126: 2008/12/17(水) 02:15:29 ID:+LoT8qmg
―――
「こうしてみてるとあなたたち、姉妹みたいよね」
宿舎でぼんやりと自分のベッドに座りながらこちらのほうを見ていたトモコの唐突なつぶやきに、エルマは
え?と声を上げた。そして思わず尋ね返す。
「誰と、誰がです?」
「そんなの決まってるじゃない、あなた──エルマと、そこのウルスラよ」
さしてたいしたことでもない、と言った様相でトモコは答えた。いつも周りを付いて回っているハルカとジュゼッ
ピーナは珍しくそこにおらず、扶桑からわざわざ取り寄せたのだという扶桑茶を自前の湯のみですすって
いる。もう寝る前だからどこかに括りつけてきたのだろうか、肩の荷がなくてせいせいするわ、と言った口ぶり
の割にはどこか寂しそうなのだからエルマには少しおかしい。──自分の所属する部隊の隊長が、自分の
最も恐れる『女の子ずきーの変態』であろうとも、そしてその部隊の半数近くが『ガチ』にそうであろうとも、
仲良いことは美しい。みんな仲良し、がキャッチフレーズである彼女にとってそれはある意味幸福でも
あった。なにしろ、初期のこの『いらん子中隊』といえば各国のはみ出し者─もちろんエルマ自身もそう
なのであると自覚している─の寄せ集めで、団結する気配など欠片もなかったのだから。
ところで、『そこの』と指されたウルスラはというと、エルマの下で黙々と、今日とて本を呼んでいる。エルマに
は全く理解出来ないカールスラント語の連なりには所々赤く線が弾いてあり、付箋がびっしりと挟まって
いた。図表を見やるに何かの実験書であるらしいがそんな知識などからきしのエルマには何が描いてある
のだかさっぱり分からない。
そんなウルスラの読書を邪魔しないように、エルマは彼女の濡れた頭をタオルで拭いてやっていた。当初は
子供じゃないんだから自分でやると言って(正確には「いい」の一言であったけれども)聞かなかったウル
スラだったが、それんなことを気にするはずのないキャサリンが「そんなこといわずに、やってあげるねー」
とぐしゃぐしゃにかき回して、それを嫌がったウルスラが「エルマのほうがいい」と進言し、いつのまにかエルマ
がその役目を担うようになっていた。ちなみにそのキャサリンはというと、本を読むウルスラの隣で羨ましそう
にエルマを見上げている。
「同じ金髪だし、歳もいくつか離れてるし…こうみてると本当の姉妹みたいよね」
「それはミーもよく思うね」
「…金髪って、ウルスラさんのほうが私のより濃いですよ?」
「そんなの私から見たらどっちも同じよ、同じ。ビューリングとジュゼッピーナもおんなじグレーに見えるわ」
「…それは大きな違いだと思うねー」
今この場にはいない二人を引き合いに出しながら、トモコは言う。けれど実物を見なくても、彼女ら二人の
髪の色が全く違うことくらい一目瞭然であって。
恐らくスオムスやリベリオンと比べて髪の色や肌の色が多岐にわたっていないのが原因なのだろう。エルマ
とキャサリンは肩をすくめて笑いあう。
「それなら、私とハルカだって同じ黒でも違う色をしてるんだからね。…わからないでしょ?」
「はあ、たしかに…」
「だから、同じよ、同じ!細かいところは四捨五入しなさい。エルマはいちいち気にしすぎなところがあるから」
「そうねー、ミーを見習うねー!」
「キャサリン、あんたはそもそも切り捨てする桁がおかしすぎるのよ」
「トモコー、細かいこと気にするのはよくないねー」
127: 2008/12/17(水) 02:15:59 ID:+LoT8qmg
気にしない気にしない、と繰り返すキャサリンに、気にするわよ!と反するトモコ。一見言い争いのように
思えるこんな掛け合いにも、エルマはもうびくついたりしない。楽観的なキャサリンと責任感の強いトモコと
の会話は、関係は、こうして成立するのが一番いいのだ、と知っているからだった。
ふふふ、と満足げな笑みを浮かべて、エルマは再びウルスラの髪の毛を拭いてやる作業に戻ることにする。
タオルの端から覗く、もう乾いた金色の毛先がストーブの熱風に揺れている。その風にページがめくれるの
を少しうっとおしそうにしながらも、ウルスラは微動だにせずにそこにいた。
(姉妹みたいよね)
先ほどの、トモコの何気ない発言を心の中で繰り返す。胸の中で反芻する。視界の端に映る、自分の色素
の薄い金。それと、似ているけれども違うものを、すぐ下にいる年下の少女も持っている。
髪の毛の色が似通っているからといって『姉妹』だなんて言うのは多少強引かもしれないけれど、エルマは
自分の胸の中に何だか温かなものが流れ込んできているのを感じていた。姉妹、と言うことはたぶん、自分
が姉で、ウルスラが妹だということだ。姉、というのは頼られる立場だ。妹を守るのが役目だ。──かつて、
自分の所属していた中隊の隊長が語っていた言葉を思い出す。彼女はやっていることはいわゆる『変態』で
はあるが、もともと心根はとてもとても優しくて、立派な人だということを、エルマはちゃんと知っていた。
…『いもうとになりなさい』といわれてされた行為が恐ろしくて、それから彼女にまともに近づくことさえ出来なく
なってしまったけれど。
ウルスラは自分とロッテを組むことがよくある。としたら、彼女を守ってやらなければいけないのは自分だ。
自分の後ろをついて飛ぶウルスラを、自分が守るのだ。
そこに、エルマは自分の存在意義を見た。役立たずだ、落ちこぼれだと言われ続けてきた自分。何をやって
も臆病さが先に立って上手くこなせなかった自分。そんな自分にも、しなければいけないことがある。トモコの
言葉は全くの無意味で、含むところなど何もなかったのかもしれない。けれどエルマは嬉しかった。『ウルスラ
を守る』という、役目を与えられた気がしたから。
「…エルマ、中尉」
「は、はいっ」
唐突に離しかけられて飛び上がる。傍らではまだキャサリンとトモコが言い合いをしていて、いつの間にか
部屋に戻ってきていたビューリングが微かにうんざりした顔を見せている。にこ、と笑いかけたら微かに
笑みを返してくれた気がしたので、エルマはそれで満足した。
「なんでしょうか、ウルスラさん」
「…もういい」
「へ?」
「乾いた」
「え、あ、ああ…そうですね…」
タオルを持ち上げて頭に触れると、湿り気を帯びたタオルの代わりにウルスラの髪はすっかり乾いていた。
これ以上かき回しても髪が痛むだけだ。少し寂しい思いになりながら、エルマは「おしまいです」といつもの
ように囁く。ウルスラもいつものように微かに頷いて、そして本に目を戻す──はずだった。
思えるこんな掛け合いにも、エルマはもうびくついたりしない。楽観的なキャサリンと責任感の強いトモコと
の会話は、関係は、こうして成立するのが一番いいのだ、と知っているからだった。
ふふふ、と満足げな笑みを浮かべて、エルマは再びウルスラの髪の毛を拭いてやる作業に戻ることにする。
タオルの端から覗く、もう乾いた金色の毛先がストーブの熱風に揺れている。その風にページがめくれるの
を少しうっとおしそうにしながらも、ウルスラは微動だにせずにそこにいた。
(姉妹みたいよね)
先ほどの、トモコの何気ない発言を心の中で繰り返す。胸の中で反芻する。視界の端に映る、自分の色素
の薄い金。それと、似ているけれども違うものを、すぐ下にいる年下の少女も持っている。
髪の毛の色が似通っているからといって『姉妹』だなんて言うのは多少強引かもしれないけれど、エルマは
自分の胸の中に何だか温かなものが流れ込んできているのを感じていた。姉妹、と言うことはたぶん、自分
が姉で、ウルスラが妹だということだ。姉、というのは頼られる立場だ。妹を守るのが役目だ。──かつて、
自分の所属していた中隊の隊長が語っていた言葉を思い出す。彼女はやっていることはいわゆる『変態』で
はあるが、もともと心根はとてもとても優しくて、立派な人だということを、エルマはちゃんと知っていた。
