516: 2008/12/09(火) 01:42:48 ID:Rwch9uv4
「バルクホルンさんて結構かわいいとこあるよね。」
宮藤が思い出したかのように呟く。
同時に、ホットドックをかじるあたしの口もぴたりと止まった。
「そう、なの?私は大尉のそういうところ、見たことないなぁ・・・。」
隣にいるリーネが間延びした声で返す。
たまにはハンガーでお昼を食べないか、と二人を誘ったことを後悔し始めた。
「そっかぁ・・・・・・シャーリーさんはどう思います?」
急に水が飲みたくなって、水差しに手を伸ばす。
頼むからあのシスコンを墜とした純粋な目で見つめないでくれ、宮藤。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「もうバラしちゃってもいいだろー?」
昼間の出来事を話し終わって、ベッドでうつぶせのまま、あたしは毛布を肩までかけた。
隣で横になっているバルクホルンの肩にも被せてやると、いつものお説教口調でこう言われた。
「何を言うか。本来なら我々の関係は軍人としてあるまじきものだ。それを言い触らしてみろ、営倉行きは免れんぞ。」
思わず、どうしてこいつはこんなにも頭が固いんだと溜め息をついてしまう。
エイラとサーニャも中佐と少佐も付き合ってるのはバレバレだってのに、あたしらはひた隠しにしろときたからなぁ・・・。
融通の利かなさは部隊随一の規律人間で、側にいるだけで息がつまりそうな奴だ。
真面目で努力家なのは認めるけど・・・でもこいつが堅物じゃなくなったら、あたしはどうするんだろ。
なんだかんだ言って、堅苦しさまでも好きになってしまったあたしは――。
517: 2008/12/09(火) 01:44:00 ID:Rwch9uv4
「考えても無駄か・・・。」
「ん、なんだって?」
「ああ・・・二人で一つの営倉に入るのも悪くないかなって。」
「馬鹿を言え、私はお前と違って牢は好きじゃないんだ。入るなら一人で入るんだな。」
「おいおい、それじゃあたしがあそこに行くためにわざと規律違反してるみたいじゃないか。」
「違うのか?てっきりホテルがわりにしているものだと思っていたが。」
ジョーク、なんだろうか。
相変わらず真顔で言うから、本心なのかもしれないけど。
そういえば宮藤が来る前のギラギラした冷たい雰囲気はもう、あたしの前で見せることはないんだよね。
現に今、バルクホルンは少し困ったように目元を緩めて、あたしの頬を撫でだしたから。
「会心の冗談を言ったつもりだったんだがな、もっと笑ってくれてもいいだろう。」
「・・・真剣な顔で言われちゃ、笑えるジョークも笑えないよ。」
「これでも笑ったつもりなんだが。」
「あれで?全然笑ってなかったろ~。」
「誰が何と言おうと笑ったのだ!」
また、いつもみたいにムキになった。
いつもと同じバルクホルン。
皆の前ではリベリアンと呼ぶのに、二人っきりならファーストネームで呼んでくれるバルクホルン。
皆の前では毅然と振る舞うのに、二人っきりなら微笑みかけたりもするバルクホルン。
どっちも彼女で、どっちの彼女もあたしは好き。
そういうのを全部引っくるめて、とにかくあたしはこいつが好きなんだ。
頬を撫でる手は、あの馬鹿力に似つかわしくないほどつやつやで、触られるのが気持ちいい。
その手を少しずらし、甲に軽く口付けて自分の手を重ねる。
触れる指先が暖かい。
ほんとは、このきれいな指をずっと舐めてみたいんだけど、やると怒られそうだなぁ。
「そのうちポロっと言っちゃいそうだなぁ、付き合ってるって。」
「私だって隠し事は得意じゃないんだぞ・・・我慢してくれ。」
「案外中佐は知ってたりして。」
「笑えない話だ・・・。」
「あははははっ」
「ふふ・・・」
こんなに自分と対照的な人間と笑いあう―それも互いの体を求めあった後に―なんて、考えもしなかった。
初めてここで会った時、挨拶もそこそこにどこかへ行っちゃうわ、態度は冷たいわで第一印象はもう最悪だった。
