232: 2015/05/19(火) 23:14:43.58 ID:+F/NSPz4.net

【ラブライブ】希「失った記憶と繋がる心。」【前編】

「…」


凛ちゃんのその言葉に

何も、反応が出来なかった


いつばれた?


何で?



他のみんなは…騙されてるのに



「なーんちゃってっ♪」

「冗談だよ、冗談♪」


「…凛ちゃん?」


本当に?

でも、さっきの目は…


とにかく、なにか口に出さないと

そう思って口を開いた時


部室のドアが開いた
#8 やりたいことは

233: 2015/05/19(火) 23:15:24.43 ID:+F/NSPz4.net
「おっはよーっ!」


「おはよー!穂乃果ちゃん!」


「あれ?2人だけ?」


「もうすぐ、みんな来ると思うよ?」


「そっか♪」

「ねえねえ、2人で何話してたの?」


「今ね、希ちゃんの記憶、戻って来てよかったね、って。」

「凛達の事、思い出してくれて嬉しかったな、って話してたんだ。」


「うんうん、確かに!」

「一時は、本当に心配したから…」


「ありがと、希ちゃん♪」


「あ、ううん…」

「穂乃果ちゃん達の、おかげだよ。」

234: 2015/05/19(火) 23:15:53.68 ID:+F/NSPz4.net
「それにしても、穂乃果の寝坊とか。」

「そういうのは忘れたままでよかったのにー…」


「それは流石に失礼にゃ。」

「それに、きっとすぐに寝坊して、バレてたよ?」


「凛ちゃんひどいよっ!?」



目の前には、いつもの光景

いつでも可愛い、元気な2人


…でも、それが怖い


さっきの凛ちゃんの目

あれは、冗談なんかで言ってる目じゃ…



「…希ちゃん?」


「…!?」


「一緒に、屋上行こっ?」


「…そうやね。」

235: 2015/05/19(火) 23:16:25.68 ID:+F/NSPz4.net
-----



「どうしたのよ。」


「…何が?」


「昨日から、どこか暗いわよ?」

「何かあった?」


「いややなあ、にこっち。」

「ウチは、いつでも元気やで♪」


「…そう。」

「何かあったら、言いなさいよね。」


「アンタは、自分の中に溜め込んじゃうタイプなんだから。」


「…うん。」


昨日、凛ちゃんに言われてから

みんなが、少し怖くなった

騙せてると思ってるのは自分だけで

もしかしたら…


みんな、分かってるのかもしれない

236: 2015/05/19(火) 23:18:38.04 ID:+F/NSPz4.net
「分かりにくいのよ、アンタは。」

「今は…大丈夫だと、思うけど。」


「…はは。」

「まあ、もうみんなに心配はかけたくないから。」

「何かあったら、ちゃんと言うよ?」


「それでいいわ。」

「じゃないと、また昔みたいに…」


「…昔?」


「ほら昔、希と一緒にいた時…」



「…」


「希?」


「あ、ううん!」

「懐かしいなあ…って、ちょっと思い出してた。」


「…やっぱり、分かりにくいわね。」

「それに、遠くを見るほど昔の話じゃないでしょうに。」


「それもそうやね♪」

237: 2015/05/19(火) 23:19:34.12 ID:+F/NSPz4.net
「ねえ、希。」

「良かったら、今日…」



「あ、ごめん、にこっち。」

「今日はちょっと、家でやる事あって…」


「…そうなの?」

「なら、仕方ないか。」


「うん、ごめんな?」


「別にいいわよ。」

「また今度、どこか寄り道して帰りましょ。」


「うん、ありがと。」

「流石、ウチの親友やね♪」


「…調子いいんだから。」


精一杯の笑顔でごまかして

足早に、家に帰って来た

238: 2015/05/19(火) 23:20:18.41 ID:+F/NSPz4.net
-----



「…」

「なんで…」



「…ッ。」


頭を冷やすように

洗面台で、顔を洗う


「…」


水が流れる音が

唯一、自分が目を覚ましている事を証明してくれた



「昔…」


にこっちの言っていた、昔の事

あれは、いつの時の事を言ってたんだろうか


…思い出せない

239: 2015/05/19(火) 23:20:51.40 ID:+F/NSPz4.net
「…」


鏡に映った自分の顔が

あざ笑っているようにすら感じる


「…ッ。」


「あれは…」

「あの、記憶は…」





「『ウチ』の記憶なん?」


「それとも、『私』の…?」



「昔…」


「昔って、いつ…?」


思い出せる、最初の記憶は


…えりちと、出会った日の事だった

246: 2015/05/20(水) 23:32:23.07 ID:kNejN/6K.net
-----



「んっ…」


服を脱いで、お風呂場に入る

冷たい水を、頭から流して


もう一度冷静に、考えてみる


「…」


「やっぱり、おかしい…」


「なんで…?」

「なんでなんよ…?」


何度思い浮かべても

頭の中にある、最初の記憶は

えりちと出会った、あの教室で



それより昔の記憶が

ウチの記憶には一切ない


「…寒い。」

247: 2015/05/20(水) 23:32:49.87 ID:kNejN/6K.net
-----



冷たい水に冷やされた体を拭きながら

部屋の中に入る


「あ…」


ベッドの上に置いてある携帯に、ランプが灯ってる


「真姫ちゃん…」



From: 真姫ちゃん
title: 明日
=============

良かったら、少し話さない?


=============


「明日…」


そうだ、真姫ちゃんに相談してみたら

何か、分かるかもしれない

返事を打って、ベッドに倒れ込む


…今は、何も考えたくない

248: 2015/05/20(水) 23:33:18.68 ID:kNejN/6K.net
-----


「すごい…」


真姫ちゃんに呼ばれて、真姫ちゃんのお家に


…のはずが

目の前にあるのは豪邸で


「やっぱり、お医者様ってすごいんやね…」


そんな言葉しか、出てこない


「…希?」


お家を眺めていると

門の向こう側から、声がした


「もう、来たなら呼び鈴鳴らしてよね。」


「ああ、ごめんな。」

「ちょっと、考え事してた。」

249: 2015/05/20(水) 23:34:07.54 ID:kNejN/6K.net
-----


「…そういえば。」

「希が家に来るのって、初めてだっけ?」


「…うん。」

「大きさに、ビックリしてた。」


リビングに通されて、少し話をする

真姫ちゃんが、紅茶を持って来てくれた


「でも、別荘と大して変わらないんじゃない?」


「いやいや、確かに別荘もすごかったけど。」

「自宅はそれ以上やん?」


「…そんなものかしら。」


そう言って、正面に座る真姫ちゃん

ご両親は、お仕事でいないみたい

250: 2015/05/20(水) 23:34:32.81 ID:kNejN/6K.net
「今日は、和木さんもいないから。」

「ゆっくりしていって。」


「和木さん?」


「…ああ、お手伝いさん。」

「そう言えば、花陽たちしか知らなかったっけ。」


「お手伝いさんまでいるんやね。」


まさに、お金持ちってイメージ

それでこの性格やと、確かに近寄りがたい気はするなあ…


「それで、今日はどうしたん?」


「…別に、たいした用じゃないの。」

「にこちゃんから、少し様子が変だ、って聞いたから。」


「なにか、力になれないかと思って。」

251: 2015/05/20(水) 23:35:01.93 ID:kNejN/6K.net
「あ…」

「そうやったんやね。」


これは…話が早い

けど、どう言ったらいいんかな


まさか、最初から説明するわけにも…


どう言おうか迷っていると

真姫ちゃんから、声がかかる


「…別に、無理して話さなくていいから。」

「言いたくなったら、言って?」


「あ…うん。」


「それに、希とこうしてちゃんと話す事って、あんまりなかったから。」

「その口実に、呼んだだけ。」


そう言って真姫ちゃんは、紅茶に口をつける

252: 2015/05/20(水) 23:35:36.81 ID:kNejN/6K.net
それから、2人で色々と話した

真姫ちゃんの別荘に行った時の事

9人でのファーストライブの事や

学園祭であった事なんかも


真姫ちゃんの話に合わせて

すらすらと出てくる言葉

…なにも、問題は無いように思えた


ちゃんと、覚えてる


「…あれ?」


「どうしたの?希。」


「…!」

「ううん、何でもないんよ?」


「そう…」


…なんやろ?

この---違和感

253: 2015/05/20(水) 23:36:21.52 ID:kNejN/6K.net
「…そう言えば。」

「まだ、ちゃんとお礼を言えて無かったわね。」


「…何のお礼?」


「…改めて言うのも、照れるんだけど。」

「ほら、希が目を覚ました時、病院で…」


「…」


「…希?」


「…ああ、うん。それで?」


「…あの時、希はいいって言ったけど。」

「やっぱり、助けてもらったのも、事実だから。」


「…私を、助けてくれてありがとう。」

「私に怪我が無かったのは、希のおかげよ。」


「…ずっと、言いたかった。」

254: 2015/05/20(水) 23:36:58.69 ID:kNejN/6K.net
「…」


「あの時、もう駄目だ、って思った。」

「凛の手も、届かなかったし…」


「でも、希が手を伸ばしてくれた。」

「私の事、ちゃんと掴んでくれた。」

「…それは、覚えてる。」


「本当に、ありがとう。」


そう言って、笑顔になる真姫ちゃん


「…ちょっと。」

「せっかく言えたんだから、何か反応してよ。」

そう言って

少し照れくさそうに、髪の毛をいじる



「病院…?」


「希…?」

255: 2015/05/20(水) 23:37:32.00 ID:kNejN/6K.net
…そう

確かにあの時、手を伸ばして

真姫ちゃんを掴んで、引き寄せた


…そう

それで、きっと頭を打って

気付いたら、病院にいて


…それで

目が覚めたら、みんながいて

話しかけられて…



「…ッ。」


「希?」


頭が、痛い


それで…えっと

みんながウチを覗き込んで





あの時、何を話したっけ?

256: 2015/05/20(水) 23:37:57.65 ID:kNejN/6K.net
「ねえ、希!」


気付いたら、真姫ちゃんが隣に来ていた


「ねえ、一体どうしたの?」


心配そうにウチを見つめる、真姫ちゃん

確か、あの時もこうして…





あの時?


あの時って…いつだっけ?


