1: 2019/04/28(日) 12:20:53.81 ID:WoQi+oWD0
......prrrr

......prrrrrr

pi!!


 「あーあーテステス……これ繋がってるのかしら?」

 「……ん、よし大丈夫そうね」

 「Hi ! こんにちわ! 見えてるということは、あなたが今度旅立つ新人Trainerさんね」

 「え? なに? どうしたの、キルリア? ……ああ、名乗るのを忘れていたわ」

 「わたしは鞠莉。あなたの住むウラノホシタウンの外れの島──アワシマに研究所を構えるポケモン博士よ! って、言ってもまだ新人博士なんだけどね」

鞠莉「この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、わたしたちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする」

鞠莉「わたしはここオトノキ地方で、そんなポケモンと“どうぐ”の関わり合いについて研究しているの。ただ、まだまだ新人のせいもあってか、余りフィールドワークの情報が足りてなくてね……」

 「キルキルゥー!!」

鞠莉「って今度は何、キルリア……? ……わたしの話は後でいい? 確かにそれもそうね……それじゃあ、とりあえず、あなたの名前を教えてくれるかしら?」


…………


鞠莉「Hm...Your name is CHIKA。千歌、いい名前ね」

鞠莉「それじゃ千歌。研究所で待っているから、また後で──」


【ウラノホシタウン】no title






2: 2019/04/28(日) 12:24:13.02 ID:WoQi+oWD0


■Chapter001 『旅のはじまり』





 「千歌ちゃーん!!」


外からチカを呼ぶ声がする。

私は窓を開け放って、半身を乗り出しながら、屋外に向かって返事をする。


千歌「曜ちゃーん! おはよー!!」

曜「おはよー!! 準備できたー?」

千歌「うん! 今行くね!」


そう言って、チカは室内に翻して、昨日お母さんが用意してくれた、リュックを乱暴に引っ手繰り、曜ちゃんの元へと向かう。

チカが自宅の階段を滑るように駆け下りると、一階で姉たちがなにやら雑談をしていた。


美渡「ついに、今日か……」

志満「もう、美渡ちゃん。心配しすぎよ……もう千歌ちゃんも16歳なのよ?」

美渡「って言ってもあの千歌だよ?」

千歌「どのチカなのさ!」


不届きな姉の言葉に不満気に抗議の声をあげる


美渡「この千歌でしょ」

千歌「むー!! 志満姉の言うとおり、もう私16歳なんだよ!」

美渡「いやー……まだ、こんなちんちくりんのガキじゃん」

千歌「うっさいな! お母さんからも許可貰ってるんだからね!」

志満「二人とも、こんな日にケンカしないの」


顔を合わせるや否や、ケンカが勃発する下の姉妹二人を長女の志満姉が嗜める。


志満「それに、しいたけもいるから」

美渡「……ま、千歌よりは頼りになるか」

千歌「みーとーねーぇー?」


私はますます顔を顰めながら、美渡姉を睨み付けた。


美渡「……ま、せいぜい頑張れよー」


手をひらひら振りながら私の視線から逃げるように美渡姉は家の奥の方に歩いていってしまう。


千歌「むぅ……失礼しちゃうな」

志満「ふふ、美渡ちゃんもあれで千歌ちゃんが心配なのよ」

千歌「そうなのかなぁ……」

志満「それより、曜ちゃん。待ってるんでしょ?」

千歌「あ、そうだった!」


3: 2019/04/28(日) 12:25:37.96 ID:WoQi+oWD0

私は志満姉の言葉で幼馴染を待たせてることを思い出して、外へ飛び出そうとする。そんな私の背中に──


志満「千歌ちゃん」


志満姉の優しい声。


千歌「なに?」

志満「いってらっしゃい」

千歌「……いってきます!」


私は返事をして、家を飛び出した。





    *    *    *





千歌「曜ちゃん、お待たせ!」


外に出ると、曜ちゃんが眩しそうに手をかざしながら、お空の太陽を見つめていた。


千歌「……曜ちゃん?」

曜「いい天気だなって思って」

千歌「……うん、そうだね」

曜「いよいよ、始まるんだね」

千歌「うん」


私は幼馴染の呟きに、微笑みながら相槌を打つ。

二人して、物思いに耽りながら、空をぼんやりと仰いでいると


 「ワンッワォゥ!!」


そんな鳴き声とともに、さっき自分が飛び出してきた家の方から、白い毛むくじゃらのポケモンが私の足元に擦り寄ってくる。


千歌「わわ!? なんだ、しいたけか……」

美渡「ほらさっさといきな、二人とも。博士が待ってるんでしょ?」


しいたけの来た方向から、美渡姉がやってきて、私と曜ちゃんを促す。


美渡「しいたけ、千歌をよろしく頼むぞー」

 「ワフ」

千歌「もう、大丈夫だってば」

曜「美渡姉、行って来ます」

美渡「おう、曜ちゃんも千歌のことよろしくね」

曜「ふふ、はーい」

千歌「むー……いつまでそのネタ引っ張るのさ……いこう、しいたけ」

 「ワフ」


そういって、私はしいたけと一緒に失礼な姉に背を向ける。

4: 2019/04/28(日) 12:26:49.90 ID:WoQi+oWD0

美渡「千歌ー!」


それでも、まだ、声を掛けてくる姉に


千歌「なにー?」


振り返りながら、ぶっきらぼうに返事をすると


千歌「……!」


──美渡姉は親指を立てながら、私に向かって


美渡「思う存分、暴れて来い!!」


そう言ってから、私に向かって、ニカっと笑った。


千歌「!! ……うん!!」


──私は姉達に背中を押されて、思わず走り出す。


 「ワフ」


私に釣られて、しいたけが


曜「あ、千歌ちゃん! 待ってよー!」


曜ちゃんが


千歌「えへへっ!」


思わず笑みが零れる。

これから、始まるんだ


千歌「──私たちの冒険が!!」





    *    *    *





曜「しいたけ、連れてくんだね」


曜ちゃんがそういって私の横を歩くしいたけに目を向ける。


千歌「うん、美渡姉が旅に出るなら、連れて行けって」
 「ワフ」


しいたけ──はニックネームなんだけど……この子はトリミアンの♀で、子供の頃から一緒に育ってきた家族みたいな子。

しいたけは毛むくじゃらで、カロス地方とかのオシャレなトリミアンから見たら、トリミアンに見えないらしいけど……。

私は子供のころから見てるトリミアンと言えば、しいたけだから、そういわれても全然ピンと来ないんだよね。

──海岸沿いを曜ちゃんと歩きながら、船着場に目を向ける。


千歌「アワシマまでの定期便まで、もう少し時間あるかな?」

5: 2019/04/28(日) 12:28:18.40 ID:WoQi+oWD0

私たちの目的地──アワシマの研究所に行くためには、ここウラノホシタウンから船に乗らないといけない。

いけないんだけど……。


曜「そんなの待ってられないよ!!」


そういって今度は曜ちゃんが走り出した。船着場の横の砂浜にめがけて一直線に

そして、走りながら海に向かって──


曜「ラプラスー!! いるーー!?」


声を張り上げた。

寄せては返す波の音が、絶えず聴こえるこの海いっぱいに、曜ちゃんの声が響き渡る。

そのまま海に向かって──


千歌「よ、よーちゃん!」


──曜ちゃんは走る

砂浜へ、

そして、そのまま幅跳びの要領で海へと、


曜「とうっ!」


飛んだ──


千歌「よーちゃん!」


ザブン!! と海に水しぶきがあがる──ことはなく、曜ちゃんは水面に着地していた。

いや──


 「キュゥー♪」
曜「ラプラスー! おはよー♪」


曜ちゃんの着水地点に先回りした地点に、さっき呼んだラプラスが浮上していた。


千歌「もう……びっくりさせないでよ……」

曜「えへへ、ごめんごめん。昨日ラプラスと約束してたんだ♪」

千歌「ラプラス、おはよー」

 「キュウー」


海の上に長い首を伸ばして、ラプラスは気持ち良さそうに伸びをした。

この子は私としいたけの関係みたいに、曜ちゃんの家族のポケモン。曜ちゃんのお父さんのラプラスです。

とっても人懐っこくて、私も昔からよく一緒に遊んでいたんだけど、曜ちゃんには特に懐いています。


曜「千歌ちゃんと同じで、私もパパから連れて行くように言われてたんだ。せっかくだし、アワシマまで乗せて行ってもらおうと思って」

千歌「なるほど。戻れ、しいたけ」
 「ワフ」

6: 2019/04/28(日) 12:29:47.65 ID:WoQi+oWD0

私は曜ちゃんに返事をしながら、しいたけをボールに戻す。

……あ、“モンスターボール”の説明って必要かな?

ポケモンはモンスターボールって言う小さなカプセルに入れて、持ち歩くことが出来ます。

ボールに入れたポケモンはポケットに入ってしまうから、ポケットモンスター──通称ポケモンって言うらしいんだよね。

なんでこんなボールに入っちゃうのか、不思議だよね。確かその理屈を学校の先生が前に言ってたような──


曜「千歌ちゃーん! いくよー!」

千歌「あ、うん!」


……ま、いっか。どうせ後で先生にも会うし。

私は曜ちゃんに引っ張りあげて貰って、ラプラスの背に乗る。


曜「ラプラス、いける?」
 「キュゥ~」

曜「よぉーっし! 全速前進! ヨーソロー!」
 「キュゥ~♪」


ラプラスは曜ちゃんの掛け声と共に海の上を走り出した。





    *    *    *





──ウラノホシタウンは海に囲まれた自然豊かな町です。

まあ、自然豊かななんて言うと聞こえはいいけど、逆に言うなら周りには海しかない。

そんなウラノホシだけど、離れの島には研究所があります。

その名も『オハラ研究所』

最近建ったばっかりの新設研究所で、そこの博士も最近博士になったと言うオハラ博士。

何を隠そう、私たちはオハラ博士からの依頼で集められた選ばれた新人トレーナーなのです!


曜「えへへ」


ラプラスの背で揺られながら、空でみゃーみゃーと鳴いているキャモメの群れをぼんやり眺めていると、突然前に座っていた曜ちゃんが一人笑う。


千歌「どしたのー?」

曜「んー、なんかワクワクしちゃってさ!」


曜ちゃんは目を輝かせながら、陽光をキラキラと反射する海に目を向けている。


曜「やっと旅に出られるんだなって! それも千歌ちゃんと同じ日に!」

千歌「曜ちゃん……うん、私も嬉しい」


ラプラスの背の上で曜ちゃんが楽しそうにくるくると回る


千歌「よ、よーちゃんっ 危ないよ」


私の声を聞いてか、曜ちゃんは不安定なラプラスの背の上でピタリと止まって、今度は私の顔を見つめてくる。

7: 2019/04/28(日) 12:30:56.96 ID:WoQi+oWD0

曜「千歌ちゃん、覚えてる? 子供の頃、よく一緒に冒険ごっこしたよね」

千歌「あ、うん! 隣のウチウラシティまで、しいたけ連れて冒険に行ってたよね!」


幼馴染との在りし日のことを脳裏に思い出しながら。


曜「子供の頃は野生のポケモンに襲われたら大変だからって言われて、あんまり遠くまでいけなかったけど……今度は違うんだって、そう思ったら何か嬉しくて!」

千歌「そっか」

曜「千歌ちゃんは旅に出たら何したい?」

千歌「えっへへ、とりあえずなんかすごい感じになりたいかな!」

曜「あはは、なんか千歌ちゃんらしいね! 私は船乗りのパパみたいに、世界中の海をラプラスと一緒に冒険できたらなーって思ってる!」
 「キュー♪」

千歌「そっかそっか! あとね、旅にワクワクしてるのは私も曜ちゃんと同じだよ。ずっと、憧れてたんだもん」


ポケモンを貰って、旅に出る。それは子供たち、みんなの憧れ。


千歌「この辺は研究所もなかったし、オハラ博士のお陰だよねっ」

曜「研究所がないと、初心者用ポケモンってもらえないしね。普通の子は10歳くらいで旅に出るみたいだけど……」

千歌「この辺あんまり人いないもんねぇ。10歳のときは研究所でポケモンを貰って旅に出る、なんて考えてもみなかったけど、まさに地獄に仏……!! あ、いや、でもウラノホシはいい町だから、天国に仏……?」

