205: 2015/04/30(木) 22:14:30.33 ID:6Wg4WQba.net

206: 2015/04/30(木) 22:15:25.23 ID:6Wg4WQba.net
-----



μ'sの皆と決意を固めた、次の日


週末の日曜日の

ラストライブまで、あと6日


みんなの練習への気合いの入り方も今まで以上で

最高のステージ

最高のラストを飾れるような


そんな練習が出来た




「…それじゃあ、希。」

「また明日ね?」


「うん、えりち。」




「…」
#8 やりたいことは

207: 2015/04/30(木) 22:15:54.03 ID:6Wg4WQba.net
もう…時間もない

みんな、一生懸命頑張ってる


「…ッ。」


なにか、自分に出来る事はないか

何か、あの子達のために出来る事はないか


…その疑問が、頭をよぎる


ウチを含めた、みんなを信じる気持ちと

終わってしまうという、不安な気持ちが交錯する


「…」


もう、悩まない

そう決めた、はずやのに…

208: 2015/04/30(木) 22:16:39.14 ID:6Wg4WQba.net
まとまらない頭を抱えて

…体は、神田明神へと向かっていた


「ほんとに…弱いな。」


ぽつりと、つぶやく



みんなと最高のステージを


その気持ちは、変わってない

日々、強くなっていく


…でも


言いようの無いこの気持ちを、どうにか吐き出したくて


神さんに、聞いてほしくて


たどり着いた、男坂

209: 2015/04/30(木) 22:17:20.50 ID:6Wg4WQba.net
こつこつと、ウチの足音が響く


…いつも、みんなで駆け上がった階段


始めは、にこっちの足音を聞くだけやった


それから、えりちの足音を聞いて



…どんどん

どんどん、その数は多くなった



1人の時も

3人の時も

6人になった時も


…ウチはここにいて、その足音を聞いてた


遠くから、眺めてるだけやった

210: 2015/04/30(木) 22:17:54.96 ID:6Wg4WQba.net
…まさか、自分もそこに加わるなんて


あの時は、想像もできなかったな




そんな事を考えながら、登っていると

階段の終わりが、見えて来た



それと同時に聞こえる

かすかな息づかいと

地面をこする音



「…?」

「もう、時間も遅いのに…」


変質者とかだったら、どうしよう…


いや、まさかな…

211: 2015/04/30(木) 22:18:25.22 ID:6Wg4WQba.net
登りきったとき


ほのかな光が照らす街灯の下に


…3つの、影が見えた



「…穂乃果ちゃん?」


「あれ?希ちゃん?」


「…おや、珍しいですね。」

「何かあったの?」



「海未ちゃん…ことりちゃんまで…」



迷惑にならないように

小さなプレーヤーで音を出して練習する


3人の姿が、そこにはあった

212: 2015/04/30(木) 22:19:39.17 ID:6Wg4WQba.net
今日はここまで
導入部分だけですみません

仕事が一段落着いたら
最後まで書き上げます

215: 2015/05/01(金) 23:11:29.69 ID:Vywxr/tM.net
「穂乃果ちゃんたちこそ…」

「もう、練習終わったのに。」


「…えへへ。」

「なんだか、じっとしていられなくって。」


「とは言え、また以前のような事があってはいけないので。」

「こうして3人で様子を見ながら、ですが。」



「もう、海未ちゃんは心配性なんだから。」

「…一体、誰のせいだと思ってるんですか?」


「…はーい。」


そう言いながら、穂乃果ちゃんはまたステップを踏む

216: 2015/05/01(金) 23:12:03.51 ID:Vywxr/tM.net
「…ねえ、せっかくだし。」

「希ちゃんも、一緒に踊らない?」


「…え?」


「穂乃果ちゃん、流石に迷惑だよ?」

「そうですよ、穂乃果。」


「…でも、せっかく会えたんだし♪」


「うーん、そうやね…」

「少し、参加しよっかな♪」


そう言って、服を着替える


「いいのですか?」


「うん。」

「ちょっと、リフレッシュしたい気分やったし。」





「それじゃ、みんなで♪」

「せーのっ…」

217: 2015/05/01(金) 23:12:53.12 ID:Vywxr/tM.net
-----


「…ふう。」


「やっぱり、3人はすごいなあ。」

「息もピッタリやん。」


「えへへ、ありがとう♪」


「…そうですね。」

「最初は、私達3人だけでしたから。」


「そうだね~。」



「…よっと。」


穂乃果ちゃんが、立ち上がる


「最初は、穂乃果のわがままがスタートだったんだ。」

「海未ちゃんにも呆れられちゃったし…」

「ことりちゃんも、心配させちゃったし。」

218: 2015/05/01(金) 23:13:56.67 ID:Vywxr/tM.net
「…でも、諦めないでよかった。」


「正直、ファーストライブの時に。」

「諦めるしか無いのかな、って思ったの。」


「…でもね。」


「あの時、ひとりだったらきっと続けられなかった。」

「でも、2人がいたから。」


「もちろん、花陽ちゃんが来てくれて。」

「すっごく、嬉しかったよ?」



「でも、やっぱり諦めずに踊れたのは。」

「…2人が、手を握ってくれたから。」



「…なんだか、不思議だよね。」

219: 2015/05/01(金) 23:14:18.84 ID:Vywxr/tM.net
「…!」


「…ほら、希ちゃんも。」


海未ちゃんとことりちゃんが手を繋ぐ

その手を、穂乃果ちゃんがとって

ウチに、差し伸べてくる


「…」

「…あったかい。」



「…なんでだろうね?」

「こうして、手を繋いでると。」

「みんなの気持ちが、ひとつになれる気がするんだ。」


「穂乃果ちゃん…」

220: 2015/05/01(金) 23:14:47.15 ID:Vywxr/tM.net
「…穂乃果ね。」

「最初、2人に断られて。」

「一人で、校舎裏で練習してたんだ。」


「…ほら。」

「穂乃果って、どんくさいから。」

「何度も、ターンの練習しては、こけちゃって…」



「そんな時に、2人がこうして、手を伸ばしてくれたの。」


「…すっごく、嬉しかった。」

「また一緒に、歩けるんだ、って。」



「2人に、勇気をもらったの。」



「だから、諦めずにファーストライブが出来た。」

221: 2015/05/01(金) 23:15:16.23 ID:Vywxr/tM.net
「…穂乃果だけではありませんよ。」


「えっ?」


「…私も、ことりも。」

「ずっと前から、手を伸ばしてくれた穂乃果に、感謝してるんです。」



「そうだよ?」

「花陽ちゃんが来たときだって。」

「絵里ちゃんを、誘った時だって。」


「穂乃果ちゃんが、手を伸ばしたの。」


「一緒に、やろうって。」



「…私達をひとつにしてくれたのは。」

「他の誰でもない、穂乃果なんです。」


「海未ちゃん…」


「ことりちゃん…」

222: 2015/05/01(金) 23:15:50.03 ID:Vywxr/tM.net
「穂乃果の手は、私達に勇気をくれるんです。」

「…前に、進む勇気を。」



「…そうやね。」


「希ちゃん…?」


「…」


ウチは、何を不安になってたんやろ…?

いつか終わりが来るのは、当然のこと

それが嫌で目を背けたって

結果が変わる事は無い


にこっちやえりちに偉そうな事言って

…後ろを向いてたのは、ウチ自身やった



ぱんっ!と、音を立てて

ウチは、頬を叩いた


「の、希…!?」

223: 2015/05/01(金) 23:16:18.25 ID:Vywxr/tM.net
「…うん!」


穂乃果ちゃんの手を

改めて、繋ぎ直す



「…まだ、終わりじゃない。」

「まだ、一週間もある。」


「最後まで、ウチららしく、歌おう。」

「後悔、しないように。」


穂乃果ちゃん達から、もらった勇気

それを、無駄にしないためにも



「前に、進もう。」

「まだまだ、見えてない景色がある。」

「叶えてない、夢がある。」



「…みんなと、そんな景色が見たいんよ。」

224: 2015/05/01(金) 23:16:49.67 ID:Vywxr/tM.net
「希ちゃん…」


「…ごめんな、3人とも。」

「ちょっと、ナーバスになってたみたい。」


「…大丈夫ですよ、希。」


「昨日、μ'sはおしまいにする、とは言いましたが。」

「…決して、これが最後じゃないんです。」


「私達が、私達である以上。」

「共に歌う事が出来なくなったって。」

「私も、希も、他のみんなだって。」


「μ'sの…一員なんです。」



「そうだよ、希ちゃん!」

「μ'sが、無くなる訳じゃない。」

「私達9人は、ずっとずっとμ'sなんだよ!!」

225: 2015/05/01(金) 23:17:26.72 ID:Vywxr/tM.net
「…ふふっ。」

「なんだか、言ってる事が滅茶苦茶だよ…?」


「難しい事はいいのっ!」


「希ちゃんの言う通り、まだ夢は叶ってない。」

「きっと、ラストライブを終えたって。」

「また新しい夢に、私達は進むんだよ!」



「きっとここが、新しいスタート地点なんだよ。」

「昨日、みんなで決意して。」

「最後まで頑張るって、決めたんだから。」

「最高のラストライブにするって、決めたんだから。」


「もう一度、走り出そう!」

「今までの想いや気持ち、全部詰め込んで!!」



「…うん!!」

226: 2015/05/01(金) 23:18:28.81 ID:Vywxr/tM.net
なにも、不安に感じる必要なんてなかった

これで、終わりなんかじゃない

終わりになんて、できない



…それくらい

たくさんの想いが詰まった、ウチらだから


辛い事があっても

苦しい事があっても


その度に乗り越えて、また新たなスタートをきる


「産毛の小鳥たちも、いつか、空に羽ばたく…か。」


「「…!」」


この子達がいれば、きっと大丈夫

音ノ木坂の事も…μ'sの事も


「これからの事、託したよ。」

「みんなの夢を、繋いでな?」


「…3人とも。」


「「はいっ!!」」


気持ちも晴れて、前を向いて

ラストライブへ、ウチらは新たに走り出した

227: 2015/05/01(金) 23:20:34.88 ID:Vywxr/tM.net
Side Story


その星空に花束を

228: 2015/05/01(金) 23:21:04.72 ID:Vywxr/tM.net
-----




「んん~っ…」


えりちと別れて、帰り道

昨日、穂乃果ちゃん達と話してから

心のもやがとれたみたい


自分の体じゃないみたいに

心も体も、軽くなった



「…さて、今日の晩ご飯は何がいいやろ?」

スーパーに足を運びつつ

そんな事を考える


「うーん、簡単やしお鍋でも…」



「…希ちゃん?」


「…ん?」

229: 2015/05/01(金) 23:21:54.81 ID:Vywxr/tM.net
「あ、やっぱり希ちゃんだ!」

「こ、こんばんは。」


「あれ、凛ちゃんに花陽ちゃん…」


「希ちゃん、何してたの?」


「ウチ?」

「晩ご飯のおかず、買いに行こうと思って。」


「…そっか、一人暮らしだもんね。」


「そうだ、希ちゃん!」

「よかったら、凛達と一緒にラーメン食べに行かない?」


「…ラーメン?」


「うんっ!!」

230: 2015/05/01(金) 23:22:23.90 ID:Vywxr/tM.net
「花陽ちゃんもいいん?」


「もちろんっ♪」


「…それじゃ、お邪魔しよかな?」


「やったっ!」

「希ちゃんとラーメン~♪」


「ふふっ。」

「こんなに喜んでくれると、ウチも嬉しいよ♪」



「よ~しっ!」

「みんなでラーメン屋さんまで競争にゃ!!」


「ああっ、待ってよ凛ちゃーんっ!」



走り出す2人に、思わず笑みがこぼれる


「…さて、ウチも2人に追いつかないと。」


鞄をしっかりと握って

2人の後を、追いかけた

231: 2015/05/01(金) 23:23:09.12 ID:Vywxr/tM.net
-----


「ふうー…お腹いっぱいや。」

「美味しかったよ、2人とも。」

「連れて来てくれて、ありがとう。」


3人でお店を出て

少しだけ、近くの公園へ



「こちらこそ!」

「すっごく楽しかったにゃー!」


「それは良かった。」

「また、こうして来れたらいいね♪」


「あ…」


「凛ちゃん?」



「う、ううん!」

「また来るにゃ!」

232: 2015/05/01(金) 23:23:40.02 ID:Vywxr/tM.net
「凛ちゃん…寂しいんだよね?」


「…うん。」

「だって…」

「卒業しちゃったら、こういう事も出来なくなるんだよね…」


「…」


凛ちゃんの頭を、そっと撫でる


「…希ちゃん?」


「そんな事ないよ、凛ちゃん。」

「離ればなれになるんじゃないから。」


「…また、いつでも来れるよ。」


「…うん。」


「…それに、ウチは寂しくないよ?」


「…え?」

233: 2015/05/01(金) 23:24:55.08 ID:Vywxr/tM.net
「確かにウチらは卒業するけど。」

「ウチらの事は、凛ちゃんや花陽ちゃん達が覚えていてくれる。」


「μ'sのみんなとの絆が、無くなる訳じゃないから。」


「これから、ウチらはそれぞれ新しいスタートをきる。」

「今までの想いをひとつにして。」

「…でも、それは。」


「今までのウチらがいたから。」

「凛ちゃん達がいたから、進める道。」



「…だから、不安な事なんて無い。」

「寂しくもない。」


「だって、ウチの心には、ちゃんとみんながいるから。」


「希ちゃん…」


「…それに、きっと寂しいなんて言ってられないよ?」

234: 2015/05/01(金) 23:25:38.33 ID:Vywxr/tM.net
「…え?」


「ウチらが、卒業したら。」

「凛ちゃん達には、後輩が入ってくる。」


「穂乃果ちゃん達は生徒会で忙しいと思うから。」

「凛ちゃんと花陽ちゃん、真姫ちゃんが後輩達をまとめる事になるんよ?」


「あ…!」


「…凛達に、できるかなあ。」

「ふ、不安だよう…」


「大丈夫やって、3人なら。」

「何たって、凛ちゃんはリーダーを務めた事もあるんやし♪」


「で、でも…!」


「…大丈夫。」

「ウチは、そう信じてるよ。」


「「…!」」



「凛ちゃん達が、ウチらを信じてくれたみたいに。」

「ウチらも、凛ちゃん達を信じてる。」

「…もちろん、穂乃果ちゃんたちの事も。」

235: 2015/05/01(金) 23:26:29.26 ID:Vywxr/tM.net
「…それに。」

「2人には、前に言ったけど。」


「みんなを、支えてあげられる…」

「見守ってあげられる、存在になってほしいから。」


「それって、銭湯に行った時の…?」


「…そう。」


「2人になら、出来るって信じてる。」

「それが、この先の2人の役割やと思うから。」


「でも凛達、まだまだだよ…?」

「まだまだ、知らない事もいっぱいあるし。」

「みんなに、迷惑だって…」


「今すぐに、なれなくてもいいんよ。」

「これからも、いっぱい悩むと思う。」

「…でも、きっと乗り越えられる。」

「凛ちゃん達なら、きっと…」


「「…」」


「…ねえ、2人とも。」



「南十字星って…知ってる?」

242: 2015/05/02(土) 21:24:17.63 ID:oOTA26xL.net
-----


「そんな事があったんだね…」

「やっぱり、希ちゃん達はすごいにゃー!」


「…ウチも、未だにそうなれた自信は無いよ?」

「実際、昨日まで悩んでたのも事実。」



「それでも、少しでもウチらの願いが。」

「想いが、みんなに何かを与える事が出来たなら。」


「…それは、願っても無い事なんよ。」



「希ちゃん…」


「この話を、どう捉えるかは2人次第。」

「別に、ウチらみたいになってほしい訳じゃないんよ。」


「でも…」


「希ちゃん。」

「…?」


「…ちゃんと、伝わったから。」

243: 2015/05/02(土) 21:24:56.08 ID:oOTA26xL.net
「花陽ちゃん…」


「凛も!」


「あんまり、難しい話はわかんないけど…」

「でも、大丈夫!」


「希ちゃんの話を聞いてね?」

「なんだか、すっごく胸が熱くなったの。」


「凛達に、出来るのかは分からないけど…」

「それでも、希ちゃんが信じてくれる、凛達を信じる!!」


「凛ちゃん…」




「…うん。」

「ありがとう、2人とも。」



そっと、空を見上げる

こぼれて、しまわないように


見上げた空に流れる


ひとつの、星

244: 2015/05/02(土) 21:25:22.03 ID:oOTA26xL.net
「あ、流れ星…」


花陽ちゃんが、呟く


「…」


「南に進む流れ星は。」

「物事が進む暗示…だっけ?」


「…覚えてたん?」


「うんっ♪」

「だって凛、この星空が好きだから!!」


「…私も、だよ?」


「…」



「…きっと。」

「きっと、大変やと思う。」

「辛い事も、いっぱいあると思う。」

245: 2015/05/02(土) 21:25:48.02 ID:oOTA26xL.net
「…それでも、凛ちゃんや、花陽ちゃんや。」

「他のみんながいるから、大丈夫。」

「ウチは、そう信じてる。」



「これから来る後輩達は…」

「みんな、この空の星達と同じ。」


「きっと、みんな輝ける。」

「自分の夢を、願いを叶えるために。」


「何度も壁にぶつかって。」

「挫折もすると思う。」

「…諦める子も、出てくるかもしれない。」



「…そんな子達を、導いてあげてほしい。」

「大丈夫だよ、って。」

「心配ないよ、って。」



「2人になら…出来るよ。」

246: 2015/05/02(土) 21:26:24.48 ID:oOTA26xL.net
「女の子らしくなりたいと願って。」

「夢を叶えた、凛ちゃんがいる。」


「アイドルが大好きで。」

「自分もなりたいと願って。」

「夢を叶えた、花陽ちゃんがいる。」



「自分には似合わない。」

「変わる事が出来ない、って思ってた。」

「それでも、願って叶えた2人がいる。」


「変わりたいと願って。」

「その夢を叶えた、2人がいるから。」



「…そんな2人だからこそ。」

「同じ想いを持った子達に、気付けると思う。」


「…ううん、気付いてあげてほしい。」


「きっと、その子達も…自分に自信が無いだけだから。」

247: 2015/05/02(土) 21:27:05.73 ID:oOTA26xL.net
「「…うん。」」


「それはきっと。」

「そうやって変われた2人だから、出来る事。」


「穂乃果ちゃんや、海未ちゃんや、ことりちゃんや。」

「…真姫ちゃんには、他の役目がある。」



「…分かってるよ、希ちゃん。」

「希ちゃん達の想い。」

「ちゃんと…」

「ちゃんと私達が、繋いでみせる。」


「…うん。」

「凛は、希ちゃん達にいっぱい背中を押してもらったの。」

「今度は、凛達が押す番なんだよ。」


「…乗り越えた、凛達だから。」




「…きっと、何度も失敗すると思う。」

「喧嘩だってすると思うし、まとまらないかもしれない。」

「でも、そうやって乗り越えて来たのが、私達μ'sだから。」



「だから…頑張るよ。」

248: 2015/05/02(土) 21:27:33.80 ID:oOTA26xL.net
「そうだよ、希ちゃん!」

「だから…心配しないで?」



「だ、だから…」



「凛達も、泣かないから…ッ。」

「もっともっと、強くなるから…ッ。」



「だか、ら…」


「り、凛ちゃん…ッ。」



そっと、2人を抱きしめる


「だから…」

「凛たちに…任せて…」


「…ッ。」




「…ありがとう。」


「ありがとう…2人とも。」

249: 2015/05/02(土) 21:28:12.58 ID:oOTA26xL.net
溢れ出てくる涙を止める事が出来ずに

ただただ、それを流すしか無かった


下を向いてると、止められそうになくて

3人で、夜空を見上げる


涙で、ぐしゃぐしゃになった視界に

映ったのは、きらきら光る天の空



「ふふっ…満天の、星空みたいだね…」


「お花が、空で咲いてるみたいにゃ…」



「…そうやね。」




もし、これが本当に花束なのだとしたら


ウチは、先生みたいになれましたか?