「希!」

「ねえ、希ってば!!」


治まらない頭痛に襲われた体は

意識を手放す事で、逃れようとする


「まき…ちゃ…」



目の前が、暗闇で覆われた

259: 2015/05/21(木) 00:27:02.69 ID:22TTHPWL.net
-----


…声が聞こえる

ウチを呼ぶ、声が



「…」


目を開けると

真っ白な世界が広がっていた


「また…か。」


何度来ても、やっぱり現実では覚えていなくて

それでも、ここに来ると思い出す


ウチの…夢の、世界


「…」


今度は、真後ろにいた


ウチと同じ姿の、『ウチ』


「…もう、慣れた物やね。」

260: 2015/05/21(木) 00:27:45.51 ID:22TTHPWL.net
その目は、向こうを向いている


遠くを見つめるその姿の後ろで

背中を見るように立つ、ウチ


「…どうせ。」

「また、何も聞こえないんやろ?」


その背中に、言葉を投げかける

…いつもそうだ

ここにいる『ウチ』は、答えをくれない

まるで、鏡の中にいる、それと同じように




『…聞こえてる。』



だからこそ、驚かずにはいられなかった

目の前で同じ声を発する


---その存在に

261: 2015/05/21(木) 00:28:15.41 ID:22TTHPWL.net
「なんで…」


『今までも、声は聞こえてた。』

『ちゃんと、答えたつもりだった。』


「嘘!」

「声なんて、聞こえなかった!」


『…嘘じゃないよ。』

『それに、聞こえなかったんじゃない。』


そう言って、こちらを振り返る


『ただ、聞こうとしなかっただけ。』

『…自分で、耳を塞いでたん。』


『…そうやろ?「ウチ」。』


「な…」


『…ようやく、話せた。』

『そっちの「ウチ」のお陰やね。』

262: 2015/05/21(木) 00:28:48.18 ID:22TTHPWL.net
「なんで…」

「なんで、今になって…」


『…それは、自分が一番よく分かってると思うけど?』


「ウチが…?」


『そうじゃなきゃ、きっとまだウチの声は聞こえてない。』

『…疑問を、感じたんやろ?』


「疑問?」


「…!」


「まさか…」


『…おっと。』

『最初に断っておくけど。』

『これは、ウチのせいじゃないよ?』

『自分で勝手に、そうしたんやから』


「何言って…」

263: 2015/05/21(木) 00:29:12.95 ID:22TTHPWL.net
『…記憶。』

『無くなってるんと違う?』


「…!」


『でもそれは、自分が望んだ結果なんよ?』


「…意味が分からない。」


『そうやね…』

『どこから話せば良いかな。』


そう言って、目の前の『ウチ』は語りだした

今、ウチに起こっている事と

なぜ、そうなったのかを



『…そうやね。』

『まず…』



『記憶を、失った訳じゃないんよ。』

264: 2015/05/21(木) 00:29:55.67 ID:22TTHPWL.net
『海未ちゃんが説明してくれたように。』

『真姫ちゃんのお父さんが言ってる事は正しい。』


『正確には、忘れたんじゃなくて。』

『記憶の奥底に、しまい込んでしまっただけなんよ。』


『…とは言っても、多分覚えてないと思うけど。』


「何、言って…」


『簡単に説明すると。』

『ここにいるウチは、バックアップみたいな存在なん。』


「バックアップ…?」



『…少し、お勉強しよっか♪』


そう言って、『ウチ』は軽く笑った

265: 2015/05/21(木) 00:31:11.20 ID:22TTHPWL.net
『詳しく分かってる事ではないけど。』

『脳っていうのは、色んな情報を処理してるのは、知ってるよね。』

『特に、海馬では、記憶の処理が行われてるんよ。』


『その時得た情報…』

『それらを集めて、処理してるのが、脳の海馬っていう組織で。』

『そこで処理された情報が、バックアップをとる為に、記憶野へと運ばれる。』

『これが、記憶する事の簡単な手順やね。』


『多少アバウトに言ってるから、詳しくはちょっと違うんやけど…』


『とにかく、それらを処理して、記憶させるのが海馬で。』

『そこに何か障害が起こると、記憶に障害が出る。』



『…事故の時みたいにね。』


「…」

266: 2015/05/21(木) 00:31:48.84 ID:22TTHPWL.net
『だから、現実には忘れてるんじゃ無くて。』

『思い出す事が出来ないだけで。』

『こうして、ウチみたいに記憶と言うデータは残ってる。』


『もちろん、他の病気みたいに。』

『記憶そのものが無くなるケースもあるけれど。』


「…じゃあ、貴女がウチの中のバックアップで。」

「ウチの記憶を、保管してる、って事?」


『…話が早くて助かるよ。』

『とは言っても、ウチも同じ「ウチ」やから。』

『分かってくれるとは思ってたけど。』


『…ところで。』

『夢って、何で見るか知ってる?』



「…え?」

267: 2015/05/21(木) 00:32:20.38 ID:22TTHPWL.net
『夢の中で非常事態に備えてる、とか。』

『現実じゃ叶えられない願望を体験してる、とか。』

『脳の機能を回復させている、とか。』


『色々説はあるけど、ウチが思うのは。』

『脳で、記憶の処理が行われている、という説。』


「記憶の…処理?」


『今日あった出来事や、古い記憶。』

『覚えとかないといけない事や、忘れたいような記憶。』

『それらを取捨選択して、記憶してる間に、見るのが夢。』

『言わば、記憶の断片のような物。』

『…ウチは、そう思ってる。』


「断片…」

268: 2015/05/21(木) 00:33:47.00 ID:22TTHPWL.net
『夢を覚えてないって言うのは。』

『単に、それが処理をしていただけで。』

『特に意味のある物じゃないからやと、ウチは思うんよ。』


『だから、こうして会った事も現実では忘れてる。』

『単なる、処理を視覚的に感じてるだけだから。』


『…必要な記憶を残して。』

『いらない物は、バックアップだけとって、現実では忘れる。』

『それが、記憶と夢との関係やと思う。』


「それが、今のウチと何か関わりがあるん…?」


『…言ったやろ?』

『必要な物を残して、いらない物は捨てる、って。』


『凛ちゃんに、言われて焦ったんやろ?』

『思い出してない事が、バレた、って。』


「…!」

269: 2015/05/21(木) 00:34:10.82 ID:22TTHPWL.net
『あの時に、「ウチ」の記憶に変化が起こった。』

『このままじゃ、みんなにバレてしまう。』

『もっと、ウチになりきらないと。』

『記憶の戻ったフリをしないと。』


『…違う?』


「…」


『そう意識をした「ウチ」の脳は。』

『このまま「私」の記憶を持っていたら、邪魔になると判断した。』

『…だから、自ら忘れたんよ。』


『「ウチ」として、あり続けるために。』



「…!」

270: 2015/05/21(木) 00:34:47.33 ID:22TTHPWL.net
『…だけど、そこでひとつ問題が起こった。』

『病室で目が覚めた時、「ウチ」には1年の頃の記憶があった。』

『そこに、目が覚めてからの記憶が付け加えられた。』


『目が覚めてからの「ウチ」は。』

『今までの「ウチ」では、無かったん。』

『…言わば、「他の人格」とでも言うべき存在やったんよ。』


「他の人格…?」


『まあ、考えてみれば当たり前の事やけど。』

『今の「ウチ」なら分かってるとは思うけど。』

『「ウチ」が変われたのは、1年の終わり頃。』

『もちろん、「ウチ」はその時の記憶を持っていなかった。』

271: 2015/05/21(木) 00:35:56.35 ID:22TTHPWL.net
『だからこそ、急に与えられた立場…』

『μ'sという、居場所や。』

『友達がいたからこそ。』


『「ウチ」として、変わる必要が無くなってしまった。』

『変わらなくても、目が覚めた時そこにあったから。』



『ずっと欲しかった物が、向こうから現れた事で。』

『「ウチ」の、変わると言う選択肢が消えたんよ。』

『その必要がなかったから。』



『…だから、こう思った。』


『変わる必要があるのか、って。』


「あ…」


『言ってしまえば、そこが分かれ道やったんよ。』

『記憶を取り戻すか、そうでないかの。』

272: 2015/05/21(木) 00:36:57.40 ID:22TTHPWL.net
『そして、「ウチ」は選んだ。』

『変わらない事を。』


『記憶が無くても、このみんなとなら。』

『あの時、確かにそう思ったはず。』

『その内、記憶は戻るだろうから、って。』


『思い出さないと、っていう想いに。』

『自ら、ふたをした。』


「…」


『ところが、そう上手くはいかなかった。』

『えりちやにこっちみたいに、疑う人が現れた。』


『そこでまた、「ウチ」は考えた。』


『思い出せなくても、なりきればいい。』


『みんなの知ってる、「ウチ」として。』

『自分で、今の自分の人格を否定した。』

273: 2015/05/21(木) 00:37:28.38 ID:22TTHPWL.net
『脳はその考えに則って。』

『人格よりも、新たな記憶を優先した。』


『そんな時に、凛ちゃんを騙しきれてなかった事を知って。』

『「ウチ」は、酷く動揺した。』

『もっと、なりきらないと。』


『そのためには、それまでの「私」は必要ないと。』


『結果、自分で自分を否定した事に寄って。』

『脳はこの記憶を「いらない物」として判断した。』


『だから、忘れた。』

『今の「ウチ」に、必要なかったから。』


「そん、な…」


『絶望しても、仕方ないよ。』

『自分で、選んだんだから。』

274: 2015/05/21(木) 00:38:00.39 ID:22TTHPWL.net
『…目覚めた時。』

『自分で選んで、記憶を取り戻したいと思った。』

『でも、事故のせいで上手く思い出す事が出来なかった。』


『だから、「ウチ」は新しい人格と呼べる物を作った。』


「…やめて。」


『そして、思い出さない事を選んだ。』


『その上、みんなに打ち明ける事はせずに。』

『騙していく、と言う事を選んだ。』


「やめて…」


『…その結果が、今。』

『全てに中途半端な、「ウチ」が出来た。』


「やめてって言ってるやん!!」


『…』




「…返して。」

275: 2015/05/21(木) 00:38:25.86 ID:22TTHPWL.net
『…』


「…言ったよね、バックアップって。」

「って事は、その人格の記憶を持ってるんやろ?」


『…これの事?』


手に現れたのは、キャンパスノート


『…まあ、夢の中だから。』

『形は、何でもいいんやけど…』


「…返して。」


『確かに、返したら。』

『「ウチ」は、思い出すと思う。』

『もうひとつの人格の、「ウチ」として。』

『みんなから聞いた、記憶を受け継いで。』



「…分かってるなら、返して。」

276: 2015/05/21(木) 00:39:23.50 ID:22TTHPWL.net
『…本当に、いいん?』


「…何が?」


『この記憶は、本当の「ウチ」じゃないよ。』

『たまたま出来た人格に。』

『事故の時の記憶と、「ウチ」が集めた記憶が繋がってるだけ。』


『本当の意味での、記憶が戻った事にはならないんよ?』



「…それでも。」

「それでも、今ここにいるのはウチ。」

「その記憶を失くしたまま、えりち達と一緒にいられる訳がない。」

「…独りになるのは、もうたくさん。」


「…あの頃に、戻りたくない。」


『…』



「…返して。」

277: 2015/05/21(木) 00:39:50.94 ID:22TTHPWL.net
『…そうやって。』

『また、選ぶんやね。』



