316: 2012/12/27(木) 14:31:46.52 ID:lH0vbrgD0


織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その1】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その2】

#7『猫は千歳ゆまが好き』



――風見野


「千歳ゆま」は、最近不思議に思っていることがある。

今、魔女を狩りに出かけている佐倉杏子の帰りを待っている。

疑問に思っていることとは、魔法少女のこと、魔女のこと。

何故か最近。他の地域から魔法少女がよく来るようになった。

ある人は杏子に決闘を挑み、ある人は杏子を挑発する。

ある人は有無を言わさず杏子を攻撃する。杏子はそれによりケガもする。

一方で杏子は争うことが嫌いらしく、いつも同じ対応をしている。

「あそこの廃教会にグリーフシードが置いてあるから持ってっていい。だから帰ってくれ」

現れた魔法少女の目的はグリーフシードだった。
もう誰にも頼らない
317: 2012/12/27(木) 14:33:13.87 ID:lH0vbrgD0

譲歩を受けた魔法少女は言われた通りに廃教会へ行くのだ。

杏子も少し遅れて後を追う。

不思議なことはその後に起こる。

魔法少女を追い返した十数分後、早くて数分後に必ず「魔女」が現れるのだ。

場所も同じ、かつて杏子が暮らしていたという廃教会。


魔法少女が現れ、廃教会へ行き、魔女が現れる。

同じ光景を、ゆまは何度も目撃した。

杏子に尋ねてみた。

「気にするな。あいつらを囮にして魔女を誘っているのさ」

「あそこは魔女スポットなんだ。だから気にするな」

と、返ってきた。ゆまは魔法少女でないため事情がわからない。

そのため二つ返事で納得した。

318: 2012/12/27(木) 14:36:52.40 ID:lH0vbrgD0

キュゥべえという猫とも犬ともつかない生き物曰く。

「ゆま。君には魔法少女の素質がある。杏子と同じだ」

「何か、願いはあるかい?魔法少女になる代わりに、叶えてあげられる」

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

杏子はすぐに追い返し「あいつの言うことは聞くな」と言った。


しかしゆまは、魔法少女になれるという事実が嬉しかった。

自分も、杏子と同じ存在になれる、と。

杏子みたいに、強くて格好いい魔法少女になれる、と。

その上、自分の願いまで叶うのだ。

良いことずくめとはこういうことを言うのだと思った。

319: 2012/12/27(木) 14:37:48.02 ID:lH0vbrgD0

恩返しができる。役に立てる。

母親から「役立たず」と罵られてきたゆまにとって、そのことはどんなに嬉しいことか。

かつて「ゆまも魔法少女になってキョーコの役に立ちたい!」と言ったことがある。

すると、杏子は「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」と怒鳴る。

何回も同じことを言った。

「危ないからダメ」「なりたいなんて思うもんじゃねぇ」

「何を願うつもりだ?え、あたしを氏なせないように?バーカ」

「痛くて怖いぞ。やめとけ」「絶対に泣くし後悔するぞ。やめろ」「しつこい」「いいから寝ろ」

止められた。

ゆまにしてみれば、その理由はよくわからなかった。

力にならなければと思う反面、杏子が言うのであればしかたがないという気持ちがあった。

もどかしい気持ちになった。どうすればいいのだろう。

320: 2012/12/27(木) 14:40:43.06 ID:lH0vbrgD0

ゆま「はぁ……」

「……何を落ち込んでいるんだい?」

ゆま「あ、キュゥべぇだ。また来たの?」

QB「君と杏子のことが気になって、来てみたよ」

ゆま「そうなんだ」

QB「それで、何か悩んでいるようだけど?」

QB「溜息と吐くということは、悩みがあるということだ」

ゆま「うん……」

QB「契約のことかい?」

ゆま「うん……」

321: 2012/12/27(木) 14:49:17.61 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ゆま、魔法少女になって、キョーコの役に立ちたい」

ゆま「でも、キョーコはなっちゃダメって言う」

QB「杏子が何て言おうと、素質がある以上君には権利がある」

ゆま「でも……キョーコが……」

ゆま「キョーコはね……ゆまを心配してくれてるのよ」

QB「…………」

QB「いいのかい?君は甘く見られているんだと思うよ。この僕は」

ゆま「甘い?」

QB「うん」

322: 2012/12/27(木) 14:52:10.32 ID:lH0vbrgD0

QB「君はまだ幼い」

QB「杏子は君が足手まといになると思っているんだ……と、僕は推測する」

ゆま「…………」

QB「しかしだね、ハッキリ言って、君の素質そのものはなかなかなものだよ」

QB「要するに、契約すればその時点で君は結構な強さの魔法少女になれるってことさ」

QB「少し訓練さえすれば、ついていけるはず」

ゆま「そ、そうかな?」

QB「僕個人の意見としては、二人で戦った方がその分、杏子が氏ぬ確率が下がる」

QB「変わりに君が氏ぬ確率が生まれてしまうけど……」

QB「確かに魔女狩りが辛いことであるのは事実ではある。無理強いはできない」

323: 2012/12/27(木) 14:53:04.50 ID:lH0vbrgD0

ゆま「…………」

ゆま「キョーコ……氏んじゃうの?」

QB「可能性だよ」

QB「何でも最近は縄張りを狙う魔法少女が現れるそうじゃあないか」

QB「しかも、スタンドという概念がこの世に生まれたらしい」

QB「その分、杏子は大変な思いをするだろうね」

ゆま「…………」

QB「尚更君の助けが必要になるかもしれないね」

ゆま「…………」

ゆま「ゆまが……ゆまが強くなったら……」

324: 2012/12/27(木) 14:55:33.81 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ゆまが魔女と戦うのに役立てれたら……」

ゆま「ゆまが魔法少女を追い払うの手伝えたら……」

ゆま「ゆまがキョーコを助けられたら……」

ゆま「キョーコもきっと、喜んでくれる……かな」

QB「そうかもしれないね」

ゆま「…………」

ゆま「それなら……」

ゆま「それなら、ゆま……!」

ゆま「ゆまは……!キュゥべえ……!」


初めてゆまは、約束よりも欲求を優先した。

魔女と戦うだけでなく、魔法少女とも「ケンカ」をする杏子。

ケガをする杏子。ゆまは見るに耐えなかったのだった。


――それだけではない。

325: 2012/12/27(木) 14:57:25.07 ID:lH0vbrgD0

十分程前。ゆまの前を横切った二人組がいた。

銀色サイドテールの少女と黒色ボブカットの少女。

「佐倉杏子ってどんなヤツなんだろ」

「会ってみないとわからないわ」

と、いうような会話を二人はしていた。

魔法少女であることはすぐにわかった。

ゆまは、この二人から『嫌な予感』を感じ取ったのだった。

特に、背が高い方の少女から「それ」を感じた。

遠からず近からず、この二人が自分たちに害を与えるかもしれない。

そんな気がした。

何となくでしかないこの直感。

今でこそ、それもゆまの決断を後押しする要因となってしまった。

326: 2012/12/27(木) 14:58:57.98 ID:lH0vbrgD0


ゆまを待機させている公園から少し離れた――廃教会。

その庭にあたる場所。

そこに杏子はいた。


杏子のスタンド能力『シビル・ウォー』

相手に罪悪感を逆撫でする幻覚を見せる能力。

幻覚を生み出す空間を支配する能力。

シビル・ウォーに捕らわれたら、魔法少女は自らの罪悪感に耐えきれずに絶望する。

魔法少女は――絶望すると魔女になる。

杏子は、その魔女を倒してグリーフシードを量産している。


一体の魔女を少し苦戦しつつも力ずくに倒した後――杏子は考える。

327: 2012/12/27(木) 15:00:34.70 ID:lH0vbrgD0

この廃教会……。

『シビル・ウォー』を展開する舞台として利用しているが、あたしにとってはその程度でありそれ以上の場所。

ここが好きな場所なのか嫌いな場所なのか……シビル・ウォーを手に入れてからかな。悩むようになったのは。

ここは、貧しいながら幸せだと感じていた思い出の場所だ。だが、今は魔女を養殖する場所にしているわけだ。

何となく矛盾している気がする。


杏子「あたしにとって……ここは何なんだろうな」

杏子「……親はともかく……モモには申し訳ないと思う」

杏子「ともかくって……あたし、自分の父親のことをどう思っていたっけ」

杏子「見下していたか、恨んでいたか、なんやかんやでそれなりに慕っていたか……」

杏子「自分で言っててちゃんちゃらおかしいが、自分の気持ちが、わかんねぇんだよな……」

杏子「最近……何とも言えないモヤモヤした気分をよく味わう……後味の悪いことだ」

杏子「…………」

328: 2012/12/27(木) 15:01:38.91 ID:lH0vbrgD0

杏子「何の用だ……?」

杏子「あたしの愚痴に付き合ってくれるってのはありがたいが……」

杏子「『無礼』という行為に相当するんだぞ?」

杏子「独り言を盗み聞きするってことはな……」

杏子「何者だ」


「…………」

「…………」

杏子「……何なんだ、あんたら」


「なぁんだ……バレてたんじゃん」

「流石……というべきね」

329: 2012/12/27(木) 15:03:26.25 ID:lH0vbrgD0

「……私の名前は、美国織莉子。こちらは呉キリカ」

「よろしーく」

杏子「……何か用か?」

織莉子「私達は、ある目的を持ってしてあなたに会いに来ました」

杏子「何だ?あたしのグリーフシードでも欲しいのか?」

杏子「それともシンプルに頃し合いしに来たのか?」

キリカ「おぉ、怖い怖い」

織莉子「ご心配なく」

織莉子「私達は、そんなくだらない話をしにきたのではありません」

杏子「あん?」


330: 2012/12/27(木) 15:04:31.87 ID:lH0vbrgD0

織莉子「単刀直入に言います」

織莉子「あなたに『協力を依頼』したい」

杏子「…………」

杏子「……は?」

キリカ「もう一度言う?協力してくれ、と言っているんだ」

杏子「話が読めないね」

杏子「何であたしが見ず知らずの他人に協力を願われなきゃいけないんだ?」

キリカ「黙って協力してくれりゃあ報酬だってくれてやるよ。グリーフシード何個欲しい?三つ?三つ……イヤしんぼめ!」

杏子「一人で何言ってんだこいつ」

織莉子「ごめんなさい。何だかさっきからテンション上がっててこの子」

キリカ(織莉子とお出かけ。それはとっても嬉しいなって)

331: 2012/12/27(木) 15:05:32.49 ID:lH0vbrgD0

杏子「……何だか知らないが、今、あたしはグリーフシードに困っちゃいない」

杏子「かったるいことは嫌いなタチなんでな」

杏子「ってことでお引き取り願いたい」

キリカ「むぅ……ねぇ織莉子。ホントにこんなのが役に立つの?」

織莉子「巴マミを除くと、この辺りで名実ともに優れた魔法少女というは彼女くらいなのよ」

杏子「……!」

杏子「巴マミって、見滝原のか?」

織莉子「あら、知っているのですか」

杏子「あ、あぁ……ちょっとな……」

キリカ「それなら話しやすいね」

杏子「何なんだよ。あんたら。もしかして、マミの差し金か?」

織莉子「私達はむしろ、その逆ね」

杏子「逆?」

332: 2012/12/27(木) 15:06:27.52 ID:lH0vbrgD0

織莉子「いきなりですが……あなたの未来をお話しします」

杏子「は?未来?いきなりなんだよ」

織莉子「私の固有魔法は予知」

杏子「生憎、あたしはそんなうさんくさい占いなんか興味ないんでね」

キリカ「失礼な。予知は占いなんかじゃないよ」

織莉子「あなたの未来を話す。と言ってるんです」

杏子「未来……」

織莉子「……『爆氏』します、ね」

杏子「……は?」

織莉子「過程や方法は省かせていただいたけど、爆氏するという未来が見えました。あなたの未来」


333: 2012/12/27(木) 15:06:59.81 ID:lH0vbrgD0

織莉子「いきなりですが……あなたの未来をお話しします」

杏子「は?未来?いきなりなんだよ」

織莉子「私の固有魔法は予知」

杏子「生憎、あたしはそんなうさんくさい占いなんか興味ないんでね」

キリカ「失礼な。予知は占いなんかじゃないよ」

織莉子「あなたの未来を話す。と言ってるんです」

杏子「未来……」

織莉子「……『爆氏』します、ね」

杏子「……は?」

織莉子「過程や方法は省かせていただいたけど、爆氏するという未来が見えました。あなたの未来」


334: 2012/12/27(木) 15:08:09.44 ID:lH0vbrgD0

キリカ「あぁ、あの魔女に殺される前に氏ぬってことになるんだね」

杏子「何を言ってるんだよ?あたしが爆氏ぃ?」

杏子「馬鹿言ってんじゃあねぇよ」

杏子「何か?爆弾を武器とする魔法少女の知り合いでもいるってのか?」

織莉子「細かいとこまでは読みませんが……」

織莉子「どういうことか、とにもかくにも、あなたは『爆発』で氏ぬ」

杏子「…………」

織莉子「無論、私の予知する未来というのは私が『予知をしなかったらこうなるかもという可能性』に過ぎません」

織莉子「未来を知った上で行動すれば、私が干渉すれば、未来は変えられる。予知とは所詮、絶対的な物ではない」

杏子「何を言っているんだよ……怪しい壷は買わないぞ」

335: 2012/12/27(木) 15:09:04.39 ID:lH0vbrgD0

織莉子「…………」

織莉子「元々、私はとある魔法少女が世界を滅ぼす魔女になるという予知を見ました」

杏子「は……?」

キリカ「聞こえなかった?どこぞの魔法少女が世界を……正確には全ての生き物をどうにかしちゃう魔女になる」

杏子「おい……それって……ど、どういう……」

キリカ「言葉通りさ。この際ハッキリ言わせていただく」

キリカ「ソウルジェムは穢れきるとグリーフシードとなり、魔法少女は魔女になる」

織莉子「要するに今まで倒した魔女は元魔法少女ということ」

織莉子「ショッキングな真実でしょうけど、落ち着いて聞いてください」

杏子「いや、それは知ってるよ」

キリカ「あ、あれー?」

杏子「あたしが気になったのは『世界を滅ぼす』って点だ」

336: 2012/12/27(木) 15:10:38.24 ID:lH0vbrgD0

杏子「しかもワルプルギスの夜とかじゃあないんだよな。魔女に『なる』ってことは……」

織莉子「ワルプルギスの夜?」

杏子「何だ?知らないのか?」

キリカ「私達は結構ルーキーだからね。そういう情報には疎い」

杏子「それはいいとして、とにかく続きを聞かせろ」

織莉子「……失礼。話を戻しますと……予知で未来を知った上で行動すれば、未来は変えられると言いましたね?」

織莉子「私は暁美ほむらという魔法少女を、世界を滅ぼす魔女になる存在として抹頃するつもりでした」

織莉子「暗頃するのが一番手っ取り早く確実だと思っていました」

織莉子「……そして私達はある力に出会った。いつの間にか、です」

キリカ「スタンドって知ってる?」

杏子「ああ……あたしもいつの間にかに身に付いてたな。スタンド」

織莉子「そうですか。それなら話がもっと早くて助かります」

337: 2012/12/27(木) 15:12:10.41 ID:lH0vbrgD0

織莉子「そして、その後私はもう一度予知をした。そしたら違う未来が見えました……」

織莉子「その予知は『暁美ほむらにスタンドが目覚めていて、魔女化に伴ってそのスタンドが進化し世界を滅ぼす』というものだった」

織莉子「スタンドはスタンド使いにしか見えない。だから、予知では見えなかった新事実」

織莉子「……いえ、スタンドではない。スタンドを超えた何か」

キリカ「私達は個人的にレクイエムと呼んでいる」

杏子「スタンドの先……レクイエム……」

織莉子「とにかく、彼女のレクイエムは世界を無にしてしまいます」

織莉子「レクイエムを発現させた以降の未来を予知できないのは多分、私が氏ぬため……」

杏子「……何か?スタンド使いの魔法少女が魔女になると、レクイエムってのになるのか?」

キリカ「さぁ?」

杏子「さぁ?って……どういうことだ。何故わからない」

織莉子「私が見たのは、レクイエムが発現するという『結果』だけ」

338: 2012/12/27(木) 15:15:24.15 ID:lH0vbrgD0

織莉子「あくまで『何らかの方法』で、暁美ほむらのスタンドはレクイエムになるということです」

織莉子「魂が魔女へと変貌する際に生じるエネルギーか何かを吸収する、というのが仮説」

織莉子「なら、私達も魔女になったらスタンドが進化するのか?それはわからない」

キリカ「適当にしょっ引いて魔女にしてみるテスト。だなんてわけにもいかないからね」

杏子(……ほむらってヤツが特別なんだろう……既にあたしはスタンド使いを魔女にしたことがあるからな)

