1: ◆d.DwwZfFCo 2010/12/26(日) 00:48:44.26 ID:YaaWunU0
一方通行は、学園都市最強の超能力者である。

総人口役230万人の内8割を占める学生たちは日々【能力】を身に着けるために開発を受けている。

その中でも7人しかいないレベル5の序列第一位。

とある事件をきっかけに使用に制限はあるものの、【ベクトル操作】という反則的な能力は未だに健在である。

あの幻想頃しの少年を筆頭にイレギュラーな存在以外では、例え核弾頭でさえ彼に傷をつける事ができない。

そんな能力を持つ彼は現在、ある存在から逃走をしている。

限りある能力を使っては撒き、追いつかれればまた逃げる。

堂々巡りの鬼ごっこ。

・・・    ・・・・
終わりの無い、終わった筈の物語。

・・・・・      ・・・・・・
無くなった筈の計画が、なかった事に。

「ちィ、なンなンですかァこの悪夢はァ!」

思わず足を止め足元に転がっていた空き缶を蹴り付ける。

放物線を描き飛んでいく空き缶。そして地面に落ちた先に追跡者は立っていた。

「は!お早ィご到着で!」

                       ・・
その紅い眼で追跡者を睨み付ける一方通行。しかし彼女は喋らない。

「必要事項以外はだんまりですかァ?まったくお前の妹は今や俺に罵詈讒謗を浴びせてくるってのによォ」

すがる様に叫ぶ一方通行。それでも彼女は喋らない。

その頭部にゴーグルを装着し、常盤台中学の制服に身を包む少女。

そしてその格好には物騒すぎるライフルを抱えている。

一歩彼女は一方通行に近づき、ようやく口を開いた。

「一方通行、実験開始から十三分分十三秒が経過しています。このままでは計画に誤差が発生します。速やかに第00001次実験を遂行してください」

無感情に、無感動に、無関係に、無価値に、彼女は言葉を発しライフルを構え、続けて言った。

「―――とミサカは躊躇もなく引き金に掛けた指に力を込めます」

そう、目の前にいるのはかつて一方通行が殺害したはずのミサカ00001号だった。

3: 2010/12/26(日) 00:53:40.84 ID:YaaWunU0
・禁書×めだかのクロスSSです。

・能力やらには独自解釈が多々あるかと思います。

・時系列は一方と打ち止めが出会ってちょっと経った位と考えていますが、
 恐らく狂ってくると思います。
 ※ちなみに球磨川は箱庭学園転校前です。

9: 2010/12/26(日) 10:03:30.15 ID:CJBZvOY0
「くそったれがァ!」

叫びながら重力を操作し、空高く飛びあがる一方通行。

それを追ってミサカ00001号はライフルの照準を空中の一方通行へと向ける。

「空中では動きに制限があります、とミサカは標的を狙い撃ちます」

本来ベクトル操作を応用した反射を使えば、そこで勝負の決着はつくのである。

しかし、彼は反射をしない。

反射をすれば必ず彼女が氏ぬ。頃してしまう。また頃してしまう

一万回氏んだ彼女。一万回生きた彼女。守ると決めた彼女。自分を補ってくれている彼女。

自分の身を守る為に頃すなんてことは、自分の幻想を守る為に氏なすなんてことは、

今の一方通行には出来なかった。

そして弾丸は、彼の右脇腹を打ち抜いた。

そしてそのまま地面へと落下する。脇腹から血を流し微動もしない一方通行に彼女は警戒しつつ近寄る。

「さてこのまま銃弾を撃ち込めば実験は終了致しますが、あくまで実験の目的は一方通行がミサカを殺害するのであって、
 
 ミサカが一方通行を殺害する訳ではありません、とミサカは携帯電話をおもむろに取り出します」

上層部に指示を仰いでもらうのがいいと彼女は判断し、支給された携帯電話のたった一つしか登録されていない番号に発信をする。

コールが鳴る中、一方通行を見下ろしながら考えるミサカ00001号。

いくらなんでもあっけなさすぎる。これが彼女の抱いた感想だった。

事前に学習した彼の能力を攻撃に使用されていたら、実験開始数秒で自分はただの肉塊になっていただろう。

しかし、彼は能力を逃走にしか使用せず、身を守るべき反射も作用せず、殺戮する為の操作も利用しなかった。

まったくもって理解不能。

彼女はただそう考えていたら、電話口から声が聞こえた。

『やっほーミサカちゃん球磨川っでーす、と禊はハイテンションで電話に出っまーす』

妹達の語尾を真似しながら、陽気な声で話すこの男が今回の実験の首謀者。

球磨川禊である。



10: 2010/12/26(日) 10:20:10.26 ID:CJBZvOY0
「ふざけないで下さい、とミサカはミサカの真似をされたことに苛立ちを覚えます」

『えー冗談でしょーと禊は驚きますー』

「……」

『ホントに冗談はやめてよねミサカちゃん。君の感情は無かったことにしたんだから』

『苛立ちなんか覚えるわけないだろう?』

『きっとそれは学習装置で学んだそれらしい対応をしただけなんだよねー』

『ほら人形に自我があったら気持ち悪いし』

「そうでしたね、とミサカは返事を返します」

『うん。分ってくれて僕は嬉しいよ。それで?用件は何?今から工口本を買いに行くから簡潔にお願いね』

「一方通行を瀕氏の状態まで追い詰めました」

「このまま殺害をしてもよろしいでしょうか?とミサカは確認を取ります」

先程からピクリとも動かない一方通行。

彼が来ているTシャツは銃弾を受けた時に出来た穴と、少量の血が着いているだけで、綺麗なままである。

彼女は一方通行から目を離し、月を見上げる。

『うーん本当はどんどんミサカちゃんを頃してくれるのがベストなんだけど……』

『まぁいいや。どうせ罪を償うんだーとかそんな考えを持つ一方ちゃんには用は無いから』

『頃しちゃっていいよー』

ずいぶんと軽い返事で、一方通行の殺害許可が下りた。

そして再び目線を戻すと……

一方通行の姿が、無かった。

12: 2010/12/26(日) 10:34:21.70 ID:CJBZvOY0
彼女の思考回路が一瞬パニックを起こす。

動ける傷ではなかった筈だ。働ける体ではなかった筈だ。

「それにあの出血量では意識を失っていてもおか……!!」

状況を確認する為に口走った言葉で、先程までの一方通行の姿を思い出す。

《Tシャツは銃弾を受けた時に出来た穴と、少量の血が着いているだけで、綺麗なままである。》

少量の血だけで済むはずがない。出血多量で絶命してもいいような箇所に銃弾は当たった筈である。

「ベクトル操作で玉を摘出し、そのまま血液の流れをちょォっとだけ弄って、出血を止めただけだァ」

状況を呑み込めないミサカ00001号の背後から、疑問への解答が投げかけられる。

左手に携帯電話を持ったままとっさに振り向いて銃を構えるが、一方通行はそれに触れるだけで無効化した。

「さァて、ようやく黒幕さンとォ喋りできそうだぜェ」

両手を広げながら愉快そうに口元を歪める一方通行。

対するミサカ00001号は状況を打破すべく思考していた。

自分は丸腰、頼れる武器と言ったら【能力】しかない。

そして電撃を放とうとした瞬間、眼前まで一方通行が迫ってきた。

「悪ィがちょっと眠っててくれよ」

ミサカ00001号の額に手を当てて、一方通行はつぶやく。

そこで彼女の意識は途絶えた。

13: 2010/12/26(日) 11:03:31.01 ID:CJBZvOY0
横たわるミサカ00001号の手から携帯を拾い上げ、耳に当てる。

「てめェか……こんなクソくだらねェ実験をまた始めたのは」

『わぁお、一方ちゃん始めましてー球磨川でーす!よろしくね』

『でもちょっと待ってね、今から工口本をレジに持って行くところなんだ』

『やっぱり工口本を買うって行為はこのレジを通過するってのが醍醐味だと思うんだ』

『今はネットで誰にも悟られずに買うことが出来るけど、やっぱりこの緊張感を味わって皆大人になっていくんだと思うんだ』

『ちなみに僕は工口本を買う時に参考書でサンドイッチをするなんて方法はとらないよ。むしろ工口本で参考書を―――』

「うるせェ!そんな事を聞ィてんじゃねェんだよ!てめェがこの実験の首謀者かって聞ィてんだ!」

いきなり的外れなことを言い出した球磨川に怒鳴りつける一方通行。

そんな決壊寸前のダムのような一方通行に球磨川は肯定の言葉を口にした。

『うん、そうだよ。いやぁーちょっと面白そうな実験だったから中止になった事を無かったことにしてみました』

氏んだはずの妹達に追われ、攻撃を受け続け、逃げることしかできなかった彼のストレスは、今、爆発した。

「ォーケーォーケー。球磨川、そんなに氏にてェんなら今すぐぶち頃してやンよ。で、てめェはどこにィる?」

一周廻って冷静な口調で物騒なことを言う一方通行。


14: 2010/12/26(日) 11:04:36.63 ID:CJBZvOY0
『いやだなぁ頃すだなんて、物騒なことを。随分と元気がいいね、何か悪い事でもあったのかい?』

『だいたい感謝をして欲しいくらいだよ。一万人以上の人間を頃しておいて平然と生きている君を心配してたんだよ?』

『俺は一生許されねェとかなんだっけ中二病?みたいな事言ってさ』

『まぁ、人間言葉の上ではなんとでも言えるよねー。実際一方ちゃんは氏んでいった妹達の事なんてどうでもいいんだろ?』

『普通の人間は君みたいに生きていられないよ。あ、ゴメンね君は学園都市第一位の一方通行だもんね、普通じゃないんだよね普通じゃ』

『だからこうやって普通じゃない君に、やり直すチャンスを与えただけじゃないか』

『君は今選べるんだよ一方ちゃん』

『もう一度二万人の妹達を頃すのか、それとも二万回殺されるのか』

『ちなみに00001号から10031号までは作り直しじゃなくて、あくまで君に殺された固体だからね』

『さぁ選ぼうよ一方ちゃん。どちらに転んでも君は救われるんだからさ』

一方的にまくしたてる球磨川に対して、一方通行は何も言えなかった。

何か言葉を紡ごうとしても、出てこない。

黙っていると球磨川が最後通告を言い渡した。

『ちなみに今日は打ち止めちゃんと工口本を買いに来てるんだ。大丈夫心配しないで!ちゃんと家まで送り届けるからさ!』

そう言って、電話は切れた。

20: 2010/12/26(日) 16:47:13.47 ID:YaaWunU0
「幽霊……ですの?」

風紀委員第177支部の室内。ツインテールの小柄な中学生、白井黒子は自分のデスクの上にある大量の書類に目を通しつつ、

非科学的な単語を言い放った同僚の言葉に返事をする。

「そうなんです。最近学園都市内で亡くなった筈の人間が多く目撃されているそうですよ」

甘ったるい声で概要を説明するのは頭に大仰な花飾りをのせている初春飾利。

その両手は休むことなくパソコンのキーボードを叩いている。ディスプレイに羅列している文字は次々と現れては消えていく。

「それも生前に理不尽な殺され方をした人物ばかりらしいですぅ」

そう言って初春はエンターキーを叩いてから白井と向き合うように椅子を回転させる。

「強い怨念を持った霊が、復讐を胸に蘇った。なんて噂まで立っています」

少し興奮気味に話す同僚に深いため息をついて、白井も初春と向き合う。

「まったくどこのC級映画のお話をしてますの?この科学の街、学園都市で。それにその幽霊とやらの実質的な被害は無いんでしょう?」

結局は都市伝説ですわよーと初春の意見を一蹴し、彼女は再び書類の山を崩しにかかる。

「むー夢がないなぁ白井さんは」

そういって頬を膨らます初春。

「そんなものが存在したとしたら例え夢でも悪夢ですの。自分に恨みを持った存在が蘇るなんて恐怖以外の何者でもないですわ」

「まぁそうですよねぇ……っと白井さん!」

再び作業に戻ろうとした初春がパソコンに移された表示を見て、白井を呼びつける。

「事件ですの!?」

言うが早いか自分の席から初春の真後ろに瞬間移動で移動した白井もディスプレイを睨み付ける。

「スキルアウトらしき数人のグループに一人の少年が暴行を受けています。場所は―――」

「了解ですの!初春はサポートに回ってくださいまし」

通報場所を確認すると白井はそういって初春の目の前から転移した。

21: 2010/12/26(日) 17:06:39.22 ID:YaaWunU0
「ジャッジメントですの。大人しく投降してくださ……」

空間転移を繰り返し現場の路地裏に到着した白井は、腕に着けた風紀委員の腕章を見せ付けるようにして言った。

報告ではスキルアウト数名に絡まれている男子生徒の保護だったはずだ。

白井はこういった事態に到着した場合は大概被害者は殴られ、金銭を要求されていたりしてボロボロになっている場合が多いのだが。

目の前に広がる光景はそんな生易しいもではなく、まして一方的な暴行でもなく―――

まるで十字架に貼り付けにされたように巨大な螺子でビルの壁に串刺しになっているスキルアウト達だった。

「うっ……」

白井は思わず目を背けてしまった。

むせ返る血の臭い。もはやアスファルトの八割は血で赤く染まっており、所々に螺子切られたように転がる手足。

両目に螺子が刺さりだらしなく口を開いている氏体。達磨の様に両手両足が無い氏体も例外なく貼り付けにされていた。

込み上げてくる吐き気を何とか飲み込み、再び地獄に目を向ける。

そこには学ランに身を包んだ少年が返り血を浴びて、無垢な笑顔で白井を見つめていた。

その両手には、スキルアウト達を貼り付けにした物と同じ、巨大で巨悪な螺子を携えていた。

『あ!ちょうどよかった風紀委員さんだ。僕、道に迷っちゃったんで教えてください、今すぐに』

呆然としている白井にズカズカと近づいて両手を握る少年。

「あ、貴方は何者ですの?」

捕まれた両手を振り払い間合いを開けるように瞬間移動を使う。

『そういえば自己紹介がまだだったね。僕は球磨川禊って言うんだ宜しくね』


22: 2010/12/26(日) 17:35:07.52 ID:YaaWunU0
「まったく初対面で淑女の手を握るなんていくら何でも展開が速すぎますの」

『いやぁ今時のバトル展開の物語は展開をある程度巻いていかないと直ぐに打ち切りをくらっちゃうんだよね』

大して人気も無いのに日常編を長いことやったりさ、となぜか残念そうな溜息を吐く球磨川。

「話が全くこれといってこれっぽっちも噛み合っていませんの。このスキルアウト達は貴方が?」

状況に呑まれない様に悠然とした態度で質問を球磨川に投げかける。

『いや、僕が来た時にはもうこうなっていたんだ。だから僕は悪くない』

「ふざけてますの!?先ほど持っていた螺子!それにその返り血!どう考えても無関係ではないでしょう!!」

『だから僕のせいじゃないんだよ。彼らに道を尋ねたら絡んで来たんだからさ』

先ほどの発言をあっさり撤回して悪びれる様子も無く言い放つ球磨川に苛立ちを覚える白井。

「正当防衛といえどこれは明らかにやりすぎですの!風紀委員の名に懸けてここで貴方を拘束します」

太股に忍ばせた鉄矢を手に構え、臨戦態勢をとる白井。もはや話し合いでどうにかなる相手ではないと判断した結果だった。

『風紀委員の名に懸けて……ねぇ。カッコいいなぁ思わず僕も風紀委員に志願しちゃいそうだよ』

『それでその物騒なエモノでどうするつもりなのかな?風紀委員さん。週間少年ジャンプの中でなら氏なずに済むかも知れないけど』

『現実は違うんだから、その鉄矢をしまいなよ』

「そうでしたら大人しくお縄をかけさせてくださいですの」

『これから大事な用事があるからそれはできないなぁ。あ!そうだ少し心苦しいけどちょっとの間君にも壁に張り付いてて貰おうかな』

右手の平に左の拳を合わせ、グッドアイデアだ言わんばかり言った。

そしてどこからか螺子を取り出した球磨川は躊躇も無く白井に襲い掛かった。

41: 2010/12/27(月) 15:53:54.07 ID:A8wXirg0
本来、瞬間移動は戦闘においてはかなり有利な能力である。

何しろ相手側からすれば攻撃が当たらない、攻撃の軌道が無いのである。

自分だけが疲弊し、傷を追っていく。

相手が同じ能力者や自分以上の高位能力者でなければ、戦闘に敗北することはあまりないのである。

ましてや白井は大能力者(レベル4)だ。

それこそ彼女が敬愛してやまないお姉様のような超能力者(レベル5)でも連れてこなければまるで歯が立たないのである。

そして。

その例に漏れることなく白井は球磨川を圧倒していた。

「あらあら。そんな螺子を振りまわすだけでは永劫の時を掛けてもわたくしは倒せませんわ」

球磨川は螺子を振りまわす。

しかし白井は背後に転移する。

球磨川は螺子を投げつける。

しかし白井は空中へ転移する。

攻撃をしては回避され、その隙に鉄矢を身体に打ちこまれる。

腕に。肩に。足に。膝に。掌に。脹脛に。

いくら凶悪な相手であろうと氏に繋がる様な急所には鉄矢を打ちこまない。

ある意味それも風紀委員の名の誇りから行うことだった。

『………』

それでも球磨川は懸命に武器を振りまわし続ける。

その表情から白井は不気味さを感じ取っていた。

まるで拷問器具【鉄の処O】に挟まれた様に身体を穴だらけにされても、彼は―――

彼は、笑っていた。

44: 2010/12/27(月) 17:04:54.08 ID:SrJ.fhA0
『全く瞬間移動だなんて、悟空と戦った敵の心情もこんな感じだったのかな?』

『ヤードラット星人もとんでもない能力を与えたもんだよね』

「あいにくこの能力は自前ですの。それに、わたくしは惑星間の移動などできませんわ」

軽口には軽口で返す白井。

一体そのぼろぼろの身体のどこからそんな言葉を吐ける余裕が出てくるんですの?と思う。

『そういえばドラゴンボールでは結局敵方も瞬間移動ができるようになったんだっけ?』

「っは!そんなことは知りませんの。それともあなたも学習して瞬間移動ができるようになるん……ですのっ!?」

言うが早いか白井は一気に間合いを詰める。この戦闘で初めて白井から攻撃を仕掛けることになった。

(地面に倒し、一気に鉄矢で拘束するんですの)

白井は決して能力だけの攻撃しかないわけではない。風紀委員としてある程度の武術は心得ていた。

(とった!)

