物「ガアアアッっ!」


勇者「!」

天童「まずいっ……! 勇者、来たぞっ!」

756: 2014/06/04(水) 23:15:16.12 ID:cOZXTkn8O
勇者「……ぐっ! アストロンっ!」ピカーッ

魔物「……ガッ?」

魔物「……グッ?」

魔物「……グフ?」

勇者「はぁっ……はぁっ……よしっ……!」

天童「お、おおっ……なんとか、耐えたじゃねぇか、勇者……成長したな……?」


勇者「……うおおおっ! 『バイキルト』!」ピカーッ

天童「!?」

勇者「うおおっ!『バイキルト』『バイキルト』!」

天童「お、おいっ……! 何、やってんだよ、おめぇ? そんなに、連発して魔法使って大丈夫なのかよ?」アセアセ

757: 2014/06/04(水) 23:23:22.06 ID:cOZXTkn8O
勇者「天童……この、魔法……前みたいにムキムキの身体にはならないね……?」

天童「おいおいっ……! おめぇ、大丈夫なのかよ!? 変な副作用とか出てないだろうなぁ?」

勇者「大丈夫……身体は痛むけど……力が溢れたのが感じる……力が湧いてくるのが感じられるんだ……」

天童「……おいおい! 大丈夫か、おめぇ!」

勇者「身体は重いままだけど……これなら、一撃当てさえすればっ……!」ブンッ


魔物「!」ビクッ


勇者「く、くそっ……かすっただけか……でも、天童? あいつはもう動けないよ?」

天童「……えっ?」

魔物「……ガ、ガガッ」ピクピク

勇者「俺は、動き回ってる魔物をなんとかするから……天童は動きの止まった魔物を頼むよっ……!」

758: 2014/06/04(水) 23:30:35.36 ID:cOZXTkn8O
勇者「よしっ……いくぞっ……!」

魔物「!」ビクッ

勇者「うおおっ!」ブンッ

魔物「!」

勇者「……くそっ! 外れたか! もう一発っ!」

魔物「!」

勇者「うおおおっ!」

魔物「!」

勇者「くそっ……! 身体が痛いっ……! うおおっ!」

魔物「……グガッ!」

勇者「よしっ……! やっと、当たった……」


天童「お、おい……勇者……あんまり、無茶はすんなよ……氏んじまうぞ……」

勇者「そうだね……やっぱり、俺には女僧侶ちゃんが必要だよ……帰ったら、自分の気持ち、ちゃんと伝えるよ……」

天童「……よしっ! じゃあ、無事に帰る為に、もう少し踏ん張れっ! おめぇは確実に成長してるぞ、勇者ァ!」

勇者「天童……ありがとう……うおおおっ!」

759: 2014/06/04(水) 23:32:09.47 ID:cOZXTkn8O





PM5:00

タイムリミットまで後、1時間






760: 2014/06/04(水) 23:38:33.28 ID:cOZXTkn8O
ーーーーー


男魔法使い「え~、試合開始時刻となりましたが……ね……?」

男賢者「……」

女僧侶「……」

男魔法使い「え~、選手の方がまだ到着してませんのでね……それまでは、私の漫談の方で、皆様お楽しみ下さい」


ブーブー、ブーブー


男魔法使い「ちょ、ちょっと……! まだ、何にも話してないじゃない……? 話す前から、そんなにブーイングしなくてもいいんじゃないかなぁ?」

「うるせぇ! ワシらは格闘技が見れると聞いて集まったんじゃ! 選手がいねぇなら、あんたが戦えっ!」

男魔法使い「……同じ老人じゃない? なんで、そんなに苛めるかねぇ?」


ブーブー、ブーブー


男魔法使い「も~う……困ったなぁ……」

男賢者「……お父様?」

762: 2014/06/04(水) 23:45:02.06 ID:cOZXTkn8O
男魔法使い「……ん、どうしたの?」

男賢者「勇者君は……逃げたのではないでしょうか……?」

女僧侶「!」

男魔法使い「う~ん……どうなんだろね……?」

男賢者「ブーイングも酷くなってるようですし……もう、中止した方がいいんではないでしょうか?」


ブーブー、ブーブー


男賢者「……そもそも、このような事にどのような意味があるんですか?」

