272: 2019/05/03(金) 03:23:14.99 ID:ISz0KMwo0


前回:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その4】

最初から:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その1】

■Chapter021 『決戦! コメコジム!』





花陽「お願い! ドロバンコ!」

千歌「いっけー! ムクバード!」


お互いの初手が繰り出される。

花陽さんの一匹目はドロバンコ──確かじめんタイプのポケモンだ。

さっき持っていたメェークルから考えて、くさタイプを使うのかと思ってたけど、違うみたい。

ダイヤさんと同じで普段使うポケモンと専門のタイプが違うのかもしれない。


千歌「でも相性有利……! ムクバード! 上空で旋回しながら、体勢を整えるよ! “こうそくいどう”!」
 「ピピィ!!」


じめんタイプの攻撃はひこうタイプには届かないもんね!


花陽「ドロバンコ、“すなあらし”!」
 「ンバンコ」


一方花陽さんのドロバンコはフンと一回荒く鼻息を出した後、その場で地団駄を踏むように砂を巻き上げる。


 「ピピッ」

千歌「ムクバード! ひるまないで! そのまま、“ふるいたてる”!」

 「ピピピィ!!!」

花陽「ドロバンコ、“ステルスロック”!」
 「ンバー」


今度はフィールド上に無数の石が漂い始める。


千歌「させない! “きりばらい”だよ!」

 「ピィーー!!」


ムクバードは上空から力強く羽ばたいて、すぐに撒かれた石を吹き飛ばす。


花陽「ドロバンコ、“かげぶんしん”」
 「ンバ」


今度はドロバンコの姿がぶれるように増える、回避をあげる技だ。


千歌「ぅ……“みやぶる”!」

花陽「なら、“てっぺき”です」
 「ンバコ」

千歌「お、“オウムがえし”!!」

 「ピィ~~」


“てっぺき”を奪う形、見様見真似で防御を上げるが……。
ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow

273: 2019/05/03(金) 03:24:53.04 ID:ISz0KMwo0

千歌「ぐぬぬ……」

花陽「千歌ちゃん、攻めあぐねてますね」

千歌「うっ……」

花陽「ムクバードは“かぜおこし”も“エアカッター”も覚えませんから、上空から様子を見ているだけだと、“すなあらし”で消耗するだけですよ」

千歌「ば、ばれてる……」


流石ジムリーダー、自分のポケモンじゃないのに、使える技を把握してる……。

──そう、ムクバードには実はほとんど遠距離攻撃の手段がない。

あっても、“さわぐ”くらいで、あとは遠距離で使えるのは、ほとんどが補助技。

どうにか上空で攻撃を敬遠しながら、体勢を整えようと思ったんだけど……。

甘えた時間稼ぎを許さない、“すなあらし”がムクバードの体力をじわじわと奪っていく。


千歌「なら──!!」


花陽さんは完全に待ちの姿勢、ならノルカソルカ!


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピピィ!!!」


──ムクバードの十八番!!

空中を軽くサマーソルトしながら、その勢いを乗せて、


 「ピィーー!!!」


地上のドロバンコに向かって一直線に飛び込んでいく!!


花陽「ドロバンコ! “アイアンヘッド”!!」
 「ンバンコ!!」


それに合わせる形で、鋼鉄の頭突きを繰り出すドロバンコ。

──ガキィン!!

打ち合って、硬い音がジム内に響く。


千歌「ムクバード!」

 「ピピィ!!」


すれ違い様に一撃を叩き込んでそのまま空に離脱、


花陽「ドロバンコ、平気だよね」
 「ンバコ」


先ほどの“てっぺき”の影響か、相頃しあった攻撃は余り効果を出していない。


千歌「ならもう一発!!」

 「ピピィ!!!」


私の言葉に呼応するように、ドロバンコの背中向かって、一直線に『翼を立てる』

──まるで一刀の刃のように──


千歌「“はがねのつばさ”!!」
 「ピィィィ!!」

274: 2019/05/03(金) 03:25:45.40 ID:ISz0KMwo0

硬質化した鋼のような翼を上空から振り下ろす。


千歌「いっけぇえ!!!」


── 一閃

目一杯翼で斬り付ける。

「ピィィ!!!」

「ンバゴッ!!」


その勢いのまま、低空を伝って、離脱──


花陽「させません!」
 「ンバ」


──と、思った瞬間。

ドロバンコの後ろ脚がムクバードを捉える。


花陽「“ローキック”!」

 「ピピッ!?」


脚を掛けられ、ムクバードがよろめく、

──凛さんとの対戦のときにもやられた戦法だ。


千歌「まずっ!? ムクバード! とにかく離脱!」

 「ピピ…!!」

花陽「逃がしません! “ふみつけ”!」
 「ンバコ」


今度は正確にドロバンコの蹄がムクバードを捉える。


 「ピギャ」

千歌「ムクバード!?」


踏みつけられて、ムクバードが普段聞かないような鳴き声を出す。


千歌「く……! “フェザーダンス!!”」
 「ピィィ!!」


──でも、ここで私が動揺しちゃダメだ……!

指示を受けて、ムクバードがドロバンコの脚の下でもがくように暴れると、羽根があたりに舞い散る。

 「ンバゴ…ッ」

纏わり付く鬱陶しい羽毛は、攻撃の阻害をする。


花陽「“のしかかり”!!」


それを無視するように、力が自慢のドロバンコは上から更に激しくプレスを掛けてくるが、

力が自慢なのはこっちも同じ──


千歌「“リベンジ”!!」

 「ピィィィィィ…!!!」


地面を踏みしめて、

275: 2019/05/03(金) 03:27:35.26 ID:ISz0KMwo0

花陽「……!」


ドロバンコを下から押し上げる、


 「ンバコ…!」

花陽「ドロバンコ、無理に力比べしなくていいから!」


だが、花陽さんも切り替えが早い

押し返されると気取ったのかすぐさま、プレスを止めて次の攻撃に手を移す。


花陽「“にどげり”!」
 「ンババッ!!」


一瞬の隙を突いて、隙間から逃げようとした、ムクバードを後ろ足で蹴り上げる。


 「ピピ!!」

千歌「ムクバード!」


そのまま、蹴り飛ばされた勢いにまかせてどうにか空に離脱する。


千歌「大丈夫ー!?」

 「ピィィ…!!」


まだ闘志は見えるが、ダメージは大きい。

降りたら、降りたでまた掴まっちゃうだろうし……。


千歌「なら、“さわぐ”!!」

 「ピ!!」


私の合図で、


 「ピイィィィィィィィ!!!!!!」


鳴き声がジム内を劈く、


花陽「わわ!?」
 「ンバゴ!?」


狂乱状態になって、しばらく落ち着かなくなっちゃうけど、


千歌「掴まるくらいなら、全力で突撃ー!!」

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」


大きな鳴き声を挙げながら、再び上空からドロバンコに向かって飛び掛かる、


 「ンババコ!?」
花陽「ド、ドロバンコ……!! 落ち着いて……!!」


一方ドロバンコは急な爆音に動転して、

意識が逸れている。


千歌「突っ込めぇぇ!!!」

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」

276: 2019/05/03(金) 03:28:24.22 ID:ISz0KMwo0

花陽「ぼ、防御!! ドロバンコ!!」
 「バゴッ!?」


──ズドン、と

上空からの杭のように、落ちてきた、

ムクバードの下で、


 「バゴォ…」
花陽「……っ」


──ドロバンコが伸びていた。


千歌「……よっし!」


私は思わず拳を握り締める。


花陽「……ドロバンコ、戦闘不能です。戻って」


花陽さんの言葉と共にドロバンコがボールに戻される。


千歌「ナイス! ムクバード!」

 「ピピィィィィ!!! ピピピピィイイイ!!!」

千歌「うわっ わ、わかったから」


そういえば、まだ騒いでる状態だった。


花陽「2匹目、行きます! ディグダ、お願い!」


ボム、と言う音と共に放たれたボールから飛び出す、小さなポケモン。

2匹目もじめんタイプ……!


 「ディグディグ」


可愛らしい、見た目とは裏腹に力強く地面を掘り返しながら、俊敏な動きで、ディグダがムクバードに向かって突撃してくる。


千歌「ムクバード!!」

 「ピイイイイイ!!!!!!」


狂乱状態のままだけど、どうにか動いてる敵を認識は出来てる、


千歌「よっし! そのまま!」

 「ピィィィイイイイイ!!!」


──迎え撃つ!!


花陽「ディグダ! “ひっかく”!!」
 「ディグ!!」


ディグダから放たれる斬撃を迎撃しようと思ったが、


 「ピィィィイイイイ!!!?」


ディグダは小さな体躯を生かして、ムクバードの周りを俊敏に耕しながら、ちまちまと引っ掻いて来る。

277: 2019/05/03(金) 03:29:09.06 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!? ムクバード!!! 落ち着いて、一旦空に逃げて!!!」

 「ピィィピィィィ!!!?」


しかし、狂乱状態のムクバードは私の声が届いていない。


花陽「今度は逃がしません!」


花陽さんはそんな隙を見逃すはずもなく。

ディグダはもこもこと、周囲の地面を掘り返す最中、

だんだんと大きめの石塊が混じり始める


 「ピィィィィ!?!!?」

千歌「やばっ!!? ムクバード!! 逃げて!!!」

 「ピィィィィィ!!!!!!」


声が届いていない、不味い、


花陽「ディグダ!」
 「ディグ!!!」


花陽さんの合図と一瞬地面に潜ったディグダが、

その頭で押し上げるように一層大きめの岩塊を地面から投げ飛ばす


千歌「ムクバード!!」

 「ピピピピィィィィィイイイ!!!!!?」


混乱した、ムクバード

足を奪う石と岩、

そして、その頭上に、

落ちてくる──


花陽「“がんせきふうじ”!!」


岩塊の着陸と共に激しい砂煙がトレーナースペースまで吹き込んでくる。


千歌「わぷっ!!!?」


その勢いで砂が軽く口に入る。


千歌「うぇ……っぺっぺ……」


そして、少しの間を置いて砂塵が晴れた先では──


千歌「……くっ……」

 「ピ…ピィ…」


ムクバードが気絶していた。


千歌「戻って、ムクバード」


“さわぐ”のデメリットが抑え切れなかった。

278: 2019/05/03(金) 03:30:28.68 ID:ISz0KMwo0

花陽「これで戦闘不能はお互い一匹ずつ……」

千歌「……」


と、なると。

相性の悪いマグマラシだと、一方的に押し切られる可能性が高い。

まだ花陽さんの手持ちには裏もいる以上、様子を見たい。

なら……。


千歌「しいたけ! お願い!」


私はボールを放る。


 「ワフッ!!」


しいたけが飛び出す──と、共に


 「ワオッ!?」


しいたけの脚がずぶずぶと地面に埋まりだす。


千歌「え!?」

花陽「……よかったです」

千歌「……!?」


声のする方を見ると、“すなあらし”の先に花陽さんの笑顔が見えた。


花陽「飛んでいる子の相手はドロバンコでって決めてるから……やられちゃったときはどうしようかと思ったけど……ふふ」

千歌「……!!?」


その笑顔に背筋が一瞬ゾクリとする。

大人しく、優しく、怖い、笑顔。


千歌「し、しいたけ! “コットンガード”!!」
 「ワフッ!!」


咄嗟に、しいたけの防御を固める。


花陽「動かないなら、それはそれで……」

千歌「……っ」


物静かな迫力に気圧される。

しいたけの足元はどんどん地面に……いや、砂に埋まり始めている。

そんな中──


花陽「わたし、たがやしガールなんて呼ばれてるんですよ」

千歌「え」

花陽「普段はこの、じめんポケモンたちと一緒に畑を耕すんです」

千歌「……」


花陽さんはにこにこしながら楽しそうに喋る。

279: 2019/05/03(金) 03:31:53.57 ID:ISz0KMwo0

花陽「ドロバンコは硬い岩地でも踏み砕いて柔らかく……ディグダが動きやすい地面を作ります。そして、ディグダは地面を掘り返しながら、どんどん柔らかくするんです」


そういう間にもディグダがもこもこと地面を耕し、フィールドを形勢していく。


花陽「わたし本当はくさポケモンの方が好きだったんです……最初に貰ったポケモンもフシギダネだったし……だけど、一緒に過ごす間にくさポケモンや植物が育つためには、地面を耕して健康にしてくれる、この子たちがいるからなんだって」


繰り返し耕された地面は岩から石に、石から礫に、礫から……砂に、


花陽「だから、この子たちと作る“じめん”が好きなんです……いっぱい耕して、いっぱい実ります……♪」


──だから、


花陽「ここは、もう……わたしたちの作った“じめん”です……♪」

千歌「……しいたけ……!! 全力ダッシュで砂から逃げて!!」
 「ワフッ…!」

花陽「無理ですよ……ディグダの特性“ありじごく”からは簡単に抜け出せません」

千歌「なら、交代……!!」


これなら、マグマラシの方が軽い分きっと動ける──

一旦引かせようとボールを投げるが、


 「ワ、ワオッ…」

千歌「な……!?」


ボールはしいたけをその中に収納することなく、地面にポトリと落ちる。


花陽「特性“ありじごく”はひこうタイプかゴーストタイプのポケモン以外の交換を許しません」

千歌「……!!」

花陽「もう……千歌ちゃんにはそのトリミアン……? ……で戦うしか、選択肢はありません」

千歌「……なら!! しいたけ!!」


選択肢が無いなら、やるしかない。


千歌「“ずつき”!!」
 「ワフッ!!」


周囲でぴょこぴょこと頭を出したり引っ込めたりしながら、地面を耕すディグダに向かって、その頭を振り下ろす。

──が、

ぼすっという間の抜ける音が砂の上に立つだけ、


 「ディグディグ」


しいたけの真後ろでディグダが顔を出す。


 「バウッ!!!」


そのまま首を捻って、後ろのディグダに再び頭を振り下ろす。

──ぼすっ


 「ディグディグ」


今度は少しズレた場所でディグダが顔を出して鳴き声を挙げる。

280: 2019/05/03(金) 03:33:05.48 ID:ISz0KMwo0

 「ワフッ!!」

──ぼすっ

 「ワフッッ!!」

──ぼすっ

──ぼすっ

──ぼすっ

…………


花陽「ふふ、まるでもぐらたたきですね」

 「クゥゥーン……」


しいたけが情けない鳴き声を挙げながら私の方を見つめてくる。


千歌「ぐぬぬ……」


しかし、足を取られて自由が利かない、しいたけが出来ることは限られる。


花陽「でも、このまま持久戦をしていても埒が明かないので……ディグダ、準備できた?」
 「ディグディグ」

花陽「よし。じゃあ、“すなじごく”」


花陽さんの指示と共に、しいたけがいるところを中心に砂が飲み込まれるように沈んでいく、

ディグダが移動し続けることによって柔らかくなった地面が土に、土はより細かくなって砂に──


千歌「し、しいたけ!!」
 「ワ、ワオ……」


ずぶずぶとしいたけの体が砂に埋まっていく、


 「ワォォ…」

千歌「とにかく、抜け出さないと……!! “からげんき”!!」
 「……! バゥワゥ!!」


私の指示でしいたけは体を大きく動かして、少しでも砂から出るように身を捩る。


花陽「抵抗……しますよね。ディグダは防御力が低いポケモンなので、攻撃が当たるとすぐに戦闘不能になっちゃうので……ディグダ、戻って」

千歌「!」


“がむしゃら”に暴れるしいたけから、貰い事故を防ぐために一旦引いてくれた。

チャンス──


花陽「お願い、ナックラー」
 「…ナク」


と、思った瞬間ボールから飛び出したそのポケモンは窪んだ流砂の中央の陣取り、


 「ワフッ ワフッ!!」

花陽「“すなじごく”」


先ほどよりもアグレッシブに、しいたけをその砂に巻き込んでいく。


千歌「また、“ありじごく”!?」
 「ワォォ…」

281: 2019/05/03(金) 03:35:43.30 ID:ISz0KMwo0

そのまま、中心の方に引きずり込まれ、


花陽「ナックラー、“むしくい”」
 「ナク」


ナックラーが大きな顎でしいたけの前足に噛み付く。


 「バゥッバゥッ」

千歌「ぐぅ……“ずつき”!!」
 「ワゥッ!!」


砂に足を取られながら、どうにか上半身を捻って、頭突く。

だが、体勢も悪いせいか攻撃に威力が乗らない。


花陽「ナックラーはディグダよりも力持ちなので、このフィールド上で力負けはまずしません。更に……“ギガドレイン”!」


噛み付いたままの顎から、体力を吸収してくる。


千歌「く……ど、どうしたら……」

花陽「勝負……ありましたね」

千歌「ま、まだ何か……」


思考を巡らせる。

組み合ったまま、体力を吸われるしいたけを見て──

──あれ、なんだろ

──デジャブ?

