1:◆B/NHzKmv/c 2013/01/14(月) 03:34:38.15 ID:7t2/JvXu0
「ちゃんと縛ったか!?」
「ああ、大丈夫だ。……っ!! おいっ!! 見ろよ、槍で刺したのに…もう傷が治ってやがる」
「けっ!! 全く気味の悪いガキだぜ」
「早いとこ捨てて帰ろうぜ、この山も薄気味悪いしよ…」
「ああ、そうだな…」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
ー化け物、怪物、悪魔、他にも色々言われたー
ー得た物は無い、失った物も無いー
ー最初から何も持ってはいなかったのだからー
ー僕は一人だった…生まれた時からずっとずっと…ー
ー自分の身を守る為、何人の人生を終わらせただろう?ー
………思い出せない………
2: 2013/01/14(月) 03:38:18.29 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「この糞ガキ!!」
ドガッ!! 「うぐっ…止めてよっ…父さん…」
「オレはお前の親父なんかじゃねぇ!! ったく…何でこんなガキを預からなくちゃならねぇんだ!!」
ドゴッ!! 「がはっ…!!」バタッ…
このままじゃ…いつか殺される…
「チッ…気絶したか…刺そうが、殴ろうが傷が治りやがる、気味が悪いぜ…水ぶっかけて起こすか」クルッ
………殺されるくらいなら…
「…あ? 起きたのかよ…ん? 何だぁ?」
「…………………」ズズ…
ズオォォォアッ!!!
「な…何だよ……何だよ『それ』は!!」
前頭部から後頭部に掛けて曲がった二本の角…
瞳は紅く輝き、周りの空気は禍々しく揺らいでいる。
「あ、悪魔……」
闇の中でも分かる程の黒。
角・紅い瞳…
身体はまだ小さく、人の姿を留めてはいるが悪魔と呼ぶに相応しい。
「……ハァァァ…」
「ヒィッ…く、来るなぁっ!!」
「……グゥッ…ウゥルオァァァアァッ!!!」
野獣の如き咆哮と共に放たれた拳は、
「来っゴシャッ!!!
顎を砕き頭部を跡形も無く消し飛ばし。
少年に父と呼ばれた男は頭部の無いまま数歩よろめくと…
関節が無くなった様にぐにゃりと倒れた。
ーああ…そうだ…初めて頃したのはー
ー義理の父親だったー
3: 2013/01/14(月) 03:40:24.36 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
『起きて…目を覚まして…!!』
ーー「ん…うぅ……」
少女「…大丈夫?」
ーー「………助けて…くれたの?」
少女「まあ…そうなるのかなぁ」
ーー「…………」
少女「えぇと…私はネア、アンタ名前は?」
ーー「名前は……無い…」
ネア「ふぅん…」
ーー「…あれ…耳が……エルフ…」
ネア「えぇ、そうよ」
ーー「本当にいたんだ…なら今まで…」
ネア「待って、まず聞きたい事があるの」
ーー「なに?」
ネア「アンタ、人間じゃないわよね?」
ーー「……分からない」
ネア「……まあいいわ…多分もう直ぐ迎えが来るから」
ーー「『僕』に迎え? 誰が?」
ネア「そういう意味じゃなくて、アンタを此処、『プロテア』に連れて来た事が少々…かなり問題みたいで…」
4: 2013/01/14(月) 03:42:00.08 ID:7t2/JvXu0
ガチャッ!!
青年「ネア、ソイツが?」
ネア「ハンク…アンタねぇ、ノックくらいしなさいよ…」
ハンク「悪い悪い…でも急ぎなんだ!! 早く女王様の所に連れて行かないと…」
(獣人までいるのか…)
ハンク「まあ、そういう事で少年、一緒に来て貰うぞ?」
ーー「分かった」
ネア「詳しい事は女王様に聞きなさい、んじゃ」スゥ
パタン……
ハンク「………………」スッ
ガチャッ!!
ハンク「お前も来るんだよ!!」
ネア「……だよねぇ」
ハンク「全く……馬車を用意してあるから乗ってくれ」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ガララッ…ガラッ…
ハンク「そうか、境界の山に…」
ネア「薬草を取りに山を越えたら偶然見つけたのよ!! いやぁ、びっくりしたわ…」
ハンク「あのなぁ…外界は危険だから結界からは絶対に出るなって言われてるだろうが…」
『結界』か、山々に囲まれているとは言え見つからないのは不思議だった…だから見つからなかったのか。
5: 2013/01/14(月) 03:44:28.92 ID:7t2/JvXu0
ーー「外界って?」
ハンク「ん? ああ、人間が住んでる領域の事さ」
ーー「…へぇ」
綺麗な所だ…近頃は田舎だってこんなに自然が残ってる所は少ないのに。
ネア「あっ、城が見えてきた」
ーー「……凄い」
自分も城を見た事くらいある、でもあんなに綺麗な城を見たのは初めてだ。
派手な装飾は無い、だからこそ美しく感じられた。
幻想的って言うのかな…建物を見てこんな気持ちになったのも初めてだ。
ハンク「着いたぞ、行こう…」
ネア「此処に来て事の重大さが分かって来たわ……」
ハンク「女王様の裁量に任せるしかない、それに…結界から出るだけでも重罪なんだ……」
ネア「分かってる…」
ーー「………(何故ネアは僕を助けたのだろう?)」
ー城門前ー
ハンク「カルアさん、連れて来ました」
カルア「来たか、女王陛下が謁見の間でお待ちだ。此処からは私が引き受ける」
エルフの騎士、此処は女性でも騎士になれるのか…
ハンク「はい、じゃあオレはこれで」
カルア「ああ、ご苦労だったな」
ハンク「いや良いですって、んじゃな少年!! その…ネア…」
ネア「大丈夫だって!!」
ハンク「あ、ああ…そうだな!!」
カルア「……では、行くぞ」
6: 2013/01/14(月) 03:47:15.98 ID:7t2/JvXu0
門を抜けると庭…と言うより花畑が広がっている。
ネア「いつ見ても綺麗ね」
カルア「女王陛下自ら手入れする事もあるからな。それよりネア、お前は結界を踏み越えた…分かっているな?」
ネア「ええ…分かってる」
ーー「どうなるの?」
カルア「……結界を出た上に君の様な外界の者を連れて来たんだ…」
ーー「…………」
ネア「処刑されるかもね」
ーー「……?(分かってたなら尚更だ…何で僕を此処に……)」
カルア「着いたぞ……女王陛下!! お連れしました!!」
女王「入りなさい」
カルア「はっ!!」
ギィィィ…
7: 2013/01/14(月) 03:50:00.99 ID:7t2/JvXu0
あのエルフが女王様? まだ十七・八歳位なのに。
女王の周りを囲むのは全て女性騎士だ、男の騎士は居ないのか…
女王「私の名はセシリア、此のプロテアの地を統べる女王です、ネア…貴方はまだ諦めてないのね…」
ネア「明日には完成するわ…外界で取ってきた薬草を調合すればね」
カルア「…!!」
セシリア「…!! そう……なら、その薬の調合は他の者に任せます」
ーー「……………」
ネア「分かったわ」
セシリア「薬の完成は喜ばしい事、けれど結界を踏み越え、外界から知らぬ者を連れて来た『プロテアの掟』を破った罪は極めて重罪です」
ネア「そうね…」
セシリア「ネア…貴女を処刑しなければなりません」
ネア「そっか……そうだよね」
何で受け入れられる? 他人の僕を助けて処刑されるのに…
薬? 結界? プロテアの掟?
分からない…
8: 2013/01/14(月) 03:51:53.05 ID:7t2/JvXu0
セシリア「問題は貴方です…此の地に入れたと言う事は人間では無い筈。けれど貴方の姿は人間以外の何者でも無い…貴方は『何』なのです?」
ーー「どうせ僕も頃すくせに…」
カルア「なッ!? 貴様ッ!!」
セシリア「カルア…良いのです。答えてはくれませんか?」
カルア「くっ……」
ーー「悪魔・化け物…そう呼ばれてきた。名前は無い…」
セシリア「何故、悪魔と?」
ーー「傷の治りが早かったり槍や剣で刺されても氏ななかった…他の人間が出来ない様な事も出来た…」
カルア・ネア「……!!」
セシリア「……他の人間が出来ない事、とは?」
ーー「力が強かったり、足が速かったり色々……周り人は異常だって言ってた」
セシリア「ならば何故、城へ来る途中に逃げなかったのですか?」
ーー「何度も追われて…もう疲れた、諦めた…でも一つだけお願いがあります」
セシリア「…何でしょう?」
ーー「ネアを処刑しないで僕を処刑して欲しい。ネアは『薬』を完成させる為に行動した、さっきのセシリア達の表情からすれば…きっと凄い事なんだと思うから」
ネア「…えっ?…」
カルア「…何を……」
ーー「此処に人間は入れない…でも人間の姿をした『何か』が入ってきた、僕の存在が不気味なんだろ……なら僕を殺せばいい」
9: 2013/01/14(月) 03:53:20.32 ID:7t2/JvXu0
カルア「(何だあの目は…それに、何故あんな顔が出来る!?)」
セシリア「…………」
ーー「此処の掟なんて分からない、けどネアの罪が重いのは分かったよ…でも人を助ける為に行動した人が氏ぬのは変だ…と、思う」
セシリア「それは貴方の主観・主張でしょう?」
ーー「そうだよ…だから、僕の主張が通らなくて……ネアを処刑するって言うなら」
ーー「僕はセシリアを頃すよ」
セシリア「……ッ!!」
カルア・ネア「……なっ!?」
唯一言、『頃す』と言う言葉に騎士達は戸惑い…誰一人動けずにいた。
たった一人の少年の言葉に呑まれ、皆は背筋に冷たい何かを感じていた。
だが、少年の『気』に当てられた一人の騎士が斬り掛かる。
カルア「や、止めろッ!! カレンッ!!」
その叫びはカレンと呼ばれた女性騎士には届かない…
そして、突き出された剣は少年の胸を貫いた。
10: 2013/01/14(月) 03:54:34.58 ID:7t2/JvXu0
ーー「痛い…でもダメだ」
カレン「ひっ…!!」
ーー「胸じゃダメだと思う…首を斬り落とさないと、まだ首を斬り落とされた事は無いから保証出来ないけど……」
カレン「う、うあぁッ!!」
彼女は錯乱し、少年の胸から剣を引き抜き首を斬り落とさんと振り下ろす…
ガギィッ!!!
が、突然現れた男によって剣は防がれた。
セシリア「ルシアン…!!」
ルシアン「女王の前で何やってんだよ…馬鹿か? お前…」
カレン「あっ…うあぁ……」
正気を取り戻し、強張った全身の力が抜け膝から崩れ落ちた。
ルシアン「気を失ったか…おい、カルア!! お前が運んでどっかに寝かせとけ!!」
カルア「は、はい!! 分かりました!!」
11: 2013/01/14(月) 03:56:50.01 ID:7t2/JvXu0
ルシアン「全く…オイ」
ーー「なに?」
ルシアン「話しは聞いてた…ネアを助けようとしたのは良いがな、頃すってのは何だ?」
ーー「僕を助けてくれたのはネアが初めてなんだ…だから生きて欲しかった」
ネア「……えっ?」
騎士達『………!?』
ルシアン「(ネアを助ける、その為に頃す? ハッタリじゃない。多分コイツは『それ』しか手段を知らないんだ)」
ルシアン「諦めた顔してる割に瞳は殺気に満ちてるな…何人頃した?」
ーー「…………………」
ルシアン「どうした?」
ーー「正確な数は覚えてないんだ……」
騎士達『………………!!』ゾクッ…
その答えに嘘は無い、冷静に思い出そうとしている少年の姿は皆に言い知れぬ恐怖を与えた。
12: 2013/01/14(月) 03:59:04.02 ID:7t2/JvXu0
ルシアン「……セシリア!! コイツはオレが預かる!!」
セシリア「えっ、ルシアン…何を…?」
ルシアン「オレがコイツに『生』を教える。それとオレからも頼む、ネアの事は許してやってくれ……掟を破ってまで、病に冒された人々を救おうとしたんだ」
ネア「ルシアン…」
ルシアン「それにネアの親友セシリアで無く『女王として』接し、決断したのは褒めてやる…だがこんな事態だ、其処まで徹する必要は無い」
セシリア「………っ!!」
ネア「セシリア…」
ルシアン「それに……」
セシリア「……何です?」
ルシアン「そうしないとコイツが何をするか分からねえからな…」
ーー「…………」
セシリア「良いでしょう……分かりました、その子はルシアンに任せます。それとネア、掟を破るのはこれで最後にして…」
ネア「セシリア……」
ーー「僕を殺さなくていいの?」
ルシアン「(コイツは生きる事への執着が無いのか? こりゃあ苦労しそうだぜ)」
13: 2013/01/14(月) 03:59:55.98 ID:7t2/JvXu0
ルシアン「お前はオレが預かるって言ったろ? 行くぞ」
ーー「…分かった。あ、ネア」
ネア「ど、どうしたの?」
ーー「どうして助けてくれたの?」
ネア「理由は無いわ……違う…わね…もう、誰かが氏ぬのは見たくないから」
ーー「(氏ぬのを見たくない…それが理由……それが助ける理由…)」
ーー「ネア、助けてくれてありがとう」
ネア「……!! うんっ!!(きっとこの子は純粋なんだ…だからルシアンは教えるつもりなんだ…生きる事を)」
ルシアン「ネア、薬…頼むぜ?」
ネア「任せて!!」
ルシアン「んじゃ、オレはコイツと行くから。おい、セシリアに謝れ」
ーー「…ごめんなさい」
セシリア「いえ、大丈夫ですよ。ですがルシアン…この子は…」
ルシアン「心配いらねえよ、やるっつったらやってやる!! んじゃな!!」
14: 2013/01/14(月) 04:05:53.95 ID:7t2/JvXu0
セシリア「ルシアン……大丈夫かしら?」
ネア「時間は掛かるだろうけど、きっと上手く行く。セシリア…ごめんね……」
セシリア「謝らないで、まだ私だって…何で私が…女王なんてっ…お母さん……」ポロッ
ネア「っ…セシリア…」
セシリア「ごめんなさい…ネアも辛いのに…」
ネア「ううん、大丈夫……薬が完成したらもう誰も悲しまずに済むわ」
セシリア「ええ…過去は変わらない。だから前を見なければ…」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
カレン「んっ…うぅっ」
カルア「カレン、大丈夫?」
カレン「姉さん…私……あ、あの子は?」
カルア「大丈夫だ、ルシアン殿が預かる様だからな」
カレン「そう…ルシアンさんが…」
カルア「だが、あの子は一体何者だ? エルフ・ドワーフ・獣人でもない…此の地に入れたのなら人間では無い筈なのに」
カレン「そうですね……あ、姉さん」
カルア「どうした?」
カレン「…私、明日ルシアンさんの所に行って来ます」
カルア「何故だ? まさか…」
カレン「ち、違うよ!! 謝りに行くの…」
カルア「しかしカレン、あの子と会って平静で居られるか?」
カレン「さっきは…上手く言えないけど、あの子が……あの場所全てを飲み込んでしまいそうな……そんな感じがしたの、そしたら身体が動いてた」
カルア「カレンの言う事は分からんでも無い。確かに異常な気だった、殺気などでは無く…異質の……」
15: 2013/01/14(月) 04:10:50.96 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ルシアン「もう直ぐオレん家だ」
ーー「ルシアン」
ルシアン「ん、何だ?」
ーー「ネアの作ってる薬って何?」
ルシアン「特効薬さ…不治の病、まあ罹ったら最後、氏んじまう病気のな…」
ーー「治せないの?」
ルシアン「ああ、最近流行りだして氏者が急激に増えた、症状を抑えたりは出来たんだが……若い奴も年寄りも数ヶ月で氏んじまった」
ーー「何でネアは掟を破ってまで薬を?」
ルシアン「ああ…ネアの両親も特効薬を作ろうとしたんだが、道半ばで氏んじまってな…ネアは意志を継いだのさ」
ーー「ネアとセシリアは何歳?」
ルシアン「何だ急に…ありゃまだ17くらいだ」
ーー「……………」
ルシアン「どうした?」
ーー「セシリアは17歳で女王様に?」
ルシアン「セシリアの両親も病気で氏んじまったからな…」
ーー「…そっか……」
ルシアン「まぁ、ネアが特効薬を完成させるんだ。もう大丈夫さ」
16: 2013/01/14(月) 04:13:02.08 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ルシアン「よし…飯も食ったし、そうだ…お前の名前を決めたんだ。無いとこれから不便だろうしな」
ーー「僕の…名前」
ルシアン「ああ、…自分で言うのも何だか格好いい名前だぜ?」
ーー「へぇ…」
ルシアン「興味ねぇツラしやがって…まあいい、今日からお前は…」
ーー「…………」
ルシアン「ラキだ!!」
ラキ「………」
ルシアン「何だよ? 昔の本にラキって格好いい名前の…あれっ? ラキだっけか…」
ラキ「………………」
ルシアン「ま、まあ…兎に角!! 今日からお前は、ラキだ!!」
ラキ「分かった」
ルシアン「どうだ、気に入ったか?」
ラキ「呼び易くて良いと思う」
17: 2013/01/14(月) 04:14:51.34 ID:7t2/JvXu0
ルシアン「まあ……いいや、後は何かやりたい事とか気になる事はあるか?」
ラキ「……剣、ルシアンに剣を教えて欲しい」
ルシアン「……何でだ?」
ラキ「カレンって言う騎士の剣を止めたのが凄かったから」
ルシアン「へぇ……まあ良い、分かった。明日は色々案内するから今日はもう寝るぞ」
ラキ「分かった」
ルシアン「……お休み、ラキ」
ラキ「お休み、ルシアン」
ルシアン「(時間が掛かるのは分かってる、今はまずラキが何者かは置いとく…笑ったり泣いたり、そんな顔が出来る様にしてやりてえ)」
ルシアン「(若い連中は兎も角、年寄り連中の皆が生きてたらラキは殺されてたかも知れねえ…結界から出たら即刻氏刑、外界から誰かを連れてくるなんざ言語道断…若造のオレが言うのも変な台詞だが、時代も世代も変わって行くんだろうな)」
ラキ「(なんか変だ、凄く落ち着く……ルシアンの家も、此の土地の雰囲気も…何でだろう?)」
18: 2013/01/14(月) 04:16:39.18 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
チュン…チュンチュン
ラキ「朝だ…ルシアン、起きて」
ルシアン「うぅん…」
ラキ「起きないな……少し歩いて来よう…」
ガチャ…パタン……
ラキ「田んぼ・畑・山…やっぱり綺麗だ」
カァンッ…カァンッ…カンッ…
ラキ「(何の音かな? 行ってみよう)」
19: 2013/01/14(月) 04:18:53.16 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
カンッ!! カァンッ!!!
ラキ「鍛冶屋…」
ガチャ…パタン
ラキ「おじゃまします」
青年「ふっ!! ふっ!! ふっ!!!」
カァン!! カァン!! カァン!!
