386: 2014/06/15(日) 19:58:27.12 ID:QCJUqrWiO
387: 2014/06/15(日) 19:59:00.87 ID:QCJUqrWiO
由良の場合
388: 2014/06/15(日) 19:59:57.99 ID:QCJUqrWiO
提督「────おめでとう、由良」
由良「────えっ?」
空が橙色に染まる夕暮れ時。
執務室に入ってきた由良の表情は何か問題を起こしてしまったのかと心配する戦々恐々としたものだったのだが、それが今はポカンと口を開けたまま固まるという何とも間抜けなものに変わっている。
反応から察するに、本当に気付いていないらしい。
提督「気付いていなかったのか? 今月の撃沈数のトップは由良だぞ?」
由良「…………わ、私っ?!」
由良「えっ、嘘っ! どうして……?」
提督「どうして、と言われてもな……。由良が頑張ったということだろう」
提督「強いて言うなら今月は潜水艦を相手取る戦闘が多かったということくらいだ」
提督「信じられないなら撃沈数に関する書類も見せるが……」
提督「………………由良?」
由良「………………提督さん」
由良「由良が、由良が一番なの……?」
由良「ほんとに……?」
提督「ああ、本当だ」
由良「そう、そうなのね…………」
由良「……………………」
由良「やったぁ……!」
ぎゅっと拳を握り、歓喜の声を漏らす由良。
その瞳は若干潤んでおり、そのあまりの喜びようにこちらまで嬉しくなる。俺は無意識に微笑んでいた。
基本的に戦艦や雷巡、空母組の奴らが毎月のトップに立つことばかりのため、由良のような軽巡洋艦がトップを取ることは極めて珍しい。
俺も他の鎮守府ではそういうこともあると聞いたことがあったが、この鎮守府でそうなるとは夢にも思わなかった。
由良「ふふっ♪ ふふふっ♪」
とにかく、大変喜ばしいことには違いない。
389: 2014/06/15(日) 20:01:01.38 ID:QCJUqrWiO
しばしの時間を置いて、落ち着きを取り戻してきた由良へと問いかける。
提督「さて、由良も知っているとは思うが……何か欲しいものはあるか?」
由良「そうね……」
頬に手を当てて考え始める由良。
うちの鎮守府では月間のトップを取った者は無理の無い範囲で『お願い』を聞いてもらえる権利を与えられる。
そして当然由良にもその権利が与えられるのだが…………、まさか自分がトップを取るとは考えていなかったのだろう。
腕を組んだり頭を捻ったりしながらうんうんと唸って、一向に口を開く気配がなかった。
提督「……別に今すぐ決めなければいけないわけではないぞ」
由良「うーん……確かにそうよね……」
由良「……今度にしても良い?」
提督「もちろんだ」
伺うようにこちらを見る由良にそう返し、近付いてその頭を撫でる。
由良は一瞬驚きに身をこわばらせたが、すぐに目を細めてにっこりと微笑んだ。
由良「……ねぇ、提督さん?」
提督「どうした?」
由良「私、これからも精一杯頑張るからね、ねっ」
提督「……ああ、よろしく頼むよ」
そうしてぎゅっと抱きついてくる由良。
やれやれ、と思いながら抱きしめ返してやると、由良は楽しそうに満面の笑みを見せるのだった。
390: 2014/06/15(日) 20:01:45.45 ID:QCJUqrWiO
由良(あ……提督さんにぎゅってされてる……)
由良(……あったかいなぁ)
由良(もうこれがお願いでもいいかも……)
由良(……なーんて、ね♪)
391: 2014/06/15(日) 20:03:23.30 ID:QCJUqrWiO
投下終了。
由良さんはうちの大切な対潜要員。
軽巡洋艦で一番レベルが高いのも彼女です。
それではまた。
409: 2014/06/16(月) 21:57:39.68 ID:ApY2nwZyO
羽黒の場合 2
