1:◆gG/j6M0L3DcE 2014/01/29(水) 23:49:29.04 ID:nJDNOTjS0
・プロになった京太郎が主人公という前提で書かれているSS
・麻雀描写はない
・安価も基本的にない
・地の文があったりなかったりする
・恋愛?的描写はある
・はやりんは世界一かわいいよ



2: 2014/01/29(水) 23:54:55.69 ID:nJDNOTjS0
――女雀士は、強ければ強いほど、婚期を逃す。そういうジンクスがある。

国内無敗のアラフォーしかり、阿知賀のレジェンドしかり、一定以上の強さを持つ彼女たちの隣に男の影はない。

千里山女子高校の麻雀部監督のように家庭持ちの強豪女雀士も存在するが、彼女のような雀士は例外であり、少数派である。

故に、プロの女雀士はおおよそ三種類に分類される。
諦めずに出会いを探すもの、完全に捨てているもの、iPS細胞に全てを賭けるもの。

一部で「嶺上マシーン」だの「魔王」だのと呼ばれている幼馴染の将来が心配でしょうがない。


京太郎「……はぁ」

……俺は、舐めていたのである。飢えた狼の恐ろしさというものを。喉元に喰らいついて人生の墓場まで引き摺り落とす、彼女たちの貪欲さを。

3: 2014/01/29(水) 23:59:30.18 ID:nJDNOTjS0
旅館の一室。裸の男女。漂う異臭。シーツの赤いシミ。乱れた格好。丸められたティッシュ。

誰かに見られたら逆転サヨナラ満塁ホームランでハネムーンまでカッ飛ばされる状況。

どう見ても事後です、本当にありがとうございました。

京太郎「……はぁ」

京太郎「……ヤッちまったなぁ、俺」

溜息を吐いて、視線を板張りの天井から隣に移す。

そこには決してテレビでは見ることの出来ないすっぴんの寝顔――牌のおねえさんこと瑞原はやり(3×)が、俺の腕に抱きついて幸せそうに寝息を立てていた。

4: 2014/01/30(木) 00:02:36.53 ID:5OrcpmOh0
年齢にもかかわらず可愛らしい童顔、立派なおもち、有名人、高収入。
これだけの要素を揃えて置きながら何故、今まで嫁の貰い手がいなかったんだろう。

はやり「……うえへへへぇ~☆」

半開きの口からヨダレを垂らす寝顔は絶対にオンエアできないだろうなぁ、と。
半ば現実逃避的にそんなことを考えていた

6: 2014/01/30(木) 00:06:57.46 ID:5OrcpmOh0
ダラしない寝顔ではあるが、それでも可愛く見えてしまうのは男の煩悩がそうさせているのか。
正直、この人が「四捨五入すれば40」と呼ばれる年齢だとは信じられない。
肌のハリとかまだまだあるし、ほっぺたは指でつついてても飽きないし。

はやり「…んっ…」

指先でモチモチ感を楽しんでいると、ピクりと瞼が震えた。
起こしてしまったか? と思ったがニヘラと頬を緩ませただけで目を覚ますことはなかった。

はやり「んぅ~……はやりはぁ…まだまだかなって…☆……」

京太郎「やめてくださいしんでしまいます」

寝言ではあるが、昨夜あれだけ致したというのにまだまだイケるらしい彼女に戦慄した。
くりっとしたまん丸な瞳の奥には野獣の眼光が潜んでいるということを忘れてはいけない。

8: 2014/01/30(木) 00:15:38.31 ID:5OrcpmOh0
京太郎「というか、そろそろ起きないt……っ」

枕元に置いた携帯に表示された時間を見て、起き上がろうとするが、腰の痛みに中断された。

このトシまで拗らせていただけあって、彼女のパワーは相当なものだった。
色々と吸い取られた気がする、主に若さとか。

京太郎「……体もダルいし、今日は仕事にならんよなぁ」

日頃から働き過ぎだの、雑用までやる必要はないだの、付き人を雇えだのと色々と言われていたし、今日ぐらいは休ませてもらってもバチはあたらないだろう。
腕に絡みついたはやりの指を一本一本丁寧に解き、ノソノソと布団から出る。

「んぅ……」と、少しだけ悲しそうに身じろぎした彼女の寝顔と、揺れるおもちに再びベッドインしたくなる誘惑に駆られたが仕事がある以上はそういうわけにもいかない。

9: 2014/01/30(木) 00:17:49.64 ID:5OrcpmOh0
携帯を開き電話帳から連絡先に繋げる。

数秒のコールの後、いつもの聞きなれた声がスピーカーから聞こえてきた。

『……ん、おはよう…?』

少しだけ眠そうな声音は仕事用のものではなく、身内だけに向けられた柔らかいものだ。

10: 2014/01/30(木) 00:21:34.22 ID:5OrcpmOh0
体調が優れないので休むということを伝えると「私も休む」「そっち行くから鍵あけてて」と言われたが、今いる場所が自宅ではないことと、そこまで気を使われるとかえって辛いということをやんわり伝えるとスゴスゴと引き下がった。
少しだけ慌てた口調はこっちのことを心配していることが伝わってきて、胸が熱くなった。


……休みの原因が情事だと知られたら、どうなることやら。
その光景を想像するとキュッと体が縮んd「えい☆」

11: 2014/01/30(木) 00:26:13.55 ID:5OrcpmOh0
ボフッ


背中に押し付けられるおもちの感覚。
それを堪能する間もなく腰に腕を回され、布団へと引き戻された。

京太郎「……おはよう、ございます」

はやり「んー?」

布団に埋もれながらとりあえず挨拶をすると、目を閉じて唇を突き出された。
……ええと、これは、アレか。おはようのチューとやらか。いやまさか、いくらはやりんと言えどもいい年した大人がそんな――

はやり「んっ!!」
京太郎「ふぐぅっ」

突然のことに固まっていると、どうやら待ちきれなくなったらしく彼女の方から迫ってきた。
ガッチリと頬を固定して、逃げ道をふさぐことも忘れていない。


……なんで行き遅れてたんだよ、アンタ。

12: 2014/01/30(木) 00:28:49.03 ID:5OrcpmOh0
数分たって満足した頃に解放される。
俺の呆れた視線も意に介さず、こちらの口を堪能した舌で唇をペ口リと拭った。
溜息を吐くと、年齢に似合わない仕草でパチリ☆とイタズラっぽくウィンクを返された。

はやり「ダメだぞ京くんっ 女の子はいつだって眠れるお姫様なんだから☆」

はやり「ちゃんとわかってくれないと☆」

このプロキツい。
お姫様ならせめてヨダレの跡は拭けとか、そんなこと言ってるから牌のおねえさん(28と××ヶ月)とか言われるんだ、とか言いたいことはあったが、とりあえず

13: 2014/01/30(木) 00:30:07.42 ID:5OrcpmOh0
はやり「あんっ♪」

その立派なおもちに、しゃぶりつくことにした。

14: 2014/01/30(木) 00:33:30.39 ID:5OrcpmOh0
とりあえずプロローグ的なもの終了
いったん中断します

40: 2014/01/30(木) 21:57:39.44 ID:5OrcpmOh0
【はやりんと知り合ったきっかけ】

高校3年の頃にはインターハイでも上位の成績を残せるようになり。

様々な事情が重なって東京の大学に進学することになり。

せっかくだからと入った大学の麻雀サークルで同期のヤツに言われた「清澄っても案外大したことないんだね」の一言でムキになって麻雀にのめり込み。

雀荘を渡り歩いては魔物にボコられ、歩いてはボコられを繰り返していたある日、とあるが目に入った。


京太郎「牌のおにいさん募集……?」

42: 2014/01/30(木) 22:00:42.32 ID:5OrcpmOh0
牌のおねえさん。瑞原はやりプロ。
ストロングポイントは和了スピード。防御でも抜群の安定感を誇る。

