91: 2008/12/10(水) 00:08:27 ID:t7FLCVaf
今日のミーナはおかしかった。私が客観的に見ても、どうにも疑念が拭えなかった。
まだ“あの日”の事が心に残っているのだろうか。決して誰にも抜けない棘の如く。
監視所連絡部からの通達が大幅に遅れ、我々は大慌てで出撃を余儀なくされた。
我々501でも監視レーダーこそあれ、範囲も限定され、他との連携が必須だ。
そんな時に限って監視網の故障だの、連絡の遅れと来ている。
ミーナが怒るのも無理はない。これで一体何度目だ? 私でさえ呆れ返るさ。
奴等は扶桑の「見ざる言わざる聞かざる」と言うやつなのか?
ブリーフィングで必氏に怒りを抑えているのが私にも伝わって来たよ。
本土防衛を担う筈のブリタニア空軍も連絡部に足を引っ張られて迎撃が遅れ、結局私達が先陣を切って出る事になった。
既にネウロイは本土に達し、海岸沿いのちいさな村を爆撃射程に捉えていた。
「バルクホルン隊突入! ハルトマン隊は第二波を! 少佐はコアを!」
ネウロイが来るのもいつもの事。こちらもいつもの手順だ。まるでルーチンワーク。
だが、村がネウロイの攻撃に晒されているのを上空から黙って見ている訳にはいかない。
そして、村の様子も妙だった。
私はコアの探索もそこそこに、ミーナを連れてその村へと向かった。
村は迫るネウロイの陰にすっかり怯え、避難する気力さえ失せていた。
海岸沿いは既にネウロイの爆撃で水飛沫が上がっている。
子供達はおろか、大のおとなでさえ、すっかり怖じ気づいてしまっている。
「ウィッチか。何の用だ。この村はもうおしまいだ……」
「何を言っている!? 早く村人を連れて逃げるんだ!」
私は怒鳴った。だが、ミーナの異変は既に始まっていた。ここで気付くべきだった。
「早く避難なさい」
冷徹に、ミーナは村人を前に言った。
「この空、この村は私達が守ります。だから貴方達は逃げなさい。早く!」
尚も動こうとしない村人達。
「あ、あんたらが何と言おうが何をしようが……無駄なんだよ!」
「あんたらは飛べるから良いよな。どうせあたしらなんて……」
何と。この村人達は逃げる前から諦観しているというのか。私は驚きといくばくかの失望、嘲り、そして怒りを覚えた。
だが、横にいるミーナは一言ずつ静かに、だが恐ろしく殺気のこもった声で言った。
「私を……敵にしないほうがいい」
ぽかんとしたのは村人達だけではない。私もだ。と言うか、驚いた。何を言い出すんだ。
「おい、ミーナ?」
「少佐は早くコアを」
「あ、ああ。ミーナは村人の避難を。ペリーヌ、宮藤! 村人の避難を誘導しろ!」
空に舞う二人を地上の援護に回し、私はひとり大空へ戻り、コアを探した。
コアはネウロイの尾部に存在した。私の魔眼がそう告げる。
「コア発見! 尾部から先端に延びる三本の突起が有る。その真ん中の付け根奥だ! 村が危ない、急げ!」
「了解! 行くぞエイラ」
「リーネ、狙えたらガンガン撃っちゃってね!」
バルクホルンとハルトマンが揃って突入し、エイラとリーネがやや後方から援護する。ネウロイが塵と消えるのは時間の問題だ。
だが、私の中でひとつ気になる事があった。再び、地上の村を目指した。
村人達はすっかり戦意を失い、ミーナや宮藤、ペリーヌ達の指示にも従うことなく、呆然と空を眺めていた。
我々501が生命を掛けて戦う、その様をただ黙って、見ていた。
まるで、いつもと同じ、沈み行く太陽を眺める、穏やかな夕暮れの如く。
恐怖の余り動けないのか? それとも本当に何もかも諦めてしまったのか?
私にはいまいち、この村人の気質と言うものが理解しかねた。
やがて上空で大きな爆発音が聞こえた。ネウロイが破壊されたのだ。
バルクホルンとハルトマンが共同で戦果を挙げたらしい。無線で状況が刻々と伝わってくる。
私はミーナを探した。胸騒ぎの原因は彼女にあった。
ネウロイが散り、美しい粉を散らした後も、村人達は立ち尽くしていた。
ミーナが居た。村の人々を前に、何か怒っているのだろうか?
らしくもない。一体どうして?
