797: 2014/09/13(土) 00:14:09.48 ID:itH2tAH30

ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第1話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第2話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第3話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第4話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第5話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第6話】
ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」【第7話】

――紅魔館跡――


シュ―――――――――――――――


美鈴「咲夜さーん! お嬢様! パチュリー様ー! その他数名の方々ー!」

美鈴「生きてますか~?」


バサッバサッバサッバサッバサッ


美鈴「あ、流石はレミリアお嬢様。無数の蝙蝠に分身して難を逃れられましたか」

レミリア「あんた、門番としての役目を果たせなかったってことで解雇ね」

美鈴「えー、そんなあ。今回はちゃんと起きてたんですよ~」

レミリア「ああ、それもそうね。じゃあ、再建費を賄うために里で水商売でもやってもらうから」

美鈴「いやいや、私妖怪ですからそもそも里人たちは怖がって近寄りませんって」

レミリア「ぶっちゃけあんたって妖怪っぽさが殆どなくなってない? 人間と妖怪の境界線ってどの辺りに引けるのかしらね」

美鈴「うーん、私には何とも言えません」

レミリア「ま、雑談は後にして。やられたわねー木っ端微塵に」

レミリア「“餓鬼”の夜遊びか? 鬼以外のも混ざってた気がするけれど。この借りはキッチリ返さないとね」

美鈴「ですねぇ」

レミリア「先刻異界の扉を開いて現れた静なる侵入者に対して、今度は猛烈なパワーと破壊力を以て突撃して来た動なる侵入者」

美鈴「侵入される前に建物が崩れちゃったといいますか。あ、咲夜さん達は大丈夫でしょうか!?」

レミリア「大丈夫。咲夜なら、咄嗟の判断で病弱なパチェの安全を確保しに行ったことでしょう。他のはどうなったか知らないけれど」




ドシュッ!! ギュ――――――――――ン!




美鈴「あ、あれって!!」

レミリア「!?」

美鈴「今、瓦礫の山から飛び出していった、おどろおどろしい波動を放つ少女はもしや」

レミリア「もしや? もう判りきっているでしょ」

レミリア(……あの子じゃないの)
地獄先生ぬ~べ~ 30周年記念傑作選 1 ガチホラー編 (ジャンプコミックスDIGITAL)
798: 2014/09/13(土) 00:18:21.16 ID:itH2tAH30

―― (地下・大図書館)――


咲夜(今のは妹様の後姿。光弾で地下まで削られた拍子に牢から抜けだしてしまったのね)

咲夜(どうなさるおつもりかしら? さっきの鬼どもをおひとりで退治に――?)


咲夜「ふうー、ご無事ですか……パチュリー様」

パチェ「私の……私の……図書館がぁ……ゼィ……ハァ」


フラリ


小悪魔「パチュリー様、お気を確かに。無事だった領域もありますから……」

咲夜「……最後のエネルギー弾で、地下の最深部まで貫かれてしまったものねえ」

ベベルブブ「何てことをしやがるんだ……! 人間のやることじゃないッ!」

咲夜「人間では無かったし。ちなみに貴方も一応人間ではないのよね?」

パチェ「――」

小悪魔「パチュリー様、大丈夫ですか!」

咲夜「ショックで気を失われたようで。ともかく、今は安静にしておきましょう」

ベベルブブ「よし! 俺はさっきの悪魔のような連中を叩き潰してくる!」

小悪魔「無理よそんなこと! ベベさんってぶっちゃけ実力はたいしたことなさそうだから!」

ベベルブブ「う……そんなハッキリ言わなくても」

小悪魔「それに、大事な人が人間界にいるんでしょ? こんなところで命を粗末にしちゃダメ」

ベベルブブ「……」

咲夜「そうよ、これはあくまでも幻想郷内部の問題なんだから。何とかしなければならないのは住人達(わたしたち)」

咲夜「でも、片付けくらいは手伝ってもらうわよ。人手が足りないから」

799: 2014/09/13(土) 00:19:40.27 ID:itH2tAH30

――霧の湖(廃洋館)――


わかさぎ姫「見ました?」

速魚「見えましたー」

影狼「吸血鬼の城が見事に落城したわね。凄い音を立てて」

リリカ「騒々しいわね~」

雷鼓「小細工なしの純粋な弾幕パワーか」

八橋「あはは。とんだ対岸の火事だねー姉さん」

弁々「天空に浮かんでいるのは逆さ城? それとも天空の城?」


ルナサ「はい撤収撤収。空爆が……ありそうだ」

メルラン「上の方で、誰かが指揮棒(タクト)を振るっているわね」




カッ……ド―――――――――ン!! 

800: 2014/09/13(土) 00:30:42.48 ID:itH2tAH30
ざっぱ~~~~~~~~~~~んっ!


チルノ「やら……れた……ガクッ」

大妖精「チルノちゃん! チルノちゃん……しっかりして……!」

リグル「大丈夫でしょ、そっちは妖精だし」


リグル「にしても、今の攻撃で湖水が波のように押し寄せて……」

ルーミア「あーあ、……おでんの具がぐっしょり」

ルーミア「対岸(あっち)は火事、此岸(こっち)は洪水だわ」

ミスティア「……くそぅ! こうなったら憂さ晴らしに鳥目にしてやるわよ? ……その辺の人間を」


チルノ「これはあたいのハウスに対する宣戦布告に違いない!」

チルノ「あたいたち4人で痛い目にあわせてやるっきゃないね!」

リグル「……たち?」

ルーミア「なぜ4人なのか」

ミスティア「……いやでも、さっきの奴らヤバそうだし」


大妖精(あれ……なぜか私は、頭数に入っいてない?)

801: 2014/09/13(土) 00:33:52.43 ID:itH2tAH30

――人間の里(寺子屋)――


克也「おおー広ッ!!」

広「克也ー!!」

克也「お前らみんな無事だったんだな……何つーかよ、その」

広「へっ、心配して来たってか? 余計なお世話だ」

克也「んだとコイツ! 心配とかじゃなくてよ、ちょい気になっただけだっての」


まこと「ZZZ」

美樹「まったく、克也もまことも勝手に来るなんて。玉藻先生たちも心労絶えないわねー」

慧音「貴方たちも人のことは言えないんだろう?」

郷子「はい、言えないです……」

阿求「怖い物見たさなのかしらね?」

郷子「ええ、まあ……何ていうか。私たち結構そういうのに慣れっこで、まあ今回も大丈夫かなーて気持ちがどこかにあって」

慧音「そういう気持ちの緩みが、命取りになったりするのよ――皆、少しは反省しなさい」

郷子「はい」


克也「オレさー、あっちのけーね先生たちに夜の授業受けちゃったんだぜ」

広「ええー何だよそれって!? 詳しく聞かせろ!」

美樹「どーせ悪さしてお説教されたってオチなんでしょー?」


阿求(彼らは本当に反省しているのかしら)

まこと「ZZZ」

802: 2014/09/13(土) 00:40:48.75 ID:itH2tAH30

――人間の里(路上)――


魔理沙「どこがちゃんこ鍋の付喪神だよ」

小鈴「私ちゃんこ鍋だなんて言ってないわ」

小町「口伝えだと、こうやって聞き間違いが往々に生じるものさ」

魔理沙「で、あの『赤いちゃんちゃんこ着せてやるぜ!』っていうのは悪霊の類なのかな」

小鈴「氏神さんなら――」

小町「あー、あたいはあくまで船頭だし。素直についてきてくれないタイプはちょっと」

小鈴「……うっ、幻覚が……」

魔理沙「おい大丈夫か」

小鈴「きゃ! 魔理沙さんが全身血塗れになって顔が半分抉れてるー!!?」

魔理沙「おいやめてくれ」

小町「まあ、地道にいこう。もうじき異変のおおもとも収まると思うし、何とかなるって」

803: 2014/09/13(土) 00:45:08.01 ID:itH2tAH30

――幻想郷(上空)――




要石「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」




天子「あの東端にあるのが博麗神社(跡)。絶鬼が幻想郷入りした際、鬼門が開いた場所ね」

天子「私たちはあそこから太陽の畑と無名の丘に飛んで、その先の迷いの竹林を蹂躙」

天子「そこから再び飛んで人間の里を通過後、紅魔館と霧の湖を襲撃した、と」

絶鬼「いちいち説明はいらない。上から眺めるとよく判るね」

覇鬼「……狭いうが」

絶鬼「別に僕らは勝手に飛べるんだから要石(これ)に腰掛ける必要などないんだけど」

天子「えー? だってこの方が絵になるでしょ? ラスボス達が悪魔城で待ち構えている感じで」

絶鬼(この天人とやら、やっぱり本気で遊んでいるのか?)


ビューン!!


フラン「こんばんは。貴方たちなのね? 私を鳥籠から解放してくれたのは」

天子「――これはこれは、見ない顔ねぇ」

絶鬼「誰だい?」

804: 2014/09/13(土) 00:58:09.85 ID:itH2tAH30
天子「鬼よ」

天子「鬼と言っても吸血鬼だけれどね。先程砕け散った館の、奥の奥に封じられていた問題児」

天子「聞くところによると……誕生以来、五百年くらい館から外に出してもらえなかったとか」

絶鬼「……ほう」


覇鬼「うがー? お前、吸血鬼?」

フラン「はじめまして。私の名前はフランドール――館の主(おねえさま)の操り人形」

覇鬼「おねーさま? じゃあ妹うが?」

フラン「いつもひとりで遊んでばかりだったから。それだけじゃ、つまらなかったから」

覇鬼「……」

フラン「一緒におままごとでもしない? 紅い鬼の――お兄様?」

覇鬼「俺がおにーさま、うが?」

フラン「見渡す限りの玩具の山。これを全部、おままごとのセットにしよう」

フラン「ね、いいでしょ? 私も混ぜて欲しいの」


フラン「貴方たちの楽しげな破壊活動(おあそび)は、まだまだコンティニューするのよね?」

天子「いかにも。ゲームオーバーになるまで――それまでは永遠にコンティニューよ」

覇鬼「よし! やるうが! 皆で遊ぶうが~」

絶鬼「……やれやれ」

805: 2014/09/13(土) 01:03:42.74 ID:itH2tAH30
天子「ということで異存はないか?」

絶鬼「特に無いよ」

絶鬼(この吸血鬼の娘も使えそうだ。清冽な子どもっぽさはあるが、覇鬼兄さんとはまた違った怖さを内に秘めている)

絶鬼(それに西洋の鬼のチカラってものを、試しに見てみたいしね)


天子「よし決まり! 人数的にも4人って割り切れていい具合だわ」

絶鬼「ふふ、忌数という意味でもいい数字だ」

天子「さらに決めた、我々はこれを機に四天王と名乗ろう。これは絶対事項だ、異論は認めない」

フラン「四天王って、あの朱雀や玄武のようなやつら? お部屋に積まれた本に載っているのを見たわ」

覇鬼「してんのー!」


絶鬼「……これは異論ではなく、提案なんだけれど」

絶鬼「四天王と書いてカルテットって読むことにしない? ――その方が、聞こえがいいと思うんだ」

806: 2014/09/13(土) 01:23:05.24 ID:itH2tAH30

――妖怪の山(山麓)――


諏訪子「どうなの、紅魔館(むこう)の様子は」

椛「完全に崩れ堕ちたようですね。敵機は現在、上空から霧の湖周辺に閃光弾を放っています」

にとり「でも、それほど威力のある攻撃ではないね。挑発行為かな」

弥々子「いったい何が起きているんだっぺ? おらにはさっぱりだ」

にとり「こっちだって知りたいよ詳細を。まあ、敵機の数は椛の千里眼もあってはっきりしているけれど」

諏訪子「目視でもあの要石を見ればひとりは確定として、問題は残る二頭だよね」

ぬえ「……」

諏訪子「あの巨大な鬼ってのはもしかして」

ぬえ「……確かめてくる。もともと私はここの者でもないし、これ以上留まる理由もないからね」

諏訪子「はいはい、どうぞ。帰依したくなったらおいで」

諏訪子「あの鬼、うちの山に侵入(い)れないようにしてよ」

ぬえ「……」


ビュンッ!