なんか、似たような光景が前にもあったような……。


 ──梨子『“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ』──


千歌「……そうだ」


初めて梨子ちゃんとバトルした、あのときと同じだ。


千歌「あのときから、何も変わらない……? ……いや、そんなこと、ないよね……!!」
 「ワフッ」


あのときは初めてのバトルだった、でも、


千歌「まだまだ、初心者かもしれないけど、もう初めてじゃないから……!! しいたけ! “わかるよね”!?」
 「ワフッ!!」


しいたけが身を捩って硬質化させた、尻尾をナックラーに向かって突き立てる──


千歌「……“アイアンテール”!!」
 「バゥッ!!」

花陽「……ナックラー、“ばかぢから”」


硬い尻尾に噛み付くように、ナックラーが受け止める。

282: 2019/05/03(金) 03:37:02.42 ID:ISz0KMwo0

花陽「この足場で力比べをしても、ナックラーに分があります」

 「ワフッ……!!」

花陽「“すなじごく”と“すなあらし”、それに加えてこっちは“ギガドレイン”でHPを吸収し続けます」

千歌「……」

花陽「……諦めないのは花陽も大事なことだと思います。だから、ジムリーダーとして、一人のトレーナーとして、千歌ちゃんのその姿勢は賞賛します」

千歌「……」

花陽「とてもじゃないけど、降参なんて、してくれなさそうですね……ナックラー、“かみくだく”」

千歌「……」

花陽「……?」

千歌「……」

花陽「ナックラー……? “かみくだく”……」

千歌「しいたけ、たぶんもうおっけーだよ」
 「ワゥ」

花陽「え……?」


しいたけが尻尾をブンと上に振り上げると、

ナックラーが引き摺りだされ、空に放られる。


花陽「ナ、ナックラー!?」


花陽さんが放り出されたナックラーにすぐさま駆け寄って、


花陽「……!」


驚いた顔をした後、私の方に顔を向けた。


花陽「……やられました」

千歌「……はぁ……どうにか、間に合った……」
 「ワフッ」

花陽「ナックラー……戦闘不能です。手持ち三匹のうち、二匹が戦闘不能……。このバトル、挑戦者、千歌ちゃんの勝利です」


こうして、私たちは静かに勝利を喫しました。





    *    *    *



283: 2019/05/03(金) 03:38:05.74 ID:ISz0KMwo0


花陽「……最初からあの“アイアンテール”は攻撃目的じゃなくて、ナックラーの内部に出来るだけ身体の一部を差し込むのが目的だったんですね……」

千歌「えへへ……目立つおっきな顎だったし、“アイアンテール”を指示したら、ナックラーは噛み付いて反撃してくるかなって」

花陽「まさか……それはフェイクで……」


──花陽さんはどくけしをナックラーに使いながら、


花陽「“どくどく”を使うのが目的だったなんて……」


そう言う。


千歌「えへへ……しいたけが私の思いつきに気付いてくれなかったら、絶対負けてたんですけどねっ」
 「ワフッ」


──そう、“アイアンテール”はフェイク。

本当の目的はその尻尾の先から毒を注入することだったのだ。


花陽「言葉にしなくても、意図を汲み取ってもらえる自信があったんですか……?」

千歌「しいたけは……小さい頃からずっと一緒に育ってきたから……たまーに私の心を読めるのかな? なんて思っちゃうこともあるくらいで……だから、たぶんわかってくれるって思って!」
 「ワフッ」

花陽「……信頼、しているんですね」


花陽さんは戦闘を終えたナックラーを撫でて労いながら、


花陽「その点に置いては……ジムバトル用に育てたこの子とのコミュニケーションが足りなかったことが、わたしたちの敗因なんだと思います……」
 「ナック…」

花陽「ナックラーがもうどく状態になってるって……もっと早く異常に気付けば、負けていなかった。フィールドを完成させて、“ありじごく”の型を完成させたと思い込んでいた花陽の完敗ですね……」

千歌「い、いや、こっちもギリギリでしたし……!!」

花陽「いえ……今日は千歌ちゃんには教わってばっかりですね。……わたしももっと頑張らないといけないと思い知らされました」


花陽さんはそう言ってから、抱きかかえていたナックラーを降ろして立ち上がり、私の方に歩を進めてくる。


花陽「……そんなあなたに、千歌ちゃんに、コメコジムを突破した証として、この──」


花陽さんは上着の裏ポケットから、麦穂のようなシルエットをした“ソレ”を取り出して──


花陽「──“ファームバッジ”を進呈します。おめでとうございます……♪」


ニコりと優しく笑いながら、そう言いました。


千歌「えへへ……しいたけ、やったね♪」
 「ワフッ♪」


──こうして、私たちは無事、2つ目のジムバッジを入手したのでしたっ。



284: 2019/05/03(金) 03:39:18.85 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
no title

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.18  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.19 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:7匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




285: 2019/05/03(金) 11:39:36.14 ID:ISz0KMwo0

■Chapter022 『旅立ちの条件』 【SIDE Ruby】





理亞と名乗る少女の襲来を受けてから、一連の話をお母様にしたところ、


琥珀「ルビィ本人が希望しているのでしたら、旅に送り出してあげれば良いのではないですか?」


お母様はそう言った。


ダイヤ「え」


わたくしはここまですんなり快諾されると思って居なかったため、逆に困惑してしまう。


琥珀「え……って、貴方がルビィを旅に送り出したいと言ったのでしょう?」

ダイヤ「それは、そうなのですが……お母様は心配ではないのですか?」


結果として未遂に終わったとは言え、ルビィは誘拐されたのです。

もう少し反論があってもいいものではないかと思ったのですが……。


琥珀「7年前のこと覚えていますか?」

ダイヤ「?」

琥珀「貴方の旅立ちの直前」

ダイヤ「……お、お母様、今はルビィの話をしていて……」

琥珀「一人で旅に出るなんて不安だ、ここに残ると泣き喚いていたのは誰ですか? そのあとボルツに引きずられるように旅立っていきましたわよね? それに比べたら、ルビィは随分と逞しいではないですか」

ダイヤ「ぅ……」


昔の話を出されて思わず、言葉に詰まる。


ダイヤ「で、ですが……わたくしのときとは少し状況が……」

琥珀「ダイヤ」

ダイヤ「な、なんでしょうか」

琥珀「貴方の旅は何のトラブルもなく、順風満帆、怪我一つなく終わることが出来ましたか?」

ダイヤ「それは……」

琥珀「何度も予想外の出来事が起こったり、危ない目に逢う事もあったのではないですか?」

ダイヤ「……」

琥珀「それに、貴方は本当に一人でしたか?」

ダイヤ「いえ……ツタージャとボルツがいつも傍に居ましたわ。旅の中で出会ったこの子たちも……」


なんとなく、腰に下げた6つのボールを撫でる。

相棒たちの入れられたボールを。


琥珀「その上で、旅に出て、後悔していますか?」

ダイヤ「いえ……あのとき旅に出て、よかったと思っています」

琥珀「その中で貴方は確実に強くなった。そして、今このオトノキ地方でも最上位の実力者である証として、ジムリーダーと言う立場に就いている」

ダイヤ「はい」

琥珀「ルビィはそんな貴方の背中を見て、自分も旅に出て強くなりたいと言っているのでしょう? なら止める理由はないではないですか」

ダイヤ「……」

286: 2019/05/03(金) 11:41:27.52 ID:ISz0KMwo0

確かにそれはそうかもしれない。ですが、


ダイヤ「やはり、わたくしとは状況が違いますわ。もう少し慎重に考えても……」

琥珀「ダイヤ、貴方はルビィを旅に出したいのか出したくないのか、どっちなのですか」

ダイヤ「……」

琥珀「それに、あのルビィがなんで自分から旅に出たいと言い出したのか……」

ダイヤ「……? ですから、ルビィは強くなって自衛の力を……」

琥珀「それも理由だとは思いますが……たぶん口実だと思いますよ」

ダイヤ「口実? 何故そのような口実を……」

琥珀「ルビィ自身が頭の中で何を考えているかまではわかりませんが……ルビィなりに何か他に目的があるのではないですか?」

ダイヤ「目的……」

琥珀「確かに危険な旅になるのかもしれませんが……旅に危険は付き物です。それをわかった上で自分から旅立ちたいと娘が言うなら、それを見守るのが親の努めでしょう」

ダイヤ「そういう……ものなのでしょうか」

琥珀「そういうものなのですよ、貴方もいつか子を持つ親になれば、わかることですから……」





    *    *    *





母との会話を反芻しながら、家の軒先に足を運ぶと、


ルビィ「あ、お姉ちゃん!」

花丸「ダイヤさん、おはようございます」


そこで、ルビィと花丸さんが待っていた。


ダイヤ「二人とも、おはようございます」

ルビィ「お姉ちゃん、お母さん……許可してくれそう?」


ルビィは少し不安げに瞳を揺らしながら、そう訊ねてくる。


ダイヤ「……ええ、お母様は許可をくださいましたわ」

ルビィ「ホントに!?」

ダイヤ「ええ」

ルビィ「えへへ、やったー!」

花丸「ルビィちゃん、よかったね」

ルビィ「うんっ!」


本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる妹を見ながら、わたくしは思う。

噫、今この子は本当に旅に対して前向きなんだな、と。

唯、わたくしはどうしても自分の中にある不安がうまく消化しきれず、


ダイヤ「ですが、条件があります」


気付いたら、ルビィに向かって、そう言っていた。



287: 2019/05/03(金) 11:43:35.58 ID:ISz0KMwo0


    *    *    *





──2番道路。

ルビィは花丸ちゃんと一緒にウチウラシティの外に来ていました。


花丸「ルビィちゃん、やっぱりマルも協力した方が……」

ルビィ「うぅん、大丈夫。それに、お姉ちゃんのこと安心させてあげるためにもルビィが一人で達成した方がいいと思うから」


──さて、さっきお姉ちゃんから出された条件はこういうものでした。

『今日中に手持ちを4匹以上にすることが出来れば、旅立ちを許可します』

今ルビィの手持ちはアチャモと、メレシーのコラン、その2匹。つまり後2匹新しくポケモンを捕まえなくてはいけません。


ルビィ「ルビィも少しは戦えるところを見せないと!」

花丸「ルビィちゃんが燃えてる……珍しいずら」


花丸ちゃんがそう言うのを聞いて、確かに我ながら珍しくやる気に満ち溢れてる気がします。


花丸「そういうことなら、マルはあくまで見守ることにするずら」

ルビィ「うん、ありがとう」

花丸「ただ、方針とかはあるの?」

ルビィ「? 方針って?」

花丸「手持ちを4匹にするだけなら、捕まえやすいポケモンを狙う方が効率がいいと思うんだけど……」

ルビィ「捕まえやすいポケモン……」

花丸「コラッタとかオタチとかは、捕まえやすいポケモンだけど……」


なんとなく、花丸ちゃんの言いたいことはわかる。

これはルビィの実力試し。

ただ手持ちを4匹にするだけでも、お姉ちゃんは予め出した条件を引っ込めたりはしないだろうけど……。


ルビィ「ただ数をそろえるだけじゃ、実力を示したことにならないよね……」

花丸「うん」

ルビィ「強いポケモン? とか、珍しいポケモン? の方がいいのかな」


正直どんなポケモンが強くて、どんなポケモンが珍しいのかもよく知らないんだけど。


花丸「それなら、ここ2番道路で一番珍しいって言われてるポケモンは……たぶん、ヌイコグマずら」

ルビィ「ヌイコグマ……」


ヌイコグマなら、本当に数えるほどしかないけど、町の近くで見たことはある。

ピンクの体に黒い足のぬいぐるみみたいなポケモン。

288: 2019/05/03(金) 11:48:53.96 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「じゃあ、目標はヌイコグマともう一匹捕まえる!」

花丸「了解ずら! じゃあ、まずはウォーミングアップで一匹捕まえて、そのあとヌイコグマを探すといいと思うずら」

ルビィ「うん!」

花丸「あ、そうだ」

ルビィ「?」

花丸「今回この課題達成のためにルビィちゃんに秘密兵器を渡そうと思ってたんだ」

ルビィ「ひみつへいき?」


花丸ちゃんはそう言いながら、ごそごそとリュックの中を漁る。


花丸「あったずら!」


花丸ちゃんが取り出したのは、色とりどりのモンスターボールが収納されたボールケースだった。

花丸ちゃんは収集癖なところがあって、珍しいボールを集めるのが好きだったっけ、


花丸「ボールによって、いろんな効果があるから、きっとルビィちゃんの役に立つかなと思って」

ルビィ「え……ルビィが使っていいの?」


モンスターボールは基本的に消耗品です。

たまに繰り返し使うことが出来ることもあるけど、基本的には捕獲に失敗したら割れたり、砕けたりしてしまうし、

成功したらしたで、そのポケモンと紐付けされるので、あとでそのボールを空に戻すことは出来ません。


ルビィ「大事に集めてたのに……」

花丸「道具は使ってこそ意味があるんだよ。本来の用途で使わないまま、後生大事にしまっておくなんて、逆に道具が可哀想ずら」

ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「それに、マル一人でこれ全部は使い切れないから、ルビィちゃんと一緒に使えればいいかなって」

ルビィ「……えへへ、花丸ちゃん。ありがと」

花丸「どういたしまして。それじゃルビィちゃん、どのボールにする?」

ルビィ「えっと……」


ボールケースに整然と並べられたボールはかなりの種類がある。

……けど、ルビィには違いがよくわからない。


花丸「さすがにマスターボールとかサファリボール、パークボール、コンペボールは持ってないけど……」


マスターボールが一番すごいボールなのは聞いたことあるかも……他の3つはわかんないけど、


花丸「とりあえず、使いやすくて高性能なのはスーパーボールとハイパーボールかな」

ルビィ「それ高いやつじゃないっけ……お姉ちゃんのハガネールとかオドリドリはそれに入ってたよね」

花丸「ダイヤさんのボール選択は手堅いからね。リピートボール、レベルボールは今回は使いづらいかな……」

ルビィ「それってどんなボールなの?」

花丸「リピートボールは捕まえたことのあるポケモンが捕まえやすくなるボールで、レベルボールは自分のポケモンより相手のレベルが低いと捕まえやすくなるずら」


確かにそれだとはじめての捕獲向きじゃないかも。


花丸「ネストボールは……レベルの低いポケモンを捕まえやすいってボールだけど、今回はルビィちゃんの目的に沿ってないかも。でも、状況によって使い分けるボールなら捕獲の知識や実力の証明にもなるから……」


花丸ちゃんが一個ずつボールを指差しながら、

289: 2019/05/03(金) 11:49:57.70 ID:ISz0KMwo0

花丸「ルアーボール、ムーンボール、ラブラブボール、ヘビーボール、スピードボール、タイマーボール、ネットボール、ダイブボール辺りかな。時間帯を考えてもダークボールは最終手段だね」


