686: 2019/05/07(火) 12:22:28.95 ID:mfU4DjJz0


前回:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その10】

最初から:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その1】

■Chapter051 『ローズシティ』 【SIDE Chika】





セキレイシティを出て、10番道路を歩き続けて数時間。


千歌「──やっと着いた……!」
 「バク」


私はやっとこさ、ローズシティに辿り着きました。

──ローズシティ。オトノキ地方の大きな街として有名らしい。

私はあんまり知らなかったんだけど……曜ちゃんから聞いた感じでは、娯楽施設がたくさんあるセキレイシティとは違って、立ち並んでるビルの中はほとんどが会社のオフィスになっているらしい。


千歌「とにもかくにも……ジムだよね!」
 「バクッ」


気合いを入れて、ジムを探そうとした矢先に、

──prrrrrr...


千歌「ん?」


上着のポケットの中に入れた、ポケギアが騒ぎ出した。


千歌「電話? 誰から──鞠莉さん?」


ポケギアの画面には鞠莉博士からの連絡が入ったことを通知する画面が表示されている。

──pi.


千歌「もしもし?」

鞠莉『チャオ~千歌っち。元気に旅してるかしら?』

千歌「あ、はい、お陰様で! ジムバッジも4つ手に入れました!」

鞠莉『順調そうね。……バッジ4つってことは、もしかして今ローズシティの近くに居たりする?』

千歌「えっと……今ローズシティに着いたところです」

鞠莉『Oh ! Nice timingだネ!』

千歌「?」


なんだろう……?
ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow

687: 2019/05/07(火) 12:26:08.81 ID:mfU4DjJz0

鞠莉『ちょっと、千歌っちにお願いがあるんだけど……』

千歌「なんですか?」

鞠莉『他の地方から取り寄せを頼んでた道具が、今さっきローズシティに到着したって報せを受けたんだけど……ちょっと珍しいものを頼んでたから、どうやらその荷物の受け取りに、研究所の関係者が直接取りに行く必要があるらしくってネ』

千歌「ちょっと珍しいもの……?」

鞠莉『……あーまあ、モンスターボールの研究に使う機材なんだけどね。もし、時間があるなら千歌っちが代わりに受け取って貰えないかと思って』

千歌「……え? でも、研究所の関係者じゃないといけないんですよね……?」

鞠莉『そうよ。あなたは研究所の博士からポケモンを貰って旅に出たんだから、関係者じゃない』

千歌「ん……そう、なるの……?」

鞠莉『なるの。……それで、お願いできる?』

千歌「あ、はい! 受け取って、すぐに研究所に……って話じゃなければ」

鞠莉「もちろん、時間のあるときにオハラ研究所に寄ってくれれば問題ないわ」

千歌「わかりました、そういうことなら任せてください!」

鞠莉『Thank you ! 助かるわ。……それで、場所なんだけど、ローズシティに居るなら、一際大きなビルが見えないかしら?』

千歌「一際でっかいビル……」


言われて、ローズシティの方に改めて目を向けると、

確かに、一際でっかいビルが鎮座していた。


千歌「ビル……ここから、見えます」

鞠莉『OK. 場所はそこ──ニシキノカンパニー本社ビルってやつ。そこの受付でわたしの遣いだってこと伝えて、ポケモン図鑑を見せれば大丈夫だと思うから』

千歌「わかりました」

鞠莉『それじゃ、お願いね~』


そう残して、鞠莉さんからの通話が切れる。


千歌「ジムの前にちょっと寄り道が出来たから、まずあのビルに向かおっか」
 「バク」


私はバクフーンを連れて、一先ずニシキノカンパニーを目指して、出発しました。





    *    *    *





千歌「……でっか」


目的のニシキノカンパニーについて、私は呆然とビルを見上げる。

遠くから見ても大きいと思ったビルは間近で見ると、思った以上に巨大で迫力があった。


 「バク」
千歌「……とりあえず、バクフーンを連れたままじゃまずいよね。戻れ」


バクフーンをボールに戻して、いざ出陣。


千歌「し、失礼しまーす……こんにちはー……」


さっきまでの電話口での威勢はどこへ行ったのか、未知の巨大ビルにおっかなびっくり侵入する。

688: 2019/05/07(火) 12:27:25.16 ID:mfU4DjJz0

ガードマン「お嬢ちゃん」

千歌「ひっ!」

ガードマン「何してるんだい? 子供が来るような場所じゃないよ、ここは」


こそこそとしていたら、すぐさまガードマンのお兄さんに声を掛けられてしまう。


千歌「い、いや……その……頼まれごとがあって……」

ガードマン「頼まれごと?」

千歌「お、オハラ研究所の遣いの者です!」


鞠莉さん曰く、こう言えば大丈夫って言ってた。


ガードマン「オハラ研究所? オハラ・鞠莉博士のかい?」

千歌「は、はいっ!」

ガードマン「ふぅむ……」


鞠莉さん、こう言えば大丈夫って言ってたもん……。


ガードマン「……本当かい?」

千歌「ほ、ホントです!」

ガードマン「何か証明するものとか持ってないかい?」

千歌「!」


そう、私には身分を証明する、ポケモン図鑑が──

私はポケットから図鑑を取り出して、


千歌「こ、これが目に入らぬかー!!」


ガードマンに見せ付けた。


ガードマン「……」

千歌「……あ、あれ……?」

ガードマン「全く……なんだいそれは?」

千歌「……え? ……え……??」

ガードマン「そんなおもちゃで身分証明って言われても困るよ。社員証とか、研究所の遣いなら所員証とかあるでしょ」


鞠莉さん、大丈夫って言ってたのに……っ!!


千歌「い、いや……その……」

ガードマン「いたずらは勘弁してくれよ? おじさんたちも仕事してるんだから……」

千歌「あ、あの……これ、おもちゃじゃなくて……ポケモン図鑑……」


だんだんと語尾が弱くなっていく。


千歌「う、受付にっ!! 受付の人なら、たぶんわかるから!!」

ガードマン「あのね、君みたいに挙動不審で身分を証明出来ないような人を入口で止めるのがおじさんの仕事なの」

千歌「ぅ……」

689: 2019/05/07(火) 12:28:54.83 ID:mfU4DjJz0

完全に言葉に詰まる。

こんな大都会の巨大なビルで挙動不審になるなと言われても無理だ。

田舎者の私には敷居が高すぎる。


 「──何やってるの?」


そのとき、私の後ろの方から通る声。

振り返ると、パーマの掛かった赤い髪の綺麗なお姉さんが立っていた。


ガードマン「……真姫お嬢様!」

真姫「はぁ……だから、それやめてって。パパが出資してるだけで別に私は会社の人間じゃないんだから……」


どうやら、関係者っぽい……?


真姫「それで、どうしたの?」

ガードマン「いや、それがですね……この子がオハラ研究所の関係者を騙って、社内に侵入しようとしていて……」

千歌「う、嘘じゃないもん……っ!!」


都会の洗礼を受けて軽く涙声で抗議する。


ガードマン「いや、そんな声で言われてもなぁ……」

真姫「……それポケモン図鑑?」

千歌「……!!」


お姉さん──たしか、真姫さんって呼ばれてた人が図鑑に気付いてくれた。

私は全力で首を縦に振る。


真姫「なるほどね……なんとなく、状況はわかったわ。通してあげて、この子は間違いなくオハラ研究所から来た子よ」

ガードマン「い、いいんですか?」

真姫「……大丈夫よ。私が保証するわ」

ガードマン「真姫お嬢様がそう言われるなら……」

千歌「ぇ、っと……」

真姫「はぁ……マリーったらホントいい加減なんだから……。目的の荷物がある場所まで案内してあげるわ。ついてきて」

千歌「え、あ、は、はいっ!!」


私は真姫さんの後を慌てて付いていくのだった。





    *    *    *





真姫「全く……ガードマンがポケモン図鑑のことなんて知ってるわけないでしょ。ましてや、身分証明になんて使えるわけないじゃない」


案内される道すがら、真姫さんから厳しい言葉が飛んでくる。


千歌「ぅ……ご、ごめんなさい……」

真姫「あ、いや……貴方に言ったわけじゃなくて……。はぁ……マリーったら、出来はいいのに、肝心なところで横着するんだから困ったものよね……」

千歌「……あ、あの……真姫、さん? 鞠莉さんの知り合い、なんですか……?」

690: 2019/05/07(火) 12:32:02.13 ID:mfU4DjJz0

さっきから、愛称で呼んでるところを見ると知り合いっぽい感じがする。


真姫「……ああ、自己紹介してなかったっけ。私は真姫。今取りに行こうとしてる荷物なんだけど。そもそも、それをマリーに頼まれて手配したのは私なのよ」

千歌「! そ、そうなんだ……」

真姫「ついでに言うなら……貴方、梨子と一緒に最初のポケモンを貰った子でしょ?」

千歌「! 梨子ちゃんのこと知ってるんですか!?」

真姫「知ってるわよ。ついこの間までジムに居たし」

千歌「……ジム?」

真姫「……あー。……私、ローズジムのジムリーダーなんだけど……」

千歌「……え?」

真姫「……まあ、反応薄いし、たぶん知らないんだろうとは思ってたけど」


えーと……真姫さんがローズジムのジムリーダーで……。

梨子ちゃんのこと知ってて、

……そうだ、梨子ちゃん


千歌「ジムに居た……ってことは、梨子ちゃん、ローズジムに挑戦しにきたってことですか?」

真姫「ええ、そうよ」

千歌「……その、梨子ちゃん……大丈夫でしたか?」


セキレイジムでの一件以来、梨子ちゃんとは一度もコンタクトが取れていない。


真姫「大丈夫よ。最初は凹んでたけど、この街から発つときには元気な足取りでヒナギクシティに向かって行ったから」

千歌「! そ、そっか……ならよかった……」


真姫さんの言うことが正しいなら、どうやら梨子ちゃんは元気らしい。


真姫「えーっと、貴方は……オレンジのアホ毛の子。千歌だったかしら」

千歌「あ、はい! ……オレンジのアホ毛の子?」

真姫「貴方のことも何度か梨子から聞いてるわ」

千歌「り、梨子ちゃんが……? なんて言ってたんですか……?」

真姫「強引で、やかましくて、猪突猛進」

千歌「……ぅっ! ひ、酷い……」

真姫「……でも、優しくて、仲間想いの大切な友達。そして、一緒のときにポケモンを貰ったライバルって言ってたわ」

千歌「……! そ、そっか……えへへ」


大切な友達。ライバル。

えへへ……梨子ちゃん、私のことそんな風に想ってくれてたんだ……。

嬉しいな。思わず顔がにやける。

691: 2019/05/07(火) 12:33:22.27 ID:mfU4DjJz0

真姫「梨子のライバルってことは、やるんでしょ?」

千歌「え?」

真姫「ジムバトル」

千歌「! はい!」

真姫「この用事が終わったら、ジムで相手してあげるわ」

千歌「よろしくお願いします!」

真姫「こちらこそ。……さて、着いたわよ」


目的のモノが置いてある場所に到着して、真姫さんが足を止めた。

応接室、みたいな場所のようだ。


真姫「ほら、ついてきて」

千歌「あ、はい」


室内に入ると、大きめのソファーに座り心地の良さそうな椅子。


真姫「持ってくるから、そこらへん座ってて」

千歌「あ、はい……」


部屋の奥の方へと消えていく真姫さんを眺めながら、とりあえず、ソファーに腰を降ろす。


千歌「うわ……すごいふかふか」


ダイヤさんとルビィちゃんのお家も大概豪邸で、家具も一級品が揃っていたけど、基本的に和室ばかりだったから、こんな高級そうなソファーを見たのは初めてかも。


千歌「……そういえば、さっき真姫さん……自分は会社の人間じゃないって言ってたよね……? なんで、真姫さんは自由に出入り出来るんだろう」

真姫「……この会社、パパが出資してるのよ」


部屋の奥から戻ってきた真姫さんが、私の独り言に答える。


千歌「出資?」

真姫「まあ、わかりやすく言うと株主ね」

千歌「……カブヌシ?」

真姫「……この会社の偉い人なのよ」

千歌「……なるほど? 真姫さんのお父さんが会社の偉い人だから、自由に出入り出来るってこと?」

真姫「……あーまあ、研究器具の仲介とか、いろいろあるんだけど……まあ、それでいいわ。大体あってるし」


なんか難しい単語がいっぱいあったけど、大体そういうことらしい。


真姫「それで、重要な荷物とか取り寄せるときにこの部屋に置かせてもらってるの。はい、これがマリーへのお届けものよ」


そう言って、真姫さんは40cmくらいある、やや縦長の箱を私の前に置く。

692: 2019/05/07(火) 12:34:37.77 ID:mfU4DjJz0

千歌「あ、ありがとうございます! ……これ、何が入ってるんですか?」

真姫「……研究用の道具よ」

千歌「そういえば、モンスターボールの研究に使うって言ってたっけ……。ボールが入ってるにしては、ちょっとおっきいような……」

真姫「……千歌」

千歌「?」

真姫「あんまり、詮索しないほうがいいわよ」

千歌「え?」

真姫「そもそも、なんでマリーに直接送らず、貴方が代わりに取りに来てるのかって話」

千歌「……?」

真姫「普通に送るにはちょっと曰くがあって、いろいろめんどくさかったから、直接取りに来てもらったのよ」

千歌「曰く?」

真姫「……ま、簡単に言うとちょっとヤバイものってこと」

千歌「……え、それ、チカが持ち運んで大丈夫なの?」

真姫「さぁ……。まぁ、持ってたからって、すぐさま捕まったりはしないと思うけど……あんまりあちこち持ち歩かない方がいいかもしれないわね」

千歌「へ、へー……」


……もしかして、私ヤバイことの片棒担がされてるのかな……。


真姫「まあ、マリーも別に悪人ってわけじゃないし……本当に研究用途だと思うけどね。そうじゃなかったら、取り寄せにも応じなかったし」


一体何が入ってるんだろう……。


真姫「気になるなら、さっさとマリーに届けて本人から教えてもらうといいわ。教えてくれるかは知らないけど」

千歌「は、はーい」

真姫「それじゃ、次の目的地、行きましょうか」

千歌「……次?」


まだ鞠莉さんの用事あったっけ……?