球磨川の襟に手を伸ばし、組み手を取りにいく白井。瞬間移動で間合いを詰めれば例え有段者でも防ぐことはできない。

そして、襟に手をかけた―――

筈だった。

「え?」

虚空を掴む自分の手に動揺を隠し切れない白井。

そしてその手の先5メートル先には、掴むべき筈だった相手が何事も無かった様に立っていた。

(この男も瞬間移動能力者!?)

しかし、それでは今まで攻撃を受け続けていた理由が分からない。

白井と同じ能力者であればこんな一方的な戦いにはならない筈。

完全に白井は混乱していた。

45: 2010/12/27(月) 17:21:51.61 ID:SrJ.fhA0
『そんなに驚くことじゃないよ。ほら悟空だって瞬間移動を見切られて相手に真似されてたし』

「…そ、そんなこと可能な訳が!もともと空間移動能力者なんでしょう!?」

目の前で起きた現実を理解できない白井は、すがるように叫ぶ。

多重能力者は理論上不可能な筈である。

あの一万人の脳を統べていた科学者の様に、ああいったイレギュラーな事例以外は一人につき能力は1つまで。

そう決まっているのだ。

『嫌だなぁ。僕にそんな【利点のある能力】がある訳無いじゃないか』

冗談はやめてくれと言わんばかりに首を横に振る球磨川に、白井は違和感を感じた。

傷が。

さっきまで球磨川にあったはずの傷が全て治っているのである。

いや、傷だけじゃなく、穴の空いた衣類すらもまるでクリーニング後の様に綺麗に直っている。

「……」

目の前で起きている不可解な現象に、白井は思わず目眩を催した。

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして……

「あ、貴方は……」

消え入る様な声で、すがる様な声で。

「貴方は、一体何者なんですの……」

懇願する様に、困憊する様に、白井は問うた。

『さっきも言っただろう?僕は球磨川禊。ただの転校生だよ』

『まぁ、学園都市風に言えば“マイナス”レベル5の大嘘憑き(オールフィクション)さ』

49: 2010/12/27(月) 17:33:03.94 ID:SrJ.fhA0
そう言って今度は白井の眼前まで瞬間的に移動する球磨川。

その両手にはどうしようもなく巨大な、どうしようもなく凶悪な。

そしてどうしようもなく“マイナス”な螺子が握られていた。

もはや演算をできる程の余裕は白井には無い。

ただ目の前の男に恐怖し、足を震わすだけだった。

何もされていないのに、まるで足が地面に貼り付けられているようだった。

そんな彼女に、風紀委員だといってもまだ中学一年生の彼女に。

戦う意思などもう無い彼女に。

球磨川はにっこりと笑いかけて口を開いた。

『それじゃあ、また明日とか。風紀委員さん』

震える彼女など無関係に。

涙を溜めるその両目など無感動に。

―――か弱い女子中学生など無価値に。

球磨川は

彼女の

眉間に

螺子








53: 2010/12/27(月) 17:52:03.42 ID:SrJ.fhA0
とある病院の廊下。そこに御坂美琴は立っていた。

廊下に設けられた長椅子に座ることも無く、ただ拳を握り締めて病室を睨み付けていた。

御坂の横にある長椅子に座っているのは初春飾利とその親友の佐天涙子。

そして睨み付けている病室に掲げられているネームプレートには、ルームメイトであり、大事なパートナーの名前があった。

「じ、じらいざんが……なんで、どうじでぇ……」

御坂が佐天から連絡を受けて病院に到着してから、初春はずっとこのように泣きじゃくっていた。

そしてどんな声をかけて良いのか分からずに、ただ泣くことを我慢している佐天も俯いたまま喋ろうとしない。

それでも御坂は半ば無理やり佐天から情報を聞き出した。

ぽつりぽつりと話す彼女の話をまとめるとこういったものだった。

初春と白井が仕事中に暴行事件の通報を受けた。そして白井が出動し、初春がサポートをしていた。

現場までのナビをしていた初春は、なぜか白井が現場に到着したとたん連絡がつかなくなったことに不安を覚え、

アンチスキルに応援を要請。そして非番である先輩に連絡を入れた後、初春は単身現場に向かった。

アンチスキルよりも早く到着した初春が目撃したのは、壁に貼り付けにされていた“人間だったもの”6体と、

血の海の中“傷1つ無く”倒れていた白井だった。

そこから先は初春は気を失ってしまったそうだが、偶然通りかかった佐天とアンチスキルに保護され、今に至る。

そういった内容だった。

55: 2010/12/27(月) 18:05:02.94 ID:SrJ.fhA0
その話を聞いてすぐに御坂はノックもせずに病室へと入った。

そこで見たものは自慢のツインテールをボサボサになるまで掻き毟りながベッドの上でうずくまる白井黒子と、

まるで強盗にでも荒らされたかのように散らかった病室だった。

花瓶は割れ、点滴は倒れ、カーテンは引きちぎられ、テレビのリモコンは真っ二つに割られている。

「黒子…アンタ……」

そこにいる白井黒子は、自分が一度も見たことの無い姿だった。

悠然と立ち回り、自分を見かければじゃれて来る白井黒子ではなく、何かに脅え続けている一人の人間だった。

なんて声をかければいいのだろう?そもそもそっとしておくべきなのだろうか?

そんな考えが過ぎったが、このままの状態で放置というのはあまりにも薄情すぎる。

そして考えがまとまらないまま、白井に手を伸ばした瞬間。

「あアアアあァァぁァアアァァァァァァァァァァァァァ!」

その手を払われ、絶叫する白井。

はっきりと彼女に拒絶された御坂は目の前の現状をどうにかすることもできず、

ただテレビの中のフィクションを眺めるように立ち尽くすしかなかった。

白井の絶叫に気がついた看護士と医師が慌てて病室に入ってくる。

「先生!このままではまた自傷行為を!!」

「鎮静剤を!それと拘束具をもってこい!」

医師達に邪魔だと言わんばかりに、身体を押し出され、御坂はそのまま病室を後にする。

自分の差し出した手を払いのけられた痛みだけが、まだ残っていた。

56: 2010/12/27(月) 18:18:33.83 ID:SrJ.fhA0
「PTSD…心的外傷後ストレス障害といったほうが分かりやすいかな」

廊下に出た瞬間に声をかけられる。

目線を移せばそこにはカエル顔の医師が立っていた。

「危うく氏ぬまたは重症を負うような出来事の後に起こる、心に加えられた衝撃的な傷が元となる、様々なストレス障害を引き起こす疾患」

淡々とカエル顔の医師は続ける。

「彼女は現在そういった状況なんだ。それも通例に比べてとっても重大な状態でね。今はできる限りそっとしてやってくれると助かるよ」

「で、でも黒子には外傷も無いんじゃ……」

そう。佐天の話では無傷のまま保護されているはずである。

氏に掛けたり、重症を負った訳ではないのだ。

「そう。そこがちょっと疑問なんだ。風紀委員なんだ。あの惨状を目撃して気を失うような子ではないと思う」

「でも、間違いなくPTSDなんだよ」

カエル顔の医師が言うように、白井はどんな惨劇でも耐え切る強い精神を持っている。それはこの場にいる全員が思っているだろう。

「目撃証言によると、彼女は誰かと交戦していたようだ。恐らくその際に何か心理的な攻撃をされたか……」

その言葉を聞いて御坂はある人物を思い浮かべる。

同じ常盤台のレベル5。心理掌握の事だった。

思案している御坂に頭を掻きながらカエル顔の医師が呟いた。

こんなオカルトを医師が言うのは良くないんだが…と前置きを置いて。

「一度殺されて、生き帰されたか、だ」

73: 2010/12/27(月) 23:10:48.97 ID:SrJ.fhA0
御坂美琴は初春飾利が所属している風紀委員支部、つまり風紀委員第177支部に居る。

腕を組んで、目を伏せて、壁にもたれ掛かった彼女の前では初春がパソコンのキーボードを物凄い勢いで打鍵している。

彼女が行なっているのは学園都市の監視カメラのログを閲覧する為の作業。

御坂の指示で“あの時”何が起こったのかを確認する為のものだった。

因みに佐天涙子は自宅に帰っている。

少し体調が悪いそうだ。

「……完了です。映像が表示されます」

初春からはいつものような飴玉を転がしたような甘ったるい声ではなく、ひどくトーンの下がった声が聞こえた。

「ありがと、初春さん」

彼女に労いの言葉を掛けるが、何の反応もない。

無理もない。これから観るのは親友でありパートナーがあそこまで堕ちていった原因となる映像なのだ。

当然、彼女も敵討ちをしたいと思っているのだろうが、やはり現実を直視するのは少しきついのかも知れない。

「……大丈夫ですよ、御坂さん。私は目を逸らしたりはしません」

心の中を見透かされたようにそう呟いた彼女は、しっかりとディスプレイを見つめ、事件発生時刻までログを遡る。

そして、映像が再生された。

74: 2010/12/27(月) 23:21:35.71 ID:SrJ.fhA0
映像には一人の男子学生がスキルアウトの男達に絡まれている所から始まった。

初めのうちは少年が一方的に殴られ、蹴られ、罵られている様だったが、時間が経つにつれて様子が変わってきた。

傷だらけの体が、服が何度も何度も治っているのである。

そしてその光景に気味悪がったのか、スキルアウト達が少し引いた瞬間。

少年は一人の男のわき腹に螺子を突き立てたのである。

そこから先は只の殺戮ショーだった。

少年に捕まれては螺子を刺され、逃げようとしたならば、なぜか急にその場に崩れ落ちたり、まるで視力を無くした様に自ら壁に走っていくものいた。

そしてスキルアウト達が例外なく壁に貼り付けにされた後、白井黒子が現れた。

「白井さん……!」

「黒子……!」

先ほどの病室に居た彼女とは打って変わって毅然とした態度で少年になにやら話しかけている白井。

その姿に思わずディスプレイを見つめる彼女達から声が漏れる。

またもや序盤は一方的な戦い。しかし完全にフィニッシュの攻撃を仕掛けようとした瞬間、少年は瞬間移動したのである。

「…こいつも、空間移動能力者なの!?」

拳をさらに強く握り締めて御坂は画面を睨み付ける。

77: 2010/12/27(月) 23:37:19.12 ID:SrJ.fhA0
そして、少年の傷や衣類が治っていく様を見て、明らかに白井は混乱していた。

(自己回復能力、精神操作能力、そして空間転移…か)

少し冷静になり分析をしてみる御坂。傷と一緒に衣服まで修復するというのは疑問ではあるが、

間違いなく彼は様々な能力を使用しているように見えた。

そして、再び言葉を交わしている画面上の二人。

少年が何かを言い終わった瞬間、今度は少年から白井に向かって瞬間移動をする。

その手には先程スキルアウト達を蹂躙した螺子が持たれていた。

「いや…やめて!」

再生されている映像だということを忘れたように初春は、すがる様に声を上げる。

しかし、そんな彼女の言葉は届かない。届くはずもない。

そして螺子は白井の頭を貫いた。

四方にその血を撒き散らしながら、糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちる白井。

少年はその光景を満足そうに眺めた後、返り血をハンカチで落とし、白井の頭から螺子を抜いた。

そして少年はその場を後にした。

「……」

沈黙がその場を支配する。

(なんて事を…!絶対にコイツは許さない!よくも黒子を頃し……て?)

復習の炎が御坂の中で激しく燃え上がった時に、彼女は一つの事実に気が付いた。

「ねぇ初春さん。黒子は“無傷”で発見されたのよね?」

「はい…そうです……あ!」

御坂の問いかけで、初春もその事実に気が付いたようだ。

「そう。この映像のままだったら無傷なんてありえないのよ」

殺された、と言わないのは初春の配慮のためなのか、それともその事実を認めたくない自己防衛のためか。

しかし、御坂の言うとおり、ここまでされて無傷で済む人間がいる訳がない。

そしてディスプレイには驚きの光景が映し出された。

78: 2010/12/27(月) 23:51:04.10 ID:SrJ.fhA0


血を垂れ流していたはずの白井の頭からは、いつの間にか出血が止まっていた。

それだけではなく、血に濡れた頬も、制服も全て元に戻っていくのである。

そして全てが“なかった事”になった後、初春とアンチスキルが到着した。

そこで映像を切った。

再び沈黙が流れる。初春は病院でカエル顔の医師が言った言葉を思い出していた。

―――一度殺されて、生き帰されたか。

まさに目の前でそのオカルトな現象が起こっていたのである。

そんな初春とは違い、顎に手を当てながら思考する御坂。

レベル5第三位の思考をフル回転して糸口を掴もうとする。

(精神操作能力って訳ではないわね。それだったらこのビデオを観ている私達には効果がないから)

(空間転移能力も却下。それだとこの自己回復能力の説明が付かない。すなわち自己回復能力って線も相殺される)

(となると、第一位のベクトル操作のようなオンリーワンの能力のはず)

(歩行機能や視力を奪う。傷や衣類すらも修復する。距離を一瞬で詰める)

(その中での共通点は……)

「あー駄目だ!分かんない!」

「み、御坂さん?」

突然叫びだした御坂に驚く初春。

79: 2010/12/28(火) 00:06:18.33 ID:xbnAKEw0
「あぁごめん。ちょっと考え事を」

初春の言葉に冷静さを取り戻す。

しかしすぐに思考のスパイラルの中に落ちていってしまう。

「御坂さん。この人の能力に関して考えてるんですか?」

「えぇそうよ。でも駄目ね、さっぱり分からないわ」

両手を挙げ万歳をしてみせる。その姿をみた初春は何かを決心したようにディスプレイと向き合い、キーボードを叩き始めた。

「初春さん?」

その行動理由が理解できなかった為彼女に問いかけてみる。

「残念ながらあの映像に音声は入っていませんでした。なので彼がどこの誰かって言うのはすぐには特定できません」

「それでも、彼の制服はこの学園都市内の学校の物ではありませんでした。不正に進入した人間でなければ恐らく学園都市への転校生」

「不法侵入者という線は消して、ここ数週間で外部からの転校生を照会してみます」

「これも可能性の話になりますが、恐らくこの第7学区の学校……それも彼の年齢からして高校でしょう」

「その辺りから検索を掛けています……っとビンゴですね」

早口に説明をした後、椅子を回転させ振り返る初春は笑顔だった。

「えっと……氏名は球磨川禊。以前通っていた学校は廃校」

目の間に映し出されたデータを御坂は読み上げる。

「能力名【大嘘憑き(オールフィクション)】能力レベルは……“マイナス”レベル5?」

112: 2010/12/29(水) 03:18:35.02 ID:iM2FX/60
上条当麻の足取りは重かった。

雲ひとつない晴天で、どこらかしから小鳥の囀る音が聞こえてくるという爽やかな朝だというのに、

彼の表情はどんよりと曇っていて、どこらかしらから深く不快な溜息の音が聞こえてくる。

相も変わらず、彼の不幸は健在なようだ。

朝から居候のシスターに理不尽な理由(朝食の量について)で咬みつかれ、一歩外に出れば鳥のフンが靴に落下、

カラスの群れは此方をじっと睨み、黒猫の親子が目の前を縦断する。

(これであのビリビリ中学生に絡まれてもしたら……不幸だなぁ)

思い浮かべるのは一人の少女。

出会いたての頃は街でエンカウントする度にポケモントレーナーよろしく勝負を挑まれていたのだが、最近はめっきりその回数が減っている。

ただし、少し会話を交わすだけで放電をしかけてくるのはやはり自分は彼女に嫌われているのだろうかと肩を落とす。

「だいたいピカチュウかっての。いつもいつもビリビリと……」

「そういえばアイツもピカチュウと同じでトキワ……」

「誰がトキワの電気タイプですって?」

「そうそう。我ながら上手いたと……え?」

突如後ろから投げかけられる声。その声はとても聞き覚えのある声だった。

ギギギと軋む音を鳴らすようにゆっくりと後ろを振り向くと……

常盤台中学の最強の電気タイプ。超電磁砲の異名を持つ御坂美琴が引きつった笑顔で立っていた。

113: 2010/12/29(水) 03:36:24.41 ID:iM2FX/60
「すいませんすみません申し訳ありません!」

御坂の顔を見た瞬間に慌てふためきながら怒涛の謝罪を繰り出す上条。

しかし電撃がいつでも飛んで来てもいいように、右手だけ突き出している辺り、攻撃をくらうことがもはや条件反射になっているのだろう。

だが、いつまで経っても電撃は飛んでこない。

彼女は首を傾げる上条を爪先から特徴的なウニ頭の天辺まで見回した。

「あの……御坂さん?」

明らかに今までの彼女とは様子が違うことに気がついたのか、恐る恐る名前を呼んでみる。

「ああ、ゴメンね今日はアンタにかまってる暇はないのよ」

とても失礼なことをさらっと言ってみせる御坂。

しかし上条はそんな事に構わず、彼女の機嫌が変わらないうちに退散しようと再び学校を目指して歩き出そうとした。

「ちょっと待ちなさいよ!」

かまっている暇はないと言われたにもかかわらず、思い切り肩を掴まれてしまった。

「なんだよ!お前さっき暇じゃないって言ってただろうが!」

「暇は無くても用があるのよ!いちいち叫ばないでよね!」

ギャーギャーと往来で口喧嘩を始める二人。

いつまでも終わりの来ない喧嘩になると思ったが道行く学生の、朝からあのカップルは痴話喧嘩ですか、という声で幕を閉じた。

「……で一体なんの用なんだよ。上条さんは学校に向かってるから手短にな」

やれやれと首を横に振りながら、なぜか顔面を赤く染めた御坂に尋ねる。

「えっと…アンタの高校に最近転校してきた男っている?」

「なんだそりゃ?いや、少なくとも一年生には居ないと思うぜ。あ、でもなんか上級生に転校生が来たって噂を聞いた気がする」

頭の片隅に引っ掛かっていた情報を何とか思い出そうとする。

確かこないだ小萌先生がなんか言ってたような……

114: 2010/12/29(水) 03:51:20.29 ID:iM2FX/60
以下、回想。


「レベル5の転校生ですか?」

HRの最中にそんな質問が担任である月詠小萌に投げかけられていた。

「そうですよ~皆さんとは歳が1つ違いますけどね~レベル5の第8位ですよ」

そう言って満面の笑みで教壇からクラス全体を見渡す少女。

とても教師の出来る年齢にはみえないその姿は、不老不氏実験の被検体などと比喩される事もあるそうだが、

実際には煙草もお酒も窘める年齢である。(学園都市内の屋台で頻繁に酒盛りをしているらしい)

担任の言葉に教室がざわめき立つ。無理もないレベル5といえば学園都市に数えるほどのいない存在である。

いわばエリート中のエリート。

そんな存在がなぜこのような高校に転入してくるのか?普通なら長点上機学園等のエリート校に行くのが普通だろう?

