1: 2009/03/28(土) 12:11:18.07 ID:CgGEkxJr0
JUM「何、買い置きの苺大福が切れた?」

雛苺「買ってきて欲しいのー・・」

真紅「JUM、悪いけどお願いするわ のりがいない今、貴方しか頼れないの」

JUM「ううん・・まぁ今日は雨だし、人も少ないだろうから・・・・いいよ」

雛苺「あぁぁあありがとうなのー!!」

真紅「私の家来のせいで、済まないわね」

JUM「じゃあ行ってくるよ」

がちゃ
人形師
2: 2009/03/28(土) 12:16:09.80 ID:CgGEkxJr0
今日はバイトないからやれるだけやる
しばらく昨日のやつが続きます 
暇な人でもし良かったら見てやってください


たまには外に出てみるのもいいもんだ。雨なら尚更。
家の中も外も静かで言うことない。おつかいを言い付かってるっていうのがちょっと微妙だけど。
久しぶりにちょっと深呼吸でも・・。

真紅「JUMっちょっと待ってっ」

JUM「・・ん?」

すぅっと雨に塗れた湿気だらけの空気を吸い込もうとしていた僕を呼び止めたのは、いつもよく聞き慣れたあの声。
そこにはサイズ違いのブルーのレインコートをダボつかせ、長靴でばちゃばちゃ水を撥ねさせ、音を立てながら走ってくる彼女がいた。

JUM「どうした真紅」

真紅「その・・ええと・・・・・うーん・・・・・」

5: 2009/03/28(土) 12:20:29.01 ID:CgGEkxJr0
何だか妙に歯切れが悪い。
こいつはいつも何でもズバズバ言ってくるのに。

真紅「・・・JUM、私も連れて行って頂戴」

JUM「おつかいにか?」

何を言うのかと思えば・・・。
こくん、とうなずいて肯定の意を示す。
珍しいこともあるもんだ。

JUM「行きたかったら家を出る前に言ってくれればよかったのに」

真紅「雛苺がいる手前、その・・・何だか言い出し辛くてね・・・駄目かしら?」

迷惑はかけないつもりよ、と付け加えた。
あの真紅が何でそんなことを言うんだ、とか深く考えずに一人よりは多い方がいいだろう、ということで。

7: 2009/03/28(土) 12:25:09.43 ID:CgGEkxJr0
JUM「・・・・雛苺にはちゃんと何か言ってきたか?」

真紅「しばらく家を空けるってだけは言っておいたわ」

JUM「なら、車にだけは気をつけろよ?」

真紅「じゃあいいの!?」

JUM「断る理由も無いしな その代わり、外では僕の言うことは絶対に守ってくれよ」

真紅「わ、分かったわ!」


まぁこれだけ深くレインコートを着てるんだからパッと見じゃ人形だなんて誰も分からないだろう。
そういうことで、ぶかぶかのフードの隙間から少し頬を染めて嬉しそうに笑うアンティークドール、
真紅と一緒に3月の終わりの冷たい雨の中、苺大福を買いに行くことになった。

9: 2009/03/28(土) 12:28:15.72 ID:CgGEkxJr0
JUM「けど、まさか大福を買うためだけにこんなに歩くことになるとは・・・」

JUM「流石に・・・・・疲れる・・・・」

いつもの行き着けの店はもちろん、行く店行く店の苺大福が軒並み売り切れだったのは驚いた。苺大福ダイエットでも流行ってるのか?
その結果家から結構離れた隣町の商店街の和菓子屋まで行くことになってしまった。
でも苦労のかいあって1ダースは買えた。雛苺の喜ぶ顔が浮かぶようだよ・・・。ふふふ。


真紅「まったくだらしが無い下僕ね ・・・・それなら私が持ってあげるわ」

JUM「・・・・下僕が主人に荷物持ちなんてさせる訳ないだろ これぐらい頑張らせろ」

真紅「・・・・そうだったわね ふふっ」

途中寄った駄菓子屋で買った、これはペロペロキャンディとでも言うのだろうか、とにかくそんな感じの
飴を舐めながら、僕の背丈の半分くらいの人形に強がりを言ってみせる僕。
そんな僕をを見てさも嬉しそうに、それでいて優しい顔で真紅は微笑んでみせる。
フードの隙間から見える真紅の表情は、家でのそれとはびっくりするほど遠く、柔らかい。そんなにその飴が美味いのだろうか。


12: 2009/03/28(土) 12:31:41.77 ID:CgGEkxJr0
何か変だと思ったら、飴なめてるのは真紅です
日本語難しいぜ

>途中寄った駄菓子屋で買った、これはペロペロキャンディとでも言うのだろうか、とにかくそんな感じの
>飴を舐めている僕の背丈の半分くらいの人形に、強がりを言ってみせる僕。

13: 2009/03/28(土) 12:36:09.46 ID:CgGEkxJr0
真紅「早く帰りましょ?雛苺が待ってるだろうし、私も何だかJUMの紅茶が飲みたくなってきたわ」

くいくい、と雨粒で濡れたコートの袖を引く真紅。
ここだけ見てると、知らない人からしたらまるで歳の離れた妹みたいに見られてるのかもしれないな、なんて考えてると。

JUM「そうだな ・・ん?」

僕らが今いる商店街は、僕らの街の商店街以上に活気が無くシャッターの下ろされた店が幾つも並んでる。
僕らの街の商店街がそうであるように、ここも理容室やら何たら商店やらのかつては営業していた店と、明るくライトで照らされたいまだ営業中の製肉店や文房具屋、
魚屋が混在しているんだけど、別にそういうことがどうだということじゃない。
そういった店舗などの間の暗がりというか隙間というか、存在そのものが不要な通路。
廃棄で出たダンボール箱やブルーのプラスチックのゴミ箱がごちゃごちゃと積まれている、そういう何のためにあるのかよく分からない、細い道。
分かりにくい説明で悪いけど、とにかくそういう通路に積まれたそのゴミの隙間から、ちらりと一瞬、ほんの一瞬だったけど、その通路に何か小さい人影のような物が見えた気がした。
確かに人、の様だと思う。

14: 2009/03/28(土) 12:41:01.35 ID:CgGEkxJr0
真紅「JUM?どうしたの?」

気になってもう一度見てみようとする前に思考と動きの両方を横から止められる。

真紅「? そろそろ寒くなってきたわ 早く帰りましょ?」

JUM「んー、そうだな 行こう」

いちいち見に行くのも面倒臭くなった。
思わずきゅっ、っと真紅の手を握る。
小さい。そしてぷにぷにして柔らかい。
この感覚を別の何かに言い換えるんだったら、やっぱり犬や猫の肉球が妥当だろうか。
いやいやそれともマシュマロの方が適当かな。いや赤ちゃんのほっぺなんてのも。

真紅「っ!?」

JUM「え、あ・・ごめん」

ぱっとすぐに手を離す。
考えごとをしながら何かしようとすると良く失敗する、僕の悪い癖の一つだ。

真紅「いや・・その・・・・ええと・・」

JUM「・・?帰るんだろ?」

真紅「そ、そうね・・・あぁぁ・・」

帰りは妙に静かな真紅だった。

16: 2009/03/28(土) 12:43:01.78 ID:CgGEkxJr0
がちゃ

JUM「ただいまー」

真紅「帰ったのだわ・・」

雛苺「おおぉぉおかえりなのー!!」

JUM「ほら大福 ちゃんと買ってきてやったぞ」

雛苺「きゃっほぉぉぉい!さっそくみんなで一緒に食べるのー!」

真紅「えぇ・・そうね・・・じゃあJUM、帰って早々だけど紅茶をお願いするわ」

JUM「りょーかい」ぱたぱた

雛苺「・・・・さて、真紅はどうだったの?」

真紅「どうって・・何の話?」

17: 2009/03/28(土) 12:45:10.07 ID:CgGEkxJr0
雛苺「JUMと何かあったかってことなのよー あったんでしょ?何か」

真紅「えーと、あったというか飴に夢中で何もしなかったというか・・」

雛苺「・・・・せっかくのJUMとの仲を縮めるチャンスだったのに、まさかそれを棒に振っちゃったの?」

真紅「ううう・・私の馬鹿・・・」

雛苺「まぁ話ぐらいなら聞いてあげるから元気出すのよー」もぐもぐ

真紅「かといって特に話すべきこともないのだけど・・・」もぐもぐ

JUM「とりあえずお茶だぞー」

雛苺「やっぱり男はストーリーに弱いものなのよ」

真紅「それは何かのテレビで聞いたことがあるわね」

18: 2009/03/28(土) 12:47:21.96 ID:CgGEkxJr0
JUM「何、また苺大福が切れた?1ダースはあっただろ確か」

雛苺「真紅と今後について話してたらあっという間に無くなっちゃったのよー・・」

真紅「あの大福が美味しすぎるのよ・・」

JUM「つまりまた買いに行けってことか」

雛苺「そうなのー そして昨日と同じ店にしてほしいのー!」

真紅「この子的に昨日の店の苺大福がヒットしたみたいなの・・・お願いできるかしら?」

JUM「しょうがないな・・・じゃあまた真紅も一緒に来るか?」

真紅「わわっ私は・・今回は遠慮するわ」

19: 2009/03/28(土) 12:50:10.71 ID:CgGEkxJr0
雛苺「真紅の分のおみやげもよろしくなのよー!」

真紅「え!?」

JUM「わぁーった でも期待せずに待っててくれよ?」

真紅「わ、分かったわ 期待しないけど、期待しないなりに期待して・・・うん、とにかく待っているわね」

JUM「えーと・・・そうか、分かった 行ってくる」

雛苺「じゃーいってらっしゃいなのー!」

がちゃっ

22: 2009/03/28(土) 12:53:07.60 ID:CgGEkxJr0






JUM「ええと、この苺大福全部に・・あとこれとこれもお願いします」

「はい、毎度ありがとうございます えーと合計3K・・」

「またお越しくださいー」

がらららっ

JUM「降るよなぁ、これは」

雨こそまだだけど、どんよりと灰色に濁った空からは今にもぽつぽつ降ってきそうだった。
今日一日は絶対降ってくれるな、と言う方が無理だと雨雲が言ってくるのが聞こえそうなぐらいに。
やたらと冷たい風も吹くし、歩いてきたのは失敗だったか。
色々買い込みすぎて重いし・・・。
でもまぁ、あいつらの喜ぶ顔が見れると思ったら安いもんだろ。
空を見上げてぼんやり店先に突っ立ってると、どこからかがろんっ、って変な音がした。
何か、ドラム缶のような中が空洞の物が転がる様な音だ。

24: 2009/03/28(土) 12:57:39.79 ID:CgGEkxJr0
気になって音のした辺りへ行ってみると、何だ、昨日立ち止まったあの細い通路じゃないか。
昨日は全然気にしなかったけど、よく見てみると段ボールどころじゃない。色んなゴミが散乱している。
その辺の学生がよく溜まっているのだろうか。
カップラーメンや弁当のガラは言うに及ばず、煙草の吸殻もいくつもある。
その他空き缶やビニール袋やゴミ袋週刊誌。・・・・汚すぎる。

JUM「うへぇ・・・・・」

長居は無用、すぐに帰ろうと踵を返すその一瞬、通路に累々と並べられた汚れた段ボールとゴミ箱の隙間から何かこう、足が見えた。
人間の足だとすぐ分かる。
地面に立っているピシっとした足とか身なりのしっかりした綺麗な革靴を履いてるとかそんなのじゃない。
座った状態でだらしなく、投げ出されている、形容するならまさに浮浪者。言いすぎだろうか。
とにかくそんな足。

足?
人間の、足?
だってあれは靴を履いてた。・・・うん、履いてる。
なら本当に人間?こんな路地裏に?
・・・・人間?

26: 2009/03/28(土) 13:00:36.40 ID:CgGEkxJr0
JUM「う、うわっ・・・・!!」

通路に飛び込む。
コートやズボンが擦れて汚れようが気にしない。
左手のビニール袋の中身が壁にぶつかって中身が崩れるけど構わない。
遠くからだからよく分からなかったけど足の大きさからして、たぶん子供だ。
子供がこんな丘のドブみたいな場所に転がってるなんて絶対におかしい。
真昼間から子供の・・・・・そんなの絶対に見たくない。
見たくない見たくない、でも足が止まらない。
見てみぬ振りしてしまいたいぐらい怖いけど、してたまるかと足が言う。
いくつもの段ボール箱を踏み潰してゴミ箱を蹴って、ちょうど通路の真ん中辺りでやっとそれを見つけた。
埃と蜘蛛の巣のようなものに塗れて黒く汚れた服を着ているそれは、確かに子供のなりをしていた。髪が酷く乱れて顔がよく分からない。
最初は指先から、そして心臓にまで震えが走り始める。
しばらくまともに直視することも出来なかったが、覚悟を決めて少しずつ見てみると分かる。
こいつは恐ろしくよく出来てるけど・・・でもこれは。
でもこれは・・・・・もしかして、人形?
人間じゃないことにほっと、安堵する。けど。
だけどそいつの左手の見慣れた薔薇の指輪を見てまたすぐに顔が引きつる。

27: 2009/03/28(土) 13:03:18.45 ID:CgGEkxJr0
JUM「・・・っおい!起きろよお前!ローゼンメイデンなんだろ!こらっ!」

がくがくと強く揺さぶる。顔を叩く。でも起きない。
身体に全く力が入ってないのが分かる。
揺さぶる。叩く。でも。でも起きない。
何だ何だ人形でも行き倒れなんかするっていうのか!?
寝覚めが悪すぎるだろっ!!起きろよ畜生!!
そうやってしばらく呼びかけ続けたが、そいつは全く起きようとしない。
そもそも起きる気がないのか、或いは起きたくても起きることができないのか。

そんなことをその名前も知らない人形を抱きながら、いつの間にか座り込んでぼんやりと考えていた。
遠い空で、雲の唸り声が聞こえる。

29: 2009/03/28(土) 13:06:03.63 ID:CgGEkxJr0
ぽつぽつと、とうとう我慢し切れなかったのか屋根の隙間から雨粒が落ち始めた。
だけどどうにもそこを動く気にはなれなかった僕は、せめてこいつだけでもとその人形をコートで包んで、再び抱いてやった。
排ガスを乗せた、嫌に冷たい灰色の風が吹く。

JUM「・・・・・ごめんな。お前のこと、助けてやれなくて」

人形の頭を優しく、そしてゆっくり撫でてやる。煤煙のせいなのだろうか、黒くくすんだ長髪を手で払ってから、コートの中にまとめる。
そうしてふと、考える。
ここでこうなるまでに、こいつに一体何があったのだろうか。
分からない。だって僕の一番身近なローゼンメイデン、真紅たちからあまりに遠くかけ離れていたから。
でもおそらく、さぞ無念だったろうということだけは分かる。
何を考えてこの丘のドブみたいなところで息絶えることを選んだのか。
そもそも何でこいつは一人でいたのか。何で何で何で。分からない分からない分からない。


「・・・・・・・・苦しいですぅ」

32: 2009/03/28(土) 13:09:11.93 ID:CgGEkxJr0
足元に水溜りが出来た頃ぐらいになってそいつは、まず最初に苦しいとコートの中でぼそっと言った。
一瞬、頭の中の細胞という細胞が動きを止めた。
そして。

JUM「お前っ!!生きてたのか・・っ!!」

「・・・・だから、苦しいと言ってるですぅ」

JUM「あ、ああ悪かった!」

腕の力を緩めて、急いでコートの中からそいつの顔を探す。
良かった良かった、氏んじゃあいなかったんだ。
自然と顔が緩み、笑顔がこぼれる。
そしてそいつの顔をコートから出した瞬間にそいつから貰ったのは、自分を助けてくれたことに対する賛辞の言葉なんかではなく。
どうしようも無いくらい、どう頑張ったって言い訳のしようもない、そしてこれ以上ないほどの『ゲンコツ』だった。
緩みきった顔にもらった不意の一撃、その余りの痛みに座ったまま悶える。
思わず顔を手で押さえる。けれど顔の中心にもらった一撃の余韻はそう簡単には消えてくれない。

34: 2009/03/28(土) 13:12:33.71 ID:CgGEkxJr0
「・・・・ぐっすり眠ってた翠星石に何しようとしてたですか!この人間!」

JUM「ぐ、ぐっすり眠ってた・・・・?」

痛みと痛みの隙間から何とか声を捻り出す。眠ってた?あれがか?
そんな馬鹿な。

「ったりめーです!」

自信満々にそう言い放つ。まるであれが生き物の正しい睡眠の姿だとでも言わんばかり。

そしてここに来てようやく怒りの炎が沸き立つ。
何だ何だこれは。
何で純粋な善意から行き倒れてる人形を助けてやろうとしたらお礼にゲンコツ一発と謂れ無い疑いをかけられるんだ?
ぶっ倒れてたと思ったら昭和の小学生並に元気じゃないかこいつ。

JUM「っお前!人様が見知らぬ人形を助けてやったってのに礼の一つも言えないのか!おまけにいきなり殴りやがって!」

思わず言葉が汚くなる。

「助けてもらってすらねーですし何より助けを必要としてなかったです!逆ギレなんか見苦しー真似やめて、目の前からとっとと消え失せるです!」

JUM「っっ!!」

頭の、いや、全身の血液が沸騰しそうだった。

36: 2009/03/28(土) 13:15:12.09 ID:CgGEkxJr0
不愉快だ。不愉快なんて言葉じゃ到底表現しきれないぐらい・・・・・。
ああもう!とにかく不愉快だ!
どれくらいだと聞かれれば、徹夜でやり続けたゲームのデータを目の前で、
それもわざと消されることぐらい、今なら笑って許せるぐらいだと言える。
同じ店の同じ店員に何度も万引き犯として衆人環視の中で冤罪をかけられるのも鼻で笑える。
目の前のこの生意気すぎる人形に比べたらそんなこと。

JUM「・・・・頼まれなくてもこっちから消え失せてやるよ!クソっ」

長々とこいつと言葉を介すだけでも苦痛だ。
同年代の不良がかつて使ってた言葉を真似てみせ、全ての言動で怒りを目一杯主張してやる。
コートはもういい。さっさと帰って真紅たちと久しぶりにじっくりと語らって、こんなやつのことなんかすぐに忘れてしまおう。
そうだ、昨日の飴を2つ買ってやろう。あいつらならこの人形と違って、きっと素直に喜んでくれるに違いない。
そんなことを考えながらしばらく行って通路の邪魔なゴミ箱を蹴飛ばしたころ、
例のおつかいの品がたくさん入った例のビニール袋を、あの人形の傍に置いてきたことを思い出した。
はぁ、と溜め息をついた。

37: 2009/03/28(土) 13:17:29.56 ID:CgGEkxJr0
さっさと消え失せてやるなんて言った手前、取りに戻るのはこれ以上無い位かっこ悪いし
嫌だけど、あれをここに置いていくわけにはいかない。

JUM「・・・ちっ」

忘れてたものはしょうがない。自分を落ち着かせる。
さっさと取りに行こう。何よりそれは自分のためだ。あれが無ければ真紅たちとじっくり語らうなんて絶対に叶わないことだからだ。
大丈夫、そんなの多少かっこ悪いだけ。あいつらに後で癒されることとを天秤に掛ければ言うまでも無い。さぁ戻ろう。さぁさぁ早く。

そうやって多少大げさに自分を言い聞かせてゆっくりと振り返る。
やっぱりあいつがいた。
いたことはいたが、今度は僕のコートを上に、そしてうつぶせに倒れていた。

39: 2009/03/28(土) 13:20:00.01 ID:CgGEkxJr0
一瞬、また走り寄って起こそうとしたが思い止まる。止まらせる。
どうせまた寝てる、とか言うんだろ?ありえそうな話だ。
ゆっくりと気付かれないように近寄り、傍にあったビニール袋を拾ってさぁ帰ろうとする。
するが、やはり。やはり、僕の中に微かに残っていた善人としての心が放ってはおかなかった。

JUM「・・・・・・おい」

今度は警戒して、少し離れた場所から声を掛ける。

JUM「また寝てるのか?」

突っ伏したまま返事がない。まさかマジ寝か?雨にうたれながらこんなところで?
嘘だと思ってたけど、さっき寝てたと言ってたのは本当なのか?

「・・・・・まだいたですか」

今度はさっきより早く返事があった。

42: 2009/03/28(土) 13:23:03.77 ID:CgGEkxJr0
JUM「何してるんだよ まさか二度寝か?」

「・・・・・・分かってるなら、さっさと失せやがれ、ですぅ」

はぁ、と溜め息を吐く。これ以上無いくらい予想通りの返答だ。
僕の中の善人を軽く恨む。

JUM「・・・・わぁーったよ そこでいつまでもそうして寝てろ」

「ちょ、・・・・・お、おい!人間!ちょっと待つです!」

は?と足を止める。

JUM「・・・・・何だよ 失せて欲しいんだろ?」

「う、失せるのはもちろんですが・・・・その前にちょっと、聞きたい事があるですぅ」

JUM「・・・・・悪いけど聞く気はもちろん、聞いてやる理由も義理も無い じゃあな」

44: 2009/03/28(土) 13:26:20.08 ID:CgGEkxJr0
「た、頼むです!そ、その・・・・・・」

「食べ物です!何か食べ物を持ってないですか!?」

・・・・・・・
・・・・・・・

JUM「・・・・・・食べ物?」

「うぅ・・・・そうです 食べ物ですぅ・・・・もし持ってたら・・・・・
少しでいいから・・・・・分けてほしいですぅ・・」

・・・・何を言うかと思えば、食べ物をよこせ?
数分前に僕の顔面に一発くれたやつがどの面下げてそんなことを・・・・。

JUM「・・・・・・ツいてるなお前」

「・・・・・・え?」

46: 2009/03/28(土) 13:29:11.00 ID:CgGEkxJr0
がさがさとビニール袋をあさって、目的の物を一つ取り出す。
それを差し出す。

「・・・何ですこれ?」

JUM「これはどら焼きという、この国の国民食だ」

「・・・・・どら焼き?」

JUM「光栄に思えよ?どら焼きはこの国で最も尊い食べ物の一つだ それがた」

僕のどら焼きの講釈の8分の1も言い終える前にそいつはどら焼きを奪い取りむしゃぶりつく。瞬きする間にあっという間に消える。

「う、旨すぎるですぅ!もっと無いですか!?」

JUM「・・・・お前、疑いも無しに人から貰ったものを喰うなよ」

「え?」

ぺろぺろと指を舐めながらそう返す。
どうやら口に合ったみたいだ。
やはりどら焼きは素晴らしいものだ。

JUM「どら焼きならいくらでもある でももっと喰いたいならまずここから移動するぞ」

49: 2009/03/28(土) 13:33:15.45 ID:CgGEkxJr0
JUM「こんなところで何か食べるもんじゃないしな 不衛生極まりない」

「・・・どら焼きをもっとくれるなら別に構わんですぅ」

JUM「ならとりあえず・・・よっと」

ひょいっ、と抱える

「なぁっ!?いきなり何するですか!」

またゲンコツが眉間目掛けてとんでくる。
それをさっと避ける。なんてこんな至近距離で出来る訳もなくまた顔で受ける。痛い。スナップが良く効いてる。
でもこいつを落とす訳にはいかないから耐える。

51: 2009/03/28(土) 13:37:16.71 ID:CgGEkxJr0
昨日は確かに11時くらいに帰って来れたんだけど未来創造堂見てました
保守してくれた人マジごめん

JUM「ぐ・・・お前・・・・人形が街中を普通に歩ける訳ないだろ・・・・」

怒りと痛みを必氏で堪える。

「あ、それもそうですね」

しかし、謝らない。そもそも謝る気が毛頭無いのかこいつは。

JUM「幸い雨が降ってるから誰も注意して僕を見たりしないだろうからな・・・・」

畜生、まだ痛みが残っている。両手が塞がってるせいで顔を抑えることも出来ない。
何で人形のくせに人間の僕より、こんなに重いパンチが撃てるのだろう。

JUM「・・・・・とりあえずもう殴らないでくれ」

「それは保障できんですぅ」

JUM「ならその辺の草でも喰って飢えをしのぐんだな」

「・・・・最終手段にとっとくですぅ」

移動することにした。

53: 2009/03/28(土) 13:41:15.32 ID:CgGEkxJr0
JUM「やっぱり人はいないな」

昨日の帰りに偶然見つけた緑地。
木が少し多いだけのただの広い公園を想像してほしい。とにかく僕らはそういう所に来た。
緑地とは名ばかりで遊具に多少の木々があり、一般的な公園と同じようにベンチもある。
そしてその緑地の最も高い所にある、全体が木製で屋根付きの休憩スペース。

JUM「ここならテーブルもあって座れるし、何より雨を凌げる」

人形をテーブルの上に降ろしてやる。

「長いことこの街に住んでるですけど、こんな場所は知らなかったですね」

腕を組み、しばらく全体を眺めてみる。
網膜に映る全ての風景が、まるで川の様に常に流れている。
この雨の調子だと明日までは降り続きそうだ。
そういえば帰りはどうしよう。これ以上濡れても一緒だし歩きにしようか。

57: 2009/03/28(土) 13:45:39.23 ID:CgGEkxJr0
どれくらいそうしていただろう。
がさがさがさ、とビニール袋を動かす音に意識を戻される。

JUM「・・・・・・おい」

「ふぇ?」

テーブルに置いていたビニール袋から勝手にどら焼きを取り出して食べている人形を、これまで誰にも向けたことの無い強烈な目でギラリと、
そして地獄の底から響かせるような低い声に精一杯の不快感を込めて上から睨みつける。
こういうのを『ガンを飛ばす』、関西弁では『メンチを切る』、そして英語では『look daggers』と言うのだろう。
もちろんそんな言葉では全く足りないけど。
だが。

59: 2009/03/28(土) 13:50:17.37 ID:CgGEkxJr0
「何だ人間・・・・まだそこにいたですか もうお前は用済みだから早く消え失せるですぅ」

だがそれがどうした、とでも主張するように人形は無視してどら焼きを貪り続けている。こいつには全く効かないようだ。
それならそれでいい。

JUM「・・・・・なるほどそうか じゃあさよなら」

ビニール袋をひったくって帰ろうとする。また顔を殴られる。
やはりこいつのゲンコツは異様に重い。

「お前はいきなり何するですか!ふざけるのも大概にしやがれです!」

JUM「ぐぁ・・・・っ!ふざけてんのはそっちだろ!これは僕の所有物だ!」

「そんなのしったことかです!うるさいからさっさと消えろと何度言ったら分かるですか!」

駄目だ駄目だ。こいつと一緒にいると駄目な気がしてならない。
自己中なんて日本語の中でも使用頻度の高い、そして不名誉極まりない言葉がこれ以上当てはまるやつを僕は今まで見たことが無い。
人から善行を受けたのにそれをさも当然かの様に振舞う人形。
『こいつとは永遠に分かり合えない』なんてこれ以上無いくらいに思うし、何より願う。

JUM「・・・・・・あーあー!そうかよ分かったよ!消えてやるよクソっ」

コートに続き、また諦めることにした。
背中でもう一つ、びりりっとどら焼きの袋を開ける音がした。

61: 2009/03/28(土) 13:53:04.85 ID:CgGEkxJr0






JUM「ただいまー・・・」

真紅「お、おかえりなさ・・・ってどうしたの!全身ずぶ濡れじゃないの!」

のり「うわあぁ!とととりあえずバスタオル取って来るわねJUMくん!」

雛苺「・・・JUM、手ぶらなの?うにゅーと真紅のおみやげは?」

JUM「あー・・・・えーとな、悪い 忘れてた」

雛苺「忘れてたの?」

66: 2009/03/28(土) 13:58:21.83 ID:CgGEkxJr0
JUM「ごめんなお前ら ・・・・・今日は何か色々あってな」

真紅「・・・・別に気にしてないのだわ そもそも最初から期待なんてしてなかったわ」

雛苺「真紅・・・・」

JUM「なら真紅は大丈夫だな ごめんな雛苺?また明日買いに行ってくるよ」

真紅「・・・・・・」

JUM「じゃあ風呂入ってくるよ」

のり「JUMくーんバスタオ・・・っていないわぁ・・・・」

雛苺「どうしたの真紅?」

真紅「・・・・・何でもないわ」

68: 2009/03/28(土) 14:03:37.74 ID:CgGEkxJr0






JUM「やっぱりさっきまで降ってたんだなぁ」

一面真っ黒に濡れているアスファルトたちが、昨日の雨がついさっきまで降り続いていたことを僕に語る。
久しぶりに見る午前9時の太陽が優しく大地と僕をじんわり暖める。
昨日雛苺に約束した通り買いに行くと言ったが、何故か真紅だけはいつもの『いってらっしゃい』を言わなかった。
雛苺のおつかいを、最終的にはすっぽかしてしまった僕にやっぱり怒っているのだろうか。
だとしたら今日こそおつかいを完遂しないといけない。
そのためには昨日の様に訳の分からない人形に構ったりしないで・・・・・。
・・・・・・。

70: 2009/03/28(土) 14:08:00.34 ID:CgGEkxJr0
「あ、昨日のお客さんですね 毎度ありがとうございます」

JUM「じゃあ今日も苺大福全部に・・・・あとこれも全部ください あとこれも・・・」

ちゃりんちゃりーん
がららら・・・

JUM「・・・・・・」

昨日のあの通路に入ってみる。誰もいない。
もしかしたら昨日のあれは白昼夢だったのか?なんて思ってしまうけど、
それは無いと、見覚えのある靴痕がクッキリ残ったゴミ箱が恨めしそうに僕に言う。じゃあ。
じゃああいつは、昨日のあのクソ生意気な人形は今でもあの緑地のベンチでどら焼きを貪っているのだろうか。
それとも、もうどこかへ行ってしまったのだろうか。
・・・・・・・。

71: 2009/03/28(土) 14:12:52.92 ID:CgGEkxJr0
JUM「・・・・・・」

昨日の緑地の例の場所へ来たが、やはりあいつはいなかった。
餌をちらつかせば従順になり、少しでも手を出そうものなら殴られる。そして、すぐいなくなる。
それじゃまんま猫じゃないか。

大量の空き袋とビニール袋だけを残して消えたあの人形。
しばらくそのビニールの山を見ていたが、ごろん、とベンチの上で横になる。
しばらくここで本でも読もうと思った。良い天気だし、今日は何だか集中できそうだ。


がさがさがさ、とビニール袋の擦れ合う音で目を覚ます。
知らない内に、どうやら寝てたみたいだ。
本を覆いにして寝てしまったせいだろう、何だかとてもカビ臭い。
けど、いくら良い天気だからって外で寝るなんて・・・。
半分寝ぼけながらも身体を起こすと、黒いコートを着たあの人形がまた勝手に袋をあさってどら焼きを貪っていた。

「ん、起きたですか」

JUM「・・・・・・」

73: 2009/03/28(土) 14:18:11.02 ID:CgGEkxJr0
「まったく、食べ物を持って来なかったら即追い出してたところですぅ」

JUM「・・・・・」

そう言いながらぱくぱくとどら焼きを食べ続けるその人形の頭に、とりあえず本の角で一撃を加える。

「がっ!?」

そいつにとっても不意の一撃だったのだろう。うずくまって頭をさすっている。

「いきなり・・・・何しやがるですか・・・・・」

JUM「それはこっちの台詞だよな 何勝手に人様の物を喰ってるんだよ」

袋の中身を確認する。
どら焼きはほぼ全滅の様だが、その他は無事みたいだった。ほっと息を吐く。

76: 2009/03/28(土) 14:22:53.91 ID:CgGEkxJr0
「く・・・いいから何か寄越すですぅ・・・・・翠星石はもう腹ペコで氏にそうですぅ・・・・」

JUM「あのな、ちゃんと頼みさえすれば別にいくらでもやるよ ほら」

袋の中からお団子を取り出して、投げて渡す。

「・・・・・ありがとう、ですぅ」

JUM「んん」

そうして、大人しく食べ始めた。
僕は本をもう一度開いた。

80: 2009/03/28(土) 14:28:43.76 ID:CgGEkxJr0
翠星石がうざい? そんな馬鹿な

「・・・・おい、人間」

本から目を離さずに、手探りで袋の中からお団子を探してそれを渡そうとする。
だが取ろうとしない。

「それはもういいですぅ・・・・少し、お前に聞きたいことがあるですぅ」

パタン、と本を閉じて顔を上げる。
こいつから質問?

JUM「・・・・何だよ」

「お前は・・・・何でまたここに来たですか?・・・・・翠星石に会いたかったのですか?」

JUM「・・・・さぁな」

82: 2009/03/28(土) 14:35:13.17 ID:CgGEkxJr0
「ごまかすな、ですぅ・・・・」

JUM「誤魔化してなんかない 僕が来たお陰でお前は食い物にありつける 嫌か?」

「嫌なことはねーですけど・・・・・」

JUM「なら大人しくそれ食べとけ」

再び、本を開く。
人形も諦めたのか、お団子を食べ始めた。

何で来たか、なんて僕が一番僕に聞きたかった。
僕は何でこいつのためにどら焼きをあんなにたくさん買って、わざわざここまで来たのだろう。
こいつには散々殴られたり勝手に喰われたりで、食べ物を恵んでやる理由なんか全然無いのに。分からない。

ページがいつまで経っても進まない。

84: 2009/03/28(土) 14:41:55.63 ID:CgGEkxJr0
お互い終始無言のまま、時間だけが過ぎていった。
最初は食べ物だけ持ってどこかに行ってしまうのではないかと思ってたが、そんなことは無かった。
いつまでも目の前で、もくもくと大人しくお団子を喰い続けている。
太陽もそんな僕らを気遣ってか、気温がだんだんと上がってきた。

「のどが渇いたですぅ」

ようやくページが10枚も進んだ頃に、人形はそんなことを言った。

JUM「・・・・ちょっと待ってろ」

「え?」

87: 2009/03/28(土) 14:47:36.62 ID:CgGEkxJr0
JUM「ほら」

自販機で買ってきてやった紅茶の缶を投げて渡す。

「・・・・ありがとうですぅ」

それに何も返さずに、本に戻る。
そいつはしばらくは何か返すのか待っていたが、無いものと分かると紅茶の蓋を開けた。

JUM「腹、まだ減るか?」

しばらくしてから聞いてみた。

89: 2009/03/28(土) 14:55:53.95 ID:CgGEkxJr0
昼飯喰ってきます


「ようやく落ち着いてきたですぅ・・・・・」

JUM「そうか」

そして、少し間を空けてから。

「・・・・・お前のおかげです その、ありがとうです・・・・」

JUM「別に」

「・・・・・」

昨日はお互い罵り合ってた仲のはずなのに、と思うと今こうやって二人で居るのが何だか不思議だった。
顔を上げて、どんなもんかと人形の顔を見てやると、そいつと目が合ってしまった。
気まずいのですぐに目を逸らすが、顔色はまぁ良くなったようだった。

99: 2009/03/28(土) 15:40:49.52 ID:CgGEkxJr0
すまん 続ける 何とか頑張る
あと翠星石が食べてるどら焼きは各種プロテインやらが生地に練りこまれてる
栄養的にはカ口リーメイトに勝ると劣らない代物です


親子なのだろう、おそらく傍の子供の母親のような人が遊具の近くのベンチで弁当を広げていた。
おそらく、もう昼時なんだろう。

JUM「昼飯、喰うか?」

「食べるですぅ!」

元気も出たようだ。
姉ちゃんが持たしてくれた手作り弁当を渡すと一層喜んだ。
しかし、こいつはほんとに良く喰うな。

「お前はどうするですか?」

JUM「僕はいいよ 好きに喰え」

「・・・・そうはいかんです お前も一緒に喰うです」

JUM「僕はいいんだよ本当に その間その辺をぶらぶらしてるから」

人形が何か言う前に席を立った。
後ろで人形が何か言ってるが、気にしない。
30分もその辺のスーパーで試食品を探してれば丁度いいだろう。

102: 2009/03/28(土) 15:50:23.72 ID:CgGEkxJr0
平日の昼時のスーパーの客の入りは何とも微妙なもので、試食品なんてもちろん置いてる訳が無かった。
かといって自分の食べ物に金を使う気が起こる訳もないので、しばらく外で本を読んで時間を潰すことにした。

もう30分はしただろう、と戻ってみるとやっぱり人形が待っていた。

「どこ行ってたですか?」

JUM「その辺を散歩してた 少しは腹の足しになったか?」

「というかまだ食べてないです さぁ散歩が終わったなら今度こそ一緒に食べるですよ?」

・・・・・・。

JUM「・・・・・お前、馬鹿か?全部やるって言ってるんだ 大人しく食べとけよ」

「・・・・別に馬鹿と言われてもいいです お前も一緒に喰わないなら翠星石も食べません」

JUM「・・・・なら一緒に喰うよ」

・・・・変だ。変な人形だ。人間に気を使うなんてな。

105: 2009/03/28(土) 15:59:46.10 ID:CgGEkxJr0
お菓子が苺大福を除いて尽きてからはそいつは何をするでもなく、ただ横になっていた。
僕はただただ本を読むだけ。お互い何も話さない。
傍から見たら実に変な光景だろう。

「・・・・悪かった、ですぅ」

JUM「・・・・・・」

「昨日は、殴ったり勝手に食べたりして、悪かったです」

JUM「・・・・・」

ぺら、とページをめくる。
相変わらず何も返さない。
聞いてはいる。ただ返す気がないだけだ。それに正直、こいつに何と言えばいいか分からない。
やっと謝ったか、ではないし、別にいいよ、も何か違うと思う。
こいつも僕が聞いてはいることは分かるらしい。

昨日、こいつとは永遠に分かり合えないなんて思ってた僕だが、それは少し違うような気もしてきた。

109: 2009/03/28(土) 16:06:50.94 ID:CgGEkxJr0
太陽が自分はそろそろ帰ると言ってくる頃、本を読み終わった。
気付かなかったが人形はいつの間にか寝ていたようだった。あの黒いコートに包まっていた。
僕が着ていた時より明らかに汚れているコートが気になったが、そのままにしておいた。
コートだけではない。こいつが起きてる時はよく見れなかったけど、やはり全体的に汚れていた。

「・・・・帰るですか」

がさがさ音を立てたのがいけなかったか、起こしてしまった。

JUM「ああ、そうだな」

「また、お前は来るですか?」

JUM「・・・・・・さぁな」

どうなんだろう。自分でも良く分からない。
来たくてここに来たんだろう。なら行くんじゃないのか。

JUM「気が向いたら来るかもな」

112: 2009/03/28(土) 16:14:17.09 ID:CgGEkxJr0
「・・・・・・」

こいつも何を思っているのか、よく分からない微妙な顔をしてみせた。
残念なのか、嬉しいのか。お互いに、お互いが良く分かってないのが良く分かる。

「翠星石の名前はですね、翠星石と言うです」

JUM「・・・・・」

「お前の名前は何と言うですか?」

JUM「桜田、ジュン」

また会えるんだろうか。というか、僕はまた会いに行くのだろうか。
とにかく、今日はもう帰ることにした。

113: 2009/03/28(土) 16:18:01.41 ID:CgGEkxJr0
JUM「ただいまー」

雛苺「おかえりなのー! ああぁぁぁうにゅー!!」

JUM「遅れてごめんな ところで真紅はどこだ?」

雛苺「真紅?えーと、そういえば今日は一度も・・・・」

JUM「まぁいいか じゃあさっそく風呂入ってくるよ」

雛苺「わーいわーい!さっそく食べるのよー!」

のり「だめ!それはごはん終わってから!」

雛苺「うゅー・・・」

114: 2009/03/28(土) 16:22:26.08 ID:CgGEkxJr0
のり「ねぇところでヒナちゃん JUMくんのコート、どこにあるか知らない?」

雛苺「JUMのコート?あの真っ黒の?」

のり「洗濯しようと思って探したんだけれど出てこなくてねー JUMくんは今日は着てなかったし、
一体どこにいっちゃったんだろう・・・」

真紅「・・・・・・」

真紅「・・・・黒い・・コート・・・・確か、昨日行く時は着てたわ」

真紅「帰ったときは・・・・・そういえば着てなかったわね」

真紅「どういうことかしらね」

115: 2009/03/28(土) 16:26:33.81 ID:CgGEkxJr0
JUM「ごちそうさまー」

雛苺「あれ?JUM、今日はもう寝るの?」

JUM「うん、何だか今日は疲れてな 先に寝るよ」

雛苺「おやすみなのー」

JUM「じゃあ姉ちゃん、明日よろしくな」

のり「ええ、分かったわ おやすみJUMくん」

真紅「・・・・・・」

真紅「私も寝るわ」

119: 2009/03/28(土) 16:35:30.09 ID:CgGEkxJr0
JUM「ん、なんだ 真紅ももう寝るのか?」

真紅「ええそうよ でもね、JUM その前に貴方に聞きたいことがあるの いいかしら」

JUM「僕が答えられる範囲でいいならな」

真紅「ならまず一つ目 のりが貴方の着ていたコートを探していたわ それがどこにあるか知らないかしら」

JUM「・・・どんなコートだったかな」

真紅「真っ黒で厚手のコートよ JUMが一昨日私と一緒におつかいに行ったときに着ていたわ」

真紅「昨日も貴方は着ていたわ確か 帰りはどうだったかしらね」

JUM「・・・・・・」

JUM「・・・・・落としたんだよ」

真紅「落とした?」

124: 2009/03/28(土) 16:42:12.01 ID:CgGEkxJr0
JUM「落としたってのは多少語弊があったな」

JUM「昨日の帰りは雨も風も凄くてな 途中雨宿りして、コートをバサバサやってたら手を離してしまって」

真紅「そのまま見つからなかった、と言う訳ね」

JUM「ああそうだ 言っておかなくて悪かったな」

真紅「別にいいのだわ それじゃもう一つ 
さっき二2階に上がる前にのりに何か言ってるようだったけど、何を言ってたのかしら」

JUM「・・・・最近、お前らが家に篭もりっぱなしでかわいそうだからどっかに
一日連れて行ってやってくれって頼んだんだよ」

真紅「そう、それは嬉しいわ 当然JUMも一緒に行くわよね?」

JUM「僕は・・・引きこもりだからな 行けないよ」

真紅「・・・・・」

126: 2009/03/28(土) 16:46:43.57 ID:CgGEkxJr0
JUM「ごめんな真紅 今日は僕疲れてるんだ もう寝るよ」

真紅「ねぇJ」

JUM「おやすみ お前も早く寝ろよ」

真紅「・・・・・JU」

JUM「どうしたんだよ、寝るんだろ?早く鞄に入れよ」

真紅「・・・・・・」

真紅「・・・・えぇ、そうするわ おやすみJUM」

雛苺「・・・・・・真紅」

128: 2009/03/28(土) 16:54:52.78 ID:CgGEkxJr0
JUM「じゃあ今日一日、目一杯楽しんでこいよな」

雛苺「おみやげたっくさん期待して待ってるのよー!」

のり「JUMくんも一緒に来ればいいのにー・・」

真紅「のり、無茶言うんじゃないのだわ それじゃJUM、お留守番よろしくね」

JUM「あ、ああ 任せろ」

真紅「・・・・・行くわよ」

JUM「・・・・・」

JUM「・・・・じゃあ、僕も急いで行くか」

130: 2009/03/28(土) 17:03:30.48 ID:CgGEkxJr0
いくら急ぐと意気込んでも、そこは所詮人間の足。
どれだけ気持ちだけ急いでも、結局いつもと同じぐらいの時間が掛かる。

翠星石「来たですね 今日は気が向いたってことですか?」

JUM「・・・・・」

いなかったらどうしようずっと考えていたが、その心配はいらなかったな。
まさかこいつは昨日からずっとここに居たのだろうか。

JUM「なぁ、まさかお前はずっとここに居たのか?」

翠星石「今更他のとこに行く気もしないし、それにここにいないと、もうJUMに会えないですよ」

JUM「貴重な食料源だからな」

そうですね、とくっくっくっと笑う。

翠星石「でも、今日は手ぶらみたいですね」

その代わりに別の話があるんだよ、と言う。

134: 2009/03/28(土) 17:09:23.48 ID:CgGEkxJr0
JUM「お前、今日は家に来ないか?」

文字通り『きょとん』、とした顔になる。・・・文字通り『きょとん』?

翠星石「・・・行っていいんですか?」

JUM「お前を最初に見たときからな、綺麗にしてやりたいと思ってたんだよ」

翠星石「まぁ、確かに汚いですもんね なら行くです」

案外あっけなく決まった。

JUM「ならお前の鞄は?」

翠星石「えーと・・これです」

予想通り持ち主と同じくらいに泥まみれ煤まみれ。
これも洗ってやるとしよう。

142: 2009/03/28(土) 17:19:15.24 ID:CgGEkxJr0
ちょっと煙草吸ってきます
貴重な土曜の午後を無駄にさせてるようですまん


翠星石「JUMの家って随分遠いですねぇ」

JUM「もうちょっとだ ・・っと」

今日の予定に含まれてる店を見つけた。
ちょっと待っててくれ、と言う。

翠星石「・・・すぐ終わらせるですよ」

大層不満そうな顔をしていた。

JUM「後でどら焼きを腹いっぱい喰わせてやるよ」

翠星石「・・・信じるですよ」



えーと、白シャツにジャージにカーディガン・・・うん。UNIQLOは安い。それになんか良い。
下着までは流石に買えないから、適当に真紅たちのを借りるとしよう。
準備はこんなもんだろう。

152: 2009/03/28(土) 17:43:18.62 ID:CgGEkxJr0
俺なんかに構ってくれて本当ありがとう
俺はただのローゼンとvipが好きなしがないコンビニの使えないバイトです


翠星石「ここがJUMの家ですか?」

JUM「今は誰もいないから好きにしてくれていい」

がちゃっ

翠星石「お邪魔するですぅ」

どかどかと革靴で普通にフローリングを歩く。

JUM「・・・・言い忘れてたけど家は土禁だ」

翠星石「・・・すまんです」

言わなかった僕が悪いのだろう。靴痕と黒いスジのようなものが付いたけど、気にしまい。
さて、じゃあとりあえず。

JUM「とりあえず脱げ」

またゲンコツが飛んでくる。

159: 2009/03/28(土) 17:50:45.39 ID:CgGEkxJr0
JUM「・・・・悪かった 言葉が1つも2つも足りなかったな そのドレスを洗うからまず脱いでくれって意味なんだよ」

翠星石「・・・・ちゃんと言ってくれればそれでいいです」

風呂場へと案内する。
しかし、1日振りにもらったゲンコツは響く・・・。と思ったが、案外そうでも無くすぐに痛みは引いた。
加減してくれたんだろうか。加減するぐらいならそもそも殴らないで欲しいんだけどな。


JUM「ほら、ここだ 中にドレスを入れて置いたらお前が風呂に入ってる間に僕が洗濯機を動かしとく」

翠星石「・・・・・」

さて、この間に鞄でも洗ってやるか。
まず洗剤洗剤っと。


163: 2009/03/28(土) 18:00:05.34 ID:CgGEkxJr0
アニスwww

探してみたけど鞄用の洗剤なんてあるわけもなく、しょうがないからホーミングで代用することにした。
泥汚れとかってこれで落ちるのか?まぁ洗剤なんて全部一緒だろう。
水をかけて洗剤を振って、後はただひたすら擦る擦る擦る・・・・。
擦る擦る擦る・・・・。
擦る擦る擦る・・・・。

翠星石「JUーM・・・」

擦る擦る擦る・・・・。

翠星石「JUーM・・・聞いてるですかー・・・」

JUM「擦る擦る・・・って何だお前、まだ入ってなかったのか」

翠星石「というか・・・お風呂の入り方が分からないです」

何だって?

JUM「お前、今まで風呂に入ったことないのか?」

こくん、とうなずく。そんなことあるもんなのか。

JUM「・・・・まぁしょうがないか」

鞄掃除は後回しすることになった。

167: 2009/03/28(土) 18:10:42.36 ID:CgGEkxJr0
ごうんごうん・・・

JUM「今更だけど、お前僕が入っても平気なのか?」

翠星石「・・・・JUMが何もしなければいい話です」

俯いて顔を見せないまま、そう呟く。
・・・・これでも信用されてるのか?会ってまだ1週間と経ってないぞ。

JUM「毛頭何もする気は無い 髪から洗うか」

まずシャワーで髪を濡らす。埃やら蜘蛛の巣やらをここで半分以上流す。
シャンプーを手に取り泡立てて、下から掻き揚げるように洗う。洗う洗う洗う。

JUM「・・・髪、多すぎるな」

翠星石「・・・・すまんです」

何を謝ってるのだろうか。
シャンプーの泡を流して水を軽く落とし、トリートメントをする。
人形にどれだけこれが意味があるのか分からないけど、とにかく一通りしてみる。
洗い落として次はコンディショナー。

この髪の量は・・・腕が疲れる・・・。

170: 2009/03/28(土) 18:19:15.04 ID:CgGEkxJr0
JUM「身体くらいは自分で洗えるだろ?それが終わったら湯船に入って100数えたら終わりだ」

JUM「じゃあ、鞄の続きしてくるから」

翠星石「分かったです・・・・」

さっきから妙に大人しいな。
あ。

JUM「それから、着替えとか全部洗濯機の上に置いとくからな」

がちゃ

・・・・・。
・・・・・。
聞くに聞けなかったけど、あの背中の傷は一体何だったんだろうか。
肩から斜めに入った切り傷の様な・・・・。

いや、今はそれより鞄だな。早く洗ってしまおう。

175: 2009/03/28(土) 18:30:05.37 ID:CgGEkxJr0
JUM「何か大体落ちたみたいだな」

流石はホーミング。
鞄の汚れは落ちた。だけど刻まれた凹みや傷までは、どうやら落としてくれなかったようだった。
・・・・・・。


あいつは、翠星石は結局自分のことを全く語らなかった。
お互い似たようなものだが、家まで教えた僕はまだ語ってる方だろう。
だからと言って、お前は一体前はどこにいて何をやっていたんですか?
何であんな路地裏で寝てたんですか?なんて今更聞ける訳もなく、僕は正直興味もない。
人に言いたくないことなんかいくらでもあるのが普通だと思う。
僕もそんなのいくらでもある側だからだけど。
でも、最初会った時のあいつの荒れ様の理由は少し気になった。

177: 2009/03/28(土) 18:38:31.33 ID:CgGEkxJr0
がちゃっ

翠星石が出てきた。

翠星石「・・・この洋服の着方ってこんな感じですか?」

JUM「ん、そうだな でもどうせ部屋着としてのシャツなんだからわざわざ
袖や首元のボタンまで留める必要は無いかな あとカーディガンの前は当然閉じる それとジャージはもうちょっと上げて・・・」

賃金代わりに、年中部屋着の引きこもりの部屋着の講義をしばらく聞いてもらうことにした。
しかし、全身を洗うだけで随分変わるもんだ。真っ赤なほっぺにゆるくカールした綺麗な茶髪。元はこんなに綺麗だったのか。
真紅に勝るとも劣らない・・・、なんて真紅に聞かれたら絶対に殴られるな。

181: 2009/03/28(土) 18:47:27.64 ID:CgGEkxJr0
JUM「よし、じゃああとはドレスが乾くのを待つだけだな」

たぶん半日もあれば、この晴天だ、乾くのは間違いないだろう。
冷たくも暖かい、初春の風が吹いた。
もうすぐお昼、そんな時間だった。

翠星石「・・・・・」

あいつはと言えば、どら焼きを手で弄びながら何か考えているようだった。
ゲストなんだから自由にしてていいんだが、何かすることは無いものか。

翠星石「JUM」

家中のゲームを思い出していた僕を翠星石が呼ぶ。

JUM「何だ?」

どら焼きが口に合わないから変えろ、とでも言うのだろうか。

翠星石「・・・・・何でJUMは、翠星石にこんなに色々世話を焼いてくれるですか?」

183: 2009/03/28(土) 18:54:09.75 ID:CgGEkxJr0
JUM「・・・・・さぁな」

翠星石「その『さぁな』、は何回も聞いたですよ?」

くすくす、と翠星石が笑う。

翠星石「やっぱり翠星石がかわいそうだったからですか?」

JUM「そうだったかもな 確か最初お前を起こした時はそうだったよ」

JUM「でもそれだけじゃお前にはついて行けないな」

違いないです、と言う。
こいつは何か言おうとしてる。大人しく聞き、答えることにしよう。

翠星石「翠星石はどうにも人間と仲良くすることが苦手です」

JUM「まぁ、そうだろうな」

188: 2009/03/28(土) 19:05:27.31 ID:CgGEkxJr0
翠星石「今まで色んな人間と関わる機会がありましたが、どの人間とも長く続いたためしはありませんでした」

翠星石「何て言うんでしょうね こういう、翠星石みたいに人間と素直に話すことの出来ないことを」

翠星石「まぁそんなことは別にいいです とにかくこの時代もまた例外ではありませんでした」

翠星石「出合って3日ですぐ雰囲気が悪くなりました どうせまたすぐ追い出されるものと思ってましたが、追い出されたのは3ヶ月も経った頃です 
今思うと、すぐにでもどこかに行くべきでした」

こいつの背中の傷を思い出す。
こいつの身体で唯一まともに見れたのは背中だけだ。他にも色々あるのだろうか。

翠星石「追い出された翠星石はあの路地裏で最初の一晩を明かしました」

一晩?
じゃあ僕がお前と会う前日に見た人影はやっぱりお前だったのか。

190: 2009/03/28(土) 19:14:03.68 ID:CgGEkxJr0
翠星石「翠星石はですね、心底翠星石と人間に絶望してたです」

翠星石「そこで出会ったのが、お前ですよ JUM」

JUM「だから妙に喧嘩腰だったんだな、あの時」

ここに来てやっと合点がいく。

翠星石「最初、というか今でもJUMのことが正直良く分からないです」

翠星石「JUMのものを勝手に食べたのに無理やり取り返さなかったり、食べ物を持ってきたり
頼まれもしないのに一緒に居てくれたり」

翠星石「今日だってそうです 何でJUMはこんなダメダメ翠星石に構ってくれるですか?」

JUM「んー、さぁな」

翠星石「・・・・・・」

流石にこれは無いか。

192: 2009/03/28(土) 19:20:30.49 ID:CgGEkxJr0
分からないのはお互いだったな、そういえば。
何で僕はこいつにそこまで構うのか以前考えてみたけど、結局分からなかったっけ。
・・・・今考えても分からない。けど、何故かこいつを放っておけない。放っておくなと、もう一人の僕が言う。

JUM「やっぱり分からないな」

翠星石「そうですか・・・」

少し肩を落とす翠星石。

JUM「でもお前は僕に世話を焼かれて迷惑か?」

翠星石「そ、そんなことはねーですけど」

JUM「なら利害が一致してる訳なんだから、もうしばらく大人しく僕に世話を焼かれてろ」

分からないんなら、この気持ちが何か分かるまで一緒に居ればいいだけだ。
ただとても単純でいて分かりやすい、そういう話だ。

194: 2009/03/28(土) 19:27:22.79 ID:CgGEkxJr0
後の時間に一体何をしていたかと言えば、もしかしたらただダラダラと時間の浪費をしていただけかもしれない。
特にすることも無いから、二人で延々オセロにトランプ、人生ゲームになんやかんやをしていただけだ。
早く真紅たちが帰ってこないだろうか。今日の夕飯はなんだろう。そしてその話題が尽きれば互いの話。
双子の妹がいるとか、実は裁縫が出来るとか。
そうやって、みんなが帰ってくるのを2人で待っていた。

がちゃっ

「ただいまなのー!」

JUM「やっと帰ってきたな」

翠星石「・・・懐かしいです」

199: 2009/03/28(土) 19:33:01.93 ID:CgGEkxJr0
>>193
vipperなんかやめて警察に入ってください

JUM「おかえり」

翠星石「・・・・おかえり、ですぅ」

雛苺「ああああああ!!翠星石なのー!!」

いきなり抱きつく雛苺。
いい感じに重さと速さが乗った、僕もよく倒されるあの苺タックルだ。
ご多分に漏れず翠星石も後頭部をもろにフローリングにぶつけた。
ゴツン、っと響く鈍い音が僕まで痛くさせる。

のり「きゃあああ!新しいお人形さん!!」

翠星石の上に乗った雛苺を引っぺがして抱きしめる姉ちゃん。

翠星石「な・・・なんですかこれは・・・・」

JUM「まだあと一人残ってるぞ」

真紅「・・・・・久しぶりね、翠星石」

201: 2009/03/28(土) 19:40:56.90 ID:CgGEkxJr0
翠星石「し、真紅ですぅ!」

今度は翠星石が姉ちゃんから脱出して真紅に飛びつく。
まさか姉ちゃんの100万キロの抱擁から抜け出せるとは・・・。

JUM「あーおい、今日からこいつも家に住まうからな」

真紅「・・・・この子のせいだったのね」

JUM「ん?」

真紅「何でもないわ さぁJUM、紅茶・・・の前にこの子を引き剥がして頂戴」

JUM「紅茶淹れる方が楽そうだな・・・いい加減離れろ翠星石!」

・・・か、硬い!あの細腕のどこからこんなパワーが・・・・・。

203: 2009/03/28(土) 19:46:37.24 ID:CgGEkxJr0
5分かけて何とか引き剥がす。
この程度で肩で息をする自分が情けなく思いながらも、思ったよりも簡単に翠星石を受け入れてくれたみんなに感謝した。

JUM「翠星石・・・いい加減落ち着け あっち行ってどら焼き食べてろ」

翠星石「・・・・早く来るですよー」

真紅を名残惜しそうに見やる翠星石を無理やり行かせる。
あいつ、他の姉妹の前だとあんな感じなのか。

真紅「JUM」

まだ玄関にいた真紅に振り向かせられる。

205: 2009/03/28(土) 19:54:56.81 ID:CgGEkxJr0
JUM「ん?」

真紅「その・・・えーと、何と言うのかしら・・・」

どこかで見たような歯切れの悪さだった。

真紅「貴方、絶対に自覚が無いと思うけどね、ここ数日おそらく翠星石のことでなんでしょうけど、
私のことを綺麗に忘れてたのよ」

えーと・・・・・。

・・・・急に何の話だ?

真紅「・・・・私をほっぽらかしていた間、貴方は翠星石と一体何をしていたのかしら」

JUM「何と言われても・・・どら焼き喰うのに付き合ってやったりとかゲームしてやったりとかぐらいだけど・・・」

真紅「どら焼き?」

どら焼きに食いつくか。流石はローゼンメイデンだ。

JUM「流石は真紅だな どら焼きに目を付ける辺り良く分かってるよ」

208: 2009/03/28(土) 20:02:57.92 ID:CgGEkxJr0
真紅「は、え、えええ流石はJUM、私の下僕ね 貴方も良く分かってるわ でもそんな話じゃなくて翠」

JUM「よしよし、じゃあさっそくどら焼きが何たるかを一緒に語らうためにも」

JUM「あと翠星石の歓迎会も兼ねて、実物をみんなで食べるか」

さぁ行こう、と立ち上がる僕を真紅が掴んで止める

真紅「・・・・貴方とこういう話をしようというのがそもそもの間違いだったわ」

真紅の話はまだ終わりでは無いらしい。

JUM「なるべく単刀直入に頼む どら焼きが待ってるんでな」

真紅「・・・・なら単刀直入に言うわ 貴方、私のことが好きかしら」

212: 2009/03/28(土) 20:13:59.14 ID:CgGEkxJr0
姿勢を正して腕を組み、しばらく考える。
今の問いの『好き』がどういう意味での『好き』なのか。
真紅の今までの言動、仕草、そして一挙手一投足の全てを思い出す。
そこから何か、この問いに対する正答が見えるはずだ。何か何か何か。

JUM「・・・よし、見えた」

真紅「見えた?」

真紅が良く分からない、とでも言いたげな顔をする。

JUM「まぁ聞いてから感想は言え 言うぞ」

真紅がごくり、と喉を鳴らす。

JUM「・・・・良く分からない」

真紅がはぁ、と溜め息を漏らす。

真紅「今まで何十回と聞いて、いつも答えはそれだもの・・・」

216: 2009/03/28(土) 20:22:40.63 ID:CgGEkxJr0
ごめんな、と謝る。

真紅「・・・別にいいわ じゃあ私のこと、嫌いかしら」

JUM「いや、嫌いではないな」

なら今はそれでいいわ、と言う。
極めて変な問答だろう。でも、こんな感じのことを2人のときは良くやってる。
真紅曰く『この積み重ねがいずれ愛となるのだわ』、らしい。

真紅「ほら・・・早く連れて行って頂戴 どら焼き?とか言うのを食べるのでしょう?」

いつものだっこしてくれ、のポーズだ。 
この問答が終わったら次はいつもこれだと決まっている。

JUM「・・・ほら」

いい加減慣れた『丁寧な抱っこ』とやらをする。
真紅がぽす、と僕に寄りかかる。

220: 2009/03/28(土) 20:30:38.90 ID:CgGEkxJr0
真紅「JUMの匂い・・・久しぶりだわ」

抱っこをするとこうやって匂いをかいでくる。
いつも恥ずかしいから止めてくれと言ってもいつも決して止めない『これ』もまた通例だった。
こんなのの何がいいのか・・・。

JUM「そんなにこれするの久しぶりだったか?」

記憶を手繰るが、ここ数日色々一気に起こったせいでなかなか最後にした時のことを思い出せない。
えーと・・・。

真紅「最後にこれをしたのは先週だわ その後色々あってなかなか2人きりになれなかったのよ・・・」

JUM「んーと・・じゃあ悪いことしたのか」

真紅「その分、これから毎日抱っこしてくれればいいのだわ・・・」

はぁ、と甘い溜め息を吐いてみせる真紅。

221: 2009/03/28(土) 20:32:14.64 ID:CgGEkxJr0
おわり

232: 2009/03/28(土) 20:48:43.19 ID:pFAFPjGnO

233: 2009/03/28(土) 20:55:09.83 ID:CgGEkxJr0
分かりにくすぎてごめんんんんんんんんんんん
昼ドラ展開したかったけど俺の技量不足なんだよおおお


真紅もJUMもお互いに惚れあってるけど、JUMだけ無自覚です
それを自覚させるために時々JUMに例の問答をさせてます
そして翠星石にもJUMは惚れてるけど、これまた無自覚 翠星石もJUMにこれまた無自覚に惚れてます
お互い無自覚なのに一緒に居たいからってことで変なことになってる  

意味が分からないな うん

引用: 翠星石「また来たですか・・・人間」