425: ◆mNsLyBMLN6 2010/09/27(月) 00:19:59.03 ID:v5rFn2AO
戦争だった。

他に理由はいらない。私達はただその事実にのみ従い、銃を手に取り、ただ頃すことだけを覚えた。

男女平等を謳った今の世の中じゃ、女だからと言って戦わないなんて都合のいいことは言えない。

国の為に戦い

家族や友人の為に戦い

そして何より自分の命の為に戦うしかなかった

そんな中、私はその操縦技術を買われ第三十二航空部隊に配属された。

唯「ここ…かな?」

確かにそこには『第三十二航空部隊』と書かれたプレートがある。恐る恐る中を覗いて見るが…真っ暗である。

唯「もしも~し、誰かいませんか~?」
高3!

426: 2010/09/27(月) 00:21:01.82 ID:v5rFn2AO
「動くな」

唯「ひいぃっ」

「両手を上げろ」

唯「はひっ」

まさか敵軍のスパイがこんなところまで!?

「よし、次は服を脱げ」

唯「ええぇぇっ!?」

「脱がないと頃す」

唯「くっ」

私はこれからどんな辱しめを受けるのだろう…。味方陣中とは言え油断し過ぎた…。
そんな甘さがこの結果を生んだんだ。
でも…それでも氏ぬわけにはいかない。
どんな辱しめを受けようと軍人のプライドをへし折られようと…命だけは落とすわけにはいかない…!

一人苦しむ妹を置いて先には逝けない…!

427: 2010/09/27(月) 00:21:49.18 ID:v5rFn2AO
唯「わかりました…。脱ぎます…」

緑色のシャツのボタンを一つ一つ外していく…。その下から更に緑色のタンクトップが露になる。

「タンクトップとズボンもだ。早くしろ」

唯「うぅ…」

今は命令に従うしかない…。
両手をクロスさせながらタンクトップの裾を摘まみ持ち上げ、一気に脱ぐ。
乙女の恥じらいなど軍に入った瞬間に捨てた。今傷ついているのは敵に服従しているという軍人の心であって決して乙女の恥じらいなどではないのだ!
本当だよっ!

「へ~…可愛い下着つけてんな」

男にしては少し高い声で変態じみたことを!

428: 2010/09/27(月) 00:23:03.62 ID:v5rFn2AO
「ほらほら、下も早く早く~」

唯「~ッ!」

こうなればヤケだ!どうにでもなれ!

唯「南無三ッ!」

ガバッ!

「りいいいいつううううぅぅ~~~?」

「あちゃ~、見つかったか」

「あちゃ~見つかったかじゃないだろ! 昼間の訓練サボって何やってんだよ! 真鍋少佐カンカンだったぞっ!」

「スーパーエースに訓練なんて必要ないんだよ」

「この前ちょっと活躍したからって天狗になって! 次どうなっても知らないぞ!」

「へいへ~い。午後のはちゃんと行くよ」

「全く……。で、さっきからいるこの下着一枚の子は…誰?」

「さあ?」

唯「……(助かった…?)」

429: 2010/09/27(月) 00:24:09.28 ID:v5rFn2AO
唯「…平沢唯一等兵であります…」

「ご、ごめんね平沢さん。律のやつ新人が来るといつもこれで…。私は秋山澪一等兵です。よろしく」

唯「こちらこそ…」

この人はいい人そう…。

律「田井中律一等兵だよん。よろしくね、淡いピンクの可愛い下着の子」プププ

唯「」イラッ

澪「りーつ!?」

律「わかってるよ。ほら、仲直りの握手握手」

唯「…したくないです」

律「そう怒るなよ~。私のも見せてやるから」

澪「律! 平沢さんも。同じ航空隊同士仲良くしようよ。階級も同じなんだしさ」

430: 2010/09/27(月) 00:26:16.71 ID:v5rFn2AO
唯「」ツーン

律「」ヘーンダ

澪「はあ…」

紬「あら? お客さんかしら」

澪「あ、ムギ。紹介するよ。今日からここに配属になった平沢唯さん。階級は私達と同じ一等兵なんだ」

紬「まあ♪ 私は琴吹紬一等兵よ。よろしくね、え~と…なんて呼べばいいかしら?」

唯「階級は同じなので好きに呼んでくれて結構です」

紬「じゃあ唯ちゃんで! 私のことはムギちゃんって呼んでね」

唯「宜しくお願いします。琴吹さん」

紬「あらあら」

律「つれない奴~」

澪「お前が悪いんだろ!」

こうして、私達は出会いました。

431: 2010/09/27(月) 00:27:13.72 ID:v5rFn2AO
夕刻──

律「訓練訓練…毎日訓練。は~…もっとこうババッと攻めて来ないのかね~敵さんは」

澪「律! 不謹慎だぞ!」

律「しかしこうも毎日訓練ばっかりだとねぇ。前のだってただの偵察機撃墜だしさ~攻めて来る気あんのかね~あちらさんは」

唯「(なんだ…ただの戦闘狂か…)」

紬「真鍋少佐が来たわ!」

澪「」ビシッ
律「」ビシッ
紬「」ビシッ
唯「(あれって…)」ビシッ

真鍋「うむ。では午後の訓練を始める! その前に、平沢一等兵!」

唯「は、はいっ!」

真鍋「中々の腕だと上から報告を受けている。」

432: 2010/09/27(月) 00:28:02.54 ID:v5rFn2AO
唯「はっ! ありがとうございますっ!」

真鍋「(期待してるわ、唯」ボソッ

唯「(やっぱり…!)」

律「(何かあの二人初対面って感じじゃないよな」ボソボソ

澪「(いいから黙ってろ」ボソッ

真鍋「まず旋回飛行から、始めっ!」

──────

律「相変わらず鬼教官だよなあの人…」

澪「律は午前中サボったから余計に絞られただけだろ。それにしても平沢さん凄いな! あんなに綺麗に旋回する人初めて見たよ!」

唯「そ、そうかな?」

律「実戦であんな基礎的な動きしてたら良い的だけどな」

433: 2010/09/27(月) 00:29:07.52 ID:v5rFn2AO
唯「っ!」

澪「律! いい加減にしろよ! 平沢さんに何か恨みでもあるのか?」

律「別に…ただ目付きが気に入らないだけだよ」

紬「目付き…?」

律「私だけは特別…そんな目してるよ、お前」

唯「…あなたに何がわかるの?」

律「ああわからないさ! わかりたくもないね! そうやって自分だけが悲しくて思い詰めてるって顔してりゃみんなが心配してくれると思うなよ!? ムシャクシャするんだよそういうの!」

唯「ッ!! お前ッ!」

紬「二人ともやめてっ! ここで争っても…何の解決にもならないわ…」

434: 2010/09/27(月) 00:30:00.08 ID:v5rFn2AO
澪「ムギの言う通りだ。ここで殴り合った所で生傷が増えるだけだぞ。律、お前の勝手な解釈で平沢さんを煽る様な言い方するな」

律「っ…だってよぉ」

澪「みんな色々あるのは同じなんだ…。戦争なんだから…」

律「…。悪かったよ。言い過ぎた」

澪「平沢さんも」

唯「…すみませんでした」

澪「じゃあこれで二人は仲良しだ。いいな?」

律「はいーはいー…じゃ、先に帰って寝てるわ」

唯「…」

澪「はあ…」

紬「お疲れ様澪ちゃん」

澪「こんなので大丈夫かな…」

唯「ちょっと…いいですか?」

澪「ん?」

435: 2010/09/27(月) 00:31:51.50 ID:v5rFn2AO
唯「あの人…」

澪「田井中律、だよ」

唯「……田井中さんは戦争で誰か亡くされたんですか?」

澪「うん…。律の家は父親と母親も軍人でね。開戦直後に亡くなったらしいんだ…」

唯「そう…なんですか」

澪「うん…。つい最近たった一人の家族だった弟も戦氏して…だからちょっとナーバスになってるんだ。戦争だから珍しいことじゃないんだけど…ね」

唯「……もしかして、秋山さんも?」

澪「うん。家族も親戚も空襲で亡くしたよ…。隣のムギも似たような感じかな」

紬「……」

436: 2010/09/27(月) 00:33:51.72 ID:v5rFn2AO
唯「辛く…ないんですか?」

澪「辛いさ。けど…もう流れる涙もない…って言ったら嘘になるけど。やっぱり、悲しんでばかりじゃ前に進めないから」

唯「……」

バカだった…。
あの人の言う通りだ。自分が一番不幸だと思ってた。私に比べたら周りのみんなはなんて幸せだろうって…そんな目で見てた。
自分の窓から見えている景色しか観てない私はただそれだけを嘆いてた。
でも、この人達はそうじゃない。自分達の見えてる景色がどんなに悲しくったって…それを嘆いて周りを困らす様なことはしない。それどころか寧ろ笑いかけてすらいる。

