448: 2009/06/26(金) 12:21:20.20 ID:RKYYf3AZ0
・長門と文化祭デート
・長門が佐々木と尻相撲
・佐々木と長門の熱烈アタック

この豪華3本立てでお送りします。

455: 2009/06/26(金) 13:07:41.51 ID:RKYYf3AZ0
SSS長門と文化祭デート

今回で2回目となる北高文化祭。
今年も『去年同様』つつがなく涼宮ハルヒ超監督のもと新作映画の制作を終えた。
もちろん俺は雑用全般であるからして、またも徹夜での編集作業を行い
これまた去年同様なんとか完成にこぎつけ、映研にフィルムを渡した。

ちなみに今回は去年より勝手が分かっていたのか
ハルヒの考えたストーリーは少なくとも破綻はしていなかったし
そこそこ見れるものが仕上がっていた。
大した超監督ぶりであった事はここで言い添えておこうと思う。

456: 2009/06/26(金) 13:08:41.01 ID:RKYYf3AZ0
もっとも、生徒会長からはなぜ文芸部が映画を制作し、文化祭で発表するのかと
抗議にこそきたものの、ハルヒにとってはそれはただの燃料にしかならなったようだ。

さて、今日は天気にも恵まれ、見事な秋晴れだ。
ハルヒは朝比奈さんと共に校門で映画と、そしてまさかのバンドライブの宣伝に回っている。

俺のクラスは今年も大したことをやっておらず、特に任された役割もないので
校内をぶらぶらとあてもなくうろついていた時に

「よう、長門」

長門と出くわした。
今年は魔法使いの格好はしていない。いつもの制服姿だ。

457: 2009/06/26(金) 13:09:52.20 ID:RKYYf3AZ0
「長門のクラスは今年、何してるんだ?」
「おばけ屋敷」

ほう。これまた定番だが・・・お前は何か役割分担はないのか?

「小道具。もう特にする事はない」

へえ、具体的にはどんなものを作ったんだ?

「衣装とマスク」

そりゃ相当凝ったものが出来上がっただろう。さぞかし怖いんだろうな。

458: 2009/06/26(金) 13:10:58.44 ID:RKYYf3AZ0
「それで、今日はどうするんだ?」
「演奏まで特に予定はない」

そっか、リハは一応早朝のうちに終わらせたしな。

「良かったら」

ん?

「文化祭、一緒に」

459: 2009/06/26(金) 13:11:41.41 ID:RKYYf3AZ0
かくして長門と一緒に俺たちの演奏までの間、校内を回る事になったのだが

「なあ、長門」
「なに」
「・・・食べすぎじゃないか?」
「そのような事はない。ありえない」

と長門は言うがすでにアイス、焼きそば、お好み焼き、りんご飴、チョコバナナ・・・
今は片手に焼き鳥を持ったまま俺の横を歩いている。

460: 2009/06/26(金) 13:12:24.09 ID:RKYYf3AZ0
「・・・うまいか?」
「とても」

相変わらず表情こそ変わらないが、だいぶ満足しているようだ。何よりだ。
さて、どこか行きたいところはあるか?

「特にはない」
「そうか」
「貴方と」
「ん?」

やや間をおいて、少しうつむいた様子で長門はつぶやくように言った。

「一緒ならどこでも良い」

461: 2009/06/26(金) 13:13:12.22 ID:RKYYf3AZ0
一瞬言葉に詰まってしまった。なんて真っ直ぐ言いやがるんだ、コイツは。
まだ顔はうつむいたままだ。どんな表情をしているんだろうね、今。

「ああ、そうだな」

そう言って俺は長門の手を取った。

優しく、長門は俺の手を握り返してくれた。

~fin~

463: 2009/06/26(金) 13:14:18.08 ID:RKYYf3AZ0
という事でだいぶ短いけど1本目終了。

SSならぬSSS。スーパーショートショート。
うん、長門と文化祭でってシチュは結構難しかったんです。すみません。

さて2本目いってきます。

465: 2009/06/26(金) 13:20:05.04 ID:RKYYf3AZ0
あれ?だめ?

