254: 2009/06/25(木) 16:16:37.07 ID:FnUBxb/+0
HRも終わり、惰性によって部室に行こうとしていた俺とハルヒを止めたのは
他ならぬクラス委員長こと、朝倉涼子だ。

「涼宮さん、今日の放課後なんだけど、キョンくんをちょっとお借りできないかしら?」
「あん?」

ちょっと待て、なんだそりゃ。俺は何も聞かされちゃいないぞ。
それになぜ俺に予定や都合を尋ねたりせず、ハルヒに許可を求めるんだ?
俺はレンタルDVDじゃないんだ。
まあ、確かに部室で朝比奈さんが手ずから淹れてくださるお茶を飲む事以外の
用事などありはしないのだが。
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256: 2009/06/25(木) 16:17:17.70 ID:FnUBxb/+0
「別に、構わないけど。何か用?」
「彼、今日日直なのよね。それでさっき集めたプリントを先生の所へ持っていくんだけど
 その前に、内容ごとに分けなくちゃいけないの。それを手伝ってほしいなぁって」
「ふーん。ま、そゆ事ならガシガシ使ってやって。大して役に立たないだろうけど」

大変な言われようだ。

こうして、俺の人権や発言権などはかるーくなかった物にされ、俺は今
朝倉と俺以外、誰もいない教室で地味ーな作業を行っている。

「はあ、しかしこりゃ面倒な作業だな。なんで担任がやらないんだ?」
「それは、岡部先生だって面倒だからやりたくないのよ」
「・・・ズバリと言い切ったな、お前」

257: 2009/06/25(木) 16:17:58.29 ID:FnUBxb/+0
そもそもコイツには浅からぬ因縁がある。
そう、1年の初夏に起きた俺殺人未遂事件だ。
我ながら寒気がするような事件名だね、くわばらくわばら。

朝倉は、俺を頃してハルヒの反応を見る、とか言いながら
谷口あたりが非常に興奮して恋に落ちそうな笑顔のまま俺にナイフを刺そうとした。
のだが、長門のおかげで幸い俺は今日も生きている。ありがたいね。

「ねえ」

今のコイツには長門のような、いわゆる宇宙的パワーはほぼないらしい。
長門は朝倉の存在そのものを危険と判断し、消滅させようとしたが
上司である情報思念統合体とやらが、その能力を減らして存在を維持する事にしたらしい。

「ねえったら!」

長門はあの後、だいぶ不満があったようだ。

258: 2009/06/25(木) 16:18:41.98 ID:FnUBxb/+0
俺としてもあんな事は御免こうむりたいが、何、万が一の時は長門がなんとかしてくれるだろう。
それに―――。

「ちょっと、キョンくん、聞いてる!?」
「おわっ、ななななんだ?」
「今、全然聞いてなかったでしょ」
「あー悪い、ちと考え事でな」
「もー・・・ちゃんと聞いててよね」

とほっぺたを膨らませつつ怒ったような表情をしている。
―――それに、もうあんな事はしてこないだろう。きっと。
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259: 2009/06/25(木) 16:19:22.64 ID:FnUBxb/+0
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「やっほー」
「あ、涼宮さん、おはようございます。今、お茶淹れますね」

みくるちゃんは今日も可愛い、いつものメイド服で出迎えてくれた。
我ながら良い買い物したわね。

「ありがとー。」
「あれ?キョンくんはご一緒じゃないんですか?」

あ、やっぱり気づくわよね。

「うん、なんかクラス委員の手伝いだって。日直なんて嫌なもんよねえ」

前半は事実。そして後半はアタシの素直な感想。
実際日直なんてものは一月に一回回ってくるかどうかだけど
ホントにその日だけは休みたくなるわ。

260: 2009/06/25(木) 16:20:18.00 ID:FnUBxb/+0
「はい、どうぞ」

そう言ってみくるちゃんがアタシの湯飲みを丁寧に机の上においてくれる。

「ありがと、今日も美味しいわ」
「ふふっ、ありがとうございます」

と、ここで部室の中の違和感に気がついた。

「あれ?そう言えば有希は?」
「長門さんでしたら、何か御用があるとかで。先に帰られましたよ」

打てば返るように古泉くんが説明してくれる。それにしても。

「へー、あの有希がね。珍しい事もあるもんねぇ」

最近は有希も昔に比べて社交的になった―――気がする。
ちょっと寂しくもあるけど、団員一人一人の事を大切に思いやる器が
SOS団の団長として必要な素養なのよ。

あ、雑用係その1の事は、また別なんだけど。
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262: 2009/06/25(木) 16:21:01.75 ID:FnUBxb/+0
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「お待たせ」
「ううん、ちっとも待ってないよ、長門さん」

