92: 2008/12/04(木) 06:04:42 ID:gA3usaPy
基地に警報が鳴り響く。それが何を示し、これから何をすべきか、隊員達は全て心得ていた。
全員がブリーフィングルームに集合し、指示を待つ。
ミーナと美緒が入室し、一層の緊張が走る。そんな中、ミーナは周辺の地図を指し示し、言った。
「監視所からの報告では、敵は112地区を現在飛行中。直線ルートでブリタニア本土に向かっているわ」
「推定時間は?」
「恐らく、あと三十分もしないうちに来るかと。今度のネウロイは小型らしいけど、油断は大敵ね」
「今回はバルクホルンとペリーヌでペアを組め。リーネは私の直援とする。各自、準備を急げ」
「他の人は基地で待機です。いつでも出撃できる様準備を」
間もなく滑走路を四人が滑るように離陸し、大空へと舞った。接敵予定時間まで、あと十分。
飛行を開始して間もなく、ネウロイの機影を美緒が探り当てた。
「敵発見!」
魔眼が光る。先日までよく飛来していた、ありがちなタイプのネウロイだ。
カールスラントの飛行船に似た、少しずんぐりした形の漆黒の塊。
飛行船に似ているのか、どこか飛び方がおぼつかない感じさえする。また罠か陽動? 一同はいぶかった。
「まずは一撃離脱で攻撃を仕掛ける」
美緒の指示で全機ネウロイよりも高度を高く持つ。高度を高く保つ事は、運動エネルギーの保持と言う点からも優位に立てる。
空戦の基本的な要素だ。
突入のタイミングを図る間、美緒は魔眼を輝かせネウロイのコアを探す。
「……見つけた。中央のやや下寄り……、皆、見えるか? あの突起物の根本だ。側面からの攻撃が効果的だ」
「了解した」
ネウロイが気付いたのか、進路を僅かにずらした。
「よし、今だ! バルクホルン隊突入!」
「了解!」
「了解しました」
美緒の合図で急降下し、攻撃態勢に移る。
「リーネ、バルクホルン隊を援護しろ」
「は、はい!」
「しっかり狙え。……慌てるなよ。大丈夫だ」
美緒はリーネを励ました。
トゥルーデは緊張した面持ちでネウロイに迫ると、二丁に構えたMG42を急所目掛けて連射した。
「ペリーヌ、私に合わせろ。外すなよ」
「了解ですわ」
ふたり揃って美緒の示したポイントを集中的に狙い撃つ。表面ががりがりと削られ、コアが露出した。
「コアだ!」
トゥルーデが叫び、MG42を更に撃射しようとした矢先、コアは呆気なく破壊された。
たった一発の弾丸がコアを撃ち抜いたのだ。
コアを失ったネウロイはそのまま高度を落とし、間もなく爆発し、美しい塵を残し、消えた。
全員がブリーフィングルームに集合し、指示を待つ。
ミーナと美緒が入室し、一層の緊張が走る。そんな中、ミーナは周辺の地図を指し示し、言った。
「監視所からの報告では、敵は112地区を現在飛行中。直線ルートでブリタニア本土に向かっているわ」
「推定時間は?」
「恐らく、あと三十分もしないうちに来るかと。今度のネウロイは小型らしいけど、油断は大敵ね」
「今回はバルクホルンとペリーヌでペアを組め。リーネは私の直援とする。各自、準備を急げ」
「他の人は基地で待機です。いつでも出撃できる様準備を」
間もなく滑走路を四人が滑るように離陸し、大空へと舞った。接敵予定時間まで、あと十分。
飛行を開始して間もなく、ネウロイの機影を美緒が探り当てた。
「敵発見!」
魔眼が光る。先日までよく飛来していた、ありがちなタイプのネウロイだ。
カールスラントの飛行船に似た、少しずんぐりした形の漆黒の塊。
飛行船に似ているのか、どこか飛び方がおぼつかない感じさえする。また罠か陽動? 一同はいぶかった。
「まずは一撃離脱で攻撃を仕掛ける」