青年「ふぅ…こんなもんだな」
ラキ「朝からお疲れさまです」
青年「おうっ!! まあ日課だからな…身体が鈍っちゃ鍛冶屋は出来ねえ!!」
ラキ「なる程…(茶色の肌、長い腕…ドワーフかな? でも背は低くないんだ…寧ろ大きい)」
青年「…………ん?」
ラキ「……?」
青年「……お前誰だよっ!!」
ラキ「名前はラキ」
青年「ラキか…オレはガルトだ!!」
ラキ「ガルトは早起きだな」
ガルト「まあな!! 早寝早起きが健康の秘訣だな、うん」
ラキ「じゃあルシアンは?」
ガルト「ああ…アイツはダメだ!! 剣士の癖に気合いが足りん!!」
ラキ「気合い…」
ガルト「そうだ!! 気合いだ!! 下腹に力入れるのを心掛けろ!!」
ラキ「うん、分かった。ガルト、色々教えてくれてありがとう。頑張ってください」
ガルト「おうっ!! ありがとよ!!」
ガチャ…パタン……
20: 2013/01/14(月) 04:19:46.93 ID:7t2/JvXu0
ギィッ…
親父「おいガルト、誰か来たのか?」
ガルト「ああ、良く分からんがラキって言う奴だ」
親父「ラキ…聞いた事ねえなぁ…ウッ!! ゴホッゴホッ!!」
ガルト「親父…」
親父「んな顔すんな…オレは氏なねえよ、まだ引退する歳でもねえからな!! ゴホッ…」
ガルト「……ああ!! 親父は氏なねえ!! きっと、気合いがたりねえんだ!!」
親父「ガハハッ!! そうだな!!」
21: 2013/01/14(月) 04:21:10.65 ID:7t2/JvXu0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ラキ「(下腹に力か…あ、ネアの所に行こう)」
ネア「やっと出来た…沢山の人が氏んだ、セシリアの母さんも…私の両親も…でもこれで治せる。早く配らないと…ハンクにでも頼もうかな」
コンコンッ…
ネア「はいはい……どうぞ」
ラキ「おじゃまします」
ネア「え…? こんな早くにどうしたの?」
ラキ「ネアに会いたいから来た。薬は出来た?」
ネア「へっ……?(えっ!? いやいや…違う違う、純粋に言ってるだけだって!!)」
ラキ「大丈夫?」
ネア「大丈夫大丈夫!! 薬は出来たわよ、これで…病は必ず治る!!」
22: 2013/01/14(月) 04:22:35.35 ID:7t2/JvXu0
ラキ「そっか、じゃあセシリアもカルアもルシアンも喜ぶね」
ネア「そうね(昨日、頃すとか言ってた奴とは思えないわね、益々コイツが分からないわ…)」
ラキ「ネア、昨日ルシアンが僕に名前をくれたんだ」
ネア「良かったじゃない、アイツのセンス悪そうだけど……で、名前は?」
ラキ「ラキ、呼び易くて良いと思う」
ネア「呼び易さなんだ…でも思った程悪く無いわね、『ラキ』か…改めてよろしくね、ラキ」
ラキ「うん、よろしく。何か出来る事ある?」
ネア「ず、随分急ね……じゃあ、そこの薬箱を城に運んでくれる? 騎士達に渡せば済むし、念の為手紙も書くから大丈夫よ」
23: 2013/01/14(月) 04:24:20.06 ID:7t2/JvXu0
ラキ「分かった。……よし、この箱を城まで運べば良いんだな?」
ネア「うん、ちょっと待ってね………よし、この手紙もよろしくね」
ラキ「分かった」
ネア「じゃあ、行ってらっしゃい」
ラキ「…………」
ネア「ラキ? どうしたの?」
ラキ「……何でもない、『行って来ます』」
ネア「……? うん、行ってらっしゃい」ニコ
ガチャ…パタン
ラキ「(行ってらっしゃい…初めて言われた、何か変な感じだ)」
ラキ「よし、行こう」
ネア「ふう、疲れたぁ…(昨日出会ったばかりの相手に頼んじゃった。でも…ラキは悪い奴じゃない。純粋って言うか……ううん、違う…ラキはきっと何も知らないんだ…善悪とかじゃなく、だから)」
ラキ『オレはセシリアを頃す』
ネア「(だからあんな真っ直ぐな瞳で言えるんだ……頃すと言った時、私に会いに来たと言った時……同じ瞳をしてた…『同じ』真っ直ぐな瞳……)」
ネア「……薬は出来たし…寝よ……」ボフッ
24: 2013/01/14(月) 04:28:47.94 ID:7t2/JvXu0
>>23 訂正
『僕はセシリアを頃すよ』 でした。
今日は此処までです。
30: 2013/01/14(月) 23:37:06.25 ID:LiSM/dhc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ラキ「……あれ?」
ガルト「ハァッ…ハァッ…」
ラキ「ガルト、どうしたの?」
ガルト「ハッハァッ…ラキか…親父が…親父が倒れたんだ」
ラキ「あの病気なの?」
ガルト「ああそうだ!!」
ラキ「そっか…」
ガルト「じゃあ、オレはネアの家に行く!! またなっ!!」
ダダダッ…!!
ラキ「行っちゃった……」
ラキ「(早く城に届けて騎士に運んで貰わないと……でも、僕がガルトの家に行って薬を渡した方が早い。でもネアと城へ届けるって約束したし…)」
ラキ「行こう……」
31: 2013/01/14(月) 23:38:19.33 ID:LiSM/dhc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ドンドンッ!! ガチャ!!
ガルト「ネア!! 起きてくれ!!」
ネア「うぅ…なによぉ…うるさいわね……」
ガルト「親父が倒れた!! 薬は出来たのか!?」
ネア「イザークさんが!? そんなっ…薬ならさっき全部城に……」
ガルト「……ッ!! ちくしょう…」
ネア「症状を抑える薬ならある!! ガルトの家に行きましょう!!」
ガルト「分かった!!」
ハンク「おーい、どうしたぁ? あれっ…ガルト? どうしたんだ? 朝っぱらから大声だして…ドアは開けっぱな」
ネア「ハンク!! 良いところに来たわ!! 馬車を用意して、事情は後で説明するわ!!」
ハンク「わ、分かった!!」
32: 2013/01/14(月) 23:40:31.97 ID:LiSM/dhc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ガラガラッ!!
ハンク「えっ!? イザークさんが!?」
ガルト「ああ、咳が止まらなくて…熱も酷い」
ネア「まずいわね…急がないと…」
ハンク「ところで薬は誰に預けたんだ?」
ネア「昨日の子、ラキに預けたわ」
ハンク「おいおい…大丈」
ガルト「ラキ!? ラキならネアの家に行く途中で会ったぞ!! でも薬の事なんて…」
ネア「えっ…そんな……」
ハンク「アイツ…まさか薬を」
ネア「そんな事っ!!」
ハンク「昨日会ったばかりの奴だ!! そんな直ぐに信用出来ないだろ!!」
ガルト「……そうか、あいつが外界からネアが連れて来た……」
ネア「……っ!!」
33: 2013/01/14(月) 23:42:57.12 ID:LiSM/dhc0
カレン『おーい!! ちょっと止まってー!!!』
ハンク「んっ!?……カレンさん?」
ネア「ちょっと止めて!!」
ハンク「あ、ああ…」
ガルト「お、おい!!」
ネア「ちょっと黙って!!」
ガルト「っ…何なんだよ!!」
カレン「ネア、昨日の子知らない? ルシアンさんの家に行ったけど2人共いな」
ネア「カレン!! ラキは城に来なかった!?」
カレン「えっ、ラキ?」
ネア「昨日の子よ…」
カレン「ラキ君って言うんだ…城には来なかったけど、どうしたの?」
ネア「…ッ!!……説明してる暇ははいわ!! 取り敢えず乗って!!」
カレン「え、ええ、分かったわ」
34: 2013/01/14(月) 23:45:03.82 ID:LiSM/dhc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ガララッ…ガラララ…
ハンク「着いたぞ!!」
ネア「……行きましょう!!」ダッ
ガチャ!!
ガルト「親父っ!!」
ルシアン「おい!! おい!! ラキ、返事しろっ!!」
ガルト「ルシアン、何で此処に…? 親父は…」
イザーク「ガルト、オレは大丈夫だ…だが、こいつが……」
ラキ「…ハァッ…ハァッハァッ………」
ネア「…えっ!? ラキ? 何でラキが…」
イザーク「………」
ラキ「ハァッ…ハァッハァッ」
ルシアン「ラキ!!」
ガルト「酷い汗だ…おい、ネア!!」
カレン「どうなってるの? なんでラキ君が倒れてるの…?」
ネア「まさか…」
ハンク「イザークさん…何が……あったんですか?」
35: 2013/01/14(月) 23:48:52.24 ID:LiSM/dhc0
ーネア・到着前ー
ラキ「着いた…」
ガチャ…
イザーク「ゴホッゴホッ…うぅっ…」
ラキ「大丈夫?」
イザーク「……誰…だ?」
ラキ「僕はラキ。ネアが作った薬を持って来た、飲んでください」
イザーク「お前がラキ……知らねえゴホッ筈だ…昨日入っゴホッ来たって言う外界者は…お前だな? 外界者が持って来た物なんゴホッゴホッ飲めるか…」
ラキ「ネアが書いた手紙もある」
イザーク「…信用…出来るゴホッか…よ」
36: 2013/01/14(月) 23:50:56.17 ID:LiSM/dhc0
ラキ「………(この薬はネアが掟を破ってまで作った物…僕はどうしたら…)」
イザーク「ゴホッ…ウグッ…」
ーネア『もう、誰かが氏ぬのは見たくない』ー
ラキ「僕の事は信じなくて良い…でも、これはネアが作った薬なんだ。信じて…」
イザーク「…信ゴホッじれ…かよ………」
ラキ「なら僕が今からこの薬を飲むよ。そしたら飲んで欲しい…」ゴクッ
イザーク「な…に…をバカな」
ラキ「僕は飲んだよ…だから飲んで、僕はネアの薬を信じてる…」スッ
イザーク「……………」
イザーク「…………………」ゴクッ
37: 2013/01/14(月) 23:53:11.23 ID:LiSM/dhc0
ルシアン「うんぁ…あれ? ラキ? 何処行ったんだよ…全く…」
そうだ、ガルトに練習用の剣でも頼むか…そしたらラキの奴も喜ぶかね?
まあ、アイツは自分から何かやらかす質じゃないしな…大丈夫だろ。
ルシアン「まっ、取り敢えず行くか」
ガチャ…パタン…
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ラキ「楽になった?」
イザーク「…ああ、大分…良くなった…」
ラキ「良かった…これでネアもガルトも喜ぶ」
イザーク「…変わった奴だ……」
ガチャ…パタン…
ルシアン「ガルト、頼みがあるんだがって…あれっ!? 何でラキが居るんだよ!? それにオッサン、起きてて平気なのか?」
イザーク「ルシアン…いや、コイツがネアの薬を…」
ラキ「…っ!!……あ…うぅっ……」フラッ
バタッ……
イザーク「おっ、おい!!」
ルシアン「ラキ!? おい!! どうした!?」
38: 2013/01/14(月) 23:57:36.19 ID:LiSM/dhc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
イザーク「済まねえ……」
ネア「…そんなっ!! 子供が原液でこの薬を飲んだら最悪氏ぬかも知れない……」
ルシアン「……起きちまった事は仕方ねえ…ネア、出来る事は手伝う…指示してくれ」
ネア「分かった、まずルシアンはラキを家に運んで。家に着いたら汗を拭いて着替えさせて…私は一旦家に戻って点滴道具を持ってくるわ…今の状態でラキを馬車に乗せるのは良くない……」
ルシアン「分かった、ラキを担いで先に行ってる…じゃあ後でな」
ガチャ…
ネア「カレンは城に薬を運んで…ガルトは……イザークさんに付いてて…」
カレン「ええ、分かったわ!!」
ガルト「…っ……分かった」
ネア「ハンク!! 行くわよ!!」ダッ
ハンク「お、おう!!」ダッ
カレン「う、結構重い…ラキ君、よく背負えたな…私も行きます。では…」
パタン……
39: 2013/01/15(火) 00:00:14.41 ID:qUYxgYaw0
イザーク「オレは、オレは大馬鹿野郎だ!! アイツの目には最初から嘘は無かった…なのに外界者だからって…!!」
ガルト「親父……今は休んでくれ、そんで落ち着いたらルシアンの家に行こう…」
イザーク「……ああ、そうだな…」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ルシアン「よしっ、着替えもさせたし後はネアを待つだけだな」
ラキ「ハァッ…ハァッ…」ズ…
ルシアン「ん、何だ…?」
ラキ「………うぅ…あぁッ!!」ゴッ
ズオォォォォッ!!
突如の変貌。
二つの角・紅い瞳…
ラキの周囲の空気が禍々しく歪む…
ルシアン「これは……」
ラキ「…ハァァァアアッ……」ググッ
ルシアン「……ラキ、お前は………」
40: 2013/01/15(火) 00:02:56.95 ID:qUYxgYaw0
ラキ「……ガァッ!!」
ダンッ!! 単純な突進…だが影が尾を引く程に速い。
ルシアン「ぐっ…」
両肩を掴み勢いを止めるがルシアンの腹に、
ズドッ!!っとラキの右拳がめり込んだ。
ルシアン「グッ!!(なんつう力だ…流石に舐めすぎたか……)」
ドガンッ!! 家の壁を突き破り地面に大の字になりながら考える…
ルシアン「よっと…(ネアが来る前に何とかしねえとな)」
ラキ「フゥゥッ……」
ルシアン「まだ半覚醒…思考が無いだけ逆に質が悪いぜ…」
41: 2013/01/15(火) 00:09:05.17 ID:qUYxgYaw0
ラキ「……ガアァッ!!」
鋭く滑らかな回し蹴りが顔面に迫る、
ズオッ!! ルシアン「へぇ…」スッ
それをルシアンは上半身を逸らし躱す。
ラキ「フゥゥ…ゥゥアァ…」
ルシアン「ラキ、オレに剣を習いたいって言ったな…」
そう言って背に掛けていた剣を抜く…柄から刃の先まで白銀に輝く両刃直剣。
刀身は長く厚め、単純に…デカい。
どちらかと言えば細身のルシアンには、両手で振れるかどうかも怪しい代物。
だが、
ルシアン「見せてやるよ、行くぜ?」
ザヒュッ!!っとまるで枯れ枝でも振り回す様に片手で振るう。
ラキ「……ッ!!」
凄まじい剣の圧力…瞬時に後方に大きく跳び躱す。
42: 2013/01/15(火) 00:11:32.28 ID:qUYxgYaw0
ルシアン「ははっ、何だよラキ…驚いた顔も出来るんじゃねぇか!!」
ラキ「……ガァッ!!」
ダンッ!! 再び突進、先程より数段速い。
ルシアン「これで終いだ……」
ブンッ!!! 剣の『面』でラキの左脇を『叩く』…そして、
ズドンッ…と鈍い衝突音と共に…
ラキ「ガッ…!!」
ドシャァッ…と地面を滑り、ラキは気を失った。
ルシアン「まだガキだしな……げっ!! 家が……」
まるで其処が最初からそうで在ったかの様に、綺麗な人型の穴がポッカリと空いていた。
ルシアン「よし、ガルトに塞がせよう…おっ?」
ラキを見ると角は消え、禍々しい気配も消えている。
ルシアン「何故急に目覚めたんだ…なんにせよ戻って良かったぜ……あん?」
袖が破け露出した右腕を見ると、肌は黒く染まり皮膚が甲殻の様になっている。
43: 2013/01/15(火) 00:14:10.65 ID:qUYxgYaw0
ルシアン「やっぱりオレが引き取って正解だったな…」
ラキ「………うぅっ、ルシアン…? あれ?」
ルシアン「いずれ話す、それより…」
ガララッ…ガララ…
ネア「ラキ!!」タタッ
ルシアン「ネアに謝れ…」ニコ
ラキ「……?」
ネア「ラキ!! 大丈夫!?」
ラキ「ネア…ごめん?」
ネア「……バカッ!!!! イザークさんは弱ってたんだから、無理矢理飲ませる事も出来たでしょ!! 薬は本物なんだからラキが飲む必要なんて無かったでしょ!!」
ラキ「無理矢理……これからそうする」
ネア「はぁぁ……何なのよ…何なのよ!?」
ラキ「え? 分かんないけど…ガルトの父さんは良くなった?」
ネア「なったわよ!!」
44: 2013/01/15(火) 00:16:21.65 ID:qUYxgYaw0
ハンク「お、おいおい…ラキだって疲」
ネア「ハンク!! アンタ、ラキが薬をどうにかしたと思ってたんでしょ?」
ハンク「うっ…」
ネア「謝れ…早くしろ…」
ハンク「ひっ…!! ラキ!! 疑って済まなかった!!」
ラキ「疑う?」
ルシアン「ははっ、まあいいじゃねぇか」
ネア「あのねぇ……最初からルシアンが付いてれば、こんな大事にはならなかったんじゃないの? ねぇ?」
ルシアン「悪い悪いっ、ははっ……」
ネア「…何だそれは? 反省してんのか?」
45: 2013/01/15(火) 00:17:35.91 ID:qUYxgYaw0
ハンク「掟を破った奴が良く言うよ…」
ネア「ん? なに? はっきり言いなさいよ」
ハンク「……何でもないです(こえぇぇ…)」
ラキ「……あっ…れ…」フラッ
バタンッ…
ネア「ラキ!?」
ルシアン「(やはり負担が大きかったか…)」
ルシアン「中に運ぼう、色々あって家の中が滅茶苦茶なんだ……ハンクも手伝ってくれ」
ハンク「ああ、分かった!!」ダッ
ネア「本当に何なのよ…もうっ…」タタッ
46: 2013/01/15(火) 00:23:33.01 ID:qUYxgYaw0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
【プロテア】
人ならざる者達が住む、隔絶された秘境の地。
周囲は山に囲まれ、未だ豊かな自然に囲まれている。
外界側の山麓の森林も結界に覆われている為、『人間』の出入りのは不可能。
結界には特殊な幻惑の法が掛けられており、外界側の山麓に広がる森林は人間に『誘いの森』と呼ばれている。
何故人間と彼等が分かたれたのかは諸説あるが、
種族の違い・文化の違いに因って戦が起きた(開拓や自然を巡る衝突からとも言われている)。
戦は、長期続いた。
その後、双方共に戦に疲れ果て…その時が訪れる。
エルフ・獣人・ドワーフの三種族が終わりの無い戦を捨て、『何処か』に移り住んだ……
と言うのが最も有力な説である。
人と別れ数百年とも数千年とも言われているが、当時の記述はどちら側にも一切無く。
現在、人間の中ではエルフ・ドワーフ・獣人は絵本でしか知らぬ空想の存在であり。
プロテアでも人間との戦の起こりは御伽噺として語り継がれているのみ。
何より永い時を経た事により、彼等には人間に特別な感情・興味など無い。
そもそも自然を愛し、日々を暮らす彼等にとって、『発展』を目指す人間とは関わり合いになりたくないのだろう。
ー#1 終了ー
47: 2013/01/15(火) 00:26:39.87 ID:qUYxgYaw0
ルシアン「…と言う訳だ」
セシリア「そうですか…あの子が……」
ルシアン「まっ、そこは置いといて、オレには何故ラキがオッサンを助けたのかが分からねえ。本来なら褒めるべきなんだがな…」
セシリア「そうですね、あの子が誰かを助けるなど…何かあったのでしょうか? あの子の心を動かす『何か』が」
ルシアン「かもな…だがラキの『芯』は変わっちゃいない。オレが危惧してんのはラキの力ではなく心だ。なまじ力を持ってるが故にな…」
セシリア「ええ……今回の出来事は兎も角、あの子の力については伏せた方が良いですね」
ルシアン「ああ頼む。んじゃ、ラキが起きたら連れて来る」
セシリア「ところでネアは?」
ルシアン「ネアならラキに付きっきりだよ。寝てるだけだってのに…ラキが起きたら、ついでにネアも連れて来る」
セシリア「ふふっ…ええ、分かりました」
48: 2013/01/15(火) 00:29:11.41 ID:qUYxgYaw0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ラキ「すぅ…ぅ…ぅぅん」
ネア「……近くで見ると本当に綺麗な顔してるわね…寝顔は可愛いし、髪も…まだ11・2歳くらいかな…?」
ラキ「うぅ…ぁたす…て」
ネア「…!? ラキ…(今までどんな暮らしをしてたの? 悪魔・化け物と呼ばれて、追われて…逃げて…誰も頼れず。人を…頃して、何も分からないまま…ずっと…)」
ラキ「あぁ……うぅっ…」
ネア「…っ!!…今は…私が居るから」
ギュッ…
ラキ「…うぅ…くぅ…くぅ…」
ネア「お休み…ラキ…」
…………
……
ルシアン「全く……茶化そうかと思ったが仕方ねえ、イザークのオッサンの所で寝るか…」
50: 2013/01/15(火) 01:35:16.41 ID:MZ5GiJgM0
ー翌朝ー
イザーク「ラキに剣を?」
ガルト「よっし!! 恩返しだな!!」
ルシアン「声でけぇよ…そうだ、喜ぶかは分からねえがな…ガルト、頼めるか?」