……確かにこれだけ使い分けられたら、捕獲名人かも。


花丸「どれにする?」

ルビィ「えっと……違いがよくわからないんだけど……」

花丸「それぞれ捕まえやすいポケモンが違うずら」

ルビィ「それ覚えるだけで日が暮れちゃうよ! 最終的に捕まえるポケモンはヌイコグマって決めてるんだから、そんなに使い分けを考えなくても……」

花丸「む……それは確かに……」


花丸ちゃんは少し眉を顰めてから、


花丸「じゃあ、これなんかどう?」


そう言って、花丸ちゃんが黄緑色のボールを手渡してくる。


ルビィ「これは?」

花丸「フレンドボールって言って、捕まえたポケモンがすぐになついてくれるボールずら」

ルビィ「あ、それいいかも!」


これから一緒に旅する仲間が、最初からなついて力になってくれる姿を見れば、お姉ちゃんも少しは安心してくれるかもしれない。


花丸「じゃあ、フレンドボールを持ってって。5個くらいしか持ってないけど……」

ルビィ「それだけあれば大丈夫! ありがと、花丸ちゃん!」


ルビィは花丸ちゃんからボールを受け取って、


ルビィ「アチャモ! コラン! 出てきて!」


腰からボールを外して放る。

 「チャモ」「ピピィ」


ルビィ「よっし! 捕獲作戦スタートだよ!」
 「チャモ!」「ピピ」


ルビィの旅立ち前の実力試しがスタートしました。





    *    *    *





ルビィ「まずは一匹……試しに、だよね」


身を屈めて、こそこそと草むらを移動する。

──すると、

 「タチッ」

尾を垂直に立ててその上で辺りをキョロキョロと監視しているポケモンがいる。

オタチだ。

290: 2019/05/03(金) 11:51:23.09 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「まずは図鑑で、相手がどんなポケモンか調べるんだよね……えっと」


身を屈めたまま、ポチポチと図鑑を押していると

 「チャモ?」

アチャモが横から図鑑を突いてくる。


ルビィ「ぅゅ……アチャモ、今はちょっと大人しくしててね」
 「チャモ」


 『オタチ みはりポケモン 高さ:0.8m 重さ:6.0kg
  遠くまで 見れるように 尻尾を 使って 立つ。 群れの
  見張り役は 敵を 見つけると 鋭く 鳴いたり 尻尾で
  地面を 叩いて 仲間に 危険を 知らせる。』


オタチのデータを確認していると、


ルビィ「あれ? 他のポケモンも近くにいる?」


図鑑が近くに他のポケモンを察知したようで、


 『オニスズメ ことりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg
  食欲旺盛で 忙しく あちこちを 飛び回り 草むらの
  虫などを 食べている。 羽が 短く 長い 距離を
  飛べないため いつも 忙しなく 羽ばたいている。』


ルビィ「オニスズメ……」


顔をあげて、頭上を見回すと、確かにオニスズメが飛んでい──


 「オタアアアアアアアアアアアアアアチ!!!!!!」

ルビィ「ぴぎぃっ!?」


ルビィがオニスズメの姿を認めると同時に、地上のオタチが甲高い声をあげた。


ルビィ「ぅ、うるさい……オタチもオニスズメを見つけて、威嚇してるんだ……」


このままだと野生のオタチとオニスズメが戦闘を始めるかもしれない。

どうしようかと考えていると、


 「チャモーーー!!!!」

ルビィ「え、ちょ、アチャモ!?」


何故かアチャモが飛び出した、


 「ピピィーーーーー!!!!」

ルビィ「え、コランも!?」


何故かコランも上空に飛び出した。


 「チャモーーー!!!」

 「タチッ!!!?」


草むらから突然飛び出して、アチャモがオタチに向かって“ひのこ”を放つ、

291: 2019/05/03(金) 11:53:44.77 ID:ISz0KMwo0

 「ピピー!!」

 「オニィッ!!?」


上空のオニスズメも突然飛び出してきた、コランに“たいあたり”される。


ルビィ「ちょっと、二人とも! 勝手に行動しないでよぉ!!」


 「チャモ!! チャモ!!」

一方、アチャモは“ひのこ”と“つつく”をオタチに向かって連打している。


ルビィ「あ、アチャモ! そんなにやったらオタチが戦闘不能になっちゃうから!! ほどほどに弱らせないと、捕獲出来ないからっ!」


そんなアチャモの頭上に、突然の落下物、直撃。


 「チャモ!?」

ルビィ「わっ!? アチャモ!?」


先ほど上空でコランが突撃した、オニスズメだった。

 「ピーピピピピッ!!!」

その上空ではコランが楽しそうに笑っている。


ルビィ「コランー!? 勝手に“うちおとす”使わないでよー!?」

 「チャモ…」


アチャモは散々攻撃していた、オタチのことをもう忘れてしまったのか、

上空のコランを睨み付けた。


 「ピピピ」

 「チャモォ…」


ルビィ「ちょっと、二人ともそんなことしてる場合じゃ……!」


 「オニ…!!!」


ルビィが指示を出すのを待たず、墜落してきたオニスズメが起き上がり、アチャモを標的に──


 「チャモォ!!!」


──そのオニスズメの頭をアチャモが踏みつけて、


 「オニ!?」


高く、高く、跳んだ。

コランのところまで、

“とびはねる”。

 「ピピ!?」

オニスズメをその健脚で蹴り飛ばした反動を使って、前中をするように中空で縦回転しながら、コランに向かって鋭い鉤爪を立てる。

“ブレイククロー”だ。

 「チャッモォ!!」

──ガキン。硬い爪と岩がぶつかり合う音のしたあと、

292: 2019/05/03(金) 11:55:03.39 ID:ISz0KMwo0

 「ピピ!!!!」


ルビィの顔の横を掠めるように、岩──もとい、コランが降ってきた。


ルビィ「……」

 「チャモ…!!」


そして、地面にめり込んだコランの上にアチャモが着地する。


ルビィ「…………」


辺りを見回す。

戦闘不能で気絶した、オタチとオニスズメ。

めり込んだコランと、その上でふんぞり返るアチャモ。


ルビィ「……花丸ちゃん……やっぱりルビィ、ダメかも……」


ルビィの捕獲劇は、初戦から無事失敗で始まりました。





    *    *    *





花丸「ナエトル! “たいあたり”!」
 「トル!!」

 「ポポ!!?」


ナエトルの“たいあたり”でポッポが怯んだところに、


花丸「いくずらー!」


マルはすかさずボールを投げつける。

そのボールは見事ポッポにぶつかる──ことはなく。1mも前に飛ばずに、マルの足元に落ちる。そしてテンテンと、音を立てて地面を転がる。


 「ポポ…!!」


その隙にポッポが起き上がって、逃げようとするところ、

 「ゴン…」


ゴンベがモンスターボールを拾い上げて、


花丸「ゴンベ! “なげつける”ずら!」
 「ゴン」


ボールを投げつける。一直線に飛んでいくボールは、


 「ポポッ!?」


ポッポに直撃して、そのままボールの中にポッポが吸い込まれた。


花丸「よし! ずら」

293: 2019/05/03(金) 11:56:39.66 ID:ISz0KMwo0

ボールは無事3回ほど揺れたあと大人しくなった。


花丸「これで5匹目だね。ゴンベ、毎回外してごめんね」
 「ゴン…」


ゴンベは慣れっこだと言う感じで鼻を鳴らした。

マルはどうしても運動が苦手だから、ボールがうまく飛ばないんだけど、そこはゴンベがうまくカバーしてくれているから、捕獲はかなり順調。


花丸「オタチ、ミネズミ、オニスズメ、ムックル、ポッポ……ホントに順調ずら」


この辺りにいるポケモンはもしかしたら今日中に大方捕まえきってしまうかもしれない。


花丸「あとはこの辺りだと、レディバとかアゴジムシとかコフキムシみたいな虫ポケモンがいたかな? ……夜にはコラッタとかホーホー、イトマルが出るはず」


夜行性のポケモンは日中の時間はあまり姿を見せないから、とりあえずお昼のポケモンを端から捕まえる。


花丸「実際やってみたら、捕獲って苦労するのかなって思ってたけど……案外平気だね」
 「ゴン…」「ナエー」


そんな風に言ってると、前方からナエトルがとてとてと歩きながら戻って来る。


花丸「この分だと、ルビィちゃんも最初の捕獲は終えて、今はヌイコグマを探してるところかな?」


じゃあ、マルもヌイコグマを探してみようかな。

見つけたらルビィちゃんに教えてあげないと。





    *    *    *





ルビィ「…………」


ルビィの目の前に広がる光景──黒こげの草むら、撃ち落とされ気絶している大量のポッポとオニスズメ、ムックル。その数は10匹以上。

遠巻きにオタチが巣穴からこっちを警戒している。

少し遠目に逃げ惑うミネズミ、日中の時間帯なのに、逃げるポケモンたちの中にはコラッタの姿も見える。

巣穴で寝ていた子たちが驚いて逃げているのかもしれない。

そして、ルビィのすぐそばでは、


 「チャモォ!!!」

 「ピッピピィ!!!!」


アチャモとコランが爪と岩をぶつけ合って、戦っていた。


ルビィ「……ぅゅ」


捕獲どころじゃない。

周りの野生ポケモンを巻き込みながら、手持ちの2匹が大喧嘩をはじめて、もう数十分経つ。

縄張りを荒らされたと思って攻撃してきたオニスズメを撃ち落とし、騒ぎに気付いて鳴きだしたムックルも撃ち落とし、ついでにたまたま近くを通り過ぎたポッポも撃ち落している。

ただ、アチャモもコランもケンカが第一のようで、野生のポケモンには目もくれない。

そんな状況で警戒心の強い陸上のポケモンたちは巣穴に逃げ込んだり、とにかくこの場からはほとんどが逃げてしまった。

294: 2019/05/03(金) 11:58:39.30 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「もうー!!! 二人ともいい加減にしてよぉ!!」


ルビィの言葉は虚しくも、そのまま空に飲み込まれていく。


ルビィ「ぅぅ……。クロサワの入江では言うこと聞いてくれたのに……」


ルビィは思わず体育座りをするように地面にへたり込んで、ぼんやりと二匹のケンカを眺める。


 「アブブゥ」


腕に止まったアブリーがルビィに向かって、鳴き声を挙げる。


ルビィ「ありがと……慰めてくれてるんだね……」


…………。


ルビィ「え」


ルビィは自分の目を疑いました。

体育座りの姿勢の自分の手の甲から、膝を伝って、のんきに歩いている、小さなポケモンが一匹……。


ルビィ「えっと……」

 「アブブゥ?」


大きさは10cmくらい。

割とよくそこらへんを飛んでいるので、知っているポケモン。

アブリーだ。とりあえず、図鑑を開く。


 『アブリー ツリアブポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.2kg
  花のミツや 花粉が 餌。 オーラを 感じる 力を
  持ち 咲きそうな 花を 見分けている。 また
  花に 似た オーラを 持つ 人に 集まってくる。』


ルビィ「花に似たオーラって、なんだろう……」

 「アブ?」


膝を伝って、アブリーがそのまま胸の辺りに潜り込もうとしてくる。


ルビィ「わわっ!? ルビィ、花粉とかミツとか出ないから!?」


驚いて、立ち上がると、

 「ブブ」

コロコロと地面を軽く転がったあと、


ルビィ「あ、ご、ごめんねっ」

 「アブブブ」


小さな翅を羽ばたかせて、空に浮き立つ。

そのまま、ルビィの頭の上に留まる。


ルビィ「……」


とりあえず、ポーチから空のフレンドボールを取り出して。

295: 2019/05/03(金) 11:59:31.62 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「えい」


アブリーに押し付けてみる。

 「アブブ──」

鳴き声を残して、ボールに吸い込まれるアブリー。

ほとんど、ボールが揺れることもなく。

そのまま大人しくなった。


ルビィ「……えーっと」


ルビィは困りました。


ルビィ「これは捕獲成功でいいのかな……」


捕獲したにはしたんだけど……これって捕獲に入るのかな?


ルビィ「……とりあえず」


 「チャモォ!!!」
 「ピピピピピピ!!!!」


二匹のケンカを止めようかな……。それから考えよう。





    *    *    *





ルビィ「考えてみれば、最初からこうしてればよかったんだよね……」


二匹を無理やりボールに戻してから、ルビィは2番道路の草むらを行ったり来たりしていました。

ただ、ルビィの手持ちが大暴れした情報が野生ポケモンの間で行き渡っているのか。


ルビィ「うぅ……ポケモンたちが近寄ってこない……」


思わず項垂れてしまう。


花丸「る、ルビィちゃーん!」


そんなルビィに遠くから名前を呼ぶ声。


ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「……は……はっ……!!……る、ルビィ……ちゃ……」

ルビィ「は、花丸ちゃん! ゆっくりでいいから!!」


運動が苦手な花丸ちゃんは少し走るだけで、肩で息をしていた。


花丸「る……ルビィ……ちゃんが……落ち込んでる……気が……した、から……」

ルビィ「ルビィは花丸ちゃんの方が心配だよ……大丈夫?」

花丸「ち、ちょっと休憩ずら……」

296: 2019/05/03(金) 12:00:50.23 ID:ISz0KMwo0

花丸ちゃんはそう言ってルビィの傍でへたり込む。


ルビィ「もう……花丸ちゃんったら……」

花丸「えへへ、ごめんずら……」


ルビィもちょっと休憩しようかな。


花丸「捕獲は順調?」

ルビィ「えーと……あんまり」

花丸「そっかぁ……」

ルビィ「花丸ちゃんも捕獲してたの?」

花丸「あ、うん。さっきまで順調だったんだけど……急に野生のポケモンが出てこなくなって……」

ルビィ「あ、そうなんだ……なんか、ごめんね」

花丸「?」


たぶん当分、ここの一帯のポケモンはトレーナーに近付いてこない気がする。


花丸「あれ? 腰のボール一個増えてる? 捕獲したの?」

ルビィ「あ、うん。たまたまというか……」


言われて黄緑色のボールを放ると、中からアブリーが飛び出す。

 「アブブ」


花丸「アブリーずら! マルはまだ捕まえてなかったんだよね」

ルビィ「この子、全然ルビィのこと警戒しなくて……」
 「アブブ」


そのまま、頭の上に停まって来る。


ルビィ「捕まえる前から、こんな感じで……」

花丸「ルビィちゃんが優しいことに気付いてたんじゃないのかな?」

ルビィ「完全に運が良かっただけだよ……」

花丸「運も実力の内だよ?」

ルビィ「あはは、ありがと……花丸ちゃん」


他のポケモンの気配のしない2番道路に、そよそよと風が吹いて、ルビィたちの髪を揺らす。


花丸「ねぇ、ルビィちゃん」

ルビィ「なぁに? 花丸ちゃん」

花丸「どうして、旅に出たいって思うようになったの?」

ルビィ「え……」


花丸ちゃんが急に核心を突くようなことを言ってくる。

297: 2019/05/03(金) 12:02:15.11 ID:ISz0KMwo0

花丸「うぅん、そうじゃないね。クロサワの入江で何があったの?」

ルビィ「な、何……って……」

花丸「ルビィちゃんを攫って行った犯人と関係があるのかな?」

ルビィ「……ぅゅ……」

花丸「あ、ごめんね……別に責めてるわけじゃないんだけど……」

ルビィ「……」

花丸「無理に聞き出したりはしないけど、気にはなってたんだよね」


ルビィはずっと旅に出ることに消極的だった。それを一番よく知ってるのは他でもない花丸ちゃんだ。

そんなルビィがなんで急に旅に出たいなんて言い出したのか、一番気になってるのも花丸ちゃんな気がする。


ルビィ「……花丸ちゃん聞いたら怒るかも」

花丸「怒らないずら」

ルビィ「本当?」

花丸「マルはルビィちゃんに嘘吐かないよ」

ルビィ「……うん、そうだね」


じゃあ、ルビィも嘘や隠し事は花丸ちゃんにはしたくない。


ルビィ「……理亞さん──あ、ルビィのことを攫おうとした人だけど……」

花丸「うん」

ルビィ「たぶんなんだけど……ルビィ、あの人は悪い人じゃないと思うんだ」

花丸「そうなの?」

ルビィ「たぶん……」

花丸「そっか」

ルビィ「メレシーたちを大切にしてたし……やり方は乱暴だったけど、ちゃんとお話すれば……もっと分かり合えれば誰も悲しい想いしなくて済むんじゃないかなって、たぶんなんだけど……」

花丸「……じゃあ、その人を探すために旅に?」

ルビィ「そう、なるのかな……でも、今のまま会っても意味ないから」

花丸「強くなって、なんであんなことをしたのか、ちゃんと聞きたいんだね」

ルビィ「うん」

花丸「やっぱり、ルビィちゃんは優しいね」

ルビィ「そんなんじゃないよ……ただ──」

花丸「ただ?」

ルビィ「メレシーを大切にする人に悪い人はいないから」

花丸「ふふ、そっか。昔からばあちゃんも同じようなこと言ってたずら。じゃあ、その……理亞さん? は悪者じゃないんだね」

ルビィ「信じてくれるの?」

花丸「ルビィちゃんはそう思うんでしょ? なら信じるよ」

ルビィ「花丸ちゃん……ありがと」

花丸「どういたしまして、ずら。そのためには、早くヌイコグマ探して捕まえないとだね」


花丸ちゃんはそう言って立ち上がる。


ルビィ「うん、そうだね」

298: 2019/05/03(金) 12:03:33.08 ID:ISz0KMwo0

ルビィもつられて立ち上がる。

とは言っても、どうしようかな……。野生のポケモンたちはこの辺りからほとんど逃げちゃったし……。


 「…アブブ?」


そのとき頭の上でアブリーが鳴き声をあげた。


ルビィ「アブリー? どうしたの?」
 「アブブ」


パタパタと翅を動かして、ルビィから放れたアブリーは西の方を見ていた。


花丸「何か居たずら?」

ルビィ「ん……」


アブリーの見ている方向に目を凝らすと、


ルビィ「……お車?」


ポケモン輸送用の軽トラックがこっちに向かって走ってきていました。





    *    *    *





 「メェー」「メェー」「メェーメェー」


花丸「わ、メリープがいっぱいずら」


そのトラックには花丸ちゃんの言う通り、たくさんのメリープが輸送されていた。

確か西のコメコシティに牧場があったはずだから、そこから来たのかな?


