305: 2012/08/16(木) 22:43:30.44 ID:CiyC5UpN0

勇者「正義の為に戦おう」【1】


鍛冶屋「誰にも言わないでくれよ」

勇者「誰にも言わない」

鍛冶屋「……今日、魔法使いの姉に会ったんだ」

勇者「魔法使いの姉?」

鍛冶屋「ああ」

勇者「それが、どうした?」

鍛冶屋「その姉。凄え性格が悪いんだ」

勇者「そうか」

鍛冶屋「ああ、会ってみれば分かると思うけど、物凄く」

勇者「……そうか」

鍛冶屋「……」

勇者「……で、何が言いたい」

鍛冶屋「勇者。俺に剣術を教えてくれ」

勇者「……剣術を?」

鍛冶屋「ああ、その姉に負けたんだ」

勇者「……」

鍛冶屋「悔しいんだよ。魔法使いにあんな風事言った奴放っとくなんてさ」
Lv1魔王とワンルーム勇者 11巻 (FUZコミックス)
306: 2012/08/16(木) 22:44:46.62 ID:CiyC5UpN0
鍛冶屋「だから、頼む!!」

勇者「まったく……滅茶苦茶な理由だな」

鍛冶屋「わ、分かってるよ」

勇者「でも、まあ……」

鍛冶屋「……」

勇者「少しなら考えてやってもいい」

鍛冶屋「ほ、本当か!?」

勇者「ただそう簡単に強くはなれないぞ」

鍛冶屋「別にいい。そんな事分かってる」

勇者「じゃあ、始めるぞ」

鍛冶屋「こ、これから?」

勇者「当たり前だ」


勇者は立ち上がり、素手のまま構える


鍛冶屋「え……何?」

307: 2012/08/16(木) 22:46:47.27 ID:CiyC5UpN0
勇者「まずは体術だ。剣術はその後」

鍛冶屋「つまり最初の数日は素手で稽古って事?」

勇者「そうなるな。投げ、打撃。なんでも使っていい」

鍛冶屋「わかった。何やってもいいんだな?」

勇者「ああ、武器を使わなければ何をしても構わん」

鍛冶屋「……」

勇者「なんだ」

鍛冶屋「いや、そんな適当でいいのか?」

勇者「安心しろ。何をしても今のお前じゃ俺に勝てない」

鍛冶屋「い、言ってくれるじゃん」

勇者「さっさとしろ」

鍛冶屋「おう!!」

308: 2012/08/16(木) 22:48:03.02 ID:CiyC5UpN0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


正義「じゃあ、この町はあなたの生まれ故郷なのね」

魔法使い「はい」

正義「ならいいんじゃない? 両親に会いに行ったって」

魔法使い「……」

正義「どうしたの?」

魔法使い「私嫌われてるんです」

正義「誰に?」

魔法使い「家族みんなにです」

正義「……」

魔法使い「魔法の家系なんです。私の家」

魔法使い「だから、魔法の出来ない私は家族に嫌われてるですよ。落ちこぼれですし」

正義「……」

魔法使い「魔法が使える様になるまでは帰ってくるなって言われてたのに、帰ってきちゃいましたし」

正義「……」

魔法使い「ダメですよね。私」

309: 2012/08/16(木) 22:48:43.24 ID:CiyC5UpN0
正義「別にダメじゃないわよ」

魔法使い「ダメなんです。だから姉さんにもバカにされて……」

正義「お姉さん?」

魔法使い「今日会ったんです」

正義「お姉さんに?」

魔法使い「はい。思った通り滅茶苦茶に言われました……」

正義「……」

魔法使い「仕方ないんです。私が悪いんですから」

正義「でも鍛冶屋がなんか言ったんでしょ」

魔法使い「え? なんで分かるんですか?」

正義「そう言う性格してるのは知ってるもの」

魔法使い「でも、思いっきりカウンター喰らって……」

正義「……うん、それは予想外だった」

魔法使い「一撃でやられちゃって」

正義「想像を絶するくらい弱いのね」

魔法使い「いえ、私の姉が強いんです」

正義「でも、一撃で負けるって……」

310: 2012/08/16(木) 22:50:24.97 ID:CiyC5UpN0
魔法使い「私のせいで鍛冶屋さんも怪我しちゃって……」

正義「それはあいつが悪いんだから自業自得よ」

魔法使い「そうですかね」

正義「当たり前じゃない」

正義「でも、一回行ってみた方がいいんじゃない?」

魔法使い「……そう、ですよね」

正義「勇者に後で聞いとけばいいわね」

魔法使い「ありがとうございます」

正義「別にお礼なんて言わなくていいのよ」

魔法使い「……」


ドシャッ!!


正義「何の音かしら」

魔法使い「勇者さん達の部屋からみたいですけど……」

正義「行ってみる?」

魔法使い「い、いいです」

315: 2012/08/17(金) 22:05:42.80 ID:nZuL4w590
~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「う……はあはあ……」

勇者「まあ、こんなもんだろうな」

鍛冶屋「こんなもん……って、どういう意味だよ」

勇者「お前の能力はだいたい把握できた」

鍛冶屋「能……力?」

勇者「ああ、長所と短所とも言えるがな」

鍛冶屋「お、教えてくれよ」

勇者「そのつもりだ」

鍛冶屋「……」

勇者「まず、お前の長所から」

鍛冶屋「ああ、頼……む」

勇者「鍛冶師と言うだけあって、スタミナと攻撃力はなかなかのものだ。特にスタミナは俺よりあるかもしれない」

鍛冶屋「そ……そうか」

勇者「だが、そのかわりスピードと防御力が全く無い。だからこそ、一発二発でそこまで呼吸が乱れるし、ただでさえ遅い動きが鈍る」

316: 2012/08/17(金) 22:07:09.56 ID:nZuL4w590
鍛冶屋「う、うるせえよ」

勇者「とにかくもう少し回避能力が欲しい所だな」

鍛冶屋「回避能力ったって……どうやって身につけるんだよ」

勇者「稽古は俺がつける。異論は」

鍛冶屋「……無し」

勇者「ならいい」

鍛冶屋「……」

勇者「風呂に行くか」

鍛冶屋「……汗かいたからか?」

勇者「ああ」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

勇者「とにかく、お前に必要なのは回避能力だ」ヌギヌギ

鍛冶屋「防御力は?」ヌギヌギ

勇者「それは戦いを積んでいけば勝手に身についていく」スタスタ

鍛冶屋「回避能力は無理か?」

勇者「ああ、独学でもそこそこまで行けると思うが、やはり限界がある」チャプ

317: 2012/08/17(金) 22:08:48.66 ID:nZuL4w590
鍛冶屋「まあ、そうだよな」チャプッ

勇者「お前は持久戦向きだな」

鍛冶屋「俺そう言うの一番苦手なんだけど」

勇者「それが向いてるんだ、仕方ないだろう」

鍛冶屋「いや、仕方ないって言ってもさ……」

勇者「言っておくがお前は速攻が一番向いていないぞ」

鍛冶屋「……」

勇者「お前は自分がそのタイプだと思っていたと思うが、実際は耐え忍ぶ戦い方が合っている」

鍛冶屋「じゃあ、防御力がいるじゃん」

勇者「そのための回避能力だ」

鍛冶屋「ああ、それで相手を消耗させる訳か」

勇者「そうだ。相手を消耗させ、そこから攻め始める」

鍛冶屋「俺が一番苦手なタイプの戦い方なんだけど」

勇者「我慢しろ」

鍛冶屋「……分かったよ」

318: 2012/08/17(金) 22:10:37.98 ID:nZuL4w590
勇者「……」

正義『勇者、聞こえる?』

勇者『敵襲か!?』

正義『違うわ』

勇者『……じゃあなんだ』

正義『付け焼刃で構わないから、鍛冶屋に戦闘を教えて』

勇者『は?』

正義『お願い』

勇者『理由は?』

正義『明日魔法使いの実家に行くの。けどどうせこのまま行けばど一悶着あるから』

勇者『一応の護身術を教えておけと』

正義『そう言う事』

勇者「……魔法使いの姉はどんな攻撃をしてきたんだ?」

319: 2012/08/17(金) 22:12:46.37 ID:nZuL4w590
鍛冶屋「どんなって……どういう意味で?」

勇者「打撃か、魔法か、斬撃か」

鍛冶屋「俺は腹を殴られて一撃で倒れた」

勇者「……無様だな」

鍛冶屋「うるせえ!!」

勇者「他に、何か分かる事は会ったか?」

鍛冶屋「うーん……」

勇者「憶測で構わない」

鍛冶屋「ローブ着てたし、魔術師系統の能力は持ってると思う」

勇者「魔法か……」

鍛冶屋「多分」

勇者「とりあえず初歩的な回避方法だけ教えておく。出ろ」スタスタ

鍛冶屋「あ、ああ……?」スタスタ

勇者「とにかく魔法は詠唱に気付いたら近づくな」

鍛冶屋「で、でもそれが遠距離だったら」

勇者「そんな速い技はそうそう無い。あったとしても避けろ」

鍛冶屋「無茶言うなよ……」

320: 2012/08/17(金) 22:15:16.85 ID:nZuL4w590
勇者「あと簡単な技を教えておく」

鍛冶屋「技って?」

勇者「回避の技だ」

鍛冶屋「ど、どういうのだ?」

勇者「鍛冶屋、俺に殴りかかって来い」


鍛冶屋は勇者目掛けて殴りかかる。

しかし殴りかかって腕を掴まれ、そのまま地面に投げ飛ばされてしまった。


鍛冶屋「痛っ……」

勇者「甘い攻撃はこの方法でだいたい何とかなる」

鍛冶屋「なあ、俺が投げられる意味はあったのか?」

勇者「無い」

鍛冶屋「ああ、やっぱり」

勇者「文句があるか?」

鍛冶屋「いや、ねえよ」

321: 2012/08/17(金) 22:16:48.05 ID:nZuL4w590
勇者「ならいい」

鍛冶屋「でもさ、回避力が低いんだったら出来ないだろ」

勇者「いや、大丈夫だ」

鍛冶屋「なんで」

勇者「お前の場合、瞬発力や動体視力はそこそこいい。ただそれに体が追いついていないだけの事だ」

鍛冶屋「……」

勇者「だが、体全部動かす訳じゃないこの回避法ならお前でも……多少は役に立つだろう」

鍛冶屋「多少って具体的にどれくらい?」

勇者「気休め程度だ」

鍛冶屋「ダメじゃねえか!!」

勇者「無いよりはあった方がいい」

鍛冶屋「俺がやったら成功率はどれくらいなんだ?」

勇者「そんなものは考えなくていい。ただその場で生き残るために成功させようと必氏になれ。」

鍛冶屋「……了解」

勇者「じゃあ、俺は体を温める」チャプッ

鍛冶屋「裸で何やってんだよ。俺等……」

勇者「言うな」

327: 2012/08/18(土) 21:26:11.76 ID:ipS/APW80
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日   町中


正義「ほら、早く」

勇者「分かってる」

魔法使い「……」スタスタ

鍛冶屋「安心しろ。大丈夫だって」スタスタ

魔法使い「あ、ありがとうございます……」スタスタ

鍛冶屋(笑顔が引き攣ってるぞ)スタスタ

正義「何キョロキョロしてるの?」スタスタ

勇者「逃亡者を……」スタスタ

正義「探してるわけ?」スタスタ

勇者「ああ」スタスタ

正義「もしいたとしても、戦闘は出来ないわよ」スタスタ

勇者「……魔法使いの家に向かっているからか?」スタスタ

正義「大正解」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「あの二人に行かせて何かあったら誰が止めるの?」スタスタ

328: 2012/08/18(土) 21:26:51.81 ID:ipS/APW80
勇者「魔法使い」スタスタ

正義「止められるようなタイプに見える?」スタスタ

勇者「じゃあ鍛冶屋でいいだろ」スタスタ

正義「あいつが一番問題なの」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「あなたが止めるのよ」スタスタ

勇者「……はあ」スタスタ

正義「溜め息付いてもどうしようもないわよ」スタスタ

鍛冶屋「どの辺りなんだ?」スタスタ

魔法使い「こっちです」スタスタ

勇者「鍛冶屋。分かってるな?」スタスタ

鍛冶屋「暴れるなだろ」スタスタ

勇者「そっちじゃない」スタスタ

鍛冶屋「?」スタスタ

勇者「戦闘になった場合、分かっているな?」

鍛冶屋「ああ、そう言う意味ね」

329: 2012/08/18(土) 21:27:53.38 ID:ipS/APW80
勇者「回避だけを考えろ。攻撃は絶対に当たる確信があった時だけにしろ。間違っても自分からは攻めるな」スタスタ

鍛冶屋「……わかった」スタスタ

魔法使い「こ、ここです」スタスタ

勇者「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」

正義「……誰が開けるの?」

鍛冶屋「勇者?」

勇者「なんで俺なんだ」

鍛冶屋「……」

魔法使い「私が開けます」ガチャ

魔法使い「……ただいま」スタスタ

勇者「邪魔する」スタスタ

鍛冶屋「お邪魔します」スタスタ

正義「こんにちは」スタスタ

330: 2012/08/18(土) 21:28:40.59 ID:ipS/APW80
父「……お帰り」

母「……」

姉「あ、本当に来たんだ」

鍛冶屋「……」

勇者「なんですでに戦う気満々なんだ」ガシッ

魔法使い「こ、こちらは私の仲間で勇者さんと鍛冶屋さんと正義さん」

父「娘がお世話になっております」

勇者「いえ、こちらこそ」

鍛冶屋「……」

正義「魔法使いはとってもいい子ですよ」

姉「相変わらずのガラクタだけどね」

父「……」

鍛冶屋「て――――」

勇者「落ち付け。ここで喧嘩しても何も得るものが無いぞ」

鍛冶屋「……」

331: 2012/08/18(土) 21:31:01.88 ID:ipS/APW80
母「あなた、帰って来たって事は魔法を習得できたのね?」

魔法使い「……すいません」

母「私が言った事、覚えてなかったの?」

魔法使い「覚えてます。魔法が出来るようになるまでは帰ってくるな」

母「そう、その通りよね。じゃあなんで帰ってきたのかしら?」

勇者「すいません」

母「……私は魔法使いと話しているのよ?」

勇者「私が彼女を仲間に引き入れなければ彼女がここに帰ってくる事はありませんでした。ですから私の責任です」

母「じゃああなたは魔法使いが魔法を使えない事を知っていて仲間に引き入れたと?」

勇者「はい」

母「何故、未熟なままで仲間になろうと思ったの?」

魔法使い「え、そ、それは……」

母「魔法が使えないなら、あなたの存在価値は無に等しいんじゃないの?」

鍛冶屋「待てよババア!!」

勇者「鍛冶屋……」

正義「あーあ……言っちゃった」

332: 2012/08/18(土) 21:32:16.63 ID:ipS/APW80
母「ば、ばばばばババア!?」

鍛冶屋「もしくは老害!!」

母「ろ、ろろろろろ老害!?」

鍛冶屋「あんたよく自分の娘の存在価値が無いなんて言えたな!! こいつにはこいつなりにいい部分もあるって思わねえのかよ!!」

勇者「そうだな」

正義「鍛冶屋って説教体質なのね」

勇者「意外と熱血漢だからな」

正義「ええ、時々無駄に熱いしね」

母「我が家は代々魔法を学び、魔法と共に生きてきた家系。魔法の使えないこの子にどんな価値があると言うの?」

鍛冶屋「料理も上手い。知識も豊富。家事全般が得意。それで上等だろ!!」

母「……そ、その程度なら普通の女性なら持ってるわ」

鍛冶屋「それだけじゃねえ。魔法使いにはな、おっOいがあるんだよ!!」

勇者「ああ、その通りだ」

母「……」

正義「……は?」

姉「ん?」

333: 2012/08/18(土) 21:34:20.38 ID:ipS/APW80
鍛冶屋「魔法使いは巨Oだろ!! それだけでも凄い価値だぞ!!」

勇者「その通りです。魔法使いには凄い逸材なんです」

正義「ゆ、勇者?」

魔法使い「……」///

母「な……にを言ってるの」

勇者「おっOいです」

鍛冶屋「ああ、おっOいだ!!」

姉「ば、バカバカしい」

勇者「負け惜しみはみっともないですよ」

姉「違う!!」

勇者「では何がバカバカしいですか?」

姉「おっOいしかとりえが無いって事はあいつは売春婦って事ね」

勇者「それだと巨Oの人は皆売春をしている様に聞こえますが」

姉「……」

勇者「それに私達はおっOいも価値の一つであると言ったまでです。別に魔法使いの価値がおっOいだけだとは言っていません」

姉「く……」

正義「何このバカバカしい流れ」

341: 2012/08/19(日) 21:29:50.02 ID:L8voTLux0
母「もういい」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

母「あなた方二人の言いたい事は良く分かりました」

鍛冶屋「ならいいんだよ」

勇者「分かってもらえたなら幸いです」

母「あなた方が魔法使いにふさわしい愚かな人間なのだと」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

姉「ガラクタの仲間はガラクタって訳ね。あはは」

母「そうね」

鍛冶屋「ババア……」

勇者「……」

母「お帰り下さい」

勇者「分かりました」

鍛冶屋「だな」

正義「……」

342: 2012/08/19(日) 21:30:47.40 ID:L8voTLux0
勇者「また近くに来る事があれば立ち寄らせてもらいます。それでは」ガチャ

鍛冶屋「老害。ビXチ……」スタスタ

正義「行くわよ」スタスタ

魔法使い「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

魔法使い「皆さん……ありがとうございました」

勇者「俺は何もしてない。お礼なら鍛冶屋に言え」

鍛冶屋「俺だって結局意味無かったよ」

魔法使い「……でも、そんな風に言ってもらえて嬉しかったです」

勇者「おっOいか?」

正義「絶対違うと思う」

鍛冶屋「他になんか言ったっけ……」

正義「魔法使いにはちゃんと存在価値があるって所でしょ」

鍛冶屋「……ああ、そこか」

正義「本当に覚えてた?」

343: 2012/08/19(日) 21:31:55.63 ID:L8voTLux0
鍛冶屋「ば、バカ言え!! お、覚えてたに決まってんだろ……多分」

正義「覚えて無かったわね」

魔法使い「あと聞きたいんですけど。勇者さんと鍛冶屋さんは本当にそんな風に思ってたんですか?」

勇者「ああ、俺も鍛冶屋もお前が頑張っている事は知ってる。かけがえのない仲間だ」

魔法使い「いえ、その胸の事です」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「魔法使い。お前はかけがえのない仲間。それに嘘偽りなはねえ」

勇者「ああ。その通りだ」

魔法使い「いえ、そっちではなくて……」

鍛冶屋「お前の家族が何と言おうと俺達は仲間だ!!」


鍛冶屋は魔法使いの肩を掴む。


魔法使い「あ、はい……」

勇者「だから安心しろ」

魔法使い「……わかりました」

正義(強引にうやむやにしたって感じね)

344: 2012/08/19(日) 21:32:58.67 ID:L8voTLux0
逃亡者「ゆーしゃ君。あーそびーましょー」

勇者「……何の用だ」

逃亡者「おいおい。わざわざ戦いに来てあげたってのに、つれないねー」

正義「何処から見てたの?」

逃亡者「お前達があの家に入って行く所からかな」

勇者「……」

逃亡者「魔法使いって言ったっけ?」

魔法使い「え、あ、はい?」

逃亡者「人には向き不向きってのがある。覚えておくといい」

魔法使い「それって魔法の事ですか?」

逃亡者「そうかもね。でもそれを覚えておけばいい事があると思うよ」

鍛冶屋「どういう意味だよ」

逃亡者「あ、そう言えば巨O好きなんだろ。揉ませてもらったか?」

鍛冶屋「うるせえ!!」

逃亡者「その反応は揉ませてもらってないね。これだから童Oちゃんは」

鍛冶屋「だから童Oちゃんって言うんじゃねえ!!」

345: 2012/08/19(日) 21:33:38.30 ID:L8voTLux0
勇者「無駄話はこの辺りにしておこう。正義」

正義「ええ」

逃亡者「あっちに広い空き地がある。人もほとんど来ないしあっちでやろう」

勇者「わかった。鍛冶屋、魔法使い。お前達は先に帰ってろ」

鍛冶屋「ああ」

魔法使い「頑張って下さいね」

逃亡者「決戦の舞台に行こうじゃないか」スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「巨O好きなんですか?」

