1: 2009/05/07(木) 16:40:56.64 ID:Dak3fWfY0
ふと、翠星石が呟いた。
星くらい珍しいもんじゃないだろ、と思いつつも窓から顔を覗かせてみた。

「・・・・・・」

思わず言葉を失った。
目にしたものは、まるで燃えているかのように夜空を照らす星々。
そういえば最近は外に出ていないなぁ。

「ジュンも綺麗と思うですぅ?」

少し顔を赤くしながら翠星石が聞いてくる。
どうして顔を赤くしているのか分からないまま「あぁ」と答えた。

3: 2009/05/07(木) 16:46:22.06 ID:Dak3fWfY0
「そこは『翠星石の方が綺麗だよ』っていうところですぅ!」

なるほど、何かのテレビで変な知恵をつけたらしい。

「いや、この星は中々見れないレベルだぞ?」

再び視線を夜の空へと向ける。
あわせて、翠星石も僕と同じ方向を見る。

「そういえば、あの時もこんなに星が綺麗だったですぅ」

あの時、か。
僕が翠星石と出会う前の話だろう。

6: 2009/05/07(木) 16:52:50.37 ID:Dak3fWfY0
「ちょっと興味があるな」

翠星石はおろか、真紅や雛苺の過去も僕は知らない。
こいつがどのような経験をしたのか、皆目検討も付かない。

「聞いてもつまんねえかもしれねえですよ?」

翠星石の目がいつになく真剣だった。

「まだ、ジュンと出会う前の話ですぅ」

この切り口から、翠星石の過去の話が始まった。

9: 2009/05/07(木) 16:58:01.55 ID:Dak3fWfY0
私は・・・・・・、翠星石。
誇り高きローゼンメイデンの第3ドール、翠星石。

ですぅ。

「に、人形が動いたァァ!」

また、そんな眼をするですか。

「よ、寄るな化け物めッ!」

また、そういう事を言うですか。

翠星石は、マスターなんていらない。
1人でアリスゲームを勝ち上がってみせる。

14: 2009/05/07(木) 17:04:28.61 ID:Dak3fWfY0
「ふぅん、第4ドールもこの世界にいるですか」

話し相手はスィドリームただ1人。
それでも、1人よりはずうっとマシ。

「それじゃ、近いうちに挨拶をしないといけねえですね」

やられる前に対処する、それが迫害され続けて学んだこと。
相手が人間でも人形でも、妹だろうとも変わらない。

「スィドリーム、今のうちに休んでおくですぅ」

仕掛けるなら早い方がいい。


>>13
いや、多分君が言ってる人と僕は違う

19: 2009/05/07(木) 17:11:52.81 ID:Dak3fWfY0
曇った夜空、星なんてとてもじゃないけど見えない。
・・・・・・暗いほうが何かとやりやすいだろう。

「スィドリーム、あいつで間違いねえですか?」

目の前には、涙を溜めながら目を閉じている蒼い人形。
何故か、とても自分に似ている気がした。

「き、君は・・・・・・?」

弱弱しく蒼い人形が目を開ける。
戸惑ったのがいけなかった、もっと冷徹になればよかった。

「もしかして・・・・・・、翠星石なの?」

20: 2009/05/07(木) 17:17:07.41 ID:Dak3fWfY0
蒼い人形がふらふらと近寄ってくる。
微笑み、溜めた涙を零しながら。

「僕は蒼星石、君の妹だよ」

蒼星石には敵意が見えなかった。
それどころか、私に好意を持っているようにも思えた。

「ずぅっと1人で寂しかったんだ・・・・・・」

バタン、と私の胸に倒れてそのまま眠ってしまった。
しかし、顔はとても微笑んでいた。

21: 2009/05/07(木) 17:24:13.23 ID:Dak3fWfY0
どうしてこうなってしまったのだろう。
このまま手を捻るだけで蒼星石はアリスゲームを降りることになる。