そうか…これが強いってことなんだ…。

437: 2010/09/27(月) 00:34:30.42 ID:v5rFn2AO
紬「悲しいお話は終わりにして…帰って平沢さんの入隊祝いをしましょう!」

澪「それいいなムギ! 平沢さんもいい?」

唯「…唯でいいよ、澪ちゃん。ムギ…ちゃん」

澪「うんっ! ふふっ」

紬「うふふ」

唯「あはは…」

私達はこんな中でも笑い合えた。
私はこの時初めてみんなと同じ窓を覗いたんだ。

その先には何があるかなんてわからないままに。

438: 2010/09/27(月) 00:35:27.41 ID:v5rFn2AO
それから時が流れるのは早かった。
朝起きては訓練。昼御飯を食べては訓練。夕方になれば訓練。そして床につく。
そんな毎日だった。
あれから澪ちゃんとムギちゃんとは仲良くなったけど、やっぱり田井中さんとはどこかギクシャクしたままだ。
そんなある日…

真鍋「よし、早朝訓練終了!」

律「はあ…はあ…なんで…航空機のパイロットが…こんな走り込みしなくちゃ…ならないんだよ! 陸軍かっての!」

真鍋「肺活量があれば何かと便利なのよ。上官に文句を言える体力があるならもう10周は行けるわね。行ってらっしゃい」

律「ひ~…」

439: 2010/09/27(月) 00:37:19.43 ID:v5rFn2AO
澪「鬼だな…」
紬「鬼ね…」
唯「鬼だよね…」

澪「でも凄いよな。私達と同い年ぐらいなのに少佐だなんて! 雲の上の人だよ…」

紬「でも私達はほぼ毎日あの人にしごかれているからそんな偉い人ってイメージないわよね」

澪「そうだよな~何でだろ? 真鍋少佐ぐらいならもっと前線指揮を任されてもいい筈なのに」

唯「……」

澪「いくつなんだろうな~二十歳ぐらいかな?」

唯「同い年だよ。私達と」

澪「唯? (やっぱり律の言ってた通り知り合いだったりするのかな)」


律「もう…走れ…ない…」

真鍋「じゃあジェットエンジンでも付けてみる? あなた大好きでしょう? ジェットエンジン」

律「走ります走ります! ぶいーーーーん」

440: 2010/09/27(月) 00:39:33.30 ID:v5rFn2AO
真鍋「全員集合! 点呼!」

澪「1!」
律「2~…」
紬「3♪」
唯「4」

真鍋「よし、全員いるわね。今日の昼と午後の訓練は休みとする! 各自体を休ませろ、以上」

律「やったぁ…」
澪「休みなんて久しぶりだな! どうしよっか」
紬「お買い物に行こうかしら」
澪「いいなそれっ! 律は?」

律「私は寝てるよ…」

澪「そっか…。唯はどうする?」

唯「私は…」

真鍋「平沢一等兵。ちょっといい?」

唯「は、はい」

トコトコトコ…

律「……唯のやつ何かやったのか?」

澪「心配か?」

律「べ、べっつに~…」

441: 2010/09/27(月) 00:40:10.91 ID:v5rFn2AO
真鍋「ここら辺でいいかしら」

唯「何でありますか真鍋少佐」

真鍋「今はお互い休暇中よ。そんなかしこまらなくていいわ、唯。話すタイミングが中々掴めなくていつ話そうかずっと悩んでたわよ」

唯「和ちゃん…なの?」

和「ええ。久しぶりね唯。見違えたわ」

唯「それはこっちの台詞だよ。少佐だなんて…凄いね」

和「ふふ、まあ色々とあってね」

唯「……」

和「……。憂…元気?」

唯「元気…かな」

和「そ…。なんで軍に?」

唯「お金がいるからね…色々」

和「そっか…」

442: 2010/09/27(月) 00:41:38.75 ID:v5rFn2AO
和「今から憂のところに行くの?」

唯「…どうしようか迷ってる」

和「行きなさいよ。次いつ行けるかわからないんだから」

唯「うん…」

和「こんな平和な毎日がいつまで続くかわからないんだから…」

唯「…戦況はどうなの?」

和「私もそこまで詳しいことは知らされてないけれど…こっちが劣勢ね。今はチマチマ補給物資やら何やらを断ったり…後は情報戦ね。上も相手の出方を伺ってるって感じ。ただいつこの均衡が崩れるかわからないわ」

唯「そうなんだ…」

和「だから行っておきなさい。今のうちに」
唯「うん…ありがとう、和ちゃん」

443: 2010/09/27(月) 00:42:38.91 ID:v5rFn2AO
桜ヶ丘病院──

唯「久しぶりだな…ここに来るのも」

ガラララ…

憂「お姉ちゃん?」

唯「…良くわかったね。憂…良い子にしてた?」

憂「大好きなお姉ちゃんの足音だもんわかるよぉ~。うんっ! お姉ちゃんが来るまでちゃんと良い子にしてたよっ!」

唯「そっか。偉い偉い」なでなで

憂「んふぅ~///」

唯「目の包帯換えよっか」

憂「ありがとうお姉ちゃん♪」

───

憂「ふ~んふふふふふふ~ん♪」

唯「(何故…この子はこんなにも幸せそうなのだろう。視力を失って…両親も失って…それでもまだ…こうして笑っていられるんだろう…)」

444: 2010/09/27(月) 00:43:33.39 ID:v5rFn2AO
唯「憂、出来たよ」

憂「ありがとうお姉ちゃん! うゎぁ~お姉ちゃん包帯巻くのまた上手くなったね!」

唯「そう? まあ軍に入ってたら自然と…ね」

憂「凄い凄いっ!」

唯「……」

憂「私もお姉ちゃんみたいに何でも出来たらな~」

唯「……。目が見えるようになったら…きっと出来るよ」

憂「そうかなぁ? そしたら今度は私がお姉ちゃんの面倒見るんだぁ。いっぱいいっぱい…」

唯「憂…ありがとね」

憂「お礼を言うのはこっちだよぉ? 変なお姉ちゃん!」

唯「……(憂」

445: 2010/09/27(月) 00:45:35.55 ID:v5rFn2AO
唯「じゃあ私もう行くね」

憂「もう行っちゃうんだ…」

唯「夕方には戻らないと。みんなに心配かけちゃうから」

憂「お友達さん出来た??」

唯「……少しは…ね」

憂「そっかぁ! 今度ここに連れてきてね! 私ね、目が見えなくてもりんごが剥けるようになったの! お姉ちゃんに食べてもらいたくて…」

不意に憂の手に目をやると、そこには傷だらけになった手が目に入った。

唯「バカッ! そんなことしなくていいの!」

憂「えっ…」

唯「憂には…憂にはそんなこと出来ないんだから! もし動脈でも切ったらどうするの!」

446: 2010/09/27(月) 00:46:25.25 ID:v5rFn2AO
憂「ごめんなさい…」シュン…

唯「……憂は治すことだけに専念して。いい?」

憂「でも…」

唯「いい!?」

憂「うん…わかったよお姉ちゃん…」

これだ。これが私がここに来たくない理由なのだ。こんな痛々しい妹を直視したくない…。簡単に言えば現実を受け止めたくないのだ。
ただ、そこにいればいい。それが燃料になって私は動けるのだから。私は憂をそんな都合のいい人形にしている…。

唯「じゃあね、憂」

憂「また来てね…! お姉ちゃん!」

私は、それを聞こえない振りをして病室の扉を閉めた。

447: 2010/09/27(月) 00:47:08.78 ID:v5rFn2AO
第三十二航空部隊宿舎───

唯「ただいま~…」

律「遅かったな」

唯「田井中さん…。二人は?」

律「澪とムギは買い物。てかその田井中さんってのやめてくれ。虫酸が走る」

唯「じゃあなんて呼べばいいんですか?」

律「普通に律でいいよ」

あんなことがあったからだろうか。自然とイライラしてくる…

唯「…呼びたくありません」

だから意地を張ってしまった。せっかく仲直りするチャンスだったのに…。

律「お前なぁ!」

唯「なんですか!」

律「~っ、っあ~もうっ! 別に喧嘩したいわけじゃないのに」

448: 2010/09/27(月) 00:48:47.58 ID:v5rFn2AO
唯「えっ…」

律「もういいよ! 好きなように呼んでくれ。ただ私はお前のこと唯って呼ぶからな! いいな!?」

唯「別に…いいけど。なんで?」

律「長いから! じゃあなっ! オヤスミ!」

唯「…」

律「…」

唯「寝た?」 律「寝てない」
唯「はやっ」

唯「あの…ごめんなさい」

律「いいよ…もう。ただ私の勝手で隊が機能しなかったら困るからな。それだけ。だから私のことは嫌いでもいい。でもその感情を戦場でも向けるのはやめてくれよ。みんなを氏なせたくない…勿論お前もな。一応~? 仲間だし…」

唯「田井中さん……」

449: 2010/09/27(月) 00:50:10.02 ID:v5rFn2AO
唯「…弟さんのこと聞きました」

律「そーかい。まあ良くある話さ。こんなご時世だしな」

唯「…ごめんね。人の気も知らないで…」

律「……」

唯「みんなもっともっと辛い思いしてきたのに…私だけが辛いみたいな顔しち゛ゃ゛っ゛て゛さ゛」

律「……」

唯「私の妹ね…目が見えないんだ。多分これからもずっと…。でもね…それなのにリンゴなんて剥こうとしちゃってさ…諦めないんだよ? 前はお姉ちゃんが無事に帰って来ますようにって…ぐしゃぐしゃの鶴折ってくれて…」

