251: 2013/02/04(月) 01:23:42.94 ID:FkAbo/Eu0
252: 2013/02/04(月) 01:28:27.55 ID:FkAbo/Eu0
………………
……
リズ「ラキお兄ちゃん、手つないでいい?」
ラキ「うん、いいよ」
ルファ「お兄ちゃんって言うよりお姉ちゃんだな? 女の子の服着てるし」
ネア「ええ、そうね…って言うかリズ、アンタ反省してんの?」
リズ「……………」
ネア「へぇ…私は無視するんだ」
ラキ「リズ、なんでネアを無視するの?」
リズ「だって、ネアが薬作るの遅かったから……」
ネア「…………」
ラキ「リズ、ネアは薬作るために掟を破って結界を出たんだ。
本当なら処刑されてたんだよ?」
リズ「うん、知ってる。でも…」
253: 2013/02/04(月) 01:31:26.16 ID:FkAbo/Eu0
ルファ「(リズの歳なら…そうだよな。ネアも…辛いな)」
ラキ「僕を助けてくれたのもネアなんだ。
リズを助けた僕を助けたんだから……えっと、僕より凄いんだよ?」
リズ「ラキお兄ちゃんの方が凄いもん」
ネア「はぁ…もう良いわ。でも、謝る事も出来ないリズを見たら…
ラキお兄ちゃんはどう思うのかしらね?」
リズ「くっ…」
ラキ「…リズ?」
ネア「あらリズ、どうしたの?」
ルファ「(ネア…そこまで謝らせたいのか。何か…ちっちゃいな…)」
リズ「…ネア・ルファ、心配かけてごめんなさい」
ルファ「気にすんな。でも、もう危ないことすんなよ?」
リズ「……うん」
ネア「仕方ないわね。ま、許してあげるわ」
254: 2013/02/04(月) 01:34:11.89 ID:FkAbo/Eu0
リズ「…ばかネア」
ネア「はぁっ!? なんですって!?」
ラキ「リズ、ネアにそんな事言うのはダメだよ」
リズ「うっ…はい」
ルファ「ラキには素直だなー」
ネア「ふんっ、リズはダメな妹ね?」
リズ「ふんっ…ぺったんこのクセに」
ネア「なっ!? そこまでじゃないわよ!!」
ラキ「リズ、ぺったんこってなに?」
リズ「ひかえめで良い人のことだよ?」
ラキ「へえ…リズは物知りだね」
255: 2013/02/04(月) 01:36:26.44 ID:FkAbo/Eu0
ネア「くっ、この小娘が…」
ルファ「(やっぱちっちゃいなー、しかも小娘って…)」
リズ「ラキお兄ちゃん、ネアがこわいかおしてるー」
ラキ「大丈夫、ネアは優しいから」
ネア「…!! ラキ…ありがと…」
リズ「むっ……ていっ」
ゲシッ!! とラキが見てないのを確認してネアに蹴りを入れるリズ…
ネア「痛っ…リズ、アンタねぇ…」
ルファ「はははっ!! 仲良いなー姉妹みたいだぞ?」
ネア「こんな妹はいらないわよ」
リズ「ダメな姉と出来た妹…」
ネア「…コイツ……」
ネアはネアで、ラキに見えないようにリズの二の腕をつねる…
256: 2013/02/04(月) 01:38:52.87 ID:FkAbo/Eu0
リズ「痛っ…年上のくせに」
ネア「一回は一回よ…年上も年下も関係無いわ」
リズ「そんなだから、ぺったんこなんだね?」
ネア「ちょっと来い、白黒付けてやる」
リズ「あっ…引っぱんないでよ!!」
引き摺った先でネアとリズの幼稚な口論が始まった。
ルファ「行っちゃったな? なあ…ラキ、あのさ」
ラキ「なに?」
ルファ「あの、上手く言えないけどさ……私はラキのこと好きだ。
だから、ラキがあんまり氏ぬとか頃す…とか嫌なんだ。
それに、ラキが怪我したりすんのは見たくない…無茶しちゃダメだぞ?」
ラキ「そっか、分かった。僕もルファが痛くなったり氏んだりしたら……嫌だから。
あと、僕もルファが好きだよ。ルファは…うん、あったかい感じがするから」
ネアに向けた笑顔とは別の、優しく穏やかな微笑み…
それはルファの心に安らぎを与え…ふわりと溶け込んでいった。
257: 2013/02/04(月) 01:43:45.95 ID:FkAbo/Eu0
ルファ「……!! うんっ!! ありがとな!!」
ラキ「(ニコラの時と似てる。
なんか胸の中が変な感じだけど…嫌じゃないな)」
ネア「ふう…待たせたわね。行きましょ?」
ラキ「うん、分かった」
リズ「うぅ…ぐりぐりされて頭痛い」
ルファ「あははっ!! じゃあ行くかー
(ラキは気付いてんのかな? さっきのラキはすっごく優しい顔してたんだ。
それに、ラキの笑顔も…私には『あったかい』んだよ?)」
………………
……
258: 2013/02/04(月) 01:48:10.66 ID:FkAbo/Eu0
ネア「じゃあルファと私は此処で。じゃあ、またね」
ルファ「ラキ・リズ、またなー」
ラキ「うん、またね」
リズ「ルファ、ばいばい」
ネア「リズ…アンタ、またやられたいの?」
リズ「ばいばいバカ…ネア」
ネア「……ラキ」
ラキ「なに?」
ネア「今度、城に行くときは一緒に行きましょ?」
ラキ「うん、分かった」
リズ「…ラキお兄ちゃん、リズも行きたい」
ラキ「うん、いいよ」
ネア・リズ「………」
ルファ「ははっ、もう仲良しだなー」
259: 2013/02/04(月) 01:51:21.33 ID:FkAbo/Eu0
………………
……
ルファ「お邪魔しまーす」
ネア「いらっしゃい、ルファ。もうすぐ日も落ちるし、ご飯にする?」
ルファ「私が作るよ、泊めて貰うんだしさ」
ネア「え!? ルファって料理出来るの!?」
ルファ「まあなー、母さんの料理手伝ったりしてたから…」
ネア「……ルファ、ニコラさんだって子供達を思って…」
ルファ「大丈夫…分かってる。でも…やっぱり寂しいんだ…家に帰っ…てもだれもっいな…くて」
ただ、あふれる……親を亡くした子の悲しみと寂しさ、
取り戻すことの出来ない日々が蘇っては消え…その繰り返し。
誰も悪くはない。
病…それは平等に、皆に訪れ…氏を与えた。
それは、ルファの両親にも……
260: 2013/02/04(月) 01:59:41.79 ID:FkAbo/Eu0
ルファ「グスッ…ごめんな? ネアだって…父さん・母さん亡くしたのに……」
すっ…と抱き寄せネアがつぶやく…
ネア「いいのよ、泣きたい時は…泣いた方がいいわ」
ルファ「うっ…ヒッグ…うっ…うぁぁぁっ!!」
ネア「(ルファ、ごめんね…私がもっと早く薬を完成させていれば…
いえ、これじゃダメね…過去ではなく今を…前を見ないと。
それにルファは、誰にも涙を見せられなかった…騎士として、守る立場の者として…)」
ルファ「グスッ…ぅっ…もう、大丈夫…」
261: 2013/02/04(月) 02:02:17.49 ID:FkAbo/Eu0
ネア「ルファ、アンタは強いわね」
ルファ「泣き虫なのにか?」
ネア「セシリアも私も泣いたわ…何度もね」
ルファ「女王様も…?」
ネア「ええ、でも此でセシリアもルファも私も…三人共泣いた…
だから今度は…三人一緒に『笑いましょう』?」
ルファ「……!! うん…ネアも強いな」
ネア「皆で強くならないとね。病の脅威は去ったけれど、リズのような子供達もいる…」
ルファ「うん…そっか、そうだよな!!
んじゃ!! 沢山泣いたし、ご飯作るか!!」
ネア「…!! ええ、そうね
(ルファ…やっぱアンタは強いわよ)」
262: 2013/02/04(月) 02:08:34.01 ID:FkAbo/Eu0
…………………
……
ガチャ…パタン…
ラキ「ルシアン、『ただいま』 あっ、ガルトだ」
ガルト「おうっ、おかえり!! 久しぶりだなラキ!!」
ルシアン「…『おかえり』やっと帰って来たな。ん? ラキ……何で女の服着てんだ?
それに後ろに居んのは誰だ?」
ラキ「この子はリズだよ? 服は血が付いたから着替えた。
あと、ニコラからルシアンに手紙」
ルシアン「血? …まあいい。
へぇ…リズか、良く懐いたな…それよりニコラから手紙? 面倒な事じゃねえだろうな…」
ガルト「なんて書いてるんだ?」
ルシアン「…………リズを預かって下さい。」
リズ「わあっ…一緒に住めるんだ。
ラキお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんになるんだ…」
ルシアン「ちょっ!! 待て待て待て!! いきなり過ぎんだろ!?」
263: 2013/02/04(月) 02:11:49.29 ID:FkAbo/Eu0
ガルト「別にいいだろ? ずっと家で寝てるだけなんだから」
ルシアン「はぁ…リズ、お前は良いのかよ?」
リズ「ラキお兄ちゃんと一緒ならいいっ!!」
ガルト「ラキに妹が出来たのか!! めでたいな!!」
ルシアン「うるせえ!! オレには全くめでたくねえよ!! ああ…なんでだよぉ…」
ガルト「『集会所に居て私達が世話をするより、
ラキ君と居た方がリズには良いと判断しました。』って書いてあるぞ?」
ルシアン「随分勝手な判断だな……で、あとは…?」
ガルト「『ラキ君に感情の授業を受けさせて下さい。先生はルシアン、もちろん貴方です。』だってよ」
ルシアン「はぁっ!? 何だそりゃ……ったく仕方ねえな。分かったよ…」
ラキ「リズも此処に住むの?」
ルシアン「…ああ、断ったらニコラに何されるか分かんねえ」
264: 2013/02/04(月) 02:15:21.31 ID:FkAbo/Eu0
リズ「やったー!!」
ラキ「じゃあ、これからよろしく。リズ」
リズ「うんっ」
ルシアン「(ニコラにすらどうにも出来なかったリズが…何でラキに懐いてんだ?
そのリズがあんなに笑ってる。まあ…聞けば良いか……)」
ガルト「ラキ!!」
ラキ「なに?」
ガルト「家に来てくれ!! 親父がその剣の感想聞きてえってさ!!」
ラキ「うん、分かった」
リズ「私も」
ルシアン「リズには聞きたい事がある。残れ」
リズ「……うん」
ラキ「じゃあ、行ってきます」
265: 2013/02/04(月) 02:18:42.21 ID:FkAbo/Eu0
ルシアン「おうっ、行ってこい。ガルト、頼むぞ?」
ガルト「任せろ!! 早めに帰すからよ!!」
ルシアン「うるせえ、早く行け」
ガルト「んじゃ、ルシアン、リズもまたな!!」
ガチャ…バタン…
ルシアン「……リズ、ラキと何があった?」
リズ「心配して欲しくて…集会所の台所からほうちょう持って…」
ルシアン「そんで?」
リズ「ニコラさんのお家に行く途中でラキお兄ちゃんと会ったの…」
ルシアン「…………」
リズ「みんなはリズのことなぐさめたり、かわいそうな顔するのにラキお兄ちゃんは違ったんだ…」
266: 2013/02/04(月) 02:23:21.67 ID:FkAbo/Eu0
ルシアン「ラキが女の服着てんのは?」
リズ「…ほうちょうで…リズがリズを刺すふりしようとしたら、ラキお兄ちゃんが掴んで止めたの…」
ルシアン「そうか、じゃあ最後の質問だ…何でラキなんだ?」
リズ「ほかの人とはリズを見るときの顔とかが違うから。
ラキお兄ちゃんは『リズだけ』を見てくれる…だから好き。
それにリズが氏んじゃいやだ…って『本当に』言ってくれたから」
ルシアン「そうか…まあ、過ぎた事だしな…色々聞いて悪かった。
これから一緒に暮らすんだ、よろしくな…リズ」
リズ「ルシアンはいらないのに…」
ルシアン「てめえ……さっきのしおらしい態度は何だったんだよ。
はぁっ…ラキが帰って来る前に飯でも作るか」
リズ「リズが作るからいい」
ルシアン「おっ? 料理出来んのか、すげぇな…じゃあ頼むわ」
267: 2013/02/04(月) 02:26:48.59 ID:FkAbo/Eu0
リズ「ラキお兄ちゃんにはリズが作るから、ルシアンのはルシアンが作って」
ルシアン「…へぇ……じゃあ、ラキお兄ちゃんに教えてあげないとな?」
リズ「ルシアンのも作る」
ルシアン「最初からそうしろよ。
つーか何でお前はそんな嫌な顔出来んだよ……オレの家なんだから少しは
リズ「気がちるから話しかけないで」
ルシアン「もう出て行けよ、お前…」
リズ「…はぁっ……まったく…」
ルシアン「何でお前が呆れてんだよ!!」
リズ「ルシアンのうつわ? がちっちゃいからだよ?」
ルシアン「こっ…このガキっ…!!」
リズ「うるさい、あっち行ってて」
ルシアン「…うっ……はいはい、分かったよ」
リズ「『はい』は一回でしょ」
ルシアン「……はい」
268: 2013/02/04(月) 02:31:30.21 ID:FkAbo/Eu0
………………
……
ガルト「親父!! 連れてきたぜ!!」
イザーク「おお!! 久しぶりだな、ラキ!!」
ラキ「うん、久しぶり」
イザーク「ん? 何で女の服着てんだ? おい、ガルト」
ガルト「なんだ?」
イザーク「お前の小せえ頃の服着せてやれ…
ニコラみてえな奴に見つかったら連れてかれちまう」
ガルト「そうだな…」
……………
……
ラキ「ガルト、ありがとう」
ガルト「おうっ!! やっぱこっちのが良いな!!」
イザーク「ところでラキ、身体は大丈夫か? タリウスに斬られたって聞いたが…」
ラキ「うん、僕は大丈夫。イザークは大丈夫?」
270: 2013/02/04(月) 02:35:03.67 ID:FkAbo/Eu0
イザーク「ああ大丈夫だ!! ラキ、お前のお陰だ。ありがとな…」
ガルト「ラキ…親父を助けてくれて本当にありがとな…」
ラキ「……(『ありがとう』、言われると何か不思議な感じ)」
イザーク「ん? どうした?」
ラキ「…イザークに剣を造って貰ったから、僕もありがとう」
イザーク「ラキ、あのな…その剣は……どうだ?」
ガルト「(親父…やっぱ不安だったのか)」
ラキ「凄く気に入った、昨日の夜も振った。あと、ファーガスに居合い教えて貰った」
イザーク「そうか、そりゃ良かった!! ん、ちょっと待て!? ファーガスさんが何だって!?」
ラキ「今日、修練場でこの剣を使って居合いを見せて貰った。
ファーガスが『やはり居合いに向いとる』って言ってた」
イザーク「…!! ファーガスさんっ……ありがてえ…」
271: 2013/02/04(月) 02:43:39.86 ID:FkAbo/Eu0
ラキ「イザーク、悲しいの?」
イザーク「いや、嬉しいのさ。ラキ、その剣はな…元々ファーガスさんの為に造り始めたんだ。
居合いを最大限に活かせる剣が欲しい…って頼まれてな。もう、何十年も前の話しだ…
でもな…結局ファーガスさんが現役の時に渡す事は叶わなかった」
ガルト「(だからあんなに熱が入ってたのか…オレが小せえ頃から造ってたからな。
直接じゃないにしても『渡せて』嬉しいんだろうな)」
ラキ「へぇ…あと、ファーガスから『これを我が物としいつか儂に見せてみよ』って言われた」
イザーク「…!! そうか……いいかラキ、その剣にはオレの魂とファーガスさんの意志が詰まってる。
お前は継いだんだ…迷惑かも知れねえが、頼むぜ?」
ラキ「継いだ? それはどうすればいいの?」
イザーク「そうだな…誰よりも強く・誰よりも優しい奴になれ」
ラキ「…うん、分かった。一番強くなって一番優しくなる」
ガルト「ラキ…お前、親父が言ってること分かんのか?」
ラキ「今は分かんない。でも、自分で見つけて約束は守る」
272: 2013/02/04(月) 02:49:31.76 ID:FkAbo/Eu0
イザーク「……!! ガハハッ、ガルト!! オレの目に狂いは無かったぞ!!」
ガルト「ああ、良かったな…親父」
イザーク「ああ…今日は鍛冶職人になって最高の日だ……」
鍛冶職人は…笑いながら涙した。
たった一人の者の為に造り始めた剣……
その剣は約束から何十年の時を経て完成した。
だがそれは本人に渡す事は叶わず、更に時が経った。
そして、『今』
外界からやって来た少年の手に、
否…自分を救った男の手に、確かに受け継がれたのだ。
283: 2013/02/07(木) 00:43:38.87 ID:4Ttds5M+0
………………
……
セシリア「…ファーガスさんがそんな事を……」
カレン「ラキ君、凄いね…ファーガスさんにそこまで言って貰えるなんて」
カルア「そこで一つ提案がある」
セシリア「…? どうしたの?」
カルア「まだ早過ぎるかも知れないが、ラキを騎士候補に推薦したいと思う。
勿論、女王陛下と保護者であるルシアン殿。
何よりラキの了承を得られればの話しだが…」
カレン「えっ!? 姉さん、急にどうしたの?」
セシリア「訳を聞かせてもらえる?」
カルア「ラキには言葉より剣を通して学ばせた方が良い…今日のラキを見て、私はそう思った。
相手の剣から信念や意志、そういった物をラキは感じ取れる。
それが怒りや憎しみ…或いは強さを求める純粋な意志であっても……」
284: 2013/02/07(木) 00:49:25.01 ID:4Ttds5M+0
カレン「剣を通して相手の意志を感じ取る?」
カルア「そうだ。ルファとの試合時、表情は変わらないものの打ち合いを楽しんでいた。
対して、ファーガス殿との試合時は貪欲…あの方を前にして居合いを試みる程にな」
カレン「ラ、ラキ君、凄い度胸だね…私は無理だ……」
セシリア「では、ラキは相手の技や剣に宿る相手の『何か』を感じ取れると言うの?」
カルア「私はそう感じた。決定的だったのはファーガス殿の迷い…と言うか何と言うか……
兎に角、ラキがそれを指摘した時だ。
ラキは対峙した者の剣を通して心の機微を読み取る事すら出来るのではないか……そう思った」
カレン「なんか…もう達人みたいだね」
カルア「今の話しだけを聞けばな…」
カレン「どういうこと?」
285: 2013/02/07(木) 00:51:51.22 ID:4Ttds5M+0
セシリア「カルアはラキの精神面を心配しているのね?」
カルア「ああ……私はラキの剣の『向かう先』がファーガス殿と同じく楽しみでもある…
だが同時に、先に話したラキの『力への渇望』に関しては危うさを感じる…だから今の内に」
カレン「あのね…姉さん」
カルア「なんだ?」
カレン「ラキ君は大丈夫だよ。私達はその手助けをするだけで良いと思う…
だから…無理に型にはめる様なやり方は違う気がする」
カルア「……!! だが…」
セシリア「カルア、『力』だけを見ては駄目よ。ラキ自身を…あの子の心を見なければ」
カルア「っ!! セシリア…そうだな。その通りだ…済まない」
カレン「『ファーガス殿に気負い過ぎと言われた』ってさっき自分で言ってたのに…」
カルア「うっ…コレはもう癖と言うか……」
286: 2013/02/07(木) 00:56:30.11 ID:4Ttds5M+0
セシリア「カルア…思慮深いのは良いことだけれど、一人で考え込まずに話してね?
一つの事に囚われると大事なことを見失ってしまうから…」
カルア「……!! セシリア、ありがとう」
セシリア「って私もカレンに言われたから。ねっ? カレン」
カルア「なっ…!! カレンが言ったのか!?」
カレン「えへへ…」
カルア「だがその通りだ…もう少し視野を広げて生きねば…」
セシリア「でもね、カルア」
カルア「ん? どうした?」
セシリア「私もラキに騎士になって欲しいとは思うわ。
男性の騎士達全てでは無いけれど、タリウスの様な者が居たのは事実…
新しい何かが必要だとは思っていたの」
カレン「それが…ラキ君?」
セシリア「ええ、外界から来た者が騎士になる、などとなれば少なからず反発はあるでしょう…
けれど、ラキにはカルアやファーガスさんが言った様に可能性に満ち溢れている。
其処に賭けてみたい、これは女王としての考えでもあるわ」
カルア「なるほど…」
セシリア「でもね? ラキには沢山の者と触れ合って大事な何かを見つけて欲しい。
そして、ラキが求めラキが望む強さもね…」
287: 2013/02/07(木) 00:59:38.48 ID:4Ttds5M+0
カレン「やっぱりセシリアは女王様だね!! 格好良いい!!」
ペシッ… カレン「姉さん、痛いよ…」
カルア「女王陛下なのだから当たり前だ。何を言っているんだお前は…」
セシリア「カルア・カレン。恥ずかしいから止めて…」
カレン「あははっ、ごめんね?」
セシリア「まったく…もうっ…」
カルア「(自身が求め、自身の望む強さか…)」
カルア「私も見つけなければ…」
カレン「姉さんどうしたの?」
カルア「カレン…お前は少し考え過ぎろ」
カレン「えっ!? 私はコレでも結構…」
セシリア「ふふっ、二人はそのままが一番よ? 無理して変わる必要はないわ」
カレン「セシリア、ありがとう!!」
ギュウッ… セシリア「ふふっ、はいはい…」
カルア「カレン、あまり引っ付くな」
セシリア「(私は…私は私の目指す『女王』になければならない…
私はお母さんにはなれない、兄さんも……)」
288: 2013/02/07(木) 01:02:26.50 ID:4Ttds5M+0
…………………
……
パルマ「ファーガス、久々に来たと思ったら…また剣の話し?
