109: 2019/05/13(月) 03:32:49.76 ID:SDtZ71oz0


前回:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その15】

最初から:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その1】

■Chapter076 『決戦! グレイブ団ボス・聖良!』 【SIDE Chika】





──やぶれた世界。


千歌「や、やっと……辿り着いた……」


私は上下左右がデタラメなこの世界にて、やっとの思いで果南ちゃんの元へと辿り着いたところだった。


果南「千歌……お疲れ様」

千歌「ここホントに無茶苦茶だよぉ……ムクホークで“おいかぜ”しても、風が吹く方向がめちゃくちゃで……」

果南「ホントにね……」


果南ちゃんも随分苦戦してるようだった。


果南「目に見えてることと、実際の向きがぐちゃぐちゃなのは正直困る……。……って、何してんの千歌?」

千歌「んー……ここまで近いと向きはあんまり関係ないんだなって思って」


果南ちゃんの前で右に左に踏み出したり、足を戻したりしてみるけど、この距離だとちゃんと思ったとおりに果南ちゃんに近付いたり離れたり出来る。


果南「距離が関係してるのかな……? 離れるほど、無茶苦茶になるとか。ヌオー、出てきて」
 「ヌオー」


そう言って果南ちゃんはヌオーをボールから出す。


果南「“マッドショット”」
 「ヌオー」


ヌオーが地面に手を付くと、泥の塊が飛び出す。

その泥たちはある程度の距離まで直進した後──急に進行方向を逸れて、右に行ったり左に行ったりしながら遠ざかっていく。


千歌「確かに……近くにある間はちゃんと前に進むみたいだね」

果南「“マッドショット”自体はちゃんと直進してるんだと思うんだよね。だから、私たちも前に進むと、あの泥とかと同じように右に行ったり左に行ったりするんだと、思う。たぶん」


果南ちゃんもこの空間の仕組み自体は苦手みたいだけど……私よりは長くいる分、ずっと考えてはいたみたいだ。


千歌「うーん……でも、それがわかってもなぁ……。せめて、風が目に見えれば」

果南「風……? どういうこと?」

千歌「あ、えっと……“おいかぜ”を使うと背中側から前に向かって、風が吹くでしょ? だから、“おいかぜ”の吹いてる方向さえ目に見えれば、前はわかるかなって」

果南「……それだ」

千歌「え?」

果南「千歌、もう一度“おいかぜ”出来る?」

千歌「う、うん。ムクホーク、“おいかぜ”」
 「ピィィィ!!!!!」


傍らで待機していた、ムクホークは翼を羽ばたかせて“おいかぜ”を発生させる。


果南「よし、ヌオー。“あまごい”」
 「ヌオー」


今後はヌオーが鳴きながら、欠伸をすると、ポツポツと雨が降り出す。

それはすぐに強い雨へと変わって行き──
ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow

110: 2019/05/13(月) 03:34:59.38 ID:SDtZ71oz0

千歌「……!」


その雨は“おいかぜ”に押されて、私たちの背中に横殴りになった雨となって降り注ぐ。

背中側から横殴りにされてる……ということは、


千歌「雨が“おいかぜ”の進行方向を示してる……!!」


私たちから離れたところで、雨はうねる様に進行方向を変えているのが見える。


果南「これなら、前がわかる」

千歌「うん!」

果南「随分と引き離されちゃったからね……これで、どうにか追いつかないと」


果南ちゃんが浮いている地面から、下方に目をやる。

ここまで辿り着くまでずっと、目にしていたけど、

そこでは、高速で飛び回る大きなポケモンとそれを追う人影が一つ。


千歌「聖良さんとギラティナ……!」

果南「千歌は聖良と話するんでしょ?」

千歌「! うん」

果南「じゃあ、一緒に行こうか。……って、言っても私今飛べないから……」

千歌「うん! ムクホークに乗って! 行こう、果南ちゃん!」


私は果南ちゃんに手を差し伸べ、うねる風雨の中を、飛び出したのだった。





    *    *    *





 「──ギシャラーーーッ」


ギラティナは已然、不気味な啼き声をあげながら、この異様な空間を自在に飛んでいる。


聖良「プテラ」
 「テラァッ!!!!」


指で逐一、方向を指し示しながら、軌道を修正する。


 「──ギシャラァァッ!!!」


ギラティナは逃げ回りながら、こちらを睨みつけるように目をギョ口リと動かす。


聖良「驚くのも無理はありません。まさか、こうも自在にこの空間を追いかけてくるとは思ってもみなかったでしょうから。ただ、こちらはこの“やぶれた世界”に辿り着くために、何年も研究をしてきたんです。このくらいで撒かれたりしませんよ」

 「──ギシャラァ……!!!!」


そんな私の発言を聞いてなのか、ギラティナの目が光った。それと同時に──


聖良「……おっと」


プテラが明後日の方向に飛び始める。

111: 2019/05/13(月) 03:37:10.77 ID:SDtZ71oz0

 「──ギシャラァ」

聖良「……空間内の仕組みを変えられたようですね……。さっきとは更に左右だけが逆になった。貴方が本当にこの世界を支配している存在というのは間違いないようですね。……ですが」


すぐさま、その軌道を修正し、再びギラティナを追う。


 「──ギシャラァッ!!!!!」


再び、ギラティナは目を光らせ、空間の仕組みを組み替える──が、

今度は全く動じず、先ほどと同様にギラティナを追いかけ続ける。


 「──ギシャラァッ」

聖良「事象を逆転させられるのが、貴方だけの力だと思うのは過信だと思いますよ」


そう言う、私の背中から、小さなポケモンが顔を出す。


 「マーイーカ」
聖良「マーイーカの“ひっくりかえす”を応用すれば、何度この空間を組み替えられても、私の周囲だけは元に戻すことが出来ます。言ったではないですか、何年も研究をしてきたって……!」


一気にギラティナに距離を詰める。


聖良「覚悟してください──ギラティナ……!!」

 「──ギシャラァッ!!!!!」


いよいよギラティナに追いつこうか──というそのとき、


 「ルガルガン!! “ストーンエッジ”!!」
  「ワォォーンッ!!!!」

聖良「!!」


声と共に、背後から鋭い岩石が飛んでくる。


聖良「プテラ!!」
 「テラァッ!!!!」


プテラは“つばさでうつ”で岩石をいなす。


聖良「……また、貴方ですか」

 「聖良さん……!! もう、こんなことやめてください!!」


岩石が飛んできたルートを逆算して、目をやると、そこにはこの計画の間、期せずして何度も会うことになった少女の姿。


聖良「千歌さん」


千歌さんはムクホークで空を飛びながら、ルガルガンを従え、私の方へと迫ってくる。


聖良「……ここまで、追ってくるなんて、正直予想していませんでしたよ」

千歌「聖良さん……!! こんなことしても誰も笑顔になれないよ……!!」

聖良「それを決めるのは貴方ではありませんよ」

千歌「……っ」

聖良「……相手をしてあげたいところですが、生憎今はそれどころでは──」


言いながらギラティナに視線を戻そうとした瞬間。

112: 2019/05/13(月) 03:39:19.51 ID:SDtZ71oz0

 「──ギシャラァッ!!!!!!」

聖良「!」


逃げ続けることを観念したギラティナが襲い掛かってきているところだった。


聖良「やっと、来ましたか……!!」


ギラティナが胴体の爪を立てて、攻撃を仕掛けてくる──“シャドークロー”……!!

──だが、

ギラティナの攻撃は届くことなく、凍りつく。


 「──シャランシャラン」
聖良「フリージオは周囲の空気を凍らせて、その身を保っている超低温のポケモンです。掴まえましたよ……!!」

 「──ギシャラァッ!!!!!!」


ギラティナが叫びながら身を捩るが、氷はどんどん広がり、ギラティナの動きを封じる。


聖良「ついに、悲願が……!!」

千歌「バクフーン!!!」
 「バクフッ!!!!!!!」

聖良「!?」


背後からの声にハッとすると、同時に辺りの気温が炎熱によって一気に上昇する。

その“ねっぷう”はフリージオの氷の身体ごと溶かしつくし、


聖良「フリージオ!!」

 「──ギシャラァッ!!!!!」


ギラティナが解放されてしまう。


聖良「邪魔をしないで貰えませんか?」

千歌「言ってもやめてくれないなら……私は戦ってでも聖良さんを止めます」

聖良「……ほう」


威勢のいい少女に目を配る。


聖良「貴方が私に勝てるとでも?」

千歌「勝てるかじゃない……」

聖良「……」

千歌「勝つんだ……!!」


言いながら千歌さんが、ムクホークと共に飛び出してくる。


聖良「……いいでしょう、そこまで言うなら相手をしてあげますよ」
 「テラァッ!!!!」


私は自らの肩を掴んで飛行するプテラに指示を出し千歌さんの方へと飛び出す。

──と同時に、右方向に錐揉み回転をしながら、僅かに場所を横にずらす。

すると、そこに、


 「──ギシャラァァッ!!!!!」

113: 2019/05/13(月) 03:42:24.99 ID:SDtZ71oz0

背後からギラティアの巨大な爪が空を薙ぐ。

攻撃が外れると同時に、ギラティナは口に“シャドーボール”の集束を始め──放つ。


千歌「!」


──千歌さんの方へ。


千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


辺りに浮かんでいる岩石を蹴りながら、ルガルガンが身を捻った突撃で、“シャドーボール”を粉砕する。


聖良「この空間に置いては貴方も招かれざる客に変わりありません……!! ギラティナの攻撃を避けながら、私を倒せますか……!?」

千歌「……くっ」

 「──ギシャラァッ!!!!!」


ギラティナが今度は千歌さんの居る方向に爪を立てようとした、瞬間。

──地面から腕が飛び出してきて、ギラティナの爪を掴んだ。


聖良「な!?」

果南「ラグラージ!! そのまま、押し出せ!!」
 「ラァグッ!!!!!」

 「──ギシャラァッ!!!!!」


地面から飛び出したラグラージが野太い腕で掴み、そのまま中を浮く地面から、ギラティナごと一気に寄り切る。


千歌「果南ちゃん!!」

果南「ギラティナは任せて!! 千歌は、聖良を……!!」

千歌「うん……!!」


そのまま、果南さんはラグラージと共に上方に向かって落ちている滝に、飛び込むようにしてギラティナを押し込み、その滝を“たきのぼり”でギラティナごと昇って行ってしまった。


聖良「……やってくれましたね」

千歌「……!」

聖良「……果南さん共々……貴方のような、ひよっこトレーナーが、私に勝てると本気で思っているんですね」

千歌「……行くよ、皆!!」
 「バクフッ!!!!!」「ピィィッ!!!!!」「ワォンッ!!!!!!」

聖良「いいでしょう……!! 目的の邪魔するなら、排除するしかないですからね……! 恨まないでくださいよ……!」





    *    *    *





千歌「バクフーン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「バクフーンッ!!!!!!!」


バクフーンが口から火炎を発射する。


聖良「マーイーカ、“ひかりのかべ”!」
 「マーイーカッ!!!!」

114: 2019/05/13(月) 03:43:24.89 ID:SDtZ71oz0

聖良さんはその炎を“ひかりのかべ”で半減させながら、


聖良「まずはその邪魔な炎を止めます……!! ツンベアー!!」
 「ベァァッ!!!!!」


飛び出したのは大きな体躯のシロクマポケモンのツンベアー。


聖良「“ゆきなだれ”!!」
 「ベアァァッ!!!!!!」


ツンベアーの足を踏み鳴らすと、冷気によって作り出された大量の氷雪が“かえんほうしゃ”を掻き消しながら、雪崩のように襲い掛かってくる。


千歌「ムクホーク!! 飛んで!!」
 「ピィィィ!!!!!」


ムクホークに掴まって私は地上から離脱し、


千歌「バクフーン!! “ふんえん”で吹き飛ばせ!!」
 「バクフーッ!!!!!」


“ゆきなだれ”に向かって、高熱の“ふんえん”で対抗する。


 「バクフーーーーッ!!!!!!!!」


背中の炎を激しく猛らせながら、迫り来る雪崩をどんどんと溶かす。


千歌「よし、そのまま……──!?」


──ふと、目を凝らすと、バクフーンの前にユラリと影が居た。


聖良「ヤミラミ! “ねこだまし”!」

 「ヤミッ!!!」


その影はヤミラミ。両の手をバクフーンの目の前で叩き、


 「バクフッ!!?」


バクフーンをひるませる。

そして、怯んで炎の勢いが緩んでしまったと、思ったら。

──空気中から氷の鎖が飛び出てきて、バクフーンに絡みつく。


千歌「な!?」

聖良「先ほど、貴方が溶かしたフリージオですよ」

 「────シャランシャラン」


フリージオは鈴の音ような鳴き声を出しながら、バクフーンを凍結させていく。


聖良「フリージオは溶けると水蒸気になって掻き消えてしまいますが、また温度が下がってくると元の形に結晶化して姿を現します。溶かしたのは悪手でしたね」


身動きの取れない、バクフーンはそのまま、“ゆきなだれ”に飲み込まれていく。


千歌「バ、バクフーン!! ……っく、ルガルガ──」

聖良「“つららおとし”!!」
 「ベァァーーー!!!!!」

千歌「!?」

115: 2019/05/13(月) 03:46:27.33 ID:SDtZ71oz0

気付けば、ツンベアーは次の攻撃行動、ルガルガンに向かって大きなつららを落として攻撃していた。


 「ギャゥッ!?」

千歌「ルガルガン!?」


大量のつららが直撃し、それに埋まっていくルガルガン。


聖良「余所見してる場合じゃないですよ?」

 「ピィィィッ!!!?」
千歌「!?」


今度はすぐ近く、自分が現在進行形で脚に掴まって飛んでいるムクホークから、声があがる。

慌てて、見上げると、そこには──先ほどバクフーンに攻撃をしかけたヤミラミがムクホークの背中の上に移動していた。


聖良「“イカサマ”!!」

 「ヤミッ!!!!」

 「ピギィッ!!!!?」


背中の上からヤミラミの攻撃を受け、ムクホークは為す術なく、地面に向かって墜落を始める。


千歌「くっそ……っ!!」


展開が速すぎて頭が追いつかない。

これが、実力の差だとでも言うんだろうか、

──でも、


千歌「負けるかぁ……っ!!!」
 「ピピピィッ!!!!!!!」


墜落寸前のところで、ムクホークは体勢を立て直し、中空に浮かぶ地面の上スレスレを飛びながら再び空中へと舞い戻る。

──だが、


聖良「気合いは認めますよ」

 「ベアァァッ!!!!!!」

千歌「……っ!!」


再び飛び立ったムクホークの進路には、ツンベアーの姿、

そのまま、大きな腕でムクホークを鷲掴みにし、


 「ピィィィッ!!!?」


ムクホークの脚に掴まっていた私ごと、まとめてさっき果南ちゃんがギラティナを押し込んだ滝に向かって、投げ飛ばされる。

──ザバンッ。

音を立てて、滝に飲み込まれ、そのまま下流に向かって流される。


 「ピ、ピィィィィ!!!!!」

千歌「っく……!!」


私は咄嗟に、泳げないムクホークを戻しながら、次のボールを開閉した。

──手持ちの力によって、水上に顔を出す。

116: 2019/05/13(月) 03:47:20.10 ID:SDtZ71oz0

 「ゼルルッ!!!!」
千歌「フローゼル!! “たきのぼり”!!」


上に向かって落ちている滝を登る。


聖良「今度は水中戦ですか? いいでしょう」

 「ベアァッ!!!!!」


ツンベアーが滝に飛び込んでくる。

そして、大きな腕で水を掻きながら、こっちに向かってくる。


千歌「!? す、水中もいけるの!?」


ツンベアーはものすごい勢いで、迫る。


聖良「ツンベアーの特性は“すいすい”です!! むしろ、泳ぐのは得意ですよ!!」


そのまま、大きな爪で襲い掛かってくる。


聖良「“きりさく”!!」


迫る爪に向かって、


千歌「“うずしお”!!」
 「ゼルルルッ!!!!!!」


フローゼルは尻尾のスクリューを回転させ、渦を作り出し、それをツンベアーに向けてぶつける。


 「ベァァッ!!!」

千歌「得意って言っても、みずタイプに勝てるほどじゃないよね……!? “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼリュゥゥゥゥ!!!!!!!」


フローゼルは、激しい水流を口から吐き出して、ツンベアーを水中から追放する。


聖良「サメハダー!!」


だが、休む間もなく、新手のボールが放り込まれる。


 「シャァァァーーーー!!!!!!」

聖良「“アクアジェット”!!」

千歌「!!」


サメハダーが水中の私たちに猛スピードで突っ込んでくる。

避ける間もなく、水中で突撃され、


 「ゼルッ!!!!」


フローゼルが攻撃を受けて仰け反ったと、思った次の瞬間には、


千歌「……がっ!?」


Uターンしてきた、サメハダーの突進が今度は私の背中に突き刺さる。

衝撃に、フローゼルに掴まっていた手を放してしまうが、

117: 2019/05/13(月) 03:50:04.56 ID:SDtZ71oz0

 「ゼルルッ!!!!」


フローゼルが私の服に噛み付く形で、救出される。

──しかし、サメハダーの攻撃は終わらない。


 「ゼルッ……!!!」
千歌「……ぐっ……!! がぼっ……!!」


サメハダーの攻撃はどんどん“かそく”していく。

息継ぎのために水の外に顔を出す暇さえない。

──このままじゃ、ダメだ……!!

とにかく反撃……!!


 「ゼルゥッ!!!!!」


フローゼルがデタラメに“アクアテール”を振るう。


 「シャァァァッ!!!!!!!」


当然のように難なく避けたサメハダー──

が、避けたのは一本目。

フローゼルの尻尾は二本ある。


 「シャァァッ!!!?」

 「ゼルッ!!!!!!」


鼻っ面に“ダブルアタック”の二撃目を叩き込み、

その反作用を使って、どうにか滝の外に脱出する。

私たちはそのまま、近くの浮いている足場に落ちていく。


千歌「しいたけ!!」


私はその足場に向かってボール放る。


 「ワフッ!!!!」


しいたけはボールから出るとすぐさま、“コットンガード”で自らの体を膨張させ、私とフローゼルを受け止める形で、地面との激突を防いでくれる。


千歌「は……っ……はぁ……っ……」


息が切れる。……強い。


聖良「……力の差がわかりましたか?」


聖良さんはプテラに掴まったまま、こちらを見下ろして声を掛けてくる。

118: 2019/05/13(月) 03:54:24.00 ID:SDtZ71oz0

千歌「……どうして」

聖良「?」

千歌「どうして、こんな力を持ってるのに、それを誰かが哀しむ使い方をするんですか……!!」

聖良「……この期に及んで、説教ですか」

千歌「これだけの強さ……もっと他の使い方をすれば、もっといろんなことが出来るはずなのに……!」

聖良「そうかもしれませんね。ただ、私たちの目的がそういうこととは噛み合わなかった。ただ、それだけです」

千歌「その目的は、ポケモンを、人を犠牲にして、そこまでして叶える必要があるんですか……!?」

聖良「……そこまでする理由が私にはあるんです」

千歌「どうして……!!」

聖良「……千歌さん、貴方は幸せに生きてきたんですね」

千歌「……しあ、わせ……?」

聖良「世の中には、どうしようもない境遇の中で、気付けば全てを理不尽に取り上げられるしかなかった人も居る。親を失い、住む家も、毎日の食事にすら満足にありつけず……生まれてきたことを恨み、世界を憎み、生きるために強くなるしかなかった人間も居るんですよ」

千歌「……っ……だとしても、それは誰かを傷つけていい理由にはならないよ!!」

聖良「その通りです。これが良い事だなんて、ハナから思っていませんよ。それでも、私は目的のためなら、鬼にでも悪魔にでもなると、決めたんです。大切なものをこれ以上取りこぼさないために……」

千歌「それで得たものに本当に価値なんかあるんですか……!?」

聖良「それは、手に入れてみないとわからない……。ただ、何も知らず、何も出来ず、何も望めず、諦めるしかないまま、ただ失うなんて……バカらしいじゃないですか」

千歌「だから……!! それを皆で手を取り合って探せばいいって、言ってるんじゃないですか……!!」

聖良「……この話は平行線ですね。無意味です。裏切りからも、孤独からも無縁に生きてきた人間にはわかりませんよ」

千歌「……それはポケモン相手でもですか……!?」

聖良「…………」


私の叫びに聖良さんの動きが一瞬止まる。


千歌「確かに意地悪なことをしてくる人が世の中にいるのくらい私も知ってる……どうしようもないことしてくる人とか、嫌なことを言われることもある。そういうとき悲しくなったり、腹が立ったりする気持ちもわかる。でも、それはポケモンに対してもそうですか……?」

聖良「……何が言いたいんですか?」

千歌「人間みたいに、人の言葉を喋れるわけじゃないポケモンたちにも……同じように、恨みや憎しみを感じるんですか……?」

聖良「それは……」

千歌「……ツンベアーも、マーイーカも、フリージオも、プテラも、ヤミラミも、サメハダーも……聖良さんのことを信頼してるから、ここまで力を発揮出来る。それは聖良さんも同じで、自分のポケモンたちを信頼してるからじゃないですか……?」

聖良「…………」

千歌「寂しいとき傍に居てくれて……悲しいときは寄り添ってくれる……そんなポケモンたちを……信頼出来る仲間たちを傷つけてまで……やらなくちゃいけないことなんですか……?」

聖良「……うるさい」

千歌「……!」

聖良「……どうして、貴方にそんなことを説教されなくてはいけないんですか……? 何度も言ってるじゃないですか、恵まれて生きてきた貴方には何も──」

千歌「──私は……!!」


ただ、叫ぶ──自分が見てきた景色を、想いを伝えるためだけに、


千歌「世界は……!! いつも私たちが生まれてくるのを待っていてくれてると思う……!! 一緒にいるポケモンたちも、親しい人たちも、更に繋がる人もポケモンも、みんな望まれて生まれてくるから……!! 大切って想い合える存在なんだって……っ!!」

聖良「…………」

千歌「辛いこと、悲しいこと、いっぱいある。理不尽でやるせなくて、どうしようもないこともある……それでも最初はみんな誰かに望まれて生まれてくるんだよ……!! きっとそれは聖良さんたちも同じだよ……だから、どんな理由があっても、それを奪う権利なんて誰にもない……!!」

聖良「綺麗ごとを……」

千歌「もう、やめようよ……誰かから奪って手に入れたものの先に……明るいものなんて何もないよ……私たちにも、聖良さんたちにも、ポケモンたちにも……妹さんにも──」

聖良「黙りなさい」

千歌「……っ!」

119: 2019/05/13(月) 03:56:49.51 ID:SDtZ71oz0

冷酷な言葉が飛んでくる。


聖良「……今更、後に引けるわけもないじゃないですか。もう、いろんなものを犠牲にしてしまった。もう、全て手に入れるか、全て失うしかないんですよ」

千歌「聖良さん……!!」

聖良「私は全てを手に入れます……理亞のためにも。ギラティナを掴まえ、そして──ディアンシーを手に入れるために戦いますよ。貴方は……その目的の阻害をしている。なら、排除するしかない」

千歌「……っ」

聖良「……辞めて欲しいなら、力尽くで止めればいい……。私と、理亞は……ずっとそうやって手に入れてきたんですから、それを行使された上で文句なんて言いませんよ。出来るものならですが……!!」