もしかしたらそんなプロと麻雀が打てて、指導までしてもらえるかもしれない。

そんな期待を胸に募集要項に従って瑞原プロが直々に行っているという採用試験に出向いて――見事に、飛ばされた。
雀荘で魔物相手の経験は積んでいたので、善戦は出来ると思っていたのだが、甘かった。

彼女の麻雀は今までに対局してきたどの相手よりも苛烈で、迅速で、鉄壁だった。
そして何よりも――すばらしい、おもち。

俺は、対局中の彼女から目を離すことができなかった。

43: 2014/01/30(木) 22:01:48.47 ID:5OrcpmOh0
瑞原はやりという個人が持つ雰囲気と、美しい流線型によって描かれるおもちはマシュマロを想起させる。

口にしたい。コネコネしたい。そんな感想を抱かせる極上の甘さをもったおもちなのだ。

44: 2014/01/30(木) 22:03:42.96 ID:5OrcpmOh0
このプロと一緒に仕事ができる……そう思うと、頬のニヤケが止まらず、ウキウキした足取りで帰宅することができた。

その後で、倍率の高さと試験の結果を思い出して一人凹んだわけだが。

同期のヤツには「情緒不安定過ぎてキモい」と言われた。

「うるせぇ」と返し、無念を振り払うように先輩も巻き込んで対局を開始した。

45: 2014/01/30(木) 22:06:17.38 ID:5OrcpmOh0
そして俺が親の手番。

あまり良くない手牌と渋い顔をしながら睨めっこをしていた時に、予想外の合格採用の連絡が来たもんだから、携帯片手に思わず立ち上がって叫んでしまった。

同期のヤツには「きょーたろーが壊れちゃった……」と言われた。余計なお世話である。

46: 2014/01/30(木) 22:08:45.67 ID:5OrcpmOh0
……そういう訳で瑞原はやりプロと一緒に仕事ができるようになった。

普段小さい子を相手にしているだけあって彼女の指導はわかりやすく優しく、でも決して甘くはない。これ以上ないくらいに理想的な指導だった。

彼女の交友範囲も広く、小鍛治プロや野依プロ、戒能プロに赤土プロといった豪華な面子とも知り合うことができた。
彼女たちとは今では下の名前で呼び合う仲である。

こんな人たちが周りにいたもんだから俺の学生時代は麻雀一色に染まり、プロになるまでに至ったのである。

……いやまぁ、ハマり過ぎて単位が危なくなり、プロになるしかなかったとも言えるのだが。
本当に、お世話になった人たちには頭が上がらない。

47: 2014/01/30(木) 22:12:29.96 ID:5OrcpmOh0
魔物クラスのプロたちに揉まれまくった学生時代を過ごしただけあって、今の俺は男のプロの中でも結構強い方にいる……と思う。
少なくとも、プロ雀士カードで当たり扱いされる程度には活躍できている。

咲や和と同じ清澄出身ということで話題になることもあるし、それなりに貴重な実力のある男プロということで、麻雀に関する番組に呼ばれることもあった。

自分で言うのもアレだけれど、それなりにファンもいる。
だからまぁ、天狗になっていたし、恩師たちが女性だったということもあって。
女性への警戒心なんて、これっぽっちも持ち合わせていなかったのである。

だからこそ、あのようなコメントを残してしまったのだろう。

48: 2014/01/30(木) 22:13:52.15 ID:5OrcpmOh0
その日の仕事は、学生麻雀大会の解説の代役だった。

本来の役目を請け負っていた人がギックリ腰で出られなくなったので、急遽として代役を務めることになったのだ。

俺も昔はお世話になったことだし、張り切って頑張ろうとした……のだが。



『ところで須賀プロ……実は口リコンだとかいう噂がありますが実際のところは?』

『……はぁ?』


その日の相手と状況が問題だったのだ。

49: 2014/01/30(木) 22:15:55.86 ID:5OrcpmOh0
仕事相手としては問題ない、それどころか最高の相手だった。
こちらの緊張を読み取って冗談で肩の力を抜いてくれたり、俺が失敗しそうになった時はすぐにフォローを入れてくれた。
これまた年上の女性で、俺たちはすぐに打ち解けた。

『だって、須賀プロって同世代との浮かれた話がないじゃない?』

『中学生くらいの相手と腕を組んで歩いていたとかいう話もあるし』

『いやいや……それ多分、咲のことだと思いますよ。あいつちっこいし』

『ふーん?……でもねぇ』

『他にもリボンの子と親しげにしていたとか』

『着物が似合う小学生をおんぶしていたとか、ネタはたくさんあがってますよー?』

『いやいや、それも多分見間違えですって。確かにちっこい友人は多いですけど……』

『ふんふん?』

『俺は……その、何といいますか。好みのタイプは――』


つい、ノリのいい相手だったので。
普段言わないようなことまでしゃべってしまったのだ。


『(おもちの大きな)年上ですから』


50: 2014/01/30(木) 22:17:13.29 ID:5OrcpmOh0
この時は、何も問題ないと思っていた。

だってまさか、機材のトラブルで休憩中の会話が公共の場に流されているなんて、誰も思いやしないだろう。

51: 2014/01/30(木) 22:18:46.38 ID:5OrcpmOh0
この日、この瞬間からである。

周囲の女性の態度が変わっていった。

収録後に携帯を開くと、先輩方からの飲みの誘いメールが6件も着ていた。

夜には咲から一緒に遊びに行かないかとの誘いがあり、大学時代からの友人とは急に付き合いが増えた。何故だか行く先々でハギヨシさんを見かけることが増えた。

ついに俺にもモテ期が来たか!? なんて浮かれたりもしたけれど――

52: 2014/01/30(木) 22:20:09.20 ID:5OrcpmOh0



はやり「白い屋根のおうちでー、子どもは3人でー、ペットはカピバラとかがいいよねっ☆」

ごらんの有様である。
モテ期の入り口は人生の墓場への片道切符だったのだ。

53: 2014/01/30(木) 22:23:02.36 ID:5OrcpmOh0
はやり「あー、ヤバい! すごくニヤけちゃう☆」

はやり「ほんと、幸せ☆」



……いやまぁ、色々言ったりはしたけれどこんな美人さんが相手なら男として悪い気はしないのだ。
大学生の頃からお世話になっていたし、プロになった後でも色々と面倒を見てくれた人でもあるし。
すばらなマシュマロおもちをお持ちだし、麻雀強いし、可愛いし。
自暴自棄になりかけた時には優しく抱きしめてくれたりもした。
師匠だと思っていたから今までそういう対象として見れなかっただけで、女性として惹かれる部分はかなりある。


……お腹をさすりながら「えへっ☆」と笑われると何故だか半身を底なし沼に沈められたような気分になるけれど。
そして、そんな時でもはやりんのおもちから手を離せない右手の正直っぷりに泣きたい。

59: 2014/01/30(木) 22:34:32.62 ID:5OrcpmOh0
心の中で溜息を吐きながらも、やっぱりマシュマロは美味しいもので。


京太郎(みんなにどう説明しようかなぁ……)

はやり(みんなに写メ送っちゃおっかな☆)



