253: 2008/12/19(金) 16:00:38 ID:PN4Bbr30
姉のようだ。
彼女の朗らかな、暖かな太陽のような、そんな笑顔を見るたびに私はいつもそう思う。けれどそう、思っている
ことをきっと彼女は知らない。
「ウルスラ、どうしたね?」
どうやらいつのまにか、目で追っていたらしかった。
妙なイントネーションのブリタニア語とともに、彼女が私を覗き込んできたのだ。そしてニカッと笑う。驚きに私が
目を見開くと、彼女はその朗らかな笑みそのままに私の頭をわしゃわしゃと撫でるのだった。髪が乱れる、
といつも主張するのに彼女が聞いてくれたためしはない。どうやら私の頭は彼女にとって非常に『丁度いい』
位置にあるらしく、ふと思いつくと彼女は私の頭をそうやって撫でるのが常だった。
けれど私は知っている。
最初はぐちゃぐちゃにかき回すような乱暴なものだったそれが、いつの間にか手ぐしで梳くような優しいものに
変わっていることを。明るいのみだった笑顔がだんだんと柔らかな温かさを帯びて、慈しむような温もりを
持ったものに変わっていることを。それだから私は何も言わない。何も言わずにされるがままにすることに
している。だってそこで「いやだ」といったなら、彼女はとてもとても悲しそうな顔をするのだ。太陽のような笑
みを曇らせて、寂しそうに曇った笑顔を浮かべるから。
なんでもない、と私は首を振る。それでも彼女は私をまっすぐに見つめてくる。どうしたの?何かしてほしい
ことでもあるの?なんでもいいから、いってごらん?そう伝えようとするように。
姉のようだ、と、思うのは。
決して彼女と、自分の姉とを重ねているからではなかった。
だってずぼらでやる気無しで、私がついていないと何もしてくれなくて、そのくせ一度やる気を起こしたら何でも
さらりとこなしてしまう器用なあの姉と、やる気ばかりが先立って、なりふり構わずまさにバッファローのように
突っ込んでは結局失敗して色んなものを壊して回るこの人とでは似ていようはずがない。
私の姉と、姉というひと。私の中でそれとこれとは、同じ名前を持つくせに全く別の意味を持っていた。
ウーシュ、ウーシュ。私の愛称を何度も何度も繰り返して、なぜか楽しそうによく姉も私の頭を撫でたけれど
そのときに去来していた気持ちは今目の前の人に同じことをされて感じたそれとは全く違う。おんなじ顔、
おんなじ瞳、おんなじ体、おんなじ手足。そっくりな双子の姉にそれをされるのは何だか鏡に映した自分に
それをしているようで少し滑稽で、複雑な気分だったことをきっと姉は知らない。ウーシュ。あちらが私を
そう呼ぶことで、あちらと自分は別の存在などだとかろうじて実感できていた。
でも、今は違う。だって目の前の人と来たら私とすべてが違うのだ。金色の髪と青い瞳は同じだけれど、
少しくすんだ私のものと違って彼女のブロンドはまるで陽の光の化身であるように明るく、眩しいくらいだ。
目の色もたぶん、あちらのほうがいつもキラキラと輝いているのだろう。
そもそも彼女の体つきは、まだ私が成長途上であるということを差し引いても恐ろしく豊満で、どこもかしこも
はちきれんばかりに豊かで。隣に並ぶともしかしたら親子ほど差があるのではないかとさえ思う。特にそれに
憧れる気持ちはないけれども、ただひたすらに、眩しく思えるのだった。
254: 2008/12/19(金) 16:03:06 ID:PN4Bbr30
そう、私が彼女に思う『姉』というのは、『私の姉』といったような個人的なものではなくて、もっと形骸的な
ものだった。つまり世間一般でよく言うところの、姉のイメージ──私の中でそれが、この人のような存在で。
要は、どこまでもひたすらに明るくて、小さいことなど気にしなくて、何より背が高くて大きくて、包み込むような
柔らかさと温かさを持った、けれど母とは別の人。
私は彼女にそんな『姉』像をみる。
じい、と彼女の瞳を見つめた。何を伝えたいのかなんて自分でも分からない。けれど胸の中に生まれている
このなんと言い表せばいいのか分からない感情の揺らぎが、どうか伝わればいいのにと心のどこかで願い
ながら。
彼女もまた、何も言わない。ニコニコと笑ったまましゃがみこんで、私に視線を合わせてくれている。自分
よりもずっと背の低い私を慈しむように微かに目を細めて、そして私の髪をゆっくりと撫で続けている。私の
寡黙さを知ってなお、彼女は私の言葉をこうしてじっと待つことがたまにあった。普段はというと一人で好き勝手
にまくし立てて、私も巻き込んで、そうして満足げに笑うばかりだというのに。
柔らかな笑顔を浮かべながらも、これは神聖な儀式なのだといわんばかりに真剣な瞳を持って私を見つめる。