命令だ規律だとうるさくて、お堅い奴だと閉口した時もあった。
まぁ、今でもたまにあるけどね。
いけすかない上位下達人間か?なんて疑ってたけど、それが見当外れと分かるのにそう時間はかからなかった。
それに気付く頃にはもう恋に落ちていて、あの思い出すだけで恥ずかしい告白を経て・・・。
518: 2008/12/09(火) 01:45:51 ID:Rwch9uv4
「いつにも増して上の空だな、シャーロット。眠いのか。」
「え・・・ああ、ごめんごめん。そうじゃないんだけど。」
「・・・私だけ満足していないように見えるじゃないか。」
消え入るような声で呟かれても、あたしをノックアウトするには充分な一言。
そう、こいつにはこれがある。
リーネのボーイズのように、連射はきかないが当たれば一撃必殺。
コアなんて粉々ってわけだ・・・何度あたしのコアが砕かれたことか。
「じゃ、お互い疲れ果てるまでしようか。」
「おい待て、そういう意味で言ったんじゃない。第一明日は食事当番――っ!」
仕返しをしてやるんだ。
年上だなんて関係ないね。
あんたは気付いてないかもしれないけど、あたしだって撃墜されっぱなしなんだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミーナ「あら?今朝の当番はトゥルーデよね?」
リーネ「食堂に行ったらバルクホルン大尉がいなかったので、捜しにいったんですけど見つからなくて・・・。」
宮藤「どこ行っちゃったんだろうねー?寝坊なんてしないのに。そういえばシャーリーさんも寝坊かなぁ?」
ミーナ「ああ・・・ええと、きっとあそこに居るから・・・あ、後で呼んでくるわね。(スタスタ)」
リーネ「・・・・・・やっぱり、シャーリーさんと・・・。」
宮藤「ミーナさん顔赤かったね。具合悪いのかな?おうどん作っておいてよかったぁ。」
リーネ「芳佳ちゃん・・・ナイショだけど、シャーリーさんとバルクホルン大尉は付き合ってるみたいだよ?」
宮藤「ええっ!?そんな・・・そんなことになったら・・・・・。」
リーネ「よ、芳佳ちゃん?」
宮藤「二人の子供のおっOいがすごいことになるよ!すごいねリーネちゃん!」
リーネ「・・・・・・。」
以上です。秘め声から色んなネタ拾えますね。
523: 2008/12/09(火) 03:39:23 ID:b38eNJYD
※埋めミーリカ
「ねーミーナー」
「なにかしらー」
「ひまー」
「あらー、そうー」
間延びした声で話しかけてくるものだから、ミーナの声もつい間延びしてしまう。
執務室に備え付けられたソファにだらしなく寝転がって、柔軟な体でごろごろとしている女の子。
「ねえ、フラウ」
「んー?」
「私、お仕事中なの」
「うん、見れば分かるよ。がんばってー」
机の上にある、片付けるべき書類は山ほどで、その中には彼女がやらかしたことへの報告書も含まれて
いる。もちろんどれもミスなど許されないものばかり。
けれどもエーリカときたらそんなの知らぬ存ぜぬといった顔で、平然と私に話しかけてくるのだ。
ぱたぱたと手を振って、にこにこと微笑んで。たまにこちらにやってきて、暇だよ構ってよ、なんて駄々を
こねる。ウィッチとしてはもうベテランの域に足を突っ込んだ、16歳だとはとても思えない。
「遊んでもらうならトゥルーデにしてちょうだい。ね?」
「いまトゥルーデ私の部屋の掃除してるから手伝わされるもん。やだよー」
仕方なしに、同郷の友人を引き合いに出すも全くもって効果なし。
そもそも『自分の部屋の掃除』を『手伝わされる』というのがおかしいのかもしれないけれど、エーリカ相手
にそんな常識が通用するとはとてもとても思えない。
だから、ねえ、構ってよ。にこにこと、人懐っこい笑顔で見つめてくる。勘弁して頂戴、とミーナは笑って
肩をすくめる。口を尖らせて、えー、なんていって、またソファの上で寝返りを打った。身動きを止めたと