そんな疑問も合い交わって、教室のざわめきは一層強くなったのだ。

そしてこの時クラスの問題児である上条当麻は、机に突っ伏して夢と現実の狭間を彷徨っていたのである。



以上、回想終了。

115: 2010/12/29(水) 04:11:58.65 ID:iM2FX/60
「思い出した!一学年上のクラスにレベル5の転校生が来たって話だ。でもなんでお前がそんな話を聞きたがるんだ?」

自分と同じレベル5が新たに加わったと聞いてその力を試しに来たんじゃないんだろうな、と上条は不安になる。

しかし目の前の第3位はその言葉を聞くなり黙ったまま俯き、こちらを見ようともしない。

上条はその表情に見覚えがあった。

それはあのどうしようもない計画を前にたった一人で抗っていた時と同じ顔だった。

「……何かあったのか?」

その言葉に御坂の肩がピクリと揺れる。そして両手で顔を覆いワナワナと震え始めた。

(泣いてるのか?)

なんと声をかけていいのか分からない上条は、とりあえず彼女を落ち着かせようと頭を撫でてやることにした。

(こうやってやると少しは気が楽になるってテレビでやってたような気がする)

ゆっくりと左手を彼女の頭に伸ばし、柔らかそうな髪に触れる瞬間。

電撃がそれを拒絶した。

「あはははは!アンタ私が泣いてるとでも思ったの?馬鹿みたい」

いきなり顔を上げて大声で笑い出す御坂。

「何かあったのか?じゃないわよ。ただ単に新しいレベル5と私、どっちが格上か勝負しようと思っただけよ~」

「な!?」

「あ、もうこんな時間じゃない。それじゃ私も学校に行くわ」

御坂はそう一方的に会話を切ると、自分が向かう反対方向へと走り出す。

そして少し距離を置いた後、立ち止まり、唖然としている上条に向かって何かを伝えた。

それはちょうど通りがかった学生達の騒音に呑まれ聞く事が出来なかったが、それは別れの言葉を言っているようだった。


―――さよなら

116: 2010/12/29(水) 04:13:59.27 ID:iM2FX/60
短いですが今日はここまでです。

あぁこの2倍は透過する予定だったのに、仕事をしていたらもうこんな時間ですorz

明日は朝6時置きなのでもうオフィスで眠る事にします。


それではまた今日の夜に投下する予定なので、もしよろしければ覗いてやって下さい。



では、後ほど~

130: 2010/12/30(木) 05:19:02.56 ID:zqRRHyg0
「それでは今日はここまでなのです」

チャイムと同時に小萌がその言葉をいった途端、教室はざわめきだす。

「さぁて、上条さんはこのまま特売へとひた走りますか」

そう呟いて教室を後にしようとする上条に立ち塞がる一つの影。

「おっと、カミやん逃がさんで」

ただでさえ目立つほどの長身にさらに青髪ピアスという風貌で異様な存在感を放つ。

そして胡散臭い関西弁が特徴である男は、クラスが恥じる3バカの一角。すなわち上条の悪友である。

「じゃあな」

「華麗にスル―!?ちょっとカミやんそれは冷たすぎん?」

「上条さんは忙しいんです。口リコン会議なら土御門とでもやってくれ」

「それが気が付いたら帰ってるんよ。って今日は会議の日じゃないんやけど」

本当にそんな会議が定期的に行われてるのかよ、と目の前の友人に引いてしまう。

「露骨に引かんといてや、傷つくわ。」

頭をガシガシと掻いて、苦笑いをする青髪ピアス。そしてまあいいけどな、と呟いて再び口を開く。

「いや、昨日レベル5が転校してきたって話聞いたやろ?」

「あぁ、聞いたけど……」

正直今はそんな事より特売の方が重要である。

家で今日も腹を鳴らしているだろう穀つぶしの大食いシスター(レベル5の胃袋)にまた頭をかじられてしまう。

131: 2010/12/30(木) 05:37:07.22 ID:zqRRHyg0
「気になるやん?気になるやん?レベル5に会える機会なんてそうそうないで」

心なしかテンションが上がってきている友人。

確かにレベル5が自分の通う高校にいるとなれば興奮してしまうのは無理もないだろう。

だが、結構な確率でそのレベル5の第三位と遭遇し、追いかけまわされている身としては、

レベル5にあまり関りを持たない方がよいと思ってしまう。

そして第三位と同時に思い浮かぶ第一位の姿。

(アイツは今なにしてんだろうな)

あの実験が中止となった今、あの最強は何を思って日々を過ごしているのだろうか?何をして日々を生きているのだろうか?

そんな事を考えると、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ自分の行ってきた事への疑問が浮かぶ。

上条当麻はある日以降の記憶が無い。

しかしそれでも彼は人を救い、助けてきた。

そうすることが当然だと思っていたし、なにより見て見ぬふりは絶対に出来なかった。

右手に宿る不思議な力。

幻想頃し。

異能の力は全て打ち消すその右手。

能力だろうと、魔術だろうと。奇跡だろうと、気運だろうと。

幻想であろうと、夢であろうと。

その右手は頃してしまう。

150: 2011/01/01(正月) 03:32:59.38 ID:sKkZRwM0
上条は自分の右手を握り絞め、眺めていると青髪ピアスはその右手を両手で掴み、懇願した。

「だからなカミやん。一緒に身にいこレベル5を。一人じゃ寂しいんよ」

「わかったよ。お前がそんなに頼むなら……」

観念したように溜息をつき、首を横に振る上条に、おお一緒に行ってくれるんかとその細い目を輝かして、

一層右手を握るその両手に力を込める。

そしてそんな友人に向かって笑みを浮かべ、頷いた上条は

「断る」

両手を払い拒絶した。それも真顔で。

「上条さんは特売に行く日なのです!そんなレベル5なんかにかまっている暇があったらひとつでも多くの特売を入手する!」

「だいたいレベル5に絡んで下手に気に入られたらどうするんだよ!」

「もう事あるごとに攻撃を受けるのはこりごりなんですよ!」

そんな人間は第三位だけで十分である。

それは上条当麻、魂の叫びであった。

そして結局、小学生のように駄々をこねる青髪ピアスに、俺、特売、急がないと、売り切れ、と何故か片言で捨て台詞を吐き、

全力疾走で教室からスーパーへと駆けていった。

急ぐ上条の背中に、廊下は走っちゃいけないのです~という担任の叫びは空しく響くだけだった。

151: 2011/01/01(正月) 03:58:31.55 ID:sKkZRwM0
とある公園には、ご満悦の表情をした上条当麻がベンチに腰掛けていた。

お目当ての商品が何の障害もなく購入できたばかりか、まさに棚ぼたともいえる僥倖に見舞われ予想以上の戦果を得たのである。

そんな上機嫌の彼には、世界は希望の光が満ち溢れ、鳥の囀りも愛しく聞こえ、走り回る子供たちには慈愛の眼差しを向けていた。

まぁ傍から見ればどこか別の世界にトリップしている怪しい頭がメルヘンでお花畑な男子高校生にしか見れないが。

アンチスキルに見つかれば即刻連行モノの気持ち悪さである。

しかし両手に余るほどの買い物袋を携える彼には、周囲から寄せられるまるで電動工具から発射される釘のような鋭い目線には気がつかない。

むしろ気が付かないことによってよりぶっ飛んでいると思われたのか、いつの間にやらその公園には誰も居なくなっていた。

上条は自身の知らないところで見事に黒歴史を作り上げたのだ。

『とっても幸せそうだね』

「うおゎっ」

と、そんな全方位ATフィールドを展開していた上条に躊躇う事無く声をかける少年が居た。

その言葉で此方の世界に戻ってきた彼は、奇声を発した後、突然声をかけて来た少年を驚いた目で見つめる。

何かトラブルの気配を感じ取ったのか、幸せ(食材)の詰まったビニール袋をベンチの下に非難をさせる。

服装は制服、それも自身が通う高校の指定品。

特徴を挙げろと言われれば、きっと首を捻って考えて一日ディスカッションをしなければ発見することの出来ないであろう、中性的な顔。

黒い黒い髪。

どこにでも居そうで、どこにも居ない様な少年である。

152: 2011/01/01(正月) 04:20:07.87 ID:sKkZRwM0
「えっと、どちら様?」

(初めて見る顔だな)

目の前の少年に見覚えはない。ひょっとしたら記憶喪失(破壊)以前には面識のあった人物だったかもしれないが、

今の上条には会ったことのない人間の為、自然とこういった聞き方になってしまった。

もし顔見知りであったら大変失礼である。

『そりゃあ初めて会ったんだもの。僕のことは知っているはずはないよね。でも特徴のない顔ってのさすがに傷つくなぁ』

「え?字の文読まれてた?」

『いやいやこっちの話。それよりメタ発言には気をつけなよ』

『そこから壮絶愉快痛快抱腹絶倒な掛け合いで、読者の笑いを誘うことが出来るのなら話は別だけどさ』

『陳腐な言葉遊びと劣化コピーの掛け合いしか喋らさせてもらえない僕達には、ただただハードルを上げるだけだよ』

「いや、アンタが気をつけたほうがいい」

三人称であの展開は難しいんだよ、と付け加える上条。

『いやいや、僕はキャラ設定的に問題ないよ。それに僕は口の躾には厳しいほうなんだ。無門題、無門題』

「厳しすぎて口が家出してるじゃねえか!分かりにくい仕掛けを仕掛けるなよ!」

『失礼噛みました』

「分かりやすいじゃ無くてパクリじゃないか……まぁ一応言っておくよ。違う、わざとだ」

『神はシナ』

「やめてぇぇぇ!危ないネタはやめてぇぇぇ!」

自己紹介すらしていないのに話が脱線しすぎた挙句、公園で絶叫をしている少年の姿がそこにあった。

上条当麻、その人だった。

153: 2011/01/01(正月) 04:35:13.82 ID:sKkZRwM0
閑話休題。

「なんだか迷走している気がする……不幸だ」

『しょうがないよ、せっかくの年越しを大雪の影響で通行止めになった名神高速の上で過ごしたんだから、迷うのも当然さ』

「……」

閑話休題の意味が成されていなかった。

『何で黙ってるんだい?』

「あぁ、いえ気にしないでください。それで何の話でしたっけ?」

『えっと上条ちゃんは工口本を買う時に参考書、工口本、参考書のサンドイッチでレジに出すのか』

『僕見たく工口本、参考書、工口本で攻めるのかどっち?っていう話だったよ』

「ちげぇよ!頼むから話を進めてくれ!せっかくの閑話休題が意味を成さない!!」

『え?上条ちゃんは工口本、工口本、工口本なのかい?いやはやこれは蛭間妖一も形無しの長攻撃型だねぇ』

「そんなことは一言も言ってませんが!?それにまた分かりにくいネタを仕込むのはやめろ!!」

いい加減限界である。上条だけでなく色々な意味でもう限界だった。

これ以上黒歴史を広める必要も無いだろうに、と少年も少し哀れんだ表情を見せた。

閑話休題。こんどこそ、それはさておき、だ。

『上条ちゃんとは初対面だよ!改めましてこんにちはー球磨川禊っでーす』

『10日前位に学園都市に引っ越して来て、昨日上条ちゃんと同じ高校に引っ越してきたんだ』

『まぁ僕は2年生だから、知るはずも無いよね』

やたらハイテンションで自己紹介を済ませる球磨川。

155: 2011/01/01(正月) 04:55:35.02 ID:sKkZRwM0
「昨日入った転校生で2年生って、貴方が噂のレベル5!?っていうか上条って連呼してたけど何で知ってるんですか!?」

『質問は一つにしてほしいなぁ。まっ、どうでもいいけど』

慌てる上条に対して、どこか冷めたような口調な球磨川はそういった後に質問に対する回答を口にした。

『一つ目の質問に対して答えよう―――イエスだよ。能力は自己再生?空間転移?まぁ忘れちゃったけどレベル5って奴らしい』

『まぁ分類は分かりやすく言うと化け物ってことだろうねレベル5は。うわー悲しいなーそれだけで孤立しちゃうなー』

なぜか回答をしきった跡に、かなりわざとらしい演技をした。

『面白いよね学園都市って。外の社会じゃ人間に―――特に学生に順位を決めることなんて有り得ないよ』

『レベル0なら落ちこぼれと罵られ、レベル1なら才能が無いと葛藤し』

『レベル2ならレベル1の追い上げとレベル3の壁に苦しみ』

『レベル3なら中途半端な位置に息を詰まらせ』

『レベル4はレベル5とのすべての違いに打ちのめされ』

『レベル5はすべての人間に化け物と恐れられる。まったく、皆が皆“マイナス”になれるとっても素晴らしいシステムだよね』

捲くし立てる球磨川に、上条は何も喋らない。

『あぁ気にしなくていいよ唯の独り言だから。じゃあ第二の質問の答え』

『お前は上条当麻を知っているのか―――これもイエス。肯定だね』

『おっと別に君を付け回したとかそんなことはしてないよ。だって君は有名人なんだ。自覚は無いかもしれないけれどね』

『さっきの能力のレベルの話にも繋がるんだけど、どのレベルにもある不の感情を君はどんどん打ち壊していくんだからね』

だから。

だからこそ、興味を持って当然じゃないか、と球磨川は言った。

156: 2011/01/01(正月) 05:13:28.15 ID:sKkZRwM0
上条は喋らない。

『無能力者や低能力者にはある種希望のような存在だよ上条ちゃんは。というよりその右手が、都市伝説の【幻想頃し】が』

『レベル5第一位(最強)を負かしたレベル0(最弱)っていう都市伝説もあるよね』

『そういった都市伝説なんて、弱い存在が作り上げる希望なんだよ。すがりつきたい幻想なんだよね』

上条は喋れない。

『ただ同時に高位能力者には恐怖を与える。だってそうだろう?自慢の能力がまったく聞かない存在なんて不気味だよ』

『はっきり言って気持ち悪い。あ、これは別に僕の気持ちって訳じゃないからね、気にしないであくまで皆の気持ちだから』

『そして、それまで希望の存在として崇めていた無能力者や低能力者も恐れていく』

上条は答えない。

『最強を負かした存在はまるっきりの無能力者じゃなくて、能力を打ち消す能力を持ってましたー、なんて』

『そうなったら、彼らの幻想は崩れる。結局は“特別”じゃないかと嫉妬する』

上条は答えれない。

『本当に面白いよ上条ちゃん。君は不の感情も壊して、正の感情も壊して、まるで感情の破壊臣だね!』

『さらに自分が抱かした幻想でさえも、いずれぶっ頃しちゃうんだよ。ひょっとして上条ちゃんってドS?』

『知ってる?君が今まで頃してきた幻想ってのは、その人の夢、その人の正義、その人の信念、そして何より―――』

喋れない、喋らない、答えない、答えられない。

『その人、そのものなんだよ』

177: 2011/01/02(日) 05:14:54.90 ID:g/hE2U.0
「遅いんだよ、とうま!」

上条当麻が帰宅するなり、そんな怒号と共になにやら白い物体が彼の頭上に飛来する。

そしてそのまま白い物体は彼のウニの様なツンツン頭に齧り付いた。

「どれだけお腹を空かしてると思ってるの?私は生命の危機っていう声明を表明するんだよ!」

なおも齧り続けながら文句を垂れ流す白い物体の正体は、安全ピンで繫ぎ止められた修道服を着た少女だった。

シスターなのだろうが、現在の彼女の素行を見る限り、その答えを肯定することはできないだろう。

神に仕える存在が、こんなにも俗物なはずがない、と。

「離してくれ、インデックス。ご飯ならすぐ作ってやるから」

インデックスと呼ばれた少女は彼のいつもとは違う様子に何かを察したのか、すぐさま彼を解放する。

「とうま、また何かあったの?」

また、と付けるくらい彼がトラブルを引き付ける体質な事や、困った人を見過ごせない事を知っているインデックスは、

彼がなにか事件か、それに匹敵する人物と関係を持ってしまったのではないかと思ったのだ。

「いや、大丈夫だよインデックス。さて特売も無事に買えたから今日くらいは豪華な食卓にしような!」

上条は、そんな彼女の心配を感じ取り、萎みきった元気を無理やり膨らませ、笑顔でそういった。

そんな彼の様子に腑に落ちない、といった表情を浮かべるインデックスだったが、それも自分に気を使っての事だろうと思い、

彼の意思を尊重し、素直にうんと頷くしかなかった。

それと同時に彼が自発的に話してくれるまで、自分は無理に首を突っ込まないようにしようと心に決めた。

178: 2011/01/02(日) 05:41:11.01 ID:g/hE2U.0
やけに聞き分けのよい同居人を不思議に思いつつ、上条は少し早い時間であったが、夕食の準備に取り掛かる。