聖良さんが、私に向かって指を突きつける。


聖良「プテラ!! “ストーンエッジ”!!!」
 「テラァッ!!!!!」

千歌「……っ!!」


鋭い岩がこちらに向かって飛んでくる。


千歌「ルカリオッ!!!」
 「グゥォッ!!!!!」

千歌「メガシンカッ!!!!」
 「グゥォッ!!!!!!」


ボールから飛び出したルカリオが私のメガバレッタの光に呼応して、メガシンカする。

メガルカリオは波導の力によって作り出した武器で、“ストーンエッジ”を弾き飛ばす。

120: 2019/05/13(月) 03:57:36.97 ID:SDtZ71oz0

千歌「……みんなァッ!!」


私はバトルフィールド上に散らばる仲間たちに聞こえるように声を張り上げる。


千歌「わたしは……っ!! 聖良さんを止めたい……っ!! だから、みんなの力を貸してぇっ!!」
 「グゥォッ!!!!!!」


ルカリオがその声に呼応するように、後ろ手に構えた両手の間に、巨大な波導の弾を作り出す。

──それと同時に、先ほどまで居た、雪崩に巻き込まれた足場から、熱気が溢れてくる。


 「バクフーーーーッ……!!!!!!!」


氷を溶かしながら、バクフーンが立ち上がる。

一方で、大きなつららたちに沈んだ、ルガルガンが、


 「ワォォンッ!!!!!!」


つららを自身の鋭い岩で砕き割りながら、立ち上がる。

ガタガタと揺れる腰のボールから、


 「ピィィィ!!!!!!」


ムクホークが飛び出し、


 「ゼルルッ!!!!!」


フローゼルが、尻尾のスクリューを回転させながら、再び滝へと飛び込む。


 「ワフッ!!!!」


そして、しいたけが目を見開きながら、私の戦意に呼応するように鳴き声をあげた。


千歌「いくよ!!! みんなっ!!!!」
 「バクフッ!!!!」「ピィィィッ!!!!!!」「ワォーーーーンッ!!!!!!!」「グゥォッ!!!!!!!」「ゼルルッ!!!!!!!!」「ワッフッ!!!!!!!」


私は立ち上がって、ムクホークと共に空へと翔けだした。





    *    *    *



121: 2019/05/13(月) 03:58:49.19 ID:SDtZ71oz0


 「バクフーーーッ!!!!!!!」

 「────シャラン」


バクフーンが熱波で、再び一気にフリージオを蒸発させる。


聖良「……!! ツンベアー!! もう一度、“ゆきなだれ”──」

千歌「“アクセルロック”!!」
 「ワォォーンッ!!!!!!」


ルガルガンが足場を蹴って、ピンポン玉のように跳ね返りながら、


 「ベェァッ!!!!!」


神速の一撃をツンベアーに向かって叩き込む。


聖良「く……!! ツンベアー!!」

 「ベェァァッ!!!!!!」


だが、ツンベアーはそれだけでは倒れない、腕を振り上げた──

ところに、青い波導の球体が飛んでくる。


 「ベェァッ!!!!!」

 「グゥォッ!!!!!」


先ほどからルカリオがチャージしていた、“はどうだん”を炸裂させた。

そして、今度は、


 「シャァァァッ!?」


サメハダーが滝の中から放り出される。

フローゼルが組み合って放り投げたのだ。


 「ゼルルルッ!!!!!!!」


そこに追い討ちをかけるように、体を回転させながら飛び出すフローゼル。


千歌「“スイープビンタ”!!」

 「ゼルルルルッ!!!!!!!」


そのまま、回転のエネルギーを利用して、連続で尻尾をサメハダーに叩き付ける。


 「シャアァァァーー!!!!!!」

聖良「フリージオ……!! ツンベアー……!! サメハダー……!!」


一気に三匹に手痛いダメージを与え、更に──


 「ヤミッ!!!?」

 「ワフッ!!!」


闇から近付くヤミラミを、しいたけが“かぎわける”で察知し、攻撃を受ける前に押さえつけているところだった。

122: 2019/05/13(月) 04:01:23.35 ID:SDtZ71oz0

千歌「……私は……私が、聖良さんを止めます……っ!!」

聖良「……それが千歌さんのホンキ……と言うことですね。いいでしょう。なら、私もホンキで貴方を打ち倒しましょう」


聖良さんはポケットから、指輪を3つ取り出して、左手の指にはめる。

その指輪は3つとも、宝石を付けられた指輪で……あれは──


千歌「メガストーン……!?」

聖良「ヤミラミ!! サメハダー!! プテラ!! メガシンカです!!」

 「ヤミッ!!!!」「シャァァァァ!!!!!!」「テラァッ!!!!!!!」


対応する3匹が聖良さんのメガリングに呼応するように光り輝く。

メガヤミラミは胸の宝石がシールドのように大きくなり、メガサメハダーは全身の牙やヒレがより鋭く大きくなった。メガプテラは全身に鋭利な岩が飛び出してくる。

──それよりも、善子ちゃん曰く、メガシンカはトレーナーにも大きな負担が掛かるから、日に何度も使えないと言っていた。

それが本当なら、三匹も同時にメガシンカを使ったら──


聖良「げほっ……げほっ……!!」

千歌「!! 聖良さん……!!」

聖良「敵の心配してる……場合ですか……?」


聖良さんが口元を拭うと、血の痕が口の端に見える。

吐血してる。


千歌「聖良さん!! そんな使い方したら氏んじゃいます……っ!!」

聖良「プテラ!! “ストーンエッジ”!!」
 「テラァッ!!!!!」

千歌「ッ!!」


さっきとは比べ物にならない量と大きさの岩が降り注いでくる。

まるで岩の雨とでも言わんばかりだ、


千歌「ルカリオ!! ルガルガン!! バクフーン!!」

 「グゥォッ!!!!」「ワォンッ!!!!」「バクフーーッ!!!!!」


バクフーンが爆炎の勢いで岩を吹き飛ばし、ルガルガンとルカリオが足場を跳ね回りながら、岩を迎撃する。

三匹掛かりでどうにか攻撃を捌く。


聖良「氏ぬ……結構じゃないですか。いつも通り、命を掛けて戦う、それだけのことです」

千歌「聖良さんっ!!」


気付けば聖良さんは、左目が真っ赤に充血し、涙のようにその左目から血が頬を伝っている。


聖良「サメハダー!! “かみくだく”!!」
 「シャアァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」

 「ゼルルッ!!!!」


再び始まった水中戦では、サメハダーがフローゼルに噛み付こうと迫ってきている。

そして、地上では、

123: 2019/05/13(月) 04:02:36.62 ID:SDtZ71oz0

 「ワフッ!!!!」

 「ヤミィッ……!!」


しいたけがヤミラミに組み付こうとしているが、大きな宝石に邪魔されてうまく攻撃が出来ていない状態。

空からは降り注ぐ“ストーンエッジ”。


千歌「ムクホーク!!」
 「ピィィィッ!!!!!!」


合図と共にムクホークがプテラに向かって飛び出す。

一方、フローゼルも、


 「ゼルルルッ!!!!!!」


尻尾に気を集中させている。


千歌「“かまいたち”!!!」

 「ゼルッ!!!!!」


私の指示の声と共に、滝が一気に縦に両断される。


 「シャァァァァッ」


そして、“かまいたち”によって縦に一閃された滝から、サメハダーが吹っ飛ばされて飛び出してくる。


聖良「サメハダー……!!」


同時に岩の嵐の中を飛ぶ、ムクホークから──私は手を放す。


 「ピィィィィィッ!!!!!!」


私を切り離して、身軽になったムクホークは、錐揉み回転しながら、右に左に、岩を掻い潜って、


千歌「“すてみタックル”!!!」

 「ピィィィィッ!!!!!!!」


落下しながら出す指示を聞いて、一気に加速する。


聖良「!!」


そのまま、聖良さんの肩を掴んでいるプテラに突撃する。


 「テラァッ!!!?」

聖良「くっ……!!」


致命傷にはならなかったものの、プテラを怯ませ、“ストーンエッジ”を中断させる。


 「ワォンッ!!!!」


そして、それと同時に、迎撃に飛び回っていたルガルガンが私の方に向かって、飛び出す。


千歌「ルガルガンッ!!!」
 「ワォンッ!!!」

124: 2019/05/13(月) 04:04:58.71 ID:SDtZ71oz0

ルガルガンの身体にしがみつくようにして、自由落下から救出してもらう。そして完全フリーになったルカリオが──


 「ヤミッ!!?」


しいたけと組み合うヤミラミのもとへ“しんそく”で接近し、


千歌「“はっけい”!!!」

 「グゥォッ!!!!!!」


必殺の“はっけい”を巨大な宝石の中央に叩き込む──


 「ヤミッ……!!!!」


ルカリオの攻撃は、宝石を貫通し、その背後に隠れていたヤミラミを吹っ飛ばす。


聖良「ヤミラミ!? ……っく、プテラ!!」


再び聖良さんがプテラに指示を出そうとした、瞬間。


聖良「が……っ……げほ、がほっ……!!!」


激しく咳き込む。

さっきよりも大量の血を吐いて。


千歌「……!! 聖良さん!! メガシンカを解除してください!!」

聖良「……っぐ……っく……私は……」

 「ピィィィィッ!!!!!!!」


プテラを上から抑え込むように、ムクホークが“インファイト”で全力攻撃を仕掛けながら、一気に地上まで追い詰め、


聖良「っく……!!」


聖良さんたちは、バクフーンのすぐ近くに墜落する。


聖良「フリージオ……ッ!!!」
 「────シャランッ」


さきほど、バクフーンに蒸発させられた、フリージオが聖良さんの声に呼応して、再び現われる。


聖良「全て……凍らせなさい……!!!」
 「────シャラン」


最後の力を振り絞るように、

辺りは一気に凍り付いて行く。

だけど──


千歌「バクフーン!!!!」

 「バクフーーーーーッ!!!!!!!!」


私たちは凍らない。

爆炎をその身に宿して、バクフーンがフリージオに向かって飛び出す。


聖良「私たちはこんなところで……終わらない……!!!」

125: 2019/05/13(月) 04:06:12.27 ID:SDtZ71oz0

──バキバキバキと音を立てながら、凍りつく地面を、


 「バクフーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」


全身に炎を纏った、バクフーンが走り抜ける。


千歌「いっけぇーーーーっ!!! “フレアドライブ”ッ!!!!!」

 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


バクフーンは、周囲の冷気も纏めて、フリージオごと、爆熱で吹き飛ばした──。





    *    *    *





ルガルガンと共に、聖良さんたちのいる足場に辿り着く。


聖良「まだ……です……げほっ、げほっ……」


聖良さんは、血を口から吐き、


聖良「っ゛…………!!!」


左目は血色に染まり、止め処なく血が流れている。


千歌「聖良さん……」

聖良「まだ……です……。まだ……目的は……達成されて、いません……」

千歌「……もう聖良さんのポケモンはみんな戦闘不能です。……すぐメガシンカを解除して、降参してください」

聖良「……っ……マーイーカ!!」
 「マーイーカッ!!!」


マーイーカが私に向かって飛び出してきて、腕に“からみつく”。


 「マーイーカッ…!!!!」

千歌「……もう、戦わなくていいんだよ」

 「マイー…カー……」


そう告げると。

マーイーカは戦意を喪失したのか、大人しくなる。


聖良「マーイーカ……!!」

千歌「聖良さん……もうあなたの手持ちも聖良さんにこれ以上戦って欲しくないって……」

聖良「……っ!!」


主人が傷付く姿をこれ以上見ていられないんだろう。


聖良「まだ、です……まだ……私は……私たちの目的……は……」

 「──ねえさまっ!!」


そのとき、声が響いた。

126: 2019/05/13(月) 04:07:42.34 ID:SDtZ71oz0

聖良「…………理亞……?」

理亞「……ねえさま……もう、終わりにしよう……」

ルビィ「理亞ちゃん……」


ルビィちゃんに肩を貸してもらいながら、こちらに歩いてくる理亞ちゃんの声だった。


聖良「……ダメ……です……」

理亞「ねえさま……」

聖良「わたし、たちの……夢は……もう、すぐ、そこなんです……!!」


聖良さんは身体を引き摺るようにしながら、私から距離を取る。


理亞「ねえさま……!! もうやめて……!!」


理亞ちゃんが駆け寄ろうとした、そのときだった。

──聖良さんと理亞ちゃんのポケットの中から、眩い光が漏れ出していた。


理亞「え!?」

聖良「こ、これは……!! まさか……!!」


二人が慌ててポケットから、取り出したソレは──ピンク色の宝石。


ルビィ「……!! 女王様のダイヤモンド……!!」


そして、次の瞬間。

私たちの目の前の空間から、とてつもない眩さの光が溢れ出す。


千歌「……っ!?」

ルビィ「ま、まさか……!!」

理亞「っ!?」

聖良「……は、はは……やはり、貴方は私たちを選んでくれた……」


その光の中から出てきたのは──


 「──アンシー……」


巨大なピンク色の宝石をその身に宿したポケモン。


聖良「ディアンシー……!! やっぱりこの世界に……!! 私の仮説は全て正しかった……!!」

 「アンシー……」


聖良さんはディアンシーに向かって身を引き摺りながら近付いていく。


聖良「ディアンシー……覚えていますか……? あの日、雪山で私たちを選んでくれたことを……」

 「アンシー……」

聖良「さぁ、私たちと共に……行きましょう……貴方に選ばれた私たちとなら──」

ルビィ「ダ、ダメッ!! 聖良さんっ!!」

聖良「……!?」

127: 2019/05/13(月) 04:12:29.89 ID:SDtZ71oz0

ルビィちゃんが叫んだときには──

聖良さんは、ディアンシーから生み出された、宝石の嵐に吹き飛ばされていた。


聖良「……ぁ……っ……」

千歌「……っ!!」

理亞「ねえさまっ!!!!」


全身を硬い宝石の嵐で切り裂かれ、血を流しながらぐったりとする聖良さん。


 「アンシー……」


ディアンシーはそんな聖良さんを冷ややかな目で見つめている。


理亞「ねえさまっ……!!」


理亞ちゃんが真っ青な顔になって、聖良さんに駆け寄る。


理亞「ねえさまっ!!! しっかりして!! ねえさま……!!」


理亞ちゃんが声を掛けながら、聖良さんを揺する中、私は目の前で起こる予想外の出来事に対して、呆然と立ち尽くしていた。


聖良「り……ぁ……」

理亞「……!! ねえさま!!」

聖良「ごめん……なさ、い……ディアンシー……いま、つかまえ、ますから……」

理亞「……どうして……どうして、こんなになるまで……」

聖良「……あたり、まえ、じゃない……ですか……」

理亞「え……?」

聖良「なんにも……ほしがらなかった……り、あ……あなたが……はじめて、ほしがったん……ですよ……。……また、あのあったかい、ひかりが、ほしい……と」

理亞「……!」


理亞ちゃんが聖良さんの言葉に目を見開いた。


理亞「……う、そ……じゃあ……最初から……全部、私の為に……? たった、それだけの……ために……?」

聖良「それだけ……なんて、いわないで、ください……。たったひとりの……いもうとの、ねがい……なんです、よ……」


聖良さんはそう言って、ディアンシーに視線を向ける。


 「アンシー……」


視線に気付いた、ディアンシーの周囲に再び宝石が浮かび上がる。


理亞「……っ!!!」

128: 2019/05/13(月) 04:14:43.96 ID:SDtZ71oz0

咄嗟に理亞ちゃんが聖良さんに庇うようにして覆いかぶさる。

そこに向かって、ディアンシーの攻撃が……!!

──……飛んで行くことは、なかった。


理亞「…………?」


理亞ちゃんが顔をあげると──


ルビィ「…………」


二人とディアンシーの間で、ルビィちゃんが両手を広げて立っていた。まるで、二人を庇う壁を作るかのように。


理亞「ルビィ……!」

ルビィ「女王様……もう、やめてください……」

 「アンシー……」

ルビィ「あの人たちはもう十分に傷付いた……もう戦う力は残ってないです」

 「…………」

ルビィ「もし、まだ罰が必要なら……この場にこうして招きいれてしまった、巫女である、わたしの責任です……わたしが代わりに罰を受けます……だから、あの二人はもう許してあげてください……」

千歌「ルビィちゃん……」

理亞「ルビィ……」

聖良「…………」


そんなルビィちゃんの言葉で、怒りが収まったのか、どうなのか。


 「アンシー……」


ディアンシーの周囲に浮かんでいた大量の宝石が掻き消え──そして、それと一緒にディアンシーも掻き消えるように姿を消してしまった。


聖良「……ディアン、シー……」

ルビィ「……ディアンシー様は、最も美しいポケモンって言われています。誰よりも美しいディアンシー様は、綺麗な心の人間の前に現われて、心の穢れた人間は嫌います……。今の聖良さんの心を、女王様は認めなかったみたいです」

聖良「そん……な……まだ、わたし……は……」

理亞「ねえさま……もう、やめて……っ……」

聖良「まだ、あのひかり……を……りあ、が、ほしがった……ひか、り……を……」

理亞「……もうそんなのいらない……っ……!! 私は……私はねえさまが居てくれたらそれでよかった……それでよかったの……っ……」

聖良「りあ……。……ふふ……りあは……やさしい、ですね……」


そう言いながらボロボロの聖良さんは理亞ちゃんの頭を撫でる。


聖良「これで……ほんとう、に……ぜんぶ、おわり……みたい、ですね……」

理亞「ねえさま……」

聖良「りあ……いままで、ついてきてくれて……ありが、とう」

理亞「ねえさま……? なんで、そんな言い方……最後みたいな……っ……」

聖良「りあ……」

理亞「なに……っ……?」

聖良「……あいして、ますよ」

理亞「……っ……! 私も……っ……!! 私もねえさまのこと、愛してる……!!」

聖良「ふふ……ありが、とう──」

129: 2019/05/13(月) 04:16:04.04 ID:SDtZ71oz0

その言葉を最後に、理亞ちゃんの頭を撫でていた聖良さんの腕が力なく落ちる。


聖良「…………」

理亞「ねえさま……?」

聖良「…………」

理亞「ねえさま……っ!!」


理亞ちゃんが聖良さんの手を握る。強く……強く。


千歌「…………」

ルビィ「…………」


私とルビィちゃんは、そんな光景を立ち尽くして見ていた。

お互いがお互いのことを想い続けたが故に、間違ってしまった姉妹を見て……。

……だけど、やぶれた世界は戦いが終わったこの場で、立ち止まっていることを許してくれなかった。

──ゴゴゴゴゴッ! と大きな音を立てながら、世界が揺れ始める。


千歌「!? な、何!?」

ルビィ「わ、わかんない……!?」


ルビィちゃんと二人でオロオロとしていると、


果南「ごめん、千歌、ルビィ……!! 遅くなった」

千歌「果南ちゃん!?」


果南ちゃんがニョロボンと一緒に足場を乗り継いでよじ登ってきたところだった。


千歌「果南ちゃん、ギラティナは!?」

果南「とりあえず、大人しくはした……」

ルビィ「大人しくって……?」

果南「……怒って興奮して、もうどうしようもなかったから、とりあえず倒して戦闘不能に……」

千歌「じ、じゃあ、この揺れってもしかして……!!」

果南「たぶん、制御するギラティナが気を失ったから、この世界の機能自体が一時的に崩壊しかけてるんだと思う」

千歌「そ、そんな!? それじゃ、急いで脱出しないと!!? ルビィちゃん!!」

ルビィ「う、うん!! 理亞ちゃん!!」


ルビィちゃんは聖良さんに寄り添う理亞ちゃんへと声を掛ける。


理亞「……ルビィ」

ルビィ「脱出しよう!! この世界、このままじゃ崩れちゃうみたいだから……!!」

理亞「……いい」

ルビィ「……!? 理亞ちゃん!?」

理亞「……ここで、ねえさまと一緒に……」

ルビィ「…………」

理亞「……もう、私は……」

ルビィ「理亞ちゃん……ごめん」

理亞「……え?」

130: 2019/05/13(月) 04:17:54.60 ID:SDtZ71oz0

──パシッ。

乾いた音がした。


理亞「…………っ」


ルビィちゃんが理亞ちゃんの頬をはたいた音だった。


ルビィ「……そんなことしても、誰も喜ばない」

理亞「…………」

ルビィ「……むしろ悲しい。わたしも……きっと聖良さんも」

理亞「……ルビィ」

ルビィ「それに……またいつか、ディアンシー様に認められるように頑張るって、ルビィと約束したよね?」

理亞「…………。……ごめん、脱出しよう」

ルビィ「うん」


ルビィちゃんがヘタリ込む理亞ちゃんの手を取って、立ち上がらせる。


ルビィ「……ドンカラス!!」
 「カァーーーッ!!!!!」

理亞「……クロバット!!」
 「クロバットッ!!!!」


黒い羽と紫の羽が開く。

二匹の飛行要員はそれぞれ主人の肩を掴む。


理亞「ねえさま……少し我慢してね」

聖良「…………」

ルビィ「聖良さん……頑張って」


二人掛かりで聖良さんを支えるようにして飛び上がり、聖良さんの手持ちを回収しながら入口に向かっていく。


千歌「果南ちゃん! 乗って!!」
 「ピィィッ!!!!」


私もムクホークの背に乗る。


果南「ごめん、千歌!! お願い!!」


そして、私たち5人は崩れ始めたやぶれた世界を脱出するために飛び出した──。





    *    *    *



131: 2019/05/13(月) 04:19:30.40 ID:SDtZ71oz0


ダイヤ「……っ゛……」

鞠莉「ダイヤ……っ……生きてる……っ……?」

ダイヤ「……ええ……もちろん……っ……」

鞠莉「残念な報告……なんだけど……っ……」

ダイヤ「…………聞きましょう……っ……」

鞠莉「……もう、限界……かも……っ……」

ダイヤ「……き、ぐう……ですわね……わたくしも……意識が、飛びそう……でして……っ」

鞠莉「……ふふ、じゃあ……」

ダイヤ「……ええ……」

鞠莉「倒れたらぶん殴る……っ!!」
ダイヤ「倒れたら叩き起こして差し上げますわ……っ!!」

鞠莉「……何よ、余裕……あるじゃない……っ……!!」

ダイヤ「……お互い様、ですわ……っ……!!」


そのときだった──ホールの入口から、


 「──わぁぁぁ……!?」


声が聞こえて来た。


ダイヤ「!! 鞠莉さん……!!」

鞠莉「……Yes.」


鞠莉さんと顔を見合わせて頷きあう。

──と同時に、


千歌「だわぁっ!?」
 「ピピィ!!!?」

果南「うわっ!?」

ルビィ「ぴぎっ!?」
 「カァーッ!!!?」

理亞「……!?」
 「クロバッ!!!!!」

聖良「…………」


ホールから、5人の人間と3匹のポケモンが飛び出してきた。


ダイヤ「……ぐ……」

鞠莉「…………Ah……」


わたくしと鞠莉さんは同時に珠を手放し、膝から崩れ落ちる。


鞠莉「はぁ……はぁ……っ……氏ぬかと……思った……」

ダイヤ「同感……ですわね……っ……」


息を切らせながら、二人でディアルガとパルキアをそれぞれボールに戻す。

132: 2019/05/13(月) 04:23:53.15 ID:SDtZ71oz0

ルビィ「お姉ちゃん……!!」

ダイヤ「ルビィ……! おかえりなさい……!」

ルビィ「うん……!! ただいま──」


腕を広げて待つ、わたくしの元に走り出したルビィが、

──途中で崩れるように倒れた。


ダイヤ「……!?」

理亞「ルビィ!?」


わたくしと近くに居た理亞さんが駆け寄ると、


ルビィ「…………くぅ……くぅ……」


ルビィは可愛らしく寝息を立てていた。


鞠莉「……寝てる?」

善子「……まさかの寝落ち」

花丸「ルビィちゃん……ずっと頑張ってたから、きっと疲れたんだよ」


祠の入口の方から、善子さんと花丸さんが歩いてくる。


曜「千歌ちゃん……!!」

千歌「わ!? よ、曜ちゃん……」


そして、案の定、曜さんが千歌さんに抱きつく。


梨子「祠に入ってこようとしていたヤミラミたちは、撤退していきました」


最後に梨子さん。


果南「……本当の本当に役割がなくなって、逃げ帰ったのかもね。ある意味、ゴーストタイプの王様だったみたいだからね、ギラティナは」


そんなことを肩を竦めて言う果南さん。


鞠莉「……果南」

果南「あ、鞠莉……お疲れ」

鞠莉「……お疲れじゃないわよ」

果南「……え?」

鞠莉「また、一人で無茶して……戻ってこれなかったらどうするつもりだったのよ……!!」

果南「あ、うーんと……まあ、戻ってこられたんだから、いいじゃん」

鞠莉「……バカ……っ」

果南「……悪かったって」


果南さんはバツが悪そうな顔をしながら、鞠莉さんに言葉を返す。

果南さんは、抱きついて安堵から涙を流す鞠莉さんの頭を撫でながら、しばらくの間、そうして慰めていたのでした。



133: 2019/05/13(月) 04:25:19.41 ID:SDtZ71oz0


    *    *    *





ダイヤ「さて、事情聴取……と行きたいところですが、とりあえず……怪我人多数ですので、まずは病院でしょうかね」

鞠莉「そうね……真姫さんに手配はしておいた」

果南「……聖良の応急処置も、とりあえずこれで大丈夫かな」

聖良「…………」

理亞「その……ありがとう……ございます」

果南「ま……ほっとくわけにもいかないしね」


お礼を言う理亞ちゃんに果南ちゃんが苦笑して返す。


善子「とにもかくにも……」

花丸「やっと終わったずらぁ……」

ルビィ「……すぅ……すぅ……」

梨子「あはは……なんだか私たちすごい経験しちゃったね」

曜「確かに……もう、二度とこんなことないかも」

千歌「……なにはともあれ……疲れたぁ……」


──こうして……後に、グレイブ団事変と呼ばれることになる、地方全体を巻き込んだ大事件は、

やぶれた世界での戦いをもって、

本当の本当に終息となったのでした。



134: 2019/05/13(月) 04:26:25.88 ID:SDtZ71oz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロサワの入江】
no title