曜「なんかいろいろごちゃごちゃだね……」

千歌「と、とにかくっ! 今回はなんせ博士直々の御指名だもんねっ!」


──そうなんです。今回の旅は博士直々にチカと曜ちゃんに依頼が来たのです。


曜「って、言い切っちゃうと語弊があるけどね」


曜ちゃんがそんな風に補足を入れる。

正確にはウラノホシタウンの子供たちにオハラ博士から依頼されたんです。


千歌「この辺、そもそも子供も少ないから、たまたまこの辺に珍しく住んでる子供たちってことでチカたちにお願いしてきたんだろうけど……でも、ラッキーだったよね!」

曜「聞いた話だと、一応他の町からも何人か来るらしいけど……」

千歌「そうなの?」

曜「うん。隣のウチウラシティから一人。それと、もっと遠くから、もう一人って言ってたかな」

千歌「えっと……確か、ウラノホシから旅立つのは私と曜ちゃんと……ちょっと遅れて花丸ちゃんとルビィちゃんが、ポケモンを貰うって話になってるんだっけ」


共通の幼馴染の名前を挙げながら、指折り数える。


曜「うん、私はそう聞いてるかな。だから、さっきの2人を含めて、6人だね」

千歌「普通って、多くても3人くらいなんじゃないっけ?」

曜「私もそう思ったけど……まあ、オハラ博士もいろいろ事情があるってことじゃないかな。それも含めて今から聞きに行こうってことだしさ」

千歌「それもそっか」


のんびりと海を行くラプラスの背中の上で、目線をあげると……その先に目的地のアワシマが近づいてきていました。





    *    *    *



8: 2019/04/28(日) 12:31:57.47 ID:WoQi+oWD0

──アワシマ。

ウラノホシタウンとウチウラシティを南北に繋ぐ道路──1番道路。その西側に面している海にその島はあります。

ラプラスを岸に付けて、私たちはアワシマへと降り立つ。


曜「ラプラス、じゃあまたあとでね」
 「キュー」


曜ちゃんがそう言うと、ラプラスは再び海へと潜って行く。


千歌「ラプラス、ボールに入れないの?」

曜「どっちにしろ島から出るときも乗るし。それに……」

千歌「それに?」

曜「普段ボールに入れてなかったから、ちょっと抵抗あって……」

千歌「あーわかるかも……」


私も、しいたけをボールに入れるのに抵抗があって、旅立ちまでに慣れておけって美渡姉に言われて、ボールに入れて持ち歩く練習とかしたなぁ……。


曜「私も、しいたけみたいに慣れないとなんだけどね。それこそ、陸を行くときはボールに戻さないといけないし」

千歌「ラプラスじゃ長距離歩けないもんね」

曜「もともと海のポケモンだから、長時間陸を歩かせるとケガしちゃうかもしれないしね」


そんな話をしながら、研究所に向かって歩を進めていると──


 「ロトトトトトトト!!」


……と、奇妙な鳴き声が目的地の方から聴こえてくる。


千歌「……?」

曜「……ポケモン?」


次の瞬間。

今度はガラスが割れるような、音が響き渡る。

音と共に、


 「ロトトトトトー」


板状のポケモンらしきものが視界の先に見えていた研究所から飛び出してくる。


千歌・曜「「!?」」


そのポケモンは手……っぽい場所にモンスターボールを持っている。

私たちが目の前で起こった状況を飲み込もうとしている場所に、更に


 「ちょっと待ちなさーい!!」


と叫びながら研究所を飛び出してくる若い女性。


曜「今度は何……?」


その容姿は金髪に左側頭部に特徴的な6の字のような形に髪を結んだ女性──というか見たことある。

9: 2019/04/28(日) 12:32:40.63 ID:WoQi+oWD0

千歌「……オハラ博士?」

鞠莉「……え?」


ビデオ電話で見たから、間違いない。オハラ博士だ。というかこんな特徴的なビジュアルなかなか忘れないし。


鞠莉「あ、あー……えーっと」


ビデオ電話だったということは博士も私たちの顔を知っていると言うことで……


鞠莉「……」


博士は何故かバツが悪そうに目を逸らしていたけど

少し悩む素振りを見せてから、諦めたように私たちに向き直って。


鞠莉「……あなたたち、千歌と曜ね」


そう切り出してくる。


千歌「は、はい」

曜「き、今日はよろしくお願いします……?」

鞠莉「……こちらこそ、と言いたいところなんだけど……。Emaergency──ちょっと緊急事態」


博士は一旦神妙な表情をしてから、


鞠莉「……あなたたちに渡すはずだったポケモン……連れ去られちゃった……♪」


そういって、いたずらっぽくペ口リと舌を出した。



10: 2019/04/28(日) 12:33:23.27 ID:WoQi+oWD0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アワシマ】
no title

 主人公 千歌
 手持ち トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 曜
 手持ち ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!


...To be continued.



11: 2019/04/28(日) 13:46:59.24 ID:WoQi+oWD0

■Chapter002 『パートナー』





千歌「え」

千歌・曜「「ええーーーー!!」」


私たちは博士の言葉を聞いて驚きの声をあげた


曜「え、え、それじゃ私たちポケモンもらえないんですか!? 博士!? せっかく、今日まで楽しみにしてたのに……!!」


曜ちゃんが博士の両肩を掴んで前後に揺する。


鞠莉「Oh... Wait a minute」

千歌「うぇぃ……?」

鞠莉「2人とも落ち着いて? あなたたちのポケモンはちゃんと私が連れ戻すから。あと私のことは博士じゃなくて、気軽にマリーって呼んでくれる?」

千歌「え、えーっと……」

鞠莉「はい、マリー」

千歌「ま、まりー?」

鞠莉「OK.それじゃ、ちょっとあのイタズラポケモンを捕まえてくるから、あなたたちはここで……」


そういって私たちの前を去ろうとするマリー……えっと、鞠莉さんに、


曜「ちょっと待ってください!」


曜ちゃんが食い下がる。


鞠莉「?」

曜「さっきあの変なのが持ってたボールに入ってるのが、私たちが貰う予定だったポケモンなんですよね?」

鞠莉「ええ、そうだけど」

曜「それなら……取り戻すの私たちも手伝います!」

鞠莉「え、ダメよ。あなたたち、新人Trainerでしょ? 野生のポケモンに会ったらどうやって戦うの?」

千歌「あ、私たちポケモン持ってますよ! 家族に借りた子だけど……」


私はそう言って、さっきボールに戻した、しいたけ入りのモンスターボールを取り出し放る。

ボン、という特有の音と共にしいたけがボールの外に飛び出してくる。


 「ワフ」

鞠莉「……見たことないポケモンなんだけど」

千歌「ト、トリミアンです!」

鞠莉「Furfrou...? トリミアンってもっと、精悍とした顔つきだったと思うんだけど……」
 (*Furfrou=トリミアンの英名)

千歌「ちょっと、この子はのうてんきな性格なんで!」

鞠莉「Hmm...? まあ、手持ちがいるなら、付いてくるのは構わないけど……あなたは?」


鞠莉さんは今度は曜ちゃんに尋ねる。

12: 2019/04/28(日) 13:48:53.63 ID:WoQi+oWD0

曜「あ、はい! ラプラスー!」


海に向かって名前を叫ぶと

 「キュゥー」

少し遠目の海岸にラプラスが顔を出したのが見える。


曜「ラプラスがいます!」

鞠莉「なるほど……」

曜「どっちにしろ、さっきのポケモン……? アワシマの外に飛んで行きましたよね? それなら海を渡る手段が必要だと思います!」

鞠莉「Hmm...OK. じゃあ、すぐに身支度済ませてくるから、二人とも海岸で待っててくれる?」

千歌「はい!」

曜「了解であります!」





    *    *    *





──アワシマの浜辺にて。


千歌「なんか大変なことになっちゃったね」

曜「あはは、そうだね……」

千歌「さっきの……南の方に飛んで行ったよね。あれってポケモンなのかな?」


これから海の上を運んでくれるラプラスを撫でながら、ぼんやり呟く私に、


鞠莉「──半分ポケモンよ」


研究所の方から戻ってきた鞠莉さんがそう答える。


千歌「半分?」

鞠莉「……あれはロトムって言うポケモンなんだけど。家電に住み着くゴーストタイプのポケモンなの」

曜「ロトム? 千歌ちゃん知ってる?」

千歌「うぅん……知らない」

鞠莉「ちょっと珍しいポケモンだからねぇ……。最近カロスの方で開発された、ポケモン図鑑とロトムを一体化させた、ロトム図鑑って言うものの話を聞いて私も試してみたんだけど……」


聞きなれない単語の羅列に私は眉を顰めた。


千歌「ポケモン図鑑……? ロトム図鑑……??」


カロスって言うのは地方のことだってわかるけど……確か、しいたけ──じゃなくて、トリミアンが主に分布してる地方だったよね。

説明を聞きながら、私たちはラプラスの背に乗る。


鞠莉「あ、えーっと……後で話そうと思ってたんだけど、ポケモン図鑑。自動で出会ったポケモンたちのデータを登録してくれる、ハイテクな図鑑よ。今回初心者Trainerを集めたのも、この図鑑のデータを収集してもらうためだったんだけど……」

曜「じゃあ、もしかして、半分ポケモンって言ってたのは……」

鞠莉「ええ、あなたは察しがいいのね。ポケモン図鑑を乗っ取ったロトムよ」


話を聞いていて、私はあることに気付く。

13: 2019/04/28(日) 13:51:14.55 ID:WoQi+oWD0

千歌「え、それじゃもしかしてそのポケモン図鑑……って言うのも持ってかれちゃったってことですか?」

鞠莉「ああ、それなんだけどね。あなたたちの分はここにあるわ」


そう言って鞠莉さんが私たちにそれぞれ橙色と水色の板状の端末を差し出してくる。


曜「え、じゃあさっきのって……」

鞠莉「あれはわたしの……ついでに言うならロトムもわたしの手持ちなんだけど……なまいきな上にイタズラが好きな子でね……」

千歌・曜「「…………」」


私たちは思わずジト目で鞠莉さんを見つめる


鞠莉「何、その目は?」


軽く頭を掻いてから、鞠莉さんは頭を振って、言葉を付け足す。


鞠莉「……コホン。とりあえず、あなたたちのポケモン図鑑。ここで渡しておくわ。ホントは使い方も含めて研究所で教えるつもりだったんだけど……これがあるとポケモンバトルも便利になるから」

曜「便利、ですか?」


私は橙色の図鑑を、曜ちゃんは水色の図鑑をそれぞれ受け取る。


鞠莉「取り急ぎだけど……スライド式になってるから、画面を出して液晶を押してみて?」

千歌「ここですか?」


言われたとおり、図鑑の開いて、液晶を押す──と


 『トリミアン ♀ Lv.15』


というデータが表示されていた。


鞠莉「……さっきの子、ホントにトリミアンだったのね」

曜「私のラプラスは……Lv.20って表示されてる」

鞠莉「この通り、図鑑があれば、自分の手持ちや周りにいるポケモンの詳細なデータがわかるわ。ポケモンの強さ、使える技とかもね。きっと戦闘の役にも立つと思うから、うまく使ってね」

千歌「あ、ありがとうございます」

鞠莉「ついでに……わたしの図鑑が発している固有電波も登録しておいたから、マップを開くと表示されると思うんだけど」

曜「あ、ホントだ」


言葉に釣られて、曜ちゃんの図鑑を覗き込むと、確かにマップが表示されていて、アワシマから少し離れた場所で赤く点滅している表示がある。


鞠莉「そこにロトム……とわたしの図鑑があるってことね。……よりにもよって面倒くさいところに逃げ込んでくれたわね」

千歌「ここって……」

曜「うん……」


曜ちゃんと二人で顔を見合わせる。


千歌「クロサワの入江ですよね」

鞠莉「あはは……さすが地元民。詳しいわね」


──クロサワの入江。

ウラノホシタウンの西端にある入江で、地元の人でもほとんど立ち入り禁止の場所だ。

14: 2019/04/28(日) 13:52:47.10 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「うーん……ここはちょっと手が出し辛いわねぇ……。まあ、止むを得ない、か……」

曜「あんまり地元の人も近付かない場所だけど、大丈夫かな……?」

千歌「でも、どっちにしろ入江の奥に逃げちゃったんなら、行くしかないよっ」

鞠莉「……そうね、あそこの入江は水上からの出入り口は一つしかないし。むしろ、これ以上逃げる道がないと言う意味では助かるか……」


鞠莉さんはそんな言葉に付け加えるように、ボソリと、


鞠莉「──後でうまい言い訳考えておかないといけないわね」


そんなことを呟いていました。





    *    *    *





──クロサワの入江。


曜「……ここかぁ」

千歌「相変わらず、おっきな入江だね」


海岸の崖に出来た大きな横穴からは、海水が流れ込んでいて、中も水に浸かっている。


鞠莉「奥の方に行けば陸があるわ。そこまでラプラスで進んでもらっていい?」

曜「あ、はい。ラプラス」
 「キュ」


ラプラスの背に乗ったまま洞窟を進んでいく。


千歌「鞠莉さん、入江の中、詳しいんですか?」

鞠莉「ん、まあ、前に調査で入ったことがあるから」

曜「地元の人でもあんまり入らないのに……」

鞠莉「一応研究者だしネ。ここの野生ポケモンは基本臆病だから、考えなしに近づくなとは言われてるんだけど……」


そんな鞠莉さんの言葉を耳の端に捉えながら、入江の洞窟を見回していると、


千歌「……?」


私の視界にキラリと光る物が飛び込んでくる。


千歌「なに? ……宝石?」


洞窟の壁や天井に小さな宝石のようなものが……


曜「い、いや、あれ動いてない?」


曜ちゃんに言われて気付く。確かに僅かにぷるぷると震えている気がする。


鞠莉「ふふ……早速役に立ちそうね♪ 二人とも図鑑を開いてみて」

千歌「え、あ、はい」

15: 2019/04/28(日) 13:54:22.51 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんに促されて、二人で図鑑を開く。


 『メレシー ほうせきポケモン 高さ0.3m 重さ5.7kg
  身にまとう 宝石は 多種多様な 種類が ある。
  また その宝石の 種類によって 性格が 異なる。
  地の底には メレシーの女王が暮らす 国があるという。』


図鑑にはそう表示されていた。


曜「宝石はポケモンの一部……あれ、もしかしてメレシー?」

千歌「先生とかルビィちゃんが持ってるポケモンだよね。……ウラノホシのおとぎばなしにもよく出てくるし」


ウラノホシにある御話には何故かこの宝石ポケモンがよく出てきます。

それがメレシーです。

小さい頃から、メレシーは大切にしなさいと、おじいちゃんおばあちゃんたちから口酸っぱく言われて育った記憶があります。


鞠莉「Yes. ここクロサワの入江はCarbink──メレシーの群生地なのよ」
                (*Carbink=メレシーの英名)


ここは洞窟だから、奥に進むほど外からの太陽の光が入ってこなくなるため、キラキラと光るメレシーたちの宝石の光がより一層眩く見える。

それはまるで星空のようで──


千歌「綺麗……」


私は思わず、そう呟いていた。


鞠莉「夜に宝石に溜め込んだ、月の光が漏れ出しているから、暗い洞窟の中でも光って見えるのよ。強い個体だと、その溜め込んだ光を一瞬で外に解き放つ“マジカルシャイン”って言う技が使える子もいるわ」