イザーク「待て、それはオレが造る…コレはオレの恩返しだ…」
ガルト「でも親父、まだ身体が…」
イザーク「オレぁもう大丈夫だ!! ラキの坊主に渾身の一振りを渡して頭下げる…」
ルシアン「病み上がりな上に三日三晩寝ずの作業なんだろ? 大丈夫かよ…」
イザーク「大丈夫だってんだろ!! 任せろ!!」
ルシアン「ああ分かったよ!! うるせえな!! 全く…」
ガルト「それで、どんな剣が良いんだ?」
51: 2013/01/15(火) 01:39:38.88 ID:MZ5GiJgM0
ルシアン「そうだな…」
ガルト「なんだ、決めてなかったのか?」
ルシアン「いや、両刃直剣でいいん」
イザーク「ダメだ!! オレが決めてオレが造る!! 気に入らなきゃ何度でも造ってやる!!」
ルシアン「うるせえっ!! 朝からでけぇ声出すな!!」
イザーク「兎に角オレに任せろ!! ガルト!! 今から始めるぞ!!」
ガルト「おう!! 分かった!!」
ルシアン「ああ!! もう勝手にしろよ……オレは帰る……ああ、うるせえ…」
52: 2013/01/15(火) 01:41:26.38 ID:MZ5GiJgM0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
カルア「そうか…あの少年がイザーク殿を…」
カレン「うん…不思議だよね。助けた事を疑問に思うなんて」
カルア「そうだな…だが、あの場に居た者達なら皆が不思議がるさ…」
カレン「何て言うのかな…ラキ君は悪では無い、だからこそ危うい感じがする」
カルア「ふむ…確かに善悪の判断が出来ないとなると厄介だな…」
カレン「でも…それでも誰かを助ける為に自分の命を投げ出す様な事は普通は出来ないよ……」
カルア「それが美しい事だと?」
カレン「それは…」
53: 2013/01/15(火) 01:45:19.15 ID:MZ5GiJgM0
カルア「カレン…私はあの少年にとって、助ける為に命を投げ出す事、頃す為に命を投げ出す事は同じなんだと、そう思える…」
カレン「そう…なのかな?」
カルア「だがルシアン殿が居る、少年が変わ」
カレン「あ、あのね、姉さん…」
カルア「ん、なんだ?」
カレン「『私達』も…だよ。私達にもラキ君に教えてあげられる事はあるよ」
カルア「カレン…そうだな、ルシアン殿だけに任せるのはいかんな…」
カレン「うんっ!!」
カルア「何より薬が完成し皆が救われた…喜ばしい事だ。ところで…」
カレン「え? なに?」
カルア「謝ったのか?」
カレン「…ラキ君が起きたら……謝ります…」
カルア「ふふっ…」
54: 2013/01/15(火) 01:47:35.72 ID:MZ5GiJgM0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ー5日後ー
チュン…チュンチュン
ラキ「うぅん…朝だ…」
ルシアン「お? やっと起きたか。6日も寝てたんだぞ、お前」
ラキ「おはよう、ルシアン。ネアとハンクは?」
ルシアン「お前は一切動じないな……ネアはそこで寝てるぜ、ハンクは畑仕事で帰ったがな」
ネア「すぅ…すぅ…ぅん…」
ラキ「そっか、ネアはずっと此処に?」
ルシアン「ああ、熱も汗も引いたんだが…此処に居るって聞かなくてな」
ラキ「ネア…また助けてくれたんだ。ルシアンもありがとう」
ルシアン「気にすんな、それよりラキに渡す物がある。ちょっと外に出てろ、オレも直ぐ行く」
ラキ「分かった」
ガチャ…パタン
55: 2013/01/15(火) 01:49:13.81 ID:MZ5GiJgM0
ルシアン「(喜ぶと良いんだが。ラキの事だ…あまり期待出来ないな)」
ラキ「(やっぱり落ち着く…川とかあるのかな? 釣りとかしたいな)」
ガチャ…
ルシアン「ラキ、どうした?」
ラキ「釣りがしたいと思ってた」
ルシアン「………(分かんねえ)」
ルシアン「まあいい、取り敢えずコレだ」
ラキ「竿?」
ルシアン「何処をどう見ても剣だろうが…ほら、受け取れ」
ラキ「これを、僕に…」
ルシアン「ああ、イザークのオッサン…ガルトの親父が作った剣だ。お前にはまだデカいだろう……抜けるか?」
ラキ「…うん……」スッ
抜かれた剣は両刃では無く片刃。
刃と柄の間には装飾された円形の金具が固定され、柄は細紐で丁寧にギチッと結われている。
刀身はやや厚く緩やかに反っており、刃には浅い溝とうっすら波の様な紋様が見える。
ルシアンの剣には剛直で叩き伏せる様な威圧感がある。
ラキの剣はしなやかで美しいが、その美しさの中に確かな危うさがあった。
56: 2013/01/15(火) 01:54:31.48 ID:MZ5GiJgM0
ラキ「綺麗だけど、ルシアンのと全然違うね」
ルシアン「オッサンが三日三晩寝ずに造った剣だ。ソイツはオレのと違って振り回すだけじゃ斬れねぇぞ」
ラキ「……振っていい?」
ルシアン「ああ、いいぜ(おっ? 結構気に入ったか?)」
ヒョゥッ!! と風を斬り裂く様な音…迫力は余り無いが鋭い斬れ味が伝わってくる。
ルシアン「(へぇ…ガキのクセに様になってやがる)」
ラキ「ルシアン…凄く気に入ったよ、ありがとう」
ルシアン「それはオッサンに直接言ってやれ…多分、いや絶対に泣く。今まで誰も持ってくれないんで昔からぼやいてたんだ」
ラキ「そうなんだ、後で行こう」
ルシアン「そうしてやれ、本当はオッサンが直接渡す筈だったんだが流石に堪えた見たいでな」
ラキ「そっか…分かった」
57: 2013/01/15(火) 01:56:29.97 ID:MZ5GiJgM0
ネア「うぅん…うるさいわね……あれ? ラキ? ドアが空いてる…外に」
ルシアン「なあラキ、お前に聞きたい事がある」
ラキ「なに?」
ルシアン「何故、オッサンを助けた?」
ラキ「ネアに…」
ネア「(な、なに? 私何かしたっけ?)」
ラキ「ネアに何で僕を助けたのか聞いた時…もう誰かが氏ぬのは見たくない。そう言ったんだ」
ネア「…………」
ルシアン「…それで?」
ラキ「それが僕を助けた理由なら、僕が誰かを助ける理由もそれでいいと思った。それに、ネアに誰かが氏ぬのを見せたくなかった」
ネア「…ラキ……」
58: 2013/01/15(火) 01:59:22.86 ID:MZ5GiJgM0
ルシアン「なる程な…まあいいさ。ところでネア、いつまで盗み聞きしてるつもりだ?」
ネア「お、おはよう!! ラキ、起きてたの!?」
ルシアン「お前…下手くそだな…」
ネア「うっさい!!」
ラキ「おはよう。ネア、ありがとう」ニコ
ラキは初めて微笑んだ…柔らかい、優しい笑顔…
彼自身は気付いてはいないだろうが。
ネア「……!!? えっ!? あっ…うんっ!!」ニコ
ルシアン「へぇ……(結構早かったな…いや、ネアが特別なのか)」
ルシアン「あ…そうだ、今日こそは此処を案内するぞ。ネアも来い、セシリアが会いたがってたからな」
ネア「本当に!? 分かった、私も行く」
ラキ「最初は何処に行くの?」
ルシアン「まずは獣人族の所だな、ハンクがいる所だ」
62: 2013/01/16(水) 01:11:15.95 ID:nOQNVBcc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ルシアン「まあ、そんな感じで各種族に分かれて暮らしてる訳だ」
ラキ「ネアとガルトの家は? 周りには家なかったよ?」
ネア「うちの両親があの場所を随分気に入ってね、親の反対を押し切って移ったみたい」
ラキ「そうなんだ」
ルシアン「イザークのオッサンの場合は仕事に集中出来ないから、らしい。だが腕は一流だ、それにオッサンは自分が気に入った奴にしか剣は造らない。騎士連中だってオッサンの剣を持ってる奴は殆ど居ないんだぜ?」
ラキ「そうなの? 僕、持ってて良いのかな…」
ネア「良いんじゃない? 幾ら頼んでも断られる人の方が多いんだし。プロテアではイザークさんの剣を持つって凄い事なのよ?」
63: 2013/01/16(水) 01:12:19.54 ID:nOQNVBcc0
ラキ「へぇ、そんなに凄い人なんだ。大事にしよう…」
ルシアン「ああ、そうしてやれ」
ラキ「でも、ルシアンは何で一人で住んでるの? それにルシアンはどの種族でもないし」
ルシアン「まあ色々だ…いつかラキにも話すさ」
ネア「…………」
ラキ「うん、分かった」
ルシアン「おっ、着いたぞ」
64: 2013/01/16(水) 01:13:09.18 ID:nOQNVBcc0
【獣人の里】
ラキ「……(畑・田んぼ…綺麗だな)」
ルシアン「おい!! ハンク!!」
ハンク「ん? おっ!? ラキ、目が覚めたのか!!」
ラキ「うん、おはよう」
ハンク「…相変わらずだな。まあいいさ、つまんない所だけど見ていってくれ」
ネア「大変そうね」
ハンク「まあな、そろそろ収穫の時期だし。冬に備えな」
「おい、ハンク!! 何やってんだ!!」
ハンク「げっ、姉ちゃん」
65: 2013/01/16(水) 01:14:15.07 ID:nOQNVBcc0
ネア「ジーナさん!!」
ジーナ「ネア、良く来たな!!」
ルシアン「ようジーナ、久しぶりだな」
ジーナ「お、おう…ひ、久しぶりだな。ん? そいつがラキか?」
ラキ「初めまして、何でジーナは僕を知ってるの?」
ジーナ「ん? そりゃあ、外界者がガルトのオヤジを助けた!! って皆が大騒ぎだったからな。まあ外界者だろうがアタシは気にしないけどな、ハンクと違って」
ハンク「ちょっ!? 姉ちゃん、それはもういいだろ…」
ネア「ふふっ…相変わらずね」
ルシアン「早く嫁に行けば良いのに、なあハンク?」
ハンク「…え?…いやあ……(この馬鹿やろうッ!! 余計な事言うなッ!!)」
66: 2013/01/16(水) 01:15:38.25 ID:nOQNVBcc0
ルシアン「なんだ? まさかジーナお姉ちゃんが居ないと寂バキッ!!
ネア「(コイツはホントに馬鹿ね…)」
ルシアン「痛ってぇな!! 何しやバキッ!!」
ラキ「(なにかの合図なのかな?)」
ジーナ「ハンクッ!!」
ハンク「はい!! 何でしょう!?」
ジーナ「アタシは狩りに行ってくる…」
ハンク「はい!! お気を付けて!!」
67: 2013/01/16(水) 01:17:03.05 ID:nOQNVBcc0
…………
……
ルシアン「ったく…ジーナの奴、ありゃ何なんだ!? 嫁の貰い手が無いからってイラつ
ビュンッ!! ルシアン「おっと…」
もうジーナの姿は小さくなっているにも拘わらず、放たれた矢はルシアンの腕を掠めた。
ルシアン「何でだよ!? 言いたい事あんなら言えよ!! 矢を放つ前になっ!!」
ジーナ『バカッ!!!』
ネア「あーあ、行っちゃった…」
ルシアン「な、何だよ…」
ハンク「なあ、ルシアン…もう辞めちまえよ……」
ルシアン「何をだよ!?」
68: 2013/01/16(水) 01:17:54.52 ID:nOQNVBcc0
ハンク「取り敢えず里長…ライルに挨拶して来いよ、オレは仕事に戻るからさ」
ルシアン「おい、無視すんな」
ネア「そうね、ラキ行きましょ?」
ラキ「分かった」
ルシアン「おい…」
ハンク「ネアはライルの家分かるよな?」
ネア「ええ、大丈夫。んじゃね」
ハンク「おう、じゃあな」
ラキ「ハンク、ありがとう」
ハンク「お、おう!!」
ルシアン「なあ…」
69: 2013/01/16(水) 01:21:22.38 ID:nOQNVBcc0
…………
……
ルシアン「確かに結婚云々は悪かったよな…どうっすっかな…」
ネア「はぁ…今度一緒に狩りにでも行けば許してくれるんじゃない?」
ルシアン「なる程、獲物仕留めりゃ喜ぶわけだな…」
ラキ「ルシアン、僕も行ってみたい」
ルシアン「おっ? じゃあ三人で一緒に行こうぜ」
ラキ「分かった」
ネア「………(ジーナさん…頑張って!!)」
ルシアン「ん…此処だな」
ガチャッ…パタン
ルシアン「ライル、居るか?」
70: 2013/01/16(水) 01:22:40.42 ID:nOQNVBcc0
ライル「あのなぁ…ノックくらい覚えろよ。で、そいつがラキか?」
ルシアン「ああ、本当はもっと早く来る筈だったんだがな…」
ラキ「初めまして、ライル」
ネア「久しぶりね」
ライル「おう、宜しくな。ネアも来てくれたのか、ネアの薬でこの里の奴も救われた。ありがとな」
ネア「うん…でも、ごめんね。もっと早く完成させてればライルの両親だって…」
ライル「んな事はねえよ、確かに親は氏んじまったが……今は里の皆が笑ってる…それは他の里の連中も同じ筈だ。それに、親父や母ちゃんが何を見て何を守ってたのか分かる気がするんだよ」
ルシアン「へぇ…すっかり里長だな、お前」
ライル「人が折角良い話してんのに…テメエは変わんねえな。ところで、ジーナには会ったか?」
ルシアン「ああ……二発殴られて、矢を一本…」
71: 2013/01/16(水) 01:23:51.66 ID:nOQNVBcc0
ライル「はぁ……お前さぁ…もう辞めちまえよ」
ルシアン「だから何をだよ!?」
ライル「まっ、これから宜しくな。あと、ラキ…ルシアンの家が嫌になったら何時でも来いよ」
ラキ「うん、分かった」
ルシアン「ラキ!?」
ネア「あははっ!!」
ライル「で? 次はドワーフの里か?」
ルシアン「この野郎…ああ、そうだよ」
コンコンッ…
ライル「入っていいぞ」
ガチャッ…パタン
ライル「イネスか…どうした?」
72: 2013/01/16(水) 01:25:23.46 ID:nOQNVBcc0
イネス「あの、お弁当作ったから…」
ライル「えっ? もう昼か…飯くらい作れんのに…ありがとな」
イネス「へへっ、うん…」
ライル「見ての通り先客が居てな、コイツがイザークさんを助けたラキだ」
イネス「へぇ、この子がラキちゃんかぁ…」
ルシアン「イネス…ラキは男だ。『ちゃん』はねえだろ…」
イネス「だって可愛いし…ねえ、ネア?」
ネア「えっ!? ま、まあ…そうね」
ライル「イネス、悪いが仕事が残っててな……一緒に昼飯食うのはまた今度な?」
イネス「ううん、大丈夫…んじゃ、またね…」
ガチャッ…パタン…
73: 2013/01/16(水) 01:26:21.24 ID:nOQNVBcc0
ネア「…………(ライルも大差無いわね…)」
ライル「な、何だよ…?」
ルシアン「お前さぁ…辞めちまえよ」
ライル「はぁっ!? 何をだよ!?」
ネア「…ラキ、行きましょ?」
ラキ「うん、分かった。お邪魔しました」
ガチャッ…パタン…
ルシアン「おいっ!? オレも行くわ、んじゃな!!」
ガチャッ…バタンッ
ライル「ったく、何なんだよ…」
…………
……
ライル「あっ……弁当うめえ」
74: 2013/01/16(水) 01:44:32.53 ID:nOQNVBcc0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ルシアン「さて、次はドワーフの里だな」
ラキ「皆、鍛冶屋なの?」
ネア「そんな事ないわよ? でもまあ、建築と鍛冶屋くらいね…」
ルシアン「城とか、民家は全部ドワーフの仕事だな」
ラキ「凄いね…釣り竿とかも作ってくれるかな?」
ルシアン「まだ釣りしたかったのか…まあ、今度行こうぜ」
ネア「ラキは釣りが好きなの?」
ラキ「やった事は無いけど、プロテアは自然でいっぱいだし川は綺麗だから泳いだりとかもしたい」
75: 2013/01/16(水) 01:48:34.84 ID:nOQNVBcc0
ネア「てっきり退屈だと思ってたけど…気に入った?」
ラキ「うん、なんか落ち着くんだ。向こうに居た頃はこんな気持ちになったこと無い」
ネア「そっか…(そりゃ、追われて逃げて…だもんね……)」
ルシアン「なあ…ラキ、向こう側ってどうなってんだ?」
ラキ「汚い、何かどろどろしてる。戦争とかするし……建物とかはそんなに変わらないけど…こっちの方が良い」
ネア「戦争!? 人間同士で?(なる程、どろどろ…か)」
ルシアン「武器はどうだ?」
ラキ「火を着けるとドカンってなるやつと、最近は火を着けて弾を飛ばすやつが出てきた」
ルシアン「爆弾か…弾を飛ばすってのは大砲か?」
ラキ「違う、手で持つやつ」
ルシアン「小型化させた様な物か…まっ、関係ねえか」
ネア「物騒ね…見つからなくて良かったわ……」
ラキ「だから…プロテアに来れて良かった」
ルシアン「ははっ!! そりゃ良かった!!」
ネア「ふふっ、あっ、そろそろ着くわね」
76: 2013/01/16(水) 01:51:48.16 ID:nOQNVBcc0
【ドワーフの里】
ラキ「…大工さんばっかりだね」
ネア「家屋の修繕とか、冬に備えて木々を囲ったりするのよ。プロテアはかなり雪が降るからね」
ラキ「雪か…あっ、エルフも居るよ?」
ルシアン「ああ、剣の手入れに来てんだろうな」
ラキ「何で騎士には女性エルフが多いの?」
ルシアン「いや、男の騎士も居るんだがエルフは大半は医師になる。それに大昔から女王に仕えるのは女騎士と決まってるみたいでな」
ラキ「へぇ…そうなんだ」
「よっ!! 元気か?」
ルシアン「おおっ!! ウォルトじゃねえか、大工仕事はどうだ?」
ウォルト「最近は新築が少なくてな……それよりさっき」
77: 2013/01/16(水) 01:54:22.59 ID:nOQNVBcc0
ラキ「あっ、男の騎士が居る」
ネア「げっ、タリウス…ルシアン、アイツこっちに来るよ?」
ウォルト「タリウスが来たって言おうと思ったんだが…」
ルシアン「はぁ…どうせ嫌味だろ。暇な奴だぜ」
如何にも『騎士』と言う感のする屈強で厳つい男。
背にはルシアンの剣よりもさらに大きな剣を背負っている。
ルシアン「なんだよ?」
タリウス「ふん、お前に用は無い。其処の外界者に用がある」
ラキ「なに?」
タリウス「ふん、一丁前に剣なんぞ持ちやがって。随分弱々しい剣だな」
78: 2013/01/16(水) 01:58:10.30 ID:nOQNVBcc0
ラキ「弱くない、ガルトの父さんが造ってくれた…気合いの入った剣だから」
ウォルト「……!!(コイツがラキか…)」
タリウス「なっ!? 何故、お前の様な外界者にイザーク殿が……あの方の目も随分曇ったのだな」
ウォルト「お、おい、言い過ぎ」
ネア「ぐちぐち五月蝿い!! 自分がイザークさんに剣を造って貰えなかったからって嫉妬!? それに外界者じゃなくてラキよ!! そんなんだからイザークさんもアンタに剣を作らなかったのよ!!」
バシィッ!! ネア「きゃあっ!!」
決して軽くは無い平手打ち、
ネアは吹き飛ばされ地面に倒れ込む。
タリウス「黙れ!! 掟破りが偉そうに…女王も私情を挟むとは甘い、まだまだ子供だな」
ルシアン「……おいウォルト、ネアをエルフの里に連れて行ってくれ」
ウォルト「あ、ああ…分かった!!」
79: 2013/01/16(水) 02:03:24.28 ID:nOQNVBcc0
ラキ「何で…ネアを叩いたの?」
いつの間にか周囲に人集りが出来ており、
皆が皆、苦々しい顔をしている。
タリウスの性格は以前から周知の事なのだろう。
そんな中でタリウスは続ける…
タリウス「罪人を叩いて何が悪い、処刑に比べれば軽いものだろう? 外界者、本来はお前も処刑されて当然なのだからな?」
ラキ「…………(なんだろう? この人の言葉を聞く度に胸が…もやもやする…苦しい…のかな?)」
タリウス「まあ、掟破りの小娘には外界者が似合いだ。特効薬を作ったらしいが、『病を蔓延させた』のも案外其処の小」
ラキ「それ以上喋るな、お前の言葉でネアを汚すな」
ルシアン「……………」
タリウス「ふん、元々薄汚い小娘だ。これ以上どう汚すと言うんだ?」
80: 2013/01/16(水) 02:06:12.84 ID:nOQNVBcc0
ラキ「黙れ!!!」
ラキ「お前は汚い…プロテアに居るべきじゃない…お前には『外界』が良く似合ってる」
タリウス「な、何だとッ!? この外界者がッ!! 今、此処で斬られても文句は言えんぞ!!!」
ラキ「ネアの言う通り…ぐちぐち五月蝿い。僕を本当に斬るなら早く剣を抜け、『外界者』」
タリウス「き、貴様ァァァ!!!」
愚か者は剣を抜き、ラキの頭上に振り下ろす。
ドズッ!! ラキ「ぐぅっ……」
ラキは身を捩り狙いは逸らしたが、
大剣はラキの右肩口から真っ直ぐに入り、半ば『埋まっている』。
『キャアアアアア!!!』
絶叫……それに応じる様に、
『うわぁぁ!! 斬りやがった!! キャアアッ!!』
人集りは瞬時に散った。
