576: 2016/01/11(月) 01:45:47.71 ID:YuTh0OAb0



最初から:【艦これ】鳳翔「あゝ栄光の、空母機動部隊!」
前回:鳳翔「あゝ栄光の、空母機動部隊!」【幕間9 ~きよしこの夜~】

第4話 ~ホープフル・ニューフェイス~


「――ふぅ、ようやく着いたか。ヨコスカからは遠すぎるな」

「ここが、マイヅルか。綺麗なところだ……伝統的な家屋も多いな、日本に来た実感がわく」

「こんな時勢でなければ、ゆっくり観光したかったところだが。そうもいかないな」

「日本最強の機動部隊がここに……さて、どんなものか楽しみだ」


「――しかし、なんだろうなこの天気は。今にも雨が降りそうな、そんな暗さだが」

「それだけではない、この胸のざわめきはなんだ」

「私としたことが、新天地への期待と不安で、動揺しているのか……」
577: 2016/01/11(月) 01:50:01.20 ID:YuTh0OAb0

「――あの、こんにちは。Graf Zeppelinさん?」

Graf Zeppelin「ん? ああ、そうだが」

蒼龍「よかった、すぐ見つかって。私、航空母艦の蒼龍です」

Graf Zeppelin「ソウリュウ……はじめまして、これから世話になる」

蒼龍「こちらこそ。それじゃ、鎮守府まで案内するね」


蒼龍(お肌、白くてきれいな子だなぁ。海外の艦娘はみんなそうなのかな)

Graf Zeppelin(この、きれいな肌の日焼け具合。歴戦の空母のようだ)

578: 2016/01/11(月) 01:56:02.35 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「あのー、呼び方なんだけど」

Graf「うん?」

蒼龍「グラーフさんでいいかな。伯爵って、ちょっと呼ばれ慣れてないと思うけど」

Graf「かまわない、呼びやすさが一番だ。ゴウにいっては何とやらだからな」

蒼龍「おー、よく知ってるね」

Graf「ふふ、勉強は頑張ってしたぞ」

579: 2016/01/11(月) 02:03:41.72 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「グラーフさん、今までは横須賀にいたんだよね」

Graf「ああ。とはいえ、ほとんど日本語の勉強と、戦術の座学で終わってしまったが」

蒼龍「配属も、まだ決まってないんだって?」

Graf「そうなんだ。BismarckやPrinz Eugenが先に来ているから、同じ艦隊になるかと思っていたんだが」

蒼龍「あー、海外の子はどこの鎮守府にいたっけかなぁ」

Graf「提督との相性と適性を見て、配属が決まるそうだよ」

蒼龍「そっかぁ。新しい空母の子が来るなんて久しぶりだからなあ」

580: 2016/01/11(月) 02:04:13.63 ID:YuTh0OAb0

Graf「そうなのか? 確かに正規空母は多いと聞いたが」

蒼龍「あはは、うちは戦力過多って言われてるから……」

Graf「なんにせよ、艦娘としての経験を積むには、最精鋭の空母が集っているここでジッチ、ケン……」

蒼龍「実地研修だね。いやあ、最精鋭なんて照れるなー」

Graf「本当のことだ。なにせ私は――」

蒼龍「え?」

Graf「……いや。後で話すよ」

581: 2016/01/11(月) 02:05:29.93 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「さて、まずは提督のところだね。こっちだよ」

Graf「ああ、頼む。だが蒼龍」

蒼龍「うん?」

Graf「マイヅルには、戦艦が4隻に航空母艦が6隻、その他の軍艦も多数いると聞いていた」

Graf「その割にはずいぶん静かだな。さほど広くは見えないが」

蒼龍「あー、これね。今日は出撃とか遠征なんかで、みんなほとんどいないのよ」

Graf「そうだったのか、忙しい時期にすまないな」

582: 2016/01/11(月) 02:06:59.61 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「それから、大規模改装中で外部の工廠に行ってる子もいるね。あとで紹介するけど」