ころを見ると、このまま昼寝と決め込むらしい。まるで子供、まさに子供。見た目も、中身も。どこか心が
洗われて、どうしてか笑みを浮かべてしまうほどに。
(…この子があの『黒い悪魔』だなんて)
誰が信じられるだろう?ミーナは思う。今自分の視界の端で、ぐだぐだと駄々をこねている幼い顔のあの
少女があのゲルトルートと肩を並べるほどの撃墜数を誇るカールスラント空軍、いや世界きってのウィッチ
だなんて。
だってはじめて彼女にあったときは、ミーナとて信じられなかった。思わずゲルトルートに確認をしてしまった
ほどだった。ねえ、この子が?嘘でしょう?けれどゲルトルートは力なく首を振って、彼女らしくも無く少し
笑んで、『ところがそうなんだ』と答えるだけで。
見れば分かる、と告げられて、連れ立って飛んだ空の上で、別の次元を見たことをミーナは良く覚えて
いる。ゲルトルートこそ恐らくは、世界一だと信じてやまなかったミーナだった。それは別に友人として過
大評価したからではなく、むしろ友人だからこそ辛口に評価しても、ゲルトルートの空戦センスは逸脱して
いたからだ。
それだのに、どうだろう。
ゲルトルートと二機編隊を組んだエーリカ・ハルトマンはそのゲルトルートと同等、いや、むしろそれ以上
のセンスを持っていた。…何より驚くべきはその上に更に、風を操る固有魔法をその身に宿していたこと
だ。攻撃にも応用できる固有魔法を持ったウィッチはとても少ない。ミーナのそれはどう考えてもサポート
系統であったし、ゲルトルートの固有魔法は戦闘に直接関わるものではなくて。
「ねーミーナー」
「なにかしらー」
「ひまー」
「あらー、そうー」
間延びした声で話しかけてくるものだから、ミーナの声もつい間延びしてしまう。
執務室に備え付けられたソファにだらしなく寝転がって、柔軟な体でごろごろとしている女の子。
「ねえ、フラウ」
「んー?」
「私、お仕事中なの」
「うん、見れば分かるよ。がんばってー」
机の上にある、片付けるべき書類は山ほどで、その中には彼女がやらかしたことへの報告書も含まれて
いる。もちろんどれもミスなど許されないものばかり。
けれどもエーリカときたらそんなの知らぬ存ぜぬといった顔で、平然と私に話しかけてくるのだ。
ぱたぱたと手を振って、にこにこと微笑んで。たまにこちらにやってきて、暇だよ構ってよ、なんて駄々を
こねる。ウィッチとしてはもうベテランの域に足を突っ込んだ、16歳だとはとても思えない。
「遊んでもらうならトゥルーデにしてちょうだい。ね?」
「いまトゥルーデ私の部屋の掃除してるから手伝わされるもん。やだよー」
仕方なしに、同郷の友人を引き合いに出すも全くもって効果なし。
そもそも『自分の部屋の掃除』を『手伝わされる』というのがおかしいのかもしれないけれど、エーリカ相手
にそんな常識が通用するとはとてもとても思えない。
だから、ねえ、構ってよ。にこにこと、人懐っこい笑顔で見つめてくる。勘弁して頂戴、とミーナは笑って
肩をすくめる。口を尖らせて、えー、なんていって、またソファの上で寝返りを打った。身動きを止めたと
ころを見ると、このまま昼寝と決め込むらしい。まるで子供、まさに子供。見た目も、中身も。どこか心が
洗われて、どうしてか笑みを浮かべてしまうほどに。
(…この子があの『黒い悪魔』だなんて)
誰が信じられるだろう?ミーナは思う。今自分の視界の端で、ぐだぐだと駄々をこねている幼い顔のあの
少女があのゲルトルートと肩を並べるほどの撃墜数を誇るカールスラント空軍、いや世界きってのウィッチ
だなんて。
だってはじめて彼女にあったときは、ミーナとて信じられなかった。思わずゲルトルートに確認をしてしまった
ほどだった。ねえ、この子が?嘘でしょう?けれどゲルトルートは力なく首を振って、彼女らしくも無く少し
笑んで、『ところがそうなんだ』と答えるだけで。