曜「へぇー……」

鞠莉「それと……わかるかしら、メレシーたちの光の色がそれぞれちょっとずつ違うんだけど」

千歌「あ、ホントだ! あの子は青……あっちは赤」

曜「あっちは緑に、黄色……水色……ピンクの子もいる」

鞠莉「本来は水色から透明の水晶を身に纏っているんだけど、ここクロサワの入江のメレシーは特別で、いろんな宝石を身に纏っている個体がたくさんいるのよ」


まるで夜空に輝く七色の星のようなその光景に私と曜ちゃんはうっとりしてしまう。


鞠莉「……すごく綺麗なんだけど、こんな見た目だから、悪い人からしたらいい獲物になっちゃうの。見てのとおり、普段は体を岩にすっぽり嵌めて、大人しいから尚更ね。だから、ここは基本的に立ち入り禁止なのよ」

曜「そうだったんだ……」


幼い頃から近づいちゃいけないと言われていた、この場所だけど。そんな理由があったんだ……。


千歌「それにしても、鞠莉さん! ホントに博士なんですね! すごいポケモンに詳しい!」

鞠莉「あはは、ありがと、千歌っち。でも、わたしもまだまだ未熟でね。……こんな事態になっちゃったのもわたしのせいだし……」

曜「そ、そんなこと……」

鞠莉「ふふ、二人ともそんなに気を遣わなくて良いのよ? わたしこう見えて歳もあなたたちと一つしか変わらないのよ? トレーナー歴で言うならかなり先輩かもだけど」

千歌「え、そうなんですか?」

鞠莉「若い新人女性博士だなんて持て囃されるけど……その実は経験不足な若輩者なのよ。だからこそ、今回あなたたちに旅に出ることをお願いしたのだけれど」

曜「鞠莉さん……」

鞠莉「……って、新人Trainerちゃんたちにする話じゃなかったわね! 早くロトムひっとらえて、研究所に戻りましょう」

千歌「は、はい」

16: 2019/04/28(日) 13:55:29.49 ID:WoQi+oWD0

ラプラスの背に揺られ、私たちは幻想な七色の星空を見ながら、ゆっくりと入江の奥へと進んでいく。





    *    *    *





鞠莉さんの言ったとおり、洞窟の奥に進むと陸が顔を出していた。

私たちはラプラスから降りて、洞窟の地面に足を下ろす。


曜「ロトムは更に奥に逃げ込んだみたいだね……。ラプラス、ちょっと窮屈かもしれないけど、ごめんね」
 「キュゥ」


曜ちゃんがそう言いながらボールにラプラスを戻す。

私は改めて洞窟を見回してみる。

薄暗い洞窟の中だけど、依然キラキラと光るメレシーたちが、天井に張り付いてぷるぷると震えているため、洞窟内は常に七色の優しい光に包まれている。

辺りには私たちが入ってきた場所同様、海から続いているのか波打つ水辺がいくつかあるけど、陸地自体はしっかりとした足場になっていて、歩いて探すのに不安はなさそう。

──ふと、そんな探索の視界の中に赤い欠片のようなものが落ちているのを見つける


千歌「ん、あれ……?」


私はそれに小走りで駆け寄って拾う。


鞠莉「モンスターボールの破片ね……」


私が手に取ったそれを、横から覗き込んで鞠莉さんがそう呟く。


曜「どうしてこんなところに?」

鞠莉「Hmm...」


曜ちゃんの言葉を受けて、鞠莉さんが辺りを見回す。


鞠莉「……二人とも、あそこを見て」


何かを見つけたのか、鞠莉さんが指を差して、私たちを促す。


千歌「……穴?」

曜「穴というか……窪み?」


鞠莉さんが指差した先には幅30cmほどの幅の窪みが壁に空いていた。


鞠莉「たぶん、ふらふら飛んでるロトムがあそこに嵌ってたメレシーにぶつかったんだと思うわ」

千歌「あ。あれって、メレシーが嵌ってた窪みなんだ!」

鞠莉「Yes. 個体によるけど……メレシーの特性は“がんじょう”だから、運悪くボールがぶつかって砕けちゃったんだと思うわ。ぶつけられたメレシーはびっくりして奥に逃げちゃったんだと思うけど……」


私の手からボールの破片を摘みあげて、鞠莉さんはそう言う。


千歌「え……そ、それじゃ中のポケモンは……」

鞠莉「たぶん外に放り出されてると思うわ。参ったわね……」

千歌「! ……しいたけ!」

17: 2019/04/28(日) 13:57:36.84 ID:WoQi+oWD0

私は腰からボールを取り出して、しいたけを外に出す。


 「ワフッ」
千歌「鞠莉さん、その破片もう一度貸してもらえますか?」

鞠莉「え、うん。いいけど……」


私は再度ボールの破片を受け取って、しいたけの前に置く。


千歌「しいたけ、“かぎわける”」
 「ワフ」


私の指示でしいたけはくんくんとボールの欠片の臭いを嗅ぐ。


 「ワフ」


しいたけが一回吼えてから、地面を嗅ぎながら歩き出す。


鞠莉「ち、千歌っち?」

千歌「たぶん、しいたけなら外に飛び出しちゃった子の臭いを嗅いで見つけられると思うんで! 曜ちゃんと鞠莉さんはロトムを探してください!」

鞠莉「で、でも……」

曜「鞠莉さん、ここって危険な野生ポケモンとかもいるんですか?」

鞠莉「……たまにSableyeが出るとは聞くけど……基本的にはメレシーだけよ」

曜「じゃあ、千歌ちゃんに任せましょう。千歌ちゃん、しいたけ、お願いねー!」

千歌「任せて!」
 「ワフッ」


私はガッツポーズを作ってから、洞窟の奥へと歩を進めていきます。





    *    *    *





鞠莉「ホントによかったの?」


鞠莉さんが私に尋ねて来る。


曜「ターゲットが二手に分かれちゃったなら、その方が都合がいいかなーって」

鞠莉「千歌っち、一人にしちゃって心配じゃないの? 幼馴染なんでしょ?」

曜「心配じゃないわけじゃないですけど……。でも千歌ちゃんはこういうとき、どうにかしちゃうんです」

鞠莉「どうにか?」

曜「子供の頃二人でトレーナーごっこって言って、町の外まで出てたことがあったんですけど……そのとき、たまたまオニスズメに襲われたことがあって」

鞠莉「……」

曜「そのとき、私ビックリしちゃって、あれだけ大人にポケモンを持たずに外に出るなって言われてたのに……どうして言うこと聞けなかったんだろうって……すっごい後悔しながら逃げ回ってたんだけど」

鞠莉「だけど……?」

曜「オロオロしてる私の前で、千歌ちゃんったらオニスズメに自分の羽織ってる上着被せて、身動きを取れなくして……」

鞠莉「それは……なんというか、度胸があるというか、無鉄砲と言うか……」

曜「まあ、結果としては、オニスズメが怒って仲間を呼んじゃって、結局群れに囲まれて更にピンチになったんですけど……」

鞠莉「Oh... よく無事だったわね」

曜「あはは……千歌ちゃんのお姉ちゃんが駆けつけてくれて、しいたけと一緒に追い払ってくれたんです」

18: 2019/04/28(日) 13:58:48.69 ID:WoQi+oWD0

その後、結局すごい怒られたんですけど、と私は笑いながら付け足す。


曜「でも、あのとき千歌ちゃんにどうしてあんなことしたのって聞いたら、こう言ったんです」

 千歌『チカも怖かったけど……曜ちゃんに何かあったら嫌だったから』

曜「千歌ちゃん、誰かが困ってたら放っておけないんです」

鞠莉「……」

曜「それが人でも、ポケモンでも放っておけない。千歌ちゃんってそんな人なんです」

鞠莉「……なるほどね」

曜「それで今回もどうにかしてくれる──と言うか止めても聞かないんじゃないかなって……まあ、今回はしいたけも一緒だし」

鞠莉「……確かにどちらにしろ、二手に分かれる必要はあったから、間違った選択ではないのだけれど……」


鞠莉さんの話を聞きながら、私は図鑑の表示を見て足を止めた。


曜「──鞠莉さん」

鞠莉「? What ?」

曜「近くに……います」


私はサッと図鑑の画面を鞠莉さんに見せる。

図鑑に表示されたマップには自分たちの現在位置を示すアイコンと、追いかけているロトム図鑑の赤い点滅が重なっていました。





    *    *    *





千歌「迷子のポケモンくーん?」


私はしいたけの後ろを付いていきながら、反響する洞窟内で声をあげる。


千歌「うーん……せめて、どんな名前かくらい、聞いて置けばよかったかな」


ロトムが手に持っていたのは両の手にボールを1個ずつ。それなら、2匹のうちのどちらかが今現在、迷子になってる子だと思う。

鞠莉さんなら、もちろん何のポケモンかは知ってるはずだから、それさえ聞けば……。


千歌「まあ、名前聞いただけじゃ、どんな見た目かわからないけど……ん?」


──ガンガン、

何か硬いものを打ち付けるような音が聴こえてくる。

その音を、辺りを見回しながら探していると──大きな岩の割れ目に、ガンガンと身体をぶつけているメレシーを見つける。


千歌「あわわ……なんかすごい頭ぶつけてる……」
 「ワフ」

千歌「もしかして、ロトムにボールをぶつけられて、逃げてきたメレシーかな?」
 「ワォ…?」


そんな風にしいたけと会話していると、

 「メ…」

メレシーと目が合う。

19: 2019/04/28(日) 14:01:23.53 ID:WoQi+oWD0

千歌「……?」


その目からは脅えてるような感じはしなかった。と言うか──


千歌「……怒ってる?」


次の瞬間、天井から──ゴッ、ゴッという重たい音が響く、


千歌「え、何……?」
 「ワオッ!!」

千歌「うわっ!?」


しいたけの声がしたかと思った途端、視界が揺れる。


千歌「し、しいたけ!!?」
 「ワフ!!」


気付くと私の身体を庇うように、しいたけが覆いかぶさっていた。

その上からは大小様々な石や岩が降ってきている。

──もしかして、メレシーに攻撃されてる!?


千歌「そうだ、図鑑!」


私はしいたけの下でうつぶせになりながら、ポケットに入れた図鑑を取り出した。

鞠莉さんはポケモンの技とかもわかると言っていた。メレシーの使ってる技を調べて対策を……。


 『メレシー 覚えている技 いわおとし』


千歌「“いわおとし”……!」


理由はわからないけど、メレシーが怒って攻撃してきている。

当のメレシーは完全に私たちを敵と認識したらしく、先程まで激しく頭を打ち付けていた、岩の窪にすっぽりはまってこちらに“いわおとし”をして来ている。


千歌「とにかく、どうにかしないと……!!」


遠距離攻撃でこっちの行動を封じられてるのが不味い。ならこっちも遠距離で……!


千歌「しいたけ! “つぶらなひとみ”!」
 「ワフ」


指示するとしいたけのもふもふの毛が軽く逆立って、目が露出する。

くりくりの目が。


 「メ…」


可愛い目で相手の戦意を削ぐ技、“つぶらなひとみ”

一瞬メレシーの攻撃が止む。


千歌「いまだよ! しいたけ、“たいあたり”!」
 「ワフッ!」


私の指示でしいたけが飛び出す。

大地を蹴って、

20: 2019/04/28(日) 14:02:39.68 ID:WoQi+oWD0

 「メッ!!」


しかし、メレシーはすぐに正気に戻ったようで、しいたけに向き直って、岩を飛ばしてくる。

──“うちおとす”だ!!


千歌「しいたけ!」
 「ワフッ!!」


しいたけは私の声に反応して、首を一振り。飛んできた岩を頭で弾き飛ばす。

しいたけの特性“ファーコート”は防御を著しく上昇させる特性。

小さな岩くらいでは体当たりの勢いが止むことはない!

 「ワォ!!」

ゴツン!! と言う鈍い音がする。

しいたけの“たいあたり”が炸裂した──んだけど


 「メ…」


岩の窪みにすっぽり嵌った、メレシーはびくともしない。


千歌「しいたけ! 大丈夫!?」
 「ワフッ!!」


有り難い事にしいたけは、自慢のファーコートのお陰で堅い岩にぶつかってもダメージが跳ね返ってくることはない。

だけど……。


千歌「ここからどうしよう……」


完全に膠着状態だ。

そのとき──


 「ヒノ…」


戦っている真っ最中のメレシーの岩の下から、微かにだけれど……か細い鳴き声が私の耳に届いてきた。





    *    *    *





 「ロトトトトトト」


──洞窟の中に鳴き声が響く。


曜「研究所の前で聞いた鳴き声……!」

鞠莉「ロトム!! どこにいるの!? 出てきなさい!!」

 「いやロトー」


鞠莉さんの声に返事が返ってくる。──返事?

21: 2019/04/28(日) 14:03:50.87 ID:WoQi+oWD0

曜「え、返事?」

鞠莉「要求は何!?」

 「週休8日制を要求するロトー あと、おやつを増やせロトー」

鞠莉「あんた、わたしの手持ちで一番おやつ食べてるじゃない!? いつもスターブライト号からポフィン横取りして!!」

 「あれは貰ってるだけロトー」

曜「理由しょうもなっ! というか、喋ってる!?」


機械の合成音声のような音で返って来る言葉が洞窟内に響き渡っている。


鞠莉「図鑑の機械音声を使って喋ってるのよ。コミュニケーションが取れるのはありがたいんだけど……なまじ頭がいいから、手に負えないわね……」

曜「鞠莉さんの手持ちなんですよね?」

鞠莉「むかしっから、なまいきな子で困ってたのよね……あんまり懐かないし……」

曜「…………」


思わず再度ジト目になる。


鞠莉「……最後通告よ、ロトム。ゲコクジョーなんて無駄な考えやめて、出てきなさい」


鞠莉さんの声が、水気を含んだ入江の洞窟内で何度も反響する。

私も改めて洞窟内を見回して、ロトムの姿を探してみる。

随分奥まった場所まで来たけど、視界の端にはちらほらと別の場所から入り込んだ海水溜まりが目に入る。

さっき千歌ちゃんが探していた子が、その水溜りに落ちていたらと考えると少しぞっとするけど……。

そんなことを考えながら、ロトムを探して視線を彷徨わせていると──


 「い・や・だ・ロトー!」


突然そんな声と共に洞窟の岩がフワリと空中に浮かんだ。


曜「!? な、なに!?」


──いや、違う。浮かんだのは岩じゃない!!