杏子「……つまり、簡単に言うとあんたらはこう言いたいのか?」

杏子「世界を救う手助けをしてくれと」

キリカ「ざ、雑なまとめ方だなぁ」

織莉子「まぁ、そうですね。概ねその通りです」

織莉子「予知は、現段階で『予知をしていなかったら起こりうる未来』を見ることなんです。しつこいようですが」

キリカ「つまり、未来は変えられるというわけだ。見れるのは未確定の未来」

339: 2012/12/27(木) 15:19:32.44 ID:lH0vbrgD0

織莉子「私達二人では、未来を変えるのは難しいのです」

織莉子「あなたは世界を滅ぼす魔女になるのでなんとかならないでください。スタンドを持たないでください……と言うわけにもいかない」

織莉子「……だから抹頃する」

織莉子「しかし、暁美ほむらを頃すとなれば必ず巴マミという魔法少女が立ちふさがる」

キリカ「既に暁美ほむらがクルクルボインな彼女と共闘関係を結んでいることがわかっているからね」

杏子「それでマミか……」

織莉子「……彼女達は現段階でスタンド使いかはどうかはわからない。しかし、魔法少女としてはベテランであることは真実」

織莉子「スタンド使いでないとしても、魔法少女としての経験の差は警戒に値する」

キリカ「仮に彼女達が既にスタンド使いであったら、何をしてくることやら……」

織莉子「だから、協力が必要なのです。風見野にベテランの魔法少女がいることは予知の力で『予習』済みでした」

杏子「…………あたしに何かメリットはあるのか?」


340: 2012/12/27(木) 15:20:45.16 ID:lH0vbrgD0

織莉子「メリット……暁美ほむらを抹頃する過程で、巴マミも頃すとします」

織莉子「そうすると、見滝原のテリトリーは空きます。そこで、見滝原を得た暁には、その『テリトリーの一部』をあなたに提供します」

杏子「……ほう」

キリカ「一部っていうのは、私達の生活もあるから一部ねってことだよ」

織莉子「しかし一部というのも曖昧で、納得がいかないと思うので……」

織莉子「必要とあらば、キリカをお貸しします」

杏子「……こいつを貸すって?」

織莉子「キリカのスタンド能力は無敵の能力です。その能力を教えることはできませんが……」

織莉子「それで見滝原以外の……M市やT町等、他のテリトリーを支配したいと言うのであれば協力させます」

織莉子「私はキリカとここで、二人で、静かに暮らせればそれでいいと考えていますから」

キリカ「織莉子……私も、織莉子と二人なら……それはとっても嬉しいなって」

織莉子「キリカ……」

キリカ「織莉子……」

杏子「おい、戻ってこい」

341: 2012/12/27(木) 15:22:20.88 ID:lH0vbrgD0

織莉子「コ、コホン……失礼」

キリカ「で、どうする?」

杏子「……」

キリカ「君は私達に協力する。私達は君の力になる」

キリカ「君は織莉子に選ばれたんだ。名誉なことだよそれは」

杏子「いや知らんけど……」

杏子「ふむ……だが、確かに見滝原は絶好の狩り場だ」

杏子「それに見滝原だけでなくても、テリトリーは広いに越したことはない」

杏子「協力をすれば……それをくれるってのか?」

キリカ「見滝原は一部だけだよ。私達の街だから一部」

織莉子「それで手を打っていただければ幸いなのですが……」

キリカ「ギブアンドテイクだ。win-winだと思うんだけどね?」

342: 2012/12/27(木) 15:23:35.66 ID:lH0vbrgD0

杏子「けど断る」

織莉子「……」

キリカ「え~~~何で~~~?」

杏子「あたしが自分で強いと思っているヤツに『NO』と言って断ってやるその理由……」

杏子「あたしははっきり言ってあんたらが気に入らないし、あたしは今、ここを離れるわけにはいかなんでね」

キリカ「…………」

織莉子「…………」

杏子「……まぁどっち道、いきなり現れて世界が滅びるとか爆氏するとか言われて『はい、ソーですか』って信用できるかってーの」

織莉子「魔法少女が魔女になるということは誰も知らないこと……」

杏子「あたしは自分で知って、理解したぞ?」

キリカ「……ちょ~っと待った!私はともかくとしてだよ!織莉子が気に入らないだなんて――」

織莉子「キリカ。ステイ」

キリカ「むぅ……」

343: 2012/12/27(木) 15:25:14.99 ID:lH0vbrgD0

織莉子「……わかりました。今回は引きます」

杏子「そうしてくれると助かるね」

キリカ「むむむ……」

織莉子「ただ……せいぜい爆発物には注意してくださいね。あなたに氏なれるとこっちが困るので」

杏子「……ふん」

織莉子「この地図を差し上げます」

杏子「ん?これは……見滝原か?」

キリカ「このタイミングで見滝原以外あり得ないだろう」

杏子「あ?」

織莉子「……もし気が変わったら、この赤丸の住所まで来てください」

織莉子「私達は、あなたの協力が必要なのです。なので……正しい選択を期待します

織莉子「では……。行くわよ。キリカ」

キリカ「はぁい」

344: 2012/12/27(木) 15:26:55.13 ID:lH0vbrgD0

杏子「………………」

杏子「……世界を滅ぼす?レクイエムだって?」

杏子「スタンドのその先、か……」

杏子「シビル・ウォー・レクイエム?興味がないこともない」

杏子「……それにしても……あいつら」

杏子「あたしが爆氏するだって?」

杏子「頼んでもいないのに人の氏ぬ未来と氏因を言ってくるなんて、性格の悪いヤツだ」

杏子「しかし、条件も悪くないし……背の高い方は身なりからして結構裕福そうだった」

杏子「ゆまを預けて養わす分には……上辺だけでも協力してもよかったか?」

杏子「いや……『罠』である可能性も否めねぇ、か」

杏子「まぁいいや。考えるのは後回し後回し!」

杏子「ゆまが腹空かせてるだろうな……戻るか」

345: 2012/12/27(木) 15:28:36.07 ID:lH0vbrgD0

杏子「……と、言いたい所だが」


杏子が踵を返し、歩み始めようとしたが、留まった。

先程のやりとりを遠目で監視していた者がいる。


杏子「…………」

「おまえさん……魔法少女だね?ここの……」

杏子「……チッ」


そこには一人の少女がいた。

首に一文字の切り傷がある。


少女「さっきの二人は仲間とか先客なんじゃないかと思って隠れてたんだけど」

杏子「あぁ……くそ。今そんな気分じゃねーっての……」

346: 2012/12/27(木) 15:30:48.89 ID:lH0vbrgD0

少女「風邪かい?」

杏子「そんなんじゃあねぇよ……。もういい。ぶっちゃけて聞くぞ」

杏子「あんたの目的は詰まるとこグリーフシードだろ?」

少女「否定はしないけど」

杏子「だったら……そこの廃教会にあたしのストックがある。好きなだけ持ってってかまわない」

杏子「大した量ではないが、それで勘弁してほしい。帰ってくれ」

杏子「今気分が悪いんだ。人も待たせてるし」

少女「差し出しちゃうのか……チキンなヤツだねおまえさんは」

杏子「……」


佐倉杏子の常套文句。「そこの廃教会にグリーフシードがあるから勝手に持っていけ」

一見、争いを好まない平和的性分、あるいは臆病者に捉えられる。

347: 2012/12/27(木) 15:32:34.96 ID:lH0vbrgD0

杏子(さぁ、『罠』にかかれ……)

杏子(あたしの能力『シビル・ウォー』は既に廃教会に『結界』を作っている)

杏子(シビル・ウォーは人の心を抉る幻覚を支配する能力……)

杏子(グリーフシードは魔法少女なら誰もが生ツバゴクリもので欲しがるもの……)

杏子(それを「餌」に、シビル・ウォーの『結界』へと誘い込み、絶望させる)

杏子(この能力に目覚めてから……魔法少女の縄張り争いが激化してから……)

杏子(取りあえずテリトリーの防衛戦においては何も恐れることはない)

杏子(シビル・ウォーが発現した当初は「幻惑の能力かよ」ってげんなりしたもんだ……)

杏子(さらに幻覚を見せて絶望させて戦意を削ぐつもりが魔法少女が魔女になった時は、どうしたもんかと思ったが……)

杏子(慣れたもんだな)

348: 2012/12/27(木) 15:34:08.22 ID:lH0vbrgD0

少女「ところで……ねぇ」

少女「顔、紅いけど……おまえさん。熱でもあるの?」

杏子「いいったら!帰れったら!」

杏子(とっとと罠にかかれよ。……ああ、イライラする)

杏子(こちとら変な奴に嫌なこと聞かされてムカッ腹がたっているんだ)

杏子(世界が滅ぶとか爆氏するとか聞かされてよォ……精神衛生上魔女を思いっきりぶちのめしてスカッとしたいところだ)

少女「ねぇ、どうなの?魔法少女って風邪ひくの?僕アレルギー性の鼻炎持ちなんだけど、ブタクサの花粉って魔法で予防できる?」

杏子(ああ!目の前にいるこいつがウザい!)

杏子(それにしても……くそっ、何だか……)

杏子(何か……『蒸し暑い』……)

349: 2012/12/27(木) 15:35:39.25 ID:lH0vbrgD0

少女「……いやぁ、蒸すねぇ」

少女「風見野では昨日雨が降ったらしいけど……あれ?違ったっけ?」

杏子(……くそ、さっきから……なんか、暑い……ジトジトする……)

少女「暑いからか、頭痛がするからか……イラついてる理由は、まぁいいとしよう」

少女「確かに、僕はグリーフシードが欲しい……だが」

杏子「……?」

少女「貰えるものは病気以外ならなんでもいただく」

少女「奪えるものは徹底的に奪っておく」

少女「我が目的はおまえさんのテリトリーッ!見滝原を得るための拠点ッ!」

少女「そのために!前もって貴様を頃すのだッ!」

杏子「なッ!?」

350: 2012/12/27(木) 15:36:45.11 ID:lH0vbrgD0

少女「じわじわと暑くなってることに疑問に思わないとは油断したなァ!」

杏子「暑く……!?」

少女「地面に染みこんでいる水分の温度を『あげた』」

少女「地面からは生温かい水蒸気があがる」

杏子「……ッ!」

杏子「こ、こいつ……!?」


『地面から湯気が出ている』

その異常な光景に、杏子は今、初めて気付く。

杏子は目の前の少女を罠にはめることを考えていた。

しかし、罠にかかっていたのは自分自身だった。

それを理解するのに時間は要さない。罠をかけることに夢中になり過ぎた。

351: 2012/12/27(木) 15:38:18.75 ID:lH0vbrgD0

杏子「スタンド使いッ!」

少女「汗をかいたな!」

少女「『水を熱湯に変える』ッ!これが能力!」

少女「慣用句じゃないが地面は焼き石に水ぶっかけたみたいになっているぞ!」

杏子「クッ……?!」

杏子「ッ!?」

杏子「う、うがああぁぁッ!?」


魔法少女に変身したが、その直後に杏子は額に激痛に近い熱さを感じた。

額に手をあてると、手に同じ痛みを感じた。


杏子「あ、『熱』ッ!?熱いッ!」

ガッシィッ!

杏子「ッ!?」

少女「よし掴んだ!おまえさんの『汗』を80℃ちょっとにしてあるぞ!」

352: 2012/12/27(木) 15:39:52.02 ID:lH0vbrgD0

少女「スキを作って、頭を掴む!」

少女「生物に触れた状態でこの能力を発動すれば、生物の『水分』も『熱湯』にできる!」

少女「そのまま脳みそをグツグツ煮込んでやるよォッ!」

杏子「なっ……!こ、こいつッ!」

少女「僕のことをスタンド使いだと見破ったな?じゃあおまえさんもスタンド使い」

少女「見滝原に行った時にも会ったよ。その子は魔法少女ではなかったが……まぁいい」

少女「安心しろ……頃しはしない。ただ脳みそ茹だって廃人にでもなってもらおうかッ!」

少女「野望の果てを目指す者に、生け贄をッ!」

杏子「うおおおおォォォォォッ!」


「キョーコをイジめるなァ――――ッ!」

353: 2012/12/27(木) 15:41:25.02 ID:lH0vbrgD0

少女「!?」

杏子「!?」

杏子「ゆ、ゆまッ!?」

少女「な、何だこのガキンチョ!やんのか!」

杏子「お、おまえ……その姿は……!」


杏子はゆまの姿を見て、動揺した。

ゆまは既に『魔法少女』になっていた。見てわかる。

魔法少女のゆまが、全力疾走で突っ込んでくる。


杏子「い、いつの間に……!な、何故ッ!?」

少女「知り合いか……!」

ゆま「倒して!『猫さん』ッ!」

ズギャンッ

少女「ッ!?」

354: 2012/12/27(木) 15:42:06.04 ID:lH0vbrgD0

走り向かってくるゆまの背後から、質量感はないが圧倒的存在感を放つ人型の影。

エネルギーの像。『スタンド』が現れた。


杏子「な、何ッ!?こいつはッ!」

少女「ヤツもスタンドを――ッ!」

ゆま「いけぇ!」

ブンッ

少女「うおっ!」

バッ!

少女「あ、クソッ!離してしまった!だがッ!」


ゆまのスタンドが繰り出した拳を、少女は回避した。

その拍子に杏子の頭を掴んでいた手を離してしまう。

しかしすぐに、ゆまのスタンドの手を掴んだ。

355: 2012/12/27(木) 15:43:46.29 ID:lH0vbrgD0

少女「よ、よし!」

少女「予想以上に早い攻撃なんでちょいとヒヤッとしたが、おまえさんのスタンドの動きは見切れた!」

ゆま「…………」

少女「何かわからんがくらえ!僕はスタンドに触れている!」

少女「そのまま右手の血液を沸騰してくれるゥゥ――ッ!」

杏子「ゆ、ゆまァッ!」

ゆま「……触れている」

ゆま「ゆまの猫さんに『触れた』……」

杏子「……ゆま?」

ゆま「ゆまの猫さんに……触られちゃった……」

少女「あん?」

ゆま「ゆまの猫さんの能力だよ。触って発動するの」

ゆま「ゆまの『スタンド能力』……それは……」

356: 2012/12/27(木) 15:44:57.75 ID:lH0vbrgD0

ゆま「『触れた物を爆弾にする』……!」

少女「何……だと……?」

ゆま「守って!『キラークイーン』ッ!」


薄いピンク色の「猫っぽい頭をしている人型スタンド」は小柄なゆまと同じような体型をしている。

恐らくゆまが身体的に成長をすればそれ相当にそれの体格も代わるだろう。

予想外の突飛な能力に動揺した少女は、手を『キラークイーン』から放す。

そしてキラークイーンは短い左腕を一杯に伸ばして杏子の体を引き寄せた。


杏子「……ッ!」

少女「一体僕に何をし――」

ビシ、ビシビシッ!

357: 2012/12/27(木) 15:47:15.47 ID:lH0vbrgD0

少女「ふぇ……?」


突如、少女の体に『亀裂』が生じる。

その亀裂から白い煙が噴出する。

自分の体の異変に気付く前に、少女の体は――

ドッグォォォォンッ!


少女「たバァッ!?」


肉体が『爆発』した。

首がもげ、腹は裂け、腕が千切れ、脚は砕け、眼が吹き飛んだ。

爆発音は周りの空気をビリビリと鳴らす。

そして少女の肉体は塵のようになり、消えた。

肉片一つ残らない。

ただソウルジェムの拉げた外枠を残して、その少女の全てが消滅した。

氏んだ。

358: 2012/12/27(木) 15:48:15.26 ID:lH0vbrgD0

杏子「う、うぅっ!?」


凄まじい爆風の勢いが杏子を包んだ。

キラークイーンの陰になっていたため、爆発に巻き込まれることはない。

ゆまは杏子の胴にしがみついていた。


杏子「あ……ああ……?!」

杏子(う、嘘……だろ……)

杏子(一瞬で……あんな……ふ、触れただけで……)

杏子(触れただけで……さっきのヤツが消えた)

杏子(骨一つ残ってねぇ……ぶ、ブッ飛んでやがる……!)