鍛冶屋「まあ、好きと言えば好きだな」

魔法使い「そ、そうですか」

鍛冶屋「別に巨Oだけ見てるって訳じゃねえからな」

魔法使い「……」///

346: 2012/08/19(日) 21:34:28.44 ID:L8voTLux0
鍛冶屋「ん?」

魔法使い「何でも無いです」///

鍛冶屋「ならいいんだけど」スタスタ

魔法使い「行きますよ」

鍛冶屋「ああ」

魔法使い「も……」

鍛冶屋「ん?」

魔法使い「揉みたいんですか?」///

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」

鍛冶屋「童Oにそう言う事聞くのは酷だと思わないのか?」

魔法使い「あ、すいません。童Oだって知らなくて」

鍛冶屋「別にいいんだよ。あはははは……」

347: 2012/08/19(日) 21:35:23.19 ID:L8voTLux0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

逃亡者「……」

勇者「お前はなんで頃したんだ?」

逃亡者「理由なんて無いよ。目の前にいたから斬った。それだけだ」

勇者「……」

逃亡者「英雄は二人は居ない」

勇者「どういう意味だ」

逃亡者「そのままの意味だよ。英雄は一人しかいない。二人は必要ない。いや存在できない」

勇者「……」

逃亡者「知らなくても意味無いよ。これは俺の国の言葉なんだから。ま、今は存在しないんだけどね」

勇者「お前は谷の国の?」

逃亡者「勝てば英雄。負ければ人頃しの大犯罪者。皮肉だね」

勇者「……じゃあお前は」

逃亡者「何を言ったって人頃しだ。俺もお前も」

勇者「……その通りだ」

逃亡者「じゃあ始めようか」


逃亡者は剣を抜く。

353: 2012/08/21(火) 21:49:35.60 ID:EGNLT4RU0
普段誰もいないはずの空き地には不思議な金属音が響き渡っていた。
子供が鉄パイプで遊具を殴っている様な生易しいものではなく、鋭利な金属同士がぶつかり合う頃し合いの音が。


「遅い遅い。もっと速く動かないと」

「く……」


逃亡者の一撃を勇者は紙一重で受け流す。
一秒。
いや一秒の半分遅れていれば勇者の首は宙を舞っていたはずだ。

勇者は大きく息を吸い込み、そのまま息を止める。
肉体に魔力を廻らせるのをイメージ。
肉体の基礎能力を強化する。

これで肉体面は五分五分のはず。
今の勇者なら十分逃亡者の肉体に追いつける。

お互いの距離は五メートル。
今の勇者なら一瞬で刀の間合いまで運ぶ事が出来る。

354: 2012/08/21(火) 21:51:26.18 ID:EGNLT4RU0
息を吐き出しながら跳躍。
今までとは明らかに違う速度で、相手に迫って行く。

逃亡者もそれに対応するかのように跳んだ。
その姿はまるで勇者が来るまで待ちきれないと言った様だった。

勇者は刀を上段に構え、刀を振り下ろす態勢に入る。
対して逃亡者は剣を中段に構え、突きの態勢に入った。

お互いに間合いはほぼ同じ、後は技量と読み合いだ。

一瞬にも満たないうちにお互いがお互いの間合いに入る。

逃亡者の剣は勇者の刀が振り下ろされるよりも先に勇者目掛けて突かれた。
その切っ先は寸分狂わず、勇者の心臓を狙っている。

しかし、勇者は刀を振り下ろしながらその一撃を弾く。
更にそのままの反動を利用し、斬り上げる。

すでに近づき過ぎているため本来の斬れ味や威力は期待できない。
だがそれは逃亡者も同じ事。
この間合いでは突きは出来ない。
しかも剣を弾かれているため、防御も間に合うかどうか怪しい所のはずだ。

355: 2012/08/21(火) 21:54:06.77 ID:EGNLT4RU0
血の代わりに火花が、肉を斬る音の代わりに金属音が響く。

勇者の斬り上げは逃亡者の剣によってギリギリで受け止められていた。
逃亡者の剣があと一センチでも押し戻されれば、逃亡者自身の剣が己の身を斬る事になるだろう。
それほどスレスレでその攻撃は防がれていた。

逃亡者の剣が勇者の刀の力を上手く逃がし、流しきる。

勇者は地面に着地すると、くるりと百八十度反転し、背中を向けている逃亡者目掛け、走り出した。
一秒もかかる事無く、勇者の刀の間合いに逃亡者が入る。

彼は刀を振り上げる。
まだ逃亡者は防御の体勢に入るどころか、振りかえってさえいない。

呼吸を止める。

刀に意識を集中し、斬れ味と硬度を高めるイメージをする。
同時に刀自身に風を纏わせ、更に斬れ味を上昇させた。

勇者の刀は振り下ろした。
高められた刀の前に置いて、鉄も肉も骨も紙切れに等しい。

しかし彼の耳に届いた音は肉を斬る音と血が飛び散る音では無く、刀自身が空を斬るビュン、という音だけだった。

356: 2012/08/21(火) 21:55:28.19 ID:EGNLT4RU0
「……何処に――――」

『勇者!! 上!!』


頭の中に響いた怒鳴り声を聞いた瞬間。
彼の体はほぼ反射的に動いていた。

地面を蹴り、大きく後ろに後退するとともに、相手の一太刀に備え刀を構え直す。

金属音。
宙に浮く体。

気が付いた時には勇者の体は地面に倒れていた。
両腕は痺れ、背中は焼けるように痛い。
更に脇腹にも強烈な痛みが走る。


「剣を防御するまでは良かったんだけど。その後の蹴りまでは防御しきれなかったか」


勇者は今の一撃をぼんやりながら思い出した。

357: 2012/08/21(火) 21:57:29.92 ID:EGNLT4RU0
さっき、彼は逃亡者の振り下ろした剣を確かに防御した。
しかし普通の威力に落下の力まで加わったその一撃によって防御は崩れていた。
そしてその無防備の体に逃亡者の追撃の蹴りが直撃したのだ。


「思い出せた?」


逃亡者は剣を持ったまま問いかける。


「そういう……事か」

「そう。正直剣も防御できるとは思ってなかったから、少し驚いた」

「同じ手は二回通じないぞ」

「十分理解してるつもり。信義。久々に行くよ」


口元を大きく歪めて笑うその姿はさながら悪魔の様だった。

逃亡者の足が地面を蹴る。

軽く。
素早く。

その瞬間、勇者は自分の体が粟立つのを感じた。
全身が氏という恐怖に捕らわれる。

358: 2012/08/21(火) 21:58:53.12 ID:EGNLT4RU0
刀に今まで感じた事の無い様な衝撃が襲い、両腕が痺れていた。
両腕の感覚はほぼ消えかかっている。

だが今はそんな事はどうでもいい。
勇者にとってはそんな事は二の次だった。
恐怖の正体は決してその威力ではない。

見えない。
いや、正確には速過ぎて捉えきれなかった。

地面を蹴った瞬間、逃亡者の体はほぼ消滅していた。
文字通り一発の弾丸と化し、勇者目掛けて突進してきたのだ。

次に彼を目で確認できたのはすでに剣を振り下ろそうとしている瞬間だけだった。

その瞬間、勇者は反射神経をフル稼働し、何とか避けきった。
だがもう一度同じ攻撃をされた場合、回避できる可能性は半分程度がいい所なはずだ。


『勇者!! 次の一撃が来る!!』

「分かってる!!」


くるりと向きを変えて逃亡者を迎え撃つ。
だが相変わらず姿は捉えきれず、ほぼ消失している。

359: 2012/08/21(火) 22:01:53.31 ID:EGNLT4RU0
勇者は刀を中段で構え、相手を待つ。

刹那。

勇者と逃亡者の獲物が激突し、火花を散らし合う。
鍔迫り合いの状態のまま静止する。


「あ、あああああああああ!!」


逃亡者は咆哮と共に、勇者を刀ごと、押し始める。
その威力は強化した勇者の肉体でさえも耐えきれないほどの力だった。


『勇者、不味い!!』


素早く刀の向きを変え、力を流す。
そして逃亡者の剣を受け流しきると、一歩下がった。

363: 2012/08/22(水) 21:59:05.00 ID:i/SLpTW20
『正義。あいつの能力は分かるか?』

『……肉体強化? にしてはおかしい……』

『どうおかしいんだ』

『あんな動き、普通ならとっくに体が壊れてる』


勇者はもう一度目の前にいる男の様子を確認した。
その表情は確かに楽しそうに笑っている。
しかし、その表情には別の感情も混じっている様な気がした。

呼吸を調え、一歩大きく前に進む。

このまま防戦一方ではいつか相手の一撃をくらう。
ならば多少強引でもこちらから先に攻め、相手に一撃でもくらわせる。

とにかく一撃、浅くても一撃あてる事が出来れば勝機は僅かでも生まれる。

彼の刀が大きく横に薙ぎ払われる。
ゴウッ、という音と共に刀自身が纏っていた風と強化された斬れ味が合わさり、地面を斬り裂く。

もちろん斬り裂いたものの中に逃亡者は無い。
今の一撃を後ろに跳ぶ事で難なくかわしていた。

364: 2012/08/22(水) 22:00:14.51 ID:i/SLpTW20
ここまでは想定通り。
後は空中で身動きのとれない逃亡者に一太刀加えればいいだけ。


『正義。魔力を限界まで俺の体と刀に送れ。壊れる限界までだ』

『りょ、了解』


全身に魔力がまわるのを確認し、勇者は攻撃態勢に入る。

地面を蹴り追撃。
全身の骨が軋む様な痛みと、地面を蹴った反動の痛みが彼の体を襲った。

刀を中段に構えたまま、空中の逃亡者の真正面目掛け進む。

精神を調え、呼吸を止めた。

一閃。
しかもそれは一撃ではなく、何十撃という文字通り、閃光の如き攻撃。

今現在空中にいる逃亡者にかわすと言う選択肢は無い。
そしてこの剣を構える事さえままならない状態でこの超人的に攻撃を回避する事は不可能だ。

365: 2012/08/22(水) 22:01:40.91 ID:i/SLpTW20
逃亡者の体が赤く染まる。
血が雨の様に飛び散り、肉が裂ける。

だがその刹那、彼の右手は勇者の腹を貫いていた。

内臓自体が焼ける様な痛みが走る。
肺の中の酸素が一瞬で体外に排出されてしまった様な錯覚に陥った。

気がつけば勇者の体はまるで毛糸玉の様に地面を跳ねながら転がって行た。
約五メートル近く吹き飛んだ体は木に激突し、やっと停止する。


「あ、う……」


呼吸が出来ない。
強烈な吐き気が込み上げる。

勇者は木にもたれながらかろうじて立ち上がると、逃亡者を見た。
前進血塗れで特に右腕はもはや原形を留めていないほどグチャグチャだ。

366: 2012/08/22(水) 22:02:48.84 ID:i/SLpTW20
……待て。
なんで右腕が原形を留めていないほどグチャグチャなんだ。


『正義。どういう事だ』

『分からない……でも確かにあなたは右手で殴られたはず……』


視界が霞む。
意識がとびかける。

今の状態では思考すらままならなかった。


「今回は引き分けって所か」


逃亡者は剣を鞘にしまい、笑った。

367: 2012/08/22(水) 22:04:56.68 ID:i/SLpTW20
勇者「……」

逃亡者「……」

正義「変わった使い方をするのね」

逃亡者「……気付いたのか」

正義「さすがにあれだけ派手にやればね。それにもう勇者の攻撃の傷はほとんど治ってるでしょ」

逃亡者「あくまで表面上だけ。内側は全然ダメ」

勇者「……どういう事だ」

正義「こいつは体を壊しながら動いてるのよ。でも魔力を回復に回してるから、体が壊れてもすぐに修復してる」

勇者「体が壊れてもその瞬間に回復して動いてるのか?」

逃亡者「正解。もちろん痛みもあるし、回復って言っても完全じゃないから辛いんだ」

勇者「……その右手は?」

逃亡者「限界を超えた力で殴ったんだ。俺の右手だって無事じゃ済まない」

信義「さすがにそれはすぐには修復できないからね」

逃亡者「分かってるよ。そんなにお前の力は過信してないし、お前を信頼してない」

信義「信頼できないなら魔力供給をやめてあげてもいいのよ」

逃亡者「信頼できないのはお前だけであって、お前から供給される魔力には絶対的な信頼を置いてるから安心して供給してくれていい」

368: 2012/08/22(水) 22:06:17.62 ID:i/SLpTW20
勇者「……」

正義「勇者。体を回復した方がいいわ」

勇者「分かってる」

逃亡者「所詮お前の正義は殺人を正当化するためのものか、免罪符でしか無い。そんな中途半端な力で戦っても勝てる訳ない」

勇者「お前に何が分かる」

逃亡者「少なくても正義の味方を目指してダメになった人間は知ってる」

勇者「……」

逃亡者「まあ、次はいつ会えるか楽しみだ」スタスタ

信義「じゃあね」スタスタ

勇者「……」

正義「歩ける?」

勇者「大丈夫だ」スタスタ

正義「……」スタスタ

369: 2012/08/22(水) 22:07:13.26 ID:i/SLpTW20
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者の部屋


勇者「……これからどうするのか決めようと思う」

鍛冶屋「どういう意味?」

勇者「まだこの町に留まるか、先に進むのかだ」

鍛冶屋「俺はどっちでもいいぜ。お前等に任せるよ」

勇者「魔法使いはどうだ?」

魔法使い「私もどっちでも構いませんよ。母と姉の事も自分の中ではある程度整理できていますし」

勇者「……じゃあ次の町に行こうと思う」

鍛冶屋「構わねえぞ」

魔法使い「構いません」

正義「じゃあ決定ね」

鍛冶屋「次は何処に行くんだ?」

勇者「谷の城に行こうと思う」

魔法使い「……」

鍛冶屋「……」

370: 2012/08/22(水) 22:09:58.82 ID:i/SLpTW20
勇者「いいか?」

魔法使い「はい、構いません」

鍛冶屋「俺は何処でもかまわねえぞ」

勇者「じゃあ次は谷の城だ」

鍛冶屋「了解」

魔法使い「分かりました」

正義「出発はいつにする?」

勇者「明日だ。いるものがあったら今日中に買い集めておいてくれ」

正義「了解」

魔法使い「わかりました」

鍛冶屋「勇者。お前なんかあった?」

勇者「いや、別に何もない」

374: 2012/08/23(木) 21:56:12.24 ID:8bfoWFF00
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





信義「治った?」

逃亡者「うーん……まあ魔力供給もあるし大丈夫だと思う」

信義「普通なら魔力供給があっても数日は完治しないんだけど……やっぱりあんたは異質なんだね」

逃亡者「異質な露出狂に異質って言われると少し傷つくな……」

信義「相変わらず口が悪いわね」

逃亡者「生まれつきなんでね」

英雄「まさか本当にいたとはな」

逃亡者「なんでここが?」

英雄「ここは私達の国だ。仲間がいて当然だろ」

逃亡者「へえ、この国の兵士の頭には生ごみが詰まってると思ってたんだけどカニ味噌が詰まってたんだ。意外だよ」

英雄「……バカにしているのか?」

逃亡者「してないよ。ただカニ味噌が詰まってるほど優秀だって褒めてあげてるだけ」

勝利「英雄。明らかにバカにされてるよ」

375: 2012/08/23(木) 21:56:51.93 ID:8bfoWFF00
英雄「そんな事分かっている!!」

逃亡者「カルシウムが足りてないな、牛乳飲んでないでしょ。胸も小さいし」

英雄「貴様……」

逃亡者「怒らないで、別に今のはバカにしてないんだから」

英雄「……」

逃亡者「そうだ。お前は勇者に会った?」

英雄「知っている」

逃亡者「あいつは面白いね。ああいうバカは見てて面白いし飽きない」

英雄「あとは一人だな」

逃亡者「人格を持つ剣の使い手なら俺はもう知ってるよ」

英雄「何? 誰だ」

逃亡者「魔王」

英雄「……貴様の話を聞いた私がバカだった」

逃亡者「理解が早くて助かる」

376: 2012/08/23(木) 21:57:41.24 ID:8bfoWFF00
英雄「……」

逃亡者「で、今回の用件は?」

英雄「お前を捕らえる事だ」

逃亡者「三食昼寝付き、デザートはカステラって言うんなら考えてもいいけど、どうせそんな待遇は期待できないでしょ?」

英雄「前と同じだ」

逃亡者「呪いをかけて拷問か……なら遠慮させてもらうよ」

英雄「逃げられるとでも?」

逃亡者「もちろん」

信義「……」


逃亡者は崖を飛び降りる。


英雄「な!?」

勝利「下は海。それにあいつの身体能力と回復力ならどうとでもなるね」

英雄「勝利!!」

勝利「俺達じゃどうやっても無理だよ。大怪我して溺れるのがオチだ」

英雄「くそ……」

377: 2012/08/23(木) 22:06:14.24 ID:8bfoWFF00
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


谷の町


勇者「……」

正義「人いないわね」

鍛冶屋「ああ、昼間だって言うのに全然外出してねえ」

魔法使い「と言うより人口が少ないでしょうね」

鍛冶屋「町が弱ってるんだな」

魔法使い「ですね。理不尽な税金に発展しない町ですから、好んで住む様な人間はいないでしょうね」

鍛冶屋「歩いてる人もみんな大変そうだしな」

勇者「……ああ。罪の無い人間がこんな目にあうなんてバカけてる」

魔法使い「そうですね」

正義「まずは城に行くの?」

勇者「そうだな」

旅人「……」スタスタ

鍛冶屋「……ん?」

勇者「どうしたんだ?」

378: 2012/08/23(木) 22:08:05.75 ID:8bfoWFF00
鍛冶屋「いや、さっきの人、川の町でも見た様な気がしたんだけど……」

魔法使い「ええ、確か鍛冶屋さんとぶつかったんでしたよね?」

鍛冶屋「そうそう」

正義「奇遇ね」

鍛冶屋「まあ、川の町からそう遠い訳でもないし、そう珍しくも無いよな」

勇者「……」

正義「どうしたの?」

勇者「いや、別に」

勇者「早く城に行こう」スタスタ

魔法使い「町全体に活気が無いですよね」スタスタ

鍛冶屋「ああ、本当にな」

門番「お前達は?」

勇者「山の国から来た勇者というものだ」

魔法使い「そういえば女秘書さんから紹介状みたいなのってもらいましたっけ」

勇者「……」

鍛冶屋「なんだそれ?」

正義「城に入る通行許可書みたいなものでしょ?」

勇者「持って無い」

379: 2012/08/23(木) 22:12:47.57 ID:8bfoWFF00
正義「あ、やっぱり」

門番「安心しろ。すでに女秘書様から紹介状はもらっている。入っていいぞ」

勇者「すまない」

正義「相変わらず変な所でぬけてるわね」

勇者「ああ、悪いな」

鍛冶屋「もう少し上手い返しは出来ないもんかな……」

魔法使い「勇者さんは頭の固い人ですし、無理なんじゃないですかね」

勇者「……」

鍛冶屋「ひどいな、お前」

魔法使い「あ、す、すいません!!」

勇者「いや、気にしてはいない」

正義(ちょっと傷ついたくせに)