Graf「ほう。空母なのか?」

蒼龍「そうそう、私の後輩だよ。仲良くしてあげてね」

Graf「私が教わる身だからな。こちらからお願いするよ」


蒼龍「――ああ、それから」

蒼龍「ここにいる空母は6隻じゃなくて、7隻だよ。貴女を入れたら8隻だね」

Graf「うん? そうだったか」

蒼龍「まあ、すこーし特別だけどね」

583: 2016/01/11(月) 02:08:03.85 ID:YuTh0OAb0


提督「第2艦隊、状況報告」

飛龍『――飛龍です。先ほど目的地に到着、脱落した船はなし』

飛龍『予定通り、物資の揚陸を開始しました。見届けたら帰投します』

飛龍『母港への到着予定時刻、本日一八○○――送れ』

提督「了解。次の定時連絡まで、少しでも異常があれば通信せよ――以上」


提督「第3艦隊、ボーキサイト輸送船団の護衛。第4艦隊、合同演習」

提督「久々のフル稼働だな。鳳翔、そっちは問題ないか」

鳳翔「はい。それぞれ連絡を受け取っていますが、順調ですね」

584: 2016/01/11(月) 02:09:01.42 ID:YuTh0OAb0

蒼龍「提督、お連れしました」

Graf「Guten Morgen! 航空母艦、Graf Zeppelinだ」

Graf「貴方がこの艦隊を預かる提督なのだな。そうか……よろしく頼むぞ」

提督「こちらこそよろしく。舞鶴へようこそ、歓迎するよ」

鳳翔「秘書艦の、鳳翔と申します。よろしくお願いしますね」


提督「出迎えなくてすまない。ちょっと、今日は予定が立て込んでいてね」

Graf「気にしないでくれ、敵は待ってくれないからな」

585: 2016/01/11(月) 02:10:29.24 ID:YuTh0OAb0

提督「早速みんなに紹介したいところなんだけど……」

提督「あいにく、ほとんど出払っててね。今夜の歓迎会までには揃う予定だから」

Graf「私の歓迎会か? 気恥ずかしいが……」


提督「長旅で疲れただろう。鳳翔、部屋に案内してあげてくれ」

鳳翔「はい。ついでに、鎮守府の施設も紹介しますね」

蒼龍「それじゃあ、秘書艦は私が代わるよ」

鳳翔「よろしくね。ではグラーフさん、こちらへ」

Graf「ああ、お願いする。――Admiral、また改めて、な」

提督「うん、ゆっくり休んでくれ」

586: 2016/01/11(月) 02:11:13.75 ID:YuTh0OAb0


Graf「――ええと、貴女は」

鳳翔「鳳翔、です。ほうしょう」

Graf「不勉強ですまない。名前を知っているのはアカギだけなんだ」

鳳翔「気にしないでください、まだ慣れていないでしょうから」

Graf「ある程度、勉強はしてきたのだが。どうも名前が独特で……」


鳳翔「焦らないでください。みんないい子たちばかりですから、すぐに仲良くなれますよ」

Graf「あ、ああ。しかし、航空戦力として経験を積むのが目的だから、早く覚えねば」

鳳翔「……ふむ」

587: 2016/01/11(月) 02:13:33.67 ID:YuTh0OAb0

鳳翔「もしかして、焦っているのは……」

鳳翔「自分には実戦経験がないから、でしょうか」

Graf「な……」

鳳翔「ごめんなさい、ちょっと調べさせてもらいました。私は配属艦の艦歴を把握することにしていますので」

Graf「……そうか」


Graf「その通りだ。私には経験がない……あの戦争においても、この体になったあとも」

Graf「空母なのに、艦載機を扱ったことがないんだ。不安になるのも当然だろう?」

鳳翔「……わかります」

Graf「まあ、だからこそ、一番航空戦力の充実した艦隊へ来たわけだが」

588: 2016/01/11(月) 02:14:44.27 ID:YuTh0OAb0

鳳翔「会ったばかりなのに、差し出がましいことを言うようですが」

Graf「うん?」

鳳翔「あの人……提督は、きっと良い采配をしてくれます。私が保証します」

Graf「信頼しているのだな」

鳳翔「ええ、長い付き合いですからね。あの人の下でずっと戦ってきた子は、みんなそうだと思いますよ」

Graf「…………」

鳳翔「それに、先ほども言いましたが。鎮守府の他の子にも頼ってみるといいですよ」

鳳翔「空母の子たちだけじゃなく、色んな子と話してみてください。きっといい経験になりますから」

589: 2016/01/11(月) 02:17:36.34 ID:YuTh0OAb0

鳳翔「私にも、困ったことはなんでも相談してくださいね。なんでもいいですよ」

鳳翔「お国の料理が食べたいとか、そういうのでも。こう見えてもお料理は得意だと思ってますので」

Graf「……ああ。ありがとう」



Graf(――なぜ初対面で、ここまで弱みを話してしまったんだ)

Graf(自分の過去を見透かされて、動揺してしまったのか……)

Graf(だが、まったく不快さを感じない)

Graf(それどころか、私を気づかう、あたたかな感情が伝わってくる――)

Graf(私より小さな体が、大きく見える)


Graf(……いったい、このひとは何者なのだろう)


602: 2016/02/24(水) 23:45:10.17 ID:v9LQex5P0





―― コンニチハー

Graf「――ああ、どうぞ?」

五月雨「失礼します、駆逐艦五月雨と――」

綾波「綾波です。スーツケースをお持ちしました」

Graf「ああ、ありがとう。わざわざすまないな」

綾波「ここに置いておきますね。――あ」

五月雨「あっ」

「「…………」」ジー

603: 2016/02/24(水) 23:46:12.12 ID:v9LQex5P0

Graf「……ん? 私の顔が、なにか?」

五月雨「どうしてそんなに!!」

綾波「お肌が白いんですか!?」

Graf「な、なに?」


綾波「私たち、出撃の前には日焼け対策をしてるんですけど」

五月雨「いくらやっても、ある程度は焼けちゃうんですよね」

Graf「そうだろうな。海面からの反射も強いだろうし」

605: 2016/02/24(水) 23:47:15.89 ID:v9LQex5P0

綾波「でも、グラーフさんみたいな真っ白な艦娘、初めて見ました!」

五月雨「どんな日焼け止め使ってるんですか!?」

Graf「い、いや違う。これは多分、日本生まれではないから」

綾波「ええっ、外国なら焼けないんですか!?」

Graf「そうではなくて、艦体のつくり自体が違うだろうから――」

五月雨「それじゃ、私も外国で改装してもらったらいいわけですね!?」

Graf「いや……うん。したいなら止めないが」

606: 2016/02/24(水) 23:48:34.46 ID:v9LQex5P0

綾波「艦娘のパスポートってあったっけ」

五月雨「ヨーロッパまでどうやって行こう」

「「うーん……」」

Graf(……日本の駆逐艦は変わっているんだな)


五月雨「――あ、そうでした。荷物を広げたら、執務室まで来ていただきたいそうです」

綾波「よかったらお手伝いしましょうか?」

Graf「いいのか? ありがとう」

607: 2016/02/24(水) 23:50:19.88 ID:v9LQex5P0





提督「――さて、改めて」

提督「航空母艦Graf Zeppelin。本日付けをもって、舞鶴鎮守府への着任を命ず」

Graf「Ja!」

提督「研修期間は2か月。その後の配属は、君の希望と各地の戦力、戦況を考慮して決定する」

提督「もちろんここでも構わない。早く馴染んでくれるように努力するよ」

Graf「感謝する、Admiral」

608: 2016/02/25(木) 00:03:54.55 ID:ZazPqgGp0

提督「研修の目的は、艦隊で問題なく動けるようになることと、艦上機の習熟だ」

提督「ここの方針、というより、どこでも基本だと思うけど――」

提督「練度がある程度上がるまでは、演習と遠征が主になる。出撃する場合も、鎮守府周辺海域がメインだ」

提督「出撃や遠征では、主に船団の護衛や航路の啓開。これはほぼ毎日だね」

提督「最初は、これらの任務に当たってもらいたい。異存ないかな」

Graf「ありません。――で、私の役目はいつから?」

609: 2016/02/25(木) 00:04:38.22 ID:ZazPqgGp0

提督「そうだなぁ、急ぐこともないと思うんだけど……」

Graf「鳳翔にもそう言われたが、期間も限られているからな」

鳳翔「それじゃあ、これから鎮守府近海まで出てみますか?」

Graf「おお。出撃か?」

鳳翔「他の皆さんが出撃や遠征、演習から帰ってくるときの、航路を警備するんです」

Graf「航路の警備?」

610: 2016/02/25(木) 00:06:13.09 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「鎮守府の周辺には艦隊だけでなく、はぐれ艦と呼ばれる敵艦もいるのですが」

Graf「はぐれ艦か、知っている。ヨコスカにもかなりの数がいたな」

鳳翔「ええ。危険性はそれほどでもないのですが……」


鳳翔「弾薬が少なくなった時や、演習用の装備の時に見つかると大変ですからね」

鳳翔「はぐれ艦はほとんどが駆逐艦や潜水艦1隻ですが、そのぶん行動も読みにくいのです」

Graf「なるほど。この鎮守府は慎重なのだな、Admiral」

提督「無事に帰る確率を上げるためだよ。作戦成功して帰り道にやられました、じゃ意味がないから」

611: 2016/02/25(木) 00:07:59.65 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「それほど遠くへは出ませんし、海域を覚えるにはいい機会じゃないでしょうか」

Graf「鳳翔が出てくれるなら心強い、私からもお願いする」

提督「――よし、わかった。今日の指導は鳳翔に任せよう」

鳳翔「お任せください! それじゃグラーフさん、工廠で艤装を着けてみましょう」

Graf「ああ、よろしく頼むよ鳳翔」


蒼龍「――もう仲良くなっちゃって。お母さん、なんだかうれしそう」

提督「はは、新しい子は久々だもんなぁ。いろいろ教えてあげたいんだろ」

612: 2016/02/25(木) 00:11:02.45 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「――ん? 天気がまた……」

