1:◆H5Ebiy6tLDQ1 2012/12/23(日) 22:23:40.31 ID:TNNSrTKk0







これは『呪い』を解く物語――








2: 2012/12/23(日) 22:24:04.13 ID:TNNSrTKk0


その始まり――


『呪い』とは

ある人に言わせると魔女にターゲットとされた人への「マーキング」と説明する


また違う解釈だと人類が誕生し物事の「白」と「黒」をはっきり区別した時に――

その間に生まれる「摩擦」と説明する者もいる



だがとにかくいずれのことだが『呪い』は解かなくてはならない

さもなくば『呪い』に負けてしまうか……



3: 2012/12/23(日) 22:25:26.49 ID:TNNSrTKk0


#1『私と貴女の世界を護るために』


「ただいま!織莉子!」

「おかえりなさい。キリカ」


見滝原中学校の制服を着た少女、呉キリカは息切れをしている。

ベッドに横たわっている美国織莉子は、同居人に答える。

キリカの片手にはパンパンに張ったエコバッグ。

織莉子の片手には自身の魂であるソウルジェム。

二人とも頬は紅潮し、体は少し汗ばんでいる。


織莉子「帰宅時間はピッタリ。予知通りね」


4: 2012/12/23(日) 22:26:30.72 ID:TNNSrTKk0


織莉子「……走って帰ってきたの?」

キリカ「だって!織莉子の熱が心配だから……!」

織莉子「フフ、ありがとう。心配してくれて」

織莉子「それよりも、荷物を置いてきなさい。おつかいちゃんとできた?」

キリカ「馬鹿にしないでよね!織莉子はすぐ私を子ども扱いする!」

キリカ「そんじゃ、食材とアイスを冷蔵庫に入れてくるね」

織莉子「アイス?」

キリカ「お釣りは好きに使って良いって言ったじゃあないか。織莉子の分もあるからね。バニラアイス」

織莉子「あら、ありがとう」


5: 2012/12/23(日) 22:27:06.25 ID:TNNSrTKk0

キリカ「ただいまー」

織莉子「二回目ね」


部屋着に着替えたキリカは、ペットボトル片手に織莉子の部屋へ戻ってきた。

そして「スポーツドリンク買ってきたよ。飲んで」と言ってそれを渡した。


織莉子「えぇ。ありがとう」

織莉子「……ん、美味しい」

キリカ「よかった。織莉子ってスポーツドリンク似合わないから、苦手だったらどうしようかと」

織莉子「に、似合わないって……」

キリカ「ねぇ織莉子?聞くのが遅れたけど、体調はどう?熱は?ダルくない?」

織莉子「熱はまだひいてないけど……今朝よりはよくなったわ」

キリカ「体が重くてトイレに行けないとかなかった?お昼ご飯食べれた?泥棒とか来なかった?心配で落ち着かなかったよぅ」

織莉子「だ、大丈夫よ……。どうしてもという時は魔法を使って気怠さとかをカバーしたわ」

キリカ「ちょ……!無理したらダメじゃないか!」


6: 2012/12/23(日) 22:27:48.50 ID:TNNSrTKk0


織莉子「そうね。無理って程でもないけれど……。まぁグリーフシードもあるし」

キリカ「無駄遣いはダメだ!織莉子にもしものことがあったら私……!」

織莉子「……キリカ。そんなに気遣ってくれるなんて……」

織莉子「キリカのような人が側にいてくれて、私、本当に幸せ」

キリカ「え?えへ、えへへ……そうかな?」

織莉子「そうよ。あなたは私の『天使』だわ」

キリカ「お、大げさだよぉ……」

キリカ「でも私だって、織莉子の看病ができて幸せだよ。織莉子こそマイエンジャルだよ」

織莉子「フフ……嬉しい」

織莉子「……それで、どうだった?」

キリカ「うん?何が?」

織莉子「何って、久しぶりの学校がよ」


7: 2012/12/23(日) 22:28:30.17 ID:TNNSrTKk0


キリカ「ああ。それね。いや~、大変だった。先生や同級生に色々言われたよ」

織莉子「先生は何か言っていたかしら?」

キリカ「適当に世間話したよ。内容は忘れたけど」

キリカ「まぁ、明日からはちゃんと学校に来いってことで落ち着いたね」

織莉子「そう。そうするといいわ」

キリカ「いやしかしなんだね。君も転校生?な~んて聞かれた時はどうしようかと思ったね」

織莉子「大変だったわね」

キリカ「まぁね」

キリカ「久しぶりの授業は面倒臭いの極みだったよ……『特異点』とか超理解不能」

キリカ「ねぇ、織莉子。美術の授業で画家の話になったんだけど、画家の名前なんて覚えて何になるんだろうね?」

キリカ「『ジョット』とか知らないよっての。現社で習う哲学者だってそうさ」


8: 2012/12/23(日) 22:29:23.20 ID:TNNSrTKk0

キリカ「未来を生きる私達には、過去の人間のサクセスストーリーなんか知ったこっちゃないよ」

織莉子「学んだことは将来何かに役に立つかも知れないわ」

織莉子「理科を習えば自然に興味が沸いて高校で生物を一生懸命に学んで海洋系の大学へ進学して紆余曲折の末海洋学者になって書いた論文で博士号がとれるかも」

織莉子「広く教養を持つに越したことないわ」

キリカ「へぇ~……いいことを言う」

織莉子「まぁそれはいいとして……」

キリカ「?」

織莉子「私が言っておいた『彼女』はどうだった?」

キリカ「…………」


キリカは、織莉子の声のトーンと表情を感知し、それに見合った態度をとる。

背筋を伸ばし、コホン、と小さく咳払いをする。


9: 2012/12/23(日) 22:30:22.79 ID:TNNSrTKk0


真面目な表情で、互いに見つめ合う。

温室のような雰囲気は一瞬にして地下倉庫のようなひんやりとした空気となった。


キリカ「……織莉子の言った通りだった。予知通り」

キリカ「『いた』よ……。二年生だった」

キリカ「あ、いや、疑ってたわけじゃないからね」

織莉子「そう。それで、どうだった?」

キリカ「どうって?強そうとか?」

織莉子「それも含めて、あなたの率直な意見が聞きたいの」

織莉子「彼女を見て、どう思った?」

キリカ「んー……意見って言われても……」

織莉子「何でもいいわよ。小学生が書く道徳教材用ビデオの感想文くらいに簡単なのでいいわ」

キリカ「うーん……そういうヤツ書くの苦手だったクチでさぁ」

10: 2012/12/23(日) 22:31:54.22 ID:TNNSrTKk0


キリカ「……正直に言うよ」

織莉子「えぇ。正直に言って頂戴」

キリカ「『アレ』が世界を滅ぼすとは到底思えない」

織莉子「…………」

キリカ「ね、念押しするけど、決して織莉子の予知を疑っているわけじゃあないからね」

織莉子「わかっているわ。でも、『魔女になる』以上……人間の時点を見ても何もわからないわ」

キリカ「いや、まぁそれはそうなんだけどね……」

キリカ「それで……作戦はいつ決行する?」

織莉子「いつでも勝てる?」

キリカ「……こないだ、こっそりと暁美ほむらと巴マミの魔女狩りを偵察した話、しただろう?」

キリカ「『暁美ほむら』は時を止めることができるように見えた。ピンと来たよ。固有魔法が私を似てる」

織莉子「えぇ。聞いたわ。その話」

11: 2012/12/23(日) 22:32:39.91 ID:TNNSrTKk0


キリカ「だからごめん。わからない」

キリカ「あの眼鏡っ子のスピードを遅くして不意を突いたとて……時を止められたらその時点でアウトだ」

キリカ「そして『巴マミ』……あの身のこなしはハッキリ言って段違いだね。あと髪がクルクルしてる」

織莉子「そうね。巴マミはベテランの魔法少女だと聞くわ。髪は関係ないでしょうけど」

織莉子「ベテランと言うからには、当然私達よりも経験がある」

キリカ「厳しい……かもね」

織莉子「……さて、果たして……私達で処理しきれるものか」

織莉子「いささか不安な気持ちがないこともない……」

キリカ「でもでも!織莉子がやるっていうなら、私、どんな不利な状況でも……!」

織莉子「ダメよ。確実な手を選ばないと」


12: 2012/12/23(日) 22:33:22.50 ID:TNNSrTKk0

織莉子「予知では……まだまだ時間の猶予はある」

織莉子「私達が直接深く干渉しなければその予定が狂うことなし」

織莉子「考える時間も態勢を整える時間も十分ある……」

織莉子「世界を救うことに対して慎重になりすぎるということはないわ」

キリカ「それでもなるべく早くピリオドを打ちたいけれどもね」

織莉子「えぇ……そうね」

織莉子「必ず……必ず、やってみせるわ」

キリカ「うん」

織莉子「彼女を葬り、救世する。それが私の生きる意味……」

キリカ「彼女を『や』って……私達の人生が始まるんだね」

織莉子「えぇ……私と貴女の世界を護るために」


織莉子「『暁美ほむら』を『排除』するッ!」



13: 2012/12/23(日) 22:34:06.62 ID:TNNSrTKk0


時は遡る―――



――病院


「…………」

「今……何週目だったかな」


我々はこの少女を知っている!いや!この赤ぶち眼鏡と、この黒いおさげを知っている!