美緒の指示で全機ネウロイよりも高度を高く持つ。高度を高く保つ事は、運動エネルギーの保持と言う点からも優位に立てる。
空戦の基本的な要素だ。
突入のタイミングを図る間、美緒は魔眼を輝かせネウロイのコアを探す。
「……見つけた。中央のやや下寄り……、皆、見えるか? あの突起物の根本だ。側面からの攻撃が効果的だ」
「了解した」
ネウロイが気付いたのか、進路を僅かにずらした。
「よし、今だ! バルクホルン隊突入!」
「了解!」
「了解しました」
美緒の合図で急降下し、攻撃態勢に移る。
「リーネ、バルクホルン隊を援護しろ」
「は、はい!」
「しっかり狙え。……慌てるなよ。大丈夫だ」
美緒はリーネを励ました。
トゥルーデは緊張した面持ちでネウロイに迫ると、二丁に構えたMG42を急所目掛けて連射した。
「ペリーヌ、私に合わせろ。外すなよ」
「了解ですわ」
ふたり揃って美緒の示したポイントを集中的に狙い撃つ。表面ががりがりと削られ、コアが露出した。
「コアだ!」
トゥルーデが叫び、MG42を更に撃射しようとした矢先、コアは呆気なく破壊された。
たった一発の弾丸がコアを撃ち抜いたのだ。
コアを失ったネウロイはそのまま高度を落とし、間もなく爆発し、美しい塵を残し、消えた。
93: 2008/12/04(木) 06:06:05 ID:gA3usaPy
「リーネか」
降下をやめてホバリング体勢に移ったトゥルーデが上空を見やる。
リーネは緊張したのか肩で息をしていたが、その射撃は誰が見ても完璧なものだった。
先日の超硬度コアを持つネウロイ戦以降、めきめきと腕を上げし、超遠距離からの狙撃も、空戦に於いての援護も
見事にこなせる程に成長している。トゥルーデは上昇すると、リーネの横について、頷いた。
「上出来だリーネ。腕を上げたな。よくやったぞ」
トゥルーデは戦闘ではとても厳しい事で有名だが、腕を上げれば正しく率直にその実力を評価出来る人物だ。
「ありがとうございます」
リーネは緊張から少し解放されたのか、まだ固いが小さく笑みを見せた。
ペリーヌも少し遅れて上昇して来た。きちんと仕事をこなしたのだが、いまいち消化不良な顔をしている。
「おいしいところをもっていかれたな、ふたりとも」
美緒はそんなペリーヌを見て笑う。
「と、とんでもありませんわ少佐! 貴重な戦力が上達していくのはとても頼もしくて……」
わっはっは、と豪快に笑うと、美緒は基地の司令所に居るミーナに次の指示を請うた。
「他にネウロイは居ないか? 以前の様に陽動かも分からんからな」
『周囲にネウロイの機影は見えないわ。……戦闘終了ね。お疲れ様、全機帰投して下さい』
「了解。……さて、帰るか」
「なんか少し呆気なかったな」
「毎回毎回とんでもない敵ばかりですわ! たまにはこの程度でも宜しくて?」
「それは余裕と言う意味か、ペリーヌ?」
「い、いえ、そんなつもりでは」
トゥルーデの問いに答えが詰まったペリーヌは、下を向いた。
美緒は飛行しながらペリーヌの頭を撫でてやった。
「まあそう責めるなバルクホルン。おまえ達ふたりの働きがあってこそだぞ?」
「そっそれはもうわたくし、最大限に勤めを果たしますから」
美緒に褒められ舞い上がるペリーヌ。
「頼もしいじゃないか、ええ? バルクホルン」
「ああ。確かに」
トゥルーデは小さく頷き、微笑みを見せた。
基地の滑走路では皆が帰りを待っていた。
「おかえりなさい!」
待機中だった隊員達が出迎え、労をねぎらう。
各隊員はストライカーを脱ぐと、デブリーフィングの為ブリーフィングルームに集合する。
トゥルーデは僅かな隙を見計らって整備員に声を掛けた。
「降下中の挙動をもう少し安定出来ないだろうか? ……いや、そう言う意味ではなくて、もっとピッチと……」