男魔法使い「……ん?」

男賢者「ここに集まっている方々達に与えるのは、このような余興ではなく、平和な世界なんじゃありませんかね?」

男魔法使い「……私は平和の為に日々の娯楽を捨てるのもどうかと思うけどね」

765: 2014/06/04(水) 23:53:41.54 ID:cOZXTkn8O
女僧侶「あ、あのっ……! 皆さんっ……!」

「どうした~! 姉ちゃんっ!」

女僧侶「勇者さんは、必ず帰ってきますっ! だから、もう少しだけ、待っていただけないでしょうか!?」

「なんで、ヒロインのあんたがかばうんだよ!? あっ……もしかして、姉ちゃん、勇者ってヤツに惚れてんのか!?」

女僧侶「……えっ?」

「おっ! 顔、真っ赤にしとる! こりゃ、間違いないな!」

女僧侶「い、いや……あ、あの……」アセアセ

「そういう事やったら、一時間ぐらいは待ったるわっ! いや~、なんだか、面白そうな展開になってきたなぁ!」


男魔法使い「……ほらさ? 例え、余興でもさ? こういう風に希望を持てる事なんて、なかなかないよ?」

男賢者「……」


婆「……ゴホッ、ゴホッ」

766: 2014/06/04(水) 23:58:23.50 ID:cOZXTkn8O
ーーーーー


天童「おいっ! おいっ!」

勇者「……」

天童「おいっ、勇者っ! しっかりしろっ!」

勇者「……」

天童「魔物はもう、倒したっ! 薬草も集めたぞおいっ!」

勇者「……」

天童「後は、街に戻って、女僧侶ちゃんに気持ち伝えるだけだっ! おいっ! 起きろっ!」

勇者「……」

天童「何、寝てんだよバカっ! 副作用でおかしくなっちまったのかっ!?」

勇者「……」

天童「まだ、1時間あるだろがっ……! 起きろっ! 寝てんじゃねぇよ、このダメ人間っ!」

勇者「……」

767: 2014/06/05(木) 00:05:37.63 ID:yhGn+MmJO
勇者「……ごめん、もう動けそうにない」

天童「何、言ってんだよっ! もうちょっとじゃねぇかおめぇっ!」

勇者「ダメだ……毒が身体に回って……上手く呼吸もできないんだ……」

天童「おい、この薬草食えば、回復するんじゃねぇか?」

勇者「……ダメだよ。それは、街の人達に渡さなきゃ」

天童「おめえが氏んじまったら、意味ねぇじゃねぇかおいっ!」

勇者「街まで戻るのに一時間かかるんだよ……? どうせ、間に合わないよ……」

天童「こんな状況でまだ、『どうせ』なんて言ってんのか! このどうせ星人がっ!」

勇者「ハハっ……大丈夫だよ……やる事はちゃんとやるから……ぐっ、『リレミト』!」

天童「!」


ヒューン

770: 2014/06/05(木) 00:11:37.23 ID:yhGn+MmJO
勇者「洞窟の入口に戻ったよ……これが最後の力だ……」

天童「おいっ! まだ、一時間あるっ! 街まで急げばなんとかなるだろっ!」

勇者「もう……動けそうにないよ……天童、薬草……皆に届けてくれ……」

天童「おめぇが届けろよっ! なんで、そんな簡単に諦めるんだよっ!」

勇者「俺だって……街に戻って女僧侶ちゃんに想い伝えたいよ……でも、もう身体が動かないんだ……」

天童「……」

勇者「天童……ごめん……」

天童「……おめぇ、街に戻ったら、女僧侶ちゃんにちゃんと想い伝えるんだな?」

771: 2014/06/05(木) 00:16:16.76 ID:yhGn+MmJO
勇者「……えっ?」

天童「……今回は特別出血大サービスだからよぉ? 感謝しろよ?」グイッ

勇者「……えっ?」

天童「あ~、くそっ……重てぇな、おいっ! ちったぁ、ダイエットしやがれっ!」

勇者「お、おい……天童……おめぇも毒、くらってんだろが……」

天童「うるせっ! おめぇをおぶってよぉ、一時間以内に街に戻れば命題クリアだっ!」

勇者「天童……無茶するなよ……」

天童「うるせぇっ! 今回はケツ拭いてやるって言っただろがっ! 氏にかけてんのに、無駄口叩いてんじゃねぇよっ!」

778: 2014/06/05(木) 20:09:04.34 ID:yhGn+MmJO





