306: 2014/02/15(土) 23:20:53.38 ID:2Erz8x4Z0


【咲-Saki-】京太郎「牌のおねえさんフォーエバー」【前編】



【新婚さんちにいらっしゃい】

夢のマイホーム。2人で買った白い屋根のお家。
京くんが実家から連れてきたカピバラも住めるプール付き。
2人と1匹の家庭で、このあと更に増える3人については……毎日がんばっています☆

はやり「~♪」

今は、愛しのダーリンのために玉子焼きを作ってます☆
自慢の旦那さまがいて、かわいいペットがいて、夢のマイホームで……本当に幸せ。

チームメイトも番組スタッフも、ファンのみんなも祝福してくれて何もかもが順調――の、ハズなんだけど。
咲-Saki- 25巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

307: 2014/02/15(土) 23:23:27.79 ID:2Erz8x4Z0

照「うん。この玉子焼きは甘すぎる」

淡「ね、ちょっと砂糖使いすぎだよねー」

はやり「なんであなたたちがいるのかな!?」

……なんでか、2人きりではないのでした。

308: 2014/02/15(土) 23:27:02.44 ID:2Erz8x4Z0
照「京ちゃんをダメな人には任せられない。大事な人だから……うん、こっちのスープは逆にしょっぱすぎ」

淡「妻よりも夫の方が料理上手ってどーなんだろ……うーん、いまいち」

はやり「かえってよ!」

なぜかキッチンに居座ってつまみ食いをする2人を押しのけ、居間に向かう。
ここは、最後の砦である旦那様さまにきちんと言ってもらわないと。

310: 2014/02/15(土) 23:31:12.64 ID:2Erz8x4Z0

はやり「ちょっと、京く――」

良子「京太郎。遊園地のチケットを2枚ゲットしたのだけど、いかない? もちろんこれはデート」

京太郎「いやちょっと困りますって」

良子「そういっても視線は正直だね。私のバスト、さっきからチラチラ見てるね?」

京太郎「いや、その、それは……」

はやり「よしこちゃーん!!」

最後の砦、既に陥落。

312: 2014/02/15(土) 23:36:09.71 ID:2Erz8x4Z0
おや、とわざとらしく今気付いたかのようにこっちを見るよしこちゃん。

良子「ハロー。これ仕事土産の饅頭です。どうぞ」

はやり「あ、どうも……じゃなくて!」

京太郎「良子さん、ありがたいけど、やっぱり」

良子「ふむ……では名残惜しいですが、私はここで」

やっと京くんから離れるよしこちゃん。
大事なお友達だけど、こればっかりは絶対に何があっても譲れないのです。

良子「ああ、ですがその前に――」

314: 2014/02/15(土) 23:39:52.69 ID:2Erz8x4Z0

よしこちゃんの手が京くんのほっぺたに伸びる。
京くんは「へ?」と呆け顔だけど、よしこちゃんのあの目は放っておけない。
放っておけば、そのままよしこちゃんの唇が京くんの口に――

はやり「ってダメダメ!」

慌てて2人の間に入って引き離す。

京太郎「うわ!?」

良子「チッ」

はやり「もう!」

本当、油断も隙もないんだから。

315: 2014/02/15(土) 23:41:08.19 ID:2Erz8x4Z0

淡「あれが昼ドラっていうのかな」

照「物騒だね。やっぱり京ちゃんは刺される前に私の元に来るべき」

はやり「あなたたちも!」

316: 2014/02/15(土) 23:46:13.32 ID:2Erz8x4Z0

何故かマイカップまで持ち込んでいた2人を帰らせる。京くんは苦笑い。
やっと2人きりでご飯が食べられる。

はやり「京くんももーっとガツンと言ってよ」

京太郎「まぁ、あの人たちも悪気はないから……」

はやり「もー……」

京くんは優しくて面倒見がいい。
けど、その優しさを与える相手をもっと選んで欲しいと思うのが複雑な乙女心なのでした。

317: 2014/02/15(土) 23:50:53.09 ID:2Erz8x4Z0
一口、玉子焼きを口に運ぶ。

はやり(うん……たしかに、ちょっと甘すぎたかも)

てるちゃんの指摘が当たってるのがちょっと悔しい。
あわいちゃんの一言も結構刺さる。

はやり「うーん……」

京太郎「ほら、元気出して」

唸っていると、京くんにそっとほっぺをなでられた。

318: 2014/02/15(土) 23:54:26.93 ID:2Erz8x4Z0
京太郎「まぁ、確かにあの2人はあんなんだけどさ。これから一緒に上手くなっていけばいいって」

はやり「京くん……」

京太郎「良子さんもああだけど、アレはふざけてただけだと思う。チケットも置きっぱなしだし、これで2人でデートに行けってことじゃないかな」

はやり「うん……」

だけど、あの目は隙あらば絶対に京くんを連れ去っていたと思う。
……そんな言葉は、心の中にしまっておこう。

319: 2014/02/15(土) 23:58:54.24 ID:2Erz8x4Z0

京太郎「ほら」

京くんから、優しくほっぺにキスされる。

はやり「んっ!」

おかえしとして、はやりも京くんに思いっきりキスをする。
玉子焼きよりもずっと甘い味だけど、とっても素敵な気持ちになれた。
京くんを抱き寄せてもっと深く味わう。体が熱くなる。


320: 2014/02/16(日) 00:01:40.21 ID:HSfGd+WT0

はやり「ねぇ、京くん」

潤んだ瞳で京くんを見つめる。

京太郎「まだ昼なのに」

仕方ないなぁ、という京くんの顔。
でも、はやりをこんな風にしたのは京くんなんだから、責任はきちんと取ってもらわないと。

京太郎「まぁ、いっか」

京くんがはやりを抱き上げる。はやりも京くんの首に腕を回す。
たくましい腕にお姫様だっこされてドキドキが高まる。

321: 2014/02/16(日) 00:04:24.14 ID:HSfGd+WT0

京くんがそっとドアノブに手をかけて、期待と悦びは最高潮に――ピンポーン。


京太郎「……」

はやり「……」


ピンポーン。


京太郎「……」

はやり「……」


ピンポーン。


京太郎「……出てくる」

はやり「……うん」

322: 2014/02/16(日) 00:06:06.56 ID:HSfGd+WT0
健夜『あ、京太郎くん? 次の仕事の話なんだけど、ちょっと寄らせt』

京太郎「帰れ」

健夜『ひどくないっ!?』


……3人の家族が増えるのは、まだまだ先かもしれません。

324: 2014/02/16(日) 00:24:50.45 ID:HSfGd+WT0

【新婚さんいってらっしゃい】

新婚旅行。夢のハネムーン。
行き先は豪華に世界一周。

俺たちとしては日本国内を巡る予定だったけど、番組のスタッフと所属チームのみんながプレゼントしてくれたのだ。
なんでも今までお世話になった牌のおねえさんとおにいさんに恩返し、とのこと。

こっちこそお世話になってばかりなんだけどなぁ。
だけど折角好意で用意してくれたものだし、はやりも乗り気だったので有り難くいってくることにした。

……空港で送ってくれたみんなの笑顔が若干引きつっていたのが少し気になったが。

325: 2014/02/16(日) 00:27:38.43 ID:HSfGd+WT0
――バリ島


京太郎「というわけで」

はやり「やってきましたハネムーン!」

空港から出た先に広がる青空。綺麗な白い砂浜。見渡す限りのエメラルドグリーンの海。
窮屈な都会の中では決して見れない景色に、思わず圧倒される。

京太郎「うわ、すごい……」

はやり「すごいよね! いつ見ても飽きないなぁ」

大口を開けて感動する俺。
対して、隣で手を繋いでいるはやりはどこか余裕があった。

京太郎「おお、前に一度来たことが?」

はやり「牌のおねえさんですから!」

フフンとドヤ顔で胸を張るはやり。おもちが強調されて大変すばらしい。

326: 2014/02/16(日) 00:29:41.94 ID:HSfGd+WT0
はやり「と言ってもけっこう前なんだけどね。一度おっきな休みをもらって、その時に来たの」

京太郎「ほおー……その時はどこを観てまわった?」

はやり「雀荘!」

京太郎「……ん? あの、旅行で来たんだよね?」

はやり「うん」

京太郎「それで、何をしてたんだ?」

はやり「麻雀!」


……ひょっとして、俺の方がおかしいのだろうか。
どこもおかしなことはないと瞳を輝かせて言い切るはやりに、ちょっと自信が無くなってきた。

327: 2014/02/16(日) 00:34:27.01 ID:HSfGd+WT0
京太郎「まぁでも今は、麻雀からはちょっと離れて」

はやり「うん! だって京くんと2人きりで来たんだし!」

思いっきり腕に抱きつかれる。
この笑顔を見れただけでもこの旅行に来た甲斐はあったかなぁ。

京太郎「それにしても、あんま海で泳いでる人はいないんだな」

はやり「ここは波が荒いから。この景色を眺めながらプールで楽しむのがメインなんだって」

京太郎「へぇー……」

はやり「それじゃ、いこっか」
 
グイっと腕を引かれる。

京太郎「へ?」

はやり「ホテル☆」

330: 2014/02/16(日) 00:38:22.90 ID:HSfGd+WT0
はしゃぐ子どもたちの声。微笑ましくその様子を見守る大人たち。
俺がはやりに連れられてやってきたのは、予約していたホテルのプールだった。

京太郎「うーむ……」

こうしてパラソルの下でサングラスをかけながらデッキチェアに横たわっていると、ちょっとしたVIP気分が味わえる。
本当、この旅行をプレゼントしてくれた人たちには感謝が尽きない。ちゃんと一人一人にお土産を買って帰ろう。

京太郎「……にしても、ちょっと遅いな」

『楽しみにしててね☆』と言われてはやりの水着姿を妄想して待っているのだが。
水着よりも過激な姿は今までに散々見てきているものの、それとこれは別腹である。

あの生地に包まれたおもちや肢体というのも中々に乙なもので――と、頬を緩めていると右手が柔らかい感触に包まれた。

331: 2014/02/16(日) 00:41:32.30 ID:HSfGd+WT0
お、やっとおでましか――サングラスをとって、振り向くと、そこには

良子「ハロー」

京太郎「ファ、ハァッ!?」

俺の恩師の一人である、戒能良子さんが、ビキニ姿で俺の右手を掴んで胸元に運んでいた。

332: 2014/02/16(日) 00:45:36.93 ID:HSfGd+WT0
京太郎「よ、よよしこさん!?」

良子「ロングタイムノーシー。会えて嬉しいよ」

京太郎「なんでここに!?」

良子「私もバカンスでね。トラベルに来たんだ」

いやぁ、偶然ってあるんだねと笑う良子さん。
……スタッフたちの引きつった笑みの正体がわかった気がする。

いや、今はそれよりも

京太郎「あの、良子さん……手を」

良子「ん?」

京太郎「だから、手を、ですね」

良子「あいきゃんとひやーいっと」

……この人は!

333: 2014/02/16(日) 00:50:50.70 ID:HSfGd+WT0
良子「でも満更でもないようだけど? こっちはどうだろうね」

手を下の方に伸ばす良子さん。
いやさすがにそれはシャレにならな――

はやり「ダメーッ!!!」


ドボンッ


急な衝撃に吹き飛ばされ、プールに落下する。ゴボゴボと無数の気泡が口と鼻から溢れ出す。
一瞬にして肺の中の空気がなくなり、酸素を求めて口を開こうとしたが、水面から出た瞬間に顔面に柔らかいものが押し付けられて呼吸が封じられる。

334: 2014/02/16(日) 00:53:57.29 ID:HSfGd+WT0
はやり「なにやってるのよしこちゃん!?」

良子「ノープロブレム。師弟間のスキンシップですよ」

はやり「いや絶対ウソだよね! まだ京くんのこと狙ってたの!?」

良子「ノーウェイノーウェイ。なんのことやら」

……なにやら二人の言い争っているような声が聞こえるが、水に濡れたおもちに顔面が包まれてそれどころじゃない。
……これは、まずい。


はやり「もしかしてこの旅行も!」


息が、苦しい。


良子「ビヨンドミー。さっきから何のことだかわかりませんね」


このままでは、世界で一番幸せな氏に方をする――

335: 2014/02/16(日) 00:55:26.47 ID:HSfGd+WT0



「あっ」


「きょーくーん!!」


そんな悲鳴が、どこまでも澄み切った青空に響いた。




336: 2014/02/16(日) 01:00:31.45 ID:HSfGd+WT0

……その日の夜。
危うくレスキューのお世話になるところだったが、かろうじて一命を取り留めた俺はホテルの部屋ではやりと休んでいた。

はやり「うぅ……せっかく2人きりだと思ったのに」

京太郎「偶然だって……多分」

顔を曇らせるはやりを抱き寄せる。
さっきの良子さんとの出会いはちょっとしたアクシデントなのだ。旅にハプニングは付きものというし。
だから微妙に感じる嫌な予感も気のせいなのだ。そうに違いない。