「トゥルーデ、すぐにデブリーフィングだよ。整備の話はあとあと」
エーリカがトゥルーデの服の袖を引っ張る。
「いや、少し話しておきたくてな」
「そう言うとこはマメと言うか真面目だね~。ほら、行くよ」
エーリカはトゥルーデの腰に腕を回し、デブリーフィングへと誘った。
一方で、リーネは芳佳に抱きつかれていた。
「リーネちゃん聞いたよ! また撃墜したんだってね! おめでとう!」
「ありがとう芳佳ちゃん」
初めて、心からの満面の笑みを浮かべるリーネ。緊張から解放され、芳佳と喜びを分かち合っている。
ペリーヌはひとり何処か浮かない顔をしてストライカーを脱いだ。美緒はそんなペリーヌを見て
「どうしたペリーヌ。何か気になる事でも有ったか?」
と声を掛けるも、ペリーヌとしては美緒から声を掛けられただけで舞い上がってしまい
「とんでもございませんわ! わたくしこの通りいつもと全く変わりませんから!」
気丈を通り越して反り返ってしまう程元気になってしまう。
「まあそれなら良いが。行くぞ。戦闘報告だ」
「はい! 今すぐに!」
降下をやめてホバリング体勢に移ったトゥルーデが上空を見やる。
リーネは緊張したのか肩で息をしていたが、その射撃は誰が見ても完璧なものだった。
先日の超硬度コアを持つネウロイ戦以降、めきめきと腕を上げし、超遠距離からの狙撃も、空戦に於いての援護も
見事にこなせる程に成長している。トゥルーデは上昇すると、リーネの横について、頷いた。
「上出来だリーネ。腕を上げたな。よくやったぞ」
トゥルーデは戦闘ではとても厳しい事で有名だが、腕を上げれば正しく率直にその実力を評価出来る人物だ。
「ありがとうございます」
リーネは緊張から少し解放されたのか、まだ固いが小さく笑みを見せた。
ペリーヌも少し遅れて上昇して来た。きちんと仕事をこなしたのだが、いまいち消化不良な顔をしている。
「おいしいところをもっていかれたな、ふたりとも」
美緒はそんなペリーヌを見て笑う。
「と、とんでもありませんわ少佐! 貴重な戦力が上達していくのはとても頼もしくて……」
わっはっは、と豪快に笑うと、美緒は基地の司令所に居るミーナに次の指示を請うた。
「他にネウロイは居ないか? 以前の様に陽動かも分からんからな」
『周囲にネウロイの機影は見えないわ。……戦闘終了ね。お疲れ様、全機帰投して下さい』
「了解。……さて、帰るか」
「なんか少し呆気なかったな」
「毎回毎回とんでもない敵ばかりですわ! たまにはこの程度でも宜しくて?」
「それは余裕と言う意味か、ペリーヌ?」
「い、いえ、そんなつもりでは」
トゥルーデの問いに答えが詰まったペリーヌは、下を向いた。
美緒は飛行しながらペリーヌの頭を撫でてやった。
「まあそう責めるなバルクホルン。おまえ達ふたりの働きがあってこそだぞ?」
「そっそれはもうわたくし、最大限に勤めを果たしますから」
美緒に褒められ舞い上がるペリーヌ。
「頼もしいじゃないか、ええ? バルクホルン」
「ああ。確かに」
トゥルーデは小さく頷き、微笑みを見せた。
基地の滑走路では皆が帰りを待っていた。
「おかえりなさい!」
待機中だった隊員達が出迎え、労をねぎらう。
各隊員はストライカーを脱ぐと、デブリーフィングの為ブリーフィングルームに集合する。
トゥルーデは僅かな隙を見計らって整備員に声を掛けた。
「降下中の挙動をもう少し安定出来ないだろうか? ……いや、そう言う意味ではなくて、もっとピッチと……」
「トゥルーデ、すぐにデブリーフィングだよ。整備の話はあとあと」
エーリカがトゥルーデの服の袖を引っ張る。
「いや、少し話しておきたくてな」
「そう言うとこはマメと言うか真面目だね~。ほら、行くよ」