81: 2013/01/16(水) 02:10:48.86 ID:nOQNVBcc0
ラキ「……ろ…す」
タリウス「な…に…?」
ラキ「ネアを汚した……お前を頃す」
ラキは右肩に埋まった剣を『右手』で跳ね上げ、
タリウスの股間を思い切り蹴り上げる。
ズドッ!! タリウス「うぎゃああッ!!」
膝を付き悶絶するタリウスに、
ドッゴォッ!!と大凡の子供に出せる力を遥かに超えた拳が衝突する。
タリウス「げェブハァッ!!!」
ラキ「お前は…ネアを汚した…」
ルシアン「ラキ」
ラキ「ルシアン、どうしたの?」
いつもと変わらぬ表情…傷は塞がっているものの、
衣服は紅く染まっている。
殺人的なその拳も……
82: 2013/01/16(水) 02:17:00.62 ID:nOQNVBcc0
ルシアン「ネアは何て言った?」
ラキ「……………」
ルシアン「それで良い…エルフの里に行け、ネアが待ってる。オレは後から行く」
ラキ「分かった」
…………
……
ルシアン「さて…タリウス、お前は『女王を侮辱』した挙げ句『無抵抗』の子供を斬った。何か言う事はあるか?」
タリウス「だ、だずげ」
ルシアン「なに言ってるか分かんねえよ」
ザンッ!!! タリウス「げゃっ…」
吹き出す鮮血、
その直後タリウスの身体は光の粒となり天へ昇る。
ルシアン「良いよな、幾ら汚ねえ生き方しても氏ねば光の粒だ……」
ルシアン「ラキ…男の騎士が少ねえのはな、こういう馬鹿の所為で『こういう事』が起こるからさ」
ルシアン「さて、オレも行くか…」
86: 2013/01/17(木) 01:22:54.39 ID:/FJ1NpsI0
【プロテア・追記】
プロテアに於ける氏の概念や事柄は外界とは異なる。
プロテアに住む者達の場合、遺体は残らない。
何故かは不明だが、プロテアの氏者の魂は光の粒となり自然に還ると言われている。
その魂は、土や木・草花に至る全てに活力を与え、彼等は自然に生かされる。
氏者は自然を活かし、プロテアの民は自然に生かされる。
結界内だけでは? と考えた者も居たらしいが外界で氏んだ者が居ない為、真偽不明。
あくまで伝説に過ぎないが、
その昔、罪人の魂が大岩に宿り人々を次々と襲ったと言う…
その為か、プロテアでは如何なる罪人でも礼節を持って弔い・墓を建て、女王自身も魂の浄化を祈る。
此もまたプロテアと外界の違いである。
#2
91: 2013/01/19(土) 02:15:51.39 ID:fVxdM5jK0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
【エルフの里】
ラキ「着いた…あっ、ウォルト」
ウォルト「お、おいっ!! 血塗れじゃねえか!? お前もパルマ婆さんの所に」
ラキ「ネアは、ネアは大丈夫なの?」
ウォルト「あ、ああ、大丈夫だ(右肩からバッサリいかれてる…だが傷が無い。コイツは…)」
ラキ「僕もそこに行く」
ウォルト「分かった…だけど着替えてからだ。そんなもん見たら、ネアがまたぶっ倒れちまう」
ラキ「そっか、分かった」
…………
……
パルマ「ネア…大丈夫かい?」
ネア「うん、もう平気だよ。ありがとうパルマさん」
パルマ「いいさ、ネアが薬を完成させなけりゃ私も氏んでたからね…ありがとうよ」
コンコンッ…
パルマ「お入りなさい」
ガチャ…パタン…
ラキ「ネア…大丈夫?」
ネア「うん、もう平気。あれ? ラキ…服…」
ラキ「そっか、良かった。服は血が付いたから着替えた」
ネア「…そう…なんだ……」
ラキ「ネア、僕は頃してないよ?」
92: 2013/01/19(土) 02:17:48.00 ID:fVxdM5jK0
ネア「……そう(ラキ…そうじゃないの。私はラキに傷付いて欲しくない…まだ一週間しか経ってないけどラキは変わってきてる。
笑顔も見せてくれた…プロテアを好きだと言った…良い方向に向かってたのに)」
パルマ「この坊やがイザークを助けたラキかい?」
ネア「うん…」
ラキ「よろしく、パルマ」
パルマ「ええ、よろしく坊や。それとネア…」
ネア「なに、パルマさん?」
パルマ「思った事は言葉にして伝えなさい」
ネア「……!! うん、そうだよね…」
ラキ「どうしたの?」
ネア「ラキ、少し話したい事あるの。外に出ましょう」
93: 2013/01/19(土) 02:22:51.33 ID:fVxdM5jK0
ラキ「分かった。パルマ、ありがとう」
パルマ「ふふっ、いいんだよ…ほら、行っといで」
ネア「うん、ありがとうパルマさん。またね」
ガチャ…パタン…
パルマ「ネア、その坊やは大丈夫だよ。お前の気持ちは必ず伝わるよ…」
…………
……
ネア「えっと…そうだ、あそこに座りましょ?」
ラキ「うん」
……………
……
ネア「そう…タリウスがそんな事を…ラキは平気? 傷は治ってるけど出血は…」
ラキ「慣れてるから大丈夫。でも…」
ネア「どうしたの?」
ラキ「あんな気持ちになったのは初めてなんだ。
あいつがネアに酷い事を言った時、ネアが叩かれた時…胸がもやもやして、凄く……嫌な感じだった」
ネア「そっか…ラキ、ごめんね」
ラキ「なんでネアが謝るの? ネアは何も悪くない」
ネア「違うの…ラキはプロテアを綺麗だって、好きだって言ってくれた。
なのに…ラキが言ってた『どろどろ』を見せちゃったから」
ラキ「大丈夫…向こう側でも沢山痛い事・嫌な事はあったから。
でも、ネアやルシアンみたいな人は居なかった…ネアは僕を助けてくれた、ルシアンは会ったその日に僕を家に住ませてくれた」
ネア「…うん」
ラキ「だからネアが叩かれた時、あいつがネアに酷い事を言った時は殺そうと思った」
ネア「……そう」
ネア「それにね? ネアが痛いと僕も痛くなるんだ…あいつに斬られた時よりも…確かに痛かった」
ネア「………(ラキは理解出来てない、でも感じたんだ。
自分で言うのもなんだけど、その……私が傷付けられるのは嫌だと、そして傷付けられた者の痛みを…)」
ラキ「ネア、顔真っ赤だよ…大丈夫?」
94: 2013/01/19(土) 02:29:25.90 ID:fVxdM5jK0
ネア「だ、大丈夫!! 私は大丈夫…うん…」
ラキ「そっか、あのね?」
ネア「うん? どうしたの?」
ラキ「ネアも好きだよ」
そう言って柔らかに微笑む…それはネアにとって
ある意味では凄まじい破壊力を秘めた兵器に違いなかった。
ネア「えっ…!? そ、そうっ!? あ、うぅ……
(まあ可愛い…って違う!! なによ今の笑顔は!! しかも…好きって言ったわよね!?)」
ラキ「ネア? 顔抑えてるけど、まだ痛いの?」
ネア「ち、違うの!! 大丈夫よ…私は大丈夫…大丈夫だから」
ラキ「そっか、でもルシアン遅いね…何してるんだろ?」
95: 2013/01/19(土) 02:31:08.54 ID:fVxdM5jK0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ルシアン「『女王への侮辱』及び『傷害』『殺人未遂』以上の罪でタリウスを処刑した」
セシリア「そうですか……分かりました。ネアは無事ですか?」
ルシアン「ウォルトにエルフの里、パルマ婆さんの所に運ばせた」
セシリア「そう…なら良かった」
ルシアン「それと、タリウスの奴は以前から騎士である事を鼻に掛けていたんだが、両親を病で亡くしてからは恐喝紛いの事もしていたそうだ…」
セシリア「そうですか…騎士の不始末は私が裁かなければならないのに。ルシアン、申し訳ありません」
ルシアン「いいさ…オレにはコレくらいしか出来ねえからな。それより!!」
セシリア「急に何です?」
ルシアン「いやあ、預かった者としてはダメな話しなんだが。
敢えてタリウスとラキのやり取りを見てたんだよ」
セシリア「ルシアン…」
ルシアン「いや!! いつでも止めれたから大丈夫だ」
セシリア「それなら尚更でしょう…何故、止めなかったの?」
96: 2013/01/19(土) 02:32:34.92 ID:fVxdM5jK0
ルシアン「まあ聞けよ、タリウスの野郎がネアに暴言を吐いて」
セシリア「…!! ネアに何て言ったの!?」
ルシアン「セシリア…最後まで聞いてくれ」
セシリア「取り乱しました…続けて下さい」
ルシアン「……そしたらよ、ラキが怒ったんだ!! しかも怒鳴り声まで上げて!!」
セシリア「想像出来ませんね…まだ一週間とは言え変化しているのでしょうか?」
ルシアン「そうだな、何よりネアの存在がデカい。
これから沢山の奴と触れ合えばもっと変わって行く筈だ」
セシリア「嬉しそうね? ルシアンがそんなに喜ぶ所をみるのは初めてかも知れないわ」
ルシアン「嬉しくもなるさ、一週間前…最初に出会ったラキは『生きながら氏んでる』そんな感じだった。
それは此処に来る前からだったんだろうが今は違う…色んな物に興味を持ってる。
一度だけだか笑顔も見せた、感情を出す様になってきてるんだ」
セシリア「そう、あの子が笑顔を…いつか、些細な事で笑顔になれる様になれれば良いわね…」
ルシアン「ああ、そうだな…エルフの里に二人を待たせてある。今から連れて来る」
セシリア「ネアに無理はさせないで…私は明日でも大丈夫だから」
ルシアン「良いのか? ネアもセシリアに会いたがってたぜ?」
セシリア「ホント!? あっ…コホン…じゃあ、日が暮れる前に頼みます」
ルシアン「全く、はいはい…分かりましたよ」
97: 2013/01/19(土) 02:40:14.45 ID:fVxdM5jK0
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ラキ「くぅ…くぅ…ぅん」
ネア「寝ちゃった…仕方ないよね、6日振りに起きたらあんな事起きたんだもの…疲れたよね?」
ネアの手が自然とラキの頭を撫でる…
さらさらと指通りの良い髪に子供らしい寝顔。
自分が外界から連れてきた不思議な少年…
5日前は『頃す』と『会いに来た』を同じ表情で言う少年だった。
けれど先程、ネアを好きだと言った少年は…
確かに、『笑って』いたのだ。
ネア「…………」
ラキ「くぅ…くぅ…」
ネア「(ありがとう…ラキ…)」
ラキ「うぅ…あ…ネア、おはよう」
ネア「ふふっ…おはよう、城には行けそう?」
ラキ「うん…行ける……」
ネア「大丈夫? 眠そうだけど」
98: 2013/01/19(土) 02:41:42.38 ID:fVxdM5jK0
ラキ「気合いで何とかする」
ネア「あははっ、何それ?」
ラキ「ガルトが教えてくれた」
ネア「全く…無理しちゃダメよ?」
ラキ「分かった。あっ、ルシアンだ」
ルシアン「よっ、待たせたな。セシリアが待ってるし行こうぜ」
ネア「アンタね…待たせて置いてゴメンも言えないの?」
ルシアン「いやぁ、膝枕か…良いねえ…邪魔しちゃ悪いと起きるまで待ってたん
ネア「このッ!!」
ルシアン「だぎゃッ!!」
ネアの蹴りはルシアンの股間を捉えた。
ルシアン「お、お前…そ、れは…反則…だろ…」
膝を付きうずくまっている、効果は抜群のようだ…
ネア「ラキ!! 行きましょ!!」
ラキ「うん、分かった」
ルシアン「ま、待てって…お、おい」
ネア「パルマさんに頭でも見て貰ったら!? きっと悪性の腫瘍があるに違いないわ!!」
99: 2013/01/19(土) 02:53:17.16 ID:fVxdM5jK0
…………
……
ルシアン「普通あそこまでやるか? ラキもネアには気を付けろよ」
ラキ「ねえ、ルシアン」
ルシアン「あん? どうした?」
ラキ「もうやめちまえよ」
ルシアン「何をだよ!? 流行ってんのかそれ!?」
ネア「あははっ!! ラキにまでっ!! あははっ!!」
ルシアン「どこで覚えたんだよ…全く…」
ラキ「ハンクが使ってた、こういう時に言うんじゃないの?」
ネア「あー可笑しい…ラキは言われた事とかは全部覚えてるみたいよ? ガルトからも気合いを教えて貰ったんだって」
ルシアン「そうか…これからは付き合う奴を選ばないとダメだな」
ネア「その筆頭がアンタよ…」
ルシアン「おい…」
ネア「ねえ…タリウスは…」
ルシアン「処刑されたよ。女王への侮辱と、殺人未遂でな…」
ネア「そう…」
ラキ「ネア、悲しいの?」
ネア「……嫌な奴でも氏んだって聞くとね。それに私があんな事言ったのが…」
ラキ「ネアは悪くない」
ネア「ラキ……」
ルシアン「ネア、タリウスは罪を犯し処刑された。
そこには納得も理解も必要無い…『タリウス』の罪なんだ。
セシリアだって辛い筈だ、タリウスは騎士だった…色々思う所もあるだろう」
ネア「……そうだね…私、早くセシリアに会いたい」
ラキ「ネア、大丈夫?」
ネア「うん、もう大丈夫」
ルシアン「ほら、行くぞ。セシリアに日が暮れる前に来いって言われてるからな」
100: 2013/01/19(土) 02:57:57.05 ID:fVxdM5jK0
…………
……
ルシアン「よし、間に合ったな」
ネア「さっ、早く行きましょ」
ラキ「うん。あ、カレンだ…久しぶり」
カレン「ラキ君…久しぶり。ルシアンさんとネアもお久しぶりですね。
あの……少しラキ君と話しがしたいんですが…」
ルシアン「いいぜ、じゃあオレ達は先に行ってる」
カレン「ありがとうございます」
ネア「ラキ、話しが終わったら来なさいよ?」
ラキ「うん、分かった」
カレン「話しが終わったら私が連れて行きます」
ルシアン「ああ、頼む」
ネア「カレン、よろしくね?」
カレン「うん、大丈夫…」
101: 2013/01/19(土) 02:59:19.44 ID:fVxdM5jK0
…………
……
カレン「ラキ君…この前はごめんなさい」
ラキ「剣で刺した時のこと?」
カレン「うっ…はい…」
ラキ「痛かったけど、慣れてるから平気」
カレン「そう…なんだ…」
ラキ「うん、だから謝らなくてもいい」
カレン「…ッ!! 違うの、私は…私は、ラキ君を傷付けた自分が許せなくて……だから謝ったの…」
ラキ「そっか、じゃあ…カレンが許せないカレンを僕が許すよ」
カレン「えっ……ラキ君は…不思議な子だね……ありがとう」
ラキ「ありがとう?」
102: 2013/01/19(土) 03:00:31.25 ID:fVxdM5jK0
カレン「ふふっ、分かんない?」
ラキ「うん、分かんない」
カレン「それでもいいの、いつか分かると思うから。あれ? ラキ君、剣なんて持ってたんだ?」
ラキ「うん、ガルトの父さんが僕に造ってくれた」
カレン「イザークさんが!? 凄い…凄いよラキ君!! イザークさんの造った剣を持ってる人なんて十人も居ないんだから!!」
ラキ「そう言えば…ルシアンもネアもそんな事言ってた」
カレン「あんまり凄さが伝わってないね…」
ラキ「じゃあ、どれくらい凄いの?」
カレン「うーん……そうだね、魚が喋るくらい…かな?」
ラキ「そんなに凄いんだ…」
カレン「うん、しかもラキ君が持ってる剣は皆が持ってる剣とは何もかもが違うから、もっと凄いよ?」
ラキ「魚が五匹喋るくらい凄い?」
カレン「うーん、最早…百匹以上だよ!!」
ラキ「そ…そんなに……」
103: 2013/01/19(土) 03:04:13.29 ID:fVxdM5jK0
カレン「ふふっ…ちょっとびっくりしたね、凄さが伝わった?」
ラキ「うん、良く分かった。凄く大事にする」
カレン「良かった。ラキ君、あの…お願いがあるんだけど」
ラキ「なに?」
カレン「その剣を抜いて見せてくれないかな?」
ラキ「うん、良いよ」
カレン「ありがとう!!」
ラキは背中に差したままでは鞘から抜刀出来ない為、
背から外した後両手に持ち、ゆっくりと鞘から刃を抜き放つ。
そして露わになった刃を目にしたカレンは、
その刀身に目を奪われ息を呑んだ…
カレン「…すごい……綺麗…」
カルア「ああ…綺麗な剣だな…」
カレン「うん…って、あれっ!? 姉さん!? いつの間に…」
104: 2013/01/19(土) 03:06:05.54 ID:fVxdM5jK0
ラキ「カルア、久しぶり」
カルア「ああ、久しぶりだな。もう身体は良いのか?」
ラキ「うん、大丈夫」
カレン「なんで姉さペチンッ
カレン「痛いっ…なんで頭叩くの?」
カルア「此処は城内だぞ? 鞘から刃を抜かせるなど言語道断だ」
カレン「姉さんだって綺麗って言ってたくせに…」
カルア「ん? 何だと?」
カレン「……ごめんなさい」
ラキ「カルアはカレンの姉さんだったんだ…コレはもう仕舞っていい?」
カルア「ああ、……ラキ…だったな」
ラキ「うん、名前はルシアンが付けてくれた」
カルア「そうか…ラキ、その剣はイザーク殿が?」
ラキ「うん、まだ御礼言ってないけど」
105: 2013/01/19(土) 03:08:41.35 ID:fVxdM5jK0
カレン「あのね、姉さんの剣もイザークさんが造ったんだよ」
ラキ「カルアは凄いな…魚何匹くらい?」
カルア「は? 魚?」
カレン「うーん、八十匹…くらいかな…」
ラキ「凄い…でも、カルアの剣は細いね。なんで?」
カルア「うむ…私の剣は斬ると言うより、突く事に特化した剣だからな。刀身は柔らかく変則的な攻撃が出来る」
ラキ「分かんないから今度見せて」
カルア「ほぉ…剣術に興味があるのか?」
カレン「何で剣術が?」
ラキ「カレンに首を斬られそうになった時のルシアンが凄かったから」
カレン「そ、そうなんだ。なんか…複雑だけど…」
カルア「因みにルシアンの剣もイザーク殿が造ったんだぞ?」
ラキ「そうなんだ、魚何匹?」
カレン「あの剣はねー、もう犬が『にゃー』って鳴くくらい凄いよ…
剣の強度、そしてあのシンプルな美しさ…
何より凄いのは、あの剣を片手で振れるルシアンさんだけどね」
ラキ「…そんなに…ルシアンは本当に凄いんだな……」
106: 2013/01/19(土) 03:11:40.31 ID:fVxdM5jK0
カルア「何だか分からんが、私の剣の評価は低い様だな…カレン」
カレン「違うよ!! 姉さんのだってイザークさんが考え出したんだし…
剣を『しならせる』為に全く新しい技法を編み出したんだよ?」
カルア「分かった分かった……だがルシアン殿の剣は確かに別格だな……
刃だけではなく、柄から切っ先に至る全てが特殊な鉱石から造られている」
ラキ「へぇ…今度ちゃんと見せて貰うよ。あっ…そろそろ行かないと」
カレン「うあっ!! そうだったね、んじゃ行こっか」
カルア「何処に行くんだ?」
カレン「女王陛下の所だよ?」
カルア「そうか、ならば私も行こう…待たせるといけない。急ぐぞ」
ラキ「分かった」
116: 2013/01/22(火) 02:45:52.72 ID:7YC636Qx0
…………
……
ネア「セシリア…ごめんね、私が挑発する様な事を言ったから…」
セシリア「過ぎた事だから仕方ないよ…タリウスは本当の意味での『騎士』ではなかった。
それに、私の事も気に入らない様な感は前からあったから…」
ネア「そっか…やっぱり女王は辛い?」
セシリア「うん…でもね? カルアや他の騎士も頑張ってくれてるから大丈夫」
ネア「カルアが女王側近騎士になったんだっけ?」
セシリア「うん、皆を指揮して冬に備えて各里の食料備蓄調査とか…たまに私に剣術の稽古…
他にも沢山…カルアには本当に感謝してる」
ネア「カルアは真面目だからね、カレンはちょっと抜けてるけど…」
セシリア「カレンは凄く優しいよ? カルアは私に女王として接するけどカレンは柔らかいって言うか…温かい感じかな」
117: 2013/01/22(火) 02:48:17.73 ID:7YC636Qx0
ネア「あははっ、あの二人は凄く良いバランスだよね」
セシリア「ふふっ、うん。あのね、ネア」
ネア「どうしたの?」
セシリア「今日は泊まっていかない? やっぱり少し…」
ネア「勿論!! 私もセシリアと居たいし」
セシリア「良かった…ありがとう、ネア…」
ネア「沢山話そうね?」
セシリア「うんっ!!」
女王では無くセシリアとして居られる…
それは若くして女王になった彼女の何よりの幸福なのだろう。
118: 2013/01/22(火) 02:52:44.62 ID:7YC636Qx0
…………
……
ラキ「あっ、ルシアン、何してるの?」
ルシアン「オレが居ると邪魔だからな…」
カレン「ルシアンさんは、こういう時は空気読めるのになあ…ジーナさん、かわいそう…」
カルア「カレン、いきなり失礼だぞ…確かにルシアン殿は多少、あれだが…」
ルシアン「あのなぁカルア、お前も大概失礼だからな?」
ラキ「入らないの?」
ルシアン「そうだな、多分ネアは今日城に泊まるだろう。挨拶だけして帰るか…」
コンコンッ!!