真姫「……やるんでしょ、ジム戦?」

千歌「……あ、そうだった!」

真姫「全く……しっかりしてよね」


私は受け取った箱を抱えながら、次の目的地──ローズジムへと、足を向けます。



693: 2019/05/07(火) 12:35:22.04 ID:mfU4DjJz0


    *    *    *





真姫「さてと……準備はいいかしら?」

千歌「はい!」


ローズジムへと訪れると、真姫さんは早速バトルスペースについて、私に声を掛けてくる。


真姫「使用ポケモンは4体。先に相手のポケモンを3体、戦闘不能にした方が勝者よ」

千歌「はい!」


ボール構える真姫さん。私もボールを構える。


真姫「準備も良さそうだし、始めましょうか。……一応肩書き名乗る決まりだから、言うけど……ローズジム・ジムリーダー『鋼鉄の紅き薔薇』 真姫。捌いてあげるから、かかってきなさい」


二つのボールが宙を舞う──ジム戦、開始……!!



694: 2019/05/07(火) 12:36:12.29 ID:mfU4DjJz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
no title
 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.42  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.39 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.40 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.41 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:119匹 捕まえた数:13匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




695: 2019/05/07(火) 15:14:43.59 ID:mfU4DjJz0

■Chapter052 『決戦! ローズジム!』 【SIDE Chika】





両者のボールから、1匹目のポケモンが繰り出される。


真姫「さて……」
 「ハッサム!!」

千歌「行くよっ! バクフーン!」
 「バクフッ!!!!」


真姫さんのポケモンは真っ赤な鋼鉄のポケモン。

私は図鑑を開く。


 『ハッサム はさみポケモン 高さ:1.8m 重さ:118.0kg
  鋼の 体を 持つ。 目玉模様の ついた ハサミを
  振り上げ 相手を 威嚇する。 ひとたび 敵と 認識すると 
  鋼鉄の 硬度を 持つ ハサミで 容赦なく 叩き潰す。』


千歌「はがねタイプ……!! バクフーンの炎で一気に──」

真姫「ハッサム、戻りなさい」

千歌「──って、あれれ!?」


思わず振り上げた手が空回りする、


千歌「い、いきなり交代なの!?」

真姫「ほのおタイプと対峙して、そのままハッサム使うわけないじゃない。ポケモンは相性で戦うものよ?」

千歌「う……っ」


なんかダイヤさんみたいなこと言ってる……。

調子狂うなぁ……。


真姫「行きなさい、エンペルト」
 「エンペェー!!!」

千歌「で、でも交代には隙があるしっ!! バクフーン! “かえんほうしゃ”!!」
 「バクッ!!!」


背中の爆炎を噴出すのと同時に、バクフーンは口から灼熱の炎を噴き出す。


真姫「確かに、交換は隙を晒すけど……」

千歌「ど、どーだっ!」


直撃した炎が晴れる、


真姫「そういう隙をケア出来る相性を考えるのがトレーナーよ」
 「エンペ」


相手はみずタイプ、期待したほどの効果が得られていない。


千歌「なら、もう一発!! “かえんほうしゃ”!!!」
 「バクフーンッ!!!!!!」

真姫「“バブルこうせん”!」
 「エンペッ!!!!」

696: 2019/05/07(火) 15:15:51.20 ID:mfU4DjJz0

両者の攻撃が直線上でぶつかり合う。

フィールド上を焼き尽くしながら、突き進む火炎だが、大量の泡にぶつかって、激しい音を立てながら、掻き消されていく。

やっぱり、水と炎だと相性が悪い。

“バブルこうせん”は音を立てながら、どんどんこっちに向かってくる。

直撃はまずい。


千歌「バクフーン! “かえんぐるま”!!」
 「バクッ!!!!」


私の指示で、バクフーンは噴き出していた炎もろとも、その場で巻き込んで高速回転し始める。

攻撃をやめた以上、“バブルこうせん”は先ほどよりも早くこちらに到達するが……

火炎の車輪による炎熱で飛んでくる泡攻撃を蒸発させる。


千歌「ま、間に合った……!」


防御はどうにか、

でも真姫さんは隙を見逃さない、


真姫「“ステルスロック”」
 「エンペ!!」


エンペルトが硬そうな両羽根を地面に叩き付けると、岩の破片がジム中に広がっていく。

たしか、設置して攻撃するタイプの技だ。


千歌「自由にさせると、まずいっ! バクフーン、そのまま突撃!!」
 「バクッ!!!!!!」


防御に使っていた、回転をそのまま攻撃に載せる、

真っ直ぐ転がってくる、バクフーンに対して、


真姫「エンペルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「エンペッ!!!!」


エンペルトが口から吹き出した、激しい水流が襲い掛かる。

だけど──


千歌「バクフーン! 前から来るよ!」
 「バクフッ!!!!」


回転前進しながら、僅かに軌道をずらす。

水流は当たらず、さっきまでバクフーンが通るはずだった軌道上を薙いでいく。

そのまま、加速して回り込み、


千歌「いっけぇーー!!!」


エンペルトに燃える突撃を食らわせる。

 「エンペッ!!」


真姫「エンペルト! ひるまないで! 次が来るわよっ!」

 「バクッ!!!」


突撃と共に反動で少し跳ね返って浮いたバクフーンは、そのまま拳を引く。

697: 2019/05/07(火) 15:17:09.20 ID:mfU4DjJz0

千歌「バクフーン! “かみなりパンチ”!!」

 「バクッ!!!」


雷撃を纏った、拳で追撃、


真姫「“こらえる”!!」
 「エンペ」


だが、真姫さんの指示も早い。

両の翼をクロスに構えて、バクフーンの拳を受け止める。

インパクトと共に、バクフーンの拳とエンペルトの翼の間で激しく電撃が爆ぜる、


千歌「振りぬけっ!!」

 「バクッ!!!!」


バクフーンは私の指示と共に、さらに足を踏み込んで、拳を振りぬいた。

 「エンペッ!!!」

エンペルトの体が、僅かに中を浮いて、後ろに飛ぶ、が

鋼のような翼に防がれ、これも思った以上の効果が得られなかった。


千歌「っく……! まだまだぁっ!!」


なら、次の技だ……!


真姫「熱いのね、そういうの嫌いじゃないけど。エンペルト、“ほえる”」
 「エンペェェェー!!!!!」

千歌「!?」


エンペルトが急に金きり声をあげる。

それと同時に──


千歌「わったたっ!?」


無理矢理手持ちに戻されたバクフーンのボールに向かって飛んでくる。

“ほえる”は相手を強制的に交換させる技だ。

その代わりに腰のボールから二番手が飛び出す。


 「ピィィイイイイイイイッ!!!!!」

千歌「っ突っ込め!! “すてみタックル”!!」


声を聴くと同時にほぼ反射で指示を出す。

ムクホークが弾丸のように力強く飛び出した。


真姫「っ!!」


急な強制交換で私が動揺すると思ってたのか迅速な指示に、真姫さんがやや驚いた顔をした。

──ギィィイイイン、と硬いもの同士がぶつかる音が響き、

接敵をトレーナーに知らせてくれる。

698: 2019/05/07(火) 15:18:10.87 ID:mfU4DjJz0

千歌「“インファイト”!!!」

 「ピイィィ!!!」


鳥ポケモン特有の甲高い声をあげながら、ムクホークが嘴で、猛禽の脚で、力強い剛翼で、全身を使ってエンペルトに殴りかかる。


 「エ、エンペッ!!!」
真姫「エンペルト!! 戻れ!!」


その様子に真姫さんは少し焦り気味に、エンペルトをボールに戻した。


 「ピィィッ!!!」

攻撃対象を失ったムクホークをフワリを地面を飛び立って、僅かに後ろに飛び退る。


真姫「“ステルスロック”も食らってるはずなのに、大した突進力ね……」

千歌「……そういえば」


言われて、思い出す。

ムクホークをよーく見てみると、確かに羽根や身体に小さな岩の棘が突き刺さっていた。


千歌「なら、今のうちに! “きりばらい”!」
 「ピピィィー!!!」


身体を回転させながら、フィールド上にあるものを吹き飛ばす。


真姫「……! いい技持ってるじゃない……!!」


“きりばらい”によって、“ステルスロック”を除去する。

これで後続はこれ以上、設置技でダメージを受けなくなった。


真姫「ただの猪突猛進タイプかと思ったけど、意外と絡め手への対応も出来るのね!」


そういいながら、真姫さんが繰り出す3匹目。

 「デマルッ!!!」

トゲトゲの小さなまるっこいネズミのようなポケモン。

臨戦態勢のムクホークは、相手の姿を見るや否や飛び掛る、


千歌「先手必勝!!」

 「ピィィィイイ!!!!」


猛禽の脚で、相手のポケモンを文字通り鷲掴みにする。

そのまま、地面に叩き付けようとするが、


真姫「掴むのは悪手よ」

千歌「え!?」

真姫「トゲデマル、“ニードルガード”」
 「マルッ!!!!」


真姫さんの指示と共に、丸っこいネズミが、全身から針を伸ばして、トゲトゲになる。

 「ピィィッ!!!?」

脚を刺されて、驚いたムクホークが放してしまう。

その隙を真姫さんは見逃さず、

699: 2019/05/07(火) 15:19:16.71 ID:mfU4DjJz0

真姫「トゲデマル! “びりびりちくちく”!」
 「デマルーーーッ!!!!」


トゲトゲのボールのまま、相手が急に電撃をまとって突撃してくる。


 「ピィイィイイ!!!?」

千歌「で、でんきタイプ!? ムクホーク!!! 離脱!!!」


自分の想定外の弱点タイプへの攻撃、

私は思わずムクホークに向かって叫ぶ。

ムクホークは電撃にダメージを受けながらも、どうにか体を振るって、相手を追い払おうとするが、


真姫「トゲデマル、“ほうでん”!!」
 「デマルッ!!!」


相手はその場で、激しく“ほうでん”する。


千歌「ム、ムクホークッ!!!」

 「ピイィィィ!!!!!?」


音を立てながら、激しく光る電撃が直撃した、ムクホークは、


 「ピ、ピィィイイイ……」


飛ぶ力を失って、フィールド上に落ちてしまった。

戦闘不能だ。


千歌「……戻って、ムクホーク」


ムクホークをボールに戻す。

完全に優勢だと思ってたのに、一瞬の判断ミスで形勢が逆転してしまった。


真姫「トゲデマルがでんきタイプだって知らなかったことが今のミスの原因ね」

千歌「トゲデマル……」


私は目まぐるしい戦況のせいで、開けずにいた図鑑を開いた。

 『トゲデマル まるまりポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.3kg
  背中の ハリの 毛は 普段は 寝ている。 興奮すると
  逆立ち 敵を 突き刺す。 導雷針の 役割を 持っていて
  落雷を 引き寄せ 雷を 浴びると 電気袋に 溜め込む。』


千歌「どーらいしん……避雷針みたいなものだよね」

真姫「そうね。避雷針は人が雷を避けるために使うものだけど、引き寄せる場合はそういう言い方するって感じかしら」

千歌「……なるほど」

真姫「勉強になった?」

千歌「……はい」

700: 2019/05/07(火) 15:20:25.76 ID:mfU4DjJz0

私は図鑑を閉じて考える。

真姫さんの手持ちはハッサム、エンペルト、トゲデマル。

全部はがねタイプのポケモンだった。

つまり、はがねタイプのエキスパートということだろう。

はがねタイプなら、かくとうタイプやほのおタイプで戦うのが相性的にはいい、けど。

私は次のポケモンのボールを構える。


千歌「──お願いね」


ボソボソとボールに向かって、一言指示を出してから、ボールを放った。





    *    *    *





 「ワフッ!!!!」
千歌「しいたけ!! “かたきうち”!!!」


ボールから飛び出すや否や、トゲデマルに飛び掛かる。


真姫「……!? なんのポケモン!?」


前足で思いっきり、トゲデマルを殴りつける。


 「デマルッ!!」


出会い頭の激しい攻撃に反応しきれなかった、トゲデマルが跳ねる。


真姫「っ!! “ミサイルばり”!!」
 「トッゲッ!!!!」


宙を舞うトゲデマルが、今度は背中の針を射出して来た。


千歌「それ、撃ちだすのも出来るの!? “コットンガード”!!」
 「ワフッ」


──もこもこと、“ファーコート”を増量して、防御の姿勢。

“ミサイルばり”が突き刺さるが、厚い毛皮に遮られほとんどダメージにはなっていない。


真姫「トゲデマル、“じゅうでん”」
 「デマルーー」


体勢を立て直したトゲデマルは地面に着地しながら、バチバチと電撃を溜め込みはじめる。


真姫「……その毛皮、防御力──その“ファーコート”。犬型のポケモン、“コットンガード”に“かたきうち”……その子、トリミアンね」


正解を言い当てられる。

……いや、別に隠してたつもりとかないんだけど……。


真姫「あまりに見たことない感じだったから、ちょっと面食らったわ」

千歌「……そんなに変かな、しいたけ」
 「ワォ?」

701: 2019/05/07(火) 15:21:32.74 ID:mfU4DjJz0

まあ、でも、見てわからないポケモンでも、ちょっと攻撃を見ただけでなんのポケモンか特定するのはさすがと言ったところかもしれない。


真姫「ただ、トリミアンはあまり積極的に攻撃を仕掛けられるポケモンじゃない」

 「ワォ?」
千歌「…………」


周囲に電気のエネルギーが溜まっているのか空気がチリチリとしている。

お陰でしいたけの体毛も逆立ってしまっていた。


真姫「トゲデマルがどんなポケモンか見極めたかったのかもしれないけど、そこまで私も悠長じゃないわよ?」
 「デマルーーーー!!!!」


“じゅうでん”によって、気合いの入ったトゲデマルの毛先は火花がショートしている。


真姫「トゲデマル!! “かみなり”!!!」
 「デッマルッ!!!!!!!」

千歌「!!」


トゲデマルの周囲の火花が散ったかと、思った次の瞬間──

激しい轟音を立てながら、しいたけに向かって激しい雷光が落ちてきた。


千歌「……!!!」

真姫「防御が自慢だから、受け止めるつもりだったんでしょうけど……“じゅうでん”した“かみなり”、さすがに耐えられないでしょ?」


激しい稲妻によって、フィールドから焼けた土の臭いと煙が立っている。

そして、晴れた煙の中からしいたけが──


真姫「……!?」


──いなくなっていた。


真姫「え、消えた……!?」
 「デマル…??」

千歌「……えっへへ」


──もこ。

トゲデマルの足元が僅かに盛り上がる。


真姫「!! しまっ──」

千歌「しいたけ!! 突き上げろーー!!」
 「ワオーーン!!!!」

 「デマルーーーッ!!!!?」


トゲデマルの足の下から、しいたけが“あなをほる”で突き上げる。

吹っ飛ばされて、空中で制御を失ったトゲデマルに、向かって改心の一撃……!!