135: 2019/05/13(月) 04:27:07.12 ID:SDtZ71oz0

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.55  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.48 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.55 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.52 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.59 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      フローゼル♀ Lv.50 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:163匹 捕まえた数:15匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.51 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.48 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.47 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.48 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:133匹 捕まえた数:13匹

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.52 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.46 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルオー♀ Lv.44 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.46 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      カイリキー♂ Lv.41 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.40 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:159匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:48pt

 主人公 ルビィ
 手持ち バシャーモ♂ Lv.50 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
      メレシー Lv.53 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
      アブリボン♀ Lv.39 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
      キテルグマ♀ Lv.46 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      ドンファン♂ Lv.45 特性:がんじょう 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす
      グラードン Lv.75 特性:ひでり 性格:すなお 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:14匹

 主人公 花丸
 手持ち ドダイトス♂ Lv.43 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
       カビゴン♂ Lv.40 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
      デンリュウ♂ Lv.37 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
      キマワリ♂ Lv.33 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
      フワライド♂ Lv.30 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
      イノムー♂ Lv.40 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:114匹 捕まえた数:40匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.49 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ドンカラス♀ Lv.56 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.49 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      シャンデラ♀ Lv.50 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキメノコ♀ Lv.42 特性:ゆきがくれ 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.56 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:138匹 捕まえた数:52匹

136: 2019/05/13(月) 04:28:18.60 ID:SDtZ71oz0

 主人公 果南
 手持ち ラグラージ♂ Lv.75 特性:しめりけ 性格:やんちゃ 個性:ちからがじまん
      ニョロボン♂ Lv.71 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ギャラドス♀ Lv.74 特性:じしんかじょう 性格:いじっぱり 個性:まけんきがつよい
      ヌオー♂ Lv.70 特性:ちょすい 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      キングドラ♂ Lv.71 特性:スナイパー 性格:ひかえめ 個性:ぬけめがない
      ヤドラン♂ Lv.73 特性:マイペース 性格:ひかえめ 個性:ひるねをよくする
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:281匹 捕まえた数:137匹

 主人公 鞠莉
 手持ち マフォクシー♀ Lv.68 特性:マジシャン 性格:がんばりや 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ギャロップ♀ Lv.66 特性:ほのおのからだ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      サーナイト♀ Lv.70 特性:トレース 性格:まじめ 個性:かんがえごとがおおい
      ビークイン♀ Lv.64 特性:きんちょうかん 性格:すなお 個性:うたれづよい
      ポリゴンZ Lv.64 特性:てきおうりょく 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      メタモン Lv.61 特性:かわりもの 性格:まじめ 個性:かんがえごとがおおい
      パルキア Lv.75 特性:テレパシー 性格:せっかち 個性:ちのけがおおい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:468匹 捕まえた数:312匹

 主人公 ダイヤ
 手持ち ジャローダ♀ Lv.69  特性:あまのじゃく 性格:いじっぱり 個性:まけんきがつよい
      メレシー Lv.66 特性:クリアボディ 性格:まじめ 個性:とてもきちょうめん
      ミロカロス♂ Lv.70 特性:かちき 性格:れいせい 個性:まけんきがつよい
      ハガネール♀ Lv.72 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      オドリドリ♀ Lv.63 特性:おどりこ 性格:おっとり 個性:とてもきちょうめん
      アマージョ♀ Lv.67 特性:じょおうのいげん 性格:さみしがり 個性:あばれることがすき
      ディアルガ Lv.75 特性:テレパシー 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:267匹 捕まえた数:114匹


 千歌と 梨子と 曜と ルビィと 花丸と 善子と 果南と 鞠莉と ダイヤは
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




138: 2019/05/13(月) 12:37:21.92 ID:SDtZ71oz0

■Chapter077 『戦いの後』





さて……戦いが終わり。チカたちは満身創痍な状態でした。

善子ちゃんと曜ちゃんは極度の疲労困憊でローズシティの病院に着くと検査も待たずに待合室の椅子で眠ってしまいました。

梨子ちゃんと花丸ちゃんは直接ポケモンから攻撃を受けたため、その治療を。

花丸ちゃんはリングマに首を絞められたのと、ブルンゲルに掴まって溺れかけたことで検査を受けはしたものの、受けた傷自体は軽傷だったようです。

梨子ちゃんは鞠莉さんの簡易診断通り、アバラ骨に小さなヒビが入っていたそうなので、数日病院で過ごすことになるみたい。

……時間にして1~2時間ほどだったらしいけど、パルキアとディアルガに珠から命令を送り続けていた、鞠莉さんとダイヤさんも、検査も兼ねてしばらくの間、安静にするように言われたそうです。

そして私も……──。


千歌「──えっと……療養ですか?」

真姫「そ。一先ず検査では何も問題はなかったけど……。“やぶれた世界”に行ったことがある人間なんて居ないから、体がどんな影響を受けてるかわかったもんじゃないし。その観察も含めて1ヶ月くらいは休養しなさい。自宅とかでいいから」

千歌「ぅ……でも、旅の続きが……」

真姫「……どっちにしろ、しばらくは騒動のごたごたでジム戦とか、コンテストもロクに出来ないから。その間に家族に顔でも見せてきたら?」


真姫さんとそんなやり取りをしていると、廊下の方が騒がしい──


ナース「ま、待ってくださいぃ!!」
 「ラッキー!!!」

果南「無理!! 1ヶ月もじっとしてたら、それこそ氏んじゃうって!!」


ドタバタと逃げる果南ちゃん。そして、それを追うナースさんと助手のラッキー。


千歌「……」

真姫「千歌……ああいう大人になっちゃダメよ」

千歌「あはは……」


──そして、やぶれた世界から戻ったあと、すぐに眠ってしまったルビィちゃんですが……。


ルビィ「……ぁ……千歌ちゃん……」

千歌「ルビィちゃん」


診察を終えて診察室から出てきたところ、廊下でルビィちゃんと鉢合わせる。


千歌「起きてて、大丈夫?」

ルビィ「ぅん……いっぱい、寝たから……ふぁ……」


そういう割にルビィちゃんは眠たそうにあくびをする。


ルビィ「千歌ちゃんは……このあとどうするの……?」

千歌「私はしばらく自宅療養だってさ。明日くらいには一旦ウラノホシに戻ろうかなって」

ルビィ「そっか……ルビィも早く戻りたいな」


ルビィちゃんは……あの戦いの後、丸二日間ほど眠っていました。

そして、今も一日の4分の3くらいは眠っているそうです。

理由は不明みたい。でも、メガシンカによる困憊に似ているらしく──ここまで症状が大きく出ることは稀らしいけど──グラードンを覚醒させたことによる反動なんじゃないかとのことです。

幸い体には何も異常は見つからないみたいで、本当にただたくさん寝ているだけみたいだけど……。

139: 2019/05/13(月) 12:39:20.72 ID:SDtZ71oz0

千歌「きっとすぐ戻れるよ」

ルビィ「うん、ありがと。千歌ちゃん……ふぁぁ……」

千歌「今はゆっくり眠って休んでね」

ルビィ「うん……そうする……」


ルビィちゃんと別れ……目的の病室へ──


千歌「──……失礼しまーす……」


ゆっくりとドアを開ける。


鞠莉「あら? 千歌っちじゃない」

ダイヤ「千歌さん、いらっしゃい」


訪れたのは、ダイヤさんと鞠莉さんの病室だ。


千歌「二人とも具合は……」


二人のベッドの間にある椅子に腰を掛けながら訊ねる。


ダイヤ「幸い体に目立った異常はないそうですわ」

鞠莉「強いて言うなら、全身筋肉痛が酷いわね……」

ダイヤ「……横になっていても、筋肉が少し痛むほどですから。歩いたり走ったりするのは、しばらくは遠慮したいですわね」

千歌「そっか……でも、二人には何もなくてよかった……」


私は心の底から安堵した。

──そう二人には、だ。


ダイヤ「……大丈夫ですわ。ルビィの過眠症状も恐らく一時的なものだと、診断はされていますし……」

鞠莉「まともに動けもしないのに、ルビィの病室に這ってまで行こうとしてたのは誰かしら?」

ダイヤ「ま、鞠莉さん! 余計な事を言わないでください!!」

千歌「あはは……うん、ルビィちゃんもそうなんだけど……」


私は口ごもる。


鞠莉「……聖良のこと?」

千歌「……はい」


聖良さんは……。あれから一度も目を覚ましていない。

外傷は見た目ほど酷かったわけじゃないらしいけど……。

メガシンカの乱用。伝説の珠の長期間の使用。そして、やぶれた世界での戦闘。

いろんなものが重なり……今のところ、目を覚ます気配がないそうだ。

140: 2019/05/13(月) 12:44:41.96 ID:SDtZ71oz0

鞠莉「メガシンカはトレーナーとポケモンの力を同調させて強化するからね……一度に三匹もメガシンカさせたら、体がどうなるかなんて……」

ダイヤ「それに、パルキアを“しらたま”で操る訓練も、かなり長い間、行っていたそうです……外から見てもわかりませんでしたが、彼女の精神には想像も出来ないくらい大きな負荷が掛かっていたのかもしれませんね」

千歌「そうですか……」

鞠莉「……ま、千歌っちが気に病むことじゃないヨ」

ダイヤ「……そう、ですわね。少し冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが……これも因果応報です。良くも悪くも、自分のやったことの代償は自分以外の人間に精算することは出来ませんわ……」

千歌「……はい。……えっと、理亞ちゃんは?」

鞠莉「……事情聴取のとき以外は聖良の病室に居るみたいだヨ」


──事情聴取。

この事件のあと、グレイブ団は組織そのものが解体となりました。

一部、研究員が捕まったりもしたそうなんだけど……ほとんどは聖良さんのカラマネロやスリーパーからの催眠暗示で動いていたことがわかり、完全に無罪放免……とまではいかないけど、その人たちはしばらく保護観察ということになるそうです。

……そして、理亞ちゃんも。

理亞ちゃんは取調べで「自分に全部の責任がある。罪は自分が全て背負う」とずっと繰り返しているそうですが……。

警察の見解としては、理亞ちゃんも聖良さんから洗脳を施されている可能性が高いと言うことで、手持ちを没収の上、彼女も他の団員同様、とりあえず保護観察処分になったそうです。

ただ、そんな警察が首を傾げているのは「ヤミラミや、ブーピッグの身体から宝石を直接抽出してるのは自分は一切知らなかった」と言う供述に対してで、むしろそのことについて聞かされたときは理亞ちゃんが一番驚いていたとか……。

洗脳されていたにしては、何故その部分だけは姉や団の研究員を庇う要素がないのかが疑問のようです。

……たぶん、聖良さんは理亞ちゃんにはそれがバレないように細心の注意を払っていたんだと思います。

もし聖良さん本人にそうした理由を聞いたら『悪魔は、自分だけで良い』……と、そう言っていたんじゃないかなと、私は勝手に思っています。

理亞ちゃんは当分、この病院内の特定スペース以外は自由な移動も制限されるらしいけど、真姫さんが自ら監視役を名乗り出てくれたお陰で、姉の聖良さんの病室への出入りだけは自由に出来るそうです。


ダイヤ「千歌さん」

千歌「?」


考え事をしていたら、ダイヤさんに声を掛けられて我に返る。

ダイヤさんの方を見ると、なにやら手招きをしている。


千歌「?? なんですか?」


ダイヤさんに近付くと、


千歌「──わ!?」


抱き寄せられた。

ぎゅーっと。

そして、頭を撫でられる。


千歌「だ、ダイヤさん……?」

ダイヤ「千歌さん……今回は本当に、よく頑張りましたわね」

千歌「え、あ、いや……そんな、夢中だっただけで……」

ダイヤ「貴方の勇気のお陰で、多くの人が救われました……こんな立派な教え子を持てて……わたくしは幸せ者ですわ」

千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「気付けば、貴方は……もう一人前のポケモントレーナーですわね」

千歌「えへへ……ありがと、ダイヤさん……。でも、もっともっと強くなるから……見ててね」

ダイヤ「ええ、もちろんですわ。期待していますわよ、わたくしの自慢の教え子さん」



141: 2019/05/13(月) 12:47:00.75 ID:SDtZ71oz0


    *    *    *





ダイヤさんと鞠莉さんの病室を後にして、次に訪れた部屋で、


千歌「えっと……こんにちは~……」


再びそろりそろりとドアを開ける。


理亞「……千歌」

千歌「こんにちは、理亞ちゃん」


部屋の中には理亞ちゃんの姿、そして……


聖良「…………」


眠っている聖良さんが静かにベッドに横たわって目を瞑っている。


理亞「……ねえさま、生命活動には何も問題がないみたい。呼吸もちゃんとしてるし……眠ってるから、点滴で栄養を補給するしかないけど。本当にただ眠ってるのと同じ状態。……目を覚まさないことを除けば」

千歌「……そっか」

聖良「…………」


静かに眠っている聖良さんを二人で見つめる。


理亞「……ねえさまと私がやったことは……きっと許されないことだと思う」

千歌「……」

理亞「ねえさまが目を覚ましたら……その罪を二人で償わなくちゃいけない」

千歌「理亞ちゃん……」

理亞「今はねえさまは眠っているから……足りないだろうけど、私の分だけでも……。本当に、ごめんなさい……」


理亞ちゃんはそう言って頭を下げる。

ここ数日。何度か理亞ちゃんの元を訪れているけど、何度もこうして謝罪をされている。


千歌「……理亞ちゃんたちには理亞ちゃんたちの想いがあったんだよね。それが良いことだったとは言えないけど……ちゃんと前を向いて反省していくつもりがあるなら、きっと大丈夫だと思う」

理亞「千歌……。……うん」

千歌「……あはは、ごめんね。なんか偉そうに」

理亞「いや……大丈夫」

千歌「……あんまり長居しても悪いから、もう行くね」

理亞「うん」


様子を見に来ただけだったし。私は踵を返して、部屋から出て行こうとする。

そのとき、


理亞「千歌」


理亞ちゃんに名前を呼ばれて、立ち止まる。

142: 2019/05/13(月) 12:49:09.16 ID:SDtZ71oz0

千歌「ん……なにかな?」

理亞「ねえさまを止めてくれて……ありがとう」

千歌「……うん、どういたしまして」


私は理亞ちゃんからのお礼に言葉を返して、今度こそ部屋を後にするのだった。





    *    *    *





聖良さんの病室から出た後、病院のエントランスに行くと。


海未「千歌」

千歌「! 師匠」


そこで海未師匠に声を掛けられる。


千歌「どうしたんですか?」

海未「私はそろそろリーグ本部に戻ろうかなと思っていたので……最後に千歌と会っておこうかなと」


海未師匠は、そう言いながら私の頭を撫でる。


海未「まず……よくやりましたね、千歌。さすが私の弟子です」

千歌「えへへ……今日はなんかすごい褒められる」

海未「それと報告ですが……1番道路の海岸沿いに墜落した飛空挺セイントスノウは、先ほど撤去作業を開始したそうです。加えて、中に居た団員やポケモンですが、負傷者こそ居たものの、重傷者や氏者は出ていないとのことです」

千歌「そっか……よかった」


直後のパルキアとの戦いのせいでそれどころじゃなかったけど……かなり派手に堕としちゃったもんね。

大きな被害にならなかったのは間違いなく、海未師匠たちが地面への激突を防いでくれたお陰だろう。


海未「事件の調査に関しては適宜進めてはいるそうですが……如何せんほぼ全ての計画を聖良が主導で行っていたようで、彼女が目を覚まさないことにはあまり話が進みそうにありませんね……いつ目が覚めるかもわからない状態ですし」

千歌「……実験に使われてたポケモンたちは……?」

海未「ダリアの研究室、カーテンクリフのアジト、グレイブマウンテンの造艦基地と、飛空挺の中から、実験に使われていたポケモンは全て保護しました。衰弱個体もそれなりに居ましたが……とりあえず、保護したポケモンたちは、治療を施して一命は取り留めています」

千歌「そっか……」

海未「ですが……後遺症が残る子はいるでしょうし、全てが元通りとまでは行かないと思います。……それに、もう命を落としてしまったポケモンも居ますから」

千歌「…………」


その言葉を聞いて、思わず表情が曇る。


海未「千歌……そんな顔をしないでください。貴方たちが居たから助かった多くの命があることもまた事実なんですから……」

千歌「……はい」

海未「奪った命の責任は……いつか、目を覚ました聖良本人が償って行くしかありません。口で言うように、簡単に贖いきれるものなのかはわかりませんが……」

千歌「……今度、そのポケモンたちのお墓参りに行きたいな……」

海未「ええ、そうしてあげてください。希がグレイブガーデンにお墓を作ってくれるそうなので……」

千歌「……はい」

143: 2019/05/13(月) 12:52:51.19 ID:SDtZ71oz0

亡くなってしまった命は……もう戻らない。

だから、せめて、その魂だけでも……安らかに眠ってくれればなって……。


海未「……地方全体は順調に平和を取り戻しつつあります。各地のゴーストポケモンの数も平常に戻りつつあります。これも全て、貴方たちのお陰ですよ、千歌。ポケモンリーグ四天王の立場として直々に御礼を述べさせて頂きます。ありがとうございます」