エーリカはトゥルーデの腰に腕を回し、デブリーフィングへと誘った。
一方で、リーネは芳佳に抱きつかれていた。
「リーネちゃん聞いたよ! また撃墜したんだってね! おめでとう!」
「ありがとう芳佳ちゃん」
初めて、心からの満面の笑みを浮かべるリーネ。緊張から解放され、芳佳と喜びを分かち合っている。
ペリーヌはひとり何処か浮かない顔をしてストライカーを脱いだ。美緒はそんなペリーヌを見て
「どうしたペリーヌ。何か気になる事でも有ったか?」
と声を掛けるも、ペリーヌとしては美緒から声を掛けられただけで舞い上がってしまい
「とんでもございませんわ! わたくしこの通りいつもと全く変わりませんから!」
気丈を通り越して反り返ってしまう程元気になってしまう。
「まあそれなら良いが。行くぞ。戦闘報告だ」
「はい! 今すぐに!」
94: 2008/12/04(木) 06:07:12 ID:gA3usaPy
デブリーフィングも特に問題なくあっさりと終わった。
ネウロイとの戦闘が予想以上に呆気なかったと言う点が大きい。
隊員は解散するなり、好き勝手に散っていく。リーネは早速芳佳と一緒にお風呂に向かった。
美緒はトゥルーデ、そして基地に残っていたミーナ、エーリカと共に今回のネウロイについて少し話し合っていたが、
ふと気になった事を思い出し、トゥルーデに声を掛けた。
「少佐、何か私に?」
「うむ。お前の二番機についてだ」
「今回は別段トラブルも無く……」
「いや、確かに機動や戦術については、問題無い」
「では、ペリーヌが何か?」
少佐はトゥルーデに何かを告げた。トゥルーデは表情を変え頷くと、ひとり部屋を後にしたペリーヌの姿を探した。
「あー、トゥルーデぇ~」
「少しは我慢しろ、エーリカ」
トゥルーデの事が気になって仕方ないエーリカを横に、美緒は苦笑した。
ペリーヌは基地の裏庭にひとり、佇んでいた。裏庭の一角を借りて……正確にはペリーヌが強制的に収用して……
育てているマリーゴールドの花に近付く。その花々はとても可憐で、また儚い。
祖母から聞いた、マリーゴールドの育て方。
枯れた花はすぐに摘み取るか、茎からばっさりと切りなさい。そうしないと株が弱ってしまうよ。
そしてこまめに花がらを手入れすれば、綺麗な花を幾つもつけるよ。
ペリーヌは言われた通りに育て、弱った花、枯れた花はすぐに捨てた。お陰でどの株も枯れる事なく、
裏庭の風景をひときわ美しく彩らせている。
ペリーヌはマリーゴールドの植わる一角にしゃがむと、花を愛で、ふう、と息を付き空を仰いだ。
ふと、先程の空戦が蘇る。何と言う訳でもなく、誰かが傷付くと言う事もなく、無事無難に任務を終えた。
しかし、何かが心の奥で引っ掛かる。
マリーゴールドを見る。少し痛んでいる花が幾つか目に付いた。
横に置いてある道具箱から剪定鋏を取り出すと、無心にぷちんぷちんと切り始めた。
「ここに居たか、ペリーヌ・クロステルマン中尉」
突然声を掛けられて驚くペリーヌ。慌てて鋏を背の後ろに隠し持つ。
「あ、あら大尉。如何なさいまして?」
「いや、今日の戦闘について、少し話が有る」
「戦闘報告は既に済ませましたが……」
「戦闘内容そのものについては問題ない。それは中佐も少佐も、私も同意見だ」
「では他に何か問題が?」
「それをお前に聞こうと思ってな」
「特に、何も有りませんわ」
「そうか」
ペリーヌの答えを聞いた後、トゥルーデはマリーゴールドの近くに据え置かれた長椅子に腰掛けた。
トゥルーデがそれっきり何もいわなくなったのを確認すると、ペリーヌはマリーゴールドの世話を再開した。
ぱちん。ぷちん。茎を切り落とす音が辺りに小さくこだまする。
「それは……何の花だ?