 『メリープ わたげポケモン 高さ:0.6m 重さ:7.8kg
  ふかふかの 体毛は 空気を たくさん 含んで 夏は
  涼しく 冬は 温かい 優秀な 服の 素材になる。 ただし
  静電気が 溜まりやすいので 特殊な 加工を する。』


安全運転でのんびりと走る、トラックに積まれたメリープを二人で眺めていると、運転手のおじさんが窓から顔を出して、


牧場おじさん「お嬢ちゃんたち、この辺りの子なのかいー?」


そう訊ねてきた。


ルビィ「あ、は、はいっ」

花丸「こんなにたくさんのメリープ、どうしたずら……どうしたんですか?」

ルビィ「こ、この先には、港……しか、ないよね」


なんとなく、知らない人なのでルビィは花丸ちゃんの後ろに隠れてしまう。

299: 2019/05/03(金) 12:06:40.32 ID:ISz0KMwo0

牧場おじさん「その港へのお届けなんだよー」

花丸「港に?」

牧場おじさん「なんでも、急にメリープの綿毛を発注した人がいるらしくってなー。拘りが強い人らしくて毛刈りも自分でってことさー。明日の朝一の船に載せてフソウタウンまでメリープを送らないといけないんだよー」

ルビィ「明日……随分急だね」

牧場おじさん「おじさんも長いことメリープやらミルタンクやら運送してるけどー。ホシゾラより東に運ぶのは久しぶりだよー」

花丸「大変ですね……」

牧場おじさん「まあ、これも仕事さーそれに今日は野生のポケモンも随分少なくて運転が楽だよー」

ルビィ「……あはは……」


なんとなく、目を逸らして苦笑いする。


牧場おじさん「2番道路は力の強い野生ポケモンがいるから、気をつけろー。なんて言うけど、この分なら問題ないなー」

ルビィ「力の強いポケモンですか?」


そんなポケモンこの辺りにいたっけ……?


牧場おじさん「なんでもぬいぐるみみたいな見た目してるわりにー。随分力が強いポケモンらしくてなー」

ルビィ「え?」

牧場おじさん「かわいい見た目の割に気性が荒くてー。縄張りに入られると機嫌が悪くなるっていうからなー。うっかり縄張りに近付かないようしないとなー」

ルビィ「え??」

花丸「……もしかして、ヌイコグマずら?」

牧場おじさん「確か、そんな名前だったなー」

ルビィ「え???」

牧場おじさん「ただ、普段はあまり表に出てこない珍しいポケモンさー。こっちから行かない限りは、他のポケモンが縄張りに侵入してきて、その拍子に表に飛び出してきたーなんてことがなければまず出くわすこともないさー」

ルビィ「…………」


ルビィは嫌な予感がして、あたりをキョロキョロと見回してしまう。


ルビィ「あの……」

花丸「ルビィちゃん、どうかしたの?」

牧場おじさん「お嬢ちゃん、顔色悪いけどだいじょうぶかー?」

ルビィ「ヌイコグマって……そこにいるポケモンですか……?」

花丸・牧場おじさん「「……え?」」


メリープを積んでいる、貨物車の後輪辺りに、ピンクと黒のぬいぐるみみたいなポケモンが、居ました。





    *    *    *





牧場おじさん「ど、どわああああー!?」
 「メェーー」「メェェーーー」


 「クーーマーーー」

ヌイコグマが身体を車輪に潜り込ませるようにすると、トラックがいとも簡単に後輪から浮き始める。

300: 2019/05/03(金) 12:07:49.52 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「わ、わっ!?」

花丸「ずら!?」

牧場おじさん「た、倒れちまうー」

花丸「い、いけないずら! ゴンベ、ナエトル!」
 「ゴンッ」「ナエー」


花丸ちゃんがバスを挟んで、ヌイコグマとは対角線上の車輪の方にゴンベとナエトルを繰り出す。


花丸「“かいりき”!」

 「ゴンッ!!」「ナエー!!」


逆側から押すことで少しだけ、傾く速度が遅くなるが、

すぐにまた押し負け始める。


 「メェー」「メェェー」
牧場「なんて“ばかぢから”だー!?」

ルビィ「あ、あわわ……!!」


ヌイコグマをどうにかしなきゃ……!!


 「アブゥーー」

慌てるルビィの目の前にアブリーが飛んでくる、


ルビィ「! 指示を出せってこと!?」
 「アブアブ」


花丸ちゃんは二匹の指示に精一杯だ、それなら、


ルビィ「ルビィがやるしかない……!! アブリー“ようせいのかぜ”!」
 「アブーリィー!!」


アブリーから、放たれた風がヌイコグマを直撃する。

 「クーーマーー」

ヌイコグマはアブリーに攻撃されたことを認識すると、

──ガン、とトラックに一発頭突きをかましてから、


 「ゴンッ!!」

牧場おじさん「おわわー」

花丸「倒れるずらー!? ナエトル、“ワイドガード”!!」
 「ナエー」


ヌイコグマがこっちに向かって、走ってきた……!!


ルビィ「アブリー! 一旦ここから引き離そっ!」
 「アブブ」


ルビィは踵を返して、アブリーと一緒に走り出した。

トラックはたぶん、花丸ちゃんがどうにかしてくれる……。

だから、ヌイコグマはルビィが引き付けて……!!

振り向くと──


ちょっと走っただけで、ヌイコグマとかなり距離が離れていた。

301: 2019/05/03(金) 12:09:53.73 ID:ISz0KMwo0

花丸「ルビィちゃーん!! ヌイコグマは脚が遅いずらー!!」

 「クーーーマーーー」

ルビィ「ええええーー!!!!?」


全速力で走り出したせいか、ヌイコグマはすでにルビィたちを見失いかけて、トラックの場所へもどろうとしていた。


ルビィ「な、何かおびき寄せる技……!!」


ルビィは図鑑を開いて、アブリーの技を確認する。


ルビィ「こ、これ!! アブリー、“ないしょばなし”!」
 「アブブー」

アブリーがヌイコグマの元へ近付いて、周囲をぶんぶんと飛び回る。

 「クーーーーーーマーーーーーー…」

ヌイコグマの意識がまたアブリーに向いた。


ルビィ「よっし、アブリーまたおびき寄せようーっ!」

 「アブブー」


またアブリーがルビィの元に戻って来るけど、


ルビィ「ぬ、ヌイコグマ……遅い……!」


さっきは全速力で走りながら背を向けたから見ていなかったけど、こうして見てみると確かに遅い。

でも、あの“ばかぢから”で暴れられたらトラックに被害を与えかねないし、出来るだけ引き付けたい……。

再び図鑑でアブリーの技を調べて──


ルビィ「! この技なら……! アブリー!」
 「アブアブ」

ルビィ「“スピードスワップ”!」
 「アブアブブ」


ルビィの指示と共にアブリーのスピードががくっと落ちる。

そして、

 「クーマー」


ルビィ「ぴぎぃ!!?」


ものすごいスピードでヌイコグマがこちらに近付いてくる。


ルビィ「た、タイミング速すぎた!? アブリー頑張ってー!」
 「アブー」


“スピードスワップ”でアブリーとヌイコグマの素早さを入れ替えた結果、ヌイコグマが猛スピードで追って来はじめた。

あの可愛い見た目とあのパワーのポケモンが猛スピードで迫ってくるのは、謎の迫力があって、正直怖い。

意図したことだけど、ヌイコグマに追い回される形になる。


ルビィ「は、はっ……!! アブリー!!」
 「アブ」

302: 2019/05/03(金) 12:11:20.81 ID:ISz0KMwo0

ルビィは素早さの下がったアブリーと併走する。

背後を見ると、ヌイコグマが後ろから迫ってくる。

引き付けるのには完全に成功したようだ。

視線を前に戻す。

すると、遠方に浜辺が見えてきた。


ルビィ「す、スタービーチ!!」


ここまで来れば十分、


ルビィ「アブリー、“ねばねばネット”!」
 「アブブーーー」


アブリーがその場で粘着性のネットを散布する。

 「クーーマーー」

そのネットに足を取られて、ヌイコグマの動きが少しだけ遅くなる。


ルビィ「ぬ、ヌイコグマさん! ルビィとバトルしてください!」


ここまでくれば、もう一対一。あとはルビィがヌイコグマを捕まえるだけ、

 「クーマー」

と、思った瞬間、ヌイコグマが跳ねて、そのままの勢いでアブリーを前足で蹴り飛ばした。“メガトンキック”だ。


 「アブゥーーー」

ルビィ「!? あ、アブリーッ!!?」


ルビィは蹴り飛ばされたアブリーをどうにか腕を伸ばしながらジャンプしてキャッチする。


 「アブブ…」
ルビィ「アブリー、ありがと。あとは休んで」


アブリーをボールに戻す。

 「クーーマーーー」

ヌイコグマの視線がルビィに向く。


ルビィ「ぅゅ……」


一瞬身が竦んだけど……。


ルビィ「ダメだ……戦わなきゃ……!!」


自分を叱咤する。ルビィの手持ちは残り二匹、アチャモかコランか、

腰からボールを選ぼうとしたら、


 「チャモー」「ピピー!!」


アチャモとコランが同時にボールから、勝手に飛び出した。


ルビィ「!」

 「チャモチャモ」「ピピィ」

303: 2019/05/03(金) 12:12:29.12 ID:ISz0KMwo0

それぞれ、アチャモが“フェザーダンス”を、コランが“ステルスロック”を放つ。

二匹とも、ヌイコグマの足止めの技だ。


ルビィ「二人とも協力できる!?」
 「チャモ!」「ピピ!」


やんちゃな二匹だけど、いざというときは心強い。


ルビィ「アチャモ! “ひのこ”! コラン! “たいあたり”!」
 「チャモ!!」「ピピ!!」


アチャモの“ひのこ”と共に、弾けるようにコランが飛び出す。

 「クーマー」

ヌイコグマは攻撃を避けようと、身体を横にずらそうとする、が。

 「クーーマーー」


“ねばねばネット”に引っかかって、うまく移動が出来ていない。

そこに“ひのこ”がヒットする。

 「クーーマーー」


ルビィ「効いてる!」


ヌイコグマが怯んだところに

 「ピピーーー!!!」

そのままコランが突撃する。

 「クーーーーマーーー」

ヌイコグマが鳴き声をあげながら、怯んだ──ように見えたが、

 「クマー」

突撃してきた、コランを捕まえるように、前足で押さえつける。


 「ピピ!?」
ルビィ「コラン!?」


そのまま、前足でコランを掴み、後ろ足で回りながら、コランを“ぶんまわす”

 「クーーマーー」


ルビィ「コラン!!?」


ルビィがコランに向かって叫ぶと、

 「チャモ!!」

アチャモが一歩前に出た、


ルビィ「あ、アチャモ!?」
 「チャモ!!」


任せろと言わんばかりに、


ルビィ「!」


その姿を見てハッとする。ここでルビィが動揺しちゃダメだ……!

この前、千歌ちゃんが見せてくれたみたいに、トレーナーがポケモンの力を引き出すんだ……!!

304: 2019/05/03(金) 12:13:21.25 ID:ISz0KMwo0

 「クーーーマーー」

ヌイコグマが回転した反動を乗せたまま、コランを投げ飛ばしてくる。


ルビィ「コラン!! “かくばる”!!」

 「ピピーーーー」


コランの身体をより攻撃的にして、


ルビィ「アチャモ! “ブレイククロー”で片足だけ、地面を踏みしめて!」
 「チャモォ!!」


ルビィ「アチャモ! コラン!」

 「チャモ!!」「ピピ!!」


一直線に飛んできた、コランをアチャモが片足で受け止め、踏みしめた逆の脚を軸足に回転して、コランをさらに投げ返す……!!


 「クーーマーー!?」

ルビィ「いっけー!!!」


かなり特殊な形だけど、二匹の力を合わせて、ヌイコグマに攻撃を倍返しする! “カウンター”!!

 「ピピーーーー!!!」

その激烈な勢いで、飛んできたコランに、

 「クマーーー!?」

今度は受け止めることが出来ずにヌイコグマが後ろに大きく吹き飛んだ。


ルビィ「い、今だ……!!」


ルビィは地を蹴って走り出す。

 「ク、マー」

ヌイコグマに近付いて、花丸ちゃんから貰ったフレンドボールを構えて、

投げた。


 「クマ──」


──パシュン、カツンカツーン。

ヌイコグマを吸い込んだボールが音を立てて、地面で跳ねる。


ルビィ「はぁ……はぁ……!!」


ボールが一揺れ、二揺れ……三回揺れて……大人しくなった。


ルビィ「はぁ……はぁー……」


ルビィは思わずへたり込んでしまう。
 「チャモ…」「ピピ」

そんなところに二匹が近寄ってくる。


ルビィ「えへへ……ちょっと、気が抜けちゃったね」


そうはにかんでから、アチャモとコランを抱き寄せる。

 「チャモ」「ピピ」

305: 2019/05/03(金) 12:14:17.07 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「えへへ、みんなのお陰で捕獲出来たよ……アチャモ、コラン、アブリーも……ありがと」
 「チャモ」「ピピ」


激闘の末、ルビィはヌイコグマの捕獲に成功したのでした……!!





