712: 2012/12/29(土) 23:56:02.31 ID:JeiFXyZo0

織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その1】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その2】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その3】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その4】




#13『シビル・ウォー』


――図書室


さやか「くそっ、杏子め……図書室なんかに逃げ込みやがって……!」

さやか「……多分、これは罠だ。あたしは誘い込まれたんだ」

さやか「だが、あいつは許せない……!あたしだってスタンド使いだ。やれるんだ……!」

さやか「しかし、図書室か……」

さやか「来るのは初めてってわけじゃないけど……ほぼ未知の空間と考えていい」

さやか「どの本棚に隠れれば、どの角度なら見えないか……思いの外入り組んでいるからな……」

さやか「……」

さやか「ダンテの神曲、ああ無情」

さやか「成る程、図書館らしい難しそうな本が本棚ぎっしりだ」

さやか「頭が痛くなってくる」

さやか「……ん、テーブルの上にノートが……誰かの忘れ物かな」
もう誰にも頼らない
713: 2012/12/29(土) 23:57:30.08 ID:JeiFXyZo0


「ようこそ、来訪者」

さやか「ッ!佐倉杏子ッ!」


本棚の上で胡座を掻き面倒そうに座っている杏子。

それを憎悪と怒りを込めた目で睨みつけるさやか。


杏子「よっと」

シャン!

スタッ

グゥゥン

バァーン!

杏子「そういうあんたは美樹さやか」

杏子「猪突猛進に追ってきたな。クールじゃない。……馬鹿丸出しだぞ」

714: 2012/12/29(土) 23:58:41.15 ID:JeiFXyZo0

さやか(こっ、こっ、こいつ……こっ、こいつがッ!)

さやか(こんなヤツが……!仁美を……恭介を……みんなを……!)

さやか(目の前にいるこの女がッ!あたしの目の前にいるこの女がッ!)

さやか「うおおおおおおあああああァァァァァッ!」

ダッ

杏子「……突っ込んでくるか」

杏子「と、いうことは近距離型のスタンド、といったとこか……?」

杏子「いや、固有武器が剣ということもあるし、そうだと決めつけるのは早いか」

杏子「おっと、危ねェ、ッとォ」


余裕を見せつけて相手の神経を逆撫でするような声を出した。

そのまま杏子は本棚の影に隠れる。

715: 2012/12/29(土) 23:59:39.80 ID:JeiFXyZo0

さやか「逃がすかァァッ!」

さやか「オラァッ!」

バキッ!

杏子「あッ!?」


さやかは本棚に剣を突き立てた。

杏子側、本棚から刃が突き出してきて、剣が杏子の腕の肉を斬る。

ザシュッ!

杏子「ぐあっ!?」

さやか「よし!当たった!」

杏子「ほ、本棚越しごと貫いて攻撃してくるとは……」

杏子「てめぇ……!物は大切にしろって学校で習わなかったのか!?」

さやか「虫のいいことを言ってるんじゃあないぞッ!この人でなし!」

さやか「まずは一撃!ガンガンいっ――」

バサリ

さやか「……ん?」

716: 2012/12/30(日) 00:01:17.07 ID:c1541ufP0

本棚を貫いた剣を引き抜いた際、何冊かの本が床に落ちた。

さやかはその中の一冊が目に入る。


さやか「あ、この本……」

さやか(……懐かしい。この絵本……『人魚姫』)

さやか(小学校二年……いや一年の時だったかな?もういらないって……捨てた覚えがある)

さやか(まどかや仁美と一緒に、読み合ったっけ……懐かしい)

さやか「……こんな時に何考えてんだろう。あたし」

さやか「その仁美も殺されたっていうのに……ちくしょう……!」

さやか(い、今は……悲しんでる場合じゃあないな……)

さやか(やれやれ、こんなのも置いてたんだな……)

さやか(図書室なんて行かないから知らなかっ……)

さやか「…………え?」

717: 2012/12/30(日) 00:02:45.25 ID:c1541ufP0

さやか「いやいやいや……え?」

さやか「おかしいよ……何でこの本棚からこれが出てくる……?」

さやか「だってこの本棚……『辞書コーナー』って書いてある……」

さやか「国語辞書とか英語辞典とかもちゃんとある……」

さやか「図書委員が間違えた……?いや、これは間違えないだろう……」

さやか「っていうか……それよりも何で……」

さやか「何で子どもが読むような『絵本』が『中学校の図書室』にあるってのさ……小学校ならまだしも」

さやか「……嘘?」

さやか「ピ……ピノキオ、白雪姫、赤ずきん、七匹の子ヤギ、ピーターパン」

さやか「何で中学校の辞書コーナーに絵本が充実してるんだよ……?」

さやか「まさか……幻覚の能力?」

さやか「いや、こ、こんな幻覚見せて……一体何になるっていうんだ?」

718: 2012/12/30(日) 00:04:33.49 ID:c1541ufP0

ヒラリ

さやか「……ん?何か落ちた?」

さやか「……ポストカード?」

さやか「おおっ!?竹久夢二か!?これ!マジィ!?いやポストカードだけど」

さやか「確かこれに似たようなの貰ったことあるような気がする……随分と昔」

さやか「異常すぎるぞ……この図書室……何かヤバイ……!」

スッ


杏子「あたしならそれに触れない」

さやか「ッ!?」

ブアッ

瞬間、ポストカードが磁石のように、ベタンとさやかの近づけた手に張り付いた。

そしてそれは皮膜のように形状を変化させ、手を覆い、締め付け始めた。

719: 2012/12/30(日) 00:05:15.92 ID:c1541ufP0

さやか「う、うおおッ!?た、竹久夢二が!」

さやか「手がッ!手が締め付けられているッ!?」

さやか「な、何だっ!?あたしに何が起こっているんだッ!?」

さやか「う、うわッ!」

ドタンッ

さやかは思わず尻餅をついた。


さやか「っつ~……!」

さやか「ん?」

バサバサッ コトンッ

その衝撃からか、本棚から先程の絵本がさやかの上に落ちてきた。

 ドパァァン!

すると、その絵本も同様に、さやかの体に触れる度に皮膜へと変化し、巻き付いた。


さやか「うおおおおおッ!?」


720: 2012/12/30(日) 00:06:04.73 ID:c1541ufP0

さやか「な、なんだこの『膜』はッ!?し、締め付けられる!?全身がァッ!」

さやか「か、体の自由が、効かないッ!ち、ちくしょ!どうなってんだッ!?」

杏子「さっきからうるさいヤツだな……」

さやか「杏子……!」

杏子「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない」

杏子「それとも……『拾って』帰るか……?さやか」

さやか「な、何を……」


杏子は腕を庇いつつ、本棚の影から姿を現して言う。

本棚のあいたスペースから、依然何かがボロボロと落ちてくる。

明らかに、そのスペース以上の体積分落ちてきている。


杏子「どれ……?」

杏子「余白たっぷりのノート。小学生時代の教科書。10点満点中2点の小テスト。ちっこい消しゴム。ふむふむ……」

721: 2012/12/30(日) 00:07:10.33 ID:c1541ufP0

杏子「あんたも色々捨ててきたんだな。ま、それが人間だ」


杏子はボロボロの藁半紙を丸めてさやかに投げる。

やはりそれも、さやかに触れた途端皮膜に変化し、圧迫する。


さやか「が……つ、潰される……!」

杏子「これがあたしのスタンド……『シビル・ウォー』だ」

さやか「スタンド……!」

杏子「まず、擬似的にでもいいから図書室とか廃教会の中とか……屋内に『結界』を設定する」

杏子「で、このゴミは結界が見せる幻覚であり、あんたが『捨てた事実』でもある」

杏子「スタンドは精神のエネルギー。精神は肉体。表裏一体の関係……」

杏子「精神への攻撃は肉体への攻撃。罪悪感がその身を滅ぼす」

杏子「物理的な痛みであり抽象的な苦しみだ」

杏子「『捨てたもの』で押しつぶす。それが我がシビル・ウォー」

722: 2012/12/30(日) 00:07:56.15 ID:c1541ufP0

佐倉杏子の能力――シビル・ウォー。

閉鎖的な空間で発動する。

標的が今までに「捨ててきた物」の幻覚を見せる。

幻覚に触れると、それは皮膜のように変化して、標的を包み『圧縮』する。

スタンドが傷つくと本体も傷つく……。

精神が押しつぶされれば肉体も押しつぶされるのだ。その逆も然り。

罪悪感という精神的ダメージを肉体的ダメージに変換するという見方も可能。

それが、杏子のスタンド。シビル・ウォー。


杏子「誰しも、何かを捨てる時、ほんのちょっぴり、ほんの1ミクロンにも罪悪感というものを感じる……そういうことらしい。そういうことにしろ」

杏子「あんたはその罪悪感に襲われている」

さやか「くっ、うぅっ……!」

杏子「あたしは不意打ちをした……『公平』じゃあない。だから『弱点』を教えてやろう」

杏子「清潔な水で清められるぞ。コーラや泥水じゃあダメだ。罠ではない。試してみるべきだ」

杏子「と、言ってもこんなとこに水なんてないがね」

723: 2012/12/30(日) 00:08:43.09 ID:c1541ufP0

さやか「あ……あんたの目的は一体……何なんだ!」

さやか「何故、何故そんなことを……!」

さやか「何故仁美と恭介を頃したッ!何故『あいつら』の味方をするッ!」

杏子「ふん。それをあんたに話してあたしに何か得することでもあるのか?」

杏子「まぁいっか……。そうだな。強いて言えば、だが……」

杏子「……『スタンド狩り』と言えばいいだろうか?」

さやか「スタンド……狩り……?そ、それとあたし達の学校を襲撃することの何の関係が……」

杏子「ところで、もう一つの理由を教えてやる」

杏子「織莉子に協力する理由。……それはたった一つのシンプルな答え」

杏子「安定した暮らしだ。テリトリーの確保だ」

さやか「……」

杏子「しかしだな……」

724: 2012/12/30(日) 00:09:20.43 ID:c1541ufP0

杏子「スタンドという力があるが故に今、縄張り争いは激化している」

杏子「力が複雑化することで、力の差がわからなくなるわけよ」

杏子「何が言いたいか、わかるだろう?」

さやか「……スタンドが怖いから、スタンド使いを消すっていうのか?」

杏子「鋭いな。まぁ怖いって言い方は気に入らないが……」

杏子「スタンドを悪用する可能性のある一般人も邪魔……それも雇い主の考えだ」

杏子「あんたの学校にはスタンド使いが何人かいるという見込み。判別なんてできないから皆頃し」

さやか「勝手なヤツだ……!」

杏子「あたしに言うなよ」

杏子「だが……皆頃しはともかく、あたしも『そういうヤツ』を消すこと自体は賛成だ。魔法少女はいてもいいって思う」

杏子「そんでもって、織莉子はほむらってヤツを頃すつもりでいる。スタンド使いではなかったようだが……」

さやか「……!」

杏子「理由は秘密。まぁ、ほむら頃しに協力する代わりとしてあたしはこの狩り場をいただけるってことさ」

725: 2012/12/30(日) 00:10:01.12 ID:c1541ufP0

杏子「あたしとしてはグリーフシードさえ手に入ればいいから、ほむらなんて正直どうでも……」

杏子「いや、よくはないか」

さやか「ほ、ほむら……まで……!」

さやか「くっ……!き、貴様ッ!」

杏子「スタンドは……使わないのか?」

さやか「…………」

杏子「あん時、織莉子のリトル・フィートを視認していただろ」

杏子「出してみろよ。スタンドを」

さやか「……舐めているのか?」

杏子「かもな」

杏子(この状況で使わないってことは、遠くまで行けないタイプと見た。遠くまでいけるなら既に攻撃しているはずだからな)

杏子(とは言え……ヤツはもうまともに身動きが取れない……使えたところで大したことできねぇ)

726: 2012/12/30(日) 00:10:43.16 ID:c1541ufP0

杏子は……油断していた。

相手は既に自分の術中に嵌っている。

故に何をしても無駄である、と。

だから今後の見聞のためにもスタンドを見ておきたい、と。


杏子「見せてみろ。あんたのスタンドを」

さやか「……既に見せてるぞッ!」

さやか「『ドリー・ダガー』ッ!」

杏子「んっ……」


全身が圧迫されているさやかは身を捩って、剣を杏子に見せつけた。

刀身が光を反射して、妖しく光ったように見えた。

727: 2012/12/30(日) 00:13:02.56 ID:c1541ufP0

杏子「……その魔法武器のことか?」

さやか「あたしのスタンドは……この剣に取り憑いている。実像を持たないスタンドだ」

杏子「ふーん、実体化型なの……」

杏子「かッ!?」

ドサッ


杏子は突如、呼吸が苦しくなり床に膝をついた。

『体が締め付けられて』いる。


杏子「な、何ィィィッ!?」

杏子「ぐっ……ふっ……!な、なんだ……?!何が起こって……!」

杏子「この感覚……!まさかッ!てめぇっ!」

さやか「『ドリー・ダガー』……」

さやか「あたしへの『ダメージ』を……ググ……て、『転嫁』したッ!」

728: 2012/12/30(日) 00:13:52.99 ID:c1541ufP0

杏子「グッ……!?うぅッ……!」

杏子「転……嫁……?」


ドリー・ダガー。

剣に取り憑いている、実像を持たないスタンド。

その能力は、剣の刀身に映っている相手に、自身への『ダメージの七割を転嫁』する。

さやかの頭を吹き飛ばそうものなら、相手は頭の七割が吹き飛ぶ。

体を突き刺せば、その七割分の傷を、相手は負う。

全身が締め付けられれば、その七割の力が相手を圧迫する。


ただし、ダメージの三割はそのまま喰らってしまう。

頭の三割は吹き飛んだまま、三割の傷を負い、三割の力で圧迫される。


さやか「平たく言えばあたし自身へのダメージを三割に軽減できる……」

さやか「そしてあたしの得意な魔法は回復!」

さやか「半自動カウンターと回復ッ!この世にこれほど相性のいいものがあるだろうかッ!?」

杏子「くっ……!」

729: 2012/12/30(日) 00:15:13.16 ID:c1541ufP0

杏子(し、しまった……)

杏子(くそっ……情けねぇ……油断なんて、するもんじゃねぇな……)

杏子(……反省だ)

さやか「後は……この三割の圧迫を……膜みたいなものをどう対処するか……だ!」

さやか「残念ながら……圧迫感は軽くなったとは言え体が自由に動かないのは変わらない……」

さやか「テレパシーで既に来ていることがわかっていた……助っ人だ」

さやか「そもそも、あんたが呼んだんだそうじゃないか。そうなんでしょう?」

「キョーコ……!」

杏子「……!」

杏子「ゆま……!」

730: 2012/12/30(日) 00:16:05.25 ID:c1541ufP0

複雑な顔をしているゆまと目が合った。

しかし、ゆまはすぐに目を逸らした。


杏子「そうか……さやかを助けに行けって言われたのか」

杏子(よりによってあたしのとこに向かわせるとは……やむを得ずってとこなんだろーが……)

杏子(マミも残酷な選択をする)

さやか「ゆま!この辺りにある物には絶対に触れるな!」

ゆま「う、うん!」

杏子「……無駄だよ」

杏子「人は、何か捨てなければ生きていけないんだ」


『うぅ……あぁ……』


さやか「な、何だ……この音……いや、声……?」

『おまえさんは……僕を……頃したんだ』

ゆま「……え?」

731: 2012/12/30(日) 00:17:35.48 ID:c1541ufP0

『この恨み……晴らさずにおくべきか……』

さやか「こ、こいつは……!」

ゆま「そ……そんな……嘘……!?」


さやかとゆまは、この少女を知っている。

この衣装と首元の傷を知っている。


さやか「いつぞやに会ったぞ……!そして、確か……そう!『水を熱湯に変えるスタンド使い』ッ!」

杏子「おう。そうだ。風見野のテリトリーも狙った熱湯女だ。ゆま、あんたが一番よく知っているだろう」

ゆま「あ……ああ……!」

杏子「思い出したか?ゆま……」

732: 2012/12/30(日) 00:19:00.13 ID:c1541ufP0

杏子「あんたがキラークイーンを発現させたあの日……」

杏子「初めての殺人。その被害者」

さやか「え……?」

杏子「あんたはこいつを『捨てた』……」

杏子「わかるか?『頃す』ということは、『そういうこと』なんだ」

さやか「ゆ、ゆまちゃん……!?あんた……」

ゆま「ち、違うの!さやか!ゆまは!ゆまは……」

杏子「まぁ、攻めてやるな……正当なる防衛だよ……」

杏子「しかし、ゆまは頃したことに罪悪感を覚えているから、こいつの亡霊……幻覚が現れた」

杏子「あんたから殺人に対して罪悪感をあまり覚えていないと感じたのは、気のせいではなかった」

杏子「いや、マミ達と出会って、ふと思い出して心でひっかかるようになったのかもしんねぇ」

杏子「それは良いことだ。自分の罪を認めるということはな。……本当に自分がやったって思うのであればだがね」

733: 2012/12/30(日) 00:20:47.55 ID:c1541ufP0
少女『頃してやる……脳を……グツグツの……シチューにしてやる……!』

ゆま「う、うぅぅ……!」

さやか(ま、まずい……!)

さやか(精神的な理由で……ゆまちゃんじゃ勝てない)

さやか(ゆまちゃんがキラークイーンで人を頃したことがあるってのはショックではあるが……それはいいとして)

さやか(本気で怯えている……少なくとも『今の』ゆまちゃんでは……幻覚と言えど、戦えない!)