「マリーゴールドですわ」
「と言うと、この前の……」
「ええ。以前、夜間訓練の時にお出ししたハーブティーの原料でもありましてよ」
「葉を使うのか?」
「花びらを乾燥させて使うのですわ。目に良く、消化不良、発汗、解毒、傷にも効く素晴らしいハーブでしてよ?」
「万能薬だな」
「ええ。我が家のお祖母様のお祖母様のそのまたお祖母様から、代々伝わるものですから」
我が子の様に自慢しながら、痛んでいる花を遠慮会釈無しにぶちぶちと摘んでいく。
「そんなに摘み取って大丈夫か?」
「問題有りません。これがわたくしの家に代々伝わる育て方ですから」
「私は花には素人だが……そんなに乱暴に摘み取って、本当に大丈夫なのか」
「問題有りません」
ペリーヌは繰り返した。自分に言い聞かせる様に。
鋏を持つ手が止まる。トゥルーデがペリーヌの手を押さえたのだ。
ネウロイとの戦闘が予想以上に呆気なかったと言う点が大きい。
隊員は解散するなり、好き勝手に散っていく。リーネは早速芳佳と一緒にお風呂に向かった。
美緒はトゥルーデ、そして基地に残っていたミーナ、エーリカと共に今回のネウロイについて少し話し合っていたが、
ふと気になった事を思い出し、トゥルーデに声を掛けた。
「少佐、何か私に?」
「うむ。お前の二番機についてだ」
「今回は別段トラブルも無く……」
「いや、確かに機動や戦術については、問題無い」
「では、ペリーヌが何か?」
少佐はトゥルーデに何かを告げた。トゥルーデは表情を変え頷くと、ひとり部屋を後にしたペリーヌの姿を探した。
「あー、トゥルーデぇ~」
「少しは我慢しろ、エーリカ」
トゥルーデの事が気になって仕方ないエーリカを横に、美緒は苦笑した。
ペリーヌは基地の裏庭にひとり、佇んでいた。裏庭の一角を借りて……正確にはペリーヌが強制的に収用して……
育てているマリーゴールドの花に近付く。その花々はとても可憐で、また儚い。
祖母から聞いた、マリーゴールドの育て方。
枯れた花はすぐに摘み取るか、茎からばっさりと切りなさい。そうしないと株が弱ってしまうよ。
そしてこまめに花がらを手入れすれば、綺麗な花を幾つもつけるよ。
ペリーヌは言われた通りに育て、弱った花、枯れた花はすぐに捨てた。お陰でどの株も枯れる事なく、
裏庭の風景をひときわ美しく彩らせている。
ペリーヌはマリーゴールドの植わる一角にしゃがむと、花を愛で、ふう、と息を付き空を仰いだ。
ふと、先程の空戦が蘇る。何と言う訳でもなく、誰かが傷付くと言う事もなく、無事無難に任務を終えた。
しかし、何かが心の奥で引っ掛かる。
マリーゴールドを見る。少し痛んでいる花が幾つか目に付いた。
横に置いてある道具箱から剪定鋏を取り出すと、無心にぷちんぷちんと切り始めた。
「ここに居たか、ペリーヌ・クロステルマン中尉」
突然声を掛けられて驚くペリーヌ。慌てて鋏を背の後ろに隠し持つ。
「あ、あら大尉。如何なさいまして?」
「いや、今日の戦闘について、少し話が有る」
「戦闘報告は既に済ませましたが……」
「戦闘内容そのものについては問題ない。それは中佐も少佐も、私も同意見だ」
「では他に何か問題が?」
「それをお前に聞こうと思ってな」
「特に、何も有りませんわ」
「そうか」
ペリーヌの答えを聞いた後、トゥルーデはマリーゴールドの近くに据え置かれた長椅子に腰掛けた。
トゥルーデがそれっきり何もいわなくなったのを確認すると、ペリーヌはマリーゴールドの世話を再開した。
ぱちん。ぷちん。茎を切り落とす音が辺りに小さくこだまする。
「それは……何の花だ?
「マリーゴールドですわ」
「と言うと、この前の……」
「ええ。以前、夜間訓練の時にお出ししたハーブティーの原料でもありましてよ」
「葉を使うのか?」
「花びらを乾燥させて使うのですわ。目に良く、消化不良、発汗、解毒、傷にも効く素晴らしいハーブでしてよ?」
「万能薬だな」
「ええ。我が家のお祖母様のお祖母様のそのまたお祖母様から、代々伝わるものですから」
我が子の様に自慢しながら、痛んでいる花を遠慮会釈無しにぶちぶちと摘んでいく。
「そんなに摘み取って大丈夫か?」
「問題有りません。これがわたくしの家に代々伝わる育て方ですから」
「私は花には素人だが……そんなに乱暴に摘み取って、本当に大丈夫なのか」
「問題有りません」