千歌「えへへ……でも、みんなが頑張ったからこその平和だと想います」

海未「ふふ……貴方ならそう言うと思っていましたよ。……さて、それでは、私はウテナシティに戻りますね」


ウテナシティ……確かポケモンリーグがある街だよね。


海未「それでは、千歌。今度こそ……ポケモンリーグで会いましょう」

千歌「はい!」


そう言って海未師匠は病院から去って行くのだった。





    *    *    *





海未師匠と別れたあと、

私は自分の病室に戻ってきていた。

明日には一旦自宅に戻るために、荷物をまとめないとね。

私がそんなことを考えながら、病室の中に入ると。


曜「あ、千歌ちゃん」

善子「ん、千歌」

梨子「千歌ちゃん、おかえり」

花丸「おかえりずら~」

ルビィ「……すぅ………すぅ………zzz」


6人部屋の病室の中では、ベッドで安静にしている梨子ちゃんと花丸ちゃん。可愛らしい寝息を立てて眠っているルビィちゃんの姿。

そして、外着に着替えて、今まさにバッグを背負っているところの曜ちゃんと善子ちゃんが居た。


千歌「曜ちゃんと善子ちゃんはもう旅に出るの?」

曜「うん。私たちはそれこそメガシンカの疲労があっただけだし、もう入院してる理由もないから。とは言っても、私はことりさんのところに戻るだけだけど」

善子「ま、病院食も飽きたしね……これ以上、長居する理由もないし。私はちょっとあちこち回ってポケモンでも捕まえようかなって」

千歌「ポケモンの捕獲?」

善子「私の旅の目的はアブソルだったから……もう特段やることもなかったんだけどね。鞠莉から頼まれちゃって」

花丸「善子ちゃん、実は図鑑を貰った6人の中で一番捕獲データが揃ってたんだよね」

千歌「え、そうなの?」

善子「むしろこっちが驚きよ……ま、そういうことで図鑑データの捕獲収集を任されたってこと」
 「そうロトー行くロトー」


そう言って、善子ちゃんのバッグから、ふよふよと板状のものが飛び出してくる。

144: 2019/05/13(月) 12:54:52.05 ID:SDtZ71oz0

千歌「あ、ロトム」

善子「ついでに変なのにも懐かれちゃったし……」
 「変とは失礼ロトー」

千歌「ロトムは善子ちゃんと一緒に行くの?」

 「そうロト」
善子「鞠莉がね、捕獲に役立つと思うからって、しばらく貸してくれるみたい」

千歌「そうなんだ」

善子「そんじゃまぁ……そういうことだから、私は行くわね」


善子ちゃんはそう言いながら、ロトムを引き連れて、病室から出て行く。


善子「……あー……最後に、あんたたちに言っておきたいんだけど」

千歌・梨子・曜・花丸「「「「?」」」」

善子「……今回の戦い、あんたたちと一緒に戦えて……よかったわ。ありがと。……それだけ」


それだけ言うと、私たちの返事も待たずに善子ちゃんはそそくさと出ていってしまった。


花丸「最後まで素直じゃないずらね」

梨子「ふふ、むしろ最後だけは頑張って素直になったのかもよ?」

曜「まあ、善子ちゃんらしいかな」

千歌「かもね」


4人で顔を見合わせてクスクスと笑ってしまう。


曜「……さて、それじゃ私も行くね」

千歌「うん! コンテスト、頑張ってね!」

曜「千歌ちゃんもね!」

千歌「うん!」


曜ちゃんも善子ちゃん同様に出口の場所で一旦立ち止まり、振り返る。そして、私たち一人一人にゆっくりと目を配る。


曜「梨子ちゃん」

梨子「うん」

曜「花丸ちゃん」

花丸「ずら」

曜「千歌ちゃん」

千歌「うん」

曜「それと……寝てるけど、ルビィちゃんも」

ルビィ「…………すぅ……すぅ……」

曜「皆と一緒に戦えて、すっごく心強かった! その中で私はまた一つ強くなれた……ありがとう、皆」

梨子「どういたしまして」

花丸「いっぱい助けられたずら、ありがとね曜ちゃん」

千歌「えへへ、こちらこそ!」

曜「うん! それじゃ、またどこかで会おうね!」


そうして、曜ちゃんは手を振りながら部屋から出て行ったのだった。

145: 2019/05/13(月) 12:57:27.97 ID:SDtZ71oz0

千歌「……えっと、梨子ちゃんと花丸ちゃんはもう少し入院するんだっけ?」

梨子「うん、とは言っても本当に大事を取ってで、1週間くらいだけどね」

花丸「マルもあと何日かしたら退院するよ」

梨子「千歌ちゃんは明日には家に戻るんだっけ? さっきルビィちゃんが部屋に戻ってきたとき、そう言ってたけど……」

千歌「うん、そこから1ヶ月は自宅療養。だから、みんなよりも旅に戻るのは遅くなっちゃうかな……あはは」

梨子「……じゃあ、その間に追い抜かしちゃおうかな」

千歌「追い抜かす……ってことは」

梨子「うん、私はまた地方を回りながら、ジムを巡ろうかなって。ここからだと東のクロユリシティが近いからそっちに行くことになるかな」

千歌「そっか」

梨子「バッジ2個差くらいすぐに埋めちゃうからね?」

千歌「ふふん、別にそれくらいのハンデじゃ、チカ追い越されないけどね」

梨子「ふふ、言うね。あとで文句言わないでよ?」


二人で視線をぶつけ合い。


梨子「……ふふっ」
千歌「……あははっ!」


なんだか、可笑しくなって笑ってしまう。


千歌「花丸ちゃんはこのあとどうするの?」

花丸「ん、マルは……旅の目的がルビィちゃんと一緒に旅することだったからなぁ……」

ルビィ「……んゅ…………zzz」


確かにルビィちゃんの旅は理亞ちゃんが目的だった以上、全て決着がついたようだし、同時に花丸ちゃんも旅の目的がなくなっちゃったのかも。


花丸「……でも実は、鞠莉さんに助手にならないかって言われてるんだよね」

千歌「え!? ホントに?」

花丸「うん。……研究者もいいかもって思うし、本当に助手になるかは保留だけど、とりあえず鞠莉さんの研究所でしばらくお手伝いしようかなって考えてるずら」

千歌「そっかそっか……みんなちゃんと今後やることを決めてるんだなぁ……」


私が関心していると。


梨子「千歌ちゃんは?」


梨子ちゃんがそう訊ねて来る。


千歌「ん、私は変わらないよ──なんかすっごい感じになりたい!」

梨子「ふふ、なにそれ……」

千歌「私は自分が何になりたいのか、何をしたいのか……そういうものは、仲間たちと旅をしながら見つけられればいいかなって思うからさ」

梨子「そっか。千歌ちゃんらしいね」


梨子ちゃんは私の話を聞いて、楽しそうにクスクスと笑うのだった。





    *    *    *



146: 2019/05/13(月) 12:58:16.26 ID:SDtZ71oz0



──さて、今日はいろんな人たちとお話をして回ったけど……。

話をしなくちゃいけない相手がまだ残ってるよね。

私は病院の庭先に出てきて、


千歌「みんな、出ておいで!」


6つのボールを放った。


 「バクフー」
 「ワフッ」
 「ピピィ」
 「ワォン」
 「グゥォ」
 「ゼル」


それは、一緒に激闘を戦い抜いた仲間たち。


千歌「バクフーン」
 「バクッ」

千歌「ムクホーク」
 「ピピィ」

千歌「ルガルガン」
 「ワォン」

千歌「ルカリオ」
 「グゥォ」

千歌「フローゼル」
 「ゼル」

千歌「しいたけ」
 「ワフッ」


名前を呼んで、順番に抱きしめてから、


千歌「みんな、ありがとう……みんなが居てくれたから、ここまで戦えたよ」
 「バクフー」「ピピィ」「ワォン」「グゥォ」「ゼル」「ワフッ」


お礼を言った。


千歌「んでもって……これからもよろしくね!」
 「バクフー」「ピピィ」「ワォン」「グゥォ」「ゼル」「ワフッ」


これまでも、これからも……この仲間たちと旅をして、強くなるんだ。そう改めて胸の中で想いながら──ローズシティの日は暮れて行くのでした。



147: 2019/05/13(月) 12:58:43.74 ID:SDtZ71oz0


    *    *    *





──
────
──────
────────





    *    *    *



148: 2019/05/13(月) 13:02:48.52 ID:SDtZ71oz0


──……さて、あの事件から早くも1ヶ月が経過しようとしていました。

わたくしと鞠莉さんも、無事快復・退院をし、また故郷へと戻ってきていました。

そして、今日は鞠莉さんに呼ばれてオハラ研究所の鞠莉さんの部屋に訪れています。


ダイヤ「それで話とは?」

鞠莉「……あーうん、今回の見解を整理しておこうかなって思って」

ダイヤ「見解?」

鞠莉「……結局、伝説のポケモンと、彼らを制御する“たま”とは一体なんだったのかってこと」

ダイヤ「……あぁ」


鞠莉さんの自室には、大きな金庫のようなものが置いてあり……“こんごうだま”と“しらたま”は現在この中で厳重に保管されています。


鞠莉「……たぶん、製法に関しては聖良が見つけたものが答えだと思ってる」

ダイヤ「……答え……ですか」

鞠莉「もちろん抽出の方法とか細かい部分は、太古の時代に作られていたものとは違うだろうけどね……ただ、あれだけの力をあの小さな珠に籠める……と言う点に関しては合理的な方法だと思うわ。倫理的かはともかく」

ダイヤ「まあ、実際呼び出すことには成功してしまいましたからね……」


実際にパルキアもディアルガも姿を現してしまったし。結果として、鞠莉さんが二匹とも所持している。夢や幻などではなく、確実にそこに存在するポケモンを呼び出してしまったのだ。


ダイヤ「ですが……こうして、パルキアやディアルガを呼び出してしまった上に捕まえてしまってよかったんでしょうか? シンオウ地方は今神と呼ばれるポケモンが不在なのでは……」

鞠莉「あーそれなんだけどね……ちょっと興味深いことがあって」

ダイヤ「興味深いこと?」

鞠莉「ちょっとこれ見てくれる?」


そう言って鞠莉さんは机の上にあったパソコンの画面に、パルキアとディアルガの詳細データを表示する。

 『 パルキア  Lv.75 特性:テレパシー 性格:せっかち 個性:ちのけがおおい』
 『ディアルガ Lv.75 特性:テレパシー 性格:れいせい 個性:ぬけめがない』


鞠莉「これが、あの2匹の個体データなんだけど……」

ダイヤ「これが、どうかしたのですか……?」


確かにこれはあのときのパルキアとディアルガのデータだとは思いますが……。


鞠莉「特性……“テレパシー”よね」

ダイヤ「? はい」

鞠莉「あのあと、シンオウの伝説やら、ギンガ団の一見の調査報告とかを確認したんだけど……どの調書を見ても、パルキアもディアルガも、特性は“プレッシャー”だって言う結論しか導きだせなかったのよ」

ダイヤ「……え? じ、じゃあ、このパルキアとディアルガは……」

鞠莉「たぶん、シンオウの伝説のものとは別個体よ」

ダイヤ「そんなことが在り得るのですか……? 地方の神話が発祥とは言え、神と呼ばれるポケモンですわよ?」

鞠莉「わたしもそう思うけど……実際このポケモンたちは“テレパシー”を使ってたし」


……確かに実際わたくしたちは珠を通して、“テレパシー”で命令を送っていたわけですが。

149: 2019/05/13(月) 13:13:06.21 ID:SDtZ71oz0

鞠莉「聖良が珠を生成する過程の中で、異次元空間に生きている別個体のパルキアとディアルガが珠の波長に引き寄せられた……と言うところだと思う」

ダイヤ「……なるほど」

鞠莉「だから、きっと他の個体には他の個体に波長が合うような調整を施したものじゃないと効果がないんじゃないかしら。これを踏まえて、わたしが考えた仮説はこう。……太古の時代、強大な力を持った伝説のポケモンたちを制御するために……人々は多くのポケモンの命を犠牲にして、珠を作った」

ダイヤ「……」

鞠莉「そして、その珠の力を使って、人の手に余る伝説のポケモンたちを封印し……それと同時に、こんなおぞましい“どうぐ”の製法を後世に残さないために……一切の伝承を歴史の闇に抹消したんじゃないかしら」


それが誰かに伝わり、同じ悲劇が繰り返されることのないように……。

……ですが、


ダイヤ「一つ……わたくしの考えも聞いてもらってもいいですか?」

鞠莉「いいよ? 何?」

ダイヤ「犠牲になったのは……ポケモンだけではなかったんじゃないでしょうか」

鞠莉「……? どういうこと?」

ダイヤ「……この珠を使うだけでわたくしたちは命が削られるような感覚を味わいましたよね」

鞠莉「ええ」

ダイヤ「珠を扱い、伝説のポケモンたちの意に背くように封印をするというのは……使用者もどれだけ命を削ることになるのでしょうか」

鞠莉「……なるほど」

ダイヤ「この“たま”という道具は……ただ人間のエゴでポケモンたちを犠牲にしたものではなく。……人とポケモンが、手を取り合い、命を掛け、世界の秩序を守るために編み出した、知恵だったのではないでしょうか」


もちろん、これはわたくしの妄想に過ぎないのですが……。


ダイヤ「ただ、後世に伝えるべきではない、『おぞましい製法』だったということには変わりないでしょうけれど」

鞠莉「……そうだネ」

ダイヤ「それで……どうするのですか?」

鞠莉「……珠の今後のこと?」

ダイヤ「ええ。先人達に倣って、わたくしたちもこの珠を歴史の闇に葬るべきなのでしょうか」

鞠莉「……そうね。それが正しいのかもしれない。けど……」

ダイヤ「……けど?」

鞠莉「わたしはただ、封印して、抹消して、なかったことにしても……人の執念は、またいつか同じ物を見つけてしまうんじゃないかと思う。今回の聖良のように」

ダイヤ「…………それは」

鞠莉「だから……この“どうぐ”も、ポケモンたちも、ちゃんとわたしたちと共存出来るように、研究して、考えて行くことが、わたしたちが本当に伝えていかなくちゃいけないことなんじゃないかと思うわ」

ダイヤ「そうですか……。……そうかもしれませんわね」

鞠莉「そのために、もしかしたら協力してもらうこともあるかもしれないけど……」

ダイヤ「まあ……仕方ありませんね。世の為、人の為……そして、鞠莉さんの頼みですから」

鞠莉「ダイヤ……Thank you ネ」


鞠莉さんは苦笑しながら、お礼を述べてくる。

150: 2019/05/13(月) 13:16:48.19 ID:SDtZ71oz0

ダイヤ「それはそうと……わたくしからもお訊ねしたいことがあるのですが」

鞠莉「? なに?」

ダイヤ「ルビィのグラードンについてです」

鞠莉「……あぁ」

ダイヤ「あのグラードンは……結局どこから来たポケモンなんでしょうか……?」

鞠莉「ルビィ曰く……ずっと一緒に居たって言うことだからね。……強いて言うなら“ルビィのこころ”に生息していたんじゃないかしら……」

ダイヤ「……それこそ、そんなことは在り得るのですか? あんなに大きなポケモンが……実は心の中に居たなんて……」

鞠莉「伝説のポケモンが姿かたちを変えて、何かの中で眠っているってことは、大なり小なり伝承は残ってるのよ。イッシュ地方の勇者の話とかね。……詳しくはこれから調べるつもりだけど、巫女の力が作り出した精神世界のような場所で、ずっと目覚めの時を待っていたのかもしれないわね」

ダイヤ「巫女のメレシー──コランはその鍵だったということですか……」

鞠莉「恐らくね。あの真っ赤な宝石を持ったメレシーは“べにいろのたま”に近い存在なんだと思うわ。……わたしたち研究者もだけど、クロサワの家も自分の家にある伝承を一度調べなおした方がいいかもしれないネ」

ダイヤ「そうですわね……。それで、今そのグラードンは……」

鞠莉「ルビィがボールに入れて連れ歩いてるみたいだけど」

ダイヤ「大丈夫なのでしょうか……?」

鞠莉「まあ、ルビィ曰く、あの戦い以降グラードンはずーっと眠ってるって言ってる……定期的に検査はしてるけど、確かにずっと眠ったままなのは本当みたいだし」

ダイヤ「……ですが、ルビィの体調は」

鞠莉「……そうね。グラードンを呼び出して操っていたことによる副作用だとは思ってる。でも、最近はだんだん起きてる時間も伸びてきたんでしょ?」

ダイヤ「ええ、まあ……最近は一日に10時間ほどの睡眠で、少し長めではありますが……あとは元気に活動していますわ」

鞠莉「なら心配ないんじゃないかしら。この調子なら直にいつもの生活に戻れると思うし。それこそ、またルビィがグラードンの力に頼るような危機が起こらないように努めることが一番なんじゃないかしらネ」

ダイヤ「まあ……そうですわね」


また、今回のような、世界を揺るがすような危機が起きないように……秩序を守るために、尽力する。

それがわたくしたちに出来ることなのでしょう……。きっと。





    *    *    *





鞠莉「ダイヤ、ジムの調子はどうなの? 騒動後の復旧もだいぶ落ち着いてきて、挑戦受付再開してるんでしょ?」

ダイヤ「ええ。昨日丁度、梨子さんが挑戦に来たところですわ」

鞠莉「結果は?」

ダイヤ「わたくしも善戦はしたのですが……彼女、旅立ちの頃からは見違えるほど、強くなりましたわ」

鞠莉「最初は見てるこっちが不安になる感じだったものね。……ダイヤに勝利して──梨子のバッジも7個かしらね」

ダイヤ「そうですわね。クロユリシティのジム戦には既に勝利したとのことでしたので……」

鞠莉「確か……セキレイジムが残ってるって言ってたっけ?」

ダイヤ「ええ。ですが、セキレイジムに行く前に用事があると言っていましたけれど……」

鞠莉「用事?」

ダイヤ「なんでも……4番道路に向かうとか」

鞠莉「4番道路? ……コメコシティとダリアシティを繋ぐ道路だっけ、確かあそこって──」





    *    *    *



151: 2019/05/13(月) 13:17:48.23 ID:SDtZ71oz0


──4番道路。

広く長く続く道路、以前来たときは、千歌ちゃんと一緒に駆け抜けた、この道路、通称──


梨子「──ドッグラン……」


私はドッグランに再び訪れていた。


 「ブルル…」


メブキジカが心配そうに声をあげるが、


梨子「メブキジカ、大丈夫だよ」


私は息を整える。

この旅の中で、いろんな経験をした。

焦り、叱られ、窘められ、諭され、訓えられ、自分と向き合って、大切なことを思い出して、たくさんの仲間や友達と出会って、たくさん怒って、たくさん泣いて、たくさん笑った。

……そんな旅も、最後の1個のジムバッジを残すだけになった。

だから、最後に……自分の過去と──トラウマと向き合おうと、

ここに来た。


梨子「……行こう」
 「ブルル」


私は、ドッグランへと、足を踏み出した。



152: 2019/05/13(月) 13:18:45.67 ID:SDtZ71oz0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
no title

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.56 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.51 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.50 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.45 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.54 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:142匹 捕まえた数:13匹


 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




153: 2019/05/14(火) 00:12:06.54 ID:gM5+0Wds0

■Chapter078 『家族』 【SIDE Riko】





──4番道路、ドッグラン。

私はここで、自分の過去と決別する。

そう意気込んでやってきた。

そして、私が今からやろうとしていること……それは。


梨子「……最後の手持ちをここで捕まえること」


ずっと空いている状態だった6匹目の手持ち。

それをここで手に入れることだ。

ダリアジムで千歌ちゃんと共闘したときに、触れたイワンコ。

そして……実は気付いていたのだけれど、パルキアとの戦いの際、落下する私を助けてくれた──トリミアンのしいたけちゃん。


梨子「私……犬に触れるようになってる」


もちろん、自分から進んで触りに行くことはまだ躊躇する。

だけど、パニックを起こしていた昔からは考えられないことだ。

きっと、自分の中で、あのときのトラウマを乗り越える準備が出来つつあるんだ。


梨子「とは言っても……」


ドッグランの辺りを見回すと、相変わらずあちこちを犬ポケモンたちが走り回っている。

最後の手持ち……適当に決めるのは憚られる。

割と近くに見えるのは、ガーディやポチエナの群れ。

遠方ではブルーが集まって日向ぼっこをしているし、その周囲ではラクライたちがマッスグマと競争するように猛スピードで走り回っている。

私は少し考えたけど……。

捕まえる捕まえないより前に、やるべきことがあると思った。





    *    *    *





──それは、私がここドッグランに訪れて、最初に挫折した場所。


梨子「……こんにちは、ムーランドさん」

 「…ヴォッフ」


ずっしりと構えるムーランド、その周りには相変わらずたくさんのヨーテリーやハーデリアがいる。

正直、これだけいると今でも少しだけ足が竦む。

けど、ここでとんぼ返りするようじゃ、本当に何しにきたのかわからない。


梨子「ムーランド、私のこと覚えてる?」

 「…ヴォッフ」

154: 2019/05/14(火) 00:15:18.14 ID:gM5+0Wds0

ムーランドは私の言葉に対して、首を縦に振る。

ムーランドは頭が良く、人に良く懐く。

案外、ここを通る人の顔を覚えているのかもしれない。

そして、そんなムーランドの元に訪れて、何がしたかったかなんて、言うまでもない。


梨子「ムーランド……──あのときは助けてくれて、ありがとう」


私はそう言って頭を下げた。


 「ヴォッフ…」

梨子「私……あのときは本当にビックリして、気絶しちゃったけど……。私が他のポケモンに襲われない様に、自分の近くで守ってくれてたんだよね」


千歌ちゃんに発見されたとき、私はムーランドのすぐ近くでヨーテリーとハーデリアに群がられていたと聞いた。

だけど、不思議なことに……こんなだだっ広く、絶えず野生のポケモンたちが言ったり来たりしている場所で、

怪我どころか、服も、リュックも、道具も……それこそ、一番狙われるであろう食料も、全てが気絶する前と何も変わらない状態のままで……。

それはどう考えても、このムーランドが守ってくれていたお陰だった。


梨子「あのときは怖がって……悲鳴をあげて……助けてもらったのに、お礼の一つも言えなくて……だから、ここに来たの」

 「ヴォッフ…」


私は一歩前に踏み出す。


 「ヴォッフ」


一歩ずつ近付く。

一歩近付くごとに、心臓の鼓動が少しずつ早くなっていく。

──大丈夫。

大丈夫。怖くない。

心の中で、自分に言い聞かせるように。

近付いて、


梨子「……ありがとう」


ムーランドの顔に触れた。


梨子「…………」

 「ヴォッフ…」

梨子「……さわれた」

 「ヴォッフ」

梨子「……さわれた……っ……」


その事実が、なんだか嬉しくて、


梨子「……よかった……っ……」


私は安堵の涙を流しながら、ムーランドに抱きつく。


梨子「お母さん……っ……私、もう大丈夫だよ……っ……」


幼少のときから、心に抱えていた傷を──やっと乗り越えることが出来た。

155: 2019/05/14(火) 00:16:37.94 ID:gM5+0Wds0

 「ヴォッフ」


ムーランドは、一人で勝手に安堵して泣きじゃくる私を咎めることはせず……涙が止まって落ち着くまで、ただ黙ってその場に鎮座してくれていたのだった。





    *    *    *





梨子「……ふぅ……なんか、いっぱい泣いたらすっきりしたな」

 「ヴォッフ…」


そして……決めた。


梨子「私はあなたを仲間にしたい」

 「ヴォッフ」

梨子「ムーランド、バトルしよう」


野生のポケモンと戦って、捕まえる。

トレーナーの基本だ。


 「ブルル…」


後方で見守っていた、メブキジカが私の傍に寄って来る。


 「ヴォッフ…」


ムーランドが立ち上がり、私たちの前に歩み出る。


梨子「私が勝ったら、仲間になって」

 「ヴォッフ」


ムーランドが鳴くと、周りのヨーテリーやハーデリアたちが、その場から離れていく。

一対一、正々堂々戦って捕まえる。


梨子「……行くよ!! メブキジカ!!」
 「ブルルッ!!!!」


メブキジカが私の声と共に飛び出す。


梨子「“ウッドホーン”!!」
 「ブルルッ!!!」


前方にツノを突き出して、突撃する。


 「ヴォッフッ!!!!」


一方ムーランドは、その場に留まったまま、攻撃を受け止める。

──攻撃が直撃したが、ムーランドはびくともしない。


 「ヴォッフッ!!!!」

梨子「……! でも、“ウッドホーン”は吸収技だよ!!」
 「ブルルッ!!!!」

156: 2019/05/14(火) 00:18:03.82 ID:gM5+0Wds0

メブキジカが突き刺したツノからエネルギーを吸収する。

だが、


 「ヴォフッ!!!」


ムーランドは、ツノを突き刺し動けないメブキジカに燃え盛る牙を突き立てる。

──“ほのおのキバ”だ……!!


 「ブルルッ!!!!」


攻撃が直撃し、メブキジカがひるんで後ろに下がる、そこに追撃を掛けるように、


 「ヴォッフッ!!!!」


ムーランドの“とっしん”攻撃。


 「ブルルッ……!!!」


大きな体躯をぶち当てられて、後方に仰け反るが、どうにか脚を踏ん張って持ちこたえる。


梨子「メブキジカ!! “エナジーボール”!」

 「ブルルッ!!!!」


少し離れた場所から、メブキジカが自然から集めたエネルギーを発射する。

だけど、ムーランドは臆することなく、


 「ヴォッフッ!!!!!」


“エナジーボール”に向かって突っ込み、


梨子「!?」


攻撃を耐えて、突っ切りながら、メブキジカに“ずつき”をかましてくる。


 「ブルルッ!!!!?」


さっきから、攻撃を避ける気が感じられない。

群れのボス故、彼にとって攻撃は避けずに受け止めるものなのかもしれない。

なら……。


梨子「こっちも真っ向勝負しよう」

 「ブルルッ!!!!」


メブキジカが蹄を鳴らし、ツノを前方に突き出しながら、駆け出す──


梨子「“メガホーン”!!」
 「ブルルッ!!!!!」


その“メガホーン”に向かって、ムーランドは一歩も引かずに、


 「ヴォッフッ!!!!!!」

157: 2019/05/14(火) 00:19:43.07 ID:gM5+0Wds0

“アイアンヘッド”で対抗してくる。

メブキジカのツノが──ガインッ!! と鋼鉄の頭に弾かれ、


 「ヴォッフッ!!!!!」


そこに向かって今度は“こおりのキバ”で追撃を掛けてくる。


梨子「“とっしん”!!」
 「ブルルッ!!!!!」


迎え撃つ、あくまで真っ向勝負の姿勢でメブキジカが飛び出す。

メブキジカが体をぶつけ、それをムーランドが踏ん張り、そのままメブキジカの頭部に牙を立てる。

牙から伝わる冷気が──パキパキと音を立てながら、メブキジカを凍らせていく。


 「ヴォッフッ」


ムーランドが鼻を鳴らす。

……でも、


 「ブルルッ……!!!!」


メブキジカはひるまない。


 「ヴォッフッ!!!!?」


頭を想いっきり振るって、ムーランドの身体の下に自らのツノを滑り込ませ、掬い上げるように持ち上げる。

ムーランドの大きな体躯が地面から離れ、


 「ヴォッフッ……!!!!」


メブキジカのツノの上でもがく、ムーランドを──


梨子「そのまま、打ち上げて!! “メガホーン”!!!」
 「ブルルッ!!!!!!」


先ほどとは違う方法でツノを下から上に向かって、想いっきり振るう。


 「ヴォッフッ!!!?」


空中に打ち上げられ、為す術のなくなったムーランドに向かって。


梨子「“すてみタックル”!!」
 「ブルルッ!!!!!」


落下点にあわせて、メブキジカが駆け出す。

落下の力と、突進攻撃の力を掛け合わせ──


 「ヴォッフッ!!!!!!」


ムーランドを一気に突き飛ばす。

強力な攻撃が直撃し、弱ったムーランドに向かって、


梨子「いけ!! モンスターボール!!!」

158: 2019/05/14(火) 00:20:15.87 ID:gM5+0Wds0

私はボールを投げた。


 「ヴォフッ──」


ムーランドはボールに吸い込まれ……一回、二回、三回揺れたのち、大人しくなった。

私はそのボールを拾い上げて、


梨子「ムーランド……ゲットだね」


捕獲したムーランドをすぐにボールから出す。


 「ヴォッフッ…?」


ムーランドは少し不思議そうな顔をした。


梨子「ムーランド、私に付いて来てくれますか?」


私はそう訊ねた。

ポケモンにも、トレーナーを選ぶ権利があるから。


 「……ヴォッフ」


私の言葉にムーランドは頭を垂れた。


梨子「……うん、ありがとう。よろしくね、ムーランド」
 「ヴォフッ」


こうして、私は最後の手持ち──ムーランドを手に入れて……最後のジムへと向かいます。





    *    *    *



159: 2019/05/14(火) 00:22:21.64 ID:gM5+0Wds0


──ウラノホシタウン。


千歌「ふぁ……いい天気……」


私は我が家の屋根の上に寝転がって、日向ぼっこをしていた。

自宅療養期間中、特に問題らしい問題もなく。

明日にはまた旅立つことになっている。


美渡「千歌ーーー? どこだーーー?」


そんな私を呼ぶ声。


千歌「……美渡姉が呼んでる。行くべきか、行かざるべきか」


たぶん、旅館の手伝いだと思う。

せっかく可愛い妹が旅から帰って来てるというのに、人遣いの荒い姉だ。


千歌「こういうときは無視しよ、無視。私はりょーよーちゅーなんだから」


我ながら都合の良いときだけ、療養中と言い張っているなと思うけど、こうでもしないとせっかく休もうとしてるのに仕事でくたくたになってしまう。


美渡「お、しいたけ。千歌がどこいるか、知らない?」
 「ワフッ」

美渡「上……? また、屋根の上登ってんのか……オイ、バカチカー!!」

千歌「って、しいたけ!! 何教えちゃってるのさ!?」

 「ワフッ」

千歌「私と一緒に旅の中で築いた絆はなんだったんだ……くそぉ」

美渡「バカなこと言ってないで、早く降りてくるー!! お母さん待ってるよー!!」

千歌「へ……? お母さん?」





    *    *    *





言われて、部屋に降りてくると、


千歌「お母さん」

千歌ママ「千歌、久しぶりねー」


お母さんが部屋にいた。母は普段は遠方で仕事をしていることが多く、ほとんど旅館の仕事は二人の姉が切り盛りしているんだけど……。


千歌「どうしたの?」

千歌ママ「んー、千歌が旅から帰って来てるって聞いたから、顔でも見ておこうかなって」

千歌「ふーん……」

千歌ママ「冷たい反応ね……それに、志満がしばらく用事があって旅館を離れることになりそうって言うから、しばらくはこっちにいるつもりなのよ」

千歌「え? 志満姉が?」

千歌ママ「コンテスト……出るんだって」

千歌「そうなんだ……!」

160: 2019/05/14(火) 00:25:19.93 ID:gM5+0Wds0

志満姉は昔からポケモンコンテストが好きで、実力もある結構強い人らしいんだけど……本人に聞いてもあんまり話してくれないし、ここ最近はあんまり参加もしていなかったみたいだったから、その報せに少しだけ驚く。