(インデックスに気を使わせちゃったな)

恐らく気落ちしてしまっているのが伝わってしまったのだろう。彼が玄関ドアを開く前に作った笑顔は自分でも分かる位不自然だったし。

上条は夕飯に使用する食材以外を空になっている冷蔵庫にしまい、台所へと向かったところで、先ほどの公園での出来事を思い返していた。

いきなり現れては悪気もなく罵倒し、幸せ真っ只中だった気分を台無しにしてくれたと思えば、その後すぐに

『なーんて全部冗談だよ。ごめんね』とすまし顔で謝罪をした、球磨川と名乗る転校生。

そして、ベンチの下に置いて(非難さして)いたレジ袋の中にあった、本日の戦利品の中でも貴重な栄養の源である卵数パックを手に持って

なにやら思案した後、それを戻し『また明日』と球磨川はさっさと帰っていってしまったのだ。

「レベル5には変な奴が多いとは思ったけど、あの人は飛びぬけていたなぁ」

熟練されたプロの傭兵と対峙したような恐怖を持つのが第一位だとしたら、先ほど対峙した第八位はなんというか、

使い方を覚えた幼稚園児が、拳銃を振り回す、というような恐怖を覚えた。

悪意も、善意も持たないが故の恐怖。

腹が空いたなら飯を食う。眠たくなければ目を閉じる―――そして頃したくなれば、躊躇もなく頃す。

球磨川はそんな存在だった。

そんなことを考えながら、卵の中身をボウルに入れようと殻を割った上条は目を疑った。

卵の中身が入っていなかったのだ。

194: 2011/01/03(月) 00:22:26.18 ID:CtZ.Ylw0
そんな異様な光景に残りの卵達の無事を案じた上条は、冷蔵庫に入れたばかりのパックを全て取り出し、片っ端から割っていった。

「わわわ、とうまどうしたの!?」

親の敵を見るような形相で卵を割り続ける上条の姿にただならぬ圧力を感じたインデックスが、ぱたぱたと台所に現れた。

「ぜ、全滅だ……」

「え?」

足元に大量の割れた殻が散乱している中、呆然と立ち竦み瞳に涙を溜めながら上条は天井を見つめていた。

「今回の特売の目玉であり、上条家のこれからを担うはずだった卵様たちが、全滅していたんですよ……」

ふふふ、と虚ろな目で笑い声を漏らす上条だったが、その表情はまったく笑っていなかった。

「と、とうま今すぐこの殻と空パックを持ってスーパーに行くんだよ!取り替えてもらえばきっと……」

「いや、インデックスさん。確かに上条さんが購入した時はその圧倒的質量をもっていたんですよ」

慌てて彼を宥めようとインデックスが話しかけるが、どうやら意味が無いようだ。

「それにですね、こんな空の殻を持っていった所で、ただ使っちゃっただけでしょうと言われるのが関の山」

「そ…それじゃあ……」

その言葉に彼女も絶望をする。

卵が、万能食材である卵様が無くなるとなれば今後の食卓事情に大きな打撃を与える。

つまり、それは彼女にとって余命宣告をされたようなものだった。

よろよろと壁にもたれ掛かり崩れ落ちるインデックスをそのままに、上条は大きく息を吸った後、近隣住民の迷惑など省みず叫んだ。

「不幸だぁぁぁああああああ!!」

196: 2011/01/03(月) 00:43:07.42 ID:CtZ.Ylw0
結局。今回上条家の食卓に並んだのは野菜炒めと炒飯だった。

それまでの食事からしてみれば豪勢なものだったが、なんにせよ主役不在の食卓である。

その野菜炒めにも、その炒飯にも抜群の相性を誇る卵の姿が無いのである。

こと炒飯に関しては卵の不在はあってはならない事であり、もはや黄金色に染まっていない炒飯など炒飯では無いのだ。

つまるところ、炒飯とは卵であり、卵とは炒飯なのだ。

「戯言なんですけどね……」

「ふぁにあいっあお?おーあ?」

「口いっぱいに炒飯を詰め込んだまま喋るんじゃありませんよ……インデックスさん」

上条はとてもシスターとは思えないほど行儀の悪い同居人に注意をし、はぁと深い溜息を吐き出してから目の前の料理に箸を伸ばす。

(いや、ポジティブに考えるんだ。駄目になった食材は卵だけなんだ)

(それでも通常の倍近くの備蓄を蓄えられたことに感謝するべきだ!)

逃がした魚は大きいというか、一度目の前に差し出された希望を取り上げられた事に対するショックは大きいが、

考えたようにそれを差し引いた現在の幸せを噛み締めることにした上条だった。

既に三分の二近くが無くなっている野菜炒めを掴み、口に入れて今度は別の事を考える。

それは当然、球磨川禊についてだった。

197: 2011/01/03(月) 01:14:15.36 ID:CtZ.Ylw0
恐らく今回の卵事件は彼の仕業だろう。なにせこの卵達を手に取ったのは上条と彼以外に居ないのである。

この卵自体は上条が右手で触っても変化は無かったので、偽者だとか仕掛けがしてある訳ではない。

ならば球磨川はあの瞬間に卵の中身をどうにかしたのだ。

中身だけを転移させたのか、

それとも全く別の方法で消滅させたのか、その方法までに推理は至らないが、恐らく中身を消したことは間違いないだろう。

まったく気が付かないあたりさすがはレベル5といったところだ。

(というか、嫌がらせ以外のなにものでもないぞ)

やっぱり超能力者様には変わった人間しかいないなぁと今度は炒飯を頬張りながら思う上条。

ちなみに大皿に乗っていた野菜炒めは既に目の前の少女の胃袋の中だった。

今度は炒飯をものすごい勢いで口に詰め込んでいる少女を眺めながら、上条はひとつ質問を投げかけてみた。

「なぁ、魔術の中には物体を消しちまうってのがあったりするか?」

突然そんなことを聞かれた少女は、そのまま喋ろうとしたが、先ほど注意を受けたばかりなので慌てて口の中の炒飯を飲み込もうとしている。

このリスみたいに頬を膨らましているシスターの頭の中には10万3千冊の魔道書が記憶されている。

「うーん、あるにはあるんだけどそれを使用するにはかなり複雑な術式と大人数の魔術師が必要になんだよ」

だから現代では使われていないかも、と付け加える。

198: 2011/01/03(月) 01:25:46.41 ID:CtZ.Ylw0
「そっか」

ひょっとしたら、と思ったがそんな大掛かりな魔術ならば球磨川魔術師説は無いだろう。

しかし、空間移動能力でどこかに飛ばしてしまう以外には卵の中身を消した方法が思い浮かばなかった。

(明日小萌先生にでも聞いてみるか)

幸い?なことに球磨川は上条と同じ高校に通っているので担任に聞いてみればどんな能力かは教えてもらえるだろうし、

友人も球磨川のことを調べている様子だったので、そちらに聞くこともできる。

別に能力が分かったところでどうするといった話ではないが、

卵の件だけでなくあの暴言について謝罪をしてもらうために彼を尋ねようと思ったのだ。

(思い出しただけでもモヤモヤしちまうな)

そんな事を考えていたら、ふと脳裏に浮かぶ球磨川の言葉。

―――君が今まで頃してきた幻想ってのは、その人の夢、その人の正義、その人の信念、そして何より、その人そのものなんだよ。

それは、たまに上条が考えていることだった。


199: 2011/01/03(月) 01:46:39.45 ID:CtZ.Ylw0
上条はこれまで数々の事件に関わっては解決をしてきた。

そしてその数に比例するように諸悪の根源である人間を倒している。

それを間違っているとも思わないし、窮地に立たされた人を助けるためにはしょうがないことでもあった。

目の前の少女、インデックスや、御坂美琴もそうだった。

どうしようもない現実に、抗いようの無い運命に、救いを求めていた彼女達に手を差し伸べたのは上条だけだった。

それはとても立派で、素敵で、正しい行いだろう。まさしく正義のヒーローだろう。

事実、彼女達だけでなく様々な人間がその問題の大小を問わず彼に助けられている。

しかし。

果たして相手側から見ても尚、彼は正義といえるのだろうか。

例えば敵に恋をした魔術師。

例えば全てを司る錬金術師。

例えば友人の為に悪に徹した魔術師。

例えば絶対的な力を欲した超能力者。

彼らには事件を起こす理由があった、信念があった、夢があった。

そして彼らだけでなく、その背景には様々な人間が居るのだ。

その全てを打ち砕いて尚。

その幻想を頃しておいて尚。

上条当麻は正義のヒーローだと言えるのだろうか。

201: 2011/01/03(月) 01:49:54.58 ID:CtZ.Ylw0
球磨川の言葉は、上条の心の中を駆け巡っていた。

ぐるぐると。

くるくると。

自分は正しいのか、間違っていないのか。

そんなことを考えながら、上条は夕食を終えた。

202: 2011/01/03(月) 01:56:26.77 ID:CtZ.Ylw0
上条さんが葛藤したところで今日の投下は終了です。

これで一応今回の物語の主要人物たちは球磨川と関わりを持ちました。

いよいよ本格的に科学と過負荷の物語が始まります。

誤字脱字がひどいですが許してください


それでは『また明日とか』



234: 2011/01/05(水) 09:54:33.53 ID:.yE5TcI0
「それで、次はどう動くつもりだね?」

窓もドアもないビルの一室。

その中央に浮かぶ生命維持槽の巨大ビーカーに身体を浮かばしている学園都市の最大権力者、学園都市総括理事長アレイスターは言った。

男にも、女にも、子供にも、老人にも見えるその異様な姿に表情は無表情のまま。

その言葉の先には一人の少年。

アレイスターの放つ存在感に微塵も動揺を見せず平然と言い放つ。

『実は何も考えてないんですよねー。好き勝手やっていいっていう約束でしたけど、なんか逆にやりずらいっていうのか』

「絶対能力進化計画の復活、風紀委員との接触、そして幻想頃しとの接触―――これは何を図としているのかな?」

『うーん、風紀委員ちゃんとの戦闘は正直予定外だったんですけどねぇ。まぁどうでもいいですけど』

思い出すように唸った少年だが、まぁいいやと言わんばかりに首を横に振る。

『ミサカちゃん達を戻したのは一方ちゃんと仲良くしたいが為だし、上条ちゃんとお喋りしたのも友達になれるかなぁーと思ったからですよ』

『ほら、あの二人ってどちらかといえば僕よりの人間だと思いません?』

「……まぁ否定はしんよ」

『でしょ!それなのにあの二人は怒っちゃうんですよ。いったい何が悪かったんでしょう?』

本気で理由が分らないと首を傾げる少年にアレイスターは何も言葉を発しない。

『まったく空気を読んで欲しいものですよ。右も左も分らない転校生にあそこまで不愉快なオーラをだすとか』

『間違いを諭すのは本当の友達だっていうのを週刊少年ジャンプから学ばなかったのかなぁ?』

どこか幼い顔立ちの少年はそういって拗ねるように口を尖らせた。

235: 2011/01/05(水) 10:15:01.09 ID:.yE5TcI0
『あ、そういえば貴方にも少し文句があるんです』

「なにかな?」

アレイスターに文句を言う。

これだけでギネス認定物の大業だが、そんなことを気にせずまるで友人に言うようにフランクな態度で少年は口を開く。

『なんで僕がレベル5なんですか?そのおかげで楽しい楽しい学校生活が送れないじゃないですか』

この学園都市でレベル5認定をされて喜ぶものは数多くいるだろうが、それによって文句を言われるなどおかしな話である。

「一応表向きはレベル5という事にしておかないと、混乱が起きるからね。そこは我慢をして欲しい」

「【負能力者】というカテゴリは、今のところ君しかいないのだから便宜上仕方が無いものだよ」

それでもある程度の大人達は君の正体については知っているがね、と少し口元を歪める。

『そうですか、それなら仕方が無いですね』

もう少しごねるのかと思いきや、あっさりと受け入れる少年。もともとそれほど執着していないのだろう。

『そう言えば、負能力者の素質を持った子を見つけましたよ』

「ほう。それは、素晴らしい」

同じように少年の報告をあっさりと受け入れるアレイスター。彼もそれほど重要視していないように見える。

『頑張っても報われない、努力しても花が咲かない、これといって特技もない普通に普通な女の子ですけど』

『ちょっと僕が後押しすれば、きっと彼女が望む能力を手に入れて、僕の力になってくれると思います』

「その少女の名前は?」

予定調和。まるで始めから用意された台本を読み合うような会話が続く。

『嫌だなぁもう貴方も既に目を付けているんでしょう?でなければ物語にあれだけ参加できませんよ』

そんな軽口を加えた後に少年は―――超負能力者(-レベル5)の大嘘憑き球磨川禊は凄惨に笑った。

『第七学区立柵川中学一年の、佐天涙子ちゃんですよ』

246: 2011/01/05(水) 16:42:35.71 ID:DwA1hJA0
「おや、お姉さま。こんな所でなにをしているのでしょうか?とミサカは公園のベンチで黄昏ているお姉さまに声をかけます」

とある公園のベンチで少し休憩をしていた御坂美琴に声をかけるのは、その当人と同じ顔をした少女だった。

同じ顔に、同じ髪型、違うところといえばその頭に掛けられている仰々しいゴーグルと服装ぐらいだった。

「べっつに、少し運動してたからちょっと休憩してるだけよ」

「そうですか、なのでそのようなスポーティーな格好なのですね、とミサカはキャップをかぶったお姉さまに興味津々です」

じろじろと御坂の格好を観察しては自分の服を見て少し物欲しそうな表情を浮かべる彼女。

「制服じゃ動き辛いしね。っていうかアンタこそこんな所で何してんのよ?」

「ミサカは調整を終え暇になった時間を散歩に費やしているだけですが?とミサカは疑問に答えます」

調整。それはこの双子といえどもそっくりすぎる彼女が行き続けるためには必要なことであった。

彼女は『量産能力者計画』にて開発された、御坂美琴のDNAマップを使用し、2万体生産されたクローンの内の一体である。

通称【妹達(シスターズ)】

量産能力者計画自体は頓挫し、破棄される運命だった彼女達は絶対能力進化計画にて利用されることになった。

しかしその内容は学園都市第一位に殺されるという最早破棄と同義のものであったが、目の前に居る御坂美琴と上条当麻により

実験は中止、凍結され生き残った9969体の妹達は生き残ることができたのである。

学園都市内に残った妹達も居るが、その大半は外部の研究所にて調整を行っているのである。

248: 2011/01/05(水) 17:00:44.38 ID:DwA1hJA0
「ま、元気そうで何よりね」

御坂にとって妹達は妹でありながら娘のような存在である。

妹達の存在をはじめて知った時はなかなか受け入れられなかったが、現在ではそんな様子もなく偶に遊びに出かけたりもする。

当然、彼女達の体調も気にしてしまうのだ。

しかし、彼女からの返答は少し様子がおかしかった。

「体調的には問題はないのですが……とミサカは言葉を詰まらせます」

伏し目がちにし、言葉が続かない妹に不安を覚えた姉はベンチから立ち上がり彼女の両肩に両手を乗せる。

「なにかあったの?私にできることがあるなら話して」

いっそ睨み付けるような表情でつっかかる御坂に少し彼女は動揺する。

「お、落ち着いてくださいお姉さま。問題といってもこれはミサカネットワーク上の問題です、とミサカはお姉さまを諭します」

「でも話してよ、貴女達の問題は私の問題なのよ」

気を遣わせまいと言った妹の発言は火に油というか、余計に御坂を煽ってしまったのか、両肩に置かれた手に力が入る。

「わ、分かりました。話しますからとりあえず落ち着いてそのベンチに座ってください、とミサカは再びお姉さまを諭します」

どこか納得していないようだったが、その言葉に御坂は両手を離し、再びベンチに座る。

そして、彼女もその隣に腰を下ろす。

(お姉さまはどこか情緒不安定なようですね)

確かに御坂は妹達の問題に対しては敏感に反応するが、ここまでの動揺っぷりはなかなか見せない。

妹達は知らない。

とてつもない事件を彼女は追っている事を。

この公園にいたのもその事件の調査中に休憩のためである事を。

そして、自分達の抱えている問題と、姉が追っている問題が繋がっているという事を。

251: 2011/01/05(水) 17:15:41.89 ID:DwA1hJA0
「最近ミサカネットワーク上で存在しない固体の情報が流れてくるんです、とミサカはこれから説明することの結論を先に話します」