ルシアン『セシリア!! ラキが来たから入って良いか!?』
セシリア「はい、どうぞ」
ガチャ…パタン
119: 2013/01/22(火) 02:54:54.78 ID:7YC636Qx0
カルア「女王陛下、失礼致します」
カレン「女王様、お邪魔します」
ラキ「セシリア、久しぶり」
セシリア「お久しぶりです、ラキ」
ネア「お邪魔しますって…それより遅かったわね?」
ラキ「カレンから剣の凄さを教えてもらった」
ネア「ラキの剣の?」
ラキ「カルアとルシアンのも教えてもらったよ、犬がにゃーって鳴くくらい凄いんだ」
ルシアン「カレンも相変わらずだな…」
ネア「ぷっ…なにそれ? カレンが教えたの?」
ラキ「うん、僕の剣は魚百匹喋るくらいなんだって」
カルア「カレン…お前は…」
カレン「姉さん、分かってるから…あと恥ずかしいから追求しないで」
セシリア「カレンらしい例えですね」
カレン「えへへ…ありがとうございます!!」
ネア「(でも、ラキが『にゃー』って可愛いわね…)」
120: 2013/01/22(火) 02:57:38.92 ID:7YC636Qx0
ルシアン「カレンは剣の話し好きだからな…そんなんじゃ男が出来ないぞ?」
カレン「ルシアンさんには言われたくないです…」
ルシアン「お前さぁ…今日酷くないか?」
カルア「ルシアン殿、私もカレンに同意だ。ルシアン殿は少し考えた方が良い」
ネア「ルシアンに言われちゃお終いよね」
ルシアン「…オレなにかしたか?」
セシリア「ラキ、身体はどうですか?」
ラキ「大丈夫、少し眠いけど」
セシリア「ふふっ、そう…
(前とはまるで印象が違う、変わるものなのね…ルシアンが喜ぶのも分かる気がする)」
ネア「ルシアン、私は城に泊まってくから」
ルシアン「まあそんな気はしてた。今日、ライルに顔合わせは済ませたんだが…
ドワーフ・エルフの里はまだだ…残りは後日だな」
セシリア「そうですか…良ければ騎士が馬車で送りますが?」
ルシアン「おっ、そうか。じゃあ頼む」
121: 2013/01/22(火) 03:02:28.29 ID:7YC636Qx0
セシリア「ではカレン、他の騎士に馬車の用意をさせて」
カレン「えっ、私も馬車くらい」
カルア「カレン…この前もそう言って田んぼに落ちただろう。早く行け」
カレン「はーい…女王様、お邪魔しました」
ネア「……もう何も言わないわ」
ガチャ…パタン
ルシアン「じゃあ、オレとラキも外で待つか…」
ネア「ラキ、またね」
ラキ「うん、今日はありがとう」
セシリア「……(表情が柔らかい)」
カルア「…(短い間で変わるものだな…)」
ネア「うんっ!!」
ラキ「セシリア、カルア、またね」
セシリア「ええ、また…」
カルア「機会があれば来い、剣術を教えてやる」
ルシアン「なんだ? カルアにも教えて貰うのか?」
ラキ「うん、見てみたいから」
ルシアン「まあオレとカルアじゃ全然違うから良いかもな…まっ、取り敢えず帰るわ」
ラキ「みんなまたね」
ガチャ…パタン
122: 2013/01/22(火) 03:04:47.82 ID:7YC636Qx0
…………
……
カルア「ネア、ラキは…その、変わった…のか?」
ネア「変わったって言うより学んでるんだと思う…
ラキは私が叩かれた時、嫌な気持ちになった…そう言ってた」
カルア「……自らに与えられた痛みでは無く、友人や大切な者が傷付く辛さを知った…と、言う事か」
ネア「それは…分からない。ラキにとって私が何なのか? なんてラキに聞いても多分分からないと思うから……」
セシリア「それに…私達はラキが外界で何をしていたかは詳しくは知らない。
けれど、何も知らないまま追われ…頃し…生き延びて来た。
誰から何を教えられる事もなく、一人きりで…そして、頃す事すら日常の一部になっていたのね…」
ネア「でも、それでも…ラキは此処が好きだと言ってくれた。
根拠は無いけど此処に居れば変わっていく…私はそう思う」
カルア「そうだな…私は私が出来る事をする。
それに、ルシアン殿やネアにばかり頼るのは駄目だと…カレンが教えてくれた」
123: 2013/01/22(火) 03:07:52.59 ID:7YC636Qx0
セシリア「ええ…そうね。それに…ついこの前までプロテアの皆は病に怯え、皆が大切な人を亡くした。
あの子は見かけよりずっと幼くて、無垢で純粋で無知…
今はまだ何も出来ない私が言えた事では無いけれど…此処『プロテア女王』としてラキを含め皆を守りたい」
カルア「病の脅威が去ってもプロテアの状況は良いとは言えない。
皆が尽力し、受け継ぎ、生きて行かなければならないな…」
ネア「まっ、考えても暗くなるだけだし出来る事をしましょ?
カルアは真面目過ぎ、少しは力を抜いたら?」
カルア「そ、そうか?」
セシリア「ふふっ、少しカレンを見習ったら? ああ言う柔らかさはカルアには必要だわ」
カルア「柔らかさ…ですか?」
セシリア「今日は三人で寝ましょうか? カルアも一緒にね」
カルア「そんな…!! 私は」
セシリア「カルア、私は貴方を友人だと思って居ます。
友人に側に居て欲しいと言って何かおかしいですか?」
カルア「女王陛下…」
124: 2013/01/22(火) 03:13:00.27 ID:7YC636Qx0
セシリア「カルア、セシリアと呼んで」
カルア「……分かった。セシリア、私は女王陛下もセシリアも支えよう」
ネア「全く…堅いんだから…早くセシリアの部屋に行きましょ?」
カルア「これでもかなり勇気を振り絞ったんだが……」
セシリア「カレンは二人の時セシリアって呼ぶわよ?」
カルア「なっ!? カレンッ…!! 明日は早朝から剣術訓練だな」
ネア「あーあ、かわいそうに……」
ーーーーー
ーーー
ーー
ルシアン「飯も食ったし寝るか」
ラキ「うん」
ルシアン「イザークのオッサンに礼を言うのは明日だな」
ラキ「分かった」
ルシアン「それと…ラキ、何故タリウスとやり合った時剣を使わなかった?」
ラキ「なんか嫌だったから」
125: 2013/01/22(火) 03:16:29.68 ID:7YC636Qx0
ルシアン「ははっ、そうか!! それをオッサンに聞かせたら喜ぶな」
ラキ「なんで? 剣を使った方が嬉しいんじゃないの?」
ルシアン「いや、そう言う事じゃねえ…剣を振るう者の意志の問題だ」
ラキ「分かんない、どういうこと?」
ルシアン「そうだな…ネアを傷付ける為に剣を使う、ネアを守る為に剣を使う…これは同じか?」
ラキ「違う、と思う」
ルシアン「だろ? 『志』の為に剣を振るう者、『大切な何か』の為に剣を振るう者。
タリウスの様な傷付ける為の剣を振るう者。まあ…他にも色々ある」
ラキ「剣を振るう者の意志…」
ルシアン「いつか分かる。ラキ、いいか……『強くなれ』」
ラキ「ルシアン、強いってどんな風に?」
ルシアン「それも自分で見つけるんだ」
ラキ「そっか、分かった」
ルシアン「んじゃ、寝るか」
ラキ「うん、おやすみなさい」
ルシアン「ああ、おやすみ」
131: 2013/01/23(水) 01:38:48.43 ID:ZhC3hXpy0
ラキ「(強いって何だろう? 沢山刺されたりしたし、沢山頃した…
けどルシアンが言ってるのとは違う…それに僕に大切な物なんて…)」
ーネア『もう、誰かが氏ぬのは見たくないから』ー
ーネア『うん、行ってらっしゃい』ー
ーネア『あははっ、何それ?』ー
ラキ「(なんか…ネアが居なったりするのは嫌だな、笑って欲しい。
あと、痛くなって欲しくないな。僕が痛くなってもネアには……
でもネアは物じゃないし…やっぱり分かんないな)」
ルシアン「(強くなれ…か、柄にもない事言っちまったな)」
ーラキ『強いってどんな風に?』ー
ルシアン「(それはお前が見つけるんだ…見て・感じて・時に傷付いて。
そしたら後は心で決めろ…オレが出来るのはその手助けと力の使い方だけだ)」
132: 2013/01/23(水) 01:44:39.74 ID:ZhC3hXpy0
……………
……
イネス「私、どうしたら良いかな?」
ジーナ「知るかよ、弁当一緒に食ってるだけ良いじゃねえか…後は…」
イネス「ん? なに?」
ジーナ「お、押し倒すとか…どうだ?」
イネス「……ジーナはルシアンに出来る?」
ジーナ「は、はあ? ア、アタシは別に良いんだよ!! 今はイネスの話しだろ!?」
イネス「はぁ…伝わらないのかなぁ」
ジーナ「好きだって言えば? そしたら流石に気付くだろ」
イネス「でも、ライルは里長の仕事で大変そうだし…手伝えるだけでも今は良いかなって思うんだ」
ジーナ「答え出てんなら聞くなよな…」
イネス「ふふっ、ごめんね。ジーナはどうなの? 上手く行ってる?」
ジーナ「うっ…はぁ…何かさ、アイツの前だと素直になれなくて…早く嫁に行けとか言われるし」
イネス「その馬鹿はちゃんと殴った?」
ジーナ「うん…何で気付いてくんねえのかな…優しくしなきゃダメなのか? でも柄じゃないし…」
イネス「ライルより厄介よね…確かに顔は良いけど」
ジーナ「顔だけじゃねえよ…優しいし、強いし、何かさ…アイツと一緒に居たいんだよ」
イネス「うん、私もライル見てるとそんな気持ちになる」
ジーナ「そっか…自分でも良く分かんねえけど、コイツなんだなって…そう思うんだ」
イネス「ジーナ…一緒に頑張ろう?」
ジーナ「うん…」
ハンク「(…よし……今度ルシアンを殴ろう)」
133: 2013/01/23(水) 01:51:47.28 ID:ZhC3hXpy0
………………
……
イザーク「おい、ガルト!!」
ガルト「どうした? また湿布の張り替えか!?」
イザーク「違う、ラキの話だ…」
ガルト「ああ…ドワーフの里での話しか。ラキの奴タリウスに斬られたんだってな」
イザーク「それもそうだが。ラキの奴、剣抜かなかったみてえなんだ」
ガルト「何だよ? 親父はラキにタリウスを斬って欲しかったのか?」
イザーク「違うわ馬鹿たれ!! ラキはつくづく不思議な奴だと思ってな…」
ガルト「ま、ラキならその内来るだろ。それに、持ってたって事は気に入ったって事だろ!?」
イザーク「ま、そうだな!! あれはルシアンのアホに作った剣と同等、オレの最高傑作だ!! まあ、他のも全部最高傑作だがな、ガハハ!!」
ガルト「(何にしても、親父が元気になって良かったぜ!! ありがとな、ラキ…
今日は居なかったし…明日行ってみるか、礼言わないとな)」
134: 2013/01/23(水) 01:59:16.58 ID:ZhC3hXpy0
ー翌日・早朝ー
チュンチュン…
ラキ「朝だ、ルシアンは…」
ルシアン「うぅん…んぁ…」
ラキ「寝てる…」
ールシアン『ラキ、いいか……強くなれ』ー
ーカルア『剣術を教えてやる』ー
ラキ「城に行こう」
ルシアン「うぅ…んがっ…」
ラキ「…………」
ガチャ…
ラキ「ルシアン、『行って来ます』」
パタン…
ラキ「すぅ…はぁぁ(空気も綺麗だ…頭がすっきりする)」
ラキ「よし、行こう」
135: 2013/01/23(水) 02:00:46.74 ID:ZhC3hXpy0
……………
……
騎士「ラキ!! こんな早くに何の用だ!?」
ラキ「だれ? なんで僕の名前を…」
騎士「私はルファ!! カルアさんの一番弟子にして」
ラキ「ルファは元気だね
(ネアと同じくらいの女の子…獣人の騎士も居るんだ…)」
ルファ「最後まで言わせてよ……」
ラキ「今からカルアに剣術教えて貰うから後で聞く」
ルファ「なにっ!? ならば私を倒してからにして貰おうか!!」
ラキ「ねえ、ルファ」
ルファ「なになに?」
ラキ「めんどくさい」
ルファ「良く言われる!! さあ修練場に行こうっ!!」
136: 2013/01/23(水) 02:02:08.40 ID:ZhC3hXpy0
ラキ「カルアは?」
ルファ「うーん、今日はまだ見て無いなぁ…何時もなら修練場に居る筈だよ?」
ラキ「じゃあ行く」
ルファ「ラキはさぁ、私なんて眼中に無い感じ?」
ラキ「違う、ルファが強いのは分かる…気がする」
ルファ「ふぅん…なんで?」
ラキ「剣を二本持ってるから」
ルファ「それだけかよー」
ラキ「ちゃんと『両方振れる』から持ってるんでしょ?」
ルファ「おっ!! ラキは面白いな!!」
ラキ「ルファ、早く行こう」
ルファ「よっしゃ、んじゃ行こう!!」
137: 2013/01/23(水) 02:08:40.30 ID:ZhC3hXpy0
………………
……
ルファ「まだ来てないみたい….」
ラキ「じゃあ、待ってる」
ルファ「うーん、暇だから勝負しようよ!!」
ラキ「うん、分かった」
ルファ「じゃあ、コレ使って」
渡されたのは柔軟性のある枝か何かを何本か纏め、
その上から布を被せて作られた物だった。
ラキ「コレはなに?」
ルファ「練習様の柔剣ってヤツだ。叩かれりゃ痛いけど大怪我はしない!!」
ラキ「ふぅん…」
ルファ「じゃあ始めるよ? 先に当てた方が勝ち!!」
ラキ「分かった。あ、ルファは二本じゃないの?」
ルファ「えっ? 見たいの!?」
ラキ「うん、気になる。見せて?」
ルファ「そっかぁ…へへっ、全くラキは仕方ないなぁ…」
内心、嬉しくて仕方ないのだろう…
尻尾がぶんぶんと暴れている。
138: 2013/01/23(水) 02:10:43.24 ID:ZhC3hXpy0
ルファは柔剣を両手に持ち腰を落とし、両手をだらりと下げ前傾を取る。
ルファ「じゃあ、行っくぞー!!」
ダンッ!!と床を蹴り凄まじい速さでラキに向かう。
ラキ「……(速いなあ)」
ルファ「おりゃ!!」
一つはラキの右脇腹を、一つは首を狙う。
ラキ「(ルファはやっぱり強い)」
パシィッ…!! と乾いた音が響く。
ルファ「うわっ!? 凄いね!!」
右脇腹に迫る柔剣は右手に持った柔剣で弾き。
もう一方はラキから一歩踏み込み、
ルファの右手首を左手で掴む事で防いだ。
139: 2013/01/23(水) 02:12:54.81 ID:ZhC3hXpy0
ルファ「タリウスに斬られたって聞いたけど、なんで私のは防げるの?
私の剣の方がタリウスより断然速いのにさ」
ラキ「あの時は頭がごちゃごちゃしてた」
ルファ「そっか、そりゃ仕方ない…なっ!!」
ルファはその場で跳び、ラキの顎目掛けて右膝を繰り出し…
ラキ「うん、仕方ない」
ラキはルファが空中に跳んだ瞬間、右の上段蹴りを放つ。
ルファ「わっ!? 凄い凄い!!」
喜色満面の笑みを浮かべながら畳んだ右脚を伸ばし、
ラキの左肩に脚を掛け後方に大きく跳んだ…
ルファ「よっ…って速っ!!」
だが、着地する前にラキは其処まで迫っていた。
そして、着地寸前の脚に向けて…
パシィッ!! ルファ「痛っ、あーあ、やられちゃった…」
そう言ってルファが肩を落とすと、
元気一杯だった尻尾もへにゃりとうなだれてしまった。
140: 2013/01/23(水) 02:16:55.95 ID:ZhC3hXpy0
ラキ「ルファは強いよ?」
ルファ「でも負けちゃったよ…ラキは何かやってたの?」
ラキ「ううん。沢山痛い事されたから、どうやったら相手が嫌か分かるだけ」
ルファ「ふぅん…普通脚なんて狙わないしね。悔しいなぁ…」
ラキ「もう一回、勝負する?」
ルファ「うんっ!! 今度は負けないよー!!」
ラキ「僕から行くよ?」
ダンッ!! 柔剣を右手に持ち、ルファの様に低く構えた前傾突進、
ルファ「やっぱ速い、ねっ!!」
直進してきたラキを横に躱し即座に後頭部へ振り下ろす。
バッチィッ!! ルファ「やっぱラキは凄いよ!!」
だが、ラキの『後ろから』遅れ出た柔剣に弾かれる。
柔剣を引き擦り突進していたラキは、
後方に引いた柔剣を大きな円を描く様に前方に繰り出す事でルファの柔剣を弾いた。
ルファにはラキの背中から柔剣が『生えた』ように見えただろう。
141: 2013/01/23(水) 02:19:42.75 ID:ZhC3hXpy0
ラキ「ルファも速い」
ラキは前傾から体制を立て直し、
間髪入れずルファの左脇腹を凪払いに行く。
ルファ「でも…」
ルファはそれをバシッ!!と右の柔剣で上から叩き落とし、
左の柔剣をラキの左肩へ…
バシッ!! ラキ「あっ…」
ルファ「まだまだですなぁー」
ラキ「負けた」
ルファ「速いし力も強い…でも、剣術はそれだけじゃないのさ…」
ラキ「へぇ、なる程…ルファは凄いな」
ルファ「はっはっは!! もっと褒めたまえ!!」
へにゃりとなっていた尻尾は元気を取り戻しブンブンと暴れている…
142: 2013/01/23(水) 02:21:15.25 ID:ZhC3hXpy0
ラキ「あっ、カルアだ。見てたのかな?」
ルファ「…………(まじかよ…)」
カルア「ルファ!! 素人に勝って何が『剣術はそれだけじゃないのさ』だ!!