471: 2009/06/26(金) 14:38:25.86 ID:RKYYf3AZ0
長門と佐々木の尻相撲

「くっ・・・んんっ!」
「・・・っ」

なんでこんな事になってしまったんだろうね。
今、俺の眼前では佐々木と長門による尻相撲が行われている。

ところで尻相撲、という競技を知っておられるだろうか?
その形式は至ってシンプルなものだ。
「お互いの臀部だけを相手にぶつけ、相手を倒した方の勝ち」
ただ、それだけ。もちろん手を使ったり、足をひっかけたりしてはいかん。

上半身のバランス感覚、下半身の強靭な土台が必要とされるのだが・・・。

472: 2009/06/26(金) 14:39:25.53 ID:RKYYf3AZ0
「長門さん・・・なかなか、手強い、ね・・・」
「貴方こそ・・・」

2人とも軽く息を切らしている。相当本気だ、この2人。
長門は恐らく背格好から予想されうる平均的な肉体的パラメータに改変しているのだろう。
そうでなければ佐々木など尻どころか全身が吹っ飛んでしまうに違いないからな。

さて、ここでシーンを少しばかり巻き戻したいと思う。


―――――。

473: 2009/06/26(金) 14:40:09.27 ID:RKYYf3AZ0
「お、佐々木じゃないか」
「やあキョン、それに長門さんも」

佐々木は北高に来た事はなかったからな。
もし暇なら来てみてはどうかと誘ってあったのだ。

「なかなか賑やかで良い雰囲気だね。やはり祭りはこうでないと」

そうだな。せっかくだから楽しまなければ損というものだろう。

「ところで」
「ん?」
「なぜ2人して仲良さそうに手を繋いでいるのかな?」

はっと手を引っ込めた。長門の手が少し名残惜しそうだったのは気のせいだったか。

474: 2009/06/26(金) 14:40:53.94 ID:RKYYf3AZ0
「ほう。僕の事を誘っておきながら文化祭は2人きりで楽しむつもりだったのかい?」
「い、いや、佐々木、誤解だ。決してそのような・・・」
「くっくっ・・・良い度胸だ、キョン。まさか君が女性に恥をかかせるような甲斐性を持っていたとはね」
「待て、誤解だ、佐々木」

「勝負あり!おめでとうございます!」

俺たちがいた廊下に面するクラスからだろうか。歓声と共に男の声が聞こえた。
目を向けるとそこには

【3-2 尻相撲 日ごろの鬱憤を晴らしましょう】

「尻・・・」
「相撲・・・?」
「ほう、面白そうじゃないか・・・」

佐々木の目が光っている。

475: 2009/06/26(金) 14:41:34.96 ID:RKYYf3AZ0
「長門さん、どうかな。尻相撲で勝った方が、明日一日、キョンと2人で文化祭を回る、というのは」
「お、おいおい佐々木。そんな」
「私に勝負を申し込むとは良い度胸。今のうちに湿布とハンカチを用意すべき」
「くっくっ・・・言うね、長門さん」

まさしく竜と虎。2人の間に火花が見えるのは果たして俺の幻覚なんだろうか?

「それでは申し込みをしてこようか、行こう長門さん」

長門はコクリと頷き佐々木の後を追って3年2組へと入っていく。

「・・・やれやれ・・・なんでこんな事に・・・」

476: 2009/06/26(金) 14:42:22.12 ID:RKYYf3AZ0
俺も2人の後を追ってクラスへと入った。中は驚くほど人がいる。
まさに『盛況』の2文字がふさわしい。現代人はストレスを持て余しているからなのだろうか。
などと、軽く現実逃避をしたのは、佐々木と長門のことだ。

特に長門はあれで負けず嫌いなところがある。
向きになって宇宙的なパワーと使うほどお子様ではないと願いたいのだが・・・。

「キョン、申し込みをしてきたよ。今やっている組を含めて4組目に僕たちのようだ」
「そうか・・・。しかしなんでこんな事を言い出したんだ?」
「それは・・・」

佐々木が急に視線をそらす。

477: 2009/06/26(金) 14:43:14.17 ID:RKYYf3AZ0
「説明の必要はない。この後、勝者と敗者がわかる。それだけ」
「結構。ところでルールはご存知かな?」
「見ていてわかった。勝負が楽しみ」
「くっくっ、僕もこのように血が滾るなんて初めてだよ。フェアに頼むよ」
「当然。フェアに勝ってこそその勝敗に意味がある」

・・・すでにこの一角で勝負は始まっているようだ。正直頭が痛い。

478: 2009/06/26(金) 14:43:58.62 ID:RKYYf3AZ0
「それにしても」

リングらしきものに目をやると今まさに闘っているのは女性2人だ。

「意外と女性の方がこういうの好きなのか?」
「いや、冷静に分析するなら、いわゆる国技たる相撲では耐えがたい姿を衆目に晒しかねない。
 これなら倒れるくらいで女性的大惨事には至らないだろう」
「・・・なるほどね」

そこで冷静になれるなら、なんでもっと先に冷静にならないんだ、佐々木よ。

「キョン」
「うん?」
「いや、なんでもない。そこもまた君の魅力の1つかもしれないからね」
「む?」

わっと声があがる。どうやら勝負が決まったらしい。

479: 2009/06/26(金) 14:44:43.10 ID:RKYYf3AZ0
「それでは次の試合を始めます!赤コーナー、佐々木さん!」

がんばれーなどと見知らぬ人から歓声が上がっている。
いや、このクラスの人だろうか?

「そして青コーナー、長門さん!」

うーむ、気が気でないぞ。なんだこの焦燥感は。

「それではお尻を合わせて・・・はっけよい、のこった!」

試合が始まった。

480: 2009/06/26(金) 14:45:28.31 ID:RKYYf3AZ0
「いくわよ、長門さん!」

先に動いたのは佐々木だ。先手を取る気か。

「お見通し」

しかし佐々木の尻ツッパリを予測していたかのように長門はさっと尻を引く。

「うっ・・・!?」
「もらった」

たまらず佐々木がバランスを崩すとそこに長門がカウンターで尻ツッパリ。これは決まったか!?

「・・・っ!」
「あまいっ!」

それすらも佐々木の仕掛けた罠だったのか、長門の強烈な攻撃を華麗にかわし
長門の突き出た小さい尻を横から押しやる。

「・・・っ」

「そこまで!佐々木さんの勝利!」

483: 2009/06/26(金) 15:01:27.96 ID:RKYYf3AZ0
わーきゃーなどとクラスに一際大きな歓声が上がる。
なんてヤツだ。長門と駆け引きで、まさしくフェアに勝つとは・・・佐々木、恐ろしい子・・・!

「長門さん、これで明日は私が―――」
「―――3回勝負。」
「は?」
「へ?」

俺まで素っ頓狂な声を上げてしまった。

「3回勝負の申し込みをしておいた。万事ぬかりはない」

な、何てヤツ・・・そこまでするか!

「まさかそこまで石橋を叩くとは・・・良いわよ、私が2連勝する!」
「貴方の攻撃パターンは見切った。残りの2つは私がもらう」

484: 2009/06/26(金) 15:02:51.85 ID:RKYYf3AZ0
もはや俺は空気と化している。
だがしかし、長門は吸収が早いからな・・・これは、どうなるか展開が分からん。

「それでは第2試合はじめます!はっけよーい・・・のこっとぅあ!」

試合が始まった。佐々木は長門を警戒したか動かない。
長門も真剣な面持ちで背後の佐々木の気配を読もうとしている。
先ほどとは打って変わって静かな戦いになった。
いつしかクラスの中は生唾を飲む音さえ聞こえそうなくらい静寂に包まれていた。

しかしここで先手を取ったのは長門だ。
その尻を右へ―――。

485: 2009/06/26(金) 15:04:08.86 ID:RKYYf3AZ0
気がついた佐々木は『左からの攻撃』に備えるために『右半身』に力を込める。弾き返す気か。

しかし長門はまさしく目にも留まらない速さで尻を右から左に切り返すと、
佐々木の右から尻を弾いた。『右半身から左半身方向に』荷重移動していた佐々木は
その急激な動きの変化についていかず、倒れた。

それこそ『どっ』という効果音が似合いそうな歓声がクラスに響いた。

「つつ・・・まさかフェイントとはね・・・」
「あと1つ。私がもらう」

またもリング上で火花を散らす2人に会場のテンションは最高潮だ。まさにガチOコ。これぞセメント。
いつしか俺までその2人の勝負に見入っていた。
いや、決して尻に魅入っていた訳ではない事は明言しておくべきだろうか。

「それではファイナル!はっけよーい・・・・・・のこっとぅは!」

486: 2009/06/26(金) 15:04:51.97 ID:RKYYf3AZ0
お互い最初の2戦で手を見せている。佐々木は縦方向のフェイントなのに対し、長門は横だ。
どちらもムリせず、そしてそれゆえに決めの一手を欠いていた。

という事でこの第3試合はすでに5分を過ぎていた。会場はいつの間にか超満員だ。
外にも観客がいるようだ。考えてみれば長門は谷口いわくAAランクとか何とか言うほどの
美少女であることについては俺も疑いがないし、佐々木もまた古泉曰く、魅力的な美少女、だ。
その2人がなりふり構わず尻相撲で戦っている様は確かに絵になる・・・。

絵に・・・?

「しまった!2人とも、その試合、ストップだ!」
「えっ!?」
「隙あり」

ドシン。

「っ!やっちまったか!」

俺は慌ててリングに上がって佐々木をかばうような位置をとり、座り込んだ。

487: 2009/06/26(金) 15:07:14.21 ID:RKYYf3AZ0
「キョン、なんで真剣勝負の最中に声をかけるような・・・」

「え、えー、ファイナルは長門さんが取りましたので、2勝1敗、長門さんの勝利です!」

多少戸惑いを残しつつも美少女2人が見せた試合に惜しみない歓声が送られていた。

「ふう・・・とりあえず出るぞ、良いな、2人とも」

途中ジュースを買って屋上に出る。

「で、なんであそこで声を上げたのか、説明してくれるかい?」
「真剣勝負・・・」

長門も佐々木もおかんむりだ。とは言え俺は後悔なぞ微塵も感じていない。

488: 2009/06/26(金) 15:09:03.59 ID:RKYYf3AZ0
「あのな、確かに2人の勝負に水をさした事は謝る。だがな、2人とも自分の格好を良く見てみろ」

「え?」
「・・・」

長門と佐々木が揃って自分の格好を見る。佐々木は赤くなったし、長門も気まずそうだ。

「わかったか?」

そう、長門は制服で佐々木は私服。しかして2人の共通点はと言うと

「長くもないスカートをあんなに揺らしてちゃ・・・ダメだろ?」
「迂闊」

佐々木はぐうの音も出ない。佐々木の方がスカートが短いしな。
どうやら納得してくれたようだ。

489: 2009/06/26(金) 15:10:45.43 ID:RKYYf3AZ0
「で、でも・・・」
「ん?」
「キョンと北高を一緒に回りたかったんだ・・・」

・・・そんな事を涙目で上目がちに言われたら男として何か言い返せる訳がない。

「明日は貴方に譲る。」

と長門が譲歩した。

「だって、勝ったのは長門さんだし・・・」
「私は平日毎日北高にくる。しかし貴方は別。この時点でフェアではなかった」
「・・・」
「だからあの勝負も無効。明日はゆっくり回ると良い」

と佐々木に優しい表情で譲られた佐々木は長門を聖母か何かを見るようなまなざしで見上げている。

490: 2009/06/26(金) 15:12:24.95 ID:RKYYf3AZ0
やれやれ、なんとか丸く収まったようで何よりだ。

「おっと、もうすぐ講堂にいかにゃならんな」
「ああ、そういえばSOS団のライブがあるんだったね」

良かった。佐々木はもう調子を取り戻したようだ。

「おう。俺と朝比奈さんはともかく、ハルヒと長門、それに古泉の演奏はなかなかのもんだ。
 よかったら聞きに来てくれ」
「もちろんさ。今日の一番の目的だったのだからね」
「よし、じゃあ行くか」

491: 2009/06/26(金) 15:13:07.52 ID:RKYYf3AZ0
「キョンはどんな楽器を担当するんだい?」
「ベースだよ。ギターは長門とハルヒ、ドラムが古泉。朝比奈さんはなんちゃってキーボードだ」

「なんちゃって?どういう意味だい?」
「・・・あの人に音感とリズム感を求めるのは間違いなんだ・・・。だからなんとなく弾いてるような格好はする」

「後ろでキーボードの録音された音源を流す手はず」
「くっくっ・・・なるほど、確かにそれなら問題は起きなさそうだ」

去年はなんとも意外な形でSOS団から2人が軽音部に飛び入り参加したが
今年はあくまでSOS団としての参加だ。
もっとも、去年の事を知っている人間は3分の2が残っている訳で。

「結構人が入ってるじゃないの!SOS団の面目躍如ね!」
「そうですね。さらに名を知らしめる良い機会になるでしょう」
「分かってるわねぇ、古泉くん!さすがは副団長ね!」
「お褒めに預かり光栄の至りです」

492: 2009/06/26(金) 15:15:14.94 ID:RKYYf3AZ0
朝比奈さんはかなり緊張しているが、まぁなんとかなるだろう。
佐々木は・・・おっ、いたいた。結構前の方に席が取れたようだ。

「じゃっ、いくわよ、みんな!」

ステージに出ると、わっと会場が沸くと同時にえっと戸惑いの声も広がる。それはそうだ。
ハルヒはチャイナ、朝比奈さんはメイド服、長門は看護服というコスチュームだからな。
ちなみに男2人はなぜか学ランだ。ハルヒ曰く「男は女の引き立て役よ!」だそうだ。

「それじゃ一曲目、『止マレ』。聞いてください!」


大歓声が上がった。

~つづく~

504: 2009/06/26(金) 17:09:23.49 ID:RKYYf3AZ0
やっぱり佐々木と長門(最終回)

昨日のライブは無事盛況のうちに終わった。
映研の話によれば、映画のほうもなかなか評判が良いようだ。
もっともハルヒは

「これくらいで浮かれていてはダメよ。勝って兜の尾を締めろってね!」

という事で今日も元気に映画の喧伝に回っている。
こういう時は率先してやってくれるから助かるね。
なんせあの声の大きさと格好と容姿だ。
まさしく走り回る宣伝塔といったところか。

さてと、もうそろそろ約束の時間なのだが・・・。

505: 2009/06/26(金) 17:10:05.93 ID:RKYYf3AZ0
「やあキョン」

来た来た。佐々木だ。
そう。昨日の壮絶な尻相撲の結果・・・ではないが今日は佐々木と一緒に文化祭を回るのだ。
佐々木は今日も落ち着いた色を基調とした服で全体をまとめている。

「佐々木」
「ん?」
「その格好、その、なんだ。似合ってるな」
「・・・っ!」

うむ、我ながらかなり恥ずかしい。
佐々木も俺がこんな事を言うとは思わなかったのだろう。
不意を突かれて固まってしまったようだ。

506: 2009/06/26(金) 17:11:22.75 ID:RKYYf3AZ0
「そ、それじゃあ行こうか?」
「う、うむ。」
「行く」

「「えっ?」」

「な、長門!?なんでここに!」
「そうだよ、今日は私がキョンと・・・!」
「確かに私は昨日、そのように言った」
「う、うん・・・」
「私が同行しないとは言っていない」
「なっ・・・!」

さすがにこの長門の言い分は苦しいものがあると思うのだが・・・。

507: 2009/06/26(金) 17:12:52.47 ID:RKYYf3AZ0
「・・・勝負に勝ったのは私」
「うっ!」

確かに俺が止めに入ろうとした際、長門は佐々木を倒していた。
だが長門は佐々木に『譲ってやった』のだ。その引け目が佐々木にはあった。

「わ、わかった。確かに長門さんには恩がある」
「分かってくれたら良い」

という訳で長門と佐々木と3人で文化祭を回る事になった。

「だが長門。お前は昨日ほとんどの食べ物回りつくしたんじゃないか?」
「美味しかったものは何度食べても美味しい」

なにかもはや意地になっている気もするがそんな事を指摘したら
長門はさらに輪をかけて意地になるだろうからな。

508: 2009/06/26(金) 17:14:35.41 ID:RKYYf3AZ0
「キョン」
「ん?」
「先ほどから長門さんばかりを見ているね」
「えっ」

そんなつもりはなかったんだが・・・。

「・・・」

佐々木は黙ってうつむいてしまった。
これはご機嫌を取った方が良さそう、か?

「おっ、佐々木。焼きそば食べないか?ここのは美味しかったぞ」

509: 2009/06/26(金) 17:16:50.67 ID:RKYYf3AZ0
「ん・・・じゃあ食べるよ」

かくして焼きそばをゲットした俺たちは手近な座れるところを探した。

「へえ、なかなか美味しそうじゃないか」
「だろ?ちゃんとキャベツと豚肉も入ってるからな」

長門は早くも横でもくもくと焼きそばを食べる作業を始めている。

「あ、キョン、ちょっと貸したまえ」
「ん?」
「良いから良いから」

くつくつと喉を鳴らして笑う。

511: 2009/06/26(金) 17:17:48.71 ID:RKYYf3AZ0
「はい」
「ん?」
「ほら、あれだよ。あーん、と・・・」
「ぶっ」

こ、こんなところで伝説のアベック(笑)17の必殺技の1つを使えと!?

「くっくっ、早くしたまえ」
「し、仕方ない、な・・・」

これはかなり恥ずかしいが・・・ええいままよ。

「あーん」
「はい、どうだい?」
「ん・・・う、うまいぞ・・・」
「はは、やはりこういうのは恥ずかしいね」

ならなんでやった。

513: 2009/06/26(金) 17:19:12.67 ID:RKYYf3AZ0
と反対方向から視線を感じたので振り向く、と。

「・・・」

無言で焼きそばを箸でつまんで俺の方に差し出している長門がいた。

「・・・」
「・・・・・・」

これは、ようするに・・・そういう事だよな。

「あ、あーん」
「どう?」
「ああ、うまいよ。ははは」
「そう」

恥ずかしさというかもう何だかどうでも良くなってきた。

514: 2009/06/26(金) 17:20:01.72 ID:RKYYf3AZ0
「おっとキョン、ほっぺたが汚れているよ」
「えっ」

慌てて制服の袖で拭おうとしたが

「それでは制服が汚れてしまうよ、動かないでくれたまえ」
「ん?」

ハンカチかティッシュでも持っているのだろうか。やはりこういうところは女の子なんだな。

ペロッ

―――――――。

516: 2009/06/26(金) 17:21:49.70 ID:RKYYf3AZ0
「ぬあああああっ!?」
「ひどいなキョン。そんなリアクションを取られるとは僕も流石に傷つくよ」

「いや、佐々木、おま、今・・・!」
「ああ、綺麗になったよ」
「違うだろうが!俺は青酸カリじゃないぞ!」
「当たり前だろう?そんなものを舐めたら、ドラマやアニメじゃないんだ、氏んでしまうよ」

それにしたって年頃の娘さんが不用意に同年代の男の頬をなっ、舐めるなどというのは・・・。

「あまり何度も言わないでくれたまえ。僕だってその・・・恥ずかしいんだ」

524: 2009/06/26(金) 18:07:35.30 ID:RKYYf3AZ0
だからなんでそれをやった!無性に身体が熱くなってきたぞ。
佐々木は佐々木で顔を真っ赤にしているし・・・。
はたと、そこで長門と目があった。

「・・・」

さきほどの佐々木の『あーん攻撃』に対抗するように同じ行動を強要された俺の少ない経験値が
長門の視線、いや凝視の意味に気づくのに時間はかからなかった。

が、しかし。あれをもう一度やれと・・・?

長門はいまだ俺から視線を外さない。佐々木はジト目でこちらを見ている。
古泉、お前ならこんな時どう切り抜ける?教えてくれ・・・!

『んっふ、困ったものです』

つ、つかえねぇぇぇぇえ!

526: 2009/06/26(金) 18:08:44.99 ID:RKYYf3AZ0
「長門、佐々木」
「なんだい?」
「なに」
「焼きそば食べてのど渇いたよな?俺なんか飲み物買ってくるわ」
「あっ」
「逃げた」

ヘタレと言われても結構。大体が、だ。
佐々木は不意打ちなのに対し、長門の場合は俺が腹をくくらねばならんのだ。
この差はそれこそ月とスッポンというものだぞ。

缶ジュースを持って戻った俺を待っていたのは不機嫌の色を隠さない長門と佐々木だ。
まったく、ほんとに困ったもんだよ、古泉・・・。

527: 2009/06/26(金) 18:09:33.93 ID:RKYYf3AZ0
「はい、ジュースをどうぞ」
「ありがとう、キョン」
「ありがとう」

「あの、さ」

そこで一言区切って2人の反応を待った。

「せっかくの文化祭なんだ。2人と楽しい思い出を作りたいと思うのは間違いか?」
「!」
「・・・」
「高校の文化祭なんてのは1年に1回こっきりのイベントだ。
 だからハルヒはああやって全力で楽しんでるだろ。
 俺も、長門と佐々木と、一緒に全力で楽しみたいんだ」

2人は表情を変えない。

528: 2009/06/26(金) 18:10:18.97 ID:RKYYf3AZ0
「「・・・」」
「・・・ダメか?」

重い沈黙が流れるかと思いきや

「くっくっ」
「佐々木」
「僕とした事が情けない。そうだったね、キョンの言うとおりだ」
「私もムキになっていた。申し訳ない」

2人とも分かってくれたようで何よりだ。

「いや、それなら良いさ。それじゃ気を取り直して文化祭を楽しもうぜ」
「ああ」
「もちろん」

529: 2009/06/26(金) 18:11:06.74 ID:RKYYf3AZ0
その後は文字通り文化祭を満喫した。

長門のクラスのおばけ屋敷はさすがに長門が小道具を担当しただけの事はある。
こういう類のものでは全く動じなさそうな佐々木が『ひっ』と声を出すほどだったからな。

古泉のクラスはホストクラブ風な雰囲気の店だ。
美少年が多いと評判になるだけの事はあって、古泉を筆頭とした男子が
スーツをキッチリと着こなし給仕している。
しかし出される飲み物はとんでもないものばかりだった。

「古泉、これはどういう意味だ?」
「メニューの通り、このクラブには決まったメニューがないのですよ」
「なるほど、これはなかなか面白い趣向だね」
「佐々木さんにお褒め頂くとは至極光栄ですね」

530: 2009/06/26(金) 18:12:11.54 ID:RKYYf3AZ0
つまり、どういうことかと説明すると、ミックスジュースは分かるだろうか?
誰しも一度はりんごジュースとオレンジジュースを混ぜて飲んだりした事はあると思う。
あの要領で、コーラとグレープフルーツジュース、牛乳とサイダーなどというように
混ぜる飲料を客のオーダーで作るのだ。

「じゃあ俺は・・・サイダーとオレンジとパインのミックスだ」
「キョン、感心しないな。男子たるものここは冒険すべきだよ」
「同感。お勧めはコーラとりんごと牛乳」

想像するだけで胸焼けしそうだが2人に言われては仕方ない。

「はい、承りました。オーダー入りまーす!」

裏では女子たちが飲料を混ぜており、それをホストが運んでくる仕組みだ。

532: 2009/06/26(金) 18:12:58.20 ID:RKYYf3AZ0
「うん、だいたい予想通り美味しい」
「私のも悪くない。試すべき」
「お2人に喜んで頂けたようで何よりです。それでは楽しい文化祭を」

そういってにこやかに俺たちを送り出した古泉とは対照的に気持ち悪くて仕方のない俺なのだった。

「くっくっ、コーラと牛乳かい?」
「多分な・・・あれは相当なもんだったぞ」
「予想通り」
「・・・飲ませるべきだったな、言いだしっぺに」
「だが断る」

その後俺たちはせっかくなのでSOS団Presentsの映画を見に行った。
なかなかどうして人も入っている。
去年と違うのは男ばかりが観客ではないという事だ。

前回は朝比奈さん目当ての男ばかりだったが、今回は古泉目当ての女子もいる。
おっと訂正。男の中には長門目当てで来ている客がいた事も申し添えておこう。

533: 2009/06/26(金) 18:13:53.54 ID:RKYYf3AZ0
「おっ、キョンくんに長門っち、それに佐々木さんまで!よく来たねっ!」
「鶴屋さんどうも。今年も盛況ですね」
「まぁねっ!それにしてもキョンくん羨ましいねぇ、両手に花じゃないのさっ!」
「ははっ。過ぎた幸せですよ」

鶴屋さんはカラカラと笑いながら列の最後尾に案内してくれた。

「んじゃ、ちょろっと待っててね~」
「はい」

「相変わらず元気な先輩だね」
「ああ。鶴屋さんを見ると多少凹んでても元気になっちまうな」
「違いない。まるで太陽のような人だ」

534: 2009/06/26(金) 18:14:59.10 ID:RKYYf3AZ0
さて、30分ほど待ったであろうか、ようやく俺たちの番になった。

「あ、キョンくん、いらっしゃい」

今年も朝比奈さんはチケットのもぎり役のようだ。

「ええ、どうも。お邪魔します」
「それに長門さんと佐々木さんも。ご来店ありがとうございます」
「ご丁寧にありがとうございます。その衣装、よくお似合いですね」
「えへっ、ありがとうございます♪」

今年は去年のメイドと違い、南国を髣髴とさせるデザインのワンピースだ。
先ほどの鶴屋さんと言い、朝比奈さんと言い。
こうもスタイル抜群の2人に着てもらってさぞや衣装も本望というものだろう。

535: 2009/06/26(金) 18:16:11.31 ID:RKYYf3AZ0
待ち時間の間に決めておいた注文の品が運ばれてくる。

「ごゆっくりどうぞ~」

2年連続で北高における最高の喫茶店で頂くのはジェラートだ。
昨日今日といろいろ食べたがやはりここの店が一番だな。
長門はもくもくと冷たい幸福をかみ締めているようだ。

「ほう、これは美味しいな」
「だろ?」
「うむ。うちの文化祭ではこんなものは出なかったな」
「そういえば、佐々木の学校の文化祭はいつなんだ?」

日程が合うなら是非とも行ってみたいものだが。

541: 2009/06/26(金) 19:00:26.77 ID:RKYYf3AZ0
「残念ながら今年度はもう終わってしまってね。5月だったんだ」
「そうか、それは惜しいことをしたな」
「良ければ来年の文化祭に来たまえ。僕が案内しよう」
「ああ、その時は頼むぜ」
「・・・私も行く」

佐々木がぴくっと反応する。

「・・・長門さんは案内がなくても迷子になったりしないよね?」
「1人は不安。怖い。案内が必要」
「それなら私の友人を紹介してあげるね」
「人見知りなのですでに知った仲の方が良い。つまり貴方」

まーた始めちゃったよ・・・と言っても、この2人にはなんでもない言いあいなんだろう。

今日1日一緒に行動していて分かったが、佐々木も長門も、お互いにどこまでなら
相手を傷つけないで済むかがしっかり分かっているようだった。

ホントに、いつの間にこんなに仲良くなったんだろうねえ。

542: 2009/06/26(金) 19:01:08.31 ID:RKYYf3AZ0
「あっ、いたわね、キョン!」

と、聞きなれた声がする。

「ようハルヒ。映画の宣伝の方はどうだ?」
「バッチリよ!さっき最後の回が始まったけど満員だったわ!」

そりゃ何よりだ。お前も超監督冥利に尽きるってもんだな。

「まあね。あら、有希と佐々木さんと一緒に回ってたの?」
「ああ。そうだよ」
「ふーん、佐々木さん、有希、あらかた校内は回れた?」
「ええ、おかげさまで。楽しい1日になりましたよ」
「同感」

ふう、どうやら2人には満足してもらえたみたいだな。何よりだ。

543: 2009/06/26(金) 19:02:08.22 ID:RKYYf3AZ0
「それじゃ、2人とも、もうキョンはいらないわよね?」

「えっ」
「!」

「さっ、いきましょ!キョン!アタシ全然回ってないからお勧めをピンポイントで案内して頂戴っ!」
「こ、こら引っ張るな!ハルヒ!」
「良いから良いから!ほら早く!」

「・・・長門さん」
「・・・なに」
「どうかな、ここは一時休戦といかない?」
「全面的に同意」

「ふふっ、じゃあ行きましょうか」
「迅速においかけるべき」
「そうね」

「キョン待ちたまえ!また今日は終わっていないぞ!」

今度こそ終わり。

546: 2009/06/26(金) 19:04:27.66 ID:RKYYf3AZ0
ああ 母さん もう おさるさんは しばらく見たくありません・・・

保守&支援くだすった皆々様ありがとうございました!
うまく雰囲気をお伝えできていたか分かりませんが
この辺でそろそろこのスレでのSSは終わりにしようかと思います。

また機会があったらお目にかかりましょうぞ。合言葉は佐々木と長門で!

547: 2009/06/26(金) 19:05:36.82 ID:Nt2VDsN90

楽しかったぜぇい!!

556: 2009/06/26(金) 19:53:15.20 ID:RKYYf3AZ0
おまけ

なんやかやでドタバタとした文化祭も終わり、SOS団の面々は各自後片付けに奔走している。
俺はというと、佐々木を1人で帰すのもあれなので一緒に帰ろうと言う事になった。

「こうしてキョンと電車に乗るなんて、なんだか新鮮だね」
「そうだな」

電車に揺られる佐々木を横目に見る。
・・・ホントに、人形みたいに端正な顔立ちだよな・・・。

「ん?どうかしたかい、キョン?」

いや、なんでもないぞ。横顔に見とれてたなどと口が裂けても言えん。

「くっくっ、おかしなキョンだ」

557: 2009/06/26(金) 19:54:01.96 ID:RKYYf3AZ0
電車を降りて改札を抜ける。

「おや」
「おぉ」

すっかり目の前はピンクがかったオレンジ色になっていた。

「綺麗だな」
「うん、綺麗だね」

どちらからともなく手を繋いで帰る夕暮れ。
駅前の喧騒もどこか遠く聞こえた。

「――――よ、キョン」
「え、なんか言ったか、佐々木?」

「なんでもない」

その笑顔は夕暮れなんかよりもっと綺麗に見えた。
頬が紅く見えたのは、夕日のせいだったろうか、あるいは―――。

おまけおわり。



576: 2009/06/26(金) 21:58:10.37 ID:RKYYf3AZ0
安価とかして分かるとおり、ネタがないっす。
また安価とかしても良いのかな。
投下は明日夜とかになっちまいますが。

あ、あれだ。このスレで希望のシチュをいくつか出してもらって
書き溜めてから後日またスレ立てって事でどうでしょう。

580: 2009/06/26(金) 22:08:02.67 ID:RKYYf3AZ0
いやーパー速に移してまでは多分やらないですよw

まぁ、また気が向いたらスレ立てる方向で良いのかな。
あ、言っておきますが別にハルヒとみくるが嫌いな訳じゃないですからね!

作中では語られない日常をのんびり書きたいんすよね。



588: 2009/06/26(金) 23:46:44.01 ID:RKYYf3AZ0
「長門よ」
「なに」
「寝たらどうだ?」
「眠くない」

そういう長門は確実に舟をこいでいる。なんでそう意地になるかね。

「長門」
「寝てない」
「そうか、俺の膝が偶然にもあいているんだが・・・」
「寝る」

こてん

先ほどまでの抵抗が嘘のように長門は俺の脚の上にその小さい頭をのせた。

「寝心地はどうだ?」
「・・・」

無視か、と思いきやもうスースー寝息を立てて寝てやがる。
全く。たまにはこうして誰かに甘えろよ、長門。

そう、例えば俺とかな。


という事で眠くなったの寝ます。
お付き合いありがとうございました~。

590: 2009/06/26(金) 23:56:01.42 ID:RKYYf3AZ0
あらそう?じゃあちょろーんと待っててほしいにょろ

【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木と長門【後編】


引用: 佐々木「・・・。ペラッ」長門「・・・。ペラッ」キョン「・・・。」