    *    *    *





あの後、ルビィたちがトラックの方に戻ると、花丸ちゃんとおじさんが待っていました。


牧場おじさん「いやーほんとに助かったー」

花丸「ルビィちゃん、怪我とかしてない?」

ルビィ「うん、大丈夫だよ」

牧場おじさん「何かお礼させて欲しいさー」

ルビィ「あ、えっと……お礼は大丈夫、というか……ある意味ルビィたちが原因というか……」

花丸「ずら?」

ルビィ「と、とにかく大丈夫なんで!」

牧場おじさん「そうかー? 最近の子は謙虚なんだなー この恩は忘れないさー」
 「メェー」


おじさんはそう残して、港の方へとトラックを走らせて去って行きました。


ルビィ「花丸ちゃんは怪我してない?」

花丸「うん、ルビィちゃんがヌイコグマをひきつけてくれたお陰で無傷ずら」

ルビィ「そっか、よかったぁ……」

花丸「それで、あのヌイコグマは……」

ルビィ「あ、うん、ここにいるよ」

花丸「ずら!? あの状況から捕まえたの!?」

ルビィ「え? だって、最初からヌイコグマ捕まえるって話だったし……」

花丸「そうだけど……ホントにどこも怪我してないの? あのヌイコグマ、結構強かったんじゃ……」

ルビィ「強かった、けど……」


ルビィは、3つのボールを撫でながら、


ルビィ「皆が助けてくれたから……」

花丸「…………」

ルビィ「……? 花丸ちゃん?」

花丸「あ、ううん、なんかルビィちゃんすごいなって思っただけ」

ルビィ「え、えへへ……なんか花丸ちゃんに改めてそう言われると照れちゃうな」


ルビィは少しだけ恥ずかしくなって、頬を掻く。

……さて、

306: 2019/05/03(金) 12:14:44.94 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「後はお姉ちゃんに報告して、認めてもらうだけだね……」

花丸「ふふ、そうだね」

ルビィ「ぅ……なんで、笑うの、花丸ちゃん……ここが一番緊張するんだよ?」

花丸「そんな心配いらないよ」

ルビィ「そうかな……?」

花丸「だって、今日のルビィちゃん」


花丸ちゃんはニコっと安心する笑顔を作ってから、


花丸「100点満点通り越して、はなまる200点満点だったから! ダイヤさんも絶対認めてくれるずらっ」


そう言って笑うのでした。



307: 2019/05/03(金) 12:15:55.21 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【2番道路】
no title

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.13 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.7 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:4匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.12 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:12匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




308: 2019/05/03(金) 13:34:09.18 ID:ISz0KMwo0

■Chapter023 『犬ポケモンの楽園』 【SIDE Chika】





──コメコジムでのジムバトルを終えた後……。

コメコのポケモンセンターにて、


花陽「千歌ちゃん、もう行っちゃうんですね……?」

千歌「はい! あんまりのんびりしてると、梨子ちゃんに置いてかれちゃうんで!」

花陽「梨子ちゃん……ちょっと前にジムでバトルしましたけど、あの子は千歌ちゃんのライバルなんですか?」

千歌「ライバル……になるのかな? 同じときに図鑑とポケモンを貰った子だから、負けてられないなって!」

花陽「そうですか……そろそろ日も暮れ始めると思うから、気をつけてください」

千歌「はい、ありがとうございます!」


花陽さんとそんな会話をしている千歌の足元に、

 「ゼリュー」「ミィー」


千歌「わわっ?」


小柄なブイゼルが二匹寄って来る。


千歌「なんだ、君たちか……」
 「ゼリュ」「ミミィ」


じゃれつく子ブイゼルの後ろからゆっくりと、

 「ゼルゥ」

この子たちの親のブイゼルが歩いてくる。


花陽「巣や小川の修復は順調に進んでるみたいだから……何日かしたら野生に帰してあげられると思います」

千歌「そっか、よかったぁ……ブイゼルくんたち、またね」


私がそう言って、手を振ると。

 「ゼル」

ブイゼルは礼儀正しくお辞儀をする。


千歌「ポケモンセンターの中では自由に動き回ってるのかな?」

花陽「もう敵意もないみたいだし……町の人たちも事情を聞いてからは、ブイゼルに優しくしてくれてます。元々牧場の町なので、ポケモンが自由に歩き回ってることにも、皆慣れてますし」

千歌「そうなんだ。じゃあ、もう心配なさそうですね」

花陽「ふふ、そうですね」


ブイゼルたちはまた自然に帰って、子育てを再開するんだろう。

それを見届けることが出来ないのはちょっと残念だけど……。


花陽「そういえば、千歌ちゃんはホシゾラシティから来たんでしたよね?」

千歌「あ、はい」

花陽「そうなると……次は北西のダリアシティのジムを目指すんですよね」

千歌「そう、なるのかな?」


正直道なりに進んでるだけだからよくわからないけど、次のジムがあるなら、そういうことだと思う。

309: 2019/05/03(金) 13:35:26.69 ID:ISz0KMwo0

花陽「それなら、手持ちの数を揃えた方がいいと思いますよ」

千歌「数……ですか?」

花陽「はい。ダリアジムはちょっと変わったジムで……ポケモンが6匹いないと挑戦できないので……」

千歌「え、そうなんですか!?」

花陽「だから、後回しにする人も多いんですけど……ストレートに進むならダリアに付くまでに6匹揃えた方がいいと思います」

千歌「な、なるほど……」


考えてみれば、捕獲はダイヤさんが付いてくれていたときに捕まえたムックルが最初で最後だ、

いい加減新しい手持ちを増やさないととは思ってはいたんだけど……。

 「ゼル?」
  「ゼリュゥ」「ミィミィ」

気付くと、ブイゼルたちが再び千歌の足元に近付いてきていた。


花陽「そのブイゼルたち……千歌ちゃんによく懐いてるし、連れて行ってもいいんじゃないですか?」

千歌「うーん……」


そう言われて、私は少し悩む……が、


千歌「子供の内はちゃんと自然の中で育った方が、いいと思います」

 「ゼル」

千歌「だから、子育てが終わって、二匹の子供が独り立ちしたら……また、戻ってこようかな。そのときまで、私のこと覚えててくれたら、またそのとき考えます」

花陽「……ふふ、そうですか」


……となると、この先でポケモンを3匹捕まえないといけない。

そんな私の考えてることに気付いたのか、


花陽「大丈夫ですよ、この先にはポケモンがたくさん生息してる場所があるから……」


花陽さんはそう言うのだった。





    *    *    *





──4番道路。


千歌「わぁー……!!」


私は見渡す限りにたくさんのポケモンがいるのが一目でわかる、光景を目の当たりにして感嘆の声を挙げた。

元気に走り回ってるのはガーディかな?

反対にのんびりとしているブルーやロコンの姿。

何匹か群れているのはポチエナだ。その群れの中心にはグラエナもいる。

その群れを横切るように俊足で走りぬけるのは、ラクライたちの群れ。

その後方から追いかけるように一直線に走るマッスグマ、それをじぐざぐと走りながら追いかけるジグザグマの群れ。

ちょっと遠目にある、切り立った岩肌にポツポツ見えるポケモンも、犬のようなシルエットをしている。

310: 2019/05/03(金) 13:40:07.48 ID:ISz0KMwo0

千歌「ここが、ドッグラン……!!」



────────
──────
────
──



千歌「ポケモンがたくさん生息してる場所?」

花陽「はい、コメコの西の4番道路は犬ポケモンの楽園──通称『ドッグラン』って言われてる場所なんです」

千歌「ドッグラン……」

花陽「昔コメコの牧場犬を育てるために犬ポケモンを集めて放牧してた名残なんだそうです。今では、そういうことはしていないので全部野生ですけど……千歌ちゃんのしいたけちゃんも犬ポケモンだし、もしかしたら犬ポケモンが好きなのかなって思ったから……」

千歌「はい! 犬ポケモン好きです!」

花陽「それならきっといい仲間が見つかると思いますよ」



──
────
──────
────────



そう言われて来た、ここ4番道路は本当に犬ポケモンの楽園だった。


千歌「確かにここなら、新しい仲間に出会えそう……!!」


ただ、あまり敵意がないのか、近くを通っても、吼えたり、襲い掛かってきたりする様子は全然ない。


千歌「昔は放牧場だったって言ってたし……人に慣れてるのかな?」


ブルーたちの群れの横を通りすぎながら、ぼんやりと呟く。

私が周囲を見回していると、


千歌「あ……あのポケモン……」


一際大きな身体をした、犬ポケモンが目に入ってくる。


千歌「あれって、確かムーランドだよね」


私は図鑑を開く。


 『ムーランド かんだいポケモン 高さ:1.2m 重さ:61.0kg
  山や 海で 遭難した 人を 救助する ことが 得意。
  長い 体毛は 包まれると 冬山でも 一晩 平気なほど 暖かく 
  レスキュー隊の 相棒と して 連れられる ことも多い。』


どっしりと構えたムーランドの周りには、進化前のハーデリアとヨーテリーがたくさんいる。


千歌「うちの手持ちは落ち着きがない子が多いから、ああいうどっしりとしたポケモンが居るといいかも……あ、でもしいたけは落ち着いてるか」


しいたけの場合、どっしりというよりは、のんびりだけど……。

そんなことをぼやきながら、ムーランド率いる群れを観察していると。


千歌「ん……?」

311: 2019/05/03(金) 13:41:38.12 ID:ISz0KMwo0

ムーランドのすぐ近くに明らかに犬ポケモンとは違うシルエットが飛び出てるのが目に入る。

──というか、あれって……。


千歌「……人の脚?」


なんだか綺麗な脚……女性の脚かな?

ハーデリアやヨーテリーが群がっていて、それ以上はよくわからない。

犬ポケモンたちと、じゃれてるのかな……?

いや、その割には、ピクリとも動かないし……


千歌「……あの人、大丈夫かな……?」


私は心配になって、その人影に駆け寄る。


 「ウォフ…」


私が走ってきても、ムーランドは毅然としたまま、そこに鎮座していた。


千歌「ち、ちょっとごめんねー」

 「ワンワン?」「ワォフ」


その女性の安否を確認するために、ヨーテリーとハーデリアを手で掻き分けて、


千歌「え」


私はそこに倒れている人の顔を見て、驚きの声を挙げた。


千歌「梨子ちゃん……?」


ヨーテリーとハーデリアにもみくちゃにされて、気絶していたのは、


梨子「…………」


私よりも遥か先を旅してるはずのライバル──梨子ちゃんだった。





    *    *    *





千歌「梨子ちゃん、梨子ちゃーん?」


ぺちぺちと頬を叩いてみる。


梨子「……ん……」

千歌「あ、よかった……息はあるね」


それにしても、なんでこんなところに……まさかお昼寝してたとか……?


千歌「うーん……梨子ちゃんって私の中で、そういうイメージじゃないんだけどなぁ……ムーランドくん、なんで梨子ちゃんこんなところで寝てたの?」

 「ヴォッフ…」

312: 2019/05/03(金) 13:42:30.19 ID:ISz0KMwo0

ムーランドに訊ねてみるも、ムーランドは鼻を鳴らすだけだった。

原因が全くわからず、頭が捻っていると、


梨子「ん……あれ……わた、し……」

千歌「あ、梨子ちゃん!」


梨子ちゃんが目を覚ました。


梨子「……あれ? 貴方……」

千歌「貴方じゃなくて、千歌だよ! いい加減覚えて!」

梨子「ぁぁ、うん……千歌、ちゃん……なんで私、こんなところ……に……」


目を覚ました梨子ちゃんが見る見る青ざめていく。


千歌「梨子ちゃん?」


梨子ちゃんの視線を追うと、私の後ろにいるムーランドを見て、


梨子「────」


口をパクパクとさせている。


千歌「梨子ちゃん?」

梨子「……い──」

千歌「……い?」

梨子「いやああああああああ!!!!!」


──突然、梨子ちゃんが絶叫して、私に抱きついてきた。


千歌「え!? な、なに!?」

梨子「いぬ!!!! 犬!!!!!」


梨子ちゃんは半狂乱で何度も『犬、犬』と叫んでいる。


千歌「り、梨子ちゃん落ち着いて……!!」

 「ヴォッフ…」

梨子「た、助けてっ!! か、噛まれるっ……!!」

千歌「だ、大丈夫だからっ 梨子ちゃん!?」


明らかに異常な脅え方。


梨子「千歌ちゃん、助けっ……!!!?」


すごい力で腕にすがり付いてくる。

その騒ぎに周りのヨーテリーやハーデリアがわらわらと近寄ってくる。


梨子「こ、来ないでっ……!!!? 来ないでぇっ!!!」


それに反応するように、パニックはどんどん激しくなっていく、このままじゃ不味い。

313: 2019/05/03(金) 13:43:57.35 ID:ISz0KMwo0

千歌「ちょっとごめんね皆! いけ、ムクバード!」

 「ピピィーーー!!!」


腰のボールからムクバードを繰り出す。


千歌「ムクバード! “ふきとばし”!!」
 「ピィーー!!!」


周囲一帯に強風を巻き起こし、

 「ワフ!?」「ウォッフ!!」

ヨーテリーやハーデリアを吹き飛ばす。


千歌「梨子ちゃん、大丈夫だから!」

梨子「はっ……!! はっ……!! 千歌ちゃ……っ」


だけど、

 「ワンワン!!!」「ウォッフウォフ!!!!」

敵対行動と見做されたのか、追い払っても追い払っても、ヨーテリーとハーデリアが寄って来る。


梨子「ひっ……!!」

千歌「くっ……!!」


そのとき、

 「ヴォッフ!!!」

近くで腰を据えていた、ムーランドが吼えた。


梨子「ひ……!!!」

千歌「む、ムーランドも……!?」


ムーランドに攻撃される、と思ってマグマラシのボールに手を掛けたが、

 「ワフ…」「ウォフ」

予想に反して、周りのヨーテリーとハーデリアの動きがピタリと止まり。


 「ヴォッフ…」


ムーランドは再び鼻を鳴らして、その場に腰を降ろした。


千歌「あ、あれ……?」

梨子「ふー……ふー……っ!!」


涙目でガタガタと震えながら、私の腕にすがりつく梨子ちゃん。

ヨーテリーとハーデリアは、さっきとは打って変わって、のそのそとその場から離れていく。


千歌「ムーランドくん……キミが助けてくれたの?」

 「ヴォフ…」


ムーランドは先ほど同様、鼻を鳴らすだけだった。


梨子「千歌ちゃん……っ……!! い、今のうち……に、逃げなきゃ……っ……!!」


梨子ちゃんがそう言って引っ張ってくる。

314: 2019/05/03(金) 13:45:00.96 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!?」


ただ、激しく動揺していたためか、


梨子「きゃっ!?」


脚をもつれさせ、私を巻き込んで倒れそうになる。


千歌「あ、あぶなっ!!?」


そのとき、うつ伏せに倒れそうな背中を、何かに引っ張られる。


千歌「っ!!」


そのまま、腕に力を込めて、梨子ちゃんごと体勢を持ち直した。


梨子「!?!?」


梨子ちゃんの顔色がまた恐怖の色に染まるのを見て、

ムーランドが転びそうなところを、服に噛み付いて持ち上げ、助けてくれたんだと気付く、と同時に、


千歌「ごめん、梨子ちゃん!!」


梨子ちゃんの口を手で塞いだ。


梨子「!? むーっ!!! むーっ!!!?!?!?」


このままじゃ埒があかない、


千歌「ムクバード!! 手伝って!!」
 「ピィーー」


指示を待ってすぐ近くを旋回していた、ムクバードを呼び寄せ、リュックの上の部分を掴ませる。


千歌「梨子ちゃん! すぐ、犬がいないところに連れてくから、少しだけ我慢して!!」

梨子「……!!」


梨子ちゃんが目を見開いて、コクコクと頷いた。

そのまま、お姫様抱っこの要領で梨子ちゃんを抱きかかえる。

梨子ちゃんは私の首に腕を回して、身を縮こまらせたあと目を瞑った。


千歌「ムクバード!! 全速離脱!!」
 「ピピィーー!!!」


私はムクバードの揚力を借りる形で、梨子ちゃんを持ち上げて、その場から全速力で退散したのだった。


 「ヴォッフ…」


離れた背後で、ムーランドがまた鼻を鳴らした気がした。





    *    *    *



315: 2019/05/03(金) 13:47:21.32 ID:ISz0KMwo0


千歌「梨子ちゃん……落ち着いた?」

梨子「あ……うん……」


4番道路の犬ポケモンの群生地から、やや東に戻り、コメコの町の近くにあった小さな旅人用の小屋で私たちは腰を落ち着けていた。

時間はもう夕暮れ時を過ぎて、東の空からは宵闇が迫り始めていた。

……あのあと、徐々に落ち着きを取り戻した梨子ちゃんは、小屋の隅っこで縮こまっていた。

まだ少しだけ、震えている。


梨子「あの……千歌ちゃん……」

千歌「ん、何?」

梨子「ごめんなさい……」


梨子ちゃんは謝ってから、俯いてしまう。


千歌「うぅん、気にしないで……それより、何があったか、訊いていい……?」


どうして、あんな場所にいたのかもだけど、

それよりもあの尋常じゃない脅え方。何もないわけがない。


梨子「……私、犬ポケモンが苦手なの……」

千歌「うん」

梨子「4番道路にあんなに犬ポケモンがいるなんて知らなくて……他の犬ポケモンから逃げ回ってたら、ヨーテリーたちの群れに囲まれちゃって……その後はよく覚えてないんだけど……あまりに怖くて、あそこで気を失っちゃったんだと思う……」