ペリーヌは繰り返した。自分に言い聞かせる様に。
鋏を持つ手が止まる。トゥルーデがペリーヌの手を押さえたのだ。
95: 2008/12/04(木) 06:08:35 ID:gA3usaPy
「大尉、何をなさいますの?」
「その辺にしておけ、ペリーヌ」
ペリーヌは動揺を隠せなかった。
彼女を押さえたトゥルーデの左手にはエンゲージリングが光る。それがまた見せつけている様で、無性に腹が立った。
いささか乱暴に手を振り払うと、ペリーヌはトゥルーデに牙を向いた。
「きちんと手入れしなければ、この花は枯れてしまいましてよ!? 大尉はご存じないからそんな事を!」
「素人目に見ても、幾ら何でも切り過ぎだ。もうその位で良いだろう」
「この花はもっと切らなくては駄目なんです! 美しく咲かせる為にもっと! わたくしはただ……」
「花に当たるのは、良くない」
ペリーヌは息を呑んだ。鋏を持つ手の力が抜ける。
ことん、と鋏を落とした。
へなへなと座り込む。
「大丈夫か」
「ほ、ほっといて下さい!」
「座り込んだヤツを放っておけるか」
「ちょ、ちょっと、立ちくらみしただけですわ」
「なら、尚更だ」
トゥルーデはペリーヌを易々と抱きかかえ、立ち上がった。そのまま長椅子に座らせ、自身も横に座った。
下を向いて無言のペリーヌ。
「なあ」
トゥルーデは声を掛けた。慎重に、と内心呟いて、次の言葉を探す。
「お前の機動そのものは問題ない。だけど、少佐が言っていた。お前の心が心配だと」
「心、ですって?」
「人は、ストライカーは不思議なものでな。気持ちが挙動に現れる……事が有る。私もしょっちゅうエーリカに言われるよ」
「……」
“相棒”の自慢話はごめんです、と内心毒突いたペリーヌに、トゥルーデは言葉を続けた。
「私は前に一度自分を見失ってお前を……二番機を、視界から外してしまった事が有ったよな」
「あれは、わたくしの責任で……」
「いや、あれは一番機である私のミスだ。ペリーヌ、お前には、あの時の私みたいになって欲しくないんだ」
「……」
「今日のお前の機動、射線軸がごく僅かだが左にぶれていた。いつもは正確に合わせられる筈なのに」
黙り込むペリーヌ。
「前にも数度有った。例えば体調不良だったり、その都度原因らしき事が有るだろうと言う事も、
何となくだが私には分かる」
ペリーヌは足元に咲くマリーゴールドの花を見た。黙して語らず。ただ美しい色を付けるのみ。
「今回の原因が何か、私には分からない。……ただ、無理は良くない」
ペリーヌはトゥルーデを見ずにマリーゴールドをじっと見つめ続けた。
「花に当たるのも、良くない。お前の家に代々伝わる花なんだ、もっと大事にしろ。お前自身も含めて」
まるでペリーヌをよく知る父か祖父の様な言い方に、ペリーヌは我慢の限度を超えた。
「た、大尉に何が分かるんですの!? わたくしの何が!?」
「分からないさ、お前のことは。ただ……」
トゥルーデは空を見上げて言った。
「大事なものを見失って欲しくないんだ。それが何かは、お前だけにしか分からない」
ペリーヌはトゥルーデを見た。その姿は、実直、剛直、生真面目ないつもの姿と違って、何処か包容力が有る様に見えて……
何故か、ペリーヌの大事なひと……と一瞬姿がだぶって見えた。
ぶるぶると首を振る。いつもと同じ筈の大尉を、何故? 目の錯覚?
眼鏡を外し、目をごしごしこする。
「これを使え」
トゥルーデが差し出したのは、一枚のハンカチ。綺麗に洗って畳まれていた。差し出され、その上に雫が垂れるまで、
ペリーヌは自分が涙している事にすら、気付かなかった。
「気丈に振る舞うのも良いが……我々は仲間であると同時に、家族も同然だ。もっと色々無茶を言えよ。悪ふざけもしろ。
甘えたっていいんだぞ?」
涙を慌てて拭く。止まらない。何故だか自分でも解らない。
何とも無様な姿を。恥ずかしさと情けなさで、思わずしゃがみ込んで、小さく、噛み頃す様に嗚咽する。
微かに風が流れ、マリーゴールドの花を揺らす。ペリーヌに向かって軽くおじぎしている様で、元気付けている感じもした。
トゥルーデはペリーヌが泣き止むまで、じっと傍らに居た。
「その辺にしておけ、ペリーヌ」
ペリーヌは動揺を隠せなかった。
彼女を押さえたトゥルーデの左手にはエンゲージリングが光る。それがまた見せつけている様で、無性に腹が立った。