千歌「“ギガインパクト”!!」

 「ワォンッ!!!!」


思いっきりトゲデマルに全身でぶちかます。


 「デマルゥゥーーーー!!!!!!?!?!!?」

702: 2019/05/07(火) 15:22:23.89 ID:mfU4DjJz0

全力の攻撃を食らったトゲデマルは、ジム中をピンボールのようにガンガン跳ね回ったあと、


 「マ、マルゥーーー……」


地面に突き刺さって気絶した。


千歌「よしっ!! ナイス、しいたけ!!」
 「ワォ」

真姫「……トゲデマル、戻りなさい」


真姫さんはトゲデマルを戻しながら。


真姫「……あの“かみなり”、“あなをほる”で避けられた……? ……いや、違う。“ひらいしん”で受けたのね?」


私に視線を向けてくる。


真姫「……穴に潜る直前。“なりきり”でトゲデマルの特性をコピーした」

千歌「……わ、バレた」


まさか、こんな一瞬でバレるとは思ってなかったけど、真姫さんの言う通り。

“なりきり”は相手の特性をコピーする技だ。


千歌「トゲデマルの“ひらいしん”コピーさせて貰いましたっ!」
 「ワン」


“ひらいしん”はでんきタイプの技を無効化する効果がある。


千歌「図鑑読んで、そういう特性だって気付いたんで!」

真姫「……成程ね。トリミアンが“なりきり”を覚えることを忘れてたのは私の落ち度ね」

千歌「えへへ、勉強になりましたか?」


さっきの仕返しでおどけて言ってみる。


真姫「ええ、お陰様で」


真姫さんがボールを放ると、


 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが繰り出される。


真姫「やっぱり、机に齧り付いて考えてるのと、実際にやってみると違うものよね」

千歌「……?」

真姫「こっちの話。それより、バトル続行するわよ」

千歌「あ、はい! しいたけ!」
 「ワフッ」


しいたけがハッサムに向かって走り出す、が。

“ギガインパクト”の反動のせいか、少し動きが鈍い。


真姫「ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
 「──ッサム!!!」

703: 2019/05/07(火) 15:23:15.06 ID:mfU4DjJz0

動きの鈍ったしいたけに一瞬で近寄ったハッサムが、拳でしいたけを打つ。

 「ワフッ!!!」


真姫「追撃しなさい! “ダブルアタック”!!!」
 「ハッサムッ!!!」


両手のハサミを続け様に叩き付けてくる。


千歌「しいたけっ!」
 「ワンッ!!!」

千歌「“ほえる”」
 「ワンワンワンッ!!!!!」

真姫「!?」

千歌「これもさっきのお返しです!!」


ハッサムが無理矢理、真姫さんの手持ちに戻され、引きずり出されたのは、

 「エンペ……」

バクフーン、ムクホークとの戦いで手負いのエンペルト、


千歌「しいたけ、“とっしん”!!」
 「ワンッ!!!」


弱って踏ん張りが利かなくなったエンペルトを、体でぶっとばす。

 「エンペッ!!!」

エンペルトは声を上げながら、吹っ飛ばされた。


真姫「エンペルト……!」
 「エンペ…」

真姫「……またしても、やられたわね」


そう零しながら、エンペルトをボールに戻す。


千歌「よし! 二匹抜きだね!」
 「ワンッ!!!」

千歌「この調子で三匹目も──」
 「クゥン…」

千歌「って、もうさすがにお疲れだよね。戻って休んで、しいたけ」
 「ワフ」


私もしいたけを戻す。


千歌「……真姫さんのポケモンは2匹が戦闘不能」


あと一匹倒せば私の勝ちだ……!!


千歌「行くよ! ルカリオ!」
 「グゥォッ!!!」

真姫「ハッサム!!」
 「ハッサムッ!!」


再びフィールドに2つのボールが舞った。



704: 2019/05/07(火) 15:24:12.54 ID:mfU4DjJz0


    *    *    *





千歌・真姫「「“バレットパンチ”!!!」」


両者のポケモンが飛び出すと同時に、同じ技の打ち合い。


 「グゥワ!!!!」
 「サムッ!!!!」


神速の拳が、かち合い、

──ギィン!! と硬い音がフィールドに響く、

スピード勝負!!


真姫「“つじぎり”!!」


両者の拳が弾けると同時に真姫さんが指示を出す。

 「ハッサムッ!!!!」

ハッサムを身を捩りながら、鋭利なハサミで切り裂き攻撃、


千歌「ルカリオ!!」
 「グゥァ!!!!」


波導を収束して、硬質化、武器にする……!


千歌「“ボーンラッシュ”!!」
 「グゥォ!!!!」


すんでのところで、ハサミを骨状の波導エネルギーの塊で弾き返す。


真姫「“メタルクロー”!!」


立て続けの攻撃、突き出されるハッサムの両のハサミ、


千歌「受けて!!」
 「グゥォ!!!!」


再び弾こうと、ルカリオは長い骨を振るうが、

鋼鉄のハサミが──開いた、


千歌「開いた!?」

真姫「ハサミだからね!」


そのままハッサムのハサミは、ルカリオの骨をガッチリホールドする。

──この瞬間、骨を放すように指示すべきだった。


真姫「“アイアンヘッド”!!」


両手で骨を押さえつけたハッサムが、そのまま鋼鉄の頭突きをかましてくる。


 「グォァ!!?」


脳天に一撃を食らって、怯んだところを、

705: 2019/05/07(火) 15:25:28.77 ID:mfU4DjJz0

真姫「ハッサム!! “ぶんまわす”!!」
 「サムッ!!!!」


ハッサムは骨を掴んだまま、自分を脚を軸にして回転しながら、ルカリオを振り回す。


千歌「!? ル、ルカリオ!!!」
 「グォッ!!!?」


脳を揺さぶられた直後に、加えられた激しい遠心力に耐えられず、手を放したルカリオが宙に放られる。


真姫「“こうそくいどう”!!」
 「ハッサムッ!!!!」


そんなルカリオに追撃を掛けるために、ハッサムが猛スピードで発進する。

空中に放られて為す術のないルカリオに向かって、

両手のハサミを使った、袈裟懸け!


真姫「“シザークロス”!!」
 「ハッサムッ!!!!」

 「グゥァ!!!!!」

千歌「ルカリオッ!!!」


強烈な攻撃を受けて、ルカリオフィールド上を二転三転する。

 「グ…ゥ…」

千歌「……っ!」


圧倒されてしまった。ルカリオ、戦闘不能だ。


千歌「戻って、ルカリオ……」


ルカリオをボールに戻す。


真姫「これで、お互い戦闘不能が許されるのは残り1匹ね」

千歌「……行くよ、バクフーン!!」


私は最後の手持ちを繰り出した。





    *    *    *





千歌「バクフーン! “やきつくす”!」
 「バクッ!!!!」


バクフーンが炎が噴き出す。

……が、恐らく真姫さんの行動は、


真姫「ハッサム、“バトンタッチ”」
 「サムッ」


やはり、交代だ。

706: 2019/05/07(火) 15:26:26.74 ID:mfU4DjJz0

真姫「キリキザン、お願い」
 「キザン…」


真姫さん最後のポケモンはキリキザン。

 『キリキザン とうじんポケモン 高さ:1.6m 重さ:70.0kg
  大勢の コマタナを 戦わせ 傷つき 動けなくなった 獲物を 
  真っ二つにする。 どんなに 強い キリキザンでも 頭の
  刃が 刃こぼれすると ボスの 座を 引退すると いう。』

あく・はがねタイプのポケモン。


千歌「バクフーン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「バクッ!!!!!!」

真姫「“きりさく”!!」
 「キザン…!!」

キリキザンが腕の刃を薙ぐと、


千歌「! ほ、炎が……」


炎が斬撃で真っ二つに切れて、キリキザンの両脇をすり抜けていく。

遠距離技が通用しない。


真姫「“サイコカッター”!!」
 「キザン!!!」


逆に向こうからは念動力で作った刃が飛んでくる。


千歌「……く! “スピードスター”!」
 「バクッ!!」


星型をしたエネルギーで迎撃、二つの攻撃のエネルギーがぶつかりあって、爆発する。


千歌「……わっ!?」

真姫「キリキザン、“つるぎのまい”!」
 「キザンッ!!!」


相手もどうやら、遠距離攻撃が得意なわけではなさそうだけど、放っておくとどんどん自己強化をして手が付けられなくなる。


千歌「距離を詰めなきゃ……! バクフーン、“ニトロチャージ”!!」
 「バクッ!!!!」


とにかく、止まっていない方がいい。

“ニトロチャージ”は自分の熱エネルギーを高めながら加速する突進技。

距離を詰めて、バクフーンの炎を直撃させれば勝機はあるんだ……!!

さっき、“サイコカッター”と“スピードスター”が爆ぜ散った場所を時計回りに迂回しながら、加速する。


真姫「加速して、一撃を狙う。悪くないわ、けどね」
 「キザンッ!!!」

真姫「軌道がわかりやすすぎるわ」

千歌「……!!」


バクフーンの直進方向にあわせて、キリキザンが踏み出してくる。

707: 2019/05/07(火) 15:31:19.44 ID:mfU4DjJz0

真姫「“ローキック”!!」
 「キザンッ!!!!」

 「バクッ!!?」

前足を綺麗に払われて、バクフーンがキリキザンの後ろを転がる。


千歌「バクフーン!? 大丈夫!?」

 「バクフーン…!!」


声を掛けるとすぐに起き上がる。


千歌「ほ……」


ダメージはそこまで大きくない、が。

……どうする。

遠近どちらも対策を打たれている。


 「バクフッ!!!!!」


バクフーンの闘志は十二分なんだけど……。

むしろ、戦意が抑え切れず、バクフーンの周りでチリチリと火花が散っている。

……ん?


千歌「……あ」


──閃いた。


千歌「──バクフーン! “ころがる”!!」
 「バクッ!!!!」


バクフーンは大きく時計回りに迂回しながら加速し、再びキリキザンに向かって、突撃する。


真姫「“けたぐり”!!」
 「キザンッ」


ぶつかる直前に蹴り飛ばされて、再び宙を浮いて、キリキザンの背後を転がる。


千歌「まだまだぁ!!」


また大きく時計回りに迂回しながら、バクフーンは再びキリキザンの方へ、


真姫「ヤケになったのかしら? キリキザン、もう一度“けたぐり”!」
 「キザンッ」


三たび、いなされ床を転がる。

──全身を床に擦りつけながら、


千歌「バクフーン! 今度は逆側から!!」
 「バクッ!!!!!」

真姫「それで翻弄してるつもりなのかしら!!」


今度は逆時計回りに迂回して、回転しながら突撃する。

四度目、脚払いを食らう瞬間──

708: 2019/05/07(火) 15:32:22.67 ID:mfU4DjJz0

千歌「バクフーン!! ジャンプ!!」
 「バクッ!!!!」


バクフーンが回転の勢いを使ったまま、跳ねた。


真姫「!? 意表を突いた回避なんかしても、攻撃出来なきゃ──」

千歌「“かえんほうしゃ”!!」
 「バクッ!!!!」

真姫「その技は通じない!! キリキザン、“きりさく”!!」


 「バクッ!!!!」
中空を舞ったまま、バクフーンがキリキザンに標的をあわせて、炎を噴き出す。

それをキリキザンが鋭利な刃で切り伏せる。

炎が切り裂かれ、フィールドに──引火した。


真姫「なっ!?」


先ほどバクフーンが転がった軌跡の上を──まるで『大』の字を描くように。


千歌「燃え尽きるまで、焼き尽くせ!!!」
 「バクフーンッッッ!!!!!!!!」


空中で炎を吐きながら、バクフーンの背中に、より一層、強い闘志の炎が燃え上がる。

“ころがる”ことにより、フィールド上に擦りつけられ、巻き上げられた、

──バクフーンの可燃性の体毛──が、

バクフーンの炎を、『大』の字の炎柱へと、昇華させた。


千歌「“だいもんじ”!!!!」
 「バクフーーンッッッッ!!!!!!!!!!」


──私たちの気合いの雄叫びが、爆音と共に鳴り響いた。





    *    *    *





千歌「……はぁ……はぁ……」
 「バクフー…!!!」


大きな火柱が、その火の手を弱めると、


千歌「……!!」


その中に、キリキザンのシルエット。


千歌「まだ、立ってる……!! バクフーン!!」
 「バクッ!!!!」

真姫「待って……立ってるだけよ」

千歌「……え?」

709: 2019/05/07(火) 15:33:31.08 ID:mfU4DjJz0

真姫さんが私たちの追撃を口で制するのと同時に、

──ユラリ、と。

キリキザンの影が崩れ落ちた。


真姫「……キリキザン戦闘不能。千歌、貴方の勝ちよ」

千歌「……やった」


グッと拳を握る。


千歌「やった、やったよバクフーン!! 勝ったよー!!」
 「バクフー!!!」


喜びの声を掛けると、バクフーンが私の元に駆け寄ってくる。


千歌「──って、熱!? まだ毛燃えてる!?」
 「バクッ?」


まだ戦闘の余熱で、バクフーンはめちゃくちゃ熱かった。物理的に。


真姫「全く勝負に勝っても、騒がしいのね……」


真姫さんはキリキザンをボールに戻しながら、呆れたような口調で話しかけてくる。


千歌「ぅ……ご、ごめんなさい……」

真姫「それにしても……してやられたわね。バクフーンの体毛を使ってくるなんて……」

千歌「えへへ……」

真姫「……ポケモンを信じて、その力を引き出す技量、胆力。認めざるを得ないわね」


真姫さんはそう言って、懐から、ソレを取り出した。


真姫「貴方をローズジム認定トレーナーの証として、この“クラウンバッジ”を進呈するわ」

千歌「はいっ!!」


こうして、私は5つ目のジムに勝利し、無事バッジを手に入れたのでした!



