1: ◆NOC.S1z/i2 2014/08/03(日) 17:48:23.72 ID:tSL8unvMo
2: 2014/08/03(日) 17:49:25.46 ID:tSL8unvMo
「ん……?」
杏は目を覚ます。
「きらり?」
寝惚けた頭は自分がどこにいるのかを忘れ、きらりの名前を呼んでみる。
「……あー、そっか、ここ、きらりの家じゃなかったっけ」
昨日まではきらりの家に泊まっていたのだから、間違えるのも仕方ない。と杏は自分を納得させる。
杏の家のエアコンが三日前に故障、それからまずはきらりの家に泊まり、昨日からはここに泊まっているのだ。
「あー、そっか、ここで寝ちゃってたのか」
杏は目を覚ます。
「きらり?」
寝惚けた頭は自分がどこにいるのかを忘れ、きらりの名前を呼んでみる。
「……あー、そっか、ここ、きらりの家じゃなかったっけ」
昨日まではきらりの家に泊まっていたのだから、間違えるのも仕方ない。と杏は自分を納得させる。
杏の家のエアコンが三日前に故障、それからまずはきらりの家に泊まり、昨日からはここに泊まっているのだ。
「あー、そっか、ここで寝ちゃってたのか」
3: 2014/08/03(日) 17:50:23.47 ID:tSL8unvMo
ここは、事務所の仮眠室である。
時計を見ると昼の一時。
「さすがに、起きようかな」
お腹もすいてきたことだし。
事務室まで行けば何かあるだろう。事務室隅のミニキッチンには冷蔵庫もあったはず。
「うああ」
大欠伸をしながら事務所に行くと、そこには大原みちるがいる。
というか、みちるしかいない。ちひろもPもいない。
「あれ、杏さん。いたんですか」
「いたよ、昨日の夜からずっといたよ」
4: 2014/08/03(日) 17:50:52.65 ID:tSL8unvMo
「お泊まりですか?」
「まーね」
ごそごそと戸棚を探る杏。
「あれ、何にもないね」
いつもならカップラーメンやお菓子の一つはあるというのに。
「なんで今日に限って何にもないのさ」
「そういえば、銀行のついでに買い出しに行かなきゃならないって、ちひろさんが言ってましたね」
5: 2014/08/03(日) 17:51:18.74 ID:tSL8unvMo
「みちるは留守番なの?」
「そうですよ」
「ふーん……ところでさ」
「はい?」
「さっきから何食べてるの?」
「パンですけど」
「ずっと食べながら話してるよね、器用だね」
6: 2014/08/03(日) 17:51:46.48 ID:tSL8unvMo
「ふふふふふ、台詞がいつも『ふごっふごっ』しかないと思ったら大きな間違いですよ」
「ゴン太くんと間違えそうになるよ」
「いえいえ、ゴン太くんは杏さんですかね」
「なんで」
「いつもノッポさんと一緒にいるじゃないですか」
「よぉし、きらりの前でもう一度同じこと言ってもらおうか」
「すいませんでした、先輩」
7: 2014/08/03(日) 17:52:17.63 ID:tSL8unvMo
「わかればよし」
ぐーっ
杏の腹の虫が鳴いた。
「……あ」
「お腹すいてます?」
「うん」
「パン食べます?」
8: 2014/08/03(日) 17:52:45.47 ID:tSL8unvMo
「ありがと」
「食べかけですけど」
「は?」
「今囓っているのが最後の一個なんですよ」
「それしかないの?」
「はい」
「やあ、食べかけをもらうのはさすがに」
9: 2014/08/03(日) 17:53:12.15 ID:tSL8unvMo
「そうですか? 私は気にしませんけど」
「いやいいよ、それはみちるが食べちゃって」
「そうですか? それじゃあ遠慮なく」
齧りかけのパンをそのまま一気に咀嚼するみちる。
あまりの迫力に杏は思わず一歩退いていた。
「そんなに怖がらないでください……怖いですかね?」
「なんかね、一緒に食べられそうな気がするんだよ」
「そうなんですか?」
10: 2014/08/03(日) 17:53:38.64 ID:tSL8unvMo
「うん」
「あっはっはっ、この前、仁奈ちゃんが走って逃げました」
「完全に怖がってるよね、それ」
「いや、食べませんよ。パンじゃあるまいし」
「仁奈がパンだったら食べるの?」
「んー、事務所の仲間ですから、我慢しますかね」
「ほっ」
11: 2014/08/03(日) 17:54:09.78 ID:tSL8unvMo
「五分くらいは」
「短いよ!」
ぐーっ
叫ぶと腹の虫が鳴る。
「鳴ってますね」
むしゃむしゃ
許可はもらっているので、みちるは遠慮なく食べ続けている。
12: 2014/08/03(日) 17:54:39.46 ID:tSL8unvMo
「なんかないのかな」
再び戸棚に向かった杏。しかしさっきまで何もなかったところに突然現れるわけがない。
「こんにちわー」
そうこうしているうちに事務所に一人やってきた。
「あれ、みちるさん一人ですか?」
「杏さんもいますよ」
杏が顔を出すと、そこには椎名法子。
13: 2014/08/03(日) 17:55:09.52 ID:tSL8unvMo
「あ、法子ちゃん」
「こんにちは。お二人だけなんですか?」
そうだよ、と答えつつ杏は法子に近づいて、
「ねえねえ」
「はい」
「ドーナッツちょうだい」
手を伸ばす。
14: 2014/08/03(日) 17:55:40.52 ID:tSL8unvMo
「……あ、今は持ってませんけど」
「偽者だ!」
杏の叫びにみちるも乗っかる。
「偽者ですね!」
「はい?」
二人の叫びに一歩退く法子。
「本物の法子とドーナッツを出すんだ! 杏はチュロスがいい」
15: 2014/08/03(日) 17:56:07.09 ID:tSL8unvMo
「出すんですよ。あたしは、ハニーツイストでいいです。パンがあればもっといいです」
「いや、パンはいらない」
素に戻る杏。その杏に向き直るみちる。
「パンは大事ですよ?」
二人の間に入る法子。
「あの、どっちにしてもパンも持ってませんから」
「ちっ」
16: 2014/08/03(日) 17:56:36.52 ID:tSL8unvMo
「今みちるさん舌打ちしましたよね?」
「しかし、断固、杏はドーナッツを要求する」
「だからドーナッツもないんですって」
「偽者だ!」
「偽者ですね!」
「話がループしてますよ!?」
「円を描くように?」
「ドーナッツだけに」
17: 2014/08/03(日) 17:57:11.68 ID:tSL8unvMo
ヒューと口笛を吹いて手を合わせる杏とみちる。
おかしな友情が誕生した瞬間だった。
「つきあいきれません」
肩をすくめてソファに座る法子。
「Pさんもちひろさんもいないんですか?」
「Pさんはお仕事。薫ちゃんたちを送っていきましたよ。ちひろさんは銀行」
「みちるさんが留守番で、杏さんが寝てたんですね」
杏がすかさず抗議の声を上げる。
18: 2014/08/03(日) 17:57:37.92 ID:tSL8unvMo
「杏はいつも寝てると思われてるのか。酷い風評被害だね」
「違うんですか?」
「違わないけど」
ぐーっ、と、三度杏の腹の虫。
「お腹減ってるんですか?」
「まぁね」
「何もないんですか?」
19: 2014/08/03(日) 17:58:04.55 ID:tSL8unvMo
「ない。見事に何もないんだよ。杏を餓氏させる気だね、これは」
「何もないんだったら、出前でも頼みましょうか」
「うーん、財布持ってたっけ」
杏が言うと、みちると法子も首を振る。
「事務所からならツケでなんとかなりませんかね?」
「勝手にそんなことしていいんでしょうか」
「んー、前に早苗さんがそれやって、ちひろさんに怒られてたような気が」
20: 2014/08/03(日) 17:58:33.67 ID:tSL8unvMo
早苗が素直に怒られるレベルなら、この三人では瞬殺である。
「……せめてお茶でも煎れましょうか」
「どこかに紅茶かコーヒーがあったような……」
見事になかった。
「ここまで何もないとは」
何もないと言われると余計に腹の虫が鳴り響く。二分ぶり四度目。
法子が冷蔵庫を開けた。
「冷蔵庫も空っぽですね、アイスノンと氷、あとマヨネーズとケチャップと日○キャノーラ油、ビールはありますけど」
21: 2014/08/03(日) 17:59:08.48 ID:tSL8unvMo
「寮に行けば何かあるんじゃないですかね」
「あ、乾電池がいっぱい冷やしてある」
「寮まで動きたくないなぁ」
「そこは我慢してください」
「ん? エレベータが上がってきたよ」
地下室に通じているエレベータが動いていた。
地下からということは、外から帰ってきたわけではない。
地下にあるのは倉庫や機械室。そして池袋ラボだ。
きゅらきゅら
22: 2014/08/03(日) 17:59:43.73 ID:tSL8unvMo
エレベータから出てきたのはウサミンロボ。背中にリュックを背負っている。
池袋晶葉が池袋科学の粋を尽くして開発したウサちゃんロボ。
そのウサちゃんロボの一部に、異星の超科学ウサミン科学による改修を加えてハイパー化したのが、ウサミンロボである。
うさーうさー
ウサミンロボは三人に挨拶すると冷蔵庫へと向かう。
ぱこん、と冷蔵庫を開けて、日○キャノーラ油を取り出すと、頭の耳を取り外して、現れた穴にキャノーラ油を流し込む。
うさ……うさ……けぷっ
「何今の」
23: 2014/08/03(日) 18:00:15.08 ID:tSL8unvMo
「燃料補給ですかね」
「ウサミンロボ、キャノーラ油で動くんだ……」
「しっぽがコンセントだから、電動だと思ってたのに」
「ハイブリッドですかね、色々と」
「でも、さすがにキャノーラ油は……」
けぷっ……けぷっ……うさ
一本全部のみ終えたロボは、リュックから新しいボトルを数本出すと、冷蔵庫に詰めていく。
あれだけあれば、一本ぐらい油以外の物がないのか、と杏はふと思った。
24: 2014/08/03(日) 18:00:45.94 ID:tSL8unvMo
「ロボ、それ全部キャノーラ油なの?」
うさ?
杏の問いに振り向いたロボは首を振って、ボトルを一本見せる。
日○ヘルシーリセッタ
「……うん、確かにキャノーラじゃないけど……うん、なんかごめん」
ぐーっ
思わず謝る杏の腹の虫がまた鳴った。五度目である。
うさ?
25: 2014/08/03(日) 18:01:13.35 ID:tSL8unvMo
よく冷えたキャノーラ油を冷蔵庫から取り出すロボ。ふたを開けると、杏に渡そうとする。
「え? あ、いや、気持ちはありがたいけど」
うさうさ
ぐいぐいとアピールするロボ。
「いや、飲めないから」
ぐいぐいとアピールするロボ。
うさうさ
26: 2014/08/03(日) 18:01:39.54 ID:tSL8unvMo
「……いや、だからね、飲めないって」
ぶもっ
ウサミンロボを押しのける茶色い巨体。
ブリッツェン。
ぶもっぶもっ
なにやら抗議のような声を上げてウサミンロボを威嚇している。
【人間はそんな油ばっかり飲めない】と言っているのだろうか。
「おおう、いつの間に来たのか知らないけれどありがとう、ブリッちゃん」
ぶもっぶもっ
27: 2014/08/03(日) 18:02:08.19 ID:tSL8unvMo
ブリッツェンは杏の前にくわえていた何かを置いた。そして鼻面でそれを杏に向けて押しやる。
「え、なに、それ」
みちるがうなずく。
「苔ですね。それ。トナカイのご飯です」
「ブリッツェン、苔食べてるのか」
「普通の苔じゃないですよ。ブリッツェンが食べるのは、ペギミンHが含まれている特別な苔だって、イヴさんが言ってました」
ぶもっぶもっ
苔を押しやりながら杏に近づいていくブリッツェン。
28: 2014/08/03(日) 18:02:39.28 ID:tSL8unvMo
「あ……うん、気持ちはうれしいけど、苔も食べられないよねぇ……ねえ?」
ブリッツェンとウサミンロボに挟まれた杏は、別の方向へ逃げようとする。
……
「あ」
そこには、一匹のカブトムシ……をくわえたヒョウくんが。
じりじりと杏に近づいていく。
「まさか、杏にカブトムシを恵むつもりじゃないよね?」
じりじり
29: 2014/08/03(日) 18:03:08.03 ID:tSL8unvMo
「えーと……」
じりじり
ぶもっぶもっ
うさうさ
「二人とも、見てないで……」
杏は助けを求めるが、みちると法子の姿はいつの間にかない。
「裏切り者ぉおおお!!」
じりじり
ぶもっぶもっ
うさうさ
「杏は油も飲まないし、苔も食べないし、カブトムシも食べないよ!!」
30: 2014/08/03(日) 18:03:35.47 ID:tSL8unvMo
じりじり
ぶもっぶもっ
うさうさ
「ううう……」
じりじり
ぶもっぶもっ
うさうさ
にょわ
「にょわ?」
ヒョウくんとブリッツェンとウサミンロボが宙に浮いていた。
いや、それぞれ尻尾、角、耳を捕まれ持ち上げられているのだ。
31: 2014/08/03(日) 18:04:01.34 ID:tSL8unvMo
じたばたじたばた
ぶもっ? ぶもっ?
うさっ? うさっ?
「杏ちゃんを苛めるいけない子はメッすゆよ?」
じたばたじたばた
ぶもっ? ぶもっ?
うさっ? うさっ?
「みんな、いけない子だにぃ」
一匹と一頭と一機が壁に並べられる。
「冗談が過ぎちゃう悪い子は~、きらりも本気で怒ゆよ?」
32: 2014/08/03(日) 18:04:27.99 ID:tSL8unvMo
がくぶる
がくぶる
がくぶる
「きらり? どうしたの?」
「杏ちゃんがそろそろ起きゆかなぁ☆って」
包みを差し出すきらり。
「はい、朝昼兼用ごっはーん」
「おおー」
そういえば、昨晩はきらりも事務所にいたような、と思い出す杏。
33: 2014/08/03(日) 18:05:06.89 ID:tSL8unvMo
「杏ちゃんが事務所でねむねむー☆だったから、きらりはお家に帰ったんだにぃ」
「ご飯がないないだったら杏ちゃん悲すぃ? と思って、作ってきちゃったミ☆」
「ありがとね」
「一緒に食べゆ?」
じりじり
ぶもっぶもっ
うさうさ
これは一匹と一頭と一機の反撃の狼煙ではない。後退しているのだ。
二人から離れるようにそっと……そっと……
そしてエレベータの中に逃げ込むと、ウサミンロボが地下のボタンを押す。
降りていく一匹と一頭と一機。
それを視界の隅に捉えてにょわにょわと笑っているきらり。
34: 2014/08/03(日) 18:05:38.36 ID:tSL8unvMo
「じゃ、食べようか」
「はい、杏ちゃん、あーん」
「それはいいってば……」
「うふふ~、だーれも、見てにゃあよ~☆」
一方その頃事務所前では……
事務所に入ろうとするちひろを、みちると法子が遮っていた。
「なにやってるの?」
35: 2014/08/03(日) 18:06:05.76 ID:tSL8unvMo
「いや、お邪魔かなって」
すっと背伸びして、二人の頭越しに中を覗き見るちひろ。
「……みちるちゃん、法子ちゃん」
「はい」
「買い出し忘れてたからもう一度出かけるけれど、一緒に行く?」
「はいっ」
「なんだか必要以上に暑いから、冷たいものでも飲んでゆっくりしましょうか」
そう言って、ちひろはニッコリ笑うのだった。
36: 2014/08/03(日) 18:07:37.66 ID:tSL8unvMo
以上、お粗末様でした
「Pときらりがいなければ杏は生きていけない」という本編ゲームでの言葉に感銘を受けました。素晴らしい。
「Pときらりがいなければ杏は生きていけない」という本編ゲームでの言葉に感銘を受けました。素晴らしい。
37: 2014/08/03(日) 18:29:17.00 ID:GKTDj8hj0
乙ー
引用: 杏「お腹がすいた」
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