219: 2016/07/14(木) 00:57:46.94 ID:Ie0f5miyo
220: 2016/07/14(木) 00:58:25.91 ID:Ie0f5miyo
~Let's beginning~
-決氏の覚悟-
ボゴオオォォォォォォォォン
ボゴオオォォォォォォォォン
ボゴオオォォォォォォォォン
軽巡棲鬼「おのれ、何故ダ…!」
武蔵「何故?それを私達に問いかけるのは愚の骨頂だろう」
軽巡棲鬼「童が…お主等如キに遅れヲとるワケが…!」
長門「その深慮の浅さが遅れを取ったわけと言うものだろう」
瑞鶴「逃げるなら今のうちよ」チャキッ
軽巡棲鬼「何ダト…?」ピクッ
浜風「今なら見逃すと言う意味です」
軽巡棲鬼「冗談のツモリか?」
曙「ホント、冗談じゃないわ」
軽巡棲鬼「……?」
曙「蹴散らしてやるって言ってんのよ」
軽巡棲鬼「ダカラ冗談の……」
曙「この場にいる全員がキレてるって言ってんのよ!ウザいのよ、このクソ深海棲艦!!」
221: 2016/07/14(木) 00:58:52.64 ID:Ie0f5miyo
曙の轟くような声量に軽巡棲鬼をはじめ、深海棲艦達の動きが一瞬停止する。
そして彼女達の眼差しが己に注がれている事に軽巡棲鬼は気付いて艦娘全員を順々に一瞥する。
刺さるような視線。
しかし不思議とそこから憎しみを感じない不快感。
そう、その眼差しは自身に注がれていながら怒りを内包しつつも憎悪は混ざっていない。
つまりは純粋な怒りそのもの。
これが、覚悟を決めると言う事か。
軽巡棲鬼は何時ぞやの黒提督の言葉を脳裏に思い浮かべて自嘲気味に笑う。
勝てる訳がないと、そういう事か。
口にはせず、しかし鼻で笑った記憶がある。
たかが艦娘風情が傲慢にも程があるとさえ思ったくらいだ。
一匹、いや現時点で言えば四匹、精々戦線復帰が出来ない程度の些細な傷だろうと。
その程度で一々感情を揺さぶられ撤退した、程度の知れる脆弱な集団。
そう判断した。
なのに、今はどうだ。
あの時とは雲泥の差ではないか。
頬を嫌な汗が一筋流れた。
曙の咆哮にも似た一言でこちらの隊は完全に戦意を失ってしまったのだ。
いや、厳密には戦う意思はあるが完全に尻すぼみ状態。
即ちこれが覇気と呼ばれる相手を気圧させる迫力を秘めた姿勢なのか。
認めざるを得ないものがある。
これでは、レ級も滅ぼされて当然だ。
それどころか、自らも容易く足元を掬われる。
泊地棲鬼がそうであったように、軽巡棲鬼もまた己の稚気を自覚した。
だが、この状況では撤退も間々ならないだろう。
全てが遅すぎた。
自覚する事が、気付く事が、知る事が、思い出す事が、遅すぎた。
222: 2016/07/14(木) 00:59:20.53 ID:Ie0f5miyo
曙「あんた等は絶対に許さない。あの子と約束したんだから…あの子の分まであたしが走ってケリをつける!」
浜風「約束したの、曙さんだけじゃありません」
瑞鶴「あんたが自分で言ってくれたじゃない。私達全員よ、ぜ・ん・い・ん」
赤城「見逃すなんて選択肢、ありますか?」
武蔵「ふっ、愚問だな。端から見過ごす気なんて毛頭無い。言っただろ、深海棲艦…熨斗付けて四倍にして返すってな!」
長門「四人分だ、曙…鬨を上げろ!」
曙「全艦全速前進、目標軽巡棲鬼艦隊!」
曙「行くわよ、島風…皆────」
翔鶴「三名の容態は?」
医師「命に別状は無いとは言え、まだ予断は許さない状態とだけお伝えしておきます」
翔鶴「そう、ですか…」
医師「暫くしたら安静にして頂きます。十分後、また伺いますので…」
翔鶴「ご厚意感謝致します」ペコリ
ガチャ…パタン…
曙「……他の面子は木曾とゴーヤのところ?」
翔鶴「ええ、そうですね」
曙「そ…」
島風「…………」
曙「島風、あんたが戻ってこないと、駆逐艦部屋はお通やモードのまんまでヤバい事になりそうよ」
島風「…………」
曙「だから、早く治しなさいよ。誰よりも早く、最速で、戻ってきなさいよ。はやさはあんたの取り柄でしょ」
曙「あんたが全快になって戻ってくるまで、あたしがあんたの分まで最前線を駆け続けてあげるわよ」
曙「誰にも譲らない、譲らせない…この鎮守府のスピードスターはあんたなんだから」
曙「あんたの居場所、あたしが守る。必ず────」
223: 2016/07/14(木) 00:59:49.31 ID:Ie0f5miyo
曙「────出撃よ。蹴散らしてやるわ!」
武蔵「おうとも、相違無い!」
長門「完膚なきまでにな!」
赤城「行きます!」
瑞鶴「よーし、私も張り切っていくからね!」
浜風「覚悟して下さい!」
これが、怒りに任せただけならば態勢を立て直し、戦略的撤退も可能だっただろう。
戦艦レ級に続き、またしても一匹、彼女達の逆鱗に触れた深海棲艦。
軽巡棲鬼。
生き延びるには倒すしかない。
この攻略不可能にも思えるほどの錬度の塊と比喩すべきか、そう形容するほどの覇気を全身に漲らせた六人の艦娘。
戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐艦、潜水艦。
そんな種別など関係ないほどに、眼前で臨戦態勢を取る艦娘達は畏怖するほどだった。
こちらの思考など待ってくれようはずも無い。
この雑念すら、今は煩わしい。
考えるよりも先に動くしかない。
だから軽巡棲鬼は誰よりも早く駆け出そうとした。
しかし、その覚悟すらも掻き消す勢いで己との距離を詰めて視界に飛び込んできたのは曙だった。
曙「スピードスターの座は譲らないわ」ジャキッ
224: 2016/07/14(木) 01:00:22.32 ID:Ie0f5miyo
誰よりも早く、速く。
疾風迅雷、電光石火。
島風が戻るまで、誰にも己の前は走らせないし、相手にも先には走らせない。
そんな彼女の行動は軽巡棲鬼のお株を奪うには十分だった。
軽巡棲鬼「ナ、ニ…!?」
ドン ドンッ
ボゴオオォォォォォォォォン
軽巡棲鬼「グッ…!温い…ッ!ソノ、程度カ……!?」小破
曙「初撃払った程度で付け上がってんじゃないわよ」バッ
曙は咄嗟に後方へと飛び退くようにステップを踏んで下がる。
それと入れ違いに、曙の両左右から武蔵と長門が前に飛び出す。
二人は一斉に前に出ながらその重厚な艤装を翳して照準を絞る。
武蔵「さあ、行くぞ!全砲門、開けっ!」ジャキッ
長門「全主砲、斉射…!」ジャキッ
武蔵「撃ち方…始めっ!!」
長門「てーーッ!!」
ドォン ドォン ドォン ドォンッ
軽巡棲鬼「チッ…!」バッ
ボゴオオォォォォォォォォン
ボゴオオォォォォォォォォン
間一髪、直撃こそ回避するも戦艦二人の苛烈な一斉射を前に無傷で居られるはずもない。
まだ戦闘は始まって数分しか経っていない。
にも関わらず全身を襲うこの疲倦怠感はなんだ。
どうしてこうも体が言う事を聞かない。
爆風と熱風を全身に浴び、避け損ねた砲撃のいくつかを覚悟を決めてその身で受け止めながら、軽巡棲鬼は自問自答する。
しかし容易くその答えは出ない。
何より先にも述べたとおり、相手が答えを得るまで待ってはくれない。
225: 2016/07/14(木) 01:00:59.47 ID:Ie0f5miyo
軽巡棲鬼「よもや、童がコノような遅れヲ取るトハ…!」中破
軽巡棲鬼「ダガ…このままデハ、終わらヌッ!」ジャキッ
浜風「守り抜きます!!」ジャキッ
赤城「やらせはしません」チャキッ
瑞鶴「このまま黙って終われってのよ!」チャキッ
ボゴォォン
軽巡棲鬼「ガッ…!」
曙「やらせるわけないでしょ、あんたバカなの?」チャキッ
軽巡棲鬼「ナッ、童の艦隊ハ…」
長門「ふっ、そんなもの…」
武蔵「当の昔に沈めたぜ?私達の砲撃、別にあれはお前を狙って放ったわけじゃない」
長門「当たればよし、当たらなくとも貴様の背後で構えていた貴様の残存艦隊に照準がズレただけの事だ」
軽巡棲鬼「ナン、と…」
浜風「既に詰みです。大人しく…」ジャキッ
浜風「沈みなさい!」
ドン ドンッ
軽巡棲鬼「させぬ…サセヌわ…!!」グワッ
ボボボボボボボボボンッ
浜風の一撃を力任せに片手で蹴散らし、漆黒の長髪を靡かせてその青白い瞳を一層輝かせる。
軽巡棲鬼「童ノ行動が浅はかダッタ事実は認めヨウ…が、ソレとコレは別とスル」
武蔵「何…?」
軽巡棲鬼「童ハ黒提督率いる深海棲艦聯合隊ノ一番槍…主要任務遂行部隊主力旗艦艦隊ヲ率いる軽巡棲鬼」
軽巡棲鬼「例え沈モウと…ただデハ沈まぬ。お主等モ……二度と浮上デキナイ…深海へ…」ググッ…
軽巡棲鬼「…沈メッ!!」ザッ
武蔵「氏に物狂いで攻めに来るぞ、全員気を引き締めろ!」
長門「慢心は身を滅ぼす。徹底的に行くぞ!」
瑞鶴「油断も慢心もしない。赤城さん、やろう!」
赤城「そうね、行きましょう!」
浜風「曙…!」
曙「赤城と瑞鶴の艦爆艦攻に合わせるわよ、浜風!」
浜風「勿論です!」
226: 2016/07/14(木) 01:01:31.19 ID:Ie0f5miyo
たった一匹でありながら怖じる事無く、単騎で駆け出す軽巡棲鬼。
敵ながらに天晴れと、武蔵は痛感し同時に恐れ戦いた。
これが今まで相手をしてきた深海棲艦なのかと首を傾げたくなるほどに恐れた。
こんな思考、思惑、使命、志といった凡そ人や艦娘が賭すべき思いを秘めた深海棲艦が今までに居ただろうか。
答えは否。
少なくとも、武蔵はこの軽巡棲鬼が初めてだ。
己の氏を覚悟の上で、それでも尚こちら側を道連れにしようと四面楚歌になりながらも戦いを挑んでくる相手を、今までに見た事がない。
改めて自覚した。
これは脅威だ。
これまでのどのケースにも該当しない、初めて味わう決氏の覚悟を抱いたものを相手にするという恐怖。
確実に、ここでこの軽巡棲鬼は沈めなければならない。
生かして帰すわけにはいかない。
生かして帰せば、それはこちらの敗北を意味する。
決定的な打撃を受けた上での敗北を意味してしまう。
その恐怖に他の者が気付く前に、勝負をかけるしかない。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……
己の思考を遮るように、大空を赤城と瑞鶴の放った艦爆艦攻隊が飛翔する。
その音に武蔵は我に返り、改めてこちらへ猛然と突進してくる軽巡棲鬼を凝視した。
ボゴオオォォォォォォォォン
ボゴオオォォォォォォォォン
大きな爆発音が二つ。
突進してくる軽巡棲鬼を捉えて艦爆艦攻がその火力を遺憾なく発揮する。
しかしそれを振り払い、ただ一つの思考の下に軽巡棲鬼は一点目指して駆け抜ける。
227: 2016/07/14(木) 01:01:58.95 ID:Ie0f5miyo
赤城「なっ」
瑞鶴「う、そ…でしょ!?」
曙「何よ、あいつ…」
浜風「鬼気、迫る勢い…!」
長門「こいつは…」
武蔵「退けっ!」バッ
長門「む、武蔵…!」
ドゴオォォッ
軽巡棲鬼「……ッ!」大破
武蔵「貴様等は、何を企んでいる…!」
軽巡棲鬼「ククッ……童ハ何も知らヌ」
軽巡棲鬼「が……」
武蔵「…?」
軽巡棲鬼「『あの男』ハ必ずお主等に地獄ヲ見せヨウ…童は、ソノ先駆け」
武蔵「あの男とは何だ!」
軽巡棲鬼「艦娘風情に、コレ以上語ル謂れモ無いノウ!」
軽巡棲鬼「お主だけデモ、共に連レテ逝こうカ…ッ!」ジャキッ
武蔵「貴様だけで逝け、深海棲艦…!」グッ
ドゴッ
軽巡棲鬼「グッ…!」ザザザッ
228: 2016/07/14(木) 01:02:28.27 ID:Ie0f5miyo
互いに睨み合っていた状態から軽巡棲鬼が艤装を構えた瞬間、武蔵は右の拳で軽巡棲鬼を力一杯に殴打し、後方へと押し戻す。
その硬直時間を利用して武蔵は己の艤装を展開させ、その照準を軽巡棲鬼へと合わせる。
武蔵「決して私達は負けんぞ!」
軽巡棲鬼「ククッ……進むガ…イイサ……その、先には……!」
ドォン ドォンッ
ボゴオオォォォォォォォォン
不敵な笑みを最後まで携え、武蔵の砲撃の前に軽巡棲鬼は露と消えた。
武蔵「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
ザザザッ……
長門「武蔵、無事か!?」
曙「ふんっ、何よ先走っちゃってさ」
武蔵「すまん、鬼気迫る勢いでの突貫…自爆覚悟の特攻とも取れたものでな」
浜風「確かに、凄まじい気迫でした…」
赤城「私と瑞鶴さんの艦攻艦爆の嵐の中でも、その勢いは衰えてなかった…」
瑞鶴「悔しいけど、あいつは強かった。あそこで武蔵さんが飛び出してなかったら、正直どうなってたかも解らないし…」
武蔵「そう気に病むな。勝利は私達の手の中だ。今はそれを噛み締めて然るべきだろう」
瑞鶴「……うん、そうだね。そうだよね!」
曙「まぁ、目標は達成だし別に良いけど」
武蔵「」(…こんなのが、まだ未曾有に居るというのか。提督、貴様はこの展望を既に描いていたのか…)
長門「…………」
234: 2016/07/21(木) 00:09:57.78 ID:DL48C0rbo
-涙-
軽巡棲鬼との一戦から二週間が経った。
幸いとゴーヤ、島風、木曾の三名は意識も回復し三人仲良く艦娘病院のベッドで治療を受けている。
木曾「そっかぁ、お前等には返済に苦労しそうな貸しが出来ちまったなぁ」
ゴーヤ「どうせ返す気ゼロでち」
木曾「んだとテメ……いてててっ」
島風「はぅ~、笑うとまだお腹痛んだから~、やめてよね~」
曙「ま、それだけ喋れるんなら退院もすぐよね」
島風「早く、走りたいな~」
曙「病人が走るとか言ってんじゃないわよ」
島風「にししぃ…退院したら、ぼのちゃん競争だよ?」
曙「は、はぁ?何よそれ…」
島風「私の分まで、走ってくれたんでしょ?」
曙「んなっ///」
浜風「あら、そんな約束してたんですか?」クスッ
長門「あの戦場での台詞はこの事か、合点がいった」
曙「あーっ!うるさいうるさいうるさいうるさい!///」
武蔵「お前が五月蝿いぞ、曙。ここは病院だ、静かにしろ」
曙「ふんっ!何よ!ちょっと優しくするとすぐこれなんだから!さっさと戻ってきなさいよね!///」
ガチャッ パタンッ
瑞鶴「な、なんだかなぁ…」
翔鶴「ふふっ、曙ちゃんも口ではああ言ってますけど…」
長門「ああ、頬が緩み過ぎて解り易い限りだった」
木曾「へへっ、素直じゃないねぇ…」
ゴーヤ「改めて、皆ありがとうでち。本当に…ありがとう」
島風「…うん、ありがと」
木曾「まぁ、なんだ…サンキューってヤツだな」プイッ
軽巡棲鬼との一戦から二週間が経った。
幸いとゴーヤ、島風、木曾の三名は意識も回復し三人仲良く艦娘病院のベッドで治療を受けている。
木曾「そっかぁ、お前等には返済に苦労しそうな貸しが出来ちまったなぁ」
ゴーヤ「どうせ返す気ゼロでち」
木曾「んだとテメ……いてててっ」
島風「はぅ~、笑うとまだお腹痛んだから~、やめてよね~」
曙「ま、それだけ喋れるんなら退院もすぐよね」
島風「早く、走りたいな~」
曙「病人が走るとか言ってんじゃないわよ」
島風「にししぃ…退院したら、ぼのちゃん競争だよ?」
曙「は、はぁ?何よそれ…」
島風「私の分まで、走ってくれたんでしょ?」
曙「んなっ///」
浜風「あら、そんな約束してたんですか?」クスッ
長門「あの戦場での台詞はこの事か、合点がいった」
曙「あーっ!うるさいうるさいうるさいうるさい!///」
武蔵「お前が五月蝿いぞ、曙。ここは病院だ、静かにしろ」
曙「ふんっ!何よ!ちょっと優しくするとすぐこれなんだから!さっさと戻ってきなさいよね!///」
ガチャッ パタンッ
瑞鶴「な、なんだかなぁ…」
翔鶴「ふふっ、曙ちゃんも口ではああ言ってますけど…」
長門「ああ、頬が緩み過ぎて解り易い限りだった」
木曾「へへっ、素直じゃないねぇ…」
ゴーヤ「改めて、皆ありがとうでち。本当に…ありがとう」
島風「…うん、ありがと」
木曾「まぁ、なんだ…サンキューってヤツだな」プイッ
235: 2016/07/21(木) 00:10:25.04 ID:DL48C0rbo
瑞鶴「ぷふっ」
木曾「な、なんだよっ///」
瑞鶴「あんたが一番素直じゃないって顔に書いてあるじゃない」
木曾「なっ…ばっ、おま、俺はだなっ///」
瑞鶴「あー、はいはい。どーいたしましてー」ニコッ
木曾「てめぇ、瑞鶴…覚えてろよ」
武蔵「瑞鶴」
瑞鶴「うん?」
武蔵「そろそろ時間だ。行ってきて良いぞ」
瑞鶴「あっ…うん、ありがと。じゃあね、お三方。大人しくしてんのよ?」
木曾「うっせー」
ゴーヤ「はーい」
島風「わかってるよーだ」
ガチャッ パタンッ
長門「加賀か」
武蔵「ああ」
翔鶴「まだ、目覚めませんか」
浜風「外傷自体は治癒されてきてるんですよね?」
武蔵「聞く限りではな。が、心がそこに追いついていないのか、どうなのか…目を覚まさん」
武蔵「それを見越してなのかどうかは知らんが、瑞鶴にこうして時間があれば加賀に会わせてやれと、提督がな」
長門「何をどう取り繕おうと、瑞鶴にしてみればあの一件は心に大きなしこりとなって残ってしまうだろう」
翔鶴「自身に言い聞かせてはいるようですが、やはり時折どうしようもない、やるせない表情を見せる時はあります」
武蔵「無理もないぜ。正味目の前で起こった出来事だ。誰よりも、責任を感じているのは瑞鶴だろう」
翔鶴「…………」
木曾「翔鶴」
翔鶴「…!は、はい?」
236: 2016/07/21(木) 00:10:53.70 ID:DL48C0rbo
木曾「気負うんじゃねぇぞ、絶対に」
ゴーヤ「皆、解ってるよ。だいじょーぶ、誰も気にしてないでち」
島風「私達三人、だーれも翔鶴さんの判断を間違えてたなんて思ってないよ?」
ゴーヤ「あの時、咄嗟に通信も出来たのにしなかったのはゴーヤの判断ミスでち」
島風「うん、私も避け損ねたのは痛感してるー」
木曾「カッとなってつい先走っちまう。俺の悪いクセだ。それをお前は止めようとしてくれた。隼鷹や浜風もな」
木曾「なのに相手の挑発に乗っちまって、このザマだ。ったく、頭上がらなくてトーゼンだぁな」
浜風「同じですよ」
木曾「あ?」
浜風「同じです。木曾さん達こそ、負い目に感じる必要なんてありません」
木曾「へへっ、やっぱお前ぇ等サイッコーだわ…いいトコにこれたよ、マジでさ」ニッ…
ゴーヤ「うん」ニコッ
島風「ふふっ」ニコッ
長門「なんだ木曾、お前まさか泣いてるのか?どこか痛むか?」
木曾「ばっ…ちげぇよ!///」
武蔵「ふっ、素直じゃないを地で行くな、貴様は」
翔鶴「皆さん、ありがとうございます」ペコリ
長門「木曾、痛いのなら素直に…」
木曾「だー!もうちげぇっつって……いででででっ」
ゴーヤ「…アホでち」
島風「ちょーウケ……いたた……うぅ、笑うと痛いぃ…」
翔鶴「ふふっ」
武蔵「やれやれ、さぁ戻るぞ」クスッ…
237: 2016/07/21(木) 00:11:29.96 ID:DL48C0rbo
瑞鶴「かーがさんっ」
加賀「…………」
瑞鶴「はぁ、またそうやって眠った振り…まぁ良いけど、勝手にまた喋るだけ喋って帰るし」
瑞鶴「…………」
瑞鶴「…周りはね、皆優しいよ。赤城さんも、翔鶴姉も、隼鷹や千歳も、空母組は皆優しい」
瑞鶴「他の子達もさ、大丈夫って。あぁ、私の働きの事じゃないからね?加賀さんよ、加賀さん」
瑞鶴「きっと加賀さんはすぐに戻ってくる。すぐに目覚めて、またあの鎮守府で赤城さんの隣に立って、第一部隊を引っ張っていく」
瑞鶴「だって、今私が第一部隊なんだよ?加賀さんの指定席、私が座っちゃってるんだよ?」
瑞鶴「前みたいに、言いなさいよ。五航戦の子なんかと一緒にしないでって、突き放してきなさいよ」
瑞鶴「何よ……なんで、寝てる時までそんな澄ました顔なのに……どうして、あの時、笑ったのよ」グスッ…
瑞鶴「普段、全然笑わないクセに……あんな時だけ、笑って……卑怯よ、そんなの。何にも、それじゃ言えなくなっちゃう…」
瑞鶴「戻ってきてよ、戻ってきなさいよ!一航戦の加賀っ!」
瑞鶴「赤城さんの隣はあんたでしょ!?なんで私なのよ!いい加減っ……目ぇ、覚ましてよぉ……」グスッ…
コンコンッ…
瑞鶴「っ……は、はい!」
ガチャッ…
瑞鶴「ぁ……」
提督「まだ少し、時間があるようでしたので」
瑞鶴「……他の皆は?」
提督「先に鎮守府へ戻りました」
瑞鶴「…………」
提督「…………」
瑞鶴「…………」(気まずい…)
提督「…少し、昔話をしましょうか」
瑞鶴「ぇ、はい?」
提督「一度しか話しませんから、そのつもりで」
瑞鶴「……?」
238: 2016/07/21(木) 00:11:59.33 ID:DL48C0rbo
数十年も前の事です。
海軍には、新人の提督や各鎮守府への着任を控えて新しく着任したばかりの艦娘に基礎・基本を教鞭する場が設けられていました。
その教壇に立つ人物は階級は大将、第壱将を拝命する三大将の一人です。
彼は自身の傍付たる秘書艦を設けず、また推薦・志願されても全て辞退・拒否していました。
そんな彼にこの度役職がもう一つ設けられる事になりました。
大本営直属指導教官総長。
彼の教えを受けた提督・艦娘達は各々の鎮守府に配属後もその理念と信念を忘れず、ぐんぐんと成長を遂げていったそうです。
孤高の存在であった彼はそんな羽ばたいて行った提督達を見て誰よりも誇らしく思っていた事でしょう。
そんな彼に、ある日通達としてついに秘書艦を迎え入れる事になりました。
彼の傍付きとなった艦娘も行く行くは艦娘専門に教鞭を振るう事になる予定で、まずは彼の下で学ぶ事から始めたそうです。
上からの命令ならば仕方がないと、今までは断り続けてきた彼も仕方なく折れて首を縦に振りました。
何より、艦娘にはやはり同じ艦娘が教示すべきであると感じていた彼にとっては、これはある意味誉れな事でもありました。
同じ理想を抱き、同じ夢を持ち、共に歩んで行こうと誓い合い、彼と彼女は共に切磋琢磨し、日々新人達を指導していきました。
そんなある日、君も聞いた事はあるでしょう。
大本営強襲事件。
多数の深海棲艦が突如として海軍の中枢、大本営へ向けて攻撃を仕掛けてくると言う事件が起こりました。
大枠の話は知っていると思いますのでここは割愛しましょう。
大本営直属指導教官総長、大将第壱将。
またの名を神の眼を持つ男、神眼提督。
彼の傍付きとして秘書艦となった香取型練習巡洋艦一番艦の香取。
彼女も、艦娘と言う立場からその使命と責務に燃えていました。
そして、悲劇は起こりました。
239: 2016/07/21(木) 00:12:33.94 ID:DL48C0rbo
大和『第三部隊より入電。自陣後方、左翼より突出する識別一名確認!これは…!』
神眼「まさか…!」
飛龍『種別…れ、練習巡洋艦…?』
バンッ
神眼「香取さん、君は…!」
香取「私にだって、出来る事はあるはず…練習巡洋艦香取、抜錨します!」
大和『神眼提督、左翼より抜錨したのは恐らく神眼提督の秘書艦、香取さんです。これは何かの策でしょうか?』
神眼「今すぐに彼女を止めて下さい。僕は一言も彼女に抜錨の指示は出していません!」
大和『それでは、独断で!?』
神眼「彼女の戦場はあくまで教壇の上です。ですが、やはり艦娘なのでしょう…敵を前にすれば、護らなければと言う
感情が体を自然と動かしてしまうのかもしれません。君達のように…!」
大和『今は詩的に語っている場合ではないでしょう』
神眼「単独先行の恐れが濃厚です。止めて下さい、必ず!」
普段は冷静沈着で慌てる事もない神眼のその態度に、大和は一抹の不安を抱きながらも自軍の艦娘達に指示を飛ばす。
彼女達は力戦奮闘した。
香取を救う為に、氏なせない為に、最善を尽くした。
誰もが考えうる中で最良の一手。
全員がそれならいけると踏んだ最適解。
しかし、現実は無情だった。
240: 2016/07/21(木) 00:13:01.94 ID:DL48C0rbo
提督「突出し過ぎた彼女は深海棲艦の格好の的になりました。結果、大和さん達の援軍も一歩及ばず、彼女は敵の凶弾に倒れました」
瑞鶴「…………」
提督「そして僕は、己の犯した罪を未来永劫背負い続ける為に、己の地位と座を捨てました」
提督「これが、僕の今までです。手の届く所に彼女を置いておきながら、むざむざ氏へ追いやった」
提督「神の眼が、聞いて呆れるばかりです」
瑞鶴「…………」
提督「君の胸中は痛いほどによく解ります。目の前に居て、手の届く所に居て、助けられなかったと言う悔しさ」
提督「己の無力さを瑞鶴さんは今、痛感しているのではありませんか?」
瑞鶴「私は…」
提督「…………」
瑞鶴「私になんて、加賀さんの代わりが出来るわけないじゃない…!」
提督「加賀さんの口癖を、君はもう忘れてしまったのですか?それに君も大いに反発していたでしょう」
──五航戦の子なんかと一緒にしないで──
瑞鶴「代わりになる、必要なんて、ない…?」
提督「ええ」
瑞鶴「…………」
提督「木曾さん、ゴーヤさん、島風さん…彼女達についても同様です。その場に居た全員が、君と同じ思いだったでしょう」
瑞鶴「全員が…?」
提督「彼女達が重傷を負った時、その場には翔鶴さん、隼鷹さん、浜風さんがいらっしゃいました」
提督「翔鶴さんは第二部隊を預かる旗艦です。にも拘らず今回の一件です」
瑞鶴「…………」
ピラッ…
瑞鶴「…それは?」
提督「翔鶴さんの今回の件に関する経緯報告書です。ここ、よくご覧になってみて下さい」トンッ
瑞鶴「…シミ?」
提督「涙の痕だと思います」
241: 2016/07/21(木) 00:13:47.20 ID:DL48C0rbo
提督「悔しかったんだと思いますよ。辛くて、悲しくて、情けなくて、その場に居ながらこれほどの被害を出してしまった」
瑞鶴「…………」
提督「僕自身は今回の件について別に咎める気も罰を下す気もありません。今はそのような事をしている暇もありません」
提督「書類を提出に来た時も、彼女は堪えきれずに涙を流していました」
提督「僕が考える一つの美学として、この世には流すべき涙と流すべきではない涙、二種類が存在していると考えています」
提督「感動や別れに流す涙は尊ぶべき、流すべき涙。傷付き、苦痛を伴い、心に深い傷跡が残るような流すべきではない涙」
提督「今の君達が流している涙こそ、流すべきではない涙ですよ」
瑞鶴「……提督さんは、秘書艦さんを亡くして、涙を流したの?」
提督「…ええ、一昼夜。同じ涙を、もうこれ以上君達に流して欲しくはありません」
提督「ですから、その流した涙を最後にして頂きたい。次に流す時は、流すべき涙を、流して頂きたいのです」
提督「幸いと木曾さん、ゴーヤさん、島風さんは意識を取り戻されました。担当医は加賀さんの容態は思わしくないと
仰っていましたが、僕は加賀さんの生命力、忍耐力を信じています。彼女は、ここで終わるようなたまではありません」
瑞鶴「…うん」
提督「腹を括ります。僕も、今僕が出来うる最善の手を尽くしてこの勝負に挑みましょう」
コトッ…
瑞鶴「それは…」
242: 2016/07/21(木) 00:14:23.03 ID:DL48C0rbo
提督「これは、香取さんの愛用していた眼鏡です。今まで、お守り代わりでずっと僕が肌身離さず付けていたものです」
瑞鶴「え、提督さんって…」
提督「ええ、両目の視力共に1.0と良好です。ですので、このレンズはただのガラス、伊達眼鏡と言う奴ですよ」クスッ
瑞鶴「それ、ここに置いてっちゃうの?」
提督「ええ、せめてものお守り代わりと、あとは…そうですねぇ、僕自身のけじめというやつでしょうか」
瑞鶴「ん、そっか」
提督「戻りましょう、瑞鶴さん」
瑞鶴「そうね。まだ、やり残してる事多いしね」
提督「僕は一度鎮守府に戻って武蔵さんを連れて大本営へ赴きます。その間に瑞鶴さんは第一部隊に招集をかけ、
少し僕のお願いを聞いて頂きたいと思います」
瑞鶴「提督さんのお願い?」
提督「はい、ちょっと派手な鬨の声を上げて頂く程度です」
瑞鶴「ちょっとなのに派手ってどーいう意味よ、それ…」
提督「ふふ、さぁどういう事でしょうねぇ。お伝え頂く内容は次の通りです────」
瑞鶴「────そっか、相手がそう動いてるのなら、それに便乗しない手はないって事よね」
提督「仰るとおりです。随分とコケにされましたからねぇ…舐めた分の辛酸は、返して然るべきでしょう」
瑞鶴「トーゼンよ。倍以上にして返してやるんだから!」
提督「では、参りましょうか」
瑞鶴「うん!」
瑞鶴「あっ、ちょっと待って」
提督「はい?」
瑞鶴「加賀さん!行って来るわよ!あんたの分、とっておかないから、悔しかったら直にでも起きて残りものでも何でもとりに来なさいよね!」
瑞鶴「私達五航戦と加賀さん達一航戦は違うんだから、でしょ!?じゃあね!」
加賀「…………」
提督「…お待ちしてますよ、加賀さん。では…」
ガチャ…パタン…
加賀「…………」ピクッ…
248: 2016/07/27(水) 23:20:39.96 ID:p/B5N/Opo
~鬨の声~
-復活-
その日、大本営に激震が走った。
否、厳密には元帥執務室にて激震が走った。
元帥「…今、何と言った…」
提督「唯一無二のお願いをしにきました」
元帥、そして隣に控える大和、同行した武蔵さえも、その瞳を大きく見開いて言葉を失った。
彼がお願いしたその内容に、文字通り言葉を失った。
元帥「もう一度、言ってくれ…」
提督「今の階位を返上します。代わりに、元の階位に戻して頂きたい、と申し上げました」
元帥「ば、馬鹿を言え!三大将の席は当然の如く埋まっている。何より、彼等の働きは現時点でも申し分ない。
それをいきなり降格にでもしようものなら、末端の提督陣にまで波紋は広がる恐れすらある!」
提督「そこを上手に纏めるのが元帥のお役目と認識していたのですが、違いますかねぇ?」
元帥「それとこれはまた別だろうに、お前と言う奴は自らこちらへ足を運んだかと思えば突拍子もない事を…!」
提督「僕が今まで貴方に我侭を述べた事はありますか?」
元帥「……ない」
提督「その僕からのたっての願いとしても聞き入れては頂けませんかねぇ」
元帥「だから、それとこれはまた別だと…大体お願いをする態度か、それが!?」
提督「ならば賭けをしましょう」
元帥「このような事態に何を…」
提督「このような事態だからこそですよ。僕が第壱将として復帰した暁には、この『世界』を平和へ導きましょう」
元帥「なっ」
提督「現状のまま、進めると言うのなら僕は僕の手の届く範囲のみを守護します。つまり、僕の預かる鎮守府のみを守護します」
元帥「何を…」
提督「事実、今の三大将の働きは目に余りますよ。これ程までに劣勢を極めておきながら被害は広がる一方、打開策の一つも講じてはいないではありませんか」
元帥「そ、それは…」
提督「あの時と同じ過ちをもう一度繰り返し、まだ見ぬ未来ある提督陣や艦娘をまた僕と同じ道へと誘いますか」
提督「また同じ失態を繰り返し、目に映る勝利にのみ固執して内面の腐敗した現実から目を背けますか」
大和「提督…それは、言い過ぎでは!」
元帥「大和…!」
大和「……!」
元帥「構わん…事実だ」
大和「元帥…!」
提督「このまま何も手を打たなければ、確実にこの大本営を始めとし、世界が滅びます。それほどの現状です」
元帥「しかし…」
提督「今すぐに三大将をこの場に召集して下さい。時間がありませんので、僕が直接説き伏せます」
249: 2016/07/27(水) 23:21:18.57 ID:p/B5N/Opo
大和「ちょっと、武蔵…これ、どう言う事なんです?」コソコソ…
武蔵「私だって知らなかったよ。とんだビックリ玉手箱野郎だぜ…ったく」コソコソ…
元帥「大和、武蔵はしばし席を外しておれ」
武蔵「なっ、おいそれは…!」
大和「武蔵…!」ガシッ
武蔵「あっ、おいこら放せ大和!」ズルズル…
大和「それじゃ失礼しますー」スタスタ…
ガチャ…パタン…
元帥「…ふぅ、全くお前の提案には毎度肝を冷やす以外に驚きの表現方法がない」
提督「それだけ後ろ暗い事をしている証明でしょう」
元帥「全く、言葉の端々に棘を仕込むのも毎度の事か」
提督「コソコソと隅っこを歩くような真似をしなければ引っ掛からない程度の棘ですよ」
元帥「手厳しい限りだ。が、往々にして己が選んできてしまった道でもある、か…」
コンコン…
『壱将以下弐将と参将、召集に応じ馳せ参じました』
元帥「着たか。入れ」
ガチャ…パタン…
壱将「このような事態に何用です、元帥…む?」
弐将「これはこれは…」
参将「最近噂に上がっている拾将管轄下に居る提督か」
提督「お初にお目に掛かります。提督鎮守府を統括する提督中将と申します」
壱将「言うに及ばず。そのような話をする為に我々を呼ばれたわけではないでしょう、元帥」
元帥「そう逸るな。お前達三人に話があるのはそこにいる提督本人だ」
弐将「ほう、私達に?」
参将「我等に話とは、何用だ」
壱将「下らん話ならば即刻退室する。今はこの場で腰を下ろしている場合ではないのだからな」
提督「ふっ」ニヤッ…
弐将「……」ピクッ
参将「おい、無礼であろうその態度!」
提督「失礼…壱将殿の発言に現実が追いついていない矛盾に些か…」
壱将「何…?」ギロッ…
250: 2016/07/27(水) 23:21:47.99 ID:p/B5N/Opo
提督「僕は事実を口にしたまでです。以前に提唱させて頂いた作戦をそのままに実行していれば、
推移としては現状よりは幾分かましだったと思いますよ?」
壱将「我等が元帥から直々に賜った策を蔑ろにしているとほざく気か」
提督「僕が事の発端だからこそ、蔑ろにしているというのが本音ではありませんかねぇ」
壱将「俺が貴様如きを目の敵にする矮小な心の持ち主とでも思ったか!図が高いぞ中将風情が!!」
提督「階位がそれほど大事ならば懐にでもしまっておきなさい!大将だろうと元帥だろうと、全体を動かす者の矜持が
高が知れている司令官にこの先を進める未来などありませんよ!」
参将「なっ」
弐将「言ってくれますね…」
壱将「貴様…ッ!」
提督「実際、前回の召集時にあの場に居る面々を見て僕が抱いた感想は無様の一言ですよ」
元帥「…………」
壱将「重ね重ね、貴様何様のつもりだ!」
提督「前兆は既にあったにも関わらず、複数の鎮守府が被害を被り氏傷者が出てからやっと動くなど愚の骨頂ではありませんか」
提督「僕は再三に渡り経緯報告書を提出し、全体への開示を請求してきましたがそれが叶った例はありません」
弐将「当然と言えば当然でしょう。中将の一意見では、全体への開示賢覧は余程全体への認識が伴っていなければ目通りは叶いませんよ」
元帥「…………」
提督「それがそもそもの間違いの始まりですよ」
参将「貴殿は元帥を愚弄する気か」
提督「はい?」
251: 2016/07/27(水) 23:22:16.12 ID:p/B5N/Opo
参将「それら開示の最終決定権は元帥に一任されておられる。その元帥が必要無しと判断したのだ。何か問題でもあるのか」
提督「問題大有りでしょう。現状が全てを物語っています」
弐将「が、それも結果論に過ぎない。違いますか?」
提督「その結果を事前に警鐘していたのにも関わらず放って置いた事について僕は問題があると申し上げているんですよ」
弐将「では君が今回の結果に繋がるであろう前兆を見つけ、更には元帥に自ら警鐘を鳴らし続けたと?」
提督「ええ、そうですね」
元帥「……事実だ」
壱将「……ッ!」ガタッ…
弐将「……!」
参将「元帥…!」
提督「やはり、元帥を始め、三大将もその件については周知の事実だったようですねぇ…」
提督「口裏を合わせ、現状維持を図って尚、好転しないこの状況をどう説明なさるおつもりですか」
壱将「貴様の提唱する策はどれも驚天動地の域にある。凡そまともに理解し、実行に移せる鎮守府など半数にも満たん!」
壱将「無用な諍いと指揮系統の混乱を促す切っ掛けにしかならんと知れ!」
提督「それは投げるだけ投げて明確な説明をしないままに実行するからですよ。僕は一度として各自が実行不能な提案を
してきた覚えはありません。それぞれがその在り方を認識し、把握すればこそです。それを怠っておきながら無理も不可能もないでしょう」
壱将「ぬぐ…!」
252: 2016/07/27(水) 23:22:43.49 ID:p/B5N/Opo
弐将「君は、何が目的だ」
参将「ここで論説を捲くし立てようと無意味に思うが?」
提督「皆さんに成り代わります」
壱将「何だと…?」ギロッ…
提督「最早一刻の猶予もない状況です。ここより先は、この僕が指揮を執ると申し上げているんですよ」
弐将「ふっ、惰眠を貪っていた君がレギオンクラスの全体指揮を執ると言うのか?」
参将「こういうのはただの陰口にしかならんが、君の噂は悪いものしか聞いた記憶がない。なぁ、ダメガネ殿?」ニヤッ…
元帥「む……?」(そういえば、この男…あの眼鏡はどうした…?)
提督「いつの話をしているんですか」
参将「何?」
提督「権威も、風格も、実力さえも地に落ちたあなた方では、この海軍は任せられないと申し上げているのがまだ解りませんか?」
弐将「言わせておけば…!」
壱将「何の功績も挙げていない貴様のような馬の骨が、これ以上調子に乗るなよ!その頭蓋諸共、この場で斬り飛ばしてくれようか!」
元帥「静まれ…ッ!!」
壱将「……ッ」
元帥「お前達は知らなくて当然であろう。が、この男は過去に数知れぬ功績を挙げている。現存するこの海軍将校の誰よりも…!」
参将「なっ」
弐将「ご、ご冗談を、元帥…」
元帥「この大本営の今の在り方、その基盤を磐石にしたのがそこに居る男だ」
壱将「……!?」
元帥「磐石にして不変…その男の口癖でな」
壱将「その、台詞は…」
弐将「馬鹿、な…」
参将「神の眼を持つ、男…」
壱将「貴様が、神眼提督だと言うのか!?」
提督「ええ、過去にはそのように呼ばれていた時期もありましたねぇ…」
提督「ですが、今はそのような瑣末な事はどうでもいいでしょう。ようは今がどうかです」
提督「今一度、申し上げます。僕を、第壱将として海軍大将に任命して下さい。必ず、この騒乱を沈静化して見せましょう」
257: 2016/08/06(土) 19:23:49.46 ID:Nx8GCYZLo
-開眼-
黒提督「軽巡棲鬼が戻らないだと…?」
リコリス「哨戒隊ノ報告では例ノ鎮守府領海付近デ連絡が取れナクなったそうヨ」
黒提督「馬鹿め…欲を掻いて作戦から逸脱したな」
リコリス「ドウするの?」
黒提督「好き勝手に遊んだとは言えど、多少は相手に痛打を加えたのも事実だ。ならばこれを足掛かりに……」
バンッ
黒提督「…騒々しいぞ」
ル級「ホウコク、イタシマス」
ル級「カクチニ、ショウカイ、テイサツヘムカッテイタワガカンタイグン、ソノスベテガセンメツサレタトノホウガ、ハイリマシタ」
リコリス「何デすって…!?」
黒提督「全て、だと…?」
??1「相手モついに本腰ヲ入れてキタと言う事ダロウ?」
??2「ナンだってイイ、強ければソレで…」
??3「暴れてるノハ、レ級や軽巡棲鬼ヲ沈めた連中カシラ?」
泊地棲鬼「ならば次コソ、私が屠ル」
黒提督「各個撃破ではなく、一挙制圧の手法を取ったと言う事は、こちらへ流れるはずの情報の断絶が目的だろう」
リコリス「事実、撃破されてカラの情報ハぱたりと止ンダ」
黒提督「当然だろう。完全に前線に赴いていた艦隊は殲滅されているのだ。これ以上の情報はこちらへは入ってこないのは必然」
黒提督「が、なぁに…そんなものは取るに足らない情報という事だ。あろうがなかろうが変わりはしない。磐石にして不変…」
黒提督「大局の流れは未だこちら側にある。その事を奴等へ教えてやろう」
黒提督「軽巡棲鬼が戻らないだと…?」
リコリス「哨戒隊ノ報告では例ノ鎮守府領海付近デ連絡が取れナクなったそうヨ」
黒提督「馬鹿め…欲を掻いて作戦から逸脱したな」
リコリス「ドウするの?」
黒提督「好き勝手に遊んだとは言えど、多少は相手に痛打を加えたのも事実だ。ならばこれを足掛かりに……」
バンッ
黒提督「…騒々しいぞ」
ル級「ホウコク、イタシマス」
ル級「カクチニ、ショウカイ、テイサツヘムカッテイタワガカンタイグン、ソノスベテガセンメツサレタトノホウガ、ハイリマシタ」
リコリス「何デすって…!?」
黒提督「全て、だと…?」
??1「相手モついに本腰ヲ入れてキタと言う事ダロウ?」
??2「ナンだってイイ、強ければソレで…」
??3「暴れてるノハ、レ級や軽巡棲鬼ヲ沈めた連中カシラ?」
泊地棲鬼「ならば次コソ、私が屠ル」
黒提督「各個撃破ではなく、一挙制圧の手法を取ったと言う事は、こちらへ流れるはずの情報の断絶が目的だろう」
リコリス「事実、撃破されてカラの情報ハぱたりと止ンダ」
黒提督「当然だろう。完全に前線に赴いていた艦隊は殲滅されているのだ。これ以上の情報はこちらへは入ってこないのは必然」
黒提督「が、なぁに…そんなものは取るに足らない情報という事だ。あろうがなかろうが変わりはしない。磐石にして不変…」
黒提督「大局の流れは未だこちら側にある。その事を奴等へ教えてやろう」
258: 2016/08/06(土) 19:24:36.56 ID:Nx8GCYZLo
提督「────と、向こう側は考えるでしょうね」
赤城「未だ大勢は変わらず、自分達に有利に働くと?」
提督「ええ、その為にあえて大味の情報は与えたわけですからね。瑞鶴さん、随分と派手にやってくれましたね?」
瑞鶴「だって、提督さんがやれって言ったんじゃない」
提督「勘違いしないで下さい。褒めてるんですよ?僕の想像以上の戦果ですよ」ニヤッ
瑞鶴「ふふーん♪」
武蔵「で、貴様はここで安穏としててもいいのか?」
提督「最初で最後の我侭ですからね。大盤振る舞いで吹っ掛けましたから────」
提督『今一度、申し上げます。僕を、第壱将として海軍大将に任命して下さい。必ず、この騒乱を沈静化して見せましょう』
壱将『……貴様が先頭に立ち、深海棲艦に反撃の狼煙を上げるというのか』
弐将『元帥…!』
参将『このような話は前代未聞!許容の範囲外です!』
元帥『はぁ、全くお前の話は突拍子もない反面、何故かこちらをワクワクさせる』
壱将『げ、元帥…?』
元帥『先にも話した通り、戦闘のイロハを説いていたのはそこに居る男だ。我々が当たり前のように行使している戦術も、
陣形も、その男が居て初めて形になったものばかりだ。無論、原初という訳ではないが礎と言うには相応しい働きをしてくれた』
元帥『元は大本営直属指導教官総長、海軍の第壱将を拝命していた男だ。お前達三人が束になろうと、私はその男の唱える
言葉を重んじる。それだけの説得力とカリスマ性を備えている男だ』
壱将『では何故あの時…!』
元帥『ただの意固地だな。ふふ…その男にしてみれば、子供の駄々とそう変わりはなかったようだが…』
元帥『お前達のこれまでの働きを否定するつもりは毛頭無い。むしろここまで良くやってくれた。
だが、これより先はそこの男の力がどうしても必要になる。何れお前達にも解る時が来る。その時をどうか待って欲しい』
弐将『……元帥が仰るのなら、私はそれに従いましょう』
参将『如いてはそれが、この大本営の、海軍の、この国の未来の為ならば…』
壱将『勘違いをするなよ…我等は元帥の意向に従うだけだ。貴様の傀儡ではない』
提督『ご理解、感謝致します』
元帥『良くぞ、戻ってきてくれた』
提督『僕は過去に遡る気は毛頭ありません。それを、今を生きる彼女達に教わりました。故に、僕は神眼の名は得ません』
壱将『では何だと言うのだ』
提督『僕は提督鎮守府の提督です。ですから、大将の座に位置しようと、今の鎮守府を手放す気は毛頭ありません』
弐将『大将が一つの鎮守府に座すると言うのですか!?』
提督『僕の賭すべき全てのものがその鎮守府には詰まっているんですよ』
259: 2016/08/06(土) 19:25:25.01 ID:Nx8GCYZLo
武蔵「なんだ、勿体ぶるじゃないか」
提督「いえ、時には言わずにおくのも良いものかもしれません」
武蔵「ったく、すぐそれだ」
長門「それで、この後はどうするんだ、提督」
提督「待ちます」
長門「待つ?」
提督「相手に知らしめるのが今回の目的の一つです。何をしても無駄だとね」
長門「次に相手がどう動くのか、既に解っていると言うのか?」
提督「ええ、大体はですが。まず間違いなく相手はここを襲撃してくるでしょう」
長門「なっ」
提督「軽巡棲鬼を撃破して直の大立ち回り。僕等が暴れたと相手は容易く感付くはずです」
提督「故に相手はこう解釈するはずです。勘違いするなよ、まだ形勢はこちら側にある。それを知らしめてやる、とね」
提督「ですから否が応でも相手は僕等に喧嘩を売らずにはいられないという訳です。
そして、その中には恐らく泊地棲鬼やそれに類する幹部クラスが必ず一匹以上、三匹以下は含まれているでしょう」
提督「自分達が優位な立ち位置にいる事を無意識の内に証明すべく、強さにベクトルを置いた布陣で来るはずです」
提督「ですがその艦隊は恐らくこの鎮守府まで到達する事は無理でしょう」
武蔵「何故そう言い切れる。散々こちらの包囲網を突破して来た連中だぞ」
提督「それに胡坐を掻いているような連中です。網を張って絡める程度、造作もない事ですよ」
長門「既に布陣を済ませているのか」
提督「ええ、とびっきりの素敵な艦隊を用意してあります」ニヤッ…
260: 2016/08/06(土) 19:25:52.21 ID:Nx8GCYZLo
大和「…………」
飛龍「大和、来たよ」
蒼龍「あの提督の宣言通り!」
飛龍「泊地棲鬼に…種別、新しいのきてるね。どーする?」
大和「…決まっています。あの方が戻ってこられた今、恐れるものなど何もありません。
私が受けた命はこの領海に侵入する深海棲艦を余さず殲滅する事。ならば、任された責を全うするのみ」
大和「この海を、これ以上我が物顔で闊歩される訳には参りません」
泊地棲鬼「……相手ガ待ち構エテいるダト?」
ル級EL「」コクッ…
装甲空母鬼「誘き寄せられレタ……と、解釈スルのが最も自然ネ」
泊地棲鬼「我々の動きヲこうモ容易く看破スルものカ?」
装甲空母鬼「解らん。シカシ、これは想定ヲ上回る難題ト捉えるベキだろう」
泊地棲鬼「……撤退ダ」
ル級EL「何モセズニ、デスカ?」
ヲ級EL「黒提督ニハ、ドウ説明ナサイマスカ?」
装甲空母鬼「随分と情報ト違う。コレでは、道化ダナ」
泊地棲鬼「いいや、コレは想定外ダ。海軍、大本営、鎮守府、ソレらを束ねる提督共…コレ程とは、恐レ入ル」
装甲空母鬼「ドウいう意味ダ」
泊地棲鬼「やはり、我等ハ未だ同じ域ニハ達してイナイ、と言う事ダ。戦術ヲ練り直す…!」
261: 2016/08/06(土) 19:26:31.40 ID:Nx8GCYZLo
ピーッ、ピーッ、ピーッ
提督「随分と早い報告ですね」
元壱将『…貴様の読み通りだった。奴等はこちらの布陣を確認だけして撤退。戦闘には至らなかった』
提督「大和さん達と自分達の力量をその場で天秤に掛け、客観的冷静な判断を下せる決断力を持ち合わせている」
提督「僕の想定ではそのまま戦闘になり、もう二匹か三匹は相手の幹部クラスの首を獲れると踏んでいましたが…」
元壱将『ああ、存外馬鹿の集まりではないという事だ。改めてこちらも認識を改める必要がある。貴様の意見通りな…!』
提督「はぁ、別に僕を敵視するのは構いませんが、見据える先は同じでなければなりません」
元壱将『愚問だ。これは俺の一感情、大局にまでこの感情を持ち込みはしない』
提督「結構。恐らく、相手もこれで本腰を据えてくる事でしょう。動きは更に慎重に、狡猾になってくるはずです」
元壱将『ならばこちらはどうする』
提督「先にも申し上げたとおり、何をしても無駄だと教えて差し上げるだけですよ」ニッ
元壱将『神の眼の本領…見せて貰おうか』
提督「存分にご覧に入れて差し上げますよ」
元壱将『ふん…ではこれで失礼する』
ブツン……
提督「さて…こちらも次の手を考えておきましょうか」
トン…
武蔵「その駒を、どうするんだ?」
提督「そうですねぇ…」
262: 2016/08/06(土) 19:27:20.59 ID:Nx8GCYZLo
スッ…
武蔵「…はぁ?」
提督「次にこの駒はこう動くはずです。少なくとも、正面切って勝負を挑む、という呈は最早捨てるでしょう。
攻めから守りへ、そのまま逃げへ…敵陣に向かっているのに攻めるどころか守って逃げて、気付いた頃には堀の中、ですよ」
武蔵「そう容易く事が運ぶものかよ」
提督「ええ、恐らく相手も気付くと思いますよ。ワンテンポ遅れて、ですがね」
武蔵「まさか、そうなるように仕向けたってのか!?」
提督「その為の情報操作です。こちらにとって別に渡しても構わない情報は勝手に持ち帰ってもらえばいい。
それ以外の、確信に迫るような情報は決して与えないように努めてますからねぇ」
武蔵「ったく、陰湿、陰険、悪辣非道…貴様の為にある言葉だな」
提督「君は失礼ですねぇ。僕を何だと思ってるんですか」
武蔵「陰湿陰険悪辣非道な提督」
提督「些か別の意味で殺意が芽生えそうですねぇ…」
バンッ
曙「クソ提督!」
提督「ノックもせずに扉を開け放って開口一番が罵倒と言うのは如何なものかと思いますよ?」
曙「う、うるさい!近眼だか裸眼だかなんだか知らないけどあたしにはカンケーないってのよ!」
武蔵「神眼だ……全く、木曾とはまた違うベクトルでお前も大概素直じゃない奴だな」
曙「な、何よ。なんか文句でもあるの!?」
武蔵「ない。言った所で平行線の話題に今は付き合う暇もないからな」
曙「ふんっ!」プイッ
提督「で、どうなさいましたか」
曙「…翔鶴からの報告よ。空の目を厚くして警戒していたのは正解だった。大きく進路を迂回させて深海棲艦は再度、
あたし達の鎮守府へその進路を決めているだろうってさ」
提督「そうですか。愚の骨頂…この作戦に時差など不要だというのに、相手は何か勘違いをしているようですねぇ」
武蔵「翔鶴達の哨戒によって最早奇襲の呈はなしていない。それでもこのまま我武者羅に突っ込んでくると思うか?」
提督「来るでしょうね。一度目はおめおめと大和さん達に恐れをなして逃げたわけですから、このまますごすごと下がる
ままなど、彼女達のプライドが許さないでしょう。こちらの想定を凌駕していると、思い知らしめる必要があるのですから」
提督「次は逃がしません。深い位置まで気付かない振りをし、逃げ場を封鎖した上で聨合艦隊を編成し徹底的に叩き潰します」
武蔵「」(深海棲艦を脅威に感じたのは事実だ。底知れない恐怖を感じたのも事実だ。だが、それでも今の奴等を同情せずにはいられない。
この男は、冗談抜きにして無慈悲極まりないぞ…こと、貴様等深海棲艦に対しては心の芯から底冷えするほどにな)
提督「何か?」
武蔵「いいや、万全を期す、というものをここまで解り易く体現する奴をはじめて見た。ただそれだけだ」
提督「この程度では、まだまだですよ」
武蔵「…何?」
提督「いいえ、何でもありません」
提督「」(もし、僕の考えが的を射ていたのなら、驚天動地の戦いになるでしょうねぇ…実に、不愉快極まりない。
しかし、この一戦は是が非でももぎ取らねばなりません。逃がす訳にはいきませんからねぇ)
269: 2016/08/28(日) 22:52:49.37 ID:3g1Wp+Bfo
-陰湿陰険悪辣非道-
青葉「さてさてー、参りましょうかー!」
千歳「私達の任務はここに来た深海棲艦のヘイトを稼ぐ事」
隼鷹「ようは釘付けにすりゃあ良いんだろう?迎え酒一気にいくよりも楽なもんだよ」
矢矧「それにしても、告白を受けた今でもまだ夢見心地とはこの事かしら…」
隼鷹「あぁん?」
矢矧「戦術の組み立て方、行使するタイミング、そこに至るまでの時間、どれもが高い次元で纏まっているなんてものじゃないわ」
潮「そう、なんですか?」
秋月「即決、即断、即行、凡そ他の司令なら立ち止まりそうな場面でさえも迷いなく踏み込む姿勢は驚嘆です」
千歳「伝説の提督だったから、なんて物語で簡単には括れないよね。目の当たりにしちゃったら、尚の事」
青葉「でもだからこそ、その伝説に直接絡んでるこの瞬間がたまりません!青葉、燃えに燃えてきましたよ!」
青葉「司令官の意図を汲んでこその青葉達です!」
隼鷹「どしたい、普段の青葉とはちょっと違うねぇ?」ニヤッ
青葉「ふふっ」ニコッ
千歳「ん?」
青葉「口にしたら、ダメな理由ですよ?」
秋月「言わずとも」
潮「解っています!」
千歳「散々私達が哨戒してる領海で暴れられたんだもの。勿論、言われなくても解ってるわ」
隼鷹「あぁ、勿論。今日のあたしは素面でもテンションは極めて高いさ」
千歳「さて、と…それじゃあ」
隼鷹「ああ、最っ高に苛立つ嫌がらせと行こうじゃないか────」ニヤッ
青葉「さてさてー、参りましょうかー!」
千歳「私達の任務はここに来た深海棲艦のヘイトを稼ぐ事」
隼鷹「ようは釘付けにすりゃあ良いんだろう?迎え酒一気にいくよりも楽なもんだよ」
矢矧「それにしても、告白を受けた今でもまだ夢見心地とはこの事かしら…」
隼鷹「あぁん?」
矢矧「戦術の組み立て方、行使するタイミング、そこに至るまでの時間、どれもが高い次元で纏まっているなんてものじゃないわ」
潮「そう、なんですか?」
秋月「即決、即断、即行、凡そ他の司令なら立ち止まりそうな場面でさえも迷いなく踏み込む姿勢は驚嘆です」
千歳「伝説の提督だったから、なんて物語で簡単には括れないよね。目の当たりにしちゃったら、尚の事」
青葉「でもだからこそ、その伝説に直接絡んでるこの瞬間がたまりません!青葉、燃えに燃えてきましたよ!」
青葉「司令官の意図を汲んでこその青葉達です!」
隼鷹「どしたい、普段の青葉とはちょっと違うねぇ?」ニヤッ
青葉「ふふっ」ニコッ
千歳「ん?」
青葉「口にしたら、ダメな理由ですよ?」
秋月「言わずとも」
潮「解っています!」
千歳「散々私達が哨戒してる領海で暴れられたんだもの。勿論、言われなくても解ってるわ」
隼鷹「あぁ、勿論。今日のあたしは素面でもテンションは極めて高いさ」
千歳「さて、と…それじゃあ」
隼鷹「ああ、最っ高に苛立つ嫌がらせと行こうじゃないか────」ニヤッ
270: 2016/08/28(日) 22:53:28.13 ID:3g1Wp+Bfo
隼鷹『嫌がらせ?』
提督『ええ、恐らく大和さん達を前に、相手は一度撤退するでしょう』
隼鷹『んで?』
提督『ただ、相手は一度加賀さん達を出し抜き、勝利を治めているのも事実です。
木曾さん達の件も然り…その自信と沸き起こった確信は簡単には払拭できません』
千歳『今度こそやれるって、思うってことかな?』
提督『ええ、解りやすい思考です。正面からの強硬手段が無理と解ると側面を攻める』
潮『えっと、えーと…うん?』
提督『ふふ、潮さんにはちょっと解り難かったでしょうか』
潮『うぅ…///』
提督『解り易く言うのなら、皆さんを舐めていると言う事ですよ』
青葉『舐めてる…?』
提督『正面に布陣していた大和さん達よりは、側面に布陣している青葉さんの一団の方が組し易い、そう考えた訳です』
秋月『馬鹿に、して…!』
矢矧『上等じゃない…!』
潮『そ、それって…それじゃ、私達になら勝てるって、そう考えてるって事、ですか?』
隼鷹『へぇ…』ギリッ…
提督『ええ、実に不愉快じゃありませんか。ただし、相手方にも強さが備わっているのは否めない事実です』
千歳『だからって、このまま引き下がるわけには…!』
青葉『…そうです。青葉達の、それじゃ名折れじゃありませんか!』
提督『そう逸ってはいけません。相手がそう出るのなら、こちらも相応の準備と構えを取って出向かえればいいだけです』
青葉『えっと、つまり?』
秋月『あっ』
潮『え?』
秋月『そうか…こちらも』
提督『ええ、同じ事です。側面から当たればいい。実力差が生まれる事は恥ではありません。ただし、それを盾にして
居直って良い訳ではない。大が小を兼ねるという言葉がありますが、小が大を兼ねても良いじゃありませんか』
271: 2016/08/28(日) 22:54:32.49 ID:3g1Wp+Bfo
千歳「…きたよ、皆!」
隼鷹「青葉、舵取りしっかりしなよ!あんたが旗艦だ!」
青葉「第一遊撃部隊、出撃ですねぇ?」
潮「えぇ!?」
秋月「なんで疑問系…」
矢矧「もう、締まらないわね!」
青葉「いやぁ、あははは、いっつも取材…もとい皆さんに追従する事が多かったもので、いやはや…」
隼鷹「にっしし、まぁそっちの方があたし等は馴染みがあって良いよ。なぁ、千歳♪」
千歳「ふふっ、青葉がいきなり超真面目になるのはそれはそれで怖いもの。リラックスできて逆に良いわ」
青葉「ちょっとそれどうなんですかぁ!それじゃまるで普段は青葉、怠けてるみたいじゃないですか!?」
隼鷹「ったく、お遊びはそんくらいにしとこうかねぇ」ザッ…
千歳「りょーかい!」ザッ…
青葉「遊び始めたの青葉ですか!?」
千歳「艦載機の皆さんも、行きますよ。第一次攻撃隊、発艦!」バッ
隼鷹「どうせやるなら全力だ全力ぅ!パーッといこうぜ~。パーッとな!」バッ
ビュン ビュン ビュン ビュン ビュン ビュンッ
隼鷹と千歳、二人は一歩前に出ると遠めに未だ見える深海棲艦の一団へ向けて艦攻艦爆を仕掛ける。
それと同時に六人は一斉に駆け出し、相手との距離を詰めて行った。
狙いは既に定まっている。
相手の殲滅ではなく足止めと時間稼ぎ。
泊地棲鬼「チッ、艦攻艦爆…!」
装甲空母鬼「全艦散開シロ!あれハ、私が止メル…!」バッ
272: 2016/08/28(日) 22:55:33.07 ID:3g1Wp+Bfo
提督『先の情報によれば、相手には装甲空母型の通称”鬼“と呼ばれるタイプが存在していたと思われます』
隼鷹『あたし等の同僚でいう所の装甲空母かい』
提督『ええ、実力は折り紙付だと認識して頂ければその脅威は相対せずとも感じ取れるはずです』
千歳『私達軽空母が正面からぶつかっても太刀打ちするのは難しい、か…』
提督『何も正面切ってのガチOコの殴り合いをする訳じゃありません。ただし、相手にそう思わせない事には始まりませんけどね?』
千歳『そう、思わせる?』
隼鷹『なんだい、そりゃ?』
提督『相手に思い込ませるんですよ。こっちには準備が出来ている。邪魔をするなら正面切って相手をしてやるぞ、とね』
提督『相手が誘いに乗ったらそこからが本当の勝負です。周りが異変に気付く前に、こちらの策が弄してある海域まで
相手を引き摺って連れて来なければなりません。正念場ですよ────』
ボボボボボボボボボボンッ
装甲空母鬼「フン、他愛もナイ……むっ!?」
青葉「それで終わりな訳ないじゃないですか、舐めてます?」ジャキッ
矢矧「前に出すぎなのよ」ジャキッ
装甲空母鬼「貴様等…ッ!」
ドン ドン ドン ドンッ
ボゴオオォォォォォォォォォン
装甲空母鬼「グッ…!おの、レ…!」小破
泊地棲鬼「下ガレ、装甲空母鬼!」
隼鷹「ビビッてそれ以上前には出れませんって感じかい?」ニヤッ
千歳「その重厚な装甲はお飾りって事かしら?」クスッ
装甲空母鬼「言わセテおけば貴様等ァ……ッ!!」ブチッ
泊地棲鬼「オイ、装甲空母……」
装甲空母鬼「黙レッ!たかが艦娘風情に、コレ以上ノ恥を晒せと言うツモリか!」
隼鷹「おーおー、怖いねぇ…あたしは素直に下がるけどね」スッ…
千歳「あ、ちょっと、いきなり下がらないでよ!」サッ…
装甲空母鬼「逃げルナ貴様等ッ!」ザッ
泊地棲鬼「チッ…我を忘れタカ。全体、装甲空母鬼の援護に回レッ!」
273: 2016/08/28(日) 22:56:16.16 ID:3g1Wp+Bfo
泊地棲鬼の檄が飛ぶ中、青葉達は互いに顔を見合わせ静かに頷き合う。
隼鷹と千歳は後方へ退きながらも追撃を封頃すべく次発発艦を完了している。
更に前へと出てきた装甲空母鬼の進行を寸断する艦攻艦爆に彼女の怒りは更に募り、噴火しても尚、更なる爆発を引き起こしそうになっていた。
彼女の怒りを垣間見て泊地棲鬼達は完全に艦娘達の動きを見落としてしまった。
その行動が如何に不自然なものか、少し考えれば今の泊地棲鬼達になら理解できたはずだろう。
そこまで思考が追いつかなかったのは、やはり今尚成長し続けているが故の弊害か。
成長し、進化し、完成するまでには月日が掛かる。
それを今この場で悠長に艦娘達が待つわけがないし、気に掛けるはずもない。
一分一秒を惜しんでいる彼女達にとっては、僅かな差異を見極める事に全神経を集中させているのだから。
装甲空母鬼「ソコを退け、駆逐艦風情ガッ!!」ザッ
潮「仲間を傷つけるのはだめです!」ジャキッ
秋月「ここより先は進ませはしません。この秋月が健在な限り、やらせはしません!」ジャキッ
ドン ドン ドン ドンッ
ボゴォォォォォォォォォォォン
装甲空母鬼「グッ…!次から次ヘト、目障りナ…!」小破
潮「分厚い、装甲…!」
秋月「私達の武装では貫ききれない…!」
装甲空母鬼「言った筈ダ、そこヲ退けトッ!」バッ
ヒュン ヒュン ヒュン
秋月「潮さん、私の後ろへ!」バッ
潮「は、はい!」サッ
秋月「やらせはしません!」ジャキッ
装甲空母鬼「ふん、雑魚ガ…!そのまま潰レテ爆ぜろ!」
ダダダダダダダダダダッ
ボボボボボボボボボボン
装甲空母鬼「なっ」
秋月「防空駆逐艦を余り舐めないで下さい。この力で、私は艦隊を守り抜きます!」
潮「」(か、かっこいい!)
274: 2016/08/28(日) 22:57:23.86 ID:3g1Wp+Bfo
装甲空母鬼「その程度ノ火力デ粋がるナヨ、艦娘風情がッ!」
秋月「ふふっ、だったらその自慢の艦載機で押し潰してみればいいじゃありませんか」
装甲空母鬼「何…!?」
潮「でも、他との連携を疎かにしているようでは無理です!」
矢矧「まだ気付けないのかしら?あなた、相当に猪突猛進型ね」
装甲空母鬼「ナッ……」
青葉「単純に互いの戦力差を考えれば自分達が有利だって気付けるもんですけどねぇ…」
矢矧「こちらは軽空母二人に重巡、軽巡各一人ずつ、残りは駆逐艦二人よ」
青葉「そちらは泊地棲鬼に貴女、装甲空母鬼を主軸にした主力部隊じゃないですか?随艦しているのも重巡リ級EL一匹に
軽巡ヘ級EL二匹、正直真っ向からぶつかったんじゃ勝ち目薄すぎますって」
装甲空母鬼「……マサカ……マサカ、貴様等…コノ、私ヲ…!」
隼鷹「今更気付いたかい?」ニヤッ
千歳「時既に遅し、かしらね。潮!」
潮「はい!」バッ
装甲空母鬼「何を…!」
泊地棲鬼「何ダ…!?」
潮「これで、袋のネズミです!」ジャキッ
潮は上空に向けて艤装を掲げると一気に引き金を引く。
ドン ドンッ
パァァァァァァン
装甲空母鬼「クッ…!何だコノ閃光は…!」
泊地棲鬼「マサカ…貴様等ァ…!」
275: 2016/08/28(日) 22:58:03.37 ID:3g1Wp+Bfo
上空へと打ち上げられた閃光弾。
その輝きを忌々しげに眼を細めて睨みつけながら泊地棲鬼はその時に至って漸く全てを理解した。
それと共に以前に黒提督に対して己が零した一言さえも、本当の意味で理解していなかったのだと痛感した。
──己の稚気を理解した──
驕りでしかなかった。
深海棲艦は本当の意味で艦娘には知力で遠く及んでいない。
不測の事態、想定外の連続、その事について艦娘達は驚き、一時の混乱を起こしたに過ぎない。
そして彼の真意に気付いていないが故に、彼女は苦虫を噛み潰したような苦々しい表情で小さく呟くのだった。
泊地棲鬼「何処マデも馬鹿にシテ…!何が好機ダ…!」
黒提督『好機だろう』
泊地棲鬼『何…?』
黒提督『相手も恐らくもう一度攻めてくる事は想定している。その上で策は弄しているだろうがな』
泊地棲鬼『ダガ正面からの突破ハ無謀ダ』
黒提督『ならば側面から突き崩せばいい。正面をそれだけ堅牢にしているのなら、側面は存外脆いものだ』
泊地棲鬼『…イイだろう。貴様の口車に乗ってヤル』
黒提督『受けた借りを返したいんだろう?だったら示して見せろ。貴様が強いと言う事を、この私に』
泊地棲鬼『フン…』
泊地棲鬼「生キテ、必ず貴様ヲ頃しに行くゾ…ッ!!」
そう意を決し見開いた瞳に怒りと憎しみ、そして悪意の炎を滾らせ泊地棲鬼は現れた艦隊にその矛先を向けた。
284: 2017/01/07(土) 01:09:49.30 ID:UXiI+PMgo
~溢れるもの~
-正義-
勧善懲悪。
善を勧め、悪を懲らしめると言うものだが、一般市民からしてみれば海軍と深海棲艦の構図はこの一言に集約される事だろう。
しかし、いつの世も相対するものがなんであれ善と悪では全てを括れない場合が存在する。
互いに信じるものがあり、その信じるものの為に互いの意見がぶつかり合い、交わる事がない為に争いは起こる。
互いが信じるものこそが善であり、各々が秘めるものこそが正義なのだ。
故に、構図は善と悪ではなく善と善になる。
艦娘を要する海軍にしてみればこの海を侵略してきた深海棲艦は敵であり、淘汰すべき存在である。
しかし深海棲艦にしてみればどうなのだろうか。
その存在定義を蔑ろにし、ただ海を侵略したという点と一般人に対して被害が出たという点から海軍は敵と見なした。
そう、これは人間の主観であり、艦娘達の主観なのだ。
誰も深くは考えなかった。
深海棲艦は何処から出でて何処へ向かおうとしているのか。
研究の対象とするには幾らか危険を伴うのも事実だったから敬遠されたのも頷ける。
しかし何を以て危険と判断し、生命の危機と捉えたのか。
対話の余地はなかったのか。
知恵を付け、海軍を翻弄するようになった深海棲艦は最早人にとってただの脅威でしかなくなってしまった。
その矛先をもっと別の方角へ向ける術もあっただろう。
しかし、それをしなかった。
いや、厳密にはさせなかった人物が居る。
恐らくは初めてであろう、深海棲艦との対話の機会を得た人物こそ、対話をすべきではなかった人物なのだ。
言葉巧みに深海棲艦を炊きつけ、己の手先として使役し、この世に混乱を巻き起こそうとしている人物。
この者には、正義と言う言葉自体到底当てはまりはしないだろう。
だが、それでも正義と言う言葉は利便性を兼ね備えた優秀な言葉であり、都合のいい言葉になる。
先にも述べたとおり、各々が秘めるものこそが正義なのだから。
そして、今この瞬間にその正義に目覚めて意を決した深海棲艦が居る。
己の善を布き、それを信じ、そして打ち砕かれた。
それ故に歪んでしまった歪曲した正義。
己の目的を全うすべく、全力を賭す覚悟を決めて包囲されながらも微塵も怖じる事無く仁王立ちの姿勢で眼前を見据える。
-正義-
勧善懲悪。
善を勧め、悪を懲らしめると言うものだが、一般市民からしてみれば海軍と深海棲艦の構図はこの一言に集約される事だろう。
しかし、いつの世も相対するものがなんであれ善と悪では全てを括れない場合が存在する。
互いに信じるものがあり、その信じるものの為に互いの意見がぶつかり合い、交わる事がない為に争いは起こる。
互いが信じるものこそが善であり、各々が秘めるものこそが正義なのだ。
故に、構図は善と悪ではなく善と善になる。
艦娘を要する海軍にしてみればこの海を侵略してきた深海棲艦は敵であり、淘汰すべき存在である。
しかし深海棲艦にしてみればどうなのだろうか。
その存在定義を蔑ろにし、ただ海を侵略したという点と一般人に対して被害が出たという点から海軍は敵と見なした。
そう、これは人間の主観であり、艦娘達の主観なのだ。
誰も深くは考えなかった。
深海棲艦は何処から出でて何処へ向かおうとしているのか。
研究の対象とするには幾らか危険を伴うのも事実だったから敬遠されたのも頷ける。
しかし何を以て危険と判断し、生命の危機と捉えたのか。
対話の余地はなかったのか。
知恵を付け、海軍を翻弄するようになった深海棲艦は最早人にとってただの脅威でしかなくなってしまった。
その矛先をもっと別の方角へ向ける術もあっただろう。
しかし、それをしなかった。
いや、厳密にはさせなかった人物が居る。
恐らくは初めてであろう、深海棲艦との対話の機会を得た人物こそ、対話をすべきではなかった人物なのだ。
言葉巧みに深海棲艦を炊きつけ、己の手先として使役し、この世に混乱を巻き起こそうとしている人物。
この者には、正義と言う言葉自体到底当てはまりはしないだろう。
だが、それでも正義と言う言葉は利便性を兼ね備えた優秀な言葉であり、都合のいい言葉になる。
先にも述べたとおり、各々が秘めるものこそが正義なのだから。
そして、今この瞬間にその正義に目覚めて意を決した深海棲艦が居る。
己の善を布き、それを信じ、そして打ち砕かれた。
それ故に歪んでしまった歪曲した正義。
己の目的を全うすべく、全力を賭す覚悟を決めて包囲されながらも微塵も怖じる事無く仁王立ちの姿勢で眼前を見据える。
285: 2017/01/07(土) 01:10:16.86 ID:UXiI+PMgo
泊地棲鬼「……コノ、命尽きるマデ……四肢ヲもがれヨウと、必ず目的ヲ果たす……ッ!掛かって来い、艦娘共ッ!!」
隼鷹「…何なんだい、あいつは…」
千歳「覚悟を決めたって、事なの…?」
ビリッ……
泊地棲姫「オノレ…忌々しい艦娘共メ…このヨウな策ヲ弄し、そうまでシテ我等ヲ深海へと誘おうとスルか…!」
飛龍「前方、青葉達が包囲した泊地棲鬼の様子に異変!」
蒼龍「何、あれは…」
大和「まさか…進化!?」
泊地棲姫「タダでは滅びヌ……私は…滅びぬゾ…!この、力を以て、コノ海に覇ヲ唱え、武ヲ布き、貴様等を根絶スル!
我が名は泊地棲姫、畏怖せぬ者共ヨ、氏を超越スルと言うのナラ、掛かって来いッ!ソノ悉くを屠り、今一度……水底へ還ルが良いワ…」
ザッ……
大和「やはり、これまでの敵とは一線を画す相手と見る他ありませんね」
泊地棲姫「ここマデが策か…!」
装甲空母鬼「……誘き寄せ。貴様等、初めカラこれが目的デ…!」
飛龍「青葉達が弱いとは言わないよ。けど、適材適所って言葉があるように、私達にはそれぞれに適した役割があるんだよ」
蒼龍「卑怯、なんて言葉は無しだよ?深慮の浅さが明暗を分けた。私達についてる提督は、そんなに甘くないっ!」
泊地棲姫「…先ノ包囲殲滅デ随艦は制圧されタカ」
装甲空母鬼「ツマリ、我々だけと言うコトか…!」
泊地棲姫「迂回スル事が解ってイタのか」
大和「ええ、概ねは」
泊地棲姫「だが、たったの三匹デ何ヲどうスル?」
大和「見縊って頂くのは構いませんが、己の立ち位置と言うものを把握された上で発言する事をお奨めします」
装甲空母鬼「何…?」
飛龍「単純な足し算と引き算さ」
蒼龍「こちらは三人、そちらは二匹」
飛龍「3-2は1…この時点で数では私達が有利」
装甲空母鬼「フッ…世迷言ヲ…」
大和「次に武装の有無です」
泊地棲姫「……チッ、そう言う事カ」
装甲空母鬼「…オイ、何を納得シテ…」
飛龍「うちの大和が君を抑える。私と蒼龍で、君を抑える」
286: 2017/01/07(土) 01:10:50.34 ID:UXiI+PMgo
飛龍は人差し指を順々に指しながら泊地棲姫と装甲空母鬼に指先を向けて答える。
想定を越えた進化。
しかしそれに怖じる訳にはいかない。
青葉達が作った決氏の舞台。
味方が用意してくれた土俵なのだ。
そこを敵に譲る訳にはいかない。
大和「青葉さん、皆さん。後はお任せ下さい。ここより先は、この大和型一番艦戦艦大和が率いる私達が推して参ります!」ザッ…
泊地棲姫「殺ス…ッ!!」ザッ…
この日、提督の指揮の下に作戦を実行した大本営陣営は大勝を収めた。
難敵の通称”鬼“や”姫“と呼ばれる上位の深海棲艦を複数葬り、内一匹は捕虜として捕縛するに至ったのだ。
提督「…………」
武蔵「どうした、随分と険しい顔じゃないか。結果だけを見れば大勝じゃないのか」
提督「ええ、結果だけならば、確かにそうですね」
武蔵「つまりはそう言う事かよ」
提督「ええ、腑に落ちない。と言うのが正直なところでしょうか。同時に、彼女には些かの同情を隠しきれませんね」
武蔵「鬼の目にも涙ってわけかよ?」
提督「君は本当に僕を何だと思っているんでしょうかねぇ…」ムスッ…
武蔵「くくっ、何度目になる問答だよ。大喜利にすらなってないぞ」
提督「僕は大喜利をしているつもりはないんですけどねぇ」
武蔵「はいはい。それでも、この勝利はでかい…だろ?」
提督「ええ、皆さんを鼓舞するには十二分の成果と効果を持っている事でしょう」
武蔵「だったら今はそれで良いじゃないか。小難しい話は提督陣営だけでやってくれ。出された結果と概要に沿って私等は動くだけさ」
提督「やれやれ、自分の頭で整理が追いつかないと直に投げ出す。君、この悪癖は余り付けない方が身の為ですよ」
武蔵「うーるっさいなぁ。私は考えるより体動かしたいタイプなんだよ。ほっとけっての」ムスッ…
287: 2017/01/07(土) 01:14:53.82 ID:UXiI+PMgo
瑞鶴「あの二人ってさー、仲が良いのか悪いのか、良く解んないよねー。ねぇ、翔鶴姉はどう思う?」
翔鶴「どうって…いつも通りに見えるけど?」
翔鶴「それよりも瑞鶴、艦載機の手入れは終わったの?」
瑞鶴「あっ、やば…!」
翔鶴「全くもう…ちゃんと整備して、試運転も済ませておくのよ」
瑞鶴「はいはーい…っと、よし!それじゃ行ってくるね!」タッタッタ…
翔鶴「はぁ、本当にもう、あの子ったら…」
瑞鶴「うーん…と、ひーふーみー……うん、ちゃんと揃ってる♪あとはっと…ん?」チラッ
場所を浜辺近くに移し、瑞鶴は武装の点検と艦載機の点検及び整備を行っていた。
本来であれば弓道場などで行う事が空母達にとっては通例だが瑞鶴は海風に当たりながらが好きらしい。
以前にそれで加賀と衝突もしているが、このスタイルだけは変えていない。
そんな場で瑞鶴の視界に二つの陰が映り込み、それに視線を向けて見る。
木曾「おら、でち公!もっとこっちだ!」
ゴーヤ「でち公っていうなでち!」バシュッ
サッ……
パァァァァァァン
木曾「へっへっへー、当たりませんってな」ニヤッ
ゴーヤ「むっか~…!」
瑞鶴「あれって、木曾とゴーヤ?何してるんだろ…」
ゴーヤ「当てるでち!」サッ
木曾「あたっかよ、ばぁか♪」ヒョイッ
パァァァァァァン
ゴーヤ「むきーっ!」
木曾「っしょっと…お、何だよ瑞鶴、居たのか」
瑞鶴「あぁ、うん。何してたの?」
木曾「ん、おおこれか。へへっ、こいつの練習相手みてぇなもんだ」ポンポン
ゴーヤ「んあー、頭叩くなでち」ブンブンッ
瑞鶴「二人ってホント仲良いよねぇ」クスッ
木曾「んん?あぁ、まぁ腐れ縁みてぇなもんか?」
ゴーヤ「ゴーヤと木曾は同時期にこの鎮守府に着任した艦娘でち。その頃からの仲でち?」
木曾「まぁ、そうなるな。なんでかしんねぇけど、こいつとはウマが合うんだよ」ニヤッ
288: 2017/01/07(土) 01:15:29.73 ID:UXiI+PMgo
瑞鶴「へぇ、そうだったんだ」
木曾「んで、お前はここで何してんだよ」
瑞鶴「こーれ」スッ…
ゴーヤ「艦載機?」
瑞鶴「そっ!整備と調整、あとは微調整して最後に試運転して終わりかな」
木曾「くくっ」
瑞鶴「な、何よ」
木曾「いや何、板についてきてんなって思ってよ」
瑞鶴「?」
木曾「その、なんだ…加賀はよ、まだ目覚めてねぇだろ。けどよ、こうしてお前がその分踏ん張ってよ、赤城と肩並べて第一部隊を引っ張ってってる。
翔鶴は隼鷹や千歳、軽空母組を統率して第二部隊の空の目をきっちりこなしてる。すげぇよなって思ってよ。何より、あの提督が本気出してからは
目を見張る活躍振りだ。正直嫉妬しちまうぜ」
ゴーヤ「ゴーヤ達はどうしても後方支援や事後処理、偵察任務が殆どでち」
木曾「花形はどうみたって最前線!戦場の真っ只中だ。無論、危険も多いし氏のリスクも付き纏う。当時は旗艦だつっても第三部隊って事で
不満も多かった。俺にだって第一で駆けるだけの実力はあんのに何でだよってさ」
瑞鶴「木曾…」
木曾「でもよ、そんな時にこいつが言ったんだよ。ゴーヤ達は縁の下の力持ち、いざと言う時の最後の砦なのでちってな」ニヤッ
瑞鶴「最後の、砦…」
ゴーヤ「そーでち!てーとくも言ってたんでち。皆さん第三部隊が役割を全うしているからこそ、第一第二部隊は何の憂いもなく前線に立てるんですよって」
木曾「この世に不要なモンなんてのはねぇ。あの提督はそう言ったんだ。だからよ、お前等は前だけ見とけよ。後ろは俺等がきっちり固めてやっからよ。
なぁに、加賀だって今までクソ真面目に早寝早起きでちょっと遅めの反抗期迎えて寝過ごしてるだけだ。直にお前に悪態つきに舞い戻ってくんだろうよ。
あいつが戻ってきた時に、前と変わってたら戸惑っちまうだろ。ん、いや……良い意味でなら変わってても良いのか?」
ゴーヤ「どっちでもいいでち。木曾は回りくどいんでち」
木曾「う、うるせぇ!」
ゴーヤ「木曾は『ガンバレ』って言いたいだけでち♪」
瑞鶴「がんばれ…?」
木曾「ばっ、おまっ……!///」
ゴーヤ「ふふっ、瑞鶴は今のままでいいんでち。木曾も言ってたでしょ、加賀さんだって直に戻るって」
瑞鶴「う、うん」
ゴーヤ「だから、瑞鶴は前だけ見てて欲しいでち。後ろは、ゴーヤ達がガッチリ固めておくんでち!」
木曾「普段通りにしてるつもりだろうけどよ…バレバレだぜ、お前。もちっと周りに頼る事を覚えんだな。周りはお前が思うほど迷惑には感じちゃねぇよ」
木曾「一人じゃたりぃ事でも、二人三人でやりゃあちったぁマシになる事もあんだろ。っしゃ、そんじゃ戻るかゴーヤ」
ゴーヤ「うぃー!」
瑞鶴「あ、あのさ!」
木曾「あん?」
瑞鶴「ありがとね、木曾…それからゴーヤも!」
木曾「……へっ、礼はいらねぇから代わりに実績残しといてくれよ」
瑞鶴「ふふ、りょーかい!」
ザザァァァ……
三人がその場を後にするその遥か後方。
規則正しく波打つ海に六つの黒い影が静かに蠢く。
今、静かに第二幕の鬨の声が上げられようとしている。
木曾「んで、お前はここで何してんだよ」
瑞鶴「こーれ」スッ…
ゴーヤ「艦載機?」
瑞鶴「そっ!整備と調整、あとは微調整して最後に試運転して終わりかな」
木曾「くくっ」
瑞鶴「な、何よ」
木曾「いや何、板についてきてんなって思ってよ」
瑞鶴「?」
木曾「その、なんだ…加賀はよ、まだ目覚めてねぇだろ。けどよ、こうしてお前がその分踏ん張ってよ、赤城と肩並べて第一部隊を引っ張ってってる。
翔鶴は隼鷹や千歳、軽空母組を統率して第二部隊の空の目をきっちりこなしてる。すげぇよなって思ってよ。何より、あの提督が本気出してからは
目を見張る活躍振りだ。正直嫉妬しちまうぜ」
ゴーヤ「ゴーヤ達はどうしても後方支援や事後処理、偵察任務が殆どでち」
木曾「花形はどうみたって最前線!戦場の真っ只中だ。無論、危険も多いし氏のリスクも付き纏う。当時は旗艦だつっても第三部隊って事で
不満も多かった。俺にだって第一で駆けるだけの実力はあんのに何でだよってさ」
瑞鶴「木曾…」
木曾「でもよ、そんな時にこいつが言ったんだよ。ゴーヤ達は縁の下の力持ち、いざと言う時の最後の砦なのでちってな」ニヤッ
瑞鶴「最後の、砦…」
ゴーヤ「そーでち!てーとくも言ってたんでち。皆さん第三部隊が役割を全うしているからこそ、第一第二部隊は何の憂いもなく前線に立てるんですよって」
木曾「この世に不要なモンなんてのはねぇ。あの提督はそう言ったんだ。だからよ、お前等は前だけ見とけよ。後ろは俺等がきっちり固めてやっからよ。
なぁに、加賀だって今までクソ真面目に早寝早起きでちょっと遅めの反抗期迎えて寝過ごしてるだけだ。直にお前に悪態つきに舞い戻ってくんだろうよ。
あいつが戻ってきた時に、前と変わってたら戸惑っちまうだろ。ん、いや……良い意味でなら変わってても良いのか?」
ゴーヤ「どっちでもいいでち。木曾は回りくどいんでち」
木曾「う、うるせぇ!」
ゴーヤ「木曾は『ガンバレ』って言いたいだけでち♪」
瑞鶴「がんばれ…?」
木曾「ばっ、おまっ……!///」
ゴーヤ「ふふっ、瑞鶴は今のままでいいんでち。木曾も言ってたでしょ、加賀さんだって直に戻るって」
瑞鶴「う、うん」
ゴーヤ「だから、瑞鶴は前だけ見てて欲しいでち。後ろは、ゴーヤ達がガッチリ固めておくんでち!」
木曾「普段通りにしてるつもりだろうけどよ…バレバレだぜ、お前。もちっと周りに頼る事を覚えんだな。周りはお前が思うほど迷惑には感じちゃねぇよ」
木曾「一人じゃたりぃ事でも、二人三人でやりゃあちったぁマシになる事もあんだろ。っしゃ、そんじゃ戻るかゴーヤ」
ゴーヤ「うぃー!」
瑞鶴「あ、あのさ!」
木曾「あん?」
瑞鶴「ありがとね、木曾…それからゴーヤも!」
木曾「……へっ、礼はいらねぇから代わりに実績残しといてくれよ」
瑞鶴「ふふ、りょーかい!」
ザザァァァ……
三人がその場を後にするその遥か後方。
規則正しく波打つ海に六つの黒い影が静かに蠢く。
今、静かに第二幕の鬨の声が上げられようとしている。
289: 2017/01/07(土) 01:15:57.96 ID:UXiI+PMgo
今回はここまで
保守ありがとうございます
保守ありがとうございます
290: 2017/01/07(土) 16:39:35.47 ID:AJquroF+o
乙
次回:
引用: 【艦これ】提督「長閑ですねぇ」
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