710: 2019/05/07(火) 15:34:09.69 ID:mfU4DjJz0


    *    *    *





真姫「この後はどうするの?」


ジム戦を終えた後、ジムの前で真姫さんにそう訊ねられる。


真姫「北西に行くと、ヒナギクシティ……そっちにいくと、梨子と会うことになると思うけど」

千歌「……そっか、梨子ちゃんはヒナギクジムに向かったって言ってましたもんね」


梨子ちゃん……久しぶりに会いたいとは思うけど……。


千歌「私はバッジが5つ揃ったら、行く場所があるんでっ!」

真姫「そ。マリーへの預かりもの、失くさないようにね」

千歌「はーい! それじゃ、ムクホーク! 行こう!」
 「ピィィー!!」

千歌「──ウチウラジムへ!!」


私たちは恩師の元へと、成長した姿を見せるため、飛び立ったのでした。



711: 2019/05/07(火) 15:35:22.06 ID:mfU4DjJz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
no title

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.47  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.43 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.43 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:123匹 捕まえた数:13匹


 千歌は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




712: 2019/05/08(水) 01:12:21.40 ID:7Hgct/sd0

■Chapter053 『カーテンクリフ』 【SIDE Ruby】





──カーテンクリフ上空。


ルビィ「うーん……」

花丸「ルビィちゃん、何か見えたずら?」

ルビィ「うぅん……なんにも……」

花丸「ちょっと、高度下げてみよっか……フワライド、ちょっと下がれるずら?」
 「フワァーー」


花丸ちゃんのフワライドでカーテンクリフに突入してから、数日。

ルビィたちはここにあると睨んでいた、グレイブ団アジトを発見できないまま、クリフ上空を彷徨っていました。


ルビィ「ダリアに居た研究員さんは、確かにクリフのアジトって、言ってたんだけどなぁ……」

花丸「大体の場所がわかってても、アジトはアジトって、ことなのかもね……地道に探すしかないずら」

ルビィ「うん……そうだね」


カーテンクリフは標高の高い山だからか、雲に包まれていて基本的に見通しが悪い。

しかも、今は雪が降っているせいで更に視界を確保するのが困難だった。


花丸「これはホントに持久戦になりそうだね……」

ルビィ「うん……」


……とは言え、すでに食料や水の備蓄が怪しくなり始めている。

これは一旦探索を中断して街に戻ったほうがいいかも……。

フワライドの力を借りれば、登り降りはそこまで困難ではないけど、一瞬ってわけじゃないし、降りる余力がない状態で備蓄が尽きたら、それこそ危険……。


花丸「ん……なんか、いるずら」

ルビィ「え?」


花丸ちゃんの声で思考から引き戻される。

隣を見ると、花丸ちゃんが望遠鏡を覗き込みながら、何かを発見したようだった。


ルビィ「なにかって?」

花丸「ん……雪と霧で見づらいけど、動いてるずら。たぶん、ポケモンだと思う」

ルビィ「マルちゃん、ルビィにも望遠鏡貸して?」

花丸「うん、はい」


花丸ちゃんから望遠鏡を受け取って、先程花丸ちゃんが見ていた方向を覗いてみる。

すると、確かに小さなポケモンが動いている影が見えた。

……だけど、


ルビィ「なんか、あの子……変じゃない……?」

花丸「ずら?」

713: 2019/05/08(水) 01:13:40.25 ID:7Hgct/sd0

改めて覗き込みながら、望遠鏡の絞りを回してズームする。

──そこには小さなゾウさんみたいなポケモンの姿。

その子が鼻を使って、崖にぶら下がっているところだった。


ルビィ「!! あの子、崖から落ちかけてる……!!」

花丸「え!?」

ルビィ「フワライドさん! 高度落として、あそこの崖に近付ける!?」

 「フワァ」
花丸「る、ルビィちゃん! あんまり高度下げると岩肌にぶつかっちゃうずら!」

ルビィ「でも、ほっとくわけにいかないし……!!」

花丸「それは……。……わ、わかった。フワライド、高度落として」
 「フワワァーー」


フワライドさんが少しずつ高度を落としていく。

すると、山の岩肌のシルエットが肉眼でも確認出来るようになってきた。


ルビィ「いた! あそこ!」


それなりに高度を落としたところで、先程見つけたゾウさんみたいなポケモンの姿をしっかりと確認する。

望遠鏡では詳細な状況がわからなかったけど、肉眼で見るとそのポケモンは風雪に煽られて今にも落ちそうになっているのがわかった。


花丸「あれは、ゴマゾウずら!」

ルビィ「ゴマゾウさん! 今助けるからね……!! コラン! アブリボン!」
 「ピピピィーーー」「アブリリー」


空を飛べる手持ちを繰り出す。


ルビィ「コラン、アブリボン、ゴマゾウさんを助けて!」
 「ピピ」「アブリ」


二匹はざっくりしたルビィの指示を聞いて、飛び出した。

風雪の中で飛ばされないように岩肌沿いに下降していく。

二匹を目で追いながら、ルビィは、


ルビィ「アチャモ!」
 「チャモ!!」


アチャモをボールから出す。

すぐさま、バッグからロープを取り出して、アチャモを自分の胸の辺りに前を向かせたまま括り付ける。


花丸「る、ルビィちゃん!? 何してるずら!?」

ルビィ「コランとアブリボンほっといて、ルビィが待ってるわけにいかないよ! アチャモと協力しながらならルビィも降りられると思うし……!」


アチャモの爪をピッケルのように突き刺しながら、降りる算段。


花丸「そ、そんな、無茶だよ!?」


視界を再びゴマゾウさんの方に向けると、コランとアブリボンがゴマゾウさんの元に到着したところだった。

コランが下から押し上げ、アブリボンが上から引っ張る形だ。

……だけど、なかなかゴマゾウさんの体は持ち上がらない。

714: 2019/05/08(水) 01:14:49.88 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「やっぱり、このままほっとけないよ!! アチャモ、せーので跳ぶからね!!」
 「チャモ!!」

花丸「ルビィちゃんっ!!」

ルビィ「……せーのっ!!」


風雪と切り立った山肌がヒューヒューと特有の風の音を響かせる中、

せーの、でルビィは──跳べなかった。


 「チャモ?」
ルビィ「あ、あれ……?」


自分では脚に力を入れて、フワライドさんから踏み切ったはずだった。

なのに……。


ルビィ「──あ、脚が……」


脚が震えて、うまく踏み出せていない。


花丸「この高さで飛び降りるなんて無理だよぉ……!」

ルビィ「……っ」


自分の脚が震えてる事実を認識して、急に怖くなってくる。

少しは旅の中で度胸もついたと思ったのに……。


 「パォォーー」


そのとき、声が聞こえた。


ルビィ「……!」


恐らくゴマゾウさんの声だ。

フワライドさんの距離が十分に近づいてきて、声が聞こえる距離になってきたのだろう。

ゴマゾウさんを見ると、大きな鼻で掴んでいた崖から今にも手が──いや、鼻が滑り落ちそうになっていた。


ルビィ「あ、危ない!!」

花丸「ルビィちゃん!?」


ルビィは勢いにまかせて、今度こそフワライドさんから飛び出していた。

急に全身を浮遊感に包まれる。


ルビィ「!?」


岩肌が思った以上のスピードで接近してくる。


ルビィ「あ、アチャモ!! “ブレイククロー”!?」
 「チャッモッ!!!」


咄嗟の指示。急な岩の斜面にアチャモが引っ掛けるように、爪を立てる。

──ガリガリと岩肌を削る耳障りな音ともに、嫌な振動が全身に伝わってくる。

……が、どうにか減速には成功したようだった。


ルビィ「はぁ、はぁ……!」

715: 2019/05/08(水) 01:15:43.77 ID:7Hgct/sd0

岩肌にうまく引っかからなかったら、と思うとぞっとして、急に心拍数があがっていく。

──怖い。


 「パオォォーー」

ルビィ「!」


再び響いてくる鳴き声を聞いて、頭を振った。


ルビィ「今、いくからね……!!」


ルビィもうまく出っ張りに足をかけながら、慎重に、でも出来る限り速く、崖を下っていく。

 「チャモッ」

アチャモと協力しながら、どうにか崖を降りると、


 「パォォ……」


ゴマゾウさんの元へは思いの外、早くたどり着いた。

……改めて、降り立ってみると、多少歩けるスペースはあるものの、ここもただの岩肌のでっぱりに近い。


ルビィ「アチャモ……爪しっかり立てててね……!」
 「チャモ」


岩肌に張り付きながら、ゆっくり腰をかがめて、後ろ手にゴマゾウさんの鼻に手を伸ばす。

 「ピピピ……」「アブリリ……」


ルビィ「あと……ちょっと……!」


手を伸ばして──ゴマゾウさんの鼻を、掴んだ。


ルビィ「やった! このまま、引き上げて……!!」


力を込めて、引っ張ろうとして、


ルビィ「あ、あれ……?」


そして気付く。

ゴマゾウさんは思った以上にずっしりとしていて、引っ張っても全然持ち上がらない。


花丸「──ゴマゾウは33kgもあるずらー!! 簡単に持ち上がらないよー!!」


空から花丸ちゃんの声が振ってくる。

どうりで、コランとアブリボンの二匹がかりでも持ち上がらなかったわけだ。


ルビィ「んっと……! 何か方法は……!」


考えを巡らせた──瞬間。

再び体が浮遊感に包まれた。


ルビィ「……え?」

花丸「──ルビィちゃん!!!!」

716: 2019/05/08(水) 01:19:10.84 ID:7Hgct/sd0

花丸ちゃんの絶叫が聞こえる。

視界の先ではゴマゾウさんも中空にいた。

──ルビィのいる崖ごと崩れたんだと気付いたときには、完全に落下が始まっていた。


ルビィ「ゴマゾウさん!!」
 「パ、パォ」


ルビィは咄嗟にゴマゾウさんを抱きしめた。


 「アブリリ!!!」「ピピピ!!!!」

アブリボンがルビィの背中を掴み引っ張り、コランが下に潜り込む。

落下速度が僅かに緩和されるが、

落下はまるで止まるには至らない。


ルビィ「……!!」


このままじゃ、地面に激突してみんな助からない。


 「──ボールに入れなさい!!!」

ルビィ「!?」


そのとき、突然、上から声が響いてきた。


ルビィ「ボール!!!」


咄嗟に、腰から空のフレンドボールを引っ手繰って、ゴマゾウさんに押し当てた。

 「パォ──」

ゴマゾウさんがボールに吸い込まれたのと同時に、

──体が上方に引っ張られた。


ルビィ「ぴぎ!?」


思わず悲鳴が漏れる、が。


ルビィ「あ、あれ……?」


気付くと、急に落下速度がゆっくりになっていた。


 「全く……なんで、会う度に氏にかけてるのよ、あんたたちは──」

ルビィ「!」


上から声が振ってきて、その方向を見上げてみると……。

ヤミカラスの脚を掴んだまま飛んでいる黒髪の女の子の姿。


ルビィ「あ、あなたは……!」


ブルンゲルとの戦いのときにも助けてくれた女の子、確か名前は──


ルビィ「善子ちゃん!!」

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ!!!」

ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさい……」

717: 2019/05/08(水) 01:20:36.01 ID:7Hgct/sd0

大きな声で怒鳴られて、思わず謝ってしまう。


善子「はぁ……とりあえず、アチャモもボールに戻してくれる? ちょっとでも軽い方がいいわ」

ルビィ「あ……うん」


ヤミカラスさん、アブリボン、コランの力でゆっくり降下する中

──pipipipipipi!!!!!