ゆま「キョーコ!大丈夫!?」

杏子(ゆま……)

359: 2012/12/27(木) 15:49:12.74 ID:lH0vbrgD0

杏子(ゆまに……こんな、こんな恐ろしい能力が……)

杏子(いつの間に契約したのかというのもそうだが……)

杏子(いつ、どこで、ゆまはスタンドに目覚めたんだ……!?)

杏子(……いつの間に『契約』……?)

杏子(……ま、まさか!?)

ゆま「これで今夜も安心して眠れるね!」

杏子(ま、待てよ……ゆまのスタンド能力……)

杏子(……触れた物を……爆弾に……)

杏子(……『爆、発』?)

杏子「――ハッ!」


杏子「は、離せェッ!」

360: 2012/12/27(木) 15:50:36.00 ID:lH0vbrgD0

バシッ

杏子はしがみつくゆまを振り払った。


ゆま「え……」

杏子「ハァ……ハァ……」

ゆま「な、なに?キョーコ……?どうしたの?」

杏子「……ふぅ」

杏子「……おい、ゆま」

ゆま「う、うん」

杏子「おまえ……何でだ?」

杏子「何で、契約したんだよ」

ゆま「う……」

杏子「魔法少女なんかになるなって……言っただろ?」


361: 2012/12/27(木) 15:51:37.60 ID:lH0vbrgD0

ゆま「あ、あのね……」

ゆま「お、お留守番している間にキュゥべえが来てね?」

ゆま「魔法少女になれば、キョーコの助けになれるって言って……」

ゆま「それで……契約したの」

杏子(あいつ……いつの間に……!)

ゆま「それに!キョーコの帰りが遅くて!キョーコを狙う悪い人がいるから!」

ゆま「居ても立ってもいられなくなって!」

ゆま「ゆまは!ゆまはキョーコの役に立ちたいの!キョーコを助けたいの!」

ゆま「だから、スタンドを……!」

ゆま「『強いスタンドが欲しい』って契約したの!」

杏子「…………」

362: 2012/12/27(木) 15:56:05.62 ID:lH0vbrgD0

ゆま「キョーコを守るゆまになりたいって!」

ゆま「キュゥべえはスタンドのことはよくわかってなかったけど、ゆまが知っていれば叶えられるって!」

ゆま「ゆま!魔法少女としてはキョーコの足を引っ張るかもしれない……でも!猫さんが……キラークイーンがいればッ!」

ゆま「キョーコの力になれる!キョーコの役に立てるッ!」

杏子「…………ふざけんなッ!」

ゆま「!?」

杏子「ふざけたこと言ってんじゃあねーぞッ!」

ゆま「ど、どうしたの……?」

杏子「あたしはテメーを魔法少女にしたくなかった!」

杏子「魔法少女なんかになったら……なっちまったら……!」

杏子「……魔法少女に、な、なったら……!」

杏子「……クソッ!……そ、それにグリーフシードの消費も増えちまう……」

363: 2012/12/27(木) 15:56:45.41 ID:lH0vbrgD0

ゆまが自分のことを強く思ってくれていること。

それ自体は悪い気はしない。

むしろ、ゆまと過ごすことで棘が無くなってきている自身が存在している。

そんなはずがないと思う反面、そういう事実が心の中に、確かに存在している。


そもそも、ゆまを魔女の手から救ったのは、何となく妹の影と被ったからだ。

それ「だけ」のために契約――魔女との戦いに巻き込ませたくなかったと言ってもあながち過言ではない。

人間から魔法少女へ契約してしまった以上、人間へは不可逆。

杏子には、ゆまが魔女の卵となってしまったという……その悲しみがあった。

自分と関わってしまったことで、残酷な真実を抱えさせた……その自責があった。

いつかその最悪な事実を知ってしまった時。

ゆまに「あの時、助けてくれなきゃよかったのに」と言われるのではないか。その不安があった。


しかし、杏子に芽生えた『別の感情』が、それらの後悔を覚える前に全て塗りつぶしてしまった。

364: 2012/12/27(木) 15:58:49.37 ID:lH0vbrgD0

ゆま「でも……ゆまは……」

杏子「あたしは……」

ゆま「キョーコ……?」

杏子「あたしは、おまえを『捨てる』ことにした」

ゆま「…………」

ゆま「……え?」

杏子「…………」

ゆま「う、嘘だよね?キョーコ……」

杏子「嘘じゃない。本気だ」

ゆま「……う、嘘!」

365: 2012/12/27(木) 15:59:57.64 ID:lH0vbrgD0

ゆま「嘘だッ!嘘でしょ!?ねぇ!?」

杏子「そのスタンドで、自分の力で生きろ」

ゆま「い、嫌だッ!ゆま、キョーコと一緒にいたい!」

杏子「今、あたしはあんたが嫌いになったんだよ」

ゆま「……ッ!」

杏子「ったく……!中途半端な情を持ったのが間違いだった!」

ゆま「…………」

杏子「何言ってるのかわかんねーってのか?助けなきゃよかった、そのまま使い魔の餌にしとけばよかったって思ってるんだよ!」

ゆま「そ、そんな……そんなのってないよ……!」

ゆま「ゆまはキョーコを助けたのに!」

杏子「誰が契約しろと言ったんだ!」

366: 2012/12/27(木) 16:01:37.46 ID:lH0vbrgD0

杏子「いいか、魔法少女ってのはな、ソウルジェムを汚しきっちまったら……」

杏子「…………いや、やっぱいい。何でもない!」

杏子「……消えな。好き勝手に行きやがれ。グリーフシードを一個……いや、二個餞別してやる。ほれ」

ゆま「や、ヤダッ!ゆ、ゆまを一人にしないでよォッ!」

杏子「おまえは一人じゃあねーよ。なんのためのスタンドだよ」

杏子「魔法少女になった以上、中途半端に力を得た以上……」

杏子「あたしの邪魔だ。わかれ」

ゆま「あ……あぁ……キョ、キョー……」

杏子「消えろっつってんだろうがッ!」

ゆま「……!」

ゆま「……う、うああ……ああ……」


ゆま「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


367: 2012/12/27(木) 16:03:50.09 ID:lH0vbrgD0

ゆまは大粒の涙を撒き散らしながら走り去っていった。

杏子は黙って、捨て子が小さくなっていく様を見つめた。


杏子「……絶望はしたって訳でもないのか。魔女にならねぇってことは」

杏子「…………」

杏子「はぁー……!」


ゆまが見えなくなったことを確認すると、杏子は深く溜息をついた。

全身の力が抜け、そのまま地べたに座り込む。

水を熱湯にするスタンド使いによって、昨夜の雨で湿っていた地面はカラカラに乾いている。

対象的に、杏子はドッと冷や汗を溢れ出した。


杏子「ハァ……ハァ……」

杏子「何とか……虚勢を張ったが……」

杏子「……『逆上』……されなくてよかった」

368: 2012/12/27(木) 16:06:23.17 ID:lH0vbrgD0

杏子「逆上されて……スタンドを向けられなくてよかった……!」

杏子「ゆま……あんなヤツと……」

杏子「一緒にいられるわけがない……ッ!」

杏子「あ、足が震えてやがる……!クソ……ッ!」

杏子「……こ、『怖い』……ッ!」

杏子「このあたしが……い、今までで一番……きょ、恐怖を感じた……」

杏子「何なんだよ……キラークイーンとかいうスタンドの……プレッシャーは……!」

杏子「くそっ、寒ぃ……血液が冷たいところてんになったかのようだ……!」


杏子はキラークイーンの目を思い出す。背筋が凍るような眼だった。

化け物、怪物、殺人鬼。そういう言葉が真っ先に浮かんだ。

スタンド使いだからこそわかる、スタンドから放たれる圧力。

杏子は蛇に睨まれたカエルの気持ちを少しだけ理解した。

369: 2012/12/27(木) 16:08:46.19 ID:lH0vbrgD0

杏子「しかもあいつ……!ゆまのヤツ……」

杏子「人を爆頃しといて『何とも』思ってやがらねぇ……!」

杏子「助けるために必氏だったからだとか、もちろんそういう理由もあるが――」

杏子「残虐すぎる頃し方をしたのに『罪悪感』を全く覚えていない。さも当然のように爆頃した」

杏子「シビル・ウォーの性質上、罪悪感にはそこそこ敏感になったからわかる」

杏子「罪の意識を感じてたとしても……」

杏子「自転車で地べたを這うミミズをうっかり轢いてしまったくらいにしか思っていやがらねぇ……!」

杏子「……よくわからんがサイコパスってヤツなのか……?それとも、あれは元からのゆまの性質か?」

杏子「キラークイーン……直訳すると殺人の女王」

杏子「スタンドは精神力だ……だから、あのスタンドのせいだと思いたい」

杏子「あのスタンドが発現したからゆまの性格が少し改変されたのだと」

杏子「…………そう、思いたい。思わないと『恐ろし』すぎる」

370: 2012/12/27(木) 16:10:30.93 ID:lH0vbrgD0

杏子の心を支配したのは単純な恐怖だった。

足の震えは、決して武者震いなどではなく戦慄そのもの。


目の前で人が爆発した。その事実もさることながら――

それが平然とやってのけたゆまに恐怖した。

子どもが、何の躊躇もなく人を惨頃した。その事実に怯えている。

まるで魔女のようだ、と杏子は思った。

こういうヤツが最悪な魔女、例えばワルプルギスの夜のようなのになるんじゃあないか、とも思った。


杏子「うぅ……寒気が治まんねぇ」

杏子「暑かったり寒かったり……今日は厄日だ……」

杏子「……美国織莉子」

杏子「あいつが妙なこと言わなければ……」

371: 2012/12/27(木) 16:12:55.81 ID:lH0vbrgD0

杏子「『爆氏する』だって……?」

杏子「キラークイーンに殺されると言ってるようなもんじゃあねぇか!」

杏子「それさえ無ければ、魔女狩りが捗るってんでゆまを割と普通に受け入れられていたかも……」

杏子「いや……いずれ誤爆か何かで爆発に巻き込まれてか……あるいは裏切られて殺されてただろう……どっち道な」

杏子「……あたしは、あいつに助けられたのかもしれない」

杏子「…………」

杏子「爆氏……か」

杏子「予知通りじゃねぇか……くそっ」

杏子「と、いうことは……だ」

杏子「あいつの言っていたことが真実だとすれば……」

372: 2012/12/27(木) 16:13:38.66 ID:lH0vbrgD0

杏子「暁美ほむら……世界を滅ぼす魔女……」

杏子「……世界がヤベェって、マジなのか?」

杏子「…………」

杏子「世界を救う……か」

杏子「近い内に行ってみるか……見滝原」

杏子「…………」

杏子「……ゆま」

杏子「『スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う』……という格言がある」

杏子「……磁力とか引力とかみたいにな」

杏子「もしかしたら……また、会うかもしれないな」

373: 2012/12/27(木) 16:18:37.87 ID:lH0vbrgD0

――見滝原


マミ「ちょっと食材買いすぎちゃったかしら……」

マミ「買いすぎたのは単純に安いのがいけないのよ……」

マミ「冷蔵庫に収まるかしら」

マミ「……あら?」

「えぐ……ぐすん……うぇぅ……」

マミ「女の子……泣いてる?」

マミ「あの……どうしたの?お嬢ちゃん」

「うぅ……うぇっ、ひぐっ……ううぅ……」

マミ「お名前は?いくつ?」

「うぅ……『ゆま』……」

マミ「よしよし。ゆまちゃん。泣かないで?どうしたの?迷子?」

374: 2012/12/27(木) 16:19:56.37 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ひぐっ……うえぅ……うぎゅうぅ」

マミ「落ち着いて……お父さんかお母さんは?はぐれちゃった?」

ゆま「……氏んじゃった」

マミ「……ッ!」

マミ「……そ、そうなの。ごめんなさい」

マミ「あ……」

マミ「そ、その指輪……」

マミ「あなた……魔法少女ね」

ゆま「ぐしゅ……ぅん」

マミ「お姉ちゃんもそうなのよ」

ゆま「……ほんと?」

375: 2012/12/27(木) 16:20:37.58 ID:lH0vbrgD0

マミ「えぇ……怪我とかしてない?」

ゆま「……うん」

マミ「ねぇ、何があったの?よかったら話してみてくれる?」

ゆま「グスッ……えぅ、キョーコに……ふぇっ、嫌われちゃったのぉ……」

ゆま「ゆまは邪魔だって……いらないってぇ……」

ゆま「ゆま……一人ぼっちになっちゃったぁ……」

ゆま「うえぇぇぇぅ……!あぅぅ……!」

マミ「……きょお、こ?」

マミ「それは……佐倉杏子?」

ゆま「うゅううぅぅ……ひぐっ、えぐっ」

マミ「…………」

376: 2012/12/27(木) 16:21:10.87 ID:lH0vbrgD0

マミ「と言うことは……風見野から来たのね。あんな遠くから……たった一人で……」

マミ「ゆまちゃん……」

ギュッ

マミ「よしよし……辛かったのね。泣かなくていいのよ」

ゆま「ひっく……あったかい」

マミ「私の家においで?」

ゆま「クスン……いいの?」

マミ「もちろん。ひとりぼっちは寂しいものね……」

ゆま「……うん、一人はいやだよぉ……」

マミ「えぇ。そうね……嫌よね……」

377: 2012/12/27(木) 16:22:05.96 ID:lH0vbrgD0


水を熱湯に変えるスタンド 本体:M市の魔法少女

破壊力 B スピード C  射程距離 B
持続力 D 精密動作性 C 成長性 D

水を『熱湯』に変えるスタンド。その性質は「傍流」
半径42m以内に存在する「水」の温度を最大99.974℃まで上昇させる。
また、物質を構成する「水分」の温度を上昇させることも可能。
ただしそれが生き物の場合、直に触れなければならない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


387: 2012/12/27(木) 21:21:53.00 ID:lH0vbrgD0

#8『佐倉杏子の新しい事情』


マミ宅。

テーブルを囲む五人。

五人はビスケットをつまみながら、いつものお茶会をしている。

本日お茶会が開かれたのは、マミの家に一緒に暮らすこととなった魔法少女を紹介するためである。


マミは昨夜、ゆまの話を聞いていた。

それをマミなりに話を整理して、再び来客に伝える。

ゆまは心地いい気分ではなかった。

杏子に捨てられたということを再びマミの言葉で聞かされたために。



マミ「――――と、いうことがあったの」

ゆま「…………」

388: 2012/12/27(木) 21:23:24.46 ID:lH0vbrgD0

まどか「そうだったんだ……ゆまちゃん、だっけ……。大変だったんだ……」

さやか「……杏子とかいうヤツ!こんな可愛い子をほっぽり出すだなんて……!」

ゆま「……キョーコを悪く言わないで」

ほむら「…………」

ほむら(千歳ゆま、ちゃん……今までの時間軸では……初めて、お目にかかる)

ほむら(しかも、最近増えている魔法少女の縄張り争いに巻き込まれたとかじゃないらしい)

ほむら(そして佐倉さんと一緒に行動をしていたと言う……)

ほむら(イレギュラーな存在で、少し気がかりなところはある。でも……)

ほむら(この子は『スタンド使い』だと言う……それも、聞くところによると、ハッキリ言って恐ろしい能力だ)

ほむら(キラークイーン。触れた物を爆弾にする)

ほむら(でも……恐ろしい反面、頼もしい味方になれる)

389: 2012/12/27(木) 21:24:34.00 ID:lH0vbrgD0

ほむら(そして気になるのは……佐倉さんが、ゆまちゃんを「追い出した」ということ)

ほむら(佐倉さんは、なんだかんだで面倒見のいい性格なのに……)

ゆま「……ゆまね、怖いスタンド持っちゃったの」

ゆま「だからキョーコに嫌われちゃったの……」

ほむら(果たして……それだけなのだろうか……?)

ゆま「…………」

さやか「……爆弾のスタンド……ねぇ」

マミ「ゆまちゃん……スタンドのことになると、すぐ落ち込んじゃうのよ」

マミ「そんなことない。大丈夫って言っても……」

マミ「その、佐倉さんに見捨てられて、よっぽどショックだったらしくて……」

ほむら「……それでも、悪く言わないでって言うくらいだから、好きなんですね」

390: 2012/12/27(木) 21:25:24.76 ID:lH0vbrgD0

まどか「……大丈夫だよ。ゆまちゃん」

ゆま「……」

まどか「別に、触れた物全てが爆弾になるわけじゃないんでしょ?」

まどか「だったら、気にすることもないよ」

さやか「……そ、そうだよ!既に転校生という爆弾魔がいるんだから!」

ほむら「ば、爆弾魔ァッ!?」

ゆま「……お姉ちゃんも爆弾使うの?」

ほむら「あ、食いついてきた……え、えっと……」

ほむら「わ、私はスタンド使いじゃないけど……うん。爆弾使うよ」

ほむら「だから……その……ですよね?」

マミ「え?私に振るの?」

マミ「えと……そ、そう!」

391: 2012/12/27(木) 21:26:37.18 ID:lH0vbrgD0

マミ「だから私達は爆弾なんか怖くないの!」

ゆま「……ほんと?」

マミ「ええ!」

まどか「ゆまちゃんは、その杏子って人を守るためにそのスタンドを得たんでしょう?」

ゆま「……うん」

まどか「ゆまちゃんが守るのは『女の子』だけじゃなきゃダメなのかな?」

まどか「『街』や『みんな』でもいいと思うな」

まどか「マミさんやほむらちゃんは、この街の人を守るために戦ってる……」

まどか「ゆまちゃんも、一人じゃなくてたくさんの人を守ってくれたらいいなって」

ゆま「…………」

まどか「どうかな?」

392: 2012/12/27(木) 21:27:21.98 ID:lH0vbrgD0

さやか「流石スタンド使いは言うことが違いますなぁ」

マミ「そこに痺れる」

ほむら「憧れるぅ」

ゆま「……うん」

ゆま「……頑張ってみる」

まどか「うん!頑張って!」

ゆま「うん……!マミお姉ちゃん。ゆま、頑張る……!」

ゆま「ゆま、猫さんをみんなのために使う!」

ほむら「きゅ、急に元気に……!」

マミ「よく言ったわ。ゆまちゃん。偉いねぇ~」

ナデナデ

ゆま「えへへぇ」

393: 2012/12/27(木) 21:31:37.81 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ありがとう!お姉ちゃん!」

まどか「え、えへへ、どういたしまして」

さやか「何照れてんの」

まどか「お姉ちゃんって呼ばれちゃった……照れるぅ」

ほむら「現役のお姉さんなのに?」

まどか「だって、まだ言葉あんまり喋れないし……」

まどか「あ、あとわたしの名前はまどかだよ。ゆまちゃん」

ゆま「まどかお姉ちゃん!」

まどか「グッド」

さやか「何で英語?」

マミ「あ、そうだ。よく考えたらゆまちゃんはまだあなた達のこと知らないわよね」

394: 2012/12/27(木) 21:33:10.63 ID:lH0vbrgD0

マミ「何で紹介してなかったのかしら……ゆまちゃん、こちらは美樹さん」

ゆま「…………」

さやか「やぁ!さやかちゃんだよ!」

ゆま「…………」

ゆま「さやか!」

さやか「うぉう!?何で呼び捨て!?」

ゆま「何となく、キョーコに雰囲気が似てる気がしたから」

マミ「そう?似てるかしら……?」

ほむら(……あの二人はなんやかんやで仲が良い時間軸が多い……どこか繋がるところがあるのかもしれない)

さやか「あたしはその杏子ってヤツを知らないんだけどね」

ゆま「じゃあ、さやかお姉ちゃん?」

さやか「……うッ」

395: 2012/12/27(木) 21:33:57.20 ID:lH0vbrgD0

さやか「お、お姉ちゃん……か」

まどか「?どうしたの?」

さやか「うへぇ……あたし一人っ子だから、そう呼ばれるのは、う、嬉しいことではあるんだけど……」

さやか「何か気が抜けちゃうというか、背中がムズ痒いというか……やっぱさやかでいいよ。よろしくね。ゆまちゃん」

ゆま「さやか!」

さやか「ベネ」

マミ「何でイタリア語?」

ほむら「それで、私は……」

さやか「こいつはほむほむだ」

ほむら「ほ、ほむッ!?」

まどか「ほむ?」

マミ「ほむ……」

ゆま「……ほむほむ」

396: 2012/12/27(木) 21:34:50.67 ID:lH0vbrgD0

ほむら「ゆ、ゆまちゃん。私はほむら。暁美ほむらだよ?」

ほむら「いい?ほ・む・ら。言ってごらん?」

ゆま「…………」

ゆま「ほむほむ!」

ほむら「え、えぇー……」

ゆま「ほむほむゥ!」

マミ「あらあら、その呼び方、気に入っちゃったようね」

さやか「ハハハ!ウケる!」

まどか「あ、あはは……」

ゆま「ほむほむ~」

ほむら「そ、そんなぁ……」

397: 2012/12/27(木) 21:35:23.77 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ほむ!」

ほむら「……まぁ、いいけど」

ゆま「ほむほむほむほむっ」

さやか「アハハハハハハ!」

まどか「さやかちゃん笑いすぎだよ」

さやか「ハハ……ごめんごめん……」

さやか「ハァー……」

さやか(――にしても……)

さやか(……こんな小さい子が魔法少女、かぁ……)

さやか(杏子ってヤツを助けたいって契約したのか……その結果は悲しいことになったけど)

さやか(……契約、か)

さやか「…………」

398: 2012/12/27(木) 21:38:46.20 ID:lH0vbrgD0

――同時刻


「……ここ、か」


緑色のパーカーを着ているポニーテールの少女は見滝原にいた。

片手に持っていた、地図を乱雑に丸めてポケットの中へ押し込んだ。


「やぁ、待っていたよ。佐倉杏子」

杏子「……キリカ、つったか」

キリカ「名前、覚えてくれてたんだね。私は自己紹介した覚えないけどさ」


佐倉杏子は今、大きな洋館の前に立っている。

手入れをされず不格好に伸びたバラの木がそよ風に煽られ揺れていた。


キリカ「まぁ、入りなよ」

杏子「……ああ」

399: 2012/12/27(木) 21:40:46.90 ID:lH0vbrgD0

キリカ「織莉子ぉ~。佐倉杏子が来ぃ~たよ~」

織莉子「いらっしゃい。佐倉さん。そしておかえり。キリカ」

織莉子「予知で来るタイミングはわかっていたわ」

織莉子「お茶の準備は既にできてるから手を洗ってうがいしてらっしゃい」

織莉子「佐倉さんを洗面所に案内してあげて」

キリカ「うん!」

キリカ「さぁ、こっちだよ」

杏子「……ん」

400: 2012/12/27(木) 21:46:28.96 ID:lH0vbrgD0

杏子「…………」

キリカ「こんな大きな家だとは思わなかったでしょ」

杏子「……ぼんぼんなのか?」

キリカ「まぁ、お金はある。でも、その辺とこ、織莉子に話しちゃあいけないよ」

杏子「あ?」

キリカ「これは、織莉子の御尊父の遺したもの、とでも言えばいいかな」

キリカ「別に仲が悪かったわけじゃない。むしろ良い親子だったそうだ」

キリカ「まぁ……うん。色々あってね。織莉子のためにも、父親のことは話題に出さないでくれ」

杏子「…………あぁ、わかった」

杏子「あたしも……父親のことは話題に出されたくないからな」

キリカ「そっか……。私も家族と仲が良いとは言えないからね。お互い丁度良いって感じかな」

401: 2012/12/27(木) 21:47:21.98 ID:lH0vbrgD0

キリカ「……ねぇねぇ」

キリカ「私、今朝からちょいと気になってることがあってね」

杏子「あん?」

キリカ「織莉子にも聞いたことなんだけどさ……」

キリカ「魔法少女と魔女ってどっちが先なんだろう」

杏子「はぁ?」

キリカ「ニワトリと卵どっちが先かっていう議論と似た話なんだけどさ……」

キリカ「グリーフシード、もとい魔女って元は魔法少女なわけじゃん」

キリカ「じゃあ最初の魔法少女ってのはどう生きていたんだ?ただ魂が濁りゆくのを黙って眺めていたのかな?」

キリカ「それとも魔女っていうのは魔法少女どうこう関係なしに既に存在させられていたのかな?」

キリカ「つまり……何が言いたいんだろうね?ゴメン」

杏子「うぜぇ」

キリカ「…………ゴメン」


402: 2012/12/27(木) 21:49:36.80 ID:lH0vbrgD0


カチャ…


織莉子「どうぞ」

杏子「ああ」

杏子(……こういう紅茶を飲むってのも久しぶりだな)

織莉子「お砂糖はいくつ?ジャムは何杯?」

杏子「自分で勝手に入れる」

織莉子「そう?紅茶のおかわりは自由よ」

キリカ「…………あの」

織莉子「何?」

キリカ「……わ、私にもお砂糖を」

織莉子「そうね……いくつ?」

キリカ「……いくつくれるの?」

織莉子「ああ……そういえばキリカ。私が寝込んでいる間に家の角砂糖をたくさん食べちゃった罰で砂糖に触れることを禁止してたんだったわね」

403: 2012/12/27(木) 21:50:52.70 ID:lH0vbrgD0

織莉子「勝手にもうヒョイパクヒョイパクと……」

織莉子「そう言えばジャム一瓶丸々ゼリー感覚で食べてたんだったっけ……うん……忘れてたわ」

杏子「……」

キリカ「うぅ……絶対嘘だ……まだ怒ってる?出来心なんです。悪気はないのぉん」

織莉子「別に。……それで?甘いのいくつ欲しいの?」

織莉子「二つ?」

キリカ「ええ~~ッ!やぁ~だぁ~~もォ~~ッと。も~、もォーッとォ~~」

織莉子「嘘よ。五つあげるわ。頑張ったもんね」

キリカ「やったッ!」

織莉子「ふふ、別に怒ってなんかないわよ。今日もお疲れさま。キリカ」

キリカ「えへへ」

杏子「何だあんたら……」

404: 2012/12/27(木) 21:52:10.06 ID:lH0vbrgD0

キリカ「うん、うん……」

キリカ「やっぱり角砂糖五つ入れた織莉茶はとっても美味しい」

織莉子「お、織莉茶って……」

織莉子「でも、キリカに喜んでもらえて……私も淹れがいがあるというものよ」

キリカ「でへへ~」

キリカ「そういや杏子。さっきから静かだね。まるで何だかよそから借りてきた猫みたいだ。初対面の時の威勢はどこ行ったのさ」

杏子「……色々あんだよ」

織莉子「猫……そう言えば、世間にはネコミミというものがあるらしいわ」

織莉子「キリカ今度つけて」

キリカ「えぇっ!?」

杏子「置いてけぼりなんだが……あたし」


405: 2012/12/27(木) 21:52:55.53 ID:lH0vbrgD0

織莉子「こ、コホン……失礼しました」

織莉子「……それで、佐倉さん。ここにいらした、ということは……」

杏子「……ああ」

杏子「あんたの予知、信じるよ」

キリカ「どういう心境の変化なんだい?」

杏子「爆氏に心当たりができたからだ」

織莉子「心当たり?」

杏子「ああ……。予知でわかってなかったのか?」

織莉子「えぇ。見てませんから」

織莉子「それに見たとて、その予知がその通りにいくとは限りません故」

杏子「……ふぅん」

406: 2012/12/27(木) 21:53:57.35 ID:lH0vbrgD0


キリカ「まぁ、これで心強い味方ができたってわけだね」

織莉子「えぇ。一緒に世界を救いましょう」

杏子「……そんな大げさな、とは思うんだが」

キリカ「やれやれ、やっぱりまだ実感できてないのかな」

織莉子「まぁまぁ、それは追々……私としては協力さえしてくれれば……」

織莉子「ところで佐倉さん。紅茶のおかわりはいかがですか?」

杏子「……」

杏子「その丁寧語はやめてくれないか」

杏子「ぶっちゃけ、逆に見下されてるみたいでムカつく」

キリカ「何だそれ?」

織莉子「……では、仲間ということで丁寧語を解除するわ」

407: 2012/12/27(木) 21:55:37.55 ID:lH0vbrgD0

キリカ「んじゃ、そろそろ今後のことを話そうか」

織莉子「そうね」

キリカ「結論から言うとだね。杏子。体勢を整えたら、私の通う『学校を襲撃』するつもりでいる」

織莉子「具体的な日付はまだ決まっていないから、いつかは未定よ」

杏子「…………ふーん。学校に、ねぇ」

織莉子「生徒にとって授業中ほどある意味無防備な時間はない。奇襲をする上でこれほどいいチャンスはない」

織莉子「まさか一般人を大規模に巻き込むような、学校を襲撃するようなことはと思わないでしょう」

織莉子「キリカも生徒ならではの動きやすさというものもあるし……」

織莉子「何より、彼女達が他の生徒への心配、気を取られる可能性がある」

織莉子「障壁を乗り越えるには、世界を救世するにはあらゆる手段も惜しまない」

杏子「面倒なことをするねぇ」

キリカ「面倒かもしれない。でも、シンプルがいい」

408: 2012/12/27(木) 21:56:53.00 ID:lH0vbrgD0

織莉子「レクイエムの発現条件がわからない以上、早い方がいいものね」

織莉子「何より……時間停止能力を持つ暁美ほむら、スタープラチナというスタンドを持つ鹿目まどか、ベテラン魔法少女の巴マミがいる」

キリカ「何さやか……だったっけかな?名字忘れた。とにかくそんな感じの名前な魔法少女候補もいたから、それもいるかもしれない」

杏子(……キラークイーンのゆまもいるかも知れないな)

杏子「…………」

杏子「……チト気になったんだが、スタンドを発現させる要素からほむらってヤツを守るっていう手もあるんじゃあないか?」

織莉子「私は確実な手を下す。スタンドを発現させる魔女、あるいは使い魔がいつどこにいたものか……安心できない」

織莉子「そもそも今、暁美ほむらがスタンド使いでないとは限らない。予知でも偵察でもわからない」

織莉子「魔女狩りで使わなかっただけかもしれないからよ。……どっち道何をしでかすかわからない、未知の危惧がある」

杏子「ふーん……まぁいいけどさ」

キリカ「何?ここにきて怖じ気づいた?」

杏子「そんなことはない」

409: 2012/12/27(木) 21:58:25.28 ID:lH0vbrgD0

織莉子「なら、いいわ」

織莉子「それで、暁美ほむら抹殺計画についてなのだけど……」

杏子「…………」

織莉子「まだ何も決まっていないというには語弊はあるけれど……目的くらいは」

織莉子「まず今の現状を話して。キリカ。よろしく」

キリカ「オッケー」

キリカ「えっとだね、取りあえずって感じなんだけど」

キリカ「スタンドにおける魔法少女の縄張り争いの激化のてんやわんやで、幸いにもこの計画はしろまるには割れていない」

キリカ「もし知られることがあるとすればせいぜい私達と君が手を組んだってことくらいだ」

キリカ「ところで、杏子」

杏子「ん?」

410: 2012/12/27(木) 21:59:07.04 ID:lH0vbrgD0

キリカ「レイミ……もとい、スタンドを発現させた魔女、使い魔の結界のことだけど……最近見た?」

杏子「いいや。見てない」

キリカ「実は、そこに迷い込んだことのある一般人がいるらしいんだ」

キリカ「それも、喰われたりとかせずに生きて帰ってきたパターンがある」

杏子「……口づけ喰らったんじゃねぇの?」

キリカ「その辺はわからない」

キリカ「でもね、生きているということは『スタンド使い』になっていると言ってもあながち過言じゃあない」

杏子「……マジか」

キリカ「『悪魔の手の平』という名前で都市伝説になっている」

411: 2012/12/27(木) 21:59:57.75 ID:lH0vbrgD0

キリカ「まぁ、よくある変な世界に迷い込む系の、現実味ペラペラ都市伝説の一つになってるんだけどさ」

杏子「……なるほど」

織莉子「……魔法少女がスタンドを得て、縄張り争いが激化した」

織莉子「なら、もし一般人がスタンドを得たら……」

杏子「……どうなると思うんだ?」

織莉子「仮にスタンドという超能力をどこかのルール無用な人間の手に渡ってみなさい」

キリカ「自分の欲望でしか考えないゲスのことだ。この世界は世紀末状態になりかねない」

杏子「…………」

織莉子「それだけは阻止しなくてはならないッ!」

キリカ「ストップでハッピー」

杏子「は?」

412: 2012/12/27(木) 22:00:51.46 ID:lH0vbrgD0

織莉子「救世の使命を持った者としての絶対的『使命』!」

キリカ「戦いの犠牲が出るからこそ『大切なもの』が手に入る」

織莉子「何が言いたいかというと、学校襲撃のターゲットは「暁美ほむら」だけでなく『スタンド使い』が追加された、ということよ」

杏子「回りくどいなオイ」

杏子「しかし、スタンド使いもターゲットとなると……あんたらもあたしもそうなるが」

キリカ「わかってないな。悪いヤツに力は与えるなってことだよ」

織莉子「あなたは利己的な人よ。どこぞの魔法少女のように、テリトリーを奪ってより多くのグリーフシードを採集せんとする魔法少女とは違う」

織莉子「この世に『奪う者』は必要なし。正義、正しい心を『受け継ぐ者』またそれを『与える者』がいればいい」

キリカ「スタンド使いが少なくなればスタンドを悪用する蓋然性が著しく低くなる」

キリカ「極論、スタンド使いが私達三人だけになれば、そんな心配もないだろうってね」

杏子「……そうかよ」

杏子「まぁ、ほむらだろうが一般人だろうが別にどうでもいいよ」

413: 2012/12/27(木) 22:02:52.65 ID:lH0vbrgD0

杏子「で?あたしは、何をすればいいんだ?」

キリカ「お?仕事が欲しいのかい?やる気だねぇ」

杏子「そうでもない。やることもわからずに連れてこられてもあたしが困るからな」

織莉子「そうね……今は特にして欲しいことはないわ」

杏子「…………」

織莉子「せいぜいこれまで通り、風見野で魔女を狩って、というとこくらいかしら」

キリカ「グリーフシードはあって困ることはないからね」

杏子「そう、かよ」

織莉子「時期が来るまで、ここを拠点としてお使いなさい」

杏子「……ここに暮らせ、と?」

キリカ「織莉子と二人きりの時間が減るけど……仕方ない」

織莉子「空いてる部屋もあるから、問題ないわ」

414: 2012/12/27(木) 22:03:20.84 ID:lH0vbrgD0

織莉子「ただし、暁美ほむら達に存在を知られてはいけない……」

織莉子「もとい、見滝原を不用意にうろつかない、余計なことをしないことを約束なさい」

杏子「わかったよ。……とは言え、暁美ほむらの顔を知らないからどうすりゃいいのかわからんが」

キリカ「その辺大丈夫。暁美ほむらや巴マミの通う学校の方向とここは結構違うからね」

キリカ「見滝原で魔女が出ても無視すりゃあいいんだよ」

織莉子「使用済みグリーフシードは風見野で回収してもらって」

杏子「……面倒だな。だが、寝床がもらえるって言うんだ。我慢する」

織莉子「理解が早くて助かるわ」

織莉子「……さて、取りあえず」

織莉子「こうして話している間にお風呂が沸いたようね」

杏子「風呂?」

415: 2012/12/27(木) 22:04:13.21 ID:lH0vbrgD0

織莉子「入ってらっしゃい」

杏子「……ひょっとしてあたし、臭う?」

織莉子「そうは言わないけれど……」

織莉子「その、あなたの生活から考えると……」

キリカ「やっぱり気になるよ」

杏子「……そうか。まぁ、仕方ない」

杏子「着替えとかあるのか?」

織莉子「えぇ」

杏子「ん。じゃあ、入ってくる。場所はキリカについでで教えてもらった」

416: 2012/12/27(木) 22:04:53.49 ID:lH0vbrgD0

ガチャ…

キリカ「……行ったね」

織莉子「……えぇ」

織莉子「……キリカ」

織莉子「うん?」

織莉子「彼女に心を許してはいけないわ」

キリカ「…………」

キリカ「言わずもがな。私が心を許しているのは織莉子だけだよ」

織莉子「彼女はただ、利用するだけよ」

織莉子「目的を果たして彼女が生き残っていたら……クリームで飲み込んでやりなさい」

キリカ「……え?」

417: 2012/12/27(木) 22:05:35.95 ID:lH0vbrgD0

キリカ「い、いいの?マジィ?」

キリカ「まぁ織莉子がやれって言うならもちろんやるけど……」

キリカ「何て言うか……私はそういうの好まないかな。義理というか……いや、否定してるわけじゃないよ」

織莉子「義理?そんなもの必要ないわ」

織莉子「彼女は、最終的には私達を裏切る可能性を孕んでいる」

キリカ「そっ!それは本当!?」

織莉子「予知で見たわけではないけど、臭いでわかる。そういうことをしかねないって」

織莉子「私達が生きるために、後々邪魔になるのは間違いないわ」

織莉子「何と言っても、スタンド使いだし」

キリカ「ふぅ~ん……まぁ、いいけどね……。……ねぇ、織莉子」

織莉子「……何?」

キリカ「あ、いや……別に、やっぱいいや」

織莉子「?」

キリカ(織莉子……なんか、性格が変わった、というか……何というか……)

キリカ(……まぁ、いっか)

418: 2012/12/27(木) 22:06:08.83 ID:lH0vbrgD0

杏子「…………」

杏子(スタンド使いがいなければスタンドを悪用される心配はない……か)

杏子(……確かに余計な力を持つ者は少ないに越したことないだろう。あいつらの言うことにも一理ある)

杏子(だが……あたしのスタンド……シビル・ウォーは魔法少女を魔女にするくらいにしか役に立たない)

杏子(故にもとよりあたしはまだしも……)

杏子(あいつらの能力を、あたしは知らない……心配がないとは言えねぇ)

杏子(そもそも、あたしは魔法もスタンドも悪用している。それはいいのか?って話になるじゃあねぇか)

杏子(そんなあたしをその正義のために味方につけるなんて……いや、事情を知らないんだろうけど)

杏子(何が正義かわかったもんじゃねぇな。正義なんてのは、こうあやふやなもんだ……)

杏子(ま、こんな豪勢なとこにしばらく住めるんだ。何も言うまい)

419: 2012/12/27(木) 22:07:00.92 ID:lH0vbrgD0


キラークイーン 本体:千歳ゆま

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 D 精密動作性 D 成長性 C

触れた物を『爆弾』にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物はどんな物でも爆弾になる。
爆弾の大小問わず大爆発。強い力が欲しいと願ったことで発現。
体型はゆまと同じくらい。ゆまはキラークイーンを「猫さん」と呼ぶことがある。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


420: 2012/12/27(木) 22:10:02.28 ID:lH0vbrgD0
うわ、短い。今回はここまで。お疲れさまでした。
住所不定に帰る場所が与えられた回でした。

ゆまの呼び方に関して特に深い考えはありません。ほむほむ。

ちなみにですが、ゆまはスタンドが欲しいという内容で契約したので
「魔法武器が無い&回復魔法は使えない」という設定です。スタンドが魔法武器。
別に魔法武器や回復を使わせる機会が無かったからではないです。
別に魔法武器や回復を使わせる機会が無かったからではないです。
決して何かよくわからない棍棒っぽい武器のことを忘れてたなんてことはないです。

ついでにキラークイーンはオリジナルよりも等身が小さい設定です。
セト神戦の小さいシルバーチャリオッツみたいな等身を想像していただければ……


ネタバレって程でもないですが、次回さやか契約します。エリー回とも言いますかね。

ぶっちゃけちゃうと恋慕関係の下りは面倒くさいというか好きでないというか……
そういうわけで他の話と比べると手の入れ方が雑と捉えられるかもです。

425: 2012/12/28(金) 10:21:27.46 ID:w6fA4+mN0

#9『志筑仁美のナイトメア』


――病院

ここには、さやかの幼なじみである上条恭介が入院している。

事故に遭い、腕と脚を負傷したのだ。

幼なじみのよしみでか、別の感情があってか、頻繁に見舞っている。


さやか「元気ィ?」

恭介「さやか……」

さやか「お土産持ってきたよ。恭介」

さやか「はい。バイオリンのCD」

さやか「これ手に入れるのに結構手こずったよぉ~」

恭介「…………」

恭介「……さやか」

さやか「うん?」

426: 2012/12/28(金) 10:24:02.80 ID:w6fA4+mN0

恭介「さやかは、僕をイジめて楽しいのかい?」

さやか「え……」

恭介「腕が動かないのに……そんな、CDを土産にするなんて……」

さやか「…………」

さやか「そ、それは……」

恭介「もう、医者に言われたんだ。もう、不可能だって……!」

恭介「もう、腕は動かないんだ」

恭介「もう、バイオリンは弾けないんだ……」

さやか「あ、諦めちゃダメだよ!」

さやか「そんな気持ちじゃ、心持ちじゃあ奇跡なんて起きやしないって!」

恭介「起きないさ!奇跡なんてものはッ!」

427: 2012/12/28(金) 10:25:12.81 ID:w6fA4+mN0

さやか「奇跡はある!奇跡も、魔法もあるんだってば!」

さやか「気持ちの問題だよ!そんなんじゃ……」

恭介「弾けもしないバイオリンの音色なんてッ!」

ガシャンッ!

さやかの言葉は、恭介の衝動を抑えることはなかった。

さやかがベッドの上にポンと置いたCD。それを動く方の腕で掴み、床に投げ叩きつけた。

ケースは分解し、中のCDが飛び出した。


さやか「……ッ!」

さやか「あ、あんた何てこと……!」

さやか「折角買ってきたのに……恭介が頼んだのに……これは酷すぎ……」

恭介「いい加減にしてくれッ!」

さやか「ッ!」

428: 2012/12/28(金) 10:26:09.22 ID:w6fA4+mN0

さやか「きょ、恭介……」

恭介「さやかには僕の感じてる恐怖がわかっていないんだ!」

さやか「そ、そんなことないよ!」

さやか「恭介が辛い思いをしてるって、重々わかっ――」

恭介「うるさいッ!知った風な口を言うんじゃあないッ!」

さやか「し、知った風なって……」

恭介「さやかは何もわかっちゃいない!」

恭介「さやかは見えていないんだよッ!」

さやか「きょ、きょうす……」

恭介「さやかだけじゃない!医者も看護師も!誰一人!」

429: 2012/12/28(金) 10:27:31.16 ID:w6fA4+mN0

恭介「誰一人として僕の恐怖を認識できていないッ!」

恭介「勝手なことを……無責任な言葉を投げかけないでくれ……!」

さやか「…………」

恭介「お願いだ……さやか。もう、出てってくれ……」

さやか「で、でも……」

恭介「一人にしてくれ……!」

さやか「と、とにかく落ち着い……」

恭介「出てけと言ったのが聞こえないのかよッ!」

さやか「……!」

さやか「……わかった。今日は……帰る」

さやか「また、来るね……」

パタン…

430: 2012/12/28(金) 10:28:25.76 ID:w6fA4+mN0

恭介「…………」

恭介「うぅ……くそ……っ!」

恭介(また来る、だって?……別にもう来なくてもいいのに)

恭介「誰も……誰も僕のことをわかっちゃあいない……!」

恭介「さやかも……誰も……!」

恭介「くそっ!この恐怖を誰かに話そうとしても……」

恭介「周囲の人間の『カワイソー』とか、『知らんぷりしてテキトーに相槌打っておこう』って態度が……」

恭介「ますます僕の恐怖を煽るッ!」

恭介「誰も、誰もわかっていないんだッ!」

恭介「どうしてだ……どうして、納得のいく答えを誰もくれないんだ……」

恭介「本当に……本当に何なんだ……!一体何なんだよ……!」


恭介「『こいつ』は……!」

431: 2012/12/28(金) 10:30:14.51 ID:w6fA4+mN0

ベッド横にある机の上には、ケースにヒビの走ったCDが置かれている。

丁寧にもその欠けた数個の破片までもがその隣に並べられている。

床には何もない。正確には、何もなくなった。


コン、コン

ノックの音。

恭介は声を出す気にもならなかった。

来客は、その無言を「拒否はしていない」

イコール「入ってもいい」と判断した。


「……失礼します」

恭介「…………」

「……上条くん」

恭介「……志筑さん?」

仁美「今……さやかさんが走って出ていったのですが……」

432: 2012/12/28(金) 10:31:28.96 ID:w6fA4+mN0

仁美「何か……あったんですか?さやかさん。私に気付かずにすごい勢いで……」

恭介「……君には、関係のないことだよ」

仁美「………」

仁美「あの、私……お尋ねしたいことがあるんです」

仁美「世間話というには少しズレてるかもしれませんが……大切なこと」

恭介「……悪いけど、一人にしてくれないかな」

仁美「お時間は取らせませんので」

恭介「……何、かな」

仁美「…………」


仁美「『悪魔の手の平』……という噂、知っていますか?」

433: 2012/12/28(金) 10:33:11.34 ID:w6fA4+mN0

恭介「…………」

仁美「これは、あくまで都市伝説です」

仁美「いつもの通り、暗くなってきた道を歩いて……」

仁美「少し時間を節約しようと脇道や近道を通る……」

仁美「すると、突如として妙な空間に迷い込んでしまうことがあるそうです」

仁美「何でも、空がピンク色で、断層が隆起していて、家がズタボロらしいのです」

仁美「カフェと思しき建物の崩れたらせん階段。天使のイラストや何やら妙な落書きがあって……枯れた紫陽花もありま……あるそうです」

仁美「そして、そこに迷い込んだ人に、お化けが迫ってくるのです。それで何とか、その廃墟の街から逃げ切ると……その人は……」

仁美「生き延びた報酬なのか……不思議な『能力』を得るそうです」

恭介「……ッ!」

434: 2012/12/28(金) 10:34:28.53 ID:w6fA4+mN0

仁美「風の噂では、血縁者が件の能力を得ると……」

仁美「その兄弟やご子息も、それに目覚めると言うのです」

恭介「…………」

仁美「まるで、共通の遺伝子と共鳴するかのように……」

仁美「外を出歩かずとも突如としてそれが目覚めるということもありうるという……」

恭介「志筑さん……き、君は……君は一体、何を言って……」

仁美「私が個人的に調べた結果です」

恭介「何が……君は何を言いたいんだい……?」

仁美「…………」

仁美「上条くん……あなたは……」


仁美「私と同じ『能力者』です」


435: 2012/12/28(金) 10:35:36.67 ID:w6fA4+mN0

――翌日


ピンポーン

ガチャ


ゆま「ほむほむ!」

ほむら「こんにちは。ゆまちゃん」

ドタドタ

ゆま「マミお姉ちゃん!ほむほむ達来たー!」

ほむら「……ふふ、ゆまちゃん、楽しそうだね」

まどか「あ、うん。そうだね……」

さやか「お邪魔します……っと」

ほむら「…………?」

ほむら(何だろう……鹿目さんも美樹さんも、今朝から何か……)

ほむら(元気がない……何かあったのかな)

436: 2012/12/28(金) 10:37:07.13 ID:w6fA4+mN0


QB「やぁ。三人とも」

マミ「いらっしゃい」

まどか「お邪魔します」

ゆま「お茶とケーキだよ!」

さやか「お、ありがとう」

マミ「ゆまちゃん、よく家事を手伝ってくれて私本当に助かっちゃうわ」

ゆま「えへへぇ……ゆま、マミお姉ちゃんのお手伝いするの楽しくって、大好き!」

マミ「あぁ……何ていい子なの……!」

マミ「よぉ~しよしよしよしよしよし」

ナデナデナデナデ

ゆま「あぅん、くすぐったいよぉ。えへへぇ」

437: 2012/12/28(金) 10:38:44.64 ID:w6fA4+mN0

マミ「さぁさぁさぁさぁ、みんな。召し上がれ」

さやか「……いただきます」

まどか「わぁ、美味しそう」

ほむら「いつもすみません」

ゆま「ケーキ美味しい。むしゃむしゃ」

マミ「あらあら、クリーム付いてるわよ。拭いてあげる」

ゆま「んー」

まどか「何だか、本当の姉妹みたいだね」

ほむら「うん。微笑ましい」

さやか「……そうだね……本当に、幸せそう」

ほむら「……ね、ねぇ、鹿目さん。美樹さん、どうかしたの?」

まどか「……うん。昨日、ちょっと……」

ほむら「?」

438: 2012/12/28(金) 10:40:00.65 ID:w6fA4+mN0

マミ「……それで、美樹さん」

さやか「はい」

マミ「『大事な話』って何?」

ほむら「え?」

まどか「…………」

ほむら「あの、大事な話って……」

マミ「暁美さんは聞かされてなかったようね」

ゆま「ゆまも聞いてないっ」

QB「何かあったのかい?」

439: 2012/12/28(金) 10:40:44.81 ID:w6fA4+mN0

さやか「マミさん、転校生、ゆまちゃん、キュゥべえ」

ほむら(……もしかして)

ゆま「なぁに?」

QB「何かな」

まどか「…………」

さやか「……あたし」

さやか「……『契約』したい」

マミ「!」

ゆま「ふぇ……?」

ほむら「ッ!?」

440: 2012/12/28(金) 10:42:17.58 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……決心しました」

さやか「あたしは……知り合いを助けたい」

QB「……へぇ」

まどか(……今朝、さやかちゃんから上条くんと喧嘩した話を聞いた)

まどか(ずっと……思い悩んでいるって感じだった……)

さやか「あんな大人しいあいつが……取り乱して……」

さやか「これ以上辛そうなの見てられないんです」

さやか「あたしは、あいつを助けたい。契約したいんです」

ゆま「さやか……」

QB「それが、君の望みなんだね?」

さやか「うん。……でも、やっぱり、予め話しておきたくて」

441: 2012/12/28(金) 10:43:18.13 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……ダ」

マミ「……そうね。美樹さんがその気なら――」

ほむら「ダメッ!」

さやか「へ?」

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「……あっ」

ゆま「ほむほむ……?どうしたの?」

さやか「きゅ、急に大きな声で……ダメって……」

QB「さやかに契約させたくない理由でもあるのかい?」

さやか「…………」

さやか「どうなの?転校生」


442: 2012/12/28(金) 10:44:34.23 ID:w6fA4+mN0

ほむら「え、えっと……その、あ、危ない目に、遭わせたくないですし……」

ほむら(ま、まずい……思わず大きな声を出して変な空気に……)

さやか「心配してくれてるのか……優しいね。転校生」

さやか「でもね、あたしは覚悟を決めたよ」

さやか「本気で叶えたい願い事ができたんだよね」

さやか「やっぱり、勝手に契約はできないからこうやって相談して……」

ほむら「い、いくら覚悟があるからって……契約したら……いつ氏ぬかわからないし……」

さやか「大丈夫だよ!マミさんも転校生もいてくれるでしょ?それにゆまちゃんだっている」

さやか「ですよね?マミさん。ゆまちゃん」

マミ「えぇ。そうね。契約をするのなら、ちゃんと面倒を見るわ」

ゆま「ゆまはさやかのセンパイになるね?」

QB「マミはベテランだし、一度見習いの魔法少女を教育した経験がある。ゆまもスタンドという力がある」

QB「すぐに安定するようになるだろう」

443: 2012/12/28(金) 10:45:35.97 ID:w6fA4+mN0

ほむら「で、でも……」

さやか「あたし、本気なんだ。わかってほしい」

ほむら「…………」

ほむら「……上条くんのことですよね」

さやか「え、な、何で知って……」

まどか「あれ?ほむらちゃん、上条くんのこと知ってたっけ?」

ほむら「え、あ、うん。一応……」

マミ「美樹さんの知り合い?」

ゆま「さやかのふぃあんせ?」

さやか「フィ、フィア……っ!ち、違うよぉ!た、ただの幼なじみスよぉ!」


444: 2012/12/28(金) 10:48:08.09 ID:w6fA4+mN0

さやか「事故で腕が動かなくなって……治る見込みもないって言われて」

さやか「それで、あたし、恭介の腕を治したいんです」

マミ「そうなのね……」

ほむら(え、えっと……どうしよう。どうしよう……!)

さやか「いいよね?転校生。あたしの気持ち、わかってよ」

ほむら「…………」

ほむら「そ、それって……」

ほむら「えっと……その」

ほむら「……上条くんの望み、ですよね」

さやか「……は?」

さやか「い、いや……だから、恭介の望みじゃなくて、恭介の腕を治すのがあたしの望みだよ」

445: 2012/12/28(金) 10:49:23.03 ID:w6fA4+mN0

ほむら「腕を治して……えっと、美樹さんはどう……したいんですか……?」

さやか「どうって……」

さやか「……転校生、あんたは何が言いたいの?」

まどか「ほ、ほむらちゃん……?」

ほむら「美樹さんは、上条君に……その、恩を売りたい、ということなんですか?」

さやか「……何、だって?」

ほむら「あ……不快に思ったらすみません。その、いい言葉が浮かばなくて……」

ほむら「多分、ですが……上条くんを哀れに思って、突発的に契約しようと思った」

ほむら「……そう、見受けられました」

ほむら「なので……もっと冷静になっていただきたいんです」

ほむら「後悔のない選択を……してほしいんです」

さやか「……あたしは、後悔なんかしないよ」

446: 2012/12/28(金) 10:50:43.11 ID:w6fA4+mN0

ほむら「いや、あの、その……今後、美樹さんは……」

ほむら「上条くんの腕を治してあげたっていう……えっと……」

ほむら「何て言うか……普通の意識ができなくなると思うんです」

まどか「普通の……意識?」

ほむら「無意識的に見返りを求めるというか……」

ゆま「ほむほむー話が長いよー難しいよぉ」

マミ「えっと……大切な話をしているのよ」

さやか「つまり……転校生はこう言いたいんだな?」

さやか「あたしが『恭介の恩人になった自分に酔う未来が目に見えてる』と」

ほむら「そ、そこまでは……」

ほむら「そ、それに上条くんは、幼なじみの美樹さんに、魔法少女だなんて危険な身分になられてまで治っても嬉しくない……と思うんです」

447: 2012/12/28(金) 10:51:33.90 ID:w6fA4+mN0

ほむら「もし、上条くんが魔法少女のことを知ったすると……美樹さんに罪悪感を覚えるかと……」

ほむら「そうなったら……二人の仲はギクシャクして……きっと、前と同じ仲にはなりにくいと思います」

ほむら「そうなったら……美樹さんは、その……後悔する……私は、普通の人生を送って欲しい」

ほむら「あの……えっと……それに……」

ほむら「み、美樹さんは……その、逃げてるんだと思います」

ほむら「腕が動かなくなった後のフォローを諦めて、一番簡単な自己犠牲の選択を……」

ダンッ!

さやか「いい加減にしろよッ!!」

ゆま「ひぃっ!?」


テーブルに手を叩き付け、さやかは大声で怒鳴った。

重苦しい空気に乱気流が発生した。

448: 2012/12/28(金) 10:52:42.20 ID:w6fA4+mN0

ほむら、マミ、まどか、ゆまは体をビクリと強ばらせた。

キュゥべえは動じも口出しもせず、ただ黙って見ていた。


マミ「…………」

ゆま「さ、さやかぁ……」

まどか「…………」

ほむら「え、えと、その……」

さやか「何!?何なのさっきから!?」

さやか「あたしの願いを頭ごなしに否定してさぁ!何なのよ!?」

マミ「み、美樹さん。落ち着いて……」

ほむら「わ、私はただ、後悔してほしくなくて……」

さやか「後悔なんてあるわけない!さっきからそう言ってるだろッ!」

ほむら「で、でも、それは……」

さやか「だったら、さぞあんたは素晴らしいことを願ったんだろうね!」

ほむら「え……」

449: 2012/12/28(金) 10:53:53.32 ID:w6fA4+mN0

さやか「マミさんは生きたい。ゆまは恩人の力になりたい……」

さやか「あんたの願いは何?あたしの願いを否定するってことは、それらに相当するものなんでしょ?!」

さやか「あんただけ、願いを聞いていない!」

まどか「さ、さや……」

さやか「まどかは黙ってて!」

さやか「ほら、転校生!言ってみろよッ!あたしの覚悟よりもずっと高尚な願いなんだろ!?」

ほむら「う……」

ほむら(……鹿目さんを救うために、魔女に、魔法少女にさせないために未来から来た)

ほむら(そんなこと、言えるわけがない……)

ほむら(救うためと言われても、どういうことなのか必ず食い下がって聞いてくる。それにも答えられないと真偽を疑われる)

450: 2012/12/28(金) 11:04:37.11 ID:w6fA4+mN0

ほむら(かと言ってワルプルギスの夜に殺されるから契約をさせたくない、と言っても押しが弱い)

ほむら(例え、話したとしても美樹さんの性格から、戦力になりたいと意気込むだけ……)

ほむら(魔女化のことを、今、話すわけにはいかない……)

ほむら(うぅ……巴さんが自棄になって佐倉さんを頃した光景が脳に焼き付いてしまっている……浮かんでくる……)

ほむら(それに……それだけじゃない)

QB「他人のために契約することはそう珍しいことじゃないよ」

ゆま「ほ、ほむほむ……」

ほむら(……ゆまちゃんに、キュゥべえに知られるわけにはいかない)

ほむら(自分が魔女になるかもしれないと知ってしまったら……ゆまちゃんはどうなる?)

ほむら(ゆまちゃんは佐倉さんのために契約して、その佐倉さんに見捨てられた……)

ほむら(まだ、まだこんな幼いのに、これ以上、残酷なことは……!)

ほむら(キュゥべえに、私の目的を知られたら、何をするかわかったものじゃない)

ほむら(…………ダメだ)

451: 2012/12/28(金) 11:07:04.97 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……言えません」

ほむら(言えない……言えるわけがない……!)

さやか「!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら(残酷な真実を教えない限り、美樹さんの契約を止めることができないだろう……でも……でも……!)

ゆま「だ、大丈夫?ほむほむ……お腹痛いの?」

ほむら「うぅ……」

マミ「……暁美さん。あなた……」

ほむら「…………」

さやか「……ふーん。言えないんだ」

さやか「ってことは……さ」

さやか「あんた、契約したことを後悔したんでしょ」

ほむら「こ、後悔……?」

さやか「だからあたしにも……契約したことを後悔させたくないと思っている」

ほむら「わ、私は後悔なんか……!」

452: 2012/12/28(金) 11:10:18.94 ID:w6fA4+mN0

さやか「どうせ『しょうもない理由』で契約したんじゃないの?」

ほむら「……え」

さやか「いつだったか、キュゥべえは契約した覚えがないって言ってたっけ……キュゥべえが忘れちゃうようなしょうもない理由」

ほむら(しょうもない理由……)

QB(忘れるなんてことはないはずなんだけれどな……)

ほむら(『しょうもない理由』……!?)

マミ「美樹さん!それは言い過ぎよ!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「だって!それしか考えられない!ここまで意地になって言えない理由なんてさッ!」

さやか「くだらないことを願っちまったから恥ずかしくて言えないんじゃあないのッ!?」

ほむら「しょうもない……理由……!」

ほむら「……ッ!」


まどか「ッ!」


453: 2012/12/28(金) 11:11:48.19 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほむらちゃんッ!やめてッ!」

ガシッ

マミ「二人とも落ち着いて!」

ゆま「ほ、ほむ、ほむが……『怒った』……」

さやか「へ、へぇ……あ、あんたでも怒って殴りかかる度胸は、あるんだ……」

ほむら「…………」

ほむら(――ッ!?)


気が付くとほむらは、身を乗り出し右腕を振り上げていた。

テーブルに足を乗せ、左手でさやかの胸ぐらを掴んでいた。

右腕に、まどかがしがみついている。ゆまは涙目になり、怯えた表情をしている。

マミは表情や態度に出さないように振る舞っているが、焦燥を隠し切れていない

さやかはゴクリと唾を飲み、動揺を押し頃している。

キュゥべえは物珍しそうにほむらの表情を見つめていた。

454: 2012/12/28(金) 11:16:14.61 ID:w6fA4+mN0

ほむら(私……まさか)

ほむら(まさか『美樹さんを殴ろう』と……した?)


空気で張った風船が萎んでいくかのように、ほむらの体から力が抜けていく。

その脱力を感知したまどかは、ほむらの腕から手を放し、そのまま肩と背中に触れた。


ほむら(初めてだ……こんな感情)

ほむら(……私なんかでも……カッとなること……あったんだ)

ほむら(目の前が見えなくなって……体が何かに取り憑かれたかのような……)

ほむら「…………」

ほむら(……こればっかりは、私の言い方が悪かった。それは明らかだ)

ほむら(こんなの……こんなのただの逆ギレだよ……)

455: 2012/12/28(金) 11:17:53.69 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほ、ほら。ほむらちゃん。座って……落ち着いて……」

ほむら「……うぅ」

ゆま「あ、あうぅ……」

マミ「……美樹さん。暁美さんに謝りなさい」

さやか「…………」

さやか「マミさんはこいつの味方ってわけですか」

マミ「何もそうは言ってないわ」

マミ「私は美樹さんが覚悟を決めているというのなら別に反対はしない」

マミ「確かに暁美さんの言い方というか、態度にも問題はあると思うわ」

ほむら「…………」

マミ「でもね、美樹さん。あなたの言い方、いくらなんでも酷いわ」

456: 2012/12/28(金) 11:18:49.33 ID:w6fA4+mN0

マミ「暁美さんが何を願ったのかは私も知らないけど……」

マミ「踏み込んではいけない領域という可能性もあるわ」

さやか「踏み込んではいけないって……例えばなんですか?いじめっこを頃してくださいとか?」

まどか「さやかちゃん!」

ゆま「はぅ!」


まどかの声にゆまは再び身構える。

さやかは既に落ち着いている。マミは真剣な表情でジッとさやかを見つめる。


さやか「まどか。これは可能性の一つだ。……恥ずかしい理由で契約して、言えないって可能性もあるっちゃあるさ」

さやか「でもねぇ、言えないってことは、そういう推測されるのも仕方ないってことなんだよ」

マミ「その可能性も……確かにあるかもしれないわね」

マミ「とは言え、あなたもカッとなって無神経な言い方をして……暁美さんを傷つけたことには変わらない」

457: 2012/12/28(金) 11:22:36.69 ID:w6fA4+mN0

マミ「暁美さんの、魔法少女の戦いに巻き込みたくないという気持ち、あなたはどう思っているの」

マミ「ただ一言、暁美さんに謝りなさい。言い過ぎたって」

さやか「…………」

さやか「……いや、やっぱり納得できない」

さやか「あたしの覚悟を否定したことには変わらないもん」

さやか「あたし達は仲間だし友達だ」

さやか「……なのに、契約した理由は絶対に言わない」

さやか「秘密にするってことは信用されてないってことだとあたしは思うんですよ」

さやか「マミさんにはすいませんけど、あたし、謝りません」

マミ「美樹さん!」


458: 2012/12/28(金) 11:23:25.75 ID:w6fA4+mN0

さやか「例えマミさんでも、こればっかりは譲れないんですよ……」

ゆま「さやか……」

さやか「……もう、帰ります。お邪魔しました……」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ゆま「…………」

マミ「そう……。美樹さん。帰って落ち着いてから、もう一度考えて」

マミ「それは、命を賭けるに値する願いなのかどうか……」

マミ「……明日」

マミ「明日、その決意をもう一度聞かせて。その上で、契約すること。いいわね?」

さやか「…………はい」

459: 2012/12/28(金) 11:24:03.71 ID:w6fA4+mN0

ガチャ…パタン

ドアの閉まる音。さやかは帰路に立った。

まどか、ほむら、マミ、ゆま、キュゥべえ。誰も何も言わない。

感情のないキュゥべえ以外全員が「重苦しい空気」を感じた。


QB「…………」

QB(ほむらのような性格でも、感情に流されて暴力に出ようとするものなのか)

QB(これは珍しいものを見させてもらった)

QB(しかしやはり感情は精神疾患だね。興味深いとは思うけれど)

QB(……さて、さやかは……)

QB(ちょっとでも促せば、すぐにでも契約できそうだ)

QB(……行ってくるかな)


460: 2012/12/28(金) 11:24:51.50 ID:w6fA4+mN0

まどか「…………」

ほむら「…………」

マミ「…………」

ゆま「…………」

ほむら「……ごめんなさい」

ゆま「ほむほむ……」

ほむら「私……、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう」

ほむら「もっと……もっと言い方があったのに……逆ギレだよ……あんなの……」

マミ「……いいのよ。暁美さん。気にしないで」

まどか「そうだよ。ほむらちゃん……。ほむらちゃんは、優しすぎたんだよ」

まどか「さやかちゃんも、上条くんのことで色々あったんだよ。だから、少し感情的になってるだけ……」

ゆま「えと……元気出して?」

ほむら「……ありがとう」

461: 2012/12/28(金) 11:25:27.33 ID:w6fA4+mN0

マミ「…………」

マミ(暁美さんは……初めて会った時「友達を失った」と話していた……)

マミ(だからこそ、友達を魔法少女の戦いに巻き込みたくないんだ、私はそう認識している)

マミ(暁美さんには『そのこと』を黙っているように言われたけど……)

マミ「……美樹さんには、後でちゃんと話しておくわ」

マミ「暁美さん……色々あって疲れたでしょう?帰ってゆっくり休むといいわ。今日のパトロールは私とゆまちゃんがやるから」

ほむら「……すいません。お邪魔、しました……」

まどか「それじゃあ、わたしも……失礼します。ゆまちゃん、またね」

ゆま「うん……」

マミ「えぇ……」

462: 2012/12/28(金) 11:26:38.94 ID:w6fA4+mN0

ほむら「…………」

まどか「…………」

まどか「え、えっと……」

まどか「ほむらちゃん……元気、出して」

ほむら「……うん」

まどか「さやかちゃんは、少し意地っ張りなところがあるから……」

まどか「あと思い込みも激しいんだ。一度そうだと思っちゃうと……誤解すると、なかなか改めないの」

ほむら「……そう……なんだ」

まどか「少し前、三年生の人がさやかちゃんにやったロッキー占い。的を射てると思う」

まどか「……すぐに、と言うには難しいかもだけど、ちゃんとわかってくれるよ」

ほむら「うん……そうだね。……ありがとう」

まどか「ううん。わたし……少しでも、みんなの役に立ちたいから」

463: 2012/12/28(金) 11:27:52.82 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……ねぇ、鹿目さん」

まどか「なぁに?」

ほむら「よかったら、なんだけど……」

ほむら「その……門限とかもあるだろうから、無理にとは言わないけど」

まどか「えっと……うん。大丈夫だよ。寄り道?」

ほむら「うん。お買い物に付き合って欲しいなって思って」

ほむら「食材を買って帰りたいんだけど……」

まどか「もちろん大丈夫だよっ!」

ほむら「本当?ありがとう。鹿目さん……」

まどか「ううん。気にしないでっ」

まどか「じゃあ行こっ」

ほむら「うん」


464: 2012/12/28(金) 11:31:11.87 ID:w6fA4+mN0

――
――――

日は暮れかけ、電灯の点いていない部屋が薄暗くなってきた頃。

さやかはベッドの上で膝の臭いを嗅ぎながらブツブツと独り言を呟いていた。

マミからは落ち着いて考え直すよう言われたが、それは無理だと思った。


さやか「…………」

さやか「何なんだよ……何なんだっていうんだよ……」

さやか「あたしの願いなんだから……」

さやか「あたしの素質なんだからどう願おうがいいじゃないか」

さやか「……あたし、言い過ぎたのかな」

さやか「いや……何を願ったのか隠す理由って何なの?」

さやか「やましいことがあるに違いない……」

465: 2012/12/28(金) 11:32:43.12 ID:w6fA4+mN0

さやか「……ああ、ムカつく」

さやか「転校生のヤツ……」

さやか「人の気も知らないで、知った風なことを言いやがって」

さやか「結局、見舞う側の気持ちなんかわかっちゃいないんだ」

さやか「転校生も……恭介も……」

さやか「…………」


「やぁ、さやか」


さやか「…………キュゥべえ」


見慣れた白い体が、逆行で黒く見えた。

466: 2012/12/28(金) 11:33:26.92 ID:w6fA4+mN0


――同時刻


ほむら「ご、ごめんね。鹿目さん」

まどか「え?」

ほむら「結構暗くなるまで付き合わせちゃって」

まどか「ううん。大丈夫だよ」

まどか「だからって早歩きにならなくていいんだよ」

ほむら「あ、そ、そう?」

ほむら「でも、ご両親に心配かけちゃうだろうから、帰ろう」

まどか「うん」

467: 2012/12/28(金) 11:35:30.42 ID:w6fA4+mN0


仁美「あら……鹿目さん、暁美さん……ご機嫌よう」

まどか「あ、仁美ちゃん」

仁美「お買い物ですか?」

ほむら「はい。鹿目さんに付き合ってもらって。今はその帰りです」

仁美「仲がよろしそうで何よりですわ」

まどか「……あれ?」

まどか「仁美ちゃん、今日お稽古じゃなかったっけ?」

仁美「そうですねぇ。大丈夫ですわ」

仁美「……お二人とも、これから良いとこに行きませんか?」

ほむら「良いとこ?」

468: 2012/12/28(金) 11:36:32.31 ID:w6fA4+mN0

仁美「一緒に行きましょう?」

まどか「帰るのが遅くなっちゃうよ」

仁美「大丈夫ですよぉ。楽しいですよぉ」

ほむら(……?何か、志筑さん……違和感、というか……)

ほむら「――ッ!」

ほむら「か、鹿目さん……!」

まどか「?」

ほむら「し、志筑さんの首……」

まどか「へ?……あッ!?」

まどか「魔女の口づけ……ッ!」


469: 2012/12/28(金) 11:39:06.67 ID:w6fA4+mN0

まどか「ど、どうしよう!」

ほむら「魔女の口づけは、その魔女を倒さないといけない……」

仁美「行きましょうよぉ」

まどか「うぅっ……こ、この力……!?」

ガシッ

仁美は二人の手首を掴んだ。

その力は女子中学生の握力ではない。


まどか「ほ、ほむらちゃん、どうしよう……」

ほむら「…………」

ほむら「と、取りあえず、志筑さんについていこう」

仁美「まぁ、流石暁美さん。聡明なご判断ですわ」

470: 2012/12/28(金) 11:41:27.43 ID:w6fA4+mN0

まどか「……大丈夫なの?」

ほむら「魔女の口づけが付いているということは、その良いとこってのは魔女のとこかも……」

ほむら「蓋然性は高いよ……それに……」

ほむら「魔女の口づけは魔女を倒さないと決して消えない。早くしないと手遅れになっちゃう」

ほむら「だから、魔女が現れたら私が相手をする」

まどか「う、うん」

ほむら「一応、巴さんにも電話で助けを呼ぼうと思ったんだけど、ケータイ繋がらなくて……」

まどか「繋がらないの?っていうかいつの間に?」

ほむら「うん。巴さんの家の番号は覚えてないから……テレパシーもここまで離れると……」

ほむら「後でまたかけてみるけど魔女が現れたらきっと来てくれるから、厳しそうなら時間を稼ぐ」

ほむら「私のことは心配いらないから……鹿目さんは先に……」

471: 2012/12/28(金) 11:45:35.87 ID:w6fA4+mN0

仁美「鹿目さんは、用事でもあるのですか?」

ほむら「そうみたいなので、私が……」

まどか「……ううん。大丈夫だよ」

ほむら「か、鹿目さん!?」

仁美「多い方が楽しいですわ」

まどか「ほむらちゃんにばっかり……大変な思いさせたくない」

ほむら「危険すぎるよ!ダメだよ!」

まどか「わたしには……いざって時にはスタープラチナがあるよ」

まどか「仁美ちゃんを助けなくちゃ……!」

ほむら「でも…………」

まどか「ほむらちゃんにもしものことがあったら……わたし……!」

ほむら「鹿目さん……」

ほむら「…………うん。一緒に行こう」

まどか「ほむらちゃん……!」

ほむら(……確かにスタープラチナは強い。それに、いざって時には時間を止めれば何てこともない……!)

472: 2012/12/28(金) 11:47:17.59 ID:w6fA4+mN0


仁美は、そのまま二人を、町外れの廃工場へ招いた。

西日が入ってきていないため、内部は薄暗い。

三人の足音がコツン、コツンと響く。

荷物はほむらの盾に入れた。


仁美「あら?暁美さん。いつの間に着替えたんですか?」

まどか「ねぇ、仁美ちゃん……ここって」

仁美「え、あぁ……ここに、皆さんと待ちあわせをしておりますの」

ほむら「皆さんって?誰もいませんけど……」

仁美「もうすぐ来ますわ……私は、このパーティのリーダーですわ」

ほむら(リーダー?)

仁美「さぁ、どうぞ……座ってください」

まどか「じ、地べたに直接……?」

ほむら(魔女は……どこから現れるんだろうか)

473: 2012/12/28(金) 11:48:24.88 ID:w6fA4+mN0


まどか「……?」

まどか「何、これ……?」

ほむら「どうしたの?鹿目さん」

まどか「これ、落ちてた」

ほむら「……何かの容器?」

ほむら「ラベルが汚れてて……読みづらい」


まどかが拾った容器のような物は、廃工場内そこら中に落ちていた。

大きめの容器、その口部分は何やら濡れていて、ヌルヌルしている。


ほむら「……業務用洗剤?」

474: 2012/12/28(金) 11:49:28.20 ID:w6fA4+mN0

まどか「洗剤?」

仁美「あぁ……それですか」

まどか「仁美ちゃん」

仁美「これは重要アイテムみたいなものですわ~」

ほむら「何に……使うの?」

仁美「皆さんが来てからの、お・た・の・し・み。ですわ」

仁美「パーティグッズのようなものです」

ほむら「……?」

まどか「…………」

まどか「……あ!」

ほむら「え、ど、どうしたの?」

475: 2012/12/28(金) 11:51:05.56 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほむらちゃん……あれ……!」

ほむら「あれ?」

まどか「そこのバケツの隣にある……」

ほむら「……容器?」

まどか「ウチでも同じの使ってる……」

ほむら「使ってるって……」

まどか「確か、塩素系だった……」

ほむら「……もしかして!」

ほむら「あのバケツの中は……洗剤?!」

まどか「も、もしかしたら……混ぜたら危険……!」

ほむら「……!」

476: 2012/12/28(金) 11:52:22.73 ID:w6fA4+mN0

ほむら「鹿目さん!手を!」

まどか「えっ!?」

ほむら「手を握って!」

まどか「う、うん……!」

カチッ

ほむら「時間を止めた……」

まどか「え?え?」

ほむら「私に触れることで、時の止まった世界に入れる」

まどか「何か……すごい。本当に仁美ちゃんが止まってる……」

ほむら「……この洗剤とバケツの洗剤」

ほむら「……やっぱり酸性だね。混ぜると塩素ガスが出る……」

まどか「……!」

477: 2012/12/28(金) 11:54:41.79 ID:w6fA4+mN0

ほむら「つまり、魔女がこれで集団自殺をさせようとしてる」

ほむら「だから……鹿目さん」

まどか「……うん!」

まどか「スタープラチナッ!」


「ウオオオオォォォォォ!!」

まどかの背後に現れたスタープラチナは大きな声を発しながら、洗剤の入ったバケツを一滴も零さないように投げた。

窓から飛び出し、どこへ飛んでいくかはわからないが、少なくとも塩素ガスの発生を防いだ。


まどか「洗剤を放り投げた……これで大丈夫だね」

ほむら「うん……時は動き出す」


仁美「…………」

仁美「……あら?」

仁美「いつの間に、二人とも……」

478: 2012/12/28(金) 11:56:32.56 ID:w6fA4+mN0

仁美「……?」

仁美「……あの、さっきまでそこにあったバケツ、知りません?」

仁美「…………知りません?」

まどか「あのバケツなら、わたしが遠くへやったよ」

仁美「……何故?」

まどか「何故って!危ないから……」

仁美「人が氏ぬ程度に危なくないといけないんですが」

ほむら「やっぱり、魔女に操られて……」

仁美「…………」

仁美「どうして……ですの?」

仁美「よくわからないのですが……質問をします」

479: 2012/12/28(金) 11:58:58.06 ID:w6fA4+mN0

仁美「何故、邪魔をするのですか?」

まどか「じゃ、邪魔って……」

仁美「あなた達英雄になろうとしているのかしら?」

仁美「それとも命を大事にとでも言うつもり?」

仁美「やめてください……あなた達なんかの薄っぺらな『倫理』などどうでもいいことです」

まどか「仁美ちゃんッ!目を醒ましてッ!」

ほむら「鹿目さん……今の志筑さんには何を言っても無駄だよ……!」

仁美「あなた達は私達の『幸せ』を邪魔している。今……『女神』が迎えにくるの……」

仁美「この人間世界の『平和』と『幸福』は、くだらない人間同士の手と手を取り合った偽善なんかで成り立たない」

仁美「『女神』が魂を救うことで始まる……それをあなた達は邪魔している」

仁美「女神は、何の苦痛もなく幸せの世界へつれてってくれるそうですわ……」

480: 2012/12/28(金) 12:02:34.81 ID:w6fA4+mN0

仁美「女神は、私の持つ『能力』を見込み……私は選ばれました」

まどか「え……?」

仁美「天国は目の前にあるのですわ。あなたも、行きましょうよ……」

仁美「イヤだと言うのなら、集合時間までにあなたを『説得』するまでですわッ!」

まどか「のう……なんだって?」

ほむら「ま、まさか!志筑さっ……!」


ズォォォォォッ!


まどか「うあッ!?ま、眩し……ッ!?」

まどか「な、何……?今、何かされた……?」

まどか「…………え?」

まどか「う……そ……!?」


薄暗い廃工場は、突如として明るくなった。

まどかは目を瞑った。

そして目が慣れてきて、理解した。

481: 2012/12/28(金) 12:05:16.43 ID:w6fA4+mN0

明るくなったのではない。

正確には、廃工場という空間が別の空間に置き換わっていた。

壊れた階段。錆びたポスト。イチジクの実のようなダークピンク色をした空。

枯れた紫陽花。二次関数グラフの落書き。デフォルメされた天使のイラスト。

廃墟の街並み。隆起した穴のあいた断層。


まどか「この結界は……!ええと……なんだっけ……」

まどか「そう!引力の魔女レイミの……!ま、まさか……あの魔女だったの!?」

まどか「ほ、ほむらちゃんッ!」

まどか「……ほむらちゃん?」

まどか「ほむらちゃん!」

まどか「どこ!?どこに行ったの!?」

まどか「ひ、一人にしないでッ!」

「Oyuriinokok」

まどか「ッ!」

482: 2012/12/28(金) 12:05:58.47 ID:w6fA4+mN0

壊れたラジオの音声を逆再生したかのような不快な音。

黒いマントを羽織ったマネキン。

いつの間にか、まどかのすぐ側に使い魔がいた。


まどか「ひ、ヒィッ!」

まどか(つ、使い魔……!)

まどか(いつの間に……!いつの間にこんな近くにッ!)

まどか(どうしよう……!)

まどか(ほ、ほむらちゃんはいないし……!)

まどか(わ、わたし一人じゃ……)

使い魔「Onatiihsuod――nasemanak」

まどか(……いや、違う。わたしは、一人じゃない!)

まどか(わたしは、怯えに来たんじゃないッ!)

483: 2012/12/28(金) 12:08:51.18 ID:w6fA4+mN0

使い魔「Akotukakneg――akasam」

まどか「スタープラチナ!」

「オラァッ!」

ドガァァッ

使い魔「――!」

ドサッ!

まどかのスタンド。スタープラチナが使い魔の顔面を殴った。

まどかは水を熱湯に変えるスタンド使いが来た時以降、スタンドをあまり使っていなかった。

その有り余る程強いパワーを使う機会が、日常生活の上で全くないためである。

最後に使ったのが二日程前。その器用さと速さを活かし、ゆまのためにぬいぐるみを自作して以来。

殴られた使い魔は十メートル程吹き飛んだ。

484: 2012/12/28(金) 12:10:55.41 ID:w6fA4+mN0

まどか「よ、よしっ!わたしでも戦えるっ!」

まどか「使い慣れてないからか……全力って訳でもないけど……!」


仁美「乱暴なことをなさるんですね……」

まどか「ひ、仁美ちゃん!」

まどか「仁美ちゃん!目を醒ましてッ!」

まどか「この結界から逃げてッ!……あ、いや、一人にするのも危険かな……やっぱわたしの側を離れないで!」

仁美「まさか……鹿目さんまで私と『同じような能力』を……!」

まどか「え?仁美ちゃん、今……何て……」

仁美「大丈夫ですか?暁美さん」

まどか「ほ、ほむらちゃん!?どこ!?どこにいるの!?ま、まさかケガを……!?」

まどか「ほむらちゃん!どこに――」

まどか「……え?」

まどか「あ……ああ……!そ……そ、そんなッ!そんなッ!」

485: 2012/12/28(金) 12:12:49.08 ID:w6fA4+mN0

一瞬目を離した隙に、吹き飛ばされた使い魔の黒いマントの形が変わったように見えた。

白と黒の二色でしか構成されていなかった、人型の使い魔の姿が、実際に変わっていた。

肌色が見える。紫のスカートとリボンが見える。赤い眼鏡と黒い銃。灰色の盾が見える。

まどかは殴り飛ばした対象が何か理解した。ほむらだった。まどかは全力で走り寄った。


まどか「『ほむらちゃん』ッ!」

まどか「ほむらちゃん!目を開けて!」

まどか「うぅ……き、気を失ってる……!脳震盪か何かを起こしたからだ……!」

まどか「ど、どうして……!?ほむらちゃん!」

まどか「……か、考えたくもないことだけど」

まどか「この真っ赤な顔……まさか……いや、やっぱり……」

まどか「わたしが……『殴った』?」

まどか「嘘……そ、そんな……確かに、確かにスタープラチナは使い魔を……!」

まどか「あの声はあの使い魔の声だったし……ぎこちない動きもそうだった……」

まどか「そんな……そんな!」

486: 2012/12/28(金) 12:15:34.61 ID:w6fA4+mN0

一瞬目を離した隙に、吹き飛ばされた使い魔の黒いマントの形が変わったように見えた。

白と黒の二色でしか構成されていなかった、人型の使い魔の姿が、実際に変わっていた。

肌色が見える。紫のスカートとリボンが見える。赤い眼鏡と黒い銃。灰色の盾が見える。

まどかは殴り飛ばした対象が何か理解した。ほむらだった。まどかは全力で走り寄った。


まどか「『ほむらちゃん』ッ!」

まどか「ほむらちゃん!目を開けて!」

まどか「うぅ……き、気を失ってる……!脳震盪か何かを起こしたからだ……!」

まどか「ど、どうして……!?ほむらちゃん!」

まどか「……か、考えたくもないことだけど」

まどか「この真っ赤な顔……まさか……いや、やっぱり……」

まどか「わたしが……『殴った』?」

まどか「嘘……そ、そんな……確かに、確かにスタープラチナは使い魔を……!」

まどか「あの声はあの使い魔の声だったし……ぎこちない動きもそうだった……」

まどか「そんな……そんな!」

487: 2012/12/28(金) 12:18:38.69 ID:w6fA4+mN0


仁美「これが私の……悪魔の手の平で手に入れた……」

まどか「ッ!」

仁美「生き延びた報酬……!」

仁美「名を冠するなら『ティナー・サックス』ッ!」

まどか「ティナー……」

まどか「まさか……」

まどか「仁美ちゃん……『スタンド』をッ!」

仁美「あなたが見たのは『幻覚』……五感に語りかける擬似リアリティ」

仁美「幻覚を暁美さんの上に『被せ』た……」

仁美「だから、鹿目さん。あなたは暁美さんが『それ』に見えたのです」

まどか「……!」

仁美「暁美さんも同じ景色を見ていました。ですが、彼女にはあなたが急にイカれて殴ったように見えたはずですわ」

まどか「う、うぅ……!」

488: 2012/12/28(金) 12:19:27.01 ID:w6fA4+mN0

仁美「女神のおかげで……パワーアップしたというところでしょうか」

仁美「この空間は、私の支配下……」

仁美「私が望めば、私の知る範囲で、想像ができる範囲で全てを疑似体験ができますわ……」

仁美「そして、あなたのように……『敵』とする方がおられるのなら……」

仁美「見せましょう!志筑仁美のナイトメアッ!」

まどか「す、スタープラチナ!警戒してッ!」

仁美「これは私が見た景色の再現ッ!」

仁美「使い魔と仰いましたね?使い魔と一括りするのも味気ない……名前をつけましょう」

仁美「キャメロン!マーチン!バージニア!ドルチ!マイク!鹿目さんを捕獲なさい!」

489: 2012/12/28(金) 12:23:05.52 ID:w6fA4+mN0

仁美の背後の建物から、五体、黒マントのマネキンが現れた。

一直線にまどかに向けて歩いてくる。


まどか「スタープラチナ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ほむらを庇いながら、スタープラチナは拳のラッシュを放つ。

仁美の作り出した幻覚の使い魔は五体とも難なく突き飛ばされた。


仁美「……!」

仁美「強い……そして速い……!」

仁美「まさか……優しい鹿目さんがこんなパワー型のスタンド……ですか?能力を……!」

仁美「……ああ、もう。鹿目さん」

490: 2012/12/28(金) 12:24:46.61 ID:w6fA4+mN0

仁美「あなた達が台無しにしてくれたものだから……」

仁美「女神が痺れを切らしてしまったようですわ……」

まどか「……え?」

仁美「ああ……不甲斐なくて申し訳、ない、です……」

まどか「仁美ちゃん!?」


仁美はそう呟いて、ドサリと倒れた。

その瞬間、ティナー・サックスの幻覚の世界は解除される。

ダークピンクの世界は、廃工場の薄暗い灰色――ではなく、水の中のような明るい青い世界に染まった。


まどか「えっ……!?」

まどか「こ、これは……!」

まどか「『別』の結界ッ!?」

まどか「こ、これが……本物。仁美ちゃんを操っていた……」

491: 2012/12/28(金) 12:26:34.90 ID:w6fA4+mN0

そこにいたのは、パーソナルコンピューターのような姿をした魔女。

液晶にはツインテールの少女のシルエットが映っている。


まどか「ま、魔女……!」

まどか「どうしよう……」

まどか「ほむらちゃんは、気絶させちゃったし……」

まどか「や……やるしかないッ!やらなきゃやられるッ!」

まどか「ス、スタープラチ……」

魔女「――――」

まどか「…………うっ」

まどか「うぐっ……くっ……!」

まどか「あ、頭が……胸が苦し……い……?」

まどか「う、うぅぅ……!」

まどか「そ、そんな……そんなこと……」

まどか「あああ……ああ!」

492: 2012/12/28(金) 12:30:24.92 ID:w6fA4+mN0

モニターに、ある映像が映し出された。

その映像の一場面一場面が、まどかの心を抉り傷つける。

大人に叱られたこと。友人に嘘をつかれたこと。他人に嫌がらせをされたこと。

人を憎らしく感じたこと。友を妬んだこと。己が悲しんだこと。


公園で遊んでいると大きな昆虫を踏みつぶした時の景色。

固い甲殻を砕く感触と柔らかい内臓を押し出していく光景。

寝ている野良猫にこっそり近づいて驚かせてしまい、道路に飛び出した猫が少し離れた場所で車に轢かれた映像。

薄汚れた体をブチ破り飛び出された内臓。吹き飛んだ眼球を対向車線の軽自動車が踏みつぶした瞬間。


そしてたった今、意図しなかったとは言え、ほむらを攻撃してしまった罪悪感。

スタープラチナの拳が、ほむらの頬を殴った瞬間を、コマ送りで見せつけられた。

みるみると力が込められ忍苦に歪んでいく友人の表情。

頬骨が割れる音、もの凄く軽い感覚、滲む涙、鼓膜を揺さぶる悲鳴。

ティナー・サックスで目視できなかったことを、改めて見せつけられる。

493: 2012/12/28(金) 12:32:45.45 ID:w6fA4+mN0


その他、多くの嫌な記憶を、トラウマを脳内に直接見せられる『追体験』をさせられた。

脳が内側から頭蓋骨を押し破ろうとしているような、圧迫感のある頭痛。

それが、この魔女の力。トラウマを呼び起こし人の精神を蝕む。

仁美のスタンド、ティナー・サックスと性質が近い。

映像を見せられているだけでこのリアリティー。

むしろティナー・サックスの力が合わさっていると考えた方が自然だった。


まどか「あ……ああ……い、い、や……!」


その場で腰を落としてしまったまどかは、隣で倒れているほむらを揺さぶる。

ほむらは反応しない。悪夢を見ているかのように、その寝顔は曇っている。

脳震盪を起こしたからか、魔女の力なのか、最早まどかには、気絶の理由を判別できない。

494: 2012/12/28(金) 12:33:51.40 ID:w6fA4+mN0

まどか「起きて……ほ、ほむらちゃん……」

まどか「痛いよ……頭が……割れそうに痛いの……お願い……」

まどか「ほむらちゃん……!」


スタンドは精神力。自身の魂で動かしているようなもの。

魔女の魔力を浴びて精神が一時的に衰弱したまどかにスタープラチナを操る力はない。

例え、操れたとしても、再び騙されてほむらを殴るのではないかという畏怖が戦意を沸かせない。


まどか「だ、誰……か……助……け……!」

まどか「う……ぅ……」


ザシュッ!

495: 2012/12/28(金) 12:36:39.32 ID:w6fA4+mN0

魔女「――!」

まどか「て……?」

「うああああありゃあああああッ!」

ズバッ

まどか「な、何……?」

まどか「こ、この声……」

まどか「さやかちゃんッ!」


白いマントを揺らし、剣で魔女を斬る魔法少女。

まどかはその顔を知っている。

さやかはその剣で魔女を真っ二つに断ち割った。

――戦いは一瞬だった。

魔女の結界は解除された。

496: 2012/12/28(金) 12:40:15.07 ID:w6fA4+mN0

さやか「ふぅ……」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「何だい。転校生。気を失ってら……ハハ、情けないなぁ」

さやか「仁美までいる……何があったんだ?」

さやか「まどか。どうなったのか説明してくれる?」

まどか「そ、その格好……!」

さやか「あはは……うん。そうだね」

さやか「契約、しちゃったよ」

まどか「…………」

さやか「それで?転校生は何だってまどかと仁美ほったらかしで倒れてんのさ」

まどか「……そ、それは」

まどか「仁美ちゃんがナイトメアで魔女の口づけはスタープラチナと引力の魔女をスタンドのティナー・サックスで……」

まどか「わたしのせいなの……わたしのせいでほむらちゃんが……」

さやか「……ごめん。あたしにもわかるよう、もうちょっとわかりやすく……」

497: 2012/12/28(金) 12:42:23.17 ID:w6fA4+mN0



「まどかお姉ちゃん!ほむほむ!」


さやか「ん?」

まどか「あ!ゆまちゃん!」

ゆま「ハァ……ハァ……だ、大丈夫だった!?」

まどか「う、うん……でも、ほむらちゃんが気を失っちゃって」

ゆま「ほむほむ……!」

さやか「何だか、タイミングがアレだったねぇ」

ゆま「ッ!」

498: 2012/12/28(金) 12:43:21.00 ID:w6fA4+mN0

ゆま「さ、さやか……!」

さやか「…………」

ゆま「契約……しちゃったの……?!」

さやか「……うん」

ゆま「ど、どうして……マミお姉ちゃんが、よく考えてって言ったのに……」

さやか「いやぁ……へへ、どうにも、抑えきれなくて」

ゆま「どうして……さやか……!」

ゆま「…………」

ゆま「さやかの馬鹿ッ!」

さやか「えっ」

まどか「ゆ、ゆまちゃん……」

499: 2012/12/28(金) 12:44:14.26 ID:w6fA4+mN0

ゆま「どうしてマミお姉ちゃんの電話を無視したのッ!」

ゆま「どうしてほむほむの話も!マミお姉ちゃんの話すらも!無視しちゃうの!」

まどか「電話?」

まどか(マミさん、さやかちゃんと電話してたんだ……だから電話が繋がんなかったんだ)

さやか「で、電話……」

さやか(……その時は、その時はどうせマミさんは転校生の肩を持つに決まってるって……そう思ったからだ)

さやか(マミさんに、怒られる気がしたからだ。そして……怖かったからだ)

さやか(キュゥべえに、契約をチラつかせられて……その気になってたのにマミさんに何か言われて……)

さやか(色々言われて恭介の腕を治す決意が揺らいでしまいそうで怖かったからだ……)

さやか「……ごめん」

ゆま「……あのね、マミお姉ちゃんが言ってたの」

500: 2012/12/28(金) 12:44:58.01 ID:w6fA4+mN0

ゆま「ほむほむはね……マミお姉ちゃんと出会う前に、お友達がいたの」

ゆま「魔法少女のお友達……」

ゆま「だけど……氏んじゃったんだって……」

まどか「……!」

さやか「え……」

ゆま「ほむほむはね、自分が弱いからって、一人で頑張ろうとしてたの」

ゆま「もう、友達が戦いで氏んじゃうの嫌だから……」

ゆま「それでマミお姉ちゃんと出会って……今のほむほむがいるの」

ゆま「ほむほむは……ほむほむは、苦しみたくないから……!」

ゆま「巻き込みたくないから……!お友達を失いたくないから……!」

ゆま「だから、さやかを契約させたくなかったんだって……!」

まどか「……そ、そんなことが……ほむらちゃん……」

501: 2012/12/28(金) 12:46:25.64 ID:w6fA4+mN0

まどか「……辛かったんだね……そんな様子、全然見せなかったのに……」

まどか「隠してたんだね……わたし達に気を使わせちゃうって……」

まどか「きっと……いや、絶対に気を使っちゃうよ……うぅ、ほむらちゃん……!」

ゆま「それなのに……さやか……!」

さやか「…………」

さやか「……そっか」

さやか「転校生、そんなことがあったんだ……」

さやか「だから、あんな風に、あたしを巻き込みたくなくて……」

さやか「願いを秘密にしてた理由は……きっとその氏んだ友達に関係してたんだ」

さやか「だから言いたくなかったんだ……」

さやか「あんたは多分、その人が氏んでるってことを隠すだろうね」

さやか「そしたらあたし、きっとその友達のことを無神経に聞くわ……。どんな子だった?今どこに居る?って」

さやか「転校生に、悲しい思いをさせかねなかったんだ……」

さやか「……正直、この話を聞かされて今後どう接してやればいいのかわからない部分もある」

502: 2012/12/28(金) 12:47:47.04 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……」

さやか「……ほむらのこと、誤解してたかも」

さやか「あたしって、ほんと馬鹿」

ゆま「……もう、遅いもん」

さやか「うん。そうだね……」

さやか「でもね……ほむら。あたし、今、すっごい心が安らいでる」

さやか「あたしでも、人を助けることができた。とっても嬉しいの」

さやか「特に、親友のまどかと仁美……そして、あんたを救えることができた」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「ほむら……」

503: 2012/12/28(金) 12:48:27.18 ID:w6fA4+mN0

さやかはほむらの頭に優しく手を置いた。

先程まで辛苦を浮かべていた表情は解消され、平穏な寝顔になっている。


さやか「あんたもあたしの嫁だ……!」

ゆま「さやか何言ってるの?女の子同士はケッコンできないよ」

さやか「ぐっ、ま、真面目に返された……!」

さやか「と、とにかくっ!」

さやか「後悔なんて、あるわけない……!」

504: 2012/12/28(金) 12:49:01.88 ID:w6fA4+mN0

さやか「……さて!と」

さやか「あたしはそこでぶっ倒れてる仁美を送ってくよ」

さやか「これから、ほむらとどう接してやろうか考えないといけないからね」

さやか「ゆまちゃん、マミさんにゴメンなさいって言っておいて!」

ゆま「……直接言ってよ」

さやか「わ、わかったって……でも、反省してるってだけは伝えて?お願い」

まどか「……あれ?」

まどか「そういえばゆまちゃん」

ゆま「なぁに?」

まどか「マミさんは?一人で来たの?」

ゆま「途中まで一緒だったよ」

さやか「別の結界が出来たとか?」

ゆま「ううん、何だか『キャー空から洗剤が降ってきた』とか言ってどっか行っちゃった」

さやか「は?洗剤?」

まどか「…………」

505: 2012/12/28(金) 12:52:52.31 ID:w6fA4+mN0


ティナー・サックス 本体:志筑仁美

破壊力 ― スピード ―  射程距離 B
持続力 B 精密動作性 E 成長性 C

『幻覚』を見せるスタンド能力。その性質は「逡巡」
実際に見た光景を再現、現実にあり得ないような光景を作り出す。
幻覚に捕らわれた相手は五感の全てで錯覚に陥る。
幻覚は「空間」に作用するため精密動作性は低い。
しかし、魔女の力と共鳴し一度だけ「個人」を対象にした幻覚を作れた。
仁美が抱いている心の迷いが反映されて発現したと思われる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

506: 2012/12/28(金) 12:55:17.45 ID:w6fA4+mN0
うわ長い。今回はここまで。

杏子の魔法と丸被りであっさりやられたティナー・サックスです。
ほむらがプッツンするシーンは個人的にちょっとアレなのですが、まぁサラっと流してください
幻覚を被せるって何?ってなると思われますが、まぁサラっと流してください

ちなみに仁美のネーミングの元ネタ
キャメロン:アウトローマンの馬の名前
マーチン:バオー来訪者の敵の名前
バージニア:バージニアによろしくの爆弾の名前
ドルチ:ドルチ ~ダイ・ハード・ザ・キャット~
マイク:武装ポーカーのビーフシチュー食べましたの人


今夜再開します

507: 2012/12/28(金) 14:44:33.63 ID:HUGl6nECo
鎧の魔女「……」



引用: 織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」