「存在しない固体?それって……」

「はい、例の実験で一方通行に殺害された固体です」

どくん、と妹の言葉に御坂の心臓は激しく揺れる。そして思い出す一人の妹。

初めて御坂が出会った彼女。

初めて外に出たという彼女。

初めてアイスを食べたという彼女。

初めて貰ったプレゼントを喜んでいた彼女。

そして、自分の目の前で氏んでいった彼女。

心臓の鼓動が早くなるのが自分でも分かる。手に汗が溜まるのが分かる。

しかし妹は言葉を続ける。

「当然そのようなことはありえませんし、あってはいけないことなので、上位固体に確認を取ろうとしているのですが……」

それがなぜか反応がありません、と小さく首を横に振る妹。

「……上位固体?」

知らない単語に落ち着きを取り戻す御坂はオウム返しでその単語をつぶやく。

「ああ、お姉さまは知らないのでしたね。上位固体、通称【打ち止め】(ラストオーダー)」

「ミサカネットワークを取り締まる固体であり、全ミサカ達の司令塔のような存在です、とミサカは簡単に上位固体の説明をします」

253: 2011/01/05(水) 17:53:15.73 ID:DwA1hJA0
「そうなんだ……」

「ええ。それで一方通行に確認を取ろうとしたのですがそちらも連絡が取れずに困っているのです、とミサカは説明を終えます」

「そっか……一方通行にもれんらってえええ!?」

妹からありえない単語が飛び出してきたので盛大にずっこける。

なぜ彼女の口からあの一方通行の名前が出てくるのか?レベル5の頭脳をもってしても理解不能だ。

「なるほど、リアクションというのはこういったものなのですね、とミサカは体を張るお姉さまに感嘆します」

「違うわよ!なんでアンタからアイツの名前がでてくんのよ!?おかしいでしょ、だってアイツはアンタ達を……」

「確かに彼はミサカ達を殺害しました。しかし彼によってミサカ達は生きることができたのです、とミサカは誤解しているであろうお姉さまをなだめます」

「ちょっと待って、理解ができない」

あまりの衝撃に漏電している御坂。

「これも説明しましょう、と半分面倒臭がりながらミサカは説明を始めます」

それから彼女は説明をした、

打ち止めを利用したウイルスで妹達が危機に陥っていたこと。

それを命を掛けて救ったのが一方通行だいうこと。

その事件を解決する代償が脳へのダメージだということ。

「つまり能力の使用が不可能になった、と」

「正確には限定された、と言ったほうが正しいですね。彼は現在ミサカネットーワークに演算処理を任せていますので、

能力自体は使用できます、とミサカは一方通行の現状を伝えます」

御坂はその話しを信じることができなかった。否、信じたくなかった。

258: 2011/01/05(水) 18:07:16.69 ID:DwA1hJA0
一方通行が打ち止めを救ったとしても。

一方通行が本当に実験を続けたくなかったとしても。

彼が10031人の妹達を頃したという事実は無くならないのである。

「当然、ミサカ達も彼を許したつもりはありません、とミサカは胸の内を明かします」

「だったらなんで!?」

「一万の命を奪った彼も、一万の命を救った彼も等しく同じ一方通行なのです」

「…………」

「ミサカ達は許したつもりはありませんし、一方通行は許されるつもりもないでしょう。ただ……」

その言葉を言った彼女はどこか笑っている様に見えた。

「それがお互いに歩み寄っていけない理由にはならないでしょう?とミサカはお姉さまに問いかけます」

(ああ、この妹は本当に……)

ずっと一方通行に憎悪を抱いていた自分が馬鹿みたいと思わせるような言葉だった。

「そう、ね……でも私はアイツを許すことはできないと思うわ……今はまだね」

今はまだ、という言葉を一方通行に聞かせてやりたいと思う妹はこっそりネットワークに保存をする。

259: 2011/01/05(水) 18:23:09.80 ID:DwA1hJA0
「貸しと借りは相殺されるのではなく、積み重なっていくものだ、とミサカは工口ゲーで得た知識を披露します」

「ちょっと待って!?アンタそんなもんやってんの?」

今までのシリアスな雰囲気は!?ちょっと泣きそうな私の立場は!?と御坂は慌てふためく。

「お姉さま、そんなものとは流石のミサカも鶏冠を立てますよ、とミサカは自身のアイデンティティを侮辱されたことに怒りを表します」

「そんなものを自己証明にしないで!大体アンタは未成年でしょうが!!」

「そのあたりは杞憂です。先ほどは工口ゲーと言いましたが、ちゃんと全年齢対象のコンシューマ版もプレイしましたので」

「も!?結局18禁版もやってるって事でしょうが!!え?そういえば最近私がゲームショップによく出没するって噂は?」

「ああ、きっとそれはミサカでしょうね。大体週4でお店に足を運びますので、とミサカは無い胸を張ります」

「無い胸とか言うな。ちょっと止めてよ私にあらぬ噂がたっちゃてるのよ!!」

「?別に嗜好品を求めているだけであって何もやましいことは―――」

「女の子がそんなゲームを買う時点で十分やましいのよー!!」

「お姉さま、それは差別というものです。実際にあの場で数々の同士を得、学習装置では教えられなかった知識を蓄え―――」

「それはいらない知識よ!今すぐ捨てなさい!!」

「しかしミサカネットワーク上でミサカの報告を楽しみにしている固体も多く存在しているのですが……」

「変な所で個性を作るなー!!」

261: 2011/01/05(水) 18:34:10.33 ID:DwA1hJA0
とても微笑ましい(?)姉妹会議が一段楽したところで御坂は本来の用事を思い出し、ベンチから立ち上がる。

「お姉さま?」

「ちょっと用事があるのよ、この議題は次回に持ち越しね」

「はぁ、まだまだ語りたりないのですが、とミサカは落胆します」

「それ以上変な知識を身につけないで」

切実にそう思う御坂だった。

「本当に貴女達の問題は大丈夫なのね?」

立ち去る前にもう一度確認を取る。

「はい。上位固体さえ連絡が取れれば全ての問題が解決するはずですので、とミサカは答えます」

「ならいいわ。じゃあ私はもう行くから、何か分かったら連絡するね」

そう言って走り去っていくミサカの背に手を振り続ける妹。

そしてそんな妹のネットワーク上に再び存在しない固体からの電波が入る。

―――おsaネェdfgさm……

ノイズだらけのその信号は彼女の脳に負担を掛けていた。

(早く上位固体を探し出さなければ、とミサカも立ち上がります)

姉が姉なら、妹も十分と意地っ張りだった。

262: 2011/01/05(水) 18:53:08.21 ID:DwA1hJA0
突然の妹との会話に予想以上の時間を費やしてしまった御坂美琴は駆けながら携帯電話を耳に当てていた。

「ごめん、初春さん。ちょっと休憩してた」

通話が繋がった瞬間に謝罪をする御坂に受話器の向こうでは、気にしないでくださいという友人の声が聞こえた。

「あの日から一週間ぶっ続けで関連施設を回っているんですから、仕様が無いですよ。むしろ一日位休んだほうが……」

「大丈夫よ、幸い似たようなことをしたことがあるから」

あの時は施設を一つ一つ潰していったので今より負担は多かったのだ。ただ標的の有無を確認するだけなのでそれほど能力を使用しない分、

連続して動けるのである。

「それより、初春さんこそ大丈夫なの?」

それは初春の体調だけを気にしていった言葉ではない。

「私はサポートしているだけですから、大丈夫―――」

「体調もだけど、佐天さんのこと」

その言葉に受話器の向こうから声が途切れる。

「初春さん。この事件の捜査をしながら、佐天さんの捜索もしてるでしょう?」

「み、御坂さんだって明らかに最短ルートじゃなくて、怪しそうな所を探しながら捜査してるじゃないですか」

「それはそうだけどさ……」

あの事件の犯人、球磨川を捜査するための作業。

あの事件以来、行方不明になっている佐天涙子の捜索。

そして学校に通い、風紀委員の仕事もこなしている彼女は明らかにオーバーワークだった。


265: 2011/01/05(水) 19:08:05.79 ID:DwA1hJA0
初春や御坂の友人である佐天涙子は、白井黒子が入院することになったあの事件以来行方不明なのである。

あの事件の翌日、学校に登校した初春だったが、彼女は体調不良ということで休んだ。

風邪とは訳が違う理由での欠席なので、お見舞いには向かわずメールだけ送っておいたが、返信は無かった。

そして次の日も、その次の日も学校を欠席したのでおかしいと思った初春は電話をかけてみるが、佐天の携帯電話の電源が切れていた為、

繋がらなかった。そして直接自宅へと向かった初春は何故か鍵のかかっていないドアに疑問を抱きつつ室内へと入る。

そこに彼女の姿は無かったのだ。

「初春さん。気持ちは分かるけどそこまでやったら貴女が倒れちゃうわ」

「御坂さんはどちらかを見捨てろって言うんですか!?」

御坂の言葉に激昂する初春。その反応はある意味予想通りだった。

「違うわ、初春さん。落ち着いて。分業をしようということよ」

「分…業……?」

御坂の言っている意味が分からないのか、反復して言い返す初春。

「そう。分業。球磨川の捜索は私が、佐天さんの捜索は貴女がするの。球磨川に関するデータだけ貰えればある程度は一人で動けるしね」

「そういうことですか……」

「当然佐天さんが見つかったらそっちを優先して動くわ。だから共同作業は今日までにして、明日からそうしよ?」

納得がいかないのか、受話器の向こうで少しの沈黙が流れた後、消え入るような声で分かりました、と承諾の声が聞こえた。

266: 2011/01/05(水) 19:35:09.05 ID:DwA1hJA0
「御坂さんも無茶はしないでくださいね。相手の能力はまったくの未知数なんですから」

「わかってるわ。んじゃ目標に辿り着いたんで切るわね」

そう言って通話を終了し、目の前の研究所を睨み付ける。

(ここ最近で最後に球磨川が目撃された施設)

きっとここならば今球磨川が居る場所の手がかりがあるのではないだろうかと、少し期待を抱く。

球磨川のここ一週間の足取りには全くといって法則性が無かった。

ハンバーガーショップに行ったり、研究所に行ったり、置き去りの居る施設に行ったり、高校の寮に行ったり、担任の住居に行ったりと

自由気ままに動いているのだ。ずっと一人で。

初春が監視カメラや研究所の出入りを記録しているログをハッキングして手にいれたデータだが、これでも彼の行動は全て把握していない。

むしろ野放しにしている時間のほうが長いのである。

「ちゃっちゃと襲撃して、情報を仕入れてくるか」

そう言って一度キャップをとり、髪を縛りなおして深呼吸をし、そして塀を乗り越えようと駆け出した瞬間―――

「御坂さん」

背後から、声をかけられた。

その声には聞き覚えがあった。

天真爛漫で、いつも輪の中心にいる彼女の声。

実は寂しがり屋な彼女の声。

能力者に憧れている彼女の声。

私達の大事な友達の声。

初春さんの大事な親友の声。

振り向くと―――

行方不明になっている筈の佐天涙子がそこに立っていた。

267: 2011/01/05(水) 19:41:49.36 ID:DwA1hJA0
ちょっと休憩。

佐天さんの登場が早すぎる気がするけど、最近のバトル漫画は展開を早くしないとうちき(ry

一応佐天さんマイナス化の伏線は張っておいたつもりだったんですけど、読み返したら「あれ、これ伏線じゃなくね?」と思い

球磨川さんに明言してもらいました。

さらにこの後御坂に敵が出てくる予定ですが、こちらはきっとバレバレですね。だから言わないでください。

今日中にはある程度御坂編を終わらせますのでー。

それじゃ、のちほど。

270: 2011/01/05(水) 21:06:12.42 ID:DwA1hJA0
「佐天さん?いったいどこに行ってたの?心配したんだ―――」

行方不明の友人を発見し、あわてて駆け寄る御坂は、ある異変に気がついて歩みを止めた。

血が、彼女の着ている学生服に大量の血がこべり着いていたのである。

そんな異様な、異常な姿をさらに不気味に演出しているモノ。それは笑顔だった。

いつもの様な明るい笑顔ではなく、口元だけを歪めた彼女の表情は、ビデオで見たあの男のそれと酷似していた。

「佐…天さ…ん?怪我してるの?だったら病院に……」

恐る恐る口を開く御坂に佐天はその場に立ったまま口を開く。

「大丈夫ですよー御坂さん。これは只の返り血ですから」

気にしないでくださいー、と口調はいつもどおりの彼女。しかし物騒な物言いは明らかに異常だし、表情はそのままだった。

「返り血って……」

「ちょっと能力者様と勝負をしてきただけですよ。ほら御坂さんも無能力者に襲い掛かってるんでしょー?」

悪びれる様子も無くサラリとそんなことを口にする。勝負といってもその返り血を見る限り相手は重症を追っているのではないのか?

そんな疑問が胸によぎるが、その疑問は次の言葉によって確信へと変わる。

「レベル4といってもたいした事無いんですね。ちょっとアキレス腱を切っただけであんなに慌てちゃって、フフフ」

そして佐天が言い切ると同時に御坂は彼女に電撃を放つ。

明らかに様子のおかしい彼女は何かに操られていると仮定して、一気に気絶させる―――つもりだった。

しかし、彼女に直撃する筈だった電撃は直前で威力を失い、静電気程度の痛みしか与えられなかった。

「いきなり電撃って容赦ないですね超能力者様は。やっぱり無能力者なんて落ちこぼれのゴミ同然ですか?」

だから。

だから私はアナタが嫌いなんです、と佐天涙子は呟いた。

271: 2011/01/05(水) 21:17:56.33 ID:DwA1hJA0
「なっ……!」

自身の電撃を無力化されてふと思い出すのはツンツン頭の高校生だった。

あの少年は御坂の放つ能力を全て打ち消してきた。しかし、目の前の少女の場合は少し違う。

(電撃の威力が一気に下がった……?)

確かに全力ではなった電撃ではないにせよ、相手までに届く間に威力が無くなる様にしてはいない。

そして今度は少し出力を上げて電撃を繰り出す。

「あははは、御坂さん。その威力じゃ気絶じゃすみませんよ。私を頃す気ですか?」

ケタケタと笑いながらその場を動こうとしない佐天に向かう電撃は再び彼女に命中する前に、威力を完全に失ってしまう。

(能力?いやでも佐天さんはレベル0の筈……なにか特殊な機械でも……)

「あー、御坂さん、“また”私のこと馬鹿にしたでしょ?無能力者に私の電撃が無効化できるわけないって」

失礼しちゃうなぁ、とゆっくりと佐天は御坂に近づきつつ、背中に隠してあっただろう金属バットを取り出す。

そしてそれを引きずりながら歩を進める。

ずるずる ずるずる

「そんなこと……」

「あるんですよ」

ずるずる ずるずる

彼女の異様な迫力に足が動かない御坂。最強のレベル5第三位と言えどもこの状態は非常に堪える。

友人が、確実な敵意と、悪意と、殺意を持って向かってきているのだ。

272: 2011/01/05(水) 21:29:28.97 ID:DwA1hJA0
「っく……!」

動かない足の変わりに、電撃を放って彼女を牽制しようとするが、そこでまた異変に気がつく。

「電撃の出力が弱い?」

煙幕の代わりにもしようとかなり強めの電撃を彼女の回りに撃ったつもりのだったが、その威力は弱弱しく、

とてもレベル5のものとは思えなかった。

当然そんなミスを彼女がする訳が無い。

「なんで?どうして…?」

佐天との距離はおよそ30m。ゆっくりと近づいてくる彼女に向かって電撃を放ち続けるが、その威力は元に戻るばかりか、

だんだんと弱まっていくばかりである。

「今はレベル2の電撃使いってところですかね?私みたいな無能力者は基準が分からないんですが、合ってますかね?御坂さん?」

ずるずる ずるずる

(確かに今の出力はレベル2相当。超電磁砲を放つ力も無い)

明らかに、自身の“レベルが下がっている”。そんな馬鹿げた仮定が頭に過ぎる。

ずるずる ずるずる

彼女との距離は20mを切った。威力が弱まっているのを確認しながらも電撃は出し続けている。

(この威力でも近づいてきたら、全出力をあの金属バットに落とせば佐天さんは気を失う)

ずるずる ずるずる

「げーむおーばーですね」

やはり口元を歪めたまま彼女は金属バットを振り上げる。

「貴女がね!」

そこに全出力の電撃を放った。

273: 2011/01/05(水) 21:42:20.23 ID:DwA1hJA0
本来なら、そこでゲームオーバーなのは佐天の筈だったが、しかし彼女は何も変わった様子も無く金属バットを振り上げていた。

気を失うどころか、その服にコゲすらついていない。

そう。電撃が放てなかったのである。

ビュッと風切り音を鳴らして、バットが御坂の脳天へ振り下ろされる。

その容赦も無く振り下ろされたバットを何とか転がるように避けて、立ち上がりバックステップで彼女との距離を取る。

その距離は約50m。

「あーあ外しちゃった。やっぱり動体視力がいいのも考えようですよねぇ?」

振り下ろした姿勢のまま首だけを御坂に向けてそのまま傾げる。はっきり言ってかなり気持ちの悪い動きだった。

「……佐天さん程じゃないわよ」

そう言いながら自身の能力を確認する為に、地面に向けて電気を放つ。

そして地面の砂鉄を集め、一本の剣を作り上げた。

(よし、元に戻った)

高速振動している砂鉄の剣は目の細かいチェンソーの様なもので、その切れ味は折り紙つきである。

「かっこいいなぁ。私もそんな能力が欲しかったなぁ」

しかし、臆する事も無く砂鉄の剣を構える御坂にゆっくりと近づいていく。

「何を言っても聞かないようなら、少し痛い目にあってもらうわよ!」

そう言って砂鉄の剣を拡散させ、佐天降り注がせる。

「御坂さん、別に貴女は何も言ってないじゃないですか?ちょっと忍耐力が無さ過ぎるんじゃないんですか?」

しかし、その砂鉄の剣でさえも、彼女の前じゃ地面に還るだけだった。

274: 2011/01/05(水) 21:49:20.75 ID:DwA1hJA0
ずるずる ずるずる

そう言いながらも、彼女は進むのを止めない。

電撃さえも、砂鉄の剣でさえも彼女は止まらない。

彼女にかける言葉すら、見当たらない。

そして御坂は。

気がつけばコインを取り出していた。

「あれー御坂さん超電磁砲ですか?流石に氏んじゃいますよ」

そんな彼女の言葉は御坂には届かない。ただ心臓を激しく脈打つ鼓動だけが響いていた。

「うーん電撃は弱めれても流石に加速したコインは止めれないし、避けれないなぁ。よし!」

独り言のように呟いた後、佐天は金属バットを右手で振り上げる。

何かの合図なのだうか?そのまま動こうとしない彼女。

そしてそんなことに気を回す余裕の無い御坂はレベル5の全力全霊を込め、異名の元となる大技。

超電磁砲を放ったのである。

275: 2011/01/05(水) 22:03:30.50 ID:DwA1hJA0
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