ルビィと善子ちゃん? の図鑑が鳴っていたことに気付く。


善子「また鳴ってる……なんなのこれ?」

ルビィ「あ、えっと……図鑑が3つ揃うと鳴るんだって」

善子「へぇ……」


善子ちゃんは相槌を打ちながら、ポケットから図鑑を取り出して、音を止める。


善子「ん、じゃあ……」

花丸「──ルビィちゃん! 善子ちゃん!」


どうやら、花丸ちゃんとフワライドさんが追いついて来たようだった。


善子「だから、ヨハネだってば!!」

花丸「ルビィちゃん……無事でよかったずら……」

善子「無視するんじゃないわよ!?」


降下する私たちにフワライドさんは手を伸ばし、それを人が一人立って乗れるくらいの長さで折りまげる。

善子ちゃん──ヨハネちゃん? はその上に足を下ろす。


善子「……もう、ここまでくれば、大丈夫でしょ。……えっと、ルビィだっけ?」

ルビィ「あ、うん! ありがとう、ヨハネちゃん……?」

善子「だから、ヨハネじゃなくて──ん? あってる……?」


善子ちゃんは少し難しい顔をしたあと、


善子「コホン……まあ、苦しゅうない」


少し嬉しそうに咳払いをした。


花丸「……相変わらず、その設定はなんなんずら?」

善子「設定言うな!! それよりも、なんでこんなところにいるのよ!」

花丸「それを言うなら善子ちゃんもずら」

善子「私はアブソルを追ってきただけよ!」

花丸「アブソル……?」

ルビィ「あ、えっとね……ルビィたちは……」


どうにかこうにか事情を説明しようと考えていると、


ルビィ「!? は、花丸ちゃん!! 見て!!」

花丸「ずら?」


下降中の谷の底に、

718: 2019/05/08(水) 01:24:25.44 ID:7Hgct/sd0

善子「……なんでこんなところに建物が……?」


大きな建造物の影が見えてきた。


花丸「崖と崖の間にあったんだね……道理で、上空を飛んでても見つからないわけずら」

善子「……? あんたたち、あそこに用があったの?」

ルビィ「あ、えっと……実はね」


ルビィたちはヨハネちゃんに事情を説明しながら、降りていく。

──グレイブ団アジトに。





    *    *    *





善子「つまり、その理亞って子を捕まえて、洗いざらい吐かせればいいってことね」

ルビィ「う、うん……」

花丸「言葉選びが乱暴ずら……」


谷底の地面に降り立った後、三人で岩の影に隠れながら、見つけたアジトの様子を伺う。


善子「見た感じ、見張りとかも特にいなさそうね……」

ルビィ「あ、あの……」

善子「なによ?」

ルビィ「ヨハネちゃんも来るの……?」

善子「……何、付いてこられると困ることでもあんの?」

ルビィ「そ、そうじゃなくて……!」

花丸「善子ちゃん、一応聞いておくけど」

善子「ヨハネだからね」

花丸「これから行くところ、結構危ない場所だと思うよ? いいの?」

善子「……さっきも言ったでしょ、私はアブソルを追ってきただけ」


そう言いながら、善子ちゃんは図鑑を開いて見せつけてくる。


善子「アブソル、ここ数日ずっとこのカーテンクリフから動いてないのよ」


図鑑の画面を見ると、この地方の地図が表示されていて、確かにカーテンクリフの場所に善子ちゃんの言っているポケモンが生息していることを示していた。


善子「もしかしたら、この建物の中にいるかもしれないでしょ? そのついで」

ルビィ「……? さすがにそんなことはないと思うけど……」

善子「……えっと、あー」

花丸「……素直に言えばいいのに」

ルビィ「?」

善子「と、とにかく! 私もここに用があるの! わかった!?」

ルビィ「え?? う、うん……」


善子ちゃんは仄かに顔を赤くしながら、

719: 2019/05/08(水) 01:27:27.80 ID:7Hgct/sd0

善子「見張りも居ない。入り口は一つ、ならさっさと入ってさっさと用事を済ませるわよ! お互い!」


そう言って走り出してしまう。


ルビィ「え、あ、ま、待ってよぉ……!」

花丸「やれやれずら……ルビィちゃん、マルたちも行くずら」

ルビィ「う、うん……?」


ルビィたちはアジトに潜入します。






    *    *    *





アジトの入り口らしき場所に立つと、すんなりとドアが開く。


善子「……ここホントにそのグレイブ団ってやつのアジトなの?」

花丸「確かにずいぶん不用心だね……」

ルビィ「もしかしたら入った途端、警報が鳴るトラップとかかも……」

善子・花丸「「……」」


前を歩いていた、善子ちゃんと花丸ちゃんの足が止まる。


善子「ゲッコウガ、“こころのめ”」
 「ゲコガ」

花丸「ゴンベ、“かぎわける”ずら」
 「ゴンゴン」


同時に出した2匹でトラップの有無を調べてるみたい。


善子「ゲッコウガ、トラップとかなさそうかしら?」
 「ゲコガ」


善子ちゃんの言葉に、ゲッコウガさんが頭を縦に降って安全の意を伝えている。


花丸「ゴンベも異常は嗅ぎ取れないずら」

ルビィ「じゃあ、平気なのかな……?」


本当に何もないみたい。

二人が言うように、アジトと言う割にすごく不用心な気がする。


善子「場所が場所だから、侵入者とか想定してないのかもしれないわね」

ルビィ「それならいいんだけど……」

花丸「まあ、とりあえず進むしかないずら」


三人で屋内に入ったところで、

突然、ルビィたちのいる通路から、真っ直ぐ奥側にあるドアが開いた──

720: 2019/05/08(水) 01:29:22.48 ID:7Hgct/sd0

善子・ルビィ・花丸「「「!?」」」


ドアの向こうから人影。

ダリアシティでちらほらと、見たことがあるグレイブ団の装束の女性。


ルビィ「ぴ、ぴぎぃ!?」

善子「やっぱり罠じゃないっ!?」

花丸「ち、ちょっと待って二人とも……!」


動揺する私たちに花丸ちゃんが声を掛けてくる。


善子「いや、言ってる場合!? 隠れないと……!!」

ルビィ「も、もう遅いよぉ……」


バッチリ目が合ってた気がする。

というか、目の前にいるし。


花丸「……あの人、様子がおかしいずら」

ルビィ「え……?」


言われて、再びグレイブ団の団員らしき女性に目を向けると、

彼女はこちらに向かって、ゆっくりと歩を進めてきているところだった。


善子「……何……?」

グレイブ団団員「…………」


真っ直ぐ歩いてきているが、

……いや、真っ直ぐ歩いてきているだけすぎる。


ルビィ「……ルビィたちのこと、見えてない……?」

善子「まさか……そんなはず……」

花丸「とりあえず、二人ともこっちに来るずら」


このままこの団員の進行方向上に居たらぶつかってしまうので、通路の隅の方に3人で避ける。


団員「…………」


団員の人は、そのままルビィたちに見向きもせず通り過ぎて、


団員「…………」


空いてしまった、入り口の横にあるボタンを押して、ドアを閉める。


善子「ああ、まあ、確かに開けたままじゃ寒いし」

花丸「そういう問題じゃないずら……」


そして、そのままUターンして、


団員「…………」


また通路の奥の部屋に戻っていった。

721: 2019/05/08(水) 01:30:53.21 ID:7Hgct/sd0

善子「……どゆこと?」

花丸「……詳しいことはわかんないけど、オラたちが侵入してきたことは認識出来てなかったずら」

ルビィ「それどころか、見えてなかったみたい……」

善子「まさか、ついに本当の堕天の力に目覚めてしまったということなの……?」

ルビィ「……?」

花丸「堕天の力かどうかはともかく……ただ、扉を閉めに来ただけみたいだったね」

善子「……そうね」


善子ちゃんは腕を組んで、考える素振りをしてから、


善子「まるで……そういう風にプログラムされてるロボットみたいだったわね」


そう感想を漏らす。


ルビィ「ロボット……」

花丸「さっきのロボットだったの? それは、未来ずら~!」

善子「……とりあえず、ここが普通の施設じゃないってことはわかった」

花丸「どうするずら?」


どうする……。


ルビィ「とりあえず、進んでみた方がいいと思う……。ここで待ってても、しょうがないし」

善子「まあ、そうね……。見つからないんだったら、こっちとしては都合のいい話なんだし」

花丸「了解ずら」


ルビィたちはとりあえず、奥へと進むことにしました。





    *    *    *





アジト内を進んでいく最中、

団員らしき人たちが、なにやら作業をしているが、

誰一人として、ルビィたちが居ることに気付かない。


善子「……異様な光景ね」

ルビィ「うん……」


数人……ううん、十数人とはすれ違ったと思うけど、誰一人としてルビィたちのことを認識していない。

その目は虚ろで……まるで意思が感じられなかった。

722: 2019/05/08(水) 01:33:22.95 ID:7Hgct/sd0

花丸「…………善子ちゃん、さっきロボットみたいって言ってたよね」

善子「え、言ったけど……冗談よ?」

花丸「それはわかってるずら。そっちじゃなくて」

善子「どっちよ」

花丸「そうプログラムされてるってやつ」

善子「……言ったわね」

花丸「そうなのかもしれないずら」

善子「……?」

ルビィ「どういうこと?」

花丸「さっきから、観察してたんだけど……一人一人があんまり複雑な動作をしてない気がするずら」

ルビィ「……?」

善子「……もしかして、自分の意思がないから、単純なことしかやってないってこと?」

ルビィ「え……それって……」


──あの人たち、操られてる……?


善子「催眠術とか、洗脳の類……?」

花丸「断言は出来ないけど、可能性は高いずら」

ルビィ「……じゃあ、最初に会った人は戸締まりをする人だったってこと……?」

花丸「そこまで限定的かはわかんないけど……入り口が開きっ放しになってたら、閉めるように指示されてるのかも」

善子「……ねえ、ホントにこんな場所に理亞ってやつはいるの?」


善子ちゃんは顔を顰めてそう言う、


善子「ここ、相当おかしいわよ……? まともな人間が居る空間とは思えない」

ルビィ「……ぅゅ」


確かにここがおかしいと言うのは事実だ。


善子「気付いたら、私たちも洗脳されてて……なんてこともあるんじゃ……」

花丸「こ、怖いこと言わないでよ、善子ちゃん!」

善子「いや、だからヨハネだってば!」

ルビィ「ぅゅ……」


確かに、闇雲に探し回りながら、長居するのは良くないかもしれない。

さっきから、善子ちゃんのゲッコウガさんと、花丸ちゃんのゴンベがしきりに索敵はしてるけど……。

ロボットみたいに動く、団員の人たちが引っかかるばかりだし……。

──そのとき、


ルビィ「?」


腰のプレミアボールがカタカタと揺れていることに気付く。


ルビィ「……コラン?」


コランの入ったボールだった。

外に出たがっているみたいだから、ボールから出してあげると、

723: 2019/05/08(水) 01:34:20.52 ID:7Hgct/sd0

 「ピピピ」


コランはボールから出るやいなや、ふよふよと奥の方へと飛んでいってしまう。


ルビィ「あ、コラン……待って──」


コランを制止しようとして、ふと思い出す。

ダリアの研究室でも、コランが勝手に飛び出して、奥の隠し部屋を見つけた。

もしかしたら……。


ルビィ「コラン……また何か感じ取ってるのかな」

花丸「……付いていってみる?」

善子「……ま、話を聞く限り、メレシーの話がよく出てくるし……。その子の勘を信じてみるんで、いいんじゃない?」

ルビィ「うん……」


不安は消えないけど……ルビィたちはコランの後についていくことに決めました。





    *    *    *





そのあと、いくつかの部屋を通り抜けて──その間にぼんやりと作業を繰り返す団員の人が何人も居ました……。

コランが、ここまでの道程同様、自動扉を潜ろうとすると、


 「ピピ!?」


ドアが開かずに衝突する。


ルビィ「わ!? コラン、大丈夫!?」
 「ピピピ……」

善子「……ここだけロックが掛かってるの? 怪しいわね」

花丸「しかも、この先に行きたがってたってことは……」

ルビィ「……うん」


この前同様、この先に何かがある可能性が高い。

目の前の扉は、頑丈そうな鉄扉だった。



善子「……どうする? 壊す?」

ルビィ「あんまり大騒ぎにはしたくないけど……」

花丸「他に手段がないならそれも視野ずら……」

ルビィ「うん……。……?」


ふと、扉の向こうから、

724: 2019/05/08(水) 01:35:13.78 ID:7Hgct/sd0

善子「どしたの?」

ルビィ「……なんか、聞こえる」

花丸「ずら?」

ルビィ「何……?」


思わず、耳をドアに当ててみると、


 「お前、何処から──!! マニューラ──!!」
  「マニュッ──」

ルビィ「!」


人の声が聞こえてきた。

しかもこの声には聞き覚えがある……!


ルビィ「この先に理亞さんが居る!!」

花丸「ずら!?」

善子「なんですって?」

ルビィ「しかも、誰かと戦ってる……!!」

善子「誰かって、誰よ!?」

ルビィ「わ、わかんないけど……!」

725: 2019/05/08(水) 01:36:28.51 ID:7Hgct/sd0

どうにかもっと多くの情報を手に入れるために、再びドアに耳をつけた瞬間──

──ガン! と大きな音がルビィの耳を叩く。


ルビィ「ぴぎぃっ!!?」


大きな音に驚いて、思わず後ろに転げる。


花丸「ルビィちゃん!?」

ルビィ「な、なにかがぶつかってきた……」


急に大きな音を耳元で受けて、頭がぐわんぐわんする……。


善子「なにやってんのよ……。けど、今の音は私にも聞こえたわ……! とにかく、この先にいるのね!」

ルビィ「……う、うん!」

善子「なら、ぶった切るわよ!! ゲッコウガ!! “つじぎり”!!」
 「ゲコガァ!!!!」


ゲッコウガさんが水で作ったクナイで、鉄扉を切り裂き、無理矢理抉じ開けると。


善子「……な……!?」


その先に広がっていた光景は──。


理亞「……今日は随分たくさん、鼠が忍び込んでるみたいね」
 「マニュ…」


部屋の奥でマニューラを従え臨戦態勢の理亞さんと、


 「──ソルル…!!!」

ドアの前で足元を凍らされながらも、理亞さんたちを威嚇している、白い体毛のポケモン──


善子「アブ、ソル……?」


善子ちゃんの目当てのアブソルさんの姿でした。



726: 2019/05/08(水) 01:37:32.78 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブ団アジト】
no title

 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.29 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.29 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.30 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.37 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:81匹 捕まえた数:8匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.30 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.28 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      モココ♂ Lv.29 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.27 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:81匹 捕まえた数:30匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.41 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.38 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.42 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:101匹 捕まえた数:46匹


 ルビィと 花丸と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




727: 2019/05/08(水) 09:34:38.08 ID:7Hgct/sd0

■Chapter054 『グレイブ団幹部・理亞』





善子「アブソル……!? なんで、こんなところに……!!」

 「ソルル…?」

理亞「それは、こっちの台詞なんだけど」


理亞さんが鋭く視線を飛ばしてくる。


善子「ゲッコウガ! “みずしゅりけん”!!」
 「ゲコガァ!!!」

理亞「! マニューラ!」
 「マニュ!!!」


飛んできた水の手裏剣を、マニューラが凍気で凍らせながら爪で弾く。


理亞「侵入者の癖に、威勢の良いご挨拶ね」

善子「アブソルの敵は私の敵も同然よ!!」

 「ソルル…」


善子ちゃんが人差し指を突き付けながら宣言している横から、


ルビィ「理亞さんっ!!」


ルビィが声をあげる。


理亞「……! あんたは……!」


ルビィの姿を認めると、理亞さんは一度驚いたような顔をしたあと、


理亞「……最近グレイブ団の周りを嗅ぎ回っているやつがいるって噂、あんただったんだ。クロサワ・ルビィ」


そう言いながら、冷たい視線を送ってくる。


善子「無視するんじゃないわよ!!」
 「ゲコガァ!!!」

ルビィ「善子ちゃん!?」


善子ちゃんの声と共に飛び出すゲッコウガ。


理亞「あんたは邪魔! マニューラ、“かわらわり”!」
 「マニュ!!!」

 「ゲコ!!!?」


だけど、マニューラが長い爪を振るって殴り付けると、ゲッコウガは一発で善子ちゃんの元まで吹き飛ばされる。


善子「ゲッコウガ!?」
 「ゲコ……」

善子「なんつー威力よ……! 大技ならまだしも……!」

理亞「威勢だけの雑魚じゃない」

善子「なんですって!?」

728: 2019/05/08(水) 09:35:39.75 ID:7Hgct/sd0

二人のポケモントレーナーが火花を散らす中、


ルビィ「や、やめて、二人とも……! ルビィたちは戦いに来たわけじゃない!!」


ルビィは二人の間に割って入る。


理亞「………は?」

善子「あんたたちがそうじゃなくても、私に戦う理由が出来たのよ!」


善子ちゃんは声を荒げながら、次のボールを構えるが、


花丸「よ、善子ちゃん! やめるずら……!」


花丸ちゃんが善子ちゃんを後ろから羽交い締める。


善子「な!? 放しなさい、ずら丸……!」

花丸「善子ちゃん……ルビィちゃんはこのために、ここまで来たずら」

善子「…………」

花丸「善子ちゃん」

善子「……あーもう……わかったわよ」

ルビィ「ありがと、マルちゃん、善子ちゃん……! 理亞さん」

理亞「…………」


理亞さんに視線を向ける。

依然、戦闘体勢のままルビィのことを睨んでいる。


ルビィ「ルビィたちは理亞さんとお話しに来たんです」

理亞「……話?」

ルビィ「はい……! クロサワの入江でのこと──」

理亞「……」

ルビィ「どうしてあんなことしたのか、聞きたくて……」

理亞「…………」

ルビィ「…………」

理亞「……は? それだけ……?」

ルビィ「え……?」

理亞「そんなこと聞くためだけに、ここまで追ってきたの……?」


理亞さんは心底、不思議なモノを見るような顔で、ルビィのことを見つめてくる。


ルビィ「え、えっと……はい」


あ、あれ……? ルビィなにか変なこと言ったかな……?