いささか乱暴に手を振り払うと、ペリーヌはトゥルーデに牙を向いた。
「きちんと手入れしなければ、この花は枯れてしまいましてよ!? 大尉はご存じないからそんな事を!」
「素人目に見ても、幾ら何でも切り過ぎだ。もうその位で良いだろう」
「この花はもっと切らなくては駄目なんです! 美しく咲かせる為にもっと! わたくしはただ……」
「花に当たるのは、良くない」
ペリーヌは息を呑んだ。鋏を持つ手の力が抜ける。
ことん、と鋏を落とした。
へなへなと座り込む。
「大丈夫か」
「ほ、ほっといて下さい!」
「座り込んだヤツを放っておけるか」
「ちょ、ちょっと、立ちくらみしただけですわ」
「なら、尚更だ」
トゥルーデはペリーヌを易々と抱きかかえ、立ち上がった。そのまま長椅子に座らせ、自身も横に座った。
下を向いて無言のペリーヌ。
「なあ」
トゥルーデは声を掛けた。慎重に、と内心呟いて、次の言葉を探す。
「お前の機動そのものは問題ない。だけど、少佐が言っていた。お前の心が心配だと」
「心、ですって?」
「人は、ストライカーは不思議なものでな。気持ちが挙動に現れる……事が有る。私もしょっちゅうエーリカに言われるよ」
「……」
“相棒”の自慢話はごめんです、と内心毒突いたペリーヌに、トゥルーデは言葉を続けた。
「私は前に一度自分を見失ってお前を……二番機を、視界から外してしまった事が有ったよな」
「あれは、わたくしの責任で……」
「いや、あれは一番機である私のミスだ。ペリーヌ、お前には、あの時の私みたいになって欲しくないんだ」
「……」
「今日のお前の機動、射線軸がごく僅かだが左にぶれていた。いつもは正確に合わせられる筈なのに」
黙り込むペリーヌ。
「前にも数度有った。例えば体調不良だったり、その都度原因らしき事が有るだろうと言う事も、
何となくだが私には分かる」
ペリーヌは足元に咲くマリーゴールドの花を見た。黙して語らず。ただ美しい色を付けるのみ。
「今回の原因が何か、私には分からない。……ただ、無理は良くない」
ペリーヌはトゥルーデを見ずにマリーゴールドをじっと見つめ続けた。
「花に当たるのも、良くない。お前の家に代々伝わる花なんだ、もっと大事にしろ。お前自身も含めて」
まるでペリーヌをよく知る父か祖父の様な言い方に、ペリーヌは我慢の限度を超えた。
「た、大尉に何が分かるんですの!? わたくしの何が!?」
「分からないさ、お前のことは。ただ……」
トゥルーデは空を見上げて言った。
「大事なものを見失って欲しくないんだ。それが何かは、お前だけにしか分からない」
ペリーヌはトゥルーデを見た。その姿は、実直、剛直、生真面目ないつもの姿と違って、何処か包容力が有る様に見えて……
何故か、ペリーヌの大事なひと……と一瞬姿がだぶって見えた。
ぶるぶると首を振る。いつもと同じ筈の大尉を、何故? 目の錯覚?
眼鏡を外し、目をごしごしこする。
「これを使え」
トゥルーデが差し出したのは、一枚のハンカチ。綺麗に洗って畳まれていた。差し出され、その上に雫が垂れるまで、
ペリーヌは自分が涙している事にすら、気付かなかった。
「気丈に振る舞うのも良いが……我々は仲間であると同時に、家族も同然だ。もっと色々無茶を言えよ。悪ふざけもしろ。
甘えたっていいんだぞ?」
涙を慌てて拭く。止まらない。何故だか自分でも解らない。
何とも無様な姿を。恥ずかしさと情けなさで、思わずしゃがみ込んで、小さく、噛み頃す様に嗚咽する。
微かに風が流れ、マリーゴールドの花を揺らす。ペリーヌに向かって軽くおじぎしている様で、元気付けている感じもした。
トゥルーデはペリーヌが泣き止むまで、じっと傍らに居た。
96: 2008/12/04(木) 06:10:12 ID:gA3usaPy
ハンカチを持ったまま、地面にしゃがむペリーヌ。うつむいたまま、一言も言葉を発しない。
しかし、少しは落ち着いた様だ。すすり上げる回数も殆ど無い。
ただじっと、地面を……いや、花を視界に捉えているのだろう。彼女にしか分からない事もある。それもたくさん。
「そのハンカチは持っていて構わない。替えなら幾らでもあるからな」
トゥルーデはそう言うと立ち上がった。
「……大尉、どちらへ?」
「訓練だ。通常シフトに戻った以上、私も勤めを果たさなければ」
「そう、ですか」
「ペリーヌは非番だろう? ゆっくり休め」