長門さんはいつも時間に生真面目だし、何より自分が相手を待たせる事をよく思っていない。
それが美徳である事に違いはないが、それも過ぎるとあまり良くない。

「じゃあ行きましょ」

今日、こうして長門さんに呼び出されて駅前に来たのは他でもない。
ある重大な計画の実行のため。バレでもしたら末代まで恥を残す事になるかもしれない。

でも、それでも、ちょっと楽しそうだったんだ。
ましてそれを、『あの』長門さんが提案してくれたという事も含めて、ね。

「着いた」

連れてこられたのは長門さんの住むマンション。

263: 2009/06/25(木) 16:21:46.06 ID:FnUBxb/+0
「上がって」
「お邪魔します・・・」
「邪魔じゃない」

・・・時々こうして長門さんに常套句が通じないのは困るけれど、そんな長門さんはとても可愛らしい。
のであくまで秘密にしている。私ながら悪趣味かな?

「これ」

おぉ、と小さく感嘆の声を漏らしながら『それ』を見た。

「サイズはピッタリのはず」

うん、見た目はちょうど私のサイズにあいそうだ。
ん?私のサイズ?

267: 2009/06/25(木) 17:13:31.98 ID:FnUBxb/+0
「えっとさ、長門さん?」
「なに」
「・・・私のスリーサイズとか・・・知ってる、の、かな・・・?」
「・・・」
「・・・」
「内緒」

絶対知ってる!うわぁぁぁ!最近ちょっとウエストが・・・とか、もう少し胸が・・・とか
そういうのも全部知られちゃってるよぉ。うぅ。

「大丈夫。秘密」

秘密にしてくれるのはありがたいけど、でも何が大丈夫なんだろう・・・。

「着てみて」

その長門さんの発言ではたと我にかえる。そうだ。これが今日の目的だった。
奥の和室を借り、私は着替えを始めた。
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268: 2009/06/25(木) 17:14:19.38 ID:FnUBxb/+0
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「「失礼しましたー」」

やっと地味な作業から解放され首をぐるりと回してみる。

「あー疲れた」
「ふふ、お疲れ様。ありがとう、おかげで助かっちゃった」
「感謝しているならジュースの1つでも奢れ」
「良いわよっ、じゃあ中庭行きましょうか」

あれ?冗談半分だったんだが・・・ま、良いか。
せっかく奢ってくれるというんだ。ありがたく頂こう。

「これでよかった?」
「ああ、サンキュな」
「ううん、お礼の印だから、気にしないで」

笑顔でそんな風に言われるとまるであの時、俺を頃すと言った事が嘘みたいだね。

269: 2009/06/25(木) 17:15:15.20 ID:FnUBxb/+0
「ねぇねぇ、それ美味しい?」
「ん、まぁ、それなりかな。人に強く勧めはしないが、なんとなく自分はコレみたいな」
「ふーん、そうなんだ。ちょっと味見ちょうだいっ」
「あっ、てめ!」

しかし言うが速いか、さすがは元(?)宇宙人だからなのか
アッサリと俺のジュース缶は奪い取られてしまった。

「ふうん、まあ、不味くはないけど・・・キョンくんってこういうの好きなんだ?」
「ん、ああ、まあ・・・。」

というかこれ、間接キスってヤツじゃないのか?
いや、そんなもん気にしないやつは気にしないしな。
ここで俺1人がアタフタしてもかえって厄介だ。

だが俺はこの時、アタフタしてでも缶を氏守すべきだったんだ。

しかし、未来の事なんて俺にはわからん。そうだろう?
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270: 2009/06/25(木) 17:15:57.19 ID:FnUBxb/+0
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「これが北高かぁ・・・」
「そう」
「なるほど、キョンが嘆くのもムリないわね、坂道が長いし大変じゃない?」
「慣れれば問題ない」

北高に来るのは、実は初めてじゃない。
でもあれは中学の時だし、『多分自分は入らないであろう高校』だったから
特に気にして何かを見る、というような事はしなかった。

ましてや―――。

「・・・バレたりしないかな?」
「大丈夫。似合っている」

いや、そういう事じゃないんだけど・・・ね。
あろうことか私は今、北高の制服を着ている。
長門さんが準備してくれたのだ。

私がぽろっと漏らした一言がきっかけだった。

271: 2009/06/25(木) 17:17:47.50 ID:FnUBxb/+0
「長門さんやキョン、SOS団のみなさんの日常を見てみたいな」

すると長門さんは即行動にうつしてしまった。あれからわずか2日。
北高の先生たちは月に一回の大きな職員会議があるとかでほとんど部活などにもいない。
長門さんはリスクを最低限に抑えるためにこの日を選んだのだった。

「自然体でいれば怪しまれない。平気」
「そうね。ふふっ」

なんとなく楽しい気持ちになる。いつもと違う日常。とりたてて何かが面白い訳じゃない。
なのになぜか心がスキップしている。そんな気持ち。

「校舎の向こうに、中庭を挟んでSOS団の部室がある旧校舎がある」
「ふふっ、緊張するなぁ」
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272: 2009/06/25(木) 17:18:28.74 ID:FnUBxb/+0
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「全く味見って・・・しかもあんまり美味しくないって言ったわりに随分減ってるぞ、これ」
「もうー、キョンくんって結構細かいことを気にするタイプ?」
「うるさい。なんでお礼にもらったジュースをガッツリ味見されなきゃならんのだ」
「分かったわよ。悪かったから、これあげる。ね?許して?」

そう言って朝倉は自分用に買った紅茶の缶をよこした。
・・・これもお前が口をつけた缶じゃないか、などと言える訳はない。

「はあ、わーったよ。これでチャラな」

平静を装ってコクリと紅茶を飲む。

273: 2009/06/25(木) 17:20:46.33 ID:FnUBxb/+0
「ふふっ」
「?」
「これって、『間接キス』よね?」


ブーッ!!

「きゃっ!汚い!」
「お前がおかしな事を言うからだろうが!あーもう・・・ったく」
「だ、だってそんなに反応するとは思わなかったから・・・。ごめんごめん」
「謝ってる割に、顔が笑ってるぞ」
「だって、キョンくん、おかしいんだもの」

・・・やれやれだ・・・。

274: 2009/06/25(木) 17:22:49.23 ID:FnUBxb/+0
「はい、拭いてあげる」
「いや、それくらい自分で・・・」
「良いから良いから」

くっ、拭かれるのが困るんじゃなくて、朝倉の顔が近いのが困るんだよっ・・・!

「ねえ、キョンくん」
「な、なんだ・・・?」

「間接じゃなくて、直接キスしてみても、良い?」

な―――


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276: 2009/06/25(木) 17:26:32.89 ID:FnUBxb/+0
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私を案内している長門さんの足が、止まった。

「長門さん、どうしたの?」
「―――」

彼女が無言になるなんて珍しい。
長門さんは口数が少ない。しかしこちらの問いかけには何かしらの反応を見せていた。
なのに、今はその反応が、表情にも、言葉にも、仕草にも、見えない。

「長門さん?」

近寄ってみる。

「どうしたの?」

長門さんは中庭の一点を凝視していた。その先を辿ると―――。
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277: 2009/06/25(木) 17:28:18.88 ID:FnUBxb/+0
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朝倉の口唇は柔らかかった。

朝倉は良い匂いがした。

朝倉の髪がふわっと俺の頬をなでた、その髪の向こうには ありえない 人影 が―――

「なが、と・・・」

1人じゃない、その横には、

「さ、さき・・・?」

俺の言葉に 朝倉が 振り返る

長門が 駆けてくる

そして佐々木は―――反対方向に、駆け出していた。
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285: 2009/06/25(木) 18:06:06.36 ID:FnUBxb/+0
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理解できない。状況が分からない。自分の心が把握できない。

彼の気持ちはもっと把握できなかった。

でも今はなにも考える事ができなかった。

ただ走った。北高なんてどこに何があるのかなんてわからない。

「佐々木!!」

身体が一瞬こわばる。この声は―――
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287: 2009/06/25(木) 18:07:41.53 ID:FnUBxb/+0
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「佐々木!!」

呼び止めてどうするんだ、俺は。
だがこのまま行かせる訳にはいかない。そんな事はしたくない。

しかし佐々木は一瞬こちらを見たかと思うとまた走り出してしまった。

「くそっ!」

悪態をついた。

自分の不甲斐なさに。
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288: 2009/06/25(木) 18:08:50.41 ID:FnUBxb/+0
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ただ走った。ひたすら走った。まっすぐ走ったら
追っ手を撒けないって昔ドラマでやってた。

見える角、見える角、全力で右、左、右・・・めちゃめちゃに走った。

速く早く、ただどこか

どこか1人になれる場所へ―――。
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289: 2009/06/25(木) 18:09:38.51 ID:FnUBxb/+0
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佐々木め、さすが才色兼備、じゃなかった。
いや、それもそうだが、文武両道を地で行くやつだ。

こんな時に引き合いにだすのは気が引けるが
ハルヒ並みの人間が鶴屋さん以外にまだいるなんてな。

ハッ ハッ

息が、切れる。

なさけねぇっ、男の俺が先にバテてたまるかよ!

「佐々木ぃっ!!」
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290: 2009/06/25(木) 18:10:28.04 ID:FnUBxb/+0
-----------------------------------------------
まだ、彼が追ってくる。

まだ、キョンが追ってくる。

まだ、キョンが追ってくれている。

どうしよう。自分はどうしたら良いんだろう。

「はい、そこまでですよ」

突然、自分の真後ろから声がする。

「誰・・・」

・・・誰も、いない?

「後ろですよ、佐々木さん」

えっ―――。
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291: 2009/06/25(木) 18:11:36.81 ID:FnUBxb/+0
----------------------------------------------
俺は肩で息をしながら、目の前を見ていた。

「・・・黄緑さん」
「こんにちは」

黄緑さんの表情は変わらない。

「いったい・・・?」
「それは私のセリフですよ。全く、こんな事になるなんて」

イマイチ、状況がつかめない俺は視線で説明をお願いした。

「・・・もし先ほどの、朝倉とのキス、見たのが涼宮さんだったらどうするんです?」
「―――!」
「そして佐々木さんも涼宮さんと同様の可能性を持つ方。気をつけてくださいね」

そりゃ気をつけるさ。ハルヒ云々をおいといても、だ。

292: 2009/06/25(木) 18:12:27.25 ID:FnUBxb/+0
「もっとも、今回はこちらの不手際でもあります。」
「え?」
「まさか朝倉があんな行動に出るとは・・・迂闊でした」

はたと気づく。

「そういえば、長門は朝倉のところへ・・・」
「ええ。すでに朝倉は長門に捕縛され、マンションへ移送中です。
 私も行かねばなりませんが・・・」
「佐々木は・・・?」
「そうですね、一緒に連れていきましょうか。このままでは話もしづらいですから」
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293: 2009/06/25(木) 18:13:20.31 ID:FnUBxb/+0
-------------------------------------------------
「朝倉涼子。説明を要求する」
「そうよ、あれはいくらなんでも軽率過ぎる行動よ」
「別に、そんなに深い意味はないけど?」
「それでは済まされない。彼女もいまや我々の重要な観察および保護の対象」

朝倉も苦しみながら言い返す。

「それは分かってるけど・・・まさか北高に佐々木さんがいるとは思わなかったもの」

それはまぁ、言えているな。

294: 2009/06/25(木) 18:14:10.51 ID:FnUBxb/+0
「あのね、キスは好きな人同士で行うものよ。
 貴方、もしかしてキョンくんが好きなんですか?」
「違うけど?ただキスって行為に興味があっただけよ。どんなものかなって」

つまり、あのキスは俺への好意~なんてものからではなく、
純粋に行為に対する興味からって事で良いんだな?

「ええ、そうよ」
「わかった、佐々木には俺から説明する」
「お願いします。それでは起こしますね」
「はい、お願いします」

295: 2009/06/25(木) 18:15:22.24 ID:FnUBxb/+0
―――。

―――――。

「と、いう訳なんだ」
「はぁ、そ、そうか・・・」
「納得いかないって顔してるな」
「いや、確かに彼女たちは実際年齢は4歳だものね。
 他意なくキ、きき、キスもできるのかも、しれないね」
「ああ。まあ、された方は全く困るだけなんだけどな」

「・・・あんな美人にキスされて困る?それはいくらなんでもないだろう?」

佐々木は調子を取り戻したのか、いつものようにくつくつと喉を鳴らしている。

298: 2009/06/25(木) 19:07:07.01 ID:FnUBxb/+0
「ということでな、あれはノーカウントだ」
「そ、そうか・・・いや、あんなに取り乱してすまなかったね」
「あー、それなんだけどな」
「ん?」

と、佐々木が俯いていた顔を上げる。そこに

―――――。

「な、なななな!」
「あー。なんだ。これでおあいこだ。良いか?」
「ばっ・・・バカだ、な・・・君は・・・っ」

佐々木の服に雫がはたりと落ちる。

「え、な、泣くほど嫌だったか・・・?」

佐々木は北高の制服の袖で顔をぬぐうと

「ホントに、君はバカだな」
「なっ」

そう言って、笑顔でキスをした。

~fin~

301: 2009/06/25(木) 19:11:36.55 ID:IrRZ92Jh0
乙!!

302: 2009/06/25(木) 19:15:00.15 ID:hrfOb5wE0
( ;∀;) イイハナシダナー

引用: 佐々木「・・・。ペラッ」長門「・・・。ペラッ」キョン「・・・。」