京太郎「せっかくみんなが用意してくれた旅行なんだから、楽しもうぜ」

はやり「……そうだね」

2人で一緒にベッドに入る。
カーテンの隙間からは見事な星空が覗いて見えた。

京太郎「いっぱい思い出、作っていこうな」

はやり「うん!」


こうして、新婚旅行1日目の夜は明けていった。

337: 2014/02/16(日) 01:01:26.77 ID:HSfGd+WT0

……だが、しかし。

嫌な予感というものは、えてして的中するものである。

338: 2014/02/16(日) 01:05:18.94 ID:HSfGd+WT0
――北京


京太郎「あの、どうして偶然立ち寄った料理店に」

はやり「うたちゃんが、いるのかな?」

咏「ニーハオー。細かいことは気にすんなって。それよりこの水餃子うまいよきょーちゃん」

京太郎「あ、いただきます」

はやり「さり気なく京くんの隣に座らないで! あーんするのもダメ!」

339: 2014/02/16(日) 01:09:25.82 ID:HSfGd+WT0
――リオデジャネイロ

京太郎「リオデジャネイロといえばカーニバルですよね」

はやり「あの衣装を見たいから?」

京太郎「えっ!? いや、それは」

理沙「スOベ!」

京太郎「……」

はやり「……ねえ、何で京くんの手を繋いで隣にいるの?」

理沙「偶然!」

340: 2014/02/16(日) 01:11:05.90 ID:HSfGd+WT0
――ロンドン


晴絵「いやぁ、まさかこのロンドンアイで偶然乗り合わせるとは」

はやり「もう何も……」

京太郎「突っ込みません……」

晴絵「はぁ?」

341: 2014/02/16(日) 01:15:04.99 ID:HSfGd+WT0
――ロサンゼルス


京太郎「……ええと?」

はやり「だれも、いない?」

ロサンゼルスの空港から観光しながらホテルまで来たが、プロには遭遇していない。
まだこれから遭遇する可能性もあるが、ようやく一息つけた気分だ。

はやりと2人してベッドに倒れこむ。

京太郎「ふぅ……」

はやり「ちょっと疲れちゃったね」


2人して苦笑する。
なんだかんだ言って楽しい旅行だけど、やっと本当に2人っきりになれそうだ。

342: 2014/02/16(日) 01:20:00.40 ID:HSfGd+WT0
はやり「ねぇ、京くん」

京太郎「ん?……ん」

はやりが求めてきたので、抱き寄せて口付ける。

はやり「欲しくなっちゃった……久しぶりに……」

京太郎「しょうがないなぁ」

カーテンを閉めて、灯りを絞る。
この旅行に来てからようやく、新婚らしい夜が迎えられそうだ――

343: 2014/02/16(日) 01:24:13.92 ID:HSfGd+WT0
――雀荘


健夜(2人とも、遅いなぁ……)

健夜「緑一色」

「ホワッツ!?」


健夜(旅行といえば雀荘に来ると思ったけど……)

健夜「清老頭」

「オーマイガッ」


健夜(道に迷ってるのかな?)

健夜「天和」

「ノーッ」


健夜(まぁいいか)

健夜「もう少しここで打って待ってよっと」


そんなアラフォーがいたことを、誰も知らない。

359: 2014/03/03(月) 03:18:05.17 ID:fwS2MULg0

【将来の夢って】


「ねえ、私さ」

自分の夢と、女としての幸せ。

「こんなにも幸せでいいのかなーって、たまに思うんだよねー」

その二つを掴めた私はきっと、世界の誰よりも幸せだって言い切れる。

「うん。いつまでたっても好きだよ――のこと。ずっとずっと大好き」

戸棚には自分の手で勝ち取った金色に輝くトロフィー。
左手の薬指には彼に貰った銀色に煌く指輪。

そして隣には、この指輪を送ってくれた、私と同じ髪の色をした――



360: 2014/03/03(月) 03:18:55.41 ID:fwS2MULg0





361: 2014/03/03(月) 03:21:41.63 ID:fwS2MULg0
将来の夢。大きくなったら何になりたい?
誰もが一度は小さいうちに作文のテーマとして書かされた内容。

男の子ならサッカー選手やメジャーリーガー、女の子なら食べ物屋さんやお医者さんが鉄板であり人気が高い。
テレビに映る大人たちの格好いい姿。夢中になって画面にかじり付き、母親に「早くお風呂に入って寝なさい」と叱られる。そんなことも、誰もが一度は体験している筈だ。

他にもおまわりさん、お医者さん、先生、アイドル、そして仮面ライダーやウルトラマンなどのヒーローなど、少年少女たちの心を釘付けにする数多くの職業がこの世には存在する。
もちろんプロ雀士もその中の一つとして高い人気を誇るが――前述したものに比べると、少し複雑な立ち位置にある。

将来なりたい職業ランキングで長い間トップ10に食い込み続けるプロ雀士。
しかし同時に、近年では『なりたくない』職業ランキングでも上位に名を連ねているのである。

362: 2014/03/03(月) 03:25:00.82 ID:fwS2MULg0
麻雀。
男女の体格差によるハンデがなく、一度卓を囲めば実力がモノをいう競技。
それだけに競技人口も多く、険しい勝負の世界。才能による絶対的な壁を感じて諦めるものも少なくない。

だが、壁を乗り越えトップとして活躍し続けるプロたち。
三尋木咏、瑞原はやり、野依理沙、赤土晴絵、そしてつい最近現役復帰した小鍛治健夜。
彼女たちの名声は日本に留まらず世界中に轟いている。

そんな彼女たちの活躍の瞬間を一枚に収めたプロ麻雀煎餅カードは大人にも子どもにも大人気。
もはや『煎餅の方がおまけ』扱いであり、高いレアリティになると非常に高額でトレードされることもある。
フルコンプリートしようとすれば余程運が高くない限り余裕で諭吉が吹き飛ぶ。

栄誉ある職業でありながら、『なりたくない』とも思われているプロ雀士。
その理由は、プロたちのとある共通点にある。

363: 2014/03/03(月) 03:27:59.43 ID:fwS2MULg0

小鍛治健夜。
コンビとして活躍していた女子アナが一足先にゴールインしてからは彼女を「アラフォー」と呼び弄くるものはいない。
一説では、相方だと思っていた女子アナに先を越された悔しさを発散するために世界ランキングに返り咲いた、とも。
麻雀の腕と女子力は反比例するとかいう定説を作り出した人。

三尋木咏。
どう見ても大人には見えない容姿の合法口リータ。
日本代表チームの先鋒としても大活躍、あちらこちらへ引っ張りダコだかそれ故に婚期が遠ざかっているとか何とか。
本人は「結婚とか人生の墓場だろー?」と全く気にした素振りを見せないが。

瑞原はやり。
牌のおねえさん。このプロきつい。エクセレントなおもち持ち。番組放送開始時から全く容姿が変わらない。
彼女と対局した者は若さを吸い取られるという噂がある。

野依理沙。
いつもプンスコなツリ目さん。
彼女のチャームポイントでもあるが、同時に恋人が出来ない理由でもあるとか。

赤土晴絵。
阿智賀女子をインターハイまで引っ張り上げた阿智賀のレジェンド。
人も良く、上の4人に比べればコレと言った欠点もないが何故かいつも「いい人止まり」で終わってしまうらしい。


そう、彼女たちは独身なのだ。独り身なのだ。
世界で活躍し子どもたちに夢を与えているのが彼女たちなら、才能という壁を越えるには婚期をリリースする必要があるという定説を生み出したのもまた、彼女たちなのだ。

364: 2014/03/03(月) 03:31:16.34 ID:fwS2MULg0
「お嫁さん」も女子たちの立派な将来の夢の一つである。
プロ雀士として活躍するか、女子としての夢を優先するか、苦渋の選択を迫られる女子は多い。


京太郎「――ま、こいつには無縁な悩みだろうがなぁ」

淡「すぴゃー……くかー……すぴー……ZZZ……」


何ともいえない珍妙な寝息を立てながら、人の膝を勝手に枕にして寝ている女。
「甘えているんじゃない。甘えてやっているんだ、この私が」という尊大な態度の大学1万年生。
こいつの腕前なら間違いなく卒業後はプロ入りだろうし、何だかんだで相手を見つけそうな気はす――


京太郎「ってヨダレ垂れてんじゃねーかテメェっ!」

淡「ふあっ!?」

365: 2014/03/03(月) 03:35:03.57 ID:fwS2MULg0
淡を跳ね除け、慌ててハンカチで膝を拭う。妙に膝が湿っぽいと思ったら……!
買ったばかりのジーンズなのに、これ以上汚されたらたまったものではない。


淡「え、え? あれれぇ……? トロフィーは……? あれ……?」


一方淡は寝ぼけ眼。
意識が覚醒しきっておらず、わけのわからないことばかり口走っている。


京太郎「ほら、起きろっつーの」

淡「わっ」


軽くデコピンをかましてやる。
少し強めに力を込めてやれば、眠気だってさっさと吹っ飛ぶだろう。


淡「え、あ……あ?」


瞼をパチクリしている淡。
ぼんやりしていた瞳が段々とハッキリしてくる。


淡「あー……」

京太郎「目、覚めたかー?」

淡「……」

淡「――っ!!」ガバッ

366: 2014/03/03(月) 03:37:34.81 ID:fwS2MULg0
淡「あーっ! あー! ふわーっ!!」

京太郎「いてっ!? おま、なにすん、てぇっ!?」

淡「わぁああああああああ! ああああああああ! ふわあああああああ!!」

京太郎「落ち着けよ!」

目を覚ましたかと思うと、顔を真っ赤にして凄まじい勢いで叩いて来る淡。
本っ当に気ままな女だ……!


・・・・・


京太郎「……落ち着いたか?」

淡「……ん」


コクリと頷く。
視線はこちらを向いておらず頬も赤いままだが、とりあえずは鎮まったらしい。


京太郎「夢見て暴れるとか、ガキじゃねーんだから」

淡「うるさい。きょーたろーくせに」

京太郎「意味わかんねーっつーの」

367: 2014/03/03(月) 03:39:45.80 ID:fwS2MULg0
ヘソを曲げてそっぽを向く淡。
放って置いてもいいが、このままサークルのみんなが来ると面倒なので機嫌をとっておかねば。


京太郎「ほら、コレでも食って元気出せって」

淡「は? 何コレ?」

京太郎「タコスだよ。結構自信あるんだぜ」

淡「きょーたろーが作ったの?」

京太郎「おう。みんなに配るつもりで作ってきた。タコス馬鹿のお墨付きだ」

淡「ふーん……あ、美味しい」

京太郎「な?」

淡「きょ-たろーのクセに。なんか悔しい」

京太郎「うっせ」


どこまでも生意気なヤツである。

368: 2014/03/03(月) 03:43:50.70 ID:fwS2MULg0
淡「……」モグモグ

淡「あ、そだ」

京太郎「ん?」

淡「明後日みんなでカラオケいこーよ。クーポン貰ったんだ」

京太郎「あー、明後日か……あ、悪い。予定入ってるわ」

淡「えー? じゃその予定キャンセルしてよー」

京太郎「無理言うなって」

淡「この淡ちゃんの誘いを断わるっていうの?」

京太郎「何様のつもりだよ。ほら、これに行くから」


と、携帯の画面を見せる。


淡「んー?」

淡「牌の、おにいさん募集……?」

369: 2014/03/03(月) 03:45:39.45 ID:fwS2MULg0
京太郎「おう、これでもインハイ出てるからな。応募資格はあった」

淡「京太郎が牌のおにいさんって……ぷぷっ」

京太郎「笑うなよ」

淡「だって、京太郎が瑞原プロの隣で「はっやりーん☆」とかやるんでしょー?」

淡「おかしくって腹痛いわー」ケラケラ

京太郎「悪かったな。でもこんな機会滅多にないんだよ。瑞原プロと打てて指導までして貰えるかもしれないんだぜ?」

淡「えー? 打つなら私でいーじゃん」

京太郎「はぁ? お前が?」

淡「なにさー」

京太郎「いや、だって」


……足りていない。圧倒的に。色んなところが。

370: 2014/03/03(月) 03:47:25.72 ID:fwS2MULg0
淡「むっ」


グリッ


京太郎「って!?」


目の前のコイツと瑞原プロの悲しいまでの戦力差を比較していると、思いっきり足を踏まれた。


京太郎「なにすんださっきから!」


グリッ グリッ


淡「うるさい。ばかばか。きょーたろーのばーか」

京太郎「意味わからんわ!」


371: 2014/03/03(月) 03:50:07.28 ID:fwS2MULg0
京太郎「てめ、このヤロ!」

淡「わっ!? 髪がー!!」

京太郎「ふははは! 恐れ入ったか!!」

淡「きょーたろーのクセに!!」

京太郎「まだ言うかー!!」


……そんな風にじゃれ合いながら、他のサークルメンバーを待つ。
俺が雀荘に行かない時は、大体いつもこんな感じで大学生活を過ごしている。


「あの二人、またやってるし」

「夫婦喧嘩はヨソでやれー」


そして後からやってきたメンバーに茶化される。
ここまでが1セットとなっている。

372: 2014/03/03(月) 03:52:46.29 ID:fwS2MULg0

本当に、本当に毎日が騒がしい。


京太郎「ばーかって言う方がばかなんだよばーか!」

淡「それじゃきょーたろーは私の3倍ばかじゃんばーか!!」

京太郎「あー言えばこう言う……! こうなったら卓でケリ着けるぞ!」

淡「望むところだー!」


でも、こんな日々も悪くないと、そう思っている自分がいた。

373: 2014/03/03(月) 03:57:38.24 ID:fwS2MULg0
お久しぶりです

というわけで淡ルート大学生編プロローグでした。ifルートなので>>1の前提がちょっと崩れます
それでは、今回はここで中断します

379: 2014/03/08(土) 01:17:49.31 ID:0moH/+Kj0

【ばかやろー】


『決まったー! 誰もが注目したタイトル戦! 見事激闘を制し、国内無敗伝説を打ち破ったのは……』


『期待の新星こと、大星淡!!  予想を覆し、見事に栄光の勝利を勝ち取ったああああああああああああ!!!』


380: 2014/03/08(土) 01:19:53.96 ID:0moH/+Kj0
湧き上がる会場内。

席を立った私を無数のフラッシュが照らす。

その光を左手の指輪が反射して、二重の意味で私を祝福しているみたいに思えた。

悔しそうな対局相手のコメント、賞賛するチームメイトの声、インタビューのために呼びかける記者たち。

だけど私の足は止まらない。そんなものよりも、もっと大事なことがあるから。

前人未到だとか、かつてのライバルへのリベンジだとか、試合前は心の中を占めていたことも、今はどうでもいい。

381: 2014/03/08(土) 01:23:09.58 ID:0moH/+Kj0
今は何よりも優先して会いたい人がいる。

その人のことを考えると自然と足取りが速くなる。

誰よりも先に伝えたくて、誰よりも先に褒めてもらいたいたくて、誰よりも先に抱きしめてほしい人。

きっとこの扉の先にその人が待っていると、期待に胸に膨らませてドアノブに手をかけた。

382: 2014/03/08(土) 01:24:01.34 ID:0moH/+Kj0



「ピピピ! ピピピ! ピピピピ! ピピピ!!」



383: 2014/03/08(土) 01:25:28.13 ID:0moH/+Kj0

ピッ!


