282: 2015/03/23(月) 20:55:21.83 ID:GoSy+zsto

283: 2015/03/23(月) 20:55:49.47 ID:GoSy+zsto
エリート「…随分な言い回しじゃないか、白夜」

心悸「けっけっけ……てめぇよ、まだ根に持ってんじゃねぇだろうな?」

提督「……」

山城「……久しぶりね、ろくでなしのクズ。まだ生きてるなんて、心底驚いたわ」

提督「山城…」

エリート「やめないか、山城」

山城「失礼しました、提督」

進撃「元帥、これはなんの集まりで何をさせようとしてるんですか」

元帥「それは…」

エリート「進撃君、だよね」

進撃「は、はい」

エリート「改めてはじめまして。僕はエリート提督です。君も話は聞いてると思うけど、ここ最近の深海棲艦の動き、
これがまた活発になったって話だ。それとは別に、大本営に牙を剥いた連中が居る」

心悸「で、今手隙の俺等にお声が掛かったって訳だ。くくっ、だがよ…白夜のオッサン…あんたが呼ばれたのは、
お門違いってもんじゃねぇのか?見す見す艦娘を見頃しにした指揮官と、敵味方問わずに虐殺の限りを尽くした
殺戮空母……鬼に金棒所の話じゃねぇだろ」

天城「あの、提督…余り、その、他者を蔑む発言はよろしくないかと…」

心悸「チッ…はいはい、解ったよ」

榛名「」(あの人が、赤城さんの言っていた加賀さん…)

大和「全員、言葉を慎んで下さい。元帥の御前です」

エリート「これは失礼しました」ペコリ…

心悸「申し訳ございませんね」プイッ
艦隊これくしょん -艦これ- 海色のアルトサックス(4) (角川コミックス・エース)
284: 2015/03/23(月) 21:19:57.73 ID:GoSy+zsto
進撃「……」

提督「……」

元帥「足並みが揃うなどとは思っていない。階級も担当区域も違う者達だ。烏合の衆と言っても過言ではない。
だがそれでも、今この場においては共闘してもらわなければならない」

心悸「共闘、ねぇ…」ニヤッ…

エリート「共闘自体はいい提案と思います。しかし彼が居るのは何故なのか、その説明が先ではありませんか、元帥」

元帥「ここ最近起こった事件、その先駆けとして関わった者だからだ」

エリート「…………」ピクッ

心悸「…………」ギロッ

提督「やれやれ、目つきと空気が良く変わるねぇ…」ニヤッ

エリート「つまり、例のキメラの男、そして西の提督の暴乱に関わっていたと?」

元帥「そうだ。同じ理由で進撃提督にも助力を賜っていた」

進撃「」ペコリ

心悸「流石は新鋭の叛乱を鎮圧した大英雄様だなぁ。その後も活躍するなんざ、いよいよもってエース級じゃねぇのよ」

進撃「いえ、そのような事は…自分はただ、指揮を執っただけですから。本領を発揮したのは彼女達艦娘です」

心悸「くくっ…謙遜すんなよ。少なくともそっちのオッサンよりはよっぽど優秀だぜ」


チャキッ…


心悸「っ!」

加賀「言葉を慎みなさい。あなた方がそう望むのであれば、その言葉通りに敵味方問わずの爆撃を敢行します」

心悸「てめぇ…ッ!艦娘風情が…!」

エリート「心悸っ!」

心悸「……ッ」

エリート「言葉が過ぎたよ。過去は過去だ…それを今ここで詳らかにする必要は確かに無い。ここは僕に免じて
許してくれないだろうか」

加賀「あなたの顔がどれほど広いのか知りませんが、あなたの謝罪でこれまでの侮辱の帳消しになるとは到底思えません」

提督「くくっ」

エリート「…言ってくれるね」

大和「いい加減に…」

榛名「止めて下さい!」

天城「…っ!」

山城「……」

榛名「担当される鎮守府は違えど、同じ場に籍を置く皆さんがどうしていがみ合うんですか!」

進撃「榛名…」

榛名「加賀さんも、矛を収めて下さい」

加賀「聞けません」

285: 2015/03/23(月) 21:32:25.09 ID:GoSy+zsto
エリート「解った。素直に謝罪しよう。この通りだ、許して欲しい」ペコリ…

心悸「エ、エリーt……」

エリート「君も蒔いた種だろう。君も、提督と加賀へ謝罪すべきはずだ」

心悸「くっ……」

天城「提督…」

心悸「解ったよ…済まなかった。言葉が過ぎた…謝罪する。この通りだ、許して欲しい」ペコリ…

提督「」(これだよ…その場限りの非は素直に認める…エリートほど小賢しい奴ぁ何処を探しても絶対に居ない。
その事実に気付くのに俺は遅すぎた。今更何を況や……全ては奴の掌の上の出来事として処理された。全ては俺の詰の甘さ、
俺の未熟さ、俺の偽善ぶった性格、俺の…浅はかな行動の全てが、今へと繋がる)

加賀「…提督」

提督「くくっ…じ・つ・に、下らない!活劇、喜劇、三文芝居は大いに結構!金にも成らない無駄な演技はこの際不要だ。
好きなだけ罵れ。好きなだけ罵倒しろ。吠えた分だけ俺様が貴様等を須らく嘲笑ってやる!」

元帥「おい、提督…!」

提督「いいか、良く聞け海軍!」


俺達は貴様等海軍から忌み嫌われる存在だ。

凡そどの鎮守府は愚か艦隊にすらも同意を得られない落ちこぼれ。

貴様等が見放し、見捨て、ゴミ捨て場に遺棄した存在…それが俺達だ。

存在価値等は元から皆無!

この場にそぐわなくて当然!

例え全てが敵に回ろうと、今俺が信じるのはあの場に居る五人以外はありえない。

俺様の命を懸けててめぇ等に落とし込んでやる。

これから起こる事象に目を背けるな。

紡がれる言葉には一言半句も漏らさず耳を澄ませ。

俺様の従えるこいつ等の動きに刮目しろ。

そして思い知れ。貴様等海軍に────


提督「────目に物を見せてやる。行くぞ、加賀」

加賀「…はい」スッ…

286: 2015/03/23(月) 21:41:03.65 ID:GoSy+zsto



提督「」(こうも早くにあの糞野郎の背に手を掛けれるとはよ…くくっ、これが笑わずに居られるか?
否、まだ笑う時じゃねぇ。今はまだ、ほくそ笑むだけだ。声を出して笑うにはまだ早ぇ…)


タッタッタッタ……


提督「?」チラッ…

進撃「はぁ、はぁ…て、提督!」

提督「進撃…咎めにでもきたのか。元帥の御前であんた何してんですかってよ」

進撃「あなたの、艦隊だったんですね」

提督「あぁ?」

加賀「…………」

進撃「彼女は、一航戦の加賀でしょう」

榛名「提督、いきなり走り出して……あっ」

提督「だったらなんだ」

進撃「やっぱり…あ、いや、うちに在籍してる赤城から、聞いたんです。あの、キメラの男と交戦した時に、
そこにいる加賀と共闘したと…」

提督「…それで?」

進撃「まぁ、それは…話の取っ掛かりでしかないです」

提督「何が言いてぇんだ」

進撃「以前に、聞いた事があります。眠らずの部隊、白夜の艦隊…他の艦隊の追随を許さない圧倒的な持久力を持ち、
津波のような波状攻撃を得意した艦隊戦術。一度動けば並大抵の事では止まらない、沈まない」

提督「俺に俺の昔話聞かせて何がしてぇんだ。足の裏でこねくり回すぞ若造が…!」

進撃「私は、子供の頃にあなたに会ってる」

提督「」ピクッ

加賀「……」

進撃「違いますか?」

提督「覚えちゃいねぇよ。てめぇがガキの頃がどうだったかなんて、俺が知る訳ねぇだろうが。行くぞ、加賀」スタスタ…

加賀「失礼致します。……あと、赤城さんを宜しくお願いします」ペコリ

榛名「行っちゃいましたね」

進撃「榛名…」

榛名「榛名の直感ですけど、あの方々はなんだか大丈夫なような気がします」

進撃「何だよ、それ」

榛名「ふふっ、さぁ何でしょう?」

287: 2015/03/23(月) 21:41:40.43 ID:GoSy+zsto



提督の過去を知るらしいエリート提督と心悸提督。

去る提督の背中を静かに凝視し続けるエリート提督。

冷たい視線だけをその背中へ注ぎ続ける、提督と因縁のある山城。

歯を食い縛り、提督の背を睨み付ける心悸提督と心配そうな視線を送る天城。

唖然とただ見送るだけの進撃提督とその秘書艦榛名。

小さくため息をつく元帥。

それぞれの思惑が交錯する中で不敵な笑みを見せるのは提督ただ一人。

その提督と関係がある口振りを見せた進撃。

まだ顔合わせをした段階。

しかし、うねりと言う波は小波となって勢いを増し、やがては巨大な尾を引く津波と化ける。

これはその最初、ほんの始まりの部分。

そしてこれを皮切りに、ハズレ鎮守府が歴史を創る。

292: 2015/03/27(金) 23:47:25.47 ID:0ObYslzAo



~悪魔の計画・前編~



-血の海-

何故そうなったのか。

どうしてこうなったのか。

小さな歪は気付けば大きな亀裂となり、表に出る頃にはどうしようもない状況となっていた。

数多くある組織の中で、完全な潔白を主張できる強大な権力を持った組織が存在するのだろうか。

否、恐らくは大なり小なり詳らかには出来ないような事柄が存在しているのだろう。

今のこの、海軍のように。


不動「……全員、大破撤退だと……」

古鷹「ロストがいなかっただけ、良かったと思うしかないよ」

矢矧「今は全員、艦娘病院へ搬送が済んでいるわ。意識不明者は伊勢、蒼龍、飛鷹の三名…」

不動「何が、起こった…」

古鷹「解らない。ただ、最後に通信してきた日向さんの言葉は、判然としないって感じだった」


日向『筑摩と阿賀野が奇襲から最速で戦闘不能にさせられた』

古鷹『えっ!?』

日向『こいつ等は、一体何なんだ…』

古鷹『日向さん!日向さん大丈夫なんですか!?』

日向『……ガガッ……まない………に、えんを……くれ………』


古鷹「通信障害が発生し、その後の通話は不能に。それで急ぎ矢矧さんたちと最後に確認が取れたポイントへ
向かってみたら……」

矢矧「水面を漂う六人を発見した」

不動「あいつ等が、手も足も出せずにやられたってのか…」

矢矧「提督、現状では私達はこれ以上の戦線維持、及び戦闘続行は不可能です」

不動「くそったれがッ!!」



鋼鉄「長門…ッ!」

長門「すまない…油断や慢心をしていた訳ではない、だが…」 中破

酒匂「わ、私がいけないんです!長門さん、私を庇って…」 小破

長門「お前は悪くないよ、酒匂。それよりも、翔鶴と瑞鶴、天龍と龍田の姉妹達が心配だ」

鋼鉄「被害の規模は、どれくらいだったの?」

長門「私が中破、酒匂は小破で済んだが、前述の通り、鶴姉妹と龍姉妹の四名が大破だ」

鋼鉄「なんて、こと…!一体、何が起こったの…」

長門「恐ろしいほど錬度の高い連中だったのは確かだ。そして恐らく、今回の一件も深海棲艦が絡んでいる」

鋼鉄「けど、貴女達をそこまで追い詰めれるのに、何故トドメを刺さなかったのかしら…」

長門「くっ…さて、何故かな。殺気は無論あったが、本気で殺(と)りにきている感じは見受けられなかった」

鋼鉄「いいわ、とにかく二人はまずは入渠して身体を休めて」

293: 2015/03/27(金) 23:52:23.73 ID:0ObYslzAo



リコリス「こいつ等…」

フェアルスト「まさか、これほど?」

ポート「水面下で動いていたのね。リコリス…」

リコリス「ええ、私達だけじゃ勝ち目が無い。物量で確実に負けるわ。それだけじゃない…」チラッ…


??「愚カナ、子たち…けど安心ナサイ。直に、マタ……昔と同じ憎しみヲ、刻み込んでアゲル」


リコリス「あんな奴、今まで見た事がないわ…」

ポート「私達よりも更に上位だというのかしら」

フェアルスト「どちらにしても、緩い平和は取り敢えずお預けのようね」

リコリス「撤退よ。私達だけでは、あの数はもう捌き切れない」


??「逃げるノカ。艦娘に成り戻った無様ナ棲鬼共ッ!」


リコリス「何とでも言うがいいわ。これは戦略的撤退と言う奴よ。それと、心変わりするなら今の内よ?
ここから後は、冷たい深海の感触しか残らないんだから…!」ギロッ

フェアルスト「この海域を侵そうと言うのなら、沈めて上げるわ。ここを貴女達の墓標にしてあげる。
水底を恐れないというのなら、進んでくるといい。その全てをアイアンボトム・サウンドへ捧げなさい!」

ポート「二人とも、行くわよ」


??「……小賢しい、成り損ナイの艦娘風情ガ…ッ!」

??「今はいいわ、程ほどにね。私もこの目で見るのは初めて…あれが、月下の艦隊の一端。
ふふっ、ゾクゾクしちゃうわね」

??「ヒトの分際デ、何故貴様は我々に手ヲ貸す」

??「そりゃあ、海軍…それも期待の持たれてる鎮守府の数々が邪魔だからよ。さっき不動の艦隊と鋼鉄の艦隊は
無力化させるに至ったって報告があったし、上々じゃないかしら…出来れば、あの月下の艦隊も沈黙させておきたいけど」

??「無理ダナ。ああは言ったが、奴等の戦力ハ侮れないモノがある。仮に無力化出来たとシテも、こちらの損害モ
並大抵では決シテ済まないノハ明白だ」

??「まぁ、それもそうね。さて、と…あと残ってるのは進撃ちゃんの所と、チョロチョロと五月蝿いネズミ共…
そ・れ・と…ふふっ、例の掃き溜め達ね」

294: 2015/03/27(金) 23:55:19.15 ID:0ObYslzAo



『おかしいとは思わないかい?こちらに非があったのは確かだが、素直に謝罪をしたにも拘らず、僕等を避けるように
あの場から立ち去った。それに聞けば彼の束ねる艦娘達は、そのどれもが一癖も二癖もあるような猛者の集まりと聞く』

『一体、何が言いたいんですか』

『バァカ…暗に遠回しに言ってやっただけだろうが。首謀者はあいつだってよ』

『なっ……』

『あの地へ集められた艦娘達は、海軍を酷く嫌うか憎むかしている。相応の処罰を下されながらも、根底に突き刺さった
憎悪と言う燃料は空にはならなかったようだね』

『元帥さんよ…丁度戦力になる俺等が集まってんだ。きな臭ぇ芽は早々に摘む。あーだこーだと面倒臭ぇ議論なんざ
俺の性には合わねぇんだよ。サクッと決めようぜ…』ニヤッ

『元帥、貴女も…同じ意見ですか』

『…疑わしいのは事実だ。ならば…』

『なら、俺が真偽を確かめます』

『何…?』

『良いのかい、僕等の艦隊が戦線に加わらなくて』

『構いません。俺の艦隊だけで、抑えてみせます』

『くくっ、頼もしいこって…』


進撃「────ついては、これより無力化作戦を敢行する」

榛名「提督、本気ですか…?」

進撃「あの人の真偽を確かめる。赤城、神通、木曾、北上、夕立、時雨…準備を整えて抜錨の準備だ。
ただし、決して撃滅はするな。出来るなら捕縛する。無力化させてしまえば後はどうとでもなる」

赤城「提督…」

進撃「確かめて来い、赤城。俺も実際にこの目で見て、加賀があんな事をしたとは到底思えなかった。直感だけどな」

赤城「ありがとうございます、提督」

295: 2015/03/27(金) 23:56:10.25 ID:0ObYslzAo



-四面楚歌-

鳥海「赤紙の、通達書…」

長良「えぇ…!?」

漣「マジですか…」

満潮「なんでよ…何なのよ、それ!」


現在の海軍には三つの通達書が存在する。

その中の一つ、通称赤紙。

遥か昔の戦時中、通称赤紙と呼ばれた召集令状があった。

軍隊が在郷将兵召集の為に出した令状である。

しかし現在の海軍ではこの赤紙は意味が違う。

排除通告。

鎮守府単位での消滅をこれは意味する。


提督「ちっ…実力行使って訳かよ」

加賀「この鎮守府を放棄しますか?」

提督「馬鹿か、てめぇは。んな事したら相手の思うツボだろうが」

加賀「……」

長良「でも、なんでいきなり」

提督「事情を少しでも知ってる俺等をこの機に乗じて抹頃しようって腹だろうよ。くくっ……めでたくこれで、
俺等は海軍(みうち)からも深海棲艦(てき)からも忌み嫌われる存在になったって訳だ」

満潮「ホンット、災難ってレベルじゃないわね」

提督「降りかかる火の粉は全て払う。だが絶対に身内に手は掛けるな」

漣「それって~、結構常識的な発想だと思いますけど~?」

提督「解ってねぇようだから教えてやるがな…手を抜いて制圧できる相手なら俺様だってここまで冷や水被った顔は
しねぇんだよ。これから制圧に来る相手は恐らく難敵もいいところの相手だろうよ。下手すりゃ元帥の抱える艦隊が
直で迫ってくるかもしれねぇ。だとしたら、お前等じゃ勝ち目はねぇよ」

296: 2015/03/27(金) 23:56:37.90 ID:0ObYslzAo

満潮「そんなの…やってみなきゃ…っ!」

鳥海「近代化改修、ですか」

漣「へ?」

加賀「艦娘の強化を前提とした強化法ですね」

提督「ちっ…ったく、余計な知識だけは豊富だな、くそが」

鳥海「元帥の抱える艦隊であれば、錬度は申し分なし。そこから更にその近代化改修によって更なる強化が施され、
まさに鬼に金棒といいたいのよね」

提督「解ってんなら…」

長良「だからって指咥えて負ける時を待ってるのは私達じゃないよね」ニコッ

提督「てめっ……」

満潮「あーはいはい、お腹抉られちゃって弱気になってた人はちょっと黙ってなさいって」

提督「なっ」

満潮「相手が何だろうが知ったこっちゃないわ。やってやるわよ。やらなきゃ終わりっていうなら、氏に物狂いで
勝ちにいってやる。あんたがいつも言ってる事じゃない。見せてやるわよ……目に物を見せてやる!」

提督「」(…本当にこれを送ってきたのは大本営…元帥からの一便か?あの時、俺は敢えて離反する素振りを取った。
反発し、反論し、暴発気味にあの場から撤退して見せた。絶対にあの野郎なら食い付く…そう信じて賭けに出た。
だが釣れたのが赤紙…?腑に落ちねぇ所の話じゃねぇだろ)

満潮「ち、ちょっと、何黙ってんのよ!」

提督「…好きにしろ。くくっ、てめぇ等の骸くらいは掻き集めて同じ場所に置いてやるよ」



『始まったね。無益な争いが…』

『まさか本当に戦わせるとはね』

『後は時間を見て漁夫の利って訳か』

『僕は別の方面を見てくる』

『蛇蝎の奴が向かったほうか?』

『そうだね。ある意味そっちの方が難敵だ』

『後は私達で事足りるよ。きっちりトドメを刺して、楽にしてあげよう』

『てめぇはたださっさと仕事終わらせて飯食いてぇだけだろうが』

『ははっ、それもあるね。動くと腹が空く。道理じゃないか』

297: 2015/03/27(金) 23:57:08.05 ID:0ObYslzAo



孤独を匂わせる、そんな感覚に囚われる夢を見た事がある。

静寂が辺りを支配し、空は何処までも黒ずみ、湖面すらも黒く染まる。

そこにただ一人、立ち尽くす。

オレンジに染まったあの時のものとは違う、圧倒的に心を締め付け閉じ込めるような感覚。

己を保つ事さえ困難な緊迫した状況、そして少しでも意識を逸らせばたちまち自身すらも周りの漆黒と同化する。

それだけは、それだけはなってはならない。

意識を刈り取られる訳には行かない。

強く持て。

自らを、心を、意思を、信念を、想いを、前に踏み出す勇気を。

全てを備えたその時こそ、自らを凌駕した何かを手に入れられる。

そんな抽象的で不安が残る夢に比べれば、今のこの判然とした状況はどれほどのものか。

比べるべくも無い。

何がこようと、何が現れようと、何が起ころうと、この心が揺さぶられる事は二度とない。

だから、その人が眼前に現れても眉一つ動く事はなかった。


赤城「加賀さん…」

神通「この方々を、無力化させるのは少し骨が折れそうです」

北上「おぉおぉ、壮観だねぇ…」

木曾「一目で解る錬度って奴だな」ニヤッ

夕立「それでもやるっぽい!」

時雨「うん、全力を尽くすよ」

加賀「…………」

鳥海「空母機動部隊ですね」

長良「強そうだねっていうか、強いの確実か」

満潮「だから何よ。全力でぶっ潰すんだから!」

漣「手加減無しです!」

303: 2015/04/04(土) 20:14:31.44 ID:uGS9/4SSo
-好敵手-

それぞれがそれぞれの相手を見定め、それ以外に焦点が合わなくなる。

二人にとっては更なる集中が互いを高めていた事だろう。

世界にただ二人だけ。

この大海にたったの二人、それ以外は障害物でしかなくなる。

互いが互いを認め合い、切磋琢磨してきた日々が思い起こされるも即座に霧散する。

良く笑い、大らかな心で周りを包み込む赤城。

厳しく、予断も隙も許さない凛とした姿勢を崩さない加賀。

二人の顔は今、悲しみを帯びて共に歪んでいる。

だが、それすらも表面には出さない。

何故なら、そこは戦場だからだ。


赤城「矛を納めて下さい、加賀さん。今ならまだ間に合います」

加賀「聞けない相談です」

赤城「何故ですか?」

加賀「」ギリッ…

赤城「私達はあなた達を撃滅する為に着た訳ではありません!ですから……」

加賀「引けません」スッ…

赤城「加賀さん…!」

加賀「ここは…ここだけは!例え赤城さん、あなたが相手であっても…ここは譲れません!」カッ


ビュッ

ビュッ


目を見開いた加賀が動く。

だがそれに遅れを取らず、即座に赤城も反応して矢を射る。


ダダダダダダッ


互いの矢から姿を覗かせた艦載機群はそれぞれが一機ずつ互いを撃滅しては撃ち落されていく。

304: 2015/04/04(土) 20:15:06.90 ID:uGS9/4SSo


スッ……


無言のまま加賀は人差し指、中指、薬指にそれぞれ矢を挟んで背に備える矢筒から引き抜く。

弓を縦ではなく横に沿え、二本の矢をそこに番えて一気に放つ。

同時に赤城は斜め上空へ向かって一矢を放つ。


ビュッッ


赤城「流石加賀さんです…そうきましたか」


険しい表情で赤城は加賀の放った矢の軌跡を見て彼女の作戦を理解する。

だがその上で打った手だ。

赤城もまた、旧知の仲であろうと手を抜く事はしない。

それこそ最大の侮辱になってしまうからだ。

全力を持って彼女の姿勢に応える。

同じ部隊の一員だったからこそ、戦友であるからこそ、旧知の仲であるからこそ、そして誰よりも信頼できるからこそ────


赤城「慢心してはダメ。加賀さん、全力で参りましょう!」

加賀「臨む所です」


バッ


一瞬早く、既に構想を練っていた加賀が振り翳した腕を真っ直ぐ振り降ろし、赤城を指し示す。

305: 2015/04/04(土) 20:16:32.21 ID:uGS9/4SSo


加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

赤城「……っ」バッ

加賀「敵機側面より強襲。更に直上からの波状攻撃です」

赤城「なっ…私の艦載機群が…!」

加賀「私の狙いを理解していたのなら、もっと集中的に狙うべきです。赤城さんの狙い、その上をいかせて頂きます」


ボゴオオォォォォォン


二人の上空で一際大きな爆発が起こり、赤城の放っていた艦載機達が次々と撃墜されて水面へ浮かぶ。

残った残存兵力で加賀は追撃に出たのだ。

上空へ矢を放った赤城に合わせ一方は側面へ、もう一方は上空へ軌道修正させて指示を出して攻撃と防御を一気にこなす。


赤城「くっ…直上…直上!?」バッ


ボゴオオオォォォォォン


直撃こそ避けたものの、赤城の片腕の袖が大きく焼けて裂ける。


ビリッ ギュッ


それを赤城は自ら更に裂いて腕に巻きつける。

そして再度前を向いた赤城には微塵も隙は無かった。


赤城「上々ね、加賀さん」 小破

加賀「みんな優秀な子たちですから」

赤城「攻撃と防御を一気に行うなんて発想、無い訳じゃないけど実行できるものとは思いもしませんでした」

加賀「同じ過ちを、私はもう絶対にしません」

赤城「え?」

加賀「今のこの艦隊ならば、私は全力で力を振るえると自負できます」

赤城「加賀さん…」

306: 2015/04/04(土) 20:20:49.59 ID:uGS9/4SSo



鳥海「突出してこない所を見ると、結構考えて動くタイプかしら?」

神通「戦術の基本です。提督から任された以上、矢尽き刀折れるまで、私は諦めませんよ」

鳥海「」(目が…物語ってるわよね。彼女は強い…少なくとも、私が今まで出会ってきたどの軽巡よりも、
下手をすれば長良を軽く凌ぐほどのメンタリティとバイタリティを持ってるかもしれない)


対峙してから既に数分が経過する。

それでも彼女達は未だ微動だにせず海面を揺蕩う。

互いに自然体で構えもせず、各々を真っ直ぐに見据えるだけ。

動かないのではなく動けない。

そう考えていたのは鳥海だった。

微塵の隙も無い。

動き出しの糸口すら、神通から見出せない。

奥歯をかみ締めていた表情がフッと緩んで鳥海は小さく笑う。


鳥海「そうね…あり得ない事が起こるのが私達よね。ここからは、もう計算だけで全てが丸く収まるなんて思わないわ」

神通「……」スッ


静かに神通が腕を上げて砲塔を差し向ける。

それに応えるように鳥海も真っ直ぐに神通を見据えて主砲を構える。


神通「砲雷撃戦…」ジャキッ

鳥海「砲雷撃戦!」ジャキッ

神通「開始します!」

鳥海「やるわよ!」

307: 2015/04/04(土) 20:21:45.82 ID:uGS9/4SSo


ドン ドン ドン ドン


互いに一斉射を合図として動き出す。

二人とも時計回りに、砲撃と同時に動き出した。


ザバァァァン

ザバァァァン


一瞬先刻まで居た場所へ各々の放った砲撃が着弾して水飛沫を上げる。

速さは神通、正確さでは鳥海が一枚上手を行く。


鳥海「くっ…!」(速い上に、あの速さでブレが少ない斜線って何なのよ…!)バッ

神通「……っ!」(動きを止めたら、直に狙い撃ちされる。止まったら、ダメ…!)ザッ


互いに止まる事無く、流動的に戦闘を展開していく。

撃っては離れ、間合いを見て予測し、観測射撃を行う。

それでも決定打を双方共に打てずにこう着状態へと移りつつあるかのように見えた。


鳥海「このっ…!」ドン ドン

神通「まだ…!」サッ


ボゴオォォォォン


だが、鳥海は理解していなかった。

僅かなズレ。

細心の注意を払って神通は鳥海との間合いを一歩、また一歩と狭めていた。

神通の狙いは鳥海の無力化。

それは撃滅と言う意味ではなく、文字通り戦闘続行を不可能にするという事。

鳥海の纏う艤装の完全破壊。

だが神通もまた、ここで墓穴を掘る事になる。

308: 2015/04/04(土) 20:22:24.28 ID:uGS9/4SSo


神通「……っ」スッ…

鳥海「」(何、あの構えは…っていうか、ちょっと待ってよ。なんで、こんなに近いのよ…!)サッ…

神通「ふっ!」ビュオッ


大きな一歩、神通の構えは剣術の型に名を連ねる居合いの構え。

初速は静かに、淀み無く素早く、音を置き去りにするが如く、放たれた一刀は宛ら弾丸の如く。

狙い定めて目標を一瞬の内に沈黙させる。


ボゴオオォォォォン


鳥海「きゃあっ」 小破

神通「なっ」

鳥海「くっ…!被弾箇所は……こ、これは……!」


ボロッ……


神通の誤算、単純な距離の見誤り。

だがそれは鳥海の第六感が働いた事により偶然起こってしまった失敗。

僅か半歩、鳥海は後方へとたじろぐ形で退いていたのだ。

それ故に切っ先のみが鳥海の艤装を直撃し中途半端に破壊され誘爆が引き起こされた。


鳥海「あんな艤装、見た事が無い…独自にカスタマイズされた艤装とでも言うの…?」

神通「」(見誤った…まさか、あそこから半歩後ろに下がるなんて…解らない内に沈黙させるはずだったのに…)

鳥海「顔に似合わず怖いわね、あなた…」

神通「よ、余計なお世話です!」

鳥海「練り直しね、戦術の…」

315: 2015/04/18(土) 22:35:04.31 ID:bb/1Nyyoo



木曾「悪ぃが多勢に無勢なんて寝言は止めろよ」

北上「嫌ならさっさと降参するこったぁね」


唯一、多対一と一人で二人を相手にしなければならなくなった長良。

しかし元々彼女が本領を発揮していたのはこういう状況での事だ。

たった一人で複数を殲滅する馬力と火力、そして立ち回り。

故に強敵二人を眼前に捉えても長良の腰は引ける所か普段よりも身軽になっていた。


長良「冗談!」グッ…

木曾「おっ」

北上「むっ」

長良「海には岩礁はあっても信号はないからさ。気の済むまで私は駆け抜けるよ!よーい……」

木曾「おいおい、こいつまさか…」

北上「あっはっは、木曾っちの考えきっと当たってるよ…」

長良「どんっ!」ザッ

木曾「野郎…!速ぇ…!」

北上「迂闊だったかも…これじゃ照準が絞れない」

木曾「面白ぇ、俺が止める。北上は構えて待ってろ!」ザッ

北上「あっ……もう、すぅぐ熱くなるんだから…」

長良「ん」

木曾「よう!スピード勝負なら乗るぜ?」ジャキッ

長良「」(この速さの中で構えるのか、凄いなぁ…)クルッ ザンッ

木曾「うおっ」ザザザッ

316: 2015/04/18(土) 22:38:51.00 ID:bb/1Nyyoo


木曾の反射神経に驚嘆しながらも更にその上を行くかのように長良は併走していた木曾に逆らいその場でフルブレーキ、

方向を直角に転換させて木曾の側面を正面に捉えて主砲を構える。


長良「でも狙いの正確さは漣には及ばないね」ジャキッ


ドン ドン


木曾「くっ」(どんな反射神経してやがんだ!)サッ


ボボボボボンッ


長良「次っ」ジャキッ

北上「うんにゃ、そうやりたい放題って訳にはいかないっしょ」

長良「えっ」

北上「準備はオッケーだよ、木曾っち」ニヤッ

木曾「へへっ、んじゃま…」

北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」


ザザザッ


長良「」(不審な点は、一件見当たらない…)キョロキョロ

木曾「どうした?ビビッたか?まぁよ、今から貴様に本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」バサァッ チャキッ

長良「え、と、刀剣…!?」

木曾「やれ、滑走台だ、カタパルトだ、そんなもんはいらねえな。戦いは敵の懐に飛び込んでやるもんよ。なあ?」ザッ

長良「」(くるっ!)


ボゴオオォォォォォン

ザバアアアァァァァン

317: 2015/04/18(土) 22:47:39.75 ID:bb/1Nyyoo


長良「うわぁっ!え、な、何ぃ!?」

北上「ありゃ、外れた?」

長良「え、ちょ、ちょっとちょっと…」(何今の、海面が爆発した!?まさか機雷……)

木曾「余所見かよ。余裕だなあ、おい!」ビュオッ

長良「うひゃあっ」ヒョイッ

北上「地味に良く動くなぁ…んでも、その方があたしゃありがたいけどね~。木曾っち、追い込むよ~」

木曾「おう!まぁその前に…」チャキッ

長良「あ、あの刀剣はヤバイ…かなぁ。どーしよ…」

木曾「恨むなら貴様んとこの提督恨めよ。つってもまぁ、別に俺達は貴様等を撃滅する為に来た訳じゃねぇ。
だから事と次第によっちゃあ見逃してもいいぜ?」

長良「い、今更ですか!?」ガーン

北上「木曾っち、それさぁ…最初に言わなきゃ意味ないじゃ~ん」ジトー…

木曾「う、うっせぇな!元はと言えばコイツがいきなりかっ飛ばしてきたからだろうが!」

長良「なはははは…まぁでも、私達は司令官を誰一人として疑っても居ないし、信じてるから」

木曾「…何?」

長良「それで裏切ったら、恩を仇で返してるのも一緒だよ。私の信条、受けた恩は形で返す!」ジャキッ

北上「言うねぇ…痺れるねぇ!そーいうの、お姉さんは共感持っちゃうよぉ!んでも負けてもらうけどね~」ジャキッ

長良「なっ…!」

北上「四十門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと」バシュン バシュン バシュン

長良「くっ」ザッ

北上「ふふん」ニヤッ


不敵に笑う北上、放たれた魚雷は北上が指定した方角へと真っ直ぐ伸びていくが、長良からは照準が僅かにずれる。

しかし────


ボゴオオォォォォォン


長良「きゃあっ」 小破

木曾「くくっ、容赦ねぇでやんの…」

北上「岩礁はあっても確かに信号は無い。んでも、信号に変わるモノなら用意できるんだなぁ」

木曾「うちの姉貴は性質悪ぃぜぇ…降参すんなら今の内ってな」

長良「くっそ…あったまきた!」

北上「ありゃ、闘争心に火を点けただけかもしんないわ…」

木曾「へへっ、面白ぇ…まぁあれでゴメンナサイじゃ、骨があるも何もあったもんじゃねぇからな」

318: 2015/04/18(土) 22:48:35.71 ID:bb/1Nyyoo



満潮「赤い方、私が行くわ」

漣「ほいさっさ~♪それじゃ私はあっちの黒い方だね!」

夕立「時雨!」

時雨「うん、一気に攻めるよ」


先手必勝。

夕立と時雨の作戦はタッチ&ゴー作戦だった。

目標を認識した段階で一気に決着をつける。

長期戦に持ち込まず瞬殺で対象を沈黙させる作戦。

しかしその作戦は今回相対する二人には見事にハマらなかった。


ビュオッ


空を裂く、という表現があるが満潮はまさにそう表現するに等しい動きを見せる。

海面を割って、風を切り、空を裂く。

夕立と肉薄するのにそう時間は要らない。

まさに一瞬。

そんなデタラメな動きの中で反動を物ともせずに主砲を構える姿を何とか捉え、夕立の顔つきが変わる。


夕立「し、島風と同じ…ううん、下手したらそれより速いっぽい!」

時雨「何なんだ、あの子は…!」

満潮「相手が何だろうが知ったこっちゃないわよ。目に見える敵は全て私がぶっ潰して上げるわ!」


夕立と時雨、二人の企てた奇策は策に移る前に潰された。

異常とも言える満潮の単身先行による奇襲によって、ただ二人の範囲に侵入を許したというだけで敢え無く散った。

そして彼女が二人のお株を奪う。


満潮「先手必勝よ!」ドン ドン

夕立「時雨!」ドンッ

時雨「うわっ」ザバァッ


ボゴオオォォォォン


夕立「けほっ、こほっ……」 小破

満潮「直撃を避けたっての!?」ザザザッ

夕立「夕立、突撃するっぽい!」キッ


満潮を睨みつけ、夕立の表情に険が刺す。

それと同時に時雨も動く。

狙いは否応無く漣へ視線を移し手にする主砲を構え直した。

324: 2015/04/20(月) 19:39:08.10 ID:RofHy1uMo



漣「むっ」

時雨「この借りは後で返そう。今は…君だ。いくよ!」ザッ ドン ドン


バッ

ボボボボボボボボンッ


漣「ふふん、当たらなければどうという事は無い!ですよ!」

時雨「そうかい?なら、この晴天の中で唯一雨を降らせようか」バッ

漣「はいぃ!?」

時雨「雨はいつか止むさ。でも、この雨は降り続ける…僕からのささやかな挨拶だ、いくよ!」


時雨が上空へと放り投げた無数の筒、それは夕立ご用達の時限式魚雷。

接触で炸裂はせず、時間経過で爆発を引き起こす特注品だ。


バシッ ドゴッ ブンッ バシィッ


ある物は弾き飛ばし、殴り飛ばし、蹴り飛ばし、手に持ち替えて更に時間差で投げ飛ばし、縦ではなく横に向けての

無数の魚雷と言う雨が漣に向かって文字通り降り掛かる。

325: 2015/04/20(月) 19:56:22.57 ID:RofHy1uMo


漣「僕っ子恐るべし…けど!」サッ ドン ドン


ボンッ

ボボボンッ


飛び来る魚雷から更に距離を取りつつ、漣は直近の物から適時確実に主砲で魚雷を破壊していく。

漣の強み、それは正確無比の射撃能力。

動かない状態での固定射撃なら言わずもがな、移動しながらの射撃すらもその照準はブレを全く見せない。


時雨「なっ…!」

漣「五月雨の 降り残してや 光堂。なんちゃって♪」

時雨「言うね。僕、結構芭蕉の句が好きなんだ。君の強さは認めるよ。でもね、提督の艦隊の一員として、君には
絶対に負けないよ。止まない雨は無い…けど、先刻通りこの雨は降らせ続ける」ババッ