こうして、明日も黄色い太陽を眺めることになるのであった。

77: 2014/02/01(土) 17:02:48.01 ID:u0hLthAw0

【牌のおねえさんが拗らせるまで】

――きっかけは、番組の有力なアシスタントが電撃結婚からの寿退社でいなくなったこと。

その子とは番組が始まって以来の付き合いだったので、スタッフ一同でお祝いに行くことにしました。

78: 2014/02/01(土) 17:07:50.18 ID:u0hLthAw0
最初は和やかなムードで始まって、みんなでプレゼントを渡しました。


『おめでとーっ!!』

『あ、ありがとうございます!! うぅ……っ』

お酒が入った途端、真っ赤な顔で泣き出しちゃった。
送り出すこちら側としても嬉しさもあり寂しさもあり、思わずもらい泣きしちゃいそう。

笑顔で送り出すって、みんなで決めていたのに。
その子の顔を見ていると、はやりもすっごくウルウルしてきちゃって。
どうやっても抑え切れなくなって、抱きつこうとした時に。


『良かった……! あのジンクスがあるから不安だったんです……!!』

『ジンクス?』

『巷ではあの番組のスタッフは牌のおねえさんに若さと婚期を吸い取られているなんて噂もあって……!』


ベロンベロンになったその子が、こんなことを言ってきたのでしたっ☆

79: 2014/02/01(土) 17:11:13.96 ID:u0hLthAw0
パーティーが終わった後はみんなで久しぶりに徹夜で麻雀をすることに。


こんなにお祝いをしてもらって遠慮をしていたのか、その子は何度も首を横に振っていたけれど。
最後の最後だから、はやりもすっごくハリキリました☆


「はやりさん、その顔は色々とアウトです」と他のスタッフに言われたけど、何のことだかわからない。
ただお祝いしてあげようとしているだけなのに。

80: 2014/02/01(土) 17:19:58.15 ID:u0hLthAw0
翌週の収録。

本番前に調子を確かめようと牌を触っていると、隣にいたスタッフが青い顔をしていた。

どうしたのと聞いてみると、まるであの徹麻の時のような威圧感を放っているとのこと。

自分では全然わからないけど、他のスタッフの顔を見ても、同じように感じているみたいで。

当然こんな様子はちっちゃい子たちの前では見せられないので収録は中止。

すぐに緊急会議が開かれることになりました。

81: 2014/02/01(土) 17:27:36.20 ID:u0hLthAw0
【こうなった原因は、彼女が気付かぬうちに抱えていたストレスである。
 先週のことがきっかけとなって今まで溜まっていたものが溢れ出し、威圧感という形で麻雀に現れてしまったのだ。

 この症状を一朝一夕で治すことは難しいが、和らげる方法はある。
 彼女が安心できる相手をサポートとして付けることだ。

 出来ればそこそこ麻雀の腕が立ち、初心者の子にもわかりやすく、優しく教えられる人材。
 尚且つ男性であることが望ましい。女性でははやりんの威圧に耐えられないか、もしくははやりんと同調してより悲惨な事態を招きかねない。

 よって、新しい人材を探す必要がある。】

82: 2014/02/01(土) 17:30:33.00 ID:u0hLthAw0
そんな判断が、長い会議の中で下されたのでした。

最初は失礼しちゃうと思ったし、そんなことは間違ってるとも思った。
プンスコッとキャラが違うと言われながらもほっぺを膨らませた。
だってまるで、はやりが結婚できなくて焦ってるみたいなんだもん。


だけど事実として威圧感が麻雀に現れてしまっている以上、プロとして改善しなくちゃダメ。
……納得はいかないけど。


そんな気持ちが麻雀にも出ちゃったのか、テストを受けた子たちはみんな泣きながら帰っちゃった。
隣でその様子を見た子が「まるですこやんみたい」と言ったので、その子と一緒に徹麻までしたけれど、はやりは何も悪くないよねっ

83: 2014/02/01(土) 17:35:07.94 ID:u0hLthAw0
そんなことを繰り返して、いよいよもってこれはピンチだという空気になって……彼が、やってきたのです。

84: 2014/02/01(土) 17:39:35.20 ID:u0hLthAw0
高い身長と、ちょっと女の子っぽく見える顔立ち。名前は須賀京太郎くん。


きれいな金髪だったけれど、その色はつい先日退社したあの子に似ていて――


気がついたら、京太郎くんの箱割れで、対局が終了していたのでした。

85: 2014/02/01(土) 17:46:10.90 ID:u0hLthAw0

まるで、お通夜みたいなムード。
背景のセットの☆が落ちたのはきっと偶然。

京太郎くんは、俯いてプルプルしてる。
様子を見守っていたスタッフは、「ああやっぱり」とでも言いたげな顔。
何か、声をかけようと手を伸ばしたら――

京太郎「す……っげえ!!」
はやり「はややっ!?」

両手で思いっきりつかまれちゃった☆

86: 2014/02/01(土) 17:53:12.36 ID:u0hLthAw0
ちいさな男の子みたいにワクワクした顔。
じっと近くで見つめられるとイケメンさんだなぁってドキドキ。

京太郎「本当に強いんですね! どうやったら俺もこんなに強くなれますかっ!?」

はやり「え、えと、その……」

京太郎「よろしくお願いします! 俺、頑張りますから!!」

みんながみんな、ポカンとしてた。
「あんなはやりんの顔は見たことがない」とかなんとか。

87: 2014/02/01(土) 17:58:39.94 ID:u0hLthAw0
「あの」清澄高校出身で。

彼個人でもインターハイ入賞するくらいには強くって。

はやりの威圧にも負けないで。

何よりも、とっても楽しそうに麻雀をする子。

そんな彼だから、満場一致で採用が決まった。

88: 2014/02/01(土) 18:02:25.76 ID:u0hLthAw0
パーティーの夜から胸のすみっこで燻っていたモヤモヤも、彼と打っていると忘れることができた。


視線が正直だけれど、からかってみると可愛くて。

麻雀について指導している時は、とっても真剣で。

差し入れに持って来てくれた手作りタコスはとっても美味しくて。

よしこちゃんやはるえちゃんともすぐに仲良くなって。

みんなといっしょにいる時でも、はやりのことを見てくれる。


そんな彼に、はやりのハートはキュンキュンなのでした☆

90: 2014/02/01(土) 18:04:51.04 ID:u0hLthAw0
きっとこの胸の高鳴りは、ずぅっと、ずーっと昔にどこかで失くした落し物。

それを今になって、彼が拾ってきてくれた。

自覚すると、もう止まらない。朝も昼も夜にも、夢を見ている時だって、彼のことが忘れられない。

91: 2014/02/01(土) 18:08:41.77 ID:u0hLthAw0

あの時の手の熱は、今でも指先に残っている。

その指先で、そっと下腹部に手を添えると今までの人生の中で一番幸せな気持ちになれた。

この気持ちを知っちゃったら……きっともう、彼なしには生きられない。

92: 2014/02/01(土) 18:12:12.38 ID:u0hLthAw0
――だからねぇ、京くん。


はやり「式はいつにしよっか☆」

京太郎「えっ!?」


はやりをこんな風にした責任は、とってもらわないとね☆

94: 2014/02/01(土) 18:17:38.34 ID:u0hLthAw0
女のコはいつだって夢見る乙女なの(月島きらり感)
というわけで、はやりん小話でした。ちなみに寿退社した子はただのモブです。本編には出ません

今回はここで中断します

164: 2014/02/04(火) 01:15:17.35 ID:t9EWud730
【電話の相手さんと】


京太郎「……なんでお酒に弱いのにお姉さんぶるかなぁ、この人は」

耳元にかかる息遣い。背中で感じる体温。
これで酒臭さが無ければ最高のシチュエーションだったんだけどな。
加えて、相手がはやりんだったら尚良しだったが。

照「うぅ……ん…」

苦笑しながら、酔いつぶれて眠ってしまったその人……宮永照をおんぶして帰路に着く。

165: 2014/02/04(火) 01:20:52.62 ID:t9EWud730
結局、俺たちの関係を他のみんなはまだ知らない。

あの後はやりと話し合って、俺たちの関係はまだメディアには伏せておくことに決めた。
タイトル戦や大会の解説が控えているといった仕事の都合もある。

だが、何よりも男としてキチンとケジメをつけたい。
始まりが勢いに流されてしまったものだとはいえ……男として、花嫁を迎えるならば、やはり自分から指輪を渡したい。

そう伝えると、はやりは「しょうがないなぁ、京くんは☆」と笑った。

いつまでたっても「このプロキツい」と言われていても。
この年になるまで嫁の貰い手がいなかったとしても。

やっぱり素敵なお姉さんだなぁと感じさせる微笑だった。

……そのあと滅茶苦茶搾り取られたけど。

166: 2014/02/04(火) 01:26:15.40 ID:t9EWud730
旅館での出来事を胸に秘め、東京へと帰ってきた俺をみんなは暖かく迎えてくれた。

休んでしまった分の埋め合わせをするように張り切る俺を気遣ってくれた。
どこから聞きつけたのか、大学時代からの友人には電話で『本当は私に看病されたかったくせにー。このこのー』と言われた。本当に生意気なやつである。

そしてこの人、照さんにはニラと卵と日本酒を渡された。
……いや、確かに風邪をひいた時には有効なものですけれども。
完治した後ではちょっと遅いのではないでしょうか。

167: 2014/02/04(火) 01:30:30.22 ID:t9EWud730
こと麻雀に関しては天下無敵の実力を誇る照さん。
しかし日常生活においてはどこか抜けている、というか天然さんな部分がある。
宮永家ってそういう血筋なんだろうか。

照「むぅ……zz…」

そういうところも含めてこの人の魅力なんだろうけど、と苦笑すると背中の照さんがピクリと震えた。
寝心地が悪くならないようにそっと体勢を立て直し、照さんを支える。

168: 2014/02/04(火) 01:35:54.18 ID:t9EWud730
今夜は「お詫びとして今晩は驕りますよ」と職場のスタッフのみんなを食事に誘ったのだが、照さんはそれでも断固として「いや、私が払う」と譲らなかった。
「俺が払う」「いや私が払う」と押し問答をしているうちに注文が運ばれてきたので、話をいったん中断して食事を開始。

その時に照さんがジュースと勘違いして注文したお酒が運ばれてきたわけだが、またもや断固として「間違ってない。私が注文したのはこれ」と譲らなかった。
変なところで頑固なのも宮永の血筋か。

お酒に弱いんだから止めとけばと周囲の制止の声も聞かず、グイっと一気飲みをして、ギアを外し。
たった一杯の酒で自分を見失い、ペースも考えずに飲み続け、今に至る。

169: 2014/02/04(火) 01:39:00.16 ID:t9EWud730

『きょーたろーが連れ帰ってあげればいーじゃん! ご近所さんなんだし』

何の偶然かその場に居合わせたヤツにそんなことを言われ、周りのスタッフも悪ノリして同調したために俺が照さんをおぶって帰ることになった。
警戒心が足りないのか、男として見られていないのか、信頼されているのか。
出来れば最後であることを願いたいが。

……などと考えているうちに、照さん宅へと到着した。

170: 2014/02/04(火) 01:43:09.09 ID:t9EWud730
照「……ん」

京太郎「起きてくださいよ、照さん」

中々起きてくれない。
鍵がないので、起きてくれないとせっかくここまで来た意味がない。

照「……ぅん…うぅ……っぷ……」

照「……家……?」

京太郎「お、起きましたか? そうです家ですよ、照さん」

照「……京、ちゃん」

京太郎「はい?」

照「………ごめん」

171: 2014/02/04(火) 01:44:20.43 ID:t9EWud730


――この時、俺は。
二度と酔っ払った女性を背負わないと、心に決めた。



173: 2014/02/04(火) 01:50:49.37 ID:t9EWud730

【テルーって恋愛は小学生以上中学生未満って感じだよね】

京ちゃんがシャワーを浴びている間に、酔いの覚めた私が代えのシャツを買ってくる。
せめてものお詫びにと提案したが、京ちゃんには「いや、大丈夫ですか本当に……?」と心配された。

確かに粗相をしてしまったが、今の私は自分を見失っていない。
それに……少し京ちゃんと離れて考えたいことがあった。

危なくなったらすぐに連絡することを約束するとようやく納得してくれた。
……防犯ブザーを握らせてきたのは、いくら何でも失礼だと怒ってもいいと思う。

174: 2014/02/04(火) 02:01:10.65 ID:t9EWud730
酒気が大分抜けた体に夜風は心地がよい。
火照った頬を、程よい具合に冷ましてくれた。


思い出すのは京ちゃんのシャンプーの匂い。


京ちゃんの背中で嗅いだ髪の匂いからは、いつもの京ちゃんのシャンプーとは違う匂いがした。
正確には、京ちゃんのシャンプーの匂いに混ざって違う匂いがした。

あの匂いは、絶対に京ちゃんが使っているものではない。
京ちゃんが新しく買ってきたものでもないはずだ。
だってあの匂いは、女性が使う銘柄のものだから。

十代前半の女の子が使うようなブランド品。
そんなものを京ちゃんが使う機会は考えられない。

176: 2014/02/04(火) 02:14:54.69 ID:t9EWud730
それに、京ちゃんがシャワールームに入る直前。

シャツを脱いだ上半身。露になった背中に、小さな赤い模様が見えた。

虫さされではない。この季節にそれは、ありえない。

体験はないけれど、あの模様の意味は私も知っている。

口で思いっ切り吸い付けることによって出来る内出血の痕。

その意味を、私は知っている。

178: 2014/02/04(火) 02:34:13.17 ID:t9EWud730
弟分。

『京ちゃん……うん、この呼び方はしっくり来る』

『は、はぁ……』


後輩。

『ここは、こう打った方がいい。そのほうが揺さぶりが大きい』

『おお、なるほど!』



恩人。

『……なに?』

『お願いです。あいつと、咲と会ってやってくれませんか』


友達。

『……京ちゃんの匂いがする』

『コート貸したくらいで変なこと言わないでくださいよ。臭いみたいじゃないですか』

179: 2014/02/04(火) 02:37:39.45 ID:t9EWud730
友達。

『京ちゃん、年上が好きなの?』


友達。

『京ちゃん。お腹すいた』


友達。

『京ちゃん。このお菓子食べる?』


友達。

『京ちゃん。今度いっしょに旅行に行こう』


180: 2014/02/04(火) 02:48:16.84 ID:t9EWud730
京ちゃんとは、友達で。

友達にいい人が出来たのだから祝福してあげるべきなのだけど。

胸に広がる、この言葉にするのが難しい不快感はなんなんだろう。


181: 2014/02/04(火) 02:53:20.23 ID:t9EWud730

いくら考えても答えは出ないまま。

コンビニでシャツを買って、自宅へ帰って。

様子がおかしいと思われたのか、京ちゃんに心配されて。

気遣いを嬉しく感じると同時に、胸の不快感が少し大きくなって。


182: 2014/02/04(火) 02:55:49.76 ID:t9EWud730


結局、私が答えを得るのは。
ずっと、ずっと後になってからのことだった。

197: 2014/02/08(土) 23:01:51.33 ID:0he2RZNN0

【同期のヤツと】

京太郎「うーむむむ……」

指輪を買った。もちろん給料3ヶ月分。
ペットのカピバラ……は、実家から連れてくれば問題なし。
屋根の白いお家については……まぁ、これから2人で探していけばいいだろう。
子どもは3人……こればっかりは、これからの頑張りに全てがかかっているので現時点ではノーコメント。

残る問題はシチュエーション……出来るだけロマンチックに告白したいという男の浪漫である。

いやまぁ、始まりがアレな時点でロマンチックさの欠片も無いような気はするがそこはそれ。
高校時代に和の花嫁姿の妄想をしていた身としては、長年の夢が叶えられる機会は大事にしたい。

京太郎「ぬーん……ッつ!?」

そんなわけで箱を片手に唸りながらアレコレ考えていると、バシリと背中に衝撃が走った。

199: 2014/02/08(土) 23:05:50.60 ID:0he2RZNN0
淡「なんか元気ないねー。そんなんじゃ次のタイトル戦負けちゃうよー?」

京太郎「あ、あわっ!?」

慌てて箱を服の内側にしまい、振り替える。
ふわり広がる柔らかそうな金髪。人懐っこそうな笑み。いつまでたっても小ぶりなおもち。
白糸台の元大将――そして、大学時代からの友人でもある大星淡がイタズラっぽく笑っていた。

200: 2014/02/08(土) 23:10:42.80 ID:0he2RZNN0
モコモコのダッフルコートを着込みマフラーですっぽり首元を覆う姿は年齢不相応に子どもっぽい。
いつもならオシャレ重視の格好をするコイツも、この寒さには勝てなかったというわけか。
最近は仕事の都合もあり中々一緒になる機会は少なく、こうしてオフの日に会うことは久しぶりだった。

京太郎「久しぶりだな」

淡「ん。きょーたろーは今一人?」

キョロキョロと周りを見る淡。
子どもっぽい仕草もあざとさがなく、どこか微笑ましい。
健夜さんもマスコミ向けに作ろうとした笑顔を見なければ未だに二十台に見えるし、この世界の強豪雀士は老化が止まる魔法でもかかっているのだろうか。

京太郎「ああ、そうだけど」

淡「じゃ、ちょーどいいや」

京太郎「はい?」

淡「ちょっと付き合ってよ」

と、俺の手を掴み、有無を言わさず歩き出した。

201: 2014/02/08(土) 23:13:49.95 ID:0he2RZNN0
淡「いやー、ちょうど良かった。テルーが風邪ひいちゃってさー」

淡「せっかく予約したのに無駄になっちゃうとこだったんだよねー」

京太郎「お、おう…」

俺の手を引いて淡がやって来た場所は、高級な雰囲気の隠れ家のようなレストランだった。
龍門渕とはまた違った趣で、ドレスコードに厳しいような店ではないが、何の心構えもないと少し緊張してしまう。
一方、淡は大して気にせずに自然体で酒の入ったグラスを口にしていた。

202: 2014/02/08(土) 23:17:22.77 ID:0he2RZNN0
淡「ほれほれ、縮こまってないでさ。折角の機会が台無しだよー?」

じれったく思ったのか、淡が俺のグラスに酒を注ぐ。
俺が止める間もなくグラスの中に並々と透明の液体が注がれた。

京太郎「悪いな」

淡「ささ、グイっと一杯!」

京太郎「んじゃ、いただきます」

促されるままに酒を呷る。こういう時にコイツの無遠慮さはありがたい。
あまり酒には詳しくない俺でも、この一杯が上等なものであるというのは匂いで理解できた。

淡「ね。おいしーでしょ」

京太郎「ん、ああ……ちょっと驚いてる」

淡「穴場なんだよねー、ここ」

京太郎「ふむ……」

203: 2014/02/08(土) 23:20:15.97 ID:0he2RZNN0
夜景の綺麗なレストランで告白、というのはベタなシチューエションだがこのような独特の雰囲気のある空間も悪くは無いかもしれない。
はやりはこういう場にも慣れっ子なのかなぁ、と脳内シミュレートを繰り返していると淡が「あっ」と何かを思い出したように小さく口を開けた。

淡「そういえばさ、きょーたろー」

京太郎「ん?」

淡「どうだった?」

京太郎「? なにが?」

主語がない質問に首を傾げる。
すると淡は「なにがって」と一口グラスを呷り、間をおいてから

淡「――ヤッちゃったんでしょ? 牌のおねえさんと」

京太郎「っ!?」

そんな、爆弾発言をかましてくれた。

204: 2014/02/08(土) 23:24:29.46 ID:0he2RZNN0
危なかった。酒を口に含んでいたら間違いなく噴出していた。

京太郎「な、んな……?」

淡「甘いなー、きょーたろーは。私に隠し事だなんて10年は早い」

ちっち、と左右に指を振って不適に笑う淡。
確かに大学時代にコイツと対局をしている時は手玉に取られることが多かったが、私生活でもお見通しされているとは。

淡「ま、きょーたろーのことだから迫ったのははやりんからなんだろうけどねー。ヘタレだし」

京太郎「おみそれしました」

ぐぅの音も出ないとはまさにこのことである。

……はやりがたまごクラブや結婚雑誌をこれ見よがしに周囲に見せ付けているということを知るのは、まだまだ先のことである。

205: 2014/02/08(土) 23:29:17.39 ID:0he2RZNN0
淡「で、さ」

すっと淡の眼が細められる。

淡「きょーたろーは、幸せ?」

淡が問いかけてくる。
それは勢いで致してしまった事を後悔していないか、という意味だろうか。
だとするならば、答えは当然

京太郎「もちろん、幸せだよ」

206: 2014/02/08(土) 23:32:17.23 ID:0he2RZNN0
旅先でムードに流されてパックンチョ、という始まりで。
牌のおねえさんの飢狼っぷりに驚いて。
妙なテンションに付き進められるようにここまで来たが、後悔はしていない。

俺自身、気づいていなかっただけで彼女への好意は前からあったんだと思う。
だからこそ、あの記者の質問に対して咄嗟に出た答えがアレだったわけだし。

家庭を持つという実感こそまだわかないけども。
出来ればもう少しだけ独身貴族を謳歌したかったという気持ちはあるけども。
毎夜毎夜あの調子で求められたらカラッカラに乾いてしまいそうな気がするけども。
もしも娘が生まれたとしたら娘も☆なのだろうかとか思ったりするけども。
俺も20年経っても牌のおにいさんとかやってたりするんだろうかとか思ったりするけども。

……適当に挙げてみても意外と考えることは多いが、それでも。

京太郎「俺は、はやりのことが好きだから」

207: 2014/02/08(土) 23:34:36.07 ID:0he2RZNN0
淡「ふーん」

目を細めたまま頷く淡。

淡「……ま、いーけどね。私がどーこー言うことじゃないし?」

コイツにしては妙に歯切れが悪い。

京太郎「……」

淡「……」

なんとなく、お互いに気まずい雰囲気になって黙ったまま食事を続ける。

208: 2014/02/08(土) 23:36:24.45 ID:0he2RZNN0
……今思うと、コイツの一言で俺の人生が決まったようなもんなんだよなぁ。
入会時点でのあの一言が無ければプロになるまで麻雀にのめり込むこともなかったわけだし。
所属チームは違うものの、なんだかんだでコイツも一緒にプロになったわけだし。
言うと絶対に調子に乗るから口が裂けても言えないが。

淡「……」

京太郎「……」

考え事をしていたら、目が合った。
雰囲気が余計に気まずくなった気がする。

京太郎(な、なにか話題を――)

と、俺の情けない要望に応えるように。
ポケットの携帯から、軽快な音楽が聞こえてきた。

209: 2014/02/08(土) 23:38:30.26 ID:0he2RZNN0
京太郎「悪い、メールだ」

淡「ん」

一言断わって携帯の画面を確認する。

件名から内容まで、文章が存在せず全て絵文字のみで構成されたメール。
差出人はさっきまで話題の中心人物だった女性、瑞原はやりだった。
要件は今夜は雪が大分積もりそうなので車で迎えに来てほしいとのこと。

このメールもいつまで経っても変わらないなぁ、と苦笑しながら返信する。

淡「はやりん?」

京太郎「ああ。雪がアレだから迎えに来てほしいだってさ」

すると、淡は少し驚いた顔をした。

淡「……きょーたろー、あのメールわかるんだ」

京太郎「ん?」

210: 2014/02/08(土) 23:40:32.39 ID:0he2RZNN0
淡「だってはやりんのメール、ぜんぜんわっかんないんだもん。絵文字ばっかでさー」

京太郎「いやまぁ、最初は俺もそうだったけど」

なんというか、慣れた。
最初は良子さんに翻訳してもらわなければ訳の分からなかった暗号文も、今では一目で判別できる。
伊達に長いこと牌のおにいさんとしてはやりんと一緒にいたわけではないのだ。
今なら☆の具合で、はやりんの気持ちがわかる。

211: 2014/02/08(土) 23:43:25.69 ID:0he2RZNN0
淡「はぁ……なんか、ごちそうさま?」

京太郎「はぁ?」

淡「ナチュラルに惚けられちゃったし、こんなんじゃデザート食べられないじゃん」

京太郎「いや、知らんし」

淡「私、帰るね」

京太郎「途中まで送って行くか?」

淡「いいよ。はやりんに怒られそうだし」

京太郎「……わかった」

212: 2014/02/08(土) 23:45:27.82 ID:0he2RZNN0
2人一緒にレストランから出る。
俺は車をとりに自宅へ、淡は駅へ。
それぞれ別の方向に、足を向けた。

淡「あ、そだ」

京太郎「?」

淡「浮気したくなったらいつでも呼んでね! 私、きょーたろーならいいよ!」

京太郎「はぁ!?」

淡「じゃーねー!」

どういうことだ、と問いかける前に。
雪が降り始めた街の中、淡は走り去っていった。

214: 2014/02/08(土) 23:48:43.61 ID:0he2RZNN0

【大学1万年生】

――その一言に、なにか特別な意味があるわけじゃなかった。

215: 2014/02/08(土) 23:50:23.84 ID:0he2RZNN0
高校を卒業したらそのままプロになるつもりだったけど、親には「大学には絶対にいった方がいい」と言われた。

しょーがないから推薦を貰って入った先の麻雀部は確かにみんな強かったけど、なんだかつまらない人ばっかりだった。

それから大学生って言ったらやっぱりサークルだよねーって思って色んなのを見て回って。

あんま期待しないで行ってみた先だったけな、アイツと出会ったのは。

216: 2014/02/08(土) 23:51:35.56 ID:0he2RZNN0
『麻雀を始めたのは高校からだけどさ。俺、結構やるんだぜ』


「あの」清澄高校出身で、強気なことを言われたから。

さっさと帰るつもりだったけど、気が変わって打ってみたんだっけ。


『いいの? 私は大学1万回生くらいの実力はあるよー?』

『それ卒業どーすんだよ』

『そーゆー意味じゃないもん!』

そんな軽口から、対局を始めた。

217: 2014/02/08(土) 23:53:12.22 ID:0he2RZNN0
『つまんない』

最初に感じたことはそれだった。

確かにそこそこ強かったけど、物足りない。

オーソドックスなデジタル打ち。

東場での爆発力も嶺上開花も見れなかった。

結局、私が1位でソイツが2位。

予定調和。面白くない。

インターハイみたいなドキドキを期待しただけに、余計ガッカリした。

218: 2014/02/08(土) 23:54:30.57 ID:0he2RZNN0
『清澄っても案外大したことないんだね』

ガッカリして、口に出た言葉がそれ。

授業もなかったから荷物をまとめて帰った。

大学から出た時にはアイツのことなんて頭に残ってなかった。

219: 2014/02/08(土) 23:55:36.58 ID:0he2RZNN0
『待ってたぜ大星っ!』

なんとなく気まぐれでまた来たサークル。

そこにはメラメラと燃えるソイツ。

正直、暑苦しくてキモイと思った。

『ま、どーせまた私が1位なんだけど』

『果たしてそう上手くいくかな?』

フフン。謎の自信とドヤ顔。

本気を出す気にはならなかったけどさっさと終わらせようと思った。

220: 2014/02/08(土) 23:57:33.34 ID:0he2RZNN0

――結局、順位は前回と同じ。

『うごごご……』

燃え尽きて卓に突っ伏すソイツ。

違ったのは打ち方。

途中までは前回と同じオーソドックスなデジタル。

だけど私がつまらなく感じて溜息を吐いた瞬間から、雰囲気が変わった。

どこで身に着けてきたのかは知らないけど、一言で言うなら「氏にたがり」な打ち方。

……ヘンテコな打ち方で、まさか振り込まされるとは思わなかった。

ま、そんな付け焼刃にやられるような淡ちゃんではなかったけどね。

221: 2014/02/08(土) 23:58:41.01 ID:0he2RZNN0
『大口叩いてそれー?』

『うるせー……もうなんとでもいえー……』

『なにそれ』

くすりとわらった。

この大学に来てから、はじめて麻雀の中で楽しいと思ったかもしれない。

『それじゃ、またね……きょーたろー』

『ん? おお、またな』

少なくとも、このサークルに通ってやってもいいと思えるくらいには、楽しい対局だった。

222: 2014/02/09(日) 00:00:02.45 ID:8YvSutzv0
それからきょーたろーと何度も打つようになった。一緒に遊びに出かけることもあった。

私が白糸台の元大将だからか、私に遠慮する人も多かったけど、きょーたろーはその逆。

遠慮がないどころか、グシグシと頭をなでてきたりもした。

……ちょっとだけ、気持ちいいと思った。くやしい。

223: 2014/02/09(日) 00:01:02.65 ID:8YvSutzv0


だけどきょーたろーが牌のおにいさんになってからはその機会も減って、アラフォーのオバサンたちの話ばかり聞くようになった。

――なんとなく、さびしいと思った。


224: 2014/02/09(日) 00:02:19.16 ID:8YvSutzv0
淡「……私が先に告白してたら、はやりんに勝ててたのかなぁ」

私だって乙女だし、やっぱり告白は男の方からしてほしい。

そんなことを考えてたら、先を越された。

大星淡に踏み出せなかった一歩を、瑞原はやりは踏み出した。

淡「私だってアプローチはしてたんだけど……ほんと、オバサンに負けるとは思わなかったなぁ」

225: 2014/02/09(日) 00:03:47.96 ID:8YvSutzv0

雪が頬にあたって、雫となって伝う。

淡「もー! 今夜はヤケ酒だー!!」

雪の勢いはまだそんなに強くなかったけど、いくら拭っても、私の頬が乾くことはなかった。


236: 2014/02/09(日) 21:28:33.92 ID:8YvSutzv0

これだけだとなんなのでちょっとした1レス番外小ネタを
次は本編投稿します


【シロとフラグを立てていた場合】

シロ「……むぅ」

京太郎「どうしました?」

今日の仕事の相方だったシロさんに「ダルいからおんぶして」とせがまれた帰り道。
「この人も変わらないなぁ」と苦笑しておんぶすると、シロさんが対局中に長考をする時のような雰囲気になった。

シロ「いや……なんでもない」

そう言って肩に顔を埋めてくる。
この人の行動は本当にいつまでたっても読めない。


シロ(……誰の、匂いだろう)

シロ(まぁいいや……上書きしとこ)ググッ

背中からの感触がより強く押し付けられる。回された腕の力が強くなる。
よくわからないが、役得である。

京太郎(おぅふ、ナイスおもち)


ダラしなく顔を緩めさせているとシロさんの住むマンションの玄関へと到着。

シロ「ここまででいい」

京太郎「わかりました……っとそれじゃあ、また次の機会に」

シロ「京太郎」

帰ろうとしたところで呼びかけられ振り向く。
シロさんは、じっと俺のことを見つめている。

京太郎「はい?」

シロ「ファブリーズ、ちゃんと使ったほうがいい」

京太郎「げ、臭いましたか? 俺」クンクン

シロ「……」

シロ(――ダルい、なぁ)


この日から、何故か俺は道に迷うことが多くなり、シロさんと会うことが増えた。
しかもそれは、はやりとのデート中に起きることが多い。偶然だろうか。
未だによくわからないが、とにかく、確実なことは

はやり「京くんから離れてくれないかな☆」

シロ「ヤダ」

……絶賛、修羅場中であるということだけだ。
両サイドから腕を引っ張れられる大岡裁き状態。
そろそろ腕の感覚がマヒしてきたが両者互いに譲り合う気はない。

はやり「京くんは! はやりの!!」

シロ「年増より若い方がいい」


――だめ、私が裂けちゃう。
いやな予感を振り払うように、現実逃避をしていた。

237: 2014/02/10(月) 01:27:50.57 ID:cv8klcvz0

【牌のおねえさんと】

はやり「きょーくーんっ!!」

京太郎「おわっ」

降りしきる雪の中、車のドアを開けてはやりを迎えたら吹雪と共に突っ込まれた。

238: 2014/02/10(月) 01:29:47.43 ID:cv8klcvz0
柔らかいおもちのダイレクトアタックは何度受けてもすばらしい感触だが、今回は状況が辛かった。
放置していると車内に吹雪いて来るので名残惜しいがはやりを引き剥がし、急いでドアを閉めさせる。

はやり「京くんちょっと冷たい!」

京太郎「この天気ですから」

アヒルのように口を尖らせるはやりのほっぺをムニムニしてなだめる。
それだけで不機嫌そうな顔がとろけるような笑顔になってしまうのだから、現金な牌のおねえさんである。

239: 2014/02/10(月) 01:32:40.26 ID:cv8klcvz0
段々と勢いが強くなる雪の中、ゆっくりと車を走らせる。
はやりは湿った窓ガラスに指でハートだか☆だかよくわからない絵を描いていた。
落ち着きのない3×歳である。今ではそういうところも可愛いと思えてしまうのだが。
窓ガラスの半分を記号だか生き物だかよくわからないモノで埋めると、はやりは指を離して満足げに頷いた。

はやり「こっちが京くんで、こっちがはやりね」

京太郎「なんと」

なにやらこの名状し難き絵のような何かの正体は俺たちを描いたものだったらしい。
この牌のおにいさんの目をもってしても見抜けなかった。正直スプーが並んでいるようにしか見えないのだが。

240: 2014/02/10(月) 01:34:54.15 ID:cv8klcvz0
信号が赤に変わったので車を停めてより深くはやりが描いたモノを観察する。
……うん、やっぱりどう見ても人には見えないなコレ。

はやり「じーっ」

はやりは期待の眼差しで見つめてくる。
ええと、どう答えれば満足するのだろうか。この画伯は。

京太郎「その、なんといいますか……その……ええ、ピカソも生前は大して評価されなかったと言いますし?」

はやり「なにそれ!」

正直な感想を告げるとプンスコほっぺを膨らませるはやり。
これまた指でつつきたくなる膨らみ具合だった。

京太郎「まぁ、番組内でおえかきする時は俺に任せてくださいよ」

はやり「もー……」

信号が赤から緑に切り替わる。
走行を再開すると、会話が途絶えた。

241: 2014/02/10(月) 01:36:41.75 ID:cv8klcvz0
ふぅ、とはやりが溜息を吐いて袖で窓のラクガキを消した。
交通量はそれほど多くはなかったが雪の影響で車の進行は遅い。
静かに進む車の中ではやりは何を考えているのか、じーっと窓の外を見ている。

はやり「ねえ、京くん」

京太郎「はい?」

再びの赤信号で車が止まった時、はやりが話しかけてきた。
声のトーンが、さっきよりも低いように感じた。

242: 2014/02/10(月) 01:39:11.21 ID:cv8klcvz0
はやり「はやりはね、今すっごく幸せ」


赤くなった指先に息をかけながら、はやりは微笑んだ。


はやり「ずっと好きだった京くんといっしょになれて、こうして2人一緒に帰って」


でも、その微笑みは。


はやり「本当、夢みたい☆」


どこか陰っているように見えた。

243: 2014/02/10(月) 01:40:39.31 ID:cv8klcvz0
「もちろん、はやりはこの幸せも、京くんのことも、手放すつもりはないけど」


「でもね……さっき、思っちゃったんだ。ほかの女の子のこと」


「はやりの幸せは、京くんがいるから」


「でも、はやりと同じくらい京くんのことが好きな子もいたら」


「はやりはその子の幸せをとっちゃったんじゃないかって」

244: 2014/02/10(月) 01:44:19.77 ID:cv8klcvz0
京太郎「……」


不安そうな顔のはやり。
その表情を見て、何故か脳裏に照さんと淡の顔が浮かぶ。


はやり「もしかしたら……その……京くんも、はやりより、若い子の方が、いいんじゃないかって……」

京太郎「……」

はやり「あはは……ごめんね、変なコト言っちゃって」

245: 2014/02/10(月) 01:45:36.45 ID:cv8klcvz0
信号が緑に切り替わり、走行が再開される。
俺はハンドルを操作して、車を停めても迷惑にならない道の脇に停止させた。

はやり「……? 京くん……?」

頭上に疑問符を浮かべるはやり。
帰り道とは違う方向に車が停められたから不思議に思ったのかもしれない。

そんな不思議な顔をしているはやりの手をとって、じっと瞳を見つめる。

246: 2014/02/10(月) 01:46:32.90 ID:cv8klcvz0
京太郎「俺は、好きです。あなたのことが」

はやり「……ぁ」

はやりの頬が、掴んだ指先が、さっきとは違う理由で赤くなる。
思えば、彼女から求めてくることは多いが、こうして俺のほうから言葉で想いをぶつけることは初めてかもしれない。

247: 2014/02/10(月) 01:55:31.91 ID:cv8klcvz0
京太郎「子どもたちと触れ合ってる時や俺に麻雀を教えてくれる時の優しい顔も」