さやか(だったら……!)

さやか「……ゆまちゃん!」

ゆま「さやか……」

さやか「あたしにまとわりついている膜を『爆破』するんだ!」

ゆま「えっ!?」

734: 2012/12/30(日) 00:22:36.31 ID:c1541ufP0

杏子「……ふん」

さやか「早くっ!このままだとやられる!こいつはあたしが斬るッ!」

ゆま「で、でも……」

さやか「早くッ!」

少女『僕に……殺されるべきなんだ……!』

さやか「早く!早く膜を爆発させろ!」

ゆま「で、でも……」

杏子「…………」

杏子(さやか……あんた、頭脳がマヌケか?)

杏子(確かに、捨てたものは皮膜にようになって圧縮している)

杏子(幻覚ではあるが……シビル・ウォーに対してのキラークイーン……スタンド同士ならもしかしたら破れるかもしれない)

杏子(しかしだな、さやか。あの化け物能力で爆発されたら、いくら回復に優れていようと……氏ぬぞ)

735: 2012/12/30(日) 00:23:32.74 ID:c1541ufP0

杏子(ゆまは、自分の爆発を調整できない。できるならこうやって躊躇しないからな)

杏子(三割とは言え……大丈夫なのか?)

ゆま「ね、猫さんッ!『第一の爆弾』ッ!」

ズアッ

さやか「急げッ!遠慮するなッ!」


さやかは自身の回復能力を過信している。

ゆまは自身の能力を把握できていない。

さやかはキラークイーンの爆発で即氏。

ゆまはそのままさやかの遺体の前で、シビル・ウォーの亡霊に喰われて氏ぬ。

勝った。


――杏子は今、そう考えていた。

736: 2012/12/30(日) 00:26:15.83 ID:c1541ufP0

杏子「……ん?」

杏子(さやかの能力。ドリー・ダガー)

杏子(ダメージを七割『刀身に映した相手』に移す……)

杏子(さやかの剣の向きって……)

杏子(……あ)

杏子(し、しまっ――!)

杏子「ゆまッ!やめろッ!」

杏子「く、くそぅ!動けない!動けッ!あたしの体……!じ、自分の能力なのに……!」

杏子「キラークイーンを収めろォォォッ!」

さやか「殺らいでかッ!杏子!」

杏子「やめろォォッ!ゆまッ!やめてくれェ――ッ!」

ゆま「起爆ッ!」

カチッ

737: 2012/12/30(日) 00:27:51.60 ID:c1541ufP0


さやか「グハァッ!」


ドグオォォォンッ!

バリバリバリ

背中が裂ける。熱風が襲う。

骨が折れる。肉が焼ける。血反吐を撒く。

爆音に紛れて、さやかの苦痛の声があがる。


さやか「う、がァァァ!」

ゆま「キョーコ……!」

ゆま「……ゴメンね」

杏子「あ……!ああ……!」

738: 2012/12/30(日) 00:28:44.93 ID:c1541ufP0

杏子「ゆ……ま……テ、メェ……!」

ビシッ、ビキ…

杏子「嘘だ……」

杏子「嘘だ……そんな……」

杏子「織莉子の……予知通りに……なって……」

ドブチャァッ

杏子「グバァッ!」


さやかを包んでいた膜は爆発した。

僅かの時間差をおいて、杏子の『七割』が爆散した。

服は無傷のままだが、皮膚や肉は裂け骨は砕けていく。

さやかは体の自由を手に入れた。

少女の幻覚も、消えていた。

739: 2012/12/30(日) 00:30:33.32 ID:c1541ufP0

さやか「う、うぐぐ……!グハッ!」

さやか「ド、ドリー……ダガー……」

さやか「そう……キラークイーンの爆発は強力すぎる……」

さやか「あたしの回復能力でも、間に合うかどうか……」

さやか「だからこそのドリー・ダガー!」

さやか「自身へのダメージは……刀身に映った相手に七割、移る……」

さやか「爆発のダメージの七割は、杏子に移った!」

さやか「あたしの体の三割はズタボロだが……」

さやか「五割以下ってんなら、まぁ大丈夫だった!」

さやか「……あんたがキラークイーンを呼んだんだ」

さやか「あんたの能力が自分の回避を封じたんだ」

さやか「あんたは自分自身の行動に……引力に負けたんだ」

ゆま「…………」


740: 2012/12/30(日) 00:31:11.78 ID:c1541ufP0

本当に能力を過信していたのは杏子自身だった。

相手の能力を把握できていなかった。

しかし、杏子に後悔する暇はなかった。


ゆま「うぅ……」


ゆまは目から涙を零した。

見捨てられても、人を頃しても、ゆまにとって杏子は恩人だった。

両親から学ぶはずの「人を信じる」という当たり前のことを、ゆまは杏子を通じて知ったのだ。

そんな存在を、自分の手で葬ってしまった。


ゆま「キョーコォ……グスッ、うえぇう……」

さやか「ゆまちゃん……」

さやか「あんたが杏子をどう思っているかは計り知れないし、あたしは頭悪いから上手くと言葉にできないけども……」

741: 2012/12/30(日) 00:32:16.30 ID:c1541ufP0

さやか「あいつはもう、人として引き下がれない領域にいるんだ。あいつは黒。あたし達は白」

さやか「そういうことなんだ。とにもかくにも、ね……」

ゆま「ゆま……辛いよ……こんなの……酷すぎるよ……あんまりだよぉ……」

さやか「ゆまちゃん……」

ギュッ

傷を治療したさやかはゆまの肩に手を置き、そっと抱き寄せた。

温かくて柔らかい感触が耳にあたり、さらさらした液体が頬を伝って首筋を流れる。


ゆま「うぅ……グスッ」

さやか「大丈夫……どんなに辛いことがあっても……どんなに悲しい別れがあっても……」

さやか「それを乗り越えるのが、人間というものなんだ」

さやか「あたしも、友達とクラスメート、先生……そして幼なじみを失った」

さやか「一緒に乗り越えよう」

ゆま「さやかぁ……」

さやか「ま、その前に犯人をとっ捕まえてやらんといかんね!」

ゆま「……うんっ」

742: 2012/12/30(日) 00:32:52.48 ID:c1541ufP0

「さやかさん……」


ゆま「え?」

さやか「い、今……何か聞こえ……」


「どうしてですの……?」


さやか「……!」

さやか「こ、この声……」

さやか「嘘だ……そんな……!」

さやか「ひ、仁美ッ!?」


仁美「……さやかさん」

743: 2012/12/30(日) 00:34:03.79 ID:c1541ufP0

さやかは目を見開いて驚いた。

杏子が頃したと語っていた親友が、今、本棚の影から顔を出した。

憂鬱そうな顔をして、さやかの方をじっと見つめている。


さやか「あんた……氏んだはずじゃ……!?」

仁美「さやかさん……どうして」

ゆま「な、なに……?こ、この人、だぁれ……?」

ゆま「何だか、怖いよぅ……」

仁美「何故、私を『捨てた』んですの……?」

さやか「へ……?」

仁美「理由を教えていただけません、か……!」

さやか「な、何を言ってるのよ……」

さやか「捨てたって……言ってる意味がわからな……」

744: 2012/12/30(日) 00:35:19.30 ID:c1541ufP0


「いいや、あんたがそいつを捨てたんだ」


さやか「……ッ!」

ゆま「キョッ……!」

さやか「杏子ッ!?」

杏子「あんたが口では否定してもな……あんたがこいつを捨てたことになってるんだよ」

杏子「だから、あんたは今、そいつの幻覚を見ているんだ。『あたしが捨てたもの』を……」

さやか「ば、馬鹿な……!」

さやか「確かに、確かに頃したはずなのに……!」

さやか「七割の爆発を喰らって!ぶ、無傷なはずがないッ!」


杏子はさも当然のように腕を組んでさやか達を見て言った。

杏子は本棚の影で恨めしそうに見つめる仁美を引っ張った。

仁美は抵抗することなく、その身体を二人に向けた。

745: 2012/12/30(日) 00:36:58.14 ID:c1541ufP0

仁美の腹部には、大きな穴があいていた。制服は赤黒く染まっている。

歯を軽く食いしばり、唇をピクピクと動かしている。


ゆま「ひッ!?」

杏子「こいつは、あたしが捨てた。そして、あたしは捨てられた」

さやか「ひ、仁美ッ!」

杏子「あたしが最終的にしたかったのは、これなんだ。だが……しかし……」

杏子「まさかこんな形で……シビル・ウォーが『完成』するとはな……」

杏子「あー……くそっ。やっぱり油断しちまったんだな。情けねぇ」

杏子「あたしは反省が苦手なんだ。今悟ったね」

杏子「あークソッ……織莉子はどうでもいいが、クリームを相手にした時に使いたかったのに……」

ゆま「キョ、キョーコ!い、生きてたんだね!?」

746: 2012/12/30(日) 00:38:54.36 ID:c1541ufP0

杏子「……チッ、うぜぇ。人を頃しておいてよくもぬけぬけとそんな言い方できるな……」

杏子「いい加減にしろよな……あたしはあんたが嫌いなんだよ」

ゆま「え……」

杏子「え、じゃねーよ。あんたのスタンドは危険すぎるんだよ」

杏子「いいか。スタンドという能力がこの世に現れた」

杏子「新しい能力を得たら、力の差ってもんがわからなくなるもんなんだよ」

杏子「だから縄張り争いが激化した。今の自分なら、スタンドのある自分ならどんな奴が相手でも勝てる……って増長してな」

杏子「そんな最中、そんな化け物みたいなスタンド。はっきり言って怖いんだよ」

杏子「いつ寝首を狩られるもんか。爆発にも巻き込まれるだなんてすりゃぁ、文字通り骨が折れる。っていうか既に砕けた」

ゆま「…………」

杏子「まぁいいか。完成したシビル・ウォー。心の中に『そうなる実感』はあったものの、本当に『そうなる』のか不安だったんだ」

杏子「それがハッキリしただけ……むしろサンキューだ。ゆま」

747: 2012/12/30(日) 00:40:17.05 ID:c1541ufP0

さやか「ど、どうして……だ?」

さやか「どうして『殺された』のに『生きている』……!?」

杏子「そうだな……よし、解説してやろう」

杏子「これからは、あんたらはあたしを『捨てて』前へ進む」

杏子「あたしを頃すということは『そういうこと』なんだ」

杏子「では、氏んだあたしの『罪』はどこへいっちまうのか……?行き場はどこか?」

杏子「何も赤ん坊の魂がどこから来るのかとか氏んだ魂がどこへ行くのかとかイビキかいて眠っちまいそうな話をするつもりはない」

杏子「シビル・ウォーはその答えの道標。その答えは目の前にある……」

さやか「目の前……?」

杏子「『あんたら』だよ。あんたらが新しい罪の行き場だ」

杏子「爆発の直接的要因はゆまだが、それを押しつけたのはさやかだからな……」

杏子「あんたらは二人であたしの行き場をなくした罪を『おっかぶる』んだ!」

杏子「『捨てられたあたし』から『捨てたあんたら』へッ!それがシビル・ウォーの完成型だッ!」

さやか「ど、どういうことだよ……?」

杏子「これであたしの罪は『清め』られた」

748: 2012/12/30(日) 00:41:03.61 ID:c1541ufP0

青年『喰われた……俺は何に……喰われたんだ……』

さやか「!?」

杏子「……こいつは、使い魔に襲われてたヤツだな。あたしがわざと見捨てたヤツだ」

男『おお……神よ。あなたは連れて行くべき者を間違えた……』

モモ『やだ……やだよぅ……いやだよぉ……』

杏子「そいつらはあたしの家族だ。こっちは妹。モモって言うんだ」

杏子「あたしは……家族を捨てたんだ」

童女『お姉ちゃぁぁぁ~~~~ん……ああああ……』

魔法少女『ああああ……ううう……』

杏子「あいつらはあたしのシビル・ウォーの結界内で犠牲になったヤツらだな」

杏子「こんなところで姉妹の再会を果たすとは……あ、いや、あたしも再会はしているのか。妹と」

749: 2012/12/30(日) 00:41:48.69 ID:c1541ufP0

仁美『置いていかないで……寂しい……』

恭介『助けてくれ……誰か……』

杏子「そういやこいつら、二人きりでいたなぁ。まさかカップルだったとはなぁ。まとめて殺ってやったけど」


図書室に、虚ろな目をした人々が現れた。

頭が半分ない者。体の一部が骨になっている者。肌が赤黒く焼けている者。

体が「ペシャンコ」な者。腹に穴があいている者。上半身で這いずる者。

聞くに堪えない呻き声の合唱が図書室全体に響き渡る。



さやか「グッ、クク……!」

さやか「い、一体、一体何が起こっているんだッ!?」

ゆま「う、うぅ……っ!」


750: 2012/12/30(日) 00:43:04.07 ID:c1541ufP0

杏子「あれだけ説明したのにまだ理解できてないか?頭脳がマヌケか?」

杏子「だからァ……あたしが捨てたものだっつってるだろ」

杏子「使い魔や魔女は出てこない(なる前はいるが――)からな。言っておくけど」

杏子「あくまで捨てたと認識してる対象だけってわけだ」

杏子「仁美とか言ったっけ?あたしはそいつを殺った時も、悪いとは思っていたんだ」

杏子「何にしても、それらがあんたらにおっかぶった」

杏子「ゆま……あんたは罪深い子羊になった。さやか……あんたもだ」

杏子「一方で、あたしは『清め』られて蘇った……」

さやか「……つまり、自分の罪を他人に押しつけるわけだな」

さやか「あたしのドリー・ダガーと似たようなタイプってところか……」

杏子「あたしのは浄罪だ。そんなチンケな能力と一緒にするな」

751: 2012/12/30(日) 00:43:53.62 ID:c1541ufP0

シビル・ウォー。

それは、本体を殺させる、則ち『捨てさせる』ことで『完成』する。

杏子は、魔性少女になったが故に家族を失った。杏子は家族を捨てたのだ。

そしてゆまとさやかは杏子を頃した。

行き場を失った杏子の罪は、杏子を頃した相手におっかぶる。

――これがシビル・ウォーの完成型。

シビル・ウォーは、氏をもって罪が清められる。

実際に殺されないと知り得ないような能力であるが、杏子は氏なずとも理解していた。

野生動物が産まれてすぐに授乳を求めるように、本能にインプットされていたのだ。


752: 2012/12/30(日) 00:44:58.07 ID:c1541ufP0

杏子「あたしは、家族を捨てたって言ったよな」

杏子「全部を話すつもりはないが……契約したが故の結果だとだけ言っておこう」

杏子「ずっと、その罪を抱えていた……」

杏子「だからこんなスタンドが身に付いたのかもしれない」

杏子「……あたしは清められた……つまり、許されたんだよ」

杏子「家族を捨てたことをな……」

さやか「…………」

杏子「……生き返った理屈がイマイチわからないって言いたそうだな」

杏子「これはあたしの推測だが、あたしはこれで何も捨てたことのない『ゼロ』となったんだ」

杏子「産まれたての赤ん坊ですら臍の緒や胎盤を捨てて生きるのに……それさえもリセットされる」

杏子「だからそういう奇跡もあるんじゃねぇの?」

杏子「臍の緒とかは母親が捨てたことになるんじゃないかとか異論を唱えても受け付けねーからな」

753: 2012/12/30(日) 00:46:15.83 ID:c1541ufP0

杏子「それからもう一つ。忠告しておく」

杏子「今のあたしは、あんたらの罪に『護られて』いるぞ」

さやか「な、何が言いたい!」

杏子「結論から言おう」

杏子「『この結界にいる限り、あたしはあんたらに殺されないということ』だッ!」

さやか「なッ!?」

杏子「ざっくばらんに言えば、この結界内においてあたしは不氏身ってことだッ!わかったかマヌケッ!」

杏子「わざわざ殺されてやるんだ。そんぐらいのことはあってもよかろうよ」

さやか(くっ……ど、どうすればいいんだ……!こいつ……無敵か……!)

杏子「……ところで、さっきから震えてばっかりであたしの話を聞いていないヤツがいるようだ」

さやか「……はッ」

さやか「ゆ、ゆまちゃ……」

ゆま「う、うああ……ああ……!」

754: 2012/12/30(日) 00:47:11.26 ID:c1541ufP0

モモ『お姉ちゃああぁ~~~ん……』

男『おまえは呪われた子だ……』

青年『恨めしい……恨めしいよォォォ』

仁美『さやかさん……私を救って……』

恭介『無念しかない……僕の人生』

童女『うううううううううううう』

魔法少女『ああああああああああ』


ゆま「ああ……あああ……あぅ……」

さやか「く、くそぅ……!怯えている……。ヤバイ……!これはヤバイぞ……ッ!」

さやか(どうする……?どうやって打開する?)

さやか(図書室から逃げるか……いや、この数だ。ゆまちゃんを庇いながらでは……)

さやか(どうする!?どうすればいい!?)

さやか「…………」

さやか(ゆまちゃんを……見捨て……)

755: 2012/12/30(日) 00:49:06.91 ID:c1541ufP0

さやか(……ふざけるなッ!)

さやか(万が一にでも見捨ててしまえば!あたしはあいつと同じになってしまうッ!)

さやか(くそっ……!落ち着くんだ……!)

さやか(必ず、必ず活路はあるッ!どんな時だって!諦めなければ……!諦めなければッ!)

ゆま「こ……で……こな……で……」

ゆま「来ない……で……!来ないで……!来ないでェッ!」

仁美『命だけは……どうか命だけは……!』

モモ『助けてぇ……熱いよぉ……氏んじゃうよォ……』

さやか「ゆまちゃん……?」

ゆま「ち、違うの……ゆまは……ゆまは……!」

童女『嘘つき……嘘つきぃぃぃぃ……!』

魔法少女『くれるって……分けてくれるって言ったのにぃぃぃ……!』

ゆま「ゆ、ゆまは知らなかったの!キョーコが頃しちゃっただなんて!知らなかったのぉっ!」

さやか「こ、この中に知ってるヤツがいるのか……?」

756: 2012/12/30(日) 00:49:52.24 ID:c1541ufP0

ゆま「あ……ああ……あぅあ……ああ……!」

ゆま「…………あぅ」

プッツン

ゆま「もうやだァァァァいやだァァァァァッ!ごわいよォォォォォッ!!」

さやか「ゆ、ゆまッ!?お、落ち着け!これは幻覚だッ!」

ゆま「ひィィィィィィィィッ!いやぁぁぁッ!やめてッ!やだァッ!」

ゆま「いやァァァァァァッ!あアァァァァ!あひぃぃぃぃャぁぁぁぁぁ!」

杏子「あ~あ……キレちまったな……。怒ったって意味じゃない……『限界』なんだよ」

ゆま「ダズゲデェッ!ギョーゴォ!オネ゙ェヂャァァ!ヤ゙アアアアアア!」

さやか(だ、ダメだ……!ただでさえ杏子を頃したことが重荷になっているのに……!)

さやか(ゆまは戦えない……!あたし一人で何とかできるのかッ!?)

さやか(無敵のキラークイーンで何とかしてくれると思ったのに……!)

杏子「あ、そうだ……知ってるか?あんたら」

757: 2012/12/30(日) 00:50:41.38 ID:c1541ufP0

杏子「魔法少女って、絶望すると魔女になるんだぜ」

ゆま「あああああああああああああああああッ!」

杏子「ゆま。あんたのソウルジェムは既に真っ黒だが、ここまでやってまだ人の姿を維持していられるあたり……」

ゆま「ア゙アアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

杏子「キラークイーンを目覚めて、それなりに精神が成長したの……か、も、な」

さやか「く、くそッ!精神面ではあたしにゃどうすることもできないッ!」

杏子「……って聞いてねぇなこりゃ」

ゆま「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!」

杏子「ってうるせぇよッ!」

ゆま「ギ……キ……!」

ゆま「キラァァァァァァ――クイィィィィィ――ンッ!」

ズアッ

さやか「な、何を……!」

ゆま「ゆまの……ゆまの!」

758: 2012/12/30(日) 00:51:07.99 ID:c1541ufP0


ゆま「ゆまのッ!」


ゆまの顔は恐怖と自責に歪んでいた。

足をガクガク揺らし、歯をガタガタ鳴らしている。

ソウルジェムを黒く、頬を赤く、下着を黄色く染めていた。


ゆま「ゆまのソウルジェムを爆弾にしてッ!」

さやか「なッ!?な、何を言って……!」

ゆま「嫌だ……もう、嫌だよぉ……」

ゆま「助けて……猫さん……!」

ゆま「ゆまを頃してェェェッ!」

さやか「ゆまちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」

759: 2012/12/30(日) 00:52:05.05 ID:c1541ufP0

さやかの制止も間に合わず、そして気に留めず。

キラークイーンは漆黒のソウルジェムに触れてしまった。

その目はいつにもまして冷たかったように見えた。

まるで主人の精神的弱さを悟り、見限ったかのように。

ゆまはソウルジェムが自身の魂であることを知らない。

しかし、ゆまの生命の大車輪がゆまの直感をプッシュしたのだ。

これが一番苦痛のない氏に方である、と。


さやか「マ、マズイッ!ゆまちゃんはもうダメだ!」

さやか「クッ!ば、爆発に巻き込まれる……!」

ゆま「キラークイーンッ!ゆまのソウルジェムの爆弾を……」

さやか「ドリー・ダガーッ!爆発のダメージを……」

ゆま「点火ッ!」

さやか「転嫁ッ!」

760: 2012/12/30(日) 00:52:45.15 ID:c1541ufP0

ドッゴォォォァァッ!

図書室に大きな爆発音が響き、白煙があがった。

キラークイーンの爆発のエネルギーの像。

杏子の頬へ空気に伝わる爆発の衝撃をピリピリと感じさせる。


杏子「おーおー……やってくれちゃったねぇ」

杏子「ゆまの精神がブッ壊れたからか、成長したからか……」

杏子「前見た時より爆発の威力がずっとスゴイな」


その白煙からぼんやりと人影が浮かんでくる。

ただし、一人だけ。

杏子は腕を組み、その影を薄目で見る。

さやかが魔法武器の剣、ドリー・ダガーを構えて立っている。


761: 2012/12/30(日) 00:54:07.17 ID:c1541ufP0

杏子「……さやか」

杏子「…………」

杏子「残念、だったな……」

杏子「種が分かればなんてこともない」

杏子「あんたの転移能力は、刀身に映ったものに向かう」

杏子「その刀身に映ったのはあたしじゃあなかった……」

杏子「あんたが爆発のエネルギーを転嫁されたのは『天井』だ」

杏子「テンパっちまったかなぁ……あるいは爆風のせいか……狙いが逸れたんだ」

杏子「まぁ逸れたからと言って……あたしに避けられないもんじゃなかったがな」

さやか「…………」

杏子「転移できるダメージが七割……三割は喰らってしまう」

杏子「運の悪いことに……さやか……」

762: 2012/12/30(日) 00:54:41.86 ID:c1541ufP0

杏子「ゆまの爆発に、あんたの『ソウルジェム』が巻き込まれちまったわけだ。三割移せようとも意味がなかった」

杏子「咄嗟のことでそのことに頭が回らなかったんだ。ソウルジェムへのダメージまでは転嫁できなかったんだ」

杏子「まぁ、確かめようがないか。ちょっとでも傷つけるわけにはいかないからね」

杏子「むしろシビル・ウォーの膜を爆破した時よく生きてられたもんだ」

杏子「……さやか」

杏子「あんたの敗因はたった一つのシンプルな答えだ」

杏子「……『ソウルジェム』が『魂』であることを知らなかった」

さやか「……」


さやかの変身が解け、剣が消えた。

ドタン、と大きな音を立てさやかは床に倒れた。

遺体は一つしかないが、今、この場で二人の魔法少女が氏んだ。

763: 2012/12/30(日) 00:55:35.73 ID:c1541ufP0

杏子「スタンドが傷つけば本体も傷つく。またその逆も然りと聞くが……」

杏子「ソウルジェムが砕かれたらスタンドはどうなるんだろうな。キラークイーンはさやかに気を取られていた上に白煙に紛れてて見えなかったが……」

杏子「まぁいいや」


絵本、ガラクタの数々は、さやかとゆまの氏によって消えた。

杏子の家族、頃した魔法少女、見捨てた人間、仁美、恭介、全て消えた。


杏子「シビル・ウォーを解除した……」

杏子「…………」

杏子「……これで」

杏子「これで……あたしの罪は清められた」

杏子「あいつらがあたしの罪を引き取って氏んだからだ」

杏子「……結局、あたしの一人勝ちってわけだ」

杏子「それにしても……ゆま」

764: 2012/12/30(日) 00:57:13.02 ID:c1541ufP0

杏子「本当に可哀想なヤツだ。目の前で両親が魔女に食われ、信頼していたあたしに捨てられて……」

杏子「しかも、さやかはゆまをギリッギリのとこで見捨てちまった」

杏子「可哀想に……三回も捨てられるだなんてな……」

杏子「いや、さやかを攻めるつもりはない。あの状況だ。誰だってそーする。あたしだってそーする」

杏子「でもな、ゆま……同情はしてやるが、あんたはあたしを殺っちまったんだ」

杏子「……スタンドを得ちまったから仕方ないんだ」

杏子「仕方ないことなんだよ……」

杏子「ま……もし、あんたがスタンド使いでなければ……契約なんてしなければ……」

杏子「キラークイーンだなんて化けモンじみた能力でなかったのなら……」

杏子「あたしはあんたを捨てなかったんだろうがね」

杏子「マミに出会えただけ、まだまだ救いようのある氏といったところか」

765: 2012/12/30(日) 00:58:36.61 ID:c1541ufP0

杏子「……そして、さやか」

杏子「何となくだが、別の所で会ってたらあんたとは友達になれた気がするよ」

杏子「何でだろうな?」

杏子「まぁ、氏んじまった以上……どうでもいいことだ」


杏子は、勝利と浄罪に「やってやったぜ。嬉しいなぁ」と思った。

しかしその表情は濁っていた。


杏子「……なんていうか、アレだな」

杏子「あたしが原因で……もとい、あたしは家族を捨てたから……その罪を晴らすためにこんな能力が発現したんだろうけど」

杏子「折角その罪が晴れたってのに、なんか後味良くないな……もっとこう……」

杏子「新しいパンツを穿いたばかりの新年の朝のみたいにスッキリすると思ってたが……」

杏子「ああ、くそっ。なんだよ。この感じ。キモイねぇ」

766: 2012/12/30(日) 01:02:21.57 ID:c1541ufP0

杏子「…………」

杏子「……お」

杏子「さやかの手にグリーフシードが……しかも未使用じゃん」

杏子「ラッキー……だな。身を呈してグリーフシードを爆発から庇ってくれたのか?」


さやかの遺体から、コ口リと一個グリーフシードが転がった。

杏子は後頭部を掻きながら歩み寄る。


杏子「ポケットにでも入れてたのか?アホみたいに突っ込んだと思ってたが……」

杏子「ゆまのか?それともその辺ちゃんと考え――」

バゴンッ!


杏子「ッ!?」

杏子「な、何だッ!?」

767: 2012/12/30(日) 01:02:57.05 ID:c1541ufP0

杏子「……チッ」

杏子「何だよ……」

杏子「『床』が……『抜け』やがった……!」

杏子「ああ……くそっ。いってぇ……」

杏子「足が嵌っちまった……」

杏子「爆発の衝撃か……?」

杏子「あるいは……クリームが下の階の天井……もとい、床を食っちまったか……」

杏子「どっちでもいいか……やれやれ」

杏子「全くよぉ……抜けねぇし」


顔を歪めながら、あいた穴に嵌った足を引き抜こうと杏子はもがいた。

どこかが引っかかっているらしい。

目の前には遺体。ギリギリ届かない位置にグリーフシード。

もどかしい気持ちで一杯になる。

768: 2012/12/30(日) 01:04:31.21 ID:c1541ufP0


バキィッ!

杏子「うん?」

杏子「今度は何の音だ――」

グシァッ!