蒼龍「……なんだか、変な色の雲が出てきたね」

提督「本当だな、いきなりどうしたんだろう」


蒼龍「ねえ提督。さっき外に出たときに思ったんだけどさ」

提督「ん、どうした。何かあったのか」

蒼龍「はっきりとはわからないけど……今日の空はちょっと変だよね」

提督「確かに妙な空模様だな。雲の流れも速いし、ひと雨来るのかな」

613: 2016/02/25(木) 00:11:35.48 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「気象台から報告は? 海が荒れそうだとか」

提督「私も気になって問い合わせたんだけど、特に強風も波浪も心配ないそうだよ」

提督「少し霧がかかるらしいが、これはよくあることだし」

蒼龍「そっか……うーん」


蒼龍「でも、なーんか気になるな。嫌な予感がする」

提督「……そうか」

614: 2016/02/25(木) 00:12:51.96 ID:ZazPqgGp0

提督「それじゃ、艤装の用意だ。ボイラーに火を」

提督「非番の子にも声をかけて、それから航空隊も地上配備しておくか」

蒼龍「え、いいの? 根拠ないよ」

提督「念のため、ね。今は自由に出せる戦力が少ないし、民間から要請が来た時に出せる戦力は必要だから」


提督「――それにどういうわけか、うちの悪い予感はよく当たる。私も含めてね」

蒼龍「そ、そうかなー? あはは……じゃあ、非番の子には私が言っとくから」

提督「うん、頼んだよ」

615: 2016/02/25(木) 00:14:00.92 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「では、行ってまいりますね」

提督「うん。くれぐれも……」

叢雲「気をつけて、でしょ。――ったく、いつまでも言うこと変わらないんだから」

満潮「言われなくても気をつけるわよ。何回も言うと、言葉の価値が下がるわ」

五月雨「2人とも、今日はいつもとちょっと違うんですよ! 油断しちゃダメです!」

Graf「世話になる。なるべく荷物にならないよう付いていくよ」

綾波「あ、大丈夫ですよ。そんなに肩に力入れないでください」

616: 2016/02/25(木) 00:15:19.29 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「あの、それから……」

提督「うん?」

鳳翔「い、いえ、あの」


鳳翔「帰ってきたら、渡したいものがありますので……楽しみにしていてくださいね」

提督「渡すもの? ――うん、わかったよ」

鳳翔「そ、それでは、出撃いたします!」


提督「――帰ってきたら、か。楽しみだな」

提督「何か立った気もするけど……」

617: 2016/02/25(木) 00:24:13.59 ID:ZazPqgGp0





蒼龍「――おかしいよ提督。本格的に霧が出てきた」

提督「そろそろ艦隊が帰投するのに、参ったな。いきなりどうしたんだ……」

蒼龍「第1艦隊も大丈夫かな。視界が悪いと、潜水艦だけじゃなくて水上艦も怖いね」

提督「そうだな。だから、綾波と叢雲には砲戦装備を積んだんだ」

蒼龍「いつもは対潜装備多めだもんね。――まあ、お母さんなら心配ないか」

提督「これ以上濃くならないうちに誘導灯の確認と、それから気象情報をもう一回見てみるか」

618: 2016/02/25(木) 00:29:52.27 ID:ZazPqgGp0

――バタァン!


大淀「て、提督、大変です!」

提督「どうしたんだ、慌てて」

大淀「帰還中の第2、第3、第4艦隊からの通信が途絶えました!」

「「!!」」


大淀「定時連絡も、こちらからの通信への応答もありません!」

提督「何だって!? 3艦隊分、全員からか!!」

蒼龍「ということは、故障じゃないよね。これはやっぱり――」

619: 2016/02/25(木) 00:30:45.57 ID:ZazPqgGp0

――バァン!!


明石「――て、提督!!」

提督「今度は明石か。どうした?」

明石「この霧です! 帯電した霧が、通信を阻害しています!!」

蒼龍「ああ……嫌な予感、当たってほしくなかったのに」


大淀「ど、どうしましょう。艦隊がお留守の時に……」

明石「すぐに動ける子は少ないです。それに、出しても通信できなくては――」

620: 2016/02/25(木) 00:32:42.21 ID:ZazPqgGp0

提督「――落ち着け。飛龍の第2艦隊、赤城の第3艦隊は近くまで戻っているはずだ」


提督「蒼龍! 航空隊に電文を持たせて、直接届けてやってくれ」

提督「この霧のことと、航行速度を上げて早く戻るように、と」

蒼龍「わかった。――翔鶴と瑞鶴にはどうする?」

提督「第4艦隊は離れたところだからな。あまり航空隊をそれぞれに振り分けすぎると、遭遇できないかもしれない」

提督「まず確実に第2、第3と連絡をとって、その後全力で第4艦隊と接触する」


提督「――速さが肝心だ、頼むぞ蒼龍」

蒼龍「了解。任せてね!!」

621: 2016/02/25(木) 00:33:43.97 ID:ZazPqgGp0

提督「明石。横須賀の司令部と、各鎮守府に連絡を取ってくれ」

提督「有線は繋がるよな? とにかく情報を集めるぞ、通信もあらゆる周波数を試してみるんだ」

提督「大淀は全ての艦娘を作戦室へ集めてくれ。後で状況を説明する」

「「了解!!」」



提督「……鳳翔」

提督「すぐ、気付いてくれていればいいんだが」

622: 2016/02/25(木) 00:42:57.30 ID:ZazPqgGp0





鳳翔「――いかがですか、調子は?」

Graf「問題ない。波が高いのには驚いたが」

鳳翔「艦上機もいい動きです。特に心配もいりませんでしたか」

Graf「ああ――それにしても、この爆撃機は素晴らしいな!」

Graf「急降下の速度も、機動性も申し分ない。この国の技術には、まったく感服するよ」

鳳翔「ふふ、ありがとうございます。私もうれしいです」

鳳翔「国というより、この国の妖精さんの技術力ですけどね」

623: 2016/02/25(木) 00:44:31.29 ID:ZazPqgGp0

Graf「この艦上機は、何と呼ぶのだったかな?」

鳳翔「彗星一二型甲、我が艦隊の主力爆撃機ですね」

Graf「そうか、Komet……スイセイの上位機か。この性能で、主力機として揃えられているとは驚いたぞ」

鳳翔「いえいえ。グラーフさんは初めて扱うでしょうに、お見事な腕です」

Graf「それだけ、こちらの搭乗員が優秀なのだろう」


Graf「――私が連れてきたスツーカ隊も、まだまだ成長できそうだな」

鳳翔「そうですよ。じっくりと練度を上げていってください」

624: 2016/02/25(木) 00:45:45.19 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「ただ、少々霧が深くなってきましたね。せっかく調子が出てきたところで申し訳ありませんが……」

