1: 2015/05/14(木) 00:19:48.69 ID:fEmQmvNQ.net
前作:希「私がウチになれたのは。」
その人を、その人と定義付けるもの
それは一体、何だろう?
容姿? 性格? 言動?
記憶? 思考? 経験?
…それとも、魂?
あるいは、その全てなのか
ひとつでも違えば、それは
その人とは言えないのだろうか
もし、それが違ったら…
もう、元には戻れないのだろうか
2: 2015/05/14(木) 00:21:34.35 ID:fEmQmvNQ.net
-----
「おはよう、にこっち♪」
「…おはよ、希。」
「今日も朝から元気ねえ…」
「…ウチは、それが取り柄やからね♪」
下駄箱前で、にこっちと会って
2人一緒に、教室まで
いつも通りの、ウチの毎日
「…それにしても。」
「…?」
「アンタ、変わったわね。」
「おはよう、にこっち♪」
「…おはよ、希。」
「今日も朝から元気ねえ…」
「…ウチは、それが取り柄やからね♪」
下駄箱前で、にこっちと会って
2人一緒に、教室まで
いつも通りの、ウチの毎日
「…それにしても。」
「…?」
「アンタ、変わったわね。」
3: 2015/05/14(木) 00:22:16.70 ID:fEmQmvNQ.net
「1年で出会ったばかりの頃は。」
「ずっと、回りばっか気にして。」
「すごく、奥手だったじゃない。」
「それが、今や…」
「今や?」
「こんなに、面倒な性格に。」
「…酷いなあ、にこっち。」
「ま、希らしいけどね。」
「ふふっ、ありがと♪」
「…別に、褒めてないんだけど?」
「ずっと、回りばっか気にして。」
「すごく、奥手だったじゃない。」
「それが、今や…」
「今や?」
「こんなに、面倒な性格に。」
「…酷いなあ、にこっち。」
「ま、希らしいけどね。」
「ふふっ、ありがと♪」
「…別に、褒めてないんだけど?」
4: 2015/05/14(木) 00:23:11.79 ID:fEmQmvNQ.net
「それじゃ、また後でな、にこっち。」
「じゃあね。」
にこっちと別れて、ウチのクラスへ
見知った顔に、挨拶する
「…おはよう、希。」
「おはよ、えりち。」
「今日は早かったんやね?」
「少し、先生に頼まれ事があったから。」
「生徒会はもう、終わったのにね。」
「それだけ、頼りにされてるんよ♪」
「…じゃあ、希にも手伝ってもらおうかしら?」
「おっと、授業の準備が…」
「…もう。」
「じゃあね。」
にこっちと別れて、ウチのクラスへ
見知った顔に、挨拶する
「…おはよう、希。」
「おはよ、えりち。」
「今日は早かったんやね?」
「少し、先生に頼まれ事があったから。」
「生徒会はもう、終わったのにね。」
「それだけ、頼りにされてるんよ♪」
「…じゃあ、希にも手伝ってもらおうかしら?」
「おっと、授業の準備が…」
「…もう。」
6: 2015/05/14(木) 00:23:39.96 ID:fEmQmvNQ.net
-----
「それでね、その時にこが…」
「…そうなん?にこっち。」
「ちょっ…言うなって言ったでしょ!?」
午前の授業を終えて、お昼休み
今日は天気がいいから、屋上で
誘ったら、にこっちも来てくれたから
今日は珍しく、3人でのご飯
「…でも、もうすぐ終わりなのよね。」
ぽつりと、えりちが呟く
「「…」」
「それでね、その時にこが…」
「…そうなん?にこっち。」
「ちょっ…言うなって言ったでしょ!?」
午前の授業を終えて、お昼休み
今日は天気がいいから、屋上で
誘ったら、にこっちも来てくれたから
今日は珍しく、3人でのご飯
「…でも、もうすぐ終わりなのよね。」
ぽつりと、えりちが呟く
「「…」」
7: 2015/05/14(木) 00:24:07.04 ID:fEmQmvNQ.net
「…考えたってどうしようも無いでしょ?」
「今は、頑張るしかないんだから。」
「…そうやね。」
年が明けて
ラブライブ本戦は、もう目の前に迫ってた
一日が、すごく短く感じて
ウチらの頭は、終わりを意識し始めてた
「ラブライブまで、後少し。」
「最後まで、ウチららしく頑張ろ?」
「…そうね。」
少し落ち込むえりちに、声をかける
「今は、頑張るしかないんだから。」
「…そうやね。」
年が明けて
ラブライブ本戦は、もう目の前に迫ってた
一日が、すごく短く感じて
ウチらの頭は、終わりを意識し始めてた
「ラブライブまで、後少し。」
「最後まで、ウチららしく頑張ろ?」
「…そうね。」
少し落ち込むえりちに、声をかける
8: 2015/05/14(木) 00:24:36.06 ID:fEmQmvNQ.net
「…優勝、するわよ。」
「うん♪」
「ええ、勿論よ。」
今まで、このために頑張って来た
うぬぼれる訳じゃないけど
このメンバーなら、絶対優勝できる
…なぜだか、そう確信が持てる
「それじゃ、そろそろいこっか♪」
予鈴の音に合わせて、そう告げる
荷物を片付けて、午後の授業へ
…練習が、待ち遠しい
「うん♪」
「ええ、勿論よ。」
今まで、このために頑張って来た
うぬぼれる訳じゃないけど
このメンバーなら、絶対優勝できる
…なぜだか、そう確信が持てる
「それじゃ、そろそろいこっか♪」
予鈴の音に合わせて、そう告げる
荷物を片付けて、午後の授業へ
…練習が、待ち遠しい
9: 2015/05/14(木) 00:25:21.99 ID:fEmQmvNQ.net
-----
「…ふう。」
「それでは、今日はここまでにしましょう。」
海未ちゃんの一言で、みんなの糸が切れる
「疲れたーっ…」
「お疲れさま、穂乃果ちゃん♪」
「かよちん、帰ろー?」
「あっ、ちょっと待って凛ちゃん!」
いつも通りの、練習おわり
疲れてても、みんな笑顔でいられる
…そんな、居場所
「…さ、私達も帰りましょうか。」
「そうやね。」
「…ふう。」
「それでは、今日はここまでにしましょう。」
海未ちゃんの一言で、みんなの糸が切れる
「疲れたーっ…」
「お疲れさま、穂乃果ちゃん♪」
「かよちん、帰ろー?」
「あっ、ちょっと待って凛ちゃん!」
いつも通りの、練習おわり
疲れてても、みんな笑顔でいられる
…そんな、居場所
「…さ、私達も帰りましょうか。」
「そうやね。」
10: 2015/05/14(木) 00:25:57.48 ID:fEmQmvNQ.net
ドリンクとタオルを手に持って
屋内に繋がる扉に向かう
「穂乃果ちゃん達も、一緒にラーメン食べにいかない?」
「おっ、いいね!」
「いくいく!」
「真姫ちゃんも行くにゃーっ!」
「私は別に…」
「いいじゃん、いいじゃん。」
「いこうよっ!」
「いいでしょ?真姫ちゃん!」
穂乃果ちゃん達に詰め寄られる真姫ちゃん
この光景も、いつも通り
きっと、押しに負けて行くんやろうなあ…
屋内に繋がる扉に向かう
「穂乃果ちゃん達も、一緒にラーメン食べにいかない?」
「おっ、いいね!」
「いくいく!」
「真姫ちゃんも行くにゃーっ!」
「私は別に…」
「いいじゃん、いいじゃん。」
「いこうよっ!」
「いいでしょ?真姫ちゃん!」
穂乃果ちゃん達に詰め寄られる真姫ちゃん
この光景も、いつも通り
きっと、押しに負けて行くんやろうなあ…
11: 2015/05/14(木) 00:26:25.44 ID:fEmQmvNQ.net
「…ああもう、分かったわよ!」
「行けばいいんでしょ?行けば。」
真姫ちゃんが振り向いて、投げやりに言う
…ほら、やっぱり負けた♪
「さっすが真姫ちゃん!」
「まったく…」
そう言って、階段に足をかける
いつも通り、こうして部室に帰って
いつも通り、帰り道を歩いて
そう、思ってた
…でも
ひとつだけ、いつもとは違った
「行けばいいんでしょ?行けば。」
真姫ちゃんが振り向いて、投げやりに言う
…ほら、やっぱり負けた♪
「さっすが真姫ちゃん!」
「まったく…」
そう言って、階段に足をかける
いつも通り、こうして部室に帰って
いつも通り、帰り道を歩いて
そう、思ってた
…でも
ひとつだけ、いつもとは違った
12: 2015/05/14(木) 00:27:00.00 ID:fEmQmvNQ.net
「な…ッ!?」
振り向いて答えたからなのか
それとも、疲れていたからなのか
真姫ちゃんが、バランスを崩す
重力に逆らえず落ちていこうとするその体に
凛ちゃんが手を伸ばした時には、もう遅くて
…どうして、動けたのかも分からない
ただ、ウチも手を伸ばした
凛ちゃんより4センチ背が高かったからか
その手に、手が届く
「…ッ!」
振り向いて答えたからなのか
それとも、疲れていたからなのか
真姫ちゃんが、バランスを崩す
重力に逆らえず落ちていこうとするその体に
凛ちゃんが手を伸ばした時には、もう遅くて
…どうして、動けたのかも分からない
ただ、ウチも手を伸ばした
凛ちゃんより4センチ背が高かったからか
その手に、手が届く
「…ッ!」
13: 2015/05/14(木) 00:27:44.28 ID:fEmQmvNQ.net
それでも、飛び出したウチの体も
真姫ちゃんを支えきれずに落ちていく
全てがスローモーションに見える中
腕を引いて、引き寄せる
運動しといてよかったなあ…とか
スタントマンみたいやね…とか
どこか他人事のような考えが、頭を流れる
打ち付けられた体に痛みを感じる事も無く
…ただ、自分の体を下に出来てよかったと思った
「よかった…」
真姫ちゃんに、怪我がなくて
声は出なかったけど、そう呟いた
---そこで記憶は途切れた
真姫ちゃんを支えきれずに落ちていく
全てがスローモーションに見える中
腕を引いて、引き寄せる
運動しといてよかったなあ…とか
スタントマンみたいやね…とか
どこか他人事のような考えが、頭を流れる
打ち付けられた体に痛みを感じる事も無く
…ただ、自分の体を下に出来てよかったと思った
「よかった…」
真姫ちゃんに、怪我がなくて
声は出なかったけど、そう呟いた
---そこで記憶は途切れた
14: 2015/05/14(木) 00:28:18.43 ID:fEmQmvNQ.net
-----
…声が聞こえる
名前を呼ぶ、声が
そっと目を開けると
白い景色が、広がっていた
---ここは?
「…!」
声が、出ない
一面真っ白の、世界
足下には、百合の花が咲いてる
…ああ、氏んじゃったのかな、なんて
そう考えてはみるものの
なんだか、釈然としない
…そもそも
---私は何を、していたんだろう?
…声が聞こえる
名前を呼ぶ、声が
そっと目を開けると
白い景色が、広がっていた
---ここは?
「…!」
声が、出ない
一面真っ白の、世界
足下には、百合の花が咲いてる
…ああ、氏んじゃったのかな、なんて
そう考えてはみるものの
なんだか、釈然としない
…そもそも
---私は何を、していたんだろう?
15: 2015/05/14(木) 00:28:55.13 ID:fEmQmvNQ.net
-----
「…!」
目の前に、唐突にそれは現れた
---私?
何かを、叫んでる
「 」
---聞こえないよ?
「 」
どこか、焦っているように
目の前の『私』の顔が、険しくなる
---なんて言ったの?
口を開けてみても
やっぱり、声は出ない
「…!」
目の前に、唐突にそれは現れた
---私?
何かを、叫んでる
「 」
---聞こえないよ?
「 」
どこか、焦っているように
目の前の『私』の顔が、険しくなる
---なんて言ったの?
口を開けてみても
やっぱり、声は出ない
16: 2015/05/14(木) 00:30:08.11 ID:fEmQmvNQ.net
…すると、目の前の『私』は
諦めたように、下を向いた
自分は、こんな顔して泣くんだ
そんな事を考えながら
目の前の『私』を見つめる、私
「…!」
また、どこからか声が聞こえる
何だか、呼ばれているような気がする
「……み!」
だんだん近付いてくる、その声
それと同時に、目の前の『私』が離れていく
---待って!
---まだ、聞きたい事が…!
「…希!!」
諦めたように、下を向いた
自分は、こんな顔して泣くんだ
そんな事を考えながら
目の前の『私』を見つめる、私
「…!」
また、どこからか声が聞こえる
何だか、呼ばれているような気がする
「……み!」
だんだん近付いてくる、その声
それと同時に、目の前の『私』が離れていく
---待って!
---まだ、聞きたい事が…!
「…希!!」
17: 2015/05/14(木) 00:30:37.12 ID:fEmQmvNQ.net
-----
目を開けると、真っ白な天井
なにか、夢を見ていたような気がする
…
…思い出せない
でも、それよりも…
「希!」
「希ちゃん!」
「大丈夫!?」
口々に投げかけられる、その言葉
どうやら、心配させてしまっていたみたい
「えっ…と…」
目を開けると、真っ白な天井
なにか、夢を見ていたような気がする
…
…思い出せない
でも、それよりも…
「希!」
「希ちゃん!」
「大丈夫!?」
口々に投げかけられる、その言葉
どうやら、心配させてしまっていたみたい
「えっ…と…」
18: 2015/05/14(木) 00:31:19.94 ID:fEmQmvNQ.net
「分かる?希。」
「貴女、屋上の階段から落ちたのよ。」
「真姫をかばって、下敷きに。」
「…覚えてる?」
「希…」
泣きはらした顔と、目が合う
…なんだか、申し訳なくなった
「奇跡的に、大きな怪我はしていないそうです。」
「多少の擦り傷と、打ち身がある程度で…」
「心配…したんだよ…?」
「でも、目を覚ましてよかった…」
「貴女、屋上の階段から落ちたのよ。」
「真姫をかばって、下敷きに。」
「…覚えてる?」
「希…」
泣きはらした顔と、目が合う
…なんだか、申し訳なくなった
「奇跡的に、大きな怪我はしていないそうです。」
「多少の擦り傷と、打ち身がある程度で…」
「心配…したんだよ…?」
「でも、目を覚ましてよかった…」
19: 2015/05/14(木) 00:32:15.35 ID:fEmQmvNQ.net
だんだんとクリアになる頭で
状況を整理してみた
どうやら、ここは病院で
階段から落ちた後
意識を失って、運ばれて来たみたい
…でも、それよりも
気になっている、事があって
「えっと…」
「どうしたの?希ちゃん。」
「何か、ほしいものある?」
心配そうに覗き込むみんなを見て
こう、呟いた
「貴女達は…誰ですか?」
状況を整理してみた
どうやら、ここは病院で
階段から落ちた後
意識を失って、運ばれて来たみたい
…でも、それよりも
気になっている、事があって
「えっと…」
「どうしたの?希ちゃん。」
「何か、ほしいものある?」
心配そうに覗き込むみんなを見て
こう、呟いた
「貴女達は…誰ですか?」
49: 2015/05/14(木) 08:18:24.87 ID:fEmQmvNQ.net
「ちょっと希…」
「こんな時に、冗談なんて…」
金髪の女の子が、声を震わせる
「あの…」
「これって…」
「もしかして…」
何となく、空気を察した
周りにいる子達の、顔が暗くなる
…ああ、なりほど
きっと私は、私でない誰かで
そして
彼女達のともだちを---奪ってしまったのか
「こんな時に、冗談なんて…」
金髪の女の子が、声を震わせる
「あの…」
「これって…」
「もしかして…」
何となく、空気を察した
周りにいる子達の、顔が暗くなる
…ああ、なりほど
きっと私は、私でない誰かで
そして
彼女達のともだちを---奪ってしまったのか
50: 2015/05/14(木) 08:19:08.14 ID:fEmQmvNQ.net
「記憶喪失…ですか。」
大和撫子みたいなその子が、ぽつりと告げる
…記憶喪失
でも、そうするとひとつ疑問が出てくる
私の名前は、東條希
…それは、覚えている
もし、間違っていなければ、だけど
心にかかったもやを理解できずにいると
ひとりの女の子が、声を発した
…そこで、理解する
今の私の、現状を
大和撫子みたいなその子が、ぽつりと告げる
…記憶喪失
でも、そうするとひとつ疑問が出てくる
私の名前は、東條希
…それは、覚えている
もし、間違っていなければ、だけど
心にかかったもやを理解できずにいると
ひとりの女の子が、声を発した
…そこで、理解する
今の私の、現状を
52: 2015/05/14(木) 08:20:07.76 ID:fEmQmvNQ.net
「…ちょっと真姫、どういう事!?」
「分から…ない…」
「分からないじゃなくて!!」
金髪の女の子が、赤い髪の…
真姫、と呼ばれていた子に掴み掛かった
「あ、あの…!」
声を、絞り出す
なぜだか、胸が痛くなった
「やめなさい!!」
大きく響いた声に
その場にいた全員が、体を硬直させる
目に入ったのは、ピンクのカーディガン
「分から…ない…」
「分からないじゃなくて!!」
金髪の女の子が、赤い髪の…
真姫、と呼ばれていた子に掴み掛かった
「あ、あの…!」
声を、絞り出す
なぜだか、胸が痛くなった
「やめなさい!!」
大きく響いた声に
その場にいた全員が、体を硬直させる
目に入ったのは、ピンクのカーディガン
53: 2015/05/14(木) 08:20:49.25 ID:fEmQmvNQ.net
「…目の前で、不安を煽ってどうすんのよ。」
「落ち着きなさい。」
「でも、にこ…」
「アンタが取り乱したって、仕方ないでしょ?絵里。」
「…」
「えっと…」
「…ごめんね、希。」
「何か覚えている事、ある?」
そう言って、顔を覗き込まれる
…ああ
これは、覚えてる
いつだって、こうして
気にかけていてくれたから…
「にこ…ちゃん?」
「落ち着きなさい。」
「でも、にこ…」
「アンタが取り乱したって、仕方ないでしょ?絵里。」
「…」
「えっと…」
「…ごめんね、希。」
「何か覚えている事、ある?」
そう言って、顔を覗き込まれる
…ああ
これは、覚えてる
いつだって、こうして
気にかけていてくれたから…
「にこ…ちゃん?」
54: 2015/05/14(木) 08:21:24.26 ID:fEmQmvNQ.net
「希…?」
「…やっぱり、にこちゃんだ。」
そっと、胸をなで下ろした
知っている顔が、いた
大丈夫
全部忘れたわけじゃない
これなら、きっとすぐにでも…
そんな私の想いは
すぐに、打ち砕かれる事になった
「もしかして…」
「…やっぱり、にこちゃんだ。」
そっと、胸をなで下ろした
知っている顔が、いた
大丈夫
全部忘れたわけじゃない
これなら、きっとすぐにでも…
そんな私の想いは
すぐに、打ち砕かれる事になった
「もしかして…」
55: 2015/05/14(木) 08:22:02.02 ID:fEmQmvNQ.net
「…ねえ、希。」
「…何?にこちゃん。」
「…」
何かを言おうと、開いた口から
言葉が出てこずに、また閉じる
…何を、言いたいんだろう?