「うぅ……!ダメだった……!」

「まさか……まさかあんなことになるなんて」

「佐倉さんが魔女になり、美樹さんはその魔女に殺された……」

「巴さんは魔女化の真実を知って動揺しながら、佐倉さんだった魔女と心中した」

「そして……その間に鹿目さんは……別の場所で生じた結界に巻き込まれて……」

「……全員氏んだ。最悪だった……」


15: 2012/12/23(日) 22:42:44.59 ID:TNNSrTKk0


彼女――暁美ほむらは頭を抱えた。

前の時間軸のことを思い出す。

前時間軸、紆余曲折あったが友達は『五人』

前時間軸、その内魔法少女は自分含め『四人』

前時間軸、捨てるまでに消費した武器は『14の爆弾』

前時間軸、最後に食べた菓子は茶会に出された『イチジクのタルト』


ほむら「うぅ……」

ほむら「…………考えて。暁美ほむら」

ほむら「鹿目さんは魔法少女にさせないという方向は確定としている」

ほむら「鹿目さんは転校する前に予め何とかすれば、取りあえずは契約を先伸ばしにできる」


16: 2012/12/23(日) 22:43:14.79 ID:TNNSrTKk0


ほむら「だが、美樹さんは……今のところ魔法少女のことを知ったら必ず契約する」

ほむら「前回は魔女になる前に亡くなったけど……魔女になる蓋然性が高いまま」

ほむら「魔法少女に関わらせないようにしたいけど……」

ほむら「キュゥべえがいる以上、何をどうしたところでそれは不可能に近い」

ほむら「…………」

ほむら「……どうしよう」

ほむら「どうすればいいの……?」

ほむら「……何もわかんないよ」


17: 2012/12/23(日) 22:44:08.31 ID:TNNSrTKk0

ほむら「うぅ……」

ほむら「本当に私なんかが鹿目さんを守れるのかな……グスッ」

ほむら「…………」

ほむら「……全部、私のせいだ」

ほむら「敗因は私。私には課題がある」

ほむら「強くなりたい。今の私はあまりに弱すぎる」

ほむら「前の時間軸も、その前も……いつだってそうだった」

ほむら「私は力不足。足手まとい。そんなんじゃあ救えるはずがない」

ほむら「何か新しい『武器』が欲しい。新しい『力』が欲しい……」

ほむら「…………」

ほむら「いや、違う」


18: 2012/12/23(日) 22:44:40.14 ID:TNNSrTKk0

ほむら「肉体的な強さではない。精神的な強さが必要だ……」

ほむら「私に足りないのは……『勇気』と『覚悟』」

ほむら「もう誰にも頼らないだとか……」

ほむら「いざというときは誰かを切り捨てるだとか……」

ほむら「それができる勇気と、それをする覚悟が必要なんだ」

ほむら「私は臆病だから……それができなかった」

ほむら「その差で食いつぶされたチャンスもある」

ほむら「私がもっと強気になれれば……」

ほむら「迷い無き覚悟を持たなければならないんだ」


19: 2012/12/23(日) 22:46:15.59 ID:TNNSrTKk0

ほむら「甘いことを言っちゃあダメだよ。暁美ほむら」

ほむら「私の目的は、鹿目さんを救うこと。契約をさせないこと。それを最優先に考えて」

ほむら「大切な人を救うのに、犠牲が出るのはやむを得ないと考えるべきなんだ」

ほむら「既に……賽は既に投げられている。その道を進むしかない」

ほむら「私は弱い……だから、強くならなければならない!」

ほむら「成長しなければ、栄光は掴めない……」

ほむら「巴さんも美樹さんも佐倉さんも」

ほむら「鹿目さん以外を、いざという時には見捨てる……」

ほむら「そういう覚悟を決めなければならないんだ。勇気を出さなければ負ける」

ほむら「誰にも頼らないという……」

ほむら「そういう、心持ちを……!」


20: 2012/12/23(日) 22:47:25.82 ID:TNNSrTKk0


――帰路


ほむら「……どうすればいいのだろう」

ほむら「どうせなら、今までにやらなかったことをやるべきだ」

ほむら「誰にも頼らないとは言ったものの、すぐに突っ走るなんてのは愚直すぎる」

ほむら「どちらにしても……転校前に誰かと接触を図るのもいいかもしれない」

ほむら「だったら巴さんが一番良さそうかな……」

ほむら「いや、鹿目さんに会うのも悪くない……」

ほむら「美樹さんは特に話すことがないから……」

ほむら「佐倉さんに至ってはどこにいるのか……」

ほむら「…………」

ほむら「でも……今の私は、鹿目さん以外を、いざという時は見捨てしまおう。っていう心持ち」

ほむら「協力してもらうというより、利用させてもらいたいという気持ちの方が、正直強い」

ほむら「そんなこと考えて……そんな気持ちを持って接して不信感を抱かれかねない……か」

21: 2012/12/23(日) 22:48:21.13 ID:TNNSrTKk0

ほむら「……でも、とにかく」

ほむら「何にしても……誰かしらには……」

ほむら「予め接触しておくに越したことはない……と思う」

ほむら「とは言え、今日はもう遅いし……明日あたり行ってみようかな」

ほむら「どういう感じに話そうかな……」


ほむら「――ん!」

ほむら「け、結界が……!」

ほむら「……うーん」

ほむら「武器はたくさん用意してるけど……魔力はあまり使いたくない……」

ほむら「ここからだと少し遠そうだし……」

ほむら「で、でも行かないわけには行かない……!」

タッ

22: 2012/12/23(日) 22:49:29.80 ID:TNNSrTKk0

――結界最奥


ほむら「うわぁ……何、この結界……」


結界の中は、今までにほむらが見た結界の中で、最も人間の暮らしに様子が近かった。

廃れてはいるが小さめの家が多数並んでいて、その一軒一軒をコンクリートのブロック塀が囲む。

10年前の住宅地のような落ち着いた雰囲気の『廃墟の街』……錆びて黒ずんだポストが一際存在感を放つ。


ほむら「真っピンク」


普段の生活とかけ離れている所で、まず目に入る光景、空が『ピンク色』であること。

夕暮れ時の独特のグラデーションであるわけでなく、ベタ塗りされたようなダークピンクの空。

「目に優しくない。何となく深呼吸はしたくない」

と、ほむらは思った。

23: 2012/12/23(日) 22:50:30.11 ID:TNNSrTKk0

次に目に入ったものは、地面だった。

所々地面が、舗装されている道や塀、枯れた『紫陽花』の生えている花壇、大小様々各々の家をぶち破って不自然に隆起している。

隆起した断層というより『壁』が地面から生えてきたかのようだった。


『壁』の高さは目分量で普通1~3メートル。幅は5~8メートル。

一番大きいものでも15メートル程度。

そんな壁がいくつも不規則的に並んでいる。

よく見ると壁には『穴』があった。小さい穴は一つの壁につき2、3個。

まるで目のように見えて、ほむらは不気味に思った。


24: 2012/12/23(日) 22:52:01.59 ID:TNNSrTKk0

ほむら「奇妙な結界……」

ほむら「うーん。何となくノスタルジィみたいなのを感じる。……ってそんなこと言ってる場合じゃないか」

ほむら「どことなく、懐かしいって思えるような景色。半分近く壊滅してる上に空がピンク色だけど……」

ほむら「……初めて見る結界、か」

ほむら「……どうしよう。やっぱり不安だなぁ」

ほむら「こんな時、巴さんがいてくれたらどんなに心強いだろう」

ほむら「……ダメだ。そんな弱気なことを言っちゃ……」

ほむら「一人で戦えるように、成長しなくちゃ!」

ほむら「……あ、何かいる」

25: 2012/12/23(日) 22:53:01.73 ID:TNNSrTKk0


ほむら「あれは……魔女か、使い魔か……」


『カブト虫』の甲のような色をしたポストらしき物体の横に、いつの間にか『人型の何か』が立っていた。

ほむらが人間でないことを断定した理由は、顔が存在しないためである。

身長は推定180センチから200センチ。全身の色は白。

少女の影をそのまま切り抜き、色を反転させたかのような色彩、もやもやした外見。

頭頂部に黄色い弓状の無機質的な物……カチューシャと思しき物体をつけている。

顔が存在しなくとも、その幽霊のような存在がこっちを見つめていることをほむらはすぐに理解した。

ほむらは盾から拳銃を取り出し、臨戦態勢に入る。


ほむら「この魔力の波長……」

ほむら「間違いない。こいつが魔女だ!」

ほむら(……銃)


26: 2012/12/23(日) 22:53:41.58 ID:TNNSrTKk0

ほむら(盗んだばかりの……)

ほむら(…………)

ほむら(……いや、いいんだ。いいんだよ。これで……そう。構わない……)

ほむら(そんなことで悩んでいたら、この先、戦えない……)

ほむら(とりあえず銃を扱うことになんの恐れもあってはならないッ!)

魔女「…………」


結界の主、魔女はゆっくりと歩み寄ってくる。

人型であるため歩いているということはわかるが、足音は全くしない。


ほむら「魔女が直接来る……!?」

ほむら「と、言うことは使い魔はどこかに隠れて不意打ちをするタイプ?」

ほむら「ここは素直に攻めよう!くらえハンドガンッ!」


カチリ

27: 2012/12/23(日) 22:54:28.85 ID:TNNSrTKk0

ほむら「え……?」

カチッカチッ

ほむら「えっ!?」

カチカチカチッ

ほむら「ひ、引き金が……!?」

ほむら「引き金が引けないッ!?」

ほむら「どうして!?壊れちゃった!?」

ほむら「あ、セイフティー」

ドゴォッ!

ほむら「がは……ッ!?」


ほむらの隙を突き、魔女は攻撃を仕掛けた。

腕が触手のように伸び、ほむらの腹部に打撃。突き飛ばした。

28: 2012/12/23(日) 22:58:46.46 ID:TNNSrTKk0


ほむら「クッ……!」

ほむら(……このままだと「壁」に叩き付けられる!)


魔女の殴打を喰らい体が宙に浮いた。

ほむらは足と体幹に魔力を込め、空中で体勢を整え、着地する。

ズサッ

ほむら「うぅ……!」

ほむら「グ……ク、げほっ!」

ほむら「お腹が……うぇ……」

ほむら「しかし、壁の寸前で何とか着地できた……」

ほむら「このまま叩き付けられていたらかなりのダメージを喰らっていたってところかな……」

ほむら「それにしてもすごいパワーだ……私はかなりの距離を吹き飛ばされたらしい……!」

ほむら(うぅ……どうしてこんな目に……)

「Uoray――Ow――Ecnahc」

ほむら「ッ!」

29: 2012/12/23(日) 22:59:15.93 ID:TNNSrTKk0

ほむら「使い魔ッ!?」

使い魔「Ura――Agihcimonustatufikebuakum――Awineamo」


黒いマントを羽織った人型の使い魔が現れた。

この住宅地の住民であるかのように、全員が廃墟から出てきて、向かってくる。

強力な磁石を近づけたラジオのような音を発している。人の言葉に聞こえなくもない。


体は硬質的でマネキンそのものに見えた。ぎこちない動きでこちらへ歩み寄る。

羽織る黒いマントは質量を感じさせずにゆらりふわりと揺れる。

その数はおよそ十数体。移動速度は人が歩く速度より少し遅い程度。

じわじわとほむらに近づいてくる。


ほむら(まずい……使い魔に囲まれる……!)


30: 2012/12/23(日) 22:59:44.09 ID:TNNSrTKk0


ほむら(両手をゾンビみたいに前へ突きだして……私を『壁』に押さえつけようとでもするのか……)

ほむら(何にしてもこのままでは危険すぎる……一旦退い――)

ほむら「ぐッ!?」

ガクッ

ほむら「あ、足に力が……入らない……!」

ほむら「もしかして今の着地で骨が……?」

ほむら「うぅ……ま、まずい……!」

ほむら「このままだと……」

ほむら「し、仕方ない……勿体ないけど、ここは時を止めて……」

使い魔「Aw――Ustotih……」


31: 2012/12/23(日) 23:02:54.36 ID:TNNSrTKk0



「ティロ・ボレーッ!」


ほむら「ッ!?」


ドガガガガガガッ!

ほむらにとって覚えのある声が聞こえた。

その声と同時に、一斉射撃の発砲音が響く。

視界の上から、銃撃――流星群のような攻撃が、使い魔たちを襲う。


ほむら「こ、これは……」

ほむら「まさか……ッ!」

「大丈夫かしら?」

トッ

『らせん階段』のように整ったカールを巻いた金髪の少女。

白いマスケット銃片手に「壁」の上から飛び降りてきた。

そして膝を地につけて呆然としているほむらの前に着地した。

今の攻撃で使い魔のほとんどが消滅していた。


ほむら(と……『巴さん』ッ!)


32: 2012/12/23(日) 23:03:31.08 ID:TNNSrTKk0


マミ「大丈夫?怪我はない?」

ほむら「…………」

マミ「女の子がこんな時間に出歩いちゃダメよ……ってあら?」

マミ「あなた、魔法少女……この辺りの子?」

ほむら「…………」

マミ「あっ……と」


住宅街のような結界は、いつの間にか消えていた。

周りの景色は真っ暗な道端に戻った。


マミ「いけない……逃がしちゃったみたいね」

マミ「意外と逃げ足の速い……まぁ、いいわ」


33: 2012/12/23(日) 23:04:05.75 ID:TNNSrTKk0

マミ「それよりも、大丈夫?」

マミ「震えているけど……もしかして寒い?」

マミ「どこか痛むとこはない?よかったら治療するけど」

ほむら「…………」

マミ「もしかして立てないの?ほら、手を貸してあげる」

ほむら「…………」

マミ「……ど、どうかしたの?」

マミ「あの……何か言ってもらわないと私としてもどうしたらいいのかわからないわ……」

ほむら「うぅ……」

マミ「え?何?もう一回言って?」


34: 2012/12/23(日) 23:05:21.43 ID:TNNSrTKk0


マミはほむらに手を差し伸べている。

ほむらの脳にフラッシュバックする光景。


初めて魔女と出くわし、助けられた瞬間。

「最高の友達の笑顔」と「頼れる先輩の優しい声」

二つの要素が、今、自分の目の前に重なって映る。

脳に流れ込む思い出の処理で言葉が出ない。

堰を切ったように涙があふれ出てきた。

ポロ、ポロ

ほむら「うぁぁ……!あうぅ……!」

マミ「ちょ、ちょっとっ!?」

35: 2012/12/23(日) 23:05:59.20 ID:TNNSrTKk0
また電話がかかってきたのでチト退席します

37: 2012/12/23(日) 23:12:40.49 ID:TNNSrTKk0

マミ「そんな、何を泣いて……」

ほむら「うぅぅ……ひぐっ、うあああぅぅ……えぐ……」

マミ「……こ、怖かった、の?」

ほむら「あああ……グスッ、うえぇぇぅ……ひっぐ、えぐっ」

マミ(と、取りあえず……こういう時は抱き寄せてあげとくのがセオリーよね。物語とかでよくあるし)

ギュッ

マミ「大丈夫よ。もう怖くないわ。だからほら、泣かないで。よしよし」

マミ(ついでに頭も撫でちゃったりして)

ナデナデ

ほむら「あうぅぅ……ひぐっ、ども゙え゙ざぁん……ううぅぅ」

マミ「え……?」


38: 2012/12/23(日) 23:13:32.52 ID:TNNSrTKk0

マミ「今、私の名前を……」

ほむら「うあぁう……ああぁぁぅ……!」

マミ「んーっと……どうすればいいのかしら……」

マミ「と、取りあえず落ち着いて……ね?」

ほむら「うぅ……クスン」

マミ「私の家に来る?怪我をしたなら手当するし……」

ほむら「グスッ……」

マミ「あなたのことも聞きたいし……いい?」

ほむら「…………はぃ」


39: 2012/12/23(日) 23:14:28.58 ID:TNNSrTKk0


ほむらは、マミの家に匂いが好きだった。


訪ねればいつだって紅茶の上品な香りや菓子の甘い香りが漂っていたから。

しかし、今は深夜。

マミに夜食を召す習慣がないため、そういった匂いはない。

訪ねる時はいつだって陽が傾きかけた放課後だった。

そのため、嗅覚的にも視覚的にも、ほむらにとっては新鮮だった。


ほむら「……お邪魔します」

マミ「えぇ、いらっしゃい。紅茶淹れるわ」

ほむら「あ、いえ、そんなお構いなく……すぐ、お邪魔しますんで」

マミ「そう?実はティーセットを出さなくて済んで助かっちゃったりして。こんな時間だものね」

ほむら「す、すみません」

マミ「すぐ謝るのね。ここまで来るのに何回も……これで五回目かしら」


40: 2012/12/23(日) 23:15:29.47 ID:TNNSrTKk0


マミ「……それで、いい加減変身を解かせてもらいたいの、だけど……」

ほむら「……?はい」

ほむら(そう言えば何でずっと変身したままなんだろう)

マミ「えっと……ちょっと不格好な格好になるけど、許してね」

ほむら「……あぁ……はい」

ほむら(そっか……)

マミ「飲み込みがよくて助かるわ」


結界内ではカールしていた髪は、変身を解くと同時に解け、癖のあるセミロングになる。

落ち着いた色をした薄手のパジャマを着ている。


マミ「ごめんなさいね。パジャマで。これから寝ようとしてたところだったのよ……」

ほむら(クルクルした髪じゃない巴さん、何だか新鮮……)

41: 2012/12/23(日) 23:16:05.45 ID:TNNSrTKk0


マミ「えっと……色々聞きたいことはあるんだけど……」

マミ「まず、あなたは?」

ほむら「あ、私は……その……」

ほむら「……今度、巴さんと同じ中学校に転校する暁美ほむらです。……二年生、です。よろしくです」

マミ「え?そ、そうだったの?よろしく……」

マミ「あなた、転校生だったのね……私とあなた。運命的な出会いをしたわね……人の出会いって本当に不思議だわ」

ほむら「…………」

マミ(あ、スベった?)