少しでも、目指した大人になれましたか?

この子達を、導いてあげる事ができましたか?



…あの、南十字星のように

252: 2015/05/02(土) 22:48:33.73 ID:oOTA26xL.net
Side Story


Cutie Smile Princess

253: 2015/05/02(土) 22:49:03.01 ID:oOTA26xL.net
-----



「さてさて、今日こそお鍋を…」


帰り道のスーパーで

カゴに野菜を入れていく


「白菜と…鶏肉と…」


「あとは…」


「うん、これでいいかな?」



沢山のお客さんが並んでる

レジの一番後ろに立つ



「さ~て、財布は…と。」


ごそごそと、鞄の中をあさる


「…ん?」

254: 2015/05/02(土) 22:49:30.72 ID:oOTA26xL.net
「…あれ?」


「…あれれ?」


何度も何度も鞄を漁るけど

ウチお気に入りの財布は、出てこない


「…嘘?」

「落とした…?」


「…」


とりあえず、レジの列から離れてカゴを床に置く


「…やっぱりない。」


夕方、練習前にジュース買った時はあったから…


「もしかして、部室に…」


でも、もう学校は施錠されてるわけで…


「ご飯、どうしよ。」

255: 2015/05/02(土) 22:49:58.37 ID:oOTA26xL.net
財布はまた、探すとして

第一の問題は、ごはんが食べられない事


「こんなときに限って。」

「家に何もないし…」


あるのは、いくつかの調味料と小麦粉だけ


「い、一日くらい、食べなくても…」


ひとつ、覚悟をしようとしたその時


「…希?」


後ろから、声がかかった

「…!」

256: 2015/05/02(土) 22:50:21.76 ID:oOTA26xL.net
そこには

2人仲良く食材を選んでる

真姫ちゃんとにこっちの姿があった




「一体どうしたのよ?」

「レジ、並ばないの?」


「に…」


「に?」


「にこっち~…」


「ちょ、ちょっと希!?」


思わず、にこっちに抱きついた

257: 2015/05/02(土) 22:50:50.36 ID:oOTA26xL.net
-----



「…つまり。」

「恐らく部室に財布を忘れて。」


「支払いが出来ずに慌てていた…と。」


「そうなんよ。」

「最悪、家の鍵はあるし、お水で乗り切ろうかと…」


「…アンタ、流石に女子高生が水だけって…」


「そ、それに!」

「家に帰ったら、100円くらい落ちてるかもしれんし!」

「そしたら、ジュースくらい…ッ!?」


にこっちに、チョップされた


「バカじゃないの!?」


「いきなりひどいなあ、にこっち…」

258: 2015/05/02(土) 22:51:21.51 ID:oOTA26xL.net
「そんなに、真姫ちゃんとのデート邪魔されたのが嫌やったん?」


「デッ…///」


「あいたっ!?」

また、チョップされる


「…もう、ウチがあほになったらどうするんよ?」


「元から十分あほでしょ、アンタは。」


「にこっちのいけず~。」


「…で、希。」

「実際、どうするつもりなの?」


「うーん…」


「…呆れた。」


ああ、真姫ちゃんにも呆れられてしまった

259: 2015/05/02(土) 22:52:21.51 ID:oOTA26xL.net
「…ほら、さっさと買って行きましょ?」


「ああ、邪魔してごめんな?」

「それじゃ、また明日♪」


そう言って立ち去ろうとするのを、真姫ちゃんが止める


「…ちょっと希、どこいくの?」

「…へ?」


「いや、帰ろうかと…」


「…さっさと買って、うちでご飯食べましょ。」


「真姫ちゃん…?」


「も~。」

「真姫ちゃん、素直じゃないんだから~♪」


「に、にこちゃんには言われたくないわよっ!!」

260: 2015/05/02(土) 22:54:31.54 ID:oOTA26xL.net
「…今日ね、にこ達。」

「真姫ちゃんの家で、ご飯する約束してたの。」


「だから…」

「良かったら、希も来ない?」



「…って、真姫ちゃんが♪」


「…真姫ちゃん、ええの?」


「べっ…別に!?」

「希が、お腹が減って氏にそうって言うんなら。」

「トクベツに、この真姫ちゃんの家に招待してあげてもいいんだからっ。」


「…」


「な、何かいいなさいよっ!」


「…ふふっ。」

「それじゃ、お言葉に甘えようかな♪」



今日もお鍋は食べられそうにないけれど

心がすでに、ぽかぽかしてきたんよ♪

264: 2015/05/03(日) 23:04:02.72 ID:tCViMUSx.net
-----


「ふう~っ…美味しかった。」

「やっぱりにこっち、料理上手やね♪」


「はいはい、ありがと。」

「感謝してるんなら、洗い物手伝いなさい。」


「はーい♪」


どうやら今日、真姫ちゃんの家族はいないみたいで

それで、にこっちが来る事になったらしい


2人で、手分けして洗い物をして

使った食器も片付けて、リビングに戻ると


真姫ちゃんが、紅茶を用意して待っててくれた



「2人とも、お疲れさま。」

「ありがと、真姫ちゃん。」


「…ありがと。」

265: 2015/05/03(日) 23:04:27.63 ID:tCViMUSx.net
リビングのソファに座って

少しだけ、ゆったりとした時間が流れる



「…そういえば。」


不意ににこっちが、口を開く


「凛と花陽、なんか凄く頑張ってるわね。」


「…にこちゃんの言う通りね。」

「何か、あったのかしら。」


「…でも、良い事やん?」


「穂乃果達も、どことなく気合い入ってるし…」

「どうせ、アンタが何かしたんでしょ?」


にこっちの目が、こっちを向く


「…そうなの?希。」

266: 2015/05/03(日) 23:04:53.66 ID:tCViMUSx.net
「んー…」

「たいした事は、してないよ?」


「ちょっとだけ、昔話をしただけ。」


「…昔話?」


「うん。」

「あの2人が、それを聞いて頑張ってくれるなら。」

「…話してよかったと、思ってる。」



「もしかして…」


「多分、にこっちの考えてる事で合ってるよ?」


「…」


「ま、確かに適任ね。」

267: 2015/05/03(日) 23:05:27.42 ID:tCViMUSx.net
「…で、何の話よ?」

「希の話は、いつもめんどくさいんだから。」


「真姫ちゃんも、にこっちの毒舌が染み付いてきたね。」


「…ちょっと、どーゆー事よ。」


「…」


「まあ、これはウチの悪い癖かな?」



「あの2人に話したのは。」

「ウチが、目指してたあるものについて。」



「そうありたいと願った。」

「ある…星の話なんよ。」


手に持ってたソーサーをテーブルに置いて

改めて真姫ちゃんに話してみる


昨日あった、出来事を

268: 2015/05/03(日) 23:05:59.33 ID:tCViMUSx.net
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「…と、言う訳なんよ。」


置いてたソーサーをまた持ち上げて

一口、紅茶を口に含む


結構長い時間話したように感じたけど

まだ、口に含んだ紅茶はあたたかかった



「…そう。」


そう言った真姫ちゃんの顔は

少しだけ、寂しそうに見えた



「…ま、別にそうなれって話じゃないんだけどね。」

「でも、知ってて損な話じゃないでしょ?」


「…分かってる。」

「特にあの2人なら、きっと上手くいくと思う。」

269: 2015/05/03(日) 23:06:26.50 ID:tCViMUSx.net
「でも…」


真姫ちゃんが、口を閉じる


「…真姫?」



「…」



開きかけた口が、また閉じる

何かを言おうとして、諦めた


「…真姫ちゃんが心配するような事は、何もないよ。」


「…!」


「それは、あの2人の役目だから。」


「…ほんと、メンドウなヒト。」



「ちょっと、にこだけ置いてきぼりじゃない。」

270: 2015/05/03(日) 23:06:52.07 ID:tCViMUSx.net
「みんながみんな。」

「にこっちみたいに、強いとは限らないんよ。」


「…」


「…なーるほど。」

「つまり真姫ちゃんには、自信が無い訳だ。」


「…!」


「…何を、不安に思う事があるのよ。」



「だって…」

「…」


「今まで、友達と言える友達もいなかったし。」

「μ'sに入る時も、入ってからも。」

「あの2人が、引っ張ってくれた。」

271: 2015/05/03(日) 23:07:29.66 ID:tCViMUSx.net
「…もちろん。」

「この1年で、私自身変われた部分はあると思う。」

「今までひとりだった私が。」

「こんな、仲間に囲まれて。」


「…そんな仲間と、ここまで来れた。」


「真姫…」


「私が、今ここにいるのは。」

「にこちゃんや希、あの2人や。」

「μ'sのみんなが、私を受け入れてくれたから。」


「こんなに不器用で無愛想な私の手を、とってくれたから。」

「だから私は、こうして今、歌って踊れてる。」



「…やっと手に入れる事が出来た。」

「私の、かけがえの無い物なの。」

272: 2015/05/03(日) 23:08:01.58 ID:tCViMUSx.net
「でも…」

「だからこそ、怖い。」


「良くも悪くも、私達の出会いは劇的すぎた。」

「みんな何かしらの想いを抱えて。」

「それを叶えるために、μ'sを結成した。」


「…でも、そこに至までの経緯が、普通じゃなかった。」


「何度も壁に当たって、その度に前に進んで。」

「みんなと…絆を深め合えた。」

「だから今、私達はここにいる。」



「そんなμ'sだから。」

「私を、受け入れてくれたんだと思う。」


「…でも、これから入ってくる後輩達は違う。」

「みんな、今のμ'sが好きで。」

「そうなりたいと思って、来る人たち。」

273: 2015/05/03(日) 23:08:47.80 ID:tCViMUSx.net
「…そんな人たちの目に。」

「私は、どう映ってるんだろう…って。」



「ステージで、歌って踊る私が好き。」

「…そう言って、サインをお願いされた事もあるわ。」


「正直、嬉しかった。」

「でも…」


「本当の私の性格を知って。」

「そんな彼女たちは、一体どう思うんだろう。」

「こんな面倒臭い私を知って、幻滅しないか。」

「こんな私が、上手く話せるのか。」


「…そんな事ばかり、頭に浮かぶの。」



「…ほんと、自分が一番メンドウなヒト。」


「真姫ちゃ…」


「ていっ!!」

274: 2015/05/03(日) 23:09:21.55 ID:tCViMUSx.net
「いたっ…!?」

ウチが口を開くと同時に

にこっちのチョップが、真姫ちゃんに落ちる


「に、にこちゃ…?」


「ほんっと、めんどくさい!!」


「何、他人の考えばっか気にしてるのよ!」

「真姫は真姫でしょ!?」

「幻滅って…なにそれ?」


「そんな事しか考えない連中に、スクールアイドルやってほしくなんてない!」

「…いいえ、きっと続かないわ!!」


「なにがあったって、どんな事が起きたって。」

「私達は、ステージではずっと笑顔だった。」


「そんな私達を見て、たくさんの人が応援してくれたんじゃない!!」

275: 2015/05/03(日) 23:09:57.28 ID:tCViMUSx.net
「にこっち…」


「真姫が不器用だからなに?」

「そんなの、私も、希も、凛も花陽もみんな知ってるじゃない!」

「それでも、一緒に頑張って来たの!」

「そして、これからもアンタ達は頑張っていくの!!」

「それが私達でしょ!?」


「後輩が真姫の事をどう思ったって。」

「例え、面倒だって思ったって。」

「凛や花陽がカバーしてくれるわよ!」


「穂乃果たちだっている。」

「アンタは何も心配する事なんて無いの!」


「他人の評価のためにアイドルをやってるんじゃないの!」

「自分らしくあればいいの!」


「そんな自分でいられるから、ここで歌ってるんでしょ!?」

276: 2015/05/03(日) 23:10:33.53 ID:tCViMUSx.net
「にこちゃん…」



「…ま、にこっちの言う事に、ウチも賛成かな。」


「こんな面倒なウチらが。」

「こんなに笑顔で歌える場所なんやから。」


「きっと、これから入ってくる後輩達も。」

「みんな、そんなμ'sが好きで。」

「そうなりたいと思って、来てくれる子達。」


「…だから、何も心配する事ないんよ?」

「きっと、みんなは分かってくれるから。」


「…」


「でも、真姫ちゃんの気持ちも分かるよ。」

「誰だって、嫌われるのは怖いし、理解してほしいもん。」



「…だから。」

「そんな真姫ちゃんに、ウチからひとつだけアドバイス。」

277: 2015/05/03(日) 23:11:04.45 ID:tCViMUSx.net
「…アドバイス?」


「口下手で、不器用な真姫ちゃんだけど。」

「…何も、気持ちを伝えるのは、話す事だけじゃないやろ?」



「…え?」


「そんな不器用な真姫ちゃんを。」

「穂乃果ちゃんが誘ったのは、なんでやと思う?」


「何度断られても、真姫ちゃんの所に来たのは、なんでやと思う?」



「あ…」



「…歌は、気持ちを伝えるもうひとつの言葉。」


「ウチは…そう、思ってるよ。」


「…」

278: 2015/05/03(日) 23:12:04.06 ID:tCViMUSx.net
「本当に、真姫ちゃんが面倒な人なら。」

「あんなに、心に届く歌は作れないと思う。」


「不器用だからこそ、直球で。」

「心に響く歌を、歌えるんやと思う。」

「奏でられるんやと思う。」


「希…」


「あの時、真姫ちゃんの歌を素直に凄いと思って。」

「迷わずに真姫ちゃんに声をかけた、穂乃果ちゃん。」

「…ウチは、間違ってないと思うよ。」


「…」


にこっちと、目を合わせる


『愛してるばんざーい!』

『ここでよかった』

『私達の今がここにある』

『愛してるばんざーい!』

『始まったばかり』

『明日もよろしくね』

『まだゴールじゃない』


「…」


無言で立ち上がって、ピアノの前に行く

279: 2015/05/03(日) 23:12:56.55 ID:tCViMUSx.net
「…」


「笑ってよ悲しいなら、吹き飛ばそうよ。」

「笑えたら変わる景色、晴れ間がのぞく。」

「不安でもしあわせへと、変わる道が。」

「見えて来たような…青空。」


「…本当に、そうなのかもしれない。」


ポン…と小さな音が、ピアノから漏れる

座り直して、こっちを見る


「…さあ!」


『大好きだばんざーい!』

『まけないゆうき』

『私達は今を楽しもう』

『大好きだばんざーい!』

『頑張れるから』

『昨日に手を振って』


『ほら…前向いて』






「…ありがとう、2人とも。」


「「…!」」



そう言って笑う真姫ちゃんは

今までで一番の

最高の、笑顔を見せてくれた

288: 2015/05/04(月) 23:16:45.03 ID:HeFHEw5y.net
Side Story


Memories of Flower Garden

289: 2015/05/04(月) 23:17:30.65 ID:HeFHEw5y.net
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「ふう…」