理亞「…………ふーん」

ルビィ「え、えーっと……」

理亞「あんたが飛び切りのバカだってことはわかった」

ルビィ「え……ひ、酷い……」

理亞「どうしてあんなことをしたか? あのとき言ったはずだけど。祠について聞き出すためよ」

729: 2019/05/08(水) 09:38:01.48 ID:7Hgct/sd0

理亞さんは毅然と答えるけど。


ルビィ「ただ祠の存在を聞き出すだけだったら……無理に祠に行く必要はない。お姉ちゃんが追ってくるのも時間の問題だったのに、どうしてあの状況で虱潰ししてまで、祠に辿り着こうとしてたの?」

理亞「! …………」

ルビィ「うぅん、むしろ理亞さんはルビィの外見は最初から知ってた。聞き出すだけなら、それこそ本当に他の場所で襲えばよかったのに、わざわざあの場で、警戒される入江にルビィを連れてったのは、やっぱり不自然だよ」

理亞「………………」

ルビィ「本当は──あのとき、ルビィに何か……ルビィにしか出来ない何かをさせようとしてたんじゃないの……?」

理亞「……………………」

ルビィ「理亞さん、答えてください……!」


理亞さんはそこまで頑なに口をつぐんでいたけど、


理亞「──……仮にそうだったとして、あんたがそこまでして追ってくる理由は何?」


ゆっくりと、そう言葉を返してきた。

やっとお話、してくれた。


理亞「私があんたを捕まえて、連れ去ろうとした事実に何も変わりない。それなのに、敵地まで乗り込んできて、なんの得があるの?」


──敵地。

敵。……ううん。


ルビィ「理亞さんは敵じゃない」

理亞「は……? だから、私はあんたをさらって──」

ルビィ「でも、メレシーを守ってくれたもん……っ!」

理亞「……そんなことで──」

ルビィ「そんなことじゃない……!」


あの洞窟のメレシーは、いつも悪い人に狙われる。

お伽噺でしかなかった時代から、今の今まで……


ルビィ「最初はルビィも、またメレシーたちを狙う悪い人なのかなって思ったけど……」


兄弟姉妹同然に育ってきたメレシーたちを、守るように訓わって、護るように教わってきたルビィにとって、


ルビィ「あの場所で、メレシーたちを大切にしてくれる人が……ただの悪い人だと思えないの……」

理亞「…………」

ルビィ「メレシーを守ってくれた事実も、護ろうとしてくれた想いも……ルビィには嘘だったなんて思えない」


ルビィは、気付いたら、理亞さんの瞳を、真っ直ぐ見つめて、話しかけていた。


理亞「…………」


理亞さんの瞳が揺れる。

 「ピピピ」

ふいに、ルビィの傍に居たメレシーが理亞さんのところへふよふよと飛んでいく、


理亞「……メレシー」

 「ピピピ」

730: 2019/05/08(水) 09:39:14.48 ID:7Hgct/sd0

そして、理亞さんの周りをゆっくりと回り出す。


ルビィ「ほら……ルビィのメレシー──コランも、理亞さんがホントは優しい人だって言ってる」

理亞「…………そんな、私は」


理亞さんは、何に迷ってるんだろう……。

それは今はまだわからない。わからないけど。

なら、わかるまで、わかりあえばいいんだ。


ルビィ「ルビィに出来ることだったら協力するから……だから、あんな強引なやり方しないで?」

理亞「…………っ」

ルビィ「ちゃんとお話して、気持ちを伝え合えば、きっと……ルビィと理亞さん──うぅん、理亞ちゃんは、きっとお友達になれるから」

理亞「…………友達」


理亞ちゃんが手を伸ばす。

ルビィも、その手を取ろうと、前に進んだ──ときだった。

──prrrrrr.


理亞「…………」


理亞ちゃんの上着のポケットから着信音。

ポケギアの音だった。


理亞「…………」


理亞ちゃんはポケギアを取り出し、その画面を見て。


理亞「……ねえさま……」


呟いた。

そして、そのまま、固まってしまった。


理亞「…………」


ポケギアが鳴り続ける。


ルビィ「……ポケギア、出ないの……?」

理亞「…………」

ルビィ「ねえさま……お姉ちゃんがいるの?」

理亞「…………」

ルビィ「えへへ……ルビィと同じだね……!」

理亞「……!」

ルビィ「ルビィにもお姉ちゃんがいるんだよ! ダイヤお姉ちゃんって言って──」

理亞「…………同じじゃない」

ルビィ「……え?」

理亞「…………お前の姉と、ねえさまが同じわけがない」

731: 2019/05/08(水) 09:40:48.10 ID:7Hgct/sd0

理亞ちゃんの雰囲気が、変わった。

 「ピピ!?」

コランも驚いてルビィの元に戻ってくる。


理亞「……産まれたときから、住む場所にも、食べる物にも困らず、当たり前に家族に囲まれて、ただ当たり前に恵まれて育ってきた、お前の姉と……私のねえさまが同じわけ、ない……!」

ルビィ「……!?」


明らかな怒気。明確な攻撃の意思を持った目。

それと同時に、肌の露出した部分に刺すような痛み。

──それが猛烈な寒さのせいだと気付いたときには、部屋には霜が降り、天上からは大きな氷柱がみるみると成長している真っ最中だった。


理亞「マニューラ!!!」
 「マニュ!!!!!」

理亞「“つららおとし”!!!」


理亞ちゃんの指示と共に、部屋中のつららにヒビが入る。


ルビィ「わ、わわわ……!!!」


焦るルビィの背後から、


花丸「ルビィちゃん!?」

善子「ルビィ!! こっちの部屋に戻ってきなさい!! 早く!!」


花丸ちゃんと善子ちゃんの声。

一人奥の部屋の中へと進んでいたルビィを呼び戻す声。

──だけど、判断が遅かった。

バキリと言う、嫌な音と共に次々と大きなつららが降り注いでくる。


ルビィ「ぴぎぃっ!!」


つららがルビィの顔のすぐ横を掠める。


花丸「ルビィちゃん!!」
善子「ルビィ!!」


二人が再び大きな声でルビィのことを呼んだけど、

ルビィの行く先、通路の出口にも大きなつららが大量に降り注ぎ、その道を塞いでいく。


花丸「ルビィちゃん!!」


花丸ちゃんの呼び掛けすらも、つららの落ちてくる音が掻き消していく。


花丸「ルビィちゃ──」


──そして、ついに花丸ちゃんの姿は、大きなつららに覆い隠されて完全に見えなくなってしまった。


ルビィ「……っ」


絶体絶命。そのとき、

732: 2019/05/08(水) 09:42:14.09 ID:7Hgct/sd0

 「ピピピ!!!!」

ルビィ「! コラン!!」


コランがルビィの頭上に飛び出す。

ルビィを守る盾になるために、

だが、


 「ピピィ!?!!!?」


つららにぶつかったコランが玉突きのように、

ルビィの真横に落ちてくる。

大きなつららは、コランの硬い身体すらも無視する勢いだ。

幸い弾き飛ばされるだけで大きなダメージにもなってなさそうだが、

降り注ぐつららの勢いはまるで納まらない。

咄嗟に顔を両腕で庇う。

降り注ぐ氷の礫たちが、手を、腕を、

落ちて砕けて、跳ね返る鋭利な氷の欠片が、足を、脹脛を、太腿まで、容赦なく切り裂いていく。


ルビィ「──っ!!」


強い痛みに、声にならない声が出る。

──痛い。

痛みを自覚した瞬間、脚から力が抜けて、カクンと膝が落ちた。

──割れた氷だらけの床の上に。


ルビィ「──ぁ゛っ!!!」


膝に刺すような痛み──いや、割れた氷の破片が刺さったんだ。

感じたことのない痛みに、上半身も倒れこみそうになって、

堪える。


ルビィ「──っ──!!」


痛い、痛い、痛い──

脳がそんな言葉を全身に走らせる、

倒れ込みたい、

ダメだ、

床も氷の棘だらけだ、


理亞「──それが、痛みだ……」


パニックを起こした思考に、理亞ちゃんの声が降って来る。


理亞「お前たちみたいな、恵まれた姉妹が、経験したことのない──冷たさと、痛みだ……!!」

ルビィ「……っ!!」

理亞「私とねえさまはずっとこの痛みに耐えてきた、この痛みの中で生きてきた──お前たちみたいなただの親の七光りと同じわけない……!!」

ルビィ「……っ!!! ……違うもんっ!!!」

733: 2019/05/08(水) 09:43:22.86 ID:7Hgct/sd0

脚に力を籠めて、無理矢理立ち上がる、


ルビィ「お姉ちゃんは、ただの七光りなんかじゃない……!!」

 「チャモッ!!!」


腰のボールからアチャモが飛び出し、


 「チャモォオオオオオオ!!!!!」


辺りに炎を撒き散らす、“かえんほうしゃ”だ。

アチャモの火炎で、足元の氷の欠片が溶け、足場が確保される。


ルビィ「ふぅー……ふー……っ!!!」


どうにか立ち上がるが、脚のところどころが切れ、流血している。

出血は言うほど酷くないが、痛みを主張している部分が多すぎて、自分の脚が自分の脚だと思えない。

立ったはいいが、脚がガクガクと震える。

これが痛みのせいなのか、はたまた恐怖からなのかすら判断する余裕がない。

でも──


ルビィ「お姉ちゃんはすっごい努力して……ジムリーダーになったんだもん……!!」


ルビィはともかく、お姉ちゃんを侮辱されて黙ってるわけにはいかなかった。


理亞「……あんたも怒るのね。ただ、取り消すつもりなんかない。あんたたち姉妹はただの七光りよ……!」

ルビィ「……っ!!」


その言葉に珍しく、頭がカッと熱くなるのを感じた。


ルビィ「アチャモ!! “かえんほうしゃ”!!」
 「チャモー!!!!」

理亞「マニューラ!! “ブレイククロー”!!!」
 「マニュ!!!!」


理亞ちゃんの指示でマニューラが飛び出す。

一直線に飛んでくるマニューラに火炎を浴びせる……が、

 「マニュ!!!!」

炎を意にも介さず、マニューラが突っ込んでくる。

──アチャモではなく、ルビィに向かって、


ルビィ「……!!」


マニューラの鋭い爪が眼前に迫る、

刹那。

白い影がルビィの前に躍り出た。

──キィン!

鋭いモノ同士がぶつかった音が響く。


 「ソルル…!!!」

ルビィ「! アブソルさん!!」

734: 2019/05/08(水) 09:44:49.41 ID:7Hgct/sd0

アブソルさんの頭の刃と、マニューラの爪が鍔迫り合いになる。

 「ソルッ!!!!」

アブソルさんが思いっ切り頭を振るうと、

 「マニュッ!!!」

その勢いに負けた、マニューラが後ろに飛び退く、


理亞「っち……せっかく凍らせたのに、アチャモの炎で氷が溶けたか……!」


理亞ちゃんはそう言いながら、睨みつけてくる。



理亞「ま、七光りの雑魚相手にはいいハンデかもね」

ルビィ「また……っ!!」

理亞「お互い譲れないなら……戦って決めればいい、いつだって私とねえさまはそうしてきた……!! クロバット!!」

ルビィ「!」


理亞さんがボールを放ると同時に紫の影が高速で飛び出した。

その影は、そのままルビィの肩辺りを掴み、

持ち上げ、宙に浮く、


ルビィ「クロバット……!! 研究所のときにもいたポケモン……!!」


空に持ち上げてくるなら……!!