マミ「……ん?待って。同じ学校?同じも何も私まだ何も言ってないわ……」

ほむら「あっ」


42: 2012/12/23(日) 23:16:41.30 ID:TNNSrTKk0

ほむら「い、いえ……その……えっと……」

ほむら「……あっ」

ほむら「そ、そこの制服……です。はい」

マミ「へ?……あ」

マミ「そ、そうなのね。ごめんなさい。クローゼットちょっと開いていたわね……気を使わせちゃった?」

マミ「コ、コホン、えっと……それで、何を話そうかしら」

マミ「……いつから魔法少女に?」

ほむら「一ヶ月後」

マミ「へ?」

ほむら「あ、違う。えっと……前、です。一ヶ月前」

マミ「じゃあ、日は浅いのね」

ほむら「……はい」

43: 2012/12/23(日) 23:17:22.48 ID:TNNSrTKk0

マミ「よかった。もし手慣れてて、私が余計なことしたーって思われていたら困るからね」

ほむら「そ、そんなことは……」

マミ「それから……」

マミ「あなたの魔法武器は……さっきの銃?」

ほむら「…………」

ほむら「……盾、です」

マミ「……じゃあ、あの銃は何?」

ほむら「…………」

マミ「私は銃器に関してはド素人だけど……本物よね?どこで手に入れたの?」

ほむら「…………」

マミ「私は……それほど人生経験は豊富じゃないわ」

マミ「でも、あなたの態度で何となくわかってしまう」

マミ「それ……魔法を使ってどこかで盗んだんじゃない?」

ほむら「…………」

ほむら「……そう、です」

マミ「…………」


44: 2012/12/23(日) 23:18:12.76 ID:TNNSrTKk0

ほむら(巴さんは、魔法少女を希望、正義の象徴と見ている……魔法を悪用することを嫌う)

ほむら(軽蔑されるだろうか)

ほむら(逃げ出したい。今すぐ時を止めて、逃げ出してしまいたい)

ほむら(巴さんの、落ち着いた表情……怒っているのか否か判断しにくい声……)

ほむら(私の心が萎縮して……『覚悟』が揺らいでしまう)

マミ「……理由、教えてくれる?」

ほむら「…………」

マミ「こんな大層な物を盗む行動と、結界で泣きじゃくり今おどおどとして受け答えする性格……二つのことが矛盾しているわ」

マミ「盗まざるをえなかった状態だった、と見受けられるけれど……」

マミ「別に怒鳴るつもりはないわ。夜中だし。ただ、理由を聞きたいの」

ほむら「…………」

45: 2012/12/23(日) 23:19:31.30 ID:TNNSrTKk0

ほむら(まだ知り合ってもいない人を守りたいと言っても変に思われるかな……)

ほむら「…………私」

ほむら「仲間が……いたんです。魔法少女として一緒に戦って……」

ほむら「鈍くさい私と仲良しになってくれた友達……」

ほむら「戦い方と紅茶の淹れ方とケーキの作り方を教えてくれた先輩、とか……」

ほむら「時には、その二人とは別の人ですが、仲違いしたこともありました。敵視されたり……疑念を持たれたり」

マミ「…………」

ほむら「でも……色々あって、全員、氏んでしまったんです」

マミ「……!」

ほむら「原因は、私なんです」

46: 2012/12/23(日) 23:20:05.89 ID:TNNSrTKk0


ほむら「私が……私が弱いから。ドジでのろまだから……足を引っ張って……」

ほむら「仲違いだって、攻撃に巻き込んだり、思えば私が空気の読めていないような言動をとっていたりしたから」

ほむら「だから……」

ほむら「だから、これからは一人で頑張れるようにって……強くなろうって……」

ほむら「そう思って……銃を盗みました」

ほむら「暴力団のならいいやっていう中途半端でいい加減な考えの元に……盗みました」

ほむら「強くならなきゃいけないのに、強くなるって、心に誓ったのに」

ほむら「誰にも頼らないって……そういう覚悟でやらなくちゃいけないって……」

ほむら「なのに……結局、今、こうして巴さんに助けられて……こうやって、気を使ってもらって……」


ほむらは声を震わせ、頬を濡らした。テーブルがぼやけて見える。

マミはほむらの涙で潤んだ目をじっと見つめていた。


47: 2012/12/23(日) 23:20:41.70 ID:TNNSrTKk0


マミ「…………」

ほむら「あっ。ご、ごめんなさい……また泣いちゃって……」

ほむら「本当に……私ってダメで……泣き虫で弱虫で……自分が情けないです……」

ほむら「挙げ句に、盗みだなんて……軽蔑、しましたよね」

マミ「……辛かったのね」

ほむら「……」

マミ「……」

マミ「……わかったわ」

マミ「ねぇ……暁美さん」

ほむら「……?」

マミ「私と共闘関係を結びましょう。一緒に戦うの」

ほむら「えっ……」

48: 2012/12/23(日) 23:21:31.39 ID:TNNSrTKk0

マミ「私と一緒に魔女と使い魔を倒す……この街を守りましょう」

マミ「どう?同じ中学校のよしみってわけじゃあないのだけれど」

ほむら「…………」

マミ「あなたの行動は、人によっては軽蔑の対象になるでしょうね……」

マミ「だけど、今までの経緯でスレた結果なのよ」

マミ「……私、あなたを支えてあげたいと思う」

ほむら「……」

マミ「暴力団から盗んだって言ったけど……」

マミ「『そういうこと』を未然に防いだ、誰かがそれによって傷つけられるのを救った、と言えなくもないしね」

マミ「別にそれを『いいこと』とするわけじゃあないのだけれど」

ほむら「……どうして」

49: 2012/12/23(日) 23:22:05.84 ID:TNNSrTKk0

マミ「ん?」

ほむら「どうして……私を軽蔑しないんですか?盗人、なのに……」

ほむら「私なんかを……どうして……!どうして受け入れようなんて思うんですか……!」

マミ「どうして、と言われると……」

マミ「私にも……一人、仲間、というより弟子のような子がいたの」

マミ「だけど、その子とはちょっとした方向性の違いで仲違いしてね……」

マミ「その子は一人で生きていく方が、一人の方がずっと良いって言ったわ」

マミ「私は……その子と出会うまでずっと一人だった。それで、その子が出ていってからまた一人で……」

マミ「寂しいからってわけじゃないの。人は協力してこそ人という生き物なの」

マミ「魔法少女にもそれが言えるって、私、信じている」

50: 2012/12/23(日) 23:22:53.00 ID:TNNSrTKk0


マミ「だから……暁美さん」

ほむら「…………」

マミ「……誰にも頼らないだなんて、寂しいこと言わないで」

マミ「だから、私と一緒に戦いましょう?」

ほむら「で、でも……」

マミ「強くなるのに、孤独である必要はないのよ」

マミ「足を引っ張るんじゃないかって思うのなら……私が支える」

マミ「弱みを握られたと思われようなら、それは絶対ないと誓う」

マミ「私に教えられる範囲であれば、私からも戦い方を指南する」

マミ「大丈夫よ。一度弟子を持った身なんだもの」

ほむら「巴さん……」


51: 2012/12/23(日) 23:23:38.13 ID:TNNSrTKk0

マミ「嫌われるんじゃないかって不安があるなら……その不安を拭えるよう努力するわ」

マミ「『眠いから適当なことを言ってる』とか言われちゃったら嫌いになるかもだけど」

マミ「あなたの罪は、私とあなただけの秘密よ」

ほむら「……どうして」

マミ「?」

ほむら「どうしてそこまで……」

マミ「あなたがいい子だからよ」

ほむら「…………」

マミ「私を頼って。暁美さん」

ほむら「うぅ……」


52: 2012/12/23(日) 23:24:28.71 ID:TNNSrTKk0

マミ「ど、どうしたの?やっぱ、嫌だった……?」

ほむら「いえ……嬉しくて……それと同時に、情けなくて……」

ほむら「私って……結局、巴さん……人に甘えてばかりなんだなって」

ほむら「強くならないといけないのに……」

マミ「……人の本質はね、そう簡単には変わらないの」

マミ「急に変わろうとすると、必ずボロが出る」

マミ「そういうのは直したくても、無理に直そうとすると違う弱点が出てくる」

マミ「それが人間の性……」

マミ「本来はゆっくり変わっていくべきなのよ」

マミ「それに気付けず、そして運が悪ければ……『ドロローサへの道』に突っ込んでしまう」

ほむら「どろ?」

53: 2012/12/23(日) 23:25:27.50 ID:TNNSrTKk0

マミ「あ、ドロローサへの道ってのは要するに困難への道って意味ね」

マミ「とにかく、私と一緒に戦いましょう?」

ほむら「……ありがとう、ございます」

ほむら「本当に……ありがとうございます……!」

マミ「いいのよ。暁美さん」

ほむら(あぁ……私は……)

ほむら(私は何て情けないんだ……)

ほむら(巴さんは……初対面である私のために、こんなに優しい言葉と態度をかけてくれるのにッ!)

ほむら(巴さんと既に会っている私は……いざという時は『見捨てる』だなんて……)

ほむら(そんなことを考えていた私が情けない!)


54: 2012/12/23(日) 23:26:55.57 ID:TNNSrTKk0

マミ「それともう一つ……」

マミ「あ、いえ。やっぱりいいわ」

ほむら「?」

マミ(何で私の名前を知ってるのか聞きたいけど……やめておこう)

マミ(どうして聞かない方がいいと思ったのか、そこのところ自分でもよくわからないけど……)

ほむら「あの、巴さん。えっと……もう、遅いですし、私、帰ろうかと思います」

マミ「あら、もう日付が変わってる……」

ほむら「学校があるのに、夜分遅くにすみませんでした。それと……本当にありがとうございました」

マミ「フフ、いいのよ」

ほむら「それじゃ……失礼します」

マミ「えぇ。あなたが学校に来るの、楽しみにしているわ」

ほむら「はいっ」

ほむら「お邪魔しました……!」

マミ「またね。暁美さん」


55: 2012/12/23(日) 23:27:32.40 ID:TNNSrTKk0


バタン…

マミ「……ふふ、可愛い笑顔ね」

マミ「……仲間、できちゃった……嬉しい」

マミ「暁美さん、か……」

マミ「もう、一人じゃないのね。私……」

マミ「……あ、メールアドレスとか聞いておけばよかった」

マミ「でも、またすぐに会えるから、その時に聞けばいいわよね」

マミ「♪」


鼻歌を口ずさみながら、マミはカーペットを指で撫でた。

そして、ふと、パジャマの裾から覗く足首が目に入る。


マミ「……あれ?」


56: 2012/12/23(日) 23:29:02.29 ID:TNNSrTKk0

マミは眉をひそめ、裾を捲る。

そこには、点線の、歪な荒い楕円のような「傷」があった。

血は出ていない。


マミ「おかしいわね……」

マミ「攻撃は一切喰らってないのに……」

マミ「まるで、動物に『噛みつかれたような傷』……」

マミ「気付かなかっただけ?……油断大敵ね」

マミ「…………」

マミ「何か気持ち悪いからシャワー浴びよう」

マミ「……明日、寝坊しないといいけど」

67: 2012/12/24(月) 19:21:06.47 ID:x5B4HQt90

#2『夢の中で会った、ような……』



――数日後


和子「カ~リフォ~ルニャア~♪」

和子「おはようございます。さて、皆さん……」

和子「『カリフォルニア』を『カリフォルニャアー』と言うのは許します……」

和子「私も学生時代『メソポタミア』を『メソポタミャー』と言っちゃったことがありましたからね……」

和子「まぁその辺は……訛りの範囲内だろうし、何より猫っぽくて可愛いですからいいとします……」

和子「むしろカリフォルニャって言った方が発音的に本場っぽいかもです」

和子「しかし『カ"ル"フォルニア』と言うのは許しません!これは完全に誤りです!California!綴りが違います!"i"です!」

和子「『アイ』を湾曲させるのは許しませんッ!絶対にッ!人としてッ!英語教師としてッ!」

和子「皆さんも今度の小テスト気をつけるようにッ!」

中沢「先生、何をそんなに怒っているんですか?」

和子「察してください」


68: 2012/12/24(月) 19:21:59.10 ID:x5B4HQt90

仁美「『また』……のようですわね」

さやか「今度は教養が許容範囲内に満たない人だった、ってとこかな?」

まどか「そうかも……」

さやか「教養が、許容、に、ね」

まどか「え?うん」

さやか「……もういい」

まどか「?」


和子「と、いうことで転校生が来てます」

まどか「そっちが先なんだ……」


69: 2012/12/24(月) 19:22:51.83 ID:x5B4HQt90

ガラッ

ほむら「……」

仁美「まあ美人」

さやか「すごい髪だねぇ」

和子「さ、自己紹介をどうぞ」

ほむら「あ、はい」

ほむら「……暁美ほむらです。よろしくお願いします」

和子「暁美さんは東京の病院で入院していましたが、最近越して来ました」

和子「慣れない環境故、戸惑うこともあるでしょう。みなさん仲良くしてあげて下さいね」

ほむら(何回目だろう。この自己紹介……何回やってもこの瞬間は緊張する)

ほむら(鹿目さん……今回こそ……)

まどか「…………?」

まどか(こっち見てる?)

まどか(うーん……それにしても……)

まどか(夢の中で会った、ような……)

70: 2012/12/24(月) 19:23:39.60 ID:x5B4HQt90

女子生徒a「部活とかやってたァん?運動系とか文化系とかァ」

ほむら「入院生活が長くて……あんまりです」

女子生徒b「この世の中で一番大切なものは何か?」

ほむら「え?えっと……友情……かな」

女子生徒c「すごい髪ね。毎朝大変?ラブ・デラックス調子いい?」

ほむら「へ?」

女子生徒d「もしさあ……ここにカバンが落ちてて、中に1千万円入ったとしたら、君……届ける?」

ほむら「はい?」

男子生徒a「フフフ、まさかあ~~、もらっちゃいますね……!」

男子生徒b「ハハハ!正直だね……でもさあ……もし俺が私服警官で、それを見ちゃってたら?」

ほむら「えーっと……」

男子生徒c「人が人を選ぶにあたって……一番『大切な』ことは何だと思うね?」

ほむら「…………あ、あの」

71: 2012/12/24(月) 19:24:07.18 ID:x5B4HQt90

女子生徒e「なにをおさがしかね?」

ほむら「す、すみません……えっと、保健室に行きたいのですが」

女子生徒e「ほけんしつゥー?フーム」

女子生徒a「だったら、まどっちの出番ね」

女子生徒b「カモォ~ンまどまどちゃ~ん」

まどか「しょうしょう、おまちください」


まどか「ってことで、行ってくるね」

さやか「転校生を独り占めというわけだァー」

仁美「保険委員冥利に尽きますわ」

まどか「お、大げさだよォ……」


72: 2012/12/24(月) 19:24:38.07 ID:x5B4HQt90

ほむら「…………」

まどか「わたしが保険委員だよ」

ほむら「うん」

ほむら(鹿目さん……)

まどか「わたし、鹿目まどか。よろしくね」

ほむら「こちらこそ、よろしく」

まどか「それじゃ、行こっか」

ほむら「うん」

73: 2012/12/24(月) 19:25:37.15 ID:x5B4HQt90


――廊下


ほむら(さて……何を話そうかな)

まどか「何か、ごめんね。騒がしくって。転校生なんて珍しいからさ」

ほむら「あ、う、ううん」

まどか「暁美さん、学校慣れそう?」

ほむら「うん。大丈夫、そう」

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん、って呼んでいい?」

ほむら「へ?」

まどか「特に何でってこともないけど……馴れ馴れしいかな?」

ほむら「そ、そんなことないよっ」

まどか「えへ、よかった」

74: 2012/12/24(月) 19:27:43.28 ID:x5B4HQt90

まどか「あっ、ほむらちゃん。ちょっと待って」

ほむら「?」

まどか「制服にゴミが……取ってあげる」

ほむら「ん、ありがとう」

まどか「これは……毛かな?」

ほむら「毛?」

ほむら「んー……?」

ほむら「これは……猫の毛、だね」

まどか「猫」

ほむら「うん。ちょっとね」


75: 2012/12/24(月) 19:28:10.71 ID:x5B4HQt90

ほむら「飼ってる訳じゃないんだけど、ちょっと、色々あって懐かれて……」

ほむら「今朝飛びつかれちゃったから多分その時のじゃないかな」

まどか「ほむらちゃんって猫に好かれるタイプ?」

ほむら「どうだろう。特別人懐っこい仔だから」

まどか「人懐っこくてこの毛の色……エイミーかな?」

まどか「あっ、エイミーって言ってもわかんないか……えっと、近所の仔猫なんだけどね」

ほむら「多分、そうだと思うな」

ほむら(と、言うよりそうだよ)


76: 2012/12/24(月) 19:28:42.87 ID:x5B4HQt90

まどか「猫って可愛いよねー」

ほむら「うん。爪を研ぐポーズが好きかな」

まどか「あっ、ほむらちゃんもそう思う?」

まどか「えへへ……わたし達気が合うかも」

ほむら「ふふ、そうだね」

ほむら「…………」

ほむら(鹿目さん……)

ほむら(こんな私と話してて、こんなに可愛らしい笑顔を見せてくれる……)

ほむら(……どうして、こんなにいい人が……あんな目に)

ほむら(いい人故に……か。だからこそなおさら、あんなことがあってはいけない)


77: 2012/12/24(月) 19:30:11.30 ID:x5B4HQt90


ほむら「…………」

ほむら「……ねぇ、鹿目さん」

まどか「ん?なぁに?」

ほむら「鹿目さんは……自分の人生が貴いと思う?」

まどか「へ?ど、どうしたの?」

ほむら「家族や友達を大切だって、思う?」

まどか「そりゃあ……もちろんだよ?大好きで、とっても大事な人達だよ」

まどか「今日からはほむらちゃんもその一人っ」

ほむら「そ、そう言ってもらえると……嬉しいなぁ」

ほむら「えへへ……って、そうじゃなくて」

ほむら「も、もしその気持ちが本当なら……リスクを持ってしてでも変わっちゃおうだなんて絶対に思わないでほしいの」

78: 2012/12/24(月) 19:31:13.42 ID:x5B4HQt90

まどか「えっと……それは……?」

ほむら「無理に変わろうとすると……全てを失うことに繋がりかねない……」

ほむら「鹿目さんは、鹿目さんのままでいてほしいの」

まどか「…………?」

ほむら「……あ、ご、ごめんね。急に変なこと言っちゃって」

まどか「つまり、急がば回れってことだね!」

ほむら「……え?」

まどか「わたし……結構、鈍くさいというか人に流されやすいというか……コンプレックスっていうの?そういうのがあるの」

まどか「いつか……そんな弱い自分を変えたいだなんて思ってた時期もあったよ……」

まどか「遠回りこそが、本当の近道!ほむらちゃんはそう言いたいんだね」

ほむら「あ、あの……」

まどか「なりたい自分には、ゆっくりなっていけばいい、と……」

ほむら「…………えーっと」

79: 2012/12/24(月) 19:33:00.32 ID:x5B4HQt90

ほむら「そ、そうです。急に変わろうとするとボロが出ますから……あはは……」

ほむら(ち、違う……。私が言いたかったのと何か違う……)

ほむら(鹿目さんは今ので一体何をどう解釈したの?いや、私も何が言いたいのかいまいちアレだった気もするけど)

ほむら(……でも、そういうことでいいや)

まどか(急に家族がどうこう言ってきたけど……)

まどか(もしかしてほむらちゃん。家族のことで何か悩みでもあるのかな)

まどか(もしそうなら、力になりたいなって)

まどか「ねぇ、ほむらちゃん。今日のお昼、一緒に食べない?」

ほむら「あっ……えっと……誘ってくれるのはすっごく嬉しいけど……」

ほむら「今日は……その、何ていうか……先に約束してる人がいて……上級生なんだけど」

まどか「そっか……」

ほむら「明日。明日また、誘ってくれると嬉しいな」

まどか「うん!」


80: 2012/12/24(月) 19:33:33.62 ID:x5B4HQt90


――CDショップ


まどか「……と、いうような人生におけるアドバイスをほむらちゃんからいただきました」

さやか「……へ、へぇー、よかったね」

まどか「それとお昼一緒に食べる約束したんだ~。今日はダメだったみたいけど」

さやか「ふーん」

まどか「お弁当のおかず交換とかするって約束もしたの」

さやか「へぇ、お弁当……」

さやか「転校生って、一人暮らしなんだって?」

さやか「病弱な上に一人で家事をやりくりして挙げ句にお弁当まで作るのかね……」

まどか「大変そうだよね……」


82: 2012/12/24(月) 19:34:29.31 ID:x5B4HQt90


さやか「一人暮らしか……」

さやか「ちょっぴり尊敬アンド憧れちゃうね」

まどか「パパの料理やお弁当が食べられないだなんて、わたし、一人暮らしは到底無理そうだよ……」

さやか「転校生が特別なんだよ。普通中学生で一人暮らしなんてそうそうしないよ」

まどか「ほむらちゃんってスゴイなぁ」

さやか「ちょっと変わり者だとは思うけどね」

まどか「そう?」

さやか「だって、転校初日にあたしの嫁の誘いを断るなんてなぁ」

まどか「さやかちゃんとも仲良くなれるよ。多分」

さやか「あっ、スルーっすか。……それよか何で"多分"ってつけるかなァー!?」

まどか「だってさやかちゃん。すぐちょっかい出しそうなんだもん。多分ほむらちゃんにとって苦手なタイプだよ」

さやか「そ、それは……まぁ……うん、イジりやすそうとは思ってましたけども」

83: 2012/12/24(月) 19:34:57.97 ID:x5B4HQt90

店員「お客様。こちらになります」

さやか「あ、はい」

店員「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

さやか「どもども」

さやか「買ったった~♪」

まどか「何のCD?」

さやか「ん、ちょっとね」

まどか「でもよかったね。予約しておいて。あんまりお店にないみたいだよ。そのCD」

さやか「ふふふ、さやかちゃんに抜かりはない……ちゃんとお取り寄せしてたもんね」

まどか「ゴ機嫌だねぇ」

さやか「一枚いかがァ~?735エェ~ン」

84: 2012/12/24(月) 19:35:49.99 ID:x5B4HQt90

まどか「……あれ?」

さやか「ん?どうかした?」

まどか「今……声が……」

さやか「声?」

まどか「何か聞こえない?」

さやか「いや、別に?」

まどか「そ、そう……?でも……」

さやか「空耳でしょ」

まどか「そうかなぁ」

まどか「でも……『助けて』って聞こえるんだけど……」

さやか「何それ怖っ。でもまどかがそんなオカルトな冗談言うとは思えないし……」

さやか「おし、恐怖を認め克つとしよう。その声とやらがする方に行こうか」


85: 2012/12/24(月) 19:36:34.36 ID:x5B4HQt90

――廃墟内部


まどか「……ここからだ」

まどか「声はこのドアの向こうからするよ」

さやか「ここ結構前からあるけど……工事してないのかな」

まどか「ここから、何かが、わたしを呼んでいる……」

さやか「端から見たらすごい痛い子みたいになってるよまどか」

まどか「……本当なんだもん」


まどかは、体の中から呼びかけられているような声を感じた。

それは、自身を呼ぶ声だった。さやかには聞こえない。

しかしさやかは、まどかは嘘が下手であることを知っている。

幼なじみだからこそわかる、まどかは嘘を言っていないという確信がある。

86: 2012/12/24(月) 19:37:20.03 ID:x5B4HQt90

さやか「じゃ、じゃあ、入ってみる?」

まどか「うん……ちょっと怖いけど」

さやか「ゆ、勇気とは怖さを知ること……!」

ガォンッ!

まどか「うあっ!」

さやか「わっ!?」


中にあるさび付いた扉を開けると、二人は急に吸い込まれた。

気圧差のある飛行機の扉が開き、空気が外に吸い込まれるかのように。


まどか「あれ……?」

さやか「ん?」

まどか「え?ええ?」

さやか「な……何……?これ……」

87: 2012/12/24(月) 19:38:23.10 ID:x5B4HQt90

気が付くと、二人は異常な空間の中にいた。

薄暗いコンクリートだけの廃墟の床が、緑色になっている。

「魔女の結界」

何故だか、まどかは脳裏にそのような言葉が浮かんだ。

黒装飾で箒に跨るイメージの『魔女』という言葉から、遠く離れた世界観。

それにも関わらず、何故咄嗟にその言葉が出たのか、まどかには理解できなかった。


さやか「ま、まどか……これ……夢、だよね?」

まどか「夢……じゃないよ……」

まどか「きょ、恐怖で……一歩も動けない……というの、なら……紛れもない現実……」

「――――」

さやか「な、何か……聞こてくる……よ?」

まどか「あ……ああ……あぅ……」


88: 2012/12/24(月) 19:38:50.68 ID:x5B4HQt90

さやか「こ、こっちに来る……?!」

さやか「あたし達を狙っているのか……!?」


狼狽えるさやか、呆然とするまどか。

その二人に、突如現れた異形な生物のようで無機物のようでもある「何か」が近寄ってくる。


まどか「ひ、ヒィッ!」

さやか「うああああ!あんな変な物体が最後に見るものだなんて嫌だァ――――ッ!」


「危ないッ!」

カチッ

89: 2012/12/24(月) 19:39:41.26 ID:x5B4HQt90

まどか「い、今の声……!」

さやか「……ほぇ?」

まどか「あ……あれ」

さやか「さ、さっきの変なのは……?」


異常な光景であるには違いないが、二人の目の前から突如その「何か」の姿は消えていた。

その代わりに、一人の少女がそこに立っている。片手に銃のような物を持っている。


まどか「あ……!」

さやか「あんたは……!」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「二人とも、どうしてここに……?」

90: 2012/12/24(月) 19:41:15.95 ID:x5B4HQt90

まどか「わ、わたしもよくわからない……助けを呼ぶ声が聞こえて……」

ほむら(声……?)