しかも素人相手に二刀使うとは何事だ!!」
ルファ「うぅ…ごめんなさい」
頭と共に尻尾も垂れる…
ラキ「カルア、僕から頼んだんだ。ルファは悪くないよ?」
カルア「知っているさ、見てたからな」
ルファ「見てたなら止めてくれれば良かったのに…」
カルア「なんだ?」
ルファ「何でもありません!!」
ラキ「カレンは? 一緒じゃないの?」
ルファ「(上手い!! ラキ様は分かってるね!!)」
143: 2013/01/23(水) 02:24:03.04 ID:ZhC3hXpy0
カルア「あぁ…カレンならネアとセシ…んっ、女王陛下と寝てるんでな」
ラキ「そっか、カルアはルファより強い?」
ルファ「(えぇ!? このタイミングでその質問はいかんでしょ!!)」
カルア「なんだ、気になるのか?」
カルアは口元を歪めニヤリと笑っている。
その笑みの意味を知らず…
ルファ「…………(やめてやめてやめてやめて…)」
ラキ「うん、気になる」
無垢な天使・兼悪魔はそう言ったのだった…
カルア「ふふっ、そうかそうか…」
ルファ「(ぎゃああああっ!! も、もうダメだ…やられる…)」
カルア「ルファ、ラキがどうしても見たいらしい、二刀で良い…構えろ」
ルファ「……はい」
カルア「返事ッ!!」
ルファ「はいっ!!」
144: 2013/01/23(水) 02:27:58.92 ID:ZhC3hXpy0
……………
……
ルファ「ふぅ…行きます!!」
カルア「来い…」
ダンッ!! 先ほどと同じ構えから直進…だが先より速い。
対するカルアは片手持ちで柔剣を前に突き出した半身の右構え。
ルファ「(あれが邪魔なんだよねー、でも低く入れば!!)」
ルファ「うりゃッ!!」
左膝と右脇腹を同時に狙う、
ルファ「(届くっ!!)」
確信、相手に自分の剣が触れると言うイメージ…
しかし、カルアは柔剣が身体に触れるか否かの『その瞬間』一歩引いて躱し…
ルファの二刀が空を切り交差した後、瞬時に間合いを詰め軽くルファの額を突いた。
トンッ…
ルファ「またかぁ…
(距離感が凄いんだよなぁ…『見切り』ってやつ? まあ、コレで済んで良かった)」
145: 2013/01/23(水) 02:47:17.32 ID:+MTxTsnx0
カルア「ルファ、何故脚を狙った?」
ルファ「ラキの真似をしてみました。脚と胴を同時に狙えば動揺して当たるか、後退するかな…と、思って。
後退した直後に突きを合わせられましたけど」
カルア「それはいい。だが、ルファ」
ルファ「はい!!」
カルア「二度の攻撃で止まるな。それと相手に『届いた』と思った時こそ油断するな。
三、四、その先まで剣を振れ、折角二刀使えるんだからな。
それにいつも直線的過ぎる…緩急を付けろ、勝負を急ぐな」
ルファ「はい!! 分かりました!!」
カルア「ラキ」
ラキ「なに?」
カルア「先のルファとの試合は見ていたが振りが大きい。
細かく、鋭く振ってみる事を心掛けると良い」
ラキ「うん、分かった」
カルア「まあ、まだ始めてもいないから仕方な」
ヒュッ!! ビョゥッ!!
ラキ「(こうかな? こっちかな?)」
ラキは振るう、ただ思うままに…
まるで全身が剣の為に動いているような、そして舞踏のような動き。
ルファ「わぁ…綺麗な動きするなぁ」
カルア「………!!
(普通は腕で力強く振ろうと思い身体が硬くなるものだが…ルファの言う通り美しい。
柔らかく、流れる様な…『どう振れば最短か』分かっているようだ…)」
150: 2013/01/24(木) 00:31:01.98 ID:q5t60JqM0
ー番外編ー
ルシアン「は? 感情の起伏が激しくなる薬?」
ネア「そう、コレをラキに飲ませて欲しいの。
効果はすぐ切れるから大丈夫よ」
ルシアン「そんなもん飲ませてどうすんだよ?」
ネア「ラキは通算二回しか笑っていない!! 他の人にもラキの笑顔を見せてあげたいの!!」
ルシアン「仕方ねえな…分かったよ。じゃあ呼んでくるわ」
ネア「ありがとう…よろしくね」
……………
……
ラキ「コレを飲めばいいの?」
ルシアン「ああ、ネアの頼みなんだ」
ラキ「そっか、分かった」ゴクッ
ルシアン「ラキ、どうだ?」
ラキ「うっ…」
151: 2013/01/24(木) 00:33:57.40 ID:q5t60JqM0
ルシアン「お、おい!! 大丈夫か?」
ラキ「う、うん。大丈夫…」
ルシアン「(で、こっから一芝居打てば良いんだよな?)」
ルシアン「なあ…ラキ」
ラキ「なに?」
ルシアン「ネアが…ネアが…」
ラキ「ネアがどうしたの?」
ルシアン「ネアが……ハンクに攫われた…」
ラキ「…!! 行って来ます!!」
ダッ!!
ルシアン「これでいいのか?」
ネア「ええ、後は脚本通りに…行くわよ!!」
ルシアン「はいはい(ハンク…氏ぬなよ…)」
152: 2013/01/24(木) 00:35:56.78 ID:q5t60JqM0
……………
……
ラキ「ハンク!! ネアを何処に隠した!? 答えろ!!」
ハンク「はあ? 何の事やら、オレは知らねえなぁ…
(何でオレまでこんな芝居に付き合わなきゃならないんだよ)」
ラキ「仕方ない…」
ハンク「待て待て待て!! 剣を抜くな!!」
ジーナ「ラキ!! やめな!!」
ラキ「ジーナ…でも、ネアが…う、うぅっ…」
ハンク「(ラキが、ラキが泣きやがった!! ネアの薬は本物か!!)」
ジーナ「ネアは…もう……」
ハンク「(ん? ちょっと待て、何かおかしくねえか?)」
ラキ「うぅっ……ひっぐ…どうしたの?」
カレン「落ち着いて聞いて…ラキ君」
ハンク「お前はどっから出てきたんだよ」
153: 2013/01/24(木) 00:39:54.30 ID:q5t60JqM0
ラキ「グスッ……分かった」
カレン「ネアは……ハンクに…」
ラキ「えっ? なに? 早く教えてよ!!」
ジーナ「ハンクは……ネアを食っちまったのさ……」
ハンク「おい、聞いてねえぞ!! 誰だ!? こんな脚本考えた奴は!!」
ラキ「そ、そんな…ネアが…食べ…られた?」
カルア「ああ、ハンクは前からしきりに『ネアを食べたい』とボヤいてたからな…」
ハンク「カルアさん!? アンタなに言ってんの!?」
セシリア「うぅっ…ネア…ネアァァッ!!」
ガルト「ネアァァァッ!!!」
ハンク「女王様…失礼ですが言わせて貰います。馬鹿じゃねえの?
それとガルト、お前はうるせえだけだよ」
154: 2013/01/24(木) 00:43:22.38 ID:q5t60JqM0
ラキ「ハンク…お前を頃す」
ジーナ「やっちまいな!!」
ハンク「お前がやられちまえ!!」
ラキ「……ハンク、覚悟しろ」
ハンク「お、おい、洒落にならねえって!! 目がマジだぞコイツ!!」
ラキはゆっくりと剣を構える……
ハンク「げっ!! ラキ…いいか…落ち着け、コレはお芝居だ」
ラキ「ネアの……ネアの仇!!」
ハンク「聞いてねえ!! おい、や、やめろぉぉ!!」
『待ちなさい!!』
155: 2013/01/24(木) 00:45:55.02 ID:q5t60JqM0
ネア「ラキ!! 私は生きてるわ!!」
ラキ「ネア!! 生きてたの!? 食べられたんじゃ…」
ネア「ぎりぎりの所でアレしたから大丈夫よ…アレしなかったら危なかったわ」
ハンク「ふざけんな、アレってなんだよ」
ラキ「そっか…良かった。本当に、良かったよ」
ハンク「納得すんな、馬鹿かお前」
ネアの無事を喜び、安堵した後……
ーラキは…笑ったー
ハンク「オレ、外界行くわ」
ー完ー
156: 2013/01/24(木) 00:49:55.20 ID:q5t60JqM0
何故か書きたくなって書いてしまいました…
全く本筋に関係ない話しで申し訳ないです。
見てくれている方、レスくれた方、
ありがとうございました!!
158: 2013/01/26(土) 01:00:02.13 ID:lgM8p7J/0
>>157 ありがとうございます!!
159: 2013/01/26(土) 01:10:11.17 ID:lgM8p7J/0
【プロテア・追記】
異なる種族の結婚・出産について。
男性ー女性ー子供
エルフ・獣人=獣人
獣人・エルフ
160: 2013/01/26(土) 01:19:15.86 ID:lgM8p7J/0
【プロテア・追記】
異なる種族の結婚・出産について。
男性ー女性ー子供
エルフ・獣人=獣人
獣人・エルフ
161: 2013/01/26(土) 01:21:24.83 ID:lgM8p7J/0
【プロテア・追記】
異なる種族の結婚・出産について。
男性ー女性ー子供
エルフ・獣人ー獣人
獣人・エルフーエルフ
エルフ・ドワーフードワーフ
ドワーフ・エルフーエルフ
獣人・ドワーフードワーフ
ドワーフ・獣人ー獣人
と、この様に生まれる可能性が高いが必ずしも上記の通りではない。
その為、産まれてくる子供の種族は母親によって決まると言って良い。
両種族の特徴・エルフの耳に獣人の尻尾などを持つ者は存在せず、あくまでもどちらかの種族として生まれる。
何故かは未だに不明。
今では全く珍しい事ではないが、大昔は同種族以外の結婚は認められてはいなかった。
その当時、異なる種族の子供は純血(同種族同士の子供)に劣り、尚且つ異形の種が生まれると言われていた。
だが、そんな症例は過去・現在通して見ても一切無い。
#3
162: 2013/01/26(土) 01:28:28.41 ID:lgM8p7J/0
【プロテア・追記】
ー騎士・剣士についてー
三種族がプロテアに移り住んだ頃、一人のエルフが女王(戦を放棄し移り住むと決まった時には既に男性は少く、女性と子供が殆どだった)になる。
プロテア初代女王は現在では失われた『魔法』を使えたと言う、
結界は彼女が考案したものと見て良いだろう。
その後、彼女は皆を見事に纏め上げ、内々で万が一にも争いが起きぬ様に各種族ごとの里を作る。
ドワーフには建築・鍛冶等を、
エルフには医学等を、
獣人には狩猟・農業等を任せた。
こうして三種族にはそれぞれ役割が与えられ、皆が支え合い平穏に暮らしていた。
そして皆が家を持ち、象徴となる城も建ちプロテアの基盤が成ったのだが、
ある冬、食料の備蓄も足りず餓氏者も出た最悪の年…遂に争いが起きてしまう。
この時、暴徒を鎮圧し女王及び民を守った者達、それが騎士の始まりである。
女王は以前から武力を持つ事を嫌っていたが、この件を境に女王及び民を守る『騎士』を設立。
この時の騎士は殆どが女性エルフであった、現在もエルフが多いのはその名残と思われる。
女王は『もしも』の場合(最悪の事態ー結界の破壊)をも考慮し設立した…とも言われる。
だが、そもそもプロテアでは滅多に争いが起きない為、
民の抱える問題を解決する者達、と言う認識が定着する。
それでも訓練等は現在もされており、有事の際は何時でも動ける。
現在はエルフだけでは無く、獣人・ドワーフの騎士も居る。
ー剣士ー
剣士の称号を持つ者は騎士を指揮する権限を持ち、剣士の称号を名乗れるのは一人。
何故、称号が剣士なのかは不明。
次代の剣士は当代の剣士と女王が選ぶ。
とは言え、別段地位が高くなる訳では無く騎士の長と言う認識が正しい。
#4
168: 2013/01/28(月) 00:53:48.88 ID:DxT4Y1FK0
>>167 ありがとうございます!!
では投下します。
169: 2013/01/28(月) 00:55:34.66 ID:DxT4Y1FK0
カレン「ネア!! 起きて!!」
ネア「なによぉ…まだ早いでしょ?」
カレン「女王様と姉さんは起きて行っちゃったよ?」
ネア「私は女王様じゃないから寝る…」
カレン「そっか、私はラキ君が修練場に来てるって聞いたから見てくるね」
ネア「いい朝ね…散歩したくなるわ」
カレン「そうだね…じゃあ、『お散歩』に行こう」
ネア「カレンって意地悪いわね」
カレン「ラキ君の話しするとネアをからかえるから、楽しくて楽しくて…」
ネア「はぁ…もう慣れたから良いわよ。えっと…修練場だっけ?」
カルア「うん、ルファと二人で修練場に行ったみたいだよ?」
170: 2013/01/28(月) 00:56:53.33 ID:DxT4Y1FK0
ネア「なんでルファが出てくんのよ…」
カルア「それは分かんないけど、ラキ君は姉さんに会いに来たんじゃないかな?」
ネア「ああ…昨日剣術教えるとか言ってたし、早速来たわけね。
ラキは真剣な気持ちで来てるだろうし…邪魔にならない様にしないと」
カレン「あっ、そっか…そうだよね」
ネア「ま、行きましょ?」
カレン「うん!!」
…………………
……
カレン「あっ、姉さん。入らないの?」
カルア「いや、ルファとラキがこれから試合…と言うより遊ぶようだ。
少し見てみたくてな…」
ネア「遊ぶって言ったって…ルファの奴、柔剣二本持ったわよ?」
カルア「あの馬鹿、ラキに乗せられたな…まあ、危なくなったら止めるさ」
カレン「ねえ、始めるみたいだよ?」
171: 2013/01/28(月) 01:12:31.47 ID:DxT4Y1FK0
ールファ『じゃあ、行っくぞー!!』ー
ネア「ねえ、あれ本気じゃない?」
カレン「危ない!! 姉さん、止めな」
ールファ『わっ!? 凄いね!!』ー
カレン「止めた……あんなに簡単に」
カルア「初見で二刀を止めるとは…『慣れて』いるのか…」
カレン「慣れるって…」
カレン「刃を向けられる事にさ。私は…そう感じるよ」
ネア「そうね……普通は緊張したりするもの。でも、ラキにはそれが全く無いわ」
カレン「ラキ君……」
カルア「カレン、見ていろ…」
カレン「速い…ルファの動きに付いて行けるなんて」
ネア「蹴ったり跳ねたり…あれが剣術なの?」
カレン「ルファの闘い方が独特なんだよ…でも、二人とも楽しそう…」
172: 2013/01/28(月) 01:18:02.33 ID:DxT4Y1FK0
ールファ「うわっ!? 凄い凄い!!」ー
ネア「よくあんな奇抜な動き出来るわね…」
カレン「ラキ君、基本を覚えれば凄く強くなると思う」
カレン「そうだな、ああ言った類は見る者が見れば楽しいかも知れんが。動きが大き過ぎる……その為…」
ネア「あっ…ラキが勝った」
カレン「隙が生まれるんだよね」
カルア「全く……ルファの奴は遊び過ぎだ。ん?」
ネア「ふふっ、もう一度やるみたい」
……………
……
カルア「終わったか…私は修練場に入る、カレンとネアはどうする?」
ネア「私は場違いだから…此処から見てるわ」
カレン「私も場違いだから此処で
ペチンッ カレン「痛っ…何で叩くの?」
カルア「カレン…お前も騎士だろうが。
まあ良い…カレンは女王陛下の側に付いていろ」
カレン「はっ!! 了解しました!!」
カルア「良し。では、宜しく頼む」
173: 2013/01/28(月) 01:19:46.70 ID:DxT4Y1FK0
………………
……
ネア「全く、急に真面目になるんだから…じゃあ、私も何かしようかな」
カレン「ラキ君におにぎり作ってあげたら? あんなに動いたらお腹空くと思うし」
ネア「え? うん…そうね、そうするわ。ありがとう、カレン」
カレン「いえいえ。じゃあ、ネアが厨房借りれる様に頼んでおくから」
老人「おや…ネアにカレン。久しぶりじゃな」
カレン「ファーガスさん!? 何故此処に?」
ネア「家の場所忘れたとかじゃないの? とうとうボケた?」
ファーガス「儂はまだ呆けとらんわい!! 全く、パルマの奴が儂の若い頃の話しなどネアに聞かせるから…」
ネア「小さい頃から無茶ばっかりで、怪我すると直ぐ私に泣きついて…好きな子に振られては泣」
ファーガス「わ、分かった分かった!! もうよい…パルマめ、覚えとれ…」
174: 2013/01/28(月) 01:20:38.68 ID:DxT4Y1FK0
カレン「あははっ、流石のファーガスさんもパルマさんには適いませんね」
ファーガス「ふんっ、奴は幼い頃からちーっとも変わらんな!!」
ネア「って、パルマさんも言ってたわよ」
カレン「ぷっ…ふふっ…」
ファーガス「ぬぅ……あっ、そうじゃった。
儂は修練場に行くんじゃ、いかんいかん」
ネア「はいはい、行ってらっしゃい」
ファーガス「ネアよ…パルマに似ると結婚出来んぞ?」
カレン「あれ? ファーガスさんも独身ですよね?」
ファーガス「……では、さらばじゃ!!」
ダッ!! と、老人とは思えぬ速さで駆けていく…
ネア「言い返せなくて逃げたわね」
カレン「うん、逃げたね…」
175: 2013/01/28(月) 01:24:57.94 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「全く…やれやれじゃ。さて、行くかの」
ガラッ…パタン…
ファーガス「ん?……ほぉ、面白い子が居るのぉ。剣と話しとるようじゃ」
ルファ「ファーガス爺さんだ!! どうしたの!?」
カルア「ファーガス殿…!! お久しぶりです」
ファーガス「うむ、ルファは相変わらず元気じゃな。カルアも元気そうで何よりじゃ」
カルア「しかし、何故此処へ?」
ファーガス「急に足が向いてな、理由は無い。じゃが来てみれば…あれじゃ……」
視線の先には、表情は変わらぬものの楽しそうに剣を振るう少年が居た。
ラキ「(もう少し力を抜いて…)」
斬り下ろしと同時、剣は即座に辿った軌道を戻り跳ね上がる…
そこから突きを放ち、一歩踏み込んで横凪。
拙い部分はあるが流れるままに剣を振るう。
176: 2013/01/28(月) 01:29:43.52 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「あの子がルシアンの引き取った子か、名前は……なんじゃったかな?」
ルファ「ラキだよー」
ファーガス「そうじゃったな。どれ、折角会えたんじゃ、ドワーフの里長としてイザークの件の礼をせねばな」
ルファ「ラキ、ちょっと来てー!!」
ラキ「なに? あ、はじめまして…僕はラキ」
ファーガス「儂の名はファーガスじゃ、ドワーフの里長をやっとる。
イザークの件…里長として礼を言う、ありがとう」
ラキ「薬作ったのはネアだから。
それにガルトの父さんが剣を造ってくれたから、お礼はいい」
ファーガス「ほぉ、イザークが…」
ルファ「いいなぁ!! 私も頼んだら造ってくれるかな!?」
カルア「ルファ、お前の剣は特注品だ。欲張るな」
ルファ「カルアさんだって特注品に満足出来ずにイザークさんに…」
カルア「ん? なんだ?」
ルファ「何でもありません!!」
ラキ「なんでファーガスは此処に来たの? 散歩?」
ファーガス「ははっ、まあ…そんなもんじゃな」
カルア「ラキ、ファーガス殿はプロテア随一の騎士だったんだ。
ルシアン殿に剣術を教えたのはファーガス殿なんだぞ?」
177: 2013/01/28(月) 01:31:04.68 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「ルシアンか……久しく会っとらんなぁ…挨拶くらい来いっちゅうんじゃ」
ラキ「……ファーガスはルシアンより強い?」
ファーガス「今でも儂が勝つ」
カルア「……ッ!!」
ただの言葉、声を張った訳でもない。
だがそれだけで空気がビリビリと震えるような威圧感。
それは先程までの温厚な老人から吹き出したとは思えぬ凄まじいものだった。
ファーガス「いかんいかん…年老いても抜け切らんなぁ」
カルア「(齢六十、老いて尚これ程の威圧感……この方は、やはり強い)」
ルファ「ファーガス爺さんは剣の話しになると怖いな?」
ファーガス「ルファよ、男なんぞ幾ら年老いても根は変わらんのだ。
カルア、驚かせて済まんな」
カルア「いえ、『剣士・ファーガス』が健在で何よりです」
ファーガス「当代の剣士はルシアンじゃ、今の儂はドワーフの里長じゃよ」
178: 2013/01/28(月) 01:32:17.46 ID:DxT4Y1FK0
ラキ「ファーガス」
ファーガス「ん? なんじゃ?」
ラキ「僕と勝負してください」
カルア「ラキ!? なにを…!?」
ファーガス「何故じゃ? 何故儂と?」
ラキ「ファーガスは強い、だから剣が見たい」
ファーガス「ふむ……
(探求心…話しを聞くに、あまり感情を出さぬ少年だと思っておったが……)」
ファーガス「どうやら…そうでもなさそうじゃな
(力への渇望かそれとも…それに瞳が綺麗過ぎる…少々、危ういな)」
少年が向ける眼差しは真っ直ぐだった。
その奥深くには何が宿り、何を欲しているのか…
179: 2013/01/28(月) 01:34:14.18 ID:DxT4Y1FK0
ルファ「ん? ファーガス爺さん、どうしたの?」
カルア「ファーガス殿、申し訳ありません。ラキはま」
ファーガス「カルア、よい。ラキよ」
ラキ「なに?」
ファーガス「お主は礼はいらんと言った、だが何かしら礼はせねばなるまい。
お主のその願いを受け、それを礼としよう」
ラキ「ありがとう、ファーガス。
(ルシアンに剣を教えた人と闘えば強くなれるかな…)」
ールシアン『ラキ、いいか…強くなれ』ー
ラキ「(大切な物は、まだ分からないけど…)」
ファーガス「カルア、柔剣を…」
カルア「はっ!! これをお使い下さい」
ファーガス「久々じゃなぁ…では、ルファが試合開始の合図をしておくれ」
ルファ「うん、分かった!!」
180: 2013/01/28(月) 01:39:04.77 ID:DxT4Y1FK0
カルア「(何故ファーガス殿は受けたのだ? 確かにラキには光る物があるが…素人に変わりは無い。
それに、後にも先にも教えを受けたのはルシアン殿のみ。
我々騎士も助言等はされた事はあっても試合した者など居ない、ファーガス殿の中で何が…)」
両者が距離を取る、先程のルファとラキの時の軽々しさは微塵も無い。
修練場は静まり、響くのは床の軋みだけ。
そして……
ルファ「始めっ!!!」
ファーガスの構えは柔剣を背後に隠したような右構え。
カルア「(居合い…)」
ラキは柔剣をだらりと構えたまま動かない。
ファーガス「ラキよ、来ぬのなら……儂から行くぞ」
スッ…
構えはそのままにラキに迫る、
バチィッ!!! ファーガス「(初見で此を止めるか…やはり才がある)」
ファーガスは誰もが届かない、そう思う場所から打ち抜いた。
ドワーフの長い腕だからこそ出来る居合い。
右側頭部を狙ったがラキは受け止めて見せた。
ラキ「(凄く速いし長い、入ってみよう)」
ダンッ!! とファーガス打ち終わりと同時に大きく踏み込み、
空いた鳩尾を突きに行く。
181: 2013/01/28(月) 01:42:11.26 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「ふむ…」
身を捩り躱すと、柄頭をラキの頭上へ振り下ろす、
ラキ「(……?)」
一瞬ピクリと身体を震わせ、
即座にファーガスの右脇をすり抜け距離を取る。
ファーガス「(ほう、これも躱すか…感も良い。先が楽しみじゃな)」
カルア「(視界の外からの攻撃すら躱すのか!?