「…正直に答えて。」
「今、希は…」
「何年生?」
何年生?
そんなの、言わなくてもわかるんじゃ…
「1年生、だよ?」
何かが壊れる---音がした
「…何?にこちゃん。」
「…」
何かを言おうと、開いた口から
言葉が出てこずに、また閉じる
…何を、言いたいんだろう?
「…正直に答えて。」
「今、希は…」
「何年生?」
何年生?
そんなの、言わなくてもわかるんじゃ…
「1年生、だよ?」
何かが壊れる---音がした
69: 2015/05/15(金) 01:17:01.70 ID:3wX1jYv/.net
-----
「…疲れて、寝ちゃったみたい。」
「…そうですか。」
「では、状況を整理しましょう。」
「…にこ、先ほどの話を、もう少し詳しくお願いできますか?」
「…いいわ。」
「恐らく希は、ここ2年間の記憶を失ってる。」
「…2年間も?」
「高校生活、ほとんどじゃ…」
「…花陽の言う通りよ。」
「理由としては、私を覚えていた事。」
「…そして、絵里の事を知らなかった事。」
「…」
「…疲れて、寝ちゃったみたい。」
「…そうですか。」
「では、状況を整理しましょう。」
「…にこ、先ほどの話を、もう少し詳しくお願いできますか?」
「…いいわ。」
「恐らく希は、ここ2年間の記憶を失ってる。」
「…2年間も?」
「高校生活、ほとんどじゃ…」
「…花陽の言う通りよ。」
「理由としては、私を覚えていた事。」
「…そして、絵里の事を知らなかった事。」
「…」
70: 2015/05/15(金) 01:17:34.17 ID:3wX1jYv/.net
「私が入学した時。」
「希は、同じクラスだった。」
「いつも、周りを気にしてる希を見て。」
「…なんだか、放っておけなくて。」
「声をかけたのが、始まり。」
「…希があの喋り方になったのは。」
「2年に、進級した時。」
「いつまでも私と一緒にいちゃ駄目だ、って。」
「自分を変えたい、って希は決めた。」
「…その時ね。」
「絵里と、出会ったのは。」
「…ええ。」
「希は、同じクラスだった。」
「いつも、周りを気にしてる希を見て。」
「…なんだか、放っておけなくて。」
「声をかけたのが、始まり。」
「…希があの喋り方になったのは。」
「2年に、進級した時。」
「いつまでも私と一緒にいちゃ駄目だ、って。」
「自分を変えたい、って希は決めた。」
「…その時ね。」
「絵里と、出会ったのは。」
「…ええ。」
71: 2015/05/15(金) 01:18:05.41 ID:3wX1jYv/.net
「…いつも、そうだった。」
「私の後ろを、ずっと着いて来て。」
「…にこちゃん、って。」
「そう…呼んでたの。」
「「…」」
「じゃあ、今の希ちゃんはその時に…」
「って事は、穂乃果達の事…!」
「忘れている…いえ。」
「知らない、と言った方が正しいのかもしれません。」
「そんな…」
「…ッ。」
「…真姫?」
「私の後ろを、ずっと着いて来て。」
「…にこちゃん、って。」
「そう…呼んでたの。」
「「…」」
「じゃあ、今の希ちゃんはその時に…」
「って事は、穂乃果達の事…!」
「忘れている…いえ。」
「知らない、と言った方が正しいのかもしれません。」
「そんな…」
「…ッ。」
「…真姫?」
72: 2015/05/15(金) 01:18:35.78 ID:3wX1jYv/.net
「…のせい。」
「私が…こけなかったら…」
「あの時…」
「…思い詰めてはいけません、真姫。」
「希は、真姫を助けようとした。」
「それだけです。」
「…それが、希の性格なんですから。」
「…違う。」
「違うの!!」
「私が悪いの!!」
「私のせいよ!!」
「そう言えば良いじゃない!!」
「希があんな風になったのは、私の…!」
パンッ…
「私が…こけなかったら…」
「あの時…」
「…思い詰めてはいけません、真姫。」
「希は、真姫を助けようとした。」
「それだけです。」
「…それが、希の性格なんですから。」
「…違う。」
「違うの!!」
「私が悪いの!!」
「私のせいよ!!」
「そう言えば良いじゃない!!」
「希があんな風になったのは、私の…!」
パンッ…
73: 2015/05/15(金) 01:19:20.99 ID:3wX1jYv/.net
「え…?」
「絵里…ちゃん…?」
「…罵ってほしいなら、いくらでもしてあげるわ。」
「それで、希の記憶が戻るならね。」
「…でも、そうじゃないでしょう?」
「…」
「泣いてる暇なんて無い。」
「後悔してる暇なんて無い。」
「…探さなきゃ。」
「希の記憶が戻る、方法を。」
「…そうでしょ?」
「…」
「…うん。」
「絵里…ちゃん…?」
「…罵ってほしいなら、いくらでもしてあげるわ。」
「それで、希の記憶が戻るならね。」
「…でも、そうじゃないでしょう?」
「…」
「泣いてる暇なんて無い。」
「後悔してる暇なんて無い。」
「…探さなきゃ。」
「希の記憶が戻る、方法を。」
「…そうでしょ?」
「…」
「…うん。」
74: 2015/05/15(金) 01:20:03.04 ID:3wX1jYv/.net
「…ごめんなさい。」
「私こそ、ごめんなさい。」
「…ううん。」
「もう、大丈夫。」
「…ありがと、絵里。」
「真姫ちゃん…」
「…大丈夫だよ、かよちん。」
「真姫ちゃんなら、きっと。」
「…では、話を戻しましょう。」
「今の希の、状態についてですが。」
「真姫のお父様に聞いた所。」
「記憶喪失と言うよりは、記憶障害というらしいです。」
「私こそ、ごめんなさい。」
「…ううん。」
「もう、大丈夫。」
「…ありがと、絵里。」
「真姫ちゃん…」
「…大丈夫だよ、かよちん。」
「真姫ちゃんなら、きっと。」
「…では、話を戻しましょう。」
「今の希の、状態についてですが。」
「真姫のお父様に聞いた所。」
「記憶喪失と言うよりは、記憶障害というらしいです。」
75: 2015/05/15(金) 01:20:49.24 ID:3wX1jYv/.net
「症状としては、逆向性健忘という名前で。」
「主に、昔の記憶…思い出を忘れている状態だそうです。」
「思い出…」
「治療法は確立されておらず。」
「…しかし、早ければ24時間ほどで元に戻る場合もあるようです。」
「…ほんと!?」
「…ええ。」
「ですが記憶障害自体、謎の部分が多く。」
「なにがきっかけとなって思い出すのかは分かりません。」
「そんな…」
「…ただ。」
「真姫のお父様に、こう言われました。」
「主に、昔の記憶…思い出を忘れている状態だそうです。」
「思い出…」
「治療法は確立されておらず。」
「…しかし、早ければ24時間ほどで元に戻る場合もあるようです。」
「…ほんと!?」
「…ええ。」
「ですが記憶障害自体、謎の部分が多く。」
「なにがきっかけとなって思い出すのかは分かりません。」
「そんな…」
「…ただ。」
「真姫のお父様に、こう言われました。」
76: 2015/05/15(金) 01:21:14.67 ID:3wX1jYv/.net
「思い出は、その人の人生そのものだ、と。」
「悲しい事も、楽しい事も。」
「感じた事は全て、その人の心に宿っていて。」
「密接に絡み合い、決して消える物ではない。」
「…そう、おっしゃっていました。」
「…つまり?」
「つまり。」
「私達と過ごして来た時間が、決して無くなった訳じゃない。」
「思い出せないだけで、希の心には必ずある、って事。」
「…そうでしょ?」
「…にこの言う通りです。」
「じゃあ、どうすれば…」
「悲しい事も、楽しい事も。」
「感じた事は全て、その人の心に宿っていて。」
「密接に絡み合い、決して消える物ではない。」
「…そう、おっしゃっていました。」
「…つまり?」
「つまり。」
「私達と過ごして来た時間が、決して無くなった訳じゃない。」
「思い出せないだけで、希の心には必ずある、って事。」
「…そうでしょ?」
「…にこの言う通りです。」
「じゃあ、どうすれば…」
77: 2015/05/15(金) 01:21:48.18 ID:3wX1jYv/.net
「…教えてあげればいい。」
「私達と過ごした、時間を。」
「真姫ちゃん…」
「私達との思い出が希の中にあるのなら。」
「私達が、それを伝えれば良い。」
「楽しかった事も、苦しかった事も。」
「全部一緒に乗り越えた仲間が、私達なんだ、って。」
「…思い出すまで、何度も。」
「…うん、そうだよ。」
「真姫ちゃんの言う通りだよ!!」
「今まで、ずっと9人でやって来たんだもん。」
「忘れるなんて出来ない、そんな時間を過ごしてきたんだから。」
「私達と過ごした、時間を。」
「真姫ちゃん…」
「私達との思い出が希の中にあるのなら。」
「私達が、それを伝えれば良い。」
「楽しかった事も、苦しかった事も。」
「全部一緒に乗り越えた仲間が、私達なんだ、って。」
「…思い出すまで、何度も。」
「…うん、そうだよ。」
「真姫ちゃんの言う通りだよ!!」
「今まで、ずっと9人でやって来たんだもん。」
「忘れるなんて出来ない、そんな時間を過ごしてきたんだから。」
78: 2015/05/15(金) 01:22:16.70 ID:3wX1jYv/.net
「…きっと希ちゃんの事だから。」
「すぐに思い出して、またからかってくるに決まってるにゃ!」
「ふふっ…希ちゃんらしいね。」
「「…」」
「悩んでたって、しょうがないよ。」
「この9人で、夢を叶えるんだから。」
「…みんなで、叶えるんだよ。」
「そうよ。」
「ラブライブまで時間もないんだから。」
「…それに。」
「面倒くさくない純粋な希なんて。」
「つまらないじゃない?」
「…一刻も早く、希の記憶を取り戻すわよ!」
「「おーっ!!」」
「すぐに思い出して、またからかってくるに決まってるにゃ!」
「ふふっ…希ちゃんらしいね。」
「「…」」
「悩んでたって、しょうがないよ。」
「この9人で、夢を叶えるんだから。」
「…みんなで、叶えるんだよ。」
「そうよ。」
「ラブライブまで時間もないんだから。」
「…それに。」
「面倒くさくない純粋な希なんて。」
「つまらないじゃない?」
「…一刻も早く、希の記憶を取り戻すわよ!」
「「おーっ!!」」
79: 2015/05/15(金) 01:22:57.37 ID:3wX1jYv/.net
-----
「ん…」
どうやら、寝ちゃってたみたい
そっと、ベッドから足を下ろす
幸い、記憶が無い事以外は
…とは言っても、記憶が無い事自体分からないんだけど
体は問題ないみたいで
明日にでも、退院できるみたい
「のど…乾いたな…」
けほっと小さく咳をして、ゆっくり立ち上がる
少しだけ、ふらつくけれど
頭は、はっきりと冴えている
「えっと…たしか、自販機が下に…」
病室の時計を見ると
針は、夜10時を回ってた
「ん…」
どうやら、寝ちゃってたみたい
そっと、ベッドから足を下ろす
幸い、記憶が無い事以外は
…とは言っても、記憶が無い事自体分からないんだけど
体は問題ないみたいで
明日にでも、退院できるみたい
「のど…乾いたな…」
けほっと小さく咳をして、ゆっくり立ち上がる
少しだけ、ふらつくけれど
頭は、はっきりと冴えている
「えっと…たしか、自販機が下に…」
病室の時計を見ると
針は、夜10時を回ってた
80: 2015/05/15(金) 01:23:31.75 ID:3wX1jYv/.net
-----
こつ…こつ…と
私の足音が、響く
夜の病院って怖いなあ…
そう考えながら歩いていると
自販機の明かりが見えて来た
ブーン…と怪しい音を立てている
自販機の前に立つ
「…あ。」
…しまった
病室に、財布を忘れて来ちゃった
自販機の所に来るって、分かってたはずなのに…
「…仕方ない、か。」
諦めて病室に帰ろうとした時
後ろから、声が聞こえた
「…希?」
こつ…こつ…と
私の足音が、響く
夜の病院って怖いなあ…
そう考えながら歩いていると
自販機の明かりが見えて来た
ブーン…と怪しい音を立てている
自販機の前に立つ
「…あ。」
…しまった
病室に、財布を忘れて来ちゃった
自販機の所に来るって、分かってたはずなのに…
「…仕方ない、か。」
諦めて病室に帰ろうとした時
後ろから、声が聞こえた
「…希?」
91: 2015/05/16(土) 01:57:47.49 ID:ldnI5HhC.net
振り返ると、そこには
赤い、くせ毛の女の子
確か、この子は…
「えっと…」
「…真姫よ。」
「…そっか、ごめんね。」
「…ううん。」
「「…」」
「ま、真姫ちゃんは、どうしてここに?」
「…病院。」
「うちの、病院なの。」
「えっ…!?」
赤い、くせ毛の女の子
確か、この子は…
「えっと…」
「…真姫よ。」
「…そっか、ごめんね。」
「…ううん。」
「「…」」
「ま、真姫ちゃんは、どうしてここに?」
「…病院。」
「うちの、病院なの。」
「えっ…!?」
92: 2015/05/16(土) 01:58:30.30 ID:ldnI5HhC.net
どうやら、真姫ちゃんは
世間で言うお嬢様らしく
この病院の、先生のお子さんみたい
…でも、ひとつの疑問が生まれた
どうして、そんな子と私は知り合いなんだろう?
「…ねえ、真姫ちゃん?」
「ひとつ、聞いても良い?」
「…なに?希。」
「今日、いた子達も…だけどさ。」
「どうして、私はみんなと仲良くなれたのかな。」
「…!」
「みんな、私が3年生になってから、知り合ったんだよね。」
「…だから、覚えてない、って。」
「それが…知りたいの。」
世間で言うお嬢様らしく
この病院の、先生のお子さんみたい
…でも、ひとつの疑問が生まれた
どうして、そんな子と私は知り合いなんだろう?
「…ねえ、真姫ちゃん?」
「ひとつ、聞いても良い?」
「…なに?希。」
「今日、いた子達も…だけどさ。」
「どうして、私はみんなと仲良くなれたのかな。」
「…!」
「みんな、私が3年生になってから、知り合ったんだよね。」
「…だから、覚えてない、って。」
「それが…知りたいの。」
93: 2015/05/16(土) 01:59:06.91 ID:ldnI5HhC.net
「…」
一瞬、顔が曇ったけど
すぐに、さっきまでの表情が戻る
「…?」
財布を取り出した真姫ちゃんは、紅茶を買って
ひとつ、私にくれた
「わ、悪いよ…お金持って無いし…」
「…そんな事だと思った。」
「いいから、飲んで。」
「…少し、長くなると思うから。」
「…うん。」
「ありがとう。」
一瞬、顔が曇ったけど
すぐに、さっきまでの表情が戻る
「…?」
財布を取り出した真姫ちゃんは、紅茶を買って
ひとつ、私にくれた
「わ、悪いよ…お金持って無いし…」
「…そんな事だと思った。」
「いいから、飲んで。」
「…少し、長くなると思うから。」
「…うん。」
「ありがとう。」
94: 2015/05/16(土) 01:59:55.52 ID:ldnI5HhC.net
それから、ぽつぽつと
真姫ちゃんは、話してくれた
今、私達が何をしているのか
…何を、目指しているのか
「スクールアイドル…μ's…」
「希は、その最後のメンバーなの。」
「…まさか。」
嘲笑気味に、声を漏らす
引っ込み思案な私が
どうして、そんな事が出来るのか
…一体、私に何があったんだろう?
真姫ちゃんは、話してくれた
今、私達が何をしているのか
…何を、目指しているのか
「スクールアイドル…μ's…」
「希は、その最後のメンバーなの。」
「…まさか。」
嘲笑気味に、声を漏らす
引っ込み思案な私が
どうして、そんな事が出来るのか
…一体、私に何があったんだろう?
