335: 2014/06/11(水) 18:29:57.19 ID:fmpXkJnCO


前回提督「甘えん坊」羽黒、熊野の場合

皆さんこんばんはー。

すっかり暑くなってしまって、今年の夏祭りが楽しみになる今日この頃。

ということでドン。

番外編


4 鈴谷と時雨と夕立と夏祭り(全部乗せ)



343: 2014/06/11(水) 21:17:30.27 ID:W9OGrAG/O


     赤青緑と夏祭りの場合 上



344: 2014/06/11(水) 21:18:11.98 ID:W9OGrAG/O


 ガヤガヤと賑わう人々が、視界一杯に広がる。

 鎮守府からさほど離れていない場所に昔からあり、普段はと言えば参拝客すらほとんど訪れないというこの神社が、今日だけは活気に満ち溢れている。

 本日は一年に一度の夏祭り。
 人伝に話は聞いていたが、想像以上の人だかりの凄さに少々面をくらった。


鈴谷「────提督ー! こっちこっちー!」


 声の方向に目を向けると、緑色を基調とした鮮やかな浴衣に身を包んだ鈴谷が、手を大きく振ってぴょんぴょんと飛び跳ねているのが見えた。
 声に振り向く周囲の人々の視線が恥ずかしい。
 人垣をかき分けて鈴谷のもとへと急ぐと、彼女はにっこりと笑った。


鈴谷「じゃーん♪ どお? どお?」


 肘を畳んで腕を少し上げ、くるりとその場で回転する鈴谷。
 その言葉の意味が分からないほど、俺は鈍い人間ではなかった。


提督「ああ、似合ってるぞ」

鈴谷「でしょでしょ! 綺麗っしょ?」

提督「綺麗というより可愛いな」

鈴谷「あぅ……!」


 鈴谷が顔を赤く染めて俯く。
 ブツブツと小声で何か喋っているようだったが、「不意打ち禁止ぃ…………えへへ♪」という言葉しか聞き取れなかった。……一体何のことだろうか?


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346: 2014/06/11(水) 21:19:05.14 ID:W9OGrAG/O


時雨「────はいはい、ごちそーさま」

夕立「提督さん、夕立もほめてほめてー♪」


 そんな鈴谷の背後から時雨と夕立が現れる。
 青を基調にした浴衣に身を包んだ時雨と、赤を基調にした浴衣に身を包んだ夕立。
 それぞれ花と金魚の模様だが、どちらも似合っていて可愛らしかった。

 そわそわして俺の言葉を待つ夕立の頭を優しく撫でる。


提督「……夕立は可愛いな」

夕立「えへへー♪ ぽいー♪」


 満面の笑みを見せる夕立。
 横目に時雨を見てみると、その表情は心なしか不満の様相を呈していた。
 ……まったく、可愛い奴らだ。

 もう一方の手で時雨の頭も撫でる。


提督「もちろん時雨もだ」

時雨「……そ、そうかい?」


 少し恥ずかしそうに頬を染めながら、はにかむ時雨。
 両手に花というのはこのことなのかもしれない、と何となくそう思った。


鈴谷「ふ、二人共ずるい!」


 押しのけるようにして鈴谷が割り込む。
 そして割り込んだ鈴谷が今度は押しのけられ、また割り込み返し、押しのけられ────という繰り返しが続く。

 周囲から向けられる微笑ましいものを見る温かい視線が、実に居心地悪かった。


347: 2014/06/11(水) 21:20:03.73 ID:W9OGrAG/O


 ────チョコバナナ。



提督「黄緑に水色にピンク……? こんな色もあるのか……」

鈴谷「味は変わらないけどねー」


 そう言って黄緑色のチョコバナナを頬張る鈴谷。水色は時雨、ピンクは夕立と実に個性に沿っている。
 もちろん俺はノーマルな黒を選んだ。


提督「久し振りに口にしたが、中々に美味いな」

時雨「屋台で買うと特別に美味しい気がするよ」

夕立「もう一本食べるっぽい!」

鈴谷「いいの夕立? わたあめとか林檎飴とか食べれなくなっても知らないからね?」

夕立「止めるっぽい! 提督さん、次いこ次!」

時雨「ちょっと待ってよ夕立。僕はまだ食べ終わってないからさ」

夕立「ぽいぃ……」

時雨「もう…………あむっ」

鈴谷「次は何にしよっかなぁー?」

提督「……おい鈴谷」

鈴谷「──────ふぇ?」

提督「ふむ、確かに味は変わらないな」


 次なるターゲットを定めるべく辺りを見回す鈴谷。
 その鈴谷の口の端がチョコで汚れているということに気付いた俺は、鈴谷をこちらに振り向かせてからそれを指で拭き取り、舐める。
 鈴谷の言うとおり、俺が食べていた黒のチョコバナナと同じ味だった。