剣士を退いて里長になっても相変わらず剣術馬鹿なのね…」
ファーガス「ふん、何とでも言え…」
パルマ「坊やはそんなにルシアンに似ていたの?」
ファーガス「…ああ、懐かしかった。
己の目指す強さが分からず、悩みながらも剣を振る姿……被って見えた」
パルマ「坊やはルシアンでは無いわよ?」
ファーガス「分かっとる。それに…」
パルマ「どうしたの?」
ファーガス「イザークが儂の為に造った剣をラキが持っとる…そこに何か運命を感じる。
それもあって期待せずにはいられんのだ」
パルマ「はぁ…六十過ぎてもこんな話しばかり。本当にあなたは変わらないわね」
ファーガス「ふん、そう言いながら茶菓子を出すお前も全く変わっとらんわ」
289: 2013/02/07(木) 01:04:44.98 ID:4Ttds5M+0
パルマ「はいはい…それ食べたら帰りなさいよ?
日も暮れるし、田んぼに落ちないように気を付けなさいよ?」
ファーガス「落ちんわ!! 全く、お前がネアに余計な事を吹き込むから儂は
パルマ「血圧上がるわよ?」
ファーガス「ぐっ…兎に角、あまり子供達に余計な事を教えるのは止せ」
パルマ「みんな笑ってるのだから良いじゃない」
ファーガス「それが嫌なんじゃ!!」
パルマ「はいはい、分かりました」
ファーガス「大体お前は幼い頃から………」
パルマ「(ふふっ…ファーガス、あなたは本当に変わらないわね…
カルアや一部の騎士には、今でも剣士ファーガスなんて呼ばれているけれど、あなたは本当にあなたのまま…)」
ファーガス「パルマ、聞いとんのか!?」
パルマ「はいはい、聞いてますよ」
290: 2013/02/07(木) 01:09:07.91 ID:4Ttds5M+0
………………
……
ラキ「ルシアン・リズ、ただいま」
リズ「ラキお兄ちゃんおかえり!! リズ、ご飯作ったから食べて?」
ラキ「えらいね、リズ」
リズ「えへへ…ほめられたー」
ルシアン「……おかえり」
ラキ「ルシアン、どうしたの?」
ルシアン「いや…娘を持つ父親はこんなものかと考えてただけだ」
ラキ「娘? リズのこと?」
リズ「ルシアンはけっこんできないから大丈夫だよ?」
ルシアン「うるせえ!! オレだっていずれはだな…」
リズ「ラキお兄ちゃん、ご飯食べよ?」
ラキ「うん、分かった」
291: 2013/02/07(木) 01:14:44.05 ID:4Ttds5M+0
ルシアン「リズ…やっぱ出て行け」
リズ「剣士なのにちっちゃいね。あっ、だからおよめさん来ないんだ」
ルシアン「…なあ、ラキ」
ラキ「なに?」
ルシアン「手、大丈夫か? 痛まないか?」
リズ「……っ!!」
ラキ「うん、大丈夫」
ルシアン「そうか…良かった。
でも、ばい菌が入ってるかも分からない、明日パルマ婆さんに見て貰おうな?」
チラリとリズを見る…
小さい大人の小さい復讐である。
リズ「くっ…!!」
ルシアン「いや、リズは気にしなくて良いんだぞ?
もう家族なんだ………過ぎた事はいいさ」
292: 2013/02/07(木) 01:17:07.21 ID:4Ttds5M+0
リズ「ルシアン…」
ルシアン「ん? どうしたんだい、リズ?」
リズ「……ごめんなさい」
ルシアン「あれ? 急にどうしたのかな?」
リズ「うっ…グスッ…ヒッグ…うぅ…」
ルシアン「けっ、どうせウソ泣きだろ」
ラキ「リズ、どうしたの?」
リズ「グスッ…」スッ
ルシアン「ちょっ!! 待て待て!! 何で包丁持つんだよ!?」
ラキ「まだ料理終わってなかったのかな」
ルシアン「違うわ!! あれは完全に殺る時の目だろうが!!」
こうして、ルシアン家の夜は更けていく……
293: 2013/02/07(木) 01:34:47.78 ID:4Ttds5M+0
ラキ・リズ「くぅ…ぅん…すぅ…」
ルシアン「(この家も随分賑やかになったもんだ。『家族』か……
親父はどうだったんだろうな…今のオレと同じ気分だったのか?
なあ親父…オレは強くなったか? あの時より、強く……)」
ーーーーーー
ーーー
ー
【二十数年前】
騎士「ファーガスさん」
ファーガス「ミルズか、どうした?」
ミルズ「あの…不思議な話しなんですが」
ファーガス「どうした? らしくないな…はっきり言ってみろ」
ミルズ「赤子を拾いました。ですが、どうやら人間のようで…」
ファーガス「なんだと? まさか結界から出たのか!?」
ミルズ「違いますよ!! エルフの里近くの山林からおかしな泣き声がすると言うので行ったんですが」
ファーガス「泣き声の主がその赤子だったと?」
ミルズ「ええ、その通りです。今は一応オレの家に…」
ファーガス「人間の赤子がプロテアに…前代未聞だな。
直ぐに女王陛下に伝えなければ」
ミルズ「オレが行ってきます!!」
若きエルフの騎士は、謁見の間へと全力で走り出す。
ファーガス「待てっ!! ミルズ!! くっ…行ってしまったか。
あの馬鹿者、王女アメリア様との婚姻前だと言うのに…」
【ルシアン・過去編】
302: 2013/02/09(土) 00:47:21.74 ID:y2lR2ngk0
ニコラ「ミルズお兄ちゃん!!」
ミルズ「ん? ニコラか、何かあったのか?」
ニコラ「あのね、エルフの里近くの林から変な鳴き声が聞こえるの…」
ミルズ「鳴き声? 誰か見に行ったか?」
ニコラ「ううん…怖くて誰も行ってない」
ミルズ「良かった…じゃあオレが今から見に行く。
ニコラは里の皆に伝えてくれるかい?」
ニコラ「うん、分かった!!」
ミルズ「鳴き声…獣か何かか? まあ、行けば分かるか」
303: 2013/02/09(土) 00:50:08.03 ID:y2lR2ngk0
【エルフの里近辺・林】
ォギャア…ォギャア…
ミルズ「確かに不気味ではあるな」
オギァア…オギァア…
ミルズ「ん…? この『泣き声』まさか!!」
赤ん坊「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
其処に居たのは獣などでは無く、
毛布すら掛けられていない…裸の赤子だった。
ミルズ「もう大丈夫だ。寒かったな…」
赤子を抱き上げ、上着で包む。
304: 2013/02/09(土) 00:51:47.15 ID:y2lR2ngk0
ミルズ「一体誰が…ん?」
その赤子には本来あるべき物が無かった。
尻尾も、日に焼けた様な肌も、尖った耳も…
ミルズ「まさか…『人間』なのか?」
赤ん坊「たぁっ…キャッキャッ!!」
ミルズ「笑ってる…まあ、取り敢えず家に連れて行こう」
………………
……
「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
ミルズ「ああっ!! 分かった分かった!!」
「たぁぃ!! うぅっ!!」
ミルズ「抱くと泣き止む。降ろすと…」
305: 2013/02/09(土) 00:52:56.03 ID:y2lR2ngk0
「ぅぅっ…おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
ミルズ「泣き出す…抱き上げると」
「たぁぃ!! キャッキャッ…」
ミルズ「ご機嫌だな……お前」
「たぁた!! たぁっ!!」
ミルズ「城に、まずはファーガスさんに報告しよう。
ちょっと待ってろ…必ず戻る。だから泣くなよ?」
「ぅっ…ぅ…ぅぅっ」
ミルズ「よし、偉いぞ? すぐ戻るからな」
「たぁぃ!!」
ミルズ「よし、行ってくる」
306: 2013/02/09(土) 00:54:18.31 ID:y2lR2ngk0
【謁見の間】
ミルズ「報告は以上です。マルセラ女王陛下」
マルセラ「では現在、私とファーガス以外は知らないのね?」
ミルズ「ええ、話しておりません」
マルセラ「これはどういう事なのかしら…」
ミルズ「…と、言いますと?」
マルセラ「どの種族にも属さない…となれば人間以外に有り得ない。
けれどプロテアに人間は入れない…それは現在に至る数千数百年で証明されている。
その赤子は一体『何』なのか…」
ミルズ「確かに、女王陛下はどうお考えですか?」
マルセラ「種族云々は兎も角として、速やかに外界に出すべきでしょうね」
ミルズ「ですが、まだ赤子です…
プロテアの民として生きる事も可能ではないでしょうか?」
307: 2013/02/09(土) 00:59:25.06 ID:y2lR2ngk0
マルセラ「では誰が育てるのです?
そして、民はその赤子をどう『見る』でしょう?
時が経ち、その赤子が成長した時…周囲との違いに耐えられるかしら?」
ミルズ「ならば、オレが育てます」
マルセラ「ミルズ、貴方は自分で何を言っているのか分かっているのですか?
我が娘、アメリアとの結婚はどうするつもり?」
ミルズ「一つの命を終わらせて得た幸せなど…オレには耐えられません」
マルセラ「アメリアの気持ちは考えているのかしら?」
ミルズ「彼女は赤子を外界へ棄てた男を愛する様な…そんな女性ではありません」
マルセラ「……では、その事実を伏せれば良いでしょう?」
308: 2013/02/09(土) 01:10:49.26 ID:y2lR2ngk0
ミルズ「オレはあの子の笑顔を見てしまった。
あの子を外界に棄て彼女に事実を伏せても、いつか子を授かり…
我が子の笑顔を見た時、あの子の笑顔が必ず頭をよぎるでしょう。
それに、彼女には隠し事を一切しないと決めています」
マルセラ「……アメリア、入りなさい」
ミルズ「え…?」
ガチャ…パタン…
アメリア「母様…趣味が悪過ぎます。
こんな…ミルズを試すような真似をするなんて」
マルセラ「その割に顔はにやけているけれど」
アメリア「母様、ふざけないで」
ミルズ「女王陛下、これはどういう事でしょうか?」
309: 2013/02/09(土) 01:20:21.70 ID:y2lR2ngk0
マルセラ「どの種族でも無いけれど尊い命に変わりは無い…
命を軽んじる様な者との結婚など許す事は出来ない。
かなり意地の悪いやり方ですが此の機に試させて貰いました」
アメリア「ミルズ、ごめんなさい…」
ミルズ「アメリア、オレは気にしてないよ」
アメリア「母様…結婚は」
マルセラ「結婚は認めます」
アメリア「(はあ…良かった…)」
マルセラ「ですが、条件があります」
ミルズ「…条件とは何でしょう?」
マルセラ「城内の者に育児を任せる事は勿論、
住居その他全て貴方達で用意しなさい、私は一切援助しません。
そして貴方達だけでその赤子を、そうですね……七つまで育て皆に示しなさい。
それまでは子を成す事、城に住む事は許しません。
これを受け入れるのなら結婚を許可します」
310: 2013/02/09(土) 01:21:58.63 ID:y2lR2ngk0
アメリア「分かりました」
マルセラ「アメリア、簡単に言ってくれるけど育児の大変さを知っているの?
自分を投げ出してでも子を守らなければならないのよ?
しかもその赤子は貴方達の子では無い、
その赤子に人生を捧げる覚悟が貴方達にあるのかしら?」
ミルズ「オレは結婚の為に赤子を引き取った訳ではありません。
自分の意思で育てると決めました。覚悟はしています」
アメリア「母様、私は何があろうとミルズだと決めています。
血の繋がりが無くとも二人の子として育てて見せます」
マルセラ「分かりました…この件は速やかに民に公表します。
女王が許可したとなれば皆も納得はしないにせよ反対はしない筈…
それと、住居は獣人の里の外れになさい。
後、住居が建つまでは同棲は無しよ?」
ミルズ「承知しました。お心遣い、感謝致します」
311: 2013/02/09(土) 01:24:55.22 ID:y2lR2ngk0
マルセラ「ミルズは直ちに準備なさい。
アメリアには話しがあります。残りなさい」
ミルズ「はっ、では失礼致します」
ガチャ…パタン…
マルセラ「他の者に預けると言う選択は無かったのかしら?」
アメリア「ミルズには他の者に迷惑を掛けて得た幸せなど受け入れられないわ。
それに…母様が許可してくれるとは思わなかった」
マルセラ「私だって子持ちの男と可愛い一人娘を結婚させるのは本当は嫌よ?
だけど、それじゃ女王としても母としても器が小さ過ぎるでしょう?
人間だろうと他の何かであろうと、
命を軽んじる様な女王には誰も着いて来てはくれないわ」
アメリア「それはそうだけど…皆はその子を受け入れてくれるかしら?」
312: 2013/02/09(土) 01:28:26.02 ID:y2lR2ngk0
マルセラ「その為にどの里にも属さない場所に住居を構えるのよ。
三種族のどれにも該当しない赤子を怖れる者も居るでしょうからね…
でも時間が経てば徐々に受け入れる者も増えるわ。
まあ、貴方達がしっかり育てられればだけれど」
アメリア「そうね…と言うか母様、父様には言わなくて良いの?」
マルセラ「あの人はミルズを気に入っているから反対するわけが無いわ。
貴方をミルズを勧めた…と言うかゴリ押ししたのもあの人でしょう?」
アメリア「それは別に関係無いわ。
父様に教えられる前からミルズの事は気になっていたから…」
マルセラ「はいはい…」
アメリア「……母様だってミルズの事いい男だって言ってたじゃない」
マルセラ「間違い無くミルズはいい男よ?
しかも見知らぬ赤ちゃんを拾って迷い無く、
『オレが育てます』なんて真っ直ぐな瞳で言われた時にはキュンと来たわ。
二十代だったら一発で惚れてたわね…」
アメリア「もう五十近いんだから止めてよ…」
マルセラ「うっさいわね…いいじゃない別に…」
アメリア「ふふっ…(ありがとう、母様……)」
313: 2013/02/09(土) 01:31:15.38 ID:y2lR2ngk0
………………
……
ミルズ「と言う訳でセオドア、家を建ててくれないか?」
セオドア「お前さぁ…急過ぎんだろ。ったく仕方ねえな…分かったよ」
ミルズ「悪いな、お前の家も子供が産まれたばかりで大変なのに…
息子さん、ウォルトだったか?」
セオドア「ああ、今は嫁が面倒見てくれてる。
夜泣きじゃないだけ楽なもんさ…」
ミルズ「そうか…オレも、頑張らないとな…」
314: 2013/02/09(土) 01:33:13.79 ID:y2lR2ngk0
セオドア「じゃあ仲間を集めて直ぐに取り掛かる。
かなり急げば三週間で出来る筈だ」
ミルズ「ありがとう。じゃあ、頼む…」
セオドア「なあ、ミルズ」
ミルズ「ん? なんだ?」
セオドア「お前達の息子が歩ける様になったら連れて来い。
そんで、家の息子と仲良くしてやってくれ」
ミルズ「…!! ありがとう…セオドア」
ガチャ…パタン
セオドア「やっぱりすげえ奴だな…並の奴が言える事じゃねえ。
しかも女王様…嫁の母親に面と向かって…
王から気に入られるのも良く分かるぜ。
兎に角、今はオレがミルズにしてやれる事をしないと……
よっしゃ!! 早速取り掛かるか!!」
315: 2013/02/09(土) 01:38:55.20 ID:y2lR2ngk0
………………
……
ミルズ「(育児のやり方は分かったが、やはり実践となると大変だな…
おしめ替えたりとか…)」
「すぅ…すぅ…」
ミルズ「後は、名前か…」
【数時間後】
ミルズ「よし…決めた。
これならきっとアメリアも気に入ってくれる」
「すぅ…ぅん…」
『父』はそっと頭を撫で、
優しく…囁くように『息子』の名を呼ぶ……
ミルズ「ルシアン……お前の名はルシアンだ…」
324: 2013/02/11(月) 01:04:27.36 ID:LjDRASJI0
【翌日・修練場】
ファーガス「そうか、そう決めたのなら仕方無い。
女王陛下の寛大な処置に感謝せねばならんな…」
ミルズ「はい、結婚を許していただけるとは思いませんでした…
女王陛下として母として、中々出来る決断では無いでしょうから」
ファーガス「それ程にお前を信頼しているのだろう。
それよりミルズ、子を置いて平気なのか?」
ミルズ「ええ、オレの家でアメリアが世話をしてくれていますから」
ファーガス「そうか、子の名は決まったのか?」
ミルズ「はい、ルシアンと名付けました。
男の子ならオレが、女の子はアメリアが名付けると決めていたので」
325: 2013/02/11(月) 01:07:49.13 ID:LjDRASJI0
ファーガス「ルシアンか…ふむ、良い名だな」
ミルズ「ありがとうございます。アメリアから両陛下も気に入っていたと聞いたので一安心です。
それよりファーガスさん、大事な話しとは?」
ファーガス「ああ、そうだったな…
まだ確信は無いが我々、騎士の一部で何かを企んでいる感がある」
ミルズ「それは……マーカスですね?」
ファーガス「…!? お前には昔から驚かされてばかりだ…
何故、奴に考え至ったのか聞かせてくれるか?」
326: 2013/02/11(月) 01:11:08.74 ID:LjDRASJI0
ミルズ「彼は素晴らしい騎士です。ですが、隠しきれない野心を感じます。
ヴェンデル陛下も『それ』を危惧している…そう仰っていましたから」
ファーガス「全く、ヴェンデルも『息子』には口が軽いようだな……
だが今の所は動きはない、思い過ごしなら良いのだが…用心しておいた方が良いだろうな」
「口が軽いとは言ってくれるな…ファーガス」
ミルズ「ヴェンデル陛下…」
ファーガス「はぁ…お前にも驚かされてばかりだよ。ヴェンデル…」
ヴェンデル「ふん、修練が足りねえんだよ。
それにミルズ、『お父さん』と呼べと言ってるだろうが!!」
327: 2013/02/11(月) 01:12:54.83 ID:LjDRASJI0
ミルズ「いえ、七年後…ルシアンが七つになり城に入るまでは……」
ヴェンデル「えぇー、オレが呼べって言ってんだから良いじゃねえか。ほれ、呼んでみろ」
ファーガス「それよりヴェンデル、マーカスの事は…」
ヴェンデル「ん? まだ先だろうな。オレとマルセラが年取って、
ミルズ・アメリアに代替わりする辺りを狙うんじゃねえの?」
ファーガス「(全く、相変わらず『こういう時』は鋭いな。いや、最早『見えている』のか…)」
ミルズ「ヴェンデル陛下、オレは…」
ヴェンデル「案ずるな息子よ。オレはお前とファーガスを信頼している。
それにマーカスが何を企んでいようがオレは負けないさ」
ファーガス「相変わらず強気だな、お前は…心配していたのが馬鹿らしく思えるよ」
ヴェンデル「はははっ!! オレは王だからな、小さい事は気にしないのさ」
328: 2013/02/11(月) 01:14:34.56 ID:LjDRASJI0
ファーガス「剣術に関しても、もう少し考える頭があれば剣士になれたのにな?」
ヴェンデル「この野郎…お前は腕長いからめんどくせぇんだよ。
それにオレよりお前が強かった…だからお前が『剣士』なんだろうが」
ファーガス「……ヴェンデ
ヴェンデル「ま、本気出せばオレが勝つけどな」
ファーガス「こ、この野郎…
大体な、居合いを素手で掴むのはお前くらいだ!! この単細胞が!!」
ヴェンデル「その割に随分焦った顔してたけど?」
ファーガス「お前の発想に呆れただけだ!! 柔剣だから良いものの…」
ヴェンデル「遠くからペチペチペチペチ…
五月蠅くて仕方ねえんだよ、お前の剣術は」
ファーガス「なんだとっ!? まあ、負け犬の遠吠えだしな」
329: 2013/02/11(月) 01:16:06.93 ID:LjDRASJI0
ヴェンデル「あ? やる気か、お前?」
ファーガス「……ほら、柔剣だ。先に当てたら勝ちだ…いいな?」
ヴェンデル「…いいだろう。息子よ、合図を頼む」
ミルズ「はい、分かりました。
(この二人は本当に仲が良い。試合中は苛烈極まりないと言うのに…)」
ミルズ「では…始めっ!!」
ヴェンデル「あ、パルマだ…」
ファーガス「パルマだとっ!? 一体何しに
ベチッ!! ファーガス「…………」
ヴェンデル「勝ーちー」
ファーガス「き、貴様ぁ…卑怯
ヴェンデル「余所見するファーガス君が悪いと思います」
330: 2013/02/11(月) 01:17:59.87 ID:LjDRASJI0
ファーガス「……もう一度だ」
ヴェンデル「ん? 聞こえないんだが?」
ファーガス「ぐっ…!! もう一度、勝負してくれ!!」
ヴェンデル「仕方無いなあ…息子よ、頼む」
ミルズ「はぁ…分かりました。では、始め!!」
ファーガス「ん? マルセラが来たぞ?」
ヴェンデル「馬鹿め…そんな手に引っ掛かるか!!」
ベチッ!! ヴェンデル「いってえ!! 誰だ!?」
マルセラ「貴男、何をしているの?」
ヴェンデル「げっ…マルセラ。何で柔剣持ってんだよ…」
マルセラ「全く…何処に行ったかと思えば…」
331: 2013/02/11(月) 01:19:30.89 ID:LjDRASJI0
ヴェンデル「マルセラ、今日も…綺麗だよ……」
ベチッ!! ヴェンデル「なんで叩くの!? オレは王様だぞ!?」
マルセラ「私は女王よ!! ミルズ、ごめんなさいね?」
ミルズ「いえっ、そんな……
剣術もですが皆に分け隔て無く接するヴェンデル陛下を尊敬してますから…」
ヴェンデル「流石我が息子…素晴らしいな」
マルセラ「はぁ…ファーガスも馬鹿の相手させて悪いわね?」
ファーガス「いや、マルセラも大変だな。こんな馬鹿の世話するのは…」
マルセラ「ええ、今からでもミルズと取り替えたいわ」
ヴェンデル「ミルズ…娘では飽きたらず、我が妻・マルセラまで奪うつもりか!!」
332: 2013/02/11(月) 01:20:50.21 ID:LjDRASJI0
マルセラ「ヴェンデル!! 戻るわよ…」
ヴェンデル「はい…分かりました」
ガララ…パタン
ミルズ「女王陛下は凄いですね…」
ファーガス「奴らは昔からああなんだ。
幼い頃は四人で遊んだものだが、仕切り役は何時もパルマとマルセラだった」
ミルズ「やはりプロテアの女性は強い…」
ファーガス「ミルズ」
ミルズ「はい、何でしょうか?」
ファーガス「俺と、勝負してくれ」
333: 2013/02/11(月) 01:22:27.85 ID:LjDRASJI0