鳳翔「今日のところは、早めに切り上げたほうがいいでしょうか」


綾波「――あ、あれ」

五月雨「どうしたの?」

綾波「いきなり電探から雑音が……故障かな」

叢雲「こっちも同じよ。33号が同時になんて……鳳翔さん!」

鳳翔「――ええ、故障ではありませんね。異常事態のようです」

625: 2016/02/25(木) 00:46:32.08 ID:ZazPqgGp0

鳳翔「お2人とも、ソナーの動作は?」

五月雨「問題ありません、正常に動いてます」

満潮「私も大丈夫。聞き取りにくいこともないわね」

鳳翔「ということは、通信に問題が……これは、早く帰投した方がよさそうですね」

鳳翔「今回はここまでにしましょう。艦隊は進路を――」


―― ズゥウウン……


「「「!?」」」

626: 2016/02/25(木) 00:47:19.54 ID:ZazPqgGp0

Graf「い、今の音は!?」

綾波「戦艦の砲撃音です!! 霧の向こうで、発砲炎がかすかに!!」

鳳翔「早く散開を――グラーフさん!!」

Graf「!!」

鳳翔「が、っ……」

Graf「ほ、鳳翔!?」

鳳翔「……だ、大丈夫ですから……早く……」

Graf「私が曳航する! 誰か先導を!!」

627: 2016/02/25(木) 00:51:51.19 ID:ZazPqgGp0




飛龍「お? おーい赤城さん、加賀さん」

赤城「飛龍、戻ってましたか」

飛龍「ついさっきね。――妙な騒ぎになったわね」

加賀「これでは歓迎会も、微妙な雰囲気になりそうね」

赤城「そんなことありませんよ、お母さんの料理を食べれば!」


提督「――戻ったか。おつかれさま」

飛龍「おつかれさまです……どうしたの、暗い顔して」

提督「……それが、な」

628: 2016/02/25(木) 00:52:26.71 ID:ZazPqgGp0


赤城「――お母さんが、大破!?」

提督「いつも通り、近海警備に出たんだ。そうしたら普段は見ない深海棲艦と遭遇したらしい」

加賀「見ないとは?」

提督「五月雨が言うには、戦艦級の砲撃だと。改修が済んだ鳳翔を大破させる威力だ」

飛龍「もしかして、この霧のせい?」

提督「詳しいことはまだわからない。帰ってきて早々すまないが、補給はしておいてくれ」

赤城「……了解しました」

629: 2016/02/25(木) 00:54:15.59 ID:ZazPqgGp0

赤城「……加賀さん、飛龍」

飛龍「あー、何考えてるか大体わかるよ」

加賀「私も同じです――このままお母さんをやられたままで、黙っていられませんね」

赤城「よし、ではすぐ補給を」


赤城「――そうだ、蒼龍は……」

蒼龍「――ここにいるよ。お帰り、みんな無事でよかった」

飛龍「そっちも1人で大変だったでしょ。おつかれさま」

蒼龍「うん。お母さんはもう入渠したから、心配しないで」

赤城「そうですか……よかった」

630: 2016/02/25(木) 00:55:14.09 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「それで、するんでしょ? かたき討ち」

飛龍「蒼龍、いっしょに行こうよ!」

蒼龍「気持ちはみんなと同じだけどさ……」


蒼龍「鎮守府に誰か1人、空母はいないと。私まで出たら、基地航空隊を指揮できなくなっちゃうでしょ」

蒼龍「五航戦の2人も、誘導してあげないとね。ひと段落したら、私も追いかける」

加賀「わかったわ。提督にはうまく言っておいてね」

蒼龍「しょうがないなあ、もう――気をつけるんだよ、3人とも!」

631: 2016/02/25(木) 00:57:47.42 ID:ZazPqgGp0


提督「――なに、鳳翔に高速修復材を?」

提督「だめだ、だめ! すぐ直ったら、すぐ出撃したがるに決まってる」

提督「大変なときに寝てられないとか言ってな。修復材はだめだ」

提督「修理はどれくらいかかる? ――およそ11時間? わかった、それまで寝かせてやってくれ」


蒼龍「提督ー」

提督「おお、蒼龍。赤城たちはどうした」

蒼龍「え、えっと……」

632: 2016/02/25(木) 00:58:26.59 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「――ご、ごめん。またすぐ出ていっちゃった」