見れば分かる、と告げられて、連れ立って飛んだ空の上で、別の次元を見たことをミーナは良く覚えて
いる。ゲルトルートこそ恐らくは、世界一だと信じてやまなかったミーナだった。それは別に友人として過
大評価したからではなく、むしろ友人だからこそ辛口に評価しても、ゲルトルートの空戦センスは逸脱して
いたからだ。
それだのに、どうだろう。
ゲルトルートと二機編隊を組んだエーリカ・ハルトマンはそのゲルトルートと同等、いや、むしろそれ以上
のセンスを持っていた。…何より驚くべきはその上に更に、風を操る固有魔法をその身に宿していたこと
だ。攻撃にも応用できる固有魔法を持ったウィッチはとても少ない。ミーナのそれはどう考えてもサポート
系統であったし、ゲルトルートの固有魔法は戦闘に直接関わるものではなくて。
524: 2008/12/09(火) 03:39:53 ID:b38eNJYD
この世にもしも、運命をサイコロだとか、くじ引きだとか、もしくは好みだとかで決める存在がいるのだとし
たら──この少女はきっとその存在にひどく愛されて生まれたのだ、と思った。尊敬も羨望でもなく、ただ
抱いた感想は「すごい。」ひとつきり。
(…でも、『黒い悪魔』だなんて)
物思いにふけりながら書類をこなし、区切りがついたところで同僚を見やると彼女はやはり、ソファーの
上で丸くなって穏やかな眠りについていた。…まるでロマーニャのフランチェスカのようだと、思わず笑みを
漏らす。けれど彼女はまだ12歳。こちらはそれより4つも上だ。それなのに。
「風邪引くわよ、フラウ」
立ち上がって、近づいて。彼女に話しかける。フラウ、お嬢さん。戦果などとは関係なしに、その見た目
から名づけられた愛称だ。その響きはどこか、彼女のその金髪の柔らかさと似ている気がする。だから
だろうか、ミーナは彼女をそう呼ぶのが、とてもとても好きだった。
ねえお嬢さん、お嬢さん?呼びかけても一向に目を覚ます気配の無いエーリカに、何度も何度も呼び
かける。どうやらぐっすり眠っているようだ、本当に寝つきの良い子だわ。ミーナは嘆息する。呆れなのか、
感心なのか、自分でもよくわからない。
(ハルトマンのやつ、スボンを脱いでいる途中で眠ることが出来るんだぞ。しかも床で!!
あんなに散らかった部屋の、何がおちているか分からない床で、床で!!
信じられるか!?信じられないよな!?)
いつもは寡黙を装っているくせに、ミーナの前では、ことエーリカに関しては、非常なくらいに声を荒げる
ゲルトルートは、エーリカの話が正しいなら今頃エーリカの部屋でぷんすかと怒っているのだろう。本当は
必要とされて嬉しいことを、ミーナは良く知っているけれど。昔からのことだが、ゲルトルートは本当に
不器用で素直ではない。だからこそ、器用すぎる上に素直すぎるエーリカとしょっちゅう対立してはどちらか
がミーナのところに駆け込んでくるのだった。…恐らくは今日もその、掃除の件で二人はもめたのだろう。
…そしてお互いに文句を言いながら結局は謝りたくて、けれどどうしたらいいのかわからずにここに駆け
込んでくる二人をミーナは心底愛しいと思うのだった。仲が良いことに越したことは無いけれど、そうして
思い悩んでいる二人の相談に乗ったりするのは存外に楽しいのでつい、フォローする手を緩めてしまう。
だってそうしたらまた、どこかで綻びて自分が必要とされるから。ミーナだってたまにはこっそりわがままを
通したいときがある。
ふう、とため息をついて、クローゼットの中からブランケットを取り出した。
ねえ、お嬢さん?ソファの背からもう一度呼びかける。…反応は、無い。
ねえ、ねえ、フラウ?前面に回りこんで腰をかがめて、更に一度。黒い悪魔と評された小さな小さな女の子
は穏やかに寝息を立てるだけだ。
「…もう」
しかたないわね、と呟いて、ミーナはブランケットを広げる。彼女が体調を崩したら、本人以上に役立たず
になるものがいることなど、ミーナには簡単に想像できた。…もちろん心配するのはそれだけの理由では