フルチャージで放たれた超電磁砲はその衝撃波で地面を抉り、青白い閃光と共に佐天涙子を貫くために真っ直ぐと進んでいった。

そしてその場に崩れ落ちる御坂。

もはやなにかを考える思考も残っていなかった。

そして、その閃光が消えた後その向こうには、相変わらずの表情で立っていた佐天の姿だった。

「危なかったなぁ“彼女”の助力が無かったら今頃眉間に穴が開いてますよー。全く嫁入り前の体に何するんですか?」

もう彼女が無傷で立っていることだとか、超電磁砲が通じなかったとか、そんなことは最早どうでもよかった。

はやくこの悪夢から覚めてくれ、御坂はそう思っていた。

「案外あっけなかったですね、常盤台中学のエースでレベル5の第三位、超電磁砲の御坂美琴」

「やっぱり能力が無ければみな平等ってことですね」

嬉しそうなその言葉には、どこと無く悲しみも混じっているよう聞こえた。

「まったく、球磨川さんの言うとおりってねー」

その言葉に、球磨川というその言葉に、御坂の意識は戻される。

「……てるの?」

「はい?」

「知ってるの?って聞いてるのよ?」

ゆっくりと立ち上がる御坂は怒号を撒き散らす。

「貴女は球磨川を知ってるの!?あいつが何者なのか!?あいつが何をしたのかを!!!」

泣き出しそうな声で喚く御坂に、相変わらずの声のトーンで言い切った。

「ええ、全部知ってますよ。もちろん白井さんの事も含めてですけどね」

何かが切れる音がした。

277: 2011/01/05(水) 22:14:04.68 ID:DwA1hJA0
「ああああああああああ!!」

その直後彼女の周りから無数の稲妻が発生し佐天へと襲い掛かる。

そしてそれに合わせて再び砂鉄の剣を作り上げ、稲妻と合わせて切りかかる。

もちろん全て本気の出力で、彼女を頃しにかかった。

「御坂さん、少しは学習してくださいよ」

彼女に近付くだけで稲妻は空気中に散開し、砂鉄の剣は形を崩す。

しかし、御坂はそれでも突進を止めない。

そのまま能力など関係なく、ただの暴力で制圧しようとしたのだ。

御坂の体術スキルはそれなりに高いほうである。レベル5に上がるための努力はそんなところにも生きてきているのだ。

当然、クラスで運動ができるほうという分類の佐天では適うはずもないのだ。

しかし―――

「がふっ!!」

殴りかかった筈の御坂が、脇腹に蹴りを入れられるというカウンターを受け、吹き飛んでいた。

(なに?近付いたら急に体が重く……)

「自分の能力が通じないなら肉弾戦?御坂さん貴女本当にレベル5の頭脳持ってるんですか?」

「私の能力が分からないのに突進なんて、ただのスキルアウトと同じですよ」

やれやれと首を振りながら、貴女は猪ですか?と呆れてみせる。

278: 2011/01/05(水) 22:28:08.79 ID:DwA1hJA0
「それじゃ出血特別大サービス♪佐天さんの教えてあげようのコーナー」

いきなり満面の笑みを浮かべながらそんな事を言い出す佐天。その満面の笑顔ですら今では仮面にしか見えない。

「私の能力は負能力って言いまして、この学園都市で開発してる能力とは全く別物なんですよ」

「役に全く立たないマイナスの能力って奴です」

「因みに私はその分類で行くとマイナスレベル4大負能力者って奴です」

「いやー苦労しましたよここまでレベルを下げるのに」

「具体的に言えば漫画喫茶でずーっとライトノベル読んでました♪」

「え?努力なんてしてない?そりゃあそんな事一言も言ってないじゃないですか」

「苦労はしたけど努力はしてない、ってこれは私が参考にしたライトノベルの登場人物の台詞のパクリなんですけどね」

「さっさと能力を教えろって?いやだなぁ御坂さんそんな簡単に“敵”へ教えるわけ無いじゃないですか」

「相変わらずせっかちですね、だから上条さんにも気持ちが伝わらないんですよ」

「まぁ私も鬼じゃありません。ヒントをあげましょう」

「ヒントは……徳政令です♪まぁ皆平等にって事ですね」

「じゃ、ヒント終わりです残りは病院のベッドでゆっくり考えてください」

一方的に捲くし立てた彼女は、今度は走って御坂へと向かっていった。

その右手には相変わらず凶悪に光る金属バットが持たれていた。

279: 2011/01/05(水) 22:39:05.36 ID:DwA1hJA0
迫り来る佐天を電撃で牽制する。もちろんもう直撃をさせる気など無く、只の目くらましだった。

そして彼女から距離を取る。

また迫ってくる、距離を取る。

また迫る、距離を取る。

その繰り返しだった。

(能力が分からない以上下手に近付けば格好の的ね)

幸い、彼女の能力は直接ダメージを与えるものではないので(もしそうだったらもう敗北している)考える時間はあった。

(能力だけじゃなく身体能力すら、近付けばれレベルが落ちる。でも完全に0になる訳でもない)

(佐天さんのヒントを当てにするのなら、徳政令というかその後の平等ってのが怪しいわね)

(……ひょっとしたら)

ある仮定を導き出した御坂は、電撃での煙幕を張るのを止め、その場に立ち尽くす。

そこに全速力で迫ってくる佐天。

(能力が使えなくなったのは10mを切ってから……今だ!)

距離が10mを切ったところで御坂は佐天に背を向け全速力で走り出す。

「今度は鬼ごっこですか?いい加減にしてくださいよ」

佐天も御坂を追う。

一見逃亡に見えるこの行為が、佐天の能力に対する仮定の裏付けになるのだ。

281: 2011/01/05(水) 22:58:20.88 ID:DwA1hJA0
20mほど走ったところで仮定は確信へと変化した。

二人の距離が一向に変わらないのである。

その瞬間、御坂は急な切り替えしで、一気に佐天との距離を開く。

そこで、彼女も自分の能力が露呈したと思った。

「その様子じゃ気が付いたみたいですね」

「ええ、貴女のヒントが無ければこんな馬鹿げた仮定は成立しなかったわ」

この戦いで初めて笑みを浮かべる御坂。

「貴女の能力、いえ負能力だったかしら?とにかくその正体は【使用者に近ければ近いほどそのレベルに合わせられる】ってとこかしら?」

その言葉を聞いて、佐天は金属バットを脇に抱え拍手をする。

「その通りです。流石御坂さん。もっと簡単に言えば【私基準になる】って感じですね」

「能力は近付けばレベル0に、身体能力は近付けば私と同じに。まぁ御坂さんからしたら下がるって感じでしょうけど」

「初春なんかが近付いたら、身体能力は上がるんですけどねー」

「これが私の【公平構成(フェアフォーマット)】です」

能力が割れたというのに、余裕のある物言いは崩れない。

対極的に御坂は余裕が無いままだった。

能力は把握できてもその突破口までは見当たらない。

ただ、これは近付かなければ、負けの無い戦いになったのである。

考える時間は、在る。

しかし、その幻想は目の前に現れた一人の少女によって砕かれる。

御坂と同じ常盤台の制服に、軍用ゴーグルと物騒なサブマシンガン。双子と言うには似すぎなその顔。

応援に来てくれた妹達の一人かと期待したが、彼女の腰に付けてあるバッジがそれさえも打ち砕く。

それは、あの妹にしかプレゼントしていない御坂の大好きな―――


ゲコ太の缶バッジだった。

283: 2011/01/05(水) 23:10:52.31 ID:DwA1hJA0
今日はここまでにして下さい……

明日から出張なので、早めの就寝をしたいのです。

今日中に御坂編終わらせるとか言いながら、まだまだ半分ですよ。

すいません、申し訳ありませんorz

しかし中二能力を考えると、こう背中から寒気が走りますね、不思議。

一応佐天さんの詳しい能力をば。

能力名【公平構成(フェアフォーマット)】

レベル【-レベル4】

効果 【対象の記憶以外を全て佐天涙子基準にする】

効果範囲は50メートルの円形で、この円に入れば強制的に効果の対象。

能力で言えば

50m以上→レベル5

40m以上50m未満→レベル4

30m以上40m未満→レベル3

20m以上30m未満→レベル2

10m以上20m未満→レベル1

0m以上10m未満→レベル0

って感じです。身体能力では10m未満で佐天さんと全く同じって感じです。

因みに思考速度も彼女基準になっちゃいます。

「佐天さんにあわせるならマイナスまでいくだろjk」って意見が聞こえてきそうですが、あくまでマイナス組は分類の為って感じで

基本は無能力者と同じってのがこのssの設定。

滝壷さん風に言えば「AIM拡散力場が感じ取れない……」って感じです。


それでは、感想や質問をいただければ泣いて喜びますので、よかったらどうぞ。


初詣で巫女さんのナンパに失敗した1でしたorz

285: 2011/01/05(水) 23:13:39.07 ID:DwA1hJA0
補足・思考回路も干渉はされません

だから近付いたからって皆が初春のスカートを捲りたくなる訳ではない。

318: 2011/01/06(木) 22:42:39.63 ID:qZMZss60
善吉「それで、不幸体質を治したいから目安箱に投書をした、と」

上条「そうなんだよ、今日も朝から犬に追われ、側溝にはまり、お金を落とし、宿題をやり忘れたんだ」

善吉「ちょっとまて、最後のはお前の過失だろ」

上条「いやいや、上条さんにも事情というものが有ってですね、前日からちょっと人道支援に出ていたというか、なんというか」

善吉「いやまずは自分を助けるべきだ」

善吉(どうしてこの学園にはこんな面白い奴しかいないんだ)

善吉「というか生徒会は占いの館や気功法なんざ指南してねぇぞ(めだかちゃんなら出来るけど)」

上条「え?学校のパワースポット&パワーパーソンである生徒会室の庶務さんと話せば運気上昇気分上々って噂が……」

善吉「気分上々とか古いだろ……ていうか誰がそんな噂流しやがった!」

上条「不知火」

善吉「ですよねー」




うん、想像以上に詰まらないので本編書いてきます。

321: 2011/01/06(木) 23:06:18.03 ID:qZMZss60
「ちょっと出てくるのが早いんじゃないかなー」

彼女の登場に不満げな表情を浮かべつつも、口元はニタニタと歪んだままの佐天は、金属バットを肩に懸けながら言った。

「超電磁砲から助けてもらったくせにその言い草は無いんじゃないですか?とミサカは佐天涙子の表情に苛立ちを覚えます」

さっき公園で遭遇した妹達と同じ口調。それは目の前の彼女が妹達の中の一人という事実だった。

「だって主役はもうちょっとシーンを考えて登場するべきだよ!これじゃあまるで悪役だよ」

「ミサカは物語の主役になどなれませんよ、それについては貴女の方がよくご存じなんじゃないですか、とミサカは溜息をつきます」

「うっ……それは流石にひどいんじゃないのかなぁ~いっもうとさん!」

そんな掛け声の後、佐天は勢いよく彼女のスカートを捲りあげた。

そんな、以前と変わらないような笑顔で、以前と変わらない事をしている佐天。

違うところといえば、捲られる相手が初春ではないことと、その笑顔に似合わない返り血が付着している事くらいだった。

ただ、それが不気味に映る。

「ねぇ……貴女は何人目の妹達なの?」

敵として現れた友人に、さらに敵として現れた妹を前に、困憊した御坂は呟く。

缶バッジを着けた、存在しないはずの妹。

ありえないはずの答えが御坂の中でふつふつと湧き上がっては無理やり打ち消していく。

何かの間違いだと願う御坂の思いは、たった一言で瓦解した。

「何人目というのは製造番号の事でしょうか?」

「それでしたらミサカの製造番号は9982号です、と久しぶりの再会を交わしたお姉さまの質問に答えます」

322: 2011/01/06(木) 23:12:18.48 ID:qZMZss60
……嘘だ。



嘘だ。




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こんな現実は

こんな幻想は

こんな悪夢は

嘘に
  
   決
 ま
っ  
   て 
  る

323: 2011/01/06(木) 23:24:38.45 ID:qZMZss60
「あーあ妹さんが空気読まないから御坂さんが壊れちゃったよ」

「むっその発言には責任転嫁をしようとしている意思が見られます、とミサカは散々お姉さまを追い詰めた貴女に対し頬を膨らませます」

「うそうそ~冗談だってば、妹さんったら可愛い~」

「ふん、っぷぷわ、膨らましている頬を突かないで下さい、っとミサカは~」

「ほーれもっと突いちゃうぞ~」

その場に崩れ落ち、なにかひたすら呟いている御坂を余所にじゃれ合う佐天とミサカ9982号は、最早彼女の事など見てはいなかった。

「それじゃ、我らがボスの所へ戻りますかー」

「そうですね、とミサカは同意します」

ひとしきりお喋りをして、御坂の前から去ろうとしている二人を呼びとめる声。

「佐天さん!」

その声は、レベル5の御坂美琴の実力を持ってしても止められなかった、佐天涙子の足を止めた。

彼女はこの声をよく知っている。

無邪気で、照れ屋で、泣き虫で、怖がりな女の子。

それでも、自分の信念を持った強い女の子。

落ち込んだ自分を励ましてくれた女の子。

大好きな親友。

初春飾利の声だった。

324: 2011/01/06(木) 23:38:45.38 ID:qZMZss60
「なんで……?」

その姿に、初めて佐天は動揺の色を見せた。

友人をどれだけ痛めつけても、どれだけ心を壊してもその余裕を崩さなかった彼女は、たった一人の少女の前で言葉を失っていた。

「佐天さん!なんで御坂さんを!」

項垂れている御坂の肩を抱き、キッと自分を睨みつける初春の表情は、佐天にとって初めて見るものだった。

初春は一瞥をしたあとすぐさま御坂の肩に自分の肩を入れて立ち上がろうとする。

もう、彼女は佐天の事など見ていない。

ただひたすらに御坂の事だけを気にかけ、その全身をもって彼女を支え続けている。

そんな姿が。

自分を無視して誰かに尽くす親友の姿を、佐天は許容できなかった。

「初春?ほら一週間も連絡しなかったんだよ?心配じゃなかった?」

「ただ漫画喫茶で堕落していただけでしょう?」

「わ、私も能力者になったんだよ!?ちゃんと自分の力で……」

「球磨川に後押しでもされたんでしょう?」

「レベル5の御坂さんにだって勝てたんだよ!?ねぇ、初春」

「…………」

まるで両親にかまってほしかったが為の悪戯をした子供のように初春に話しかけるが、その全てを拒絶され、沈黙が流れる。

327: 2011/01/07(金) 00:00:43.23 ID:ThAyNm60
「……いんですか?」

「え?」

初春は振り向かないまま、言い捨てるように口を開いた。

「友達を傷つけた人間に能力を与えられ、それで友達を傷つけて佐天さんは楽しいんですか?」

そんな人間だったのならもう関らないでください、とはっきりと拒絶の言葉を投げかける。

「うううううううういいいいいいいはるううううううううううううう!!」

その言葉を引き金に、今度は佐天の何かが切れる音がした。

そして金属バットを構えて、初春に向かって叫びながら歩み寄る。

「楽しかったよ!楽しかったよ!いつも無自覚に無能力者を見下す能力者共を叩きのめせて!」

「私の能力でレベル0まで戻した時のあの表情は絶対に忘れられない!」

「才能?努力?そんな言葉では簡単に割り切れるわけがない!」

「だから球磨川さんは言ってくれたんだ『皆平等にしちゃおうよ』って!」

「その為には私の負能力(ちから)が必要だって!私の長所(けってん)が必要だって!」

「この不平等で負平等な世界を平らにしたいっていつも思ってたんだよ!」

全ての感情を吐き出しながら彼女は歩く。

もう、そのバットの射程距離内に初春がいた。しかし彼女は振り向かない。何も言わない。

「でも、初春が居なくなるなら楽しくなんかないよ……」

そう呟いてバットを振りあげた瞬間、何かがバットを貫いた。それは、見覚えのある何本もの鉄矢だった。

「だったら、今からでも謝って、謝って、そこの底から這い上がりなさいまし!佐天さん!」

そして聞こえてきた声の方角に目を向ければ、月をバックに宙を舞うツインテールの少女。

「私たちは、決して貴女を見捨てませんわ」

そう言って、白井黒子は優しく微笑んだ。

361: 2011/01/08(土) 00:42:41.79 ID:TQXNAi60
こんばんわ、ちょっと仕事が長引いてしまいました。

なので今日の投下は2~3レス分になっちゃうと思います。

もうしわけorz


球磨川『今日は統括理事長さんに僕の友人を紹介しますよ』

西東天「……「僕の友人を紹介しますよ」ふん。そんなことはしてもしなくても同じことだ。なぁ俺の敵」

戯言遣い「知らない顔もいますから自己紹介が省けていいんじゃないですか?それに今回は貴方と僕は仲間みたいですよ、狐さん。とんだ戯言ですけどね」

貝木「俺は貴様の友人になった覚えなどないがな。まぁ報酬を頂けるのなら友人にでも親友にでも、なんなら心友にでもなってやるぞ」

串中「心友ですか、それはぼくの辞書にはない言葉ですね」

否定姫「粋な世界を無粋な言葉で穴を開けるわ」

創貴「いや、時代背景を考えて下さいよ」

窓居「私はただ履歴書を送っただけなのに……」

アレイスター「」


こんな最悪のメンツ(窓居除く)が一斉に学園都市に来たらどうなるんでしょうね?