曜「メレシーが飛んでる!?」

鞠莉「“テレキネシス”か……あくまで抵抗するっていうのね」


どうやら、鞠莉さんの口振りからすると、ロトムが“テレキネシス”という技でメレシーたちを浮かせたらしい。

 「ロトー!!」

ロトムの声と共にメレシーたちが一斉にこっちに飛んでくる。


曜「わわ!?」

鞠莉「出てきて、キルリア、ポリゴン」


そんな状況に臆することもなく、鞠莉さんは腰からボールを2つ放つ。


 「キルゥー!」「ポリリ…」


ボールから、飛び出したポケモンが方や元気な声をあげ、方や角ばったポケモンが静かな鳴き声で低空を浮遊しながら飛び出す。


鞠莉「キルリア! “ねんりき”!」
 「キル」

22: 2019/04/28(日) 14:04:49.11 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが指示をするとこちらに飛んできたメレシーたちが空中で止まる。


 「ロトトトト! 止められてしまったロト! でも、また逃げればいいロトー!」


再び声が響き渡る。


鞠莉「ふふ、ロトムったらおばかさんね~」

 「ロト…?」

鞠莉「せっかく隠れてるのに、“テレキネシス”で浮かせたメレシーをこっちに飛ばしてきちゃったら……飛んできた方向の先にいるって言ってるようなものよ?」

曜「あ、確かに……」


浮かび上がったメレシーはたくさんいたけど、それはほぼ私たちの前方で浮いていた。

それが私たちに向かって飛んできたということは、そのメレシーたちを挟んで向かい側にロトムは潜んでいるということで……。


 「ロ、ロト!?!?」


メレシーたちが飛んできた方向の先に向かって、鞠莉さんは指を指す。


鞠莉「ポリゴン! “じゅうりょく”!」

 「ポリ…!」


さっき指示を出さなかった角ばった方のポケモンが、一瞬鈍く光ったと思ったら、

──鞠莉さんの指差した方向の天井から板状の何かが落ちてきた。


 「ロ、ロトー!!」

曜「ロトムだ!」


左手……の様な部位にボールを1個持っている!


鞠莉「ロトム……よくも好き勝手やってくれたわね……」

 「ロ、ロトー! 来るなロトー!」


ロトムはポリゴンの重力を受けて、地面でばたばたとのた打ち回っている。


 「そ、そうだロト!! ポイー!!」

鞠莉「なっ」


ロトムは思いついたかのように持っていたボールを投げ捨てる


曜「あ……!」

 「さぁ、マリー早くボールを追いかけないとロトー」

鞠莉「次から次へと……!!」


そのボールはカツンカツンと音を立てながら転がり、入江内の洞窟に出来た大きな海水溜りへ──


曜「ま、まずい……!!」


私は思わず飛び出した。

──“じゅうりょく”下だから、このままだとボールが沈んでしまう。

23: 2019/04/28(日) 14:05:36.74 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「よ、曜っ!?」

曜「鞠莉さんはポケモンへの指示を!」

 「ロト!? 邪魔するなロトー!!!?」


私はロトムの脇にある海水溜りに一直線に走る。

──走る。

だが、転がったボールは縦穴の中にコロコロと

転がって……。

ポチャン──


曜「……!!」


私は思わず腰からラプラスのボールを穴に向かって投擲する。

 「キュウゥー!!」

ボールから飛び出したラプラスが本当にギリギリ入れるくらいの穴。


曜「ラプラス!! 潜れる!?」
 「キュゥー!!」

曜「よし、いくぞー!!」


私は走りの勢いのまま、水へ飛び込んだ。


鞠莉「曜、待って──!!?」


飛び込む最中に、背後では鞠莉さんが、声をあげたのが聴こえた気がした。





    *    *    *



24: 2019/04/28(日) 14:06:30.21 ID:WoQi+oWD0


──水の中は静かだった。

私はラプラスの背に掴まって、真っ直ぐに縦穴を潜っていく。

この狭い穴では、身体の大きなラプラスじゃ、水底に落ちたボールを拾い上げて浮上することは難しい。

そうなると──

私が助けなきゃ……!

海水の中で目を開ける。

──暗い。

ここにはメレシーがほとんどいない。

つまりほとんど光源がない。

いわタイプは水の中は苦手だからかな。

私の中で焦りが芽生える。

見切り発車過ぎたかもしれない。

──でも、私も助けたい。

無鉄砲に皆を助ける幼馴染のように。

……ラプラスが止まる。

水底に着いたようだ。

私はラプラスの身体を伝いながら、水底に手を伸ばす。

手で探る。

手繰る。

でも、私の手は砂や岩肌を攫うばかりで、ボールが見つからない。

──お願い。

お願い。

息が苦しくなってくる。

お願い、お願いだから──。

──コツン──

水底を攫う指に何かが当たる。


曜「……!!」


私はソレを掴む。

後は戻──。


 「メレ!!!」


瞬間、何かの鳴き声と共に、目の前が突然激しく光る。


曜「──!!!??!?」


私は驚いて、思わず水中で息を吐いてしまった。


曜「……がぼっ……!!」

25: 2019/04/28(日) 14:07:15.33 ID:WoQi+oWD0

口の中に海水が流れ込んでくる。

とてつもない塩気が口内を満たしていく。

──不味い。

不味い。

目の前が暗くなっていく。

息が──

…………。

だ……め……。

だめ……だ……!!

この子は……この子だけは……助け……る……!

手を伸ばす……。

ラプラス……この子だけ……でも……。

外に……連れて……。

手の中でボールが揺れている…………。

ごめん……わた……し……。

……。


──ボム。


落ちていく意識の端で──聞き覚えのあるような音を聞いた気がした。





    *    *    *





鞠莉「曜……!! 曜!!」


わたしは僅かに気泡の浮かぶ水面を覗き込んで叫ぶ。


 「ロ、ロト…ここまでするつもりじゃ……」


端で無責任な発言をしているロトムを振り返って、


鞠莉「ロトム!! 曜の図鑑サーチ!!」
 「ロトト!?」


指示を出す。


鞠莉「早く!!」

 「た、たぶん縦穴の底に……」

鞠莉「そ、そんな……」


絶望的な言葉。わたしは……わたしはなんてことを……。


鞠莉「今いくから……!!」

26: 2019/04/28(日) 14:08:25.68 ID:WoQi+oWD0

白衣を脱いで、海に飛び込もうとする。

 「キ、キルゥー!!」

キルリアが腰にすがりついてくる。


鞠莉「キルリア!! 放しなさい!!」

 「無理ロト…人間が一人で潜るのは」

鞠莉「じゃあ、曜はどうなるの!!? わたしが、わたしが連れてきたから……!!」


わたしは思わずへたり込む。


鞠莉「何が……何が博士よ……。何も、何も出来てないじゃない……!!」

 「ロト…」

鞠莉「……一番足引っ張ってるの……わたしじゃない……」

 「……マリー……。……!! 図鑑の反応!!」


突然ロトムが声をあげた。


鞠莉「!?」

 「どんどん昇ってくるロト!!」


ロトムの言葉と共に

水面から──何かが顔を出した。


 「ゼニィー!!」

鞠莉「ゼニ……ガメ……」


その水面からは水色のカメポケモン──曜か千歌に渡すはずだった最初のポケモン。

そして、飛び出したゼニガメの頭上には──


曜「…………ぅ……」

鞠莉「……曜!!」


わたしはすぐに、ゼニガメの掲げた両腕の上に持ち上げられている曜を、水から引っ張りあげる。

曜は気を失い、ぐったりとしていた。


鞠莉「曜!! 曜!! しっかりして!!」

曜「ぅ……げほっげほっ……」


ちゃんと、息はある……!!


鞠莉「曜……!! よかった……!」

曜「ぅ……鞠莉……さん……私……」

鞠莉「もう……!! あんな無茶して……!!」

曜「……光って、溺れ……て……あ……、……あれ……“マジカルシャイン”……かな……? 私……助かって……? ……ラプ……ラス……?」

27: 2019/04/28(日) 14:09:46.41 ID:WoQi+oWD0

途切れ途切れな言葉で曜はラプラスに呼びかける。

気付くと水面に上ってきたラプラスが曜に首を伸ばして、曜の顔に頬ずりをしていた。

 「キュゥゥ…」

そして、ラプラスは首を振る。


曜「じゃあ、誰が……」


曜が力なく辺りを見回すと。

 「ゼニィ」

ゼニガメが水から出て、曜の傍に寄り添ってくる。


曜「あ……そっか、君が、助けてくれたんだ……」
 「ゼニ」

曜「あはは……君、みずタイプだったんだね。……じゃあ、最初から大丈夫だったんだ」
 「ゼニィ…」


そうやり取りする一人と一匹を見て、わたしは驚きを隠せなかった。


鞠莉「ゼニガメ……どうやってボールから……」

 「……感情を強く揺さぶられたポケモンが、思わず自らボールを飛び出す、と言うのはよく聞く話ロトー」


わたしの疑問にロトムが勝手に答える。


曜「……ゼニガメ……ありがと」
 「ゼニ」


曜の助けたい気持ちを感じたゼニガメが、逆に曜を助けるためにボールから飛び出した……。


曜「えへへ、よかった……」


曜がくたりとする。


 「ゼニィ…!」 「キュゥ…」

曜「ごめん……少し疲れた……だけ、だから……。……」


そういって、曜は静かに寝息を立て始めた。

わたしはさっき脱ぎ捨てた白衣を拾って、曜の体に掛ける。


 「いい話ロト…」


未だ重力の影響を受けたまま、地面で感動しているロトムを見下ろす。


鞠莉「……あなた、これで丸く収まったと思ってる?」

 「…ロト!?」

鞠莉「わたしも甘やかしすぎた……今後こんなことがないようにしないとね」

 「ぼ、ぼぼぼ、暴力反対ロト…!!」

鞠莉「…………言い残したことはそれだけ?」

 「……。……仕方ないロト。罪を償う……ロト」


ロトムが潮らしく萎縮する。

28: 2019/04/28(日) 14:11:00.64 ID:WoQi+oWD0

 「なんて言うと思ったロト!?」


──刹那、わたしに両手を向けて、攻撃の態勢を取った。

“10まんボルト”の姿勢。

──……残念ながら、不発したけど。


 「ロ、ロト!? な、なんで攻撃が出ないロト!?」

鞠莉「ふふ、ロトム。せっかくの図鑑機能なんだから、それ使ってキルリアの技を確認してみなさい」

 「? キルリアの技なら、“ねんりき”、“でんじは”、“10まんボルト”、“ふういん”。……“ふういん”?」

鞠莉「“ふういん”ってどんな技でしょうか?」

 「そんなの簡単ロト! 自分が覚えてる技が周りのポケモンも使えなくなる……ロ…ト…」

鞠莉「はい、よく出来ました♪ さすがポケモン図鑑ね♪」

 「“テレキネシス”!! “テレキネシス”!!」


ロトムが叫ぶ。


鞠莉「まだポリゴンが“じゅうりょく”を発動中だから、“テレキネシス”は使えないわよ」

 「マリー、仲良くしようロト」


わたしはロトムにニッコリと微笑みかける。


 「鞠莉ちゃん」

鞠莉「ロトム」

 「鞠莉様」

鞠莉「少し頭を冷やしなさい。ポリゴン“シグナルビーム”」
 「ポリッ」


ポリゴンから七色のビームが発射して、


 「ロドドドドドド!!!?!!」


洞窟内にロトムのイルミネーションが眩くShinyした。





    *    *    *





しいたけとメレシーが頭を押し付けあって、膠着している中。


千歌「い、今の鳴き声、まさか……!?」


私はメレシーの岩の下に目を向ける。

──最初あのメレシーを見つけたとき、ガンガンと岩の隙間に向かって突進していたのを思い出す。


千歌「……攻撃してたんだ……」


自分にぶつかってきた、他所から来たポケモン。ボールから飛び出してきたポケモンに怒って……!!


千歌「じゃあ、あの下には!!」

29: 2019/04/28(日) 14:12:07.33 ID:WoQi+oWD0

私は思わず、走り出す。

そして、岩にくっついて声をあげる。


千歌「ごめん……!! ずっと一人で逃げてたんだね……!!」


岩の隙間に向かって。


 「メ…!!」


突然視界に現れた私の姿に、メレシーが驚いて攻撃の姿勢を取る。

 「ワフッ!!」

──ガスン!!