「今日も、みんな集中してたな~。」


練習を終えて、帰り道

隣を歩くえりちに、ふと声をかける


「…ええ、そうね。」

「日が経つに連れて、ますます洗練されていくのが分かる。」


「きっと…最高のステージを、飾れるわ。」


「うんっ♪」


そんな言葉を投げ交わし

夕暮れの中を、2人で歩く


何も言わなくても、合う歩幅

ふと横を向けば、青い目をした女の子

290: 2015/05/04(月) 23:18:32.46 ID:HeFHEw5y.net
「もう、あと何日こうして帰れるのかしら。」


ぽつりと、えりちが呟く


「うーん…」

「もうすぐ、自由登校やしね。」


「ラストライブが終わったら、何をしようかしら。」


「…いっそ、にこっち連れて旅行でも行く?」


「あら、それもいいわね。」


「行くなら、温泉なんかいいやん♪」


そんな話も、出来るようになった

…でも、時間は終わりを告げる



「…おっと、もう分かれ道か。」



「それじゃあね、えりち♪」

292: 2015/05/04(月) 23:18:59.49 ID:HeFHEw5y.net
「…」


「…えりち?」


「…ああ、ごめんなさい。」


「それじゃあ、帰りましょうか。」

「またね、希。」


そう言うと、角を曲がって家の方へ


「…」


数歩遅れて、着いていく


「…えりち。」


「…?」

「どうしたの?希。」



「どこかで、ご飯食べてく?」



「…え?」

293: 2015/05/04(月) 23:19:42.05 ID:HeFHEw5y.net
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「…ごちそうさまでした♪」


近くのファミレスで、ご飯を済ませる


「こうしてファミレスに来るのも、久しぶりね。」

「えりち、あんまり外食しないもんね。」


「うちには、亜里沙もいるし…」

「案外、お金がかかっちゃうしね。」


「ウチは、こんなのばっかりやからなあ…」


「あら、それは駄目よ?」

「やっぱり、ちゃんと栄養を考えて食べないと。」


「分かってるんやけど…」

「やっぱり、練習が遅くなったりしちゃうと、どうしても…ね。」



「面倒くさがりなのは、相変わらずね。」


顔を見合わせて、思わず微笑む

294: 2015/05/04(月) 23:20:14.67 ID:HeFHEw5y.net
「…さて、帰りましょうか。」

「誘ってくれてありがと、希。」


「うん♪」


お会計をして、お店を出る


「…もう、そんなに寒くないわね。」


「もう、春やからね。」


心地よい温度の風に当てられて

えりちの綺麗な金髪が、揺れる


「…もう、春なのね。」

「えりち…」



「…ねえ、希。」

「ん?」


「…よかったら、うちに来ない?」


「…うん。」

295: 2015/05/04(月) 23:27:05.64 ID:HeFHEw5y.net
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「お邪魔しまーす。」


「どうぞごゆっくり♪」

「今日は、亜里沙は雪穂ちゃんの所にいるみたいだから。」

「気にせず、くつろいでね。」


「って事は、穂乃果ちゃんの所か。」


「…じゃないと、流石に帰って食べるわよ。」


「それもそうやね♪」


もう何度か来た、えりちの家

我がもの顔…って言うのはあれやけど

もはや、勝手知ったるえりちの家


いつもの場所に荷物を置いて

ふかふかのソファに、腰をかける


「今、何か入れて来るわ。」

「おかまいなく♪」

296: 2015/05/04(月) 23:27:45.16 ID:HeFHEw5y.net
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「…ん、美味しい。」


えりちにはやっぱり、紅茶が似合う


「いきなり誘って、ごめんなさい。」


「ええんよ?」

「どうせ、家に帰っても一人やったし。」


「ふふっ。もう、寂しくはないの?」


「うーん…それはまた、別の問題かな?」


「そう言えば、昔。」

「落ち込んだ希に、家まで連れて行かれたわね。」


「ああ、そんな事もあったなあ…」

「確か、あれが初めてうウチの家に来た時やね。」


「そうそう♪」

「あの時の希ったら、すっごく元気が無くて…」


「…もう。」


えりちの、ばか

297: 2015/05/04(月) 23:35:30.80 ID:HeFHEw5y.net
「…」


「…あの時とは、逆になっちゃったわね。」


そう言って、えりちは視線を紅茶に落とす



「…それで、一体今日はどうしたの?」

あの時のえりちの言葉を、投げ返す


「…!」


「うん、実は…」


「…なんて。」

「よく、覚えてたわね。」



「えりちだって、覚えてるやん。」


「そうね…」

「いかに、にこを傷つけちゃったかって、力説されたっけ。」


「…」


「…じゃあ、本題。」

298: 2015/05/04(月) 23:36:00.53 ID:HeFHEw5y.net
「どうしたん?えりち。」

今度はちゃんと、ウチの言葉で


「…そうね。」

「どう言ったらいいのか…」


えりちが、ぽつぽつと話し始める

漠然とした不安や

もうすぐそこに迫った、ラブライブの事


今まで自分たちがしてきた事

これから、穂乃果ちゃん達に託していく事



「…って、色々言ってみたものの。」

「頭の中では、ちゃんと整理が出来てるのよ。」


「…まあ、そんな事やろうと思った。」

「えりちの事は、何となく分かるから。」


「…それじゃ、私が今考えてる事は何かしら?」


「それは…」

299: 2015/05/04(月) 23:43:11.08 ID:HeFHEw5y.net
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「そう、あの真姫が…」

「それに、凛と花陽も。」

「ちゃんと、分かってくれたのね。」


「…うん。」

「だからもう、ウチらが心配する事は何も無いよ。」


「そうね。」

「少し、寂しくはあるけど…」


「…ん、えりち。」

「かゆいとこない?」


「大丈夫よ、希。」


「それじゃ、流すなー。」


シャワーで、えりちの髪を流す


「それじゃ、次はトリートメントを…」

300: 2015/05/04(月) 23:43:47.64 ID:HeFHEw5y.net
「…はい、できた。」


「ありがと、希。」

「それじゃ、交代ね?」


「でも、ウチの量多いから大変なんよ?」


「気にしなくていいのよ。」

「それとも、私にされるのは嫌なのかしら?」


「…ううん、お願い。」


「ええ。」


えりちと場所を変わって

タオルで持ち上げてた、髪を下ろす


「…長くなったわね。」


「もとから、結構長かったけどね。」


「それでも、会った時より遥かに長いわよ。」

「手入れもズボラなのに、よくもまあここまで綺麗に…」


「…えりち、それ褒めてるん?けなしてるん?」


「ふふっ、冗談よ。」

302: 2015/05/04(月) 23:52:29.17 ID:HeFHEw5y.net
「…ふう。」

「流石に、2人で浸かると狭いわね。」


「まあ、流石に分かってた事やけどね。」


結局2人で体を流し合って

えりちのそれを揉んでは怒られて

2人仲良く、浴槽に



「…でも、いいわね。」

「…?」


「一度、希とこうしてみたかったから。」


「合宿とか修学旅行で、一緒に入ったやん。」


「でも、2人だけは初めてでしょ?」


「…えりちって、ヘンタイさんやったんやね。」


「ち、違うわよ!!///」

303: 2015/05/04(月) 23:53:04.13 ID:HeFHEw5y.net
「…ねえ、希。」


「…なあに?えりち。」


「私達は…大人になれたのかしら。」


「だから、それを言う時点でまだ子供って…」


「それは…そうだけど。」

「でもやっぱり、3年間過ごして来て。」

「成長してないのも、悲しいじゃない。」



「…まあ、それもそうやね。」

「でも、えりちの場合…」


「むしろ、更に子供っぽくなったんと違う?」


「…へ?」


「ほら、今のマヌケな顔もそうやし。」

「1年の頃の凛々しさみたいな物は消えたよね。」

304: 2015/05/04(月) 23:58:28.41 ID:HeFHEw5y.net
「…」

「私って、一体…」


「まあ、えりちも何となく気付いてるとは思うけど。」


「…」


「…それでも。」

「やっぱりえりちは、ウチが憧れたえりち、そのままやん?」


「…ちょっと、どっちなのよ。」


「ウチ的には、こっちのえりちの方が好きって事♪」


「もう、ごまかさないでよ…」


「ふふっ。」


「そう言う希も、変わったわよ。」

「…ちゃんと、良い方に。」


「…」


「そう、かな…」

305: 2015/05/04(月) 23:59:39.77 ID:HeFHEw5y.net
「ええ、私が保証するわ。」


「えりちの保証かあ…」


「…訂正。」

「やっぱり、悪い方に変わったわね。」

「にこの影響かしら…?」


「…まあ、ウチらしくていいやん?」


「…そうかもね。」

「そろそろ、上がりましょうか。」

「のぼせちゃうわ。」


「はーい♪」



えりちも、ちゃんと変われたよ

それは、隣にいるウチが、一番よく知ってる

…でも、どうせウチがそう言ったって、えりちは認めないから


だから、お互いがもっと成長するまで

この言葉は、とっておくよ

306: 2015/05/05(火) 00:09:40.95 ID:ef02HuGt.net
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「おやすみ、えりち。」


「…ちょっと。」

「希専用のベッド、用意したじゃない。」


「せっかくやし、一緒に寝よーよ。」

「また、あの時みたいに♪」


「あの時って…」

「希が泣きそうな顔して腕を掴んでくるんだもの。」

「仕方ないでしょう?」


「まあまあ、昔を思い出して♪」


「それ、絶対使い方間違ってるわよね?」


「いいから、いいから♪」


「あっ…ちょっと、引っ張らないでよ!」


えりちの腕を引っ張って

布団の中にご招待♪

307: 2015/05/05(火) 00:10:09.04 ID:ef02HuGt.net
「もう…」

「いつも、強引なんだから。」


「今まで散々えりちに振り回されたんやもん。」

「これくらい♪」


「あら、私も結構希に振り回されたと思うんだけど…?」


「…さっ、寝よ寝よ!」


「本当…誰のせいでこんなにイジワルになったのかしら。」


「それは、ウチを変えてくれた本人に聞かないと…♪」


「…それもそうね♪」



「それじゃ、電気消すわよ?」


「うん、お願い。」


えりちとひとつのベッドに入って

2人一緒に、天井を見上げる



「…もう、あと少しなのね。」

308: 2015/05/05(火) 00:10:41.46 ID:ef02HuGt.net
「…そうやね。」


「この3年間…ドタバタして、ばっかりだったわね。」


「…うん。」


「あの日、初めて希と話した時の事。」

「2人で、穂むらのおまんじゅうを食べた時の事。」

「にこと、初めて出会った時の事。」

「希と、生徒会に入った時の事。」

「2人で、理事長に笑われた時の事。」

「学校存続のために、地道な努力を始めた時の事。」

「修学旅行で、南十字星の話を聞いた時の事。」



「…そして、μ'sに入った時の事。」



「今でも、すぐに思い出せる。」

「まるで、昨日の事みたいに。」



「本当…あっという間だった。」


「…うん。」

309: 2015/05/05(火) 00:11:21.34 ID:ef02HuGt.net
「そんな毎日を、希と、みんなと過ごして。」

「いつの間にか、また笑えるようになって。」

「仲間の事で、本気で泣けるようになって。」


「…」


「私は何か、あの子達に残す事が出来たのかしら。」

「その先を導いてあげられる存在に、なったのかしら。」


「目指すべき大人に…少しでも、近づけたのかしら。」



「…希の言う通り。」

「私は、まだまだ子供で。」

「目の前の事だけで精一杯だけど。」


「…それでも、私を受け入れてくれたμ'sに。」

「その仲間達に。」


「なにか…してあげられたのかしら。」

310: 2015/05/05(火) 00:18:58.28 ID:ef02HuGt.net
「…なんて。」

「今日は、こんな事ばかりね。」

「年甲斐も無く、センチメンタルになってるのかも。」


「年甲斐って…」

「なんか、おばあちゃんみたいやん?」


「流石に、それは嫌。」


「…でも、分かるよ、その気持ち。」

「ウチだって、自慢できるような事が出来た訳じゃない。」


「みんなの為に、って動いて来たけど。」

「未だにそれが、正解かどうかなんて分からんし…」


「…」


「…ねえ、希。」

「私、希と…!」


えりちの言葉を、人差し指で塞ぐ


「…それは、今はなし。」

「ここが、ゴールじゃないんやから。」

311: 2015/05/05(火) 00:19:36.46 ID:ef02HuGt.net
「ウチらの夢は、まだ叶ってない。」

「まだ、終わりじゃない。」

「ウチらにはまだ、進むべき未来があるんよ。」


「希…」


「今まで、いっぱい泣いて。」

「いっぱい苦しんで、ここまで来た。」

「そんな思い出の詰まった、過去がある。」


「同じ夢を目指して。」

「隣に立って、手を繋いでる今がある。」


「そして、目指すべき未来がある。」



「だから、それが叶って初めて。」

「ウチらの3年間は、ゴールを迎える。」

「そしてまた、新しい夢に向かって走り出すんよ。」



「…だから、まだそれを口にしちゃ、駄目。」

312: 2015/05/05(火) 00:21:28.13 ID:ef02HuGt.net
「希…」


「…そうね。」


「まだ、終わりじゃない。」

「道半ばで、振り返るなんて駄目だもの。」


「…ありがとう、希。」

「さ、もう寝ましょう?」

「明日も、早いんだから。」


「…うん♪」

「おやすみ、えりち。」


「おやすみ、希。」


「「…」」

「「…良い夢を。」」





『私、希と…』


…うん

分かってるよ、えりち

ウチも…


ウチも、えりちと出会えて

みんなと出会えて、良かった



夢が叶ったその時

…改めて、この言葉を贈るよ


おやすみなさい、えりち

そして…にこっちも

ウチの大好きな、最高の、親友たち

321: 2015/05/05(火) 23:16:14.76 ID:ef02HuGt.net
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「エントリーナンバー11。」

「音ノ木坂学院スクールアイドル、μ's。」


ラブライブ本大会を翌日に控え

ウチらは今、当日の順番を決める抽選会場に来てる


周囲から沸き上がる拍手に

みんなで、顔を見合わせる


みんなで揃って、ひな壇の前へ

穂乃果ちゃんが、ゆっくりと上がる


「…」


「にこちゃん。」


「…!」


「くじを引くのは、にこちゃんだよっ。」


「ええっ!?」

322: 2015/05/05(火) 23:16:44.58 ID:ef02HuGt.net
「わ、私…?」

にこっち、すっごく驚いてる


「卒業するまでは部長でしょ?」

「そうにゃ!」

「最後はビシっと決めるにゃ!」


真姫ちゃんと凛ちゃんが、にこっちにエールを送る

「…」

「分かったわよ。」


そう言って、にこっちも壇上へ


「…いよいよ来たのね。」

「…うん。」

「ラブライブ…!」


「代表者、どうぞ前へ。」


運命の抽選会

その結果は…

323: 2015/05/05(火) 23:17:18.36 ID:ef02HuGt.net
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「んっふふふ…♪」


「にこちゃん、すごいにゃーっ!!」


「あ、当たり前でしょ…?」

「私を誰だと思ってるの?」


「大銀河宇宙、ナンバーワンアイドル!」

「にこにーにこちゃん…よ♡」


「…はあ、緊張したー。」


抽選会を終えて、学校に戻って来たウチら

なんで、こんなににこっちが上機嫌なのか言うと…



「でも、一番最後…」

「それはそれで、プレッシャーね。」

324: 2015/05/05(火) 23:17:47.40 ID:ef02HuGt.net
「…そこは開き直るしかないわね。」


「でも、私はこれで良かったと思う…!」

「念願のラブライブに出場できて…」

「しかもその最後に歌えるんだよっ?」


穂乃果ちゃんの言葉に、みんなが笑顔になる


「そうやね♪」

「そのパワーを、μ'sが持ってたんやと思う。」


「…ん?」

「ちょっと…」

「引いたのは私なんだけど?」


「…はいはい、そうね。」

「えらいにゃ、えらいにゃ♪」


「雑っ!!」


にこっちには、学園祭の時の事があるからなあ…

325: 2015/05/05(火) 23:18:16.59 ID:ef02HuGt.net
「さ、練習始めるわよ。」


「「はーいっ!」」


えりちの一言に、みんなで部室を出て行く

…ま、にこっちの功績は

またご飯でも連れて行ってあげよ♪





「…まったく。」


「…大丈夫だよ?」

「花陽…」


「みんな、あんなこと言いながら。」

「すごい感謝してたから。」


「…分かってるわよ。」

「…え?」


「…最後まで。」

「いつもの私達でいよう、って事でしょ?」


「…うんっ♪」

326: 2015/05/05(火) 23:18:46.58 ID:ef02HuGt.net
「…希、行かないの?」

「ああ、真姫ちゃん…」


真姫ちゃんに声をかけられて

部室横の壁から、体を離す


「…ん、もう大丈夫♪」

「…?」

そのとき、扉が開いた


「…なによ、アンタ達、まだいたの?」

「希ちゃん、真姫ちゃん…」


「さ、それじゃあみんなで、練習いこっか♪」


「…そうね。」


そう言って、部室の扉を閉める



…行ってきます

327: 2015/05/05(火) 23:19:17.06 ID:ef02HuGt.net
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「よーっし、行くよー?」


「1・2・3・4!」

「1・2・3・4!」

「1・2・3・4…」


「じゃじゃーんっ!!」


凛ちゃんのかけ声に合わせて

ステップを踏んで、ポーズをとる



「うん、バッチリにゃ!!」


凛ちゃんの言う通り

これまでの練習の成果が、ちゃんと出てる

これなら、きっと大丈夫♪



「…それでは、一旦休憩にしましょう。」

「今日は、形を合わせるだけにして。」

「明日に疲れを残さないようにします。」


「「はーいっ!!」」

328: 2015/05/05(火) 23:19:48.93 ID:ef02HuGt.net
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休憩中