律「……」

450: 2010/09/27(月) 00:52:10.60 ID:v5rFn2AO
唯「包帯換えるだけでありがとうお姉ちゃんって…飛びっきりの笑顔でお礼言ったりさ…」

律「……」

唯「帰る前いつもまた来てねって……。前に行ったのだって結構前なのに……そんなこと一言も言わなくて……っ」

律「また行ってやれよ」

唯「えっ……」

律「生きてる限り何回だって行けるんだ。行ってやれよ、唯」

唯「律…さん」

律「私は聡の側にいて守ることも出来なかった…。そしてそれはもう二度と戻らない、けどお前にはまだ守れるんだよ。大切な人を。守ってやれるんだ…その手で」

唯「守って…?」

451: 2010/09/27(月) 00:53:11.94 ID:v5rFn2AO
律「ああ。その子にとっての光はお前なんだ。私も似たような境遇だったからわかるよ。聡は私の生き甲斐だった…」

唯「……」

律「だから生き延びろ、唯! 何があってもその子より先に氏んだりするなよ! 約束だ」

唯「うん…っ」

律「もっとも、私がいる限り氏なせたりしないけどな」

唯「頼りにしてるよ、りっちゃん」

律「なんだよそのりっちゃんってーの! やめろよこそばゆいっ!」

唯「好きに呼んでいいって言ったじゃん」

律「あ~う~くそぉ~」

唯「ふふ」

律「へへっ」

こうしてりっちゃんとも打ち解けた。

私の大切な大切な友達。

452: 2010/09/27(月) 00:54:59.54 ID:v5rFn2AO
それからはまた訓練、訓練、またまた訓練。本当に使う日が来るのかと思うぐらい訓練を重ねに重ねた。
みんなと打ち解けた私はいつの間にかフォーメーションリーダーとなっており、編隊飛行などの組織的な練習も数多くこなした。

そして、

ブーーーーーーーーーウウウウウウウウウウ

《敵襲! 敵襲! 航空部隊は速やかに持ち場につけ! 繰り返す…》

澪「敵襲?!」

律「ちっ、観測班はなにやってたんだよ! スクランブルかけるまで放置するなんて寝ぼけてんのかぁ!?」

紬「しばらくなかったから対応が遅れたのね…急ぎましょう」

453: 2010/09/27(月) 00:55:38.28 ID:v5rFn2AO
滑走路───

和「あなた達急いで!」

澪「はいっ!」

律「言われなくてもわかってるよ」

紬「了解です」

和「あれ? 平沢一等兵は!?」

律「唯なら妹のとこですよ少佐」

和「全くあの子は……どうしてこういつもタイミングが悪いのかしら!!!」

澪「唯の分もカバーします! 安心してください」

和「任せるわ! あの子もすぐ呼び戻すから」

整備班「秋山さん! いつでもオーケーです!」

澪「いつもありがとう! それじゃ行ってくる!」

整備班「ご無事で!」

ビシュウウウンッ────

454: 2010/09/27(月) 00:56:33.23 ID:v5rFn2AO
律「整備は?」

整備班「完璧です律さんっ!」

律「オーケー、急いでるんだ、肩借りるぜ!」

整備班「どうぞ!」

律「よっと」

整備班の肩を踏み台にし、操縦席に手をかけると一気に乗り込む。

律「いつも悪いな」

整備班「いえ! 自分にとってはご馳走(ry」

律「他にどっか出てんの?」

整備班「二十二航空部隊が出てます! 後は三十も!」

律「ちっ、あいつらに先越されたらまた自慢話聞かされそうだからな。さっさと落としてくるわ」

整備班「御武運を!」

ズシャアアアアアッ───

455: 2010/09/27(月) 00:59:05.18 ID:v5rFn2AO
整備班「紬様ァー! お急ぎくだされー!」

紬「その紬様ってやめてくださいっ! いつも言ってるじゃないですか! 私なんて家はその…貧乏で…」

整備班「いえ、お嬢様はお嬢様ですから(キリッ」

紬「もうっ! こんな貧乏家庭の人間をからかって!」

整備班「では気をつけて行ってらっしゃいませ、お嬢様」

紬「もぅ~…」


ズオォォォォゥゥゥッ────

整備班「斎藤、お前も懲りないな」

斎藤「お前こそ、肩に足形ついてんぞ」

整備班「バッカ勲章だろこりゃあよう!」

斎藤「(お嬢様…ご無事で)」

456: 2010/09/27(月) 01:00:17.40 ID:v5rFn2AO
バスの中───

唯「あ゛れ゛ば!!! 敵゛襲゛!? 急゛い゛で戻゛ら゛な゛い゛と゛」

子供「ガラスに顔擦り付けて変なお姉ちゃ~ん」

お母さん「しっ! 見ちゃ駄目よたかし」

唯「運転手さ~ん!!! 急いでくださ~い!! 敵が来てるんです!!!」

運転手「て~きが来てるってお嬢ちゃん戦闘機のパイロットか何かかい?」

唯「平沢唯一等兵、第三十二航空部隊の者です!」ドックタグ見せ見せ

運転手「あんりゃまあそうだったのぉ~こりゃ~忙しんと~…捕まってな、嬢ちゃん」

唯「えっ…」

運転手が激しくギアチェンジするとバスは瞬く間に速度を上げて加速していく。

457: 2010/09/27(月) 01:00:52.20 ID:v5rFn2AO
滑走路前───

唯「遅くなりました!!」

和「遅いっ! 遅れた理由はいい! さっさと乗り込め!!」

唯「了解です!」

整備班「あ、あの! 平沢さんの専用機の整備をさせてもらうものです! よろしくお願いします!」

唯「うん、よろしくね~。って急がないと! 話はまた帰ってからね~」

ズブシャアアアアアアアゴウゴウプゥ~ン────

整備班「かっこいい…」

458: 2010/09/27(月) 01:01:58.10 ID:v5rFn2AO
律「(早いな…新型か? 三機だけで来たからなんだと思ったけど…こりゃ偵察ってわけじゃなさそうだな)」

律「澪! こっちに誘い込めるか!?」

澪『了解! やってみる!』

澪の機体が敵の機体の背後を取り、追いすがる様に私の所へと連れてくる。

律「今だっ!!」

真正面からミサイルを発射、勢いがつきすぎた敵はミサイルをかわすこともなく撃沈。私は敵と交差するようにすれ違って行く。

「……」

律「(まだ子供じゃないか…って私が言うのもおかしいな。許せとは言わない…。私もいずれ行くから…だから先に待ってて…)」

459: 2010/09/27(月) 01:02:41.75 ID:v5rFn2AO
唯「あー、あー、こちら一番機。応答よろし」

澪『唯! 早かったな!』

紬『妹さんはどうだった?』

律『リンゴ剥けてたか?』

唯「今は任務中だよみんな。私語は謹んで!」

澪『ふふ、二番機了解です』

紬『怒られちゃった。四番機了解』

律『帰ったら話聞かせろよ? 三番機了解ッ!』

唯「一気に叩くよ! 展開ッ!」

─────

ブゥゥゥゥゥン────

整備班「あっ! 帰って来た!」

斎藤「お疲れ様でした! お嬢様!」

紬「もう…やめてって言ってるのに」

460: 2010/09/27(月) 01:04:58.95 ID:v5rFn2AO
澪「ただいま!」

整備班「お見事でした澪さん! さすが桜ヶ丘の鷲です!」

澪「よしてよそんなの、恥ずかしいよ」


律「たっだいま~」

整備班「おかえりなさいませええええええ」

律「元気だけはいいなぁ。あ、急いでないけど肩借りるな」

整備班「どうへぶっ!」

律「悪い…顔踏んじゃったわ」

整備班「(これが何よりのご馳走です!)」


唯「ただいま」

整備班「お帰りなさい唯さん」

唯「これから降りたら真鍋少佐に怒られるんだろうな~怖いな~やだな~」

整備班「ふふ、不思議ですね」

461: 2010/09/27(月) 01:06:45.94 ID:v5rFn2AO
唯「なにが~?」

整備班「だって操縦士なんていつ氏ぬかわからないのに…まるで怖がってないから皆さん」

唯「それは違うよ。みんな怖い、けど我慢してるんだよ」

整備班「そう…ですよね。知らないのにそんなこと言ってすみませんでした」

唯「ううん。気にしないで。整備ありがとう。そう言えば名前は?」

雨衣「あ、私、ういです。雨に衣で雨衣」

唯「えっ…」

雨衣「どうかしましたか?」

唯「う、ううん…何でもないよ。雨衣…か、良い名前だね。じゃあ怒られに行ってくるね!」

整備班「はい。気をつけて行って来てください」

唯「(雨衣ちゃんか…憂の友達になってくれないかな~…なんて)」

462: 2010/09/27(月) 01:08:46.77 ID:v5rFn2AO
あれから警備がより一層厳しくなり、しばらく休暇はなくなっていったのだが、そんなある日