提督「出ていった?」

蒼龍「お母さんのかたき討ちに、3人で」

提督「……3人でか」


蒼龍「えっと、あのですね。私たちの気持ちも酌んでほしいなっていうか――」

提督「まったくもう……すぐ護衛を出さないと」

蒼龍「あ、あれ? 怒らないの?」

633: 2016/02/25(木) 00:59:16.91 ID:ZazPqgGp0

提督「少しは予想できてたし、それに」

提督「自分が赤城たちの立場だったら、同じことをしてたかもしれん」

提督「好き放題やられて、怒ってないわけじゃないんだ」

蒼龍「おお。久々に怒りをあらわに」


提督「とはいえ、ちゃんと飛行機で連絡は取りあっておいてくれよ」

蒼龍「それは大丈夫。よく言っておいたから」

提督「第4艦隊も帰ってくるし、すぐ後詰の艦隊を編成しよう。作戦室へ行くぞ、蒼龍」

蒼龍「うん!」


提督「……と、その前にグラーフを探さないと」

634: 2016/02/25(木) 01:00:16.20 ID:ZazPqgGp0


鳳翔「すぅ……すぅ」

Graf「…………」


提督「入るぞ――やっぱりドックだったか」

Graf「……Admiralか」

提督「五月雨たちから、大体の事情は聞いたよ。最初の出撃から災難だったね」

Graf「…………」

635: 2016/02/25(木) 01:00:53.11 ID:ZazPqgGp0

提督「わかりやすく落ち込んでるな」

Graf「……当然だろう。鳳翔は私をかばって被弾したんだぞ」

提督「初めに言っておくが、君に落ち度はないぞ」

Graf「なに?」


提督「電探が使えず、航空隊も電信を打てず」

提督「それに、戦艦級がこの海域まで出ることは想定外だった。艦隊の誰も予測できないことが起きたんだ」

提督「最終的に、出撃の許可を出したのは私だ。艦隊の損害は、すべて私の責任と言えるな」

636: 2016/02/25(木) 01:03:44.82 ID:ZazPqgGp0

Graf「……貴方たちの信頼の深さは、今日会ったばかりの私にも伝わるほどだ」

Graf「ならば今回の敗北と損害は、一番練度の低い者のせいだとは思わないか」

提督「――あのな。今回は負けだと思ってるかもしれないが、それは違うんだぞ」

Graf「なんだと? 大破して撤退すれば、それは……」

提督「ああ、そうじゃなくて。私たちの敗北の考え方は違うんだ」

Graf「……どういう意味だ?」

637: 2016/02/25(木) 01:04:23.27 ID:ZazPqgGp0

提督「あー、これは私が尊敬してる人の考え方でもあるんだけど」

提督「大破だろうが撤退しようが、大事なのは沈まないこと……生きていることなんだ」

Graf「…………」


提督「出撃した全員が、沈まずに帰還する」

提督「それだけで大勝利なんだよ、グラーフ。もう少し経験を積めば、君もわかるはずだ」

Graf「……鳳翔も、そう思っているか?」

提督「言葉を交わしたわけじゃないけど、きっと」

638: 2016/02/25(木) 01:05:19.71 ID:ZazPqgGp0

Graf「――Admiralが言いたいことは、わかる気がする」

提督「うん。そうか」

Graf「しかし、私にはまだ、それを心するだけの経験がない」

Graf「言葉だけわかっていても意味がないからな。経験と実践が、自分の実力となる」

提督「そうだな、そう思うよ」


Graf「……聞いていた通り、ここは素晴らしい艦娘が揃っているようだ」

提督「そうとも。自慢の子たちだよ」

639: 2016/02/25(木) 01:06:28.25 ID:ZazPqgGp0

Graf「というわけで……ここにいる間、Admiralと鳳翔から、できる限りのことを学ばせてもらう」

Graf「――これからよろしく頼むぞ、Admiral」

提督「うん。こちらこそ」

Graf「鳳翔も、よろしく頼む」

鳳翔「……ん」


Graf「早く元気になってくれ……!」

提督「い、いや、病気なわけじゃないから。普通に修理だから、大丈夫だよ」

642: 2016/02/25(木) 01:33:50.30 ID:ZazPqgGp0





赤城「――さて、偵察ですが」

加賀「妖精さんたちも、この視界では困難だと言っていますね」

飛龍「彩雲隊はさすがに目が良いね。こっちは出せそうだよ」

加賀「……でも無線が使えないのでは、見つけても打電できないわ」


飛龍「あんまり使ってなかったけど、妖精さんと視界をリンクしてみよう」

赤城「大丈夫ですか? 負担もかかるし、今は視界も悪いですが」

飛龍「しんどいからねぇ。艦隊の発見までは妖精さんに任せるわ」

643: 2016/02/25(木) 01:35:12.66 ID:ZazPqgGp0

赤城「――電探と無線はやはりダメですか?」

加賀「そうですね、ノイズばかりで使えません」

赤城「誘導灯を見失わないように。はぐれたら、冗談じゃなく遭難してしまいますよ」

加賀「まあ、こんな状況で空母だけが航行しているのもおかしな話ですが」

飛龍「駆逐艦も連れずに飛び出しました、なんてお母さんが知ったらなんて言うだろ……」

赤城「……冷静に考えたら、恐ろしくなってきましたね」

644: 2016/02/25(木) 01:37:25.35 ID:ZazPqgGp0

加賀「ところで……戦艦の砲撃を受けたとのことでしたが、敵艦隊が1つとは限りませんね」

赤城「ええ。かたき討ちとはいえ、無茶はできません。帰ったら提督にもお母さんにも怒られますし」


飛龍「――むっ、彩雲が敵艦隊に触接! 空母ヲ級、3隻を含む」

加賀「こんなところに機動部隊が……やはり今日はおかしいわね」

赤城「ヲ級が3隻ですか、相手にとって不足なし。全攻撃隊――」


飛龍「――いや、待ってください! 白旗が見えます」

赤城「白旗……? まさか、今までそんな意思表示など……」

645: 2016/02/25(木) 01:39:11.44 ID:ZazPqgGp0

赤城「……攻撃隊は出すべきです。ただし上空待機で」

加賀「同感ですね。了解」

飛龍「了解――でも、相手は航空機、出してないみたい……」


―― ヒリュウー!!


飛龍「……ん?」

ヲ級Y「ヒリュウー!! ワタシだー!!!! ケッコンしてクレーーーー!!!!」

飛龍「」


加賀「……飛龍、貴女まさか」

飛龍「やめてそんな目で見ないで」

646: 2016/02/25(木) 01:40:50.38 ID:ZazPqgGp0

赤城「……なんか1隻、まっすぐ向かってきますが」

加賀「こちらの位置がばれていたこと、ヲ級のあの態度からして……」

加賀「――正直に吐きなさい。怒らないから」

飛龍「やめてぇええ!! スパイでも百合でもないから!!」

加賀「冗談よ」


赤城「……どこかで見たと思ったら、あの3隻は」

飛龍「MI島で何回も戦ったヲ級じゃん! なんでこんなとこにいるのよ!!」

647: 2016/02/25(木) 01:42:51.29 ID:ZazPqgGp0

ヲ級Y「覚えててクレタノ!? ワタシ感謝感激雨アラレ!!」

飛龍「うわ、もう来た! 貴女、何度も何度も私に向かってきた――」

ヲ級Y「そうッ! あの時、アナタにボコられたヨーキィだよォ!!」

飛龍「それ名前!? 言われてもわかんないって!!」

ヲ級Y「ズーット大好キだったんだァ! 私のアイを受け止めてェ!!」

飛龍「今まで話したことすらないでしょ! そもそも貴女しゃべれたの!?」

ヲ級Y「ヒリュウとオハナシがしたくてサ、一生懸命日本語をベンキョウ――」

648: 2016/02/25(木) 01:43:38.31 ID:ZazPqgGp0

赤城「――そこまで。止まりなさい」

ヲ級Y「!!」


赤城「面識があろうが白旗を掲げようが、警戒を解いていい理由にはなりません」

赤城「私たちの宿縁はそれほど浅くないはずです」

ヲ級Y「わ、わかったよォ。こんな近くで弓向けないでェ……」

加賀「……ここまで殺気を感じない深海棲艦は初めてね」

649: 2016/02/25(木) 01:45:21.74 ID:ZazPqgGp0

ヲ級H「――はー、やっと追いついた」

ヲ級E「…………」

赤城「……また増えましたね」

加賀「落ち着いて。いつでも攻撃できます」


ヲ級H「姉さん、1人で行かないでって言ったでしょ!」

ヲ級Y「ゴメンゴメン、姿が見えたら抑えられなくなってさァ」

赤城「――貴女はたしか、機動部隊H群の旗艦……」

650: 2016/02/25(木) 01:47:16.73 ID:ZazPqgGp0

ヲ級H「H群? ああ、あの時アンタたちが勝手につけたコードね」

ヲ級H「そうよー、名前はスティンガー。お久しぶりね、赤城」

赤城「MI作戦の暗号を読んでいたのですか!?」

ヲ級H「あー、安心して。まともに読もうとしてたのなんて、私と姫サマだけだし」

ヲ級H「断片的にしかわからなくて、アンタたちの作戦が終わるまでには役に立たなかったわ」


ヲ級H「――信じるかは自由だけどね」

赤城「…………」

ヲ級H「まさか2年前と同じ暗号使ってないと思うけど、私たちをそこまで見くびらないほうがいいわよ」

651: 2016/02/25(木) 01:48:41.21 ID:ZazPqgGp0


ヲ級E「…………」

加賀「……?」

ヲ級E「ご無沙汰しておりマス、加賀。2年近く振りでスネ」

加賀「ああ、これはどうもご丁寧に」

ヲ級E「あの時は航空戦だけでしたガ、ウチの子たちを揉んでくださっテありがとうございまシタ」


ヲ級E「機会があれバ、またお手合わせヲお願いしマス」

加賀「……こちらは遠慮したいわね、何度も挑みかかってくるヲ級など」

ヲ級E「それは残念デス。――アア、ラッキーとお呼びくだサイ」

加賀「しぶとそうな名前ね」

652: 2016/02/25(木) 01:50:00.48 ID:ZazPqgGp0


赤城「……なぜ、こんな悠長に話し合いなど……」

赤城「私たちは敵同士なんです。MI作戦で、こちらが受けた損害を考えれば」

赤城「ここで見逃せば、他にどんな被害が出るかわかりません」


ヲ級Y「ンー? その言い方はチョット、勝手すぎるんじゃないかなァ」

赤城「なんですって?」


ヲ級H「突然、攻めてきたのはそっちでしょ。せっかく作った滑走路、壊してくれちゃってさー」

ヲ級E「私たちハ、自身と姫サマを守るために、戦っていただけデス」

653: 2016/02/25(木) 01:51:00.57 ID:ZazPqgGp0

ヲ級Y「アカギ、アナタが戦う理由は知らないケド」

ヲ級Y「こっちにだってちゃんとした理由があるのさァ、押し付けてもらっちゃ困るよォ」


加賀「一理ある……と、言いたいところだけど」

加賀「そんな話をするためだけに、ここへ来たわけではないでしょうね」

飛龍「そうよ。太平洋にいた貴女たちが、どうして日本海にいるの」

ヲ級E「そっちの理由はちゃんとありマス。――アナタたちの、後ろ、デス」

654: 2016/02/25(木) 01:51:57.77 ID:ZazPqgGp0

赤城「後ろ? ――!!」


飛行場姫「――あら、懐かしい顔がそろってるわね」

北方棲姫「こーわん! ゼロトレップウ、イッパイトンデル!」

港湾棲姫「そうね。でも、まだ手を出しちゃだめよ」


加賀「なっ……姫が、3体!?」

飛龍「そ、そんなまさか! いつの間に後ろに!?」


飛行場姫「限界まで気配を押さえれば、レーダーやソナーをかいくぐれるのよ。貴女たちが鬼、姫と呼んでいる子だけだけどね」

飛行場姫「ま、この状態になるとすぐ戦闘できなくなるんだけど」

655: 2016/02/25(木) 01:52:47.35 ID:ZazPqgGp0

加賀「……確かに、殺気は感じませんが。はいそうですかと信じるわけにもいきません」

飛龍「こっちも航空隊は飛ばしてあるからね。痛み分けくらいには持ち込めるよ」

赤城「その通りです。目の前の敵を素通りさせるなど――」

北方棲姫「ネーネー」クイクイ

赤城「きゃあっ!! な、なんですか!?」


北方棲姫「オカーサンハ? イナイノカ」

赤城「え、ええ。今は鎮守府ですけど……」

656: 2016/02/25(木) 01:53:52.99 ID:ZazPqgGp0

北方棲姫「ソウナノカ……」

港湾棲姫「今度会いに行きまショウ。ネ?」

北方棲姫「ウン!」


飛龍「え、ちょっと。会いに行くって鎮守府へ?」

加賀「そもそも、なぜお母さんに会いたいのかしら」

港湾棲姫「少し前にデスネ、地上へ買い物に行ったときニ――」


―― ガヤガヤ……

657: 2016/02/25(木) 01:54:50.01 ID:ZazPqgGp0

赤城「だからなんで仲良く……まったく」

飛行場姫「――えーと、いいかしら?」

赤城「あ、はい」


飛行場姫「私も、タダで通ろうとは思わないわよ。そちらに仁義は通そうじゃないの」

赤城「……? 何をするつもりです」

飛行場姫「妖精さん、回線を開いてね。相手は――」

658: 2016/02/25(木) 01:55:45.33 ID:ZazPqgGp0


大淀「――て、て、て、提督!!」

提督「どうした大淀。メガネずれてるぞ」

大淀「し、司令部施設に通信が入りました……」

提督「通信? 霧がかかってるのにそんなバカな――誰からだ」

大淀「それが……とにかく来てください、通信室です」

提督「あ、ああ」

659: 2016/02/25(木) 01:56:24.16 ID:ZazPqgGp0

―― ザザザ……


飛行場姫『――あーあー、マイクテス、マイクテス』

北方棲姫『――ホッポガ!! ホッポガヤル!!』

港湾棲姫『――コラ! 大事なお話なの、邪魔しちゃダメ!』


飛行場姫『ハローCQ。こちらリコリス・ヘンダーソン』

飛行場姫『――なんちゃってー』


提督「…………」

提督「は?」

660: 2016/02/25(木) 01:59:18.81 ID:ZazPqgGp0

提督「ちょっと待て、ちょっと待ってくれ」

飛行場姫『忘れちゃった? 結構いろんなところで会ってるでしょ、アイアンボトムサウンドとか』

提督「忘れるものか。そして二度と会いたくなかった」

飛行場姫『つれないわねぇ。まあいいけど』


飛行場姫『改めてこんにちは、私はリコリス。ひさしぶりね、最強の機動部隊の司令官さん』

飛行場姫『よくもまあ、いろんな所に出張って、妹たちをボコボコにしてくれたわね』

提督「必氏なのはお互いさまだ」

661: 2016/02/25(木) 02:03:10.72 ID:ZazPqgGp0

提督「なぜこの霧の中で通信できる?」

飛行場姫『私の装備をなめないでいただきたいわね。単純に、この程度の帯電は問題にならない性能ってだけよ」

飛行場姫『むしろそっちが、その程度の通信設備しか持ってないとはびっくりよ』

飛行場姫『――艦娘も苦労してるわねぇ。うふふ』

提督「敵に心配される筋合いはないわ!」


提督「ふう……通信してきた理由は? いや、そもそもなんで日本海にいるんだ」

飛行場姫『それを今から話そうと思って、貴方につないだのよ』

飛行場姫『目の前の空母たちに話すついでに、貴方に聞いてもらえば話が早いと思ってね』

662: 2016/02/25(木) 02:04:34.54 ID:ZazPqgGp0

提督「赤城たちが目の前にいるのか!?」

飛行場姫『お互いに手は出し合ってないし、こっちはそのつもりもないから安心して』

提督「話し合ったこともない相手を信用しろと?」

飛行場姫『最後まで聞いてから判断すればいいわよ。話はこっちの身内と、貴方の空母に聞こえてるからそのつもりでね』


提督「……どういう状況かわからないが、とにかく聞くしかないようだな」

飛行場姫『話が早くて助かるわ。――わかってると思うけど、この霧のおかげで傍受される心配はないわよ』

提督「深海棲艦の姫と話したなんて、誰も信じちゃくれないよ」

663: 2016/02/25(木) 02:06:22.51 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫『目的は、ここを通って南方海域まで逃げることよ』