千歌「……そっか」


そういえば、初めて出会ったときも私のしいたけを怖がってたような気がする。

知らなかったとは言え、悪いことしたかな。


千歌「でも、怪我とかしてなくて、よかったよ」

梨子「……お陰様で……ありがとう……」


梨子ちゃんは少しだけ照れくさそうにお礼を言ったあと、


梨子「……今まで邪険に扱って……ごめんなさい」


頭を下げた。


千歌「あはは、チカは気にしてないから大丈夫だよ。顔をあげて?」

梨子「でも……」


梨子ちゃんはおずおずと顔をあげる。依然不安そうな表情を見て、


千歌「ちっちゃい頃はお姉ちゃんから、もっと酷い扱い受けてたから……末っ子はそういう扱いには慣れっこなのだっ」


私はそうおどけて返した。


梨子「……ふふ、ありがと……」


私の冗談を汲んでくれたのか、梨子ちゃんの表情が少しだけ和らいだ。

316: 2019/05/03(金) 13:48:58.82 ID:ISz0KMwo0

千歌「えへへ、やっと笑った」

梨子「え?」

千歌「梨子ちゃんいっつも苦しそうな顔してたから……」

梨子「私……そんな顔してた……?」

千歌「してたよ。しかめっつらで、来るもの全部を睨みつけるみたいな感じで……」


千歌が眉を怒らせるような表情の真似をすると、


梨子「い、いや……さすがにそこまで怖い顔じゃなかったと思うんだけど……」

千歌「えーそうかなぁ? 結構睨まれてるなーって思ってたんだけど」

梨子「というか、さっき気にしてないって言ったのに、気にしてるじゃない……意外と根に持ってる?」

千歌「妹は姉からされた仕打ちを忘れることはないからね……そういうところあるかも」

梨子「さっき慣れっこって言ってたじゃないっ!」

千歌「あ、確かに……じゃあ、両立出来るってことだね」

梨子「……ふふ、もう、それじゃなんでもありじゃない」

千歌「あはは、そうだね」


二人して、クスクスと笑ってしまう。


梨子「千歌ちゃん」

千歌「何?」

梨子「最初に会ったとき、私ロクに自己紹介もしなかったから……改めて」


梨子ちゃんが私を真っ直ぐ見て、


梨子「私はサクラウチ・梨子。カントー地方から来ました」


改めて、そう名乗りました。





    *    *    *





──日が完全に沈み、小屋の中にあったロウソクを見つけて、


千歌「マグマラシ、“ひのこ”」
 「マグ」


明かりを灯す。


梨子「……私ね、カントー地方のタマムシシティの出身なんだ」

千歌「カントー地方……ここからずーっと東の方にある地方だっけ?」

梨子「ええ」


梨子ちゃんは相槌を打つ。

317: 2019/05/03(金) 13:55:48.26 ID:ISz0KMwo0

千歌「どうして、オトノキ地方に来たの?」

梨子「うんとね……旅のやり直し、なのかな」

千歌「やり直し……?」

梨子「普通ポケモントレーナーが旅に出るのって、10歳くらいでしょ?」

千歌「うん、らしいね。チカたちは近くに研究所もなかったから、10歳のときに旅に出れた人はあんまりいないんだけど……」


果南ちゃんやダイヤさんが旅立って行ったのが、確か7年前とかだったから……前はウラノホシタウンでも10歳くらいで旅に出てたのかもだけど、


梨子「私もね、10歳のとき、タマムシシティから旅に出ることになってたの」

千歌「そうなの? ……なってた?」

梨子「うん……結果から言うと、旅には出られなかった」


梨子ちゃんは悲しそうにそう言った。


梨子「旅の前日にね、下見をしようと思って、タマムシの近くある7番道路に一人で行っちゃったの」

千歌「……」

梨子「そのときにね……噛まれたの」


梨子ちゃんはスカートの上から、左脚の内腿辺りをさすっていた。

たぶんそこを噛まれたってことだと思う。


千歌「……犬ポケモンに噛まれたってこと?」

梨子「うん。デルビルってポケモン。“ほのおのキバ”で噛まれて、大怪我だった」

千歌「……」

梨子「なんであのとき、一人で下見なんてしようとしちゃったのかなぁ……旅立ち前で浮かれてたのかも」

千歌「あはは……ちょっとわかるかも。チカもトレーナーの真似だって言って、ちっちゃいころから勝手に1番道路に出て怒られたことあるもん」

梨子「ふふ……なんかトレーナーとして旅に出るなんていうとちょっと大人になった気分になるもんね」


梨子ちゃんは自嘲気味に笑った後、話を続ける。


梨子「とにかく痛くて……熱くて……怖かったことはよく覚えてる。実際怪我の具合も相当酷かったみたいで、それから1年間はまともに歩けなかったくらいでね。……もちろんトレーナーとして旅立つなんてもってのほかで、私はお母さんのポケモンと、昔から仲の良かったチェリンボとずっと家の中に居たわ」

千歌「そうなんだ……」

梨子「でもね……それでも私は、お母さんから見たら、旅に出たそうにしてたんだと思う」

千歌「……そんなことがあったのに?」

梨子「……お母さんがね、タマムシシティでもちょっとした有名な芸術家なの。最初旅に出るときは、お母さんの薦めで……旅に出て、いろんなものを見てきて欲しいって言われて……でも、私がバカなことしたせいで全部出来なくなっちゃって……」

千歌「……」

梨子「お母さんのツテで図鑑も最初のポケモンを貰う約束を取り付けてくれてたのに、全部無駄になっちゃって……それからは機会もなくて、気付いたら16歳。お母さんは、怪我が完治した後も、ずっと旅立ちの機会を探してくれてたんだけど……そんなときに」

千歌「偶然、ここで条件に合う旅立ちの機会を見つけた……」

梨子「そういうこと」


言われてみれば、旅立つ3人は歳の近い人を選ぶって言ってたっけ……。

本来10歳くらいで旅に出る人が多いから、16歳や17歳みたいな半端な年齢で旅に出る人はかなり珍しい。実際私たち4人も地元の人間だけじゃ数が集まらなかったわけだし。

318: 2019/05/03(金) 13:57:29.06 ID:ISz0KMwo0

梨子「これでやっと罪滅ぼしが出来るって……思ったの」

千歌「罪滅ぼし……?」

梨子「お母さんが、せっかく用意してくれた、舞台を私がめちゃくちゃにした……私の勝手で、めちゃくちゃに……」

千歌「そんな……」

梨子「お母さんの後押しで旅には出たけど……それでも、今回の旅立ち前もすごい心配してて……自分の育てたポケモンもたくさん持たせてくれた」


そう言って梨子ちゃんは腰から3つのボールを放った。


 「ブルル…」

梨子「一匹はこのメブキジカ。いつも桜の花を咲かせてる不思議な個体なの」


 「リコチャンリコチャン!!」

梨子「二匹目はこのペラップ。その場その場でいろんな声や音を記憶出来る不思議なポケモン」


メブキジカにペラップ……でも、私は三匹目に目を引かれた。だって……。


 「ドブルー…」

千歌「犬……ポケモン……」


筆のような尻尾の先から、桜色のインクを滴らせたポケモン。


 『ドーブル えかきポケモン 高さ:1.2m 重さ:58.0kg
  尻尾の 先から にじみ出る 体液で 縄張りの 周りに
  自分の マークを 描く。 5000 種類以上の マークが
  見つかっており その 独創性から 芸術家に 好まれる。』


梨子「三匹目はこの色違いのドーブル……芸術家のお母さんの相棒でね。三匹ともちっちゃい頃から私の面倒を見てくれてたから……犬ポケモンだけど、多少は平気なの」

 「ドブル…」


でも、ドーブルはペラップやメブキジカに比べると梨子ちゃんから距離が遠い。


梨子「ただ……ちっちゃい頃はあんなに仲良しだったのに、あのときから触ることは出来ない……」

千歌「……」

梨子「どうしても、犬ポケモンに触られるとパニックを起こしちゃって……ダメなんだ」


梨子ちゃんはそう言いながら、三匹をボールに戻す。


梨子「それでも、お母さんがドーブルを持たせてくれたのは……期待なのかなって」

千歌「期待……?」

梨子「芸術家として、私が旅の中で何かを見つけてくることを期待して……ね」

千歌「……そう……なのかな……」

梨子「……きっと、そうなんだと思う」


私はなんとなくもやもやとしたけど、梨子ちゃんがそういうなら、そうなのかもしれない。

会ったことのない梨子ちゃんのお母さんが何を考えて、梨子ちゃんにポケモンを託したのかまではさすがにわからないし。


梨子「だから、私は結果を出さないといけない……。まだ、芸術として残せそうなインスピレーションは見つけられてないし……正直それが見つかるのかわからない。……それなら、せめて他に何かの結果を……ジム制覇をしたら、こうして旅に送り出してくれたお母さんにも報えるのかなって」

千歌「……そっか」

319: 2019/05/03(金) 14:01:00.28 ID:ISz0KMwo0

ここまで来て、やっと梨子ちゃんが何を焦っているのかがわかった気がした。

全部ではないにしろ……お母さんのために、梨子ちゃんは精一杯なんだ。


梨子「でも、それもここで終わりみたい……」

千歌「え……?」

梨子「だって……今日の私、見たでしょ? この地方にはデルビルは生息してないって言うのは先に調べてたんだけど……あんなに犬ポケモンが居る場所があるなんて知らなかったから」


確かに私も知らなかったくらいだし、カントー地方から来た梨子ちゃんが知らなくても無理はない。


梨子「さて……これから、どうしよっかなぁ……。私はこの先は進めないし……戻って、船で海路かな……」

千歌「……梨子ちゃん」

梨子「何?」


私は思わず、立ち上がって、手を差し伸べていた。


千歌「私と一緒に行こう」

梨子「え……」

千歌「あそこの犬ポケモンたち、人に慣れてるから寄って来ちゃうけど……変に刺激しなければ、十分素通り出来ると思う」

梨子「……」

千歌「それに、もしパニック起こしちゃっても、チカが近くに居れば今日みたいに助けてあげられるし」

梨子「いや、でも……悪いよ」

千歌「お互い目的地は一緒なんだし、折角ここまで来たのに、わざわざスタービーチまで戻るの?」

梨子「それは……。……でも、千歌ちゃんにそこまでしてもらうわけには……」

千歌「私たち、一緒に図鑑と最初のポケモンを貰った仲間……うぅん、友達でしょ?」

梨子「友達……」

千歌「困ったときはお互い様だよ!」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「だから、一緒に行こう!」

梨子「……」


梨子ちゃんがソロソロと手を伸ばす。

私はその手を強引に、掴む。


梨子「……!」

千歌「一人で乗り越えられないなら、二人で乗り越えよう! ううん、私たちは二人だけじゃないよ。ポケモンがいる!」
 「マグッ」

梨子「……うん……うんっ!」


精一杯想いを伝えたら、梨子ちゃんは私の手を握り返して、力強く頷いてくれたのでした。



320: 2019/05/03(金) 14:01:37.39 ID:ISz0KMwo0



    *    *    *





小屋で夜を明かすために出した寝袋の中で、千歌ちゃんが寝息を立てている。


千歌「……えへへ……なかまがいっぱいー……ふえたー……」


というか、寝言を言っている。

明日は千歌ちゃんの厚意に甘える形になるけど……。

……明日を想像して、思わず震える手を、押さえつける。


梨子「……きっと、今乗り越えなくちゃいけないことなんだ……」


私は一人そんなことを呟きながら、


梨子「千歌ちゃん、ありがと……おやすみ」


少し遅れて、眠りに就くことにしました。



321: 2019/05/03(金) 14:02:53.58 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
no title

 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.19  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.20 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:68匹 捕まえた数:7匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.19 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.37 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




322: 2019/05/03(金) 15:07:23.60 ID:ISz0KMwo0

■Chapter024 『ドッグランを駆け抜けろ!』





──4番道路。夜が明けて、十分視界が確保できるようになった頃。


千歌「梨子ちゃん! 行くよ!」

梨子「う、うん!」

千歌「マグマラシ、ムクバード、頑張って付いて来てね!」
 「マグッ」「ピピィッ」

梨子「メブキジカ、お願いね。チェリンボは振り落とされないように」
 「ブルル…」「チェリリ」


私と梨子ちゃんはメブキジカの背中に乗って。


千歌「そういえば、私が前に座ってて良いの?」


私は前でメブキジカに馬乗りする形、梨子ちゃんはそのすぐ後ろに座っている。


梨子「それなりに慣れが必要で、いきなり後ろに乗ると振り落とされちゃうと思うから……」

千歌「なるほど、了解!」


時間を経るほど、ポケモンたちが起き出してくる。雑談もほどほどに出発しなくちゃ。

もちろん、野生のポケモンたちも視界が確保され始めるこの時間帯にはすでに活動を始めてる子も多いけど、


千歌「とにかく、最短時間で駆け抜けよう!!」

梨子「うん! メブキジカ!」
 「ブルル!!!」


梨子ちゃんの合図でメブキジカが走り出した。





    *    *    *





千歌「──うわっとと!?」

梨子「千歌ちゃん!?」

千歌「だ、大丈夫! 確かに結構揺れるね……!」


全速力で走るメブキジカに掴まったまま、ドッグランを駆け抜ける。


梨子「ち、千歌ちゃんっ」

千歌「何!?」

梨子「う、後ろからっ」

323: 2019/05/03(金) 15:09:00.64 ID:ISz0KMwo0

言われて半身を捻ると、早速後ろからジグザグマが追ってきているのが見える。

 『ジグザグマ まめだぬきポケモン 高さ:0.4m 重さ:17.5kg
  好奇心 旺盛な ポケモンで 何にでも 興味を 持つため
  いつも あっち こっちへ ジグザグ 歩いている。 そのためか
  よく いろいろな ものを 拾ってくるため 探険家に 重宝される。』

ジグザグに走っているため、そこまで速くないけど、

メブキジカも二人を乗せている分スピードが落ちている。

でも、一匹ずつ相手するのは効率が悪い、


千歌「マグマラシっ!! “えんまく”!!」

 「マッグッ」


私たちの横を併走するマグマラシに指示を出す。

 「ジグザ!?」「クマー!!」

噴出した黒煙に目をくらまされて、何匹かのジグザグマの足が止まる。



千歌「そういえば、ジグザグマは梨子ちゃん的に犬ポケモンに入るのー!?」


風を切って走るメブキジカの背中の上で声を張り上げて訊ねる。


梨子「い、一応タヌキポケモンかなって思ってるけどー! 犬と言われれば犬かもー!?」


と、なると、他の犬ポケモンに比べれば犬っぽさみたいな怖さはあまり感じてないのかもしれない。

なら、必要以上の迎撃は無用。前方に視線を戻す。

その刹那──。


 「ワンワンッ」

梨子「ひっ!?」


前方から鳴き声がして、梨子ちゃんの身体が大きく揺れる。


千歌「梨子ちゃん!?」


咄嗟に身を翻して、梨子ちゃんを抱き起こ──せずに、一緒に落ちそうになる。


千歌「わわっ!? ムクバード!?」

 「ピピィーーー!!!」


咄嗟にムクバードを呼び寄せて、リュックを引っ張らせる。

 「ピピピィーーーー!!!」

ムクバードのパワーで後ろ向きに引っ張られ、


千歌「……せ、セーフ!!」


体勢を崩す、すんでのところで持ち直す。


千歌「梨子ちゃんは!?」

梨子「ち、千歌ちゃん……っ!!」


腰に抱きついている。一先ずは落ちていない。

324: 2019/05/03(金) 15:10:55.03 ID:ISz0KMwo0

千歌「なら、とりあえず……!!」


声の主を探す。

ただ、私も犬ポケモンは好きだし、あの犬ポケモンの代表みたいな鳴き声は知っている。

 「ワンッ ワンッ!!!」


千歌「ガーディ!!」


 『ガーディ こいぬポケモン 高さ:0.7m 重さ:19.0kg
  嗅覚に 優れ 一度 嗅いだ 臭いは 何が あっても
  絶対に 忘れない。 見知らぬ者や 縄張りを
  侵す 者には 激しく 吠え立てて 威嚇 する。』