それを止めるように、しいたけが頭を振って、メレシーに“ずつき”をしてひるませる。


千歌「今、助けるからね……!!」


私はメレシーの下に空いた僅かな岩の隙間に手を入れようとする。


千歌「せ、狭っ……」


けど、ギリギリ腕は入る。

私は隙間の中を手で手繰る。

すると──ふわりとした感触に当たる。


 「ヒノ…!!」


感触と共に鳴き声がした──と思った、その瞬間。


千歌「熱っ……!!」


──ボフっと、小さく“ひのこ”が爆ぜた。

 「ワフッ!!」

千歌「……大丈夫。しいたけ、もうちょっと」
 「ワフ!!」


しいたけは私の言葉に応えるように、今度は“かみつく”でメレシーをひるませる。

それを確認してから、私は岩の隙間に向かって、出来るだけ優しく声を掛けた。


千歌「ごめんね……。研究所にいたのに、突然こんなところ連れてこられて……初めて見る野生ポケモンに追いかけられて、怖かったよね……」
 「ヒノ…」

千歌「震えてたね……すっごい怖い思いしたんだよね……。ごめんね。もう少し早くチカたちが研究所に来てれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに」
 「…………」

千歌「……でも、もう大丈夫だから……今助けるから……!!」

 「…メェ!!」


──その瞬間、突然メレシーが激しく“フラッシュ”した。

全く警戒していなかった為、激しい光によって至近距離で目を焼かれる。


千歌「い゛……!!!」


思わず声をあげそうになったけど──

30: 2019/04/28(日) 14:13:22.09 ID:WoQi+oWD0

千歌「……ぐっ」


堪える。


 「ワンッ!!」

千歌「しいたけ……大丈夫……!!」


私はしいたけを落ち着かせる。

かくいう、しいたけは無事のようだ。普段から目が隠れてるのが功を成したのかも。

私は霞む視界のまま、再び岩の割れ目に手を伸ばす。

切り立った岩肌で、手や腕に引っかき傷が出来るのを感じる。

でも、伸ばす。

私がここで痛がったり、大声をあげたら、この子が不安になっちゃうから。

今怖がってるこの子を不安にさせちゃいけない。

今この手を引っ込めるわけにはいかない。

だって、だって──


千歌「私はキミのパートナーだから……!!」
 「ヒノ…!」


再び柔らかい感触が手を撫でる。


千歌「これからは……私が守るから……!!」


撫でた手の先で……キミの震えが止まる。


千歌「私の言うこと……聞いてくれる……?」
 「ヒノ…」


岩の隙間で丸まったキミが、僅かにもぞもぞと動くのがわかった。

……今度は熱くない。


千歌「ありがとう……」


私は岩の隙間からそっと手を引き抜いて。


千歌「──私が合図したら、さっきの炎で思いっきり!! できる!?」
 「ヒノォー!!」


私の指示に呼応するように鳴き声が響く。


千歌「よし、しいたけ!! “ほえる”!!」
 「ワォンッ!!!!」


しいたけが大きな声が吼えると、

 「──!!!?」

驚いたメレシーが一瞬勢いを止める。


千歌「いまだよ!! 思いっきり!!!!」


私は叫んだ、私のパートナーに向かって、

31: 2019/04/28(日) 14:14:10.49 ID:WoQi+oWD0

 「ヒノォーーーーーー!!!!」

 「メメメ──!?!?!!!?」


メレシーの直下の岩が赤く光ったと思った直後

そこから激しい炎柱が立ち上り、

 「メェーーー!!!?」

メレシーを打ち上げた。


千歌「いっけぇーーーー!!!」


まるで“ふんか”のように噴出すその炎は

 「ヒノォオオオオオ!!!」

私の声に呼応するように更に勢いを増して、


 「──!!!!!!!?!?!?!?」

そのまま、メレシーを天井まで突き上げた。

メレシーはガスン、と鈍い音を立てながら天井にぶつかった後、

 「メ…レ…」

床に落ちて、目を回してひっくり返り、大人しくなった。


千歌「……か、勝った……」


私はよろよろと岩の隙間に近づいて、手を伸ばす。

炎の余熱で少し熱かったけど、それよりも今は……。


千歌「ありがとう……キミのお陰で勝てたんだよ……」


岩の隙間で丸まっているキミを抱き上げた。


 「ヒノ…」


もふもふとした、キミを抱き上げて。


千歌「帰ろっか」


優しく撫でながらそう語りかけた。


 「ヒノ…」


キミはもぞもぞと丸まった体を伸ばして、顔を出す。


千歌「ふふ、キミの目もしいたけみたいだね」


可愛らしくつぶったままの目を見て、私は思わず笑ってしまった。





    *    *    *



32: 2019/04/28(日) 14:15:06.67 ID:WoQi+oWD0


鞠莉「千歌っちーーー!!」


鞠莉さんの声が遠くから聞こえてくる。


千歌「あ、鞠莉さーん!! こっちー!!」


声をあげると鞠莉さんが、曜ちゃんをおんぶしたまま、私の元に走ってくる。


千歌「って、よーちゃん!?」

鞠莉「気を失ってるだけよ。それにしても、よかった……。爆発音が聴こえたから、心配したのよ?」

千歌「あ、えへへ、ごめんなさい……」

鞠莉「もう煤だらけじゃない……」


鞠莉さんは私の身体についた黒い煤を見てから、


鞠莉「……無事見つかったみたいね」


私の腕の中にいる子を見て、そう言った。


千歌「はい。……ちょっと怖い思いさせちゃったみたいだけど……」
 「ヒノ…」

鞠莉「……大丈夫よ」

千歌「?」

鞠莉「だって……“おくびょう”な性格のヒノアラシが、今あなたの腕の中でそんなに安心してるんだもの……」


鞠莉さんはそう言ってから、私に向き直って。


鞠莉「千歌……本当にありがとう……」


そうお礼を言ってくれました。


千歌「えへへ……はい!」





    *    *    *





曜「ん、んぅー……」

千歌「あ、曜ちゃん!」


入江の外へ繋がる海の上をラプラスで航行している最中、曜ちゃんが目を覚ます。


曜「あ……千歌ちゃん……」

千歌「曜ちゃん、お疲れ様」

曜「うん……あ、あれ? ゼニガメは……」


曜ちゃんが半身を起こして、辺りをキョロキョロとする。

33: 2019/04/28(日) 14:16:25.76 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「大丈夫、そこにいるわ」


鞠莉さんが曜ちゃんの視界に入るように視線で、水面の方を指す。

そこではゼニガメが、辺りを警戒しながら泳いでいた。


曜「あはは、まだ警戒をしてくれてるんだね。……ありがとーゼニガメー!!」


曜ちゃんが声を掛けると、気付いたゼニガメが背面泳ぎになって

 「ゼニー」

曜ちゃんに向かって手を振る。


曜「……あ、そうだ! 千歌ちゃんの方は──」

千歌「うん、大丈夫。ほら」
 「...zzz」


私の腕の中でのんびりお昼寝をしている、ヒノアラシを見せる。


曜「ほっ……よかったぁ……」


それを見て、曜ちゃんが安堵する。

間もなく、入江の外が近くなってきて、外の光が洞窟の中に差し込んできた。

そのとき、


鞠莉「二人とも……」


突然、鞠莉さんが立ち上がった。


鞠莉「……今回は本当にごめんなさい。わたしの不手際のせいで……危ない目にあわせてしまって」


鞠莉さんはそう言って頭を下げる。


千歌「い、いや、付いていくって言ったのは私たちですし……!」

曜「そうですよ! それにロトムを止めたのも鞠莉さんだったし……」

鞠莉「そういう問題じゃないの……これは大人として、ちゃんと反省しなくちゃいけないことだから……」


依然、頭を下げて謝罪する鞠莉さんを二人で必氏にフォローしようとしていると──


 「──全くその通りですわ」

千歌・曜「「!?」」


入江の外から、洞窟内に向かって、聞き覚えのある声が木霊した。

声のする方に目を向けると、細長い体躯で海を悠然と泳ぐポケモンの上に、毅然と立ちながら黒いロングの髪を潮風にはためかせて、こちらを見据える女性が一人。


 「……事情を説明して頂けるかしら? オハラ博士?」

鞠莉「...Oh. 思ったより早かったわね……」


──私と曜ちゃんはその光景を見て、思わず顔を見合わせて声をあげてしまった。


千歌・曜「「──ダイヤ先生!?」」


34: 2019/04/28(日) 14:17:44.91 ID:WoQi+oWD0



>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】
no title


 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:7匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:2匹


 千歌と 曜は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




35: 2019/04/28(日) 17:52:25.74 ID:WoQi+oWD0

■Chapter003 『オハラ研究所』





ダイヤがこちらに向かって鋭い眼光を向けている。

長い付き合いだからわかるのだけど、あれは結構怒っているときの目だ。

参ったなぁ……だから、ダイヤにバレる前にSolution──解決しちゃいたかったんだけど。

良い言い訳も思い浮かんでないし……。


ダイヤ「わたくしの可愛い生徒達に何かあったら、どうするつもりでしたの? 回答によっては──」


ダイヤの冷たい声が響くと共に、ダイヤをここまで泳いで運んできたミロカロスが、トレーナーとシンクロするかのように冷たく睨みつけてくる。


千歌「ま、待ってダイヤさん!」

曜「これは私たちが勝手に付いて来ただけで……!」


二人が再びフォローを入れてくれるが、


ダイヤ「今は貴方達には聞いていません。これはあくまで監督者側の問題ですわ」


そう言って、一蹴する。Umm...相変わらずVery hardだネ……。まあ、その意見はわたしも概ね同意なんだけど。


鞠莉「……反省はしてるつもり。でもとりあえず、今はここを出てからにしない? 説教なら研究所で聞くから」

ダイヤ「…………。……はぁ……まあ、いいでしょう」


ダイヤは嘆息してから、ミロカロスに目配せする。

言葉を発さずとも察したミロカロスが、ラプラスの横に付けて併走──いや、泳いでるから併泳かしら?──しだす。


千歌「あ、あの……ダイヤ先生……」

ダイヤ「学校の外ですから、いつも通りでいいですわよ」

千歌「あ、はい、ダイヤさん」


先生と言ってもダイヤは千歌たちとは一歳差。

トレーナー歴ではかなりの先輩になるけど、基本は地元の幼馴染みたいなものだものね。


ダイヤ「それにしても……二人ともずぶぬれに煤だらけ……危険なことをしては、ダメではありませんか」

曜「ご、ごめんなさい……」

ダイヤ「はぁ……貴方達は二人揃って昔から無鉄砲でしたわよね……。お母様も貴方達の先生をやっている間は手を焼いたと言っておりましたわ」

千歌「うぅ……」


ダイヤは息をするように生徒達に説教を始める。


ダイヤ「ただまあ……」

千歌「?」
 「ヒノ……zzz」


ダイヤは千歌っちの腕の中で眠るヒノアラシと、

36: 2019/04/28(日) 17:53:35.15 ID:WoQi+oWD0

 「ゼニガーー」


ラプラスの前方を警戒しながら泳ぐゼニガメに目を配らせてから、


ダイヤ「良き出会いに恵まれたようですわね」


優しい口調で二人に語りかける。


千歌「えへへ……」

曜「ヨーソロー!」


そんな三者の姿を見て、反省中にも関わらず、思わず笑ってしまう。


鞠莉「──ふふ……なんだかんだで、すっかり良い先生じゃない」


わたしはダイヤに聴こえないように、そんなことをこっそりと呟いたのだった。





    *    *    *





千歌「ところでダイヤさん」

ダイヤ「なんですか?」

千歌「どうやって、私たちが入江にいるってわかったんですか?」


私はダイヤさんに疑問をぶつける。


ダイヤ「噫……それはですね」


ダイヤさんがそう言って腰からボールを放る。

ボールからは、さっきから何度も目にしていたポケモンと同じ姿──


 「メレ…」

曜「あ、ボルツ」


──ダイヤさんの手持ち、メレシーのボルツが顔を出した。

その頭には目立つ真っ黒な宝石がキラキラと光っている。


ダイヤ「この子が教えてくれたのよ。この子がタマゴから孵ったのも、この洞窟だからかもしれないのだけれど……この洞窟で何かあるとすぐに気付くのよ」

千歌「そうなんだ……」

 「メレ…」


聞いてぼんやりと関心する私の傍にボルツがふわふわと近付いてくる。

学校では先生の手持ちとして、授業のサポートもしていた子なので、私も曜ちゃんも顔見知りなわけで……。

──でも、ここ最近は旅の準備で会ってなかったから、


千歌「ボルツ、久しぶりだね」


私はそう挨拶した。

37: 2019/04/28(日) 17:55:49.07 ID:WoQi+oWD0

 「メレ…」


ボルツは軽く一鳴きすると、『千歌の反応は確認した』とでも言わんばかりに、ふわふわと私の傍から離れてダイヤさんの元へと戻っていく。


ダイヤ「ごめんなさい、相変わらずぶっきらぼうな性格でして……」

曜「あはは、なんかこの感じ懐かしいなぁ」

千歌「あ、そういえば……“ボルツ”の名前って」

 「メレ…?」


私は振り返って入江の洞窟の奥の方を見る。

出口に近付くほど数は減ってきたが、遠方に先ほど見た宝石の星達の瞬きが目に入る。


千歌「不思議な響きだなって、学校にいるころから思ってたけど……もしかして、その子の体の宝石に関係があるのかなって」

ダイヤ「……驚きましたわ。あの千歌さんがそのようなことに気付くとは……確かにボルツはこの子の宝石の種類が由来ですわ」

千歌「む、それどういうことですか」


私は先生の失礼な物言いに、怪訝な顔をする。

一方ダイヤさんは鞠莉さんの方をチラリと一瞥。

すると、鞠莉さんは、


鞠莉「まあ、一応これでも博士だからね? ちょっとした課外授業よ」


そうおどけて言う。


千歌「メレシーたち、いっぱいいるけど……皆、個性的に光ってて……もしかして、ダイヤさんのメレシーも……うぅん、ルビィちゃんのメレシーも琥珀先生のメレシーもニックネームがあったから、そこから付けてるのかなって」

曜「あー確かに……琥珀先生のオレンジの宝石のメレシーはそのまんま、アンバーだったもんね」

ダイヤ「ええ、その通りですわ。少し考えはしたのですが……何せわたくしの名前がダイヤでしたので、ダイヤモンドと付けるのも分かり辛いかと思いまして」

鞠莉「ブラックダイヤモンドって言う黒いダイヤのことをボルツって言ったりするのよ」

ダイヤ「そこから名前を貰って、ボルツと名付けました」

曜「じゃあ、ルビィちゃんのメレシーも?」


そう言う曜ちゃん。

ルビィちゃんの持っているメレシーは、コランと言うニックネームだ。


ダイヤ「ええ、コランもルビーの含有物のコランダムから名前を貰って、ルビィが自分でそう名付けたようですわ」

曜「へぇ……なんか学校のメンバー、花丸ちゃんと私以外、皆ニックネームの付いた手持ちがいるんだね……ラプラスにもニックネーム付ければよかったかな? ……ヨーソロー丸とか?」

