689: 2014/03/23(日) 00:49:20.58 ID:SGdVKuDg0


最初へ:【艦これ】提督「戦いが終わり……」

前回:【艦これ】提督「戦いが終わり……」【その5】

 瑞鶴「────で、帰り道にちょうど私と翔鶴姉の家があったから寄ったのね?」

提督「ああ」

ヲ級「ヲ!」

瑞鶴「…………あわよくば、ご飯も頂こうと?」

提督「……てへ♪」

ヲ級「ヲ♪」

瑞鶴「はっ倒すわよ?」

提督「すいません」

ヲ級「ゴメンナサイ」

瑞鶴「…………はぁ……」

瑞鶴「あのね? 私にだって都合ってものがあるのよ?」

瑞鶴「そっちの都合で急に来られたら困るの。分かる?」

提督「仰るとおりです……」

ヲ級「ヲ……」

瑞鶴「ホウレンソウは基本でしょ?」

瑞鶴「いい年して全く……」

提督「………………」

ヲ級「………………」

瑞鶴「……まぁ、いいわ」

瑞鶴「大したものは作れないわよ?」

提督「……え? つ、作ってくれるのか?」

瑞鶴「……他の人なら追い返してるけどね」

瑞鶴「提督さんは特別よ?」

提督「……瑞鶴って何だかんだいって優しいんだよな」

提督「俺、お前のそういうとこ好きだよ」

瑞鶴「────────っ!?」

ヲ級「……ムゥ」

瑞鶴「い、いきなり変なこと言わないでよねっ!」

瑞鶴「や、優しいとか、す、好き、とか……」

瑞鶴「……と、とにかく! 二人ともそこで静かに待ってなさいよね!」

提督「はーい」

ヲ級「……ハイ」


艦隊これくしょん -艦これ- 海色のアルトサックス(4) (角川コミックス・エース)
690: 2014/03/23(日) 00:52:00.64 ID:SGdVKuDg0



提督「何が出てくるか楽しみだなー」

提督「な、ヲ級?」

ヲ級「………………」

提督「ヲ級? どうした?」

ヲ級「……提督ハ、私ノコト好キ?」

提督「おいおい、急にどうした?」

ヲ級「答エテ」

提督「んー、好きだぞ? 嫌いならこうやって面倒見たりしないしな」

ヲ級「ソウ……」

ヲ級「……私モ好キ」

ヲ級「提督ノコト好キ」

提督「そうか」

提督「それじゃあ俺と同じだな。あっはっはっ」

ヲ級「…………」

ヲ級(……違ウ)

ヲ級(提督ノ『好キ』、私ノ『好キ』ト違ウ)

ヲ級(……上手ク伝ワラナイ)



691: 2014/03/23(日) 00:53:23.64 ID:SGdVKuDg0



瑞鶴「────っと、こんな感じでいいかしら?」

ヲ級「ヲ」

瑞鶴「あら? どうかしたの?」

瑞鶴「ご飯なら今ちょうど出来たところよ」

ヲ級「ヲ皿、運ビニ来タ」

瑞鶴「へぇ、気が利くじゃない」

瑞鶴「それじゃあこれ、持って行ってくれる?」

ヲ級「任サレタ」

ヲ級「…………ネェ」

瑞鶴「何?」

ヲ級「『好キ』ハイロイロアルノ?」

瑞鶴「…………ふふっ」

瑞鶴「アンタでもそういうこと考えるのね」

瑞鶴「……でも、そういうのは誰かに聞いて分かるようなものじゃないわ」

瑞鶴「成長すれば自ずと分かるようになるからそれまで大人しく待ちなさい。いいわね?」

ヲ級「……成長」

ヲ級「ドウスレバ?」

瑞鶴「……あー、それは」

瑞鶴(この子ってそもそも成長するのかしら?)

瑞鶴(私の知ってるヲ級がアレだから、あのくらいまでには成長すると思うけど……)

瑞鶴「よく食べてよく寝る。そうすれば大丈夫よ…………多分」

ヲ級「ヨク食ベテ、ヨク寝ル」

ヲ級「分カッタ。頑張ル」



692: 2014/03/23(日) 00:54:19.13 ID:SGdVKuDg0


────────────────
────────────────
────────────────



693: 2014/03/23(日) 00:55:16.22 ID:SGdVKuDg0



提督「帰って来たぞー!」

ヲ級「ゾー」

提督「うおっ、郵便いっぱい来てるな……」

提督「…………マジか」

ヲ級「提督、ドウカシタ?」

提督「いやそれがさ……」

提督「お前のご飯、まぁ鋼材とかのことなんだけど、俺達がいない間も届けられてたみたいなんだ」

ヲ級「……ツマリ、ゴ飯イッパイ?」

提督「ああ、当分はお前の食料には困らないな」

提督「……ちょっとずつ消化していくか」

提督「ともかくお疲れ様、ヲ級」

提督「初めての長旅は疲れたろ? 今日はゆっくり休むぞ」

ヲ級「……ヲ」



694: 2014/03/23(日) 00:56:25.56 ID:SGdVKuDg0


────深夜 倉庫


ヲ級「……ンッ……ンッ……」

ヲ級「……ケフッ」

ヲ級(食ベテ、成長スル)

ヲ級「……頑張ル」



695: 2014/03/23(日) 00:57:59.72 ID:SGdVKuDg0










ヲ級「オハヨウ、提督」

提督(朝起きたら体が何故か大学生くらいにまで成長していて、それによってパッツンパッツンになってしまった服を着ているヲ級が、俺に添い寝していた件について)

提督「……え、どゆこと?」

ヲ級「ヲ?」

提督「ああうん、とりあえず離れてくれ」

提督「その状態で抱きつかれるのはいろいろとヤバいから」

提督(これは朝の整理現象だ。そうに違いない)



725: 2014/03/30(日) 15:00:41.14 ID:/VwCVguA0


提督(ヲ級が俺達のよく知るサイズにまで成長して早数ヶ月……)

提督(成長したとはいっても特にこれといった出来事も無く、俺とヲ級はいつものように皆のところに遊びに行ったり、逆に遊びに来られたりする毎日を送った)

提督(そして夏を迎えた俺達は────)






「海なのです!」

「海じゃーん♪」

「海デース!」

「潮風ってわびさびだよねぇ……」

「はぁ……海はこんなに青いのに……」

「出撃以外で海に来るなんて初めてでち!」

「焼きそばおかわりお願いします」

「やっぱ海の家で飲む酒は良いねぇ!」



提督「────全員で海に来ました」



726: 2014/03/30(日) 15:01:56.44 ID:/VwCVguA0



提督「────で、お前らはせっかく海に来たのに泳がないのか?」

提督「皆とワイワイ騒ぐのも楽しいもんだぞ?」

響「私もそう思う」

響「でも海水は髪に良くないからね。遠慮させてもらうよ」

提督「なるほどなるほど、確かに響の言うとおりだ」

提督「……暁も同じ理由か?」

暁「と、当然じゃない!」

暁「海ごときでは、はしゃいだりなんて……」

提督(……ちらちらと響と海を交互に見てる)

提督(ふーん、なるほどねー)

提督「……とは言っても皆が一堂に会する機会なんて滅多にないんだから、今日くらいはしゃいでも罰は当たらないと思うし、むしろ楽しく過ごす方が得だと思うけどな」

提督「……なあ、そう思わないか響?」

響(………………)

響(乗れ、ということなんだろうね)

響「……ふむ、確かに」

暁「ひ、響?」

響「すまない暁」

響「今さら1人で行くのは恥ずかしいから、一緒に行ってくれないかな?」

暁「っ!?」

暁「し、仕方ないわねー!」

暁「そんなに言うなら仕方ないから着いてってあげるわ!」

暁「準備してくるから待ってなさい!」

響「ありがとう、恩に着るよ」

暁「…………ふふふーん♪」

提督「…………」

響「…………」

提督「……途中でスキップしてたな」

響「……してたね」



727: 2014/03/30(日) 15:03:22.45 ID:/VwCVguA0


提督「そんなに行きたかったなら行けば良かったのに……。暁も難儀な性格してるよな」

響「最初は行くつもり満々だったんだけどね。私が遠慮したら暁も急に行かないと言い出したんだ」

提督「つまんない意地張りやがって……」

提督「成り行きとはいえ巻き込んでしまってすまんな」

響「司令官が気にすることはないよ」

響「遅かれ早かれこうなると思っていたからね」

提督「そうか、それならよかった」

暁「────待たせたわね! 行くわよ響!」

響「……ああ」

響「それじゃ行ってくるよ、司令官」

提督「待て響。水着はどうした?」

響「それはこの通り」

響「────ちゃんと着ているよ」

提督「こら、指でシャツを下げるな。女の子がそういうこと男の前でやっちゃいけません」

提督(紺のスク水か……。名前が平仮名じゃなくて漢字で書かれていたけど、それはそれでアリだな)

響「ふふっ、司令官にだけだよ?」

提督「はいはい、いいから行ってこい。暁が待ってるぞ」

響「ああ。司令官、また後でね」

提督「おう」

提督「……………………ふぅ」

提督「最近の子供はませてるのか?」

提督「将来がちょっと心配だな……」

曙「ガン見してたくせに何言ってんのよ」



728: 2014/03/30(日) 15:04:21.17 ID:/VwCVguA0


提督「……居たのか、曙」

曙「居ちゃ悪い?」

提督「そういうわけじゃあないが……はぶられたりした訳じゃないよな?」

曙「失礼ね」

曙「疲れたからちょっと休憩しにきただけよ。友人の一人もいない提督と一緒にしないでくれる?」

提督「だって深海悽艦と戦ってたし! 機密情報多いから話題に出来ないし! 仕方ねえだろぉ!」

曙「な、何泣いてんのよ……」

曙「大の大人がいい年して……引くわよ?」

提督「俺だってなぁ、俺だってなぁ……!」

曙「あーもう、うるさい!」

曙「私が悪かったわ、謝るからしゃんとしてよね!」

提督「うぅ……」

曙「まったく……」

曙「今の今まで何もして来なかったの? 提督は中身アレだけどそういうの得意じゃない」

曙「自分で言っといて何だけど、正直友人が一人もいないっていうのが信じられないわ」

提督「……………………」

提督「まぁ、いろいろあるんだよ」

曙「何それ?」

提督(つい最近まで軟禁状態だったから、新しい友達がいないのは当然)

提督(そんでもって昔の友人、こいつらも男友達からは艦娘紹介しろの一点張りだし、女友達からは口リコンって言われるし……散々だった)

提督(口リコン違います、軍部が一般の人達向けのPRに起用したのが駆逐艦娘だっただけで、ちゃんと大人な艦娘の指揮もしてます)

提督(説明したくても機密事項だし、どうにもならなかったんだよなぁ……)

曙「ちょっと、クソ提督?」

曙「私の話、ちゃんと聞いてるわよね?」

提督「あ、うん。ちゃんと聞いてるぞ」

曙「聞いてなかったわね?」

曙「…………はぁ、まぁいいわ」



729: 2014/03/30(日) 15:05:28.91 ID:/VwCVguA0


提督「どうした? 休憩終わりか?」

曙「提督と一緒に居る方が疲れるから戻るだけよ」

曙「それはそうと、提督は泳がないの?」

提督「俺、カナヅチなんだ」

曙「……呆れたわ」

曙「深海悽艦を相手取る提督がカナヅチだなんてとんだ皮肉ね」

提督「執務室で指揮するだけで本当に良かったよ」

曙「……よければ教えてあげるわよ?」

提督「その何か企んだ笑顔をしてなかったら頼むとこなんだけどな……」

提督「俺のこと沈める気だろ」

曙「残念。良い薬になると思ったのに」

提督「俺のことはいいから存分に遊んでこい」

曙「そうね、お言葉に甘えさせてもらうわ」

曙「────ん、しょっと。これ、預かっといて」

提督「……いきなり上着脱ぐなよ、心臓に悪いだろうが」

曙「何、興奮したの? クソ提督」

提督「するか馬鹿」

提督(白を基調にした花柄のワンピース水着。Aラインにしてるのが何というか曙らしいな)

提督「…………水着、似合ってるぞ」

曙「なっ……!?」

曙「じ、ジロジロ見てんじゃないわよ!」

曙「このクソ提督っ!!」



730: 2014/03/30(日) 15:06:45.51 ID:/VwCVguA0


──────────────

──────────────



731: 2014/03/30(日) 15:07:55.25 ID:/VwCVguA0


提督「────おーい皆ー、そろそろ上がれよー」

イムヤ「あっ、司令官」

提督「おっ、イムヤか」

提督「どうだ、今日は楽しめたか?」

イムヤ「ええ、とっても楽しかったわ!」

提督「そりゃ良かった」

提督「それで、頼んでたヲ級は?」

イムヤ「もう少ししたら戻るって言ってたわ」

イムヤ「……それにしてもあのヲ級、凄いわね」

イムヤ「私達と同じくらい潜水出来るのよ?」

提督「マジ……?」

イムヤ「ホントよ。空母じゃなかったら潜水艦にでもなってたんじゃないかしら?」

イムヤ「もしくは潜水艦と空母を足したような新型とか?」

提督「……えーと、そうなると先制雷撃と先制爆撃をして、雷撃戦と夜戦もこなす深海悽艦になるわけか」

提督「何それ怖い」

イムヤ「……想像してぞっとしたわ」

提督「まぁでもそんな高スペックな敵なんていないだろ」

提督(……いないよね?)



732: 2014/03/30(日) 15:08:42.60 ID:/VwCVguA0


イムヤ「ところでこの後ってどうするの?」

提督「近くの場所を借りてるからそこでバーベキューだな」

提督「ちなみに花火もある」

イムヤ「へぇ、良いわね」

提督「たまにしか集まれないからな。パーッと遊ぶべきだろ?」

イムヤ「……そういえばそうなのよね」

イムヤ「こうやって遊ぶのって、これからは難しくなっていくんでしょ?」

提督「皆それぞれ用事と事情があるからな……」

提督「まぁでも安心しろ。実は次の催しもすでに目処が立ってるから」

イムヤ「えっ? なになに?」

提督「……秘密」

イムヤ「ちょっと、教えてよっ!」

提督「実行出来るくらい煮詰まったらなー」

イムヤ「もうっ……!」

イムヤ「………………ねぇ、司令官」

提督「何だ?」

イムヤ「それ、楽しみにしてるからね?」

提督「……おう、任せとけ」

イムヤ「ふふっ♪」



733: 2014/03/30(日) 15:09:55.09 ID:/VwCVguA0





ヲ級(……楽シイ)

ヲ級(海ガコンナニ心地良イ場所ダッタナンテ、知ラナカッタ)

ヲ級(提督ト、艦娘ノ皆ト居ルト、ドンドン楽シクナル)

ヲ級(ズット、傍ニ居タイ)

ヲ級(…………違ウ)

ヲ級「ズット皆ノ傍ニ居ル」

ヲ級「私ハモウ戻ラナイ」



リ級「………………」

ヨ級「………………」

ル級「………………」

タ級「………………」



ヲ級「……ジャアネ」



734: 2014/03/30(日) 15:10:40.73 ID:/VwCVguA0




提督(鎮守府を使ってのお泊まり会……)

提督(さーて、どこから手をつけましょうかねぇ?)





735: 2014/03/30(日) 15:13:04.78 ID:DRDthFpI0


これにて終了。

長らくお付き合い頂きありがとうございました。


次回から番外編ですがその前にちょっと設定ばらしします。



745: 2014/04/02(水) 22:56:38.70 ID:mV0gVoPz0

こんばんは。

嫉妬する山城さん投下します。

キャラ崩壊があるので注意。
なお、本編との関連は全くありません。



746: 2014/04/02(水) 22:58:25.34 ID:mV0gVoPz0


「提督、お疲れ様です」

「ああ、扶桑こそお疲れさま。何か用か?」

「はい、実は今日の遠征で────」



747: 2014/04/02(水) 23:10:32.67 ID:fX0Yn76v0

ちょっと重い?
テストです。


748: 2014/04/02(水) 23:11:44.04 ID:fX0Yn76v0


「提督、お疲れ様です」

「ああ、扶桑こそお疲れさま。何か用か?」

「はい、実は今日の遠征で────」



749: 2014/04/02(水) 23:12:37.19 ID:fX0Yn76v0


 はぁ……。

 間宮食堂、その一角。隅の席に座って食事をしていた私は、食堂の入り口で歓談を始めた実の姉と提督を一瞥し、ため息をつく。
 その光景を目にしたことでもやもやとした感情が胸の内に渦巻き、とどまっている。ここ最近で何度も起こっているこの現象は目下悩みの種なのだが、対処法が分からない私は歯がゆさを感じるしかない。

 不幸だ。
 空はこんなに青…………これは姉様の台詞か。


「やれやれ、楽しい食事の時間を陰鬱とした空気で台無しにしようとしてるのはどいつだ?」


 そう言いながら私の隣に座る人影。
 許可した覚えもないのに隣に座るとは、どうやら世界のビッグセブンは図々しさも人一倍らしい。


「……何だその目は。やらんぞ?」


 要りませんよ。
 昼間からとんかつ定食なんて、重すぎて食べれるはずがないでしょう。そんなのを昼に食べれるのなんて、あなたや赤城、それと加賀くらいです。一緒にしないで下さい。


「あいつらと私を一緒にするな。赤城と加賀はこれの三倍食う」


 ……要らない情報をどうも。
 あの人達は前線で戦っているから、よく食べるのかしらね?


「……ふむ。ここは笑うところだったと思うのだが……、元気付けるというのは存外に難しいものだな」


 …………どうやら、気を遣わせてしまったらしい。

 誰かに優しくするようなそんな柄ではないくせに。

 そんな思いが頭をよぎるが、逆に言えばそんな堅物な彼女が心配するくらい、私の様子はひどかったということだろう。

 ……ほんのちょっと、見直した。

 ただしほんのちょっとだ。
 長門は知らないかもしれないが、彼女が使っている主砲は私が以前使用していたものなのだ。
 適材適所と言わんばかりに今ではすっかり彼女の兵装となっているが、私は認めた訳ではない。

 いつか必ず返してもらう。

 そう思い続けて早三ヶ月…………。
 ……やっぱり諦めようかしら。その方が賢明な気がするわ。


「おい、更に目が氏んだぞ」


 うるさい。あなたのせいです。


750: 2014/04/02(水) 23:13:55.53 ID:fX0Yn76v0


「まぁ、あれだ。同じ戦艦というよしみだ。悩みが有るなら聞くぞ?」


 若干の戸惑いを含みつつ、彼女がまた私を気遣う。
 違います。私は航空戦艦です。
 一緒にしないで下さい。


「そういうのはいい。さっさと話せ」


 ……おかしい。承諾してもいないのにお悩み相談が始まってしまった。逃げようにもその気配を察知したのか、彼女の右手が私の肩を抑え、席から立ち上がることを妨害する。腕力でどうにかするなんて、流石はビッグセブン。でも残念だったわね。私の肩が悲鳴をあげていることを察してくれれば、あなたに対する評価は上がっていたのに。

 あ、それ以上いけない。


 ……あちらをご覧下さい。


「提督と扶桑が楽しそうに話をしているな。それがどうした?」


 決して圧力に負けたわけじゃない。
 ただ私は馬鹿ではないので、話す方が利口だと悟ったまでです。本当ですよ?

 疑問に小首を傾げる彼女から視線を外し、コップに入った氷を指で弄りながら私は問いに答える。

 あの二人が一緒にいると、楽しそうにしていると、何というか、その、……もやもやするんです。


「……うん?」


 昔はイライラしたんですよね。
 姉様に近付く輩を放っておけませんから。
 でも最近はもやもやするんです。長門さん、分かります?


「……あー、うん。お前はどう結論を出しているんだ?」


 質問を質問で返すと0点だって夕張が言ってましたよ?
 でもそうですね。私なりに考えてはみたんです。最近感じるようになったもやもやは未だに分からないのですが、それ以前のイライラに関しては結論が出ました。

 ずばり、私は提督に嫉妬していたのではないかと。


「……そっち?」


751: 2014/04/02(水) 23:15:35.33 ID:fX0Yn76v0


 いや、他に何があるんですか?

 悔しいことに扶桑姉様は提督にぞっこんです。バーニングラブです。
 これで提督がろくでもない男なら命を掛けてでも止めるのですが……。
 長門さんならお分かりでしょう?


「まぁ提督は上に立つ人間としても、一人の人間としても、良い男に分類されるだろう」


 非常に業腹ですが、私も同意見です。
 ですがご存知の通り提督は鈍感の唐変木ですので、姉様の精一杯のアピールも受け流してます。
 扶桑姉様があれだけ尽くしてくれているのですよ? なんて羨ましい! それを無碍にするなんて、なんと腹立たしい!


「……だから提督に嫉妬、イライラしていたと?」


 そうです。
 そしてそのイライラがもやもやに変わったのは、ついこの前起きた出来事が原因だと私は推測しています。


「ほう?」


 忘れもしません。それは四日前のお休みの日のことです。
 扶桑姉様は提督に料理を作ってあげるのだと言って、部屋に備え付けてあるキッチンに立ちました。
 そして言ったんです。

『提督は濃い目がお好きそうよね?』

 ……と。


752: 2014/04/02(水) 23:16:42.05 ID:fX0Yn76v0


「…………違うのか?」


 違いますよ。提督はあんな見た目ですが薄味が好みなんです。濃い目でも美味しく食べてはくれますが、箸の進み具合で丸わかりです。

 どうしたんですか? 眉間に手なんか当てて。


「……いや、気にするな。続けてくれ」


 む、何だか気になりますが……まぁいいでしょう。
 それで私は、提督は薄味の方がお好きですよ、と姉様に教えてあげたのですが……姉様は驚いた後、笑顔で嬉しそうに言ったんです。

『提督のこと、よく知っているのね。何だか私も嬉しいわ』

 ……私、そう言われてどう感じたと思います?
 …………私は、『嬉しい』と思ってしまいました。

 姉様から提督の名前を聞く度、イライラしていたのに、私はその時『嬉しい』と思ってしまったんです。

 それからですよ。イライラじゃなくてもやもやするようになったのは。つまり嫉妬ではなくなったということなのでしょうけど……本当、なんなんでしょうね?

 長門さん、頭痛ですか?
 先ほどから頭を抑えていますけど……。


「……気にするな。ところで山城、提督の好みを知ってるか? 食べ物だろうが何だろうがいいから、知ってる範囲で言ってみてくれ」


 何ですか藪からスティックに。

 そうですね……好きな食べ物は魚介類、とりわけカツオが好きです。生まれが沿岸で、祖父がカツオ漁の漁師をやっていたため、小さい頃からよく食べているうちに好きになったそうですよ。好きな色は黒で、理由はかっこいいからと言ってました。提督ってそういう子供っぽいところが多いんですよね。好きな音楽はクラシック、好きなスポーツはバスケット……ああ、そう言えば好みの女性も話してました。手のかかる妹みたいな子が好きらしいです。それに黒髪のショートで、幸薄そうだとなお良いとも。えーと後は…………。

 長門さん、本当に大丈夫ですか?
 頭なんか抱えて……医務室行きます?


「……大体お前のせいだ」


 八つ当たりだなんて……。
 失望しました。那珂ちゃんのファンになります。


753: 2014/04/02(水) 23:18:03.10 ID:fX0Yn76v0


「もうお前の好きにすればいいんじゃないか?」


 これだけ話を聞いておいて、無責任ですね。
 ────あっ、私ちょっと失礼します。


「どうした?」


 扶桑姉様が提督との話を終えたみたいなので、提督に話を聞いてきます。扶桑姉様にいらないことを吹き込んでないかを確認しなければいけませんし、午後の演習についても連絡がありますし。

 私の昼ご飯、食べても良いですよ。

 どうやら長門さんと話している内にもやもやも消えたみたいですし、お礼みたいなものです。
 それにしても話すだけでも効果があるんですね。ありがとうございました。またお願いしてもいいですか?


「それは単に扶桑と提督の会話が終わったからでは…………いや、いい。相談は……たまになら」


 そうですか、それではそのときはよろしくお願いしますね♪


754: 2014/04/02(水) 23:18:55.22 ID:fX0Yn76v0




「提督、少しお時間よろしいですよね!」




755: 2014/04/02(水) 23:19:59.65 ID:fX0Yn76v0






 小走りで駆けていく山城の背中から視線を外し、すっかり冷めたとんかつ定食に箸をつける。

 ……慣れないことをするものではないな。
 ああ言っといてなんだが、相談を持ちかけられないことを祈ろう。頭が痛くなる話は当分ごめんだ。

 ……よし、そんなことより飯だ。
 食えばこんな気持ちもすぐに────



「長門さん、少しよろしいですか? 妹の……扶桑のことで聞いていただきたいことがあるのですが……」



 ……勘弁してくれ!



775: 2014/04/05(土) 19:51:39.23 ID:c592QpNg0

見間違えました。夕立の方が多いですね。
コンマも夕立がまともだと言ってますし、もしかしたら次回作になるかもしれない(提督視点で)ハートフル(提督視点で)ほのぼの(提督は知らないけど)ヤンデレ物では夕立を初期艦&まとも枠にします。

それでは大井っち投下します。



776: 2014/04/05(土) 19:54:23.39 ID:c592QpNg0


重巡青葉の鎮守府通信 第282回



777: 2014/04/05(土) 19:55:05.02 ID:c592QpNg0


 ども、青葉です!


 今回の第282回鎮守府通信では、皆さんご存知の当鎮守府最高責任者こと司令官と、当鎮守府最多撃沈数を誇る大井さんに突撃インタビューを敢行いたしましたので、その内容をお送りしたいと思います!

 最古参である大井さんと司令官、長い時間を共に戦い抜いてきたお二人の最初の出会いとはいかなるものだったのか!?

 そんな長い時間を過ごしたからこそ語れる、他の誰もが知らないお二人の秘密とは!?

 それでは存分にお楽しみ下さい!



 ────────────────
   ────────────
     ────────
       ────
        ──



778: 2014/04/05(土) 19:56:10.39 ID:c592QpNg0


 テステス、マイク入ってます?
 …………あ、そうですか。どもです。

 えーと、それでは改めまして……よろしくお願いします!


「よろしく」

「うふふ、よろしくお願いしますね?」


 いやぁ、それにしても今回は私のインタビューに快くお応え頂き、誠にありがとうございます!
 お願いしておいてアレなんですけど、よく引き受けてくれましたね?


「大井、『快く』だってよ」

「断れない状況にしておいてよく言えますね?」


 この青葉、面白い情報を発信するためなら何でもします。
 そう、たとえこのインタビュー終了後に大井さんから厳しい罰を受けることになると分かっていても! 退けない場面が青葉にはあるんです!


「『罰』だなんて人聞きの悪い…………『教育』ですよ?」


 …………何故でしょうね?
 言われた本人である青葉も血の気が引きましたが、直接言われてないはずの司令官の方が、青ざめた顔をしているように見えます。大丈夫ですか?


「…………さっさと進めろ」


 ま、まあ誰だって思い出したくないことの一つや二つ有りますよね! それでは気を取り直して今回の本命であるインタビューに移りたいと思います! お二人に限って有り得ないと思いますが、嘘を吐くことなくお願いしますね!


「ああ、任せろ」

「お手柔らかにお願いします♪」


 それでは事前に寄せられた質問から、お二人に投げかけていきたいと思います!

 記念すべき一つ目の質問!


779: 2014/04/05(土) 19:57:16.68 ID:c592QpNg0



『お二人は付き合っているのでありますか?』




780: 2014/04/05(土) 19:59:06.10 ID:c592QpNg0


「それはない」

「ないですね」


 おお、即答……。

 いきなりド直球の質問。
 流石にちょっとは考えると思っていたので、この展開は予想外でした。答え自体もいささか不満です。お二人の仲の良さは周知の事実なので。……本当に付き合ってません?


「本当だ。というかそんなに仲が良いように見えるのか?」

「私達、基本的に口喧嘩ばかりしているような気がしますけど……」


 喧嘩するほど仲が良い、そう言うじゃないですか。
 それにほら、ここ最近の口喧嘩の内容とか教えて下さいますか?


「内容って言われてもなぁ……くだらないことばっかだからそんなに覚えてないぞ?」

「そうですね…………三日くらい前に、家具についてのことで喧嘩したのは覚えてます」

「あー、そんなのあったな。執務室のコタツ片付けようとする大井に俺が怒ったやつだろ?」

「もう春だっていうのに、結局片付けなかったんですよね。まったく……」

「おいおい、結局俺の執務室に来てはコタツでくつろいでるくせに、何だよその物言いは?」

「有るから使っているだけで、無ければ無いで使いませんから」

「うわっ、可愛げねえな……」

「うふふ、可愛さが必要ですか?」


 はい、そこまでー。
 いちゃいちゃするのやめてもらえます? というか大井さん、秘書艦じゃないのに司令官の部屋に赴いてるんですか?


「え、駄目なんですか?」


 あ、いえ、えーと……別に問題無いですけど……。


「そうですよね、ふふっ」


 …………まさか本気で首を傾げられるとは。
 無自覚? 天然?
 そのキャラは予想してませんでしたよ……。


781: 2014/04/05(土) 20:00:22.58 ID:c592QpNg0



『二人の出会いは何時なのじゃ?』




782: 2014/04/05(土) 20:02:20.64 ID:c592QpNg0


 これ、青葉も気になります。
 最古参の駆逐艦である電ちゃんにも聞きましたけど、電ちゃんがこの鎮守府に配属されたときから、すでに大井さんはいたんですよね?
 どうしてですか?


「んーと、だな……。俺達提督は軍に入ってからすぐに鎮守府に着任するわけじゃないんだ。実はその前に、あらかじめ本部の方で一通りの研修を受けることになってる」


 消防学校みたいなものですか。
 いきなり着任しても何から手をつければいいか分からないでしょうし、理には適っていますね。
 それでそこで出会ったと?


「ああ。艦娘はこんな感じの子達ですよー、って感じで紹介された中の一人、それが大井だ」


 ん? 他にもいたんですか?


「大井含めて五人ほどだ。それで研修終わった時に、その五人がそれぞれその場にいる提督から一人を選んで、その人に着いていくということになってな……」


 ほぉー、艦娘が司令官を選ぶんですか。
 判断基準は何だったんでしょうね? 指揮能力? 容姿や来歴? それともフィーリングですかね?

 そこのところどうだったんですか? 大井さん?


「その中で答えるなら……フィーリングかしら? 何となくこの人に着いていきたいと思ったのよね」


 ほうほう、自分の心に従ったと……。

 それってもしかして一目惚────


「俺それ初めて聞いたぞ」

「言ったことありませんでしたから。ちなみにこれを聞いた感想は?」

「……別に」

「あら? 私の記憶だと提督はかなり喜んで、私が着いていくことを了承してくれたはずなのだけれど? もしかして照れてます?」

「部屋が暑いんだよ」

「うふふ、提督は可愛いですね♪」

「俺に可愛さはいらん」


 あっ、聞いてないですね。はい。
 よそでやってくれます?



783: 2014/04/05(土) 20:03:27.02 ID:c592QpNg0



 今回はここまで!

 気になるインタビュー後半は次回、第283回鎮守府通信にて!

 それでは皆さんまた明日!



786: 2014/04/05(土) 20:05:51.09 ID:c592QpNg0


投下終了。

残りは
間宮さん 非工口
大和   非工口
加賀さん 工口
の3つですね。


それではまた。


797: 2014/04/07(月) 19:58:08.96 ID:5H9hfdyV0


夕立と提督、日常の一コマ



798: 2014/04/07(月) 19:59:15.98 ID:5H9hfdyV0


「むぅー……」

「どうした夕立? そんなにむくれているとせっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」

「そんな言葉じゃ騙されないっぽい! 夕立は怒ってるっぽい!」

「そうなのか……。なぁ、夕立? どうして怒ってるんだ?」

「……提督さんってば最近夕立のこと構ってくれないっぽい」

「それは確かにそうだが……現にこうやって膝の上に座らせてあげてるじゃないか。これだけじゃ足りないか?」

「そんなのじゃ夕立の寂しさは埋められないっぽい!」

「じゃあどうしろと?」

「……ぎゅっ、ってして」

「はいよ」

「んふふー♪」



799: 2014/04/07(月) 20:00:03.89 ID:5H9hfdyV0


「満足したか?」

「……まだまだっぽい?」

「じゃあ次は何をすればいい?」

「ひゃっ!? て、提督さんっ!?」

「夕立の髪は良い香りがするなぁ」

「く、くすぐったいっぽい!」

「ああ、ごめん。今離れる」

「あっ…………」

「どうした?」

「……そんなに離れなくても」

「つまり、どうして欲しいの?」

「うぅー……! 提督さんってば意地悪っぽい! 夕立はもっと提督さんと触れていたいっぽい!」

「そうかそうか。それなら仕方ないな」

「……えへへー♪」



800: 2014/04/07(月) 20:00:52.09 ID:5H9hfdyV0


「夕立」

「なぁに?」

「大好きだぞ」

「……ちょっと複雑っぽい」

「ん? どうして?」

「……提督さんは皆に『大好き』って言うから」

「そんなに言ってるか?」

「言ってるっぽい。だからそういう言葉を軽々しく使うのは控えた方が良いっぽい!」

「そうかー、それならこれからは言わないようにするよ」

「そうすると良いっぽい!」

「ああ、もちろん夕立にも言わないように気をつけないとな」

「…………えっ」

「言わない方がいいんだろう?」

「ゆ、夕立は特別っぽい! 夕立になら何回でも言って良いっぽい!」

「んー、でもなぁ……」

「提督さぁん……」

「泣きそうな顔するなよ。冗談だ冗談」

「…………提督さんの意地悪」

「嫌いになったか?」

「……………………」



801: 2014/04/07(月) 20:01:44.27 ID:5H9hfdyV0



「……それでも好きっぽい♪」




802: 2014/04/07(月) 20:02:38.23 ID:5H9hfdyV0

投下終了。

思ったよりも甘くならなかった。無念。


それではまた。


803: 2014/04/07(月) 20:03:16.69 ID:FVsvNUBno

十分甘いよ

次回:【艦これ】提督「戦いが終わり……」【その7】


引用: 提督「戦いが終わり……」