みんな、思い思いの形で時間を過ごしてる


穂乃果ちゃん達みたいに、ゆっくりしたり

凛ちゃん達みたいに、ステップを練習したり


そして、ウチらは…


「ほら、希!」

「もう1セット行くわよ!」

「にっこにっこにー☆」


「「にっこにっこにー!!」」


…こんな事を、やってみたり


にしても、えりち

ぎこちないなあ…

329: 2015/05/05(火) 23:20:25.53 ID:ef02HuGt.net
「…ふうっ。」

「満足、満足♪」


にこっちの、満面の笑み


「これも、ひとつの思い出やね♪」


「…そうね。」


「そうよ。」

「最後まで、私達らしく。」

「それでいいのよ。」


「…ええ。」


ふと、周りを見ると

穂乃果ちゃんが、少し暗い顔をしてた

でも、ことりちゃんたちがすぐに、声をかける


きっと、穂乃果ちゃんも色々感じてると思う

でもそれは、もう自分達で乗り越えられる

ウチは、そう信じてる

330: 2015/05/05(火) 23:21:36.44 ID:ef02HuGt.net
「…!」

気付くと、穂乃果ちゃん達は抱き合ってた

何となく、すこし羨ましいと感じる


「…?」

「どうしたのよ、のぞ…!」


思わず、2人に抱きついちゃった


「の、希…?」

「んー?」


少し早い春風を感じて

心も、体も、ぽかぽかしてくる


「あーっ!」

「みんな、抱きついてるにゃ!!」

ウチらを見て、凛ちゃんが反応する


「よーっし、凛達も!!」

「ゔぇええっ!?」


いつのまにか、3人の塊が3つに増えてた


…みんな、笑えてるかな

332: 2015/05/05(火) 23:33:27.44 ID:ef02HuGt.net
-----


そんな練習時間も終わりを迎え

ウチらは着替えて、学校を出る


「あーあ…」

「もう練習終わりなのかー。」

凛ちゃんの、不満そうな声が漏れる


「本番に疲れを残す訳にはいかないしね。」

「そうだよね…」


「「…」」


校門前で、えりちが足を止める

「…じゃあ、明日。」

「みんな、時間間違えないようにね?」

「各自、朝連絡を取り合いましょう?」


「はい。」

333: 2015/05/05(火) 23:34:24.49 ID:ef02HuGt.net
「穂乃果の所には私が電話しますね?」

「…!」


「遅刻なんてしないよ…!!」


穂乃果ちゃんの反応に

みんなの口元が緩む


…今までも、こうしてきたんよね

いつも、中心には穂乃果ちゃん



「…あ。」

信号が青になって歩き出したとき

不意に花陽ちゃんが、声を出した


「「…?」」


「もしかして…」

「みんなで練習するのって。」

「これが最後なんじゃ…」


「「…」」

334: 2015/05/05(火) 23:35:12.00 ID:ef02HuGt.net
「…そうやね。」

決して、分かってなかった訳じゃない

でも、何となく口に出したら駄目な気がして


考えないように、してた


「…って。」

「気付いてたのに言わなかったんでしょ?」

「絵里は。」


真姫ちゃんは、分かってたみたい


「そっか。ごめんなさい…」



「…ううん。」

「実は…私もちょっと、考えちゃってたから。」


えりちの言葉に、校舎を振り返る

どんなときも、ウチらはこの屋上で、練習してきた


もうこうして、上がる事もないんかな…

335: 2015/05/05(火) 23:35:38.82 ID:ef02HuGt.net
「…駄目よ。」


「「…!」」


「ラブライブに集中。」

にこっちが、振り返らずに答える


…うん、その通りや


「分かってるわ。」


「…じゃあ行くわよ。」


にこっちが数歩、前に進む

「…!」


「なにいつまでも立ち止まってるのよ。」


「「…」」


…うん


「この9人で、やり残した事がひとつあるんよ♪」


「希…?」

338: 2015/05/05(火) 23:46:14.91 ID:ef02HuGt.net
-----


みんなで揃えて柏手を打って

心の中で、願いを告げる


どうか、みんなの夢を叶えて下さい



「…これでやり残した事はないわね?」

「うんっ。」


「こんなにいっぺんに色々お願いして。」

「大丈夫だったかなあ…?」


「平気だよ…!」

「だって、お願いしてる事は…ひとつだけでしょ?」


「「…!」」


「言葉は違ったかもしれないけど。」

「みんなのお願いって、ひとつだった気がするよ?」


そう言って笑う、穂乃果ちゃん

339: 2015/05/05(火) 23:46:47.81 ID:ef02HuGt.net
「そうね…」

「じゃあ、もう一度♪」


「「よろしくお願いします!」」


たったひとつの願い事

これは、叶えてくれんと罰があたるよ?


…なんてね♪



「…さ、今度こそ帰りましょ?」


「うんっ。」

「明日。」


「…そうね。」


「…」


「もう、キリがないでしょ?」


うつむく花陽ちゃんに、真姫ちゃんが声をかける

340: 2015/05/05(火) 23:47:13.29 ID:ef02HuGt.net
「…そうよ、帰るわよ?」

にこっちが、歩き始める


「…いこっか。」

「うん。」


みんなに、挨拶して

それぞれの家路へ



「…にこっち?」

男坂を下りた所で、にこっちが立ち止まる


「…」

「先、帰ってて。」

「「…」」


「いいよ、待ってる。」

「そうよ。」


「考えてる事は、きっと同じだから。」

341: 2015/05/05(火) 23:47:40.18 ID:ef02HuGt.net
「…ったく、しょうがないわねえ。」


「3年も一緒にいると、考えてる事ぐらい筒抜けやで♪」

「…ほんと、嫌な事ばっかり希には分かるのよね。」


「ふふっ。にこの言う通りね。」


「…」


「…花陽は、優しすぎるのよ。」

「でも、だからこそ。」


「一番、向いてるのかもね。」


「…そうやね。」


「ええ。」


「さて、どれくらいかかるかしら…?」

342: 2015/05/05(火) 23:48:25.22 ID:ef02HuGt.net
-----



もう外は、日も落ちて

逢魔が時に入った頃


来た道から、足音が聞こえてくる

…どうやら、こっちに気付いたみたい



「何でまだいるのよ…?」


「それはコッチの台詞。」


「あれ?みんな…」


…どうやら、考えてる事は

ここでも一緒みたいやね♪



「穂乃果ちゃん、どうしたの?」


「え?ああ…」

「…」


「なんかまだ。」

「みんな残ってるかなあ…って。」

343: 2015/05/05(火) 23:48:50.86 ID:ef02HuGt.net
「だよねっ!!」

花陽ちゃんが、ここぞとばかりに笑顔になる


「…どうするの?」

「このままじゃいつまで経っても帰れないわよ?」


それは確かに、真姫ちゃんの言う通りで



「そうだよね…」

「朝までここにいる?」

…なんて、冗談を言えるくらいには

まだみんな、元気みたい♪


「まさか…」


「あっ…!」

そんな時、穂乃果ちゃんが何か思いついたみたい

「じゃあさ…」


「こうしない?」





「みんなで、学校に泊まるの!」

344: 2015/05/05(火) 23:55:45.35 ID:ef02HuGt.net
「が、学校にですか…!?」

「うんっ!」


「でも、合宿の申請書は…」


「私が、お母さんに掛け合ってみるよ。」

「ことりちゃん…!」


「ありがと、ことりちゃん!」


「って事で、帰って用意して学校に集合!」


「ちょ、ちょっと穂乃果!」

「もし無理だった場合は…」


「その時は、どこかその辺で!」


「なっ…!?」


「…全く、言いだしたら聞かないんだから。」

「みんなでお泊り!?」

「楽しそうだにゃー!!」

345: 2015/05/05(火) 23:56:13.92 ID:ef02HuGt.net
「…もう、分かったわよ。」


「一応、ことりの連絡を待ちつつ。」

「各自用意をして、落ち合いましょう。」


「「はーい!!」」



そんな訳で

ウチらも、自宅へと向かう


「…ほんと、穂乃果らしいわね。」

「最後の最後まで、振り回されっぱなしじゃない。」


「…でも、楽しそうやん?」

「まあね。」


「ね、ねえ、2人とも…」

「「…?」」


えりちが、か細い声を出す

346: 2015/05/05(火) 23:56:37.27 ID:ef02HuGt.net
「どうしたのよ、絵里。」

「…」


「お、お化けとかは…でないわよね?」


「「…」」


「えりち…」

「な、なに!?」


「実は音ノ木坂には、七不思議と言われる怪談が…」


「ちょっ…やめてっ!!」


「まあ、そんなの無いんやけど。」

「の、希~…」


「…はあ、先が思いやられるわ。」


「それじゃ、私はあっちだから。」

「2人とも、また後でね。」


「にこっち、またね~。」

347: 2015/05/05(火) 23:58:13.99 ID:ef02HuGt.net
「それじゃ、えりち。」

「ウチらも、帰って用意しよか。」


「え、ええ…」

「帰れる?」

「だ、大丈夫よ…」


そう言って、振り向いて歩いていくえりち

大丈夫やとは、思うけど…



「わっ!!」


…ってちょっと叫んでみたら

えりちがその場に崩れ去った


「え、えりち!?」

慌てて駆け寄ると…

348: 2015/05/05(火) 23:58:39.94 ID:ef02HuGt.net
「…ほ、ほら、夜道は危ないでしょ?」

「の、希の家まで着いていってあげる。」


と、腕を折れんばかりの力で掴まれた



「…はあ。」

「えりちも、もう18なんやから…」


「こ、怖い物はしょうがないじゃないっ!!」


「はいはい、行くよー。」


生まれたての子鹿みたいなえりちを連れて

ゆっくりと、ウチの家の方に向かう



…これ、間に合うんかな?

349: 2015/05/06(水) 00:18:36.68 ID:7QmeyLsn.net
-----



「でーきたーっ!!」


学校に着いたウチらは

部室に布団を敷き詰める


なんだかんだ話してたら

もうすっかり、遅くなっちゃってて…



「ちょうどぴったり…」


「学校でお泊り!」

「やっぱりテンションあがるにゃーっ!!」


「ドキドキするね♪」


ウチも、なんかちょっとわくわくしてきた♪


「でも、本当にいいんですか…?」

「うん♪」


どうやら、理事長が上手くやってくれたみたい

350: 2015/05/06(水) 00:19:31.59 ID:7QmeyLsn.net
「はいお待たせーっ!!」


そんな話をしていると

調理メンバーが帰って来た


「家庭科室のコンロ、火力弱いんじゃないの!?」

そうやって言うにこっちのフライパンからは

食欲を誘う、美味しそうなにおいがする



「花陽ー!ご飯はー?」

にこっちの言葉に

花陽ちゃんが、後ろから出てくる


「炊けたよぉーっ!!」


…うん、すっごく笑顔


「そして凛はラーメンも!」

「いつの間に持って来たのよ…」

呆れる真姫ちゃんの前で

凛ちゃんはどんぶりを突き出す


「それじゃあ、夕食にしましょ?」

「「はーいっ!!」」

351: 2015/05/06(水) 00:19:56.40 ID:7QmeyLsn.net
-----


みんなで思い思いの話をしながら

部室のテーブルを囲んで、笑顔になる


「なんか合宿の時みたいやね♪」


「合宿よりも楽しいよ~♪」


「だって学校だよ!?」

「学校♪」


「最高にゃーっ!!」


「…まったく、子供ねえ。」


「ふふっ。」


そんな元気な2人を見て

ウチらにも、笑みがこぼれる


「…あ。」

「ねえねえ!」

「今って夜だよね?」

352: 2015/05/06(水) 00:20:21.26 ID:7QmeyLsn.net
「そうだけど…?」


にこっちの言葉に、穂乃果ちゃんは駆け出して

窓を、思いっきり明ける


「わあーっ!!」


「「…!?」」


「穂乃果ちゃん…?」


「何してんのよ!?」

「寒いじゃない…!!」


振り返った穂乃果ちゃんは


「夜の学校ってさ、何かワクワクしない?」

「いつもと違う雰囲気で新鮮♪」


そう言う穂乃果ちゃんは、これ以上無いくらい楽しそう

353: 2015/05/06(水) 00:20:43.23 ID:7QmeyLsn.net
「そ、そう…?」


えりち、声震えてるで…


「後で肝試しするにゃーっ!!」

「ええっ!?」



「あ、いいねえ♪」

「特にえりちは、大好きだもんねえ~。」

「の、希っ!!」


あ、これは本気で怒られるかも…


「絵里ちゃん、そうなのっ?」


「い、いや…それは…」


すると、急に電気が消えた


「ひっ…」

「ひゃあああっ…!!」

354: 2015/05/06(水) 00:22:18.04 ID:7QmeyLsn.net
「い、いたい…」

「絵里ちゃん、痛いよお…」


「は、離さないで離さないでお願い…!」


見えないけど、声から察するに

えりちはことりちゃんにしがみついてるみたい


えりちって、意外と力強いからなあ…


「もしかして、絵里…」

「暗いのが怖い、とか。」


「うふっ♪」

「新たな発見やろ?」


「希ぃ~…!」


ちょっと、悪ふざけがすぎたかな?

355: 2015/05/06(水) 00:22:40.15 ID:7QmeyLsn.net
「真姫…!」

「…はいはい。」


そう言って、真姫ちゃんが電気を付けようとした時


「…待って!」


「「…?」」


「わあ…」

「星が綺麗…」


「そっか。」

「学校の周りは、明かりが少ないから…」


外から入ってくる風が

穂乃果ちゃんの髪の毛を揺らす


「…ねえ。」


「屋上…行ってみない?」

356: 2015/05/06(水) 00:23:13.84 ID:7QmeyLsn.net
-----



穂乃果ちゃんの一言で

みんなで、毛布を持って屋上に上がる


ただ、いつもの練習場所じゃなくて

ウチが見つけた、お昼寝スペース


音ノ木坂の街を一望できる

ウチの、お気に入りの場所


「「わあ…!!」」


いつも来るお昼とは、180度違う景色が

ウチの目の前には、広がってた


「すごいね…」

「光の海みたい…」


「…このひとつひとつが。」

「みんな誰かの、光なんですよね。」

357: 2015/05/06(水) 00:23:37.03 ID:7QmeyLsn.net
「その光の中でみんな生活してて。」

「…喜んだり、悲しんだり。」


「この中にはきっと。」

「私達と話した事も、会った事も無い。」

「触れ合うキッカケもなかった人たちが、沢山いるんだよね…」



「でも…繋がった。」

「スクールアイドルを通じて。」


「…うん。」


「偶然流れて来た、私達の歌を聞いて。」

「何かを考えたり…」

「ちょっぴり楽しくなったり。」

「ちょっぴり、元気になったり…」


「ちょっぴり…笑顔になってるかもしれない。」

「素敵だね…」


「…だからアイドルは、最高なのよ。」


「…うん。」

358: 2015/05/06(水) 00:24:43.89 ID:7QmeyLsn.net
雲の切れ間から、まんまるいお月さんが顔を出す

まるで、ウチらの事を見ていてくれたみたいに

まるで、ウチらを応援してくれているみたいに


綺麗な、真っ白な光が射す


「私…」

「スクールアイドルやって…」


「よかったーっ!!」


穂乃果ちゃんが、光の海に向かって叫ぶ


「どうしたの?」

「だって…そんな気分なんだもん。」


そう言って、また穂乃果ちゃんは笑う


「みんなに伝えたい気分…」


「今のこの気持ちを!!」

359: 2015/05/06(水) 00:25:35.55 ID:7QmeyLsn.net
「みんなーっ!!」


「明日、精一杯歌うから…」

「聞いてねーっ!!」

みんなで、顔を見合わせて

口を揃えて、こう言うんよ



「「みんなーっ!!」」

「「きいてねーっ!!」」



ウチは、空が好き

ちっぽけなウチの事を、いつでも見守ってくれるから


ウチは、海が好き

ちっぽけなウチの悩み事を、もっとちっぽけに見せてくれるから



あの海に、悲しみは置いて来た

この空に、想いを託して来た


…だから

この目の前に広がる星の海には


ウチらの、明日を夢見よう


この光が、輝きが

ウチらを支えてくれる


もう、迷うことなんて無い

その輝きの中を

ただまっすぐ、進んで行こう


ウチには、もったいないくらいの

最高の、ともだちと一緒に---

367: 2015/05/07(木) 21:39:20.63 ID:Xos8Flja.net
-----



朝の眩しい日差しが、ウチらの瞼を照らす

深く沈み込んでた意識を

元気な声が覚醒させる


「おっきろーーーーっ!!」


一番お寝坊さんな穂乃果ちゃんの声に

みんながのそのそと起き上がる


「穂乃果…?」


「なに…?」


「朝だよ!?」

「ラブライブだよっ!!」


そう言いながら、手を広げる穂乃果ちゃん


「まったく…分かってるってば。」


にこっちが、きゅうりを剥がし始める

368: 2015/05/07(木) 21:40:02.13 ID:Xos8Flja.net
「んん…っ。」

「それにしても、いい天気ね…」


「でしょでしょ!?」

「最高のライブ日和だよっ!」


「そうやね♪」


みんなで布団を片付けて

にこっちが用意してくれた朝ご飯を食べる


話題はもちろん、今日の事

みんな、楽しみで仕方が無いみたい♪



「…それじゃ、忘れ物は無い?」

「出発するわよ。」

えりちのかけ声で、みんなで部室を出る




「…行ってきます。」

朝日が差し込む部室に詰まった

ウチらの、これまでの軌跡に

ぽつりと、そう呟いた

369: 2015/05/07(木) 21:40:45.23 ID:Xos8Flja.net
-----



「「わあ~…!!」」


会場について、その大きさにビックリする


「これが、会場…」


「おっきいねーっ!」


「流石本戦はスケールが違うわね…」


「こんなところで歌えるなんて…!」

凛ちゃんの言葉に、にこっちが反応する


「トップアイドル並に注目を浴びているのよ?」

「…ラブライブは!」


「そっか♪」


「注目されてるんだ…私達…」


会場を目の当たりにしてから

みんなのテンションも上がっていく

370: 2015/05/07(木) 21:41:14.43 ID:Xos8Flja.net
控え室に荷物を置いて

ステージを見に行ってみると

丁度、照明の試運転中やった



「すごい照明ですね…」

「眩しいくらいだね…」


「たくさんのチームが出場する訳やから。」

「設備も豪華やね…」


ステージ前の水面に映る、ウチらの顔

…あれ?