差し出された手から、ノートを受け取る

それは光となって、ウチの中に入った



「…そっか。」

「真姫ちゃん、あの時…」


ようやく、思い出せた

あの、病院での事


『…覚えておいて。』

『その記憶が戻ったという事は。』


『今の「ウチ」にとって、いらない情報が戻ったのと一緒。』

『気を抜くと、すぐにバレるよ。』


「…」

278: 2015/05/21(木) 00:40:42.62 ID:22TTHPWL.net
「大丈夫。」

「後は、凛ちゃんだけやから。」


「…この「私」の記憶があっても。」

「今まで以上に、なりきってみせる。」


『…分かった。』

『また、目が覚めたらここでの事は忘れてると思う。』


『でも、覚えておいてほしい。』

『例え何が起こっても。』


『…それは、自分が選んだと言う事。』


「…分かってる。」



悲しそうなその顔を、視界から外して

夢から、覚めようとする


…きっと、真姫ちゃんが呼んでるから


また、あの黒い世界へ

279: 2015/05/21(木) 00:41:17.21 ID:22TTHPWL.net
『…』


『行っちゃった…か。』


『まあ、ウチは単なるバックアップやし。』

『本人が、元々の記憶を取り戻そうとしない限り。』

『動く事は出来ないんやけど…』


『…』


『多分、気付いてるんやろ?』

『だからあんなに、元の記憶が戻る事を嫌った。』



『…元々のウチじゃない、もう一人の「私」。』


『元の記憶が戻るという事は…』

『「私」として過ごした時間が、無くなるから。』

『手に入った何もかもが、ゼロになるから。』



『…でも、気付いてほしい。』

『例えその記憶がなくなったとしても。』


『今、「ウチ」が過ごしてる日々は。』

『…いずれ訪れる未来の、自分の姿だって事。』

280: 2015/05/21(木) 00:42:08.04 ID:22TTHPWL.net
-----


…声が聞こえる

名前を呼ぶ、声が



「…希!」


「真姫…ちゃん?」


あれ?

どうして…


あ、そっか

確か、倒れて…

…!


「ご、ごめん、真姫ちゃん!」

「私、いきなり倒れ…て…」


言葉に出して、気付いた

でも、それを口に戻す事は、出来るはずもなく



「希…まさか…」


…やめて

…それ以上、口にしないで



「記憶、戻ってないの…?」

289: 2015/05/23(土) 01:47:32.52 ID:CGPipAx4.net
「…あ。」

「そ、そんな事ないよ?」


「…」


「ちょっと、気が動転しちゃってただけで…」

「ちゃんと…思い出してるよ。」


「…本当?」


あまりにも、苦しい言い訳

完全に、油断してた

まさかここで間違えるなんて


「希…」


さっきまで、あんなに話せてたのに

あんなに、騙せてたのに


…なんで?

290: 2015/05/23(土) 01:48:14.44 ID:CGPipAx4.net
「…」


一体どうすれば…

また、騙せるのだろうか


頭の中を、その言葉が埋め尽くす


…騙す?

騙して…


騙し続けて、どうしたらいいんかな


これは

この記憶は


自分が勝手に---作り上げた物なのに


何より、どうしていきなり

あの時の記憶が戻ったのか

ついさっきまで、忘れてたのに

291: 2015/05/23(土) 01:48:58.98 ID:CGPipAx4.net
思い出せなかった記憶

あの時の、病院での事

…みんなと、話した事


思い出せた事は嬉しいのに

思い出せた事で


…嘘が綻び始めるなんて


「…」


何を言って良いのかが分からない

とにかく、何か口に出さなきゃ


…無言は、肯定ととられてしまう


「あ、あのな、真姫ちゃん。」

「ほんとに、間違えちゃっただけで…」


なんとか、絞り出した言葉

でも、真姫ちゃんの顔を見て

その言葉が意味の無い物だと悟る

292: 2015/05/23(土) 01:49:27.55 ID:CGPipAx4.net
「…真姫ちゃん。」


「どうして…」


「…」


「どうして…黙ってたの?」


これ以上の言葉は

ただ、真姫ちゃんを傷つけるだけだろう

…これ以上、辛い思いをさせてしまって良いのかな


「…」


…ううん、きっと違う

そうやって騙して来たのはウチだから

真姫ちゃんは、すでに傷ついているのだから


「…答えて、希。」


…ああ

どこで間違えたんかな

293: 2015/05/23(土) 01:50:03.06 ID:CGPipAx4.net
「…ごめん。」


ただ、それしか言えなかった

傷つけた事へのごめんなのか

騙してた事へのごめんなのか


…口に出したウチにも、分からなかった


ただ、謝らなければいけないと思った

悪さをして怒られる、子供のように


「…それは、何に対してのごめん?」


「…」


真姫ちゃんも、気付いてたみたい


…それもそうか

今まで作り上げたもの


それが全部…嘘だったのだから


「…ごめんなさい。」

294: 2015/05/23(土) 01:50:28.41 ID:CGPipAx4.net
真姫ちゃんの顔を見る事が出来ずに

ただ、頭を下げた


見られたくなかったのもある

どんな顔で向き合えばいいか、分からなかったから


…きっと、幻滅される

嫌われると思う


…もう


ここに、私の居場所は…




無くなってしまった





「…頭を上げて、希。」

295: 2015/05/23(土) 01:50:54.18 ID:CGPipAx4.net
「…」


「…こっちを向いて。」


「…」


出来れば、上げたくなかった

見たくない

見られたくない


…でも

そうしなければ、いけないと思った


「…」


ゆっくりと、顔を上げる

きっと、怒っているだろう

きっと、蔑んでいるだろう


きっと…きっと、嫌われただろう



そんな思いを打ち消すように

真姫ちゃんの瞳には、涙が溢れていた

296: 2015/05/23(土) 01:51:47.90 ID:CGPipAx4.net
「真姫…ちゃん…」


…ああ、そうか

騙して、傷つけて


そして…泣かせてしまったのか


なんて最低な…私


「…ごめんなさい。」

「ごめんなさい…」


謝る事しか、出来なかった

謝っても、変わる事の無い結果なのに


「…違うの、希。」

「謝って…欲しい訳じゃない。」


「…」





「気付いてあげられなくて…」

「ごめんなさい。」

297: 2015/05/23(土) 01:52:09.29 ID:CGPipAx4.net
「…!?」


「なん…で…」


どうして、謝られているんだろう

真姫ちゃんは、何も悪くないのに


…どうして



「…私、知ってたの。」

「絵里が…希を、受け入れてない事に。」

「その事で、希を避けている事に。」


「知ってて…」

「何も、しなかった。」


「希の記憶が戻れば。」

「きっと…」

「きっと、元通りになる。」


「そう…思ってた。」

298: 2015/05/23(土) 01:52:35.54 ID:CGPipAx4.net
「…私がそう思って、すぐ。」

「希の記憶が、少しずつ戻りだした。」

「本当に…自然に。」

「…私には、そう感じた。」


「…」


「それで思ったの。」

「これで、全部上手くいく…って。」


「絵里が、これ以上疑う事も無い。」

「みんなが、ようやくまとまれる。」


「そう…思ってた。」

「…ううん。」

「思いたかった。」



「…あの時に、気付くべきだった。」

299: 2015/05/23(土) 01:53:09.59 ID:CGPipAx4.net
「…これは、多分だけど。」

「にこちゃんが、絵里と屋上で話した時。」

「…聞いていたんでしょ?」


「…!」


「…やっぱり。」

「今更、それに気付くなんて…」


「…タイミングが、良すぎるもの。」

「あれから、今まで以上に昔の事を聞くようになった。」

「みんなで話すときも、過去の話が多くなった。」


「…それに、気付く事が出来なかった。」



「…希。」

「もう…」



「泣かなくて、いいから。」

300: 2015/05/23(土) 01:53:41.24 ID:CGPipAx4.net
「…え?」


ウチは、泣いてなんか…


「…ずっと、苦しかったんでしょ。」

「嘘をついてた事。」

「みんなを、騙してた事。」


「…本音を、言えなかった事。」


「もういいの。」

「…泣かなくて、いいから。」



「泣いてなんか…」


みんなを傷つけたのは、ウチなのに



「…それも、嘘。」

「ずっと…泣いてた。」



「…ここで。」


真姫ちゃんが、ウチの胸に手を当てる

301: 2015/05/23(土) 01:55:49.55 ID:CGPipAx4.net
「気付いてあげられなくて、ごめんなさい。」

「ずっと…辛かったと思う。」


「絵里が疑ってる事を知って…」

「みんなに、受け入れてもらえないかもって思って。」


「…そんなの。」

「一人で、抱え込める訳ないじゃない。」



「…もういいの。」

「これ以上耐えられないなら、みんなに話せばいい。」

「私も、みんなに話すから。」


「続けるなら…せめて、私の事は信じて。」

「私は…例え記憶が無くても。」

「希は希だって…親友だって、思ってる。」

「絶対に貴女を、裏切ったりなんてしない。」


「…まだ、返せてないの。」

「今度は、私が貴女を救うわ。」


「…約束する。」



真姫ちゃんの言葉に答えるように

ウチの目にも、それが溢れ出した



手に落ちたそれは

ほのかに---あたたかかった

308: 2015/05/24(日) 00:08:49.17 ID:qAlNl/ka.net
-----



「おじゃましまーす!」


「…いらっしゃい、凛。」


「ねえねえ、真姫ちゃん。」

「いきなり、家に来てって…どうしたの?」


「…後で話すわ。」

「それより、中に入って?」


「…はーい!」




「…さ、中で待ってて?」

「お茶、入れてくるから。」


「うんっ♪」

309: 2015/05/24(日) 00:09:16.99 ID:qAlNl/ka.net
-----


真姫ちゃんが出て行って、数分経った

そろそろ…


そう考えた時

リビングの扉が開いた


「…え?」


「…こんにちは、凛ちゃん。」


「希ちゃん…」


「また…騙したみたいで、ごめん。」

「話したい事が、あるんだ…」


ちゃんと、向き合おう

ちゃんと謝って


…それで、嫌われてもいい


ただ、この2人にもう、嘘はつかない

今だけは…自分の言葉で

310: 2015/05/24(日) 00:09:40.11 ID:qAlNl/ka.net
-----



「…そっか。」

「やっぱり…戻ってなかったんだね。」


「凛は…どうして、気付いたの?」

「正直、私には分からなかった。」


「…凛も。」

「凛も、絶対そうだ、って思ったんじゃないんだよ?」

「ただ、なんとなく…」


「…だから、あの日に確認したくて。」


「凛ちゃん…」


「…凛にも、良く分からないんだ。」

「今までの希ちゃんみたいに、優しくて…」

「お姉ちゃんみたいな、感じで…」



「…でもね。」



「雰囲気が…違ったの。」

311: 2015/05/24(日) 00:10:07.38 ID:qAlNl/ka.net
「雰囲気…?」


「うーん…」

「何かを、必氏に隠してるみたいな…」

「どこか、遠くを見てる気がしたの。」


「あ、そう言えば…!」


「何?凛…」


「凛達ね、この希ちゃんになってから…」

「一度も、わしわしされてないんだよ?」


「わしわし…?」


「…!」

「ああ…忘れてた…」


「えっと…そのわしわし、って?」


「そ、それは…///」


何故か、赤くなる真姫ちゃん

なにか、変な事言ったっけ…?

312: 2015/05/24(日) 00:11:07.38 ID:qAlNl/ka.net
「わしわしって言うのはね…」

「希ちゃんが、みんなの胸を揉みしだく事にゃ!」



「胸を…」


「…」


「…ええっ!?」


む、胸を揉むって…私が!?


「もうちょっと、オブラートに包みなさいよ…///」


「え?合ってるでしょ?」


「それは…そうだけど。」



「えっ?えっ?」

「そんな事…してたの?」


「そうだよー?」

「こんな風に…」


凛ちゃんが両手を広げて近付いて来る

313: 2015/05/24(日) 00:11:33.56 ID:qAlNl/ka.net
「…はい、そこまで。」


胸に手が届くか届かないかの所で

真姫ちゃんに、止められた凛ちゃん


「あははっ!」

「希ちゃん、顔真っ赤~♪」


「…///」


こんな恥ずかしい事を

みんなに、してたなんて…



「…凛は、こっちの希ちゃんも好きだよ?」


「…!」


「記憶があるとか、無いとかじゃなくて…」

「希ちゃんは、希ちゃんだもん。」


「記憶が無かったときも。」

「希ちゃん…みんなに心配かけないように。」


「頑張ってたから。」

314: 2015/05/24(日) 00:12:05.30 ID:qAlNl/ka.net
「凛ちゃん…」


「…凛の言う通りよ。」

「私も、賛成。」


「私達は、記憶が無いからって他人だとは思わない。」

「どんな形でも。」

「…一緒に過ごして来た、私達なんだから。」


「そうそう!」

「凛なんか、一昨日の晩ご飯ですら忘れちゃってるんだよ?」

「真姫ちゃんに借りたCDも、借りた事忘れててもう1ヶ月だし…」


「ちょっ…」

「それは返しなさいよ!!」


「えへへー。」


「…と、とにかく。」

「もう…嘘、つき続けなくてもいいんじゃない?」

315: 2015/05/24(日) 00:12:55.07 ID:qAlNl/ka.net
「…」


「きっと、みんなも受け入れてくれるわよ。」

「絵里だって、きっと。」

「私達で、説明すれば…」


「真姫ちゃんの言う通りにゃ!」

「凛達が、ちゃんとフォローするから。」

「だから、もう…」





「…ごめん、2人とも。」



「え…?」


「正直、2人にそう言ってもらえて嬉しい。」

「きっと、嫌われるだろうな、って思ってた。」


「それなのに…2人は、受け入れてくれた。」

「…嬉しかった。」

316: 2015/05/24(日) 00:13:27.73 ID:qAlNl/ka.net
「なんで…?」

「凛達じゃ、不安なの?」


「…そうじゃないよ。」

「2人がいてくれる事は嬉しい。」


「だったら…!」



「でも。」

「きっと今この話を言ってしまったら。」

「絵里ちゃんも…きっとμ'sも、ぎくしゃくすると思う。」

「騙してたから…なおさらね。」


「それは、私達が…」


「…大丈夫。」


「私は…」


「ウチは、大丈夫やから。」

317: 2015/05/24(日) 00:14:33.18 ID:qAlNl/ka.net
「希ちゃん…」


「2人の事が、信じれないとかじゃないんよ。」

「むしろ2人には、感謝しかない。」


「…でも。」

「だからこそ。」


「…今、打ち明けるべきじゃないんよ。」


「ウチは…このウチとして、これまでやって来た。」

「時間は短かったかもしれないけど…」


「それでも、今はこれが『ウチ』だから。」

「このまま、続けるよ。」


「でも、それじゃ…」


「…心配せんでも、大丈夫。」

「2人が、こうして打ち明けられなかった秘密を知ってくれてる。」

「こんなウチの事を、支えてくれるって、言ってくれた。」


「それだけで、十分。」

「それだけで…ウチは、頑張れるから。」

318: 2015/05/24(日) 00:15:39.44 ID:qAlNl/ka.net
-----



「希ちゃん…行っちゃったね。」

「やっぱり、怖いのかな?」


「…」


「真姫ちゃん?」


「…そう。」

「きっと希は…怖いのよ。」


「みんなに本音を知られてしまう事が。」

「それに…ただ、逃げてるだけ。」


「逃げてる…?」


「…前に、にこちゃんと話してたの。」

「あれは…きっと、希じゃない、『誰か』だって。」


「…『誰か』?」

319: 2015/05/24(日) 00:16:12.59 ID:qAlNl/ka.net
「きっとあれは…希に出来た、もうひとつの人格。」

「『心』…と、言うべき物。」


「…心?」


「過去の記憶に、目が覚めてからの記憶が繋がった。」

「…言わば、もうひとりの希。」


「…ねえ、真姫ちゃん。」

「それって、もしかして…」


「…きっと、打ち明けてしまったら。」

「みんなの反応がどうであれ、今の希を縛るものは無くなる。」


「もしかしたら、全部思い出せるきっかけになるかもしれない…」


「でも、それじゃあ…」


「…ええ。」

「今の、希の『心』は。」

「恐らく…。」




「消えてしまうから。」

320: 2015/05/24(日) 00:16:34.78 ID:qAlNl/ka.net
今日はここまで

324: 2015/05/24(日) 23:34:41.72 ID:qAlNl/ka.net
-----



「…はあ。」


とすん、とソファに座って

ごろん、とそのまま横になる



「…裏切っちゃったよね。」


あんなに、私の事考えてくれてたのに


「…でも。」


それでも、私は続けると決めた

…自分で、選んだから


「頑張ろう。」


そして、何よりも…



自分が自分で無くなってしまう事


…それが


何よりも---怖いから

325: 2015/05/24(日) 23:35:21.24 ID:qAlNl/ka.net
「…うん。」


今更悩んだって、仕方ない

だってもう…2週間もない


来週の週末には、もうラブライブが待ってる

みんなに迷惑をかける訳にはいかないから


「…大丈夫。」


私なら…やれる


例え記憶が無くたって

学んで来た事がある

みんなの気持ちも、性格も

全部…


全部、覚えたんだから


「絶対に、ミスはしない。」

「せっかく…手に入ったんだから。」


天井に伸ばした手を

ただ、強く握りしめた

326: 2015/05/24(日) 23:35:52.60 ID:qAlNl/ka.net
-----




『…今日は、来ないか。』

『まあ…今度は、ちゃんと決めたみたいやし。』


『でも…』


『ううん。』

『それも、「私」が決める事だから。』


『ウチは、ここでこうして、見てるだけ。』



『…今は、ウチは動けない。』

『「私」が、そう決めた。』


『バックアップという存在として作り上げたのも、「私」。』


『だから…きっと、まだ気付けない。』


『…気付かないかもしれない。』



『だって…「私」は、ウチだから。』

327: 2015/05/24(日) 23:36:21.93 ID:qAlNl/ka.net
-----



後悔先に立たず、なんて言葉がある

その言葉の通り

後で悔やむ事は、先に知る事ができない訳で


…だって、知ってたら回避しようとするもんね

誰だって、後悔なんてしたくないから



だからあの時、私は決めたのに

どうして、今、後悔してるんだろう?

…いや


どうして、後悔してしまうんだろう?

自分で、そう決めたのに

…これは、『私』なのに



…でも、もしかしたら

例え未来の事が分かったとしても

私は…この道を選んだのかな?



---自分が消えてしまわないように

328: 2015/05/24(日) 23:37:15.96 ID:qAlNl/ka.net
-----




「そういえば…」

「亜里沙ちゃんと雪穂ちゃん、合格したんでしょ?」



「…うん!」

「2人とも…春から音ノ木坂の新入生。」


「亜里沙ちゃん、ずっと前からμ'sに入りたい、って言ってたもんね♪」



ある日の練習前

真姫ちゃんの言葉から、みんながその話題を口にする


「じゃあ、もしかして新メンバー?」

「ついに10人目誕生!?」


「…!」


「ちょっと、そういう話は…」


みんなの顔が、曇ってくる

えっと…こんな時、『ウチ』なら…


「…ふふっ。」


「どーやろ?」


そう言って、にこっちに視線を向ける

329: 2015/05/24(日) 23:37:56.62 ID:qAlNl/ka.net
「にこっちは卒業できるかどうか…」


「するわよっ!!」


『ウチ』らしく、取り繕ってはみたものの

みんなの空気は、相変わらず


…でも、いつか卒業という行事は来る訳で

それに伴って、μ'sのあり方も変わる

それは、仕方が無い事で…



少し前に、えりち達とこの話をした

ラブライブが終わるまで、この話はしない


余計な事を考えないように

ただ、ラブライブに集中できるように


…でも、やっぱり雰囲気は暗いままで

練習が始まっても…

どこか、不穏な空気が流れてた

330: 2015/05/24(日) 23:38:28.44 ID:qAlNl/ka.net
-----


今日はグラウンドで

体をならすトレーニングを中心に

今は、ランニングをしている


先頭に立って走っていると…

後ろから、穂乃果ちゃん達の声が聞こえてくる



「…私も同じです。」

「3人が抜けたμ'sを、μ'sと言っていいものなのか…」


「…そうだよね。」



「なんで卒業なんてあるんだろう…?」


やっぱり、みんなさっきの事を気にしてる

気にしたって…仕方ないやん?


そんな事を考えてると、にこっちが話に割り込んだ


「続けなさいよ…!」

331: 2015/05/24(日) 23:38:57.42 ID:qAlNl/ka.net
「メンバーの卒業や脱退があっても。」

「名前は変えずに続けていく。」

「…それがアイドルよ。」


「アイドル…」


「…そ。」

「そう言って名前を残していってもらう方が。」

「卒業していく私達だって、嬉しいの。」


「だから…っぷ!?」


えりちと目を見合わせて

にこっちを、止めた


「その話はラブライブが終わるまでしない約束よ?」


「分かってるわよ…」


みんなで、そう決めたんだから

332: 2015/05/24(日) 23:39:27.41 ID:qAlNl/ka.net
「…本当に、それでいいのかなあ?」

「…!」


「花陽…」


「だって…」

「亜里沙ちゃんも雪穂ちゃんも、μ'sに入るつもりでいるんでしょう?」

「ちゃんと…答えてあげなくて、いいのかな?」


「…」


「もし…私が同じ立場なら、辛いと思う。」


「かよちんは…どう思ってるの?」

「…!」


凛ちゃんが、そう告げる


「μ's…続けていきたいの?」


「それは…」

333: 2015/05/24(日) 23:39:55.40 ID:qAlNl/ka.net
「何遠慮してるのよ!」

「続けなさいよ…?」


「メンバー全員入れ替わるんならともかく。」

「貴女達6人は残るんだから。」



「…遠慮してる訳じゃないよ?」

「ただ…私にとってのμ'sって。」

「この、9人で…」


「一人欠けても、違うんじゃないか、って。」


「…私も、花陽と同じ。」

真姫ちゃんが続ける


「でも…にこちゃんの言う事も分かる。」


「μ'sという名前を消すのは辛い。」

「だったら…続けていった方がいいんじゃないか、って。」


「…でしょ?それでいいのよ。」

334: 2015/05/24(日) 23:41:16.34 ID:qAlNl/ka.net
「…希は。」

「希は…どう思ってるのよ。」


「ウチは…」


…ウチは、どうしたいんかな?

いや、『ウチ』なら、どうするのか


「…決められない。」

「それを決めるのは…穂乃果達だと思う。」


「…!」

えりちが、話に加わる


「私達は、必ず卒業するの。」

「スクールアイドルを続ける事はできない。」

「だから…その後の事を言ってはいけない。」

「私は、そう思ってる。」


「決めるのは、穂乃果達。」

「それが私の考え。」



「絵里…」


にこっちの頭に、手を置く

「…!」


「…そうかもしれないね。」

335: 2015/05/24(日) 23:41:55.22 ID:qAlNl/ka.net
-----



「まったく…」

「絵里ってば、意地張って…」


「別に、意地を張ったんじゃないわ。」

「言った事は、本心よ。」


「…本気?」

「本気で…そう思うの?」


「ええ…勿論。」


練習が終わって…結局

みんなで、その事について考える事になった

そこで、ウチら3人はカフェへ


まったりとした空気の中

2人の表情は、真剣で


…聞いてるこっちも、顔に力が入る


「…で。」

「希の意見は?」

336: 2015/05/24(日) 23:44:08.00 ID:qAlNl/ka.net
「ウチは…」


「こういう事に関して消極的なのは、いつもの事だけど。」

「私達のこれからにも関係してるんだから、ちゃんと言いなさいよ?」


「そうね…」

「希の意見も、聞いてみたい所ね。」


「…うん。」


μ'sは…このグループは

『ウチ』が、名付けたもの

…そして、ずっと見守ってきたもの

3人で始まったときから、ずっと


なら、それだけ思い入れがある

それだけ、大切に思ってきた


だったら…




「ウチは…μ's、続けてほしいな。」

347: 2015/05/26(火) 20:54:29.16 ID:DAf6izzQ.net
「え…?」


「ほら、やっぱり希もそう思うでしょ!?」


「ちょ、ちょっと待って…」

「本当に、それで良いの?希。」


「どういう事?えりち。」


「だって、貴女…」

「あんなに…」


「えりち…?」


なんで、そんなに悲しそうな顔をするん?

自分が名前をつけて、見守って来たんだから

それが続いてくって、嬉しい事なんじゃないん?


「…そう。」

「分かったわ。」


「…それが、貴女の答えなのね。」

348: 2015/05/26(火) 20:55:00.08 ID:DAf6izzQ.net
「ちょっと絵里、そんな言い方…!」


「…いいえ。」

「怒ってる訳じゃないの。」

「ただ、意外だったから…」


「…意外?」


「昔の希なら…」


「…!」


「…ごめんなさい。」

「とにかく、私は反対よ。」


「それにみんなに言った通り。」

「穂乃果達が、決めるべきだと思うから。」


昔の希、という言葉に

少し、ドキッとした


…大丈夫

バレては…いない

349: 2015/05/26(火) 20:55:56.77 ID:DAf6izzQ.net
「…それに関しては、ウチも賛成よ?」

「続けていくのは、あの子達だから。」


「それでも…!」


「…にこっち。」


「…!」


「今まで…ずっと、頑張って来たんだから。」

「これからは…あの子達に、任せるべきと違う?」


「それは…」


「…そうね。」

「私達の想いを繋いでくれる事は嬉しい事だけど。」

「これから頑張るのは、彼女達なんだから。」


「…」


「それじゃあ、何のためにここにいるのよ…?」


「それはほら…ね?」

350: 2015/05/26(火) 20:56:50.38 ID:DAf6izzQ.net
「…まあいいわ。」

「絵里の考えも、希の考えも分かる。」

「でも、私もこれは譲れない。」


「だったら、あの子達に任せるしか無いって事も。」


「…そうやね。」


「でも…私も、ちょっと意外だった。」


「え?」


「だって、普段なら…」

「…いや、もう関係ないわね。」


「…とにかく。」

「みんなの答えを、待ちましょう。」


「それまでは、私達らしく。」


「…分かってる。」


「…うん。」

351: 2015/05/26(火) 20:57:22.60 ID:DAf6izzQ.net
-----



「…」


『昔の希なら…』


「…」


『だって、普段なら…』



「…」


どこか、おかしかったんかな

昔のウチ?

普段の…ウチ?


でも、こうして経験して来て

考え方は、分かってるつもり

現に、2人とも気付いてない…はず



「…はあ。」



「…ため息つくと、幸せが逃げるわよ?」

352: 2015/05/26(火) 20:57:59.59 ID:DAf6izzQ.net
「…!」


公園のベンチに座っていると

後ろから、声をかけられた


「…真姫ちゃん。」


「話し合い…終わったの?」


「え…?」


「してたんでしょ?」

「これから、どうするか…」


「…ああ、うん。」


「…決まった?」


「…一応。」


「ウチらは…」

「みんなが決めるべき、って事になった。」


「そう…」

353: 2015/05/26(火) 20:58:24.42 ID:DAf6izzQ.net
「真姫ちゃん達も?」


「…そうね。」

「さっきまで、話してたわ。」

「そう簡単に…決まる物ではないけれど。」



「…それもそうやね。」


「…希は?」


「…へ?」


「どうした方がいいと思うの?」


「だから、みんなに任せるって…」


「それは、3年生の意見でしょ?」

「希自身は、どうなの?」


「ウチは…」


「μ's、続けてほしいな…って。」

354: 2015/05/26(火) 21:00:08.90 ID:DAf6izzQ.net
「…」


「…真姫ちゃん?」


「…そう。」


「…意外?」


「…どうして、そう思うの?」


「えりちも…にこっちも。」

「今の真姫ちゃんと、同じ反応したから。」


「…」

「…そうね。」


「意外かと聞かれたら…意外ね。」


「…なんで?」


「希らしく…ないから。」


ウチ…らしく?