けたたましく響く携帯のアラームを、反射的に動いた手が止める。

時刻は8時30分。まだ間に合うけど、そろそろ準備しなきゃ必修の授業に間に合わなくなる。そんな時間。

淡「……またー?」

思わず出る溜息は、これから出る授業に向けたものじゃなくて、夢の中身に対するもの。

近頃、こんな夢ばかり見てる気がする。

384: 2014/03/08(土) 01:27:15.66 ID:0moH/+Kj0
私が成功している未来。
キラキラしてて、とってもいい気分で、宇宙一の幸せものになっている。

何でかわからないけど、最近見る夢はそんなのばかり。

淡「むーむむむ……」

イヤなわけじゃない。むしろ調子はイイ感じ。
私がいつか世界ランキング1位になるのは当然のことだし、成功を手に掴むのも当たり前のこと。
だけど不思議なのは、夢の最後はほぼ必ず、アイツが出てきて終わること。

だってそれじゃあ、まるで私が……

淡「……ふぁ」

……ま、いっか。
起きたばかりじゃ、何を考えてもあくびが出るばかりだし。別にイヤなわけじゃないんだし。
どこかスッキリしないモヤモヤはいったん忘れることにして、私は身支度を始めた。

385: 2014/03/08(土) 01:56:11.93 ID:0moH/+Kj0


――そうして時間は過ぎて、本日の講義を全て消化した放課後。


……思いっきり、恥をかいた。

アイツのせいだ、絶対にアイツのせいだ。

今朝のことを考えてたら、ついボーっとしちゃって、講師に指名されたことに気付かなかった。

おかげで教室のみんなに笑われちゃったし、私だけ課題を増やされた。

しかも「大星さんって案外普通なんだね」なんて、今まで喋ったこともなかった女の子に言われて、そのまま意気投合してメアド交換とLINE登録までしちゃった。

それもこれも全部、毎晩毎晩私の夢に侵入してくるアイツのせいだ。

一回、ガツンと言ってやらないと気がすまない。

淡「うん!」

思い立ったら決断は素早い。サークルへ向かう足取りも自然と速くなる。
この時間帯なら絶対にアイツはいるハズ。きっと今日は雀荘にも行っていない。私の直感が告げている。

386: 2014/03/08(土) 01:58:18.40 ID:0moH/+Kj0
淡「たのもーっ!!」

ドアノブに手をかけて、勢い良く開く。

その先には、無駄に背の高いアイツが、いつものように卓の準備をして

京太郎「はぁ……」ドンヨリ

……いなかった。
いや、いつでも対局が始められる用意はしてあったけど、目が氏んでる。

387: 2014/03/08(土) 02:02:04.26 ID:0moH/+Kj0
京太郎「……ん?」

のっそりとした仕草でこっちを見るきょーたろー。
無駄にでっかいからデクノボーみたい。

京太郎「ああ、淡か……」

おつかれー、なんて言いながら力なく手を振ってくる。
その声も今にも氏にそうな感じで、腐ったような目と合わさって、陸上に打ち上げられてから暫くたった魚みたいだった。
たしか、アレはたまたま付けたテレビでやってた……じゃなくて、

淡「えーっと……どうしたの?」

京太郎「あー、いや、なんでもないんだけどな……」

ハハ、と乾いた笑い。
……いや、明らかにおかしいでしょ。

388: 2014/03/08(土) 02:04:14.41 ID:0moH/+Kj0
「あー、それなー。なんでも、前受けたバイトの試験が上手くいかなかったとかで」

淡「あ、いたんですか先輩」

「あんたなぁ」


ハァ、と溜息を吐かれても、わりとどうでもいいことだし。
今はそんなことよりも。

淡「バイトって……あの、牌のおにいさんとかいうヤツ?」

「ああ、ソレやソレ」

389: 2014/03/08(土) 02:06:16.99 ID:0moH/+Kj0
この前、私の誘いを断わってまで行ったやつ。
とっても楽しそうに話していたけど、結局ダメだったんだ。

京太郎「……あぁ……」

まるで、魂が抜けたかのようにポケーっとした顔。
どうしても欲しかったものを、取りこぼしてしまった姿。
あんなに活き活きしてたのに、こんな風になっちゃうなんて、よっぽどショックだったんだろうなぁ。

そんなきょーたろーを見て、私は……

淡「情緒不安定過ぎてキモい」

京太郎「うるせぇ」

あ、起きた。

390: 2014/03/08(土) 02:08:40.73 ID:0moH/+Kj0
京太郎「面子揃ったし三麻やるぞ三麻。ほら、さっさと席つけ」

淡「あ、ちょと」

グイっと強引に手を引かれる。
……悪い気はしないけどさ、別に。
こうして手を掴まれると、以外と逞しいなぁ、とか。強引なのも悪くないかも、とか。
別に、そんなことは思わないし?

「やれやれ……」

ハァ、と先輩が溜息を吐いて席に着く。
……そう言えば何ていったっけ、この人の名前。

391: 2014/03/08(土) 02:15:44.16 ID:0moH/+Kj0
そして始まった対局。

京太郎「じゃあ、コレで」

危険牌を切りながらも、ギリギリのところで回避してくる。
攻めも強くなっているような、防御での安定感も増えているような、不思議な感じ。
上手くいえないけど、何だか強くなってる気がする。

京太郎「ふむ……」

対面に座ってじっと手牌を見つめるきょーたろー。
こうして真剣な顔してると、フツーにイケメンなんだけどなー。


「次、あんたの番やで」

淡「え?」

「見惚れてないで、はよしいやー」

淡「……別に、そんなんじゃないし」

そうやって否定するように、牌を切った。

392: 2014/03/08(土) 02:19:23.18 ID:0moH/+Kj0
そんなやり取りが何回かあって進む対局。
基本的に私が1位のまま、きょーたろーと先輩が2位になったり3位になったりを繰り返している。

京太郎「……」

今日一番で真剣な顔。この局の結果次第できょーたろーの最終順位が決まる。
一点を見つめる視線。顎に手を当てて考え込む姿は中々決まってるんじゃないかなって思う。
どうしてこう、いつもこんな風になれないんだろうなー。

なーんて、そんなことを考えてると


――全て壊すんだ!


京太郎「あっ」

淡「え?」

「む?」

きょーたろーのポケットから、着メロが聞こえてきた。

393: 2014/03/08(土) 02:23:21.91 ID:0moH/+Kj0
「マナーモードにしときや」

京太郎「すみません、ちょっと失礼しま……あ、ハイっ!」

注意する先輩と、申し訳なさそうに携帯を開いて、それからビックリした顔で電話に出るきょーたろー。
ハイ! ハイ!って勢い良く何度も頷いて、嬉しそうに電話に答えてる。

淡「むぅ」

その姿は、完全に今の対局のことは頭に入ってないみたいで。
……なんだか、面白くない。

394: 2014/03/08(土) 02:25:37.40 ID:0moH/+Kj0
京太郎「ハイ! 来週の日曜ですね! ハイ! それじゃあ、よろしくお願いします! ハイ、ありがとうございました!!」

電話が終わって、携帯を閉じて、ふうと一息ついてる。
それから、いったん目を閉じたかと思うと

京太郎「い……よぉっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

急に携帯片手に立ち上がって、叫び出した。

さっきまで、あんなに凹んでたのに。

395: 2014/03/08(土) 02:27:23.30 ID:0moH/+Kj0
淡「きょーたろーが壊れちゃった……」

京太郎「うるせー! 仕方ないだろ!」

「いったん落ち着き。何があったんや」

京太郎「受かってたんですよ!! 俺、出来てました!!」

淡「んん?」

「だから落ち着きが足らんわ。主語が抜けとるで」

京太郎「なれたんですよ! 俺、牌のおにいさんに!!」

淡「あ!」

「あー、アレなー」

396: 2014/03/08(土) 02:31:08.87 ID:0moH/+Kj0
京太郎「来週から一緒に仕事が出来るんですよ、あの瑞原プロと!」

いやー、楽しみだなぁって、だらしない顔。
あの顔は、きっとロクでもないことを妄想してる顔だ。

淡「……ムゥ」

私のことなんて眼中にもないって感じ。
ムカつく。腹立たしい。

「……ふむ」

そりゃ、確かに。今の私と瑞原プロを比べたら、すこーしだけ、ほんの少しだけ、足りない部分はあるかもしれないけどさ。
だけど、目の前にいる私をそっちのけにして、もうそーの中の瑞原プロに夢中になるだなんて。


淡「……どうでもいいから、早くしてよ」


そんなこと、あっていいハズがない。

397: 2014/03/08(土) 02:31:58.59 ID:0moH/+Kj0

本当にムカついたから、その後の対局ではちょっとだけ本気を出して、何度も何度もきょーたろーを飛ばした。

点数を削られていく度に身もだえする姿はある意味面白かったけど、結局その日はずっとムカついてた。

398: 2014/03/08(土) 02:33:44.85 ID:0moH/+Kj0

その日の晩は、夢を見なかったけど。

淡「……バカ」

朝の気分は、サイアクだった。

399: 2014/03/08(土) 02:44:04.72 ID:0moH/+Kj0

というわけで淡ルート2話目でした。
咲ちゃんの小話はすみません、ちょっとお待ちください。

ところで、プロ設定の京太郎ならアナウンサールートもいけるのかな? とかふと考えました。
照ルートとか小ネタとか書いた後で、書いてみてもいいですかね?

408: 2014/03/12(水) 00:02:00.74 ID:NfVTBQq20

【やっとスタートライン】

――普段の二人、サークルにて


淡「何見てんのー?」

京太郎「ん? ああ、昔のインハイとか県大会の動画だよ。女子のやつ」

淡「ほうほう……あ、コレ私が1年のやつじゃん」

京太郎「あの辺りのはまだ見てなかったからな」

淡「……つまり、私の華々しい活躍が見たかったと?」

京太郎「は?」

淡「もー、それならそう言えば良いのにー。このこのー」

京太郎「お前ほんとブレないな」


409: 2014/03/12(水) 00:03:33.37 ID:NfVTBQq20

淡「あー、ここ。コレ決めた時はほんっと気持ちよかったなー」

京太郎「ほー」

淡「こう、全部私の手の中ーって感じで」

京太郎「……俺は対局相手の顔の方が気になった」

淡「えー? 見るなら私の雄姿だけでいいじゃん」

京太郎「何様だお前は」

淡「高校100年生もとい、大学1万年生です!」

京太郎「大学は8年までしかいられないぞ」

淡「そういう意味じゃないもん!」

410: 2014/03/12(水) 00:06:00.83 ID:NfVTBQq20

――普段の二人、対局中


京太郎(しっかしなぁ……)チラッ

淡(あ、こっちのこと見てる? 今先輩の番なのに)

京太郎(どうなってんだろ、こいつの髪)ジィッ

淡(なんだろ、そんなに淡ちゃんのことが気になっちゃうかなー?)