ないけれど。
ゆっくりおやすみなさい、おじょうちゃん。
呟いて、ブランケットをかけてやろうとしたその瞬間。
ぐい。
腕がぎゅうとつかまれた。そして手前に引き寄せられる。今まで寝転がっていた人物がひょいと起き上が
って、そしてミーナはその傍らにぼふ、と倒れこむ形になった。
「つかまえたー」
そして間延びした声が、すぐ傍らから。
525: 2008/12/09(火) 03:40:51 ID:b38eNJYD
「ちょっと、冗談は止めなさい、フラウ!」
「ミーナはこれから、私とお昼寝に決まりっ!」
「だから冗談は…っ」
「冗談じゃないでーす」
ねえねえちょっと休もうよ、根詰めたら倒れちゃうよ。頭ごと抱え込むように抱きしめられる。しばらくする
といつの間にやらミーナの頭はエーリカの膝の上にあって、ブランケットはそのミーナの体の上にかけ
られているのだった。
「私は大丈夫よ、まだやらなくちゃいけないことがあるの」
「そんなのトゥルーデがやってくれるって。あれって一応副官なんでしょ?」
「…あなたはいつも、楽観的ねえ、フラウ」
「前向きって言ってちょうだいな」
起き上がろうとしても、強い力で押しとどめられる。温かいからいなくなっちゃやだー、などと理由をいつの
間にかすり替えているけれど、その裏に隠された本心なんて、ミーナはすぐに読み取ることが出来た。
…確かにここ数日、あまり休んでいないい。イレギュラーな出撃に合わせて大量の書類が舞い込んできた。
各国が好き勝手に送りつけてくるものだから、いちいち訳さなければいけないのも面倒だ。
「トゥルーデには怒られ慣れてるから、私が怒られてあげるよ。ね?」
優しい言葉と、温かい温もり。午後の日差しが柔らかく、部屋の中に差し込んでくる。
疲れが体の奥から染み出してきて、ミーナの頭に大挙して来た。多勢のそれに、理性は無勢。成すすべも
無くあっさりと陥落して、とろとろと意識が融けていく。
おやすみ、と。最後に聞いた声は彼女の金髪のように、彼女の愛称のように、ふわふわと柔らかくて。
ミーナはなんとなくもう一度「フラウ、」と呟いた。
*
(フラウ、ねえ…)
自分の膝の上でいとも容易く陥落してしまった上官の、最後の呟きを聞いてエーリカは一人嘆息した。
この上官が、恐ろしく柔らかい声で自分の事をそう呼ぶのをエーリカはよく知っている。どうしてか、彼女は
その愛称をいたく気に入っているらしい。
フラウ。祖国の言葉で、お嬢ちゃん。自分の容姿が幼いがために名づけられたあだ名。
からかわれているようで実はあまり好きじゃなかった、と言ったら、もしかしたらミーナは悲しい顔をする
のかもしれなかった。だからエーリカは今まで一度もそれをミーナに告げたことは無い。
フラウ。ミーナの綺麗な声が、柔らかな発音が、エーリカの耳にもう一度蘇る。なぜだろう、ミーナにそう
呼ばれることは全く嫌ではないのだった。むしろどこか嬉しい自分がいるのに、エーリカはいつも驚く。
今ではもう違和感なしに、そう呼びかけられて振り向ける自分がいる。だってミーナはやさしいからだ。
どこまでも、どこまでも、優しいから。
(ゆっくりおやすみ)
かつて妹のそれをよくやっていたように、髪をかきあげて額を撫でる。相当疲れが溜まっていたのだろう。
ミーナが起きる気配は無い。ねえ、お願いだから無理はしないでね。だってすごく、大切なんだ。
多分いつかどうせ、ゲルトルートが自分をここに探しに来る。これは二人で眠りこけて、どちらに怒れば
いいのかわからない状態にするのも面白いかもしれない。
そうほくそえんで、エーリカはミーナの体にかぶさるように眠りにつくことにした。
了
526: 2008/12/09(火) 03:45:36 ID:CSlUdrZA
もう埋めの季節か
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります