1: 2015/02/15(日) 20:56:01.43 ID:fjN6Slda.net
東條希です。よろしくお願いします。」


4月----

入学式を終え、始業式を迎える

転勤族の両親について回って、ここで何校目だろう

何となく気に入ったこの土地で、過ごそうと思った

ただそれだけの理由

内気な性格のせいなのか

転校ばかりのせいなのか

私には友達と呼べる人がいない

ましてや、親友なんて---

ここでなら、変われるかも

そんな淡い期待を抱いて入学したこの場所で

早くも壁にぶつかっていた
#8 やりたいことは

2: 2015/02/15(日) 20:56:24.66 ID:fjN6Slda.net
希のifストーリーです

まったり更新して行きます

3: 2015/02/15(日) 21:00:45.11 ID:fjN6Slda.net
ガタッ

「…では次、○○さん。」


自分の席に座り直し、巡らない頭で考える


---私には、特別だと思える物が何も無い

人によっては、足が速かったり

絵が得意だったり、歌がうまかったり

大なり小なり、誇れる物があるのだと


---私には、それが無い

転勤族の両親を盾にしてか

人の顔色ばかり伺う毎日

仲良くなりたい気持ちと裏腹に

すぐに引っ越すから、と避けて来た

5: 2015/02/15(日) 21:08:03.54 ID:fjN6Slda.net
そんな私には、自己紹介という限られた時間の中で

言葉にできる物なんてありはしなかった

みんな、思い思いを口にする

お調子者の子だったり

笑顔が素敵な子だったり

まるでテレビの中のアイドルみたいに

きらきら、光って見えた


「遠いなあ…」

自分の意志では無く、そう、呟いた

誰にも聞こえない、小さな声で

7: 2015/02/15(日) 21:14:13.81 ID:fjN6Slda.net
やっぱり私は、ここでも一緒なのか

変われるかも、なんて期待を胸にしながら

何をどうすればいいかも分からない

どんな話をすれば良かったのか

自分に興味を持ってもらうには

仲良くするためのハウツー本があれば

ぐるぐる回る頭の中を無理矢理に自己完結させる


…これが、私自身なのだから

変われる訳なんてない

そう、悟ったような目で自己紹介を聞き流す

まるで、自分はこの場にいないように





「矢澤にこです!にっこにっこに~♪」





…鈴の音が、聞こえた気がした

8: 2015/02/15(日) 21:25:58.70 ID:fjN6Slda.net
ガチャッ

キィ…バタン


パチッ




ここで暮らすって決めて、借りた部屋

帰ってくると、実感する


---私は、ひとりなのだと


制服のブレザーを壁にかけ、ソファに座る

何だか頭がぼーっとして

ぽすっとソファに横たわる

ひんやりするソファを頬に感じながら

今日の事を思い出す


-----

9: 2015/02/15(日) 21:30:42.40 ID:fjN6Slda.net
「矢澤にこです!にっこにっこに~♪」

「にこの将来の夢は、アイドルになる事!」

「だから、にこはアイドル研究部をつくります!!」

「歌って踊るのが好きな人は、にこと一緒にアイドルを目指すニコ!!」



静まりかえった教室で

彼女だけは笑顔だった

それまで見た他の誰よりも

あの笑顔は輝いていた

…少なくとも私には、そう思えた


目が、離せなくなっていたから

12: 2015/02/15(日) 21:35:19.75 ID:fjN6Slda.net
「矢澤さん…」

そう、たしかそんな名前だった

お世辞にも、美少女って感じじゃなかった

本当に、どこにでもいる女子高生って感じ


なのに、なんだろう

胸の奥が、熱い


彼女の言葉を聞いてから

彼女の事が、頭から離れない




…これが、初恋?

13: 2015/02/15(日) 21:36:57.66 ID:fjN6Slda.net
「…ぷっ。」

誰もいない部屋の真ん中で、吹きだした


要はこれは、羨ましいのだ

自分に出来ない事を平然とやってのけて

皆の注目を集める

あの中で、彼女の言ってる事を真剣にとらえた人などいないと思う

もちろん、私自身も


でも、彼女は笑ってた

恥ずかしがりもせず

嫌な顔もせず


…ただ、笑ってた



「アイドル、かあ…」

14: 2015/02/15(日) 21:42:35.06 ID:fjN6Slda.net
ぱちっ

ふと、思い出したように目を開ける

外は真っ暗だ

「えっ!?今何時!?」

慌ててケータイの画面を付ける


[21:42]


「あちゃあ~…」


やってしまった

晩ご飯の支度も出来ていない


「…ふう。まずは、この生活に慣れないと。」

一息ついて、すっと立ち上がる


今日は、うどんをつくろうかな

15: 2015/02/15(日) 21:50:37.26 ID:fjN6Slda.net
---あれから数日後

私はまだ、クラスに馴染めないでいた


話題が、無いのだ

皆が笑って話をするテレビ、音楽

そう言った物に、私はまるで興味が無い

これも、いままで避け続けて来た代償だろうか

勉強に関してしか、話は膨らまなくなっていた


まだ始まって数日で、息の詰まりそうな教室を出る

向かう先は、階段を上った先にある

16: 2015/02/15(日) 21:51:18.60 ID:fjN6Slda.net
…ガチャン


少し重たい扉を開けて、外に出る

春の風に吹かれ、私の髪が揺れる


特に思い入れがある訳ではないこの長い髪をなびかせ

屋上の隅っこにちょこんと座る


…ああ、一人のときでも、私はこうなんだ

分かっていたとはいえ、改めて感じて落ち込んだ


---私は、みんなの中心にはなれないんだ

17: 2015/02/15(日) 22:00:29.08 ID:fjN6Slda.net
色んな人に囲まれたり

頼られたり

そんな人に、なりたいと思ったことがあった


…でも、そんな人たちと私は根本的に違っていて

そんな自分が嫌いだった

何も変われない自分が嫌になった


…だから、足をとめたんだ




この、音ノ木坂で



過去に思いを馳せていた私は

扉の空いた音に気付いていなかった


---可能性が、手を伸ばした所まで来ている事に

18: 2015/02/15(日) 22:24:25.60 ID:fjN6Slda.net
「あれ?アンタ…」


「ふぇっ!?」


急にかけられた声に心底驚きつつ、声の出所を探す


それは、すぐ真後ろにあった


「あ、えっと…矢澤さん…だよね?」

「ええ、そうよ。あなたは、えっと…」


「ごめん。思い出せないや。」

「でも、クラスの子よね?見た事ある。」


…ほら、やっぱり

この矢澤さんでさえ、私の事を覚えていない

当たり前の事なのに


…少し、胸が痛んだ

19: 2015/02/15(日) 22:25:08.36 ID:fjN6Slda.net
「あのさ…名前、教えてくれる?」

「あ…うん。」

「東條…希です。」

あの自己紹介のときのように、ただ自分の名前を告げる

ただ、機械的に

「…で、希。こんな所で何をしてたの?」

「え…?」

「?…ああ、いきなり名前呼びは失礼だった?」

「あ、ううん…そうじゃなくて…」


少し、ドキッとした

今まで、下の名前で呼んでくれるのは、家族だけだったから

20: 2015/02/15(日) 22:30:59.89 ID:fjN6Slda.net
「…で、希って呼んでいいの?」

「!あ、うん、もちろん。」

「そう?…じゃ、希。」
「ここで何してたの?」

何って…

何だろう?


「えっと…空を、見てた。」

「空?」

「…うん。」

「ふ~ん…」


そして、沈黙

ああ、やっぱり私といても…

そんな言葉が喉元まで溢れてくる

21: 2015/02/15(日) 22:31:42.14 ID:fjN6Slda.net
それをぐっと飲み込んで、質問してみる

「…矢澤さんは、どうしてここに?」

「にこでいいわよ。」

「…え?」

「だから、にこでいいって。」
「矢澤さんって、どんだけ他人行儀な言い方なのよ。」

「えっと…あの…ごめんなさい!」


やってしまった…

せっかく、仲良くなれるかと思ったのに


恐る恐る顔を上げると、彼女は何とも言えない顔をしていた

22: 2015/02/15(日) 22:38:00.90 ID:fjN6Slda.net
「…クスッ。」

「…え?」

「アンタ、自分に自信が無いんでしょ。」


なんで…バレたの?

「名前の事くらいでビクビクして…くくっ。」

「きっと、今まで苦労してきたのね。」

そう言って、矢澤さん…もとい、にこちゃんは笑った


端から見たら、馬鹿にされているだけかもしれない


でも、彼女の言葉は、何故か暖かかった

28: 2015/02/16(月) 00:15:47.68 ID:JSNwUD9E.net
「ねえ、希。」

「なに…?に、にこちゃん///」

「なんで、ちょっと恥ずかしがってるのよ…」

「だ、だって、初めてだし…」

「そのくらい、慣れなさいよ。」

「あ、うん…」

にこちゃんは、何が言いたいんだろう?


「お昼、一緒に食べよっか。」


「…はぇ?」


思わず、素っ頓狂な声が出た


「…もしかして、嫌だった?」


不安そうなにこちゃんに向けて

ぶんぶん、ぶんぶん首を振る

29: 2015/02/16(月) 00:23:07.50 ID:JSNwUD9E.net
「よ、よろしくおねがいします…」

蚊の鳴くような小さな声は

ちゃんと、届いたようだった


「それじゃ、こんなはしっこにいないで、あっちに行こ?」

「日当りバツグンなんだから!」



-----


「…へえ、それじゃ今、一人暮らししてるんだ。」

「うん。」

「寂しくないの?」

「寂しい…けど、自分で選んだから。」

「そっか…」

「うん。」

30: 2015/02/16(月) 00:28:20.55 ID:JSNwUD9E.net
…なんだろう

今日、初めて喋ったのに

いつのまにか、自分の事話してる


話題も、尽きてない


やっぱり、にこちゃんはすごいなあ…

私とは、大違いだ


「…」

「…?どうしたの?」

「う、ううん!」


危ない、危ない

また、自分の嫌なところがでてきちゃった



---にこちゃんには、嫌われたくない

31: 2015/02/16(月) 00:33:20.60 ID:JSNwUD9E.net
「…アンタ、今自分の事考えてる?」

どきっ

心臓が飛び上がった

…どうして、にこちゃんは気付くんだろう


「…分かりやすいのよ、アンタは。」

「自分に、自信がなくて。」

「だから、自分の気持ちを後に回してる。」


「…すごいね、にこちゃんは。」

「なにがよ?」

「今日会った私の事、よく見てくれてる」

「これだけ喋ってたら、普通じゃない?」

「普通なんかじゃ…ないよ。」


少なくとも、私は---

32: 2015/02/16(月) 00:37:58.61 ID:JSNwUD9E.net
「私には…良い所なんて、なんにもないから。」

「いつも、人の顔色見て…」

「自分で何かをした事って、ないんだ。」


…恥ずかしい

誰にも言った事の無いこの気持ち

にこちゃんに、話しちゃってる


「めんどくさい…よね。」

「こんなに、自信のない私なんて。」


「…は?」


あ、またやった…


嫌われちゃったかな…

33: 2015/02/16(月) 00:38:44.65 ID:JSNwUD9E.net
「…今日、時間ある?」

「え?今日?」

「無理なら、良いんだけど。」

なんだろう…?

にこちゃんの考えてる事が、全然分からない

「えっと…その…」

言葉に詰まる


「だああぁぁぁ!!」

「!?」

「はっきりしなさい!時間あるの!?無いの!?」

「あ、あります!!」

うわずった声で、かろうじてそう伝える

やだ、恥ずかしいよ…

「…そう。それじゃ今日、家に来なさい。」



…え?

34: 2015/02/16(月) 00:39:04.11 ID:JSNwUD9E.net
おやすみなさい

40: 2015/02/16(月) 14:16:41.12 ID:JSNwUD9E.net
ガチャガチャ

キィ…


「さ、入って?狭いけどね。」

「お、おじゃまします…」

初めて入る、人の家

しかも、話したのも初めてで

右手と右足が同時に動くんじゃないかってくらいの、緊張


そんな私を気にもとめず

にこちゃんは奥へと歩を進める

3歩後ろに着いて行って、リビングへと続くドアへ




こころ「お姉様、お帰りなさいませ。」




…にこちゃんが増えた

41: 2015/02/16(月) 14:17:25.14 ID:JSNwUD9E.net
「はじめまして、矢澤こころです。」

ペコッとお辞儀をしたその姿は

にこちゃんがそのまま小さくなったみたいだった

「お姉様の、ご友人ですか?」

「は、はい、えっと…」

丁寧すぎる受け応えに、少しどぎまぎする

まるで、某アニメの泉に落ちたにこちゃんみたいだ


「…アンタ今、失礼な事考えなかった?」


ぎくっ


にこちゃん、するどいなあ…

42: 2015/02/16(月) 14:24:24.98 ID:JSNwUD9E.net
「東條希、よ。仲良くしてあげてね。」

「よ、よろしくお願いします!」

ちっちゃな二人に囲まれて

おっきな声で挨拶する

いきなりの大きな声に少しビクついたこころちゃん

でも、笑顔で答えてくれた

「改めまして、よろしくおねがいします♪」

ニコっと笑うその顔は、にこちゃんと同じ顔だった


「…ただいま~。」


振り向くと、また同じ顔がそこにはあった

43: 2015/02/16(月) 14:32:17.37 ID:JSNwUD9E.net
「あれ、お姉ちゃんの友達?」

「と、東條希です。」

良かった、今度はちゃんと言えた

「…もしかして、お姉ちゃんのバックダンサーの人?」

…ん?

ハテナが頭に流れた

「あ~…違うわよ、ここあ。」

「にこの、友達。」

バックダンサー?が、何なのかは分からないけど…

にこちゃんが、さらっと『友達』っていってくれた

ただそれだけでも、飛び上がるくらい嬉しかった


「それじゃ希、こっちに来て?」

44: 2015/02/16(月) 14:39:20.62 ID:JSNwUD9E.net
短い廊下を抜けて、にこちゃんの部屋に


---そこは、アイドルグッズで溢れていた

「うわぁ…すごい。」

素直に、口からその言葉がでた

カラフルな衣装、可愛い化粧をした女の子達

そんなポスターがいっぱい張られたかわいらしい部屋

私の部屋とは、180度違っていた

「…ごめんね、片付いてなくって。」

そう言いながらも、にこちゃんはどこか誇らしげだった

「これ…全部、アイドルの?」

「大半はそうね。」

「でも、中にはスクールアイドルのもあるわ。」

46: 2015/02/16(月) 14:55:28.61 ID:JSNwUD9E.net
スクールアイドル…

聞いた事がある

確か、学校内で作ったアイドルグループ

あの大きなUTX学園も、それで募集してたっけ…


「…ま、座りなさいよ。」

「あ、うん、ありがとう。」

少し大きめのソファのはじっこに、ちょこんと座る

「アンタは…」

にこちゃんは、少しあきれた顔で私を見た

「ま、いいわ。」

「お茶、いれてくるわね。」

「お、おかまいなく…」

47: 2015/02/16(月) 14:55:57.57 ID:JSNwUD9E.net
「こころー。お茶入れてくれるー?」

ドアの向こうで、にこちゃんの声が聞こえる

---ここが、女の子の部屋

同じ女の子のはずなのに、この違いはなんだろう

甘い香りがして、可愛いものがそこかしこにあって

小さなお城の一室みたい

ここで、にこちゃんが暮らしてるんだ…

周りをきょろきょろ見回していると

ドアの開く音がした

「…おまたせ。どうしたの?」

「あ、えっと…可愛い、部屋だなって。」

「そりゃあ、このにこにーの部屋だもん。」

「にこにー…」

「な、なによ?可愛いでしょ?///」

48: 2015/02/16(月) 15:06:33.64 ID:JSNwUD9E.net
あ、にこちゃんが照れてる

やっぱり、可愛いなあ


そんな私の思いを知って知らずか

にこちゃんは私の隣に座る

「に、にこちゃん…?」

「なによ?」

「ち、近くないかな…?」

「…いやなの?」

「い、嫌な訳じゃないけど…///」


これは駄目だ

にこちゃん、いいにおいする

「…なに?まだ緊張してるの?」

49: 2015/02/16(月) 15:16:59.84 ID:JSNwUD9E.net
「初めて…なんだもん///」

「…は?」

聞けば、ほぼ間違いなく誤解されるような言葉を発した

「と、友達ができるのも…部屋に、案内されるのも。」

ぼそぼそと、思っている事を話した

「アンタ、ほんとに今までどんな暮らししてきたのよ。」

うう…こんな性格のせいで…

「ね、希の話、聞いても良い?」

「え?」

「希がどんな子なのか、興味があるの。」

「た、多分、面白くはないよ…?」

「いいから。」

50: 2015/02/16(月) 15:27:49.77 ID:JSNwUD9E.net
そう言うにこちゃんの目は真剣で

私は、ぽつりぽつりと話しだした

両親の事

子供時代の事

今までの暮らし

好きな食べ物

苦手な事

今の…気持ち


にこちゃんは、うなずきながら

ちゃんと、目を見て聞いてくれた

私の、寂しい過去の事

51: 2015/02/16(月) 15:28:27.63 ID:JSNwUD9E.net
話し終わって、思った

ああ、なんてつまらない人間なんだろう…私は


---少し、時間をおいて

にこちゃんはぽつりと、こう言った


「そっか。苦労してるのね…アンタも。」


その時私は、その意味をまだ理解出来なかった

少し寂しそうな目で微笑む、にこちゃんの顔も


---見間違いだと、思えるほどに

52: 2015/02/16(月) 16:40:00.05 ID:JSNwUD9E.net
それから、リビングで少し、にこちゃんの妹たちと遊んだ

こころちゃんも、ここあちゃんも可愛くて

私もたどたどしくも、笑顔になれた

そんな私を、にこちゃんはどんな顔で見ててくれたのかな

目の前がいっぱいいっぱいだった私に

それを知る術はなくって


「ママー。」

にこちゃんの一番下の弟、虎太郎くん

まだあどけなさが残るその顔で、私に抱きついて来た

「ま、まま!?」

いきなりの発言に、私は驚く

だってまだ…15歳、なんだよ?

53: 2015/02/16(月) 16:40:53.93 ID:JSNwUD9E.net
それでも、抱きついて来た虎太郎くんは離れない

どうしようか悩んでいると、虎太郎くんは私の膝で眠りだした

「…かわいい。」

そっと、頭をなでてみる

柔らかな髪質の小さな頭

すっと手が入って、さらさらと流れる

…少し、喜んでるようにも見えた

「ごめんね、虎太郎が。」

にこちゃんが、私に告げる


「…うち、お母さんいつも仕事で忙しいから。」



初めて、にこちゃんの家の事を知った

54: 2015/02/16(月) 16:58:16.17 ID:JSNwUD9E.net
お父さんは…

そう言いかけた口を、ぎゅっと閉じる

それらしき面影は、この家に無かったから

そこは、まだ触れてはいけない

…なんとなく、そう感じた


ギュッ

柔らかい感触が、腕に伝わる

見ると、ここあちゃんが抱きついていた

「へへっ。柔らかい♪」

ふ、太ってるって訳じゃ…ないよね?

なんとなく、ここあちゃんの頭に手を伸ばす

くしゃっと触れた所から、にこちゃんと同じシャンプーのにおい

「えへへ~。」

55: 2015/02/16(月) 17:00:29.12 ID:JSNwUD9E.net
なでなで…

たどたどしくも、しっかりとなでてみる

柔らかいここあちゃんの体からは

元気なお日様の香りがした

「…あら、気に入られたみたいね。」

にこちゃんが後ろから声をかける

「そ、そうなのかな…?」

照れながらここあちゃんの頭をなでていると

向こうの方で、こころちゃんがこっちを見ていた

「…来る?」

自然に、声が出た

「い、いえっ!!」

断られた

「め、迷惑…ですので…///」

嫌われては、いなかった

57: 2015/02/16(月) 17:10:04.27 ID:JSNwUD9E.net
「私は…大丈夫だよ?」

にこっと、こころちゃんに笑顔を送る

不思議だ

引きつった笑顔じゃない、本当の笑顔

心地、良かった


とことこ、こころちゃんがこっちに来た

服の裾を、きゅっと握る

にこちゃんも、甘えるときはこんな感じなのかな?

そう思いながら、こころちゃんに手を伸ばす


ぎゅっと閉じた目を見てると、なんだか自分の子供の頃を思い出した

58: 2015/02/16(月) 17:10:47.48 ID:JSNwUD9E.net
固く閉じられた目が、徐々に緩んでくる

こころちゃんは、みんなよりも少しお姉さんみたい

なんだか、にこちゃんに似ている

「本当に、ママみたい。」

ぽつりと、ここあちゃんが呟いた

両手で二人をなでながら、膝の上には虎太郎くん

自分に子供が出来たなら、こんな感じなのかな?

「…ふふっ。」

そうやって微笑む私を見て、にこちゃんが口を開く



「…あるじゃない、希にもいいところ。」




はっと、息を飲んだ

59: 2015/02/16(月) 17:17:47.69 ID:JSNwUD9E.net
「いい?希。」

にこちゃんは続ける

「誰にだって、どんな人にだって。」

「いいところはあるものよ。」

「希のその、人を包み込む優しさは、まぎれも無く貴女の良い所。」

「母性…とでも、言うのかしら?」

「少なくとも、それは誇っていいものよ。」


そう言ったにこちゃんの顔は、優しかった


「ちょ、ちょっと!なんで泣いてるのよ!?」


言われて、気付いた


いつのまにか、私は涙を流していた

60: 2015/02/16(月) 17:22:32.03 ID:JSNwUD9E.net
-----


「…」

「…」

は、はずかしい…

今日初めて話した子の前で

その子の家で、泣いた

恥ずかしくて、何も言葉が出なかった

どうして、泣いたのかも

どうして、泣いたのにほっとしているのかも

私には、分からなかった


そんな私の頭を、にこちゃんがなでる


…とても、暖かかった

61: 2015/02/16(月) 17:28:40.64 ID:JSNwUD9E.net
どさっと、ソファに座る

またあの、ひんやりした感触


でも何故か今日は、気にならなかった

にこちゃん達と分かれて、自宅へ

また、一人になったこの部屋


昨日までは、とても寂しかった

私は、どこにいても一人なんだと

そう、思ってた




でも今日は…

ぐっすり、眠れそうな気がするよ

63: 2015/02/16(月) 17:38:06.13 ID:JSNwUD9E.net
それから数日

私はお昼になると、屋上に向かう

青く澄んだ空の下

春の空気が、顔に当たる


…今日は、私が先みたい


日当りバツグンの待ち合わせ場所

特に決めた訳じゃない

でも、何故かふらりとここに来てしまう

私とにこちゃんの、初めて話したこの場所


すーっと息を吸い込んで

ごろん、と横になってみる

ぽかぽかした日差しの下で

そっと、目を閉じた

64: 2015/02/16(月) 17:39:05.82 ID:JSNwUD9E.net
---どれくらい経っただろう

またあの鈴の音が、聞こえた


「お待たせ。」


別に待ってた訳じゃない…とは、言えないけれど

約束した訳じゃない、この場所で

私たちは、ご飯を食べる

いつの間にか、それが日課になっていた


まだ、にこちゃんの笑顔は眩しくて直視できないけど


少しだけ、私に笑顔が増えた

65: 2015/02/16(月) 17:51:56.96 ID:JSNwUD9E.net
「どうしてにこちゃんは、私を気にかけてくれるの?」

にこちゃんに、聞いてみた

ずっと、それが気になってた

確かに、初めて会ったときよりは笑顔も増えた

でもそれは、にこちゃんのお陰で

にこちゃん自身に、メリットなんて一つもないからだ

「…」

また、あきれられちゃったかな?

そう思った時、にこちゃんが口を開く

「…似ていたから。」


その真意はまだ分からない

でも、何となく…近づけた気がした

67: 2015/02/16(月) 17:59:53.37 ID:JSNwUD9E.net
月日は少し流れて、5月---


世間で言えば、ゴールデンウィーク

私は、神田明神にいた

生活をするためには、お金が必要なわけで…

ここで、アルバイトをさせてもらっている

なんとなく、雰囲気が気に入って

不思議な力を、もらえるような

そんなこの場所が、好きだった

にこちゃんに、この話をした時

彼女は、自分の事のように喜んでくれた

私も、気に入っている

なんて言うか…不思議なチカラ

英語で言うとスピリチュアル

そんな、場所だった

68: 2015/02/16(月) 18:01:35.29 ID:JSNwUD9E.net
「…ふう。」

境内の掃除をして、一休み

にこちゃんは今、どうしているだろうか


…にこちゃんは、先月の末にアイドル研究部を立ち上げた

誘われたけど、私はそんなに可愛くないし

何より、あんな可愛い衣装、似合うはずがないし

にこちゃんは少しがっかりしたみたいだけど

「いつでも、来て良いんだからね?」

そういってくれた


いつか、私にも自信がついたら…

あのきらきらした場所に、足を踏み入れる事ができるのだろうか

そんな眩しい夢を、降り注ぐ日差しに重ねてみる

69: 2015/02/16(月) 18:09:20.63 ID:JSNwUD9E.net
たったったっ

神田明神に続く男坂

坂と言うけれど実際は長い長い階段の方から

心地のよい足音が聞こえて来た


運動部かな?

たまにここを使って練習する運動部もいるみたい

足腰を鍛えるにはもってこいの場所だそうだ


…足音が、近づいてくる


なんとなく、振り向いてみた

ただの気まぐれ


でも、彼女はそこにいた


「…おはよう、希。」

71: 2015/02/16(月) 18:42:50.85 ID:JSNwUD9E.net
「…おはよう、にこちゃん。」

「今日も、バイトだったのね。」

「うん。休日は、家でじっとしてることが多いから。」

「アンタも、たまには運動しなさいよ?」

「…うん、ありがとう。」

たわいもない会話

その辺の女子高生がするような

そんな言葉を投げ交わす

あの日と比べて、幾分言葉がすらすらと出るようになった


目の前の、小さな人のお陰で

72: 2015/02/16(月) 18:43:24.66 ID:JSNwUD9E.net
「にこちゃんは、どうして走ってたの?」

素朴な疑問

「そりゃあ、アイドルは体作りが大事だからね!」

…なるほど、ごもっとも


結局の所、にこちゃんの原動力は全てアイドルという目標なのだ

「すごいね、にこちゃんは。」

「あ、当たり前でしょ///」

「ふふっ。そうだね。」


にこちゃんと一緒に過ごし始めて

ふと思った事が口から出るようになった

にこちゃんが言うには

『良い方に変わってるからよ。』

…だ、そうだ

73: 2015/02/16(月) 19:17:13.05 ID:JSNwUD9E.net
「ん~。それにしても、気持ちがいいわね。」

そよそよ吹く風に、にこちゃんの愛らしいツインテールが揺れる

「ね、希。」

「バイト何時まで?」

「えっと…あと、1時間くらいかな?」

「そう。なら、どこかカフェでもいきましょ?」

「私ももう少し体動かしたら、着替えてくるから。」

「えっと…」

「来るの?来ないの?」

「い、いきます。」

にこちゃんは、たまにこうして私を誘ってくれる

私はそれが嬉しくて、心の中で飛び跳ねる

74: 2015/02/16(月) 19:24:13.58 ID:JSNwUD9E.net
私服に着替え、駅前で待ち合わせ

お昼をちょっと過ぎた時間

くうぅ…と鳴くお腹をかかえ、にこちゃんを待つ

「なにか少し、つまんでくれば良かったかな…?」

でも、にこちゃん待たせちゃったら悪いし…

逡巡してると、隣から視線を感じた


「…真横に立ってるのに、気付かないってどういうこと?」

むっとふくれた顔が、そこにはあった

「ご、ごめんなさい!」

慌てて頭を下げる

「…ま、別にいーけど?」

「でも、何か悩む事があるなら…相談しなさい。」

75: 2015/02/16(月) 19:24:55.79 ID:JSNwUD9E.net
こういうのが…ツンデレ?って言うのかな?

あんまり、知らないけど…

でも、これがにこちゃんの魅力なんだと思う

そこに惹かれている、私

「さ、とりあえずどこか入りましょ?」

「にこも、おなか空いてきちゃった。」

あ、にこちゃんもなんだ…

「ふふっ。」

「…なによ?」

何の変哲も無い事が、とても嬉しく感じる

小さな、本当に小さな幸せが

私を包み込んでくれる

そんな毎日


こんな日々が、ずっと続けば良いな、って



---そう、思ってた

79: 2015/02/16(月) 20:05:34.95 ID:JSNwUD9E.net
「ねえ、希。」

「行ってみたいカフェがあるんだけど、いいかしら?」

「うん、いいよ?」

「そう?それじゃ…」


カランカラーン…

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

こ、ここはいわゆる…

「こちらのお席へどうぞ♪」

メイドカフェ?

「メニューをどうぞ♪」

にこちゃん、ここに来たかったの…?

「あ、あの!サインください!!」

サッと色紙を出して、目の前のメイドさんに頼むにこちゃん

「あ、いいですよ~♪」

うん、メイドさんも普通にサインするんだ…

81: 2015/02/16(月) 20:06:45.55 ID:JSNwUD9E.net
あっけにとられている私

目を輝かせているにこちゃん

二人の温度差に首をかしげるメイドさん


なんともいえない30秒---



「わ、悪かったわね…」

注文を終え、にこちゃんが口を開く

「ううん?ちょっとビックリしちゃったけど…」

「あの人、そんなに有名なメイドさんなの?」

テーブルの上に、さっきの色紙が見えた


「ええ…今、秋葉で一番人気のメイドなの。」

そう言ったにこちゃんは、どこか誇らしげだ

82: 2015/02/16(月) 20:13:27.91 ID:JSNwUD9E.net
「今日、出勤してるってSNSに流れてたから…」

「付き合わせて、ごめんね。」

ちょっとしゅんとなるにこちゃん

「ううん。こういう所初めて来たから…」

「新鮮で、楽しいよ?」

「にこちゃんも、嬉しそうだし。」

「…///」

にこちゃんの顔が、ゆでだこみたいに赤くなる


…こんな顔もするんだ

意外な発見だった

83: 2015/02/16(月) 20:21:11.85 ID:JSNwUD9E.net
軽い食事を終え、まったりとした時間が流れる

ふいににこちゃんが口を開いた

「アンタ、趣味とか無いの?」

「…え?」

「好きな食べ物とか、苦手な物とかは聞いた。」

「でも、趣味って聞いてなかったでしょ?」

「何が好きって、聞いた事も無いし…」

にこちゃんは、むむむって顔で悩んでる

「…もし、何かしたい事とかあるなら、言ってよ?」

「付き合わせてばっかりも、悪いし…」


本当に、こうやって気にかけてばっかり

嬉しくもあり、なんだか申し訳なくなる

私、にこちゃんにしてもらってばっかりだ

84: 2015/02/16(月) 20:34:16.13 ID:JSNwUD9E.net
「趣味、かあ…」

思わず、口をつぐむ

言いかけて、やめる


「…あるの?」

「あ、あるには…あるんだけど…」

「なによ。言えないの?」

「え、えっと…その…」

「言っても、引かないかな…?」

「?引く訳ないじゃない。」

にこちゃんの真面目な顔を見て、心を決める

呼吸を整えて、鞄をあさる

がさごそ、がさごそ


そして、それが手に当たった

85: 2015/02/16(月) 20:35:42.24 ID:JSNwUD9E.net
「これなんだけど…」

「これ…タロットじゃない。」

ああ、やっちゃった…

にこちゃんが真顔になる

やっぱり、見せなきゃよかったかな?


「…できるの?」

「へ?」

「だから…タロット占い、できるの?」

「あ…うん、一応。」

「じゃあ、にこの事占ってみて!」

「え?」

「だって、出来るんでしょ?占い。」

「なら、占ってみてよ♪」

そう言って、にこちゃんはニッと歯を見せた

87: 2015/02/16(月) 20:40:48.59 ID:JSNwUD9E.net
「じゃ、じゃあ…」

そう言って、カードに手を伸ばす

テーブルの上にクロスを敷いて

その上にカードを置く

「占うのは…にこちゃんの今と、未来どっちが良い?」

「それって、どっちも選べるの?」

「出来ない事は無いけど…一つに絞った方が、精度は上がるって言われてるよ?」

「そう…なら、未来を占ってみて?」

「うん、やってみるね。」

カードに手を置いて、心の中で念じる


…にこちゃんの、未来はどうですか?


目を開けて、カードをシャッフルする

「プール、って言うんだけどね。」

「こうする事で、完全に運命に身を任せるって表してるの。」

88: 2015/02/16(月) 20:47:07.76 ID:JSNwUD9E.net
「へえ…」

にこちゃんの顔は、真剣だ

ちゃんと、私に向き合ってくれてる


---にこちゃんの思いに、応えたいな


シャッフルした手を止めて、また一つにまとめる

束ねたカードを、左手で3つに分ける

そしてまた、順番を変えて一つに

…さあ、ここからだ


一番上から一枚、カードを取る

それを裏向けた状態で中心に置く

89: 2015/02/16(月) 20:47:40.56 ID:JSNwUD9E.net
「…できたよ。」

ぼそっと告げる

「これで終わり?」

「もっといっぱいカード置いたりしないっけ?」

「うん、今回は略式だから。でも、ちゃんと占ったよ。」

「そう…それで、結果は?」

「うん、今から開けるね。」


ふうーっと息を吐いて、目を閉じる


「…いくよ。」

カードに手をかけ、ゆっくりとめくった

結果は…






フォーチュン---運命の輪

90: 2015/02/16(月) 20:52:36.91 ID:JSNwUD9E.net
「フォーチュン…」

正位置の、運命の輪

示すのは…


「好転・変化の時。」


「つ、つまり…?」

「くすっ。つまり…きっと、上手くいく、って事。」

「ほ、ホント!?」

「うん。私の占いでは、そう出てる。」

「ありがとうっ!!」

私が言い終わると同時に、にこちゃんがお礼を言った

今までで一番の、笑顔

「希!アンタ最高よ!!」

そう言って、にこちゃんは私の手をとった




初めて、報われた気がしたよ

91: 2015/02/16(月) 21:05:48.03 ID:JSNwUD9E.net
嬉しくって、つい顔がほころぶ

「なんで今まで隠してたのよ?」

にこちゃんが問いかける

「だ、だって、怪しい感じの趣味だし…」

「もし、はずれたらって思うと…」

すこしずつ、小さくなる私の声

「別に、外れたからって何とも思わないわよ。」

「それより希は、にこに希望を与えてくれたの!」

「きっと、それで全てが決まる訳じゃない。」

「それでも、にこにとっては最高の結果なのよ♪」


にこちゃんのその言葉が、嬉しかった

なにより、私の趣味を受け入れてくれた

すごいって、言ってくれた

92: 2015/02/16(月) 21:06:47.00 ID:JSNwUD9E.net
なんだろう

とっても、気分がいい

今なら、何だって出来るような

そんな気さえする

にこちゃんは、私が希望をあげたって言ってるけど

私も…いつもにこちゃんから、もらってるんだよ

その笑顔が---私に力をくれる


二人して、笑顔になって

会話が弾んでいく




だからかな?

私は気付かなかったんだ





---二枚目が、逆位置の愚者のカードであったことに

93: 2015/02/16(月) 21:26:51.15 ID:JSNwUD9E.net
6月某日---

今日は、にこちゃんが家に来ます

前に、にこちゃんの家に行ったから

今度は、家に来てもらおうかなって


たいしたおもてなしは、出来ないけど…


「あ、もうこんな時間…」

私は急いで、掃除機をかける

もうすぐ、にこちゃんが来ちゃう



ピンポーン

「…!」

そわそわしてると、チャイムが鳴った

94: 2015/02/16(月) 21:33:23.67 ID:JSNwUD9E.net
今日はここまで。

期待を良い意味で裏切れるように頑張ります

99: 2015/02/17(火) 17:52:05.36 ID:sT27vInT.net
「にっこにっこに~♪」

すっごく元気にアイドルポーズ

すっかりお馴染みになったこの台詞


にこちゃん、今日もげんきだなあ…

「おはよう、にこちゃん。」

自然な笑みで、招き入れる


あの日以来、私は少しずつだけどクラスに溶け込み始めた

もちろん、にこちゃんのおかげ


『こんな趣味、隠しておくにはもったいないって!』

そんな言葉を受けて、半信半疑で皆にやってみせた



…結果、大成功

100: 2015/02/17(火) 17:52:58.90 ID:sT27vInT.net
その日から私は、少しずつ、少しずつ馴染み始めた

流行のテレビや…音楽なんかも聞いてみた

占いも、よく当たるって評判になった

少し、後ろめたさはあったけど…

だって、仲良くなるための道具に、占いを使ってるみたいで

でもその結果、クラスの子達と笑顔になる事が、増えて来た


ガチャッ

「…お待たせ、にこちゃん。」


それでも、お昼は屋上に来る

単に、ここが好きなんだ

にこちゃんの隣で、こうしていられる事が

101: 2015/02/17(火) 18:00:44.72 ID:sT27vInT.net
-----

「ありがと、にこちゃん。」

そんな日々を振り返りながら、にこちゃんに告げる

「別に。」

「もともと希が、それだけの力を持ってたってだけでしょ?」

にこちゃんは、あの日以来少しひねくれた発言をするようになった


…でも、分かってる

きっと、照れくさいだけなんだ

にこちゃんも、私の性格を分かっているからこそ

この関係で続いてる

みんなの知らない、にこちゃん

みんなの知らない、私


すっごく、心地がいい

102: 2015/02/17(火) 18:08:42.22 ID:sT27vInT.net
「どうぞ、にこちゃん。」

「ありがと、希。」

お茶とお菓子をだして、椅子に腰掛ける

「…なんにもない、部屋でしょ?」

「そう…ね。」

少しの沈黙

でも、悪い気はしなかった

「にこちゃんの部屋みたいに、可愛いお部屋だったらいつでも呼べるんだけど…」

ちょっと意地悪っぽく、呟いてみた


「そうよ!!それなのよ!!」

カッと目を見開いて、にこちゃんは吠えた

「えっ…?」

「希!アンタに足りない物が分かったわ!!」


「キャラよ!!!」

103: 2015/02/17(火) 18:10:10.98 ID:sT27vInT.net
「キャラ…?」

私は頭をひねった

それって…にこちゃんみたいに作れってこと?


「言っとくけど!!」

にこちゃんがまた吠えた

「にこのは…キャ、キャラ作りとかじゃないから…」

そしてそっと目をそらす

ああ、なんだかにこちゃんの事が分かって来たかも


「と・に・か・く!」

「何か無いの?アンタのキャラ。」


そ、そんなこといきなり言われても~…

104: 2015/02/17(火) 18:12:30.64 ID:sT27vInT.net
「アンタは、だいぶ皆に受け入れられるようになった。」

「でも、もっと仲良くなりたいとは思わないの?」

「そ、それは…」

「占いだって、いつかは飽きられてしまうかもしれない。」

「そんな時、今の希に何が残るの?」

「その内気な性格を変えないと、結局今まで通りよ!」


そんなの…分かってる

だって、今まではにこちゃんがいたから

だから、叶ってきた理想なんだから

105: 2015/02/17(火) 19:48:20.45 ID:sT27vInT.net
「…そこで、キャラよ。」

「もっと、明るく、可愛くなるの。」

「どんな事だっていい。アンタが、この先も変わって行くための物よ。」




にこちゃんの顔は、真剣だ

くだらない事を言ったかと思えば

いきなり核心をついてきたり

こういう所は、未だに分からない

きっと、にこちゃんだけのもの


「キャラ、かあ…」


変われるようなきっかけ、今の私にあったかな?

106: 2015/02/17(火) 19:55:09.92 ID:sT27vInT.net
そういえば…と、顔を上げる

「なにかあった!?」

にこちゃん…すっごく嬉しそう

「えっと…キャラってほどでもないけど…」

キラキラした目で見てくるにこちゃん

い、言わなきゃよかったかな…なんて


「か、関西弁…かな…?」

うう…期待された分、視線が刺さる…


「い…」

「い?」

「いいじゃない、それ!!」

107: 2015/02/17(火) 20:00:57.38 ID:sT27vInT.net
「え?あの、えと…」

「いいじゃない、関西弁!」

「美味しすぎるじゃない!!」

に、にこちゃんの顔が恐い…

「で、でもね!」

私は続ける

「各地を転々としてきたから、いろいろ混ざっちゃってて…」

「ちゃんとした、関西弁じゃないの。」

「…つまり?」

「え、エセ関西弁というか、なんというか…」


「…ちょっと、それで喋ってみて?」

108: 2015/02/17(火) 20:09:53.71 ID:sT27vInT.net
「ええ!?あ、あの、いきなりすぎて…」

「はい、自己紹介スタート!!」


にこちゃんの勢いに負けちゃった


「えっと、その…」

「んん…ごほん。」


…もう、どうにでもなれっ


「初めまして!ウチの名前は東條希。」

「転勤族の両親について回っとったら、こんな喋り方になってしまってん。」

「でも、自分では案外気に入ってるん♪」

「趣味は昼寝と占いで…」

「ウチの占いは、めっちゃ当たるって評判なんよ♪」

「占ってほしい人がいたら、是非ウチの所まで!」

「どうぞ、よろしくしてな~。」




「…」



「…」

109: 2015/02/17(火) 20:10:39.27 ID:sT27vInT.net
-----

ガサゴソ


「ねえちょっと、希ってば…」

「うう…そっとしといてよ…」


「べ、別に悪くなかったからさ!」

「絶対変だったもん!!」

「ちょ、ちょっと雰囲気が変わりすぎて圧倒されただけだからさっ。」

「違うもん、絶対滑ってた!!」

「と、とりあえず押し入れからでて?ね?」

「いーやー!!」

ジタバタ


恥ずかしすぎて顔から火が出そう…///



にこちゃん…私にはまだ、早すぎました…

112: 2015/02/17(火) 20:26:20.69 ID:sT27vInT.net
「…」

「…」

「…わ、悪かったわよ。」

「いきなり、あんな事させて…」


「う、ううん…」


空気が、一瞬にして重くなる

にこちゃんが、元気づけてくれたのに


やっぱり私には、これ以上は無理なのかな…?



「でも、さっきのアンタ…可愛かったわよ。」


「…!///」


耳が熱い

あんなに、恥ずかしい思いをしたのに

それが、可愛い…なんて

113: 2015/02/17(火) 20:27:45.13 ID:sT27vInT.net
「…うそ。」

少しだけ、反抗してみる

だって、私はにこちゃんみたいに可愛くないから

「ほ、ホントだって!」

「うそ!!」

「可愛かったわよ!」

「可愛くなんかないもん!!」

「私が可愛いって言ってんのよ!?」


「に、にこちゃんだけやもん!!」


「「…あ。」」



「…ほら、普通に可愛いじゃない。」

114: 2015/02/17(火) 20:35:02.50 ID:sT27vInT.net
そう…なのかな?

自分じゃ、分からない


「私は…」


それでも、何かが吹っ切れた気がした


にこちゃんが、聞く

「…希は、どうなりたい?」

「私は…」

言いかけて、口を閉じる


ううん、変わらないと…




「ウチは…変わりたい!!」




「…合格♪」



またあの、鈴の音が聞こえた

115: 2015/02/17(火) 20:50:39.87 ID:sT27vInT.net
8月---


夏休み明け


今日から、私は…

ううん、ウチは変わる

あの日からずっと、今日の事を考えてた

引かれたり、しないかな…

変に思われたりしないかな…

その度に、あの子に励まされた


「希なら、出来る」って

何度も、何度も言ってくれた


だから…

もう、今日で卒業する

どう思われたって

このウチが、なりたかったウチやから

116: 2015/02/17(火) 20:58:45.97 ID:sT27vInT.net
ガラッ

教室の扉を開けて、ウチの机へ

「おはよう、希ちゃん。」

クラスの子達が、挨拶してくれる

これだけでも、ウチはだいぶ変われたと思う


「おはよう!」

挨拶を、返す

「…あれ?」

「希ちゃん、久々に占ってほしい事があるんだけど!」

「うん、ええよ~♪」

「あれ、希ちゃん、喋り方変わった?」

気付いて、くれた

「そうなんよ。実は、転校ばっかりしてたら、この喋り方が染み付いちゃって…」

「そうだったんだ?」

「あれ?でも、前は標準語だったよね?」



…ここが、ウチのターニングポイント

117: 2015/02/17(火) 20:59:39.30 ID:sT27vInT.net
「…うん。」

「この喋り方やと、ちょっと浮くかなって、思ってたんよ。」

「でも…」

「でも?」

「み…」


ほら、ちゃんと言うんや、ウチ!

「皆と、もっと仲良くなりたくて…///」

「…」

あ、あかん…

顔から火が出るくらい恥ずかしい


変に、思われたりせんかな…?

118: 2015/02/17(火) 21:10:02.55 ID:sT27vInT.net
ぎゅっ


「何この子!可愛い~♡」

そう言って、ぎゅーって、抱きしめられた

「…え?」

「もっと早く言ってくれたら良かったのに!」

「そしたら、夏休みだってどっかに遊びに行ったり…」

「え?え?」

あかん、思考が追いついてない

「えっと…変じゃない?」

「全然!」

「むしろ、すごい喋りやすくなった!」

「…ほんま?」

「うん!」

119: 2015/02/17(火) 21:16:27.86 ID:sT27vInT.net
「良かった…」

ぎゅっ

また違う子に、抱きつかれた

「うん、可愛いよ♪」

「それに柔らかい。」

「さ、流石に恥ずかしいよ…///」

顔が、赤くなる

「…今までの希ちゃんってさ。」

「笑ってはいるんだけど、どこか私たちと違うって言うかさ。」

「なんか、見えない壁があるように思えて。」

「学校以外だと、誘いづらかったんだよね。」

「えへへ…いきなりこんな事言ってごめんね?」

「でも、今の希ちゃん…すっごく優しい感じがする♪」

121: 2015/02/17(火) 21:27:20.86 ID:sT27vInT.net
不意に、涙が出た

「の、希ちゃん!?」

「あ、ううん、違うんよ…」


転校ばっかりの人生が駄目なんだと思ってた

仲良くなれないのは仕方ないと思ってた


…でも、違ってた


人との距離が遠いのは

自分で、壁を作ってたからやった


やっと、気付いたよ


…気付かせてくれて、ありがとう



ね?


---にこっち

122: 2015/02/17(火) 21:30:19.56 ID:sT27vInT.net
-----


「と、言う訳で。」

「にこっち、ありがと♪」


屋上で、ご飯を食べる

これは、あの時から変わらない

「見てたわよ。」

「まったく、世話が焼けるわね。」

「えへへ…///」

「でも、よかったじゃない。」

「これでもう、怖い物なんて無いでしょ?」

「…うん。」


「ホンマにありがとう、にこっち。」

123: 2015/02/17(火) 21:34:42.24 ID:sT27vInT.net
「…で、何よそのにこっちって。」

「にこっちの、新しい呼び方。」

「なんか、馬鹿にされてるみたい。」

「そんなことないよ?」

「ウチの、感謝の気持ちや!」

「…もうちょっと、他の物で返してよね。」

ぷくーっとふくれる、にこっち


うん、分かってるよ

ちゃんと、いつか


今度はウチが、にこっちの力になるからね

124: 2015/02/17(火) 21:37:54.21 ID:sT27vInT.net
-----

今日も、屋上に向かう

また、にこっちとお昼ご飯

今日は、どっちが先に着くんやろ?


そんなことを考えていると、前方ににこっちを発見した


「おーい、にこ…」


言いかけて、やめる


二人の女の子が、にこっちに話しかけていた

そういえば、にこっちがウチ以外の子と喋ってるの、初めて見たかも


ウチにかまってばっかりやったからなあ…

今日は、先に行っとこか♪

そう思い、屋上へ足を進める

125: 2015/02/17(火) 21:42:13.32 ID:sT27vInT.net
屋上に続く扉を開けると、今日は先客がいた


炎天下の日差しのもと

その綺麗な金色の髪の毛を揺らして

まるで空をそのまま映したかのような青い瞳が、ウチを見た

「あら?貴女は確か…東條さんね。」

「あ、えっと…絢瀬、さん。」

「…ふふ。朝の貴女達は、見ていて楽しかったわ。」

「あ、あの、えっと…」

「貴女の事は4月から知ってたけど…」

「あんなに楽しそうな貴女を見たのは初めて。」

「…一体、何があったのかしらね?」


「それは…///」

127: 2015/02/17(火) 21:43:10.03 ID:sT27vInT.net
「ふふ、ごめんなさい。」

「いきなりこんな話をして。」

「でも、そうね…」

「貴女とは、仲良くなれそうな気がする。」

「これから、よろしくね?」

「あ、うん…!」

「それじゃ、また午後に♪」

そう言って、絢瀬さんは屋上から出て行った

「綺麗な、ひとだなあ…」

そう呟いた時、大きな音を立てて扉が開いた

「希!!」

「ど、どうしたん?にこっち…」

「はぁ…はぁ…」

「に、入部希望者が…!!」





---運命の輪が、向きを変えて回りだした

132: 2015/02/18(水) 18:17:39.12 ID:5QnZT6EP.net
「「かんぱーい!!」」

ウチの家で、祝杯をあげる

なんと、にこっちのアイドル研究部に

新入部員がはいったのだ!

お昼に見たあの二人は、入部届けを出しに来てたみたい


「…ホント、長かったわあ~。」

「よっ、部長!」

「ぶ、部長かあ~…///」

このにこっちの、にやけた顔…

思わず、写真を撮りたくなる


「…希。」

「ん?」

「ありがとね。」

133: 2015/02/18(水) 18:23:43.04 ID:5QnZT6EP.net
「へ?」

「なんで、にこっちがお礼言うん?」


「…ほら、前に希が占ってくれたでしょ?」

「きっと、あれのおかげよ。」


「…いやいや。」

「あれは、単に未来を占っただけなんよ?」

「こうなったのは、にこっちがずっと頑張ってきたからやん。」


「…それでも、感謝してる。」

「これまで続けて来れたのは、希がいたからでもあるから。」


…そんなわけ、ないのに

今までも…

今でも、ずっとウチがにこっちに助けられてるのに

134: 2015/02/18(水) 18:31:35.12 ID:5QnZT6EP.net
「ほら、そんな顔しない!」

「あ…うん。」

「希も、今までおつかれさま。」

「…アンタは、変われたわ。」

「思い描いた夢を、ちゃんと叶えたのよ。」

「にこっち…」


「ま、にこはまだまだのし上がるけどね!」

「部員も増えたし、ライブやるわよ!」

「…ふふ。絶対、見に行くな?」

「アンタには、一番前の特等席よ!」

「このにこにーの一番可愛い姿、一番近くで見せてあげる!」


「うん、ほんとに楽しみ。」

「…頑張って。」

135: 2015/02/18(水) 18:41:09.47 ID:5QnZT6EP.net
「…ほら、言葉遣い戻ってるわよ。」

「あ…えへへ。」

「にこっち、頑張ってな?」

「トーゼン!!」

ウチもにこっちも、新しいスタートを切った

にこっちは、占いのお陰って言ってるけど…

つかみ取ったのは、にこっち自身

この先、例え険しい道のりでも…

一緒に頑張って行こうな?


ね、にこっち♪



「さ、料理が冷めちゃうわ!」

「いただきま~す!!」

136: 2015/02/18(水) 19:42:15.33 ID:5QnZT6EP.net
週末---

今日は、バイトの日

夏の日差しに負けじと、境内を掃除する

たまに吹くそよ風が、気持ちいい


「今頃、頑張ってるんやろなあ…」

にこっちは今、新入部員と練習中らしい

二人とも、すごく頑張ってるみたい

これなら、ライブも大成功かな?

「ふふっ。」

あの、にこっちの部屋にあったポスターみたいに

可愛い衣装を着たにこっちが思い浮かぶ

…うん、やっぱり似合ってる


早く、見たいなあ---

137: 2015/02/18(水) 19:56:01.59 ID:5QnZT6EP.net
たっ…たっ…たっ…

男坂の方から、足音が聞こえる


…あれ?

練習、終わったんかな?

今日来るって話は、聞いてなかったけど


ま…そんなこともあるか

そう思って、振り向いてみる

もしかしたら、ただの運動部員かもしれへんし


振り向くと同時に、突風が吹いた

「んっ…」

思わず目を閉じる


風が止んで、目を開ける

瞳に映ったのは


綺麗な、青い瞳だった---

138: 2015/02/18(水) 20:16:58.84 ID:5QnZT6EP.net
「…また、会ったわね。」

「絢瀬さん…」

「ここで、バイトしてるの?」

「うん。」

「ふふ。それ…よく似合ってるわ。」

「ええっ!?///」

「…?何か、変な事言ったかしら?」

「あ、ううん…ありがとう///」

「…あんまり、言われ慣れてないのね。」

そう言って、絢瀬さんは笑う

その笑い方にさえ、どこか気品を感じた



「あの…どうしてここに?」

139: 2015/02/18(水) 20:17:43.15 ID:5QnZT6EP.net
「少し、おつかいを頼まれてね。」

おつかい…?

何だか、絢瀬さんに似合わない言葉だ

「そうだ!」

「ね、一緒に行かない?」

「え?」

「バイト、終わってからで良いから。」

「少し、付き合ってくれない?」

えっと…

これは、仲良くなるチャンス…だよね?


「う、ウチでええの…?」

「もちろん♪」

その笑顔は、にこっちと同じぐらい眩しかった

140: 2015/02/18(水) 20:22:50.71 ID:5QnZT6EP.net
「…お、お待たせ。」

着替えて、絢瀬さんと待ち合わせ

絢瀬さんは、ずっと待っててくれた

「お疲れさま。」

「それじゃ、行きましょうか。」

歩く度に、揺れる髪

きらきら光って、まるで昼間にお月さんが出たみたい

遅れないように、歩調を合わせる

にこっちよりも、歩くの早いんやね

141: 2015/02/18(水) 20:30:47.83 ID:5QnZT6EP.net
「…さ、着いたわ。」

「ここって…」

なんだか、老舗の和菓子屋さん

聞いた事がある名前だ…

「うちの家族、みんなここのおまんじゅうが大好きなのよ。」

「へえ~…」

おまんじゅうかあ…


じゅるり


いけない、いけない

よだれたらした顔なんて、見せられへん

143: 2015/02/18(水) 20:54:08.16 ID:5QnZT6EP.net
ガラガラッ

中に入ると、甘い香りが立ちこめていた

「…あら、いらっしゃい。」

「ご無沙汰してます。」

中には、綺麗な割烹着姿の人がいた

「今日も、おまんじゅうを買いに。」

「ええ、ありがとう。」

「いつものでいい?」

「はい。」

ものすごく、常連さんの会話

それにしても、美味しそうやなあ…


「そっちの子はお友達?」

「…へっ?」

144: 2015/02/18(水) 21:05:10.37 ID:5QnZT6EP.net
「はい、そうです。」

「今日は、付き合ってもらっちゃって。」

「あら、そうなのね?」

「…なら、二つおまけしちゃう♪」

「後で二人で食べなさい?」

「え、いいんですか?」

「もちろん♪」

「お友達連れて来たとこ、初めて見たし。」

そう言って、彼女は別の包みをくれた

「あ、ありがとうございます!!」

ぺこりと、頭を下げる

「いいのよ?」

「それより、仲良くしてあげてね。」

「その子、とっても良い子だから♪」

145: 2015/02/18(水) 21:12:56.19 ID:5QnZT6EP.net
お店を出て、二人で顔を見合わせる

「…なんだか、申し訳ないわね。」

絢瀬さんが苦笑する

「でも、せっかくもらったのだから…」

「どこかで、食べましょうか。」

「…うん!」



近くの公園に、足を向ける

なんだか今日は、いいことがありそうな予感♪

146: 2015/02/18(水) 21:30:02.97 ID:5QnZT6EP.net
がさがさっ

絢瀬さんが、包みを開ける

「うわぁ…!」

まんまるなおまんじゅうに、『ほ』の文字

「さ、頂きましょ?」

「うん!」

手元には、さっき自販機で買ったほうじ茶

すっごく、美味しそう


「…はい、希。」

「はい?」

「…やっぱり、いきなり呼び捨ては失礼だったかしら?」


なんか、前もこんなことあったな

147: 2015/02/18(水) 21:39:09.65 ID:5QnZT6EP.net
くすっと笑って、絢瀬さんを見る

少し、顔が赤くなってる

「…///」

こんな一面も、あるんやね

何だか意外


「ありがと。…絵里ちゃん。」


「…!!!」


パアッと、顔が明るくなる

子供みたいやなあ…


そう思いながら、差し出されたおまんじゅうを手に取る

148: 2015/02/18(水) 21:40:03.18 ID:5QnZT6EP.net
「…では、いただきます。」

そう言って、それを口に運ぶ

柔らかい弾力が歯に当たって

すっと噛み切れる

程よい甘さが口いっぱいに広がって

…もう一口が欲しくなる

「んん~。ハラショー!」

「はらしょー?」

「…ロシア語よ。」

「え、絵里ちゃんってロシア人!?」

にしては、日本語が上手すぎるけど…

「クォーターよ。」

「おばあさまが、ロシア人なの。」

149: 2015/02/18(水) 21:48:49.19 ID:5QnZT6EP.net
「ああ…」

だからか

気品のある顔立ちも

その艶のある金の髪も

まるで吸い込まれるような青い瞳も


「とっても、美人さんやもんね♪」


「ふぇっ…?」


あ、訂正

とっても、間抜けそうな顔

150: 2015/02/18(水) 21:58:27.23 ID:5QnZT6EP.net
「「ごちそうさまでした!」」

ふたりで、手を合わせる

「はあ、美味しかった~。」

「ホント?気に入ってくれたなら嬉しいわ。」

「絵里ちゃんの手柄じゃないやん?」

「…ま、たしかにね♪」

ふたりで、くすくすと笑い合う

なんだか、まったりとした雰囲気


「ねえ、希。」

「改めて、聞いても良い?」

「なあに?」

「貴女に、なにがあったの?」

151: 2015/02/18(水) 22:03:02.50 ID:5QnZT6EP.net
「なにって…」

「実を言うとね。」

「貴女の事、最初は興味がなかったの。」

「なんにでも消極的で、周りを見て。」

「自己主張の、かけらもなかった。」

う…心に刺さる…

「傷つけてしまったのなら、謝るわ。」

「…でもね。」

「いつからだったかしら。」

「貴女は、変わり始めた。」

「いつのまにか、貴女の周りには人が集まって。」

「それこそ、感極まって泣いちゃうぐらい、仲良くなってた。」

「訳が…分からなかったわ。」

152: 2015/02/18(水) 22:17:45.84 ID:5QnZT6EP.net
少し寂しそうな顔の、絵里ちゃん

「…だから、知りたくて。」

「貴女に、何があったのか。」

「どんなきっかけで、貴女が変わったのか。」


ふと、疑問に思った

「どうして…?」

何故絵里ちゃんは、ウチにそれを聞くんやろう?


「私も…」

「いえ、純粋に興味があったからよ。」

そう言って、にこっと笑う


あの輝きは、そこには無かった

154: 2015/02/18(水) 22:24:42.45 ID:5QnZT6EP.net
なんとなく、放っておけなくて

ウチの事を話した

過去の事

入学したときの事

そして…


にこっちと、出会えた事


話を聞く絵里ちゃんは

とても、とても真剣やった


「…って事があって、今のうちがあるん。」

「この性格も、喋り方も、にこっちのおかげ。」

155: 2015/02/18(水) 22:31:50.63 ID:5QnZT6EP.net
「そう…」

「矢澤さんって、そんな人だったのね。」

「てっきり、私の苦手な能天気なタイプかと…」

「いつか、謝らなくちゃね♪」

そう言って、くすっと笑う


…あ、よかった

あの笑顔だ


「ふふっ。それにしても…」

「貴女、案外強いのね。」



…はて?

156: 2015/02/18(水) 22:32:41.11 ID:5QnZT6EP.net
「ウチが…強い?」

「違うかしら?」

「いや…むしろ、弱かったからこうなったっていうか…」

「それは、タイミングの問題でしょ?」

「現に、貴女は願って変われたのだから。」

あ、にこちゃんと同じ事…

やっぱり、ウチが分かってないだけなんかな?


「少し…羨ましいわ。」

「羨ましい?」

「ええ。」


…?

むしろ、ウチは絵里ちゃんが羨ましいや

157: 2015/02/18(水) 22:38:49.24 ID:5QnZT6EP.net
---

さて、午前の授業もこれでおわり

またにこっちと、ご飯やな~

能天気にそんな事を考えていると、にこっちが来た

「ごめん、希。」

「ん?どーしたん?」

「今日は、部のメンバーとお昼に練習する事になってて…」

ああ、なるほど

「うん、かまへんよ?」

「ありがと。」

「…それと、これからもこうなると思う。」

「うん、気にせんといて?」

「ウチがそうやったみたいに。」

「にこっちの、したい事をしたらええんよ?」

「うん、ありがと。」

「また、どこか遊びにいきましょ。」

そう言って、にこっちはかけて行った

158: 2015/02/18(水) 22:46:34.22 ID:5QnZT6EP.net
ふふっ…にこっちも、楽しそうやなあ

それにしても、ウチはご飯どうしようか…


机に座ってぼーっとしてると

向かいの席に誰かが座った


「一人?なら、一緒に食べない?」

「絵里ちゃん…」

「駄目…かしら?」

「う、ううん!ありがと!」

絵里ちゃん、気を使ってくれたのかな?

…でも、嬉しい


「「いただきます。」」


初めて、にこっち意外とのお昼ご飯

159: 2015/02/18(水) 22:52:33.97 ID:5QnZT6EP.net
「ごちそうさまでした。」

「美味しかった~。」

「でも、食べたら眠くなるなあ…」

「ふふっ、太るわよ?」

ぎくっ

「え、絵里ちゃん…」

「冗談よ。」

「それじゃ私、先生に呼ばれてるから。」

「あ、うん。お昼、一緒に食べてくれてありがとう!」

「私こそ、楽しかったわ。」


絵里ちゃんが教室からでていった途端

クラスメイトが話しかけて来た

160: 2015/02/18(水) 22:59:20.03 ID:5QnZT6EP.net
「の、希ちゃん!」

「ん?どーしたん?」

「いつの間に、絢瀬さんと仲良くなったの!?」

「いつのまにか、やなあ…」

重たいまぶたをこすりながら、返す

「だって、あの絢瀬さんだよ!?」

「…あの?」

眠気が覚める

「なんて言うか、孤高の存在っていうか…」

「とにかく、皆とは格が違うっていうか…」

「容姿端麗、スポーツ万能、おまけに学力も上位。」

「私たちとは、住む世界が違うっていうか…」

161: 2015/02/18(水) 23:03:54.64 ID:5QnZT6EP.net
ああ、なるほど…

今、理解した


絵里ちゃんが、ウチをうらやましがったワケ


絵里ちゃんも、私と一緒で…

変わりたいんだ


今の自分とは違う、新しい自分に


皆と、仲良く出来るように


…ごめん、気付けなくて



もう一度、ちゃんと話そう

今度は、向き合える気がする

162: 2015/02/18(水) 23:09:27.18 ID:5QnZT6EP.net
放課後---


にこっちは、放課後も練習らしい

そうと決まったら…

行くしかないやん?



ぎゅっ

「ひゃあっ!?」


「えーりーちー♪」

「え、なに!?」


「ちょっと、遊びにいこっか♪」


「…へ?」

163: 2015/02/18(水) 23:10:04.26 ID:5QnZT6EP.net
駅前、モール内の喫茶店に入る

とりあえず、驚かせた事を謝る

結構真剣に怒られちゃった


…こういうところが、固いって思われるんかな?


「で、いきなりどうしたの?」

えりちには、紅茶が似合うなあ…


って、違う違う

見とれてる場合じゃない!


「ねえ、えりち。」

「…?」

「改めて、ウチと友達になって?」

164: 2015/02/18(水) 23:22:49.73 ID:5QnZT6EP.net
「改めて…の意味が分からないんだけど。」

「ていうか、えりちって呼び名…」

「あ、えりちは何となく呼びやすいから!」

「あ、そう…」

うーん、伝え方が悪かったかな?

「…言いたい事は何?」

やっぱり、えりちは賢いね

「…うん。」

「もし、間違ってたら申し訳ないんやけど…」

「えりち、変わりたいんと違う?」


鼓動が、早くなる

せっかく仲良くなれたから

165: 2015/02/18(水) 23:27:01.28 ID:5QnZT6EP.net
「…どうして、そう思ったの?」

真剣な表情

嘘は…つきたくない


「今日、クラスの子に驚かれてん。」

「えりちと、普通に話せてるのがすごいって。」

「そう…」

「それ聞いて、思った。」

「ウチは、内気な自分を変えたいって。」

「それと同じように。」

「えりちは、自分のイメージを変えたいんかな、って。」


返事が帰ってくるのが、とても遅く感じる

一秒が一分に感じられるくらいに




…えりちが、口を開いた

166: 2015/02/18(水) 23:34:13.83 ID:5QnZT6EP.net
「バレちゃった…か。」

やっぱり…

「ウチら、似た者同士やってんね。」

「…そうね。」

二人とも、自分を変えたいと願った

だからこそ、惹かれたのかもしれない

「…なんとなく、えりちがウチに興味を持ってくれた理由が分かった気がする。」

「あら、本当?」

「ただ…なんとなくやけど。」


根っこが、似てるんやと思う

175: 2015/02/19(木) 22:02:48.89 ID:Nmq5dePz.net
「…ねえ、希。」

「なに?」

「私…変われるかしら。」

「…ウチが、変われたんやもん。」

「えりちなら、きっと変われる。」

「…本当?」

「うん、ウチが保証するよ♪」

「ありがとう、希。」

「お礼は、必要ないよ。」

「ウチも、感謝しないといけない側やし…」

仲良くなるきっかけを与えてくれたえりちに

そして、ウチを変えてくれたにこっちに

176: 2015/02/19(木) 22:17:00.07 ID:Nmq5dePz.net
「…でも、具体的にどうすればいいのかしら?」

「それは…」

言葉に詰まる


こんな時、にこっちやったら何て言うんやろう…?


ウチがした事とは、また違う事やしな…

あ、でも、趣味とかなら…!

「えりちの趣味ってなに?」

「趣味?」

「えっと…キルティングやアクセ作りかしら。」

「え…すごい。」

「そう?案外簡単よ?」

「今度、希もやってみる?」

「いいの?」

「もちろん♪」

177: 2015/02/19(木) 22:18:03.95 ID:Nmq5dePz.net
アクセかあ…うまく出来るかなあ?


「…じゃなくて!」

「!?」

あ、驚かしてしもた

「あの、えと…趣味なら、みんな近づきやすいかなって。」

「ああ、なるほどね。」

「でも、伝える時って仲良くなってからよね、こういうのは。」

「うーん…」

確かに、ウチのタロットみたいに見せれる物じゃないし…


あれ?もしかしてウチって役に立ってない?


そんなあ~…

178: 2015/02/19(木) 22:22:39.38 ID:Nmq5dePz.net
「…ごめん、えりち。」

「ウチ、せっかく力になれると思ったのに…」

しょんぼりした顔で、えりちを見る

「ふふ、いいのよ。」

「その気持ちだけで十分だから。」

「でも…」

何か、えりちの力になりたい

ウチに出来る事、ないかなあ…?

「でも…そうね。」

「希には、私と皆との橋になってもらおうかしら。」


「橋?」

179: 2015/02/19(木) 22:30:58.43 ID:Nmq5dePz.net
「きっと私は今のままだと…」

「仲良くなる前に、近寄りがたい印象しか無いと思うから。」

「希に、間に入ってほしいの。」

「えりちと皆の、間に…」


「変われた貴女なら…」

「皆の気持ちも、私の気持ちも理解してもらえそうだから。」

「ウチが…」

出来るんかな?

「それにね?」


えりちは続ける



「私って、案外人見知りなのよ。」

180: 2015/02/19(木) 22:47:42.74 ID:Nmq5dePz.net
目を丸くする、というのはこういった時に使う物なんだろう

思わず、聞き返したくなるほどに


「人…見知り?」

「へ、変かしら…///」

「いや、流石にそれは信じられないと言うか…」

こんなに凛々しくて

気品がよくて優等生なえりちが…

人見知り?


「ぷっ…」

思わず、吹き出してしまった


「なっ…///」


えりちが、一気に赤くなる

181: 2015/02/19(木) 22:56:14.13 ID:Nmq5dePz.net
「ちょ、ちょっと希!」

「いきなり笑うのは失礼でしょ!?」

…あかん

怒ってるけど、顔真っ赤やん

「ご、ごめんえりち…」

「だって…ククッ。」


「も、もう!」


あ、これ以上はまずい…


「いや、だって…えりちが、ものすごく可愛くて。」


「へっ!?///」


…百面相を見てるみたい

182: 2015/02/19(木) 22:56:57.15 ID:Nmq5dePz.net
「やって、人見知りのえりちって想像つかないんやもん…!」

必氏に笑いをこらえる

「話してきたえりちは、とってもかっこよくて。」

「クラスのみんなに、住んでる世界が違うとまで言われて。」

「それくらい、完璧超人のイメージやったから、つい…」


「そ、そんなになんでも出来る訳じゃないわよ…」

「私にだって、苦手な物くらいあるし…」


「そうなん?苦手な物って?」

「…」

「…まだ、教えない。」

そう言って、えりちはそっぽを向いた



えりちの苦手な物って、何やろ…?


気になる

183: 2015/02/19(木) 23:15:02.71 ID:Nmq5dePz.net
「と、とにかく!」

「希には、皆との間に入ってもらうから!」


「け、決定事項なん?」

「もちろん!」

「私の事、笑った罰よ。」

にや…っと、えりちが笑う


これは…かしこくない


「…それに。」

「希とも、もっと仲良くなりたいから…///」

真っ赤な顔で、上目遣い



こんなん…反則やん

191: 2015/02/21(土) 21:45:53.91 ID:Q+HJRGaZ.net
お待たせしました

再開します

192: 2015/02/21(土) 21:46:19.99 ID:Q+HJRGaZ.net
「…」

「…」

「えっと…///」

「な、なに…?」

「何か、言ってくれなきゃ恥ずかしいじゃない…///」

「えっと…」


「か、かわいいよ…?」


「そっ…そうじゃなくて///」


た、耐えられへん…


「そ、そろそろ出ましょうか!」

「そうやね!」

194: 2015/02/21(土) 21:52:30.23 ID:Q+HJRGaZ.net
薄暗くなってきた帰り道

二人の歩調は、ぴったり合ってた


涼しい風に吹かれて、ちょっとだけ落ち着いて来た


「改めて…よろしくね、希。」

「…うん。」

「えりちが、望んだらきっと変われるから。」

「ありがとう。」

「本当に…声をかけてよかったわ。」

「そう言ってもらえると…ウチも嬉しいよ。」

訪れる、分かれ道


「それじゃ、また明日。」

「またね、えりち。」

195: 2015/02/21(土) 21:57:58.17 ID:Q+HJRGaZ.net
「ふう…」

荷物をおろし、ソファに座る

「あ…そうや。」

「にこっちに…」

今日の事、伝えよう

きっと、にこっちも喜んでくれる


スマホを出すと、ランプがついていた

「ん…にこっち?」

トークアプリを起動してみる

「あ、やっぱりにこっちからや…」

「なになに…?」

196: 2015/02/21(土) 22:02:35.10 ID:Q+HJRGaZ.net
============
来月、ライブ決まったわ

講堂でやるわよ
絶対、見に来なさい

============


「うそ…」

にこっち、いつの間に…

思わず、電話をかける

prrrr

prrrr


出るまでの時間がもどかしい


pi


…でた

197: 2015/02/21(土) 22:07:50.00 ID:Q+HJRGaZ.net
『にっこにっこにー!』

「…」

『…ちょっと、何か言いなさいよ。』

「にこっち、おめでとう。」

『…ありがと。』

「?あんまり、嬉しくないん?」

『嬉しいに…決まってるじゃない。』

『毎日毎日、部員達と理事長に頭下げてたんだから。』


そうやったんや…


『でも…』

「でも?」

『現実味が、無くて…』

198: 2015/02/21(土) 22:15:10.21 ID:Q+HJRGaZ.net
『ホントは、飛び跳ねたいくらい嬉しいはずなのに。』

『なぜか、すっごく冷静なの。』

「でも、今まで頑張って来たんやろ?」

『それは、もちろんよ。』

『でも、何て言うか…』


『緊張?してるのかな…』


「ふふっ。」


『な、なによ…?』

『いくらこのスーパーアイドルにこちゃんと言えど、緊張はするのよ?』


あ、また肩書き増えてる


「うん、知ってる。」

199: 2015/02/21(土) 22:24:54.84 ID:Q+HJRGaZ.net
『…絶対、見に来なさいよね。』

「もちろん。」

「何があっても、絶対行くよ。」

『トーゼン、よ。』


「…一番前、行くな?」

『ええ。』

「頑張って、にこっち。」

『…ありがと、希。』

『終わって落ち着いたら、またご飯でも行きましょ。』

「うん、約束やで。」


『それじゃ、また明日学校で。』

「うん。おやすみ、にこっち。」

『おやすみなさい。」

200: 2015/02/21(土) 22:25:32.63 ID:Q+HJRGaZ.net
pi


「…あ。」

今日の事、話すの忘れてた

「まあ、でも…」

「頑張ってるみたいやし。」


これからいつでも、伝えられる

いっそ、にこっちとえりちが友達になれば…


みんなで、楽しく遊べるやん♪



とりあえず、明日は学校やし…

お風呂入って、今日は寝よう


今日も、ぐっすり眠れそうや

201: 2015/02/21(土) 22:34:26.22 ID:Q+HJRGaZ.net
次の日


ウチは朝、直接にこっちにおめでとうって言った

にこっちは吹っ切れた顔してて

まんざらでもないようやった


それでも、それ以外に特に変わった事がある訳ではなく…

普段通りの学校生活を送っていた

にこっちは、部活を


そしてウチは…

202: 2015/02/21(土) 22:35:19.17 ID:Q+HJRGaZ.net
「ねえねえ、希ちゃん!」

「今日は一緒にご飯たべない?」

「ん?ええよ~。」

「あ、でも、もう一人誘ってもええ?」

「うん、私たちはいいよ!」

「それじゃ、お言葉に甘えて…」


「えりちー!」


一瞬、えりちの肩がビクッとなる


ちょ、そんな、「今から…?」みたいな顔せんといてよ


「え…絢瀬さん…?」


ほら、怖がっちゃうやんか

203: 2015/02/21(土) 22:40:31.46 ID:Q+HJRGaZ.net
「の、希…。」

「ほら、変わりたいって思うだけじゃ駄目なんよ?」

「行動せんと。」

「そ、それは分かってるけど…」

「ほら、こっちおいでって♪」

「ちょ、希、引っ張らないでよ…!」

えりちの腕をつかんで、ぐいぐい引っ張る

しまいには、観念したように引きずられながらもついて来た


「ほら、まずは自己紹介♪」

「え?えっと…絢瀬絵里です。」

「そんなん、皆知ってるやんか。」

「希がしろっていったんでしょ!?」

204: 2015/02/21(土) 22:41:18.56 ID:Q+HJRGaZ.net
「まあまあ、落ち着いてや、えりち。」

「誰のせいでこうなったと…」


「あ、あの…希ちゃん?」

「ああ、みんなごめんな。」

「実は、えりちも一緒に食べたいらしいんよ。」

「ちょっ…!」

「えりち、人見知りさんやからな。」

「皆と仲良くしたいのに、つんけんしちゃってただけなんよ。」

「の、希!!」

「こっちに来て!!」

「あーれー…」



教室の隅まで連れてかれた

えりち、案外力あるんやね…

205: 2015/02/21(土) 22:47:12.88 ID:Q+HJRGaZ.net
「はあ…はあ…」

「えりち、大丈夫?」

「早くしないと、ごはんの時間無くなっちゃうで?」

「のーぞーみー。」

「へ?」

「この口が悪いのね…」

「ひゃい!?ひ、ひひゃいよ、へりひ…!」

「いきなり全部暴露する事ないでしょう…?」

「ひゃ、ひゃって…」

「ひょのほうひゃひいひゃほおもっへ…」


「…希。」

「な、なに…?」



「もう一回言って?」

206: 2015/02/21(土) 22:47:48.50 ID:Q+HJRGaZ.net
ほんとにもう…

この子は、頭がいいのか悪いのか…


「とにかく、一緒に食べようや。」

「そ、それはいいんだけど…」

「ほら、みんな待ってるよ?」

「う、うん…」


そうして、みんなの輪に入る

うーん…やっぱり、緊張してるなあ…


よーし、こんな事もあろうかと…


がさごそ


「…?何してるの、希ちゃん。」

207: 2015/02/21(土) 22:51:40.66 ID:Q+HJRGaZ.net
「じゃーん!!」

そう言って取り出したのは

あの「ほ」のついたおまんじゅう

「え、いつの間に…」

「昨日、えりちと別れた後に買いに行ってん。」


「あ、それ知ってる!美味しいよね!」

「絢瀬さんも、このおまんじゅう好きなの?」

「え、ええ…うちの家族、みんなこれが好きで…」

「よく、おつかいに行かされるのよ…」

少し困った顔して言う、えりち

「「…ぷっ。」」


皆が、吹き出した

208: 2015/02/21(土) 22:52:49.15 ID:Q+HJRGaZ.net
「…え?ええ??」

えりち、混乱してる

「ほら、だから言ったやん?」

「えりちにおつかいなんて言葉、似合わんねん。」

「た、たしかに…」

「むしろ、おつかいさせる側って言うか…くく。」

「そ、そんなになのかしら…?」


困り顔のえりちも、美人さんやなあ…


「ほな、緊張も溶けた所で、ごはんにしよか♪」

「えっと…いいの?」

「いいから、いいから♪」


そんなこんなで、お昼ご飯がスタートした

215: 2015/02/22(日) 22:05:18.54 ID:xkpk+nwn.net
実際、食べ始めてみたけど…

なんてことはない


みんなが明るいのもあって、すぐにえりちはとけ込んだ


ウチは、必要なかったみたいに

…なんてな

少しでも、えりちがみんなと話すキッカケになれたなら

それだけで、ウチは幸せなんよ


「…あら?でもそれは…」

仲良くしたいからって話に流される訳じゃなく

ちゃんと、自分の芯を持ってる

ここは、素直に尊敬できるとこ

216: 2015/02/22(日) 22:08:20.00 ID:xkpk+nwn.net
「ふふっ…そうね。」

話も弾んで、えりちの笑顔も見れる

「やっぱり絢瀬さん、頭良いね!」

「ほんとほんと!」

「そ、そんなこと…///」




…なんかちょっと…ジェラシー?

えりちの照れた顔は、ウチが初めて見たのになー


とか、考えてしまう

それくらい、すてきなんよ、えりち

217: 2015/02/22(日) 22:14:49.31 ID:xkpk+nwn.net
でも、よかった

えりちも、キッカケが出来て

これからきっと、少しずつやけど変わって行ける

…ウチが、そうであったように


「…!」

ウチが微笑んで見てるのに、えりちが気付く

えりちも、笑ってくれた


ん?なんやろ…?





(あ・り・が・と・う)



えりちの口が、そう動いた…気がした

218: 2015/02/22(日) 22:21:57.51 ID:xkpk+nwn.net
あれからえりちは、皆とずいぶん仲良くなった

…とは言っても、みんなのお姉さんポジションにいるみたい

みんながえりちを頼って

えりちも、それに応える


これは、才能やなあ…

ウチの周りには、楽しんでる人が

えりちの周りには、楽しみたい人が


そして、そんなみんなが集まる、お昼休み


人数が少ないからこそ


いつのまにか…ひとつの家族みたいになってた




にこっちも、ここにいたらなあ…

219: 2015/02/22(日) 22:28:22.03 ID:xkpk+nwn.net
そして9月

にこっちのライブが、始まる---




9月に入って

にこっちたちは、積極的にアピールしだした

ビラ配りや、公開練習とかもして

少しずつやけど、知名度も上がってるみたいやった


「アイドル研究部です!よろしくお願いします!」

「「よろしくお願いします!」」


…お、やってるやってる♪


こうして頑張ってるのが目に見えると

思わず、顔がほころんでしまう



…にこっち、頑張れ

220: 2015/02/22(日) 22:39:12.86 ID:xkpk+nwn.net
ライブ当日---


「にこっち、どんな感じー?」

楽屋…もとい、更衣室を覗きに来た

「客席に、いればいいのに。」

「せっかくやから、声だけかけに来ようと思って。」

「…全く、暇人なのね。」

「にこっちが、今日は必ず来いって言ったんやんかー。」


よかった、余裕はあるみたい


「…はやく座らないと、埋まっちゃうわよ?」

「ふふ。そうなるように祈ってるわ♪」


「ほら、早く客席行ってなさい。」

「打ち合わせするから。」


「うん。それじゃ、楽しみにしてるな!」

221: 2015/02/22(日) 22:47:12.37 ID:xkpk+nwn.net
客席の、一番前に座る

お客さんも、何人かちらほらいるみたいや

「にこっち、全然緊張してなかったな。」

やっぱり、自分からやりだしたことはある

電話した時、緊張してたのが嘘みたいや

ライブの事だけ、考えてた



ただ…

後ろの二人は、やっぱり緊張してたみたい


どうか…うまく行きますように

222: 2015/02/22(日) 22:47:48.04 ID:xkpk+nwn.net
腕時計を見る

開演、20分前


…お客さんは、まだあんまり入ってない

えりちも、今日は用があるとかで


友達は、何人か来てくれたけど…

そもそも、あんまりにこっちと話した事無い子らやったし


それでも、ここがにこっち達にとって

新しいスタートになる


いままで練習して来たのも知ってる

何度も理事長に頭下げたことも

いっぱい、頑張ったんやもん…



ウチは、ちゃんと見てるよ

223: 2015/02/22(日) 22:54:03.64 ID:xkpk+nwn.net
講堂が、静まり返る

…開演、5分前


さっきよりも、人は増えた

もうすぐ、始まる---



舞台袖から、かわいらしい衣装の子が走ってくる


にこっち、やっぱり衣装似合うな♪

後に続く、二人の子達

二人とも、にこっちに負けないぐらい、可愛い



三人揃って、ペコリと頭を下げる


にこっちが、マイクのスイッチを入れた

224: 2015/02/22(日) 23:09:06.64 ID:xkpk+nwn.net
やっぱりイベント中だと人いないな

もうちょっとだけ続けます

225: 2015/02/22(日) 23:09:51.88 ID:xkpk+nwn.net
「初めまして!アイドル研究部です!」

にこっちの元気な声が、スピーカーから聞こえる

「今日は、私たちのライブに来てくれて、ありがとうございます!」

「やっぱり、初めてだし私たちの事を知らない人が多いと思います。」

「それでも、今日来てくれた人たち皆が私たちのファンになってもらえるように。」

「精一杯、頑張ります!」

「そしていつの日か!」

「この講堂を、ファンの皆でいっぱいにしてみせます!!」


「それでは聞いてください!」


また、仲良く揃ってお辞儀する




照明が…落ちた

226: 2015/02/22(日) 23:25:07.61 ID:xkpk+nwn.net
ライトアップと共に

スピーカーからアップテンポな曲が流れる

よくテレビでみる、アイドルの曲

とってもダンサブルな、ナンバー


それでも、笑顔で踊るにこっち

後ろの二人も、しっかり踊れてる


…やっぱり、杞憂やったかな?


歌いだしも、しっかり声が出てる

なにより、楽しそう


お客さんも、笑顔な気がする

227: 2015/02/22(日) 23:25:38.63 ID:xkpk+nwn.net
ステップを踏んで

ターンして

ジャンプして


それでもぶれずに、歌う


にこっち…ほんまに真剣なんやね


改めて、実感する

にこっちの、アイドルへのひたむきさ

目指している、夢



よかったね、にこっち

大きな大きな、第一歩や

228: 2015/02/22(日) 23:28:43.34 ID:xkpk+nwn.net
一曲目が終わった

精一杯、拍手をする

三人とも、肩で息をしてる

それでも、笑顔は絶やさない


うん、上手く行ってる

あと一曲、がんばって



呼吸を整え、配置に付く

しん…となった講堂


また、次の曲が始まる

229: 2015/02/22(日) 23:29:55.32 ID:xkpk+nwn.net
次の曲も、ダンスが激しい

それでも、笑顔で

それでも、たのしそうに

三人は踊る

「…すごい。」


ほんとに…頑張ったんやね、にこっち


曲も終盤に差し掛かり

一層、ダンスが激しくなる



Cメロが終わって、サビに入る時


ターンして、真ん中に集まる



…はずやった

230: 2015/02/22(日) 23:33:56.45 ID:xkpk+nwn.net
それは、緊張したからなのか

それとも、疲れ果てたからなのか

一番後ろの子が、つまづいた


それにぶつかって、二人目も倒れる


手を伸ばした先には、にこっちの衣装


「にこっち…!!」


どさっ…


その小さな体じゃ二人を支えきれずに

にこっちも、倒れてしまう



流れ続ける、曲


ざわつく、講堂内

232: 2015/02/22(日) 23:41:18.59 ID:xkpk+nwn.net
慌てて駆け寄ろうとすると

にこっちが、立ち上がった

そしてまた…


踊り始める

それにつられて、後ろの二人もすぐに起き上がる

もう曲が終わるというのに

にこっちは、諦めてはいなかった



ポーズをとって、曲が終わる

にこっちがマイクの前に立つ


「今日は、どうもありがとうございました!!」

233: 2015/02/22(日) 23:43:29.07 ID:xkpk+nwn.net
「最後、すこし失敗しちゃったけど…」

「ここに立って、ライブが出来た事が何よりの幸せです!」

「私たちアイドル研究部は、これからもこうして頑張って行きます!」

「どうぞ、応援よろしくお願いします!!」


少ないながらも、大きな拍手が鳴り響く

ウチも、精一杯拍手した


ぺこりとお辞儀をして、舞台袖に向かう三人





…にこっち、まだ、お客さんの前やから


まだ…泣いたらあかんよ

235: 2015/02/22(日) 23:49:50.51 ID:xkpk+nwn.net
ライブが終わって、少し経って

ウチは、にこっちの所に向かってた


仕方が無い事とは言え

あんなに、頑張ってたんやから


まだ、なんて声かけていいのか思いつかんけど…

それでも、ウチが行かないと駄目な気がした



更衣室の扉の前に立って

覚悟を決めて、ノックする

「アンタ、それ本気で言ってるの!?」

帰ってきた返事は、にこっちの怒鳴り声やった


「にこっち…!?」


慌ててウチは、扉を開けて飛び込んだ

241: 2015/02/23(月) 20:52:57.76 ID:YndxuiG1.net
「にこっち!!」

いきなり入ってきたウチに、にこっちは戸惑ったみたい

でも、すぐに表情が元に戻る

「一体、何があったんよ…?」

「それは…」

一番後ろで、おびえてる子が口を開く

…この子、さっきつまづいた子や



ん?てことは…

にこっちが怒ってるのはもう一人の方か

242: 2015/02/23(月) 20:53:40.53 ID:YndxuiG1.net
「その子は…悪くないわ。」

「失敗はしちゃったけど…」

「それでも、頑張ってた。」

「最後まで、笑顔で踊り続けようとした。」

うん、ウチも…同じ気持ち


「失敗は…誰にだってあるわよ。」

「私だって、完璧なわけじゃない。」

「それを練習して、頑張って出来るようになったとき。」

「それが一番楽しくて、嬉しいんじゃない。」


にこっちの言ってる事は正しい

でも…もう一人の子は、腑に落ちてない顔してる

243: 2015/02/23(月) 21:01:22.79 ID:YndxuiG1.net
「だけど…」

「ううん、だからこそ…」


「さっきのアンタの言葉は、許せない。」


「失敗した事が悔しくないの!?」

「成功させたかったって思わなかったの!?」

「次は…次は、もっと頑張ろうって!!」

「そう思わないの!?」



「なんで…」

「なんで、『たかが部活だから』なんて言葉が出るのよ!!」

244: 2015/02/23(月) 21:11:52.63 ID:YndxuiG1.net
「にこっち…」


「必氏にやるから、楽しいんじゃない!!」

「必氏にやるから、輝けるんじゃない!!」


「入部の時に言ってた、『憧れ』って何なのよ!!」

「本心じゃなかったの!?」


「にこっち…あかんよ…」


「自分の足で、ステージに立って。」

「キラキラしたいって言ったのはアンタじゃない!!」

「そのために、一生懸命頑張りたいって言ったのは!」

「他でもない、アンタ自身じゃない!!」


「なのに、どうしてそんな言葉が出るのよ!!」

「勝手に、諦めてるんじゃないわよ!!」

「そんなこと言うくらいなら、アンタなんか…!」





パァン…!

245: 2015/02/23(月) 21:22:39.33 ID:YndxuiG1.net
「え…」

にこっちが、頬を押さえる


叩く方も…すごく痛いんやね


「にこっち…」

「今、何言おうとしたん?」

「…ッ!」

「たとえそれが本心でも、そうじゃないにしても。」

「言って良い事と、悪い事があるのは…」

「かしこいにこっちなら、知ってるやろ。」

「だけど…」


「…ウチは、にこっちの言ってる事は分かるよ。」

「だったら…ッ!!」




「でも、にこっちは間違ってる。」

246: 2015/02/23(月) 21:30:28.20 ID:YndxuiG1.net
「どういう…意味よ。」


「にこっち…前に、言ってくれたよね。」

「いつでも、来ていいからって。」

「もしウチがそれで参加してたら…」

「きっとウチは、今のこの子と同じ事を言ってたと思う。」

「その時、にこっちは…うちの事も、同じように怒る?」


「それは…」


「友達だから、とかじゃなくて…」

「あの時のにこっちは、ちゃんとウチを見ててくれてた。」


「今…にこっちは何を見てるん?」

「何が…目の前にあるん?」

247: 2015/02/23(月) 22:06:56.56 ID:YndxuiG1.net
「…」

「にこっちの思いは、知ってるよ。」

「本気で、アイドルやりたいって。」

「それがにこっちの原動力なのも…」


「やけど…」

「言い方は悪いかもしれないけど。」

「この二人にとっては、ただの、高校時代の部活なんよ?」


「…!そんなの…」


「…部長、なんやろ。」

「引っ張ってく人が、周り見れなくてどうするんよ。」

「足並み揃えなくて、どうするんよ。」


「…ちゃんと、向き合ってあげてよ。」


あの時、ウチにしてくれたみたいに

248: 2015/02/23(月) 22:07:45.36 ID:YndxuiG1.net
「…」


長い沈黙が、続く

お互い、思う所はあるんやろう


それでも、今は…

「…ほら。今日はもう帰り。」

「そんで、また三人で、ちゃんと話し合って。」

「どうしたいのか。」

「これから…どうしていきたいのか。」


「同じ方向、向かないと…な?」


「…」


にこっちが、鞄を持って出て行く

「あ…」

「…今は、そっとしといてあげて?」

249: 2015/02/23(月) 22:16:16.88 ID:YndxuiG1.net
「あの…」

「うん?」

「ごめんなさい。」

「ええんよ。」

「確かに、言い方は良くは無かったけど…」

「それでも、にこっちも貴女も、間違ってはないから。」

「…それに、励まそうとしたんやんね?」


「それは…」


「きっと、にこっちも分かってる。」

「でも、自分の夢を否定されたみたいで辛かったんやと思う。」

「…はい。」

「また、ちゃんと話するんよ?」

「それでも…にこっちの気持ちは、知っててあげてほしい。」


「…はい。ありがとうございます。」

250: 2015/02/23(月) 22:23:09.57 ID:YndxuiG1.net
「…ふう。」

帰る前に、神田明神に来てみた

夕日に目を細めながら今日の事を思い出す


右手が、じん…と熱くなった


「ウチ…最低やな。」

にこっちのこと、分かった風に

気持ち知ってるなんて、無責任なこと…


一番辛いのは、きっとにこっち

でも、何も言えんかった



…まだ、じんじんする


心が、痛いよ

252: 2015/02/23(月) 22:28:29.98 ID:YndxuiG1.net
「…ぐすっ。」


…初めて、怒鳴った

初めて、手をあげた


そんな資格、ウチにないのに


恩を、仇で返したみたい


結局ウチは、にこっちに何もしてあげられてない


ぼーっと遠くを眺めていると

ふいに顔を覗き込まれた

「…なにしてるの。」

「ひゃあっ!?」



「こんばんは、希。」

「こんばんは…えりち。」

253: 2015/02/23(月) 22:34:57.91 ID:YndxuiG1.net
「…はい、えりち。」

「ありがとう。」


何となく、一人になりたくなくて

えりちを家まで連れて来てしまった


「はは…なんもない、部屋やろ?」

無理矢理明るく、そう言ってみる

「そう…?」

「希らしい感じよ。」


「え…?」

ウチ…らしい?

「何て言うのかしら…?」

「まだまっさらで、色がついてないような。」

「でも、だからこそ誰にでも合う…そんな感じの部屋。」

254: 2015/02/23(月) 22:40:07.81 ID:YndxuiG1.net
「誰にでも…合う…」


「ほら、私の部屋って言われても、違和感ないでしょ?」

「希は、変わったんだから。」

「これから、もっともっと変わって行ける。」

「この部屋のように。」


「そんなん…初めて言われた。」

まあ、にこっち意外が来るの、初めてやけど

でも、えりちはウチにいつも新しい発見をくれる


少しだけ…

体が軽くなった気がした

255: 2015/02/23(月) 22:43:11.21 ID:YndxuiG1.net
「…それで、一体今日はどうしたの?」

「うん…実は…」

-----


「そう、それで…」

「うん。」

「やっぱり、言い過ぎたかな…って。」

「それに、叩いちゃったし…」


「そうね。」

「まず…手を出した事は、どんな理由があっても駄目。」

「激高したときこそ、冷静に物事を見ないと。」

「そこは…必ず、謝る事。」

「…うん。」

「それで、気持ちの面だけど…」

257: 2015/02/24(火) 09:43:59.97 ID:6NxxIuzU.net
「…それは、どうする事も出来ないわ。」

「考え方や捉え方は十人十色。」

「同じように見てても、実際は違う事が多々あるわ。」

「だからきっと…今日じゃなかったとしても。」

「いつか、そのことで衝突したはずよ?」

「…むしろ、早いうちで良かったんじゃない?」


「でも…」


「矢澤さんの気持ちは、私にも分かるわ。」

「私も…そうだったから。」

「えりちも…?」

「ええ。」

258: 2015/02/24(火) 09:50:21.72 ID:6NxxIuzU.net
「希の言った事は、正しい。」

「足並み揃えて、同じ方向を見る事。」

「それが出来たら、何だって出来るはずよ。」

「でもね…そうなれるのは、ほんの少ししかいないの。」

「ほとんどは、今日みたいに意識のズレが原因になる。」

「でも…でも、頑張ったら!」

「話し合って、皆で力を合わせたら!」


「そう、なれなかったから…今日の事が起こったんじゃない?」


「…」


ウチ、ほんとに何も分かってなかったんやね…

259: 2015/02/24(火) 09:55:05.43 ID:6NxxIuzU.net
「…バタフライ効果って、知ってる?」

「…」

ウチは、首を横に振った

「ほんの、些細な事から、大きな結果が生まれる事よ。」

「例えば…今日の事があったから、部活を辞めちゃうのか。」

「それとも、今日の事があったから、団結して前を向けるのか。」

「さっきの話をしといてなんだけど…」

「可能性は、誰にだってあるわ。」

「ただ、それをモノに出来るかどうかは、些細なキッカケなのよ。」

「希が…そうであったように。」


ウチの…キッカケ

にこっちと…屋上で会えたから

260: 2015/02/24(火) 10:01:31.95 ID:6NxxIuzU.net
「だからこそ。」

「この状況をどう変えるのかは…」

「結局は、彼女達自身の問題なのよ。」


「それは…そうやけど。」


「だから、希が出来る事は…見守る事。」

「もし、何か言いたい事があるなら言っても良いけど…」

「その一言が…未来を変えるかもしれん、てこと?」

「大げさに言うとね。」


「もちろん、選ぶのは彼女達だから。」

「でも…だからこそ、彼女達が決めなきゃ駄目なのよ。」

「進むか、止まるか…ね。」



えりちはそう言うと、紅茶を飲んだ

271: 2015/02/24(火) 22:36:46.45 ID:6NxxIuzU.net
「…」

ウチは、何も言えなくなった

「…ごめんなさい。」

えりちが、謝る

「なんで…」

そう言いかけたけど、口を閉じた

きっとえりちは、分かってる

ウチの気持ちも、全部


ウチがにこっちに言おうとしてる事

それを言う事で、起こりそうな事

そして…手を差し伸べてくれたにこっちに、してあげたい事



全部考えた上の…事やから

だから、えりちは謝ったんだと思う

272: 2015/02/24(火) 22:37:41.52 ID:6NxxIuzU.net
「ふう…ごちそうさま。」

そう言って、えりちはカップを置いた

「あ…」

飲み終えたという事は

えりちが、帰るという事



…ウチ、こんなに寂しがり屋やったかな?


それに、こんなの…

ずるいやん



きゅっと、机の下で手を握る


「きょ、今日はごめんな?」

「近くまで、送って行くよ!」


そう言って、席を立つ


甘えちゃ…いけない

273: 2015/02/24(火) 22:44:02.30 ID:6NxxIuzU.net
「ねえ…希。」

「どうしたん?」


「私ね…今日、遅くなるって言って来たの。」

「そうなん?」

「まだ夕方やから、大丈夫…なんかな?」

「何か用事あるのに、付き合わせてしまってごめんな?」


「…ご飯も、食べて帰るって言って来たの。」

「だ、誰かと待ち合わせ?言ってくれたら…」


「…」

「えりち?」


クスッ


「…へ?」


「貴女…もしかして、天然なの?」


天然って…なんやっけ?

275: 2015/02/24(火) 22:50:22.05 ID:6NxxIuzU.net
「もし、お邪魔じゃなければ…」

「一緒に、ご飯たべましょう?」


「…?」

「え、どういう事…?」


あ、えりちがため息ついた


「はあ…エリチカ、おうちに帰る…」

そう言って、支度をして出て行こうとする、えりち


「…!!」


「ちょっ、えりち!」

慌ててえりちの裾を掴む

「い、一緒に食べても…いいん?」

276: 2015/02/24(火) 22:58:07.88 ID:6NxxIuzU.net
「だから…そう言ってるじゃない。」

「ま、回りくどいんよ!!」

むっとふくれるウチに、えりちは続ける

「…きっと希の事だから、私が帰ったらふさぎ込むんじゃないかと思って♪」

「そんなことないもん!」

「いいえ。私が見て来た希は、そんな子よ?」


「う、ウチかって変わったんやもん!!」


「そう?…なら、帰ろうかしら。」

「うっ…」


「えりちの…イジワル。」

「なっ…!?///」

「…」


「…ほら、もう良い時間だし、何か食べにでも行きましょ?」

「…うん!」



ありがと…えりち

277: 2015/02/24(火) 23:17:02.28 ID:6NxxIuzU.net
次の日---


えりちと話して、すこし落ち着いたけど…

問題が解決した訳じゃない


にこっち達が…決める事

ウチは、信じるしか出来ない


…ううん、えりちと約束したから

にこっちを…三人を、見守るって


頬をパチンと叩いて、気合いを入れる


…よし、いつも通りに行こう!

ガラッ


「おっはよー…ぉ…」


「おはよう、希。」

「ちょっといい?」

あはは…

これは、想定してなかったなあ…

278: 2015/02/24(火) 23:36:54.98 ID:6NxxIuzU.net
「…」

屋上で、にこっちは向こうを向いてる

話しかけた方が、いいんかな…?

「あ、あの…」


「希…」

「昨日は、ごめん。」

そう言って振り向いたにこっちは、頭を下げた

「に、にこっち!?」

「正直…自分でも、どうかしてたって思ってる。」

「頭に血が上って、あんな事…」


「希に止められてなかったら、きっともっと酷い事、言ってたと思う。」

「だから…」

「ありがとう。」

「それに、ごめん。」


「にこっち…」

279: 2015/02/24(火) 23:41:15.28 ID:6NxxIuzU.net
「ウチもごめん!!」

同じように、頭を下げる

「全然みんなの気持ち考えんと、怒鳴ったりして。」

「それに、にこっち叩いちゃったし…」


「ああ…あれは、痛かったわ。」

「や、やっぱり…!」

「にこっち、ウチも叩いて!」


「…は?」

「だ、だって、結構力一杯やっちゃったし…」

「顔は、アイドルの命なのにね。」

「ほ、ほんとにごめん…」


「…でも、目が覚めたわ。」

「ちゃんと、伝える。あの二人に。」




「だから…ありがとう。」

280: 2015/02/24(火) 23:48:40.94 ID:6NxxIuzU.net
「にこっちぃ…」

「な、なんでアンタが泣いてんのよ!!」

「だって…だって、嫌われたかと…」

「はぁ?そんな事で嫌う訳無いじゃない!」


「だって…恩を、仇で返したみたいで…」

「…はあ。そんなこと気にしてたの?」

「やっぱりアンタ、まだまだネガティブね。」

「今からでも、入りなさいよ。」

「そ、それとこれとは話が…」

「…」

「…でも。」


ぎゅーっ


「ちょっ!?」

「にこっち、ありがと…」

281: 2015/02/24(火) 23:49:16.78 ID:6NxxIuzU.net
「ちょっと、苦しいって…」

「…」


「ほら…」

そう言ってにこっちは、ウチを撫でてくれた

「ふふ…ありがとう、にこっち。」

少し、手に力を込める

…ウチの気持ち、伝わってるかな?


「…ほら、もう離れなさい。」

「えー?」

「アンタに抱きつかれてると、敗北感を感じるのよ。」

「なんで?」

「…その、無駄に大きい存在のせいよ。」

「なっ…!?」


「一体、何を食べたらこんなに…」

「に、にこっちのヘンタイ!!」

282: 2015/02/24(火) 23:52:50.27 ID:6NxxIuzU.net
「あの…」


そうしていると、後ろから声がかかった


「あ…」

昨日の、あの子達

「こ、ここにいるって、聞いて…」

「そう…」


「…にこっち。」ボソッ

「わかってるわよ。」ボソッ


…よかった

ウチは、三人の邪魔にならないように、そっと屋上を出る



「…上手くいったみたいね。」

階段の下に、えりちがいた

「えりちが、伝えてくれたんやね。」

そう言うと、えりちは静かに微笑んだ

283: 2015/02/24(火) 23:55:58.58 ID:6NxxIuzU.net
「…あとは、彼女達が決める事よ。」

「うん、分かってる。」

「ウチは…みんなを、信じるよ。」

「…希らしいわ。」



「それはそれとして…」

「覗くのは、関心せんよ、えりち。」

「べ、別に覗いてなんかないわよ?///」


「ふ~ん…」

「今日のお昼は、えりちにおごってもらお!」

「へっ?」



「何食べよっかな~?」

「ま、待ちなさい、希!」



ファイトやで、三人とも♪

284: 2015/02/24(火) 23:56:28.42 ID:6NxxIuzU.net
今日はここまで

また明日

289: 2015/02/26(木) 09:18:00.23 ID:SL6jXQbv.net
そして、昼休み


「うーん…結局あのあと、どうんなったんやろ…?」

「やれることはやったんだし…」

「あとは待つしかないわ。」

「それは、そうやけど…」

「とりあえず、お昼食べましょう?」


そんな話をしていると、教室の扉が開いた

「あの…東條さん、いますか…?」


あ、あの子達…


「希ちゃん、呼んでるよー?」

ウチに気付くと、頭を下げた

290: 2015/02/26(木) 09:18:32.35 ID:SL6jXQbv.net
「あの…少し、時間いいですか?」

「あ、うん、でも…」


ポンっと、背中を押された

「えりち…」

「行ってきなさい。」

「ちゃんと、聞いてあげないと。」

「…うん!」


そう言って、ウチは彼女達と屋上に向かった


---


「お昼休みに…ごめんなさい。」

「ううん、いいよ?」

「どうしても…私たちから、伝えたくて。」

291: 2015/02/26(木) 09:26:17.05 ID:SL6jXQbv.net
「…うん。」

「あのあと、にこちゃんと話して…」

「もう少し、続けてみようって決めました。」

「正直、今でも迷ってる部分はあるけど…」

「それでも、東條さんに言われて。」

「にこちゃんと…話して。」


「やっぱり、歌って踊るのが好きだから。」

「だから…続けます。」


「…そっか♪」


「にこちゃんの意識には、まだまだおよばないけど…」

「でも、にこちゃんも、まずは楽しめ、って言ってくれて。」

「部活だけど…もっと、真剣に取り組んでみようって。」


「…私たち二人で、決めました。」

292: 2015/02/26(木) 09:27:19.13 ID:SL6jXQbv.net
そう聞いた途端、一気に脱力した


「よかった~…」

ぺたん、とその場に座り込む

「と、東條さん?」

「あ…ごめんな?」

「なんか、一気に疲れが…」


「正直、出しゃばりすぎたかなって、思ってたん。」

「にこっちたちの問題なのに、首突っ込んで。」


「…でも、東條さんのお陰でも、あるんです。」

「…え?」



「にこちゃんから、東條さんの事聞きました。」

「…変われた事。」

293: 2015/02/26(木) 09:37:27.99 ID:SL6jXQbv.net
「あ…そうなん?」

「勝手に聞いちゃって、ごめんなさい!」

「ううん?別に隠すような事と違うし…」


「…不思議だったんです。」

「どうして、あんなに真剣に怒ったのか。」

「私たちの事、気にかけてくれたのか。」


「…私たちも、東條さんと同じだから。」

「ウチと、同じ…」


「この子なんか、特にそうで。」

「…うん。私も、人前に立つの苦手で…」

「そうやったんや…」


「だから、東條さんが私たちを気にかけてくれた事が、嬉しかったんです。」



「私たちも…変われるのかなって。」

294: 2015/02/26(木) 09:38:01.43 ID:SL6jXQbv.net
また…言われた

ウチは、そんなに感謝されるようなこと、してないのに


ウチが今までしてもらった事

それを、ただ返そうとしてるだけなのに


でも…



これで、にこっちも…この子達も

これからも頑張って行けるなら…



「…ありがとう。」

「その言葉だけで…十分や。」



ウチはいっつも、誰かに何かをもらってる。

295: 2015/02/26(木) 09:44:02.83 ID:SL6jXQbv.net
「…希でいいよ。」

「…え?」

「ウチの事。」

「…改めて、これからよろしくな?」

「にこっちに言いにくい事とかあったら、ウチが聞くから。」


「…はい!!」

「ありがとうございます!」


ふふっ…やっと、上手く行く

これから、もっと楽しくなる


そんな予感がする



楽しい事も、辛い事も

みんなでなら、乗り越えられる

そう感じた、夏の終わりやった

296: 2015/02/26(木) 09:47:35.53 ID:SL6jXQbv.net
-----


「うう…寒いなあ…」

「お布団から…出たくない…」


ピンポーン


「…」


ピンポーン


「…」


「…」


ドンドンドン!!

<ハヤクアケナサイヨ!!


「ああ…やっぱりにこっちか…」

布団にくるまりながら、玄関を目指す

297: 2015/02/26(木) 09:52:41.85 ID:SL6jXQbv.net
「おはよーにこっちー…」


「アンタ、休みだからって堕落しすぎじゃない!?」

「とにかく入れてよ、寒いんだから!!」


「いらっしゃい~。」

そう言って、ウチはまた布団のとこに戻ろうとする


「…」

「ん?どうしたん、にこ…」

ガバッと布団から放り出された

「いい加減シャキッとしなさい!!」

「遅れるわよ!?」


「にこっちのいけずぅ~。」

「可愛くない!!」

298: 2015/02/26(木) 09:53:14.72 ID:SL6jXQbv.net
「ほら、さっさと支度する!」

「はーい…」

冷たい床の上を歩いて、洗面台へ

「うう…寒い…」

「ていうかアンタ、ちゃんと掃除してるの!?」

「えっと…一昨日…?」


あ、にこっちが引いた顔してる

「アンタ、一応女子なのよ!?」

一応って…ひどいなあ、にこっち


「とにかく、こっちは勝手にやってるから…」

「アンタは準備しなさい!」


「はーい…」


冷たい水で、顔を洗う

ようやく、意識がハッキリしてきた

299: 2015/02/26(木) 09:57:40.16 ID:SL6jXQbv.net
「…ほら、待ち合わせてるんでしょ?」

「早く支度して、行くわよ?」


「あ、それなら大丈夫…」

「は?」


ピンポーン

「…ほら♪」



----

「希、入るわよー?」

えりちが入ってくる


「アンタ、信じらんない!」

「いくらめんどくさいからって、普通遊んでくれる人家に呼ぶ!?」


「はい…すみませんでした…」


絶賛しかられ中

ほら…えりちにも引かれたやん…

300: 2015/02/26(木) 10:01:06.81 ID:SL6jXQbv.net
「…」

うう…気まずい…


「…はあ。アンタには飽きれたわ。」

「うう…」

「まさか、二人とも呼んでるなんて…」

えりち、そんな目で見んといてよ…


「…ともかく。」

「矢澤にこよ。希がお世話になってるみたいね。」

「こちらこそ。絢瀬絵里よ。」


「…で、絵里。こいつどうする?」

「そうね、にこ。とりあえず、お昼は希のおごりかしら?」


すぐに打ち解けられる二人を見て

これが普通なんやね…とか考えながら




ウチは財布の中身を確認してた

301: 2015/02/26(木) 10:01:49.39 ID:SL6jXQbv.net
「…さ、やっとウチの準備もできたし。」

「ええ、行きましょうか♪」


「…」

にこっちを間に挟んで、街に出る

「…ちょっと。」

「どうしたん?にこっち。」

「この配置…絶対わざとでしょ。」


「あら…そんなに変かしら?」

「にこが惨めに見えるでしょっ!?」

「そんな訳…ないやん?」

「目をそらすなぁ!!!!!」


「…とにかく、カフェにでも入ろっか♪」

「話を聞けー!!」



そう言って、ウチはにこっちイチオシのお店に向かった

302: 2015/02/27(金) 00:30:38.68 ID:ltVXZPNf.net
「ここって…」

「ん?にこっちオススメの場所♪」


「お帰りなさいませ、ご主人様♪」


「希…アンタ何考えてんの?」

「いやあ…えりちに、にこっちを知ってもらうには一番の場所かなって♪」

「バカ言ってんじゃないわよ!」

「よりによって、なんでここなのよ!?」


「ご主人様、メニューをどうぞ♪」


「あ、どうも…」

「じゃなくて!!」


「ほらほら、可愛いメイドさんがいっぱいおるよ?」

「…」

303: 2015/02/27(金) 00:37:48.35 ID:ltVXZPNf.net
「見なさい。」

「当人の絵里は、呆れて声も出ないじゃない。」

「…」


「ハラショー…」


「…へ?」


「すごいわ、にこ!」

「日本に、こんな所があったなんて!!」

「え…」

「メイドさーん!」

「この『にゃんにゃんパフェ』ひとつ!」

「かしこまりましたぁ~♪」


「…すごい、楽しんでるけど?」

「…そうね。」

304: 2015/02/27(金) 00:38:31.53 ID:ltVXZPNf.net
「お嬢様方はいかが致しますか?」

「あ…ウチは、このミルクティーで。」


「…って、アンタも順応し過ぎでしょ!!」

「にこっちは?」

「人の話を聞きなさい!」

「…あ、この『ほっぺが落ちちゃう ましゅまろチーズケーキ』で。」


「人のお金やからって、あんまり高いもの選ばんといてやー。」

「いいじゃない、美味しいんだから。」

「…あ、食べた事あるんやね。」


「もちろん!全メニュー制覇したわ!」

「…もうちょっと、他に目を向けたら?」


「うっさい!!」

305: 2015/02/27(金) 00:39:22.82 ID:ltVXZPNf.net
「って言うか、絵里!」

「何枚も写真撮らないの!」


「だって、可愛いじゃない!」

「もうちょっと、節度をもって…」


「おまたせしました~♪」

「特製、にゃんにゃんパフェで~す♪」

「さ、お嬢様も一緒に!」

「ええ、任せて!」

「せ~のっ。」


「「にゃんにゃん♪」」


「うわ~!お嬢様、とっても可愛いです~♡」

「か、可愛いだなんて、そんな…///」

306: 2015/02/27(金) 00:40:29.22 ID:ltVXZPNf.net
「…ねえ、希。」

「な?見てて飽きないやろ?」

「ちょっと、今までのイメージが…」


「すっごく美味しい!!」

「ハラショーよ!!」



-----

「…落ち着いたのかしら?」

「…ええ。」

「えりち、可愛かったで?」

「の、希…///」


「絵里の見方が変わる一日ね。」

「あら?私は至って普通よ?」


「「…」」

307: 2015/02/27(金) 09:01:52.01 ID:ltVXZPNf.net
「…ま、とにかく。」

「部活、続けられそうでよかったわね。」

「…ふん、こんな所で諦めなんかしないわ。」

「それはよかった♪」

「希が、ずっとオロオロしてたから。」

「ちょっ、えりち!?」


「はあ…アンタ、そういうとこは変わらないわね。」

「だって、にこっちが頑張ってたの、知ってるし…」

「…分かってる。」

「ありがとう。」



「ほら、辛気くさいのはもう終わり。」

「せっかくこうして会えたんだから、楽しみましょう♪」

308: 2015/02/27(金) 09:02:35.40 ID:ltVXZPNf.net
それから、色んな所に遊びに行った


「ほら、一緒に!」

「にっこにっこにー☆」

「にっこにっこに~…///」

パシャッ


プリクラに行ったり


「ねえ、こういうのが似合うんじゃないかしら?」

「あら、いいんじゃない?」

「なら、合わせるスカートはこっちで…」


服を見に行ったり

309: 2015/02/27(金) 09:13:10.19 ID:ltVXZPNf.net
「ハラショー!クレープって、初めて食べたわ!」

「え、本気?」

「えりちは、少しずれてるからなあ…」

「はい、希!食べてみて?美味しいわよ!」

「え…ええっ!?///」


女子高生らしく、買い食いもした



楽しい時間は、あっという間に過ぎて…


「そろそろ、妹達のご飯作らないと…」

「あ、そっか…」

「なら、今日はここまでかしら?」

「別に良いわよ?アンタ達で楽しんで来たら。」

「そういう訳にもいかんよ。」

「気にしなくていいのに。」

310: 2015/02/27(金) 09:13:51.50 ID:ltVXZPNf.net
「こころちゃん達、元気にしてる?」

「もう、手がつけられないほど元気ね。」

「希にも、また会いたがってたわよ。」

「いやあ、何か嬉しいなあ…」


「ふふっ。鼻の下伸びてるわよ、希。」

「でも…希がここまでにやける子達、私も一度会ってみたいわね。」


「…なら、今度うちにご飯来る?」

「迷惑じゃないかしら?」

「全然。むしろ、お客さんが来たってテンション上がるわ。」

「にこっちも、大変やねえ。」


「ま、昔からこうだからね。」

「もう慣れたわ。」

311: 2015/02/27(金) 09:37:19.60 ID:ltVXZPNf.net
「…さ、そろそろにこは帰るわ。」

「別に、気にしなくていいんだから。」

「たまの休みくらい、遊びなさいよ?」

「それじゃあね。」


「ありがと、にこっち。」

「今日は楽しかったわ。」

「これからも、よろしくね?」


「…こちらこそ。」


にこっち、少し照れてるみたい

えりちは、何にでも直球やもんなあ…


「それじゃ、またね!」

「うん、ばいば~い♪」

ヒラヒラと手を振る

312: 2015/02/27(金) 09:37:57.44 ID:ltVXZPNf.net
「…さて、ウチらはどうしよっか?」

「それなら、少しお茶して行かない?」

そう言って、えりちは駅の方向を指す


「うん、いいよ。」

近くのカフェに入る

「レモンティーで。」

やっぱり、紅茶なんやね

くすくすと笑いながら、ウチも注文する

「ミルクコーヒーで。」


「ふふっ。」

ふいに、えりちが笑う

「どうしたん?」


「いいえ?ただ…」

「こんな事になるなんて、予想もしてなかったから。」

えりちはまた、目を細めてクスクスと笑う

313: 2015/02/27(金) 09:44:14.24 ID:ltVXZPNf.net
「確かに、珍しいメンバーやなあ…」

アイドルを目指すにこっちと

内気な自分を変えたかったウチ

そして、皆のお姉さんの、えりち


「普通は、関わる事の無い性格やね、みんな。」

「ええ。だからこそ…こうして出会えた事に感謝しているわ。」


「…ウチも。」

「ウチも、皆と出会えてよかったよ。」

「…幸せって、今は胸はって言える。」

「えりちたちが、いたから。」


「…ありがとう、希。」

「ウチも、ありがとう。えりち。」

314: 2015/02/27(金) 09:45:09.65 ID:ltVXZPNf.net
「「ふふっ。」」

二人で笑い合っていると、飲み物がきた

「…頂きましょうか。」

「うん!」

でも、少し熱いから…息を吹きかけて、冷ます

ふーっ…ふーっ…


そろそろいいかなあ…?

「ねえ、希。」

「ん?なあに、えりち。」

「希は…この学校、好き?」

唐突な、質問

「ん~、えりちが何を考えてるかは分からんけど…」

「ウチは、好き。」

「ここに来たから、にこっちと会えた。」

「ここに来たから、えりちと仲良くなれた。」

「そして…」


「ここに来たから、変われたん。」

315: 2015/02/27(金) 09:45:59.47 ID:ltVXZPNf.net
今まで、色々あった

それらを思い出して、目頭が熱くなる

「そう…」

えりちが続ける

「私も…同じ。」

「ここに来て、変われたの。」

「希たちが、いたから…」


穏やかな顔で、えりちはそう言った



「…ねえ、希。」

「なあに、えりち。」

「…」



「…生徒会に、興味はないかしら?」

319: 2015/02/28(土) 00:53:00.03 ID:UI0lIYot.net
「!…あつっ!!」

思わず、やけどしてしまった


えりち…今、なんて?


「大丈夫!?」

「あ、うん…」

「でも、なんで?」


「…やっぱり、変かしら?」

「ううん、そういうことやなくて…」

「なんで、生徒会なん?」

「それは…」



「私たちが、変われた場所だから。」

320: 2015/02/28(土) 00:53:55.13 ID:UI0lIYot.net
「それは…確かにそうやけど。」

「それと、生徒会がなんで…」


「私たちが、変われた場所だから…」

「だからこそ、この場所はずっとあってほしいの。」

「…ずっとって?」



「私たちが卒業したら、廃校になるかもしれないのよ。」




え…


廃校?




「ちょ、えりちそれって!!」

「…前に、先生に呼ばれたでしょ?覚えてる?」

321: 2015/02/28(土) 01:06:31.29 ID:UI0lIYot.net
呼ばれたって…

あ、初めてご飯食べた時


「あの時、その話を聞かされて。」

「でも…だからこそ、やってみないか、って。」

「生徒会?」

「会長を…ね。」

「生徒…会長…」


「…どうやら私は、先生からしたら品行方正な子に見えるらしくて。」

「そんな状況だから、誰もやる人がいないし。」

「もし、よかったら…なんて。」


「そう…なんや…」



頭の中が、ぐるぐる回る

廃校になるって…

それに、生徒会…

322: 2015/02/28(土) 01:10:47.58 ID:UI0lIYot.net
「まだ、決めてはいないけど…」

「もしやるなら、私は希とやりたいの。」

「ウチも…?」

「この場所で変われた私たちだからこそ。」

「やる意味が…あると思うの。」


何も、言葉が出てこない

だって、そんないきなりやし…


「…今すぐ、って訳じゃない。」

「選挙は、二年の秋にあるから。」

「でも…よかったら、考えてみてくれないかしら?」


「そして、出来れば…」

「廃校にならない学校作りを、したいと思ってるの。」


廃校に、ならない…?

323: 2015/02/28(土) 01:19:01.48 ID:UI0lIYot.net
「詳しく聞けば、廃校の理由は生徒数の減少らしいのよ。」

ああ、確かに

こんなに大きいのに、クラスは少ないし…

「だから、次の入学希望者さえ増やせば…」

「学校が、存続できる!?」

「かも…ね。」

「確証はないわ。」


…でも、えりちの言う事は一応筋が通ってる

ウチらが変われた場所

そのきっかけをくれたこの場所は

今のウチにとっては大好きな場所

あの屋上も

過ごした教室も

…無くなるなんて、嫌

324: 2015/02/28(土) 01:19:47.73 ID:UI0lIYot.net
「でも…」

一生徒のウチらに、そんなこと出来るんかな?

それに、えりちはそういうの向いてそうやけど

ウチは…



「…ごめん。」

「ウチには、そんなの向いてないよ。」

「何か手伝える事があるなら、協力するけど…」


「…そう。」

「うん、ごめんな?」

「いいのよ。」

「でも、もし希が来てくれるなら…歓迎するわ。」

「…うん、ありがと。」


えりちは少しだけ寂しそうな顔をした

けど、それ以上は言ってこなかった

325: 2015/02/28(土) 01:20:25.63 ID:UI0lIYot.net
「さ、そろそろ帰りましょうか。」

「付き合わせてしまってごめんなさい。」

「ううん。」

「それでも、私は…」

「?」

「ううん、何でも無い。」

「あ、それと。」

「この話はオフレコだからね?」

「まだ、生徒には伝えてないらしいから。」

「うん、分かった!」

「それじゃ、また明日ね。」

「うん、またね、えりち。」


カフェを出て、逆方向に歩く

やっぱり、寒くなったなあ…

326: 2015/02/28(土) 01:29:49.55 ID:UI0lIYot.net
-----

12月、大晦日

あれからえりちは、一度も生徒会の話をしてこなくなった

何度も断るのは悪いから

ウチとしてもありがたいんやけど…


お昼や放課後に、先生に呼ばれる事が増えたから

多分、準備はしてるんやと思う


ピンポーン

「…お、きたきた。」



「にっこにっこにー☆」

「こんばんは、にこっち。」

「流石に、夜は起きてるわね。」

「前に怒られたしなあ…」

327: 2015/02/28(土) 01:38:25.50 ID:UI0lIYot.net
「…でも、絵里も呼んでるんでしょ?」

「うん、もうすぐ来ると思うよ?」


「それにしても…年越しに誰かといるなんて、初めてかも。」

「毎年、外には出ないん?」

「妹達の世話があるからね。」

「それに…」

にこっちが、ちらっとウチを見た

「…誰かさんが、家に一人だと寂しいんじゃないかなって。」

そう言って、そっぽを向く

「素直じゃないなあ…」

くすくす

にこっちの気持ちは、ちゃんと分かってるよ♪

328: 2015/02/28(土) 01:38:58.77 ID:UI0lIYot.net
ピンポーン

「…来たわね。」

「それじゃ、いこっか♪」




「にっこにっ…」

「こんばんは、えりち。」

「ちょっと!喋らせ…」

「こんばんは、希、にこ。」

「だああ!もう!!」


「…ふふっ。冗談よ。」

「年内最後のにこにこにーよ?」

「目に焼き付けなさい!」

「いやー、もう見飽きたかなって。」


「正直すぎるわよ!!」

329: 2015/02/28(土) 01:47:39.48 ID:UI0lIYot.net
「…さ、混む前に着かんとな。」

「そうね。それに…」

「甘酒も楽しみだわ♪」

「そんな、期待するほどのものでも無いでしょうに…」

「日本の年越しと言えば、甘酒でしょ!?」

「除夜の鐘とかもあるで…えりち。」

「でもやっぱり、美味しい物がいいじゃない。」

「ホント、そんなに食べてどうして太らないのかしら?」


「そりゃあ…」

ふにっ

「こっちに行ってるからやん?」

そう言って、えりちのを手のひらに収めてみる

「むむっ…えりち、また大っきく…」


「のーぞーみー?」

「…」

「にこっち、後は任せたっ!」

「あっ、ちょっ、待ちなさい!!」

330: 2015/02/28(土) 01:52:37.39 ID:UI0lIYot.net
えりちに追いつかれんように

男坂を駆け上がる

「待ちなさい、希!」

あ、えりちが追いついて来た

運動してないのに、なんでそんなに早いん?


「ここまでおいで~♪」

また、駆け出す

実はウチも、そこそこ動けるんよ♪




登りきって、息を整える

少し遅れて、えりちがきた

「の…希…」

「はいはい、少し休み?」

えりちに、ペットボトルの水を差し出す

331: 2015/02/28(土) 02:03:03.43 ID:UI0lIYot.net
えりちがカチッとふたを開けると、にこっちが追いついた

「アンタ達…帰宅部のくせに、早すぎでしょ…」

にこっち、肩で息してる

「ほら、にこっちもお水。」

もう一つ、ペットボトルを差し出す

「て言うかアンタ、息切れもしてないじゃない…」

「ま、先に着いたからね♪」


「…ホント、うちに入ればいいのに。」

「運動神経は悪くなさそうなんだし、即戦力よ?」

にこっちが目で合図をする

「それを言うなら、えりちのが適任やん?」

「見た目よし、運動神経よし。」

「中身は、歌ってるだけじゃバレないし♪」


「希…よほどお仕置きしてほしいみたいね。」

332: 2015/02/28(土) 02:26:09.69 ID:UI0lIYot.net
「さ、お参りいこか~。」

ウチは向きを変えて、歩き出す

「もう…」

そう言いながらも、二人とも着いて来てくれる

「ウチらがもうちょっと大人やったら、年越しも迎えれるんやけど…」

「またそうなった時に、来たら良いじゃない。」

「そうね…」

「これから先、いくらだって機会はあるんだし♪」

何気ない二人の一言でも、嬉しく感じる



チャリーン

カランカラン

「…」

「…」

「…」


神さんに思いを告げて、目を開ける

333: 2015/02/28(土) 02:32:37.85 ID:UI0lIYot.net
「…終わった?」

「にこはばっちりニコ♪」

「うん、ウチも。」


「それじゃ、甘酒でも飲んで帰りましょ?」

「にこっちも、意外と楽しみにしてたん?」

「…なにかしら、気分を味わいたいじゃない。」

「ふふっ。それじゃ、行きましょうか。」

「…おみくじは、また明日やね♪」

「ええ、また明日。」

「そうね。」




『また明日』と言える喜び

この二人といれる、幸せ

ずっとずっと続いてほしい

そう思えるような一年になった


「にこっち。えりち。」

「ほんとに…ありがとう。」




そしてまた、ウチら三人にとって

新しい年が来る---

334: 2015/02/28(土) 02:34:09.07 ID:UI0lIYot.net
長い長い一年生編、おわりです
進行度は半分くらいかと

結構削った部分もあるので
時間が許すなら後々書こうかな

それでは、また明日

335: 2015/02/28(土) 02:41:30.68 ID:onosjS8F.net

336: 2015/02/28(土) 10:13:44.65 ID:w4oIA8IM.net

引用: 希「私がウチになれたのは。」