杏子「ぐっへぇ!?」

杏子「うおおッ!いッ……てェ……!」

杏子「何だ……!?チクショウ!」


視界の横から本棚が突如に倒れてきて、杏子を押し倒した。

下半身を圧迫し、脚と腰の骨を折ってしまった。


杏子「ほ、本棚が……!?」

杏子「今の爆発のせい……か?」

杏子「本棚の一番下の段とか側面を壊したからってところか……」

杏子「ソウルジェムさえ壊れなければ氏なないからって……やれやれ、痛ぇもんは痛ぇんだよ」

杏子「全く……ついてね――」

769: 2012/12/30(日) 01:05:07.13 ID:c1541ufP0


ピシ…

杏子「……あん?」

杏子「……ゲ」

杏子「おいおい……嘘だろ……?」

杏子「冗談じゃねぇ……!」

杏子「どういうことだよおい……」

杏子「『天井のヒビ』が……大きく……」

杏子「ドリー・ダガーのダメージ転嫁能力……」

杏子「爆発のエネルギーが天井に転移した……」

杏子「……今、なのか?」

770: 2012/12/30(日) 01:05:36.14 ID:c1541ufP0

杏子「たった今、身動き取れなくなって、転移箇所に近づいちまった今……」

杏子「こんな最悪なタイミングで天井が崩れるのか……?」

杏子「グ……」

杏子「グリーフシードが見えたから……」

杏子「床に穴があいたから……」

杏子「爆発のエネルギーで本棚が脆くなったから……」

杏子「能力で衝撃が天井に転移したから……」

杏子「まるで、初めからこうなるのが決まっていたかのように……」

杏子「ま、まさか……まさか!」

杏子「さやかッ!そこまで考えて……!?」

杏子「あたしを道連れにするつもりかッ!?」

771: 2012/12/30(日) 01:08:47.86 ID:c1541ufP0


杏子「い、いや……落ち着け……」

杏子「ただの偶然だ……まぐれに違いない……!」

杏子「ただの……偶然さ……」

杏子「た、たかが天井が崩れたぐらいで!」

杏子「身動きが取れない状態で下敷きになる程度でッ!」

杏子「魔法少女であるあたしが……『清められた』あたしが氏ぬはずがないからな!」

杏子「て、天井が崩れ落ちようとも!這い出るくらいの力はあるはずさ!」

ガラガラガラッ

杏子「う、うおおおおぉぉぉッ!」


天井はけたたましい音をたて崩れた。

瓦礫が下半身が固定された杏子の上に、そしてさやかの遺体の上に降り注ぐ。

ザグッ

杏子「……ッ!」


772: 2012/12/30(日) 01:09:54.84 ID:c1541ufP0

――偶然。


杏子がそう思いたいという「優しい」答え。

だが、杏子は悟った。そうなる「運命」だったのだと。


「何をやったって、しくじるもんなんだ」

「自分の罪を他人に押しつけようとする……あたしのようなゲスにはな……」


天井から降り注ぐ瓦礫の中に、鋭利な形をしたコンクリート塊があった。


杏子「……」


それが杏子の首に突き刺さり、脊椎と肉を貫通してデコルテのソウルジェムを砕き割る。

その刹那のことだった。



美樹さやか――氏亡 千歳ゆま――氏亡 佐倉杏子――氏亡

773: 2012/12/30(日) 01:12:50.23 ID:c1541ufP0



――屋上


「う……うぅ……くっ」


「あ、頭が痛い……」

「……爆発を思い切り喰らったけど」

「ケホッ、ど、どうやら、生きているようね……私……」

「……ハッ!」

「キ、キリカッ!?」


美国織莉子は勢いよく起立する。

すぐさま状況を脳内で確認する。

マミを頃した。

瓶詰めキュゥべえを自慢した。

キリカと約束を交わした。

動く戦車の玩具みたいな爆弾が現れた。爆発した。

それを踏まえて今。目の前の光景――。

774: 2012/12/30(日) 01:13:26.72 ID:c1541ufP0

織莉子「――ッ!」

織莉子「そ、そんな……そんなことって……!」

織莉子「そんなの……残酷過ぎる……!」

織莉子「嘘よ……こんなの……ッ!」

織莉子「……『キリ、カ』……!」

織莉子「キリカァ……!」


最愛の人が、倒れている。

華奢で小柄な体から「こんなに入ってるものなのか」と思えるくらいに血が流れ出ていた。

左腕は少し引っ張れば千切れてしまいそうだった。

右脚があり得ない方向に曲がっていた。指が数本吹き飛んでいた。

脇腹にあいた穴から、コンクリートの灰色が少しだけ見えそうだった。


775: 2012/12/30(日) 01:14:38.71 ID:c1541ufP0

織莉子「そんな……」

織莉子「爆弾戦車が爆発する寸前、キリカ……」

織莉子「あなたが私を庇ってくれていなかったら……私は氏んでいた……」

織莉子「でも……ああ……キリカ……!」

織莉子「クリームで爆弾を飲み込んでいれば……こんなことにならなかったものを……」

織莉子「咄嗟のこととはいえ、私を庇うだなんて……」

織莉子「自分を犠牲にするだなんて……ッ!」

織莉子「あなたは……あなたは判断を誤った……!」

織莉子「冷静でなかった。だから、こうなってしまったのよ……!」

織莉子「キリカ……どうしてあなたは……!」

織莉子「あぁっ……どうして……!」

織莉子「キリカ……!」

776: 2012/12/30(日) 01:16:47.19 ID:c1541ufP0

織莉子「あなたがいなくなったら……私は……!」

織莉子「私の……心の支えが……!」

織莉子「……まさか、まさかあなたを失ってしまうだなんて」

織莉子「あなたと二人なら、あらゆる障害も怖くなかったのに……」


キリカが氏んだ。織莉子は深く悲しんだ。

先程までニコリと可愛らしい笑顔を見せてくれたキリカ。

私の心に爽やかで温かい風を吹き込んでくれたキリカ。

体調を崩したら本気で心配してくれていたキリカ。

抱きしめてみたら柔らかく温かかったキリカ。

頭を撫でたら顔を赤くして喜んだキリカ。

そのキリカが、氏んでしまった。

息がない。脈がない。指輪がない。眼帯がない。

ソウルジェムが形を留めていない。爆発で粉々に砕けたらしい。

爆弾があった場所と、織莉子の間に割り込むような位置で氏んでいる。

777: 2012/12/30(日) 01:18:45.18 ID:c1541ufP0

織莉子「……許せない。決して……許せない……!」

織莉子「暁美……ほむら……!」

織莉子「…………」

織莉子「ヤツは……スタンドに目覚めていない」

織莉子「教室に来た際、リトル・フィートを視認できていなかった。目線が移らなかった」

織莉子「だから、ただ頃すだけでいい……全ての元凶は必ず頃してやる……」

織莉子「ライターの火で炙り四肢を刻んで釘で串刺しにして生きたまま虫の餌にしてくれる……!」

織莉子「産まれたことを後悔させながら頃してやる……!絶対に……!」

織莉子「ん……」

織莉子「……!」

織莉子「ビ、ビンが……」

778: 2012/12/30(日) 01:20:22.49 ID:c1541ufP0

傍らに、爆発の衝撃で落下したビン。

そのビンはバラバラに割れている。

その破片が『中身』に刺さったらしい。

キュゥべえは、小さい状態だった。

小さい体であれば、ビンの破片は刃のシャワーに等しい。

ガラス片が頭を貫通したらしき傷をつけ、氏亡している。


織莉子「……しまった。今の爆発でキュゥべえを氏なせてしまった」

織莉子「氏んだことがフラグとなって新しいキュゥべえが現れると聞いたことがある」

織莉子「だとしたら……まずいわ。鹿目まどかと接触されて、契約なんてされたら……」

織莉子「契約の内容によってはチェックメイトになってしまう」

織莉子「…………」

779: 2012/12/30(日) 01:22:23.61 ID:c1541ufP0

織莉子「爆弾戦車は生きていた私を追い打ちすることなく消えた」

織莉子「つまり『千歳ゆま』は氏んだ……」

織莉子「そして『美樹さやか』を追っていったから彼女も……」

織莉子「そして連絡がないから『佐倉杏子』も氏んだ」

織莉子「残すは……『暁美ほむら』と『鹿目まどか』だけ」

織莉子「……見ていて。これから私は、逆境を乗り越えてやるわ……!」

織莉子「二人を頃し……スタンド使い同士は引かれ合うという『引力』と『予知』能力を利用して……」

織莉子「必ずやスタンド使いを滅ぼすわ」

織莉子「それが終わり次第すぐに、あなたの元へ向かうから……」

織莉子「待っていてね……キリカ」


織莉子は、キリカの首に手をまわし、その唇に自分の唇をそっと重ねた。

まだ温かかった。柔らかかった。幸福と虚無、甘さと苦さの混じった味がした。

780: 2012/12/30(日) 01:24:01.64 ID:c1541ufP0

この唇の温もりの中には……ああなんてこと。

『氏』の実感がある……私のキリカは本当に氏んだんだわ。

でも……いつかは二人一緒になれるから……。

それがわかっていれば……もう、何も怖くない。

救世を終え……互いに何も縛るものがなくなって……互いに何も悩むことがなくなるのよ。

ただ……あなたの吐息と鼓動を感じながらしたかった。しておけばよかった。


この接吻は……『同性愛』なぞというチンケな次元で語れない無限の愛。

そしてあなたを頃した敵へ……報復を成し遂げるという誓い。

私があなたへ送る……愛と復讐のキッス。


織莉子「また、会いましょう。私のキリカ……」

織莉子「私は……私の人生に決着をつける……」



巴マミ――氏亡 呉キリカ――氏亡

781: 2012/12/30(日) 01:24:35.35 ID:c1541ufP0


シビル・ウォー 本体:佐倉杏子

破壊力 ― スピード C  射程距離 B
持続力 A 精密動作性 C 成長性 E

「過去に捨てたもの」の『幻覚』を見せる能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」は相手に物理的、あるいは精神的に襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用。
結界内で本体が殺された場合、頃した相手に本体の捨てたものがおっかぶる。
罪悪感がある限り、何者でも他人に押しつけ清められるしか逃れる方法はない。
自分の捨ててきたものを清めたいという願望から発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

782: 2012/12/30(日) 01:26:47.14 ID:c1541ufP0

今回はここまで。なりふり構わずお亡くなりです。お疲れさまでした。
リトル・フィートで小さくした遺体を食べて「これでずっと一緒よ」なんてやろうと思ったけど流石にエグいのでやめました。

原作のシビル・ウォーの幻覚は体内に取り込まれて一体化してますが、多少異なるのです。
その杏子はピタゴラスイッチみたいな氏に方しましたが、引力なら仕方ない。

次回、決着ゥゥゥ――回です

もうこの惨状からして、次の時間軸で頑張りますエンドが見えてますが……
残るところあと二回。よろしくおねがいします。

790: 2012/12/30(日) 14:12:15.02 ID:c1541ufP0

#14『リトル・フィート』


ほむらは目を醒ます。

ぼやけた視界に、心配そうにしている表情が見える。


ほむら「ん……う……」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「かな……めさん」

ほむら「ハッ!か、鹿目さん!」

まどか「お、大きな声出さないでっ」

ほむら「え……?」

ほむら「……鹿目さん。ここは?」

まどか「『体育館』だよ。逃げてきたんだよ。ここは体育館の放送室。鍵はスタープラチナにピッキングさせた」

ほむら「体育館……」

791: 2012/12/30(日) 14:12:41.28 ID:c1541ufP0

ほむら「私、気を失って……」

ほむら「…………守ってあげられなくてごめんね」

まどか「…………」

まどか「ほむらちゃん。このまま隠れてる訳にはいかないみたい」

ほむら「……え?」

まどか「わたし、心を決めたよ」

まどか「わたし、契約する」

ほむえ「ッ!?」

ほむら「だ、ダメッ!契約なんてッ!」

792: 2012/12/30(日) 14:13:32.08 ID:c1541ufP0

ほむら「鹿目さんは戦ってはいけない!危険すぎる!」

まどか「わたしには、戦う理由がある。資格もある」

まどか「あの人は……わたしの友達を……みんなを……学校を奪った」

まどか「みんなを、わたしの日常を取り戻すには、契約して、困難に打ち克つしかないよ……」

ほむら「あなたは……契約なんてしてはいけないッ!」

ほむら「私は……私は、鹿目さんを……戦いに、争いに巻き込みたくないッ!」

まどか「でも、ほむらちゃん!もう、もう……!」

まどか「巻き込むだとか巻き込まないだとかそういうことを言っている状態じゃないんだよッ!」

まどか「わたしも、戦わなくてはならない!」

まどか「わたしは、あなたを守るわたしになりたい!」

まどか「そして、全てを救いたい!」

ほむら「……っ!」

まどか「スタープラチナはそのためにいる!」

793: 2012/12/30(日) 14:14:38.91 ID:c1541ufP0

まどか「奇跡も魔法も、わたしは手に入れられる……!」

ほむら「…………でも」

ほむら「それでも……ダメ、だよ……危険過ぎる……」

ほむら「あなたには……魔法少女なんかには……そんな……!」

まどか「ほむらちゃん……」

まどか「……教えて」

まどか「ほむらちゃんは、何を知っているの?」

まどか「わたしを巻き込ませたくない理由。契約させたくない理由」

まどか「ほむらちゃんの友達が亡くなったから、じゃないよね……?」

ほむら「……!」

まどか「目に見えて怯えてる……」

まどか「ほむらちゃんは、わたしが魔法少女になることに、怖いことでもあるの?」

794: 2012/12/30(日) 14:15:30.70 ID:c1541ufP0

ほむら「…………」

ほむら(この目……声のトーン……鹿目さんは、わかってる)

ほむら(『友達を失ったから巻き込ませたくない』というのは表向きの理由ということに)

ほむら(……いや、表向きと表現したけど……偽りではない。真実とは少し違う)

ほむら(私は……この顔になった鹿目さんを、今までに何度か見た)

ほむら(決意の表れ。確信の表情。迷いなき覚悟)

ほむら(この目をされたら……私には……鹿目さんを止める術がわからない)

ほむら(……言おう。もう、隠すことはできない)

ほむら「…………」

ほむら「……私は、ね。鹿目さん」

ほむら「私は……未来から来たんだよ」

まどか「……え?」

795: 2012/12/30(日) 14:16:58.39 ID:c1541ufP0

ほむら「時間がないから……事実だけを話すね」

ほむら「今まで内緒にしてきたけど……私の願いは、鹿目さん。あなたを守ること」

まどか「わたし?」

ほむら「私は、魔法少女になる前は、体が弱くて内気で弱虫で、一人では何もできないような人間だった」

ほむら「そんな私に、優しく声をかけてくれて、友達になってくれたのが、魔法少女の鹿目さんだった」

ほむら「私は、鹿目さんに色々教えてもらった。助けてもらった」

ほむら「すごく、嬉しかった。私、それまで友達なんてろくにいなかったから……」

ほむら「だけど……あなたはワルプルギスの夜という魔女と戦い命を落とした」

ほむら「だから私は、あなたを守りたいと、出会いをやり直したいと願ったの」

ほむら「全てはその時から……ううん、鹿目さんと出会った時点で始まっていた」

まどか「ほ……ほむらちゃん」

ほむら「巴さんも、美樹さんも……実は佐倉さんも、失った友達だった」

ほむら「今まで秘密にしててごめんね」

796: 2012/12/30(日) 14:17:53.59 ID:c1541ufP0

ほむら「でも、言えなかった理由がある」

ほむら「未来から来ただなんて信じてもらえないだろうからっていうのもあるんだけど……」

ほむら「魔法少女はね、ソウルジェムが穢れきってしまうと、魔女になってしまう」

まどか「え……」

ほむら「巴さん、美樹さん、ゆまちゃん……少なくともあの三人は、この残酷な真実を知らない。私はある時間軸で知ったけど、教えられなかった」

ほむら「別の時間軸で、それを教えた結果より悲惨なことになった経験があるから」

ほむら「……そして、鹿目さん。あなたは魔女になると、世界を滅ぼしうる魔女となる」

まどか「わ、わたしが……世界……を?」

ほむら「そう……」

ほむら「かつての鹿目さんは言ったの……『わたしを救って』……と」

ほむら「私は約束した。鹿目まどかという人間を魔法少女にしない」

ほむら「……それが私の誓いであり、生きる目的」

797: 2012/12/30(日) 14:20:20.31 ID:c1541ufP0

ほむら「信じてもらわなくても構わない。でも、それが私が、鹿目さんを守る理由」

ほむら「私は、あなたを守る私になると誓った」

ほむら「私の目的は、鹿目さんを契約させずに、鹿目さんを守りつつワルプルギスの夜を越えること」

ほむら「……だけど、今はどうだろう。むしろ、魔法少女でない鹿目さんに守られてしまっている……」

ほむら「だから、今こそ、鹿目さん。私があなたを守らなければならない」

ほむら「これが私の。未来への道標」

まどか「わ、わからないよ……わたし、何がなんだか、わからないよ……!」

まどか「急に……未来だとか、わたしが魔女になるだとか言われても……わたし、どうすれば……」

ほむら「鹿目さんは、隠れていればいい」

ほむら「私が敵を迎え撃つ。一人でやらないといけない」

まどか「ダ、ダメだよ!相手はスタンド使い!スタンドを持ってないほむらちゃんには……!」

798: 2012/12/30(日) 14:21:46.39 ID:c1541ufP0

ほむら「大丈夫!時間を止めて、ソウルジェムを撃ち抜くッ!」

まどか「だ、だったらわたしと二人で……二人がかりならより確実というか……」

ほむら「魔法少女でないあなたでは……魔法に対処できない」

ほむら「どういう魔法武器を使ってくるかわからない以上、魔法少女でない鹿目さんには危険すぎる」

まどか「ほ、ほむらちゃんだってスタンドに対処できないじゃない!」

まどか「二人で、お互いのマイナスをうち消し合って、ゼロにして、初めて対等……いや、それ以上になるッ!」

ほむら「……あなたは、腕がもげても戦える?」

まどか「う……で、でも……」

ほむら「ここで待ってて」

ほむら(鹿目さん。今度こそ、私があなたを守る……!)

799: 2012/12/30(日) 14:24:16.56 ID:c1541ufP0

織莉子「……体育館」

織莉子「校外に逃げる予知をしていたけれど……やはり、やめたようね」

織莉子「あなた達は、私から逃げるために校外へ出るはずだった」

織莉子「出ないようにそれなりの対策をとったにも関わらず……」

織莉子「未来は変わる……」

織莉子「しかし、ここで私を討つことにした。だから私はここに来た」

織莉子「出てきなさい。暁美ほむら」

「――ッ!」

織莉子「あなたが私を不意打ちで殺そうとか考えているのはわかっているわ」

織莉子「当然の選択よね」

ほむら「…………」

織莉子「最終ラウンド……になるといいわね」

800: 2012/12/30(日) 14:26:00.29 ID:c1541ufP0

ほむら「……これ以上近づかないで」

織莉子「あら、こんな距離でいいの?」

ほむら「もし遠くからでも干渉できるのであれば私達の教室に来る意味がない」

ほむら「その射程は最大でも5か6メートルであると推測が可能」

織莉子「……なるほど。あなた、なかなか冷静になれるのね」

織莉子「残念ながら私のスタンドの射程は短い……敢えて言うと、せいぜい2メートルよ」

ほむら「……一体、何故」

織莉子「ん?」

ほむら「どういう目的で、こんなことを……」

織莉子「知りたい?」

ほむら「あなたの目的は結局一体何だったのか、それを教えてほしい」

ほむら(スタンド関連だとは思う。スタンドさえいなければ現れなかったと思えば何も気にすることはない)

ほむら(しかし……呉キリカという人は、不登校と言えど、同じ学校の生徒!それなら、気にしないわけにもいかない……)

ほむら(今回、もしもワルプルギスの夜を越えられなかったら……次以降の時間軸のためにも知っておかなければならない)

ほむら(それに……時間稼ぎにもなる……)

ほむら(交戦中であろう巴さん達が……きっと来てくれる)

801: 2012/12/30(日) 14:26:49.59 ID:c1541ufP0

織莉子「そうね……何も知らずに殺されるというのも嫌でしょう……」

織莉子「今更過ぎるけど、もしかしたら理由を聞いて命を差し出してくれる……か、も」

ほむら「……?」

織莉子「前置きとして……私の願い。それは、生きる意味を知ること」

織莉子「そして私は、予知能力を得た。そして未来を見た……」

ほむら「……予知」

ほむら「まさか……世界を滅ぼす魔女を見た、と……?」

織莉子「気味が悪いくらいに察しがいいわね……ご名答」

織莉子「私が見た未来……世界を滅ぼす魔女の誕生」

織莉子「私が学校を襲撃したのは、その魔女の誕生を阻止するため……元の魔法少女を抹頃するため」

ほむら(鹿目さんを……)

802: 2012/12/30(日) 14:28:33.90 ID:c1541ufP0

織莉子「何気にあなたが魔女化のことを知っていたのには意外だったけど……ともかく」

織莉子「だからあなたは、世界のために殺されるべきなのよ」

ほむら「……は?」

織莉子「何か?」

ほむら「『私』が……世界を……?」

織莉子「えぇ、そうよ。あなたは世界を滅ぼす」

織莉子「だから私はあなたを頃して、救世を成し遂げる」

ほむら「あ、あり得ない……」

ほむら「魔法少女としての素質があればある程、強力な魔女が産まれるという……」

ほむら「でも!私にはそんな素質はない!」

織莉子「……何をそんな狼狽えているのかしら?まぁいいわ」

803: 2012/12/30(日) 14:31:05.71 ID:c1541ufP0

織莉子「魔法少女としての素質があろうかなかろうかは関係ない」

織莉子「あなたは、私達がレクイエムと呼ぶ……そういう力に目覚めるのよ」

ほむら「レクイ……エム?」

織莉子「あなたに、いつかスタンドが目覚め……そして魔女化に伴い、レクイエムが覚醒する」

ほむら「わ、私にスタンドが……!?」

織莉子「私の予知ではそうだった」

織莉子「私の予知は、私が干渉することで、予知をした事実の元に行動すれば未来を変えられる……」

織莉子「しかし、もしそれを実行したらというIfの未来は見ることができない。未来を変えるには実際にやってみるしかない」

織莉子「人は未知を恐れる。あなたにスタンドを発現させない努力をするよりも、あなたを頃した方が、Ifの未来は確定される上に、確実で手っ取り早い」

織莉子「巴マミも美樹さやかも千歳ゆまも……佐倉杏子も、そして私のキリカも……あなたが生きているがために氏んだ」

ほむら「ッ!?」

ほむら「し、氏ん……!?」

804: 2012/12/30(日) 14:32:01.35 ID:c1541ufP0

織莉子「そう……もはや、見滝原の魔法少女の生き残りは、私とあなたしかいない……今のところは」

織莉子「さぁ、私に殺されて。あなたが氏ぬことで、世界は救われる……」

織莉子「あなたの氏が、救世に繋がる」

織莉子「世界を滅ぼす存在となることを知って、それを未然に防ぐために氏ぬ……これ以上の美談はない」

ほむら「ふ、ふざけないでッ!」

ほむら「私には、私には命を超越した使命があるッ!」

ほむら「そんな……そんな理由で氏ねないッ!」

織莉子「しょうがないわねぇ……だから私があなたを頃すのよ。そういう予知だから……」

ほむら「クッ……」

ほむら(『頃し』てやる……ッ!)

ほむら(許せない……絶対に、絶対に……ッ!)

805: 2012/12/30(日) 14:32:47.32 ID:c1541ufP0

ほむら(巴さんを……ゆまちゃんを……美樹さんを……!)