ああ、何かを言わなければ。思うのに何も言葉に出来ない自分が恨めしい。困ったことに私の頭は、こういった
ことに関する語彙は非常なほどお粗末だ。
「──キャサリン。」
ようやく口にしたのは、ぽつり、と木の葉から零れ落ちた雫のような声での彼女の名前。もしかしたらかすれて
聞こえなかったかもしれない。そもそも質問の答えにさえなっていない。それでも私はそれ以上、何も言う
ことができない。
それなのになんでだろう、キャサリンの顔は、どうしてかぱぁっと瞬時に輝くのだった。先ほどまで浮かべて
いた笑みとは明らかに違う、きらきらとした笑顔になる。そしてなぜかちょっとはにかんで、照れ隠しだと言わん
ばかりに私の頭の横辺りを緩やかに撫でていたその大きな手をてっぺんにやって、またわしゃわしゃと大きく
動かしてくる。
ねえ、どうして?どうしたの?首を傾げるばかりの私の心に、キャサリンはやっぱり、どこまでもまっすぐ、
なりふりも構わず、猪突猛進で単機突撃をかましてくるのだった。ねえ、いつもそう言う風にしていたら危ない
よって、トモコ隊長も、エルマ中尉も、みんなみんな、いっているのに。
「やっとしゃべってくれた。
──ウルスラの声、綺麗で好きね。だからもっともっと聞きたいって、いつも思うね」
へへへ、と鼻の下をかいて頬を少し赤く染めて。照れくさそうにそんなことを言う。頭は冷静にそうやって状況
を報告してくるけれど、実際のところ私はそれどころではない。脈拍数、体温ともに上昇、異常な発汗を確認。
被害は甚大です、との脳からの報告。
それだのにほら、この人と来たら僚機がそんな状態だって言うのに全く意に介すことなく、いつものように
朗らかに笑うのだ。
コアを打ち抜かれたネウロイはこんな気分なのだろうか。混乱に霧散していく意識の片隅で、がらにも無く
そんな感傷的なことを思う。次の実験の火薬量はどのくらいにしようかとか、考えている場合ではない。腕の
中にあった実験書がずるりとおちて、どさりと床に落ちた。大事な大事な実験書なのに。拾わなくちゃ。けれど
それどころじゃない。きらきらした青い瞳に見つめられて、身動きをとることが出来ないのだ。
255: 2008/12/19(金) 16:04:00 ID:PN4Bbr30
姉みたい、とか、そんなものじゃない。
私にとってこのひとは、もっともっと別の意味を持った存在だ。だって、姉である以前にこの人は私の仲間で、
僚機で、赤の他人で。血だって繋がっていなくて。
けれどそれをなんと呼べばいいのか、私にはまだ皆目見当も付かないのだった。それを言い表す適当な単語
が、私の頭の中に無いのだ。
ぼんやりとした頭で、仕返しとばかりにキャサリンの頭に手を伸ばしたら、手の中できらきらと金色が踊った。
存外にもふわふわと柔らかく、なんともいい心地だ。
「どうしたね、ウルスラ?」
くすぐったいね、と笑いながら、先ほどと同じことを尋ねてくるキャサリン。先ほど私の声が好きだといった、
それを全く同じ調子で、同じ声音で。
今度こそ何か意味のある言葉を返そう。そしてたまには『会話』というものをしてみよう。だってこの人はそう
したら、きっときっとすごく喜んで、あの太陽のような笑顔で私を照らしてくれるのだ。
懸命に頭の中から候補を引っ張り出す。なかなかみつからない。どうしよう。
見つかるかな。もしかしたら見つからないかもしれない。
でもそれならキャサリンに相談すればいい。だって、そうしたらきっとこの人が、「ミーに任せるね!」なんて
無邪気に笑っていくらでも模範解答をくれるはず。
そう、これからずっと、いつまでもきっと。
303: 2008/12/20(土) 02:27:30 ID:hjGy3ira
ウルスラ・ハルトマン曹長(当時)
カールスラント空軍第3防衛飛行中隊所属
「第507統合戦闘航空団」の前身であった「スオムス義勇独立飛行中隊」
通称「いらん子中隊」創設期メンバーの一人である。
カールスラントのエース エーリカ・ハルトマンの双子の妹であり、本人もほぼ独学で
空対空ロケットを製作した「天才」である。
彼女が製作した空対空ロケットはその後の空戦に多大な影響を及ぼし、後に「フーリガーハマー」
が開発されることになる。
しかし、当時はさほど重要視されず周囲に一切意に返さない態度により、スオムスに転属となる。
近年、発見された彼女の手記は今まで彼女が記したものとは一線を画すものである。
人間味あるその内容は戦史研究のなかでも一際注目されている
(一部抜粋・要約)
○月×日
スオムスは寒い。でも、ここなら姉のことは言われないだろう。
それにしてもリベリアンはうるさい。
○月×日
扶桑人は非合理的。よくネウロイに勝てたもんだ。
これなら教練読んでほうがマシ。
○月×日
ネウロイの侵攻がはじまった。
酒場にいたから何もできなかった。