千歌「そ、それはどうだろう……」

 「キュウゥゥ・・・」


曜ちゃんのネーミングセンスを聞いて、ラプラスも困り顔になる。


ダイヤ「ふふ……まあ、ニックネームですと、どのようなポケモンなのかは他の人には分かり辛くなってしまいますし。クロサワの家は代々メレシーも子へ継ぐと言う習わしがあるため、ニックネームがないと区別が出来ないから付けてるだけですのよ」


そんな話を聞いて、しいたけもそうなのかな? ……と、少しだけ思ったけど。

たぶん、トリミアンと呼んでも周りが混乱するからニックネームを付けていたんだろうな、などと思い私は一人で苦笑い。

──さて、そんな話をしながら気付けば、私たちは入江を抜けて、アワシマへと再び辿り着こうとしていた。


38: 2019/04/28(日) 17:57:27.31 ID:WoQi+oWD0



    *    *    *





──さて、オハラ研究所に戻るや否や。

ダイヤさんは鞠莉さんを床に正座させ、


鞠莉「Seiza? ここ床なんだけど……」

ダイヤ「いいから正座なさい」


……正座させ、私たちをほっぽりだして、説教を始めました。


ダイヤ「今回のことに関して、貴方がどうしてもと頼むから、わたくしも承服したのですわよ? その辺り、わかっているのですか?」

鞠莉「……」


鞠莉さんが苦い顔をする。


ダイヤ「そうでもなければ、わざわざ危険な旅に自分の生徒を送り出すと御思いなのですか? 貴方は?」

鞠莉「それはわかってる……Sorry.」


鞠莉さんが再び潮らしく謝罪する。ただ、一方的に捲くし立てられるのが気に入らなかったのか、


鞠莉「……でも、ダイヤもこの話を持ちかけたときは喜んでたじゃない。生徒の門出だ、なんて言って」


そう呟く。


ダイヤ「……そ、そんなことあったかしら……?」


ダイヤさんは図星を指されたのか、少し赤くなってホクロを掻く──ダイヤさんが誤魔化すときの癖です。


ダイヤ「だ、第一、なんでわたくしの生徒四人、余すことなく皆旅に出るのですか!」


重ねて誤魔化すように、ダイヤさんはそう言って声を荒げる。

その口調に鞠莉さんは更にムッとした顔をして、


鞠莉「それはダイヤの教え子が少ないからでしょ!」


反論。


ダイヤ「新米教師なんだから仕方ないではないですか!? それにこの辺はそもそも子供も少ないのです! それくらい貴方も知っているでしょう!?」

鞠莉「だーかーら、ダイヤにお願いしたのよ!! この辺りで旅に出る子供紹介して貰うんだったら、学校しかないじゃない!!」

ダイヤ「貴方も研究者なら、ここまでにコネの一つでも作れなかったのですか!?」

鞠莉「しょうがないでしょ! 研究所設立のアレコレで手一杯だったのよ!? と言うか、そこらへんはダイヤも知ってるでしょ!?」


二人が子供みたいな口喧嘩を始める。


千歌「……」
 「…ヒノォ…ッ…」


私は腕の中であくびをするヒノアラシを撫でながら、博士と先生の口論をぼんやりと眺めていた。

39: 2019/04/28(日) 17:58:54.13 ID:WoQi+oWD0

曜「……それにしても、鞠莉さん、先生と知り合いだったんだね」

千歌「あ、うん。それも結構仲良さそうだよね」


横で私と同じように行く末を眺めていた曜ちゃんが耳打ちしてくる。


ダイヤ「このような危険なことに巻き込むのでしたら、今後ルビィと花丸さんを旅に出すのは反対ですわ!」

鞠莉「う……だから悪かったって言ってるじゃない……反省もしてるわ……」

曜「あ、あのー……ダイヤさん、私はこの通りピンピンしてるから……」


詰問され続ける鞠莉さんを見かねてか、曜ちゃんが割って入るが、


ダイヤ「曜さんは黙っていてください! 今はこの人と話をしているので」

曜「は、はいっ! 失礼しましたっ!」


すぐに回れ右して戻ってくる。


千歌「……長くなりそうだね……」


ダイヤさん、お説教始まると長いんだよね……。

 「…ヒノ」

そんなことを考えていたら、腕の中でまたヒノアラシが眠そうにあくびをした。





    *    *    *





ダイヤ「──第一呼ばれて来てみたら、研究所には誰もいませんし、最初のボールも6つのうち4つがなくなっているし、最初と約束が全然違うではありませんか!」

曜「……? なんの話だろう」

千歌「……さぁ?」

ダイヤ「……なんですって?」


首を傾げる私たちに、ダイヤさんはピクリと反応して、こちらに視線を向けてくる。


千歌「ひぃ!?」

ダイヤ「まさか、鞠莉さん! そのことも説明していなかったのですか!?」

鞠莉「Wait! Wait! それは予め説明してたヨ!」

曜「なんの話ですか……?」


このままじゃ本当に埒が明かないと思ったのか、曜ちゃんが質問する。


ダイヤ「今回旅立つ新人トレーナーは6人……という話は前に話しましたわよね」

曜「あ、はい」

ダイヤ「それに当たって、人数分の初心者用ポケモンと図鑑を用意して頂いたのですが……」

千歌「……あ、言われてみれば私たち、ヒノアラシとゼニガメにしか会ってないね」

ダイヤ「その通りですわ。……わたくしは公平性を欠かないように最初のポケモン選びは3人ごとに集まって、相談して選んで決めて貰うようにお願いしたではありませんか!!」

鞠莉「Wait! Wait! それもちゃんと理由があるのよ!」

40: 2019/04/28(日) 18:01:46.82 ID:WoQi+oWD0

激昂したダイヤさんに襟首を掴まれて、慌てて弁明する鞠莉さんとの会話を聞いて、私も今朝曜ちゃんとした話を思い出す。


千歌「そういえば、最初のポケモンってどうして3匹のうちから1匹を選ぶんですか?」


別に選ばせてくれるんだったらもっと多くてもいいし、貰えるって言うんだったら、いっそ選べなくても文句はないのに、なんで決まって『3匹から1匹』なんだろ?


ダイヤ「まずはポケモンタイプ相性に慣れてもらうため、初心者でも扱いやすい、くさ、ほのお、みずの3つのタイプから選んで貰って渡す。これが理由の一つですわ。自身で決めてタイプを選ぶことによってポケモンに相性があることを強く認識してもらうためですわね」

鞠莉「もう一つは、研究者側の理由なんだけど……最初にポケモンを渡すのはデータ収集の目的もあるから、育成のデータに初期状態から大きくブレが出ないように、出来るだけタマゴから孵化した時期の近い3匹を厳選する。更に出来るだけトレーナーも歳の近い3人に渡すのよ」

ダイヤ「それがわかっていて、なんでここにくさタイプを選んだ子がいないのですか!?」

鞠莉「Oh stop DIA!!」


再び鞠莉さんを睨みつけながら、怒るダイヤさん。


鞠莉「くさタイプを選んだ子は朝一番、研究所の戸を開けたらすぐ外で待っていたから、そのとき渡したのよ!」

ダイヤ「あ・な・た……人の話を聞いておりましたの!? それが平等性に欠けると言う話をしていて……!!」

千歌「ダ、ダイヤさん、ちょっと落ち着いて!!」

ダイヤ「……考えてみれば、千歌さん! 貴方も貴方ですわ!! あれほど、クロサワの入江には近付くなと言っていたのに、どうして付いていったのですか!?」

千歌「うわっ!? 飛び火した!?」


思い出したかのように、突然話題を切り替えたダイヤさんに詰問される。

びっくりして、私が飛びのくと腕からヒノアラシがころころと研究所の床に転がり落ちる。


 「ヒノ…」

千歌「あわわ、ヒノアラシ! ごめんね!」


床の上で丸くなって、ヒノアラシがボールのようにころころと転がっていく。

私はすぐにヒノアラシを再び抱き上げる。


 「ヒノォ…」

千歌「……大丈夫?」


私が撫でるとヒノアラシは再び丸めた体を伸ばして、あくびをする。

大丈夫みたいだ。


ダイヤ「…………」


気付くと、ダイヤさんが少しバツの悪そうな顔をしていた。

自分が怒鳴った勢いでヒノアラシを落としてしまったからだろう。


曜「とにかく、ダイヤさんも、鞠莉さんの話を一度聞きましょう? このままじゃ話進まないし……」

ダイヤ「は、はい……そうですわね」


ダイヤさんはやっとクールダウンしたのか、少し赤くなって俯く。


鞠莉「──今回旅立つのは最初にも言ったけど、6人。そのうち2人はウラノホシの外から来た子なんだけど……」

ダイヤ「まあ、ルビィと花丸さんがポケモンを貰ったという話は聞いていませんから、察するにそのお二方が先に貰いに来たということなのでしょうけれど……」

鞠莉「ま、結論から言っちゃえばそうなるわ」

ダイヤ「それで……納得の行く理由なのでしょうね?」

鞠莉「んー……そうね」

41: 2019/04/28(日) 18:03:55.99 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが少し、顔を顰める。


鞠莉「とりあえず、千歌と曜がいるから、先にそっちの3匹のうち1匹についてね。さっきも言ったけど、ここにはいないもう一人の子が朝一で受け取りに来たのよ」

ダイヤ「それで言われて渡してしまったのですか?」

鞠莉「まさか。わたしも最初は断ったわよ」

曜「それで引き下がらなかったってことですか……?」

鞠莉「そういうことね。……今すぐにでも旅に出たい……というか、何か切羽詰ってる感じがしたから」

ダイヤ「切羽詰っている感じ?」

鞠莉「『私には時間がないんです』って」

ダイヤ「……ああ、そういえば……その子は他の地方から来た良家のご子息と言う話だった気がしますわ」

鞠莉「……なにそれ初耳なんだけど? なんでダイヤが知ってるのよ」

ダイヤ「その子のご両親から、旅立ちの際に軽く指南して欲しいと依頼されていたのよ。まあ、来てみたら既に当人がいなかったのですが……」

鞠莉「……ははーん……なんとなく、話が読めてきたわ」

曜「……? ……。……あ、ああ、なるほど」


皆が勝手に納得する中


千歌「……?」


正直、私は話がよくわからなかった。


千歌「まあ、よくわかんないけど、とりあえず、その子がもう一人のトレーナーってことだよね?」

ダイヤ「ええ、まあ、そうですね」

千歌「今朝早く来て、先にポケモンと図鑑を貰って旅に出たってことだよね?」

鞠莉「そうね」

千歌「よっし!」

曜「千歌ちゃん……?」

千歌「じゃあ、まだ急げば追いつけるかも! 行こう! ヒノアラシ!」
 「ヒノ!」


そう言って私が声を掛けると、腕の中で寝息を立てていたヒノアラシが目を覚まして、もぞもぞと動く。

私はそのままヒノアラシを床に降ろして走り出す。


曜「え!? ち、千歌ちゃん!?」

千歌「せっかく一緒に旅に出る子なんでしょ? 同期ってことだよね!? 挨拶しなくちゃ!」


私の後ろをヒノアラシが走りながら付いてくる。


曜「ええ!? ま、待ってよ千歌ちゃん! 私も行くから!! ゼニガメ!!」
 「ゼニ!」


曜ちゃんが研究所の出入り口の前で、律儀に外を見張り続けていたゼニガメに声を掛けて、走り出す。


ダイヤ「あ、ちょっと千歌さん! ウチウラシティに着いたら、ポケモンスクールに寄るのですよー!?」


背後でダイヤさんが、そう叫ぶ


千歌「わかってまーす!!」

42: 2019/04/28(日) 18:05:47.19 ID:WoQi+oWD0

後ろに向かって手を振りながら、返事をする。


鞠莉「あ、そうだ! 図鑑は3つで1セットで、近くに揃うと音が鳴るからー! それですぐに本人だとわかると思うわー!」

千歌「はーい!」

曜「い、いってきまーす!」


──とにかく、曜ちゃんと一緒に、図鑑が鳴るところまでダッシュだ!


千歌「いっくぞー!!」
 「ヒノォー!!」


せっかくの旅立ち前にずっと話聞いてられないもん!