ほむら(だが……落ち着いて。私)

ほむら(感傷で動いてはならない……今ここで怒ったら、非常にマズイ状況になる)

ほむら(……そうか、予知能力、か)

ほむら(下手をすれば、鹿目さんの魔女を予知して、鹿目さんを頃すために襲撃してくる可能性もあったのか……)

ほむら(それなら、標的が私に移ったから、鹿目さんに飛び火しないで済んだ。と前向きに捉えよう)

ほむら(とにもかくにも、もういい。目的は理解した)

ほむら(時を止めて、ソウルジェムを撃ち砕……)

ほむら「……ん?」

ほむら「予、知……?」

織莉子「飲み込みが悪いのね」

ほむら「――ハッ!」

織莉子「さぁ!あなたにプレゼントよ」

806: 2012/12/30(日) 14:33:31.58 ID:c1541ufP0


織莉子はほむらに「何か」を投げて寄越した。


何かは光を反射している。何かは透明で向こうの景色が見える。

何かはガラスで出来ている。何かは中に「生き物」が入っている。

回転する自身の入れ物の中で、もがいている。

ほむらは、その生き物を知っている。その『ビン』の中の『猫』を知っている。


ほむら「エ……」

ほむら「『エイミー』ッ!?」

織莉子「あなたが時を止めて私を頃すということを予知していないと思ったのかッ!?」

織莉子「時間停止のタイミングを『予習』したッ!」

織莉子「時間停止を防ぐための対抗策!あなたは動揺した!則ち隙を生んだッ!」

ほむら「し、しまっ――」

807: 2012/12/30(日) 14:34:12.88 ID:c1541ufP0

ギャンッ!

織莉子の背後から、氏角となっていた場所から「球体」が飛び出してきた。

それは、時を止めるタイミングを見失ったほむらに向かって飛んで来る。


織莉子「私の魔法武器。水晶玉ッ!」

織莉子「敢えてわざわざ一切使わずにここまで来たわ。全てはこのために!飛び道具を隠していた!」

メメタァ!

ほむら「がふッ!……うッ」

ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル

ほむら「うおおああアァァッ!」


水晶玉が顔面に激突する。

その衝撃で眼鏡が割れた。

水晶玉が顔面で回転する。

その摩擦で頬肉が裂けた。

808: 2012/12/30(日) 14:36:35.23 ID:c1541ufP0

割れた眼鏡のレンズが瞼を切る。

水晶玉は血で濡れる。

奥歯がゆっくりと折れる。


ほむら「ゲハッ!」


体勢が崩れた。そこに、織莉子は既に、ほむらの側に、走り寄っていた。


織莉子「私のスタンドは近距離型……近づかなければならない」

織莉子「しょうがないわね……わざわざこんなこと……そして、爪の届く範囲に入った」

織莉子「もらったッ!リトル・フィートッ!」

スパァッ!

リトル・フィートは、右腕を大きく振った。

そしてほむらの体を服ごと一文字に切った。


ほむら「グッ!」

ほむら「……ッ!?か、体が……!」

809: 2012/12/30(日) 14:37:37.05 ID:c1541ufP0

ガシィッ!

ほむらの体は指人形くらいの大きさに縮んだ。

リトル・フィートは左手でほむらを拾い上げる。

ほむらにはスタンドが見えない。

そのため、見えない何かが体を束縛し、宙に浮いたように感じている。


ほむら「ッ!」

織莉子「掴んだわ」

ほむら「うぅっ……!」

織莉子「リトル・フィート……小さくする能力」

織莉子「学校襲撃の下準備としてその猫も小さくしてビン詰めしておいた」

織莉子「ちなみにあなた達がこの猫を可愛がっていることも予習済み」

織莉子「ビンの中でもがく顔見知りの猫……誰だって驚く。私だってこの能力でなかったら驚くわ」

810: 2012/12/30(日) 14:38:22.08 ID:c1541ufP0

織莉子「いつだったか佐倉さんはこれをくだらない能力と言った……」

織莉子「まぁ……『くだる』『くだらない』というのは所詮、使い方次第よ」

織莉子「……あぁ、そうそう」

織莉子「あなたがビンをキャッチしなかったから、ビンが落ちてしまったのよね」

ほむら「ッ!?」

織莉子「あなたは悪くないわ。気に病まなくていいのよ。急だったものね」

ほむら「あ、ああ……あああ……!」

織莉子「でも、あなたがビンをキャッチできていれば、助かったのに」


織莉子の放ったビンは、床に落ち、割れていた。

その破片が、『中身』の喉に突き刺さっている。

その中身は、赤い液体を流しながらピクリとも動かない。

811: 2012/12/30(日) 14:39:23.75 ID:c1541ufP0

ほむら「エ……イミー……!」

織莉子「あの小汚い野良猫は、救世のための人柱ならぬ猫柱となるのよ」

ほむら「なんて……なんてことを……!」

織莉子「私のこと……ゲスだと思う?怒り心頭かしら?」

織莉子「そんな今更……既に私はどれだけ人を頃したと思っているのよ」

織莉子「世界の救世と勝利に……犠牲はつきものであり、利用はできるものはするべきである」

ほむら「ひ、酷い……!何も関係ない命までッ!」

織莉子「そんなことで泣かないの。しょうがないわねぇ……」

織莉子「もう一度聞くけど……あなたには私がゲスな人間に見えるかしら?」

織莉子「もう一度言うけど……世界の救世のための、やむを得ない犠牲なの」

織莉子「これはあなたが悪いのよ……あなたが世界を滅ぼしうるから……」

812: 2012/12/30(日) 14:40:11.92 ID:c1541ufP0

織莉子「私を悪だと思っているあなたは被害者のつもりなんでしょうけど……」

織莉子「自分が悪くないと思っていて、しかもそれが事実だというのがやっかいなところ」

織莉子「あなたが氏ぬことは世界を救うこと!」

ほむら「くっ……!」

織莉子「しかし、私もしょうがないわね……ここまでやって、何とも思わない」

織莉子「ん?何をって……罪悪感が薄いのよ……」

織莉子「フフ……フ……我ながら思う……仔猫を頃し、無関係の人を頃し……」

織莉子「救世のためとは言え、私ってばこんなことをして『しょうがないわ』っていともたやすく割り切れる性格だったかしら……?」

ほむら「な、何を言って……」

織莉子「正直、自分自身でもビックリしている」

織莉子「キリカを失って自棄になっているのか……それとも……」

織莉子「スタンドのせいでそうなった。……と言うのは、責任転嫁が過ぎるかしら」

織莉子「キラークイーンを得て、人を爆氏させるのに躊躇をしなかったという千歳ゆまのように……スタンド故に性格が書き変えられたの……か、も」

813: 2012/12/30(日) 14:41:25.56 ID:c1541ufP0

ほむら「くっ……!」

ほむら(な、何とか……)

ほむら(何とか抜け出さなければ……)

ほむら(どうする……!私にはスタンドが見えないが……きっと掴まれているのだろう……)

ほむら(元より時間を止めてどうこうできる状況ではない……!)

ほむら(ならば……)

織莉子「あなたは次に『盾から爆弾を出し、自爆してでも脱出しよう』と思う」

ほむら(盾から爆弾を出して自爆してでも……)

ほむら「――ハッ!」

織莉子「それくらい、予知の能力を使わなくてもわかるわ」

織莉子「あなたには見えていないだろうから解説すると……」

織莉子「例外はあるでしょうけど、スタンドはスタンドでしか傷つけられない」

織莉子「則ち、リトル・フィートに掴まれているあなたが自爆をしても、リトル・フィートは衝撃も熱さも感じない」

814: 2012/12/30(日) 14:43:51.59 ID:c1541ufP0

ほむら「う、うぅッ!」

織莉子「救世は別として……暁美ほむら。キリカを失ったのはあなたのせいよ」

織莉子「私は、全ての元凶であるあなたが憎い。許せない。私個人としてあなたを拷問する」

織莉子「じっくりと痛めつけた後に女郎蜘蛛の餌にして頃してやる」

ギリ……

織莉子「体の中を蜘蛛の消化液でバニラシェイクみたいに溶かされてしまえばいいと思っている」

ほむら「ガ……!ぐ、ぐぐ……!」

織莉子「残念ながらリトル・フィートは爪で傷つけることが売りであり元々は力の弱いスタンド……」

織莉子「気を失わせる程度はできても……小さいと言えど人間の骨格を砕く程の握力はないし……」

織莉子「その暇もなさそうだわ。蜘蛛を捕まえる時間が必要だと言うのに」

ほむら「な……」

織莉子「と、いうことで間近でピーピー喚かれたり魔女になられても煩わしいので……」

ほむら「な、にを……」

815: 2012/12/30(日) 14:45:53.20 ID:c1541ufP0

織莉子「しばらく黙って、これに入っていなさい」

織莉子「あなたを頃すのは、その後……。先に相手しなければならないヤツがいる」

ギリ……ッ!

ほむら「グアッ……!ま、まさか……!」

ほむら「ま……まど……」

ほむら「……」


ほむらは血を吐いて再び気を失ってしまった。

織莉子は懐から小ビンを取り出し、リトル・フィートから受け取ったほむらを中に入れる。

そしてコルクで蓋をした。そのまま窒息氏させるのではない。

織莉子は半歩左斜め後方に一歩退いた。


瞬間――

ギュゥゥゥォォ――ンッ!

織莉子の視界に桃色の閃光が走った。

頬が切れ赤い線が描かれる。

弓を持った桃色の魔法少女が、そこにいた。

816: 2012/12/30(日) 14:49:15.26 ID:c1541ufP0

まどか「…………」

織莉子「あなた、さっきまで指輪してなかったのに……」

織莉子「漫画やアニメの世界からそのまま出てきたかのような魔法少女……」

織莉子「そんな姿の敵は……予知でも見なかったわ」

織莉子「あなたは何を願ったのか……興味がないこともない」

織莉子「……『契約』してしまったのね。暁美ほむらを守るために」

まどか「…………」


「負傷を強いられる」――織莉子はそう思った。

目の前の最後の障壁を取り除いた後、ケガの具合によっては個人的拷問を廃止せざるをえない。

その際、この小ビンは床に落とし、中身もろとも踏み潰すことにする。

そう誓った。

817: 2012/12/30(日) 14:50:32.42 ID:c1541ufP0

織莉子「あなたの武器は『弓と矢』……なのね」

まどか「…………」

まどか「さやかちゃんやゆまちゃん。そしてマミさんのことを考えると体が震える」

まどか「さやかちゃんは昔からの親友だった。マミさんはいつでも頼もしい先輩だった。ゆまちゃんはとっても可愛くてもっともっと一緒に遊びたかった」

まどか「だけど、あなた達が……いえ、あなたが奪ってしまった……!」

織莉子「……スタンドはあってはならないものよ」

織莉子「私が思うに、自動車は便利だけれど誰もかれもが乗るから渋滞が起こる……」

織莉子「そういうのを持っているのは私とキリカだけ……あるいは元より存在しない方がよかった」

織莉子「最もこの虫のせいでキリカを失ってしまったのだけれどね」

まどか「…………わたしが」

まどか「わたしが初めて魔女と出会った時……心の奥底まで恐怖を覚えた」

818: 2012/12/30(日) 14:52:53.27 ID:c1541ufP0

まどか「ハッキリ言って、ここで氏んじゃうんだなって思った。本当に怖かった」

まどか「そんな時に助けてくれたのが、ほむらちゃんとマミさんだった」

まどか「ほむらちゃんは、わたしのことを本当に大切に思ってくれていた。すっごく嬉しかった」

まどか「わたしは尊敬した。いつでも気遣ってくれて優しくて頭も良くて格好良くて可愛くてどんなことでも相談できる……わたしの理想のヒーロー」

まどか「わたしは……みんなに守られるわたしでなく、みんなを守るわたしになりたい」

まどか「わたしは全てを救いたい」

まどか「……あなたはわたしから色んなものを奪った。奪おうとしている」

まどか「今、わたしは恐怖をこれっぽっちも感じていない」

まどか「わたしに今あるのは闘志!」

まどか「それは、スタープラチナに目覚めたから、戦う力があるからだけじゃない」

まどか「魔法少女との出会い……スタンドの目覚め、そしてこの数十分の間の……友達の氏がわたしの中から『敵』への恐れを吹き飛ばした!」

819: 2012/12/30(日) 14:53:56.87 ID:c1541ufP0

織莉子「ふぅん……そう」

まどか「『吐き気を催す邪悪』とは自分自身のためだけに、他者の命を踏みにじるようなことをする人ッ!」

まどか「よくも……よくも学校を……!そして、みんなを!エイミーまでッ!」

まどか「絶対に許せない!あなたの行為は法律では裁けない……だからッ!」

まどか「わたしが裁くッ!」

織莉子「……邪悪?黙っていればいい気になっているわね」

織莉子「この私が悪、ですって。救世を成し遂げるこの私が……」

織莉子「世界を滅ぼす可能性を孕む暁美ほむらの方が悪なのよ……」

織莉子「本人はそんな素質を持ちたくて持ったんじゃないでしょうけど……滅ぼすという真実がある」

織莉子「悪はあなたの方もよ。暁美ほむらを庇うと言うのならね」

820: 2012/12/30(日) 14:55:10.31 ID:c1541ufP0

織莉子「私は、世界を滅ぼしうる素質を抹頃する……世界を救世する『正義』」

織莉子「私こそが、正義。悪の反対。真実の、光り輝く道……真実へ向かう意志は決して滅びない」

織莉子「我が心と行動に一点の曇りなし……全てが『正義』よ」

まどか「あなたは……自分を悪だと自覚していない最もドス黒い悪……!」

織莉子「……フン」

織莉子「悪のレッテルを押しつけ合う、これではいたちごっこね」

織莉子「結局、敗者が悪……ということに収集される」

まどか「…………」

まどか「あなたに伝えておくべきことがある」

織莉子「……何かしら」

821: 2012/12/30(日) 14:56:24.67 ID:c1541ufP0

まどか「キュゥべえは言っていた」

まどか「わたしにはすごい素質があるって。魔法少女になったら、素晴らしい活躍が期待できるって」

まどか「そしてほむらちゃんは言っていた!わたしも、世界を滅ぼす魔女になるとッ!」

織莉子「……」

織莉子「……何を……言っているのかしら?頭おかしいの?」

まどか「もう一度言う……『わたしは世界を滅ぼす魔女になる』ッ!」

織莉子「……馬鹿なことを」

織莉子「……私の予知には……暁美ほむらしかいなかった」

織莉子「もしあなたがそんな大それた魔女になるというのなら……予知で見えないはずがない……」

まどか「ほむらちゃんは嘘なんかつかない。それにキュゥべえも、隠し事はすれど嘘はつかないんだよ」

822: 2012/12/30(日) 14:57:52.82 ID:c1541ufP0

まどか「ほむらちゃんはそのためにこの世界に来た……予知なんてうやむやな上辺だけの真実ではなく、事実ッ!」

まどか「わたしの魔女化……もとい、魔法少女にさせないために……」

まどか「あなたの言う救世なんかよりも、ずっとずっと、黄金のように輝かしい救世の形!」

織莉子「…………」

まどか「いい?これは、お互いのために、珍しく怒り心頭なわたしなりの優しさで教えたの……」

織莉子「結局、何が言いたいのかしら?」

まどか「ほむらちゃんを頃したら、わたしは家族以外の全てを失ったことになる」

まどか「そしてきっと……ううん、絶対に絶望して魔女になる」

織莉子「……自分を人質にするとでも?」

まどか「何だったら、今、予知でわたしの未来を見るといいよ」

823: 2012/12/30(日) 14:58:31.73 ID:c1541ufP0

まどか「ほむらちゃんのレクイエムとやらが発現する時系列が……わたしの魔女よりも前だった……あるいはその前にわたしが氏んだから……」

まどか「だから見えうるであろうわたしの魔女よりも、ほむらちゃんのレクイエムが見えたんだと思う」

まどか「確認してみてよ。わたしの未来を……どう見えるかはわからないけどね」

まどか「本音を言えば……その隙にスタープラチナをブチ込みたいからむしろ見て欲しいなって」

織莉子「……あなたは今、プッツン寸前、というヤツなわけね。何が言いたいのか伝わらないわ」

織莉子(この目……漆黒の殺意を宿していると言うには大げさね)

織莉子(油断は端からするつもりはないが、少しでも気を抜いたらやられてしまうのは間違いない……)

織莉子(スタープラチナのパワーとスピードは既に覚えた。当然、この状況で悠長に予知なんてしてられるはずがない)

織莉子(ほんの数秒でも、予知しようとすれば……鹿目まどかへの警戒の心を、別のことに気を取られたら……私は『氏ぬ』)

織莉子(世界を滅ぼす魔女……素質……)

824: 2012/12/30(日) 15:00:05.21 ID:c1541ufP0

織莉子(鹿目まどかが世界を滅ぼすということ自体がハッタリの可能性がある)

織莉子(だがさっき私に放った矢の威力から……素質はある。そしてスタンド使いという真実が存在する)

織莉子(少なくとも強力な魔女になることは請け合いかもしれない。そして魔女化に伴ってスタンドが変わりレクイエムを発現する可能性もなきにしもあらず)

織莉子(暁美ほむらはまだスタンド使いでないから、猶予というものがあるのだけれども……)

織莉子(……しょうがないわねぇ)

織莉子(私の第一目標は暁美ほむらを頃すこと……それは問題なくやれる)

織莉子(ただし、キリカの仇を取るために暁美ほむらを拷問するというのは諦めるざるを得ない)

織莉子「……私のリトル・フィート、は……」

織莉子「あなたのスタープラチナ程ではないでしょうけれど、素早いわよ」

まどか「やってみなよ……その前にわたしがあなたを『頃し』てみせる」

825: 2012/12/30(日) 15:02:04.10 ID:c1541ufP0

織莉子「私が救世を成し遂げる……命を賭してでも」

織莉子「……鹿目まどか。暁美ほむらが潰されたら絶望して魔女になると言ったわね……」

織莉子「スタンドは精神力。果たして、そんなハッタリをかませるその精神力で……」

織莉子「スタープラチナという強力なスタンド使いでありながら」

織莉子「私のリトル・フィートよりも『早く』魂を濁せるのかしら?」

まどか「試してみる?どっちが早いか……本当にハッタリかどうか……」

まどか「ほぼ確実に言えるのは『スタープラチナがあなたのソウルジェムを壊すことそのものについては、何も難しいことはない』ってことだよ」

織莉子「暁美ほむらを頃す。あなたを頃す」

織莉子「……両方やるのは難しいことだが……賽は投げられた。進むしかないのよ」

織莉子「…………」

まどか「…………」

826: 2012/12/30(日) 15:03:36.91 ID:c1541ufP0

織莉子「ところで……」


織莉子は傍らに転がる仔猫の氏骸を一瞥して言う。

まどかは、織莉子から目を逸らさない。

エイミーの遺体を見たくない、というのが正直な気持ち。


織莉子「野良猫の平均寿命は四年くらいと言うわ」

織莉子「平均というのは言うまでもないけど……ゼロと10の平均は5」

織莉子「一年、一年、十三年で平均は五年……つまり、そういうことよ」

織莉子「仔猫の時は免疫も弱いから衰弱氏しやすいし……病気や怪我の治療はできやしない。冬なんかは特に氏にやすい」

織莉子「その一方、可愛いだとか可哀想だとかで人から餌を貰ってばかりで自分で獲ることを満足に学べない……生ゴミを食べる日々……お腹を壊して氏んだりもする」

織莉子「また、車の事故氏も多いし、人に虐げられたり、保健所に放り込まれて駆除されたりもする……」

織莉子「野良猫として生まれた時点で幸福は訪れないと言っても過言ではない」

まどか「…………」

織莉子「エイミーとやらは短命だったわね」


――プッツン

827: 2012/12/30(日) 15:04:36.15 ID:c1541ufP0


まどか「スタープラチナァァッ!!」


まどかの背後から現れる黒髪の戦士。

スタープラチナは本体であるまどかから半径2m程しか離れることができない。

そのため、この距離からでは殴ることができない。近づく必要がある。

まどかは地面を蹴り、「頃す」ことを目的として接近をする。

産まれて初めて覚えたドス黒い憎悪。初めて抱いた殺意。

それらを持ってして、美国織莉子に全てを砕く拳を叩き込むために。


織莉子「来るか……鹿目まどかッ!」

バァッ!