ラキ…それも『外界での日常』がもたらした物なのか?)」
ラキ「……………」
ファーガス「むっ…」
ラキは先程ファーガスが見せた構えを取る、
ファーガスからすれば挑発行為に見えなくもない。
182: 2013/01/28(月) 01:46:32.42 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「(否…挑発などでは無い。此奴は本気じゃ…)」
ダン!! 踏み込みと共に打ち抜かれた柔剣は下から上への逆袈裟、
ファーガス「(鋭いが…)」
…届かない。
ファーガス「(此で終わりではないのじゃろう?)」
ラキは其処からもう一歩踏み込む。
空を切り、切っ先が天井を向いていた柔剣は描いた軌道を戻りファーガスの左肩へ、
ファーガス「(やはりな…ラキよ、剣が好きか!! 分かるぞ!!)」
バチィッ!! 狙いを予見していたファーガスは難なく防ぐ。
183: 2013/01/28(月) 01:47:26.11 ID:DxT4Y1FK0
ラキ「(やっぱり止められた)」
ファーガス「(久々に面白い、ならば…)」
ズオッ!! ラキの顔面に向けて突きを放つ、
ラキ「……!!」
咄嗟に屈んで躱すが、
ファーガス「(ラキよ、こういうやり方もあるんじゃ)」
突き出された柔剣は戻る事無く、そのまま背中に振り下ろされ、
バチィッ!! ラキ「………」
ルファ「し、勝負ありっ!!」
184: 2013/01/28(月) 01:50:30.45 ID:DxT4Y1FK0
ダンッ!!
カレン「なっ…ラキ!! 試合は終わりだ!! 止まれ!!」
だが、その声はラキには届かない…
ファーガス「(ルシアンに似とる…)」
ラキ「(少し違う、もっと…)」
踏み込みと共に再び居合いを放つ、狙いは右膝。
ファーガス「(懐かしいのぉ…ならば、此はどう防ぐ? 見せてみよ)」
ファーガスは一歩退くと同時に柔剣を振り下ろ…
ラキ「(こうかな)」
ファーガス「むっ!!」
ダンッ!!と、さらに一歩踏み込む。
右膝を狙ったラキの柔剣は突如軌道を変え跳ね上がり、
柔剣の切っ先がファーガスの胸をジリッと掠めた。
185: 2013/01/28(月) 01:52:00.54 ID:DxT4Y1FK0
カルア「なっ…ファーガス殿に…」
ラキ「(今のはいい感じ)」
ルファ「すっげー!!! 剣がビョンッ!!ってなった!!」
ファーガス「(いかんいかん…思い出に浸ってしまった。
此では、またパルマに馬鹿にされてしまうわい)」
カルア「(右膝への居合い斬り、其処から剣を『両手持ち』に切り替え軌道を変えた…
躱すのを見込んでの連撃、剣を持ったばかりの者が出来る動きとは思えん)」
186: 2013/01/28(月) 01:53:05.21 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「ラキよ、楽しいか?」
ラキ「楽しい。ファーガスは? 頭ごちゃごちゃしてるの?」
ファーガス「…いやはや、見抜かれるとは…ラキ、お主は強くなりたいのか?」
ラキ「ルシアンが強くなれって言った、後は剣を振るう者の意志とか言ってた」
ファーガス「ふむ…では、何故強くなりたい? 何故力を求める?」
ラキ「え……(何でだろう? まだ分かんない)」
ファーガス「おっ、隙在りじゃ」
ベチッ…… ラキ「あ…やられた」
ファーガス「ほっほ、儂の勝ちじゃな」
ルファ「えぇー!! ファーガス爺さんズルいよ!!」
ファーガス「勝ちは勝ちじゃ、柔剣でなければ氏んどったぞ?」
187: 2013/01/28(月) 01:56:01.14 ID:DxT4Y1FK0
ルファ「そうだけどさぁ…もっとズバッ!! って感じで勝って欲しかったなぁ…」
カルア「ルファ、今の試合はファーガス殿が先に取っただろう?
本来ならあれで勝負は終わっていたんだ」
ルファ「えぇー、でもつまん」
カルア「返事は?」
ルファ「はいっ!!」
カルア「ファーガス殿、ラキが失礼を…」
ファーガス「(入れおった。この儂に…真剣であれば掠めただけでは済まなかった。
ふふっ、面白い……)」
カルア「あの、ファーガス殿?」
ファーガス「ん? ああ気にせんで良い…ラキには才がある、感も良い…ルシアンを思い出す」
カルア「えっ? ルシアン殿とは型が違いますよ? ラキは流麗と言うか…」
ファーガス「いや、そうではない。瞳が似とるんじゃ…
プロテアでは戦など無い、剣術など意味は無いかも知れん。
じゃが、何時何が起こるか分からん。そんな『何か』を心配をする者は居らんじゃろうが…ルシアンは違った」
188: 2013/01/28(月) 02:00:15.84 ID:DxT4Y1FK0
カルア「なにが違ったのですか?」
ファーガス「力への渇望…執着と言っても良いじゃろう。
あの子にも『それ』がある…だが、ラキは…無垢が故にルシアンより危うい」
カルア「…!! ならばこそ、ラキには師が必要では?」
ファーガス「いや、あの子に師は必要無いじゃろう…この柔剣、素人ならば軽いが故に強く振る。
結果、太刀筋が歪み・軸もぶれる筈…」
カルア「…確かに、私も初めはそうでした」
ファーガス「ラキは剣に教わっておるんじゃ、どう振れば? 握りは? 角度は? その全てをな…」
カルア「ですがラキの場合、剣術より精神面を」
ファーガス「焦るなカルア、人は早々には変わらんよ…
安心せい、ルシアンがおる。奴はいい加減じゃが物事を投げる奴では決してない」
カルア「そう…ですね」
189: 2013/01/28(月) 02:03:30.55 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「病で前女王陛下が亡くなり…これから世代も代わる。
この先プロテアを守るのはセシリアを筆頭とした若者達。
その中にラキも居ればよいと…儂はそう思ったよ」
カルア「私は不安なのです。本来ならば世代交代は自然になされる筈…
ですが病により前女王陛下を始め、重要な役割を持った方々も亡くなりました。
私は役割を全う出来るのか…女王陛下を支える事が出来るのか…」
ファーガス「気負い過ぎるのはお主の悪い癖じゃ。今を見なさい」
カルア「ですが…」
ファーガス「ふむ…では、向こうを見てみなさい」
カルア「えっ?」
ルファ「ラキ、もっかい勝負しようよ!!」
ラキ「お腹空いたからいい」
ルファ「逃げんのかよー?」
ラキ「逃げてない。朝ご飯食べてないからお腹空いてる」
ルファ「えぇー、もう一回くらい良いじゃ」
ガラッ…パタン…
ネア「皆、疲れたでしょ? おにぎりとお茶持ってきたから食べて」
190: 2013/01/28(月) 02:06:06.80 ID:DxT4Y1FK0
ラキ「あ、ネア。おはよう」
ネア「ラキ、おはよう。楽しかった?」
ラキ「うん、楽しかった。ネアが作ってくれたの?」
ネア「う、うん。でも…私、こういうの下手だか…
ラキ「いただきます」モグ
ネア「あっ、ラキ!?」
ラキ「うん、美味しいよ?」
ネア「そ、そう? 良かった…」
ルファ「むっ……」
ネア「ルファ? どうしたの?」
ルファ「何でもない…私も食べる!!」
ファーガス「はははっ!! ああやって生きるのが一番良いんじゃ。
ラキは一人ではない。それはカルア…お主もじゃ」
カルア「……!! はいっ…」
191: 2013/01/28(月) 02:11:24.81 ID:DxT4Y1FK0
今日は此処で投下終了します。
見てくれている方、レスくれた方、
ありがとうございました!!
192: 2013/01/28(月) 02:20:47.20 ID:DxT4Y1FK0
ーーーーーー
ーーー
ー
ルシアン「また居ねえし…ま、どうせ城だろ。でもまあ、良く起きれたもんだな…」
ー昨夜ー
ルシアン「ぅん…便所いこ…ん? ラキ…何処行っ」
ヒュン…ヒュッ…
ルシアン「外からか…なんだ?」
ガチャッ…
ラキ「違う…もっと軽く」
ヒュッ!!
ラキ「こんな感じかな」
ルシアン「(あの剣、余程気に入ったんだな…あ、便所便所)」
193: 2013/01/28(月) 02:22:24.50 ID:DxT4Y1FK0
………………
……
ルシアン「ま、カルアが付いてりゃ何とかなんだろ」
ドンドン!! ガチャ!!
ガルト「ラキは居るか!?」
ルシアン「うるせえっ!! 居ねえよ!!」
ガルト「悪い悪い!! ラキは何処行ったんだ!?」
ルシアン「うるせえっつってんだろ!! はぁ……城だと思うぜ?」
ガルト「そうか、入れ違いになると悪いし待つか…」
ルシアン「お前さ、何で普通に居座れんの?」
ガルト「ルシアンだってこの前家に泊まったろ? 別に良いじゃねえか、なっ!?」
ルシアン「分かった、分かったから静かにしてくれ」
ガルト「おうっ!!」
ルシアン「……………」
194: 2013/01/28(月) 02:24:38.08 ID:DxT4Y1FK0
ーーーーーー
ーーー
ー
ファーガス「ネア、握り飯美味かったぞ。ところでラキ、お主の剣を見せてくれんか?」
ラキ「うん、いいよ。はい」
ファーガス「ふむ……ちょっと下がっていなさい」
ラキ「分かった」
ファーガスは居合いの構えを取る…
ズズ…
カルア「うっ……
(凄まじい…まるで動くことすら禁じられた様な、そんな感覚……)」
ビョウッ!!!と、まるで刃圏に在る全てを斬り伏せるような居合い斬り。
ネア・ルファ『凄い・速ぇ…』
ファーガス「やはり……この剣は居合いに向いておる。
ラキよ、今は無理じゃろうが…いずれ此を自らの物とし、儂に見せてみよ」
195: 2013/01/28(月) 02:25:33.15 ID:DxT4Y1FK0
ラキ「うん、分かった」
カルア「……では、私は各里を巡回して来る」
ルファ「カルアさん!! 巡回は私が行きます!!」
カルア「ん? 珍しいな…分かった、頼んだぞ?」
ルファ「はいっ!! じゃあ、ラキも一緒に行こう?」
ラキ「うん、いいよ。僕もエルフの里長に挨拶しに行くから」
ネア「なら私も行くわ…薬を完成させてから暇だし」
ルファ「ほう…」
ネア「何よ? 私が居たら悪いわけ?」
ルファ「べっつにー」
ネア「そう…ラキ、行きましょ?」
ラキ「うん、分かった」
ガラッ…パタン
ルファ「えっ!? あぁ…もうっ!!」
ガラッ!! バタン!!
196: 2013/01/28(月) 02:33:30.76 ID:DxT4Y1FK0
ファーガス「青春じゃなあ…ウン」
カルア「ファーガス殿、何故…ラキにあそこまで?」
ファーガス「あの子の先が見たいだけじゃ。
それに、あの剣はイザークが儂の為に考案した剣でな…」
カルア「えっ!? ならば何故…ファーガス殿が持っていないのです?」
ファーガス「遅かったんじゃ…完成したのは儂が剣士を退いた後、受け取る事は出来なんだ…
今やあの時よりもかなり改善されとるがな」
カルア「そんな事が……あのですね、剣は美しいのですが少々頼りなく見えると言うか…
かなり前ですが、イザーク殿にその類の剣を勧められ断った者も居たようで…」
ファーガス「ふむ…物騒な例えになるが四・五人を重ねて寝かせる状態して試し斬りでもすれば…
間違い無く全員斬れる、それも刃こぼれ一切せずに」
カルア「なっ!?」
ファーガス「まあ簡単な話し、ルシアンの剣をあの形に凝縮したとでも思えばよい。
間違い無くイザークの最高傑作じゃな」
カルア「あの……今、欲しいとは?」
ファーガス「ははっ!! 確かに欲しい!! じゃがな…
こんな老いぼれが持つより、未来ある若者が持った方が剣も喜ぶじゃろ」
197: 2013/01/28(月) 02:35:12.29 ID:DxT4Y1FK0
少し微妙ですがやはりこの辺にします。
ありがとうございました!!
212: 2013/01/31(木) 23:24:01.27 ID:cFhFSreo0
カレン「セシリア……此処に居たんだ」
セシリア「カレン…この花畑はお母さんが造った場所だから…」
カレン「そっか、綺麗だよね…」
セシリア「良く一緒に水やりしたり草毟りしたり…
ふふっ…懐かしいなあ……」
カレン「皆のお母さんみたいな人だったね…」
セシリア「ええ、皆に優しかった。お母さんも、お父さんも……」
カレン「そうだったね……」
セシリア「あ……」
風が吹いた…
柔らかく、ふわりと包み込むような……優しい風。
セシリア「(お母さん、私は……)」
213: 2013/01/31(木) 23:29:14.97 ID:cFhFSreo0
彼女は女王、プロテアで唯一の存在。
だが同時に、まだ十七歳の娘でしかない。
セシリア「(もう私は両親に甘える事も、相談する事も出来ない。
でも辛いのは…親を亡くしたのは私だけじゃない。
だからこそ私は『女王』として、強く・気高く生きなければならない。
だけど分かんないよ……お母さん、お父さん、『女王』ってなに?)」
セシリア「…ふぅっ……あ、そう言えばファーガスさん来てたね」
カレン「セシリアも会ったんだ? でもファーガスさんって元気だよね? もう七十歳近いのに……」
セシリア「えっ!? ファーガスさんって六十歳じゃないの?」
カレン「ネアに聞いた話しによると、そう言い張ってるだけみたいだよ?
パルマさんが情報源だから間違いない」
セシリア「ふふっ、じゃあ間違いないわね。
ファーガスさん…変な所で意地張るんだから」
カレン「若者に舐められたくないとかなんとか…ファーガスさんって子供っぽいよね?」
セシリア「考え方がちょっとね? そんなの全然気にする必要ないのに…」
214: 2013/01/31(木) 23:30:42.75 ID:cFhFSreo0
カレン「あ、あのね……セシリア、あんまり無理しちゃ駄目だよ?
姉さんもそういう所あるけど、一つの事に囚われると大切な事を忘れちゃうから…」
セシリア「…っ!! ねえ、カレン…」
カレン「どうしたの?」
セシリア「ありがとう…」
カレン「いいよ、友達だもん。辛いなら私が女王様になろっか?」
セシリア「ふふっ、カレンが女王様かぁ…カルアが苦労しそうだね?」
カレン「うっ……ずっと怒られてばかりは嫌だなあ。
『カレン!! 自覚が足りん!!』とか…」
セシリア「あははっ、似てる似てる!! あんまり笑わせないでよ、もうっ…」
カレン「ふふっ、ごめんごめん。
(私には姉さんみたいに仕事でセシリアの負担を軽くしたり出来ない。
だから…せめてセシリアがいつでも笑顔でいられるようにしたい。
『今は』それだけ出来れば良い……)」
215: 2013/01/31(木) 23:32:39.78 ID:cFhFSreo0
ーーーーーー
ーーー
ー
ルファ「何でネアまで来るんだよー」
ネア「今は暇だから。それにアンタ…エルフの里長の事知らないわけ?」
ルファ「ニコラさんだろ? そのくらい知ってるって」
ネア「そのニコラさんは私の叔母さんなの。母さんの妹ね」
ルファ「えっ!? そうなのか!?」
ネア「皆知ってるわよ…そんなだからカルアに怒られるのよ」
ルファ「うっ…」
ラキ「へぇ…ネアと似てる?」
ネア「いえ、似てないわ。少し変わってるし」
ルファ「ネアも変わってるよ?」
216: 2013/01/31(木) 23:34:27.83 ID:cFhFSreo0
ネア「うっさいわね…ラキ、気を付けてね? その為に付いて来たんだから」
ラキ「分かった。気を付ける」
ルファ「ラキ、何かされちゃうのか?」
ネア「まあ…着けば分かるわ」
………………
……
ルファ「此処だよな?」
ネア「ええ……入りましょう」
ラキ「……(何に気を付ければ良いんだろう?)」
コンコンッ…
『はい、どうぞー』
ガチャ…パタン…
ネア「ニコラさん、久しぶり」
ニコラ「あら、ネアじゃない!! 薬の完成おめでとう…お疲れ様…」
ネア「うん…ありがとう」
ルファ「ニコラさん、こんにちは!!」
ニコラ「ルファちゃんも来てくれたの? 嬉しいわ」
ルファ「ニコラさん、もう『ちゃん』は止めてくれよ。私もネアと同い年なんだからさあ…」
ニコラ「可愛くて良いのに…あら? そっちの子は…」
217: 2013/01/31(木) 23:36:47.86 ID:cFhFSreo0
ニコラ「可愛いっ!!」
ギュッ!! ラキ「…ネア、どうしよう」
ネア「ニコラさん!! ラキから離れて!!」
ニコラ「嫌だ!! 何この子…可愛すぎるわ…家で育てたい…」
ネア「ニコラ『叔母さん』…離れて」
ニコラ「あ? 『ニコラさん』だろ?」
ルファ「あっ、離れた…」
ラキ「……(避けれなかった…それに変な感じだ。
痛くないし温かかった…こんなの初めてだな)」
ネア「はぁ…他の二人には挨拶済んだみたいだから、エルフの里長にも挨拶しに来たのよ」
ニコラ「ラキ君、今日から家に住まない? ルシアンの所なんかより美味しい料理食べられるわよ?」
ネア「話し聞きなさいよ」
ラキ「いい、僕はルシアンの家好きだから」
218: 2013/01/31(木) 23:39:11.64 ID:cFhFSreo0
ニコラ「そう…なら、仕方ないわね」
ネア「騎士の見てる前で縄なんか出さないで、捕まるわよ?」
ニコラ「…まあ良いわ。取り敢えずこっちへ来て座って頂戴、二人に話したい事もあるから」
ルファ「ネアの言う通り変わってんなー」
ネア「お茶に変な薬混ぜないでね」
ニコラ「混ぜないわよ。全く、ネアったら変なこと言わないで…」
ネア「目を見て言ってよ…不安になるから」
ラキ「(似てなくもない、気がする)」
…………………
……
ルファ「で、話ってなんだ?」
ニコラ「例の病で両親を亡くした子供が居るのは知ってるわね?」
ネア「ええ、知ってるわ。今は一時的に各里の集会所に身を寄せてるって話しね」
ルファ「カルアさんは孤児院を建てるって言ってたけど」
ラキ「(『親』お父さん、お母さんのこと…
僕には最初からいない、いないと困るのかな? 分かんないな)」
219: 2013/01/31(木) 23:41:39.03 ID:cFhFSreo0
ニコラ「今は里長や皆が協力しているから大丈夫なのだけど。
でもね、住む場所や食事は問題じゃない…問題なのは子供達の心の方…
当たり前だけど塞ぎ込んでる子が多いわ」
ネア「……そうね。何か、出来れば良いんだけど…」
ルファ「何しても無駄だよ」
ネア「なっ…ルファ!! アンタ何言ってんの!?」
ルファ「優しくされても痛いだけだ…ネアだって分かるだろ!?
