291: 2008/12/13(土) 01:54:32 ID:cjG8dti/
292: 2008/12/13(土) 01:56:55 ID:cjG8dti/
アフリカの取材旅行から帰国して1年と少し、私は再びあの地に戻る機会を得た。新設
されたブリタニアの多国籍義勇軍を取材に行く途中でネウロイに襲われ、アフリカ大陸の
西端であるジブラルタルへの寄港を余儀なくされたのだ。修復には半月はかかるというこ
とで暇を持て余した私は、代わりの船を出すという関係者の申し出を丁重にお断りし、代
わりにハルファヤ峠へ取材に行きたいと告げた。
「マルセイユ中尉に会いたいんだろ?なに、言わなくてもわかるさ。彼女は今やこのアフ
リカのどんなトップ・アイドルよりも有名だからね。」
彼はてらてらに日焼けした肌を光らせながら、二つ返事で許可を出してくれた。前回の
取材で知ったことだが、この辺りの人間は彼女のことになると途端に饒舌になる。心底誇
らしげな笑顔に見送られて、私は輸送トラックの助手席に乗り込んだ。前回は航路だった
が、今回はたまたまトブルクに向かうという商人に乗せてもらえたのだ。陸路ならトブル
クまで片道4日で行ける。もちろん、運悪く砂嵐に巻き込まれなければの話だが。そうで
なくてもこの劣悪な環境ではエンストなど日常茶飯事なので、ついてない場合は倍近くか
かるとか。
こうして砂煙の中を走っていると、彼女と会ったことがつい昨日のことのように思い出
される。カールスラント空軍所属、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉。広大な国境
線をほとんど一人で守り抜く、アフリカの星。世界の果てで終わりのない戦いを続ける、
鷲の化身───いや、終わりのないというのは不謹慎かもしれないが、彼女の驚異的な空
戦技術と、彼女自身が持つヘマタイトのような独特な佇まいに触れると、この戦いがまる
で遥か昔から続いていて、それが未来永劫の不変の理であるかのような気さえしてくるの
だ。それはもしかすると、赤道直下の浮かれた暑さと、息が止まるほどの彼女の美しさが
作り出した、この砂漠の見た夢なのかもしれない。
5日目の夕方、トラックが無事基地に到着すると兵士たちの慌ただしい怒号と緊迫した
無線が聞こえてきた。どうやらマルセイユ中尉がちょうどネウロイの迎撃に出ているよう
だ。
《敵機撃墜、残機4》
二番機、ライーサ少尉の短い報告が終わりの近いことを知らせてくれる。邪魔になると
いけないので、日陰に引っ込んでフィルムのチェックを済ませることにした。帰ってくる
彼女たちの笑顔を一番に撮れるように。カメラの調節を終え、滑走路で無線に集まる人々
をパシャリと試し撮りすると、同時に《残存部隊撤退》の一言が耳に飛び込んできた。わっ
と湧き上がる兵士たち。アフリカのエースの腕と人気は、今日も健在なようだ。
少しして、彼女が戻ってきたとの無線が入った。着陸体勢に入ったマルセイユ中尉に片
手を上げて注意を促すと、彼女は構えられたカメラを見た瞬間キラリと笑顔を投げかけて
くれた。すかさずシャッターを切る。あまりの眩しい表情に思わず露光の調節を見誤った
かとも思ったが、結論から言えばその一枚が今回の寄港での最高の一枚になった。愛機で
あるBf109F4/Tropを装備した彼女は普段よりも更に特別に輝いていて、どの瞬間を切り取
ってもまるで映画のポスターのようだ。ましてやこの時間、地平線に太陽が触れる頃合、
美しい砂漠の夕陽を背負ったその姿に見惚れぬ者などいまい。次の一枚に備えてフィルム
をセットしながら、私は彼女の降り立った滑走路の方へと向かった。
されたブリタニアの多国籍義勇軍を取材に行く途中でネウロイに襲われ、アフリカ大陸の
西端であるジブラルタルへの寄港を余儀なくされたのだ。修復には半月はかかるというこ
とで暇を持て余した私は、代わりの船を出すという関係者の申し出を丁重にお断りし、代
わりにハルファヤ峠へ取材に行きたいと告げた。
「マルセイユ中尉に会いたいんだろ?なに、言わなくてもわかるさ。彼女は今やこのアフ