花陽ちゃんは…



「…!」

「かよちーん!こっちにゃー!」


凛ちゃんが、いち早く気付いて声をかける

371: 2015/05/07(木) 21:41:45.94 ID:Xos8Flja.net
「迷子にならないでよー?」

えりちが、みんなに注意を促す



「ここで歌うんだ…」


「…?」


「ここで歌えるんだよ?私達!」


「そうね…!」


ディスプレイに浮かぶ

「LoveLive」の文字


…本当に

やっと、ここまで来れたんやね


「さ、リハーサルの準備をするわよ?」

「了解にゃーっ!!」


開演時間まで

あと---少し

372: 2015/05/07(木) 21:49:39.33 ID:Xos8Flja.net
-----




「…」


「なにしてんの?希。」


「…うん。」

「さ、準備しようか♪」


そう言って、携帯を鞄にしまう

みんなから送られて来た、メッセージ


ツバサちゃんや、A-RISEのみんな

クラスの友達

そして、元部員の子達まで


ちゃんと、読んだよ

みんな、同じ内容だったけど


…返事は、必要ないよね?

ステージで、応えるから



「…頑張るよ。」

373: 2015/05/07(木) 21:50:09.42 ID:Xos8Flja.net
-----



「おおーっ!!」


穂乃果ちゃんが、みんなの衣装を見て声を上げる


「みんな、可愛いねえ…!」


「流石、ことりね!」


えりちが、くるっと回ってみせる


「うん♪」

「今までで、一番可愛くしよう、って頑張ったんだ♪」


「すばらしいと思います!」


「いけそうやね♪」


ほんとに、可愛い衣装

あんじゅちゃんも、凛ちゃんも、ありがとう



「…さあ、準備はいい!?」


「「はいっ!!」」

374: 2015/05/07(木) 21:50:45.31 ID:Xos8Flja.net
-----



声が聞こえる

ウチらを応援してくれる、声が

熱気が最高潮になった客席から


それは、直接では無いけれど

ちゃんと、この心に届いてる


「がんばれ」って



…そっと、目を開ける

奥に見える、ステージの光


ただ、そこに進めば良い

ウチらのすることは、それだけ




「お客さん、凄い数なんだろうなあ…。」


「…楽しみですよね。」


「「…え?」」

375: 2015/05/07(木) 21:51:18.43 ID:Xos8Flja.net
「もう、すっかり癖になりました。」

「たくさんの人の前で歌う楽しさが。」


「…!」


海未ちゃんも、だいぶ変わったな

あの時、英玲奈さんに任せて

本当に、良かったと思う


もちろん、変われたのは海未ちゃん自身の成果だけど



「…大丈夫かなあ。」

「かわいいかなあ…?」


不安そうな花陽ちゃんに

凛ちゃんが、声をかける


「大丈夫にゃ!」

「すっごく可愛いよ?」


「凛ちゃん、ほんと…?」

376: 2015/05/07(木) 21:51:45.48 ID:Xos8Flja.net
「うんっ!!」


「かよちんが、この衣装が好きなら。」

「それは、とっても似合ってるって事だよ♪」


「だから、すっごく可愛いよ?」


そう言って、くるっとターンする


「凛はどーお?」


「凛ちゃんも可愛いよ♪」


「トーゼンっ!」

「ことりちゃんの衣装、大好きだから♪」



「…ありがとう、凛ちゃん♪」

「えへへ…///」


凛ちゃんも、ちゃんと分かってくれてる

信じてくれてる

自分を、みんなを


…負けてられんよね♪

377: 2015/05/07(木) 21:52:17.11 ID:Xos8Flja.net
「…今日のウチは、遠慮しないで前に出るから。」

「覚悟しといてね?」


「希ちゃんが…?」


「なら、私もセンターのつもりで目立ちまくるわよ?」

そう言って、えりちもノってくる


「…最後のステージなんだから。」


「面白いやん!」



ツバサちゃんのメールにあった

「最後くらい、自分の為に頑張りなさい」の文字


…分かってる

もう、誰かのためじゃない


ウチの、ウチら自身の夢のためのステージ


たった、ひとつだけのために歌うから

378: 2015/05/07(木) 21:52:49.18 ID:Xos8Flja.net
「おおーっ、やる気にゃあ!」

「真姫ちゃん、負けないようにしないと!」


「…!」

「分かってるわよ。」

「3年生だからって。」

「ぼやぼやしてると置いていくわよ?」


「…宇宙ナンバーワンアイドルさん♪」


「…!」


「ふふん…!」

「面白い事言ってくれるじゃない。」


「私を本気にさせたらどうなるか…」

「覚悟しなさいよ…!!」



「…さ、そろそろ時間ですよ?」



「…うん。」

379: 2015/05/07(木) 21:53:17.19 ID:Xos8Flja.net
「みんな、全部ぶつけよう。」

「今までの気持ちと、想いと。」

「…ありがとうを。」


「全部乗せて歌おう…!!」



みんなで、ピースで円陣を組む

…これも、最後だから


「…」


「…どうしたんです?」


「なんて言ったら良いか…分からないんだ。」


「…なによそれ?」


「だって、本当にないんだもん。」

「もう全部伝わってる。」

「もう気持ちはひとつだよ…!」

380: 2015/05/07(木) 21:54:06.73 ID:Xos8Flja.net
何度も、何度もこうして円陣を組んで

その度に、同じ事を願って来た


流した汗も、重ねた手も

すべては、このために


「…もうみんな。」

「感じている事も、考えている事も同じ。」



「そうでしょ…?」


ただ、この時のために




「…そうやね。」



みんなで、同じ事を感じて

考えて、共有して、共感する



ウチらの想いは、ひとつ

その光の先にある



輝きを感じて---

381: 2015/05/07(木) 21:58:44.93 ID:Xos8Flja.net
「…ッ。」


「μ'sラストライブ!」

「全力でとばして行こう!!」


「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」



『μ's!』

『ミュージック…』







『スタート!!』

382: 2015/05/07(木) 22:10:13.70 ID:Xos8Flja.net
-----


前奏に合わせて

瞼を、そっと開ける


その瞳に映る、星の海


また、見れた

また、出会えた


いつまでも消せない

ウチらを照らす、この光

この、星達



…何となく、そんな気はしてた

あの時、聞いた言葉


導き手になりたいと思った

そうありたいと願った


…でも、そうじゃなかった

誰かが導くんじゃない


みんなで、導き合うって事

ウチらが、誰かを導くんじゃない

ウチらも、導かれてここにいる


輝ける、ひとつの星として---

383: 2015/05/07(木) 22:11:01.81 ID:Xos8Flja.net
『どんな明日が待っているんだろう?』

『なんてね 僕は僕たちは』

『少しずつ手探りしてた』



あの日、何も無かった場所から

ウチらは、スタートした

やっと繋がった道は

完敗からの、スタートだった



『励まし合ってぶつかり合った時でさえ』

『わかってた』

『おんなじ夢を見てると』



それでも、続けられたのは

続けてこられたのは

ウチらの中にあった、熱い、熱い想い

なにがあったって譲る事の出来ない

ある---ひとつの夢

384: 2015/05/07(木) 22:11:56.24 ID:Xos8Flja.net
『目指すのはあの太陽』

『おおきな輝きをつかまえる』

『いつかの願いへと近付いて』



何度も壁にぶつかって

その度に、みんなで泣いて、強くなった

どれだけ不釣り合いだと言われたって

無謀だと言われたって

手を伸ばした

一人じゃ決して届かないもの

みんなで、繋ぎ合って手を伸ばした


だからこそ今、ここにいる

掴みたかった、未来へ

届けたかった想いを持って



この光のひとつひとつが、誰かの夢で

その中には、叶えられなかった夢もあるだろう

ウチらに、託された夢だってあるだろう


だから歌う

おおきな声で

だから進む

ウチらを照らしてくれる

この、みんなの夢の中で



『光の中で歌うんだ Sensation!』

385: 2015/05/07(木) 22:12:57.51 ID:Xos8Flja.net
『奇跡それは今さ ここなんだ』

『みんなの想いが導いた場所なんだ』


ウチらは、お互いに導き合ってここに来た

その繋がりが仲間で、ライバルで、ともだち

その足跡が、今ここにある


『だから本当に今を楽しんで』


楽しんで、ここにいる

みんなに笑顔を見せるために

みんなと、笑顔になるために

流した涙も、ぶつけた想いも

交わした言葉も、受け取った願いも


ウチらをつくった、なにもかも

それこそが、ウチらの軌跡

それこそが、ウチらの奇跡

みんなで綴った、物語


『みんなで叶える物語 夢のStory』


『まぶしいな! いいな! おいでよ!』

『うれしいな! いいな! もっとね!』


ただひとつの---星になれ


---ひとつになれ、こころ…きらきら

386: 2015/05/07(木) 22:13:36.08 ID:Xos8Flja.net
-----




「…ありがとうございました!!」



「…東條希!」

「西木野真姫!」

「園田海未!」


「星空凛!」

「矢澤にこ!」

「小泉花陽!」


「絢瀬絵里!」

「南ことり!」


「高坂穂乃果!」


「音ノ木坂学院スクールアイドル…μ's!」





「「ありがとうございました!!」」

387: 2015/05/07(木) 22:14:14.35 ID:Xos8Flja.net
-----



---全部、出し切った?

---うん、全部出し切った


---後悔してない?

---する訳がない


---満足できた?

---うん、きっと


---じゃあ、何で泣いてるの?


「…幸せだから。」



自問自答しても、もうあの声は聞こえない

でも、これで良かった

ここに立てて、良かった


…そう思える、幸せ

かけがえのない、大切なもの


言葉は、いらない

こころは…ひとつだから

388: 2015/05/07(木) 22:14:42.43 ID:Xos8Flja.net
「「…!」」


会場から聞こえる、アンコールの声

鳴り止まないそれは

…いつかの、あの時を思い出す



『このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。』

『応援なんて、全然もらえないかもしれない。』

『でも、一生懸命頑張って…』

『私達がとにかく頑張って、届けたい。』

『今、私達がここにいる…この想いを!!』



「…」


「行こう、みんな。」


「「…!」」


「私達は、応えなくちゃいけない。」

「この想いに、気持ちに、真剣に!」

「だって、私達がここまでこれたのは…!!」






「ほ~のかっ。」

389: 2015/05/07(木) 22:15:41.44 ID:Xos8Flja.net
「…!」


「…これ、いるんじゃない?」

「それって…!」


そう言って彼女たちが出したのは

あの時の、衣装


「…えへへ。」

「怒られるかとは思ったんだけどさ。」


「部室から、持って来ちゃった。」


「「…」」


「や、やっぱりだめだっ…!?」


みんなで、3人に飛びつく



…ほんと、感謝しないとね

こんな人たちがいるから

ウチらは、輝けるって事


ここまでこれたのは…

みんなが、いたから


「…みんな、急いで着替えよう!!」

390: 2015/05/07(木) 22:16:16.21 ID:Xos8Flja.net
-----



「えっと…その…」


「…もう、しゃんとして下さい。」

「締まらないじゃないですか…!」


「えへへ、ごめん…///」


「…ま、この方が穂乃果らしいけどね。」

「そうにゃ、そうにゃ!」


「えーっ、みんなひどいよーっ!!」


「…でも、これが私達でしょう?」

「…そういう事。」


「…うん♪」

「そうだねっ。」


「…さ、穂乃果ちゃん。」


「うん…!」

「みんな、行くよ!!」

「最後の最後まで、笑顔で!」

「この想いを、届けよう…!」


「μ's!」

「ミュージック…」


「「スタート!!」」


『僕らは今のなかで』

391: 2015/05/07(木) 22:16:49.85 ID:Xos8Flja.net
---きっと、届けられただろう


応援してくれた、全ての人に

仲間に、ライバルに、ともだちに



だって、泣かなかったから

泣く必要なんて、無かったから



…だからウチは

胸を張って、こう言うんよ


あの時、決めた通りに



「…みんな、お疲れさま!!」









そして訪れる

---μ's、旅立ちのとき

399: 2015/05/09(土) 22:36:06.99 ID:rvYk5BC2.net
-----



「…行ってきます。」


玄関の扉を閉めて

いつもの道へと歩き出す



見慣れた道を歩きながら

今日までの事を振り返る


…って言っても、特に変わった事は無かった


ラストライブが終わって

みんなと打ち上げをしてからは


またいつもの日常が戻って来た


ただひとつ違った事と言えば

あの屋上に、顔を出さなかった事

400: 2015/05/09(土) 22:36:49.71 ID:rvYk5BC2.net
でも、それ以外はいつも通り


自由登校になってからは

今まで応援してくれたお返しに

クラスのみんなと遊びに行ったり


いつも通りのバイトをしたり


えりちと生徒会室の片付けなんかをしてみたり


こころちゃんたちに会いにいったり


色々な事をして

それでも時間は余ったはずなのに


全部、昨日の事みたい


…そういえば、こころちゃん達に会いに行ったとき

初めて、にこっちのお母さんに会うことが出来た

401: 2015/05/09(土) 22:37:23.69 ID:rvYk5BC2.net
優しそうなお母さんで

にこっちが甘えたくなる気持ちも分かる気がする

どうやらにこっちは

ウチの話も良くしてたみたいで

いつもありがとう、って言われちゃった


…でも、こちらこそ

にこっちには、昔からお世話になったから

そう言うと、にこっちみたいな笑顔で笑ってくれた



「…」

「早いなあ…」


今年は桜の開花も早かったみたいで

辺り一面に、ピンクの花びらが舞う


桜並木を抜けて、音ノ木坂学院へ

目に入る、育った学び舎

402: 2015/05/09(土) 22:37:54.76 ID:rvYk5BC2.net
-----



「…おはよ、希ちゃん。」

「ん、おはよ♪」


クラスのみんなに挨拶をして

ウチの席に、座ってみる


「…」


お日様の当たる、絶好の位置

授業中に眠気をくれた、この席

えりちには怒られた事もあったけど

やっぱり、ウチは気に入ってるん♪



「ねえ、希ちゃん。」

「写真撮らない?」


「…うん、もちろん♪」

みんなと、記念撮影

この教室で、出会えたみんなと

403: 2015/05/09(土) 22:38:25.50 ID:rvYk5BC2.net
-----



「…」


式の開始まで時間があるから

校内を、少しだけお散歩する


昨日の夜、えりちとにこっちと約束したん

放課後、校舎を見て回ろう、って


だから、ほんの少しだけ

連絡通路を横切って

中庭の方に抜ける


「わあ…!」


ベンチの近くの花壇には

綺麗な花が咲いてた

そよぐ風に揺られて

色とりどりの花が揺れる


「…」

404: 2015/05/09(土) 22:39:05.80 ID:rvYk5BC2.net
そう言えば、この場所って

にこっちが、決意した場所やね


穂乃果ちゃん達の気持ち、受け止めて

入部を認めた、あの日


…まあ、丸め込まれた、って言った方が正しいんかな?


「…ふふっ。」


あの時は、芽を出してなかった花も

今こうして、元気に咲いてる

小さくても、頑張って

根を生やして、空を向いて


「…ほんと、強いね。」


こんなに小さくても

こんなに綺麗な花を咲かせてる


…ウチらも、咲かせられたかな?

405: 2015/05/09(土) 22:54:03.25 ID:rvYk5BC2.net
「希ちゃーん…」


「ん?」


「あ、穂乃果ちゃん…」

走ってくる、穂乃果ちゃん


「…どーお?」

そう言って、髪の毛に触れてみる

せっかく、卒業式だからって

ちょっと、上品な感じにまとめてみたん♪


「すっごい似合う!」

「希ちゃん、髪キレイだよね~♪」


「そんなに言われたら照れるやん…」


なんて、言ってみたけど

自分は興味が無かったこれも

にこっちやえりちが、褒めてくれたから

「でも、ほんとにそう思うよ?」


「…ふふっ。」

「ありがと。」

406: 2015/05/09(土) 22:54:31.55 ID:rvYk5BC2.net
「…じゃあ、また後で♪」

そう言って走りだそうとする穂乃果ちゃん


「…あ、えりち知らない?」

「…?」

「知らないよ?」


「てっきり、穂乃果ちゃん達と一緒かと思ってたんやけど…」


クラスには荷物があったけど

みんな、見てないって言ってたし…


「…そっか。」

「見つけたら、言っとくね?」


「うん、ありがとう♪」


…さて

次は、どこへ行こうかな?

407: 2015/05/09(土) 22:55:02.31 ID:rvYk5BC2.net
「…希ちゃん?」

「…?」


「あ、やっぱり希ちゃんだ!」

「あ…」


「髪、いつもと違ったから分からなかったよー。」

「大人っぽいね♪」


「…ふふ、ありがとう。」

「にこっちとは、何か話した?」


「それが、話そうと思ったんだけど…」

「お母さん、来てたみたいだから。」


「だから、後で教室で話そうかな、って。」


「…そっか。」


「あの…ね、希ちゃん。」

「ん?」



「「ありがとうございました!!」」

408: 2015/05/09(土) 22:55:45.41 ID:rvYk5BC2.net
「…へ?」


「ほら、この間。」

「一緒に、ご飯行った時。」


「…ああ。」


「最初は、ビックリしたよ?」

「…でも、嬉しかった。」


「みんな、不器用やからね。」


「…うん。」

「でも、ありがとう。」





「…にこちゃん、連れて来てくれて。」


「…ううん。」

「にこっちも、丁度いい機会って言ってたから。」


「…うん。」


「…また、みんなで行こうね。」


「…うん!」

409: 2015/05/09(土) 22:56:28.74 ID:rvYk5BC2.net
-----



元部員…って言い方は、もう違うか

友達と別れて、生徒会室へ


昨日、アルバム整理してた時に

懐かしいって言ってたから

もしかしたら…と思って来てみたけど


扉が開いて、2人が顔を出す


「…!」

「希ちゃん…!」


「やっぱり、ここやったんやね♪」


「希…」

えりちが、ウチに気付く


「また後で~。」


そう言って、穂乃果ちゃんは体育館の方へ

410: 2015/05/09(土) 22:57:12.43 ID:rvYk5BC2.net
「…大きくなったわね。」


「…そうやね。」

「もう…立派な。」


「生徒会長やね。」


「…そうね。」



「寂しい?」

「…いいえ。」


「今までの道は。」

「…やっぱり、間違ってなかったんだ、って。」





「…そういえば希。」

「私の事、探してたの?」


「…あ、うん。」

「教室行って、みんなで写真撮ろ?」


えりちの腕を引っ張って、教室へ

411: 2015/05/09(土) 22:57:50.57 ID:rvYk5BC2.net
-----



盛大な拍手に迎えられて

ウチらは、体育館に入る


そう言えば、この舞台設営も

去年はみんなで頑張ったなあ…なんて

ぼーっと、思い浮かべる




式は、何事も無く、って言い方も変だけど

滞りなく進んで、理事長からの言葉に



「…音ノ木坂学院は。」

「皆さんのおかげで、来年度も新入生を迎える事が出来ます。」

「心より、お礼と感謝を述べるとともに。」

「卒業生の皆さんが。」

「輝かしい未来に向けて羽ばたく事を祝福し。」

「挨拶とさせて頂きます。」


「おめでとう。」

412: 2015/05/09(土) 22:58:15.56 ID:rvYk5BC2.net
「…続きまして。」

「送辞。」

「在校生代表、高坂穂乃果。」


「はい!」


ライトで照らされた席から

穂乃果ちゃんが、立ち上がる


壇上へ上がって

ウチらと、目を合わせる


「送辞。」

「在校生代表、高坂穂乃果。」





「…先輩方。」

「ご卒業、おめでとうございます。」

413: 2015/05/09(土) 22:58:53.24 ID:rvYk5BC2.net
「…実は、昨日まで。」

「ここで何を話そうか、ずっと悩んでいました。」


「どうしても、今思っている気持ちや。」

「届けたい感謝の気持ちが、言葉にならなくて…」

「何度書き直しても、上手く書けなくて…」


「それで、気付きました!」

「私、そう言うのが苦手だったんだって。」


「穂乃果…?」

えりちが、心配そうに口を開く

「…ま、見守っててあげようよ。」



「子供の頃から、言葉より先に行動しちゃう方で。」

「時々…周りに迷惑もかけたりして。」


「自分を上手く表現する事が、本当に苦手で…」

「…不器用で。」

414: 2015/05/09(土) 22:59:38.29 ID:rvYk5BC2.net
「…」


「でもそんな時…」

「私は歌と出会いました!」


「歌は気持ちを素直に伝えられます。」

「歌う事で、みんなと同じ気持ちになれます。」


「歌う事で、心が通じ合えます。」


「私は、そんな歌が好きです!」

「歌う事が、大好きです!!」


「…先輩、皆様方への感謝と。」

「これからのご活躍を心からお祈りし…」


「これを送ります。」


「…」



「愛してるばんざーい」

「ここでよかった」

「私達の今がここにある」


「愛してるばんざーい」

「始まったばかり」

「明日もよろしくね」

「まだ…ゴールじゃない」

415: 2015/05/09(土) 23:00:08.00 ID:rvYk5BC2.net
「これ…って…」

「穂乃果ちゃん…」



「さあ…!」



『大好きだばんざーい』

『負けないゆうき』

『私達は今を楽しもう』



『大好きだばんざーい』

『頑張れるから』

『昨日に手を振って』

『ほら、前向いて---』



「ねえ…!」

「みんな一緒に…!!」


『la la la…』


穂乃果ちゃんの言葉に

生徒が、先生が、保護者が

声を合わせて、歌ってくれる

416: 2015/05/09(土) 23:00:48.94 ID:rvYk5BC2.net
「えりち…」

「にこっち…」


「「…うん。」」


『la la la…』

『la la la la la la la…』



声が、震える

でも、楽しい

前が見えない

でも、嬉しい


ちゃんと、届いてる

みんなの想いが、気持ちが

ちゃんと、胸に響いてる

このメロディにのって


言葉にできない言葉

伝えたい、気持ち

…ちゃんと、届いたよ





「…ありがとう。」

422: 2015/05/10(日) 00:09:17.16 ID:vbSIZ6Vd.net
-----



ほんとうに

ほんとうにすばらしい送辞をもらって

卒業式を終える事が出来た


教室に帰ったウチらは

ともだちと抱き合って

泣いて、笑って

最後の時を過ごした


定番の写真を撮って

アルバムのページに、落書きして


思い思いの時間を過ごして

慣れた教室を後にする


…向かう先は、もちろん

大事な、仲間のいる場所へ

423: 2015/05/10(日) 00:09:46.22 ID:vbSIZ6Vd.net
「…楽しかったわね。」

「…うん。」


「あんなに、友達との別れが寂しくなるなんて。」

「今までで初めてじゃないかしら。」


「…それだけ。」

「それだけ、みんなと仲良くなれたんよ。」


「…そうね。」


「色々、あったけど。」

「あんなに友達が出来て。」

「こんなに楽しいと感じられたのは。」


「あの時、希がいてくれたからね。」


「…ま、えりちが不器用すぎたってだけやけど♪」


「の、希がすぐに順応し過ぎなのよ…!」

「えりちも、すぐに仲良くなれたやん♪」


そんな話をしていると、部室についた

424: 2015/05/10(日) 00:10:13.85 ID:vbSIZ6Vd.net
-----



「えええええええーっ!?」



ウチらが部室に着いた時

ちょうどにこっちが、次期部長についての話をしてた

って言うか、にこっちまだ片付けてたんやね


「希!」

「…あれ、持って来なさい。」


「はーい♪」



「「…あれ?」」


凛ちゃんと真姫ちゃんが首を傾げてる間に

隣の部室で、用意をする


「…はい、花陽ちゃん♪」


「えっ…?」

「ええっ!?」


花陽ちゃんに、真っ赤なマントとティアラを渡す

425: 2015/05/10(日) 00:10:44.14 ID:vbSIZ6Vd.net
「無理無理無理~!!」

「誰か助けてーっ!!」


泣き叫ぶ?花陽ちゃんを横目に

にこっちは続ける


「まさか生徒会長を兼任させる訳にはいかないでしょ?」

「アナタ以上に、アイドルに詳しい人は他にいないんだし。」


「で、でも…」

「部長だなんて…」

そんな花陽ちゃんに、凛ちゃんが飛びつく


「凛だって、μ'sのリーダーやったんだよ?」

「かよちんなら出来る!」


「…そうよ。」

「一番適任でしょ?」

真姫ちゃんも、それにみんなも加わる

426: 2015/05/10(日) 00:11:12.89 ID:vbSIZ6Vd.net
「で、でも…」


「出来るわよ、アナタなら。」

「こんなに沢山…」

「助けてくれる仲間がいるんだから…!」


「にこちゃん…」


「…もっともっと賑やかな部にしといてよね!」

「また遊びに来るから!」


「…」


「花陽。」

「かよちん。」


「花陽ちゃん…!」


「…」

涙を拭って、笑顔で

「うんっ!」


花陽ちゃんは、答えてくれた

427: 2015/05/10(日) 00:26:31.94 ID:vbSIZ6Vd.net
「やったにゃーっ!!」

自分の事のように喜ぶ凛ちゃんを見て

花陽ちゃんは、続ける


「じゃあ、真姫ちゃんが副部長ね!」


「ええっ!?」

「なんで私!?」


「私が部長だったら…」

「凛ちゃんがリーダー。」

「だから真姫ちゃんが副部長だよっ?」


「それいいにゃーっ!」


「…」


たじろぐ真姫ちゃんに、みんなで拍手を送る


「…!」

428: 2015/05/10(日) 00:26:58.12 ID:vbSIZ6Vd.net
「…みんな、頼んだわよ。」


「ま、待って…!」

「私はまだ…」


「「…」」


「もう!」

「別にいいけど!!」



「いひひーっ♪」

穂乃果ちゃんが、してやったりと笑う


「…さ、これでもう必要な事は全部終わったね。」

「じゃあ、ウチらはそろそろいこっか♪」


「…え?」

「もう行っちゃうの…?」


穂乃果ちゃんが、名残惜しそうに言う

429: 2015/05/10(日) 00:27:26.23 ID:vbSIZ6Vd.net
「せっかくだし…」

「校舎を見て回ろうと思って。」


「じゃあ、私達も行くよ…!」

「だって…ほら…」

「この9人で、って言うのは…」

「これが、最後だし…」


「「…」」


「…あれ?」


「言ったにゃーっ!!」

「…え?」

「ああーっ!!」


思い出した穂乃果ちゃんに、凛ちゃんが抱きつく


「最後って言ったら、ジュース1本って約束だよ?」

「えーっ!?」


「それじゃ、改めて行きましょうか♪」


みんなで、自販機の所へ

430: 2015/05/10(日) 00:28:05.87 ID:vbSIZ6Vd.net
-----



「うう…」

自分の財布とにらめっこしてる穂乃果ちゃんに

えりちが、追撃する


「穂乃果のおごりのジュースは…」

「おっいしっいなー♪」

「ふふっ。」


「穂乃果ちゃん、ありがと♪」


「どういたしまして…」


穂乃果ちゃんを除いた8人は、笑顔になる


「そういえば最近。」

「あんまりパン食べてないわねえ。」


「うん、ラブライブもあったし…」

「我慢してたんだ。」


「それでも結局ダイエットしましたけどね。」

「い、いやあ、それはあの…」


いつも通りの掛け合いに

みんなで、笑う

431: 2015/05/10(日) 00:29:10.88 ID:vbSIZ6Vd.net
-----


それから、みんなで校舎内を見て回った

ウチらの思い出をなぞるように

ゆっくりと、校舎を巡る


…新たな発見もあったんよ


あの飼育小屋のアルパカさんに

なんと、赤ちゃんが出来てたり


あんなに広く見えた講堂が

やけに狭く感じたり


あの日

ファーストライブの日から

ウチらは、どれだけ成長できたのか



そしてウチらは、中庭に来て

お日様の射す下で、横になる


誰が声に出した訳でもなく

そっと、みんなで手を繋ぐ

432: 2015/05/10(日) 00:29:37.73 ID:vbSIZ6Vd.net
「…」


…そういえば

あの日も、確かこんな青空やったね


あれは、そう…

みんなで、初めての…



「…」

なんとなく

えりちも、同じ事を考えてる気がした


繋いだ左手が、あたたかい


「…最初に9人で歌ったときも。」

「こんな、青空だった…」

「…!」


「そう思ってたんやろ?」


「…ええ。」


「…ウチもや。」


目を開けなくても、分かる

みんなが今、どんな顔をしてるのか

433: 2015/05/10(日) 00:30:03.40 ID:vbSIZ6Vd.net
-----



「…最後はやっぱりここね!」

「うん!」


みんなで、屋上に上がる

あの日以来、初めて来るこの場所


あの時と変わらず、ウチらを迎えてくれた



「…考えてみれば。」

「練習場所が無くて、ここで始めたんですよね。」


「毎日、ここに集まって…」


「毎日、練習した。」


「出来ない事をみんなで克服して。」


「ふざけたり…笑ったり。」


「全部、ここだった。」

434: 2015/05/10(日) 00:30:32.27 ID:vbSIZ6Vd.net
「…そうだ!」


そう言って、穂乃果ちゃんが中に入る

持って来たのは…バケツと、モップ


「「…?」」


バケツに水を注いで

モップを、そのバケツの中に


「穂乃果ちゃん?」


「見てて!」


穂乃果ちゃんが、屋上の床にそれを這わせて

水で、文字を描く


出来上がったのは…

『μ's』の文字


「できた…!」


「μ's…」

435: 2015/05/10(日) 00:30:58.32 ID:vbSIZ6Vd.net
「…でも、この天気だから。」

「すぐ消えちゃうわよ?」


「…それでいいんだよ。」


「え?」


「…」


「それで…」


みんなで、姿勢を正して

一斉に、頭を下げる


「「ありがとうございました!」」


…大丈夫

言葉にしなくても、こころはひとつ

あの日から始まったウチらの物語

ずっと繋いでくれた、この場所


ありがとう

今まで、ウチらを見守ってくれて

436: 2015/05/10(日) 00:46:51.66 ID:vbSIZ6Vd.net
言葉にできない、と言った方が

もしかしたら、正しいのかもしれない


…だって、一言じゃ言い尽くせないから


だから、みんな心の中で

思い思いのカタチにする


そしてそれは

ウチらの中で、繋がっていく


「…」



始めは、にこっちやった

それにつられて、みんなで出て行く

お世話になったこの場所に


…背を、向けて

437: 2015/05/10(日) 00:47:52.31 ID:vbSIZ6Vd.net
-----



それからウチらは

いつも通りの時間を過ごした


部室に戻って

笑いながら、話をして

荷物を片付けて

鍵を閉めて

校舎を後にする


何も変わらない

変わる事の無い、μ'sの日常


これで、いい


これが、いいから



だって、ウチらは…

438: 2015/05/10(日) 00:48:24.27 ID:vbSIZ6Vd.net
「…じゃあ、行くね。」


「「…」」


「ほーら、そんな顔してちゃ…」

「いつまで経っても行けないでしょ?」


「そうよ。」

「また、この間みたいになるわよ?」


「そうだね…」

「うん、そうだよ!」


「だって、最後だもん!」

「泣きそうな顔で、最後は嫌だよ!」


「…そうですね。」

「…うんっ♪」



「…えへへ。」

「それじゃあ、絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん。」


「ばいば…!」

439: 2015/05/10(日) 00:49:01.73 ID:vbSIZ6Vd.net
穂乃果ちゃんの口を、人差し指で止める


「希ちゃん…?」


「穂乃果ちゃん。」

「これが、最後じゃないよ。」


「え…?」


「ウチらは、また新しい物語をはじめるだけ。」

「穂乃果ちゃんたちも、そう。」


「ウチらの繋がりが、終わる訳じゃない。」

「この先、何年経ったって。」

「ウチらはずっと、ウチらなんやから。」


「…だから、その言葉は禁止。」

「希ちゃん…」


「…うん。」



「それじゃあ…みんな。」

「せーのっ…」




「「またねっ!!」」

440: 2015/05/10(日) 00:49:28.49 ID:vbSIZ6Vd.net
-----



「…またね、か。」

「…えりち?」


「ホント、希らしいって言うか…」

「にこっちまで…」


「良い言葉だと思うわよ?」

「希の言う通りだと思う。」


「そうね。」

「また、いつだって会えるんだもの。」

「だって、私達はいつだって…」


「この街で、空で。」

「繋がってるんだから。」


「…ええ。」


「にこっち…えりち…」

441: 2015/05/10(日) 00:49:58.36 ID:vbSIZ6Vd.net
「ウチ…」

「ウチな…?」


「2人に出会えて。」

「ここまで来れて。」


「…本当に良かった。」


「出会ってくれて。」

「ウチと、一緒にいてくれて。」

「…ありがとう。」


「ふん、そんなの…」


「…ええ、そうね。」


「「お互い様…でしょ?」」


「…!」

「…にこっち、えりち。」


「…?」

「あの時、約束した事…」






「やり遂げたよ、最後まで。」

442: 2015/05/10(日) 00:50:30.56 ID:vbSIZ6Vd.net
「…そうね。」

「ここまで…来れたんだもの。」


「にこは、ここで終わるつもりは無いけどね。」


「ふふっ。」

「もちろん、ウチもそのつもりやで♪」

「まだまだ、ウチらは子供なんやから。」



「…ふふっ、その通りよ。」

「まだまだ、これから。」

「どこまでだって、駆けて行ける。」

「どこまでだって、進んで行ける。」

「それが、私達だもの♪」


「…それじゃ、新しいスタートを記念して。」

「今から、遊びに行くわよ!」


「…え?今から?」


「当たり前でしょ?ほら、早く!」


「ふふっ、面白そうね♪」

443: 2015/05/10(日) 00:50:58.58 ID:vbSIZ6Vd.net
走り出す、2人の背中を見る


「…もう、仕方ないなあ。」


そう言いながら、口角が上がるのが分かる

走って、2人に追いついて

その間に、肩を並べる



もう、あの時の自分じゃない

2人をうらやましがってる、ウチじゃない


背中を追いかける日々は、もう終わったん


今は、同じ空を眺めて

同じ歩幅で、未来を歩く


ウチの居場所は

これからもずっと、2人の隣に

444: 2015/05/10(日) 00:54:53.54 ID:vbSIZ6Vd.net
Last Episode


私がウチになれたのは

446: 2015/05/10(日) 01:06:17.76 ID:vbSIZ6Vd.net
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「んんーっ…」

「気持ちいいなあ…」


新しい景色を眺めながら

道なりに、目的地へ


今日が、ウチの新しいスタートの日


降り注ぐ日差しは

ウチを、応援してくれてるみたい


「…さて、どうなることやら。」


言葉とは裏腹に

気持ちが高揚しているのが分かる


もう、楽しみで仕方が無いくらい


上がる口角を必氏に指で戻す

これじゃ、危ない人みたいやん?

447: 2015/05/10(日) 01:06:45.06 ID:vbSIZ6Vd.net
見えて来た、大きな建物

これから、ウチが通う所


えりちも、にこっちも

それぞれが、別の道に進む事にした

それぞれの夢を持って

それぞれの夢のために、努力すると決めた


もちろん、ウチも応援してるよ

ウチに出来た、最高の親友たち


例え違う道を進んだって

ウチらは、この空で繋がってる


…そうやろ?