勇者「早く王に会おう」スタスタ

鍛冶屋「なんでそんなに早足なんだよ」

勇者「……」スタスタ

正義「ちょっと落ち込んでるのよ」

鍛冶屋「だろうと思ってたけどさ」

384: 2012/08/24(金) 21:45:14.44 ID:V/mGNiXH0
勇者「失礼します」ガチャ

谷の王「あなたが勇者さんですか?」ニッコリ

勇者「はい。こちらは旅の仲間の正義、魔法使い、鍛冶屋です」

谷の王「そう、頭を下げなくても構いませんよ」

勇者「はい、ありがとうございます」

谷の王「女秘書から詳しい話は聞かせてもらっています」

勇者「そうですか」

谷の王「何かもてなしが出来ればいいんですが……残念ですがそんなものは無いので……」

勇者「いえ、かまいません」

谷の王「申し訳ないですな」

鍛冶屋「思ったより綺麗だな。この城」

谷の王「ええ。正直取り壊してしまってもいいんですが、一応この町の象徴ですし」

魔法使い「確かにいいと思いますよ」

谷の王「ありがとうございます」

385: 2012/08/24(金) 21:45:59.89 ID:V/mGNiXH0
勇者「魔王について何か知っている事はありませんか?」

谷の王「知っている事ですか……」

勇者「些細な事で構いません」

谷の王「そうですね……最近は魔物をずいぶんと動かしているみたいですが」

勇者「そうなのですか?」

谷の王「この辺りではなく辺境の村や町の事です。この辺りは今の所変わりありません」

鍛冶屋「まだこの辺りは発展してるって事か?」

谷の王「多く人が通る道や大きな町にはそう表れません。でなければかなりの予算をつぎ込んで作った道の意味がありませんし」

鍛冶屋「確かにそうですね……」

勇者「知らなかった……」

谷の王「私達も最近知った事ですから。大きな町から離れた村では今まで以上に魔物がいるみたいですね」

勇者「……」

谷の王「私が知っているのはここまでです」

勇者「ありがとうございます」

谷の王「お役に立てず申し訳ない」

勇者「いえ、ありがとうございました」

姫「お客さん?」ガチャ

386: 2012/08/24(金) 21:47:20.20 ID:V/mGNiXH0
姫「ああ、王様に会いに来たのですね。と言う事はお父様に御用なんですね?」

姫「あれ、お父様は?」

谷の王「部屋に戻っていろ」

姫「……はい、お父様」ガチャン

谷の王「すいませんでした」

勇者「いえ、では私はこれで失礼します」

谷の王「あなた方は自由に城に入れるように門番には言っておきますから、自由に来てください」

勇者「ありがとうございます」

勇者「行くぞ」ガチャ

正義「案外いい人そうじゃない」スタスタ

勇者「そうだな……」スタスタ

魔法使い「戦争に負けたのに、あんなに元気なんですね」スタスタ

勇者「ああ、不思議だ」スタスタ

鍛冶屋「勇者、悪いんだけど先行っててくれ」

勇者「忘れ物か?」

387: 2012/08/24(金) 21:48:56.38 ID:V/mGNiXH0
鍛冶屋「いや、ちょっとトイレに」

勇者「……城の前で待ってるから行って来い」

鍛冶屋「悪いな」スタスタ

勇者「気にするな」

鍛冶屋「……トイレ何処だよ」スタスタ

姫「……」キョロキョロ

鍛冶屋「あれって、お姫様だよな?」

姫「あら? どうなさったの?」

鍛冶屋「いや、トイレを――――」

姫「うふふ、かわいい小鳥さん。巣から落ちてしまったの?」

鍛冶屋「いや、その……」

姫「カラスが来る前にお逃げなさいな。食べられてしまいますよ」

鍛冶屋「……なんで子鳥?」

姫「知らない人……誰?」

鍛冶屋「え、何?」

388: 2012/08/24(金) 21:50:07.36 ID:V/mGNiXH0
姫「嫌、来ないで……」

鍛冶屋「……」

逃亡者「トイレならそこの道を真っすぐ行った所にある」

鍛冶屋「あ、ありが……」

逃亡者「ん?」

鍛冶屋「おま――――」

逃亡者「大声上げない。一応追われてる身なんだから」

鍛冶屋「……なんでお前がここに」

逃亡者「お久しぶりです。姫様」

鍛冶屋「え?」

姫「……」

逃亡者「……」

鍛冶屋「知り合い、なのか?」

逃亡者「昔の話。今はきっと覚えて無いさ」

鍛冶屋「それよりどうやってここに?」

389: 2012/08/24(金) 21:51:20.33 ID:V/mGNiXH0
逃亡者「昔にこの城には来た事があるから簡単に入れるよ」

姫「……」

逃亡者「もう覚えておられませんか」

姫「……まだ元気なのね、シロ」

逃亡者「……」

鍛冶屋「シロって髪の色の事?」

逃亡者「昔の呼び名だよ」

姫「シロ、お父様は元気? 次は何処に行く予定なの?」

逃亡者「いえ……」

姫「きっとシロなら大丈夫。私も応援してる」

逃亡者「……あ、ありがとうございます」

390: 2012/08/24(金) 21:54:06.44 ID:V/mGNiXH0
兵士「王!! ここです!!」

鍛冶屋「え、何!? 俺まだ全然把握できてないんだけど!!」

谷の王「逃亡者……生きていたのか」

逃亡者「お久しぶりですね、王。あなたと最後に会ったのは、戦争前の作戦会議か何かだったでしょうか?」

谷の王「……何の用だ」

逃亡者「私も追われる身。逃げ回っていたらこんな所に着いてしまったんです」

逃亡者「で、この男がトイレを探していたので教えていました」

谷の王「……構わん。殺せ」

逃亡者「では、またお会いしましょう」


逃亡者は素手で壁を突き破ると何処かに走り去って行った。


鍛冶屋「え、は?」

谷の王「……あの男から何を聞きましたか?」

鍛冶屋「いえ、トイレの場所だけです……」

谷の王「……そうですか」

394: 2012/08/25(土) 22:30:42.68 ID:jfjD+ca/0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「遅かったな」

鍛冶屋「わ、悪い」スタスタ

鍛冶屋(やっぱり言わない方がいいよな)

正義「早く泊まる所を見つけましょう」

勇者「そうだな」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さん? どうかしましたか?」スタスタ

鍛冶屋「いや、何でも無い」スタスタ

鍛冶屋(逃亡者とあのお姫様の関係って何なんだろう)スタスタ

鍛冶屋(それに逃亡者もあのままとは考えられねえし……)スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「あれ宿屋じゃないですか?」

勇者「そうだな」

正義「もう休みたい……」

勇者「町に着いてからも休んでないからな」

395: 2012/08/25(土) 22:31:55.02 ID:jfjD+ca/0
勇者「……」ガチャ

宿屋「一晩50ゴールド」

正義「人数? 部屋数?」

宿屋「一部屋」

勇者「じゃあ二部屋だ」

宿屋「これ鍵ね」

魔法使い「ありがとうございます」

鍛冶屋「じゃあ俺達は行ってるからな」

正義「はいはい」

魔法使い「部屋はこっちですよ」スタスタ

正義「はいはい」スタスタ

魔法使い「……」ガチャ

正義「荷物はここに置いとくわよ」

魔法使い「はい」

正義「……」

396: 2012/08/25(土) 22:32:35.06 ID:jfjD+ca/0
魔法使い「あのお姫様、可哀想でしたね」

正義「可哀想?」

魔法使い「え? だって父親も氏んでしまって、自分もあんな風に」

正義「ええ、でも彼女は可哀想では無いわよ。むしろ幸福かも」

魔法使い「な、なんでですか?」

正義「あの子は幸せな世界で生きてるから」

魔法使い「自分の中の世界って事ですか?」

正義「ええ、そうよ」

魔法使い「……」

正義「狂えるって事は幸せなのよ。自分の世界にだけ引きこもっていればいいんだから」

魔法使い「……そうですね」

正義「私は出来なかったからここにいるの」

魔法使い「……」

正義「ごめんね。少しつまんない話になったわね」

魔法使い「いえ、そんな」

397: 2012/08/25(土) 22:33:23.53 ID:jfjD+ca/0
正義「……?」

魔法使い「どうかしましたか?」

正義「いや、魔物の魔力を一瞬だけ感じたんだけど……」

魔法使い「今はどうですか?」

正義「……今はもう感じないわね」

魔法使い「気のせいとかじゃないんですか?」

正義「分からないわね。明日勇者にでも話してみる」

魔法使い「今日はもう勇者さん達の部屋には行かないんですか?」

正義「うん。もう眠いし、少し寝るわ」

魔法使い「じゃあ、私も」

正義「別にいいのよ。あなたはあっちに行っても」

魔法使い「いえ、正義さんだけおいて行くのも悪いですし、別にいいですよ」

正義「そう……あなたがいいんなら別にいいけど」

魔法使い「じゃあ私先にシャワー浴びてきますね」

正義「ええ、そうして」

398: 2012/08/25(土) 22:33:55.20 ID:jfjD+ca/0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ドゴッ


鍛冶屋「痛ってえ!!」

勇者「まだまだ回避も甘いし、防御も下手だな」

鍛冶屋「お前もう少し手加減してくれよ」

勇者「別に言いが、それだと修業にならんぞ」

鍛冶屋「……なら別にいいよ」

勇者「その意気だ」

鍛冶屋「これからどうする?」

勇者「飯でも食いに行くか」

鍛冶屋「正義達はどうする?」

勇者「来ない所を見るともう寝てるんだろ」

鍛冶屋「そうか?」

勇者「ああ、多分そうだ」ガチャ

鍛冶屋「多分って」スタスタ

勇者「確か表に酒場があったはずだ」スタスタ

399: 2012/08/25(土) 22:34:28.29 ID:jfjD+ca/0
鍛冶屋「ああ、あの景気の悪そうな酒場ね」スタスタ

勇者「この町で商売が出来ているんだ。そこそこ繁盛しているんだろう」スタスタ

鍛冶屋「そうかなあ……」スタスタ

勇者「……」ガチャ

鍛冶屋「あ、案外人がいるな」

勇者「だから言っただろう」

マスター「何をご注文で?」

勇者「パンと干し肉で」

鍛冶屋「俺も同じの」

マスター「分かりました」

???「あんた等、旅人かい?」


それは身長百九十センチほどの大男だった。
短い髪に無精髭。
服装は他の者達同様ボロボロで汚れた服だった。


鍛冶屋「ん?」

勇者「……誰だ?」

格闘家「ああ、悪いな。俺は格闘家だ」

400: 2012/08/25(土) 22:35:19.16 ID:jfjD+ca/0
勇者「……勇者だ」

鍛冶屋「鍛冶屋。えーとあんたはこの町の人間なのか?」

格闘家「ああ」

鍛冶屋「あのさ、やっぱり暮らし辛いか?」

格闘家「当たり前だろ。高い税だし仕事だって少ない。この町に残ってる連中はみんな生活が苦しいさ」

勇者「なら住処を変えればいいだろ」

格闘家「ははははは!! 確かに」

勇者「……」

格闘家「でも一応はこの町に何十年と先祖代々生きて来てるんだ。そう簡単に住処は変えられないだろ」

格闘家「それに町を変えたって結局仕事にありつける訳じゃないんだ。現に失敗した連中だってたくさんいる」

勇者「だがあの王は良さそうな人だったが?」

格闘家「ああ、あいつはそういう奴だから」

勇者「違うのか?」

格闘家「ああ、あいつは自分の保身しか考えて無い王だよ」

鍛冶屋「それってどういう意味?」

格闘家「今の王は国を売ったんだ」

401: 2012/08/25(土) 22:36:07.09 ID:jfjD+ca/0
勇者「国を?」

格闘家「そうさ。あいつは戦争が不利になって数カ月が経過した頃に、海辺の王の所に行ったんだ」

勇者「……」

格闘家「そこでどんな話し合いをしたのかは分からん。ただその後すぐに前の王の部隊が次々にやられて、前の王も戦氏した」

勇者「戦氏?」

格闘家「暗殺だよ。しかも娘の目の前で殺されたらしい」

鍛冶屋「娘って、あのお姫様か?」

格闘家「そうだ。だからあのお姫様がおかしくなったんだ」

鍛冶屋「って事はあの王がそんな事をしたって言うのか?」

格闘家「あいつは王の部隊がそう攻めるかも知っていた。情報を漏らすのは簡単だ」

鍛冶屋「で、でも海辺の王に会いに行ったんだったら警戒されるんじゃないか?」

格闘家「あの当時は停戦協定の為に行ったんだ。今思えばあの時におかしいと考えておくべきだっただろうな」

勇者「だが前の王の部下たちはどうした。そんな事をしたら黙っていないだろ」

格闘家「ほとんどが戦氏したよ。生き残った連中も海辺の王の所に連れていかれて強制労働か牢獄送りだ」

勇者「じゃああの城には今の王の手下しかいないのか?」

格闘家「そうだな。後は壊れちまったお姫様とその使用人がいるくらいだな」

402: 2012/08/25(土) 22:47:16.07 ID:jfjD+ca/0
※キャラ紹介



鍛冶屋    男      18歳


若い鍛冶師。
腕は父親と同じくらいだが、それが気に食わないため自己流に剣を打っている。
勇者と同じく巨O好き。
戦闘能力は一般人に毛が生えた程度だが、勇者曰く、なかなか見込みがある。



逃亡者    男     22歳


数百人の人間を頃した罪で追われている。
谷の国の部隊の隊長だった経歴を持っている。
人格を持つ剣、信義(しんぎ)を持っている。
性格は掴みどころのない性格だが、弱い者には優しい。
非童Oで貧O好き。
肉体を極限まで強化し、壊れた部分を瞬時に修復するというめちゃくちゃな能力を使う(戦っている最中は常に体に激痛が走っている)。

406: 2012/08/26(日) 21:49:47.67 ID:YiqWZ/xS0
勇者「……許せん」

格闘家「無駄だ」

勇者「……」

格闘家「こんな状況だ。多くの奴等が反乱を起こしたよ。でも皆殺された」

勇者「どの反乱もか」

格闘家「ああ、腐っても軍隊って事だろうな。レベルが違う」

勇者「見た所そこそこの強さを持っていると思うが」

格闘家「俺一人で何が出来る。一人で千、二千軍隊に勝てると思うか?」

鍛冶屋「勇者だってそんなのには勝てないよな?」

勇者「……数に押し切られるだろうな」

格闘家「勝ち目なんて無いんだ」

勇者「……」

格闘家「それにもしあの王がああしていなければもっとひどい事になっていたかもしれないと言う連中もいる」

勇者「ただの想像だ」

格闘家「その通りだよ。でも実際この町に略奪は無かったし、他の町でも略奪はない」

勇者「もし戦争が長引いていたら略奪が起こっていたかもしれない」

407: 2012/08/26(日) 21:50:50.04 ID:YiqWZ/xS0
格闘家「あの王は自分の身を守るためだったかもしれないが、結果的にこの国は救われたと考えるものだって少なくないんだよ」

勇者「……」

鍛冶屋「逃亡者ってこの国の奴なんだろ?」

格闘家「あいつは前の王の部隊の隊長だった男だ」

勇者「今は指名手配犯なんじゃないのか?」

格闘家「彼が人を頃したのは戦争の時だけ。他にはやっていない」

勇者「じゃああいつは戦犯という事か?」

格闘家「ああ。しかもかなり理不尽な戦犯だ」

鍛冶屋「他の兵士たちはどうしたんだ?」

格闘家「逃亡者以外は氏んだか牢屋の中か強制労働だろうな。もし逃げ出した奴がいても、もう表には出て来ずに田舎で骨をうずめるだろう」

勇者「……」

鍛冶屋「いろいろありがとな」

格闘家「いや、こちらこそ聞いてくれてありがとう」スタスタ

マスター「待たせたね」

勇者「ああ、本当に遅い」

マスター「話している最中に口を挟んじゃ悪いと思って」

408: 2012/08/26(日) 21:51:42.83 ID:YiqWZ/xS0
勇者「……もし今度があったらそんな心配はいらない」

マスター「そうですか」

鍛冶屋「もう帰って寝るか?」モグモグ

勇者「いや、少し町の構造を把握しておく」モグモグ

鍛冶屋「じゃあ俺は先帰ってるから」モグモグ

勇者「そうしてくれ」モグモグ

鍛冶屋「逃亡者の事どう思った?」モグモグ

勇者「……分からん」

鍛冶屋「頃すべきか殺さなくてもいいかって意味で?」

勇者「もはや自分自身が分からなくなってきたんだ」

鍛冶屋「……」

勇者「答えが見つかると、思ってたんだけどな……」

鍛冶屋「……やるよ。干し肉」

勇者「あ、ありがとう」

鍛冶屋「さっさと食ってやる事やれよ」

勇者「……わかった」

409: 2012/08/26(日) 21:55:02.03 ID:YiqWZ/xS0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」スタスタ

勇者「寝たんじゃなかったのか?」

正義「少し気になった事があってね。眠れなかったのよ」

勇者「そうか」

正義「そういうあなたは?」

勇者「お前と同じだ。少し気になる事があってな」

正義「一緒に行く?」

勇者「……ああ、その方がいいだろうな」スタスタ

正義「珍しいわね」スタスタ

勇者「今回は戦闘の可能性がある」

正義「今回も、じゃないの?」

勇者「……」

正義「なんで黙る訳?」スタスタ

勇者「何でも無い」スタスタ

410: 2012/08/26(日) 21:56:03.89 ID:YiqWZ/xS0
旅人「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

勇者「お前、何者だ」

旅人「へぇ? あっしの事を言ってるんですか?」

勇者「ああ、お前だ」

旅人「あっしはただの旅人でさぁ。何処にでもいる普通の人間ですよ」

勇者「じゃあその傘はなんだ?」

旅人「雨風をしのげる便利な道具ですよ。いや本当に」

勇者「……」

旅人「まさかあっしが嘘をついてるとでも思ってるんですか?」

勇者「もう一度聞く。お前は何者だ」

旅人「何度だって答えて差し上げますよ。あっしは何処にでもいる普通の旅人でさぁ」


勇者は刀を抜き旅人に斬りかかる。
だがその一撃は旅人の忍び刀で受け止められる。

411: 2012/08/26(日) 21:58:05.65 ID:YiqWZ/xS0
勇者「やはり忍び刀か」

正義「……よく分かったわね」

勇者「八割方そうだろうと思っていた」

正義「百パーセントじゃないんだ……」

旅人「寸止めとは人が悪いなぁ。分かってても体が勝手に刀を抜いちまったじゃないですか」

勇者「……やはり相当の剣士だな」

旅人「いえいえ。ただの護身術ですよ。所詮は盗賊対策でさぁ」

勇者「お前の目的はなんだ」

旅人「目的、ですか」

勇者「ああ、目的だ」

旅人「旅をするのが目的じゃあダメですかねぇ。へっへっへっへ」

勇者「……」

旅人「旅人なんてみんな旅するのが目的ってもんでしょう」

勇者「お前は違う」

旅人「旦那は何を知ってるんで?」

勇者「お前からは嫌な臭いがする」

旅人「へっへっへ。いわゆる第六感ってやつですかね? それとも勇者さんと同族の臭いがしますか?」

412: 2012/08/26(日) 22:03:53.31 ID:YiqWZ/xS0
勇者「お前……」

旅人「なんで知ってるんだってのは的外れじゃあありませんか? だって旦那は有名じゃないですか」

正義「あなた。やっぱり普通じゃないわね」

旅人「お嬢さんもそんな事を言うんですか。何か証拠でもあるんですか?」

正義「勇者じゃないけど、嫌な臭いがする」

旅人「へへへっ。さぁて、それはどうでしょうかね」

正義「……」

旅人「おっと、もうこんな時間だ。あっしはもう行かせてもらっていいですかね?」

勇者「ああ」

旅人「もしかしたらまた縁があって会う事があるかもしれません。その時は一つよろしくお願いします」

勇者「……」

旅人「じゃあ怪我や病気にお気をつけて」スタスタ

正義「どう思う?」

勇者「確かに普通じゃないが、今の所は分からん」

正義「ええ。私も同じよ」

413: 2012/08/26(日) 22:10:22.85 ID:YiqWZ/xS0
キャラ紹介


姫     女      18歳


谷の王の兄の娘。
とある事情で廃人に近い状態になっている。
逃亡者とは知り合いで、シロと呼んでいる。
美人。
振り返ってみるとおしとやかで控えめなお嬢様っぽい女キャラが過去のSS見渡しても居なかったのでなんとなく考えていたら姫が思いついた。
おっOいもおしとやかで控えめ。

過去作を含めてお姫様と呼べるのは赤いドラゴンと白いドラゴンと姫の三キャラ。

417: 2012/08/27(月) 21:42:59.35 ID:Yslb2x3D0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「なんで城に来ちゃったのかな……」