織莉子の背後から水晶玉が飛び出される。

ハンドボール程度の大きさの水晶玉が多量に現れる。


織莉子「水晶玉は既にッ!話している間に召喚し準備しておいたッ!」


828: 2012/12/30(日) 15:06:38.94 ID:c1541ufP0

織莉子「暁美ほむらの時は一球だったが、この水晶群!躱せるかァッ!」

ギュゥォ――z___ッ!

そして、水晶玉はまどかに、一斉に襲いかかる。

目の前の状況に対し、まどかは一切怯まない。

むしろ逆に、さらに勢いを増して織莉子に突っ込んだ。

「オオオオォォォォォォォォォ!」

スタープラチナ雄叫びをあげる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ドガガガガッガガガガッ!

スタープラチナの拳のラッシュが炸裂する。

強く早く正確な一拳一拳が、水晶玉を確実に砕き、的確に捌く。

エイミーの遺体にその破片が降り注がないよう留意する。

水晶玉の破片でまどかは瞼を切った。思わず片目を閉じる。

829: 2012/12/30(日) 15:07:09.39 ID:c1541ufP0

まどか「くっ……!」

織莉子「よしッ!今ッ!」

織莉子「『隙』が出来たッ!リトル・フィートォッ!」


双スタンドの射程距離内に入った瞬間、リトル・フィートはすかさずまどかに向かう。

スタープラチナが水晶玉群を捌いている拳と拳の間、策略でこじ開けた一瞬の隙を突いた。


織莉子「勝った!」


その爪で切った瞬間に、体の縮小が開始する。

体が縮めばスタープラチナの腕も短くなる。

織莉子が魔力を込めれば込める程、そのスピードは早くなる。

即ち、ほんの一瞬でまどかを仔猫の遺体よりも一回り小さくすることができる。

そのリトル・フィートの爪が、スタープラチナに触れ――


「オラァァッ!」


830: 2012/12/30(日) 15:07:52.45 ID:c1541ufP0

ベギャッ!


織莉子「イギャァッ!?」

織莉子「……へ?」

ボタ…ボタ…

まどか「…………」

織莉子「え……!?」

織莉子「あ……ああ……!」

織莉子「なあァァッ!?」


気が付くと、織莉子の右拳が砕けていた。

皮膚と肉が裂け、骨が突き出ている。血が流れ落ちる。

織莉子はその傷を左手で押さえた。

魔力で痛覚を遮断したため、骨を体内に押し戻そうとも痛みは感じない。

織莉子は、相手と自分のスタンドを交互に見た。

スタープラチナは無表情。

水晶玉の破片が足下に散らばっている。全て砕いたらしい。

一方、リトル・フィートの右手は陶器のように砕けていた。

831: 2012/12/30(日) 15:10:11.30 ID:c1541ufP0

織莉子「な……」

織莉子「何が……起こった……!?」

織莉子(……は、速い)

織莉子(速すぎる……い、いつの間にリトル・フィートの右手を……爪ごと砕き折った……!?)

織莉子(この私が……殴る瞬間さえ見れなかった!)

織莉子(水晶群を捌いて……隙ができていたはず……!)

織莉子(隙を作るために水晶玉を放ち、実際に隙ができたからッ!だから私は……!)

織莉子「……え?」

織莉子(ちょっと待って……思わず、思わず左手で負傷した手を押さえたが……)

織莉子(何故……私は『手ぶら』なんだ……?)

織莉子(ビンが……)

織莉子(左手に持っていた暁美ほむら入りのビンが……!)

織莉子「暁美ほむらがないッ!?」

まどか「……『既に』……だよ」

織莉子「ッ!?」

まどか「既に取り返した」


織莉子の覚えた違和感の答え。それは目の前にあった。

まどかの左手の上には既に、力無く横たわるほむらがいる。


織莉子「い、いつの間に……!?」

織莉子「いつだ……!」

織莉子「いつ私から『暁美ほむらを奪った』ッ!?」

832: 2012/12/30(日) 15:11:25.30 ID:c1541ufP0

織莉子「答えなさいッ!鹿目まどかァッ!」

まどか「さあ……なんのこと……?わからないよ」

織莉子「しらばっくれるなァッ!」

織莉子(な、何が……何が起こったんだ……!)

織莉子(水晶玉をはじき飛ばしてから……いつ、私を攻撃した)

織莉子(いつ、ビンを奪った。いつ、ビンのコルクを抜いた!?)

織莉子(おかしい……ありえない。いくら素早いからといって……そんな……)

織莉子(ま……まるで時間でも止められたかのように――)

織莉子(……時?)

織莉子(まさか、本当に『時』を……?暁美ほむらのように……)

織莉子(新しい能力が覚醒した可能性がッ!?)

織莉子(まさか……そんな……ほんの一瞬で……)

織莉子(『スタンドが成長した』とでもいうのかッ?!)

833: 2012/12/30(日) 15:14:03.49 ID:c1541ufP0

まどか「スタープラチナッ!」

「オラァッ!」

ドゴォッ!

織莉子「ブッ……!ゲッ……!」


動揺した隙に、スタープラチナの拳がリトル・フィートの顔面に叩き込まれる。

織莉子の同じ場所――魔力で治癒したばかりの絹のような頬、が再び裂けて血が飛び散る。


まどか「……やれやれだよ」

織莉子「……ッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

織莉子「リトル・フィートォォッ!み、身を守……ッ!」

織莉子「う、うおあああッ!」


爪を失なったスタンドは、腕力もなければ射程距離も短い。

スタープラチナよりも速いというわけでもない。無力となった。

最早腕を胸の前で交差させ防御の姿勢をとらせるしかない。

834: 2012/12/30(日) 15:15:22.55 ID:c1541ufP0

マシンガンのような拳のラッシュは襲いかかる。

リトル・フィートの顔面に亀裂が入ると、絹のようなその肌が同じ形に裂けていく。

リトル・フィートの体からピキピキと音がする。同時に織莉子の白い衣装が赤く染まっていく。


織莉子「ぐぶッ!うゥッ!」

織莉子(ダ、ダメだ……ッ!)

織莉子(逃れられない……!防ぎきれないッ!)

織莉子(……負ける)

織莉子(まさか……まさか、そんな……!)

織莉子(私が……『負ける』ッ!?)

織莉子(そ、そんなことって……!ここで負けるッ!)

織莉子(予知をするまでもなく、氏のヴィジョンが見えるッ!本能でわかる!)

織莉子(そんな……『ずるい』……!)

835: 2012/12/30(日) 15:16:45.40 ID:c1541ufP0

織莉子(あんな強くて速いのに……挙げ句に時間を止めるなんて……)

織莉子(ずるすぎる!ずるいッ!不公平だッ!)

織莉子(い、いやだ……!)

織莉子(私が……負けたら……世界が……!)

織莉子(キリカの遺志が……!私の人生が……!人類の未来が……ッ!)

織莉子(い、いやぁ……!)

織莉子(私が……世界を……)

織莉子「……グッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

織莉子「救……うッ……のにィ……ッ!」

織莉子(…………)

836: 2012/12/30(日) 15:17:14.76 ID:c1541ufP0

織莉子(しょうが、ない……わね……!)


――抵抗ができないわけではない。

その防御は、スタープラチナの攻撃を一秒でも長く受ける結果を生み出した。

そして『水晶玉を一球だけ召喚し』まどかに向けて飛ばす余裕を作り出した。


織莉子(鹿目まどか……)

織莉子(貴様さえいなければ……!)

織莉子(貴様さえいなければもっと楽に暁美ほむらを抹殺できたのに……!)

織莉子(許さない……!貴様は、貴様だけはッ!私の手で必ず頃すッ!)

織莉子(こうなればッ!貴様を頃してッ!暁美ほむらに無力感をッ!絶望させてやるッ!)

織莉子(これは賭けだ!暁美ほむらの絶望に、私の魂を賭けるッ!)

織莉子(スタンドに目覚める前に、魔女にしてやるッ!)

837: 2012/12/30(日) 15:17:59.55 ID:c1541ufP0

織莉子(氏に晒せッ!鹿目まどか!)

織莉子(そして苦しめッ!絶望しろッ!暁美――)

「ウォォオオオオオオオオオオ!」

織莉子「ほォォォオオォォォォむらァァァァァァアアァァァッ!」

「オラァァァァァッ!」

織莉子「ア゙ア゙アアアアアァァァァッ!」

ボキベキッ!ボゴォッ!


織莉子「ガフッ……!」


ガシャンッ!


織莉子「……」

織莉子(キリ……カ……!)

838: 2012/12/30(日) 15:19:17.54 ID:c1541ufP0

まどか「……!」


スタープラチナの拳がリトル・フィートの体を、その腕ごとブチ抜いた。

そのまま背後にいた織莉子……そのソウルジェムを砕いた。

リトル・フィートの胸に穴があき、両手首は砕け散った。

ボト、ボトッ、と鈍い音を立てて織莉子の両手首が床に落下した。

織莉子の胸は間接的に貫かれた。


白い装束の面積半分近くは既に赤に染まっている。

水風船を口に入れていたかのように血を吹き出た。整った顔と体はズタボロになっている。

リトル・フィートは全身にヒビが走り、ポロポロと破片が落ちていった。

破片の一つ一つは、床に触れる前に塵のようになって消えていく。

――織莉子の意識は完全に途絶えた。


839: 2012/12/30(日) 15:19:53.96 ID:c1541ufP0


リトル・フィートは塵になった。

織莉子の体は、スタープラチナの渾身の一撃を受けて宙に浮き、水平に吹き飛んでいた。

ドゴンッ!

勢いそのまま、壁を壊し穴をあけ、細く白い脚が穴の淵に引っかかったまま動かなくなった。

美国織莉子は氏んだ。


しかし、氏の寸前。織莉子は自身の闘争心の全て。

織莉子の――救世に生きた人間の魂その全てを賭けた殺意を向けていた。


ボゴンッ!


まどか「――うッ!」

まどか「…………」

まどか(ほむ……ら、ちゃ――)

840: 2012/12/30(日) 15:20:47.59 ID:c1541ufP0

――最後の戦いはすぐに終わった。


スタンドはスタンドでしか傷つけることができない。

故に、例外を除いて魔法武器はスタンドに当たらない。

小さな水晶玉は、スタープラチナの体をすり抜けた。

氏の直前に放たれた最期の攻撃。

織莉子の七つの頸椎全てが砕け折れたと同時に、水晶玉は標的の体に到達していた。

ソウルジェムを砕き、肉に埋まり、胸骨柄を砕き、貫通した。

まどかの胸元と背中に円形の穴があいた。そこから湧き水のように血が流れ出る。

スタープラチナの胸にも同型の穴があいたが、その表情は一切崩さず、そのまま霧のように消えた。

――まどかの体は力を失い、水晶玉に引っ張られ崩れ落ちる。変身は既に解けていた。

仲間を失った悲しみ。

スタンドの操作に必氏だったこと。

「人を頃した」という実感。

この三つの動揺が、織莉子による最期の一撃を気付かせなかった。

最期の抵抗を想定することがなかった。

841: 2012/12/30(日) 15:21:58.70 ID:c1541ufP0

――
――――


QB「…………」

QB「酷い惨状だ」

QB「やっとまどかと契約できたのに……折角のエネルギーが……」

QB「スタンド……か」

QB「やれやれ」


この場には、片や血まみれ、片や全身ズタボロの遺体。

片方の遺体に覆い被さる負傷者。その側に佇むインキュベーター。

そしてガラスの破片が喉に突き刺さった猫の氏体だけが残った。


リトル・フィートが解除されたことで、ほむらの体は元の大きさに戻っている。

ほむらは、まどかの遺体の上で眠った。



鹿目まどか――氏亡 美国織莉子――氏亡

842: 2012/12/30(日) 15:22:33.66 ID:c1541ufP0

――教室


女子生徒A「何かさっきから騒がしいわね」

女子生徒B「全く……受験生舐めんなっつーの!」

女子生徒C「それにしてもさ、さっきの女の子、可愛かったよね」

女子生徒A「あー、ゆまちゃんって言ったっけ?ペロペロしたい」

女子生徒C「休み時間に会いに行こうよ!」

女子生徒B「賛成ぃ~!」

女子生徒A「巴さんの親戚の子、だってね。預かってるって言ったけど」

女子生徒B「やっぱ美人の家系はみんな美人なんだろうね」

女子生徒C「遺伝子いいなぁ。少しでいいから分けてほしいよ」

女子生徒B「せめて巨O遺伝子だけでもいただけないかなぁ」

843: 2012/12/30(日) 15:24:54.27 ID:c1541ufP0

教諭「おい、そこ。さっきからうるさいぞ」

男子生徒A「先生。お言葉っスけどォ~」

男子生徒B「むしろうるさいのはよそのクラスだって」

男子生徒A「そうそう。そういうの注意してくださいよォー」

教諭「めんどい」

男子生徒C「ダ、ダメ教師だ……」

教諭「転職したいなぁ」

ポリポリ

女子生徒E「クロスワードパズル難しいなぁ」

カリカリ

844: 2012/12/30(日) 15:25:27.29 ID:c1541ufP0

男子生徒D「ネアポリスのピッツァがないなら、大きなカエルを食うしかないじゃない」

男子生徒I「シザーハンズチョキチョキサイコー!」

女子生徒A「何か外天気いいしさあー、一日ぐらい勉強しなくたってさあー」

男子生徒V「さっきからテメーらやかましいぞ!うっおとしいぜッ!」

女子生徒O「な~にさ!気取っちゃってェ!プンスカプン!」

男子生徒L「うわぁ、プンスカプンだって、ブリっ子キモイわぁ。BIIITCH!」

女子生徒O「おぉ?!やんのか!?女だからってナメくさっとんなよポコチン野郎がッ!」


チョークを咀嚼する教諭、鉛筆の芯を囓る女子生徒、授業中にノートパソコンを開く男子生徒。

椅子を舐める者、音楽を聴く者、爪を切る者、黒板消しクリーナーを分解する者、水を飲む者。

映画談議をする者、殴り合う者、踊り出す者、奇声を発す者、その辺りをバタバタ走り回る者。

教室の中で異様な行動をとる教諭と生徒達の首筋には、奇妙なマークが描かれている。


魔女の結界が生じた。

845: 2012/12/30(日) 15:25:54.78 ID:c1541ufP0

リトル・フィート 本体:美国織莉子

破壊力 D スピード B  射程距離 E
持続力 B 精密動作性 C 成長性 C

人差し指に鋭い爪のある人型スタンド。その性質は「瑣末」
その爪で傷つけたものの大きさを『縮める』能力。また、自身も小さくできる。
縮んでいくスピードは魔力依存。魔力を込めれば込める程早く縮む。
スタンドは引力の魔女レイミの呪い。得たスタンドによっては本体の性格に影響を与えることがある。
今の織莉子は、縮めた人間を踏みつぶしたり嬲り頃したりすることに何の躊躇もない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

846: 2012/12/30(日) 15:31:56.38 ID:c1541ufP0
今回はここまで。次回最終回です。

リトル・フィートは好きですがディアボロの大冒険で酷い目にあったのでホルマジオは嫌いです
思い返せば血がよく出てますねぇ

最終回を終えてスレの余り具合によっては質問コーナーみたいなのを設けてみます。前作みたいに。
HTML化は新年に依頼します。1000いけばそれはそれでいいんですが……

849: 2012/12/30(日) 20:48:16.38 ID:c1541ufP0

#15『守る私になりたい』



織莉子が見滝原中学校の敷地に入ってから、まだ三十分か否かくらいしか経っていない。

その間に、ほむらは大きすぎて多すぎるものを失った。

巴マミ。美樹さやか。千歳ゆま。

志筑仁美。早乙女先生。他クラスメイト。エイミー。

そして、鹿目まどか。


目を覚ましたほむらは、すぐに状況を把握できた。

顔に赤黒く酸化した血が塗られている。

そして胸に穴がポッカリとあいた遺体の側で、無表情のまま、その顔を見つめることにした。

眠っていると錯覚に陥りそうな程、顔面だけは綺麗だった。

ふと、キュゥべえがその場にいないことに気付いた時、やっと口が動いた。


ほむら「…………どうして」

850: 2012/12/30(日) 20:49:17.52 ID:c1541ufP0

ほむら「どうして……こんなことに……」

ほむら「巴さんも美樹さんもゆまちゃんも……みんな……みんな氏んだ……」

ほむら「それも……私のせいだ……!」

ほむら「私が、世界を滅ぼすと予知されたせい……」

ほむら「私に……スタンドの素質があったせい……」

ほむら「魔女レイミが、生まれてしまったせい……」

ほむら「レイミを頃すことができなったからだ……」

ほむら「だから、こんなことになった……」

ほむら「…………」

851: 2012/12/30(日) 20:55:26.58 ID:c1541ufP0

ほむら「……私は」

ほむら「私は、鹿目さんを守りたい、守るために魔法少女になった」

ほむら「けど……この時間軸はどう?」

ほむら「魔法少女でない鹿目さんに『守られ』た……」

ほむら「そして私は何度も不甲斐ない無様な様を……」

ほむら「この……この少しの間だけで二回も気を失った」

ほむら「大切な時に……結局何もできなかった」

ほむら「鹿目さんに守られる私でなくて、守る私になりたいと誓ったのに……」

ほむら「私は何のために守ると願ったのか……!」

852: 2012/12/30(日) 20:56:58.63 ID:c1541ufP0

ほむら「何て……何てザマだ……私は……!」

ほむら「情けない……無様すぎる……」

ほむら「う……うぅ……」

ほむら「うぅぅぅ……!」

ほむら「私は……私は!また救えなかった……!」

ほむら「……守れなかったッ!」


ダンッ!

