214: 2015/02/28(土) 19:10:23.46 ID:bHfPzMAuo

215: 2015/02/28(土) 19:22:47.54 ID:bHfPzMAuo



-敵の影-

??「ようこそ、諸君。僕らが治めるこの鎮守府こそ、まさに理想郷だよ」

??「前置きはいいよ。それよりも北のお馬鹿さん、陸軍に引き渡されたんだって?」

??「墓穴掘るにしても、デカ過ぎでしょう。欲が前に出すぎた結果ね」

??「西も今相当荒れ狂ってるよなぁ…あれ、大丈夫なんだろうな?」

??「プレゼントを贈ってあるから、それなりに対処するんじゃないかな。それよりも僕らが今すべきは一つ」

??「色欲くんの救出?嫉妬しちゃうわねぇ…あんな変態を助けたいだなんて…」

??「彼はただの欲塗れの人間じゃない。それは皆も既に解っているだろう?」

??「そりゃあ、北のお馬鹿さんよりは利口だと思うけど、大本営に捕まってる状態でどうするのさ。
冗談抜きで元帥の抱える艦隊は強いよ」

??「だなぁ…」

??「だからこそ、皆を集めたんじゃないか。三人寄らば文殊の知恵ってね。僕一人でもやりようはあるけど、
それだと結局どこかで足が付く。それを消す為には皆の協力が必要不可欠ってわけさ。どちらに転ぶにしても、
ハイエナの今回の行動は既に露見してしまっている。あれを擁護するのは余り得策じゃない」

??「あら、それじゃあの怠け者ボウヤは見捨てちゃうわけ?薄情ねぇ…」

??「相変わらず君は辛辣だね。その蛇のような目、僕は好きだよ」

??「それはどーも、お坊ちゃま」

??「んで、どーすんだよ。さっさと決めてくれよ。俺ぁこういうの考えんのが苦手なんだ」

??「そうカリカリするもんじゃないだろう?心を落ち着かせないと、出てくるものも出てこなくなるよ」

??「けっ、てめぇは毎度食ってるだけだろうが。暴食野郎が」

??「艦娘の中には正義感の強い子も多数居るからね。そんな子達を堕落させるには、どうしても彼の力は必須。
僕はそう見ている。ただ滅ぼすだけなら一斉攻撃を仕掛ければ良いだろうけど、それだけだと恐らく海軍を根底から
滅ぼすだけで終わってしまうんだ」

??「つまり何か、潰すは潰すが、要所良く形は留めて要らねぇ部分だけ潰すって事か?」

??「いい嗅覚を持ってるね。その通り…あの存在自体は非常に有効利用が出来る代物だ。それをむざむざ無にして
しまうのは勿体無いと思わないかい?出来る事なら、僕らでそれを再利用するんだ」

??「だから内側からって事なわけね」

??「まぁ、それはいいんだけど…ハイエナの方はどうするのさ。援軍は送ったんだろう?それなのにさっきの口振りじゃ
もう用済みみたいな言い方をしているじゃないか。斬り捨てるのかい?北のお馬鹿さんと一緒に」

??「今後の展開次第だよ。僕が預けた子を上手に立ち回らせてれば、望みはあるかもしれないね。けど、単独先行させて
しまっていた場合は……ふっ、残念だけど礎になってもらうしかないよ」ニヤッ…

??「やれやれ、君の悪い癖。その笑みが出ると必ずと言っていいほど何かを企めている顔だよ。私はその顔、嫌いだ」

??「表情一つで僕の考えを汲んでくれる君を、僕は非常に好いているんだけどなぁ」

??「ちっ、気持ち悪ぃ事言い合ってんじゃねぇよ。男同士で好きだ嫌いだってホ〇かよ。ったく……とにかくだ……
工口河童については保留、北のバカとハイエナのアホは状況次第で抹殺でいいんだな?」

??「ああ、構わない。まだ確信を得られても困るからね。内部からジワジワと蝕んでいくよ。気付いた頃には
にっちもさっちもいかない状況がベストだね」

??「そういえば、怠け者くんは何にご立腹なのかしら?」

??「さぁ、そこまでは僕も聞いてない。ただ、彼は自分の益の妨げになる奴をこの上なく嫌う傾向があるからね。
彼の目に留まってしまったのなら、恐らく氏ぬまで追い回されるだろう」

??「あら、あたし達ならともかく、あなたが相手を把握してないなんて珍しいわね」

??「把握する必要がないからね」ニヤッ…
艦隊これくしょん -艦これ- 海色のアルトサックス(4) (角川コミックス・エース)
216: 2015/02/28(土) 19:23:24.13 ID:bHfPzMAuo



加賀「ここは……譲れません」スッ…

レ級EL「面白そうじゃないの。アタシ一人に誰一人としてそっちは手も足も出ないのにまだ足掻くって言うんだから、
最後まで足掻かせて上げるわよ。そして知るといい。可能性なんてものが微塵もないという現実を」ギラッ…


再度矢を番え直し、加賀が弦を引く。

その動作を全てレ級ELは不敵な笑みを湛えながら見守るが、不意にその表情が陰る。


レ級EL「…っ!」バッ


ボゴオオオォォォォォン

ボゴオオォォォォォン


加賀「なっ…」

レ級EL「誰…!」


一瞬の静寂を切り裂いて海面を無数の砲弾が貫き、周囲に水飛沫を撒き散らして加賀とレ級EL、双方の動きを止める。

そして加賀達とは反対の方向から三つの影が薄っすらと水平線に浮き上がり、それはやがて輪郭を帯びていく。

218: 2015/02/28(土) 20:33:12.20 ID:bHfPzMAuo


満潮「誰よ…」

漣「わ、解らないのです」

長良「援軍、なのかな」

鳥海「なら、いいんですけどね…」

??「あらら、命中には至らなかったか」

??「当然です。あれで終わるなら苦労はない」

多摩「にゃ~」

レ級EL「たった三人ですって…?誰よ、あなた達…」

??「妙高型重巡洋艦三番艦の足柄さんよ。覚えておきなさい?」

??「陽炎型駆逐艦二番艦不知火」

多摩「球磨型軽巡洋艦の二番艦、多摩だにゃ。暴れるにゃ!」

加賀「」(見た事がない…まさか、大本営の艦娘?)

足柄「あら、訝しい顔ね。加賀さん?でも大丈夫よ。別にあなた達に用があってきた訳じゃないのよ」チラッ…

レ級EL「目的はアタシってワケね」

足柄「ふふっ」

レ級EL「何が可笑しいのよ」

足柄「思いもよらない収穫だもの。そりゃあ、笑みも零れるでしょ?」

レ級EL「餓えた狼、か…」

足柄「解ってるなら、注意しないとね?不知火、多摩、戦闘準備!」

不知火「了解」

多摩「にゃ!」

レ級EL「あはっ…まさか、まさかとは思うけど…え、本気?まさか三人だけでアタシに挑むの?」

足柄「あら、後ろの空母さん達はもうシカトなのかしら?」

レ級EL「…………」チラッ…

加賀「まだ戦力に余力はあります。追撃は可能です」

鳥海「まだ何もしてないのに、白旗なんて揚げるもんですか」

長良「何が何でも勝つ!」

満潮「水底に送り返してやるわ」

漣「ぶっとばーす!」

多摩「やる気十分にゃ」

不知火「まだ、折れてはいないようで安心しました」

足柄「それなら、勝つわよ。変則的だけど…今回は特別。見せて上げるわ、戦闘を主任務に置く私達の実力」


足柄が主砲を構えると同時に、左右に展開していた不知火と多摩の二名も共に主砲を構える。

そして息を合わせたように足柄の号令で行動を開始した。

219: 2015/02/28(土) 21:14:37.45 ID:bHfPzMAuo


足柄「第一戦速、砲雷撃、用意!てぇーっ!!」サッ


ドン ドン

ドン ドン ドン


レ級EL「小賢しいわね」ビュオッ


ボゴッ ボゴッ……ボゴオオォォォォン


背にある艤装を自在に操り、レ級ELは差し迫ってくる砲撃の悉くを巻き起こした突風で軌道を逸らし誘爆させる。


不知火「何…!」

多摩「は、反則にゃ!」

足柄「へぇ…怪物認定は伊達じゃないって訳ね」

加賀「それで満足されては困ります」

レ級EL「何ですって…?」

加賀「言ったはずです。みんな優秀だと。この艦隊に劣っている者など、一人としていません」


バッ


足柄達の攻撃を迎撃し終わった直後を狙い、今度は鳥海達が一斉にレ級ELへと迫る。

鳥海と長良を後方に据えて先頭を二人の駆逐艦が仕切る。


満潮「何発でも、何十発でも…!」

漣「その澄ました顔が歪むまで撃ちまくってやるです!」

レ級EL「駆逐艦に何が出来るっての!」ザッ


足の軸を変えて即座に漣達の方へ向き直ったレ級ELだが、二人の駆逐艦はレ級ELへ突進はしなかった。

ただ左右に分かれて、シンクロするように同時に左右からのタイミングをずらした一斉砲撃が開始する。


ドン

ドン ドン ドン

ドン ドン

ドン


レ級EL「くっ、こいつ等…ッ!」


ボンッ

ボボボンッ


レ級EL「鬱陶しいなぁ…!」 被害軽微

220: 2015/02/28(土) 21:48:32.13 ID:bHfPzMAuo

漣「褒めても何もでませんよ~!」

満潮「ウザくて何ぼよ。徹底的に纏わり付いてやるわ!」

足柄「」(この子達、今まで見てきた駆逐艦の中でもトップクラスね。うちの不知火に引けを取らない。いいわね…)

多摩「足柄、追撃にゃ!」

足柄「ええ、そうね。不知火、多摩、レ級ELの動きに注視。加賀の束ねているあの艦隊は強い。必ずレ級ELの足許を掬うわ。
その瞬間を狙い撃つ。乱撃戦は彼女達に任せましょうか。下手に突っ込んでこっちの足許見られても癪だしね」

不知火「解りました」

多摩「りょーかいにゃ!」

足柄「まだ、飛び掛る時じゃない。必ず好機が出来る。今は、牙を研ぐ時よ」チラッ…


足柄の視線の先、一切のブレも見せない、完璧な立ち姿で弓を引き絞ったまま動かない加賀。

先のレ級ELとの制空権争いで競り負けながらも、その闘志は尚燃え上がる。

更にその先に視線を移すと鳥海と長良が一斉射の準備に取り掛かりつつ射線の確保に向かっている。

てんでバラバラに見えるこの艦隊だが、その連携は微塵も狂わず綺麗に整っている。

各々が自分の役割、出来る事を把握してその範囲内で最大限のパフォーマンスを見せる。


バッ


装填分、全てを撃ち尽くすと同時に漣達は一歩後方へと後退し、それを合図とする様に今度は鳥海と長良が前に出る。

レ級ELに考える暇、体勢を整える暇、余裕を生ませない為に間隙すらも縫わせない徹底的な攻勢スタイル。


レ級EL「蟻がどれだけ群がったって象には敵わないでしょうが…!身の程を、弁えろ、艦娘風情がッ!!」ドォン ドォン


サッ

ボゴオオオォォォォン


闇雲に放たれたレ級ELの砲撃は鳥海達の上空を通過し、その後方で爆発を起こす。

自身でも気付いていない、それはレ級ELに余裕の現われが消えていた事を示していた。

221: 2015/02/28(土) 22:20:20.25 ID:bHfPzMAuo


レ級EL「鬱陶しい……!何なのよ、あんた達は…!」

鳥海「艦娘です」

長良「汚名を残した、ね」

鳥海「それでも、人が生きる過程の中で成長・進化を遂げるように…あなた達深海棲艦が同じように進化を果たすのと
同じように、私達も生まれ変わる。成長し、進化し、強くなる!」

長良「ここから、私は挽回する!鳥海さん、加賀さんの射線確保を優先して下さい」

鳥海「任せなさい!いくわよ!」ドン ドン


サッ

ボボボボンッ


レ級EL「ちっ」

長良「私も鳥海さんと共に射線の確保に動きます。漣と満潮はスイッチする形で常に私達と交互にレ級ELの進路妨害に
徹して!相手に余裕を与えないように!」

満潮「やってやるわ!」

漣「任せてちょーだい!」

鳥海「長良、あと一度よ!」ジャキッ

長良「はいっ」ジャキッ

レ級EL「思い上がりも甚だしいわ。全弾撃ち尽くして、そして絶望の中で水底へ沈めて上げるわよ!」ジャキッ

長良「……」ニコッ

鳥海「……」ニコッ


ドン ドン ドン ドン


レ級ELの言葉を受けた上で、二人は余す事無く砲弾の全てをレ級ELへ撃ち出す。

その間隙を縫って、今度は再び漣と満潮が同じく全弾一斉に発射する。

巻き起こる噴煙は倍化し、辺りの視界を一気に多い尽くす。

222: 2015/02/28(土) 22:41:20.56 ID:bHfPzMAuo


──だから、無駄だって言ってるでしょ!終わりよ。跪きなさい、愚かな艦娘風情はッ!!──


ビュオッ……


噴煙の中から木霊するレ級ELの声。

その声と共に突風が吹き荒れ、立ち昇っていた噴煙を蹴散らして視界が戻っていく。

だが、それと同時に長良の声が一際大きく響き渡った。


長良「加賀さんっ!!」

加賀「いい作戦指揮です。戦艦レ級EL…次の攻撃、防げるものなら防いで見なさい」ビュッ

レ級EL「……っ!」 被害軽微


番えていた矢を放ったかと思うと、加賀は既に第二の矢を弓に番えていた。


レ級EL「なっ…」

加賀「本来、このような行使はしません。ただし、それは事艦隊戦においてのみです」

レ級EL「あなた達だって、艦隊を編成してるじゃない!」

加賀「そうですね。一見矛盾を孕んではいますが、これがその答えです」ビュッ


初撃を放った直後、加賀は更にもう一発、矢を上空へ向かって放つ。

そこから更に加賀は矢を弓に番えて構える。


レ級EL「なっ…あ、あなた正気!?味方諸共、アタシを…」

加賀「諸共?冗談でしょう。狙いはあなた一人です。大丈夫、みんな優秀な子たちですから」ビュッ


一切の迷いも無く、加賀は三度目の矢を放つ。

三本の矢は段階を置いて第一順から次々と艦載機へとその姿を変えていき大空へと舞い上がる。


レ級EL「そんな数の艦載機…一度に出せば周辺がどうなるかなんて解りきってると思ったんだけど…
もしかして、あんたバカなわけ?」

加賀「その台詞は後の展開を身をもって知ってから口にして下さい」


ババッ


加賀の放った無数の艦爆艦攻隊が一斉爆撃と射撃を敢行する直前、鳥海達が一斉に外へ向かって飛び退く。

鳥海と長良がそれぞれ放っていた水偵がタイミングを見て合図を送り、それを聞いた二人が駆逐艦達にもタイミングを

知らせ、示し合わせた上で同時に退いたのだ。

223: 2015/02/28(土) 23:05:00.02 ID:bHfPzMAuo


レ級EL「あなた達…ッ!」

足柄「斉射準備に入るわよ」

不知火「見事と言う他ない」

多摩「引き際と攻め時、解ってるにゃ」

満潮「だ~れがあんたと一緒に心中なんてするって言ったのよ」

漣「漏れなく全部あなた様へプレゼントしてやるです!」

鳥海「これが、あなたが艦娘風情と見下す私達の力よ!」


ボゴオオオォォォォォォォォン


一際大きな炸裂音が響き渡り、加賀の有する艦爆艦攻隊が一斉に攻撃を仕掛ける。

巻き起こる噴煙を切り裂き、海面を、空を、縦横無尽に艦載機が駆け回る。

攻撃が止む直前、長良の声が周囲に響いた。


長良「今です!」

足柄「いくわよ!」

不知火「了解」

多摩「にゃ!」


待ってましたと言わんばかりに、今度は足柄達が一気に前に出る。

最初は華を持たせるつもりだった。

危なくなれば直にでも割って入ってレ級ELの動きを寸断する予定だった。

ところが蓋を開ければ共闘するこの五人は予想を遥かに上回った強さを見せた。

嬉しい誤算と同時に、少しの不安を抱えながらも足柄は主砲の照準を合わせる。

224: 2015/02/28(土) 23:05:33.55 ID:bHfPzMAuo


レ級EL「ア、タシが…!こんなァ……ッ!!」 中破

足柄「敗因は、戦力を見誤った事ね」

不知火「不測の事態は常に考えるべきです」

多摩「それをしないのがお前達深海棲艦にゃ!」


ドン ドン ドン ドン

ボゴオオォォォォォォォン


尚も前に進もうとするレ級ELを真正面に捉え、三人の砲撃が一斉にレ級ELを襲う。

今度こそ、レ級ELは沈黙し、海の藻屑となって水底へと沈んでいった。

水面に浮かぶ剥がれ落ちたレ級ELの艤装の一部を拾い上げ、足柄は加賀達に向き直る。


足柄「ご苦労様。それと、中の提督さん、早く治療して上げないと出血多量で氏ぬわよ」

漣「あ……」

満潮「ヤッバ、忘れてた…」

加賀「聞きたい事は往々にしてありますが、今は人命を優先します」

不知火「適切な判断ね」

多摩「うんうん」


足柄達は加賀達の背を見届けてからレ級ELの艤装を一瞥して大本営へ報告をする。

225: 2015/02/28(土) 23:06:21.36 ID:bHfPzMAuo


足柄「……こちら足柄です。大淀さんかしら?ちょっと面倒な事になったわね」

大淀『面倒、とは?』

足柄「通信じゃちょっと怖いわね。先の件と連動してる、とだけ言っておくわ。とにかく…任務は終了。
今から投錨します」

大淀『解りました。元帥にもその旨、通達しておきます』


ブツン…


不知火「想定外の戦力差もあって今回は勝利できたけど、改めて戦艦レ級の恐ろしさを痛感しました」

多摩「殆ど奇襲に等しかったにゃ。あっちも加賀達を下に見て遊んでくれてたのが幸いしてるにゃ」

足柄「そうね。もしもあれが出だしから頃しに来てたなら、確実に全滅コースだったかもしれないわね」

多摩「けど、肝心なのは今回勝利したことじゃないにゃ。レ級が未だ存在していたという事実にゃ」

不知火「しかも単独。エリートやフラグシップクラス、鬼や姫、レ級と言った一部のクラスに属してる深海棲艦は
往々にして高い知能と統率力を有しているはず。それが単独で、しかもあの鎮守府を狙ったというのが不思議」

足柄「ハズレ鎮守府…確か今回の任務、事の発端は西の鎮守府が行っている違法行為の証拠を発見する事、だったわよね」

多摩「そうにゃ。ただ、多摩達は基本武闘派だから途中からはサフに任務伝達をして引き継いでもらってたにゃ」

不知火「サフの抱えてる案件にはこの鎮守府も含まれていたはずです」

足柄「それこそ事の次いで程度だったはずよ。現にサフがここに着たのも、北の鎮守府絡みでたまたま交わっただけだし」

多摩「多摩の直感が言ってるにゃ。今回各地で起こってる事件。全て繋がってる気がするにゃ」

不知火「多摩の直感って悪いのばかり当たるから嫌い」

多摩「にゃにゃ!?」


相手の油断も手伝ってなんとかレ級ELの撃破に成功した加賀達。

放置されて安否の確認が取れない提督。

そして加賀達の窮地を救った足柄達と鬼怒達を護送していった雲龍達の詳細。

確実に解っているのは、闇の一端がまた一つ、顔を覗かせたという事だけ。

231: 2015/03/07(土) 21:15:00.97 ID:um3piFOoo



~不退転~



-不幸ですね-

『急いで最寄の救急病院へ電話をして下さい』

『し、止血ってどうするんだっけ!?』

『応急処置は私がやりますから、電話をお願いします』

『二人は毛布と清潔なガーゼをあるだけ持って来て下さい』

『解ったわ!』

『ほいさー!』


そんな喧騒とした声が聞こえたのは覚えている。

煩くて敵わなかった。

あと少しという所で意識も薄れ、安眠へと移行できると思っていた矢先の喧騒。

実に……じ・つ・に、不愉快極まりない。

だが暫くするとその喧騒も止み、今度こそ静かな安寧が訪れた。

そして、意識が完全に落ちて気が付くと────


提督「……どこだ、ここは」

加賀「気が付かれましたか、提督」パタン…


本を読んでいたらしい加賀は提督の意識が戻ったのに気付いて本を閉じて視線を移す。

視線を交わらせると、これがどうだ…心配の『し』の字もしていないという顔つきだ。

鉄面皮は健在らしい。


提督「ふん……氏に損なったか」

加賀「減らず口が出る辺り、順調に回復しているようで何よりです」

提督「……あの、バケモノは、どうした……」

加賀「撃滅しました」

提督「……っ!?お前等、だけでか」

加賀「未確認の艦娘による援護がありました。恐らく大本営から派遣された部隊だと思われますが…」

提督「また、大本営、か」

加賀「主治医を呼んできます。目を覚まされたばかりですから、会話も身体に障るでしょう。お待ち下さい」スッ…

232: 2015/03/07(土) 21:41:16.30 ID:um3piFOoo


結果から言えば、俺はまさに生氏の境を彷徨ったらしい。

眠気が襲ってきたのは氏ぬ間際だったんだそうだ。

あそこで加賀達が応急手当をしていなければ確実に俺は目を覚ます事は無かったそうだ。

ったく、よりにもよってあいつ等に借りを作った事が悔やまれる。

こと、満潮と漣に関しては口煩くなるのが目に見えている。

直前に加賀から聞いた話では予期せぬ援軍があったという。

それに妙高が口にしたサドバフと言う単語。

少なくとも俺が上層部に関わりを持っていた頃には聞かなかった呼称だ。

恐らく何かのスペシャルチームの略称なのは明白だ。

雲龍達は警護部隊と言っていたな。

それ以外に、最初に遠方からこちらを監視していたのは恐らく密偵部隊だ。

当時の呼称そのままならば暗部と呼ばれるスペシャルチームだろうが、当時は暗部で統一されていたはず。

その中でも枝分かれして集団が形成されていた程度だ。

所謂部局と課室って奴だ。

暗部は部局で、その下に枝分かれして密偵、諜報、暗殺と並んでるのが課室。

そんなもんまで結成するって事は、智謀自身も内部の腐食が進行してるのをどうにかしようとしてたって訳だ。

前元帥ならまずそんな身内を疑うなんて所業はしなかっただろう。

かえってそれがヤツ等の温床になってたのが智謀としても頭を悩ませる原因か。

そして今回の西の一件。

まさか深海棲艦を手駒に加えてるとなれば、いよいよ新鋭の再来だ。

歴史は繰り返されるというが、こうも短期間で繰り返されたんじゃ進撃の立つ瀬もなくなるな。

233: 2015/03/07(土) 21:41:43.57 ID:um3piFOoo


ガチャ……


加賀「不幸でしたね、提督」


──不幸ですね、提督──


提督「てめぇ……」ムクッ…

主治医「あぁほら、動かないで。意識戻っても傷口は深いんだから、無理に動いたりしたら折角縫った箇所が
また開いてしまうだろう」

加賀「思った事を口にしただけです。他意はありません」

提督「ちっ……他の連中はどうした」

加賀「鎮守府を空にする訳にはいきませんから、鎮守府で待機してもらっています」

提督「つぅかてめぇ、なんで普段着なんだよ」

加賀「軍装はそれだけで目立ちますから」

主治医「ほら、提督さん。少し大人しくしてて下さい」

加賀「無事を確認できましたから、私はこれで失礼します。先生、後は宜しくお願いします。では」ペコリ


ガチャ……パタン……


主治医「…はぁ、今の子、艦娘って言うんでしょう?普通の子と何ら変わらないけど、何でも軍艦だかの記憶を
内に秘めてる子だけがなれるっていう…」

提督「ったく、一般人にまで浸透してる知識かよ。世も末だぜ…」

主治医「癇に障ったなら謝ろう。だがね、我々にしてみれば関係ないのさ。彼女達も同じじゃないのかね」

提督「…………」

234: 2015/03/07(土) 22:16:16.67 ID:um3piFOoo

主治医「我々はこうして人命を助ける。彼女達も、今じゃ人が自由に航行もできない海に繰り出して人々を助ける。
だからね、何故貴方がそうも彼女達に辛く当たるのか、私にはよく解らなくてね」

提督「あんたはメンタルカウンセラーか何かかよ」

主治医「いや、専門外だね。私のメインは形成外科だ」

提督「だったら根掘り葉掘り聞いてんじゃねぇよ」

主治医「提督さん、貴方…救急搬送されてきた時に何て言ったか覚えてらっしゃいますか?」

提督「はぁ?」

主治医「貴方はね…何もするな。このまま放置して頃してくれ。そう仰ったんですよ」

提督「…………」

主治医「さっきまで一緒に居た彼女、艦娘の加賀さんがね、これがまた辛辣でねぇ…ただの戯言ですから、
処置をお願いしますって言い放ってね」クスッ…

提督「あの野郎……」

主治医「まぁ、ね。頼りにされてると、そういう事なんじゃないかな」

提督「…海軍提督には、幾つか守秘義務がある。てめぇもただの医者って訳じゃねぇだろ。海軍の人間を受け入れる
病院なんてそう多くはねぇはずだ」

主治医「平成初期の時代はまだ病院も往々にしてオープンだったんだけどね。今じゃ格差をつけて各々の身分に見合った
病院へ通うようになっているね。それもこれも、深海棲艦の出現で軍の機密事項が増えたのが原因さ」

提督「で?」

主治医「ふふっ、そう…私は元軍医だよ。階級は中佐だった。君が言うとおり、ここは海軍ご用達の病院だよ。
だから何があったのかなんていうのは言われなくても解っている。艦娘の事もある程度把握はしているさ」

提督「ああそうかよ」

主治医「さて…それだけ喋れるんだから、後は無理せず療養してもらって傷を癒そうか、大佐殿」

提督「くそったれが…」

235: 2015/03/07(土) 22:16:44.48 ID:um3piFOoo



『不幸ですね、提督』

『そこは不運って言えよ』

『あら、そうですか?』

『不幸不幸って、本当にそう思ってるのか?』

『ふふ、さぁ…どうでしょうか?』

『ったく、何かにつけてお前は直に不幸自慢をするが、存外そうとも言えないんじゃないのか?』

『口癖、みたいなものだからかしら?』

『余り褒められたもんじゃない口癖だ』

『ふふ、それじゃあ少しだけ、意識してみますね。でもね、提督……やっぱり、こればっかりは、不幸、かな……』

『……すまない』

『やっぱり私、沈むのね……山城は無事だと良いけれど……』

『山城は…大丈夫だ。心配ない』

『それを聞いて、安心しました。提督、あの子の事、宜しくお願いね?』

『本当に……すまない』

『謝らないで、提督。根を詰めすぎては、身体に毒です』

『お前を、救えなかった…』

『提督と、お別れする時は、もっと…黒ずんだ空の下なら良かった……空は、あんなに、青いのに……』

『扶桑……ッ』

236: 2015/03/07(土) 22:24:01.23 ID:um3piFOoo



嫌な夢を見たものだと、静かに閉じていた瞳を開いて映し出された天井を凝視する。

痛みは……ある、が昨日ほどではない。

どちらにしろ一日二日でどうこう出来るような怪我じゃないのは明白だ。

今のポジションになってから初めてかもしれない。

鎮守府の心配などをしたのは。

柄にも無い、嘘ばかり、心にも無い、冗談が過ぎる、洒落にも聞こえない。

あいつ等ならばそんな罵声を飛ばしてきそうだが、今回ばかりは焦る気持ちが勝る。

予感と言うのは得てして妙で、大抵は悪い方向で的中する。

良い流れと言うのは個々がその目標へと向かって邁進する事で初めて生まれるが、悪い流れと言うのは何もせず、

ただ佇んでいるだけでも生まれる。

最悪なのは、良い流れと違って悪い流れは生まれた直後から濁流のようにしてこちらを一気に押し流そうとする。

流れを変えるには相応の労力と知力と決断を要求される。

どれか一つでも欠ければ瞬く間に濁流の藻屑となってご臨終だ。

ただし、悪い流れは断ち切れさえすれば一転して一気に良い流れへと変わる。

戦艦レ級、その第一進化のエリートタイプを今回撃滅できたのはまさに僥倖と言うべきだろう。

惜しむらくはその場に自分がいない事だ。

短いスパンで必ずまた何かアクションが起こる。

その対処をあの五人が出来るかどうかでこの後の展開は大きく変わる。

240: 2015/03/08(日) 20:03:12.80 ID:FiPpLnnao
皆様こんばんは
本日も宜しくお願いします

241: 2015/03/08(日) 20:04:31.59 ID:FiPpLnnao



加賀「……」

鳥海「……」


今二人は各々で作成した相関図を広げて睨めっこをしていた。

打開策となるべき解決案を模索し、先の先までを読んで結果を突き詰め、今後の最善へ繋がる案を探っている。


鳥海「司令官は、西提督の仕業と断言されたんですね?」

加賀「そうです。どんな禍根があるかまでは説明されていません。けれど、西提督と提督の間には何かしらの因縁が
あるのだと思うわ。そして、その因縁は提督よりも寧ろ西提督が根深く強く恨むほどのものだという事です」

鳥海「海軍の人間が深海棲艦と繋がっていたという点……この問題は全体の縮図からしても大きすぎる問題です。
私達だけであれこれを議論するのは過負荷が大きすぎますね」

加賀「なら、まずは目先の問題です。西提督に関する情報はもう得る事はできません。けれど……」トン…

鳥海「…今回の一件から予測する事は可能、という事ね」

加賀「話を戻します。提督は西提督と禍根が存在する。つまり今回の一件、ただ単にこれが鬼怒達が脱走を企てた、
もしくは別の鎮守府の艦娘によるたまたまの救出などだったら西提督の反応はどうだったのか」

鳥海「憤慨はしても恐らくここまで大っぴらな行動には出なかったんじゃないか。加賀さんはそう考えるんですね?」

加賀「最も可能性が高いものを選別した結果に過ぎません。ですが、強ち的を外してはいないと考えます」

鳥海「じゃあそれを前提に、対象を再び提督へ戻すとすると…」

加賀「差し向けた刺客の報告が無い。連絡が付かない。苛立ちは恐らく短い時間で限界を迎えるでしょう」

鳥海「結論……」トン…

加賀「」コクッ…

鳥海「また、襲撃がある」

加賀「そこで幾つかの選択が生まれます。一つは誰か一人を連絡役に添えて提督の助言をもらう事。ですがこれは
非常に連携の取り難い環境を生みます。余りお勧めは出来ません」

鳥海「もう一つ、今回の件を大本営へ通達して援軍を貰う事。ただし、相手は同じ海軍の将。それも中将クラスの
西提督と言うのを加味すると、先に手を回されていた場合連絡を入れた時点で袋のねずみ…」

加賀「確率で言えば危険な橋を渡るものと推察できます。最後の一つ、私達だけで迎え撃つ」

鳥海「効率面で言えば申し分なし」

加賀「危険度で言えばこれが最も危険ですね。どれだけ取り繕おうとこちらは五名。相手が一艦隊でくるとは到底
思えませんから、単純に見繕ったとしても私達の数倍は数を揃えてくるかもしれません。深海棲艦であるなら、
ある程度の余裕も生まれるかもしれませんが、こと艦娘に至っては一筋縄ではいかないのが現実です」

鳥海「どの策を弄すにしても、一抹の不安は拭えませんね」

加賀「…………」ギリッ…

242: 2015/03/08(日) 20:30:23.78 ID:FiPpLnnao


提示、提案、考察、考慮。

あらゆる可能性とあらゆる事態を想定した上で決定を下す。

加賀はここにきて初めて自分に向いているものと向いていないものを自覚する。

『考える』『提案する』という事はこれほどまでに神経をすり減らし、それでも尚決まらないものかと。

その後に起こる結末如何で自分達の運命すらも左右しかねない決断。

まさに、運命の選択と言うものがこれほどの葛藤を自分の中に生み出すものかと戦慄した。

恐らく提示すれば皆一様に頷き、それに従ってはくれるだろう。

だが、それは命の選択と同じであり、間違えれば確実に氏が訪れるのが加賀には明確に解っていた。

それは共に思い悩み、歯痒い表情を見せる鳥海とて同じ心境だっただろう。

自分だけではない、誰かの命も左右するかもしれない一つの命令。

その責を一途に背負う覚悟のある者だけが指揮官としての手腕を振れる。


加賀「……改めて敬意を表します」

鳥海「え?」

加賀「私達艦娘を指揮し、導き、勝利を手にする原動力を生み出す存在、提督。同じ立場を経験すればこそ、
その偉大さと威厳、どれほどの責をその背に背負っているのかを痛感します」

鳥海「…らしくありませんね。加賀さんが泣き言を言うだなんて」

加賀「なっ…」

鳥海「けど、解りますけどね、そう言いたくなる気持ちは…でも、誰かがその責を背負わなければならない。
今この場には私達五人しかいない。全体の指揮ともなれば、長良や満潮や漣に任せる訳には行かないでしょう。
彼女達はまさに前線の主力です。そして加賀さん、あなたもです」

加賀「鳥海…」

鳥海「恨まれるなら、二人より一人の方がいいです。先に虚勢を張っておきます」

加賀「…は?」

鳥海「私の計算は狂わない。私の掲げる戦術用法に、穴なんてない。この戦略こそ、ベスト…!」

加賀「何故、そこまで…」

鳥海「ふふっ、司令官の野望を忘れたんですか?」

加賀「野望…?」

鳥海「まだ、私達はスタートラインから少し前に進んだだけですよ。バリバリ最強には程遠い。No.2はまだ雲の上。
他の誰でもない、提督でなければここの艦娘は纏め上げるなんて無理だもの。秘書艦として、加賀さんは提督を支えて
上げて下さいね」

加賀「あなたが全ての責を負うと言うのですか?戦術を編んだ上で、自らも出撃し、最前線に立つ覚悟だと?」

鳥海「頭脳では、他者を余り寄付けない自負があります。司令官の代役はお任せ下さい。加賀さんが思っている事、
私が今考え思っている事、それは同じです。つまり、この後直に相手方の追撃が予測される。予め入渠も済ませ、
各自の燃料や弾薬、艤装の調整は終わらせてあるのは謂わば僥倖です」

加賀「感謝します。けれど、この部隊で誰か一人でも欠ける事は想像できません」

鳥海「え?」

加賀「鳥海も勿論、長良も、漣も、満潮も、私が知る中では、みんな優秀な子たちですから。行きましょう」スタスタ…

鳥海「…ホント、あんな真顔で言われたらテンション上がっちゃうじゃない」クスッ…

243: 2015/03/08(日) 20:35:47.34 ID:FiPpLnnao



-修羅苦羅-

ハイエナ「…………」ワナワナ…


ガシャアアアァァァァン


ハイエナ「戻ってこないじゃん!何なんだよ!何だよ、あいつは!?なぁ!?」バンッ

秘書艦「……」

ハイエナ「俯いてないで何か言えよ…」

秘書艦「も、申し訳ありません」

ハイエナ「は?何それ、何謝ってんのさ。あのさぁ~、そういうイラッとくる顔、やめてよね~。マジ、頃したくなる」

秘書艦「」ビクッ

ハイエナ「遠征組二艦隊とも結局戻ってこない上にさぁ、一組は生きてるらしいじゃん。始末しろって言ったじゃ~ん」

秘書艦「ほ、本当に、申し訳、ありません…」ビクビク…

ハイエナ「どいつも、こいつも……ッ!」


コンコン……


ハイエナ「誰だよッ!」


ガチャ……


ハイエナ「……ぁ」

??「やあ、荒れてるみたいだね」

??「…………」

ハイエナ「そ、の、艦娘は…」

??「あぁ、彼女?彼女は僕の秘書艦だよ。一人でも良いって言ったんだけどね」

??「当然です。提督と行動を共にする事こそ、秘書艦としての務めですから」チラッ…

ハイエナ「ヒッ……」

??「ははは、どうしたのさ?そんな怯えた顔しちゃって…もしかして、僕の秘書艦と何か因縁でもあるのかな?」ニヤッ…

??「止めて下さい、提督。こんな魅力の欠片もない男、私の記憶の中にあるだけでもおぞましい」

??「ははっ、言うねぇ。まぁ、それもそうだよね。ハイエナ君……解ってるよね?」

244: 2015/03/08(日) 21:16:44.28 ID:FiPpLnnao

ハイエナ「ひ、秘書艦、お前……」

秘書艦「申し訳、ありません…」ペコリ

??「彼女は僕が提供した子だよ?誰がマスターなのか、それを理解しているだけさ。勘違いをしないで欲しいね。
ハイエナ君、僕を余り怒らせるな…ただでさえ今、僕達の計画に支障が生まれようとしてる中で、こんな余計な真似を
させて、君は一体僕らにどう釈明するつもりだったんだい?」

ハイエナ「そ、それは…」

??「大方、僕が実際にここには来ないだろうと高を括っていたんだろう?その驚き具合がいい証拠だよ。実に滑稽。
怠惰が過ぎたみたいだね。お陰で僕の進めている計画に支障がきたされた。その罪は当然償ってもらう。僕の大事な
彼女の妹まで無駄にして、ホント無様だよ……君はもう用済みだ、氏ね」

ハイエナ「ま、待ってくれ、もう一度だけ…!」

??「冗談だろう?そんな事したって無意味だ。僕はね、役に立たないのを見ているとイライラして仕方が無いんだよ。
駒なんだから、君は…盤面を良く見てよ。ふふっ、チェックメート……君はキングの器じゃないよ。いいとこ、ポーン。
そのポーンも最奥まで行けば化けるんだけど、まぁ…君程度じゃあね?」

??「提督、そろそろいいかしら?」

??「ん?ああ、そうだね。無駄話が過ぎたみたいだ。それじゃあ宜しく頼むよ。それと、秘書艦君」

秘書艦「は、はい…!」

??「解っていると思うけど、筋書きは説明できるよね?」

秘書艦「……て、提督は、不意に、侵攻してきた、深海棲艦によって絶命。鎮守府は、艦娘全てが遠征任務などに出払っ
ており、発見が遅れる……」

??「はい、良く出来ました。安心してよ、ハイエナ君。君の仇は僕が取ってあげるからさ」ニヤッ…


闇は、より大きな闇の前では成す術もない。

呑み込まれた闇は呑み込んだ闇に解けて混ざり無へ還る。

空ろな瞳で見下ろす彼女にはどんな光景が映っているのか。

恐怖に歪むハイエナの顔が映ってるのか。

これから頃す相手など既に投影されていないのか。

遠ざかる男の背中。

俯き何かに耐える秘書艦。

無数の主砲の顎がハイエナを容赦なく捉える。

そして────


ボゴオオォォォォォン


その日、一つの鎮守府が大本営の名簿から抹消された。

完膚なきまでに建物を崩壊させられ、そこの鎮守府の長である提督の無残な氏体だけが残される。

西鎮守府、提督は西提督。

別名、ハイエナと呼ばれ凡そ全ての提督陣、大本営の人間からも忌み嫌われていた男。

幸い、西鎮守府に在籍していた艦娘達に氏傷者は出なかった。

そしてその事実は、ハズレ鎮守府にも緊急電報と言う形で大本営から知らされた。

245: 2015/03/08(日) 21:59:47.20 ID:FiPpLnnao



鳥海「西鎮守府が、深海棲艦の強襲を受けて壊滅!?」

加賀「…………」

満潮「うそでしょ…」

漣「ギャグにしては、ちょっとアレですねぇ」

長良「西提督は!?」

鳥海「……」

加賀「…西鎮守府に滞在する艦娘に氏傷者は無し。西提督は、最後まで深海棲艦に臆す事無く立ち向かい、
最期を鎮守府と共にした。西提督の顔を知っている者からすればこれ程あべこべな電文はありませんね」

鳥海「つまり、口封じという事?」

加賀「ただ、誰がどのような目的でこんな強硬手段に打って出たのか、皆目見当もつきません」

鳥海「提督はこの情報、もう知ってるのかしら」

加賀「解りませんが丁度今日、様子を伺いに病院へ行く予定ですから、この電文も持参します」

漣「あー、ご主人様のお見舞い、私達も行った方がいいんですかねー?」

満潮「なんでアホ面オヤジの見舞いなんてしなきゃなんないのよ」

長良「ま、まぁまぁ…」

漣「とかなんとか言っちゃってー、みっちゃんご主人様がやられた時の取り乱し具合結構いい感じでしたよー?」

満潮「」ピキッ…

鳥海「あら、心配なら行って来ていいですよ?ここ最近は忙しかったですけど、今はご覧の通り暇の極みですからね」

長良「じゃあ、大勢で行くのもあれだから、加賀さんと満潮の二人で今日はどうぞ!」

満潮「ちょっと!なんで私も行く事になってんのよ!?」

漣「にゅふふふふ…」

満潮「な、何よその気持ち悪い笑い方は…」

漣「いいえ~、別にぃ~?漣は何も~?」

満潮「こいつ、ムカつく…っ!」

漣「さてさて、漣はお菓子作りタ~イム♪」ルンルン

加賀「では、軍装では何かと目立ちますので普段着に着替えて来て下さい」

満潮「拒否権なし!?」

加賀「はい?」

鳥海「さて、と…じゃあ私もちょっと勉強しようかしら」スタスタ…

長良「わったしは走り込みー!」タッタッタ…

加賀「で…?」

満潮「む~~~……解ったわよ!行けばいいんでしょ、行けば!」

加賀「はぁ…行きたくないならそう言えばいいだけじゃないかしら」ボソッ…

満潮「何よ!?」

加賀「いいえ、何でもないわ。先に正門で待っているから急いで下さい」スタスタ…

246: 2015/03/08(日) 22:09:00.48 ID:FiPpLnnao



加賀「────と言う事で、こちらがその緊急電文になります」パサッ

提督「……確かに、あいつの顔を知ってりゃこれ程笑える内容もねぇわな。鎮守府のために戦って氏んだって?
ギャグにもなってねぇな。三文芝居も甚だしいレベルだ」

加賀「提督が危惧されたとおりならば、この後また直にでも西提督からの攻撃はあった訳ですが…」

提督「殺ったのは十中八九大本営じゃねぇのは解る」

加賀「では、西提督が組していた腐敗した組織の誰かだと?」

提督「ほぼ、間違いなくな。妙高やら大本営の暗部が動いていたんだ。遅かれ早かれ今回のハイエナの動きは制限され、
あいつ自身も矢面に立たされるはずだっただろうよ。つまりは、その口封じだ」

加賀「…………」


コンコン……シツレイシマス……ガチャ……


看護士「提督さん、点滴の交換しますね。あら、若い娘さんがお二人も♪提督さんも隅に置けませんね?」

提督「はぁ?」

看護士「ふふっ、娘さんですか?」

満潮「はぁ!?冗談よしてよ、アホじゃないの!」

加賀「……」

提督「…今のはギャグか何かか」

看護士「あれ?」

提督「あれ?じゃねぇよ!どこが似てるよ!?」

満潮「似たくないわよ!バッカじゃないの!」

加賀「……」

看護士「あらま…お嬢ちゃん、お名前は?」

満潮「お嬢ちゃん言うな!私は満潮よ!み・ち・し・お!」

看護士「満潮ちゃんね。いい、満潮ちゃん?女の子なんだから、バカとかアホとか、そういう汚い言葉は余り
使っちゃダメよ?こんなに可愛いお顔してるんだから、もっとお淑やかにしないと、ね?」

満潮「うぐっ……う、うるさいわね。ど、どーだっていいでしょ!///」

加賀「」(珍しくうろたえてますね。接点の無い人間相手だと、少なからず戦意が削がれるのでしょうか)ジー…

満潮「な、何ジッと見てんのよ!///」

加賀「いいえ、別に」

看護士「ふふ、お姉さんの方は少し寡黙で落ち着きがあるのね?年の功かしら?」

加賀「…別に、この子の姉という訳ではないのだけれど」

提督「ったく、いいからさっさと処置して失せてくれ」

看護士「ふふっ、はいはい。解りましたぁ」

247: 2015/03/08(日) 22:09:28.67 ID:FiPpLnnao
提督「ったく……やっと帰ったか、あのクソ看護士」

満潮「……」

提督「…なんだよ」

満潮「私が出撃中に勝手に氏ぬとかやめてよね」

提督「んだとてめぇ」

満潮「……っ」モジモジ

提督「んだよ気持ち悪ぃな…」

満潮「以前に!あんた、やたら入渠にうるさい時、あったじゃない。実際、入渠する時間だって、あれ三分もなかった。
文字通り掠り傷だったのよ。なんで、あんな剣幕で入渠促したのよ」

提督「いきなりなんだよ、うっせぇな…」

満潮「私は、入渠が余り好きじゃない」

提督「何…?」

満潮「傷口に沁みるし、入ってる間、文字通り何も出来ないし…」

提督「んな事ぁ当たり前だ」

満潮「それでも、入渠中に身内がやられたりするくらいなら、私は入渠なんかしないで戦い続ける!」

提督「いきなり何の宣言だよ」

満潮「同じ事よ。あんたが戻るまで、あの鎮守府は私が守る。だから、戻ってからつまらない戦略たてないでよね、ふんっ!」タッタッタ…

加賀「」クスッ…

提督「何だありゃあ…」

加賀「満潮なりの心配の仕方ではないかしら。不器用な子ほど、思いや気持ちと言うのは曲解して伝えたりするものです」

提督「てめぇも何センチメンタルな事ほざいてやがんだ」

加賀「うわ言とは言え、あなたの本心を少しだけ聞いてしまったからではないかしら」

提督「てめっ……」

加賀「責めるなら私ではなく自身を責めて下さい。私には何の落ち度もありませんから。ただ……」

提督「なんだよ…!」

加賀「ただ、それでも二度と、氏にたい等と、頃してくれ等と口にはしないでくれるかしら」

提督「…………」


私達艦娘は、皆慙愧の念を宿している事が殆どです。

それは古い記憶や覚えのない記憶、不意に見る夢として私達の中に深く刻み込まれています。

だからこそ、今の私達はこの瞬間を誰よりも誇りに思い、勇猛果敢に深海棲艦と対峙して戦う事が出来るのだと思うわ。

あなたが長良について語った言葉は私も同意する部分が多くあると感じたけれど、その長良も無意識でも過去の過ちや

慙愧の念を宿しているからこそ、きっと無茶をしたり後先考えない行動に出てしまったのだと思うわ。

だから彼女を責めるなという訳ではないし、現実問題としてそれは直すべき問題点と認識するべきではあるけれど。

だからこそ、うわ言とは言えあなたの言葉に私は憤りを覚えました。

最も命の尊さを説いたあなたの口からその命を軽んじる発言がでるのだから、酷い有様と形容するほか無いわ。

別に過去に何があったのか全てを語れとは言わないけれど、少なくとも私達はあなたを上官として認めています。

人としての在り方は見習うに値しないのは諦めて下さい。

ただそれでも提督としての手腕とあなたの提唱する作戦は、私達で無ければ成せないものが殆どだと思うわ。

ですから、生きる為の選択をこれからもしてくれると助かります。


加賀「……では、言いたい事は言いましたから、私もこれで失礼します」

251: 2015/03/10(火) 22:59:18.76 ID:6XBozxD3o
-夢-

それは、遠い遠い遥か昔。

私の中に微かに残る、それでいてはっきりと刻み込まれた忌むべき記憶。

誰にも話した事はない。

聞かれれば話したのかもしれないけれど、聞かれないのだから自ら進んで話す必要は無いと思っている。

紅く染まった空は、夕焼けだったのかすらも解らない。

硝煙の香りと頬を濡らす汗。

その汗を一瞬で干上がらせる熱風と、そんな感傷など蹴散らす果てしない爆撃の嵐。

あの時、私は成す術も無くただ沈み行く仲間達を見る事しか出来なかった。

最後の最後まで奮戦したあの子たちに『頑張ったわね』と労う事すら出来なかった。

後悔の念は今も尚、根深く私の中にわだかまりとなって巣食っている。


『一航戦の誇り…こんなところで失うわけには…』

『…貴方を残して…沈むわけにはいかないわ』

『やられたっ…誘爆を防いで!』

『なんでまた甲板に被弾なのよっ!痛いじゃない!』

『やられました!艦載機発着艦困難です!』

『誘爆を防いで!飛行甲板は大丈夫!?』

252: 2015/03/10(火) 22:59:55.29 ID:6XBozxD3o


加賀の深層心理には仲間を救いたい、助けたい、守りたいと言う護の感情が多い。

だがこれは加賀に限った話ではない。

少なくとも、この鎮守府に集った全員は言ってしまえば過保護なほどに身内を守りたいと願う傾向がある。

長良の独断先行。

指揮官の命令を無視してまで自らの身を危険に晒そうとする、無謀とも言えるし全体の指揮系統を混乱させる、

言わば許されない行為を平気で行おうとする。

いい方向へ考えるとつまりはそういう事になる。

満潮の過剰なまでの闘争心。

自分がやらなければ、自分がやれば、誰かに頼る前にまずは自分で何とかする。

その結果として存在するのが今の満潮だ。

ある種の強迫観念にも似たその使命感は、満潮を強く前へと押し出す。

鳥海の徹底された戦術用法。

作戦には指揮官がつきものだ。

あらゆる策を張り巡らせ時に強行突破し、時に奇襲を仕掛け、仲間達の進むべき道を作っていく。

だから鳥海は常に最善を選択し、最良を導き出し、絶対とも言える解無き解を追い求め続けている。

漣の飄々とした性格。

戦場は常に氏と隣り合わせであり、いつ自分が沈むかも解らない。

そんな中にあって一人笑顔を見せる者がいる。

張り詰めた糸を解すように、高まった緊張を沈めるように、彼女の言葉や仕草は仲間達を精神的な苦痛から解放する。

誰にも居なくならないで欲しい。

そんな隠された想いが漣の一挙手一投足には籠められている。

そして加賀も、常に完璧であろうと気を緩めない性格。

妥協を許さず己ならず周りにも厳しいのは誰よりも辛酸の味を知っているからなのだろう。

二度とあんな思いはしたくない。

誰にもあんな思いはさせたくない。

それこそが、加賀が完璧であろうと邁進する原動力の全てなのだ。

253: 2015/03/10(火) 23:00:21.66 ID:6XBozxD3o


加賀「……また、あの夢」ムクッ…


上半身を布団から起こし、両手を毛布の上に出すと気付いてもいなかったのか、小刻みに手は震えていた。

グッと握り拳を作ってそれを強引に諌め、加賀は布団から出て窓越しに空を眺める。


加賀「今度は、夢と同じにはなりません。私が、必ず変えて見せます…」



提督「」ペラ……


極秘と書かれたその資料は、提督が今までに独自に纏め上げた艦娘と深海棲艦、その歴史の全て。

未だ謎が多い両者の関係、その背景、目的などが独自の視点で細かく記載されている。

そんな中に艦娘について調べた項目に『夢』と題された項目が存在する。

切っ掛けは前の鎮守府で彼の秘書艦を勤めていた扶桑の一言だった。


『覚えのない記憶、と言うのかしら…確かにここ最近で起こった出来事じゃないのは確かなのに、
何故かそれがとても大切な事で、忘れてはいけない何かだと直感的に感じたの。時折、夢で見るんです』


初めは何を言ってるのかと鼻で笑ったものだが、後々調べて解った事は、扶桑が夢で見ていた内容、

記憶として断片的に覚えている事実、フラッシュバックのように突然思い出されるもの、色々とある中で

全てに共通している事はそれ等が全て実際に扶桑の身に起こっていたという事だ。


提督「大本営では認知してるのかすら怪しい事実だ。だがこいつは、場合によっては艦娘の精神を一発で破壊する。
完全な諸刃の剣……凄惨な最期を遂げている艦娘がそんなものを夢で見ようもんなら、確実に廃人にならぁな」パタン…

提督「…だが、これを乗り越えた艦娘ってのは、文字通り名実共に全ての力を取り戻す、か…」

提督「じゃあ深海棲艦はどうなんだ…あいつ等にも同じ環境があるのか。あるとして、もしもそれがキーワードに……」


コンコン……シツレイシマス……ガチャ……


看護士「あーっ!もう、寝てなきゃダメって言ってるじゃないですか!」

提督「」(ちっ、うるせぇのがきやがった…)ガサッ…

看護士「あっ、今何隠したんですか!もしかして工口本とかですかぁ?」

提督「女のクセに節操の欠片もねぇヤツだな。ごちゃごちゃ言ってないでさっさと検認して失せろ」

看護士「もー、満潮ちゃんの口が悪いのって提督さんの口の悪さが影響してるんじゃないですかー?」

提督「ざけんなダァホ。あいつは元からだボケ」

看護士「はぁぁヤダヤダ。そうやってすーぐ相手が悪い事にするの。女の子にもてませんよー」

提督「女に好かれてぇって年でもねぇんだよクソッタレが。いいからさっさと失せろよ、口軽女」

看護士「むっかぁ!注射針適当なところに打ち込んで薬剤流し込んでやろうかしら…」

提督「それただの医療事故だろうが!つーかテメェ、故意にやったらただの殺人だぞ」

看護士「にゃははは、冗談に決まってるじゃないですかぁ。仕事に関連する事でそれを悪用だなんて
天地がひっくり返ったってしませんってば。私だってこの仕事に誇りを持ってますからね!」

提督「ちっ…胡散臭ぇ女だ」

254: 2015/03/10(火) 23:00:55.36 ID:6XBozxD3o



加賀「…………」キリキリ…


ビュッ

タンッ


満潮「へぇ」

加賀「何か用ですか」

満潮「んー、別にこれと言ってあるわけじゃないけど。ただ、加賀って真面目だなーってね」

加賀「真面目?言っている意味がよく解らないのですが」

満潮「別に深く考えなくたっていいわよ。それよりもさ…あのアホ面オヤジ、そろそろ退院でしょ」

加賀「ええ、そうね」

満潮「西提督の一件以来、なんか拍子抜けするくらい静かじゃん」

加賀「追撃の心配がなくなったのはいいのかもしれないけれど、腑に落ちないのは確かです」


タッタッタ……


加賀「……」チラッ…

長良「あぁ、やっぱりここだった!って、あれ満潮も?」

満潮「な、何よ…」

加賀「出来れば道場では走らず歩いてくれると助かります」

長良「あぁ、ゴメンね!っと、そうそう…鳥海さんがね、加賀さんにっていうか、皆にかな?話があるって」

加賀「急を要す感じですね。解りました。汗を流した後に向かいます。どこへ向かえばいいのかしら」

鳥海「取り敢えず全員にって事だし、作戦室とかでいいのかな」

加賀「解りました」

満潮「んじゃ、先に私はいってるわ」

加賀「ええ、解りました」

255: 2015/03/10(火) 23:01:35.19 ID:6XBozxD3o



鳥海「いきなり呼び出してごめんなさいね」

漣「久々に何か任務でも届いたですか?」

鳥海「それならまだいいんだけど…直接関係があるかどうかは定かじゃないわ。ただ、少し気になる情報だったから」


パサッ…


加賀「調査報告書?これは、この鎮守府のものではありませんね」

長良「っていうか、ここで調査なんてまずしないもんね」

満潮「あんた、まさかパクッ……」

鳥海「人聞きの悪い。コネのある鎮守府の艦娘から情報提供してもらったのよ。それよりほら、見て」

漣「深海棲艦の活性化に伴う、新たな鬼・姫クラスの深海棲艦を確認。正式種別は水鬼…」

加賀「タイミングが不自然すぎますね」

長良「どーゆうこと?」

加賀「そもそも、深海棲艦の沈静化が起こったのはここ数年の出来事です。私も噂程度で、実際に目の当たりにした
わけではありませんが、鬼や姫と呼ばれた深海棲艦の上位種、これ等の艦娘化が起こったと言われています」

鳥海「深海棲艦の艦娘化……私も聞いた事がありますが、実際にこの目で見た事はありません」

長良「そんな事、ありえるのかな」

満潮「そもそも深海棲艦って何なのよ」

漣「私達艦娘が殲滅するべき、人類の敵じゃないんですかー?」

満潮「じゃあ深海棲艦はどうやって生まれたのよ。何処から来て、どう繁殖して、何を最終目的にしてるのよ」

漣「うっ…そ、それは…」

加賀「……以前に提督へ何とはなしに伺った事があります。下らない事を言うなと一蹴されるかと思っていたのですが、
予測に反してあの人は自身の推論を私に聞かせてくれた事があります」

満潮「うっそ…」

鳥海「あの司令官が…」

加賀「提督の仰った推論は次の通りでした」


艦娘には過去に戦果を上げた実在する軍艦の名がそれぞれに付けられている。

そして軍艦の魂とも言えるそれ等断片的な記憶こそ、艦娘が内に秘めている感情の動力源ではないか。

実際にフラッシュバックや夢と言う形で今を生きる艦娘の中にも過去の映像を記憶している者がいるという。

しかしそれ等軍艦の魂は今を生きる艦娘にとっては言わば忌まわしき残照。

消し去りたい、もしくは二度と思い出したくない苦い記憶。

もしもそれを克服した者がいるとしたら、その艦娘こそ名実共に真に覚醒した存在となるのかもしれない。

しかしそれ等を立証する手立ては現在ない。

256: 2015/03/10(火) 23:02:06.40 ID:6XBozxD3o


加賀「最後にそう締め括り、結局は自らが幻想した戯言だと断じました」

長良「私達に秘められてる…」

満潮「忌まわしい記憶…?」

漣「ちょっと言ってる事が解らないですねぇ」

鳥海「司令官も確証があるわけじゃなく、あくまで自らの言葉だけで導き出した推論と言う事ね」

加賀「故に戯言と一蹴したのでしょう。どこまでが本心なのかは解らないけれど。取り敢えず、話を戻しましょう。
深海棲艦の活性化についてです」

満潮「あぁ、うん。かなり逸れたね」

加賀「鳥海が入手したこの情報が確かだとすれば、いよいよ私達だけの現時点での戦力では対応が難しくなるわ」

鳥海「これに関してはもう、司令官の言葉をもらうしかないわ」

漣「悔しいですけど賛成ですー」

長良「よし、それじゃ司令官さんを迎えにいっちゃおうか!」

満潮「え?うん、まぁ…いけば?」

長良「えっ」

満潮「そのさ、『えっ!?満潮は行かないの!?』みたいな顔っ!やめろ!」

長良「すごっ、思ってた言葉一言一句そのまんまだよ…」

満潮「何処に驚いてんのよ…っとにもう。っていうか私この間いかされたんだし、今度は鳥海か長良か漣が行きなさいよ」

漣「えー、めんどっちぃですよぅ」

長良「え?私は別にいいよ?」

鳥海「開口一番に罵倒浴びたら思わず殴りたくなっちゃいそうで、そこが怖いですね」

加賀「…はぁ、じゃあいいです。私が迎えに行きますから」

長良「えーっ!それじゃいいって、私がいくよー!」

漣「むっ、なんかそこまで張り合われるとなんというか…じゃあ、私が恭しくご主人様迎えに行くでも構いませんよー?」

鳥海「ホントにもう、嫌々なら誰が行っても同じでしょうに…それなら私が行きますよ」

満潮「何この流れ…」

257: 2015/03/10(火) 23:02:32.56 ID:6XBozxD3o


チラッ……


満潮「やるかバカタレ!」


ジー……


満潮「うぅ…なんなのよ!」

漣「……で?」

満潮「わ、解ったわよ!だ、だったら私が行こうじゃないのよ!」

四人「「どうぞどうぞ」」

満潮「っ!?」

加賀「解りました。連日私が向かっていたのでその発言は助かります。満潮にお譲りします」

満潮「はぁ!?」

長良「そこまで力強く言われちゃ仕方ないねぇ。譲るよ」

満潮「んなっ!」

漣「横取りされたみたいで嫌なんですねー。どうぞどうぞー」

満潮「何よそれ!」

鳥海「皆さんがそこまで仰るなら…いいでしょう。この鳥海、意地を張らずに自ら辞する覚悟です。満潮に委ねます」

満潮「ふざけんなっ」

加賀「では私は飛行甲板の手入れがありますので、これで失礼します」

長良「私は装備清掃~」

漣「おぉっと、もう直お料理番組の時間!」

鳥海「私も資料の整理と編集をしておこうかしら」

満潮「~~~~~~~~~~~~~~ッ」


この日、提督は無事退院し鎮守府へと戻ってくる。

青筋を立てた満潮が怒号の篭った声で出迎えてきた事に顔をしかめていたそうだが、些細な事だ。

再び提督を含めて六人揃ったハズレ鎮守府の面々。

一難は去ったが未だ謎が多く腐った膿は海軍から絞りつくされてはいない中で入手した深海棲艦の情報。

そしてここから、悪魔達の猛攻が始まる。

264: 2015/03/15(日) 19:57:47.66 ID:lpXfN4EQo



~前兆~



-事件-

『────緊急入電。この通信は一部鎮守府各位へ通達しています。各鎮守府の提督はこの通信を受信後、
速やかに艦隊を編成し、出撃準備及び任務の遂行をして下さい』


所属等未確認聨合艦隊による大本営強襲事件が発生しました。

敵の主力隊はある事件の主犯格を大本営より拉致、連れ去ったものと思われます。

今回の任務は特例であり、全体への通達はされておりません。

敵の戦力は未知数、艦種及び陣形等あらゆる情報に不足が生じている状況です。

各鎮守府は細心の注意を払い、現時点で持てる最大戦力を投入してこれを追撃。

泊地と思われる敵戦力群を発見し次第撃滅して下さい。

作戦名:未確認敵艦隊を捕捉し、これを撃滅せよ!



??「どう思う、これ」

??「どう、とは?」

??「んー、だからぁ…一部鎮守府になんで私達まで入ってるのかなって」

??「それだけ信頼が厚いという証拠ではないのか。事実、あなたの功績は目覚しいものがある。今更あなたを
贔屓目で見るような無粋な者はいないと私は思っているよ」

??「はぁ、ホントあんたは煽てるの上図よね」

??「ふっ、役得かな。さて、改めて聞こうか。どうするのだ、鋼鉄提督」

鋼鉄「やってやるわよ。大体、大本営に喧嘩吹っかけてられた上に犯人を見す見す逃したとあっちゃ海軍の名折れよ」

??「決まりだな」

鋼鉄「見せてやりなさい。貴女が率いる最強の艦隊を!」

??「いいだろう。ならば改めて指示を頼む」

鋼鉄「旗艦長門は第一戦隊を即時編成し今回の作戦に従事せよ!」

長門「了解した。戦艦長門、出撃する!」

265: 2015/03/15(日) 20:00:25.31 ID:lpXfN4EQo



??「……だとよ。どうにもきな臭ぇ話だぜ。お前等の意見も聞きたいからこうして集まってもらった」

??「不穏な動き…大本営でも戦力を把握できなかったって言うのが気になるわね」

??「行けと言われれば行くさ」

??「だね。それが私達の仕事だし!」

??「決めるのは提督でしょ?行くの?行かないの?」

??「意見、聞くまでもなかったんじゃないかしら?」

??「ふふっ、ざぁんね~ん♪」

??「ったく、揃いも揃って他力本願な奴ばっかりだなぁ、おい」

??「協調性はあるよ?って事で、任務通達をさぁどうぞ、不動提督!」

不動「伊勢、日向、蒼龍、飛鷹、筑摩、阿賀野。海軍に喧嘩売ってきた馬鹿共にお灸を据えてやれ!」

伊勢「そうこなくっちゃ!そうと決まれば、早速行きましょうか!」

日向「鈍っている体を解すには丁度いいかもな」

蒼龍「慢心はダメだからね!」

飛鷹「この作戦って、他にも通達着てるのかしら」

阿賀野「阿賀野達でびしぃって決めちゃえばいいんだよぉ」

飛鷹「相変わらずあんたの言葉って締まりないわねぇ…」クスッ

筑摩「阿賀野さんはのんびりやさんですからね」クスッ

阿賀野「もう、阿賀野はのんびりじゃないよ~!」

不動「だぁー!もううるせぇ!さっさと行ってきやがれ!っとによぉ、進撃の坊主んとこの艦娘が羨ましいぜ」

飛鷹「あら、随分な言い方」

日向「聞き捨てならないな」

伊勢「ほら日向、また置いてっちゃうぞー!」

筑摩「さぁ皆さん、気を引き締めましょう」

阿賀野「よ~し!」

蒼龍「リラックスできてるんだか、出来てないんだか、わっかんないなぁ」クスッ

266: 2015/03/15(日) 20:13:11.91 ID:lpXfN4EQo



元帥が信頼を寄せる鎮守府が続々と出撃の準備を始める中、ある大将が率いる鎮守府にも個別で通達が送られてきていた。

そこは嘗て、アイアンボトム・サウンドと呼ばれ数多くの氏闘が繰り広げられた歴戦の大海。

そして以前まではある深海棲艦達の泊地も建造されていた場所。

今はそこに鎮守府が建てられ、大将が居を構えている。

月下の艦隊を率いる大将第漆将、新月提督。

鋼鉄提督と進撃提督、それぞれに直接の面識があり階級は上だが関係では後輩に当たる人物。

双方が共に信頼を寄せる頼もしい後輩でもある。

その鎮守府には正規の艦娘は極少数しか着任されていない特異な鎮守府でもある。

そして新月自身もまた特異な存在と言えるのかもしれない。


新月「どう思う?リコリス」

リコリス「全く、直そうやって私の顔色を伺う…」

新月「だ、だって仕方ないだろう?僕には圧倒的に経験値が不足してるんだから…」

アクタン「しんげつー!あそぼっ!あそぼっ!」タッタッタ

新月「あはは、アクタンは今日も元気だなぁ」

アクタン「づほ達、今日はえんせーなんだって!」

新月「うん、そうだよ。瑞鳳と、暁ちゃん達だね」

アクタン「えんせーって何するの?」

新月「物資を運んだり、民間人の護衛をしたり、色々だよ」

アクタン「わたしにもできる?」

新月「あはは、そうだね。今度暁ちゃん達と一緒に行って見ようか?」

アクタン「いくーっ!」キラキラ

リコリス「ほらアクタン、彼はちょっと忙しいから、ピーコック達と遊んできなさい」

アクタン「わかったー!」ビシッ

リコリス「ふふ、敬礼はいいわよ、別に」

新月「アクタンは和むねぇ…」

リコリス「ほんっと、進撃もまた随分な提督を寄越してくれたものよね」

新月「僕だって最初は驚いたんだよ?けどまぁ、アクタンにも懐いてもらえたみたいだし、今の所は万々歳だね。
あとは、僕がこんな境遇じゃなければ尚よし、なんだけど…こればっかりは、どうしようもないからね」

267: 2015/03/15(日) 20:14:31.37 ID:lpXfN4EQo


新月は見た目が非常に幼く見える。

彼が大将と言う器に収まったのは鋼鉄と進撃、二人の提督の口添えが非常に大きかった。

一つはこの鎮守府に滞在する最大戦力の一端を担うリコリス達超弩級大型艦載機場を艤装に持つ艦娘達との橋渡し。

進撃経由で紹介され、真っ先にアクタンが新月に懐いたのが切っ掛けとなる。

進撃の紹介ならと快諾したのがリコリス達だ。

新月自身は提督の器で言えばまだまだ未熟な方に入る。

階級をそのままイコール器で考えるなら、進撃は中将、鋼鉄は大将、新月はいいとこ中佐クラスだ。

しかしこのリコリス達を率いる艦隊を指揮するという点から、新月は大将としてその位に就いた。

そして新月は生まれて間も無く両足が不自由であり、車椅子生活を余儀なくされている、と言う点も一つの特異点だ。

今では嘆く事もなくなったが、昔は相当に荒れていたと言う。


新月「進撃先輩の鎮守府からわざわざ瑞鳳ちゃんや暁ちゃん達を移籍させてくれたのはある意味助かったんだよ」

リコリス「主にアクタンの相手でしょうけどね」クスッ

新月「ただ、アクタンは怒ると凄いからね。さて、話が脱線しちゃったよ。えーっと…うん、取り敢えず表立って
動くって言うのは余り良くないと思うんだよね。だから、周辺海域の哨戒に留めるって事でどうかな?
そこでもしも動きがあれば進撃先輩や鋼鉄先輩に通信で知らせる」

リコリス「良いんじゃないかしら。瑞鳳達は遠征でいないから、仕方ないわよね。私とポート、フェアルストの三人で
周辺の警戒に当たるわ」

ポート「久々の海かしら?」

フェアルスト「この地に入り込んでくるって言うのなら、丁重にお帰りいただかないとね」

リコリス「平和を平和のまま享受出来ないなんて、不憫よね」

ポート「それじゃ、行きましょうか」

フェアルスト「ピーコック、私は少し出てくるからアクタンの事お願いね」

ピーコック「ちょっ……!大体姉妹のあんた達がアクタンの相手しないってどーなのよっ」

アクタン「ぴーこっくぅ、次はレップウで遊ぼう」ブラブラ…

ピーコック「ちょ、だからぶら下がらないでよ!」

リコリス「それじゃ、行ってくるわ」

ピーコック「は、話を聞きなさいよ!」

ポート「」グッ

ピーコック「無言で親指だけ立てるなっ!」

フェアルスト「」グッ

ピーコック「ちょ……」

リコリス「」グッ

ピーコック「」ピキッ

新月「あ、あははは…」

アクタン「?」

268: 2015/03/15(日) 20:23:17.78 ID:lpXfN4EQo



-失態-

元帥「内部の腐食、深海棲艦の活性化、そして……今回のキメラ男奪還の為の襲撃……くそっ!」バンッ

大和「…………」


コンコン……


大和「…はい」


オオヨドデス……


大和「どうぞ」


ガチャ……


大淀「失礼致します。第二秘書艦ビスマルク及び、暗部大本営直営隊全員の招集を確認しました」

元帥「作戦室へ移動する」

大和「はい」


元帥「待たせた」

ビスマルク「別に問題ないわよ」

大和「本来であれば大将各位への通達もなさる予定でしたが、事は公にするべきではないという元帥のご提案です」


【大本営直営隊密偵部隊】Secret Agent Fleet:SAF
那智「大本営直営隊密偵部隊。通称サフ、旗艦那智以下摩耶、祥鳳、参上した」

摩耶「ホント、面倒ごとが尽きないねぇ」

祥鳳「暗雲立ち込めるという奴ですね」


【大本営直営隊戦闘部隊】Special Duty Battle Fleet:SDBF
足柄「大本営直営隊戦闘部隊。通称サドバフ、旗艦足柄以下多摩、不知火、ただ今到着よ」

多摩「にゃ~、言ったとおりになってきたにゃ」

不知火「余計な発言です」


【大本営直営隊警護部隊】Security Fleet:SF
妙高「大本営直営隊警護部隊。通称エスエフ、旗艦妙高以下雲龍、磯風、到着致しました」

雲龍「ここを直接狙ってくるなんて、上等じゃない」

磯風「不愉快な敵だ」


大和「皆さん、本当にご苦労様です。ついてはこれまでの経緯を簡単に私の方から説明させて頂きます」

269: 2015/03/15(日) 20:23:52.60 ID:lpXfN4EQo


本来であれば件の男は陸軍の管轄する投獄牢へ搬送する手筈となっていました。

しかし、内容が内容である事と出来る限り近場で監視を続けるという名目上、海軍で管轄する絶海の牢獄へ

護送先が変更となりました。

これは現在ここにいるメンバー及び、上層部にしか通達されていなかった情報です。

この情報が、何処かから漏れてしまったのが事の発端です。

エスエフのメンバーはその当時、西提督の一件で鬼怒達の護衛をしており手隙の状態ではなかったのを考慮し、

別の護衛メンバーを急遽見繕う形になりました。

ですが、これが不味かったのでしょう。

護送航海途中で件の未確認艦隊の襲撃を受けて護送艦隊は全滅。

キメラの男はまんまと脱走を成功させるに至った訳です。

270: 2015/03/15(日) 20:24:28.31 ID:lpXfN4EQo


足柄「解せないわね」

那智「同感です」

妙高「私達の鬼怒さん達の護衛は長期に渡るものではなかったはずです。実際、ハズレ鎮守府から護送して間も無く、
警護対象からは外れています」

雲龍「何故、私達の到着を待てなかったのかしら」

大和「そこが私も引っ掛かっています。本来であればエスエフに一任すべき事案内容ですから」

元帥「内部にねずみが存在した。そう考えるのが最も辻褄合わせにはしっくり来る」

ビスマルク「それで、私達を招集したのはどういった理由なのかしら?」

元帥「一つは大本営の内外問わずの警戒強化だ。これ以上、失態を晒し続けるわ訳には行かない」

大和「もう一つは、この事態がどこから起こったのか、その発生源を突き止める事です」

不知火「故意に起こったと?」

大和「私達は、そう睨んでいます」

ビスマルク「つまり元帥には確証とまでは言わないけど、それに近い何かを掴んでいると見ていいのかしら?」

元帥「火元の特定はどちらにしろ早急になさなければならない。周りの火を消していても火元が消えてなければ
いずれはまた元通りに燃え盛るだけだ」

ビスマルク「まぁ、それもそうね。という事は、その辺りの事実確認に適しているのは……」チラッ

那智「我々サフが適任でしょう」

摩耶「オッケー。出し抜かれっぱなしは癪だからな。相手の鼻っ柱折るだけじゃ物足りないってもんだ」

祥鳳「ですが情報が些か少量ではありませんか?取っ掛かりと言うものがなくては、証拠も集めようがありません」

那智「だから動くんだ」

妙高「那智、わかってると思うけど…」

那智「解ってます、姉さん。何時如何なる場合においても気を緩めない事。最善は尽くせ。けれど無茶はするな。
この命は、私一つのものではないのだから」

妙高「」ニコッ

足柄「祥鳳が言うように、手元にある情報は少ない。確実に何かが歪んでるわ。那智、絶対無理はダメよ」

那智「はい」


この小会議から一週間後、サフのメンバー三名は重傷を負って艦娘病院へ搬送される事になる。

三人とも意識不明の重態で予断を許さない状態で発見された。

傍らには血塗れの一枚の紙が添えられ、そこには『これ以上の詮索は身を滅ぼすだけだ』と記されていたという。

274: 2015/03/22(日) 01:21:06.08 ID:es0KVtcdo
-宣戦布告-

提督「…………」カチンッ……シュボッ……

提督「……はぁぁぁ、やだねぇ、怖い通知ばかりでよ」トントン…

加賀「どう思われますか」

提督「どうも何も、命令が降りてこねぇんなら、俺等にゃあどうでもいいこった。最も、奴さん等は今必氏だろうがな」

加賀「提督」

提督「んだよ。非難でもするか?」

加賀「現時点での私達の戦力と深海棲艦側の戦力を比べて、どちらが上と思いますか」

提督「はぁ?」

加賀「別に深海棲艦側が比べる相手じゃなくても構いません。例えば……そうですね、名立たる艦隊がありますが、
進撃の艦隊、不動の艦隊、鋼鉄の艦隊、月下の艦隊、字を持つ艦隊は往々にしてありますが、どこと比べて
私達はどれだけの戦力があると考えられますか」

提督「何を言ってやがる。てめぇが最も嫌うジャンルをてめぇから聞いてくるとか脳みそ沸騰でもしてんじゃねぇのか」

加賀「理解はしています。ですが、今は個人の意地を通している場合ではないと判断しました」

提督「…ほぅ。確かにいつ何時ここも標的になるかもわからねぇしなぁ…だが、他とてめぇ等を比べるなんざ笑わせるな」

加賀「……?」

提督「確かに俺ぁてめぇ等の実力を見抜いたが、それに胡坐を掻けとは一言も言ってねぇ。今のてめぇの発言はまさに
己の力に溺れ酔った者の発言だ。くくっ、じ・つ・に愉快だ。てめぇはそんな落ち度を見せねぇと思っちゃいたが、
存外大した事はねぇみたいだな」

加賀「それは…」

提督「てめぇの口癖じゃねぇのか。他と比較するのを最も嫌うのはよ」トントン…

提督「だがまぁ、後学までに知っておくに越した事はねぇだろうがな。敢えて聞かなかった事にしてやるよ。
こいつぁ俺の独り言だ────」


それぞれの艦隊にはそれぞれに特色がある。

顕著なのは不動んとこの艦隊だ。

あそこはとにかく防衛が強い。

事防衛戦に至っては俺が知る限りじゃ百戦錬磨の防御力を誇る。

まさにイージスの盾ってヤツだぜ。

攻撃力に特化してるのは鋼鉄の艦隊だろう。

一度は崩壊の一途を辿ったと言われてたが、地獄の底から這い上がってきたあの女は最早前元帥の娘なんて肩書きで

納まるような簡単なヤツじゃねぇ。

秘書艦でもあり第一艦隊の旗艦も努める長門の強さはまさに一騎当千の強さがあるなんて言うくらいだからな。

同じ戦艦で言えば進撃んところの戦艦榛名、こいつも奇抜だって聞いた事がある。

金剛型四姉妹を揃える中でも飛び抜けてるのがこの榛名だって話だ。

他にも粒揃いの優秀な艦娘があそこには揃ってる。

恐らく今演習でお前等が戦えば、今上げた三つの艦隊には凡そ歯が立たんだろうな。

275: 2015/03/22(日) 01:21:41.63 ID:es0KVtcdo


加賀「一矢報いる事も、出来ませんか」

提督「無理だな。断言してやる。極端に言えばあいつ等は完成型、てめぇ等は発展型だ」


ピー ピー ピー……


提督「あん?」

加賀「電文です。……これは」

提督「んだよ」

加賀「どうぞ」スッ…


■召集令状■

本日ヒトサンマルマルにおいてこの令状を各位へ通達する。

本題は追って大本営にて通達予定である。

令状を受け取った提督は秘書艦を随伴の上で直ちに大本営へ集合されたし。

尚、この令状に拒否権は無いものとする。

海軍大本営元帥 智謀


提督「んだこりゃ…」

加賀「簡素な内容が返って興味を引きますね」

提督「病み上がりに大した仕打ちを考えてくれるぜ…」

加賀「どうなさるおつもりですか?」

提督「…鳥海を呼べ」

加賀「では…」

提督「出向いてやろうじゃねぇか」

加賀「解りました」

276: 2015/03/22(日) 01:22:08.06 ID:es0KVtcdo


ザワザワ……


提督「ちっ…」

加賀「…………」


『ねぇ、あれって加賀じゃないの?』

『あぁ、敵味方問わずに大虐殺やらかした殺戮空母ね』

『近寄っただけで大破させられるんじゃない?ちょっとあんた、行ってみて来てよ』

『冗談でしょ!氏んでも近寄りたくなんてないわよ』


提督「お前、相当ヤンチャしたみてぇだな」

加賀「…雑音に傾ける耳はありません」

提督「くくっ…言うじゃねぇか。っと…」

大淀「……お待ちしておりました。『白夜』提督」

加賀「」(白夜…?)

提督「最速嫌味ありがとよ。このクソメガネ」

大淀「そちらは嫌味に切れがありませんね。まだ傷が痛みますか?」

提督「ほざいてろ、万年三番手の引き篭もり軽巡が。まだ香取の方が有用性あるんじゃねぇのか」

大淀「……多少は英気が養われているようで安心しました。不愉快極まりないですけどね」


コンコン……


大淀「ハズレ鎮守府の提督及び秘書艦加賀、到着しました」

元帥『通せ』

277: 2015/03/22(日) 01:22:40.41 ID:es0KVtcdo


ガチャ……

パタン……


扉を潜った先には六つの影。

どれも個人的に知ってる顔ばかりだったが、それでも提督の顔に驚きの色がありありと浮かび上がった。


??「んだぁ…落ちぶれ白夜じゃねぇか」

??「場を弁えなよ。それに、余り人を貶める発言は良くない」

??「…………」

元帥「来ないものと思っていたが、存外興味が無いわけでもなかったか」

提督「うっせぇ」

元帥「さて、顔見知りもそうでないにしろ、各々の紹介からまずは済ませようか」


まずは左手から順に紹介する。

彼は階級は大佐、新鋭の叛乱事件の際に尽力してくれた功労者、進撃提督だ。

秘書艦は高速戦艦の榛名。

私が最も信頼を寄せる一人として今回召集した。

次、つい最近第拾将として大将十名の一人に名を連ね、今尚功績を挙げ続けているエリート提督。

秘書艦は航空戦艦の山城。

次、現時点で最も大将の器に近い男、エリート提督と並び評される戦力を誇る心悸提督。

秘書艦は正規空母の天城。

最後に────


提督「トリに置いて盛大に罵る気かよ。ったく面倒臭ぇ……俺ぁハズレ鎮守府の提督だ。こっちは秘書艦の加賀。
ただそれだけだ。手前様方のような仰々しい歴史は塵一つありゃしねぇよ」

278: 2015/03/22(日) 01:23:06.89 ID:es0KVtcdo
短いですが書き溜め分のみの投下

279: 2015/03/22(日) 04:09:56.36 ID:vCioaVJvo
乙です


次回:
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」part5


引用: 【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」