門番「用が無いなら帰ってくれ」

鍛冶屋「用はあるんだけどさ……」

門番「あるけど、なんなんだ」

鍛冶屋「あのお姫様ってまだ起きてるかな」

門番「知らん」

鍛冶屋「って言うか今日一晩そこにいるの?」

門番「……そうだ」

鍛冶屋「大変だな」

門番「まあな。けどその分やりがいもある」

鍛冶屋「かっこいいな」

門番「で、結局どうするんだ?」

鍛冶屋「褒めたのはスルーかよ」

門番「答えろ」

418: 2012/08/27(月) 21:44:01.20 ID:Yslb2x3D0
鍛冶屋「じゃあとりあえず中に入るけど、いいよな?」

門番「入るなら早くしろ」

鍛冶屋「……でもどうしよっかな」

門番「面倒臭いな、お前」

鍛冶屋「んだと?」

門番「入るならさっさとしろ」

鍛冶屋「はいはい。分かったよ」スタスタ

門番「ったく……」

鍛冶屋「……」スタスタ

鍛冶屋「これでいいのか?」

逃亡者「完璧。さすが俺が見込んだだけあるよ」

鍛冶屋「真面目な顔して大嘘吐いてんじゃねえよ」

逃亡者「ひどいな……そこまで言わなくていいじゃん」

鍛冶屋「だいたいさっきみたいにどっかから勝手に入ればいいじゃねえか」

逃亡者「兵士の巡回が厳しいんだよ。今だっていつ兵士が来るかドキドキだ」

鍛冶屋「……」

419: 2012/08/27(月) 21:44:58.40 ID:Yslb2x3D0
逃亡者「でも予想外だったな。まさかお前が協力してくれるなんて」

鍛冶屋「別に深い理由はないよ。ただあんたがあのお姫様に会いたがってるんだろうなって思っただけ」

逃亡者「……」

逃亡者「いい童Oちゃんだよ。お前は」

鍛冶屋「全然うれしくねえよ」

逃亡者「よし、じゃあさっさと行こうか」スタスタ

鍛冶屋「お姫様の部屋はわかるのか?」スタスタ

逃亡者「当然」スタスタ

鍛冶屋「お前の事は誰にも言ってない」スタスタ

逃亡者「勇者にも?」スタスタ

鍛冶屋「ああ、言うつもりも無い」スタスタ

逃亡者「酷い奴。仲間にくらい言っといてやれよ」スタスタ

鍛冶屋「勇者には……絶対言わない方が言い」スタスタ

逃亡者「うん、そうだな。その通りだ」スタスタ

鍛冶屋「で、何処?」

逃亡者「こっち」スタスタ

420: 2012/08/27(月) 21:45:39.93 ID:Yslb2x3D0
逃亡者「……」ガチャ

鍛冶屋「……」

姫「シロ、と、どなた?」

鍛冶屋「え、と……」

姫「ああ、この前の子鳥さんね。カラスは大丈夫だった?」

鍛冶屋「大丈夫」

姫「そう、なら良かったわ」

逃亡者「姫様……」

姫「元気そうで良かった。私も嬉しいわ」

逃亡者「ありがとうございます」

鍛冶屋「……」ガチャ

逃亡者「どうしたんだ?」

鍛冶屋「邪魔だろ?」

逃亡者「やっぱりいい童Oちゃんだ」

鍛冶屋「やっぱりうれしくねえ」スタスタ

421: 2012/08/27(月) 21:46:57.53 ID:Yslb2x3D0
逃亡者「姫様のお元気な様で。嬉しい限りです」

信義「なんか、ずいぶんと大人しいのね」

逃亡者「俺は何時だって大人しいだろ。鼠みたいに」

信義「ふんっ、あんたが鼠なら英雄や勇者だってただの栗鼠じゃない」

逃亡者「あそこまでひどくは無いと思ってたんだけど、気のせい?」

信義「気のせいよ」

姫「……誰?」

逃亡者「私の部下です。気にしないで下さい」

姫「そ、そう……」

信義「……」

姫「い、いや……見ないで」

逃亡者「信義」

信義「どうなってるの?」

逃亡者「彼女は病んでるんだ。あんまり刺激しないであげてくれ」

信義「そう」

逃亡者「大丈夫です。彼女は姫様の仲間ですから」

姫「仲……間?」

422: 2012/08/27(月) 21:47:47.59 ID:Yslb2x3D0
逃亡者「はい。仲間です」

姫「仲間……仲間、仲間? 仲間」

逃亡者「決して信義が姫様を攻撃する事はありません」

姫「仲間。嫌」

逃亡者「……」

姫「仲間、痛い……嫌、見ないで……寄らないで。触らないで!!」

逃亡者「姫、様……」

信義「……」

姫「痛い、痛い!!」

逃亡者「落ち付いて下さい。姫様」


逃亡者は姫の肩を掴む。


姫「あ、シロ……」

逃亡者「大丈夫ですか?」

姫「私はいつも元気よ」

逃亡者「……」

鍛冶屋「逃亡者。そろそまずい」

423: 2012/08/27(月) 21:48:36.89 ID:Yslb2x3D0
逃亡者「姫様。また来ますね」

姫「今度は紅茶でも準備するわ」

逃亡者「はい、ありがとうございます」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

逃亡者「……」スタスタ

鍛冶屋「お姫様を助け出すのか?」スタスタ

逃亡者「……なんで?」スタスタ

鍛冶屋「お前ならそうするかもって思ったんだ。ていうかするんだろ?」スタスタ

逃亡者「これは俺の問題。お前には関係ない」スタスタ

鍛冶屋「一人で出来るのか?」スタスタ

逃亡者「……」スタスタ

鍛冶屋「手伝うよ」スタスタ

逃亡者「いや、これはいいんだ。俺一人の問題だから」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

逃亡者「それにお前じゃ足手まといだ」スタスタ

鍛冶屋「そうだよな、悪い」スタスタ

逃亡者「いや、いいんだ」スタスタ

424: 2012/08/27(月) 21:50:51.34 ID:Yslb2x3D0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者達の部屋


勇者「……」

鍛冶屋「ただいま」ガチャ

勇者「遅かったな」

鍛冶屋「ああ、ちょっといろいろあってな」

勇者「お姫様の所か?」

鍛冶屋「……そうだけど、それがどうしたんだよ」

勇者「逃亡者と何を企んでる」

鍛冶屋「……何の話だ?」

勇者「もう分かってる」

鍛冶屋「だから何が?」

勇者「お前と逃亡者は何をする気だ」

鍛冶屋「い、意味がわかんねえ」

勇者「じゃあ聞くが、なんでお前は逃亡者がこの国の者だと知っていたんだ?」

425: 2012/08/27(月) 21:51:59.26 ID:Yslb2x3D0
鍛冶屋「そ、それは……」

勇者「結びつくものが一つも無いはずだろ」

鍛冶屋「き、聞いたんだよ。本人から」

勇者「いつにだ?」

鍛冶屋「え、ええと……」

勇者「正直に教えてくれ」

鍛冶屋「……あのお姫様に合わせたんだ」

勇者「?」

鍛冶屋「あいつとお姫様は仲間だ。最初に知ったのはトイレに行った時だった」

鍛冶屋「で、一回目は見つかったんだ。で、さっきは警備が硬くなってたから俺が協力して中に入れたんだ」

勇者「……そうか。だいたい把握できた」

鍛冶屋「あのお姫様は明らかに何かされてるみたいだった」

勇者「何かとはなんだ」

鍛冶屋「何かは何かだよ」

426: 2012/08/27(月) 21:53:01.54 ID:Yslb2x3D0
勇者「まあいい。さっさと寝ろ」

鍛冶屋「……怒らないのか?」

勇者「別に誰と会おうとお前の自由だ」

鍛冶屋「……勇者。頼みがある」

勇者「なんだ?」

鍛冶屋「逃亡者はあのお姫様を助け出そうとしてる。手伝ってやってくれないか?」

勇者「断る」

鍛冶屋「悪人の手から善良な市民を助け出すのが正義の味方だろ」

勇者「だからと言って悪人に手を貸す気は無い」

鍛冶屋「逃亡者は悪人か?」

勇者「ああ」

鍛冶屋「……」

勇者「もちろん俺も――――」

鍛冶屋「それは分かってる!!」

勇者「……」

鍛冶屋「でも逃亡者は悪い事をする訳じゃねえんだぞ!!」

430: 2012/08/28(火) 21:54:33.64 ID:GRpjKib10
勇者「だからと言って悪人に手を貸していいとなった訳じゃない」

鍛冶屋「じゃあお前はあのお姫様がどうなってもいいって言うのかよ」

勇者「そうではない」

鍛冶屋「……やっぱりだ」

勇者「……」

鍛冶屋「お前は逃亡者が嫌いなだけだ」

勇者「何が」

鍛冶屋「今のお前は善悪抜きに逃亡者を助けたくないんだろ」

勇者「それもあるかもしれん」

鍛冶屋「最低だ」

勇者「……」

鍛冶屋「本当に助けないのかよ」

勇者「……」

鍛冶屋「もういい!!」ゴロン

勇者「寝るのか」

鍛冶屋「そうだよ!!」

勇者「……」

431: 2012/08/28(火) 21:57:37.04 ID:GRpjKib10
正義「ま、鍛冶屋の言う事は正論ね」ガチャ

勇者「いつの間に」

正義「壁が薄いのよ」

勇者「……」スタスタ

正義「ちょ、何処行くの?」

勇者「用事だ」スタスタ

正義「ははーん、そういう事」スタスタ

勇者「何がだ」スタスタ

正義「素直じゃないんだから」スタスタ

勇者「何がだ」スタスタ

正義「城に行くんでしょ?」スタスタ

勇者「言っておくが逃亡者を助ける気は無い」スタスタ

正義「いつその作戦を決行するかも分からないしね」スタスタ

勇者「ああ、その通りだ」スタスタ

正義「じゃあ何するの?」スタスタ

勇者「俺の勝手だ」スタスタ

正義「私にくらい教えてくれてもいいんじゃない?」スタスタ

勇者「……」スタスタ

432: 2012/08/28(火) 21:58:51.13 ID:GRpjKib10
正義「それとも私に聞かれるとまずいの?」スタスタ

勇者「いや……」スタスタ

正義「じゃあ教えてよ」スタスタ

勇者「逃亡者を手伝う気は無い。ただお姫様は助ける」スタスタ

正義「……?」スタスタ

門番「こんな夜中に何の用だ」

勇者「一身上の都合、ではダメか?」

門番「夜中だからな……」

勇者「少し前に鍛冶師の男が来ただろう」

門番「ああ、来たな。あんたの仲間だろ」

勇者「あいつが忘れ物をしたらしいんだ。入ってもいいか?」

門番「まあ、王も起きてるし、問題は無いよな……」

勇者「いいか?」

門番「分かった。入れ」

勇者「悪いな」スタスタ

正義「こういう時はやけに喋るじゃない」スタスタ

勇者「言っておくが俺は話すのが苦手なんじゃない。ただ単に話さないだけだ」スタスタ

正義「どうだか」スタスタ

勇者「失礼します」ガチャ

433: 2012/08/28(火) 22:00:24.75 ID:GRpjKib10
姫「……どなた?」

勇者「勇者と申します。こちらは正義です」

正義「よろしくね。お姫様」

姫「ふふっ。かわいい」

正義「……なんでここに?」

勇者「お姫様。この部屋に何処か隠れる場所はありませんか?」

姫「隠れる場所? かくれんぼでもするの?」

勇者「……まあ、そんな所ですかね」

姫「ならそこの戸棚の裏かしら」

勇者「少し隠れてもよろしいですか?」

姫「かくれんぼの最中なの?」

勇者「はい」

姫「じゃあ早く隠れて」

勇者「ありがとうございます」スタスタ

正義「……」

434: 2012/08/28(火) 22:02:00.16 ID:GRpjKib10
勇者「正義。お前も来い」

正義「はあ?」

勇者「お前の隠れろ」

正義「入る隙間なんてある?」スタスタ

勇者「ある」

正義「狭っ!!」

勇者「いいから早く」

正義「ったく……」

勇者「……足踏んでる」

正義「無茶言わないでよ。狭いんだから」

勇者「……」

正義「て言うか胸当たってる? 当たってない?」

勇者「お前にあたるほどの胸があるか?」

正義「あなたね……」

勇者「魔法使いを連れてきた方がよかったかもしれんな」

正義「怒るわよ」

勇者「すまん。少し調子に乗った」

435: 2012/08/28(火) 22:02:36.29 ID:GRpjKib10
正義「いまだにあなたが何をしたいのかが分かんないんだけど」

勇者「少し待ってろ」

正義「あと少しなの?」

勇者「分からん」

正義「ねえ、少しアバウト過ぎない?」

勇者「多少アバウトな方がいいぞ」

正義「……」

勇者「静かにしてろ」

正義「分かったわよ……」

姫「……」

勇者「……」


ガチャ


兵士「……」

姫「あなたは?」

兵士「今日は俺の番なんですよ。お姫様」

姫「嫌……」

兵士「我慢して下さいよ。どうせ一回だけなんですから」

436: 2012/08/28(火) 22:03:39.68 ID:GRpjKib10
姫「……嫌」

兵士「それともまた殴られたいんですか?」

姫「……」

兵士「楽しませてもらいますよ」

勇者「……」

正義「……」

兵士「……」カチャカチャ

勇者「その前に少し話を聞かせてもらえるか?」スタスタ

兵士「んな!?」

勇者「確かにお姫様は可愛い。だがだからと言っても襲っていいのか?」

兵士「あ、あなたには関係ない事です」

勇者「とにかくズボンをはけ。なんなら俺が手伝おうか?」

兵士「余計なお世話だ!!」

正義「最低」

勇者「……俺も同じだ。腕の一本斬り落としてやりたい」

兵士「私以外の人間だってやっているんです。何故私だけが!!」

勇者「皆がやっているからと言ってもやっていい訳ではないだろう」

兵士「……」

437: 2012/08/28(火) 22:04:23.21 ID:GRpjKib10
姫「あ、ありがとう……」ギュッ

勇者「いえ、いいんですよ」

勇者「同意のもとなどと言う気は無いな。お姫様は拒まなかったんじゃない。拒めなかったんだ。分かるな?」

兵士「……」

正義「どうするの?」

勇者「そうだな。王を呼んで来てくれ。呼んで来るだけだ。他は何も言うな」

正義「分かったわ」スタスタ

兵士「……」

勇者「お前はその仲間の兵士を全員呼んで来い。逃げたら足を斬り落とす」

兵士「……」スタスタ

勇者「……」

谷の王「なんですか?」スタスタ

勇者「単刀直入に聞きます。知っていましたか?」

谷の王「私は何も知りませんよ」

勇者「……本当ですね?」

谷の王「本当です」

438: 2012/08/28(火) 22:06:16.10 ID:GRpjKib10
勇者「私が何の事を言っているのか知っていますか?」

谷の王「……どういう意味ですか?」

勇者「知らないと言いましたが、普通は何の事かを聞くんじゃありませんか?」

谷の王「……」

勇者「何故、あなたはこの部屋で起こっていた事を何も聞かずに知らないと言い切れるんでしょうか」

正義「私は何とも言ってないわよ」

勇者「ああ、余計な事を言うなと言ったからな」

正義「私はお姫様の部屋に来てほしいと言っただけよ」

谷の王「……くっ」

勇者「あなたはお姫様の部屋でこの時間に何が起こってるか知っていた。違いますか?」

谷の王「……」

勇者「沈黙は肯定と判断しますが、よろしいですね」

谷の王「……あなたには関係の無い事ではありませんか?」

勇者「ええ、その通りです。ただ少女が辱められておくのを放っておく男は最低だと思いませんか?」

正義「その通りね」

谷の王「それで、その事が何か」

勇者「あなたに要求があります」

谷の王「なんですか?」

439: 2012/08/28(火) 22:06:52.08 ID:GRpjKib10
勇者「お姫様に今後一切何もしない」

谷の王「……だけですか?」

勇者「ご不満があるのならもう少し要求を増やしましょうか?」

谷の王「……」

正義(勇者って普段あんまりしゃべらならいけど、意外と弁が立つのね)

勇者「ご了承いただけますか?」

谷の王「わかりました」

勇者「では約束ですよ」

谷の王「わかった」

勇者「もしもう一度こういう事が起こった場合はこちらにもやり方がありますので」

谷の王「どういうものですか?」

勇者「私の国の秘書にその事を報告させていただきます」

谷の王「……そうですか」

勇者「先に言っておきますが、私の国の秘書に賄賂は無駄ですよ。それにその秘書は女性です」

谷の王「……」

勇者「言いたい事は理解できますよね?」

谷の王「ええ、嫌というほどに理解できます」

勇者「……」

兵士達「……」スタスタ

440: 2012/08/28(火) 22:08:54.58 ID:GRpjKib10
勇者「来たか」

兵士達「……」

谷の王「これは……」

勇者「彼等の事はご存知で?」

谷の王「……」

勇者「沈黙は肯定と理解します」

谷の王「……」

勇者「お前達に言う事は一つ。これからはお姫様に指一本触れるな。それでももし何かしたなら……こちらにも考えがある」

兵士達「……」

勇者「すでにその事は伝えておいてある。今この瞬間から彼女には必要以上に触れるな。もし何かあればすぐに俺の国の秘書に連絡が行く」

谷の王「す、すでに伝えてあると言うのは……」

勇者「あなたはこの治安の悪い世の中、スパイや工作員がこの城の一人もいないとお思いですか?」

谷の王「……」

勇者「理解していただけましたか?」

谷の王「……」

勇者「正義、行くぞ」スタスタ

正義「あ、うん」スタスタ

勇者「嫌に静かだったな」スタスタ

正義「いや、その……」

正義(勇者と口喧嘩は絶対しない方がいいわね)

450: 2012/08/30(木) 21:19:55.21 ID:Uw6kkdT80
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


城の外


正義「なんで殺さなかったの?」

勇者「腐っても国の兵士だ。下手に殺せば事件になる。それに頃すのがあんなにたくさんいたら頃しきれん」

勇者「あとあいつ等は他人を頃したり殺そうとした訳じゃない。さすがに氏は重すぎると思っただけだ」

正義「ふーん」

勇者「女秘書に頼んで何かしらの罰は受けてもらうと思うがな」

正義「意外ね」

勇者「何がだ」

正義「いつものあなたなら速攻斬り捨てると思ってたから」

勇者「斬り頃してやりたいさ。ただ頃すだけでは意味がないと思っただけだ……」

正義「成長してるのかしらね」

勇者「……わからん。ただ俺は女秘書にこんな事を頼むんだ」

正義「まあ、他人任せって言うのはね」

勇者「分かってる。仕方ないとは言えこういう事を頼むのは……」

正義「……」

451: 2012/08/30(木) 21:20:27.47 ID:Uw6kkdT80
勇者「正義の為だ」

正義「どうしたの?」

勇者「俺は正義のために戦うんだ」

正義「?」

勇者「再確認だ」

正義「……そういう事ね」

勇者「もうこの町でやる事は無いな」

正義「……お姫様も助けたし?」

勇者「まあ、そんな所だな」

正義「じゃあもう明日には行く?」

勇者「いや、もう少し待とうと思う」

正義「なんで?」

勇者「一応お姫様の事が気になるからな」

正義「そういう事」

正義「で、鍛冶屋には言わないの?」

勇者「言った所で意味は無いだろ」

正義「誤解したままよ?」

452: 2012/08/30(木) 21:21:08.05 ID:Uw6kkdT80
勇者「それならそれで構わん」

正義「……知らないわよ」

勇者「別にいい」

正義「……なんでそこまで意地になるんだか」

勇者「……」

正義「じゃあ私も言わない」

勇者「別にお前の好きにすればいい」

正義「ええ、そうするわ」

勇者「……」

正義「言ったでしょ。私はあなたの武器になるって」

勇者「ありがとう」

正義「いえいえ」

453: 2012/08/30(木) 21:21:36.14 ID:Uw6kkdT80
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


数日後


『谷の国の姫が行方不明に。城付近で白髪の男の目撃情報あり』


勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「逃亡者がやった様だな」

鍛冶屋「ああ、そうだな」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「おはようございます」

正義「おはよう」

鍛冶屋「おはよう」

勇者「おはよう」

正義「新聞読んだ?」

454: 2012/08/30(木) 21:22:15.79 ID:Uw6kkdT80
鍛冶屋「ああ、読んだ」

勇者「みんな。そろそろ次の町に行こうと思うのだが、どうだろう?」

鍛冶屋「……勝手にしろよ」

魔法使い「私も構いません。買うものもある程度買い終わりましたし」

勇者「そうか。なら移動するか」

魔法使い「そうですね」

正義「じゃあ行きましょうか」

魔法使い「もうですか?」

正義「早く行った方が楽じゃない」

勇者「そうだな」

鍛冶屋「……」

魔法使い「じゃあ次は何処ですか?」

勇者「次は……辺境の村にでも行ってみるか」

鍛冶屋「辺境の村?」

勇者「この町から北にずっと進んだ所にある村だ。近くに竜の山がある」

455: 2012/08/30(木) 21:22:50.84 ID:Uw6kkdT80
正義「初めて聞いたわね」

勇者「そんなに有名な村でもないからな。町で少し調べて来たんだ」

正義「そうだったんですか」

魔法使い「じゃあ行きましょうか」

勇者「そうだな」

鍛冶屋「……」

正義「鍛冶屋」

鍛冶屋「なんだよ」

正義「……ううん、何でもない。気にしないで」

鍛冶屋「?」

正義「早く準備して」

鍛冶屋「分かってる」スタスタ

正義「……」

456: 2012/08/30(木) 21:24:38.14 ID:Uw6kkdT80
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