…『いもうとになりなさい』といわれてされた行為が恐ろしくて、それから彼女にまともに近づくことさえ出来なく
なってしまったけれど。
ウルスラは自分とロッテを組むことがよくある。としたら、彼女を守ってやらなければいけないのは自分だ。
自分の後ろをついて飛ぶウルスラを、自分が守るのだ。
そこに、エルマは自分の存在意義を見た。役立たずだ、落ちこぼれだと言われ続けてきた自分。何をやって
も臆病さが先に立って上手くこなせなかった自分。そんな自分にも、しなければいけないことがある。トモコの
言葉は全くの無意味で、含むところなど何もなかったのかもしれない。けれどエルマは嬉しかった。『ウルスラ
を守る』という、役目を与えられた気がしたから。
「…エルマ、中尉」
「は、はいっ」
唐突に離しかけられて飛び上がる。傍らではまだキャサリンとトモコが言い合いをしていて、いつの間にか
部屋に戻ってきていたビューリングが微かにうんざりした顔を見せている。にこ、と笑いかけたら微かに
笑みを返してくれた気がしたので、エルマはそれで満足した。
「なんでしょうか、ウルスラさん」
「…もういい」
「へ?」
「乾いた」
「え、あ、ああ…そうですね…」
タオルを持ち上げて頭に触れると、湿り気を帯びたタオルの代わりにウルスラの髪はすっかり乾いていた。
これ以上かき回しても髪が痛むだけだ。少し寂しい思いになりながら、エルマは「おしまいです」といつもの
ように囁く。ウルスラもいつものように微かに頷いて、そして本に目を戻す──はずだった。
128: 2008/12/17(水) 02:16:30 ID:+LoT8qmg
違ったのは、直後にぱたん、と何かを閉じる音がしたところからだった。どうしたことか、と確かめるまでも
ない。ウルスラが分厚い実験書を、まだ途中だというのに閉じた音だ。そして本を傍らにおいて、ベッドの
端に座り込んだウルスラの、そのすぐ後ろで膝立ちになっているエルマに突然向き直る。自分とは少し違う
金色が、自分とは全く違う青色が、エルマのすぐ下にあってエルマはつい飛びのきそうになったけれど、
すぐに、頭に両手を伸ばされて押しとどめられてしまった。
「え、え、え?」
「…まだ、髪、濡れてるから」
気が付けばエルマの手の中にあったはずのタオルはその頭の上にあり、ウルスラが下から背の高いエルマ
に抱きつくようにして手を伸ばして、懸命に動かしているのだった。
「あの、」
「座って。届かない。」
「は、はい…」
ぺたり、とベッドの上に座り込むと、今度はウルスラが膝立ちになってエルマの頭を拭き始めた。なぜか
とても慣れた手つきで、優しくエルマの淡い金色の水分を拭い去っていく。
あー!と、声を上げたのはキャサリンだった。ずるい、ずるいと叫んで、「うるさい」とウルスラにたしなめ
られてしゅんとしている。「わ、わ、きゃああああ」と言う悲鳴が響いたと思ったら、トモコのベッドで3つの山が
もぞもぞと動いていた。ビューリングは付き合っていられないとばかりにもうベッドの中。寒いのだろうか、
丸まっているのはきっと使い魔を抱え込んでいるのだろう。彼女はあれで存外に可愛らしいところがある。
うん、今日もみんな仲良し。
どこか場違いな感想を素直に抱いてエルマは思わず笑みをこぼした。いつもと違うのは、自分の頭を懸命に
拭くウルスラが目の前にいること。慣れないはずのその動作がどうしてか妙に懐かしい。そう言えば昔、
自分もアホネンにこんなことをしてもらったことがあった。あの頃まだ第一中隊はあんな雰囲気ではなかった
けれど。
「もー!こうなったら実力行使ね!」
キャサリンが叫んだと思ったら、次の瞬間エルマはウルスラごとベッドに押し倒されていた。狭いベッドの
中に三人、ウルスラを挟んで収まる。温かいねー、などとのんきなことを言っているキャサリンに「びっくり
したじゃないですか」と文句を言おうと思ったけれど、ばさりと毛布を掛けられてそのまま寝るていになって