真鍋「今日は他の部隊が受け持つからあなた達は休みなさい。もう一ヶ月は休暇なしでやってもらっているしね。他の部隊もあなた達を頼りにしてるみたいよ」

律「頼りにってかいいコマ使いだろ~?」

澪「律ッ! 少佐になんて口の聞き方するんだ!(休暇取り消されたらどうするんだ! 今日はみんなで唯の妹のお見舞いに行く約束だろう!」

律「し、失礼しましたっ! これからも誠心誠意この基地の為に全力を尽くす所存であります!」

和「?? あ、うん…良い心構えね。じゃあ解散」

律「(セーフ」

澪「(全く…」

463: 2010/09/27(月) 01:09:26.03 ID:v5rFn2AO
バスの中────

律「ひゅ~危なかった。真鍋少佐のことだから…「そんな減らず口が叩けるなら休暇は必要ないわね? じゃあ今から滑走路のゴミ拾いでもしてもらいましょうか?」って言ってるのに違いないぜ」

澪「似てない似てない」

紬「ああ見えて本当は優しいのよ真鍋少佐。ね、唯ちゃん」

唯「……」

紬「唯ちゃん?」

唯「ん? あ、なになに?」

律「おいちゃんと話聞いてろよ~? せっかく私が真鍋少佐ネタを披露したのにだなぁ」

澪「いつも怒られてるだけあってレパートリーだけはあるよな」

律「なんだとぅっ」

唯「…」

464: 2010/09/27(月) 01:12:07.40 ID:v5rFn2AO
唯「みんな…ありがとね。貴重な休暇なのに…」

律「気にすんなよ。どうせ休暇って言っても寝るぐらいしかやることないしな」

澪「そうそう」

紬「気にしなくていいのよ唯ちゃん。私達は家族も同然なんだから。唯ちゃんの妹は私達の妹でもあるわ」

律「なにその人類みな友達みたいなノリっ」

紬「いけなかったかしら?」

澪「私はいいと思うよ。みんながみんなそうならいいのにな…」

唯「うん…そしたら戦争なんて起きないのに…」

律「そうだな…」
紬「ええ…」
澪「ああ…」

唯「あ、そろそろだよ」

┏━━━━━━━━┓┃ビー 次 降ります┃┗━━━━━━━━┛

465: 2010/09/27(月) 01:14:06.25 ID:v5rFn2AO
桜ヶ丘病院──

コンコン

憂「お姉ちゃん…じゃない。どうぞ…」

コンコンコココンコンココンコッ!

憂「ふぇっ、だ、誰ですかぁ…?」

ゴツン! シーン…

紬「こんにちは憂ちゃん。私達唯ちゃんのお友達よ」

憂「お姉ちゃんの!?」

律「ワ|レ|ワ|レ|ワ|、ウ|チ|ュ|ウ|ジ|ン|ダ」

憂「ひいぃ~宇宙人怖いよぉ! 助けてお姉ちゃ~ん!」

澪「いい加減にしろ」

ゴスンッ

律「あいでっ」

唯「よしよし、怖くないよ~」

憂「びえ~ん」

律「ゴ|メ|ン|ナ|サ|イ。ナ|カ|ナ|オ|リ、E|T」

憂「?ん?へ?」

律「こうやって指先と指先合わせて仲直り~」

澪「どっかで見たことある風景だな…」

466: 2010/09/27(月) 01:14:52.18 ID:v5rFn2AO
憂「うん…。仲直り♪」

律「にへへっ」

唯「憂、私の友達だよ。声がおっとりしてるのはムギちゃん。可愛いよぉ」

紬「琴吹紬よ。よろしくね、憂ちゃん」

唯「で、綺麗な透き通る声の澪ちゃん」

澪「透き通るなんて…ちょっと照れるな。秋山澪って言います。よろしく憂ちゃん」

唯「次は元気なりっちゃん! 面白いよ!」

律「さっきはごめんな~憂ちゃん。田井中律だよん。ヨ|ロ|シ|ク|ネ」

憂「ムギさんに澪さんに律さん! 平沢憂です! いつもお姉ちゃんがお世話になってます!」

467: 2010/09/27(月) 01:15:21.45 ID:v5rFn2AO
憂「座ってください。今リンゴ剥きますね」

澪「えっ…」
紬「私がやるわ。憂ちゃんは寝てていいのよ」

唯「待って、ムギちゃん。憂にやらせてあげて」

紬「でも…」

唯「お願い」

紬「…わかったわ」

憂「ありがとうお姉ちゃん」

唯「うん。憂、がんばって!」
澪「憂ちゃんがんばって!」
紬「がんばれ~」
律「負けんな~!」

憂「ありがとうございます皆さん。うんしょ、うんしょ…」

澪「(あぁっ危ないっ)」
紬「(そのまま行くと手がっ!)」
律「(リンゴだけにヘタるな! なんちゃって!)」

468: 2010/09/27(月) 01:16:10.79 ID:v5rFn2AO
憂「出来ました! 召し上がってください!」

リンゴ(ボロ……)

澪「う、うん」
紬「いただくわね…」
律「いっただっきま~す!」
唯「いただきます」

シャクッ

澪「うん、美味しいな」
紬「ええ、とっても」
律「もう一個も~らいっ」

唯「……」

憂「お姉ちゃん…? 美味しくなかった?」

唯「美味しかったよ……憂…。よく頑張ったね 」

憂「…! うんっ!」

澪「(良かったな、来て」ニコニコ

紬「(ええ。本当に」ニコニコ

律「(ああ、良かった…」ニコニコ

唯「よしよし~」

憂「♪」

469: 2010/09/27(月) 01:17:49.77 ID:v5rFn2AO
帰り道 バスの中───

澪「良かったな唯。憂ちゃん喜んでくれて」

唯「みんなのおかげだよ。ありがとう」

紬「どう致しまして」

律「お礼を言いたいのはこっちの方だよ。守りたいものがまた増えた。これでもっと氏ねなくなったよ」

唯「りっちゃんらしいや」

そうか、忘れてた。私達は軍人で……いつ命を落とすかもわからないんだった。

バスの窓から外を見つめる。

そこにはいつもと変わらない海が広がっている。

そうだ……

変わって行くのはいつも……私達だけだ。

470: 2010/09/27(月) 01:19:17.86 ID:v5rFn2AO
それからだった。私達の日常が崩れて行ったのは…。
戦況が大きく変わったのだ。あちらが痺れを切らしこちら側の最重要拠点の一つに特攻、これを見事落としそこに兵力を集め更に進軍を開始。
こちら側が圧倒的に不利になってしまったのだ。

ブーーーーーーーーーウウウウウウウウウウ
《敵襲! 敵襲! 》

律「またかよっ! 今日で何回目だぁ?!」

澪「仕方ないよ…重要拠点が落とされたんだ…敵も奪い返される前に辺りを叩こうって必氏さ」

紬「近いうちに奪還作戦があるみたいだし…不安だわ」

唯「行こう、今は私達に出来ることをやろう」

律「そうだな…」

澪「うん」

紬「ええ」

471: 2010/09/27(月) 01:20:35.35 ID:v5rFn2AO
戦闘終了後、滑走路───

唯「ふぅ…」

雨衣「お疲れ様でした唯さん」

唯「あ、雨衣ちゃんお疲れ~」

雨衣「最近はスクランブルばっかりで大変ですね…」

唯「整備に比べたらまだマシだよ…。ほとんど寝れないって話でしょ?」

雨衣「えぇ…まあ。でもこの基地とみんなのためですし弱音なんて吐いてられませんよ!」

唯「…そっか! 雨衣ちゃんは私の妹に似てるね」

雨衣「唯さん妹いらっしゃるんですか?」

唯「うん。雨衣ちゃんみたいに一生懸命を当たり前にやる子なんだぁ」

雨衣「唯さんの妹さん…いつか会ってみたいです!」

唯「うんっ! 今度休みが合ったら一緒に行こう!」

雨衣「是非!」

472: 2010/09/27(月) 01:22:01.42 ID:v5rFn2AO
───宿舎

唯「あっ、ムギちゃん。洗濯物?」

紬「そうよ~。次いつ干せるかわからないしね。ふっふふ~ん♪」

唯「ムギちゃんって洗濯好きなの?」

紬「洗濯だけじゃないわ! 掃除も大好きよ!」

唯「へぇ~!」

紬「私家が貧乏で…両親もすぐに亡くしたからずっと一人で家事なんかをしてたの」

唯「そうだったんだ…」

紬「いつか、いつかだけどね…! 凄い大金持ちになって…そしたらそのお金を世界の平和の為に使いたいなって思ってるの」

唯「ムギちゃんは優しいね」

紬「…優しい…か」

唯「?」

紬「こんな汚れた手でも…優しいって言ってくれるのね。唯ちゃんは」

唯「うん。優しいよ、ムギちゃんは。誰がなんと言おうとね!」

紬「ありがとう、唯ちゃん」

473: 2010/09/27(月) 01:23:39.70 ID:v5rFn2AO
私が第三十二航空部隊に入ってから丁度一年が過ぎた。前とは打って変わり激戦区となってしまったこの基地だけど、みんな何とか生き残っている。
これも和ちゃんの指導の賜物だろうとみんな改めて感謝していた。
そんな頃───