魔法使い「な、なかなか着かないですね」スタスタ

勇者「そこそこ遠いみたいだからな。仕方ない」スタスタ

魔法使い「そ、そうですか」スタスタ

正義「あとどれくらいなの?」スタスタ

勇者「わからん。ただそんなに近くもないし離れてもないだろう」スタスタ

正義「それってどっちなの?」スタスタ

勇者「分からん」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「ど、どうしたんですかね……」ヒソヒソ

457: 2012/08/30(木) 21:26:41.64 ID:Uw6kkdT80
正義「喧嘩したのよ。お互いに頑固だからどうしようもないのよ」ヒソヒソ

鍛冶屋「魔法使い」スタスタ

魔法使い「は、はい!?」スタスタ

鍛冶屋「……水って余ってるか?」スタスタ

魔法使い「え、あ、余ってますけど」スタスタ

鍛冶屋「じゃあ分けてくれないか? 俺全部飲んじゃって」スタスタ

魔法使い「あ、はい。どうぞ」スタスタ

鍛冶屋「ありがと」スタスタ

正義「勇者には聞かないのね」ヒソヒソ

魔法使い「相当ですね」ヒソヒソ

勇者「見えてきたぞ」スタスタ

正義「どれ?」スタスタ

勇者「あの奥の山が竜の山。あの山のふもとに村がある」スタスタ

正義「大きい山ね」スタスタ

勇者「竜が住んでる山だからな」スタスタ

458: 2012/08/30(木) 21:31:14.56 ID:Uw6kkdT80
※歴代キャラの強さ


この順位はあくまで目安であり、戦術や心の状況などで勝敗は簡単に覆ります。
今回のSSのメンバーは剣の力を使っていない状態で考えます。
あくまで純粋な強さ(お互いに最高の状況下で最高の心理状況。そしてお互いの戦術を全て理解している状態での戦闘)です。
おまけ程度に見ておいて下さい。
純粋な人間キャラのみです。またレベルの違う人達(女大臣、師匠、おじさん、弓兵)は抜いてあります。



強い人達


一位 赤い竜の婿の勇者

速い動きと独自の戦い方が武器。
分かっていてもこの勇者の独自の戦術はかなり対応しずらい。
魔法も刀で斬ったりしてたし、純粋な強さはトップクラス。



二位 正義の勇者

正義の力を借りれば勇者にも勝てるが、正義の力がないとスピード勝負で負ける。
一撃の威力は正義の勇者の方が上。


三位 逃亡者

ほぼ正義の勇者と互角か少し下。
目がよく、攻撃を見てから回避する事も出来る。
ただ一撃の威力が他と比べると若干低い。


四位 イケメン

パワーは段違いに凄いが動きも遅く回避力も低い。
衝撃波もあり、一発当てればほぼ勝ちだが、当たらなければジリ貧で負ける。
そのため戦況によってかなり変化する。


五位 英雄

いわゆるバランスタイプで弱点が無いが、逆に武器となるものも無い。
ただ弱点がないので攻め方やその地形によっては物凄く強くなったりする。


六位 隊長

唯一銃が使えるものの間合いに入られると勝ち目はほぼ無い(肉弾戦も強いのだが、歴戦の戦士相手には勝てない)。
イケメンとは相性がいいので勝てる。


七位 頃し屋  八位 女勇者  九位 メイド

464: 2012/08/31(金) 21:28:39.87 ID:V8dwv0Bx0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


辺境の村


正義「まずはどうするの?」

勇者「村長に会う。そうしないと問題がいろいろあるからな」

正義「なんで?」

勇者「そういうルールなんだ。小さな村ではまず最初に村長に会う」

魔法使い「それをしておかないと後で村長さんに怒られるんです」

正義「面倒臭いのね」

勇者「大きい声で言うな」

正義「はいはい」

鍛冶屋「で、村長の家は何処だ?」

勇者「一番大きな家だと思う」

正義「アバウトね」

勇者「俺だってそこまで詳しくは知らん」

465: 2012/08/31(金) 21:29:46.07 ID:V8dwv0Bx0
魔法使い「すいません。村長さんのお宅はどこですか?」

村人「ああ、それならあの一番大きい家だよ」

魔法使い「ありがとうございます」

村人「旅の人かい?」

勇者「ああ」

村人「今日は旅人がたくさん来るねぇ」

勇者「他の旅人がいるのか?」

村人「ああ、朝一にも旅人がこの町に来たらしい」

勇者「……そうか」

村人「んじゃ、早く行った方がいいからね」スタスタ

魔法使い「ありがとうございました」

鍛冶屋「分かったらさっさと行こうぜ」

勇者「ああ」スタスタ

正義「そう言えば村長と何の話するの?」スタスタ

勇者「この町に来た旅人だと伝えるだけだ」スタスタ

正義「それだけ?」スタスタ

勇者「それだけだ」スタスタ

466: 2012/08/31(金) 21:30:31.24 ID:V8dwv0Bx0
勇者「失礼します」ガチャ

村長「どうぞ」

村長「……えーと、君達は?」

勇者「魔王を倒すために旅をしているものです」

村長「ほう……」

勇者「そして正義の為、悪を滅ぼして回っているのです」

村長「あなたの噂は聞いてるよ」

勇者「……」

村長「そちらの方々は、仲間のお方ですか?」

正義「はい」

魔法使い「あの、他の旅人もいらっしゃると聞いたのですが」

村長「ええ、来てるよ」

勇者「その方々は何のために?」

村長「さて、詳しくは聞いてないね」

勇者「そうか」

村長「と言っても泊まる所がないからな」

467: 2012/08/31(金) 21:33:44.60 ID:V8dwv0Bx0
勇者「宿屋もですか?」

村長「こんな村にある宿屋だよ。君達が泊まる場所はもう無いと思う」

勇者「じゃあどうしたらいいですか?」

村長「どうしたものか……」

鍛冶屋「野宿でいいだろ」

勇者「……俺とお前はいいが、正義と魔法使いはどうする」

正義「私は構わないわよ」

魔法使い「私も構いません」

勇者「……なら野宿でいいか」

村長「悪いな」

勇者「いえ、他の旅人がいるんですから、仕方の無い事です」

村長「……」

勇者「では、また」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「で、どこで寝るの?」

鍛冶屋「表の大きい広場でどうだ?」

468: 2012/08/31(金) 21:34:24.63 ID:V8dwv0Bx0
正義「……あんなに目立つ所で?」

魔法使い「町のシンボルの前で寝るんですか?」

勇者「まあ、だろうな」

正義「本気?」

勇者「当たり前だ」

魔法使い「でも、さすがに目立ちませんか?」

鍛冶屋「……確かに目立つな」

勇者「そうだな」

正義「じゃあ何処で寝るの?」

勇者「見張り台の下じゃダメか?」

正義「……まあ、あそこなら人も見張り以外は来ないし……いいんじゃない?」

勇者「じゃあ決定だな。とりあえず夜までは自由でいいだろ」

魔法使い「そうですね」

勇者「正義、行くぞ」スタスタ

正義「え、私?」

勇者「ああ、お前だ」スタスタ

469: 2012/08/31(金) 21:35:03.63 ID:V8dwv0Bx0
勇者「……」スタスタ

魔法使い「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「あ、私ここで待ってますから」

鍛冶屋「そうか」

鍛冶屋「じゃあ行ってくるわ」スタスタ

魔法使い「はい、行ってらっしゃい」

魔法使い「……暇になっちゃいましたね」

魔法使い「まずは荷物の整理をしないと……」

魔法使い「……魔道書」

魔法使い「どう、しましょうか……」

魔法使い「……」

老人「魔道書ですか?」


そこに立っていたのは白髪で、真っ黒のローブを着た老人だった。


魔法使い「あ、はい……」

470: 2012/08/31(金) 21:36:36.29 ID:V8dwv0Bx0
※歴代キャラの強さ


この順位はあくまで目安であり、戦術や心の状況などで勝敗は簡単に覆ります。
今回のSSのメンバーは剣の力を使っていない状態で、考えます。
あくまで純粋な強さ(お互いに最高の状況下で最高の心理状況。そしてお互いの戦術を全て理解している状態での戦闘)です。
おまけ程度に見ておいて下さい。



弱い人達

一位  姫

お姫様なため、戦闘は一切出来ない。
非力。
華奢な普通の女の子レベルの強さ。


二位 男(竜頃し)

ごく普通の一般人。
ただし竜相手なら勝てたりする。


三位 女委員長

肉体派では無いのでそんなに強くない。


四位 剣士

剣術もそこまで型が出来てる訳ではないし、戦いの経験も浅いため。
一応一通りに剣術は学んでいるので男(竜頃し)と女委員長とは結構差がある。


五位 男友

斬られたり、撃たれたり、よほどの威力で殴られなければ大丈夫な奴。
素手勝負の女キャラ相手なら多分ほぼ無敵。
ただし女には手を出さない主義なので勝つ事は出来ない。

477: 2012/09/01(土) 21:51:48.11 ID:nU28uRR90
老人「それはあなたのもので?」

魔法使い「はい。私が使ってるものですが……」

老人「いや、失礼。私は老人と言う者です」

魔法使い「老人さんですか?」

老人「ええ」

魔法使い「ええと……あなたは魔法使いですか?」

老人「いえ、私は魔法は使えない身で」

魔法使い「え?」

老人「私は魔法が使えない体みたいでね」

魔法使い「ま、全くですか?」

老人「ええ、魔法は一切使えません」

魔法使い「……」

老人「世の中にはいろいろなものがありますからね」

魔法使い「?」

老人「魔法だけが全てでは無いと言う事ですよ」

478: 2012/09/01(土) 21:52:27.67 ID:nU28uRR90
魔法使い「それは……」

老人「竜の山に行ってみて下さい」

魔法使い「……竜の山?」

老人「竜の山にはあなたの探している答えがあるかもしれません」

魔法使い「……」

老人「もちろん、あなたが決めればいい事です」

魔法使い「あ、はい。ありがとうございます」

老人「じゃあ」スタスタ

魔法使い「あ、あなたは魔法は使えないんですよね?

老人「ええ」

魔法使い「じゃああなたは何を使ってるんですか? 戦士には見えませんし……」

老人「世界には二種類の魔法があるんですよ」スタスタ

魔法使い「二種類の魔法?」

老人「ええ、じゃあまた機会があったら会いましょうか」スタスタ

魔法使い「……」

479: 2012/09/01(土) 21:55:50.22 ID:nU28uRR90
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

鍛冶屋「ああ、イライラする」

鍛冶屋「それもこれも全部勇者のせいだ。ああムカつく!!」

???「失礼。あなたは旅のお方ではありませんか?」

鍛冶屋「ん?」


そこに立っていたのは身長百九十センチほどの大男だった。
真っ黒の修道服を身に纏い、首には銀の十字架をぶら下げている。
濃い顔に野太い声が特徴的だ。


神父「失礼、私の名前は神父。私もあなた達と同じく旅の者です」

鍛冶屋「あ、もしかして村長が言っていた?」

神父「んー、私は違いますねぇ。私は村長にはあっていない」

鍛冶屋「会ってない?」

480: 2012/09/01(土) 21:56:39.43 ID:nU28uRR90
神父「ええ、会う必要がありません。私は神に仕える身ですので」

鍛冶屋「それはどういう意味?」

神父「社会の形式に興味は無いと言う事です。アーメン」

鍛冶屋「?」

神父「少し難しいですかね?」

鍛冶屋「まあ、少し……」

神父「……」

神父「見た所ずいぶんと苛立っている様子ですねぇ」

鍛冶屋「いや、別に……」

神父「何に着いて苛立っているんですか?」

鍛冶屋「勇者……仲間にちょっと」

神父「それはいけません。怒りは罪。怒りによって社会は乱れてしまう」

鍛冶屋「……え、はあ」

神父「他人への怒りという中途半端な感情はよろしくない。やるなら徹底的な怒り、殺意に変えるか、それとも怒り自体を捨てるかです」

鍛冶屋「いや、それはちょっと……」

神父「神よ、彼の怒りを鎮めたまえ。ア―メン」

481: 2012/09/01(土) 21:58:46.27 ID:nU28uRR90
鍛冶屋「あの、その……」

神父「さあ、神に祈りなさい。社会の再編を。新たな世界の秩序を」

鍛冶屋「あの……」

神父「ん、なんでしょうか?」

鍛冶屋「あんた、何者?」

神父「私はただの神父。世界に平和と平穏をもたらすために各地をまわっている者です」

鍛冶屋「……」

神父「あなたも思いませんか? 世界は腐っていると。腐敗していると」

鍛冶屋「は?」

神父「世界は悪意に満ちていると」

鍛冶屋「そりゃあ、まあ……」

神父「この世界には悪魔に溢れている」

神父「私達の仕事はその悪魔を狩り、頃す事」

鍛冶屋「悪魔?」

神父「その通り、悪魔を狩るのです」

鍛冶屋「悪魔って……魔物の事か?」

神父「……違う」

鍛冶屋「じゃあ魔族の事?」

482: 2012/09/01(土) 22:00:56.55 ID:nU28uRR90
神父「違う!!」

鍛冶屋「じゃあ何?」

神父「愚かな!! 悪魔は人間自身です!!」

鍛冶屋「……」

神父「私は神に従い悪魔を討つ。そして新たな社会を再建したいんです。心清い人々の住む土地。本当のヴァルハラを」

鍛冶屋「お前……なんでそんな話を俺にするんだ」

神父「あなたはどうでもいい。ただあなたの仲間に伝えてほしい事があるのです」

鍛冶屋「仲間って……勇者か?」

神父「その通り」

鍛冶屋「お前勇者を頃すために来たのか!!」

神父「いやいや、私は単純に旅をしていただけだ。そして偶然にもお前達に出会った。神のお導きという奴だと思わないかね?」

鍛冶屋「知るかよ」

神父「おお、神よ。この出会いに感謝します。アーメン」

神父「彼にお伝えなさい。私はお前を頃す気だと」

鍛冶屋「頭おかしいんじゃねえか?」

神父「……やはりお前の様な凡人ではこの理想を理解できないのか。おお嘆かわしい。アーメン」

鍛冶屋「テメェ……」

神父「やはりあそこまで高貴な生き物で無いと私の思想を理解は出来ないのか……」

483: 2012/09/01(土) 22:01:47.59 ID:nU28uRR90
鍛冶屋「どこの貴族だよ。その狂った理想を理解できんのは」

神父「魔王だ!! あの男は我が理想を理解してくれた!!」

鍛冶屋「魔王!?」

神父「その通り!! あの男は私の思想を、理想を理解しその力を貸してくれると言った!!」

鍛冶屋「じゃあお前は魔王の仲間か」

神父「まァァァさか!! ただ単に利害が一致しただけだ。だがあいつは数少ない理解者であると言う事も事ィィィ実!!」

鍛冶屋「お前は魔王に理解されたって事か」

神父「そォォォォの通り!! 魔王こそ我ァァァが最大の理解者!!」

神父「かァァァみに感謝を!! アァァァメェェン!!」

鍛冶屋「……」

神父「勇者に伝えろォォう!! 神に代わって、魔王に代わって貴ィィィ様を頃してやると!!」

鍛冶屋「……ああ」

神父「かァァァァならず!! 必ず伝えろォォォう!!」

鍛冶屋「……分かってる」

神父「おお、神よ。この廻りあわせに感謝します!! アーメン!!」スタスタ

490: 2012/09/02(日) 21:45:18.74 ID:VNZaS2Aw0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


正義「……何なんだろう。凄く嫌な予感がする」

勇者「予言か?」

正義「ううん。単純にそう思ったの。悪寒がしたって言うか」

勇者「あたるのか?」

正義「意外と当たるのよ。私の予感」

勇者「そうか?」

正義「ええ」

勇者「……それはどういう根拠で?」

正義「あれよ。野生の勘」

勇者「……そうか」

正義「今完全にバカにしたでしょ」

勇者「してない。ただ胡散臭いと思っただけだ」

正義「何よそれ!!」

勇者「そこら辺の占い師ほど胡散臭い」

491: 2012/09/02(日) 21:51:11.04 ID:VNZaS2Aw0
正義「……」

勇者「思った事を純粋に口にしただけだ」

正義「あなた私をなめてない?」

勇者「……?」

正義「私は人間じゃないのよ。それくらい出来て当然でしょ」

勇者「元は人間だろう。というか今だって俺はお前の事を人間だと思っているが?」

正義「……」

勇者「どうした」

正義「……」

勇者「正義?」

正義「何でもないわ」

勇者「ならいいんだが」

正義「あなた、それ本気?」

勇者「どれのことだ」

492: 2012/09/02(日) 21:54:08.17 ID:VNZaS2Aw0
正義「私を人間だと思ってるって」

勇者「ああ、そうだ」

正義「……わかった」

勇者「何だが」

正義「何でもないわよ」

勇者「……他に買う者は無いか?」

正義「ええ。それにこんな小さな村じゃあ買えるものなんてたかが知れてるし」

勇者「だな」

勇者「そろそろ戻るか」スタスタ

正義「そうね」スタスタ

勇者「……」スタスタ

493: 2012/09/02(日) 21:55:01.76 ID:VNZaS2Aw0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「ただいま」

魔法使い「あ、お帰りなさい」

鍛冶屋「……」

魔法使い「ど、どうかしたんですか?」

鍛冶屋「敵に会った」

魔法使い「て、敵?」

鍛冶屋「ああ、神父って頭のおかしい奴だ」

魔法使い「神父……強そうでしたか?」

鍛冶屋「わかんねえ。けど多分強いと思う」

勇者「ただいま」

鍛冶屋「勇者、敵だ」

勇者「敵?」

鍛冶屋「ああ、敵だ」

494: 2012/09/02(日) 21:55:41.74 ID:VNZaS2Aw0
勇者「相手は」

鍛冶屋「ええと、神父って言って、魔王に仲間だ」

勇者「……魔王の」

神父「汝、自らの罪を認め罰を受けなさい」

鍛冶屋「……」

神父「お会いできて光栄です。勇者殿」

勇者「お前が神父か」

神父「その通り。お前の命をもらいに来た」

勇者「そのためにわざわざ来てくれた訳か」

神父「小さな村だ。探そうと思えばすぐに見つけられる」

勇者「……」

神父「……場所を変えようか」

勇者「ああ」

神父「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

495: 2012/09/02(日) 21:56:23.68 ID:VNZaS2Aw0
神父「この辺りなら人は来ない。無駄な犠牲も出ない」

勇者「森か」

神父「嫌なら他の場所に変えてやろうか?」

勇者「別にいい」

神父「じゃあ、頃し合おう」

勇者「その前に一つ聞きたい」

神父「なんだ?」

勇者「お前はなんで戦う」

神父「私の戦う理由は一つ。この腐った社会を一度破壊し、創り直す」

勇者「それだけか」

神父「当たり前だ。素直な者が損をする時代は終わる。新しい時代を創る!!」

勇者「……」

神父「貴様は知っているか。一人の子供がお前のせいで不幸になった事を」

勇者「な……!?」

神父「旅の途中で出会った子供だ。可哀想な可哀想な一人のな」

神父「貴様がその原因だ!!」

勇者「……」

496: 2012/09/02(日) 21:58:35.99 ID:VNZaS2Aw0
神父「私の創る世界に貴様は不要だ」

勇者「……」

神父「魔王は人間を絶滅させるつもりは無い」

勇者「戯言だ」

神父「違う。あの男は人の数を減らし、社会を崩壊させるのが目的だ」

勇者「……」

神父「私があの男に協力しているのは、悪人を断ち社会を再編するためだ」

勇者「お前の言う悪い人間とはなんだ」

神父「それは私がこの目で見て決める。分けはしない」

勇者「そ、それは不公平だ!! おかしい!!」

神父「なァァァにがおかしい!! 私達は神では無い。我々は人を裁いてはいけない!!」

神父「私は私が愚かだと思った人間を頃す!! 分かるか。裁くのではなく頃すのだ!!」 

勇者「……」

神父「これがお前と私の差だ。お前は他人を裁いている。私は頃している」

勇者「俺も同じだ!! 人を頃してる」

497: 2012/09/02(日) 22:00:39.76 ID:VNZaS2Aw0
神父「ならどうして正義を口にする」

勇者「……お前も神を」

神父「私は神の為に世界を変えるのではない。神の力を借りて世界を変えるのだ」

勇者「……でもお前も弱い者達の為に」

神父「それもある。だが理由の一つ、私は私の為に世界を変える」

勇者「……」

神父「お前はただの偽善者だ。おォォォろかで、無様な!!」

勇者「お前に俺の何が分かる!!」

神父「いい目だ!! 偽善者の、偽善に満ちたいい目だ!!」

神父「でェェェは始めよう!! 頃し合いを!!」

神父「さァァァあ、神に祈りなさい!! アァァァァメェェェン」

503: 2012/09/04(火) 21:45:28.54 ID:i7QdM+6v0
神父は首にかかった十字架をむしり取ると、何かを詠唱した。
短い単語の詠唱は一瞬で終わり、変化はすぐに起こり始める。