ミルズ「何故ですか…」
ファーガス「お前は何か隠している…何かが足りない。お前の剣には奥がある…
今、修練場には俺とお前だけだ。見せてくれないか?」
ミルズ「……分かりました」
ファーガス「では、柔剣を…」
ミルズは足元に落ちている『二本』の柔剣を手に取る。
そして、右手の柔剣を頭上に掲げ…
左手の柔剣はやや突き出した形で構えた。
ファーガス「それがお前の…」
ミルズ「はい、二刀などふざけていると思われても仕方無いですが」
334: 2013/02/11(月) 01:25:21.46 ID:LjDRASJI0
ファーガス「そうは思わん。さあ…始めるぞ」
刀身を背後に隠す様な居合いの構え。
修練場の空気が変わり、ビシッと軋む…
発した言葉から感じたのは圧倒的な威圧感と…
ミルズ「(唯々、強い……)」
ファーガス「行くぞ…ミルズ」
間合いを詰め、通常届かぬ距離から居合いを放つ、
バシッ!! と響いた音は、
ミルズが瞬時に柔剣を交差させファーガスの柔剣を受け防いだ音だった。
335: 2013/02/11(月) 01:26:45.56 ID:LjDRASJI0
ファーガス「(面白い!!)」
ミルズ「………すぅ…はぁ…」
ダンッ!! 強く床を蹴り一瞬で間合いを詰め、右の柔剣で首を薙に行く。
ビシィッ!! ファーガス「(片手だからと侮っていた訳ではないが、予想以上に…重い)」
伸ばした柔剣を即座に戻し防ぐが鳩尾に左の突きが迫る…
ファーガスは身を捩り躱し、一歩退いて顔面に突きを放つ。
ミルズ「(流石に…鋭い!!)」
即座に屈み躱すが、突き出された柔剣は戻らず…
ミルズの背に振り下ろされる。
バシィ…
336: 2013/02/11(月) 01:31:38.97 ID:LjDRASJI0
ファーガス「ミルズ…お前は強くなった!! 面白いっ!!」
背に振り下ろした柔剣は、
ミルズの左肩に担ぐ様な形で据えられた柔剣に防がれていた。
ミルズ「……シッ!!」
そして、間を置かず右の柔剣で胴を狙うが引き戻した柔剣の柄頭で弾かれる。
勢い止まらず、続けざま左の柔剣で右足を狙う…
だがファーガスは自ら間合いを詰め、
ミルズの両腕の間に入り込む形で密着し、止めて見せた。
ファーガス「此処からどうする? 柔剣は振れまい」
そう言って頭上に柄頭を振り下ろす。
337: 2013/02/11(月) 01:34:20.32 ID:LjDRASJI0
ミルズ「………………」
瞬間、ミルズはグルンッ!!とその場で身体を回転させる。
ファーガス「なにっ!?」
ミルズは右腕を戻し、密着した状態から柔剣を『振った』
本来の握りなら不可能だが、
ミルズはファーガスの背後で『逆手』に持ち替え、
肘を身体に引き付け折り畳む事で密着状態から柔剣を振ったのだ。
バッチィッ!!! ファーガス「くッ!!」
こうして下から繰り出されたミルズの柔剣は、
振り下ろされるファーガスの右腕を思い切り弾いた……
338: 2013/02/11(月) 01:36:51.63 ID:LjDRASJI0
ファーガス「見事だ…ミルズ」
ミルズ「…ありがとうございます」
ファーガス「どうした? 俺から一本取ったと言うのに浮かない顔だな」
ミルズ「いえ、今のは身体が動いただけで…本来な
ファーガス「違う。今の発想も素晴らしいが…
その、『瞬間の発想』を試合で出せると言う事が素晴らしいのだ。
並々ならぬ修練を積んだのだな…」
ミルズ「ファーガスさんに…勝つ為です」
ファーガス「……フッ、ハハハッ!! 負けた負けた!! ミルズ、お前は良い騎士になった!!」
ミルズ「…!! ありがとうございます!!」
340: 2013/02/11(月) 01:51:52.63 ID:LjDRASJI0
【過去編・登場人物】
【ルシアン】【不明】
エルフの里近くの林で発見された赤ん坊。
名付け親はミルズ。
【ミルズ】【エルフの若き騎士】
裸のまま捨てられていた赤ん坊を発見、自ら引き取りルシアンと名付けた。
【アメリア】【エルフの王女】
結婚間近にミルズが拾った赤ん坊を引き取ると言うが、
ミルズへの気持ちは一切変わらず、自身の息子として育てると誓った。
【マルセラ】【プロテアの女王・エルフ】
プロテアを統べる者、アメリアの母。
娘の婚約者であるミルズが赤ん坊を引き取るのを許し、結婚も条件付きで許した。
【ヴェンデル】【プロテアの王・エルフ】
アメリアの父、ファーガスとは幼い頃からの付き合いで親友。
ミルズにお父さんと呼ばれたい…今日この頃。
【ファーガス】【ドワーフ・剣士】
40代・そろそろ引退を考えている。
ヴェンデルとは親友で共に剣術を磨いた。
【セオドア】【ドワーフ・大工】
ミルズの友人で、ウォルトの父。ミルズに新居を頼まれる。
344: 2013/02/11(月) 16:25:30.56 ID:wX71tVkL0
【人物紹介】
【ラキ】ー不明ー11・2歳
ネアによってプロテアに連れて来られた正体不明の少年。
感情の発露が乏しく周りと噛み合っているのか、いないのか。
『初めて』救いの手を出してくれたネアには特別な感情を抱いている。
出会い、接した者には少なからず思う所がある様だが…
やはり『よく分からない』ようだ。
【セシリア】ープロテアの若き女王ー17歳
両親共に病で亡くしている。『女王』であろうとして行き過ぎる事もある。
ネアとは親友で『セシリア』として頼りにしている。
【ネア】ーエルフの医師・薬師ー17歳
両親共に病で亡くしている。セシリアとは親友で互いに支え合う。
蔓延する病を止める為、掟を破り外界の山林へ薬草を取りに行く。
其処でラキと出会いプロテアに連れてきた。
ラキが笑顔を向けた唯一の存在、膝枕とかした。
【カルア】ーエルフの騎士ー19歳
カレンの姉・剣術の腕も良く、しっかり者だが考えが少々堅く考え込み易い。
女王、そしてセシリア自身を守ると誓う。
【カレン】ーエルフの騎士ー18歳
カルアの妹・人当たりが良く、優しく柔らかな性格、若干……。
姉の様には出来ないが自分なりにセシリアを支えようとしている。
【ルシアン】ー不明ー24歳
当代の剣士、ラキを引き取った。
剣士なのに色々言われる、ジーナには矢で射られ…ネアには玉を蹴られた。
【ガルト】ードワーフー20代
イザークの息子で鍛冶職人。ラキに気合いを教えた、うるせえ。
【イザーク】ードワーフー40代半ば
超一流鍛冶職人だが自分が認めた者にしか剣を造らない頑固者。
ラキに命を救われた、結構うるさい。
【ハンク】ー獣人ー18歳
ジーナの弟・姉の行く末を案じ、日々胃を痛める心優しき青年。主に結婚とか…
345: 2013/02/11(月) 16:38:24.90 ID:wX71tVkL0
【イザーク】ードワーフー40代半ば
超一流鍛冶職人だが自分が認めた者にしか剣を造らない頑固者。
ラキに命を救われた、結構うるさい。
【ハンク】ー獣人ー18歳
ジーナの弟・姉の行く末を案じ、日々胃を痛める心優しき青年。主に結婚とか…
【ジーナ】ー獣人ー22歳
ハンクの姉・気が強く、狩りが好き。
ルシアンの事が…でも素直になれなくて……矢を放つ。
【ライル】ー獣人ー24歳
若き里長、病で両親を亡くすが父を継ぎ、里長として里に尽くす。
ルシアンを馬鹿にしていたが、人の事言えない。
【イネス】ー獣人ー24歳
ライルを気に掛けており、お昼のお弁当は欠かさない。料理上手な女性。ライルが…
【ウォルト】ードワーフー24歳
ルシアンの友達で大工さん、最近新築が少ないので困っている模様。
【パルマ】ーエルフ・医師ー60代後半
優しいお婆ちゃん。ファーガスとは幼い頃からの付き合いで、ファーガスの恥ずかしい事を沢山知ってる。
【ルファ】ー獣人の騎士ー17歳
カルアの一番弟子で活発な女の子。
ラキを気に入ったようだが、それと同時にラキの心も案じている。
【ファーガス】ードワーフー60代後半
現在は里長、お爺ちゃんだが先代の剣士でルシアンの師。
七十歳間近らしいが六十歳だと主張する永遠の六十代。
パルマお婆さんとは幼い頃からの付き合いで、弱み…その他諸々を握られている模様。
【ニコラ】ーエルフー30代
エルフの里長でネアのおばさん・ネアのお母さんの妹。
小さい子が……ネアも若干そこら辺似てるのかも知れない。
両親を失った子供達のこれからを気に掛けている。
【リズ】ーエルフー7・8歳
両親を病で亡くした少女。
幼いながらに自分は誰にも必要されない存在なのだと考え至る。
一切の同情・憐れみを持たずに接したラキに『救われ』兄と慕っている。
【タリウス・故人】ーエルフの騎士ー
女王侮辱・障害・殺人未遂の罪によりルシアンに処刑される。
彼もまた、両親を亡くしていて酷く荒んでいた様である。
346: 2013/02/11(月) 16:45:03.72 ID:wX71tVkL0
【過去編・登場人物】
【ルシアン】【不明】
エルフの里近くの林で発見された赤ん坊。
名付け親はミルズ。
【ミルズ】【エルフの若き騎士】23歳
裸のまま捨てられていた赤ん坊を発見、自ら引き取りルシアンと名付けた。
【アメリア】【エルフの王女】21歳
結婚間近にミルズが拾った赤ん坊を引き取ると言うが、
ミルズへの気持ちは一切変わらず、自身の息子として育てると誓った。
【マルセラ】【プロテアの女王・エルフ】40代半ば?
プロテアを統べる者、アメリアの母。
娘の婚約者であるミルズが赤ん坊を引き取るのを許し、結婚も条件付きで許した。
【ヴェンデル】【プロテアの王・エルフ】40代半ば
アメリアの父、ファーガスとは幼い頃からの付き合いで親友。
ミルズにお父さんと呼ばれたい…今日この頃。
【ファーガス】【ドワーフ・剣士】40代半ば
40代・そろそろ引退を考えている。
ヴェンデルとは親友で共に剣術を磨いた。
【セオドア】【ドワーフ・大工】23歳
ミルズの友人で、ウォルトの父。ミルズに新居を頼まれる。
347: 2013/02/11(月) 17:03:16.51 ID:wX71tVkL0
>>342 セシリアやネアの年齢は序盤に書いていましたが、他の人物の年齢は書いてませんでしたね。
こんな感じでどうでしょうか?
>>343 24年前になりますね。
登場人物のイメージと年齢に違和感は無いでしょうか?
352: 2013/02/14(木) 02:53:58.02 ID:kwlU7vtz0
………………
……
アメリア「ルシアン…」
ルシアン「すぅ…すぅ…」
アメリア「私とミルズの子…
(母様の言っていた通り育児は大変ね…寝かせるのも一苦労。
でもこの子の可愛い寝顔を見れば育児の辛さなんて些細な事…
これからは母としてこの子を守って行かなければ)」
コンコン…
アメリア「はい、どうぞ」
ガチャ…パタン
ミルズ「ただいま、アメリア」
アメリア「お帰りなさい。随分早かったけど…」
353: 2013/02/14(木) 02:56:06.79 ID:kwlU7vtz0
ミルズ「ああ、フィオナとケイトが馬車で送っ
ガチャ!!
フィオナ「よっ、アメリア!! 元気か!?」
アメリア「……フィオナ、静かにして…」
ルシアン「…んっ…すぅ…すぅ」
アメリア「はぁ…良かった……」
フィオナ「へへっ、ごめんごめん…」
ミルズ「アメリアに会いたいって聞かなくてな」
フィオナ「いやー可愛いなぁ…
アメリアに赤ちゃんか…私も赤ちゃん欲しいなー」
アメリア「そんなに急がなくても大丈夫。フィオナは可愛いから」
354: 2013/02/14(木) 02:56:55.26 ID:kwlU7vtz0
フィオナ「そっかなー?」
パタン…
ケイト「フィオナ、扉は開けたら閉めろ。
それに何時まで話してるつもりだ? 早くアメリア様を城に
フィオナ「ケイトだって赤ちゃん見たくて来たくせに」
ケイト「…違う、ミルズ殿を送り届けに来ただけだ…」
フィオナ「じゃあ、馬車で待ってろよー」
ケイト「ま、まあ良いじゃないか。しかし可愛いな…」
アメリア「はぁ…フィオナ・ケイト、城に戻りましょう?」
ケイト「ち、ちょっと待ってくれ、もう少し…」
アメリア「全く、もう…」
ミルズ「アメリア、ありがとう。大変だっただろう?」
アメリア「ううん、平気。それよりミルズ、ファーガスさんは何て?」
355: 2013/02/14(木) 02:58:41.57 ID:kwlU7vtz0
ミルズ「マーカスが何か企んでるらしい…
ヴェンデル陛下とファーガスさんに用心しておけと言われた」
アメリア「マーカス…確かミルズと同世代の騎士だったわね。
でも、赤ちゃんに夢中の二人は知ってるの? 話して大丈夫?」
ケイト・フィオナ「「女王陛下に聞いたから大丈夫」」
ミルズ「二人共君の側近騎士だ…女王陛下から話しは聞いてるさ」
アメリア「二人共仕事はしっかりするのだけど少し抜けてるのよね…
ケイトは馬車の運転出来ないし…フィオナは剣術ばかりだし」
ミルズ「女王陛下が選んだのだから問題ないさ」
アメリア「そうだけど…母様は『私にはヴェンデルが居るから大丈夫』とか言ってるし。
私にだってミルズが居るから平気なのに…」
フィオナ「そんな事言うと一緒に寝てあげないぞー?」
アメリア「何時もフィオナが勝手に入って来るんじゃない…」
356: 2013/02/14(木) 02:59:35.94 ID:kwlU7vtz0
ケイト「え? でも昨日は嬉しすぎて眠れな
アメリア「早く帰りましょう。母様に怒られるわ」
フィオナ「そうだな。んじゃ、帰るか」
ケイト「ではミルズ殿、我々はこれで失礼致します」
ミルズ「ああ、送ってくれてありがとう」
ガチャ…パタン…
アメリア「ねえ、ミルズ」
ミルズ「ん? どうした?」
アメリア「あの…その……あ、愛してるわ」
ミルズ「ああ、オレも愛してる」
アメリア「ふぁ!?
(うぅ…何時も私ばっかりドキドキしてミルズは全然動揺しない…何か悔しいなぁ)」
ミルズ「どうした?」
アメリア「へっ? ううん、大丈夫。じ、じゃあまたね」
ミルズ「…? ああ、また」
ガチャ…パタン…
357: 2013/02/14(木) 03:00:45.60 ID:kwlU7vtz0
………………
……
セオドア「と、言うわけでお前も手伝え」
イザーク「仕方ねえな…分かったよ。
しかしミルズの奴、女王陛下に面と向かってそんな事言うとは…流石オレの認めた男。
ファーガスさん・ヴェンデルさんが入れ込むのも良く分かるぜ」
セオドア「馬鹿正直だし、やるって言ったら曲げねえ頑固な奴だが…
見てて気分の良い奴だよ、アイツは」
イザーク「そうだな…よっしゃ!!
さっさと家建てて幸せな新婚生活を送らせてやろうじゃねえか!!」
セオドア「何だよ、渋々受けた様な顔だったのに随分乗り気じゃねえか」
イザーク「うっせえ!!」
358: 2013/02/14(木) 03:02:20.38 ID:kwlU7vtz0
ガチャ…パタン…
イザーク「いらっしゃい!! えっ!? ファーガスさん!?」
ファーガス「イザーク、セオドア久しぶりだな。
それよりイザーク、突然で悪いがお前に頼みがある」
………………
……
ファーガス「どうだ? 出来そうか?」
セオドア「へぇ……話しを聞くだけでも随分変わった剣だな」
イザーク「ああ、正直かなり難しい…なにせ今まで造ってきた剣とは全く違うからな。
ですが必ず造って見せます…何たってファーガスさんの頼みですから!!」
ファーガス「済まないな、イザーク。宜しく頼む」
イザーク「それよりファーガスさん、一つ聞きたいことが…」
ファーガス「なんだ? 言ってみろ」
イザーク「この剣は『誰を』超える為に?」
359: 2013/02/14(木) 03:03:23.82 ID:kwlU7vtz0
ファーガス「……二人共、誰にも言うなよ」
イザーク・セオドア「「分かりました」」
ファーガス「ミルズだ。つい先程、俺はミルズに負けた」
イザーク「なっ!? ファーガスさんが負けた!?」
セオドア「すげえ奴だとは思ってたが、まさかファーガスさんに勝つとは…」
ファーガス「馬鹿者!! デカい声を出すな!!」
イザーク「すんません!!」
ファーガス「ふぅ…まあ真剣で勝負する事は無いだろうが、今の俺を超えなければミルズには勝てん。
居合い自体にまだまだ改善の余地はあるからな…
だが剣が完成すれば相手が刃圏に入った瞬間に倒す…俺の理想の居合いに手が届く」
イザーク「ミルズは其処まで?」
ファーガス「ああ、強かった…奴は俺を超える為に修練したと言っていた。
負けたが、全く悪い気はしなかったな…」
セオドア「あの……ミルズの奴はどうやってファーガスさんに勝ったんです?」
360: 2013/02/14(木) 03:04:47.28 ID:kwlU7vtz0
ファーガス「二刀、奴は二刀使った……二刀だから俺に勝てた訳ではない。
ミルズ自身も勿論強い、練り上げられた良い剣術だった」
イザーク「やっぱりな……だからミルズは」
セオドア「やっぱりって、お前知ってたのか?」
イザーク「ああ、実はミルズにも剣を頼まれててな」
ファーガス「もう完成したのか? 良ければ見せてくれ」
イザーク「分かりました…ミルズには言わないで下さいよ? これです……」
全く同じ両刃直剣が二本…
他の剣と違うのは柄が通常より長めに造られている事だ。
セオドア「ん? 何だこれ…」
片方の剣の柄頭には突起が、
もう片方の剣の柄頭には窪みがある。
361: 2013/02/14(木) 03:07:47.91 ID:kwlU7vtz0
ファーガス「フッ…ハハハッ!! ミルズめ…!! まだ『先』があると言うのか」
セオドア「おいおい…こんな剣見たことねえぞ…」
イザーク「ああ…オレもミルズの発想には驚いた。
後にも先にも『コレ』を扱えるのはミルズしか居ねえだろう……」
ファーガス「(ふふっ、面白い…ミルズは俺を超えた。
だが剣に終わりは無い。ミルズよ、次は負けんぞ…)」
362: 2013/02/14(木) 03:09:33.27 ID:kwlU7vtz0
………………
……
ーその日の夜ー
アメリア「で、二人共一緒に寝るのね」
フィオナ「まあまあ、色々聞きたい事もあるし」
ケイト「全く…仕方のない奴だな」
アメリア「ケイト…貴方もフィオナの事言えないわよ?」
ケイト「うっ…済まない。正直気になって…」
アメリア「なにが?」
フィオナ「どこまで行ったんだ?」
アメリア「へっ!? いきなり何よ…」
フィオナ「もう、『した』のか?」
アメリア「うぅ…そんなのはまだ全然ないよ…
ルシアンが七つになるまでは駄目だって母様も……」
ケイト「なのに子持ちか…複雑だな……」
アメリア「別に良いじゃない…二人で決めたんだから……」
363: 2013/02/14(木) 03:11:15.93 ID:kwlU7vtz0
フィオナ「ミルズも男だからなー、浮気したりしてな?」
アメリア「……しないもん」
ケイト「フィオナ、不安を煽るな」
アメリア「ミルズは浮気なんてしないもん…」
フィオナ「ミルズは格好いいからなー、女騎士の中にも
アメリア「誰? 何人居るの? 名前は?」
ケイト「アメリア…それを聞いてどうするんだ?」
アメリア「……ふふっ」
目は全く笑っておらず口元だけ笑っている…
不穏な事を考えているのは間違いないだろう。
フィオナ「じ、冗談だって…」
アメリア「嘘は…ダ メ だ よ ?」
フィオナ「ひっ!! 本当、本当だって!!」
アメリア「そう…あんまり驚かさないでよ。でないと私……」
フィオナ「(でないと…なんだよっ!? 怖いよ!!)」
ケイト「(ミルズ殿絡みでからかうのは止めた方が良いな…)」
364: 2013/02/14(木) 03:12:37.66 ID:kwlU7vtz0
ーーーーーー
ーーー
ー
【三週間後】
ミルズ「ありがとう!! セオドア・イザーク!!」
イザーク「ガハハッ!! まあ、オレに掛かればこんなもんだ!!」
セオドア「喜んでくれて何よりだ。だが…イザーク」
イザーク「なんだ?」
セオドア「なんでお前の家まで建てなきゃならねえんだよ!!」
イザーク「いやぁ、前から静かな所で仕事してえと思っててな。
ミルズが家建てるっつうからついでに、な?」
セオドア「な? じゃねえよアホ!! 息子ほったらかして仕事仕事で嫁に滅茶苦茶に言われたんだぞ!?」
イザーク「うるせえ!! 別に良いだろ!? オレだってもうすぐ結婚すんだから!!」
ミルズ「セオドア、許してやれよ。
イザークが手伝ってくれなきゃ此処まで早く建たなかったんだ。何よりめでたい事じゃないか」
365: 2013/02/14(木) 03:13:32.76 ID:kwlU7vtz0
セオドア「ぐっ…まあ、そうだよな。
しかしイザークも結婚か、一生独身かと思ってたが」
イザーク「好き勝手言いやがって…まあ、なんだ…その、ガキが生まれたら…宜しくな」
ミルズ「ああ、近所なんだし宜しく頼む」
セオドア「ミルズ、馬鹿が近くに居ると大変だろうが頼むぜ?」
イザーク「人が素直になったっつうのに…てめえは…」
ミルズ「(今日から此処がアメリアとルシアン…そしてオレの三人の家…
父として夫として、しっかりしないとな…)」
366: 2013/02/14(木) 03:14:29.36 ID:kwlU7vtz0
……………
……
マルセラ「式は城に戻って来てからするのね?」
アメリア「うん、その方が合ってる気がするから」
ヴェンデル「花嫁姿も七年後までお預けかよ…なげえなぁ」
マルセラ「まあ、式を挙げたのに城に住まないんじゃ可笑しな話しだものね。
ところで、ミルズはどうしてるの?」
アメリア「荷物を運んで新居に向かったわ、勿論ルシアンも一緒に」
ヴェンデル「なあ、マルセラ」
マルセラ「どうしたの?」
ヴェンデル「オレも向こうで暮らすってのは
マルセラ「却下」
367: 2013/02/14(木) 03:15:14.30 ID:kwlU7vtz0
ヴェンデル「……………」
アメリア「じゃあ、行くから……」
マルセラ「ええ、ああ言った手前…見送りは出来ないけれど、しっかりね?」
アメリア「うん、ありがとう母様」
ヴェンデル「たまには顔見せろよ?