 口をぽかんと開けていた鈴谷の顔が瞬間で赤に変わる。


鈴谷「──────な、なななななっ!?」

鈴谷「ちょ、えっ、……マジ? …………うぅっ」

鈴谷「もぉー…………」

夕立「…………むぅー」

夕立「時雨、ちょっとちょーだい♪」

時雨「………………あむっ」

夕立「あっ!」

時雨「…………ふぅ。提督、僕も食べ終わったよ」

提督「そうか。…………付いてるぞ」

時雨「えっ? どこにだい?」

提督「ああ待て。浴衣の袖に付いたら困る。俺が拭いてやるから動くな」

時雨「そ、それじゃ仕方ないねっ」

夕立「ぽいぃ……!」


 それからしばらくの間夕立が何故かうなり声を上げていたが、撫でてやると治まった。
 一体何だったのか。
 首を捻ったが理由は終ぞ分からないままだった。


431: 2014/06/18(水) 22:25:29.57 ID:GslggASkO


     赤青緑と夏祭りの場合 中



432: 2014/06/18(水) 22:26:59.01 ID:GslggASkO

──────くじ引き



提督「くじ引き、か……」

鈴谷「一等はえーと……ゲーム機だね」

夕立「夕立はいらないっぽい?」

時雨「僕もいらないなぁ……」


 見つけたのはくじ引きの屋台。
 箱の中にくじが入っていて、それを取り出して書かれている番号の賞品を受け取るタイプのものらしい。
 立ち止まっておいてなんだが、これっぽっちもやる気はしない。荷物がかさばると動きにくくなるからだ


鈴谷「ふーん……」


 陳列されている賞品をまじまじと見つめる鈴谷。
 一通り見定めを終えると、その口を開いた。


鈴谷「やってみる!」


 自信満々にお金を出し、箱の中へと手を突っ込む鈴谷。しばらくガサガサとくじを探る音が聞こえた後、鈴谷は勢いよく手を引き抜いた。

 そのまま期待に目をキラキラとさせながら、三角に折られているくじを開く。

 覗きこむ俺の視界に入った数字は『132』。
 賞品に目を向けてみると百番台はどう見ても値段に釣り合わないガラクタばかりだった。

 それでも鈴谷は笑う。


鈴谷「よしっ、熊野へのお土産ゲット♪」

夕立「それは流石にひどいっぽい!」

鈴谷「なーんて、じょーだんじょーだん♪」

鈴谷「単なる思い出作りだってば。あわよくば、って気持ちは確かにあったけどね♪」


 ケラケラと楽しそうに笑う鈴谷。
 最初から何が当たろうとも関係なかったらしい。
 満足したのか歩を進める鈴谷と、それに着いていく夕立。

 その背中を見ながら、俺は先ほどから静かにしている時雨へと声をかけた。


提督「どうした、時雨?」

時雨「────あっ、うん。何でもないよ」

時雨「ただちょっと、珍しいなぁって思ってたんだ」

提督「珍しい?」

時雨「うん。このくじ引き、ちゃんと一等が入ってるみたいだからさ」


 そう言って屋台の主人にお金を渡し、鈴谷と同じように箱の中へと手を入れる時雨。
 サッと引き抜きくじを開く。

 書かれている数字は『1』。

 俺はその結果に目を見開くが、屋台の主人は他の客の対応をしているため、まだ気付いていない。
 時雨はにっこりと笑うと、そのくじを箱へと素早く戻した。そしてくじは『77』と書かれたものへとすり替わる。


時雨「ほらね♪」


 幸運艦って凄い。
 俺は改めてそう思った。

433: 2014/06/18(水) 22:27:55.64 ID:GslggASkO



──────林檎飴・苺飴



時雨「いい飴だね」

提督「言いたかっただけだろう」

夕立「ぽひぃ……」

鈴谷「夕立、欲張っちゃダメじゃーん♪」


 チロチロと舌を出して林檎飴を舐める時雨と、二つの苺飴を同時に頬張る夕立。
 そして鈴谷はその手に持った林檎飴に手を着けず、夕立の膨らんだ頬を見て笑っていた。

 それを横目に俺はイカ焼きを食べる。
 飴? ここまでチョコバナナ・かき氷・クレープ・わたあめと続いていたのだ。そろそろ塩っ気を求めてもいいだろう。


夕立「提督さんは食べないっぽい?」

提督「ああ、これで十分だ」


 こてん、と首を傾げて言う夕立に、持っているイカ焼きをくるくると回して見せる。
 じー、っと回るイカ焼きを見ていた夕立が、不意に声をあげた。


夕立「一口ちょーだい♪」

提督「ん、いいぞ」

夕立「いただきまーす♪」


 言うや否や、差し出したイカ焼きにかぷりと食いつく夕立。

 ……おい待て、こいつ一口で半分持っていったぞ。


 顔をひくつかせる俺をよそに、夕立はイカ焼きを食べ終える。


夕立「……飴の後に食べるものじゃないっぽい」

提督「……だろうな」


 今頃夕立の口内は飴の甘さとイカのしょっぱさに蹂躙されているに違いない。
 夕立は唸りながら不満の声をあげていた。


夕立「提督さんも試してみるっぽい!」

提督「ちょっ──────もがっ」

鈴谷「────なっ!?」

時雨「へぇ……」


 避ける間もなく俺の口の中へと侵入を果たす夕立の苺飴。
 鈴谷と時雨が驚きの声をあげたのが聞こえた。



434: 2014/06/18(水) 22:31:04.97 ID:GslggASkO


 ……しょっぱさと甘さが悪い感じに混ざり合って非常に美味しくない。げんなりとした表情を表に出すと、夕立は楽しそうに笑った。

 その横で鈴谷が、慌てた様子を見せる。


鈴谷「か、かかかか、関節き────っ!?」

時雨「うーん……状況が状況だけに、結構ディープだよね……」

時雨「ねぇ提督? それさっき夕立が頬張ってたやつだよね? 何か思うところとかあるかな?」

提督「…………別に?」

鈴谷「き、キスだよっ!? 何言ってんの提督っ!? 関節とはいえキスなんだよっ!?」

鈴谷「……す、鈴谷的にはノーカンだけど!」

提督「……あのな、鈴谷。俺と夕立の年齢差を考えてみろ。これがマウストゥーマウスならまだしも、これぐらいなら犬に噛まれたものだろう?」

夕立「わんわんっ♪」

提督「ははっ、夕立は可愛いな」

夕立「ぽいー♪」

鈴谷「────ぐぬぬっ……!」


 髪をわしゃわしゃと掻きながら悔しがる鈴谷と、顎に手を当てて何かを思案する時雨。

 「────よし」と、何かを決心したのか、時雨が俺の方へと近付いてきた。

 そこに鈴谷が割り込む。


鈴谷「い、行かせないからっ」

時雨「……鈴谷も僕も同じ林檎飴。チャンスは一人だけだよ? 勝負するかい?」

鈴谷「えーと、えーと……!」

鈴谷「そう! ここはお互い退くってことで!」

時雨「却下」

鈴谷「ちょっと待って! 考えるから!」


 何やら俺の預かり知らないところで、口論が始まっていた。


提督「……ん?」


 そこで俺は気付く。
 鈴谷の持つ林檎飴が、祭りの熱気のせいなのか、溶け始めていた。

 串を伝って飴が垂れていく。
 このままではせっかくの浴衣が汚れてしまうだろう。


提督「鈴谷、飴を食べなくていいのか?」

鈴谷「──────ふぇっ!?」


 バッとこちらを振り向く鈴谷。
 その顔は林檎飴のように赤い。


鈴谷「えっ、あぅ……でも……!」

提督「……鈴谷?」

鈴谷「──────あうううううっ」



435: 2014/06/18(水) 22:33:24.23 ID:GslggASkO





鈴谷「わ、私のはダメなんだからー!」






436: 2014/06/18(水) 22:34:03.57 ID:GslggASkO


 そう言って人混みの中へと逃げ去っていく鈴谷。

 取り残された俺達は顔を見合わせる。


時雨「やれやれ……」

夕立「ぽいー……」

提督「……俺のせいか」


 呆れた視線を向ける二人。
 その視線を受けた俺は二人に一言告げて、鈴谷の後を追うのだった。



542: 2014/06/29(日) 11:59:56.30 ID:Ah99hFPoO





提督「────探したぞ、鈴谷」

鈴谷「提督……」


 聞き覚えのある声に顔をあげてみると、そこには見慣れた顔があった。

 夏祭りが行われている神社から少々外れた空き地。提督から逃げるように去った私はここに辿り着き、そこそこ大きな石に腰を降ろして落ち込んでいた。

 どうやって私を見つけたのか。
 そう尋ねようとした矢先、提督が口を開いた。


提督「鈴谷のことなら何でも分かるさ」

鈴谷「……まだ何にも言ってないんですけど」

提督「そうだな。でも分かる」


 ぽんぽん、と私の頭にその手を跳ねさせ、許可を取ることもなく私の隣に立つ提督。

 嘘つき。
 本当に分かるなら私はこんなにやきもきしない。

 見上げるとにっこりと微笑みを返され、顔が熱くなってしまったので慌てて背ける羽目になった。


提督「時雨も夕立も待ってる。戻らないか?」

鈴谷「……やだ」

提督「参ったなぁ……」


 困ったように頭を掻く提督。
 結果的にとはいえせっかく二人っきりになれたのだ。それを不意にする馬鹿はいない。


提督「……何だか楽しそうだな、鈴谷」

鈴谷「……そう?」


 ────提督がそばにいるからね。


鈴谷(うーん……無理かな)


 そんなことは口が裂けても言えないけど、心の中で唱えてみれば、それだけでまた顔が熱くなるのだった。



543: 2014/06/29(日) 12:00:51.93 ID:Ah99hFPoO










時雨「────探したよ、二人とも」

夕立「でも何だかお邪魔っぽい?」

提督「おお、連れ戻す手間が省けたな」

鈴谷「……もうちょっとサービスしてくれても良かったじゃん」

時雨「ちゃんと待ってあげたじゃないか」

夕立「鈴谷ばっかり美味しい思いはずるいっぽい!」


 結局、二人と合流することになった。
 実を言うと二人が近くにいるのは、乙女の勘とかそんな感じの何かのおかげで何となく分かっていた。
 言動から察するに、気を遣って待っててくれていたらしい。どうせならもう少し提督との時間を楽しませて欲しかったが、それは流石に贅沢というものだろう。

 手頃な石を持ってきて、四人並んで座る。
 提督の隣に私と時雨、端に座る夕立がこちらに抗議の目を向けていた。


提督「両手に花、か」

夕立「夕立も混ぜるっぽい!」

鈴谷(ひ、膝の上! その手があったか!)

時雨「あはは、両手じゃ足りないみたいだね」


 そうやってしょうもない話を楽しみながら、時間はどんどんと過ぎていく。


夕立「来年はもっとたくさんで来るっぽい!」

時雨「そうだね、そのためにも頑張らないと」

鈴谷「提督ー? 期待してるからよろしくね♪」

提督「ああ、来年も来れるよう努力するさ」

提督「──────おっ」

夕立「わぁっ……!」

時雨「へぇっ……!」

鈴谷「おおっ……!」


 夜空に咲く大輪の花。

 喧しくも賑やかで心躍る夏祭りの音色が、遠くからずっと響き続けていた。



544: 2014/06/29(日) 12:01:27.43 ID:Ah99hFPoO



















提督「夕立をおんぶすることになるのは分かっていたが……」

鈴谷「時雨も疲れて寝ちゃうとは思わなかったなー」

提督「大丈夫か、鈴谷?」

鈴谷「へーきへーき。時雨ってば軽すぎるくらい」

提督「……無理はするなよ」

鈴谷「りょーかい!」

鈴谷「……でもさ、こうやって並んで歩いてると誤解されたりしないかな?」

提督「俺とお前なら精々親子ってとこだろう」

鈴谷「私が長女、時雨が次女、夕立が三女?」

提督「……随分と手のかかる娘達だな」

鈴谷「あははっ、頑張れおとーさん♪」



545: 2014/06/29(日) 12:02:20.46 ID:Ah99hFPoO

投下終了。

これで心置きなく本編に戻れます。


それではまた。



546: 2014/06/29(日) 12:10:15.13 ID:FLi0zhND0
いいのうこの組み合わせ
犬コンビに鈴谷混ぜるのがこんなにいいものとは


引用: 提督「甘えん坊」