千歌ママ「なんか近々大きな大会があるらしくってね。張り切ってたわ」

千歌「へー」

千歌ママ「千歌も負けてられないわね?」

千歌「ふふーん、もうすでに負けてないもんね! それどころか、私この前世界を救ったんだよ!」


胸を張って言う。


千歌ママ「あらそうなの。すごいわね」

千歌「……えー、それだけ……?」


自分で言うのはなんだけど、結構すごいことだったんだけどな……。


千歌ママ「千歌はいっつも気付けば、トラブルに巻き込まれてばっかりだからねー。あんまり危ないことしちゃダメよ?」

千歌「……むー。ホントに世界救ったんだけど。いろんな人に感謝されたもん!」

千歌ママ「……それは誇らしいことだけど……お母さんはあなたが五体満足に生きてくれていた方が何倍も嬉しいわ」

千歌「…………んっと……」

千歌ママ「……とは言っても、やめろって言ってやめてくれるんだったら、お母さんも苦労してないからね。多少の怪我くらいは目を瞑るけど、先にいなくなったりしないでね。あなたが氏んじゃったら、あなたの人生はそこで終わり。どんなにすごいことに挑戦してても、頑張った結果が残るんだとしても、千歌が氏んじゃったら、千歌はいなくなっちゃうんだから」

千歌「う、うん……わかった」


お母さんはそれだけ言うと、満足したのか、私の部屋を出て行ってしまった。


千歌「……娘が世界を救うよりも、生きててくれた方が嬉しい……かぁ」


私は少し考え込んでしまう。

ふと……聖良さんと理亞ちゃんのことを思い出す。

命を掛けて、理亞ちゃんの夢を叶えようとした聖良さんと、本当は聖良さんが傍にいてくれるだけでよかったと言う理亞ちゃん。


千歌「……確かに、お姉ちゃんたちがチカのために何かしてくれたんだとしても、それで氏んじゃったら……嫌かな」


それが例え、かけがえのない何かをくれるようなことだったとしても。

いなくなっちゃったら……困るよね。


千歌「ま……志満姉ならともかく、美渡姉がそんなことするなんてありえないけど──」

美渡「何がありえないって?」

千歌「……」


気付けば背後に美渡姉の姿。


千歌「ウウン、ナンデモナイ」

美渡「……なんか、わからんが悪口を言われた気がする」

千歌「キノセイダヨ」

美渡「そういえば、そろそろお客さんが来るんだけど」

千歌「チカ、急に客間の片付けしたくなってきたっ!!!」

美渡「よろしい」

161: 2019/05/14(火) 00:26:54.63 ID:gM5+0Wds0

どたばたと部屋を飛び出して客間に向かう。

……やっぱり美渡姉に限って、そんな感じのことはなさそうだな、と改めて思ったのだった。





    *    *    *





──夜。

旅立ち前夜ということもあり、ちょっとだけ豪勢な食事をお母さんが用意してくれた。

もちろん、手持ちのみんなも一緒にご相伴に預かった。


千歌「志満姉のご飯もおいしいけど……やっぱり、お母さんのご飯が一番おいしいというかしっくり来るんだよなぁ……なんでだろ」


やはり子は親のご飯が好きなものなのかもしれない。

そんなことを考え一人腕を組みながら歩いていると、


美渡「しいたけ……千歌はどう?」
 「ワフッ」

千歌「……ん?」


今いる通路を曲がったところ、中庭に通じる廊下で美渡姉が月明かりに照らされながら、しいたけのブラッシングをしているところだった。

困ったな……さっきのことがあるから、今はちょっと対面では顔を合わせづらい……。


美渡「千歌、無茶してない?」
 「ワフ」

美渡「……って、してないわけないよなぁ……千歌だし」
 「ワフ」

美渡「何かあったときは……お前が助けてやってな」
 「ワフ」

美渡「……ってお前、なんか体が逞しくなったな……これも旅の効果か」
 「ワフ」

美渡「私も、旅……してみようかな」
 「ワォ?」

美渡「なんてね……今更旅って歳でもないか」
 「ワフ」

千歌「……」


そういえば、お姉ちゃんたちは旅に出たことはないんだ……。

チカがたまたま機会に恵まれたってだけで。


美渡「……千歌、強くなったんだなって、お前を見てるだけでわかるよ」
 「ワフ」

美渡「つい最近まで、あーんなチビスケだったのに……気付いたら立派に成長しちゃって……」
 「ワフ」

美渡「どんどん、千歌が遠くにいっちゃうな……」
 「ワォ…」


美渡姉……そんなこと考えてたんだ……。

162: 2019/05/14(火) 00:28:45.38 ID:gM5+0Wds0

美渡「昔はオニスズメに追い回されて、泣きながら逃げてた千歌が……気付いたら世界の命運を握った戦いしてるんだもんな。笑っちゃうよ。私なんかゴーストポケモン追い払うのに必氏だったのに」
 「ワフ」

美渡「……きっと、これからもっともっと千歌は強くなって、私が考えられないような場所に行って、いろんな経験するんだろうな」
 「ワフ」

美渡「そう考えると……ちょっとだけ寂しいな」
 「クゥン…」

美渡「……でも、千歌が望むなら、応援してやりたいよね」
 「ワフ」

千歌「……!」

美渡「……確かに寂しいけど……千歌が頑張ってるなら嬉しいし、それはいいことだから」
 「ワフ」

美渡「……なーんて、こんなこと、千歌には言えないけどな」

千歌「おねーちゃん」

美渡「っ!? ち、千歌!?」

千歌「どしたの? そんなにビックリして?」

美渡「い、今の話聞いてた?」

千歌「話? しいたけとお話してたの?」

美渡「い、いや……聞いてないならいい」

千歌「そう? それよりさ」

美渡「ん?」

千歌「明日になったら、また旅に出ちゃうから……たまには一緒にお風呂でも入らない?」

美渡「……は? お前、なんか変なものでも食ったか?」

千歌「たぶん、美渡姉と同じもの食べてると思うけど……」

美渡「拾い食い、好きだろ?」

千歌「どんなイメージなのそれ……とにかく、お風呂。一緒にはいろ」

美渡「……まあ、いいけど」

千歌「せっかくだし、志満姉も誘って姉妹で……いや、せっかく帰って来てるし、お母さんも」

美渡「え」

千歌「うぅん、ここまで来たらお父さんも一緒で、家族みんなでお風呂に入ろう!」

美渡「待て待て!! お父さんは勘弁しろ!!」

千歌「えー? でもお父さん仲間はずれにされたら絶対スネるよ?」

美渡「ぐっ……た、確かに……いや、でもダメだ! いい歳した娘が父親と一緒にお風呂はキツいって!!」

千歌「なんでもいいから、早くはいろーよー……あ、しいたけも洗ってあげるからおいで」
 「ワフ」

美渡「はいはい……」

千歌「うん♪」

美渡「……なんか、機嫌いいな」

千歌「そう? 気のせいじゃない?」

美渡「……まあ、なんでもいいけど……」


──月明かりに照らされる我が家で、たまには家族との団欒を楽しむのも悪くはないかなって、そんな風に感じた夜だったのでした。



163: 2019/05/14(火) 00:30:18.42 ID:gM5+0Wds0


    *    *    *





──翌日、朝。


千歌「それじゃ、行くね」
 「ピィ」

美渡「おう、危ないことすんなよー」

志満「ふふ、行ってらっしゃい千歌ちゃん」

千歌ママ「たまには帰って来るのよ」

千歌「まさかお母さんに言われるとは……お父さんは?」

志満「お父さん……別れが惜しくて、離れられなくなるからって厨房に篭もっちゃったわ」

千歌「はは……相変わらずかも」


私はなんとなく、空を仰ぐ。


千歌「今日も、いい天気だなぁ……」


まるで、旅立ちのあの日と同じような、気持ちのいい快晴だ。


千歌「……よし! ムクホーク! 飛ぶよー!!」
 「ピィィィ!!!!!」


ムクホークの背中に飛び乗ると、ゆっくりと視界が上昇していく。


千歌「美渡姉ー! 志満姉ー! お母さーん! いってきまーす!!」

美渡「おう!」

志満「気をつけてねー!」

お母さん「いってらっしゃい、千歌ー!」


私は家族たちに見送られながら──新しい旅へと、再び飛び立つのでした。



164: 2019/05/14(火) 00:31:10.90 ID:gM5+0Wds0


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【ウラノホシシティ】【4番道路】
no title
 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.55  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.48 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.55 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.52 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.59 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      フローゼル♀ Lv.50 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:162匹 捕まえた数:15匹

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.56 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.51 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.50 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.45 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.55 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ムーランド♂ Lv.43 特性:きもったま 性格:ゆうかん 個性:しんぼうづよい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:142匹 捕まえた数:14匹


 千歌と 梨子は
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...To be continued.




165: 2019/05/14(火) 12:28:10.30 ID:gM5+0Wds0

■Chapter079 『水晶湖の輪舞』 【SIDE Chika】





ウラノホシタウンから飛び立ち、


千歌「よっと……ありがと、ムクホーク」
 「ピィ」


私は一旦ローズタウンに降り立った。

目的地は更に東のクロユリシティだけど、せっかく近くを通るから、お見舞いがてら病院に寄っておこうと思って、ここで休憩を挟む。

ムクホークをボールに戻して、そのまま病院へと入っていく──。





    *    *    *





──聖良さんの病室。


千歌「……失礼しまーす」


面会許可を貰って、静かな室内に足を踏み入れる。


聖良「…………」

千歌「こんにちは、聖良さん」

聖良「…………」


もちろん、眠っている聖良さんから返事はない。

腕からは今も点滴の管が伸び、響くのは無機質なバイタルチェックの音だけ。

ただ、静かに胸があがったりさがったりしてる姿は彼女が確実に生きていることを示している。この光景の中で唯一安心できることだろうか。

一人ぼんやりと、静かに眠る聖良さんを見つめていると……。

背後のドアが開く。


ルビィ「あれ……千歌ちゃん」

理亞「……千歌?」


そこに居たのはルビィちゃんと理亞ちゃんだった。


千歌「二人とも、こんにちは。近くに寄ったからお見舞いに来たんだけど……」

理亞「そうなんだ……ありがとう」

千歌「ルビィちゃんと理亞ちゃんは一緒に居たんだね」

ルビィ「うん、理亞ちゃんとお昼ご飯食べてたんだ」

理亞「病院食は味気ないし……お昼はよくルビィと一緒に食べてる」

ルビィ「ルビィたち、食事に気を使う必要があるわけじゃないしね……」


二人はそう言って苦笑いする。

確かに私も数日間は病院食を出してもらってたけど……味が薄くて食べた気がしなかった記憶がある。

それはともかく、外食していたということは……。

166: 2019/05/14(火) 12:30:58.43 ID:gM5+0Wds0

千歌「理亞ちゃん、外出出来るようになったんだね」

理亞「うん。事前の申請と、一人以上監視役の人間が傍に居ないとだめだけど……」

ルビィ「だから、ご飯のときはルビィが監視役の名目で一緒に食べてるんだよね」

理亞「うん」


そう言って親しげに頷きあう二人。どうやら、一緒に過ごす間に随分と仲良くなったようだった。


理亞「……とりあえず、タオル貰ってきたから、ねえさまの身体拭いてあげたい」

千歌「あ、うん。私はここでおいとまするね」

ルビィ「それじゃ、ルビィも……理亞ちゃん、また夜ご飯のときに来るね」

理亞「起きてたらでいいから。ありがと」


私は、ルビィちゃんと一緒に病室を後にした。





    *    *    *





千歌「──それじゃ、ルビィちゃんもそろそろ退院出来そうなんだね」

ルビィ「うん。やっぱり何度検査しても身体そのものに異常はないみたいだから……。最近は眠ってる時間も少しずつ短くなってるし。ただ、一度眠ると次が気付いたときに思った以上に時間が経ってるのは未だになれないかも……」

千歌「そっか。退院したら……また旅に出るの?」

ルビィ「……うぅん、当分はウチウラシティの方のお家で、お姉ちゃんのお手伝いをしようかなって……。旅してる間に長時間眠っちゃうのも困るし、お姉ちゃんも心配だろうから……」


確かに、旅の間は自由なときに眠れるわけじゃないし……それがいいのかもしれない。


ルビィ「あと……家に帰ってやりたいことがあるから」

千歌「やりたいこと?」

ルビィ「うん。ルビィね、正式にクロサワの巫女としてのお役目を継ごうと思ってるの」

千歌「巫女……それって……」

ルビィ「女王様と人の間に立って、両者の世界の中継ぎになる人……確かに血は濃く受け継いでたけど、正式にお役目を引き受けるかはずっと保留にしてたんだ。だけど、旅を通じて……改めて、これはルビィがやるべきことだと思ったから」

千歌「ルビィちゃん……」

ルビィ「だから、ルビィの冒険はここでおしまい。次の目標に向かってがんばルビィしないといけないから」

千歌「そっか」


ルビィちゃんはルビィちゃんで、旅の中で自分のやりたいことを見つけることが出来たのかもしれない。


ルビィ「千歌ちゃん」

千歌「ん?」

ルビィ「改めて……一緒に戦ってくれて、ありがとう」


ルビィちゃんはお礼と共に頭を下げる。


千歌「うぅん、私こそありがとう。ルビィちゃん、ホントに強くなっててビックリしたよ」

ルビィ「えへへ……でも、理亞ちゃんに負けないようにもっと強くならなきゃいけないから」


ルビィちゃんはそう言ってはにかむ。理亞ちゃんと言う良いライバルに出会うことが出来て、良い影響を受けたのかもしれない。旅立つ前の引っ込み思案が嘘みたいに、今は自信に満ち溢れているようだった。

167: 2019/05/14(火) 12:32:20.56 ID:gM5+0Wds0

ルビィ「あ、そうだ」

千歌「?」


突然何かを思い出したかのようにルビィちゃんが声をあげる。


ルビィ「善子ちゃんから千歌ちゃんに伝言があったんだ」

千歌「伝言?」

ルビィ「『水晶の湖に来い』って言ってた」

千歌「……それだけ?」

ルビィ「うん。会ったら伝えておいてって」

千歌「水晶の湖って……」

 「クリスタルレイクのことロトー」

千歌「うわぁっ!? ろ、ロトム!?」


急にロトムがルビィちゃんの背後から飛び出してくる。


千歌「あ、あれ……? 善子ちゃんと一緒に行ったんじゃ……」

ルビィ「大事な用事があるって、言ってたから……ルビィがロトムを一旦預かってるんだよ」

千歌「そうなんだ……」


でもロトムを置いていったってことは、捕獲とかじゃないんだよね……なんだろ?


千歌「……まあ、いいや。クリスタルレイクってここからすぐ近くの丘の上にあるおっきな湖だよね」

 「そうロトー」

千歌「行ってみれば、わかるよね。出てきて、ムクホーク」
 「ピィィ」

千歌「じゃ、クリスタルレイクに行ってみるね。ありがと、ルビィちゃん」

ルビィ「うん、またね! 千歌ちゃん!」


──手を振るルビィちゃんを尻目に、私はムクホークに乗って、クリスタルレイクへと飛び立ったのだった。





    *    *    *





──クリスタルレイク。

気付けば夕日が差し込む時間。

辺りに夕闇が迫ってくる。

辿り着いてから既に何時間か、善子ちゃんを探しているんだけど……。


千歌「善子ちゃん……どこだろう」


まるで見当たらない。

そろそろ西から差し込んでいる太陽が、山々の影に隠れようとしていた。

大きなオレンジ色の炎が、ゆっくりと大地に沈んでいく。

その光で辺りは燃えるように橙色に色づいていた。

168: 2019/05/14(火) 12:33:42.01 ID:gM5+0Wds0

千歌「綺麗……」


善子ちゃんは見当たらないけど、この景色を見に来たというだけでも、一旦クリスタルレイクに訪れたのはよかったかもしれない。

そんなことを考えていたら──

──すんすんと、


千歌「? ……人の、声?」


女の人がすすり泣くような声が背後から聞こえてくる。

辺りを見回していると、今度は、


 「キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

千歌「!!」


それは泣き叫ぶ声に変わる。


千歌「これって……」


私はこの声に心当たりがあった。

次の瞬間、突然──髪の毛を何かに引っ張られる。


千歌「わったた……」


少し後ろによろけたけど……私は自分の頭の後ろに手を回して、ソレを掴んで、自分の前に持ってくる。


千歌「──久しぶり、ムウマージ」

 「ムマァーージ♪」


そこに居たのはムウマージだった。

そして、それを見計らったかのように、空から声が降って来る。


 「──よくぞ見破ったわね!! とうっ!!」


声と共に、人影が飛び降りてくる。


 「シュタッ!!」


もう誰かなんて考えるまでもなかった。


千歌「善子ちゃん!」

善子「善子じゃないわよ!! ヨハネだって言ってんでしょ!?」


善子ちゃんは今日も絶好調のようだ。


善子「それよりも……よくぞ † 幽寂たる宵闇の魔女 † を察知したわね……さすが、リトルデーモン千歌……」


……一瞬なんの話かと思ったけど、たぶんムウマージのことだと思う。


千歌「そういえば、善子ちゃんと初めて出会ったときも、こんな感じの小高いところだったね」


あのときは見晴らしのいい流星山の頂上から、そして今度はクリスタルレイクのあるこの丘で。

169: 2019/05/14(火) 12:35:57.00 ID:gM5+0Wds0

善子「……そうね。思えば、遠くまで来たもんね、お互い」

千歌「そうだね」


各地のジムを回って、山を越え、森を抜け、大地を駆けて、海を乗り越え、空を飛び……ここまで来た。

自分の旅を思い返しながら、


千歌「それで用事って?」


訊ねる。


善子「くっくっく……よくぞ聞いてくれたわ」


善子ちゃんは、近くを旋回していたドンカラスとムウマージをボールに戻し。

そのまま、一個のモンスターボールを手に持ったまま、私に突きつけてくる。


善子「千歌……バトルしましょう」

千歌「……!」

善子「流星山では結局、途中でうやむやになっちゃったけど、決着ついてないし。もちろん、断ったりしないわよね?」

千歌「うん! トレーナー同士、目が逢ったらバトルするのが礼儀だもんね!」


私も善子ちゃん同様に、ボールを構えた手を前に突き出す。


善子「……お互い手加減なし。ホンキの勝負をしましょう」

千歌「うん、望むところだよ」


お互い突き出したボールがぶつかり──コツンと音が鳴る。

そしてボールを持ったまま、お互いの腕を曲げて交差させる。

内向きになったボールのすぐ向こうに善子ちゃんの顔が見える。

インチキなしのホンキの決闘。この状態からボールを落として、ポケモンが飛び出した瞬間が真剣勝負の開始の合図だ。


善子「……さぁ、サバトを始めましょう……私と同じように † 叡智の端末を扱いし者 † よ……!」


二人同時にボールから手を放し──交差させた腕を解いた。

──バトル……スタート!!





    *    *    *



170: 2019/05/14(火) 12:37:03.60 ID:gM5+0Wds0


──二つのボールが地面に着くと同時に開く。


善子「行くわよ!! † 激流の水蛙-スイア- † ゲッコウガ!!」
 「ゲコガァッ!!!!!」

千歌「バクフーン!!」
 「バクフーーッ!!!!!!」


飛び出したのはバクフーンとゲッコウガ。


善子「千歌なら最初はバクフーンで来ると思ってたわ!! “つじぎり”!!」
 「ゲコガァッ!!!!!」


ゲッコウガが水で作ったクナイを振るってくる。

バクフーンはそこに向かって拳を突き出す。


千歌「“かみなりパンチ”!!」
 「バクフーーーッ!!!!!!!」

 「ゲコガァッ!!!?」


クナイを通じて、バクフーンの拳から流れ出す電流がゲッコウガを襲う。

──と、思ったら、

ゲッコウガは──ボンと音と白煙を立て、気付けばバクフーンが殴ってるのは、可愛らしい人形のようなものに摩り替わっている。


千歌「っ!? “みがわり”!?」
 「バクフッ!!!?」

善子「そんな単調に行くわけないでしょ!! “ハイドロポンプ”!!」

 「ゲコガァッ!!!!!!」


上から鳴き声、と同時に“ハイドロポンプ”が降って来る。

──回避、ダメだ、間に合わない……!!