ガーディの姿を認めると、同時に攻撃態勢に移ってるのが確認できる。


千歌「マグマラシ! “ひのこ”で迎撃!」

 「マグ!!」

 「ウーーワウッ!!」


ガーディの飛ばしてくる、“ひのこ”をマグマラシの同じ技で撃ち落す。

ガーディは基本的に、縄張りからは動かない。

攻撃さえやり過ごして、縄張りを抜ければ問題はない。


 「ピィー!! ピィー!!」


千歌「ムクバード!? どうしたの!?」


今度はすぐ近くを飛んでいたムクバードが声を挙げる。

ムクバードの視線を追うと、背後から──土煙を上げて一直線に追って来る影、


千歌「つ、次から次へと……!!」


 『マッスグマ とっしんポケモン 高さ:0.5m 重さ:32.5kg
  獲物 目掛けて 一直線に 突っ走る。 時速 100キロを
  超える スピードを 出すが 緩やかな カーブを 曲がるのは
  苦手な ため 直角に 折れ曲がって 避ける。』


千歌「100キロ!? それは無理ー!!?」

梨子「ち、チェリンボ!!」
 「チェリリ!!」


図鑑を見て思わず叫ぶ私の後ろで、梨子ちゃんがチェリンボに指示を出す。


梨子「“くさぶえ”!」
 「チェリ~♩♪♬」


チェリンボが自分の頭の葉っぱで音楽を奏でると──

程なくして、土煙が止まる。


梨子「よ、よかった……一発で眠った……!!」

千歌「梨子ちゃん、ナイス!!」

梨子「でも、あんまり命中しない技だから、あんまり迎撃に向いてないのー!」

325: 2019/05/03(金) 15:15:44.40 ID:ISz0KMwo0

──スタート地点から、岩山を目印にして、だいたい中腹くらいまで駆け抜けてきた、

ジグザグマの群れと、ガーディの縄張りをやり過ごして……。

ムーランドやグラエナが率いてる群れはもっと手前だったし、最初の山を抜けた感じだ。


 「ブルル!!!」

梨子「メブキジカ!?」


今度は前方でメブキジカが声をあげた、視線を前方に集中すると、


千歌「ブルーの群れっ!!」


 『ブルー ようせいポケモン 高さ:0.6m 重さ7.8kg
  顔は 厳ついが 実は 結構 臆病。 人に
  よく懐き よく甘える。 必氏に 威嚇する 仕草と
  顔に ギャップが あり それが 女性に 人気。』


今度はブルーの集団のようだ。

猛進してくるメブキジカを見て、ブルーたちは散り散りに逃げているが、逃げ遅れた何匹かが前方でうろうろしている。


千歌「避けられるっ!?」

梨子「た、たぶん無理っ!!」


ブルーたちはあちこちめちゃくちゃに走り回っているため、避けるのは難しいと判断し、


梨子「ど、どうしようっ!! 千歌ちゃんっ!!」


梨子ちゃんから焦りが見える。

この速度で迂回も出来ないけど、引き帰したらもっと意味がない。


千歌「梨子ちゃん! ちょっと、目瞑って、チカの背中に顔押し当てててっ!」

梨子「ええっ!?」

千歌「いいからっ!!」

梨子「し、信じるからねっ……!!」


梨子ちゃんが顔を押し付けた感触を背中で確認しながら、


千歌「メブキジカ!!」
 「ブルル!!!」

千歌「“メガホーン”で走り抜けながらブルーを投げ飛ばせる!?」
 「ブルル!!!!」

千歌「お願いね!!」


今までの行動を見ていても、梨子ちゃんを守りたい気持ちが一番伝わってくる、このメブキジカなら、“おや”じゃないチカの言うことも多少は訊いてくれるはず……!!


千歌「ムクバード!!!」
 「ピピーー!!!」

千歌「飛んでった、ブルーお願いね!」
 「ピピーー!!!!」


それだけ伝えると、ムクバードはそのまま高度をあげていく。

前方、進行ルート上に逃げ遅れたブルーが2匹!

 「ブルル!!!!」

メブキジカが走りながら、首を低く下げ、ツノで掬い上げる姿勢を取る、

326: 2019/05/03(金) 15:16:43.02 ID:ISz0KMwo0

梨子「……っ!!」


 「ブルル!!!!」

完全にびびって逃げ遅れたブルーをメブキジカのツノが掬い上げて、

 「ブルー!?!?」

上に向かって放り投げる。

上空に放り投げられた2匹のブルー。

 「ピピー!!!」

その二匹は空中でパワーが自慢のムクバードがキャッチする。


千歌「ナイス、ムクバードっ!! 安全な場所に降ろしてあげたら、追いついてきてー!!」

 「ピピーッ!!!」


千歌「梨子ちゃんっ! もう顔あげていいよっ!!」

梨子「ぬ、抜けたの……っ!?」

千歌「メブキジカのお陰でどうにかっ!!」


全速力で駆けて来て、もうじき岩山だ、

その瞬間──前方を稲妻の大群が走る。


梨子「ら、ラクライの群れ……!!」

 『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg
  電流で 足の 筋肉を 刺激して 爆発的な 瞬発力を
  生み出し 目にも 止まらぬ スピードで 走る。 その際
  空気の 摩擦で 電気を 発生させて 体毛に 蓄える。』


バチバチと静電気の音がする。

稲妻がメブキジカを併走している。

そのうちの一匹がバチリと“スパーク”する。


梨子「きゃぁっ!?」

千歌「い、威嚇してきてる!?」


このドッグランの中ではかなり好戦的なポケモンのようだ。


千歌「戦意があるなら、もうここからはバトルだよねっ! マグマラシっ!!」
 「マグッ」

千歌「“ニトロチャージ”!!」
 「マグッ!!!」


マグマラシが全身に炎をまとって、加速する。

 「ライ!?」「ギャウ!?」「ラク!!!?」

加速しながら、稲妻の閃光たちに炎の体当たりをし、一匹ずつ倒していく。


千歌「いいよ! マグマラシ! このまま、岩山を迂回して──」


瞬間、


梨子「キャァッ!?」


梨子ちゃんの悲鳴。

327: 2019/05/03(金) 15:17:41.26 ID:ISz0KMwo0

梨子「“マジカルリーフ”ッ!?」
 「チェリリリ!!!」

 「ギャウッ」


千歌「梨子ちゃんっ!?」

梨子「だっ……だいじょぶっ!! どうにか倒した……っ!!」


どうやら仕留め損なったラクライが飛び掛ってきたようだが、梨子ちゃんがチェリンボで迎撃したようだ。


千歌「うんっ!!」


出来るだけスピードを維持しながら、岩山を迂回し始める。

その際、チラリと岩山の山肌を見てみると、ドッグランに初めて訪れた際にも見えた、ポケモンたちが点々としていた。


梨子「千歌ちゃんっ!!!!!」


また梨子ちゃんが突然私の名前を叫んだ、

──瞬間、

視界が回転した、


千歌「なっ!!?」


──メブキジカから投げ出された!?


梨子「──“グラスフィールド”ッ!!!!!!!」


視界が回転するなか、梨子ちゃんの声が響き渡る。


千歌「っ!!」


草の生い茂った地面を身体が転がる。


千歌「いったぁっ……!!」


投げ出されて、全身を打ったけど、梨子ちゃんの機転で硬い地面に身体を打ち付けずに済んだ。


千歌「そうだ、梨子ちゃんっ!!?」


視界が揺さぶられたせいで、目が回っているが、どうにか身体を起こして、状況を確認する。


 「ブルルッ…」


少し離れたところで、メブキジカが蹲っているのが目に入ってきた。


千歌「メブキジカ!」


そして気付く、何かに“ふいうち”されたんだと、

たぶん、岩山の影に隠れていたポケモンがいたんだ……!!


千歌「梨子ちゃんはっ!?」

 「チェリリリ!!!」

328: 2019/05/03(金) 15:19:23.07 ID:ISz0KMwo0

チェリンボの声がして反射的にそっちを見る。

声のした方向に、


梨子「……っ」


梨子ちゃんが倒れてぐったりとしていた。

そして、その近くに赤い体毛の狼のようなポケモンの姿があった、

直感がそいつに攻撃されたんだと告げてくる。


千歌「梨子ちゃん!!」

 「ルガン…」

梨子「……ぅ……」
 「チェリリ!!!」


そいつは赤い目を冷酷に光らせて、梨子ちゃんに鋭い爪を振り下ろそうとしていた、


千歌「マグマラシーーーー!!!!」


三半規管が混乱の中から戻ってきていない。

今、マグマラシがどこにいるかわからなかったから、とりあえず指示が届くように叫ぶ。

──バチバチと、音が聴こえる。炎熱を纏って加速したマグマラシが、先ほどの稲妻たちのように、今度は電気を纏って走っている。


千歌「“ワイルドボルト”ーーーーー!!!!!!!」

 「マッグゥ!!!!!!」

 「ルガン!!!?」


視線を梨子ちゃんに戻すと、そこにはパチパチと放電の余韻を残した、マグマラシ。

そして、その少し離れたところにさっきの赤いポケモンが倒れていた。


千歌「マグマラシッ! 信じてたよ!」


足を踏ん張って立ち上がる。

まだ少し足はふらつくけど、そのまま梨子ちゃんの元へ走る。


千歌「梨子ちゃん!!」

梨子「ぅ……っ……千歌……ちゃん……っ」


蹲る梨子ちゃんに声を掛けると、ぼんやりとした瞳で私を捉えている。

どうやら、意識が朦朧としているようだ。

メブキジカから放り出された、私とチェリンボを庇って、軽く頭を打ったのかもしれない。


千歌「あとちょっとだから……っ!!」


梨子ちゃんに肩を貸す形で立ち上がらせる。


梨子「千歌……ちゃん……」

千歌「メブキジカ、戻してあげて……!! 戦闘不能だから……!!」

梨子「う……ん……」


メブキジカの近くまで梨子ちゃんに肩を貸しながら、移動する。

329: 2019/05/03(金) 15:20:03.65 ID:ISz0KMwo0

 「ブルルゥ…」
梨子「メブキジカ……戻って……」

千歌「よし……あとは、歩い……て……」


私は周囲を見回して、


千歌「……うそ……」


愕然とした。


 「ルガン…」「ガルルルル…」


気付けば、私たちの周りには、前方に灰色の狼ポケモンの群れが、後方にさっきのと同じ赤色の狼ポケモンの群れが集まってきていた。


千歌「囲まれてる……」


完全にあのポケモンたちの縄張りに迷い込んだらしい、


梨子「千歌……ちゃん……?」

千歌「……っ……大丈夫、後ちょっとだから……っ」


梨子ちゃんの意識が朦朧としてて、かえってよかったかもしれない。

意識がはっきりしていたら、この状況だと、どうやってもパニック状態になってしまう。


千歌「ふー……」

330: 2019/05/03(金) 15:20:59.50 ID:ISz0KMwo0

落ち着け。

どっちにしろ脱出するなら後退はダメだ。

なら前方の灰色のポケモンを倒すべきだ、

勝算は? ……ないかも……。でもやるしかない、


千歌「マグマラシ……!!」


私が前方の群れに標的を定めた、瞬間。


 「──そこのあんたたち!! 耳塞ぎなさい!!」


よく通る、少し幼さを感じる声が一帯に響いた。


千歌「!?」


だけど、そんな一瞬で咄嗟に耳を塞ぐ余裕なんてなく、


女性の声「ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!!」

 「フィイイアアアアアアアアア!!!!!」


千歌「……っ!!?」

梨子「……っ」


ビリビリと大地を振るわせるような、轟音が響き渡る。


千歌「……梨子……ちゃ──」


手で塞ぐとか、そんなことは関係なしに、その轟音の衝撃で、私の意識はそこでプツリと落ちてしまった。



331: 2019/05/03(金) 15:22:33.84 ID:ISz0KMwo0


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【4番道路】
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 主人公 千歌
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:70匹 捕まえた数:7匹

 主人公 梨子
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:6匹


 千歌と 梨子は
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...To be continued.