「…上見ながら歩いてたら、危ないわよ?」


その声に、視線を落とす


「…おはよう、にこっち。」

448: 2015/05/10(日) 01:07:14.46 ID:vbSIZ6Vd.net
「…なによ、もっと驚きなさいよ。」


「…」

「うわー。」

「びっくりしたなあ、もう。」


「…棒読みは良いから。」


「うそうそ♪」

「でも、どうしたん?」


「…ま、アンタの記念すべき日だしね。」

「一応、声かけとこうかと思って。」


「昨日、電話もらったやん。」


「…だから、一応よ。」


「…そっか。」


「…ま、もうあの時のアンタじゃ無いとは思うけど。」


「うん、大丈夫。」

449: 2015/05/10(日) 01:07:38.93 ID:vbSIZ6Vd.net
「…そ?」

「なら、心配いらなかったわね。」


「ふふっ。」

「でも、ありがと。」


「…それにしても。」

「まさかアンタが、教育学部なんてね。」


「それは、前に説明したやん?」


「それにしても意外よ。」

「あんなに自信の無かった希が。」

「まさか、教える側に回るなんて。」


「…単純な事やん?。」

「今までウチがそうやったから。」


「だからこそ…ウチは今、ここにいるん。」



「…」

450: 2015/05/10(日) 01:08:14.37 ID:vbSIZ6Vd.net
「にこっちも、頑張ってな?」

「A-RISEと同じ、芸能科やろ?」


「…トーゼン。」


「ツバサちゃんも、喜んでたみたいやし♪」


「説明会の時に、直接言われたわ。」

「…ま、いつも通りの自信たっぷりな態度でね。」


「それでも、嬉しいんやろ?」


「べ、別に……ひゃあっ!?」


「正直に言わんと、わしわしするよ~?」


「わ、分かったから!!」



「…って言うか、教師になるならそれ、やめなさいよ?」

「いつか捕まるわよ。」


「大丈夫、にこっちにしかしないから♪」


「ちょっと…!!」

451: 2015/05/10(日) 01:08:42.89 ID:vbSIZ6Vd.net
「…まあ、頑張りなさいよ。」

「にこも、頑張るから。」


「…そうやね。」

「えりちも、頑張ってるんやし。」


「ま、そのうちまた会えるでしょ。」

「会えなくたって…」


「…うん。」

「この空で、繋がってる。」


そっと、胸元に手を置く

…うん、大丈夫


「それじゃ、そろそろ行くわ。」

「またね、希。」


「うん、今日はありがとう。」

「またね、にこっち♪」


帰っていくにこっちの背中を、そっと見送る

胸を張って、凛として

…ちゃんと、成長してるよ

452: 2015/05/10(日) 01:10:33.90 ID:vbSIZ6Vd.net
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学部ごとに分けられた教室に入って

指定された席に着く


ほどなくして、教授が入って来て

オリエンテーションの時間が始まる



今までのウチなら、きっと顔を伏せていた

誇れる物なんて、何も無かったから

自分ひとりだと、壁を作ってたから


そんな壁を壊して、手を差し伸べてくれた、あの2人


ウチに笑顔をくれて

ひとりじゃないって言ってくれた


あの日から

ウチの見る景色は変わったん


何度も何度も励まされて

時には、喧嘩して

それでも、一緒にいてくれた

453: 2015/05/10(日) 01:11:43.19 ID:vbSIZ6Vd.net
ウチを支えてくれて

ウチに、勇気をくれた



そして、ウチに大切なものをくれた

心から信じられる、ともだち


離れていても

会えなくても

ウチらは、繋がってる

気持ちは、ずっとひとつだから



だからもう、何も怖くない

何があったって、前を向いて

ウチは、進んでいける


あの、目指した星のように

ウチらは、これからも輝いていける


…にこっち

…えりち


ウチと、出会ってくれてありがとう

454: 2015/05/10(日) 01:12:17.06 ID:vbSIZ6Vd.net
2人が背中を押してくれたから

ウチは、前に歩いていける


目に見えなくても

ウチの隣には、2人がいる


だから、もうウチは大丈夫


あの日までのウチじゃない

もう、変われたから

変わる力を、くれたから


だからウチは

胸を張って、凛として

前を向いて、こう言うんよ


「初めまして!」

「ウチの名前は、東條希!」


「みんな、よろしくな♪」




…ほら

新しい物語が---始まる

455: 2015/05/10(日) 01:15:54.32 ID:vbSIZ6Vd.net
書き始めてから約3ヶ月
長いような、短い時間でした
読んで頂いた全ての皆様に、感謝したいと思います
どうも、ありがとうございました
以上で、このSSは完結です

…と、言いたい所ですが
少しばかり、エピローグを用意しています
よろしければ、そちらもご期待ください

では、また明日

467: 2015/05/10(日) 23:17:05.90 ID:vbSIZ6Vd.net
Epilogue


Stars in the Last Page

468: 2015/05/10(日) 23:17:42.88 ID:vbSIZ6Vd.net
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「ふう、もうお昼か…」


流石に教育学部なだけあって

覚える事が多すぎて

毎日、予習と復習の連続で


もともと勉強が得意じゃないだけに

周りのみんなよりも頑張らないと駄目で


1時間半の講義が、異様に短く感じる


「…」


そっと、胸元に手を置いて

目を閉じてみる



「…うん、大丈夫。」

「まだまだ、頑張れる。」


呪文のように、そう呟く

469: 2015/05/10(日) 23:18:09.70 ID:vbSIZ6Vd.net
「の~ぞみっ♪」


後ろから、肩に手を置かれる


「…ああ、授業終わったん?」


「うん!」

「一緒に、お昼食べようよ!」

「みんな、待ってるから♪」


「それじゃ、用意して行くよ。」

「先に行ってて?」


「うん、分かった。」

「それじゃ、また後でね!」


笑顔をくれるその子に

そっと手を振ってから、荷物を片付ける


「…よし。」

470: 2015/05/10(日) 23:18:42.78 ID:vbSIZ6Vd.net
教室を出て、食堂に移動する

学部ごとに建物が違うこの大学では

外に出ると、友達によく遭遇する


その子らに声をかけつつ、食堂へ



オリエンテーションをした日から

ウチは、良くも悪くも友達に囲まれてる

この喋り方が珍しく、声をかけてくれた人や

ウチに占ってほしい事がある人や

元μ'sだからって、声をかけてくる人もいた


そんな人たちに囲まれて

ウチは今、思い描いてたキャンパスライフを送れてる


あの時の自分じゃ考えられないくらい

毎日が、楽しくて

充実してる、って感じられる


何度も、心の中で言うんよ

…ありがとう、って

471: 2015/05/10(日) 23:19:16.38 ID:vbSIZ6Vd.net
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「おーい、希!」

「こっちこっち!」


食堂に入ったところで、声をかけられた

大学に入ってから、よくこの子と一緒にいる

天真爛漫な性格で

思った事をすぐ口に出すこの子は

一緒にいても肩肘張らずに過ごせる

親友…って言うと、おこがましい気もするけど

ここに来て、最初に出来たともだち



「みんな、おまたせ~。」

「遅いよー。」

「もう、食べ始めようかと思ってたー。」


「ごめん、ごめん。」


一言告げて、席に座る

472: 2015/05/10(日) 23:20:03.75 ID:vbSIZ6Vd.net
「それでさ、この子ったら…」

「ちょっと、その話は…!」


どこにでもいる、大学生の会話

中身の無い、それでいて笑える話


そんな話を繰り返しながら

ウチらは、お昼を過ごす


音ノ木坂と違って、生徒数が多いから

みんなとともだちには、なかなかなれないけど

それでも、こうして一緒にいてくれる人がいて

笑い合える、ともだちがいる


…本当に

あの時の自分に、見せてあげたいくらい


「それにしても、暑くなって来たねえ~…」

「そうやね。」

「ウチも、今日は少し薄着にしたん。」

473: 2015/05/10(日) 23:20:35.17 ID:vbSIZ6Vd.net
「…やっぱり、それのせいなのかな?」

「あー…そうかもー…」


そう言って、みんなの視線は

ウチのチャームポイントに


「…そんなヘンタイさんには。」

「わしわしMAXするよ~?」


「「け、結構です…!!」」


…なんて事も出来るほど

ここにいるみんなは、良くしてくれる


本当は、それが当たり前なのかもしれないけど

それでも、ウチにとっては嬉しくて


…ついつい、顔がほころぶ


「…あ、そう言えば。」

「…ん?」


「気になってたんだけどさ…」

474: 2015/05/10(日) 23:21:09.98 ID:vbSIZ6Vd.net
「入学してから1月近くになるけどさ。」

「希って、いっつも、それつけてるよね。」


「…ん?」


「…ほら、これ。」


そう言って、ウチの胸元に手を伸ばす


「もう、いきなりそんなん…照れるやん?」


「ちょっ…違うから!///」


「ふふっ、うそうそ。」

「これの事?」


そう言って、首から下げてる

小さなネックレスを持ち上げる


「そう、それ。」

「何か、思い入れとかあるの?」

475: 2015/05/10(日) 23:21:37.24 ID:vbSIZ6Vd.net
「確かに、最初に会ったときから付けてたよね。」

「小さい、星がついてるの。」


「…うん、気に入ってるんよ♪」

「小さくて、可愛いやろ?」


「うん、似合ってる!」

「大事なもの?」


「うん。」


「まさか、カレシからのプレゼントとか!?」


「えっ!?うそ!?」

「希ちゃん、彼氏いたの!?」



「ちっ…違うから!」

「もう、変な事言わんといてよ…///」



「あ、でも…」

476: 2015/05/10(日) 23:22:25.23 ID:vbSIZ6Vd.net
「なになに!?」


「いや、彼氏とは違うけど…」

「これは、ウチの宝物なんよ。」


「…ま、もらったのはホントやけど♪」


「もう、いっつもそうやってはぐらかすんだから…」

「たまには、素直になっちゃいなよ。」

「ほれほれ~。」


そう言って、脇腹をつつかれる



「…そうやね。」

「ま、たまには昔話でもしようかな?」


「待ってました!」


「もう、茶化さないの。」


「これは、ウチの…」

「大切な、ともだちからもらったもの。」



そっと、胸元のそれに手を当てる


…あの日も

今日と同じ、青空やったね

479: 2015/05/11(月) 20:25:50.25 ID:BzijjGxe.net
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時間は少し巻き戻って

卒業式の2日前



「…お待たせ、2人とも。」


「あ、やっと来た。」


「もう、待ちくたびれたじゃない…」


「ごめんって…」

「急に、電話来るんやもん。」


「…ま、せっかくだしね。」

「卒業式までやる事も無いし。」

「この3人で遊ぶ事も、あんまりなかったから。」

「…って、にこがね♪」


「え、絵里だって同意したでしょ…!?」


「ふふっ。」

「2人は、相変わらずやなあ…」

480: 2015/05/11(月) 20:26:17.87 ID:BzijjGxe.net
「…さて、にこ。」

「今日はどこへエスコートしてくれるのかしら?」


「…別に、特に何も決めてないわよ。」

「ぶらぶらしたら良いじゃない。」


「あら、意外ね。」

「にこは、こういうの決めるタイプだと思ってた。」


「…たまには、そんな日もあるのよ。」


「…なら、にこっちオススメのカフェに行く?」


「それはナシ。」

「どうせ、またメイドカフェでしょ?」


「…私は別にいいわよ?」


「えりちは、ノリノリやったもんね♪」


「今日は行かないから!」

「とりあえず、出発しましょ?」

481: 2015/05/11(月) 20:26:48.09 ID:BzijjGxe.net
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ぶらぶら、ぶらぶらと

3人で、街中を歩く


見慣れた街の景色も

どこか、懐かしく感じてしまう


…そういえば

前は、ずっとこの道を一人で歩いてたんよね

目に映るもの、全てがセピア色に見えて

あんまり楽しくなかった事も覚えてる


周りは楽しそうに歩いてる中

ウチだけが一人で

評判のお店なんかに入る勇気もなくて

ただ、歩いて回るだけやった



その手を最初に取ってくれたのが、にこっち


何も知らないうちの手を引いて

色んなとこ、連れて行ってくれたっけ

482: 2015/05/11(月) 20:27:14.74 ID:BzijjGxe.net
「…あ。」


「どうしたの?希。」


「あそこのお店、入ろうよ♪」


「あれって…」

「…ま、いいわ。」


「…?」


「えりちも、きっと気に入ると思うよ♪」



少し古めの内装の

昔ながらの喫茶店


マスターのおじいさんが、一人でやってるお店


店内に入ると

コーヒー豆の良い香りが漂ってくる


「…いいにおいね。」

「うん♪」

483: 2015/05/11(月) 20:27:58.47 ID:BzijjGxe.net
「…お待たせしました。」


たっぷりのミルクが入ったカフェラテと

素朴な見た目のサンドイッチ


…でも、すごく懐かしい


「わあ…美味しそう。」


えりちも、気に入ってくれたみたい

「…それじゃ、頂きます♪」

「「頂きます。」」


…うん、美味しい

コーヒーも、サンドイッチも

マスターが目の前で、一から作ってくれる


あの時と変わらない味に、舌鼓を打つ


「ここは、にこっちが教えてくれたお店なんよ。」


「…そうなの?」

485: 2015/05/11(月) 20:28:51.46 ID:BzijjGxe.net
「まだ、えりちと出会う前に。」

「ウチが、この話し方になる前。」


「にこっちが、遊びに行こう、って誘ってくれて。」


「その時はまだ、自分に自信も無かったし。」

「あんまりこの辺も、出歩いた事がなくて。」

「学生に評判のお店とかに入るの、気後れしちゃってて。」


「…なんか、場違いって言うか。」

「なんとかフラペチーノとか頼むのがウチには無理で。」

「緊張して、入れなかったんよ。」


「…」


「そんな時に、にこっちが。」

「徐々にならしていけば良いって、連れて来てくれたん。」


「…あの時のアンタを、絵里に見せてあげたいぐらいよ。」


「…ふふっ、そうやね。」

486: 2015/05/11(月) 20:29:28.32 ID:BzijjGxe.net
「…ここは。」

「まだにこが小さかった頃に。」

「お母さんがたまに、連れて来てくれたの。」


「まだ、こころ達が生まれる前でね。」

「ここのサンドイッチとオレンジジュースが。」

「にこにとっては、ごちそうに感じたの。」


「あんまり、外食なんてしなかったから。」

「こうして外でご飯を食べるなんて事が。」

「小さい頃は新鮮で…」

「今でも、覚えてる。」


「あの時はまだ、お父さんも一緒に…」


「にこ…」


「…ま、そんなこんなで。」

「ここは、にこのお気に入りの場所なの。」

487: 2015/05/11(月) 20:30:04.69 ID:BzijjGxe.net
「一歩街に出れば、たくさんの人がいて。」

「秋葉だからっていうのもあるけど、騒がしくて。」

「めまぐるしい日々に、ちょっと疲れた時に、ここに来るの。」


「外とは違う世界って言うか…」

「なんだか、落ち着くの。」


「…だから、きっと希も気に入るだろうと思って。」


「…ありがと、にこっち。」

「あの時にこっちがいてくれて、本当に良かったよ。」


「べ、別に…///」


「ふふっ、にこらしいわね。」

「…なんだか、妬けちゃうぐらいに。」


「へっ…?」


「私も、もうちょっと早く2人と会えてればな、って。」

「そしたら、もっと楽しい日々が送れたのかしら。」

488: 2015/05/11(月) 20:30:35.58 ID:BzijjGxe.net
「…なんてね♪」


「えりち…」


「寂しくない、って言うと嘘になるけど。」

「やっぱり、μ'sに入るまでの私は、不器用で。」

「何度も、貴女達に迷惑かけてたから。」


「…もし、それまでに。」

「希とにこのように、2人に出会えてたら…」


「ここまで面倒な性格じゃ、なかったのかな…って。」


「…ふん。」

「別に、それも懐かしい思い出じゃない。」

「あげたら、キリが無いわよ?」


「にこ…?」


「今更あの時が、なんて言ったって。」

「その時間が帰ってくる訳じゃないんだし。」


「むしろ、そうであったから。」

「今私達は、ここにいるんでしょ?」

489: 2015/05/11(月) 20:31:57.55 ID:BzijjGxe.net
「…そうやね。」


「きっと、これでよかったと思う。」

「考えの違いで喧嘩したり。」

「色々あって、泣いたりした事もあるけど。」


「…やっぱり、今こうして3人でいられるのは。」

「過去の事があったから。」


「…今のウチにとって。」

「にこっちもえりちも、大切なともだち。」

「本音で話せる、大事な仲間やから。」


「きっと、それでいいんよ。」

「そのどれもが、ウチらの思い出。」


「…そうね。」

「なんだか、ごめんなさい。」

「別に、暗くするつもりは無かったんだけど…」


「…ま、何となく分かるわよ。」

「私も、同じだから。」


「にこっち…?」

490: 2015/05/11(月) 20:32:27.13 ID:BzijjGxe.net
「…ほら。」

「ボサっとしてると、日が暮れるわよ。」

「そろそろいきましょ?」


そう言って、にこっちは伝票を持ってレジに立つ


「…にこにも、嫉妬する所があるって事♪」


「…ん?」

「嫉妬?」


えりちは、何の事を言ってるんやろ?


「…ほら、早く行きましょ?」

「…あ、うん!」


先に行った2人の背中を、追いかける


「…さて、次はどこに行きましょうか♪」

「じゃあ、こっち!」


お店を出て、あてもなく、ただぶらぶらと

それでも、笑顔になれる

そんな時間が、今は楽しい

491: 2015/05/11(月) 20:44:43.21 ID:BzijjGxe.net
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まあ、そんなこんなで色々あって

ウチらは今、ショッピングモールにいます


「…で、アンタはさっきからどうしたのよ。」

「…?」


「アンタよ、希。」


「え、ウチ?」


「さっきから、心ここにあらず、って顔じゃない。」


「そんな顔してたかなあ…?」


「…いいから、どうしたの?」


「うーん…」


「…希は、気になるのよね?」

「カフェでの、にこの発言が。」


「…うん、そんなところ。」


「それって…」

492: 2015/05/11(月) 20:45:16.52 ID:BzijjGxe.net
「…あのね、希。」

「にこはね…」


「ちょっと、絵里…」


「いいじゃない。」

「せっかくなんだし。」

「今日は本音で語り合いましょうよ。」


「…それ、こんな所で話す内容じゃないから。」


「んー…確かに、それもそうね。」

「それじゃ、あそこに入りましょ?」


「また、カフェに入るの?」


「あそこは…」


えりちに、生徒会に誘われたときの

493: 2015/05/11(月) 20:45:44.81 ID:BzijjGxe.net
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「…やっぱり、えりちには紅茶が似合うね。」

「そう?ありがと。」


「…それで、さっきの話だけど。」

「にこはね、嫉妬してるのよ。」


「…何に?」


「私に♪」


「…え?」


「それと、後悔もね。」


「もう、別に言わなくても…」


「…地区予選の時。」

「希、いつもと様子が違うかったでしょう?」

「後から、希の想いを聞けたけど…」

「あの時の希は、どこか無理をしてた。」


「…そうでしょ?」


「まあ…」

494: 2015/05/11(月) 20:46:19.05 ID:BzijjGxe.net
「その事に気付いた時、私は、にことひとつ約束したの。」


「…約束?」


「ええ。」

「それまで私達は、希に助けられてばかりだった。」

「いつでも、私達のために動いてくれた。」

「こんな事言ったら、希はまたそんなつもりじゃないって言うと思うけど。」

「確かに、私達は貴女に救われたの。」

「…これは、私達の本心よ。」


「…」


「…だからこそ。」

「今度は、希の夢を叶えたいと思った。」

「にこ達が、希にしてもらったように。」

「今度は、私達が希にしてあげよう、って。」

「希の夢を、叶えてあげようって。」


「…ま、結局真姫ちゃんと花陽のおかげだけどね。」


「にこっち…えりち…」

495: 2015/05/11(月) 20:46:59.61 ID:BzijjGxe.net
「その時の事なんだけど…」


「待って、絵里。」

「…その先は、自分で言うわ。」


「…」


「正直、さっき過去は過去って言っておいてなんだけど。」

「あの子達が、退部届けを持って来た日…」

「あの日から、希とはぎくしゃくして。」

「ほとんど関わる事は無くなった。」


「…変な意地を張って。」

「自分で招いた事なのに。」

「あの時、ちゃんと謝っていれば、って…」

「そんな事ばかり、考えた。」


「でも、それは…!」


「…聞いて。」


「…その後、すごく後悔したんだから。」

496: 2015/05/11(月) 20:47:42.60 ID:BzijjGxe.net
「…結局、希のお陰で。」

「にこはまた、μ'sとして。」

「アイドルとして、ステージに立てた。」

「…本当に嬉しかった。」

「こんなに大切に思える仲間が出来て。」

「こんなに最高のステージで歌えて、って。」


「…でも。」

「そうなるまでの希を、私は知らない。」

「ずっと、避けて来たから。」


「自業自得だけど。」

「地区予選の時、希の様子に気付いたのは絵里。」

「私は、言われても分からなかった。」


「それまでの希を、知らなかったから。」

「変わってからの希を、知らなかった。」


「にこっち…」

497: 2015/05/11(月) 20:48:10.79 ID:BzijjGxe.net
「それが、なんだか悔しくて。」

「あの時、ちゃんと話していれば。」

「もっと、その事に気付けていれば、って。」


「…いつだって、後で悔やんでばかり。」

「だから、ああは言ったけど。」

「にこも、絵里の事をどうこう言える人間じゃないのよ。」


「…!」


にこっちの手をとる

…なんて言っていいのか、分からないから


「希…?」


「…」


「…ほら、うじうじしないの。」

「ちゃんと、受け入れてるから。」

「…絵里と一緒。」


「そうよ、希。」

「私もにこも、今は幸せだから。」

498: 2015/05/11(月) 20:48:36.90 ID:BzijjGxe.net
「…うん。」


「さ、行くわよ。」

「まだ、半分も見てないんだから。」


「…そうね。」

「希も、行きましょう?」


「うん。」


何か、声をかけた方が

そう、思ったけど


2人は、ちゃんと理解して、納得してる

それに、水を差すような事は言えないから


出るはずの無い言葉をぐっと飲み込んで

ウチらは、カフェを後にした


「それじゃ、次はあっちかしら。」

499: 2015/05/11(月) 20:49:49.29 ID:BzijjGxe.net
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その後も、ショッピングを楽しみながら

ウチらは、まただらだらとした時間を過ごした


まあ、ほとんどがウインドウショッピングだったけど…


…そんな時

ひとつのアクセサリーショップの前で

ウチの足は、止まった


「…希?」


急に止まったウチの所に、2人が寄ってくる


「…綺麗ね。」


ショーウインドウに飾られた

小さな、星のネックレス


特に何かが着いてるとか、そんなんじゃない

何の変哲もないそのネックレスから

ウチの目は、何故か離れなくなっていた

500: 2015/05/11(月) 20:50:14.15 ID:BzijjGxe.net
「…付けてみたら?」


にこっちが、後ろから声をかける


「…え?」

「可愛いと思ったんでしょ?」

「付けてみたらいいじゃない。」


「でも…」


「店員さーん。」


ウチが言うのが早いか遅いか

にこっちが、店員さんに声をかける




「…わあ。」


「似合うじゃない、希。」


シンプルなそれは

ウチの首元で、光る


「…」


「どう?」

501: 2015/05/11(月) 20:51:08.11 ID:BzijjGxe.net
「…うん、可愛い。」

「でも、ウチには…」

なんだか、もったいない気がして


「そう?」

「似合うわよ、希。」


「えりちまで…」


「…しょーがない。」

「店員さん、これください。」


「にこっち!?」


「…いいじゃない。」

「今まで、迷惑かけっぱなしだったんだから。」

「そのお礼よ。」


「…あら。」

「それなら私も、何かあげないといけないわね。」


「わ、悪いよ、そんなの…」

502: 2015/05/11(月) 20:51:44.65 ID:BzijjGxe.net
「いいから、遠慮しないの。」

「ほんの、気持ちだから。」


「…」


そう思ってくれてるのと同じくらい

ウチも、2人には感謝してるのに…


「…!」


「じゃ、じゃあ!」


「「…?」」


「ウチは、えりちに何か買う!」

「だから、えりちはにこっちに何か買ってあげて?」


「「…は?」」


「だ、だって、ウチだけなんて悪いもん…!」

「ウチも、2人には感謝してるし。」


「…だから。」

「もし、2人がいいなら…」


「何か、お揃いの物がほしい。」

503: 2015/05/11(月) 20:52:17.65 ID:BzijjGxe.net
「駄目…かな?」


2人が、顔を見合わせる


「…それもいいわね♪」


「もう、何のために買ったのか…」


そう言いながらも、笑ってくれる2人

だって、当たり前の事だから

2人のお陰で、ウチは今ここにいるんよ?


「ん~…それじゃ、にこには何がいいかしら?」


えりちは、早速にこっちのを探してる

ウチも、えりちのを探そうかな♪


ショップを眺めていると

ピアスのコーナーに、それを見つけた


「すみません、これ見せてもらっていいですか?」


店員さんに出してもらった物を持って、えりちの所へ

504: 2015/05/11(月) 20:52:51.00 ID:BzijjGxe.net
「…うん、似合う♪」

えりちの耳に、当ててみる


「…ピアス?」


「うん、可愛い星のピアス。」

「えりちに、似合うと思う。」


ウチのと同じ、小さな星がついたピアス

シンプルだけど、綺麗な色


「…なら、にこはこれね♪」

そう言ってえりちが手に取ったのは

ウチらのと同じ、小さな星のチャームのついたブレス

にこっちに、似合いそう


「芸能科だと、レッスンとかもあるんでしょう?」

「ピアスとかだと、外したりして失くしやすいと思うし。」

「どうかしら?にこ。」


「…うん、可愛い。」

505: 2015/05/11(月) 20:53:18.76 ID:BzijjGxe.net
にこっちが素直に認めたって事は

きっと、気に入ったんやね♪


仲良く3人でレジに並んで

お互いへのプレゼントを購入する


お店から少し離れた休憩スペースで、送り合う


「…結局、こうやって希に丸め込められるのね。」

「にこっち、言い方酷くない?」


「それが希だからね。」

「…でも、ありがとう。」


「…ううん。」

「2人が喜んでくれるなら、良かった。」


3人で、渡し合ったそれをつけてみる


「…似合うよ、2人とも。」

「本当?希。」

「にこは何でも似合っちゃうから~♪」


「…はいはい。」

「ちょっと…」

506: 2015/05/11(月) 20:53:47.62 ID:BzijjGxe.net
「…ねえ、せっかくだし。」

「プリクラ、撮りにいかない?」


「珍しいね、えりちがプリクラなんて。」


「せっかく、こんなに良いものもらっちゃったんだし。」

「これも、思い出でしょ?」


「…ま、いいんじゃない?」

「にこも賛成。」


「…なら、いこっか。」

「ウチも、撮りたかったし♪」


いつの間にか、みんな笑顔になって

3人で肩を並べて、ゲームセンターへ

507: 2015/05/11(月) 21:03:14.66 ID:BzijjGxe.net
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撮ったプリクラを見て、にこっちが呟く


「…3人とも星のアクセサリーなんて。」

「まるで、あの星みたいね。」


「…確かにね。」


「南十字星…か。」


プリクラコーナーの端っこで

はさみを入れながら、そんな話をする


「…でも、ひとつ足りないわね。」


えりちがそう言って、微笑む

「残りのひとつは心の中に…って、言ってほしいの?」

「なんか、ドラマのラストみたいやね。」


そんな話をしながら、ウチは手帳を開く


「…」


「…希?」


「…案外、にこっちの言う事は正しいかもしれん。」

508: 2015/05/11(月) 21:03:45.59 ID:BzijjGxe.net
「…どういう事?」


「…ほら。」


ウチは、手帳を2人に見せる

手帳の、最後の余白のページ


そこには、ウチらの思い出が詰まってた


「これ、初めて一緒にプリクラ撮ったときの…」


「μ'sで撮ったやつもあるわね…って!」

「希、いつツバサとこんなの撮ったのよ!?」


「…前に、ツバサちゃんと遊びに行った時に?」


「う、羨ましすぎるでしょ…」



「…で、さっきの話だけど。」

「希は、これが最後のひとつ、って言ってるの?」


「…正確には、思い出が、かな?」

509: 2015/05/11(月) 21:04:23.63 ID:BzijjGxe.net
「…にこっちとえりちの話を聞いて。」

「やっぱり、後悔することもあると思う。」


「過去の事は今更どうもできないし。」

「かといって、気にしないなんて事も出来ないし。」


「…さっきも、なんて言っていいのか分からなかった。」


「でも、それもウチらの大切な思い出なんよ。」


「確かに、あの時の事が無ければ…」

「もっと早く出会ってれば…」

「そんな後悔、しなかったのかもしれん。」


「…でも、それがあったから。」

「今のウチらは、こうして笑えるんよ。」


「色んな事を経験して。」

「辛い事も、苦しい事もあった。」

「その度に泣いて、つまずいて来た。」


「…でも、だからこそのウチらなんよ。」

510: 2015/05/11(月) 21:04:55.07 ID:BzijjGxe.net
「…つまり?」


「つまり…」

「辛かった事も、楽しかった事も。」

「それ全部が、思い出で。」

「そんな思い出が、今のウチらを繋いでくれてる。」

「そんな思い出が、ウチらを導いてくれたんよ。」


「バラバラだったウチらを、導いて、繋いでくれた存在。」

「それが、この想い出。」


「…だから、これが最後の星。」

「一番輝く、ウチらの道標。」


「「…」」


「ずっと、考えてた。」

「さっき、2人になんて言えば良かったんやろ、って。」

「…でも、悩む必要なんて無かった。」


「…想い出が、ウチらを導いてくれるから。」

511: 2015/05/11(月) 21:05:21.96 ID:BzijjGxe.net
「2人と出会って、まだたった3年で。」

「これから先、もっともっと長い時間を、ウチらは過ごす。」


「…だから。」

「この先ずっと、ウチらは想い出が作れるんよ。」

「もしかしたら、この先に喧嘩する事があるかもしれない。」

「また、泣く事があるかもしれない。」


「…でも、それ以上に楽しい想い出を作っていける。」

「もっと2人と、たくさんの想い出を作りたい。」


「…きっと、それが答えなんよ。」


「ウチらが経験してきた事は、無駄なんかじゃない。」

「辛かった事があったから、前に進めた。」


「これまでの事があったから。」

「ウチらは、ウチらとしてここにいる。」


「希…」

512: 2015/05/11(月) 21:06:01.09 ID:BzijjGxe.net
「…要するに。」

「私達が私達である限り。」

「これまでの事は無駄なんかじゃないし。」

「その想い出が私達を繋いでくれる…」

「導いてくれる。」

「そう言いたいんでしょ?」


「…うん、そういう事。」


「…まったく。」

「回りくどいのよ、アンタは。」


「…」


「…でも、その通りだと思うわ。」

「思い出としては、悲しい事だけど。」

「それが無かったら、今私達はこうして一緒にいないかもしれないもの。」


「…ま、そういう事ね。」

「希の言う事は、間違ってないと思うわ。」

513: 2015/05/11(月) 21:06:41.32 ID:BzijjGxe.net
「にこっち…えりち…」


「…ほら、行くわよ。」

「もっと想い出、作るんでしょ?」


「…そうね。」

「まずは、その手帳を埋めるくらい、想い出を作っちゃわないと♪」

「言わば希のその手帳は、一冊のアルバムと同じでしょ?」


「私達が、私達であるためのアルバム。」

「私とにこと、希。」

「3人が紡いで来た、物語なんだから。」


「そういう意味では、希に感謝しないとね。」

「もともと、このアクセを買わなかったら。」

「こんな話には、なってなかったんだし。」


「…そうやね。」

「…」


「も~っと、感謝してもいいんよ?」


「「調子に乗らない!」」

514: 2015/05/11(月) 21:07:25.96 ID:BzijjGxe.net
「…このネックレス、ずっとつけとくよ。」

「…ずっと、繋がってられそうやん?」


「…なら、私も。」


「にこは、レッスンの時以外だけどね。」


「そこは、にこっちもつけとく、って言ってほしいなあ…」


「…冗談よ。ちゃんと、つけとくから。」


「うん♪」


「…このネックレスと、想い出があれば。」

「ウチらは、ずっと繋がってる。」

「立ち止まった時は、この想い出がウチらを導いてくれる。」


「…そうね。」

「別々の道を進んでも、決してひとりじゃない。」


「お互いに…ね。」

「アンタ達が頑張ってるなら、私も頑張れる。」

515: 2015/05/11(月) 21:08:01.95 ID:BzijjGxe.net
「もっともっと、想い出を増やそう。」

「ウチらが、ウチらであるために。」

「ウチらが、前に進めるように。」



「…想い出は、私達の進んで来た道。」

「紡いで来た、物語。」


「…そして、にこ達をこれから導いてくれる。」

「その先の、未来に。」



「…ウチらを繋いでくれる、あの一番光る星。」

「南十字星の、α星。」

「…アクルックスみたいに。」



「…って、初めて知ったんだけど、その名前。」


「にこっち…」

「にこ…」

「な、なによ…?」


「台無しやん…」

516: 2015/05/11(月) 21:08:34.02 ID:BzijjGxe.net
-----



「…ふふっ。」


「希…?」


「ああ、ごめん。」

「ちょっと、思い出し笑い。」


「ほら、そんなのはいいから、早く教えてよ。」

「そのネックレスの事。」


「もう、せっかちやね。」

「えっと、これはな…?」

prrrrr

prrrrr


「…おっと、電話や。」

「ちょっと、出てくるな?」


「ええーっ!?」

「このタイミングで!?」


「昔話は、またの機会という事で♪」


「そんなあ~…」

517: 2015/05/11(月) 21:09:27.35 ID:BzijjGxe.net
「…もしもし?」


「うん、ひさしぶり。」

「どう?レッスンの調子は。」


「おお、凄いやん♪」


「…ああ、向こうでも頑張ってるみたい。」

「週末には、こっちに帰ってくるって…」


「…え?ゴールデンウィーク?」

「今の所、予定は無いけど…」


「…ああ、そう言えば。」

「確かに、いい時期やね。」


「レッスンも、休みなん?」

「…そっか。」


「…ふふっ。」

「今度はどんな想い出が。」

「あのページを、埋めるんかな?」


「…うん。」

「…それじゃ、行こうか。」






「…ウチらの、道標を探しに。」




Fin.

518: 2015/05/11(月) 21:13:03.10 ID:BzijjGxe.net
これにて完結
最後の最後まで、お付き合いありがとうございました
ホントは、この後の旅行編とか
リクエストとか書きたかったけど
蛇足になりそうなので、このスレはここまでにします
今書いてる、新しいのもあげたいし…

と、言う訳で、これで希のifストーリーは完結です
本当にありがとうございました
何か質問などあれば、お答えします

519: 2015/05/11(月) 21:20:25.22 ID:Gl1uoWKV.net
本当に本当にお疲れ様でした!
長いようで読むのに夢中であっという間だった、なんというか感無量で何も言葉が出てこない
>>1の文章すごい好きだから次回作あると聞いてめちゃくちゃ嬉しいわ
期待して待ってます

520: 2015/05/11(月) 21:23:06.08 ID:BzijjGxe.net
>>519
ありがとう
次回作は、明日にでも上げたいと思います

引用: 希「私がウチになれたのは。」3