んじゃ本編投下します。

362: 2011/01/08(土) 01:02:47.35 ID:TQXNAi60
深い深い意識の奥底。暗い暗い感情の暗闇。

何もかもを遮断してしまう闇に覆われた世界に、何もかもを拒絶してしまう陰に隠れた世界、

そんな絶望しか残っていない世界に―――

声が、飛び込んできた。

現実を信じれなくなった。

幻想は受け入れなかった。

悪夢は覚めてくれなかった。

全部が嘘だと思うほど、全てが夢だと思うほど。

心は既に壊れていた。

でも。この声は―――

この声は、かけがえのない相棒の声だった。

この声は、この闇から救ってくれる声だった。

この声は、また私を立ち上がらせてくれる声だ。

そして、心に満ちた暗雲は徐々に光に崩され消えていく。

―――く……ろ……こ……?

363: 2011/01/08(土) 01:24:01.14 ID:TQXNAi60
「……黒子?」

御坂美琴は、気がつけば友人である初春飾利の肩にしな垂れ引きずられていた。

非力な彼女は息を切らし懸命にその体を支えながらも、その言葉に気が付き目を向けた。

「御坂さん!よかった気がついたんですね!」

目が合った途端、その両目に大量の涙を溜めながら御坂の体へと抱き、その胸の中ではばかることなく嗚咽を漏らす。

「初春さん……?どうして、ここに?」

目が覚めた途端にこの場に居るはずのない友人に泣きつかれるという、いきなりの状況に思考回路の回転が追い付かず、

ばつの悪そうな表情で頬を掻く。

そんな言葉に彼女は胸から顔を離し、涙と鼻水でクシャクシャになった顔のまま口を開いた。

「御坂さんは、絶対一人で無茶をするだろうと思って……GPSと盗聴器をこっそり着けさせてもらったんです……」

「あははは……信用されてなかったのね……」

そんな初春の言葉に引きつった笑顔を浮かべる御坂だったが、状況がまさに一人で無茶をした結果なので、何も言い返すことが出来なかった。

「それで、佐天さんと出会ったって聞こえた瞬間には、もう風紀委員支部から飛び出してました」

彼女の居た支部からこの場所までは、結構な距離がある。こんな時間ではバスも走っていないので恐らくは走って此処に向かってきたのだろう。

よく見れば彼女の制服は汗でびっしょりと濡れていた。

「現場に着いたら、御坂さんが倒れてて、佐天さんが笑ってて……」

その言葉は先ほどまでとの言葉に比べても、よわよわしいものだった。

「御坂さんを病院へ連れて行こうとしたら、佐天さんがバットを振りかざしてきたんですけど……」

初春は、最後まで言い切らず、視線を御坂から外したので、それを追う。

そこには、入院しているはずの白井黒子と自分を敗北させた佐天涙子が交戦していた。

「……白井さんが助けてくれました」

367: 2011/01/08(土) 01:45:05.25 ID:TQXNAi60
「……そうだったの」

空間転移を繰り返し、宙を舞う後輩の姿を眺めながらつぶやく。

やはり先程の声は嘘なんかではなかったのだ。

「ゴメン、初春さん」

「え?なんで謝るんですか?」

突然の謝罪に戸惑う初春。

「私、佐天さんを助けてあげることを諦めてた」

「彼女の言葉に耳を塞いで、目を閉じて、会話を止めて……逃げてたんだ」

「でも、それじゃ駄目なんだよね」

そう言って戦う二人の後方に佇む、自分と瓜二つの少女へと目を向ける。

「悪いこと言い合って、お互いに傷ついて、たまには殴り合いの喧嘩もして……そうやって向き合って、歩み寄るのが友達なんだから」

その顔は、緊張や恐怖に怯えたものではなく……中学校2年生らしい、とても爽やかな笑顔だった。

「……はい!そうですね」

「ぜーんぶ終わったらまたあのファミレスでお話しましょうか。もちろん……」

肯定してくれた友人にうなずいた後、そんな提案をしてみる。その言葉の続きは言わずとも同じだった。

「さて、と。散々カッコいいこと言ってみたけど、今の佐天さんが本当に必要としてるのは初春さんのようだから……」

「佐天さんを助けてあげて。私と彼女の喧嘩はその後でやるから」

その言葉に、初春は黙って頷く。

そこで笑顔を崩し自身の妹でありクローンでもあるミサカ9983号を睨みつけて御坂は言った。

「私はあのバカ妹とちょっと姉妹喧嘩でもしてくるからさ」

408: 2011/01/08(土) 23:40:07.01 ID:oC2RP7Y0
「ほらほらぁ、白井さん!さっさとその鉄矢を直接私に転移すれば良いじゃないですかぁ!」

「それならもう少し距離を開けさせてくださいまし!」

佐天涙子と白井黒子の戦いはお互いにダメージを与えることなく平行線を辿っていた。

空間転移を繰り返し距離をとり続ける白井に、それを追う佐天。

佐天の挑発に白井はああは言ったものの、当然の如く、彼女に直接転移させることなど考えてはいない。

今彼女が考えているのは接近戦で相手を無力化させることである。

先の球磨川戦では失敗に終わったが、風紀委員である彼女の技術と空間転移を持ってすれば勝負はまさしく一瞬で終わるはずだった。

しかし、それをさせないのが、佐天の負能力【公平構成】にあった。

【公平構成】の範囲外からの転移は可能であるため(バットに鉄矢を転移させたのが証拠である)距離を詰めることはできるのだったが、

問題は転移した後。つまり完全に彼女とのアドバンテージが無くなってからの肉弾戦だった。

佐天の負能力は相手の身体能力が高ければ高いほど有利に働く。

(何度か試していますが、かなり厄介な能力ですの)

既に数回の近距離戦を挑んでいる白井だったが、転移した直後に感じる違和感に負けて、金属バットさえ無効化できていない。

なにせ、近づけば問答無用で身体能力が落ちるのである。

普段何気なく動かしている自分の体が、文字通り自分の体ではなくなるのでは、普段通りの動きなどできるわけも無い。

引退し、長い間運動をしてこなかったサッカー選手が現役当時と同じステップを踏めば転倒してしまうように、

脳に刷り込まれている自分の動きに体が付いて来なくなるのは当たり前だ。

「やれやれ、見栄を張って鉄矢など転移させるべきではありませんでしたの。まるで釘バットですわ」

「あははは!白井さんありがとうございます。それじゃこの武器には【愚神礼賛】とでも命名しますね!」

「何処かの殺人鬼が使用していそうな名前ですわね」

「褒め言葉として預かっておきますよ!」

そんな言葉を交わしながらも、攻略の糸口を探す。

409: 2011/01/08(土) 23:41:55.40 ID:oC2RP7Y0
【公平構成】のさらに厄介な効果が、自分の“思考速度”さえも落ちてしまう事。

佐天の知らない技術で制圧を試みても、うまく思考のロジックが組みあがらずに結果後手に回ってしまうというのがこれまでの接触で得た教訓だった。

(そのくせ佐天さんはわたくしの……というよりご自身の身体能力を完全に把握してますし……)

(全く。とんだ平等もあったものですわ)

100が0になるのと、0が0になるのは、本当の意味での平等では無い。

(瞬間移動は遠距離のみ、接近戦ではあしらわれ、説得にも応じる様子は無い……)

何度も武器を捨てて話し合いをしようと提案した白井だったが、これに関して佐天は聞く耳を持たない。

「もっと近寄ってきてくださいよ、白井さん!悲しくなるなぁ……って御坂さん?」

「お姉様!?」

愚神礼賛(ふざけた名前だ)を振り回しながら挑発を続けていた佐天が驚きの声と共に、目線を白井からずらす。

その先には、気を失っていた麗しのお姉様が自分の足で立ち上がっていた。

「あらら。もう立ち直れないと思ってたんですけど……流石レベル5ですね。良いんですか?白井さん。セクハラしにいかなくても」

「……わたくしも流石にシリアスパートとギャグパートの違いくらいは理解できますわ」

410: 2011/01/08(土) 23:42:22.03 ID:oC2RP7Y0
「……へぇ、意外ですね。御坂さんより私の相手をするなんて」

「お姉様も貴女もわたくしの友人ですの。そこに序列なんてありませんわ」

それは、能力に関してもですわ、と付け加えるが、その言葉は彼女に聞こえることは無かった。

本当は今すぐにでも空間転移で御坂に飛び掛りたい白井だったが、そんなことはしない、できない。

目の前の友人を救ってやらなければいけないのだ。闇の中から掬ってやらなければならないのだ。

自分だけが幸福(プラス)になっては、彼女を不幸(マイナス)から助け出せるわけが無い。

そんな事をしていては、彼女の友達だと言う権利など、ないのである。

(わたくしにも武器があれば……)

先ほど佐天の負能力で互いに0になると言ったが、正確に言えばそれは誤りだった。

佐天は【公平構成】で相手を“平等”に落としただけでは不利と理解していた。その為の金属バット装備である。

0対0では平行線だが、0対1ではそうはならない。

白井の装備している鉄矢は能力を使って初めて威力を発揮するものであって、この現状では使い物にならない。

「結局は、特攻しか無いという訳ですわね」

心に覚悟を込め、今一度佐天の懐へと転移をした。

413: 2011/01/09(日) 00:06:10.01 ID:LCt8xcs0
佐天の背後へと自身を転移する。不意を狙って彼女の首へ手をかけ、そのまま羽交い絞めで閉め落とそうという考えだった。

しかし、その考えは彼女の背後へ転移した直後にすぐさま振り向かれたことにより、実行できなかった。

「白井さーん。もうちょっと考えて転移しましょうよ。転移して目の前にいなかったら後ろに気を使うのは当然でしょう?」

「っく!」

笑顔で指摘しながら彼女が振り上げ、すぐ降ろされたバットを紙一重でかわし、そのまま体勢を崩した背中へ踵落しを仕掛けるが、地面に振り下ろされたバットをそのまま

旋回させて軸足を狙われる。片足のまま跳躍をし、またも寸前のところで回避することができた。

「佐天さんってやはり運動神経がよろしいのですわね。もしこの能力を初春がもっていたと思うとぞっとしますわ」

「それでも、白井さんにとっては落ちてる位でしょう?それもグッと」

初春、とその言葉には何も反応を見せない彼女。だがこの場合は無反応こそが、最大の反応になっているのだった。

やはり、今の彼女へ本当の言葉を届けられるのは初春飾利しかいないのだ。

(初春と向き合って会話をさせれば、きっと……)

だが、この状態の佐天の目の前に初春を立たせたところで、先ほどのように、バットを振り上げられる可能性が高い。

だからこそ、一刻も早く、彼女の動きを止める事が必要なのだがその糸口が掴めない。

414: 2011/01/09(日) 00:17:40.92 ID:LCt8xcs0
「考え事ですか?状況を考えてくださいよ!」

意識をわずかにはずした瞬間、佐天の蹴りが白井の脇腹へと突き刺さる。

防御力に関しても下がってしまっている白井にとっては、女子の蹴りは言えどもダメージは大きい。

「っが……」

少し吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れこむ白井。受身を取ったが地面は砂地なのでところどころ擦り傷を負う。

「………!!」

そこで、白井は気が付いた。

武器は“ここ”にあったのだ。

よろめきながらも立ち上がり、自己転移が可能になるまでの距離を開ける。

「万策尽きるって感じですか。まぁ策なんて初めから無かったんでしょうけど」

今の攻防で完全に優位に立ったと確信したのか、ダメージを追った白井に追撃をせずゆっくりと歩いて近づく佐天。

「ええ、恥ずかしながらそのとおりですわ。でも策というものは追い詰められて閃くものでもありますのよ」

そういって不敵な笑みを浮かべた後、瞬間移動で初春の隣へと移動する。そこに御坂の姿はもう無い。

「白井さん!?大丈夫ですか!?」

突然横に現れた同僚に驚きながらも、傷の心配をする白井。その言葉に短く大丈夫ですわと答えると先ほど閃いたという“策”を

初春へと耳打ちして伝える。

「できますわよね?初春」

その問いに力強く頷く初春の瞳には、風紀委員としての強さと

―――友人を救いたいという強い意志が込められていた

415: 2011/01/09(日) 00:23:56.49 ID:LCt8xcs0
「1,2の3で始めますわよ」

「はい!」

そう言って白井は右手を握りめる。

初春もその両手へ込める力が増す。

「作戦タイムは終了ですか?それじゃもう空間転移で逃げないでください……ね!」

そんな言葉と共に佐天は二人へと突進を開始する。

その距離は70m。

「1…」

60m。

「2の…」

50m。

「3!」

40m。

そこで……

佐天涙子の突進は止まった。

416: 2011/01/09(日) 00:37:06.65 ID:LCt8xcs0
「な、何を!!……何をしたんですか!?」

決して離すことの無かった金属バットをその手から落とし、両手で、両目を覆った佐天は痛みを堪えながら声を荒げる。

そしてその質問の回答は、再び真後ろへと転移したである白井から返ってきた。

「ええ、簡単なことですよ……ちょっとあるモノを転移させただけですわ。貴女の眼前に」

「……まさか、これって」

淡々とそう言いながら、佐天の両腕を抱えるようにして拘束する白井。

その言葉に佐天は転移されたものが何なのか理解ができた。

「あれだけ目を見開いて走れば、結構“砂”が入ってしまったんじゃないですの?」

「……ふっざけるなぁぁああああ!!」

目を閉じたまま、何とか振り払おうと暴れる佐天。

しかし。

【公平構成】によって等しいパワーバランスになっている以上、振りほどくことができないのである。

それでも、暴れ続ける佐天を、今度は別の手が目の前から両脇に手を回され固定される。

いや、これは拘束されるというよりも……

抱きしめられている様だった。

417: 2011/01/09(日) 00:49:37.64 ID:LCt8xcs0
目は見えなくても、匂いなら嗅ぐ事ができた。

その匂いは、あの少女の頭に乗っている色とりどりの花々から発せられている甘い甘い香り。

そこで、自分を抱きしめている手の持ち主を理解した。

「うい……はる……?」

それは先程、自分を拒絶した少女。関わりを拒否されてしまった少女。

「ごめんなさい……」

「え?」

恐らく顔を埋めているのだろう。その声は少し雲っていた。

「さっき、私……佐天さんに酷い事を言っちゃいました」

「あ……」

―――そんな人間だったのならもう関らないでください

「だから、ごめんなさいなんです。悪いことをしたら、ごめんなさいだってうちの生徒会長も言っていたでしょ?」

その言葉に思い出されるのは、佐天と初春が通う中学校の生徒会長の姿だった。

「う……ぁ……」

なんで。

この少女はなんで。

“友達”を傷つけた私に対して、なんで。

「なんで……泣いてるのさぁ……ういはるぅ……」

気が付けば、彼女もその両目から涙を流していた。

418: 2011/01/09(日) 00:58:34.14 ID:LCt8xcs0
―――佐天さんも、泣いているじゃないですか……

―――ち、違う!これは目に入った砂が……

―――でも、しっかり両目は開いてますよ

―――うぅ……

―――ふふ、佐天さんみっともない顔しちゃって

―――う、初春だって鼻水たれちゃってるじゃない!

―――こ、これはですね……

―――……なんだか、あの時を思い出すね

―――幻想御手の時ですか?

―――そう。結局今回も皆に迷惑かけちゃったな……

―――友達ってのは迷惑を掛け合うものですよ?

―――でも、さ……御坂さんにも、白井さんにも酷い事言っちゃたし

―――だから、それは謝ればいいんですよ。白井さんもそう言ったじゃないですか

―――私達は、決して佐天さんを見捨てませんよ

―――うん……そうだね……ねぇ初春?

―――なんですか?佐天さん

―――ごめん、それで、ありがとう

―――……いいですよ。私達親友じゃないですか?