京太郎(ちょっと本気出すとブワって広がるけど、どういう仕組みなんだ)

淡(ふふん。しょーがないなー、きょーたろーは)

京太郎(それも不思議なんだけど、正直めっちゃいい匂いすんだよな。ブワって時に髪の匂いも広がって)


京太郎「……不思議だ」

淡「は?」

「いいからはよしい」タンッ

411: 2014/03/12(水) 00:09:08.02 ID:NfVTBQq20
――普段の二人、休日にて


京太郎「なぁ」

淡「んー?」

京太郎「いい加減降りろよ。階段歩くのしんどい」

淡「いーじゃん、減るもんじゃないし」

京太郎「俺の体力は着々と減ってるんだが」

淡「えー? でも歩くの疲れたんだもん」

京太郎「人を散々連れまわしてコイツは……」

淡「役得でしょー。私と二人っきりで遊園地だよ?」

京太郎「やれやれ」ハア

京太郎(まぁ……何だかんだで、楽しかったしなぁ)


京太郎「……わかったよ、お姫様」

淡「うむ。よきにはからえー♪」

京太郎「調子に乗んなっての」

412: 2014/03/12(水) 00:11:13.43 ID:NfVTBQq20

――普段の二人、講義の合間


京太郎「なー」

淡「んー?」

京太郎「次の試験n」
淡「わぁーっ!!!」

京太郎「……次の、範囲d」
淡「あー! あーあーあー!!!」

京太郎「……」

淡「……」

京太郎「きなこもち、食うか?」

淡「うん!」


京太郎「……」

淡「……♪」モグモグ


京太郎「で、次の試験範囲だけど」

淡「んぐふっ!」

413: 2014/03/12(水) 00:14:45.90 ID:NfVTBQq20
京太郎「ほら、お茶」

淡「ずずーっ……ふぅ」


淡「不意打ちずるい!」

京太郎「いや、どうせいつかはするだろこの話」

淡「むー……なんで大学生になってまで勉強しなきゃいけないのー?」

京太郎「今すぐ全国の受験生に土下座してこい」

淡「うあー……将来は麻雀で食べてくからいいもん」

京太郎「大学1万年生が現実味を帯びてきたな……」

淡「だからそういう意味じゃないって!」

京太郎「……はぁ。今度一緒に勉強するか? 図書館あたりで」

淡「えー……あそこ飲食禁止じゃん」

京太郎「勉強会に何を期待してんだ」

淡「お菓子食べなきゃやる気でないー。女子だもん」

京太郎「試験終わったらいくらでも食わせてやるよ。きのこでもたけのこでも」

淡「じゃトッポで」

京太郎「ハイハイ」

414: 2014/03/12(水) 00:23:32.40 ID:NfVTBQq20

――それが、きょーたろーが牌のおにいさんになるまでの私たち。


やれやれって、大人ぶって溜息を吐く。

けれど、なんだかんだ言って色々やってくれるのがきょーたろー。

特に用はないけれど、気付けばいつもその隣にいる私。

別に恋人とかではないんだけど、大学では一緒にいるとなんだか楽しい。


だけど、きょーたろーが牌のおにいさんになってからは――


淡「ねね。この後なんだけどさ」

京太郎「悪い、すぐ仕事入ってるから。また今度な」


こんなの、ばっかり。

415: 2014/03/12(水) 00:28:44.34 ID:NfVTBQq20

淡「むー」

授業が終わったと思ったらすぐ仕事。

一緒に遊びに行こうとしたらすぐ収録。

口を開けばやれはやりん、やれ牌のおにいさん、やれおもち。

デレッデレな顔晒してアラフォーのおばさんの話ばっかり。

淡「つーまーんーなーいー……」

サークル備え付けのソファに寝っ転がる。固い。
何だかもどかしくって足をバタバタさせるけど、胸のモヤモヤは広がるばかり。

淡「ううー……」

張り合いがない。このモヤモヤをぶつける相手がいない。
お腹が空いてもタコスを持ってきてくれるヤツがいない。

最近だと、夢にも出てこない。

417: 2014/03/12(水) 00:39:08.39 ID:NfVTBQq20
アイツがいないなら、もうこのサークルにいる意味も――

「大星」

淡「ふぇ?」

ボフボフと近くにあったクッションを叩いていると、先輩が声をかけてきた。
名前は覚えていないけど、確か関西出身の……?

「さっきから機嫌悪いみたいやけど」

淡「別に」

この人には関係ない。

「備品にやつあたりするのはあかんよ」

淡「……」

従う理由もないけど、あまり言われるのも面倒くさい。
ぽいっとクッションを適当に放り投げる。

418: 2014/03/12(水) 00:42:08.82 ID:NfVTBQq20
「なぁ、大星」

淡「はい?」

「悩みがあるなら言ってみ」

淡「はぁ?」

「今度の交流試合までにトラブルは解決しときたいからな。貴重な戦力である大星をほっとくわけにもいかん」

淡「そんなこと言われても……別に、ありませんけど」

「そうは見えんけど」

淡「……」

419: 2014/03/12(水) 00:46:37.26 ID:NfVTBQq20
交流試合。
どうせきょーたろーは牌のおにいさんとかで来れなさそうだし、私が行く意味もない。
そんなものに興味はない。

「なぁ、大星」

淡「……」

もう応える必要もない。
だって、どうせくだらないことしか――

「お前、須賀のこと好きなんか?」

淡「はぁっ!?」


何言ってんのこのヒト!?

420: 2014/03/12(水) 00:49:06.92 ID:NfVTBQq20
「あ、ライクの方とちゃうで。ラブの方や」

淡「な、べ、別にアイツのこととか――」

「そうかぁ? 私の見立てでは――つか、誰が見ても気付くけど、明らかに須賀のこと意識しとるやん」

淡「そ、そんなこと……」


ない、とも。
断言できなかった。

421: 2014/03/12(水) 00:52:29.65 ID:NfVTBQq20
「まぁまぁ、ここらで一度振り返ってみぃ。自己分析ってやつや」

淡「えぇ……?」


「須賀と一緒におる時、どんな気分?」

淡「どんなって……そりゃ、楽しいけど」


「須賀の持ってくるタコスやらお菓子やら食っとる時は?」

淡「おいしい」

「そうやなくて、いやそれもそうなんやけど。胸ん中はどんな感じや」

淡「んー……あったかい、とか?」


「須賀と予定が合わなかった時」

淡「なんとなく、さびしい」


「須賀が巨O見てデレッデレしとる時」

淡「ムカつく」


「須賀に頭とか撫でられてる時」

淡「……ちょっと気持ちいいかも?」


「須賀が他の女と話して笑ってたり、瑞原プロの話しとる時」

淡「……ムっとする」


「須賀が夢に出てきたことは?」

淡「……っ!」

「何度もアリってとこか。その様子だと」

423: 2014/03/12(水) 00:58:49.26 ID:NfVTBQq20
……言われて、みれば。
きょーたろーのことばかり考えてる自分がいる。


「で、もっかい聞くけど」

「お前、須賀のこと好きなんか?」


麻雀から始まって、コイツといるとそこそこ楽しいって思って。

それから一緒にいることが増えて、講義でも隣の席が当たり前になってた。

じゃあ、このモヤモヤは?

牌のおねえさんにきょーたろーを取られた、から?

じゃあ、私は。

もしかして。もしかしなくても。

私は、きょーたろーのことが


淡「……好き、かも」

424: 2014/03/12(水) 01:01:52.54 ID:NfVTBQq20
「ほら見ぃ」

ニヤニヤ笑う先輩。キラりと光るメガネのフチとドヤ顔がうざい。

淡「うー……」

「んでまぁ、うちのサークルの規約には恋愛禁止なんてもんはない」

「ま、そこでな? うちの主力に何かあったら困るし、可愛い可愛い後輩がめんどいことになる前に」

「私が人肌、ぬいだるわ」

淡「え……?」

425: 2014/03/12(水) 01:07:07.44 ID:NfVTBQq20
「今度、追いコンの下見も兼ねて下級生同士での飲み会を企画しとるんやけど」

「その前に、須賀と二人っきりになれる機会作っとく」

淡「でも、きょーたろーも忙しいんじゃ」

「その辺はぬかりなし。きちんと須賀がヒマな時間も調査済み」

この日や、空けとき。
と、スケジュール帳を見せてくる先輩。
その日は私にも特に用事はなくて、確かに久しぶりにきょーたろーと一緒になれそう。

淡「……よし!」

ずっと胸の中にあったモヤモヤが消えていく。
握る拳に、力が入る。
やれる。やってやる。
あのデレッデレな顔に、吠え面かかせてやる……!



426: 2014/03/12(水) 01:11:41.76 ID:NfVTBQq20
「ヤル気も十分ってとこか。んじゃまぁ、後はよろしく頼むで」

席を立つ先輩。バッグから教科書がハミ出てる。
この後に講義があるのかな。

淡「あ、あの」

「礼ならいらん……と言いたいとこやけど、交流試合での働きには期待しとるからな」

ヒラヒラと手をふりながら、サークルボックスを後にする先輩。
どこか余裕のあるその後姿は、いかにも先輩って感じがして、なんだか頼もしかった。

427: 2014/03/12(水) 01:12:18.34 ID:NfVTBQq20

……けど。


淡「……結局、名前、知らないんだけど」

ほんと、なんて言ったっけ、あのヒト……?


430: 2014/03/12(水) 02:19:11.11 ID:NfVTBQq20

――そんなこんなで。


はじめての恋愛指南とかいうよくわからない本だの、ネットの掲示板だの、高校時代の先輩たちに色々聞いてみたりはしたけれど。

実りのある意見はなく――というか見栄張ってたけど明らかに恋愛に関しても私以下だった、あの人たち――


飲み会の日が、やってきた。


京太郎「みんな、遅いな」

淡「……」


集合場所のサークルボックスには私ときょーたろーの二人だけ。
先輩の根回しが上手くいっているみたい。

431: 2014/03/12(水) 02:22:51.38 ID:NfVTBQq20

これで、後は私がきょーたろーをメロメロにしてやるだけ……なんだけど。


京太郎「……」ペラッ

淡「……」

……恥ずかしい。

ちょっと前に同じ場所で気合を入れたはずなのに。
いつもよりも頑張って背中に飛びついて、「あててんのよー?」とか、やるつもりだったのに。
きょーたろーのことを好きだって自覚してからは、今までの行為がとてもレベルの高いものに見えてきた。


京太郎「……ふむふむ」ペラッ

きょーたろーはそんなことも知らん顔で、番組の台本に目を通している。
……ムっとくる。こっちはこんなにドキドキしてるのに、ちょっとくらいは意識したっていいじゃん。

そしてそんなきょーたろーの横顔を見て、イケメンだなーって見惚れてる自分がいることにも。

432: 2014/03/12(水) 02:36:03.29 ID:NfVTBQq20
チ、チ、チ、チ、チ……。
壁にかかった時計の針の音。いつもは全く気にも留めないその音が、とても大きく聞こえる。

ペラ、きょーたろーが台本をめくる音。
チク、時計の針が進む音。

この二つだけが部屋の中に響く。
私ときょーたろーの会話はない。

淡(うわーん! 助けてテルー!!)


と、耐え切れなくなった私が高校時代の先輩にヘルプを求めたら、


京太郎「……さすがに、遅すぎないか?」

淡「え?」

きょーたろーが顔を上げる。
時計に目をやれば、確かに集合時間はとっくのとうに過ぎていた。

433: 2014/03/12(水) 02:37:42.88 ID:NfVTBQq20
淡(うっそ、もうこんなに……!?)

気がつかなかった。
私がアレコレ悩んでいる間に、こんなに時間が過ぎていたなんて。

京太郎「連絡ないか?」

淡「え? ああ、ええっと、……あ、色々あって直接現地に行くって、メールが」

京太郎「マジか、じゃ俺たちも急がないと」

溜息を吐いて立ち上がるきょーたろー。
……溜息を吐きたいのはこっちなんだけど!

434: 2014/03/12(水) 02:47:08.55 ID:NfVTBQq20

二人で大学を出て、電車に乗って、現地へ向かう。
結局それっぽいことは一つも出来なかったなー……。


京太郎「なぁ」

淡「ひぇ?」

あ、変な声でた。

京太郎「なんというか……大丈夫か? 様子がおかしいけど」

淡「そんなこと、ないけど?」

京太郎「そうか? あんま無理すんなよ。顔赤いし、熱あるんじゃないか?」

道を歩く時も、さり気なく自転車から私をかばうようにして歩いてるし。
……なんでこう、こういうところはすぐ気がつくんだろ。

435: 2014/03/12(水) 02:49:28.07 ID:NfVTBQq20
私はドキドキしてるのに、きょーたろーはいつも通りの自然体。
なんなんだろう、本当に。

淡「ね、きょーたろー」

京太郎「ん?」

淡「きょーたろーはさ、どっちの方が大事?」

京太郎「なにが?」

淡「牌のおにいさんと、私たちとのサークルと」

京太郎「はぁ?」

淡「いいから。答えてよ」

436: 2014/03/12(水) 02:50:45.48 ID:NfVTBQq20
京太郎「どっちがって……順位を付けられるようなモンでもないだろ」

淡「だって、最近はずっとはやりんはやりんって」

京太郎「そりゃ、ここ最近はあっちにかかりっきりだけど」

淡「大学のことよりもはやりんの方が大事なんじゃないの?」

京太郎「んなわけないだろ。どっちも大切にしたいと思ってるよ、俺は」

淡「そっか」

京太郎「おう」

淡「そっかぁ……」

京太郎「おう……?」

437: 2014/03/12(水) 02:51:51.96 ID:NfVTBQq20
少なくとも今は。
何よりも牌のおにいさんの方が大事だとか、そういうわけではないみたい。


淡「なら、いいや」

京太郎「わけのわからんやつだな……あ、もしかして」

京太郎「お前、拗ねてるのか?」

淡「ハ?」

438: 2014/03/12(水) 02:52:45.30 ID:NfVTBQq20
京太郎「いやー、確かに最近かまってやれなかったからなー」


ニヤニヤしてる。これはちょーしに乗ってる時の顔だ。

淡「うるさい、きょーたろーのくせに」

京太郎「悪い悪い、寂しかったんだよなー?」

淡「だから! それは――」


「あ! もしかして!」

439: 2014/03/12(水) 02:55:57.03 ID:NfVTBQq20

違うからって、言おうとした言葉は


「やっぱり! おはようございます!」

淡「……へ?」

京太郎「お! おはようございます! お疲れ様です!」


突然の、乱入者に


「そっちの子は、京太郎くんのお友達かな?」

京太郎「はい、同期のヤツです」

「そっかー。はじめまして、牌のおねえさんこと――」

440: 2014/03/12(水) 02:56:42.45 ID:NfVTBQq20


はやり「瑞原はやりです! よろしくね☆」


かき消された。

449: 2014/03/16(日) 01:28:02.12 ID:Tk2QZg4R0

【おおきなかべ】


牌のおねえさん。
私からきょーたろーをとってったプロの人。

言うなれば私の宿敵であり、倒すべき大きな壁。


はやり「えっと……あなたは?」


その人が今、私の前にいる。


京太郎「ほら、淡」


急かされなくてもわかってる。

今、この場で。私がするべきことは。


淡「どーも、はじめまして……それと」

はやり「?」


無駄におっきな胸の、アラフォーのオバサンに対してするべきことは――


淡「私の! "私の"きょーたろーが! いつもお世話になってます!!」


――宣戦布告だ!!

