624: 2009/06/27(土) 11:09:49.70 ID:YvhuxcbZ0

【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木と長門【前編】

~残暑お見舞い申し上げます~

「・・・」
「あー・・・」
「・・・」
「暑い」
「・・・そうだね」
「言うと余計暑くなるぞ、長門」

うだるような暑さだ。
今日も例によって例のごとく我が家にいる3人なのだが
季節は9月。あまりにも厳しい残暑であった。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
625: 2009/06/27(土) 11:10:37.30 ID:YvhuxcbZ0
これほど暑くてはどうにもならない。
.先ほど近所のコンビニでカキ氷を買ってきたのだが
それすらも焼け石に水だったようだ。

「さすがにこれでは読書も、ままならないね」
「・・・だな・・・」

ちなみにクーラーは故障中である。
昨日までは問題なく動いていたのだが・・・。

「キョン、これならいっそ図書館にでも行かないか?」
「ああ、それも良いかもしれんな。空調効いてるだろうし」
「止めた方が良い」

どういう意味だ、長門。

626: 2009/06/27(土) 11:11:27.91 ID:YvhuxcbZ0
「現在図書館には想定以上の利用者がおり、空調がほぼ効果を発揮していない」
「人間が多すぎて涼しくないってことか」
「そう、むしろ蒸し暑い。室温31℃はこの部屋の室温34℃より低いものの、湿度は81%。異常」

じゃあどうすりゃ良いんだ。

「情報統合思念体は判断を保留している」
「ようするにわかんないって事かよ」

心なしか長門も困っているようだな。

「・・・うだうだしてても余計に暑くなるね」
「佐々木、なにか妙案はないか」
「任せたまえ、我に策あり、だ」

627: 2009/06/27(土) 11:12:11.76 ID:YvhuxcbZ0
外はまさしく炎天下で、蜃気楼でも見えるのではないかと思うほどの暑さであったが
佐々木の、『そこ』に着けば快適だ、という言葉を信じてひたすら歩いていた。

ふと、空気が変わる。確実に質量さえともなっているような、身体にへばりつくような空気から
涼やかで軽い空気になった。風も穏やかながら吹いているようだ。

「なるほど、さすが佐々木だな」
「そうだろう?まさしく穴場というヤツだよ」

連れてこられたのはちょっと小高い木の生い茂った丘だ。
そばにはわずかではあるものの水の流れる川もある。

「涼しいだろう?」
「ああ。こりゃ確かに快適だな」
「新情報。情報統合思念体にフィードバックする」

629: 2009/06/27(土) 11:13:05.03 ID:YvhuxcbZ0
外はまさしく炎天下で、蜃気楼でも見えるのではないかと思うほどの暑さであったが
佐々木の、『そこ』に着けば快適だ、という言葉を信じてひたすら歩いていた。

ふと、空気が変わる。確実に質量さえともなっているような、身体にへばりつくような空気から
涼やかで軽い空気になった。風も穏やかながら吹いているようだ。

「なるほど、さすが佐々木だな」
「そうだろう?まさしく穴場というヤツだよ」

連れてこられたのはちょっと小高い木の生い茂った丘だ。
そばにはわずかではあるものの水の流れる川もある。

「涼しいだろう?」
「ああ。こりゃ確かに快適だな」
「新情報。情報統合思念体にフィードバックする」

630: 2009/06/27(土) 11:14:00.09 ID:YvhuxcbZ0
「あー、お茶がうまい。最高だ」
「む、キョン。僕にも分けてくれたまえ」
「え、お前もさっき自分の―――あっ」

イタズラ小僧のような顔で俺からサッとペットボトルを奪うとすかさず口をつけた。

「うむ、美味いね。ご先祖に感謝を申し上げたくなるよ」
「大げさだな・・・って、あ!」

横から淡々と狙っていたのか今度は長門が俺のお茶を奪取せしめた。
こくこくとかなりの勢いで飲んでいるが大丈夫か?

「美味しい・・・けふっ」
「ぶっ」
「くっくっ」

世にも珍しい対有機生命体ヒューマノイドインターフェイスのゲップだ。
もちろん当の本人は恥じているんだろう、

「・・・迂闊」

顔を赤らめている。

631: 2009/06/27(土) 11:15:00.09 ID:YvhuxcbZ0
「ほら長門、それは俺のだ。返せ」
「もう一口」

まだ飲みたいかね。まぁ、かまわんけどな。
返ってきたボトルからはだいぶお茶が減っていたが、まぁ良いさ。

お茶をまた一口飲んで俺は地面にごろんと横になった。
草や土の上に寝転がるのは気持ちいい。アスファルトとは違って熱をためないからな。

佐々木は喉をならしてくつくつ笑いながら俺にならって横になる。
どうやら長門もその横で寝転がったようだ。

632: 2009/06/27(土) 11:16:17.15 ID:YvhuxcbZ0
「キョン」
「ん?」
「腕を貸してくれないか?」

なんのことかと思っていたら佐々木は俺の右腕を取って横にのばした。ああ、そういう事か。

「うむ悪くないよ、キョン」
「そりゃ良かったな」

いわゆる腕枕というヤツだ。佐々木の頭は小さいし軽い。
いや中身が詰まっていないという訳ではない。そういう意味ではないぞ。
くつくつと笑いながら佐々木は心地良さそうにしている。
すると、長門がむくりと起き上がった。

633: 2009/06/27(土) 11:17:13.47 ID:YvhuxcbZ0
「どうした?」
「・・・」

長門は答えない。ぺたぺたと俺の左側にくると

「・・・」

その視線に苦笑する。長門よ、お前もか。
黙って俺は左腕を横に伸ばした。

「ありがとう」

短く感謝を述べた長門はこてんと俺の左腕に頭を預けた。

「・・・どんなもんだ?」
「不思議。落ち着く」

そうかい。そりゃ良かったよ。俺は身動きが取れなくなっちまったけどな。

634: 2009/06/27(土) 11:18:37.73 ID:YvhuxcbZ0
「地球温暖化のせいなのかねえ」
「この猛暑のことかい?」
「ああ、まあな」
「どうだろうね。安易に空調に頼るせいでもあるとは思うよ」

確かに冷房を作動させている時の室外機はクソ暑いからな。

「さすがに来年は俺たちは3年、受験だから気軽に遊びになんていけないだろうが」
「うん?」
「?」

長門が視線だけで続きを促す。

「再来年の夏は、北海道でも行ってみるか」

639: 2009/06/27(土) 12:04:05.24 ID:YvhuxcbZ0
佐々木は目を2、3回ぱちくりさせた後、喉を鳴らして笑った。

「くっくっ、突拍子のない話だね。それに全員が受験に現役合格するとは限らないだろう?」
「む」
「特に貴方」

それを言われると辛いものがあるな。

「まあ―――」

木陰の隙間にちらちらと覗く青空を見上げる。

「―――なんとかなるだろ」

そよそよと涼しい風が流れる。涼感をかもし出す流れる水の音。
いつしか俺たちは静かにその目を閉じて、つかの間の休息にその身を委ねた。

~残暑お見舞い申し上げます 終わり~

653: 2009/06/27(土) 14:10:44.30 ID:YvhuxcbZ0
~おっととっと夏だね~

生い茂る松林。打ち寄せる波音。照りつける太陽。巡る喧騒。
まさに海だ。

―――話は一学期の最後の日までさかのぼる。

終業式を終え、ありがたくもない成績表を頂いた俺は
目の前に山のように積まれた夏期休暇の課題をどのように消化すべきかと
頼りない頭で必氏に考えていた。

しかし、下手の考え 休むに似たり という言葉を思い出した俺は
とりあえず自分の部屋に戻るとクーラーを入れて着替え、横になった。

それにしても暑い夏である。もちろん夏はすべからく暑いものであり
近年の異常気象により涼しい夏を期待していた訳ではないのだが。

654: 2009/06/27(土) 14:11:43.75 ID:YvhuxcbZ0
ちなみに今年の夏休みのSOS団予定表は去年の如きハードスケジュールが組まれている。
来るべき文化祭に備え、映画撮影に加え、バンドの練習までするハメになっていたからだ。
とは言え、やはり学生の身であるし、全員課題を抱えているので
さすがの団長様も夏休みの前半はあまり予定を入れないでくださった。

「キョン!休みだからってぼけっと過ごすんじゃないわよ!
 後半になってもまだ課題を終わらせてなかったらタダじゃ置かないわ!氏刑よ!」

いやーなんてありがたいお言葉なんだろうね。嬉しくて涙が出る。

しかしまあ、今日くらいは良いだろ。そうさ、そうに決まってる。半日くらいゆっくりしよう。
そう思って目を瞑ろうとした時の事だ。

ピリリリ

携帯が鳴った。メールだ、誰からだ?

655: 2009/06/27(土) 14:12:33.43 ID:YvhuxcbZ0
佐々木か。どうしたんだ?

『件名:やあ 本文:一学期お疲れ様。今もし問題ないなら電話したいのだが大丈夫だろうか?』

電話一本するのにメールで事前確認を取るあたり佐々木らしいな。
すぐに俺は折り返し電話を入れた。

「もしもし、佐々木か?」
「おや、キョンじゃないか。君から電話をしてくれるとは助かるよ」
「何言ってんだ。俺とお前の仲だろう。どうかしたのか?」

ああ、実は、と前置きしてから佐々木は続けた。

「明日、海に行かないか?」

海か、去年は古泉の―というか機関の、か―離島に行ったな。
今年はその手のイベントはなさそうだし。海は俺も嫌いではない。

656: 2009/06/27(土) 14:14:04.71 ID:YvhuxcbZ0
「良いな。よし行こうか」
「即断とは君も気前が良いね」
「他に誰か誘うのか?」
「ああ、すでに長門さんを誘ってあるよ。それとも、僕と2人きりが良かったかい?」

最近佐々木はなかなか大胆な発言をするようになった気がする。

「ありがたいが、それはまた次の機会にしよう」
「くっくっ、社交辞令として受け取っておくよ」

それで、待ち合わせ場所はどうする?

「駅前で良いんじゃないかな」
「了解。時間は何時くらいだ?」
「そうだね、電車で2時間だから、8時に駅前でどうかな?」
「わかった。んじゃ今日は早めに寝る事にするよ」
「ああ、そうしたまえ。それじゃ明日」

佐々木と長門と海、か。
って、去年長門はひたすらパラソルの下で読書に耽っていた気がするが・・・良いのだろうか?
だがアイツが行くと言ったんなら良いんだろうな、きっと。多分。

657: 2009/06/27(土) 14:15:24.71 ID:YvhuxcbZ0
母親に明日、佐々木と長門と3人で海に行く事を告げ
(もちろん妹がいない時を見計らって、だ)
明日を楽しみに早めに布団に潜ったのであった。

という事で海に到着した訳なのだが、今俺は1人だ。
なぜかって?女性は何かと時間のかかる生き物なのさ。

今日は夏休み初日でもあり、また天気も最高に良いためだろう
浜辺も海もかなりの人で溢れている。

パラソルを海の家で借りたが、さて、どのへんに陣取ろうかね。
などと人の群れを眺めていると、突然視界をふさがれた。

「誰だとおもう?」
「ふん、分かるに決まってるさ、佐々木だろ?」

そう言って手を取り後ろを振り向くとそこにいたのは長門だった。

658: 2009/06/27(土) 14:17:32.69 ID:YvhuxcbZ0
「え?あれ?」
「くっくっ、キョン。僕の声だったからと言って、その手が僕のものとは限らないだろう?」

してやられたな。確かに言うとおりだ。・・・っと。

「ん?どうした、キョン?」

はっとさせられてしまった。長門の水着姿は去年見たが佐々木のそれは初めてだ。

「ぼーっとして、大丈夫かい?」

と心配しするように近づいてくる。

「いや、大丈夫だ。その、あれだ。佐々木」
「ん?なんだい?」

当人は全く気づいてないらしい。

「・・・水着、その、似合ってるな」
「っ!」

しまった、つい顔をそらしてしまった。
見ろ、俺がそんなアクションを取ったばかりに佐々木もちょっと困ってしまったようだ。

659: 2009/06/27(土) 14:19:28.95 ID:YvhuxcbZ0
「う・・・あ・・・あり、がとう。恥ずかしいね。ははは」
「そうだな・・・あぁ、長門は新しい水着か?よく似合ってるな」
「ありがとう」

なんとか話題の切り替えに成功したようだ。

「そういえば、君と海はおろか、プールにも一緒に行った事がなかったね」
「ああ、そうだな。中学のプールの授業は男女別だったからな」

そう、つまり佐々木のそういう姿を見るのは初めてだったのだ。
なんというか、佐々木って意外と着痩せするタイプなのかもしれん。

「場所はこの辺にしようか。更衣室や海の家にもそこそこ近い」
「ああ、良いな。んじゃ、よっ・・・と」

パラソルを張って、簡易の折りたたみイスを設置。
あっという間にインスタントリゾートの完成だ。

長門はさっそく椅子に座り、本を取り出している。
やはりこいつは読書なんだな。

661: 2009/06/27(土) 14:21:33.16 ID:YvhuxcbZ0
「さてキョン。頼みがあるんだが」
「なんだ?今ならまだ体力がありあまってるから何でも言ってくれ」
「大丈夫、体力はさほど使わないよ」

と言って佐々木はカバンから一本の小さなボトルを取り出した。

「日焼け止めオイル。塗ってくれるかい?」

なん・・・だと・・・。

という事で佐々木にオイルを塗るという天国と地獄がいっぺんに来たような苦行の始まりだ。
佐々木はうつぶせになっている。

ちなみに、佐々木の水着は俗に言うタンキニというヤツだ。
上がタンクトップのようなキャミソールのような形状で下はビキニようなタイプで
どうやら最近の流行らしい。

「じゃあ、塗るぞ」
「ああ、頼むよ」

と言っても手順がとうとか全くそういうのは分からん訳でだな。
とりあえず水着に覆われていない肌の部分、つまり腰と背中だ。

662: 2009/06/27(土) 14:23:27.25 ID:YvhuxcbZ0
「脚とか肩は大丈夫なのか?」
「そうだな、肩はムラができると困るからキョンが塗ってくれたまえ」
「わかった」

透き通るような柔肌とは良く言われるが、至言だと俺は思うね。
佐々木の肌がまさにそれなのでは思うくらい、佐々木の背中は白かった。
そこに触れる、と。いかいかん緊張してきてしまった。

だがこのまま固まっている訳にもいかない。意を決して手にオイルを取る。

「んじゃいくぞー」
「ああ、よろしく」

―――佐々木の肌は見た目以上に、思った以上に柔らかくスベスベだった。

「んっ・・・キョン、上手・・・」
「バカ。変なこと言うんじゃない」
「・・・くっくっくっ」
「佐々木、髪の毛上げてもらって良いか?」

うなじにもオイルを塗った方が良いだろう。

663: 2009/06/27(土) 14:26:34.49 ID:YvhuxcbZ0
「良く気づいたね。僕も忘れていたよ」

佐々木はそう言って肩にかかるか、かからないかぐらいの長さの髪を左右に分けてうなじを出した。

「これで大丈夫かい?」
「あ、ああ。問題ない」

思わず生唾を飲んでしまったが聞かれていないだろうか。
うなじにもオイルをムラなく塗っていく。気分は神風特攻隊だ。

「んっ・・・気持ちいいよ、キョン・・・」
「だからお前な・・・」
「くくっ・・・本当の事だよ。ああ、それから」
「なんだ?」
「肩紐の中と、それから水着の内側も頼んだよ」

・・・・・・なん・・・・・・だと・・・・・・。

669: 2009/06/27(土) 15:15:22.17 ID:YvhuxcbZ0
そこから先のことはほとんど覚えていない。
ハッキリ言おう。何か別のことを考えていては、どこかが何とかなってしまいそうだったからだ。

「お、終わったぞ」
「ありがとう、うん。助かったよ」
「なら良かったよ」

「おや」
「ん?」

佐々木は俺の後ろを見ている。何かあるのか?

670: 2009/06/27(土) 15:16:29.57 ID:YvhuxcbZ0
「塗って」
「・・・長門は、パラソルに入ってるから紫外線対策は必要ないんじゃないか?」
「紫外線は日陰にいても反射光などにより常にその脅威に晒される。防御策が必要」

佐々木は後ろでくつくつと笑っている。どうやら逃げ場はないらしい。
まだ海について1時間と経っていないんだが・・・、佐々木。
さっきのお前の言葉は珍しく間違っていたぞ。

・・・オイルを塗るってのは、とてつもなく疲れる作業だぞ。

おっととっと夏だね おわり。

720: 2009/06/27(土) 23:42:47.57 ID:YvhuxcbZ0
~こちら長門。遊園地の潜入に成功した。~


12月24日、日曜。午前9時。
私はUSO(ユニバーサルスタジオ大阪)という遊戯施設に来ている。

なぜこのような状況になったのか。説明が必要だと思われるため簡潔に述べる。

佐々木。下の名前は不明。恋敵にして戦友でもある。
3日前、彼女と携帯電話の電子メールにてコンタクトをとっていた時のこと。

――― 今週の日曜。一緒に彼の家に行く?

私はちょっと用があるんだ、ごめんね。―――

これは珍しい事態。いつもならどんな予定があっても
彼の家に行く事を最優先事項にしている彼女。

721: 2009/06/27(土) 23:43:45.85 ID:YvhuxcbZ0
しかし彼女にも都合がある。だから今回は無理。
なので私は彼の家に1人で行こうと計画。彼に予定を尋ねた。

「ん?すまんな、長門。日曜はどうしても外せない用事があるんだ」
「そう」

仕方ない。無理強いする事はできない。しかし引っかかる。
『彼』と『彼女』が2人とも『用がある』と言う。

そして昨日。帰り際の彼に1つ尋ねてみた。

722: 2009/06/27(土) 23:44:44.84 ID:YvhuxcbZ0
「明日、彼女とゆっくり楽しんでくるといい」
「ああ、ありがとな。・・・って長門、なぜそれを・・・?」
「彼女から聞いた。とても楽しみにしていた。」
「そ、そうか。まぁ、佐々木が楽しめるよう尽力するさ」

私は彼女と言っただけで名前は出さなかった。
つまり日曜、2人は一緒にどこかへ出かける。

・・・間違いがあって警察沙汰になっては大変。
それに涼宮ハルヒに目撃されて自律進化の可能性を失うのも非常に痛手。

―――結論。日曜は2人の後をつけるべき。世界のために。

情報統合思念体もこれに満場一致で可決。朝倉、黄緑のバックアップも配備させる。

あくまで観察。世界のために。それだけ。異論は認めない。

739: 2009/06/28(日) 01:34:47.84 ID:nMNknPtB0

彼らは駅で落ち合うと電車に乗り込んだ。

彼も彼女も今までに見たことのない服装。
特に彼女はうっすら化粧をしているように見える。

「待ったか?」
「ううん、ちっとも待ってないさ」
「佐々木、今日は、ポニーテールなんだな」
「え、あ、ああ。キョンはこの髪型が好きだと聞いてね。試しにやってみたんだがどうだろう?」
「最高に似合ってるよ。今日はいつにも増して綺麗だぞ」
「・・・ありがとぅ・・・」

・・・おかしい。彼はあのような台詞を言わない。
私たち3人でいた時も、それに涼宮ハルヒや、彼が敬愛するとされる年増女にも
あのような賛辞の言葉を送った事はない。異常事態。

740: 2009/06/28(日) 01:36:10.09 ID:nMNknPtB0
「長門さん、まだ手を出しちゃダメですよ。もう少し様子見しましょう」
「黄緑・・・あなたはただのバックアップ。引くべき」
「いいえ、情報結合の解除はまだ早計というものですよ」
「私もそう思うなー」
「朝倉涼子。貴方から情報結合の解除をすべき?」
「・・・ごめんなさい」

朝倉涼子はともかく黄緑江美里からも反対されたのでここは判断を保留。
引き続き彼らの監視を継続。

「それじゃ、行こうか」
「うん」

手を繋ぐ様は非常に自然。人ごみをかきわけて駅の改札を通り抜けていく。

741: 2009/06/28(日) 01:37:24.91 ID:nMNknPtB0
「私たちも移動する」
「わかりました」
「はーい」
「・・・朝倉涼子には緊張感が足りない」
「だって、長門さんが不可視フィールドを展開しているんですもの。どうせバレやしないわ」

そういう問題ではない。

移動中の電車内でも彼らは非常に親しげに話をしている。
これは当然。彼らは親友同士。ここで私の精神に大きな揺れが生じた。

・・・エラー発生。朝倉涼子の左腕に、とりあえずしっぺしておいた。

「いたっ!な、なんで・・・?」

742: 2009/06/28(日) 01:39:47.27 ID:nMNknPtB0
目的地に到着。これほどの人ごみに遭遇するのは非常に稀。
これでは彼らを見失ってしまう可能性がある上に、彼らがお互いを見失う可能性も―――。

「佐々木!しっかりつかまってろよ!」
「う、うん!」

前言撤回。すぐに見つかった上に彼らは離れ離れになりそうにない。
・・・なんとなく朝倉涼子にデコピン。

「きゃっ!?・・・なんで私だけ・・・?」
「日ごろの行いじゃないですか?」
「江美里・・・貴方ね・・・」

彼らは雑踏にまぎれながらもそこを目指していた。
初めて見る場所。データにない。検索開始―――データの一致する項目を発見。
名称ユニバーサルスタジオ大阪。2年前開園。大迫力のアトラクションや豊富なイベントを有する。
ターゲットとなる客層は主にファミリー、中高生、大学生、カップル。広さは甲子園球場7つ分。

情報は把握した。

744: 2009/06/28(日) 01:41:36.84 ID:nMNknPtB0
「ね、長門さん。こんな情報、追跡になんの役に立つの?」
「・・・」
「うぐぅっ」
「お見事な回し蹴りでした」

このままでは効果的な追跡及び尾行は不可能。
役割分担を提案する。

「はい、どうしましょう」
「黄緑江美里は園内監視カメラにアクセスしてリアルタイムに居場所をチェック。万が一に備えて」
「了解しました」
「それじゃ私は?」
「朝倉涼子、貴方には重大な任務を任せようと思う」

彼らが向かっている先は―――いわゆる『オバケ屋敷』と判定。追跡を再開する。

「了解です。くれぐれもご注意を」
「りょーかい。なんで私がこんな役を・・・」

朝倉涼子の文句を無視し、私は彼らを追った。

745: 2009/06/28(日) 01:43:35.47 ID:nMNknPtB0
「へえ、なかなか凝った作りだな」
「そ、そうだね、キョン」
「ん?もしかして苦手なのか?てっきりこういうのは大丈夫なタイプだと思ったぞ」
「もちろん、これらのものは作り物だし、そんなものを怖がったりはしていないさ」
「・・・その割にはコートの袖をやけに強く握っているようにみえるが?」
「君は本当にイジワルだな・・・」

彼らがこのアトラクションに入って10分が経過した。そろそろ例の地点に着くはず。

「ばぁっ!」
「ひゃあっ!?」

作戦成功!よくやった朝倉涼子!

747: 2009/06/28(日) 01:45:35.36 ID:nMNknPtB0
「お、おい、大丈夫だって。そんな怯えるなよ佐々木」
「・・・キョンはすごいな・・・。僕もまだまだ精進が足りないね」
「そんな事ないさ。このオバケの眉が太くなかったら俺も驚いていたかもしれん」

・・・作戦失敗。朝倉涼子を不要と判定。

「そ、そんなぁ・・・」
「長門さん、盛り上がっているところ悪いですがターゲットはすでに移動していますよ」
「迂闊。方向は?」
「そこから北西。どうやらジェットコースターに向かっているようです」
「了解」

黄緑の連絡を受けて急ぎオバケ屋敷を出て彼らを追う。

750: 2009/06/28(日) 01:47:24.05 ID:nMNknPtB0
「ホントに乗るのか?」
「キョンはこういった絶叫系が苦手だったかい?」
「ああ。どうにも仲良くなれそうにないね。佐々木は大丈夫なのか?」
「もちろんさ。先ほどは不甲斐ない姿を見せてしまったからね、今度は君に大声を出してもらうよ」
「いや、怯える佐々木も新鮮で可愛かったけどな」
「えっ・・・」
「あ、いや・・・その・・・うん」

・・・冬だというのにあの周りだけ春のような空気。とりあえず朝倉涼子を蹴っておいた。

「はい、それではこちらより後は次回になりまーす」

尾行に集中していていつの間にか同じアトラクションに並んでしまっていた。
しかし抜け出すにも場所が非常に混雑しており抜けるに抜けられない。非常事態。

「今から抜けるより、アトラクションに乗った方が早いんじゃない?そんなに時間かからないだろうし」
「やむをえない。その案を採用する」

ここにいてはアトラクション中の彼らを観察できないが仕方ない。

753: 2009/06/28(日) 02:03:22.82 ID:nMNknPtB0
「はい、それでは次の組の方、座席につかれましたらアームでしっかり座席に固定してください」
「本アトラクションはまず時速160キロで地上200メートルまで上昇します」
「直後80度で落下するような間隔を味わえます。是非気持ちよく絶叫してください!」

「朝倉涼子」
「なに?」
「この手のものに乗ったことは?」
「ないに決まってるわ。そんなの長門さんもでしょ?」

コクリと頷こうとした瞬間。

初速160キロで打ち出された身体は斜角40度で200メートル上昇。
そして一気に落ち―――

754: 2009/06/28(日) 02:05:26.37 ID:nMNknPtB0
「―――――――――」
「っきゃああああああああ!!」

「ん?」
「どうかしたかい、キョン?」
「いや、聞き覚えのある声がしたと思ったんだが・・・多分気のせいだ」

「はーなかなか人間も面白いものを作るわねぇ!・・・って、あれ?長門さん?」
「―――――」

ボソッ

「え?」
「――――かった・・・」
「もしかして長門さん、こわkんがっ!」

気を取り直して、尾行を再開する。

「黄緑江美里、彼らの現在地は?」
「ターゲットはそこから西にいるわ」
「了解」

755: 2009/06/28(日) 02:06:16.37 ID:nMNknPtB0
しばらく歩くと、いた。彼らは大きなコップに座っている。

「・・・あれはなに?」
「コーヒーカップね。真ん中のハンドルを回すとカップの回転が速くなるのよ」
「そう」
「あ、良かったら長門さん、一緒に―――」
「氏にたい?」
「ごめんなさい」
「分かればいい」

やがてこのアトラクションから離れた彼らの向かった先は―――。

――――。

――。

756: 2009/06/28(日) 02:07:27.68 ID:nMNknPtB0
USOに来て8時間が経過。現在の時刻は17時03分。
彼らは今また新しいアトラクションに乗ろうとしていた。
黄緑江美里によると、観覧車というらしい。そして怖くないらしい。

外観から察するに彼らの近くのカゴに乗らないと2人の観察はできないと判断。
不可視フィールドの効果を最大限に発揮し、彼らの後ろに並ぶ事に成功した。

「今日は一日歩き回ったな」
「ああ。もう疲れたかい?」
「さすがにな。だが楽しかったぞ?」
「僕もさ、キョン。そして締めが観覧車とはなかなかベタだね」

「何とでも言うが良いさ。俺はそんなに場数を踏んでいる訳じゃないんでな」
「くっくっ、そう卑屈になる事はないさ。僕はとても感謝してるんだ」
「ん?」

「・・・今日の事は忘れないよ、きっと、ずっとね」
「そうだな・・・。俺も忘れないと思う」

私も忘れない。そして二度と絶叫マシーンには乗らない。誓っても良い。
やがて彼らが先にカゴに乗っていった。そしてすぐに私と朝倉涼子が続く。

757: 2009/06/28(日) 02:09:26.23 ID:nMNknPtB0
「長門さん、これじゃ音が聞き取れないわよ?」
「可聴域並びに集音力のパラメータを最大まで改変する。これで大丈夫」
「・・・他の音まで拾っちゃうけどね・・・」
「静かに」

彼らが2人きりの空間で何を語るのか。その内容によっては世界の崩壊もありえる。
聞き逃すわけにはいかない。

「見ろよ佐々木。夕焼けだ」
「ああ。綺麗だね。・・・もしかしてこの時間に観覧車に乗るのは君の計画通りかい?」
「ん、まあな。」
「くっくっ、君は意外とロマンチストなんだね」
「かもな。そうでもなきゃ、SOS団なんてやってらんなかっただろうよ」

彼がロマンチストでなければ世界は崩壊する可能性がある?
これはやはり聞いておくべきだった。引き続き盗聴、ではなく観測を続行。

758: 2009/06/28(日) 02:11:40.20 ID:nMNknPtB0
「ねえ、キョン」
「ん?」
「―――――――」

彼女が目を閉じ、頬を赤らめ、彼に向かって顎を上げている。
それに対して彼は一瞬戸惑うような素振りを見せたが―――彼女の肩をつかんだ。

「あら、もしかしてキョンくんってば・・・」
「黙って」

彼が目をつむる。そして顔を少しずつ彼女の方へと―――。

「なかなか大胆ねぇ、彼。こっちが照れちゃうわ」
「・・・うるさい」
「ひでぶ!!」

上段蹴り。我ながら見事。花丸。
対象の観測を続、行―――――。

彼も彼女も、こちらを見ていた。気づかれた?何故?

759: 2009/06/28(日) 02:13:11.87 ID:nMNknPtB0
「いったぁぁ・・・い・・・ひどいわ長門さん。不可視フィールド解けちゃったわよ」
「・・・迂闊」

対有機生命体ヒューマノイドインターフェイスにあるまじきミス。痛恨。
やはり朝倉涼子を連れてくるべきではなかった。

「で、いつから尾けてたんだ?」
「朝から」
「・・・入場した時か?」
「・・・待ち合わせから」

はあ、と彼がため息をつく。

「ま、良いさ。隠してた俺たちも悪かったんだしな」

諦めたように笑って私の頭をポンポンと叩く彼に、今さらながら自分の過ちを悔いた。

「・・・すまない」

彼も彼女もちょっと驚いたような表情を見せたが

「気にすんな。今度はちゃんとみんなで来よう」

2人きりでなどと言える訳はない。
当然のこと。私は一瞬、何を考えそうになった?

・・・エラー・・・。私の心の底に暗く沈むものは、なに?

760: 2009/06/28(日) 02:13:54.98 ID:nMNknPtB0
「んじゃ帰るか。途中どこかでメシ食ってくか?」
「あ、じゃあ私はハンバーグが良いな!」

「朝倉!?お前、全身ボロボロじゃないか・・・」
「半分以上貴方のせいだからっ♪」
「はあ!?なんだそりゃ」

「あーキョン、僕の事をほっぽってそれかい?」
「さ、佐々木・・・そういう風に見えるか?これが!」
「くっくっ、冗談だよ」

「長門」
「―――?」
「はやくこいよ」

・・・エラー・・・。私の心の底まで照らすように光るものは、なに?

~こちら長門。遊園地の潜入に成功した。 終わり~

786: 2009/06/28(日) 07:36:54.22 ID:nMNknPtB0
~埋め合わせ~

今年もさまざま出来事があった訳だが無事、ここに終わろうとしている。
母親が口うるさいので大掃除を手伝い、ようやく雑巾がけから解放されたのは
夜も19時を回ってからの事だ。

俺がもっと計画的に且つ献身的に掃除をすればもっと早く終わったと思ったりするが
過ぎた事をウジウジ言っていても詮無き事だ。そうだろう?

さて、そんな訳で大晦日まで慌しく過ごした俺なのだが、どうにも心の中でしこりとして
残っているものがあった。

それは、そう。一週間前のクリスマスイブの事であった。

「で、いつから尾けてたんだ?」
「朝から」
「・・・入場した時か?」
「・・・待ち合わせから」

佐々木と2人でクリスマスに遊園地へと出かけていたのだが
長門はそれを知って朝倉や喜緑さんたちと尾行するという暴挙にうってでたのだ。

787: 2009/06/28(日) 07:37:56.60 ID:nMNknPtB0
内面が成長してきたとは言え、未だに感情をハッキリと表に出さない長門が
あの時はかなり違っているように、俺は感じた。

だから俺がこう思うのも無理からぬ事だと思う。

長門と―――。

自転車をこいで目的地を目指す。場所はそう、長門たちの住むマンションだ。
到着した俺はロビーで長門の部屋番号を押して呼び出した。

どちらさまですか?などという言葉は長門にはない。そんな事は知っていた。

「長門、俺だ」

無言のままオートロックが外されドアが開いた。
長門は俺が部屋の前に着くタイミングが分かっていたように玄関のドアを開けた。

「入って」
「ああ、サンキュな」
「良い」

朝倉や喜緑さんたちはいないようだ。
長門が熱いお茶を出してくれた。

「飲んで」

ありがたい。冷えた身体にはよく効く。

788: 2009/06/28(日) 07:38:52.68 ID:nMNknPtB0
「それでな、長門」
「なに」
「大晦日に食べる年越しそばって知ってるか?」
「・・・?」

首を傾げている。どうやら知らないらしい。まぁ無理もないよな。

「12月31日の事を『大晦日』と言うんだがな、1年の締めくくりとして、そばを食べるんだ」
「なぜ?」
「確か長いものを食べる事で長寿、健康を祈願するとかそんなもんだな」
「そう」

といっても、対有機生命体ヒューマノイドインターフェイスにはサッパリだろう。

「それでだ」

コンビニの袋からガサガサとインスタントのカップそばを2つ取り出した。

「一緒に食べようぜ、長門」
「いいの?」
「もちろんだとも」

長門が少しだけ早足でお湯を沸かしに行く。ちょっとは喜んでくれているのだろうか?
イマイチ分からないが、困ってはいなさそうだ。

数分後、蒸気を発するやかんを片手に戻ってきたので、そいつを借りる。

789: 2009/06/28(日) 07:40:03.11 ID:nMNknPtB0
「こうやって、内側の線の高さまで入れるんだ」
「ユニーク」
「あとは3分待ったら出来上がりだ」

なんとなく長門がそわそわしている。

「長門」
「なに?」
「もしかして、こういう食べ物は初めてか?」

長門はコクリと頷いた。まぁそれもそうだよな。

「よし、んじゃ食べようか」
「了解」

そばをすする音だけが静かな部屋の中に響く。

「ごちそうさまっと」
「ごちそうさま。美味しかった」
「それならよかった」

少し遠くから鐘の音が鳴り始めた。

791: 2009/06/28(日) 07:41:02.73 ID:nMNknPtB0
「除夜の鐘が鳴ってるな」
「それはなに?」
「人間の煩悩ってのは108に分類されるらしいんだが、
 それを打ち払って新年を迎えられるよう108回、鐘を鳴らすんだ。まぁ日本の文化だな」
「そう」
「ついでに言うと、初詣と言って、1年の無事を願ってお参りするという行事もある」
「ユニーク」

確かにユニークっちゃユニークだ。
意味は特にわからんが新年って響きだけでテンションが上がるからな。

「でだ、長門。一緒に―――」

ピンポーン

間の悪いところで呼び出しのチャイムが鳴る。

「待ってて」

しかし長門がインターホンに応対する前に玄関の方でガチャガチャと音がする。
おいおい、なんだなんだ?穏やかじゃないな。

792: 2009/06/28(日) 07:42:03.35 ID:nMNknPtB0
「長門さーん、明けましておめでとー♪ ってあら?キョンくんもいたの?」

なんと朝倉涼子のお出ましだ。

「あっ、年越しそば!2人だけで食べてたのね!ずるーい!」
「・・・朝倉涼子」
「なに、長門さん?」
「情報連結の解除を申請する」
「え、ちょまっ!」

言うや否や長門が高速で小さな口唇を動かす。まさかここで一戦おっぱじめる気か?

「大丈夫」

なにがだ。

「すぐ終わる」

いや、なにも大丈夫じゃないぞ。

「あ、こんなところにいたんですね」

と相変わらずゆっくりとした感じで登場したのは喜緑さんだ。

「手出し無用」
「大丈夫ですよ。今すぐふんじばって持って帰りますから」
「そうしてくれると助かる」
「はい。それではお邪魔しました」

793: 2009/06/28(日) 07:42:57.18 ID:nMNknPtB0
一体いつ朝倉を緊縛したのか。目にも留まらぬ早業で朝倉を縄にかけると
喜緑さんは笑顔のままでズルズル引きずっていった。
まるで一陣の嵐だったな。

「それで」
「ん?」
「さっきの続き」
「あ、ああ。長門、一緒に初詣にでも行かないか?」

長門は少し間をあけてコクリと小さく頷いた。
すぐに踵を返し、コートを持ってくるか―――と思いきや少々時間がかかった。
どうかしたのか?と思ったがその謎はすぐに解明された。

「長門、お前―――」
「おかしい?」
「いや、そんな事ない。似合ってて良いと思うぞ、すごくな」
「そう」

滅多にお目にかかれない長門の私服姿に胸が大きく脈打った。

「じゃ、じゃあ行こうか」
「うん」

長門の手をとる。やんわりと長門が手を握り返してくれる。

―――今年も、良い年になりますように―――

そう心の中で一足早く願わずにはいられなかった。

~埋め合わせ 終わり~

800: 2009/06/28(日) 09:09:23.95 ID:nMNknPtB0
佐々木と長門とキョンの本気のポーカー・・・ねぇ・・・。

キョン「フルハウス!」

佐々木「くっくっ、甘いねキョン。ストレートフラッシュだ」

キョン「なんですと!?」

長門「ロイヤルストレートフラッシュ」

佐々木「えっ」

キョン「えっ」

多分ガチでやったら長門ですよね・・・。
佐々木はブラフ得意そうだけど長門には通用しない感じ。

844: 2009/06/28(日) 16:27:58.82 ID:nMNknPtB0
~決戦は日曜日~


街が、店が赤く染まっている。もちろん大量猟奇殺人事件がおきた訳じゃない。
時は2月。そう、世間ではバレンタイン一色なのだ。

谷口は数日前から妙にそわそわして、髪型を変えたり、眉を整えたりしている。
だがまあ、それしきの事ですぐにチョコがもらえるとは決して思わないが・・・。

その谷口が去年と同じような事を口走っている。

「キョンは良いよなあ・・・」

SOS団は5名からなり、その内の3名が女子だ。
去年はなぜか山で土を掘ったりするという奇妙な趣向の後
3人からの義理チョコを有難く頂戴した訳なのだが。

846: 2009/06/28(日) 16:30:06.25 ID:nMNknPtB0
あのハルヒが去年と同じ手段を選ぶとは考えにくい。
きっと今年はまた訳の分からない事をさせられたりするのだろうか。
それとも少しは手加減してくれるのだろうか。

などと考えている時だ。携帯が鳴った。う、これは・・・。

「あー、もしもし」
「ちょっと!すぐに出なさいよ!何をもったいぶってんのよ、バカキョン!」
「まあまあ良いじゃないか。それでどうしたんだ?平日の夜に電話なんて珍しいじゃないか」

大抵ハルヒから電話がある時というのは休日の前日だ。
つまり突然不思議的な何かを探しに行くわよ!みたいな事を決めた時だ。

「まあ別にたいした用事じゃないんだけどね」

ならなんで電話した。と言いたくもなるがここでそれを言うほど俺もバカじゃない。

847: 2009/06/28(日) 16:31:41.06 ID:nMNknPtB0
「ほう、なんだ?」
「アンタ、甘いのと苦いのどっちが好き?」

なんというベタなヤツだ。この季節にそんなものを聞くなんてな。
でもそれを口に出すのは野暮ってもんだ。そうだろう?

「そりゃどっちかで言えば甘いものかな」
「へえ、じゃあついでにもう1つね。ヨーグルトはプレーン派?それともフルーツ派?」
「うーん・・・フルーツが入ってる方が好きだな」

へえ、とか興味なさそうに言っているが、多分まあ、そういう事だろう。
夜更かししてないで早く寝なさいよとか言いながら一方的に電話を切りやがった。
まあアイツが自分勝手なのはいつもの事さ。


だが今年のバレンタインは去年のそれとはどうやら一線を画していたらしい事を
俺はまだその時、全然気づかないでいた。

851: 2009/06/28(日) 16:36:03.35 ID:nMNknPtB0
前述した通り、SOS団は5名で構成されており、内4名が2年生。
そしてこの3月で卒業してしまう3年生が1人いる。

そう、我が砂漠のオアシス、朝比奈みくるさん、その人だ。
あと一ヶ月強で彼女は卒業してしまう事は、ハルヒがどうあがこうと、変えようのない事実であり
古泉曰く『非常に繊細且つ複雑なバランスの上に成り立っている』SOS団の
根底から覆しかねない『事件』なのだ。

「確か同好会はもとより、文芸部としても4人では学校から認められないでしょうね」
「あの生徒会長にはこの上ない実弾って訳か」
「あんなヤツの思い通りにはさせないわよ!決まってるじゃない!」

そうは言ってもな。新入生に期待するのか?

「それか、もしくは現2年生を洗いなおすかどっちかね」

852: 2009/06/28(日) 16:38:23.94 ID:nMNknPtB0
とは言え、新入部員が入ったとしても、決してその誰かは朝比奈さんの代わりにはならない。
今と同じ日々にはならない。ハルヒも心なしか複雑そうな表情をしている。

そう、いつかは来るべき時がきたのだ。

SOS団の発足より、あまりにドタバタで、あまりに騒がしかった日常。

この騒がしい団長と、ニヤけ顔の超能力者
俺を心身ともに潤す未来人、いつも窮地を救ってくれた物言わぬ宇宙人、そして俺。

永遠に続くとさえ無意識に思っていた非日常的日常の生活が、終わろうとしているのだ。

―――そして俺と佐々木、長門の関係も。

853: 2009/06/28(日) 16:41:32.02 ID:nMNknPtB0
2月7日。日曜日の夜。
俺は特に見るべきテレビ番組もなく、どうせならと部屋で参考書とにらめっこしていた。
佐々木の意見をもとに購入した参考書もすでに5冊を超えた。

そのおかげか俺の2学期の成績表は1学期と比べて緩やかながらも右肩上がりのカーブを描き
母親も以前よりは心配が減ったようで何よりだ。

「佐々木さんにはそのうち何かお礼しないといけないわねえ」

とは母親の弁ではあるが、それについては俺も同感だ。

時計が21時を回った頃のことだ。佐々木から一本のメールが入った。
どうやら話がしたいらしい。勉強を始めて2時間が経過していたし、丁度良い。
休憩がてら佐々木の携帯を鳴らす事にした。

「もしもし、キョンかい?」
「ああ。元気か?」
「もちろん。それで早速だが用件に入っても良いかい?」

相槌をうって先を促した。

855: 2009/06/28(日) 16:44:01.94 ID:nMNknPtB0
「来週の日曜。何の日かくらい分かっているだろう?」
「そりゃな。クラスの連中も男女構わずそわそわしてる」
「くっくっ、そうだろうね。尤も、僕にとっては去年までは全く気にもとめないイベントだったんだがね」

佐々木は、恋愛感情を精神病の1種だとどこかの誰かさんと同じように定義づけている人間だ。
バレンタインなどというイベントはまさに対極の位置にあるだろうな。

「だがね、今年はチョコをあげてみようかという気分になったのさ」

「キョン、君にね」

佐々木からバレンタインの話題を切り出した時点で、実はある程度予測できていた。
いつもなら動じていたかもしれんが今は何故か誰もいない屋内プールの水面のように落ち着いていた。

「そりゃ楽しみだな」
「全く驚かないとは意外だな」
「そんな事はないさ。冷静さを保つのに一苦労してるところだぞ」

くつくつと喉を鳴らして笑う。

856: 2009/06/28(日) 16:47:41.16 ID:nMNknPtB0
「それに佐々木からチョコをもらえるなんて思ってもなかったし、嬉しいもんだぜ?」
「そう言ってくれると正直、安心するよ。しかし、残念ながら少々事情があってね」

事情?日曜は他の予定が入っているから別の日に渡すとか、そういう事だろうか?

息を 呑む音が 聞こえた 気がした。

「僕と長門さん。どちらか一方のチョコ、
 あるいは僕たち以外の誰か、1人だけのチョコを受け取ってほしい」

何を言われたのか、一瞬理解できなかった。

858: 2009/06/28(日) 16:51:10.57 ID:nMNknPtB0
「どういうことだ?」
「そういうことだよ、キョン。この話は長門さんと2人で話して決めた事だ」
「長門と?」
「うむ、つまりこういう事さ。」

一拍の間を置いて静かに佐々木が告げる。

「僕らのチョコは、本命1つだけという事だよ」
「俺に、お前か、長門のどちらかを選べってことか?」
「いや、違うねキョン。僕か長門さんじゃなくても構わない。
 涼宮さんでも朝比奈さんでも、それ以外の女性でもだ」
「・・・」
「きっと、いや間違いなく涼宮さんは君へのチョコを用意する。」

そうだろうな。すでにある程度の好みを聞かれている。

「そして彼女は口では義理だと言うかもしれないが
 その裏に隠された気持ちに気づかないほど君も鈍くはあるまい?」

無意識的に、半ば意識的に。俺はそれを見て見ぬフリをしていた。

「もし涼宮さんのチョコを受け取るなら、それでも構わない。
 しかしその際は僕たち2人のチョコを断ってほしい」

864: 2009/06/28(日) 17:23:40.01 ID:nMNknPtB0
淡々と、佐々木は続けた。

「別に僕らは、チョコを断られたと言って友人関係を破棄する気はない。
 しかし、そういう気持ちとは、決別せねばならない」

言葉の端々が、弱く聞こえる。

「君もいい加減、僕たちの、いや、私たちの気持ちに、気づいてるでしょ?」

心臓に矢をナイフを突き立てられたような感覚。
初めて佐々木が俺に対して、『私』という一人称を使って話したフレーズ。
そこにどれだけの佐々木の決意が込められているのか。

865: 2009/06/28(日) 17:24:35.12 ID:nMNknPtB0
「・・・急ですまないね。しかし僕らも3年になる。受験の備えも益々本格化する」

言うとおりだ。さっきまで俺ですら勉強していたのだから。

「多分、僕らのモラトリアムにも似たこの日々はもうすぐ―――終わって、しま、う」
「佐々木・・・」

佐々木は、泣いていた。
必氏に何かをこらえる子どものように。

様々な思い出が頭をよぎる。
1年ぶりの再会を果たしてもうすぐ1年。

あの最高に心地よかった空気は、もう戻ってきやしない。

きっと何もせずに待っていても、時間は無情に今を押し流していく。
ならばせめて、俺たち一人一人が選ぶものに答えを出して
選んだものと選ばなかったものへの感謝を持って、未来へと踏み出す。

佐々木が望んだ道は、きっと長門も、そしてきっとあのハルヒも、望んでいる事なんだ。

そして、俺も。

867: 2009/06/28(日) 17:26:08.37 ID:nMNknPtB0
「ありがとな、佐々木」
「・・・え?」

まだ声が上ずっている。

「あと一週間。長いか短いかは分からないが、俺も俺なりの答えを出すよ」
「キョン・・・うん、ありがとう。せめて美味しいチョコを準備しておくさ」
「ああ、それじゃな、佐々木。おやすみ」
「うん、おやすみ、キョン」

結局その日は、勉強なんて手がつかなかった。

日曜 完
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869: 2009/06/28(日) 17:33:53.07 ID:nMNknPtB0
翌日、ハルヒは朝からどうにも元気がなく、俺とは目線もあわせない。

放課後、なんとなく部室に行くのが躊躇われた俺は、9組から出てくる古泉を中庭に誘った。

「どうしたんです?あなたの方から誘ってくださるとは珍しいじゃありませんか」

コイツは分かってるのか分かってないのか。
だが今、俺の抱えてる悩みをぶちまけられるのはコイツしかいないのだ。

「実はな、昨日―――」

俺は少しずつ語りだした。佐々木との電話の内容。
ハルヒからもすでにチョコに関して質問があった事など。
もっと簡潔に述べる事もできたはずだが、なぜか舌はそんなに賢く動いちゃくれなかった。

「なるほど・・・非常に難しい問題ですね」

コイツは大概の事をしっかり聞いてから自分なりの意見を述べてくれる。
それが非常に助かるし、一種の才能だとも思う。
そのアドバイスがどのようなものかは置いといて、な。

「まず1つ1つのケースについて考えてみましょう」

870: 2009/06/28(日) 17:34:58.89 ID:nMNknPtB0
「長門さんのチョコを断った場合、彼女はエラーにより自己の消滅を願うかもしれません」

「佐々木さんを断っても、世界に影響が出ることはないでしょう。彼女は未だ器のままですから」

「そして涼宮さんのケースですが、説明するまでもないでしょう。世界は崩壊するかもしれません」

悔しい事にその分析は恐らく全て正解だろう。俺もそこまでバカじゃない。

「確かに、涼宮さんは以前に比べて精神的に成長しており、世界の崩壊に至らないかもしれませんが」

そこで一回区切った古泉は俺から視線を外して続けた。

「・・・機関としては、涼宮さんのものを受け取って頂きたい、というのが回答になるでしょう。
 僕たちはそのためにいるのですし、その可能性が少しでもあるならできる限り排除したいのです」

正論だな。お前は自分の立場上、マズい事は何も言っちゃいねえよ。

871: 2009/06/28(日) 17:35:43.33 ID:nMNknPtB0
「・・・ありがとうございます。少々意外でしたが」

だが、お前の本心はまた別にあるんじゃないか?
でなきゃ人の目を見て話すお前が目をそらしたりはせんからな。

「ええ、もちろん」

「可能性という話では佐々木さんのチョコを断っても世界が崩壊しないとは言い切れません。
 彼女には涼宮さんのような願望を実現させる能力はない、と我々の機関や他の組織も考えています。
 しかし、何かの大きな精神的ショックにより、何らかの力が目覚めないとも限らない」

古泉は話すのを止めた。冷え切ったホットコーヒーに口をつける。

「・・・どれを選んでも選ばなくても、新たな問題は起きるだろうな」
「恐らくは。間違いないでしょう」
「どうしたら良いんだろうねえ。まったく」

ここまで真剣な、いや、強張った表情の古泉だったが、笑顔を見せた。

「貴方はそのように面倒くさがったフリをなさいますが、僕とてそれなりの時間を
 付き合ってきました。その僕が断言します。」

872: 2009/06/28(日) 17:36:39.48 ID:nMNknPtB0
なんだよ?

「貴方は決して、選択の放棄は行わない。決して」

なぜ、そう言える?

「貴方が誠実な心優しい青年であるくらいは分かっているつもりです。それに―――」

それに?

「僕の、私個人としての意見を言わせてもらうと。貴方が誰かを選び、誰かを選ばなかった事で
 この世界に何らかの異変があるとしても、誰も貴方を責められません」

「古泉」

「ですからせめて、貴方が後悔しない選択をしてください。それなら誰かが貴方の事を避難しても
 僕だけは絶対に貴方の味方です。―――あまり頼りないかもしれませんが」

そう言って苦笑いをする。バカ野郎。お前ほど頼りになるヤツは、そうはいねえさ。

875: 2009/06/28(日) 17:37:27.79 ID:nMNknPtB0
「願わくば、来週の月曜。貴方とこうして再びお目にかかりたいものです」

そういうと表情を引き締めて、短く、古泉は言った。

「ご武運を」

ああ。つかんでみせるさ。例えそれが茨の道でもな。

その日は古泉と一緒にSOS団の部室に行き、いつものようにボードゲームで遊んだ。
いつまでも続かない『いつも』をかみ締めるように。

月曜おわり
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877: 2009/06/28(日) 17:47:42.15 ID:nMNknPtB0
翌日。俺は昼休みに朝比奈さんを屋上へ呼び出した。

「キョンくん、お話があるって・・・」
「すいません、朝比奈さん。ご足労頂いて」
「ううん、あたしで良ければ何でも聞いてください。禁則以外の事ならなんでもお答えしますから」

「実は―――」

話を始めようとした直後だ。いつの間にか朝比奈さんの背後に朝比奈さん(大)が立っており、
現代の朝比奈さんは気を失ったように倒れそうになった。

「緊急事態だったので、来てしまいました」

現在の朝比奈さんを抱えながら朝比奈さん(大)が言う。

「キョンくん、今、未来は非常に不安定な時空間になっているの。
 かろうじて現在と繋がっているような、風前の灯のようなか弱さ。」

俺の選択次第で、未来が大きく変わるから、ですか。

「そう。もしそうなればその瞬間から、朝比奈みくるという存在は消滅します」

それも、分かっていた事だ。そうならないために、朝比奈さんは未来からやってきたのだ。

878: 2009/06/28(日) 17:49:55.82 ID:nMNknPtB0
「朝比奈さんは、ハルヒを選べって言いに来たんですよね」
「半分正解。実はね、すでに私たちの未来での規定事項とは異なる事項が起きているのよ」
「どういうことですか?」

つまりね、と朝比奈さん(大)は分かりやすく説明してくれた。

朝比奈さんのいる未来に繋がるタイムラインには起こらなかった事が起こった事。
にもかかわらず、朝比奈さんのいる未来が存在を続けている事。
ある程度の時点で、現在の朝比奈さんへの未来からの指令は意味をなさなくなった事。

「要は、もう何が起こっても、どうなるか予測がつかなくなっているって事ですか?」
「そういう事。だからさっき言った私が消滅するかもっていうのも、本当は分からないの」

なんてこった。

「だからせっかくこの子に相談しようとしてくれたのは嬉しいんだけど、何も答えてあげられません」
「そうですか・・・」

未来人ならもしやと思ったが、やはりそう上手くはいかないよな。

881: 2009/06/28(日) 18:02:16.61 ID:nMNknPtB0
「でもねキョンくん」
「はい」
「だからこそ選んで。君だけの答えを」
「―――!」
「迷うと思うし、傷つくと思う。でもキョン君なら大丈夫」
「朝比奈さん・・・」

朝比奈さんが俺を優しく抱きしめる。

「こんな事しか言ってあげられなくてゴメンね」

いえ、そんな事ないです。

「無責任な事しか言えないけど、頑張ってね」

はい。

―――そこで俺の記憶は途切れた。

883: 2009/06/28(日) 18:03:21.92 ID:nMNknPtB0
「あ、起きましたか、キョンくん?」

気がつくと俺は朝比奈さんに膝枕されていた。

「朝比奈さん・・・」
「大丈夫?なんだか気を失っていたみたいだけど・・・」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「そっか、良かった」

笑顔がまぶしい。今の俺にはもったいない位だ。
チャイムが鳴っている。どうやら昼休みは終わりらしい。

885: 2009/06/28(日) 18:06:12.78 ID:nMNknPtB0
「そろそろ戻らなくちゃね」
「はい、ありがとうございました」
「キョンくん」
「はい?」

朝比奈さんは笑顔だった。

「元気出してね」

不覚にもこみ上げてくるものがあった。

いつもハルヒが起こすトラブルの周りであたふたしているだけだった朝比奈さん。
いつも笑顔でお茶を出してくれた朝比奈さん。
いくつもの笑顔が頭の中を巡っては消えていく。

ありがとうございます。朝比奈さん。
心の中で深々とお辞儀して、俺たちは屋上を後にした。

886: 2009/06/28(日) 18:08:16.89 ID:nMNknPtB0
教室に戻る、時間ギリギリだ。

「どこいってたのよ」
「天気が良かったからな。屋上で昼寝だよ」
「・・・寒いでしょ?」
「まあな。でも風さえ当たらなければ問題なかったよ」
「あっそ・・・」

いまだにいつもの元気が回復していない。

「どうかしたのか?」
「別に」

そういえば去年のこの時期もハルヒはあまり元気ないように見えたっけな。
コイツはコイツなりに色々考えるところがあるのだろう。

放課後。今日は久しぶりに真っ直ぐ部室へ向かおうとしたのだが、厄介なヤツに出くわした。

「あらキョンくん」

890: 2009/06/28(日) 18:16:48.96 ID:nMNknPtB0
朝倉涼子だ。2つ隣のクラスなので滅多に学校で顔をあわせる事はなかったんだが・・・。

「ねえ、バレンタインの事なんだけど」
「なんだ?」
「もう誰を選ぶか決まったのかしら?」

さあな。

「その様子じゃまだ決めかねている感じね」
「・・・何が言いたいんだ?」
「―――長門さんと誰かを天秤にかけるなんて事自体間違ってる―――
 って言おうと思ったんだけど気が変わっちゃった」

そうかい。てっきり俺は長門の応援に来たのかと思ったけどな。

「もし、長門さんが自己の存在を消滅しようと願っても、そうはさせないわよ」
「・・・朝倉?」

満面の笑みだ。穢れを知らない。人を頃す事を悪とも思わない、知らない。無垢で凶暴なな笑顔。

891: 2009/06/28(日) 18:18:31.26 ID:nMNknPtB0
「私の能力はかなり制限されてるけど、喜緑さんと情報統合思念体のバックアップがあるからね。
 消滅なんてさせやしないわ」
「お前・・・」
「別に、貴方のためじゃないの。ただ知りたいだけ」
「・・・何にだ?」
「私たちのような存在がどのくらい人間に近づけるのか、よ」

良く分からないな。

「最初私たちは涼宮ハルヒの観察だけを目的に作られた事は分かってるでしょう?」

ああ。

「その存在理由は即ち、涼宮ハルヒの持つ能力による自律進化の可能性」

そういやそんな事を言っていたな。

892: 2009/06/28(日) 18:20:32.76 ID:nMNknPtB0
「でも、対象の観察を続けていくうち、情報統合思念体の中である変化が起きた」

黙って先を促す。

「無駄の一切を省いて作られた長門さんに感情の芽生えが確認された事。
 そのフィードバックは『上』に新しい情報をもたらしたの」

だからなんだよ。

「長門さん自体が既に『新たな観察対象』なのよ」

・・・。

「だから私も喜緑さんも上も、どんな事になっても長門さんを消させはしない。
 ただ、それを貴方に伝えておくわ」
「・・・感謝なんかしないぜ」
「されたくて言ったんじゃないわ。ま、せいぜい頑張るのね、キョンくん」

そう言うと朝倉は背を向けて去っていった。

「・・・ありがとな。朝倉」

水曜 おわり

896: 2009/06/28(日) 18:33:23.02 ID:nMNknPtB0
「やあっ、キョンくんじゃないかっ」
「鶴屋さん・・・お元気そうで何よりです」
「そんだけが取り得みたいなもんっさー」

仮にそうであっても、それは素晴らしい取り得ですよ、鶴屋さん。

「キョンくんキョンくん」
「はい?なんでしょうか?」

ちなみに鶴屋さんは東京の四大に入るため、4月からは会えなくなる。

「アタシはねぇ、みくるのことが大好きさ。」
「え?」
「みくるだけじゃなく、ハルにゃんも、有希っちも、古泉くんも、それにキョンくん、君もさっ」
「あ、ああ、ありがとう、ございます」

どうしたんだろう?

897: 2009/06/28(日) 18:35:18.66 ID:nMNknPtB0
「キョンくんは、どうにょろ?」
「えっ?」
「みんなの事が、好きかなっ?」
「・・・はい、みんなの前では、恥ずかしくて言えませんけどね」

あっはっはと豪快に笑い飛ばす鶴屋さん。
しかしこの笑い声に一体何人の人が救われてきたんだろう。

「キョンくん、その気持ちをよく覚えておくんだよ」
「・・・鶴屋さん?」
「君は君の正義を貫ける子さっ。最後までやり遂げるんだよっ」

この人は一体ホントに何者なんだろうか。

「それじゃっ、まったね~」

ありがとうございます。鶴屋さん。

木曜 終わり

898: 2009/06/28(日) 18:37:14.73 ID:nMNknPtB0
金曜はいつものように過ごした。

ハルヒは虚勢かもしれないがいつものように元気に見えた。
古泉はにこにこと微笑をたたえながら俺とボードゲームに興じている。
長門も普段通り、指定席で黙々と読書に耽っており
朝比奈さんも美味しいお茶を淹れてくれた。

つつがなく日々が過ぎていく。

何事もなかったように、何事もないかのように。

何より尊く、何にも変えがたい時間が、まるで何でもないかのように過ぎていく。
それがどんなに幸せな事だったのか。噛み締めながら俺は家路についた。

金曜終わり

902: 2009/06/28(日) 18:48:01.23 ID:nMNknPtB0
さて、とうとう決断せねばならぬ日が明日へと迫っている。

世界の命運が文字通り俺の手に委ねられている

―――などという荷物は重たくて仕方ない。

古泉の所属する機関が調べたとおり、俺は一般人であり、主人公ではない。
いつも世界は涼宮ハルヒを中心に回ってきた。

それがなんの因果か、明日だけは俺を中心に回る。

これも『誰か』が望んだ事なのだろうか。

不意に携帯が鳴った。佐々木だ。

「やあ、キョン」
「よう。なんだか久しぶりだな」
「そうかい?こないだの日曜に話したばかりじゃないか」
「まあそれはそうなんだけどな」

くつくつと鳴る笑い声がとても心に温かい。

903: 2009/06/28(日) 19:03:48.42 ID:nMNknPtB0
「それで、明日の件なんだけどね」
「うん?」
「待ち合わせの場所と時間をお伝えしてなかっただろう?」

そういやそうだ。日曜とだけしか聞いてなかった。

「うむ。午後3時、光陽園駅前公園に、2人で待ってるよ」
「佐々木」
「ん?」
「悪いんだが、それ、『3人』に変更できるか?」

佐々木が一瞬言葉を失った。

「・・・君は、それで良いのかい?」
「ああ。頼む」
「わかった。では長門さんから伝えてもらおう」

ありがとな。

「それでは、キョン。また明日に」
「ああ。明日な」

土曜終わり

914: 2009/06/28(日) 20:15:11.86 ID:nMNknPtB0
朝起きるとメールが1通入っていた。ハルヒだ。

『有希から言われたわ。明日、駅前で待ってるから。』

ああ、待ってろよ、ハルヒ。

決着を、つけてやる。

不思議と心は落ち着いていた。

空はどんより曇り空。まるで俺の心の中の色みたいだ。

光陽園駅前公園。15時きっかりに着くと、そこには3人が待っていた。
それぞれに表情が硬い。まあ無理もないか。

916: 2009/06/28(日) 20:15:54.21 ID:nMNknPtB0
「よっ」

「やあ」
「来たわね、キョン」
「・・・」

「で、決めてきたんでしょうね」

ハルヒはなんとポニーテールだ。あいつなりの意気込みなのだろうか。

「僕はキョンの意思を尊重するよ」

佐々木はいつもの抑え目な色のインナーに茶色のコートを羽織っている。

「私も同じ」

長門は恐らく制服姿なのだろう。もちろんコートを着てはいるが。

視線をめぐらせ一呼吸。
3人の顔が一段と引きしまる。

917: 2009/06/28(日) 20:16:40.41 ID:nMNknPtB0
「長門」
「なに」
「ありがとうな。いつもお前には助けられてばかりだった」
「別に良い。気にしていない」

そんな事はない。文字通りお前は命の恩人だからな。

「佐々木」
「なんだい?」
「お前にも、ありがとうな。勉強もおかげで右肩上がりだ」
「くっくっ、何を言うかと思えば・・・大したことじゃないさ」

お前のおかげで俺はいろんな事に気づかされた。
いつかは分かっていたかもしrないが、きっとお前がいなければもっと先になっていただろうな。

「ハルヒ」
「なによ」
「お前にも礼を言わにゃならん」
「・・・何よそれ」

お前のおかげで俺の高校生活は世界で一番大変で、世界で一番盛り上がったよ。きっとな。

918: 2009/06/28(日) 20:17:30.02 ID:nMNknPtB0
「それでな、ハルヒ。お前に伝えたい事があるんだ」
「な、なによ・・・」

ハルヒの頬に朱が入る。

同時に佐々木と長門の顔に影が差した。

心の中で、腹を決めた。―――いくぜ、古泉、朝比奈さん。

「ハルヒ、聞いて驚け。朝比奈さんは未来人なんだ」
「は?」
「そして古泉はな、なんと超能力者なんだよ」
「え、ええ?アンタ何言って・・・」

ハルヒも長門も佐々木も動揺を隠せない。

「キョン、今はそんなこと―――」
「ここにいる長門にいたっては宇宙人なんだぜ」
「―――」
「そ、そんな事を聞きに来た訳じゃないわ!あ、アタシは・・・」

ハルヒに冷静になる間を与える訳にはいかない。ここが勝負だ。

919: 2009/06/28(日) 20:18:14.01 ID:nMNknPtB0
「何言ってるんだよハルヒ。お前の探してたものが全部揃ってるんだぜ?」
「そんなの信じられる訳ないでしょ!?」
「なんで信じられないんだ?」
「だ、だってアタシが適当に選んできた団員が全員そんなのだなんて―――」

「ああ、偶然にしちゃ出来すぎてるよな。でも事実には違いない」
「もう!そこまで言うからには何か証明できる訳!?」

ようやっと食い付いてくれたか。やれやれだな。

「できるんだ、それが」
「え?」

佐々木も長門も黙ってこちらを凝視している。

「ハルヒ、お前、中学の時に東中の校庭に石灰で謎のメッセージ書いたよな?」
「それがなんだってのよ。そんなの誰でも知ってるわよ、新聞にも出たんだもの」
「でもさ、ハルヒ」
「なに」
    
「それ、実際やったのはお前じゃなかったよな」

921: 2009/06/28(日) 20:18:56.83 ID:nMNknPtB0
「―――え」
「古泉、朝比奈さん、長門。それぞれが超能力者、未来人、宇宙人だと言ったがな、俺は普通の人間だ」

「でもな、1つだけお前に隠してる事がある」

「な、に?」

「俺のもう1つの名前はな、―――ジョン・スミスっていうんだ」

「ジョン―――スミス―――!?」

どんよりとしていた雲の隙間から光が差す。

不審の色に満ちていたハルヒの顔に輝きが戻る。

当惑で鈍っていたハルヒの瞳に光が戻る。

ハルヒが、世界が、急激に色と力を取り戻す。

922: 2009/06/28(日) 20:19:52.94 ID:nMNknPtB0
「ハルヒ、俺はお前の事が好きだ」

「―――ョン―――」

どちらの名で俺を呼んだのか。分からない。

「そして俺は佐々木も長門も、古泉も朝比奈さんも好きなんだよ」

「俺はみんなが好きなんだ。この世界が、好きなんだ」

「―――ン―――」

光の洪水が全てを押し流していく。

「だから誰か1つなんてまだ選べない。」

「俺は全ての可能性と未来を選びたい、違う。まだどんな可能性も未来も切り捨てたくないんだ」

「―――それが、アンタの選択なの?」

「ああ、そうだ。それがようやく分かったんだ」

「そっか・・・アタシにもようやく分かった事があるわ」

「―――なんだ?」

923: 2009/06/28(日) 20:21:50.20 ID:nMNknPtB0
「アタシはアンタが好き」

「!」

「だから―――」

くるっと周り、驚く佐々木と長門を一瞥して、快哉を叫んだ。

「これからはアンタたちにも負けないからね、覚悟しなさいよ!」

佐々木と長門が目を大きく開き、転じて笑顔になる。

「望むところだよ、涼宮さん」

「私も、負けない」

意識が、遠のく。

結局俺は何か1つなど選べやしなかった。
だってそうだろ?何も今全てに決着をつける事はないんだ。

気がつくとそこは俺の部屋であった。
出かけた時の格好で布団に横になっていた。

「・・・世界は、どうなったんだ?」

924: 2009/06/28(日) 20:22:53.65 ID:nMNknPtB0
携帯のカレンダーは2/15を表示している。時刻は朝6時47分。

前にもこんな事があったな。ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められた翌日だ。
奇妙な夢、という事に暗黙のうちになっていたが、今度はどうなっているのか。

制服に袖を通し、朝食をとり、学校へと急ぐ。

2年5組。俺の席。その後ろにはポニーテールのハルヒがいた。
俺を見つけるなり不敵に笑った。

「よう」
「おはよ」

「やあキョン、おはよう」
「佐々木!?」

「あらおはよう佐々木さん。でもアンタの席はアッチよ」
「担任の先生が来るまではどこにいて誰と話していても良いでしょ?」

これは、どうなってるんだ?

930: 2009/06/28(日) 21:07:50.46 ID:nMNknPtB0
「昨夜、世界改変が行われた」
「長門!?」
「世界は歪みを修正及び矯正された。
 これにより朝比奈みくるの存在する時間平面まで繋がる可能性も元通り」
「・・・じゃあ朝比奈さんが消える事はないのか?」
「ほぼないと断言できる」

そうか、その世界改変の影響で佐々木は進学校から
北高に『最初から編入していた』事になっていると。

「ちなみに私の席はあなたの前」
「ちょっと有希!何してるのよ!」
「あ、キョン。僕は君の隣だ。よろしく頼むよ。なにせ見知らぬ学校だからね」

「佐々木さん!手を握って何してるのよ」
「単なる握手さ」
「それにしちゃ随分長いじゃない!」

931: 2009/06/28(日) 21:10:21.91 ID:nMNknPtB0
「おや、随分と賑やかですね」
「よう、古泉。なんだかとんでもない事になっちまったよ」
「・・・まさか誰も選ばない、という選択肢を選ぶとは夢にも思いませんでしたよ」
「ご都合主義だと思うか?」
「いいえ、誰も失われていない。それどころか得た物があるならそれは――」

―――それはハッピーエンドと、言えるんじゃないでしょうか?


~決戦は日曜日 終わり~

950: 2009/06/28(日) 21:41:40.88 ID:nMNknPtB0
一緒にショッピング編


駅前にショッピングモールが出来たらしいという事で
佐々木からメールがあった。

『今度の土曜、長門さんと買い物に行くんだが一緒にどうかな?』

買い物か。丁度俺も夏物が欲しいと思っていたところだ。
ご一緒させてもらうことにしよう。

「キョン、遅い遅い」
「悪い、待たせたか?」
「問題ない。お互い5分12秒前に到着した」
「な、長門さん・・・」

さて、2人とも何を買うんだ?

「まぁまぁ、見て回るのもショッピングの醍醐味さ」
「そうだな」

951: 2009/06/28(日) 21:42:38.57 ID:nMNknPtB0
モールはさすがに出来たばかりという事もある、かなりの人手だ。

「離れたら危険だね」
「ああ、そうだな。ほら、2人とも―――」
「うん、ありがとう」

2人と手を繋ぐ。

だがしかし、これが既に2人の罠だとは思わなかったのだ。


「さぁ、キョン。これなんてどうかな?」
「・・・」

目が痛い。

「あ、長門さん、それ可愛いね。似合うんじゃないかな」
「・・・・・・おい」

頭が痛い。

「これは貴方に似合う色。良い」
「・・・・・・・・・佐々木、長門」
「なんだい?」

ええい、ニヤニヤしおって!

952: 2009/06/28(日) 21:43:28.45 ID:nMNknPtB0
「なんで女性用下着専門店に入らにゃならんのだ!」
「買い物だと言ったろう?」
「俺が店に入る必要はないだろう?外で待ってれば良いじゃないか、な?」

長門がじっと俺を凝視する。

「―――いつか、貴方が見ることになるかもしれない」
「っ!」

なっ、なんて事を言いやがる、長門!

「だね、その時にキョンを幻滅させるような下着を身に着けていては問題だ」
「だから貴方の意見が必要」

いやいやいや。どっから突っ込んで良いのかわからんぞ!

「お、これも可愛い。そうだな。長門さん、試着してみるかい?」
「全面的に賛成」

「じゃあ俺は外で―――って、いい加減、手を離せ!」
「もちろん、君にも査定してもらわねば」
「義務」

「かっ、勘弁してくれえっ!」


ショッピング編 終わり。

956: 2009/06/28(日) 22:04:11.25 ID:nMNknPtB0
耳レOプ


今日も今日とて我が家で読書に耽るいつもの3人。

つまり俺、佐々木、そして長門なのだが
ちょっと今、俺は特殊な状況に置かれている。

時間を10分ほど遡ろう。

「うーむ」
「? どうしたんだい、キョン?」

「ああ、いや大したことじゃないんだがそろそろ耳掃除をすべきかなと思ってな」
「なるほど、ではせっかくだ。僕にやらせてもらえるかい?」

いや、さすがにそれは申し訳ない。綺麗なもんじゃないしな。

「気にする事はないさ。ほらほら」

そこまで言われては断りづらい。

「それじゃよろしく頼む」
「ああ、優しくするよ」
「・・・それはなんとなく違う」

くつくつと笑う佐々木を見上げる。いわゆる膝枕だ。

957: 2009/06/28(日) 22:05:33.18 ID:nMNknPtB0
「それじゃ、入れるよ」
「・・・お前、シラフか?」
「失礼な。当たり前だろう」

と、耳かきが入ってくる。

「ふむ、確かに少々汚れているね・・・おや、ここに大きな耳垢が」
「お願いしている身で悪いが実況は勘弁してくれ。恥で氏ぬかもしれん」
「それは困ったな。では自重しよう」

で、長門さん?なんでそんなにこっちを凝視しておられるんでありましょうか?

「初めて見る。ユニーク」
「お前たちは耳垢って出ないのか?」
「出ない」
「そうか、そりゃ便利だな」

会話の間にも佐々木は丁寧に耳掃除をしてくれる。

「上手いな、佐々木」
「そうかい?よくわからないな」

くつくつ笑う佐々木はなんだか楽しそうだ。

「よし、あとは綿棒で周りをきれいにして終わりだ」
「ありがとな。助かったよ」
「くっくっ、どういたしまして」

佐々木の膝枕に名残惜しさを感じつつも身体を起こす。

959: 2009/06/28(日) 22:06:28.34 ID:nMNknPtB0
「・・・」
「佐々木?」
「ちょっとキョン、動かないでくれたまえ」

真剣な声だ。耳にゴミが残っていたのだろうか?

「はむっ」
「#$*%□&*?ωΩ△!?」
「あっ」
「佐々木、何すんだ!」

耳を、噛んだだと!?

「いや、我ながら綺麗にできたのでつい」
「真顔で言うな!驚いたじゃないか!」
「ああ、驚かせてすまないね」
「いや謝るのそこかよ!」

俺は佐々木の不意の攻撃に対する抗議に必氏で
この部屋にもう1人いる事をこの時ばかりはすっかり失念していた。

変なところで負けず嫌いなアイツだ。

「はむっ」
「ソ∟〆⊿>∧↓▲ →≒∠∽∫!!」

長門っ!おまっ!

「不公平」
「だからそういう問題じゃ・・・」

960: 2009/06/28(日) 22:07:30.93 ID:nMNknPtB0
「はむっ」
「さっ、佐々木ぃ!」
「なかなか柔らかくて良い噛み心地だよ。思いのほかハマってしまうかもしれない」

はっ。

「な、長門、落ち着け」
「不公平」
「いやだから」
「不公平」

「こら佐々木っ、見てないで・・・」
「ははっ、そうだね」

これで地獄(兼天国)から解放される・・・。

「じゃあ僕は右耳を頂こう」

やめれえええええっ!


耳レOプ 終わり

971: 2009/06/28(日) 22:46:43.24 ID:nMNknPtB0
傘を忘れた


パタン。

長門が本を閉じる。部活の終わりを告げるチャイムの代わりだ。
外はあいにくの雨。ま、梅雨だしな。傘の準備もぬかりなしだ。

「では帰りますか」
「ああ」

と、不意に袖を引っ張られた。

「長門?」
「傘がない」

長門の後ろに綺麗に2つに折られた傘があるのは気のせいか。

「相合傘というものをお願いする」

また珍しい単語が長門から飛び出したもんだ。

「構わんぞ、マンションの前までで良いか?」
「ありがとう」

972: 2009/06/28(日) 22:47:28.09 ID:nMNknPtB0
校舎の玄関口まで降りてきてハルヒが長門の傘がない事に気づいたらしい。

「あら、有希。傘ないじゃない」
「大丈夫。彼と一緒に下校する」
「えぇっ!?キョンと?」

なんかまずいのか?

「あ、当たり前じゃない!有希は繊細でか弱いのよ。キョンが襲ったりでもしたら・・・!」
「お前な・・・団員をもうちょい信用できんのか」
「良いのよ、アンタのことは。有希、アタシと帰る?」

そんなに心配か。

「大丈夫。彼なら雨に濡れても平気。貴方では心配」
「有希・・・」

いやそこ感動するとこじゃねーぞ。

「ま、良いわ。有希の顔と心遣いに免じて許してあげる。
 でもキョン。有希に何かあったら承知しないわよ!」

お前のその思いやりを1割で良いから俺の方にも向けてくれんかねぇ。

という事で長門と雨の帰り道を相合傘で帰る。
この傘は男性用で広げた時の幅が大きいから、ほぼ長門の方もカバーできている。はずだ。

973: 2009/06/28(日) 22:49:46.29 ID:nMNknPtB0
「・・・長門」
「なに」
「あー、相合傘なんだがな。その、良いもんか、これ?」
「良い」
「そっか。なら良いか」
「そう」

実際そこまで良いものかどうかは分からんが、まぁ、長門がそれで良いと言うなら良いのだろう。

長門は黙って横を歩く。

心なしか、寄り添ってきたような気がする。
表情は見えない、が。

なんとなく、口元が緩んでいるように見えた。

なんとなく、な。


傘を忘れた 終わり。

975: 2009/06/28(日) 23:00:43.92 ID:nMNknPtB0
そろそろ人がいなくなったっぽいかな・・・

まさかここまでスレが伸びるとは思いませんでした。
マジでみなさんありがとう!
みんな大好きだぁぁぁぁああ!

978: 2009/06/28(日) 23:05:54.91 ID:WFZLmeXP0
おつおつ

引用: 佐々木「・・・。ペラッ」長門「・・・。ペラッ」キョン「・・・。」