332: 2019/05/03(金) 17:12:14.05 ID:ISz0KMwo0

■Chapter025 『旅立ちの船』 【SIDE Hanamaru】





──ウチウラシティ。早朝。

ジムの前でこれから旅に出ると言うところで、

マルたちの旅立ちの瞬間をダイヤさんと鞠莉さんが見送りに来てくれていました。


ダイヤ「ルビィ、身体には気をつけるのですよ?」

ルビィ「うん」

ダイヤ「もし何かあったら、ポケギアにすぐ連絡を入れるのですよ?」

鞠莉「ダイヤ、そんなに心配してたら、ルビィたちが旅に出づらいでしょ?」

ダイヤ「それは……」


鞠莉さんが過保護なダイヤさんを嗜めるようにそう言う。


ルビィ「お姉ちゃん、心配しないで」

ダイヤ「……」

ルビィ「花丸ちゃんもいるし」

花丸「ずら」

ルビィ「何より、皆がいるから」
 「チャモ」「ピピィ」「アブブ」「クーーマーー」


ルビィちゃんの4匹の手持ちが鳴き声をあげる。


ダイヤ「……わかりました」


ダイヤさんはそれでも尚不安そうにルビィちゃんを見つめる。


ルビィ「ぅ、ぅゅ……お姉ちゃん。ホントに大丈夫だから……」


そんな、二人のやり取りを眺めていると、


鞠莉「……マル。ちょっと」

花丸「ずら?」


鞠莉さんがこそこそと話しかけてくる。


花丸「なんですか?」

鞠莉「今回の旅、ルビィのサポートがメインになるとは思うんだけど……そのついでいいから、図鑑収集……してくれないかしら」

花丸「図鑑収集……捕獲ってことですか?」

鞠莉「Yes. 一応データ集めって名目で送り出してる割に、旅に出てる子、みんなちゃんと捕獲してくれてるのか怪しいのよね……」

花丸「……言われてみれば」


ルビィちゃんや千歌ちゃんは捕獲が苦手って言ってたし、先に旅に出た二人も話を聞く限り、あんまり図鑑収集に積極的なのかは怪しい。

海のポケモンに関しては曜ちゃんに任せちゃってもいいのかもしれないけど。


花丸「尽力するずら」

鞠莉「お願いね、マルのこと頼りにしてるから……!」

333: 2019/05/03(金) 17:13:36.60 ID:ISz0KMwo0

鞠莉ちゃんは両手を合わせて、軽くウインクした。

ホントに期待されてるみたい……頑張ろう。


鞠莉「じゃ、マル。あなたも先生に最後の挨拶して来なさい」

花丸「あ、はーい」


そう言われて、ダイヤさんとルビィちゃんの元に駆け寄る。


花丸「ダイヤさん」

ダイヤ「花丸さん……」

花丸「ルビィちゃんのことはマルがしっかり見守ってるから、心配しないで」

ダイヤ「……頼もしいですわね」


ダイヤさんは思いに耽るように一度目を瞑ってから、

マルとルビィちゃんのことを抱き寄せた。


ルビィ「わわっ、お姉ちゃん?」

花丸「ダイヤさん……?」

ダイヤ「ちょっと変な旅立ちになってしまったかもしれないけれど……二人とも、旅を楽しんできてくださいね」


背中に回された腕に力が込められる。


花丸「ダイヤさん……」

ルビィ「お姉ちゃん……行ってくるね」

ダイヤ「ええ……」

鞠莉「ふふ」


少し離れたところで鞠莉さんが微笑ましそうに笑う。

──程なくして、恩師と旅立ち前の抱擁を終えて。


ダイヤ「最後に……これは餞別ですわ」


ダイヤさんが“ほのおのジュエル”と“くさのジュエル”を差し出してくる。


ダイヤ「千歌さんと曜さんにも渡したものです。花丸さんなら、使い方も知っていますよね?」

花丸「はい」


“ほのおのジュエル”をルビィちゃんが、“くさのジュエル”をマルが受け取る。


ダイヤ「……それと──」

鞠莉「ダイヤ」

ダイヤ「な、なんですか」

鞠莉「名残惜しいのはわかるけど、いい加減送り出してあげましょ、ね?」

ダイヤ「……そうですわね」


ダイヤさんはマルたちに向き直って、

334: 2019/05/03(金) 17:16:32.26 ID:ISz0KMwo0

ダイヤ「二人とも……」

ルビィ・花丸「「はい」」

ダイヤ「いってらっしゃい」

ルビィ・花丸「「行ってきます!」」


マルとルビィちゃんの旅が、始まりました。





    *    *    *





花丸「ところで、ルビィちゃんはどこを目指すつもり?」


そういえば、目的は聞いたけど、目的地を聞いていなかった。


ルビィ「んっと……理亞さんの情報を集めたいから……とりあえず、人の多いところに行ってみるのがいいのかな……」

花丸「人が多い場所……この地方だと、おっきな街はセキレイシティとローズシティ……次にダリアシティかな」

ルビィ「あとフソウ島も観光地だから、人がたくさん来るって聞いたよ」

花丸「確かに……そうなると、マルたちはまず船でフソウ島に渡ろうか」

ルビィ「うんっ」


と、いうわけでウチウラシティの東の港に足を向ける。

その道すがら、ふとさっき鞠莉さんに言われた話を思い出す。

──旅に出た他の子たちの話。


花丸「そういえば、ケロマツを貰った人ってどんな子なんだろう」

ルビィ「言われてみれば……まだ一度も会ってないよね」


所謂、最初の三匹のうち、一匹を連れている、マルたちの同期。


ルビィ「確か、ウラノホシタウンとかウチウラシティの外の人って言ってたよね」

花丸「この辺り子供が少ないから……」

ルビィ「あはは、そうだね……それこそ子供はルビィたちくらいしか……」

花丸「……昔は居たんだけどね」

ルビィ「昔?」

花丸「うん、子供の頃ウチウラシティのはずれに友達が住んでたずら」

ルビィ「そうなの……? ルビィは会ったことないけど……」

花丸「ルビィちゃんは、ちっちゃい頃はウラノホシタウンの方の実家からあんまり出てなかったからじゃないかな?」

ルビィ「確かに……そうかも……。花丸ちゃんのお家は1番道路の脇道にあるお寺だもんね」

花丸「元気な子でね。よくウチウラシティから、マルを連れ出しに家まで来てたんだよ」

ルビィ「そうなんだぁ」

花丸「うん、いっつもムウマを連れてる子でね。『わたしはポケモンマスターになるんだから!』って言うのが口癖な子だったずら。9歳くらいのときに都会の街に引っ越しちゃったんだけど……」


話が脇道に逸れてしまったけど……。ルビィちゃんと雑談しながら、歩を進めていると、波止場が見えてくる。

335: 2019/05/03(金) 17:18:34.31 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「あれ?」

花丸「ずら?」


そして、二人してその波止場の様相に、思わず疑問の声をあげた。


ルビィ「お船……なんで、あんなに停まってるんだろう?」


船着場に溢れんばかりに着けられた船の大群を見て、ルビィちゃんが首を傾げた。





    *    *    *





ルビィ「──え!? 船出てないんですか!?」


港についたマルたちは早速出鼻を挫かれました。


船乗り「13番水道でヒドイデが大量発生しててね……怪我人も出てるらしいから、安全を考慮して一旦定期便を止めてるんだよ」

花丸「他にフソウ島へ行く方法はないんですか……?」

船乗り「一応、ウラノホシタウンの南の港から船は出てるには出てるけど……」

ルビィ「あそこの港ってちっちゃいし……お船って一日に一回あるかないかだよね……」

花丸「それに13番道路を通る船に比べると、かなり遠回りだから、何倍も時間がかかるずら……」

ルビィ「どうしよう……ウラノホシまで行ってみる……?」


二人して、頭を抱える。


船乗り「申し訳ないね……ただ、こればっかりは自然の問題だから」

ルビィ「うぅ……大丈夫です……他を当たってみます……」


口ではそうは言うものの、ルビィちゃんはガックリと肩を落として、落ち込んでしまう。

マルはルビィちゃんと港沿いに停泊されてる海岸を沿うように歩きながら、


花丸「……西に進んで、ダリアシティを目指す……?」


そう提案する。

まあ、選択肢はそんなにないし……。


ルビィ「うーん、どうしよ……」


二人して波止場に泊めてある船を眺めるが、確かに出港しようとする船は個人のものを含めてほとんどない。

途方に暮れたまま、ぼんやりと船着場を歩いていたそのとき、


 「あんれー? お嬢ちゃんたち、どうしたさー?」


聞き覚えのある間延びした口調で声を掛けられた。


花丸「あ、昨日の牧場おじさん」


声の方に振り返ると、昨日メリープたちを運んでいた、牧場おじさんでした。

見るとおじさんは、手持ちらしきガーディを使って、メリープを船に誘導しているところだった。

336: 2019/05/03(金) 17:23:36.84 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「おじさんも、港で足止めされてるの?」


ルビィちゃんがそう訊ねると、おじさんは首を振って、


牧場おじさん「いんやー。メリープがみんな乗ったら、このままフソウ向かってに出るつもりさー」


そう答える。


花丸「大丈夫なんですか……? 今13番水道って、ヒドイデが大量発生してるって……」

牧場おじさん「らしいなー。だがまー。仕事だし、しょうがないさー」

ルビィ「で、でも危ないんじゃ……」

牧場おじさん「それでも漁師たちは早朝に出て行ったしなー。行く人は行くのさー」

ルビィ「ぅゅ……お仕事って大変なんですね……」


そこで、ふと……マルの頭に妙案が浮かんだ。


花丸「この船っておじさんのなんですか?」

牧場おじさん「コメコシティの皆で共同で使うものだけどなー」

ルビィ「おじさん、お船も運転……操縦……? 出来るんですね……!」


船は操舵ずら。

まあ、そんなことはどうでもよくて、


花丸「ねーねーおじさん」

牧場おじさん「なんだいー?」

花丸「前言ってた、お礼って……今お願い出来たりしないですか?」

ルビィ「花丸ちゃん……?」


神様仏様閻魔様、ごめんなさい。マルは今からちょっとだけ、人の足元を見る悪い子になるずら──。





    *    *    *





──船に揺られて、数十分。

ウチウラシティの港から、もうそれなりに離れた頃。

 「メェー」    「メェー」
ルビィ「それにしても、びっくりしたよ……マルちゃんが突然あんなこと言い出すなんて」
  「メェー」
                        「メェー」
花丸「オラも普段なら、あんまりこういうことはしないけど……ルビィちゃんはフソウタウンに行きたがってたし、頼んでみようって思って」
「メェー」
             「メェー」
ルビィ「花丸ちゃん……お陰で、島まで渡れそうだね。ありがとっ」
   「メェー」                  「メェー」
          「メェー」
花丸「まあ、こういう無茶も旅の醍醐味かなって……」


さて、マルが何をお願いしたのか。

まあ、この鳴き声を聴いてれば、誰でもわかると思うけど……。


337: 2019/05/03(金) 17:24:52.49 ID:ISz0KMwo0

────────
──────
────
──



花丸「──マルたちもフソウ島まで、一緒に乗せてもらえませんか?」

ルビィ「え、花丸ちゃん!? そんないきなりはおじさんに迷惑だよぉ……!!」

牧場おじさん「別に構わないさー」

ルビィ「いいの!?」


ダメもとで頼んでみたけど、おじさんはすんなりと了承してくれる。


牧場おじさん「ただ、何人も人が乗る用に出来てないからなー 乗るんだったらー……」


おじさんはメリープたちを積んでいる、積荷室の方を見る。


花丸「それでも大丈夫です。ね、ルビィちゃん」

ルビィ「え!? う、うん! 大丈夫ですっ!」


牧場おじさん「そうか、じゃあ、ちょっと窮屈かもしれないけどなー乗り込んでくれるかー?」



──
────
──────
────────



──と、言うわけで。

 「メェー」「メェー」「メェー」

マルたちは、メリープたちと一緒に海の上を運ばれている。


ルビィ「ぅゅ……それにしても、メリープさんたちって一匹一匹がなんか……もこもこなせいで……見た目以上に狭いかも……ボールに入れて運んだりしないのかな……」
 「メェー」 「メェー」
    「メェー」
花丸「ボールに入れると、それがストレスになって毛の質が落ちちゃうらしいよ」
   「メェー」         「メェー」
ルビィ「この子たち、注文されて運ばれてるって言ってたもんね……ぅゅ……それじゃあ、ルビィたち一緒に乗っちゃってよかったのかな……メリープさんたちのストレスにならないかな……」
               「メェー」
花丸「あんまり考えすぎずに気軽にいくずら。どっちにしろ、何が起こっても、もう海の上に出ちゃった以上、泳げるポケモンを連れてないマルたちはどうにも出来ないし……」
  「メェー」   「メェー」
ルビィ「マルちゃん! さらっと怖いこと言わないでよっ!? ホントに沈んだりしたらシャレにならないよっ!?」
      「メェー」                      「メェー」「メェー」
花丸「それにしても、メリープの綿毛ってふわふわで気持ちいいずらぁ……」
  「メェー」           「メェー」
ルビィ「もう……のんきなんだから……」
         「メェー」
花丸「こういうのは、なるようになれだよ。それに……旅は“みちずれ”、あの世行きって言うでしょ?」
  「メェー」             「メェー」
ルビィ「聞いたことないよ!? そんなことわざ!?」
       「メェー」

どっちにしろ、ほとんど身動きが取れない状態で運ばれるんだし、考えるだけ無駄だよね。


花丸「お昼寝でもして、のんびり待ってればそのうち着くずらー……」
  「メェー」              「メェー」
ルビィ「ぅゅ……まあ、完全に行く充てがないよりはいいけど……」
           「メェー」


マルがメリープたちの中で横になると、

「メェー」

一匹のメリープが、マルの顔の辺りに寄ってくる。

338: 2019/05/03(金) 17:26:19.71 ID:ISz0KMwo0

花丸「君も一緒にお昼寝するずら?」
 「メェー」


なんか気の合う子発見かも。

ふかふかのメリープの身体に頭を乗せる。
 「メェー」


花丸「ルビィちゃんもお昼寝、するずら」

ルビィ「……花丸ちゃん、たまに千歌ちゃん以上に肝が据わってるなって、思うことあるよ……」

花丸「あはは、ありがとー」

ルビィ「……はぁ」


マルはもこもこに包まれて、目を瞑る。

ちょっぴり、幸せな気分で、リラックスしていると──だんだんと意識がまどろんできた。

……うん、このままフソウ島に着くまで一眠りしよう……。

おやすみなさん。





    *    *    *





花丸「…………zzz」
 「メェー」

ルビィ「花丸ちゃん、ホントに寝ちゃった……」


よくこんな状況で寝られるなぁと、もはや呆れるというより、関心してしまう。


牧場おじさん「ルビィちゃんも寝てていいだよー?」


前の操縦席からおじさんがそう声を掛けてくる。


ルビィ「あはは……ルビィは何かあったら怖いから……」

牧場おじさん「そうはいってもなー思った以上に今日の海は平和さー。ヒドイデも話に聞いてたほどいないみたいだしなー」

ルビィ「そうなんですか?」

牧場おじさん「大量発生の後の対処が早かったのかもなー。本当に今日定期便が止まってたのは、大事をとってだったのかもしれないなー」


誰かすごい人がヒドイデの群れをやっつけてくれたのかな? それだったら、いいんだけど……。


牧場おじさん「ほらー。もうフソウ島見えてきたさー」


おじさんに言われて、

 「メェー」
ルビィ「ちょっと、ごめんね、メリープさん……」


メリープを掻き分けて、船首の方に移動する。

前方の窓から、外を確認すると、確かに前方に島が見えてきていた。


ルビィ「あれが、フソウ島ですか?」

牧場おじさん「そうさー ここまで来ればもう心配ないさー。窮屈かもしれんが、もうちょっとだけ我慢してなー」

ルビィ「は、はい」

339: 2019/05/03(金) 17:27:53.89 ID:ISz0KMwo0

そう言って、ルビィはお船の窓から、ぼんやりと目的地の島を眺める。

あそこがルビィたちの最初の目的地……まあ、たぶん経由するだけだけど。

おじさんの言う通り、見えるところまで来てしまえば安心感はだいぶ増してきて。

あとは徐々に近付いてくる、島でこれからどうするかを考えようかな。

……とりあえず、理亞さんの特徴を伝えて、知ってる人が居るか探す、とかかな?

お姉ちゃんや鞠莉さんの口振りだと、肖像画を元に作られた指名手配書が全国にばら撒かれちゃうから、その前に何か情報を得られればいいんだけど……。

あ、でもそれはそれで情報を集めやすくなるのかな……?

そんなことをぼんやりと考えながら、ルビィは再び前方の島に視線を戻す。

さっきと変わらず、同じように、島が前方に見える。


ルビィ「……?」


何か、違和感を覚えた。

なんだろう……?


牧場おじさん「……? なんだー?」


どうやらおじさんも何か違和感を覚えたようだ。


ルビィ「どうかしたんですか──」


ルビィがそう言った瞬間、


ルビィ「ぴぎっ!?」

牧場おじさん「ぬわー!?」


──ガタンと船が揺れ、その振動で前につんのめって、貨物室の壁におでこをぶつける。


ルビィ「い、いたい……」


……いや、それどころじゃない。

ルビィは、再び船内のメリープたちを掻き分けて、花丸ちゃんの居るところに駆け寄ってから、


ルビィ「は、花丸ちゃん!! 起きて!!」


花丸ちゃんを揺する。


花丸「……ずら……?」


花丸ちゃんは眠そうに目をこすったあと、


花丸「ルビィちゃん、おはようずら……」
 「メェー」


寝起きの挨拶を言う。


ルビィ「それどころじゃないよっ!!」

花丸「ずら?」


ルビィはそう言って、船の両側部についている、覗き窓を指さす。

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。

340: 2019/05/03(金) 17:28:20.95 ID:ISz0KMwo0

花丸「すごいスピードずらぁ……未来ずらぁー……」

ルビィ「そうじゃなくって!!!!」

花丸「ずら……?」

ルビィ「逆なの!!!」

花丸「逆……?」


花丸ちゃんは寝起きの頭をふるふると軽く振ってから、もう一度窓の外を見て、


花丸「え……ど、どうなってるの、これ?」


ルビィに訊ねてきた、


ルビィ「ルビィにもわかんないけど……!!」


窓の外を見る。

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。

──船の本来の進行方向とは……真逆に。



341: 2019/05/03(金) 17:28:47.56 ID:ISz0KMwo0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【13番水道】
no title


 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.14 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.14 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.12 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:4匹

 主人公 花丸
 手持ち ナエトル♂ Lv.13 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:13匹


 ルビィと 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


続き:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その6】






引用: 千歌「ポケットモンスターAqours!」