PM5:30

タイムリミットまで後、30分






779: 2014/06/05(木) 20:13:57.95 ID:yhGn+MmJO
ブーブー、ブーブー


男賢者「……お父様、どんどんブーイングが酷くなっている様ですが」

男魔法使い「……私の漫談受けないねぇ? 鉄板ネタなのに、ちょっと自信なくしちゃうなぁ」

男賢者「いえ、そういう事ではなく……」

男魔法使い「……ん?」

男賢者「……もう、中止した方がいいんじゃないでしょうか?」

男魔法使い「……」

男賢者「このまま、彼が戻ってこないと……ここの方達の希望すら、裏切ってしまう事になりませんかねぇ?」

男魔法使い「……う~ん」

男賢者「……彼は逃げたのではないでしょうか?」

780: 2014/06/05(木) 20:19:23.77 ID:yhGn+MmJO
男魔法使い「……女僧侶ちゃんはどう、思うかな?」

女僧侶「……えっ?」

男魔法使い「だから……勇者君の事……彼、本当に逃げちゃったと思う……?」

女僧侶「……そ、それは」

男魔法使い「それとも……ここに来れない理由か何かがあるのかねぇ……? 何か、心当たりはないかな?」

女僧侶「あっ!」

男魔法使い「ん……? どうしたの? 何か、心当たりでもあった?」

女僧侶「そういえば、勇者さん……昼に街の外に出て行ったんですけど……」

男魔法使い「……うん」

女僧侶「あれは、逃げたんじゃなくて……他に……何か理由があったんじゃないかと……思います……」

781: 2014/06/05(木) 20:24:18.59 ID:yhGn+MmJO
男賢者「……どんな理由?」

女僧侶「えっ……? そ、それはよくわかりませんが……」アセアセ

男賢者「……」

女僧侶「……」

男賢者「……仮に、何か理由があって、街を離れる事になったとしよう」

女僧侶「……はい」

男賢者「でも、そんな場合でも、仲間である女僧侶ちゃんには、理由を話してから、行くんじゃないかな……?」

女僧侶「……えっ?」

男賢者「……少なくても、僕ならそうするよ。女僧侶ちゃんの事を信頼してるのならね」

女僧侶「……」


男魔法使い「まぁまぁ! 勇者君にはさ、勇者君なりの考えがあるんじゃないかな? とにかく、後30分だけ待ってみようよ? ねっ?」

782: 2014/06/05(木) 20:28:00.64 ID:yhGn+MmJO
ーーーーー


天童「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

天童「お~いっ! まだ、生きてるかぁ~?」

勇者「……」

天童「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

天童「……おいっ! 返事ぐらいしろってんだ!」

勇者「ううっ……大丈夫……まだ生きてる……」

天童「よ~しっ! 生きてんなら、それでいいっ!」

783: 2014/06/05(木) 20:37:22.10 ID:yhGn+MmJO
勇者「天童……お前は……大丈夫か……?」

天童「……あぁ? 氏にかけてる奴が、人の心配なんかしてんじゃねぇよっ!」

勇者「……ごめん」

天童「俺はよぉ? 大丈夫だからよぉ? とっとと街に帰って……う、うおっと……」クラッ

勇者「お、おいっ……!」

天童「カァ~! 珍しく、足滑らしちまったな……こりゃ、昨日飲み過ぎたかね? まいったな、こりゃ!」

勇者「無茶すんなよっ……! おめぇも毒受けてんだろがっ……?」

天童「大丈夫、大丈夫っ! 後、五分ぐらいで街だからよぉ! それまで、意識失うなよ!」

勇者「まだ、半分も進んでねぇだろがっ……! もう、俺はいいからよぉ……!」

天童「うるせぇっ! ここまで来て諦めれっかよっ! そんなネガティブな発想だから、おめぇはダメ人間なんだよっ!」

勇者「天童……ごめん……」


天童(くそっ……俺も毒が回ってきやがったな……こりゃ、やべぇかもな……)

784: 2014/06/05(木) 20:39:26.34 ID:yhGn+MmJO





PM5:50

タイムリミットまで後、10分






785: 2014/06/05(木) 20:43:02.97 ID:yhGn+MmJO
天童「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

天童「はぁっ……う、うおっ……」クラッ

勇者「……」

天童「お、おいっ……勇者……大丈夫か……?」

勇者「……」

天童「……おいっ!」

勇者「……」

天童「おいっ……! 勇者ァっ! 生きてんなら、返事ぐらいしろやっ!」

勇者「……」

天童「おいっ! しっかりしろっ……! くそっ……!」

勇者「……」

786: 2014/06/05(木) 20:48:28.02 ID:yhGn+MmJO
天童「……神様ァ! 冷ぇじゃねぇかっ! こいつは間違いなく正しい事をしたってのによォ!」

勇者「……」

天童「くそっ……勇者ァ……!」

勇者「……もういいよ」

天童「……おっ、勇者、まだ生きてたか」

勇者「天童……もういいよ……おめぇもフラフラじゃねぇか……」

天童「……」

勇者「もういいからさ……? 天童……ここで、お話しよう……?」

天童「……」

勇者「……なっ? もう、おろしてくれて、いいからさ?」

天童「……」

787: 2014/06/05(木) 20:51:40.00 ID:yhGn+MmJO
勇者「……後、何分?」

天童「……後、10分だ」

勇者「……」

天童「……」

勇者「楽しかったなぁ……この数週間……」

天童「……」

勇者「お前が現れて……色んな事があって……」

天童「……」

勇者「……俺、始めて生きた」

天童「……」

788: 2014/06/05(木) 20:55:54.72 ID:yhGn+MmJO
勇者「お前がいなかったらさ……俺、今頃まだ引き篭もったままだったしさ……」

天童「……」

勇者「女僧侶ちゃんとも、こんな仲になる事もなかっただろうしさ……?」

天童「……」

勇者「想いを伝えられないまま終わるのは残念だけど……」

天童「……」

勇者「もう、十分だよ……俺は満足してる……後は男賢者さんに任せるよ……」

天童「……勇者」

勇者「ははっ……思えば、この旅……色々な事があったなぁ……」

天童「……」

789: 2014/06/05(木) 21:00:38.72 ID:yhGn+MmJO
勇者「魔物討伐で……男戦士さんと出会ったじゃん……?」

天童「……あぁ」

勇者「あの人、厳しい人だったけどさぁ……? 色んな事を教えてもらったよ……」

天童「……そうだな」

勇者「今頃、街の復興を頑張ってるんだろうね……?」

天童「そうだな……あの人も精一杯に生きてる……」

勇者「それからさ……? 女商人さんとも出会ったじゃん……?」

天童「……あぁ」

勇者「……優しい人だったよね?」

天童「……あぁ。立派な人だ」

790: 2014/06/05(木) 21:04:39.51 ID:yhGn+MmJO
勇者「木の実をさ……? 一緒に取りに行ったじゃん……?」

天童「……あぁ」

勇者「物資が不足してる街に運べたかな……? あの人も立派な人だったよね……?」

天童「……ん?」

勇者「あの人にも……色んな事を教わったよ……」

天童「……おい」

勇者「それから……」

天童「おいっ! おい、勇者っ! おいっ!」

勇者「……どうしたの?」

791: 2014/06/05(木) 21:09:25.49 ID:yhGn+MmJO
天童「おめぇよぉ……? 女商人さんと、木の実取りに行った時の事、覚えてるか!?」

勇者「うん……俺が約束忘れて……お前と走り回ってた時の事でしょ……?」

天童「バカッ! 違うっ! 帰りだよ、帰り道の話だよっ!」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇよぉ? あの時、魔法を改良する……とか、言ってなかったか?」

勇者「……えっ?」

天童「おいっ! 言ってたよなぁ!? 直接、街に戻れるようにする……とか、言ってたよなぁ!?」

勇者「!」

792: 2014/06/05(木) 21:14:40.97 ID:yhGn+MmJO
天童「その魔法、完成してんのか!? これだっ! これしか方法はねぇっ!」

勇者「……そ、それは」アセアセ

天童「お前っ……まだ、できてねぇのか……!?」

勇者「うん……できてないけど……でも……!」

天童「……」

勇者「今まで……失敗ばかりだったけど……もし、ここで成功したらっ……!」

天童「……勇者ァ!」

勇者「ぶっつけ本番だけど……そうだ……! これで成功すればっ……!」

天童「後、5分っ……! ここが正念場だっ! 勇者ァっ!」

793: 2014/06/05(木) 21:24:08.34 ID:yhGn+MmJO
勇者「えっと……ええっと……ルーマニア?……ルー大柴……ああっ!違う違うっ……」

天童「……勇者ァ! 落ち着けっ! 時間はまだあるっ!」

勇者「ルート33……? カレールー(辛口)……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」

天童「おめぇの底力を見せてみろぉっ!」


勇者「『ルーラ』?」ピカーッ

794: 2014/06/05(木) 21:31:59.17 ID:yhGn+MmJO
勇者「……ん?」フワーッ

天童「よしっ……! 身体が浮いてきた……! いいぞっ……!」フワーッ

勇者「これで……大丈夫なのかなぁ……」

天童「これで……後は街に戻るだけだっ……!」

勇者「で、でも……天童っ……! ぶっつけ本番だから、どうなるかわかんないよ……? もしかしたら、とんでもない所に飛ばされちゃうかも……」アセアセ

天童「なぁ~に、言ってんだっ! 今日のおめぇなら、間違いなく成功するばいっ! よ~しっ! いくぞっ!」


ギュイーンッ


勇者「ぐっ……身体がっ……」ビキビキ

天童「勇者ァ! 耐えろォ! ここが最後の踏ん張り所だぁっ!」

795: 2014/06/05(木) 21:40:27.74 ID:yhGn+MmJO
ーーーーー


男賢者「……お父様?」

男魔法使い「う~ん……そうだね……これ以上、待たせるのもね……」

女僧侶「……」


男魔法使い「え~、皆さんっ……! まことに残念ですが……本日の試合は勇者選手の危険という事で……」


ブーブー、ブーブー

男魔法使い「いやいや……もう、ブーイングばっかり、やめてよ? 私だってね、一応頑張って仕切ってんだよ?」


ギューンッ


男魔法使い「あれ……? なんかブーイングに混じって、変な声が聞こえるんだけど……?」キョロキョロ


勇者「ぐっ……! うわあああっ!」

天童「爺ちゃん、婆ちゃん、お待たせしましたぁっ! 勇者選手っ! 空からのリングインでございますっ!」

女僧侶「勇者さんっ!」

796: 2014/06/05(木) 21:49:09.76 ID:yhGn+MmJO
勇者「……ぐっ!」

女僧侶「勇者さんっ……! ど、どうしたんですか、その顔色っ……!」

天童「おいっ……勇者っ……! 後、3分だっ……! 早く、想いを伝えろっ!」

勇者「ぐっ……! 女僧侶……ちゃん……」

女僧侶「勇者さんっ……もしかして……毒ですか……!? 今、治療しますね!」

勇者「ぐっ……そんな事より……女僧侶ちゃん……」

女僧侶「勇者さんっ……! 回復しますから……! 動かないで下さいっ!」

天童「いや、回復しないけど、氏んじゃうけどさぁ? 今はその前にする事があるんだよねぇ?」アセアセ

勇者「そう……女僧侶ちゃん……これを……この薬草を……あのお婆ちゃんに渡してくれない……?」グッ

女僧侶「……えっ?」

天童「……バカっ! そうじゃねぇだろ! 想いを伝えんのが先だろっ! おいっ!」

797: 2014/06/05(木) 21:56:18.01 ID:yhGn+MmJO
婆「ゴホッ……ゴホッ……」

女僧侶「あの……お婆さん……コレ……」

婆「これは……薬草じゃないか……なんで、あんたがこんな物、持っとるんじゃ……」

女僧侶「いえ、私の持ち物ではなく……勇者さんがお婆さんへ、と……」

婆「あの、空から飛んできたお兄ちゃんが持ってきてくれたんか?」

女僧侶「……はい」

婆「あぁ……この薬草、取りに行っとったから……あの兄ちゃん、こんなに遅れたんか……」

女僧侶「……」

婆「でもなぁ、お姉ちゃん? あんな危険な洞窟に、若いお兄ちゃんが行ったら危ないで! お姉ちゃんも、無茶せんように、言ってやりやっ!」


女僧侶(勇者さん……この薬草を取りに洞窟に行ってたんですね……)

798: 2014/06/05(木) 22:02:22.68 ID:yhGn+MmJO
女僧侶「……勇者さん、どういう事、理由を聞かせてもらってもいいですか?」

勇者「う、うん……あまり、上手く説明できないかもしれないけどさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「女僧侶ちゃんは仲間だし……やっぱり……謝らなくちゃいけないからさ……? 聞いてもらいたい……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「俺さぁ……今日、薬草取りに洞窟に行ってたんだよ……」

女僧侶「……はい」

勇者「洞窟にはさぁ……毒を持った蝶々がいて……こんなに、ボロボロになっちゃったんだ……」

女僧侶「……」


天童「おいっ! 後2分だぞっ……! ちんたら喋ってねぇで、『好きだっ!』とか言っちまえよっ!」

799: 2014/06/05(木) 22:09:37.73 ID:yhGn+MmJO
勇者「俺、一人じゃ……やっぱり、なにもできないよ……」

女僧侶「……」

勇者「やっぱり、女僧侶ちゃんが側にいてくれないと……俺、ダメみたい……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「なんかさぁ……? 最近、俺達、変な壁できてたよね……?」

女僧侶「……はい」

勇者「そのせいで……女僧侶ちゃんに話しかけ辛くてさぁ……? 一人で背追い込んでさぁ……? こんな事になってさぁ……?」

女僧侶「……はい」

勇者「今日一日で、女僧侶ちゃんが俺にとって、大事な人なんだな……って、感じたよ……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「ごめんね……? これからは、もっと思った事ちゃんと言うようにするし……女僧侶ちゃんの話もちゃんと聞くようにする……」

女僧侶「……はい」


天童「後1分っ……! 後1分っ……!」アセアセ

802: 2014/06/05(木) 22:22:14.12 ID:yhGn+MmJO
勇者「俺さぁ……? 男賢者さんみたいにできる人じゃないけどさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「やっぱり……女僧侶ちゃんを大切にする気持ちは負けてないと思う……」

女僧侶「……はい」

勇者「今まで……俺を支えてくれたのは女僧侶ちゃんだし……これからもそういう関係でいたい……」

女僧侶「……はい」

勇者「俺さぁ……頑張ってダメ人間から抜け出すからさぁ……? ちゃんとした人間に戻るからさぁ……?」

女僧侶「勇者さんは……もう、変わってますよ……」グスッ

勇者「これからも……女僧侶ちゃんと旅を続けたいな……」

女僧侶「はい……私もです……」ニコッ


天童「カァ~っ! 情けねぇ、告白っ! まぁ、いいやっ! はい、カァ~ット! 6時ジャストだっ!」

803: 2014/06/05(木) 22:30:42.29 ID:yhGn+MmJO
男魔法使い「……ねぇねぇ、『相思相愛』って言葉知ってる?」

男賢者「……」

男魔法使い「君、あの関係に割り込もうとしてたの? そりゃ、無茶だ。私も若い頃はモテたけど、流石にありゃ、無茶だ」

男賢者「……」

男魔法使い「ほらっ? 周りの方々達、見てごらん?」

男賢者「?」


「お~! 若いのにやるじゃねぇか兄ちゃんっ! 薬草ありがとよっ!」

「なぁ~んか、ロミ男とじゅりぇっとみたいじゃの? いや~、ええもんが見れたわい! 姉ちゃん、回復してあげろや!」


男魔法使い「ねっ? 力ってのはこういう事に使うんじゃないかな? まぁ、結果的にはいいショーになったんじゃないかな?」

男賢者「……」

男魔法使い「……勉強ばっかりさせてた、父さんの責任かもな? お前をヒールにしてすまなかったな」

男賢者「……いえ」

804: 2014/06/05(木) 22:36:50.74 ID:yhGn+MmJO
数日後ーー


男魔法使い「君達は大陸を渡るようだね?」

勇者「はいっ! 船の準備が整った様なので……あちらの大陸に移りたいと思います」

男魔法使い「勇者君、身体は大丈夫? 病み上がりなんだから、無茶はしちゃダメだよ?」

勇者「あっ、大丈夫ですっ! 女僧侶ちゃんに回復してもらいましたから!」

男魔法使い「ハハハ! 私はいいカップルだと思うよ! 二人共、仲良くね!」

勇者「えっ……カップルって……ま、まだそんな関係ではないですって……」アセアセ


男賢者「……勇者君?」

勇者「あっ……どうしたんですか……?」

805: 2014/06/05(木) 22:40:10.88 ID:yhGn+MmJO
男賢者「……色々迷惑をかけて、ごめんね?」

勇者「えっ……いやっ……」

男賢者「女僧侶ちゃんを大切にしてあげてね?」ニコッ

勇者「は、はいっ……!」

男賢者「彼女も……きっと君を必要としているはずだからさ?」

勇者「あの……男賢者さん達は、これからどうするんですか……?」

男賢者「僕はこの街に残って、力の使い方を学ぼうと思う」

勇者「……力の使い方?」

806: 2014/06/05(木) 22:49:26.95 ID:yhGn+MmJO
男賢者「君の採ってきた薬草あるだろ?」

勇者「あっ……はい……」

男賢者「あれを、僕と父さんの魔力でなんとか量産できないかなと思ってね」

勇者「そうですね……あの洞窟、危険ですしねぇ……?」

男賢者「まぁ、父さんの提案なんだけれどもね。目の前の事を一つ一つ取り組む事の大切さを学ばせてもらったよ」

勇者「学ばせて、って……これから、学ぶんでしょ……?」

男賢者「……君は鈍感だねぇ? そんな勘違いで、女僧侶ちゃんとすれ違いしないようにしなよ?」

勇者「なぁ~に、言ってんの、アンタ?」

男賢者「ちょっと、君に負けたのが悔しいなぁ……まぁ、何かあったら、すぐに呼んでよ? 父さんと二人で駆けつけるからさ?」

勇者「だから、勝負もしてないでしょう? あんた、何言ってるんだ?」

男賢者「もういい。これ以上話しても、腹が立つだけだ。 とっとと次の大陸へ行ってくれ」クスクス

勇者「?」

807: 2014/06/05(木) 22:55:41.90 ID:yhGn+MmJO
ーーーーー


天童「お~うっ! 勇者っ! 魔法使い親子との別れの挨拶は済んだかぁ~?」

勇者「……あの、男賢者さん結構天然な所、あるみたいだな?」ブツブツ

天童「……おめぇが何か変な勘違いしてるだけじゃねぇの? 俺にはしっかりしてるように見えたけどなぁ?」

勇者「う~ん……そうかなぁ……? あっ、そういやさぁ? 天童?」

天童「んっ……? どうした?」

勇者「もしさぁ? あの時、洞窟いかないでさぁ? 男賢者さん決闘してたら、俺どうなってたんだろ?」

天童「う~ん……どうなんだろ……?」

勇者「今までのパターンから、考えると……俺、殺されてたのかなぁ……?」

天童「いやぁ……流石に、あの人もそこまで無茶しないと思うぜ……? でもよぉ……?」

勇者「?」

808: 2014/06/05(木) 23:00:51.62 ID:yhGn+MmJO
天童「おめぇがさぁ? 薬草の事、無視して決闘に行ったらさぁ? 女僧侶ちゃん、どう思ったんだろな?」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇがさ? 勝ったとしても、女僧侶ちゃんは喜ばなかったんじゃねぇかな?」

勇者「……そうかなぁ?」

天童「やっぱりよぉ? 裸の想いを伝えるのが大事だと思うぜ? そうじゃないと、何処かでまたすれ違いが起きてたと思うぜぇ?」

勇者「……そういうもんかねぇ?」

天童「それよりよぉ……?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、女僧侶ちゃんの事、好きなんだろ? 『好き』って言わなくていいのかよ? 言っちゃ悪ィが、情けねぇ告白だったぜぇ?」