提督「逃げる? どういう意味だ」


飛行場姫『――私たちは特性として、根拠地になる陸地と滑走路が必要なんだけど』

提督「ああ、陸上型か」

飛行場姫『去年の夏の攻撃で、私の島が使い物にならなくなってね。北方海域にある、妹の島に厄介になってたんだけど』

飛行場姫『最近、海域を追われた子たちが私たちの島に逃げ込んでくるようになったのよ』


飛行場姫『奪われた海域を攻めてくれって、うるさく言うようになった。それが嫌になって、別の島を探しに行こうとしてるわけ』

664: 2016/02/25(木) 02:07:29.91 ID:ZazPqgGp0

提督「太平洋を南下せずに、日本海を通っているのは……」

飛行場姫『単純に、迂回すればその子たちに見つかりにくいかと思っただけよ』


提督「深海棲艦にも、戦いを嫌う者がいたとはな」

飛行場姫『私たちは積極的に戦いたいわけじゃないわよ? 貴方たちが攻めてくるだけで』

飛行場姫『来るな来るなって言う子もいたでしょ。まあそれでも来るんだから、身を守るために戦うしかないわね』

提督「…………」


飛行場姫『要するに、いま北方海域は戦力が集中してるわ。この情報をどう使うかは貴方の自由』

665: 2016/02/25(木) 02:08:39.46 ID:ZazPqgGp0

提督「そんなことを私に教えて、そちらにどんなメリットがあるんだ」

飛行場姫『ないわよ? 私たちはただ、ここを通って行きたいだけ』


飛行場姫『――だから戦おうとしないで、通してくれるとうれしいわ』

提督「事を構えたくないのはこちらも同じ。姫を3体も相手など、できれば避けたい」


飛行場姫『あら、戦意がないのは伝わった?』

提督「赤城が話を聞こうと思ったのは、そういうことなんだろう」

飛行場姫『信頼されてるのね、うらやましい』

666: 2016/02/25(木) 02:12:09.57 ID:ZazPqgGp0

提督「――こっちからいくつか聞きたい」

飛行場姫『どーぞ。私たちが困らないことは答えてあげる』


提督「自然現象でないことは確認してるが、この霧は君たちの仕業か?」

飛行場姫『いいえ。私たちや練度の高い子なら、海域の天気を変えたりはできるけど、今回はしていない』


提督「この霧は、移動に都合がいいかと思ったんだが」

飛行場姫『おバカさん。天気を変えるのは戦うときだけよ』

飛行場姫『今はこっそり行きたいのに、電波障害起こしながら移動したら、近くに来てますって言いふらしてるようなもんじゃないの』

提督「……む……」

667: 2016/02/25(木) 02:13:41.72 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫『霧を出した子は他にいるってことね』

提督「そうだ、多分それに関連してると思うんだが」


提督「少し前に、艦隊と戦って空母を大破させなかったか? 舞鶴の艦隊なんだが」

飛行場姫『いいえ。あの子たちにも聞かれたけど、大破させたのは戦艦でしょ? 私の仲間は空母しかいないわよ』


提督「そうか。その戦艦級が、この海域にいる理由を知らないか」

飛行場姫『さっき言った、追われて逃げてきた連中だと思うわ』

飛行場姫『かなり遠くまで暴れたがってる、血気にはやった子もいたからね』

668: 2016/02/25(木) 02:15:23.14 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫『もしかしたら、その中に霧を出せるくらいの力を持った子もいたかもしれない』

