239: 2014/08/03(日) 16:50:41.26 ID:l9umTQmh0

ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第1話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第2話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第3話】

――守矢神社――


フキフキフキ キュキュ


早苗「ふう、床の雑巾掛けはこれで終わりですね」

早苗「はあー、毎日のことですけれど……結構腰にくるんですよねー」

早苗「でも、境内をはじめ神社の隅々までピカピカにしておくことは、信仰獲得の上でもとても大事なことです」

早苗「神社の清潔さは、すなわち神聖な空気感そのもの――」

早苗「それは日常から離れた尊い価値あるものとして人々を惹きつけ、ひいては篤い信仰心を育みます」

早苗「潔癖症のひとはいても不潔好きなひとなんて普通はいないんですから!」

早苗「まずは日々の心がけが大事なんですよね」


早苗「さてと――使い終わった雑巾をしっかり洗って干しておきますか」

早苗「白うねりになったりしないように――あら?」

早苗「まだ、隅っこのほうに埃が残って」


ヒョイ


早苗「あれ……これは……、……生き物?」


フワフワ……


??「……」
地獄先生ぬ~べ~ 30周年記念傑作選 1 ガチホラー編 (ジャンプコミックスDIGITAL)
241: 2014/08/03(日) 16:54:21.57 ID:l9umTQmh0
――


パフパフ パフパフ


神奈子(よしよし、いつもより肌の潤いが増して艶やかになった気がする)

諏訪子「んー、神奈子。今日は随分とお化粧凝ってるね」

神奈子「ああ、人里に買い物に行ったときに新しい化粧品の試供品をもらってね」

神奈子「試してみてるんだ」

神奈子「やはり神というもの、身だしなみには細心の注意を払わないとね」

諏訪子「ああ、最近神奈子、肌荒れ気味だもんね。もともと小ジワも」

神奈子「ん、今何て?」

諏訪子「ううん、何でもないよ」

242: 2014/08/03(日) 16:57:30.59 ID:l9umTQmh0
神奈子「――それより、諏訪子は気付いたか」

諏訪子「――そりゃ、まあ気付くよ」


諏訪子「博麗神社の脇に立てた守矢の分社に、何かあったようだね」

神奈子「ああ。ま、おそらく火の不始末でボヤでも起こしたんじゃないかと思うが」

諏訪子「うん、あの巫女ならありそうな話だね」

諏訪子「案外、後々私達が博麗神社を乗っ取る布石なんじゃないかって勘繰って潰したのかも」

神奈子「流石にそれはないだろう、分社と言ってもちんまりとした鳥小屋のようなものなんだから」


スタスタ


早苗「神奈子様ー、諏訪子様ー、ちょっとこれを見てくださいよー!」

243: 2014/08/03(日) 17:00:52.88 ID:l9umTQmh0

――妖怪の山――


ザワザワ……


ゆきめ「いろんな妖気が入り乱れていますね……この山」


玉藻「確かに」


ゆきめ「それで、ここは一体どこなんでしょ?」

ゆきめ「実は童守町から遠く離れたどこかの山の中ということも――」


玉藻「それも可能性としてはなくはないと思いますが……」

玉藻「あなた、雪女なら山の神との関わりが深いのでしょう?」

玉藻「この地に何か心当たりはないんです?」


ゆきめ「う~~~ん……」

244: 2014/08/03(日) 17:05:05.56 ID:l9umTQmh0
玉藻(――てっきり結界を張った張本人にすぐにでも御目見えできると思っていたが)

玉藻(そうも上手くはいかないらしい)

玉藻(だが、古井戸(パワースポット)で感じた妖気に近いものが……うっすらとこの周辺にも残っている)

玉藻(割とそう遠くない場所に、あの結界の生成に関与している者がいると見た)


ゆきめ(故郷の山でもないのに……微妙に懐かしい感じがするのよね、ここ)

ゆきめ(そして――この山の上には一体何が? 無性に気になる!)


玉藻「この際、二手に分かれて探すとしましょう――事は一刻を争う」


ゆきめ「ええ――でも、もし先に鵺野先生達を見つけたら、すぐに狐火か何かで知らせてくださいよ!」

ゆきめ「それか小さな手掛かりでも、とにかく何か見つけたらすぐにすっ飛んで行きますから!」


玉藻「……」


ゆきめ「絶対ですよ!!」


玉藻「……善処しましょう」


ダッ

245: 2014/08/03(日) 17:08:18.72 ID:l9umTQmh0

――妖怪の山(マヨヒガ)――


ニャー ニャー


橙「おや、藍様もうお帰りになるので?」

藍「ああ、少し野暮用が出来たらしいからね」

藍「もし猫の手も借りたい状態になったら橙を呼ぶだろうから、その時は」

橙「はい、何なりとお申し付けください。マタタビも頂きましたから!」

藍「うん。それじゃ」




――

藍(やれやれ……これは霊夢がわざと大結界を弱めているのか?)

藍(誰よりも幻想郷を愛してやまない紫様が、こんなリスクの高い行為をなすとは思えないし)

藍(あるいはまた別の原因があって……)

藍(ともかく早めに状況を分析して対策を講じる必要があるな)

藍(油揚げ(これ)を味わうのは、一仕事終わらせてからになりそうね)

246: 2014/08/03(日) 17:15:49.97 ID:l9umTQmh0

――妖怪の山(茨華仙の屋敷)――


華扇(う~ん)

華扇(なかなかあの子、戻って来ないわね)

華扇(まさかとは思うけど……危険な目に遭っていたりして……心配だわ)


華扇「やっぱり――私が直接向かった方がいいわね」

華扇(それに地底に行くこと自体は、満更でもないし)


華扇「あ、その前に――」

華扇(守矢神社に寄って行きますか――私が感じた不穏な予感のことを一応伝えに行きましょう)

華扇(地底と地上をつなぐ穴として一番ポピュラーなのは、ここ妖怪の山にあるものだしね)

華扇(天狗達には……まあいいか。もし事が起これば、彼らなら組織的かつ迅速な対応できるだろうし)


タッ

247: 2014/08/03(日) 17:20:29.97 ID:l9umTQmh0

――人間の里(郊外)――


怪人A「……」


魔理沙(! ……刃物と化した箒と帽子のつばが、元に戻った)

魔理沙(ということは、妖夢のやつ……あのバケモノ刀を倒したのか?)

魔理沙(しっかし、ミニ八卦炉にキズをつけるたぁ……たいしたやつだ)

魔理沙(まあ、表面のコーティングが少し削られた程度で――これから使うのに支障はないだろ)

魔理沙(あとで香霖堂に行ってもう一度……ったく、迂闊だったな。でも、普通考えられねーよ……コイツにキズが)

魔理沙(……)


魔理沙「っと、後悔はあんまり先にも後にも立たないな――とりあえず今はお前だ」


怪人A「……」


魔理沙「何者なんだ? 人間か? それとも――」

魔理沙「はっきり言っていい感じがしないぜ、お前」

248: 2014/08/03(日) 17:23:57.33 ID:l9umTQmh0
怪人A「赤? 白? 青?」

怪人A「 ど れ が 好 き ? 」




魔理沙(……こいつ、これしか言葉知らねえのか?)

魔理沙(おまけに何なんだこの薄気味悪さは――掴みどころがねぇ)

魔理沙(とりあえず、答えてみるか?)

魔理沙(好きな色って聞かれたら……魔術師的にはアレだが、3つの選択肢には挙がってない)

魔理沙(だったら――)

249: 2014/08/03(日) 17:28:28.93 ID:l9umTQmh0

――人間の里(移動屋台)――


ジュー ジュー グツグツ


ミスティア「メッチャメチャ苦しい敵機(かべ)だって不意にぃ~なぜか~♪」

ミスティア「撃ち落とす勇気とパワ~湧いてくるのよ~♪ 微笑みの弾幕~♪」


小町「最近この店、人間の里に出しているの多くない?」


ミスティア「まあね、場所代だけでも高くつく時代だから、いろいろ考えて移動してるわ」


美鈴「そういえば前に博麗神社に屋台を出してましたよね」


ミスティア「ああ、それ話はこれ以上止めてくれない?」


小町「いやー、あれは不幸な事件だったね」

チラ

小町「あれ……?」

美鈴「どうかしましたか、小町さん?」

250: 2014/08/03(日) 17:30:34.17 ID:l9umTQmh0
小町「さっきそこの傘立てに私のカマを立てておいたハズなんだけど……知らない?」

美鈴「……いえ、知りませんけど。そこにありませんし」


ミスティア「本当に持ってきてたの? 私にも心当たりはないよ」


小町「そりゃ、お仕事中だから持ってないわけないさ」

美鈴「またまたー、貴女サボっているだけでしょ?」


小町(……ヤバイな。さすがにあれを無くしたとなっちゃ……ヤバイわさ)

小町(早く見つけ出さないと……映姫様にカミナリ落とされちゃうよー!)

251: 2014/08/03(日) 17:33:27.10 ID:l9umTQmh0

――人間の里(中心部)――


里人B「なんだ……ありゃッ!」

里人C「首が沢山飛んでるぞ!!」

里人D「落ち着け、皆の衆!!」




ハゲ頭達「パタパタ、パタパタ」




ビューン


妹紅「い、今の見た、慧音? あれって確か……」

慧音「飛頭蛮の群れ。中国発祥の妖怪だけれど、同じように首とかかわりの深いろくろ首に比べたら、知られていない方よ」

妹紅「全員、頭皮が薄いようだが……そういう種族なの?」

慧音「うーん、それは……」

赤蛮奇「ちょっと、あんなハゲ連中と一緒くたにしないでよ!!」

252: 2014/08/03(日) 17:36:13.34 ID:l9umTQmh0
妹紅「え、貴女も……もしや飛頭蛮」

慧音「さっきのは貴女の仲間?」


赤蛮奇「違うわよ! あんなのと同視されたら迷惑だわ」

赤蛮奇「たぶん、外界に残っている僅かな生き残りが……今回の騒動に紛れて入って来たんじゃない?」


妹紅「今回の騒動って、どういうことよ?」


赤蛮奇「とにかく、おかしなことが起きてんの。あんたら、里の人間達を案じてるなら気をつけな」

赤蛮奇「話の通じない連中が攻めてくるかも知れないよ!」


タッ!


妹紅「お、おい!」

253: 2014/08/03(日) 17:39:25.38 ID:l9umTQmh0
妹紅「――さっきの群れを追いかけて行ったのか。今のあいつの言葉――どう思う、慧音」

慧音「……、妖怪が人間の安全に関してわざわざ忠告してくるなんて……そうそうないことよね」

慧音「念のため、里周辺を見回りに行く」

慧音「里で妖怪退治を専門としている人達にもこのことを伝えて、警戒に当たってもらおう」

妹紅「そう。それじゃ――私も手伝うよ」




――


ザッザッザッザッザッザッザッ


ミサキA「……」

ミサキB「……」

ミサキC「……」

ミサキD「……」

ミサキE「……」

ミサキF「……」

ミサキG「……」


スタスタ


布都「再思の道を通り過ぎて、魔法の森を越えて、命蓮寺を素通りか……となるともうじき辿り着くのは」

屠自古「……ヒトザトカ」

254: 2014/08/03(日) 17:41:50.83 ID:l9umTQmh0
布都「……さすがにマズイの。この連中、どうも亡霊っぽいし、人里に入ったら混乱を招く恐れが」

布都「とりあえず足止めをして、我らが太子様の道場にでも連れてゆくぞ」

布都(といってもこの連中、さきほどから声を掛けても全く反応を示さない)

布都「よし、少し強引にでも連中の動きを止めてやるとするか!!」


屠自古「ヤッテヤンヨ!」


バッ!!


ミサキFG「「!?」」

布都「よし、とりあえず最後尾の2人から錫丈を奪ってこちらに惹き付けたぞ!(※強盗)」


屠自古「オンリョウ『イルカノイカヅチ』(※殺人)」


ピシャ――――――――ン!!!!!


255: 2014/08/03(日) 17:46:01.56 ID:l9umTQmh0
シュ―――――――――


ミサキABCDE「「「「「・・・・・・・」」」」」



ミサキFG「「・・・・・にっこり」」


シュウン


布都「! 今の一撃で……む! 2人は……もしや成仏したのか!?」

屠自古「……ヤッタナ」

布都「ふふ、まさか迷える亡霊の魂を救うことになるとは――増長するわけではないが、悪い気はせぬなぁ」


ミサキA「はぐれぇ!!」

ミサキB「はぐれはおらんかァ!!」

ミサキC「向こうじゃー!! 人間のニオイじゃー!!」

ミサキD「人間がおるぞー!!」

ミサキE「いま、迎えに参らんッ!!!」


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


布都「……」

屠自古「……」

256: 2014/08/03(日) 17:48:52.75 ID:l9umTQmh0
??「ぎゃあああっ!!」

小傘「何なのよ今のは!? すんごい怖そうな奴らが人里に向かってったよ!? ああ……吃驚した」


布都「……」

屠自古「……」


小傘「ねぇ、貴女たち……アレほっといていいの? 何だか、でんじゃらすな様子だったけれど」


屠自古「……ヤバイネ、オウヨ!」

布都「うむ、これは少し見過ごせぬな、追うぞ!」

布都「ついでにここで出くわしたのも何かの縁よ、お主も来るのじゃ!!」


ガシッ


小傘「え? ちょっと待って、私暇じゃないからイヤ! 遊びって雰囲気じゃないしとにかくイヤ!」


ダダダダッ


小傘「嫌ぁぁあああぁぁ行きたくな――――――いっ!!」


                                   (つづく)

276: 2014/08/05(火) 00:05:31.52 ID:4wDqOJ3f0

――守矢神社――


??「……」


早苗「これ、何なんでしょう」

早苗「さっき、お掃除中に見つけまして……最初は埃かなって思ったんですけど」

諏訪子「何だろうねこれ、植物の綿毛っぽく見えるけど、目ん玉がついてるし」

神奈子「目玉がついているんなら動物なんじゃないかい?」


??「……」


早苗「動物なのか植物なのか。とりあえず、今夜のおかずにでも」

諏訪子「ちょっと待って、私は味噌汁の具の方が合うと思う」

神奈子「いや待って、こいつもしかしたら小妖怪の一種かもしれないよ」


??「……」

277: 2014/08/05(火) 00:07:44.96 ID:4wDqOJ3f0
早苗「妖怪? こんなフワフワしたのがですか?」

神奈子「ほら諏訪子――以前にこういう感じの生物の話題が巷で噂になっていたことがあったろう?」

諏訪子「あったっけ?」

神奈子「ちょっと、よく見せてくれ」

早苗「わかりました、どうぞ」


ジー


神奈子(これは……確か……)

神奈子「諏訪子、そこのおしろい入りのケースを取ってくれ」

諏訪子「これ? 厚化粧にさらに上塗りするの?」

神奈子「こうするんだよ」


サラサラサラサラ……


\ポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッポンッ/

278: 2014/08/05(火) 00:11:07.17 ID:4wDqOJ3f0
諏訪子「わわっ」

早苗「えっ急に数が増えちゃいました!? おしろいの粉を振りかけただけで!」

神奈子(やっぱりか、……これに反応して増殖した)

神奈子(――よし、ならば次は)

神奈子「――早苗、何か欲しい物でもないか?」

早苗「え、欲しい物?」

早苗「そうですねー、うーん……神社の参拝者さんですかね」

早苗「それからー、高級スイーツとか」


トントン


「あら、華扇さんじゃないですか。どうしてこちらに」「うーん、まあ参拝客ってことかな。ちょっと貴女たちに伝えたいことが」

「あ、これ訪問ついでにお土産ね」「わー! 美味しそうなお菓子ですね、これはどうも」



諏訪子「あら、ちょうどいいじゃない。動物に詳しいひとが来たから聞いてみれば――」

神奈子「いいや、もうその必要はないな」


\ポーンッ/


神奈子「一匹消えたか……間違いない」

諏訪子「え、何が間違いないって?」

280: 2014/08/05(火) 00:18:03.26 ID:4wDqOJ3f0
ガタッ


諏訪子「あ、ちょっと何処行くの神奈子?」

神奈子「諏訪子も手伝ってくれ。上手く量産できれば――」

諏訪子「量産って、この小玉なやつを?」


神奈子(フフフ、囲いには紙垂(しで)を使うかな。この小妖怪、早苗とともに我々が上手く扱うことができれば……!)

神奈子(地道な産業革命を推進するよりももっと手っ取り早く、膨大な力を手に入れることができる)

神奈子(僥倖だ。こいつはまさに僥倖のタネ――)

神奈子(手軽な奇跡を起こすなら、わざわざ頼ることもないが――)

神奈子(大いなる奇跡を起こすには、多大な労力とそれ相応の代償を伴うからね)

神奈子(そして――代償が大きすぎるから、実現不可能なこともままある)


神奈子「貴方たちのチカラ――幸運をもたらす程度の能力――を活用させてもらうとしよう」

神奈子「――ケサランパサラン達よ」


\ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン/

281: 2014/08/05(火) 00:22:57.49 ID:4wDqOJ3f0

――霧の湖――


わかさぎ姫「へぇ、外の世界からはるばる幻想郷(こちら)に?」

速魚「いやー、それほどでも」

わかさぎ姫「でも、ここ淡水よ。貴女の肌に合う?」

速魚「あー、私、人間に変身して歩くこともできますし大丈夫ですよー」

わかさぎ姫「本当に? 凄いわね、今度コツを教えてくれない?」

速魚「いいですよー」

速魚「それにしても霧が濃いですねー、ここ。どうして?」

わかさぎ姫「……さあ、どうしてかしらねぇ」


ザッ


咲夜「あら、湖の周辺の掃除でもしようかと思ったら……見慣れぬ半漁人が二匹いるわね」

咲夜「外来魚かしら? 一応駆除したほうがいいか」

282: 2014/08/05(火) 00:26:40.80 ID:4wDqOJ3f0
わかさぎ姫「って!? 貴女、私とは面識あるでしょ!」

速魚「こんにちは」


咲夜「丁度いいわ、今夜は魚料理にでもしましょうか――魚の血液ってカリウム分多そうよね」


わかさぎ姫「ちょっと、食べる前提で話をしないでよ!」

速魚「どうぞどうぞー、私を食べたら不老不氏になりますよ」


咲夜「あら、そうなの。特段面白くもなんともない冗談ね」

咲夜「じゃ、私は忙しいから」


スタスタ


速魚「あれー、行っちゃいました」

わかさぎ姫「それで、貴女はこれからどうするの? 一緒に歌でも歌う?」

速魚「えーと、人を探してて。とりあえず一緒に歌いましょう」


「「おぼえていますかー♪ 眼と眼があったときー♪」」

283: 2014/08/05(火) 00:35:09.97 ID:4wDqOJ3f0

――地底(旧都)――


くだ狐「スリスリ」


竜「~!!?」


ザッ!!


くだ狐「クーン(はぁと)」




ぬ~べ~「おいおい、驚いて逃げちゃったじゃないか……まだ子どもの竜のようだったな」

ヤマメ「うーん、そのペットよりもむしろ鬼の手を見て驚いていたような」

広「出逢っていきなりナンパするあたり、性格が飼い主にそっくりだよなー」

郷子「ほんとよねー」

ぬ~べ~「おいおい……俺は初対面の女性相手にそんなことは……」

美樹「でも、こんなところに竜なんていたのね。捕まえたら高く売れそうだったのに……惜しかったわー」

ぬ~べ~「お前なぁ! 神聖な生き物に対してそういう賤しいことを考えるな……罰が当たるぞ」

ヤマメ(竜なんて地底にいたかな?) 

ヤマメ(まあ、地底は広いし何がいても不思議じゃないからねぇ)

284: 2014/08/05(火) 00:43:10.55 ID:4wDqOJ3f0

――

勇儀「くー! やっぱり酒はいいねぇ」

正邪「さあさあどうぞ、お注ぎいたします」

勇儀「おう、頼むよ」

ぬえ「……」

正邪「さ、さあ……そちらも」

ぬえ「ねえ、何でこんな小物妖怪がこの場にいるの?」

正邪(居たくているわけねーだろ。誰が好き好んでこんな連中に酌なんかするか!)

勇儀「何でって、そこらへんをほっつき歩いてたから捕まえたんだよ」

ぬえ「あらそう? つまり、地上を追われて地下へ逃げて来たってわけ」

正邪(違う! 逃げたんじゃない、あえて地底を逃げ道に選んだんだ!!)


ぬえ「確かこいつ、弾幕ごっこの域を超えてもいいから殺害しろって御触書が出てたよね」

ぬえ「あれ、まだ有効なのかしら?」

正邪「……」


勇儀「そんなことは別にいいだろう。ここは地底だ――ならず者だろうが天邪鬼だろうがとりあえずは受け入れてやる」

勇儀「もともと忌み嫌われて地上を追われた者達の最後の砦だったんだから、来る者は拒まない」

勇儀「――最近は、去る者を追わないことの方が多かったけれど」

勇儀「今日は無礼講よ。何にも気にせず、ほらお前も呑め」

正邪「……い、いえ私はがぼっ!?」

285: 2014/08/05(火) 00:47:01.25 ID:4wDqOJ3f0
ぬえ「ほら呑め呑め。瓶を逆さに一気に呑み干せばいいのよ。酒はいくらでもあるから気にしなくていい」


正邪「んっ……んぐぐっ……っ……」


勇儀「ところで貴女は何しに地底に舞い戻ったんだい?」

勇儀「あのお寺、破門になっちゃったのかな?」

ぬえ「違うわ、私はその……在家信者だから。どこでどういう修行をするかは自分で考えているの」

勇儀「ふーん、でも酒を呑むのは飲酒戒(おんじゅかい)ってやつでダメじゃなかった?」

ぬえ「う、……確かに聖はお酒を完全に断っているわ。でも妖怪僧達はほとんど戒律を守ってないし」

ぬえ「だからちょっとした気晴らし……気分転換というか」


正邪「……むぐ! んーんー!」


勇儀「そうだねぇ。ま、妖怪に戒律を守れって縛りつけること自体そもそも無理があるんだ」

ぬえ「! それでも、聖の行いは間違っては――」

勇儀「ああ、ひとえに間違ってるとは思わないよ。この話はあんまり深入りするもんじゃないね」

勇儀「で、さっきの話に戻ろう――ここに何しに来たんだ?」

ぬえ「それは……その……、たまには自分が封じられた忌々しい場所を再び訪ることで、えーと」

勇儀「ああ、未だに他の門徒(やつら)と打ち解けられないのか。だから寂しくて昔馴染みな地底に――」

ぬえ「ち、違う!!」


正邪「……げぽっ、げほ」

286: 2014/08/05(火) 00:53:05.80 ID:4wDqOJ3f0
ぬえ「打ち解けられないんじゃないのよ! 向こうが私を仲間外れにしてるんだ!!」


シュポンッ


ぬえ「ほらもっと呑め」


正邪「がぼっ!? んぐっ……んっ……!」


勇儀「そういや地上(うえ)と通じてて情報通な輩が言っていたけれど、なんでも貴女、外から古狸を寺に連れ込んだらしいね」

勇儀「老獪な妖怪に間を取り持ってもらえば、連中とも仲良くできるんじゃないの?」

ぬえ「……だって。私達は一足遅れて入門したのよ。それだけでも居心地悪いのに」

勇儀「でもほら、見越入道や舟幽霊とかは一緒に地底に封印されていた仲だろう?」

ぬえ「でも、別に仲良くなんかなかったわ。誰も私に話しかけてくれないのよ?」

正邪「う……げっぷ……」


カラーン


ぬえ「あの存在感が希薄な坊主なんざ……私をつっけんどんに“鵺さん”呼ばわりしてたんだぞ!」

ぬえ「どいつもこいつも……私をのけものにするな! ほらもっともっと呑め!」


正邪「う……うぐっ!!」


ぬえ(……あいつらは決してイヤな奴らではない。むしろ良い奴だと思ってる……だから尚更私は……)

勇儀「で、寂しいから地底の知己と久々に酒酌み交わそうってわけで来たのか?」

ぬえ「いいえ、別にそういうつもりじゃないわ」

勇儀「確かに、今残ってる面子でも……取り立てて貴女と仲いい輩はいないね」

ぬえ「どいつもこいつも……ほら、次の酒だ」


正邪「うぐー……うぅ……うぇっく……」

287: 2014/08/05(火) 00:55:46.07 ID:4wDqOJ3f0
勇儀「そうだなー。あ、それじゃあいつ、土蜘蛛のやつを探して来ようか」

勇儀「あれは割に顔が広いものね、貴女も話しかけられたことくらいあるんじゃないの?」

ぬえ「……うん。でも知らんぷりしてたら話かけられなくなった」

勇儀「あらら。誰かに話しかけて欲しかったんじゃなかったの?」

ぬえ「だって……だって」


カラーン


正邪「ぷはっ……」


勇儀(生まれつきのアマノジャクはともかくとしても、こっちも結構に天邪鬼だねぇ)

ぬえ「ほら、また次の酒だよ――お前もどうせひとりぼっちなんだろ」

ぬえ「……、一緒に……」


正邪(うるさい! ほざけ! まっぴらごめんだ!! お前のような強い妖怪と一緒にするな!)


勇儀「よしよし、お前もいい感じに酒が回ってきたから」

勇儀「そんじゃ、ここいらでちょいと一発芸でも見せてくれよ」


正邪「え……」

288: 2014/08/05(火) 00:58:25.52 ID:4wDqOJ3f0
ぬえ「……そうだな、何か見せてみて。お前、天邪鬼なんだからさ」

ぬえ「私達が吃驚して笑い転げるようなことをやってくれそうだ」


正邪「え……」


ぬえ「言っておくが、もしつまらなかったらお前はこの場で終わりだがな――覚悟しておけ」


正邪「……」


勇儀「はははは、お前さん顔が真っ青だよ! 全体的には赤いってのに」

勇儀「何でもいいから堂々とやってみなよ――別にちゃぶ台返しとか逆立ちとか、なーんでもいいから」


正邪(何でもいい? 嘘つけぇ!! つまらなかったら八つ裂きにするつもりだろ!!)


ぬえ「どうした、早く何かやってよ、興が覚めるじゃない」


正邪(くそぅ……この際、下剋上だなんて大きいことはいわない……!)

正邪(だから! この状況に、変化が欲しい!)

正邪(私が今望むもの……それはこの追い詰められた状況をひっくり返すほど程度の変化だ!) 

正邪(生まれ変わるほどじゃなくていいから……何か……!!)

289: 2014/08/05(火) 01:03:44.71 ID:4wDqOJ3f0
――


ガラッ……


勇儀「おおー、何だい何だい。今日は風変わりな連中が続々現れるじゃないか」

ぬえ(……何だ、こいつらは。人間か?)

ぬえ(……いや、2人は人間のようだが、残り2人は……妖怪?)


邪正「!!」

邪正(やった! 誰だか知らんが客人だ――流れが変わったぞ!!)


広「真っ黒いパン……グハッ!?」

郷子「何ガン見してんのよバカァ!!」


美樹(少女……? 何なのよあのオーバーFカップはっ!?)

美樹(ま、まあまだ慌てることはないわ。私のナイスバディは発展途上……これからよこれから!)


ヤマメ「おやおや勇儀の姐さん、今日は随分とレアな面子と酒盛りしているねぇ」

ヤマメ「で、そこの天邪鬼はひっくり返したちゃぶ台の上で逆立ちして何してんの? 露出プレイ?」


ぬ~べ~「おおッ!!」

290: 2014/08/05(火) 01:06:31.77 ID:4wDqOJ3f0
ぬ~べ~「何とお美しい!! こんなところであなたのような素敵な女性に巡り合えるなんて!!」

ぬ~べ~「どうです? これから僕と一緒に舟幽霊が炊いた怪火の見える海岸沿いのレストランでお食事でも!」

勇儀「ほう。鬼を相手にいきなりナンパかい? 舟幽霊のくだりは船の難破とかけているのかな?」


ヤマメ「舟幽霊はいるけど海岸沿いのレストランなんて存在しないよ――幻想郷に海はないからね」


広「良かった、これでようやくいつものぬ~べ~だな」

郷子「もー。リツコ先生やゆきめさんがいるのに、……まったく男ってこれだから……」

美樹「あー、疲れたわ……何かデッカイモノみちゃって余計にショックで疲れたわ」


美樹「にしてもここ滅茶苦茶お酒臭いわねー……何とかならないの?」

正邪「私のせいじゃない。ろくろ首も幻想入りしてたんだな。調子に乗って退治されたザコい飛頭蛮なら知っているが」

美樹「おなかペコペコなんだけど、そこの珍味っぽいのじゃなくてもっと普通の料理用意してくれない?」

ぬえ「お前……誰に向かってそんな軽口叩いてると思ってるのよ? 私のことが怖くない?」

美樹「ぜーんぜん」

ぬえ「……」

291: 2014/08/05(火) 01:22:27.26 ID:4wDqOJ3f0

――人間の里――


ザワザワ……


里人甲「危険な妖怪が出るかもしれないって言うから、人里の見回りをしているが」

里人乙「ああ、これといった変化もないし……さっきの飛んでいたハゲ頭もどっかいっちまったもんな」

里人甲「ま、妖怪といってもせいぜいあの唐傘お化けが出てくるくらいだろ」

里人乙「宵闇の妖怪とかも、そんなに積極的に襲ってくるわけじゃないしな」

里人甲「あの毒を撒くヤツはやばいよな……」

里人乙「一応対抗策はある――ま、いずれにしろそんな大したことはないだろうよ」

里人甲「案外、人里全体で肝試し大会でもするってことじゃないか? 妖怪達のお遊びに付き合うって感じで」

里人乙「ああ、あるかもな意外と。あはははっ……はは……」

里人甲「? どうした」

里人乙「う、後ろ……!!」


ミサキABCDE「「「「「は~ぐ~れ~」」」」」

292: 2014/08/05(火) 01:37:11.96 ID:4wDqOJ3f0
里人甲乙「「うわぁぁぁぁああああああああああああっ!!!!」」

ミサキA「迎えに参ったッ!!」


バッ

妹紅「させるか!!」


ブォォン!


ミサキA「ッ!」


ドサッ


ミサキBCDE「「「「  !!  」」」」


妹紅「どうやら、先程の忠告は間違いではなかったようだ」

妹紅(今は妖術を使って相手を足止めし、里人2人が逃げる隙を与えたけれど――)


ミサキA「はぐれはおらんかー!!」


妹紅(気休め程度か――こいつら、なかなかに厄介そうね)

妹紅(相手は5人、すべて……亡霊か?)

妹紅(もう里まで侵入を許してしまった以上――早急に叩くしかないけれど)

妹紅(周りには人家をはじめ多くの建物、そしてまだ状況を把握しておらず里を歩く人間達もいる)

妹紅(派手な戦い方は……やりづらい環境だわ)


                                    (つづく)

316: 2014/08/06(水) 23:34:10.59 ID:guCPHHKY0

――旧都(酒場)――


勇儀「それじゃ、準備はいいかい?」

ぬ~べ~「ああ、準備オーケーさ」

ぬ~べ~(星熊勇儀――名前から察するに、元はあの星熊童子か)

ぬ~べ~(ということは、この幻想郷には他にも複数の鬼が存在するとみて相違ない……な)


ヤマメ「それでは――始めっ」


グギギギギギギ!!


勇儀「!」

ぬ~べ~「……ッ!」


ヒソヒソ


美樹「ねぇ、なんでぬ~べ~と鬼のヒトが腕相撲やってるの? ――あむっ、この得体の知れない料理結構イケるわ」

広「“腕試し”って言ってたな――要するに鬼の手の強さを肌で感じたいってことだろ」

郷子「でも勇儀さん、自分は右手に抱えた盃のお酒が零れた場合も負けでいいって条件付けたよね」

広「んな条件付けなくても、ぬ~べ~なら勝てるだろ。……ただの腕相撲なんだから」


ぬえ「それはどうかな。今のままだったら、たぶん勝てないよ」


美樹「ちょっと! ぬ~べ~の力を甘く見ちゃだめよ、ぬ~え~」


ぬえ「そのヘンな呼び方は止めろ――喰い頃すぞ」


美樹「ひぃ!」

広「う……やっぱこう、その……姿はこんな感じでも、妖怪らしい凄みって奴はちょくちょく見えるなー」


ぬえ「……」


郷子「ちょっと……あんたさっきからぬえちゃんに微妙に見とれてない?」

広「んだよ。いちいちうるせえなー、別にそーいうのじゃねぇよ! 郷子にゃ関係ねーだろ」

郷子「ええー! 関係ないですよーだ! 広がどんだけ鼻の下伸ばそうが私の知ったことじゃありませーん!」


ぬえ「はぁー……この私を“ちゃん”づけか……」

正邪「そう気を落とさずとも」

正邪「我々のような弱小妖怪は、鬼に逆らうことなど儘なりません。人を喰いたいという衝動は抑えがたいものでしょうが」

正邪「ここは星熊様の謂いの通りに大人しく――」

ぬえ「別に本気じゃないわよ。そもそも私は弱小じゃないし――こういう場だからね」

317: 2014/08/06(水) 23:40:05.61 ID:guCPHHKY0
ググググググ


勇儀(ほう? ――この程度かい、鬼(あなた)の力は)

ぬ~べ~(! ――まずい、コイツまさか!)


グォォォォォォォ!!


勇儀「おぉ!」

ぬ~べ~「ぐぬぅ!!」


メキメキメキメキメキ!!


ヤマメ(これは!?)


広「や、やばいぞ!!」

郷子「ぬ~べ~の腕!!」

美樹「ちょっと、これ以上はダメっ!! 止めて……ぬ~べ~が!!」


正邪(鬼の手とやらが、暴走しつつある? 今は封印していると言っていたから――)

正邪(それを自力で解いて這い出ようと言うのか?)


ぬえ(ここから見ているだけでも感じる――かなりの強者だな、封じられた鬼は)

ぬえ(そのパワー、破壊力と言った面では幻想郷に陣取る鬼の力に勝るとも劣らないだろう)

ぬえ(それをこの人間が1人で封じ込めた? そんなことが、外界の人間に容易くできるものなのか?)

ぬえ(まあ、何にせよ――この場でそいつを解放するのは賢明な策とはいえないな)

ぬえ(たとえ、ここが地底と言えども――最低限のルールを守ってくれるような輩じゃなかったら)

ぬえ(地上をも巻き込んだ一大事件になってしまうぞ)

ぬえ(そこのところは、怪力乱神も心得ているとは思うけれどね)




\ピチューン/




ぬ~べ~「!!」

勇儀「――今回のところは、そちらに軍配が上がったな。盃から一滴垂れてしまったんでね」

318: 2014/08/06(水) 23:49:13.16 ID:guCPHHKY0
シュ―――――


ぬ~べ~(――よ、よし完全に封印が解ける前に、寸止めしてもらえたか)

ぬ~べ~(鬼の手が落ち着きを取り戻してゆく……心配をかけて済みません、美奈子先生)


勇儀(触れた掌(てのひら)から、私の力を吸収して、それを糧に封印を解こうとしたのか?)

勇儀(完全体に戻ったら、一体どれほどの力を発揮してくれるのか――是非見てみたいし、闘ったら愉しめそうだ)

勇儀(――が)


ぬ~べ~「……」

ぬ~べ~「勇儀の姐さんよ――実は、こいつに関して」


勇儀「耳、貸しな」


ヒソヒソ


勇儀「大方、貴方の言いたいことは分かる」

ぬ~べ~「それならば、話は早い! 俺は――」

勇儀「だが、待て――今は酒宴の真っ最中だ。それに、そこで不安そうな目をしている子らの前で」

勇儀「あんまり重い話はしたくないんじゃないかねぇ?」

ぬ~べ~「……」

勇儀「だから、その話は後だ――今はゆっくり盃を交わすとしようじゃないか」

勇儀「鬼は嘘はつかない――後でちゃんと、お悩み相談に乗ってやるよ」

ぬ~べ~「……。ええ、そうですね」

319: 2014/08/06(水) 23:54:05.97 ID:guCPHHKY0
広「おーいぬ~べ~! 何2人でヒソヒソ話してんだよ?」


ぬ~べ~「いやいや! 今度何処でデートしようかって内緒話をしていただけだ!!」


美樹「またそんなこと言って。鬼の手の方は……もう大丈夫なの? あーもう……ホント心配したんだから……」


ぬ~べ~「大丈夫、全然ヘーキだ! もう何の問題もない!」


美樹「……ならいいのよ。はーまったく、腕相撲ひとつでここまで大騒ぎさせちゃって……もー」



ヤマメ「ほら、貴方達でも口に入れられそうなものを持ってきたよ」

美樹「あ、どもー」

ヤマメ「私はちょくちょく地上(うえ)に行って、いろんなモノを手に入れてるからね」

美樹「手に入れるって、盗むってこと? それとも単に買い物? お金とかはどうしてんの?」

ヤマメ「んーそうだね。例えば病気になった人(原因は私だけどね)に施しをして、その礼に……とかかな」

美樹「ふーん。薬とか、そういうのに詳しいの?」

ヤマメ「まあ、私の特性上ね。詳しくなっても損はないから」


ヤマメ(だからこそ、いつでも貴方達に毒牙を向けることもできたんだよ?)

ヤマメ(だが、貴方達は幸運だ――それはひとえに、あの先生がついていたからさ)


ぬ~べ~「さ、お前達も一緒に飲もう! まさかここで本物の天邪鬼や鵺にまで会えるとは思ってなかったぞ!」

ぬえ「私もこんなところで半人半鬼に遭遇するとは思わなかった。しかも外界から来たとはね」

正邪「ふん。その手の力は測り知れんが、お前ニンゲンとしては軽薄でバカそうだな」

ぬ~べ~「お、何だ天邪鬼くん! そんなに俺のことを褒めてくれるのか? いやぁー先生嬉しいぞ!」


ナデナデ


正邪「キサマ気安く触れるな! 撫でるな! 馬鹿にするなぁ!!」



ヤマメ「ほら、貴方達も呑むかい?」

広「……そうだなー」

美樹「ま、一杯くらいは減るもんじゃないしね」

ぬ~べ~「コラコラコラ! 未成年はお酒はいけませーん!!」

郷子「えーと、ジュースとかは……ないですよね」

勇儀「そうだねー、御冷やで我慢してくれるかな?」

320: 2014/08/06(水) 23:58:18.14 ID:guCPHHKY0

――守矢神社(参道)――


コツコツ


早苗「はあ、つまり異変の兆候ですか?」

華扇「うん、まだ憶測の段階なんだけれど――」


ビュゥゥゥ!!


竜「~~~~!」


華扇「! 無事に戻ってきたのね!」

早苗「あ、その子は以前に――」


華扇(何かに怯えている様子――そう、怖かったのね。早速、貴方が体験したことを私に聞かせて頂戴)


スッ


華扇「……」

竜「……」


早苗「……」


華扇「“鬼の手”を持っている人間!?」

華扇「ペットとしておぞましい怪物を使役し、土蜘蛛とろくろ首を仲間にして地底を闊歩?」

華扇「そして旧都で、反逆者(アマノジャク)と落合おうとしていたようなの?」

竜「――コクリ」


早苗「え? え? え?」



華扇(――こうしてはいられないわ、異変でも起こりそうな要素が揃いに揃っているじゃない)

華扇(それから、これは私がずっと探しているモノの手掛かりが得られるかもしれない!)


早苗「あのー、華扇さん。今の話っていったい」


華扇「――私は地底に向かうわ」

竜「コクッ!」

華扇「貴方達も気をつけて! ――霊夢達にも状況についての説明をお願い」


ヒュンッ!!!

321: 2014/08/07(木) 00:05:26.80 ID:Rqku3eO70
早苗「はい、分かりましたよー……ってもう影も形もありませんね」

早苗「やっぱり華扇さん、テレポーターなんじゃ?」

早苗「あ、それよりもさっきの話」

早苗「“鬼の手”がどうのこうの……っていうのに、強く反応していたような」

早苗「うーん、“鬼の手”ですか――どこかで聞いたようなことがあるような、ないような」

早苗「それと華扇さんとの関係――」

早苗「あ、なるほど――やっぱりあの人の正体は仙人じゃなくて鬼だったってことで」

早苗「それで、以前から探していたという失くした腕こそ……その“鬼の手”のことだったんですね!」

早苗「納得しました」




ビュォォォォォォォォォォ




ゆきめ「なるほどね――“鬼の手”を奪うために、鵺野先生を異世界に引っ張り込んだってわけなのね!」




早苗「はい? どちら様ですか? 鵺って……あのUFOのことで?」

早苗「それにしても急に冷え込んで……もう日没も近いからかしら。って、もしかして貴女の仕業です?」

322: 2014/08/07(木) 00:08:11.24 ID:Rqku3eO70
ゆきめ「教えて! 鵺野先生は今どこにいるの?」




早苗「どこって……たぶん命蓮寺にいるんじゃないんですかね?」




ゆきめ「えーと、そこって……何処にあるの?」




早苗「よければご案内いたしましょうか?」




ゆきめ「えーホントですかー! 助かります!」




早苗「でも、その前に――貴女、この山に棲んでいるひとじゃないっぽいですね」

早苗「というわけで、侵入者ってことですよね?」

早苗「侵入者に対しては、それ相応の対応をしなければ――妖怪退治も私の仕事のひとつなんですから」



ゆきめ「え……」



早苗「さあ、挨拶代わりに始めましょうか」

早苗「――弾幕勝負を!」


カッ!!

323: 2014/08/07(木) 00:11:19.81 ID:Rqku3eO70

――旧都(酒場)――


広「zzz」

郷子「zzz」

美樹「zzz」


ヤマメ(おやまあ、皆疲れてもう眠ってしまったか。ここまで結構な道のりだったろうしね、人間の子どもにとっては)

ヤマメ(もう宵の口だもんねぇ――地上(うえ)では本物の月が穢れない姿を晒している頃合いか)



広「……ぐっ……父ちゃん……、悪い……」

郷子「……心配……かけてごめんなさい……いつもいつ……も」

美樹「うぎぎぎぎ……それは私が見つけた……か、え、して、……」


ヤマメ「……よく聞こえる寝言だねぇ」

ヤマメ(――今晩はここでゆっくり休みな、明日にはちゃんと、地上まで送ってやるよ)

324: 2014/08/07(木) 00:16:33.90 ID:Rqku3eO70
ぬ~べ~「――というわけでだな、その天邪鬼な俺の生徒は」

ぬ~べ~「自分から積極的に輪の中に入って行ったんだ。今ではクラスの生徒達と仲良くやっている」


ぬえ「……」

正邪「霊能力がどうとか言いつつ、ただの人形で餓鬼をおちょくっただけだろうが」

正邪「しかもアマノジャクを利用して騙すとは、お前はとんだ反面教師だね」


ぬ~べ~「そうかそうか、そんなに俺を褒めてくれるのか。お前本当に可愛い奴だな~」


正邪「うるさい! 本物のアマノジャクを舐めやがって! 雑魚のクセに!!」

勇儀「何だって? 鬼の手持ちの人間がザコっていうなら、鬼の私もザコだといいたいのか?」

正邪「そんなことは言っていない……ません」


ぬ~べ~「その通りだそうですよ、勇儀姐さん」


勇儀「こりゃちょっと、ヤキ入れる必要があるねぇ」

正邪「違うから! ううん違わないから!」

勇儀「そういや、お前さんだって曲がりなりにも“鬼”だったか」

ぬ~べ~「いいか正邪、いくら自分に自信がないからと言って……そんなに卑屈にならなくてもいいんだぞ」


正邪「くぅ……馬鹿にしやがっ……ごふっ!?」


勇儀「苛々している時はやっぱり酒が一番だ!」

勇儀「お前が好きそうな“逆さ富士”だよ、ほら一息にグッといけ!」

正邪「んぐっ……んん!」

ぬ~べ~「ぬえの方はどうなんだ?」


ぬえ「……何のこと?」


ぬ~べ~「君は色々あって封じられていた地底を出、恩を仇で売るに近い行為をしながらも」

ぬ~べ~「快く自分を受け入れてくれた“人間”につき従い、地上の妖怪寺に入門した」

ぬ~べ~「――だが、今でもなかなか寺の妖怪たちと打ち解けられないでいる」

ぬ~べ~「と、ヤマメくんや姐さんがこっそり教えてくれたぞ……さっき」


ぬえ「余計な御世話だ」

325: 2014/08/07(木) 00:26:00.43 ID:Rqku3eO70
ぬえ「第一、お前にどうこう言われる筋合いはない」

ぬえ「私は正体不明の妖怪なのに、どうしてお前は恐れない?」


ぬ~べ~「……」


ぬえ「いや、お前だけとは言わない……外界の人間の子どもにすら怖がられないなんて」

ぬえ「私は正体不明がウリなのに、正体(かお)が売れてしまったら……誰にも怖がってもらえない」

ぬえ「だから私は封じられてしまった。そして居場所を失ってしまった……それだけのこと」


ぬ~べ~「なるほど。お前はやはり単純な天邪鬼じゃなくよく考えている天邪鬼だな」

ぬ~べ~「――さすがはいにしえより恐れられし鵺だ」


ぬえ「……」


ぬ~べ~「お前のような由緒ある妖怪に対して、まるで生徒に対するように馴れ馴れしくして済まなかった」

ぬ~べ~「お前はさっき、俺が怖がっていないと言ったが……決してそんなことはない」

ぬ~べ~「もしお前が仮に子ども達に襲いかかってきたとしたら、俺は命を賭けてでも彼らを守るために闘うだろう」

ぬ~べ~「その時は、俺はお前を畏怖していたにだろう――鵺を相手に自信を持って勝てるとは言い切れない」

ぬ~べ~「たとえ、今は丸くなったとはいえ――正体不明という、枯尾花を幽霊と思わせるような力は健在なんだろう?」


ぬえ「……」


ぬ~べ~「鬼の手にできることにも限界がある。ましてや、これを扱おうとする俺自身は結局のところ生身の人間だ」


ぬえ「ならば、もし怖気づいたら逃げる?」


ぬ~べ~「逃げないさ、それでも闘う」

ぬ~べ~「子ども達を守るために、どんな時も決して逃げない。必ず守り切る」

ぬ~べ~「なぜなら俺は、あの子達の保護者(せんせい)だから――彼らの前でくらいは、最強じゃないとな」

ぬ~べ~「もっとも、逆に子ども達に助けられることだって……結構あるんだよなあー」


ぬえ「……お前は信念だけは強いらしい」

ぬえ「それはお前のエゴではあるが、エゴでも貫き通せば救われる者もいるだろう」

ぬえ「守りたいなら守れ――だが妖怪は弱い者ほど狙いやすいから容赦なく襲いかかる」

ぬえ「それは妖怪の持って生まれた性質――宿命のようなもの」

ぬえ「妖怪は決して力を失ってはいけないんだ――その存在意義を確保するためにもな」

ぬえ「お前はせいぜい、他人を救おうとして自分の足元を掬われることがないよう……気をつけるがいいよ」


ぬ~べ~「――ああ、気をつけよう」


ヤマメ(この先生さん、不思議なほどに妖怪を惹きつけるものを持ってるねぇ)

ヤマメ(それを言ったら――幻想郷にも、やたら妖怪を惹きつけてやまない人間はいるけれど)

326: 2014/08/07(木) 00:29:31.41 ID:Rqku3eO70

――

ぬ~べ~「うっぷ……う、オエエエエエっ……」


勇儀「おいおい大丈夫か? こんなもんで潰れてちゃ、幻想郷で生きていけないよ」

ぬえ「別にこいつ、これから幻想郷で生きるわけじゃないだろう?」


ぬ~べ~「……ぐふっ……それは当然……俺には向こうにも……大切な……人達がたくさ」

ぬ~べ~「うおおおおぇぇ……」


正邪「ふふ……愚か者め……、我を侮辱した……罰が当たったのだ……うっ」

ぬえ「お前も無理をするな。潔く全部出せ、反吐を出すように逆流させるのよ」

ぬえ「そしてもう一度出したモノを呑みこめば、吐き気は治まる」

正邪「喋りかけ……ないで……うぅ……」

ヤマメ「出したモノを再び呑むといいのは船酔いの時じゃないの?」

ぬえ「あ、そうだったかも。船長が前に言ってたのを聞いたから」


――

勇儀「もう大丈夫なのかい? もう一杯水を飲む?」


ぬ~べ~「……ふぅ、いやー、だいぶ落ち着きました」


ヤマメ「さて、今日はそろそろお開きってことにするか」


ぬ~べ~「あ、そう言えば……3人は!? そこに転がってた筈だが……何処に」


ヤマメ「そこの休憩所で寝かせてある。心配しないでも、ちゃんと生きてるよ」

ヤマメ「姐さんの手前、手出しなんざできないさ」


ぬ~べ~「はは、そうか……良かった」


勇儀「子煩悩な先生だねぇ、本当に」


正邪「クソッ……こんな屈辱を受けたのは初めてだ! いや……初めてでもないかも」

正邪「でももう二度と地底になんか来るもんか!」

正邪「地上の馬鹿どもに追い回される方がマシだ! あばよ!!」

ぬえ「……そっちに行くよりこっちに行った方が近道になるよ?」

正邪「そっちに行くつもりなんかなかった! こっちに行くつもりだったからそっちに足先向けたんだ!」

ぬえ「じゃ、またね――私がこの小物を地上まで送って行くわ」

正邪「余計な御世話!」


タッ


勇儀「ひとりで寂しくなったらまた来なよ」

ヤマメ「地底はどんな厄介者でも来るモノ拒まず、去るモノ追わずだからね」

ぬ~べ~「……」

327: 2014/08/07(木) 00:31:18.68 ID:Rqku3eO70

――

ぬ~べ~「ヤマメくんはこの地底のどの辺りに住んでいるんでしょう?」

勇儀「さぁね――土蜘蛛なんて何処にでも巣を張れるし、何処に住んでいてもおかしくはない」

勇儀「あの子らが起きる頃にまた来ると言っていた。そしたら地上へ上がる道を教えてもらいな」

ぬ~べ~「――ええ、本当に助かりましたよ。良い妖怪(ひと)達に遭えて」

勇儀「さて、ようやくふたりきりになれたところで、肝心の話をするとしようか?」

ぬ~べ~「そうですね」


ぬ~べ~「いやー、照れるなあ!」

ぬ~べ~「やっぱり最高のデートコースは怨霊の飛び交う無縁仏の埋もれた原っぱで、楽器の付喪神達が奏でる妖艶な旋律に耳を傾けながら」


バシャーン


勇儀「おいおいおい、まだ酔いが覚めてなかったか? 水掛けたから、そろそろ正気に戻りな」

ぬ~べ~「あ、あれー……」


勇儀「その左手に封じられた鬼について、だ」

ぬ~べ~「……!!」

勇儀「分かる範囲で、私の意見ってものを語ってやろう――勿論鬼に二言はないから安心しな」

328: 2014/08/07(木) 00:36:55.50 ID:Rqku3eO70
勇儀「まず、そいつはこの幻想郷にいる鬼とは――無関係。もとから貴方のいた世界のどこかしらに潜んでいたらしい」

ぬ~べ~「……そうですか」

勇儀「今すぐ引っ張り出して手合わせ願いたいぐらいだね――なかなかの強者と見た」

ぬ~べ~「こいつを引っ張り出すことによって――封印を解くことによって」

勇儀「だが、引っ張り出すわけにはいかないね」

ぬ~べ~「……それはどうして」

勇儀「今はまだその時ではないということ――いずれ決着のつく時が来るさ」

勇儀「いつその時が来るかと言えば……私には分からん! 先のことを聞かれても、鬼は笑うしかないからね」

勇儀「そして貴方がその鬼を封じることによって抱えてしまった呪縛も……いずれ解ける」

勇儀「まだ今は、耐える時だ」

ぬ~べ~(……、驚いた。ここまで見抜けるものなのか。やはり鬼というものは……底が計り知れない)


勇儀「それに、無理矢理にでもそいつを引っ張り出してしまうと――たぶん本当の異変(めんどうごと)になっちまうね」

ぬ~べ~「……確かに、コイツは怖ろしい奴だった」

勇儀「手の平を重ねた時――そいつの声が幽かに聞こえたよ」

ぬ~べ~「!! コイツは一体、何て!?」


勇儀「『うがー』って言ってた。それだけ」

ぬ~べ~「……は、はあ。それだけ、ですか……」

329: 2014/08/07(木) 00:43:48.55 ID:Rqku3eO70
勇儀「ま、とにもかくにも、これ以上刺激しない方がいい。仮にそいつが幻想郷にのさばることになると」

勇儀「――そうなると貴方はおろか、向こうで寝てる子らにも更なる危険が降りかかるだろう」

勇儀「そこまでして、自分の目的を達成しようとするほど――エゴな人間じゃないんだろう?」

勇儀「貴方はね」

ぬ~べ~「……」

勇儀「期待には添えなかったかも知れないけれど。こんなもんで、いいかなー?」

ぬ~べ~「……ええ、どうも。勇儀姐さん」


ぬ~べ~(幻想郷――最初はどうなることやらと思ったが)

ぬ~べ~(ここに暮らす妖怪達と人間との関係性の維持は、ここを一種の理想郷として成り立たせているんだな)

ぬ~べ~(もちろん、この箱庭を保ち続けるために――見えない所で犠牲が生じていることは間違いないだろうが)

330: 2014/08/07(木) 00:46:35.34 ID:Rqku3eO70

――妖怪の山(上空)――


ビューン!!


文(厄介なことになってしまったわねぇ)

文(――博麗神社の炎上、大結界の弱化、……その一翼をまさか私が担ってしまうとは)

文(もっとも、他の約3名の方が明らかに過失割合が大きいけれどね)

文(博麗神社の方は霊夢さん達なら滞りなく修繕アンド水際での危機回避ができるでしょ)


文「――だったら、今の私の役割は妖怪の山に異変の余波が押し寄せていないかを確認すること」

文「そして、有事の際には外敵の侵略行為を鎮圧――」


??「クックックッ」

331: 2014/08/07(木) 00:54:12.39 ID:Rqku3eO70
文「って言った端から余所者登場――何者ですか、貴方は」

文「いえ、その風貌を見るに大方察しはつきましたがね」


岩天狗「山の神さま最強の使い手――岩天狗」

岩天狗「よもや、このような異界に闖入することになるとは驚いたぞ」


文「山の神……おそらく、私が知っているそれとはてんで別物のようですね」

文「それから本当の猛者ならば、自分が強いなどと豪語しません――能ある鷹は爪を隠すもの」


岩天狗「……フン」


文「貴方も天狗なんだったら、山のタテ社会ってものを理解できるでしょう? 外界はそうでもないんです?」


岩天狗「大差はなかろう――山の掟は厳しいものだ」

岩天狗「いずれは山の神さまに命じられ、あの雪女と人間を始末するときも来るだろう」


文「その雪女の件はさっぱりですが、どうやら対話は可能なようで安心しました」

文「私は清く正しく美しいパパラッチ――鴉天狗の射命丸文」

文「この山は私をはじめ上司たる大天狗様、ひいては天魔様の管轄下にあります」

文「余所者の立ち入りは固く禁じているんです――事情を斟酌のうえ、速やかにお帰りいただけたらありがたいのですが」

332: 2014/08/07(木) 01:04:48.56 ID:Rqku3eO70
岩天狗「ここは我らが山の神さまの統括とは異なる場――早々に立ち去ろう」

岩天狗「だが、その前に――同じ天狗を名乗る同士、一度手合わせしてやってもいい」

岩天狗「もっとも、鴉のか細い嘴が岩を打ち砕けるとは思えんが! ひーひひひっ!」

文「私は暇ではないのですが――そこまで挑発されると乗らなきゃ損な気がしますね」

文「貴方のその高慢ちきな長鼻を――へし折って差し上げますよ」


文「風神『天狗颪』」




ギュォォオオオオオオォォォォオオオ




岩天狗「不幸の風!」




バサッ――




文「おやおや、この程度の風撃、カマイタチの方が断然マシですね」

文「やるならやるでもう少し頑張ってもらわないと、私も手加減の匙加減に困りますから――」


文(ん、これは)

文(あやややや……何でしょう? 少し視界が……ぼやけて来たような)

333: 2014/08/07(木) 01:08:38.50 ID:Rqku3eO70

――地底(地霊殿)――


ピョンっ


お燐「さとり様!」


さとり「……、あら、お燐――久しぶり」

さとり「どうしたの? 何か用?」


お燐「い、いやー……その……」


さとり「……、……、……、……そう」

さとり「でもそれ、わざわざ私に報告するほどのことなの?」

お燐「えー、そりゃだってさとり様……事は地上で起こっているとはいえ、地底も余波を食らってしまったら……」

お燐「万一、妖怪退治の請負人や賢者が下手を打った場合……幻想郷そのものが」

さとり「『最悪の場合、壊れてしまうかも知れない?』――大袈裟ねぇ」

さとり「それに、別に私は構わない」

さとり「私の居場所なんて幻想郷(ここ)に有って無きがごとし――幻想郷(ゆりかご)が失われたところで、何も変わらない」

お燐「あらら……そうですか。それじゃ、あたいはとりあえず行ってきますね」

334: 2014/08/07(木) 01:12:29.34 ID:Rqku3eO70
さとり「『念のため、旧都の鬼達にも状況を伝えに行く』って? 別に、私は止めたりはしないわ」

さとり「お燐にも責任の一端があるのなら、後始末には参加してくれないと――」

お燐「さとり様にまで火の粉がかかってきたら、あたいはペットとして立つ瀬がありませんもの」

お燐「――それでは」


ニャー……タッ!


さとり(――度重なる不幸が重なって、博麗神社が炎上)

さとり(その事態に意図せずとも加担する結果となってしまったのがお燐を含む4名……ねぇ)

さとり(お燐のように、博麗神社に半分棲みついているような者を除くと、残るは……)

さとり(案外――その人物がその事態を引き起こした黒幕かもしれない)


パラッ


さとり「さてと――読みかけになっていた小説の続きでも読みましょうか」

335: 2014/08/07(木) 01:18:28.63 ID:Rqku3eO70

――??――




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




??「――光だ


見えるはずのない天から光が見える


ヘェ、この暗澹たる地獄に一筋の光が差すなんて


出られるのか……ここから


何が待っている、あの光の先に




……


感じる


感じる……かすかに




覇鬼兄さんなんだね?

いるんだね……その光の向こう側に




待っていて――今、会いに行くよ

そして共に奏でようじゃないか――破壊と殺戮に彩られた、すてきな鎮魂歌(レクイエム)をね」




                          (第2話:旧都に佇む怪力乱神の巻・終)

336: 2014/08/07(木) 01:22:00.89 ID:Rqku3eO70
次回




第2.5話「 里人たちを守れ――妖怪大戦争勃発! の巻」


ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第4話】



引用: ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」