梓「中野梓ですっ! 一等兵空尉です! よろしくお願いしますですっ!」

律「いよいよ私達にも後輩が出来たか…長かったな」←上等兵

澪「唯は階級同じだったからな」←上等兵

紬「後輩…いい響きね~」←上等兵

唯「梓……だからあずにゃんだね!」←兵長

和「そこ、私語は謹んで」←中佐

律「おいおかしいだろ! 同じ一階級でもレベルが違うぞ!」

澪「仕方ない…仕方ないんだ律っ! これが現実なんだ。受け止めよう」

和「?」

474: 2010/09/27(月) 01:24:37.08 ID:v5rFn2AO
梓「あ、あずにゃんじゃありません!梓です!」

唯「あずにゃんがいいよ~」
澪「そっちの方がいいな」
紬「可愛いわぁ」
律「あ~ずにゃん」

和「あなた達は本当に…最初の敬意はどこへ消えたのかしら。私じゃなければ銃殺よ銃殺!」

律「でたーッ! 真鍋少佐のレパートリーNo.38「銃殺よ銃殺!」」

和「」ビキッ

澪「律…そろそろ真面目に、な?」ガクブル

律「そ、そだな…」ブルブル

和「中野一等兵は模擬戦で全国トップクラスの実力者よ。あなた達が教えられることもあると思うわ。分からないことがあったらこの人達に聞いてね」

475: 2010/09/27(月) 01:26:52.55 ID:v5rFn2AO
和「以上、解散」

律「模擬戦で全国トップクラスだってよ。どれだけ凄いか楽しみだな~」

梓「むっ! 何なら今からでもやりますか? 模擬戦」

律「この基地のエースとやろうなんて100年早いよあ~ずにゃん」

梓「知ってますよ。禿鷹の律でしょ? あなたが撃墜数が多いのは澪さんの援護のおかげですよ。一人じゃその1/10も落とせてませんね」

律「ぬなっ!? 禿鷹だとぉぉぉ!?」

澪「梓……なんていい子なんだ」ポロポロ

唯「澪ちゃんが泣いてる!?」

紬「そこまでそこまで。どっち道模擬戦は許可なくやれないんだから。またの機会にしましょ。それより宿舎でお茶にしましょう!」

唯澪律「は~い」

梓「お茶…?」

476: 2010/09/27(月) 01:27:24.73 ID:v5rFn2AO
宿舎───

ズズズ……

唯「ムギちゃんの入れてくれたお茶は美味いっ」
律「全くだな!」
澪「心が休まるよ」
紬「まだまだあるからおかわりする人は言ってね」

三人「はーい」

梓「なんですかこれは」ワナワナ

律「なにって…」
澪「お茶だけど…」

梓「お茶だけど…じゃないです! 由緒ある航空部隊の宿舎で呑気にお茶なんて聞いたことありません!」

唯「聞いたことないって言われても…ねぇ?」

紬「梓ちゃんもど~ぞ」

梓「いりませんっ!」

梓「この事は上官に報告させていただきますから!」

477: 2010/09/27(月) 01:28:09.80 ID:v5rFn2AO
唯「上官ってー?」

梓「真鍋中佐ですっ!」

律「あぁ、それなら待ってた方が早いぞ」

梓「は?」

澪「そろそろかな」

梓「何を言って…」

和「ムギ、お茶ある?」

紬「はい、和ちゃん」

和「ありがとう。丁度ここ本部と宿舎の合間にあるのよね~助かるわ」

梓「な、な、な、何和んでるんですかあなたはっ!」

和「あら? 梓ちゃんも飲む?」

梓「あ、はい…いただきま…じゃなくて! 敵が来たらどうするんですか!!」

律「おっ! 梓が上官に意見してるぞ! 銃殺だ銃殺だ!」

和「そんな簡単にならないわよ」

478: 2010/09/27(月) 01:28:52.25 ID:v5rFn2AO
和「中野梓一等兵」

梓「は、はいっ」シャキンッ

和「戦うためには適度な休息も必要よ。いつ敵が来るかわからないと気を張ってばかりいたら勝てるものも勝てないわ」

梓「しかし…」

和「ここはかなりの激戦区だけどずっと持ちこたえて来てるわ。先輩達を信じなさい。いいわね?」

梓「…それは命令ですか?」

和「ふふ、ただのお願いよ」

梓「……」

紬「はい♪ 梓ちゃんの分」

梓「……いただきます」ズズズ……

梓「美味しいです……///」

唯澪律「(飼い慣らした~っ!」

479: 2010/09/27(月) 01:29:28.61 ID:v5rFn2AO
あずにゃんを加えて新たに5人となったメンバーですが、それを嘲笑うかのように戦いは降りかかって来ました。
毎日の様に出撃し、帰れるかも分からない基地を眺め、海を眺め…。
私達は戦いました。
しかし次第にイライラは溜まり…

律「梓っ! 何で撃たなかった!? そのせいでみんなが危険にさらされたんだぞ!」

澪「もうよせ律…実戦経験は少ないんだから…いきなりは無理だよ」

梓「っ!」タタタッ

澪「梓っ!」

律「ほっとけよ! いつも口だけは達者でいざという時使えないんじゃここには置けないよ」

澪「律……」

唯「……」

480: 2010/09/27(月) 01:31:07.00 ID:v5rFn2AO
───

梓「…ここでトリガー!」

梓「……」

梓「ここで撃つです!」

唯「な~にやってるの、あ~ずにゃん」ダキッ

梓「っ! ゆ、唯先輩驚かさないでくださいよ!」

唯「ごめんごめん、で、何してるの?」

梓「トリガーを弾く練習…って言ったら笑いますか?」

唯「笑わないよ…どうして?」

梓「…撃てなかったんです。いくら背後をとっても…人が乗ってると思うと」

唯「…そっか」

梓「模擬戦なら上手く行くのに…」

唯「模擬戦は実弾じゃないからねぇ」

梓「うぐっ…」

澪「唯に先越されちゃったな」

481: 2010/09/27(月) 01:31:37.64 ID:v5rFn2AO
唯「澪ちゃん」

梓「澪先輩…」

澪「梓、人…撃つの怖いか?」

梓「はい…。自分がそうしたことでその人の命が終わってしまうと思うと…堪らなく怖いです」

澪「そっか…」

梓「澪先輩は怖くないんですか?」

澪「すご~~~い怖いよ」

梓「えぇっ!?」

唯「澪ちゃん怖がりだもんね」

梓「あの澪先輩が…?」

澪「だから律の援護が多いって言うのもあるんだ。でも勿論私もいっぱい人を頃してきた。あの撃墜マーク一つ一つが私が地獄へ行くカウントダウンだと思ってる」

唯「澪ちゃん…」

482: 2010/09/27(月) 01:32:46.52 ID:v5rFn2AO
梓「それならっ」

澪「やめたらいいって?」

梓「…はい」

澪「出来るならやめたい、けど…私の知らないところで大事な人達を氏なせたくない。律や唯やムギ、和に整備班の人に梓だって。みんなみんな守りたいんだ。だから怖がってなんていられないよ」

梓「みんなを…守るために」

澪「忘れるな、梓。操縦席の窓の向こう側の景色は、みんなが見てるんだ。自分だけじゃない」

梓「同じ窓から見てる…」

澪「そうだ。だから怖がるな。みんながいる」

唯「私もいるよあずにゃん」むちゅちゅ~

梓「みんなが…見てる」

唯「あずにゃん手! 手が私の鼻に食いこんでるよ!」

483: 2010/09/27(月) 01:33:18.04 ID:v5rFn2AO
律「……澪達に先越されちまったな…」

紬「昔の澪ちゃんそっくりね、梓ちゃん」

律「ああ。そうだな…。ってMUGIいいい!?」

紬「静かにしないとバレちゃうわよ。りっちゃんは本当素直じゃないわね」

律「うるさいやい!」

紬「…おかしいわよね。梓ちゃんの気持ちが本当は正しいのに…」

律「世界が変われば人も常識も変わって行くさ…何もかも変わらずにはいられない」

紬「本当にそうなのかしら…」

律「さて、宿舎に戻って飯でも準備しますか」

紬「素直に梓ちゃんの為にって言えばいいのに」

律「うるさ~い!」

484: 2010/09/27(月) 01:34:32.03 ID:v5rFn2AO
その日から私達は更に結束を固め戦争と言う名の畏怖に立ち向かった。
だけど…それの前には私達は余りにも無力で、また、弱かった。