○月×日
オヘア少尉がしつこくカードにさそってくる。
「うるさい」と言ったら悲しい顔をした。
○月×日
オヘア少尉はいつも笑顔だ。
私の研究を説明すると「すごいネェ」という。
とてもいい人だ。大してわかっていないのに。
○月×日
今までの研究の成果を形にすることができた。
キャサリンに手伝ってもらってとりあえず2発。
○月×日
私のロケットでネウロイをやっつけた。
キャサリンのおかげ・・・ありがとう。
○月×日
上官に姉のことで比較された。
ここだったらと思っていた私が馬鹿だった・・・
○月×日
キャサリンに姉のことを聞かれた。「ウルスラはウルスラネ」と言った。
なんとなくうれしかった。
手記の中の「オヘア少尉」「キャサリン」は、同じく創設期メンバーの一人である
キャサリン・オヘア少尉(当時)であると思われる。
カールスラント空軍第3防衛飛行中隊所属
「第507統合戦闘航空団」の前身であった「スオムス義勇独立飛行中隊」
通称「いらん子中隊」創設期メンバーの一人である。
カールスラントのエース エーリカ・ハルトマンの双子の妹であり、本人もほぼ独学で
空対空ロケットを製作した「天才」である。
彼女が製作した空対空ロケットはその後の空戦に多大な影響を及ぼし、後に「フーリガーハマー」
が開発されることになる。
しかし、当時はさほど重要視されず周囲に一切意に返さない態度により、スオムスに転属となる。
近年、発見された彼女の手記は今まで彼女が記したものとは一線を画すものである。
人間味あるその内容は戦史研究のなかでも一際注目されている
(一部抜粋・要約)
○月×日
スオムスは寒い。でも、ここなら姉のことは言われないだろう。
それにしてもリベリアンはうるさい。
○月×日
扶桑人は非合理的。よくネウロイに勝てたもんだ。
これなら教練読んでほうがマシ。
○月×日
ネウロイの侵攻がはじまった。
酒場にいたから何もできなかった。
○月×日
オヘア少尉がしつこくカードにさそってくる。
「うるさい」と言ったら悲しい顔をした。
○月×日
オヘア少尉はいつも笑顔だ。
私の研究を説明すると「すごいネェ」という。
とてもいい人だ。大してわかっていないのに。
○月×日
今までの研究の成果を形にすることができた。
キャサリンに手伝ってもらってとりあえず2発。
○月×日
私のロケットでネウロイをやっつけた。
キャサリンのおかげ・・・ありがとう。
○月×日
上官に姉のことで比較された。
ここだったらと思っていた私が馬鹿だった・・・
○月×日
キャサリンに姉のことを聞かれた。「ウルスラはウルスラネ」と言った。
なんとなくうれしかった。
手記の中の「オヘア少尉」「キャサリン」は、同じく創設期メンバーの一人である
キャサリン・オヘア少尉(当時)であると思われる。
256: 2008/12/19(金) 16:20:44 ID:Sf0uJ82E
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キャサリン・オヘア少尉(当時)
リベリオン海軍航空母艦レキシントン所属第3戦闘中隊所属
「第507統合戦闘航空団」の前身であった「スオムス義勇独立飛行中隊」
通称「いらん子中隊」創設期メンバーの一人である。
リベリオン製ストライカーの特性を生かし、主に防御を受け持つことが多かった。
発見された彼女の手記は主に壊したストライカーユニットのことが書かれていたが、
ある日を境に、その記述が大きく変わっていた。
スオムス転属の日からの手記は・・・
○月×日
スオムスは寒いネ。新しい隊長はとてもキュート。
それよりも、もっとキュートなリトルガールがいたネ。
名前はウルスラ。こんな小さい娘が・・・戦争はいやネ。
○月×日
扶桑人、厳しいネ。ついていけない。
隊長もオロオロしてるネ。
○月×日
ネウロイが攻めて来た。
そのとき、ブリタニアの少尉さんと飲んでたね。ウルスラもいたネ。
○月×日
ウルスラは相変わらず本ばっか読んでるね。
カードに誘ったら「うるさい」といわれたネ。
○月×日
ウルスラの本を読んでみたネ。読めなかったネ。
○月×日
ウルスラが「手伝って」と誘われたネ。
○月×日
ウルスラのロケットでネウロイの爆撃機を落としたネ
私は見てたネ・・・成功したときのウルスラの顔を・・・
笑顔だったネ・・・とてもキュートだったネ。
○月×日
わたし、あの笑顔を守るネ。
だからもう壊さない。
これらの手記はごく一部を抜粋したものである。
手記の中の「ウルスラ」とは、同じく創設期メンバーの一人である
ウルスラ・ハルトマン曹長(当時)であると思われる。
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