椛「ところで諏訪子様はなぜあの正体不明とともに?」

諏訪子「いやー別に。それより、山の警戒態勢はどうなってんの?」

807: 2014/09/13(土) 01:26:55.18 ID:itH2tAH30
にとり「とりあえず、玄武の沢から河童人員を集めて河川一帯は抑えています」

にとり「山童は山麓から中腹域までを見回り中、それより高い域および上空は天狗様方が抑えているわけよね?」

椛「ええ」

諏訪子(神社には神奈子がいるし、大丈夫だね)

諏訪子(でも活きのいい鬼が本気で暴れ回るとなると、ゆっくり傍観しているわけにもいかないか)


弥々子「うー。難しい話だ」

にとり「ま、秩序だった社会が形成されているとね。有事にはその地域社会を維持するために色々動くことになるの」

弥々子「それって何だか窮屈。ようは自由がないってことだっぺ?」

にとり「ま、言われてみればそうかもしれないけれど」

にとり「お陰でうちの山の住人達は連帯意識が強いんだ。いい意味でも悪い意味でもね」

808: 2014/09/13(土) 01:33:43.42 ID:itH2tAH30

――妖怪の山(中腹)――


バサッ


はたて「文! 見た、さっきの閃光弾?」

文「ええ、勿論見たわよ。鳥目じゃないもの」

はたて「どう思う? さっきの連中……約一名ははっきりしているけれど」

文「あの赤鬼、たぶん幻想郷の鬼じゃないわね」

はたて「そうなの? 鬼の四天王の一角とかじゃなくて?」

文「たぶん違うと思うわ。あと、紅魔館を狙い撃ちしたのはあくまで序章ってことでしょうね」

文「あそこは何だかんだで、おぞましい吸血鬼の巣食う恐怖の館ってことになっているし」

文「紅魔館が呆気なく崩れ落ちたということになれば、連中のチカラが本物であることを幻想郷中に示すことになる」

はたて「でも、ただチカラを誇示したいだけなら、あんな乱暴なことはしないでしょ」

はたて「あの天人くずれが一枚絡んでいるということは……」


文(博麗神社の焼失という緊急事態の発生は、天子さんが仕組んでいたこと?)

文(あの赤鬼を外から召喚し、また異変――前回よりの更に幻想郷が危ない?――を発生させるに至った)

文(だったら、それに当然気付いたであろう霊夢さんが――博麗神社に残っていた天子さんを野放しにするはずがない)


文「!! 霊夢さんは今どうなって!?」

はたて「文ッ! 攻撃が来るわー!!」

はたて「山の頂上――丁度、守矢神社の辺りに!」




――カッ!!

809: 2014/09/13(土) 01:38:18.09 ID:itH2tAH30

――妖怪の山(守矢神社)――


ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン


神奈子(ケサランパサランを囲っていることは隠密にしなければな、効果に影響があるようだ)

神奈子(各々が窒息しないように風通しにも気を付けないと)

神奈子(つい最近巷で話題になっていたなと思っていたが、70年代だったか)


パラパラ


神奈子(『和漢三才図会』の鮓荅(へいさらばさら)との関連性は……参考になるかな)


ケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサランケサランパサラン


神奈子(――む)




/ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ\




神奈子「天(うえ)からだね」

神奈子「風雨の守り神であり五穀豊穣の神であり、軍神でもある――」

神奈子「我の鎮座する守矢神社に、喧嘩を売るつもりか?」


                                  
                                     (つづく)

827: 2014/09/15(月) 23:45:59.82 ID:krwokibr0

――命蓮寺――


こいし「かくかくしかじかでね」

こいし「とっても楽しかったのよ」

ナズーリン「な、なるほど。それは盛りだくさんな経験をしてよかったね、君」

こいし「ほら見て。道中でこんな物を拾ったの。どっちが欲しい?」

星「ああ! 片方は私の探していた宝塔!!」

こいし「こっちが欲しいのね。はい、あげる」

星「拾ったものをきちんと届け出る邪心なき門徒よ――実に有難い」

ナズーリン(本当に拾ったのか、あるいは無意識に捕っていってまた返しに来ただけなのか)

ナズーリン「ちなみにもう片方の物は何だ?」

こいし「知らないわ。見てみる?」

ナズーリン「ふむ、では失敬。――これは銭入れだな。ヌエノという者の名刺が入っている」

星「鵺の?」


ガラッ


ぬえ「呼んだ?」

828: 2014/09/15(月) 23:49:21.09 ID:krwokibr0

――


ぬえ「なるほど……そんなことがあったのか」

こいし「あの赤鬼さんはお兄ちゃんなのよ。ゼッキっていう名前の弟と一緒に遊んでいるわ」

ナズーリン「先程から夜空に閃光が走っていたのは、その鬼兄弟らの仕業だったというのか」

こいし「あら、せんせーの財布の中に宝石が? 最初は石ころしか入って無かったのに」

星「いいから、それはそのまま本人のもとへ返しておやりなさい」

ぬえ「……私が預かるよ。後であの人間に返しておくから」

ナズーリン「その方がまだいいだろう」

ナズーリン「しかし、君たちが同時にこの場に居合わせ、こうやって私やご主人様と会話を交わしているとは珍妙な光景だ」

星「確かに、常識では考えられないわ」

ぬえ「べ、別にそんなことはどうだっていい! それよりも、鬼退治の方が先だ!」

こいし「わー面白そうね。でも、相手は鬼だけじゃないわよ」

ナズーリン「確かに、話を聞く限りではなかなかの非常事態ではあるな」

星「聖たちと合流するわよ! 情報を共有して早めに事に対処しないと――」


ガラッ


神奈子「その情報とやらを我々に提供してもらえるか」

829: 2014/09/15(月) 23:54:19.53 ID:krwokibr0
ぬえ「!」

星「なっ!? 守矢の二柱……どうしてここに」

ナズーリン「……貴女がたの目的は?」

神奈子「別に命蓮寺が最近勢力を伸ばしていて気に喰わないから潰しに来た、などというつもりはない」

諏訪子「うちの神社に喧嘩を売って来た敵機の首謀者に軽く神罰を与えようと思ってね」

ぬえ「……山にも侵攻してきたのね」

諏訪子「侵攻ってほどでもないけどね。信仰心の篤い山の妖怪たちはてんやわんやよ」

神奈子「それで、どれくらいの情報が入ってきている?」

星「まだこちらは承諾もしていないというのに。――彼女が一部始終、見聞してきたことでほぼすべてですよ」

こいし「……」

神奈子「――まずは端的に言ってくれるか。上空ではしゃいでいる連中の内で、主犯格は誰なんだ?」

こいし「んーとねぇ」


こいし「たぶん、ゼッキっていうやつよ――私の友達を本気で殺そうとしてたのは、ゼッキだけだもの」

830: 2014/09/15(月) 23:56:53.15 ID:krwokibr0

――地底(地霊殿)――


ぬ~べ~「……」

さとり「『広達、てっきり先に地霊殿に向かったものだと思っていたのに。頭痛が痛い』」

玉藻「……」

さとり「『鵺野先生、文法が間違ってますよ』」

ゆきめ「……」

さとり「『もー、鵺野先生があんな頭の中身もピンク色っぽい女とベタベタしてるからこんなことに』」

華扇「……」

さとり「『頭の中が桃色……って、それはどういう意味なのかしら?』」


さとり「次に貴女はこう言うでしょう。とりあえず挨拶がてら私(この妖怪)に勝負を吹っ掛けようかな、と」

早苗「……。……ハッ!」

さとり「帰れ」

831: 2014/09/16(火) 00:02:15.58 ID:tSREwYPH0
早苗「ごめんなさい、冗談です。私がちょっぴりはっちゃけちゃったせいで」

ゆきめ「ちょっぴり? ……でも私も勘違いしちゃって悪かったわ」

華扇「いいえ、私だって最初にぬ~べ~さんに会ったときに勘違いをしたし……ひとのことを言えない」

玉藻「私も冷静になるべきだった。後悔しても時既に遅し――ですがね」

ぬ~べ~「今日は妙に素直だな。何かあったのか――さっき、誰かと約束をしたとかどうとか言ってたが」

玉藻「聴きとっていたんですか。あれはただの独りごとだ。特段の意味はありませんよ」

ぬ~べ~「そうかい」


さとり「あの赤鬼は『弟(ゼッキ)が呼んでいる!いかなくちゃ!』などと心術して地上へ向かったんですが、ゼッキという弟に心当たりなどは?」

ぬ~べ~「! 絶鬼だと……!! まさか……ヤツも幻想郷に紛れこんでいるというのか!?」

早苗「ええ!? あのイタリア人ピアニスト兼指揮者のカルロ・ゼッキさんも幻想入りしていたと!」

ゆきめ「誰よそれー?」

玉藻「絶鬼は地獄の中でも最下層の無間地獄に落ちたはずだが。あ、勿論こちらの地獄ではないはずです」

華扇「あの単細胞な赤鬼がすぐさま呼応した点を考えるに、何らかの理由でそのゼッキとやらも幻想郷(ちじょう)に現れたことは確かでしょうね」

早苗「その原因は、大結界の歪みにある――ということなんですね? ゆきめさん、玉藻さん」

ゆきめ「たぶんね、というかそれしか考えられないんでしょ?」

832: 2014/09/16(火) 00:07:01.28 ID:tSREwYPH0
華扇「通常、外界でもなお健在な幽鬼人妖が安易に幻の世界には入れないような仕組みになっているのだから」

玉藻「そもそも私たちが入って来れたこと自体が異常。あの井戸以外にも結界に亀裂が至る所に発生していると考えれば」

早苗「ゼッキさんがたまたま入り込んじゃったとしてもおかしくはないということですか」


玉藻(例の結界を管理しているのは、あの九尾を式として操る“管理人”と博麗の巫女なる存在だというが)

早苗(きっと八雲紫(あのひと)が陰で糸を引いているに違いない!)

華扇(あの赤鬼だけではなく、さらにその弟分までいるなんて。霊夢は……もう彼らと対峙しているのかしら)

ゆきめ(鬼兄弟のこともだけれど、いなくなっちゃった広君たちのことも)

ぬ~べ~「……」


さとり「……」

さとり「そろそろ、お引き取り下さいね。やるべきことははっきりしているでしょう」

さとり「考えるよりも先に、動くべき時もあります」

ぬ~べ~「……そうだな」

833: 2014/09/16(火) 00:17:03.51 ID:tSREwYPH0
ザッザッザッ


さとり「お燐、彼らが地上に向かうサポートをしてあげて」

お燐「了解です、さとり様」


さとり「土蜘蛛は子ども3人を探してはくれないかしら。子どもの足じゃ、移動できる距離はたかが知れている」

さとり「地底のどこかを彷徨っているに違いないわ。橋姫と旧都の勇儀(おに)が残っているなら危険な妖怪の山側に出る恐れもないだろうし」

ヤマメ「わかったよ。それと、行き掛けの駄賃に血の池地獄の状態を姐さんに確かめてくるね――先生」


タッ


ぬ~べ~(旧地獄に……血の池地獄?)


さとり「お空は私と一緒に、地霊殿に残って」

お空「え?」

さとり「こういった混乱極まる状況下で貴女が地上に出たら……かえって大事故につながりそうだからね」

さとり「地上で太陽がふたつ輝く必要はないわ。お空が輝くべき場所は、うちの中庭の奥よ」

さとり「私が許す。軽く暴走していいわ」

お空「はーい、わかりました! 私とフュージョンしたい方は誰でもお越しくださいね」


タッ


ゆきめ「暴走って……?」

玉藻「さあてね……」

早苗「つまりはエネルギー革命の一環ですよ」

華扇(自発的に暴走させるなんて……大丈夫なの?)

さとり「念のためです。忘れ去られた灼熱地獄を再度地獄の釜として機能させておきますので」

さとり「神の力を宿した地獄鴉の核融合炉と、舟幽霊でも溺れる底知れない血の池地獄」

ぬ~べ~「……」

さとり「最悪の場合、これらの施設を利用してもらって結構です。何らかの形でね」

さとり「地底には、ならず者や嫌われ者を受け入れる下地が整っていますから」

835: 2014/09/16(火) 00:22:54.92 ID:tSREwYPH0
さとり「というわけで、よろしいですね?」

玉藻「善後策としては問題ないでしょう」

ゆきめ「3人は地底の妖怪達に任せれば大丈夫そうね。だったら」

華扇「まずは、あの赤鬼を封印することが最優先。それから、弟さんも――話が通じる相手でない場合には」

さとり「言葉は通じるけど通じ合えないそうよ」

早苗「案外、霊夢さんがもうやっつけちゃったりしているかも知れませんけどねー」

お燐「さあさ、行くよ!」


タッ!


さとり「……」

さとり「どうしたんです。早くお引き取り下さい」

ぬ~べ~「すまなかった。俺がしっかりしていないばっかりに……」

さとり「……」

ぬ~べ~「君だけじゃない。地底の妖怪たちには随分と」

さとり「言わなくても判りますから。確かにとんだ傍迷惑ではあったけれどね」

さとり「ほんの少しだけ、……あの鬼が来てくれたおかげで良かったこともあったので」

ぬ~べ~「……、そうか。それは良かったな」

さとり「子どもたちが見つかったら、一通り事が収まるまでは安全な場所でお預かりしましょう」

さとり「そして異変が片付いたら、誰かに地上まで送ってもらいますから」

ぬ~べ~「ああ、頼む! 君たちの親切さには、本当に頭が上がらない」

ぬ~べ~「それじゃあな、さとり君」

さとり「この異変が終結した暁には、二度と私の平穏な日常に一石を投じないでくださいね」

さとり「私は、心から静かに暮らしたいと思っているので」

ぬ~べ~(ありがとう。――妹さんと元気でな)


ダッ

836: 2014/09/16(火) 00:29:34.08 ID:tSREwYPH0

――幻想郷(上空)――


天子「どこにしようかなてんしさまのいうとおりー、ここだ!」

天子「次は命蓮寺を焼き打ちにしよう!」

フラン「あそこ?」

絶鬼「人里に近い寺院だね。破壊活動によって人間共の懼れの感情を増幅させるにはいい立地だ」

覇鬼「ぶっこわすうがー!」

天子「ゆくぞ――……、……」


天子「……あれ?」

絶鬼「どうしたの?」

天子(天候が……私の意図に反して穏やかに。誰かが私の能力に干渉している?)

フラン「あ、見て! こっちに向かって何か……弾幕かな?」

覇鬼「何か飛んでくる?」


ギュォォォォォォォォォォォォォォ


絶鬼「なんだいアレは? 丸太がミサイルのようにこちらへ向かっているけど」

天子「……あれは御柱だ! 山の神様が喧嘩を買ってくれたみたいね」

覇鬼「こっちに向かってくるうが」

フラン「ひーふーみー……何十本もあるわね。全部壊しちゃいましょ」

フラン「触れることなくね」


どっか~~~~~~~~~~ん!!!!

837: 2014/09/16(火) 00:35:49.43 ID:tSREwYPH0
フラン「はい、おーしまい」

覇鬼「うがははは」

絶鬼「……なんだ、他愛無い。山の神とやらのチカラはこんなものなのか?」

天子「そんなはずはないよ。全盛期を過ぎたヨボヨボの老婆とはいえ神様なんだから、これからもっと本気で分祀でもして――」




ビューン!!




フラン「あら、今度は空から何か……。あれってもしかして流れ星かしら? 綺麗ね」

絶鬼「流れ星? ぼくには円盤に見えるけれど。宇宙人もいるのかい?」

天子「あれは大きなドーナツじゃないの?」

覇鬼「輪っかだうがー」

天子(他にも何かが周りから飛んで――……何か?)

天子(同じものを見ているはずなのに、皆それぞろ異なるものとして認識している)

天子(そして、そう認識することが恰も自然であるかのように――)

天子「! これは罠だ! 自分の認識を過信するな!」


ドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーンドカーン


神奈子「小手調べの神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』に引き続くは」

神奈子「神秘『ヤマトトーラス』と御柱『メテオリックオンバシラ』(今年は祭の年ではないけれどね)」

ぬえ「これらの弾幕そのものが正体を無くせば、敵は対抗しづらいだろう――正体不明『赤マント青マント』」


神奈子「更にひけらかすは『神の御威光』」

ぬえ「それをくらますはアンノウン『原理不明の妖怪玉』」


ボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッ
ボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッ

838: 2014/09/16(火) 00:41:30.38 ID:tSREwYPH0
ぬえ「気がつけば連中を取り囲む正体不明の某かは――神霊の放つ神のチカラ」

神奈子「それだけではないよ。私と諏訪子が天と地の変動に干渉することで、不良天人の悪ふざけに歯止めを掛けている」

ぬえ「意外とこのまま倒せそうじゃない?」

神奈子「倒すのは我々の仕事ではない。差し当たっての目的は統制を乱すこと」


ぬえ「――ところで、山のてっぺんが削られたってことは……守矢神社の方は」

神奈子「ああ、手っ取り早くまるごと一時避難させた。幸福を呼ぶ綿毛の力を少し使った上でだけど」

ぬえ(綿毛? 手っ取り早く……か。簡単に言ってくれるな)

神奈子「さて、休まず攻撃を加えるかな。まったく活きのいい異変首謀者どもだ」

神奈子(触らぬ神は祟ったりしないが、神経に触られた神は――)

ぬえ「烏合の衆といっても、あんな4人組が協力して暴れられると流石に面倒だもの」

神奈子「貴女はあっちのふたりを惹きつけてここから遠ざけてくれるか?」

ぬえ「わかったわ。あの幼児達(ふたり)ね」

神奈子「早苗も他所に行っているらしいし、紅白の巫女もまだ動かない。が、漸次出揃うだろう」

神奈子「それまでの間は、我々が彼奴らの遊びに付き合う。異変解決のお膳立てをしてあげるのさ」

ぬえ(あの赤鬼はやはりあの男の左手から――。どういう事情があったにせよ、足止めをしなければ)

ぬえ「妖怪退治の専門家による異変解決のために、神や妖怪たちがこぞって協力するなんて変な話だが」

ぬえ「今回に限って言えば、皆が手を貸すにふさわしい理由があるわ。かく言う私もね」

ぬえ「だって、幻想郷が壊されたりしては元も子もないんだもの。別に居心地はよくないけどさ!」

ぬえ「だから守る、私の居場所を! 相手がどんなに手強かろうと!」

神奈子「……居場所か。確かに居場所だ」

神奈子(たいして長居しているわけでもないのにね。ここにも随分愛着が沸いてしまったものだよ)



神奈子「御柱『ライジングオンバシラ』――!」

ぬえ「『遊星(PS)よりの弾幕X』――!」


BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!BOMB!

839: 2014/09/16(火) 00:46:48.09 ID:tSREwYPH0

――


天子「あららー、正体不明の弾幕があちこちで破裂して視界が狭い。皆どこいったー?」

天子(3人とも、術中にハマったのか? 私たちを惑わして分断するのが目的だったようね)

天子(弾幕自体はあの坂好きな神様の物に違いない。が、それに細工を加えているのは鵺だな)

天子(私は天空から眼下をずっと眺めていたから、たいていの者の放つ弾幕を正しく認識できる)

天子(けれど、あの鬼兄弟や狂血鬼は他人の弾幕をほとんど見ていない。見る機会などなかった)

天子(彼らの認識では弾幕の持つ形や音が欠落し、その行動(被弾して炸裂するという結果)だけが残されてゆく)

天子「各々の認識が一致せず混乱を来してしまう上に、相手が繰り出す攻撃を受ける際の危険性の判断が困難になっている」

天子「だって相手の攻撃が“ジャブ”なのか“フックやストレート”なのか、受けた後でないと判断できないんですもの」

天子「いや、私以外はそもそも攻撃(だんまく)で有ること自体を認識し難いからより厄介なもので」

天子(それでもみんな体は丈夫だし、そうそうやられたりはしないと思うけれど)


天子「よく作戦を練ったわね、聖人さん」

神子「彼らとは直接打ち合わせをしたわけではありません。たまたま同じタイミングで反撃するに至ったまでのこと」

天子「あっそう」

神子「眼光『十七条のレーザー』」


ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!


天子「おっとっと、私だけを狙い撃ち?」

神子「――和を以て貴しと為し、忤(さか)ふることなきを宗とせよ」

神子「あなたの胸のうちにはこの宗を収納する料簡はありますか?」

天子「当然。しかれども桃李門に満つる――有能な者共を従えることが出来たのだから、ちょっとくらい諍いを起こしてもいいじゃない!」

神子「はあ……。貴方たちの所業は到底ちょっとという言葉では言いくるめられない」

神子「やはり少し、お説教が必要だ」

天子「天人を目指している方が天人にご高説?」

天子「でも歓迎! どうぞ、物理的な手段でお願いしますわ」


要石「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

840: 2014/09/16(火) 00:52:53.59 ID:tSREwYPH0

――


ボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッボムッ


絶鬼「ッ!」


ビュン!


絶鬼「見えない敵に囲まれて……いるのか?」

絶鬼「攻撃されているはずがないのに気が付いたら攻撃を受けてしまっている」

絶鬼「『認識を過信するな』だと。どういう意味なんだ?」


ザッ!


諏訪子「要するにね――貴方がただの空気だと思って吸っていたものが実は有毒ガスだった、そして氏んだ――ということ」

絶鬼「! 誰だ」

諏訪子「貴方を狙う弾幕はそこかしこに漂っているのに、貴方はそれがただの月やら星やら木々やら虫けらやら何やら……自分とって無害な物としてしか認識できていないのよ」

諏訪子「だって貴方は今までに神奈子の弾幕を目にしたことがないんだから――枯れ尾花が幽霊にしか見えないに決まってる」

絶鬼「……」

絶鬼「疑心暗鬼に陥っていたと言うのか……ぼくは」

諏訪子「そ。鬼のクセに情けない。やっぱり神様の攻撃と聞いて内心は怖さも感じていたのね」

絶鬼「黙れ。正体がわかってしまえば何て事はない。――これは、ぼくたち4人を分断してソロにしようって作戦?」

諏訪子「そうなのよね~。見事に嵌まったね。むしろこういうのは貴方のように多少頭の回転が効く者の方が効果的」

諏訪子「直球バカだったら、ストレートに自分の周りを一切合財吹っ飛ばしてしまうだろうし」

絶鬼(覇鬼兄さん、それと他のふたりはどこに――いや、そう遠くにはいっていないはずだ)


ユラリ


絶鬼「!」

聖白蓮「なるほど確かに、あの道士の推測通り――貴方が一番危うそうね」

841: 2014/09/16(火) 00:56:24.57 ID:tSREwYPH0
絶鬼「おっと、また新手? ――今度は何者かな?」

聖白蓮「そうですわねぇ。魔法使いとでもお答えしておきましょうか」

絶鬼「ふぅん、魔法使いか。手品でも見せてくれるかい? で、そっちは何者なんだっけ?」

諏訪子「そうだねー。カエルの妖怪ってことにしておくよ」

聖白蓮「またまた、とんだ御冗談を」

絶鬼「まあ、かかってきなよ。兄さんたち――いいや、兄さんとはまたいつでも落合えるんだから」


ニュルニュルニュルニュル!


絶鬼「……! ぼくの持つバラが勝手に……伸びて?」


ギチィィィ!!


ユラァリ……


幽香「四季のフラワーマスターという二つ名はダテじゃあないのよ?」

幽香「自分の妖気がこもったバラを操られ、逆に自分を拘束する枷とされた気分はどう?」

絶鬼「またまた新手か。……少しは、骨のある相手のようだな」

諏訪子「唐傘お化け……じゃない方の傘持ちの怪物じゃないの」

聖白蓮「貴女は聞くところによると最強クラスの妖怪とお見受けしますが、人里を守るために私たちに手を貸して下さるので?」

幽香「人里? そうねぇ、あのお花屋さんが閉店したら困りますわね。ただ、主に私怨でこちらに出向いているだけよ」

諏訪子「でもまあ、支援ってことでいいんだね。私も人里というより山を降りかかる火の粉から守るために来たんだけどね」

諏訪子「――神具『守矢の鉄の輪』」


ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!ガシャンッ!


絶鬼「むっ!?」

842: 2014/09/16(火) 01:01:03.81 ID:tSREwYPH0
幽香「四肢も拘束されちゃったわねぇ、貴方大丈夫?」


絶鬼「大丈夫? 嗤えるね――キサマらごときに、ぼくの行く手の邪魔はさせない」


幽香「私の弔い合戦の邪魔も、させようとは思わないわ」

聖白蓮「改心する気はございませんか?」

諏訪子「ちなみに神様と殺り合った経験とかある?」




絶鬼「邪魔をするな虫ケラどもがァ――――ッ!!!」


メキメキメキメキメキメキメキメキメキ




幽香「あら変身? 何令幼虫だったのかしらねぇ」

聖白蓮「超人『聖白蓮』」

諏訪子「祟符『ミシャグジさま』」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

843: 2014/09/16(火) 01:03:01.36 ID:tSREwYPH0

――妖怪の山(山頂)――


文「……」

はたて「……」

文「まるでカルデラみたいな形状になったわね」

はたて「でも、湖はないわね」

文「……」

はたて「……」

文「守矢神社の残骸どころか、風神の湖まで忽然と消えているわ」

はたて「さっきの天空からのエネルギー弾から逃れるために……何処かに持って行っちゃったのかな?」

文「いくらなんでもあの一瞬でそんなことが――……いや、できるかも知れないけれど」

文「何しろある日突然、まるごと幻想入りして来たわけだし」

はたて「じゃあ、どこに持って行っちゃったんだろう?」

文「そりゃあ、どこか安全な場所じゃない?」

はたて「もしかして……一旦外界に逆戻りしてるとか? 特ダネになりそうね!」

文「まさかそれはないでしょ」

844: 2014/09/16(火) 01:06:41.11 ID:tSREwYPH0

――中有の道の上空――


ビューン!


ぬえ(本当に子どもだな。特にあの赤鬼……発している気からしてあの鬼の手の正体には違いないけど)

ぬえ(そろそろ、迎え撃たなきゃね! 暴れ出したりする前に――)

ぬえ(ん、向こうからこちらに向かっているあの小さいのは)


覇鬼「あれは猿だ!」

フラン「いいえ、あれはきっと蛇よ」

覇鬼「……そーいやここ、どこだ」

フラン「私も知らないわ。初めて見る景色だもの」

フラン「絶鬼お兄様と天子さんはどこに行ったのかしら?」

覇鬼「どこにいるうがー!」


ヒュゥ


フラン「……あら、お呼びじゃないヤツが来た」

覇鬼「?」


レミリア「へぇ――それが、久しゅう会ったいない姉に対する態度?」

レミリア「あんたを紅魔館(うち)に連れ戻すために、わざわざ迎えに来てあげたというのにね」

レミリア「そこの木偶の坊、さっさとフランを放しなさい」

レミリア「さもないと――鮮烈なる恐怖を味わうことになるわよ?」


 
                                   (つづく)

854: 2014/09/18(木) 00:34:55.96 ID:wc9nMu9w0

――地底(血の池地獄)――




ゴポッ・・・ゴポゴポ・・・・・・ゴポポッ・・・・・・・・・




勇儀「ほう、鬼の手に封印されていた鬼だけでなくその弟もいるのか」

ヤマメ「そうらしいんだ。もしかしたら、兄弟はもう地上で合流しているかもしれない」

勇儀「く~! これは悔しいな」

勇儀「是非、手合わせしたいというのに……地上にいちゃあね。私が旧都を離れるわけにはいかないし」

ヤマメ「でも、伝えた通り場合によっては――」

勇儀「ここに突き落として封印しようってんだろう?」

勇儀「まだ使えないことはないけど、言っても使い古されて打ち捨てられた地獄の跡だ。猛々しい鬼共を完全に封じ込められるかな」

ヤマメ「そうだよねぇ。どうすれば」

勇儀「簡単なことだ。私がそいつらを子分にする」

ヤマメ「ええー!?」

勇儀「気風が違えども鬼同士だ。何とかなるだろう!」

ヤマメ「そんな……相手が言葉も通じないような凶悪な奴なのに……」

勇儀「別に1年2年での話じゃないよ。10年かかろうが100年かかろうが問題はないんだから」

勇儀「時が経てば人も変わるし鬼も変わる――長い時間を掛けて手懐けるさ」

ヤマメ「何ていうか、姐さんらしい発想だねぇ」

855: 2014/09/18(木) 00:44:06.66 ID:wc9nMu9w0

――彼岸――


映姫(やれやれ、小町のサボリ癖にも参ったものよ)


映姫「ほら、そこの新入りの方――集中力を切らさず仕事に励むように」

眠鬼「なーんで私がこんな机仕事しなきゃなんないのよぉー!!?」


だーん!!


眠鬼「だいたいここどこ!? 私の知ってる地獄じゃない!」

映姫「それはむしろ、こちらが聞きたいわよ」

映姫「見知らぬ鬼娘が紛れ込んでいるので引き取るよう要請が来たからには仕方ない」

映姫(なぜ私のもとに送還されることになったのかは定かでないが)

映姫「貴女はどこの地域担当だったの? 直属の鬼神長の名は? あるいは獄卒鬼としての等級は?」

眠鬼「知らないわよんなこと、意味わかんなーい!」

856: 2014/09/18(木) 00:46:55.74 ID:wc9nMu9w0
パシーン!


眠鬼「い、痛いじゃない! 何すんの」

映姫「仮にも使用者・被使用者関係にあるのよ。言葉遣いには気をつけなさい」

眠鬼「鬼を舐めてかかると痛い目に会うんだからっ」

映姫「反抗的な態度を継続するようなら貴女の下着は返しません」

眠鬼「返せ。いや返して!」

映姫「『返して下さい』でしょう?」

眠鬼「……」


むすー


映姫「どうなの? はっきりしなさい」

眠鬼「か、返して……く……ださい」

映姫「わかりました――返しません」

眠鬼「なんでよぉー!?」

映姫「アメとムチは基本中の基本。きちんと仕事をこなしたら、返してあげないこともない」


映姫(しかし、下着がないと人間並みの力しか発揮できない鬼など初めて聞いたわ)

映姫(変わり種の鬼の子どもね)

857: 2014/09/18(木) 00:54:30.34 ID:wc9nMu9w0
眠鬼「えっと、これ片付けたら返してくれるってこと?」

映姫「返すことも考慮に入れる、と言っているの」

眠鬼「……」

映姫「ほら、するならする。しないならしない。何事もけじめを付けることが肝要です」

映姫「ただし、しない場合には下着は返却しませんので」

眠鬼「あーもうわかったわよ! やるわよ、やってやるわよ! 見てなさい!」

映姫「生憎見ている暇はありません。私は多忙なので、判らないことがあったら周りの事務員(しにがみ)に聞くようにね」

映姫「ちゃんと、貴女の様子を気に掛けておくようにと、みなに伝えているから」

眠鬼「ちょっと……ひとにここまであーだこーだ言っといてあとは放置なの?」

映姫「私の言ったことを理解できましたか? まだ理解できませんか? もう一度最初から説明した方がよろしいですか?」

眠鬼「……う」

858: 2014/09/18(木) 00:59:43.96 ID:wc9nMu9w0
眠鬼「……わ、わかったから。ちゃんと仕事する……しますから」

眠鬼「だから、後でパンツ返してくださいー」

映姫「よろしい。後でちゃんと返すわ――だから仕事に励みなさい」

眠鬼「はいはい」

映姫「『はい』は」

眠鬼「一回でって言うんでしょ! は――――――い!!!」




――三途の川(彼岸側)――


映姫「やれやれ、世話が焼けるわ」


スゥー


氏神「鬼と言えども、子どもは世話が焼けて大変ですね――こちらの閻魔様」

映姫「ああ、貴女は日雇いの氏神の。どう、三途の川の水先案内は?」

氏神「順調ですよ。滞りなく幽霊達を捌いています――予定時間よりも早く本日のぶんは終わりそうですね」

映姫「貴女は時間厳守な上に仕事が早くて助かるわ。一層のこと小町の代わりにうちで正規雇用してもいいわよ」

氏神「いえいえ、私の一存では決められないことなので」

映姫「ええ、それもそうよね。今のは忘れて頂戴」

映姫「ところで、これはきちんと確認させてもらいたいことなのだけれど」

映姫「ある時点を境に、急に川に流れる氏魂の量が増えたみたいなのよね」

映姫「それと、貴女がここに現れたことに関連性はあるのかしら?」

氏神「勿論関係がないことはないです」

859: 2014/09/18(木) 01:02:49.69 ID:wc9nMu9w0
氏神「私の担当する人間界とこちらとの境界線が急に緩んでしまったために」

氏神「人間界で無事成仏できなかった氏霊が多々、こちらに流れ着くようになっているようです」

映姫「ああ、やっぱりね。そんなことだろうと思ったわ」

映姫「貴女もたまたま流れ着いて、あるいは、気まぐれで幻想郷にいらしたの?」

氏神「いえ。近い将来人間界でお亡くなりになる予定の人間がこちらに紛れこんでしまっているので」

氏神「きちんと人間界に戻るまで見届ける為に、ここから監視をしているんです」

氏神「人間界の神が決めたご臨終にて、きちんとお亡くなりいただかないと困りますので」

映姫「確かにね。その人がこちらで野垂れ氏ぬようなことがあれば、外界側の摂理に反するものね」

氏神「そういうことです」




\どっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!/




映姫(……あれは中有の道の辺りか。激しい戦闘が発生しているようね)

映姫(何故かくも無益な争いを起こして小さな箱庭を脅かそうとするのか)

映姫(教えを説きに行きたいところだけれど、もう仕事に戻らなくちゃいけないのが口惜しい)


氏神「それでは私は監視を続けるかたわら、川の交通整理を続けますので」

映姫「ええ、お願いするわ」

860: 2014/09/18(木) 01:07:14.69 ID:wc9nMu9w0

――地霊殿(中庭・灼熱地獄跡)――




CAUTION!CAUTION!CAUTION!CAUTION!CAUTION!




さとり「考えることは同じでしたか」

神奈子「絶鬼を封印するならこれが一番手っ取り早いと思ってね」

神奈子(間欠泉地下センターは山の麓から地底にかけての立地だから――)

さとり「『ここを閉鎖しても我々にはデメリットはない。フハハハハ』」

神奈子(最後の間抜けな発声は訂正せよ)


神奈子「だから私自ら出向いてきた――早苗達があれを叩き落としてきたら仕上げを手伝うとするよ」

さとり「おたくの現人神さんって……」

神奈子「ああ、純粋かつ素直で責任感が強くていい娘だろう。最近は妖怪退治にも熱心に取り組んでいるし」

さとり「……。それとですが」

神奈子「何だい? 鳥頭(あの子)に神力を与えた時のことなら――」

861: 2014/09/18(木) 01:13:59.00 ID:wc9nMu9w0
さとり「そのことはもう根に持ってなどいません。ただ、ここは中庭とはいえ私の住処の地下部分ですからね」

神奈子「判っている。枕を高くして眠れるようにしっかりと――」

さとり「ええ、それもあります。それと、絶鬼というのはあの赤鬼の弟の方でしょう?」

さとり「覇鬼(あに)のように、誰かしらが監督することで制御できる余地は……なさそうなんですか?」

神奈子「そうだね、私の見立てではその見込みは薄い。あれは根っからの悪鬼のようだ」

神奈子「あの弟が側にいる限り、兄を穏便に制御するのは困難だろう。だからこその兄弟分断作戦なんだが」

さとり「『そこに天人と紅魔館の悪魔の妹が絡んでいるから七面倒くさい』と」

さとり(やはり、あの天人が一枚咬んでいたということなのね)

神奈子「そういうこと」

さとり「あの天人はどこまで本気で破壊活動に勤しんでいるとお見受けしますか?」

神奈子「どうだか。自分で心を読みに行ったらいいじゃないか?」

さとり「……」

862: 2014/09/18(木) 01:17:22.76 ID:wc9nMu9w0
ザッ!


お空「さとり様ー、順調に危険度が上がっていってますよー」

さとり「いいわ、そのまま続けて」


お空「うにゅ? そちらの方はどなたですか?」

神奈子「誰がお前にその火力を与えたと思っている」


お空「さとり様です!」


神奈子「主ならちゃんとペットに採点減の教養を与えたらどうなんだ」

さとり「頭の記憶領域をいじらない限り、直らないものは直らない。それは性格も同じかもしれませんね」


お空「?」


神奈子「――絶鬼とやらは、二度と太陽を拝めないように最終処分をするということで一致だね」

さとり「ええ、已むを得ない。……と思うわ」
 

                                   
                                      (つづく)

869: 2014/09/19(金) 20:39:08.67 ID:J3NoPAEl0

――地底(間欠泉噴出孔の付近)――


怨霊達「!!」


ササー


お燐「よしよし、ちゃんと道を開けてくれて助かるよ」

ぬ~べ~「正直なところ、時間が許すなら怨霊(かれら)の声をちゃんと聞いて救済の手助けができれば……と俺は思う」

華扇「あの氏神と似たようなことを言うのね」

ぬ~べ~「……氏神……?」

華扇「いえ、こちらの話よ」

ゆきめ「ちょっとあんた! 先生からもっと離れてよ!」

華扇「あのねえ、周りを怨霊が取り囲んでいるのだから、あまり距離を取れないのは仕方ないでしょう?」

ゆきめ「むぅ……どーなんだか」

ぬ~べ~「まあまあ、ゆきめくん……そうカリカリするな」


早苗「ほら、玉藻さんも積極的にアプローチしないと」

玉藻「研究(アプローチ)ならしてますよ、様々な角度からね」




サラサラサラサラ……

870: 2014/09/19(金) 20:42:25.56 ID:J3NoPAEl0
ぬ~べ~(!? 何だ、突然強大な妖気が……目の前に……!)

お燐「おやおや、とうとうあの鬼まで来ちゃったのか。先生は妖怪だけじゃなく鬼も本当に惹き付けちゃうねぇ」

華扇「あ、……貴女……」


萃香「ごきげんよー!」

萃香「悠長なこったね。地上より地底の方が平和とは、とんだ逆転現象が発生しているよ」


玉藻「! 貴様は何者だ」

ゆきめ「この感じ! 一本角の鬼やそこのピンク女に近い妖気。ということは……」

華扇「私は別に近くないわよ。近くて遠いから。いいえ、全く関係がないから……」


ぬ~べ~「――君もまた、鬼なんだな」

萃香「おうよ」

萃香(まったく、紫(だれかさん)はどこ探しても見当たらないし、霊夢はだらしなく伸びてるしで)


ドボボボボボボ


萃香「そろそろ私も本腰を入れようと思ってねぇ……ごきゅごきゅごきゅっ」

871: 2014/09/19(金) 20:50:51.03 ID:J3NoPAEl0
ゆきめ「うわ、もんの凄くお酒くさーい!! しかも今呑んでるし」

玉藻「……かなり酔いが回っているようだが」

華扇「もともと常時、呑んで酔っているの。そういう鬼なのよ」

玉藻「そういう?」

玉藻「――ああ、そういう鬼ですか。そういう鬼でさえこういう姿とはね。もう見慣れてきましたが」


萃香「ぷはーっ、まあ、手を貸してやるよ。あの赤鬼はお前さんが持ち込んだものだが」

萃香「それを解放しちゃった責任は」


チラ


華扇「ッ……」

萃香「あと、弟だっけ? あれを連れ込んでしまった責任は幻想郷(こちら)側にある」

萃香「だからね。協力する道理は一応立つし、私も折角だからそれなりに力を使いたいし」

ぬ~べ~「そうか。酒呑童子(きみ)も手助けしてくれるのか――俺のことを、信じてくれるんだな」

萃香「強い力ってものは、力の使い道をよく心得ている者にこそ宿るべきだ。その点で、お前は信用できる――そう私は判断した」

萃香「私の力をどれほど使いこなせるものなのか。見せてもらうとしよう」


萃香「文字通り、“手”を貸してやるからさ。そんな包帯(はりぼて)の左手じゃあ心許ないだろう?」

ぬ~べ~「文字通り――?」

872: 2014/09/19(金) 20:57:15.89 ID:J3NoPAEl0


サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ


ぬ~べ~「!? うお、おおおお――――ッ!!!」


ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル




ゆきめ「!? 体がまるで霧みたいになって鵺野先生の……左腕の中に……自分から!?」

早苗「これは燃える展開ですね~! 少年誌っぽくていいんじゃないですか?」


玉藻「そちらにとってはどこの馬の骨とも判らぬ人間を簡単に信用するのか。鬼は過去の失策から学ばないのでしょうかね?」

華扇「な! 鬼を侮辱するようなことを言わないでくれない?」

玉藻「おや、あなたは鬼ではないというのに何故お怒りに? しかめ面に角まで生えてますよ」

華扇「ッ……揚げ足を取るのがお上手ね」

玉藻「まあ、揚げ物は嫌いではありませんからね」


華扇(利口な狐と化かい合いをするのは骨が折れるわ……)

玉藻(こんな融和的な思考回路を持つ鬼達には、外ではまず巡り合えないだろう。いや、鬼に限らずか)

玉藻(如何にして妖怪たちの性質が、この閉じた世界の中で変容して行ったのか。なかなかに興味深い)

873: 2014/09/19(金) 20:59:43.27 ID:J3NoPAEl0

――境界にある屋敷――


藍(紫様は相変わらず戻らないし)

藍(橙も報告に戻って来ないな。そういや、博麗神社に行って伝言を頼むと指示しただけだからなぁ)

藍(どこかで道草を食っているのかもしれない)


スクッ


藍「もうここで時間を浪費するのはやめだ」

藍「適切な対処法をよく考えるのも大事だが、考えている間に取り返しのつかないことになったら元も子もないじゃないか」

藍「とにかく私も現場に向かおう」


藍「博麗神社へ――」


シュンッ!

874: 2014/09/19(金) 21:04:02.22 ID:J3NoPAEl0

――天界――


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


雲山「……」

一輪「……」

屠自古「……」

衣玖「……」


衣玖「そろそろ……危機的な領域に入って来たようです。こんな事態は想定の範囲外」

衣玖「余程強力な物の怪の気質を萃めまくっているのでしょうね。これでは天地を司る神々といえど、これ以上抑えつけるのは困難かも知れません」

屠自古「セヤナ」

一輪「なんで関西弁やねん」


衣玖「天子様の気質である極光(オーロラ)の天候が猛烈な『赤気(せっき)』を帯びて燦々と輝きを放っている」

衣玖「まさに緋色の空――これは古代中国において国に大事(事変)が起きる前兆とされていました」

屠自古「モウオキトルガナ」

一輪「自分どないすんねん」


衣玖「もう手遅れです。天災が起こり計り知れない被害が発生するでしょう。皆さん、早く避難してください」

屠自古「オソイッチューネン!」

一輪「それでええんかいな? 諦めたらそこで試合終了やろ!」


ガタッ


衣玖「よくないわ。こんな事態が名居様の耳に入ったら、比那名居の一族の処遇は一体全体どうなるか」

雲山「……」

衣玖(いいですか総領娘様――前回以上にきついお灸を据えさせてもらいますからね)

875: 2014/09/19(金) 21:10:23.97 ID:J3NoPAEl0

――三月精の家――


霊夢「……サン…………イナイイナイ……」

霊夢「……ゥゥ……オサイセンガ……タリナイッ……」


橙「霊夢……」

スター「霊夢、うなされてるみたいだけれど……大丈夫かな」

サニー「巫女って人間だったんだね。霊験灼(あらたか)な予知夢でも見てるんじゃない? 霊夢だけに」

スター(サニーが知性のありそうなこと言ってる)

ルナ「あの残酷な鬼、野放しにしていていいのかな(私も残酷な妖精なんだけどね)」

橙(紫様……大事な霊夢がこんなことになっているのに。早く還って来てくれなきゃ……)


霊夢「……アッ」


橙「霊夢!」

ルナ「目が覚めたの?」

サニー「いや、まだ寝てる。半目だし」

スター「もしかして、神が降りてきたとか?」




霊夢「……ラギョウニカヤギョーサン……。

シェー!

……ガラッ。

クマー。

アギョーサン……イナイイナイ……。

オニハウチ……! ……フクハソト……!」

876: 2014/09/19(金) 21:15:56.93 ID:J3NoPAEl0
橙「!?」

ルナ「は?」

サニー「何この顔芸半目だし怖い」

スター「意味分からないし怖い」


コンコン


ルナ「ん? 誰かが来た――」


ギィィ……


てゐ「夜分遅く失礼するわー」

てゐ「もしかしたらホイミ役が必要かもしれない、って姫様がおっしゃていたから」

てゐ「いいクスリを届けに来たのよ。博麗の巫女宛にね」


ルナ「本当なの、兎さん?」

橙「待って、これは詐欺かもしれない!」


てゐ「そんなことはないわ。この秘薬の効果はテキメンよ。鈴仙で生体実験をして実証済みだから」

てゐ「生命力の高い寄生虫を原料にしてお師匠様が作られた、すごいきずぐすり!」


うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね

877: 2014/09/19(金) 21:21:49.36 ID:J3NoPAEl0
サニー「うわ、フツーに虫がいっぱい!」


パチッ


霊夢(――ん?)


わさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさ


ルナ「え、これって飲ませるの?」

スター「いや、塗るんでしょ……傷薬だし」

橙「本当に……効くの?」

てゐ「鈴仙はこれが身体に入ったら立ちどころに云々――」


もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ


霊夢(何この状況……気がついたら悪戯好きな妖精たちの家に拉致されていた上に)

霊夢(化け猫や兎詐欺(ウサギ)どもに囲まれて蟲姦されそうになってるわ……)

霊夢(とりあえずこいつらを退治するか。ここで邪魔されるわけにはいかないし)

霊夢(絶鬼どもを叩きのめす前の――軽いウォーミングアップとしてね!)


カッ!!!!!!

878: 2014/09/19(金) 21:27:58.40 ID:J3NoPAEl0

――博麗神社跡――


正邪「なんだ……これ」

正邪「神社が……」


針妙丸「おお、正邪ではないか」


正邪「!」


針妙丸「ふふ、ここに来たということは……やっと降伏する気になったのね」


正邪「違うさ! 誰が降伏なんか――ただの気まぐれで」


フラッ


正邪「……針妙丸……様?」


ヒョイッ


針妙丸「……はあ、ちゃんと手当をしてもらったんだけれどね」

正邪「……こんなにケガをして。一体何が」

針妙丸「うん、悪い鬼を退治しようとね、したんだけどね。何も……できなかったの」

正邪「悪い鬼……」

針妙丸「やっぱり私の相手には……正邪程度のまがいものの鬼がお似合いなんだね」

正邪「……」

879: 2014/09/19(金) 21:34:33.87 ID:J3NoPAEl0
針妙丸「また悪い妖怪が外から入ってきたらどうしよう……」

正邪「外から……?」

針妙丸「私、何もできないよ……」


スゥ――――――


針妙丸「!」

正邪「唯一焼け残っている鳥居の方から! 何かが……来るっ!」


ぴょーん


座敷童子「……」


針妙丸「……」

正邪「え、これ……小人?」


座敷童子「……」


キョロキョロ


座敷童子「――!」


キッ


貧乏神「……っ……」




針妙丸「正邪や、あの子は悪しき者……ではない?」

正邪「私にはそんなこと」




座敷童子「……」




コォォォォォォォォォォォォォォォォォ

880: 2014/09/19(金) 21:37:03.10 ID:J3NoPAEl0
針妙丸「あっ――」

針妙丸(私の打出の小槌に魔力が萃まってゆく。まだ魔力の回収期にあったというのに)

正邪(私が持っていた鬼の魔力が小槌のもとへ。いや、それだけではない)

正邪(もっともっと大きな魔力が急速に充填されてゆく。この力の出所はいったい……――)

針妙丸(振れる――再び、小槌を振れる)




ズズズズズズズズズズズズズ……




針妙丸「――!」

正邪「こっちからも、何かが現れて!」

正邪(こいつは一体!?)




??「 あぎょうさん さぎょうご いかに? 」

881: 2014/09/19(金) 21:45:15.29 ID:J3NoPAEl0

――人里(寺子屋)――


まこと「ZZZ」

克也「はあー、お前らに会えたら急に家のことが心配になって来たぜ」

広「ああ、妹のことが心配なんだな」

克也「ちゃんとメシ食って風呂入って寝てるかなーってよ」

慧音「君の家族を心配に思う心持ちは、先生たちが君に対して抱くものとそれほど違うものだろうか?」

克也「……いや。それほど、違わないだろうな(悪かったぜ、ぬ~べ~先生……他のみんなも心配掛けて)」


こいし「あの薔薇の鬼とは前に会ったことあるの?」

広「おう、あったんだよ。確かに絶鬼とかいったな……アイツ。すっかり忘れてたぜ……」

広「人間に化けてる時の見てくれはあんなんだが性格はまるで鬼のようなやつだ」

郷子「そりゃ……鬼だもの。空の上で戦ってるひとたち……本当に大丈夫なのかな」

布都「なーに、心配はいらぬ。太子様を始め、他にもそこそこの戦力が結集しておるからの」

克也「まだ地底(した)にいるっつー先生たちは大丈夫なんか? ぬ~べ~、鬼の手が無いんじゃ……どうやって」

郷子「うーん、確かにぬ~べ~だけじゃ大変だろうけど。ぬ~べ~にはゆきめさんや玉藻先生」

郷子「それに地底で出会ったたくさんの仲間たちがついているから、きっと大丈夫だと思う」

こいし「それに、貴方たちも妖怪(わたし)たちもついてるものね。皆でここから応援しましょ」

克也「応援か……オレらじゃ、できることはそれくらいしかねーな。その声が届くかどーかもわかんねーし」

広「んなこと言うなよ! いざとなったらオレらがあの鬼達のとこに――」


ゴツン!


広「いだだーっ!!」

慧音「これ以上周りに心配掛けたら先生ツノを出して怒るぞ!」

阿求「貴方たちの担任の先生、さぞ日頃から神経をすり減らしていることでしょうね」

克也「あー、それはどうだろ。ぬ~べ~って眉毛も神経も図太いしなあ」

こいし「おーえん! おーえん!」

郷子「でもただ応援するだけじゃなくて、何とか……もっと直接、力になれる方法があれば」

こいし「ううん、応援は力になるのよ。皆の思いが萃まれば、それは大きな力になるの」

克也「元気玉のこと? ホントにそうなりゃいいのにな」

布都「――うむ、本当にそうなるかも知れんのう」

882: 2014/09/19(金) 21:48:16.11 ID:J3NoPAEl0
まこと「ぐぅー……まけない……先生は絶対……負けない……のらー」

まこと「正義の味方はー……必ず……勝つー! ……むにゃむにゃ」


広「おいおい、起きたんかと思ったら寝言かよ」

克也「まことらしい夢見てんだろうな」

布都「正義か。太子様のことじゃな」

慧音「今立ち向かっている者は、皆正義ってことでいいじゃないの」


阿求(正義って何なのか。幻想郷においてはあまり意識することはないわね)

阿求(『これこそが悪だ』というものをここで指摘するのは難しい)

阿求(妖怪が即ち悪かと言えば、そう言い切れるものでもないし)


郷子(あれ、そういえば美樹は?)

883: 2014/09/19(金) 21:53:51.48 ID:J3NoPAEl0

――紅魔館跡――


咲夜「お嬢様がおひとりで妹様を迎えに行った?」

美鈴「ええ」

咲夜「美鈴、私はちょっと――」

美鈴「待って下さい咲夜さん。お嬢様は誰も来ないよう伝えろと仰っていました」

美鈴「『これは私とフランとの姉妹間の問題であって、他の者が手を出すべきことではない』」

美鈴「『それはパチュリー様であろうと従者であろうと同じ――ついては来るな』――と」

咲夜「……そう」


咲夜「じゃあ、お嬢様のもとには向かわないけど。異変解決に向けて私もちょっとは動くから」

美鈴「はい――館の修復の方は、私たちが担いますから。安心して行って来て下さい、咲夜さん!」

咲夜(美鈴に安心しろって言われるとかえって不安になってくるけど、後ろ髪を引かれつつ向かいますか)

咲夜(――とりあえず、目指すは博麗神社かな)


――シュンッ

884: 2014/09/19(金) 21:57:58.16 ID:J3NoPAEl0

――霧の湖(廃洋館側)――


影狼「ッ……流石にあんな攻撃を受けると」

わかさぎ姫「傷の回復に時間が……」


速魚「傷ついたかたは私の血をどうぞすすってください。傷が治りますよー」


弁々「ああー立ちどころに治ったーたりらりらー」

八橋「よかったねーベーンベーおねーちゃん~」


雷鼓「あいつら……立ちどころに頭も軽くなってない?」

チルノ「頭が……。大変だ、あたいがバカになった気がする」

ミスティア「それはギャグでいってるの?」

リグル「そもそも妖精ならどんな怪我をしても問題ないだろうに」

ルーミア「バカになって鳥目になってしまった……周りが良く見えない……」


大妖精(いっそのこと私も馬鹿になったほうがチルノちゃん達の間に溶け込めそうな気がしてきた……)


リリカ「酷いやつらだったね。夜の音楽祭を台無しにするなんて」

ルナサ「ああ、……そうだ。さっきの鬼はこの上無く下種な旋律を奏でて……悦に入っていた……」

メルラン「あんなのに掻き乱されて悔しい。やり返したいけど、私たちに出来ることなんて」


速魚「みんなで歌を歌いましょう」

わかさぎ姫「速魚さん」

速魚「歌は世界を救うんですよー。私たちの歌をみんなのこころに届けるんです」

速魚「きっと、楽しいですよー」

885: 2014/09/19(金) 22:04:19.67 ID:J3NoPAEl0
チルノ「その通りだ!」


大妖精「チルノちゃん」

チルノ「あたいたちはサイキョーだが――さっきの奴らは他の先客が相手をしているんだ」

チルノ「だから今回は特別に見逃そう。だが、それではあたいたちの気が収まらない」

チルノ「だからバカになってバカ騒ぎするのさ! そして奴らの気力をぶちのめすんだ!」


ルナサ「バカみたいなことを言うね。そんなことをしたって意味が……」


弁々「意味なんかー考えないー!」

八橋「それが道具の真骨頂~動き出したら止まらない~!」


雷鼓「何もしないで傍観するより何でもいいからやった方がいいんじゃないの? 道具だろうが妖怪だろうが何者だろうがね」

ルナサ「……」

雷鼓「道具どころの話じゃない」

雷鼓「この幻想郷そのものを玩具のように弄ぶ愚かな侵略者に」

雷鼓「私たちの反戦歌(レジスタンス)を披露しようじゃないか――!」

ルナサ「……。そうだね。やるだけ、やってみようか」

メルラン「私も賛成」

リリカ「お~!」


チルノ「よーし! あたいが指揮を取ろう」

チルノ「あたいにふさわしいサイキョーな曲をぶっ放とうじゃないか!」

速魚「サイキョーですかー。んーと、えーと……――あ、ピッタリな曲を思い出しました」

速魚「みんなで一緒に歌いましょう。バリバリ最強No.1♪」

886: 2014/09/19(金) 22:07:26.10 ID:J3NoPAEl0

――博麗神社の裏山――


ピシピシピシ……ズザァッ!! 


――シュタッ


ぬ~べ~「――ここが、地上か」

《のんびり景色を眺めている場合じゃないよー。どうだい、パワーアップみたいな実感ある?》

ぬ~べ~「ああ、大アリさ」


ドボドボドボドボドボーーゴクゴク!!


ぬ~べ~「ぷっは~! 今ならいくら酒を呑んでも酔う気がしないぞ~!」

《ははは! 酒は異変が片付いてからいくらでも呑めるよー》


スタッ


ぬ~べ~「――!」


霊夢「あらあら、萃香じゃないの。ちょっと見ないうちに成人男性みたいになっちゃって」

887: 2014/09/19(金) 22:12:37.35 ID:J3NoPAEl0
《よ、霊夢。もう身体は大丈夫なわけ?》

霊夢「誰か知らないけど、応急手当をしていてくれたみたいね。たぶん針妙丸かな?」

霊夢「眼が醒めたら何か変な蟲(モノ)挿れられそうになってたから、その場にいた連中を全員退治してきたのよ」

《ふーん》

ぬ~べ~「君、ちょっと上着を脱いでくれないか」

霊夢「えー、出会っていきなりセクハラ発言?」

ぬ~べ~「すぐにその傷を完治させる。傷周りに幽かに残留する妖気で分かる――君は、絶鬼という青鬼に傷付けられたんだな?」

霊夢「あら、ご名答。あれの知り合いだったの。でも」

霊夢「貴方は悪いヤツじゃない――私のカンがそう言っているわ。あまつさえ萃香が手を貸しているんですもの」


スルスルスル……ぱさり 


霊夢「あんまり痛くしないでよ。見知らぬゲジ眉のお医者さん」

ぬ~べ~「俺は医者ではなくて外の世界の小学校の教師だがな。まあ、いろんなことができるぞ。この身に宿る霊能力を使ってな」

888: 2014/09/19(金) 22:17:07.91 ID:J3NoPAEl0
ぬ~べ~「ヒーリングも決して不可能じゃない――俺も子どもの頃、恩師によく手当てしてもらったものだよ」

霊夢「恩師ねぇ」

《おまけに私がついている限り百万人力だよ~!》




ぬ~べ~(絶鬼よ。お前はあの時、俺達の見せた“人間の絆”の前に敗れた)

ぬ~べ~(二度と這い上がれぬ無間地獄に突き落とされたあの時も、そして今になっても)

ぬ~べ~(――お前は、何も変わっていないのか?)

ぬ~べ~(人の身体を傷つけ、人の心を踏みにじり、全てのものを破壊し尽くそうとするのか?)

《……》

ぬ~べ~(お前が変わろうとしないのならば――それならば、俺は)




ぬ~べ~・萃香(《    お前を 絶対に許さないからな    》)




ポォォォォォォォォォォォォォ




                                    (つづく)

902: 2014/09/23(火) 01:16:59.43 ID:a8HIuLUV0
――中有の道(上空)――


覇鬼「うがーははははっ!」

フラン「アハハハハッ!」




ちゅど~~~~~~~~~ん!!




レミリア「ッ」

ぬえ「迂闊に近づけないわね。あいつらっを引き離さない限り……このままだと押し負けてしまう」

レミリア「ふん。私はともかく、あんたが奴らに手出しする理由なんてないでしょ」

レミリア「目障りだから邪魔しないでくれないかしら」

ぬえ「私は見ての通り闇に紛れているから目障りではないと思うけれど」




フラン「ねぇ覇鬼お兄様。お姉様(あいつ)目障りだからもう他所に行きましょ。ふたりのことも探さなきゃ」

覇鬼「うが? お前は……姉(あいつ)のことが目障り……うが?」

903: 2014/09/23(火) 01:19:57.21 ID:a8HIuLUV0
フラン「だってあいつ、私の気持ちをこれっぽっちも理解しようとしないんだもの。ず~っと私を閉じ込めて私の自由を奪い続けて」

フラン「私――あんな奴大っ嫌い」

覇鬼「……」




レミリア(あいつ……私の本当の気持ちも知らないで!)

ぬえ(姉へのあてつけとして、あの赤鬼と擬似的な兄妹関係を形成しているのか?)

ぬえ(まあ、ともかくこれ以上元気に暴れ回るのを抑えつけないと……背後に聳え立つ山が崩されたら……)

ぬえ「ねえ、これから――」

レミリア「この先には三途の川が流れているわね。こいつらを向こうまで誘導するわよ、折角だから手伝わせてあげるわ」

ぬえ「……」

レミリア「お遊びは終いだ。子どもはおうちに帰る時間よ」


ギュルンッ


レミリア「神槍――スピア・ザ・グンニグル」

904: 2014/09/23(火) 01:32:40.29 ID:a8HIuLUV0

――妖怪の山――


ジ――――


椛「……」

はたて「どう、椛。私たちも参戦した方がよさそうかな?」

椛「微妙なところですねぇ……」

椛「あ、そういえば文様はどちらに?」

はたて「博麗の巫女のことが心配だからって、仕事をほっぽり出して神社に行っちゃったわ」

はたて「まあ、山の警備は差し当たって私が指揮をとるから問題ないし」

椛「……そうですか」


ヴ……ン……


はたて「あれー、画像検索しても出てこないわね」

椛「何を調べているので?」

はたて「『守矢神社 現在の場所』ってキーワード入れてるんだけど……1枚も出てこないのよ」

905: 2014/09/23(火) 01:39:54.71 ID:a8HIuLUV0

――博麗神社の裏山――


霊夢「どうもありがと。さてと――あの悪魔(ゼッキ)を叩き潰しにいくとするか!」

ぬ~べ~「お、おい! ちょっと待て、無理をするな」

霊夢「無理?」

ぬ~べ~「あいつは危険だ。君を躊躇なく傷付けたということは……あいつは以前と何も変わっていない……ということなんだろう」

ぬ~べ~「あまりに残虐すぎる相手だ。年端もいかぬ少女である君があいつに立ち向かう姿を考えると」

ぬ~べ~「重ねてしまうんだよ……あのイタコギャルの中学生と……」

霊夢「イタコのギャル?」

ぬ~べ~「君はここに残ってくれ。何しろ君はこの神社の」

霊夢「博麗神社を護る楽園の巫女・博麗霊夢――でも私の本職はむしろ妖怪退治なのよ」

霊夢「貴方が重ねている人物と、私とは全くの別物なんだから。心配されるのはお門違いよ」

霊夢「私は二度は負けない。それに異変首謀者はれっきとした幻想郷の住人なんだから」

ぬ~べ~「何だって?」

《天人くずれの比那名居天子。天界から降りてきた超問題児。最近は里で占いをやったりして割に大人しくしてたのに》

《天災は忘れたころにやって来るんだねぇ。ま、前回起こした異変はそんなり昔ってわけじゃないけどさ》

906: 2014/09/23(火) 01:41:24.86 ID:a8HIuLUV0
ぬ~べ~「天人……」

霊夢「私が向かうのがスジっていうものよ。まあでも、協力してくれるっていうのなら、敢えて断るつもりはないけれどね」


スッ……キラキラキラキラ


ぬ~べ~「! 俺の霊水晶――」

霊夢「貴方が幻想郷で体験してきた出来事をちゃちゃっと見せてもらうわね。時間に余裕もないし」

霊夢「私には霊気を操る程度の能力もあるのよ。だから、いわゆる霊能力者っていう範疇にも入ってくると思うわ」

ぬ~べ~「……」

霊夢「それで?」

ぬ~べ~「ん?」

霊夢「貴方の名前は? 先に私が名乗ったのだから、そっちも名乗ってくれないとね」

ぬ~べ~「そうだな。俺の名前は鵺野鳴介。さっき言った通り小学校で霊能力教師をやっている」

ぬ~べ~「ちなみにあだ名は――」

霊夢「鵺野鳴介――じゃ、鳴介さんでいいわね」

ぬ~べ~「え……?」

霊夢「? 何か問題ある?」

ぬ~べ~「い、いや……別に問題はないが」

《おいおーい、時間の浪費は後でやりなさいな》

907: 2014/09/23(火) 01:45:21.50 ID:a8HIuLUV0
霊夢「時間の浪費? 違うわよ、あんたがみんなを萃めてくるのを待ってるんじゃない」

霊夢「あの貧乏神をぼちぼち神社から追放するためにね」

ぬ~べ~「……。霊夢くんよ、君は……貧乏神に取り憑かれていたのか……?」

霊夢「ええそうよ? 何? 私が見るからに貧相に見えるとでも言いたげだけど。悪かったわね」

ぬ~べ~「違う違う! 何と言うか親近感が」

《うーん、私が萃めなくても――みんなようやく自然と萃まって来るみたいだよ》




ザッ


早苗「霊夢さーん!」

お燐「助っ人外来人達を連れてきたよー」

ゆきめ「鵺野先生~!」

華扇(やっと追い付いた……あれだけ体力削られちゃうと動き回るのも楽じゃないわね)

華扇(あら? ――あの妖狐はどこに)


霊夢「お燐に早苗……仙人も。ついでにどっかの風俗嬢?」

ゆきめ「だ、誰がフーゾクよ! んが、あらがるか!」

霊夢「は?」

ぬ~べ~「おーい、微妙な方言になってるぞ。ん、向こうからも誰か……」

908: 2014/09/23(火) 01:50:04.74 ID:a8HIuLUV0
文「霊夢さーん! 心配して見に来ちゃいましたよ、山の方は、はたてたちに任せて――って!?」

《やっほー、また職務怠慢かね天狗君》

文「何やってるんですか……。もしかして封印でもされたので? この人は頼光さんの子孫とか? 全然容貌に面影がありませんけど」

ぬ~べ~「いやいやいや」

早苗「あ、静葉様と穣子様!」


トコトコ


静葉「おーい、博麗の巫女。聞いたわよ、火事になったんだって? 火事の御見舞に純米酒を持って来たわよ」

穣子「お芋の一件はもう許してあげるわ。一緒に神社の再建を手伝ってもいいよ!」


霊夢「あんたたち……」

華扇「……って!? 博麗神社が燃えたの!? 何てこと!!」

お燐(あれ、言って無かったっけ……うーん、まあいいか)


ザッ!


咲夜「あらら、何なのこの人だかりは? と言っても純粋な人間はほぼ居ない見たいだけれどね」


タッ!


魔理沙「おーい霊夢、神社のほうが気になってきたから悪霊は氏神たちに任せてこっちに来たぜ。って今日も賑やかだなオイ」

909: 2014/09/23(火) 01:55:23.19 ID:a8HIuLUV0
シュタッ!


アリス「鬼が暴れているってこの子から聞いて妖怪退治の専門家は何やってんのかって心配になって来てみたのだけど……」

メディ「うわ、人間がいる。毒盛らなきゃ。何ていうか使命感的に」

ぬ~べ~「あー、何者だか知らんが後にしてくれ。今は取り込み中なんで……」

アリス「そうよメディ、遊んでいる場合じゃないでしょ。……って、貴方は誰?」

ぬ~べ~・萃香「ああ、俺は《私だっ!》」

アリス「な!?」

ぬ~べ~・萃香「《こんにちはー、孤独な魔法使いく~ん! 今夜も自作のお人形さんで自分を慰めていたのかい? パクパク》」

アリス「……なんだ、腹話術じゃない」


ギ口リ


アリス「ち、ちょっと何……今私に向かって何て言った? 早速喧嘩売ってるの……?」

ぬ~べ~「お、俺が言ったんじゃないんですよー本当ですよー……ハハハ」


ゆきめ「うわー何これ、どんどんいろんな妖怪があつまってくる」

ぬ~べ~「萃まっているのは妖怪だけじゃなさそうだがな」

魔理沙「ああ、ここから目と鼻の先に博麗神社があってだな。いつも人外で賑わってるんだ」

ゆきめ「ほっとんど何の妖怪かはサッパリ分かんないけど。あなたは何の妖怪?」

魔理沙「いやいや、私は生粋の人間だぜ……。妖怪みたいなのは霊夢や咲夜のほうだ」

咲夜「霊夢はともかく私に妖怪っぽい振る舞いなんて微塵もないでしょう?」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

910: 2014/09/23(火) 01:57:36.51 ID:a8HIuLUV0
霊夢(まったくもう。皆もうちょっと早く萃まって来てたらラクだったってのにね。まあ、仕方ないか)

霊夢(どうやら、流れがこっち側に向いてきたみたいだわ)

ぬ~べ~(こりゃあ、凄いな)

《どうだ? これが本場の泣く子も笑う百鬼夜行よ》

ぬ~べ~(ああ、驚いたよ。実のところ、君のチカラも幾分かは作用しているんだろうが)

ぬ~べ~(萃まってくるおおもとの理由は、彼女に妖怪たちを惹き付ける何かがあるからだろう)

ぬ~べ~(それは性格的なものなのか、体質的なものなのか、はたまた他の魅力があるのか)

ぬ~べ~(会ったばかりの俺には、わかりゃしないけどな)

《これこれ、茶化すようなことを言うでない。そういうのをぜーんぶひっくるめての――博麗霊夢なんだからさ》

ぬ~べ~(――ああ)


トコトコ


霊夢「あら。あんたも戻って来たのね」

雛「ええ」

雛「溜め込んだのを全部あげちゃったはいいけど……何だか、かえって手持無沙汰になったのよねぇ」

雛「やっぱり、貧乏神さんから私の厄を返してもらおうと思ってね!」

911: 2014/09/23(火) 02:02:27.82 ID:a8HIuLUV0

――博麗神社・上空――


正邪(すっかり大きくなられましたね、針妙丸様)

針妙丸(正邪は妙に素直になったね。どういう風の吹きまわし?)

座敷童子「にこにこ」


正邪(そりゃあ、私だって、勝手に幻想郷を壊されたら困る――ここはいずれ私がレジスタンスを達成すべき場所)

針妙丸(うん。理由はともかく――私たちを始めここに棲む皆の心の砦を決して壊されるわけにはいかない!)

座敷童子「こくりこくり」


正邪「“弱小である我々にできることなど、何一つない!”」

針妙丸「“遠い先祖たる一寸法師のように鬼退治をするなんて、無力な私には到底出来っこない!”」


あぎょうさん「    う    そ    」

912: 2014/09/23(火) 02:04:13.56 ID:a8HIuLUV0
針妙丸(いざ行かん、正邪や! この場限りのレジスタンス――それは儚い夢なれど)

正邪(私たちが今得たチカラは紛れもなくホンモノだ――この現(うつつ)のチカラ、無法者共に見せつけてやるのです!!)


ビューン!!


座敷童子「(がんばって)」

あぎょうさん「……」


ヒュゥ


玉藻(座敷童子にあぎょうさんか)

玉藻(座敷や蔵に棲む神とも云われる精霊的な存在に、かつて“夜行”と呼ばれた鬼神の系譜に連なる謎かけ妖怪の登場)

玉藻(たまたま現れたという可能性もあるが、この異界に存在する霊能力者が降霊術を用いて呼び寄せたのかもしれない)

玉藻(博麗の巫女とやらが、裏山(あそこ)に確かにいるのだからな)

913: 2014/09/23(火) 02:09:38.56 ID:a8HIuLUV0

――博麗神社跡――


ヒュォォォォォォォォォォ


藍「そ、そんな……」

藍「博麗神社がこんなことに……なっていたとは……」


藍(これほど事態は深刻化しているというのに……)

藍(それなのに)

藍(それなのに還って来られないというのか、紫様は)

藍(いいや、そんなはずはない。そんなはずはないのなら)

藍(紫様の身に何かが起きた――)

藍(もうその他に考えられる原因はないだろう――?)

藍(あるいはあの紫様が)

藍(このなく愛する幻想郷を……捨てられたとでも言うのか)

藍(いやありえない。そんなことがあるはずない)

藍(……。長年仕えて来ていながら紫様のお考えになっていることを、私はどこまで察せられるようになっている?)

藍(今になっても……あのお方の掴みどころのない胸の内を、私が垣間見ることなんて……)

藍「紫様は……」


ジャリ


玉藻「“紫様は”」

藍「――!」

玉藻「“二度と幻想郷に還って来なかった”」


あぎょうさん「    う    そ    」

914: 2014/09/23(火) 02:12:08.40 ID:a8HIuLUV0
座敷童子「――♪」


ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ


貧乏神(おらぁ……だんだんここに居づらくなってきたなぁ……)




ピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシ


藍(! ――空間にいびつな亀裂が)

玉藻「“あぎょうさんは、今幻想郷(ここ)にいる”」

あぎょうさん「    う    そ    」


スゥー……


藍「消えたか――今の妖怪は」

玉藻「ウソからマコトを出す程度の能力――とでも言ったらいいか」

玉藻「何せ、型破りなことをやってのけるモノだ。もし敵対者の手に渡れば極めて厄介」

藍「だから、すぐに外へお帰り頂いたわけか。適切な判断だと思うよ――紫様がお戻りになれば大結界の問題は確実に収拾できる」

玉藻(このゆりかごをずっと安定的に維持したきた賢者と言われる大妖怪。それにまみえることができるな)

藍「お前のほうの目的は達成できたのか?」

玉藻「――ええ、勿論。だから私はもうフリーですよ」

玉藻「そして、私が出るまでもなく内的な異変は鵺野先生や酒呑童子、博麗の巫女たちが解決することでしょう」

915: 2014/09/23(火) 02:15:53.15 ID:a8HIuLUV0
藍「……」

玉藻「だから今度はあなたに同行させてもらっても構いませんか?」

藍「へぇ、それはまたどうして?」

玉藻「まだ会ってもいないが――八雲紫(スキマ妖怪)という存在に少々興味を抱きましてね」

藍「なんだ、紫様の式にでもなる腹積もりか」

玉藻「誰が式になどなるものか。個を失った狐に如何程の存在意義があると言うのです」

藍「おいおい、私の存在意義そのものを全否定か?」

玉藻「いえいえ、意義がないとは言ってません」

藍「まあ好きにしたらいいよ――ただし、来るなら来るで結界の修復を手伝ってもらうからな」

玉藻「ふ、その程度のことは織り込み済み。少しは手伝って差し上げましょう」



ピシシシシシシシシシシシシシシシシ……パカァ――……




座敷童子「!?」

貧乏神「なんだぁ? 狐共がどこぞに消えてしもうたぞい」

916: 2014/09/23(火) 02:17:25.67 ID:a8HIuLUV0
ゾロゾロ……


華扇「こ、これは……酷いわ。敷地一帯が滅茶苦茶じゃない。早速修復しないと」

咲夜「……よくぞここまで見事に焼き尽くされたものね。外来妖怪が押し寄せてくる現状にもこれで納得」

魔理沙「本当は上空で跳び回りたいとこなんだが……ま、役割分担に従ってやるよ」

アリス「ミニ八卦炉にキズが入っちゃった上に箒も壊されて手に怪我も負ってるんだから……無理しちゃダメよ」

魔理沙「ああ、分かってるさ」


ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ


魔理沙「よーし! 霊夢達が闘ってる間に、こっちはこっちでやれることをやるぜ!」


\お―――――――――――――――ッ!!!!/




(第4話:震える天空砕ける大地――有頂天の天人くずれと地獄から来た最凶の鬼の巻<後編>・終)

923: 2014/09/24(水) 21:26:53.40 ID:CYoCy58L0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

[XXXX+α年?月?日 AM02:02:19]


<信州北安曇郡白馬村の某所にて>




枕返し「ギャアアアアア!?」

クダ狐「ガツガツガツガツ」


ズズズズズズズズズズズズズズ……




いずな「これで良かったの?」

蓮子「これで良かったのよ」

いずな「枕返しに見せられていた夢から醒めたら……幻想(ゆめ)の世界に還っちゃうだなんてね。皮肉な話だよ」

蓮子「枕返しという妖怪の能力が並行世界の構築であると解釈するならば」

蓮子「私たちはパラレルワールドの存在をこの目で観測することに成功したのよね」

いずな「うーん、まあそういうことか」

蓮子「並行世界の存在を肯定する理論的根拠の一つとして挙げられる超弦理論の複数のヴァージョン――」

いずな「タンマ……イミフだし頭痛くなるから私に語らないでくれない? 専門外だし」

蓮子「そう? 面白いのにー」

いずな「それよりさ蓮子、本当に平気なのかよ?」

いずな「あんたの相棒、もう二度と人間界(こっち)に還って来ないかも知れないのよ?」

蓮子「いいえ、必ず還ってくるわよ」

蓮子「少なくともどこかの世界線で。あの一線を越えた物凄く気持ちの悪い能力は、いくらでも応用できるに違いないわ」

いずな「……ま、それもそうか」

いずな「境界だなんて曖昧なものを操らなくても、陽神の術とか使ってフツーに現れそうでもあるけどさ」

蓮子「あれって一種の自己像幻視ね。脳の側頭葉と頭頂葉の境界領域――側頭頭頂接合部――を操ることができればきっと可能だと思うわ」

いずな「わからん……。分身って言えばいいでしょ分身って。気を練って作り出すドッペルゲンガー的なヤツって」


蓮子「それに、うちのサークルにはめぐみも居るんだから」

924: 2014/09/24(水) 21:37:05.78 ID:CYoCy58L0
めぐみ「♪」


ニコッ


いずな「いいの~? 霊能力者霊(サイコゴースト)じゃまんま幽霊部員じゃん」

蓮子「いいの。その方がいざという時に頼りになるんだから」

いずな「墓とか暴いちゃダメだよホント……この世には目には見えない闇の住人達が数多漂っているんだから」

いずな「奴らは時として牙を剥き――」

蓮子「それは置いといて。貴女は夢と現には明確な境界が存在すると思う?」

いずな「……有る人には有るし無い人には無い、人によるよ。でも夢と現の区別がちゃんと付けられなくなった人間は精神的に脆くなる」

いずな「――そういう弱った人間の心のスキマに入り込むのが妖(アヤカシ)なのさ」


ヒョコ


クダ狐「フア~ア」

蓮子「それじゃあ、最後にもう一つ質問してもいいかしら?」

蓮子「――貴女は、妖怪と人間のあいだに明確な境界が存在すると思う?」

いずな「それはパス」

いずな「直接的な答えにはなんないと思うけど――人の心の働きが妖怪を作り出すってことは確かだろうね」

蓮子「そう」

蓮子「じゃあ、この話はひと段落置きましょう。さて、貴女が気になっていた超対称性を持つ弦(ひも)についてもう一度判り易く説明――」

いずな「はい結構~! 私ヒモ男なんかにキョーミないから!」

蓮子「だからそういうひもじゃないんだって。でもヒモ男もひもで出来ていることは確かよ」

めぐみ「?」

いずな「どっちにしろ貧乏学生にたかってるほど私はヒマじゃないのさ。もっとお金になる客を見つけないと商売上がったりだもん」

いずな「――じゃね。私はそろそろ東京に帰るから。また迷ったら私のところに来なよ」

蓮子「そうね、実家に帰ったらまたクダ狐に導いてもらうわ。勿論めぐみと――」

蓮子「それから、メリーも一緒にね」

めぐみ「うん」

いずな「そうだね。またいつか4人で会えたら会おう――どこかの並行世界で」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


925: 2014/09/24(水) 21:41:57.89 ID:CYoCy58L0

――童守小学校――




いずな「うう~ん……、……はっ!!?」


ガタッ!


いずな(ど、どこだここは!? ……って、何だ童守小じゃないか)

いずな(夢……だったのか。今のは……)

いずな(夢の中にいた私は……今の私……じゃなかったと思う……たぶん)

いずな(いや、そもそもあれは本当に私だったのか……?)

いずな(でもって私と一緒にいたやつらは……)


いずな「あれー、よく思い出せないな……誰だっけ?」

いずな「顔も名前も……ぼやけたように思い出せないな……」

紫「それは予知夢かもしれないし、そうでもないかも知れないわねぇ」

いずな「んなッ!!!?」


いずな「強い妖気!? 妖怪かよ!! ――悪霊退散ッ!!!」


ボシュッ パァァァァァァン!!


いずな「……やったか?」

紫「やってない」

926: 2014/09/24(水) 21:45:36.30 ID:CYoCy58L0
ゴツンッ


いずな「痛ったああああッ!?」

紫「たまに勘違いされるんだけど、“程度の能力”っていうのはあくまで自己申告制なのよ」

紫「私の場合、一線を越えた物凄く気持悪い能力のほうが注目されがちだけど」

紫「妖怪としてそこそこの身体能力を持っているし、人間には到底真似できない体術だって使えるの」

いずな「……くっ」

紫「まだまだ未熟な現在(いま)の貴女(いずな)じゃ、私の手の平から飛び出すこともままならない」

いずな「!? ……な、何で私の名前を……知ってるんだ」

紫「何でって。それは当然――」


ニコリ


紫「――私たちは友達になったからよ」

いずな「――!?」

紫「“友達になった”って表現だと貴女にとっては過去の出来事のように取れるから語弊があるわね。でも、現在の私の視点からは“友達になった”と表現した方がしっくりとくるの」

いずな「意味わかんないこと言うな!!」


いずな「私はお前のようなバリバリ妖しいオバサン妖怪なんか全っ然知らないよ!!」


紫「……酷いわあ、そんなこと言うなんて」

928: 2014/09/24(水) 21:52:35.39 ID:CYoCy58L0
紫「むこうじゃ貴女の方が少しオバサンだったわよ。第一私は紛れもなく少女なのだけれど、ねえ」

いずな「はあ!?」

紫「それから美神令子並にお金に執着するのは止めなさい。見返りを求めずに気丈に振る舞うのが貴女のいいところなんだから」

いずな「誰だよそれ? ていうかー、さっきから何知った風な口聞いてんだ!」

紫「もうちょっと大人しく話を聞けないの?」


紫「……貴女がかつての葉月いずなじゃなかったら、肝臓でも引き抜いた上で拉致していたところよ? 凶悪な妖怪の餌にするためにね」

いずな「妖怪の……エサだとっ!? あ、貴様さては妖怪・紫ババアだなっ!!!」


ナデナデ


紫「う、ふふ、ふふふ……」

紫「お喋りはこれくらいにしましょ。私も暇じゃないのよね――早く、夢の中で忘れていた大事な幻想郷(こども)を助けにいかなくちゃならないのよ」

いずな「!? 子どもって――」


ギギギギギギ……


いずな(な! ……か、身体が……動かない……)

紫「このまま放っておいたら、私の幻想郷(こども)は氏に」

紫「貴女の大切な恩師(せんせい)たちも神隠しに遭ったまま、二度と還って来ない未来になっちゃうんだから」

いずな(!!?)

929: 2014/09/24(水) 21:59:14.97 ID:CYoCy58L0
紫「どうやらまだ、覆水を盆に返せそうだから良かったわ」


紫「“枕をひっくり返された時点”じゃなくて、“この時点”で夢が醒めたのはちょっと不思議ではあるけれど」


紫「それはそれで良いのかもね。松原めぐみがああいう形で救済されたという過去の出来事は、過去のまま変わらないことになるのだから」

いずな(私のセンセイって……まさか……?)

いずな(そうだった! あの0(零)能力者が行方不明になったって聞いて、ここにすっ飛んで来たんだった!!)

紫「だから、もういくわ。今後、貴女と出逢うことはもう無いでしょう――“八雲紫(わたし)”はね」

紫「またね、いずな」

紫「再び縁が巡ってくるならば――秘封倶楽部で」




ニュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルン




いずな「……」




シ――――――――――――――――――――――ン




いずな(ひふうクラブ……だって……?)

いずな(何だったんだよ……今の超ヘンな妖怪は……)

いずな(あ! ボーってしてる場合じゃない)


ピョコッ


くだ狐「キュー!」


いずな「0能力者たちがどっか行っちまった原因を探るんだ!」

いずな(あんたにはまだ教えて欲しいことが山ほどあるんだよ。トンズラされて堪るかっ!)



                                 (第4.5話:境界線上の枕返し の巻・終)

930: 2014/09/24(水) 22:11:54.61 ID:CYoCy58L0
○紫がなかなか登場しなかった理由として考えていた案


案その1:普通に長い仮眠をしてた

案その2:チャブクロである歴史を改変しようとしていた

案その3:異次元の魔物に誘われてカオスな異次元空間を楽しんでいた

案その4:仮眠をしている間に枕をひっくり返されて人間(=メリー)になった夢(=並行世界)を見ていた

案その5:ずっと様子見をしていた(霊夢がこの大規模な異変をどういう方法で解決するのかを試し、本当に切羽詰まったら自分が手を出すつもりだった)


☆いろいろ考えましたが、ここまで切羽詰まっててまだ出てこないのなら1、3、5は無いなとカット。2は非常にややこしくなるのであきらめて、結局4を採用した次第。


☆「なぜ枕返しによって紫は人間になったのか?」という理由は突きつめていません。いわゆる「紫=マエリベリー・ハーン説」に今回は乗っかってみた感じです。

☆>>176を書いていたころと比べると話全体的にかなり路線変更をしてしまいました。辻褄の合わない部分があったらごめんなさい。




次回は日曜日の更新で 最終話「 百鬼夜行――そして境界線の向こう側へ の巻」

ここまで大風呂敷を広げてしまったのでまた上中下編に分けることになると思います。ぬ~べ~側の新たな登場人物は今回のいずなで打ち止め、東方側は主なキャラは面霊気以外全員出したはず。

932: 2014/09/24(水) 22:37:06.13 ID:45CaRSrqo

引用: ぬ~べ~「幻想郷か……厄介なところに引きずり込まれてしまったものだ」