ルビィ「コラン!!」
 「ピピッ!!!」


地面に転がるコランに呼びかけ、


ルビィ「“じゅうりょく”!!」
 「ピピィ!!!」


指示を出した。


 「クロバ!!!!?」


クロバットを“じゅうりょく”の力で無理矢理地面に引きずり落とす。

そのまま、床に降りる前に次のボールを放る。


ルビィ「ヌイコグマさん!! “とっしん”!!」
 「クーーマーー」


墜落した、クロバットをヌイコグマさんが突き飛ばす。

 「クロバッ!!!」

クロバットは床を転がり、理亞ちゃんの方へ──


理亞「クロバット……!」

ルビィ「……さっきお姉ちゃんに対して言ったこと、取り消してくれないかな?」

理亞「……雑魚の言うことなんて、聞くつもり、さらさらない」

ルビィ「じゃあ、ルビィがそうじゃないってわかれば、取り消してくれるかな……?」

理亞「……上等──!!」


735: 2019/05/08(水) 09:47:05.55 ID:7Hgct/sd0



    *    *    *





 『緊急プログラムが作動しました。緊急プログラムが作動しました。』


謎のアナウンスが部屋中に響いている。


花丸「ルビィちゃん……!! ルビィちゃん!!」


ずら丸は通路を塞ぐ、でかい氷柱を叩いているけど……。


善子「一旦落ち着きなさい!! ずら丸!!」

花丸「落ち着けないよ!! だって、ルビィちゃんが、ルビィちゃんが……!!」

善子「……いいから、落ち着けって、言ってんの!!!」

花丸「ずら……!!」


怒鳴りつけると、ずら丸はビクッとしてから、大人しくなる。


善子「……冷静になりなさい。そんなことしても状況は変わんない。氷柱を除去する方法を考えないと」

花丸「で、でも……」

善子「ルビィが心配なのはわかるけど……あの子もここまで旅してきたんでしょ? ちょっとやそっとのことでやられないわよ」


私は言いながら、ずら丸に向かって図鑑のサーチ画面を開く。

そこには、付近に居るのポケモン一覧が表示される。

『ゲッコウガ
 ゴンベ
 アチャモ
 メレシー
 ヌイコグマ
 アブソル
 クロバット
 マニューラ』


善子「この中にルビィの手持ちはいる?」

花丸「! う、うん、アチャモ、メレシー、ヌイコグマはルビィちゃんの手持ちずら! クロバットは、あの理亞さんって人が持ってたと思う……」

善子「さっきまで辺りには、私たちの手持ちとアブソルを除いたら、マニューラとメレシーしか出てなかった……たぶんだけど、この向こうで戦闘になってるんだと思う」

花丸「……って、ことは」

善子「ルビィは生きて、戦ってるってことよ」

花丸「そ、そっか……」


ただ、生存確認をしたからと言って、このまま放っておくわけにはいかない。

この氷柱の壁はどうにかしないと……だが、それ以外にも、


 『緊急プログラムが作動しました。緊急プログラムが作動しました。最上級指令を発令します。侵入者を排除してください。この指令は最上位優先行動です。』


善子「このアナウンス……たぶん、ヤバイわよ」

花丸「……? こ、これ何……?」

善子「気付いてなかったの?」

花丸「ご、ごめん……」

736: 2019/05/08(水) 09:48:02.47 ID:7Hgct/sd0

 『最上級指令を発令します。侵入者を排除してください。この指令は最上位優先行動です。緊急プログラムが作動しました。──』


花丸「こ、これって、まさか……」

善子「たぶん、あんたが今考えてる通りだと思うわ……」


二人して背後を振り返ると、


団員「──」
 「ブブー」「ヘァ」「プルリィ」「ヒドド」

先ほどスルーしてきたはずの団員たちがポケモンを引き連れて、続々と集まってきていた。


善子「ゲッコウガ! まだ動ける!?」
 「ゲコ……!!」

団員「“サイケこうせん”」 団員「“バブルこうせん”」 団員「“シャドーボール”」 団員「“ミサイルばり”」


飛んでくる大量の攻撃、


善子「“たたみがえし”!!」
 「ゲコッ!!!!」


ゲッコウガが床を一枚引っぺがし、盾にして防ぐ。

色とりどりの遠距離攻撃が、薄壁一枚の向こう側で爆ぜる。


花丸「ず、ずらぁ……逃げ場がないずら……!」

善子「後ろは絶氷……前は悪の手先……絶体絶命ね」

花丸「どうするずら!?」

善子「……ランプラー! 出てきなさい!」


私はランプラーをボールから出す。


 「プラァー」

善子「ランプラー! 後ろの氷を溶かして! 出来るだけ早く!」
 「プラァー」

善子「ずら丸も! ほのおタイプ持ってない!?」

花丸「! ……え、えっと、マルほのおタイプは持ってないけど、氷を溶かすだけなら……!」


ずら丸も私に倣う様にボールを放る。


花丸「──キマワリ! “ソーラービーム”ずら!」
 「キッマァーー」


ここは屋内。太陽がない分、威力はそこまで期待できないが、いないより何倍もマシだ。


花丸「それと、モココも!!」
 「メェーー」


続けて、モココが飛び出す。


花丸「“チャージビーム”ずら!」
 「メェーー」


電気を収束したエネルギーを背後の氷柱に向かって照射する。

737: 2019/05/08(水) 09:50:15.41 ID:7Hgct/sd0

善子「とにかく、前からの攻撃を防ぎながら──」

「ヘァ!!!」


──言ってる合間に、ヒトデマンがゲッコウガが出した“たたみがえし”を右側から迂回して飛んでくる。


花丸「ゴンベ!! “ずつき”!!」
 「ゴン!!!」

 「ヘァ…!!!」

善子「逆からも……!!」


今度は左側にプルリル、


善子「出てきて、ムウマ!! “シャドーボール”!!」
 「ムマァ!!!」

 「プルリ…!!?」


どうにか迎撃、


善子「と、とにかく! 防ぎながら、後ろの氷を溶かす!! それしかない!!」

花丸「う、うん……!!」


幸い攻撃は単調なものが多い。

“たたみがえし”の影に隠れながら、飛び出した相手を迎撃するなら、どうにか指示が間に合──


 「ブブー!!!」

花丸「ハヤシガメ!! “はっぱカッター”!!」
 「ガメッ!!!!」


いや、いかんせん相手の数が多い、


 「ヒド!!!」

善子「ヤミカラス! “ドリルくちばし”!!」
 「カァッ!!!」


バネブー、ヒドイデ、ヒトデマン、プルリルと言ったポケモンたちが絶え間なく、次々に飛び掛かってくる。


善子「ムウマ! “サイケこうせん”!! ヤミカラス! “つばさでうつ”!!」

花丸「ゴンベ! “ふきとばし”! フワンテ! “かぜおこし”!」


二人分の手持ち総出の総力戦だ……!!


善子「ランプラー!! まだっ!?」
 「プラァー」


ランプラーが必氏に“れんごく”を使っているが、氷が分厚すぎる。


善子「もっと、出力がないと……!」

花丸「善子ちゃん! 上!!」

善子「あーもう!! ヤミカラス、“だましうち”!!」
 「カァッ!!!!」


このままじゃ、手が追いつかない。

そのとき──

738: 2019/05/08(水) 09:50:48.15 ID:7Hgct/sd0

 「メェー……!!」
花丸「ずら!? モココ!?」


モココがプルプルと震えだす、これは──


善子「進化の兆候!?」

 「メェー──」


モココが、カッと眩く光る、


 「──リュー!!!」
花丸「デンリュウに進化したずら!! これなら……!!」
 「リューー!!!!!」


進化して、急激にパワーを増した、“チャージビーム”が氷を焼く。


善子「ランプラーも、あとちょっと……!! お願い、頑張って!!」
 「プラァーーー」


後ろの氷が溶けるまで……あとちょっとだから──!



739: 2019/05/08(水) 09:51:27.21 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブ団アジト】
no title
 主人公 ルビィ
 手持ち アチャモ♂ Lv.30 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.30 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.31 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.37 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:82匹 捕まえた数:8匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.30 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.28 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.30 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.27 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:31匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.41 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.38 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.42 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:109匹 捕まえた数:46匹


 ルビィと 花丸と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




740: 2019/05/08(水) 13:05:48.82 ID:7Hgct/sd0

■Chapter055 『戦闘! グレイブ団幹部、理亞!』 【SIDE Ruby】





──これは数年前のお話です。


ダイヤ「ルビィ、いいですか? クロサワの女たるもの、毅然としていなくてはダメですよ」

ルビィ「きぜんって……?」

ダイヤ「自分の信念を貫く、しっかりとした態度や様子のことですわ」

ルビィ「自分の……信念……ルビィに出来るかな……」

ダイヤ「大丈夫ですわ。貴方も立派なクロサワの子なのですから、きっと出来ますわ──」


──
────


──夜。スクールの隣のジムスペースから、声が響いてくる。


ダイヤ「はぁ……!! はぁ……っ……!!」

琥珀「……今日はここまでにしましょう、ダイヤ」

ダイヤ「ま、まだです、お母様……!!」

琥珀「ダイヤ……」

ダイヤ「このような不甲斐無いままでは──わたくしはジムリーダーになど、いつまで経っても成る事が出来ません……!!」

琥珀「……。……そのように焦ることは、ないのですよ?」

ダイヤ「いえ……! ダメなのです、わたくしは……いつだって、毅然と前を歩いていないと──」


こっそり聞いていた、あの日のお姉ちゃんの言葉。

今でも、覚えている。


ダイヤ「わたくしはルビィの姉なのです……! ルビィに示しが付く様に前を進み続けないとダメなのです……!!」


──ルビィにとって……そんな、お姉ちゃんが自慢なんです。自慢のお姉ちゃんなんです。





    *    *    *





ルビィ「アチャモ!! “ほのおのうず”!!」
 「チャモー!!!!!」

理亞「マニューラ! “でんこうせっか”!!」
 「マニュ!!!」


アチャモが作り出す、炎の渦の壁を、マニューラが身を屈めて、突っ込んでくる、


ルビィ「迎撃! “きりさく”!!」
 「チャモッ!!!」

理亞「遅いッ!!」

741: 2019/05/08(水) 13:06:45.53 ID:7Hgct/sd0

アチャモが爪を薙ぐが、

 「マニュ!!!」
 「チャモッ!?」

一瞬で軌道を見切ったのか、前方に居たはずのマニューラが横からアチャモを斬りつける、


理亞「畳み掛けろッ!! “みだれひっかき”!!」
 「マーニュッ!!!!」


襲い来る連撃、だが──


 「ソルッ!!!」

ルビィ「! アブソルさん……っ!」


再びアブソルさんが割って入って助けてくれる、


 「マニュ!!! マニューラッ!!!!」

 「ソルッ!!!!」


高速で薙がれる、両の爪を、アブソルさんが刃でいなす、


理亞「ち……!! いけ、オニゴーリ!!」
 「ゴォーリ!!!」

ルビィ「!」


そんなアブソルさんに向かって放たれる新手、オニゴーリ。


理亞「“こおりのキバ”!!」
 「ゴォォオーーーーリ!!!!!」


オニゴーリが口を開けて、冷気を纏った大きなキバで迫る、


ルビィ「ヌイコグマさんっ!!」
 「クーーマーー」


飛び出す、ヌイコグマさん、


ルビィ「“とっしん”!!」
 「クーーーマーーー」


床を蹴って、オニゴーリに向かって突撃、


 「ゴォーリ!!!!」

 「クーーマーー」


理亞「邪魔!! “かみくだく”!!」

ルビィ「させない!! “ばかぢから”!!」


 「クママーーー」
 「ゴォーーリ!!!!」


組み合った二匹、

顎を閉じて、噛み砕こうとするオニゴーリと、

それを抉じ開ける、ヌイコグマさん、

パワーは拮抗してる、が

742: 2019/05/08(水) 13:08:33.89 ID:7Hgct/sd0

 「ゴォーリッ!!!!」


オニゴーリの冷気で、キバを押さえている前脚がパキパキと凍り付いて行く、


ルビィ「アチャモっ!! “ねっぷう”!!」
 「チャモッ!!!!」

 「ゴォリ!!?!?!」

理亞「なっ、ヌイコグマごと……!!」


アチャモから放たれる“ねっぷう”が氷を溶かしながら、オニゴーリを襲う、

 「クマー」

もちろん組み合ってる、ヌイコグマさんも巻き込まれるけど……。


ルビィ「ヌイコグマさんっ!! “じたばた”!!」

 「クマーーー!!!」

理亞「!」


ヌイコグマさんが激しく暴れて、オニゴーリを吹き飛ばす。

“じたばた”は受けているダメージが大きいほど、威力を増す技です……!


理亞「オニゴーリ!! 一旦引いて!!」


その言葉と共にオニゴーリの元に、繰り出される大きな影──


ルビィ「!!」

理亞「リングマ!!」
 「グマァァ!!!!」


リングマが大きな拳を引きながら、ヌイコグマの目の前に、

ルビィはすかさずボールを投げる、


理亞「“アームハンマー”!!!」
 「グマァッ!!!!!」


雄叫びと共に振り下ろされる、拳、

──が、

その拳は、ヌイコグマさんに振り下ろされることはない、


 「パォォ!!!」

理亞「!?」


長い鼻をリングマに腕に巻きつけ受け止めた──


理亞「──ゴマゾウ……!?」


パワー自慢の新しい仲間──!!


ルビィ「ゴマゾウさん!! “たたきつける”!!」
 「パオォォ!!!!」


リングマをそのまま腕ごと引き摺り落とす形で、地面に叩き付ける、

 「グォァッ!!!!??」

743: 2019/05/08(水) 13:09:52.88 ID:7Hgct/sd0

ゴマゾウさんの攻撃で出来た隙に、


ルビィ「コラン、“パワージェム”!!」
 「ピピピー!!!!!」

 「グマァッ!!!?!?」


今度はコランが宝石を発射する。

石が腹部に命中した、リングマはたまらず、

 「グマ…ァ…!!!」

お腹を押さえながら、後ろに下がっていく、

そして、同時に──


 「マニュッ!!!?」


理亞ちゃんの元に吹き飛ばされる、マニューラの姿、


 「ソルッ…!!!!」


アブソルさんがマニューラとの打ち合いに勝ったようだった、


理亞「マニューラ……!! リングマ……!!」


さらに畳み掛けるように──

 「ソルッ!!!!!」

アブソルさんが頭の刃を振るうと、


理亞「……!」


大きな空気の刃──“かまいたち”だ、

空刃は、理亞ちゃんとその手持ちを一挙に巻き込み、

その後ろの壁までも、一刀両断した、


ルビィ「ぴぎっ!? す、すごい威力!?」

 「ソルッ…!!!!」


斬り崩れた建物の壁が煙を立てながら、崩れ落ちる、


ルビィ「と、いうか、やりすぎ……!?」


崩れた壁の先へと、走る。

すると……アブソルさんの斬撃は、隣の部屋も、さらにその隣の部屋まで貫いていた。

そこに理亞ちゃんの姿は見当たらない、

もっと先まで吹き飛ばしたのかもしれない。


ルビィ「みんな!」
 「チャモ!!」「ピピピッ」「クマー」「パォ」


戦っていた手持ちを呼び寄せて、ルビィたちは壁の向こうに走り出します──。



744: 2019/05/08(水) 13:10:54.08 ID:7Hgct/sd0


    *    *    *





理亞「……つっ」


身を起こすと、岩肌に囲まれた、カーテンクリフが見える。

アブソルの特大の“かまいたち”を受けて、戦っていた部屋どころか、建物の外まで吹き飛ばされたらしい、


 「マニュ…!!」

理亞「大丈夫……リングマが庇ってくれたから」


お陰で、リングマは戦闘不能だけど……すぐにボールに戻す。

あれだけの大技を一匹で受け止めてくれたのだ、止むを得ない。


ルビィ「──理亞ちゃん!!」

理亞「!」


声に顔を上げる、

崩れた壁の先から、クロサワ・ルビィが駆け出して来た、


理亞「っ……!!」


咄嗟に、マニューラを飛び出させるために、人差し指と中指を前に突き出して、攻撃の合図を送るが──


ルビィ「──大丈夫!?」

理亞「……なっ……!」


相手方から飛び出してきたのは、そんな心配の言葉。


理亞「──大、丈夫……?」


突き出した指が、ワナワナと震える、


理亞「どこまで……どこまで侮辱すれば気が済むのよ……ッ!!」


頭にカッと血が昇る、

それと同時にメガブレスレッドが、光を発する、


ルビィ「……!!?」


理亞「オニゴーリッ!!!!」
 「ゴオァアァーーーリ!!!!!!」


メガシンカの力を解放した、オニゴーリが、

一気に辺りを凍りつかせ、


ルビィ「……!? あ、脚が……!!」


ルビィの足元を一気に氷で釘付けにする。

もちろんルビィの手持ちも、

745: 2019/05/08(水) 13:13:09.87 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「……! み、みんな!!」
 「チャ、チャモォ」「パォォ…」「ク…マ…」

 「ソル……!!」

ルビィ「アブソルさんも……!!」


 「ピピピ!?」


これで空中を浮いていた、メレシー以外はこおりづけで動けない。

そして──

そのまま、氷はルビィの脹脛、太腿、臀部、


ルビィ「……ぅぁ……!」


お腹を、

胸部を過ぎて、

肩を、腕を、手を凍て付かせ、


ルビィ「ぅ……っ……」


すぐに首元まで辿り着いた。





    *    *    *





理亞「……はぁ……はぁ……っ……私の勝ち、ね」

ルビィ「……っ……」


全身が凍ってしまって、動かない、動けない。


理亞「……てこずらせんじゃ……ないわよ……弱い癖に……!!」

ルビィ「……っ! まだ……言うの……っ!」

理亞「勝って……言うこと、聞かせるって……言ってたじゃない……でも、あんたの負けよ……!!」

ルビィ「……っ……まだ、だもん……!」

理亞「認めなさい……!!」

ルビィ「まだ……だもん……っ!!」


お姉ちゃんの──ダイヤお姉ちゃんを悪く言ったこと、


ルビィ「まだ……言葉、取り消して貰ってない……もんっ!!!」


ルビィの大好きなお姉ちゃんの誇りは、

何も知らない人が汚していいものじゃない、

今、その誇りを護れるのがルビィだけなら──わたしが戦わなきゃ……!!