そして、20XX年のあの日───

雨衣「唯さ~ん! 新しいパーツ届いたからつけときました! これでもっと動きやすいと思います!」

唯「ありがとう! いつも言わなくても私好みの整備してくれるからほんと助かるよぉ」

雨衣「いえいえ、それがお仕事ですから!」

唯「そうだ! 今度の休暇やっと取れたから私の妹の所に行かない? 憂もきっと喜ぶよぉ」

雨衣「はいっ! 是非! 約束ですっ!」

唯「うんっ」

485: 2010/09/27(月) 01:36:33.36 ID:v5rFn2AO
───

唯「一番機から各機へ。敵、撤退を確認。深追いは禁物。今から基地に戻ります。オーバー」

律『三番機了解。しっかし楽な仕事だったな~。結局偵察の戦闘機も逃げてったし』

澪『二番機了解。確かにな。あっさり逃げたっていうか』

紬『四番機了解。不気味ね…早く戻りましょう』

梓『五番機了…待ってください! 基地より緊急です!』

唯「!?」

梓『基地、襲撃にあいたし、至急戻って防衛せよ…』

澪『基地が…!?』

律『ちっ、これは囮かよ!』

紬『早く戻りましょうっ!』

唯「みんな……憂っ」

486: 2010/09/27(月) 01:37:01.59 ID:v5rFn2AO
戻った時、あったのは氏体の山でした。
基地は既に半壊しており、何とか氏守するも組員の1/3が氏亡、更にその半分が重軽傷と散々な結果だった。

文書で書けばこれぐらいで終わってしまうだろう。別にこの基地はそれほど重要な拠点でもなく、いくつもある基地の中でも真ん中よりちょっと下ぐらいの価値なのだ。
そりゃあ増援も来ませんよね。

ただ、私達にとっては…とってもとっても大事な基地なのでした。

ザアアアアアアア…

降りしきる雨の中、私達は夢中で穴を掘った。


ザッ…ザッ…ザクッ…
ザッ…ザッ…ザッ…

487: 2010/09/27(月) 01:39:09.04 ID:v5rFn2AO
みんな泣いているのか雨のせいなのかわからない顔で黙々と埋葬をしている。
言葉に出さなくてもわかる…みんながどれだけみんなを思っていたのか。

そして、私も

唯「守ってあげられなくてごめんね…。一緒に憂の所に行くって約束したのに…」

雨衣「」

唯「ごめんね゛……」

冷たい土の中にゆっくりと沈める。

唯「雨衣ちゃんならきっと天国に行けるから…そしたら内の憂をよろしくね。私は…行けそうにないから」

少しづつ少しづつ土を被せて行く。

唯「さよなら…もう一人のうい…」

掘った土の中に雨が溜まり雨衣の体を沈めて行く…まるで雨の衣を纏っているかの様な…そんな姿だった。

埋葬が終わった後、私達にはもう……笑顔はなかった。

488: 2010/09/27(月) 01:40:32.94 ID:v5rFn2AO
翌日───

和「まさかこんな辺境の基地にあれだけの戦力を出してくるとはね…。上も予想外だったようね」

澪「…」

和「昨日は埋葬ご苦労様。遺族も喜んでいたわ…。不謹慎かもしれないけど、みんな無事でいてくれて良かったわ」

梓「真鍋中佐は大丈夫何ですか?…その傷」

和「大丈夫よ。腕が折れたぐらいで休んでいられないわ。氏んで行った彼らの為にもね」

唯「……」

和「上から命令が出たわ。こちらからも打って出ます。作戦時刻は明日明朝、ヒトマルマル時。作戦内容は追って通達する! 以上!解散!」

489: 2010/09/27(月) 01:41:06.02 ID:v5rFn2AO
宿舎───

澪「……」

律「……」

紬「……」

梓「……」

唯「……」

誰も喋らない。もう、きっと、壊れてしまったんだ。私達は。
喋る為の部品がなくなったんじゃないかってぐらい押し黙っていた。

唯「(でもこれで…いいのだろうか? もしかしたら明日誰かが欠けてしまうかもしれないのに…こんなので…)」

唯「(嫌だな…そんなの。そんなことになったら私はきっとまた初めの頃に戻っちゃう。今度は…みんなの命を抱いて。私が氏んだら…みんなが私の命を抱いて生きなくちゃいけない。悲しい顔をして…。そんなのやだな)」

490: 2010/09/27(月) 01:42:00.60 ID:v5rFn2AO
唯「ねぇ、みんな。話そうよ」

紬「唯ちゃん…?」

唯「明日が最後になるかもしれないんだよ? このメンバーでいられるのも…もしかしたら」

律「そんなことにはさせないっ! 絶対に!」

梓「律先輩…」

唯「なら尚更話そうよ。もっともっとみんなで楽しい思い出を残そ?」

澪「…唯の言う通りだな。ありきたりだけど…氏んでいった人達はこんな私達を見たくないだろうから」

紬「斎藤、あっ、整備班の人なんだけどね。いつも笑ってるあなたが素敵です。なんて言ってくれて…だから…私は笑っていたい。こんな時でも」

491: 2010/09/27(月) 01:42:58.32 ID:v5rFn2AO
梓「いい人だったんですね…」

紬「結局よくわからない人だったわ…けど、大好きよ。彼のこと。もうちょっと早くに言えば良かったかしら…ね」

澪「…私も、特別仲が良かったわけじゃないけど…いつもキッチリ整備してくれて…彼らなしじゃここまで戦えなかったよ」

梓「(私の整備の人…は生きてるから話に入りずらいな…)」

律「私の整備の人もさ、いいやつだった。みんな家族みたいなもんだったんだよな…」

唯「うん…。みんな大切な人を亡くしたって気持ちは同じだよ」

澪「…なぁ、歌、歌わないか?」

唯「歌?」

492: 2010/09/27(月) 01:43:51.27 ID:v5rFn2AO
澪「趣味でたまに弾いたりするんだけどさ」

梓「ベース…ですか?」

澪「そうそう」

律「実はみおちゅわんこう見えて詩人なんだよな~」

澪「う、うるさいっ」

紬「初めて知ったわ! 聴かせて聴かせて」

澪「う、うん…恥ずかしいな」


澪「ふぅ…」

澪「君を見てると~いつもハートドキドキ」

梓「プッ」

律「こら梓~。ワンフレーズ目で笑うやつがあるか。もうちょっと耐えろよ」

梓「すみません澪先輩! ちょっとギャップがあるな~と思って」

澪「悪かったな! だから嫌なのに…」

493: 2010/09/27(月) 01:44:37.52 ID:v5rFn2AO
梓「すみません。もう笑ったりしませんから続けてください!」

澪「でもな~…」

唯「澪ちゃんの歌ききた~い」
紬「私も!」

澪「しょうがないなぁ」

唯&紬「わ~い」

澪「では気を取り直して。おほんっ」

澪「君を見てると~いつもハートドキドキ」

澪「揺れる想いはジェット機みたいにぶ~わっぶわっ」

澪「い~つも頑張る」
唯「い~つも頑張る」

澪「(ふふ)君の横顔」
唯「(えへへ)君の横顔」

澪「ずっと見てても~気づかないよね」

みんなの手拍子も入り出す。

494: 2010/09/27(月) 01:45:19.98 ID:v5rFn2AO
澪「夢の中なら」
唯「夢の中なら~」

澪「二人の距離~縮められるのにな~」

澪「ああカミサマお願い二人だけの、ドリームタイムくだ~さい」

澪「お気に入りのバック~パック抱いて~え~今夜もおやすみ」

澪「ふわふわタイム」
唯「ふわふわタイム」

紬「ふわふわタイム♪」
梓「ふわふわタイム」
律「タタンタタンタァーンっと」

澪「ど、どうかな?」

唯「凄い良かったよ澪ちゃん!」

澪「本当に?!」

梓「はいっ! ジェット機のとこなんて特に!」

澪「だろ? ジェットエンジンの音は病み付きになるよな!」

律「やっぱりそこなんだ…」

495: 2010/09/27(月) 01:45:52.14 ID:v5rFn2AO
律「はは…」
紬「ふふっ」
澪「ふふ」
梓「ははっ」
唯「あははっ。私達らしいね」

律「ほんとそうだよな」
梓「ですね!」
紬「ええ」
澪「そうだな」

唯「みんな、明日は必ず一人も欠かずに帰ってこよう。この海が見える基地は私達が守るんだ」

律「おっしゃあっ! 円陣でも組むか!?」

唯「いいねいいね!」

澪「やろう!」

梓「はいっ!」

紬「円陣なんて初めてね~」

律「よし、できたな。唯、お前が頼む」

唯「私が?」

律「何だかんだ生きて来られたのも唯のおかげたしな。みんなも依存はないだろ?」

496: 2010/09/27(月) 01:46:39.37 ID:v5rFn2AO
一同に首を縦にふる。

唯「え~では…」

唯「みんな、必ず生き残って。みんなの仇を取る前に自分の命がなくなったら意味がないから」

唯「りっちゃん」
律「背中は任せとけ! 誰も氏なせやしないよ」
唯「頼りにしてるね」

唯「ムギちゃん」
紬「側面は任せて! きっと守ってみせるわ」
唯「私もムギちゃんを守るから」

唯「澪ちゃん」
澪「もう片翼は任せてくれ。決して折らせはしない…私達の翼を」
唯「うんっ!」

唯「最後はあずにゃん」
梓「私がいる限り後ろはとらせませんから! 安心して戦ってください!」
唯「背中は任せたよ、仔猫ちゃん!」

497: 2010/09/27(月) 01:47:15.16 ID:v5rFn2AO
唯「桜ヶ丘第三十二航空部隊いくぞ~」
澪「お~っ!」
律「おぅっ!」
紬「お~」
梓「お~ですっ!」