再び、今度は先刻の倍以上もある数の魚雷を一斉に散りばめる。

そしてさっきよりも更に速く、鋭く、時雨の動きが洗練されて舞い上がった魚雷の数々が宙からブレて消えていく。

水中を進む魚雷のそれとは一線を画す速度。

まさにそれは海上を駆ける弾丸。


ボンッ

ボボボボンッ


漣「や、やばい…!」グッ

326: 2015/04/20(月) 20:14:20.59 ID:RofHy1uMo


全てを御せず、漣は咄嗟に両腕を前面でクロスさせて完全な防御姿勢を取る。

その直後、一瞬にして彼女の姿を掻き消すように残りの魚雷が一斉に着弾と共に爆発を起こした。


ボゴオオオォォォォォォン


時雨「朝比奈の、紋を十ずつ十寄せて、百人力の鶴の紋なり。今の僕は進撃の艦隊の代表としてきているんだ。
例えどんな理由があろうと、ここで負ける訳にはいかないのさ。君にはここで、沈黙してもらうよ」

漣「むぅぅ……危なかった」 小破

時雨「あの中を掻い潜ったのかい?凄いね…素直に感心するよ」

漣「思い出したですよ。進撃さんの艦隊には駆逐艦で飛び抜けてるのが何人か居る…僕っ子さんはその中の一人。
結構物騒なあだ名多いですよねぇ。みっちゃんと交戦してるのは紅の悪魔、なんて呼ばれちゃってますし~」

時雨「彼女の前でそれは言わない方がいいよ。本気で怒るから。ああみえて結構甘えん坊な所があって繊細なのさ」

漣「僕っ子さんだって随分なあだ名あるじゃないですか」

時雨「飛雨の時雨…飛雨を魚雷や主砲の砲撃に見立てたあだ名らしいね。中々詩的で僕は好きだよ。
まぁでも、好んで名乗ろうとは思わないけどね?」クスッ…

漣「怖いですねぇ」

時雨「君達と相対するに当たって、僕も提督に頼んでもらって色々と調べたさ」

漣「む?」

時雨「君の事も勿論ね。奇抜の一言で片付けられているけど、僕からしてみれば飄々とした態度とは裏腹の表情を
見せる君を一概に奇抜の言葉で済ませる訳にはいかないよ。まさに昼行灯…最警戒だ。さて、お喋りはこれ位にして
そろそろ二回戦と行こうか」ジャキッ

漣「上等ですよ。今日の漣は趙本気モードですよ。狙いは外さないです!」ジャキッ


各地で動きが激しくなり、提督たちの下にも避け難い戦いがもたらされる。

相手は元帥から絶対の信頼を預かる進撃の艦隊。

果たしてこの交錯は吉と出るか凶と出るか。

327: 2015/04/20(月) 20:14:47.13 ID:RofHy1uMo
一先ずここまでで、一時間ほど休憩します

328: 2015/04/20(月) 21:03:34.28 ID:RofHy1uMo
再開します

329: 2015/04/20(月) 21:05:34.65 ID:RofHy1uMo



~悪魔の計画・後編~



-海を駆る乙女達-

提督と進撃提督の艦隊が激突した頃、一歩退いた所で一人の男が口元を歪めて艦隊を率いて待っていた。

男の名は心悸。

今回の進撃の言葉を利用し、彼を嗾けた張本人。

彼の艦隊が提督の艦隊を撃滅すれば良し。

せずとも沈黙させられるのならそこを利用して自らの手でトドメを刺す。

その際、現場を目撃していた進撃の艦隊も同様に葬り去る算段で彼はそこに居た。

そしてもう一人。

心悸とは反対側に位置取り、彼と二人で提督達を挟撃する算段でそこに陣取る艦隊がある。

通称、鮮血の艦隊と呼ばれ畏怖される艦隊。

艦娘達も好戦的で敵と認めた相手へトドメを刺す事を全く躊躇わない艦隊だ。

それらを指揮するのは百貫と呼ばれ、物腰穏やかな性格だが並外れた巨躯を持っている提督。

その物腰や表情からは到底想像もできないような冷徹な言葉が数々生み出されている。


百貫「出だしは互角…それにしても、一人少ない状態でハズレの方は良く頑張るね。まぁ、指揮を執ってるのが
あの元白夜の艦隊の提督じゃあ頷けるものがあるけど…手負いになっちゃ私の艦隊からは逃げられないよ」

空母艦娘「提督、布陣は完了しました。いつでも強襲を仕掛けられます」

戦艦艦娘「あの二つの艦隊がまさか離反を企てていようとは…ハズレはともかく、進撃の方は目に余りますね」

重巡艦娘「でもだからこそ、早い段階で芽を摘まれるのでしょう?余計な手間を省く、いつも提督が仰っています」

百貫「ははっ、君達は物分りが良くて助かるよ。何より、こんな血生臭い争いはさっさと終わらせて美味しい物を腹一杯
食べたいだろう?彼等を潰せば、当面は面倒ごとがグッと減る。これは喜ばしい事だよ」

330: 2015/04/20(月) 21:06:09.42 ID:RofHy1uMo


ピー ピー ピー


百貫「おっと…はいはい、どなたかな?」

心悸『すかしてんじゃねぇよ。そっちは準備整ってんだろうな?』

百貫「やあ、君か。勿論、そっちはどうなんだい?」

心悸『いつでも乗り込めるぜ。ただまぁ、どうせ勝手にドンパチやって手負いになってくれるんだ。
そこまでは精々見届けてやらないとあいつ等の面目も立たねぇだろうよ』

百貫「何だかんだ言って、卑劣で悪辣なのは彼に次いで君が二番目に私は思うね。性格がそのままでてるよ」

心悸『うっせぇよ。色欲キメラだって大概だろうが。むしろあいつの方がよっぽどエグイね』

百貫「ははっ、そこには同意する。さて、不動さんと鋼鉄さんには黙ってもらった事だし、彼等にも黙ってもらおう」

心悸『こいつ等の場合は永遠に、だけどな』

百貫「くふっ…同意する」ニヤッ…

331: 2015/04/20(月) 21:33:59.35 ID:RofHy1uMo



提督「」トン トン トン……


ピー ピー ピー


提督「…………」


ピー ピー ピー


提督「ちっ」


ガチャ……


提督「誰だ」

進撃『俺です』

提督「その声は進撃か。上官の前じゃ猫被って一人称が『私』だったのにな。化けの皮剥ぐのが早いんじゃねぇのか」

進撃『大事と小事で割り振るなら小事です』

提督「くくっ…敵は本能寺に在りってか?」

進撃『そういう言い回し、余り好みませんね。まぁでも、むざむざ利用されっぱなしっていうのも俺の性に合わないんで』

提督「てめぇ……解ってて嗾けて来たのか」

進撃『相手の言葉尻に噛み付くのが得意なもので。あなたの艦隊を沈黙させれるならそれでも良し、無理な場合でも
相応の策は練っていたつもりです』

提督「一応聞いてやるよ。大英雄のクソガキがひけらかす戦術って奴をな」

進撃『大本営で会った時もそうでしたけど、言葉に常に棘を含みますね』

提督「っせぇよ。俺ぁてめぇみたいな奴が心底気に食わねぇんだよ。見てるだけで虫唾が奔る。こうしててめぇと直に
会話をしている事が極めて不愉快だ。じ・つ・に、不愉快だ!いいか、俺様の機嫌が変わらねぇ内に弁舌に捲くし立てろ。
だるく感じたらその場で通話を切る。横槍挟まれても御託は抜かすな。反論は認めん。以上だ、さっさと抜かせ」

進撃『想像以上に俺様だな…』ボソッ…

提督「通話切るぞ、じゃあな」ブツン

332: 2015/04/20(月) 21:44:08.66 ID:RofHy1uMo


…………ピー ピー ピー


提督「ちっ」


ガチャ……


提督「うるせぇんだよクソガキ、氏ね」

進撃『…目標は二つ。恐らく相手はこちらを絶対に逃がさない布陣で待機してます。ただ相手にとって誤算があるのは
俺達に援軍の手立てがある、と言う点です。厳密には俺の艦隊に対しての援軍ですが、相手方からしてみれば俺の艦隊は
事のついで、あなたの艦隊とあなたを潰すついでに手負いになるであろう俺の艦隊も潰せれば尚よしって所でしょう』

提督「」(野郎、スイッチ入るとさまになるじゃねぇか)