咄嗟に真上を指差し、


千歌「“かえんほうしゃ”!!」
 「バクフーーーンッ!!!!!!!!」


“かえんほうしゃ”が“ハイドロポンプ”と真っ向からぶつかり合う。

……だけど、炎と水。すぐに“ハイドロポンプ”の勢力が上回り、どんどんバクフーンに迫る。


千歌「フローゼル!!」
 「ゼルルッ!!!!!」


フローゼルを繰り出し、バクフーンの足元に。

フローゼルもバクフーン同様上を向き、


千歌「“ハイドロポンプ”!!!」
 「ゼルルッ!!!!!」


“ハイドロポンプ”で応戦する。


千歌「バクフーンは戻って!!」


そして、役割をフローゼルにタッチしたところで、バクフーンは一旦控えに戻す。


 「ゼルルルルルッ!!!!!!!!」

171: 2019/05/14(火) 12:37:54.00 ID:gM5+0Wds0

次第に上から落ちてくる水が、押し上げられていく。


千歌「よし、押してる!! いけっ!!」
 「ゼルゥゥゥゥ!!!!!!!!」


そのまま、フローゼルの攻撃は降って来る水を完全に押しのけ──空を切った。


 「ゼルッ!!?」
千歌「!? ま、また消えた……!!」


またしても、ゲッコウガは身を隠してしまった。……というか──


千歌「善子ちゃんも消えた……!?」


慌てて周囲を見回す。

するとすぐ近くの湖の水面に──ポコポコと泡が立っている。


千歌「水の中!? フローゼル!!」
 「ゼルッ!!!!!」


水の中に逃げ込んだ善子ちゃんを追って、飛び出したフローゼル──その背後から、青白い炎が一閃して、フローゼルを吹き飛ばした。


 「ゼルゥッ!!!?」

千歌「……!?」


水の中の泡はブラフだ。

すぐさま気付いて、攻撃を仕掛けてきたであろう、シャンデラのいる方に振り返る──


 「──ムバァァアァァァァァ!!!!!!!」

千歌「わあぁぁっ!!!?」


──私のすぐ後ろには気付けば、ムウマージ。

目の前で“おどろかす”をされて、思わず足が縺れる。


善子「──ドンカラス!!」


善子ちゃんの声が──上から聞こえて来た。


千歌「!!?!?」

善子「“ふきとばし”!!!」
 「カァァァーーーー!!!!!!」


上を見上げると、脚に善子ちゃんをぶら下げたまま、ドンカラスが強風を叩き付けてくる。

ただでさえ脚が縺れていた私はそのまま、背後の湖へとお尻から飛び込む形で──


 「──ヒョォォ」

千歌「……っ!!」


これまた、聞き覚えのある鳴き声が背後からしてきて、

私の身体の一部が着水すると同時に、

──ピシリと、湖底の表面が氷漬けになる。

172: 2019/05/14(火) 12:39:16.27 ID:gM5+0Wds0

千歌「ユキメノコ……!!」

善子「……私の方が読みは上手みたいね!!」

千歌「フローゼル!!!」

 「ゼルル!!!!」


先ほど吹っ飛ばされて、水中に飛び込んでいたフローゼルが、湖に張った氷の下を泳ぎながら、私の方に向かってくる。


善子「フローゼルのパワーですぐに壊せるかしらね!? ムウマージ!! “シャドーボール”!!」
 「ムーーマァーーージ!!!!!!!!!」


迫る“シャドーボール”。


千歌「壊せるよ!! やるのはフローゼルじゃないけど!!」
 「ゼルッ!!!」

善子「……!?」


凍ってるのは湖の表面10cmくらいだけ、

なら、下半身のほとんどは水の中だ、


 「ゼルッ!!!」


フローゼルが水中で私の腰についているボールの開閉スイッチを押し込む。


千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!!!!」


ルガルガンが回転し、氷を掘削しながら、飛び出す。

自分の身体をホールドしていた氷が砕け、自由になったと同時に、私は氷の上を転がり、

そこに出来た穴から頭を出したフローゼルへの指示、


千歌「“ねっとう”!!」

 「ゼルルーーー!!!!!!」


フローゼルが口から噴き出した“ねっとう”が“シャドーボール”と衝突し蒸気が周囲を覆う。


千歌「……っ」


すぐに体勢を立て直して、上空の蒸気の先に居る善子ちゃんへと、視線を移す。


善子「上ばっか見てると、足元すくわれるわよ?」

 「──ゼルゥッ!!!!?」

千歌「……!?」


水上に顔を出していた、フローゼルが急に真上に吹き飛ばされる。

慌てて、視線を戻すと、波がうねる様にしてフローゼルを追い出していた。


千歌「“なみのり”!?」


波を発生させる攻撃──やっぱり、ゲッコウガは水の中に潜ってたんだ……!!

173: 2019/05/14(火) 12:40:23.62 ID:gM5+0Wds0

善子「──今度は下ばっか見て、田舎者丸出しね」

 「ギャゥッ!!!?」

千歌「……っ!!」


今度は上から、シャンデラの炎がルガルガンに直撃する。

──不味い、翻弄されてる……!!


善子「早くもチェックかしらね……!!」


……善子ちゃんの言動に惑わされるな。

相手はこっちを翻弄するために、わざと声を掛けて視線を誘導してる。

なら……。


千歌「ルカリオ!!」
 「グゥォッ!!!!!」


ルカリオを繰り出し、私は──


千歌「……すぅ………………────はぁ……」


一旦、目を閉じて深呼吸。


善子「……っ!! 敵の目の前で目を瞑るって……舐めてるのっ!?」


集中しろ、感覚を研ぎ澄ませ、音をよく聴け──。

──ゴォォ。これは火炎の迫る音だ。

目を開くと同時に指差す。


千歌「そこ」
 「グゥォッ!!!!!!」


ルカリオが“しんくうは”を発生させて、シャンデラの炎を掻き消す。


善子「はぁ!?」


──まだ、気を抜くな。

全身の神経を集中しろ。

足元、氷の下から、僅かに振動を感じる。


千歌「そこの氷の下っ!! ルカリオ、“はっけい”!!」
 「グゥァッ!!!!!!!」


ルカリオが近くの氷の床に両手を付いて、水中に向かって衝撃を発生させる。

──数秒置いて、

──バキリッ、と音を立てて氷が割れる。


 「グゥォッ!!!!」


私はルカリオに抱えられたまま、割れた部分から、逃げるように離脱する。

そして、その直後、


 「ゲコ……ガ……」

174: 2019/05/14(火) 12:41:16.62 ID:gM5+0Wds0

割れた氷の穴からゲッコウガが戦闘不能になって、浮かんでくる。


千歌「やった……!!」


氷の上から貫通する波導攻撃が成功したようだった。


善子「シャンデラ!! “れんごく”!! ユキメノコ!! “れいとうビーム”」

 「シャンデラァーーーーッ」 「──ヒョォォォ!!!!!」

千歌「……!!」


どうやら、休んでる暇はない。


千歌「バクフーン!!」
 「バクフッ!!!!!」


再びバクフーンを繰り出し、


千歌「“かえんほうしゃ”!! フローゼル!! “うずしお”!!」
 「バクフーッ!!!!!」 「ゼルルルッ!!!!!!」


バクフーンは後方のユキメノコへ、体勢を立て直したフローゼルは先ほどルカリオが割り砕いた穴から水を巻き上げて、“れんごく”に応戦する。


千歌「大丈夫!! この状況なら、打ち合える!!」


氷に炎、炎に水。

最初とは打って変わって有利な打ち合いに持ち込めた……!!

と思った瞬間──


 「────–ਊ‡å—å̷̶̷̧̢̛̖̺͈̖̫̗̘̙̤̙̆̊̌̉̊̈͝͡æ̬̬̩͈̜̓̓̅̊͡カ̧̛̩̹̫̺̩̓ͣ̕͡ァ̨̞̼̗̤̽̂̄Œ–ã '」

千歌「っ゛!!?」


突然、身の毛もよだつような、歌声が響いてきて、耳を塞ぐ。


千歌「な、に゛……この、う゛た……っ!?」


顔をあげると、ムウマージが楽しげに歌っている姿。


善子「仲良く滅びましょう」


善子ちゃんも同様に顔を顰めて、耳を塞ぎながら、言葉を投げかけてくる。

……もしかして、


千歌「“ほろびのうた”……っ゛……!?」


場に出ている全てのポケモンを数刻後に戦闘不能にする、道連れ技だ。


千歌「み、みんな!! 一旦ボールに……!!」

善子「させるか!! “くろいまなざし”!! “とうせんぼう”!! “ほのおのうず”!!」
  「────」「──ヒョォォオ!!!!!」 「シャンディィィィ!!!!!!!」

 「ワォンッ!!!?」 「ゼルッ!!!!」 「バクフーンッ!!!!!!」

175: 2019/05/14(火) 12:48:17.91 ID:gM5+0Wds0

それぞれ、上空のドンカラスの“くろいまなざし”がルガルガンに、フローゼルにはユキメノコが抱きつくような形で動きを止める。バクフーンは周囲に炎が渦巻き、動きを制限される。

──全て交代を封じる技だ。


千歌「ルカリオだけでも、戻って!!」
 「グゥォ──」


不幸中の幸いか、私のすぐ傍に居たルカリオだけは、私自身が敵からの影になって、拘束技を受けずに済んだようだ。


善子「……っち、一匹逃がしたか」


善子ちゃんがそう言いながら、私の居る氷の上に飛び降りてくる。恐らくドンカラスが数刻後に戦闘不能になるからだろう。

その間も不気味な歌は響き続けているし、その行動は即ち、止める気がないということだ。


千歌「唄を止めればいいんでしょ……!! ムクホーク!!」
 「ピィィィ!!!!!!!」


ボールから飛び出したムクホークが、ムウマージに向かって一直線に突っ込む。


千歌「“ブレイブバード”!!!」
 「ピィィィィィ!!!!!!!!!!」


唄に夢中なムウマージは猛進するムクバードの攻撃を避けることは出来ない……!!


善子「……読み通り」

千歌「!?」


善子ちゃんがニヤっと笑った。

そして、ムウマージを見て、ゾッとする。

ムウマージは全身に黒い闇のようなものを背負っている状態で、攻撃を待ち構えている。それだけじゃない、ムウマージが──


千歌「──唄って、ない……!?」


でも、尚も不気味な唄は響いている。


 「ピィィィィィ!!!!!!!!!」


ムクバードの一撃がムウマージを捉える。

──と同時に、


 「ムマァ……」
 「ピッ……ッ!!!!!」


ムウマージの闇がムクホークを巻き込むようにして拡がり、二匹は同時に地に落ちた。


千歌「え、あ……え、え……!?」


倒したのはこっちのはずだった。なのにムクホークもダウンし、しかも唄ってたはずのムウマージを倒しても“ほろびのうた”が止まらない……。

…………?


千歌「──あ、ちが……!? “くろいまなざし”、標的!? え、バクフーン!?」


仕掛けはわかったが、突然のことに頭が追いつかず、完全にてんぱってしまう。

咄嗟に目線を配ったバクフーンは“ほのおのうず”を食らっている。

176: 2019/05/14(火) 12:51:03.03 ID:gM5+0Wds0

千歌「ち、ちがっ──」

善子「残念、“くろいまなざし”を受けたのは……ルガルガンよ」

千歌「……ぁ」

 「ワゥ……」


ルガルガンが膝を折る。──時間だった。


善子「なんだかんだで気付いたのはさすが。でも、タッチの差だったわね」

 「バクフ……」 「ゼルゥ……ッ」

 「──ヒョォォ……」 「シャンディィ……」


そして、バクフーン、フローゼル。善子ちゃんのユキメノコ、シャンデラも倒れ。


 「カァカァ……ッ」


戦闘不能になったドンカラスも落ちてくる。

その際、ドンカラスは一瞬、私の方を見て、してやったりという顔をしていた。


千歌「……“ほろびのうた”を唄ってたのは……ムウマージじゃなかった。あれは……私を欺くための、口パク」

善子「ふふ、正解。本当に“ほろびのうた”を唄ってたのは、ドンカラスよ」


“くろいまなざし”も私が勝手に動けるドンカラスが使ったんだと思い込んでた……本当はムウマージが使っていたんだ。


善子「“くろいまなざし”のキャッチは使ってるポケモンが戦闘不能になったら、効果が切れちゃうから……もっと判断が早ければルガルガンは助かったかもしれないわね」

千歌「……っ」

善子「でも、わざわざムウマージをムクホークで狙ってくれたのは僥倖だったわ。“みちずれ”で更にもう一匹戦闘不能に出来た。……って言っても、他のポケモンたちは満足に身動きがとれなかったものね」

千歌「…………」


落ち着け……。善子ちゃんは元々トリックプレイを得意としている。

それはここまで一緒に戦ってきた中でも、ずっと見てきたことだ。

私を動揺させるために、わざわざ私のプレイミスを解説してるんだ。

実際、私は完全に善子ちゃんの発言に惑わされて、4匹を相討ちに持ち込まれた。

真っ向から、戦ってたら、また何を仕掛けられるか……。


善子「アブソル」
 「ソル…」


善子ちゃんは最後の手持ち──アブソルを繰り出す。


善子「千歌、ルカリオを出しなさい。最後はお互い、エースでぶつかり合いましょう」

千歌「…………」


どう考えても、この挑発には乗るべきじゃない。


千歌「行くよ、しいたけ!」
 「ワッフッ!!!!」

善子「……フラレちゃったわね。まあ、いいわ。……アブソル、メガシンカ!!」
 「ソルッ!!!!」


善子ちゃんのメガロザリオが光り輝き、呼応するようにアブソルが光に包まれる。

177: 2019/05/14(火) 12:52:19.91 ID:gM5+0Wds0

千歌「しいたけ!! “ずつき”!!」
 「ワフッ!!!!」


メガシンカの一瞬の隙に倒しきるしかない……!!

私の指示でしいたけが飛び出して、アブソルに“ずつき”をかます。


 「ワフッ!!!!」


頭を前に突き出しての突撃。

──ガスッ

鈍い音、


千歌「ヒットした……!! 畳み掛けて、しいた──」

善子「“カウンター”!!」
 「ソォルッ!!!!」

千歌「!?」


アブソルは“ずつき”の衝撃の反動を利用して身を捻りながら、尻尾を叩き付けてくる。

綺麗な“カウンター”だった。


 「ワォッ!!!!!!?」


自分の攻撃を倍返しにされて、後ずさる。


千歌「い、いったん引いて……!!」

善子「“ダメおし”!!」
 「ソルッ!!!!」

千歌「……っ」


だが、善子ちゃんは逃げることを許さない。アブソルが追撃しに前に出てくる。

なら……!


千歌「ガード!! “まもる”!!」
 「ワフッ!!!」


しいたけは“ファーコート”で攻撃を受け止める姿勢を取る。

守りに徹した防御なら、確実にこっちに軍杯が挙がる。


 「ソォル!!!!」


アブソルの追撃の“ずつき”が──しいたけのすぐ目の前を空振る。


千歌「へ……?」


思わず間抜けな声が出た──が、

この攻撃はそもそも“ずつき”じゃなかった。


 「ギャゥッ!!?」

千歌「……!?」


アブソルの、頭が空振り──追いついてくるように振りかぶられた頭の刃がしいたけを一閃する。

──これは“フェイント”だ。

178: 2019/05/14(火) 12:53:34.99 ID:gM5+0Wds0

善子「“まもる”対策くらいしてるわよ」

千歌「っ……!! しいたけ!!」


やっぱり、前に出るしか……!!


千歌「“かみつ──」

善子「“ふいうち”!!」
 「ソルッ!!!!!」

 「ワォンッ!!!!」
千歌「!!」


“かみつく”より前に決まる先制技、“ふいうち”。


千歌「ぐ……!! “つぶらなひとみ”!!」
 「クゥーン…」


なら、攻撃力を下げる先制補助技……!!


 「ワ、ワッフッ」


なのに、何故か逆にしいたけが怯まされる。


千歌「な!? なんで!?」

善子「メガアブソルの特性は“マジックミラー”よ。補助技は全て反射される」

千歌「っ……“コットンガード”!!」


苦し紛れの防御択。でも、時間稼ぎくらいには──


 「ワ、ワォ」


だが技が出ない。


千歌「!!?」

善子「“ちょうはつ”よ」

千歌「ぅ……」


また読まれてる。変化技を封じられた。

なら、防ぎようのない技で……!!


千歌「“ハイパーボ──」

善子「“さきどり”!!」
 「ソォォォォォォルッ!!!!!!!!」

千歌「うわっ!!!?」
 「ワォッ!!!!!」


私としいたけは“さきどり”で奪われた、“ハイパーボイス”の音圧で後ろに吹き飛ばされる。


千歌「くっそ……“とんぼがえり”!!」
 「ワゥッ!!!!」


しいたけじゃ、善子ちゃんのアブソルには対抗しきれない。

ここは一旦戻すしかない……。

しいたけは飛び掛かりはしたものの、

179: 2019/05/14(火) 12:55:08.34 ID:gM5+0Wds0

 「ソルッ!!!!」


完全にペースを掴まれている今、アブソルには完全に攻撃を見切られていた。

爪を立てて、飛び掛かるしいたけを、アブソルは頭の刃で弾き返す。


 「ワフッ」


その反動でしいたけがボールに戻ってきて、吸い込まれ──ようとしたところに、


 「…ソル」

 「ワ、ワゥ…」


気付けば、アブソルの攻撃が突き刺さっていた。


千歌「……う、うそ……」

善子「“おいうち”。ボールに戻る相手を確実にしとめる技よ」

 「ワゥ……」


ボールに戻ることも許されずしいたけは崩れ落ちる。


千歌「っ……」

善子「さ、ルカリオを出しなさい」


善子ちゃんの言う通りにしたら、また足元を掬われる……だけど、


善子「出さないの? 降参?」

千歌「ル、ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!!」


もう手持ちはルカリオのみ。出すしかない。


千歌「メガシンカ!!」
 「グゥォッ!!!!!」


ボールから出すと共に、私のメガバレッタの光と反応して、ルカリオがメガルカリオへと姿を変える。

……だけど、


千歌「……っ」

善子「……攻撃してこないの?」


──動けない。

ことごとく全ての攻撃を読まれて、反撃された経験が刷り込まれてしまっている。

考えても考えても、アブソルを倒せるビジョンが想像出来ない。


善子「……勝負あったわね」

千歌「……なっ」

善子「ルカリオ、どんどんオーラが小さくなっててるわよ」

千歌「……!」


言われてルカリオを見ると、ルカリオの周囲の波導のオーラがどんどん弱くなっていく。

180: 2019/05/14(火) 12:56:16.71 ID:gM5+0Wds0

千歌「ル、ルカリオ、しっかりして──」

善子「──ルカリオは」


善子ちゃんが口を挟んでくる。


善子「トレーナーの戦意に呼応して、波導を増すんでしょ?」

千歌「……っ!!」


……つまり、


善子「ルカリオのせいじゃなくて……千歌、あんたが諦めてるだけよ」

千歌「……ぅ……」


図星だった。

いや、これも全て善子ちゃんの術中なのかもしれない。

どうにか考えろ、何か方法があるはずだ、何か……。

──でも、何を考えても、倒す術が思いつかない。


善子「……アブソル」
 「ソルッ」


アブソルの周囲に空気の渦が発生する。最大の攻撃の予兆。

避ける……? 無理だ、何度も見た技だけど、とてもじゃないけど、この距離で避けきれるスピードじゃない。


千歌「……一点読みきって、相頃するしかない……っ」
 「グゥォッ!!!!」


ルカリオが構える。

已然オーラは弱々しい。

でもやるしかない。


善子「……チェックメイトね。──“かまいたち”!!」
 「ソォォルッ!!!!!!」


アブソルが頭の刃を振るう。

巨大な空気の刃が飛んでくる。

── 一点!! 一点を見極めて──。


千歌「そ、そこ、いやちが……っ」


そこで気が付いた。

もう詰んでたんだと。

こんな気が動転した状態で、必殺の一撃が打てるような集中力を確保出来るはずもなかった。


千歌「……っ……ごめん、ルカリオ……っ」


私はもう……謝るしかなかった──。

巨大な空刃を真っ向から受けてルカリオは倒れて──。

181: 2019/05/14(火) 12:58:26.96 ID:gM5+0Wds0

 「……グゥォッ!!!!!」

千歌「え……」

善子「な……」


──倒れていなかった。


千歌「…………」


これは善子ちゃんも予想外だったようだ。

……いや、私もだった。


 「グゥォッ!!!!!」

千歌「!!」


ルカリオが鳴き声をあげる。

ルカリオはもうボロボロだった。

普段はオーラの力で攻撃を受け流し、どんなに強大な攻撃も私と力を合わせて粉砕してきたが……。

私がオーラを弱めてしまったせいで、いつものような防御も出来ず、鋼鉄の爪も、今の一撃を受けて、折られてしまった。

……でも、


善子「なんで立ってるのよ……!!」


なんで? ……なんでって、


千歌「……そうだよね」
 「グゥォ」

千歌「ずっと一緒に戦ってきて……ルカリオも強くなってきたんだもんね」
 「グゥォ」


例え相手が自分より強大であっても、打ち負けないように、逞しく。


千歌「一緒に戦って、一緒に修行して、一緒に鍛えて、一緒に考えて、一緒に負けて……そして、一緒に勝って来た」
 「グゥォ!!!」


そうだ……ただ、それだけのことだったんだ。


善子「ア、アブソル!! もう一発よ!!」
 「ソルッ」

千歌「ずっと一緒に戦って、経験して……強くなったんだ、技も、体も、心も……!!」
 「グゥォッ!!!!!」


そうだ。

いくら、相手に先読みされて、技が潰されようが、

いくら、相手が強力な技を使ってこようが、


千歌「私たちが積み上げてきた、経験が……なくなるわけじゃない!!」
 「グゥォッ!!!!!!!!!!!」


ルカリオのオーラが一気に膨れ上がる。


善子「っ!?」

千歌「相手がどんなに強くても、自分より頭が良くても、私は──私たちは、自分たちが経験して、身に付けた技を、強さを信じて戦うだけなんだ!!! 自信なんて……それだけあれば十分だッ!!!!!」
 「グゥォッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

182: 2019/05/14(火) 12:59:11.41 ID:gM5+0Wds0

更にオーラが膨れ上がる。


千歌「私たちはいつだって……そうしてきたっ!!!!」
 「グゥォッ!!!!!!!!!!!!!」


ルカリオが構える。

私も──構えた。


善子「っ……!! アブソル!!! “かまいたち”!!!」
 「ソォォォォォルッ!!!!!!!!!!!!!!!」


アブソルから、放たれた巨大な空刃が、迫る。


千歌「負けたら……また勝てるように頑張ればいい。負けたときのことなんて、今考えなくていいよね」
 「グゥォ」


ルカリオが頷く。


千歌「うん」


私も頷いた。


千歌「……波導の力を斬撃に──!!!」


気合いの掛け声と共に、


千歌「──“いあいぎり”!!!!!」
 「──グゥゥォッ!!!!!!!!!!!」


── 一閃した。



183: 2019/05/14(火) 13:01:17.58 ID:gM5+0Wds0


    *    *    *





善子「──……月、綺麗ね」

千歌「……そうだね」


私たちは湖に浮かんだまま仰向けになって、月を眺めていた。

湖に張った氷が、真っ二つに割れ、私たちは辺りに氷の破片が浮かぶ湖を漂っていた。

そして、近くを漂う大人一人が乗れるくらいのやや大きめ氷の上で──


 「ソル……」


倒れているアブソルと、


 「グゥォッ」


未だ立ったままのルカリオが、居た。


善子「土壇場で自信取り戻してるんじゃないわよ……」

千歌「……なんというかさ」

善子「……なによ」

千歌「やっぱり、私たちって一人で戦ってるんじゃないんだなって」

善子「…………」

千歌「私たちがポケモンの目になって、的確に指示して、ポケモンたちを導くみたいにさ。……私たちが自信をなくしちゃったときは、ポケモンたちが大丈夫だよって、信じてくれって、そういう気持ちを伝えて、支えてくれるんだなって」

善子「…………あー、やっぱ千歌には勝てないわ」

千歌「やっと気付いた?」

善子「調子乗んじゃないわよ……さっきまで自信喪失してたくせに」

千歌「ふふ……善子ちゃん」

善子「……なに?」

千歌「ありがと」

善子「……なによ、勝者の余裕?」

千歌「私、ちょっと自信過剰なところあるからさ……このバトルで、なんかちょっと反省出来た気がする」

善子「……はぁー、もー……勘弁してよ……ここで反省とか、どこまで強くなる気なのよ……」

千歌「……どこまでも、かな。仲間と一緒に、どこまでも強くなるよ」

善子「……そっか」

千歌「うん」


──ちゃぷ。善子ちゃんの方から水音。

184: 2019/05/14(火) 13:01:59.76 ID:gM5+0Wds0

善子「……千歌」


気付けば、善子ちゃんが近くまで泳いできていた。


千歌「んー……?」


そして、手を繋いでくる。

二人して、並んで月を見上げる。


善子「……一回しか言わないからね」


善子ちゃんは照れくさそうな声で、


善子「……私と出会って、旅して、戦ってくれて……ありがと。……本当に楽しかった」


そう言った。


善子「なんか負けたのに清々しい気持ちだわ……」

千歌「えへへ……うん。私も最高に楽しいバトルだったよ」

善子「そ……」


私たちは二人でぼんやりと、仰向けに湖に浮かびながら、空を仰ぐ。

満点の星空と、綺麗な月を眺め、光り輝く湖に浮かびながら。


千歌「月……綺麗だね」

善子「……ホントにね」


ただ、ぼんやり……。戦いの余韻に浸りながら、夜空を、眺めているのだった。



185: 2019/05/14(火) 13:02:52.91 ID:gM5+0Wds0


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クリスタルレイク】
no title

 主人公 千歌
 手持ち バクフーン♂ Lv.56  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
      トリミアン♀ Lv.51 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
      ムクホーク♂ Lv.56 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
      ルガルガン♂ Lv.53 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ルカリオ♂ Lv.61 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
      フローゼル♀ Lv.52 特性:すいすい 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:15匹

 主人公 善子
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.53 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
      ドンカラス♀ Lv.57 特性:じしんかじょう 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
      ムウマージ♀ Lv.52 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
      シャンデラ♀ Lv.52 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
      ユキメノコ♀ Lv.50 特性:ゆきがくれ 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい
      アブソル♂ Lv.61 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:178匹 捕まえた数:88匹


 千歌と 善子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.