十字架はそれに反応するかのように巨大化し、全長二メートル五十センチはあろうかと言う巨大な大剣に変化した。


『ただの魔法よ。あのバカでかい剣を小さくしておいただけ。で、その魔法を解いたから元の大きさに戻ったの』

『そうか』


勇者はその剣の名前を知っていた。

炎の名を冠するかのように、揺らめく炎を模した波打つ独特の形状の刃。
肉をえぐり、貪る凶悪な剣。
フランベルジェ。

刃の部分だけも約二メートル。
それに対しこちらの刃の部分は一メートルと少し。

だが速度はこちらの方が速い。

勇者は刀を中段に構えると、前に走り出した。

この森で大剣を振りまわる事は出来ない。
なら剣は振り下ろすか振り上げるの二択しか存在しないはずだ。

504: 2012/09/04(火) 21:47:11.66 ID:i7QdM+6v0
疾風の如く疾走する。

速く。
とにかく速く。

しかし神父はまるでその動きを予期していたかのように剣を振り上げると、そのまま剣を振り下ろした。

ゴウッ!! と風を喰い破る音が響き、強烈な一撃が勇者目掛け襲いかかる。

勇者はそれが来るよりも先に横に跳び、剣を回避する。
そして神父の心臓目掛け刀を突き刺した。

銀色の閃光は真っ直ぐに進む。
しかし、その閃光は突如現れたもう一つの閃光に激突する

鋭い金属音。
甲高い悲鳴の様な音を上げ、刀は弾かれていた。

そこには神父の大剣があった。
ついさっきまで地面をえぐっていたその剣は、ほんの数秒のうちに元の構えに戻り、刀を弾いたのだ。
普通の剣ですらできない様な早業を、この両手剣はいともたやすくこなしていたのだった。

馬鹿げている素早さに勇者の顔が驚愕の色をしめす。
口からは驚きの言葉が漏れそうになる。


「遅い!! 遅すぎるぞゥ!!」

505: 2012/09/04(火) 21:48:05.19 ID:i7QdM+6v0
勇者の刀を弾いた反動を使い、大剣を薙ぎ払う。

まるで嵐の様な一撃。
その一撃は数本の大木を易々と叩き斬り。吹き飛ばす。

だがそこに勇者は居なかった。
すでに横に大きく跳び、その攻撃を回避している。


『勇者!!』

『問題無い。ただのかすり傷だ』


勇者の脇腹は僅かに赤く滲んでいた。
正義の魔力で肉体を強化していても、今の一撃は回避しきれてはいなかったのだ。

神父の大剣がまるで獣の牙の様に凶悪に輝いている。

勇者は刀に魔力を注ぎ、刀の強化を図った。

刀を魔力が包むのをイメージ。
風が刀を走り抜けていくのをイメージ。

506: 2012/09/04(火) 21:50:24.46 ID:i7QdM+6v0
勇者は自分自身の体が恐怖に食われているのを感じた。
大きく口を開き勇者を喰らおうとするそれの口の中は漆黒だ。

言葉に出来ない恐れが具現化した化の様に鎖となって足に絡みつく。

だが勇者はそれを無理矢理に引きちぎり、前に進んだ。

地面を蹴り、まるで弾丸の様に疾走する。

銀色の二つの閃光が衝突。
綺麗な火花を散らす。

神父の振り下ろした一撃を勇者が防御した形でお互いの動きが停止する。

重い。
それが勇者の感想だった。
それ以外の感想は無い。

だがそれお互いの力が均衡になっただけ。
ただそれだけの事。

もちろん神父がほんの少しでも力を加えればその均衡は簡単に崩れるのだ。


『勇者』


正義の声に反応し勇者は刀に魔力を込める。

507: 2012/09/04(火) 21:52:28.15 ID:i7QdM+6v0
強烈な風の渦をイメージ。
刀の纏った風の渦が出来上がる。
それにより神父の大剣は岩にぶつけたかのように弾き返される。

弾かれ、両腕の上がった神父の脇腹目掛け刀を薙いだ。
鋭い一撃は風の様に襲いかかる。

だがその瞬間には勇者は自分のミスに気付いていた。
所詮大剣をはじいた程度なのだ。
それを避けられないはずはないのだと。

神父はその大柄な体格には似つかわしくない俊敏で鮮やかな動きでそれを回避する。

勇者の刀が何も無い空を斬り、神父の大剣が勇者目掛けて振り下ろされた。


「今の貴様には分かるだろう、圧倒的な恐怖がァ!!」


勇者の刀は神父の一撃を受け止める。
衝撃は勇者の体を貫き、全身を痺れさせる。


「あ、が……」

奥歯がギリギリと嫌な音を立てて鳴り、膝が折れそうになる。
気を抜けばあっという間に力負けし綺麗に真っ二つにされる。

彼の全身をナメクジが這いまわる様な悪寒が吹き抜けていくのが分かった。

508: 2012/09/04(火) 21:53:27.40 ID:i7QdM+6v0
『勇者。もう一回魔法を』

『分かってる。ただもうすでに一度それは見せているんだ。何かしらの対応をされているかもしれだろ』

『そんな事言ってる場合!? さっさとしないとあなた自身が潰れるわよ』

『……わかった』


風の渦をイメージ。
それを刀にもイメージ。

だがさっきの比ではない強烈な魔力を込める。


「な……めるな!!」


ガギン、と言う金属独特の音を打ち鳴らし、神父の大剣を弾く。

そこまではさっきと同じ。
だが今回は予想以上の反動に神父の態勢が僅かに崩れた。

こここそが勝機。

勇者はそれを直感的に理解した。

512: 2012/09/05(水) 22:00:57.71 ID:msoin31O0
勇者は大きく前に一歩踏み出し、刀を地面と水平に構えた。


『正義!! 魔力を限界まで刀に注ぐ!!』

『了解!!』


魔力が体に入ってくるのが分かる。
勇者はそれをただひたすらに刀に注ぎ込んだ。

切っ先に風が宿り、斬れ味を増す。
刀身は固く。そしてしなやかに。
刃は鋭く。それでいて柔らかく。
何ものにも負けない、最強の刀に。

イメージを完了し、刀を振り始める。

そこまで約一秒と四分の一。
勇者が出来る最速の一撃だ。

速く。
そして鋭く。

勇者の鬼神の如き一撃。
それが今の勇者の放てる最速で最強の一撃だった。

轟音。
突風。

513: 2012/09/05(水) 22:01:42.12 ID:msoin31O0
巨大な風の刃が森の木々を殲滅。
勇者の目の前の視界が急に開ける。

目の前はただの平野と化していた。

勇者はその場に膝をついた。
呼吸が苦しい。
視界が僅かにぼやける。
膝がガクガクと震えていた。

だが勇者は決して刀をしまわない。
なぜなら目の前には男の影があったからだった。


「神に祈れェェェ!! エイィィィィィンンンメェェェェェン!!」


あの一撃を耐えた男が吠える。
全身傷だらけ、血もかなりの量出ている。
だがしかし、男は勇者の目の前に立っているのだ。


『勇者。魔翌力が……』

『言わなくても分かってる』

514: 2012/09/05(水) 22:02:16.29 ID:msoin31O0
すでに正義の魔力は無い。
今の一撃で全て消し飛ばしたのだ、当たり前だろう。

更に肉体強化分の魔力供給だって危ういのだ。
戦えてあと数十分。
いや数分持てばいい方だろう。

今の勇者にとって勝機などほぼ無いに等しかった。
この状況を覆せる切り札が無い限りはどうしようもない。

だが。
それでも、勝たなければならない、と勇者は思う。

それが正義。
それが正義の味方だから。

刀を構え直し、一歩前に――――。


『お前のせいだ!!』


……誰だ。

声は外側でなく、内側から湧き上がってくるように聞こえた。
聞いた事の無い声。
かけられた事無い様な言葉。
のはず。

515: 2012/09/05(水) 22:04:17.76 ID:msoin31O0
それなのに、何故か心はざわめく。
何故かひどく不安な気持ちになる。

何故?
その勇者の問いには誰にも答えてくれない。


『勇者!!』


ノイズが聞こえた。
まるで壊れたラジオの様なノイズは何度も何度も聞こえる。
だがそれは耳に届く頃にはすでに形を保っていない雑音になり下がっていた。


『勇者!! 前!!』


まるで霧が晴れたかのように鮮明に声が脳髄を叩く。
そして勇者は今の状況を理解した。
してしまった。

目の前には一本の大剣があった。
それは勇者目掛けて振り下ろされ、あと一秒も待たずに勇者に直撃する。

回避するすべはもはや無かった。
そして防御している暇も無い。

516: 2012/09/05(水) 22:05:58.36 ID:msoin31O0
横に跳ぼうとした瞬間、肩に燃える様な痛みがはしった。
痛いのではなく、熱い。
とにかく燃えているのかと錯覚しそうなほど熱い。

気付けば辺りは血が流れ、勇者の体はほぼ赤で染まりきっていた。
それを彼が自分の血なのだと理解したのは数秒後の事だ。

全身の力が抜けて行き、視界がぼやける。
すでに正義の声は耳には届いていなかった。
正確には聞こえているのだが、なんと言っているのか聞きとれないのだ。

だが勇者は歯を食い縛り、倒れない様に必氏に耐えた。
ここで倒れてはいけないと、何かが叫んでいるのが分かる。
そうすれば待っているのは氏だけだと直感的な何かが警告する。

勇者は倒れる事も動く事も無く、その場で立ちつくしていた。

神父に大剣は大きく振りかぶられ、今まさに勇者目掛け振り下ろされようとしていた。


「神の裁きだ!!エィィィィンンメェェェン!!」


その一撃が落ちる瞬間、勇者は自分の体が浮くのが分かった。

517: 2012/09/05(水) 22:07:10.76 ID:msoin31O0
勇者の目の前で大剣が振り下ろされ、地面を砕く。


「何!?」


神父の声。
それは間違いなく驚愕の声だった。


「勇者!! 大丈夫か!?」

「勇者さん。分かりますか!?」


朦朧とする意識の中でも分かる。
それは彼の仲間の声だった。

気がつけば勇者は鍛冶屋に担がれていた。
まわりは煙幕が張られ、魔法使いは鍛冶屋と並走する様な形で勇者を見ている。

正義の声は聞こえないが、大丈夫なはずだろう。

518: 2012/09/05(水) 22:08:23.38 ID:msoin31O0
「大……丈夫……だ。問題……ない」


もはや言葉がはっきり発音できているかどうかも怪しい。


「煙幕かァァァ!! 小賢しいィィィ!!」


叫び声。
足音。
荒い息使い。

それらを聞きながら、勇者は意識を失った。

522: 2012/09/06(木) 21:41:29.15 ID:ZtF5WZR30
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

鍛冶屋「あ、起きたか? 体調はどうだ?」

勇者「大丈夫だ……だがまだ少し痛いな」

魔法使い「どうなったか、覚えてますか?」

勇者「だいたい大まかにはな。俺は負けたんだろう」

鍛冶屋「ああ、負けたな」

勇者「……」

正義「勇者。ごめんなさい」

勇者「俺の実力不足だ。お前は何も悪くない。全部俺の責任だ」

正義「でも……」

勇者「あの場面では魔力があってもどうしようもなかった。それにあそこで魔力を使うのはごく自然な事だろう」

勇者「それに魔力を限界まで使うと言ったのは俺の方だ」

正義「でも……」

老人「気分はどうですか?」スタスタ

勇者「あなたは?」

魔法使い「この家の家主さんです」

523: 2012/09/06(木) 21:42:51.69 ID:ZtF5WZR30
勇者「今回はお世話になり――――」

老人「堅苦しい挨拶は辞めにしましょう。私も面白くないです」

勇者「……私はどれくらい眠っていましたか?」

老人「一日です」

勇者「……神父は!!」

鍛冶屋「わかんねえけどまだここには辿り着いて無いよ」

勇者「……そうか」

老人「安心しましたかな?」

勇者「いえ、そう言う訳では……」

少年「おじいちゃん。その人起きたの?」

老人「ええ」

少年「おはようございます」

勇者「確か……何処かで」

少女「鍛冶の町の宿屋じゃない?」

勇者「ああ、そうだった」

魔法使い「この二人が私達をここまで連れて来てくれたんです」

524: 2012/09/06(木) 21:43:42.44 ID:ZtF5WZR30
勇者「ありがとう」

少年「いえいえ」

少女「もう大丈夫?」

勇者「あと少ししたら動けるようになると思う」

老人「とりあえず怪我が治るまではここにいた方がいい」

勇者「……ありがとうございます」

老人「ゆっくりしていくといいよ」スタスタ

鍛冶屋「……そんなに強かったのか?」

勇者「ああ、強かった。ほとんど歯が立たなかった」

正義「……」

勇者「……俺のせいだ。すまん」

正義「……もうこの話はやめにしない」

勇者「……わかった」

勇者「ありがとう。鍛冶屋」

鍛冶屋「どういたしまして」

勇者「お前と魔法使いが居なかったら俺はとっくに――――」

鍛冶屋「勇者。すまん」

勇者「……ん?」

525: 2012/09/06(木) 21:44:27.56 ID:ZtF5WZR30
鍛冶屋「俺も魔法使いも少し勇者に頼り過ぎてた気がするんだ」

勇者「……」

鍛冶屋「今までだって戦いは全部勇者がこなしてきたわけだろ」

勇者「まあ、そうだな」

鍛冶屋「俺も魔法使いも勇者に甘えてたんだ。だから俺達も強くなろうと思うんだ」

勇者「とは言ってもそう簡単には」

鍛冶屋「ああ、でも絶対に役に立つようになる。お前の代わりに戦う」

勇者「……わかった。ありがとう」

鍛冶屋「……」

少年「あのお姉ちゃんは強くなれるよ」

勇者「なんでだ?」

少年「あのお姉ちゃんは特異体質だからね」

鍛冶屋「とくい……なんだって?」

少年「特異体質。あのお姉ちゃんは体の構造上魔法が使えないんだよ」

勇者「……だから、あんなに勉強してもダメだったのか?」

少年「知識があっても魔法が使える体じゃないからね」

鍛冶屋「普通の人間と何が違うんだ?」

526: 2012/09/06(木) 21:48:18.39 ID:ZtF5WZR30
少年「僕もよくは分かんないけど……魔翌力の種類が全然違うんだって」

鍛冶屋「魔翌力の種類?」

正義「私とか普通に魔法を使う人が使ってるのが陽の魔翌力って言われてるものらしいわ」

勇者「なら魔法使いは陰の魔翌力と言う訳か?」

少年「多分……」

勇者「……聞いた事無いな」

正義「私だって一回聞いたくらいで曖昧にしか覚えてないわよ」

少年「一般的には知られていないみたいだから」

鍛冶屋「でもなんでお前はそれが分かったんだ? なんか特別な事もしてなかっただろ?」

少年「僕も少女もそう言うのには敏感なんだ。あと陰の魔翌力を使った魔法を受けた人だと分かる人もいるみたい」

勇者「やはりお前達は人間では無いんだな」

少年「僕と少女は竜の子だからね」

勇者「ではあの老人も?」

少年「あの人は物好きのおじいさんだよ。僕達は時々ここに遊びに来てるんだ」

鍛冶屋「……」

527: 2012/09/06(木) 21:49:25.96 ID:ZtF5WZR30
少年「驚いた?」

鍛冶屋「……いろいろ新しい情報があり過ぎて頭がおかしくなりそうだよ」

少年「はははっ。ごめんなさい」

勇者「……また少し寝てもいいか?」

少年「眠いの?」

勇者「ああ、少しな」

鍛冶屋「ゆっくり寝てくれ」

勇者「……悪い」

正義「お休みなさい」

勇者「……お休み」

532: 2012/09/07(金) 22:48:02.47 ID:oIdnEHb90
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


老人「あの人も目が覚めて良かったですね」

魔法使い「はい」

老人「ですが傷の方は深いですからこれからも注意して下さい」

魔法使い「わかりました」

魔法使い「あの……ありがとうございました」

老人「いえいえ。当然の事をしたまでですよ」

魔法使い「……」

老人「どうしました?」

魔法使い「あの時、私を強くしてくれるって言いましたよね?」

老人「……ええ、言いましたね」

魔法使い「私を、強くしてほしいんです」

老人「……本気ですか?」

魔法使い「本気です!!」

老人「そうですか」

魔法使い「教えてくれるんですか?」

533: 2012/09/07(金) 22:57:22.56 ID:oIdnEHb90
老人「そのつもりです。あなたにその覚悟があるのなら」

魔法使い「……」

老人「魔法を学んだのなら呪い師、と言う言葉に聞き覚えはあるはずです」

魔法使い「……はい。知ってます」

老人「どう教わりましたか?」

魔法使い「魔術の中で最も嫌われており、最もおぞましい魔法」

老人「……私もそう教わりました」

魔法使い「……じゃああなたは」

老人「私は呪い師です。だからこうやって身を潜めて生きているんです」

魔法使い「……」

老人「あなたは特異体質で通常の魔法は使えない。そのかわりに呪いが使えるんです」

魔法使い「呪い……」

老人「その覚悟がありますか?」

魔法使い「……」

老人「……」

魔法使い「はい」

老人「わかりました」

534: 2012/09/07(金) 22:57:55.27 ID:oIdnEHb90
魔法使い「……」

老人「あなたに呪いをお教えします」

魔法使い「あの、でも私……」

老人「大丈夫。ただ少し使い方を変えればいいんですよ」

魔法使い「使い方?」

老人「魔法を使おうとすると無意識的に持っていない魔力を使おうとしてしまう訳です」

魔法使い「?」

老人「陰の魔力と陽の魔力についてはご存知ですか?」

魔法使い「あ、はい。確か魔道書に書いてあったと思います」

老人「普通の人は魔法を使おうとする時無意識的に陽の魔力を使おうとしてしまいます」

魔法使い「じゃあ、わたしはどうすれば……」

老人「ただ陰の魔力を使うと意識的に思うだけでいいです」

魔法使い「はい」

老人「ただ、陰の魔力は陽の魔力と違い何でも出来る訳ではありません。その辺りに注意して下さい」

魔法使い「あの、具体的には」

老人「呪いですから回復や治癒。あと支援の様な事は出来ません。後、火や水を生み出す事も出来ません」

魔法使い「他人を呪う事しかできないって事ですか?」

535: 2012/09/07(金) 22:58:29.53 ID:oIdnEHb90
老人「まあ、呪いも用途はかなり広いですから、戦闘中に困る事は無いと思いますが」

魔法使い「あ、はい」

老人「あと呪いは相手の体に触れている時に使う接触型と地面や壁に設置する設置型しかありませんから注意して下さいね」

魔法使い「はい」

老人「では、一回やってみて下さい」

魔法使い「わ、わかりました」


魔法使いは地面に手を触れ、念じながら呪いを詠唱する。


老人「……」

魔法使い「ど、どうですか?」

老人「な、何の力を加えたのですか?」

魔法使い「重力強化です。動きを制限する呪いのつもりなんですが……」

老人「……」

魔法使い「ど、どうですか」

老人「凄い……完璧です」

魔法使い「本当ですか!?」

老人「はい、魔力もそこまで使っていませんよね?」

536: 2012/09/07(金) 22:59:47.34 ID:oIdnEHb90
魔法使い「え、まあ……はい」

老人(初めてでこの大きさ。しかもほぼ完成形。それにこれだけのものを作っても魔力の消費は少し……)

老人「……」

魔法使い「な、なんですか?」

老人「いえ、何でもありません」

老人(これは、とんでもない化け物かもしれませんね……)

老人「では始めていきましょうか」

魔法使い「よ、よろしくお願いします!!」

老人「あ、まず一つ」

魔法使い「……」

老人「何があっても耐えて下さい。いや、耐えなくてもいいですから逃げて下さい。立ち向かおうとしないで下さい」

魔法使い「は、はい」

老人「特にあなたは危険な気がしますから」

543: 2012/09/08(土) 22:45:41.71 ID:3ChpsJYS0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


数日後


勇者「……まあ、こんな所か」

鍛冶屋「どうだ?」

勇者「痛みも無いし、普通に動ける。あとは少し体を動かせば何とかなるか」

鍛冶屋「……」

正義「また戦うんでしょ?」

勇者「……ああ、当たり前だ」

勇者「鍛冶屋」

鍛冶屋「なんだ?」

勇者「相手になってくれないか?」

鍛冶屋「……ああ、いいぞ」

正義「私は、居ない方がいいわね」

勇者「ああ、そこまで本気でやるつもりは無い」

鍛冶屋「俺は本気でやるけどな」

勇者「行くぞ」スタスタ

鍛冶屋「ああ」スタスタ

544: 2012/09/08(土) 22:46:32.26 ID:3ChpsJYS0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「あがっ!!」