95: 2015/05/16(土) 02:00:28.53 ID:ldnI5HhC.net
「…信じれないのも、分かる。」
「今の希は、私の知ってる希とは到底結びつかないもの。」
「…」
「でも、だから何?って感じ。」
「え…?」
「μ'sの事を忘れていても。」
「希は、希でしょ?」
「…それに。」
「きっとすぐに、思い出すわ。」
「ううん、思い出させてみせる。」
「…約束する。」
「…どうして?」
どうしてそこまで、してくれるんだろう
真姫ちゃんも、他のみんなも
「今の希は、私の知ってる希とは到底結びつかないもの。」
「…」
「でも、だから何?って感じ。」
「え…?」
「μ'sの事を忘れていても。」
「希は、希でしょ?」
「…それに。」
「きっとすぐに、思い出すわ。」
「ううん、思い出させてみせる。」
「…約束する。」
「…どうして?」
どうしてそこまで、してくれるんだろう
真姫ちゃんも、他のみんなも
96: 2015/05/16(土) 02:01:31.64 ID:ldnI5HhC.net
「…私を、救ってくれたから。」
そっと、そう告げる真姫ちゃん
「でも、それは咄嗟にそうなっただけで…」
「違うわ。」
「今回の事も、確かにそうだけど。」
「…私を救ってくれたのは、もっと前から。」
「初めて会ったときから、今日まで。」
「…私は、何度も貴女に救われてきた。」
「それって…」
「…今度は、私の番。」
「希が私に、してくれたように。」
「…希を、救いたいの。」
真姫ちゃんの瞳から溢れたそれから
私は、目を離せなくなっていた
そっと、そう告げる真姫ちゃん
「でも、それは咄嗟にそうなっただけで…」
「違うわ。」
「今回の事も、確かにそうだけど。」
「…私を救ってくれたのは、もっと前から。」
「初めて会ったときから、今日まで。」
「…私は、何度も貴女に救われてきた。」
「それって…」
「…今度は、私の番。」
「希が私に、してくれたように。」
「…希を、救いたいの。」
真姫ちゃんの瞳から溢れたそれから
私は、目を離せなくなっていた
97: 2015/05/16(土) 02:02:51.10 ID:ldnI5HhC.net
「…」
どれくらい経ったのか
不意に、真姫ちゃんが口を開く
「…私ね、昔希に、面倒な人って言われた事があるの。」
「ええっ…!?」
「それは…えっと…」
「ごめんなさい。」
「ふふっ、いいのよ。」
「私も、そう思ってるから。」
「…希が、同じぐらい面倒だって。」
「それって…」
「…」
どれくらい経ったのか
不意に、真姫ちゃんが口を開く
「…私ね、昔希に、面倒な人って言われた事があるの。」
「ええっ…!?」
「それは…えっと…」
「ごめんなさい。」
「ふふっ、いいのよ。」
「私も、そう思ってるから。」
「…希が、同じぐらい面倒だって。」
「それって…」
「…」
98: 2015/05/16(土) 02:03:19.42 ID:ldnI5HhC.net
「希が記憶を失くした、って知って。」
「正直辛かった。」
「私のせいだって、後悔もした。」
「…でも。」
「こんな事言ったら、不謹慎なのかもしれないけど。」
「希と話して、どこかほっとしてるの。」
「…え?」
「なんとなく、なんだけど。」
「もしかしたら…」
「…ううん。」
「一番辛いのは、やっぱり希だから。」
「こんな話して、ごめんなさい。」
「真姫ちゃん…」
「正直辛かった。」
「私のせいだって、後悔もした。」
「…でも。」
「こんな事言ったら、不謹慎なのかもしれないけど。」
「希と話して、どこかほっとしてるの。」
「…え?」
「なんとなく、なんだけど。」
「もしかしたら…」
「…ううん。」
「一番辛いのは、やっぱり希だから。」
「こんな話して、ごめんなさい。」
「真姫ちゃん…」
99: 2015/05/16(土) 02:03:49.49 ID:ldnI5HhC.net
「…あのね、真姫ちゃん。」
「こんな事言ったら不謹慎かもしれないけど…」
「私も、ほっとしてるんだ。」
「…え?」
「私の記憶…1年生の頃はね。」
「ともだちって言える人、にこちゃんぐらいだったから。」
「あ…」
「だから…なんて言うのかな?」
「今、ここでこうして、真姫ちゃんと話せてる事。」
「私を心配してくれた、みんながいた事。」
「…心の中で、喜んじゃってる私がいるの。」
「…」
「こんな事言ったら不謹慎かもしれないけど…」
「私も、ほっとしてるんだ。」
「…え?」
「私の記憶…1年生の頃はね。」
「ともだちって言える人、にこちゃんぐらいだったから。」
「あ…」
「だから…なんて言うのかな?」
「今、ここでこうして、真姫ちゃんと話せてる事。」
「私を心配してくれた、みんながいた事。」
「…心の中で、喜んじゃってる私がいるの。」
「…」
100: 2015/05/16(土) 02:21:38.46 ID:ldnI5HhC.net
「だからね、真姫ちゃん。」
「きっとこうなったのは、私自身が望んだ事で。」
「真姫ちゃんが気にする必要は、ないと思うんだ。」
「…きっと、みんなの知ってる私も。」
「今の私も、同じ事をしたと思うから。」
「希…」
「だって、もし大事なともだちが、そうなってたらって思うと。」
「そんなの、手を伸ばしちゃうに決まってるから。」
「真姫ちゃんも、そうでしょ?」
「…うん。」
「だから、私としては。」
「真姫ちゃんが無事で、よかった。」
「…ただ、それだけなんだよ。」
「きっとこうなったのは、私自身が望んだ事で。」
「真姫ちゃんが気にする必要は、ないと思うんだ。」
「…きっと、みんなの知ってる私も。」
「今の私も、同じ事をしたと思うから。」
「希…」
「だって、もし大事なともだちが、そうなってたらって思うと。」
「そんなの、手を伸ばしちゃうに決まってるから。」
「真姫ちゃんも、そうでしょ?」
「…うん。」
「だから、私としては。」
「真姫ちゃんが無事で、よかった。」
「…ただ、それだけなんだよ。」
101: 2015/05/16(土) 02:22:16.26 ID:ldnI5HhC.net
「のぞ…み…」
必氏に涙をこらえる真姫ちゃんを見て
自然に、その華奢な体に手を伸ばした
…そうしなきゃ、って思った
腕の中で小さくなる真姫ちゃんを
優しく、抱きしめる
「…私ね、嬉しいんだ。」
「こんな風に、私を想ってくれる人がいて。」
「私のために、泣いてくれる人がいる。」
「…悲しくなんか、ないんだよ?」
「私の事、みんなが覚えててくれたなら。」
「それだけで十分、私は幸せだよ。」
「…私とともだちになってくれて。」
「ありがとう、真姫ちゃん。」
必氏に涙をこらえる真姫ちゃんを見て
自然に、その華奢な体に手を伸ばした
…そうしなきゃ、って思った
腕の中で小さくなる真姫ちゃんを
優しく、抱きしめる
「…私ね、嬉しいんだ。」
「こんな風に、私を想ってくれる人がいて。」
「私のために、泣いてくれる人がいる。」
「…悲しくなんか、ないんだよ?」
「私の事、みんなが覚えててくれたなら。」
「それだけで十分、私は幸せだよ。」
「…私とともだちになってくれて。」
「ありがとう、真姫ちゃん。」
102: 2015/05/16(土) 02:23:55.58 ID:ldnI5HhC.net
「…ッ。」
「そんなの…」
「そんなの、私だって…!」
「…真姫ちゃんの話を聞いてると。」
「こんな事、きっと言わなかったと思う。」
「でも、今の私なら、言えるから。」
「…私も。」
「私こそ…」
「ありがとう、希。」
「また…私は、救われたの。」
「…絶対、思い出させてみせるから。」
「だから、今は…」
「今だけは…素直になっていい…?」
止まらない涙を拭って
もう少しだけと、目を閉じる
…今は、私達だけだから
「そんなの…」
「そんなの、私だって…!」
「…真姫ちゃんの話を聞いてると。」
「こんな事、きっと言わなかったと思う。」
「でも、今の私なら、言えるから。」
「…私も。」
「私こそ…」
「ありがとう、希。」
「また…私は、救われたの。」
「…絶対、思い出させてみせるから。」
「だから、今は…」
「今だけは…素直になっていい…?」
止まらない涙を拭って
もう少しだけと、目を閉じる
…今は、私達だけだから
103: 2015/05/16(土) 02:35:50.85 ID:ldnI5HhC.net
-----
「これで、よしっと…」
お世話になった…と言っても、2日だけだけど
使ったベッドを綺麗にして、受付へ
午前中に、お母さんがわざわざ来てくれて
このおかげ…って訳じゃないけど
久しぶりに、会えた気がする
記憶が無いだけで、家の場所とか
自分の事は覚えているから
特に治療が必要ないので、自宅療養になったみたい
定期的に検診は必要だけど
日常生活に戻る事で
また、何か思い出せるかも…
そんな理由で、退院することになった
「これで、よしっと…」
お世話になった…と言っても、2日だけだけど
使ったベッドを綺麗にして、受付へ
午前中に、お母さんがわざわざ来てくれて
このおかげ…って訳じゃないけど
久しぶりに、会えた気がする
記憶が無いだけで、家の場所とか
自分の事は覚えているから
特に治療が必要ないので、自宅療養になったみたい
定期的に検診は必要だけど
日常生活に戻る事で
また、何か思い出せるかも…
そんな理由で、退院することになった
104: 2015/05/16(土) 02:36:36.12 ID:ldnI5HhC.net
「希ちゃーん!!」
「あ、えっと…」
受付で諸々の手続きを終えて
帰る用意をしていると、その子が来た
「…そっか、覚えてないもんね。」
「穂乃果だよ、希ちゃん!」
そう言って…穂乃果ちゃんは笑う
「ふふっ…もう覚えたから、大丈夫♪」
「ホント!?」
「じゃあ、間違えたら罰ゲームね♪」
せめて、みんなを不安にさせないように
笑顔でいよう、って決めたけど…
この子の前では、自然と笑顔になれちゃうみたい
「あ、えっと…」
受付で諸々の手続きを終えて
帰る用意をしていると、その子が来た
「…そっか、覚えてないもんね。」
「穂乃果だよ、希ちゃん!」
そう言って…穂乃果ちゃんは笑う
「ふふっ…もう覚えたから、大丈夫♪」
「ホント!?」
「じゃあ、間違えたら罰ゲームね♪」
せめて、みんなを不安にさせないように
笑顔でいよう、って決めたけど…
この子の前では、自然と笑顔になれちゃうみたい
105: 2015/05/16(土) 02:37:02.76 ID:ldnI5HhC.net
「…それで、穂乃果ちゃん。」
「今日は一体、どうしたの?」
「あ、そうだった!」
「希ちゃん、体調は平気?」
「…?」
「うん、大丈夫だよ?」
「なら、来てほしい所があるの。」
「きっと来れば、すぐに思い出せるよ!!」
そう言って、私の手を取って、走り出そうとする穂乃果ちゃん
「…あ!」
何かに気付いたように、ピタッと止まる
「…ごめんね、希ちゃん。」
「いつも通り、走り出しちゃう所だったよ。」
…止まってられない性格なんだね
「今日は一体、どうしたの?」
「あ、そうだった!」
「希ちゃん、体調は平気?」
「…?」
「うん、大丈夫だよ?」
「なら、来てほしい所があるの。」
「きっと来れば、すぐに思い出せるよ!!」
そう言って、私の手を取って、走り出そうとする穂乃果ちゃん
「…あ!」
何かに気付いたように、ピタッと止まる
「…ごめんね、希ちゃん。」
「いつも通り、走り出しちゃう所だったよ。」
…止まってられない性格なんだね
106: 2015/05/16(土) 02:37:31.69 ID:ldnI5HhC.net
-----
「…ここだよ。」
穂乃果ちゃんに連れて来られて
学校の中へ
たどり着いたのは、アイドル研究部の部室
…そう言えば、前に一度
にこちゃんに連れられて、入った事があったっけ?
今は、穂乃果ちゃん達も使ってるんだね
「ではでは、どうぞ!」
ぐいっと背中を穂乃果ちゃんに押されて
扉を開けて、部室の中へ
「…!」
目に入ったのは
たくさんのアイドルグッズと
私を待っててくれた、7人のともだち
「…ここだよ。」
穂乃果ちゃんに連れて来られて
学校の中へ
たどり着いたのは、アイドル研究部の部室
…そう言えば、前に一度
にこちゃんに連れられて、入った事があったっけ?
今は、穂乃果ちゃん達も使ってるんだね
「ではでは、どうぞ!」
ぐいっと背中を穂乃果ちゃんに押されて
扉を開けて、部室の中へ
「…!」
目に入ったのは
たくさんのアイドルグッズと
私を待っててくれた、7人のともだち
107: 2015/05/16(土) 02:38:04.61 ID:ldnI5HhC.net
穂乃果ちゃんが、前に回って来て
上に向けて、クラッカーを鳴らす
「えっ…ええっ!?」
驚く私を、みんなが迎え入れる
「…希ちゃん。」
「おかえりなさい。」
「…!」
「本当の意味の、おかえりじゃないのかもしれないけど。」
「それでも、やっぱり私達は、この9人だから。」
「…」
ただいまと、言って良いのかな
…だって
みんなが待っていたのは
私じゃない…『私』だから
上に向けて、クラッカーを鳴らす
「えっ…ええっ!?」
驚く私を、みんなが迎え入れる
「…希ちゃん。」
「おかえりなさい。」
「…!」
「本当の意味の、おかえりじゃないのかもしれないけど。」
「それでも、やっぱり私達は、この9人だから。」
「…」
ただいまと、言って良いのかな
…だって
みんなが待っていたのは
私じゃない…『私』だから
108: 2015/05/16(土) 02:38:37.58 ID:ldnI5HhC.net
「…ほら、さっさと入りなさいよ。」
「今日は、みんなの事思い出すまで、帰さないからね。」
「にこちゃん…」
目の前に、みんなが並ぶ
「…改めて、高坂穂乃果だよ。」
「一応、μ'sのリーダーやってるんだ。」
「2年生で、希ちゃんの一個下だよ♪」
「えっと…南ことりです♪」
「穂乃果ちゃんと同じ2年生で。」
「μ'sの衣装を作ってるよ。」
「…あ、お菓子作って来たから、あとで食べてね♪」
「…同じく、2年の園田海未です。」
「μ'sでは、作詞を担当しています。」
「あと、メニューも私が作っていますので。」
「辛かったりしたら、言って下さい。」
「今日は、みんなの事思い出すまで、帰さないからね。」
「にこちゃん…」
目の前に、みんなが並ぶ
「…改めて、高坂穂乃果だよ。」
「一応、μ'sのリーダーやってるんだ。」
「2年生で、希ちゃんの一個下だよ♪」
「えっと…南ことりです♪」
「穂乃果ちゃんと同じ2年生で。」
「μ'sの衣装を作ってるよ。」
「…あ、お菓子作って来たから、あとで食べてね♪」
「…同じく、2年の園田海未です。」
「μ'sでは、作詞を担当しています。」
「あと、メニューも私が作っていますので。」
「辛かったりしたら、言って下さい。」
109: 2015/05/16(土) 02:39:39.95 ID:ldnI5HhC.net
「1年生の元気代表、星空凛だよ!」
「好きな物はラーメンで…」
「えっと…すっごく元気にゃーっ!!」
「り、凛ちゃん…」
「…あ、えっと、小泉花陽です。」
「凛ちゃんと同じ1年生で…」
「ご、ご飯が大好きですっ!」
「ちょっと2人とも…」
「好きな物答えてどうするのよ。」
「…昨日も話したけど、西木野真姫よ。」
「μ'sでは、作曲を担当しているわ。」
「好きな物はラーメンで…」
「えっと…すっごく元気にゃーっ!!」
「り、凛ちゃん…」
「…あ、えっと、小泉花陽です。」
「凛ちゃんと同じ1年生で…」
「ご、ご飯が大好きですっ!」
「ちょっと2人とも…」
「好きな物答えてどうするのよ。」
「…昨日も話したけど、西木野真姫よ。」
「μ'sでは、作曲を担当しているわ。」
110: 2015/05/16(土) 02:40:19.87 ID:ldnI5HhC.net
「もう知ってると思うけど、改めて。」
「アイドル研究部、部長の矢澤にこよ。」
「希は私の事、にこっちって呼んでたわ。」
「もしかしたら、思い出すきっかけになるかもしれないから。」
「…最後は、私ね。」
「絢瀬絵里よ。」
「希とは、2年の頃から一緒に生徒会をやっていたわ。」
「私のことも、えりち、って呼んでたから。」
「そう呼んでもらえると、私も嬉しいわ。」
「…と、言う訳で。」
「μ'sのメンバー紹介でした!」
「忘れちゃ駄目だよ?希ちゃん。」
「みんな…」
「アイドル研究部、部長の矢澤にこよ。」
「希は私の事、にこっちって呼んでたわ。」
「もしかしたら、思い出すきっかけになるかもしれないから。」
「…最後は、私ね。」
「絢瀬絵里よ。」
「希とは、2年の頃から一緒に生徒会をやっていたわ。」
「私のことも、えりち、って呼んでたから。」
「そう呼んでもらえると、私も嬉しいわ。」
「…と、言う訳で。」
「μ'sのメンバー紹介でした!」
「忘れちゃ駄目だよ?希ちゃん。」
「みんな…」
111: 2015/05/16(土) 02:41:13.29 ID:ldnI5HhC.net
なんて言っていいのか、分からずに
その場に、立ち尽くす
嬉しいような、申し訳ないような
言い悩んでいると、にこちゃんが、口を開く
「…なに、遠慮してるのよ。」
「ここは、アンタのもうひとつの家で。」
「にこ達は、家族みたいな物よ。」
「例え記憶が無くたって。」
「誰も、アンタをよそ者みたいに扱ったりしない。」
「…だから、言うべき事はひとつ。」
「そうでしょ?」
「…」
「…みんな、ただいま。」
「「おかえりなさいっ!!」」
その場に、立ち尽くす
嬉しいような、申し訳ないような
言い悩んでいると、にこちゃんが、口を開く
「…なに、遠慮してるのよ。」
「ここは、アンタのもうひとつの家で。」
「にこ達は、家族みたいな物よ。」
「例え記憶が無くたって。」
「誰も、アンタをよそ者みたいに扱ったりしない。」
「…だから、言うべき事はひとつ。」
「そうでしょ?」
「…」
「…みんな、ただいま。」
「「おかえりなさいっ!!」」
119: 2015/05/16(土) 22:26:35.15 ID:ldnI5HhC.net
「さあさあ、希ちゃん!」
「まずは、これを見てもらわないと!」
そう言って穂乃果ちゃんは、パソコンの電源を入れる
動画再生サイトを立ち上げて
ある動画をする
「…さあ、始まるよ。」
流れて来た音楽は
…どこか、懐かしい感じがした
「これ…」
そこには、とても楽しそうに踊っているみんなと
…『私』がいた
「まずは、これを見てもらわないと!」
そう言って穂乃果ちゃんは、パソコンの電源を入れる
動画再生サイトを立ち上げて
ある動画をする
「…さあ、始まるよ。」
流れて来た音楽は
…どこか、懐かしい感じがした
「これ…」
そこには、とても楽しそうに踊っているみんなと
…『私』がいた
120: 2015/05/16(土) 22:27:15.41 ID:ldnI5HhC.net
「…ほら。」
「言ってた事、本当だったでしょ?」
真姫ちゃんが、後ろから声をかける
流れる曲に合わせて
ステップを踏んで、ターンして
笑顔で踊る、『私』がいた
「…すごい。」
素直に、口からそう出た
「とっても…楽しそう。」
私は、こうして笑う事も出来るんだ
…こうして、みんなと一緒に
「言ってた事、本当だったでしょ?」
真姫ちゃんが、後ろから声をかける
流れる曲に合わせて
ステップを踏んで、ターンして
笑顔で踊る、『私』がいた
「…すごい。」
素直に、口からそう出た
「とっても…楽しそう。」
私は、こうして笑う事も出来るんだ
…こうして、みんなと一緒に
121: 2015/05/16(土) 22:27:49.89 ID:ldnI5HhC.net
「…真姫から聞いたそうですが。」
「希は、こうして私達と一緒にスクールアイドルをやっていました。」
「希ちゃん、すっごく上手だったんだよ?」
「練習したら、すぐに出来ちゃって。」
「…よく、教えてもらってたの。」
優しそうな顔の…花陽ちゃんが、そう告げる
「私が…?」
とてもじゃないけど、信じられなくて
だって、記憶にある私は
運動は嫌いじゃないけど
そんなに得意ってほどじゃなかったし…
何より、人に教えられるようになるなんて
「希は、こうして私達と一緒にスクールアイドルをやっていました。」
「希ちゃん、すっごく上手だったんだよ?」
「練習したら、すぐに出来ちゃって。」
「…よく、教えてもらってたの。」
優しそうな顔の…花陽ちゃんが、そう告げる
「私が…?」
とてもじゃないけど、信じられなくて
だって、記憶にある私は
運動は嫌いじゃないけど
そんなに得意ってほどじゃなかったし…
何より、人に教えられるようになるなんて
122: 2015/05/16(土) 22:29:26.61 ID:ldnI5HhC.net
「…どう?」
「何か思い出した?」
にこちゃんが、聞いてくる
「…ううん。」
申し訳ないけど
嘘をつく訳にもいかなくて
…素直に、そう答える
「ま、そんなに簡単に思い出せたら、苦労しないわね。」
「…うん。」
「でもね?」
「なんて言うのかな…」
「…懐かしい、感じはしたよ?」
「何か思い出した?」
にこちゃんが、聞いてくる
「…ううん。」
申し訳ないけど
嘘をつく訳にもいかなくて
…素直に、そう答える
「ま、そんなに簡単に思い出せたら、苦労しないわね。」
「…うん。」
「でもね?」
「なんて言うのかな…」
「…懐かしい、感じはしたよ?」
123: 2015/05/16(土) 22:30:03.53 ID:ldnI5HhC.net
「本当?希。」
顔が明るくなった…絵里ちゃん
「うん。」
「なんだか…私も、やってみたいって思ったの。」
「…教えてくれる?」
「…ええ、勿論よ♪」
「と言っても、体が覚えてると思うけど。」
「ありがとう、絵里ちゃん。」
「あ…」
「…良いのよ。」
「慣れてからで、構わないから。」
そう言う絵里ちゃんの顔は
さっきよりも、少しだけ曇ってた
顔が明るくなった…絵里ちゃん
「うん。」
「なんだか…私も、やってみたいって思ったの。」
「…教えてくれる?」
「…ええ、勿論よ♪」
「と言っても、体が覚えてると思うけど。」
「ありがとう、絵里ちゃん。」
「あ…」
「…良いのよ。」
「慣れてからで、構わないから。」
そう言う絵里ちゃんの顔は
さっきよりも、少しだけ曇ってた
124: 2015/05/16(土) 22:30:34.14 ID:ldnI5HhC.net
「…でも、この調子なら。」
「もしかしたら、すぐ戻るかも♪」
えっと…ことりちゃんが、そう言ってくれる
「そんなに心配しなくても、大丈夫!」
凛ちゃんも、フォローしてくれた
「では、今日は解散して。」
「明日から、希の体調を見ながら練習しましょうか。」
「ラブライブまで、時間もないですしね。」
「えっと…その…」
「よろしくお願いします!」
…できる事を、しよう
今の私には、それしか出来ないから
「もしかしたら、すぐ戻るかも♪」
えっと…ことりちゃんが、そう言ってくれる
「そんなに心配しなくても、大丈夫!」
凛ちゃんも、フォローしてくれた
「では、今日は解散して。」
「明日から、希の体調を見ながら練習しましょうか。」
「ラブライブまで、時間もないですしね。」
「えっと…その…」
「よろしくお願いします!」
…できる事を、しよう
今の私には、それしか出来ないから
125: 2015/05/16(土) 22:31:11.96 ID:ldnI5HhC.net
-----
「ここが、希の家ね。」
「…とは言っても、それは覚えてるか。」
みんなと解散した後
にこちゃんと絵里ちゃんが、家まで着いて来てくれた
「ありがとう、2人とも。」
鞄から鍵を出して、鍵穴に差し込む
がちゃり、と音を立てて、鍵が開いた
「えっと…どうぞ?」
「…なんで、疑問系なのよ。」
「な、なんとなく…」
なんだか、自分の家じゃないみたいだから
「ここが、希の家ね。」
「…とは言っても、それは覚えてるか。」
みんなと解散した後
にこちゃんと絵里ちゃんが、家まで着いて来てくれた
「ありがとう、2人とも。」
鞄から鍵を出して、鍵穴に差し込む
がちゃり、と音を立てて、鍵が開いた
「えっと…どうぞ?」
「…なんで、疑問系なのよ。」
「な、なんとなく…」
なんだか、自分の家じゃないみたいだから
126: 2015/05/16(土) 22:31:57.10 ID:ldnI5HhC.net
「これは…」
中に入って、驚いた
だって…これは…
「す、すぐ片付けるね!」
まるで、男の子の部屋みたいに
片付いていない、女の子の部屋
「…そう言えば、希ってこんな性格だったっけ。」
「…忘れてたわ。」
「ええっ!?」
呆れた感じの2人の言葉に、驚いた
私、こんな性格なの?
「…なんだか、こっちの希の方が。」
「しっかりしてる気がするのは、気のせいかしら?」
中に入って、驚いた
だって…これは…
「す、すぐ片付けるね!」
まるで、男の子の部屋みたいに
片付いていない、女の子の部屋
「…そう言えば、希ってこんな性格だったっけ。」
「…忘れてたわ。」
「ええっ!?」
呆れた感じの2人の言葉に、驚いた
私、こんな性格なの?
「…なんだか、こっちの希の方が。」
「しっかりしてる気がするのは、気のせいかしら?」
127: 2015/05/16(土) 22:32:30.48 ID:ldnI5HhC.net
呆れながらも、絵里ちゃんは笑ってくれた
…すこし、ほっとする
「それじゃ、まずは片付けないとね。」
「そんな、悪いよ…」
「いいのよ。」
「晩ご飯はにこに任せて。」
「私達は、こっちをやりましょう?」
「それじゃ、台所借りるわね。」
私以上に、私の家でテキパキ動く、2人
もしかして、常習犯だったのかな…
…すこし、ほっとする
「それじゃ、まずは片付けないとね。」
「そんな、悪いよ…」
「いいのよ。」
「晩ご飯はにこに任せて。」
「私達は、こっちをやりましょう?」
「それじゃ、台所借りるわね。」
私以上に、私の家でテキパキ動く、2人
もしかして、常習犯だったのかな…
128: 2015/05/16(土) 22:46:40.76 ID:ldnI5HhC.net
-----
「…だいたい、こんなものかしら。」
絵里ちゃんの手伝いもあって
意外と早く、片付いた私の部屋
片付けながら、気付いたのは
…私の知らないものが、沢山増えていた事
「あ、これ…」
目に入った、一枚の写真立て
学校の講堂で、笑顔でポーズをとる、9人の写真
「…懐かしいわね。」
そう言って、絵里ちゃんがその写真に触れる
「…夏の終わりにね。」
「ちょっとした、問題が起きて。」
「私達、解散するかもって事があったの。」
「え…?」
「…だいたい、こんなものかしら。」
絵里ちゃんの手伝いもあって
意外と早く、片付いた私の部屋
片付けながら、気付いたのは
…私の知らないものが、沢山増えていた事
「あ、これ…」
目に入った、一枚の写真立て
学校の講堂で、笑顔でポーズをとる、9人の写真
「…懐かしいわね。」
そう言って、絵里ちゃんがその写真に触れる
「…夏の終わりにね。」
「ちょっとした、問題が起きて。」
「私達、解散するかもって事があったの。」
「え…?」
129: 2015/05/16(土) 22:47:30.16 ID:ldnI5HhC.net
「…結局、それは解決して。」
「私達は、またラブライブを目指す事になった。」
「また、夢に向かって走り出そう、って。」
「…その時の、写真なの。」
「…そうなんだ。」
あんなに、みんな仲良さそうだったのに
そんな事が、あったなんて
「それからも、色々あったのよ?」
「泣いたり笑ったり、忙しかった。」
「何度も壁にぶつかって。」
「…決して、毎日が楽しいと言える日々じゃなかった。」
「それでも、ここまで来れたのは。」
「…みんながいて、希がいたから。」
「私達は、またラブライブを目指す事になった。」
「また、夢に向かって走り出そう、って。」
「…その時の、写真なの。」
「…そうなんだ。」
あんなに、みんな仲良さそうだったのに
そんな事が、あったなんて
「それからも、色々あったのよ?」
「泣いたり笑ったり、忙しかった。」
「何度も壁にぶつかって。」
「…決して、毎日が楽しいと言える日々じゃなかった。」
「それでも、ここまで来れたのは。」
「…みんながいて、希がいたから。」
130: 2015/05/16(土) 22:48:24.59 ID:ldnI5HhC.net
「…私もね。」
「μ'sに入るまでは、変な意地を張って。」
「生徒会長って立場を利用して。」
「穂乃果達の活動を、諦めさせようとしていた事があったの。」
「…」
「その時に、希が。」
「…私を、救ってくれたの。」
「自分の殻に閉じこもって、周りを見ようともしていなかった。」
「思い通りにならない現実に、辟易してた私に。」
「…貴女が、希望を見せてくれたの。」
「絵里ちゃん…」
そう語る絵里ちゃんの顔は、はっきりと見えなかった
でも、どこか、悲しそうで…
「μ'sに入るまでは、変な意地を張って。」
「生徒会長って立場を利用して。」
「穂乃果達の活動を、諦めさせようとしていた事があったの。」
「…」
「その時に、希が。」
「…私を、救ってくれたの。」
「自分の殻に閉じこもって、周りを見ようともしていなかった。」
「思い通りにならない現実に、辟易してた私に。」
「…貴女が、希望を見せてくれたの。」
「絵里ちゃん…」
そう語る絵里ちゃんの顔は、はっきりと見えなかった
でも、どこか、悲しそうで…
131: 2015/05/16(土) 22:48:54.42 ID:ldnI5HhC.net
「…ご飯、出来たわよ。」
にこちゃんに呼ばれて、はっと気付いた
さっきまでの空気は無くなって
部室で感じた、あたたかな雰囲気に変わっていた
「…さ、ご飯にしましょう?」
「うん。」
絵里ちゃんに促されて、リビングへ
にこちゃんが用意してくれた料理は
…とても、美味しそうで
「いいにおい…!」
「ほら、冷めるから早く座りなさい。」
目の前に並んだ料理から
にこちゃんも、私が元気になった事を
喜んでくれている、気がした
にこちゃんに呼ばれて、はっと気付いた
さっきまでの空気は無くなって
部室で感じた、あたたかな雰囲気に変わっていた
「…さ、ご飯にしましょう?」
「うん。」
絵里ちゃんに促されて、リビングへ
にこちゃんが用意してくれた料理は
…とても、美味しそうで
「いいにおい…!」
「ほら、冷めるから早く座りなさい。」
目の前に並んだ料理から
にこちゃんも、私が元気になった事を
喜んでくれている、気がした
132: 2015/05/16(土) 22:49:25.87 ID:ldnI5HhC.net
-----
「…それじゃ、また明日ね。」
「うん。」
「2人とも、遅くまでありがとう。」
夜は9時を回ったあたり
2人にお礼を言って、玄関に鍵をかける
美味しいにこちゃんのご飯を頂いて
今までにあった思い出話を聞いて
まだ、何も思い出せてはいないけど
とても、楽しい時間だった
…少なくとも、私はそう感じた
「…ふう。」
部屋に戻って、ソファに座る
「…それじゃ、また明日ね。」
「うん。」
「2人とも、遅くまでありがとう。」
夜は9時を回ったあたり
2人にお礼を言って、玄関に鍵をかける
美味しいにこちゃんのご飯を頂いて
今までにあった思い出話を聞いて
まだ、何も思い出せてはいないけど
とても、楽しい時間だった
…少なくとも、私はそう感じた
「…ふう。」
部屋に戻って、ソファに座る
133: 2015/05/16(土) 22:50:20.55 ID:ldnI5HhC.net
「…なんだか、知らない部屋みたい。」
場所も、荷物も
自分のものではある
…当たり前の事だけど
それでも、どこか手を出しにくくて
結局、タンスの奥にあった
ここに来た当初に着ていたパジャマを、引っ張りだす
「下着は…仕方ない、か。」
流石に、昔の物は残ってないみたい
「安物だったからかなあ…?」
手に取ったそれを見ていると
大きくなっていた事に気がついた
「…なるほど。」
つまり、入らなくて捨てたんだ
場所も、荷物も
自分のものではある
…当たり前の事だけど
それでも、どこか手を出しにくくて
結局、タンスの奥にあった
ここに来た当初に着ていたパジャマを、引っ張りだす
「下着は…仕方ない、か。」
流石に、昔の物は残ってないみたい
「安物だったからかなあ…?」
手に取ったそれを見ていると
大きくなっていた事に気がついた
「…なるほど。」
つまり、入らなくて捨てたんだ
134: 2015/05/16(土) 22:50:46.27 ID:ldnI5HhC.net
-----
「…」
お風呂に浸かって、天井を見上げる
思ったよりも、体は疲れていたみたい
…それもそうか
いくら、友達だからとは言え
私は、覚えていないのだから
向けられた好意に、疲労を感じてしまう
それも、仕方の無い事だけれど
どうしても、申し訳なくなる
「変わらないとなあ…」
そう呟いて、気付く
変わる必要があるのだろうか
…思い出さないといけないのに
「…」
お風呂に浸かって、天井を見上げる
思ったよりも、体は疲れていたみたい
…それもそうか
いくら、友達だからとは言え
私は、覚えていないのだから
向けられた好意に、疲労を感じてしまう
それも、仕方の無い事だけれど
どうしても、申し訳なくなる
「変わらないとなあ…」
そう呟いて、気付く
変わる必要があるのだろうか
…思い出さないといけないのに
135: 2015/05/16(土) 22:51:11.92 ID:ldnI5HhC.net
-----
「…おやすみなさい。」
豆電球を残して、ライトを消す
…なんだか、真っ暗は怖いから
もぞもぞと布団に入って
今日の事を思い出す
「みんな…優しかったなあ…」
何も分からない私のために
みんな、動いてくれて
とても、嬉しかった
「明日から、頑張らないと。」
記憶の事もそうだけど
部活の事で、迷惑はかけられない
「…おやすみなさい。」
豆電球を残して、ライトを消す
…なんだか、真っ暗は怖いから
もぞもぞと布団に入って
今日の事を思い出す
「みんな…優しかったなあ…」
何も分からない私のために
みんな、動いてくれて
とても、嬉しかった
「明日から、頑張らないと。」
記憶の事もそうだけど
部活の事で、迷惑はかけられない
136: 2015/05/16(土) 22:51:54.02 ID:ldnI5HhC.net
「でも、私がダンスなんて…」
何度考えても、納得できない
でも、にこちゃんが言ってたように
私が、2年になった時に変わったのなら
…本当に、変われたのかな
ううん、変わってないとおかしい
だって、そうでもなきゃ、説明できないくらいに
現在の『私』の周りには
私の欲しかった物が、溢れていたから
「もう…限界…」
眠気がピークに達して、考えがまとまらなくなってきた
目を閉じて、意識が途切れる直前
ある、ひとつの懸念が頭をよぎる
だけどそれを脳が自覚するよりも前に
…私は、意識を手放した
何度考えても、納得できない
でも、にこちゃんが言ってたように
私が、2年になった時に変わったのなら
…本当に、変われたのかな
ううん、変わってないとおかしい
だって、そうでもなきゃ、説明できないくらいに
現在の『私』の周りには
私の欲しかった物が、溢れていたから
「もう…限界…」
眠気がピークに達して、考えがまとまらなくなってきた
目を閉じて、意識が途切れる直前
ある、ひとつの懸念が頭をよぎる
だけどそれを脳が自覚するよりも前に
…私は、意識を手放した
138: 2015/05/16(土) 23:07:41.96 ID:ldnI5HhC.net
-----
「…これで、いいのかな?」
次の日
昨日、にこちゃん達に言われた荷物をまとめる
今日は土曜日だから、学校は無くて
代わりに、お昼から一日、ダンスの練習みたい
「本当に、踊れるのかなあ…?」
そんな不安を振り切るように
首を横に振ってごまかす
「…やらないと。」
そうじゃないと
また、みんなに迷惑をかけるから
「…行こう。」
一人でいると、考え込んでしまいそうで
背中に迫る暗い何かから
逃げるように、家を後にした
「…これで、いいのかな?」
次の日
昨日、にこちゃん達に言われた荷物をまとめる
今日は土曜日だから、学校は無くて
代わりに、お昼から一日、ダンスの練習みたい
「本当に、踊れるのかなあ…?」
そんな不安を振り切るように
首を横に振ってごまかす
「…やらないと。」
そうじゃないと
また、みんなに迷惑をかけるから
「…行こう。」
一人でいると、考え込んでしまいそうで
背中に迫る暗い何かから
逃げるように、家を後にした
139: 2015/05/16(土) 23:08:37.90 ID:ldnI5HhC.net
-----
「うう…」
寒い風が、足下を通り過ぎる
年が明けたとは言え
まだまだ、冬が残ってるみたい
…なにより
最後の記憶では、まだ夏だったから
季節が急に逆転したみたい
それでも、通学路の街路樹には
春に咲くための準備をしている、桜の木が
「卒業…か。」
実感がまるで無い
そもそも、こんな状態で卒業して、大丈夫なのかな
…悩みは、尽きる事はなさそう
「うう…」
寒い風が、足下を通り過ぎる
年が明けたとは言え
まだまだ、冬が残ってるみたい
…なにより
最後の記憶では、まだ夏だったから
季節が急に逆転したみたい
それでも、通学路の街路樹には
春に咲くための準備をしている、桜の木が
「卒業…か。」
実感がまるで無い
そもそも、こんな状態で卒業して、大丈夫なのかな
…悩みは、尽きる事はなさそう
140: 2015/05/16(土) 23:09:12.28 ID:ldnI5HhC.net
「おーい、希ちゃーん!」
並木道を進んでいると
後ろから、声がかかった
この、元気な声は…
「おはよ、希ちゃん。」
「おはよう、凛ちゃん。」
やっぱり、凛ちゃんだ
後から遅れて、花陽ちゃんも走ってくる
「はあ…はあ…」
「凛ちゃん、急に走り出したら危ないよ…」
「…はあ。」
「おはよう、希ちゃん。」
息を整えた、花陽ちゃんと挨拶する
並木道を進んでいると
後ろから、声がかかった
この、元気な声は…
「おはよ、希ちゃん。」
「おはよう、凛ちゃん。」
やっぱり、凛ちゃんだ
後から遅れて、花陽ちゃんも走ってくる
「はあ…はあ…」
「凛ちゃん、急に走り出したら危ないよ…」
「…はあ。」
「おはよう、希ちゃん。」
息を整えた、花陽ちゃんと挨拶する
141: 2015/05/16(土) 23:09:49.73 ID:ldnI5HhC.net
「2人とも、仲いいんだね。」
「もちろんにゃ!」
「だって凛達、幼なじみだもん。」
「かよちんの事なら、何でも知ってるよ?」
「ふふっ…そっか。」
「何だか、羨ましいね。」
そう言うと、凛ちゃんは不思議そうな顔をする
「希ちゃんも、そうだよ?」
「にこちゃんと絵里ちゃんと、すっごく仲良しだったから。」
「…そっか。」
花陽ちゃんに言われたけど
やっぱり、何も覚えてはいなくて…
「もちろんにゃ!」
「だって凛達、幼なじみだもん。」
「かよちんの事なら、何でも知ってるよ?」
「ふふっ…そっか。」
「何だか、羨ましいね。」
そう言うと、凛ちゃんは不思議そうな顔をする
「希ちゃんも、そうだよ?」
「にこちゃんと絵里ちゃんと、すっごく仲良しだったから。」
「…そっか。」
花陽ちゃんに言われたけど
やっぱり、何も覚えてはいなくて…
142: 2015/05/16(土) 23:10:14.96 ID:ldnI5HhC.net
「…でも、なんだか不思議な感じだね。」
「凛ちゃん…?」
「希ちゃん、いつもと喋り方が違うから。」
「喋り方…?」
「いつもはね、なんて言うか…」
「関西弁?っぽい喋り方なんだよ?」
「関西弁…」
「それと、自分の事も私じゃなくて、ウチって言ってたよ。」
「…」
関西弁…
ウチ…?
なんだろう…この感じ
なにか、忘れちゃいけないような…
「凛ちゃん…?」
「希ちゃん、いつもと喋り方が違うから。」
「喋り方…?」
「いつもはね、なんて言うか…」
「関西弁?っぽい喋り方なんだよ?」
「関西弁…」
「それと、自分の事も私じゃなくて、ウチって言ってたよ。」
「…」
関西弁…
ウチ…?
なんだろう…この感じ
なにか、忘れちゃいけないような…
143: 2015/05/16(土) 23:10:53.95 ID:ldnI5HhC.net
「…希ちゃん?」
「…!」
「ああ、ごめんね。」
「何か、思い出したの?」
「…ごめん、花陽ちゃん。」
「まだ、何とも。」
「あ、その…急かしてる訳じゃ、ないから。」
「…無理は、しないでね?」
「…うん、ありがと。」
「でも大丈夫。」
「なんだか…」
「2人の話聞いてて。」
「なにか、思い出せそうな気がしたから。」
「…!」
「ああ、ごめんね。」
「何か、思い出したの?」
「…ごめん、花陽ちゃん。」
「まだ、何とも。」
「あ、その…急かしてる訳じゃ、ないから。」
「…無理は、しないでね?」
「…うん、ありがと。」
「でも大丈夫。」
「なんだか…」
「2人の話聞いてて。」
「なにか、思い出せそうな気がしたから。」
144: 2015/05/16(土) 23:11:25.03 ID:ldnI5HhC.net
「ほんと!?」
凛ちゃんが、すごく嬉しそうな顔をする
「うん、ほんと。」
「まだ、はっきりとはだけど…」
「ううん、よかったにゃ!!」
「きっと、すぐ思い出すよ!」
「…うん、そうだと思う。」
花陽ちゃんも、そう言ってくれる
「ありがとう、2人とも。」
「それじゃ、早速いこっか♪」
2人と学校に向かいながら
さっきの事を、思い出そうとする
…関西弁、か
凛ちゃんが、すごく嬉しそうな顔をする
「うん、ほんと。」
「まだ、はっきりとはだけど…」
「ううん、よかったにゃ!!」
「きっと、すぐ思い出すよ!」
「…うん、そうだと思う。」
花陽ちゃんも、そう言ってくれる
「ありがとう、2人とも。」
「それじゃ、早速いこっか♪」
2人と学校に向かいながら
さっきの事を、思い出そうとする
…関西弁、か
149: 2015/05/17(日) 06:57:49.62 ID:tpk/GxcD.net
-----
「…っと。」
演奏が終わって
みんなの方を見る
「どう…かな?」
「ハラショー…」
「す、凄いよ希ちゃん!」
「ほんと!」
「一回見せただけだったのに…」
「…うん。」
「私も…不思議な感じ。」
「考えずに動けたっていうか…」
「…覚えてた?」
「…っと。」
演奏が終わって
みんなの方を見る
「どう…かな?」
「ハラショー…」
「す、凄いよ希ちゃん!」
「ほんと!」
「一回見せただけだったのに…」
「…うん。」
「私も…不思議な感じ。」
「考えずに動けたっていうか…」
「…覚えてた?」
150: 2015/05/17(日) 06:58:17.72 ID:tpk/GxcD.net
「…やはり、予想通りでしたね。」
「ずっとみんなとやって来たんですから。」
「思い出せなくても、体に染み付いているんでしょう。」
「体に…」
学校について、練習儀に着替えて
海未ちゃん達の説明を受けながら、踊ってみた
説明を聞いてるだけだと
難しすぎて、無理だと思っていた事が
曲を流してみると、すんなり踊れて
…まるで、自分の体じゃないみたいに
私の足は、ステップを踏んで
指先まで、意識が届く
「…楽しい。」
「ずっとみんなとやって来たんですから。」
「思い出せなくても、体に染み付いているんでしょう。」
「体に…」
学校について、練習儀に着替えて
海未ちゃん達の説明を受けながら、踊ってみた
説明を聞いてるだけだと
難しすぎて、無理だと思っていた事が
曲を流してみると、すんなり踊れて
…まるで、自分の体じゃないみたいに
私の足は、ステップを踏んで
指先まで、意識が届く
「…楽しい。」
151: 2015/05/17(日) 06:58:41.04 ID:tpk/GxcD.net
「うんうん♪」
「これなら、問題なさそうだね。」
「…みたいね。」
「ダンスすら覚えてなかったら、どうしようかと思ったわ。」
「あ…そっか…」
それすら出来ないと、私…
「気にしなくていいの。」
「真姫ちゃん…」
「実際、こうして踊れたんだから。」
「歌も、きっと大丈夫。」
「…それに。」
「体が覚えてるんだもの。」
「心も、すぐに思い出すわ。」
「…うん。」
そうだと…いいな
「これなら、問題なさそうだね。」
「…みたいね。」
「ダンスすら覚えてなかったら、どうしようかと思ったわ。」
「あ…そっか…」
それすら出来ないと、私…
「気にしなくていいの。」
「真姫ちゃん…」
「実際、こうして踊れたんだから。」
「歌も、きっと大丈夫。」
「…それに。」
「体が覚えてるんだもの。」
「心も、すぐに思い出すわ。」
「…うん。」
そうだと…いいな
152: 2015/05/17(日) 06:59:26.29 ID:tpk/GxcD.net
「でも、無理はしちゃだめだよ?」
「体壊しちゃ、意味ないからさ!」
「穂乃果が、それを言いますか…」
「ほ、穂乃果はもう大丈夫だもん!」
「…?」
「ああ、いえ。」
「とにかく、無理はしないように。」
「何かあったら、言って下さいね?」
「…ありがと、海未ちゃん。」
「…よしっ。」
「それじゃ、今度は発声練習を…」
穂乃果ちゃんが、プレーヤーを持ってくる
「…あ。」
「体壊しちゃ、意味ないからさ!」
「穂乃果が、それを言いますか…」
「ほ、穂乃果はもう大丈夫だもん!」
「…?」
「ああ、いえ。」
「とにかく、無理はしないように。」
「何かあったら、言って下さいね?」
「…ありがと、海未ちゃん。」
「…よしっ。」
「それじゃ、今度は発声練習を…」
穂乃果ちゃんが、プレーヤーを持ってくる
「…あ。」
153: 2015/05/17(日) 06:59:49.29 ID:tpk/GxcD.net
~♪
「…!」
プレーヤーから、流れるメロディに
体が、ピクッと反応する
「…ごめんごめん。」
「間違えて、再生しちゃっ…」
「待って!!」
「…希ちゃん?」
…聞いた事がある曲調に
何かが、頭をよぎった
「…」
「届けて…切なさ…には…」
「名前を…つけようか。」
「スノーハレーション…」
「…!」
プレーヤーから、流れるメロディに
体が、ピクッと反応する
「…ごめんごめん。」
「間違えて、再生しちゃっ…」
「待って!!」
「…希ちゃん?」
…聞いた事がある曲調に
何かが、頭をよぎった
「…」
「届けて…切なさ…には…」
「名前を…つけようか。」
「スノーハレーション…」
154: 2015/05/17(日) 07:00:20.10 ID:tpk/GxcD.net
「希…?」
「これ…知ってる…」
「何でか、分からないけど…」
頭に浮かぶ、歌詞をなぞる
どうしてかは分からないけど
言葉に出さなきゃいけない
…そんな気がした
「希…貴女…」
「…なんでかな。」
「体が…熱くなるの。」
もっと、踊りたい
もっと、歌いたい…って
「好き…?」
「これ…知ってる…」
「何でか、分からないけど…」
頭に浮かぶ、歌詞をなぞる
どうしてかは分からないけど
言葉に出さなきゃいけない
…そんな気がした
「希…貴女…」
「…なんでかな。」
「体が…熱くなるの。」
もっと、踊りたい
もっと、歌いたい…って
「好き…?」
155: 2015/05/17(日) 07:01:00.36 ID:tpk/GxcD.net
「なにか思い出したの!?」
穂乃果ちゃんの言葉に、はっと気がつく
「え…?」
「あの日の事、思い出したの?」
「あの日…?」
「…その様子だと、まだみたいね。」
「…ごめん。」
「いいのよ。」
「少しでも、何か思い出すきっかけに、なったのなら。」
「…うん。」
「頑張って、思い出すから。」
「…お願いね。」
穂乃果ちゃんの言葉に、はっと気がつく
「え…?」
「あの日の事、思い出したの?」
「あの日…?」
「…その様子だと、まだみたいね。」
「…ごめん。」
「いいのよ。」
「少しでも、何か思い出すきっかけに、なったのなら。」
「…うん。」
「頑張って、思い出すから。」
「…お願いね。」
156: 2015/05/17(日) 07:01:32.06 ID:tpk/GxcD.net
-----
あれから数日経って
ダンスは、何度か教えてもらいながら
ほぼ完璧に、踊れるようになった
歌も、プレーヤーで何度も聞き返して
歌詞を暗記した
歌う事自体は、思ったよりもすぐに出来て
みんなに、喜んでもらえた
…それでも
ふと口ずさむのは、あの歌
---Snow halation
…一体、私は
この歌に、どんな思い入れがあるんだろう
絵里ちゃんの言ってた、『あの日』
…そこに、何かがある気がする
あれから数日経って
ダンスは、何度か教えてもらいながら
ほぼ完璧に、踊れるようになった
歌も、プレーヤーで何度も聞き返して
歌詞を暗記した
歌う事自体は、思ったよりもすぐに出来て
みんなに、喜んでもらえた
…それでも
ふと口ずさむのは、あの歌
---Snow halation
…一体、私は
この歌に、どんな思い入れがあるんだろう
絵里ちゃんの言ってた、『あの日』
…そこに、何かがある気がする
157: 2015/05/17(日) 07:02:08.74 ID:tpk/GxcD.net
「…ごめんね、練習終わりに。」
「別に、気にしないで。」
「希の記憶を戻すためなら、何だってする。」
「…約束したでしょ?」
「…うん。」
「ありがとう、真姫ちゃん。」
「…それで?」
「何が聞きたいの?」
「…前に、絵里ちゃんが言ってた、『あの日』の事。」
「もし知ってるなら、教えてほしいの。」
「…分かった。」
「あれは、去年の終わり頃。」
「初めて希が、想いを口にしてくれた日…」
「別に、気にしないで。」
「希の記憶を戻すためなら、何だってする。」
「…約束したでしょ?」
「…うん。」
「ありがとう、真姫ちゃん。」
「…それで?」
「何が聞きたいの?」
「…前に、絵里ちゃんが言ってた、『あの日』の事。」
「もし知ってるなら、教えてほしいの。」
「…分かった。」
「あれは、去年の終わり頃。」
「初めて希が、想いを口にしてくれた日…」
161: 2015/05/17(日) 21:43:22.52 ID:tpk/GxcD.net
-----
「…そんな事があったんだね。」
「あの日、初めて希は私達に夢を話してくれた。」
「みんなと出会った事。」
「ここまで来れた想いを、形にしたい。」
「そんな希の想いを…みんなの想いを、ひとつにしたのが。」
「…この曲だったの。」
「…そっか。」
「やっぱり…私じゃないみたい。」
「希…」
「ありがとう、真姫ちゃん。」
「私には、知らない事が多すぎるから。」
「…みんなに、迷惑はかけたくないの。」
「…そんな事があったんだね。」
「あの日、初めて希は私達に夢を話してくれた。」
「みんなと出会った事。」
「ここまで来れた想いを、形にしたい。」
「そんな希の想いを…みんなの想いを、ひとつにしたのが。」
「…この曲だったの。」
「…そっか。」
「やっぱり…私じゃないみたい。」
「希…」
「ありがとう、真姫ちゃん。」
「私には、知らない事が多すぎるから。」
「…みんなに、迷惑はかけたくないの。」
162: 2015/05/17(日) 21:44:15.17 ID:tpk/GxcD.net
「…ほんとはね。」
「早く、思い出したい。」
「みんなの知ってる私を、早く返してあげたい。」
「…そうは思っているんだけど。」
「思い出せないのが、歯がゆくて。」
「みんな、記憶を失くした私にも、とても良くしてくれてる。」
「それは、今まで『私』として過ごして来たからかも知れないけど。」
「それでも…やっぱり、嬉しいんだ。」
「…ねえ、希。」
「何?真姫ちゃん。」
「今は…幸せ?」
「早く、思い出したい。」
「みんなの知ってる私を、早く返してあげたい。」
「…そうは思っているんだけど。」
「思い出せないのが、歯がゆくて。」
「みんな、記憶を失くした私にも、とても良くしてくれてる。」
「それは、今まで『私』として過ごして来たからかも知れないけど。」
「それでも…やっぱり、嬉しいんだ。」
「…ねえ、希。」
「何?真姫ちゃん。」
「今は…幸せ?」
163: 2015/05/17(日) 21:45:08.36 ID:tpk/GxcD.net
「幸せ…かあ…」
「うん、そうだね。」
「友達と、こうしてお話しして、過ごせた事は今まで無かったから。」
「…多分、幸せなんだと思う。」
「…そう。」
「あ、でも、このままが良いとかじゃなくてね?」
「ちゃんと、思い出したいんだよ?」
「みんなに、迷惑かけちゃってるし…」
「…」
「…でも。」
「それでも…」
「憧れてた、毎日だから。」
「…そうね。」
「うん、そうだね。」
「友達と、こうしてお話しして、過ごせた事は今まで無かったから。」
「…多分、幸せなんだと思う。」
「…そう。」
「あ、でも、このままが良いとかじゃなくてね?」
「ちゃんと、思い出したいんだよ?」
「みんなに、迷惑かけちゃってるし…」
「…」
「…でも。」
「それでも…」
「憧れてた、毎日だから。」
「…そうね。」
164: 2015/05/17(日) 21:45:54.55 ID:tpk/GxcD.net
-----
「…で、次は私の所に来たわけ?」
「うん。」
「にこちゃんとは、話しやすいから。」
「…ま、唯一知ってたのがにこだしね。」
「それで、何が聞きたいの?」
「私の…話し方。」
「どんな風に話してたとか、言葉使いとか。」
「…思い出すきっかけに、なるかもしれないから。」
数日前、真姫ちゃんと話して
やっぱり、思い出すためには知る事が必要だと思った
待ってるだけじゃ、きっと思い出せないから
思い出すために、何かしないと
「…どうせ、みんなの為に、とか考えてるんでしょ?」
「…え?」
「…で、次は私の所に来たわけ?」
「うん。」
「にこちゃんとは、話しやすいから。」
「…ま、唯一知ってたのがにこだしね。」
「それで、何が聞きたいの?」
「私の…話し方。」
「どんな風に話してたとか、言葉使いとか。」
「…思い出すきっかけに、なるかもしれないから。」
数日前、真姫ちゃんと話して
やっぱり、思い出すためには知る事が必要だと思った
待ってるだけじゃ、きっと思い出せないから
思い出すために、何かしないと
「…どうせ、みんなの為に、とか考えてるんでしょ?」
「…え?」
165: 2015/05/17(日) 21:46:40.68 ID:tpk/GxcD.net
「記憶を失ったままじゃ、みんなに迷惑をかける。」
「そんな事、思ってたんでしょ?」
「…すごいね、にこちゃん。」
「そういう所は、変わらないみたいね。」
「真姫から、あの日の事聞いたんでしょ?」
「希は、それまでずっと誰かのために動いてたから。」
「…自分の事なんて、二の次で。」
「きっと、忘れているとしても。」
「そこだけは、変わらないみたいね。」
「そう…なのかな。」
そう言ってもらえるのは、嬉しいけど
…きっと、そんな高尚なものじゃないんだよ
だって、私は…
「そんな事、思ってたんでしょ?」
「…すごいね、にこちゃん。」
「そういう所は、変わらないみたいね。」
「真姫から、あの日の事聞いたんでしょ?」
「希は、それまでずっと誰かのために動いてたから。」
「…自分の事なんて、二の次で。」
「きっと、忘れているとしても。」
「そこだけは、変わらないみたいね。」
「そう…なのかな。」
そう言ってもらえるのは、嬉しいけど
…きっと、そんな高尚なものじゃないんだよ
だって、私は…
166: 2015/05/17(日) 21:47:09.38 ID:tpk/GxcD.net
「…で、希の話し方だけど。」
「あ、うん。」
「基本的には、意味深な感じね。」
「あと、エセ関西弁。」
「…具体的には?」
「そうね、例えば…」
にこちゃんに言われた、自分の特徴
それを手帳に書きとめる
自分の事を他人に聞くのは変な気分だけど
少しでも何か思い出せれば
そんな思いで、ペンを走らせる
「…こんな所かしら。」
「…難しいね。」
「あ、うん。」
「基本的には、意味深な感じね。」
「あと、エセ関西弁。」
「…具体的には?」
「そうね、例えば…」
にこちゃんに言われた、自分の特徴
それを手帳に書きとめる
自分の事を他人に聞くのは変な気分だけど
少しでも何か思い出せれば
そんな思いで、ペンを走らせる
「…こんな所かしら。」
「…難しいね。」
167: 2015/05/17(日) 21:47:38.45 ID:tpk/GxcD.net
書きとめたそれを見返す度に
なんだか、私じゃないように感じる
…どうして、私は
こんな風になったのかな?
「…なにか、質問ある?」
「うーん…」
「そう言えば。」
「よく希は、みんなの様子をビデオに撮ってたから。」
「探せば、希の声が入ってるのもあるんじゃないかしら?」
「ビデオ?」
「ひとつの、趣味みたいな物よ。」
「他にも、写真を撮るのも好きって言ってたわね。」
「確か、お父さんにもらったカメラがあるとか…」
なんだか、私じゃないように感じる
…どうして、私は
こんな風になったのかな?
「…なにか、質問ある?」
「うーん…」
「そう言えば。」
「よく希は、みんなの様子をビデオに撮ってたから。」
「探せば、希の声が入ってるのもあるんじゃないかしら?」
「ビデオ?」
「ひとつの、趣味みたいな物よ。」
「他にも、写真を撮るのも好きって言ってたわね。」
「確か、お父さんにもらったカメラがあるとか…」
168: 2015/05/17(日) 21:48:17.48 ID:tpk/GxcD.net
「生徒会の活動で、部活紹介のビデオを撮った事もあったから。」
「そんなのに関しては、生徒会室にあるんじゃないかしら。」
「私は流石に、関係者じゃ無いから入れないけど。」
「元生徒会役員のアンタなら、大丈夫でしょ。」
…そっか
映像が残っていれば、知る事が出来るし
なにより、思い出せるかもしれない
「ありがと、にこちゃん。」
「早速、調べてみるね。」
にこちゃんにそう告げて、席を立つ
「…ねえ、希。」
「…?」
「記憶…早く、取り戻したい?」
「そんなのに関しては、生徒会室にあるんじゃないかしら。」
「私は流石に、関係者じゃ無いから入れないけど。」
「元生徒会役員のアンタなら、大丈夫でしょ。」
…そっか
映像が残っていれば、知る事が出来るし
なにより、思い出せるかもしれない
「ありがと、にこちゃん。」
「早速、調べてみるね。」
にこちゃんにそう告げて、席を立つ
「…ねえ、希。」
「…?」
「記憶…早く、取り戻したい?」
169: 2015/05/17(日) 21:48:49.10 ID:tpk/GxcD.net
「…?」
「うん、もちろん。」
「早く記憶を戻して。」
「みんなの事、思い出したい。」
「今までの私にはいなかった、ともだちだから」
「…無理するんじゃないわよ?」
「…うん、ありがとう。」
「それじゃ、行くね?」
にこちゃんと別れて、学校に向かう
この時間なら、まだ開いてるはず
記憶を戻す手がかりを見つけた私は、走り出した
気付かなければいけなかった現実に、背を向けて
「うん、もちろん。」
「早く記憶を戻して。」
「みんなの事、思い出したい。」
「今までの私にはいなかった、ともだちだから」
「…無理するんじゃないわよ?」
「…うん、ありがとう。」
「それじゃ、行くね?」
にこちゃんと別れて、学校に向かう
この時間なら、まだ開いてるはず
記憶を戻す手がかりを見つけた私は、走り出した
気付かなければいけなかった現実に、背を向けて
170: 2015/05/17(日) 22:00:05.68 ID:tpk/GxcD.net
-----
「…」
家に帰って、見つけたそれを再生する
ハンディカムに映る、μ'sのみんなと
それを撮っている、私
「これが…私?」
聞こえてくる声は、確かに私の声
でも、例えば口調であったり
話し方であったり、態度であったり
そのどれもが、私じゃない『誰か』
真姫ちゃんの言ってた事が、分かる気がする
この『私』は、気持ちを隠してる
…そんな、話し方
「やっぱり…私じゃないみたい。」
「…」
家に帰って、見つけたそれを再生する
ハンディカムに映る、μ'sのみんなと
それを撮っている、私
「これが…私?」
聞こえてくる声は、確かに私の声
でも、例えば口調であったり
話し方であったり、態度であったり
そのどれもが、私じゃない『誰か』
真姫ちゃんの言ってた事が、分かる気がする
この『私』は、気持ちを隠してる
…そんな、話し方
「やっぱり…私じゃないみたい。」
171: 2015/05/17(日) 22:00:55.45 ID:tpk/GxcD.net
…変な話
自分が喋っているのに
それを聞いた自分が、自分じゃないと感じるなんて
「…一体、私に何があったんだろう。」
にこちゃんの話だと、私は2年に上がる時に変わって
その後は、お互い色々あってほとんど話せなくて
改めてちゃんと話した時には、もう…
「…そっか。」
それを知ってるのは
変わってから、みんなと出会うまでの私を、知ってるのは…
…絵里ちゃん
「でも…」
自分が喋っているのに
それを聞いた自分が、自分じゃないと感じるなんて
「…一体、私に何があったんだろう。」
にこちゃんの話だと、私は2年に上がる時に変わって
その後は、お互い色々あってほとんど話せなくて
改めてちゃんと話した時には、もう…
「…そっか。」
それを知ってるのは
変わってから、みんなと出会うまでの私を、知ってるのは…
…絵里ちゃん
「でも…」
172: 2015/05/17(日) 22:01:40.70 ID:tpk/GxcD.net
記憶を失くして、1週間とちょっと経った
最初の頃は、私を気にかけてくれた絵里ちゃんだったけど
日が経つに連れて、どこか…
遠くを見る機会が、増えた気がする
それに何より、ここ2・3日
…私は、ほとんど会話をしていなかった
「いつから…?」
凛ちゃんと花陽ちゃんが、言っていたのが本当なら
私が一番仲良かったのは、にこちゃんと絵里ちゃん
特に絵里ちゃんとは、2年間一緒に生徒会にいた
…なら、一番仲がいいと言っても間違いは無いと思う
それこそ、目を覚ましたときは
あんなに心配してくれていたのだから
最初の頃は、私を気にかけてくれた絵里ちゃんだったけど
日が経つに連れて、どこか…
遠くを見る機会が、増えた気がする
それに何より、ここ2・3日
…私は、ほとんど会話をしていなかった
「いつから…?」
凛ちゃんと花陽ちゃんが、言っていたのが本当なら
私が一番仲良かったのは、にこちゃんと絵里ちゃん
特に絵里ちゃんとは、2年間一緒に生徒会にいた
…なら、一番仲がいいと言っても間違いは無いと思う
それこそ、目を覚ましたときは
あんなに心配してくれていたのだから
173: 2015/05/17(日) 22:02:09.32 ID:tpk/GxcD.net
「何か…おかしい。」
でも、何がおかしいのか分からない
私が、何も思い出せていないから?
「どうしたらいいんだろ…」
どうして私は、思い出せないのか
何度病院に通っても、答えは同じで
もしかしたら、ずっと戻らないかも、なんて
「戻らなかったら…」
私は、どうすればいいんだろう?
何も思い出せない私は
彼女達の目にどう映っているんだろう
希ちゃん、と呼んでくれたみんな
笑顔を見せてくれているのは
私になのか
それとも---『私』になのか
でも、何がおかしいのか分からない
私が、何も思い出せていないから?
「どうしたらいいんだろ…」
どうして私は、思い出せないのか
何度病院に通っても、答えは同じで
もしかしたら、ずっと戻らないかも、なんて
「戻らなかったら…」
私は、どうすればいいんだろう?
何も思い出せない私は
彼女達の目にどう映っているんだろう
希ちゃん、と呼んでくれたみんな
笑顔を見せてくれているのは
私になのか
それとも---『私』になのか
174: 2015/05/17(日) 22:18:19.84 ID:tpk/GxcD.net
-----
「…おまたせ、にこちゃん。」
「希は?」
「帰ったわ。」
「いきなり呼び出して、ごめんね。」
「…希の事?」
「…そうよ。」
「…」
「真姫ちゃんから見て…」
「希は、記憶が戻ると思う?」
「…!」
「何言って…」
「もちろん、戻ってほしい。」
「それは、全員が思ってるはずよ。」
「だったら…」
「…おまたせ、にこちゃん。」
「希は?」
「帰ったわ。」
「いきなり呼び出して、ごめんね。」
「…希の事?」
「…そうよ。」
「…」
「真姫ちゃんから見て…」
「希は、記憶が戻ると思う?」
「…!」
「何言って…」
「もちろん、戻ってほしい。」
「それは、全員が思ってるはずよ。」
「だったら…」
175: 2015/05/17(日) 22:18:50.18 ID:tpk/GxcD.net
「…私は。」
「今の希に、記憶が戻るとは思えない。」
「…!」
「恐らく、今のあの子は…希だけど希じゃない。」
「私は目を覚ました希を見て、昔に戻ったと言ったけれど。」
「そうじゃなかった。」
「…ううん。」
「実際、戻ってたんだと思う。」
「覚えていた事は、当時のままだったから。」
「…でも、厳密には違う。」
「戻った記憶に、今の記憶が継ぎ足されてる。」
「それって…」
「…おかしいと思ったのよ。」
「今の希に、記憶が戻るとは思えない。」
「…!」
「恐らく、今のあの子は…希だけど希じゃない。」
「私は目を覚ました希を見て、昔に戻ったと言ったけれど。」
「そうじゃなかった。」
「…ううん。」
「実際、戻ってたんだと思う。」
「覚えていた事は、当時のままだったから。」
「…でも、厳密には違う。」
「戻った記憶に、今の記憶が継ぎ足されてる。」
「それって…」
「…おかしいと思ったのよ。」
176: 2015/05/17(日) 22:19:33.91 ID:tpk/GxcD.net
「希は確かに、1年生の頃に戻った。」
「多分だけど、私が思っていた時期よりも。」
「数週間のズレがある。」
「…ここからは、憶測だけど。」
「過去に、希が変わるきっかけを作ったのは。」
「きっとこの、ズレた期間の中だったんだと思う。」
「変わらないといけない。」
「いつまでも、私といる訳にはいかない。」
「あの子がそう感じて、決意したのは、きっとこの間。」
「…もし、私の言う通りの事が起こってたとしたら。」
「…真姫ちゃんなら、分かるでしょ?」
「でも、それは…!」
「…」
「多分だけど、私が思っていた時期よりも。」
「数週間のズレがある。」
「…ここからは、憶測だけど。」
「過去に、希が変わるきっかけを作ったのは。」
「きっとこの、ズレた期間の中だったんだと思う。」
「変わらないといけない。」
「いつまでも、私といる訳にはいかない。」
「あの子がそう感じて、決意したのは、きっとこの間。」
「…もし、私の言う通りの事が起こってたとしたら。」
「…真姫ちゃんなら、分かるでしょ?」
「でも、それは…!」
「…」
177: 2015/05/17(日) 22:20:10.67 ID:tpk/GxcD.net
「…だって。」
「もし、そうだとしたら…」
「…真姫ちゃんの、考えてる通りよ。」
「そんな…」
「もしそれが事実なら、私達は考えなきゃいけない。」
「…私達の、これからの事を。」
「それに…」
「ひとつ、気になる事もあるしね。」
「…真姫ちゃんも、感じてるでしょ?」
「…」
「希…」
「もし、そうだとしたら…」
「…真姫ちゃんの、考えてる通りよ。」
「そんな…」
「もしそれが事実なら、私達は考えなきゃいけない。」
「…私達の、これからの事を。」
「それに…」
「ひとつ、気になる事もあるしね。」
「…真姫ちゃんも、感じてるでしょ?」
「…」
「希…」
178: 2015/05/17(日) 22:20:41.62 ID:tpk/GxcD.net
-----
…声が聞こえる
…私を呼ぶ、声が
目を開けると
いつか見た、あの世界
…ああ、またこの夢か
そう思って、辺りを見渡す
…いた
数メートル離れた所に
同じ姿をした、『私』
「…あの。」
口を開いて、気付いた
声が、出る
「あの、貴女は…」
目の前の『私』に、声をかける
「貴女は…『私』?」
…声が聞こえる
…私を呼ぶ、声が
目を開けると
いつか見た、あの世界
…ああ、またこの夢か
そう思って、辺りを見渡す
…いた
数メートル離れた所に
同じ姿をした、『私』
「…あの。」
口を開いて、気付いた
声が、出る
「あの、貴女は…」
目の前の『私』に、声をかける
「貴女は…『私』?」
179: 2015/05/17(日) 22:21:27.14 ID:tpk/GxcD.net
手を伸ばそうとして、知った
「…壁?」
ぴた、と手のひらをそれに当ててみる
透明な、ガラスの壁のような物が
私と、目の前の『私』の間にあった
「…ねえ、聞こえる?」
私の声が聞こえたのか
『私』は、こちらを見る
「 」
口を開いて、何かを言おうとする
…でも、やっぱり聞こえなくて
「貴女は、やっぱり私なの?」
「私は、どうしたらいいの?」
「何か…」
「…ッ。」
「何か教えてよ!!」
目の前の壁を、叩いた
「…壁?」
ぴた、と手のひらをそれに当ててみる
透明な、ガラスの壁のような物が
私と、目の前の『私』の間にあった
「…ねえ、聞こえる?」
私の声が聞こえたのか
『私』は、こちらを見る
「 」
口を開いて、何かを言おうとする
…でも、やっぱり聞こえなくて
「貴女は、やっぱり私なの?」
「私は、どうしたらいいの?」
「何か…」
「…ッ。」
「何か教えてよ!!」
目の前の壁を、叩いた
180: 2015/05/17(日) 22:22:16.77 ID:tpk/GxcD.net
けれど、それが届いたそぶりを見せずに
『私』は、地面に腰を下ろす
「私に…記憶は戻らないの?」
「みんなの事…思い出してあげられないの?」
「 」
「聞こえないよ…!」
何度声をかけても、答えは聞こえず、静寂だけ
「…」
膝から、崩れ落ちる
…私は、ここでも一人なのか
『私』が、壁に近付いてくる
そっと伸ばした手に、私の手を重ねる
「 」
「…え?」
『私』は、地面に腰を下ろす
「私に…記憶は戻らないの?」
「みんなの事…思い出してあげられないの?」
「 」
「聞こえないよ…!」
何度声をかけても、答えは聞こえず、静寂だけ
「…」
膝から、崩れ落ちる
…私は、ここでも一人なのか
『私』が、壁に近付いてくる
そっと伸ばした手に、私の手を重ねる
「 」
「…え?」
181: 2015/05/17(日) 22:23:27.82 ID:tpk/GxcD.net
-----
「ん…」
「あれ?」
「寝ちゃってた?」
携帯の画面に目を凝らすと
ビデオを見始めてから、1時間ほど
…どうやら、うたた寝をしてたみたい
「お腹すいた…」
そう言えば、にこちゃんと別れてから
何も食べてなかったなあ…
ひとまず顔を洗いに、洗面台へ
「…あれ?」
鏡に映った私の顔には
一筋の、涙の痕があった
「ん…」
「あれ?」
「寝ちゃってた?」
携帯の画面に目を凝らすと
ビデオを見始めてから、1時間ほど
…どうやら、うたた寝をしてたみたい
「お腹すいた…」
そう言えば、にこちゃんと別れてから
何も食べてなかったなあ…
ひとまず顔を洗いに、洗面台へ
「…あれ?」
鏡に映った私の顔には
一筋の、涙の痕があった
184: 2015/05/18(月) 07:07:28.49 ID:2QpkYo94.net
-----
あれから、また数日
部活紹介のビデオや
今までに撮り溜めていた映像
ケータイに残ってたメールのやりとりなんかから
…なんとなく
自分がどういう性格で、どんな話し方をしていたのか
少しずつ、理解し始めていた
…それでも、一向に記憶は戻らない
今までにあった事を
知識として、頭に詰め込む毎日
そして今日も、午前の授業が終わって、お昼休み
ご飯を食べた後、時間を持て余した私は、屋上に
あれから、また数日
部活紹介のビデオや
今までに撮り溜めていた映像
ケータイに残ってたメールのやりとりなんかから
…なんとなく
自分がどういう性格で、どんな話し方をしていたのか
少しずつ、理解し始めていた
…それでも、一向に記憶は戻らない
今までにあった事を
知識として、頭に詰め込む毎日
そして今日も、午前の授業が終わって、お昼休み
ご飯を食べた後、時間を持て余した私は、屋上に
185: 2015/05/18(月) 07:08:03.81 ID:2QpkYo94.net
「…で?」
「話って何かしら?」
「…分かってるんでしょ?」
屋上に出る扉の向こうから、声が聞こえる
風通しのためか、開け放している扉
その奥から、聞き慣れた声が聞こえた
…盗み聞きなんていけないと思いつつ
その声の主を知っているからこそ
そこに…足を踏み出す勇気が、無かった。
「…何の事?にこ。」
「絵里…」
「アンタの、希に対する態度についてよ。」
「話って何かしら?」
「…分かってるんでしょ?」
屋上に出る扉の向こうから、声が聞こえる
風通しのためか、開け放している扉
その奥から、聞き慣れた声が聞こえた
…盗み聞きなんていけないと思いつつ
その声の主を知っているからこそ
そこに…足を踏み出す勇気が、無かった。
「…何の事?にこ。」
「絵里…」
「アンタの、希に対する態度についてよ。」
186: 2015/05/18(月) 07:08:35.03 ID:2QpkYo94.net
「…」
「知らないとは、言わせないわよ。」
「ここ最近、ずっと希の事避けてるじゃない。」
「…どういうつもり?」
「むしろ、私が聞きたいわね。」
「にこ達こそ、どういうつもり?」
「どうして、彼女とそんなに仲良くできるの?」
「…は?」
絵里…ちゃん?
「当たり前でしょ?」
「希は、μ'sの…私達の仲間よ。」
「記憶を失くしてたって、今まで一緒に過ごして来た、ともだちでしょ!?」
「知らないとは、言わせないわよ。」
「ここ最近、ずっと希の事避けてるじゃない。」
「…どういうつもり?」
「むしろ、私が聞きたいわね。」
「にこ達こそ、どういうつもり?」
「どうして、彼女とそんなに仲良くできるの?」
「…は?」
絵里…ちゃん?
「当たり前でしょ?」
「希は、μ'sの…私達の仲間よ。」
「記憶を失くしてたって、今まで一緒に過ごして来た、ともだちでしょ!?」
187: 2015/05/18(月) 07:09:14.30 ID:2QpkYo94.net
「…本当に?」
「本当に…ともだちだと、思ってるの?」
「アンタ、何言って…」
「今の希は、私達の知ってる希じゃない。」
「それは、にこも感じている事のはずよ?」
「だからそれは、記憶が…!」
「嘘。」
「本当は、もう分かってるはず。」
「…彼女は、私達のともだちだった希じゃ無いって事を。」
「…」
「だから、記憶が戻れば…」
「…本当に、戻ると思う?」
「…!」
「本当に…ともだちだと、思ってるの?」
「アンタ、何言って…」
「今の希は、私達の知ってる希じゃない。」
「それは、にこも感じている事のはずよ?」
「だからそれは、記憶が…!」
「嘘。」
「本当は、もう分かってるはず。」
「…彼女は、私達のともだちだった希じゃ無いって事を。」
「…」
「だから、記憶が戻れば…」
「…本当に、戻ると思う?」
「…!」
188: 2015/05/18(月) 07:09:44.15 ID:2QpkYo94.net
「あの日から、1週間もたってる。」
「私だって、希の記憶が戻れば、なんて思ってた。」
「記憶が無くても、希は希だって。」
「そう…思いたかった。」
「…」
「でも、実際は。」
「日に日に、彼女は希じゃない『誰か』になっていった。」
「…それは、にこも気付いてるんでしょう?」
「なにより…」
「記憶が戻る事。」
「…彼女は、望んでるの?」
「それは…」
「…昔ね。」
「本で読んだ事があるの。」
「私だって、希の記憶が戻れば、なんて思ってた。」
「記憶が無くても、希は希だって。」
「そう…思いたかった。」
「…」
「でも、実際は。」
「日に日に、彼女は希じゃない『誰か』になっていった。」
「…それは、にこも気付いてるんでしょう?」
「なにより…」
「記憶が戻る事。」
「…彼女は、望んでるの?」
「それは…」
「…昔ね。」
「本で読んだ事があるの。」
189: 2015/05/18(月) 07:10:39.04 ID:2QpkYo94.net
「思い出は、その人の人生だって。」
「記憶が、その人をその人たらしめると。」
「それらが繋いだのが、人であって。」
「人との繋がりが、その人の性格を現す、って。」
「なら…」
「記憶の無い希は。」
「一体誰と、繋がっているのかしら?」
「絵里、アンタ…」
「正直、自分がこんな考えを持ってるなんて思わなかった。」
「希がいてくれればいい。」
「記憶が戻らなくても、それでも。」
「いつか、いつかきっと…って。」
「…でも、そうは思えなかった。」
「だって…」
「あれは、希じゃないもの。」
「記憶が、その人をその人たらしめると。」
「それらが繋いだのが、人であって。」
「人との繋がりが、その人の性格を現す、って。」
「なら…」
「記憶の無い希は。」
「一体誰と、繋がっているのかしら?」
「絵里、アンタ…」
「正直、自分がこんな考えを持ってるなんて思わなかった。」
「希がいてくれればいい。」
「記憶が戻らなくても、それでも。」
「いつか、いつかきっと…って。」
「…でも、そうは思えなかった。」
「だって…」
「あれは、希じゃないもの。」
190: 2015/05/18(月) 07:11:13.41 ID:2QpkYo94.net
-----
「…うっ。」
「おぇ…っ。」
思わず、トイレに駆け込んだ
さっきまでお腹の中にあった物を
全て吐き出す
「…げほっ。」
「はあ…」
出る物が無くなっても
吐き気は、止まらなかった
ただただ、胃液だけを吐いた
「はあ…はあ…」
空っぽになったお腹をさすって
顔を洗うために、外に出る
「…うっ。」
「おぇ…っ。」
思わず、トイレに駆け込んだ
さっきまでお腹の中にあった物を
全て吐き出す
「…げほっ。」
「はあ…」
出る物が無くなっても
吐き気は、止まらなかった
ただただ、胃液だけを吐いた
「はあ…はあ…」
空っぽになったお腹をさすって
顔を洗うために、外に出る
191: 2015/05/18(月) 07:11:44.60 ID:2QpkYo94.net
…気持ち悪い
口を濯いで、顔を洗う
顔を上げると
青白い顔の『私』と目が合った
「私は…一体、だれ?」
『貴女は、東條希。』
聞こえるはずの無い、声が聞こえる
『貴女は、μ'sの東條希。』
『それ以外に、居場所は無い。』
「…じゃあ、どうしたらいいの!?」
私が、『私』であるためには…
「…」
…そっか
口を濯いで、顔を洗う
顔を上げると
青白い顔の『私』と目が合った
「私は…一体、だれ?」
『貴女は、東條希。』
聞こえるはずの無い、声が聞こえる
『貴女は、μ'sの東條希。』
『それ以外に、居場所は無い。』
「…じゃあ、どうしたらいいの!?」
私が、『私』であるためには…
「…」
…そっか
192: 2015/05/18(月) 07:12:26.19 ID:2QpkYo94.net
「…なんだ。」
簡単な事だった
いつまで経っても、記憶が戻らないなら
…演じればいい
私じゃない、『私』として
変われないなら、無理にでも変えれば良い
やっと出来た居場所
ようやく手に入れた、友達
記憶が無くても、それを手に入れたのは、『私』だから
「…」
失う訳には、いかない
もうひとりには、なりたくないから
「ふふっ。」
「…よろしくな、『ウチ』。」
答えるはずのない鏡の中の『私』に
…そっと、笑顔を向けた
簡単な事だった
いつまで経っても、記憶が戻らないなら
…演じればいい
私じゃない、『私』として
変われないなら、無理にでも変えれば良い
やっと出来た居場所
ようやく手に入れた、友達
記憶が無くても、それを手に入れたのは、『私』だから
「…」
失う訳には、いかない
もうひとりには、なりたくないから
「ふふっ。」
「…よろしくな、『ウチ』。」
答えるはずのない鏡の中の『私』に
…そっと、笑顔を向けた
200: 2015/05/19(火) 00:10:07.61 ID:+F/NSPz4.net
-----
それから『ウチ』は
少しずつ…少しずつ
理想を現実にあてがっていく
誰にも気付かれちゃいけない
今まで戻らなかった物が
すぐに戻ってもおかしい
ただひたすら、薄氷の上を歩くように
みんなと接する自分を、塗り替えていく
「…おはよ、穂乃果ちゃん。」
「おはよう、希ちゃん。」
「今日は、遅刻しなかったね?」
「だ、大丈夫だもん…!」
「…あれ?」
それから『ウチ』は
少しずつ…少しずつ
理想を現実にあてがっていく
誰にも気付かれちゃいけない
今まで戻らなかった物が
すぐに戻ってもおかしい
ただひたすら、薄氷の上を歩くように
みんなと接する自分を、塗り替えていく
「…おはよ、穂乃果ちゃん。」
「おはよう、希ちゃん。」
「今日は、遅刻しなかったね?」
「だ、大丈夫だもん…!」
「…あれ?」
201: 2015/05/19(火) 00:10:47.24 ID:+F/NSPz4.net
「希ちゃん、覚えてるの?」
「…なんだか、そうだった気がして。」
「思い出して…きたのかな。」
「うう…」
「そんな事は思い出さなくていいんだよう…」
「ふふっ、ごめんね?」
ほんの小さな事を
言葉の端々に織り込む
感づかれないように
ただただ、慎重に
…相手を、見極めて
「…なんだか、そうだった気がして。」
「思い出して…きたのかな。」
「うう…」
「そんな事は思い出さなくていいんだよう…」
「ふふっ、ごめんね?」
ほんの小さな事を
言葉の端々に織り込む
感づかれないように
ただただ、慎重に
…相手を、見極めて
202: 2015/05/19(火) 00:11:16.62 ID:+F/NSPz4.net
「それでね、その時真姫ちゃんが…」
「…そうやったっけ?」
「あれ?希ちゃん、今…」
「何か、変な事言った?花陽ちゃん。」
「少し…前みたいな、言葉使いがでたから。」
「そっか…ありがと♪」
「少しずつ、思い出せてたらいいなあ…」
「きっと、大丈夫だよ。」
「…少しずつで、いいんだから。」
「…うん♪」
顔色を、変えずに話す癖がついた
あくまで自然に、さりげなく
「…そうやったっけ?」
「あれ?希ちゃん、今…」
「何か、変な事言った?花陽ちゃん。」
「少し…前みたいな、言葉使いがでたから。」
「そっか…ありがと♪」
「少しずつ、思い出せてたらいいなあ…」
「きっと、大丈夫だよ。」
「…少しずつで、いいんだから。」
「…うん♪」
顔色を、変えずに話す癖がついた
あくまで自然に、さりげなく
203: 2015/05/19(火) 00:11:55.44 ID:+F/NSPz4.net
「…ねえ、ことりちゃん。」
「この、ウチの衣装なんだけど…」
「え?」
「希ちゃん今、自分の事…」
「…あ、そういえば。」
「ウチ…って、言ってたんだっけ?」
「…思い出したの?」
「…何となく、口から出たみたい。」
「ウチ…か。」
「変じゃ無いかな?」
「…うんっ♪」
眠れない日が続いた
みんなの曲を聴く事で、夜を明かした
目の下に出来た隈は、コンシーラーで隠した
「この、ウチの衣装なんだけど…」
「え?」
「希ちゃん今、自分の事…」
「…あ、そういえば。」
「ウチ…って、言ってたんだっけ?」
「…思い出したの?」
「…何となく、口から出たみたい。」
「ウチ…か。」
「変じゃ無いかな?」
「…うんっ♪」
眠れない日が続いた
みんなの曲を聴く事で、夜を明かした
目の下に出来た隈は、コンシーラーで隠した
204: 2015/05/19(火) 00:12:37.73 ID:+F/NSPz4.net
「…希。」
「最近、記憶が戻り始めているらしいですね。」
「穂乃果達が、喜んでましたよ?」
「…ほんと?」
「嬉しいなあ。」
「でも、まだ全部じゃなくて。」
「話し方とかも、咄嗟にそれが出る、って言うか…」
「それでも、嬉しい事ですよ。」
「以前と比べて、だいぶ落ち着いて来たように感じます。」
「…何となく、雰囲気がそれらしくなって来ましたね。」
「海未ちゃんに言われると、なんだか自信つくなあ。」
「頑張って、全部思い出せるようにするからね?」
「…はい!」
何となく、意味深に
何となく、曖昧に
この話し方にも、慣れて来た
「最近、記憶が戻り始めているらしいですね。」
「穂乃果達が、喜んでましたよ?」
「…ほんと?」
「嬉しいなあ。」
「でも、まだ全部じゃなくて。」
「話し方とかも、咄嗟にそれが出る、って言うか…」
「それでも、嬉しい事ですよ。」
「以前と比べて、だいぶ落ち着いて来たように感じます。」
「…何となく、雰囲気がそれらしくなって来ましたね。」
「海未ちゃんに言われると、なんだか自信つくなあ。」
「頑張って、全部思い出せるようにするからね?」
「…はい!」
何となく、意味深に
何となく、曖昧に
この話し方にも、慣れて来た
205: 2015/05/19(火) 00:13:04.54 ID:+F/NSPz4.net
「…にこっち♪」
「…なに?希。」
「今日、帰りにクレープ食べて帰らん?」
「クレープぅ…?」
「バイト代入ったし、ウチがおごるよ♪」
「…そっか。」
「バイト先にも、顔出すようになったのね。」
「うん。」
「何となく、断片的にだけど。」
「思い出せてきたから、バイトも再開したん。」
「そうね…」
「それじゃ、付き合うわ。」
「ありがと、にこっち。」
「…なに?希。」
「今日、帰りにクレープ食べて帰らん?」
「クレープぅ…?」
「バイト代入ったし、ウチがおごるよ♪」
「…そっか。」
「バイト先にも、顔出すようになったのね。」
「うん。」
「何となく、断片的にだけど。」
「思い出せてきたから、バイトも再開したん。」
「そうね…」
「それじゃ、付き合うわ。」
「ありがと、にこっち。」
206: 2015/05/19(火) 00:13:44.19 ID:+F/NSPz4.net
「それで、どこまで思い出したの?」
「どこまでって言っても…」
「ほんとに、断片的で。」
「話し方なんかは、喋ってるうちにいつのまにか…」
「そう…」
「…あ、でも。」
「にこっちが学園祭で、講堂の抽選を外したのは、思い出したよ♪」
「…!」
「もっと思い出すなら、他にあるでしょ!?」
「…いやあ。」
「ウチにとっては、忘れられない記憶なのかもね♪」
「…ったく。」
「ほら、いくわよ。」
「はーいっ!」
時にふざけて、時に真面目に
のらりくらりと、その場を流して
踏み外す事の出来ない、綱渡りを続ける
「どこまでって言っても…」
「ほんとに、断片的で。」
「話し方なんかは、喋ってるうちにいつのまにか…」
「そう…」
「…あ、でも。」
「にこっちが学園祭で、講堂の抽選を外したのは、思い出したよ♪」
「…!」
「もっと思い出すなら、他にあるでしょ!?」
「…いやあ。」
「ウチにとっては、忘れられない記憶なのかもね♪」
「…ったく。」
「ほら、いくわよ。」
「はーいっ!」
時にふざけて、時に真面目に
のらりくらりと、その場を流して
踏み外す事の出来ない、綱渡りを続ける
207: 2015/05/19(火) 00:14:18.07 ID:+F/NSPz4.net
「…!」
にこっちとの帰り際、えりちと目が合う
「~♪」
陽気に、手を振ってみた
悟られる事の無いように
何か、思い出したと伝えるように
「…っ。」
ぎこちなくも、えりちも手を振ってくれた
…もう少し、時間がかかりそうだね
「…あと、少し。」
自分を戒めるように
小さな、小さな声で呟いた
にこっちとの帰り際、えりちと目が合う
「~♪」
陽気に、手を振ってみた
悟られる事の無いように
何か、思い出したと伝えるように
「…っ。」
ぎこちなくも、えりちも手を振ってくれた
…もう少し、時間がかかりそうだね
「…あと、少し。」
自分を戒めるように
小さな、小さな声で呟いた
208: 2015/05/19(火) 00:22:27.44 ID:+F/NSPz4.net
「希…」
「あ、真姫ちゃん。」
「…大丈夫?」
「…なにが?」
「記憶…戻って来たんでしょ?」
「…うん。」
「真姫ちゃんの、おかげでな♪」
「茶化さないで。」
「その…大丈夫なの?」
「あんまり、無理したり…」
…そっと、真姫ちゃんの手を取る
「希…?」
「あ、真姫ちゃん。」
「…大丈夫?」
「…なにが?」
「記憶…戻って来たんでしょ?」
「…うん。」
「真姫ちゃんの、おかげでな♪」
「茶化さないで。」
「その…大丈夫なの?」
「あんまり、無理したり…」
…そっと、真姫ちゃんの手を取る
「希…?」
209: 2015/05/19(火) 00:23:00.70 ID:+F/NSPz4.net
「…ウチな、真姫ちゃん。」
「真姫ちゃんが、記憶が無くても。」
「ウチはウチ、って言ってくれたのが、嬉しかったん。」
「…!」
「記憶が戻るためなら、何だってするって言ってくれた。」
「その言葉通り、いつだってウチの事を気にかけてくれた。」
「今までの事、色々教えてくれたり。」
「話、聞いてくれたり。」
「…すごく、感謝してるんよ。」
「まだ、全部が思い出せた訳じゃないけど…」
「それでも、真姫ちゃんがこうしてウチのそばにいてくれたから。」
「ウチは…こうして、思い出す事が出来るようになったんやと思う。」
「希…」
「真姫ちゃんが、記憶が無くても。」
「ウチはウチ、って言ってくれたのが、嬉しかったん。」
「…!」
「記憶が戻るためなら、何だってするって言ってくれた。」
「その言葉通り、いつだってウチの事を気にかけてくれた。」
「今までの事、色々教えてくれたり。」
「話、聞いてくれたり。」
「…すごく、感謝してるんよ。」
「まだ、全部が思い出せた訳じゃないけど…」
「それでも、真姫ちゃんがこうしてウチのそばにいてくれたから。」
「ウチは…こうして、思い出す事が出来るようになったんやと思う。」
「希…」
210: 2015/05/19(火) 00:23:24.93 ID:+F/NSPz4.net
「…正直な話。」
「このまま、記憶が戻らなくてもいいかな。」
「…そう、考えた事もあった。」
「…!」
「でも、それは違うって気付いたん。」
「きっと記憶が無くても、みんなは優しくしてくれる。」
「…それに、甘えてたんやと思う。」
「でも、今は違うよ。」
「ちゃんと、自分の記憶取り戻して。」
「みんなと、ラブライブに出たい。」
「優勝したいって、思ってる。」
「…そう思えたのは、真姫ちゃんのおかげ。」
「いつでも、ウチを支えてくれたから。」
「…ッ。」
「本当に…面倒なんだから…」
「このまま、記憶が戻らなくてもいいかな。」
「…そう、考えた事もあった。」
「…!」
「でも、それは違うって気付いたん。」
「きっと記憶が無くても、みんなは優しくしてくれる。」
「…それに、甘えてたんやと思う。」
「でも、今は違うよ。」
「ちゃんと、自分の記憶取り戻して。」
「みんなと、ラブライブに出たい。」
「優勝したいって、思ってる。」
「…そう思えたのは、真姫ちゃんのおかげ。」
「いつでも、ウチを支えてくれたから。」
「…ッ。」
「本当に…面倒なんだから…」
211: 2015/05/19(火) 00:23:57.85 ID:+F/NSPz4.net
「ありがとう、真姫ちゃん。」
震えるその手を握りしめて
…自分には、演技の才能があるんじゃないかと思ってしまう
嘘に嘘を重ねて
顔色ひとつ変えずに、こうして歩み寄る
…酷い事をしてるのは、分かってる
きっとバレたら、嫌われると思う
でも、こうするしかない
『ウチ』としてここに存在するためには
『私』は、ここに必要ないから
あとは…
震えるその手を握りしめて
…自分には、演技の才能があるんじゃないかと思ってしまう
嘘に嘘を重ねて
顔色ひとつ変えずに、こうして歩み寄る
…酷い事をしてるのは、分かってる
きっとバレたら、嫌われると思う
でも、こうするしかない
『ウチ』としてここに存在するためには
『私』は、ここに必要ないから
あとは…
212: 2015/05/19(火) 00:25:02.48 ID:+F/NSPz4.net
「…えりち。」
「…!」
「…なに?」
「あの…さ…」
「…また、パフェ食べて帰らない?」
「希…貴女…!」
「…また、ああして話したいんよ。」
「一緒に、生徒会の事や。」
「μ'sの事を、話してたみたいに。」
「…えりちと、また笑いたい。」
「思い…出したの?」
「全部…とは、いかないけど。」
「でも、えりちと過ごした事は…」
「ウチにとって、大切な記憶だから。」
「…!」
「…なに?」
「あの…さ…」
「…また、パフェ食べて帰らない?」
「希…貴女…!」
「…また、ああして話したいんよ。」
「一緒に、生徒会の事や。」
「μ'sの事を、話してたみたいに。」
「…えりちと、また笑いたい。」
「思い…出したの?」
「全部…とは、いかないけど。」
「でも、えりちと過ごした事は…」
「ウチにとって、大切な記憶だから。」
213: 2015/05/19(火) 00:25:27.85 ID:+F/NSPz4.net
「希…」
「…遅くなって、ごめんな?」
「でも…」
「…いいのよ。」
「私の方こそ…ごめんなさい。」
「…ううん。」
「思い出せなかったのは、事実だから。」
「えりちが、そんなウチの事。」
「認められなかったのも、分かるから…」
「気付いて…!?」
「でも…」
「でも、ウチは。」
「また、一緒に笑いたい。」
「えりちと、今まで過ごして来たみたいに。」
「駄目…かな?」
「…遅くなって、ごめんな?」
「でも…」
「…いいのよ。」
「私の方こそ…ごめんなさい。」
「…ううん。」
「思い出せなかったのは、事実だから。」
「えりちが、そんなウチの事。」
「認められなかったのも、分かるから…」
「気付いて…!?」
「でも…」
「でも、ウチは。」
「また、一緒に笑いたい。」
「えりちと、今まで過ごして来たみたいに。」
「駄目…かな?」
214: 2015/05/19(火) 00:25:54.74 ID:+F/NSPz4.net
「…!」
えりちに、抱きしめられる
「…駄目なんかじゃない。」
「ごめんなさい、希。」
「ごめんなさい…」
役に入りきる、というのは
こういう事なのだろうか
いつから、涙を流せるようになったんだろう
自由に、必要な時に
「えりち…じゃあ…」
「…ええ。」
「行きましょ、希。」
「…うんっ♪」
えりちに、抱きしめられる
「…駄目なんかじゃない。」
「ごめんなさい、希。」
「ごめんなさい…」
役に入りきる、というのは
こういう事なのだろうか
いつから、涙を流せるようになったんだろう
自由に、必要な時に
「えりち…じゃあ…」
「…ええ。」
「行きましょ、希。」
「…うんっ♪」
215: 2015/05/19(火) 00:26:36.79 ID:+F/NSPz4.net
-----
「う…っ。」
「んぐっ…。」
喉を焼尽すように上がってくる胃液を
無理矢理、飲み込む
ご飯は、以前と変わらず食べた
相変わらず襲ってくる吐き気を
水を飲み込んで、ごまかす
見た目が、変わってはいけない
心配させてはいけない
…気を使わせては、いけない
「…はあ。」
「これで…」
これで、きっと大丈夫
みんなとも、ある程度打ち解けられたはず
…あとは、会話を記録して、記憶するだけ
ラブライブまで、残り1ヶ月を切っていた
「う…っ。」
「んぐっ…。」
喉を焼尽すように上がってくる胃液を
無理矢理、飲み込む
ご飯は、以前と変わらず食べた
相変わらず襲ってくる吐き気を
水を飲み込んで、ごまかす
見た目が、変わってはいけない
心配させてはいけない
…気を使わせては、いけない
「…はあ。」
「これで…」
これで、きっと大丈夫
みんなとも、ある程度打ち解けられたはず
…あとは、会話を記録して、記憶するだけ
ラブライブまで、残り1ヶ月を切っていた
216: 2015/05/19(火) 00:27:20.07 ID:+F/NSPz4.net
みんなとの距離が近付くにつれて
昔の事なんかも、気軽に話せるようになった
会話の中で、頭にその話をインプットする
ふられても、冷静に受け流す
あくまでふざけるように、核心には触れずに
…失くしていた間の記憶も
ほとんどがケータイと手帳の記録で補えた
詳しい事は、みんなが喋ってくれる
…そこに、少し話を誘導するだけで
『そんな事をしても、変われる訳がないのに。』
「…うるさい。」
鏡の中のそれと、話す事なんか無い
上手く、いってる
…あと、少し
昔の事なんかも、気軽に話せるようになった
会話の中で、頭にその話をインプットする
ふられても、冷静に受け流す
あくまでふざけるように、核心には触れずに
…失くしていた間の記憶も
ほとんどがケータイと手帳の記録で補えた
詳しい事は、みんなが喋ってくれる
…そこに、少し話を誘導するだけで
『そんな事をしても、変われる訳がないのに。』
「…うるさい。」
鏡の中のそれと、話す事なんか無い
上手く、いってる
…あと、少し
217: 2015/05/19(火) 00:27:48.82 ID:+F/NSPz4.net
-----
「…あれ?」
「まだ、凛ちゃんだけ?」
「あ、希ちゃん。」
「まだ、凛だけだよ?」
放課後に、部室に顔を出す
まだみんなは、来てないみたい
「そっか…」
「ねえ、凛ちゃん。」
「なあに?希ちゃん。」
凛ちゃんには悪いけど
一番、鈍そうだったから
「ウチ…何か、変な事言ったりしてない?」
「…変な事?」
「うん。」
「どこかおかしい所とか、ないかな?」
「…あれ?」
「まだ、凛ちゃんだけ?」
「あ、希ちゃん。」
「まだ、凛だけだよ?」
放課後に、部室に顔を出す
まだみんなは、来てないみたい
「そっか…」
「ねえ、凛ちゃん。」
「なあに?希ちゃん。」
凛ちゃんには悪いけど
一番、鈍そうだったから
「ウチ…何か、変な事言ったりしてない?」
「…変な事?」
「うん。」
「どこかおかしい所とか、ないかな?」
218: 2015/05/19(火) 00:29:38.51 ID:+F/NSPz4.net
「う~ん…」
「今の質問とか、かな?」
「なんだか、希ちゃんらしくないっていうか…」
「…あはは、ごめん。」
「思い出したって言っても、まだ全部じゃないから。」
「何となく、気になっただけなんよ♪」
「そっか♪」
「あ、でも、それなら…」
「…ん?」
「どうして、そんなに頑張ってるの?」
「どういう事?」
「うーん…凛、ずっと気になってたんだよね!」
「何が?」
「凛、知ってるよ?」
「…記憶、ひとつも戻ってないよね?」
「今の質問とか、かな?」
「なんだか、希ちゃんらしくないっていうか…」
「…あはは、ごめん。」
「思い出したって言っても、まだ全部じゃないから。」
「何となく、気になっただけなんよ♪」
「そっか♪」
「あ、でも、それなら…」
「…ん?」
「どうして、そんなに頑張ってるの?」
「どういう事?」
「うーん…凛、ずっと気になってたんだよね!」
「何が?」
「凛、知ってるよ?」
「…記憶、ひとつも戻ってないよね?」
219: 2015/05/19(火) 00:30:08.31 ID:+F/NSPz4.net
今日はここまで
続きは、また明日
続きは、また明日
220: 2015/05/19(火) 00:31:36.53 ID:nvhqNOgI.net
さすが凛ちゃん……
221: 2015/05/19(火) 00:35:38.66 ID:BX1aXWqj.net
ああああ なんか悲しいなあ
凛ちゃんはするどいね
凛ちゃんはするどいね
232: 2015/05/19(火) 23:14:43.58 ID:+F/NSPz4.net
「…」
凛ちゃんのその言葉に
何も、反応が出来なかった
いつばれた?
何で?
他のみんなは…騙されてるのに
「なーんちゃってっ♪」
「冗談だよ、冗談♪」
「…凛ちゃん?」
本当に?
でも、さっきの目は…
とにかく、なにか口に出さないと
そう思って口を開いた時
部室のドアが開いた
凛ちゃんのその言葉に
何も、反応が出来なかった
いつばれた?
何で?
他のみんなは…騙されてるのに
「なーんちゃってっ♪」
「冗談だよ、冗談♪」
「…凛ちゃん?」
本当に?
でも、さっきの目は…
とにかく、なにか口に出さないと
そう思って口を開いた時
部室のドアが開いた
233: 2015/05/19(火) 23:15:24.43 ID:+F/NSPz4.net
「おっはよーっ!」
「おはよー!穂乃果ちゃん!」
「あれ?2人だけ?」
「もうすぐ、みんな来ると思うよ?」
「そっか♪」
「ねえねえ、2人で何話してたの?」
「今ね、希ちゃんの記憶、戻って来てよかったね、って。」
「凛達の事、思い出してくれて嬉しかったな、って話してたんだ。」
「うんうん、確かに!」
「一時は、本当に心配したから…」
「ありがと、希ちゃん♪」
「あ、ううん…」
「穂乃果ちゃん達の、おかげだよ。」
「おはよー!穂乃果ちゃん!」
「あれ?2人だけ?」
「もうすぐ、みんな来ると思うよ?」
「そっか♪」
「ねえねえ、2人で何話してたの?」
「今ね、希ちゃんの記憶、戻って来てよかったね、って。」
「凛達の事、思い出してくれて嬉しかったな、って話してたんだ。」
「うんうん、確かに!」
「一時は、本当に心配したから…」
「ありがと、希ちゃん♪」
「あ、ううん…」
「穂乃果ちゃん達の、おかげだよ。」
234: 2015/05/19(火) 23:15:53.68 ID:+F/NSPz4.net
「それにしても、穂乃果の寝坊とか。」
「そういうのは忘れたままでよかったのにー…」
「それは流石に失礼にゃ。」
「それに、きっとすぐに寝坊して、バレてたよ?」
「凛ちゃんひどいよっ!?」
目の前には、いつもの光景
いつでも可愛い、元気な2人
…でも、それが怖い
さっきの凛ちゃんの目
あれは、冗談なんかで言ってる目じゃ…
「…希ちゃん?」
「…!?」
「一緒に、屋上行こっ?」
「…そうやね。」
「そういうのは忘れたままでよかったのにー…」
「それは流石に失礼にゃ。」
「それに、きっとすぐに寝坊して、バレてたよ?」
「凛ちゃんひどいよっ!?」
目の前には、いつもの光景
いつでも可愛い、元気な2人
…でも、それが怖い
さっきの凛ちゃんの目
あれは、冗談なんかで言ってる目じゃ…
「…希ちゃん?」
「…!?」
「一緒に、屋上行こっ?」
「…そうやね。」
235: 2015/05/19(火) 23:16:25.68 ID:+F/NSPz4.net
-----
「どうしたのよ。」
「…何が?」
「昨日から、どこか暗いわよ?」
「何かあった?」
「いややなあ、にこっち。」
「ウチは、いつでも元気やで♪」
「…そう。」
「何かあったら、言いなさいよね。」
「アンタは、自分の中に溜め込んじゃうタイプなんだから。」
「…うん。」
昨日、凛ちゃんに言われてから
みんなが、少し怖くなった
騙せてると思ってるのは自分だけで
もしかしたら…
みんな、分かってるのかもしれない
「どうしたのよ。」
「…何が?」
「昨日から、どこか暗いわよ?」
「何かあった?」
「いややなあ、にこっち。」
「ウチは、いつでも元気やで♪」
「…そう。」
「何かあったら、言いなさいよね。」
「アンタは、自分の中に溜め込んじゃうタイプなんだから。」
「…うん。」
昨日、凛ちゃんに言われてから
みんなが、少し怖くなった
騙せてると思ってるのは自分だけで
もしかしたら…
みんな、分かってるのかもしれない
236: 2015/05/19(火) 23:18:38.04 ID:+F/NSPz4.net
「分かりにくいのよ、アンタは。」
「今は…大丈夫だと、思うけど。」
「…はは。」
「まあ、もうみんなに心配はかけたくないから。」
「何かあったら、ちゃんと言うよ?」
「それでいいわ。」
「じゃないと、また昔みたいに…」
「…昔?」
「ほら昔、希と一緒にいた時…」
「…」
「希?」
「あ、ううん!」
「懐かしいなあ…って、ちょっと思い出してた。」
「…やっぱり、分かりにくいわね。」
「それに、遠くを見るほど昔の話じゃないでしょうに。」
「それもそうやね♪」
「今は…大丈夫だと、思うけど。」
「…はは。」
「まあ、もうみんなに心配はかけたくないから。」
「何かあったら、ちゃんと言うよ?」
「それでいいわ。」
「じゃないと、また昔みたいに…」
「…昔?」
「ほら昔、希と一緒にいた時…」
「…」
「希?」
「あ、ううん!」
「懐かしいなあ…って、ちょっと思い出してた。」
「…やっぱり、分かりにくいわね。」
「それに、遠くを見るほど昔の話じゃないでしょうに。」
「それもそうやね♪」
237: 2015/05/19(火) 23:19:34.12 ID:+F/NSPz4.net
「ねえ、希。」
「良かったら、今日…」
「あ、ごめん、にこっち。」
「今日はちょっと、家でやる事あって…」
「…そうなの?」
「なら、仕方ないか。」
「うん、ごめんな?」
「別にいいわよ。」
「また今度、どこか寄り道して帰りましょ。」
「うん、ありがと。」
「流石、ウチの親友やね♪」
「…調子いいんだから。」
精一杯の笑顔でごまかして
足早に、家に帰って来た
「良かったら、今日…」
「あ、ごめん、にこっち。」
「今日はちょっと、家でやる事あって…」
「…そうなの?」
「なら、仕方ないか。」
「うん、ごめんな?」
「別にいいわよ。」
「また今度、どこか寄り道して帰りましょ。」
「うん、ありがと。」
「流石、ウチの親友やね♪」
「…調子いいんだから。」
精一杯の笑顔でごまかして
足早に、家に帰って来た
238: 2015/05/19(火) 23:20:18.41 ID:+F/NSPz4.net
-----
「…」
「なんで…」
「…ッ。」
頭を冷やすように
洗面台で、顔を洗う
「…」
水が流れる音が
唯一、自分が目を覚ましている事を証明してくれた
「昔…」
にこっちの言っていた、昔の事
あれは、いつの時の事を言ってたんだろうか
…思い出せない
「…」
「なんで…」
「…ッ。」
頭を冷やすように
洗面台で、顔を洗う
「…」
水が流れる音が
唯一、自分が目を覚ましている事を証明してくれた
「昔…」
にこっちの言っていた、昔の事
あれは、いつの時の事を言ってたんだろうか
…思い出せない
239: 2015/05/19(火) 23:20:51.40 ID:+F/NSPz4.net
「…」
鏡に映った自分の顔が
あざ笑っているようにすら感じる
「…ッ。」
「あれは…」
「あの、記憶は…」
「『ウチ』の記憶なん?」
「それとも、『私』の…?」
「昔…」
「昔って、いつ…?」
思い出せる、最初の記憶は
…えりちと、出会った日の事だった
鏡に映った自分の顔が
あざ笑っているようにすら感じる
「…ッ。」
「あれは…」
「あの、記憶は…」
「『ウチ』の記憶なん?」
「それとも、『私』の…?」
「昔…」
「昔って、いつ…?」
思い出せる、最初の記憶は
…えりちと、出会った日の事だった
240: 2015/05/19(火) 23:22:14.32 ID:+F/NSPz4.net
引用: 希「失った記憶と繋がる心。」
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