ほむらは感情にまかせて床を殴った。

無意識的に魔力で力を高めていたため、骨にひびが入る。

下唇の肉を噛み千切り、ダラダラと血を流す。

痛みは感じない。

853: 2012/12/30(日) 20:59:11.54 ID:c1541ufP0

ほむら「また守れなかったッ!」

ほむら「それどころかッ!みんな氏んだッ!」

ほむら「全て失ったッ!」

ほむら「ああ……スタンドッ!」

ほむら「スタンドという……『呪い』が……!」

ほむら「私はスタンドという概念が憎いッ!」

ほむら「よくも!よくもッ!」

ほむら「よくもまどかをッ!」

ほむら「スタンドなんかがなければッ!」

854: 2012/12/30(日) 21:00:37.20 ID:c1541ufP0

ほむら「私にスタンドが発現する可能性がなければッ!」

ほむら「スタンドという概念が存在したからッ!」

ほむら「引力の魔女などというものがいなければッ!」

ほむら「絶対に頃してやるッ!あの魔女めッ!」

ほむら「頃してやる……!許せない……!」

ほむら「グッ……!クゥゥ……!」

ほむら「…………」

ほむら「……いや」

ほむら「違う……」

ほむら「悪いのは私だ……」

855: 2012/12/30(日) 21:02:41.41 ID:c1541ufP0

ほむら「私が弱いから……」

ほむら「私にスタンドの素質があったことよりも、レイミのせいでも何でもない……」

ほむら「私の弱さが悪いんだ。魔法少女としての実力だけでなく……精神的にも……」

ほむら「佐倉杏子の不意打ちを食らわなければ……」

ほむら「呉キリカを変わり者でなく怪しい人物として見ていれば……」

ほむら「私が……あの時、時を止めて美国織莉子を殺せていれば……」

ほむら「時を止めてさえいれば、誰だって殺せていたはずだ」

ほむら「いざという時は時を止めればいいなどとほざいておきながら……!」

ほむら「私は結局、何もできなかった……」

ほむら「結局、それができなかった……!」

856: 2012/12/30(日) 21:03:54.69 ID:c1541ufP0

ほむら「クラスメートがいたからだ。人を頃すのが怖かったからだ」

ほむら「それを容易にできる勇気を持っていれば……」

ほむら「生半可な覚悟でなかったなら……」

ほむら「殺せない相手ではなかった」

ほむら「勝てない相手ではなかった……!」

ほむら「殺そうと思えば!呉キリカも佐倉杏子も美国織莉子も!誰であろうと殺せていたはずだったのにッ!」

ほむら「私の弱さが……それをできなかったこの性格が全て悪い!」


ほむらは立ち上がり、眼鏡を取り、投げ捨てた。

そしておさげを結っていたリボンを、髪ごとちぎるくらいの勢いで引き解き、同様に捨てた。

ほむらは、まどかを守るために契約し魔法少女となった。

そのことに、闘っている自分に少なからずとも「誇り」があった。

しかし、その誇りが砕け散ったのだ。この数分で。

あるいは、まどかにスタンドという力が目覚めた時点で誇りに皹が入っていたのかもしれない。

857: 2012/12/30(日) 21:05:02.06 ID:c1541ufP0

ほむら「こんな眼鏡はもういらない!」

ほむら「おさげなんかいらないッ!」

ほむら「『弱い私』を思い出すッ!いらない!眼鏡もおさげもいらないッ!」

ほむら「愚図でノロマで!臆病で貧弱で!卑怯者のド低脳の役立たず!」

ほむら「守ってもらうことしかできなかった、そんな私を思い出すッ!」

ほむら「私はッ!私は……ッ!」

ほむら「ハァ……ハァ……!」

ほむら「……うぅ」


激高と嫌悪が落ち着き、今までの自分を捨てた瞬間、ほむらの中の何かが切れた。

目から涙が溢れ出した。

涙は額から流れていた血と混じり、薄い赤の液体となっている。

858: 2012/12/30(日) 21:07:38.58 ID:c1541ufP0

ほむら「ごめんなさい……」

ほむら「本当にごめんね……まどか……」

ほむら「今度こそ……次こそ、あなたを守るからね……」

ほむら「守ると誓ったのに……また、私はあなたを守れなかった」

ほむら「本当にごめんなさい。それを許してとは言わない」

ほむら「ただ、今は……魂の安らぎを祈らせて……」

ほむら「次こそ……私は、あなたを救うからね」

ほむら「信念さえあれば……」

ほむら「信念さえあれば人間に不可能はない。人間は成長する……してみせる」


ほむらはまどかの遺体、その顔から目を逸らし、振り返った。

859: 2012/12/30(日) 21:08:43.30 ID:c1541ufP0

瞬間、近くに魔女の結界が生じたことを感じ取った。

グリーフシードには余裕がある。

しかし、力が出ないため、見なかったことにした。

体が重い。血を失ったからではない。

体が痛い。負傷を受けたからではない。


ほむら「……さようなら。まどか」


そのままほむらは、この場を去っていった。

貫いた思いが、未来を拓くことを信じて。

860: 2012/12/30(日) 21:10:26.74 ID:c1541ufP0

某県の見滝原中学校にて、当日出席・出勤していた生徒職員の全員が行方不明となる事件が発生した。

今回の事件は全国各地で大々的に報道された。

警察の捜査が入った所、既に校内の壁や天井が酷く破壊されていたらしいが、その詳細は公表されていない。

また、正確な行方不明者数も今のところわかっていない。


同中学校の体育館にて、当校生徒である鹿目まどかさん、他校生徒である美国織莉子さんの遺体が発見された。

美国さんの遺体の損傷は激しく、骨格が変形し内臓が破裂している。氏因は外傷性ショックとされる。

鹿目さんの遺体の胸には杙創があり、それが致命傷となったと思われる。

司法解剖を行ったところ、鹿目さんの体内にはガラスと思われる破片があることがわかった。

ペンダントか何かが、胸を貫いた際に体内にめり込んだと考えられる。凶器は未だ特定できない。

861: 2012/12/30(日) 21:12:45.88 ID:c1541ufP0

警察は事件の捜査を続けるとともに、事件を通報した少女の捜索にあたっている。

某県教育委員会は、当日欠席していた生徒達の心のケアに力を入れる。という方針を語った。


また、美国さんが故美国久臣元議員の娘がいるということが、事件をさらに複雑化させている。

「被害者の美国久臣氏の娘は実は加害者で、社会への復讐のために今回の事件を首謀した」

という仮説を、教育評論家である虹村氏はとある情報サービスで呟いた。

その後「不謹慎だ」「被害者を侮辱している」といった非難を浴び、アカウントを削除した。


(某ニュースサイトの記事より抜粋)

862: 2012/12/30(日) 21:13:19.32 ID:c1541ufP0


事件の真相――。


美国織莉子、呉キリカ、佐倉杏子は魔法とスタンドを駆使し襲撃し、多くの生徒を殺害した。

そして魔法少女同士の氏闘の結果、暁美ほむらだけが生き残った。


暁美ほむらが学校を去った後、そこに魔女の結界が誕生した。

それは呉キリカが濁ったグリーフシードを予め設置していたためである。

学校に発生した結界に住む魔女と使い魔は、全ての遺体を食し、結界に取り込まれた。

――結果として結界に巻き込まれなかった、体育館にある二人分の遺体以外がのこの世から消えた。

863: 2012/12/30(日) 21:14:10.82 ID:c1541ufP0


一週間後。


行方不明者の一人。

暁美ほむらは今、とある高層建築物の屋上に座り夜風に当てられている。

ストレートの黒髪は夜の闇に同化している。表情にも影が濃くなった。

そのすぐ隣に、対照的に白い小動物が歩み寄り、ちょこんと座った。


既にほむらは、「あなたの目的を知っている」ということを伝えてある。

864: 2012/12/30(日) 21:15:00.75 ID:c1541ufP0


ほむら「…………」

QB「結局、ここ見滝原では誰一人として魔女にならなかった」

QB「全く……困ったものだね。スタンドというものは……」

ほむら「……そうでしょうね」

ほむら「魔女になる前に氏んだらエネルギーなんて無いもの」

QB「うん。大損だよ」

QB「折角まどかとの契約が取れたのに……」

ほむら「…………」

ほむら「スタンドは……」

QB「ん?」

ほむら「呪われた能力は……人を変える」

865: 2012/12/30(日) 21:15:56.24 ID:c1541ufP0

ほむら「まどかは……全てを守る戦士の風貌を得た。彼女は特別だった。しかし……」

ほむら「佐倉杏子は……人間らしさを完全に失ってしまったとでも言えばよいのか……」

ほむら「美樹さやかは……説明はできないが、どこか違和感があった気がする」

ほむら「巴さんは……わからない。ゆまちゃんも同じく」

ほむら「スタンドは……人の精神を成長させるか、劣化させてしまう」

QB「……随分とあやふやだね。成長と劣化は全く意味が違うじゃないか」

QB「でも杏子が一番、それが顕著だったと僕は感じたね」

ほむら「……そう」

QB「どうにも反応が薄いね。この最近で君も随分と変わってしまった」

ほむら「……」

QB「少なくとも相槌を打ってくれていたのに」

866: 2012/12/30(日) 21:18:51.36 ID:c1541ufP0

ほむら「……私は、基地に侵入して銃器を盗んできた」

ほむら「そして訓練した。銃や対戦車兵器の扱い方、威力と弾速を把握した」

ほむら「そして……レイミはもちろんのことあらゆる魔女を頃してきた」

QB「あぁ。よく働いたと思うよ」

ほむら「全ては、下積みに過ぎない」

QB「下積み?」

ほむら「私は……あの弱い私と決別した」

ほむら「もう二度と、武器を盗むことと魔法少女を頃すのに躊躇はしない」

ほむら「どんな魔女にも、決して負けない」

QB「それは、ワルプルギスの夜も含まれるのかい?」

ほむら「……ワルプルギスを頃すことが、私のそもそもの目的」

QB「へぇ……そうだったんだ」

867: 2012/12/30(日) 21:20:20.58 ID:c1541ufP0

QB「非常に興味深いね」

QB「自分の身を守るために戦うというのはわかる」

QB「あるいは友人を救うために戦うというのもちょっとわからない気持ちはあるけど……まあ理解はできる」

QB「でも、氏ぬためにワルプルギスの夜に立ち向かう気持ちはよくわからない」

QB「はっきり言って、君一人では無理だね。今更仲間を集めるつもりかい?もう数日も経たずに来るよ」

ほむら「何を勘違いしているの?」

QB「……?」

ほむら「私の戦場はここではない」

QB「じゃあ、やっぱり逃げるのかな?」

ほむら「逃げない。ワルプルギスの夜からは、決して」

QB「矛盾してるよ」

868: 2012/12/30(日) 21:21:18.51 ID:c1541ufP0

ほむら「あなたには話していないことだけど……」

ほむら「私の願いは、まどかとの出会いをやり直すこと。則ち、時間遡行の能力」

ほむら「つまり、私はこの時間軸から去るのよ」

ほむら「まどかがいない世界のワルプルギスとは戦う価値がない」

ほむら「逃げるのではなく、無視するだけ。スーパーセルが収まるまで、見滝原を離れるだけ」

QB「…………」

QB「……そうかい。なるほど。時間遡行者か……」

QB「言われてみれば、時間停止の能力や君と契約した覚えがない理由、色々頷けることもある」

ほむら「そう」

ほむら「そして私は次の時間軸へ……旅立つ」

869: 2012/12/30(日) 21:23:16.43 ID:c1541ufP0

ほむら「まどかを救うために」

QB「…………」

ほむら「だからこそ、決意した。私は過去の自分から決別したのよ」

ほむら「今の私は……誰であっても頃す時は頃す」

QB「それはまどかでもかい?」

ほむら「……契約したまどかに救う意味がない。もちろん撃てる。それができる覚悟をするために、私は虚しい時間を過ごした」

ほむら「それくらいできないと、私は勝利と栄光を掴めない」

QB「まどかに助けられて今の君がいるというのに……わけがわからないよ」

ほむら「言ってなさい。私が救う対象は既に別のまどかになっているのよ」

ほむら「私の目的は、まどかを救うこと。それ以上でもそれ以下でもない」

870: 2012/12/30(日) 21:25:00.91 ID:c1541ufP0

声の調子が少し荒々しかった。苛立っているようだった。

冷たい目でキュゥべえを一瞥し、スッとほむらは立ち上がる。


QB「おや、もう行くのかい?次の時間軸とやらに」

ほむら「違うわ。そもそもまだ砂時計の中身が空になっていないから遡行はできない」

QB「グリーフシードは?」

ほむら「うるさいわね」

ほむら「もし呼ばれてもいないのに私の前に現れたら事情を知ろうが知らまいがどのインキュベーターでも散弾銃でバラバラにしてやるわ」

ほむら「個体が惜しければ、他のインキュベーターにも私のことを知らせておくといい」

QB「……わかったよ」

QB「まぁ、どちらにしても、君が時間遡行者であることが本当なら……」

QB「エネルギーを回収以前にこの世界から消えてしまうのだろう」

871: 2012/12/30(日) 21:26:00.84 ID:c1541ufP0

QB「だから別に会う必要もない……だから呼ばれない限り現れないよ。心配しなくていい」

QB「それじゃあ……ひとまずさよなら、なのかな?」

QB「…………って」

QB「もう、いないや」

QB「……………………」

QB「……やれやれ」

QB「まどかの『願い』……」

QB「叶えた僕が言うのもなんだけど、結局何のことかよくわからなかった」

QB「ほむらはその意味、何か知ってるんじゃないかと思ったんだけど……聞きそびれちゃったな」

QB「まぁ、いいか。ここももう滅びる……僕も別の場所へ行こう」

QB「……そういえば」

QB「そういえば結局、ほむらはまどかが契約したことを知っていたのかな?」

872: 2012/12/30(日) 21:27:18.74 ID:c1541ufP0

――
――――


実際にあった会話――。


ほむらが美国織莉子を迎え撃つべく体育館の中央に立っている頃。

まどかは体育館内の放送室に、隠伏、待機している。

まどかは不安だった。


まどか(……わたしにはスタープラチナという能力がある)

まどか(だけど、魔法少女でない以上……厳しいものもある)

まどか(でもわたしだって、ほむらちゃんを守りたい。ほむらちゃんを救いたい)

まどか(なのに……勇気が……出ない)

まどか(ほむらちゃんの隠れていてという言葉を無視してまで突貫する勇気がない)

まどか(わたしは……)

まどか「勇気が欲しい……」

873: 2012/12/30(日) 21:28:09.46 ID:c1541ufP0

QB「まどか」

まどか「……キュゥべえ」

QB「探したよ」

まどか「……どこに行ってたの?」


もう少し前にキュゥべえが来ていたら、まどかの不安も少しは安らいだかもしれない。

しかし、まどかは既に、ほむらから真実を聞かされている。

魔法少女が魔女になること。自分が世界を滅ぼす魔女になること。

ほむらとは出会う前から友達だったこと。別の世界の自分は魔法少女だったこと。

全ての元凶は、目の前の異星人であること。

キュゥべえに対して、決して良い感情は浮かばなかった。

もし、まどかが杏子のような性格だったら、顔を見た瞬間に舌打ちをしていたことであろう。

874: 2012/12/30(日) 21:28:39.51 ID:c1541ufP0

QB「まどか。落ち着いて聞いてほしい」

まどか「…………」

QB「マミが氏んだ」

まどか「…………」

まどか「……え?」

QB「ゆまも、さやかも氏んだ」

まどか「ちょ、ちょっと、待って……」

QB「代わりと言ってはなんだけど、杏子とキリカが氏んだ」

まどか「マミさんが……さやかちゃんが……ゆまちゃんが……」

まどか「し、氏ん……?」

QB「事実だよ」

875: 2012/12/30(日) 21:30:52.61 ID:c1541ufP0

まどか「そんな……そんな……!」


嘘ではない。

キュゥべえは物事を隠すことはあれど、嘘は決してつかない。

ほむらから聞かされた特徴。

そしてこういう状況で嘘を付く意義もない。

マミ、さやか、ゆまが氏んだという紛れもない真実を、まどかは突きつけられた。


まどか「…………」

QB「まどか。契約をするのはあくまでも君の自由意志だ」

QB「けれども……」

QB「君なら三人を、望むなら五人でも十人でも、生き返らせるなんて願いでも可能だ」

QB「あるいは今回の事件をなかったことに、時間を巻き戻すこともできないこともない」

QB「時間を巻き戻すのであれば、今回の犠牲者はゼロということになるね」

876: 2012/12/30(日) 21:37:26.74 ID:c1541ufP0

まどか「…………」

QB「さて、どうする?」

まどか「…………」

まどか(わたしが契約して……)

まどか(みんなを生き返らせて、みんなでワルプルギスの夜を超える)

まどか(この選択のメリットは……みんながこの世界で生きているということ)

まどか(デメリットは、スタンドがあるとは言え、全員が全員、無事にワルプルギスの夜を倒せるとは限らないこと)

まどか(そして……ほむらちゃんの望みではないこと)

まどか(だから……違う)

まどか(わたしがすべきことはこれじゃない)

877: 2012/12/30(日) 21:38:18.43 ID:c1541ufP0

まどか「キュゥべえ……わたし、契約する」

QB「そうかい。生き返らせるのかな?」

まどか「違う。生き返らせない」

QB「…………」

まどか「ほむらちゃんはそれを望まない……」

まどか「ほむらちゃんは、魔法少女のわたしを求めていないから」

QB「それじゃあ、君は……」

QB「……君は、この状況下で一体何を望むんだい?」

まどか「…………」

878: 2012/12/30(日) 21:39:35.97 ID:c1541ufP0

まどか「わたしは……『託す』」

QB「……託す?」

まどか(ほむらちゃんに託すのは……ゆまちゃんであり……さやかちゃんであり、マミさん、そしてわたし……)

まどか(生き延びて……ほむらちゃん)

まどか(あなたは『希望』!)

まどか(自分勝手なことだと思うけど……あなたなら……)

まどか(あなたならできる!)

まどか(あの三人だって……あなたなら救えるはず!)

まどか(わたしには、これくらいのことしかできないけれど……ほむらちゃん)

まどか(『次』で……みんなを救って……!)

879: 2012/12/30(日) 21:40:14.50 ID:c1541ufP0

QB「とにかく、契約するんだよね?」

QB「さぁ、まどか。君はどんな願いでその魂を輝かせる?」

まどか「わたしの……」

まどか「わたしの願いは……」

まどか「ほむらちゃんに、希望を託したい!」

まどか「ほむらちゃんに、大切なものを救う力、守る力を!」

QB「……それが君の望みだね」

QB「君の願いは叶えられる」


―――――
―――


880: 2012/12/30(日) 21:41:14.24 ID:c1541ufP0

――次の時間軸


目を覚ました時。いつもの病院の天井。

時間遡行をした。今は『次の一ヶ月』である。

ほむらはまず眼鏡を外した。

ソウルジェムをこめかみにあてる。

ぼやけた視界がハッキリとする。

次におさげを解き、ファサ、と髪をかきあげた。

881: 2012/12/30(日) 21:41:44.64 ID:c1541ufP0

その夜。

ほむらは目を開けたその当日に病院を抜け出した。

そして、時間停止の魔法を用いてめぼしい武器を一通り盗んできた。


ほむら「…………」

ほむら「そろそろ帰らないといけないわね……」

ほむら「しかし、新しい時間軸初日に病院から抜け出して武器を集めるというのは……」

ほむら「流石に焦りすぎだったかしら。グリーフシードに余裕はないのに……」

ほむら「いえ……それでいい」

ほむら「早くていい」

ほむら「今まで、私はトロかった……早いに越したことはない」

ほむら「……引力の魔女レイミ……この時間軸でも現れたりするだろうか」

ほむら「…………」

882: 2012/12/30(日) 21:42:40.70 ID:c1541ufP0

――
――――


ほむらは……砂時計が再び回転するまでの期間、別の地域で過ごしていた。

東京ではない。

両親との会話は感傷に繋がり、弱くて愚図な自分を呼び起こすものだと考えていたためだ。

十数分歩けば海岸を一望できる高台がある――そんな地域にいた。

そこで時間遡行をしてもよかったが、しなかった。


ほむらは見滝原に帰ってきた。

見滝原でやり直すことに意義があると考えていたからだ。

戻ってきて、目に入った物。それは瓦礫、瓦礫、瓦礫、瓦礫、瓦礫。

未曾有のスーパーセルにより、見滝原のほぼ全域が壊滅していた。

その災害により住民のほとんどが犠牲となった。

最も被害の大きかった地域の生存者は、現時点で一人としていない。

住んでいたアパートも、知り合いが暮らしていたマンションも、避難所も全て壊滅した。

883: 2012/12/30(日) 21:46:56.71 ID:c1541ufP0

ワルプルギスの夜は、予定よりもずっと早く現れた。


これまでの時間軸では何時何分に現れたかいちいち確認していなかったが――

明らかに一日単位で早かった。

理由はわからない。

ほむらは身を潜めている地域で「見滝原と風見野の魔法少女が氏んだ」という風の噂を聞いていた。

見滝原に、他の市町村から魔法少女が集まっていたそうだった。


――ほむらは考えた。

「スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う」という格言がある……。

スタンドの元凶、レイミは「引力」の魔女と呼ばれていた。

その格言が正しいとすれば、本当に引力のような力が働いていたのかもしれない。

自然に集まるようにプログラムされているのかもしれない。

884: 2012/12/30(日) 21:47:52.30 ID:c1541ufP0

ならば果たして……魔法少女と魔女の間。

その関係にも引力というものはあったりするのだろうか。

魔法少女のいるところに魔女が現れるとすれば……

あるいは魔女の現れるところに魔法少女が無意識の内に来るものだとすれば……

それならワルプルギスの夜が一日早く現れた理由も納得がいく。

確証も根拠もない。

ただのループにおけるラグと考える方が自然ではあるが……。

885: 2012/12/30(日) 21:48:35.53 ID:c1541ufP0

各地の魔法少女達は見滝原に集まっていた。

それが本当だとして、その魔法少女達はワルプルギスの夜と闘ったのだろうか。

時期的に見滝原に来て早々現れた伝説級の魔女にどうしただろうか。

戦ったのだろうか。

この惨状からして少なくとも勝利はしていないだろう。

逃げたか、犠牲となったか。

後者なら実に報われない。彼女達にも基本的に家族はいるだろう。

その家族も報われない。娘がわざわざ氏にに行ったようなものだから。

886: 2012/12/30(日) 21:49:44.08 ID:c1541ufP0

家族と言えば……鹿目家では娘の氏をどのように感じていたのだろう。

気丈な気さくな母親は涙を流して泣いたのだろうか。

人の良い優しい父親は妻をいかに慰めたのだろうか。

氏を知らない弟は姉の帰りを待っていたのだろうか。

そしてそのまま、倒壊した避難所の下敷きとなったのだろうか。

……想像しただけで吐き気を催す。



――ほむらは考えるのをやめた。

――――
――

887: 2012/12/30(日) 21:52:25.47 ID:c1541ufP0

ほむら「…………」

ほむら(まどか……)

ほむら(私は……あなたを守る私になりたい。……そう、誓った)

ほむら(私は、成長できたのかしら……あなたを守れる私に近づけているだろうか?)

ほむら(……私は、動揺をしてしまった)

ほむら(エイミーを見せつけられて、動揺をしてしまったから負けてしまった)

ほむら(だから、もうそんな心の弱さは捨てたつもりよ)

ほむら(例え、あなた以外の誰かがやむを得ない犠牲となっても……絶対に、動揺しないと誓った)

ほむら(あなた以外の誰が氏のうと、それがゆまちゃんやエイミーであろうと、絶対に……)

ほむら(絶対に必ずや!次こそあなたを守ってみせる!)

ほむら(あなたと交わした約束……必ず果たすッ!)

888: 2012/12/30(日) 21:53:22.67 ID:c1541ufP0

ほむら「…………」

ほむら「さて、と」

ほむら「病院に戻る前に、軍の基地とチンケな暴力団事務所からいただいてきた武器……」

ほむら「その整理でもしようかしら」

ほむら「……爆弾は作るべきか?」

ほむら「手榴弾を多量に手に入れた……わざわざ作る必要はあるだろうか?」

ほむら「……いえ、あって困ることもないでしょう」

ほむら「えっと……」

ほむら「ハンドガン、ショットガン、ライフル銃、マシンガン、手榴弾、ロケットランチャー……」

ほむら「それから……これは――」



ほむら「――痛ッ!?」

889: 2012/12/30(日) 21:54:30.10 ID:c1541ufP0

ほむらの指にチクリと痛みが走った。

思わず盾から手を引き抜く。すると、白い指から、赤い血が流れ出していた。


ほむら「な、何……?」

ほむら「指を切った……どうして?」

ほむら「強いて言えばナイフ……」

ほむら「いや、しかし鞘がついている……だから切るような物は……」

ほむら「……え?」

ほむら「何、これ……?」

ほむら「『こんなの』……盾に入れた覚えがない……」

ほむら「いつ、どこでこんなものを……?」

ほむら「一体これは……?」

890: 2012/12/30(日) 21:55:28.03 ID:c1541ufP0




ほむら「『矢じり』……?」




織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」(完)


<| TO BE CONTINUED..... 

891: 2012/12/30(日) 22:05:36.72 ID:c1541ufP0
これにて完結です。

スタンドクロスは元々過去二作の波紋鉄球クロスの続編でしたが、
色々あって新しいものとして書き始めた次第です。
初めての地の文や今までで一番長くなった出来に戸惑いましたが、何とかなりました。
何とか完結できて感無量です。

最後までお付き合いいただきありがとうごさいました。ディ・モールトグラッツェでした。


ちなみに本作は二部構成となっています。マミさんのスタンドが未判明なのはそういう理由です。
肝心のそれはまだできてませんが、完成し投下した際はよろしくおねがいします。

892: 2012/12/30(日) 22:06:29.23 ID:c1541ufP0

おまけ:スタンドとかの解説まとめ


スタープラチナ 本体:鹿目まどか

破壊力 A スピード A 射程距離 E
持続力 E 精密動作性 A 成長性 E

まどか曰く、「強くて速い」人型スタンド。その性質は「勇気」
誰かの力になりたい、守りたいという強い思いから発現した。
何ら特別な能力は持たないが、最強レベルの性能を誇る。
しかしまどかの精神力に伴っていないため、その力を出し切れていない。
まどかは、このスタンドには成長の余地があるという確信がある。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



ドリー・ダガー 本体:美樹さやか

破壊力 A スピード A  射程距離 C
持続力 A 精密動作性 C 成長性 D

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身へのダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に『押しつける』能力。
あらゆる肉体的ダメージを反射するが、ソウルジェムへの衝撃は返せない。
悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはずだ。という責任転嫁願望から発現。
魔法武器に憑いているため、このスタンドは変身しないと扱えない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

893: 2012/12/30(日) 22:06:56.85 ID:c1541ufP0

キラークイーン 本体:千歳ゆま

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 D 精密動作性 C 成長性 B

触れた物を『爆弾』にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物はどんな物でも爆弾になる。
爆弾の大小問わず大爆発。強い力が欲しいと願ったことで発現。
体型はゆまと同じくらい。ゆまはキラークイーンを「猫さん」と呼ぶことがある。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



ティナー・サックス 本体:志筑仁美

破壊力 ― スピード ―  射程距離 B
持続力 B 精密動作性 E 成長性 C

『幻覚』を見せるスタンド能力。その性質は「逡巡」
実際に見た光景を再現、現実にあり得ないような光景を作り出す。
幻覚に捕らわれた相手は五感の全てで騙されてしまう。
幻覚は「空間」に作用するため精密動作性は低い。
しかし、魔女の力と共鳴し一度だけ「個人」を対象にした幻覚を作れた。
仁美が抱いている心の迷いが反映されて発現したと思われる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

894: 2012/12/30(日) 22:07:22.16 ID:c1541ufP0

リトル・フィート 本体:美国織莉子

破壊力 D スピード B  射程距離 E
持続力 B 精密動作性 C 成長性 C

右手人差し指に鋭い爪のある人型スタンド。その性質は「瑣末」
その爪で傷つけたものの大きさを『縮める』能力。また、自身も小さくできる。
縮んでいくスピードは魔力依存。魔力を込めれば込める程早く縮む。
スタンドは得たものによっては本体の性格に影響を与えることがある。
今の織莉子は、縮めた人間を踏みつぶすことに何の躊躇もない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



クリーム 本体:呉キリカ

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 C 精密動作性 C 成長性 E


『暗黒空間』という概念を創造・干渉する能力。その性質は「孤立」
フードのような姿をしている。それを被ることで暗黒空間を創る。
その中に隠れることで姿を消し、浮遊して移動ができる。
移動中に触れたものは暗黒空間へ飲み込まれて粉微塵にされる。
暗黒空間の大きさはキリカの身長を直径とした球の範囲。
暗黒空間内外で干渉ができないため、隠れている間はキリカの魔法は作用しない。
孤独感や暗闇のような心底の精神が反映されて発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

895: 2012/12/30(日) 22:07:50.40 ID:c1541ufP0

シビル・ウォー 本体:佐倉杏子

破壊力 ― スピード C  射程距離 B
持続力 A 精密動作性 C 成長性 E

「過去に捨てたもの」の『幻覚』を見せる能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」は相手に物理的、あるいは精神的に襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用。
結界内で本体が殺された場合、頃した相手に本体の捨てたものがおっかぶる。
罪悪感がある限り、何者でも他人に押しつけ清められるしか逃れる方法はない。
自分の捨ててきたものを清めたいという願望から発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



水を熱湯に変えるスタンド 本体:M市の魔法少女

破壊力 B スピード C  射程距離 B
持続力 C 精密動作性 C 成長性 C

水を『熱湯』に変えるスタンド。その性質は「傍流」
半径42m以内に存在する水の温度を最大99.974℃まで上昇させる。
また、生物を構成する水分の温度も上昇させることも可能。
ただしその場合は直に触れなければならない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

896: 2012/12/30(日) 22:08:16.75 ID:c1541ufP0

Raymea(レイミ)

引力の魔女。その性質は「伝承」
『スタンド』という異世界、別次元の概念この世界に引き入れた。
あるいは創造した、または魂の持つ未知の力を覚醒させたとされる。
その力は必ずや平和と誇りに繋がるものだと信じている。
しかし魔女自身はそのスタンドを持っていない。


Cavenome(カヴェノメ)

引力の魔女の手下。その役割は「発現」
結界内の断層にある穴そのものが使い魔である。
近づいてきた者に噛みついて歯形を残す。
歯形をつけられた者はスタンドという能力を発現する。
人によっては高熱を伴い、そのまま氏んでしまうこともあるらしい。


Sabbath(サバス)

引力の魔女の手下。その役割は「選別」
結界内を住民のように彷徨う、黒いマントを羽織ったマネキンのような姿。
「スタンド」の素質を見出し、カヴェノメへ誘導する。
レイミに敵意を向ける者、既にスタンドを持つ者は排除する。
則ちスタンドの素質のない者には、さもなくば氏への道。



レクイエム 本体:此岸の魔女 Homulilly(ホムリリー)

破壊力 - スピード -  射程距離 -
持続力 - 精密動作性 - 成長性 -

ほむらが発現するかもしれなかったスタンドの先の領域(レクイエム)
レクイエムとは全ての魂を支配するエネルギーのことである。
予知で見たマギアは地球上の全生命の魂を十日以内に『消滅』させる。
魔女を殺さない限りレクイエムは暴走を続けるが、魔女に干渉すると氏ぬ。
このレクイエムは織莉子の予知で見た可能性の一つに過ぎない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

897: 2012/12/30(日) 22:14:42.76 ID:c1541ufP0
これにてホントのホントに終わりです。

前作でも似たようなことをしましたが、何か質問コーナー的な物を設けます。
何か聞きたいこと等があったらどうぞ。
特になければスタンド談義するなりクールに去るか適当にオラオラとか書くなりしてください


そんなわけでHTML依頼は少し間を置いてからします。
それまでに1000いったらそれはそれでいいのですが

902: 2012/12/30(日) 22:33:36.55 ID:c1541ufP0
今日はこの辺りで落ちますが、質問の類があり次第答えさせていただきます。
あとトリップを付けてみる

それでは

903: 2012/12/30(日) 22:37:27.30 ID:OnOo9x26o
二部があるからそれの伏線なんだろうなで終わることが多くてあんまり質問することがないなぁ……

ホワイトスネイクとかヨーヨーマッとか占いの龍の奴とかみたいな自分でも喋るタイプは出て来てないなそういや



まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その1】

引用: 織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」