さやか「転校生……!その格好は……!?」

ほむら「こ、これは……その……」

まどか「ほむらちゃんが……助けてくれたの?」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「話は後で。とにかく……危ないから、私から離れないで……」

まどか「う、うん!」

さやか「な、何か物騒な物持ってるけど……」


91: 2012/12/24(月) 19:41:54.53 ID:x5B4HQt90

まどかもさやかも、ただただほむらの後ろでへたり込むだけだった。

迫り来る生き物が現れる度に、何故かその目の前で爆発が発生した。

その爆発で、得体の知れない物体は消滅していった。

そしてその手に持った黒い鉄から、鼓膜をつつくような音を放つ。

鉛の粒が当たった物体はバチュンと音を立てて体を削ぐ。

――数分間、計三回の爆音、計六回の発砲音を響かせて、得体の知れない空間は無彩色だけの光景に戻った。


さやか「あ……」

まどか「け、景色が……」

ほむら「結界が解けた……と、いうことは……倒したのかな」

ほむら「……ふぅ」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」

92: 2012/12/24(月) 19:43:14.54 ID:x5B4HQt90


ほむら「もう大丈夫。怪我は……?」

まどか「う、うん。大丈夫……」

さやか「そ、それよりもッ!一体何があったんだ!?」

さやか「転校生あんたは何者なの!?」

さやか「さっきの化け物は何!?」

さやか「あたし達何があったの!?ここどこ!?氏後の世界!?いやん!」

ほむら「え、えっと……落ち着いて。……質問は一つずつで」

まどか「……ん、誰か来るよ?」

さやか「へ?」

「大丈夫かしら?三人とも」

ほむら「あ、巴さん」

93: 2012/12/24(月) 19:44:11.21 ID:x5B4HQt90

金髪でカールを巻いた少女が早足で歩み寄る。

その格好は今のほむらとベクトルが似ている。

その腕に白い小動物のような物を抱えている。


さやか「え、えーと?」

まどか「ほむらちゃんの知り合い?」

マミ「暁美さん。怪我はない?」

マミ「膝すりむいてない?どこか打ってない?痛いところはある?」

マミ「あら、埃が……払ってあげる」

ポンポン

ほむら「あの、大丈夫なんですけど……」

マミ「あなたの『大丈夫』はイマイチ信用できないわ。足手まといにならないようにって無茶する傾向にあるんだもの」

マミ「だから使い魔を倒すのに専念してもらったのよ。はい。グリーフシード」

ほむら「す、すみません……」

94: 2012/12/24(月) 19:46:54.11 ID:x5B4HQt90


まどか「あ、あのォ……」

マミ「あ、ごめんなさいね」

マミ「私の名前は巴マミ。あなた達と同じ見滝原中学校の三年生よ」

さやか「えっと……マミ、さん……状況が全く読めないんですけど」

マミ「それはそうよねぇ……」

マミ「その割には落ち着いてるように見えるけど……あまりに理解を超えてると逆に冷静なんて、あるかしら」

マミ「今のは『魔女の結界』と言うの」

さやか「魔女?」

マミ「そしてキュゥべえが見えているということは……魔法少女の素質はあるということね」

まどか「『魔法少女』……?」

さやか「見えるって……?これが……?」

95: 2012/12/24(月) 19:47:58.94 ID:x5B4HQt90

マミの腕の中にいるものは、白い猫のようでもあり兎のようでもある。

そんな奇妙な小動物がいた。マシュマロのような白い体に所々傷がついている。


マミ「えぇ。この子はさっきの魔女の手下……使い魔って言うんだけど、それに襲われちゃってね」

ほむら(巴さんの銃撃に巻き込まれてたように見えたのは気のせいだった。うん、気のせいだった)

QB「僕と契約して……魔法少女に、なって、よ」

さやか「うわっ、喋った」

QB「こ、この台詞は大事だからね……」

マミ「キュゥべえ、あなた大丈夫なの?」

QB「うん。元々、大した傷じゃなかったからね……」

マミ「どう見ても大した傷よ」

ほむら「…………」

96: 2012/12/24(月) 19:49:02.30 ID:x5B4HQt90

まどか「えーっと……すみませんマミさん。混乱しちゃって……何がなんだか」

QB「魔法少女……さっきの使い魔や、マミが戦った魔女と戦う使命を負うけど、どんな願いでも叶えてあげられるんだ!」

さやか「どんな願いも……」

まどか「それって……何だか夢みたい……」

マミ「ふふ、そうね」

ほむら「……できることなら」

QB「ん?」

ほむら「契約はしないで欲しいの」

まどか「……え?」

さやか「転校生?」

マミ「……暁美さん?」

97: 2012/12/24(月) 19:49:48.42 ID:x5B4HQt90

ほむら「鹿目さん……」

まどか「う、うん?」

ほむら「さっきの使い魔もそうだった……戦うということは、そういう怖い思いをすること……」

ほむら「魔法少女と関わったら……運命は大きく変わってしまう。巻き込みたくない」

QB「でも……素質がある以上、既に巻き込まれていると言えるよ」

ほむら「……私は、普通の人生を送ってもらいたい」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」

さやか「…………」

さやか(転校生……あたしは?)

マミ「……暁美さん」

ほむら「…………」

98: 2012/12/24(月) 19:50:19.94 ID:x5B4HQt90

マミ(あなたの事情を……友達を失ったということを知ってるから……)

マミ(その気持ちは汲み取れる……)

QB「魔女という存在と戦う運命、それに引き替えに願いが叶う……。二人には契約をする権利がある」

QB「その権利を一方的に否定することはできないよ」

ほむら「うぅ……」

マミ「……体験ツアーでもやりましょうか」

さやか「体験ツアー?」

マミ「そう。魔女と戦うことがいかに危険かを教えるのも義務よ」

マミ「もしかしたら、危険性を目の当たりにして契約を思い留まるかも」

マミ「……ね、暁美さん」

ほむら「……!」

ほむら「そっ、そうですね……!」

マミ「と、言うわけで明日のお昼にでも会いましょう」

さやか「はいっ」

まどか(魔法少女……かぁ)

99: 2012/12/24(月) 19:51:15.13 ID:x5B4HQt90

――翌日


二人の魔法少女と、二人の普通少女は、結界にいる。

魔女の結界ではなく、使い魔の結界。ダークピンクの空。


ほむら「こ、この結界は……!」

さやか「わ、わぁ……これで結界ってのに入るのは二回目だけど……」

まどか「何だか、割と案外、普通の街並みっぽいよね」

さやか「うん。空がピンク色だけどさ」

マミ「……暁美さんと初めて出会った場所。魔女はいないけど」

マミ「あの時は結局使い魔の特性は見れてなかったし、少し様子見するとして……やっぱり不気味ね」

マミ「いい?二人とも。そこの断層の陰に隠れていて」

さやか/まどか「はいっ!」

100: 2012/12/24(月) 19:52:09.94 ID:x5B4HQt90

マミ「さて、体験ツアースタートよ」

ほむら「……じゃあ、どうしましょう?」

マミ「そうね……暁美さんの戦い方は結構、いえ、かなり特殊だからね……」

マミ「でもそれより時を止めちゃったら見学にならないのが問題ね」

ほむら「…………」

マミ「何てね。お互いの戦闘スタイルをよりよく知るためにも、自由に戦っていいわよ」

ほむら「は、はいっ」

使い魔「Ihcimoneh"onomurerabare"etiki――Awustotih」

使い魔「"Ihcimonehihs"abukanomas――Awustotihuom」


使い魔は発する音に所々に抑揚をつけ、話しているかのようだった。

何か意味のあることを話しているようではあるが、ノイズにしか聞こえない。


マミ「来たわね……!行くわよ!」

ほむら「あ、はいっ!」

101: 2012/12/24(月) 19:52:42.88 ID:x5B4HQt90

さやか「スゴイね……カッコイイ」

まどか「うん……!」


マミはマスケット銃で黒い人形を撃ちリボンで『斬り』足下に花を咲かす。

華やかさと躍動感の溢れる戦い方だった。

攻撃する度に何か叫んでいるようだが、ここからではよく聞き取れない。

ほむらは使い魔へ銃を発砲し「瞬間移動」して爆弾を仕組む。

動きはマミと比べるとよたよたして頼りないが、確実に使い魔を倒している。


QB「あの使い魔は大した強さではなさそうだ」

まどか「あ、キュゥべえ」

102: 2012/12/24(月) 19:53:45.95 ID:x5B4HQt90

QB「動き自体が遅いし、まともに攻撃を仕掛けている様子を見受けられない」

さやか「そうなの?」

QB「ほむらは契約した覚えのないイレギュラーでその実力は未知数だけど、マミはベテランの魔法少女だ」

QB「この程度の使い魔なら何てこともなく終わるだろう」

まどか「マミさんってスゴイんだね……」

さやか「憧れちゃうなぁ」

QB「二人も、契約をして訓練をすればあれくらい造作ないと思うよ」

QB「辛いことだというのは認めるよ。だけど、マミは、魔法少女としての自分に誇りを持っていると言ってくれた」

QB「ずっと一人だったから、寂しかったとも言っていたね。君達が契約をすれば、マミの心も救われるよ」

まどか「ほむらちゃんじゃ役者不足ってこと?」

QB「そうとは言わないけ――」

QB「きゅぶッ!」

グシャッ

まどか「ッ!?」

さやか「?!」


「うわっ、踏んじゃったよ……キモイねぇ」

103: 2012/12/24(月) 19:54:25.87 ID:x5B4HQt90

「やぁ、こんにちは」


――そこには、少女がいた。

正確には、魔法少女だった。

突然魔法少女が空から降りてきて――キュゥべえを踏んだ。


何が起こったのか、まどかとさやかは一瞬パニックになる。

少し離れた場所で戦っているマミとほむらはその存在を認識していない。

首に一文字の小さな切り傷がある。

動揺もあってか、そこに一度目に入るとそれ以外の外見的特徴を見出せない。


104: 2012/12/24(月) 19:54:51.48 ID:x5B4HQt90

まどか「あ、あな、あなたは……!?」

少女「名乗る程のもんじゃないけど、僕はしがない魔法少女でさぁ」

さやか「……ッ!」

さやか(な、何かヤバイ!マミさんと転校生は戦ってる最中……!)

さやか「まどか!下がれッ!」

まどか「!」

少女「お?」

さやか「こ、これ以上あたし達に近づくんじゃあないッ!」

少女「ん、いいよ」


さやかは少女のニヤニヤした表情を見て「嫌な予感」がした。

さやかは体験ツアーに持ち込んだバッドを剣道の竹刀のように構え、少女に対し精一杯の威嚇をする。

まどかは断層に背中を押し当て、怯えた表情を向ける。

105: 2012/12/24(月) 19:55:33.25 ID:x5B4HQt90

少女「ド素人の構えだね」

さやか「あんたは何なんだ!」

少女「魔法少女だけど?」

さやか「さ、下がれッ!あたし達に近づくなッ!」

少女「おいおい、僕はさっきから近づいてないじゃあないか」

少女「人の話を聞かないヤツだなぁおまえさんは」

さやか「あたしの質問に答えろッ!」

少女「そんなに警戒することないじゃあな――」

少女「――おっと!」

さやか「わっ!?」

106: 2012/12/24(月) 19:56:24.05 ID:x5B4HQt90

二人の間に、黒髪の少女が「瞬間移動」して割り込んだ。

さやかの威嚇で異変に気付いたらしい。


まどか「ほ、ほむらちゃん!」

ほむら「…………」

ほむら(……時を止めて、間に割り込んだ)

少女「びっくりした……急に現れるなよぉ……」

少女「テレポートの能力?」

少女「そんな顔しても、威圧感がないなぁ」

ほむら「……!」

107: 2012/12/24(月) 19:57:01.40 ID:x5B4HQt90

ほむら(だ、誰だ……!?)

ほむら(初めて見る……今までの時間軸でも……)

ほむら(『こんな人』出会ったことがない!)

ほむら「ふ、二人に手を出させない!」

少女「うわ、声可愛い。ますます怖くない。威嚇してるつもりなんだろうけど」

少女「ん……別に今は危害を与えるつもりないから」

少女「それよかほら、よそ見してると……」

ほむら「……よそ見?」

108: 2012/12/24(月) 19:58:04.33 ID:x5B4HQt90

少女はチラリと視線を上方へ向けた。

ほむらは警戒――いつでも時間停止できるようにしつつ、視線の先を見た。

高さ3m程の断層、その上に使い魔が立っていた。

もしその場から飛び降りたら、真下にいるまどかと衝突しうる。


使い魔「Ozuarom――Eteku」

ほむら「ッ!」

ほむら「危ないッ!」

まどか「え?」

ダンッ!

109: 2012/12/24(月) 19:58:51.73 ID:x5B4HQt90

ほむらがハンドガンを構えようとした瞬間、使い魔の頭は撃たれた。

使い魔は後方に倒れ、壁を転がり落ちて消えていった。


まどか「ひゃあ!」

ほむら「と、巴さん!」

マミ「暁美さん!使い魔は私が――」

使い魔「Aterabare――Awiihsamatonok」

少女「ん?」

ほむら「あ……」

さやか「つ、使い魔が……」


使い魔の言葉に対し、他の使い魔がコクリと俯いたかのようにほむらは見えた。

一匹の使い魔は影のようなマントをひらりと揺らし、近くの廃墟の中へ向かっていく。

他の使い魔達もそれに続く。まるでやることを済ましたかのように。

使い魔が急に戦意をなくした。その異様な状況に、マミは見ていることしかできなかった。

まどかは断層から背中を離し、さやかはバッドを降ろした。ほむらは警戒を解かない。

――そして魔女の結界は解かれた。

110: 2012/12/24(月) 19:59:23.49 ID:x5B4HQt90

少女「ありゃ……結界が……なんか魔女狩りを邪魔したみたいで悪いねぇ」

少女「しかし、あの使い魔共。急に逃げるように去ったいったが……?」

マミ「大丈夫!?二人とも!」

少女「僕は何もしてないよぉ。信用ないね。まぁそりゃそうか」

マミ「あなたは、何者かしら?」

少女「別に名乗る程のもんじゃない。僕はM市の方でテリトリー張らせてもらってる魔法少女さ」

ほむら(よその町の魔法少女……!?)

マミ「そう……わざわざ見滝原のテリトリーに何の御用?」

少女「別に大した用は……」

111: 2012/12/24(月) 20:00:03.64 ID:x5B4HQt90

少女「あ、そうそう。さっきの使い魔のことなんだけど……」

少女「最近こいつを色んな場所で見るよ。行動範囲は市外に及んでいたってわけだ」

マミ「知っているの?この使い魔を」

少女「ん。巷では『引力の魔女レイミ』と呼ばれているヤツ。そいつの使い魔だ」

ほむら「レイミ……」

マミ「引力……?何が由縁かしら?」

少女「ん、僕はこの魔女の使い魔に出会ってからというもの……」

少女「この魔女、あるいは使い魔に襲われたことのある人とよく出会うんだ……。引力に導かれるようにさ……」

少女「同じような現象が多々あるらしいので、引力と呼ばれている。諸説あるが、僕個人としてはこれが一番説得力がある」

少女「レイミという名前の由来は知らない。いつの間にかそう呼ばれてたから僕もそう呼んでる」


112: 2012/12/24(月) 20:01:24.14 ID:x5B4HQt90

マミ「それで……?結局何をしにここに?」

少女「いやぁ……その……特には」

少女「うーん。見滝原の魔法少女は一人だけって聞いていたんだが……」

ほむら「…………」

少女「二人いるし、下手したら四人になりかねない、と」

まどか「…………」

さやか「…………」

少女「今日はもう帰るよ。それじゃ」

マミ「あっ、ちょっ……な、何だったの……?」

ほむら(この時間軸は……イレギュラーだ)

ほむら(さっきの人……この時間軸でどういう立ち位置になるだろうか)

ほむら(ワルプルギスの夜の戦力となりうるか……?)