「大尉、あの……」
「どうした?」
一瞬の間。風に吹かれ、草が揺れ、トゥルーデとペリーヌの髪をゆらし、乱す。
「……いえ、何でもありませんわ」
ペリーヌは一瞬過ぎった妙な感情と言葉をさっと流し捨てると、髪をかきあげ、毅然と言ってのけた。
「わたくし、用事を思い付きましたわ。申し訳ありませんが、失礼します」
それだけ言うと、ペリーヌは剪定鋏を道具箱にしまい、裏庭から去った。
一人取り残されたかたちになるトゥルーデ。
「いつも通り、か。……強いな。ペリーヌ・クロステルマン中尉」
そして空を見て呟く。これで良かったのか、少佐……。と。
これから訓練すべき大空が、その時だけは何故か酷く潰れて低く見えた。
翌日。午後のお茶会で、マリーゴールドのハーブティーが出された。
「またこのハーブティー?」
「夜間訓練……だったっけか?」
「これって民間伝承じゃ……」
「……まずい」
相変わらず隊員からは散々な言われようだったが、ペリーヌは普段と同じく食って掛かり、皆は嫌々口にした。
そんな中トゥルーデはひとり、ハーブティーの淡い色を見つめ、微かに微笑んだ。
「トゥルーデ、もしかしてこれ好みなの?」
エーリカがトゥルーデの顔を見てぎょっとする。
「いや、正直そうでもないな」
と言いつつも、ひとくち口に含み、独特な味を舌に残しながら、言った。
「でもたまには良いんじゃないか、こういうのも?」
end
----
……なんか微妙な出来ですね。
結局何を言いたいのか自分でもわかりません(><;
いつもと違った「委員長的」「副官的」なトゥルーデを書いてみたつもりですが如何でしょう。
マリーゴールドの事はグーグル先生に教わりましたが、間違ってたらごめんなさい。
では度重なるスレ汚し誠に失礼致しました。流石に寝ますorz
しかし、少しは落ち着いた様だ。すすり上げる回数も殆ど無い。
ただじっと、地面を……いや、花を視界に捉えているのだろう。彼女にしか分からない事もある。それもたくさん。
「そのハンカチは持っていて構わない。替えなら幾らでもあるからな」
トゥルーデはそう言うと立ち上がった。
「……大尉、どちらへ?」
「訓練だ。通常シフトに戻った以上、私も勤めを果たさなければ」
「そう、ですか」
「ペリーヌは非番だろう? ゆっくり休め」
「大尉、あの……」
「どうした?」
一瞬の間。風に吹かれ、草が揺れ、トゥルーデとペリーヌの髪をゆらし、乱す。
「……いえ、何でもありませんわ」
ペリーヌは一瞬過ぎった妙な感情と言葉をさっと流し捨てると、髪をかきあげ、毅然と言ってのけた。
「わたくし、用事を思い付きましたわ。申し訳ありませんが、失礼します」
それだけ言うと、ペリーヌは剪定鋏を道具箱にしまい、裏庭から去った。
一人取り残されたかたちになるトゥルーデ。
「いつも通り、か。……強いな。ペリーヌ・クロステルマン中尉」
そして空を見て呟く。これで良かったのか、少佐……。と。
これから訓練すべき大空が、その時だけは何故か酷く潰れて低く見えた。
翌日。午後のお茶会で、マリーゴールドのハーブティーが出された。
「またこのハーブティー?」
「夜間訓練……だったっけか?」
「これって民間伝承じゃ……」
「……まずい」
相変わらず隊員からは散々な言われようだったが、ペリーヌは普段と同じく食って掛かり、皆は嫌々口にした。
そんな中トゥルーデはひとり、ハーブティーの淡い色を見つめ、微かに微笑んだ。
「トゥルーデ、もしかしてこれ好みなの?」
エーリカがトゥルーデの顔を見てぎょっとする。
「いや、正直そうでもないな」
と言いつつも、ひとくち口に含み、独特な味を舌に残しながら、言った。
「でもたまには良いんじゃないか、こういうのも?」
end
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……なんか微妙な出来ですね。
結局何を言いたいのか自分でもわかりません(><;
いつもと違った「委員長的」「副官的」なトゥルーデを書いてみたつもりですが如何でしょう。
マリーゴールドの事はグーグル先生に教わりましたが、間違ってたらごめんなさい。
では度重なるスレ汚し誠に失礼致しました。流石に寝ますorz
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