リカのどんなトップ・アイドルよりも有名だからね。」
彼はてらてらに日焼けした肌を光らせながら、二つ返事で許可を出してくれた。前回の
取材で知ったことだが、この辺りの人間は彼女のことになると途端に饒舌になる。心底誇
らしげな笑顔に見送られて、私は輸送トラックの助手席に乗り込んだ。前回は航路だった
が、今回はたまたまトブルクに向かうという商人に乗せてもらえたのだ。陸路ならトブル
クまで片道4日で行ける。もちろん、運悪く砂嵐に巻き込まれなければの話だが。そうで
なくてもこの劣悪な環境ではエンストなど日常茶飯事なので、ついてない場合は倍近くか
かるとか。
こうして砂煙の中を走っていると、彼女と会ったことがつい昨日のことのように思い出
される。カールスラント空軍所属、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉。広大な国境
線をほとんど一人で守り抜く、アフリカの星。世界の果てで終わりのない戦いを続ける、
鷲の化身───いや、終わりのないというのは不謹慎かもしれないが、彼女の驚異的な空
戦技術と、彼女自身が持つヘマタイトのような独特な佇まいに触れると、この戦いがまる
で遥か昔から続いていて、それが未来永劫の不変の理であるかのような気さえしてくるの
だ。それはもしかすると、赤道直下の浮かれた暑さと、息が止まるほどの彼女の美しさが
作り出した、この砂漠の見た夢なのかもしれない。
5日目の夕方、トラックが無事基地に到着すると兵士たちの慌ただしい怒号と緊迫した
無線が聞こえてきた。どうやらマルセイユ中尉がちょうどネウロイの迎撃に出ているよう
だ。
《敵機撃墜、残機4》
二番機、ライーサ少尉の短い報告が終わりの近いことを知らせてくれる。邪魔になると
いけないので、日陰に引っ込んでフィルムのチェックを済ませることにした。帰ってくる
彼女たちの笑顔を一番に撮れるように。カメラの調節を終え、滑走路で無線に集まる人々
をパシャリと試し撮りすると、同時に《残存部隊撤退》の一言が耳に飛び込んできた。わっ
と湧き上がる兵士たち。アフリカのエースの腕と人気は、今日も健在なようだ。
少しして、彼女が戻ってきたとの無線が入った。着陸体勢に入ったマルセイユ中尉に片
手を上げて注意を促すと、彼女は構えられたカメラを見た瞬間キラリと笑顔を投げかけて
くれた。すかさずシャッターを切る。あまりの眩しい表情に思わず露光の調節を見誤った
かとも思ったが、結論から言えばその一枚が今回の寄港での最高の一枚になった。愛機で
あるBf109F4/Tropを装備した彼女は普段よりも更に特別に輝いていて、どの瞬間を切り取
ってもまるで映画のポスターのようだ。ましてやこの時間、地平線に太陽が触れる頃合、
美しい砂漠の夕陽を背負ったその姿に見惚れぬ者などいまい。次の一枚に備えてフィルム
をセットしながら、私は彼女の降り立った滑走路の方へと向かった。
293: 2008/12/13(土) 01:59:02 ID:cjG8dti/
「やあ、また会ったな。扶桑の記者さん。」
マルセイユ中尉は私の顔を覚えていたらしく、気さくに話しかけてきてくれた。話によ
ると、私がくるという報告を出撃の前に港から受けていたらしい。正式な取材申請はされ
ていないから構わなくていいと私が言うと、彼女は笑いながら「せっかくわざわざ来てく
れたんだ、何も出さない方が無礼だろ?」と返してあの懐かしい天幕へ案内してくれた。
入り口にはこちらも相変わらずなマティルダが周囲に目を光らせていて、マルセイユの後
ろに付いてきた私を見るなり鋭い眼光で射抜いてくる。
「覚えてるかい、マティルダ?この前来た扶桑のジャーナリストさ。」
マティルダはもちろんです、と答え、それから私の名前を付け足した。流石はマルセイ
ユの側近だ。一度しか自己紹介などしていないのに、異邦人には慣れないと発音しにくい
扶桑語の名前を見事に記憶していた。
「まあ、入ってくれ。また君の話を聞かせてくれよ。」
天幕の中の様子も相変わらずで、あの日から何ら変わっていない。しかし、素晴らしい
品揃えの酒瓶を眺めていて、思わず声が漏れた。前に扶桑から送った扶桑酒の瓶がまだ並
べられている。もちろん中は空だったが。
「なかなか手に入らない珍しい瓶は捨てずに飾っているんだ。どうだい、いいコレクショ
ンだろう?」
なるほど、言われてみれば他にも中身のない瓶がたくさん並んでいる。聞いたこともな
いブランドばかりなのでその価値は計りかねるが、各国の言葉が入り混じったラベルを見
る限り、どうやら私と同じことを考えた者が自分の祖国のお気に入りをプレゼントしてい
るのだろう。
「君の送ってくれた酒はなかなかのものだったよ。扶桑の文字は読めないんだが、あれは
なんていうんだい?」
私が送ったのは丹沢山という扶桑酒だ。横須賀の地酒屋で買った一級品の本醸造だから
まずいわけがないのだが、果たしてカクテルの材料としてはいかほどだったのだろうか。
「そうだな、ジンでマティーニにするのもまあまあだが、たまたま手に入ったライムで割っ
てみたらこれがベストマッチでな。他にも色々試したけどこれが一番だったよ。」
どうやら気に入ってもらえたようで良かった。自分の国のものを誉められて悪い気のす
る人などいない。今度は焼酎でも送ってみようかなどと密かに目論みながら、私たちはあ
の日のように語り合った。前は聞けなかった話もたくさん聞けて、夕食を持ってきてくれ
たマティルダも交えて実に愉快なひとときを堪能することができた。こうしていると、な
んだか自分が特別な存在になったような気がしてくる。誰もが憧れる最高の英雄と酒を交
わして談笑する機会など、そうそう得られるものではない。そしてそんなことを平気でで
きる気さくな存在だからこそ、なお憧れられ続けているのだろう。
話の中で私は、マルセイユ中尉のおかげでもう一度空を飛ぶ決心がついたことを告げた。
戦闘用の機械化航空歩兵としてではなく、よりウィッチの近くでその姿を捉える戦場カメ
ラマンとして。今回のブリタニア取材はそのデビュー旅行なのだ。私が感謝の辞を述べる
と、彼女は「それはすごい!」と言って自慢げに私の肩を叩いてくれたが、すぐに照れく
さそうな顔をして首を振った。できれば一緒に飛びたかったが、あいにくストライカーユ
ニットは荷物になるので別路でブリタニアに直接送られている。無二の機会を逃してしまっ
たと苦笑いしながら呟くと、マルセイユは「また来ればいいさ」とあっさり言ってのけた。
まったく彼女の言う通りだ。機会がないなら作ればいい。どれだけ先になるかはわからな
いが、私はかつて自分がそうしたように心に誓った。またいつかここに来よう。そしてそ
の時こそ、マルセイユの見た空を一緒に見よう。世界の果ての大空を、共に天翔けよう。
でもそうしたら私はきっと、また泣いてしまうんだろうな。
マルセイユ中尉は私の顔を覚えていたらしく、気さくに話しかけてきてくれた。話によ
ると、私がくるという報告を出撃の前に港から受けていたらしい。正式な取材申請はされ
ていないから構わなくていいと私が言うと、彼女は笑いながら「せっかくわざわざ来てく
れたんだ、何も出さない方が無礼だろ?」と返してあの懐かしい天幕へ案内してくれた。
入り口にはこちらも相変わらずなマティルダが周囲に目を光らせていて、マルセイユの後
ろに付いてきた私を見るなり鋭い眼光で射抜いてくる。
「覚えてるかい、マティルダ?この前来た扶桑のジャーナリストさ。」
マティルダはもちろんです、と答え、それから私の名前を付け足した。流石はマルセイ
ユの側近だ。一度しか自己紹介などしていないのに、異邦人には慣れないと発音しにくい
扶桑語の名前を見事に記憶していた。
「まあ、入ってくれ。また君の話を聞かせてくれよ。」
天幕の中の様子も相変わらずで、あの日から何ら変わっていない。しかし、素晴らしい
品揃えの酒瓶を眺めていて、思わず声が漏れた。前に扶桑から送った扶桑酒の瓶がまだ並
べられている。もちろん中は空だったが。
「なかなか手に入らない珍しい瓶は捨てずに飾っているんだ。どうだい、いいコレクショ
ンだろう?」
なるほど、言われてみれば他にも中身のない瓶がたくさん並んでいる。聞いたこともな
いブランドばかりなのでその価値は計りかねるが、各国の言葉が入り混じったラベルを見
る限り、どうやら私と同じことを考えた者が自分の祖国のお気に入りをプレゼントしてい
るのだろう。
「君の送ってくれた酒はなかなかのものだったよ。扶桑の文字は読めないんだが、あれは
なんていうんだい?」
私が送ったのは丹沢山という扶桑酒だ。横須賀の地酒屋で買った一級品の本醸造だから
まずいわけがないのだが、果たしてカクテルの材料としてはいかほどだったのだろうか。
「そうだな、ジンでマティーニにするのもまあまあだが、たまたま手に入ったライムで割っ
てみたらこれがベストマッチでな。他にも色々試したけどこれが一番だったよ。」
どうやら気に入ってもらえたようで良かった。自分の国のものを誉められて悪い気のす
る人などいない。今度は焼酎でも送ってみようかなどと密かに目論みながら、私たちはあ
の日のように語り合った。前は聞けなかった話もたくさん聞けて、夕食を持ってきてくれ
たマティルダも交えて実に愉快なひとときを堪能することができた。こうしていると、な
んだか自分が特別な存在になったような気がしてくる。誰もが憧れる最高の英雄と酒を交
わして談笑する機会など、そうそう得られるものではない。そしてそんなことを平気でで
きる気さくな存在だからこそ、なお憧れられ続けているのだろう。
話の中で私は、マルセイユ中尉のおかげでもう一度空を飛ぶ決心がついたことを告げた。
戦闘用の機械化航空歩兵としてではなく、よりウィッチの近くでその姿を捉える戦場カメ
ラマンとして。今回のブリタニア取材はそのデビュー旅行なのだ。私が感謝の辞を述べる
と、彼女は「それはすごい!」と言って自慢げに私の肩を叩いてくれたが、すぐに照れく
さそうな顔をして首を振った。できれば一緒に飛びたかったが、あいにくストライカーユ
ニットは荷物になるので別路でブリタニアに直接送られている。無二の機会を逃してしまっ
たと苦笑いしながら呟くと、マルセイユは「また来ればいいさ」とあっさり言ってのけた。
まったく彼女の言う通りだ。機会がないなら作ればいい。どれだけ先になるかはわからな
いが、私はかつて自分がそうしたように心に誓った。またいつかここに来よう。そしてそ
の時こそ、マルセイユの見た空を一緒に見よう。世界の果ての大空を、共に天翔けよう。
でもそうしたら私はきっと、また泣いてしまうんだろうな。
294: 2008/12/13(土) 02:01:19 ID:cjG8dti/
さあ寝ようという時になって、マルセイユ中尉は不意に「こっちに来い」と言って私を
自分のベッドへ呼び寄せた。何事かと思っておとなしく従うと、一緒にベッドに入れと言
う。私は前のように毛布にくるまって寝るから構わないと遠慮したら、強引に抱き寄せら
れてそのまま引きずり込まれてしまった。
「前は君にさっさと眠られてしまったからね。今日はリベンジだ。」
何の話かと思ったら、どうやら私と関係を持ちたいらしい。世界一の英雄の相手などし
がない記者には釣り合わないと短く笑い返すと、「でも拒否はしないんだね、嬉しいよ」
などと躱されてそのまま唇を奪われ服を脱がされ、為す術もなく組み伏せられてしまった。
経験などろくに持たない私はその砂漠の太陽のように熱い蒼色の眼差しに耳から煙を吹い
て撃墜され、その夜の記録は私の頭の中だけに留めざるを得なくなった。一つだけ書き残
すことがあるとすれば、彼女はその最中に「アフリカの星がこんなふしだらなやつで幻滅
したかい?」などと聞いてきた。もちろんそんなことはない。英雄だって一人の人間だ。
少しくらいの我が儘があった方がいい。むしろもっと好きになりそうだと茶化したら意外
なほど嬉しそうにされたので、……おっと、これ以上は書けないな。
翌日の昼、私は早々に荷物をまとめて帰りのトラックに乗り込んだ。せめて一日は滞在
したかったが、今回はあくまでブリタニア取材の途中なのだから仕方がない。船に乗り遅
れたら一大事だ。マルセイユ中尉に別れの挨拶を告げると、彼女はいつものように鋭い笑
みを浮かべて「また逢おう」と言い、それから不意に耳元に近寄って「ここだけの話、本
気で手を出してしまったのは君が初めてなんだ。君は素敵だよ」などと囁くものだから危
うくトラックの窓から飛び出すところだった。当然うまい切り返しなどできるはずもなく、
扶桑語でそれらしいことを言ったフリをして無理矢理ごまかしておいた。これが自惚れで
ないなら、私は彼女に口説かれてしまったのだ。冷静でいられる道理などあるまい。
滑走路から勢い良く飛び立つ彼女の背中を見送ってから、私は基地を後にした。割に合
わない短い時間だったが、決して無駄ではなかったようだ。
また逢いましょう、マルセイユ中尉。いつか必ずまた逢いに来ます。もしその時あなた
がもう一度私を口説いたら、今度は本気にしますから覚悟していてくださいね。
endif;
自分のベッドへ呼び寄せた。何事かと思っておとなしく従うと、一緒にベッドに入れと言
う。私は前のように毛布にくるまって寝るから構わないと遠慮したら、強引に抱き寄せら
れてそのまま引きずり込まれてしまった。
「前は君にさっさと眠られてしまったからね。今日はリベンジだ。」
何の話かと思ったら、どうやら私と関係を持ちたいらしい。世界一の英雄の相手などし
がない記者には釣り合わないと短く笑い返すと、「でも拒否はしないんだね、嬉しいよ」
などと躱されてそのまま唇を奪われ服を脱がされ、為す術もなく組み伏せられてしまった。
経験などろくに持たない私はその砂漠の太陽のように熱い蒼色の眼差しに耳から煙を吹い
て撃墜され、その夜の記録は私の頭の中だけに留めざるを得なくなった。一つだけ書き残
すことがあるとすれば、彼女はその最中に「アフリカの星がこんなふしだらなやつで幻滅
したかい?」などと聞いてきた。もちろんそんなことはない。英雄だって一人の人間だ。
少しくらいの我が儘があった方がいい。むしろもっと好きになりそうだと茶化したら意外
なほど嬉しそうにされたので、……おっと、これ以上は書けないな。
翌日の昼、私は早々に荷物をまとめて帰りのトラックに乗り込んだ。せめて一日は滞在
したかったが、今回はあくまでブリタニア取材の途中なのだから仕方がない。船に乗り遅
れたら一大事だ。マルセイユ中尉に別れの挨拶を告げると、彼女はいつものように鋭い笑
みを浮かべて「また逢おう」と言い、それから不意に耳元に近寄って「ここだけの話、本
気で手を出してしまったのは君が初めてなんだ。君は素敵だよ」などと囁くものだから危
うくトラックの窓から飛び出すところだった。当然うまい切り返しなどできるはずもなく、
扶桑語でそれらしいことを言ったフリをして無理矢理ごまかしておいた。これが自惚れで
ないなら、私は彼女に口説かれてしまったのだ。冷静でいられる道理などあるまい。
滑走路から勢い良く飛び立つ彼女の背中を見送ってから、私は基地を後にした。割に合
わない短い時間だったが、決して無駄ではなかったようだ。
また逢いましょう、マルセイユ中尉。いつか必ずまた逢いに来ます。もしその時あなた
がもう一度私を口説いたら、今度は本気にしますから覚悟していてくださいね。
endif;
295: 2008/12/13(土) 02:02:42 ID:cjG8dti/
以上です。
自分は酒には詳しくないのでカクテルのくだりは多少アレかもしれませんが勘弁。
ただ原作の本文中で記者氏が送ったのが「日本酒」になっていてどう判断すべきか迷ったのですが、
結局誤植ということにしてここでは「扶桑酒」と書きました。と一応補足しておく。
あと書いてて気付いたけどマルセイユとルーデルはどちらも「ハンナ」という名前なんですね。
自分は酒には詳しくないのでカクテルのくだりは多少アレかもしれませんが勘弁。
ただ原作の本文中で記者氏が送ったのが「日本酒」になっていてどう判断すべきか迷ったのですが、
結局誤植ということにしてここでは「扶桑酒」と書きました。と一応補足しておく。
あと書いてて気付いたけどマルセイユとルーデルはどちらも「ハンナ」という名前なんですね。
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります