216: 2009/01/01(木) 02:01:08 ID:nyM/XSTZ
新年を迎えたミーティングルームには紙吹雪が舞っていた。
「イェーイ、ハッピーニューイヤー!」
「いえ~」
シャーリーとルッキーニだ。いつ用意したのか、天井から紙吹雪を部屋中に撒き散らしている。
「何だこれは」
ソファーに腰掛け、エーリカの肩を抱いたトゥルーデが不思議そうに眺める。
「あたしの国はね、街中こうやって紙吹雪散らして新年を祝うんだ。ホントは花火も打ち上げるんだけどそれは流石にね」
「なるほど。リベリオンらしい派手な祝い方だな」
エーリカの頭にとまった紙切れをそっとはらってやるトゥルーデ。
「ちょっぴり雰囲気出るね」
エーリカはそう言うと、トゥルーデの胸についた紙切れをつまむ。
「へえ、結構手が込んでるね」
じっと見つめて、トゥルーデに向かいニヤリと笑い、話し掛ける。
「ねえトゥルーデ……」
「エーリカ、お前の言いたいことは何となく分かるぞ」
「ならいいや。今度楽しみだね」
「どんなプレイになるんだ……」
エーリカはトゥルーデに頭を寄せてくつろいだ。
奥の長椅子では野苺のジャムをお茶請けに、紅茶を飲むエイラとサーニャの姿が有った。
「オラーシャのお茶請けは甘いナ」
「うん。ハチミツとか砂糖も一緒に舐める。でも、お茶には入れない」
「変わってるヨナ……まあ、スオムスも肉料理にジャム添えたりするけどナ」
「変わり者同士ね」
小さく微笑んだサーニャに脳天をやられ、顔を赤くするエイラ。
「なあサーニャ。こ、今年コソ……今年……コト……」
「なあに、エイラ?」
「今年もヨロシク」
「私も」
サーニャに手を柔らかく握られ、びくりとするエイラ。固まったままのエイラの身体に、サーニャはぽんと頭を預けた。
自然と肩を抱く格好になり、かちこちのままだけど、幸せなひととき。
「エイラってば、緊張してるよ」
様子を見てふふ、と笑うエーリカ。
「人それぞれさ」
「まあね。トゥルーデ、カッコ付けてる?」
「そんなんじゃないよ」
ペリーヌとミーナは、珍しくテーブルに向かい合って何かを話している。
「中佐。今年こそ、ガリア奪還を目標にしたいと思います」
「そうね。まずはガリア奪還を足がかりに、カールスラント、オストマルクと行けば良いのだけれど」
「わたくしもガリア出身の身として、去年以上に頑張りますので……」
「期待してるわ、ペリーヌさん。……そう言えば、ガリアでは新年のお祝いとかは無いの?」
「ガリアですか? 新年に『ガレット・デ・ロワ』と言うパイ菓子を切り分けて食べるのが伝統となっております。
中にひとつ、『フェーヴ』と言う陶器の小さな人形が入っているのが特徴で、これに当たった人は
一日女王様になれると言う習慣がありますのよ」
「あら、面白いわね。皆でやったら盛り上がるんじゃないかしら?」
「……その、わたくし、料理はあんまり」
「あら、そうなの……残念ね」
ストライクウィッチーズ 劇場版

217: 2009/01/01(木) 02:02:54 ID:nyM/XSTZ
台所では、芳佳とリーネが大鍋に向き合い、美緒が横で様子を見ていた。
「坂本さん、お雑煮出来ました」
「ごくろう、宮藤、リーネ」
「私は、お手伝いしただけですから」
「あっはっは。良いんだリーネ。宮藤ひとりだけだと難儀したからな。お前が居てくれて助かる」
「リーネちゃん、本当に今度扶桑に来ない? 色々リーネちゃんに教えたい事とか、見て貰いたいもの、
たくさんあるんだよ?」
「ホント? 嬉しい、芳佳ちゃん」
照れが混じった微笑みを浮かべるリーネ。芳佳の口からも「扶桑に来ないか」と言われ、心が揺らいでいる様子。
「さて、お屠蘇の方はどうだ?」
「みりんとお酒、砂糖、それにロンドンの市場で手に入ったハーブを代用して作ってみました。どうでしょう?」
芳佳から味見用の皿に数滴出される。
「どれどれ」
ぺろりとなめてみる美緒。
「代用品を使ったにしては上出来だ。雰囲気出てるぞ」
「ありがとうございます」
「芳佳ちゃん、『オトソ』って何?」
「うーんとね。お正月のお祝いのお酒なんだけど……坂本さん、ご存じですか?」
「扶桑で新年に飲む祝い酒だ。これを一家全員で飲んで、一年間の邪気を払い長寿を願うと言うものだ」
「魔除けのお酒ですか」
「そうとも言えるな」
「でも、扶桑のお酒は……」
「ああ、アルコールはそんなに高くないから大丈夫だろう。いつぞやの酒盛りみたいに悪酔いはしない筈だ」
「そう、ですか」
「よし宮藤。早速皆の居るミーティングルームに持っていくぞ。リーネも手伝ってくれ」
「はい!」

ミーティングルームに、雑煮の柔らかな匂いが漂う。
「お、料理が来た」
「何だろウ?」
「あら坂本少佐、今度は何かしら」
「扶桑の正月祝いには欠かせない、雑煮とお屠蘇だ。雑煮は諸説あるが、正月に食べる伝統の料理だ。
お屠蘇は、魔除けと長寿を願う酒なんだ。……少し位なら、良いだろミーナ?」
「少しって、どれくらい?」
ミーナが顎に指をやり質問する。
「この盃一杯だ」
「あら、それだけ?」
返って来た言葉に拍子抜けする美緒。
「なら、良いよな」
「ええ」
「よし、なら早速いこう。我々501の武運長久を祈って。まずはルッキーニからだ」
「ハニャ? あたしから? なんで?」
「この酒は、若い者から順に飲んでいくのが扶桑のしきたりなんだ」
「へえ~。じゃあもらうね」
盃一杯をぺろりと飲んでしまうルッキーニ。
「甘いね。あと何か薬っぽい味する」
「扶桑の材料無かったから、ロンドンの市場で買ったハーブ使ったの。味は近いよ?」
ルッキーニの感想に、説明してあげる芳佳。
「ふ~ん。面白いの」
「次はサーニャか」
「いただきます……」
「別に毒は入ってないぞ。大丈夫だ」
酒器を手に、笑う美緒。
「さあ、次、どんどん行け。後は皆歳が近いから、適当に来い来い」
次々と飲んでいく一同。

218: 2009/01/01(木) 02:04:06 ID:nyM/XSTZ
やがて年長者……と言っても幾つも違わないが……に盃が回ってきた。
「ミーナ、さあ、飲んでくれ」
「こんな少しじゃ酔えないわよ?」
「これは酔うものじゃないさ。あくまでも儀式的なものだ」
「あら、面白い味ね。薬っぽくて、甘くて。もう一杯頂けないかしら?」
「良いぞ?」
ぐいと盃を開けるミーナ。
「気に入って貰えて何よりだ」
「坂本さん、お注ぎします」
「おお、すまんな」
美緒も芳佳に勧められ、ぐいと盃を空けた。
「さて、雑煮を食べよう。冷めないうちにな」
めいめいに雑煮の入ったお椀と箸が手渡される。
「これも餅……」
「ペリーヌ、餅が嫌いなら調理法を変えるが」
「いいえとんでもない! せっかくの扶桑の祝いを台無しにする程わたくしは……」
「小さくちぎって噛めば大丈夫だ」
美緒は頷いた。
「お雑煮と言っても地方によって全然味とか入れるものが違うんですけど、私の実家の味で作りました。どうですか?」
「さっぱりしてるね。例の扶桑のソイソースがベースなのかな?」
シャーリーが一口食べて芳佳に聞く。
「ええ。お餅と、鶏肉を入れて、後は彩りの野菜を少し」
「よ~し、これ食って今年も元気に行くか! なあルッキーニ」
「ウニャー お餅のびるぅ~」
「つきたてだからな」
笑う美緒。餅をついて良い感じに仕上がったので満足感もひとしおだ。
「扶桑の料理って変わってる……」
「不味くはないけどナ。面白いナ」
ちまちまと雑煮をつつくエイラとサーニャ。
「ペリーヌ、用心しろよ?」
「ええそれはもう!」
慣れぬ箸を使ってのびる餅と格闘するペリーヌ。
「餅か。ゲル状の携帯保存食……」
「観察は良いから食べようよトゥルーデ」
「芳佳ちゃん、美味しいよ?」
「有り難うリーネちゃん!」
美緒も雑煮をさっと平らげると、豪快に笑った。
「これで501も安泰だ。なあミーナ?」
部隊指揮官の方を振り返り、美緒は固まった。
ミーナが居ない。お屠蘇を入れた酒器と盃も無い。
嫌な予感がした美緒は、その場の和やかな雰囲気を皆に託し、そっと退席した。
ミーナは何処へ? 行くアテは大体分かる。美緒はミーナの部屋へ向かった。

やはりミーナはそこに居た。
酒器を片手に、お屠蘇を注いでは飲み、を繰り返していた。
「おいミーナ、何で抜けたんだ」
「良いじゃない。今日くらい、みんな好きにさせても」
ぐい、と盃を煽り、お屠蘇をとぽとぽと注ぐ。
「ちょっと飲み過ぎじゃないか?」
「全っ然酔ってませんから」
早口で言い切るミーナ。
「いや、そう言う問題じゃなくてな」
「このお酒美味しいわね……薬用酒みたいで」
言いながらぐいぐいと飲んでいくミーナは、既にほろ酔い加減を超えていた。
「ミーナ? 少し止めてだな……」
「大っ丈夫ですから。もう少し飲ませて」
早口で断言するミーナ。
「あの……」
睨まれ、立ち尽くす美緒。

219: 2009/01/01(木) 02:06:06 ID:nyM/XSTZ
ミーナはこんなに酒癖悪かったか? と自問自答する美緒。
これまで度々飲んできたが……確かに飲むたび色々な表情を見せては来たが……
これ程までに痛飲する……と言ってもお屠蘇だが……ミーナは見た事がない。
おまけに態度もとげとげしい。
「なあ、ミーナ?」
ミーナは酒器を持ったまますっと立ち上がり、グラスを棚から取り出すと、
残りのお屠蘇を全部グラスにどばっと注ぎ、一気に飲み干した。
「おい、それは幾ら何でも……」
「うまい! もう一杯!」
「もう、無いぞ」
「そんなあ。酷いわ美緒」
グラスをごとんとテーブルに置くと、美緒にしだれ掛かる。
「せっかくの新年祝いなのに……」
むせび泣くミーナ。
(泣きたいのはこっちだ)
内心呟きながらも、美緒はミーナをベッドに連れて行き、横にさせた。
「少し落ち着け、ミーナ」
「酔ってません」
「いや、酔ってる。この指は何本に見える?」
聞かれたミーナはわざわざ魔力を解放させ、美緒の指を凝視したあと
「三本」
と答えた。
「違う、二本だ。魔力使ってまで間違うとは相当だぞ」
ミーナは答えず、よろけながらベッドの上を這い、美緒の腕を掴む。
そのままぐいと美緒を引っ張り、強引に唇を奪う。
お屠蘇の甘ったるい匂いを辺りに漂わせながら、ミーナは呟いた。
「美緒……」
魔力は解放したままなので、物凄い力で引っ張り込まれる。ベッドの上に転がり、
美緒をぬいぐるみの如く玩ぶミーナ。
「まさか……お屠蘇の飲み過ぎで魔力の制御が利かなくなったとかじゃ……」
「何の事?」
ミーナは既に美緒を喰らい尽くす気満々だった。目の色が危険領域に達している。
いつぞやと同じく上着を乱暴に脱がせ……ボタンが飛び……ボディスーツも力任せに破り捨てる。
一方の美緒は全然酔っていないので、どうしたものかと解決策を探す。
(こんな時にネウロイが来たらどうするつもりだ)
内心ヒヤヒヤする。
が、そんな時に限って警報が鳴るので始末が悪い。いつ聞いても気分の良い音ではない。
食いつくミーナを必氏に引きずりながら、美緒は慌てて部屋の鍵を掛けた。痴態を見られない様にする為。
美緒自身の為でもあり、なにより大切なミーナの為でもあった。
その危惧は見事に当たり、鍵を掛け終わった瞬間、ドアががちゃがちゃと動かされ、鍵が開閉を阻止する。
「中佐、部屋に居るのか!? ネウロイだ、指示を!」
ドア越しに聞こえるのはトゥルーデの声だ。
「バルクホルンか? ミーナは今体調不良で……うわっやめろ……作戦行動不能状態だ。
私が……だからそこはっ……ミーナの看病をするから、最先任のお前が代理として指揮を執れ」
「了解。直ちに迎撃に向かう。少佐、済まないが中佐は任せた」
「ああ」
足音が遠ざかる。やがて格納庫から滑走路へと、ストライカーを履いたウィッチーズが飛び出し、
空へと消えていく。
「やれやれ……新年早々大丈夫なのか」
窓の外を見て、ふうと溜め息を付く。
ぐい、と顔をねじ曲げられる。
ミーナの怒った顔があった。
「どーして美緒は外を見てるの?」
「いや……」
「私を見なさい。私だけを」
美緒にはそれ以上何も言わせず、ベッドに押し倒すと、情欲を持て余すミーナが襲い掛かる。
(お屠蘇の飲み過ぎには、注意が必要だな)
その教訓を頭に刻み込み……後はなすがままにされる美緒だった。

end

220: 2009/01/01(木) 02:07:31 ID:nyM/XSTZ
以上です。
2009年一発目と言う事で、正月をネタにしたんですが……
とりあえず次も頑張ります(汗

では改めて、今年も宜しくお願い致します。
皆様、よいお正月を。
それではまた~。

引用: ストライクウィッチーズpart16