450: 2014/03/16(日) 01:37:35.32 ID:Tk2QZg4R0

いくらきょーたろーがデレデレでも、一緒にいる時間は私の方がずっとずっと長かった。
思い出っていうポイントでは、私の方が有利なハズ。


淡「ほんっと私が見てないときょーたろーはダメダメで、大学でもいっつも側にいてこの前なんかも一緒に――」

京太郎「余計なお世話だっての」ピシッ

淡「あいたっ」


言ってやるぞ、と意気込んでいたらデコピンされた。


淡「なにすんのさー!」

京太郎「お前は俺のかーちゃんかよ。すいません、コイツいつもこんなんで」

はやり「あはは☆ 面白い子だねっ」たゆんっ

淡「――っ!!」

451: 2014/03/16(日) 01:44:15.19 ID:Tk2QZg4R0
揺れた。小首を傾げてニッコリと笑う、その仕草だけで。

無駄に無駄に、本っ当に無駄に大きな胸元が、指で弾いたゼリーみたいに、ぷるりって揺れた。


京太郎「いやー、本当に困っちゃいますよ」デヘッ


そんなモノに視線が釘付けのきょーたろー。

淡「……むうぅっ」

気に入らないっ

ほんっとうに気に入らないっ!!

452: 2014/03/16(日) 02:00:52.91 ID:Tk2QZg4R0


・・・・・・・・・


『須賀のヤツはおっOい星人やからな。正直、厳しい戦いになると思う』


『だから大星、勝利を手に掴むにはとにかく速攻でカタをつけるしかないで』


『攻めて攻めて、とにかく攻めまくるんや。そういうのは得意分野やろ?』


『……こういうやり方は諸刃の剣でもあるけどな。焦って下手したら妹的存在に見られて恋愛対象から外れてしまう』


『だがまぁ、それもやろうと思えばチャンスに変わるハズや』


『考えてみぃ。ふとしたきっかけで、妹だと思ってたヤツを一人の女性として認識した時』


『いつもの距離を、男女の触れ合いとして意識した瞬間』


『こいつ、こんなに可愛かったか? と考えを改めた瞬間』


『相手がどんなヤツでも……惚れてまうやろなぁー』


『特に須賀は単純やからな。結構イケると思う』


『ま、あとは自分次第や。健闘を祈っとく』



・・・・・・・・・

453: 2014/03/16(日) 02:08:32.74 ID:Tk2QZg4R0

思い出すのは、先輩のそんな言葉。


淡「……」グィッ

京太郎「うわ、なんだよさっきから」


きょーたろーの腕を引っ張って、両手で抱きかかえる。

そりゃ大きさでは負けてるけど、こうやって押し付けるようにしてやればきょーたろーだって少しは……!


はやり「そうだ! この後、よしこちゃんたちと飲みに行くんだけど……良かったら京太郎くんたちも来る?」

京太郎「すいません、俺たちこの後すぐサークルの飲み会で」

はやり「そっかー、残念」


……むぅっ!!

454: 2014/03/16(日) 02:13:24.34 ID:Tk2QZg4R0
まるで気にしてないきょーたろーと、余裕な態度の瑞原プロ。

私がこうやっているにもかかわらず、きょーたろーは瑞原プロの揺れるおっOいに夢中になっている。


淡(なんでなんだろー……)


何が足りないとゆーのか。

京太郎の大好きなモノがこんなにもすぐ近くにあるのに、何が悪いのか。

いくら瑞原プロのソレが大きくたって触ることは出来ないし、きっと持て余すだけだ。

それに、あんなのおばあちゃんになったら大変なだけ――って。


淡(……この人って)

淡(いま、何才なんだっけ?)


456: 2014/03/16(日) 02:19:47.92 ID:Tk2QZg4R0
アラフォーだってことは何となく知ってる、けど。

この前、テレビに高校時代のインターハイの様子とかデビュー当時の映像が出てたけど。

こうして目の前で見ても、その時からぜんぜん変わってないような……?


淡(……そーいえば)


牌のおねえさんが若さを保っているのは周りからエネルギーを吸い取っているからで。

急に牌のおにいさんの募集なんかを始めたのは、若い男の精気を吸い取るためだって。

そんな噂を、聞いたことがあるような――!!


457: 2014/03/16(日) 02:30:04.24 ID:Tk2QZg4R0
淡「きょーたろーっ!!」


このままじゃ、きょーたろーがアラフォーの餌食になっちゃう。

そうなる前にさっさとここから離れないと。

パサパサのミイラになったきょーたろーなんて、私は見たくないよ。


京太郎「分かってるって、そんなに急かすなよ……すいません、はやりさん。俺たちそろそろ行かないと」

はやり「うん。また今度ね! あわいちゃんも、今度あったらよろしくね☆」パチリッ


慌てる私なんて、まるで意に介さず。

オバサンらしくないウィンクを一つ残して瑞原プロは去っていった。

458: 2014/03/16(日) 02:33:43.27 ID:Tk2QZg4R0

……絶対に。
絶対にアラフォーのプロなんかに負けない!

淡(あっかんべーっだ!)

そんな決意を込めて、その後ろ姿に向けて心の中でベロを突き出した。

467: 2014/03/21(金) 01:35:57.31 ID:2waCqiAh0


【ホントのホントに】



――で。


淡「……どーして」


京太郎「?」

はやり「?」

良子「?」

健夜「?」

咏「?」


淡「どーして、プロの人たちがここにいんの!?」


468: 2014/03/21(金) 01:39:05.09 ID:2waCqiAh0
はやり「んー……偶然、かな?」

淡「うそだっ!!」

咏「あんま細かいこと気にすんなっておじょーちゃん。そこのアラフォーみたいになるぞー」

健夜「アラサーだよ!?……って、もうコレ言えないんだった……」

良子「少しクールダウンしましょう。他の客にも迷惑です……あ、コレ名刺ね。何かあったらどうぞ」 っ名刺 

淡「あ、どうも」



……じゃなくて!

469: 2014/03/21(金) 01:44:13.39 ID:2waCqiAh0
「ほんとにまー……エラいことになったなぁ」

淡「先輩」

「チャンス作ってやったら、まさかプロの方々引き連れてやってくるとは……この私でも予想外や」

淡「……私だって、連れてきたかったわけじゃないし」

「まぁ、何が起きるのかわからんのがこの世界やしなぁ」



はぁ、と二人して溜息を吐く。



はやり「さっきぶりだね! 京太郎くん!」

京太郎「そうですね、俺も驚きました」ハハッ

健夜「やっぱり縁があるんだよ、私たち。ねぇ京太郎くん。もし良かったら、この後さ……」

良子「ストップ。そこまでです」

咏「落ち着けってアラフォー」ケタケタ



視線の先にはアラフォーのオバサンたちに囲まれてるきょーたろーと、



「アレが生の牌のおねえさん……ゴクリ」

「小鍛治プロに三尋木プロまでいるし……」

「カードで見るよりも凄い光景ですね、これは……」

「スキャンダルになれば売れるかなー?」

「そうなる前に止めるから。アンタも京太郎も」


トッププロとのまさかの遭遇に騒ぎ出すサークルメンバーがいた。

470: 2014/03/21(金) 01:47:38.78 ID:2waCqiAh0
「はいはい!」 パンパンッ! 

「お店の人にも迷惑かかりますし、積もる話は後にして!」


良子「そうですね、私たちも早くオーダー決めちゃいましょう」

はやり「またねー☆」

京太郎「はい!」




「で」

淡「?」

「どうやった? 成果の程は」

淡「ぐっ」

「駄目だったかー、やっぱり」

471: 2014/03/21(金) 01:54:55.81 ID:2waCqiAh0
淡「で、でもさー……」

「でもヘチマもありません。いつもの攻撃力はどこにいった?」

淡「うー……だって、あれだけアピールしてるのに知らん顔とかおかしくないフツー?」

「じゃ諦めるか?」

淡「それはヤダ。絶対ヤダ」

「ま、せやろな……で、どんな風に攻めたん?」

淡「どんな風にって?」

「やったことと、須賀の反応をそのまま教えてくれればそれで。対策立てたる」

淡「……思いっきり抱きついたけど、ぜんっぜんダメだった」

「ふむふむ。他には?」

淡「えーっと、えーっと……あ、瑞原プロに宣戦布告してきたよ!」

「ふーむ……それで、後は?」

淡「んーっと……特に、ないかな」


「なるほどなるほど……なぁ、大星」

淡「なに?」



「それ」

「いつもと、何がちがうん?」



淡「……え?」

472: 2014/03/21(金) 01:57:44.69 ID:2waCqiAh0
「いや、だからソレ」

「いつも、あんたらがやっとることでしょうが」

淡「あ」


言われてみると。

おんぶしてもらったりだとか、私がきょーたろーに抱きついたりだとか。

前はわりと、当たり前にやってたことじゃん。


「やっぱ前途多難やなぁ……」

淡「そんなことないもん」


今回はたまたまタイミングが悪かっただけで。

瑞原プロにジャマされなければきっと上手くいってた、ハズ。

次は絶対にきょーたろーをギャフンと言わせてやるんだから。

473: 2014/03/21(金) 02:04:47.01 ID:2waCqiAh0
「……ハァ」ヤレヤレ


そんな私を見て、先輩はまた溜息を吐いた。しつれーな。


「見てみぃ、アレ」

淡「アレ?」



咏「ねぇねぇきょーちゃん。今度ウチに来ない? いい感じの着物が手に入ったんだよねぇ」

京太郎「着物、ですか?」

咏「そそ。総大将ーって感じのヤツでさ、よく似合うと思うよー。背丈も……」サワサワ

京太郎「ひゃっ!?」

咏「うん、ぴったりだし」ペシペシ

京太郎「いきなり変なとこ触んないでくださいよ」

咏「気にしない気にしない、男だろー……おー、以外とたくましい」ペタペタ

京太郎「これ明らか背丈とか採寸とか関係ないですよね? ちょっとくすぐったいんですけど」

咏「で、ココも思ったとおりと」ツンツン

京太郎「いやそこは駄目だからマジで」

咏「わっかんねー。なに言ってんのかわっかんねーマジで」フニフニ

京太郎「ちょ、まじでやめっ」





「な?」

淡「」


475: 2014/03/21(金) 02:15:46.02 ID:2waCqiAh0
「で、ほら」

淡「ふぁ?」




良子「ストーップ。このままでは二人とも出禁ですよ」ズイッ

咏「ちぇー」

京太郎「助かった……すいません、ありがとうございます」

良子「オフコース。可愛い弟子がヘルプを求めていたからね……ところでだけど、京太郎。海外に興味ある?」

京太郎「海外って……アメリカとかですか?」

良子「イエス。来週にプライベートで旅行に行くんだけど。もしよかったら一緒に行かない? 旅費は私が出すよ」

京太郎「え! いいんですか!?」

良子「ノープロブレム。もちろん、麻雀に関しても色々教えてあげられるから」

京太郎「そりゃもう、是非とも――」


健夜「こらこら、京太郎くんには授業とかサークル活動とかあるでしょ」ズイッ


京太郎「あ、そうだった」

良子「……チッ」

477: 2014/03/21(金) 02:22:59.82 ID:2waCqiAh0
健夜「だめだよ良子ちゃん、京太郎くんも学生なんだし。ちゃんと相手の都合は考えてあげないと」

良子「ソーリー、迂闊でした……京太郎、惜しいけどまた次の機会に」

京太郎「はい、その時はよろしくお願いします」



健夜「まったくもう、油断も隙もないんだから……あ、そうだ。京太郎くん、明日はヒマ?」

京太郎「えっと、たしか予定はないですけど」

健夜「そっか。じゃあこの後『うちに』行かない?」

京太郎「『打ちに』、ですか?」

健夜「そう、『家に』ね」

京太郎「いいですね、久しぶりに色々教えてくださいよ」

健夜「うん、楽しみだな。アドバイスしてあげられるし……言質も、とったし」ボソッ

京太郎「?」

478: 2014/03/21(金) 02:33:55.10 ID:2waCqiAh0
はやり「抜け駆けはダメだよー☆」ズィッ

京太郎「あ、はやりさん」

健夜「……なんのことかな?」

はやり「この牌のおねえさんの目は誤魔化せません! 京太郎くん、はやりも一緒に色々教えてあげるからね!」むぎゅっ

京太郎「おほっ!? あ、ありがとうございますっ!!」

はやり「ううん、お礼なんていいよ。はやりと京太郎くんの仲だし……ね、すこやちゃん?」

健夜「……うん……そうだね……」






「あんなんやで?」

淡「 」プツンッ

479: 2014/03/21(金) 02:42:32.39 ID:2waCqiAh0
「まぁ、あんな具合やから。あの人ら完全に恥じらいとか捨てとる。今のままじゃ到底太刀打ち出来んっつーことや」