まどか「あ……!」

さやか「うん?どうしたまどか」

まどか「『足』が……」

さやか「ま、まどかッ!?」

113: 2012/12/24(月) 20:02:53.92 ID:x5B4HQt90

ほむら「え?」

さやか「『ケガ』してるッ!」


まどかの靴下に輪状の血染みができていた。

靴下越しに何かが刺さったらしい。


マミ「こ、これは……!?まさかさっきの人が……」

まどか「で、でも、わたし……何もされてません」

まどか「なのに、いつの間に……」

ほむら「鹿目さん!大丈夫!?」

まどか「うん……痛みはないけど……」

マミ「ケガをさせちゃうなんて。不甲斐ないわ……」

まどか「いえ、そんな……」

114: 2012/12/24(月) 20:03:30.67 ID:x5B4HQt90


マミ「責任はちゃんと取るわ。脱いで。治してあげる……」

まどか「あ、はい」

スルッ

さやか「うわ……何?この傷……」

ほむら「何かの『咬み傷』みたい……」

マミ「血は止まっているわね。傷跡は絶対に残さないからね」

まどか「はい……ありがとうございます」

ほむら「靴下は弁償するね」

まどか「え、それは流石に悪いよ……」

ほむら「いいから。鹿目さんにケガさせちゃったんだし……」

マミ(……あれ?この傷、どっかで見たような……)


115: 2012/12/24(月) 20:04:47.36 ID:x5B4HQt90


QB「やぁ」

まどか「あ、キュゥべえ」

さやか「だ、大丈夫だった?思い切り踏まれてたけど」

QB「うん」

マミ「ねぇ、キュゥべえ……さっきの子って……」

ほむら「…………」

QB「彼女は確かにM市の魔法少女だ。身分の偽りはない」

QB「僕も会ったことがある」

QB「でも、基本的には他の魔法少女が治めるテリトリーに入ることはしない……」

QB「争い事に関しては消極的な性格だと思っていたよ」


116: 2012/12/24(月) 20:05:39.32 ID:x5B4HQt90

さやか「じゃあ、何で……」

QB「人の考えることはわからないからね」

ほむら「……何か事情でもあったのかな」

まどか「キュゥべえ……その……さっきの人みたいなのって……」

QB「他の魔法少女のテリトリーに侵入する魔法少女が他にもいるのかってことかい?」

QB「他テリトリーの魔法少女を始末してグリーフシード、テリトリーを強奪する」

QB「そういう魔法少女もいるよ」

まどか「そう、なんだ……」

さやか「そんな自分勝手なこと……魔法少女の風上にも置けない!」

QB「世界的に見ればそう珍しいことじゃあないよ。この国では少ないけどね」


117: 2012/12/24(月) 20:06:49.34 ID:x5B4HQt90

ほむら「……グリーフシードを強盗は聞いたことあるけど、強殺……か」

マミ「でも私……今までそういうのに会ったことないわ」

QB「他者のテリトリーを侵してまで魔女を退治するメリットはあまりないからね」

QB「無駄な争いや野心を持たず、決められた領域で……っていうのが基本的な姿勢だよ」

QB「国民性というヤツなのかな。例外は勿論あるけれど」

マミ「……うーん、まさか自分のテリトリーに起こるなんて」

QB「以降、用心に越したことはないね」

マミ「……それもそうね」

マミ「でも、暁美さんという心強い味方もいるし、大丈夫よっ」

さやか「頼もしいなぁ」

QB「マミはほむらが来てから、大分明るくなった。というのが僕の見解だ」

QB「感謝するよ。ほむら。マミはそれまで仲間が欲しいと頻繁に言っていたからね」

ほむら「……ん」


118: 2012/12/24(月) 20:08:22.23 ID:x5B4HQt90


――
――――


少女「……やれやれ、参ったね」

少女「ついこの間までは見滝原をテリトリーとする魔法少女は一人だけと聞いていたが……」

少女「ちょっと、相手の手札が見えない以上」

少女「変に刺激するのは得策じゃあないよなぁ……」

少女「また近い内会いにいこう……かな?」

少女「カプセルホテルにでも泊まろうかなぁ……」

少女「って、子どもにゃ無理か」

少女「一旦帰って、明日の朝に学校サボってお出かけだぁ」

119: 2012/12/24(月) 20:10:20.41 ID:x5B4HQt90
これで第二話終わりです

言い忘れてましたが、やたら出しゃばってくるモブキャラと言う名のオリキャラが出てきます。
忠告し忘れていた以上、苦手な方はすみませんが我慢してください。

外見は描写されてませんが、おりマギでお菓子の結界でくたばってた人とかまどマギオンラインのアバターのとか……
その辺、お好きにご想像ください。首に傷ってのもせめてのも個性に過ぎませんし


あとウェヒティヒ(何か響きがエシディシみたい)を廃止したということも忘れてました。
半角カタカナを効果音限定になる程度で特に理由も意味もありません。


もう一つ言い忘れてたことですが、今作は全15話構成になってます。
なので一日二話分書かないと今年中、残り八日に終わらないかもです。できれば今年中に終わらせたいのです。


ってことで23時くらいに再開します。

スタンド編なんだからいい加減スタンド一体くらいは出しとかないとアレですし。
(七部オマージュとしてスタンドの概念が出るのが遅れたってことにしよう)

122: 2012/12/24(月) 22:59:07.76 ID:x5B4HQt90


#3『守るわたしになりたい』



――翌日

学校


さやか「おはよーぅ、転校生」

仁美「おはようございます。ほむらさん」

ほむら「あっ、美樹さん、志筑さん。おはようございます」

仁美「すみません。待ちぼうけさせてしまって」

仁美「結局待ちあわせに来られなくて」

ほむら「いえいえ」

さやか「さやかちゃんお寝坊しちゃったよォ」


123: 2012/12/24(月) 22:59:49.01 ID:x5B4HQt90

さやか「時に転校生」

ほむら「はい」

さやか「一人暮らしで寂しくないかぁ~?」

ほむら「だ、大丈夫ですけど……」

仁美「でも、お体が弱いと聞いてますから……心配と言えば心配ですわね」

ほむら「志筑さんまで……」

ほむら「大丈夫です。最近すこぶる調子いいですからっ」

仁美「ふふ、それならいいんですけど」

124: 2012/12/24(月) 23:00:21.58 ID:x5B4HQt90

さやか「ところで、まどかは?」

ほむら「実は、鹿目さんも来なかったんです……」

さやか「へ?」

ほむら「それで、結構待ったんですが……一応メールを送って先に……」


和子「ボンジョルノです!みなさん!」

さやか「あ、先生来た」

仁美「それでは、また後で」

ほむら「あ、はい」

125: 2012/12/24(月) 23:00:58.97 ID:x5B4HQt90

和子「えー、っと。今日の欠席は、鹿目さん、っと」

さやか「えっ!まどか休みスか!?」

ほむら「!」

和子「はい。熱出ちゃったそうです」

「欠席すると親御さんから連絡がありました」

仁美「昨日は元気ようでしたのに……」

さやか「わからないもんだねぇ」

和子「ちなみに欠席するという連絡を受けていないのにここにいない人は遅刻とみなしまーす。中沢くん遅刻でーす」

ほむら(鹿目さんが……休み……)

126: 2012/12/24(月) 23:01:32.71 ID:x5B4HQt90

ほむら「鹿目さん……風邪かぁ」

さやか「元気出しなよ転校生。誰だって風邪の一つや二つするよ」

仁美「ほむらさんは特に鹿目さんと仲がいいですからね」

ほむら「…………」

さやか「そんなに気になるなら、サボっちゃえば?」

ほむら「え……」

仁美「もう、さやかさんったら……何を仰っているのですか」

さやか「いやぁ、ハハ、冗談だってばさぁ」

ほむら「…………」

仁美「さやかさんの言うことをあまり本気にしないでくださいね?」

さやか「何か引っかかる言い方だなぁ」

ほむら「…………」


127: 2012/12/24(月) 23:03:07.73 ID:x5B4HQt90

ほむら「……早退します」

仁美「なっ……!?」

さやか「えっ……」

ほむら「志筑さん。すみませんが、ノート、よろしくお願いしてもいいでしょうか」

仁美「で、でも……」

さやか「あ、あんたねぇ……」

ほむら「美樹さん。私、二時間目くらいに気分が悪くなるので保健室行きます」

さやか「お、おぉい……」

ほむら『鹿目さんが心配なんです。もしかしたら昨日何かされたのかもしれないですし……』

ほむら『あの使い魔か、それともあの魔法少女が……何かしら原因がある。そんな気がするんです……用心に越したことないです』

さやか(テレパシー……うぅむ、魔法少女関連の話を出されたら何とも言い難いじゃないか)

128: 2012/12/24(月) 23:03:33.33 ID:x5B4HQt90

仁美「い、いけませんわ、ほむらさん。そんな仮病だなんて……」

ほむら「じ、実は今朝から熱っぽくてですね」

仁美「さっき調子いいって言ったじゃないですか」

ほむら「ゴホンゴホゴホ、ぶり返してきちゃいました。ゴホホーン、ゴホン。ゴホン」

さやか(演技下っ手くそっ!)

仁美「……それほどなんですか?」

ほむら「……あ、授業始まる」

さやか「おっと、本当だぁ」

ほむら「それじゃあ、その時になったら、お願いしますね」

仁美「え、えぇ……」

129: 2012/12/24(月) 23:04:20.88 ID:x5B4HQt90

さやか「……あぁ、あたしには転校生が何を考えてるのかさっぱり理解できんよ」

仁美「……まどかさん思いなんですね」

さやか「そうだねぇ」

さやか「仁美何ニヤニヤしてんのさ?」

仁美「ほ、微笑ましいじゃあないですか。あそこまで思われてるだなんて」

さやか「いや、そういうニヤつきには見えな――」

仁美「クシュゥン!」

仁美「失礼。くしゃみです」

さやか「…………」


130: 2012/12/24(月) 23:05:06.14 ID:x5B4HQt90

――
――――


ほむら「初めて……学校サボっちゃった……」

ほむら「……でも思ったよりなんてことないや」

ほむら「と、いうことで居ても立ってもいられなくなって来てしまったわけだけど……」

ほむら「うーん……鹿目さんのお父さんに変に思われちゃうか」

ほむら「やっぱり、よくないことだってわかってるし……」

ほむら「とは言えもう実際に早退しちゃったし……」

ほむら「もう後には退けないっ」


131: 2012/12/24(月) 23:06:26.12 ID:x5B4HQt90

チャイムを押した。

ドアが開くのに十秒もかからなかった。

まどかの父、知久はその来客にほんの一瞬動揺した。

娘の通っている学校の制服を着た少女が、今、この時間に訪れるはずがないのだ。


知久「……えっと、どちら様、かな」

ほむら「あ、あのっ、わ、私、鹿目まどかさんの……その、友達の暁美と言います」

知久「暁美……あぁ、ほむらちゃんだね。まどかからよく聞いてるよ」

ほむら「ど、どうも」

ほむら「その、お見舞いに来ました」

知久「それはわざわざ……それで、その、学校はどうしたんだい?」

132: 2012/12/24(月) 23:07:13.92 ID:x5B4HQt90

ほむら「……え、えっと」

ほむら「……その」

ほむら「……早退しました」

知久「……早引きしてまで、まどかのお見舞いに?」

ほむら「は、はい……その……」

ほむら「……ず、ずる休みです」

知久「…………」

知久「まどかのことを思ってくれるのは嬉しいけど、ずる休みは感心しないな……」

ほむら「す、すみません」

133: 2012/12/24(月) 23:08:34.68 ID:x5B4HQt90

知久「謝られても……それに、うつっちゃったら申し訳ないし」

ほむら「だ、大丈夫です!」

知久「いや、ほむらちゃんがよくても僕が困るよ。まどかからは一人暮らしな上に体が弱いって聞かされているし……」

ほむら「お、お願いしますっ」

知久「いや……でもねぇ……」

知久「…………まぁ、早退をしてまって、来てしまったものは仕方ない」

知久「わざわざ来てもらったのを帰すのも気が引けるし取りあえずあがって」

ほむら「は、はいっ。お邪魔しますっ」

知久「あ、ちょっと待って。……あった。はい。マスクを付けるといいよ。くれぐれもうつされないように気を付けてね」

ほむら「あ、ありがとうございます……!」

134: 2012/12/24(月) 23:09:27.21 ID:x5B4HQt90

知久「それじゃあ、お言葉に甘えてまどかの世話をほむらちゃんに手伝ってもらうとして……」

知久「お昼はまだだよね。ウチで食べていくかい?」

ほむら「そ、それは申し訳ないので……お昼には帰ろうかと」

知久「そうかい?まぁ、表向きは体調が悪くて早引けしたわけだし、それがいいね」

知久「しつこいようだけど、移らないように気を付けてね」

ほむら「はい。わかりました」

タツヤ「ねーちゃ、だえー?」

知久「あ、そうだ。まどかから聞かされているとは思うけど、まどかの弟のタツヤ」

135: 2012/12/24(月) 23:09:54.37 ID:x5B4HQt90

知久「タツヤ。お姉ちゃんの友達だよ。挨拶しなさい」

タツヤ「こんにっちゃ!」

ほむら「うん。こんにちは。私はお姉ちゃんの友達、ほむらだよ」

タツヤ「ほむねーちゃ!」

知久「ハハ、早速タツヤに懐かれたようだね」

ほむら「タツヤくんのお守りもしましょうか」

知久「気持ちだけありがたくいただくよ。僕の仕事が減ってしまうからね」

知久「まどかの部屋は二階だよ。寝ているかもしれないから静かにね」

ほむら「はい」

136: 2012/12/24(月) 23:11:12.23 ID:x5B4HQt90

まどか「……誰か来たのかな?」

まどか「うーん……」

まどか「どうしちゃったんだろう……わたしぃ」

まどか「寝冷えしたのかな……?」

まどか「でも喉が痛いわけでも鼻水が出るわけでも寒気もない。ただただ熱がある……」

まどか「40℃以上だなんてインフルエンザにかかって以来だよ……」

まどか「体が重い……こんなの初めて……」

まどか「……あれ?メール来てた」

カチャ…

まどか「ん……パパ?」

「か、鹿目さん……起きてる?」


137: 2012/12/24(月) 23:12:14.64 ID:x5B4HQt90

まどか「ほ、ほむらちゃん!?」

ほむら「わっ!え、あ、鹿目さん。起きてたの?調子はどう?」

まどか「どうして……!が、学校は!?」

ほむら「えっと……さ、サボっちゃった」

まどか「そ、そんなのダメだよっ!」

ほむら「鹿目さんがどうしても心配で……」

まどか「そんな、大げさだよ」

ほむら「昨日は元気だったのに急に高熱を出すなんて……何か変だと思って」

まどか「へ、変って……」

138: 2012/12/24(月) 23:12:56.00 ID:x5B4HQt90

ほむら「もしかしたら、昨日の使い魔か……あの魔法少女に何かされたんじゃないかって」

ほむら「一度でもそうじゃないかって思ったらいてもたってもいられなくって」

まどか「…………」

まどか「そうだったんだ……」

まどか「……ごめんね。ほむらちゃん。それと、ありがとう」

まどか「熱が出たのは今朝からなんだ。だからただの風邪。昨日の一件は関係ないと思う」

ほむら「早退しちゃったものは仕方ないから、ただの風邪でも看てるよ」

まどか「ほむらちゃん……」

まどか(嬉しいけど……どうしてここまでしてくれるんだろう)

139: 2012/12/24(月) 23:14:13.76 ID:x5B4HQt90

ほむら「熱が出たって言うけど……どれくらい?」

まどか「40℃くらい」

ほむら「よ、40!?本当に大丈夫?!」

まどか「喉が痛いとかはないの。強いて言えば体がダルいくらいで」

まどか「でも、ほむらちゃんが来てくれたからかな……何だか、急に楽になった気がする」

ほむら「そ、そう?」


コン、コン

まどか「あ、パパ」

知久「調子はどうだい?」


140: 2012/12/24(月) 23:15:04.73 ID:x5B4HQt90

まどか「うん。いい感じ」

知久「そう。ほむらちゃん。ちょっといいかな」

ほむら「あ、はい、何でしょうか」

知久「ちょっと僕はタツヤを連れて買い物に行ってくるよ」

ほむら「え……」

知久「鍵はかけておくから、まどかを看ていてくれるかな」

まどか「看られるよぉ」

ほむら「あの……い、いいんですか?」

知久「うん?」

141: 2012/12/24(月) 23:16:15.72 ID:x5B4HQt90

ほむら「その、私みたいな……他人にお留守番させて。お使いでしたら、私が……」

知久「制服で?」

ほむら「あ……で、でも一人暮らしだからそこは仕方がないというか……」

知久「大丈夫。気にしないで。なるべく早く帰ってくるから」

ほむら「は、はい……」

まどか「ほむらちゃん、ちょっと気を使いすぎだと思うなって」

ほむら「そう……かな?」

知久「それじゃ、行ってくるよ」

タツヤ「いてくー!」

まどか「いってらっしゃ~い」

ほむら「あ、いってらっしゃい」

142: 2012/12/24(月) 23:17:03.36 ID:x5B4HQt90

まどか「二人っきりだね」

ほむら「うん。そうだね」

ほむら「……あ、そうそう。忘れてた」

ほむら「お土産って程でもないんだけど、スポーツドリンク買ってきたんだ。水分補給はスポーツドリンクがいい」

まどか「え、ほんと?ありがとう!」

ほむら「えっと、確か盾の中に……」

まどか「あ、鞄の中ってわけじゃないのね」

ほむら「うん。盾に入れておくと中身の時間が経過しないというか……」

ほむら「飲み物は冷えたままだし、グリーフシードは穢れないの」

まどか「そうなんだ」


143: 2012/12/24(月) 23:17:39.51 ID:x5B4HQt90

ほむら「はい。どうぞ」

まどか「ありがとう……ん。美味しい」

まどか「……あっ」

ほむら「あっ」

まどか「え、えへへ……ちょ、ちょっとこぼしちゃった」

ほむら「えっと、ティッシュティッシュ……」

まどか「ごめんね」

ほむら「あ、あった」


144: 2012/12/24(月) 23:18:22.70 ID:x5B4HQt90

ほむら「はい、口拭いて」

まどか「うーん」

ほむら「あ、そういえば髪もバサバサだね。ついでに櫛通そっか」

まどか「うん」

ほむら「汗もかいてるだろうし、濡れタオル用意してくるね」

まどか「うん。ありがとう」

まどか「ほむらちゃんほむらちゃん」

ほむら「なぁに?」

まどか「下着も穿き替えさせてー」

ほむら「えッ!?」

145: 2012/12/24(月) 23:18:55.14 ID:x5B4HQt90

ほむら「えっと……あの……いや、その」

まどか「あはは!冗談だよぉ!冗談!」

クルクル

ほむら「も、もうっ!からかわないでよ……」

まどか「ごめんごめん」

まどか「ほむらちゃんの看病で安心して、つい」

ほむら「看護婦さんの見様見真似なんだけどね」

まどか「ほむらちゃんならいいナースさんになれるよ!」

ほむら「そ、そうかな?」

146: 2012/12/24(月) 23:19:58.67 ID:x5B4HQt90

まどか「でも、何だろう」

まどか「さやかちゃんや仁美ちゃん、マミさんに同じ看病されても……」

まどか「ああいう冗談言える気がしないなって」

ほむら「……それって、喜んでいいのかな?」

まどか「うん!それほどリラックスできる。何でだろうね。まだ出会ってそんな経ってないのに」

まどか「……出会ってそんな経ってないのに、わたしってば図々しいかな」

ほむら「そ、そんなことないよ!」

ほむら「えっと……それじゃ、タオル持ってくるね!」

まどか「うん」

147: 2012/12/24(月) 23:20:57.24 ID:x5B4HQt90


まどか「…………」

まどか「本当にほむらちゃんって優しいなぁ……」

まどか「魔女と出会った時も、他の魔法少女が来た時も、ほむらちゃんは私を助けてくれた……」

まどか「いつだって気遣ってくれて、勉強も教えてくれる」

まどか「強くて優しくて頼りになる。子どもの頃憧れた魔法少女像って、こんな感じだったかも」

「僕にもそういう人がいる」

まどか「ッ!?」

「優しくて、頼りになる。もちろん強いしカッコイイ。頭もいいし貯金だってある」


突如、聞き覚えはあるが聞き慣れていない声がした。

声の方向を向く。そこにいたのは……。


148: 2012/12/24(月) 23:24:17.63 ID:x5B4HQt90

まどか「あ、あなたは……!」

まどか「あなたはッ!昨日のッ……!」

少女「昨日ぶりだねぇ」

まどか「ど、どうして……!」

少女「ん、さっきいつぞやの黒髪三つ編み魔法少女を見かけてねぇ……」

少女「何で平日の朝にいるのかはさておいて、尾行してきた」

少女「家を特定した後……すぐに侵略するのもガッつくようなので時間を置いて来た」

少女「おまえさんの親と思しき人も出かけたし、密会するには丁度いい。結果オーライだ」


昨日出会った魔法少女は窓枠とピシッと指で弾いた。

するとカチリと開錠し、鹿目家の家はあっさりと侵略者を受け入れてしまった。

少女はまどかの部屋の中央に立ち、周りを見る。

149: 2012/12/24(月) 23:25:04.24 ID:x5B4HQt90

少女「ん……いい部屋だねぇ。いかにも女の子って感じで」

まどか「か、鍵が……」

少女「魔法少女に鍵なんてないものと思っていただこうか」

まどか「あ……ああ……!」


まどかは体が固まってしまった。

「グリーフシードを多く手に入れるために魔法少女を頃してテリトリーを奪う」

「……グリーフシードを強盗は聞いたことあるけど、強殺……か」

昨日に聞いた会話の断片。まどかの心を恐怖と緊張が支配した。

150: 2012/12/24(月) 23:26:57.89 ID:x5B4HQt90

少女「あの眼鏡っ子はどこだ?台所か?トイレか?大穴で風呂か?」

まどか「ああ……あ……!」

少女「……声でないのか?喧しくないのはいいが、いかんせん面倒だな」

少女「落ち着きな。別におまえさんを頃すわけじゃあないんだか――」

まどか「あっ!」

少女「ハッ!」

ほむら「…………」

まどか「ほ、ほむらちゃん!」

151: 2012/12/24(月) 23:27:58.38 ID:x5B4HQt90

まどかに詰め寄ろうと一歩踏み出した少女の前。

まどかとの間に割り込むように、突如として、ほむらの姿が現れた。


少女「ビックリしたぁ!やめろよ急に現れるのォッ!」

ほむら(……時を止めた)

ほむら(昨日の魔法少女……どうしてこんなところに……)

ほむら(……そのまま彼女を撃退できるならしたいけど……)

ほむら(……襲撃の理由、聞き出したくはある)

少女「……おまえさんは、やっぱりテレポートの能力なのか?」

少女「心臓に悪い能力だ……まぁいい」

少女「戦いは避けられないとは思っていた」


152: 2012/12/24(月) 23:28:43.11 ID:x5B4HQt90

ほむら「あなたの目的は一体、何だというの……?」

少女「え?目的ィ……?」

少女「なぁに、至ってシンプルさ。言う必要性さえ疑うね」

少女「僕はこの見滝原のテリトリーを乗っ取るつもりでいる」

まどか「え……!」

少女「風邪っぴきのおまえさんは将来魔法少女になる可能性を秘めているのかもしれないが、今はいいとして」

ほむら「……」

少女「本当は結界で出会った時には戦いを挑みたかったんだが……」

少女「素人がいる手前でそういうことするのも主義に反するし……人間同士の争いは単純に数が物を言う。僕にとっては圧倒的不利だった」

少女「故に一人ずつ!見滝原をテリトリーに構える巴マミより先に、おまえさんを始末してくれる!」

ほむら(まさか!今、やる気かッ!)


153: 2012/12/24(月) 23:29:12.23 ID:x5B4HQt90

少女「ところで、ピンクのおまえさん。熱を出してるみたいだね」

少女「汗をかくということは体内の悪い物質を出すということだ。ガンガン出してくれたまえ」

ほむら「……場所を移しましょう」

少女「ん?……あぁ」

少女「それもそうだね……このままだと、そこの風邪っぴきを巻き込んでしまう」

少女「やはり、僕としても素人を巻き込みたくないからな」

ほむら「…………」

少女「…………」

154: 2012/12/24(月) 23:29:59.40 ID:x5B4HQt90

まどか「ほむらちゃん……」

グツグツ…


まどか「へ?」

まどか「な、何の音……?」

まどか「ん……?」

ほむら「え……」

まどか「ス、スポーツドリンクから……湯気が……」

ほむら「いや、ふ……『沸騰』してるッ!?」

少女「『おまえさんの』は67℃くらいかな?」

バッ

まどか「熱ッ!?」

ほむら「ッ!?」

155: 2012/12/24(月) 23:30:42.45 ID:x5B4HQt90

まどか「あ、あヅヅっ!熱いッ!」


ペットボトルが小刻みに揺れている。

ペットボトルの底からボコボコと気泡があがる。

そしてまどかは突如体を捩り悶えはじめた。

ポットの湯をカップに注いでいる時に跳ねて手についた時の痛みが、全身に走る。


まどか「汗が!汗が!熱いッ!」

ほむら「かッ!鹿目さ――」

少女「僕の能力だ。この子の『汗』を熱湯にした」

ほむら「――ハッ!」

ガシィッ

ほむら「なっ!?」

156: 2012/12/24(月) 23:31:33.31 ID:x5B4HQt90


少女「腕を掴んだ!」

少女「君はこの子を助けた。そして看病している。つまり、この子はおまえさんの友達以上は確実」

まどか「ハァ……ハァ……お、収まった……?」

まどか「ああッ!ほ、ほむらちゃん!」

少女「この子にダメージを与え……おまえさんを躊躇させる餌にした」

少女「さっき素人に手を出さないと言ったが……スマンありゃ嘘だ」

少女「もし火傷して痕になったごめんよ」

まどか「そ、そんな……!」

ほむら(しまった!う、腕を掴まれた……何かわからないけど、このまま触れられているのはマズイッ!)

157: 2012/12/24(月) 23:32:25.57 ID:x5B4HQt90


ほむら(触れられていると時間を停止しようにも……この人を時の止まった世界へ一緒に入れてしまっては意味がない)

ほむら(ま、まずい……!どうする!?)

ほむら(爆弾は論外……爆発で鹿目さんを巻き込む!)

ほむら(撃つか……!?でも、こんな時間帯で発砲するのも……!サイレンサーを付けておくべきだった!)

ほむら(何より、鹿目さんの目の前で人を撃つわけにはいかないッ!)

ほむら(どうする!?どうする!?どうすればいいッ!?)

ほむら(どうす――)

ほむら「熱ッ!?」

まどか「!?」

158: 2012/12/24(月) 23:33:08.18 ID:x5B4HQt90

ほむら「……えッ!?何ッ!?」

少女「ニヤリ」

ほむら「う、うおああぁぁッ!」

ほむら「う、腕がッ!腕の『中』からッ!?」

まどか「ほむらちゃんッ!」

少女「僕の能力だ……『水を熱湯に変える』……ドリンクや汗の水滴も熱湯に変えられる」

少女「さらに直接触れなきゃだけど、体を構成する水分も熱湯にできる!」

ほむら「み、水を……熱湯……!?」

159: 2012/12/24(月) 23:33:45.19 ID:x5B4HQt90

少女「ちなみにタンパク質はたった42℃で変性を開始すると言われているんだぞォ――ッ!」

ほむら「『腕』が『熱い』ッ!」

まどか「ほむらちゃぁぁんッ!」

ほむら「あああッ!ぐッ!」

まどか(どうしよう……!ほむらちゃんが……!)

まどか(わたしを守ってくれた、わたしを看病してくれた、わたしの大切な友達がッ!)

まどか「ほ、ほむらちゃんを……」

まどか「ほむらちゃんを離してェッ!」

少女「むっ……」

161: 2012/12/24(月) 23:34:47.19 ID:x5B4HQt90

まどかは手元にあったぬいぐるみを投げつける。

少女は軽く叩き落とす。

ほむらの顔は苦痛に歪んでいる。


少女「邪魔をするな。チビ……!」

まどか「うっ……!」

まどか(うぅ……目を逸らしてしまった!)

少女「この眼鏡っ子の次は君をブチのめしてやろうか?!」

ほむら「ッ!」

まどか「うぅ……!」

ほむら(このままでは……鹿目さんが危ない……!)

162: 2012/12/24(月) 23:35:50.57 ID:x5B4HQt90

ほむら(や、やるしか……!)

ほむら(やるしかない……!)

ほむら(『撃つ』しかない!)

ほむら(盾から銃を取り出し、あの人を撃つしかないッ!)

ほむら(撃って逃れるしかないッ!)

ほむら(頭か!腕か!お腹か!撃たなくては!)

ほむら(やるしかない!やらなきゃやられるッ!)

まどか(い、いやだ……)

163: 2012/12/24(月) 23:36:43.56 ID:x5B4HQt90

まどか(そんなのいやだよッ!)

まどか(ほむらちゃんに優しくしてもらったのに……ほむらちゃんに感謝してるのに……)

まどか(ほむらちゃんに……助けてもらったのに……!)

まどか(そのほむらちゃんの危機に!わたしは何もしてあげられない……!無力……!)

まどか「うぅ……い、いやだ……!」

まどか(ほむらちゃんに守られるわたしでなくて……)

まどか「やめて……ッ!」

まどか(ほむらちゃんを守るわたしになりたい……ッ!)

まどか「やめてェェェェ ッ!」

164: 2012/12/24(月) 23:37:14.12 ID:x5B4HQt90

ドガッ!


少女「ブッ……ガッ!?」

ほむら「……え?」

まどか「あ、あれ……?」

少女「ゲフ……クッ……」

少女「ゲボッ?!」


――突然、少女は口から血を垂らしながら、倒れ込んだ。

まるで「殴られた」かのように頬が腫れあがっている。その時に口の中を切ったらしい。

165: 2012/12/24(月) 23:38:05.06 ID:x5B4HQt90

まどかは目を丸くして口をポカンと開けていた。

ほむらはハンドガンを握ったまま体が静止した。


ほむら「え、今……何が……?」

少女「き、貴様……!」

まどか「わ、わたし……?」

少女「よくも……僕を殴ってくれたじゃあないか……」

少女「まさか……使えるとは思わなんだ……ス……」


少女「『スタンド』を……!」

166: 2012/12/24(月) 23:39:09.73 ID:x5B4HQt90

ほむら「スタ……ンド……?」

まどか「な、何を言ってるの……?」

ほむら「何が……何が起こっているというの!?」

まどか「わ、わかんない……と、突然……倒れて……」

まどか「……ん?」


まどかは、視界の端に、何かが見えた。

上目遣いになってそれを確認する。

「拳」そして「腕」が見える。

それを辿った先にいた……「人」

167: 2012/12/24(月) 23:39:48.17 ID:x5B4HQt90

まどか「きゃっ!」

ほむら「鹿目さんっ!?」

まどか「だ、誰!?い、いつの間にわたしの後ろに!?」

ほむら「う、後ろ?鹿目さんの後ろって……」

ほむら「何も……いない、けど……」

まどか「…………」


まどかのそばに立つ者。

明らかに人間ではないが、それは人のような姿をしている。

168: 2012/12/24(月) 23:40:18.29 ID:x5B4HQt90


ミケランジェロの彫刻のように存在感がある。

しかしその体は少し透けていてうっすらと向こう側が見える。

黒い髪が靡く。無生物的ではない。


まどかがすぐに思いついた単語は『悪霊』

得体の知れない末恐ろしい何かが、その拳で少女を殴った。

まどかは自分が呪われたのかと思った。

だが、すぐに思い直した。


「悪霊じゃない。むしろ守護霊だ」


169: 2012/12/24(月) 23:40:54.45 ID:x5B4HQt90

まどか「あなたが……」

まどか「あなたが守ってくれた……んですよね?」

ほむら「か、鹿目さん……?誰と話して……?」

まどか「え?ほ、ほむらちゃん……?ほら、ここ。この人……」

ほむら「え……?」

まどか「だ、だから、この人……ひ、人なのかな?とにかくこの人があの子を殴った!」

ほむら「……?」

まどか「もしかして……見えてない?」

ほむら「う、うん……」

ほむら「何のことかわからない……」

170: 2012/12/24(月) 23:41:38.48 ID:x5B4HQt90

ほむら「でも、鹿目さんの言う『その人』が……助けてくれたの?」


まどかの視線の先には、人型の『何か』がいる。

ほむらだけが、その『何か』は視認できない。


まどかは……その理由を説明することはできないが、理解し、思った。

わたしの目には「人の形」に見えるけど……この人は!

「物体」じゃあない……!

あの人の『何か』もほむらちゃんにはまったく見えない……それと同じ。

キュゥべえは魔法少女の素質のない人には見えないというけど……それと同じ!

「この人」は「エネルギーの形」なんだッ!

よく見ると背後の壁とか机が透けて見える……。

普通の人の目には見えないけど何故かエネルギーが「形」をつくってわたしの目には見ることができる……!


わたしの汗を「熱湯」にしたのは、あの人が持つ『何らか』の能力!

スポーツドリンクを沸騰させて私の汗を「熱湯」にしたのも多分それ!

171: 2012/12/24(月) 23:42:21.94 ID:x5B4HQt90

まどか「この人が……わたしの……」

まどか「『スタンド』……」

少女「何……?初めてか?成る程なぁ……」

少女「だったらまともに扱えるようになる前にブチ殺――」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


まどか「わわっ!」

少女「ッ!?」


人の形の何かはそう叫びながら拳のラッシュを放った。

予想以上に大きな声でまどかは驚いてしまった。


ほむら「?」

172: 2012/12/24(月) 23:44:05.95 ID:x5B4HQt90

しかし、ほむらはその声も認識さえできない。

ほむらにわかることは、まどかが襲撃してきた魔法少女を攻撃しているということだけ。

少女は体を前屈みにし、顔面を腕で必氏に防御している。


少女「う、うおぉぉッ!?」

少女「な、なんだこのパワーとスピードッ!まずい!このままではッ!」

少女「……くそっ!仕方ない!」

「オラァッ!」

ドギャァッ!

少女「ブゲッ!」


ガシャァン!

173: 2012/12/24(月) 23:45:55.37 ID:x5B4HQt90

ほむら「あッ!」

少女「ふ、フフ……こ、これが我が逃走経路だ……!」

少女「渾身の一撃と思しきストレートを喰らった……敢えてだ!」

少女「その勢いのまま窓から飛び出してアディオスだァァァァ!」


少女の体が宙に浮かび、そのまま窓を突き破り吹き飛んで行った。

それと同時に、まどかが呼び出した「何か」は構えを解き、霧が晴れるかのように消えた。


まどかは理解した。

「『この人』はわたしの闘争心だとかそういうのに反応している!」

「精神のエネルギーだ!」

174: 2012/12/24(月) 23:46:47.36 ID:x5B4HQt90

まどか「ハァ……ハァ……」

まどか「か、勝った……?」

ほむら「鹿目さん……」

まどか「何だろう……この疲労感……はぁ、はぁ」

まどか「……フゥ」

ほむら「…………」


まどかは息切れをしている。

ほむらは目を丸くしている。


まどか「ほむらちゃん……えっと」

まどか「その……本当に見えないの?この人……」

ほむら「……うん」

175: 2012/12/24(月) 23:49:01.80 ID:x5B4HQt90

まどか「ほら、ほら、ここ、ここ」

ほむら「……ごめん。私には見えないみたい……」

まどか「謝られても……」

まどか「えっとね……わたしも、よくわからないの」

まどか「さっきの人……『スタンド』って……言ってたよね」

ほむら「スタンド……」

まどか「わたしが思うに……この人は『超能力』だと思うの。今、目覚めた」

ほむら「ちょ、超能力……?」

まどか「そう……。曲がるスプーンとか壊れる壁とか……そういう超能力を受けた物体じゃなくて、超能力そのものが姿になったって感じの……」

ほむら「えっと……つまり……その」

ほむら「鹿目さんは『スタンドっていう超能力』が使えるようになったってこと?」

176: 2012/12/24(月) 23:50:04.65 ID:x5B4HQt90

まどか「そ、そうなるね……」

ほむら「…………」

ほむら「……ごめん。何というか……理解が超えているというか……何て言えばいいか」

まどか「説明が下手でごめんね……でも……そうとしか言えないの」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「……そ、そういえば鹿目さん。さっき汗が熱くなったって言ったけど、もう大丈夫?」

まどか「え?あ、うん。大丈夫……」

まどか「……ん、そういえば、何か体が軽くなったような……」

ほむら「……?ごめんね。ちょっと、いい?」

まどか「うん?」

177: 2012/12/24(月) 23:54:56.71 ID:x5B4HQt90

ほむら「おでこに触るね」

ピタ…

まどか「あっ……」

まどか(ほむらちゃんの手、柔らかくて……気持ちいい)

ほむら「熱がひいてる……?」

まどか「え?ほんと?」

ほむら「な、何でだろう……あんなに熱かったのに……急すぎる」

ほむら「何だか……もう、わけのわからないことが続いて……」

ほむら「とりあえずは……鹿目さん。安静にしててね。疲れてたみたいだし」

まどか「あ、うん……」

ほむら「それより……」

178: 2012/12/24(月) 23:55:38.18 ID:x5B4HQt90

ほむら「掃除しなくちゃ……」

まどか「うん……」

ほむら「やっちゃったね……」

まどか「うん……」

ほむら「……電気がチカチカして気になるから、と言った私が蛍光灯を変えようとするも足を滑らせ窓を割って、パニックになって血をまき散らしてしまった。ということで」

まどか「えぇ!?ほ、ほむらちゃんは何も悪くないのに!」

ほむら「だって、見ず知らずの人が襲ってきたなんて言えないもん……」

まどか「で、でもぉ……」

ほむら「魔法で何とかできないか、巴さんに相談してみよう……」

まどか「ああ、パパに何て言おう……」

179: 2012/12/24(月) 23:58:40.08 ID:x5B4HQt90


まどかの部屋の状況――。


窓は割れ、カーペットやカーテンには血痕が付き、散乱するガラス。

腕が千切れかけているぬいぐるみ。泥まみれのベッド。

ベッドの足下に血が付いた奥歯が一本、床に転がっていた。

ほむらの白く細い腕には、赤い握られた痕と水疱ができている。

まどかはどう言い訳をすればいいか悩んだ。

ほむらは弁償すればいくらかかるか悩んだ。



180: 2012/12/24(月) 23:59:06.90 ID:x5B4HQt90


スタープラチナ 本体:鹿目まどか

破壊力 A スピード A 射程距離 E
持続力 E 精密動作性 A 成長性 E

まどか曰く、「強くて速い」人型スタンド。その性質は「勇気」
誰かの力になりたい、守りたいという強い思いから発現した。
何ら特別な能力は持たないが、最強レベルの性能を誇る。
しかしまどかの精神力に伴っていないため、その力を出し切れていない。
まどかは、このスタンドには成長の余地があるという確信がある。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


181: 2012/12/25(火) 00:00:49.13 ID:YYsSShrR0


くぅ~疲れましたw これにて第三話完結です!
実は、波紋編と鉄球編のほむらを登場させる第三部として構想したのが始まりでした
本当は話の都合上ポシャったのですが←
25周年記念を無駄にするわけには行かないので
特に前作とは無関係な形で挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと黄金の精神なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「矢を持った承太郎さんやプッチ神父あたりが来ると思った?
残念!スタンドそのものでした!」

マミ「『*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある』ってあるけど同じ名前なだけで見た目は全く同じと限らないって解釈もできるわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、まだ一言も喋ってねぇけどよ!」

ほむら「・・・基本的にモブキャラ同じく外見の描写はしてないので、その辺ご自由にイメージしていただければ幸いです」メガホムッ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、スタープラチナ「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、喋れるの!? 改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に続く




……コピペ改変はともかくとして、スタンドはこんな風に出てきます。今回はここまでです。

ちなみにオラオラは効果音扱いです。


織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その2】

引用: 織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」