―――ふふ……そうだね。親友だもんね

―――お帰りなさい。佐天さん

―――ただいま。初春

439: 2011/01/09(日) 22:41:41.98 ID:uRISRv2j0
阿良々木「なぁ、天下の往来で不意に後ろから異性に抱きつく男子高校生を見たらどうする?」

上条「そりゃあ、まずはそのふざけた変態をぶち頃す!ですかね」

阿良々木「頃すのはやりすぎだろ!?あとキメ台詞もちょっと違わないか!?」

上条「いえいえ、この上条さんの右手は幻想頃しだけでなく、変態頃しとも呼ばれてましてね……」

阿良々木「なんだよその僕に対してピンポイントに厄介な右手は」

上条「え?その変態は阿良々木先輩なんですか?」

阿良々木「ち、違うよ!全然違うよ!全くもって心外だ!!僕は紳士で名が通ってるのは知ってるだろう?」

上条「どちらかと言うと某クマ吉的な意味合いでの紳士というのなら耳に挟んだことがありますが……」

阿良々木「僕をあんな重度の変態と同義に例えるな」

上条「そうですよね。先輩は仮に紳士だとしても、紳士という名の変態ですから」

阿良々木「それはただの変態だ。話を戻そう」

上条「わかりましたクママ木先輩」

阿良々木「お前は何一つ解っちゃいない。いいか偶然出会ったツインテ小学生に背後から抱きつき頬ずりしたあと、体中に口づけをする僕の話をするんだ」

上条「そういえば阿良々木先輩は吸血鬼でしたよね。ちょっと待って下さい今すぐに姫神を呼んできますから」

阿良々木「吸血頃し!?」


落ちはない。

それじゃ投下しますが結局今週中に美琴編終われそうにないですorz

440: 2011/01/09(日) 23:06:15.42 ID:uRISRv2j0
「ごめんね。さっきはとり乱しちゃって」

「お姉様の精神状態を考慮すれば仕方がないことですよ、とミサカは先程のお姉様の無様な姿を思い出し、笑いを堪えながら……っぷ」

「相変わらずいい性格してるわね……」

「これが個性というものです、とミサカはお姉様の遺伝子のせいで物足りない胸を張ります」

「アンタたちはどれだけ胸に対して恨みを持ってるのよ……」

御坂とそのクローンであるミサカ9982号はそんな会話を交わしていた。

「どう?元気してた?」

「こちらに戻ってきたのが二日前なので元気もなにもないですよ、とミサカは質問に答えます」

「本当に貴女はあの時の……?」

「ええ、このダサいバッジがその証拠です。なんならあの時の会話も再生できますが?とミサカはお姉様に提案をします」

「ダサイって……いや、いいわ。どうせ球磨川とかいう、あのふざけた奴の仕業なんでしょう?」

「そうですよ。彼の負能力で戻されました、とミサカは同時に球磨川禊がふざけた奴という意見にも同意します」

御坂は笑顔を、9982号は無表情を貫いている。

「アイツの居場所を教えてくれない?知ってるんでしょ?ちょっと私の後輩たちがお世話になったみたいだし」

「いやいや、それはねーよ、とミサカは左手を振りながら敵に情報を漏らさない意思を表します」

「敵……ね」

「ええ、敵です。仇と言ってもいいでしょう、とミサカは殺された妹達を忘れ平然と生きているお姉様に改めて伝えます」

9982号の言葉に、御坂の笑顔は、もうなかった。

441: 2011/01/09(日) 23:35:48.96 ID:uRISRv2j0
「忘れるわけないじゃないの!」

自然と言葉に力が入ってしまう。

「妹達の事は決して忘れるわけがないわ!」

実際、御坂は殺された妹達の事を忘れることなどは一日もない。それどころか未だに自分を責めている。

だからこそ、学園都市内に残っている妹達には気をかけているし、偶然出会えばアイスだって奢ったりもする。

「その行為そのものが、既に氏んだ00001号から10031号に対する侮辱だという事を理解していないのですか?」

だが、そんな叫びすら9982号に届くことはない。

「同情は要りません、慈愛は受け取りません、懺悔は聞きません、後悔は届きません、そんなものは、何一つ欲しくは無いんです」

「ミサカは……ただ、命が欲しかった、とミサカは言い放ちます」

全く感情の込められず吐き捨てられたその言葉の裏側に、本当は様々な感情が混じっているように感じた。

怒りが、悲しみが、憂いが、嘆きが。

感情を持たない人形として造られたはずの彼女から、ひしひしと伝わってきた。

「まぁこれはミサカ9982号単体の意見で、きっと他の戻ったミサカ達は何も思っていないでしょう、とミサカは告白をします」

「それは……どうして?」

ひねり出すように声を出す御坂に対し、今度は本当に無感情に、いっそどうでもいいでしょう?とでも言いたげな表情を浮かべながら、

9982号は答える。

「ミサカ以外のミサカ達の感情と呼ばれうるもの全てを、球磨川禊はなかった事にしたからですよ、とミサカはお姉様の問いに答えます」

なにせ一方通行との実験に妨げになりますからね、と9982号は淡々と御坂に告げた。

461: 2011/01/10(月) 23:51:12.78 ID:gC0Oq63B0
「一方通行との実験って……まさか!?」

9982号の言葉に御坂の背中に汗が滲む。

一方通行と妹達を繋ぐ実験など、一つしかない。

一方通行が二万人の妹達を殺害することによって、レベル6へとなる為の実験、通称【絶対能力進化実験】だ。

「そのまさか、です、とミサカは心中を察します」

「でも、一方通行には実験に参加するなんてことは……」

この場所に来る前に出会った妹達の一人が話したことが事実ならば、

彼は実験事態に疑問を抱いていた筈で、さらに妹達の危機を救ったのである。

そんな一方通行が再び実験に参加することなど思えない。

背中に滲んだ汗は小さな玉となり、すっと落ちて御坂の背中を撫でるだけでなく、掌にもじんわりと汗が浮かぶ。

「確かに一方通行には実験に参加する意思はありません、とミサカはお姉様の言葉を肯定をします」

「だったら……」

参加する意思はない、9982号から台詞で、体に圧し掛かる緊張の塊が少し軽くなった気がする。

「“打ち止め(ラストオーダー)”」

「え?」

「ミサカ達の上司にあたる固体です。お姉様はご存じないのですか?」

その名前も聞いたばかりのものだった。その打ち止めの名前がここで登場するのだろうか?

御坂には9982号の意図が全くつかめない。

462: 2011/01/10(月) 23:52:08.29 ID:gC0Oq63B0
文字通り一方通行は命を懸けて、絶対的で、圧倒的な能力に制限をかける事になってしまっても守った存在。

現在は彼と行動を共にしているとも聞いている。

「その通りです、とミサカは賛辞を送ります」

パチパチと無表情のまま拍手をする9982号。

「打ち止め……この場合は“最終信号”と呼称したほうが適切ですね。その最終信号に対して一方通行は何かしら特別な感情を抱いています」

「罪の意識から来るものなのか、それとも違う感情なのかはミサカには理解できませんが……」

「とにかく、一方通行は彼女を守るべき存在だと思っており、また上位固体も一方通行を慕っています」

寝食を共に過すほどに、そう付け加えて一度息を吐き出す。

「全く、とても感動できるお話ですね。お姉様もそう思いませんか?とミサカは同意を求めます」

「……そうね」

「そうですか。ミサカはそうは思いませんが」

「アンタが言ったことじゃないの」

要点を得ない9982号の言動に、御坂は漏電してしまうほど苛立ちを覚えていた。

463: 2011/01/10(月) 23:53:50.71 ID:gC0Oq63B0
「まるで小説か映画の物語ですね。悲惨な運命や、己の罪を乗り越えていく主人公とヒロイン……」

「さしずめミサカ達は物語を盛り上げる為に氏んでいった脇役といったところでしょうか」

「……」

自分自身を脇役と平然と言ってしまう彼女は佐天との会話の中でも同じようなことを主張していた。

――ミサカは物語の主人公になどなれませんよ

それは暗に、人生を諦めていることを指していた。

「さて、ここでお姉様に質問をします、とミサカはようやく話の確信へと触ります」

「なによ……?」

「ヒロインが悪役に攫われて主人公に関する記憶を消されてしまい、何かしらの要求を受けたときに、その主人公はどうすると思いますか?」

そこでようやく理解した。

一方通行の意思など、もはや関係がないのだということに。

再び絶望の波が襲い掛かり、そのまま深い闇に飲まれまいと歯を食いしばる御坂に対して、9982号は初めて笑みを浮かべていた。

口元だけを大きく歪めているその表情は――

とても人には見えなかった。

464: 2011/01/10(月) 23:55:50.22 ID:gC0Oq63B0
「……で、でも!もしそうだったとしても他の妹達は――」

そうなのだ。例え生き返った妹達が実験に参加したとしても、

例え一方通行が実験に参加せざるおえなくなっても、

生き残った妹達が参加する訳がない。

これ以上、一人だって氏んでやるものかと誓った彼女達が、再び氏へ向かう姿など想像もできない。

「はぁ……お姉様は本当にレベル5の頭脳をお持ちなんでしょうか?とミサカは先程から佐天涙子がしていたように罵声を浴びせます」

「どういう事なのよ……」

肩をすくめ、まるでアメリカンホームドラマの登場人物のように首を振る9982号は深く溜息をつき、御坂の疑問へ答えるべく口を開く。

「上位固体から強制的に命令を下せば、そこにミサカ達の意思などは存在しないのですよ、とミサカは親切に教えてあげます」

「じ、じゃあ実験はもう始まってるの?」

「実験自体は開始していますが、ミサカ00001号の調整の関係で第一次実験が終了していません」

ということは、まだ誰も氏んでいない。

その事実が闇に飲まれそうになった御坂に希望の光を与える。

465: 2011/01/11(火) 00:04:57.50 ID:bmomBkVZ0
まだ間に合うのだ。

この妹を退け、球磨川から打ち止めを奪還できれば誰も傷つかないで済む。

一方通行も、打ち止めも、妹達も、自分がそこまで辿り着けばきっと上手くことが運ぶはず。

その為にはこんな所で止まってはいられない。

例えその道が一方通行だろうと。

例えその弾が打ち止めになろうと。

例えその声が最終信号だろうと。

例えその人がツクリモノだろうと。

そんなことが諦めていい理由になどはならない。

それは、御坂がアイツと呼ぶ男に教えてもらったこと。

彼も文字通り命を賭けて、最強に立ち向かった。

そして、多くの命を守ったのだ。

だから、御坂は叫ぶ。

これから自身が立ち向かう“最悪”に向かって。

渾身の力を込めて、叫ぶ。

最悪が命を弄ぶというなら。

全てを台無しにしてしまうのなら。

これまでの物語をなかったことにしてしまうのなら。

「そんな幻想、全部ぶっ壊して進んでやるわ!」

その言葉と共に、御坂は最愛の妹に向かって跳躍した。

466: 2011/01/11(火) 00:21:23.90 ID:bmomBkVZ0
今回はこれで終わりです。

意外と書いたつもりが……少ないですねorz

―――――――――――――――――――――――――――――――――


上条「これで今回の投下は終了な訳だが……」

戦場ヶ原「あらあら、なるべく多く書き溜めて投下するという話を覚えていないのかしら?」

戦場ヶ原「全く阿良々木でさえもう少しまともな頭をしてるわよ。やっぱりウニ頭にはウニが詰まっているのね」

上条「なんで上条さんが責められるのでせうか!?」

戦場ヶ原「この物語の主人公は貴方なのでしょう?つまり全ての責任は貴方にあるわ。貴方の手柄は私のもの、私の失敗は貴方のものよ」

上条「なんだなんだよなんなんですか、そのジャイアニズムは!?」

戦場ヶ原「私をあんな声帯兵器と同じにしないでくれる?ああ御免なさいね、ウニにそんなことを期待した私が愚かでした」

上条「なんでそんな高圧的な態度で謝罪をするんだよ」

戦場ヶ原「煩いわね、引き千切るわよ」

上条「どこを!?どこの部位をですか!?」

戦場ヶ原「そうやって花も恥らう乙女に下ネタを言わせようとする辺り、貴方の低俗さが垣間見れるわね。氏ね」

上条「乙女はそんな簡単に氏ねとはいわねぇよ!あぁ上条さんの幻想が片っ端から殺されていく……」

戦場ヶ原「まずはその幻想をぶち頃す(笑)」

上条「(笑)!?」

戦場ヶ原「いまじんぶれいかー(笑)」

上条「不幸だぁぁぁああああ!!」



それじゃまた近いうちに

498: 2011/01/13(木) 00:34:08.37 ID:OHV8Zz5/0
御坂は出力を絞った無数の電撃を9982号に降り注がせつつも、距離をとって9982号の出方を伺っていた。

その脳裏には先ほど戦闘をした佐天涙子の【公平構成】、つまり負能力が浮かんでいる。

超電磁砲のクローンである9982号の能力は、オリジナルに比べるには小さ過ぎるほどの電気を操るもの。

通常の能力による戦いでは、結果など判りきっているが、9982号に対する御坂には、余裕などは微塵もない。

侮っていたら佐天戦のように、全てにおいて敗北をしてしまう。

今回の相手にも負能力を持っているという可能性がある以上、

迂闊に接近戦を持ちかけるには、いささかリスクが高すぎると判断した結果、こういった戦法を用いているのだ。

放たれた電撃は途中、出力が落ちることはなくそのまま9982号の立っている場所へと落ちていった。

加減した攻撃といえど、避けなければ気を失うことが必須の威力である。

実際、9982号は真横に転がることによってその電撃を全てかわした。

「へぇ、佐天さんみたいな負能力じゃないのね」

言いながら、攻撃の手を休めることはない。

9982号は立ち上がり御坂に対し円を描くように駆けながら肩に掛けたサブマシンガンの照準を合わせトリガーを引く。

放たれた無数の銃弾は御坂へと到達する前にその威力を失い、重力に引かれ地面へと落ちていく。

最強の電撃使いの彼女に対し磁力に反応する攻撃など意味を成す筈もない。

499: 2011/01/13(木) 00:34:51.41 ID:OHV8Zz5/0
「弾の無駄遣いよ、お返しするわ!」

御坂の言葉と共に、地面へと落下したはずの銃弾が中へ浮かび、まるで意思を持って元ある場所へ帰っていく。

「―――ッ!」

その銃弾の一つが、通常ではあり得ない軌道を描き、避けようとした9982号の頭部に装着していた軍用ゴーグルへ着弾した。

まるで意思を持っていると表現はあながち間違いではない。

実際には弾丸その物の意思ではなく、御坂の意思で自由に操作しているのだった。

「次は体に当てるわよ……って、そんなつもりは無いんだけどさ」

「別に被弾したところで問題はありませんが、どうも反射的に避けてしまいますね、とミサカは割れたゴーグルを脱ぎ捨てます」

銃弾を当てられてなお、慌てる様子もなく軍用ゴーグルを外し地面へと落とす。

「随分と余裕なのね。じゃあこんなのはどうかしら!?」

御坂の手の中に砂鉄が収束、一本の剣を作り出す。

「佐天さんには通用しなかったけど、アンタはどうやって対処する!?」

真っ直ぐ切っ先を9982号へと向けた瞬間、砂鉄の剣がまるで鞭の様に伸びて襲い掛かる。

その標的は、彼女の右手に持たれたサブマシンガンだった。

「まずは、その女の子が持つには物騒な護身道具を没収させて頂くわ!」

先ほどの銃弾ほどのスピードではないが、

確実にサブマシンガンを打ち抜くために追尾させるよう操作している砂鉄の剣は避ける動作を見せない9982号へ伸びていく。

そして。

その剣は、9982号の腹部を貫いた。

500: 2011/01/13(木) 00:35:43.88 ID:OHV8Zz5/0
「な……!」

刺さった瞬間に能力を解除する御坂。そしてそのまま9982号は仰向けに倒れた。

操作ミスなどする筈が無い。

彼女は、9982号は。

自らその腹部を差し出した。

「なんで自分から当たりに行くのよ!!」

その奇行に動揺を隠し切れず、彼女の身を案じ、叫びながら9982号へと駆け寄ろうとする御坂はある違和感を感じた。

それは、自身の腹部。

9982号が負傷した箇所と同じ部分に痛みを覚えたのだ。

「くっ……」

焼けるような激しい痛みに、思わずその場に蹲る。

目の前の景色が歪むなか、傷口を押さえるように幹部へ手を当てる。

が、御坂の腹部には傷一つついていなかった。

「おや、お姉様。腹痛ですか?それならばお手洗いの場所を案内いたしますが、と言いながらミサカは立ち上がります」

仰向けに倒れた9982号は、そう言いながら腹筋だけを使って立ち上がった。

まるで逆再生でも見ているかのようなその様は、明らかに異様だった。

おびただしい血液が付着した制服を見る限り、立ち上がれる傷ではない。なのに目の前の彼女は平然と立って御坂を見下している。

辛うじて目の前を見据えた御坂の目に映ったのは、ぐにゃりと歪んだ世界で歪んだ笑みを浮かべた少女の姿だった。

501: 2011/01/13(木) 00:37:57.37 ID:OHV8Zz5/0
「あ、アンタいったい何を……」

何が起こったのか理解ができない。

痛みによって玉のような汗が額に滲む。

思考回路が追いつかない、判断基準がどこにも無い。

何かされたが、何もされていない。

何も起こっていない。

なのに、御坂を襲うこの痛みは、紛れも無く現実のものだった。

徐々にだが痛みが引いて、言葉を発することができるようになった御坂は息を切らしながら9982号へ問いかける。

「ミサカの痛みをお姉様にも知って頂いただけですよ、とミサカは早くも回復したお姉様に驚きつつも質問に答えます」

その言葉で再び浮かぶのは佐天の姿。

御坂は確信する。

これは彼女と同じ負能力。

「想像の通りです、とミサカはお姉様の考えを先読みし答えます」

「ミサカは佐天涙子の様に敵に情報を与えることはしませんが……」

「お姉様なので特別に名前だけ教えてあげましょう、とミサカは自身がサービス精神旺盛なできる女のアピールをします」

サブマシンガンを構え、その銃口を御坂に向けつつゆっくりと近づきながら9982号は、自身が抱える負能力名を口にした。

「ミサカはこれを【狂痛回廊(インストーラー)と呼んでいる、とミサカは某漫画の主人公の台詞を模倣し、言い放ちます」

502: 2011/01/13(木) 00:44:35.72 ID:OHV8Zz5/0
5レス分だと思ったら、4レスしかなかった。何をいっているn(ry

とりあえず今日はここまでです。

一応9982号の能力名だけお披露目って感じで。

初めはこの能力と>>494のような能力のどちらかかで少しだけ悩みましたが、刹那で現行の能力に決定しました。

それにしても狂痛回廊(失笑)

だめだ、自分に能力名を考えるセンスは無い。


それじゃ、できれば明日にでも投下していきます。


今回おまけはありません。

小ネタスレに投下されてた化物語×とあるの煽りが妙に書いてみたくなった俺は間違いなく西尾、かまちー信者。

【禁書目録×めだか】球磨川『学園都市?』【中編】

引用: 球磨川『学園都市?』