126: 2018/01/08(月) 19:07:44.72 ID:6icwQ6lG0
プロデューサーな楓さんですか
ちょっと書いてみます

シリーズ:○○な楓さん

前回:【モバマス】プラグスーツの楓さん


127: 2018/01/08(月) 19:12:38.37 ID:6icwQ6lG0
「プロデューサー、お話があります」

「はい、何ですか?」

私の言葉に、キーボードを打ちながら答えるプロデューサー

むぅ……人と話すときは目を見てきちんと聞きましょう

「ふぅっ」

吐息を耳にかけるとプロデューサーが飛び跳ねました

口をぱくぱくさせながら、何が起こったかわからない顔をして

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 004 高垣楓
128: 2018/01/08(月) 19:14:42.24 ID:6icwQ6lG0
「あ、あんた何やってんだ……」

「ふうってしました」

別に変なことしてませんよ? ええ

「……はぁ、わかりました。それでお話とは?」

観念したのか、プロデューサーが私に向き合います

む、何ですかそのがっかりした顔は

129: 2018/01/08(月) 19:18:08.64 ID:6icwQ6lG0
こほんと、一つ咳ばらいをして、ゆっくりと口を開きます

「貴方は働きすぎです。よって、一週間のお休みを差し上げまーす♪」

わーぱちぱちー!

「……」

あら? 反応が薄いですね

「すみません、盛り上げが下手で……」

「え? そこじゃないですよ。ただ、うちに代わりのプロデューサーはいないじゃないですか」

流石プロデューサー、良い所に目をつけます

130: 2018/01/08(月) 19:20:42.81 ID:6icwQ6lG0
「私が「あ、私が代わりにやるとかは無しですよ」」

何なんですかこの人は……エスパーさんですか?

「……」

「はぁ、そんなことだろうとは思いましたけど」

「よよよ……」

「泣きまねをしても駄目ですよ」

……もっと演技力を磨かないと駄目みたいでした


131: 2018/01/08(月) 19:24:42.06 ID:6icwQ6lG0
「良いんですよ。俺は皆のために働くのが楽しいんですから」

「プロデューサー……」

そう、確かにこの人は皆のために頑張ってくれている

自分の身を削ってまでも……

誰よりも遅く帰るのに、誰よりも早く出社して

その証拠に、今こうして話している彼の目の下には濃いクマが出来ている


132: 2018/01/08(月) 19:28:10.57 ID:6icwQ6lG0
でも、この人はきっとわかっていないんです

その『皆』が彼のことをとても心配していることを

だから、だから……少しでもお休みを取ってほしい

「嫌なんです、空元気な貴方を見るのは……」

このままじゃ、きっと近いうちに彼は体を壊してしまう

だから、ここは無理やりにでも……

133: 2018/01/08(月) 19:31:20.06 ID:6icwQ6lG0
「楓さん……」

ごめんなさい、プロデューサー

私は悪い女です……

「え~い♪」

勢いよく彼の腕の中に飛び込む

「え……どうしたんです楓さ……」

「はい、笑ってくださいねー♪」

カメラを持ったちひろさんが、良いアングルでシャッターを切る

134: 2018/01/08(月) 19:34:16.83 ID:6icwQ6lG0
「あらあら、これは大変♪ オフィスラブですかー?」

「きゃあ♪ 見られちゃいましたー」

とんだ茶番ですが、知らない人が見ればどうなりますかね?

「……ああああ! はかったなちひろぉ!!」

どうやらプロデューサーも気付いたようです

頭が切れる所もとっても素敵ですよ♪

135: 2018/01/08(月) 19:39:51.43 ID:6icwQ6lG0
「さて、プロデューサーさん? 後はわかりますよね?」

いつもの優しい笑顔のちひろさん

このメンタルの強さは見習いたいところです

「……わかりました。休めば良いんでしょう」

「はい、その通りです」

ちひろさんの言葉の後に、プロデューサーがため息を吐いて

「ただし、一週間は長すぎます。三日で十分です」

私とちひろさんは目で合図を出して、それからゆっくりと頷きました

136: 2018/01/08(月) 19:43:18.64 ID:6icwQ6lG0
「それではもうお仕事は終わりです。帰っちゃってくださーい」

ぎゅうぎゅうとプロデューサーを押し出していくちひろさん

……良いな、私も混ざっちゃおうかしら

「楓さん」

「はい、なんでしょう?」

ちひろさんに押し出される前に、プロデューサーが真剣な面持ちで私に話しかける

「気を遣わせてすみません。それと、困ったらいつでも連絡を」

「……わかりました」

貴方は人が良すぎです、プロデューサー

137: 2018/01/08(月) 19:45:39.31 ID:6icwQ6lG0
「さて、作戦成功ですね」

「そう……ですね。こんなことに付き合わせてしまってすみません」

ちひろさんに深々と頭を下げます

「止めてください楓さん。無理やりにでも休ませる必要があったんですよ」

「……」

少し胸は痛むけれど、あの人のことを思えば仕方のないことです

138: 2018/01/08(月) 19:49:25.91 ID:6icwQ6lG0
「ところで楓さん?」

「何ですか」

笑顔のちひろさんが、すっと真顔になりました

「本当にプロデューサーの代わりを務めるんですか?」

あの人の代わり……

きっと私が思うより大変なことに違いない

けれど、私が頑張らないと、あの人がゆっくり休めないものね

「ちひろさんに迷惑をかけるかもしれませんが……よろしくお願いします」

ちひろさんはまたいつもの笑顔に戻って、頷いてくれました

139: 2018/01/08(月) 19:52:18.13 ID:6icwQ6lG0
プロデュース業一日めの朝

いつもより早く目覚まし時計が鳴りました

「……ね……む」

布団さんの暖かい抱擁から抜け出せません

ああ、私には心に決めた男性が……

「起きなきゃ……」

冷水で顔を洗い、濃いめのコーヒーを入れます

朝弱いのも直さなきゃいけないわね

140: 2018/01/08(月) 19:55:41.21 ID:6icwQ6lG0
「おはようございます」

冬の冷たく突き刺すような風を感じながら、事務所へ着きました

まだ誰もいない静かな事務所

いつもの賑やかさが嘘のようです

そして……

いつもの席に、いつもの人はいませんでした

141: 2018/01/08(月) 20:00:16.27 ID:6icwQ6lG0
「おはようございます」

「おはようございまー!」

しばらくしてから、ちひろさんと元気な声が事務所に響きます

「おはようございます、ちひろさん。それと薫ちゃん」

「楓さん、何だかせんせぇみたいなカッコしてる」

「ええ、先生代理です。えっへん♪」

おおーと、薫ちゃんが拍手をくれました


142: 2018/01/08(月) 20:05:40.80 ID:6icwQ6lG0
…………
………
……
「つ、疲れました」

スケジューリング、年少組の送迎、そして付き添い

これじゃ体がいくつあっても足りません……

こんな過酷なことを一人で毎日やってたんですね

申し訳なさと、悔しさで、視界が徐々に滲んでいく

「……あの人が帰ってくるまで頑張らなきゃ」

頬をぴしゃりと叩き、背筋を伸ばします

明日に備えて準備しましょう

143: 2018/01/08(月) 20:10:57.89 ID:6icwQ6lG0
一日目、二日目と、何とか無事に終わり

そして、三日目

「楓さん、ドリンクの差し入れです」

ちひろさんが見たことのないようなドリンクを差し入れてくれました

「ありがとう……ございます」

それを飲むと、少し体力が回復したみたいで

「それでは、現場を見に行ってきます」

「はい、お気をつけて」

さて、今日も頑張って乗り切りましょう

144: 2018/01/08(月) 20:15:53.45 ID:6icwQ6lG0
今日は確か加蓮ちゃんのロケを見に行って、それから……

タクシーの中で手帳に目を通し、確認を行います

車の揺れが心地よくて、つい寝そうになりますが、足をきゅっと抓って我慢

「……元気にしてますか?」

誰にも聞かれない独り言

無意識に出た言葉に、心が折れそうになって

負けないように、くじけないように

そっと自分を抱きしめた

145: 2018/01/08(月) 20:22:59.25 ID:6icwQ6lG0
加蓮ちゃんの現場に着くと、何やら変な空気に気付く