勇者「あぁ……それね……別にいいよ……」

809: 2014/06/05(木) 23:05:26.22 ID:yhGn+MmJO
勇者「俺、童Oだからさぁ……? やっぱり、今は愛だとか恋だとか、そんなのよくわからないよ」

天童「……てめぇで、自信満々に童Oって言うのはどうかと思うぞ」

勇者「女僧侶ちゃんとはさぁ……あの一件で、距離が縮まったような気がするし……」

天童「……」

勇者「そういう風な関係になるのはさぁ? 自分のペースで……俺のペースでゆっくやっていくよ」

天童「カァ~! 童Oの考え方だねぇ!」

勇者「な、なんだよ……」アセアセ

810: 2014/06/05(木) 23:15:04.88 ID:yhGn+MmJO
天童「そういう風に言ってる奴に限ってな、横から来た男にささっと取られちまうんだよ」

勇者「……そんなのわかんねぇだろ」

天童「いんや、皆、そうっ! 『俺のやり方で音楽界を変えるっ!』な~んって言ってる奴も……」

勇者「……」

天童「『俺のやり方で小説界に革命を起こすっ!』な~んて言ってる奴も……」

勇者「……」

天童「み~んな、ダメ人間の言い訳だよ! 自分のダメな考えを棚に上げてるだけだね!」

勇者「……そんな言い方しなくてもいいじゃねぇかよ」

天童「勇者君、恋愛感、改めた方がいいんじゃないかなぁ?」ニヤニヤ

勇者「……うるせっ! 大きなお世話だよ」

812: 2014/06/05(木) 23:22:10.53 ID:yhGn+MmJO
天童「まぁ、でもよ……? 俺は優しいからよぉ?」

勇者「?」

天童「勇者君がその考えで奇跡の成功を掴む事を祈っておいてやるよ」ニヤニヤ

勇者「……奇跡なのか? 俺の恋愛は奇跡なのか?」

天童「そりゃねぇ……その考え方ではねぇ……? まぁ、頑張って革命を起こしてくれ」

勇者「……革命なのか? 俺の恋愛は革命なのか?」

天童「そりゃ、その考えでさぁ? 突き抜けて成功したら、革命だよ」

勇者「バカにしてんじゃねぇぞ! おめぇだってよぉ! 女商人さんに振られたのに、偉そうに言ってんじゃねぇよ!」ギャーギャー

天童「俺は振られてねぇよっ! おめぇの恋愛感を心配してやってんだから、感謝しろよっ!」ギャーギャー


女僧侶「勇者さ~ん? 何してるんですかぁ~?」

勇者「あっ……女僧侶ちゃん……」

813: 2014/06/05(木) 23:28:27.92 ID:yhGn+MmJO
女僧侶「何、話してたんですか?」

勇者「いや~、天童のね……よくわからない恋愛感を聞かされてた……」

女僧侶「面白そうな話じゃないですか?」

勇者「い、いや……ダメだよ……あいつ、ぶっ飛んでるからさぁ……?」アセアセ

女僧侶「勇者さんは恋愛感とかあるんですか?」

勇者「えっ……! 俺っ……?」

女僧侶「ちょっと興味あります。聞いてみたいです」

勇者「い、いやぁ……俺はさぁ……なんて言ったらいいかなぁ……やっぱりさぁ……?」アセアセ


天童「う~ん……まぁ、一応距離は縮まったな。 『チームプレイ』……クリアだっ!」メモメモ


天童「さぁ、 命題は後4つ! 勇者が女僧侶ちゃんとくっつくのが先か……それとも、氏ぬのが先か……こりゃ、面白くなってきたな!」

814: 2014/06/05(木) 23:30:33.07 ID:yhGn+MmJO
第六話 「大切にしないと氏ぬ!」

ーー完

815: 2014/06/05(木) 23:31:54.46 ID:u0VNpb+lo
乙!
ルート33で年齢がバレるね…
第七話 「決断したら氏ぬ!」

引用: 勇者「天国に一番近い勇者」