優しくされて傷付く子だって居るんだ!!」
ネア「…っ!!」
ニコラ「そうね、同情や憐れみは幼くても感じ取れる…それがルファちゃんの言う痛みなのでしょう。
でも誰かと触れ合う事で少しでも和らげる事が出来れば…と、私は考えているわ。勿論、他の里長達もね…」
ルファ「……………」
ネア「ニコラさん……何で、そんな話しを私達に?」
ニコラ「とても嫌な言い方になるけれど、同じ痛みを持つ者には心を開くかと思ったの…」
ルファ「ッ!! ぶざけんな!! 皆痛いんだ!! 苦しいんだ!!
お帰りを言ってくれる人も、お休みを言う人も居ない!!
そんな子達に、『辛かったね、私も同じだよ』なんて言えって言うのか!!」
ネア「ルファ!! 落ち着きなさい!! 『私達』にしか出来ない事もある、ニコラさんはそう言ってるだけよ!!」
ニコラ「ネア、ルファちゃん、ごめんなさい。
でもね、一切心を開かず食事も取らず、会話してくれない…そんな子も中には居るの…」
ルファ「……っ!!」
220: 2013/01/31(木) 23:44:51.79 ID:cFhFSreo0
ラキ「それはなんで? なにが辛いの? ご飯も寝る場所もあるのに」
ルファ「…え……ラキ、なに言ってんだ?」
ネア「…………(ラキは外界では追われて逃げていたと言ってた……でも、親は…)」
ニコラ「ラキ君、何故『今の話し』を疑問に思うの?
ラキ君に父さん、母さんは…」
ラキ「僕にお母さんは最初から居なかったし、父さんは頃した。義理のお父さんだったけど」
ニコラ「………!!(この子は…)」
ネア「えっ?…殺……した?」
ルファ「…頃した…って、何…言ってんだよ…ラキ…」
ラキ「僕を殺そうとした、だから頃した。
親が居ないから辛いとか、ご飯を食べないとか僕には分からない。
その子達は氏にたいから食べないの? なら氏」
ネア「っ!!…ラキ…もう…やめて」
ルファ「(ラキ…何で、何でそんな顔で言えんだよ…)」
ラキ「ネア、ルファ? 悲しいの?」
221: 2013/01/31(木) 23:50:11.28 ID:cFhFSreo0
ルファ「(親を亡くしたとか…そんなんじゃない。ラキは…ネアや私とは『違う』)」
ネア「大丈夫よ…ラキ、外で…待ってて…お願い…」
ラキ「うん、分かった」
ガチャ…パタン…
ネア「…私…ラキの事、何も知らなかったのね。
知ってたつもりになってただけだったんだ……」
ルファ「私もカルアさんからラキの事は聞いてた……
けど、ラキはもっと『深い』所に居る…そんな感じがする…」
ニコラ「あの子はきっと『親』と言う存在を最初から知らないのね……
私も大体の事情は聞いたのだけど、今話していた子供達とは『一人ぼっち』の意味が違い過ぎる。
外界は…そんなに酷い状況なのかしら…」
ネア「(どろどろ……『戦争』…か)」
ルファ「(ラキは…何を見て、生きてきたんだろう……)」
ニコラ「それはまず置いておきましょう…それと二人共、貴方達も辛いのに…本当にごめんなさい。
でも、このまま心を閉ざしたままでいる…そんな子供達は見ていられないわ」
ルファ「そう…だよな。怒鳴ったりしてごめん…」
ネア「時間…掛かりそうね…
(私は…ラキに何をしてあげられるのかな…?)」
ニコラ「確かに、ネアの言う通り時間が掛かりそうね……
(あの子達も、ラキ君もね……)」
ラキ「(ネア、痛くないのに悲しい顔してた。僕が何も知らないからかな…)」
ラキ「(そうだ、この前ネアと座った所に行こう…)」
222: 2013/01/31(木) 23:58:24.72 ID:cFhFSreo0
………………
……
ラキ「あれ、誰だろう」
見知らぬエルフの少女が近付いてくる。
ラキよりも幼い、7・8歳くらいだろうか。
少女「……ラキ?」
ラキ「そうだよ、君は?」
少女「リズ」
ラキ「そう、リズは僕になにか用?」
リズ「ラキは外界から来たんだよね?」
ラキ「うん、そうだよ」
リズ「ラキは外界に家族いないの?」
ラキ「いない、最初からいなかった」
リズ「…そっか、リズにはいたけど…氏んじゃったの」
ラキ「あの病気?」
リズ「そう、病気で氏んだの…薬が出来る少し前に。
ネアが…早く薬を完成させてれば氏ななかったのに」
ラキ「ネアは悪くない。掟を破ってまで薬を完成させたんだから」
リズ「そんなの、親がいないラキにはリズの気持ちなんて分かんないよっ!!」
ラキ「うん、分かんない。親が氏んだからご飯食べないとか話さなくなるとか、リズもそうなの?」
223: 2013/02/01(金) 00:08:32.82 ID:PeEqDD3B0
リズ「っ!! うるさい!! リズが氏んだって悲しんでくれる人はいないんだ!!
だから別にリズがご飯食べなくたって誰も…」
ラキ「そうだね、僕はリズが氏んだって悲しくない」
リズ「……っ」
ラキ「でもリズは氏にたい人の目をしてないよ? なんで?」
リズ「っ!!…うるさい!! じ、じゃあ、ここで氏んでやるっ!!」
そう言って、何処に隠していたのか包丁を取り出し自らに突き付ける。
ラキ「リズ、やっぱり氏んじゃダメだよ」
リズ「な、なに急に!! 目の前でリズに氏なれると困るから!?」
ラキ「違う。ネアは、もう誰かが氏ぬのは見たくないって言ってた。
だからリズに氏なれるのは嫌だ」
リズ「ラキはおかしいよ…ラキはリズが氏んでも良いのに、ネアがそう言ったからリズが氏ぬのがイヤなの?」
ラキ「うん、そうだよ。僕は別に誰が氏んでも嫌じゃない。
あ、でもネアとかルシアン…カルアにハンクとか他にも……皆が氏ぬのは嫌だな。なんか分かんないけど」
224: 2013/02/01(金) 00:10:29.68 ID:PeEqDD3B0
リズ「っ…うぅっ…リズは、リズは一人ぼっちなんだ!! お父さんもお母さんも…もういない!!
だからっ、もういいっ!!」
そう叫び、リズは包丁を喉元へグッと引き寄せ…
ぼたぼたと血が地面へ滴り落ちる。
リズ「えっ…な、なんで…」
ラキ「リズ、やっぱりダメだよ。良く分かんないけど…リズが氏ぬのは『僕も』見たくない」
だが刃から滴る血はリズの物ではなく、
刃を掴んだラキの手のひらからこぼれ落ちた物だった。
リズ「あっ…ご、ごめ…んな…さぃ…
(最初から止めるつもりだった。誰かに心配して欲しかっただけ…だったのに…)」
ラキ「謝らなくていいよ。もう止めてくれれば」
ラキの思い掛けない行動にリズは驚愕し包丁から手を離す、
リズ「うっ…ぅぁっ…」
そして、ラキの手のひらから流れ出る血を見て気を失い、
そのままふらりとラキにもたれ掛かった。
ラキ「リズ、大丈夫? お腹…空いてたのかな?」
225: 2013/02/01(金) 00:12:37.06 ID:PeEqDD3B0
………………
……
ルファ「劇とかどうだ? 小さい子だけだし何とか…」
ネア「それだと露骨過ぎない? 失敗したら目も当てられない状況になるわよ…」
ルファ「うっ……じゃあ、やっぱり炊き出しとか皆でご飯食べるのが一番良いかな…」
ニコラ「そうね。まあ、いずれ各里長と女王陛下で話すから案は沢山あった方が」
ガチャ…パタン…
ラキ「ネア、リズが倒れた」
ネア「はっ? なんでリズが…って、ラキ…服に血が…」
ルファ「しかも何で包丁…」
ニコラ「ラキ君、リズは其処に寝かせて。それと、何があったの?」
ラキ「リズがリズを刺そうとしたから止めた。血は僕のだから大丈夫」
ニコラ「…そう。ラキ君、何故リズを止めたの?」
ネア・ルファ「………!!」
226: 2013/02/01(金) 00:18:03.63 ID:PeEqDD3B0
ラキ「僕が嫌だったから。ん、やっぱり分かんない…でも、気付いたら包丁掴んでた」
ネア「(『僕が』って言った…ラキは自分の意志で止めたんだ……)」
ルファ「(『ラキは違う』、それは外界でずっと氏に近い場所に居たからだと思ってたけど。
そんなんじゃなくて、ただ…知らないだけなんだ。自分がリズに向けた感情も自分の行動も……
ラキは真っ直ぐで…きっと優しい『心』を持ってる。そう、思いたい……)」
ニコラ「そう…ラキ君、ありがとう」
ラキ「………(頭がぐるぐるする、何で僕はリズを助けたのかな…氏ぬ所を見るのが嫌だったから?
何で嫌だったんだろう…でも、リズがネアだったら僕は同じ事してた)」
ラキ「ぁっ…れ…」
バタン…
ネア「ちょっと、ラキ!! 大丈夫!?」
ルファ「ど、どうしたんだ? ち、血が出過ぎたのか?」
ニコラ「あら? 熱がある……もしかしたら知恵熱、じゃないかしら?」
ルファ「えっ? それってちっちゃい子がなるヤツだろ?」
ネア「ルファ、ラキはその『ちっちゃい子』と変わらないわ…きっと理解出来なかったのよ」
ニコラ「ラキ君、大丈夫?」
ラキ「うん、ちょっとぼーっとするけど…」
227: 2013/02/01(金) 00:20:10.42 ID:PeEqDD3B0
ニコラ「じゃあ、まず血が付いた服を着替えないとね。
そうね…うん…コレが良いわ(女の子用だけど)」
ルファ「(ラキ、可愛いな。本当に女の子みたいだ)」
ネア「わぁ…可愛いわね…」
ラキ「ネア、さっきのニコラと似てるね」
ネア「…へ!? ち、違う違う。そう…服、服が可愛いのよ…」
ニコラ「ふふっ、ネアも素直じゃないんだから…」
ネア「私はニコラさんとは違うから」
ルファ「ラキ、似合うな。すっごく可愛いぞ?」
ラキ「ありがとう。でもふりふりしてて変な感じ…」
ルファ「まあ女の子のだしなー」
リズ「うっ…ぅん…あっ…」
ラキ「おはよう、リズ。大丈夫?」
リズ「……なんで女の子の服着てるの?」
228: 2013/02/01(金) 00:23:36.24 ID:PeEqDD3B0
ラキ「血が付いたから着替えた」
リズ「ねえ…ラキ?」
ラキ「なに?」
リズ「お兄ちゃんって呼んで良い?」
ネア「なっ!? 起きて早々なに言ってんの!?」
ルファ「リズも変なヤツだなー」
ラキ「僕はリズのお兄ちゃんじゃないよ?」
リズ「リズを助けてくれた!! リズが氏んじゃ嫌だって言った!!」
ラキ「あ、うん。言った」
ニコラ「(リズ…この子も先に話した子供達の中の一人なのだけど…ラキ君、何したのかしら?)」
リズ「お兄ちゃんになってくれたら……リズ、がんばるから…」
ネア「リズ、バッカじゃないの!? アンタ、人に迷惑掛けといてなに言っ
ラキ「お兄ちゃんにはなれないけど、呼ぶだけなら別に」
ネア「ちょっとラキ!?」
229: 2013/02/01(金) 00:34:06.55 ID:PeEqDD3B0
リズ「やったぁ!! ねえ、ラキお兄ちゃん?」
ラキ「なに? リズ」
リズ「えへへ…リズはね? もう一人ぼっちじゃないんだよ?」
ラキ「そっか、良かったね。リズ」
リズ「うんっ!!」
ネア「はあ…ラキの周りは変なのばっかりね…」
ルファ「ネアも変だけどなー」
ネア「ルファには言われたくないわ…」
ニコラ「ラキ君、急で悪いけどリズをルシアンの所に連れて行ってちょうだい」
ラキ「うん、分かった」
ニコラ「今から手紙を書くから少し待っててね…
(リズがあんな笑顔を見せるなんて…信じられないわ)」
ネア「ニコラさん、何を企んでるの?」
ニコラ「企んでなんかいないわ、最善だと思う事をするだけよ…」
230: 2013/02/01(金) 00:37:58.62 ID:PeEqDD3B0
ニコラ「じゃあ、お願いね?」
ラキ「うん、大丈夫」
リズ「ラキお兄ちゃん、早く行こう?」
ネア「はぁ…私も行くわ。帰り道一緒だし」
ルファ「なあ、ネア」
ネア「どうしたの?」
ルファ「今日…ネアの家に泊まって良いか?」
ネア「ルファ…ええ、勿論良いわよ。じゃあ、皆で行きましょ? ニコラさん、さっきの話し…宜しくね」
ニコラ「ええ、女王陛下及び各里長できちんと話し合うわ。何か案が決まれば協力してね?
ネアもルファちゃんも…出来ればラキ君もね…」
ネア「ええ、分かったわ」
ルファ「うん、絶対協力する」
ラキ「分かんないけど、分かった」
リズ「ラキお兄ちゃん、早く行こうよ?」
ニコラ「ふふっ、ありがとう。じゃあ、またね」
ネア「またね、ニコラさん」
ガチャ…パタン…
ニコラ「私やパルマさんが幾ら話し掛けても駄目だった。リズにはほんの少しの憐れみや同情すら敏感に感じ取る事が出来たんだわ……
ラキ君には私達と違って『それ』が無い、だからリズはラキ君に…」
115: 2013/01/21(月) 18:19:14.23 ID:E3xyrObM0
《人物紹介》
ラキ・不明・ネアに助けられた少年。
セシリア・エルフの若き女王・両親共に病で氏亡。
ネア・エルフ・医師・薬師・セシリアの親友、両親共に病で氏亡。
カルア・エルフの騎士・カレンの姉・しっかり者だが、考えが少々堅い。
カレン・エルフの騎士・カルアの妹・剣の話が好き、若干…うましか。
ルシアン・不明・ラキを引き取った。
ガルト・ドワーフ・イザークの息子
イザーク・ドワーフ・超一流鍛冶屋だが自分が認めた者にしか剣は造らない。
ハンク・獣人・ジーナの弟。
ジーナ・獣人・ハンクの姉・ルシアンが……。
ライル・獣人・若き里長、病で両親を亡くすが里長として里に尽している。
イネス・獣人・ライルを気に掛ける女性ライルが…。
ウォルト・ドワーフ・ルシアンの友達で大工さん。
パルマ・エルフ・医者・優しいお婆ちゃん。
タリウス・エルフ騎士・女王を侮辱した罪でルシアンが処刑した、病で両親を亡くし荒んでいた。
237: 2013/02/02(土) 02:35:05.69 ID:aWrP0wqF0
【人物紹介】
【ラキ】ー不明ー
ネアによってプロテアに連れて来られた正体不明の少年。
感情の発露が乏しく周りと噛み合っているのか、いないのか。
『初めて』救いの手を出してくれたネアには特別な感情を抱いている。
出会い、接した者には少なからず思う所がある様だが…
やはり『よく分からない』ようだ。
【セシリア】ーエルフの若き女王ー
両親共に病で亡くしている。『女王』であろうとして行き過ぎる事もある。
ネアとは親友で『セシリア』として頼りにしている。
【ネア】ーエルフの医師・薬師ー
両親共に病で亡くしている。セシリアとは親友で互いに支え合う。
蔓延する病を止める為、掟を破り外界の山林へ薬草を取りに行く。
其処でラキと出会いプロテアに連れてきた。
ラキが笑顔を向けた唯一の存在、膝枕とかした。
【カルア】ーエルフの騎士ー
カレンの姉・剣術の腕も良く、しっかり者だが考えが少々堅く考え込み易い。
女王、そしてセシリア自身を守ると誓う。
【カレン】ーエルフの騎士ー
カルアの妹・人当たりが良く、優しく柔らかな性格、若干……。
姉の様には出来ないが自分なりにセシリアを支えようとしている。
【ルシアン】ー不明ー
当代の剣士、ラキを引き取った。
剣士なのに色々言われる、ジーナには矢で射られ…ネアには玉を蹴られた。
【ガルト】ードワーフー
イザークの息子で鍛冶職人。ラキに気合いを教えた、本当にうるせえ。
【イザーク】ードワーフー
超一流鍛冶職人だが自分が認めた者にしか剣を造らない頑固者。ラキに命を救われた、結構うるさい。
【ハンク】ー獣人ー
ジーナの弟・姉の行く末を案じ、日々胃を痛める心優しき青年。主に結婚とか…
【ジーナ】ー獣人ー
ハンクの姉・気が強く、狩りが好き。
ルシアンの事が…でも素直になれなくて……矢を放つ。
【ライル】ー獣人ー
若き里長、病で両親を亡くすが父を継ぎ、里長として里に尽くす。ルシアンを馬鹿にしていたが、人の事は言えない。
【イネス】ー獣人ー
ライルを気に掛けており、お昼のお弁当は欠かさない。料理上手な女性。ライルが…
【ウォルト】ードワーフー
ルシアンの友達で大工さん、最近新築が少ないので困っている模様。
【パルマ】ーエルフ・医師ー
優しいお婆ちゃん。ファーガスとは幼い頃からの付き合いで、ファーガスの恥ずかしい過去を沢山知ってる。
【ルファ】ー獣人の騎士ー
カルアの一番弟子で活発な女の子。
ラキを気に入ったようだが、それと同時にラキの心も案じている。
【ファーガス】ードワーフー
現在は里長、お爺ちゃんだが先代の剣士でルシアンの師。
七十歳間近らしいが六十歳だと主張する永遠の六十代。
パルマお婆さんとは幼い頃からの付き合いで、弱み…その他諸々を握られている模様。
【ニコラ】ーエルフー
エルフの里長でルファのおばさん・ルファのお母さんの妹。
小さい子が……ルファも若干そこら辺似てるのかも知れない。
両親を失った子供達のこれからを気に掛けている。
【リズ】ーエルフー
両親を病で亡くした少女。
幼いながらに自分は誰にも必要されない存在なのだと考え至る。
一切の同情・憐れみを持たずに接したラキに『救われ』兄と慕っている。
【タリウス・故人】ーエルフの騎士ー
女王侮辱・障害・殺人未遂の罪によりルシアンに処刑される。
彼もまた、両親を亡くしていて酷く荒んでいた様である。
241: 2013/02/02(土) 10:13:30.45 ID:aWrP0wqF0
なんて酷いミスを…申し訳ありません。
ー訂正ー
【ニコラ】ーエルフー
エルフの里長でネアのおばさん・ネアのお母さんの妹。
小さい子が……ネアも若干そこら辺似てるのかも知れない。
両親を失った子供達のこれからを気に掛けている。
247: 2013/02/03(日) 21:48:45.11 ID:FBJaiRmx0
>>246 ありがとうございます!!
では種族の大まかな特徴だけにします。
登場人物のイメージは見ている方にお任せします。
【エルフ】
切れ長の耳に白い肌。
瞳は青・稀に茶など。
髪色は金・明るい茶など様々。
身体能力は総じて人間より高い・バランス型。
【獣人】
獣の耳・尻尾が生えている。
瞳は明るい緑・金・茶など様々。
髪色は赤や黒。
三種族の中で特に身体能力・動体視力が高い(特に脚力)。
【ドワーフ】
日に焼けた様な肌、背が高く腕が長い(個人差あり)。
瞳は主に茶、髪色は黒・赤茶。
腕力は随一・脚力はエルフよりやや低め。
ーーーーー
【獣人・獣毛の有無については見ている方に任せます】
ーー「そうだ、オレの名は…」【後編】
引用: ーー「そうだ、オレの名は…」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります