1: 2009/06/24(水) 20:26:11.17 ID:7slR7lpa0
たつかな

3: 2009/06/24(水) 20:27:31.47 ID:7slR7lpa0
それは秋もいよいよ深まりを見せ始めた11月のある日の事だった。

パタン。

長門が本を閉じる。それが何を意味するのか分からないメンバーは最早いない。
その証拠に朝比奈さんはお茶道具をいそいそと片付け始め、
俺の対面に座る古泉はボードゲームをしまう。もちろん今日も俺の勝利に終わったのだが・・・。

そんないつも通り過ぎる放課後。
しかしハルヒの放った一言はいつもとは180度違うものだった。

4: 2009/06/24(水) 20:28:12.33 ID:7slR7lpa0
「そういえば、今週末の不思議探索はないから」

朝比奈さんがきょとんとした顔でハルヒの方に振り向く。
俺もしかり。長門はちらりと我らの団長様を見ている。

「ほう、何かご用事でもおありですか?」
「そうなのよ。両親とちょっと出かけなくちゃいけないのよね」

それは、また珍しいな。

5: 2009/06/24(水) 20:28:55.41 ID:7slR7lpa0
「まあね。あ、ちなみに金曜の学校が終わったら団活出ないで帰るから、古泉くん、鍵閉めよろしくね」
「かしこまりました。その任務、謹んでお受けします」

古泉よ、お前はいつもなんでそう大仰に物事を言うのかね。

「おっと、僕らがいては朝比奈さんが着替えられませんね」
「そうだな。さっさと退室するか」

すいません、と頭を下げ、申し訳なさそうに言う朝比奈さんに
いえいえと手を振りながら部室を後にし、廊下で待機する。

6: 2009/06/24(水) 20:30:23.95 ID:7slR7lpa0
「古泉」
「なんでしょう?」
「さっきのハルヒの用事とやらは――」

ええ、といつもの営業スマイルを振りまきながら

「特に問題はなさそうです。閉鎖空間が出るような事はないでしょう」

さらっと言ってのける。涼宮家のプライバシーもプライベートもあったもんじゃないな。
その辺は軽く同情しないでもない。

などと話していると部室から女性陣のお出ましだ。

「さっ、帰るわよ」

7: 2009/06/24(水) 20:31:04.87 ID:7slR7lpa0
そして金曜夜。

さて、明日はなにをするか・・・。
というか週末に何も予定がないって久しぶりじゃないのか?
うーむ。せっかくだし最も贅沢な時間の使い方をしようか。
そう、寝て過ごす。これに限る。

8: 2009/06/24(水) 20:31:46.66 ID:7slR7lpa0
しかしそんな俺の願いを文字通り容易く蹴破ったのは妹だ。

「キョンくーーん! 朝だよ! 起きてー!」

ああ、うるさい。今日は起きる必要がないんだ。ほっといてくれ。

「おかーさんが、朝ごはん食べちゃいなさいって言ってるよー?かたづけるからーって」

それはちと困る。仕方ないな。
ところでお前は今日、何も予定がないのか?

「んーん、今日はミヨキチとミヨキチのおかーさんと一緒にお出かけだよー」
「そうか、気をつけて行ってこい。あちらのお母さんを困らせるんじゃないぞ」
「はぁい」

9: 2009/06/24(水) 20:32:32.50 ID:7slR7lpa0
つまりこれで俺の惰眠を妨げるものは何1つないという事か。
などと考えながら味噌汁をすする。はぁ。日本人の朝はこれに限るな。

「じゃあいってきまぁす!」
「おう、いってらっしゃい」

さて、うるさいのがいなくなったところで部屋に戻るかね。

窓の向こうに気持ちいいくらいの青空が広がっている。秋晴れってやつだ。
つい誘われてカラカラと窓を開けてみる。

さぁっ。

おお、風がなんとも心地よいじゃないか。
そして部屋に入る日差しの暖かさ。
布団はまだ俺のぬくもりを保っていた。うむ、大儀であった。

あー、最高だ。こりゃ素晴らしい2度寝が期待できそうだ。

目を閉じると俺の意識はあっという間に深い闇の底に落ち熔けていった。

10: 2009/06/24(水) 20:33:54.26 ID:7slR7lpa0
さぁっ。

布団の中より少し冷たい風が頬をくすぐる。
俺としてはこれ以上の組み合わせはないのだ。
雪が降りしきる中で入る露天風呂のようなもの、と言えばご理解頂けるだろうか。
単に暖かい部屋で温かい布団の中にいるのは、サウナの中で煎茶を飲むようなものさ。

と、なんの脈絡もなく思考が働くこと自体、意識の浮上を意味する。
風のせいだろうか、と深く考える間もなく、あー寝よ寝よ、などと意識をまた落とそうとした時であった。

ペラッ

11: 2009/06/24(水) 20:34:41.88 ID:7slR7lpa0
・・・ん? なんだ、今の紙がめくれるような音は?
カレンダーか?それとも机の上の教科書が風に吹かれてページをめくっているのか?

ペラッ

何かおかしい。それに人の気配がするような気がしなくもない。

「――ん、ん?」
「おや、ようやくお目覚めかい、キョン」

くつくつと喉を鳴らして笑う声。って、おい!

「佐々木――それに、長門まで!? な、なにしてんだ!」
「ご挨拶だね、キョン。見て分からないかな、読書だよ」
「確かにそれは見れば分かるな。愚問だった。質問を変えよう、2人ともどうしたんだ?」
「君はつれないな。女の子2人が部屋にいるのにそんな事を聞くのかい?」
「ええい、はぐらかすな」

また佐々木は、くつくつと笑う。寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。

12: 2009/06/24(水) 20:35:26.01 ID:7slR7lpa0
「僕は長門さんに誘われて来ただけだよ。ねえ、長門さん?」
「そう」

長門が?一体なんでまた――。

「今日は団活がない。貴方は家にいると確信していた」

いや、俺が聞いているのはそういう事じゃないんだ、長門よ。

「?」

そこで首を傾げられても困る。
この超高性能ヒューマノイドインターフェイスは時々ニュアンスを汲み取ってくれないのが難点だ。

「邪魔だった?」

だから、違う。そういう事じゃないんだ。

「ではなぜ?」

13: 2009/06/24(水) 20:36:16.23 ID:7slR7lpa0
ああもう、なんて説明したら良いんだと言葉を選んでいたが、
そこでとうとう佐々木が我慢しきれなかったように吹き出して笑った。

「佐々木、お前この状況を楽しんでやしないか?」
「うむ、その通りだ。よくわかったね、キョン」

わからいでか。

「僕から経緯を説明しようか?」
「是非そう願いたいね」

14: 2009/06/24(水) 20:37:00.04 ID:7slR7lpa0
佐々木の説明はこのようなものだった。

昨夜、長門からメールにて明日――つまり今日だ――の団活がない事を知らされた。
メールの中で長門は、高確率で俺が自宅にいるであろう事が予想される旨を通告。
佐々木は速やかに我が家の急襲作戦を立案。二の句もなく長門もそれに同意。
そして今朝、長門は俺が自宅にいる事を感知。
連絡を受けた佐々木はただちに作戦の実行にうつった。という次第らしい。

「で、それは分かったが、なぜ俺の家を急襲しようなどと思ったんだ?」
「ちょっと驚かせてみようかと思ったのさ。それとも、本当に邪魔だったかな?」
「ったく、意地の悪いヤツだ。そんな訳はなかろう。単に不思議に思っただけさ」
「くっくっ、それを聞く君こそ意地が悪いと僕は言うね」

ん、そういえば母親がいなかったか?

「ああ、いたとも。この部屋まで通してくれたのは他ならぬ君の母君だからね。」

15: 2009/06/24(水) 20:37:41.17 ID:7slR7lpa0
そりゃそうだ。いくらなんでもこの2人が知った仲とはいえ他人の家に忍び込むような真似を
するとは考えられない。そんな常識も良識も欠如してるのはどこぞの団長様くらいだ。

「しかし、悪いが何も俺はもてなしができんぞ?」
「良いんだよ。そのためにこうして2人とも本を持ってきたんだ」

確かに2人の手には凶器にできそうなハードカバーの分厚い書籍がのっている。
あんなに重そうなのに小さな手でよくも持てるものだ。

「じゃあ、何か? 本当に読書をするためだけに、わざわざウチに来たってのか?」
「ああ、そうだよ」
「そう」
「じゃあつまり俺は―――」

特に何もすることがないのか。

「ってなんじゃそりゃ!」
「くっくっ、君も何か本を読んでみてはどうだい?読書の秋と言うじゃないか」
「ふむ」

16: 2009/06/24(水) 20:38:47.46 ID:7slR7lpa0
それも悪くはない。

「っと、来客なのに俺がパジャマのままというのはどうにも落ち着かんな」
「そうかい? 僕は初めて見るからなかなか新鮮だよ」

いや、そういう訳にはいかんだろう。

「・・・で、着替えようと思うんだが」
「うん、どうぞ」
「そう」
「待て待て。花も恥らうとは言わないがさすがにそれはなかろう」
「それは君が恥じるという事かい?それとも僕たちの事を考慮しての発言かい?」

両方に決まっている。

19: 2009/06/24(水) 20:39:32.32 ID:7slR7lpa0
「長門さん、彼はこう言っているが構うかな?」
「構わない」

即答ですか。いや、だから俺が気にすると言うに。

「見られて恥ずかしいような体つきには見えないが?」
「同感」

だからそういう問題じゃないだろう。
さっきから朧気ながら分かりかけていたのだが

この2人、相手にまわすとかなり手強い。ハルヒとはまた違う意味でだ。
三国志で言うならハルヒが呂布、この2人は諸葛亮孔明と司馬懿と言って良いだろう。
それに比べて俺の凡庸なことと言ったら・・・。

21: 2009/06/24(水) 20:40:55.87 ID:E/PFuTTwO
「で、着替えないのかい?」
「早くするべき」

どうしても部屋から出て行かないってんなら俺にも考えがあるぞ。佐々木、長門。

「おや? 怒らせてしまった、か・・・」
「覚えてろよおおぉぉぉ」
「な・・・え?」

言うやいなや俺は着替えを片手に部屋から脱兎の如く飛び出した。
ああ畜生。なんで部屋の主が着替えをするのに部屋から出ねばならんのだ。
半ば乱暴に、半ば捨て鉢にドアを閉める。