勇者「そこそこ体は動くな」

鍛冶屋「ダメだ……見えない……」ハァハァ

勇者「全体的に反応が遅い。あと一秒避けられる」

鍛冶屋「その一秒が難しいんだろが」

勇者「その通りだ。だから慣れるしかない」

鍛冶屋「……慣れるって」

勇者「安心しろ。毎日やれば自然慣れる」

鍛冶屋「そうか?」

勇者「そうだ」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「勇者、あの時は」

545: 2012/09/08(土) 22:47:11.43 ID:3ChpsJYS0
勇者「お前は当然の事を言ったまでだ。悪いのは俺だ」

鍛冶屋「……」

勇者「魔法使いはどうだ?」

鍛冶屋「呪いってのを学んでるらしいんだけど、俺にはさっぱりだ」

勇者「そうか」

鍛冶屋「わかるか?」

勇者「わからん」

鍛冶屋「……だと思った」

勇者「今のままでは実力不足だ。どうしようもない」

鍛冶屋「いや、そうでも無かったぞ」

勇者「?」

鍛冶屋「だってあいつがもし無傷だったらお前を助けられてなかったと思うし」

勇者「神父もギリギリだったと言いたいのか?」

鍛冶屋「だってボロボロだったし、今も襲撃に来なかったって事はすぐに動けなかったって事じゃないのか?」

勇者「……あと一歩、か」

鍛冶屋「だな。策はあるのか?」

546: 2012/09/08(土) 22:47:47.37 ID:3ChpsJYS0
勇者「……上手く行くかはわからん」

鍛冶屋「あるのか」

勇者「ああ、せこい手が一つだけ」

鍛冶屋「今更何言ってんだよ。汚くても勝てばいいんだよ。勝てば」

勇者「ああ、分かってる。分かってるさ」

勇者「鍛冶屋。もう一戦どうだ?」

鍛冶屋「……ああ、相手になってやるよ!!」

勇者「来い!!」

魔法使い「あの……」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「なんだ?」

魔法使い「少し試したい事があるんで協力してほしいんですけど」

勇者「……呪いか?」

魔法使い「まあ、はい」

鍛冶屋「痛いのは嫌なんだけど」

魔法使い「だ、大丈夫です。痛い事はしませんから」

547: 2012/09/08(土) 22:49:17.82 ID:3ChpsJYS0
鍛冶屋「でも呪いなんだろ?」

魔法使い「呪いって言ってもいろんな呪いがありますから」

勇者「俺や鍛冶屋の胸を大きくする呪いも可能なのか?」

魔法使い「え、ま……まあ、はい。多分……」

鍛冶屋「あ、それ面白そうだな。しかも揉みほうだいじゃん」

魔法使い「で、でも、それは……あの、ダメな気が……」

勇者「我ながら中々いい発想だと思う」

鍛冶屋「天才だな」

魔法使い「いえ、それは、あの……いえ、もういいです」

老人「呪いを勘違いしてはいけませんよ」

勇者「どういう意味だ?」

老人「呪いは味方の回復や補助は出来ないと言う意味です」

鍛冶屋「じゃあ氏なない呪いとか傷がすぐ治る呪いとかは出来ないのか?」

老人「いえ、可能です。でもそれは氏ねない呪い。傷がすぐに治ってしまう呪いです」

鍛冶屋「??」

老人「呪いには三種類あります。設置型の呪い。相手の体に一時的に呪いを与える呪い。そして呪い師が解かない限り永久的に消える事の無い呪いです」

勇者「なら、俺の体に氏ねない呪いを発動して、そのうち解けばいいんじゃないのか?」

548: 2012/09/08(土) 22:49:57.38 ID:3ChpsJYS0
老人「それは不可能です」

勇者「何故」

老人「呪いは仲間には使えないからです」

鍛冶屋「だからどういう意味だって」

老人「呪いは相手に僅かでも助けたい、や力になりたいと言う感情があれば発動できないんですよ」

鍛冶屋「じゃあ魔法使いが俺や勇者に氏ねない呪いなんかは発動できないって事か?」

老人「そうなりますね」

勇者「……では、もし魔法使いがその気持ちを押し頃した場合は?」

老人「表面上消せても無意識的にそう思ってしまっていますから無理でしょうね」

勇者「確かに」

老人「呪いが嫌われる理由は誰も助けられず、不幸にしかしないかららしいですよ」

鍛冶屋「偏見だろ」

老人「ええ、でも世界が私達をそう見ているのは事実です」

鍛冶屋「……」

550: 2012/09/09(日) 21:41:54.02 ID:lT0MRcZh0
勇者「……で、何の呪いをかけるんだ?」

魔法使い「あ、とりあえず両足の動きを一時的に鈍くする呪いをかけようと思います」

勇者「じゃあ、かけて見てくれ」

魔法使い「はい」


魔法使いは勇者の背中に手を当て呪文を詠唱する。


勇者「……」

魔法使い「動いて見て下さい」

勇者「ああ……」スタッ

勇者「……ん」

鍛冶屋「どうした?」

勇者「足が重い。動き辛い」

鍛冶屋「す、凄え!! やったじゃん!! 魔法使い!!」

魔法使い「え、あ……は、はい」

鍛冶屋「確かに魔法では無いけど……でもこれで……」

魔法使い「はい。勇者さん達の役に立てます!!」

鍛冶屋「よし!! 俺ももう少し頑張る!! 勇者、もう一戦!!」

勇者「待て。まだ動けん」

魔法使い「あの、じゃあ私と一戦どうですか?」

鍛冶屋「……わかった」

552: 2012/09/09(日) 21:44:04.81 ID:lT0MRcZh0
鍛冶屋は木刀を構え、魔法使いの前に立つ。

呪いがあると言っても魔法使いは魔術師。
基礎身体能力は鍛冶屋と同じかそれ以下だろう。
それにこちらには木刀と言う得物もある。

ならば、と鍛冶屋は前に進む。

先手必勝。
それ以外は考えられない。

呪いを受ければ確実にこちらが不利だ。
一回でも戦闘にかなりの支障が出る呪いをかけられるはず。
なら先に仕掛け、先に仕留めるしかない。

木刀を肩に担ぐように構え、木刀の当たる距離に近づいた。

だが魔法使いは石像の様にピクリとも動かない。
まるで見えない何かを推し測る様に木刀と鍛冶屋をじっと見据えたまま、その場で構えも取らずに立っていた。

鍛冶屋は木刀を振り下ろした。
勇者の様に速くは無い。
むしろ人並み程度のごく普通の速度だ。
ただこの速度なら十分に回避は難しいはず。

しかし、彼のその予想は間違っていた。
いや、正しくは大前提、魔法使いの身体能力を見誤っていたのだ。

553: 2012/09/09(日) 21:45:08.40 ID:lT0MRcZh0
そう、魔法使いの姉だってなかなかの身体能力を持っていた。
なら魔法使いが同じほどの身体能力を持っていても何もおかしくは無い。

鍛冶屋が木刀を振り切った時、そこには誰もいなかった。
その代わりに気がつけば魔法使いは目の前まで迫っている。

魔法使いの右手が鍛冶屋の脇腹に当たった。

痛みは無い。
だが鍛冶屋の背筋は凍っていた。
まるで魔物に体を舐め回された様な悪寒が全身にはしる。

逃げようとしても体が間に合わない。
木刀を振りきってしまったせいで体が次の運動に移行出来ない。

魔法使いの口が魔法を詠唱するのが分かった。

しかし、体は間に合わない。

結局彼が後ろに跳んだ時にはすでに詠唱は終わり、呪いは発動していた。
両手が石の様に重く、持ちあがらない。
まるで腕だけが別の生き物の様に全く動かない。

554: 2012/09/09(日) 21:45:46.88 ID:lT0MRcZh0
「石化の呪いです。それで鍛冶屋さんの両腕は一切動かせません」


魔法使いのまるで子供に教える様な丁寧な説明を聞きながら、鍛冶屋は静かに息を吐いた。

両腕が動かない。
つまりそれは攻撃が出来ないと言う意味だ。

だが足では無く腕だったのは幸いだったとも思う。
攻撃できないのと回避できないのでは確実に回避できない方が勝機は薄い。

魔法使いの動きで目で追って、それをひたすらに回避する。

魔法使いは確かに速い。
だが、それは魔術師として、一般人として。
勇者と毎日の様に戦っている鍛冶屋なら何とか目で追えた。


「何とか、見える……」


魔法使いの攻撃を見極める事だけに全神経を費やす。
とにかく一瞬でも魔法使いが視界から消えれば、その隙に二度目の呪いをかけられる。
二度目の呪いは足を頃しにくるはず。
そうなれば鍛冶屋に勝ち目は一片たりとも無くなってしまう。

555: 2012/09/09(日) 21:46:30.26 ID:lT0MRcZh0
魔法使いの右手が鍛冶屋の顔目掛け、直進して来る。
彼はそれをギリギリで回避し、また間合いを取った。

石化の呪いは一時的なもののはず。
なら時間を稼げれば何とか出来るはずだ。

後ろに一歩だけ下がり、呼吸を調える。

両腕はまだ固まっているが、感覚は戻りつつあった。
あと数分。
いや、数十秒あれば動く様にはなる。

お互いに動きを止め、肉食獣の様にじっとチャンスを待つ。

つかの間の静寂。
一瞬の無音。

先に動き出したのは鍛冶屋だった。
すでに両手は回復し、木刀の切っ先を魔法使いに向けながら真っ直ぐに突き進む。

魔法使いにとってそれは予想外だったらしく、僅かに動きが鈍っていた。
その一瞬の動きの鈍りが魔法使いの回避を間に合わなくさせた。

556: 2012/09/09(日) 21:48:00.25 ID:lT0MRcZh0
木刀は魔法使いの肩に直撃し、魔法使いを転ばせる。
魔法使いは地面に手をつき、膝立ちの状態になっていた。

鍛冶屋はそのチャンスを逃すまいと、木刀を振り上げ、大きく一歩踏み出す。
そして木刀を振り下ろすはずだった。

だが体が動かない。
まるで見えない糸が体を押さえつけられいるかのように微動だにしない。


「私の勝ちです」


魔法使いの両手が鍛冶屋の無防備な脇腹に当たる。
あとは魔法使いが呪いを掛ければ、鍛冶屋は氏ぬだろう。

鍛冶屋はいつの間にか動く様になった両腕を下ろし、木刀を地面に置いた。

557: 2012/09/09(日) 21:49:09.70 ID:lT0MRcZh0
鍛冶屋「どうなってんだ」

勇者「設置型の呪いか」

魔法使い「ええ」

鍛冶屋「え、でもいつの間に……」

魔法使い「鍛冶屋さんに木刀で殴られて倒れた時です。地面に手をついた時に呪いをかけておいたんです」

鍛冶屋「……」

勇者「凄いな」

鍛冶屋「ああ、凄えよ」

魔法使い「あ、ありがとうございます」

鍛冶屋「つーか、今俺が一番弱いのか?」

勇者「そうなるな」

鍛冶屋「……」

魔法使い「が、頑張って下さい!!」

鍛冶屋「ありがとう」

558: 2012/09/09(日) 21:50:04.05 ID:lT0MRcZh0
勇者「魔法使いはどれほどの強さなのですか」ヒソヒソ

老人「……化物ですね。才能の桁が一桁は違う」ヒソヒソ

勇者「そうですか」ヒソヒソ

老人「彼女は少し危うい。気をつけて下さいね」

勇者「……鍛冶屋が居るんだ。大丈夫だろう」

老人「……そうですかね」

勇者「何かあったら鍛冶屋がどうとでもしてくれますよ」

老人「……期待しましょうか」

勇者「大丈夫ですよ」

570: 2012/09/10(月) 22:01:08.81 ID:LXHQFgox0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


辺境の村


神父「何処だ……」スタスタ

神父「……何処にいる」スタスタ

旅人「どなたをお探しで?」

神父「……」

旅人「そんな怖い顔しないで下さいよ。へっへっへ」

神父「……相変わらず下品な男だ」

旅人「そりゃあ、ねえ。旦那みたいな聖人からみたらあっしなんてゴミクズ同然なんでしょう?」

神父「当たり前だ」

旅人「で、どなたをおさがしなんですかねぇ?」

神父「お前に話す気は無い。これは私の問題だ」

旅人「もしかしてとは思いますが、勇者をおさがしで?」

神父「……」

旅人「あ、当たっちまいましたか。へっへっへ」

神父「それがどうした」

571: 2012/09/10(月) 22:02:49.01 ID:LXHQFgox0
旅人「いえ、別に。ただあっしもあの男と会った事はありましたから」

神父「戦ったのか?」

旅人「いえ、別に」

神父「なら何をした」

旅人「ただ単純に話しただけですよ。まあ、あっちはあっしの事を嫌ってるみたいでしたけどねぇ」

神父「……」

旅人「あれ、もしかして疑ってるんですか?」

神父「何処にいるかわかるのか?」

旅人「へぇ?」

神父「勇者は何処にいる!!」

旅人「……さぁ? あっしは知りませんよ」

神父「……ふんっ。役に立たん男だ」

旅人「すいませんねぇ。へへへ」

神父「笑うな」

旅人「へいへい」

神父「……」スタスタ

旅人「もう少し待って下さいよ。情報が無いわけではないですから」

572: 2012/09/10(月) 22:05:04.40 ID:LXHQFgox0
神父「くだらん世間話なら、お前を頃す」

旅人「安心してくだせぇ。そんなつまらない話しじゃあありませんから」

神父「ふんっ」

旅人「勇者はまだこの辺りにいますよ」

神父「……」

旅人「……」

神父「それだけか」

旅人「もう少しヒントが欲しいですか?」

神父「頃す……」

旅人「へへっ。そう怖い顔しないで下さいよ。それにあいつはまた旦那と戦いにくるはずですから」

神父「どうだろうな」

旅人「大丈夫ですよ。あっしは嘘だけはつきませんから」スタスタ

神父「根拠は」

旅人「あっしは旅人です。案外情報通なんですよ。それにあの男の性格はよォく知ってますから」スタスタ

神父「……ゴミ屑が」

573: 2012/09/10(月) 22:05:33.90 ID:LXHQFgox0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「……」

勇者「……そろそろ行く」

鍛冶屋「行くって、戦いにか?」

勇者「ああ、体も動くし、いい頃合いだろう」

正義「私も大丈夫よ。魔力も回復してるし」

勇者「そうか」

少年「勝てるの?」

勇者「……分からん」

鍛冶屋「分からんって……」

勇者「だが勝てる見込みはある」

鍛冶屋「……」

魔法使い「一人で行くんですよね?」

勇者「ああ、そうする」

鍛冶屋「氏ぬなよ」

574: 2012/09/10(月) 22:06:09.20 ID:LXHQFgox0
勇者「分かってる」

老人「場所は分かってるんですか?」

勇者「いえ、ですが村に行けば会えると思いますので」

老人「そうですか」

勇者「では、終わったら戻ってきます」

老人「はい」

勇者「行くぞ。正義」スタスタ

正義「ええ」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「策はあるって言ってたけど、具体的にはどんな作戦なの?」

勇者「策なんて凄いものじゃない。剣士の風上にも置けないせこい技だ」

正義「……」

575: 2012/09/10(月) 22:09:36.16 ID:LXHQFgox0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





勇者「……」

神父「……」

神父「まさか、またここにいるとはな」

勇者「待ってたんだ。お前と戦うために」

神父「そうか」

勇者「……」

神父「神への祈りは、済ませたか?」

勇者「ああ。お前こそどうだ」

神父「済ませたさ」

神父「……」

勇者「……」

神父「おォォォォ!!」

勇者「あァァァァ!!」

576: 2012/09/10(月) 22:24:04.00 ID:LXHQFgox0
※呪いについて

このまま呪いの設定を小出しして言ってもごちゃごちゃになると思うのでここで呪いについて解説したいと思います。

まず魔法もそうなのですが、呪いを使うには詠唱が必要です。
その詠唱は呪いの強さや種類によって変化します。

一番詠唱が短く済むのは設置型で、次は一時的な呪い、一番長いのは術者本人以外は誰も解けない消えない呪いです。
また呪いの強さによっても詠唱時間は変わってきますので、戦闘ではそれを計算して呪いを使う必要があります。
もちろん詠唱中に手が離れて、接触していなくなったら呪いは失敗します。
ですから呪い師は基本的に身体能力もそこそこは必要になってくる訳です。

また仲間には使えないというのは、そこに助けたい、や力になりたいと言う気持ちがあった場合発動しないだけです。
そのため仲間に氏ねない呪いや傷が回復してしまう呪いを使えなくても氏の呪いや苦痛を与える呪いを使うことは可能です。

ちなみに傷が回復してしまう呪いは拷問に使います。

だいたいこんな感じです。

583: 2012/09/11(火) 21:51:35.97 ID:Xy3EdvUj0
大剣と刀は火花と轟音を鳴り響かせながら、何度も衝突しあっていた。
時には攻め、時には守り、二本の得物はスタイルを変えながらも、変わらぬ音と火花を散らす。

勇者の刀には防御と言うよりも受け流していると言う表現の方が適切かもしれない。
彼は大剣を真正面から受け止める事無く、出来る限り力を上下左右に逃がしながら戦っていた。

それはある意味で、彼の勇者像が変わったと言う意味もある。
勇者である以上正面から敵を受け止め、正面から敵を斬り捨てる。
それが彼の英雄道であり勇者道であった。

だが今は違う。
どんなに泥くさくても勝つ。
美しい敗北よりも醜い勝利にすがりつく。
今の彼は貪欲に勝利に喰らいつく、秩序の無い獣同然だった。

初めての敗北はあまりに苦しく、そして無様だ。
そして彼にとってそれは耐えがたい恥辱だ。

だからこそ彼は敗北を嫌った。
どんな策を使ってでも勝利を掴むと、そう決意した。

振り下ろされる大剣を交わしながら、勇者は刀を横に薙ぐ。

だがその攻撃も神父の超人染みた速度によって防御される。

584: 2012/09/11(火) 21:52:32.23 ID:Xy3EdvUj0
「遅いなァ。それで勝てると思ってるのか?」


神父は下卑た笑顔を覗かせながら見え透いた挑発をした。

しかし勇者は表情を少しも変える事無く、刀を振り続ける。

金属音。
火花。

二つの影は近づいては離れてを繰り返し、攻守を変えながらぶつかり合う。

勇者は一歩前に踏み込みながら、相手の脳天目掛け刀を振り下ろす。
唸るような凶悪な声を上げながら刀と大剣が激突した。


『正義。魔力は』

『全然余裕。でもこの前と同じじゃ負けるんじゃ……』

『安心しろ。まだその時じゃないだけだ』


呼吸を調え、大きく踏み込む。
そして刀を振り下ろす。

585: 2012/09/11(火) 21:53:08.77 ID:Xy3EdvUj0
だがやはり、その一撃は神父の大剣で受け止められた。


「ふんっ。馬鹿正直な攻撃を何度繰り返しても結果は同じだぞ」

「そんな事は、分かっている」


鍔迫り合いの得物同士はギチギチと悲鳴の様な音を上げながら擦れ合っていた。

肉体を限界まで強化した勇者でさえも、神父を押しきる事は出来ない。
むしろ気を抜けば、こちらが力で押し切られない状況だった。


「氏を受け入れろ!! 小僧ォォォォ!!」


突然、今まで両手にかかっていた異様な力が抜ける。
勇者はそのまま前にふらつきながら数歩進み、バランスを立て直した。

理由はすでに分かっていた。
目の前にいた巨体はすでに彼の視界の中には居ない。

586: 2012/09/11(火) 21:54:10.66 ID:Xy3EdvUj0
悪寒がした。
まるで体をナメクジが這いまわっているかのように全身が粟立つ。
氷の様に冷たい冷や汗が頬を流れた。

素早く体を反転。
振り向くと同時に相手の大剣を刀で受け止める。

両腕に突き刺さる様な痛みがはしり、両腕が痺れた。

だが、ここで押し負ければ今度こそ真っ二つだ。

感覚が消えかけた両腕が負けぬよう必氏に大剣を押し止めた。
奥歯を噛み締め、両手足に力を入れる。
出来る限り両腕にかかる負担を分散させ、最低限の力で大剣を押し留める事に徹する。

神父は笑っていた。
それは聖職者とは到底思えないほど残虐で、殺意に満ちた狂気の笑みだ。

それに応える様に勇者の笑う。
だがこちらは純粋に戦闘を楽しむ、戦闘者の笑みだった。

磁石が反発しあう様に、お互いが同時に後ろに弾き跳ぶ。

587: 2012/09/11(火) 21:55:01.32 ID:Xy3EdvUj0
二メートルほどの距離を開け、お互いに対峙する。

勇者は精神を研ぎ澄まし、刀に魔力を注いだ。
失敗しても戦闘に支障が出ない程度の。
しかし、当たれば神父を頃しきれるほどの。

風が集束し、刀に集まる。
風は刀を覆い、風と刀を一体化させた。

意識を集中。

それが途切れない様に必氏に抑え込む。
そして不安定な風を必氏に制御する。


「ふんっ。勝負に出るか?」

「ああ。勝算があるからな」


勇者は跳んだ。
それは風。
それ以外の表現方法は無かった。

588: 2012/09/11(火) 21:57:29.00 ID:Xy3EdvUj0
風は何者に邪魔される事無く、真っ直ぐに進んだ。
二メートルと言う距離は一瞬で縮まり、勇者の刀の間合いになる。

一瞬。
刹那。

勇者の刀は振り抜かれていた。
それは何よりも速く、そして何よりも鋭い一撃。

もしもその一部始終を見た人間が居たとすれば、それをかまいたちと嵐と表現したかもしなかった。
それほどにまでその一撃は荒々しく、しかし鋭利だった。

木々が斬り飛ばされ、大地は深く抉られる。

だが、そこに血は一滴すら流れていない。
あるのは瓦礫と化した木と土だけだ。

荒れ地と化した場所に神父は居た。
そしてその正面に勇者は立っている。


「失敗だなァ」

「想定済みだ。それにあの程度でやられるとは思ってない。さすがにダメージが無いのは少し驚いたがな」


勇者は薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

598: 2012/09/13(木) 21:36:45.82 ID:ebBg7sHT0
確かに神父は傷一つない。
まるで何事も無かったかのように薄ら笑いを浮かべながらその場に立っていた。

だがそれでもあの一撃を回避するのにかなりの体力を使ったようで息は荒く、肩で息をしたいた。

もちろん勇者の方もかなり負担になっており、膝はがくがくと笑い、腕も震えている。

お互いに消耗が激しいのは目に見えて分かった。

動き出したのはほぼ同時。
どちらも得物を担ぐように構え、上段から斬り下ろす構えだ。

もはやお互いに小細工を使う様子は無い。

正面からぶつかり合い、己の技量と力だけでねじ伏せ合う。


「小僧ォォォォォォォ!!」

「あ、がァァァァァァァ!!」


咆哮は荒れ地に消える。
だが二人の闘志は消えない。

勇者の刀が僅かに競り勝ち、神父をふら付かせる。

599: 2012/09/13(木) 21:37:40.30 ID:ebBg7sHT0
その一瞬、勇者は両手を大きく振り上げた。
だが、その両手に刀は無い。
底にあるのは両手だけ、刀は忽然と姿を消している。


「な!?」


態勢を崩しながらも大剣を頭上に構えていた神父の口から、そんな言葉が漏れる。
当然だ。
それほどまで、この現象は不可解で理解できないものなのだ。

剣士の命が無い。
その事実を理解できずにただただその両手を凝視している。

勇者の刀は消えた訳でも、消滅した訳でもなかった。
彼の刀は彼の肩のあたりで地面と平行のまま静止していた。
柄は勇者の方にあり、切っ先は神父の心臓の少し下辺りを向いている。

理屈は簡単だ。
勇者は刀を振り上げる瞬間に刀を離した。
刀は勇者に与えられた振り上げられる力と重力により、そこで一瞬だけ静止している。

彼は停止していた刀を掴み、そのまま神父目掛けて刀を薙ぐ。

600: 2012/09/13(木) 21:38:21.62 ID:ebBg7sHT0
人はこの剣技を『霞み剣』と呼んだ。
だがこの剣技は秘剣でも無ければ魔剣でもない。
忌み嫌われる悪剣だった。

もしもここが剣の道場で、彼がそこの生徒だったら、師範に小一時間怒られていただろう。
それほどまでこの技はあらゆる剣士から嫌われていた。
それほどまでにこの技は禁忌とされていた。

剣士とは何があっても得物で戦う者。
剣士は決して得物を離してはならない。
何故なら武器は剣士の命であり、それを失うと言う事は氏を意味する。
それが故意に、しかも戦術としてそれをしたのなら、それは許されざる行為だ。

勇者の行為は剣士の誇りを捨てたのと同等だ。
己の誇りを捨て、卑怯な手で敵を討つ。

勇者はそれを嫌っていた。
もしそれをするなら負けてもいいと、氏んでもいいとさえ考えていた。

だが今は違う。
今は負けが怖かった。
そしてここで氏ぬわけにはいかなかった。

601: 2012/09/13(木) 21:38:48.04 ID:ebBg7sHT0
ならば、と彼は思う。
彼は誇りを捨てた。


自らが守ってきたものを自らの手で捨て、そして自らの手で別の何かを守った。

勇者の刀が神父に横一文字の傷をつける。

血が踊る様に飛び散り、神父も踊る様に後ずさりする。
口からも赤い液体が溢れ出ていた。

だが神父は倒れない。
神父は何も言わない。
ただその場に立ったまま何も言わずに立ちつくしている。

勇者も何も言わず立っていた。

勝負は決している。
だがどちらも何もせず、動かない。

無音。

風の音だけが時折聞こえるだけだ。

勇者の心がすうっと冷たくなっていた。
まるで冷水に入れられたように心が冷えていく。

勇者と神父は向かい合い、最後の対話を始める。

602: 2012/09/13(木) 21:39:37.92 ID:ebBg7sHT0
神父「それがお前の答えか」

勇者「ああ」

神父「剣士の掟を捨ててまで勝利が欲しいのか」

勇者「俺は正義の為に戦うと決めたんだ。こんな所で氏ねない」

神父「ふんっ。笑わせる」

勇者「なんとでも言え」

神父「例え正義のためとはいえ、お前は誇りを捨てた。いや、穢した」

勇者「俺は罪を背負っている。今更穢すも無いさ」

神父「ふふ、ははは……はははははは!!」

勇者「何がおかしい!!」

神父「そうだ!! お前は罪人だ!! なら何故罰を受けない!!」

勇者「お、俺は正義をまっとうするまでは氏ねない」

神父「お前もお前が頃した人間も同じく罪人。なら当然お前も氏ぬべきじゃないのか?」

勇者「……俺には正義がある」

神父「正義。お前は正義を勘違いしていないか?」

勇者「……」

神父「正義とは己の指針のようなものだ。決して免罪符では無い!!」

603: 2012/09/13(木) 21:40:04.50 ID:ebBg7sHT0
勇者「違う!! おれは――――」

神父「違わないだろ。お前は自分に正義があるから氏なないと言ってるのと同じだ」

勇者「……」

神父「違うか?」

勇者「……ち、がう」

神父「お前は中途半端だな」

勇者「何?」

神父「英雄になら人頃しと考えない。頃した人間はゴミだと言い捨て、己の信じる善をつき通し、悪を斬る」

神父「殺人鬼になら最初から正義など掲げない。ただ私利私欲のため戦い。相手の善悪に関わらず命を奪い取る」

神父「お前はどちらでもないし、どちらでもある。つまりは半端者だ!!」

勇者「……」

神父「そのくせただの一人の剣士になる気は毛頭無い。お前はなんだ」

勇者「俺は……俺は……」

神父「ふん。お前の様な人間は氏ぬべきだ」

勇者「……黙れ」

神父「ならさっさと私を斬れ、小僧」

勇者「……」

604: 2012/09/13(木) 21:41:15.55 ID:ebBg7sHT0
勇者の刀が神父を斬る。


神父「……後悔しろ。豚の様に喚け。半端な貴様には……それがお似合いだ」

勇者「……」

神父「……」

勇者「……」

勇者「氏んだか」

正義「勇者……」

勇者「……」

正義「大丈――――」

勇者「俺は……氏にたい……」

正義「……」

勇者「でも、俺はそんな勇気すらない」

正義「勇者」

勇者「俺はどうすればいいと思う?」

正義「……」

605: 2012/09/13(木) 21:43:12.45 ID:ebBg7sHT0
勇者「きっと正しい事をしている人間は、いや、正しいと思って行動している人間は悩まない」

勇者「自分が悪い事をしていると俺は感じる。なら俺は神父の言うとおり、自分を殺さなくちゃいけない」

勇者「だがそんな勇気は俺には無いんだ……」

正義「でも、あなたは魔王を倒して世界を平和にしたいんじゃないの?」

勇者「俺を頃してくれ……俺には出来ない……」

正義「……」

勇者「お前が俺を苦しめて頃してくれ……」

正義「無理よ」

勇者「……」

正義「私はあなたを殺せないわ」

正義「それにあなたはどうなっても生きるために誇りを捨てたのよ。なのに氏んでいいの?」

勇者「俺に生きる価値があると思うのか?」

正義「私には、分からない」

勇者「……俺にも分からん」

勇者「……」

正義「……」

609: 2012/09/14(金) 22:22:15.83 ID:rIJNyPKz0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「ど、どうだったんだ!?」

勇者「勝った……」

鍛冶屋「そ、そうか……」

魔法使い「良かったです……」

鍛冶屋「まあ、勇者が帰って来たって事は勝ったって意味だしな」

魔法使い「そ、そうですね」

老人「……良かったですね」

勇者「ありがとう……ございます」

老人「いえ」

正義「疲れた……」

魔法使い「だ、大丈夫ですか?」

正義「ええ、でも少し休みたい」

魔法使い「休んでて下さい」

610: 2012/09/14(金) 22:22:49.19 ID:rIJNyPKz0
正義「悪いわね……」ゴロン

勇者「……」

老人「私としてはどれだけいても問題ありませんから」

勇者「すいません」

老人「いえいえ」

勇者「……」

老人「どうなさいましたか?」

勇者「いえ、明日の朝には出ていきますので」

老人「そう急がなくてもいいですよ」

勇者「いえ。これ以上お世話になる訳にはいきませんから」

老人「そうですか」

勇者「いろいろありがとうございました」

老人「いえ、ろくなおもてなしも出来ず」

勇者「……」

老人「あなたに私が助言できる事は一つ。自分が納得できる答えを見つけなさい」

勇者「な!?」

老人「では」スタスタ

勇者「……」

611: 2012/09/14(金) 22:24:15.91 ID:rIJNyPKz0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


山道


勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「勇者どうしたんだ」ヒソヒソ

正義「考え事よ。気にしなくていい」スタスタ

正義「それより何処に行くの?」スタスタ

魔法使い「和の町。刀を作れる職人が多くいる町です」スタスタ

鍛冶屋「楽しみだな」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さんは刀が作れるんですもんね」スタスタ

鍛冶屋「作れるって言っても出来栄えは全然だけどな」スタスタ

魔法使い「それでも凄いですよ」スタスタ

鍛冶屋「……あ、ありがとう」スタスタ

鍛冶屋「そういえば神父から魔王の情報は得られたのか?」スタスタ

正義「……あ、忘れてた」スタスタ

魔法使い「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

612: 2012/09/14(金) 22:26:24.48 ID:rIJNyPKz0
正義「ごめん……」スタスタ

魔法使い「いえ、いいですけど」スタスタ

鍛冶屋「まあ、他に知ってる奴等はいるだろ」スタスタ

魔法使い「そうですよ。気にしないで下さい」スタスタ

正義「……ありがとう」スタスタ

魔法使い「ほら、見えてきましたよ」スタスタ

鍛冶屋「うわっ。凄え!!」スタスタ

正義「元気ね」スタスタ

鍛冶屋「多分あの大きい建物で刀を作ってんだよな」スタスタ

魔法使い「そ、そうですかね?」スタスタ

鍛冶屋「やっぱ本場は凄いな……」スタスタ

勇者「……今回はどうする?」スタスタ

魔法使い「今回はみんなで行動しませんか? 神父みたいな強敵が出てくる可能性だってある訳ですし」スタスタ

勇者「そうだな。わかった」スタスタ

613: 2012/09/14(金) 22:27:33.42 ID:rIJNyPKz0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


和の町


鍛冶屋「まずは何処まわる?」

勇者「お前の好きな場所でいい」

鍛冶屋「ならあのでかい建物だな」スタスタ

勇者「わかった」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さん楽しそうですね」スタスタ

正義「あんなんでもちゃんとした刀鍛冶だからね」スタスタ

魔法使い「あんなんはひどくないですか?」スタスタ

正義「……少し言い過ぎたわね」スタスタ


それは民家を四個ほど合体させたほどの大きさで鉄製の四角い建物だった。


鍛冶屋「……入っていいのかな」

勇者「さあな」

614: 2012/09/14(金) 22:30:02.90 ID:rIJNyPKz0
鍛冶屋「……」コンコン

町人「ん?」ガチャ

鍛冶屋「入っていいかな?」

町人「え、ああ。構わないけど邪魔はしないでくれよ」

勇者「分かっている」

鍛冶屋「……」スタスタ

勇者「鍛冶氏は皆ここで仕事をしてるのか」

正義「凄いわね」

勇者「ん?」


建物の端には全長三メートルを超える巨大な刀が置いてあった。


勇者「……誰がこんなものを使うんだ?」

???「誰も使えない刀。でもそう言うのってロマンがあるだろ?」

622: 2012/09/15(土) 21:58:24.71 ID:sVi57I0U0
勇者「誰だ?」


それは黒髪の男だった。
髪は少し長めで肩より少し下くらいまで。それを後ろでしばり、ポニーテールの様に纏めていた。
布の服で腰には刀がさしてある。
顔は少し大人びており、きりっとした印象を受けた。


武人「ああ、すまん。俺の名前は武人だ」

勇者「……俺の名前は――――」

武人「知ってる、勇者だろ? 噂はよく聞いてる」

勇者「お前はこの町の?」

武人「うん、まあこの町の住人だな」

鍛冶屋「じゃああんたも鍛冶師か?」

武人「違う違う。俺は剣士。見た目で分かんないか?」

鍛冶屋「まあ、刀さしてるし、そうか」

武人「鍛冶師もいいと思ったんだけど剣士の方がロマンがあるし最強って感じがするだろ?」

勇者「言っている意味がよく分からんな」

武人「あはは。そりゃ残念だ」

623: 2012/09/15(土) 21:59:45.73 ID:sVi57I0U0
勇者「……」

武人「同族なら分かってくれると思ったんだけどな」

鍛冶屋「同族?」

勇者「剣士にもいろいろな種類がいる、俺はお前とは違うタイプだ」

武人「そうか」

正義「……」

武人「そっちの人があんたの刀かい?」

勇者「……」

武人「……」

勇者「お前は」

武人「俺の刀の名前は真理。あんたは?」

勇者「正義だ」

武人「よろしく。正義」

正義「……ええ、よろしく」

真理「よろしく」


それは短い黒髪の少年だった。
遠目からでも美少年だとわかるその姿は眩しい。
西洋風の襟のある服を着ていた。

624: 2012/09/15(土) 22:00:46.38 ID:sVi57I0U0
真理「主に会うのは久々だな」

正義「そう? 私は覚えてないわね」

真理「……無理もない。私だって記憶は曖昧だ」

正義「なら何で言うのよ……」

真理「ただの戯れだと思ってくれ」

正義「……」

武人「ま、と言う訳だ。よろしくな」

勇者「お前は魔王を倒す旅には出ていないのか?」

武人「まあ、そうなる。でもそろそろ出ていこうと思ってた所だよ」

勇者「……」

武人「英雄と逃亡者の噂も聞いてる。あった事は無いんだけどな」

勇者「お前の話など聞いたことが無かったが」

武人「まあ、俺はあんた達と違ってあんまり表立った行動はしてないからな」

勇者「……お前は何のために戦うんだ」

武人「あんたみたいな立派な理想は持ってないよ。俺は仲間を助けるために戦う」

勇者「仲間?」

625: 2012/09/15(土) 22:01:25.65 ID:sVi57I0U0
武人「ああ。真理やこの町の知り合い、あとはこれからの旅で会う奴等。それを助けるために戦う」

勇者「……他の者達は」

武人「そりゃ助けられれば助けるさ。でも仲間が一番だろ?」

勇者「……」

武人「俺もあんたみたいに大きいロマンを持ってればよかったんだろうけどな……」

正義「……」

武人「あ、そろそろ時間だ。じゃあ、また後で」スタスタ

真理「また会おう」スタスタ

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「なんだったんだ、あいつ」

勇者「わからん」

正義「なんて言うか……自分勝手な人ね」

勇者「……自分が話し終わったから帰って行ったな」

魔法使い「あの……」

鍛冶屋「ん?」

勇者「どうした」

626: 2012/09/15(土) 22:02:08.80 ID:sVi57I0U0
魔法使い「さっきの真理さんなら何か知ってるんじゃないですか?」

勇者「……あ」

正義「確かに」

鍛冶屋「そうだな」

魔法使い「……」

勇者「後から聞くか」

正義「そうね」

魔法使い「大丈夫なんですか?」

勇者「少しはこの町にいるって言ってたんだ。大丈夫だ」

鍛冶屋「そこそこ大きい町だけど、なんだかんだで会えそうだしな」

正義「そうね」

魔法使い「まあ、武人さんもまた会おうって言ってましたし……」

鍛冶屋「それよりそろそろ宿屋探さくていいのか?」

正義「そうね。そろそろいい時間だし」

627: 2012/09/15(土) 22:06:47.60 ID:sVi57I0U0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


宿屋  勇者達の部屋


勇者「……」

鍛冶屋「なあ、いつまで悩んでんだよ」

勇者「……分かってるんだが、どうしてもな」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「少し寝てみたらどうだ?」

勇者「……悪いな」

鍛冶屋「別にいいって」

勇者「……」ゴロン

鍛冶屋「……」

勇者「魔法使いとは何かあったか?」

鍛冶屋「いきなり何だよ」

勇者「別に、ただ少し気になっただけだ」

鍛冶屋「何もねえよ」

628: 2012/09/15(土) 22:08:01.89 ID:sVi57I0U0
勇者「……そうか」

鍛冶屋「逆に何を期待してたんだよ」

勇者「別に……」

鍛冶屋「……」

勇者「お休み」

鍛冶屋「おい」

勇者「なんだ」

鍛冶屋「なに意味深な事言って寝ようとしてんだよ」

勇者「明日にでも魔法使いと手合わせするぞ」

鍛冶屋「え? 俺が?」

勇者「ああ、特訓の成果を試せ」

鍛冶屋「……って言っても、あの時だってボロ負けだったじゃん」

勇者「勝てば何か貰うとか何かしてもらうとかどうだ? やる気も多少出るだろ」

鍛冶屋「……考えとく」

勇者「……じゃあお休み」

鍛冶屋「ああ、お休み」

631: 2012/09/16(日) 22:40:25.81 ID:OYdQSWii0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……ここは」

青年「こんにちは」

勇者「……」

青年「ああ、覚えててくれたんだ」

勇者「あ、ああ」

青年「まあ、忘れる訳ないか。テメェが最初に頃した人間だからね」

勇者「……」

勇者「これは、夢だ」

青年「……」

勇者「……」

青年「殺人犯だった俺を頃してからだよね。テメェが正義を夢見始めたのは」

勇者「ああ、あの後で俺は正義を志す様になったんだ」

青年「へー、そうだったんだ」

勇者「なんなんだ、この夢は」

632: 2012/09/16(日) 22:41:32.20 ID:OYdQSWii0
戦士「他人を頃して人を幸せにしてる気分はどうだ?」

勇者「お前は……」

戦士「魔法使いを助けた事に酔ってんだろ。なあ、言ってみろよ」

勇者「これは……夢だ」

戦士「正義を盾に人頃しが出来るんだ。いい御身分だな」

勇者「……だからなんだと言うんだ。俺が人頃しなのは……変わらない」

盗賊「命乞いをする相手を頃して正義か……」

勇者「……」

戦士「お前はただの人頃しだ」

盗賊「お前は勇者なんかじゃない」

勇者「すまない……」

青年「そう思うなら罰を受けろ」

勇者「罰……」

神父「その通り」

勇者「……」

神父「罪を認めるなら罰を受けなくてはいけないじゃないのか?」

勇者「……」

633: 2012/09/16(日) 22:42:15.85 ID:OYdQSWii0
神父「どうだ?」

青年「そうだろ」

戦士「罰を受けろ」

勇者「う……」

戦士「早く」

青年「早くしろ」

神父「罰を受けろ!!」

勇者「あ……ああ……」

青年「お前は正義に逃げた。正義と言う言葉を使えば罰は無いと思ったんだ」

勇者「……違う!! 俺は罰を受ける!!」

青年「どんな罰だ」

勇者「……俺は」

神父「まさか、償って氏ぬなんて言うんじゃないぞ」

勇者「……」

神父「楽になろうとなど、考えていないだろうな?」

勇者「……」

634: 2012/09/16(日) 22:43:41.35 ID:OYdQSWii0
戦士「苦しめ」

勇者「え?」

神父「お前は苦しむんだ」

勇者「……」

青年「苦しめ。俺達を頃した事を悔いて苦しめ」

勇者「……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……ん」

鍛冶屋「どうした?」

勇者「……罰」

鍛冶屋「どうした?」

勇者「嫌な夢を見ただけだ」

鍛冶屋「……そうか」

勇者「……そうだな。俺は氏ねない」

鍛冶屋「どうしたんだよ」

勇者「……」

鍛冶屋「?」

635: 2012/09/16(日) 22:45:00.68 ID:OYdQSWii0
短いですが今日はここまでです。

636: 2012/09/16(日) 23:18:38.41 ID:5ccF8aCDO

引用: 勇者「正義の為に戦おう」