私はヒノアラシと研究所を飛び出した。





    *    *    *





突然弾けるように飛び出して教え子たちが去ってしまった。研究所内が突然静かになる。


ダイヤ「……全くあの子達は変わりませんわね」


そういえば、学校のいるときもお説教から逃げるときはこんな感じだった気がしますわ。

今回はお説教していたわけではないのですが……。


鞠莉「そういえば、7年前ウチウラシティでポケモンを貰ったときもこんな感じだったわね」

ダイヤ「……もうそんなに前のことですか……」

鞠莉「わたしたちが旅に出たのって、10歳のときだからね~ パパからポケモンを貰ったあと、いろいろ説明受けてるとき……」

ダイヤ「……ああ……言われて見れば確かに、果南さんが我慢できずに飛び出して行ってしまったのでしたわね」

鞠莉「そうそう、懐かしいわね……」

ダイヤ「……7年ですか。……気付いたら貴方はポケモン博士になっているし」

鞠莉「あら、あなたも気付いたら教師になってたじゃない」

ダイヤ「そうね……ただでさえ忙しいのに、最近は“もう一個”大きなお勤めも増えてしまって、大変ですわ」

鞠莉「……“そっち”は名誉なことじゃないの?」

ダイヤ「もちろん、どちらの仕事も誇りを持ってやっているつもりですが……」


なんだかセンチメンタルな気分になって、なんとなく机を撫でる。

図鑑と二つのボールが残っている、机を。


鞠莉「そういえば……もう一人なんだけど」

ダイヤ「あ、ああ……そういえば話の途中でしたわね」

鞠莉「こっちは、正直かなり強引に持ってかれちゃったのよね」

ダイヤ「……貴方が強引と揶揄するとは、相当ですか?」

鞠莉「理由は説明したんだけど……『依頼されたのは私なんだから、いいでしょ?』って言って、さっさと貰うもの貰って出て行っちゃったのよ」


鞠莉さんが苦笑してから、

43: 2019/04/28(日) 18:07:14.08 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「やっぱダメね……新人だからイゲンが足りてないのかしら」


そう零す。


ダイヤ「……。……らしくもない。貴方も随分謙遜するようになったのですわね」

鞠莉「……今回の件も元はと言えばロトムのシツケの問題だからネ」

ダイヤ「貴方のロトムは昔からトラブルメーカーでしたからね。一応、苦労は察しますわ」


落ち込む幼馴染の姿を見て、なんだかこれ以上責めるのも憚られる。

そんなわたくしの胸中を知ってか知らずか、


鞠莉「……リューインは下がったの?」


そう不安そうな顔をして訊ねてくる。


ダイヤ「まあ……そうですわね。……トレーナーがポケモンを選ぶように、ポケモンにもトレーナーを選ぶ権利がありますから」

鞠莉「……?」

ダイヤ「……ヒノアラシも、ゼニガメも、よく懐いていましたし。……それが確認できたのなら、これ以上口出すのも野暮かと思いまして」

鞠莉「……なるほど」


……まあ、ルビィと花丸さんが貰うポケモンが不平等なことに関しては少し納得出来ていない節もありますが……。それはその本人を問い詰めたが良さそうですし。


ダイヤ「さて……わたくしも仕事に戻りますわ」

鞠莉「ん、今から学校?」

ダイヤ「いえ──そちらではない方の仕事ですわ」

鞠莉「ああ、なるほど。ダイヤも忙しそうね」

ダイヤ「ふふ、お互いね……。まあ、もう少ししたら落ち着くと思いますから。そうしたら、またお茶でも飲みに来ますわ」

鞠莉「OK. 頑張ってね──新米ジムリーダーさん」





    *    *    *





──汗が頬を伝う。

目の前にいる小鳥ポケモンと何度目の対峙だろう。


 「今度は、逃げられないように……」


呼吸を整える。

ちょっとずつ弱らせながら追いかけているのだ、そろそろ捕まえられるはず。

私は件の鳥ポケモンの目の前で、不機嫌そうに待っているポケモンに指示を出す。


 「チコリータ! “はっぱカッター”」
  「チコッ」

44: 2019/04/28(日) 18:08:10.26 ID:WoQi+oWD0

指示と共に鋭利にとがった葉っぱが飛び出して、

 「ポポッ!」

目の前の対象を怯ませる。

そこに向かって追い討ちを掛けるような強力な一撃、


 「チコリータ! “やつあたり”!」
  「チィィコッ!!!!!!」

 「ポポォッ!!?」


チコリータが葉っぱを振り回して、ポッポに攻撃する。

貰ったばっかりでまだ懐いていないから、“やつあたり”の威力が大きい。

強力な攻撃を受けてフラフラな状態になったポッポに向かって、


 「……今だ!!」


私は博士から受け取った空のモンスターボールを投げつけた。

シュゥゥ──という音と共にポケモンがカプセルに吸い込まれる。


 「お願い……いい加減、捕まって……」


コンコン──と地面に落ちたモンスターボールが一揺れ……二揺れ……

三回目の揺れを確認した後、

止まった。


 「はぁ……やっとゲットできた……」


私が溜息を吐いてへたり込むと、


 「チェリリ」


バッグから相棒のチェリンボが飛び出して、ポッポの入ったボールを拾って持ってきてくれる。

  「チェリリ!」
 「ありがと、チェリンボ……。チコリータもお疲れ様。戻って」


そう言ってチコリータをボールに戻す。


 「ブルル…」


先ほどの戦闘を後ろで見守っていたメブキジカが、へたり込む私の傍にやってきて、鳴き声をあげる。


 「あはは、ありがとメブキジカ……」


メブキジカに支えられながら、私は立ち上がる。


 「……はぁ、ポッポ一匹でこれじゃ……先が思いやられるなぁ……」


そんな風に1人ぼやいていると──

pipipipipipipi──!!


 「きゃぁ!?」


上着のポケットに入れた図鑑が激しく鳴り出す。

45: 2019/04/28(日) 18:08:38.19 ID:WoQi+oWD0

 「な、何!?」


咄嗟に図鑑のボタンを押すと音が止まる。

私は顔を顰めながら、今先程まで鳴っていた図鑑を睨む。

……なにかの通知かな?

そんなことを考えていると……


 「今鳴ったよー! この近くにいるみたい!」

 「うん! あと一息かな!」


背後から、私と同じくらいの歳の女の子の声が聞こえてきた。

私が振り返ると──


 「──もしかして、貴方!?」


そこには、それぞれヒノアラシとゼニガメを連れた二人の女の子が、立っていました。



46: 2019/04/28(日) 18:10:45.89 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【1番道路】
 口================= 口
  ||.  |⊂⊃                 _回../||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.      /.         回 .|     回  ||
  ||.   _/       o‥|●| |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||./              o回/         ||
 口=================口

 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹

 主人公 ???
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 曜と ???は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


47: 2019/04/28(日) 20:54:48.56 ID:WoQi+oWD0
■Chapter004 『梨子』


  「ケロ…」
 「……ケロマツ? どうしたのよ」


上空を飛びながら、肩の上でケロマツが下方に何かを見つける。

私はポーチからオペラグラスを取り出して、ケロマツの見ている方を覗き見る。


 「女の子? ……しかもこんなド田舎に3人も。……もしかして、同業者?」


我ながら素晴らしい考察。


 「観察の余地ありね。ヤミカラス、しばらくこの辺り旋回出来る?」
  「カァー!」


脚に掴まった私を持ち上げ羽ばたく相棒に頼み、彼女らを観察することにする。


 「……さて、どうなるかしら」


対象から、やや角度と高度を保って、出来るだけ目立たないように、でも見失わないように、私は密かに彼女達を注視する──。




    *    *    *





 「──もしかして貴方!?」


髪を片側で三つ編みにしている、明るい髪色の快活そうな女の子が問い掛けてくる。


 「えっと……どちら様ですか?」


私は怪訝な顔をする。


 「千歌ちゃん、自己紹介しないと! 困ってるよ!」


もう一人、癖っ毛のショートボブの子がゼニガメを抱えたまま、隣の子にそう言う──最初に私に問い掛けてきた子は千歌ちゃんと言うらしい。


千歌「あ、そうだった! 私、千歌! 16歳! さっき、鞠莉さんからヒノアラシを貰った新人トレーナーだよ!」
 「ヒノ」


……『千歌』と名乗った子がそう言うと、足元でヒノアラシが声をあげる。

鞠莉さん……? ……ああ、オハラ博士のことか。


曜「私は曜。見てのとおり、私も鞠莉さんからゼニガメを貰った新人トレーナーだよ」
 「ゼニィ」


今度はもう一人の女の子──『曜』と名乗る子が自己紹介をする。そして、さっきの子の手持ちのヒノアラシ同様、今度はゼニガメが声をあげた。


 「えっと……それで何の用ですか?」

千歌「あ、うん! 貴方が最初の三匹を貰った最後の一人かなって思って! 図鑑、鳴ってたでしょ?」

曜「図鑑は三つセットで揃うと音が鳴るんだってさ」


二人の子がそれぞれ手に持った橙色と水色の図鑑を掲げる。

48: 2019/04/28(日) 20:56:03.38 ID:WoQi+oWD0

 「あ、あぁ……」


先ほど、けたたましい音を立てて主張をしていた私の桜色の図鑑にはそういう仕組みがあったんだ……つまり、同期ってことだよね。


 「えっと……私は梨子です。オハラ博士からはチコリータを頂きました」


私──梨子はそう言ってペコリと頭を下げた。


千歌「梨子ちゃんって言うんだね! えへへ、同じ新人トレーナーとしてよろしくね!」

梨子「……よろしく。それじゃ、私急いでるから」


そういって踵を返す。


曜「え、あ、え?」

千歌「え、ちょっと! 梨子ちゃん!」


歩き出そうとした、ややうるさい方の子が私の肩を掴む。


梨子「何?」

千歌「いや、えっと……私たち同じときに同じ場所でポケモンを貰った仲間だよ? もっと親睦とか……」

梨子「私は先に貰ったんだけど」

千歌「あ、確かに……」

曜「そこ納得しちゃうんだ」

梨子「……ホントにそれだけなら行ってもいい? 私忙しいの」


私が再び、歩を進めようとすると、


千歌「──バトルしよう!」


彼女はそう言った。


梨子「……え?」

千歌「ポケモンバトル! トレーナー同士は目があったらポケモンバトルだよ!」


……確かにポケモントレーナー同士は、視線があったらポケモンバトルをする。

……というのは多くの地方でも共通認識的なところはあるけれど、


梨子「……それなら、そっちの子──えっと」

曜「あ、曜だよ!」

梨子「そうそう、曜ちゃんとバトルすれば?」

千歌「曜ちゃんはいいの! いつでもバトルしてくれるから! 私は梨子ちゃんとバトルしたいの! 私すっごいトレーナーになるんだから、梨子ちゃんにだって負けないよ!」


彼女は慌しく、そう捲くし立ててくる。

……正直こういうタイプの子はめんどくさい。苦手だ。

49: 2019/04/28(日) 20:57:54.18 ID:WoQi+oWD0

梨子「…………」

曜「梨子ちゃん」

梨子「何?」

曜「なんか、急いでるみたいだけど……私たちって最初の三匹を貰った三人で、それなりに縁があるわけだしさ」

梨子「……まあ、そうね」

曜「挨拶代わり、と言ってはなんだけど……トレーナー同士の流儀でもあるわけだしさ、ちょっと千歌ちゃんの相手してあげてくれないかな」

梨子「…………」


まあ、一理ある。


梨子「……はぁ、しょうがないな」

千歌「ホントに!? やったぁ!」


千歌ちゃん、とやらが目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねる。元気な子だなぁ……。


千歌「よっし! いくよ、ヒノアラシ!」
 「ヒノ!」


千歌ちゃんの掛け声と共にヒノアラシが前に躍り出る。

──さて、私は……。


梨子「ん……?」


そのとき、腰に納めたボールがカタカタと動いているのに気付く。


梨子「……チコリータ」


先ほど戻したチコリータのボールだ。

チコリータからしても、ヒノアラシは同郷のライバル。やる気が出るのはわからないでもないんだけど……。

……まだ、出会ったばっかりでこの子のことはよくわからない。先ほどポッポと戦闘を終えたばっかだし、今は──


梨子「メブキジカ、お願いね」
 「ブルル…」


傍らのメブキジカにお願いする。


梨子「チェリンボはバッグの中に居てね」
 「チェリリ」


私の言葉を聞いてチェリンボは再びバッグの中に潜り込む。


曜「それじゃ、ポケモンバトルスタート!」


曜ちゃんの合図と共に、


千歌「ヒノアラシ! “ひのこ”!」


ヒノアラシの背中から戦意を示す炎が噴出し、


 「ヒノ!」


開いた口から火の粉が飛んでくる。

50: 2019/04/28(日) 21:00:08.55 ID:WoQi+oWD0

梨子「そんな小さな炎じゃ効かないわ」

 「ブル」


メブキジカは首を振って、火の粉を軽くあしらう。


千歌「あ、あれ!?」

梨子「メブキジカ! “メガホーン”!」
 「ブルッ!」


地を蹴って、飛び出したメブキジカが、

 「ヒノッ!?」

ツノでヒノアラシを掬い上げるように、上空に投げ飛ばす。


千歌「ひ、ヒノアラシー!?」




    *    *    *




観察していたら、ポケモンバトルが始まったわけだけど……。


 「随分一方的……レベルが違うわね」


二人とも新人トレーナーだと思ってたんだけど……。

髪の長い子の方が圧倒的に強そうね。


 「あっちの三つ編みアホ毛の方が弱いのね」


バトルを見つめながら、私はふんふんと一人頷く。


 「ん? ああ、ヒノアラシ、メガホーン一発で戦闘不能になっちゃったのね。次のポケモンが出てくるわ。……って、何あのポケモン。見たことないんだけど」


思わず図鑑を開く。


 「トリミアン……? ……トリミアン……。 ……トリミアン……??」


私の独り言が空に消えていく中、バトルは進む。




    *    *    *




千歌「しいたけ! お願い!」
 「ワォンッ!!」


戦闘不能のヒノアラシをボールに戻して、千歌ちゃんは次のポケモン繰り出す。


梨子「……ひっ! 犬!?」


見たことのないポケモンだけど、私が滅法苦手な犬だと言うのは一目でわかる。


千歌「しいたけ! “たいあたり”!」
 「バゥッ!!」

51: 2019/04/28(日) 21:02:16.76 ID:WoQi+oWD0

梨子「こ、こっちこないでぇ!!」


突撃してくる犬ポケモンに私が声をあげると。

 「ブルル…」

メブキジカが自慢のツノで“たいあたり”を押さえ込む。


梨子「び、びっくりした……。メブキジカ、そのまま“ウッドホーン”!!」


そして押さえつけたまま、そのツノを突き刺す。


千歌「力くらべなら負けないもん! しいたけ! “ふるいたてる”!!」
 「ワフッ!」


しいたけと呼ばれたポケモンが鼻息を荒げて、気合いを入れる。


梨子「……ふふ」

千歌「む、何がおかしいの!」

梨子「貴方、本当に初心者なのね」

千歌「? それってどういう──」
 「ワゥ…」


私に疑問を投げかけるとほぼ同時に、しいたけが膝を付く。


千歌「え!? し、しいたけ!?」

梨子「“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ」

千歌「し、しいたけ、離れて!!」

梨子「逃がさない! メブキジカ、“とびげり”!」


一歩引いた、しいたけ──と呼ばれてるポケモン──に素早く背を向けたメブキジカが後ろ足で蹴り上げる。


 「ワフ!!」
千歌「しいたけ!!」


その蹴りに吹っ飛ばされて、

ドスンと音を立てて、

──地面に落ちる。


千歌「しいたけ!!」
 「ワォ…」

曜「えっと……ヒノアラシ、しいたけ、戦闘不能で千歌ちゃんの手持ちは残ってないから、梨子ちゃんの勝ち……だね」

千歌「…………戻って、しいたけ」

梨子「……これで気は済んだ?」

千歌「……うん、ありがとう」


お礼を言う千歌ちゃん。だけど、顔をあげない。

まあ、ここまで惨敗したら、悔しいもんね。


梨子「……それじゃ、私は行くから」


そう言って踵を返したが、

52: 2019/04/28(日) 21:05:37.14 ID:WoQi+oWD0

千歌「……次」

梨子「え?」


千歌ちゃんの声に振り返る。


千歌「次、会うときは……負けないから……」

梨子「……そう、頑張ってね」


私は、それだけ返して、メブキジカと共に歩き出す。

そのとき、


梨子「……?」


またカタカタとチコリータのボールが震えた。


梨子「……ごめんね、もう戦闘は終わったの。メブキジカが全部やってくれたから」


私はそうボールに声を掛けるが、

カタカタ、カタカタとボールは抗議をあげるように震え続ける。


梨子「……もう、何?」


そんなに戦いたかったのかな……。

今日知り合ったばっかでこの子のことよくわかんないな……。

早くなついてくれるといいんだけど……。





    *    *    *





 「……終始一方的だったわね」


一部始終を見届けた私は嘆息してから、


 「……しかし、いい情報が手に入ったわ」


そう言って、一人ニヤリと笑う。


 「……あいつには私のポケモンたちの良い経験値になってもらおうかしら。ヤミカラス、ホシゾラシティまでお願い」
  「カァー」


ヤミカラスに指示を出して、私は少し先の町へと向かう。


 「クックック……全てはこの堕天使ヨハネの計画の礎に過ぎないのよ……!!」


笑いながら北に向かって飛ぶ空は、そろそろ逢魔時が迫り、闇に呑まれ始めていた。





    *    *    *


53: 2019/04/28(日) 21:08:55.46 ID:WoQi+oWD0


千歌「…………」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「あはは、自分から勝負吹っかけた割に、全然歯が立たなかったね……悔しい」