律「って語呂合わなすぎ~」

あははははは

私達はまた笑い合えた。
失った人達はもう戻っては来ないけれど、いつまでも窓に映る悲しい景色に嘆いていられない。

前に進むんだ、何があっても。

この時私達は、希望と言う光を見ていたのかもしれない。

勿論、同じ窓から…。

そして、決戦の時───

498: 2010/09/27(月) 01:48:27.74 ID:v5rFn2AO
整備員「どうですか?」

唯「(足回りがダルつく…これじゃいつもより旋回しにくそう…でも時間もないし腕でカバーするしかない)うん、いけそう(もし…雨衣なら…ううん、やめよう。そんなこと考えるのは)」

律「(絶対敵を叩き潰してみんなを連れて帰る…私がみんなを守るんだ)」

澪「(怖がるな…いつも通り、いつも通り…)」

紬「(斎藤…)」

梓「うっ…整備は完璧です…」

整備員「あずにゃんのことならなんでもお見通しにゃん! あずにゃんは体が小さいから全体的に配置を変えておいたにゃん! 丸一日かかったにゃん!あずにゃんにゃん!」

梓「ど、どうも…」

499: 2010/09/27(月) 01:49:31.43 ID:v5rFn2AO
和「作戦はさっき伝えた通りよ! あなた達の任務はあの爆撃機の護衛。敵の重要拠点を爆撃するまで守りきるのよ! いいわね!?」

唯「了解。」
澪「了解した」
律「ラジャー」
紬「了解しました」
梓「了解ですっ」

和「唯。一つだけ約束、いいかしら?」

唯「ん? なぁに和ちゃん?」

和「軍規なんてどうでもいい…危なくなったら帰って来るのよ。約束して」

唯「そんなことしたらいくら和ちゃんが偉くても銃殺だよ~。大丈夫、みんな一緒で帰ってくるから。必ず」

和「そう…。気をつけてね、唯」

唯「うん…。行ってきます」

500: 2010/09/27(月) 01:50:14.17 ID:v5rFn2AO
和「この作戦にこの基地の全てがかかってるわ! 各員奮闘せよ!」

唯「…」一番機

澪「…」二番機

律「…」三番機

紬「…」四番機

梓「…」五番機

和「……発進」

五人「了解!」


プェ────
ズシャアアアアアッ───
ドゥゥゥゥン────
ズオォォォォォゥゥゥゥ────ブゥゥゥゥゥン────


和「行ってらっしゃい…桜ヶ丘航空部隊」

和「私達の誇りに、敬礼っ!」

ビシッ──────

501: 2010/09/27(月) 01:51:11.68 ID:v5rFn2AO
唯「暗いね~」

澪『まあ深夜の一時だからな。暗いさ』

唯「海も真っ暗だよ~何も見えない」

律『そういや憂ちゃんにこのこと言ったのか?』

唯「りっちゃんがそんなこと言うなんて珍しいね」

律『まあな。これまでの任務とは毛色が違うし…。で、どうなんだ?』

唯「憂にはちゃんと電報出したよ! 目が見えなくても読めるやつ」

紬『なんて送ったの?』

唯「それはこれからのお楽しみ~」

律『?』

梓『唯先輩、用意出来ました』

澪『用意? なんのだ?』

唯「よ~しあずにゃんいくよ~!」

502: 2010/09/27(月) 01:51:45.65 ID:v5rFn2AO
桜ヶ丘病院───

憂「お姉ちゃん…窓を開けて待っててって言ってたけど…なんだろう」

ヒュ~~~ン ドッ
ヒュ~~ン ドッ
ヒュ~~~ン ドッ
ヒュ~ン ドッ
ヒュ~~ン ドッ

憂「うゎぁ~…花火かな? ううん…微妙に音をずらしてた。あれは…もしかして」

憂「ドッドッドッドッドッ」

憂「ドッドドドドッ」

憂「行ってきますッ!」

憂「かな? 多分そうだ!」

窓からいくら見ても真っ暗な世界を見つめながら

憂「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

そう、呟いた。

503: 2010/09/27(月) 01:52:37.00 ID:v5rFn2AO
律『閃光弾とは考えたな唯! でも憂ちゃんは目が見えないんだぜ? わかるのか?』

唯「音の方が本命だからね~! 私には良くわからないけどあれで行ってきますッ! らしいよ! ね~あずにゃん」

梓『うぇっ!? は、はいっ! そうです…多分。(言えない…実はあずにゃんにゃん!だったなんて…。なんて整備するのよあの人は!)』

澪『そんなことより閃光弾なんて目立つもの使って後で怒られるぞ? いくら味方陣内とは言え』

唯「和ちゃんから許可はもらってるからだいじょーV」

紬『和ちゃん粋ね~』

504: 2010/09/27(月) 01:53:31.29 ID:v5rFn2AO
唯「さて、ここからは真面目に行くよみんな! 敵陣地まで長い空旅になりそう。気を引き締めて行こうっ」

律『了解!』

澪『了解。索敵範囲を広げる為に少し散開を要求』

唯「OK、認めるよ」

紬『四番機了解。少しでも怪しい影が映ったら報告するわね』

梓『五番機了解です! 念のために護衛機の後ろについてます!』

律『三番機了解。私は今日は前を行くよ。唯、上と下からも注意しろよ。散開』

唯「わかってるよ! 爆撃機のパイロットへ。私達に離れないように」

パイロット『…了解した。』

505: 2010/09/27(月) 01:54:54.78 ID:v5rFn2AO
真夜中を切り裂き、ひたすら飛んだ。
その先には朝日があると信じて…。
でもそれは…。

唯「目標の敵基地まで残り500」

律『そろそろ索敵にかかる頃か、奴ら飛び起きてるだろうな今頃』

澪『不謹慎だぞ律』

律『でも仕方ないさ。撃たなきゃ撃たれるんだ。撃つしかない』

紬『それが戦争だもんね…』

梓『……!!!? 前方200に熱源! これは…10…いや、20機はいますっ!』

澪『なんだと!? 20って…そんな急に来られるわけないだろう! まだ索敵に引っかかってるかどうかってレベルなのに!』

律『待ち伏せか…』

紬『まさか…』

澪『考えたくはないけど…情報が…』

506: 2010/09/27(月) 01:55:49.87 ID:v5rFn2AO
唯「落ち着いてみんな! 落とせない数じゃないよ」

梓『でもっ!』

唯「あずにゃんは爆撃機の護衛! 絶対被弾させないで!」

梓「りょ、了解です!」

唯「りっちゃん! 澪ちゃん! 出来るだけ数を減らして来て。出来る?」

律『誰に行ってんだよ! 三番機了解!』

澪『やってみるよ…。二番機了解!』

唯「ムギちゃんは二人が撃ち逃したやつらを狙って! 奴らはきっと爆撃機を狙ってくる筈だから! 私はこれ以上数を出させない為に滑走路を潰してくる! 私が帰るまでなんとか持ちこたえて!」

紬『四番機了解! 気をつけてね唯ちゃん!』

507: 2010/09/27(月) 01:56:57.93 ID:v5rFn2AO
20機もの戦闘機を縫うように夢中で駆け抜けた。通り越しに1.2機落とせれたのはラッキーだ。
まさか単機で突っ込んで来るとはあっちも思わなかったんだろう。

唯「誰も追って来ない…?」

妙だ、普通なら2.3機は引き付けられるはずなんだけど…。
前の基地にそれほどの数がスタンバイ出来ているのか。
まさか、まさか考えたくはないけど…

唯「やっぱり澪ちゃんが言ってた通り情報が漏れてたんじゃ…」

そうなれば…行った先には多分。ううん。和ちゃんを信じよう。
私達の命を救い続けて来てくれた上官を。

唯「みんな…がんばって!!!」

508: 2010/09/27(月) 01:57:29.24 ID:v5rFn2AO
ビービービー

けたたましく鳴るアラーム音の中に私は浸かっていた。

律「危ないことぐらいわかってんだよ…機械に言われなくてもなァ!」

踊るような旋回でミサイルを次々避けて行く。
ミサイルを避けるのなんて私に言わせればカンだ。それにいくら追尾機能があるといえそのスピード故に縦には強いが横には弱い。

律「いけっ!」

逆に後ろを取ってやった戦闘機にミサイルをぶちこむ。…撃墜!

律「後いくつだよ…」

どこを見渡しても敵ばかり。
澪達無事かな…。

こんな時でも海は綺麗だな…。

510: 2010/09/27(月) 02:00:23.50 ID:v5rFn2AO
澪「くっ…」

目がついていかない…!

今こうして生きてるだけでも奇跡だ。

唯のやつ…田舎の上等兵が20機相手に勝てるわけないだろう。

なのにあんな簡単に出来る?なん聞いてきてさ…

澪「やらないわけにはいかないよなっ!」

ズオッ!
ズシャッ!

澪「今日だけは援護には回らない! 落としていくぞ!」

511: 2010/09/27(月) 02:01:59.91 ID:v5rFn2AO
紬「来たわね…3機」

やれるかしら…私に。いえ、やるしかないわ。ここまで来て氏ねない!

みんなと出会えて、これからなんだもの!

紬「1.2番いきますっ」

ズシャッ!ズシャッ!

紬「ここは通さないっ! 命に代えても!」

512: 2010/09/27(月) 02:05:38.56 ID:v5rFn2AO
─────

和「どういうことなんですか!? わざと敵に傍受させるなんて! 彼女達を頃すおつもりですか大佐は!」

大佐「仕方ないのだよ。我々はただ上にあそこの基地の注意をひけとしか言われてないんだ」

和「それでもわざわざ傍受されてるのがわかって送り出すなんて…!」

大佐「確定情報を優先するだろう? あそこの連中が出てこないってだけでかなり有利らしいんだ。君も軍人ならわかれ、真鍋中佐」

和「私は…私は真鍋和よ!!!」

和「聞こえる!? 唯! みんな!」

513: 2010/09/27(月) 02:10:07.51 ID:v5rFn2AO
────

唯「あ、ああ……」

私は何を見ているのだろう。
まるで蟻のようにいる航空部隊、対空砲、オマケに空母まで出てきている。

さっきやそっとで用意出来る数じゃないのは明白だった。

唯「氏んじゃうの…私達」

その時だった。

ガガガ、

和『みんな!聞こえる?! 私よ! 今すぐ撤退して! その行動自体がただ相手を引き付ける為のデコイだったのよ! 爆撃は諦めて撤退よ! いいわね!』

唯「撤退…」

そうか、帰っていいんだ。

私達は、あそこへ

大佐『何を言ってる真鍋中佐! 気でも狂ったか!』

和『おかしいのはあなた達の方よ! 貴重な戦力をわざわざ無駄氏にさせ』

バンァッ────

唯「えっ……」

514: 2010/09/27(月) 02:12:59.07 ID:v5rFn2AO
大佐『撤退は認められない。繰り返す、撤退は認められない。少しでも敵の気をひくんだ。』

唯「なにいってんの…無理に決まってるじゃん…? 何機いると思ってんだよ!!!」

大佐『君達には二階級特進を約束しよう。では、健闘を祈る』

唯「おいっ!!! 待ってよ!!! 和ちゃんをどうした!!!! 応答しろ!!! おいっ!!!!」

何……これ…本当に現実なの?

515: 2010/09/27(月) 02:15:02.25 ID:v5rFn2AO
唯「戻らなきゃ…」

みんなの所へ

唯「戻らなきゃ…」

無意識に回頭、来た道を戻る。

当然後ろに数十機の戦闘機も携えて。

それでも戻りたかった。
みんなとまた会いたかった。

唯「みんな……」

世界はなんて、真っ暗なんだろうか。

516: 2010/09/27(月) 02:18:11.48 ID:v5rFn2AO
────

律「聞いたか?」

澪『…ああ』

紬『うん』

律「短い人生だったな…」

澪『投降したら見逃してくれないかな…?』

律「爆弾持って投降なんて出来るかよ。間違いなく撃たれるさ」

澪『氏にたくないよ…氏にたくないよぉっ! 律ぅ!!!』

律「私だって…氏にたくないさ。けど…」

紬『諦めるしか…ないのかしら』

律「……」

律「最後にお前達を逃がすことぐらいなら…出来るかもしれない」

澪『えっ』

517: 2010/09/27(月) 02:23:12.04 ID:v5rFn2AO
律「私が命いっぱい閃光弾を焚くから、お前達はその間に味方の基地のまで飛べ」

澪『りつ!?』

紬『りっちゃん!?』

律「今閃光弾を積んでるのは私だけだ。いけよ、二人とも。梓にも伝えといてくれ。ありがとうってな」

澪『律…』

律「先に二階級特進を使わせてもらう!命令だ! 秋山澪一等兵! 琴吹紬一等兵! ただちにこの空域を離脱せよ!」

澪『……わかった』

紬『わかったわ』

澪『けど、』紬『けど』

澪『やるならみんな一緒でだ』

紬『やるならみんな一緒でよ』

律「……お前らまで二階級特進使うってのか? バーカ」

518: 2010/09/27(月) 02:29:03.21 ID:v5rFn2AO
梓「……使い捨てですか…私達は。わかってましたけど…ね。なんとなく」

梓「爆撃機のパイロットさん。その中身、何もないんでしょ?」

パイロット『はい…』

梓「投降…って言っても今更無理ですよね。結構落としてますし。これでもう軍人としての責務は果たしました。後は…氏ぬだけです」

梓「ありがとう、先輩達。こんな世界でも…楽しかったです」

ビービービー

梓「さようなら」

ゴオオオオオオオオ…

律『梓ッ!』
澪『梓!』
紬『梓ちゃんっ!』

血でもう赤か青か見えないや…。
落ちてる…のかな? 私。ってことは下は海か…
ふふ、こんな時なのに……凄く綺麗に見えるな。
なんでだろ……わかんないや

519: 2010/09/27(月) 02:33:00.06 ID:v5rFn2AO
律「クッソォ!!!」

澪『律!!!』

紬『私に任せて澪ちゃん!!!』

ミサイルの残弾を全て発射、三番機の周りにいる敵を撃墜しようと試みるも…

澪『ムギ!!! 後ろッ!』

紬「えっ…」

ババババババ

操縦席に雨のように弾丸が降り注ぐ。
後ろから回り込まれ撃たれたのだろう。

紬「(そう…だめだったのね…)」

墜落する間際に見た最後の景色

紬「梓ちゃんも見たのかしら……海」ニコ

ズシャッアアアアア

澪『ムギイイイイッ』

520: 2010/09/27(月) 02:36:54.70 ID:v5rFn2AO
律「唯はまだか!?」

澪『さっきから通信にも出ないし…きっともう』

律「そっか…」

澪『律』

律「ん?」

澪『最後だから言っとくね。大好きだった』

律「過去形かよ。私も。会えて良かった」

澪『次また生まれて来るときは…平和な世界がいいな。自由に音楽とかもやれてさ』

律「同感だな。そしたら澪がベースで私がドラム? はは、柄じゃないな」

澪『ううん。きっと…似合ってると思うよ。律なら』

律「そっか…。そうだといいな。澪」

澪『ん?』

律「またいつか」

澪『うん。またな、律』

───────

521: 2010/09/27(月) 02:39:38.75 ID:v5rFn2AO
──────

唯「……ん」

唯「ここは?」

辺りを見渡しても何もない。無人島か何かだろうか。

唯「そっか…私撃墜されて…」

あれだけの数に追われて落とされないわけもないか…でも、

唯「生きてる…」

みんなはどうしただろう?
私みたいに流れ着いたりしてないのかな?

ここでしばらく待ってみればわかるか…。

どのみち脱出手段もないし、ここで待つしかない。

522: 2010/09/27(月) 02:41:31.24 ID:v5rFn2AO
唯「海か…。前に見たときより嫌な気分になるのは何でだろう」

同じ窓から見て海なのに

唯「周りに誰もいないだけでこんなにも寂しいなんて…」

同じ窓から見ていても、それは同じじゃない。
私はそんなことをふと思った。

唯「同じ窓から見てた海」

みんなも見たのかな……同じ窓から。

523: 2010/09/27(月) 02:43:41.83 ID:v5rFn2AO
─────

唯「あ~ずにゃん! どうしたの? 海なんてぼんやり見てさ」

梓「あっ、唯先輩。なんて言うか…なんだか悲しいなって」

唯「悲しい?」

梓「はい。海を見てるとそんな気になってくるんです」

唯「…そっかぁ。実は私もなんだ」

梓「唯先輩もですか?」

唯「うん。何かを忘れてきたみたいな…そんな感じ」

524: 2010/09/27(月) 02:48:32.81 ID:v5rFn2AO
唯「そんなことよりみんなで写真とろうよ! みんな待ってるよ! あずにゃん!」

梓「ちょ、唯先輩そんな走ったら……」

律「遅いぞあずさ~!」

澪「みんな待ってたんだぞ」

紬「早く撮りましょう」

唯「じゃあ行くよ~?」

一眼レフから覗くみんなと海。

ああ、これだ。
と何故か想いを馳せた。

私はただその思いがどこから来たのかわからずタイマーをセットした写真に写るべく奮走する。

「ハイ、チーズ!」

カシャッ

同じ窓から見てた海

みんなで揃って撮った写真。

きっとこれが答えなんだ。

私は胸の中で、そう誰かに呟いた。

律「なんかカチューシャが流れついてるしっ」

唯「りっちゃんつけてみなよぅ」

律「駄目だな! センスが悪いこれは!」

おしまい

525: 2010/09/27(月) 02:49:38.85 ID:v5rFn2AO
終わりです

ほんとに長々とすみませんでした

やっぱりラストにするんでしたね…。
切り貼りする作業がこんな時間かかるとは思いませんでした

ほんとにすみません

引用: 唯「同じ窓から見てた海」