410: 2014/06/16(月) 22:01:02.47 ID:ApY2nwZyO
提督「──────なぁ、羽黒」
羽黒「はい。司令官さん、どうかいたしましたか?」
提督「これを見ていて思ったのだが……その名前はどれがモチーフなんだ?」
そう言って、持っていた本のタイトルを羽黒に見えるように向ける。
本のタイトルを見た羽黒は、すぐに納得のいったような表情をした。
座布団に座っている俺の横へと移動し、ちょこんと正座をしてから柔らかく微笑む。
羽黒「同じ名前が四つありますが、私の名前の由来は山形県の羽黒山です。出羽三山とも呼ばれていてそれなりに有名なんですよ?」
提督「ふむ、この山か……」
指を差し、教えてくれる羽黒。
俺は持っている本────『日本の山全集』を捲り、羽黒のモチーフとなった山に関するページを探す。
……因みに何故このような本が執務室にあるのかというと、艦娘達と共通の話題を作れるからである。
山に限らず艦娘達には自然現象や河川の名称を名前として与えられている者が多い。艦娘としての名とはいえ、それは紛れもなく自分の名だ。呼ばれ続けていると愛着が沸いてくるらしい。
そのため自身の名前に興味を持ち、自ら調べているという者が多数居るのだ。
つまりコミュニケーションを取るにはうってつけなのである。学んでおかない手はない。
提督「なるほどなるほど……」
羽黒「神社だけでなく石碑もあるんですよ?」
どこか楽しそうに羽黒が口を開く。
羽黒も例に漏れず、自身の由来をしっかりと調べていたのだろう。
そしてその文章にあった石碑に関する記述、その中にとある人物の名前を見つけた俺は、古い記憶を思い出しながらその人物に関する有名な言葉を呟いていた。
提督「『春風や 闘志抱きて 丘に立つ』……」
羽黒「……高浜虚子さん、ですか?」
提督「ああ、よく知っているな」
提督「夢や目標ではなく『闘志』という言葉を用いているのが好きでな……。学生時代に授業で習ったものだが未だに覚えている」
提督「……旧を守る高浜虚子の『闘志』は、少なくとも他者と矛を交えるためのものではなく、何かを『守る』ためのものだったんじゃないかと、俺は考えているよ」
提督「……俺の『闘志』もそうありたいものだ」
羽黒「司令官さん……」
俺の手の上に重ねられる羽黒の手。
ちらりと羽黒の方を見ると、その目と俺の目が合った。
しっかりと俺の目を見据える羽黒。
逸らさせない、そんな想いの籠もった力強さが感じられた。
411: 2014/06/16(月) 22:05:55.56 ID:ApY2nwZyO
羽黒「……私も、守ります」
その一言で、十分だった。
抑えきれなくなった笑みがこぼれ落ちる。
提督「ふっふっふ……そうかそうか……」
提督「……ところで羽黒。羽黒は女性に守られる男性をどう思う? 頼りない奴だと思うか?」
羽黒「そ、そんなことありません!」
羽黒「私達が頑張れるのは司令官さんが居てくれるからです!」
羽黒「頼りないだなんて思ったことなんか一度も……!」
提督「……羽黒」
提督「俺のことだとは一言も言ってないんだが?」
羽黒「────えっ、あっ……そ、そのぉ……」
提督「ふっ、くくっ……!」
提督「羽黒は可愛い奴だなぁ……」
羽黒「うっ、あうぅ……!」
羽黒「し、司令官さんのいじわる……」
恥ずかしくなってきたのか、徐々にその頬を染め始める羽黒。
その反応を見て俺は更に笑みを深くし、羽黒もまた熟れたトマトのように真っ赤になる。
それでもなお、重ねた手をどけようとする気配は微塵も無かった。
412: 2014/06/16(月) 22:06:50.98 ID:ApY2nwZyO
投下終了。
羽黒は何だかいじめたくなる。
それではまた。
418: 2014/06/17(火) 21:57:31.95 ID:72tyWzMYO
瑞鶴の場合
419: 2014/06/17(火) 21:58:17.16 ID:72tyWzMYO
瑞鶴「────私の名前って何が由来とかそういうのが無いのよねー」
提督「……確かに『瑞鶴』という言葉は聞いたことがないな」
瑞鶴「でしょ?」
瑞鶴「調べてみたんだけど『瑞』の字は『めでたい』っていう意味で、『鶴』もこれまた『めでたい鳥』らしいのよ」
瑞鶴「つまり同じ意味を掛け合わせて作られた造語ってわけね。何かあるかと思ったけどそんなことなかったわ」
提督「ふむ……」
提督「それじゃあ『瑞亀』とか『瑞兎』とかになる可能性もあったわけだな」
瑞鶴「ズイキ? ズイト? あははっ、中々面白いこと言うじゃない!」
瑞鶴「ちなみに『めでたい動物』を『瑞獣』って呼ぶこともあるらしいわよ? 古代中国の話だけどね」
提督「古代中国というと……四神か」
瑞鶴「そうそう、それそれ」
提督「……『瑞龍』」
瑞龍「何だか私より強そうよね」
提督「……『瑞亀』」
瑞鶴「ふふっ、それはさっき言ったじゃない」
提督「……『瑞麟』」
瑞鶴「……『麟』ってメスのきりんって意味なんだけど、知ってた?」
提督「初めて聞いたな」
瑞鶴「ちなみに『麒』はオスのきりんって意味よ」
提督「へぇ……」
瑞鶴「……さて、それじゃもう分かってるけど、最後のやついっちゃおっか?」
提督「…………『瑞鳳』」
瑞鶴「それはもう居るわよっ!」
瑞鶴「────ふふふっ♪」
提督「…………………………」
提督「…………なぁ、瑞鶴」
瑞鶴「何?」
提督「そろそろ俺の膝からどいてくれないか?」
420: 2014/06/17(火) 21:58:53.27 ID:72tyWzMYO
瑞鶴「嫌よ。座り心地良いんだもん」
願いも虚しく一蹴される。
……あまりこういうことは言いたくないのだが、はっきり言って……重い。駆逐艦や軽巡洋艦、潜水艦の奴らならまだしも、空母組の奴らとかとなるとこれが割とシャレにならないのだ。
すでに瑞鶴が居座り続けること数十分。
俺の足はもう悲鳴を上げ始めているのだが、動かすと文句を言われるため、どうすることも出来なくなっていた。
瑞鶴「胡座って丁度良いわよねー♪ こう、ぽっかりと私が座るためのスペースが出来るし!」
提督「お前のためじゃないんだがな……」
瑞鶴「そういうことは言わないでよね。嘘でもそういうことにしといた方が私の気分が良いんだから」
ぽふっ、と俺の胸へと背中を預けてくる瑞鶴。
その長く艶やかな髪からふんわりと漂う甘い香りが鼻腔をくすぐり、俺は深々とため息を吐いた。
……いつまでも瑞鶴のペースに付き合っている訳にもいかないだろう。
意を決し、ちゃぶ台の上にある書類に手を付けるべく、体を前へと倒す。
「きゃっ!?」という可愛らしい声があがったが、無視することにした。
瑞鶴「……提督さんってば大胆」
提督「……座っててもいいから仕事の邪魔はするな」
瑞鶴「……はーい」
提督「……………………」
提督(……絶対邪魔するなこいつ)
提督「…………はぁ……」
瑞鶴「────うふふっ♪」
声音から何となく分かる瑞鶴の思惑。
それに気付き大きなため息を吐くと、瑞鶴は嬉しそうに笑い声をあげるのだった。
421: 2014/06/17(火) 21:59:43.39 ID:72tyWzMYO
瑞鶴「そういえばこれ、端から見たら提督さんに抱きしめられてるみたいよね?」
瑞鶴「…………ふふっ、手が止まったわよ?」
瑞鶴「提督さんも可愛いとこあるじゃない♪」
422: 2014/06/17(火) 22:00:27.38 ID:72tyWzMYO
投下終了。
一枚上手な女性って良いと思います。
それではまた。
423: 2014/06/17(火) 22:17:43.94 ID:MXp9KnrAO
乙
引用: 提督「甘えん坊」
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