92: 2008/12/10(水) 00:10:33 ID:t7FLCVaf
「私らはもう長くないんだ。どうせ、カールスラントやガリアみたいに、ネウロイにやられちまうんだよ」
一人の老婆が悲観的な言葉を発した。村人は皆同意するとばかりに黙っていた。
沈黙を破ったのはミーナだった。
「あの空を見て下さい。ネウロイは破壊しました。例えネウロイが近くに飛んで来ようと、私達が必ず、一体残らず倒します」
だが、村人達は動かなかった。
そしてまだ何か言いたそうな村人達に向かって、彼女は言った。
「私達ストライクウィッチーズは決して……そう、決して諦めない」
村人達は、ミーナを見た。私も思わず横にいたミーナを見た。
虚勢を張る訳でもなく、ただ堂々と。村人に対する慈悲と、義務と、怒りと、悲しみが全て混じった目で。
「それだけは忘れないで下さい」
それだけ言うと私の横をすり抜け、ミーナは部隊の指揮に戻っていった。
「……ペリーヌ、宮藤、もういい。我々も帰投する」
宮藤達に声を掛ける。彼女らも少し動揺していた様だ。但し村人とミーナのどちらに動揺していたか、は分からない。
短いデブリーフィングが終わり、夕食も済み、それぞれが部屋に戻る。
私はミーナの部屋を訪れ、胸の内にこもる疑問を晴らすべく、ストレートに聞いた。
「どうした。村人を恫喝する様なマネをして。お前らしくもない」
「……」
ミーナは珍しく、大切にしているカールスラント産の貴腐ワインを一本空けていた。
グラスで波打つ琥珀の輝きを見つめるミーナの瞳はどこか濁って、泳いでいた。
「ミーナ、どうした。私にも言えない事か?」
無言のミーナ。
「なら、いいさ。ただ、私はお前の事が心配だ。余り思い詰めたりしないで、私に……」
グラスがテーブルに転がる。飛び散る中身はそのまま重力に従い、テーブルと床に飛散した。
ミーナはグラスを捨て、私の胸に飛び込んで来た。
泣いている。
この数日、彼女に何が有ったのだろう? 共に過ごして来て、特に思い当たる事は無かった。
日付的に、何か大切な日でも無く。彼女達の慣習の“忌みの日”でもなく。
ただ言えること。それは彼女が私にすがり、涙を流している事。
村人も救えたし、いいじゃないか、ミーナ。
私の言葉も聞こえていないらしい。いや、聞こえてはいるのだろうが、心には届いていない、か。
私に出来る事。宮藤の言葉じゃないが……今の私に出来る事と言えば。
彼女を優しく抱きしめ、そっと支える事。
私の右目がお前の心の内も見えればどんなに良いか、とこの日ばかりは思った。
でも、そんなのは野暮の骨頂。私と彼女は、こう言う関係の方が良いのだろう。
「刺さった矢は無理に抜くと余計に痛み、弱る」と言うしな。
暫く泣け。
好きなだけ。
私はここに居る。お前が嫌と言うまで。
それが私の“こころ”だ。
end
----
とある有名な決めゼリフを幾つか入れてみたくて、ただそれだけの為に書いてみました。
「オトコマエ」なミーナを書いてみたかった、と言う事もあります。
今後もこのスレの住人の皆様、多くの職人様方達に幸あらんことを。
ではまた~。
一人の老婆が悲観的な言葉を発した。村人は皆同意するとばかりに黙っていた。
沈黙を破ったのはミーナだった。
「あの空を見て下さい。ネウロイは破壊しました。例えネウロイが近くに飛んで来ようと、私達が必ず、一体残らず倒します」
だが、村人達は動かなかった。
そしてまだ何か言いたそうな村人達に向かって、彼女は言った。
「私達ストライクウィッチーズは決して……そう、決して諦めない」
村人達は、ミーナを見た。私も思わず横にいたミーナを見た。
虚勢を張る訳でもなく、ただ堂々と。村人に対する慈悲と、義務と、怒りと、悲しみが全て混じった目で。
「それだけは忘れないで下さい」
それだけ言うと私の横をすり抜け、ミーナは部隊の指揮に戻っていった。
「……ペリーヌ、宮藤、もういい。我々も帰投する」
宮藤達に声を掛ける。彼女らも少し動揺していた様だ。但し村人とミーナのどちらに動揺していたか、は分からない。
短いデブリーフィングが終わり、夕食も済み、それぞれが部屋に戻る。
私はミーナの部屋を訪れ、胸の内にこもる疑問を晴らすべく、ストレートに聞いた。
「どうした。村人を恫喝する様なマネをして。お前らしくもない」
「……」
ミーナは珍しく、大切にしているカールスラント産の貴腐ワインを一本空けていた。
グラスで波打つ琥珀の輝きを見つめるミーナの瞳はどこか濁って、泳いでいた。
「ミーナ、どうした。私にも言えない事か?」
無言のミーナ。
「なら、いいさ。ただ、私はお前の事が心配だ。余り思い詰めたりしないで、私に……」
グラスがテーブルに転がる。飛び散る中身はそのまま重力に従い、テーブルと床に飛散した。
ミーナはグラスを捨て、私の胸に飛び込んで来た。
泣いている。
この数日、彼女に何が有ったのだろう? 共に過ごして来て、特に思い当たる事は無かった。
日付的に、何か大切な日でも無く。彼女達の慣習の“忌みの日”でもなく。
ただ言えること。それは彼女が私にすがり、涙を流している事。
村人も救えたし、いいじゃないか、ミーナ。
私の言葉も聞こえていないらしい。いや、聞こえてはいるのだろうが、心には届いていない、か。
私に出来る事。宮藤の言葉じゃないが……今の私に出来る事と言えば。
彼女を優しく抱きしめ、そっと支える事。
私の右目がお前の心の内も見えればどんなに良いか、とこの日ばかりは思った。
でも、そんなのは野暮の骨頂。私と彼女は、こう言う関係の方が良いのだろう。
「刺さった矢は無理に抜くと余計に痛み、弱る」と言うしな。
暫く泣け。
好きなだけ。
私はここに居る。お前が嫌と言うまで。
それが私の“こころ”だ。
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とある有名な決めゼリフを幾つか入れてみたくて、ただそれだけの為に書いてみました。
「オトコマエ」なミーナを書いてみたかった、と言う事もあります。
今後もこのスレの住人の皆様、多くの職人様方達に幸あらんことを。
ではまた~。
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