でも、できなかった。
安心して寝ている妹を倒すなんて。

「よっぽど疲れてやがったですね・・・・・・、蒼星石」

蒼星石の顔の汚れやドレスの状態、髪の状態に気づいた。
この子も私と同じく人間に迫害されてきたのだろう。

「蒼星石・・・・・・、翠星石がお前を人間から守ってやるですぅ」

星が出ていればそれに誓ったが、あいにく星は顔を出さなかった。

28: 2009/05/07(木) 17:30:21.57 ID:Dak3fWfY0
「ふぁ・・・・・・」

いつの間にか寝てしまっていたらしい。
蒼星石もまだ、目を覚ましていなかった。

「こら、いつまで寝てやがるですぅ」

コツン、と頭を小突くと「ふぇ!?」と飛び上がった。

「す、翠星石・・・・・・、おはよう」

本人はちゃんとしているつもりなのだろうが、
口から首に掛けて一本の線がついていた。

「そんなだらしねえ顔してねえで顔を洗ってこいですぅ!」

29: 2009/05/07(木) 17:37:28.10 ID:Dak3fWfY0
それから、少し町を離れた森の中で私は生活するようになった。
もちろん、蒼星石と一緒に。

「そろそろ収穫してもいいですかね」

2人の能力を使えば、自給自足も容易だった。
何より、人間に関わらないで済む事が1番嬉しかった。

「レンピカ!」

蒼星石の鋏が野菜を見事に切り取った。

「スィドリーム!」

残った根を、私の如雨露で癒した。

32: 2009/05/07(木) 17:42:00.44 ID:Dak3fWfY0
いつしか私達はアリスゲームの事を忘れて楽しく生活していた。
いや、結果から見れば忘れていたのは私だけだったのかもしれない。

「ほれ、今日は翠星石がおーいしい料理を作ってやるですぅ!」

「ははは、翠星石の料理はいつもおいしいに決まっているじゃない」



長く暮らすに連れて、人間達の支配力はこの森にまで及んできた。
森は焼かれ、乾いた土地に町が出来た。

私達は、再び住む場所を奪われた。

34: 2009/05/07(木) 17:48:09.88 ID:Dak3fWfY0
「とまぁ、ここまでが前編みたいなものですぅ」

あっけらかんと翠星石がいう。
そんなに軽い話でもないはずなのに。

「それで、その後はどうなるんだ?」

まだ星の話も何も出てきていない。

「少し、時間をくださいですぅ」

翠星石が辛そうな顔をして自分の胸に手を置いた。


スゥっと息を吸い込み、翠星石が再び話し始めた。

36: 2009/05/07(木) 17:53:11.84 ID:Dak3fWfY0
最近、体が重い。
マスターもいないままでは、力が底を尽きてしまう。

「このままじゃ僕達、また眠っちゃうのかな」

蒼星石が小さく呟く。

「そ、そんなことはねえです!」

蒼星石が力なく微笑む。
とても、寂しく。

「次に目覚めたときも翠星石と一緒がいいな」

38: 2009/05/07(木) 17:56:52.86 ID:Dak3fWfY0
私は蒼星石と別れたくない。
けど、そのためにはどうすれば・・・・・・?

いや、本当は分かっている。
人間と契約さえすれば別れなくて済むことに。

「蒼星石、一緒に町に行くですぅ」

少し弱っている蒼星石の手をしっかりと握り、自分たちの家を後にした。

「翠星石の手・・・・・・、暖かいね」

蒼星石が静かに微笑んだ。

40: 2009/05/07(木) 18:01:46.37 ID:Dak3fWfY0
「なるほど、翠星石が自ら契約する瞬間って訳か」

思わず、口を挟んでしまった。

「むぅ、人が喋っているときに口を挟むもんじゃねえです!」

完全に怒っている。
プイッと顔を逸らし、頬を膨らましている。

「ご、ごめんな 続けてくれ」

「やーですぅ!」

完全に拗ねてしまっている。

45: 2009/05/07(木) 18:07:04.51 ID:Dak3fWfY0
「途中でやめるなよ、続きが気になるだろ」

ようやく、翠星石が口を開く。

「ジ、ジュンの膝の上に乗りながらだと気が向いて話をしてやるかもしれねえですぅ?」

無言で翠星石を持ち上げて、膝の上に置いた。

少々赤みを帯びた人形は、少し可愛く感じた。

「それじゃ、続けるですぅ」

49: 2009/05/07(木) 18:12:36.59 ID:Dak3fWfY0
仕方なく、人間と契約することになった。
相手は私達をどう思っているか分からない。

私には興味が無かった。

しかし蒼星石は元気になるにつれて、私より人間といる時間の方が長くなった。
「マスター」と蒼星石が呼ぶたびに、少し嫌な気持ちになる。

もちろん、私と人間の間の溝は埋まらなかった。

「マスター、紅茶を淹れました」

人間の後に、私に紅茶が届く。

52: 2009/05/07(木) 18:18:57.76 ID:Dak3fWfY0
「蒼星石、最近翠星石に冷たくねえですか?」

蒼星石がキョトンとした顔で私の顔を見る。
意外だったのだろうか、少し首を横に傾けた。

「そんなつもりはないんだけどなぁ」

「そう、翠星石の思い違いですぅ! あんま気にすんなですぅ!」

少し無理をして明るく言った。
蒼星石が「はい」と微笑んだ。

その後、人間に呼ばれて蒼星石は私の前から消えた。

55: 2009/05/07(木) 18:25:18.31 ID:Dak3fWfY0
少し複雑ながらも、私は人間の家に居続けた。
自分のために、蒼星石のために。

「今夜は星が綺麗ですぅ・・・・・・」

屋根の上で寝転んでいるときに、ふと口から漏れた。

「ええ、実に綺麗な星空だと思うわ」

不意に頭上から声が聞こえた。
見上げると、全身真っ赤の人形が私を見下ろしていた。

「私は真紅、誇り高きローゼンメイデンの第5ドール」

59: 2009/05/07(木) 18:32:38.32 ID:Dak3fWfY0
自分の頭の最も深い部分から、アリスゲームという単語が出てきた。
ローゼンメイデン同士が出会ったら、戦いの合図。

「どうして不意を突かなかったですぅ?」

スィドリームから庭師の如雨露を受け取り、
臨戦態勢になりながら聞く。

「そうね、それも良かったかもしれない」

真紅が静かに笑った。

「でも、不意打ちは美しくないでしょう?」

61: 2009/05/07(木) 18:39:29.18 ID:Dak3fWfY0
「場所を変えてくれねえですか?」

この家には・・・・・・、

「蒼星石がいるのでしょ、貴女の双子の妹の」

蒼星石が双子の妹という事をこのとき初めて知った。
通りで自分に似ていると思った。

「いいわ、ついておいで」

真紅が優雅に飛び立つ。
後を追いかける私は必氏だったため、優雅ではなかったと思う。

62: 2009/05/07(木) 18:44:02.74 ID:Dak3fWfY0
少し開けた所にたどり着いた。
真紅が少し意外そうな顔で私を見る。

「逃げなかったのね」

「翠星石が逃げたらお前は蒼星石を襲うですぅ!」

真紅が不敵に微笑む。

「そうね、そうかもしれないわ」

「御託はいいですぅ! かかってこいですぅ!」

先手必勝、全力で真紅に攻撃を仕掛けた。

66: 2009/05/07(木) 18:50:10.10 ID:Dak3fWfY0
最初の一発は真紅の首に少し傷をつけたものの、他の全ての攻撃を紙一重でかわす。
この瞬間に私と真紅の絶対的な力の差を感じ取った。

「あら、もう終わりなの?」

「くぅッ!」

自然と涙がこぼれる。
私はここでお終い、蒼星石もすぐに私の後を追うだろう。

「どうして泣いているの?」

69: 2009/05/07(木) 18:54:18.19 ID:Dak3fWfY0
このままやられるくらいなら、どうせなら・・・・・・
自分の思いをぶちまけたい。

「アリスゲームを負けたことが悔しいの?」

「違うです」

「眠るのが怖いの?」

「違うです」

「じゃあ、どうして?」

見知らぬものを初めて見る子供のように、きょとんとした目を向けてくる。

71: 2009/05/07(木) 18:57:08.23 ID:Dak3fWfY0
「翠星石は悔しいですぅ・・・・・・!」

真紅がニコッと笑う。

「やっぱり負けるのが悔しいのね?」

「違うですぅ・・・・・・ 蒼星石を守れないことが悔しいですぅ!」

真紅が「はぁ・・・・・」とため息をつき、私に背を向ける。

「どうしたですぅ、止めを刺さないつもりですぅ?」

真紅が「今の貴女を倒すのは美しくないわ」と言いながら飛び去っていった。

73: 2009/05/07(木) 19:00:09.97 ID:Dak3fWfY0
1人、私は取り残されてしまった。
不思議と、心は満たされていた。

このまま蒼星石の所に戻る・・・・・・
戻っていいのだろうか

蒼星石は今私が戦っていることを知らないで人間と一緒にいる。

じゃあ私が戻ったら邪魔者・・・・・・?

妹を信じられない、嫌な考えが頭をよぎった。
だが、易々とその考えは打ち破られた。

76: 2009/05/07(木) 19:04:09.42 ID:Dak3fWfY0
「翠星石ッ!大丈夫かいッ!?」

庭師の鋏を構えた蒼星石がやってきた。
慌ててるのだろうか、帽子が少しずれていた。

「遅えですよ・・・・・・蒼星石」

安心したら、涙が止め処なく溢れてきた。
泣いている姉の姿を見てか、蒼星石がそわそわしていた。

「翠星石・・・・・・、泣かないで?」

とても優しく、強く私に微笑みかけた。

79: 2009/05/07(木) 19:19:33.26 ID:Dak3fWfY0
「その後は蒼星石と仲良く暮らしてまた眠りについたですぅ」

翠星石がようやく話し終えた、と一息ついた。
そして、僕の顔を見て「ヒヒッ」と笑った。

「な、何だよ・・・・・」

「翠星石の作った物語は面白かったですぅ?」

その一言を言い残して、翠星石が鞄の中に閉じこもった。

「なんだよ・・・・・・、人がせっかくしんみりしたのに!」

80: 2009/05/07(木) 19:20:53.66 ID:Dak3fWfY0
「あの子ったら・・・・・・」

いつの間にかに、真紅が部屋にいた。
少々顔を赤くしている。

「まぁおかしいと思ったんだよな、真紅がそんなに優しい訳ないし」

真紅が少し顔を曇らせて、「そうね」と呟き鞄に入った。

その時、真紅の首筋に見えた傷が妙に痛々しかった。

fin

オチのry>>1がお送り致しました。
書き溜めあればもう少し早く出来たんだけど・・・・・
読んでくれてありがとう
質問ある?

文才がほしい

82: 2009/05/07(木) 19:23:20.87 ID:gZUhoxC40

104: 2009/05/07(木) 22:16:06.72 ID:Dak3fWfY0
>>103
欝展開だけじゃないもん!
巴とかも書いたもん!

まぁ、色々とまだ試行錯誤しているんです
書けば書くほど文も上手になるらしいし

106: 2009/05/07(木) 22:38:52.47 ID:Dak3fWfY0
翠星石「お誕生日おめでとうですぅ!」
翠星石「んん・・・・・む、もうこんな時間ですぅ」
翠星石「ジュンの部屋・・・・ですぅ」+過去編
翠星石「女人間なんかにデレデレしやがってですぅ!」
巴「ともえ将来はジュンのお嫁さんになるーッ」
蒼星石「そういえば翠星石のマスターってどういう人なんだい?」

あとは忘れた。

台本形式だと翠星石「はいもしもしですー・・・ゲ、水銀燈・・・・」かな

107: 2009/05/07(木) 22:41:24.43 ID:4n7EXOkqO
全部読んだことある不思議…!

114: 2009/05/07(木) 23:32:18.54 ID:Dak3fWfY0
>>113
書いてたぜ・・・・・・、意外と皆見てるんだな


そろそろ次の奴考えるから・・・・・・
見てくれてありがとう

引用: 翠星石「・・・・・・綺麗な星ですぅ」