1: 2009/06/06(土) 11:59:25.36 ID:ED+OF17gP
キョン「そっ、そうだ!」

朝倉「無駄よ、時間稼ぎのつもり?」

キョン「お前も長門と一緒なら、三年しか生きてないんだろう!?」

朝倉「そうね。だから何?」

キョン「とにかく落ち着け! なっ!?」

朝倉「あのさ、先に貴方が落ち着くべきだと思うな」
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
2: 2009/06/06(土) 12:02:12.69 ID:ED+OF17gP
キョン「とりあえず、その物騒なもんをしまってくれ!」

朝倉「うん、それ無理」

キョン「そんなモンを見せられてたら落ち着けるはずがないだろう!」

朝倉「そう?」

キョン「そうだ!」

朝倉「……良いわ。とりあえず、
    貴方のさっきの言葉の意味を教えてくれる?」

3: 2009/06/06(土) 12:05:12.99 ID:ED+OF17gP
キョン「……も、もう襲ってはこないんだな?」

朝倉「貴方が、私に殺されないだけの事が言えたならね」

キョン「……!」

朝倉「さあ、さっきの貴方の言葉はどういうこと?」

キョン「いや……お前は長門と同じで、
     長門の言葉を信じるなら生まれてから三年しか経ってないんだろう?」

朝倉「そうね。そして、私はもうこの現状に飽き飽きしてるの」

6: 2009/06/06(土) 12:08:33.62 ID:ED+OF17gP
キョン「つまりだ。お前は、三年で人生に飽きちまったってことなのか?」

朝倉「そうとも言えるわね。っていうかさ、もう良い?」

キョン「待て待て! まだ話は始まってもいないだろう!?」

朝倉「これ以上話をしても無駄なだけだと思うわ」

キョン「大事な話なんだよ! 少なくとも俺の命を延ばす程度には!」

朝倉「あら、やっぱり命乞いなんじゃない」

キョン「……そりゃそういう意味もあるさ、こんチクショウ……!」

8: 2009/06/06(土) 12:11:28.04 ID:ED+OF17gP
朝倉「ふ~ん? やっぱり氏ぬのって嫌?」

キョン「当たり前だろう!」

朝倉「有機生命体って、本当によくわからないわ」

キョン「……だからだ!
    まず、そいつをどうにかしようとは思わないのか!?」

朝倉「? どういうこと?」

キョン「三年間現状を維持してたんだ!
     そいつを学んでからでも、俺を……ああもう! 遅くないだろう!?」

朝倉「……なるほど、そういうことか」

10: 2009/06/06(土) 12:16:08.02 ID:ED+OF17gP
朝倉「私が氏の概念を学ぶのに、あなたが協力するってことね」

キョン「有り体に言えば……そうなるな」

朝倉「でもさ、もしもあなたがその条件を満たせなかった場合は?」

キョン「……努力するさ」

朝倉「それじゃあ駄目ね、話にならないわ」

キョン「落ち着け! 頼む!」

朝倉「そうね……一ヶ月、いえ、一週間が限度かな」

キョン「……なんですと?」

12: 2009/06/06(土) 12:19:48.48 ID:ED+OF17gP
朝倉「正直に言うとね、興味が無いわけじゃないの」

キョン「? 何にだ?」

朝倉「貴方達、有機生命体に関してよ」

キョン「……しかし、一週間ってのは短すぎやしないか?」

朝倉「これでも譲歩してると思うんだけど」

キョン「……わかった。ちなみに、延長される可能性は?」

朝倉「ふふっ、それは貴方次第だと思わない?」

キョン「……今、笑いかけられても嬉しくないな」

14: 2009/06/06(土) 12:23:17.38 ID:ED+OF17gP
朝倉「貴方が氏ねば涼宮ハルヒはなんらかのアクションを起こす」

キョン「そいつはどうだか」

朝倉「あら、きっと大きな情報爆発が起きるわよ」

キョン「やれやれ、俺はそのために殺されそうになったってのか……」

朝倉「でも、それが一週間後に起こるかもしれないって忘れないでね」

キョン「……わかってるよ」

朝倉「うん。――じゃ、一週間よろしくね♪」

17: 2009/06/06(土) 12:25:59.85 ID:ED+OF17gP
キョン「……ああ、お手柔らかに頼――」

ドガァァン!

キョン「おぶうっ!?」

朝倉「!?」

キョン「いってーなこの野郎!……って――」

長門「……」

キョン「……長門?」

18: 2009/06/06(土) 12:28:21.69 ID:ED+OF17gP
長門「ひとつひとつのプログラムが甘い。
    側面部の空間閉鎖も情報操作も甘い」

長門「だから私に気付かれる。進入を許す」

朝倉「どうしたの? 長門さん」

長門「?」

キョン「長門、俺はいきなりお前にぶっとばされる覚えは無いぞ!」

長門「……」

長門「現在の状況報告をして欲しい」

20: 2009/06/06(土) 12:32:25.02 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

朝倉「――というわけなのよ」

長門「把握した」

朝倉「だから、これから一週間はプログラムの向上に努めるわ」

長門「朝倉涼子。貴方に独断専行は許可されていない」

朝倉「そうね。でも、それがどうしたの?」

長門「……」

キョン「……なあ、俺はもう帰っても良いか?」

21: 2009/06/06(土) 12:35:51.22 ID:ED+OF17gP
朝倉「あら、どうして?」

キョン「どうしても何も、さすがに気まずいというか帰らなきゃまずい」

朝倉「でもさ、この時間はチャンスだと思わない?」

キョン「チャンス?」

朝倉「私に氏の概念を教えるなら、時間は多い方が良いと思うわ」

キョン「……しかしだな、この時間まで女子の部屋に居続けるというのも
    中々に神経を使うものなんだ」

朝倉「私は気にしないわ。長門さんもそうでしょ?」

長門「……」コクリ

22: 2009/06/06(土) 12:39:25.45 ID:ED+OF17gP
キョン「長門、この時間に男子を部屋にあげるのは良くないぞ」

長門「どうして?」

キョン「どうしてって、そりゃ……」

長門「今は、朝倉涼子の処遇に関して話し合うべき」

朝倉「上に報告するつもり?」

長門「場合によっては、そうせざるを得ない」

長門・朝倉「……」

キョン「待て待て! ここでとんでもバトルをおっぱじめる気か!?」

25: 2009/06/06(土) 12:43:20.21 ID:ED+OF17gP
長門「この部屋は私の情報制御空間」

朝倉「やってみる? 失敗したら大変よね」

長門「……」

朝倉「長門さん、私が何の用意もせずに貴方の情報制御空間に
    進入するとは思ってないわよね」

長門「……朝倉涼子の排除を推奨する。許可を」

キョン「俺に聞くなっての! とりあえず、落ち着いてくれ!」

28: 2009/06/06(土) 12:46:10.47 ID:ED+OF17gP
キョン「わかっちゃいるとは思うがな、俺は普通の人間だぞ!?」

朝倉「うん、それは知ってるわ」

長門「……」コクリ

キョン「だからだ、巻き添えを食ったらえらいことになる!」

朝倉「私はそれでも構わないんだけど」

長門「許可を」

キョン「……やれやれ。…………やれやれだよ、全く」

30: 2009/06/06(土) 12:50:29.85 ID:ED+OF17gP
キョン「お前達、見た目は高校生だが思った以上に子供なんだな……」

朝倉「失礼ね。少なくとも、外見年齢相当の
    人間としての一般的な知識は持ち合わせてるわよ」

キョン「そういう問題じゃなくてだな」

長門「むしろ、それ以上の知識も有している」

キョン「……そういう問題でもなくてだな」

キョン「……」

キョン(……これは――相当に面倒なことを言っちまったみたいだ)

31: 2009/06/06(土) 12:55:08.00 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「……ただいま~」

キョン妹「キョンくん、おかえりー」

キョン「出迎えとはどうした?」

キョン妹「なんとなくー。遅かったね?」

キョン「まあ、ちょっとな」

32: 2009/06/06(土) 12:57:51.22 ID:ED+OF17gP
キョン(生まれてから三年ってことは……)

キョン妹「?」

キョン(本当はもっと幼い、ってことか)

キョン妹「? どうしたのー?」

キョン「いや、なんでもない。メシは?」

キョン妹「もうなくなっちゃったよー」

キョン「……マジか」

33: 2009/06/06(土) 13:02:45.28 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

朝倉「おはよう」

キョン「おう、おはようさん」

朝倉「おはよう、涼宮さん」

ハルヒ「……」

キョン「朝の挨拶くらいしても良いんじゃないか?」

ハルヒ「あたしの勝手でしょ」

キョン「……やれやれ」

34: 2009/06/06(土) 13:07:06.03 ID:ED+OF17gP
朝倉「良いわよ別に。だって、涼宮さんの言う通りだもの」

キョン「そういうもんでもないだろ。……おい」

ハルヒ「何よ」

キョン「何が言いたいか位はわかるだろ」

ハルヒ「……おはよ。……これで良いんでしょ」

キョン「よしよし、よく出来たな」

ハルヒ「……ムカつく」

36: 2009/06/06(土) 13:09:56.09 ID:ED+OF17gP
朝倉「あっ、今はじめて涼宮さんと挨拶したかも」

キョン「何? そうなのか?」

朝倉「確かそうだったと思うわ。ね、涼宮さん」

ハルヒ「あたしがコミュニケーション障害みたいに言わないでくれる?」

キョン「いやいや、本当だとしたら言い訳出来ないだろう」

ハルヒ「……うっさい!」

37: 2009/06/06(土) 13:12:17.48 ID:ED+OF17gP
朝倉「ねえ、放課後あの件……よろしくね♪」

キョン「……わかってるさ」

朝倉「それじゃ、席に戻るね」

キョン「はいはい」

ハルヒ「……“あの件”って何よ」

キョン「大したことじゃないさ」

ハルヒ「……ふん!」

38: 2009/06/06(土) 13:15:36.82 ID:ED+OF17gP
ハルヒ「しょせんあんたも色ボケの馬鹿だったってことね」

キョン「待て待て、どうしてそうなる?」

ハルヒ「前からヒソヒソコソコソやってたじゃないの」

キョン「いや、それはだな……!」

ハルヒ「別に良いわよ。あんたがどこで何をしようが関係ないもの」

キョン「おい、話位聞けっての」

ハルヒ「……」

キョン「もうすぐ一限はじまる……って、もう寝ちまったよ」

39: 2009/06/06(土) 13:20:56.60 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・
放課後

キョン「――朝倉」

朝倉「うん。それじゃ、また明日ね」

女生徒1「うん、ばいばーい」

女生徒2「……ねえ、キョンくんっと朝倉さんって“そう”なの?」

女生徒3「えー、どうなんだろー?」

キョン「……」

41: 2009/06/06(土) 13:23:37.03 ID:ED+OF17gP
朝倉「……どうしたの?」

キョン「いや、自分の迂闊さを呪ってるところだ」

朝倉「?」

谷口「おい、キョン!」

キョン「……お前の言いたいことはわかる」

谷口「キョン――俺とお前は親友だよな?」

キョン「すまなかった谷口。そいつは予想してなかったぞ」

42: 2009/06/06(土) 13:26:56.97 ID:ED+OF17gP
谷口「とにかく! 説明しやがれ!」ヒソヒソ

キョン「……何をだ」

谷口「とぼけるなっての!
    どうやって朝倉とそんな仲になったんだ!?」ヒソヒソ

キョン「あ~……氏ぬような目にあってだな」

谷口「わけわかんねえよ!?」

キョン「それ以外説明のしようがないんだから仕方ないだろう」

43: 2009/06/06(土) 13:28:58.15 ID:ED+OF17gP
国木田「ほら、谷口。邪魔しちゃ悪いよ」

谷口「俺は邪魔してるつもりはない!」

国木田「本当に?」

谷口「……ちっ……チクショ――ッ!」

ダッ!

キョン「……やれやれ」

朝倉「ねえ、どうして泣いてたのかわかる?」

キョン「さあね。知ったこっちゃねえや」

44: 2009/06/06(土) 13:31:15.37 ID:ED+OF17gP
国木田「それじゃ、僕も帰るよ」

キョン「おう、また明日な」

朝倉「じゃあね、国木田君」

国木田「う~ん……キョンも趣味が変わったのかな」

キョン「? 何の話だ」

国木田「ううん、何でもない。それじゃあね」

45: 2009/06/06(土) 13:34:34.98 ID:ED+OF17gP
キョン「……なんだったんだ、一体」

朝倉「私に聞いても、あまり意味がないと思わない?」

キョン「どうだろうな。よくわからん」

朝倉「そういえばさ、涼宮さんの方は良いの?」

キョン「良いも何も、終わってすぐに帰っちまったからな」

朝倉「機嫌が悪そうだったように見えたけど」

キョン「……そういうことはわかるんだな」

朝倉「まあね♪」

47: 2009/06/06(土) 13:42:16.39 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「……なあ、ここは長門のマンションじゃないのか?」

朝倉「ええ。私の部屋はここの505号室なの」

キョン「……まさか、住民がお前達みたいなのばっかりなんじゃないだろうな?」

朝倉「ふふっ♪ だったらどうする?」

キョン「勘弁してくれ……」

朝倉「とりあえず入りましょ。怖がらなくても平気だから」

キョン「ナイフを持って脅されなけりゃ平気さ」

50: 2009/06/06(土) 13:45:07.11 ID:ED+OF17gP
管理人「おお、朝倉さん。こんにちは」

朝倉「あっ、管理人さん。こんにちは」

キョン「どうも」

管理人「そっちの子は……“コレ”かい?」

朝倉「あはっ、違いますよ。それじゃあ」

管理人「はい、それじゃあね」

キョン「……」

51: 2009/06/06(土) 13:48:05.41 ID:ED+OF17gP
キョン「……ああいう風に、普通に挨拶するんだな」

朝倉「そうね。余計な不信感を与えると面倒だもの」

キョン「それにしちゃ、やけに親しそうにしてたが」

朝倉「そう見えた?」

キョン「ああ。少なくとも、お前とアイツよりゃ仲良く見えたぞ」

朝倉「アイツって、涼宮ハルヒ?」

キョン「……ちょっとだけ訂正する。
    管理人のじいさんの方が、絶対的に親しく見える」

52: 2009/06/06(土) 13:50:43.67 ID:ED+OF17gP
朝倉「そうでも無いわよ。だって、どっちも表面的なだけだもの」

キョン「言い切るな」

朝倉「だってさ、よくは分からないんだけど、
    親しい人間の記憶を頻繁に操作はしないでしょ?」

キョン「……おい、まさか」

朝倉「そのまさか。あの人間、ちょっと物覚えが悪くなっちゃったわ」

キョン「……」

54: 2009/06/06(土) 13:54:12.79 ID:ED+OF17gP
朝倉「だってさ、親切心なのか変に干渉してきたのよ?」

キョン「だから……記憶を操作したってのか」

朝倉「そうよ。だって、私達の存在が公になる訳にもいかないじゃない」

キョン「お前達だったら、知られる前になんとかすることは出来ただろう!?」

朝倉「確かにそうだけど、後で記憶を改変した方が手っ取り早いわ」

キョン「……朝倉、お前……!」

55: 2009/06/06(土) 13:57:39.58 ID:ED+OF17gP
朝倉「どうしたの? あなたが興奮状態になるような事は
    言ってないつもりだったんだけどな」

キョン「……朝倉。そういう事はするもんじゃない」

朝倉「どうして? 意味がわからないわ」

キョン「どうしてもだ!」

朝倉「明確な説明が無いなら、それは却下」

キョン「……一週間後にわかる。だから、もうやめておけ」

朝倉「ふ~ん? まあ、それ位なんともないから良いけど」

61: 2009/06/06(土) 14:14:22.82 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「それで……どうしてお前も居るんだ」

長門「監視と観察」

キョン「もう少しわかりやすく説明してくれると嬉しいんだが」

長門「あなたと朝倉涼子を二人にしておくのは危険と判断した」

キョン「そいつは監視だな。で、観察っていうのは?」

長門「情報統合思念体は、今回の試みに興味を示した」

朝倉「なるほど、そういうことね」

62: 2009/06/06(土) 14:17:38.31 ID:ED+OF17gP
キョン「なあ、宇宙人同士でしかわからんやり取りがされたのか?」

長門「それは無い」

キョン「それじゃあ、一体どういうことなんだ」

朝倉「貴方が私――対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースに、
    今までとは違った情報を与える事が可能か、ということよ」

キョン「……すまん、全然わからん」

長門「……今まで、私達には氏の概念は理解出来なかった」

キョン「わかりやすく頼むぞ、わかりやすくな」

63: 2009/06/06(土) 14:21:05.72 ID:ED+OF17gP
朝倉「私達は三年前に生み出された、ってのは良いわよね」

キョン「まあ……な。信じがたいことではあるが、
     あんな事があったら信じない訳にはいかんだろ」

長門「三年間の間に学習出来なかったことを
    貴方が一週間で学ばせると宣言した」

キョン「出来れば期限を延ばしてもらいたいってのが本音だ」

長門「そう」

キョン「……しかし、そいつはお前的には認められないんだろう?」

朝倉「一週間後の経過次第、ね」

64: 2009/06/06(土) 14:24:07.32 ID:ED+OF17gP
長門「それが事実だとしたら、情報統合思念体にとっては有益」

キョン「氏の概念を学ぶってのが、そんなにもなのか」

長門「そう」

朝倉「だってさ、それも進化の可能性の一つな訳じゃない?」

キョン「氏ぬってことを理解するのが進化って言えるのかね」

長門「私には理解出来ない。しかし、情報統合思念体はそう判断した」

キョン「……やれやれ、なんだか大事になっちまってるみたいだな」

66: 2009/06/06(土) 14:26:30.47 ID:ED+OF17gP
キョン「俺は平凡な高校生だぞ?」

長門「それはこちらでも確認している」

キョン「……ハッキリ言われるのもなんだな」

朝倉「でもさ、貴方は涼宮ハルヒに選ばれたのよ」

キョン「……」

朝倉「だから、ある意味では適任なんじゃない?」

キョン「……努力するよ」

69: 2009/06/06(土) 14:31:10.71 ID:ED+OF17gP
朝倉「それじゃ、早速有機生命体の氏の概念について教えてもらえる?」

キョン「あ~……とりあえず、それに関しては保留にしてくれ」

朝倉「どういう意味?」

長門「説明を」

キョン「ハッキリ言うぞ」

朝倉・長門「?」

キョン「一度に教えろと言われても、そいつは無理だ」

71: 2009/06/06(土) 14:33:35.71 ID:ED+OF17gP
朝倉「それってさ、私を騙したってことよね」

キョン「……まあ、そうなるな」

朝倉「それじゃあ――」

長門「朝倉涼子」

朝倉「長門さん、邪魔する気?」

キョン「……とりあえずだな、俺の考えを言わせてくれ」

73: 2009/06/06(土) 14:36:01.06 ID:ED+OF17gP
朝倉「何?」

キョン「朝倉……いや、この場合は長門もか」

長門「……」

キョン「お前達が氏の概念とやらを理解出来ないのも、
     俺はある意味当たり前なことだと思ってる」

朝倉「へぇ、それはどうして?」

長門「聞かせて欲しい」

キョン「だって……お前ら見た目はともかく――三歳児なんだろう?」

77: 2009/06/06(土) 14:39:45.83 ID:ED+OF17gP
朝倉「三歳児って……そういう言い方は無いんじゃないかしら」

長門「知識は情報として記憶している」

キョン「だからだな……知ってるだけじゃ駄目だろう、ってことだよ」

朝倉「情報を有していれば、体験は必要ないと思うわ」

長門「……」コクリ

キョン「これは……思ってた以上に大変そうだな」

80: 2009/06/06(土) 14:44:00.42 ID:ED+OF17gP
キョン「例えばだ、長門」

長門「……」

キョン「今のやり取りを本で読んだからって、
     実際に話してるのとは違うだろう?」

長門「……」コクリ

キョン「それに、料理の仕方を知ってたら弁当は買わないんじゃないか?」

長門「料理をする時間の短縮」

キョン「む? それじゃあ料理は出来るのか」

長門「……出来ない」

82: 2009/06/06(土) 14:47:20.93 ID:ED+OF17gP
キョン「朝倉はどうだ」

朝倉「料理? 私は出来るわよ」

キョン「そうなのか、長門?」

長門「朝倉涼子はオデンしか作れない」

キョン「……朝倉、オデンは出来る内に入れるには、
    少々限定される料理だと思うぞ」

朝倉「……」

84: 2009/06/06(土) 14:52:15.46 ID:ED+OF17gP
キョン「とにかくだ。俺が思うにお前達は、
     頭でっかちな子供なんじゃないか、ってことだな」

キョン「だから、アッサリと切り捨てるような判断をしちまう」

キョン「まずは――その知識に追いつくように体験をした方が
     良いんじゃないかと思うぞ」

長門「……そう」

朝倉「でもさ、それって今更だと思うけど」

キョン「……まあ、そこは宇宙人的な“アレ”でなんとかしてくれ」

92: 2009/06/06(土) 14:57:01.94 ID:ED+OF17gP
朝倉「体験、ねぇ」

長門「具体的には、何を体験するべきか教えて欲しい」

キョン「そうだな、まずはとりあえず――」

朝倉・長門「……」

キョン「……」

キョン「具体的に、何をしたら良いんだろうか……?」

朝倉・長門「……」

96: 2009/06/06(土) 15:01:37.32 ID:ED+OF17gP
朝倉「ねえ、それを教えるのも貴方の役目よね」

長門「……」

キョン「あー、待て待て! 考える時間をくれ!」

朝倉・長門「……」

キョン「……め、メシでも食いながら考えるってのは駄目か?」

朝倉「……仕方ないわね。オデンならあるけど、食べる?」

長門「私は弁当があるから辞退する」

97: 2009/06/06(土) 15:04:54.62 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「……やけにシイタケが多いな」

朝倉「出汁が出るから良いと思うわ」

キョン「正直、ここまでシイタケ味のオデンを食うのは初めてだ」

長門「……モグモグ」

キョン「だがまあ……美味いっちゃ、美味いな」

朝倉「ふふっ、ありがと♪」

長門「……モグモグ」

98: 2009/06/06(土) 15:08:12.87 ID:ED+OF17gP
朝倉「そう言えば、そう言って貰うのって初めてかも」

キョン「何? 長門は食べたことが無いのか?」

朝倉「あるわよ。でも、長門さんは感想を言ってくれないの」

長門「……モグモグ」

キョン「そりゃまたどうしてだ」

朝倉「わからないわ。何度食べても、何も言ってくれないのよ」

長門「……朝倉涼子は、オデンしか作れない」

朝倉「ひどいと思わない?」

キョン「……まあ、な」

103: 2009/06/06(土) 15:12:18.69 ID:ED+OF17gP
キョン「……ご馳走様でした」

朝倉「この場合、お粗末様でした、って言うのよね」

キョン「そういう事は知ってるんだな」

朝倉「そりゃあね。――それで、何か考え付いた?」

キョン「……少しだけ待ってくれないか? ちょっと家に電話してくる」

朝倉「ロスタイム、ってことね」

キョン「……お見通しか」

長門「……ご馳走様」

108: 2009/06/06(土) 15:15:02.17 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「……――もしもし」

キョン妹『あっ、キョンくんー』

キョン「今から帰ったとして、メシはあるか?」

キョン妹『ううんー。もう無いよー』

キョン「今度からそういう場合は電話をくれると嬉しいって伝えといてくれ」

110: 2009/06/06(土) 15:17:39.92 ID:ED+OF17gP
キョン妹『ねえねえ、何時ごろに帰って来るのー?』

キョン「ん? もう少しかかると思うが……何かあったのか?」

キョン妹『宿題見てもらおうと思ってー』

キョン「たまには自分一人で頑張りなさい」

キョン妹『キョンくん冷たいー……』

キョン「俺もこれでいて中々忙しかったりするんだぞ、妹よ」

112: 2009/06/06(土) 15:20:59.57 ID:ED+OF17gP
キョン「それじゃ、帰るまでもう少しかかるから」

キョン妹『うん、わかったー』

キョン「じゃ」

キョン妹『ばいばーい』

プツッ

キョン「……やれやれ、普通の子供ってのはこんなもんだろうに」

114: 2009/06/06(土) 15:25:06.22 ID:ED+OF17gP
キョン(……しかし、あいつらはそうじゃないからな)

キョン(完全に子供と思おうとしても、見た目相応のリアクションもする)

キョン(それでいて三年しか生きてないってんだから、
     不思議なもんだよ全く)

キョン(こういうのこそをハルヒは求めちゃいるんだろうが、
     どうして俺にそいつが降りかかってくるかね)

キョン(これはもう、本当に――)

キョン「やれやれだ」

116: 2009/06/06(土) 15:31:44.50 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

朝倉「それで、何をしたら良いかは考え付いた?」

キョン「考え付いたって程の事でもないけどな」

長門「……」

朝倉「なんだ。ちょっと期待してたのにな」

キョン「一つ聞いてもいいか? いや、無理ならそれで良いんだ」

朝倉「何?」

118: 2009/06/06(土) 15:35:40.87 ID:ED+OF17gP
キョン「俺が何をすれば良いか思いつかないのは、
     違和感があるから……だと思った」

長門「違和感、とは何に?」

キョン「お前らの見た目と中身にズレがあることにだな」

朝倉「それを解消するために、氏の概念を教えてくれるんでしょう?」

キョン「ああ。だが、それらを教えるために――」

朝倉・長門「?」

キョン「――小さくなったり……出来るか?」

127: 2009/06/06(土) 15:40:00.26 ID:ED+OF17gP
朝倉「小さく? 個体サイズの縮小化が必要なの?」

キョン「そうじゃなくてだな、見た目を実年齢に合わせられないかってことだ」

朝倉「それって……三歳児になれ、ってことかしら」

キョン「いや、それだと逆に違和感が出ちまうから、
     小学生くらいが良いんじゃないかと思う」

朝倉「出来ないことは無いわよ。ね、長門さん」

長門「……」コクリ

130: 2009/06/06(土) 15:44:38.52 ID:ED+OF17gP
キョン「出来るのか。……宇宙人ってのは大したもんだな」

朝倉「けれど、今すぐにって訳にはいかないわ」

キョン「何だって? そりゃまたどうしてだ」

朝倉「だってさ、私達は生まれてからずっとこの姿なのよ」

キョン「? それが何か問題でも?」

朝倉「それまでに無い姿になる。
    つまり、それは私達にとっては完全な“変化”なのよ」

キョン「……すまん、もっとわかりやすく説明してくれると助かる」

132: 2009/06/06(土) 15:50:00.78 ID:ED+OF17gP
朝倉「もし、貴方が子供の姿になるとしたら、
    以前とっていた形状になるわよね」

キョン「形状って……ガキの頃の格好、ってことだろう?」

朝倉「間単に言えばそうなるわ。
    でも、私達インターフェースにはその情報が無い」

キョン「あ~……子供時代が無かったから、
     子供の格好になるには大変ってことか?」

長門「そう。現在の姿を参考にするとしても、
    変化した姿に合わせた制御をするには情報が無い」

キョン「……すまん。子供になるのは、
     色々と準備が要るってことで良いだろうか」

133: 2009/06/06(土) 15:53:36.28 ID:ED+OF17gP
朝倉「その認識で間違いないわ」

キョン「やれやれ、それならそうと言ってくれ」

長門「説明を求めたのは貴方」

キョン「……そうだったな」

朝倉「だからさ、今日はもう解散するべきじゃない?」

キョン「お前はそれで良いのか?
     だとしたら、こっちとしてはありがたいが」

朝倉「あら、何か予定でもあったの?」

キョン「なに。――ちょっと妹の宿題を見てやるってだけだ」

134: 2009/06/06(土) 15:56:54.11 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「……はぁ」

キョン妹「キョンくん、どうしたのー?」

キョン「なんでもない。ちょっとばかり、
     明日から大変になりそうだと思っただけだ」

キョン妹「そっかー。ねえ、ここがわからないの」

キョン「お前は気楽で良いな。うらやましいよ」

キョン妹「えへへー」

キョン「褒めちゃいないぞ。……どれどれ?」

140: 2009/06/06(土) 16:07:56.69 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

ハルヒ「あれ? 今日は有希は休み?」

みくる「みたいですね。私が来た時にも居ませんでしたから」

古泉「何かあったのかもしれませんね」

キョン「……」

キョン「いや……風邪かなんかじゃないか?」

ハルヒ「確かにそうね。でも、風邪が流行ってるのかしら」

141: 2009/06/06(土) 16:10:59.09 ID:ED+OF17gP
みくる「そういう話は聞きませんけど……」

ハルヒ「やっぱりそうよね。偶然かも」

古泉「涼宮さんのクラスでも、風邪の人が?」

ハルヒ「と言っても一人だけなんだけどね。
     ただ、なんとなくひっかかっただけよ」

キョン「やれやれ、知ってる奴が二人風邪を引いただけで
     流行ってるとは言わないだろうに」

ハルヒ「……それもそうね」

142: 2009/06/06(土) 16:13:30.88 ID:ED+OF17gP
みくる「でも、長門さんが風邪をひくとは……」

ハルヒ「みくるちゃん?」

みくる「いっ、いえ! 何でもありません!」

ハルヒ「ふ~ん?」

みくる「……!」ビクビク

キョン「――それで? 今日は何をする気だ?」

ハルヒ「う~ん……ちょっと気になる事が出来たから、
     今日の活動はやめておくわ」

143: 2009/06/06(土) 16:16:43.51 ID:ED+OF17gP
古泉「気になること、ですか?」

ハルヒ「大したことじゃないわ。
     でも、なんだかみょ~に引っかかるのよね」

キョン「そうかい。まあ、解散ならそれで良いさ」

ハルヒ「ちょっとキョン! 解散はするけど、
     何か不思議なことを見つけたら逃がすんじゃないわよ!」

キョン「お前の言い方だと、不思議ってのは捕獲出来るものみたいだな」

ハルヒ「捕まえられた方が、色々遊べそうじゃない!」

キョン「……そうですか、健闘してみるよ」

146: 2009/06/06(土) 16:22:40.69 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン(……全く、アイツの鋭さは一体何なんだ?)

キョン(朝倉と長門が揃って休んだ理由……)

キョン(――まず、間違いなく“アレ”だろう)

キョン(しかし、どうしてこういう時には勘が良いんだろうな)

キョン「――さて、話ってのは何だ?」

古泉「ええ、貴方には知っておいてもらった方が良いと思いまして」

147: 2009/06/06(土) 16:25:36.05 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

古泉「……――というわけです」

キョン「成る程な」

古泉「機会があればお見せします」

キョン「正直、係わり合いになりたくない」

古泉「先日は、少々大きめの閉鎖空間が見られたんですが、
    その時貴方とは連絡がとれなかったもので」

キョン「良いさ。次の機会に期待はしないでおくよ」

148: 2009/06/06(土) 16:28:18.05 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン(全く、妙な所で時間を食っちまったな)

キョン「急いで向かわないと、何を言われることやら――」

prrrr!prrrr!

キョン「――ん? 着信……ハルヒからか」

ピッ!

キョン「……もしもし?」

ハルヒ『キョン! 今すぐ、これから言う住所へ来なさい!』

149: 2009/06/06(土) 16:30:18.94 ID:ED+OF17gP
キョン「いきなり大声を出すな!……なんなんだ、一体」

ハルヒ『何を落ち着いてるのよ! 不思議よ、不思議!』

キョン「わかった。わかったから声のボリュームを下げてくれ」

ハルヒ『くふふ! やっぱりあたしの勘は間違って無かったわ!』

キョン「それで? 何があったんだ」

ハルヒ『不思議を捕まえたのよ!』

キョン「……なんだって?」

150: 2009/06/06(土) 16:32:58.60 ID:ED+OF17gP
キョン「不思議を捕まえたって……どういうことだ」

ハルヒ『キョン、いくらバカでも有希と朝倉が休んだのは覚えてるわよね?』

キョン「お前の言い方は腹立たしいが、覚えてるぞ」

ハルヒ『聞いて驚きなさい!』

キョン「だから、何をだ」

ハルヒ『今、ちっちゃい有希と朝倉を捕まえてるのよ!』

キョン「……なんだって?」

152: 2009/06/06(土) 16:36:53.75 ID:ED+OF17gP
ハルヒ『だ~か~ら~! 不思議だと思うでしょ!?』

キョン「……意味が分からないし笑えない」

ハルヒ『ああもう! 住所はメールするからすぐに来なさい! 以上!』

キョン「おい、待て! 切るな!」

キョン「……切りやがった」

キョン「……――くそっ、普通当日に捕まるか!?」

155: 2009/06/06(土) 16:40:16.55 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「確か、メールだとこの近くの公園で――」

キョン(どうして家で大人しくしてなかったんだ……!)

キョン(まさかとは思うが、子供の格好になったら
     公園で遊びたくなっちまったってのか!?)

キョン(いやいや、それはさすがにありえないだろう……多分)

キョン「……とにかく、早く見つけ――居た」

169: 2009/06/06(土) 18:23:46.61 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

ハルヒ「ねえ、お母さんかお父さんは?」

朝倉・長門「……」

ハルヒ「子供だけで遊んでちゃ危ないわよ」

朝倉・長門「……」

ハルヒ「ねえ、本当は有希と朝倉なんでしょ?
     っていうか、それだけ似てて無関係って有り得ないわ」

朝倉・長門「……」

ハルヒ「……はぁ、しらばっくれても無駄ってわかるでしょ」

171: 2009/06/06(土) 18:26:17.63 ID:ED+OF17gP
ハルヒ「むぅ……何がどうあっても白を切るつもり?」

朝倉・長門「……」

ハルヒ「仕方ないわね。こうなったら力ずくでも――」

キョン「こらこら、お前は一体何をしてるんだ」

パシッ!

ハルヒ「いたっ!……って、何するのよバカキョン!」

キョン「それはこっちの台詞だ」

174: 2009/06/06(土) 18:28:48.52 ID:ED+OF17gP
ハルヒ「何って、有希と朝倉を問い詰めてるのよ」

朝倉・長門「……」

キョン「やれやれ……どこにその二人が居るっていうんだ」

ハルヒ「ここに居るじゃない!」

キョン「なあ、ハルヒよ。長門も朝倉もこんなにミニマムだったか?」

ハルヒ「だから不思議なんじゃない!」

キョン「はぁ……もう少し常識でものを考えろ」

176: 2009/06/06(土) 18:31:27.52 ID:ED+OF17gP
キョン「良いか? 人間ってのはな、成長することはあっても
     それと逆の道筋をたどることはないんだぞ」

ハルヒ「そりゃそうだけど……でも!」

キョン「これ以上の話は無しだ」

ハルヒ「キョン! あんた、本気でこの子達が似てるだけだとでも
     思ってるわけ!?」

キョン「思ってるとも。それ以外には有り得ないからない」

ハルヒ「~~~っ!!」

177: 2009/06/06(土) 18:35:16.21 ID:ED+OF17gP
キョン「お前がしてるのは、小さい子をいじめてるだけだ」

ハルヒ「……」

キョン「……」

???「あの~……」

キョン「? なんですか……?」

喜緑「その子達が、何か失礼なことを……?」

184: 2009/06/06(土) 18:39:40.23 ID:ED+OF17gP
ハルヒ「……へっ?」

喜緑「私はその子達の保護者みたいなものです」

キョン「……そうなのか?」

朝倉・長門「……」コクリ

喜緑「もしもその子達が何かなさったのでしたら、私からも謝ります。
    どうか許してあげてください」ペコリ

キョン「――いえ、こっちが勝手に騒いだだけですんで。
    こちらこそすみませんでした。ほら、ハルヒ」

ハルヒ「こっ、こちらこそ……すみませんでした」ペコリ

187: 2009/06/06(土) 18:42:51.01 ID:ED+OF17gP
キョン「ほら、もう良いだろ」

ハルヒ「……」

キョン「ごめんな、怖いお姉ちゃんが迷惑かけて」

朝倉・長門「……」フルフル

ハルヒ「ちょっとバカキョン! 怖いお姉ちゃんって、
     あたしのこと言ってるの!?」

キョン「いいから行くぞ。それじゃ、失礼しました」

ハルヒ「待ちなさい! キョン――」

191: 2009/06/06(土) 18:47:03.49 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

キョン「――さて、どうして“ああ”なったか説明してくれ」

長門「よそうがいだった」

朝倉「涼宮ハルヒがくるなんて、おもってなかったのよ」

キョン「……なあ、その話し方はどうにかならないのか?」

朝倉「できるけど、としそーおーのほうがいいんでしょ?」

キョン「調子が狂うんだよ。なにせ、中身がお前達だって知ってるんだからな」

長門「そう」

キョン「……そうだ」

194: 2009/06/06(土) 18:52:47.97 ID:ED+OF17gP
キョン「とにかくだ、どうして公園なんかに居たんだ?」

朝倉「このからだの、どーさかくにんのためよ」

キョン「……結局その話し方を変える気は無いわけか」

朝倉「ふふっ、だって、そのほうがおもしろいじゃない?」

キョン「そうかい。そいつは良い考えすぎて泣きそうだ」

長門「室内では動作が限定されてしまう。だから屋外、
    それも、怪しまれずに体を動かせる場所に行く必要があった」

キョン「……あ~……すまん。どちらにせよ違和感が凄い」

197: 2009/06/06(土) 18:57:20.65 ID:ED+OF17gP
朝倉「どーさかくにんのためにこうえんにいたら――」

長門「涼宮ハルヒがあらわれた」

キョン「まるでRPGのモンスターみたいな言い方だな。
     ……まあ、さっきのを見る限りじゃ正しいかもしれんが」

朝倉「かんぜんにすがたをみられたから、
    そのままにげるわけにはいかないわよね」

キョン「だから、ああして助けが来るのを待ってたってわけか。
     あの女の人も宇宙人なのか?」

長門「そう。かのじょも、さんさい」

キョン「宇宙人っては……成長が早いんだな。
     いや、今のは冗談だぞ」

199: 2009/06/06(土) 19:03:19.67 ID:ED+OF17gP
朝倉「とにかく、いわれたとーりにしたわよ」

キョン「ああ、これでなんとなくだがやり易くなりそうだ」

長門「そう」

キョン「同年代の女子に当たり前のことを教えるってのは、
     なんとなくだが腰が引けちまうからな」

朝倉「そーゆーもの? にんげんって、りかいしにくいわね」

キョン「……しかし、喋ると本当に生意気そうに感じるな」

201: 2009/06/06(土) 19:08:26.43 ID:ED+OF17gP
朝倉「しかたないじゃない。だってさ、こーせーするじょーほーは――」

キョン「朝倉。舌っ足らず声で言われてもわからんし、
     そもそも普通に言われてもわからんぞ」

朝倉「ふ~ん」

長門「じょーほーのでんたつにそごがしょーじるなら、
    はなしかたはふつうにするべき」

キョン「……なら、普通の話し方と間を取るってのはどうだ?」

朝倉「うん、それむり♪」

キョン「……そうかい」

204: 2009/06/06(土) 19:14:35.00 ID:ED+OF17gP
キョン「……まあ良い。とりあえず、これから一週間よろしく頼む」

朝倉「いっしゅーかん? あと“むいか”でしょ」

キョン「――なんですと?」

朝倉「だってさ、きのうのあなたがいってから、
    24じかんがたってるわよ」

キョン「……待ってくれ。もしかして、一週間ってのは――」

朝倉「あなたがわたしに、“しのがいねん”をおしえるっていってから、
    ちょーどいっしゅーかんよ」

キョン「……マジか」

207: 2009/06/06(土) 19:18:37.77 ID:ED+OF17gP
キョン(あと六日で、こいつらに氏の概念を教えなきゃならんのか……)

キョン(――いや、待て)

キョン「なあ、どうして長門まで小さくなってるんだ?」

長門「どーして、とは?」

キョン「別に、お前まで小さくなる必要はないだろう」

長門「じょーほーとーごーしねんたいからのしじ」

キョン「お前達の上司とやらは、何を考えているのかね……」

208: 2009/06/06(土) 19:21:52.47 ID:ED+OF17gP
キョン「まあ良い。とにかく、あまり時間はないらしい」

朝倉「まるでひとごとみたいにゆーじゃない」

キョン「……だから、話し方は普通にしてくれ。
     やりにくくて仕方ない」

朝倉「そう? 結構気に入ってたんだけどな」

長門「わかった」

キョン「早速で悪いんだが、ちょっと電話をしてくる」

朝倉「誰に?」

キョン「こういうことに詳しい知り合いが居てな。
     ちょいと助言を求めるのさ」

209: 2009/06/06(土) 19:27:03.78 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

prrrr!prrrr!

キョン「……」

『――やあキョン、久しぶりじゃないか』

キョン「いや、そうでもないぞ。卒業式以来だからな」

『くつくつ。てっきり忘れられてしまったのかと思ったよ』

キョン「お前ほど強烈な奴を忘れる人間はいないと思うぞ」

『そうかな? 僕は、自分が変人だという自覚はあるけど、
 強烈に他人の印象に残るような人間ではないと思ってるんだけどね』

キョン「その認識は間違ってるな」

214: 2009/06/06(土) 19:31:58.76 ID:ED+OF17gP
キョン「少なくとも、お前は簡単に忘れられるような奴じゃないさ」

『君がそう言うのならそうかもしれないな。
けれど、今まで連絡が無かったのを考慮すると判断しかねるよ』

キョン「おいおい、なんだか怒ってないか?」

『怒ってはいないよ。ただ、拗ねているだけさ。
親友だと思っていた人間が、連絡の一つも寄越さなかったんだからね』

キョン「それはお前にだって言えるんじゃないか?」

『察したまえよキョン。こういう時は、男の方から連絡を取るものだろう?
それがたとえ友情という関係であったとしてもね』

キョン「そうかい。そいつは悪かったな」

216: 2009/06/06(土) 19:38:30.99 ID:ED+OF17gP
『それで、キョン。今日は何の用があって連絡をくれたのかな?
まさか、僕の声が聞きたかったという訳じゃないだろう』

キョン「相変わらず察しが良いな」

『くつくつ。キミのその正直な所は魅力でもあるけど、
同時に欠点でもあるという事を自覚した方が良いと僕は思うよ』

キョン「? なんの話だ?」

『いいや、こちらの話さ。それで、僕に何の用があるのかな?
生憎だけど、僕も忙しいものだから会うのは少し難しいんだ』

キョン「いや、電話で十分だ。気を遣わせて悪いな」

『キョン、僕と君は親友だ。けれど、親しき仲にも礼儀ありという言葉を
覚えた方が良い。……――それで、僕に何を聞きたいのかな?』

217: 2009/06/06(土) 19:43:34.53 ID:ED+OF17gP
     ・    ・    ・

『――成る程。生まれて少ししか経っていない子供に、
氏の概念というものを短期間で教える、というんだね』

キョン「そうだ。こういう事は、お前に聞くのが一番良いと思ってな」

『キョン。確かに僕は“氏の概念”というものの答えを出すのに有益な情報を
与えることは出来るかもしれない。けれど、それを短期間で教えるのは無理だよ』

キョン「そいつは、教えるのが難しいってことか?」

『いや、そういう意味じゃあないさ。君になら教えることは出来る。
けれど、小さな子供がそれを聞いて納得出来るかと問われれば、否なんだよ』

キョン「……」

221: 2009/06/06(土) 19:49:21.27 ID:ED+OF17gP
『君は、“氏の概念”自体が知りたいのではなく、
 それをどうやって子供に教えるのかが知りたいんだろう?』

キョン「まあ、そうなるな」

『聞いても良いかい? ああ、それを教えなければいけない理由じゃなく、
教える子供は何歳くらいなのかを聞いてみたいんだよ』

キョン「年齢は……まあ、物凄く大人びた三歳児だな」

『…………』

キョン「? どうした? 電波が悪くなったか?」

『……くつくつくつくつ! キョン、さすがにそれは無理だと思うよ……!』

キョン「……そんなに無理なことか?
     というかな、笑いすぎだと――いや、確かに笑えるな」

263: 2009/06/06(土) 23:41:24.11 ID:ED+OF17gP
『キョン、どうして三歳の子供に氏の概念を教えるのが
 困難なのかがわかるかい?』

キョン「そりゃあ、氏ぬって言われてもピンとこないからじゃないか?」

『そうだね、確かにそれは正しい。……けれど、
 どうして氏ぬといわれてもピンとこないかがわかるかい?』

キョン「いや、わからん」

『もう少し考えてから言って欲しいな。でないと、
 こちらとしても張り合いがない。せっかく、久々に会話をしたんだから』

キョン「やれやれ、こっちとしては答えを聞きたいんだけどな」

265: 2009/06/06(土) 23:45:33.31 ID:ED+OF17gP
『知識というのは単純に答えだけを知るよりも、実際に考えてからの方が
 より身につくものだよ。それはわかるだろう?』

キョン「まあな」

『ちなみにね、今のが答えの欠片でもあるのさ』

キョン「何?」

『いいかいキョン。子供というのは、幼いが故に氏について
 具体的に考えることを拒否してしまうんだ。三歳ならば、それも当然さ』

キョン「怖いから、ってことか?」

『そう。それもあるし、僕の考える最大の理由としては、
 “生きている”という実感がまだ無いから、だと思うよ』

266: 2009/06/06(土) 23:50:44.67 ID:ED+OF17gP
キョン「生きている実感が無い?」

『思い出してみてごらん。キョン、君が幼い時には
 今日、今生きているという実感をもって生活をしていたかい?』

キョン「いや……正直思い出せんな。
     まあ、ガキの頃からそんな小難しいことは考えないんじゃないか?」

『くつくつ。なんだい、君はもう既に答えを出していたんじゃないか』

キョン「生きている……っていうことを実感してないから、
     氏についても深くは考えられない、ってことか」

『その通り。キョン、やはり君との会話は非常に面白いね。
 今まで僕から君に自発的に連絡を取らなかったのが悔やまれるよ』

269: 2009/06/06(土) 23:57:11.61 ID:ED+OF17gP
キョン「それじゃあ、生きている実感ってやつを教えてやれば
     良いってわけだな?」

『けれど、それを教えるのもとても難しいんじゃないかな。
 なにせ、そういった感覚は時間と共に成長していくものだからね』

キョン「……それじゃあ、あと六日で“氏の概念”について教える、
     っていうのは――」

『出来ると思うかい? まず、普通の人間には不可能だと思うね。
 ……そうだね、彼女達ならもしかしたら――』

キョン「?」

『……すまない。今のは忘れてもらえるかな。
 何せ、君は僕の大事な親友だからね』

271: 2009/06/07(日) 00:03:12.28 ID:t2og4BuwP
キョン「どうした、何か厄介事にでも巻き込まれてるのか?」

『いや、大したことじゃないし、厄介というものでもないよ。
 そうだね、問題があるとすれば少々退屈が過ぎる所かな』

キョン「そいつは羨ましい限りだ」

『くつくつ。相変わらず、君は平凡な日常というものを愛しているようだね。
 君の変わらないスタンスは羨ましいよ、キョン』

キョン「そいつはどうも。――っと、結構話し込んじまったな」

『そうだね、中々に楽しい時間だったよ。
 これから、話題の三歳の子供に“氏の概念”を教えるのかい?』

キョン「まあ……そうなるな」

272: 2009/06/07(日) 00:08:28.96 ID:t2og4BuwP
『だったら、思い切り楽しませてあげることだね』

キョン「何?」

『人間の感情の振り幅が大きくなる時は、
 嬉しい時や楽しい時、怒っている時や悲しい時だ』

キョン「喜怒哀楽、ってやつか」

『人間の感情はそんなに単純なものじゃあないけれど、
 簡単に説明するならそうだね。そして、その感情を実感する時が――』

キョン「生きている、と実感するってことか」

『その通り。本来ならばささっき述べた場合は後者の方が強く
 感情に影響を及ぼすんだけれど――』

273: 2009/06/07(日) 00:12:45.13 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「……やれやれ、勝手なことを言ってくれるぜ」

キョン(しかし、楽しませるって言われてもだな……)

キョン「――俺が、アイツらを……どう楽しませろってんだ」

キョン(……まあ、俺に「似合わない」かはわからんが――)

キョン「子供を泣かせるってのは、さすがにな」

276: 2009/06/07(日) 00:16:46.88 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「待たせちまったな」

朝倉「誰に連絡をしてたの?」

キョン「古い友人、ってやつだ。
     いや、中学の時のだから古くもないか」

朝倉「ふ~ん? それで、答えは出たの?」

キョン「お前達を楽しませろ、だとよ」

朝倉「……ねえ、それってどういうこと?」

280: 2009/06/07(日) 00:21:26.93 ID:t2og4BuwP
キョン「そのまんまの意味なんだが……。
     正直、お前達がどうすれば楽しめるのかがわからん」

朝倉「あのさ、それがどう“氏の概念”に結びつくわけ?」

キョン「――あぁ、その前に確認させてくれ」

朝倉「? 何を?」

キョン「もしも今、お前が消えなきゃならなくなったとしたら……
     どう思うんだ? 朝倉」

朝倉「そうね……残念、かな?」

282: 2009/06/07(日) 00:26:21.38 ID:t2og4BuwP
キョン「残念? そりゃ……どうしてだ」

朝倉「だってさ、三年間も待ち続けて、
    ようやく良い機会が巡ってきたのよ?」

キョン「情報爆発だかを……ってやつか」

朝倉「そうよ。今ここで消えちゃったら、
    せっかくのチャンスを逃しちゃうかもしれないじゃない」

キョン「……」

朝倉「上の方は頭が固いから、現場の判断で変革を進めるしかない。
    だって、このままじゃジリ貧だものね」

284: 2009/06/07(日) 00:31:50.54 ID:t2og4BuwP
朝倉「それが出来なくなっちゃのが残念って思うのは、
    当たり前のことだと思うわ」

キョン「つまりだ……お前は、目的のために俺を
     殺せなくなっちまうから消えるのは残念って思う、ってことか」

朝倉「簡単に言えばそうなるわ」

キョン「……やれやれ。子供の口からこんな事を
     ハッキリ聞かされるとは思ってもなかったぞ」

朝倉「あら、私だって言う可能性は低いと思ってたわよ?」

キョン「そうかい。教えてくれてありがとうとでも言うべきなのかね」

286: 2009/06/07(日) 00:37:40.75 ID:t2og4BuwP
キョン「それじゃあ朝倉。もしも、お前がハルヒの観察とやらの
     任務が無かったとしたらどうだ?」

朝倉「そんなの考えるまでもないわ」

キョン「何?」

朝倉「だってさ、有り得ないじゃない」

キョン「そうとも言い切れんだろう」

朝倉「あのね、私達対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースが、
    どうしてここに居ると思ってるの?」

キョン「……」

朝倉「涼宮ハルヒと、それに関する事の情報収集のため。
    だから、その“もしも”は有り得ないわ」

288: 2009/06/07(日) 00:44:07.87 ID:t2og4BuwP
キョン「……まるで、アイツを中心に世界が回ってるみたいな
     言い方をするんだな」

朝倉「まるで、じゃなく、私達に関してはそのものなの」

キョン「ハルヒが……存在しなかったとしたら?」

朝倉「さあ? 考えたことが無いからわからないわ」

キョン「アイツ以外に、お前達が進化の可能性とやらを見つける、
     って可能性がないとも言い切れんだろう」

朝倉「だから、貴方から有機生命体の氏の概念を学ぼうとしてるの。
    ねっ、わかりやすいと思わない?」

290: 2009/06/07(日) 00:49:35.68 ID:t2og4BuwP
キョン「だったら、一週間と言わずに……」

朝倉「またその話?」

キョン「そうだ」

朝倉「あのさ、私にとってはどちらでも構わないわけ。
    むしろ、貴方を頃して涼宮ハルヒの出方を見る方が効率が良いの」

キョン「なんでそこまで言い切れる」

朝倉「端末である私達が学ぶよりも、
    世界に影響を及ぼす個体のリアクションの方が大きいもの」

キョン「……そうかい」

292: 2009/06/07(日) 00:54:50.73 ID:t2og4BuwP
朝倉「わかった? だから、私としてはあまり期待はしてないの」

キョン「だったら、なんで子供の姿にまでなったりしたんだ」

朝倉「それが上の判断だからよ。
    一週間なら許容範囲だし、大して時間もとられないから」

キョン「朝倉、その台詞の後半はお前の個人的な意見じゃないのか?」

朝倉「あはっ、バレちゃった?」

キョン「子供の格好になったからかは知らないけどな、
     お前が嘘をつく時に眉毛がちょっと動くようになってるぞ」

朝倉「……冗談でしょ?」

キョン「冗談だ。だから、心配して手で隠さなくても大丈夫だぞ」

294: 2009/06/07(日) 00:58:51.39 ID:t2og4BuwP
キョン「しかしだな、そういう事を長門の前で言っちゃ、
     お前的にはまずいんじゃないのか?」

朝倉「そうね。普段の長門さんの前で言ったらちょっと面倒かも」

キョン「そういえば長門、どうしてさっきから黙ってるんだ?」

長門「……」

キョン「いや、お前が普段からあまり喋らないことはわかっちゃいるんだが、
     この話題でさすがに黙りっぱなしってのは不思議で――」

長門「……スーッ……スーッ」

キョン「おい、宇宙人。お前は朝倉を見張るんじゃなかったのか?」

298: 2009/06/07(日) 01:04:11.28 ID:t2og4BuwP
朝倉「外装に合わせて、休息が必要になったのよ」

キョン「しかし……よく寝てるな」

朝倉「この位の年齢だったらさ、普通は寝てるんじゃない?」

キョン「いや、普通よりも大分早いと思うぞ」

朝倉「ふ~ん、そういうもの?」

キョン「……やれやれ。起こしても良いものか迷うな、これは」

長門「……スーッ……スーッ」

300: 2009/06/07(日) 01:08:58.62 ID:t2og4BuwP
朝倉「起こしても良いんじゃない?
    だって、あと六日しか残ってないんだもの」

キョン「……そうだな。すまん長門、起きてくれるか?」

ゆさゆさ…

長門「……スーッ……スーッ」

キョン「お~い、長門~」

ゆさゆさ…

長門「…………何?」

301: 2009/06/07(日) 01:12:19.45 ID:t2og4BuwP
キョン「何、って……寝てただろう」

長門「寝ていない」

キョン「いやいや! 明らかに寝てただろう!?」

長門「体に休息を取らせていただけ。
    情報操作を確認次第、即座に対応出来るようにしていた」

キョン「狸寝入りみたいなもんか?」

長門「……そう」

302: 2009/06/07(日) 01:16:45.64 ID:t2og4BuwP
朝倉「でもさ、それって情報操作をしない行動には対応出来ないわよね」

長門「朝倉涼子、貴方は私のバックアップ。
    だから、問題は無いと判断した」

キョン「……もしもし、長門さん?」

長門「何」

キョン「お前は、今は何のためにここに居るんだ?
     ちなみに、氏の概念を学ぶため以外にもあるんだけどな」

長門「…………」

304: 2009/06/07(日) 01:21:08.50 ID:t2og4BuwP
長門「…………」

キョン「長門?」

長門「…………」

キョン「……やれやれ、お前は怒られると黙っちまうタイプだったのか」

長門「……申し訳ない」

キョン「まあ、この朝倉にどうこうされる程俺は貧弱じゃあないけど、な」

朝倉「あら、試してみる?」

キョン「謹んで辞退させて貰う。というか、洒落にならんからやめてくれ」

306: 2009/06/07(日) 01:27:33.60 ID:t2og4BuwP
キョン「しかし……目を半開きにした長門を起こしてるってのもあれだな」

長門「問題無い」

キョン「小さな子供を無理に起こしてる、ってのがどうにも
     嫌な感じがしてならないんだ。全く、とんだ誤算だったぞ」

長門「私は平気。話を進めるべき」

キョン「朝倉、お前は眠くは無いのか?」

朝倉「私は別に平気よ」

キョン「……あぁ、お前はたまに居る『夜更かしする子供』ってやつか」

345: 2009/06/07(日) 11:19:42.04 ID:t2og4BuwP
長門「指示を」

朝倉「長門さんもこう言ってることだし、
    早くした方が貴方にとっても良いと思うんだけどな」

キョン「……そうだな。まあ、俺がお前達二人に気を遣うというのも
     おかしな話ではあるし、意味のないことに思える」

長門「そう」

朝倉「それじゃあさ、これから何をしてくれるのかしら?」

キョン「そうだな――」

朝倉・長門「……」

キョン「――とりあえず、今日はもう寝ろチビっ子達」

347: 2009/06/07(日) 11:25:21.77 ID:t2og4BuwP
長門「……」

朝倉「今日はもう寝ろ、って……そうしたら、残り五日になっちゃうわよ?」

キョン「そうだな」

長門「睡眠は必要ない。今すぐ行動をするべき」

キョン「長門、俺は何もお前達を気遣って『寝ろ』って言ってる訳じゃないぞ。
     今の指示は、“氏の概念”を学ぶために必要なことだ」

朝倉「ふ~ん? もしかして、本当にそんな言葉が通ると思ってるの?」

キョン「どうした朝倉、やけに“お勉強”に熱心じゃないか。
     そりゃあこっちとしてはありがたいが、正直気味が悪いぞ」

朝倉「普通そこまで言うかな。……でも、本当に良いの?」

キョン「良いさ。なんとかなる」

348: 2009/06/07(日) 11:30:13.80 ID:t2og4BuwP
長門「…………」

キョン「納得できない、って顔だな。普段ならいざ知らず、
     子供のお前だったらなんとなくわかるってのが面白い」

長門「そう」

キョン「まあ、聞いてくれ。今回のことは俺がお前達に“小さく”なってくれ、
     なんて無茶なことを言ったから起こったことだ」

朝倉「そうね。この格好じゃなかったら――」

くるっ

朝倉「長門さんが居眠りをするはずがないわ」

キョン「だろう? ちっちゃなお姫様よ」

350: 2009/06/07(日) 11:34:36.18 ID:t2og4BuwP
キョン「だから、寝ろっていう指示をするってのは当然のことだ」

長門「…………」

キョン「それに、眠りかぶってる長門や――」

長門「私はねむりかぶっていない」

キョン「そうかい。……夜更かしして明日起きれなくなっちまいそうな朝倉に――」

朝倉「大丈夫よ。子供じゃないんだし」

キョン「今は子供だ。見た目も、そして中身もな」

朝倉・長門「……」

キョン「何かを教えようってのは、中々に労力を必要としそうなんでね」

351: 2009/06/07(日) 11:39:47.76 ID:t2og4BuwP
キョン「それにだ、俺にも生活というもんがある」

朝倉「いざとなったら学校なんて行かなきゃ良いじゃない」

キョン「そういうわけにもいかんだろう。
     いいか? 俺は普通の高校生なんだぞ」

長門「そう」

キョン「しかも、ここまで遅くなっちまったら大目玉は確実だ。
     特に、妹なんかは――」

prrrr!prrrr!

キョン「……こうやって、帰って来いって催促をするようになっちまってる。
     それらを犠牲にするってのは、さすがに……な」

353: 2009/06/07(日) 11:43:46.01 ID:t2og4BuwP
キョン「だから、こいつは俺のワガママだと思ってもらって良い」

長門「…………」

キョン「帰って寝たい、ってのもあるな。
     わかるだろう? 高校生ってのも疲れるんだよ」

朝倉「あら、そう? 私は平気だったけどな」

キョン「おいおい、俺は偉大なるSOS団の団長様に振り回されてるんだぞ?
     しかも、今日は団員の一人が休んだからって八面六臂の大活躍だったんだ」

長門「…………」

キョン「やれやれ、こういう言い方は好きじゃないんだが、
     長門は納得してくれたみたいだな」

355: 2009/06/07(日) 11:46:42.12 ID:t2og4BuwP
キョン「あとは朝倉、お前だが――」

朝倉「長門さんが良いのなら、私は別に構わないわよ」

キョン「やけに素直じゃないか」

朝倉「だってさ、“氏の概念”を学べなかったとしても、
    それ以外の進化の可能性は十分に残されてるんだもの」

キョン「……やれやれ」

朝倉「とりあえずさ、一つ頼みがあるんだけど」

キョン「何だ?」

356: 2009/06/07(日) 11:51:47.16 ID:t2og4BuwP
キョン「お前の頼みってのが、俺に出来る範囲のことなら
     可能な限り聞き入れるぞ」

朝倉「そう? じゃ、氏んで」

キョン「……それ以外で頼む」

朝倉「言ってみただけよ。ねえ、今の長門さんを見てどう思う?」

長門「……スーッ……スーッ」

キョン「……あ~……眼鏡をかけたままで寝るのは危ないし、
     ちゃんとベッドで寝ないと疲れが取れないんじゃないか?」

朝倉「そうよね。だから――ねっ、お願い♪」

キョン「わかったよ。朝倉、お前まで運ぶつもりはないからな?」

358: 2009/06/07(日) 11:56:02.47 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「……さて、残り五日か」

キョン(本当なら、学校を休んだ方が良いんだろうな)

キョン(……まあ良い、残り三日になって何も進展が無かったらそうするさ)

キョン(幸い、土日をはさむからな)

キョン「――やれやれ、スケジュールに追われる毎日なんて柄じゃないんだが」

361: 2009/06/07(日) 12:00:26.54 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

ハルヒ「――キョン、ちょっと先に部室に行ってなさい」

キョン「まさか、お前が真面目に掃除当番をこなすとは思わなかった」

ハルヒ「違うわよ。ちょっと調べたいことがあるの」

キョン「そうかい。なら、遠慮なく」

ハルヒ「あまり時間はかからないと思うわ。
     でも、サボってたら氏刑だからね!」

キョン「それは勘弁してくれ。俺はまだまだ生きるつもりなんでね」

362: 2009/06/07(日) 12:04:03.76 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

みくる(大)「待ってたわ、キョンくん」

キョン(特盛りっ!)

みくる(大)「――会いたかったっ」

ぎゅっ!

キョン「あ、あの……どちら様ですか?」

みくる(大)「あっ、ごめんね。――朝比奈みくるです。
       久しぶりね、キョンくん」

364: 2009/06/07(日) 12:07:05.84 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

みくる(大)「――そろそろ時間だわ」

キョン「そういえば……一つだけ聞いても良いですか?」

みくる(大)「なぁに?」

キョン「今の朝比奈さんは――何歳なんですか?」

みくる(大)「……」

みくる(大)「――禁則事項ですっ♪」

365: 2009/06/07(日) 12:12:13.43 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「……」

ガチャッ

みくる「遅れてすみませ――って、まだキョンくんしか来てないんだ」

キョン「俺だけじゃ駄目ってのはわかってますが、
     さすがにハッキリ言われると傷つきます……」

みくる「あっ、そういう意味じゃないのよ!?
     ただ、長門さんが二日続けていないなんて規定事項には……」

キョン「朝比奈さん?」

みくる「うっ、ううん! 何でもないの、気にしないで?」

366: 2009/06/07(日) 12:15:26.24 ID:t2og4BuwP
キョン「わかりました。朝比奈さんがそう言うなら気にしないでおきます」

みくる「ありがとう。お茶は?」

キョン「いただきます」

みくる「ふふっ、ちょっと待っててね」

キョン「了解しました」

ガチャッ!

ハルヒ「キョン! やっぱりあの二人は怪しいわよ!」

キョン「……いきなりどうしたってんだ」

368: 2009/06/07(日) 12:19:37.05 ID:t2og4BuwP
ハルヒ「見なさいよコレ!」

キョン「こいつは……住所録ってやつか?」

ハルヒ「そう! ここを見なさい!」

キョン「やれやれ、一体どうやってこんなもんを手に入れたんだ……。
     それに“ここ”って――長門と朝倉の住所、か?」

ハルヒ「そうなのよ! 二日続けて休んでる有希と朝倉の住所が、
     同じマンションで、しかも、近くの公園で二人の子供サイズを見たのよ!」

キョン「そいつはまた凄い偶然だな」

ハルヒ「何言ってるのよバカキョン! これは事件よ!
     それも、とんでもない不思議の予感がするわ!」

369: 2009/06/07(日) 12:24:24.51 ID:t2og4BuwP
キョン「……あのな、確かに偶然が重なっちゃ居るが、
     ただそれだけのことだろう?」

ハルヒ「はぁっ? キョン、あんたまさかこれがただの偶然だとでも思うの?」

キョン「まさかも何も、その通りだ」

ハルヒ「そんなはず無いじゃない!」

キョン「それにだな、もしそいつが不思議だとして、
     お前はこれからどうするつもりだ?」

ハルヒ「それは……」

キョン「また小さな子供二人を尋問するのか?
     悪いが、俺はそんな犯罪的な行動には付き合えないぞ」

371: 2009/06/07(日) 12:29:41.15 ID:t2og4BuwP
ハルヒ「何よキョン……あんた、あたしの言う事が聞けないっての?」

キョン「聞けるはずが無いだろう」

みくる「あの……どうかしたんですか?」

ハルヒ「みくるちゃん!」

みくる「ふぇっ!? な、なんでしょうか……?」

ハルヒ「目の前に不思議があるのに、それを逃す手は無いわよね!?」

みくる「そ、そうですね……」

373: 2009/06/07(日) 12:34:17.95 ID:t2og4BuwP
キョン「しかしですね、コイツはこれから
    子供二人を尋問しようとしてるんですよ?」

みくる「ええっ!? そ、そんなの駄目ですよ~!」

ハルヒ「キョン! あんたは黙ってなさい!」

キョン「いいや、言わせて貰う。お前がこれからやろうとしてる事には、
     誰がなんと言おうと俺は付き合うつもりは無い」

ハルヒ「……っ!」

キョン「それでも命令だって言うんなら、俺は抜けさせて貰う」

ハルヒ「――バカキョンっ!」

バタンッ!

キョン「……やれやれ、朝比奈さんが出してくれた湯飲みが一つ余るだろうが」

377: 2009/06/07(日) 12:39:12.42 ID:t2og4BuwP
みくる「あの、あ……おっ、追いかけないの? キョンくん」

キョン「良いんです。ここで追いかけたら、
     アイツは益々見境が無くなっちまいそうですから」

みくる「……ねえ、なんだかムキになってない?」

キョン「俺がですか? どうして?」

みくる「あっ、ごめんね……ただ、なんとなくそう思っただけだから……」

キョン「……いえ、こちらこそお騒がせしてすみませんでした」

みくる「――お茶、煎れ直すね」

キョン「すみません」

382: 2009/06/07(日) 12:48:03.57 ID:t2og4BuwP
キョン(確かに朝比奈さんの言うとおり、ムキになっちまってたかもな)

キョン(しかし、俺が言ったのもまた本音ではあるんだ)

キョン(……まるで保護者気取りだな、これじゃ)

キョン(――良いさ、朝比奈さんの煎れてくれたお茶を飲んで、
     朝倉と長門の所へ向かうとしよう)

キョン(今日の活動は……中止だろうからな)

ガチャッ

古泉「おや? 長門さんに続き、涼宮さんまで来ていないのですか?」

385: 2009/06/07(日) 12:53:39.73 ID:t2og4BuwP
キョン「――古泉か」

古泉「お二方だけということは、今日の活動は中止ということで良いですか?」

キョン「そうだな。今日はダラダラしている気分でも無いんだ」

古泉「この後、何か予定でも?」

キョン「あるにはある」

古泉「そうですか。良い機会なので、
    先日お話ししたものをお見せしようかと思ったのですが……」

キョン「待て待て。もしかしてそいつは――アイツに関することなのか?」

古泉「ええ。しかも、今回は中々の大物らしいです」

386: 2009/06/07(日) 12:58:35.17 ID:t2og4BuwP
みくる「あっ、古泉くん」

古泉「こういう場合、おはようございますと言った方が良いんですかね。
    放課後なのでおかしな気もしますが」

みくる「待っててね、すぐに古泉くんのお茶も用意するから――」

古泉「いえいえ、僕はすぐに行かなければいけないので結構ですよ。
    お気持ちだけありがたく頂戴しておきます」

みくる「そう? なら良いんだけれど……はい、キョンくん」

コトッ

キョン「ありがとうございます。……それで古泉、
     お前の話ってのは今じゃないと出来ないことなのか?」

387: 2009/06/07(日) 13:03:51.57 ID:t2og4BuwP
古泉「いえ、出来るだけ早いうちに耳に入れておきたいというだけです」

キョン「……そうか」

古泉「何せ、僕らにとってはかなり重要な事ですからね」

キョン「――わかったよ」

みくる「あっ、キョンくん! そのお茶はまだ熱――」

キョン「――ご……ごちそうさまでした、朝比奈さん」

古泉「そんな飲み方をしては、口の中を火傷する上に
    味もよくわからないのでは?」

キョン「朝比奈さんの煎れてくれたお茶は美味いに決まってるし、
     そいつで火傷をするってんなら悪くないとは思わないか」

古泉「……貴方のそういう所には恐れ入りますよ」

389: 2009/06/07(日) 13:09:32.29 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「――おい、なんだあのでっかい化け物は!?」

古泉「僕達は、あれを神人と呼んでいます」

キョン「なんなんだアイツは……急にしゃがみこんだと思ったら、
     思い出したように街を壊しまわって……」

古泉「そうですね……怒り半分、落ち込み半分といった所ですか」

キョン「何? おい古泉、まさかアイツの考えてることがわかるのか?」

古泉「車内で聞いた貴方と涼宮さんのやり取りと、
    神人の行動を見たら嫌でもわかりますよ」

456: 2009/06/07(日) 22:59:16.83 ID:t2og4BuwP
キョン「意味が分からん。もっとわかりやすく説明しろ」

古泉「神人は、涼宮さんの精神状態によって現れ、
    行動も概ねそれに沿ったものになるんですよ」

キョン「だから――あのでっかいのは、あんな不思議な
     行動をしてるってのか」

古泉「その通り。察しが良くて助かります」

キョン「なあ、お前は……あれをどうする気なんだ?」

古泉「放っておけば、神人は際限なくこの世界を破壊して回ります。
    それは世界にとっては好ましくない――だから、倒すんです」

458: 2009/06/07(日) 23:02:35.96 ID:t2og4BuwP
古泉「安心してください、すぐに終わりますので」

キョン「おい、古泉!――って、もう行っちまったのか……」

キョン(あれが……アイツがイライラしたから生まれたってのか?)

キョン(世界を壊して回る……そんなに腹に据えかねたってのか)

キョン(それを倒すってんだから悪いことじゃあないんだろうが……)

キョン「――倒された神人は、一体何を考えながらやられてったんだろうな」

459: 2009/06/07(日) 23:06:55.18 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

古泉「この閉鎖空間が消滅する瞬間は、ちょっとしたスペクタクルですよ」

キョン「……なあ、古泉よ」

古泉「どうかしましたか?」

キョン「お前達超能力者とやらは、どうして神人を倒すんだ」

古泉「それは……僕達がこの力を得てから、
    なんとなくそうしなければならないような義務感を得るからです」

キョン「義務感、か。――つまり、お前達超能力者は、アイツの生み出しちまった
     イライラの塊を解消させるための役割を与えられてる、ってことなのか」

古泉「……有り体に言えばそうなりますね」

461: 2009/06/07(日) 23:11:10.87 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「……やれやれ、どいつもこいつもハルヒにご執心だな」

キョン「――涼宮ハルヒ」

キョン「……」

キョン「俺には、多少美人で滅茶苦茶な奴にしか思えんがね」

キョン(……まあ、良いさ)

キョン(そいつが引き寄せちまった宇宙人に“氏の概念”を教えなきゃならない
     ――なんて自体は、今後は起こることはないだろうからな)

462: 2009/06/07(日) 23:14:57.05 ID:t2og4BuwP
     ・    ・    ・

キョン「遅くなっちまったな」

キョン(あと五日……こんな調子で上手くやれるのか?)

キョン(――いや、なんとかするしかないんだろう)

キョン「ともかく、アイツらに会わんことには――って……」

キョン(……おいおい、まさか今まで一人で張り込みをしてたってのか?)

キョン「……全く、お前は本当に真性のアホだな」

464: 2009/06/07(日) 23:16:54.60 ID:t2og4BuwP
prrrr!prrrr!

ピッ!

キョン「よう、調子はどうだ?」

長門『問題無い』

キョン「今日は家に居るみたいだな」

長門『そう』

キョン「外に出られなかったのは……外にハルヒが居るからだろう?」

長門『そう』

465: 2009/06/07(日) 23:20:55.83 ID:t2og4BuwP
長門『先日の件もあり、涼宮ハルヒに発見される可能性は
    極力排除するべきと判断した』

キョン「そうだな、そうしてもらえるとこっちとしても助かる」

長門『今後の予定を聞きたい』

キョン「悪いが、アイツが入り口で張り込んでるから
     マンションには入れそうもない」

長門『……そう』

キョン「裏口があれば良いんだが、そういったもんはあるか?」

長門『情報操作をすれば』

キョン「そいつは却下だ」

466: 2009/06/07(日) 23:23:35.90 ID:t2og4BuwP
長門『何故』

キョン「小さい頃から何でも思い通りになるって思ったら、
     碌な大人にはならないんだぞ、長門」

長門『必要ならするべき』

キョン「確かに必要だ。だが、それでも駄目なものは駄目だ」

長門『理解出来ない。説明して欲しい』

キョン「そうだな……人間ってのは、そういうもんなんだ」

長門『……そう』

キョン「そうだとも」

469: 2009/06/07(日) 23:27:47.40 ID:t2og4BuwP
キョン「しかし、今日を丸々無駄にしちまうのは勿体ない。
     悪いが、朝倉に代わってくれるか?」

長門『わかった』

朝倉『――こんにちは。って、もうこんばんはの時間よね』

キョン「それもそうだな。こんばんは」

朝倉『まさか、涼宮ハルヒの行動力がこれ程までとは思ってなかったわ』

キョン「俺もさすがに驚いてるさ。いくら怪しいからって、
     普通は同級生の家を張り込んだりなんかしないもんだぞ」

朝倉『この状況は、こちらの不手際によるものよね。ごめんなさい』

470: 2009/06/07(日) 23:32:12.01 ID:t2og4BuwP
キョン「どうした? やけに素直で気味が悪いぞ」

朝倉『あら、私だって自分のミスを認めることは出来るわ。
    それにさ、学校では素直そうなキャラクターを演じてたつもりだったんだけど』

キョン「そいつは意外だな。優等生すぎて、
     逆に怪しいって思われることだってあるんだぞ?」

朝倉『何? もしかして、私が悪性の人間だと思ってたの?』

キョン「いいや、よく出来た奴だと思ってたよ。
     ……しかし、子供の声で言われると妙な感じがするな」

朝倉『ふふっ、素直に褒められた上に戸惑わせられたんだから、
    こうやってるのも悪くないかもしれないわね』

472: 2009/06/07(日) 23:34:45.12 ID:t2og4BuwP
キョン「――とにかく、今日は直接会うのは無理そうだ」

朝倉『どうして? 情報操作を使えば簡単じゃない』

キョン「やれやれ、お前も長門と同じ事を言うんだな」

朝倉『それはそうでしょう? だって、そうすれば簡単だもの』

キョン「長門にも言ったんだが、そいつは無しだ」

朝倉『どうして?』

キョン「小さい頃から――って……理由は後で長門に聞いてくれ」

480: 2009/06/07(日) 23:54:00.43 ID:t2og4BuwP
朝倉『本当に良いの? だってさ、残りの日数はあまり無いのよ』

キョン「しかし、ハルヒにバレるわけにもいかんだろう」

朝倉『だから、情報操作をして――』

キョン「朝倉」

朝倉『……まあ、貴方が良いんならそれでも構わないんだけど。
    後で期限を延ばしてくれって言っても無駄よ』

キョン「わかってるさ。お前がそんなに甘くないって事くらいはな」

朝倉『理解してるのなら良いわ』

483: 2009/06/07(日) 23:56:33.53 ID:t2og4BuwP
キョン「――そういえば朝倉」

朝倉『何?』

キョン「今日は一日どうしてたんだ?」

朝倉『それってさ、“氏の概念”を学ぶのに必要な質問?』

キョン「そうとも言えるし、違うとも言えるな」

朝倉『何よ、それ』

キョン「気にするな。ちょっとした世間話だと思ってくれ」

485: 2009/06/07(日) 23:59:30.29 ID:t2og4BuwP
朝倉『そうね……今日は一日中部屋に居たわ』

キョン「おいおい、子供にしちゃ不健康な生活じゃないか」

朝倉『だってさ、外に出る理由が無いもの』

キョン「体の調子を確かめる、だったか?
     あれはもう終わったのか」

朝倉『涼宮ハルヒが接触してきたから、完全にとは言えないけど……』

キョン「そうかい。だったら朝倉、明日は日中は外に出てろ」

488: 2009/06/08(月) 00:03:26.13 ID:2iGim98vP
朝倉『あら、どうして? また涼宮ハルヒに見つかって、
    余計な面倒が増えるかもしれないじゃない』

キョン「学校がある間は平気だろう。いくらアイツでも、
     学校をサボってまでお前達を追い掛け回したりはしないさ」

朝倉『わからないわ。どうして?』

キョン「そりゃあ、子供は外で遊ぶもんだからだ。
     テレビゲームでも良いが、長門は案外ムキになりそうだから却下だ」

朝倉『子供って……貴方、私達がインターフェースだって忘れてない?』

キョン「当然忘れちゃいないさ。
     だからこそ、外で遊べって言ってるんだよ」

492: 2009/06/08(月) 00:07:24.33 ID:2iGim98vP
朝倉『ふ~ん……それが指示だって言うのなら、
    別に逆らう理由も無いから良いんだけど』

キョン「よしよし、素直に言う事を聞いて偉いぞ」

朝倉『……そういう言い方って釈然としないわ』

キョン「子ども扱いされるのは嫌か」

朝倉『この年頃の、普通の人間もそうなんじゃない?』

キョン「まあ、そうだな。しかし、そう思いつつも子供扱いを
     されちまうってのが、その年頃の宿命でもある」

朝倉『それって、凄く理不尽よね』

キョン「そういうものさ」

494: 2009/06/08(月) 00:10:38.03 ID:2iGim98vP
朝倉『でもさ、ちゃんとした大人だったら
    子供二人を外に放り出したりはしないんじゃない?』

キョン「危なくなったら、お前達なら情報操作とやらでなんとかなるだろう」

朝倉『……今は駄目で、そういう状況なら良いの?』

キョン「当然だろう。それとこれとは話が別だ」

朝倉『……わからないわ。全然理解出来ない』

キョン「そいつがわかるようになった時は、
     お前は“氏の概念”について多少はわかるようになってるだろうよ」

499: 2009/06/08(月) 00:14:33.19 ID:2iGim98vP
キョン「とりあえず、今日の所はこれで終わりだ。
     外で遊ぶってのは、日中の宿題みたいなもんだな」

朝倉『っていうかさ、外で遊べといわれても、
    何をしたら良いかわからないんだけど』

キョン「そいつは長門と二人で相談して決めてくれ。
     俺が昔やってた遊びを提示しても良いんだが、生憎おれは男だ」

朝倉『だから?』

キョン「女子が外で何をするかなんてわからん。
     なんとなく公園で女の子もいたなって記憶があるだけなんでね」

朝倉『……ちょっと無責任なんじゃない?』

キョン「悪いが、俺は放任主義なんだ」

501: 2009/06/08(月) 00:19:04.72 ID:2iGim98vP
朝倉『……わかったわ。長門さんと相談してみる』

キョン「――そういえば、お前達は呼び方はそのままなのか?」

朝倉『そうよ』

キョン「……悪いことは言わない、もっと子供らしい
     呼び方に変えることを勧める」

朝倉『どうして? 呼称なんて、ただの記号でしかないじゃない』

キョン「個人的な意見を言わせて貰うとだな、
     苗字に“さん”付けやフルネームで呼び合う子供達ってのは……」

朝倉『?』

キョン「不自然を通り越して、ちょいとばかりおっかないぞ」

504: 2009/06/08(月) 00:23:50.27 ID:2iGim98vP
朝倉『おっかない?』

キョン「ああ、そうだ。ぶっちゃけ不気味だ」

朝倉『ふふっ、確かにそうかも』

キョン「なんだ、わかっててやってたのか?」

朝倉『私の知識の中にも、
    そうやって呼び合う子供の情報は無いわ』

キョン「知識はあったのに、それを実行してなかったのか」

朝倉『だってさ、必要だと思わなかったんだもの』

キョン「そうかい。なら、自然を装うためと、
     お前達を見かけた人が驚かないように是非改善してくれ」

507: 2009/06/08(月) 00:26:37.32 ID:2iGim98vP
キョン「話は終わりだ。すまんが、もう一度長門に代わってもらえるか?」

朝倉『わかったわ』

キョン「っと、ちょっと待て」

朝倉『何? まだ何かあるのかしら』

キョン「明日、な」

朝倉『……あぁ、そうね。それじゃ、明日は会いましょ』

キョン「そうなる事をアヒルみたいな口をしてる神様に祈ってるよ」

512: 2009/06/08(月) 00:31:09.31 ID:2iGim98vP
長門『……何』

キョン「いきなりだが、ハルヒに関してのことだ」

長門『何か問題が』

キョン「大有りだな。長門、お前休んでからハルヒに連絡をしたか?」

長門『していない』

キョン「一度連絡を入れてやってくれ。でないと、
     アイツはずっとマンションの前から離れなさそうだ」

長門『涼宮ハルヒは、22時には帰宅すると推測する』

キョン「……そういう問題じゃないぞ」

517: 2009/06/08(月) 00:37:17.38 ID:2iGim98vP
キョン「とにかく、メールでも入れておいてくれ」

長門『了解した』

キョン「というかだ、お前の携帯にハルヒから連絡が無かったのか?」

長門『…………』

キョン「……長門、今お前はどこに居る。
     お前の携帯はまさかとは思うが離れた位置にあったんじゃないか?」

長門『この形態をとってからは、涼子ちゃんの部屋に居る。
    携帯電話は、今日の正午に部屋に取りに行った』

キョン「……今、お前の口から聞きなれない呼び名が聞こえたんだが
     俺の気のせいじゃないだろうな?」

長門『貴方の指示』

525: 2009/06/08(月) 00:42:46.85 ID:2iGim98vP
長門『問題があれば、別の呼称を選択する』

キョン「いや、それに関しては問題無い。
     急に聞かされたもんだから驚いただけだ」

長門『そう』

キョン「それじゃあ、ハルヒに連絡の件は頼んだ」

長門『この通話が終了し次第実行する』

キョン「ああ、そうそう。ついでと言っちゃなんだが、
     朝倉が休んでるのに関しても何かしらの手をうってくれるか?」

長門『わかった』

キョン「……この場合、『涼子ちゃんの方も頼むな、有希ちゃん』
     ――とでも言った方が良かったか?」

長門『……どちらでも構わない』

526: 2009/06/08(月) 00:47:26.26 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――やれやれ、とりあえずはこれで良しとするか」

キョン(残り四日になっちまうが……仕方ない)

キョン(本当にこれで大丈夫なのか?)

キョン(他に、もっと良いやり方があるんじゃないのか?)

キョン「……」

キョン「そんなの知っちゃこっちゃねえや」

キョン(今、俺が考えられる中ではこいつが最善だからな)

531: 2009/06/08(月) 00:51:38.23 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

ハルヒ「…………」

キョン「――よう、やっぱりここに居たか」

ハルヒ「!? キョンっ!? あんた、
     どうしてこんな所に居るのよ!」

キョン「どうしても何も、SOS団の団長が犯罪に手を染めそうだから
     こうやって諌めに来たんだよ」

ハルヒ「……だって、あの時は絶対に行かないって言ってたじゃない」

キョン「時と場合によるんだよ。それに、そんな事言ったか?
     色々ありすぎて、そんな昔のことは忘れちまったよ」

533: 2009/06/08(月) 00:55:42.24 ID:2iGim98vP
キョン「大体だな、いつからここに居たんだ?」

ハルヒ「あの後すぐよ」

キョン「あの後って……部室を出て行ってからずっとか!?」

ハルヒ「そうよ。悪い?」

キョン「……やれやれ、通報されなくて良かったな」

ハルヒ「仕方ないじゃない。休んでる理由もわからないのに、
     いきなり訪ねて管理人が通すわけないもの」

キョン「そういう問題じゃないだろ……はぁ」

535: 2009/06/08(月) 00:59:05.91 ID:2iGim98vP
キョン「それで、結局成果はあったのか?」

ハルヒ「駄目ね。もしかして、こっちの動きがバレてるのかもしれないわ」

キョン「おいおい、それじゃ相手が宇宙人みたいじゃないか?」

ハルヒ「はぁ? 普通、こういう場合は超能力者でしょ」

キョン「……宇宙人だったら、それ位平気でやってのけるんじゃないか」

ハルヒ「そうね、確かにその可能性はあるわ。
     キョン、あんたにしてはさえてるじゃない」

キョン「ありがとよ」

536: 2009/06/08(月) 01:04:18.56 ID:2iGim98vP
キョン「とりあえず、今日のところはもう帰るぞ」

ぐいっ!

ハルヒ「ちょ、ちょっとキョン!」

キョン「これ以上は、さすがに宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が
     見逃しても、ご近所の目は見逃しちゃくれないからな」

ハルヒ「わ、わかったから離しなさいよ!」

キョン「わかってくれて嬉しいよ。駄々をこねられたら、
     強引にでも引きずっていくつもりだったからな」

ハルヒ「……バカキョン!」

538: 2009/06/08(月) 01:07:03.07 ID:2iGim98vP
キョン「まあ、お前の気持ちもわからんでもないけどな」

ハルヒ「えっ?」

キョン「俺だって、偶然にしちゃ色々とありすぎるとは思ってるよ」

ハルヒ「だったら!」

キョン「でもな、案外それも勘違いだったりするかもしれないだろ」

ハルヒ「…………」

539: 2009/06/08(月) 01:09:04.84 ID:2iGim98vP
ハルヒ「そりゃそうだけど……」

prrrr!prrrr!

キョン「携帯、鳴ってるぞ」

ハルヒ「言われなくてもわかってるわよ」

キョン「誰からだ?」

ハルヒ「……有希からメール。迷惑をかけて申し訳ない、って」

キョン「なっ? 案外、不思議と思っててもそういうもんだ」

541: 2009/06/08(月) 01:13:21.16 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「それじゃ、また明日な」

ハルヒ「……ねえ、キョン」

キョン「? どうした」

ハルヒ「……なんでもない」

キョン「おかしな奴だな。まあ、知ってたが」

ハルヒ「――うるさいっ! 調子に乗ってると、ただじゃおかないわよ!」

キョン「そうかい。なら、もう少し抑え目で平凡に行くことにするよ。
     ……もっとも、お前が暴走するんならその限りじゃないけどな」

605: 2009/06/08(月) 16:43:59.59 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――あと四日で何が出来るんだろうか」

キョン(休日を挟みはするが、具体的に何をすれば良いか思いつかん)

キョン(どこかに連れて出かけるか?)

キョン(遊園地? 動物園? 水族館なんてのもあるな)

キョン(……いやいや、そもそもそんな所にアイツらを連れて行って、
     楽しませることが出来るのかが疑問だ)

キョン「……やれやれ」

キョン「――とにかく、今日はもう寝るとするか」

607: 2009/06/08(月) 16:46:17.95 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

「――ン……起きなさ…………キョ……!」

キョン「……もう少し寝かせてくれ」

ハルヒ「何寝ぼけてるのよキョンっ!」

キョン「うおっ!?」

ハルヒ「目が覚めた?」

キョン「ここは――学校、か……?」

609: 2009/06/08(月) 16:49:39.51 ID:2iGim98vP
ハルヒ「そうみたいね。あたしも気付いたらここに居たの」

キョン「俺には夢遊病の気はないんだが」

ハルヒ「あたしだってそうよ」

キョン「しかし……どうして景色が灰色なんだ」

キョン(これじゃまるで、古泉に連れて行かれたなんたら空間じゃないか)

ハルヒ「あたしにわかるわけないじゃない。
     とにかく、学校の外に出てみましょ」

キョン「まさかとは思うが、俺が起きるまで待っててくれたのか?」

ハルヒ「……放っておくわけにもいかないでしょうが」

610: 2009/06/08(月) 16:53:40.45 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「やれやれ、結局学校の外には出られなかったな」

ハルヒ「とにかく、色々探索してみましょ」

キョン「なんだ、やけに元気が良いじゃないか」

ハルヒ「だって、こんな不思議なことが起こってるのよ?
     もしも夢だとしても、楽しまなかったら損じゃない!」

キョン「これが夢だとしたら、フロイト先生も爆笑だぜ」

ハルヒ「そうかしら?……とにかく、あたしは職員室の方に
     何かないか探してみるわ」

キョン「はいよ。それじゃあ、俺は旧校舎の方をあたってみる」

611: 2009/06/08(月) 16:56:49.77 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――と言ってはみたが、今のこの状況は多分
     ハルヒが原因で起こってることなんだろうな」

キョン(……正直、どうしたら良いかサッパリわからん)

キョン(――なあ、ハルヒよ)

キョン(どうしてこの世界には、俺とお前の二人しかいないんだ?)

キョン「……なんてことを聞く勇気も度胸もないね」

…ガチャッ

614: 2009/06/08(月) 17:01:03.22 ID:2iGim98vP
キョン「――やっぱり誰もいない、か」

キョン(もしかしたら、朝比奈さんや古泉が居るかもと思ったんだが)

キョン(長門は……まあ、今は子供の姿だからな)

キョン「……ん?」

キョン(パソコンの電源が入って――)

RYOKO.A>見えてる?

キョン「!」

616: 2009/06/08(月) 17:06:24.49 ID:2iGim98vP
キョン「おいおい、まさか朝倉なのか!?」

RYOKO.A>確認のしようがないし、時間も無いから手短に言うわね。

キョン「……」

RYOKO.A>涼宮ハルヒは、世界を飲み込むほどの閉鎖空間を発生させたの。

キョン「……なんだよ、そりゃ」

RYOKO.A>このままだと、今の世界は消滅したままになっちゃうわ。

RYOKO.A>だから、貴方には現状の回復を頼みたいの。

RYOKO.A>お願い。

618: 2009/06/08(月) 17:10:12.28 ID:2iGim98vP
キョン「お願いって言われても……一体どうすりゃ良いんだ」

RYOKO.A>それh

キョン「――ん?」

YUKI.N>方法は一つ。

キョン「おいおい、どうして長門に変わったんだ?」

YUKI.N>現状で最も効果的だと思える選択肢を提示する。

キョン「……ゴクリ」

>Sleeping姫

キョン「……――意味がわからん」

621: 2009/06/08(月) 17:15:21.52 ID:2iGim98vP
キョン「もっと具体的にだな――……って、
     電源が切れやがったよコンチクショウ……!」

…ガチャッ

ハルヒ「――どう、キョン。何か見つかった?」

キョン「見つかったとも言えるし、
     何一つわからなかったとも言えるな」

ハルヒ「意味わかんない。キョン、あんた色々と大丈夫なの?」

キョン「この状況で平静を保ってられる程……」

キョン「…………おいおい、マジかよ」

ハルヒ「キョン! なによあの巨人!? 不思議どころの騒ぎじゃないわよ!」

622: 2009/06/08(月) 17:20:16.25 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――良いかハルヒ、よく聞けよ」

ハルヒ「なっ、何よ急に……」

キョン「世界ってのはな、お前が思ってる以上に面白いことで溢れてるんだ。
     だから、とっととこんな世界とはおさらばするぞ」

ハルヒ「……別にここでも良いじゃない。だって、
     ここには物凄い不思議もあるし、それに、あんたが――」

キョン「――ハルヒ」

ハルヒ「?」

キョン「実は俺――ポニーテール萌えなんだ」

ハルヒ「!?」

624: 2009/06/08(月) 17:23:49.10 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

ドサッ!

キョン「……」

キョン(――なんて夢を見てるんだ俺は)

キョン「あれは違うぞ。切羽詰ってただけであってだな……」

キョン「……」

キョン(やれやれ、あの二人にも何があったか知られちまってるのか?)

キョン「……勘弁してくれ」

625: 2009/06/08(月) 17:27:39.74 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「よう、不景気そうな面してどうした。
     何か悪い夢でも見たのか?」

ハルヒ「最悪の夢見だったわ。あれじゃ、まるで……」

キョン「まるで?」

ハルヒ「何でもないわ。もう、ホント最悪よ」

キョン「そうかい。ところでハルヒ」

ハルヒ「……」

キョン「似合ってるぞ、ポニーテール」

ハルヒ「……うっさい」

626: 2009/06/08(月) 17:31:37.84 ID:2iGim98vP
キョン「俺としては良いものが見られたから良いんだけどな」

ハルヒ「今日のこれは気まぐれよ」

キョン「そいつは残念だ」

ハルヒ「……」

ガラッ

岡部「HRはじめるぞー」

627: 2009/06/08(月) 17:34:56.41 ID:2iGim98vP
岡部「急な話なんだが、朝倉が転校することになった」

ハルヒ「えっ?」

キョン「……なんですと?」

岡部「なんでも、親御さんの仕事の都合でカナダへ引っ越すことになったそうだ」

岡部「この二日休んでたのも、そのための準備で忙しかったかららしい」

谷口「先生、それってマジなんですか!?」

岡部「ああ。郵送でだが、書類も今朝届けられた」

谷口「うおお……貴重なAAランク+の女子が……!」

629: 2009/06/08(月) 17:39:30.69 ID:2iGim98vP
キョン(転校って……まさか、昨日電話で話した件でか?)

キョン(そりゃあ、確かに転校したことにすれば、
     朝倉と長門が同時にいないのも不自然さが薄れるが……)

キョン「いくらなんでも、急すぎて逆に不自然だろう……」

ハルヒ「? 何か言った?」

キョン「気のせいだ。その髪型だと耳が出てるから、
     空耳も聞こえやすくなってるんじゃないか?」

ハルヒ「そんなわけないじゃない。それに、その理屈が正しかったら
     そこら中幻聴を聞いてる人間だらけになるじゃないの」

キョン「それもそうだな」

632: 2009/06/08(月) 18:00:50.06 ID:2iGim98vP
ハルヒ「でも……明らかにおかしいわ」

キョン「……何がだ」

ハルヒ「そんな事もわからないの? いくらなんでも急すぎるわ。
     それにカナダよ、カナダ! そんなのあり? 胡散臭すぎるわよ~」

キョン「そうかい?」

ハルヒ「後で色々と調べてみる必要がありそうね」

キョン「……まさかとは思うが、またマンションの前で張り込みをしたり
     するつもりじゃないだろうな?」

ハルヒ「そんな事しないわよ。キョン、あんたが通報されるって言ったんじゃない。
     本当ならそうしたいところだけど、あたしは団員の意見も極力尊重するのよ」

キョン「そいつは良かった。それじゃあ、今度から奢りは勘弁してくれ」

ハルヒ「却下」

633: 2009/06/08(月) 18:06:47.18 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――さて、一体どういう事か説明してもらおうか」

長門「本来なら、以上動作を取った涼子ちゃんは処分されるはずだった」

朝倉「そんなつもりは無かったんだけどね。有希ちゃんの言うとおりなのよ」

キョン「そうだとして、どうしてカナダへ転校することにしたんだ」

朝倉「情報統合思念体が、私を涼宮ハルヒの周囲に配置しておくのは
    危険だと判断したのよ」

長門「涼子ちゃんは情報結合の解除をされてもおかしくはなかった。
    しかし、貴方との約束――“氏の概念”を学ぶということが理由で免れた」

朝倉「そうなの。だから、お互い命拾いしたってことになるわね」

634: 2009/06/08(月) 18:10:55.72 ID:2iGim98vP
朝倉「丁度良い機会だったって言えるのかな、この場合」

長門「貴方の指示に従い、かつこちらの決定も通る選択をした」

キョン「……その結果、あいつは朝倉に何かあると思ったみたいだったぞ」

朝倉「どうして?」

キョン「あのな、普通は急に海外に引っ越すってのは有り得ないぞ」

長門「その事例はあると確認した」

キョン「……やれやれ。まあ、もう終わっちまったことだから仕方ないか」

朝倉・長門「?」

635: 2009/06/08(月) 18:15:44.55 ID:2iGim98vP
キョン「とにかく、今日を入れたらあと四日だからな。
     そろそろ本腰を入れなきゃならんだろう」

朝倉「ねえ、本当に日数は足りるの?」

キョン「なんとかするさ。それしかないんだろう?」

朝倉「そうよ」

長門「期限の延長は許可出来る」

キョン「……いや、とりあえずあと四日間精一杯やらせてもらうさ」

長門「どうして」

キョン「それ以上伸ばさないかって? まあ、本当なら延長して欲しい
     どころの騒ぎじゃないんだが、朝倉と約束したからな」

637: 2009/06/08(月) 18:20:25.12 ID:2iGim98vP
長門「理解出来ない」

キョン「長門、約束ってのは守らなきゃいけないんだぞ」

長門「……」

朝倉「あなた、人間の中でも相当変わってるんじゃない?」

キョン「失礼な。俺はこれでも、何の変哲もない平凡な奴だって自覚してるんだ。
     そいつが良いかどうかはともかく、間違っても俺は変じゃない」

朝倉「ねえ、有希ちゃんはキョンくんのこの答えについてどう思う?」

長門「ユニーク」

キョン「……長門、お前までそう言うか」

638: 2009/06/08(月) 18:26:04.13 ID:2iGim98vP
キョン「お前達の俺への認識について話し合う必要がある」

朝倉「あっ、その前に一つ良いかしら」

キョン「? どうした、何か問題でもあったのか?」

朝倉「そういう訳じゃないわ。今日、ちょっと考えたのよね」

キョン「ほう、自発的に“氏の概念”について考えてくれるとは、
     中々どうして朝倉も協力的だな。俺としては嬉しい限りだ」

朝倉「違うわよ。勘違いしないでくれる?」

キョン「……ぬか喜びさせないでくれ。で、何だ?」

朝倉「呼称についてよ」

639: 2009/06/08(月) 18:31:29.40 ID:2iGim98vP
キョン「なんだ、“涼子ちゃん”、“有希ちゃん”じゃ不満なのか。
     だったら、別の呼び方を考えてくれれば良い」

朝倉「そうじゃなくてさ、貴方の私達への呼び方よ」

キョン「……何?」

長門「私達の外見年齢の人間に対して、貴方の年齢の人間が
    苗字を用いて呼び捨てにする事は不自然」

キョン「おいおい、まさか――お前達、俺に名前で“ちゃん”付けで
     呼べって言ってるんじゃないだろうな?」

朝倉「そのまさかよ」

キョン「勘弁してくれ……!?」

642: 2009/06/08(月) 18:35:56.04 ID:2iGim98vP
朝倉「あら、どうして?」

キョン「あのな、お前らは俺と同級生なんだぞ。
     なのに名前で“ちゃん”付けなんてどんな羞恥プレイだ」

朝倉「私はもう転校したことになったから、同級生じゃないわ」

キョン「長門はそうじゃないだろう!」

朝倉「だったら、私だけ“ちゃん”付けでも構わないわよ」

キョン「……まあ、それなら――」

長門「…………」

キョン「あぁ……そんな目で見るな長門」

644: 2009/06/08(月) 18:40:23.74 ID:2iGim98vP
キョン「良いか長門、人間ってのは10代の後半になるとだな、
     男女間でそこまで親しげにするのは――」

長門「私は生まれてから三年しか経っていない」

キョン「……そうだな」

長門「…………」

朝倉「ねえ、もう諦めた方が良いんじゃないかしら。
    それとも、そんなに“ちゃん”付けは嫌?」

長門「…………」

キョン「――ああもう! わかったよ! わかったから
     涼子ちゃんも有希ちゃんもそんな顔をするなっての……!」

645: 2009/06/08(月) 18:41:45.20 ID:2iGim98vP
次のレスでさるさんだからゴハン

651: 2009/06/08(月) 19:38:54.42 ID:2iGim98vP
ばいばいさるさん

~時台に、10レスを超えるレスをする場合に発生
10レスまでだったらばいばいさるさんにはならないが、
条件を満たしていない場合11レス目でばいばいさるさんになる

条件は、
自分のレス:他のレス=10:11

つまり、俺が10レスしててそれ以外のレスが11回なかったらさるさん
それ以降のレスに関しては、
11レスなら12レス、12レスなら13レスの支援が必要、ってなる

さるさんのカウントは毎時00分にリセット
言っちゃえば、毎時間10レス以内なら支援は必要ない

さるさんのカウントが始まるのは、~時台の最初のレスから
つまり、俺の19時台の場合だとこのレスからカウントが始まる

カウント開始以前のレスは、残念ながら支援にはならない
カウント開始してから、それ以後のレスが支援に成り得る


まぁ、次さるったらその程度の需要ってことだし、
復帰まで待つのも時間もったいないし終わる
続きは他のトコでやるから平気

656: 2009/06/08(月) 19:43:52.19 ID:2iGim98vP
朝倉「ふふっ、良かったね有希ちゃん」

長門「涼子ちゃんが笑っている理由がわからない」

朝倉「そう? 私にはムキになってるように見えたんだけどな。
    ねえ、もしかして私の勘違いだった?」

長門「そう」

朝倉「キョンくんはどう思う?」

キョン「ノーコメントだ。……というかな、ここまできたら
     俺への呼び方も変えないと不自然だと思うんだが」

朝倉「それもそうよね。確か、妹が居たわよね?」

キョン「……お前の質問も、それに対する答えもある。
     俺は妹にも……“キョンくん”って呼ばれてるんだよコンチクショウ」

663: 2009/06/08(月) 19:48:26.21 ID:2iGim98vP
朝倉「だってさ、有希ちゃん」

長門「そう」

キョン「そろそろ本題に入っても良いか?
     正直、この話題を続けるのは精神的な負担が凄い」

朝倉「ねえ、試しに一度呼んでみたらどうかしら。
    練習ってさ、必要だと思うのよ」

長門「……キョンくん」

キョン「……なんとも不可思議な気分だよ。
     なあ、元の姿に戻っても俺のことをそう呼んだりはしないだろうな?」

朝倉「嫌なの? 可愛くて良いじゃない」

長門「キョンくん」

キョン「……やれやれ」

666: 2009/06/08(月) 19:54:04.99 ID:2iGim98vP
朝倉「あはっ、その表情が見られて満足したわ」

キョン「そうかい。涼子ちゃんよ、いや……
     涼子って呼んだ方がしっくりくるな」

朝倉「キョンくんの呼びやすい方で良いわよ」

キョン「だったら朝倉って呼ばせて貰う」

朝倉「ねえ、それって人間で言う所の“大人気ない”って言うのよね」

キョン「……涼子」

朝倉「何?」

キョン「あまり年上をからかうもんじゃないぞ」

ぐりぐりぐりぐりっ

朝倉「ちょっ、ちょっと! 眉をグリグリしないでっ!」

670: 2009/06/08(月) 19:58:07.44 ID:2iGim98vP
キョン「本当なら軽く小突いてやるところなんだが、
     お前達にそれをしても効果があるかわからんからなぁ」

ぐりぐりぐりぐりっ

朝倉「うううっ……!?」

キョン「それに、俺は虐待をする気は毛頭無いし、
     かと言ってこの感情をそのままにしておくのは嫌なんだ」

ぐりぐりぐりぐりっ

朝倉「もっ、もう良いじゃない……!」

キョン「それ故に、仕方無しにこうやって子供の姿になっても
     面影を残す部分へのささやかな仕返しをしている訳だ」

673: 2009/06/08(月) 20:02:41.42 ID:2iGim98vP
キョン「本当ならこんな真似はしたくないんだが、
     これも俺の心の平穏のためだ。許してくれ」

ぐりぐりぐりぐりっ

朝倉「ぃうううっ……!?」

キョン「――さて、ここまでやったら、いくらヒューマノイドなんちゃらの
     お前でも俺の言わんとしている事を理解してくれるな?」

朝倉「……あっ、貴方バカじゃないの!?」

キョン「そうかい。まだグリグリされたいみたい――って、
     どうしてお前は眼鏡をはずしてるんだ?」

長門「理由は無い」

キョン「……あ~……有希、眼鏡をはずしてた方が可愛いと思うぞ」

長門「……そう」

674: 2009/06/08(月) 20:08:05.18 ID:2iGim98vP
朝倉「いくらなんでも理不尽よ……」

キョン「人間ってのはそういうもんなんだよ、三歳児。
     その点、ハルヒの弁じゃないが有希は良い子で助かるな」

長門「そう」

キョン「……なんだか不満そうな顔だな。
     いや、気のせいだとは思うんだが……」

長門「……」

キョン「意味が分からん……。
     子供の扱いは、妹で慣れてると思ったんだが……」

678: 2009/06/08(月) 20:15:20.78 ID:2iGim98vP
キョン「――さて、そろそろ本題に入らせてもらって良いか?
     今日を入れて四日しかないってのに、脱線しすぎちまった」

朝倉「キョンくんのせいだと思うわ」

キョン「……とにかく、お前達が“氏の概念”について
     どれだけの知識があるのかを聞いておきたい」

長門「情報としての知識は有している」

朝倉「そうね、多分だけど哲学的な問いに関しては貴方より詳しいと思うわ」

キョン「そいつは頼もしいな」

キョン「――まあ、今はそんなもんは忘れちまっててくれ」

679: 2009/06/08(月) 20:20:47.79 ID:2iGim98vP
朝倉「? どういうこと?」

キョン「なあ、お前達はそれを知っているのに、
     “氏の概念”については理解しちゃいないんだよな?」

長門「そう」

キョン「だったら、そんな知識は役に立たないんじゃないかと思うね。
     というか、情報媒体で“氏の概念”について学ぶ三歳児ってのはどうなんだ」

朝倉「人間で言うところの、勤勉っていうのだと思うわ」

キョン「悪いが俺はあまり頭が良くないんだ。涼子、お前は知ってるだろう?」

朝倉「そうね、授業中当てられても答えられなかったりする事が多いし」

キョン「……その姿のお前に言われると、事実なんだがモヤモヤするな」

680: 2009/06/08(月) 20:24:49.80 ID:2iGim98vP
キョン「とにかくだ、俺はその方法がお前達には合ってないんじゃないかと
     考えた訳だ。それは――お前達が宇宙人だから」

長門「……」

キョン「ああいう本ってのは、人間向けに書かれたもんであって、
     宇宙人向けに書かれたもんじゃあない」

長門「キョンくん。貴方の言葉だと、
    私が本を読むのは好ましくないという意味にとれる」

キョン「いやいや、本を読むのは良いことだぞ?
     それに、有希は本が好きなんだよな?」

長門「ユニーク」

キョン「だったら、好きなだけ読めってのが俺の考えだ。
     ……しかし、この呼び方も呼ばれ方も違和感がするな」

686: 2009/06/08(月) 20:29:40.15 ID:2iGim98vP
キョン「時間があるならそれでも良いんだが、
     生憎あと四日しかないわけだ」

キョン「だから、これから四日間は俺が思ってる“氏の概念”を
     教えていくつもりでいる」

キョン「そいつでお前達が納得してくれるかはわからないが、
     それ以外の“氏の概念”を教えろって言われても無理な話だ」

キョン「……何せ、俺は普通の高校生だからな。
     しかも、成績が良いとは残念ながら言いがたい程度の奴さ」

キョン「それに満足するかはわからんが――涼子、有希」

朝倉・長門「……」

キョン「遅くなっちまったが、よろしく頼む」

687: 2009/06/08(月) 20:34:33.15 ID:2iGim98vP
朝倉「……普通、これからモノを教えようって言うのに、
    自分でもよくわからないなんて言う?」

キョン「正直なのは美徳らしいぞ」

長門「……」

キョン「有希……呆れてるのか?
     そうだとしたら、さっきの言葉は忘れて欲しい」

長門「呆れていない」

キョン「そいつは良かった」

長門「とてもユニークだった」

キョン「……ありがとよ」

690: 2009/06/08(月) 20:39:16.79 ID:2iGim98vP
朝倉「――それじゃあさ、さっきの失言は忘れてあげる代わり
    っていうのもなんなんだけど、手伝って欲しいことがあるのよ」

キョン「俺に出来る範囲のことなら良いぞ」

朝倉「私と有希ちゃんをお風呂に入れて欲しいの」

キョン「断固拒否する!」

朝倉「どうして? 実行可能な要求だと思うわ」

キョン「……どうして俺がお前達の入浴を手伝わにゃならんのだ」

朝倉「この格好を見て分からない?」

キョン「わかってたまるか」

朝倉「手足が短いから、お風呂で溺れちゃったら大変じゃない」

696: 2009/06/08(月) 20:46:41.27 ID:2iGim98vP
キョン「シャワーとかあるだろう。
     人間の文明ってのは利便性に特化されてるんだ」

朝倉「お風呂とシャワーは別でしょ」

キョン「お前達は今は子供の格好をしてるが、
     元の姿は俺と同年代の女子だろう……!」

朝倉「状況によって扱いを変えるってさ、
    考えるまでもなくおかしなことだと思うわ」

キョン「……」

朝倉「ねえ、キョンくん。貴方は私達をどう扱うつもりなの?
    それによって、今後の方針を変えなきゃいけないわ」

キョン「……ああもう! わかったよ!
     シャンプーが目に入っても容赦はしないからな!?」

705: 2009/06/08(月) 21:16:05.81 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

『ねえ、キョンくん。いつまでそうしてるつもりなの?』

キョン「俺にも心の準備が要るんだ」

『さっきの勢いだと、てっきり頭も洗ってくれると思ったんだけど』

キョン「自分で出来ることは、極力自分でやった方が
     今後生きていくために力になるぞ」

『有希ちゃん。有希ちゃんはキョンくんに頭を洗って欲しいわよね?』

『欲しい』

キョン「……――中に居るのは三歳児。
     だから、俺が一緒に風呂に入るのはおかしな事じゃない……」

…ガラッ

711: 2009/06/08(月) 21:20:59.49 ID:2iGim98vP
キョン「うおっ、やけに広い風呂だな」

朝倉「あのさ、せめて前は隠したら?」

キョン「お前な、手で股間を隠しながら入ったら、
     それこそ自分は変Oですと言ってるようなもんだろう」

朝倉「カゴの横にタオルを置いておいたのよ?」

キョン「…………気付いてたさ、勿論な」

朝倉「ふ~ん、なら良いんだけど。
    それじゃあ、早速さっき言ってたことをしてもらおうかな」

キョン「はいはい。……というか涼子、お前その姿になってから
     学校の時とキャラが違いすぎないか?」

朝倉「ふふっ、気のせいじゃない?」

715: 2009/06/08(月) 21:24:52.48 ID:2iGim98vP
キョン「しかし、こうやって見ると長い髪だな」

朝倉「感想は髪に関してだけ?」

キョン「チンチクリンの分際で何を言ってやがる。
     俺は妹がいるんだから、ある程度は見慣れてるんだよ」

朝倉「あっ、もしかして今でも妹さんとお風呂に入ってるの?」

キョン「そんなわけないだろう」

ザパァッ!

朝倉「わぷっ……ちょっと、お湯をかける前に何か言ってよ」

キョン「痒いところはございませんか」

朝倉「……別に良いんだけどね」

721: 2009/06/08(月) 21:29:54.35 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

朝倉「他人に髪を洗ってもらうのって、
    どうして満足感があるのかしら」

キョン「さあな。俺もそんなのは相当昔のことだから忘れちまったよ」

朝倉「キョンくんってさ、他人の頭を洗うのに慣れてない?」

キョン「そろそろ良いな。流すぞー」

ザパァッ!

朝倉「わぷっ……ねえ、キョンくん?」

キョン「今度はちゃんと言ってから流したぞ」

長門「…………」

キョン「? どうした有希、湯船に入らないと風邪ひくぞ」

726: 2009/06/08(月) 21:33:17.05 ID:2iGim98vP
長門「平気」

キョン「平気ってお前……」

長門「…………」

キョン「ん? まだ髪を洗ってないのか?」

長門「そう」

キョン「どうしてだ? 体は自分で洗えたんだろう」

長門「…………」

キョン「やれやれ、まさかお前までとはな。
     ほら、涼子の代わりにここに座れ」

長門「わかった」

728: 2009/06/08(月) 21:38:32.67 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

朝倉「……ねえ、どうしても100まで数えなきゃ駄目?」

キョン「風呂ってのはそういうもんだろ」

朝倉「この体だとさ、熱に対しての抵抗力が低いのよ」

キョン「そうかい。ちゃんと肩までつかるんだぞ。
     俺が体を洗い終わる頃には数え終わってるはずだ」

朝倉「――有希ちゃん?」

長門「…………」

キョン「――どうしてお前は小さくなったら物凄く手間のかかる子供に!
     のぼせる前に何か言ってくれ……!」

長門「…………」

733: 2009/06/08(月) 21:43:45.99 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

長門「……」

キョン「……やれやれ、大丈夫か? 頭が痛いとかないか?」

長門「ない」

朝倉「はい、有希ちゃん。水分を補給して」

長門「……」コクリ

キョン「悪かったな。まさか、ここまで風呂に入るのが大仕事だったとは……」

朝倉「――そうね。明日からは、情報操作を使って
    “入浴をしたのと同じ”効果を得るようにするわ」

キョン「……なんですと?」

735: 2009/06/08(月) 21:49:01.39 ID:2iGim98vP
朝倉「聞こえなかった? 無理に入浴するより、
    情報操作をする方が危険も少ないし早い、ってことよ」

キョン「おいおい」

朝倉「それにさ、この姿になるまでの入浴の経験が欠けているわけじゃない?
    言ってみれば、基本的にぶっつけ本番なのよね」

キョン「朝倉さんよ」

朝倉「涼子、でしょう?」

キョン「涼子。……今のお前の台詞を噛み砕いてみたんだが、
     その結果俺がお前達を風呂に入れる必要性は無かったってことになるんだが」

朝倉「そうよ」

キョン「なんだ……そりゃ……」

736: 2009/06/08(月) 21:54:00.79 ID:2iGim98vP
朝倉「あのね、私も貴方が居ない間遊んでたわけじゃないのよ。
    そりゃあ、外に出たりはしてたけどね」

キョン「外に出たって、俺が言ったことを守ってたのか」

朝倉「当たり前じゃない。やれることはやっておくべきよ。
    その指示の内容がどうであれ、与えられたことはこなすわ」

キョン「お前は、外に出て一体なにを覚えてきたってんだ」

朝倉「この容姿の年齢の人間が、一般的にはどんな行動をするかね」

キョン「そいつはどこで?」

長門「図書館」

キョン「今時の図書館ってのは、なんでも情報が仕入れられるんだな……」

739: 2009/06/08(月) 21:59:26.50 ID:2iGim98vP
朝倉「貴方の指示もあったし、有希ちゃんの希望もあってね」

キョン「有希は図書館が好きなのか?」

長門「割と」

キョン「かなりお気に入りみたいだな」

長門「……」

キョン「ふむ……それじゃあ、涼子はどこに行きたいとかは無いのか?」

朝倉「私は別にどこでも良いのよ」

キョン「明日は休みだからな。ハルヒや妹に捕まらなければ、
     どこかに出かけるってのも悪くない」

長門「図書館」

キョン「……有希、三人で話し合って決めような」

743: 2009/06/08(月) 22:06:10.77 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――あと三日か」

キョン(アイツが言うには、「思い切り楽しませる」ってことだったが)

キョン(……)

キョン「考えて出来ることだったら、苦労はしないっての」

キョン(こうなったら、我が家で最も子供の感情について詳しい人間に聞いてみるか)

キョン「……それが役に立つかどうかはわからんが」

744: 2009/06/08(月) 22:07:37.79 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

コンコン

キョン「ちょっと良いか?」

『うん、入って良いよー』

キョン「それじゃ」

ガチャッ

キョン妹「キョンくん、どうかしたのー?」

746: 2009/06/08(月) 22:12:22.18 ID:2iGim98vP
キョン「なあ、友達とどこかへ出かけるとしたらどこが良い?
     勿論、俺が連れて行ってやれる範囲で」

キョン妹「えっ、それっていつの話ー」

キョン「明日だな」

キョン妹「今から電話して、ミヨキチ起きてるかなー」

キョン「待て待て、聞いてるだけで連れてくとは言ってないだろう?」

キョン妹「ぶー、キョンくんのケチー!」

キョン「どうしてそうなる」

749: 2009/06/08(月) 22:20:43.49 ID:2iGim98vP
キョン「とりあえず、参考までに聞いておきたくてな」

キョン妹「もしかして、今度連れてってくれるのー?」

キョン「良い子にしてたら考えなくも無い」

キョン妹「やったー!」

キョン「それで、行くとしたらどこに行きたい?」

キョン妹「うんとねー、えっとねー、あそこと、あそことー」

キョン「出来れば一、二箇所にしてくれ。
     というか、どうして両手の指を使ってるのに数が足りてないんだ?」

752: 2009/06/08(月) 22:25:03.94 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

ピンポーン

『入って』

キョン「わかった」

『鍵は開いている』

キョン「はいはい」

754: 2009/06/08(月) 22:27:41.58 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

ガチャッ

キョン「お邪魔します、っと……有希ー、涼子ー、
     もう出かける支度は済んでるのかー?」

キョン「――って……」

長門「もう終わる」

朝倉「キョンくん……女の子が着替えてるのに、
    それはどうかと思うわ」

キョン「――着替えてる途中ならそう言ってくれ……!?」

758: 2009/06/08(月) 22:32:25.06 ID:2iGim98vP
長門「時間計算に誤差が発生した」

朝倉「有希ちゃん、ボタン掛け違えてるわよ」

長門「わかった」

朝倉「ああ、ほら……靴下も表裏逆になってる」

長門「そう」

キョン「なあ……いつまでかかりそうだ?」

長門「もうすぐ」

761: 2009/06/08(月) 22:35:57.19 ID:2iGim98vP
朝倉「ねえキョンくん、有希ちゃんを手伝ってあげてくれない?
    私も、この体だと上手く出来ないのよ」

長門「必要ない」

キョン「そう言われてもな……」

長門「平気」

キョン「あっ、おい、有希! そんな不安定な体勢で靴下を――」

長門「!」

つるっ!……べちゃっ!

キョン「――履こうとしたら危ないぞ、って言おうとしたんだが……。
     凄い音がしたが大丈夫か? やっぱり手伝った方が良いんじゃないか?」

長門「…………お願い」

765: 2009/06/08(月) 22:41:43.37 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「有希、自分一人じゃ無理そうな時は、
     他の人間を頼っても良いんだぞ」

長門「そう」

朝倉「そうよ、有希ちゃん。貴方、この体のスペックに馴染みすぎてるんだもの。
    可能な行動の範囲が狭まっても、仕方ないと思うわ」

長門「…………」

キョン「……まさか、『涼子ちゃんは一人で出来たから』
     ってのが理由なのか?」

長門「その可能性は否定できない」

キョン「……まあ、頑張るのは悪いことじゃない。偉いぞ」

ナデナデ

長門「……そう」


770: 2009/06/08(月) 22:46:57.02 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――さて、二人とも準備出来たか?」

長門「出来た」

朝倉「私はキョンくんが来る前に出来てたわよ」

長門「…………」

キョン「こらこら涼子。有希をいじめちゃ駄目だろう」

朝倉「キョンくんってさ、有希ちゃんに対しては妙に優しくない?」

キョン「ヤキモチを焼くとは可愛い奴め。
     宇宙人にも、そういう感情が芽生えたってのは進歩なのか?」

ナデナデ

朝倉「ねえ、その笑顔の意味がわからないんだけど?」

775: 2009/06/08(月) 22:54:50.58 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――さて、とりあえず駅前に来たんだが……。
    お前達、これからどこに行きたい?」

朝倉「えっ? 昨日のうちに決めてくるんじゃなかったの?」

キョン「ちょいと人選ミスをしちまってな。昨日聞いた話を参考にすると、
     思い切り遠出をしなきゃいけなくなっちまうんだ」

朝倉「あら、私は別に構わないんだけど」

キョン「お前が構わなくても、俺の財布の中身にも問題があるんだ。
     ハッキリ言って、金が足りない」

朝倉「そういうのってさ、確か甲斐性なしって言うのよね」

キョン「……あどけない表情で言うな。涙が出るところだったぞ」

776: 2009/06/08(月) 22:58:31.28 ID:2iGim98vP
長門「金銭に関してなら問題ない」

キョン「あん?」

朝倉「そうよね。だって、見た目はこうでも私達は――」

キョン「ストップ。非常にありがたい申し出だとは思うんだが……」

朝倉「まだ何も言ってないじゃない」

キョン「何を言うかの予想はつく。大方、情報操作やら何やらで
     金を出すから心配はないってんだろ?」

朝倉「失礼ね。そんなことしないでも、
    支給されてる金額である程度までなら対処出来るわよ」

キョン「……すまん、泣いていいか?」

780: 2009/06/08(月) 23:04:01.01 ID:2iGim98vP
朝倉「どうする?」

キョン「……悪いが、その申し出は謹んで断らせてもらう。
     そうしなけりゃ、俺の心がもちそうに無い」

長門「理解出来ない」

キョン「言うと情けないから、これ以上は聞かないでくれ」

朝倉「駄目よ。貴方には、私達の質問に答える義務があるわ」

キョン「……誘った側が、三歳児に、しかも女の子に奢られちゃ、
     いくらなんでも格好ってもんがつかんだろう」

朝倉「人間がたまに使う、“プライド”って言葉ね?」

キョン「ああ、そうだよ。それ位の見得を張る位許してくれ、頼むから」

784: 2009/06/08(月) 23:09:21.22 ID:2iGim98vP
キョン「……もう良いだろう? とりあえず、そこの喫茶店にでも入って、
     お茶でも飲みながらどうするか話そうじゃないか」

朝倉「それじゃあさ、何か食べても良いかしら」

キョン「ん? まだ10時だぞ。
     腹が減るには、ちょっと早すぎないか?」

長門「私達は朝食をとっていない」

キョン「そりゃまたどうして」

朝倉「買いに行く暇が無かったのよ」

キョン「あ~……確かにその格好じゃ料理は作りにくいだろうし、
     起きたら親が作ってくれてるってこともないからな」

キョン「――よし、その位だったら任せとけ!」

788: 2009/06/08(月) 23:16:22.51 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「……――すみません、そろそろ勘弁してください」

朝倉「私の記憶に齟齬があるのかしら。
    『任せとけ!』……って力強い言葉を貰ったわよ」

キョン「確かに言ったともさ。言ったがな、
     さすがにお前達食いすぎじゃないか?」

長門「……モグモグ」

朝倉「成長期だからじゃない?」

キョン「いやいや、普通の成長期の子供は店のメニューを
     制覇しちまうんじゃないかって勢いで食うなんてことはないぞ」

790: 2009/06/08(月) 23:21:29.83 ID:2iGim98vP
キョン「有希がかなり食う奴ってのは知ってたが、
     まさかお前までとは思わなかったんだよ」

朝倉「成長期だからじゃない?」

キョン「……あのな」

長門「……モグモグ」

朝倉「あっ、このパフェ美味しい。
    キョンくんも一口たべる? はい、あーん」

キョン「……あーん」

朝倉「――なんてね。はい有希ちゃん、あーん」

長門「あーん……モグモグ。……おいしい」

キョン「……正直、たまりません」

797: 2009/06/08(月) 23:26:44.81 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――さて、奇しくも目的地が決まったぞ」

朝倉「へえ、ただ嘆いてるだけに見えたけど、
    その実計画を練ってたなんて見直したわ」

キョン「そいつはどうも。有希、図書館は好きか?」

長門「割と」

キョン「それじゃあ、図書館に行くとしよう。
     偶然だが、俺も今日は図書館が大好きなんだ」

朝倉「意外ね。キョンくんって、そういう所には縁がなさそうだけど」

キョン「図書館ってのは、騒げないところを除けば快適な空間だぞ。
     それに何より、金がかからないのが素晴らしい」

801: 2009/06/08(月) 23:35:35.26 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「――今日一日の感想はどうだ?」

長門「ユニーク」

朝倉「一日の感想も何も、喫茶店でゴハンを食べて、
    その後図書館に行って終わりじゃない」

キョン「……正直すまなかった」

朝倉「私は別に良いんだけどね。
    有希ちゃんは楽しめたみたいだったし」

長門「図書館のカードが作れたのは貴方のおかげ。感謝する」

キョン「そういってもらえると救われた気分になるよ」

803: 2009/06/08(月) 23:39:17.32 ID:2iGim98vP
キョン(しかし、こいつはどうなんだ?)

キョン(結局普通に遊んだだけで終わっちまった)

キョン(しかも、カードのことを言うなんて俺に気を使ってるのか?)

キョン(だとしたら……情けなさが増すね)

朝倉「ねえ、キョンくん」

キョン「……ん? ああ、どうした?」

朝倉「晩御飯はどうするの?」

長門「……」

キョン「……お前達の胃袋は宇宙にでもつながってるのか?」

806: 2009/06/08(月) 23:43:35.45 ID:2iGim98vP
キョン「……やれやれ、炒飯でも作るかな」

朝倉「へぇ、料理なんて出来たんだ」

キョン「そんな大層なもんじゃないぞ。
     それに、俺にはお前みたいに美味いオデンは作れない」

朝倉「ふふっ、ありがと♪ 何か手伝おうか?」

キョン「そうしてもらえると助かる。
     何せ、勝手がわからない台所だからな」

長門「…………」

キョン「有希も手伝ってくれると、俺としては嬉しいぞ」

長門「わかった」

810: 2009/06/08(月) 23:49:48.03 ID:2iGim98vP
     ・    ・    ・

キョン「……さて、ようやくメシにありつけるな」

朝倉「うん。まさか、こんなに時間がかかるとは思わなかったわ」

長門「……申し訳ない」

キョン「ああいや、別に有希を責めてるわけじゃないんだぞ?
     ただ、冷蔵庫に食材が全く入ってなかったってのに面食らってだな」

朝倉「キョンくん。それってフォローになってないわよ」

長門「…………」

キョン「いやいや、長門が卵を割るのを手伝ってくれたおかげで――」

長門「…………」

朝倉「……キョンくん」

812: 2009/06/08(月) 23:53:27.95 ID:2iGim98vP
キョン「――まあ、なんだ。いただきますをしようじゃないか」

朝倉「――そうね。せっかくの料理が冷めちゃうわ」

長門「……」

キョン「それじゃあいただきます」

朝倉・長門「いただきます」

prrrr!prrrr!

キョン「……って、なんてタイミングで電話がかかってくるんだ」

813: 2009/06/08(月) 23:55:38.48 ID:2iGim98vP
ロスタイム
終わらす

816: 2009/06/08(月) 23:58:24.91 ID:2iGim98vP
キョン「先に食べててくれ」

朝倉「そう?」

長門「平気」

キョン「平気、って……有希?」

長門「待つ」

朝倉「有希ちゃんが待つなら、私も待とうかな」

キョン「……お前ら」

朝倉「私達は今まで三年間も待ってたのよ?
    だから、電話するくらいの時間どうってことないわ」

819: 2009/06/09(火) 00:01:18.79 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

prrrr!prrrr!

キョン「はいはいはい、っと……もしもし?」

『あたしが電話してるんだから、とっとと出なさいよバカキョン!』

キョン「……こんな時間に電話してきて、
     いきなり鼻息が荒いもんだな、団長様?」

ハルヒ『あんたがすぐ出ないから悪いんでしょ』

キョン「やれやれ。それで? 一体何の用だ?」

ハルヒ『決まってるじゃない』

ハルヒ『――明日の不思議探索の話よ』

822: 2009/06/09(火) 00:06:15.35 ID:bzGM5IPBP
キョン「何だって?」

ハルヒ『何? ジジ臭いとは思ってたけど、耳まで遠くなったわけ?』

キョン「放っておいてくれ。というか、明日不思議探索をやるなんて
     俺はこれっぽっちも聞かされちゃいなかったんだが」

ハルヒ『当たり前でしょ。今はじめて言ったんだもの』

キョン「無茶苦茶だ」

ハルヒ『うるさいわね。明日、いつもの駅前に一時に集合ね。
     あんたの事だから、どうせ休日の予定なんて無いでしょ』

キョン「いやいや、決め付けるなっての」

ハルヒ『聞かなくてもわかるわよ。良い? 来なかったら氏刑だからね!』

キョン「おい、ちょっと待っ――……切りやがった」

829: 2009/06/09(火) 00:11:57.41 ID:bzGM5IPBP
キョン「全く、どうしてアイツは人の話を聞かないんだ……!」

キョン「折り返しの電話を――って、どうしていきなり圏外になってるんだ?」

朝倉「それ位、情報操作をすれば簡単よ」

キョン「――涼子?」

朝倉「今の電話、涼宮ハルヒからなんでしょ?」

キョン「そうだ。なんでも明日付き合えって話だったんだが、
     明日を入れるとあと二日しか無いからな」

朝倉「あのね、いくら私でもそこまで鬼じゃないわよ」

キョン「何?」

832: 2009/06/09(火) 00:16:28.11 ID:bzGM5IPBP
朝倉「だってさ、貴方が涼宮ハルヒに従わなければ、
    SOS団だっけ?――の人たちに迷惑がかかるのよね」

キョン「それはまあ、そうだが……」

朝倉「だから、明日はカウントしないでおいてあげるわ」

キョン「……おいおい、一体どういう風の吹き回しだ?
     まさか、何かの罠ってわけじゃないだろうな」

朝倉「私ってそんなに信用ない?」

キョン「クラスの人気者の委員長が、
     いきなりナイフで襲い掛かってくる程度にはな」

朝倉「……」

キョン「冗談だ冗談! いや、マジで助かる。
     ありがとうな、涼子」

835: 2009/06/09(火) 00:21:21.86 ID:bzGM5IPBP
朝倉「良いのよ。こっちとしても、損をする訳じゃないから」

キョン「何?」

朝倉「だってさ、貴方が涼宮ハルヒと親しくなればなる程、
    貴方を頃したときの情報爆発が大きくなる可能性がある」

キョン「おいおい、まさかまだ俺を頃す気でいたのか!?」

朝倉「そうよ」

キョン「……」

朝倉「でも――」

朝倉「……ううん、何でもないわ。明日は頑張って涼宮ハルヒと
    親睦を深めてね♪」

キョン「……応援ありがとうよ」

838: 2009/06/09(火) 00:26:41.66 ID:bzGM5IPBP
キョン「本音を語ってくれたところ悪いが、
     お前が“それ”を観測することは無いと思って良いぞ」

朝倉「あら、どうして?」

キョン「お前は、俺に“氏の概念”を教える時間を余計に
     与えてくれたんだからな」

朝倉「?」

キョン「不思議探索は午後の一時集合なんだ。
     つまり、午前中はお前達の相手が出来るってことさ」

朝倉「……呆れた。キョンくんって、
    計画性があまり無い割にはその場しのぎが上手いわよね」

キョン「言ってろ。こっちだって殺されないように必氏なんだ」

841: 2009/06/09(火) 00:30:26.27 ID:bzGM5IPBP
キョン「……」

朝倉「……」

長門「…………」

キョン「うおっ!?」

朝倉「ゆ、有希ちゃん? いつからそこに……」

長門「今」

キョン「ど、どうしたんだ有希?」

長門「料理が冷める。今すぐ戻るべき」

キョン・朝倉「……」

843: 2009/06/09(火) 00:35:19.12 ID:bzGM5IPBP
キョン「……くっ……くくくく……そうか、悪い悪い。
     すぐって言ったのに、待たせちまったな」

朝倉「ごめんね有希ちゃん。さ、戻りましょ」

長門「貴方達が、その表情をする意味が理解出来ない」

キョン「いやいや、わからないならそれで良いんだよ。
     こういうもんは、段々とわかってくるもんだからな」

朝倉「そう? 私は生まれてから三年しか経ってないけど、
    今の有希ちゃんの言動の面白さは理解出来たわ」

キョン「そいつは良かったな」

長門「……良くない」

朝倉「ああ、ごめんね有希ちゃん。
    もう、そんなに急がなくても料理は逃げないわよ」

長門「熱が逃げる」

847: 2009/06/09(火) 00:40:01.12 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

朝倉「ここが目的地?」

キョン「そうだ。有希は一回来たことがあったか?」

長門「……」コクリ

朝倉「植物は多し設備は綺麗だけれど、それだけね」

キョン「公園ってのはそんなもんだ。
     それとも、遊具が沢山ある公園の方が良かったか?」

朝倉「私と有希ちゃんにそれで遊べって言うつもり?」

キョン「まさか。だから、ここを選んだんだよ」

850: 2009/06/09(火) 00:45:00.66 ID:bzGM5IPBP
朝倉「朝早くに起きろって言うから、
    どこに行くのかと思ったじゃない」

キョン「なんだ、遠出するのに期待してたのか?
     悪いが、俺にはそんな金もなければ――」

朝倉「涼宮ハルヒとの約束の時刻が一時だから、
    時間的な余裕もないわよね」

キョン「なんだ、わかってるじゃないか」

朝倉「そうだけどさ、起こされた時の貴方が興奮状態だったから、
    どこへ連れて行かれるのかと思ってたのよ」

キョン「待て待て待て。警察の人が聞いたら連行されそうな
     言い方はやめてくれ」

853: 2009/06/09(火) 00:49:15.21 ID:bzGM5IPBP
キョン「大体だな、床に座布団を敷いて寝たところで、
     グッスリ眠れる訳がないだろう?」

朝倉「時間を有効に使うために泊まらせろって言ったのは
    誰だったかしらね」

キョン「……俺だけどな。とにかくだ、そんな眠りかぶった状態で
     動こうなんて気になるか? ならないね、普通は」

朝倉「だったら、どうして朝は元気だったのよ」

キョン「無理矢理にでも“ああ”してなかったら、
     夕方くらいまで眠っちまってただろうからさ」

朝倉「人間って、そんなに眠れるものなの?」

キョン「まあな」

855: 2009/06/09(火) 00:54:08.95 ID:bzGM5IPBP
キョン「ちなみに、寝すぎると体が痛くなるからオススメはしない。
     それに、どうやら寿命も縮まっちまうらしいぞ」

朝倉「そこまで言うんだったら、私達と一緒にベッドで寝れば
    良かったじゃない」

キョン「無理だ。いくらなんでも、そのラインは超えられん」

朝倉「どうして?」

キョン「どうしてもだ。というか、客間にベッドがあったんじゃないのか?
     そこを使わせてもらえりゃ――」

長門「……スーッ……スーッ」

朝倉「どうやら、静かにした方が良いみたいね」

キョン「賛成だ」

857: 2009/06/09(火) 00:59:12.88 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

キョン「――なあ」

朝倉「何?」

キョン「こうやってベンチに腰掛けて、何もせずにボーッとしてるのも
     中々に良いもんだとは思わないか?」

朝倉「どうかしら……よく分からないわ」

キョン「俺はな、こういう平凡な日常ってのは好きなんだ。
     ハルヒと居るのも面白くはあるんだが、少々刺激が強すぎる」

朝倉「それは分かる気がするわね」

キョン「だから、たまにはこういうもの良いもんだと思うわけだ」

861: 2009/06/09(火) 01:03:29.91 ID:bzGM5IPBP
朝倉「退屈だとは思わないわけ? 変化のない日常を」

キョン「そりゃあ、まるで変化が無かったら俺だって耐えられんさ。
     そんなもんは拷問みたいなもんだ」

朝倉「そうよね、だから――」

長門「……ん」

ごろん

キョン「今のも変化の内の一つだな。俺に寄りかかってた有希が、
     俺の脚を枕にしだした。寝心地がいいかどうかは知らんけどな」

朝倉「有希ちゃんの顔を見る限りでは、悪くはないみたいよ?」

長門「……スーッ……スーッ」

865: 2009/06/09(火) 01:10:35.15 ID:bzGM5IPBP
キョン「何が言いたいかと言うとだ、そんなダラけた毎日ってのも、
     やってみると案外癖になるってことだ」

朝倉「生憎だけど、私はそういうのは趣味じゃないわ」

キョン「だろうな。でなけりゃ、好き好んで委員長なんて
     買って出やしないだろう」

朝倉「そうね。でも、委員長っていうのも面倒な事が多かったのよ?
    何せ、クラスには問題児がいたわけだから」

キョン「そうだな。俺もその問題児に振り回されっぱなしだよ」

朝倉「でも、悪くは無いと思ってるんでしょ」

キョン「どうだかね。ま、悪くは無いな」

870: 2009/06/09(火) 01:16:38.66 ID:bzGM5IPBP
朝倉「――そうね。それじゃあ、ちょっとだけ試してみようかな」

キョン「あん?」

朝倉「たまには生き抜きが必要らしいじゃない」

キョン「まあ、そうだな」

朝倉「だから、“氏の概念”を学ぶ期間じゃない、
    空白とも言えるこの時間を有効に活用しようと思うの」

キョン「おいおい、何をする気だ?」

朝倉「人間の脚ってさ、二本あるわよね」

キョン「……やれやれ。ベンチから転げ落ちないようにしてくれよ?
     俺も眠いから、注意してやれそうにないんでね」

875: 2009/06/09(火) 01:22:37.65 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

朝倉「――ほら、いい加減に起きて」

キョン「ぉが……?」

朝倉「大口を開けて寝入るなんて……キョンくん、
    貴方、私が貴方を殺そうとしてるって忘れたの?」

キョン「……すまん」

朝倉「謝られても困るんだけど」

キョン「今、何時だ?」

朝倉「1時22分。完全に遅刻よ」

キョン「……なんてこった」

878: 2009/06/09(火) 01:25:36.07 ID:bzGM5IPBP
朝倉「携帯、マナーモードにしてるでしょ。
    寝てたら頭に振動がきて起きちゃったわ」

キョン「……間違いなくハルヒだな」

朝倉「有希ちゃん、起きて」

長門「…………何」

朝倉「キョンくん、もう行かなきゃ駄目な時間なの」

長門「そう」

キョン「こらこら、返事をしたのにまた目を閉じるんじゃありません」

886: 2009/06/09(火) 01:30:14.25 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

朝倉「ねえ、電話に出なくても良いの?」

キョン「急いで走ってたから気付かなかったんだ。
     そうじゃないと、今出たらえらい目に遭いそうだからな」

朝倉「それってさ、問題を先送りしてるだけじゃない」

キョン「……言うな。俺だってそのくらいわかるさ」

朝倉「それなら良いんだけど」

キョン「とりあえず、活動が終わったら連絡する」

長門「罰金に関しては」

キョン「……定期を解約するしか手はなさそうだ」

888: 2009/06/09(火) 01:34:08.26 ID:bzGM5IPBP
キョン「二人で帰れるな?」

朝倉「平気よ。ね、有希ちゃん」

長門「問題ない」

キョン「……返事は良いんだよな」

朝倉「それより、急いだ方が良いと思うわ。
    涼宮ハルヒの今の精神状態を考えるとね」

キョン「怖いこと言わないでくれ」

朝倉「ふふっ。それじゃ、またね♪」

タッ――

キョン「おい、ちゃんと前を見て……――っ!?」

891: 2009/06/09(火) 01:35:50.66 ID:bzGM5IPBP



   キキィ――――ッ!!


      ドンッ!!


895: 2009/06/09(火) 01:41:26.90 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

朝倉「……人間はさ」

朝倉「やらなくて後悔するよりも」

朝倉「やって後悔した方がいいって言うよね」

朝倉「……」

朝倉「これについて、結局ちゃんと答えを聞いてなかったよね」

朝倉「ねえ、キョンくん。貴方のその行動が答えなの?」

キョン「」

朝倉「……あはっ、返事が出来る訳ないか」

900: 2009/06/09(火) 01:46:08.00 ID:bzGM5IPBP
朝倉「氏ぬのって嫌だったのよね」

朝倉「殺されたくなかったのよね」

朝倉「なのに、どうして貴方はこんな真似をしたのかしらね」

朝倉「本当、有機生命体の氏の概念って理解出来ないわ」

朝倉「それを教えるって言ったじゃない」

朝倉「あと二日も残ってるのよ?」

キョン「」

長門「……朝倉涼子。彼の生命活動は停止している」

905: 2009/06/09(火) 01:51:04.81 ID:bzGM5IPBP
朝倉「私をかばうなんて、本当に無駄だったのよ」

朝倉「だってさ、私は人間じゃないんだもの」

朝倉「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェース。
    パーソナルネーム、朝倉涼子」

朝倉「――それが私」

朝倉「物理的なダメージじゃ、活動に支障が起きても
    消滅することは無いのにね」

朝倉「本当、涼宮ハルヒが言ってた通りね」

朝倉「――貴方はバカよ」

キョン「」

長門「…………」

910: 2009/06/09(火) 01:55:10.50 ID:bzGM5IPBP
朝倉「でもさ、これで涼宮ハルヒはアクションを起こして、
    大規模な情報爆発が観測されるわ」

朝倉「恐らく、情報統合思念体は貴方が取った行動は、
    貴方自身の責任として静観するわね」

朝倉「だって、またとない機会だもの」

朝倉「……長門さん、これについてはどう思う?」

長門「……恐らく、間違いない」

朝倉「そうよね。ねえ、これならあの時教室で私に
    殺されてた方が良かったと思わない?」

キョン「」

917: 2009/06/09(火) 02:01:11.21 ID:bzGM5IPBP
朝倉「あ~あ、本当に厄介な人間」

朝倉「私に“氏の概念”を教えるって言っておきながら、
    結局大したことはせずに氏んじゃうんだもん」

朝倉「せめて、最後の日まで頑張って欲しかったな」

キョン「」

朝倉「こういうやり方って、卑怯だと思うわ」

朝倉「だってさ、私をかばって、後二日も残して氏なれちゃったら――」


朝倉「生かす理由が出来ちゃうじゃない」

921: 2009/06/09(火) 02:04:33.27 ID:bzGM5IPBP
長門「朝倉涼子、何を――」

朝倉「長門さん。貴方のアドバイス、役に立たせて貰うわね」

長門「!?」

朝倉「ひとつひとつのプログラムの精度も上げたわ」

朝倉「それに、側面部の空間閉鎖も情報操作も完璧よ」

朝倉「だから、貴方は私に近づけない」

朝倉「進入することは出来ない」

924: 2009/06/09(火) 02:07:17.11 ID:bzGM5IPBP
長門「あなたは私のバックアップのはず。
    独断先行は許可されていない」

朝倉「あら、長門さんは彼に生きていてもらいたいんじゃないの?」

長門「……それは、私が判断するべきことではない」

朝倉「邪魔する気?」

長門「情報統合思念体の指示を待つべき」

朝倉「嫌だと言ったら?」

長門「……情報結合を解除する」

926: 2009/06/09(火) 02:13:45.93 ID:bzGM5IPBP
朝倉「やってみる? ここでは私の方が有利よ?
    この一帯は私の情報制御空間」

長門「情報結合の解除を申請する」


朝倉「――物質情報の再構築を申請」


長門「何を……」

朝倉「……私は貴方のバックアップだもの」

朝倉「貴方が完全に私を対象としたプログラムを走らせていないと、
    彼の蘇生作業にノイズが入るかもしれないでしょう?」

930: 2009/06/09(火) 02:20:22.58 ID:bzGM5IPBP
朝倉「ああ言えば、貴方は私の排除を優先すると予想したの」

朝倉「考えてもみてよ。私が、貴方に気付かれずに
    そこまで高度なプログラムを組める程の性能かしら」

長門「……」

朝倉「あはっ♪ 最後の最後でバックアップの私が上回るなんて、
    素敵だと思わない?」

長門「……」

朝倉「長門さんは気にしなくて良いわよ?
    だって、これは私の独断専行」

朝倉「貴方がこうしなくても、私の凍結か消滅は決まってるものね」

931: 2009/06/09(火) 02:24:33.96 ID:bzGM5IPBP
朝倉「長門さん、最後だから頼みごとをしても良い?」

長門「……何」

朝倉「彼の記憶を改変して欲しいの」

長門「……」

朝倉「そうね――あの時の教室で、私は長門さんに
    崩壊因子を仕込まれて消滅させられた、っていうのが良いかも」

長門「何故」

朝倉「それが、キョンくんにとって良いことだと思うからよ」

朝倉「ねっ、お願い♪」

934: 2009/06/09(火) 02:28:15.97 ID:bzGM5IPBP
朝倉「細かい部分の調整は任せるわ。
    だって、もう時間がないものね」

長門「……」

朝倉「思いっきり悪者にしちゃって。
    だってさ、その方が都合がよさそうじゃない?」

長門「わからない」

朝倉「有希ちゃんならわかるわ」

長門「…………」

キョン「……」

朝倉「うん、彼の蘇生も終わったことだし、後のことはお願いね」

938: 2009/06/09(火) 02:32:42.92 ID:bzGM5IPBP
朝倉「残りの二日分が残念だったけど、しょうがないわよね」

キョン「……」

朝倉「次は、普通の人間として会えたら面白いかも」

長門「……」

朝倉「――じゃあね」

キョン「……」

朝倉「――涼宮さんとお幸せに――」

945: 2009/06/09(火) 02:36:33.46 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

ハルヒ「――遅いっ! どれだけ遅れたと思ってるのよ!」

キョン「気付いたらこの時間だったんだ。
     俺にだって訳がわからないんだよ」

ハルヒ「そんな言い訳が通ると思ってるの?
     これはもう、かなりのものを奢ってもらうからね!」

長門「……」

ハルヒ「――って、有希!?」

みくる「あっ、もしかしてキョンくん、
     長門さんを迎えに行ってたんですか?」

長門「そう」

キョン「……そうだったか? どうも記憶が曖昧で……」

952: 2009/06/09(火) 02:40:37.75 ID:bzGM5IPBP
古泉「そういう理由でしたら、今回は良いのでは?」

ハルヒ「甘いわね古泉くん。こういうのはビシッとしとかないと、
     後から入団した人間が来たときに示しがつかなくなるわ」

キョン「おい、そんな奴が居るなんて初耳だぞ」

ハルヒ「あたしの眼鏡にかなう奴がいないんだもの」

キョン「取らぬ狸の、ってやつじゃないか」

ハルヒ「なんと言おうと、今日は思い切り奢ってもらうからね!」

キョン「……なあ、俺の財布の中身がやけにさびしいことになってるんだが」

ハルヒ「そんなの、あんたの都合じゃない」

キョン「……やれやれ」

955: 2009/06/09(火) 02:44:14.47 ID:bzGM5IPBP
     ・    ・    ・

ハルヒ「……ねえ、有希。まだ体調が悪いんじゃないの?」

長門「平気」

古泉「それにしては……」

みくる「いつもより……ですよね」

キョン「おいおい長門、普段のお前だったら喫茶店のメニュー位
     制覇しちまうような勢いじゃないか」

長門「……モソモソ」

キョン「まあ、こっちとしてはありがたいんだけどな」

958: 2009/06/09(火) 02:48:01.03 ID:bzGM5IPBP
ハルヒ「……ちょっとキョン」

キョン「何だ?」

ハルヒ「あんたまでどうしたっていうのよ?
     っていうか、そんなに奢らされるのが嫌なら言いなさいよ……」

キョン「急にどうした。好き好んで奢ってるわけじゃないが、
     お前がそんなことを言うなんて気味が悪いぞ」

ハルヒ「だってあんた……」

キョン「俺の顔に何かついてるってのか?
     そりゃあ、目鼻に口はついてるが、面白いもんは特に――って、」


キョン「――どうして俺は泣いてるんだ?」


おわり

引用: 朝倉「死の概念を学ぶ?」