城に来るなとは言われて無いんだから」
アメリア「父様もありがとう…じゃあ、行ってきます」
ガチャ…パタン…
ヴェンデル「行っちまったな…あ、泣きそう」
マルセラ「全く、しっかりしなさいよ…涙は七年後に取って置きなさい」
ヴェンデル「ああ…そうだな…」
368: 2013/02/14(木) 03:16:57.67 ID:kwlU7vtz0
【夕方】
ミルズ「アメリア、これから宜しく頼む」
アメリア「ええ、ミルズがこの子を育てると言った時は正直驚いたけれど…
私は貴男の妻としてルシアンの母としてずっと側にいるわ」
ミルズ「ありがとう、アメリア」
アメリア「ねえ…ミルズ」
ミルズ「どうした?」
アメリア「マーカスが何を企んでいるのかは分からないけれど、
危機が迫ったらこの子だけは守らなければならないわ」
ミルズ「守るさ。君も、ルシアンも…勿論プロテアの皆も。
前にも話したが、オレの両親は早くに亡くなった…でもパルマさんを始め沢山の人がオレを支えてくれた。
だからオレは必ず守って見せるよ、その為に騎士になった…その為に強くなったんだから」
アメリア「……貴男の両親はきっと立派な方だったのね。
そうでなければ貴男の様な、真っ直ぐで綺麗な瞳を持つ人が生まれる訳がないもの……」
ミルズ「ありがとう……アメリア」
「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」
アメリア「ふふっ…王子様がお腹を空かせて起きたみたい」
ミルズ「ははっ、みたいだな。さて、夕御飯にするか!!」
【過去編#1 終】
370: 2013/02/14(木) 03:25:18.67 ID:kwlU7vtz0
【五年後】
ルシアン「父さん、母さん、ウォルトとあそんでくる!!」
アメリア「気を付けてね? あまり危ない事しちゃダメよ?」
ミルズ「喧嘩はするなよ?」
ルシアン「分かってるって!! じゃあ行ってきます!!」
ガチャ…バタン…
アメリア「もう五年…私達の心配なんて必要無かったわね。
周りと身体が違うなんて悩んでる様子もないし…ライル君に駆けっこで勝ったって聞いた時は驚いたけど」
ミルズ「『人間』ではないのかもしれないな…
だが『ルシアン』であることには変わりは無い、今まで通りで良いだろう」
アメリア「ええ、そうね。それより…」
ミルズ「ああ、まだ見つからない。
もし氏んでいるか、外界に出たのならなら君と女王陛下は『分かる』筈だからな」
アメリア「ええ、生きていてプロテアに居るのは間違いないわ。
早く見つかると良いのだけれど…」
371: 2013/02/14(木) 03:26:48.07 ID:kwlU7vtz0
………………
……
ルシアン「わりぃわりぃ、待たせたな」
ウォルト「で、今日はどこ行く?」
ルシアン「うーん…んじゃ、ライルんトコに行くか!!」
ウォルト「なんだよ…結局いつも通りだな。
エルフの里には行かねえのか?」
ルシアン「タリウスがムカつくからな…ぶっ飛ばしたから良いけど。
もんだいはニコラだ、なんか変なの飲まされて女の服着せられたから行きたくねえ…」
ウォルト「ああ…お前が泣いてるの見たのはあれが初めてだったな。
薬ってこわいな……」
ルシアン「そうだな……」
ウォルト「んじゃ、ライルんトコ行くか」
ルシアン「おうっ!!」
372: 2013/02/14(木) 03:28:42.39 ID:kwlU7vtz0
【獣人の里】
ライル「よっ、今日は何するよ?」
ウォルト「何だよ、イネスとジーナまでいんのか」
ライル「しかたねえだろ? くっついて来るんだから」
イネス「ちがう、ぐうぜん会っただけ」
ルシアン「ウソつけ、遊ぶ時ぜったいいるじゃねえか」
ジーナ「ねえ、おままごとしたい」
ルシアン「この前やったろ? 今日は山に行こうぜ」
イネス「木登りする?」
ウォルト「オレ登れねえよ…」
ライル「まあ、とりあえずひみつきち行こうぜ」
ルシアン「そうだな!!」
ジーナ「アタシも行きたい」
373: 2013/02/14(木) 03:29:37.16 ID:kwlU7vtz0
ウォルト「あぶねえからダメだ。ジーナはまだ小せえし」
ライル「そうだな…」
イネス「んじゃ、私はジーナといっしょに
ジーナ「やだ、アタシもひみつきち行く」
ルシアン「……分かった!! ジーナはオレがおんぶしてやる。
んで、暗くなる前にもどれば大丈夫だ!!」
ジーナ「いいの?」
ルシアン「ああ、いいぜ!! みんなで行った方が楽しいしな」
ウォルト「そうだな…ジーナごめんな? なかま外れみたいにして」
ライル「だな…オレもごめん」
ジーナ「だいじょうぶ。みんなありがとう」
ライル「イネス、つかれたら言えよ? おんぶするから」
イネス「うん、ありがとうライル」
ルシアン「んじゃ、しゅっぱつ!!」
374: 2013/02/14(木) 03:30:23.32 ID:kwlU7vtz0
【山・秘密基地】
ルシアン「はぁー、つかれたな」
ジーナ「ルシアン、ありがとう」
ルシアン「いいっていいって」
ライル「ルシアン、水持ってきたから飲めよ」
ルシアン「お、ありがとな」
イネス「おにぎりも持ってきたから…食べて?」
ウォルト「さすがイネス。んじゃ、いただきます」
375: 2013/02/14(木) 03:32:40.13 ID:kwlU7vtz0
………………
……
ウォルト「また、けんじゅつか?」
ルシアン「ん? イネスとジーナは?」
ライル「おままごと中」
ルシアン「そっか」
ライル「お前、けんじゅつならってんの?」
ルシアン「いや、なんか最近へんなオッサンが来て教えてくれるんだ」
ライル「へんなオッサン?」
ルシアン「お面かぶってるから顔は分かんねえけど、めっちゃくちゃつえぇんだよ」
ウォルト「へぇー、どんなの教えてもらったんだ?」
376: 2013/02/14(木) 03:34:24.05 ID:kwlU7vtz0
ルシアン「よし、ちょっと見てろよ」
かなり大きい枝を右肩に担ぎ、
腰を落とし体勢を低くする、そして…
ダンッと大きく踏み込み振り下ろす。
どうやら相手の懐に一気に飛び込み、一撃で終わらせる剣術の様だ。
ライル「すげえな!!」
ウォルト「よくそんなデカいのふれるな…
なにもんだよ、お前……」
ルシアン「はははっ!! オレにも分かんねえ!!
でもよ…タリウスに『みみなし』とか言われるし…『ほんとう』のこどもじゃないとか言われるんだ…」
ライル「けっ……気にすんな!! オレらがいる!!
それにミルズさんもアメリアさんも、ルシアンの『ほんとう』の父ちゃん母ちゃんだよ!!」
ウォルト「だな、じゃなきゃあんなにやさしくないだろ!?」
ルシアン「そっか……そうだよな!!」
377: 2013/02/14(木) 03:36:47.45 ID:kwlU7vtz0
『きゃああああ!!』
ルシアン「…!! イネスか!?」
ライル「ッ!! おい、もどるぞ!!」
ウォルト「おうっ!!」
…………………
……
イネス「ジーナ!! だいじょうぶ!?」
ジーナ「ヒッグ…グスッ…いたいよぉ」
ジーナの右腕からは血が流れ、
指先にまで垂れている…
「……ヒッ…ヒヒッ……」
イネス「ウーゴさん…なんで…」
ウーゴ「……カカッ…ヒヒッ……」
ウーゴと呼ばれた男は剣を片手に薄ら笑いを浮かべ、
瞳は何処を見ているのか分からない…
ただ、正気では無い事は確かだ。
378: 2013/02/14(木) 03:38:27.95 ID:kwlU7vtz0
ライル「やめろっ!!」
ウォルト「おい!! あの人、行方知れずになってたウーゴさんじゃねえか?」
ルシアン「んな事はいい!! おい、イネスとジーナからはなれろ!!」
ウーゴ「……ケヒッ……」
ルシアンの声を聞いた直後、
ウーゴは一直線にルシアンに向かい剣を振り下ろした。
ルシアン「っぶねえな!!」
身を捩り躱すが、ウーゴは次の攻撃に移っている。
ルシアン「ッ!! ライル!! ジーナをおぶって逃げろ!! ウォルトとイネスもだ!!
そんで父さんに伝えてくれ!!」
ウーゴの攻撃を躱しながら指示を飛ばす、
どうやらウーゴの標的はルシアン一人のようだった。
379: 2013/02/14(木) 03:39:34.38 ID:kwlU7vtz0
ライル「わ、わかった!! ジーナ、早くつかまれ」
ジーナ「で、でもルシアンが…」
ルシアン「いいから早く行けッ!!!」
ウォルト「…ッ!! 行こう、早く里のみんなとミルズさんに伝えるんだ!!」
ライル「よし、急ぐぞ!!」
イネス「う、うん!!」
380: 2013/02/14(木) 03:41:27.95 ID:kwlU7vtz0
……………
……
ルシアン「ウーゴのオッサン!! どうしたんだよ!!」
ウーゴ「…キキッ…ヒャヒッ……」
声は届かず、尚も攻撃は続く…
理性は失われていながら太刀筋は鋭い。
そして遂に……凶刃がルシアンを捉えた。
ルシアン「ぐっ…!!」
右肩に、ざくりと刃が沈んで行く。
ルシアン「(いってぇ!! ダメだ…ころされる……)」
381: 2013/02/14(木) 03:42:50.51 ID:kwlU7vtz0
「おらぁぁぁ!!」
その時、
雄叫びと共に現れた小さな影がウーゴにドンッと思い切り身体をぶつける…
ウーゴは剣を掴んだまま吹き飛び、地面に倒れた。
ルシアン「ウォルト!? なんで…」
ウォルト「へへっ、オレは足が遅いからな…連絡はイネスに任せてもどって来た」
ルシアン「バカ野郎、ありがとな…」フラッ
ウォルト「おい、大丈夫か!?」
ルシアン「ああ、今の内に早く逃げよう。
ウーゴのオッサンは普通じゃ無かった」
382: 2013/02/14(木) 03:55:07.53 ID:kwlU7vtz0
ウォルト「ああ…そうだ
ザシュッ… ウォルト「うあぁッ!!」
ウーゴは既に背後に迫っていた…
そしてウォルトの背中を躊躇い無く…斬り裂いた。
ウーゴ「……ヒャヒッ…フヒャ……」
ルシアン「ウォルト!! おいっ!!」
ウォルト「いてぇ…ルシアンもジーナもこんなに痛かったのか……ルシアン、傷…大丈夫か?」
ルシアン「……!!
(最初から逃げれば良かったんだ。
オレはバカだ…ウォルトの方がオレよりずっと強いじゃねえか。
でも……でもっ!!)」
383: 2013/02/14(木) 04:03:44.00 ID:kwlU7vtz0
ルシアン「ジーナとウォルトを傷付けたのは許せねえっ!!!」
感情が爆発する、
血液が沸騰する、
そして、小さな身体に収まり切らない怒りは…
ルシアン「ウォォアアアアアッ!!!」
凄まじい咆哮と共に、その姿を現す…
ぎらりと輝く紅い瞳……
額から後頭部へと続く二本の角。
全身は漆黒に覆われ…異質の気を纏っている。
『人間』では無い……その風貌は……悪魔のそれだ。
384: 2013/02/14(木) 04:06:42.22 ID:kwlU7vtz0
ウォルト「……ルシアン…?」
ルシアン「…………」
ゆっくりとウォルトを抱き起こし、
ルシアンは背中にそっと手のひらを当てる……
ウォルト「痛く…ねえ…治った、のか?
ッ!? ルシアン!! あぶねえっ!!」
ウーゴ「………ヒャヒャ!!」
ドチャッ!! とルシアンの右肩に剣が振り下ろされ、
鳩尾の辺りまで深く斬り裂かれる…
だが忽ち傷は塞がり、ルシアンは立ち上がる。
ウーゴ「ヒッ!! ヒィィッ!!」
思考は無くとも恐怖は感じるのか、剣を手放し数歩退く……
ルシアンはグルリと振り向き、
背に刺さった剣を『鳩尾』から、ずるりと引き抜くと右肩に担ぎ…
385: 2013/02/14(木) 04:08:40.63 ID:kwlU7vtz0
ルシアン「グルォォアアア!!!」
咆哮…そして……
ズッ!! ウーゴ「ゲャァッ!!」
振り抜かれた剣は左肩から右脇腹に抜け…
血飛沫を上げた後、光の粒となり天に昇った。
ルシアン「うっ…あぁっ…」
直後、纏っていたモノはルシアンの身体から煙のように抜けて行き、
そのまま地面に突っ伏した…
ウォルト「おい!! ルシアン!! しっかりしろ!!」
389: 2013/02/16(土) 06:19:04.20 ID:iKjTpUl00
………………
……
アメリア「…!! ミルズ…」
ミルズ「ん? どうした?」
アメリア「……『一人』亡くなったわ」
ミルズ「ッ!! 残りの三人は…」
アメリア「大丈夫……生きてるわ。
騎士が四人も行方不明、これだけでも異常だと言うのに……」
ミルズ「ああ、夜を徹して捜索したが結局見つからなかった。
もう十分休んだし、そろそろオレも捜しに行かないと…」
ガチャッ!!
アメリア「イネスちゃん!? どうし
イネス「ミルズさん、アメリアさん!! ルシアンが!! ルシアンが!!」
390: 2013/02/16(土) 06:20:05.66 ID:iKjTpUl00
ミルズ「……!! イネスちゃん落ち着いて…
何があったのか話してくれるかい?」
アメリア「ゆっくりでいいから、ね?」
イネス「う、うん…えっとライル、ルシアン、ウォルト、ジーナと一緒にひみつきちに行ったの」
アメリア「うん、それで?」
イネス「それで、それッで、ひみッつきちで遊んでたらウーゴさんが来て…
いきなりジーナに…グスッ…ジーナを剣で…そしッたらルシアン達が助けッに来てッれて……
ウーゴさウッが…グスッ…ル…アンに、それッでルシアンがはやく逃げッろって…ウッうわぁぁぁっ!!」
アメリア「ッ!! イネスちゃん、もう大丈夫よ……
(ウーゴさんが? 信じられない…何故こんな……)」
イネス「ウッ…グスッ…ウゥッ」
ミルズ「アメリア、行ってくる。イネスちゃんを頼む……」
アメリア「ええ、分かったわ」
パタン…
391: 2013/02/16(土) 06:23:13.18 ID:iKjTpUl00
………………
……
ミルズ「(アメリアは『分かる』が、『誰が』氏んだかまでは分からない。
ルシアン、無事で居てくれ…!!)」
「「「ミルズ」」」
ミルズ「ロドニー!? ヴァルとワルターまで!! 皆無事だったのか!!
皆、心配したんだぞ? 今まで何処
「「「ミルズ…お前に伝えたい事がある」」」
ミルズ「……!? 『誰』だ…?
(皆生気が無い…明らかに様子がおかしい。一体何が…)」
392: 2013/02/16(土) 06:24:47.41 ID:iKjTpUl00
「「「ミルズ、お前は誰も救えない」」」
ミルズ「……どういう意味だ」
「「「これは実験……『次』を楽しみにしていてくれ」」」
ミルズ「実験、『次』? 何を言っている…」
三人は一斉に剣を抜き、
「「「 お前は 誰も 救えない 」」」
ミルズ「なにを…!?」
自らの首筋に刃を当てる……
393: 2013/02/16(土) 06:30:01.21 ID:iKjTpUl00
ミルズ「…!? おいッ!! 止せッ!!!」
そして、ゆっくりと…刃を滑らせる……
ミルズ「止めろぉぉぉぉッ!!!」
ぶしゃっ……
夥しい量の鮮血を吹き出し…同時、光の粒となる。
彼等に告げられた言葉が幾度も蘇り、消えていく……
「「「お前は 誰も 救えない」」」
ミルズ「ぐっ、うぅっ……ウォォアアアアアッ!!!」
394: 2013/02/16(土) 06:34:33.77 ID:iKjTpUl00
ーーーーーー
ーーー
ー
マルセラ「行方不明の騎士四名が氏亡…」
ミルズ「はい、ウォルト君の話しを聞いた限りウーゴさんは『普通』では無かったと…」
ヴェンデル「ミルズ、お前の前に現れた三人は『次』と言ったんだな?」
ミルズ「はい、確かに。実験だとも言っていました…
薬物による物か、或いは洗脳に近いような感があります」
ヴェンデル「……マーカスか」
マルセラ「かも知れないわね…でも証拠は無い」
ミルズ「ファーガスさんから『剣士』を継いで四年。
なのに、オレは彼等の言う通り……救えなかった」
マルセラ「『敵』の狙いは貴方の心を折る事……
ウーゴはルシアンを狙っていたそうだし、間違い無いでしょう」
395: 2013/02/16(土) 06:41:05.32 ID:iKjTpUl00
ミルズ「両陛下、オレはどうしたら……」
ヴェンデル「生きて守れ、実験と称して殺された四人の為にもな。
それとミルズ…ルシアンの話しだが」
ミルズ「はい、ウォルト君によると…
角が生え、瞳は紅く、身体は真っ暗闇みたいだった…と」
ヴェンデル「マルセラ、やはりルシアンは『人間』じゃねぇな。
だが、そんな種族は聞いた事も見た事もねぇぞ」
マルセラ「……先程その話しをミルズに聞いた時、幼い頃にお婆様に聞かされた御伽噺を思い出したわ。
何千年も昔、人間との戦争を放棄して此処プロテアに移住する事を決めた…その退き口。
三種族を守る為に散ったもう一つの種族……」
ミルズ「その種族とは…?」
マルセラ「瞳は紅く、暗黒を身に纏い、額には二本の角。
どの種族より優れ、圧倒的な力を持つ……魔の者達」
396: 2013/02/16(土) 06:43:55.43 ID:iKjTpUl00
ミルズ「…!! ルシアンはその種族だと?」
マルセラ「その種族が存在し、生き延びていたのなら間違い無く現在も我々と共にプロテアに居る……
でもプロテアに彼等は存在しない、と言う事は絶滅したと考えて間違い無いでしょう」
ミルズ「ならば何故…」
マルセラ「これは私の願い……と言うか妄想なのだけど聞いてくれるかしら」
ヴェンデル「聞かせてくれ」
ミルズ「……………」
マルセラ「もし『魂』と言う物が確かに存在するのなら…
帰ってきた……そうね、帰ってきたのではないかと思うの」
ミルズ「それは、どういう?」
397: 2013/02/16(土) 06:46:02.14 ID:iKjTpUl00
マルセラ「先のお婆様の話しが御伽噺などではなく真実だとしたら…
絶滅した種族の魂がプロテアに、故郷に帰って来たのかも知れない。
何千年の時を経て、自分達が命を賭して守った者達の住む場所にね……」
ミルズ「その『魂』がルシアンだと?」
マルセラ「私はそう思いたいわ」
ヴェンデル「だが、話しを聞いた限り過ぎた力だ。
物事の善し悪しなら兎も角、力の扱い方は教える事は出来ねえ」
マルセラ「ええ、そうね……」
398: 2013/02/16(土) 06:49:03.92 ID:iKjTpUl00
ヴェンデル「祖父として不甲斐ねぇが……
其ればかりはルシアン自身が見つけなければならない」
ミルズ「ルシアンは大丈夫です。
結果ウーゴさんを……頃してしまいましたが明らかに他者を守る為。
守る為なら頃しても良いとは決して言えませんが、力の使い方として間違ってはいない筈です」
ヴェンデル「ああ、そうだな……
取り敢えず、ルシアンの力については信頼出来る極一部の者にしか伝えていない。
今は余計な混乱を生むだけだろうからな……」
ミルズ「そう…ですね」
マルセラ「それよりミルズ」
ミルズ「…はい」
マルセラ「気を強く持ちなさい、貴方は私が認めた剣士よ。
剣士として、父として、夫として強く生きなさい」
ミルズ「……!! はい、分かりました」
399: 2013/02/16(土) 06:50:26.72 ID:iKjTpUl00
…………………
……
ファーガス「話しは終わったか?」
ミルズ「はい、アメリアとルシアンは?」
ファーガス「昔アメリアが使っていた部屋で寝ている。
部屋の前にはケイトとフィオナが付いているから大丈夫だ」
ミルズ「そうですか…」
ファーガス「ミルズ……剣士とは何だ? お前の思い描く剣士とは?」
ミルズ「……守護する者、救う者、皆の為に力を振るう者。
オレは、そう思ってきました。なのに……」
400: 2013/02/16(土) 06:52:16.20 ID:iKjTpUl00
ファーガス「ロドニー、ウーゴ、ヴァル、ワルター。
ウーゴは良き先輩として……他の三名はお前を慕い尊敬していた騎士達だった。
だから、お前は彼等を守らなければならない」
ミルズ「え? ですが…皆、亡くなりました。もう……」
ファーガス「まだだ、まだ残っている」
ミルズ「………分かりません」
ファーガス「……魂だ。彼等の尊い命が奪われた今、
救い、守るのは、亡くなった彼等騎士の誇り高き魂」
ミルズ「彼等の魂……」
ファーガス「これから訪れるのは魂の闘争、『強くなれ』ミルズ」
ミルズ「……!! はっ!! 有り難う御座います!!!」
401: 2013/02/16(土) 06:55:59.20 ID:iKjTpUl00
>>369 >>388 ありがとうございます!!
短いですがここで切ります。
見てくれてる方、レスくれた方、ありがとうございます!!
感想などありましたら是非お願いします。
408: 2013/02/18(月) 02:53:23.31 ID:TYujnG+w0
………………
……
フィオナ「ケイト、大丈夫か? 赤ちゃん産んだばかりなのに……」
ケイト「大丈夫だ。旦那が行ってこいと言ってくれたんでな……
それに、アメリアが辛い時は側に居ると約束した」
フィオナ「そうだな…ルシアンは大丈夫かな?
ウーゴさんなんて私がルシアンを抱きに行った先で何回も会ったし、良い人だった……のにな」
ケイト「ああ、それを実験と称して……考えるだけで腹が立ってくる。
黒幕はマーカスに違いは無いが証拠が無い、ヴァル、ワルター、ロドニーはルシアン殿を慕っていた」
409: 2013/02/18(月) 02:55:55.46 ID:TYujnG+w0
フィオナ「……今の騎士達はミルズとマーカスで真っ二つに別れてるからなー。
疑われると分かってやっているなら、かなり質が悪いよ」
ケイト「分かってやっているのさ……ミルズ殿を苦しめる、『今回』はそれだけの為」
フィオナ「『次』か……」
ケイト「私が奴なら…ルシアンが七つになり城に入る頃だな。
だが…そう簡単に動く奴では無いだろう」
フィオナ「うん……」
410: 2013/02/18(月) 02:57:52.72 ID:TYujnG+w0
………………
……
ルシアン「ぅ…ん…母さん……」
アメリア「すぅ…すぅ……」
ルシアン「もう夕方……ここは城か? ウォルトは…」
『ヴェンデル陛下、どうしたんですか? そんなお面を着けて』
『いいから、入れてくれ』
『変なお面だなー』
『えっ? 格好良くないか、コレ?』
ガチャ…パタン
「ルシアン……起きてたのか。大丈夫か?」
411: 2013/02/18(月) 02:59:15.54 ID:TYujnG+w0
ルシアン「爺ちゃんだったのか…」
ヴェンデル「バレちゃ仕方ねぇな…
ルシアン、大事な話しがある。ちょっと着いて来い」
ルシアン「おう、分かった」
ガチャ…パタン…
ケイト「ルシアン、起きたのか…
ヴェンデル陛下、ルシアンを連れてどちらへ?」
ヴェンデル「修練場へ行く。アメリアが起きたら言っといてくれ」
ケイト「了解しました」
フィオナ「ルシアン、大丈夫か?」
ルシアン「うん、オレは大丈夫。
それよりウォルトは? ウォルトとジーナは大丈夫なのか?」
412: 2013/02/18(月) 03:00:25.98 ID:TYujnG+w0
ケイト「……ああ、二人共に無事だ」
ルシアン「そっか……良かった」
フィオナ「…………」
ヴェンデル「ルシアン、行くぞ」
ルシアン「おうっ!!」
………………
……
フィオナ「ルシアン…覚えてないんだな」
ケイト「その方が良いかも知れん。
先程フィオナも言ったが、ウーゴ殿はルシアンが幼い頃からミルズ殿とアメリアを気に掛けて何度も家に行っていたからな……」
フィオナ「……なんか、嫌だな」
ケイト「ああ…そうだな」
413: 2013/02/18(月) 03:02:33.73 ID:TYujnG+w0
【修練場】
ルシアン「爺ちゃんが教えてくれてたのか、爺ちゃんつえぇんだな」
ヴェンデル「まあな、本気出せばファーガスも一発で倒せるぜ?」
ルシアン「ホントか!? すげえな…」
ヴェンデル「なあルシアン」
ルシアン「どうした?」
ヴェンデル「今からオレが、爺ちゃんが質問するから答えてくれ」
ルシアン「なんだ? 急にこわい顔して?
でも分かった。しつもんってなんだ?」
ヴェンデル「………ルシアン、ウォルトがウーゴに斬られた後の事を覚えているか?」
414: 2013/02/18(月) 03:04:24.56 ID:TYujnG+w0
ルシアン「覚えてない…ウォルトから血がたくさん出て、氏んじゃいやだって思ったんだ。
そしたら体がブワッてあつくなって、後は……覚えてない」
ヴェンデル「ルシアン、ウォルトは助かりウーゴは氏んだ」
ルシアン「ウーゴのオッサンが…?」
ヴェンデル「(迫り来るその時の為。
オレの我が侭、オレの孫ならばと……だが氏から目を逸らしてはならない。
今伝えなければ其処を突かれる、いずれ来る闘いの時に…)」
ルシアン「爺ちゃん、どうした?」
ヴェンデル「……ウーゴを頃したのはルシアン、お前だ」
ルシアン「えっ……爺ちゃん…なに言ってんだ…?」
415: 2013/02/18(月) 03:07:20.13 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「その場にはお前とウォルトしか居なかった。
それに、お前が助けたウォルトが言ったんだ。間違い無い」
ルシアン「そんなの…そんなのうそだ……」
ヴェンデル「お前はウォルトが…
お前を助ける為に身体を張った友が嘘を吐いてるって言ってんのか?」
ルシアン「…ッ!! だって…オレは覚えてない!!」
ヴェンデル「ならウォルトはどうやって助かった? 誰が助けた?
お前とウォルト、ウーゴ以外その場に居なかったのに」
ルシアン「……分かんねえよ」
416: 2013/02/18(月) 03:09:33.81 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「瞳が紅くなり、身体は真っ暗闇、二本の角。
それがウォルトを助け、ウーゴを頃した『お前の姿』だ」
ルシアン「そんなの分かんねえよ!!!」
ヴェンデル「お前は三種族でも人間でもない」
ルシアン「ッ!! じゃあオレは『何』なんだよ!! ばけものか!? あくまか!?」
微かだが瞳に紅が見えた……
ヴェンデル「……ルシアン、受け入れろ。
ウォルトを助け、ウーゴを頃したのはお前だ」
ルシアン「ちがう!!! オレはそんなことしてない!!」
417: 2013/02/18(月) 03:12:44.64 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「ウォルトは見ていた、剣でウーゴを頃したお前をな」
ルシアン「……そんなのうそだッ!!!」
瞳の紅が増す、髪が逆立つ…
徐々に身体が闇に包まれてゆく……
ヴェンデル「……ウーゴを頃したのは、ルシアン…お前なんだ」
ルシアン「うっ…ウォォアアアアア!!!」
拒絶か自己防衛か……そして崩壊、変貌し…
『それ』は姿を現した。
418: 2013/02/18(月) 03:16:54.03 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「(伝なきゃならねえ、命を……コイツに、『ルシアン』に。
流石にまだ五つの可愛い孫に『事実』突き付けるのは…
いや……もう覚悟は出来てる)」
ルシアン「グォアアアッ!!!」
ビシッと床が軋み、ルシアンは突進する。
ヴェンデルは、『祖父』は場から動かない…そして、
ぼきぼきっ…と砕け、折れる音が響く。
ヴェンデル「ぐっ…!!」
凄まじい速度の突進を受けながらも、退かない……
ルシアン「ハァアアアア……」
眼前の『敵』を倒す為、
拳を脇腹へ放つ…
めきゃっ…と肋骨を砕き、拳が突き刺さる。
419: 2013/02/18(月) 03:18:49.61 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「がっ…いってえっ…!!」
耐えきれず膝を付き、
紅い瞳を見つめ、祖父は言う。
ヴェンデル「ルシアン、お前が何だろうと構わねぇよ。
でもな…力に逃げるのは止めろ。お前は友を救ったが一人の命を奪った。
これは変えようのない事実だ。逃げるな、ルシアン…」
ルシアン「ウゥ…アァアアア!!」
ヴェンデル「駄目な爺ちゃんだ……まだ小せえのに難しい話ししてゴメンな…」
ルシアン「…アッグ……アァ…」
動きが止まる。躊躇しているのか、言葉を理解しているのか……
420: 2013/02/18(月) 03:22:38.28 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「ルシアン…オレは『何』なんだ? って言ってたな。
そんなのは簡単な事だ、教えてやる……」
ルシアン「ガァァッ!!」
だが、再度動き出す。
そして膝を付いたヴェンデルの顔面へ右拳を……
ヴェンデル「お前はアメリアとミルズの息子で…オレとマルセラの可愛い可愛い孫だ」
突如、拳がビタリと止まる……
ヴェンデル「だから……」
ルシアンの紅い瞳から、
ヴェンデル「だから、もう『泣くな』」
『涙』が、あふれていた……
421: 2013/02/18(月) 03:25:32.10 ID:TYujnG+w0
ルシアン「アア…うぅっ……はぁっ、はぁっ…」
ヴェンデル「……目、覚めたか?」
ルシアン「……!! 真っ黒だ……角も…ある」
身体のあちこちを触りながら、
ルシアンは自身の変化を目の当たりにする。
ヴェンデル「ルシアン、怖れるな。
『それ』は誰かを救う力だ。傷付ける為のもんじゃねえよ…」
ルシアン「でも角生えて、体が真っ黒だ……爺ちゃんは怖くねえのか?」
ヴェンデル「ははっ!! オレには天使に見えるぜ?
色が黒いのは、どっかの馬鹿が間違えたのさ」
ルシアン「じゃあ角は?」
ヴェンデル「輪っかと間違えたんだろ……ッ…うぐっ…」
422: 2013/02/18(月) 03:28:16.59 ID:TYujnG+w0
ルシアン「爺ちゃん!? オレがなんかやったのか!?」
ヴェンデル「爺ちゃんの胸に飛び込んで来ただけだ。
ちょっと勢いがあり過ぎたけどな……」
ルシアン「爺ちゃん……腹、いてえのか…?」
姿はそのままに、ヴェンデルの脇腹に手を当てる……
ヴェンデル「……!?
(痛みが消…いや『治って』るのか!?)」
ルシアン「早くパルマの婆ちゃんのトコに……
でも体が戻んねえ…爺ちゃん、オレどうし
ヴェンデル「大丈夫だ。もう治ったからな」
ルシアン「んなわけねえだろ!? むりすんなよ…」
423: 2013/02/18(月) 03:30:44.11 ID:TYujnG+w0
ルシアン「んなわけねえだろ!? むりすんなよ…」
ヴェンデル「ルシアン、聞け。
お前に脇腹触られた時、良く分かんねえが治った」
ルシアン「そんなわけねえよ……」
ヴェンデル「爺ちゃんは嘘を吐かねえから本当だ……もう、大丈夫だ」
ルシアン「爺ちゃん、あたま大丈夫か?」
ヴェンデル「……心配すんな、大丈夫だ。
お前の力は壊す事も癒やす事も出来るみてえだな」
ルシアン「治ったなら何でも良いけど…
でも体が戻んねえ…戻れっ、戻れっ!!」
424: 2013/02/18(月) 03:33:08.94 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「……ったく、仕方ねえな」
そう言ってルシアンの頭に手を伸ばし、撫でる……
ただそれだけ、撫でただけ。
だが角は消え、瞳も戻る。
そして身体に纏わりつく黒は、すっ…と失せた。
ルシアン「あっ、戻った……」
ヴェンデル「よし、じゃあもう一つだけ言っとく事がある」
ルシアン「ん? なんだ?」
ヴェンデル「ルシアン、[ピーーー]のは駄目な事だ。
でもな、救える命を救わねえ方がもっと駄目だ…と、オレは思う。
だからウーゴの事を忘れるな……責めてるわけじゃないぞ?
アイツが普通じゃなかったのは聞いてるからな」
425: 2013/02/18(月) 03:34:23.31 ID:TYujnG+w0
ヴェンデル「……ったく、仕方ねえな」
そう言ってルシアンの頭に手を伸ばし、撫でる……
ただそれだけ、撫でただけ。
だが…角は消え、瞳が戻る。
そして身体に纏わりつく黒は、すっ…と失せた。
ルシアン「あっ、戻った……」
ヴェンデル「よし、じゃあもう一つだけ言っとく事がある」
ルシアン「ん? なんだ?」
ヴェンデル「ルシアン、頃すのは駄目な事だ。
でもな、救える命を救わねえ方がもっと駄目だ…と、オレは思う。
だからウーゴの事を忘れるな……責めてるわけじゃないぞ?
アイツが普通じゃなかったのは聞いてるからな」
426: 2013/02/18(月) 03:36:18.35 ID:TYujnG+w0
ルシアン「うん、分かった。絶対忘れねえ……
でも、ウーゴのオッサンはなんで」
ウーゴを「『そうさせた』悪者が居るのさ」
ルシアン「悪者?」
ヴェンデル「そうだ。だから明日から毎日オレと剣術の稽古をする。
身も心も鍛えて『変わっても』お前のままで居られる様にする為に。
そうすればミルズの……親父の助けに必ずなる」
ルシアン「……父さんは悪者と闘ってんのか?」
ヴェンデル「ああ、本当の闘いは少し先だろうけどな…」
ルシアン「そっか…じゃあやるよ。
オレは父さんの息子で…爺ちゃんの孫だからな!!」
ヴェンデル「……!! ははっ、はははっ!!
ああ、お前は正真正銘、間違い無くオレの孫だ!!」
427: 2013/02/18(月) 03:41:49.09 ID:TYujnG+w0
それから二年が経ち……
ミルズ、アメリア、ルシアンは城に入った。
城に入りルシアンが八つになる頃、長女セシリアが誕生。
セシリア誕生の際も動きは無く、
狙いはヴェンデルの予想通り王位継承の時であると決定付けられた。
そして、この時からルシアンはファーガスの元に預けられる事となる。
これはセシリアが生まれた直後だった為、
口には出さずとも誰もがルシアンは捨てられたのではないかと考えた。
実際は『そう』見せかけた偽装であり、
マーカスの目からルシアン(ルシアンの力)を遠ざける為に成された処置である。
故に親族は当然の事、尚且つ女王の命により城の者の見送り等一切許されないと言う徹底されたものだった。
だが此はルシアン自身も承知しての事。
そしてルシアンが十五の頃、遂に王位継承の時が訪れる。
【過去編#2 終了】
433: 2013/02/22(金) 22:40:25.19 ID:qGkC2jXD0
【王位継承式・前日】 【ドワーフの里・山林】
ファーガス「なっとらん!!」
ルシアン「うっせえ!! 遠くからペチペチペチペチ…面倒くせえんだよ!!」
ファーガス「ああ…確かにお前は『ヴェンデル』の孫だ……
十三の頃、柔剣を素手で掴んだ時点で気付くべきだった」
ルシアン「馬鹿にしてんのか爺…」
ファーガス「この糞餓鬼、まだやられ足りん様だな…」
「はいはい、そこら辺で止めなさい。
それに血の気が多いのはファーガスもヴェンデルも変わらないわよ」
434: 2013/02/22(金) 22:41:15.50 ID:qGkC2jXD0
ルシアン「パルマの婆ちゃん、弁当作って来てくれたのか!?
全く…爺もパルマの婆ちゃんと結婚してり
バッチィッッ!!! ルシアン「いってえ!!! 人がよそ見してる時に…この卑怯者!!」
ファーガス「よそ見する方が悪いんじゃ、馬鹿者」
パルマ「確かにミルズよりヴェンデルに似てるわね」
ファーガス「ふん、忌々しい程に似とるわ…」
パルマ「ふふっ、取り敢えず食べましょう?」
ルシアン「んじゃ、いただきます」
ファーガス「パルマ、いつも済まんな…」
パルマ「マルセラの頼みだもの仕方無いわ。
ファーガスも早く食べなさい、ルシアンに全部取られちゃうわよ?」
ファーガス「コイツはちっとも遠慮せんからな……では、いただきます」
435: 2013/02/22(金) 22:42:11.18 ID:qGkC2jXD0
………………
……
パルマ「用も済んだし、私は戻るわ。
あまり熱くなり過ぎ無いようにしなさいよ?」
ルシアン「分かってるって、弁当ありがとな!!」
ファーガス「いつも済まんな…」
パルマ「いいのよ……私にはこれくらいしか出来ないから。
ルシアン、頑張りなさい……」
ルシアン「おう、ありがとな」
ファーガス「…………」
ルシアン「爺、どうした?」
ファーガス「……いや、何でもない」
ルシアン「……?」
436: 2013/02/22(金) 23:03:54.82 ID:qGkC2jXD0
……………
……
ルシアン「全く、爺ちゃんが『オレが教える事は無い、ファーガスのトコで修行しろ』って言うから仕方無く来てやったのに……
爺ちゃんとは型も何も違うからやりずらくて仕方ねえよ」
ファーガス「ヴェンデルの剣術はお前に合っている、故に儂に預けたのだ。
相性の悪い相手にも勝てるようにな…」
ルシアン「まあ、最近は勝てる様になってきたからな。
爺ちゃんの剣術の方が強いってのが証明された訳だ」
ファーガス「馬鹿者!! 慢心するなと何度も言っとるだろうが!!
(奴の目指した剣術は豪快、且つ付け入る隙を与えない剣術だったが限界があった。
それは連撃の際、関節に負荷が掛かり過ぎる事。だが、ルシアンは物にしつつある)」
ルシアン「ああ、分かってる……爺、もう一度頼む」
ファーガス「うむ、良いだろう」
ルシアンは右肩に担ぐ様な構え。
ファーガスは刀身を背後に隠した居合いの構え。
437: 2013/02/22(金) 23:05:17.98 ID:qGkC2jXD0
ルシアン「じゃあ、行くぜ!!」
一気に間合いを詰め担いだ柔剣を袈裟斬りに振り下ろす。
ファーガス「(……見てみるか)
左肩を引く最小限の動きで躱す。
ルシアン「(よし、こっからだ)」
地面すれすれまで振り下ろされた柔剣はグンッと戻り右脇へ……が、これも躱される。
振り抜いた際、ルシアンの胴はがら空き。
ファーガス「(………)」
だがファーガスは動かない、
まだ子供とは言え十年間絶やさず修練を続けた者がこんなあからさまな隙を生むわけがない。
ルシアン「(やっぱ読まれてんのか…)」
思い切り振り抜いた柔剣は、
勢いはそのままにルシアンの背面をぐるりと一周しファーガスの右肩に迫る。
バヂッッ!! ファーガス「(うむ…重い)」
ルシアン「(受けた……次は)」
瞬時に柔剣を戻し、肘を身体に引き付け……
ズッ!! と突きを放つ。
ファーガス「むっ…」
突きは一度では終わらない、
二、三、四……と速度が増していく。
438: 2013/02/22(金) 23:06:48.19 ID:qGkC2jXD0
ファーガス「(これがヴェンデルの目指した剣術か…燃え広がる炎の如き剛の剣。
『普通』ならば筋肉は断裂し、肩など外れている筈……魔の者達…か)」
胸や肩・顔面や腕へと次々に的を変え放たれる突き。
ファーガスは柔剣を振り子の様に小刻みに左右に動かし一つ一つ確実に弾く。
ルシアン「(これで決める!!!)」
最後の突きは敢えて狙わずにいた胴…
ズドッ!! ルシアン「がっ…!!」
ファーガス「甘いわ…最後の突きの溜めが大き過ぎる。
狙いが丸分かりだ……馬鹿者」
だがルシアンの突きが届く前にファーガスの突きが鳩尾に入った。
ルシアン「……爺の腕がなげえんだよ」
439: 2013/02/22(金) 23:09:16.62 ID:qGkC2jXD0
ファーガス「言い訳か? ミルズは一度も言い訳なぞしなかったが……」
ルシアン「言い訳じゃねえ!! ほら…あれだ…事実を言ったまでだ」
ファーガス「…ルシアン」
ルシアン「何だよ、真面目な顔して」
ファーガス「お前の為に剣が在るのではない、剣の為にお前が在るのだ。
剣はお前自身、お前自身が剣。いや……全てがお前の為に在り、お前は全ての為に在ると知れ」
ルシアン「分かんねえ…けど忘れねえ。覚えとく」
ファーガス「今はそれでいい。ルシアン、明日の事だが」
ルシアン「分かってるよ、全部の里守れば良いんだろ?」
ファーガス「そうだ、だが…斬れるか?」
ルシアン「斬れる。斬って……背負う」
440: 2013/02/22(金) 23:11:05.22 ID:qGkC2jXD0
ファーガス「そうか…ならば何も言うまい。それと……『変われる』様にはなったのか?」
ルシアン「ああ、大丈夫だ。多少荒っぽくなったりするけど…他は問題無い」
ファーガス「ヴェンデルに言われた事を忘れるな。力に逃げてはならん、そして力に酔ってもいかん」
ルシアン「分かった」
ファーガス「よし…今日は終いだ『家』に帰れ」
ルシアン「その……なんだ…爺、いつもありがとな」
ファーガス「……!? ふん、いいからさっさと帰れ」
ルシアン「おう、じゃあな」
ファーガス「(以前と比べ、気負いや堅さがなくなり柔らかくなってきている。成長か……)」
441: 2013/02/22(金) 23:15:32.84 ID:qGkC2jXD0
……………
……
ジーナ「なあイネス、ルシアンの奴は大丈夫かな?」
イネス「城から……その…出てからファーガスさんの所で騎士になる為に修行? してるみたいだけど……
『あの時』から遊ばなくなったし、会っても素っ気ないし」
ジーナ「……だよな。なんか戦が起きるって言うし…心配だな…」
イネス「ねえ、ジーナ」
ジーナ「なんだ?」
イネス「ルシアンが好き?」
ジーナ「へっ!? あ…えっと……うん、アタシはルシアンが好きだ」
イネス「ふふっ…そっか、じゃあ今度は私達が助けないとね?」
ジーナ「…!! そっか…そうだな」
ウォルト「だってよ…ライル」
ライル「じゃあ、オレらもやるか?」
ウォルト「当たり前だろ? アイツは友達だ。あれから殆ど会わなくなったけど……それは変わんねえよ」
442: 2013/02/22(金) 23:17:18.46 ID:qGkC2jXD0
ライル「ああ…そうだな!!」
ウォルト「馬鹿!! デカい声だす
ズンッ!! ウォルト「ナァッ!!!」
ジーナ「聞こえてんだよ!! バカ!!」
ウォルト「待…て…本当に痛く…て声が……出ねえ」
ライル「ジーナ、ソコを蹴るのはこれっきりにしてくれ…見てるだけで痛くなる」
イネス「盗み聞きはダメだと思うな…」
ライル「ひっ!! なんで背後取ってんだよ!! こえぇよ!!」
ジーナ「今聞いた事、ルシアンに言ったら」
ライル「言わねえ言わねえ!! だから玉蹴るのは止めてくれ!!」
ウォルト「…いてぇ…いてぇよぉ」
イネス「男の子なんだからしっかりしてよ」
ウォルト「じゃあ男の子の蹴っちゃいけない所蹴るなよ!! 痛すぎて涙も出ねえよ……」
ライル「と、とにかくルシアンが一人で無茶しないようにオレ達で助けるんだろ?」
443: 2013/02/22(金) 23:20:24.48 ID:qGkC2jXD0
ジーナ「うん、だから……」
ウォルト「分かってるって!! もう『あの時』とは違うんだ。オレ達にも何か出来る事がある筈だ」
ライル「そうだな、仲間外れは嫌だしな」
イネス「うん、そうだね」
ジーナ「ホントか!? じゃあ…」
ライル「でも闘うのはダメだ…オレ達とルシアンじゃ違い過ぎる」
ウォルト「じゃあどうするよ?」
ライル「囮くらいか?」
ウォルト「お前らは良いけどオレは捕まるじゃねえか……」
ジーナ「…………」
イネス「……………」
ウォルト「ちょっと待て、何か言えよ…」
ライル「取り敢えず出来る事をする!! これで行こう」
イネス・ジーナ「うん!! おうっ!!」
ウォルト「おい…」
444: 2013/02/22(金) 23:23:08.27 ID:qGkC2jXD0
………………
……
ルシアン「ただいま……
(父さん、母さんと暮らした家……今はオレ一人)」
ガルト「よっ、お帰り!!」
ルシアン「なんでお前が居るんだよ!!」
ガルト「親父がルシアン寂しがってるから行って来いって」
ルシアン「…ったく、変な気使うんじゃねえよ」
ガルト「ルシアン、もうすぐだな…」
ルシアン「ああ…そうだな」
ガルト「闘うのか?」
ルシアン「……ああ」
ガルト「…そうか」
ルシアン「もう里長を通して避難場所や戦闘の準備は始まってんだろ?」
ガルト「ああ、親父はミルズさんから直接聞いてたよ。ルシアンはどうするんだ?」
ルシアン「民を巻き込む怖れもある。各里をマーカス側の騎士から守れってよ」
ガルト「……長かったな、ルシアン」
445: 2013/02/22(金) 23:26:48.10 ID:qGkC2jXD0
ルシアン「ああ…十年、十年間修練してきた。
城を出てからは父さん、母さん…爺ちゃんと婆ちゃんとも会わず、毎日毎日な…」
ガルト「…………」
ルシアン「妹にすらオレの存在を伏せて……でもまあ、父さん…家族の助けになりてえから自分で望んで修練してきた。
だから周りの奴等に捨てられたとか言われても平気だったよ」
ガルト「ルシアン」
ルシアン「なんだ?」
ガルト「お前は一人じゃねえぞ」
ルシアン「……!!」
ガルト「ライル、イネス、ウォルト、ジーナ、勿論オレも……
皆がいるんだ!! だから大丈夫だ!!」
ルシアン「…お前は本当にうるせえな……まあ、ありがとよ」
ガルト「それとルシアン、これを受け取ってくれ…親父からだ」
446: 2013/02/22(金) 23:28:53.70 ID:qGkC2jXD0
ルシアン「剣……オレの為に?」
ガルト「頼みに来たのはお前の爺ちゃんだ。
『絶対に折れない、何でもぶった斬れる、そんな剣を作ってくれ』そう言ってたよ」
ルシアン「ははっ、爺ちゃんらしいな……コレがオレの剣か、見るからに重そうだな」
ガルト「と言うか、お前しか振れないだろうな…持ってくるの大変だったんだぞ?」
ルシアン「ありがとよ、でも…オレはこの剣で…
ガルト「分かってる。でもな…『それ』が剣だ。守る為だろうが何だろうが結局は傷付ける物に変わりない。
でも、どう使うか…剣を持つ者の意志によって剣は変わる」
ルシアン「それはオッサンが?」
ガルト「ああ、そうだ」
ルシアン「そうか…覚えとく」
ガルト「んじゃ!! 飯にしようぜ!!」
ルシアン「誰が作んだよ?」
ガルト「ルシアンに決まってんだろ?」
ルシアン「ガルト…お前もう帰れ……」
447: 2013/02/22(金) 23:33:08.42 ID:qGkC2jXD0
………………
……
「いよいよだね?」
ミルズ「……マーカス」
マーカス「君が王になる日をどれだけ待った事か……とても楽しみだ」
ミルズ「随分待たせたな」
マーカス「待たされた分、きちんと祝う準備が出来たから良いさ」
ミルズ「……なあ、マーカス」
マーカス「何だい?」
ミルズ「救うとか救えないとか…そうじゃない。失う覚悟は出来てる」
マーカス「素晴らしい……君は強くなった。実に楽しみだよ」
ミルズ「マーカス……お前は何を望んでいる?」
マーカス「望みなどないさ、役割だよ。私には私の、君には君の役割がある……それだけだ」
ミルズ「……そうか」
マーカス「では、また会おう」
ミルズ「ああ…また会おう」
448: 2013/02/22(金) 23:35:21.61 ID:qGkC2jXD0
………………
……
ケイト「いよいよか…不謹慎だが被害は城内だけで済んで欲しい。里の皆が心配だ」
フィオナ「一応避難場所とか色々決めてるみたいだけどな…戦が起きる前にマーカスを取っ捕まえれば…」
ケイト「なんの証拠も無く騎士内で絶大な信頼のある者を捕まえれば終いだろうが」
フィオナ「だよな…面倒臭いな?」
ケイト「確かにな…分かっていながら手出し出来ないのはムカムカする」
フィオナ「あれから十年、ルシアンは家族と会えずに毎日頑張ってた……
女王様もセシリアには戦が終わるまでルシアンの存在を伝えないとかしてたし」
ケイト「兄が居るとなれば会いたがるに決まっている……徹底して民に印象付けたかったのだろうな」
フィオナ「……ルシアンを捨てたってか?」
ケイト「……ルシアンの力を隠す為だ。ルシアン自身も承知しての策…子供が背負うには大き過ぎるとは思うがな」
フィオナ「ルシアンは凄いな…泣かなかったし堂々としてた……」
ケイト「ああ、父の…ミルズ殿の力になりたいと、そう言っていたからな。
意志が強い所はミルズ殿に似ているな…性格はヴェンデル陛下に似ているが」
フィオナ「でも、戦が終われば家族揃って暮らせる」
ケイト「そうだな、だから私達が出来る事をしよう。プロテアの為、アメリアの為、我が子の為に」
フィオナ「……うん、そうだな」
449: 2013/02/22(金) 23:39:37.55 ID:qGkC2jXD0
【王位継承式前日・深夜】
ミルズ「セシリアは?」
アメリア「眠ってるわ。それより……」
ミルズ「大丈夫だ。この戦が終われば四人で暮らせる…そうなればセシリアに兄の存在を隠す事も無くなる」
アメリア「もう七年も会ってない……戦の為に其処までしなければならないなんて」
ミルズ「其処までしなければルシアンを守れなかった。
あの子に少しでも情があるとなれば即座に感づかれ、狙われていた。
何よりあの子の力はマーカスに気付かれてはならなかった」
アメリア「そうね……」
ミルズ「もう夜も更けた。そろそろ…」
アメリア「ええ……分かったわ」
450: 2013/02/22(金) 23:46:13.88 ID:qGkC2jXD0
………………
……
マーカス「我々の目的はプロテアを支配し、然るべき『準備』の後、外界へ進出する事だ。
我々は優れた力を持ちながら幽閉された哀れな者達……だが今こそ示すのだ、我々が優れた種である事を!!」
「「「おおぉっ!!!」」」
マーカス「では誓いの杯を交わそう。我々の未来の為……勝利を!!」
「「「勝利を!!!」」」
マーカス「(我ながら茶番をやっているな……)」
「「「うっ…ぐぅっ……」」」
マーカス「(効いてきたか……もう後戻りは出来ない。
これが私の『役目』、プロテアを照らし導くのは……)」
451: 2013/02/22(金) 23:48:48.34 ID:qGkC2jXD0
……………
……
マルセラ「ヴェンデル…」
ヴェンデル「ん? どうした?」
マルセラ「何が起きてもあの子達……
ミルズとアメリア、そしてルシアンとセシリアは私達が例えどうなろうと……」
ヴェンデル「氏ぬ事なんて考えなくていい……家族全員で暮らす、それだけ考えてれば」
マルセラ「……そうね。皆で笑って暮らす…それだけで良い。他には何も望まないわ」
ヴェンデル「だな、早く成長したルシアンを見たいもんだ。
オレに似てかなりイイ男になってるに違いねえ」
マルセラ「ふふっ、そうね。早く会いたいわ、何よりセシリアに会わせたい……」
ヴェンデル「ああ…」
マルセラ「………ヴェンデル、明日は早いしもう休みましょう」
ヴェンデル「……そうだな。お休み、マルセラ」
マルセラ「お休みなさい、ヴェンデル」
462: 2013/03/01(金) 00:24:14.71 ID:SinCLWKR0
【王位継承式前日・深夜】
ルシアン「(眠れねえ……剣でも振るか)」
ガチャ…パタン
ルシアン「(明日…いや、もう今日か……オレはあの時とは違う。
頃す事で、誰かの人生を絶つ事で誰かを守れるんだったら……いや、これじゃダメだ。
どうしたら頃しが正しくなるか…なんて考えるな。そんな都合の良いもんは存在しねえ)」
「ルシアン」
ルシアン「誰っ…!? えっ? 母さん?」
アメリア「眠れないの?」
ルシアン「うん…って、なんで此処に…びっくりし過ぎて頭が回らねえよ」
アメリア「城が狙われるのは間違いない…だからシルヴィアとネヴィルの所に来たの。セシリアと一緒に」
ルシアン「そっか…」
アメリア「ねえルシアン、もし本当に戦が起きたなら…其処に正義なんて無い。
唯一正しいのは戦を…間違いを終わらせることだけ……だと私は思うわ」
463: 2013/03/01(金) 00:27:07.18 ID:SinCLWKR0
ルシアン「そっか…うん、そうかも知れねえな。ありがとう、母さん」
アメリア「背、大きくなったわね……『強く』なれた?」
ルシアン「うーん…分かんねえ。でも父さんの強さとはきっと違うと思う」
アメリア「目指す強さは違っても見ている物はミルズと同じ……
真っ直ぐで綺麗な瞳、とても似てるわよ?」
ルシアン「そうかな……ん? あれは…!!」
アメリア「狼煙…エルフ里からだわ。まさか始まったの!?」
ルシアン「ッ!! 母さん、おんぶすっから掴まれ!! オレが連れてく!!」
アメリア「え、ええ…分かったわ」
ルシアン「よしっ、行くぞ!!」
464: 2013/03/01(金) 00:29:27.97 ID:SinCLWKR0
………………
……
ガチャ!!
ルシアン「シルヴィアの姉さん!! ネヴィルの兄さん!!」
シルヴィア「ルシアン!? どうしたの!?」
アメリア「エルフの里から狼煙が上がったの……」
シルヴィア「…!! そんな…ニコラ……」
ネヴィル「シルヴィア……今は無事を祈ろう」
シルヴィア「…そうね……」
ルシアン「戦は始まっちまった。母さんとセシリアを頼む」
ネヴィル「ああ、任せてくれたまえ」
465: 2013/03/01(金) 00:32:50.26 ID:SinCLWKR0
ルシアン「それと来る途中オッサンとガルトにも伝えといた。何かあれば必ず助けになってくれる筈だ」
シルヴィア「ありがとう、ルシアン。助かるわ」
ネヴィル「……ルシアン君、行くのかい?」
ルシアン「……ああ、行くよ」
「母さん、どうしたの? あれ…お兄ちゃんだれ?」
ネヴィル「セシリアちゃん…目が覚めたのかい?」
ルシアン「……っ…
(大きくなったな、七年だもんな……当たり前か)」
アメリア「セシリア…何でもないわ、母さんは大丈夫よ。
ルシアン、終わったら……皆で、家族皆で暮らしましょう」
ルシアン「うん!! じゃあ…行ってくる!!」
バタン…
466: 2013/03/01(金) 00:35:00.35 ID:SinCLWKR0
セシリア「母さん、何でないてるの? かなしいの?」
アメリア「大丈夫……母さんは大丈夫よ…」
シルヴィア「……セシリア、ネアは?」
セシリア「ねてるよ?」
ネヴィル「じゃあ起こしてくれるかい? 少しお話しがあるんだ」
セシリア「うん、わかった」
シルヴィア「アメリア…」
アメリア「大丈夫…あの子は父様の孫で、ミルズの息子だもの…」
シルヴィア「ええ…そうね」
467: 2013/03/01(金) 00:40:36.69 ID:SinCLWKR0
………………
……
【ドワーフの里】
ファーガス「セオドア!! 避難は終わったか!?」
セオドア「はい、終わりました!! ですが何故エルフの里に……」
ファーガス「……分からん(パルマ…氏んでくれるなよ)」
ファーガス「ところで獣人の里には…」
セオドア「それが…」
ファーガス「どうした?」
セオドア「家のバカが、『オレが伝えてくる』と……」
ファーガス「あの馬鹿者……だがクライヴに任せれば安全であろう」
セオドア「そうですね。あの…ファーガスさん」
ファーガス「なんだ?」
セオドア「助けに…エルフの里に行かないんですか」
ファーガス「……儂が離れている時に攻められれば元も子もない。
里の者が避難場所に身を潜めているとは言え、侵入を許せばいずれ見つかってしまう」
セオドア「そう…ですね」
ファーガス「案ずるな、ヴェンデルはすでに騎士を向かわせている筈だ。
城が手薄になるからと言って騎士を割くのを躊躇う男ではない」
468: 2013/03/01(金) 00:45:07.88 ID:SinCLWKR0
………………
……
【獣人の里】
クライヴ「ライル、ウォルト!! お前等も早く行け!!」
ライル「……親父」
クライヴ「なんだ」
ライル「オレ達を…ルシアンのとこに行かせてくれ」
クライヴ「クソガキ、殴られてえのか?」
ウォルト「……クライヴさん、行かせて下さい」
ライル「殴られても行くぜ…アイツは友達なんだ……」
クライヴ「お前等もか?」
イネス・ジーナ「…ッ!! はい…」
クライヴ「……特別任務だ。お前等四人は里の外れにある三軒の家に『始まった』と伝えて来い。
それが終わったらすぐに帰って来い、いいな」
469: 2013/03/01(金) 00:46:53.83 ID:SinCLWKR0
ライル「…!! 分かった!!」
クライヴ「後、間違っても『闘おう』何て思うな。お前等が氏んで一番悲しむのは親だ…それを忘れんなよ」
ジーナ「うん…分かった」
イネス「…はい、分かりました」
ウォルト「あの、クライヴさんは奴等が来たら…闘うんですか?」
クライヴ「ああ、里で闘える奴はオレを含め少ししか居ねえがやるしかねえ。
それに里……いや、子供達と爺さん婆さんを守るのはオレ達の役目だからな。
分かったら早く行け、独りは辛いだろうからな……」
「「「「…!! はい!!」」」」
470: 2013/03/01(金) 00:53:04.15 ID:SinCLWKR0
……………
……
【エルフの里】
『『アメリアとセシリアは何処だ』』
パルマ「城に居るでしょう。とっとと城を攻めれば良いでしょうに…」
『『戦が始まる前日だ。城に居る可能性は低い。故に信頼の置ける者の所に身を寄せている可能性が高い』』
パルマ「……私の家には居ないわね
(複数人が同じ言葉を口にしている。薬物を飲ませ洗脳でもしたのかしら…
以前ミルズに聞いたけれど確かに気味が悪いわね……)」
『『貴女にも用がある、同行を願おう』』
パルマ「…ええ、いいでしょう
(胸騒ぎがしたから皆を無理やり起こして避難させたけど…正解だったわ。『この』騎士達は正気では無い、しかし統率されている。
それも不気味だけど何より生気がまるで感じられ無い。最早人形だわ…惨い事を……)」
『『では、火を放て』』
『『了解』』
パルマ「…!! 何を!?」
『『里の何処かに隠れている可能性もある』』
人形と化した騎士達は、松明を持ち至る所に火を着けていく…
パルマ「止めなさいっ!!」
『『黙らせろ』』
『『了解』』
ドスッ… パルマ「うっ…」
471: 2013/03/01(金) 00:59:09.04 ID:SinCLWKR0
「おい……今すぐパルマの婆さんを離せ」
『『パルマを連れドワーフの里へ迎え、ルシアンは我々が』』
『『了解』』
二十名程が残りルシアンの行く手を阻む様に陣を組み、
『『戦闘開始』』
そして一斉に剣を抜き放つ。
ルシアン「(パルマの婆さん、すぐ行くから待っててくれ。
爺、大丈夫だ…もうオレは力には逃げねえ)」
周囲を燃やす炎、その熱が剣を通して伝わってくるのか…
自身の内から湧き上がる何かが剣を熱くしているのか…
ルシアンの瞳が紅く輝く……
ルシアン「覚悟は出来てる。来ねえなら……」
右肩に銀の大剣を担ぎ…
ルシアン「……行くぜ」
土が深く抉れる程凄まじい踏み込みと共に、
一直線に『敵』へと向かって行く。
472: 2013/03/01(金) 01:04:46.15 ID:SinCLWKR0
>>460 ありがとうございます。
今日は此処で終了です。
時間掛かった割に少なくて申し訳ない…
見てくれてる方、待ってくれてた方、ありがとうございます!!
感想などありましら是非お願いします。
477: 2013/03/06(水) 01:31:52.62 ID:Id8mg+o20
『『防御』』
ルシアン「(母さん、ごめん。
間違いは間違いでしか終わりに出来ないみたいだ……)」
右足を軸にぐるりと身体を回転させ、担いだ剣を横一文字に思い切り振り抜く。
『『あぎゃっ…』』
バギンッ!! と剣を叩き折り、斬り伏せる。
『『突撃』』
何事も無かった様に、一切の迷いも無く、告げられる。
そして間を置かず前方左右から敵が迫る。
ルシアン「(奴等には怒りも憎しみもねえ……
胸が痛てぇ…まるで自分に剣を突き刺してるみてえだ)」
ルシアンは攻撃を躱し、躊躇わず…斬った。
『『突撃』』
『『突撃』』
『『突撃』』
『『突撃』』
繰り返し…繰り返し…ルシアンは斬り続けた。
478: 2013/03/06(水) 01:34:27.48 ID:Id8mg+o20
………………
……
ルシアン「………終わっ…た。火…消さねえと…」
二十数名を斬り伏せたにも関わらず息一つ切らしていない。
疲弊しているのは心だった…『背負う』などとは言ったものの十五の子供。
先程までの氏と隣り合わせと言う状況から脱し、
独りとなった今、込み上げて来るのは勝利の喜びなどでは無く……
ルシアン「ゴフッ…げほっ…げェッ…」
単純に、斬り頃した罪悪感と吐き気だけだった。
ルシアン「ハァッ…ハァッ…やる…ぞ」
息を整え…ルシアンは『変わる』。
角や瞳は以前と同じだが皮膚は甲殻類の装甲、纏う空気も以前とは違う。
479: 2013/03/06(水) 01:36:18.13 ID:Id8mg+o20
ルシアン「…大丈…夫だ」
そう、言い聞かせる。
そして身体を思い切り捻り、大剣を面にして振るう。
瞬間
ゴォッ!! と凄まじい風が吹き、一瞬の内に周囲の炎を掻き消した。
ルシアン「よ…し、次は…次は何をしたら……うっ…」
二十数名の氏に顔が蘇る。
『自分』が斬った、頃した者の顔…顔…顔…顔…顔…顔…
顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔
顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔
顔顔顔顔顔顔顔……
480: 2013/03/06(水) 01:37:23.07 ID:Id8mg+o20
ルシアン「げはっ…げっ…ゥゲェッ…ハァッ…ハァッ」
「ルシアン!!」
ルシアン「ハァッ…ハァッ…? あ? ニコ…ラ…?」
ニコラ「…ッ!!」
掛ける言葉が見つからない。
何を言っても届かないと……そう感じた。
ルシアン「早く…戻れよ。また来るかも…知れねえ」
ニコラ「もう……いいよ。辛いなら…もう、いいから」
返り血と吐瀉物にまみれ膝を突くルシアン、
それを見た途端ニコラの瞳から涙があふれ、気付けば抱きしめていた。
481: 2013/03/06(水) 01:41:04.26 ID:Id8mg+o20
ルシアン「…ゲロつくぞ」
ニコラ「馬鹿…いいよ…そんなのいいから……だから」
ルシアン「ニコラ……オレ…は、頃した…」
ニコラ「グスッ…だから、そんな顔…しないでよ」
まるで先程まで戦っていた騎士の様な生気の無い表情。
ニコラは只抱きしめる事しか出来なかった。
ルシアン「泣くなよニコラ……なあ…オレは、弱いな」
ニコラ「弱くてもいい……ごめんね? ルシアンなら大丈夫だって……勝手に思ってた」
ルシアン「うぅっ…オレ…は、オレはッ…」
ニコラ「もういいよ…だから、泣いていいんだよ?」
ルシアン「うっ、うぅっ…うあぁぁぁああッ!!!」
押し留めていた感情が爆発し、涙があふれ出す…
ルシアンは感情を頃す事で他者を殺めた自分から目を背けたが、
何から逃れようと『自分』からは決して逃れることは出来ない。
482: 2013/03/06(水) 01:43:08.99 ID:Id8mg+o20
………………
……
ニコラ「…落ち着いた?」
ルシアン「……ああ、大丈夫だ」
ニコラ「また『あんな顔』したら叩くわよ」
ルシアン「……ニコラ、ありがとな」
ニコラ「……うん」
ルシアン「もう、逃げねえから」
ニコラ「……うん(虚勢じゃない…もう『大丈夫』だね)」
別段何かが変わった訳では無い、
だが……認め、受け入れたルシアンの瞳は以前より強い光を宿していた。
483: 2013/03/06(水) 01:46:20.57 ID:Id8mg+o20
【ドワーフの里】
ファーガス「……来たか」
手にした剣の柄に手を掛け、構えを取る。
『『動くな』』
ファーガス「何?」
『『動けばパルマを頃す』』
ファーガス「パルマだと…? 何を言っ
前方に居る者達が左右に開く、するとその奥に気を失っているパルマが見えた。
ファーガス「…………」
それを見たファーガスは俯き、剣を地に置き膝を突く。
484: 2013/03/06(水) 01:48:28.64 ID:Id8mg+o20
『『それでいい』』
剣を抜き数人がファーガスに近付く、だが誰も気付いていない。
彼等が人形では無かったら、
『騎士』として此処に立っていたのなら気付いただろう…
ファーガスの瞳に、気配に、諦めの色など一切無い事に。
『『殺ッ
言葉を発した瞬間、近づいた者全ての身体が『ずれた』。
ファーガスが見ていたのは近付く者の足だった。
己の刃圏に入った『敵』を斬る為に。
485: 2013/03/06(水) 01:51:08.81 ID:Id8mg+o20
ファーガス「………」
『『パルマを殺せ』』
『『了解』』
即座にパルマに剣を振り下ろす。
ファーガス「遅い…」
斬り終えた直後、ファーガスは既に間合いを詰めていた。
パルマに剣は振り下ろされる事無く、剣を持った腕のみがくるりと宙を舞う。
そして残った敵のど真ん中に飛び込み、剣を振るう。
『『は…』』
十数名は居た者達全員が状況を理解出来ていない。
ある者は胴を、ある者は首を斬られている。
ああ、自分は斬られたのだ……
そう認識した時、其処に居た敵全てが光の粒となり消えた。
486: 2013/03/06(水) 01:52:18.06 ID:Id8mg+o20
………………
……
ファーガス「パルマ」
パルマ「なにかしら?」
ファーガス「怪我は無いか?」
パルマ「…ええ」
ファーガス「そうか」
パルマ「ファーガス、怪我は無い?」
ファーガス「ああ、大丈夫だ」
パルマ「……そう」
「パルマさん!! ファーガスさん!!」
487: 2013/03/06(水) 01:54:50.88 ID:Id8mg+o20
ファーガス「フィオナか…」
パルマ「遅かったわね」
フィオナ「途中で邪魔が入って……パルマさんはなんで此処に居るんだ?」
パルマ「私が居れば『どうにかなる』と勘違いしたのよ…
それより里に戻らないと、送ってくれるかしら?」
フィオナ「…?? よし、分かった」
ファーガス「エルフの里、獣人の里には?」
フィオナ「エルフの里は、その…ルシアンが終わらせてた。
獣人の里にはケイトが向かってる。」
パルマ「…!! そう……ルシアンが…」
ファーガス「……そうか、此処はもう大丈夫だ。パルマを頼む」
フィオナ「分かった」
パルマ「ファーガス、ありがとう。助かったわ」
ファーガス「礼はいい、早く里に戻れ。皆が待っている」
パルマ「……ええ、そうね。フィオナお願いするわ」
フィオナ「んじゃ、行こう」
ファーガス「……(これが戦……下らん)」
488: 2013/03/06(水) 01:57:42.45 ID:Id8mg+o20
………………
……
【獣人の里】
クライヴ「皆無事か!? ヤバくなったら怪我人連れて直ぐ逃げろよ!! いいな!!」
「「おうっ!!!」」
『『突撃』』
クライヴ「チッ…うざってえんだよ!! オラ!!!」
突き出される刃を全て躱し敵の懐に転がり込む、
そして逆立ちの状態から畳んだ腕をぐんと伸ばし顎に蹴りを放つ。
『『あギァッ!!』』
獣人の本気の蹴りは容易く骨を砕き、文字通り首を引っこ抜く。
クライヴ「チッ…まだ来やがる」
「全騎士に告ぐ!! 直ちに『敵』を殲滅せよ!!」
「「はっ!!!」」
489: 2013/03/06(水) 02:00:17.97 ID:Id8mg+o20
クライヴ「おお!! ケイトか、助かったぜ!!」
ケイト「皆、無事ですか!? 」
クライヴ「ああ、怪我人は何人か居るが大丈夫だ!! エルフの里は無事だったのか!?」
ケイト「ええ、ルシアンが……里の皆は無事です」
クライヴ「…!! そうか、ルシアンが……
(クソが、ガキに重てえモン背負わせちまった……ミルズ、てめえはそれでいいのかよ?
つーかアイツ等は無事なのか? ライル、氏ぬんじゃねえぞ)」
ケイト「クライヴ殿…」
クライヴ「ああ、分かってる。今はこっちだな…」
人形と化しているは言え元は騎士、気を抜けば殺される。
『『突撃』』
人形故に、彼等には一切の迷いや躊躇いは無いのだから。
492: 2013/03/08(金) 00:53:32.02 ID:O43OOtNc0
【里の外れ】
ライル「じゃあルシアンはエルフの里に?」
シルヴィア「ええ」
ネヴィル「ルシアン君は覚悟しているだろうが……心配だね」
ジーナ「アイツは負けないよ」
ネヴィル「ジーナちゃん、そうじゃない。ルシアン君の気持ち、『心』を心配してるんだ。
人を頃して平気な訳が無い。ルシアン君は確かに強いけれど、子供なんだよ」
ライル「(だから親父は……)」
イネス「……!! シルヴィアさん、ネヴィルさん、誰か来ます」
ネヴィル「……!! 分かった。では君達、頼むよ?」
ウォルト「はい」
493: 2013/03/08(金) 00:55:20.97 ID:O43OOtNc0
……………
……
『『捜せ』』
『『了解』』
シルヴィア・ネヴィル「……………」
【屋根裏】
ライル「よし、敵は居ないな……縄は掛けたし早く行こう。イネスがセシリアを、ジーナがネアを背負って降りる。
そしたら直ぐにアメリアさんと一緒にエルフの里に向かってくれ。
ウォルトとオレは最後に降りる、いいな?」
ウォルト「おうっ、分かった」
アメリア「ライル君、ウォルト君、イネスちゃん、ジーナちゃん、ごめんなさい。巻き込んでしまって……」
ジーナ「ううん、良かった」
アメリア「えっ?」
494: 2013/03/08(金) 00:57:28.24 ID:O43OOtNc0
ウォルト「オレ達は戦ったり出来ないけど……友達のお母さんを助ける事が出来る」
イネス「あの時、私達は何も出来なかったから。だから嬉しいんです」
アメリア「……!! 皆、ありがとう……」
セシリア「ネア、私こわい……」
ネア「大丈夫だよ、セシリア。私もいっしょだから、ね?」
セシリア「ネア……うん、ありがとう」
アメリア「セシリア、先に降りて待ってるわ。泣いちゃだめよ?」
セシリア「うんっ、わかった」
アメリア、イネス、ジーナの順に降り、エルフの里へ走り出す。
後はライルとウォルトが降りるのみ……
だが、そこで屋根裏の床扉が開けられた。
495: 2013/03/08(金) 00:58:49.13 ID:O43OOtNc0
『『発見した』』
ライル「クソッ!!」
ウォルト「ライル、高いけど…跳べるか?」
ライル「オレは平気だ。でもウォルト、お前は……
ウォルト「ドワーフの里に行ってファーガス爺さんを呼んで来てくれ。
ライル、お前の脚なら直ぐだろ?」
ライル「ッ!! ああ、分かった!!」
敵は其処まで迫っている、迷っている時間など無い。
ライルは即座に飛び降りドワーフの里へと走り出した。
『『捕らえろ』』
『『了解』』
ウォルト「(ライル、頼むぜ)」
496: 2013/03/08(金) 01:01:30.34 ID:O43OOtNc0
……………
……
格里に多く向かわせた為か、ネヴィル夫妻の家に来た敵は十人に満たない。
だが、戦える者は居ない。
ウォルト「(縄も掛けられて無いし動ける。けど、動いたところで何も出来やしねえ……)」
『『何処に逃がした』』
ネヴィル「済まないが答えられない。私に聞くよりも捜しに行った方が早いと思うが?」
シルヴィア「(マズいわね…私達は覚悟はしてたけど、ウォルトが……)
『『殺せ』』
『『了か
ガチャ!!
「ネヴィル、シルヴィア、ウォルト!!」
497: 2013/03/08(金) 01:04:10.17 ID:O43OOtNc0
ネヴィル「イザーク!!」
イザーク「おら!! 掛かってきやがれ!!」
滅茶苦茶に剣を振り回し声を張り上げる。
そして、敵の目は全てイザークへと向いた…
「おい…逃げるぞ」
ウォルト「……!! ガルト…!?
ネヴィルさん、シルヴィアさん!!」
その僅かな隙を突いて四人は裏口へ走り出す。
『『戦闘開始』』
イザーク「おら!!」
背負っていた大きい袋を敵に叩きつける。
すると袋は容易く破れ、中から大量の白い粉が飛散した。
498: 2013/03/08(金) 01:06:58.89 ID:O43OOtNc0
イザーク「おっしゃ!!」
敵の視界を奪い、逃走。
イザーク「コレでも食らえ!!」
だがイザークの投げつけた剣が敵の剣にぶつかり、
直後
ドガンッ!! と爆発した……
ガルト「なんだ!? 何か爆発したぞ!?」
ウォルト「何が起きたんだよ……イザークさん大丈夫か?」
499: 2013/03/08(金) 01:08:25.93 ID:O43OOtNc0
ネヴィル「……ガルト君、イザークが背負っていた袋の中身は?」
シルヴィア「聞かなくていいわ……やってくれたわね」
ウォルト・ガルト「……??」
ネヴィル「本人は理解していないだろうが助かった。
あのままでは私達も捕まっていただろうからね……戻ろう、イザークが心配だ」
シルヴィア「そうね、無事だといいけれど……」
506: 2013/03/13(水) 23:29:41.14 ID:ZeT3GIeK0
………………
……
【エルフの里】
イザーク「いってえ……」
パルマ「痛いのが分かるなら大丈夫よ。無知と言うのは怖いわね……」
ネヴィル「全くです。あの爆発の中、この程度済んだのが奇跡ですよ」
ガルト「親父、大丈夫か?」
イザーク「んな顔すんなガルト。オレは大丈夫だ!!」
ーーーーー
シルヴィア「ニコラ、無事で良かったわ」
ニコラ「姉さんも無事で良かった……
爆発の音が聞こえた時、本当に心配したんだから」
シルヴィア「イザークの馬鹿がやってくれたのよ……
でも、アレが無かったら此処に着く前に殺されてたわ。家の一軒くらい安い物よ」
ニコラ「ふふっ、そうね」
507: 2013/03/13(水) 23:36:39.28 ID:ZeT3GIeK0
ーーーーー
ルシアン「皆……済まねえな」
ウォルト「馬鹿、謝るな。それより泣いたんだって? ニコラに聞いたぞ?」
ルシアン「うっせえ!! ニコラの奴余計な事言いやがって……」
ライル「なあ、ルシアン」
ルシアン「ん? なんだ?」
ライル「皆、あの頃からずっと心配してたんだ。
だから、もう一人で無茶すんなよ」
ルシアン「……ああ、分かった。イネスもジーナもありがとな」
ジーナ「うん。でも……大丈夫か? その……」
イネス「……ジーナ」
ジーナ「あっ、ごめん……」
ルシアン「もう大丈夫だ。やった事から、『自分』からは逃げねえって決めたからな。
それに、何を言っても頃した事に変わりはねえよ」
ジーナ「ル、ルシアンはルシアンだ!! アタシは怖くないぞ!!」
イネス「……そうだね。ルシアン、ごめん」
ライル「ジーナ……そうだな。何も変わりゃしねえよ」
ウォルト「お前のその痛みはオレ達には分かんねえ。けど、うん。やっぱ変わんねえよ」
ルシアン「…!! ライル、ウォルト、イネス、ジーナ……ありがとう」
508: 2013/03/13(水) 23:54:10.61 ID:ZeT3GIeK0
ーーーーー
ファーガス「なら、城にはヴェンデルとミルズの部下しかいないと言うのか!?」
マルセラ「ええ、ヴェンデルとミルズが決めた事よ」
アメリア「……そんな!!」
ファーガス「あの馬鹿共め!! 儂は今から城へ行く!!
フィオナ、獣人の里はどうなった!!」
フィオナ「はっ!! 先程戦闘は終わった様です。
多少の怪我人は居ますが皆無事です!!」
ファーガス「うむ、なら問題は無い……行ってくる」
アメリア「……ファーガスさん」
ファーガス「なんだ?」
アメリア「父を、ミルズを……頼みます」
マルセラ「……………」
ファーガス「ああ……分かっている」
509: 2013/03/14(木) 00:00:39.78 ID:MCsP6CtM0
ーーーーー
アメリア「母様、顔色が悪いわ。少し休んだ方が……」
マルセラ「私は平気よ……あの子達を見ていれば良くなるわ」
セシリア「ネア、ありがとう」
ネア「いいよ。セシリアは友達だからね!!」
セシリア「えへへっ、うん!!」
マルセラ「(ヴェンデル……貴男は……)」
ーーーーー
ルシアン「爺、城に行くのか?」
ファーガス「ああ、そうだ」
ルシアン「頼む、オレも行かせてくれ」
ファーガス「(短い間に此処まで……口先だけで無い。覚悟は出来ている様だな)」
ファーガス「……よし、ならば着いて来い」
ルシアン「ああ、分かった」
510: 2013/03/14(木) 00:05:23.15 ID:MCsP6CtM0
……………
……
マーカス「里に全ての女性騎士を出撃させるとは……
『そうしなければ』私が出て来ないと分かっていた様ですね」
ヴェンデル「ハァッ…ハァッ…ゴフッ……」
膝を突き吐血、ヴェンデルの体には深い切り傷と無数の痣が出来ている。
対するマーカスは、無傷。
マーカス「ですが、私の力量を測り間違えた」
ヴェンデル「(マルセラは騎士の出撃と共に逃がした。
微かだが剣戟の音が聞こえる……ミルズ、生きてくれ)」
マーカス「……ヴェンデル陛下。貴方の役目はこれで終わりです」
振り下ろされる剣、血は失われ立つ事すら出来ない。
動ける筈が無い、躱せる筈が無い。
だが王は、父は、祖父は動いた……
ヴェンデル最期の炎、命そのものを乗せた剣。
511: 2013/03/14(木) 00:06:49.84 ID:MCsP6CtM0
マーカス「なっ!?」
ヴェンデルの右肩にざくりと突き刺さる。
が、止まらない。
ヴェンデル「舐めッ……なよ」
そして一歩踏み込み突きを放つ。
マーカス「……残念でしたね」
ヴェンデル「(外したか……ははっ、情けねえな。アメリア、ミルズ、ルシアン、セシリア……
あ、そういや結局ミルズにお父さんって呼ばれなかったな。アイツは堅物だからな、仕方ねえか……)」
マーカス「これで終わりですね。さようなら、ヴェンデル陛下」
ヴェンデル「(マルセラ……愛してる)」
ザシュッ……
512: 2013/03/14(木) 00:15:42.88 ID:MCsP6CtM0
………………
……
二刀を手に敵の合間を駆け抜ける。
躱し、受け流し、弾き……そして斬る。
その動きに一切の無駄は無く、躊躇いも無い。
行く手を阻む敵は一瞬の交差の後、光の粒となり消えていく。
ミルズ「もう、オレだけか……」
ミルズに付き従い共に戦った騎士は少なかった。
敵からは数で劣り終始劣勢だったが、
彼等は最期まで臆する事無く戦い、散っていった。
蘇る言葉………
『『お前は誰も救えない』』
ミルズ「オレは、そうかもしれないな……」
513: 2013/03/14(木) 00:17:44.74 ID:MCsP6CtM0
『『突撃』』
ミルズ「だがオレは……共に戦った彼等に『救われた』」
二刀の柄頭を合わせぐいと捻ると二刀の柄頭が繋がる。
繋がった柄を握り締め槍を突く様に構える。
前方、左右、後方から敵が迫る……
氏を怖れぬ人形と化した騎士達。
残り二十数名。
振り下ろされる剣を躱し喉を突き、
引き抜き様ぐるりと回転し左右の敵の腹を切り裂く、
そして敵を背にしたまま後方に跳び、胸を貫いた。
ミルズ「彼等は何かを守る為に戦い、氏んだ。
氏者を救う事は出来ない。だから、彼等が守ろうとした物をオレが守る」
518: 2013/03/21(木) 20:50:58.19 ID:/FZT2AlR0
【エルフの里】
ウォルト「行っちまったな……」
ライル「ミルズさんと爺ちゃんが心配なんだろ。でも、戦で再開するなんてな……」
ウォルト「ああ……そうだな」
イネス「あの時、あんな事が起きなきゃ……
ルシアンが誰かを傷付ける事も、傷付く事も無かったのに」
ジーナ「アイツ、大丈夫かな?」
ライル「大丈夫だろ。よく分かんねえけど、アイツの目を見たらそう思ったよ」
ウォルト「そうだな。まっ、オレ達は出来る事しようぜ!!」
ジーナ「出来る事って?」
ウォルト「そりゃあ、その……」
イネス「獣人の里から怪我人運ばれてくるって言うし、パルマさんの手伝いとか?」
ライル「ああ、それならオレ達にも出来そうだな!! 親父にも謝らねえと……」
519: 2013/03/21(木) 20:57:30.29 ID:/FZT2AlR0
ーーーーーー
セシリア「みんなケガしてるね……」
ネア「うん……」
セシリア「お父さんとお爺ちゃん、大丈夫かな?」
ネア「セシリアの父さんもお爺ちゃんも強いもん、大丈夫だよ!!」
セシリア「……うん」
マルセラ「……………」
アメリア「母様、ファーガスさんがきっと……」
マルセラ「ええ、そうね……ッ!!」
突如、マルセラは走り出す。
アメリア「えっ? 母様!?」
520: 2013/03/21(木) 20:59:56.62 ID:/FZT2AlR0
マルセラの視線の先、少し離れた場所。
其処にはセシリアとネアの背後に近付く一人の騎士が見えた。
予感、直感、あの騎士は『敵』なのだとマルセラに告げる。
セシリア「あれ? お婆ちゃん?」
剣が抜かれ、騎士は剣を『横に』振り抜く。
剣は、『二人』を抱き締めたマルセラの背に深く突き刺さった。
マルセラ「…ッ!! ネア、セシリア、じっとしていなさい」
セシリア「お婆ちゃん? どうしたの?」
ネア「女王さま?」
マルセラ「……目を、閉じなさい」
アメリア「ッ!! フィオナ!!」
母様!! そう叫びたいのを抑えフィオナを呼ぶ。
フィオナ「ん? どうし……なっ!?」
一瞬、そして走る。
521: 2013/03/21(木) 21:03:20.89 ID:/FZT2AlR0
ガギッ……
フィオナ「(何で、何で此処に!! 『敵』はまだ居るのか!?)」
迷い、考える時間などない。
フィオナは剣を弾き上げ、斬った。
騎士の瞳は虚ろのまま、光の粒となり消えて行く。
セシリア「お婆ちゃん? まだあけちゃだめ?」
ネア「おまじないかな?」
マルセラ「もう少し、もう……少し我慢して頂戴……」
フィオナ「パルマさん!!!」
マルセラ「………(見せてはいけない。パルマ、早く来て)」
パルマ「マルセラ、もう……『大丈夫』よ」
522: 2013/03/21(木) 21:04:54.39 ID:/FZT2AlR0
マルセラ「ネア、セシリア、目を閉じたまま振り向きなさい……絶対に目を開けては駄目よ?」
セシリア・ネア「……?? はーい」
ゆっくりと手を離し、二人は振り向く。
すると、パルマは湿らせた布を二人の口元に軽く押し当てた。
パルマ「眠らせたわ……暫く起きない筈よ」
マルセラ「ありがとう……パルマ」
そう告げた後、ゆっくりと瞳を閉じ……マルセラは意識を失った。
アメリア「母様!! 母様しっかりして!!」
フィオナ「ッ!! 全騎士に告ぐ!! 周囲を警戒しろ!!」
「「はっ!!!」」
523: 2013/03/21(木) 21:06:57.72 ID:/FZT2AlR0
……………
……
ミルズ「増援!? まだ居るのか!!」
残り四、五名となった時、窓や正面入り口から敵が現れる。
『『戦闘開始』』
「父さん!!」
ミルズ「……!? ルシアンか!? ファーガスさんまで!!」
ファーガス「ミルズ、此処は儂とルシアンに任せろ!! お前はヴェンデルの元へ急げ!!」
ミルズ「(戦で息子の成長を知る事になるとは……ルシアン、辛かっただろう。済まない……)」
ファーガス「何をしている!! 早く行け!!」
ミルズ「はっ!! ありがとうございます!!」
息子と言葉を交わす時間は無い。
成長した息子の姿を目に焼き付け、ミルズは上の階に向けて走り出した。
524: 2013/03/21(木) 21:09:25.91 ID:/FZT2AlR0
ファーガス「ざっと四十……ルシアン、行けるか?」
ルシアン「ああ、大丈夫だ。(もう目は背けない、自分からも逃げねえ)」
ファーガス「ならば、行くぞ」
ルシアン「(爺ちゃん、無事でいてくれ……)」
『『突撃』』
周囲をぐるりと囲まれ、前後左右から敵が迫る。
ルシアンは自ら敵に向かい、思い切り薙払う。
一瞬にして三人が光の粒となる。
が、新たに窓や正面入り口から敵が侵入してくる。
ルシアン「(大丈夫だ……集中しろ)」
瞳が紅く輝き角が生え、全身を黒の装甲が覆う。
空気が軋み、敵も一瞬怯む。
525: 2013/03/21(木) 21:11:10.48 ID:/FZT2AlR0
ルシアン「行くぜ」
一瞬で間合いを詰め右肩に担いだ剣を振り下ろす。
『『がっ!?』』
剣ごと叩き斬り、周囲の床がごっそり抉れる。
ファーガス「(魔の者達……あれ程の力を持ちながら何故絶滅したのだ?
いや、何よりあの状態で理性が無ければ、闘争のみを欲する種族だったのなら……)」
正に圧倒的、
最早技術云々では無い、力そのものが違い過ぎるのだ。
防ぎようが無い、天災の如き力。
それが容赦なく振るわれる。
ルシアンに迷いは無い、そして決意していた。
氏者を、自らが殺めた者を、
何より、そうした自分自身を決して忘れまいと。
526: 2013/03/21(木) 21:17:23.10 ID:/FZT2AlR0
………………
……
マーカス「待っていたよ。ミルズ」
ミルズ「……………」
ヴェンデルの姿は無い、在るのは剣のみ。
認める他無い……
ヴェンデルは、父は氏んだのだと。
ミルズ「(結局オレは父と呼べなかった。
負ける筈が無い、氏ぬ筈が無い。いつか父と呼べる日が来る……そう思っていた)」
言葉交わさぬまま二刀を構え、一直線にマーカスへ向かい剣を振るう。
右肩、左脇、右足へ次々に繰り出すが悉く防がれる。
マーカス「そう焦らないでくれ……」
そう呟き、鳩尾への突きを躱しミルズの右腕を薙払う。
ミルズ「………………」
躱す事も、防ぐ事すらせず、剣はミルズの右腕に深々と突き刺さる。
527: 2013/03/21(木) 21:20:07.37 ID:/FZT2AlR0
マーカス「ば、馬鹿な……君はなッ
ミルズ「……………」
淡々と、冷え切った表情のまま、マーカスの腹に左の剣を突き刺す。
そして背から突き出した剣を引き抜き、告げる。
ミルズ「………終わりだ」
マーカス「がっ…!!」
ミルズ「……………」
マーカス「こんな……あまりに呆気ない。これっ、で終わりか」
ミルズ「ああ、お前の闘争はこれで終わりだ」
マーカス「君は魂、を信じッるか?」
ミルズ「……………」
マーカス「君の息子ルシアンが現れる前っ……私に何かがッ宿っ
いつ、しか私、は抑えられぬ程、闘争を欲していた」
ミルズ「ふざけるな……これはお前の望んだ戦。誰でもない、お前自身の魂がそうしたんだ。
例えお前の言う『それ』が真実だとしても、お前は許されはしない」
528: 2013/03/21(木) 21:22:47.61 ID:/FZT2AlR0
マーカス「そう、だな……だ、が私は満足……だ。君は私を救って、くれ、た……私の魂は、救われ……た」
ミルズ「そうか……」
柔らかな笑みを浮かべ、マーカスは消えて逝く。
ミルズ「……この戦は、本当にマーカスの言った通ッ……ぐっ…」
抑え込んでいた痛みが吹き出し、ガクンと膝を突く。
ミルズは父の剣を見つめ、思う。この戦は何だったのか……
ミルズ「(意味など無い。ただ皆が傷付き、何かを失っただけだ……)」
始まりも無く終わりも無いような、
たった一人の男が望み、欲した戦。
ただそれだけの為に多くの騎士が亡くなり、父も逝った。
ミルズ「オレの魂は……どうなんだろうな」
先の言葉を思い出し、
そう呟いた後、ミルズの意識は深く沈んで行った。
529: 2013/03/21(木) 21:26:56.78 ID:/FZT2AlR0
………………
……
【エルフの里】
クライヴ「ん? ファーガスの爺さんだ……終わったみてえだな」
ライル「なあ、親父」
クライヴ「ん? なんだ?」
ライル「この戦って何だったんだ?」
クライヴ「……さあな。そんなモンはマーカスのクソ野郎にしか分かんねえさ」
ライル「意味分かんねえ内に戦が始まって、いつの間にか終わってた。
騎士は沢山……氏んじまったし、ルシアンの婆ちゃんだって」
クライヴ「意味なんざ無くたって戦になりゃ嫁や息子が殺される。
それが嫌なら、守りてえなら……辛かろうが何だろうが戦うしかねえ」
ライル「ルシアンの爺ちゃんとミルズさん、大丈夫かな?」
クライヴ「……ミルズの野郎が息子残して氏ぬなんざあり得ねぇよ」
530: 2013/03/21(木) 21:32:48.60 ID:/FZT2AlR0
ーーーーーー
ファーガス「そうか、マルセラが……」
ケイト「はい、一命は取り留めましたが未だ危険な状態です。
あの……ヴェンデル陛下とミルズ殿は?」
ファーガス「ヴェンデルは氏んだ。
ミルズは右腕に深い怪我を負ったが、無事だ」
ケイト「……!! そう…ですか」
ファーガス「ケイト、フィオナにミルズとルシアンを迎えに行くよう伝えてくれ」
ケイト「はっ!! 了解しました!!」
ファーガス「(ヴェンデル……出来れば家族と共に心から笑う、お前のそんな姿を見たかった)」
ーーーーーー
セシリア「おわったの?」
アメリア「ええ、もう大丈夫よ」
セシリア「早くお父さんとお爺ちゃんに会いたい……」
アメリア「セシリア、もう少し我慢して? フィオナが迎えに行くみたいだから」
セシリア「…………」
531: 2013/03/21(木) 21:37:08.24 ID:/FZT2AlR0
ちょっと休憩します。
532: 2013/03/21(木) 22:18:55.09 ID:/FZT2AlR0
………………
……
ミルズ「うっ……ルシアン、なのか?」
ルシアン「うん、傷を塞いだんだ。父さん腕はどう? ちゃんと動くか?」
ミルズ「……ああ、大丈夫だ」
ルシアン「そっか、良かった。なあ、爺ちゃんは……氏んじまったのか?」
ミルズ「………ああ」
ルシアン「そっか、爺ちゃん氏んじまったのか……治す力があるって教えてくれたのは爺ちゃんなんだ。
でもやっぱり、生き返らせたりすんのは……ダメみたいだ」
ミルズ「ルシアン……」
紅い瞳からは涙が流れ、頬を伝う。
ルシアン「……ファーガスの爺さんがエルフの里へ伝えに行ったからそろそろ迎えが来る。
母さんも婆ちゃんもセシリアも待ってる。父さん、立てるか?」
ミルズ「ああ大丈夫だ。さあ、行こう皆が待っ
「お父さん!!」
533: 2013/03/21(木) 22:21:37.77 ID:/FZT2AlR0
ミルズ「セシリア……!?」
セシリア「…!! あくま……」
瞳には怯えが、表情からは恐怖が見て取れた。
兄がいる事、
父を助ける為に兄が力を使った事、
勿論、魔の者達などと呼ばれる存在だと言う事も……
セシリアは、『何も』知らない。
セシリア「お、お父さんからはなれて!!」
ルシアン「(……仕方ねえ、よな)」
ミルズ「……ッ!! セシリア、こ
ルシアン「オレは大丈夫だから……もう、行くよ」
姿を戻し、ルシアンは父に告げた。
ミルズ「ルシアン!! 待て!!」
こんな筈では無かった。
戦が終われば家族揃って暮らす筈だった。
戦は終わった。だがそれと共にほんの小さな、
そんな『当たり前』を過ごす事も、光の粒となり消えた。
534: 2013/03/21(木) 22:28:36.06 ID:/FZT2AlR0
………………
……
【数日後】
マルセラ「んっ…うぅっ」
アメリア「母様…!!」
マルセラ「生きて……いるのね。それより、あれから『敵』は」
アメリア「少数だけど森に潜んでいたみたい。
城から出撃した時、後を付けていたんじゃないかって。フィオナが……」
マルセラ「そう……皆、無事なのね?」
アメリア「ええ、エルフの里の皆はニコラ以外避難場所から出ていなかったし……もう心配しなくて大丈夫」
マルセラ「そう……良かったわ。戦は、ヴェンデルとミルズは……」
アメリア「ミルズは無事よ。でも父さんは……」
マルセラ「氏んだのね?」
アメリア「ッ!! 母様……」
マルセラ「大丈夫よ。分かっていたから……
きっとあの人は最初からそのつもりだったわ」
535: 2013/03/21(木) 22:29:57.81 ID:/FZT2AlR0
アメリア「………………」
マルセラ「私を置いて行くなんて……全く、何を考えているのかしら」
アメリア「母様……」
マルセラ「………ルシアンは? ルシアンとミルズは無事なの?」
アメリア「ええ、二人共無事……だけど」
マルセラ「……何があったの?」
アメリア「私達がセシリアに伝える前にセシリアが見てしまったの。
倒れたミルズの側に立つ……ルシアンの変貌した姿を」
マルセラ「そう……ルシアンは何処に?」
アメリア「私とミルズと三人で暮らした家に居るわ。
ミルズも私も、何度も行ったのだけれど……駄目だった」
マルセラ「大丈夫よ。時間が経てばきっと、良く……なるわ」
アメリア「母様無理しないで、まだ休んでいた方がいいわ……」
マルセラ「ええ、そう…ね」
マルセラ「(神様も随分と悪戯が好きなのね。ヴェンデル……貴男もそう思うでしょう?)」
536: 2013/03/21(木) 22:34:15.38 ID:/FZT2AlR0
その後ミルズとアメリアは王位を継承し、新たな女王と王が誕生した。
この時、ミルズはファーガスに剣士の称号を返上する。
そしてその翌年、先代女王マルセラが氏去。
マルセラは亡くなる直前までルシアンに城へ来るよう願ったが、
遂に叶う事は無かった。
ルシアンはアメリア、ミルズに対して今まで通りセシリアには自分の存在を伏せる様に願った。
その後ルシアンが城へ入ったのは二十の頃、
ファーガスとアメリアから剣士の称号を賜った後の事だった。
537: 2013/03/21(木) 22:44:31.67 ID:/FZT2AlR0
【現在・深夜】
ルシアン「(情けねえ……逃げねえと言いながら『家族』から逃げてんじゃねえか。
怖かったんだろうな、セシリアにあの時と同じ瞳で見られるのが……でも決めたんだ。
セシリアはオレが守る。してやれる事なんてそれくらいしかねえからな)」
ラキ・リズ「「くぅ……すぅ…」」
ルシアン「(ラキ、お前を預かったのは似たモンを感じたからかも知れねえな。
らしくねえ……あーあ、眠れそうもねえや……)」
………………
セシリア「(………………)」
カルア・カレン「すぅ……すぅ…」
セシリア「(お母さん、お父さんが氏ぬ直前、ルシアンが兄だと教えられた。
勿論戸惑ったけれど私が女王になった後、本来なら私がする筈のタリウスの様な騎士の粛正もルシアンが……
私を守ってくれてるんだよね。いつか『兄さん』って呼べるかな)」
538: 2013/03/21(木) 22:47:49.20 ID:/FZT2AlR0
【翌日・早朝】
チュン…チュンチュン…
ラキ「朝だ。あれ……ルシアン?」
リズ「くぅ…うぅん…」
ラキ「リズは寝てる。
(……昨日のファーガスの居合い、すごかった…うん、剣を振ろう)」
ラキ「リズ、行ってきます」
ガチャッ……パタン
ラキ「確か、こんな感じ」
少し腰を落とし、奥脚で地面を噛み、
構えを崩さぬまま一歩踏み込み、鞘から刃を走らせるが…
ラキ「抜けない……」
ルシアン「ははっ、その剣は今のラキには長いな」
539: 2013/03/21(木) 22:49:24.57 ID:/FZT2AlR0
ラキ「あ、ルシアン。今日は早起きだね」
ルシアン「ああ、妙に寝覚めが良くてな……それよりラキ、『それ』は何処で覚えた?」
ラキ「ファーガスから教えて貰った」
ルシアン「ま、そうだよな。爺さんは……その、元気だったか?」
ラキ「うん、あいさつ来いって言ってた」
ルシアン「……そうか、んじゃ近い内行くか。それとな、まだ鞘から抜くのは厳しいだろ?
今は抜いた状態からでいい、そんで足は肩幅より狭くして左脇に剣を構えてみろ」
ラキ「うん、分かった」
鞘を地面に置き、
右手は鍔側・左手は柄頭に添え…手首が交差した形。
ルシアン「よし…右足を摺り足で前へ、そこから横一文字に相手の胴を斬れ」
ラキ「分かった」
540: 2013/03/21(木) 22:50:58.18 ID:/FZT2AlR0
右足をずりっと前へだすと同時、剣を振る。
ヒュオッ!! と空気を斬り裂く音と共に仮想した相手の胴を横一文字に斬り裂く。
ルシアン「後は手首の『返し』をしっかりやれ。腕が伸び切る直前に手前に引く感じだ」
ラキ「………」
再度同じ構えを取り、右足を摺り剣を振る。
相手の胴に届く直前、
柄頭に添えた左手首をぐいと引く…すると切っ先の速度がぐんと上がり、
ヒュッ!! と先程より抵抗無く空気を斬り裂く。
ルシアン「よし、それを繰り返せ。後は振り終わりに注意しろ」
ラキ「分かった。でも振るのは一回だけ?」
ルシアン「早く振れるから斬れるわけじゃねえ。
連撃でも良いが軸がしっかりしない内は斬れねえぞ」
ラキ「そっか」
ルシアン「まあ、見てやるから好きに振ってみろ」
541: 2013/03/21(木) 22:53:41.86 ID:/FZT2AlR0
ラキ「うん、分かった」
右へ一閃、間を置かず左へ。
ヒュヒュッ!! と音が重なる。
続けざま戻した剣の柄頭を身体に『引き付け』突きを放つ。
ルシアン「(なる程な……ラキは躱されるのを見越して振ってるんじゃねえ。
まあ、それも少しあるだろうが、一撃では決まらない場合、または振り終わりの隙。
その不安を無くす為に、ラキは敵を……)」
突きを放った直後ラキは屈む、
仮想の敵は突きを躱しラキの首を狙った。
ラキは屈んだ状態から瞬時に相手の左脇へすり抜けると同時に腹を裂き、
背後から首を斬り落とした……
ルシアン「(……二度頃す)」
542: 2013/03/21(木) 22:55:53.86 ID:/FZT2AlR0
ラキ「どうかな?」
ルシアン「まだ一撃じゃ不安か?」
ラキ「うん。今も反撃されたから」
ルシアン「そうか、でもなるべく……」
ラキ「なに?」
ルシアン「戦いを長引かせない為にも一撃で『殺せ』。それは相手の為にもなる」
ラキ「なんで?」
ルシアン「何度も斬られて氏ぬより、痛みを感じる事無く氏んだ方が良いだろ?」
ラキ「ルシアン、それは『優しさ』?」
ルシアン「頃し合いに優しさか……ん? ああ、そうだ。
爺さんの言葉を借りれば『情け』ってやつだな」
ラキ「情け?」
543: 2013/03/21(木) 22:58:14.77 ID:/FZT2AlR0
ルシアン「ああ、どんな悪人でも一太刀で頃してやる。
何度も傷付けたり、痛めつけて頃すのはダメ……みたいなヤツだ」
ラキ「何となく分かった。優しさと情けは兄弟みたいな感じ?」
ルシアン「ま、まあな。そんなもんだ。それとな、コイツはオレを本気で頃す気だなと思ったら殺せ。
それ以外の場合、相手を頃すかどうかは自分で考えろ。まあ、そんな機会はそうそう無いだろうけどな」
ラキ「分かった」
ルシアン「(ま、授業なんざしなくてもこんくらい真っ直ぐ言った方が伝わるだろ)」
リズ「んぅ…あれ? ラキお兄ちゃんがいない。ルシアンは……べつにいいや。外かな?」
ガチャッ…
ルシアン「おっ、リズ。起きたのか」
リズ「ラキお兄ちゃん、おはよう」
ラキ「うん、おはようリズ」
ルシアン「無視かよ。まだ昨日のこと根に持ってんのか……この包丁娘が」
544: 2013/03/21(木) 23:00:11.52 ID:/FZT2AlR0
リズ「女の子を泣かせるルシアンがわるいんだよ」
ルシアン「泣いたら包丁振り回して良いのかよ」
リズ「……ごめんなさい」
ラキ「ルシアン、お腹減った」
ルシアン「お前は相変わらず自由だな……じゃあ、飯にするか!!」
リズ「リズが作る!!」
ルシアン「お前の飯は不味いから却下」
リズ「れ、れんしゅうすれば上手になる!!」
ルシアン「何が『リズが作るからいい』だよ……ワケ分かんねえ見栄張りやがって」
ラキ「大丈夫だよリズ。ルシアンと同じくらい美味しかったから」
ルシアン「えっ? オレの料理ってそんなに不味い?」
545: 2013/03/21(木) 23:01:53.77 ID:/FZT2AlR0
リズ「リズの勝ちだね」フフン
ルシアン「お前も同レベルだって言われてんだよ!! 何で勝ち誇った顔出来んだよ!?」
リズ「リズにはみらいがある。ルシアンにはない……だからリズの勝ち」
ルシアン「こ、この野郎…」
ラキ「お腹減った」
リズ「リズが今から作るから待っててね?」
ラキ「うん、分かった」
ルシアン「まあ……いいや。家、入るか」
ラキ「うん」
ルシアン「(親父、強くなれたかどうかは分かんねえ。けどさ、オレにも守るモンが出来たよ)」
ルシアン「今度、墓参りにでも行くか」
【過去編・終】
546: 2013/03/21(木) 23:08:34.23 ID:/FZT2AlR0
半分以上過去編のような気がしなくもありませんが過去編終了です。
読んでくれてる方ありがとうございます!!!
感想などありましたら是非お願いします!!
547: 2013/03/22(金) 05:50:15.25 ID:xuSLJhWI0
乙
長かったけどおもしろかった
続きに期待
長かったけどおもしろかった
続きに期待
548: 2013/03/22(金) 08:46:14.50 ID:ggSACsVSO
乙
今後の展開が楽しみ。
今後の展開が楽しみ。
549: 2013/03/24(日) 01:32:52.57 ID:JTgBXKGQo
乙
これからも読むぜ
これからも読むぜ
550: 2013/03/26(火) 23:58:40.00 ID:R2o3FSeK0
嬉しいです、ありがとうございます!!
後、申し訳無いですが暫く期間が空きそうなので依頼出そうと思います。
引用: ーー「そうだ、オレの名は…」
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