淡「……」グビッ




「なんというか、見たくなかったプロの素顔……ですね」

「やっぱあのジンクスって本当なのかー。年増ってこわいなー」

「いやこれ普通にアウトでしょ。色々セクハラっぽいし」

「じゃ止めてくれば? さっき言ってたじゃん」

「え、いやちょっとアレはやっぱ近寄りがたいというか……」

「うん。何か変なオーラ見えるんだよね、アレ」




「もうこうなったら手段は選んでられない……って大星?」

淡「……」グビッ グビッ

「まさかあんた、ソレ私が注文した日本酒じゃ」

481: 2014/03/21(金) 02:51:56.21 ID:2waCqiAh0
淡「ぷはっ」ダンッ

「それ、結構アルコール度数高かったよーな……つか、空きグラスがもうこんなに? 大星あんたもしかして、私らが注文したやつ全部――」



体が、熱い。



淡「……うぃ」

「……大星?」


もう、どーにでもしてやる。そんな気分。


淡「いってくるー」フラッ

「お、おお……?」


482: 2014/03/21(金) 02:55:22.31 ID:2waCqiAh0
はやり「ね、番組のことでお話があるんだけど、ちょーっとだけ二人きりになれないかな?」

京太郎「え、いいですよ。それじゃいったん――」

良子「ノーウェイ。特に打ち合わせが必要なことはなかったはずですよ、今は」

京太郎「へ?」

はやり「えっとね。たったさっき、気になることができちゃって」

健夜「それなら別に今じゃなくてもいいよね?」

はやり「……すこやちゃん」

咏「あっはっは、ちょっとあからさま過ぎるってねぃ」

京太郎「へ? え? ええ?」



淡「きょーたろー」グイッ



京太郎「お、おう!?……あ、ああ、なんだ、淡か……どうした?」

483: 2014/03/21(金) 03:02:34.91 ID:2waCqiAh0

アラフォーの人たちをかきわけて、じーっと二人で見詰め合う。


淡「……」

京太郎「……あ、淡?」




ビックリしているプロの人たちとか。


健夜「お、大星さん?」

良子「あなた一体――」

はやり「あわいちゃん――?」




同じく、驚いて私たちを見てるサークルのメンバーとか。


「淡、アンタなにを」

「し、黙って見とき」

「わくわく」



みんながみんな、同じような顔をしてる中で。

484: 2014/03/21(金) 03:06:36.07 ID:2waCqiAh0




思いっきり



淡「――んっ」

京太郎「――え?」



きょーたろーに、キスしてやった。






511: 2014/03/31(月) 02:18:30.78 ID:o1UIdNP10

【ターニングポイント、からの】


京太郎「あわ……い?」

淡「あはっ♪」



ぐるぐるする。

ボーゼンとしたきょーたろーの顔。

見てる。

きょーたろーが、私のことを見てる。

アラフォーのオバサンたちよりも、サークルのメンバーたちよりも、瑞原プロよりも。

誰よりも、私のことを見てる。

気持ちがいい。胸の奥がフワフワする。

512: 2014/03/31(月) 02:22:30.96 ID:o1UIdNP10

京太郎「お前、なんで――」


こんないい気分なのに、きょーたろーは何が不満なんだろう。

そんなぜーたくは許せないので、


淡「うるさーい♪」

京太郎「んぐっ!?」


お酒で口を塞いでやる。



良子「ま、マウス・トゥ・マウ!?」

健夜「あれ私の生中なのに……」

はやり「はややややややややややっ!?」



アラフォーのオバサンたちがうるさいけど、無視。

今はきょーたろーが私のことを見てくれればそれでいい。

513: 2014/03/31(月) 02:24:29.08 ID:o1UIdNP10
京太郎「ぐ、ゲホッ……おまえ、なんつーことを」

淡「いーじゃん、きょーたろーも気持ちよくなろーよ」

京太郎「いくら酔ってるからって」

淡「むっ」


わかってない。

こんなに私がアピールしてるのに。

たしかに、ちょっとだけ頭はフラフラするけど。

アラフォーのオバサンたちよりもずっと、きょーたろーのこと好きなのに。

まだコイツは、わかってくれない。

514: 2014/03/31(月) 02:26:23.78 ID:o1UIdNP10
はやり「あー、あわいちゃん? 京太郎くんも困ってるし……」

京太郎「はやりさ」

淡「むむっ」


きょーたろーが瑞原プロの方を向いちゃう。

私のことを放っておいて。勿論そんなことはゆるせない。


淡「んっ!!」グイッ

京太郎「っ!」

はやり「はわっ!?」


振り向かせて、キスをする。何回も、何回も。

515: 2014/03/31(月) 02:28:58.96 ID:o1UIdNP10
京太郎「ぷはっ」

淡「ダメだよきょーたろー。今ので1ポイントだからね」

京太郎「ポ、ポイント?」

淡「きょーたろーが私から目を離すたびに1ポイント。アラフォーのオバサンたちと話すたびに1ポイント」

はやり「オバ!?」

京太郎「なんだよそれ!?」

淡「このままじゃ溜まっちゃうよぉ? 1億ポイントぉ♪」

京太郎「億!?」

淡「1億ポイントたまったらー……えへへー♪」

はやり「はや……」

516: 2014/03/31(月) 02:31:10.86 ID:o1UIdNP10
淡「本当はもっともっと色々したいんだよー?」

淡「でもでもー……淡ちゃんはガマンのできる子なので」

淡「それまでは、ガマンするのです!」

淡「ねね、エラい? エラい?」

京太郎「……」

淡「えへへ、じゃーもっかいチューするねっ」

京太郎「あーもう」

京太郎「いい加減に、しろっ」


淡「あぅ」

517: 2014/03/31(月) 02:33:34.77 ID:o1UIdNP10
淡「ぶーぶー。きょーたろーのけちんぼ」

京太郎「お前なぁ」

淡「いーじゃん。減るもんじゃないんだし」

京太郎「現在進行形で大切な何かを失ってるわ」

淡「むー。よくわかんないっ!」

京太郎「酔っ払うにしても限度ってもんがあるだろうが……」


京太郎「それに、その……こういうのは」

淡「……」

京太郎「恋人どうしでやるもんだし……なぁ?」




淡「ちがうよ」

京太郎「え?」

淡「酔ってるから、じゃないもん」

京太郎「淡?」



淡「私、好きだよ。きょーたろーのこと、すごい好き」

518: 2014/03/31(月) 02:37:05.04 ID:o1UIdNP10
京太郎「あ……え?」

淡「頭なでられると気持ちいいし、マジメな顔見てるとかっこいいなーって思うし、一緒に麻雀打ってる時が大学の中で一番楽しい時間」

京太郎「……」

淡「気が付いたらね、心の中がきょーたろーのことばっか」

淡「好きなの、本当に好き。夢に見るくらい、きょーたろーのことが好き」

京太郎「淡」

519: 2014/03/31(月) 02:39:40.87 ID:o1UIdNP10





淡「だから、そばにいてよ。アラフォーのオバサンたちよりも、私のこと見ててよ」


淡「イヤだよ、きょーたろー。あっちいっちゃ、ヤだよぉ」





520: 2014/03/31(月) 02:43:43.02 ID:o1UIdNP10

体が熱い。


淡「……きょーたろーは、どう?」

淡「私よりも、あっちの方が、大事?」


まわりがぐるぐる。


京太郎「……」

京太郎「俺、は」


きょーたろーがたくさんいる。


淡「きょー、たろぉ」フラッ

京太郎「っ!?」


ぶわーって、きょーたろーの胸が、起き上がって――

521: 2014/03/31(月) 02:48:54.78 ID:o1UIdNP10


・・・・・・・・・・・・・・


淡「zzz……」

浩子「よー頑張ったなぁ、大星」

京太郎「先輩」

浩子「おう色男。モテる男はツライなぁ」

京太郎「これは、先輩の差し金ですか?」

浩子「ん? まー、確かにうちもチーっとだけ手伝ったけど。さっきのは紛れもない大星の本音っちゅーやつやで」

京太郎「……」

浩子「お互い、悔いのないように――ってのはおかしいか。まぁ、後腐れのないように頼むわ」

京太郎「……はい」



浩子「んじゃまー、飲み会はここらでお開きってことで! この後カラオケなり鉄麻なりは、各自の好きなようにって感じで!」

522: 2014/03/31(月) 02:52:35.22 ID:o1UIdNP10

淡「きょーたろー……」ゴロゴロ


茹でダコのように真っ赤になって、俺の膝の上で伸びている淡。

涙で頬が濡れて、口が半開きになってヨダレが垂れていたので、ハンカチで拭ってやる。


京太郎「……」


コイツは俺にとってのなんなんだろうか。

少なくとも、大学生活で麻雀にここまでハマったのはコイツがいたからで。

あの一言にカチンときて、スゲー傲慢なヤツだと思って、絶対見返してやろうと思った。


淡「……あはっ……zzz……」


打ち解けてみると案外フツーのやつというか、バカっぽいヤツで。

妹のようなヤツというか、優希とジャレるような感覚で付き合っていた。

523: 2014/03/31(月) 03:03:43.49 ID:o1UIdNP10

京太郎「……けど」


いつからか、大学にいる時はコイツが隣にいるのが当たり前になっていた。

騒がしいやつで、突拍子もないことをよく言うやつで、麻雀以外の分野ではダメダメなところも目立つヤツだけど。

それも、コイツの魅力の一つだ。つい、構ってやりたくなるような。大事にしたくなるような。

こうして考えてみると。

俺も、淡に惹かれている――?



はやり「……」グビッ

健夜「……」グビッ

咏「……」グビッ

良子「……」グビッ


京太郎「……ん?」

525: 2014/03/31(月) 03:10:53.71 ID:o1UIdNP10

京太郎「あれ? みなさん、なんで一斉に大ジョッキを」


はやり「あは☆」フラッ

京太郎「っていうか顔赤すぎ……え、ちょ、そんな近づいたr」


健夜「ふ、ふふ……ふ」ガシッ

京太郎「え? あ? え、ええ?」


良子「ステンバーイ……ステンバーイ……」グイッ

京太郎「あの、みなさん?」


咏「ぐひぇ……わっかんねー、ほんと……まじ……わっかんねー……」ピトッ

京太郎「え?」


京太郎「あ」


京太郎「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??」

527: 2014/03/31(月) 03:16:05.13 ID:o1UIdNP10


……その後のことについて語ると。


酔っ払いの女性たちに囲まれて、四苦八苦する青年の姿が一部で話題になったそうな。

ついでに言うと、青年の顔と首の周りには赤い斑点が大量についていたそうな。


ちなみに同期の友人は、幼馴染の姉と、その姉の友人の力を借りて送り届けてもらったそうな。



そして、その原因を生み出した少女はと言うと――


528: 2014/03/31(月) 03:18:08.48 ID:o1UIdNP10

淡「……」グゥー

淡「……お腹、空いたな」

淡「ごはん……もう、ないや」

淡「なんか、注文しよっかな」

淡「……」

淡「……やっぱ、いいや」

淡「……」ボフッ

淡「……ハァ」


――家に引きこもってから、早一週間。

529: 2014/03/31(月) 03:23:05.94 ID:o1UIdNP10

『私、好きだよ、きょーたろーのこと。すっごい好き』


言っちゃった。ついに、言っちゃった。

もう後戻りはできないけど、後悔はしてない。

だってあれは、私の本心だから。

恋心を自覚してから、ずっときょーたろーに言ってやりたかったことだから。


……けど。


淡「うぅぅ……」

…………恥ずかしいっ

530: 2014/03/31(月) 03:27:21.34 ID:o1UIdNP10

きょーたろーがオバサンたちに言い寄られてるのを見て、つい、プッツンきちゃって。

飲まなきゃやってられるかーって勢いで、思いっきりかき込んで。

それから、それから――


淡「むーりぃ……」



プシューって、頭から蒸気が湧き出てくるイメージ。

枕に顔を押し付けても、ちっとも熱は引いてくれない。

もどかしくって足をバタバタさせるけど、もっともっと熱くなる。

531: 2014/03/31(月) 03:31:53.73 ID:o1UIdNP10
昨日も大学を休んじゃった。

だって、大学にいって、サークルに顔を出して、きょーたろーの顔を見たら。


淡「――っ!!」バタバタ


……ベッドから上がるのも難しい、そんな状態。

こんなので大学なんて、行けるわけがない。

532: 2014/03/31(月) 03:34:27.87 ID:o1UIdNP10
『いいか淡。大学生となれば飲み会や合コンに行く機会も増えると思うが……酒は呑んでも呑まれるな、だ。華の大学生活を過ごしたければこれを忘れるなよ、本当に……うん、本当に』


そーいえば、上がりたてのころ。

苦虫を噛み潰したような顔で、そんなことを言ってた元部長がいたなぁ、と。

今になって思い返すのでした。


淡(どーしてあの時に出てきてくれないのさー……もー)


そしたらもっと、スマートに決めてたのに。

少なくとも絶対に、こんな恥ずかしい思いはしてない。

533: 2014/03/31(月) 03:39:07.52 ID:o1UIdNP10
淡(あー、でも……)


そうしたら、あそこまでハッキリと自分の気持ちを伝えられなかったわけで。

そしたら、形振り構ってられないアラフォーのオバサンたちの勢いに負けちゃってたかもしれなくて。

……でもやっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしいし。


淡(テルー…助けてよー……)