355: 2015/05/26(火) 21:00:37.37 ID:DAf6izzQ.net
「よかったら…聞かせてもらえない?」

「どうして…希が、そう思ったのか。」



それから…ぽつぽつと

ウチは、真姫ちゃんに想いを吐き出した


「…そう。」


「自分が名前をつけて…見守って来た。」

「今まで、そうやって来たんやから…」


「無くなってほしくないと、思うのが普通じゃない?」

「自分の想いを込めた居場所が。」

「ずっと…続いてほしい。」


「そう思うのは…間違いなんかな。」


真姫ちゃんは、ちゃんと目を見て聞いてくれた

真剣に、話を聞いてくれてるのが分かる


だからこそ…知りたい

356: 2015/05/26(火) 21:01:01.63 ID:DAf6izzQ.net
「私は…」


「やっぱり、意外って感じるわ。」

「でもそれは、仕方ない事。」


「きっと…その想いが、違うのよ。」


「想いが…?」


「昔の希が、μ'sに込めた想い。」

「今の希が、μ'sに込める想い。」


「…そこが、にこちゃん達が意外に感じる理由だと思う。」


「込めた…想い。」


「でもね、希。」

「私は、今の希の考えでも良いと思う。」


「…え?」

357: 2015/05/26(火) 21:01:30.22 ID:DAf6izzQ.net
「私は、希の気持ちを否定したりなんてしない。」

「だからこそ…言えるのは。」


「今の希の気持ちを、大事にしてほしい。」


「今の希が、このまま続ける事にしたんだから。」

「その考えは、貴女自身の物。」


「今までみたいに、誰かの様子に振り回される必要はない。」

「今は、貴女が東條希なんだから。」


「真姫ちゃん…」


「希は、希よ。」

「今の自分が、一番いいと思う物を、選べば良い。」

「例えそれが間違っていたとしても…」


「それが、希の選んだ答えなんだから。」


「…」

358: 2015/05/26(火) 21:01:56.32 ID:DAf6izzQ.net
「…私は、嫌いじゃないわよ。」

「希の、その考え。」


「…え?」


「誰かのためにずっと動き続けてきた、前の希も。」

「みんなと一緒に、自分も幸せになりたいと思ってる、今の希も。」


「どちらも、同じ希だから。」



「…きっと、正解はないのよ。」

「μ'sを続けるにしても、辞めるにしても。」

「その結果に反対する人は、必ずいる。」


「絵里と…にこちゃんのように。」


「だったら…自分の想いに、任せちゃえばいいのよ。」

「自分が、こうしたいと思う事。」



「…何のために、決めるのか。」

359: 2015/05/26(火) 21:02:23.23 ID:DAf6izzQ.net
「何のため…」


「…そう言えば。」

「昔…初めて、合宿をした時。」

「希に言われたわ。」


『…ウチな、μ'sのメンバーの事が大好きなん。』

『ウチはμ'sの誰にも欠けてほしくないの。』

『確かに、μ'sを作ったんは穂乃果ちゃん達だったけど。』

『ウチもずっと見て来た。』

『…それだけ、思い入れがある。』


「…って。」


「ウチが…?」


「ええ。」

「朝に海辺で、希は確かにこう言った。」


「そっか…」

360: 2015/05/26(火) 21:02:51.03 ID:DAf6izzQ.net
「さっきも言った通り。」

「今の気持ちを、一番大事にするべきだと思う。」


「それでも…私が思うのは。」

「かつて、希がそう言ってくれた事も。」

「今、希が、考えている事も。」


「…どちらも、同じだと思う。」


「同じ…?」


「どちらも、何のために…」

「誰のための、言葉なのか。」


「希は…分かってるでしょ?」


「…」

…ああ、そうか

答えは、目の前にあったんだ


「あのね、真姫ちゃん…」

361: 2015/05/26(火) 21:03:17.09 ID:DAf6izzQ.net
-----


「…」


ベッドに、倒れ込む


「誰のため…か。」


そんなの、決まってる

…ううん


ずっと…そうだった

そのために、頑張って来た


だから…


今度も、そのために


「…すぅ。」


大きく息を吸って…吐く


「…決めよう。」

「今度こそ…」




…一番大事なもののために

362: 2015/05/26(火) 21:03:42.93 ID:DAf6izzQ.net
-----


…声が聞こえる

名前を呼ぶ、声が


この、声は---




『…おかえり。』


『いや、この場合は…』

『いらっしゃい、の方がいいんかな?』


「…」


『また、迷ってるん?』


「…違う、決めたの。」


『…』



「…話があるの。」

367: 2015/05/27(水) 21:38:21.43 ID:vFXhb/CQ.net
-----



「よ~しっ!!」

「遊ぶぞ~!!」


週末、穂乃果ちゃん達に呼ばれて

ウチらは、集まった


「…遊ぶ?」


「いきなり日曜に呼び出して来たから。」

「何かと思えば…」


にこっちとえりちも、驚いてる


「休養するんじゃなかったん…?」


「それはそうだけど…」

「気分転換も必要でしょ?」


「楽しい、って気持ちを沢山持って。」

「ステージに立った方がいいし♪」

368: 2015/05/27(水) 21:38:53.93 ID:vFXhb/CQ.net
「そ、そうですよ…!!」

「今日、あったかいし♪」


「遊ぶのは、精神的な休養だって、本で読んだ事あるし…!」


「そうそう!」

「家に籠っててもしょうがないでしょ?」


「にゃーっ!!」


穂乃果ちゃんの話に、皆がすんなり同意する

海未ちゃんなんかは、何か言いそうやのに…



「なによ…」

「今日はやけに強引ね。」


にこっちも、勘ぐってる



「…ほら、それに。」

369: 2015/05/27(水) 21:39:30.58 ID:vFXhb/CQ.net
「μ's結成してからみんな揃って遊んだ事ってないでしょ?」

「一度くらい、いいかな?って♪」


「でも…」

「遊ぶって、何するつもり?」



「遊園地行くにゃ!」


「子供ね…」

「私は美術館。」


「えっと、私はまずアイドルショップに…!」


「バラバラじゃない!!」

にこっちがツッコむと、穂乃果ちゃんは…




「う~ん…」


「じゃあ、全部!」



「「はああ!?」」


「行きたい所、全部行こう?」

370: 2015/05/27(水) 21:40:16.97 ID:vFXhb/CQ.net
「…本気!?」


「うん!」

「みんな行きたい所を1個ずつ挙げて。」

「全部遊びに行こう!!」


「いいでしょ!?」


すっごく笑顔で、答える穂乃果ちゃん



「…しょうがないわね~。」


みんなの顔も、笑顔になる

やっぱり、μ'sで何かをするって事は

みんな、楽しみなんやね



穂乃果ちゃんが、飛び出す


「しゅっぱーつっ!!」



「「おーっ!!」」

371: 2015/05/27(水) 21:41:01.71 ID:vFXhb/CQ.net
-----


それから、μ'sのみんなで

アイドルショップを回ったり

ゲームセンターで勝負したり


動物園で、動物と戯れたり

緑地公園で、いわゆるスワンボートに乗ったり


他にも浅草や、遊園地なんか

みんなの思い思いの場所に、立ち寄る



…やっぱり、誰かと

この、みんなといられる事


それが、何よりも楽しい


初めて出来た、ともだち

初めて出来た、居場所


終わってほしくない

ずっとこのともだちと


…そんな気持ちをかき消すように

日は、どんどんと傾いていった

372: 2015/05/27(水) 21:41:58.23 ID:vFXhb/CQ.net
「それで後は…穂乃果が遊びに行きたい所だけど。」

「私は…」


「海に行きたい。」


「海?」


「うん。」


「誰もいない海に行って。」

「9人しかいない場所で。」

「9人だけの、景色が見たい。」


「…ダメかな?」


穂乃果ちゃんの言葉に

若干戸惑いを見せつつも


誰も、反対はしなかった


…せめて、日が落ちきるまでに

目的地へと、足を速めた

373: 2015/05/27(水) 21:42:28.84 ID:vFXhb/CQ.net
-----



電車に揺られて、数十分

落ちてくる日が、オレンジ色に変わる頃


ウチらは、海岸沿いの駅に着いた


なんとなく、薄暗くなった雰囲気がウチらを包んで

あんまり言葉を交わす事も無く


浜辺に足を運ぶ


潮の香りが立ちこめる中

荷物を濡れない所に置いて


…いざ、波打ち際まで




「「…わあ~っ!!」」


ちょうど、水平線に沈み始める

紅く染まった夕日を見る事が出来た

374: 2015/05/27(水) 21:42:57.82 ID:vFXhb/CQ.net
日が沈むまでの、ほんの少しだけの時間

みんなが思い思いに、海を楽しんだ



みんなで、顔を合わせて

海に向かって、そっと手を繋ぐ


影を帯びて来た茜空の下

静かに、海を眺めてた




「…合宿の時も。」

「こうして、朝日見たわね。」


えりちがふと、口を開いた


「…そうやね。」


眺める夕焼けが、仄暗くなり始める

時間が来た、と言わんばかりに

穂乃果ちゃんが、口を開いた



「…あのね。」

375: 2015/05/27(水) 21:43:33.12 ID:vFXhb/CQ.net
「…あのね。」

「私達、話したの。」



「あれから6人で集まって…」

「これからどうして行くか。」



「希ちゃんと、にこちゃんと、絵里ちゃんが卒業したら。」

「μ'sを、どうするか…」



「穂乃果…」



空気が、ひんやりと冷気を帯びる

まるで、これからの事を予期してたみたいに


…でも、不思議と怖くはなかった


だって…

376: 2015/05/27(水) 21:44:05.39 ID:vFXhb/CQ.net
「…ひとりひとりで、答えをだした。」

「…そしたらね?」


「全員一緒だった…!」



「…みんな同じ答えだった。」


「だから…」


「だから、決めたの。」

「…そうしよう、って。」


「…」



「言うよ?」

「せーっ…」


「…」


「ごめん。」

「言うよ…」







「せーのっ…!!」

377: 2015/05/27(水) 21:44:37.24 ID:vFXhb/CQ.net
「「大会が終わったら…」」


「「μ'sは…」」











「「おしまいにします…!!」」

378: 2015/05/27(水) 21:45:04.95 ID:vFXhb/CQ.net
「…やっぱり、この9人なんだよ。」

「この9人が、μ'sなんだよ。」



「…誰かが抜けて、誰かが入って。」

「それが普通なのは、分かっています。」



「…でも、私達はそうじゃない。」



「μ'sはこの9人…」



「…誰かが欠けるなんて、考えられない。」



「1人でも欠けたら、μ'sじゃないの…!」




「…」



「…そう。」


「絵里…!!」

379: 2015/05/27(水) 21:46:33.76 ID:vFXhb/CQ.net
「私は、穂乃果達が決めた答えが、ベストだと思う。」

「だって…私達は、卒業するのだから。」


「…ッ!」

「希は…!?」


ウチは…


うん、決めたから

あの時ちゃんと、自分の、心の中で



「…ウチも賛成だよ?」


「…!」

「アンタ、続けてほしいって…」


「…」

「…思い出したんよ。」


「え…?」


「μ'sに込めた…想いを。」

380: 2015/05/27(水) 21:47:06.84 ID:vFXhb/CQ.net
-----


「…話があるの。」


『話…?』


「…そう。」


『てっきり…また、迷ってるんかと。』


「…迷うのは、もう辞めた。」

「迷う必要なんて、なかった。」


「…一番、大事な物が、そこにあるから。」


『…』


『…で、話ってなに?』


「その前に…聞かせてほしい。」


『何を?』


「貴女にとってのμ'sって…何?」


『…』

381: 2015/05/27(水) 21:47:35.57 ID:vFXhb/CQ.net
『…えっと。』

『「ウチ」の記憶によると…』


「…そうじゃない。」

「ウチは、貴女に聞いてる。」


『…え?』


「貴女は…どう思うの?」


『…』


「…答えて。」


『…』



『μ'sは…』







『ウチの、夢。』

382: 2015/05/27(水) 21:48:20.17 ID:vFXhb/CQ.net
『…ともだちが、欲しいと願った。』

『大切なものが、欲しいと願った。』


『誰かの役に、立ちたいと願った。』

『叶えたいと思える、夢を願った。』


『その願いを、叶えてくれた場所。』

『ウチに、夢を見せてくれたんよ。』


『沢山の願いが詰まった、居場所。』

『願った夢を…叶えてくれる、夢。』



『それが…ウチにとっての、μ's。』

『一番大事な…8人の、ともだち。』



「…」


『答えに、なったかな?』


「…やっぱり。」


『…え?』






「…嘘つき。」

383: 2015/05/27(水) 21:48:59.63 ID:vFXhb/CQ.net
『…何の事?』


「分かってるくせに…」

「…ずるいよ。」


『…』


「…」


「…最初から?」


『…最初からやね。』


「…どうして?」


『「ウチ」が、そう決めたから。』


「…そっか。」

「ずっと…見てたんだね。」







「本当の…『私』。」

384: 2015/05/27(水) 21:56:20.74 ID:vFXhb/CQ.net
『…』

『まさか、気付くとは思わんかったよ。』


「私も…まさか、って思った。」

「なにより…ここでの事は、覚えてなかったし。」


『なら…なんで?』



「バックアップ…」


『…』


「貴女は自分の事を、バックアップだと言った。」

「ただ、記憶の処理をしているだけの存在だと。」


「なら…」

「どうして、私に選ばせたの?」


『…』

385: 2015/05/27(水) 21:56:55.92 ID:vFXhb/CQ.net
「その後も…助言したり、忠告したり。」

「ただのバックアップにしては、貴女には意思があった。」


『そんなの、勝手に「ウチ」が作り上げた物かもしれんよ?』


「…思い出したの。」

「2回目に…貴女と出会った時。」

「目を覚ます、直前…」


「貴女は、言った。」



『どうか…間違えないで。』



「…今なら、分かる。」

「貴女は、ずっと隠してた。」

「自分の想いを…気持ちを。」


「…そうでしょ?」



『…』

386: 2015/05/27(水) 21:57:34.87 ID:vFXhb/CQ.net
「どうして…」

「どうして、教えてくれなかったの?」


「自分が、本人だって…」


「どうして、戻りたいと願わなかったの?」

「私は、勝手に生まれた存在なのに。」


『…』


「また…答えてくれないの?」


『…』



『…幸せに、なってほしかった。』


「え…?」


『あの頃の…昔の、「ウチ」を。』


『応援したかったんよ。』

387: 2015/05/27(水) 21:57:55.97 ID:vFXhb/CQ.net
『…貴女が、今までの「ウチ」の事を別人だと思ったように。』

『ウチも、そう思ってた。』


『自分じゃない、誰か。』

『それでも、そこには存在してて。』


『…急に、欲しかった物が手に入って。』

『悩みながらも、みんなになるべく心配させないように動いて。』


『ウチみたいに、気持ちを隠してた頃とは違う。』

『素直な…貴女が、羨ましいと思った。』


「…」


『見た目は、確かにウチだけど。』

『性格も、考え方も違う「ウチ」。』


『ウチが、みんなの幸せを願うように。』

『貴女も…その内の、一人だった。』


「え…」

388: 2015/05/27(水) 21:59:19.67 ID:vFXhb/CQ.net
『だから…って言うのも、あるんやと思う。』

『せめて、貴女が望むまでは…』


『ウチは、望まないように。』

『貴女が…幸せに、なれるように。』


『そう、選んだ。』


「でも…でも、私は…」

「少なくとも貴女のイマを奪ったんだよ?」


『…別に、いいよ。』

『同じ、「ウチ」だから。』


『それに…』


『真姫ちゃんや、凛ちゃんが…』

『あんな風に思って、言葉にしてくれたのは。』


『貴女の、お陰だと思うから。』


「…」

389: 2015/05/27(水) 21:59:50.96 ID:vFXhb/CQ.net
『ウチじゃ…きっと、本音なんて話せなかったし。』

『2人が、本音でぶつかってくれたのも。』

『きっと、それが貴女だったから…』


「…ああもう、めんどくさい!!」


『…へ?』


「ほんと、真姫ちゃんから聞いてた通り、面倒な人!」

「なんでそんなに、ネガティブなのか…」

「…いや、確かに私もそうなんだけど。」


「真姫ちゃんも凛ちゃんも、確かに私を希として見てくれた!」

「それは、私だったからかも知れない!」


「でも、そんな私でも希と認めてくれて、支えてくれたのは…」

「貴女が、今まで希としてみんなの願いを叶えて来たからでしょ!?」

390: 2015/05/27(水) 22:00:46.21 ID:vFXhb/CQ.net
『でも…』


「記憶が無い時、みんなに話を聞いた!」

「『私』は、どんな人間だったのか、って!」


「…全員が答えた!」

「かつて…貴女に、救われたって!!」


「直接関わってないにせよ…」

「貴女が過ごして来た日々は、確かにあったの!」

「貴女を大切に想う人が、たくさんいるの!」


「そんな人達に、支えられてきたんでしょ!?」

「そんな人達と、夢を叶えたいんでしょ!?」


「だから…」

「だから、その想いをμ'sに込めたんでしょ!?」


「…思い出して!」

「今度は、貴女が思い出す番だよ!?」

391: 2015/05/27(水) 22:01:12.71 ID:vFXhb/CQ.net
『…』


「はあ…はあ…」


『でも…』

「でも禁止!」


『…』


「…貴女は、どうしたいの?」

「貴女自身の手で、叶えたいの?」


『ウチは…』


「本気で私の幸せを願って。」

「自分は、見てるだけでいいなんて言うなら。」


「…この体、私がもらうから。」


『…!』


「選んで。」




「…私が、選んだように。」

392: 2015/05/27(水) 22:01:28.87 ID:vFXhb/CQ.net
『ウチは…』


「…」


『ウチは…』









『…みんなと、幸せになりたい。』









「…本当に、面倒な人。」

393: 2015/05/27(水) 22:02:06.26 ID:vFXhb/CQ.net
『でも、そうなったら…』


「…分かってる。」


『それでいいん?』


「良いも何も…元々、貴女の体でしょ?」


『それは…』


「これからどうするのかを考えた時、思った。」

「確かに、私は『私』だったけど。」

「それでも、本当の『私』じゃなかった。」


「ラブライブっていう目標に向かって。」

「…みんな、本気で努力してた。」

「それは、今まで乗り越えて来た物があるから。」

「みんな…お互いの事を、信頼してた。」



「でも…」

「私には、その記憶がないから。」

394: 2015/05/27(水) 22:02:36.11 ID:vFXhb/CQ.net
「確かに、記憶が戻ったフリをしてたら。」

「みんな、優しかったよ?」


「みんなで笑って、遊んで、頑張って。」

「…とにかく、充実してた毎日だった。」


「でも…」

「どこかで、本気になれない自分がいた。」


「それはやっぱり、μ'sに込めた想いが違ったから。」

「私は、今が楽しかった。」

「楽しい日が、ずっと続けば、って思ってた。」


「…でも、違った。」

「楽しい日は、いつか必ず終わる。」

「終わった時、後悔がないように、今をみんな頑張ってる。」


「とてもじゃないけど…」

「私には、そんな考えなんて無かった。」


『…』

395: 2015/05/27(水) 22:03:33.93 ID:vFXhb/CQ.net
「私は、何よりも自分が幸せになりたかった。」

「欲しかった物が手に入って。」

「望んでた幸せを、手に入れる事ができた。」


「ただの…仮初めの、幸せを。」


『…』


「それで、分かったの。」

「やっぱり…どう頑張っても、私は『私』じゃないんだと。」


「…知ってると思うけど。」

「真姫ちゃんに、何のために、って言われて。」

「…気付いちゃった。」



「みんなのために。」


「そのために頑張るのが。」

「そのためにいるのが、私だったんだ、って。」

396: 2015/05/27(水) 22:04:07.19 ID:vFXhb/CQ.net
「そしたらね…なんだか、自分がすごく小さく思えたの。」

「記憶が無い事を隠して、生活して。」

「みんなには嘘をついて、2人には心配させて。」


「私…なにやってるんだろう、って。」


「みんなのために、記憶が戻ったフリをしたのに。」

「いつのまにか、自分のためになってた。」


「…自分でも、呆れた。」

「みんなの事を考えないで…どうして、私はここにいるんだろう、って。」


「そんな気持ちで、優勝なんて出来る訳ない。」

「だって…」


「全部、自分で手に入れた物じゃないから。」


「ともだちも、居場所も…全部、貴女から与えられたもの。」

「変わろう、って気持ちが、無くなっちゃうくらい。」


「居心地が…よかったから。」

397: 2015/05/27(水) 22:04:38.92 ID:vFXhb/CQ.net
「だから…もう、いいんだ。」

「もう…十分、楽しんだから。」


『でも…でも…ッ!』


「…手、出して。」


『…』


「…あったかいね。」


「今度は、全部自分で手に入れてみせる。」

「私の、最後の記憶。」

「あの日に戻って…また一から、やり直す。」


「そして、必ず手に入れてみせる。」

「この…最高の、ともだちを。」



「…約束する。」

398: 2015/05/27(水) 22:05:16.71 ID:vFXhb/CQ.net
『…ッ。』


「…ほら、泣かないで?」

「同じ「私」なら、分かるでしょ?」


「みんなに、本当に必要な存在は…誰なのか。」

「みんなが、貴女を待ってる。」

「貴女と夢を叶えたいと、思ってる。」


「…そんな貴女が、私は誇らしいから。」


『…』


「貴女が、私を覚えていてくれるなら。」

「私は、決していなくなる訳じゃないから。」

「だから…笑って、お別れしよう?」


『…分かった。』

『絶対…叶えて、みせるから。』



「…ありがとう。」



「…ばいばい、『私』。」


『ばいばい、『ウチ』。』

399: 2015/05/27(水) 22:21:53.58 ID:vFXhb/CQ.net
-----


「…希?」


「思い出したんよ…」

「この9人で、叶えてきた夢があって。」

「この9人じゃなきゃ、叶えられない夢がある事。」


「初めて、みんなと出会ってから…」

「ウチが、どんな想いで見て来たか。」


「…名前をつけたか。」


「9人しかいないんよ…!」


「ウチにとって…」



「μ'sはこの9人だけ。」


「…ッ。」

「そんなの…。」

「そんなの、分かってるわよ…っ。」


「…私だってそう思ってるわよ。」

「でも…」


「でも、だって…!」



「にこちゃん…」

400: 2015/05/27(水) 22:22:22.21 ID:vFXhb/CQ.net
「私が、どんな想いでスクールアイドルをやってきたか。」


「…分かるでしょ?」



「3年生になって諦めかけてて。」

「それがこんな奇跡に巡り会えたのよ!?」



「こんなすばらしいアイドルに…」

「仲間に巡り会えたのよ!?」


「終わっちゃったらもう、2度と…」

「だからアイドルは続けるわよ!!」


「絶対約束する!!」

「何があっても続けるわよ…!!」


「真姫…」


「でも…μ'sは私達だけの物にしたい!!」

「にこちゃんたちのいないμ'sなんて嫌なの…」


「私が嫌なの!!」

401: 2015/05/27(水) 22:23:13.36 ID:vFXhb/CQ.net
「…かよちん。」

「泣かない約束なのに…」

「凛、頑張ってるんだよ…?」

「なのに…もう…」




「あーっ!!」


「「!?」」



「時間!!」

「早くしないと、帰りの電車なくなっちゃう!!」


「えっ?」

「穂乃果ちゃん…!?」



「と、とりあえず追いかけるわよ!」

「みんな、荷物もって…」



「…希?」


「…ううん、すぐ行く!」

402: 2015/05/27(水) 22:23:39.93 ID:vFXhb/CQ.net
…これで、良かったんやと思う

みんな、ウチの記憶は戻ってると思ってる

今更、みんなに伝えた所で

…混乱させたり、悩ませるだけだから


だから…ひとつだけ、誓うよ

絶対に、このみんなと夢を叶えてみせる


手を取って、約束したように

ただ…『ウチ』に、胸を張れるように



…でも、やっぱり

伝えないといけない、人がいるから


「…真姫ちゃん、凛ちゃん。」


「「…?」」


「…ありがとう。」

403: 2015/05/27(水) 22:24:07.75 ID:vFXhb/CQ.net
「貴女、やっぱり…」


「記憶、戻ってたの!?」


「しーっ…」


「…!!」

凛ちゃんが、慌てて口を押さえる


「…今まで、ありがとう。」

「ウチの記憶が戻ったのも…」

「これまで、支えてくれた2人のお陰。」


「もう…大丈夫なの?」


「うん♪」


「…そう。」


「そっかー…」

「でも凛、あの希ちゃんも好きだったなー。」


「わしわししないし…」

404: 2015/05/27(水) 22:24:41.03 ID:vFXhb/CQ.net
「…ほう?」

「それは…これの事かーっ!!」

両手を上げて、凛ちゃんに飛びつく


「け、結構にゃーっ!!」


そう言って、みんなの方へ走っていく


「…はあ。」

「凛の言う通り…」


「面倒な希に、戻ったのね。」


「…ま、そういう事やね。」


「…」


「…笑ってた?」


「…うん。」

「最期まで…」


「…そっか。」

405: 2015/05/27(水) 22:25:07.52 ID:vFXhb/CQ.net
「…あのな、真姫ちゃん。」


「…?」


「…ひとつだけ、頼まれた事があるんよ。」


「…何?」


「真姫ちゃんに、伝えといてほしい、って。」

「あの日…」


「真姫ちゃんに、伝えて無かった事。」


「あの日…?」



「…ああ。」

「そう言えば…」

406: 2015/05/27(水) 22:25:39.21 ID:vFXhb/CQ.net
-----



「あのね、真姫ちゃん…」


「…?」


「…」



「…やっぱり、辞めとく。」

「また決めたら、伝えるから。」


「…分かった。」



「…ありがと、真姫ちゃん。」


「…?」


「えへへ…なんでもないよ。」

407: 2015/05/27(水) 22:28:30.55 ID:vFXhb/CQ.net
-----



「それで…なんて?」


「『ウチ』から、真姫ちゃんへの伝言。」


『最期に私を救ってくれて、ありがとう。』


「…ッ。」

「…」


「…そうね。」

「少しは…返せたのかしら。」


「…うん、きっと。」


「例え時間が短くても、一緒に過ごしたのは事実だから…」

「あの希が笑っていたのなら。」

「私が泣く訳には…いかないわね。」


「真姫ちゃん…」


「希ちゃーん!真姫ちゃーん!」


「…あれ、凛ちゃんどうしたん?」

「えへへ…言わなきゃいけないの、すっかり忘れてた!」


「…?」


「…そうね。」


「せーのっ…」


「「おかえりなさい!!」」




「…ただいま。」

408: 2015/05/27(水) 22:31:05.32 ID:vFXhb/CQ.net
これにて完結です
お付き合い、ありがとうございました

こういった感じのを書いたのは初めてなので
分かりにくい所もあったと思いますが
読んで頂きありがとうございました!

何か質問などあれば、お答えします

409: 2015/05/27(水) 22:35:51.20 ID:FzLJxCAo.net

全作も今作も面白かったよ

410: 2015/05/27(水) 22:36:36.41 ID:jTUkccGe.net
完結お疲れさまです
一時は読んでて辛かったけどハッピーエンドで良かったです

私がウチになれたのは。のどのあたりでこのif分岐構想が練られたのか気になるにゃー>ω</

411: 2015/05/27(水) 22:39:34.73 ID:vFXhb/CQ.net
前作も読んでくれてありがとう

実は思いついたのは英玲奈を書いてる途中で、しかも最後はバッドエンドだったんですよね…

書いてるうちに、いつの間にかこのストーリーに…
凛にバレた時までは、バッドエンド直行だったので、もしかしたら矛盾とかあるかも

いずれにしても、読んでくれて感謝です

425: 2015/05/28(木) 01:20:35.29 ID:ok2CO8+m.net
相変わらず良い終わり方だった
前作から見てます

(バッドエンドも気になるとか言ったらいけない空気)

426: 2015/05/28(木) 02:09:50.84 ID:I2U5Sa88.net
-> Bad End


>>218より



「…ど、どういう意味?凛ちゃん。」


「…別に、そのままの意味だよ?」

「希ちゃん、記憶戻ってないよね、って。」


「そんな訳ないやん…?」


「ほら、みんなで合宿行った事も。」

「ハロウィンで、踊った事も。」


「凛ちゃんが、ウェディングドレスの衣装着たのだって…」

「ちゃんと、覚えてるよ?」



「…本当に?」


「勿論!」


急速回転する頭を、冷やす

まさか、凛ちゃんがこんなに鋭いなんて思わなかった


どうする…?

427: 2015/05/28(木) 02:10:28.07 ID:I2U5Sa88.net
「そっか…」

「本当に、覚えてるんだね。」


「…もう、凛ちゃんってばいきなり酷いなあ。」


なんとか笑顔で、ごまかそうとする

大丈夫のはず

今までだって、ごまかせて来た…



「…じゃあ、ひとつ質問しても良い?」


「…ん?なに?」


大丈夫


今までみんなとやって来た事は

頭にちゃんと入ってる


…大丈夫、問題ない

428: 2015/05/28(木) 02:12:17.72 ID:I2U5Sa88.net
「…新曲作りのために、真姫ちゃんの別荘に行って。」

「もちろん、覚えてるよね?」


「うん。」


確か、行き道で穂乃果ちゃんが寝坊して…

3人がスランプに陥って

みんなで、ユニットに別れたんよね


…大丈夫


「希ちゃんが、食べられる草とか教えてくれてね?」

「みんなで、テントに入って夜空を見上げて。」


「…そう言えば、希ちゃん。」

「好きな星の話、してくれたよね。」


「…そうやね。」


「南十字星…今でも、覚えてるよ。」


…そう

あの時確かに、その話をした

海未ちゃんから、その話も聞いた

本当に南極で見たのかって、追求されたから

429: 2015/05/28(木) 02:12:58.57 ID:I2U5Sa88.net
「本当に、覚えてたんだ!」

「ごめんね?疑ったりして…」


「あ…ううん。」

「変な質問して、困らせたのはウチやし…」


…切り抜けたんかな?


少なくとも、凛ちゃんは笑顔になった


「えへへっ。」

「やっぱり、いつもの希ちゃんだったみたい♪」

「あの時も、お姉ちゃんみたいに、優しくて…」


「…流れ星を見つけたのも、希ちゃんだったね。」


「ふふっ…綺麗やったね。」



「…ねえ、希ちゃん。」


「…ん?」



「あの時、流れ星なんて無かったよ?」

430: 2015/05/28(木) 02:17:35.90 ID:I2U5Sa88.net
「え…」



「確かに、希ちゃんは流れ星を見つけたけど。」

「あれ…冗談だったよね。」


「海未ちゃんも…確認してたよ?」

「希ちゃんが、凛達を元気づけようとしてくれた、って。」


「…」


「…ねえ、どういう事かな?」


「…ッ。」


血の気が引くのが、分かる

完全に、油断してた

開いた口が渇いて、水分を求める


とにかく、切り抜けないと

でも、どうやって…?


声が出せないでいると

部室の、ドアが開いた

431: 2015/05/28(木) 02:20:31.98 ID:I2U5Sa88.net
「今の話、本当ですか?」

「…希。」



「海未…ちゃん…」


「あ、海未ちゃんおはよー!」


「ええ、おはようございます、凛。」

「それで…教えて頂けますか?」


「…」


ウチに、言える事はひとつもなかった

ここから、巻き返せる訳が無い

これがきっと、ことりちゃんとか

他のメンバーなら、大丈夫やったかもしれない


…でも、この3人で行動してたからこそ

必ず、ボロが出る



ほつれた糸口は

もう…戻す事は出来なかった

432: 2015/05/28(木) 02:24:24.13 ID:I2U5Sa88.net
バッドエンドは、こんな感じで進める予定でした

少しずつボロが出始めて
追い込まれていく感じで書こうと思ってましたが
凛ちゃんがキレ者過ぎるのと、救いが無さ過ぎたので没にしました

後、パターンとしては凛ちゃんをごまかして
真姫ちゃんと2人に支えてもらうけど
結局、記憶は戻らないパターンも用意してましたが
今回の内容で書き上げた次第です

後味悪く感じてしまったら、すみません

433: 2015/05/28(木) 02:42:09.23 ID:I2U5Sa88.net
-> Epilogue

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「のーぞみっ。」

「…どうしたの?」


「…あ、にこちゃん。」


「ぽけっと口開けて、何してるのよ?」


「うーん…」

「夢を、見てたの。」


「…夢?」


「うん。」

「なんだか、すっごく楽しかった。」

「わくわくして、どきどきして。」


「…そんな、夢。」



「夢、ねえ…」

434: 2015/05/28(木) 02:43:33.61 ID:I2U5Sa88.net
「…ねえ、にこちゃん。」


「…何?」


「正夢って…信じる?」


「んー…そうね。」

「私も、アイドルになった時の姿とか、夢で見るし。」

「正夢になってほしいな、ぐらいの気持ちはあるわよ?」


「…そっか♪」


「何か、良い夢でも見たの?」


「…あんまり、覚えてないんだけどね?」

「でも…すっごく、幸せだった。」


「幸せ…ねえ。」

「そりゃ、こんないい天気の日に屋上で寝てたら。」

「幸せな夢のひとつも見るでしょうよ。」


「…確かに。」

435: 2015/05/28(木) 02:44:19.13 ID:I2U5Sa88.net
「…それで、どんな夢なの?」


「え…?」


「何?話してくれるんじゃないの?」


「まさか、そんな事言われるとは…」


「話す努力をしなさいよ。」

「誰でもにこみたいに、聞いてくれる訳じゃないんだし。」


「…そうだね。」

「でも、本当にあんまり覚えてないんだよ…?」


「別に、いいわよ。」


「…なんだか、あたたかかった。」


「…?」


「誰かとね?」

「手を…繋いだ気がするんだ。」


「手を…?」


「…うん。」

436: 2015/05/28(木) 02:45:02.51 ID:I2U5Sa88.net
「優しい両手に、包まれて。」

「元気な手に、引っ張ってもらって。」


「…最後に、握手をした。」


「…」


「…にこちゃん、私ね?」

「ともだち…作ろうと、思うんだ。」


「…へ?」


「なんだか、今なら何でも出来る気がするの。」

「いつまでも、にこちゃんに頼ってばかりじゃ駄目だから。」


「…どうしたのよ、いきなり。」


「…勇気を、もらったの。」

「顔も覚えてないけど…」


「確かに、この手で受け取った。」



「…やるよ、私。」

「変わって、みせる。」




見ててね


いつか--きっと

437: 2015/05/28(木) 02:47:42.57 ID:I2U5Sa88.net
ありがとうございました

引用: 希「失った記憶と繋がる心。」