部屋の中から佐々木の笑い声が聞こえてきたような気がするがここは徹底無視だ。
俺は足早に1階の風呂場の洗面所兼更衣室へと駆け込み、服に着替えた。

22: 2009/06/24(水) 20:41:09.93 ID:rj1+7gC9O
「ふう」

着替えを済ませてトイレから出ると、ふと気づく。母親が、いない?
かわりにテーブルの上の置き手紙と壱万円札が目に入った。

『キョンへ 二股はダメよ 夜まで出かけます ご飯はこれで 母より』

・・・母上、あなたは何か著しく勘違いをしておられるようです・・・。
しかしまあ、この厚意はありがたく頂戴しておこう。感謝感謝。

さて、さすがに何も出さない訳にはいくまい。
冷蔵庫を開けるといかにも無難にりんごジュースがあった。
特にお菓子は見当たらないが、まあ仕方ない。
予告しておいてくれればポテトチップスなりなんなり準備しておくものを。

ジュースを3人分、コップに注いで盆に載せ、自分の部屋へと戻る。


「ただいま―――」

「―――って、何してんだ!」
「やあおかえり、キョン」
「おかえり」

俺のベッドの上に長門と佐々木がいる。
長門はちょこんとベッドの端に座っているのだが、問題は佐々木だ。

「・・・俺が言うのもなんだが、汗臭いだろうし、あまり清潔でもないぞ?」
「くっくっ・・・いや、なかなかどうして、悪くない寝心地だよ。」

完全にリラックスしている。俺のベッドの上でうつ伏せになって肘を立てて本を読んでいる。
それもスカートで、だ。佐々木はこちらを向いているからその中身が見える事は万が一にもないと思うが
にしたっていささか無防備すぎやしないか?

25: 2009/06/24(水) 20:43:19.50 ID:7slR7lpa0
「ベッドの上にはジュースは置けないから、俺の机の上に置いてお・・・おい、ちょっとまて!」
「ん?どうかしたかい?」
「なに」

俺のマル秘印の書籍がなぜここに!ベッドの下などという定番過ぎる場所には隠していない。
母親にも妹にも見られたらマズイからだ。しかしそれが今ココにある。

「一応、聞くぞ」
「なんだい?」
「なに」

佐々木は案の定ニヤニヤしてやがる。長門は・・・心なしか楽しそうだ。

26: 2009/06/24(水) 20:44:08.90 ID:7slR7lpa0
「これはどうやって掘り出した」
「貴方の部屋の情報分析はすでに完了している。造作もないこと」
「だそうだよ、キョン。くっくっ」

あーなんか頭痛くなってきたぞ。

「読書の秋だからと言ってそのような本をここで読むような真似はしないだろうね?」

くつくつと笑いながら、そして実に楽しそうに訊ねてくる。
する訳あるか。誰が好き好んでこの状況でそんな真似を・・・。

しかし長門にはこの部屋の全てを把握されてしまったのか。
今ならハルヒの置かれた状況を心底可哀想だと思えるね。

27: 2009/06/24(水) 20:44:54.47 ID:7slR7lpa0
「とは言え、何を読もうかな。家にある本は大方読みつくしてしまったからな」
「ほう、そうなのかい?」
「ああ。もともと俺はインドア派だ」
「―――なら」

と長門はベッドから降りると自分のカバンに手をかけた。

「これを読んでみて」

そう言って手渡されたのはやはりこちらも鈍器として通用しそうなハードカバーの本だった。
タイトルから察するにSFファンタジー系のようだ。

「おう、ありがとな。ありがたく読ませてもらうよ」

長門は小さく頷くとまたベッドにちょこんと座る。
さて、とここで困ったのが俺の座るべき位置だ。

30: 2009/06/24(水) 20:47:00.90 ID:7slR7lpa0
前述のようにベッドは長門と佐々木に占領されている。
となると勉強机の椅子が無難ではあるか・・・。

「キョン、そんなところでどうしたんだい?」
「いや、どこに座ったものかと決めかねていてな。」
「ああそうか・・・ベッドは僕たちが占領してしまっているからね」
「そういうことだ」

まあ床でも構わないか。背もたれがないのは少々厳しいが、この際贅沢は言ってられんだろう。

31: 2009/06/24(水) 20:47:42.83 ID:7slR7lpa0
「キョン」
「ん?」
「はい、どうぞ。」
「え?」

そう言って佐々木はその細い身体をベッドの奥へとずらした。

「佐々木、すまん。どういうことだ?」
「確かに僕はベッドの上にいるが、君のベッドの全ての面積を覆うほどではない。
 これなら君も横になって読書にいそしむ事ができるだろう?」

34: 2009/06/24(水) 20:51:05.33 ID:7slR7lpa0
暖かい日差し、爽やかな風、そして居心地の良いこの部屋。
そう、俺はこの部屋にこの上ない居心地の良さを感じていたのだ。

もちろん自分の部屋なのだから、最もリラックスできて当たり前ではある。

しかし、こうして客人が2人、それも同年代の異性がいるという状況で
こんなにリラックスできるものだろうか?その事に俺は少々驚いていた。

この2人だから、なのだろうか?ハルヒと朝比奈さんだったら?
考えてもわからないから考えないけどな。

そうしてどのくらい時間がたっていたのか。

ぐう。

静寂に急ブレーキをかけたのは他ならぬ俺の腹の虫だ。

35: 2009/06/24(水) 20:51:47.08 ID:7slR7lpa0
「くっ・・・くっくっくっ」
「あー・・・」

いかにも罰が悪い。ふと時計に目をやるともう12時も30分も回っていた。

「もうこんな時間か」
「早いものだね」

読書は休憩にして昼飯でも食べるか。
うちの母親がお金をおいてったから何か頼むか?それとも外食するか?

「いや、それには及ばないよ、キョン。お金があるのは良いことだが、あるもの全て使う事はない」
「ん、じゃあどうする?悪いが俺はあまり料理が得意では―――」
「くっくっ、キョン、僕のカバンを見たまえ。読書するだけにしてはやや大きすぎやしないかな?」

言われてみると確かに大きい。

36: 2009/06/24(水) 20:52:27.91 ID:7slR7lpa0
「君の先輩である朝比奈さんには遠く及ばないだろうが、準備してきたんだ」

なんと。佐々木はベッドからゆっくり降りてカバンを開けた。
出てきたのはバスケットだ。

「このテーブルの上に広げても構わないかな?」
「ああ、それは問題ないが―――」
「では失礼するよ」

バスケットの中に入っていたのはサンドイッチとから揚げ、それに厚焼きたまごだ。

38: 2009/06/24(水) 20:53:09.25 ID:7slR7lpa0
「こりゃまたずいぶんなご馳走じゃないか。佐々木が作ってきたのか?」
「ああ、そうだよ。驚いたかい?」
「まあな。お前の手料理なんて初めてだ」
「そういえばそうだったね。君の口に合うと良いんだが」

そう言う佐々木の頬に少し朱が走っていたように見えたのは目の錯覚だったであろうか。
と、長門は興味深そうにじっとバスケットの中身を見ている。

「なんだ長門、腹減ってるのか?」
「おいしそう」
「そうだな、ありがたく頂くことにしようか」

42: 2009/06/24(水) 20:56:41.90 ID:ERORHIYI0
「ただいま―――」

「―――って、何してんだ!」
「やあおかえり、キョン」
「おかえり」

俺のベッドの上に長門と佐々木がいる。
長門はちょこんとベッドの端に座っているのだが、問題は佐々木だ。

「・・・俺が言うのもなんだが、汗臭いだろうし、あまり清潔でもないぞ?」
「くっくっ・・・いや、なかなかどうして、悪くない寝心地だよ。」

完全にリラックスしている。俺のベッドの上でうつ伏せになって肘を立てて本を読んでいる。
それもスカートで、だ。佐々木はこちらを向いているからその中身が見える事は万が一にもないと思うが
にしたっていささか無防備すぎやしないか?


「―――長門よ」
「はひ」
「・・・飲み込め」

こくんと口の中に詰め込んだサンドイッチを胃へと押しやると長門が

「なに」

と真面目な声と顔で言い返してきた事につい吹き出してしまう。佐々木も同様だ。


「あまり食べ過ぎるなよ? 俺だって食べたいんだ」
「そう」

しかし長門は止まらない。もぐもぐと頬張り続ける。そして厚焼き玉子を飲み込んで一言。

「早い者勝ち」

そう言って次はから揚げに手をのばす。
よろしい。ならば戦争だ。




43: 2009/06/24(水) 20:56:42.16 ID:7slR7lpa0
俺は長門に負けじとサンドイッチとから揚げを取り、あまり噛む事もないまま
りんごジュースで流し込む。

「くっくっ、まるで子どもだね、2人とも」

ため息混じりの声だったが、その視線はどこか柔らかく、温かく思わずその笑顔に見ほれてしまった。

「隙あり」
「ぬあっ! 最後の玉子焼き!」

長門の表情が――目が、口元が――なにか楽しそうに見えたのはきっと間違いではあるまい。
それに免じてその玉子焼きは、まぁ、ゆるしてやるとするか。

45: 2009/06/24(水) 20:57:41.99 ID:7slR7lpa0
ランチタイムはかくして和やかに終わり、各自位置に戻って読書を再開、するかと思ったのだが
なぜかベッドの横には長門がつっ立ってこちらを見ていた。

「どうしたんだ、長門?」

しかし長門は沈黙を守ったままだ。別に俺や佐々木のどちらかを注視している訳ではない。
単純にこちらを見ているようだ。なんだと言うのだろう。

「長門さん、もしかして、一緒に横になりたいのかい?」

耳は佐々木の言葉を疑ったが、目は長門の頷きを疑った。

51: 2009/06/24(水) 21:00:01.10 ID:rj1+7gC9O
「長門、俺は良いからベッド使ってくれ。あまり良いものではないがな」
「そうではない」
「ん? どういうことだ?」
「―――3人一緒」

この一言には長門と時間を共有して1年半以上経った俺ですら度肝を抜かれたのだ。
いわんや佐々木をや、だ。まるでこの部屋はいつぞやのTHE 七夕時間旅行よろしく
『空間ごと時間凍結』したかのような空気になった。

53: 2009/06/24(水) 21:00:35.36 ID:7slR7lpa0
どれくらいの時間が流れたのか、状況を理解した俺はひとまず考えた。

「長門、お前の言いたい事は分かった。だが現実問題としてこのベッドを見てくれ、これをどう思う」
「―――小さい。3人で横になるには不十分な面積」

それが分かっているなら話が早い。いやそんな事は長門も分かっていたはずだ。

「でも、したい」

54: 2009/06/24(水) 21:01:16.57 ID:7slR7lpa0
あの長門がこうまで何かやりたいと言った事がかつてあったか?いや、ないね。
それなら何とかしてやりたいと思うだろう?

ただでさえ長門には日ごろから助けられているし、大変な恩義があるのだ。
その長門の、ハルヒの泣き顔よりも珍しい、ワガママなんだ。

「よし、長門。ちょっと待ってろ」

俺は部屋を飛び出し掃除機を引っつかみ、返す刀で部屋に戻る。

56: 2009/06/24(水) 21:01:58.12 ID:7slR7lpa0
「佐々木、ちょっとベッドから降りてくれるか」
「あ、ああ、うん。」
「悪いな。よっ、こい、せっ、と」

ベッドの片側を持ち上げて壁に立てかける。

「あー予想通りきったねえなあ」

掃除機のコンセントを電源に差しスイッチオン。
長門は微動だにしない。佐々木は俺の考えが読めたのかニヤニヤしている。

57: 2009/06/24(水) 21:02:40.52 ID:7slR7lpa0
長年ベッドの下に溜まっていたホコリやらなんやらをあらかた綺麗にする。
このままカーペットの上に雑魚寝という訳にもいかんからな。
俺の敷布団と、来客時に使う敷布団を持ってきて床に広げる。

「これで3人で横になれるだろ。急ごしらえではあるが、長門、これで良いか?」

長門はうんともすんとも言わない。ただ少し頷いて、俯いたまま

「ありがとう」

そう言った。

「ふっ、気にするな。俺がやりたかったから、こうしただけさ」

こうして午後の読書タイムが始まった。ちなみに並びは右に長門、左に佐々木。
なんというか、コレ、端から見たらかなりおかしな光景なんではなかろうか。

58: 2009/06/24(水) 21:03:40.32 ID:7slR7lpa0
------------------------------------------------------------------------------

気がつくと横から寝息が聞こえた。視線を本から移すと横にはキョンの寝顔があった。
長門さんも彼を見ると、こちらを向いた。『どうする?』とでも言いたそうな視線だ。

「ふふ、私たちみたいな女の子を両隣に置いといて寝ちゃうなんて、キョンらしいね、長門さん」
「そう」

私は彼を起こさないようにゆっくりと身体を起こし、隅に寄せられていたタオルケットを手に取った。

「おやすみ、キョン」

彼にタオルケットをかけ、また横になる。するとどうしたことか。自分まで眠気がしてきた。
あまり普段は昼寝なんてしないんだけどな。そんな私ですら眠気を感じるんだ。
きっとこの部屋は何か特別な空気で満ち満ちているのかもしれない。

60: 2009/06/24(水) 21:04:24.92 ID:7slR7lpa0
「私も、寝ようかな」
「そう」
「長門さんは?寝ないの?」

一瞬の間。

「寝る」
「そうこなくっちゃ」

本を置き、布団に顔をうずめる。キョンの匂いがする。
程なくして長門さんからも小さい寝息が聞こえてきた。さすがに無駄な時間がない。
そういうところはちょっと羨ましいかな。
おやすみ、キョン。心の中でもう一度そうつぶやいて目を閉じた。
------------------------------------------------------------------------------

63: 2009/06/24(水) 21:05:08.34 ID:7slR7lpa0
------------------------------------------------------------------------------
パチ

彼女と共に睡眠を開始してから1時間30分が経過した。
いまだ彼も彼女もまだ目を覚ましそうにない。

本来私は必要以上の睡眠を必要としていない。
しかし先ほど彼女からの問いかけに反応する際、タイムラグが生じた。

原因はすでに解明済み。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとしての回答はNO。
しかし、個である『長門有希』という存在はYESと判断し、私は後者を選択した。

私の横で彼と彼女が寝ている。自分もそれに加わってみたかった。
そしてその考えは、きっと、正しかった。
------------------------------------------------------------------------------

64: 2009/06/24(水) 21:06:04.38 ID:7slR7lpa0

「んん・・・あれ?いつの間にか寝ちまってたのか・・・?」
「おはよう」
「おお、長門、おはよう。って佐々木も寝てるのか。随分気持ち良さそうだな」
「貴方も」
「ん?」
「気持ち良さそうに寝ていた」

なんだかそういう事を指摘されると妙に恥ずかしい。

それもそうだ。本来なら寝姿や寝顔など家族である身内か
はたまた修学旅行で同室になったクラスメイトくらいにしか見せるものではないものだからな。

65: 2009/06/24(水) 21:06:45.20 ID:7slR7lpa0
「ん、おやキョン、起きていたのかい?」
「ああ、ついさっきな。おはよう、佐々木」
「おはよう。くくっ」
「どうした?」
「いや、目を覚ました時に誰かいるというのは思っていたものとはだいぶ違うと認識を改めたのさ」

などとよく分からないことをのたまう佐々木は長門にも目覚めの挨拶をした。
―――と、やけに外が暗い。

66: 2009/06/24(水) 21:07:30.74 ID:7slR7lpa0
「って、もう18時じゃないか!」
「おやおや、もうそんな時間なのかい?」
「つー事はなにか?俺たちは午後をほとんど寝て過ごしたって事か?」
「正確には貴方達2人だけ。私は1時間半で覚醒し、読書を続けていた」

うーん、それなら途中で起こしてくれても良かったんだぞ?

「・・・気持ち良さそうだった」

それを言われると何も言い返せない。横ではくつくつと佐々木が笑っている。

68: 2009/06/24(水) 21:08:17.58 ID:7slR7lpa0
「さて、さすがに夕食の準備はしていないし、ご母堂も帰ってこられるだろう。そろそろ帰ろうか」
「この際、ウチで食べていっても良いんだぞ?」
「いや、そこまで甘える訳にはいかないよ、キョン」

妙なところで遠慮をするやつである。

ちなみにまだ母親も妹も帰ってきてはいない。もしかしたら妹は夕飯をご馳走になってくるかもな。
佐々木と違って、あれは全くもって遠慮というものを知らない。

70: 2009/06/24(水) 21:08:58.83 ID:7slR7lpa0
「送っていこうか?」
「いや、玄関までで大丈夫さ。暗くなったとは言え2人だし、時間もまだ早い。それに―――」
「ん?」
「長門さんと一緒なら大丈夫さ」

それもそうだ。佐々木と長門の信頼関係に心の中で軽く感嘆しつつ階段を降りる。

71: 2009/06/24(水) 21:09:40.72 ID:7slR7lpa0
「そういえばキョン」
「なんだ?」
「ウチはもうそろそろ期末試験なのだが、君たちの北高はどうなんだい?」

「あーそういえばそんなものもあった気がするようなしないような・・・。」
「来月、12月の第1週の木曜からスタート」
「・・・この調子では全く準備していなさそうだね?」

ご明察。さすが佐々木だな。付き合いが長いだけの事はある。

72: 2009/06/24(水) 21:10:22.30 ID:7slR7lpa0
「キョン、そろそろ卒業後の事を真剣に考えたまえ。ご母堂が心配する」
「自慢ではないが、テストの成績はだいぶ良くないからな。
 さぞかし頭を痛めているだろうよ。申し訳ない限りさ」
「そう思うならもう少しだね―――」
「勉強会」

長門が意外な発言をする。勉強会?

73: 2009/06/24(水) 21:11:03.38 ID:7slR7lpa0
「そう。明日もSOS団の活動はない。有意義に使うべき」
「それは名案だね。僕も一枚乗る事にしよう」
「では明日の朝9時に集合」
「ということだ。ちゃんと起きて、明日は顔くらい洗って出迎えてくれたまえ」

なんてこった。しかし長門は言うに及ばず、佐々木も成績優秀だ。
確かに俺のあまりに心許ない学力をこのままにしておくのも不憫だしな。
せっかくだしご厚意に甘えよう。

74: 2009/06/24(水) 21:11:44.13 ID:7slR7lpa0
「ああ。じゃあ今夜はしっかり寝ることにする」
「あんなに寝たのに、かい?」
「佐々木もな」

くつくつと喉をならして笑う。長門は靴を履き終わり佐々木を待っている。

75: 2009/06/24(水) 21:12:32.99 ID:7slR7lpa0
「それじゃあキョン、また明日」
「また明日」
「ああ、また明日な」

勉強会、か。あまり良いイメージはないが、あの2人となら楽しく勉強できるかもしれん。
などとお気楽に俺は考えていた。なぜなら―――

―――今日の昼寝は今まで最高に気持ちが良かったのだからな。

~fin~

124: 2009/06/25(木) 00:20:27.33 ID:FnUBxb/+0

翌日。今日の天気は曇り、か。
昨日のような秋晴れには恵まれなかったのが些か残念ではあるが・・・。

しかし過ごしやすい気温ではあるし、湿度も高くなく、すっきりとした朝だ。

この俺が真面目に勉強すると聞いて神様が良い環境づくりをしてくれたのだろうか。

あ、神様ってハルヒだっけ。まぁいいか。

「あれー? キョンくんめずらしー。もう起きてたの?」
「ああ。今日も佐々木と長門が来るんだ」
「えー! ゆきちゃんとささにゃん? どうしたのー?」
「勉強だよ、勉強。もうすぐテストがあるからそのためだ」

妹は遊びたいーと駄々をこね始めたが、まぁこれは予想の範疇内だ。



「ほれ、腰にしがみつくと歩きにくい。朝飯食べに行くぞ」
「はぁーい。今日は何してあそぼっかなー?」

コイツはまだどうにも良く分かってないらしい。
将来が多少不安だ。大丈夫なのだろうか、こんなので。
ああ、せめてミヨキチなみの深慮があればと切に祈るね。



「おかーさーん、今日ねー ゆきちゃんとささにゃんが来るんだってー!」
「あらまあ、2日連続で? どうしたの?」
「昨日は単に読書会だったんだけどさ、今日は期末試験が近いからって勉強見てくれるんだ」
「ホント!? たすかるわ~。佐々木さんは進学校行ってるのよね?」

ああ。学校の外で勉強のために勉強しているとか言ってたしなあ。

「それに長門さんも頭良いのよねえ。そんな良くしてもらっちゃってなんだか悪いわ~」
「そこで相談なんだけど―――」


ピンポーン

「はーいよっと」
「やあキョン、おはよう」
「ああ、おはよう」

ちょうど9時きっかり。外でちょっと待って時間調節でもしていたのだろうか。
まあそんな事を詮索するのは無粋だよな。

「長門も、おはようさん」

コクリと小さくうなずいて

「おはよう」

と短く挨拶。最近ではこういう挨拶を口頭で返してくれるようになった。
小さい事かもしれないが、俺にとっては1つの、確かな長門の成長だと感じる。



「お邪魔します」
「あら、佐々木さんに長門さん、今日はうちのバカ息子が勉強を見て頂けるとか」
「ええ、出過ぎた真似かとも思ったのですが」
「とんでもない。放っておくと全然勉強しない子で・・・」

その辺にしてくれ。同級生に勉強のことで泣きつく親というのはかなり切ないものがある。

「わーい、ささにゃんとゆきちゃんだー!」
「おはよう。今日も可愛らしいね」
「ありがとー♪」




じゃあ、母さん、あとはよろしく。

「ええ。しっかり勉強するのよ。佐々木さんと長門さんに失礼のないようにね」

あなたの息子はそこまで信頼できませんか、母上。

「じゃあいってきまーす」
「おう、気をつけてな」
「いってらっしゃい。お母様もお気をつけて」
「いってらっしゃい」

ふう、一陣の嵐だな、さながら。


132 名前: ◆7MiYo0fRys [縺ュ縺ソ縺ゾ 投稿日:2009/06/25(木) 00:36:07.34 ID:FnUBxb/+0
「ところでキョン、ご母堂と妹さんはどうしたんだい?」
「ああ、今朝だけどな、頼んだんだよ」
「・・・なるほど、確かに必要な措置だったかもしれないね」

つまりこういう事だ。妹が家にいれば、佐々木と長門の2人にじゃれつかない訳がない。
勉強会を行う旨を母親に伝えるとともに、妹がいては確実に勉強の邪魔になり、
忙しい時間をぬって来てくれる2人にも申し訳がないと直訴したのだ。

妹に勉強会を邪魔されるのも気に入らなかったが、もっと嫌だったのは―――

―――嫌だったのは、そう、この『3人きり』を俺は今、大変気に入っているのだ。

母親は一も二もなく、妹を連れて一両日中出かけることを決めてくれた。
我が母親ながらあの決断力には頭が下がるね。

いや、それはつまり母親の俺の学力に対する心配の裏返しに繋がる訳だが・・・。



それはさておき勉強会だ。
2人の厚意を仇で返すような真似はすまい。

「さて、さすがに今日一日で全科目をカバーする事は難しい」
「そうだな、さすがにそこまでは頼めん」
「で、だ。君の苦手な科目からやろうと思うんだがどうかな?」

苦手科目、か・・・苦手科目、ね・・・。

「まさかとは思うが、キョン」
「みなまで言うな」
「ふむ・・・」

さすがに佐々木も黙り込んでしまった。だがムリもない。
苦手科目というより『得意科目がない』のだ。



佐々木が思案顔になる、が、ふとひらめいた様に

「長門さん、貴方はどう思う?彼の学力について」
「貴方の言う『学力』が、この1年半あまりの彼の高校生活における
 定期試験の結果のみが当てはまると仮定して場合、
 彼の弱点となるのは英語、数学ⅡB、物理、化学が現在の彼の問題として挙げられる」
「なるほど、つまり理数が主に苦手という事だね」
「そう」

・・・いつのまにそんな事を調べられていたのだろう。
いや、長門なら造作もないことか。



「でも長門さん。貴方の分析を疑うつもりはないけれど、彼は全部苦手と言っているよ?
 この点についてはどう思う?」
「彼は数多くの書籍を読んできている。現代国語、古文はまず問題がない」

確かにそれは言えている。現国と古文では大体平均点は取れているしな。

「また世界史、日本史についても本から知識を得ている」
「うん、確かにキョンは中学の頃も国語と社会はある程度得意としてたね」
「まあ、そうだな。」
「なるほど、そうなると残るは理数と英語、か。うん、ありがとう、長門さん」

理数は鬼門だ。それこそアホの谷口といつも底辺の争いをしているくらいだからな。

165: 2009/06/25(木) 06:48:17.44 ID:FnUBxb/+0


「英語は私に案がある。任せてほしい」
「うん、わかった。お願いね、長門さん」

長門はコクリと小さく頷くと

「問題は、理数」
「そうだね。キョン、この参考書の後ろの方に小テストがあるんだ。ちょっとやってみてくれないかな?」
「ん、わかった」

まずは数学Ⅱからだ。うーむさっぱりわからん。微分?積分?三角関数?なんのこっちゃ。
お、これなら分かるぞ、確かここをこうして・・・。

166: 2009/06/25(木) 06:49:12.66 ID:FnUBxb/+0

――20分後――

「「「・・・。」」」

「ぐうの音も出ないよ、キョン」

お恥ずかしい限りだ。

「どうやら君には根本的に公式や定理などが欠落しているようだ。
 この分だと物理や化学も似たような理由からなんだろうね。」

なるほどそうか。俺はそういう類の暗記がからっきしなのか。

167: 2009/06/25(木) 06:50:33.60 ID:FnUBxb/+0
「とりあえず詰め込めるだけ詰め込もう。それ以外の選択肢はなさそうだね」

とはいえ、始めなければどうにもならん。
佐々木が使用している参考書と北高の教科書を使い、説明を受けながら
普段はあまり使ってない脳みそに公式やら何やらを叩き込んでいく。

基本的には佐々木が説明役だ。
しかし佐々木が上手く説明できなくなると長門に振る。
すると長門はいつものあの調子でそれについて説明してくれる。

俺にはかえって分かり辛くなったようにしか聞こえないのだが、そこはさすがは佐々木だ。
それにヒントを得たように再度説明し直してくれる。

168: 2009/06/25(木) 06:51:28.85 ID:FnUBxb/+0
「ふむ、数学はこんなもので良いかもしれないね」

三角関数、指数関数、対数関数・・・昨日まではまるで俺とは無関係だった単語だが
少なくとも今はしっかり頭の中で理解できている。

「・・・お昼」
「おっと、もうそんな時間か」

時計を見ればもうすぐ13時になろうとしていた。

「長門、腹へったか?」
「へった」

佐々木がぷっと吹き出して笑う。つられて俺も笑ってしまった。

169: 2009/06/25(木) 06:52:11.26 ID:FnUBxb/+0
「なに?」
「なんでもねーよ。さ、昼飯食べよう。」

今日は母親が家を出る前に準備しておいたカレーが昼食だ。
いかにも急いで作ったようなメニューだが、
長門の目は心なしか、いや確実にきらきら輝いているように見える。
1.5倍(当社比)ってところか。

「やあ、良い香りだね」
「おいしそう」
「んじゃ頂きますか」
「うん、いただきます」
「いただきます」

171: 2009/06/25(木) 06:52:57.17 ID:FnUBxb/+0
俺にしてみれば取り立てていつもと変わらないカレーだ。
しかし2人にとっては違ったらしい。

佐々木はちょっと驚いたような、それでいて何やら納得するような表情だし
長門は目をきらきらさせたまま、また昨日のように猛然とぱくぱく食べている。

「長門、そんなに急がなくてもカレーは逃げやしないぞ」

ごくんと飲み込むと

「でも、他人に食べられたら、減る」
「大丈夫だって。まだ十分残ってるし俺も佐々木もそんな大食いじゃないしな」
「くっくっ、その通りだよ、長門さん」
「・・・そう」

172: 2009/06/25(木) 06:53:39.57 ID:FnUBxb/+0
納得したのか長門の食べるペースは少し遅くなったようだ。
それでも十分俺より早いのだが。

「どうだ、佐々木。口にあうか?」
「うん、非常に美味しいよ。君の家ではいつもこのカレーが出てくるのかい?」
「ああ、そうだよ。多少の違いはあるだろうが、だいたいこんなものだと思う」
「そうか。考えてみたら君の家庭の味を知るのはこれが初めてだね」

そう言われてみればそうか。
付き合いは2年以上になるのに我が家で佐々木がご飯を食べる光景を見た事はなかったな。

173: 2009/06/25(木) 06:54:20.38 ID:FnUBxb/+0
「くっくっ」
「なんだよ?」
「いや、涼宮さんは、ご母堂のカレーを食べた事はあるのかな?」
「んー・・・俺の知る範囲では、ないと思うが?」
「そうか。くっくっ」

なにが嬉しいのか佐々木は妙にご機嫌だ。

「どうしたんだ?」
「いや―――1歩リードかなと。ね、長門さん」

急に話を振られた長門だが、コクリと頷くとこちらをじっと見つめて言った。

「おかわり」

174: 2009/06/25(木) 07:10:10.24 ID:FnUBxb/+0
昼食も終わり午後の部スタートとなった勉強会だが、はっきり言おう

「かなり眠い」
「堂々と言われても困るよ」
「困るといわれても睡魔が遠慮なく俺のまぶたを下にひっぱるんだよ・・・」

働き者で困るね、どうも。

177: 2009/06/25(木) 08:10:14.51 ID:FnUBxb/+0
「長門さん」
「わかった」

「えっなにそれこわい」

「痛くしない」
「痛いのか?」

「大丈夫」
「ヤバイのか?」

「えい」
「ガッー!!」

178: 2009/06/25(木) 08:10:57.74 ID:FnUBxb/+0
その時、俺に電撃走る・・・!
ってレベルじゃねーぞ、これは・・・。

「・・・気分はどうだい?キョン」
「すこぶる痛い」

しかしおかげで眠気は覚めた、というか飛んで逃げた。

「・・・午後はどうする?」
「うん、午前に覚えた事を忘れないうちにテストをしようと思う。
 一夜漬けだけではテストまで覚えておけないだろう?」
「よしわかった。いっちょやってやるか!」

179: 2009/06/25(木) 08:11:39.47 ID:FnUBxb/+0
とにかく数学のみを集中していくつかのテストを反復して消化する。
朝、最初にやった時よりするするとシャーペンが動く。
なるほど、これは楽しいな。できなかった事ができるようになるというのは。

「よっし、できたぞ」
「あ、ああ。お疲れ様。じゃあ答え合わせをしよう」

佐々木が解答をチェックしていく。今回はさっきより手ごたえがあるんだ。

180: 2009/06/25(木) 08:12:20.92 ID:FnUBxb/+0
「うん!50点中43点!上出来だろう」
「おっし!」

思わずガッツポーズだ。

「おめでとう」
「佐々木と長門のおかげさ、本当に感謝してるよ。」
「くっくっ、願わくば感謝の言葉は君の期末試験が終わってから聞きたいね」
「ああ、俺もそうできる事を願わずにはいられないね」

心底そう願うね。これで明日になったら頭からすっぽり抜け落ちてた日には
俺は自分を殴ってしまうやもしれんぞ。

181: 2009/06/25(木) 08:13:01.58 ID:FnUBxb/+0
「長門さんから見てどう思う?」
「上出来。物理と化学の問題こそあるものの本日のノルマは達成されたと考えるべき」

長門にこれだけ言ってもらえれば及第点なのだろう。ん?『本日の』?

「そういえば、英語に関しては案があると言っていたよね」
「これ」

そう言って長門が差し出したのは1冊のノートだ。

「開けてみて」
「こ、れ、は・・・・・・」
「ん、なんだい・・・こ、これは・・・」

182: 2009/06/25(木) 08:13:42.38 ID:FnUBxb/+0
佐々木も驚くほどの内容だ。
ノートにびっしりと書き詰められた英単語やら熟語、例文、和訳などなど。

「まずはそれだけ覚えて」
「これを全部、か」
「そう。来週の日曜、テストする」
「なん・・・だと・・・」

そうは言ってもこれ、かなりの量だぞ?

「貴方の能力に合わせた内容。大丈夫」

どうやら弱音は許されないらしい。たまには俺も頑張ってみるのも良いだろうさ。

「わかった。長門の信頼に応えられるよう最善を尽くすよ」

183: 2009/06/25(木) 08:14:24.27 ID:FnUBxb/+0
さて、もう19時か。今日は外で夕飯食べないか?

「そうだね。どこにしようか」
「駅前に新しい店ができていたな。」
「ああ、あそこか。良いね、行ってみよう」

「ところで、今日は俺の勉強をずっと見てもらった訳だが・・・」
「うん、なんだい?」
「いや、2人とも自分の勉強は良かったのか?」
「キョン、1つ教えておこう。」

というと、佐々木は2,3歩スキップするように前へと進み、くるりとこちらを向いた。

「日ごろから備えている人間はこんな長い時間をかけずとも十分なのだよ」

返す言葉が見つからないね。なるほど。お前の言うとおりだよ、佐々木。

184: 2009/06/25(木) 08:15:06.95 ID:FnUBxb/+0
駅前

さて、何を食べようかねえ。長門は即決でオムライス大盛りだ。
佐々木は・・・エビのリゾットとコンソメスープか。身体が温まりそうだな。

「じゃあ、俺はペペロンチーノを1つ」
「かしこまりました」

「しかしキョン、今日は本当によく頑張ったね。なかなかどうして、大したものだよ」
「そうか?まあ確かにいつもより断然勉強した気はするが」
「朝の小テストを見た時は・・・ねえ、長門さん」
「暗澹たる気持ち」

そこまで言われるとキツイな。

185: 2009/06/25(木) 08:15:47.99 ID:FnUBxb/+0
「だが、最後にはあそこまで点数を伸ばせたんだ。今日はしっかり集中できてたようだね」
「ああ、母親にもあとで礼を言っておくさ。それにしても―――」
「ん?」
「佐々木って教え方うまいよな」

首を少し左に傾げ、目線は右上。ふむ。と考え中のスタイルだ。

186: 2009/06/25(木) 08:16:39.91 ID:FnUBxb/+0
「キョンにそう言われるって事は、いつもより分かりやすかったかい?」
「ああ。いつもなら数学の授業なんて始まって3分で寝るからな」
「もうちょっと頑張りたまえ。でもまあ君にそう言われて嫌な気はしないな。
 それに長門さんのおかげでもある。彼女がわかりやすく説明してくれたおかげさ」

俺にはあんなたくさん漢字のつまった長々とした説明は理解できないが
長門とはそういった面でも気が合うのだろう。良いことだ。

188: 2009/06/25(木) 09:09:45.26 ID:FnUBxb/+0
ご飯も食べ終え、店を出る。

「さて、解散しようかね」
「ああ。今日は―――」

「あれ?キョン?それに・・・」

「は、ハルヒ。どうしてこんなとこに」
「親と出かけるって言ったでしょ。今帰ってきたのよ」
「そ、そうか。お疲れさん」
「うん、ありがと。で、なんで佐々木さんと有希と3人一緒にいるの?」
「・・・内緒」
「えっ!?」

な、長門っ!何を言ってるんだ!下手に誤解を招くような事を言うな!
勉強会だよ!俺の成績はお前も知っているだろ?

189: 2009/06/25(木) 09:10:26.44 ID:FnUBxb/+0
「そりゃまあね。でもそれなら有希がいれば済む事じゃない。
 佐々木さんは頭が良いって聞いたけど、学校が違うんだし
 いろいろ大変なんじゃないの?」
「涼宮さん、お気遣いありがとう。でもま、おかげさまで数学はだいぶマシになってると思います。
 その目でしっかり見てやってください」
「え、ええ、そりゃ、まあ・・・」
「それじゃキョン、僕らはこの辺で」
「また来週」
「あ、ああ・・・じゃあな」

・・・さて、この場をどうしたもんかね。

190: 2009/06/25(木) 09:11:10.57 ID:FnUBxb/+0
「ホントは何してたのよ」
「だーかーらー、勉強会だと言ってるだろう!」
「あやしい・・・」
「お前が心配しているような事は一切ねーよ。んじゃまた明日な!」
「え、あ、ちょっと!待ちなさい!キョン!キョンったら!」

~今度こそ終わり~

191: 2009/06/25(木) 09:13:01.95 ID:FnUBxb/+0
という事でキョンと佐々木長門同盟の週末の過ごし方でした。
なんとなく空気が描写できてれば良いなーと思ってまふ。

こんな朝から支援くだすった皆さんありがとうありがとう。

243: 2009/06/25(木) 14:48:18.78 ID:FnUBxb/+0
いや、ハルヒは可愛いですぞ。ただすでに弄られつくした感がある。のかな。
どんなSS書いても「これ読んだ事がある気がする」とか言われそうですもん。

253: 2009/06/25(木) 16:15:56.59 ID:FnUBxb/+0
お題

>>210 佐々木さんが

>>220 北高で

>>230 キョンが朝倉と付き合ってるのを目撃した

254: 2009/06/25(木) 16:16:37.07 ID:FnUBxb/+0
HRも終わり、惰性によって部室に行こうとしていた俺とハルヒを止めたのは
他ならぬクラス委員長こと、朝倉涼子だ。

「涼宮さん、今日の放課後なんだけど、キョンくんをちょっとお借りできないかしら?」
「あん?」

ちょっと待て、なんだそりゃ。俺は何も聞かされちゃいないぞ。
それになぜ俺に予定や都合を尋ねたりせず、ハルヒに許可を求めるんだ?
俺はレンタルDVDじゃないんだ。
まあ、確かに部室で朝比奈さんが手ずから淹れてくださるお茶を飲む事以外の
用事などありはしないのだが。

256: 2009/06/25(木) 16:17:17.70 ID:FnUBxb/+0
「別に、構わないけど。何か用?」
「彼、今日日直なのよね。それでさっき集めたプリントを先生の所へ持っていくんだけど
 その前に、内容ごとに分けなくちゃいけないの。それを手伝ってほしいなぁって」
「ふーん。ま、そゆ事ならガシガシ使ってやって。大して役に立たないだろうけど」

大変な言われようだ。

こうして、俺の人権や発言権などはかるーくなかった物にされ、俺は今
朝倉と俺以外、誰もいない教室で地味ーな作業を行っている。

「はあ、しかしこりゃ面倒な作業だな。なんで担任がやらないんだ?」
「それは、岡部先生だって面倒だからやりたくないのよ」
「・・・ズバリと言い切ったな、お前」

257: 2009/06/25(木) 16:17:58.29 ID:FnUBxb/+0
そもそもコイツには浅からぬ因縁がある。
そう、1年の初夏に起きた俺殺人未遂事件だ。
我ながら寒気がするような事件名だね、くわばらくわばら。

朝倉は、俺を頃してハルヒの反応を見る、とか言いながら
谷口あたりが非常に興奮して恋に落ちそうな笑顔のまま俺にナイフを刺そうとした。
のだが、長門のおかげで幸い俺は今日も生きている。ありがたいね。

「ねえ」

今のコイツには長門のような、いわゆる宇宙的パワーはほぼないらしい。
長門は朝倉の存在そのものを危険と判断し、消滅させようとしたが
上司である情報思念統合体とやらが、その能力を減らして存在を維持する事にしたらしい。

「ねえったら!」

長門はあの後、だいぶ不満があったようだ。

258: 2009/06/25(木) 16:18:41.98 ID:FnUBxb/+0
俺としてもあんな事は御免こうむりたいが、何、万が一の時は長門がなんとかしてくれるだろう。
それに―――。

「ちょっと、キョンくん、聞いてる!?」
「おわっ、ななななんだ?」
「今、全然聞いてなかったでしょ」
「あー悪い、ちと考え事でな」
「もー・・・ちゃんと聞いててよね」

とほっぺたを膨らませつつ怒ったような表情をしている。
―――それに、もうあんな事はしてこないだろう。きっと。
-------------------------------------------------------

259: 2009/06/25(木) 16:19:22.64 ID:FnUBxb/+0
-------------------------------------------------------
「やっほー」
「あ、涼宮さん、おはようございます。今、お茶淹れますね」

みくるちゃんは今日も可愛い、いつものメイド服で出迎えてくれた。
我ながら良い買い物したわね。

「ありがとー。」
「あれ?キョンくんはご一緒じゃないんですか?」

あ、やっぱり気づくわよね。

「うん、なんかクラス委員の手伝いだって。日直なんて嫌なもんよねえ」

前半は事実。そして後半はアタシの素直な感想。
実際日直なんてものは一月に一回回ってくるかどうかだけど
ホントにその日だけは休みたくなるわ。

260: 2009/06/25(木) 16:20:18.00 ID:FnUBxb/+0
「はい、どうぞ」

そう言ってみくるちゃんがアタシの湯飲みを丁寧に机の上においてくれる。

「ありがと、今日も美味しいわ」
「ふふっ、ありがとうございます」

と、ここで部室の中の違和感に気がついた。

「あれ?そう言えば有希は?」
「長門さんでしたら、何か御用があるとかで。先に帰られましたよ」

打てば返るように古泉くんが説明してくれる。それにしても。

「へー、あの有希がね。珍しい事もあるもんねぇ」

最近は有希も昔に比べて社交的になった―――気がする。
ちょっと寂しくもあるけど、団員一人一人の事を大切に思いやる器が
SOS団の団長として必要な素養なのよ。

あ、雑用係その1の事は、また別なんだけど。
-------------------------------------------------------

262: 2009/06/25(木) 16:21:01.75 ID:FnUBxb/+0
-------------------------------------------------------
「お待たせ」
「ううん、ちっとも待ってないよ、長門さん」

長門さんはいつも時間に生真面目だし、何より自分が相手を待たせる事をよく思っていない。
それが美徳である事に違いはないが、それも過ぎるとあまり良くない。

「じゃあ行きましょ」

今日、こうして長門さんに呼び出されて駅前に来たのは他でもない。
ある重大な計画の実行のため。バレでもしたら末代まで恥を残す事になるかもしれない。

でも、それでも、ちょっと楽しそうだったんだ。
ましてそれを、『あの』長門さんが提案してくれたという事も含めて、ね。

「着いた」

連れてこられたのは長門さんの住むマンション。

263: 2009/06/25(木) 16:21:46.06 ID:FnUBxb/+0
「上がって」
「お邪魔します・・・」
「邪魔じゃない」

・・・時々こうして長門さんに常套句が通じないのは困るけれど、そんな長門さんはとても可愛らしい。
のであくまで秘密にしている。私ながら悪趣味かな?

「これ」

おぉ、と小さく感嘆の声を漏らしながら『それ』を見た。

「サイズはピッタリのはず」

うん、見た目はちょうど私のサイズにあいそうだ。
ん?私のサイズ?

267: 2009/06/25(木) 17:13:31.98 ID:FnUBxb/+0
「えっとさ、長門さん?」
「なに」
「・・・私のスリーサイズとか・・・知ってる、の、かな・・・?」
「・・・」
「・・・」
「内緒」

絶対知ってる!うわぁぁぁ!最近ちょっとウエストが・・・とか、もう少し胸が・・・とか
そういうのも全部知られちゃってるよぉ。うぅ。

「大丈夫。秘密」

秘密にしてくれるのはありがたいけど、でも何が大丈夫なんだろう・・・。

「着てみて」

その長門さんの発言ではたと我にかえる。そうだ。これが今日の目的だった。
奥の和室を借り、私は着替えを始めた。
------------------------------------------------------------

268: 2009/06/25(木) 17:14:19.38 ID:FnUBxb/+0
------------------------------------------------------------
「「失礼しましたー」」

やっと地味な作業から解放され首をぐるりと回してみる。

「あー疲れた」
「ふふ、お疲れ様。ありがとう、おかげで助かっちゃった」
「感謝しているならジュースの1つでも奢れ」
「良いわよっ、じゃあ中庭行きましょうか」

あれ?冗談半分だったんだが・・・ま、良いか。
せっかく奢ってくれるというんだ。ありがたく頂こう。

「これでよかった?」
「ああ、サンキュな」
「ううん、お礼の印だから、気にしないで」

笑顔でそんな風に言われるとまるであの時、俺を頃すと言った事が嘘みたいだね。

269: 2009/06/25(木) 17:15:15.20 ID:FnUBxb/+0
「ねぇねぇ、それ美味しい?」
「ん、まぁ、それなりかな。人に強く勧めはしないが、なんとなく自分はコレみたいな」
「ふーん、そうなんだ。ちょっと味見ちょうだいっ」
「あっ、てめ!」

しかし言うが速いか、さすがは元(?)宇宙人だからなのか
アッサリと俺のジュース缶は奪い取られてしまった。

「ふうん、まあ、不味くはないけど・・・キョンくんってこういうの好きなんだ?」
「ん、ああ、まあ・・・。」

というかこれ、間接キスってヤツじゃないのか?
いや、そんなもん気にしないやつは気にしないしな。
ここで俺1人がアタフタしてもかえって厄介だ。

だが俺はこの時、アタフタしてでも缶を氏守すべきだったんだ。

しかし、未来の事なんて俺にはわからん。そうだろう?
---------------------------------------------------------

270: 2009/06/25(木) 17:15:57.19 ID:FnUBxb/+0
---------------------------------------------------------
「これが北高かぁ・・・」
「そう」
「なるほど、キョンが嘆くのもムリないわね、坂道が長いし大変じゃない?」
「慣れれば問題ない」

北高に来るのは、実は初めてじゃない。
でもあれは中学の時だし、『多分自分は入らないであろう高校』だったから
特に気にして何かを見る、というような事はしなかった。

ましてや―――。

「・・・バレたりしないかな?」
「大丈夫。似合っている」

いや、そういう事じゃないんだけど・・・ね。
あろうことか私は今、北高の制服を着ている。
長門さんが準備してくれたのだ。

私がぽろっと漏らした一言がきっかけだった。

271: 2009/06/25(木) 17:17:47.50 ID:FnUBxb/+0
「長門さんやキョン、SOS団のみなさんの日常を見てみたいな」

すると長門さんは即行動にうつしてしまった。あれからわずか2日。
北高の先生たちは月に一回の大きな職員会議があるとかでほとんど部活などにもいない。
長門さんはリスクを最低限に抑えるためにこの日を選んだのだった。

「自然体でいれば怪しまれない。平気」
「そうね。ふふっ」

なんとなく楽しい気持ちになる。いつもと違う日常。とりたてて何かが面白い訳じゃない。
なのになぜか心がスキップしている。そんな気持ち。

「校舎の向こうに、中庭を挟んでSOS団の部室がある旧校舎がある」
「ふふっ、緊張するなぁ」
----------------------------------------------------------------

272: 2009/06/25(木) 17:18:28.74 ID:FnUBxb/+0
----------------------------------------------------------------

「全く味見って・・・しかもあんまり美味しくないって言ったわりに随分減ってるぞ、これ」
「もうー、キョンくんって結構細かいことを気にするタイプ?」
「うるさい。なんでお礼にもらったジュースをガッツリ味見されなきゃならんのだ」
「分かったわよ。悪かったから、これあげる。ね?許して?」

そう言って朝倉は自分用に買った紅茶の缶をよこした。
・・・これもお前が口をつけた缶じゃないか、などと言える訳はない。

「はあ、わーったよ。これでチャラな」

平静を装ってコクリと紅茶を飲む。

273: 2009/06/25(木) 17:20:46.33 ID:FnUBxb/+0
「ふふっ」
「?」
「これって、『間接キス』よね?」

         ___
        /⌒  ⌒\         ━━┓┃┃
       /(  ̄)  (_)\         ┃   ━━━━━━━━
     /::::::⌒(__人__)⌒:::: \         ┃               ┃┃┃
    |    ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚                       ┛
    \   。≧       三 ==-
        -ァ,        ≧=- 。
          イレ,、       >三  。゚ ・ ゚
        ≦`Vヾ       ヾ ≧
        。゚ /。・イハ 、、    `ミ 。 ゚ 。

「きゃっ!汚い!」
「お前がおかしな事を言うからだろうが!あーもう・・・ったく」
「だ、だってそんなに反応するとは思わなかったから・・・。ごめんごめん」
「謝ってる割に、顔が笑ってるぞ」
「だって、キョンくん、おかしいんだもの」

・・・やれやれだ・・・。

274: 2009/06/25(木) 17:22:49.23 ID:FnUBxb/+0
「はい、拭いてあげる」
「いや、それくらい自分で・・・」
「良いから良いから」

くっ、拭かれるのが困るんじゃなくて、朝倉の顔が近いのが困るんだよっ・・・!

「ねえ、キョンくん」
「な、なんだ・・・?」

「間接じゃなくて、直接キスしてみても、良い?」

な―――


---------------------------------------------------------------

276: 2009/06/25(木) 17:26:32.89 ID:FnUBxb/+0
---------------------------------------------------------------

私を案内している長門さんの足が、止まった。

「長門さん、どうしたの?」
「―――」

彼女が無言になるなんて珍しい。
長門さんは口数が少ない。しかしこちらの問いかけには何かしらの反応を見せていた。
なのに、今はその反応が、表情にも、言葉にも、仕草にも、見えない。

「長門さん?」

近寄ってみる。

「どうしたの?」

長門さんは中庭の一点を凝視していた。その先を辿ると―――。
---------------------------------------------------------------

277: 2009/06/25(木) 17:28:18.88 ID:FnUBxb/+0
--------------------------------------------------------------

朝倉の口唇は柔らかかった。

朝倉は良い匂いがした。

朝倉の髪がふわっと俺の頬をなでた、その髪の向こうには ありえない 人影 が―――

「なが、と・・・」

1人じゃない、その横には、

「さ、さき・・・?」

俺の言葉に 朝倉が 振り返る

長門が 駆けてくる

そして佐々木は―――反対方向に、駆け出していた。
---------------------------------------------------------------

285: 2009/06/25(木) 18:06:06.36 ID:FnUBxb/+0
---------------------------------------------------------------
理解できない。状況が分からない。自分の心が把握できない。

彼の気持ちはもっと把握できなかった。

でも今はなにも考える事ができなかった。

ただ走った。北高なんてどこに何があるのかなんてわからない。

「佐々木!!」

身体が一瞬こわばる。この声は―――
---------------------------------------------------------------

287: 2009/06/25(木) 18:07:41.53 ID:FnUBxb/+0
---------------------------------------------------------------
「佐々木!!」

呼び止めてどうするんだ、俺は。
だがこのまま行かせる訳にはいかない。そんな事はしたくない。

しかし佐々木は一瞬こちらを見たかと思うとまた走り出してしまった。

「くそっ!」

悪態をついた。

自分の不甲斐なさに。
---------------------------------------------------------------

288: 2009/06/25(木) 18:08:50.41 ID:FnUBxb/+0
-----------------------------------------------------
ただ走った。ひたすら走った。まっすぐ走ったら
追っ手を撒けないって昔ドラマでやってた。

見える角、見える角、全力で右、左、右・・・めちゃめちゃに走った。

速く早く、ただどこか

どこか1人になれる場所へ―――。
-----------------------------------------------------

289: 2009/06/25(木) 18:09:38.51 ID:FnUBxb/+0
-----------------------------------------------
佐々木め、さすが才色兼備、じゃなかった。
いや、それもそうだが、文武両道を地で行くやつだ。

こんな時に引き合いにだすのは気が引けるが
ハルヒ並みの人間が鶴屋さん以外にまだいるなんてな。

ハッ ハッ

息が、切れる。

なさけねぇっ、男の俺が先にバテてたまるかよ!

「佐々木ぃっ!!」
-----------------------------------------------

290: 2009/06/25(木) 18:10:28.04 ID:FnUBxb/+0
-----------------------------------------------
まだ、彼が追ってくる。

まだ、キョンが追ってくる。

まだ、キョンが追ってくれている。

どうしよう。自分はどうしたら良いんだろう。

「はい、そこまでですよ」

突然、自分の真後ろから声がする。

「誰・・・」

・・・誰も、いない?

「後ろですよ、佐々木さん」

えっ―――。
-----------------------------------------------

291: 2009/06/25(木) 18:11:36.81 ID:FnUBxb/+0
----------------------------------------------
俺は肩で息をしながら、目の前を見ていた。

「・・・黄緑さん」
「こんにちは」

黄緑さんの表情は変わらない。

「いったい・・・?」
「それは私のセリフですよ。全く、こんな事になるなんて」

イマイチ、状況がつかめない俺は視線で説明をお願いした。

「・・・もし先ほどの、朝倉とのキス、見たのが涼宮さんだったらどうするんです?」
「―――!」
「そして佐々木さんも涼宮さんと同様の可能性を持つ方。気をつけてくださいね」

そりゃ気をつけるさ。ハルヒ云々をおいといても、だ。

292: 2009/06/25(木) 18:12:27.25 ID:FnUBxb/+0
「もっとも、今回はこちらの不手際でもあります。」
「え?」
「まさか朝倉があんな行動に出るとは・・・迂闊でした」

はたと気づく。

「そういえば、長門は朝倉のところへ・・・」
「ええ。すでに朝倉は長門に捕縛され、マンションへ移送中です。
 私も行かねばなりませんが・・・」
「佐々木は・・・?」
「そうですね、一緒に連れていきましょうか。このままでは話もしづらいですから」
-------------------------------------------------

293: 2009/06/25(木) 18:13:20.31 ID:FnUBxb/+0
-------------------------------------------------
「朝倉涼子。説明を要求する」
「そうよ、あれはいくらなんでも軽率過ぎる行動よ」
「別に、そんなに深い意味はないけど?」
「それでは済まされない。彼女もいまや我々の重要な観察および保護の対象」

朝倉も苦しみながら言い返す。

「それは分かってるけど・・・まさか北高に佐々木さんがいるとは思わなかったもの」

それはまぁ、言えているな。

294: 2009/06/25(木) 18:14:10.51 ID:FnUBxb/+0
「あのね、キスは好きな人同士で行うものよ。
 貴方、もしかしてキョンくんが好きなんですか?」
「違うけど?ただキスって行為に興味があっただけよ。どんなものかなって」

つまり、あのキスは俺への好意~なんてものからではなく、
純粋に行為に対する興味からって事で良いんだな?

「ええ、そうよ」
「わかった、佐々木には俺から説明する」
「お願いします。それでは起こしますね」
「はい、お願いします」

295: 2009/06/25(木) 18:15:22.24 ID:FnUBxb/+0
―――。

―――――。

「と、いう訳なんだ」
「はぁ、そ、そうか・・・」
「納得いかないって顔してるな」
「いや、確かに彼女たちは実際年齢は4歳だものね。
 他意なくキ、きき、キスもできるのかも、しれないね」
「ああ。まあ、された方は全く困るだけなんだけどな」

「・・・あんな美人にキスされて困る?それはいくらなんでもないだろう?」

佐々木は調子を取り戻したのか、いつものようにくつくつと喉を鳴らしている。

298: 2009/06/25(木) 19:07:07.01 ID:FnUBxb/+0
「ということでな、あれはノーカウントだ」
「そ、そうか・・・いや、あんなに取り乱してすまなかったね」
「あー、それなんだけどな」
「ん?」

と、佐々木が俯いていた顔を上げる。そこに

―――――。

「な、なななな!」
「あー。なんだ。これでおあいこだ。良いか?」
「ばっ・・・バカだ、な・・・君は・・・っ」

佐々木の服に雫がはたりと落ちる。

「え、な、泣くほど嫌だったか・・・?」

佐々木は北高の制服の袖で顔をぬぐうと

「ホントに、君はバカだな」
「なっ」

そう言って、笑顔でキスをした。

~fin~

299: 2009/06/25(木) 19:07:48.06 ID:FnUBxb/+0
やっとさるおわった。そして話もおわった。おつかれさま。

もう猿きらい。むしろ早漏でごめん。

304: 2009/06/25(木) 19:18:38.74 ID:FnUBxb/+0
みんなありがとうよー。安価でSSなんて初めてだったがなんとかまとめられた、気がする。
朝倉とのラブあま展開を期待してた人、すまんな。

こ こ は 佐 々 木 と 長 門 が ヒ ロ イ ン だ

310: 2009/06/25(木) 19:28:16.65 ID:FnUBxb/+0
>>308

      ィ";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;゙t,
     彡;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
     イ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;r''ソ~ヾ:;;;;;;゙i,
     t;;;;;;;リ~`゙ヾ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ    i,;;;;;;!
     ゙i,;;;;t    ヾ-‐''"~´_,,.ィ"゙  ヾ;;f^!   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ト.;;;;;》  =ニー-彡ニ''"~´,,...,,.  レ')l. < おまえは何を言っているんだ
     t゙ヾ;l   __,, .. ,,_   ,.テ:ro=r''"゙ !.f'l.   \____________
      ヽ.ヽ ー=rtσフ= ;  ('"^'=''′  リノ
    ,,.. -‐ゝ.>、 `゙゙゙゙´ ,'  ヽ   . : :! /
 ~´ : : : : : `ヽ:.    ,rf :. . :.: j 、 . : : ト、.、
 : : : : : : : : : : ヽ、  /. .゙ー:、_,.r'゙: :ヽ. : :/ ヽ\、
  :f: r: : : : : : : : !丶  r-、=一=''チ^  ,/   !:: : :`丶、_
  : /: : : : : : : : :! ヽ、  ゙ ''' ''¨´  /   ,i: : : l!: : : : :`ヽ、
 〃: :j: : : : : : : ゙i   `ヽ、..,,__,, :ィ"::   ,ノ:: : : : : : : : : : : :\
 ノ: : : : : : : : : : :丶   : : ::::::::: : : :   /: : : : : : : : : : : : : : : :\


311: 2009/06/25(木) 19:32:15.21 ID:FnUBxb/+0
安価ねえ。これ結構キツイんだよ?

「>>320」が「>>330」で「>>340」した

注意:
工口グロなし
クロスオーバーなし
投下は書き溜め終わってから
それなりに早い流れになるなら同じ人が安価複数げっとでもおk

さーいってみよー

321: 2009/06/25(木) 19:44:32.29 ID:FnUBxb/+0
相変わらず遅い流れだなあw
でも同じ人が安価複数ゲットは有効のままにしますね

なんだろ、僕の書く文章は一般受けしないのか?w
それともなんだ、工口がないからか?萌えも特にないからか?w

327: 2009/06/25(木) 20:03:14.70 ID:FnUBxb/+0
ksk

単芝把握

336: 2009/06/25(木) 20:28:10.17 ID:FnUBxb/+0
ミヨキチとキョンの家で・・・?

343: 2009/06/25(木) 20:33:18.61 ID:FnUBxb/+0
ミヨキチとキョンの家で佐々木と遊んだ、か。

ふむ。おっけー、なんとかなりそうだ。
じゃーちょっくら貯めてきます。

344: 2009/06/25(木) 20:35:16.15 ID:FnUBxb/+0
>>342が不憫だが・・・明日はいいことあるよきっと。

345: 2009/06/25(木) 20:42:42.29 ID:FnUBxb/+0
あー今、憤慨で確認したんだがミヨキチは一度もキョンを呼んでないようです。

つきましてミヨキチにはキョンのことを「お兄さん」と呼ばせます。悪しからず。

347: 2009/06/25(木) 21:03:15.00 ID:FnUBxb/+0
>>346
え、大丈夫ですか・・・?不具合?

352: 2009/06/25(木) 21:15:21.06 ID:FnUBxb/+0
>>350
こんばんは。でもバーローはいません。

>>351
ムチャシヤガッテ(AA

356: 2009/06/25(木) 22:09:07.06 ID:FnUBxb/+0
文書板の佐々木スレで僕がキョンを貶めているように書かれてたわ。たはー。
そんなつもりはないですよ。まったく。

362: 2009/06/25(木) 22:34:12.11 ID:FnUBxb/+0
>>359
朝倉とキョン、キスしたじゃん!アレ以上は許されないのだよ!

363: 2009/06/25(木) 22:34:55.75 ID:FnUBxb/+0
ミヨキチとキョンの家で、佐々木と遊んだ「よう、佐々木。待ったか」
「いやそうでもないさ」

今日は珍しく長門がいない。なんでも急用があるとの事だが・・・。

「ああ、それなんだがね」

佐々木がくつくつといつものように喉を鳴らして笑っている。
なにか知っているのか?

「うむ、聞いたところによると、朝倉女史に対して何やら『お仕置き』が必要だそうだよ」
「・・・それはまた随分・・・聞こえが悪いな」
「なにせ長門さんの『お仕置き』だ。一体朝倉さんは何をしたんだろうね」

364: 2009/06/25(木) 22:35:40.30 ID:FnUBxb/+0
それは聞かぬが花、ってヤツだろうな。
朝倉はあれでいて精神年齢がだいぶ低いようだし。

「くっくっ、そうだね、何せ君にキ―――むぐっ」
「・・・佐々木・・・まだそれを根に持ってるのか?」
「ぷはっ・・・けほけほ。いやなに、この反応が楽しくてつい、ね」

まったく、タチが悪いな。

「さて、今日は本屋に参考書を探しにいくんだったよな」
「ああ、君もそろそろ必要だろう?」
「残念な事にな・・・」

366: 2009/06/25(木) 22:38:38.29 ID:FnUBxb/+0
本屋

「うーむ、あまりに種類が多くて、どれを選んだら良いのかサッパリ分からん」
「そうだね、最近は出版社も多いし、有名進学塾が参考書を出すケースもある」
「なにか分かりやすい参考書を選ぶコツとかないのか?」
「ないね、残念ながらその答えを僕は持ち合わせていない」

少なくとも全科目を浅く広くカバーしたものか、はたまた苦手な科目のものに特化したものか
くらいは決めなければならないな。

「そうだね。全科目をやっても苦手科目を丁寧に説明してはくれないだろう。
 どうかな、キョン。今日のところは理数のものを選んでみては」

ふむ、そう言われるとそんな気がしてきた。
どうせ一気に全部はムリだ。うむ、ムリだな。

367: 2009/06/25(木) 22:39:25.55 ID:FnUBxb/+0
「よし、数Ⅱのを買うか!あとは・・・うーむ、物理か?」
「良いんじゃないかな、集中的にその2つをやってみるというのも」

佐々木先生の後押しももらえた事だし、一安心だ。

「キョン、この参考書は僕が通う塾でも分かりやすいと評判だよ。どうかな?」
「おお、そりゃ助かる。やっぱ口コミは大事だよな」

そんな調子でもう一冊の参考書も選び終わったところで、意外な人物と出会った。

「お、お兄さん・・・?」

368: 2009/06/25(木) 22:40:37.26 ID:FnUBxb/+0
隣にいた佐々木が感嘆の声を小さく発したのが聞こえた。

「ミヨキチじゃないか、久しぶりだな」
「は、はい。ご無沙汰しております」

と挨拶もそこそこにミヨキチは俺の横に視線を移していた。

「ああ、佐々木っていうんだ。俺の中学の時の同級生でな。時々勉強を見てもらってるんだ」
「そうなんですか、はじめまして、吉村美代子と申します」

「で、だ。こちらの吉村美代子さんはうちの妹の同級生でな。いつも妹が良くしてもらってる」
「そうなんですか。はじめまして、吉村さん。佐々木と呼んでください」
「佐々木、さん、ですか・・・」

なにやらミヨキチが変だが・・・気のせいか?

371: 2009/06/25(木) 22:41:33.28 ID:FnUBxb/+0
「あ、えっと、その、私の事はミヨキチと呼んで下さい」
「わかりました、ではミヨキチさんと呼ばせて頂きますね」
「は、はい!宜しくお願いします!」
「こちらこそ」

なにやら女性2人で世界が出来上がってしまったようだ。
俺は完全に空気。ま、良いんだけどね。
しかしまぁ、なんというか。谷口あたりが見たらそれこそ歓喜して鼻血でも吹きかねん光景だ。
佐々木はもとより、ミヨキチも小学校6年生とは(そう、妹の同級生とは)決して思えないルックスだ。
少なくとも中学生くらいには見えるし、あどけない高校生と言われても疑う人はいないだろう。

372: 2009/06/25(木) 22:42:26.67 ID:FnUBxb/+0
うちの妹の発育が良くなさ過ぎるのだろうか、家庭環境か?それとも食生活だろうか?
などと半ば真剣に思いを巡らせ始めたところで

「キョン、また意識を飛ばしかけていたね?」

佐々木の一言で戻ってきた。

「ミヨキチ、今日はこの後、何か予定でもあるのか?」
「い、いえ、帰って買った本を読もうかと思っていたぐらいで他には何も・・・」
「そうか、なら一緒に昼飯でもどうだ?」
「ほう、キョンにしては気が利くね」

まるで普段は全く気が利かないヤツみたいではないか。半分くらい当たりだが。

373: 2009/06/25(木) 22:43:09.82 ID:FnUBxb/+0
「えっと、その・・・よろしいんですか?」
「ああ。せっかく久々に会ったし、いつも妹がお世話になってるからな」
「いえ、そういう事ではなくて・・・その・・・」

ん?なにやらもごもごしているな。聡明なミヨキチが珍しい。

「無理強いはしないぞ?」
「あ、あの違うんです、そうではなくて・・・えっと・・・」
「キョン、あまり女の子を、しかもこのように可憐で可愛らしい年下の女性を困らせるのは感心しないよ」
「いえ!ち、違うんです!そ、その、えっと・・・!」

どうしたんだ?うーむ、誘って悪かったのだろうか。

378: 2009/06/25(木) 22:51:11.93 ID:FnUBxb/+0
「えっと、そのお兄さんと佐々木さんの、デートの邪魔をしては悪いのではと・・・」

さすがに佐々木も俺も一瞬固まってしまった。・・・デート?

「くっ、くっくっくっ・・・」

佐々木、笑うな。

「い、いや、確かにミヨキチさんの言うとおり。本屋とは些かムードはないが年頃の男女が2人で
 出歩いていればそのように見えるのは至極当然だよ、キョン」

・・・言われてみると確かにそうだな。というかこんなやり取りを中学の頃もしたような・・・。

383: 2009/06/25(木) 23:14:39.42 ID:FnUBxb/+0
注文してから焼くという店のスタイルのためか、注文から30分ほどしてから熱々のものが出てきた。

「へえ、こりゃなかなかうまいな」
「そうかい、連れてきて良かったよ。ミヨキチさんはいかがですか?」
「あ、と、とってもおいしいです!」
「良かった。遠慮せず食べてね」

こうして佐々木とミヨキチを見ながら食事というのも乙なものだ。
初めてのキッシュに舌鼓をうち、デザートに出てきた
クレームブリュレに惜しみない賛辞を送ったミヨキチはやや興奮気味だ。
ここまで反応が良いと奢り甲斐があるというものだ。

385: 2009/06/25(木) 23:16:32.47 ID:FnUBxb/+0
「さて、ミヨキチはこれからどうする?」
「そうですね・・・」
「なんならウチにくるか?妹もいるだろうし・・・」
「あ、もしお邪魔でなければ」

邪魔な訳がない。それなら行こうか。
ちなみにミヨキチは俺たちと昼食を取る事を決めた時、そして今もしっかり親に連絡している。
うーむ。我が家の妹と比べてしまうのは仕方ない事だよな・・・。

386: 2009/06/25(木) 23:17:52.66 ID:FnUBxb/+0
「ただいまー」
「お邪魔します」
「お邪魔します」

と、返事がない。ただのしかばね・・・な訳はない。しまった、妹も留守か?
テーブルには例によって例のごとく書置きがある。

「言って聞かないのでデパートへ連れていきます 母より」

うーむ、こういうところでうちの妹とミヨキチは本当に同級生なのかと悩んでしまう。

387: 2009/06/25(木) 23:20:12.74 ID:FnUBxb/+0
「ミヨキチ、スマン。朝はいたんだが、どうやら妹は母親と出かけちまったらしい」
「え、そうなんですか・・・?」
「ああ、まいったな」

まいったというのは本音だ。せっかくここまで来てもらいながら帰すと言うのはミヨキチに悪い。
かと言って俺たちと小学生が遊ぶとか話すとか・・・うーん、どうなんだ?

388: 2009/06/25(木) 23:21:51.46 ID:FnUBxb/+0
「ミヨキチさん」
「は、はい!なんでしょうか!」
「良かったら私と話でもしていかない?もしかしたらキョンの妹さんも意外とすぐ帰ってくるかもしれない」

「い、いいんですか?お兄さんは・・・」
「大丈夫、キョンは今日買った参考書に手をつけるし、私は後で彼が分からなかった事を
 説明してあげるだけだから」
「そうなんですか」

「それともこんな年上の女性とはあまり話したくないかな?」
「い、いえ!そんな事ないです!・・・えっと、お兄さん、よろしいですか?」

もちろんだ。俺が相手できない分、話し相手になってくれ、佐々木。

390: 2009/06/25(木) 23:23:08.84 ID:FnUBxb/+0
「ああ。君も勉強、頑張ってくれたまえ」
「おう。じゃあお茶とお菓子は出していくから、あとは適当にくつろいでくれ」
「うむ、ありがとう、キョン」

「どういたしまして。何かあったら呼んでくれ。それじゃな、2人ともごゆっくり」
「はい、勉強頑張ってください」

さて、佐々木のみならずミヨキチにも応援されてしまっては手をぬけない。
がっつりやるか。

391: 2009/06/25(木) 23:24:46.80 ID:FnUBxb/+0
参考書は佐々木の言ったとおり、授業の半分以上を寝て過ごしたであろう俺にも
分かりやすい設計で、ミスしたところをしっかり反復できた。なるほどこれは良いな。

時折、階下のリビングから笑い声が聞こえる。
もちろんその声の主は佐々木とミヨキチだ。

そういえばミヨキチとは俺が中学から高校進学する春休みに一度一緒に映画を見に行った。
あの時は小学生にしては俳優が好きで映画を見に行ったり、
お洒落なカフェに行くといった大半の小学生とは少し違った考えで行動する子だった。

引用: 佐々木「・・・。ペラッ」長門「・・・。ペラッ」キョン「・・・。」