進撃『強硬手段に出るのは恐らく俺もハズレ鎮守府近海にまで顔を出すから。あなたの首と揃えて始末する気でしょうね』

提督「…相手が何か解ってて言ってんのか」

進撃『そんなもの解りませんよ。ただ相手からわざわざ顔を出してくれるんだから否が応でも解るものでしょう。
悪役の常套手段ですよ。冥土の土産に正体明かすってアレです。だから逆手にとって土産だけもらって冥土には相手に
行ってもらう事にします』

提督「言うじゃねぇか。だがてめぇんとこの艦隊と俺様の艦隊は既にぶつかってる。これを制すのは最早不可能だ」

進撃『提督の艦隊を出来る事なら沈黙させ、捕縛する事…それが俺が今回出した任務内容です』

提督「はっ、そいつはまたご丁寧にありがとよ。てめぇ等如きに心配されるほどあの馬鹿共は落ちぶれちゃいねぇよ。
上等だよ。それだけ大層な作戦立案が出来るならその後の展開も大方予測できるだろうよ」

進撃『こちらが弱った所に総攻撃を仕掛けてくる、が最も有体です』

提督「ダァホ、そんな事ぁ基本だろうが。具体性を示せつってんだよこのボンクラすかしっ屁野郎」

進撃『んなっ』

提督「くくっ、あの野郎に組してるってんなら体の随所に渡るまで刻み込んでやる。馬鹿が誰に喧嘩売ってんのかを
再認識させた上で地べたに這い蹲らせ、生まれた事を後悔するほどぶちのめす!じ・つ・に、面白い!ゴミが必氏に
なる様ほど滑稽なものはない!俺は今、ひっっっじょうに気分がいい!進撃、てめぇにも見せてやる…目に物って
やつがどんなもんかってのをな!」

進撃『…………』(時折居るんだ…反目して、一件不規則で、道を踏み外しているように見える。決して組織の傀儡
にならない、我道を貫く傾奇者…性格こそ違うけど、まさに俺が目指す、この人は究極系かもしれないな)

提督「おら、すかしっ屁野郎、ヒントはくれてやったろうが、さっさと具体性を示せ」

進撃『勘違いしないで下さいよ。今から計画練ってたんじゃ二人とも海の藻屑でしょう。既に、手は打ってあります』

333: 2015/04/20(月) 21:45:06.91 ID:RofHy1uMo



??「行きますよ」

??「当然でしょ」

??「売られた分はきっちり返させて貰う」

??「そうね、ただし…漏れなく倍にして返すわ」

??「絶対に許さないんだから!」

??「ただでは済まさん!」



提督「んだと?」

進撃『急ごしらえだったんですけどね。是非参戦したいって子達が多かったもんで』

提督「はぁ?」

進撃『これ、嫌味ですけど…結構、俺は元帥始め各方面に人望あるみたいなんで』ニヤッ

提督「…ちっ、言ってろすかしっ屁野郎が。ならそっちの指揮はてめぇに任せてやるよ。しくじったらてめぇんトコの
鎮守府に核弾頭ぶち込んでやる。全身洗って氏ぬ準備も整えとけ」

進撃『じゃあ作戦が成功したらこっちの言い分、幾つか聞いてもらいますよ』

提督「ほざいてろ、クソガキ」

進撃『って訳で、俺はこれからそっちの援軍側の指揮を執ります。提督はこちら側の方をお願いします』

提督「あぁ!?」

進撃『それと、そちらにいる鳥海に伝えて上げて下さい』

提督「んだよ、次から次へとうっせぇ野郎だなてめぇは!」

進撃『────────』

提督「……なんだと」

338: 2015/04/22(水) 23:48:37.85 ID:TeZYOGWmo



赤城「くっ…まだです。この程度では、まだ…!一航戦の誇り、例えあなたが相手であろうと失う訳にはいきません」

加賀「それでこそ赤城さんです。だからこそ、私もこの身に括った一振りとも言うべき一航戦の誇り。この身を逆に
切り裂こうとも揺るがしはしません」


鳥海「艦娘の中には近接格闘に秀でる子も居るって聞いたけど、まさか剣術とはね…」

神通「艦娘である前にこの身に宿る信念は軍人のものです。刀剣こそ軍人の誇りではありませんか。この一刀、
己の魂を乗せて全力で振り抜きます」


長良「全身全霊、一気に叩く!」

木曾「へへっ、いいねぇ…そういう姿勢、アリだな」

北上「暑苦しいのは木曾っちだけでいいんだけどね~。ま、やってやりますか~」


夕立「許してって言っても許さないっぽい~!」

満潮「だ~れが言うか!逆に言わせてやるわよ!」

漣「漣、出る!」

時雨「時雨、行くよ!」


──薄らアンポンタン共、よく聞け──



339: 2015/04/22(水) 23:49:12.42 ID:TeZYOGWmo
加賀「なっ」

赤城「こ、これは…」

鳥海「司令官、さん…?」

神通「両艦隊の回線に通信って…」

長良「…っとっと!な、何!?」

木曾「んだぁ、このムカつく言い回し…」

北上「ウザ~」

満潮「あんのアホ面オヤジ…!」

漣「はぁ、もう…空気読んで下さいよ。ご主人様ぁ」

夕立「え、えぇ?」

時雨「これは…」

提督『今から特別に貴様等の指揮を俺様が執る。解ったら双方共に武装を解除し、これから俺様が言う作戦に従事しろ』

北上「あのさ~、何処の誰とも解らん人の命令とか聞くと思ってるの?」

提督『そうか。ならば貴様は勝手に氏ね』

北上「んな!」

提督『馬鹿で目先のモノにしか事を構えず、無い脳みそすらその1%も使わない木偶以下の貴様等にも解り易い様に言う。
単純な事だ。従わない、従えない、理解できない文字通りの馬鹿は氏ね。氏相の出てる奴の面倒までは見きれんからな。
球磨型三番艦重雷装巡洋艦の北上』

北上「むっ」

提督『ノータリンの貴様でも褒められる部分はあるから冥土の土産に教えてやる。盤面に散りばめた幾重もの罠の数々、
そのまま放置すれば文字通りの馬鹿と嘲笑ってやるが、貴様ならこれをその後の展開でどう使うか位は理解できるだろう』

北上「」(こいつ、罠の存在に気付いてたの!?)

木曾「おい、ざけんなよ!何様だテメェ!!」

提督『提督様だボケッ!提督に艦娘が逆らってんじゃねぇよこの片目眼帯口先女!』

木曾「んだとコラァ!!」

提督『悔しかったら生き残っててめぇが強ぇってのを証明して見せろ。やれ滑走台だ、カタパルトだ、そんなもんは
いらねぇんだよな?懐に飛び込んでやるのが戦闘なんだろ?だったらやってみせろ!いつまでビビッてるつもりだ』

木曾「言わせておけば…ッ!」

340: 2015/04/22(水) 23:49:39.62 ID:TeZYOGWmo
提督『ビビリと言えばそこの赤服の軽巡は相当ビビリだよな?』

神通「……」

提督『大層な獲物担いでる割には一歩所か半歩も踏み込めちゃいねぇクソ芋じゃねぇか。先陣切ってカチこむのが軽巡の
真髄じゃねぇのか。それで過去は華の二水戦とは片腹所か笑いすぎて膝付くってんだよ』

神通「」ギリッ…

提督『おら、水遊びが大好きな駆逐艦共。てめぇ等はいつまで水遊びしてるつもりだ。そんなもんは浜辺だけで結構、
大いに結構!じ・つ・に、どうでもいい!存在そのものが邪魔だ!水遊びを続行するつもりならさっさと消えるか氏ね』

夕立「むっかぁ…」

時雨「流石の僕も憤りを感じるよ」

夕立「私達がいつ水遊びしてたっぽい!?」

提督『寝言は寝て言えよ、この勘違い馬鹿が。駆逐艦の真髄を忘れたってんなら本格的に氏んで生まれ変われよ、ぽい介女』

夕立「むっかぁ!」

時雨「僕達の真髄は夜戦だ。つまり、あなたが立てる作戦と言うのは、夜戦がキーポイント、と言う事かな?」

提督『ほぅ、少しは頭使ったか。だが的外れだ。それは後で説明してやる。さて、それと……おい、一航戦(笑)共』

赤城「」ピクッ

加賀「……」

提督『見せて貰おうじゃねぇか。資料通り、今も変わらぬ錬度を誇る歴戦の勇か否か。南雲機動部隊を名乗るのなら、
南雲忠一海軍中将殿も納得の戦力を見せてくれるんだよなぁ、一航戦のお二人さんよ』

赤城「あなたは……」


スッ……


赤城「か、加賀さん…」

加賀「提督、流石に不愉快です」

提督『ああ、そうかよ。だが俺様はてめぇのご機嫌伺ってやるほどの器は持ち合わせちゃいねぇからよ。
取り敢えず文句があるならまずは行動で示せよ。これからてめぇ等が行うのは撃滅戦でも殲滅戦でもねぇ。鎮圧戦だ。
いいか、よく聞け木偶共────』

341: 2015/04/22(水) 23:50:13.45 ID:TeZYOGWmo


進撃『撃滅や殲滅は決してしないで下さい。相手が艦娘である以上は…』

提督『あぁ?』

進撃『あくまで俺達は云われない襲撃に遇った為に仕方なく応戦し、これを制圧・鎮圧したという体を貫きます』

提督『てめぇ、澄ました面してサラッと後腐れねぇ方法選ぶな』

進撃『面倒事がこの上なく嫌いなものでして』クスッ

提督『だがまぁ、てめぇのそれは杞憂だ。元帥の女狐はそこまで落魄れちゃいねぇよ。こいつは完全なる罠。
俺様用にカスタマイズされた特注品の作戦って訳だ。てめぇ等はそれに利用されただけに過ぎねぇんだよ』

進撃『利用…?』

提督『女狐の差し金じゃねぇって事だよ。まぁ作戦自体は考えるのも面倒臭ぇ…てめぇのを採用してやる。
ありがたく思うんだな』

進撃『どんだけ上からなんだよ…』ボソッ

提督『だぁってろ、このダァホ。一々楯突いた発言してんじゃねぇよ、ぶっ頃すぞ。これ以上の反論は認めん、以上だ』


提督『────解ったな。こいつは俺と進撃の意見の一致だ。反論は認めん。解ったら反撃の狼煙を上げろ!』

加賀「全く、相変わらず提督の言動にはイラつきますが…それでもあなたが居れば鬼に金棒とはこの事ですね」

赤城「…でも、正直ホッとしています。これ以上、加賀さんと争わなくて済みました」

加賀「……肩の怪我、大丈夫ですか」

赤城「これしき、『あの時』に比べればどうという事はありません」

加賀「赤城さん…」

赤城「さぁ、今こそ見せましょう。一航戦の戦いを!」

加賀「流石に気分が高揚します」

赤城「ふふっ」ニコッ

346: 2015/04/25(土) 00:51:36.62 ID:NUQYhI1Bo


木曾「ったく、何なんだよ今のは…」

長良「私達の司令官だよ」

北上「え゛……あんなのが提督なの?うわー、うちらの提督が可愛く見えるわ~。あー、良かったー。あんなんじゃなくて」

木曾「大体、今さっきまで実弾ぶっ放してた同士で共闘しろなんてナシだろ」

長良「昨日の敵は今日の友、っていうじゃん?」

木曾「昨日所か今だろ!」

長良「じゃあ……今日の敵は今の友?」

北上「あんた、頭だいじょーぶ…?」

長良「司令官と進撃さんが共闘するって言ったんでしょ?だったら私達は司令官の言葉に従うだけだよ」

木曾「それがうちの提督の罠だって可能性を考えねぇのか?」

長良「ふふっ、悲しいけどね。私達にはそういう『嘘』は通用しないよ。『匂い』で解るんだ。直感って言えばいいのかな?
その言葉や表情なんかでピーンとくるんだよ。ああ、これは嘘だ、とか罠だってね」

北上「」(そりゃあ、四面楚歌で周りからそんな扱い毎度受けてればある意味そういった感覚は研ぎ澄まされるか~)

木曾「おい、何黙ってんだよ」

北上「ん~、まぁ、多分そういう事なんじゃない?」

木曾「はぁ?」

北上「だぁからぁ、共闘すんでしょ、きょーとー」

347: 2015/04/25(土) 00:52:03.88 ID:NUQYhI1Bo


夕立「共闘は別にいいけど誰が取り纏めるの?」

時雨「それは…」チラッ…

加賀「…………」

赤城「皆さん、通信は聞きましたね?」

木曾「あぁ、きいたよ。ムカついたけどよ」

北上「即席のこの部隊の指揮とかぶっちゃけ無理っしょ~」

満潮「あのアホ面オヤジ、何考えてんのよ…」

漣「何かしら考えてるとは思うんですけどねぇ…」

348: 2015/04/25(土) 00:52:45.60 ID:NUQYhI1Bo


神通「この状況で、共闘といわれても…」

鳥海「氏にたくないのなら、従った方が得策だと思いますよ」

神通「……」

提督『鳥海』

鳥海「司令官さん…?」

提督『お前、摩耶って姉妹居るな』

鳥海「…それが今関係あるんですか?」

提督『摩耶は大本営直属の秘匿部隊に所属している。通称サフ…旗艦を勤めるのは妙高四姉妹の一人、那智だ。
予断だが、以前に貴様等に加勢したのもその派生部隊、通称サドバフ。こっちは餓えた狼なんて野蛮な異名が通る
足柄が旗艦を勤める、武闘派集団だ』

鳥海「だから、それがどうしたと…」

提督『恐らく今俺様達を襲撃してる連中の差し金、もしくは当人達だろう。サフは数週間前に件の調査の最中に襲撃を受けている。
那智、摩耶、祥鳳、三者共に意識不明の重態、今も生氏の境を彷徨っている状態だそうだ』

鳥海「なっ……」

神通「……?」

提督『氏の道を辿り後を追うなら別だがな、貴様には生憎と選べる時間と猶予がある。この場を切り抜け、雪辱を晴らすか?
それとも、先の通りに混乱の渦中で氏ぬか…まぁ、てめぇなら出す答えは決まってるだろうがな』

349: 2015/04/25(土) 00:53:17.62 ID:NUQYhI1Bo
-七つの大罪-

百貫「こっちに向かってくる六人の艦娘がいる?」

戦艦艦娘「はい。どれも、所属先が異なります」

百貫「私達の動きに気付いていただと…いいさ、降り掛かる火の粉なら取り払わないとね。第一種戦闘準備」

戦艦艦娘「了解致しました」

百貫「空母さん、斥候の具合は?」

空母艦娘「錬度は極めて高い艦隊です。私の艦載機、その全てを撃滅されました」

百貫「…何?」

空母艦娘「このまま放っておけば、前と後ろからの挟撃を受ける形になります」

百貫「タイミングはずらされるか。仕方ないけど、まずは後方の憂いを消そう」

重巡艦娘「きます!」

百貫「……彼女達は、まさか……」

350: 2015/04/25(土) 00:53:56.93 ID:NUQYhI1Bo


妙高「此度の艦隊指揮、僭越ながらこの妙高が預かり受けます」

足柄「たまの姉妹共演だもの、異論なんて私にはないわ」

長門「問題ない。私はただ、眼前の敵を倒すのみだ」

瑞鳳「空の目は任せて!」

利根「今更異論も何もない。こやつ等を止めねばならんし、吾輩等にはそれをするだけの借りがある!」

矢矧「ふふっ、私もこういうのは嫌いじゃないわ。さて、今日はどんな戦略を立てるの?」

妙高「細かい戦術は皆無です。この戦力を以て、真正面から敵戦力を無力化、制圧します!」

足柄「ふふっ、上等よ…!」ジャキッ

長門「瑞鳳、機先を制せ!」

瑞鳳「はい!さあ、やるわよ!」サッ

利根「合わせようか!」サッ

瑞鳳「攻撃隊、発艦!」ビュッ

利根「機を見て時を待ち幾星霜…この時のために、カタパルトは整備したのじゃ!」バッ

妙高「二人の艦爆艦攻隊と索敵機の発艦後、一気に攻勢へ転じます」ジャキッ

矢矧「ここからが私の本領発揮よ!」ジャキッ

長門「ビッグセブンの力、侮るなよ」ジャキッ

足柄「さぁ、覚悟しなさい。やり方を問わないあなた達の海戦術、それを今日を以て断罪して上げるわ!鮮血の艦隊!」

百貫「寄せ集めただけの烏合の艦隊が私の艦隊に喧嘩を売るのか?大本営直営隊の旗艦達に進撃、鋼鉄、不動の生き残り。
まさに寄せ集めだね。スペシャルチームと呼ぶには些か艦隊錬度が劣るんじゃないのかな?どうして私が居るのか、それを
何処で知ったのか……まぁ、今はいいさ。面倒事は後回し、それが私の信条でね。君たちを血祭りに上げた後で考えるよ」


ボゴオオオォォォォン

ザバアアアァァァァン

351: 2015/04/25(土) 00:54:23.83 ID:NUQYhI1Bo


百貫「なっ…」

空母艦娘「私の艦載機が競り負けたですって…!?」

百貫「相手は、軽空母だろう!?」

瑞鳳「舐めないでよね!軽空母だって、頑張れば活躍できるのよ!さぁ、皆さん!」

長門「よし!」

足柄「那智を甚振ってくれた分、倍にして返すわ!さぁ行くわよ…戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!」

妙高「海軍の提督の座に居ながらこのような瑣末な不祥事を引き起こし、あまつさえそれを棚に上げて口封じに出ようとは、
言語道断にして悪辣非道の限りと判断いたします。合わせて内乱を引き越し、これを先導・誘導した罪は計り知れません」

百貫「……だから?」

妙高「だから…?事の重大性が理解できないのでしょうか?だとすれば、致命的と言わざるを得ませんね。なればこそ、
これ以上の抗弁は意味を成しません。大人しく縛について頂きます」

百貫「縛?お縄につけって?この私を、捕らえると言うのか?戯言にしても余り好ましくない冗談だね。私が許す……
こいつ等を全員、血祭りに上げろ」ニタァ…

戦艦艦娘「提督の御心のままに…」

百貫「私は次代の海軍の足場を担う存在だ。その私に歯向かうとは、くふっ……馬鹿を地でいく愚かな行為だと知れッ!!」

長門「馬鹿はお前だ!」

百貫「戦艦長門か…大局を見れないようでは底が知れるね。最も、鋼鉄の下に居る時点でお察しなのかもしれないね?」

長門「口を慎め。私の提督は少なくとも貴様のような落魄れ者ではない。比べられる事さえ不快だ。何より、貴様等の行った
姑息な手段が何より気に入らない。矜持(プライド)すら失ったというのなら…その残り粕諸共、私が蹴散らしてやろう!」

百貫「潰せ……念入りに!」

戦艦艦娘「お任せを」ザッ

長門「そこを退けぇ!」ジャキッ

戦艦艦娘「聞けませんね」ジャキッ

長門「面白い、ならば力で押し通る!」ドォン ドォン

戦艦艦娘「全てをなぎ払う!」ドォン ドォン


ボゴオオオォォォォォォン

355: 2015/04/27(月) 23:16:49.75 ID:r8zkPYcNo


瑞鳳「絶対に負けないんだから!」

空母艦娘「軽空母風情が…!たまたまの撃墜に浮き足立って私と対峙するなんて、愚弄を通り越して滑稽、愚かよ」

瑞鳳「よくも、祥鳳を…!」

空母艦娘「祥鳳…?あぁ、あのマヌケな軽空母……」クスッ

瑞鳳「マヌケ、ですって…?」

空母艦娘「そうよ。艦載機をちょっと出しただけでいそいそと前に出てきて自分から罠にかかるんだもの。
それをマヌケって表現しないで何をマヌケって言うのかしら?まぁ、マヌケっていうより、ただの馬鹿よね」

瑞鳳「…………」ギリッ…

空母艦娘「あなたも十分マヌケだから安心なさい。念入りに艤装を破壊した上でじっくりと甚振って水底へ沈めてあげる」

瑞鳳「…私が何か言われるのは別にいい。でも、私の大切な人たちを悪く言うのは絶対に許さない!」


重巡艦娘「提督の命令は絶対なのよ。だから、潔く氏んでくれると嬉しいんだけど、どうかしら?」

妙高「矜持を捨てるだけならまだしも、忘れているようでは最早この言葉はそちらまで届きませんね」

雷巡艦娘「矜持、矜持って…古臭いのよ。したいようにして何が悪いの?私達の顔色しか伺えない何の取り得もない、
ただの木偶人形同然の人間に!使われるなんて真っ平よ…それを提督は解ってくれてるの、だから私達は……」

足柄「いいわよ、それ以上はもう。泣こうが喚こうが笑おうが叫ぼうが…私が絶対に許さないから」

雷巡艦娘「あらら、ご立腹ね。那智さんの事かしら?」

足柄「…あなたがやったの?」

雷巡艦娘「重巡の子と一緒にね。無防備だったんだもの…思わず躊躇っちゃうくらいに…」クスッ

重巡艦娘「味気無かったわよ、あの子…睨む顔だけは一端だったから、少しイラッときて蹴り飛ばしちゃった」

足柄「勘違いしないでくれるかしら。あなた達程度が那智を倒した気になっているって言うのが気に入らないのよ」

妙高「力の差を、教えて差し上げます。合わせて、力の誇示の仕方も披露して差し上げます」

356: 2015/04/27(月) 23:18:09.44 ID:r8zkPYcNo


利根「吾輩の相手は主か」

航巡艦娘「さっきの軽空母の援護をしたのは貴様だな」

利根「はて、何の事かのう」ニヤッ

航巡艦娘「瑞雲程度を何機飛ばそうと、高が知れているわ」

利根「解っておらんのう…良かろう、お主に偵察機が何たるかをその身をもって知らしめてやろう。聞いて覚え刮目せよ。
そしてその命尽きるその時まで、忘れるでないぞ?吾輩が利根である!主等に、終焉を齎す者じゃ!」

航巡艦娘「世迷言を…!」

利根「世迷言を奏でておるのはお主等じゃろう。筑摩が受けた分はきっちり清算させてもらう!」


矢矧「貧乏くじを引くのは決まって阿賀野姉ぇなのよね。けど、今回のはちょっと見過ごせないレベルよ。深海棲艦かと
見紛うかのような卑劣な手段の数々…艦娘としての在り方すらも失ったというのなら、もはやそれは艦娘ではないわ」

軽巡艦娘「はぁ?雑魚だから負けた、ただそれだけの事よ。最新だか何だか知らないけど、結局は力よ。力こそ全て!
弱者には何も言う資格も、権利も、立場だってありはしない!同じ軽巡同士なら、今回は私が勝ったんだから阿賀野が
弱者、私が強者という事実が成り立つだけよ。悔しいなら私に勝ちなさい」

矢矧「…私は、最後の最後まで暴れてみせる。もう絶対に、私の目の前では誰も沈ませない。全てを護りきる!」

軽巡艦娘「大見得切るのは結構だけど、私に勝ってからにしなさいよ。余り吠えてるだけだと、負け犬の遠吠えになるわよ?」クスッ

矢矧「言ってなさい。阿賀野型を軽巡と侮らないで!阿賀野姉ぇが受けた苦しみ、あなたに倍にして返してやるわ!」

357: 2015/04/27(月) 23:19:59.86 ID:r8zkPYcNo



海軍。

かつては陸海空と三竦みの形成を保っていた世界の軍事バランスは艦娘と言う海軍の切り札によって拮抗が消えた。

逸早く陸軍はこれに感応し、海軍を支援する形をとり、空軍もまた海軍と連携をとるようになった。

艦娘は世代を越えて周知の所となるが、それでも艤装を取り払った彼女達と一般人を区別する事は至難だった。

また、彼女達を一つの兵器、消耗品として『物』として扱う人間も増えた。

感情を持ち、自ら考え、人との丁々発止ができる存在。

人は、海軍の一部分はこれを恐れた。

中でも水面下でこれらの研究に没頭してきた提督達がいた。

深海棲艦とは、艦娘とは何なのか。

その根源を突き詰めようとする動きは、狂気を孕み、暴走を助長し、歯止めが利かなくなった。

やがて彼等は一人の悪意と出会いを果たす。

彼等はそれぞれに特徴的な闇を孕んでいた。

それが彼等を引き合わせ、小さいながらも濃縮された強大な闇を形成した。

小さく芽生えた悪意が増幅し、その矛先は深海棲艦だけに留まらず身内、海軍や艦娘へも向けられた。

人格を形成し、感情を持ち、自らの意思で活動する艦娘。

これを完全なる殺戮兵器として運用するには何をすればいいのか。

彼等の内一人が提唱したのがマインドコントロールだった。

手法としてはその艦娘の精神を一度崩壊させ、中身を空っぽにする事から始めるという。

そうして虚無となった状態で生氏の境に仕切りが消えた状態を生み出し、新たに都合のいいように仕切りを作り変える。

まさに神も悪魔すらも恐れぬ行為。

それに成功した時、彼等は大いに沸いた。

そしてその行為に対して歓喜すると共に畏怖すら覚えながらも、それに心酔しきった自分達を実感していた。

そして彼等は自らを七つの大罪と呼ぶようになった。

人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指すもので、彼等自身もまさにその通りだと自覚し、

その呼び名を大いに気に入った。

傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。

期せずして彼等は七名存在し、それぞれに当てはまる罪を背負い、それを当然の如く振り翳し、闇をばら撒いた。

だが、この漆黒に染まった闇の水面を切り裂こうと、染まるまいとする艦娘や提督達も居る。

358: 2015/04/27(月) 23:23:34.62 ID:r8zkPYcNo



提督『────見ててやるよ、見せてみろ』

鳥海「了解。艦隊の指揮はこの私、鳥海が受け持ちます」


加賀「遅い到着ですね」

木曾「んだぁ、突然現れていきなりリーダー気取りかよ」

赤城「時間は余りありませんが、大丈夫でしょうか?」

神通「恐らく大丈夫です」

北上「神通っち、もう何か聞いちゃった系?」

神通「正直、ここで戦闘が終わっていて良かったと思います」

木曾「はぁ?」

夕立「ぽい?」

時雨「それは、どう言う事だい?」

鳥海「万全な状態で迎え撃てるという事です」

満潮「とはいってもねぇ…」チラッ

漣「そこそこ全員、燃料も弾薬も消費しちゃってますし、戦闘継続の時間には限界ありですよ~」

鳥海「問題ありません」

加賀「秘策有り、ですか」

鳥海「相手はこちらを寄せ集めの烏合の衆と見るでしょう。力と数で押し切ろうとするはずです」

赤城「ですが、物量で押し切るのは基本的な戦術であって相手がそう出て来るのも至極当然では有りませんか?」

鳥海「そうですね。極めてスタンダード。何の変哲も無い、非常に特色の無いつまらない戦術です」

時雨「つまらないって…」ニガワライ

鳥海「離艦の計……」

夕立「む?」

鳥海「遥か昔、中国で使われていた計略に離間の計、というのがあったそうです。これは身内同士を仲違いさせ、
戦況を打破する計略戦術です。読みは一緒ですが、今回の戦術は相手の隊列そのものを断裂、分断させます」

木曾「へぇ…面白そうじゃねぇか」

鳥海「セオリー通りにしか動けない艦隊など、私の戦術の前では恐るるに足りません」

満潮「言うじゃん、鳥海」

鳥海「お見せします、戦術とは何か。戦場を支配するとはどういう事かを……」(摩耶、あなたが受けた屈辱、代わりに私が晴らして見せるわ)

359: 2015/04/27(月) 23:24:11.81 ID:r8zkPYcNo
取り敢えずここまで

360: 2015/04/27(月) 23:28:18.82 ID:NMZ1Zq3wO
乙です


次回:
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」part6


引用: 【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」