思わず拳を握る。


千歌「負けるのって……悔しいんだね」

曜「…………」

千歌「……強く、ならなきゃ」


戦闘不能になった2匹が眠るボールを撫でる。


千歌「……一緒に強くなろう、ヒノアラシ、しいたけ」


私は2匹のボールに……そう、語りかけた。



54: 2019/04/28(日) 21:09:53.85 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【1番道路】
no title

 主人公 千歌
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.7  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 曜
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.6  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:6匹

 主人公 ヨハネ?
 手持ち ケロマツ♂ Lv.7 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.9 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:22匹 捕まえた数:17匹

 千歌と 曜と 梨子と ヨハネ?は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


55: 2019/04/28(日) 23:47:22.88 ID:WoQi+oWD0

■Chapter005 『姉妹とメレシー』





研究所から“そらをとぶ”で飛び立ち、幾数十分。

自らの勤める学び舎の隣に併設された、ポケモンジムへと戻ってくる。

わたくしはジムの前へと降り立ち、


ダイヤ「ありがとう、オドリドリ」
 「ピィ」


此処まで運んできてくれた“まいまいスタイル”のオドリドリをボールに戻す。

──さて、ジムに戻って一仕事しましょうか。

と思った矢先。

腰に付けた真っ白なボールがカタカタと震える。


ダイヤ「? どうしたの? ボルツ?」


件のボールを放り、ボルツと言うニックネームを付けられたメレシーを外に出してあげる。

 「メレ…!」

ボールから飛び出したボルツは体中の漆黒のダイヤモンドに夕陽を反射させながら、声をあげてジムの隣のポケモンスクールへと飛んでいく。


ダイヤ「?」


わたくしが怪訝な顔をしていると、


 「ま、まってー!! コランー!!」


……と、学校の方から幼い少女のような子の叫び声。


ダイヤ「……なるほど」


わたくしは肩をすくめてから、一旦ポケモンスクールへと足を向けることに致しました。





    *    *    *





 「コランー!!」
  「ピィー」


コランと呼ばれた赤い宝石を煌めかせたメレシーが、元気そうに教室内を飛び回っている。

その子の“おや”のルビィちゃんが追い掛け回しているけど、コランは楽しそうに逃げ回ってる。

コランはおいかけっこしてるつもりなのかな?


ルビィ「コランー! お願いだから言うこときいてよぉー! またお姉ちゃんに叱られちゃうからー!」
 「ピピピー!」


マルは読んでいた本をパタンと閉じて、辺りをキョロキョロと見回す。

56: 2019/04/28(日) 23:49:19.53 ID:WoQi+oWD0

花丸「アンバー……いないずら?」


そうルビィちゃんに訊ねる。

アンバーと言うのは、黄色寄りのオレンジの宝石を身に纏ったメレシーで、ルビィちゃんのお母さん──琥珀さんのメレシーのこと。


ルビィ「アンバーはお母さんと出かけちゃってて……」


ルビィちゃんはそう言って、涙目になる。

いたずらっこのコラン。

いつもならアンバーかボルツが止めてくれるんだけど……。


花丸「いないなら、しょうがないずら……ゴンベ」
 「…ゴン?」


横でパンを齧っている、マルの手持ちのゴンベに声を掛ける。


花丸「どうにかできる?」
 「…ゴン」


尋ねてはみたけれど、ゴンベも困り顔。

……カビゴンに進化すれば“とうせんぼう”が使えるんだけど……。

──えっと、ゴンベが使える今役に立ちそうな技……

“いやなおと”、“おいうち”、“なげつける”……うーん、どれも微妙ずら。


花丸「“ふきとばし”……は、どっか行っちゃうし。あ、行動を能動的に制御する技なら“おさきにどうぞ”とか……」

ルビィ「“おさきにどうぞ”しても余計に暴れるだけだよー!」

花丸「うーん……じゃあゴンベ、“ゆびをふる”」

ルビィ「え!? は、花丸ちゃん!?」

 「ゴン」


“ゆびをふる”は何かの技がランダム出る技──ゴンベが覚えることの出来ない技もランダムで飛び出す。

特に状況を打開できる技もないし、こうなったら運任せずら。

マルの指示を出すとゴンベがチッチッチと指を振る。

すると、ゴンベの指から火花が散って、教室中に緩く稲光が走る。


ルビィ「ピ、ピギィ!?」

花丸「いい技引けたずら? “でんげきは”かな?」


広がる電撃を見て“でんげきは”かと思ったんだけど……。

 「ピピピピピピー」

コランは依然、その細い稲妻のネットの中を楽しそうに飛び回っている。


花丸「んんー? “エレキネット”ずら? でも、それならすばやさが下がるはずだし……」


そんなことをぶつぶつ呟いていると

 「ピーピピー!」

暴れまわっていたコランが、今度はこっちに回転しながら突っ込んでくる。

57: 2019/04/28(日) 23:51:47.16 ID:WoQi+oWD0

ルビィ「は、花丸ちゃん! 分析してる場合じゃないよっ」

花丸「ずら!?」


体当たりしてくるコランの体表には稲妻が絡み付いている。

 「ゴン」

咄嗟にゴンベがマルたちの間に立ち塞がったけど──

その必要はなかったみたい。

──気付いたら教室中に石の欠片が浮いていることに気付く。


花丸「ずら? “ステルスロック”?」


コランがその石にぶつかって、一瞬動きが鈍ったところに


 「ボルツ! “パワージェム”!」


そんな声と共に、光る石が飛んでくる。

──ガスン


 「ピー!?」


鈍い音と声をあげながら、コランが教室の端の方に弾き飛ばされる。


 「“リフレクター”で囲って、ついでに“じゅうりょく”」
  「ミミミ」


教室内でコランの吹き飛んだ逆サイドから、真っ黒な宝石を身に纏ったメレシーと一緒に女性が入ってくる。


ルビィ「お、お姉ちゃん~……」

ダイヤ「ルビィ? 学校では先生と呼びなさいと言っているでしょう?」


ルビィちゃんが泣きつく先には、ルビィちゃんのお姉さん──ダイヤ先生が立って居たずら。


 「ピーピピピピ!!」


リフレクターの物理障壁に囲まれながら、赤い宝石を光らせならだ、コランがじたばたしている。


ダイヤ「はぁ……全く元気ね、この子は……。それはそうと花丸さん」

花丸「はいずら」

ダイヤ「“ゆびをふる”で出た技……何かわかりましたか?」

花丸「うーんと……“たいあたり”が電撃を纏ってたところからして……“そうでん”ずら?」


“そうでん”は場の攻撃全てがでんきタイプになるっていう珍しい技ずら。


ダイヤ「正解。よく勉強していますわね」

花丸「えへへ、褒められたずら」

ダイヤ「それに比べてルビィ……また、コランを暴れさせて……」


ダイヤさんが溜息を吐きながら、泣きつくルビィちゃんに視線を落とす。


ルビィ「ぅ……る、ルビィも……コランにやめてって言ったもん……でも、やめてくれなくて……」

ダイヤ「はぁ……全く……」

58: 2019/04/28(日) 23:53:34.73 ID:WoQi+oWD0

ダイヤさんが溜息を吐くと

 「ピピピピピピピピピピ」

と声をあげて、コランが床で回転し始める。


ルビィ「ふぇ!? 今度はなに!?」

花丸「“こうそくスピン”……? ってメレシーは覚えないような」

ダイヤ「ですわね。それに“こうそくスピン”なら先ほどボルツが撒いた“ステルスロック”を吹き飛ばせるはずですわ」

花丸「じゃあ、あれって……?」

 「ピピ!!」


急に回転を止めたコランが気持ちスマートに見える。

体を床に擦り付けて体表の岩を削ったみたい。


ダイヤ「“ロックカット”で身軽になったみたいですわね」

花丸「……ルビーの硬度で回転したから、床が抉れたずら」

ルビィ「コランー!? もうやめてよー!!」


ルビィちゃんの制止も虚しく、コランが小さな岩の欠片を飛ばす。さっきダイヤさんのボルツが使ったのと同じ“ステルスロック”。


ダイヤ「……ふむ。確かに補助技ならリフレクターをすり抜けますわね。ボルツ、“マジックコート”」
 「ミー」


冷静に指示を出すダイヤ先生。

飛び出してきた岩の欠片が、薄ピンクの透明な壁に反射されて、コランの元へと跳ね返っていく。

変化技は“マジックコート”で反射できるずら。


ダイヤ「はぁ……ただでさえ騒がしいのに、これ以上素早くなっても困りますわね……。“トリックルーム”」
 「ミ」


視界が一瞬ぐにゃりと歪む。

 「ピ」

それと同時にコランが速いのに遅くなる。

──何を言ってるかよくわからないと思うけど、文字通り速いのに遅いずら。


ルビィ「わぁっ すごぉい!」

ダイヤ「“トリックルーム”下ではすばやさの遅いポケモンほど速く動き、速いポケモンほど遅くなる不思議な技ですわ。ルビィ、今のうちにボールに戻しなさい」

ルビィ「あ、うん!」


ルビィちゃんはダイヤ先生の指示通りにコランに近付いて、真っ白なコラン専用のボールを投げつける。


ルビィ「ほ……よかったぁ」


ボールを手に取って、ルビィちゃんが安堵でホッと──


ダイヤ「……全然、よくありませんわ!」

ルビィ「ピギィ!?」


訂正、ホッと出来てなかったずら。

59: 2019/04/28(日) 23:55:18.52 ID:WoQi+oWD0

ダイヤ「教室も滅茶苦茶……わたくしが帰るまで大人しく自習と言ったではありませんか!」

ルビィ「だ、だから……それはコランが……」

ダイヤ「貴方はコランの“おや”でしょう? 手持ちの責任はトレーナーが取るものです!」

ルビィ「ぅ、でもコランをルビィに持たせたのはお母さんだもんっ ルビィが決めたことじゃないもんっ」


二人が姉妹喧嘩を始めてしまう。


花丸「ずら……」


困ってゴンベに視線を送ると

もぐもぐとまたパンを食べている。

我が手持ちながら、かなりのんきずら……。


ダイヤ「だいたい貴方はこれから旅に出るというのに──」


詰問口調の先生の前に

 「ミィ…」

ボルツが割って入る。


ダイヤ「ボルツ……」


妹メレシーのコランの失態を許して欲しい……とでもいいたげに。


ダイヤ「……はぁ。……今日のところはボルツに免じて不問に致しましょう。……留守にしていたわたくしにも非がありますから」


ダイヤ先生は「ルビータイプのメレシーは何故かやんちゃな子が多いのも事実ですし……」と呟きながら、めちゃくちゃになった教室を片付け始める。

ボルツも妹の失態を取り返すかのように“サイコキネシス”で物を片付ける。


花丸「マルたちも手伝うずら。ゴンベ」
 「ゴン」


ゴンベが自分の毛にパンを押し込んで──また後で食べるのかな──椅子や机を元の場所に戻し始める。


花丸「ルビィちゃんも……ルビィちゃん?」


そう言ってマルが振り返ると、ルビィちゃんは少し暗い顔をしていて、


ルビィ「…………」

花丸「ルビィちゃん……?」

ルビィ「……あ、ごめんね、花丸ちゃん」


そう言ってから、いそいそと片付けの輪に加わっていく。


ルビィ「……こんなんで、ルビィ……冒険なんか出来るのかな……」

花丸「……」


自信なさ気にそう呟くルビィちゃんの独り言を、端で捉えながら、マルたちは散らかった教室の片付けに勤しむのでした。


60: 2019/04/28(日) 23:57:48.52 ID:WoQi+oWD0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
no title
 主人公 花丸
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 ルビィ
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 花丸と ルビィは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.



続き:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その2】



61: 2019/04/29(月) 00:59:11.75 ID:vk45oGxM0
それぞれの冒険がこれから始まると思うととても楽しみです
続き待ってます!

引用: 千歌「ポケットモンスターAqours!」