そう想った瞬間。


──ドクン。


心臓が大きく脈打った。

746: 2019/05/08(水) 13:14:38.67 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「──あ、ぁ……っ!!?」


そして、突然、全身が燃えるように熱くなる、


 「ピ──」


そして、コランが──

真っ赤な──燃えるような真紅の光を発していた。


理亞「……なっ!?」


──ドクン。

血液が脈打つ度に、全身を焼き尽くすような熱が走る、


ルビィ「──な、ぁ、ぁ……!!」


──ドクン。

──ドクン、ドクン、ドクン。

熱い…… 熱い……! 熱い……!! 熱い……っ!!!!

身体の奥底から、マグマのような熱が溢れ出して来る。


ルビィ「──あ、あ、あ……っ!!!!」


自分がどうなってるのかが、わからない──

ただ、熱い、

全身が狂ったように、熱かった──





    *    *    *





目に見えて異常な現象が起きていた。

ルビィが従えていた、真っ赤な宝石のメレシーが、光り輝いたと思ったら、

地鳴りと共に、辺りに大きな揺れ──


理亞「地震……!?」


いや、それだけじゃない。


理亞「……日……?……太陽……!?」


私の頭上からは、太陽が灼熱の日差しを降らせていた。

ここは雲と雪と岩肌に包まれたカーテンクリフの谷底だと言うのに、だ。

そして、何より──


ルビィ「──ぁ……あ、ぁ……!!」

747: 2019/05/08(水) 13:15:43.19 ID:7Hgct/sd0

クロサワ・ルビィの全身の氷が、

──ジュウジュウと音を立てて、溶けていた。

日差しの熱、どころではない。

それとは比にならない圧倒的な熱量、

辺りの氷はルビィを中心にどんどん溶けて行く。

まるで、ルビィ本人から大量の熱が出ているとしか思えない。


理亞「まさか……!!」


私は心当たりを感じ、上着の内ポケットから、あるものを取り出した。


理亞「……はは」


ポケットから取り出した“ソレ”を見て、


理亞「……あははははっ」


笑いが込み上げてくる。

“ソレ”──小さな、ピンクのダイヤモンドが、脈打つように輝いている。

 「ピ──ピ──ピ──」

目の前のメレシーと共鳴するかのように、


理亞「やっぱりねえさまの言っていたことは、本当だったんだ……!」


こんな形になるとは思っていなかったが、

やっとこの目で確認することが出来た。


ルビィ「──ぁ……ぅ……ぁ…………」

理亞「……クロサワの巫女の覚醒──!!」





    *    *    *





──あれから、どれくらい時間が経ったのか、

5分? 10分? 1時間……?

もしかしたら、もっと長いかもしれないし、もっと短かったかもしれない。

全身を燃えるような熱が駆け巡り続け、

そのせいで時間の感覚すらもおかしくなってしまったのかもしれない。


ルビィ「ぅ……ゅ……」


気付いたときには、辺りには陽炎が揺らめき、蒸発した氷が湯気を立てていた。


ルビィ「コラン……みん、な……」


力なく辺りを見回す。

 「ピ──ピ、ピ」

748: 2019/05/08(水) 13:17:15.00 ID:7Hgct/sd0

コランがすぐ近くに固まったまま地面に落ちている。

身体がうまく動かなかったけど、手でどうにか手繰り寄せて、胸に抱きしめる。


ルビィ「……コラ、ン……」


さらに辺りを見回すと、アチャモが、ヌイコグマさんが、ゴマゾウさんが、倒れて伏せっている。


ルビィ「みんな……ボールに……もどさ、なきゃ……」


ボールを取ろうと、腰の辺りを手で探るが、


ルビィ「ボールが……?」


何故か、ボールが見当たらなかった。

理由を考えようとしたけど──

頭が熱に浮かされたように、ぼんやりしていて、考えがまとまらない。


ルビィ「マル、ちゃん……みん……な……」


だんだん意識が遠のいていく。


ルビィ「……お姉……ちゃん──」


ルビィの意識は、そのまま闇の中へと……落ちていった──。





    *    *    *





善子「──何……? 何が起こったの……?」


先ほどの激戦とは打って変わって、辺りは静まり返っていた。


花丸「ずら……善子ちゃん、大丈夫ずら……?」

善子「あ……うん。ずら丸も平気……?」

花丸「大丈夫ずら」


お互いの安否を確認し合ってから、前方を見ると、

倒れてきた棚の下で、先ほどまで戦っていた団員とそのポケモンたちが気絶していた。


善子「さっきの地震……なんだったの……?」


いや、何って地震だったんだけど……。

──そう。戦闘している最中に建物を大きな揺れが襲い、それによって戦闘が中断されたのだった。

助かったけど、逆にタイミングが良すぎる気もして、気味が悪い。

そんな考え事をしていたら、


花丸「! よ、善子ちゃん!」


突然、ずら丸が私の袖を引っ張ってくる。

749: 2019/05/08(水) 13:18:33.61 ID:7Hgct/sd0

善子「ん、ちょっと今考え事を……。……え?」


ずら丸に返事をしながら振り返って、

絶句した。


善子「氷が……」


先ほどまで、必氏に溶かしていたはずの大きな氷柱が、


花丸「溶けちゃったずら……」


跡形もなく溶けて消えていた。

いや、正確には辺りが水浸しなので、溶かされたと言うことなんだろうけど……。


善子「ラ、ランプラーたちがやったの……?」
 「プラァー…」


ランプラーが頭を横に振るって、否定の意を示す。

そりゃそうだ、私たちは全然溶けない氷をせめて、人一人でも通れるくらいの穴を開けようと必氏だったのだ、

あの大きな揺れの隙に敵側の攻撃が緩んだとは言え、

跡形もなく溶かしてしまうなんて無理だ。


善子「何……? 一体、何が起こってるの……?」

花丸「……わかんないけど」


ずら丸は、手持ちをボールに戻しながら、氷が溶けて進めるようになった通路に歩いて行く。


善子「ち、ちょっとずら丸!?」

花丸「どっちにしろ、こっちに用があったずら」

善子「そ、それはそうだけど……」


この先に、安易に進んでいいのか……?

完全に想定できない物事が起こってるのに──


花丸「……ルビィちゃんが待ってるずら」


……それもそうだ。


善子「…………わかった」


どうせここが敵地なのには変わりないんだし、前に進むしかない、か。

私も手持ちをボールに戻しながら、ずら丸の後ろを付いていく形で部屋の奥へと進んでいくことにした。





    *    *    *





先ほどまでルビィと理亞が戦っていたと思われる部屋の室内は、ボロボロだった。

と言うか、奥の壁に風穴が空いている。

750: 2019/05/08(水) 13:19:57.34 ID:7Hgct/sd0

善子「どんな激しい戦闘してたのよ……!!」


あのルビィって子、そんなに戦闘が得意そうには見えなかったんだけど……人は見かけによらないのかしら……?


花丸「部屋には誰も居ないし……奥に行ったってことだよね」

善子「……そうね」


もし、戦闘で空いた穴なら、まだこの先で戦っている可能性も高い。


善子「ちょっと、急ぎましょう……!」

花丸「う、うん!」


二人で部屋を駆け抜ける。

……その後、同じように風穴の開いた大きな部屋を何部屋か抜けると──

光が見える。


善子「この穴、外まで続いてるの!?」

花丸「よ、善子ちゃん!! あれ見て!!」

善子「!?」


ずら丸が指差した先に、白い体躯のポケモン。


善子「アブソル!?」

 「ソル…」


屋内に出来た穴から外に出て、すぐのところにアブソルが蹲っている。

──いや、それだけじゃない。


 「チャモ…」「クマー…」「パォォ…」

花丸「ル、ルビィちゃんの手持ちのポケモンずら……!!」


アチャモ、ヌイコグマ、ゴマゾウが瀕氏状態で倒れていた。


花丸「今、きずぐすりを使うからね……!!」


ずら丸がバッグから道具を取り出し、ポケモンたちを治療しようとしたとき、


 「……来たんだ」

花丸「!」


空から声が降って来た。

ずら丸と一緒に声のしたほうを仰ぎ見ると、

理亞がこちらを見下ろしていた──小脇にルビィを抱えたまま。


花丸「……ルビィちゃん!!」

善子「ルビィ!」


ルビィ「…………」

751: 2019/05/08(水) 13:21:22.19 ID:7Hgct/sd0

胸にコランを抱きしめたままのルビィからは、まるで返事がない。

どうやら気を失っているらしい。

そのまま、理亞がクロバットで飛び去ろうとしたところに、


善子「あんた、逃げるの!?」

理亞「…………」


私は思わず、言葉をぶつける。


善子「ルビィの想い、聞いたんでしょ!? ルビィと話をして……それでも、あんたはあくまでルビィを攫うの!?」

理亞「……そうだけど……?」

花丸「どうして……ルビィちゃんの言う通り、協力は出来ないの……!?」

理亞「……出来ない」


何故だか、理亞は寂しそうに、そう言っている気がした。


理亞「私たちの目的のためには……こいつも、『使う』ことになるから──」


……そんな言葉を残して、理亞は飛び去ってしまった。


善子「……使う?」

花丸「ルビィちゃん……」

善子「…………」


すぐに追いかける……?

いや、今の手持ちの状況じゃ、あのクロバットに追いつくのは無理だ。

ちゃんと準備を整えてから、行かないと……。


花丸「ルビィちゃん……」


ずら丸は、悔しそうに唇を噛んでいた。


善子「……ずら丸。……順番に出来ることをしましょう」

花丸「……わかってる、ずら」


ずら丸は再び、ルビィの手持ちたちの治療を再開する。

……そして私は、


善子「アブソル……貴方も治療するわ」
 「ソルル…」


私は鞄からすごいきずぐすりを取り出し、アブソルに向かって噴き付ける。

……さて、

アブソルを治療しながら、辺りの状況を見回す。

改めて、考えてみると……。


善子「なんか……ここ異様に蒸し暑いわね……」

花丸「言われてみれば……」

752: 2019/05/08(水) 13:23:15.07 ID:7Hgct/sd0

辺りは入る前と似たような谷底で岩肌と岩壁があるだけなのんだけど……。

違うとしたら、空が晴れていて、岩壁を下から目で追っていくと、ずーっと遠くに空が見えているくらいかしら。


花丸「あれ? なんか落ちてる……」

善子「?」


そんな中、ずら丸が何かを見つけたようで……。


花丸「……これ、ルビィちゃんの手持ちのボールとポケモン図鑑ずら」


連れ去る際に、理亞がやったのだろうか……?

図鑑は追跡されることを考えると、わからなくもないけど、わざわざボールまで外すのは、少々手間じゃないかしら……? 中に入ったままならまだしも、ルビィの手持ちはそもそも外に出たまま倒れているわけだし。


善子「ちょっと、それ貸してみて」

花丸「う、うん……」


ずら丸から、一つ、ボールを受け取る。

普通ボールは腰から簡単に外れないように、留め具でちゃんと固定する。

だから、激しい戦闘でも簡単にボールが外れることはないんだけど……。


善子「……なにこれ」

花丸「……? どうしたの?」


ボールの後ろ側にある、ボールを固定する留め具の壊れてしまった部分が──

液状になったものが、また冷えて固まったような状態になっていた。


花丸「これ、溶けてる……ずら……?」

善子「…………ボールの留め具を溶かされたってこと?」

花丸「そんなピンポイントで……?」


ずら丸が、他のボールも見てみると、


花丸「どれも同じ感じになってるずら……って、あれ? このボール、中にアブリボンが居るままずら!?」


……落ちていたボールはアブリボンが入ったままのものを含めて、5つ。

モンスターボールとプレミアボール、それとフレンドボールが3つ。

つまり、ルビィは今抱きかかえていたメレシー以外連れていない状態と言うことだ。

ついでに言うなら、


善子「図鑑もこうして、ここにあるってことは図鑑追尾も出来ない……」

花丸「…………」


困ったことになった。

やはり、無理は承知ですぐに追いかけるべきだった……?

ずら丸は今にも泣き出しそうな顔になってしまうし……。

そんなとき、


 「ソル…」

善子「! アブソル……」

753: 2019/05/08(水) 13:24:35.78 ID:7Hgct/sd0

治療を終えたアブソルが立ち上がって、


 「ソル…!!」


理亞が飛び去った方向によたよたと歩き出す。


善子「アブソル……! そんな身体で無茶よ……!!」


私の制止に対して、

 「ソルッ!!!」

アブソルは止めてくれるな、と言わんばかりに声をあげる。


善子「アブソル……」


私は少しだけ、考えて……。


善子「ねえ、アブソル」

 「ソル…」

善子「もしかして、貴方……ずっとあいつらを追ってたの?」


そう訊ねた。

さっきからずっと疑問だった。どうしてアブソルは理亞と戦っていたのか。


 「…」

善子「ここ最近でこの地方にいろんな異変が起きてるけど……私は貴方を追いかけながら、それらにいくつも遭遇してきた」


音ノ木でのメテノ事件。13番水道から15番水道に掛けての不自然なブルンゲルの襲撃。グレイブガーデンでのヒトモシの大量発生。そして、ここカーテンクリフ。


善子「それって全部あいつらグレイブ団が関わってて、貴方はそれを追いかけていた。……そしてまた追いかけようとしてる……違う?」

 「…ソル」


アブソルは短く鳴く。それは否定なのか、肯定なのか。


善子「もしそうなら私も協力する。オンバーンとの戦いで助けてもらった恩もあるし、一緒に行かない……?」

 「…ソル」


私の言葉に対して、アブソルはそっぽを向いて、クリフの壁を登り始める。


善子「……そっか」


どうやら、フラレてしまったらしい。


花丸「……善子ちゃん」

善子「……慰めとかいらないわよ?」

花丸「うぅん、そうじゃなくてね」

善子「……?」


ずら丸が指を指す。

崖を登るアブソルが、こちらを振り返っていた。

754: 2019/05/08(水) 13:25:10.03 ID:7Hgct/sd0

 「…ソル」

善子「……! ついてこいってこと……?」

 「ソル…」


アブソルはピョンピョンと、崖を少し登ってはこちらを振り返る。


花丸「……もし、アブソルが理亞さんを追いかけてるなら、マルはアブソルについていく以外の選択肢はないと思うずら」


ずら丸は、治療の終わったルビィの手持ちたちをボールに戻しながらそう言う。


善子「うん……ついていくわ、アブソル……!」

 「ソル」


こうして私たちは、理亞と、連れ去られたルビィを追いかけるために、アブソルの後を追って、次の目的地へと進むことにしたのだった。



755: 2019/05/08(水) 13:26:02.66 ID:7Hgct/sd0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【グレイブ団アジト】
no title

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:46匹

 主人公 花丸
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:35匹


 善子と 花丸は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


続き:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その12】






引用: 千歌「ポケットモンスターAqours!」