京太郎「咏さんや健夜さんたちと打っているときの真剣な顔も」

京太郎「俺と一緒にいる時の甘えてくれている時の顔も」

はやり「はやややゃ……」

はやりの顔が茹でダコのように赤くなる。
だけど手は離してやらないし、目をそらしてもやらない。

248: 2014/02/10(月) 01:56:40.50 ID:cv8klcvz0
京太郎「……他に俺のことを好きな女の子がいたとしても」

京太郎「俺は、あなたと一緒にいたい。可愛い笑顔のあなたと一緒にいたい」

京太郎「だから、そんな悲しい顔をしないでください」


片手を離し、ポケットの内側に手を入れる。
はやりの指先がもの寂しそうに震えたが、今だけはこの手を添えられない。

だってそうしなきゃ、これが取り出せないから。

249: 2014/02/10(月) 01:58:38.23 ID:cv8klcvz0
はやり「――ッ!!」

ポケットから取り出した小さな箱を見て、はやりの目が大きく開かれる。
さっきまで不安で震えていた瞳が、期待の色に輝いた。
その期待に応えるように、はやりの手のひらに箱を乗せた。

250: 2014/02/10(月) 01:59:17.81 ID:cv8klcvz0

緊張で震える指先で箱を開く。
ダイヤモンド付きの銀のリング。宝石の意味は『永遠の絆』

京太郎「瑞原、はやりさん」

多分、今までの人生中で一番緊張してる。
健夜さんと打つ時だって、こんなに怖くなかった。

はやり「はい」

251: 2014/02/10(月) 02:00:02.22 ID:cv8klcvz0
京太郎「俺は、ヘタレな男です」

はやり「……はい」


京太郎「おもちが好きで、スOベです」

はやり「知ってます」


京太郎「まだまだ、麻雀で弱い部分もあります」

はやり「ずっと、見てました」


京太郎「だけど、誰よりも、あなたのことが好きです」

はやり「……」


京太郎「だから、俺と…………俺と、結婚してください!!」

253: 2014/02/10(月) 02:00:56.10 ID:cv8klcvz0





はやり「――はいっ!!」





254: 2014/02/10(月) 02:02:30.78 ID:cv8klcvz0

左手の薬指の輝きに照らされた笑顔。

俺はきっと、その笑顔を永遠に忘れないと思う。

255: 2014/02/10(月) 02:05:47.74 ID:cv8klcvz0
……と、こうして綺麗に締められれば良かったのだが、俺たちがこのやり取りをしている間に雪の勢いはどんどん強くなっていて。

気付いた時にはタイヤが雪にとられて動けなくなってしまった。助けてくれる車も走っていない。

運よくすぐそばに空いているホテルがあったものの、危うく笑えない結末になるところだった。

はやりにはジト目で睨まれて、ホテルで滅茶苦茶絞られた。


……ロマンチックだとか、花嫁だとか、なんだとか言っても結局はこうなってしまうのである。
同期のヤツには「そのほうがきょーたろーらしいけどね!」と笑われた。ほっとけ。

256: 2014/02/10(月) 02:15:45.84 ID:cv8klcvz0
俺たちの結婚を発表した時は色んな反応があった。

嫉妬の眼光を飛ばすアラフォー集団だったり。

面白おかしく報道するアナウンサーだったり。

寝取りに走ろうと暴走する集団だったり。

涙を流す先輩だったり。


とにかく、色々あった。

でも、最後にはみんな笑顔で祝福してくれた。

257: 2014/02/10(月) 02:33:05.83 ID:cv8klcvz0
「――それでは、誓いの口付けを」

海外の結婚式場。辺りに☆が散りばめられた牌のおねえさんとおにいさんの特別仕様。

今までお世話をしてくれた人たち全員が、俺たちを見守っている。

はやり「……京、くん」

瞳を潤ませるはやり。

その唇は、今までの中で、一番魅力的に見えた。

俺は、そっと口付けを――

258: 2014/02/10(月) 02:33:53.15 ID:cv8klcvz0

「――がプロ! 須賀プロ!!」

「お、おおう!?」


259: 2014/02/10(月) 02:35:37.38 ID:cv8klcvz0
隣のアナウンサーの声で目が覚める。
最近、忙しかったせいで意識が飛んでいたようだ。

「もう、今完全に寝てましたよね? しっかりしてくださいよ」

「は、はい……すみません」

「まったく、いくらお年だとはいえ……」

「いえいえ……本当、申し訳ない」

260: 2014/02/10(月) 02:38:55.53 ID:cv8klcvz0
慌ててモニターを見る。
そこには、4人の高齢の女性。
小鍛治健夜、三尋木咏、野依理沙、そして――俺の妻である、須賀はやりが映っていた。


「須賀プロは、どなたが勝つと思われますか?」

「そりゃ、もちろん。はやりでしょう。なんたってアイツは――」

「はぁ……いくつになってもお熱いことで……」


261: 2014/02/10(月) 02:42:46.08 ID:cv8klcvz0
モニターに映るはやりはどう見てもお婆さんに見えないほど若々しい。
夫である俺もその影響を受けているのか、未だに30代か40代に見られることがある。
強豪雀士は老けないというオカルトはその夫である俺にも有効なようだった。


牌のおねえさん(28)から、牌のおねえさん(3×)と呼ばれるようになって。

牌のおねえさん(3×)から、牌のおかあさんと呼ばれるようになって、一度引退して。

俺たちの子どもが大きくなったら復帰して、牌のおかあさんから、牌のおねえさん(更年期)と呼ばれるようになり。

牌のおねえさん(更年期)から、牌のおねえさん(還暦)と呼ばれるようになり。

牌のおねえさん(還暦)から、牌のおねえさん(フォーエバー)と呼ばれるようになった。


262: 2014/02/10(月) 02:47:16.54 ID:cv8klcvz0

そして俺は、いつもその隣にいた。

今までも、そしてこれからも。

俺は、はやりと一緒にいる。

はやりがずっと牌のおねえさんなら、俺はずっと牌のおにいさんである。

番組自体は引退して、その立場は娘たちに譲っているけれど。

俺にとっての牌のおねえさんは、永遠にはやりんなのである。

263: 2014/02/10(月) 02:51:36.14 ID:cv8klcvz0

マイクを持って、叫ぶ。

「いっけー!はやりーん!!」


応えるように、はやりも手を振る。

「見ててねきょーくーんっ!!」


(このプロたち、きつい……!!)


周囲の呆れた目線も気にしない。
だって俺たちは、永遠の牌のおねえさんとおにいさんなのだから。



264: 2014/02/10(月) 02:54:15.77 ID:cv8klcvz0






はやり「カンッ☆」






266: 2014/02/10(月) 03:00:35.87 ID:cv8klcvz0

というわけで牌のおねえさんのお話でした。
これで本編は完結となりますが、番外編や小ネタや別ルートはまだ書いていきたいなと思います

それでは、ありがとうございました

267: 2014/02/10(月) 03:03:16.88 ID:n8ZG94ZQo


イイハナシダナー

268: 2014/02/10(月) 03:07:13.16 ID:vR7KJKuOo

心暖まったイイハナシダナー

269: 2014/02/10(月) 03:09:42.54 ID:3BYbb899o
おつおつ
その他のアラフォーたちは結婚できたんですかね……

【咲-Saki-】京太郎「牌のおねえさんフォーエバー」【中編】

引用: 京太郎「牌のおねえさんフォーエバー」