186: 2019/05/14(火) 23:58:31.77 ID:gM5+0Wds0

■Chapter080 『開催! フソウうつくしさコンテスト!』 【SIDE You】





ことり「──飛行手段が欲しい?」


ことりさんは私の言葉に首を傾げる。


曜「うん。前々から思ってたんだけど……ずっと誰かに相乗りさせてもらうばっかじゃよくないなって思って」


──グレイブ団事変から、数週間。

やっと地方内も落ち着きを取り戻してきて、明日からフソウタウンにてうつくしさコンテストが再開する。

今はそんなフソウタウンに向かうための荷造りをしている真っ最中だ。


曜「せめて、普段の移動くらい自分で自由に出来た方がいいかなって……」

ことり「……確かにそれはそうだけど……。曜ちゃんの手持ちってもう6匹居るよね? 誰か控えに回すの?」

曜「う……確かに……」


私の手持ちはカメックス、ラプラス、ホエルオー、ダダリン、カイリキー、タマンタで6匹埋まっている。

誰かを控えに回そうにも、自分の中でこの6匹がしっくり来てるため、今更誰かを控えにと言われると少し困ってしまう。


曜「7匹持つとかは~……?」

ことり「……別にダメなわけじゃないけど……ことりはあんまり好きじゃないかなぁ」

曜「……そもそも、なんで持ち歩くポケモンって6匹なの……?」


慣習的に6匹を連れ歩くし、フルバトルと言えば6匹。リーグの公式戦でも6匹から3匹を選んだりと、何かと6匹と言うことにこだわりを感じる。

だけど、何故? と言うことを考えると、なんで6匹なのかはよくわからない。


ことり「んー……理由はいろいろあるんだけど……トレーナーが一度に把握出来る手持ちが大体6匹くらいだからかな」

曜「把握できる……?」

ことり「一度に指示が出来る限界点とか……あとはポケモンのコンディションに回せる気とかね。ボールの中はある程度快適だけど、やっぱり入れたまま連れ歩いてるのに外に出さないままって言うのはポケモンにとってすごいストレスだし……」

曜「言われてみれば……」


──外に出さないままなのはストレス。

そういえば、梨子ちゃんと戦ったときも、それがことりさんが難色を示してた原因の一つだったんだっけ……。


ことり「あとは、そうだね……やっぱりあんまり多く連れ歩くと、愛情を注ぎきれなくなっちゃうことが大きいと思うかな。ポケモンは道具じゃない。仲間だったり、友達だったり、家族だから……人それぞれではあるけど、利便の為に手持ちを決めるのはあんまり褒められたことじゃないかな」

曜「……まあ、そうだよね」


そうなると……やはり、誰かを控えに送るしかない。


曜「……むむむむ……」

ことり「……あ、そうだ!」

曜「?」


ことりさんは何かを思い出したかのように手を打って、部屋の中の棚を探り出す。


ことり「……えっと……確かここにあった気が……」

曜「……?」

ことり「……あ、あった!」

187: 2019/05/15(水) 00:00:12.21 ID:YHpk3Rh50

そう言ってことりさんが取り出したものは──


曜「……笛?」


ことりさんが手に持っていたものは、少し不思議な形をした笛だった。


ことり「うん♪」





    *    *    *





──セキレイタウン東。9番道路。


ことり「それじゃ、教えた通りに吹いてみて」

曜「う、うん!」


私はことりさんから貰った笛に口を付けて──吹く。


──ミャーー。ミャーーー。


笛の音に似つかわしくない気の抜ける音が鳴る。

……が、しばらくすると、


 「ミャーー、ミャーー」「ミャーーー」「ミャーーー」

曜「……! 来た!」


キャモメたちの大群がその音を聞きつけて飛んで来る。


ことり「キャモメさんたち、こんにちは」

 「ミャーー」「ミャーーー」


キャモメたちは私たちの頭や肩に次々と留まって来る。

その際、ポケットから鳥ポケモン用の餌を取り出して、食べさせてあげる。


 「ミャーー」「ミャーーー」

曜「ちょっと……お手伝いしてもらってもいいかな?」
 「ミャーーー」「ミャーーーー」


キャモメたちが鳴きながら頭を縦に振る。


曜「それじゃ……ちょっとごめんね」


私はそういいながら、キャモメたちの脚に丈夫な紐を括り付ける。

その紐の逆端には、ハンモックのような構造で布で出来た腰をかけるスペースが作られている。


曜「……よっし。それじゃ……」

188: 2019/05/15(水) 00:01:40.24 ID:YHpk3Rh50

私は再び、笛に口を付ける。

──ミャァーー。ミャァーーー。

気の抜ける音と共に……。

キャモメたちが空を飛び──身体が宙に浮き始める。


曜「わっ! ほ、ホントに飛んでる……!!」

ことり「えへへ、うまくいったね♪」

曜「うん!」


──ことりさんから渡されたものは、鳥笛だった。

鳥ポケモンの鳴き声を模した音が鳴り、鳥ポケモンとのコミュケーションが出来るというものだ。

今回ことりさんから貰ったのはキャモメの鳥笛。

野生のキャモメたちを集めて、餌をあげる。その代わりに運んでもらおうと言う話だった。


ことり「キャモメなら、地方中だいたいどこにでもいるし……餌はわたしが調合した特製のもの。あとで作り方教えるね」

曜「うん!」


あとは鳥笛を吹きながら、うまく指示を出して運んでもらう。

それなりに高度を増してくると、後ろからことりさんがいつものようにチルタリスと一緒に飛行して追いかけてくる。


ことり「これなら、手持ちの枠を圧迫せずに“そらをとぶ”が使えるね」

曜「うん! ことりさん、ありがとう!」

ことり「ふふ、どういたしまして♪」


一部地域では、このようにポケモンを呼び出して移動の手助けをしてもらう、ポケモンライドと言う文化があるらしい。

これはそれに近いことのようだ。

何はともあれ……これで、私も普段の移動に限り、自分だけで飛行する手段を得ることが出来た。


曜「よーーっし!! キャモメたち、全速前進!! ヨーソロー!!」
 「ミャーーー」「ミャーーー」「ミャァー」


私たちは、空を飛びながら、フソウタウンへ向かいます。





    *    *    *





──フソウタウン。

旅立ちの後、初めて訪れたこの町は、もはやなんだか懐かしいとさえ感じる。

私のコンテストの始まりの場所だ。


ことり「わたしが曜ちゃんと出会ったのも、この町だったね」

曜「うん。……なんかもうすごい前のことみたい」

189: 2019/05/15(水) 00:03:44.79 ID:YHpk3Rh50

ことりさんと会話を交わしながら、会場に足を踏み入れる。

初めて来たとき、このエントランスであんじゅさんと偶然出会って。

会場の中で志満姉と遭遇して、絵里さんのパフォーマンスに魅了されて。

そして、ことりさんと出会ったんだ。

フソウでのビギナー大会から、コメコたくましさ大会、ダリアかしこさ大会、サニーかっこよさ大会、セキレイかわいさ大会を制覇して、


曜「……いよいよ、最後の部門だ」


ここ、フソウ会場に帰ってきた。フソウうつくしさ大会。

そして、今日この場で、私は乗り越えなくちゃいけない。

始まりのきっかけになった、壁を──。

受付に向かうと、そこには人だかりが出来ていた。

その中央に居るのは──金髪で長身の美女。


ことり「絵里ちゃん」

絵里「? あら、ことり。久しぶりね」


コンテストのスターが二人も同時に現われ、オーディエンスたちが少々ざわつく。


絵里「今日はどうしたの? あなたはもうグランドフェスティバル内定でしょ?」

ことり「うん。今日は私のお弟子さんの応援だよ」

絵里「弟子……?」


絵里さんはそう言って視線を揺らす。

すぐに、ことりさんの近くに居た私の姿を認めたようで、


絵里「あなた……もしかして、飛空挺に乗り込んでいた図鑑所有者の子?」

曜「! は、はい! 曜であります!」


思わず緊張して、背筋が伸びる。


絵里「曜さん……。そう、あなたが……。亜里沙から話を聞いたわ。妹がお世話になったみたいね」

曜「お、お世話なんてそんな……」

絵里「でも、私は亜里沙のようにはいかないからね」

曜「!」


……絵里さんは憧れの人だ。

だけど、同時に──今日はライバルなんだ。


絵里「あなた、ここまで4部門をストレートで制覇してきたと聞いてるわ。さすがことりの弟子……と言ったところだけど」

曜「……私は」

絵里「?」

曜「私はグランドフェスティバルに出場します。最後の一枠に入るのは、私です」


私は何故だか、そう口にしていた。


ことり「……!」


そんな私を見て、ことりさんが驚いたように目を見開く。

190: 2019/05/15(水) 00:05:58.75 ID:YHpk3Rh50

絵里「……宣戦布告ってことね。まあ、私もこれから5回は連続で優勝しないといけないから──」

曜「今日勝ちます」

絵里「……! ……嫌いじゃないわ。そういう姿勢」


絵里さんはそう言って手を差し出してくる。


絵里「お互い、良いコンテストライブにしましょう」

曜「はい!」


私も答えるように、手を握り握手を交わす。

氷のように冷たい絵里さんの手だけど、籠められた力から熱意や闘志を感じた。


絵里「……それじゃ、私は先に楽屋に行ってるから」


そう言って絵里さんは受付の先に消えていった。

絵里さんがいなくなった会場内。

私の宣戦布告に周りの人たちがざわついていたが……。

しばらく固まったままだった私を見て、徐々にその場を離れて行く。

一方、私は──


曜「…………やってしまった……」


頭を抱えていた。

つい勢いで宣戦布告してしまった。

グランドフェスティバルに出場するのは自分だ。今日勝ちますって……。

失礼にも程があるでしょ……。


ことり「曜ちゃん」

曜「ぅ……ことりさん」

ことり「頭抱えてる場合じゃないよ? ノーマルランクのエントリー済ませて、優勝しないと」

曜「…………よーそろ」


ことりさんに言われて、受付でぱぱっとノーマルランクの受付を済ませてしまう。

まあ、しかし。毎度のことながら、ノーマルランクでてこずるわけにはいかない。

目的はこのランクの上なわけだし。

受付を終えて、戻ってきた私に、ことりさんがさっきの続きを話し始める。


ことり「……ホントは、絵里ちゃんの言う通り、これから数回のうちにどこかで勝ちの目を掴めればいいと思ってたんだけど……」


確かに、ことりさんのプランでは最初からそういう話だった。

ここで苦戦するだろうから、ここまでを最短で抜けてきたんだ。

でも……。


曜「うぅん……それじゃダメなんだ」

ことり「……どうして?」

曜「私、ことりさんとホンキで戦いたい」


私のことを、一番近くで見て、一番近くで鍛えて、一番近くで育ててくれた、この人と。

191: 2019/05/15(水) 00:06:56.31 ID:YHpk3Rh50

曜「そのためには……真っ直ぐことりさんのところに追いつかなくちゃ」


足踏みしてる場合じゃないんだ。


ことり「ふふ、そっか」


ことりさんは笑いながら、私の背中をぽんぽんと叩く。


ことり「言うようになったね、曜ちゃん」


全力で駆け上がってきたステージ。

ことりさんが傍で見守って、鍛えてくれたから、ここまで来れた。

なら、その恩返しは──きっと、同じステージで戦うことだ。


ことり「なら……行っておいで。グランドフェスティバルで待ってるから」

曜「……勝ってくるね……!」


こうして私は、最後の部門──フソウうつくしさ大会へと臨む……。





    *    *    *





──数時間後、ウルトラランク会場内。


あんじゅ「ことり、来たわね」

ことり「あんじゅちゃん、久しぶり」

あんじゅ「……ホントにここまで一直線であがってくるとはね」


関係者席から、ステージを見つめるあんじゅちゃんはそう言う。


あんじゅ「ことりのプロデュース力には、脱帽ね……」

ことり「うぅん、違うよ。これは曜ちゃんの力だよ」

あんじゅ「……ふーん」

ことり「ステージを見てればわかるよ」

あんじゅ「……わたしたちと同じグランドフェスティバルに出場する人間に相応しいか、お手並み拝見といきましょうか」


徐々に会場が暗転していく……大会の始まりだ。





    *    *    *



192: 2019/05/15(水) 00:07:48.24 ID:YHpk3Rh50


──大会開始直前。

舞台袖。

暗転が始まり、コンテストライブのステージが始まろうと言うとき、


絵里「……ふふ」


すぐ近くに居た絵里さんから笑い声が漏れる。


曜「……?」

絵里「曜さん、貴方可愛いわね」

曜「……はい?」


絵里さんは私たちを見ながらクスクス笑う。


絵里「綺麗に着飾るの……素敵だと思うわ」

曜「え……あ、ありがとうございます」


何故か急に褒められる。


絵里「まあ……でも、それはコンテストライブの結果にはあんまり影響はないと思うけど」

曜「……」


お礼を返してから、エントランスでのやり取りに対する仕返しのような皮肉だったと気付く。

意外と大人げないなとは思ったけど……まあ、失礼なことを先に言ったのは私だし、しょうがないか。

ただ……。


曜「そんなことないと思いますよ」


私はそう言葉を返す。


絵里「あら、そうかしら?」

曜「ポケモンを魅力的に見せるのには衣装の力も大事だと思います」

絵里「貴方、ことりみたいなことを言うのね。……やっぱり師匠の影響なのかしらね」


この人はあまりポケモンの衣装を重視していない。

二次審査でのアピールに絶対的な自信があるんだろう。


曜「それを今日ここで証明します」

絵里「……楽しみにしてるわ」


いよいようつくしさ大会の、幕が上がる──。





    *    *    *



193: 2019/05/15(水) 00:09:43.06 ID:YHpk3Rh50


司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、コンテストの聖地、ここフソウタウンにて繰り広げられる、最もうつくしいポケモンを決めるコンテスト……フソウうつくしさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』


毎度お馴染み眼鏡がトレードマークの司会のお姉さんの口上と共に、大会がスタートする。


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……エーフィ&カズマ! エントリーNo.2……ミロカロス&コハル!』


今回の対戦相手は、エーフィ使いのエリートトレーナー。ミロカロス使いのおじょうさま。

ミロカロスが登場すると、早速会場が沸き立つ。

さすがミロカロス、うつくしさの代名詞とまで言われているポケモンなだけはある。

だが、その空気はすぐに一変する。


司会『エントリーNo.3……キュウコン&エリ!!』


司会の人の声と共に、絵里さんと真っ白なキュウコンにスポットライトが浴びせられると──会場は割れんばかりの声援に包まれる。

それだけ、ファンが多いのだ。

だけど──


司会『エントリーNo.4……ラプラス&ヨウ!!』


固定ファンの数で負けていても、構わない。

だって、それも含めて全てを魅了するためにここに来てるんだから……!!

ラプラスにスポットライトが浴びせられると──。

会場が逆に静まり返った。

──その、余りに儚く、うつくしい様相に、だと思う。

今回の衣装イメージは、ウェディングドレス。

真っ白なレースをベースとして、全身にあしらわれた生地が、スポットライトを反射して上品に光り輝いている。

頭にはマリアベール。そしてベールの内側にワンポイントで青い花を添えている。

首から上だけではなく、ラプラスの背中からも、だらしなくならない程度に生地を作り、ラプラスが僅かに身動ぎするだけで、軽いレース生地がふわふわと舞う。


司会『……はっ! 失礼しました。うつくしさの権現ことミロカロスが会場を魅了したかと思いきや、大人気コーディネーター・エリさんとキュウコンがその歓声を掻っ攫い、その後に現われた超新星コーディネーター・ヨウさんが気合いの入ったウェディングドレスによって、その歓声を静寂に変えてしまいました……!! かくいう私も見蕩れてしましましたね……』


好感触──いや、当然だ。

ことりさんと考えに考え抜いた、ラプラスのためだけに作られた衣装だ。

一次審査は絶対に貰う。そのつもりで来た。

もうすでに会場内はアナウンス前だというのに私の色の青があがり始めている。


絵里「…………」


一瞬、絵里さんが視界の端に入る。

腰に手をあてて余裕の表情だった。

……最初から一次審査には興味がないとでも言いたげだ。


司会『さあ、一次審査開始です! ミロカロスは赤、エーフィは紫、キュウコンは白、ラプラスは青でお願いします!』


司会のお姉さんの声と共に、会場は青く染まっていく。

白もそれなりに多く、次いで赤、紫が続く。

── 一次審査だけなら、私たちの圧勝だ。

194: 2019/05/15(水) 00:11:18.22 ID:YHpk3Rh50

司会『さあ、そろそろ集計を締め切りますよ! 皆さん、投票の色はあげましたか~?』


一次審査の集計締め切りのための最後の確認。


司会『それでは、ここで一次審査終了です! このまま二次審査へ進みたいと思います!』





    *    *    *





ことり「やった……! 曜ちゃんが一次審査は圧勝……!」

あんじゅ「そうね……でも、勝負はここから。絵里さんには……アレがある」





    *    *    *





──今回の戦いにおいて、私はそもそも一次審査で負けているようじゃダメなんだ。

絵里さんには……Z技がある。

全てを魅了する、まさに規格外のアピールが。


司会『二次審査開始です! アピールはラプラス、キュウコン、ミロカロス、エーフィの順でお願いします』

曜「いくよ……! ラプラス!」
 「キュウーーーー」

曜「“いやしのすず”!!」
 「キュゥ~~~~~~」

 《 “いやしのすず” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆
   ラプラス◆ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


鈴の音が響き渡る。

今回の大会、絵里さんという優勝常連が居る以上、先手を取るとひたすら狙われやすい。

アピールを特化したいところではあるけど、攻撃が来るとわかっていて守らないのもそれはそれでおかしいことだ。

まずは防御技の“いやしのすず”から。


司会『うつくしい鈴の音が会場を包み込みます! ラプラスはこの鈴の音に守られて、後続のアピールに備えるようですね!』


絵里「キュウコン、“オーロラベール”!」
 「コーーーン」

 《 “オーロラベール” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡♡ ◆
   キュウコン◆ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


鈴の音に被せるように会場にオーロラが広がっていく。

絵里さんも自分が狙われるのは百も承知のようだ。

最初は手堅く守りの技で来た。

195: 2019/05/15(水) 00:14:20.27 ID:YHpk3Rh50

コハル「ミロカロス! “なみのり”!」
 「ミロォォ」

 《 “なみのり” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
   ミロカロス +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


ミロカロスの鳴く声と共に周囲に放たれた水のエネルギーが波となって押し寄せる。

自分より前のアピールを妨害する技だが……。


 「キュゥ」

 《 ラプラス◆
   Total [ ♡♡ ] 》


 「コーン」

 《 キュウコン◆
   Total [ ♡♡♡ ] 》


二匹のポケモンはしっかり守りを固めている。


カズマ「エーフィ!! “サイコショック”!!」
 「フィーーー!!!!!!」

 《 “サイコショック” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   エーフィ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


 「ミロッ!!?」

 《 ミロカロス -♥♥♥♥
   Total [ ♥ ] 》


逆にそこを付いたエーフィが“サイコショック”でミロカロスを驚かす。

ミロカロスは減点だ。


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ラプラス   ♡♡  [ ♡♡  ]
   キュウコン  ♡♡♡ [ ♡♡♡ ]
   ミロカロス  ♥   [ ♥   ]
   エーフィ    ♡♡  [ ♡♡  ]                     》


そのままコンテストライブは2ターン目に進む──。





    *    *    *





あんじゅ「キュウコン♡3、ラプラス♡2、エーフィ♡2、ミロカロスは♡-1 エキサイトは4」


あんじゅちゃんはカウントを始める。


あんじゅ「まあ、初手はこんなものよね」

ことり「うん」



196: 2019/05/15(水) 00:18:13.82 ID:YHpk3Rh50


    *    *    *





絵里「キュウコン! “あられ”!」
 「コーーーンッ」

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥
   キュウコン +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


キュウコンが鳴くと会場内に“あられ”が降り始める。

本来は妨害技だが、このターン一番手のアピールのキュウコンには関係がない。


司会『さあ、ポケモンたちのうつくしい技の応酬に盛り上がる会場を更に幻想的な雰囲気へと誘います!!』


降り注ぐ氷の粒たちはスポットライトを照り返して、キラキラと光る。

その光景を見て、観客の人たちが息を呑むのがわかる。

確実に会場の空気が出来上がりつつある中、大技ではなく“あられ”を使ったのは、コンボのためだろう。

審査員席から注目の視線が飛んできているのがわかる。

更に高まったエキサイトから繰り出されるのはもちろん──


絵里「キュウコン! ライブアピール!! “ぐれーす☆ファンタジー”!!」
 「コォォーーーーンッ」

 《 “ぐれーす☆ファンタジー” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 フェアリータイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


キュウコンがフェアリーのオーラを放つ。

そのオーラは会場の情景そのものをまるで違うファンタジーへと塗り替え──会場は月夜に包まれる。

そのまま、キュウコンはさらに大量のオーラを放ちながら、優雅に月夜を歩く。


司会『まるでその姿は月下美人……!! フェアリータイプ特有の妖艶な雰囲気が会場をうつくしく彩っています!!』


ライブアピールは大成功、キュウコンは周りにどんどん差をつけていくが──負けていられない。


曜「ラプラス! “こおりのいぶき”!!」
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!!」

 《 “こおりのいぶき” うつくしさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


ラプラスは辺りを凍て付かせる息吹を口から吹き出す。


司会『ラプラスは“こおりのいぶき”で対抗です! 吐息が凍りつき、これまたうつくしい光の反射で会場を魅了します!』


エキサイトに関してはタイミング運もある。

変に意識せずに自分のアピールを手堅くやらないと。

197: 2019/05/15(水) 00:19:59.89 ID:YHpk3Rh50

カズマ「エーフィ! “にほんばれ”だ!」
 「フィィイイーーー!!!!!」

 《 “にほんばれ” うつくしさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡
   エーフィ +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


そんな凍りの風景を掻き消すように日射が降り注ぐ。


司会『おっと、状況は一変!! エーフィも負けじとコンボのための“にほんばれ”を使います!』

コハル「ミロカロス、“みずのはどう”」
 「ミロォォーーー」

 《 “みずのはどう” うつくしさ 〔 観客の ほかの ポケモンへの 期待を なくすことが できる 〕 ♡♡♡
   ミロカロス +♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


そんな中ミロカロスの放った、“みずのはどう”が周囲の陽炎と霰を吹き飛ばした。

“みずのはどう”はコンボを掻き消す妨害技だ。


司会『そこにすかさず、コンボは許さないと言わんばかりの“みずのはどう”! 本日のウルトラランクは攻防が入り混じるレベルの高い戦いとなっております!』


絵里「──…………」


絵里さんを自由に動かさないのは、他の参加者全員の共通認識だ。

それでも、絵里さんは圧倒的にアピールが強い。だから、何度もこのランクで優勝している。

手堅く邪魔をされても、全く動揺を見せないのは、それくらいは絵里さん自身もわかっていると言うところだろう。


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡  ]
   ラプラス   ♡♡♡♡♡     [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡      ]
   エーフィ   ♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡         ]
   ミロカロス  ♡♡♡♡     [ ♡♡♡           ]      》


司会『さあ、3ターン目です! キュウコン、ラプラス、ミロカロス、エーフィの順でお願いします!』


順番は相変わらずキュウコンが一番手。

どうにも大きな動きがないまま、進行しているが──。

前のターンの始めに会場のボルテージは一旦MAXに達し、次の波が来るのはこのまま行けばラプラスの手番になる。

これが好機だ──


絵里「……ふふ」


絵里さんが微かに笑うのが見えた。


絵里「キュウコン! “スイープビンタ”!」
 「コォーーンッ!!!!!」

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


曜「!?」

198: 2019/05/15(水) 00:21:12.07 ID:YHpk3Rh50

キュウコンが尻尾をかわいらしく振るう。

うつくしく、じゃない。かわいらしくだ。


司会『おっとぉ!? ここでキュウコン“かわいさ”アピールですっ! 部門こそ違いますが、技のキレはかなりのものです!』

曜「……っ やられた……」


エキサイト操作だ。

二番手につけている私が強力なアピールをすることを咎めるために、わざと“かわいさ”技を使ったんだ。

絵里さんはただ自分をアピールするだけでなく、自分のライバルと成り得る相手を素早く見抜いて、攻防を上手に切り替えるお手本のような対応型……。

……どうする?


曜「……ラプラス! “あられ”!」
 「キュゥゥーーー」

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥
   ラプラス +♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


再び、会場内には“あられ”が舞い始める。

逃してしまったものは仕方ない。

私は次のターンへの布石を撒きながら、キュウコンのスイープビンタを妨害するように技を選択する。


 「コン…!!」

 《 キュウコン -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》


司会『さあ、ラプラスも負けていません! “あられ”でキュウコンの妨害をしながら、審査員の注目を集めます!』


コハル「ミロカロス、“アクアテール”!」
 「ミロォ」

 《 “アクアテール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ミロカロス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


ミロカロスが優雅に尾ひれを振るうと、そこから水のエネルギーが漏れ出し、会場内に水しぶきが舞う。

細かい水の粒子は、これまた会場中の光を乱反射して、会場を沸き立たせる。

──私が逃した、ボルテージが最高潮に高まる瞬間。


コハル「“グレースブレッシングレイン”よ」

 《 “グレースブレッシングレイン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   ミロカロス +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


“アクアテール”で会場中に舞った水のエネルギーが、上空まで舞い上がり雨となって会場をうつくしく彩る、ライブアピール。

上手く技を披露し、会場は大いに盛り上がっている。

──だが、目立つと言うのはリスクでもある。


カズマ「エーフィ! “サイコショック”!」
 「フィーーーッ!!!!」

199: 2019/05/15(水) 00:22:07.19 ID:YHpk3Rh50

 《 “サイコショック” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
   エーフィ +♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》


 「ミロッ」

 《 ミロカロス -♥♥♥♥
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》


ミロカロスは再びエーフィの“サイコショック”に怯まされる。

かなりアピールが上々だったため、減点を食らっても尚、ミロカロスの得点は大きいが……二匹がぶつかり合ってくれる分には助かる。

大会は後半戦へと突入する──。





    *    *    *





 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ♥♥♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ]
   ラプラス   ♡♡♡             [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ]
   ミロカロス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡       ]
   エーフィ    ♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡          ] 》


あんじゅ「キュウコン♡15、ラプラス♡10、ミロカロス♡9、エーフィ♡7……エキサイトは1」

ことり「曜ちゃん……!」





    *    *    *





コハル「ミロカロス、“りゅうのはどう”!」
 「ミロォーーー」

 《 “りゅうのはどう” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ミロカロス +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


ミロカロスが口から吹き出す波動がうねりながら会場の中空を舞う。

手堅いアピールから──


絵里「キュウコン! “でんこうせっか”!」
 「コーーンッ!!!」

 《 “でんこうせっか” かっこよさ 〔 この次の アピールを はじめの方に だすことが できる 〕 ♡♡♡ ①
   キュウコン① +♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》


キュウコンが身軽な身のこなしをアピールする。


曜「……っ!! ま、また……!!」

200: 2019/05/15(水) 00:24:28.69 ID:YHpk3Rh50

今度は“かっこよさ”技の“でんこうせっか”を使ってくる。

しかも、この技は次回のアピールが一番先頭になる。

絵里さんの定石は最後のターンに大技を真っ先に決めて圧倒するために、先手を取れる技を使う。

しかも、ここでエキサイトの調整を行い、それを磐石なものにする。


司会『さあ、キュウコン! いつものように、最後のターンは頭に出てきました! また、あの大技で全てを押し切る作戦なんでしょうかっ!』

曜「……“こなゆき”!!」
 「キュウウーーー!!!!!」

 《 “こなゆき” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   ラプラス +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》


“あられ”の舞うステージ上に、“こなゆき”を舞わせる。


司会『さあ、そんな中ラプラスはコンボを成功させます! “あられ”の中で舞い踊る“こなゆき”が綺麗ですね……!! これは高得点が期待できます!』


これで、ほぼキュウコンには追いついたはずだ……!

まだ、ステージは終わったわけじゃない……!!


カズマ「エーフィ! “マジカルシャイン”!!」
 「フィーーー!!!!」

 《 “マジカルシャイン” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
   エーフィ +♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》


エーフィが閃光を放ち、これまた手堅いアピールで点を稼ぐ。

そして、コンテストライブは最終ステージへ──。





    *    *    *



201: 2019/05/15(水) 00:26:04.38 ID:YHpk3Rh50


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   ミロカロス   ♡♡♡♡♡     [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡     ]
   キュウコン① ♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ]
   ラプラス     ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ]
   エーフィ     ♡♡♡♡♡     [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡        ] 》


あんじゅ「……勝負あった……かしらね」

ことり「…………」

あんじゅ「ことり、Z技の評価点って知ってる?」

ことり「……絵里ちゃんが使うまで前例がなかったから、新しく評定基準が作られたんだよね」

あんじゅ「そうよ。1回しか使えない大技だけど……アピールポイントは他の超大技以上の♡11ってことになってる。それに加えてエキサイトが次のターンの最初のアピールでMAXに到達する。……♡17」

ことり「……」

あんじゅ「確かに強敵相手に健闘したとは思う……だけど、この時点でキュウコン♡18、ラプラス♡18、ミロカロス♡15、エーフィ♡12……ここで同点じゃ、曜に勝ち目はない。それこそZ技を越えるアピールをしないと」

ことり「うぅん」

あんじゅ「?」

ことり「曜ちゃんはきっと負けないよ」

あんじゅ「……?」





    *    *    *





司会『さあ、最終ターンです!! アピール順はキュウコン、ラプラス、エーフィ、ミロカロスの順です!!』


ついに最終ターン。


絵里「キュウコン!! 行くわよ!!」


絵里さんの腕輪が光り輝く。

掛け声と共に、横に、縦に、素早く、両腕を真っ直ぐ伸ばす。前にも見た鋭利な刃物のようなジェスチャー、

そして、それと共に腕輪の光は大きくなり、そのオーラがキュウコンに宿る。


絵里「キュウコン!! 全力のZ技!! “レイジングジオフリーズ”!!!」
 「コォォォォォオーーーーーンッ!!!!!!!」

 《 “レイジングジオフリーズ” うつくしさ 〔 1度しか 使えないが すごくアピール できる 〕 ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》


キュウコンは透き通るような雄叫びと共に、足元から迫りあがる巨大な氷柱と共にステージの高所まで上昇していく。


 「コォォォォーーーーンッ!!!!!!」


そして、そこからステージ上に向かって一気に冷気を放ち、

周囲の空気を一気に凍て付かせ──。

巨大な氷の結晶を作り上げる。


絵里「キュウコン、フィニッシュ」
 「コォーンッ」

202: 2019/05/15(水) 00:27:05.38 ID:YHpk3Rh50

キュウコンが氷柱を駆け下りると同時に、氷の大結晶が砕け、大きな結晶が光を乱反射して会場を沸き立たせる。

そしてそこから、更に──


絵里「キュウコン、ライブアピール。“アイシクルグレース”……!」
 「コォーーーンッ」

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
   キュウコン +♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》


キュウコンが追加で放った冷気が、落ちてくる結晶たちを再び凍て付かせ、

それが先ほどとは違う形で結晶化し、さきほどとは違う輝きで会場中に光を落とす。


 「コォーーーンッ!!!!!!」


そして、次の瞬間、キュウコンの鳴き声と共に、その結晶たちは粉微塵に割れ砕け、その破片がダイヤモンドダストのようなうつくしい光の宝石となって会場中を踊る。


司会『美しい……本当に美しいです……!! 今回もしっかり決めてきました、Z技・レイジングジオフリーズ!! さらにそこから、“アイシクルグレース”を繋げました!! 素晴らしい……本当に素晴らしいアピールです!!』

絵里「……ふふ」


絵里さんが得意気に笑いを漏らす。

会場はその技の作り出す幻想的な氷の情景に目を奪われ。

他の参加者も、


カズマ「……」

コハル「……」


言葉を失っている。

もうこの会場はキュウコンと絵里さんのもの。

そう言わんばかりの空気の中──

──……再び巨大な氷柱が迫り出した。

203: 2019/05/15(水) 00:28:39.47 ID:YHpk3Rh50

絵里「……!?」


今度はラプラスの真下に、


曜「ラプラスッ!!!」
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!」


見よう見真似の刃物のようなジェスチャー、それに呼応するように光るラプラス。


絵里「そ、そんな!? まさか、Z技……い、いや違う、あれは……!!?」


そう、違う。この技はZ技ではない。

Z技の見よう見真似だ。


曜「“ものまね”!!」
 「キュゥゥゥゥゥーーーーー!!!!!!」

 《 “ものまね” かわいさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと 同じくらい 上手くできる 〕 ♡~
   ラプラス +♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡³⁵♡ ] 》

 《 エキサイトゲージ【★★★★★】 》


ラプラスの冷気が、再び大きな氷の結晶を形作り、


曜「ラプラス、フィニッシュ!!」
 「キュウッ」


ラプラスが氷柱を滑り降りる。

最初から最後まで見よう見真似で再現された技で。

──バキリ、

と音を立てて、再び大結晶が割れ砕け、会場に更なるダイヤモンドの輝きを散らせる。





    *    *    *





あんじゅ「……!!!」


あんじゅちゃんが目を見開いて立ち上がる。


ことり「絵里ちゃんは自分たちの技を過信してた」


唯一無二の個性であるZ技の存在。

だけど──


あんじゅ「“ものまね”なら直前のポケモンと全く同じアピールが出来る……!!」

ことり「そして、二次審査で追いついたっていうことは……」





    *    *    *



204: 2019/05/15(水) 00:30:43.26 ID:YHpk3Rh50


 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
   キュウコン ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡   ]
   ラプラス   ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡♡♡³⁰♡♡♡♡♡³⁵♡ ]
   エーフィ    ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡                  ]
   ミロカロス  ♡♡♡♡                 [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡                      ] 》


司会『──これにて全てのアピールが終了……結果発表へと移りたいと思います!!』


司会の人の言葉と共にモニターに、得票を表すメーターが現われる。

二次審査の得票を表す青ゲージ── 一気に伸びる二本のゲージはキュウコンとラプラスのもの。

それは同時に伸びるのをやめる。

──だが、


絵里「……うそ」


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査
   【 エーフィ 】 〔 ♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                   〕
   【.ミロカロス】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                               〕
   【キュウコン】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡             〕
  ✿【 ラプラス 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》


── 一次審査の得票を表す赤いゲージは、ラプラスがぶっちぎりで1位の獲得していた。


司会『二次審査ではほぼ同率だった、キュウコンとラプラスですが── 一次審査の結果が明暗を分けました!! 今回のフソウうつくしさコンテスト・ウルトラランク優勝は──エントリーNo.4!! ラプラス&ヨウさんです!!!』


その言葉と共に会場が割れんばかりの歓声に包まれる。


曜「……っし!!!」
 「キュゥゥーーーー!!!!!」

曜「ラプラス……!! やったよ!!」
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!」


私たちはラプラスと抱擁を交わし、喜びを分かち合う。


司会『そして、同時に今回の優勝者であるヨウさんは5部門全てを制覇したため、規定通りウルトラランク全部門制覇による持ち点の倍増が行われます!!』


私も持ち点は今回この優勝を以って──60pt

その倍で──120ptだ。


司会『100ptを超えマスターランクへの昇格──現時点を以って、グランドフェスティバルへの出場権を獲得したことになります!!』


再びスポットライトが私たちに当たる。

それにあわせて大きな拍手と、歓声が私たちに浴びせられる。

ああなんか……こうして喝采を浴びるのはすごく、気分がいい。


司会『そして、この時点で現コンテストクイーンを含め、グランドフェスティバルへの出場権を得たコーディネーターが4人決定しました!! 2年振りに全てのコーディネーターの頂点を競う大会、グランドフェスティバルの開催が決定致しました!!』


本当に割れんばかりに拍手喝采が会場を包み込む。


司会『そんなグランドフェスティバルへの最後の切符を手に入れた曜さん!! 一言いただけますか!!』


そう言って、司会のお姉さんがマイクを向けてくる。

そのマイクを握って私は──

205: 2019/05/15(水) 00:32:16.65 ID:YHpk3Rh50

曜「──ここまで来たら……グランドフェスティバル!! 優勝します!!」

司会『おお!? 優勝宣言です!! 曜さん、ここで優勝宣言!! これはグランドフェスティバルが本当に楽しみですね……!! ということで、今回のフソウ大会はこの辺で────』





    *    *    *





曜「──やってしまった……」


あんじゅさんの楽屋に行ったときも、今日の絵里さんとの邂逅のときも、

どうして私は、こうビッグマウスを叩いてしまうんだろうか。

今日の大会、どう考えても、現クイーンのあんじゅさんも、前クイーンのことりさんも、見てたのに。

大会後、戻ってきた楽屋で頭を抱える。

そんなところに、


絵里「曜さん、ちょっといい?」


絵里さんが声を掛けてきた。


曜「え、あ、はい!」


だいぶ生意気言ったし……怒ってるのかも。


絵里「……曜さん」


絵里さんは、私の名前を呼んでから──

手を差し出して、


絵里「私の完敗よ」

曜「え」


握手を求めてきていた。

応じて、絵里さんの手を握る。


絵里「私……慢心していたわ。自分にしかない特別な技を過信して、コンテストというものを侮っていたみたい」

曜「い、いや、そんなこと……!」

絵里「いいえ……確かに私は自分の技には自信があったけど……。それに慢心して、他の部分を磨くことを忘れていたみたいだわ。今は、あなたのお陰で目が覚めた気分よ」

曜「……!」

絵里「衣装……そうね、あんまり器用じゃないから、どこまで出来るかわからないけど……。私も次コンテストのステージに立つときは、キュウコンをもっと美しく魅せられるように、あの子の衣装を考えようと思うわ」


──伝わった。

私の伝えたかった、魅力が伝わって。

一人の人の気持ちを変えたんだ。

それがなんだか、溜まらなく嬉しかった。


曜「はい……!! 楽しみにしてます……!!」

206: 2019/05/15(水) 00:33:16.84 ID:YHpk3Rh50

絵里さんと硬い握手をし、私のうつくしさ大会は幕を閉じたのでした。





    *    *    *





──エントランスホールに戻ると、


ことり「曜ちゃーん!!!」

曜「わわっ!?」


ことりさんが突進するように抱きついてくる。


ことり「信じてたよ! 曜ちゃん!!」

曜「わ、わー!! ことりさん、苦しいって!?」


ことりさんに抱きつかれて、ジタバタする私。


 「ことりちゃん、その辺にしてあげないと、曜ちゃんが困ってるわ」

曜「……!」


そして、そんなことりさんの背後から、聞き覚えのある幼馴染の姉の声。


曜「志満姉!」

志満「曜ちゃん、久しぶり。見てたわよ、素晴らしいコンテストライブだったわ」

曜「えへへ……照れちゃうよ」

ことり「とーぜんですっ!! ことりの自慢の弟子なんだから!」

あんじゅ「なんで、ことりが胸張るのよ……」


呆れながら、声を掛けてくるのはあんじゅさん。


曜「あ、あんじゅさんっ!」

あんじゅ「久しぶりね、未来のクイーンさん」

曜「ぅ……」


やっぱり、私の優勝宣言、聞かれてた。


曜「あ、あれはそのー……弾みというかー……テンションがあがりすぎてたというかー……」

あんじゅ「まあ……チャレンジャーはあれくらい元気がよくないと張り合いがないわ」


そう言って、あんじゅさんは手を差し出す。


曜「!」

あんじゅ「ようこそ……マスターランクのステージへ」

曜「……はい!」


あんじゅさんと握手を交わす。

207: 2019/05/15(水) 00:34:50.45 ID:YHpk3Rh50

志満「それにしても……本当についこの間コンテストを知ったばっかりの曜ちゃんがここまで来るなんて……」

曜「えへへ……これも全部ことりさんのお陰だよ」

ことり「うぅん、曜ちゃんと──ポケモンたちが頑張ってきたお陰だよ」


ことりさんはそう言って私の頭を撫でる。


あんじゅ「ことり、その辺にしておきなさい? 今度はその子と戦うことになるんだから」

曜「……そっか」


そうだ、次のコンテストライブのステージで戦うのは、ここにいるあんじゅさんとことりさんなんだ。


ことり「ん……そうだね。ライバル同士が戦いの前に必要以上に仲良くしてるのもあんまり良くないもんね」

曜「ライバル……」


ことりさんにライバルと言って貰えるくらいのステージまで、私は登ってきたんだと実感が沸いてくる。


あんじゅ「やっとね」

志満「……そうね」

ことり「曜ちゃんともだけど……やっと、二人とも戦える」

曜「……ん?」


二人とも……?

……?

私は少し頭を捻る。

前々から気になっていたけど……どうして、志満姉はことりさんやあんじゅさんとこんなに仲が良いのだろうか。

あんじゅさんの楽屋へも顔パスだったし……。

──いや、その答えはここまでに出てきた情報を整理すると、自然と導き出された。


曜「まさか……グランドフェスティバルのもう一人の出場者って……!」

志満「……ええ、私よ」

あんじゅ「言ってなかったの?」

志満「わざわざ言う必要もないかなって……」

ことり「志満ちゃんは、たくましさ、かっこよさ大会だと上位常連なんだよ~」

曜「そっか……そうだったんだ……!」


どうりであんなにコンテストが詳しかったわけだ。

……というか、私は期せずしてとんでもない人たちに目を掛けて貰って、ここまで来たのかもしれない。


あんじゅ「出場枠が全て埋まった時点で、近日中にグランドフェスティバルが開催する運びになると思うわ。現クイーンとして、この戦いに臨めることを嬉しく思うわ」

ことり「うん!」

志満「グランドフェスティバル……楽しみね」

曜「よ、よろしくお願いします!」


かくして──私はついに、グランドフェスティバルへの出場権を手に入れ、この地方のコーディネーターの頂点を決める大会へと挑戦できることになったのでした。



208: 2019/05/15(水) 00:35:42.10 ID:YHpk3Rh50


    *    *    *





──夜。

髪を拭きながら、ホテルのシャワールームから出てくると、


曜「あれ? ことりさん、どこかいくの?」


ことりさんが窓から、出掛けようとしているところだった。


ことり「あ、うん。ちょっとセキレイに用事があって、一旦戻るんだ」

曜「セキレイ……? グランドフェスティバルって、フソウの会場でやるんでしょ? しかも、近日中って言ってたし……」

ことり「まあ、そうなんだけど……ちょっと大事な用事だから。もちろん大会までには戻ってくるよ♪」

曜「そ、そうなんだ……」

ことり「この部屋は曜ちゃんが自由に使っていいからね。それじゃ」


そう言って、ことりさんは飛び出して行ってしまう。


曜「大事な用事……グランドフェスティバルの準備よりも……? ……なんだろう」


窓の外で、夜闇の中を飛んでいく、ことりさんの後姿をぼんやりと眺めながら、私はそんなことを呟くのだった。



209: 2019/05/15(水) 00:36:09.28 ID:YHpk3Rh50


    *    *    *





──
────
──────





    *    *    *



210: 2019/05/15(水) 00:36:57.93 ID:YHpk3Rh50


──セキレイシティ。


梨子「……戻ってきた」


私はセキレイジムに訪れていた。

旅の最中、ぶつかった大きな壁。

今回、オトノキ地方を旅して周って、自分を見直すきっかけになった、大きな壁のある場所に。


梨子「…………」


目を閉じる。

目を閉じて──自分の腰についているボールを順番に撫でる。


梨子「……ふぅ」


息を整えながら、


梨子「……ムーランド、メブキジカ、ネオラント、チェリム、ピジョット、メガニウム──」


仲間達の名前を確かめるように呼んでから、


梨子「……よし! 行こう、皆!」


私は、ジムの中へと踏み出す。


梨子「た、たのもぉーーーーっ!!!」


そして、慣れない感じの大きな声で、叫んでみる。

すると、奥で一人の女性が、待っていた。

211: 2019/05/15(水) 00:38:00.75 ID:YHpk3Rh50

ことり「──梨子ちゃん。待ってたよ」

梨子「……ことりさん、セキレイジムに挑戦しに来ました」


私はバッジケースを開いて、7つのバッジを見せる。


ことり「バッジ7つ……確かに。じゃあ、これが最後のジムバトルだね」

梨子「はい!」

ことり「わかりました。使用ポケモンは5体。交換は自由。相手の全てのポケモンを戦闘不能にした方が勝利です」

梨子「ち、ちなみに……また全部モクローとかってことは……?」

ことり「今回はことりもホンキの手持ちで戦うから、モクローはいないよ」

梨子「ほ……」


何故か安心してしまう。


ことり「ただ……モクローとは比べ物にならないほど強いからね?」

梨子「……はい! 望むところです!!」

ことり「ふふ、良いお返事です♪ それじゃ──」


ことりさんがボールを構える。


ことり「セキレイジム・ジムリーダー『ゆるふわハミングバード』 ことり。全力で行きますっ!!」

梨子「よろしくお願いしますっ!!」


お互いのボールが宙を舞う──私の最後のジム戦の火蓋が、切って落とされたのだった。



212: 2019/05/15(水) 00:39:12.69 ID:YHpk3Rh50


>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】【セキレイシティ】
no title

 主人公 曜
 手持ち カメックス♀ Lv.53 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
      ラプラス♀ Lv.47 ✿ 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
      ホエルオー♀ Lv.45 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
      ダダリン Lv.47 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
      カイリキー♂ Lv.44 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
      タマンタ♀ Lv.42 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:161匹 捕まえた数:23匹 コンテストポイント:120pt

 主人公 梨子
 手持ち メガニウム♀ Lv.56 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
      チェリム♀ Lv.51 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
      ピジョット♀ Lv.50 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ネオラント♀ Lv.45 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
      メブキジカ♂ Lv.55 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
      ムーランド♂ Lv.43 特性:きもったま 性格:ゆうかん 個性:しんぼうづよい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:135匹 捕まえた数:14匹


 曜と 梨子は
 レポートを しっかり かきのこした!

...To be continued.


続き:【ラブライブ】千歌「ポケットモンスターAqours!」【その17】






引用: 千歌「ポケットモンスターAqours!」 Part2