こんな時、高校時代の先輩は、どんな風に解決しただろう。

お菓子を用意したらやって来てくれないかなぁ。


――ピンポーン。

淡「……ん?」

寝っ転がりながら考えてると、来客を知らせるインターホンが鳴らされた。

534: 2014/03/31(月) 03:42:44.85 ID:o1UIdNP10

最低限の身形を整えてから、ドアを開けると、そこには、


京太郎「よう」


ある意味で、今一番会いたくて、会いたくないヤツが、立っていた。


淡「っ!!」

京太郎「あ、ちょ、待てよ!」ガッ


思わずドアを閉めようとしたけど、足を割り込まされた。

535: 2014/03/31(月) 03:46:26.47 ID:o1UIdNP10
淡「ま、間に合ってます!!」

京太郎「俺は悪徳セールスかっ」

淡「似たようなもんでしょ恋ドロボー! おっOい星人!!」

京太郎「変なこと叫ぶなこんなとこで!」

淡「うっさいバカ! イケメン! 高身長! 年増好き!!」

京太郎「わけわからんわ! あと最後のは断じて否定する!」

淡「瑞原プロのおっOいばっか見てたクセに!!」

京太郎「あれは男のサガなんだよ! おもちは正義だ!」

淡「こんなとこで変なこと叫ばないでよ!!」

京太郎「どっちが!!」

淡「そっちが!」


・・・・・・・・・・・



淡「ぜーぜー……」

京太郎「はぁ……はぁ……げほっ」

京太郎「とにかく入れてくれ……休んでた分の授業のレジュメとか、預かってきてるから」

淡「……うん」

536: 2014/03/31(月) 03:49:58.46 ID:o1UIdNP10

京太郎「それじゃ……上がるぞ」

淡「ど、どーぞ?」


京太郎「……」

淡「……」


京太郎「これ……授業のヤツ」

淡「ありがと……」


京太郎「……」

淡「……」

淡「あ、これお茶……ペットボトルの、だけど」

京太郎「ん、ああ……すまん」


京太郎「……」

淡「……」


京太郎「なぁ」
淡「ねぇ」


京太郎「……」

淡「……」


京太郎「先、いいぞ」
淡「先、いいよ」


京太郎「……」

淡「……」

537: 2014/03/31(月) 03:53:13.06 ID:o1UIdNP10
淡「あのさ」

京太郎「ん?」

淡「なんで、きたの?」

京太郎「そりゃ一週間も休んでたら気になるさ、あんなこともあったし……けどお前、メールもLINEも無視してるじゃねえか」

淡「私の家、知ってたっけ? この前家まで送ってくれたのはテルみたいだし」

京太郎「お前の友達って子がサークルに来てな。その子に教えてもらったよ」

淡「……そっか」

京太郎「そのプリントも、その子が持ってきてくれたヤツだからな。ちゃんとお礼言っとけよ」

淡「うん」

京太郎「それで、まぁ、その……この前の、アレだけどさ」

淡「……うん」


京太郎「……」

淡「……」


京太郎「――ごめん、今の俺じゃ、お前とは付き合えない」

538: 2014/03/31(月) 03:55:36.05 ID:o1UIdNP10
淡「……そっか」


その言葉は、考えてなかったわけじゃない、けど。

思ってたよりも、ずっと、落ち着いて、いられるけど。


淡「私よりも、あっちの方が、いいんだね」

淡「きょーたろーは、瑞原プロの方が、好きなんだ」



負けたんだって思うと。

どうしても、目が熱くなって、ジワって、視界が歪んできて――



京太郎「ああいや待ってくれ! そういうことじゃないんだ!」

淡「――えぅ?」

539: 2014/03/31(月) 03:57:27.10 ID:o1UIdNP10
京太郎「ごめん、言葉が足りなかった」

淡「じゃ、どーいう?」

京太郎「……中途半端に、なっちゃうんだよ。今のままだと」

淡「?」

京太郎「あの後さ、告白されたんだよ。プロの人たちにも」

淡「……」

京太郎「ホント、吃驚した。突然すぎるんだよ、お前もあの人たちも」

淡「……しょーがないじゃん。好きになっちゃったんだもん」

京太郎「だってさ、今までそういうこと全然なかったんだぜ」

淡「スOベだしね」

京太郎「うぐっ」

淡「でも、かっこよくて優しいよ」

京太郎「……むぅ」

淡「寂しかったんだよ? 牌のおにいさんとかになってから、ぜんっぜん構ってくれないんだもん」

京太郎「あー……すまん」

淡「いつも一緒にいて。でも、あの日から、私の隣にきょーたろーがいなくなっちゃって」


淡「それからずっとモヤモヤしてて、先輩に言われて、やっと気付けたんだ。私、きょーたろーのことが好きなんだって」

540: 2014/03/31(月) 04:00:13.86 ID:o1UIdNP10
京太郎「……そういう素振りとか、きっかけとか……見せなかっただろ、お前」

淡「えー? 結構アピールしてたよ、私」

淡「うん。私はきょーたろーのことが好き。何度だって言うけど」

京太郎「……」

淡「きっかけとかが無くてもさ、私はずっときょーたろーと一緒にいたい。他の人とか考えられない」

京太郎「……」

淡「恋するってきっと、こういうことなんだよ」

京太郎「……ああ」ポリポリ

淡「あ、もしかして照れてるー?」

京太郎「ち、ちがわい」

淡「あは、かわいー♪」

京太郎「ぬぅ……」


淡「あはは……で、中途半端になっちゃうって、どーいうこと?」

541: 2014/03/31(月) 04:02:53.61 ID:o1UIdNP10
京太郎「俺も、考えたんだ。色々」

淡「うん」

京太郎「正直、お前は手のかかる妹みたいなヤツだと思ってた」

淡「……」

京太郎「でも、さ。俺もお前と一緒にいて、楽しいって思うし……我侭に付き合ってる時でも、笑顔は、好きだ。こうして大学の外にいる時でも、大事にしたいって思う」

淡「……っ」ボフッ

京太郎「……どうした急に、布団にダイブして」

淡「……恥ずかしい」

京太郎「お前なぁ」

542: 2014/03/31(月) 04:04:03.51 ID:o1UIdNP10
京太郎「……まぁ、お前の言葉を借りるなら。きっとこれが、恋してるってことなんだと思う」

淡「――!!」バタバタ

京太郎「だけど」

淡「――」ピタッ

京太郎「はやりさんたちにも告白されて、わからなくなってるんだよ、今」

淡「……」

543: 2014/03/31(月) 04:06:56.16 ID:o1UIdNP10
京太郎「俺が大学でここまで麻雀にハマったきっかけを作ったのは間違いなくお前だけど、俺に一つ上の世界を見せてくれたのは、あの人なんだ」

淡「……」

京太郎「今までは師匠だと思っていたけど……惹かれてる部分も、かなりある」

淡「……」

京太郎「最低だよな……でも、今の俺には選べないんだ。どっちも」

京太郎「こんなので誰かを選んでも……きっと後悔するし、みんなにも、失礼だと思う」

京太郎「だから、ごめん。今の俺には、誰とも付き合えない」



淡「……今はまだ答えを出せないってコト?」

京太郎「すまん……だけど絶対、いつか応えるから」

淡「そっか……そっかぁ」

京太郎「……」

淡「えへ」

京太郎「……淡?」

淡「じゃあ、簡単な話だね」グイッ

京太郎「え?」ボフッ

544: 2014/03/31(月) 04:11:32.38 ID:o1UIdNP10
淡「えへへ」ギュ

京太郎「あ、淡?」

淡「私が、きょーたろーの空気になってあげる」

京太郎「は?」

淡「私無しじゃ苦しくって、生きてられなくするの」

淡「好きで好きでどーしょーもない、骨抜きのメロメロにしてあげるから」

京太郎「それ、は」

淡「覚悟してよね、きょーたろー。この前のことよりも、もっとずっとスゴイことしちゃうから。今ので溜まっちゃったんだもん、1億ポイント」

京太郎「あ、あわい――」

淡「だって、なんてったって――」

545: 2014/03/31(月) 04:19:34.15 ID:o1UIdNP10


淡「私は、アラフォーのオバサンたちよりも、もっとスゴイ」

淡「大学1万年生なんだからねっ!!」

no title

567: 2014/04/06(日) 02:00:46.50 ID:QXcY3Rue0
【1万年先までも】



淡「きょーたろーの、わからずやーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」ダダダダダダタッ!!




京太郎「あ、あわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」










浩子「……なんや一体、騒々しい」

568: 2014/04/06(日) 02:04:09.13 ID:QXcY3Rue0
京太郎「あ、お疲れ様っす。お茶淹れてますよ」

浩子「お。サンキュ」ズズッ

浩子「……で、何があったん? 涙目の大星がもの凄い勢いで走ってったけど」

京太郎「あー、えー……まぁ、意見の相違といいますか」

浩子「なんや、痴情のもつれか? 痴話ゲンカは余所でやってくださいな」

京太郎「いやまぁ、それ程でも」

浩子「褒めとらん褒めとらん。あんまこういう事言いたくはないけど、活動に支障が出るようなら部内恋愛禁止にするで」

京太郎「んー……なんというか、そこまで深刻なものでもないんですけどね」

浩子「はぁ」



京太郎「このニュースなんですけど」

浩子「んー? 『宮永照怒涛の進撃! ついに世界ランク3位!』か」

京太郎「照さんって淡の高校時代の先輩だったんですけど」

浩子「知っとるよ。前の対戦高やったし」

京太郎「アイツやっぱり照さんには凄い憧れてるみたいで、このニュース見た瞬間スッゲー目ぇキラキラさせちゃって。『私も活躍するー!!』って」

浩子「ふんふん」

569: 2014/04/06(日) 02:10:29.39 ID:QXcY3Rue0
京太郎「それでまぁ、こう言って来たんですよ」

浩子「?」




『ねね。卒業したらさ、私のマネージャーやってよ!』




浩子「打つよりも雑用してた方が様になっとるしなぁ、須賀」

京太郎「ハハ……」

浩子「で、それで? 何でそこからさっきに繋がるん?」

京太郎「いやー、俺にも夢があるといいますか。目指してるんですよ、プロ雀士」

浩子「ほう?」

京太郎「高校の時だったら全然考えられなかったんですけどね。今より全然弱かったですし」

浩子「それが今じゃあ、点棒毟られることにすら快感を覚えるように、と」

京太郎「その言い方はちょっと」

570: 2014/04/06(日) 02:17:54.68 ID:QXcY3Rue0
浩子「まぁ確かに。須賀の上達っぷりは目を見張るもんがあるけど。それだけでやっていけるほどプロの世界は甘くないで?」

京太郎「それがですね。プロを目指すっていうなら、はやりさんたちも色々と面倒を見てくれるみたいで」

浩子「永世七冠や日本代表先鋒をはじめとするトッププロたちか……確かに申し分ないというか、あんた一人につけるにしては贅沢過ぎる面子やね」

京太郎「はい。そしたら淡のヤツ」




『ふーん?……きょーたろーは私と一緒にいるよりも、あのオバサンたちの方が大事なんだ?』




京太郎「って」

浩子「あー、そらあんたのデリカシーが足り取らんわ。あいつも面倒くさいけど」

571: 2014/04/06(日) 02:21:06.75 ID:QXcY3Rue0
浩子「で、こんなとこでのほほんとしててええんか?」

京太郎「淡がこんな風にヘソ曲げるのはしょっちゅうですからね、付き合い始めてからは。慣れたもんですよ」

浩子「はぁ」

京太郎「そういうところも含めて好きですから。アイツのこと」

浩子「あんたも大概やね」

京太郎「それほどでも」

浩子「褒めとらんからな」



京太郎「それじゃま、行って来ますわ」

浩子「どこ行ったかもお見通し?」

京太郎「ええ、こういう時は大体――」


ちゃり、とポケットの中で金属が擦れる音がした。


京太郎「ベッドの上でジタバタしてるんですよ、アイツ」

572: 2014/04/06(日) 02:23:21.03 ID:QXcY3Rue0


・・・・・・・・・・・


サークルメンバーに盛大に冷やかされ、大学を後にする。

京太郎「ふう」

見慣れた玄関を前にして一息つく。
彼女の家。初めて来た時は中々に緊張したが、何回も繰り返し訪れているうちにここまでの道のりも慣れたもので。
今では自宅以上の気安さで上がりこむことができる。


京太郎「んじゃ、お邪魔しまーす」

流れるようにポケットから合鍵を取り出し、彼女の家へ。
靴を脱いで、いかにも女の子といった感じの可愛らしいスリッパに履き替え、奥へと進んでいく。

ツーショットの写真や、一緒にプラネタリウムに行った時の記念で買った射手座のペンダント。

その他諸々の思い出の証が飾られているリビングを通り過ぎて、彼女が待っているであろう寝室のドアノブへと手をかける。

573: 2014/04/06(日) 02:31:41.37 ID:QXcY3Rue0
京太郎「淡? 入るぞ?」

コンコンコンとノックを3回。

返事はないが、びくりと何かが動いた気配。

中で待ち構えている膨れっ面をイメージしながらドアを開くと――




no title


※イメージです


淡「……」

京太郎「……おおう」


まるでデッカイ繭のように布団にくるまっている淡の姿。
ひょっこり覗いているぶすっとした顔が不覚にもかわいいと思った。

575: 2014/04/06(日) 02:35:36.18 ID:QXcY3Rue0
京太郎「ごめん、淡」

淡「……」

呼びかけても返事がない。
意を決して淡へと近づくと――

淡「てえいっ!!」

京太郎「わっ!?」

乙女とは言いがたい掛け声と共に、足首を掴まれて布団の中へと引き摺りこまれた。


淡「とう!」

京太郎「ぐえっ」


そのままマウントポジションを取られ、体重をかけられてベッドの中に体が沈む。
さっきまで淡が寝転がっていたのであろう柔らかい感触に包まれて、いい匂いがした。

576: 2014/04/06(日) 02:39:31.23 ID:QXcY3Rue0
京太郎「な、なんだよ……?」

淡「うー……」

見下ろす淡と見上げる俺。

見詰めうと、頬を赤く染めた淡がふいっと目を逸らした。

つい勢いで動いてしまったが、その後どうするかは何も考えていなかったということか。


淡「……遅かった」

京太郎「え?」

淡「遅いよ、きょーたろー! ソワソワしながら待ってたのに!」

京太郎「ごめん」

淡「きょーたろーは私に飽きちゃったの?って、不安だったんだからね!」

京太郎「ごめん。だけど、それは絶対にない。ありえないから」

淡「スミレ先輩が言ってたもん。こーして愛は冷めてくんだーって、ちょっとしたマンネリから男女の仲は終わるんだーって」

京太郎「誰だよそれ。何があっても俺の中の一番はお前だぞ」

淡「わわっ……」

577: 2014/04/06(日) 02:42:43.63 ID:QXcY3Rue0
淡の頬が緩み、俺を抑える力も弱くなる。

京太郎「よっと」

淡「あう」

上体を起こし、淡を抱きしめる。

京太郎「確かに俺はあの人たちに告白されたこともあるけど……」

淡「……」ビクッ

京太郎「けど、あの人たちは恩師であって、恋人じゃない。俺が愛してるのはお前だ」

淡「……ほんと?」

京太郎「うん」

淡「でも私、おっOい大きくないよ?」

京太郎「でも可愛いぞ」

淡「ひぇ」

京太郎「うん、めっちゃ可愛い。こうしてプルプル震えてるところとかもめっちゃ可愛い」

淡「へ、へんたいっ」

京太郎「何とでも言え。離さないけどな」

淡「……」モジモジ

縮こまって俺の胸にのの字を書く淡。
少しくすぐったい。

578: 2014/04/06(日) 02:44:17.39 ID:QXcY3Rue0

そうして暫く経ったころ。
俺の胸に顔を押し付けたまま、淡がポツリと口を開いた。

淡「じゃあさ」

京太郎「ん?」

淡「どうして、私のマネージャー、やってくんないの?」

京太郎「あー……」

淡「私がプロになったら大活躍は間違いなし、じゃん? 世界大会とかガンガン出ちゃったりして」

京太郎「そうだな」

淡「そしたら一緒にいられる時間は減っちゃうけど……きょーたろーが私の専属マネージャーとかやってくれたら、問題解決じゃん。
  私は活躍できて、きょーたろーは私と一緒にいられて、一石二鳥じゃん」

京太郎「……」

淡「やっぱり、あのオバ」

京太郎「だからそれはないって」

579: 2014/04/06(日) 02:47:24.62 ID:QXcY3Rue0
京太郎「……その、覚えてるか? かなり前に、お前が俺に言ったこと」

淡「どんな?」

京太郎「『清澄っても、案外大したことないんだね』って」

淡「……うん」

京太郎「確かにあの頃の俺は大して強くなかったし、お前をガッカリさせちゃったけど……けど、だからこそ。
    あの一言があったからこそ、ここまで麻雀にハマり込んだ」

淡「……」

京太郎「だから、なんつーか……お前はさ、俺の……目標、なんだよ」

淡「目標?」

580: 2014/04/06(日) 02:50:55.11 ID:QXcY3Rue0
京太郎「今は、まだ。お前の方が俺よりずっと強いけど」

京太郎「けどいつか、大学を卒業してプロになったら。お前に追いつきたい。お前の隣に立っていたい」

京太郎「こういうところで隣にいるお前も大好きだけど、麻雀で本気出した時の格好いいお前も好きだ」

京太郎「だから、麻雀の中でも、プロとしても……俺は、お前の側にいたいんだ」


淡「……」グリグリ

京太郎「うん。照れてる姿もめっちゃ可愛い」

淡「……いじわる」

京太郎「悪い悪い」

淡「もー……」

581: 2014/04/06(日) 02:54:16.35 ID:QXcY3Rue0
京太郎「それにさ。そっちの方が格好良くないか?」

淡「カッコイイ?」

京太郎「『トップ美人雀士とイケメン雀士! 二人揃って世界制覇!!』」

淡「あっ」

京太郎「健夜さんとか照さんとかぶっ倒してさ。トロフィー貰うんだよ」

淡「おお……」

京太郎「んでんで。優勝インタビューの時に、二人一緒に指輪付けてさ、発表するんだよ。
   『私たち、結婚します!』ってな。全世界釘付けだぜ」

京太郎「どうだ? めっちゃ凄そうだろ」

淡「うん! うんうん!! めっちゃイケてんじゃん、ソレ!!」

京太郎「な?」

582: 2014/04/06(日) 03:02:05.61 ID:QXcY3Rue0
京太郎「だからさ、俺も――お?」

淡「えいっ!!」

思いっきり力を込めて押し倒される。
ボフンッと音を立てて、再びマウントポジションを取られた。

京太郎「ど、どうした?」

淡「えっへへー」

一体なんだと見上げてみれば、そこにあるのは満面の笑み。

淡「マーキングするの」

京太郎「マーキン、ぐ!?」


喋っている途中で、口を口で塞がれる。


淡「アラフォーの人たち、しゅーねん深いし。やっぱりおっOい好きのきょーたろーは心配だし」

京太郎「おいおい」

淡「だからね、いーっぱい。顔にも体にも。私のものだよーって、マークをつけるの」

淡「覚悟してね、今夜は寝かさないからっ♪」

京太郎「いや、それは俺のセリフ――」

淡「だーい好きだよっ! きょーたろー!!」

583: 2014/04/06(日) 03:04:24.23 ID:QXcY3Rue0



……何だかんだで、コイツには主導権を握られっぱなしで。

俺の夢が叶うのは、当分先になりそうで。


淡「楽しみだなー……えへへ♪」


10年先でも、20年先でも。

俺の夢が叶った後でも、俺はコイツに振り回されっぱなしなのだろう。


京太郎「……まぁ、でも」


それで、淡の笑顔を隣で見続けることが出来るのなら。

悪くはないと、思っている俺がいた――



584: 2014/04/06(日) 03:05:25.04 ID:QXcY3Rue0




「――きろ! おきろー!!」


「わっ!?」





585: 2014/04/06(日) 03:07:16.69 ID:QXcY3Rue0

これから大事な試合があるというのに、人の膝の上で眠り続けていられる図太さ。

付き合ってから何年も経つが、こいつの性格が変わることはない。


淡「……ふぇ? あれ? トロフィーは? 指輪は?」

京太郎「まだ寝ぼけてるのか? トロフィーはこれから取りに行くものだし、指輪は」


ぎゅっと、淡の手を握ってやる。


京太郎「ここに、あるだろうが」

淡「……あ」

586: 2014/04/06(日) 03:11:05.85 ID:QXcY3Rue0
女雀士の頂点を決める大会。

瑞原はやり。小鍛治健夜。宮永照。

魔物の域を超え最早魔王とまで呼ばれる彼女たちとの対局を前にして、人の膝の上にヨダレを垂らして眠っていられる神経は、
ある意味見習いたいものがあるかもしれない。


京太郎「そんなんで大丈夫か?」


淡の勝利を疑っているわけではないが、今回は相手が相手なだけに不安になる。

そして、そんな俺の心配を根こそぎ吹き飛ばすように、淡は花の咲いたような笑顔を浮かべた。


淡「超よゆー! きょーたろーと一緒に考えた対策はちゃーんと覚えてるし、それに」


淡「こっちはきょーたろーの他にも、一緒にいてくれる子がいるんだから! ここに、ね♪」

587: 2014/04/06(日) 03:20:04.36 ID:QXcY3Rue0
京太郎「そうか。それなら、安心だな」

淡「うん!」


髪を撫でると、淡は嬉しそうに身を寄せた。


淡「今の私は100人力なんでものじゃないから! 相手がアラフォーだっていうなら私は――」

淡「アラウンド・ハンドレッドくらいの力があるからねっ!!」

京太郎「すげぇババアじゃねえか」


……やっぱり、ちょっと心配かもしれない。

588: 2014/04/06(日) 03:24:52.63 ID:QXcY3Rue0
京太郎「それじゃあ、待ってる。お前の勝利を信じてるよ」

淡「一瞬たりとも目を離しちゃ駄目だよ!!」

京太郎「わかってる。今日の対局は一生忘れないからな」


俺は解説席へ、淡は対局のために卓へ。

それぞれの役割のため、別々の方向に足を向けた。



「今日はよろしくお願いしますね」

京太郎「こちらこそ、よろしくお願いします」


実況席に座るアナウンサーと挨拶を済ませ、モニターに目を向ける。

小鍛治健夜、宮永照、瑞原はやり、そして大星淡。

画面越しだというのに凄まじいプレッシャーが伝わってくる。

もし高校時代の俺があの場にいたのなら、二度と麻雀を打てなくなっているだろう。

そんな大舞台でありながら、淡は一歩も引くことなく、堂々としていた。

589: 2014/04/06(日) 03:33:10.77 ID:QXcY3Rue0
健夜「よろしくお願いします」

照「よろしく、お願いします」

はやり「よろしくお願いしますねっ」

淡「よろしくっ!!」


照「……? 淡?」

淡「どったのテルー?」

照「いや、その指輪。どうしたの?」

健夜「あ」

はやり「え?」


淡「あ? 気付いた? 気付いちゃった?」フフンッ





京太郎「対局前に外しておけって言うの、忘れてた……」ダラダラ

「須賀プロ……?」

590: 2014/04/06(日) 03:34:52.03 ID:QXcY3Rue0
「おや、大星選手が勢いよく立ち上がりましたね。カメラに向かって指を突きつけています……トラッシュ・トークというわけではないようですが」

京太郎「自信満々な表情ですね……少し、嫌な予感がします」




淡「私! 大星淡はっ!!」


淡「この度晴れて、須賀淡になりますっ!!!」



照「え」

健夜「えっ」

はやり「ええっ」

591: 2014/04/06(日) 03:36:30.46 ID:QXcY3Rue0








淡「――私、この対局が終わったら、結婚します!!!」








592: 2014/04/06(日) 03:37:26.77 ID:QXcY3Rue0
照「」

健夜「」

はやり「」




「」

京太郎「」

593: 2014/04/06(日) 03:41:09.99 ID:QXcY3Rue0

やりやがった。

やらかしやがった。

終わった後であれば問題はなかったのだが。

今から戦いに赴くとなれば、また話が変わってくる。

『この対局』を『この戦争』とも言い換えることができる舞台を前にして、一番言ってはいけないことを、口にしてしまった。


健夜「……ふ、ふふふ」

淡「……?」

照「……淡。それだけは駄目。言っちゃ駄目だった」

淡「え?」

はやり「……無事に、終われると思う?」

淡「え、ええ?」


594: 2014/04/06(日) 03:47:45.73 ID:QXcY3Rue0
会場のプレッシャーがより一層強くなる。

3人の魔王の圧力が、全て淡へと圧しかかっている。

淡「ふぇ!? あ、あわわ……」

これには流石のアイツも平常ではいられないらしい。

慌てた様子で涙目となり、俺がいる実況・解説席への方向へと視線を向けた。


淡「た、助けてきょーたろー!!!」

京太郎「ちょっ!?」

595: 2014/04/06(日) 03:48:59.93 ID:QXcY3Rue0
こんな状態で俺の名前を呼ぶとは。

ギラリとした6つの眼光が、淡から外れて俺たちへと向けられる。


「ひぇっ!?」


隣のアナウンサーさんから怯えた震え声が漏れる。

無理もない。プロになって場数を踏んだ俺も、この空気はかなりキツい。


京太郎「あー、もう……」


こうなったら、もう。

どうにだって、してやろうじゃないかっ

596: 2014/04/06(日) 03:52:08.60 ID:QXcY3Rue0
京太郎「淡ーっ!!」


マイクを思いっきり握り締め、力の限り叫ぶ。


京太郎「愛してる! 大好きだっ!! お前に夢中だっ!!!」


淡「!!」


京太郎「だから、お前らしく打て! 俺の人生を決めた、あの時みたいにっ!!!」



淡「うんっ! うんっ!!」

597: 2014/04/06(日) 03:53:41.98 ID:QXcY3Rue0
「す、須賀プロ!!??」

京太郎「は、ははは……」


もうこうなってしまったら解説もクソもない。

学生時代からずっと、淡には振り回されてばっかりだ。

そしてこれからも氏ぬまで振り回され続けるのだろう。

だけど、それは――


淡「私もっ! 私も、大好きで、愛してるから!! きょーたろーっ!!!」


きっととても、幸せなことなのだと思う。

599: 2014/04/06(日) 03:57:31.96 ID:QXcY3Rue0







淡「カンッ!!」







600: 2014/04/06(日) 04:05:04.51 ID:QXcY3Rue0
というわけで同期のヤツのお話でした
淡編はここで終了となりますが、このスレはまだ続きます

それでは、ありがとうございました

601: 2014/04/06(日) 04:10:01.45 ID:qUsjxzvqO
乙 次は誰かな?

602: 2014/04/06(日) 04:33:18.75 ID:+MGtW2Qn0

次も期待してます

610: 2014/04/06(日) 23:22:35.33 ID:QXcY3Rue0
次は咲ちゃんとか咏さんとか戒能さんとかの小ネタをいくらかやった後で照ルートって感じですかね
えりちゃんの話もあまり長くならなさそうなので、照ルートの前にパパっとやっちゃうかもしれない
色々と考えてはいますが、モチベーションとかリアルの予定の都合でちょっと順番が前後するかもしれません


【咲-Saki-】京太郎「牌のおねえさんフォーエバー」【後編】


引用: 京太郎「牌のおねえさんフォーエバー」