怒声が響き、周りが止めているみたいだけれど……

そして、もう一回その声が聞こえた時、それが誰の声なのか確信しました

間違いなく加蓮ちゃんの声

スタッフの人たちをすり抜け、加蓮ちゃんを見つけ……たのですが

そこにいる加蓮ちゃんは私が見たこともないほど怒っているようで

その怒りの矛先を確認しみると

……まずいです、それなりの大物俳優でした

146: 2018/01/08(月) 20:27:48.03 ID:6icwQ6lG0
「ふざけないで! アンタ何様なの!!」

「うるせーお子様だな、耳がいてぇや」

相手の飄々とした態度に、加蓮ちゃんはぷるぷる震えた後

「このっ……!」

右手を大きく振りかぶり、相手を叩こうとして

「待って加蓮ちゃん」

「止めないで! って、楓さん?」

後ろから抱き留める形で何とか止めることができました

147: 2018/01/08(月) 20:31:20.47 ID:6icwQ6lG0
「な、何で……あ、そうか」

良かった、まだ話はできる状態みたい

「落ち着いて、ね? それから話を聞かせてもらえるかしら」

私の言葉を聞くと、加蓮ちゃんがきっと相手を睨み付ける

「最近のガキは怖えなぁ」

ひゃっひゃっと笑う相手に、わたしも不快感を覚えました

ですが、状況がわからないことにはどうしようもありません

「そのガキのっ……お、お尻触ったのはどこのどいつよ!」

なるほど、そういうことですか

148: 2018/01/08(月) 20:34:52.98 ID:6icwQ6lG0
「この度はうちの北条がお騒がせして申し訳ありません」

深く頭を下げます

「待ってよ楓さん! なんでこんな奴に頭下げてんの?」

加蓮ちゃんの言いたいことはごもっとも

けれど、今はこうして頭を下げなくちゃいけないの

「へぇ……アンタは話がわかるみたいじゃないか」

じろじろと、まるで値踏みされているかの視線を感じる

149: 2018/01/08(月) 20:39:13.20 ID:6icwQ6lG0
「北条に代わり、お詫び申し上げます」

もう一度頭を下げると、相手が近づいてきます

「そうか、俺も悪かった。すまん」

あら? 案外話が通じる人なのかしら

ともあれ、これで終わ……

「でもよ」

はっとして頭を上げると、とても醜い笑顔を浮かべていて

「この子のせいで耳がやられちまった」


150: 2018/01/08(月) 20:41:19.45 ID:6icwQ6lG0
「こりゃ慰謝料が必要じゃねえのかな」

にたにたと、下卑た笑いで

「それともよ」

私の横に立つと、ぐいっと肩を抱かれて

「アンタと遊ぶのも面白そうだな」

周りに聞こえないように、ぼそりと呟きました

151: 2018/01/08(月) 20:44:50.92 ID:6icwQ6lG0
どうしよう、どうしたらいいの……?

あの人ならどうやって解決するの

いつも傍にいてくれるあの人なら、私を守ってくれるあの人なら

頭がパニックになって、体が震えているのがわかる

「なに、酷いようにはしねぇよ。な?」

……怖い、力が強くて逃げ出せないし、ただ怖い

皆の為に頑張るって約束したのに……ごめんなさい、プロデューサー

152: 2018/01/08(月) 20:50:40.87 ID:6icwQ6lG0
「そろそろ勘弁してもらえないでしょうか?」

聞こえないはずの声が聞こえる

「こちらとしても大事にはしたくないんですよねぇ」

そして、いないはずのあの人が、いる……

「そうそう、うちの北条の体を触ったらしいじゃないですか」

私を強引に引っ張って、相手から引き離してくれた

「困るんですよねぇ、うちのアイドルはそんなに安くないんです」

全部の感情がぐちゃぐちゃになって、涙が零れるのがわかった

153: 2018/01/08(月) 20:53:31.92 ID:6icwQ6lG0
「はい、コーヒーです」

「ありがとう、ございます……」

缶コーヒーの暖かさが手に染みる

「いやぁ、災難でしたね」

困ったように笑うあの人に、安心して

「怖かった、です」

肩に頭を預ける

155: 2018/01/08(月) 21:01:13.66 ID:6icwQ6lG0
「もう大丈夫です、もう楓さんは頑張らなくていいんですよ」

「プロデューサー、でも……私」

あの人の人差し指が私の声を遮る

「大変でしたね、慣れないことをさせてすみませんでした」

こんな時でも人のことを心配するんなんて、お人好しすぎます

「……ばか」

「ばかで良いです、じゃないと楓さんたちを守れませんし」

その声はとても優しくて、嬉しくて

「もう少しだけ、このままで……」

「ええ。楓さんの気が済むまで」

今はこの気分に浸らせてください




おしまい




156: 2018/01/08(月) 21:02:54.30 ID:6icwQ6lG0
あら、投稿ミスった

とうことで今日はおしまいです
読んでくれた方に感謝を
明日は書く時間ないので、続きは明後日です

引用: 【モバマス】楓さんで安価