しまったのでタイミングを逸してしまった。けらけらと明るい彼女の笑い声を聞いているとすべてどうでも
良くなってきてしまうのだから不思議だ。だって同じ金色なのだ。色合いの微妙な違いなんて、そんなの
瑣末な問題だ。だから自分は、もっともっとウルスラを可愛がってみてもいいのだ。
作業を中断させられて不満だったのか、微かに口を尖らせているウルスラの頭を撫でたら、キャサリンも
負けじとその頭を撫でる。
何だかおかしくてふふふと笑いながら、自分の体よりもずっと温かいような気がする同じ毛の色をした
「いもうと」に身を寄せて、エルマは眠ることにした。
―――
以上です。おかしいな、キャサリンとウルスラの話の書き直しをしていたんだけれど
仲良しわいわいないらん子話が書きたかった、エルマさんとウルスラを書きたかった それだけ
ない。ウルスラが分厚い実験書を、まだ途中だというのに閉じた音だ。そして本を傍らにおいて、ベッドの
端に座り込んだウルスラの、そのすぐ後ろで膝立ちになっているエルマに突然向き直る。自分とは少し違う
金色が、自分とは全く違う青色が、エルマのすぐ下にあってエルマはつい飛びのきそうになったけれど、
すぐに、頭に両手を伸ばされて押しとどめられてしまった。
「え、え、え?」
「…まだ、髪、濡れてるから」
気が付けばエルマの手の中にあったはずのタオルはその頭の上にあり、ウルスラが下から背の高いエルマ
に抱きつくようにして手を伸ばして、懸命に動かしているのだった。
「あの、」
「座って。届かない。」
「は、はい…」
ぺたり、とベッドの上に座り込むと、今度はウルスラが膝立ちになってエルマの頭を拭き始めた。なぜか
とても慣れた手つきで、優しくエルマの淡い金色の水分を拭い去っていく。
あー!と、声を上げたのはキャサリンだった。ずるい、ずるいと叫んで、「うるさい」とウルスラにたしなめ
られてしゅんとしている。「わ、わ、きゃああああ」と言う悲鳴が響いたと思ったら、トモコのベッドで3つの山が
もぞもぞと動いていた。ビューリングは付き合っていられないとばかりにもうベッドの中。寒いのだろうか、
丸まっているのはきっと使い魔を抱え込んでいるのだろう。彼女はあれで存外に可愛らしいところがある。
うん、今日もみんな仲良し。
どこか場違いな感想を素直に抱いてエルマは思わず笑みをこぼした。いつもと違うのは、自分の頭を懸命に
拭くウルスラが目の前にいること。慣れないはずのその動作がどうしてか妙に懐かしい。そう言えば昔、
自分もアホネンにこんなことをしてもらったことがあった。あの頃まだ第一中隊はあんな雰囲気ではなかった
けれど。
「もー!こうなったら実力行使ね!」
キャサリンが叫んだと思ったら、次の瞬間エルマはウルスラごとベッドに押し倒されていた。狭いベッドの
中に三人、ウルスラを挟んで収まる。温かいねー、などとのんきなことを言っているキャサリンに「びっくり
したじゃないですか」と文句を言おうと思ったけれど、ばさりと毛布を掛けられてそのまま寝るていになって
しまったのでタイミングを逸してしまった。けらけらと明るい彼女の笑い声を聞いているとすべてどうでも
良くなってきてしまうのだから不思議だ。だって同じ金色なのだ。色合いの微妙な違いなんて、そんなの
瑣末な問題だ。だから自分は、もっともっとウルスラを可愛がってみてもいいのだ。
作業を中断させられて不満だったのか、微かに口を尖らせているウルスラの頭を撫でたら、キャサリンも
負けじとその頭を撫でる。
何だかおかしくてふふふと笑いながら、自分の体よりもずっと温かいような気がする同じ毛の色をした
「いもうと」に身を寄せて、エルマは眠ることにした。
―――
以上です。おかしいな、キャサリンとウルスラの話の書き直しをしていたんだけれど
仲良しわいわいないらん子話が書きたかった、エルマさんとウルスラを書きたかった それだけ
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