提督「鳳翔を大破させる実力か……納得できるな」


飛行場姫『ああ、それから。この霧はもうすぐ晴れるわよ』

提督「そうなのか?」

飛行場姫『ええ。霧を見れば、実力の程度は大体わかる』

飛行場姫『1日ももたない霧なんて、私にくらべれば未熟もいいとこよ。うふふ』

669: 2016/02/25(木) 02:17:57.14 ID:ZazPqgGp0

提督「……なるほど。知りたいことは大体わかった」

飛行場姫『あら、もういいの? こんなサービス滅多にしないんだけど』

提督「まあ、貴重な経験には間違いないな。わざわざ敵の情報を、敵の姫が流してくれるとは」


飛行場姫『私がウソをついていない保証はないわよ?』

提督「残念ながら、私はそれを証明できない」

提督「だから、ここを素通りしたいという、こっちに都合のいいことを信じさせてもらう」


飛行場姫『……ふーん』

飛行場姫『ま、話が通じないよりはマシね』

提督「ほめ言葉として受け取っておく」

670: 2016/02/25(木) 02:19:37.64 ID:ZazPqgGp0

提督「――霧が出てるうちに、もう行ったらどうだ」

提督「他の鎮守府の艦隊に見つかっても、私はかばったりはしないぞ」

飛行場姫『言われなくても。――じゃあ、もう行くから』

提督「ああ」


飛行場姫『次は、もうちょっとゆっくりお話ししたいわ……なんてね』

提督「会いたくないと言っただろ。――以上だ」

飛行場姫『ハイハイ、じゃあねー』

671: 2016/02/25(木) 02:20:40.40 ID:ZazPqgGp0

ヲ級Y「ヒリュウー! 次会ったらケッコンしてねェーー! 今度タキシード贈るからァーー!!」

飛龍「私がお婿さんかよ!! 嫌だよそんなの!!」


ヲ級H「じゃあね、次は戦場以外で会えるといいわね」

北方棲姫「マタネー」

ヲ級E「失礼いたしマス」


加賀「……また会う、ね。願っていいのかしらね」

飛龍「いいわけないでしょ! もー、頭がクラクラしてきた……」

672: 2016/02/25(木) 02:21:51.04 ID:ZazPqgGp0

港湾棲姫「赤城サン」

赤城「はい?」

港湾棲姫「アノ、コレ。鳳翔サンに、渡していただけますカ?」

赤城「お母さんに? どういうことです」

港湾棲姫「お礼デス。以前ウチノほっぽが、お世話になりまシテ」

赤城「なんですって? お世話どころか、戦ったことしかないでしょう」

港湾棲姫「イエ、あるのデス――私も変装していまシタから、おそらく覚えていないでしょうガ」

赤城「……?」

673: 2016/02/25(木) 02:22:39.25 ID:ZazPqgGp0

港湾棲姫「都合が悪ければ、私のことは隠して構いまセン。皆さんで召し上がってくだサイ」

赤城「た、食べ物ですか? 私たちとは食べられるものが違うんじゃ」

港湾棲姫「ただのスパイスですカラ。カレーにでも入れてくだサイ」

赤城「なぜスパイスなのですか?」

港湾棲姫「カレーが美味しいのはいいことデス」

赤城「……よくわかりませんが、それは同意します」

674: 2016/02/25(木) 02:25:02.24 ID:ZazPqgGp0

飛行場姫「――ああ、最後にこれあげる。持ってくといいわ」

赤城「……? なんですか、これは」

飛行場姫「この付近まで迷い込んでる、水上打撃部隊の航路情報」

飛行場姫「さっき、私の飛行隊が見つけたの。戦艦が3隻くらい混ざってたわよ」

赤城「…………」


飛行場姫「ふふっ。貴女の考えてること、わかるわよ。なぜ仲間の情報を渡すのかって?」

飛行場姫「でもね、今の私の仲間は、こうして付いてきてくれるこの子たちだけ。裏切り者と言われても構わない」

飛行場姫「それだけの覚悟が、私にはある。そう思ってもらいたいわね」

675: 2016/02/25(木) 02:27:08.45 ID:ZazPqgGp0

赤城「……そうですか。それについては、何も言いません」

飛行場姫「あら?」

赤城「貴女の目。仲間を想う気持ちに、嘘は見えませんから」

飛行場姫「そう……ウフフフ」

飛行場姫「もう少し、貴女みたいな子が増えてくれればねぇ」



飛行場姫「――では、ごきげんよう。忌々しき栄光の機動部隊の皆さん」

飛行場姫「次は、静かな海で会いましょう」

676: 2016/02/25(木) 02:38:34.94 ID:ZazPqgGp0


赤城「…………」

加賀「行きましたか。狐につままれたような出来事でした」

飛龍「いっそ、本当に幻ならよかったのに。このままおとなしく忘れてくれないかな……」


赤城「――私たちも行きましょうか。この座標に向かってみましょう」

加賀「それが、お母さんをやった艦隊でしょうか」

飛龍「霧も薄くなってきたし、航空隊も出せるね」

赤城「ここから、もう見えるはずですが……あら、エンジンの音が」

677: 2016/02/25(木) 02:39:18.59 ID:ZazPqgGp0

蒼龍「――改二改装の初陣だ、やっちゃいなさい2人とも!!」

翔鶴「了解! 五航戦の実力、その身に刻んであげます!」

瑞鶴「改装された本格正規空母の力、存分に魅せるわ! 翔鶴姉、やろう!」


―― ギャアアアア!!


瑞鶴「装甲空母になって、最初の獲物がflagshipル級とは気が利いてるじゃないの!」

翔鶴「瑞鶴、はしゃぎすぎないでね……ちゃんと止めてくださいね、蒼龍先輩!」

蒼龍「翔鶴もいつもよりテンション高いよ――しっかし、いい大物食いだね。うらやましい」

678: 2016/02/25(木) 02:39:50.30 ID:ZazPqgGp0

赤城「翔鶴、瑞鶴……改装が終わりましたか」

飛龍「もう壊滅させちゃってる。なかなかやるじゃないの、うんうん!」


瑞鶴「――あ、おーい加賀さーん!!」

蒼龍「これで全員そろったね。よかったよかった」

翔鶴「無事に戻りました、先輩方」

瑞鶴「見て見て、これが全装甲甲板だよ。見るからに強固そうでしょ!?」

加賀「ええ、本当に。私の甲板よりも数倍は堅そうね」

679: 2016/02/25(木) 02:40:36.97 ID:ZazPqgGp0

翔鶴「ある程度の爆撃なら、弾き返しちゃうそうですよ! これで潜水艦に気をつければ、まさに理想の――」

加賀「それは頼もしいわね。でも、カタログスペックを過信してはいけないわね」


加賀「――私の航空隊の急降下爆撃、何発耐えられるか試してあげてもよくてよ」

「「ひぃぃ」」

加賀「ふふっ」

蒼龍「あーあ。素直におめでとうでいいのに、もう」

680: 2016/02/25(木) 02:41:30.81 ID:ZazPqgGp0

長門「――いたぞ、あそこだ!!」

飛龍「あれ、長門さんたち?」

蒼龍「提督が出した後詰の艦隊だよ。迎えにきてくれたの」


陸奥「もうっ、護衛つけずに出るなんて! 心配かけないでよ!」

扶桑「帰ったら提督に叱っていただきますからね!」

加賀「……一応、連絡機は飛ばしていましたが」

飛龍「まあ仕方ない。掃除当番くらいは覚悟しとこっと……」

681: 2016/02/25(木) 02:42:09.81 ID:ZazPqgGp0

赤城「…………」

赤城「今回も皆、無事だった」


赤城「……装備は充実、後輩もよく育ってくれた」

赤城「何より、6人揃っている。あの戦争のときとは、違う」

赤城「けれど、今まで宿敵だった者たちとの、深海棲艦との意思疎通……」


赤城「私たちを取り巻く状況が、敵が、世界が」

赤城「色々なことが、変わる時期になってきたのか」

682: 2016/02/25(木) 02:43:01.63 ID:ZazPqgGp0


赤城「……1人で考え込んではいけませんね。お母さんに教えられたことでした」


赤城「私には頼れるひとたちがいる」

赤城「共有することで、悩みは半減する。喜びは倍増していく」

赤城「――それが戦友であり、家族なのだから」



赤城「さあ皆さん、提督とお母さん、グラーフさんが待っていますよ」

赤城「――早く帰って、歓迎会の準備をしましょう!」

683: 2016/02/25(木) 02:43:59.42 ID:ZazPqgGp0





鳳翔「う、ん……ん?」

提督「お? 目が覚めたか、鳳翔」

鳳翔「あの、どうしてまだドックに? 修復材は……」

提督「私が止めたんだよ。君を出撃させないために」


鳳翔「むう……そういった特別扱いは……」

提督「いいからゆっくり寝なさい。歓迎会は明日やるから」

鳳翔「そ、そうですよ。お料理の準備は?」

提督「みんなでやってるから心配ないよ」


提督「――なぜかグラーフも、自分の歓迎会の準備を手伝ってるけど」

鳳翔「あらあら。うふふ」

684: 2016/02/25(木) 02:45:05.09 ID:ZazPqgGp0

提督「ところで、渡したいものっていうのは?」

鳳翔「ああ、そうですね。本当は手渡ししたかったのですが……」


鳳翔「冷蔵庫に、チョコレートを冷やしています。バレンタインのプレゼントです」

提督「冷やして……手作りか! ありがとうな」

鳳翔「きな粉と和三盆で、和風に。あとで感想を聞かせてください」

提督「あとで? いーや我慢できない」

鳳翔「えっ?」


提督「ここに持ってきて、すぐ食べる。ちょっと待っててくれ!」

鳳翔「あ……」


鳳翔「――ふふっ、可愛いひと」

685: 2016/02/25(木) 02:47:42.30 ID:ZazPqgGp0


鳳翔「……大破、してしまいましたか」

鳳翔「こんなに長く入渠していたのは、どれくらいぶりでしょうか……」


鳳翔「娘たちが頼もしくなると、つい忘れがちですが」

鳳翔「艦娘として、軍人として、命の危険と隣り合わせ。これはいつまでも変わらないのですよね」


鳳翔「…………」


鳳翔「少し……そう、少しくらい」

鳳翔「わがままを聞いてもらっても、いいですよね」

鳳翔「お願いします――あなた」



第4話 終


686: 2016/02/25(木) 02:52:57.38 ID:ZazPqgGp0

第4話、ここまでになります。毎回言っていますが、遅くなりましてすみません。
最後で赤城さんや鳳翔さんがシリアスっぽくなりましたが、安心してください。ただのアットホーム空母ドラマですよ!

今回は深海棲艦の設定を、相当好きにいじってしまいました。
かなり好みの分かれる展開かと思いますが、楽しんでもらえたらうれしいです。

次回:鳳翔「あゝ栄光の、空母機動部隊!」【幕間10 ~異文化交流~】


687: 2016/02/25(木) 02:58:12.11 ID:bBK7BBgv0

引用: 鳳翔「あゝ栄光の、空母機動部隊!」 【お題募集】