288: 2013/03/12(火) 23:24:51.68 ID:ZFg1nZcEo


織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その1】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その2】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その3】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その4】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その5】


まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その1】


#19『佐倉杏子 師に会いにいく』


今夜の風見野は少し肌寒かった。

公園にて、千歳ゆまは街灯に照らされながら地面を見つめる。

拾った棒きれで地面に大好きな人の姿を描く。

関節を感じさせない傑作である。


ゆま「ふんふふーん」

ゆま「……お腹空いた」

ゆま「キョーコ、まだかなぁ」

ゆま「…………」

ゆま「……魔法少女」

もう誰にも頼らない
289: 2013/03/12(火) 23:26:22.27 ID:ZFg1nZcEo

二日前、キュゥべえという猫とも犬ともつかない生き物と出会ったのも、

今みたいに恩人の帰りを待っている時だった。

キュゥべえは言った。

「ゆま。君には魔法少女の素質がある。杏子と同じだ」

「何か、願いはあるかい?魔法少女になる代わりに、叶えてあげられる」

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

詳しい話を聞いていると、丁度杏子が帰ってきた。

杏子はすぐにキュゥべえを追い返すと、

「あいつの言うことは聞くな」……と言った。

しかしゆまは、魔法少女になれるという事実が嬉しかった。

自分も杏子と同じ存在になれる、杏子みたいに強くて格好いい魔法少女になれる。そう思った。

その上、自分の願いまで叶うのだ。

良いことずくめとはこういうことを言うのだと思った。


290: 2013/03/12(火) 23:28:13.58 ID:ZFg1nZcEo

恩返しができる。役に立てる。

母親から「役立たず」と罵られてきたゆまにとって、そのことはどんなに嬉しいことか。

翌日「ゆまも魔法少女になってキョーコの役に立ちたい!」と言ってみた。

すると、杏子に「ふざけたこと言ってんじゃねぇ」と怒られた。

ゆまは、何故怒られたのかよくわからなかった。

「危険に巻き込みたくない」という意志を直接言わない。

内容によっては素直な気持ちを言えないという、杏子の性格の短所がそこにはあった。

ゆまは、力にならなければと思う反面、杏子が言うのであればしかたがないという気持ちを抱いた。

命が関わる葛藤をするには、精神が幼すぎるのだ。


ゆま「……カッコイイなぁ」

ゆま「ゆまも、魔法少女になりたい」

291: 2013/03/12(火) 23:30:46.74 ID:ZFg1nZcEo

ゆま「キョーコ……危ないお仕事してるから……」

ゆま「もし、怪我なんかしちゃったら……!」

ゆま「…………」

ゆま「契約すれば……役に立てるかな」


「ダメよ」


ゆま「え?」

「魔法少女になって、いいことはないわ」

ゆま「……お姉ちゃん、誰?」


覚えのない声が聞こえた。

子どもを諭す母親のような優しい声。

声の主は年の離れた妹を慈しむ姉の表情をしている。

292: 2013/03/12(火) 23:38:54.70 ID:ZFg1nZcEo

ゆま「……魔法少女?」

「そうよ」


服装のベクトルは魔法少女となった杏子に似ている。

目立つ姿であるにも関わらず、存在に全く気付けなかった。


ゆま「何でなっちゃダメなの?」

ゆま「ゆま……キョーコの役に立ちたい」

ゆま「魔法少女って、危ないことだから……」

ゆま「力を合わせれば、危ないことも避けられる」

「あなたには関係のないことよ……ゆまちゃん」

ゆま「?」

ゆま「……ゆまのこと知ってるの?」

293: 2013/03/12(火) 23:40:12.00 ID:ZFg1nZcEo

「えぇ」

ゆま「お姉ちゃんは誰?」

ゆま「キョーコのお友達?」

「そんなところね……出かけてるの?」

ゆま「うん」

「そう……じゃあいいわ」

ゆま「もうすぐ帰ってくると思うよ」

「ううん。いいの……ねぇ、ゆまちゃん」

ゆま「なぁに?」

「あなたは今、幸せだと思う?」

ゆま「……?」

294: 2013/03/12(火) 23:40:48.81 ID:ZFg1nZcEo

「軽い気持ちで答えてくれたいいわ。あなたは今幸せ?」

ゆま「うん。ゆま、幸せだよ。キョーコと一緒にいられて……」

「そう……それじゃあ、幸せな内に別れましょう」

「あなたは魔女の結界で既に氏んでいた。いいわね?」

ゆま「へ?」


軽い音が響いた。

何かが体を貫いたような、そんな感覚がした。

痛みはなかった。しかし体が動かない。

何故、自分は地面に寝転がっているのか。

何故、瞬きができないのか。

何故、服が濡れているのか。

真っ暗な空を見上げ、ゆまは自分の身に何が起こったのか考えた。

295: 2013/03/12(火) 23:41:40.60 ID:ZFg1nZcEo

ゆま「……?」

ゆま「ゆま……何、されたの……?」

ゆま「何で……ゆまは……」

「教えてあげようか?」

ゆま「……うん」

「あなたはね……」

「たった今、私に殺されたの」


ゆまは自身を見下ろす「金髪のお姉ちゃん」の微笑みから、

思わず微笑み返したくなるような衝動を覚えた。

身に覚えはないが、ゆまはそれが「愛情」であることを知っていた。

296: 2013/03/12(火) 23:42:13.90 ID:ZFg1nZcEo

「ハァ……ハァ……!」

「くそっ……!あんなところに結界ができるなんて……!」

「あそこには……」

「あそこには『ゆま』が……!」


風見野の魔法少女、佐倉杏子は息を切らせて走る。

ゆまを公園に残し「調達」をしに行っていた。

しかし、その帰り。ソウルジェムに独特の感覚を覚えた。

魔女、あるいは使い魔が現れた気配。

嫌な予感がした。

この嫌な感覚は、かつてどこかで感じたことがある。

考える余裕はない。

297: 2013/03/12(火) 23:43:21.14 ID:ZFg1nZcEo

公園に到着した頃、

いつの間にか月や星々は雲に隠れてか、一切それらが見えない闇夜となっていた。

天気はさておいて、依然、例の気配がする。

位置はすぐそこである。しかし、杏子は立ち往生した。


杏子「ハァ……ハァ……」

杏子「どこだ!」

杏子「結界はどこなんだよ!?」

杏子「結界の気配が……」

杏子「結果がこの近くにあるはずなのに……結界の場所が……」

杏子「入り口は……ハァ、ど、どこなんだ……!?」

杏子「…………」

298: 2013/03/12(火) 23:44:03.23 ID:ZFg1nZcEo

杏子「……ゆま」

杏子「ゆま!」

杏子「どこかにいるのか!?ゆま!どこだ!」

杏子「いるなら返事しろ!」

杏子「おい!ゆまァ!」

杏子「……!」

杏子「あ、あれは……!」


花壇の側に、動く物の気配を感じた。

ゆまが使い魔に襲われている、そう感じた杏子は足をさらに速めた。

299: 2013/03/12(火) 23:45:27.74 ID:ZFg1nZcEo

何故『結界もない』のに使い魔がいる気がするのかという疑問は二の次だった。

そこに、二人分の人影を見つけた。

片方は空を仰いでいる。もう片方は倒れている方を見下ろしている。


杏子「……!」

杏子「ゆ、ゆま……!」

杏子「そ、それに……あ、あいつは!?」

杏子「どうして……」

杏子「どうしてここに……」

杏子「見滝原に……いるはずじゃあないのか?」

杏子「明日だって学校あるはずなのに……出歩いていいのかよ……?」

300: 2013/03/12(火) 23:46:09.26 ID:ZFg1nZcEo

金色のロール髪の少女が、マスケット銃を持って立っている。

杏子はその姿を知っている。ベレー帽とコルセットに見覚えもある。

その足下には仰向けに倒れている子ども。

ほんの少し前まで、明るい笑顔を見せていた童女だった。

銃を持った「魔法少女」は、

何もない空中に話しかけているように見えた。


杏子「『マミ』ッ!」

杏子「それに……ゆま!」

杏子「何でゆまが倒れているッ!」

「……!」

301: 2013/03/12(火) 23:46:50.22 ID:ZFg1nZcEo

かつての師匠の姿をした魔法少女が、そこにいる。

銃士の魔法少女は、走り寄ってくる杏子の姿に気付くと、

逃げるように踵を返し、去っていった。

マミが見えなくなり、杏子は使い魔の気配がなくなっていることに気が付いた。

既に倒したのだろうか。

杏子はそれよりも、急いで倒れているゆまに走り寄った。


杏子「ゆま!」

ゆま「……あ」

ゆま「キョー……コ……」

杏子「ッ!」

杏子「こ、この傷は……」

303: 2013/03/12(火) 23:47:32.91 ID:ZFg1nZcEo

血の気のない青白い顔。

地面が赤い液体に濡れて赤黒くなっている。

服に小さな穴があいている。体にも同じような穴があいている。


ゆま「助……け……」

杏子「ま、待ってろ!今治してやる!」


ソウルジェムをゆまの胸にあいた傷に当てる。

杏子の宝石は優しく光り、血を流している穴をふさいだ。


杏子「……ほ、ほら!傷はふさがったぞ!」

杏子「ゆま!もう痛くないか!?」

杏子「……お、おい?」

304: 2013/03/12(火) 23:48:21.66 ID:ZFg1nZcEo

返事がない。

杏子はゆまの顔を見た。

半開きの口、うっすらと開いた目は空を見上げていた。

蝿がゆまの瞼の上を歩いている。


杏子「……ゆま?」

杏子「……なぁ、ゆま!」

杏子「……ゆま!」

杏子「ゆまッ!」

杏子「おい!ゆま!ゆまァッ!」

杏子「ゆ……ま……」

杏子「ゆ、ゆま……!」


305: 2013/03/12(火) 23:49:18.64 ID:ZFg1nZcEo

胃液が逆流しそうになった。

心臓が押しつぶされるような感覚になった。

ソウルジェムを持った指が震える。

杏子はゆまの体を揺さぶった。

瞬きはしない。蝿は飛んでいった。

ゆまの名を呼んでも、返ってくるのは寂しい静寂だけだった。

一度救った命は、既に息を引き取っていた。


杏子「……氏ん、だのか」

杏子「嘘……だろ……」

杏子「そんな……そんなのって……!」

杏子「ゆま……ゆまぁ……!」

杏子「うぅ……くっ」

306: 2013/03/12(火) 23:50:01.72 ID:ZFg1nZcEo

杏子「……似てる」

杏子「今、あたしが抱いているこの感覚は……」

杏子「家が燃えてんのを見ていた時と……ちょっと似てる」

杏子「そう……だったんだ……」

杏子「あたしは……あたしはこいつが……」

杏子「ゆまが……」

杏子「あたしはゆまのことが好きだったんだ」

杏子「いっちょ前に魔法少女になりたいとか抜かして……」

杏子「やたらじゃれついてきて、食い物に好き嫌いがある鬱陶しいこいつが……」

杏子「こいつが……好きだったんだ」

杏子「…………」

307: 2013/03/12(火) 23:50:37.42 ID:ZFg1nZcEo

杏子「あたしがもう少し早く帰っていれば……」

杏子「……くそっ!」

杏子「ゆま……」


杏子は力を失ったゆまを抱きかかえた。

今まで抱えたことのないようなずしりとした重みを感じた。

ダラリと腕が垂れ揺れる。

ゆまの遺体を近くのベンチの上に寝かせることにした。

依然、ゆまの半開きの目は空を見ている。口からは風を感じない。

杏子は瞼と口を閉じさせ、花壇から引き千切った名前も知らない花を握らせた。

そしてその側に半分に切ったリンゴを手向けた。

308: 2013/03/12(火) 23:51:16.08 ID:ZFg1nZcEo

杏子「…………」

杏子「……両親も行方不明で、氏体遺棄、か」

杏子「大きなニュースになるかもしれねぇ……」

杏子「傷もふさいだから氏因はわからないだろう」

杏子「なら、司法解剖ってヤツで腹を開かれるかもわからん」

杏子「だが、せめて……せめてどっかで手厚く葬られることを祈るよ。ゆま」

杏子「……さよならだ」


今抱いている虚無感が悲しみであることを、理解はしている。

それを杏子は拒否した。自分の気持ちを自身で否定する。

自分は悲しんではいない。冷静である。

ゆまの遺体の頬に触れると手の震えは止まった。

309: 2013/03/12(火) 23:53:09.83 ID:ZFg1nZcEo

杏子「よく描けてたじゃないか。地面の落書きよぉ……」

杏子「あたしにしては……いい笑顔に描いてくれたもんだ」

杏子「だが、ちょっと短足気味に描かれたのはなんだな」

杏子「まぁ……ありがとう」

杏子「…………」

杏子「……どういたしましてって、言ってほしかったなぁ」

杏子「生きてる時に、言いたかったな……」

杏子「いや、生きていたら言えなかった、か……」


ゆまがつけている、黄色い球のついた髪留めを取る。

形見として、杏子はそれらをパーカーのポケットに入れた。

310: 2013/03/12(火) 23:53:49.52 ID:ZFg1nZcEo

杏子「…………」

杏子「……心臓を『撃ち』抜かれていた」

杏子「あれは銃創だった……それも……見覚えがある」

杏子「そして……すぐ側に銃を持ったあいつがいた……」

杏子「あの姿……やはり見間違いはない」

杏子「使い魔が全く同じ傷を負わすことができようか」

杏子「あいつが……頃したんだ」

杏子「それが真実」

杏子「……許されねぇぞ、これは」


信じられない、という気持ちはないこともなかった。

「あいつ」が、人頃しなんて、ましてや子どもを頃すなんてありえない。

しかし実際、銃を持ち、見慣れた銃創のある遺体が残されている。

それが事実。

311: 2013/03/12(火) 23:54:32.87 ID:ZFg1nZcEo

人は、他人から見て想像の出来ないくらいに変わってしまうことがある。

それは杏子自身が一番よく知っている。

そのきっかけや過程が何であれ、

そういう結果だけしか、今の杏子にはわからない。

「何故だ」という疑惑よりも目の前の事実が優先される。

戸惑いとは別に、ドス黒い感情が心を支配した。

浮かんだ単語。

「復讐」

ゆまの無念は、頃した「敵」を頃すことで晴らされる。

憎悪が杏子の脚を動かす。


杏子「……頃してやる」

杏子「絶対に、絶対に頃してやる……!」

312: 2013/03/12(火) 23:55:44.53 ID:ZFg1nZcEo

人は、他人から見て想像の出来ないくらいに変わってしまうことがある。

それは杏子自身が一番よく知っている。

そのきっかけや過程が何であれ、

そういう結果だけしか、今の杏子にはわからない。

「何故だ」という疑惑よりも目の前の事実が優先される。

戸惑いとは別に、ドス黒い感情が心を支配した。

浮かんだ単語。

「復讐」

ゆまの無念は、頃した「敵」を頃すことで晴らされる。

憎悪が杏子の脚を動かす。


杏子「……頃してやる」

杏子「絶対に、絶対に頃してやる……!」

313: 2013/03/12(火) 23:57:05.40 ID:ZFg1nZcEo

杏子「ゆまの名誉のため、魂の安らぎのために……」

杏子「巴マミ!」

杏子「あたしはてめぇをブッ頃す!」

杏子「てめぇのやったことは法律では裁けねぇ」

杏子「だから……」

杏子「あたしが裁く!」

杏子「あたしが最後の審判を下してやる!」


杏子は見滝原に向かった。

もう半分のリンゴを握りつぶし、地面を荒々しく踏んだ。

判決は氏刑。憎しみが心を支配した。

314: 2013/03/12(火) 23:57:46.57 ID:ZFg1nZcEo

――見滝原


ほむらはベンチに座り、空を眺めていた。

昨夜は雲一つない綺麗な夜空だった。

今日はそれに引き続き、雲一つない美しい青空だった。

多数の時間軸において、天気が全く同じということはない。

同じ晴れでも雲があったりなかったり、曇りの日が雨になる。

二つ前の時間軸では、この日は雨だった。

カバンの中を取り出して整理した結果、

折り畳み傘を入れ直し忘れたまどかを傘に入れてあげた。

そして二人肩を並べて歩き、さやかに相合い傘だとからかわれた。

深く印象に残っている。

あの時間軸でのまどかは『行方不明』になってしまった。

315: 2013/03/12(火) 23:58:33.19 ID:ZFg1nZcEo

昨日……不安の感情から、つい私は巴さんに甘えてしまった。

紅茶をご馳走になりながら、私はアーノルドのことについて話した。

それだけならまだいい。

私はあろうことか、成り行きで夕食までご馳走になってしまった。

一人暮らしが無茶をした程度の豪勢なメニューだった。

……故美国議員の娘、美国織莉子が行方不明となったというニュースをいつか聞くだろう。

どこのことだったかは覚えていないが、子どもの遺体が遺棄されていたという痛ましい事件もニュースで聞いた。

暗いニュースは尽きない。

呉キリカに少なからず同情はしていたし、身元不明の子どもも可哀想だとは思う。

だが……そういう感情は間違いだ。

とても美味しかったが、必要以上に馴れ合ってはいけない。

そう誓ったのに、これは由々しい反省点だ。

316: 2013/03/12(火) 23:59:29.07 ID:ZFg1nZcEo

巴さんに好意を抱いてはいけない。感傷に繋がる。

いざという時、例えば巴さんを見捨てればまどかが助かるというような状況に陥った時、

私は巴さんを見捨てなければならない。

見捨てることに、罪悪感を抱いてはならない。

感傷で精神を消耗させてはならない。

自分の氏後、生き延びていればまどかを任せる。ただそれだけの関係でいい。

私が巴さんや佐倉杏子を差し置いて呉キリカと美国織莉子を共闘に誘ったのは、

『思い入れが薄い』そして『見捨てやすい』からだ。

加えて、結果的に魔女化のことも知っていたため「楽」なのだ。

巴さんと共闘関係を結ばざるをえなかったとは言え、

共闘関係故にプライベートでもそれなりの付き合いが必須とは言え、

何にしても私は反省をしなければならない。

まだまだ弱い自分を切り捨てられていない……。

317: 2013/03/13(水) 00:00:05.19 ID:9+JU9kExo

マミ「暁美さーん」

ほむら「……巴さん」

マミ「待ったかしら?」

ほむら「いえ……」

マミ「それじゃ、お昼にしましょう」

ほむら「……はい」

ほむら「…………」

まどか「…………」

さやか「…………」


巴さんを共闘関係を結ぶということは、

まどかと美樹さやかとも友人にならなければならない、ということを示す。

まどかはいいが、美樹さやかは苦手だ。


318: 2013/03/13(水) 00:01:00.38 ID:9+JU9kExo

まどか「マミさんが会わせたかった人……ほむらちゃんだったんだ」

さやか「ってことは……転校生、魔法少女……」

ほむら「……えぇ、そうよ」

まどか「でもよかった」

ほむら「……よかった?」

まどか「ほむらちゃんがマミさんの友達ってことは、これからはわたし達とも……」

ほむら「……そうなるわね」

まどか「えへへ……わたし、ほむらちゃんともっとお話したかったんだ」

ほむら「……そう」

さやか「あたしの嫁のありがたいお言葉だよ!もっと喜びなさい!」

ほむら「…………」

さやか「……滑ったかな?」

319: 2013/03/13(水) 00:02:05.91 ID:9+JU9kExo

マミさんから会わせたい人がいるって……、

しかもそれが魔法少女だって聞いて、ちょっと緊張してた。

でも、それがほむらちゃんだったなんて、ビックリした。

ほむらちゃん、休み時間や放課後はすぐにどこかに行っちゃうし……、

あんまりゆっくりお話できる機会がなかったんだよね。

過程はどうあれ、ほむらちゃんと一緒にお昼が食べられる。

これからはもっと気軽に声をかけれる。

それは、とっても嬉しいなって。

ほむらちゃんと仲良くなれならいいな。


まどかがそのような呑気なことを考えていると――

320: 2013/03/13(水) 00:03:21.84 ID:9+JU9kExo

マミ「ところで、魔法少女体験ツアー、もうやらないことにしたわ」


先輩はそう言った。

その声のトーンは決して茶化したものではない。


さやか「……へ?」

まどか「……マミさん?」

マミ「ん、聞こえなかった?」

さやか「いや、聞こえましたけど……」

マミ「言葉の通りよ」

マミ「突然だけど、体験ツアーはもうやりません」

さやか「えっと、その……」

321: 2013/03/13(水) 00:04:04.49 ID:9+JU9kExo

さやか「……何でですか?」

さやか「マミさんは、あたし達に魔法少女のことを教えてくれました……」

さやか「魔法少女をより知ってもらうために、体験ツアーをして……」

さやか「あたし、願いが決まれば魔法少女になって……」

さやか「是非マミさんと戦いたいなぁって、ちょっと思い始めてたんですけど」

まどか「わたしも……誰かの役に立てるんだって思って……」

マミ「落ち着いて、二人とも……」

マミ「私は何も契約するなと言ったわけじゃないのよ」

マミ「単純に、あなた達を結界に連れて行くのはやめることにした」

マミ「そういうこと」

322: 2013/03/13(水) 00:05:01.95 ID:9+JU9kExo

マミ「別にあなた達を守りながら戦うのが大変になったとかじゃあないわ」

まどか「そ、それは……わかりますけど……」

さやか「……転校生の入れ知恵ですか?」

ほむら「…………」

さやか「転校生、マミさんに何か言った?」


……やはり、美樹さやかは苦手だ。

巴さんが少しでも私に感化されたのか、そう思っている。

巴さんが「暁美さんに避けられてる」という旨を話したからだ。

彼女は自分が好きなものを盲信する傾向がある。

私に対するネガティブなイメージが巴さんを汚している。

そういう考えが心底にあるのだろう。

323: 2013/03/13(水) 00:05:50.66 ID:9+JU9kExo

マミ「まぁ……間違ってはいないわね」

さやか「むっ」

マミ「あのね、二人とも。聞いて?」

マミ「私はね……この間、魔女の結界で暁美さんに助けられたの」

まどか「ほむらちゃんが……?」

マミ「それで、私は思ったの。もしこの時あなた達がいたらどうなっていたんだろう」

マミ「私は魔女にやられて、あなた達を危険に晒していたら……ってね」

マミ「そしたら暁美さんが、私の手をキュッて握って『一緒に戦って欲しい』ってデレて……」

さやか「転校生が……?うえーっ、なんじゃそりゃ」

ほむら(微妙に間違ってはいないが不服すぎる……しかし「そういうことにする」と打ち合わせをしてしまったし……)

ほむら(それよりもデレるとか変なアドリブ入れないでくださいよ巴さん……)

マミ「それで私、思ったの」

324: 2013/03/13(水) 00:06:29.98 ID:9+JU9kExo

マミ「私は、魔法少女の仲間が欲しいんじゃなくて、魔法少女という立場を理解してくれている友達……」

マミ「自分の抱えてる苦労をわかってくれている存在が欲しかっただけなんだって」

マミ「心底にはそういう自己満足があったのよ」

マミ「暁美さんがそのことを気付かせてくれた……」

マミ「改めて私は、あなた達を危険な目に遭わせたくない」

マミ「できることなら、戦いに巻き込みたくないって思ったの」

まどか「マミさん……」

さやか「いい話だなぁ……」

ほむら「…………」

ほむら「あなた達は……」

さやか「ん?」

325: 2013/03/13(水) 00:08:05.80 ID:9+JU9kExo

ほむら「あなた達は自分の人生が貴いと思う?」

まどか「わたしの……人生」?

ほむら「家族や友達を大切だって、思う?」

さやか「そ、そりゃあ……まぁ、もちろん」

ほむら「もしその気持ちが本当なら……無理に自分を変えようだなんて絶対に思わないで」

まどか「えっと……それは……?」

ほむら「無理に変わろうとすると……全てを失うことになる」

ほむら「あなたはあなたのままでいて」

まどか「……う、うん」

さやか(あれ?なんで「あなた達」から始まって「あなた」で終えちゃうの?)

マミ「…………」

326: 2013/03/13(水) 00:08:38.40 ID:9+JU9kExo

マミ「……さて、いい加減にお昼をいただきましょう」

さやか「そ、そうっスね!」

まどか「い、いただきます」

ほむら「…………」

マミ「あら、暁美さん、そのお弁当手作り?」

ほむら「……はい」

まどか「ほむらちゃんってお料理得意なの?」

ほむら「……得意という程ではないわ」

さやか「マミさんといい転校生といい……一人暮らしで手作り弁当とかスペック高過ぎィ!」

まどか「とっても美味しそう」

327: 2013/03/13(水) 00:09:57.67 ID:9+JU9kExo

ほむら「……食べてみる?」

まどか「いいの!?それはとっても嬉しいなって!」

まどか「わたしのは手作りではないけど……おかず交換しよう」

ほむら「えぇ」

まどか「それじゃあ、いただきます」

まどか「……美味しいっ。ほむらちゃん!とっても美味しいよ!」

ほむら「そ、そう……」

さやか「むむ……転校生にあたしの嫁が取られちゃう……!」

マミ「ふふ、暁美さんったら、照れちゃって」

ほむら「て、照れてません」

まどか「えへへ」

328: 2013/03/13(水) 00:17:49.04 ID:9+JU9kExo

――マミは考える。

暁美さんの言う「未来」で私はどういうポジションだったのか、

私が氏ぬというならどういう氏に方をするのか、

結局はぐらかされて聞けなかった……。

でも、一緒に紅茶を飲んだり、夕飯を食べている時の暁美さん。

嬉しそうに見えた。

嬉しそう……というより、安心しているような、少なくともそう感じた。

そして今、鹿目さん達と一緒にお弁当を食べて、すごく楽しそうに見える。

本人は表情に出してないつもりなんでしょうけど、

肌が白いから少しでも頬を染めるとすぐにわかっちゃうんだから。

329: 2013/03/13(水) 00:20:46.38 ID:9+JU9kExo

……暁美さんは無理をしている。

強引に自分を押さえ込んで冷徹に徹しようとしている。

だからその分、ブレやギャップが目立つ。

暁美さんの本質はとても弱い人間なんだと思う。そんな気がする。

だから……私は支えてあげたい。「今度こそ」私は暁美さんのために生き延びたい。

私が何とか、彼女の心をこじ開けたいものね。

人は一人では生きていけない。誰にも頼らないなんてことはできないのだから……。


さやか「……ん?」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「え、あ、いや……何でもない」

さやか(誰かに見られたような……キュゥべえか何かかな)

330: 2013/03/13(水) 00:21:55.90 ID:9+JU9kExo

――放課後


三人はマミの家へ行く約束をした。

ほむらはあまり乗り気はしなかったが、

共闘関係であることを明かした手前、断ることはできない。


まどか「ほむらちゃんっ」

ほむら「……ん、どうしたの?まどか」

まどか「ほむらちゃんと一緒に行きたいなって」

ほむら「あぁ……ごめんなさい、まどか。先生に用があるから先に行ってて」

まどか「じゃあわたしも待ってる」

ほむら「…………」


仁美「……いつの間にあの二人、こんな仲良く……」

さやか「いやぁ……まぁ、色々あってね」

331: 2013/03/13(水) 00:22:34.15 ID:9+JU9kExo

仁美「色々って便利な言葉ですわよね」

仁美「私はお稽古や委員会で忙しく放課後や休み時間一緒にいられる機会が少ない、とは言え……」

仁美「私がいない所でさやかさんもまどかさんも何やら怪しいですし」

さやか「怪しいって仁美あんた……」

仁美「それにしてもまどかさんとほむらさん……」

さやか「あの二人が何か?」

仁美「見てください。ほむらさんの顔。先程まで何事にも退屈しているようなお顔が、母親と会話する娘のように安らいでますわ」

さやか「……いや、変わってないけど」

仁美「私の知る限りでは、ほむらさんはまどかさんに最も大きく心を開いてますわ」

さやか「いやわからんけど」

仁美「きっと前世か何かでお二方は恋人か何かだったに違いありませんわ!」

さやか「仁美……目が怖いよ」

332: 2013/03/13(水) 00:23:21.82 ID:9+JU9kExo

仁美「……って、もうこんな時間。行かなくちゃ」

さやか「お稽古か」

仁美「えぇ。いつか私にもほむらさんを紹介してくださいね」

仁美「私もほむらさんと仲良くなりたいものです」

さやか「あぁ、うん……まどかに伝えとく」

仁美「それでは、また明日」

さやか「うん。バーイ」

まどか「あ、バイバイ。仁美ちゃん」

さやか「お、まどか。転校生はどうした?」

まどか「先に行っててって」

さやか「ふーん」

333: 2013/03/13(水) 00:24:29.55 ID:9+JU9kExo

まどか「用が済むまで待ってるって言ったら『いいから』だって……」

さやか「まぁ、待たせるのも悪いと思ってのことでしょうよ」

まどか「ほむらちゃんと一緒がいいのに」

さやか「転校生が気になっちゃう感じ?」

まどか「うん。もっと仲良くなりたいなって」

さやか「…………」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「いや……、前世のことなんてどうでもいいよね。うん」

まどか「?」

さやか「そんじゃ、マミさんとこ行こうか」

まどか「うん」


334: 2013/03/13(水) 00:25:11.29 ID:9+JU9kExo

まどかとさやかは、たびたびマミの家を訪ねている。

訪ねればいつだって上品な紅茶と美味しいスウィーツがいただける。

言うまでもなく、食欲のために訪ねているのではない。


さやか「マミさーん」

マミ「あ、美樹さん。鹿目さん。……暁美さんは?」

まどか「先に行っててって言われました」

マミ「あら、そう?」

マミ「それじゃ、行きましょうか」

まどか「はぁい」

さやか「マミさんマミさん、今日のおやつは何ですかい?」

マミ「岩手県盛岡市の吉村さんの牧場の太陽をいっぱいに浴びた牧草をたっぷり食べて育ったジャージー牛のミルクで作った甘くてほろ苦い青春のひとかけらクリーム・ブリュレそして幸せが訪れる。……よ」

さやか「わ、わーい……」

335: 2013/03/13(水) 00:27:02.47 ID:9+JU9kExo

まどか「ぶりゅれ……って何ですか?」

マミ「要するにプリンの親戚みたいなものよ」

まどか「プリン」

さやか「それにしても……マミさん」

マミ「何かしら?」

さやか「本当に魔法少女体験ツアーがもうなくなったのに、別に何も変わらないんだなって」

さやか「いつも通りマミさんの家へおやついだいちゃいますし」

マミ「美樹さんはスイーツ目当てで参加してたの?」

さやか「い、いえ、そういうわけではないですが……」

マミ「私はあなた達とお茶会ができればそれでいい」

マミ「魔法少女の巴マミと『この』私を理解してくれている」

マミ「それだけで十分よ」

まどか「マミさん……」


336: 2013/03/13(水) 00:27:46.78 ID:9+JU9kExo

マミ(鹿目さんは……暁美さんの未来で亡くなった友達……)

マミ(鹿目さんの幼なじみっていう美樹さんも、そうだった蓋然性も高いわね……)

マミ(今……こうして私を慕ってくれてるこの二人……)

マミ(この二人は……暁美さんの見た未来では、魔法少女で……そして、亡くなるのね……)

マミ(そしてきっと……魔法少女にさせたのは私。そんな私も、暁美さんの亡くなった友達の一人)

マミ(……今まで、魔法少女のことを結構呑気に考えてたわ)

マミ(私の理解者が欲しかった、魔法少女になるならなってくれてもいい、そういう心があった)

マミ(危険なことを知っていながら、そう思うなんて……感覚が鈍っていたわ)

マミ(今となって、二人に何も「魔法少女に絶対にならないで」とは言えないけど……)

マミ(とにもかくにも、暁美さんが望む未来造りに協力したい)

マミ(私は今、そう思ってる)

337: 2013/03/13(水) 00:28:18.57 ID:9+JU9kExo


『助けて……』


マミ「……え?」

さやか「どしたのマミさん」

『助けてマミ……!』

マミ「こ、この声……キュゥべえ!?」

まどか「え?」


マミはかつて交通事故に遭い、瀕氏の状態に陥った。

そんな時、キュゥべえが現れ、マミは魔法少女となった。

願いは「助けて」

こうしてマミの命は救われた。両親は亡くしてしまった。

マミにとって、キュゥべえは恩人であり、第二の家族のような存在である。


338: 2013/03/13(水) 00:28:48.71 ID:9+JU9kExo

そのキュゥべえからのテレパシー。

テレパシーによる救護要請。

当然、マミはその声の方向へ行くしかない。


まどか「キュゥべえがどうかしたんですか!?」

マミ「……あっちから聞こえる」

マミ「キュゥべえが助けを呼んでいる」

マミ「まさか、魔女に襲われて……?」

まどか「ま、魔女に……!?」

マミ「待ってて、キュゥべえ!今行くわ!」

さやか「マミさん!声に出てます!」

マミ『待ってて、キュゥべえ!今行くわ!』


339: 2013/03/13(水) 00:30:13.13 ID:9+JU9kExo

マミ「うっかりテレパシーと地声を間違えちゃったけどそれはさておき」

マミ「それじゃ、二人とも……」

マミ(結界が出てきたという気配はないけど……)

マミ(何にしても、この二人を危険な目に遭わせてはならない)

マミ「……ここで待ってて」

マミ「暁美さんが来たら、事情を説明してちょうだい」

さやか「は、はい!」

まどか「わかりました!」

マミ「それじゃ、行ってくるわ!」


脇道に走り、マミの姿は見えなくなった。

取り残されたまどかとさやかは、互いの顔を見合わせる。

340: 2013/03/13(水) 00:31:19.02 ID:9+JU9kExo

まどか「い……行っちゃったね」

さやか「キュゥべえ……何かあったのかな」

まどか「とっ、取りあえずほむらちゃんに電話しなくちゃ!」

さやか「え、あんたいつの間にケータイのアドレスを……」

まどか「今それどころじゃ……!」

さやか「後であたしにも教えて」

まどか「人のアドレスを勝手に教えちゃダメなんだよ!」

さやか「はい」

まどか「ってさやかちゃん、随分冷静じゃない?」

さやか「いやぁ、マミさんなら大丈夫でしょ」

まどか「…………あっ、もしもし、ほむらちゃん?」

341: 2013/03/13(水) 00:31:48.66 ID:9+JU9kExo

人気の少ない通路に、マミは到着した。

ここからキュゥべえのテレパシーが飛んできた。


マミ『キュゥべえ!』

マミ『キュゥべえ!どこにいるの!?』


辺りを見回しながら、テレパシーで呼びかける。


QB『マミ……!来てくれたんだね』

マミ『キュゥべえ!』

マミ『あなた、今どこにいるの!?何があったの!?』

QB『実は……拉致されてしまったんだ』

マミ『拉致!?』


342: 2013/03/13(水) 00:32:14.86 ID:9+JU9kExo

QB『それで、君をここに呼び出せと……』

マミ『呼び出せ?』

マミ『……わかったわ。とにかく、あなたは今どこにいるの?』

QB『それは……』

「あんたの後ろだ」

マミ「ッ!?」


背後から、声がした。

まさか、いやそんなはずがない、という思考が瞬時に働く。

後方二メートル。

緑のパーカー、ホットパンツ、赤銅色のポニーテールの少女がいる。

左手に黄色い球のついた髪留めを持っていた。

そして、右手にはキュゥべえが首を掴まれていた。

343: 2013/03/13(水) 00:33:22.13 ID:9+JU9kExo

マミ「キュゥべえ!」

QB「マミ……」

マミ「……それに」

マミ「さ……佐倉さん」

杏子「…………」

マミ「佐倉さん!キュゥべえを解放しなさい!」

杏子「……ふん」

QB「……わけがわからないよ」


マミの目を睨みつけたまま、杏子はキュゥべえを放り投げる。

呼び出すだけの道具にしか思っていなかった。

キュゥべえは空中で身を翻し、猫のように着地した。

344: 2013/03/13(水) 00:33:52.52 ID:9+JU9kExo

マミ「…………」

杏子「…………」

マミ「久しぶりね……」

マミ「わざわざここに何の用かしら?」

マミ「ここは私のテリトリーよ」

杏子「…………」

マミ「……黙ってたらわからないわ」

杏子「マミ……」

マミ「……何?」

杏子「てめぇ、よくもぬけぬけと……」

マミ「へ?」


345: 2013/03/13(水) 00:34:25.73 ID:9+JU9kExo

杏子「ぶっ頃してやるッ!」

マミ「ちょっ!?な、何!?」


杏子は突如、魔法少女に変身し、槍を構えた。

狼狽えているかつての師に穂先を向ける。

そして、マミの突進を仕掛けた。

咄嗟にマミは変身し、杏子の攻撃を魔法少女の脚力で回避する。

カバンが地面に落下する。


マミ「くっ……!」

マミ「ど、どういう了見よッ!?佐倉さんッ!」

杏子「…………」

マミ「あなた……あなたは一体どうしたの!?」

346: 2013/03/13(水) 00:34:59.22 ID:9+JU9kExo

マミ「何でいきなり、あなたが……」

マミ「……ハッ!」

マミ「ま、まさかあなた、魔女の口づけを……?」

杏子「…………」

マミ「冷静になって、目を覚まして!佐倉さん!」

杏子「うるせぇッ!」

マミ「!」

QB「…………」

QB(テリトリーを狙っているのかな……?)

347: 2013/03/13(水) 00:35:54.55 ID:9+JU9kExo

杏子「てめぇはよぉ……確か……言ったよな」

杏子「一般人に危険を晒すような真似はしてはならない……みたいなことを言ったよな」

マミ「え……?」

杏子「なァッ!言ったよなァッ!」

マミ「え、ええ……い……言ったわ……!」

杏子「散々あたしに魔法少女は正義だの希望だの抜かしてたくれたな……」

杏子「なのに!よくも!よくもッ!」

マミ「ま、待って!佐倉さん!落ち着いてっ!」

マミ「一体何を話しているのッ!」

杏子「あ?」

マミ「私には何がなんだか……」

杏子「しらばっくれるなよ……!」

348: 2013/03/13(水) 00:36:35.34 ID:9+JU9kExo

杏子「気付いていなかったと思ったのか!?」

杏子「よくも結界に迷い込んだ『ゆま』を……」

マミ「ゆ、ゆま……?あなたの知り合い?」

杏子「ふざけたこと抜かすなッ!」

杏子「よくも『ゆまを頃しやがっ』たなッ!

マミ「えぇッ!?」

マミ「ちょ、ま、待って!わ、私が頃した!?」

マミ「あなた何を言って――」

杏子「風見野に一つの結界が現れた」

杏子「その時は丁度、あたしはゆまを置いて離れてた……急いで戻ったさ」

杏子「そして、あんたの姿と!ゆまの遺体を見た!」

マミ「わ、私!?」

349: 2013/03/13(水) 00:37:09.22 ID:9+JU9kExo

QB(千歳ゆま……この間会ったばかりだけど……)

QB(どうやら本当に氏んだらしい。……勿体ない)

QB(けど、マミは……)

マミ「そもそも私は風見野になんか行ってないわ!まして人を頃すなんてこと……!」

杏子「ゆまには銃創だあったッ!決して見間違えねぇ!あれはあんたのマスケット銃のもの……!」

マミ「……言ってることが全く理解不能だわ」

杏子「あたしが見たんだっつってんだろッ!」

杏子「キョーコ……助けて……」

杏子「それがゆまの最期の言葉だッ!」

杏子「何故頃したッ!」

マミ「だ、だから私はゆまなんて人は知らないし!風見野にも行っていないッ!」

350: 2013/03/13(水) 00:37:43.37 ID:9+JU9kExo

杏子「……ゆまは」

杏子「ゆまは使い魔に襲われて、殺されそうになっていたところをあたしが助けたんだ」

杏子「魔法を他人のために使わないと誓ったが……」

杏子「それでも助けたのは、妹と何となく影が被ったからという面もある」

杏子「だがあいつは……やれお腹空いただのやれ一人にしないでだのやれ寒いだの……」

杏子「保護した最初ん頃はハッキリ言ってウザかった」

杏子「でもな……そのゆまは氏んじまった」

杏子「あたしは……失って初めて気付いたんだ」

杏子「ゆまは……あたしに、氏にかけて荒んだあたしの心を生き返らせてくれていたんだって」

杏子「あたしが見失いかけてた人間の心に、また気付かせて『くれた』……」

杏子「いや『くれていた』んだ……!」

351: 2013/03/13(水) 00:38:11.77 ID:9+JU9kExo

マミ「…………」

杏子「あいつは両親に虐待を受けていたッ!」

杏子「あいつはほとんど捨てられたようなもんだッ!」

杏子「あいつは孤独だった!あいつは苦しんでいたッ!」

杏子「あたしもそうだった!あたしも親に捨てられ、苦しんだ!」

杏子「あいつの傷はあたしの傷だ!ゆまはあたしだ!あたしたったんだッ!」

マミ「お、落ち着いて佐倉さん!」

杏子「てめぇにわかるか!?形見の髪留めを外す際に味わった、心が擦り切れそうになる感覚を!」

杏子「これがゆまを虐げたクズが買い与えたものだと思うと!ゆまの形見だのに捨ててしまいたくもなるという、もどかしい感覚を!」

杏子「許せねぇ……!てめぇを頃して、無念を晴らさなければならないッ!」

杏子「ブッ頃してやる!ゆまの報いだ!」

352: 2013/03/13(水) 00:38:40.74 ID:9+JU9kExo

憎しみに心が支配されている。マミはそういう印象を受けた。

狼狽えるよりも、冷静になって考える。

風見野には行っていない。それどころか、見滝原を出てもいない。

少なくとも昨夜はほむらを家に招き、夕食を一緒にした。

ほむらが帰ってからは、魔女も使い魔も現れなかったため外出さえしていない。


マミ(……暁美さん?)

マミ(私ではない、私……)

マミ(私……?)

マミ(いえ……私の、姿……)

マミ「…………」

マミ「あ……!」

353: 2013/03/13(水) 00:39:19.16 ID:9+JU9kExo

マミはほむらから聞いていた。

美国織莉子と呉キリカという二人の魔法少女。

その二人に会いに行った時のこと。

気付かない間に結界に閉じこめられていた。

そしてそこで、その二人と『全く同じ姿をした使い魔』が現れた。

その使い魔に、美国織莉子という人物が殺された。

別の未来、過去の世界で氏んだはずだった、と語っていた

ほむらにしかわからない、時間軸という概念。

前の時間軸というものに寄生する使い魔。

その人物であり、使い魔でもある。

354: 2013/03/13(水) 00:39:45.79 ID:9+JU9kExo

マミは理解した。

――『その使い魔』だ!

私は暁美さんの、別の未来で殺された友達だった。

前の時間軸では私は氏んだんだ。

前の時間軸の美国さん呉さんという二人も氏んだんだ。

そしてその二人の姿をした使い魔が現れて、

風見野に『私の姿をした使い魔』が現れたんだ!


マミ「わかったわ!佐倉さん!」

杏子「……あ?」

マミ「信じて!それは、使い魔よ!」

杏子「……使い魔だ?」

杏子「使い魔だってェッ!?」


355: 2013/03/13(水) 00:40:18.02 ID:9+JU9kExo

杏子「言うに事欠いて『使い魔』か!」

杏子「どこに魔法少女の姿を使い魔がいるってんだッ!」

マミ「いるわ!見滝原にも現れたからッ!」

杏子「黙れ!そんな見え透いた嘘をッ!そんな使い魔がいるわけがない!」

杏子「いたと言うなら証拠を出してみやがれ!」

マミ「確かに私は見ていないけど……嘘じゃないわ!」

マミ「『ジシバリの魔女アーノルド』ッ!その使い魔は『前の時間軸』とやらの概念ッ!」

マミ「私であって私でない!別の世界の私の概念!」

杏子「喧しい!今更そんなファンタジーなんか聞きたかねぇ!」

杏子「ブッ頃す!」

マミ「……くっ」

356: 2013/03/13(水) 00:40:49.82 ID:9+JU9kExo

杏子「くらいやがれッ!」

マミ「…………」

マミ(仕方ない、わね)

マミ(いいわ……来なさい)


杏子が再び槍を向け、突っ走る。

マミは手からリボンを生成し、スルスルと地面に垂らした。

ピシィィッ

リボンの端を踏みつけ、手と地面でピンと張らせる。

杏子の槍の先端が、リボンに触れた。


マミ「リボンの防御に力はいらない……」

杏子「ッ!?」

357: 2013/03/13(水) 00:41:28.24 ID:9+JU9kExo

マミ「直線的な力の刺撃は、ほんのわずかにその方向をそらすだけで……」

マミ「刺撃の軌道は大きく外れていく……」

杏子「うぅっ……!」

マミ「そして、刃は当てれば切れるとは限らない」

マミ「角度が少しでもズレれば切れるものも切れないわよ……」

ドサァッ

杏子「グッ……!」

杏子「くそォッ!」


杏子の突撃は受け流された。

思わずバランスを崩し、杏子はマミの横を通り抜けて転倒する。

すぐに立ち上がり追い打ちに備え、構える。

358: 2013/03/13(水) 00:42:00.14 ID:9+JU9kExo

杏子「……ッ!?」

杏子「お、おい……てめぇ……」

マミ「…………」

杏子「それは……何の真似だよ……」

マミ「…………」

杏子「何の真似だと聞いているッ!巴マミィッ!」


追い打ちはしない。そして振り返らない。

殺意を持って襲ってきた敵に対し、背中を向けたまま動かない。


マミ「このままでいい」

杏子「何を……言っているんだ」

マミ「このままでいいと言ったのよ」

359: 2013/03/13(水) 00:42:35.80 ID:9+JU9kExo

マミ「私を頃したいのなら、そうするといいわ」

マミ「それで、ゆまという人の仇が取れるというのなら、あなたがそれで納得するというのであれば……」

マミ「私はこのままでいい」

杏子「て、てめぇ……!」

杏子「何故背中を見せるのかッ!こっちを向けいッ!」

マミ「…………」


答えない。無防備にもその背中を杏子に見せる。

――杏子は考える。

何を考えてやがんだ……!こいつ……!

敵に背中を向けるヤツがいるか?

背中を見せる異常な行動に気を取られた隙に氏角からリボンの束縛……?

その様子もなさそうだが……。

360: 2013/03/13(水) 00:43:23.23 ID:9+JU9kExo

……不気味だ。

人間は脳に入ってくる情報の七割だか八割だかは、視力に頼っている……。

背中を見せるってことは、その視力を捨てているということと同じだ。

そのまま攻撃すれば、あたしは簡単にマミを討てる。

だが、本当に攻撃していいのか?

これは罠なんじゃあないのか?


杏子「う……て、てめぇ……!」

杏子「こっちを向けッ!」

杏子「棒立ちはともかく訳を言えエェェッ!」

マミ「…………」

杏子(こ、こいつ……動かねぇ……!)

杏子(…………)

杏子(くそっ……あたしも迂闊に動けねぇじゃあねーかッ!)

361: 2013/03/13(水) 00:44:00.36 ID:9+JU9kExo

マミが走り去り、取り残されたまどかとさやか。


二人は、今日知り合った「もう一人の魔法少女」の合流を待っていた。

まどかが電話をしてから五分程度で、その彼女は合流した。

ここが学校からそれ程離れていないとは言え、

電話を受けてからここに来るまでにはどうしても走らなければならない。

しかしそのような息切れはなく、絹糸のような艶やかな長髪は一切乱れていなかった。

まどかは安心感を心強さを覚えたが、さやかは少し不気味に思った。


ほむら「巴さんが大変だって聞いたけど……」

まどか「うん!あとキュゥべえも!」

さやか「キュゥべえが魔女に襲われてるって!」

ほむら「……魔女?それはないわ。気配でわかる」

まどか「よ、よくわかんないけど!マミさんのとこに!」

362: 2013/03/13(水) 00:44:27.42 ID:9+JU9kExo

「僕が案内するよ!」

まどか「あ!」

さやか「キュゥべえ!無事だったの!?」

QB「あぁ。何とかね」

ほむら「…………」

QB「それよりもほむら。早くマミに加勢を!」

ほむら「……加勢?魔女はいないわよ」

QB「魔法少女に襲われているんだ!」

まどか「ま、魔法少女に!?」

さやか「何で!?」

ほむら「…………」

363: 2013/03/13(水) 00:45:19.19 ID:9+JU9kExo

ほむら(魔法少女……)

ほむら(……いつか会った、M市の魔法少女か?)

ほむら(いや……彼女はスタンド使いだからこそここに来たようなもの)

ほむら(元々は他のテリトリーに足を踏み入れるようなことはしない性格らしい)

ほむら(他に考えられるのは……呉キリカ?)

ほむら「……案内して」

QB「こっちだよ」

まどか「ほむらちゃん!わたしも!」

ほむら「あなた達はここにいなさい」

さやか「尊敬するマミさんのピンチに、黙っていられるもんですか!」

さやか「さっきは……急だったから戸惑ったけど、あたし達も行くよ!」


364: 2013/03/13(水) 00:46:00.44 ID:9+JU9kExo

ほむら「ダメよ。ここにいなさい」

ほむら「相手は人外ではなく人間なのよ。あなた達を優先して襲ってくる可能性も――」

QB「いや、二人にも来てもらうべきだ」

ほむら「……なんですって?」

QB「二人は魔法少女ではないが、いるだけで魔法少女だと錯覚させることはできるだろう」

QB「そうすることで相手は四対一、有利不利がハッキリして退く可能性がある」

さやか「な、なるほど!」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「…………」

ほむら(相手がどんな魔法を使うかもわからないのに……)

ほむら(どうせこいつは、いざという時は契約を、としか考えていない)

365: 2013/03/13(水) 00:46:38.82 ID:9+JU9kExo

ほむら(だが……仕方ない)

ほむら(もし巴さんを襲っている魔法少女が呉キリカだとすれば……)

ほむら(呉キリカは危険すぎる。一刻も猶予がない。もし巴さんが殺されたら、生き返らせるという名目で契約を迫られる)

ほむら(それに、形だけでも四対一という策を使うというのも一理ある)

ほむら「……わかったわ。ただし、私から絶対に離れないで」

まどか「わかった!」

さやか「合点!」

ほむら「キュゥべえ。早く案内しなさい」

QB「うん」

さやか「行くよ!まどか!」

まどか「うん!」

366: 2013/03/13(水) 00:47:07.20 ID:9+JU9kExo

三人は数分走り、人通りの少ない通路に到達した。

まどかは大きく息切れをしている。

さやかはマミの姿をキョロキョロと見回し探す。


まどか「ここに……ハァ、い、いる……の?ハァハァ……」

さやか「まどか……大丈夫?」

まどか「うん……」

ほむら「止まって」

さやか「んぁ、転校生?」

ほむら「ここからなら聞こえないでしょうけど、声量を抑えて」

まどか「な……何……?」

ほむら「巴さんはそこにいるわ」

367: 2013/03/13(水) 00:47:33.26 ID:9+JU9kExo

ほむらは既に視認した。

マミが棒立ちをして壁を見つめている。

杏子が槍を構えたままマミの背中を睨んでいる。

双方、微動だにしない。


さやか「!マ、マミさ――」

さやか「――ん?」

さやか「て、転校生……?」


マミがいるという言葉に、真っ先に体が動いたのはさやかだった。

しかし、ほむらはさやかの前に腕を伸ばし静止させる。


ほむら「止まりなさいと言ったでしょう」

さやか「え?へ?」

368: 2013/03/13(水) 00:48:27.11 ID:9+JU9kExo

ほむら「巴さんは無事よ」

ほむら「でもとにかく、今はまだ隠れてなさい」

ほむら「この陰にいれば気付かれないでしょう」

まどか「な、何で……?」

QB「どういうつもりなんだい?」

ほむら「様子見よ」

さやか「様子見って……」

ほむら「相手を観察することも大切」

QB「……二人は何をしているんだろう」

369: 2013/03/13(水) 00:48:55.63 ID:9+JU9kExo

さやか「んー……確かにマミさんがいる。でも……あの赤い魔法少女は……?」

まどか「ど、どうして二人ともジッとしてるんだろう……?」

ほむら「……彼女は佐倉杏子」

まどか「知っているの?ほむらちゃん」

ほむら「えぇ……巴さんのかつての弟子みたいなものよ」

まどか「で、弟子?」

さやか「な、何で弟子がマミさんを襲ってんのさ!」

ほむら「だからかつての、よ」

さやか「どっからどう見ても再会を喜んでるような状況じゃないって!」

QB「マミは背中を取られているみたいだけど」

まどか「マミさんを助けて!ほむらちゃん!」

さやか「魔法少女なんでしょ!?ちゃっちゃと変身して何とかしなさいよ!」

ほむら「…………」

370: 2013/03/13(水) 00:49:21.87 ID:9+JU9kExo

ほむら「その必要はないわ」

まどか「え……?」

さやか「な……何を言ってんの!?」

ほむら「変身をする必要はない」

ほむら「と、言うより魔法はあまり使いたくないわ」

さやか「だ、だから何を言って――」

ほむら「佐倉杏子は巴さんと関わりがある……」

ほむら「だからと言って、味方となるか敵となるか、今はわからない」

ほむら「しかし今の状態から言って少なくとも今は間違いなく敵よ」

ほむら「そうである以上……彼女に手の内を見せたくない」

さやか「て、手の内って……!」


371: 2013/03/13(水) 00:49:52.74 ID:9+JU9kExo

ほむら「それに、銃……私の武器は銃器なのだけれど」

ほむら「それを撃つにもサイレンサーがないから銃声が響いて、騒ぎになるわ」

ほむら「サイレンサー。用意しておくべきだったとは思う」

さやか「何を言ってんだよ転校生あんたは!」

まどか「こんなの絶対おかしいよ!」

QB「…………」

ほむら「魔法少女って、そんなものよ」

ほむら(……佐倉杏子は、前の時間軸では敵だった)

ほむら(しかしその前の時間軸では味方だった)

ほむら(この様子からして、今は敵だろう。今後はわからない)

ほむら(とは言え、障害として今ここで始末するには早計だ)

ほむら(彼女は利己的な面がある……グリーフシードをチラつかせれば、共闘する交渉に応じる可能性がある)

372: 2013/03/13(水) 00:50:19.93 ID:9+JU9kExo

監視されていることに、杏子は気付いていない。

目の前の背中に集中している。

五分か六分程度の静止だったが、

杏子は一時間立ちっぱなしだったかのような錯覚を覚えていた。

とうとう痺れを切らす。


杏子「クッ……て、てめぇ……な、舐めやがって……!」

杏子「う、うぅ……」

杏子「うおおおおおおッ!」


杏子は地面を踏み込み、走り向かった。

槍の先端は、マミの背骨丁度に向けられている。

373: 2013/03/13(水) 00:50:49.10 ID:9+JU9kExo

まどか「い、いや……!」

さやか「や、やめ――!」

QB「まどか!さやか!二人を止めるために契や――」

ほむら「魔法は使わない……魔法は、ね……」

ほむら「何も問題はない」

ほむら「巴さんを助けることに関しては既に終了している」

QB「……何だって?」

まどか「……え?」

さやか「……あっ!?」

QB「一体……何が……」

さやか「あ、あいつ『攻撃を止めている』ッ!?」

374: 2013/03/13(水) 00:51:22.33 ID:9+JU9kExo

槍の先端が、マミの背中より十数センチの所で静止した。

マミは微動だにしない。

杏子は歯を食いしばる。

かつての師は刺せない……という感傷では決してなかった。

杏子には本当の憎悪があった。刺すこと自体に躊躇はない。

しかし事実、槍は止まった。


杏子「……!」

杏子「な、なん……だ!?」

杏子「う……うっ……く!?」

杏子「う……『動かない』……?」

375: 2013/03/13(水) 00:51:50.27 ID:9+JU9kExo

槍が動かない。

腕にいくら力を込めても、誰かに石突を引っ張られているかのように、

槍がこれ以上伸びない。


マミ「……?」

杏子「な、何が起こったんだ!?」

杏子「何で……!何でだッ!?」

マミ「……さ、佐倉さん……あなた、何をしているの?」

杏子「ま、マミ……」

杏子「これは……てめぇの……魔法ではないな……」

杏子「てめぇ仲間がいるのかッ!?」

マミ「仲間……」

376: 2013/03/13(水) 00:52:19.11 ID:9+JU9kExo

マミ「……まさか」

マミ「暁美さん!?」

ほむら「……えぇ、そうです」

マミ「そ、それに……二人まで……」

まどか「ほ、ほむらちゃんが……助けてくれたん、だよね……?」

さやか「何でこいつは……攻撃を止めたんだ……!?」

杏子「…………」

杏子「魔法少女、か……」

杏子「察するに、黒髪のあんたの仕業だな……!これはよぉ……」

ほむら「……えぇ」

杏子「てめぇ!あたしに何をしたッ!?」

杏子「見えねぇ何かに掴まれてるような……念力のような魔法!」

377: 2013/03/13(水) 00:52:47.76 ID:9+JU9kExo

杏子「何故『変身もせずにこんな芸当』ができたッ!」

ほむら「…………」

杏子「槍を離せ!」

ほむら「さぁ……何のことかしら?わからないわね。佐倉杏子」

杏子「こいつ……!」

マミ「暁美さん……」

マミ(これは……多分、いえ、間違いない……)

マミ(……昨日暁美さんが話してた『スタンド』……とかいうのの力ね)

マミ(スタンド……魔法少女とは違う、未知なる能力……)

マミ(精神のエネルギー……個人によって異なる能力。同じ能力者にしか見えない……)

マミ(私と佐倉さんでは視認できない力)

マミ(確か暁美さんの『それ』の能力は……)

378: 2013/03/13(水) 00:54:10.98 ID:9+JU9kExo

ほむら(私のスタンド……『糸』を佐倉杏子の槍に結びつけて固定した)

ほむら(ドアノブにひっかけてリトル・フィートの指を封じたように……)

ほむら(槍は糸の張りにより、これ以上突き出せない)

ほむら(自分の『体積』は減るものの、意志に応じて自由自在に操れる)

ほむら(スタンドの操作……思ったよりなんてこともないわね)

ほむら(それに……糸は数本か束ねた程度でもかなり丈夫な紐になる)

ほむら(それこそ魔法少女の腕力を止めるくらいには……)

ほむら(既に理解した)

ほむら(私が呪われたのであれば、それはそれで利用すべき……)

ほむら(私はスタンドを上手く操れるようにならなければならない)

ほむら(……名前も、いつかは決めておかないと)

ほむら(それはさておき)

379: 2013/03/13(水) 00:54:52.89 ID:9+JU9kExo

まどか「ほむらちゃんは……一体何をしたの?キュゥべえ」

さやか「魔法は使わないって言ったのに……あたしには何が起こったのかわかんないよ?」

QB「……僕もわからなかった」

QB「変身をしなくてもある程度の魔法は使える。怪我を治したり、マミで言えばリボンを生成したりね」

QB「ほむらは、君達の言葉で表すところの念動力のような魔法が使えるのかもしれない」

さやか「かもって……」

QB「願いによって能力の考察ができないこともない」

QB「ほむらは、契約した覚えがない……イレギュラーな存在なんだ」

さやか「契約した覚えがない……?」

まどか(ほむらちゃん……一体何者なの……?)


ほむら「……巴さん」

マミ「…………」

380: 2013/03/13(水) 00:55:20.17 ID:9+JU9kExo

ほむら「言いたかないですが……あなたは人を信用しすぎています」

ほむら「あなたが佐倉杏子にどういう思いを抱いているかは計り知れませんが……」

マミ「佐倉さんのこと……知ってるの?」

ほむら「…………」

ほむら「私が止めなかったら本当に刺されていたでしょう」

マミ「……そ、そうでしょうね」

マミ「でも、氏にはしないわ」

マミ「私は何度も彼女の槍術を見てきたからわかる」

マミ「そして実際に戦ってわかった」

マミ「佐倉さんは私を殺せない。迷いがある」

杏子「……!」

381: 2013/03/13(水) 00:56:13.43 ID:9+JU9kExo

ほむら「……迷い?」

マミ「やろうと思えば頭でも心臓でも突けたはず」

マミ「だけど佐倉さんはお腹を狙っていたわ」

マミ「魔法少女はその程度で氏なない」

マミ「頃すと言っておきながら、急所は狙わない……いえ、急所を避けている」

マミ「矛盾をした行動をとっているのよ。佐倉さんは」

ほむら「……なるほど。また矛盾、ですか」

マミ「えっ」

杏子「グッ……!」

まどか「こ、ころ……!」

さやか「…………!」

382: 2013/03/13(水) 00:56:40.75 ID:9+JU9kExo

ほむら「……二人とも、これから魔法少女だけで話すことがある」

ほむら「先に巴さんの家に行くといいわ」

マミ「そうしてくれたほうがよさそうね……」

マミ「私のカバン。持っていって」

マミ「もし先に家についたら、中に鍵があるから……入ってて」

まどか「……わ、わかりました」

さやか「はい……」

マミ「キュゥべえ。二人をお願い」

QB「わかったよ。マミ」

ほむら「…………」

ほむら(あんなヤツに任せるのは不服だが……仕方ない)

383: 2013/03/13(水) 00:57:32.75 ID:9+JU9kExo

ほむら「……さて」

ほむら「落ち着いたかしら。佐倉杏子」

杏子「……」

ほむら「……何があったのか、説明してくれる?」

マミ「佐倉さんは……」

ほむら「今は佐倉杏子に聞いているんです」

杏子「…………」

杏子「……昨日の夜のことだ」

杏子「そいつ……マミが風見野に来たんだ」

杏子「それで……あたしから大切なものを奪っていった」

384: 2013/03/13(水) 00:58:21.65 ID:9+JU9kExo

ほむら「奪った……?グリーフシードを?」

杏子「そんなチンケなもんじゃねぇ」

杏子「そして、あたしは復讐しに来たんだ」

杏子「そしたらあいつは!」

杏子「自分は何もしていない!自分の姿そっくりの使い魔の仕業だとほざきやがった!」

杏子「やったと認めるならまだいい……」

杏子「だが!そんな見え透いた嘘を!嘘をつくってのは人を見下した行為だ!」

ほむら(アーノルドの使い魔……)

ほむら(風見野にも来ていたのね)

ほむら(あの使い魔はOriko、Kirikaと名乗った……と、なると……)

ほむら(巴さんの姿だから差詰め『Mami』といったところか……)

385: 2013/03/13(水) 00:58:51.97 ID:9+JU9kExo

ほむら「佐倉杏子。巴さんの言ったことは本当よ。そういう使い魔がいる」

杏子「……何を根拠にそんなことを言いやがる!」

ほむら「私は実際に対峙したわ」

杏子「いいか!てめーはマミの仲間だ!」

杏子「そんなヤツの言うこと!あたしが信じるはずがないッ!」

ほむら「何にせよ、巴さんがそんなことするはずがないと、あなたも心のどこかでわかっているんじゃないの?」

杏子「……昔はな!だが!人はあっという間に変わる。それにあたしは実際に、この目で見たんだ!」

マミ「…………」

ほむら(……佐倉杏子は利己的な面がある。そしてある意味では純粋な性格)

ほむら(その性格故か、自分が抱く疑問よりも目の前の事実を優先させる、といったところだろうか)

ほむら(今の彼女は、何を言っても無駄なようね……)

ほむら(実際にその使い魔に出くわさない限り……恐らくは)

386: 2013/03/13(水) 00:59:36.35 ID:9+JU9kExo

杏子「あたしが見たのは事実!」

杏子「実際にこいつがッ!」

杏子「マミが『ゆまを撃ち頃した』という結果が残ってるんだ!」

ほむら「ッ!」

マミ「だから、私はゆまなんて人は知らな……」

ほむら「ゆ、ゆま……ちゃん、が……?」

マミ「……暁美さん?」

杏子「あ?知ってんのか……?」

ほむら「ゆまちゃんが……殺された……?」


ほむらは口に手をあて、杏子から目を逸らし、地面を見る。

その声は震えていた。勝手に震えてしまった。


387: 2013/03/13(水) 01:00:04.02 ID:9+JU9kExo

杏子「……あぁ、そうだよ。あんたのすぐ隣にいるヤツに殺されたんだ」

マミ「だから私は……」

ほむら(……ゆまちゃんが、氏んだ?)

ほむら(あのゆまちゃんが……)

ほむら(そんな……そんなことって……!)

マミ「……暁美さん?」

ほむら「……はっ」

マミ「ど、どうしたの?」

ほむら「い、いえ……何でもない、です……」

マミ「…………」

388: 2013/03/13(水) 01:00:43.92 ID:9+JU9kExo

杏子「……あんたがゆまとどう関係あるのかはどうでもいい」

杏子「いいか、あんたはあたしに落ち着けと言ったよな」

杏子「しかし、こんなんでもあたしは冷静だ」

杏子「本当はあんたらをぶちのめしてやりたいという殺意で一杯一杯よ」

杏子「あたしは今怒り心頭ってヤツだが……二人を相手する余裕はないことはわかる」

杏子「感傷に流されて無謀なことをして……無駄氏になんて絶対にしない」

杏子「だが、もうおさまらねえ……テメーらにつきまとってやることに決めたぞ」

杏子「いいか。マミ。あたしはしばらく見滝原にいることにした」

杏子「あたしはテメーをトコトン困らせてやりてえって心の底から思い始めたッ!」

389: 2013/03/13(水) 01:01:10.70 ID:9+JU9kExo

杏子「もう二度とッ!頃すことに躊躇しねぇ!」

杏子「絶対に頭をカチ割ってくれる!」

杏子「必ずテメーの氏をもって!ゆまの仇をとってやる!」

マミ「佐倉さん……」

杏子「……フン!テメーなんか二度と口聞かねー」

ほむら「…………」


杏子は走り去っていった。

糸は既に解けている。

マミは、かつての愛弟子の背中を切なげな表情で見届ける。

ほむらは、予想外な形で知った顔見知りの氏の動揺を押し頃している。

390: 2013/03/13(水) 01:02:02.66 ID:9+JU9kExo

前の時間軸、ゆまは自分にとても懐いてくれた。

その笑顔が脳裏に浮かぶ。

可愛らしい笑顔の主は、この世界では既に氏んでいる。

その事実を突きつけられ、ほむらは全身の力が一瞬だけ抜けた。

そしてすぐに「これは感傷ではなく、単なる動揺だ」と自分に言い聞かせる。

自分のリアクションを正当化させた。


マミ「…………」

ほむら「…………」

マミ「暁美さん……」

ほむら「…………」

391: 2013/03/13(水) 01:02:30.69 ID:9+JU9kExo

マミ「さっきの反応から見るに……」

マミ「もしかして、ゆまちゃんっていう人……いえ、子も……?」

ほむら「…………」

ほむら「……はい」

マミ「……そう」

ほむら「……佐倉杏子の誤解は必ず解けます」

ほむら「ただ、魔法少女だったり、命のやりとりが関わっていたら……」

ほむら「それは拗れに拗れて取り返しのつかないことになりうる」

ほむら「今はそういうことなんです……仕方がないこと」

マミ「そうね……」

ほむら「……行きましょう」

マミ「……えぇ」

392: 2013/03/13(水) 01:03:08.11 ID:9+JU9kExo

ほむら(佐倉杏子は今……戸惑っている)

ほむら(そんなはずがないという疑惑も、目の前の事実から錯覚して……)

ほむら(ゆまちゃんが殺されたということが……独立して……)


……どうして。どうして、ゆまちゃんのような子が犠牲にならなければならないのか……?

何故、虐待を受けて……既に一生分の苦しみを味わったような子が氏ななくてはならないの?

辛すぎる。

……しかし、例えゆまちゃんでも、私はいざという時は見捨てる覚悟をしてきた。

出会う前に……懐かれる前に氏なれただけ、まだマシと言える。そう考えるべきだ。

それにしても、今日は疲れた……。

早く、巴さんの家に行って紅茶を……

……って、だから、そんな甘えたことを考えてはいけないというのに。

前の時間軸の決意とは一体なんだったのか。

私は……つくづくダメな人間だ。

393: 2013/03/13(水) 01:04:28.57 ID:9+JU9kExo

ほむらは、頭に手を当てていた。

無意識の行動だった。

マミは「暁美さんは今、ゆまちゃんという子の氏」を受け入れようとしている。

そう悟った。

こんな時、肩を抱いてあげるのが妥当な行動なのかと思ったが、

それはしないことにした。

その目に涙が滲んでいるように見えた。

故に今はむしろそっとしてあげるべきだと考えた。

杞憂だとは思うが、今抱き寄せたら、ほむらがめそめそと泣き出すような気がしたためである。

あくまで気がしただけだが、ほむらを泣かせてはならない。泣かせる要因が杞憂でもあってはならない。

見て見ぬ振りをすることが今のほむらにとって最上の対応であると思った。


マミ(……どうして、暁美さんのような弱い子がこんな辛い目に遭わなければならないのかしら)

マミ(私は、暁美さんを守ってあげられるのだろうか……)

394: 2013/03/13(水) 01:05:48.50 ID:9+JU9kExo



あれから何日経ったか、記憶があやふやである。



もう二度と来ないつもりでいた。

悲しみが蘇るからだ。

しかし、やはり自分の居場所はここ以外にない。

自宅でも、学校でもケーキ屋でもない。

キリカは今、家主を失った美国邸にいた。

未だ、織莉子が行方不明になったことは世間には知られていない。

学校にも無断欠席しているにも関わらず、社会からは一切関心を向けられていない。

「織莉子の居場所もまた『私』しかなかった」

キリカはそう呟いた。

395: 2013/03/13(水) 01:06:21.13 ID:9+JU9kExo

今は亡き愛する人のベッドに倒れ込み、うつ伏せになる。

ほんのりと、その人の匂いを感じられるのではと思ったが、

生憎、そういったものは何も感じられなかった。

ただ埃が舞っただけだった。


キリカ「…………」

キリカ「私は……生き甲斐を失った」

キリカ「織莉子……グスッ」

キリカ「うぅ……織莉子ォ……」


キリカは泣いた。

泣くしかできない。

泣くために美国邸へ来たと言っても過言ではない。

396: 2013/03/13(水) 01:06:47.70 ID:9+JU9kExo

キリカ「『命令』しておくれよ……」

キリカ「織莉子が私に……何をすべきかって命令してくれるのなら……」

キリカ「そうすりゃあ、勇気が湧いてくる。誇り高い気持ちになれるんだ……」

キリカ「織莉子の命令なら、何も怖くない……」

キリカ「だけど……私は何をすればいい?織莉子のいない世界で……」

キリカ「何をすればいいのか……わからないよ……!」

キリカ「あの時、絶望して魔女になっていれば……こんなこと悩まなくて済んだんだ……」

キリカ「グリーフシード何か渡さず、そのまま見捨ててくれていた方が楽だったのに……」

キリカ「……逝って、しまおうか……いっそのこと」

キリカ「ソウルジェムを砕くだけで……氏ぬのは一瞬だ」

キリカ「自殺を……自殺をしよう」

397: 2013/03/13(水) 01:07:21.63 ID:9+JU9kExo

キリカ「…………」

キリカ「そんな独り言抜かすくらいなら……」

キリカ「何で……私は……今、生きているんだ……」

キリカ「怖いのか?氏ぬのが怖いのか?」

キリカ「今まで何度……そういう葛藤をしたんだ……!私は……!」

キリカ「どうして織莉子なんだ……」

キリカ「どうして氏んだのが私じゃなくて織莉子なんだ……!」

キリカ「どうして……!どうして……!

キリカ「うっ……うぅ……」

キリカ「うぅぅぅ……」

キリカ「…………」

398: 2013/03/13(水) 01:08:06.49 ID:9+JU9kExo


『キリカ……』


「…………」

「……ん?」

「何だぁ……?」

「今……『織莉子の声』が聞こえたような……」

「……はは、げ、幻聴まで聞こえてきた」

「織莉子……」

「寂しいよォ……私を子ども扱いしてよ……」


『あなたが決めなさい』

『キリカ……行き先を決めるのはあなた』

399: 2013/03/13(水) 01:08:44.20 ID:9+JU9kExo

「…………」

「やめてくれよ……私の頭……」

「こんなの幻聴だ……織莉子の言葉じゃあない……!」

「幻聴は……心の奥底の言葉のようなものだ……」

「私は織莉子のいない世界で生きようなんて思っていない」

「だから、そんな、生きることを促すような幻聴はやめてくれ……!」

「私は、私は……織莉子の所へ逝きたいんだ……!」

「こんな幻聴は、私の本心じゃないはずだ……!」

『真実へ……あなた自身の信じられる道を……』

「やめてくれ……やめてよぉ……!」

400: 2013/03/13(水) 01:09:11.36 ID:9+JU9kExo

キリカ「やめ……て……」

キリカ「……あ?」

キリカ「…………」


枕が濡れている。

窓から指す夕日が温かい。


キリカ「私、眠ってたのか……?」

キリカ「泣き疲れてたってやつなのかな」

キリカ「…………私の行き先、か」

キリカ「……恩人」

キリカ「…………」


401: 2013/03/13(水) 01:09:47.07 ID:9+JU9kExo

キリカ「これが……」

キリカ「これが幻聴だろうが夢だろうが関係ない……」

キリカ「わかったよ。私の信じられる道……」

キリカ「行ってやろうじゃんか……私が思い浮かべた道へ……」

キリカ「夢のお告げってことにしてさ……」

キリカ「その方が……縁起もいいし……」

キリカ「どうせ氏ぬのが怖いなら、やるだけやって殺されよう」

キリカ「……確か、アーノルドとか言ったっけか」

キリカ「殺せるもんなら、頃してみろってんだ……!」


キリカは、織莉子のベッドから飛び降りた。

決意が揺らがない内に、早歩きで美国邸を後にした。

向かうべくは……見滝原のどこか。それは後で決める。


402: 2013/03/13(水) 01:10:49.89 ID:9+JU9kExo

アンダー・ワールド 本体:ジシバリの魔女 Arnold(アーノルド)

破壊力-なし スピード-C  射程距離-結界内
持続力-A   精密動作性-C 成長性-A

「過去の事実」を『掘り起こす』能力。その性質は「追憶」
掘り起こされた事実は運命のように変えることはできない。
しかし、魔女の力によりその事実は『過去の概念』として、
使い魔として生まれ変わりその運命から解放される。
過去とは、ほむらの時間遡行能力で言う「前の時間軸」を指す。
失った時間、概念への執着から発現したと考えられる。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


Arnold(アーノルド)

ジシバリの魔女。その性質は「因縁」
犬のような姿をしていて、スタンドという能力を持つ魔女。
めぼしい相手から記憶を読みとり、自身の記憶と共有することを趣味とする。
アンダー・ワールドの能力と共鳴し、掘り出した過去をそのまま結界とすることができる。
その結界は空の色がアイボリーブラックである以外は精密。
また、アンダー・ワールドで生み出した事実を使い魔として『固定』できる。


Versace(ヴェルサス)

ジシバリの魔女の手下達。その役割は「追想」
アンダー・ワールドで生まれ使い魔となった存在の『総称』である。
掘り出された過去の概念に寄生する形で生きている。
意志があり、外見は瓜二つだがその性格は正確でない。
魔法少女の概念を兼ねる個体はソウルジェムに相当する部位が弱点となる。

432: 2013/03/19(火) 22:01:44.69 ID:WQPQ069po

#20『ストーン・フリー』


まどかとさやかと正式的に友人となり、

杏子の見滝原襲撃から数日。

織莉子が氏に、キリカが失踪し、マミと手を結び、

そしてスタンドに目覚めてからプラス一日。

当時間軸の新たな習慣ができた。

あれからマミは毎日ほむらも家に誘った。

断る理由はないので、素直に甘味をいただき世間話に付き合った。

心のどこかで自己嫌悪を抱いてはいる。

感傷は敗北に繋がる。

それが前回の教訓であるというのに、内心その時間を楽しんでいる自分がいる。

433: 2013/03/19(火) 22:03:09.10 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

まどか「ほーむらちゃんっ」

ほむら「まどか……どうしたの?」

まどか「ん、帰りの仕度できたかなーって」


元々まどかは人懐っこい面がある。

最近はこれでもかというくらい接してくる……。

嫌ではない……むしろ嬉しいが、正直そこまで好かれる態度は取った覚えはない。

どうせ自分はいつか氏ななければならない。まどかをより深く悲しませないためでもある。

だからむしろ少し距離を置かれるくらいの言動をしていたつもりだったのに。

まどからしいと言えばらしいのであるが……。

人間というものは、本当によくわからない。

……無意識の内に『あいつ』が言いそうなことを考えた自分が腹立たしい。


まどか「……?どうしたの?」

ほむら「いえ……何でもないわ」

ほむら「そうね……いつでも行けるわ」

434: 2013/03/19(火) 22:03:54.05 ID:WQPQ069po

今日もまた、巴さんの家で紅茶をいただく予定になっている。

この時間軸で巴さんから実際に数歩離れて観て初めて知ったことだが、

巴さんは本当、頻繁に知り合いに紅茶と甘味を提供している。

この時間軸以前まで毎回出席していた私は、果たしてどれだけ糖分を摂取していたのだろうか。

考えたくない疑問だが……これからはたまに欠席をすることにしよう。


まどか「それじゃ、行こっ」

ほむら「えぇ」

まどか「マミさんは?」

ほむら「先に帰って用意をしているとのことよ」

まどか「そっか」

まどか「……それじゃあ、二人きりだね。ほむらちゃん」

まどか「ほむらちゃんと二人きりになれるのって、ほむらちゃんが転入した初日以来だね」

ほむら「二人きり?」

まどか「うん。仁美ちゃんは今日もお稽古だっていうし」

435: 2013/03/19(火) 22:04:45.01 ID:WQPQ069po

ほむら「……美樹さやかは?」

まどか「さやかちゃんは病院に行ったよ」

ほむら「病院……」

まどか「あっ、そういえばほむらちゃんは知らなかったかな」

まどか「さやかちゃんは幼なじみのお見舞いに行ってるの」

まどか「上条くんっていうんだけどね、事故で入院してる」

ほむら「……そう」

まどか「お見舞い行って、そのままマミさんの家に行くって言ってた」

ほむら「わかったわ」

まどか「あ、そうだ。折角だから病院に寄ろうよ」

まどか「クラスメートだし、上条くん紹介しておいた方がいいかなって」

ほむら「……そう、ね。一応挨拶だけでも」

まどか「うんうん。それでさやかちゃんと合流して一緒に行こう」

ほむら「……えぇ」

436: 2013/03/19(火) 22:08:53.62 ID:WQPQ069po

上条恭介。

美樹さやかが恋慕を抱いている相手。

彼自身とは今までほとんど関わりがなかったと言ってもいい。

会話をした覚えすらない。ないことはないはずだ。

そして、どうやら前の時間軸で彼もスタンド使いだったらしい。

名前は確かハーヴェスト……そう聞いた。

スタンドは一人一能力一体と思っていたが、何でも複数で一体のスタンドらしい。

実際に見る前に彼は佐倉杏子によって志筑仁美と一緒に殺されてしまったが……。

故に詳しくはわからない。


ほむら「ところで、彼はどういう人なのかしら?」

まどか「バイオリンが上手」

ほむら「…………」

437: 2013/03/19(火) 22:09:40.87 ID:WQPQ069po

学校から病院への道。

知らない道ではないが、知らない振りをして歩んだ。

思えばまどかと肩を並べて二人でここを通るのは初めてかもしれない。

道中、他愛ない世間話をした。

まどかと会話をしてからは……その後の内容は今のところなんでも全て覚えている。

更衣室のロッカーの変な落書きだとかお気に入りのぬいぐるみや家族のこと。

エイミーとの出会いや勉強のこと。今後の将来のこと。

演歌が好きだと言われてそのギャップに思わず笑ってしまい、

まどかを拗ねさせてしまったこと……全て記憶している。


まどか「ほら、ほむらちゃん。ついたよ」

まどか「学校からは今通った道が一番近い」

ほむら「そうなのね」


438: 2013/03/19(火) 22:10:13.19 ID:WQPQ069po

まどか「ほむらちゃんは魔法少女とは言え……」

まどか「一人暮らしで体の弱い子なんだからね」

まどか「ちゃんと病院への最短ルートはもちろん、地理はちゃんと覚えてないとダメだよ?」

ほむら「そうね……気を付けるわ」

ほむら(何でちょっぴり得意気なんだろう)

まどか「ほむらちゃんは見滝原に来てあんまり経ってないから、もっと色んな場所を案内したいなって」

まどか「ほむらちゃんに見せたい景色。まだまだたくさんあるんだぁ」

ほむら「…………」

まどか「だから……その……」

まどか「ほむらちゃんがよければ、なんだけどね」

まどか「今度……わたしに、見滝原を案内させてほしいなって」

439: 2013/03/19(火) 22:11:05.07 ID:WQPQ069po

ほむら「……そう、ね」

ほむら「まどかにそう言ってもらえるなんて……嬉しいわ」

ほむら「いつか……喜んで案内されたいものね」

まどか「えへへ、約束だよっ」

ほむら「……えぇ」


世界の平和のためにも、レクイエムのいない未来のためにも、

私はいつか自ら命を絶たなければならない。

まどかが私に好意を持ってくれればくれるだけ、

『その時』まどかをより悲しませてしまう。

まどかの笑顔が辛い。

辛いのに、まどかの幸せそうな顔をもっと見たい。

矛盾した感情がある。


440: 2013/03/19(火) 22:12:32.89 ID:WQPQ069po

ほむら(いつだったかしら)

ほむら(この病院にグリーフシードがあったが……)

ほむら(この時間軸にはなさそう……か?)

ほむら「……ん?」

ほむら「……え」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「ま、まどか……!」

まどか「?」

ほむら「落ち着いて……今すぐ、ゆっくり……そこから離れて」

まどか「え?ど、どうしたの?」

ほむら「もうゆっくりじゃない!離れなさいッ!」

まどか「!?」

441: 2013/03/19(火) 22:14:20.20 ID:WQPQ069po

ほむらの視線の先に、異常なものがいる。

白い柱に手をつけて、しゃがんでいる生物のようで生物のようでもない。

それは人の形をしていて、半透明。

当然人間ではない。

『そいつ』は背後にいるまどかに気が付いたのか、ゆったりと立ち上がり振り向きつつあった。


ほむら「早くッ!」

まどか「は、ハワッ!」

ほむら(い、糸のスタンドッ!)


ほむらは指から『糸』を伸ばし、まどかの手首に巻き付け、引いた。

まどかは見えない力に引かれ思わず転びそうになるも、すぐほむらに肩を抱かれ、転倒を免れる。

直立した『そいつ』は全長約2m。顔があり、肩があり、四肢がある。

左右の、目があるべき部分からゴムチューブのようなものが生え、

背中にかけて伸びている。悪趣味な魔改造をされたマネキンのようだった。

442: 2013/03/19(火) 22:15:06.78 ID:WQPQ069po

ほむらはすぐに理解した。

「こいつは『スタンド』である」

そして、その心当たりが一つだけある。


『……"アンダー・ワールド"……ソレガ僕ノ名前』


半透明のマネキンは、ほむらに語りかける。

当然、まどかには聞こえない。

まどかは、何もない場所を睨みつけるほむらの横顔を見つめるしかできない。


『ソウか……君ニハ僕ノ姿ガ見えルンダッたね。オメデトウ。スタンド使いにナレて』

『美国織莉子ノ件ハごシューショーサマダッタが……ソレはサテオキ』

『僕ノ能力は……地面の"記憶"を掘リ起こすコト』

『そして……魔女ノ魔力と"共鳴"シテソレヲ"結界"トスル……』

『僕のアルジの結界は"過去ノ世界"ナノだ』

443: 2013/03/19(火) 22:15:50.84 ID:WQPQ069po

ほむら「――ッ!」


魔女の結界の気配が、たった今、現れた……。

おそらく、美国織莉子の家に行った時と同じように、

結界の中は病院そのもののヴィジョンをしているのだろう。

中にいる人々は気付いているのだろうか。

空が真っ黒という異常性に気付く前に、下手をすれば……。

スタンドは、結界の中からでも外で発動ができるのか!

行かなければ!

ジシバリの魔女アーノルド!ヤツを、本体を叩かなければ!


『君ガその気ナラ、来ルトイイ、既にアーノルドノ、娘達は活動ヲ始メた……』

ほむら「なッ!」

444: 2013/03/19(火) 22:16:21.07 ID:WQPQ069po

アンダー・ワールドはガラスをすり抜けて姿を消した。

今、この病院の内部は結界が展開されている。

スタンドと魔女の性能の共鳴。それが異常な結界の正体。


ほむら「まどか……たった今、病院に魔女の結界が現れたわ」

まどか「えぇっ!?」

ほむら「あなたはすぐにここから離れて。気配を感じて巴さんがすぐに来てくれると思うから」

まどか「で、でも!さやかちゃんがッ!」

ほむら「…………」

ほむら「美樹さやかなら……助ける」

ほむら「だから、すぐに離れて」

まどか「……うん」

445: 2013/03/19(火) 22:17:29.00 ID:WQPQ069po

ほむらは変身し、脚で窓ガラスをブチ破り病院の内部に『消え』た。

外側から入った瞬間は目に見えたが、奥に向かう様は見ることができなかった。

何が起こったのか、まどかはまだ、理解が追いついていない。

取りあえず、言いつけ通り病院から距離を取ることにした。

結界の中、即ち病院の中にいる人々が心配で仕方がない。


「……おい」

まどか「ひゃッ!?」


背後から声をかけられ、体がビクリと強ばる。

振り返るとそこには赤毛の少女がいた。

まどかをジ口リと睨む。

数日前、風見野から来たという魔法少女。

マミのかつての弟子だったという、杏子だった。

446: 2013/03/19(火) 22:19:32.25 ID:WQPQ069po

まどか「あ、あなたは……!」

杏子「今、魔女の結界が生じたな」

杏子「その結界に対し、あんたは正反対の方向へ走った」

杏子「ということはあんたは魔法少女ではない、と……」

杏子「味方がいるのにわざわざ逃げるっていうことはそういうことだ」

まどか「わ、わたしは……!」


杏子はあわあわとするまどかの横を素通りした。

「マミさんを殺そうとした人」……という印象しかまどかにはない。


既に結界へ入っていったほむらが狙われるのではないか、

これからここに来るであろうマミが危ないのではないか、

まどかは恐怖を感じていた。

447: 2013/03/19(火) 22:21:15.75 ID:WQPQ069po

杏子「……ふん、そんな顔をするな」

杏子「別にあたしは魔法少女じゃねぇヤツに用はねぇよ。失せな」

まどか「あ、あぅ……」

杏子「…………」

杏子(黒髪のヤツが先にあの結界に入ったな)

杏子(今までで見たことないような奇妙な結界ではあるが……それはさておき)

杏子(暁美ほむらってヤツは妙な奇術を使うヤツ)

杏子(あたしには見えない何かで、行動を封じるという芸当をやってのける)

杏子(いつかヤツと対立する日が来るかもしれない)

杏子(あわよくばそれに備えてという意味でもヤツの手札を覗ければいいのだが……)

杏子(そのためにつけてきたが、思わず収入ってところか)

448: 2013/03/19(火) 22:21:46.87 ID:WQPQ069po

――この結界は、過去の見滝原病院の姿をしている。

それがアンダー・ワールドの能力。

空いた病室に、巴マミの姿をした使い魔がいた。

そしてすぐ隣に、もう一体使い魔がいた。

それは千歳ゆまの姿をしている。

通称『Mami』そして『Yuma』がいる。

Mamiは手に赤色に塗れている『指』を持っていた。


Mami「三本?幼女の指三本欲しいの?」

Yuma「うん!うんうん!うんうんうん!」

Mami「新鮮なの三本……いやしんぼめっ」

Mami「ほら、投げるわよー。そぉ~れッ!」

Yuma「わぁー!取って!『猫さん』ッ!」


ズギャンッ!


449: 2013/03/19(火) 22:22:31.36 ID:WQPQ069po

健康的な肌色で細く柔らかく、血が滴る三本の指が宙を舞う。

使い魔のYumaは背後から人型のヴィジョン……スタンドを出した。

頭は猫のようにも見えなくもないそのスタンドの名は『キラークイーン』

能力は『触れたものを爆弾にする』……例えどんなものであろうとも。

キラークイーンは飛び交う三本の指を片手で掴む。

そして落としたハンカチを渡すかのようにYumaに差し出す。

指がYumaの手に触れると、それらは手の中に沈んでいった。

スポンジに水を垂らすように吸収する。

体で食べる。使い魔の食事法。

Yumaは満面の笑みを浮かべた。『旨み』が体全体に広がっていく。

その笑顔に対し、Mamiは衝動に任せてYumaを背中から抱き、小さな頭に手を置いた。

450: 2013/03/19(火) 22:23:24.74 ID:WQPQ069po

Yuma「んー、おいしぃ~」

Mami「よォ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

ナデナデナデナデナデナデナデ

Mami「よく取れましたYumaちゃぁ~~ん!キャワイーわ!偉いねェーッ!」

Yuma「えへへ~」

「おいおい、餌付けしてんじゃねーよ」

Mami「ん?」

Yuma「あ!」


そこに、佐倉杏子の姿をした影が現れ、呆れた声を出した。

ドサッと音をたてながら、肩に担いでいた男性の遺体を放り投げる。


Yuma「Kyoko!」

Mami「あら、戻ってたの?」

Kyoko「今戻った」


451: 2013/03/19(火) 22:24:09.70 ID:WQPQ069po

佐倉杏子の姿をした、魔女アーノルドの使い魔、Kyokoが答える。

前の時間軸の魔法少女の概念。

かつて敵対関係にあったとしても、今は同じ使い魔同士。

姉妹のようなものである。

使い魔として産まれた時系列としては、KyokoはYumaの妹であるが、

使い魔に年功序列の制度はない。

Yumaにしてみれば、KyokoやMamiは姉のような存在であることに変わりはない。


Kyoko「Yuma、食っていいぞ」

Yuma「えッ!?いいの!?大人の氏体一個丸々ゥ!」

Yuma「全部食べちゃっていいの!?ホントに!?」

Kyoko「ああ。食え食え」

Yuma「わぁーい!いただきまーす!」

452: 2013/03/19(火) 22:24:49.76 ID:WQPQ069po

Yumaは遺体の首筋に人差し指を突き刺した。

すると、遺体はみるみると水気を失っていき『溶け』ていった。

遺体は使い魔に吸い取られる。

指で食べる。アーノルドの使い魔の食事法。


Mami「随分甘いのねぇ」

Kyoko「まぁな」

Kyoko「こいつはあたしの妹みたいなもんだからなぁ。可愛いもんよ」

Mami「あら、怖いって理由で捨てたくせに?この子を最期まで世話したのは私よ?」

Kyoko「うるへー。キラークイーンが化け物過ぎるのが悪いんだ」

Kyoko「それに、こいつが大人(魔女)になれば、きっと強力なヤツになろうよ」

Mami「そうね……将来が楽しみだわ」

453: 2013/03/19(火) 22:26:34.56 ID:WQPQ069po

Kyoko「あたし達の中から最初に魔女になるヤツは……間違いなくYumaだな」

Mami「でも、いいの?」

Kyoko「いいんだよ。別にこいつがあたしより先に魔女に育とうが別に『問題』はないんだからな」

Mami「それもそうかもしれないけど……」

Yuma「けっぷぃ」

Yuma「ごちそーさまでした!」

Kyoko「……おい、待て。髪の毛が残っているぞ」

Yuma「うっ……だってだってぇ、この髪の毛水気が少なくてマズイよ」

Mami「あら、ダメよ。好き嫌いは」

Kyoko「食い物を粗末にするなよ。どうせちょっとしかないんだから我慢してでも食え。折角頃したんだからな」

Yuma「うぅ、はぁ~い……うえぇー!まずーっ」

Yuma「ちゃんと食べたよ!」

Kyoko「よし。ちゃんとな。偉いぞ」

ナデナデ

Mami「たくさん食べて大きくなるのよ~。よしよしよしよしよしよし」

ナデナデ

Yuma「えへへへぇ……でもYuma、なでなでされるの大好き」

454: 2013/03/19(火) 22:28:17.35 ID:WQPQ069po

Yuma「Kyokoとお姉ちゃんと一緒にいれて……Yumaホント幸せぇ」

Mami「ああ……可愛い。何て可愛いの……!」

Kyoko「甘やかすなっつーに。あたしが言えた立場じゃあねーが」

Kyoko「……さて、愛でるのもこれくらいにしてここで報告だ」

Mami「報告?」

Kyoko「ここに魔法少女が来たぞ」

Yuma「魔法少女!」

Mami「随分早いわね」

Kyoko「何でも結界を作った時たまたま近くにいたらしい」

Mami「あらら……やっぱり病院を狙うのはマズかったんじゃあないの?」

Kyoko「かもな。だが今はたくさん食い物が必要なんだよ。長所と短所は表裏一体」

455: 2013/03/19(火) 22:29:13.02 ID:WQPQ069po

Kyoko「さ、Mamiはアーノルドの護衛に回ってくれ」

Mami「アイアイサー」

Kyoko「あたしはどうしようかな」

Yuma「Yumaは!?Yumaはっ!?」

Kyoko「あん?テキトーなとこほっつき歩いて食べ歩きでもしてろ」

Mami「いい?魔法少女には近づいちゃダメよ?」

Yuma「Yumaを子ども扱いしちゃ嫌!猫さんいるもん!」

Kyoko「確かに過保護もよくないが……あまりあたし達を心配かけさせるなよ」

Mami「そうそう。私達はあなたが大切なんだから」

Yuma「大切……えへぇ」

Kyoko「ってことで、怪我しない範囲で遊んでな」

456: 2013/03/19(火) 22:30:06.70 ID:WQPQ069po

――夕日の差した病室。


交通事故で左腕と両脚を怪我している入院患者の少年と、そのベッドに腰をかける見舞客の少女。

上条恭介と美樹さやかがそこにいる。

二人は、一つのイヤホンを共有して、片耳からCDのデータを聴いていた。


恭介「……いい演奏だ」

恭介「気に入ったよ。本当にありがとう、さやか」

さやか「お土産……気に入ってもらえてよかった」

恭介「さやかはレアなCDを見つけてくる才能があるね」

さやか「えへへ、このCD見つけるのにチト苦労したよ」

恭介「うん。ありがとう」

恭介「もうちょっと寄った方がいいんじゃないかな」

さやか「あっ、う、ううん。大丈……」

さやか「……うん」

457: 2013/03/19(火) 22:31:08.91 ID:WQPQ069po

心地の良い気分だった。

さやかがバイオリンの気品ある音色に魅了されたのは、

隣にいる幼なじみがきっかけである。

幼い頃に聴いた、彼の奏でた旋律は今でも脳裏に残っている。

この心地よさは、バイオリンのソロパートが美しいからだけではない。


さやか「……な、なんだかちょっと暑くない?」

恭介「そうかな」

さやか「窓開けていい?」

恭介「でもこの時間帯は太陽が眩しいんだよ」

さやか「大丈夫。カーテン閉めるから」

恭介「窓開けてカーテン閉めても風で……」

さやか「でも暑いんだよ恭介」


458: 2013/03/19(火) 22:31:58.63 ID:WQPQ069po

恭介「……言われてみれば、確かに少し蒸すような」

さやか「でしょ?」

さやか「さやかちゃん汗かいちゃったよ」

恭介「おかしいな……さっきまではそんなでもなかったのに」

さやか「去年の初夏並に暑い」

恭介「あー、ちょっとわかる。確かに去年の夏は特に暑かったよね」

さやか「うんうん」

さやか「窓開けていい?」

恭介「いいよ」

さやか「全開だー!」

恭介「この窓はちょっとしか開かないようになってるよ」

さやか「なーんだ」

459: 2013/03/19(火) 22:33:00.60 ID:WQPQ069po

恭介はCDジャケットを見つめ、好きな曲のトラック番号を確認する。

さやかはその様を横目に見ながら窓へ歩み寄り、カーテンを摘んだ。

橙色のカーテンの隙間から、漆黒の景色がチラリと見えた。


さやか「今日はいい天気だったか――」

さやか「……ら?」

恭介「ん?どうかした?さやか」

さやか「あ、いや……その……」

さやか「……ねぇ、恭介、今何時?」

恭介「今?えっと……六時」

恭介「六時だって?随分と遅くなってしまったね」

恭介「さやか、そろそろ帰った方が……」

460: 2013/03/19(火) 22:33:44.87 ID:WQPQ069po

さやか「違うよ……まだ、そんなじゃないよ……」

恭介「え?」

さやか「何で……?」

恭介「いや、何でと聞かれても……」

さやか(何で……この部屋、夕日が差してたのに……)

さやか(何で『空が真っ暗なのに夕日が差している』わけ……?)


カーテンはオレンジ色。

ベッドも、床も、病室全体。

恭介も、そして自身までもカーテン越しの夕日によって橙色に染められていた。

しかし、空は、窓が黒のインクで塗りたくられたかのように黒かった。

太陽がない。まるで洞窟の中のようだった。


461: 2013/03/19(火) 22:34:29.45 ID:WQPQ069po

恭介「……どうかした?さやか」

さやか「…………」


さやかは理解した。

これは『魔女の結界』である、と。

自分たちどころか、病院そのものが魔女の結界に取り込まれた。

魔法少女という事情を知り、体験していたからこそ理解ができ、冷静でいられる。

同時にこみ上げてくる恐怖。

マミの『おまじない』のかかったバットは当然持ち合わせていない。

そして、歩けない怪我人がすぐ側にいる。

使い魔に襲われたら、どう対処すればいいのか。

まずさやかは、幼なじみを怯えさせないよう、動揺を押し頃した。

462: 2013/03/19(火) 22:35:18.34 ID:WQPQ069po

ジシバリの魔女アーノルドの結界の特徴。

アンダー・ワールドというスタンドの力が利用されている。

アンダー・ワールドは、その土地が記憶してる『過去の事実』を掘り起こす能力。

そしてその光景を、アーノルドは丸々結界とできる。

スタンド攻撃が結界の生成。見た目がほとんど変わらない結界。

場合によっては、魔法少女にもスタンド使いにも気付かれない。

この病室の夕日は、過去の事実に過ぎない。

六時という時間も、気温も、湿度も過去の事実に過ぎない。

この病院は『去年の初夏午後六時の事実』という結界に変異していた。


さやか「あ、あのさ……恭介」

恭介「何だい?さやか」

さやか「その……えっと……」

463: 2013/03/19(火) 22:36:00.35 ID:WQPQ069po

恭介「とりあえず、さやか」

恭介「もうそこの時計を見てみなよ。もう六時。だからそろそろ帰った方がいいよ」

恭介「すぐに暗くなってしまう」

さやか「あ、あはは……優しいね、このあたしを気遣ってくれてるのね」

恭介「……?」

恭介「ねぇ、さやか。何だか顔色が悪いけど……本当に大丈夫かい?」

さやか「は、ははは……」

さやか(マミさんでも転校生でもいいから早く助けに来て……ッ!)

恭介「……外を見てたけど」

恭介「外に何かいたのかい?」

さやか「――ッ!」

464: 2013/03/19(火) 22:36:27.44 ID:WQPQ069po

グイィッ

カーテンの隙間から、黒のべた塗りの世界が見える。

見せてはならない。

さやかは恭介が窓の外を見ようとしたため、その首を固定させた。

顔に両手を添え、目線を自分の目に合わさせる。

互いの顔は橙色の事実で朱色に染まっている。


恭介「ッ!?」

さやか「……!」

恭介「さ、さやか……?」

さやか「う……うぅ」

さやか(こ、こんな時に何やっちゃってんのあたし……!)

さやか(で、でも……恭介には、この異常な光景を見せるわけにはいかない)

さやか(どうすればいい!?あたしは何ができる!?)

465: 2013/03/19(火) 22:37:01.26 ID:WQPQ069po


「ヒュ、ヒューヒュー!おあついねー!」


さやか「!?」

恭介「!?」


可愛らしい子どもの声が病室に響いた。

そこには、声相応の童女がいた。

少女向け戦闘アニメのヒロインのコスプレのような衣装を着ている。

ネコミミとその色彩はとても目立つ。

首もとの大きなリボンの真ん中に、宝石のようなものが光る。


さやか(え……何……?この子は……)

さやか(なんちゅー格好を……親の顔が見てみたい)

さやか(い、いや……まさかその格好……『魔法少女』なんじゃあ?)

さやか(魔女の結界も急に出てきたし……こんな小さい子が魔法少女なんてことも……!)

466: 2013/03/19(火) 22:37:42.39 ID:WQPQ069po

恭介「……え、えーっと?」

さやか「あんたは……?」

「ゆまの名前なんてどうでもいいよ」

ゆま「それよりも、実はさやかに用があってね」

さやか「え?あたし?」

さやか「何であたしのことを知ってるの……?」


魔法少女はとことこと二人に歩み寄る。

さやかの動揺している顔、恭介の混乱している顔、それぞれを見る。

そして、魔法少女はさやかの目をジッと見る。


ゆま「そんなこともどうでもいいの」

ゆま「さやかは、そこのお兄ちゃんのことが好きなんだよね?」

467: 2013/03/19(火) 22:38:23.84 ID:WQPQ069po

さやか「は、ハァッ!?」

さやか「ちょ、ちょちょ!い、いきなりあんた何を言ってるのよ!」

恭介「さやか……?この子、知り合い?」

さやか「知らないよぉ!初対面!」

さやか「えっと、ゆまちゃん……だっけ?あんた何者なの?答えてよ」

ゆま「ごめんね?」

さやか「質問文にはごめんなさいって答えるよう小学校で習ったのかーっ!?」

恭介「さ、さやか……子どもにそういう言い方は……」

さやか「ちゃんと答えなさい!お父さんとお母さんは!?」

ゆま「……ごめんね?」

さやか「ひ、人の話を聞きなさ……」

468: 2013/03/19(火) 22:40:13.99 ID:WQPQ069po

ゆま「キラークイーン」

ゆま「能力は触れたものを爆弾にする能力」

ゆま「……あの世で幸せになってね」

さやか「え?」

恭介「へ?」


ドアを開ける音もたてずいつの間にか現れた魔法少女は、

突飛なことを言い出して二人の時間を静止させた。そして、叫んだ。


Yuma「爆発しちゃえ!」

カチリ

千歳ゆまの概念、Yumaはスタンド能力を発動させる。

キラークイーン、その能力は『触れたものを爆弾にする』

キラークイーンは、恭介に触れていた。

細い少年の体から白い煙が噴き出される。

二人は自分自身に何が起きたのかもわからないまま、視界が今の空のように暗くなった。

469: 2013/03/19(火) 22:41:00.14 ID:WQPQ069po

――暁美ほむらが、アンダー・ワールドの世界を結界とした空間に突入し、

それを追って佐倉杏子が突入した頃。

佐倉杏子は、初めて入る病院を歩き回った。

患者や職員は、処方を待ち、歩き回っていたり、各々の時間を過ごしていた。

槍を持っている少女に一切の関心を向けない。

空が黒い以外は至って普通の光景に見える。


杏子(……なんだ?この結界は)

杏子(何で、こいつらは気付いていないんだ……?)

杏子(空が黒いなんて異常な光景……気付かない方がおかしいぞ)

杏子(それどころか、壁についている『血痕』にも『あたし自体』にも気付いていないようだが……)

杏子(何人か人が氏んでるのにこれは……まさか、この人間が使い魔か?)

杏子(いや、それはない……もしそうなら既にあたしを襲っているはずだし……)

杏子(何より経験でわかる。こいつらは本物の人間だ)

杏子(こいつら……耳も目もおかしくなっているのか?)

杏子(魔女の口づけでももらってるんじゃなかろうか?)

杏子「まるで『幻覚』でも見ているかのようだ……」

470: 2013/03/19(火) 22:42:07.42 ID:WQPQ069po


「メモリー・オブ・ジェット……黒琥珀の記憶」


杏子「……ん?」

「黒琥珀の宝石言葉は忘却……」

「今、特定の人間以外はここで殺戮が行われていることを認識していない」

杏子「……てめぇ、いつの間に来やがっった」

杏子「初めから病院にいたのか?」

「いくら騒ごうと、発砲しようと、誰もその音を認識しない。そして気付いたら殺されている」

杏子「……マミ!」

マミ「そうねぇ……初めからいたわ」


失って初めて家族同然の大切な存在だと気付いた、ゆま。

そのゆまを奪った、憎き黄色い魔法少女。

マミが今、診察室から優雅に歩いて現れた。

471: 2013/03/19(火) 22:43:02.20 ID:WQPQ069po

マミ「これはまさに……幻惑魔法」

マミ「一般人にきゃーきゃー逃げ回られて騒がしいのはうっとおしいものね」

マミ「魔女を探しているの?また使い魔は無視するのね?」


優しく見えるが裏のありそうな、かつての師の微笑みが杏子の威勢を逆撫でする。

数歩前に歩み寄ったマミに対し、槍の石突きを思い切り床に打ち付ける。


杏子「やかましゃぁぁぁ――――近寄るなッ!」

杏子「テメーとは口をきかね――って言っただろォォッ!」

マミ「まぁ、酷い言いようね」

マミ「……そんなこと言ってたっけ?あなた」

杏子(こいつッ……!)

472: 2013/03/19(火) 22:43:45.72 ID:WQPQ069po

メモリーオブジェットだかオードリーヘプバーンだか知らねぇが、ふざけたこと抜かしやがって……!

こんなふざけたヤツが……あたしからゆまを奪った!

散々きれい事並べていたが、内面はドス黒い邪悪のドクズ!

今のあたしには、あんたは使い魔や魔女と同類に見えているよ……。

心なしか、結界に漂う使い魔の気配とあんたのオーラがごっちゃになってきている。

……頃す。

恨み晴らさでおくべきか。


杏子「ブッ頃す!」

マミ「ブッ頃すなんて……乱暴な言い方ね」

マミ「どう思う?『母上』?」

杏子「……はは、うえ?」

473: 2013/03/19(火) 22:44:26.66 ID:WQPQ069po

マミが出てきた診察室から、

ノシノシと大きな『生物のようなもの』が現れた。

大人のトラに近い大きさの、四足動物。

――ラブラドール・レトリバーに少し似ている。

三原色の油絵の具を手当たり次第に混ぜ同量の白を入れたような色彩をしている。

首と思われる位置、そこに一文字に傷がある。

そこから赤色の液体が止めどなく流れている。

体内から流れる赤い液体ということで、それは血のように見えた。

しかし、ベチョリ、と粘り気を思わせる音をたてているところから、血ではないだろう。

もしくは、そういう血なのだろう。少なくとも体液ではある。


杏子「こ、こいつ……そんな……馬鹿な……!」

杏子「あり得ない……どうしてだよ……どういうことなんだよ……!

474: 2013/03/19(火) 22:45:11.41 ID:WQPQ069po

杏子「どうして『マミ』が……」

杏子「マミが……『魔女』を……!?」

杏子「な、何なんだよ……!」

杏子「何が起こって……いるんだよ……!?」


金色のロール髪。ベレー帽、コルセット、スカート。

片手にはマスケット銃。

確かにマミの姿がそこにいる。この姿が、ゆまを撃ち頃した。

見間違いはない。


マミ「ふふ……少し、惜しいわね……私は『Mami』の方」

杏子「マ……ミ?」

Mami「ノンノン、Mami……そしてこちらは『アーノルド』……あからさまに男性名だけど気にしないでね」


475: 2013/03/19(火) 22:46:14.43 ID:WQPQ069po

Mami「ささ、母上。ここは危険です。お逃げになってください」

杏子「ア、アーノル……ド……?」

杏子「ど、どっかで聞いたような……どこ、だったか……」

Mami「でも、確かに私は巴マミでもある。間違ってはいない」

Mami「何故なら、私は前の時間軸の巴マミという概念だから」

Mami「私は巴マミという事実」

杏子「……?……!?」

Mami「飲み込みが悪いのね」

Mami「私は使い魔だと言っているのよ」

Mami「ジシバリの魔女アーノルド。その使い魔」

杏子「使い……魔……」

Mami「そう。使い魔」

Mami「アイ カピート?」

476: 2013/03/19(火) 22:47:07.03 ID:WQPQ069po

体が動かない。

脳が現状を受け入れず、動くことができない。

杏子はパニック状態に陥った。

魔法少女が魔女を庇う。

そういうのも世の中に一人くらいはいるかもしれない。

しかし、目の前の魔法少女は使い魔と名乗った。

悪魔に魂を売るようなノリで、魔女の配下にでもなったのだろうか、

それはない。魔法少女の経験でわかる。

魔力の波長というもので、目の前の魔法少女が使い魔であることが、

今、ハッキリとわかった。気のせいではなかった。

使い魔でいて、巴マミでもあると語った。

自分が知っている巴マミとは違う巴マミ。

477: 2013/03/19(火) 22:47:54.29 ID:WQPQ069po

頭の中で情報がグルグルと回っている内に、

犬のような姿の魔女は姿を消していた。

病院の姿をした結界の、どこかへ消えてしまった。


杏子「使い魔……」

杏子「どっちなんだよ……」

杏子「あんたは……魔法少女だ。そういう『波長』がある……」

杏子「でも……使い魔の波長もある……」

杏子「何なんだよ……意味わかんねぇよ……」

杏子「時間軸って何なんだよ……!」

Mami「私は……魔法少女と使い魔両方の概念を兼ね備える」

Mami「時間軸という言葉に関しては……暁美さんにでも聞いてみなさい」

478: 2013/03/19(火) 22:49:22.36 ID:WQPQ069po

こ、こいつ……こいつは……!

そうだ……わかり、かけてきた……『そういう使い魔』だ。

暁美……暁美ほむら。

マミとほむらが言っていた……。

人と『同じ姿』をした……使い魔。

そういうのがいる。

それはわかった。今、理解した。

ということは……!そ、そんな……そんな!

実在しただなんて……そんな使い魔が……いるなんて……!

本当だったんだ……マミの言ったことは……!

だったらあたし……あたしは……マミのことを……。

あたしは、本物のマミを『こんなこと』で頃したかったのか!?


479: 2013/03/19(火) 22:49:54.10 ID:WQPQ069po

Mami「思い込みというのはやっかいなものよ……」

Mami「真実だと思い込んでいたところ、それが異なるものだとつきつけられた時……」

Mami「人はそれにより動揺し、隙を生んでしまう」

Mami「これで、あなたは殺されてしまう」

杏子(そんな……あたしってやつは……)

杏子(あたしは……何で……こんな……)

杏子(何で、マミが人頃しなんてするわけないって思わなかったんだ……)

杏子(普通に考えて……ありえないだろうが……馬鹿か、あたしは……)

杏子(……心の)

杏子(心のどこかで期待してたのかもしれない)

杏子(グリーフシードのために使い魔を放ったりするあたしと、それを否定する立ち位置であるべきマミ……)

杏子(心のどこかで、そんなあたしとマミが『同じ』であって欲しいって、思っていたのかもしれない)

杏子(『人頃しのマミ』というものを、どこかで正当化したかったのかもしれない……結局は同じなんだって……)

480: 2013/03/19(火) 22:52:01.11 ID:WQPQ069po

杏子(……シケた人生、だった)

杏子(家族もゆまも、あたしのせいで氏んだ)

杏子(自業自得ってやつだよ。あたしみたいなヤツにとっては……)

Mami「苦痛を与えずに氏なせてあげる」

Mami「それが、佐倉杏子という概念へのせめてもの情けよ」


Mamiはマスケット銃の口を、杏子の胸に向けた。

抵抗をする気が湧かない。

目の前の使い魔が「マミそのもの」でもあることがわかっている。

――今のあたしではマミには勝てない。

深層心理にそういう考えがあった。

防衛のために戦うことを放棄した、生存を諦めた魔法少女。


空気を劈く銃声が響いた。


481: 2013/03/19(火) 22:53:01.17 ID:WQPQ069po


杏子「…………」

杏子「……?」

Mami「ブッ……ゴホッ」

杏子「……なんだ?」

Mami「ゲブッ……こ、れ、は……!」


杏子が目を開けると、マミの顔が苦痛に歪んでいた。

口からドロドロとした液体を垂れ流し、右胸に小さな穴が空いていた。

佐倉杏子はその傷――「銃創」を知っている。


杏子「こ、これは……」

「怪我はない?佐倉さん」

杏子「まさか……!」

「無抵抗にやられるなんて……あなたらしくない」

杏子「ま……『マミ』ッ!?」


482: 2013/03/19(火) 22:53:52.55 ID:WQPQ069po

背後から、優しい声が聞こえた。

先程まで前方から聞こえていた声と同じだが、

とても懐かしい気持ちになる。

この世界のマミと、前の時間軸のマミが対峙する形となる。


マミ「でも大丈夫よ、佐倉さん」

マミ「私が来た以上……あいつらの好きなようにはさせない」

杏子「マミ……」

Mami「結界ができて五分足らずで来るとは……」

Mami「やはり……結界は、出すタイミングがシビアね」

Mami「アーノルドにもう少し知性があれば……」

483: 2013/03/19(火) 22:56:23.93 ID:WQPQ069po

マミ「暁美さんから聞いたときは、正直半信半疑ではあったけど……」

マミ「私そのものね……録画したビデオでも見てるみたいで気味が悪いわ……」

Mami「それは光栄ね」

マミ「とにもかくにも、まずはあなたを葬らせてもらう」

Mami「…………」

マミ「佐倉さん!あの時みたいに、一気に一緒に決めるわよ!」

杏子「……あの時」

杏子(まだ……あたしが素直だった時……)

杏子(マミさんと一緒に……戦っていた時……)

杏子「……マミ」

484: 2013/03/19(火) 22:58:00.08 ID:WQPQ069po

Mami「…………」

Mami「やれやれ、ね……」

マミ「さぁ、いくら私の概念と言えど、この状況……勝ち目はないでしょうね」

マミ「私とのミラーマッチだけではなく、佐倉さんまでいるのだから!」

杏子(……あたしとマミ)

Mami「……ダメダメね」

杏子「…………」

Mami「あなたは何もわかっていない」

マミ「……なんですって?」

マミ「この状況で、何を言い出すかと思えば……」

Mami「あなたはジシバリの魔女アーノルド親衛隊『Versace(ヴェルサス)』の恐ろしさを理解していないッ!」

485: 2013/03/19(火) 22:58:38.22 ID:WQPQ069po

バシュッ!

マミ「……ッ!?」

杏子「マ、マミッ!?」

マミ「な……あなた、何を……?」

杏子「こ、これは……!?」

マミ「今……何をしたの……!?」


マミの左手から、突然血が流れ出てきた。

さらさらした血がだらだらと垂れ落ちる。

唐突だった。

突然、左手全体に激痛が走り、血管を破った。

何が起こったのか、視認できなかった。

音も気配もなく、攻撃を喰らってしまった。


486: 2013/03/19(火) 22:59:24.96 ID:WQPQ069po

マミ(私の……手が……?)

マミ(この距離……まさか、撃たれ、た……の?)

マミ(私はいつ……撃たれた?発砲音も聞こえなかった……)

マミ(……まさか)

マミ(まさか……これが……)

マミ(これが暁美さんの言っていた……『スタンド』という能力……!?)

マミ(スタンドが……私の左手を喰らったとでも言うの!?)

マミ「……に」

マミ「逃げてッ!」

杏子「!」

マミ「逃げて!佐倉さん!早く!」

杏子「な、何を……!」

マミ「くっ……!」

487: 2013/03/19(火) 22:59:51.19 ID:WQPQ069po

『予感』がした。追撃が来るという勘。

マミは床を蹴り、杏子の前に割り込んだ。

体を回転させ、敵に背を向ける。

その瞬間、マミはスタンド攻撃を喰らった。


マミ「ガファァァッ!……う、ぐぅ……!」

杏子「マミッ!?」


背中に満遍なく痛みが走る。

剣山のマットに背中から倒れ込んだかのようなダメージ。

背中全体から血が流れているような感覚。温かい液体で服が濡れている。

魔法で痛覚を遮断し、考える余裕を作る。

――どうすればいい。何が起こった。

488: 2013/03/19(火) 23:00:35.32 ID:WQPQ069po

マミ「カハッ……!」

マミ(私はさっき……何をされた?)

マミ(目の前の『私』は……銃を撃つ予備動作が一切なく、私の左手を攻撃した……)

マミ(銃を出さずに銃撃はできない……)

マミ(やはり間違いない……これは、暁美さんが話していた……)

マミ(持っていないと見えない能力……『スタンド』という……概念……!)

マミ(そっちの世界の私も『それ』を持っている……)

マミ(スタンドだとして……何をされたのか……)

マミ(……『勝てない』)

マミ(私はもちろんのこと……佐倉さんも……)

マミ(見えない能力に勝ち目はない……どちらにしても……)

マミ(この負傷では……『負け』る)

489: 2013/03/19(火) 23:01:31.97 ID:WQPQ069po

マミ「佐倉……さん……」

マミ「逃げな……さい」

杏子「マ、マミ……どういうことだよ……」

マミ「今のままじゃ勝ち目はないわ……あなたも、私も」

マミ「あなたは……逃げて」

杏子「何で……マミ……あたしは……」

杏子「あたしは……あたしはあんたを殺そうとしたのに……」

杏子「何で助けるんだよ……!?何で庇ったんだよ……!?」

杏子「あんたこそあたしを置いて逃げればいいじゃあねーかよ……!」

マミ「…………」

マミ「……あなたのことはいつだって大切に思っていたわ」

杏子「……!」

490: 2013/03/19(火) 23:02:14.37 ID:WQPQ069po

杏子の目に、涙が浮かんでいた。

混乱と恐怖。マミはどことなく杏子のその表情に懐旧を覚えた。

この負傷。敵に背を向けて走れる自信がない。

敗北を悟った。しかしただでは負けられない。


マミ「佐倉さん……いい?」

マミ「暁美さんを頼りなさい……会ったことあるわよね……?」

杏子「…………」

マミ「私は……暁美さんを支えたいと、心の底から思っていた」

マミ「だけど……それはもう無理そう」

杏子「……え?」

マミ「だからあなたに『託す』わ……」

マミ「あなたが、暁美さんと一緒に……戦うの」

杏子「マ……マミ……?」

491: 2013/03/19(火) 23:02:45.02 ID:WQPQ069po

マミ「暁美さんには、使命がある……」

マミ「暁美さんには、辛く悲しい過去を背負っている」

マミ「そのためには……あなたの力が必要になる」

マミ「佐倉さん……継いでちょうだい。私の遺志を」

杏子「マミ……!あ、あたし……」

杏子「あたしは……!」

マミ(……ごめんなさい。暁美さん)

マミ(あなたにとって鹿目さんはどれだけ大切な人か、心で理解している)

マミ(ワルプルギスを越えた後、鹿目さんを任されたものね)

マミ(でもちょっと、無理そう……でも、代役は用意したわ)

マミ(せめて一度でもあなたの笑顔が見たかったけど……)

マミ(短い間ながら、あなたと友達でいられて、よかったわ)

492: 2013/03/19(火) 23:03:25.42 ID:WQPQ069po

Mami「ごめんなさいね。『私』……」

Mami「あなたを頃すのは、使い魔として産まれた故の使命であり生態であり、私の運命なのよ」

Mami「ゆまちゃんを頃したのもそう。可愛かったのに」

マミ(この気持ち……何かしら)

マミ(佐倉さんを託したことで、まるで今までの人生全てに満足したかのような……)

マミ(体が軽い……こんな気持ち初めて)

杏子「あたしはッ!」

マミ「さようなら、佐倉さん」

マミ「私の代わりにこの街を守って」

マミ「そして、暁美さんを幸せにしてあげて!」

杏子「マ……」

493: 2013/03/19(火) 23:04:18.97 ID:WQPQ069po

マミは力を振り絞り振り返った。

背中全体が真っ赤に染まっていた。


マミ(体を糸にする能力と私のリボン……糸とリボンは似ている)

マミ(だから『それ』のノウハウを教えられればと思っていたけど……残念ね)

マミ(でも……暁美さん。せめて私の気持ち、受け取ってちょうだい)

マミ「ティロ・ボレー!」

杏子「マミィィィィィィィッ!」


残る魔力全てをマスケット銃の生成に使った。

激痛を和らげるための魔力さえそれにあてる。

全身が焼け付くような感覚を覚えたが、

痛み、生命、それらを超越した使命がある。

494: 2013/03/19(火) 23:04:57.74 ID:WQPQ069po

Mami「ティロ・ボレー……マスケット銃を複数展開し一斉射撃を行う技……」

Mami「数で攻めようってことね……しかし私相手に数で攻めるのは悪手よ!」


何十丁ものマスケット銃が宙に展開され、

それらの全てが一斉に発砲する。

一発一発の銃声が重なり、爆発のような音が院内に響いた。


Mami「……見苦しいわよ、『私』……」

Mami「スタンド使い相手に無能力者が突っ込むだなんて……」

Mami「手ぶらの少女が恐竜とタイマンを張るようなもの」

マミ「…………」


しかし、実際にその銃撃がMamiに届くことはなかった。

リボンから作られたマスケット銃とその銃弾はボロボロに解けていき、

砂漠の砂のようにサラサラと溶けていった。


495: 2013/03/19(火) 23:05:47.06 ID:WQPQ069po

リボンだった粉がMamiにかかった。

それを払いながら、使い魔は言う。


Mami「私のスタンドであなたのソウルジェムを砕いた」

Mami「ソウルジェムの破壊は魔法少女にとっては即氏の急所」

Mami「私のように、使い魔なら少しは使用が異なるけども……」

マミ「…………」

ドサッ

マミの体は力を失い、床に倒れ込んだ。

変身が解ける。

背中の傷はそのままであるため、

ベージュ色の制服はじわじわと赤く染まっていった。

496: 2013/03/19(火) 23:07:19.00 ID:WQPQ069po


Mami「さて、佐倉さん。次はあなたよ」

Mami「かつての師匠の美しい氏に様を見て、あなたはどう思った?感想を聞きた――」

Mami「なッ!?」

Mami「こ、これは……!?」


使い魔は目を丸くした。

杏子がいた場所に『穴』があいている。

スタンド能力、クリームで飲み込んだ跡では決してない。

歪な円が、唐突にぽっかりと開いている。

床にはいくつか皹が走っていた。


Mami「…………」

Mami「そうか、なるほど……」

497: 2013/03/19(火) 23:09:16.80 ID:WQPQ069po

穴を覗くと、下の階層の、瓦礫で散らかった床が見えた。

瓦礫のいくつかは不自然に払いのけられた痕跡がある。

血の付いた瓦礫片があることから、何かで切ってしまったのだろう。


Mami「ティロ・ボレーの弾幕と自分を陰にして……」

Mami「銃声に紛れさせつつも床を破壊したね」

Mami「それで佐倉さんを下の階に床ごと落とした」

Mami「そして無理矢理逃がしたのね」

Mami「佐倉さんを逃がすために……」

Mami「自分の命を犠牲にした最期の策」

Mami「ふぅん……」

Mami「………………」

498: 2013/03/19(火) 23:10:42.79 ID:WQPQ069po

Mami「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

Mami「アァーハハハハハハハハハハハ!フフフハハハハハハハハハハハハ!」

Mami「ウフハハハハ……私ってば……大したタマね」

Mami「ほんのわずかな時間だったけど、二転三転する展開の早い戦いだったわ」

Mami「いいでしょう、いいでしょう。敬意を表しましょう」

Mami「かつての愛弟子の魂はまだあずけておくわ」

Mami「あなたは魔法少女としての誇りを託し、魔法少女の真実を知らないままに逝けた」

Mami「これ以上ない幸せな氏……それにかっこよかったわ」

Mami「いいものが見れた……あなたのことは誇り高い戦士として、一生忘れることはないでしょう」

Mami「ディ・モールト・グラッツェ」


その身尽きても魂は氏せず。

巴マミは、杏子に遺志を託し――氏亡した。

499: 2013/03/19(火) 23:11:17.59 ID:WQPQ069po


――病室に、一体の使い魔がいる。

ベッドの足下に、人が倒れている。

使い魔Yumaは、天井を見る。

時系列は、たった今マミが氏亡した時。


Yuma「……?」

Yuma「今の音はなんだろう……」

Yuma「お姉ちゃんかKyokoが頑張ってるのかな?」

Yuma「…………」


キラークイーンで、上条恭介に触れた。

そして、爆発させた。

――さやかを爆弾にしなかったのは、情けからである。

500: 2013/03/19(火) 23:11:45.97 ID:WQPQ069po

前の時間軸、ゆまはさやかも好きだった。

親しみがある。

頃すことには違いないが、爆弾にして『無』にするのも憚れたためである。

しかし、その情けは使い魔としては間違いである。

『さやかは微かに生きて』いた。

爆弾が目の前で爆発したが、ぼやけた視界が映っていた。

運がよいのか悪いのか、殺されることができなかった。


さやか(……ぅ)

さやか(…………)

さやか(……あたし……寝てた?)

501: 2013/03/19(火) 23:12:58.30 ID:WQPQ069po

さやか(声が出ない……体も動かない……?)

さやか(何が、起こったの……?)

さやか(思い出せない……)

さやか(頭が……ぼー……っとして)

さやか(それに何か……寒い。……冷房効いてるのかな)

「……大変なことになっているね」

さやか(……キュゥ、べえ?)


ぼんやりとした白い塊が見える。

聞き覚えのある声が脳に響く。


502: 2013/03/19(火) 23:13:30.11 ID:WQPQ069po

QB「こんな状態になって、よく生きていたね」

さやか(こんな……状態……?)

さやか(あたし……どうなってるの……?)

QB「魔法少女ならまだしも……」

QB「人間がここまで部位を『失って』も生きていられるケースは少ない」

さやか(失……?)

さやか(何を、言って……)

QB「意識があるケースとなるともっと絞られる」

さやか(…………)

QB「君は運がいいというものだ」

503: 2013/03/19(火) 23:14:01.69 ID:WQPQ069po

さやか(そうだ……あたし……)

さやか(恭介が……目の前で……なんか、爆発……みたいな……して……)

さやか(そ、それで……あたしは……)

さやか(……!)

さやか(あ、あたしは……!)

さやか(い、いや……やだ……!)

さやか(た、すけ……て!)

QB「運がいい……と言ったのは……」

QB「意識があれば契約の意思表示ができるということだ」

QB「幸い、千歳ゆまの姿をした使い魔は、僕達のやり取りに気付いていない」

504: 2013/03/19(火) 23:14:43.82 ID:WQPQ069po

さやか(助けて!)

さやか(キュゥべえ!助けて!)

さやか(あたし……あたし、氏にたくない!)

さやか(こ、怖い……だんだん痛みを感じてきてる気がする……!)

さやか(早く!早く治して!)

QB「それが君の願いだね?」

さやか(助けて……!し、氏んじゃう……!)

さやか(早く……早く助け……てェ……!)

さやか(い、息が……できなくなって……は、早く……早く!)

QB「…………」


QB「契約は成立だ」

505: 2013/03/19(火) 23:15:22.92 ID:WQPQ069po


Yuma「…………」

Yuma「ま、いっかぁ~」


ツン、とYumaは頭を人差し指でつついた。

Yumaは今、非常に気分が良い。


Yuma「Yuma、さやかをやっつけちゃった!」

Yuma「ルンルン!Yumaってば偉い!」

Yuma「あ、そうだ。折角爆弾にさせなかったんだし……」

Yuma「さやかの氏体をお土産に持っていこう!」

Yuma「Kyoko喜ぶね」

Yuma「どうせなら食べる部分が残っていればいいんだ、け、ど……」


ベッドの残骸を迂回し、さやかの遺体を確認しようとした。

もう既に氏んだものだと油断をしていた。

スパァッ!

Yuma「……ん?」

506: 2013/03/19(火) 23:16:01.32 ID:WQPQ069po

ボトンッ

水分を多く含んだ塊が床に落ちた。

辺りが赤黒く汚れている。

その塊に、Yumaは見覚えがある。

白と緑と肌色。指がある。


Yuma「へ……?え?」

Yuma「これ……何……?」

Yuma「これって……Yu……Yumaの……」

Yuma「い……ギ……」

Yuma「KYAAAAAAAAAAAHHHHH!?」


『左腕がなくなっ』た。

鋭利な刃物で切り落とされたような綺麗な断面。

体液がドバドバと溢れ出す。


507: 2013/03/19(火) 23:17:15.65 ID:WQPQ069po

Yuma「痛い!痛い痛い痛いィィィィヒャァァァァァ!」

Yuma「さぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁかァァァァァァァッ!」

Yuma「いやアァァァァッ!Yumaのぉぉぉぉぉうぅぅぅぅでえぇぇぇぇぇぇぇ!」

Yuma「あァァァァァんまァァァァりだァァァァァッ!AHYYYYYYYY!YAAAAAAAA!」

Yuma「偉くない!Yuma偉くないィィィィィッ!」


瀕氏の状態だったさやかに契約をされた。

願いが反映され、固有魔法は治癒。

バラバラになりかけた自分を完治させた。

そして魔法武器の剣で不意を突き、左腕を切り落とした。

頭が真っ白になっている。子どもを斬るのに躊躇はなかった。

Yumaは甲高い声をあげながら病室から逃げていった。

508: 2013/03/19(火) 23:17:50.41 ID:WQPQ069po

さやか「ハァ……ハァ……!」

さやか「……くっ!」


キュゥべえは既にいない。

さやかは呆然と棒立ちする。

恭介がいた場所に恭介がいない。

粉々になって消えた。ベッドの残骸しかない。

呼吸ができるようになって、実感した消失と虚無。


さやか「…………」

さやか「契約……しちゃった」

さやか「契約したのに」

さやか「したのに……」

さやか「恭介……」

さやか「うぅ……そんな……こんなのって……!」

509: 2013/03/19(火) 23:18:22.45 ID:WQPQ069po

『爆弾』にされた幼なじみ。

その残骸一つ残さず、破壊されたベッド以外、その場に何もなかった。

さやかは、自分だけ助かったという事実を突きつけられた。

恭介が氏んだ。

体がバラバラにされた際、

自分が「そう」なったという実感と共に痛みを感じ始めた気がした。

大切な存在が氏んだということを実感し、

心臓がミシミシと音を立てて潰れていくような気持ちになった。

ドス黒い感情が魂を濁していくような感覚。

さやかは覚束ない足を引きずり、病室から出ることにした。

じわり、じわりとさやかの青色のソウルジェムに、黒色が混じっていった。

510: 2013/03/19(火) 23:19:09.37 ID:WQPQ069po


――佐倉杏子の姿と千歳ゆまの姿が、待合室にいる。

診療受付時間の都合上、遺体は少ない。

Kyokoが頃した。

Kyokoは腕を組み冷たい眼差しで、隻腕のYumaを見る。

居心地の悪そうにYumaは腕を失った経緯を話した。


Yuma「――と、いうことがあってね」

Kyoko「ふーん……へぇ、そう」

Kyoko「オーケーオーケィ。わかった」

Kyoko「それで、おずおずと逃げ帰ってきたのか……」

Yuma「うぅ……」

Kyoko「…………」

Kyoko「情けねぇッ!」

511: 2013/03/19(火) 23:19:46.09 ID:WQPQ069po

ゴツンッ

Yuma「いたぁい!」

Yuma「叩くのはやめてよぉ!」

Kyoko「何てザマだ!テメーッ!それでも使い魔かァ!?」

Yuma「し、仕方ないよ!だって!倒したと思ったら契約して腕スッパリだもん!」

Kyoko「いいかッ!あたしが怒ってんのはな、てめーの『心の弱さ』なんだYumaッ!」

Kyoko「そりゃあ確かに、氏んだと思った奴が生きてて、契約されて左腕をぶった斬られたんだ!」

Kyoko「衝撃を受けるのは当然だ!単に強くなんだからな!あたしだってヤバイと思う!」

Kyoko「だがッ!あたしら魔女アーノルド使い魔群『Versace(ヴェルサス)』の他のヤツならッ!」

Kyoko「仕留め損ねた獲物を前にしてスタンドを決して解除したりはしねぇッ!」

Kyoko「たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!」

Yuma「Kyoko……」


512: 2013/03/19(火) 23:20:16.11 ID:WQPQ069po

Kyoko「オメーは甘ちゃんなんだよYuma!詰めが甘いんだ!わかるか?え?あたしの言葉が」

Kyoko「契約のせいじゃあねぇ、心の奥のところでオメーにはビビりがあんだよ!」

Kyoko「成長しろ!Yuma。成長しなけりゃあ、あたしたちはをいつまでも大人(魔女)になれねぇ!」

Kyoko「いただきますと思った時には!既に一口いただいちゃっているもんなんだッ!」

Yuma「……!」

Yuma「わかったよKyoko!」

Yuma「目が覚めました!パッチリ覚めました!」

Yuma「Yumaは本能的な危機回避行動に甘えすぎてた!」

Yuma「Yuma!もう逃げない!」

Kyoko「よし」


513: 2013/03/19(火) 23:20:44.04 ID:WQPQ069po

Kyoko「Yuma……あんたは成果を挙げることはできなかった……」

Kyoko「それどころか結果的にさやかを魔法少女にしてしまった」

Kyoko「こりゃあ戦犯呼ばわりされても仕方ないレベルだ」

Yuma「ぐぬぅ」

Kyoko「しかし、あたし個人としてはよくやったと言ってやる」

Kyoko「獲物を誘き寄せてくれたんだからなぁ」

Yuma「?」

Kyoko「よぉ、ほむら」

Yuma「!」

Kyoko「隠れてないで出て来いよ」

「……っ」

Yuma「ほむほむ!」


514: 2013/03/19(火) 23:21:23.20 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

Yuma「ほむほむじゃない!」

Yuma「メガネと三つ編みじゃないほむほむなんてほむほむじゃない!」

Kyoko「わかった。わかったからおまえはもう帰ってろ」

Yuma「はぁい。じゃーね。お土産期待してるね?」

Kyoko「おうよ」


Yumaは手を振り、背中を向けた。

遺体が転がる床をただ足場の悪い道のように、

ぐにぐにと障害物を踏んで走り抜けていった。


Kyoko「…………」

Kyoko「時を止めてソッコーで殺そうとせず、ちゃんとあたしの前に出てきた辺り、空気の読めるヤツだ。評価する」


515: 2013/03/19(火) 23:22:01.51 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

ほむら(やはり……病院を舞台にされた以上、犠牲者が多数出たか……)

ほむら「……くっ」

ほむら(前の時間軸の佐倉杏子……)

ほむら(どんな能力かは知らないが、ヤツもスタンド使いだ……)

ほむら(ただ、今の私はスタンドが見ることができる)

ほむら(状況は対等……いや、時間停止を考えると今の私はむしろ優位かもしれない)

ほむら(スタンドがどんな能力かわからないということが不確定要素ではあるが……)

ほむら(果たして……そのまま時間停止で頃していいものなのだろうか)

Kyoko「……悩んでいるな?」

ほむら「……!」


516: 2013/03/19(火) 23:22:48.19 ID:WQPQ069po

Kyoko「スタンド使い相手に……慎重になりすぎるということはない」

Kyoko「このまま時間停止をしてあたしのソウルジェムを撃ち抜いていいものか……悩んでいる」

Kyoko「それはさておき、この時間軸にはいないが……」

Kyoko「あたしらは前の時間軸の概念だからその存在そのものは知っている」

Kyoko「引力の魔女のレイミ……あんたはそいつがどうなってるか知らないか?」

ほむら「…………」

Kyoko「何だか、アーノルドが会いたがってるような気がせんでもないんだよな」

ほむら「レイミは……いない」

Kyoko「いない?」

Kyoko「なるほど……この時間軸では孵化に失敗したといったところか」

Kyoko「レイミとアーノルド……何やら繋がりがあるとの使い魔間のもっぱらな噂だったんだ」

Kyoko「スタンドを発現させるレイミがいない世界で産まれた魔女が、何故スタンドを持っているのか……」

Kyoko「まぁ、氏人に口なしって言葉もある……アーノルドには言語を話すことも理解することもできない」

Kyoko「レイミとアーノルド、どういう関係かは誰も知らない。使い魔であっても、神であっても」

517: 2013/03/19(火) 23:24:02.39 ID:WQPQ069po

ほむら「…………」

Kyoko「……ほむら。結論から教えてやろう」

Kyoko「あたしが無駄話している間に時間を止めて撃たなかったのは『正解』だ」

Kyoko「あたしの魔女談義を聞けずに一足早く『嫌なもの』を見るハメになってただろうからな」

ほむら「……嫌な……もの?」

Kyoko「だがしかしッ!」

ほむら「!」

Kyoko「こっそりと『糸』を伸ばして体を縛ろうという策は『不正解』だッ!」

ほむら「……ッ!」


右腕の肉を糸にして、指から伸ばしていた。

自身の体と椅子と遺体の氏角を縫い、

糸を束ねた紐で拘束するつもりでいたが、バレていた。

しかし今更なかったことにはできない。

519: 2013/03/19(火) 23:24:28.88 ID:WQPQ069po


ほむら「くっ!」

ほむら「くらえっ!『糸のスタンド』ッ!」


Kyokoの背後、遺体の陰から紐が飛び上がった。

時間停止能力者に対し、一番警戒に値するのは時間停止魔法。

その心理の意表を突く、敢えてのスタンド攻撃のつもりだった。


Kyoko「…………」

ほむら「……!?そ、そんな……!」

ほむら「な、何をしているの……!?」


紐が飛び出しても、Kyokoは微動だにしなかった。

スタンド攻撃を見破った上で、紐を避けるようなことは一切せず、

ただ黙って縛られた。両腕を封じられた。

何故、わざわざ拘束されたのか、ほむらは戸惑った。


521: 2013/03/19(火) 23:25:09.61 ID:WQPQ069po

ほむら「……!?」

Kyoko「…………」

Kyoko「ふふん……あんた、あたしのことを知ってんのかよ?」

Kyoko「マミから聞いてなかったのか?」

ほむら「…………」

ほむら「……ハッ!」

Kyoko「気付くのが遅いんだよ!そうさ!」

Kyoko「この光景に一般人は気付いていない!あんたが見えているあたしもだッ!」

Kyoko「種はあたしの『幻惑魔法』だッ!」

ほむら「こ、これは……」

ほむら「そんな……まさか!」

ほむら「ま……」


522: 2013/03/19(火) 23:26:18.70 ID:WQPQ069po

ほむら「『まどか』ッ!?」


得意気な顔をした佐倉杏子の姿は、みるみると形を変えていった。

黒いリボンは赤いリボンに、赤い衣装はベージュの制服に、

手に持っていた槍は溶けて消えた。

そこには『まどか』がいた。

切なそうな表情でほむらを見ていた。

Kyokoはまどかだった。

ほむらの糸で拘束されたまどかがいた。


Kyoko「幻惑魔法ってのは、本当に便利なもんよ」

Kyoko「どっかの誰かさんはメモリーオブジェットだかオードリーヘプバーンだか何だかわけのわからん名前をつけやがったがな……」

ほむら「う、うぅ……!」

523: 2013/03/19(火) 23:27:58.16 ID:WQPQ069po


Kyoko「一般人が異様な光景に動揺して逃げ出さないように……普通の景色に見えているようにしている幻影」

Kyoko「聴覚も視覚も触覚も騙す幻惑……」

Kyoko「まどかの幻覚にあたしの幻を被せていた」


Kyokoは『まどか』の背後から現れた。

まどかの幻覚を作り、それに魔法の幻惑を被せていた。

本物のKyokoは別の場所にいた。

視点が異なっていたため、近づいてくる糸が見えていたのだった。

氏角ではなかった。


ほむら「まどかの……幻覚……!?」

Kyoko「あんたは今『ん?』って思ったな?」

Kyoko「幻覚に幻惑を被せるってどういうことなのか」

Kyoko「答えはこれだ!我が能力『シビル・ウォー』ッ!」


524: 2013/03/19(火) 23:29:06.85 ID:WQPQ069po

Kyoko「シビル・ウォーは……そいつが『捨てたもの』の幻覚を見せる能力だ」

Kyoko「このまどかは、あんたが実際に頃した訳でも見頃しにしたわけでもない」

Kyoko「しかし、あんたは見捨てたと思っているんだ」

Kyoko「助けることができなかったという自分自身で勝手に抱いてる罪悪感が、まどかの幻覚を見せているんだ」

Kyoko「あたしは別にそうは思わないが……あんたは心で『見捨てた』と思っている」

Kyoko「このまどかは、あんたの心の闇が生んだまどかだ」

まどか『……ほむらちゃん』

ほむら「……ッ!」

まどか『ほむらちゃんは……わたしを守ってくれるって言ったよね』

まどか『魔法少女にしないって……約束してくれたよね……』

ほむら「こ、これはッ!?」

525: 2013/03/19(火) 23:29:41.59 ID:WQPQ069po


まどかを束縛していた紐が変形していく。

スパゲティのような形をした紐が、放蕩のように平べったく変形した。

紐が『潰されてい』く。

『潰れ』はじわじわと紐を伝い、ほむらに迫ってくる。


ほむら「ひ、紐が……潰れて……!?」

ほむら「ま、まずいッ!」

ほむら「うっ!くぅ!」


ほむらは左手で紐に手刀をあてた。

ブチリと音をたて、紐は切断される。

紐はほむらの肉でもある。

ダメージが伝わる。ほむらの右腕から血が噴き出した。

潰れた紐はそのまま紙くずのようにくしゃくしゃになっていった。


526: 2013/03/19(火) 23:31:38.36 ID:WQPQ069po

ほむら「こ、これは……!」

ほむら「私の、私の糸が……!」


スタンドが傷つけば本体も傷つく。糸が切れたことでできた傷を押さえて止血する。

この程度の軽い傷ならすぐに治癒が可能。


Kyoko「これがあたしのスタンド……『シビル・ウォー』だ」

Kyoko「まず、幻影魔法で作った擬似的なものでも何だっていいから……有効範囲という『結界』を設定する」

Kyoko「で、このまどかは結界が見せる幻覚であり、あんたが『捨てた事実』でもある」

Kyoko「スタンドは精神のエネルギー。精神は肉体。表裏一体の関係……」

Kyoko「精神への攻撃は肉体への攻撃。罪悪感がその身を滅ぼす」

Kyoko「『捨てたもの』で押しつぶす。それが我がシビル・ウォー」


Kyokoの能力――シビル・ウォー。

標的が今までに「捨ててきた物」の幻覚を見せる。

幻覚に触れると、それは皮膜のように変化して、標的を包み『圧縮』する。

スタンドが傷つくと本体も傷つく。精神が押しつぶされれば肉体も押しつぶされるのだ。その逆も然り。

罪悪感という精神的ダメージを肉体的ダメージに変換するという見方も可能。

それが、Kyokoのスタンド。シビル・ウォー。

527: 2013/03/19(火) 23:32:27.32 ID:WQPQ069po

Kyoko「あんたはまどかが大切なようだな……」

Kyoko「あんたは自分の罪悪感を撃てるか?」

Kyoko「これはあんたの脳みそが作り上げたまどかそのものなんだ」

まどか『ほむらちゃん……助けてぇ……』

ほむら「グッ……!う、くぅっ……!」

ほむら「そ……」

ほむら「それが……」

ほむら「それがどうしたというんだッ!」

ほむら「たかが……たかが幻覚ッ!」

Kyoko「その通り。ただの幻覚だ。されど幻覚だ」

528: 2013/03/19(火) 23:32:54.53 ID:WQPQ069po

ほむら(な……何を、躊躇うことがある!)

ほむら(なんであっても、それがなんであっても!所詮たかがまやかしッ!)

ほむら(こんな……)

ほむら(『こんなもの』は!)

ほむら(動揺してはならない!)

ほむら(このままでは……ヤツの思うツボだ!)

ほむら(……撃てる!撃ってやる!)

ほむら「う、うぅぅ……!」

ほむら「違うんだ……ッ!これは……ただの!ただの幻覚ッ!」

ほむら「偽物なんだッ!」

タァン!

529: 2013/03/19(火) 23:33:47.04 ID:WQPQ069po

ほむらは銃を発砲した。

弾丸は、まどかの二の腕を貫通した。

まどかは目から涙をポロポロと流しながら苦痛に表情を歪めた。

ダラダラと赤い鮮血が流れ出ている。

その様を見て、ほむらの目尻から涙が伝った。無意識の涙であった。


ほむら「うっ……!」

まどか『グゥッ!』

まどか『腕が……!腕ぇ……!酷いよ……ほむらちゃん……ハァゥゥ……』

まどか『はあぁぁ……そんなのって、ない、よぉ……痛いよぉ……』

まどか『わたしを救うって……誓ってくれたのに……』

まどか『酷い……よぉぉぉぉぉ……!』

ほむら「……!」

530: 2013/03/19(火) 23:34:23.61 ID:WQPQ069po

こ、これは……!

この息づかい……まどかだ……!

『まどかそのもの』だ……!

幻覚と自覚していても……わかっていても!心の底が私にそう言っている!

私は……私はまどかの姿を、まどかを撃った。

まどかそのものを……!

まどか撃ってしまった!

……『こいつ』がッ!

私にッ!

こいつが私に!まどかを撃たせた!


532: 2013/03/19(火) 23:35:34.20 ID:WQPQ069po

ほむら「くっ……!うぅぅ……!」

ガリッ!

ほむら「くフゥー……!フゥー……!フゥー……!」


涙がポロポロとあふれ出てきてしまう。

手が震える。

手が震えたら、照準が定まらない。

手の震えを無理矢理抑えるため、震える手に噛みついた。

犬歯が深く刺さり、血が滲む。


Kyoko「親友を撃つなんて……見くびっていた。大したタマだ」

Kyoko「……『足りなかった』かな?」

ガタッ

ほむら「ッ!?」


533: 2013/03/19(火) 23:36:33.48 ID:WQPQ069po

転がっている遺体が立ち上がったように見えた。

実際は、遺体と床の間から産み出されている。

まどかがもう一人、二人、三人現れる。

全員、悲しい表情をしている。

守れなかった事実。

ほむらの罪悪感が、シビル・ウォーにより新たに産み出された。


まどか『ほむらちゃん……どうしてわたしを助けてくれなかったの?』

まどか『契約したら……わたしは用済みなの?いらないの?』

まどか『ずっと一緒にいようねって……約束したのに……!』


助けられず氏なせてしまったまどか、契約をしてしまい諦めたまどか、

魔女になる寸前にソウルジェムを撃ち砕き『頃し』たまどか。

ほむらの罪悪感が、まどかの姿となってゾンビのようにわき出てきた。

534: 2013/03/19(火) 23:37:16.30 ID:WQPQ069po

ほむら「う……うああ……!」

ほむら「あああ……ああ……!」

ほむら「まど……か……!」

ほむら「わ、私は……!」

ほむら「私はッ!」

ほむら「あなたを見捨ててなんかいないッ!」

ほむら「私は!私はあなたのために……!」

Kyoko「口で否定しても意味がない」

Kyoko「こいつらがいる以上、あんたはまどかを見捨てたんだという意識があった」

Kyoko「そういう揺るぎない真実がある」

535: 2013/03/19(火) 23:37:49.39 ID:WQPQ069po

ほむら「う、うぅぅぅぅぅぅ……!」

ほむら「……グッ!」

ほむら「くそォッ!貴様ッ!絶対にブッ頃してやるゥゥゥぅぅぅ――――ッ!」


ほむらの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

脚が震える。魂が濁る。頭が働かない。


Kyoko「ほほぉ~……ではやってみるといい」

Kyoko「しかしなんだな……あんたでもそんな下品な言葉使いできるんだな。意外」

ほむら「うおおおあああああああああああッ!」

Kyoko「ちょ……!おまっ!それは……」

ほむら(これは……!これは幻覚だ!幻覚!幻覚!幻覚!幻覚なんだ!)

ほむら(まどかではない!これはまどかじゃない!)

ほむら(まどかの姿をしたただの『ゴミ』だッ!)

ほむら(ヤツを頃すッ!殺せばゴミは消える!)

ほむら(頃してやる!絶対に!頃してやるッ!)

ほむら「うおおおおぉぉぉぉああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」

536: 2013/03/19(火) 23:38:25.93 ID:WQPQ069po

盾から取り出したものは『ピカティニー・レール短銃身、伸縮式ストックモデルM249』

純粋な軽機関銃でありながら非常に軽量で、命中精度も高いという特徴を持つ。

ほむらは目を閉じてミニミ軽機関銃を辺り構わず乱射した。

独自に修得した機械操作の魔法と訓練の経験により、

反動による照準のブレは極限まで小さい。


ほむら「うあああああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁあああッ!」

Kyoko「う、うおおおおぉぉぉぉッ!?」

まどか『いやあああああああああああ』

まどか『きゃあああああああああああ』

まどか『痛い痛い痛い痛いイタイタイタイタイィィィ!』


まどか達の声が銃声に紛れて響く。

耳を引きちぎりたい衝動に駆られる。

銃の反動で涙が飛び散っていく。

537: 2013/03/19(火) 23:39:07.01 ID:WQPQ069po

――音はすぐに止まった。

弾が切れたのではなく、ほむらは自分の意志でトリガーから指を離していた。

幻覚と言えど、まどかの姿を撃つのに精神的な限界を覚えたためである。

流れ弾で壁に穴があき、転がっていた遺体はズタボロになっている。

異常な世界を認識できていない生存者を無意識的に頃すことはない。

銃口から青白う煙が舞う。

まどかの幻覚はいなくなった。


ほむら「はぁ……!はぁっ!はぁ……!」

ほむら「う、うぅ……く……!ハァハァ……!」

ほむら「や……やったか……?」

「折角のところ申し訳ないが……」

ほむら「……ッ!?」

538: 2013/03/19(火) 23:39:52.92 ID:WQPQ069po

Kyoko「そんな甘っちょろい覚悟ではあたしには勝てない」

ドスッ

Kyokoは、後ろを振り返ったほむらの首に親指を突き刺した。

突き刺したというより、親指と首の肉が同化したという表現が近い。


ほむら「うぐ……!」

Kyoko「銃声とシビル・ウォーの幻覚に紛れて、既に回り込ませてもらった」

ほむら「がふ……うぅ……!」

Kyoko「そのままあんたを『喰う』ぜ」

ほむら「う、うああ……」

ほむら(お、恐ろしい……!)

ほむら(なんて……なんて恐ろしい……!)

539: 2013/03/19(火) 23:40:36.78 ID:WQPQ069po

Kyoko「絶望したらあんたのスタンドが進化してレクイエムが発動して世界が滅びるそうだが……」

Kyoko「何てこともない。その前に喰えばいいんだ。フグを食う時にフグの毒を取るのとそんな変わらん」

Kyoko「それに魔法少女は『絶望しかけ』が一番『美味い』んだ」

ほむら「ぐ、ぐぅ……く!」

Kyoko「魔女になるかならないかのギリギリ」

Kyoko「使い魔としての波長が合うとでもいうのか……とにかく美味い」

Kyoko「人間という面を持ち合わせているからこその、グルメ感覚」

Kyoko「よく言うだろ?食い物は『腐りかけが美味い』ってさ」

ほむら「ぐくっ……が……!」

ほむら(このままでは……この……ままでは……!)

ほむら「うぅ……」

ほむら「うおおおおおあああああああああァァァァァァァッ!」


540: 2013/03/19(火) 23:41:14.78 ID:WQPQ069po

……スタンドのおかげで、時間を止めて兵器を使う以外にも、

確かに私の戦略の幅は広がった。

『糸』で試したいことだってまだある。

成長の余地があるという実感がある……。

だが「意味」なんて何もないッ!

佐倉杏子の概念とはレベルが違うッ!

ヤツの「スタンド能力」には私の「糸」なんて何の通用もしないッ!

ついに『限界』が追いついて来たのか……?

私は……私はまだ納得ができていない……。願いを遂行していないのに!

こんな所で、終わるわけにはいかないのに!

私はまどかを守る私にならなければならないのにッ!

『やるべき目的』があるッ!


541: 2013/03/19(火) 23:42:04.96 ID:WQPQ069po

ドガッ!


Kyoko「ブッ……ガッ!?」

ほむら「……え?」

Kyoko「ゲフ……クッ……」

Kyoko「ゲボッ?!」


――突然、Kyokoは『何か』の攻撃を喰らい仰け反った。

まるで「殴られた」かのように頬が腫れあがっている。

口から血らしき体液が出る。口の中を切ったらしい。

首からKyokoの指が勢いよくすっぽ抜け、首の肉が少し持っていかれた。


ほむら「ゲホッ!ゲホゲホッ!」

ほむら「ゆ、指が……!?」

Kyoko「今……あたしは……何をされた?」

Kyoko「な、何だ……?」

ほむら「……!?……?」

542: 2013/03/19(火) 23:42:46.98 ID:WQPQ069po

――かつて、ほむらは似た光景を見たことがある。

前の時間軸。

「ある敵」に襲われた時、同様にそいつは『急』に『殴』られた。唐突だった。

その正体は、まどかのスタンド『スタープラチナ』だった。

友達を助けたいという一心で発現した、まどかのスタンド。

まどかの精神力が敵を攻撃し、自身とほむらを助けた。

その光景と似ている。

今はその視点が、第三者から第一者のものとなった。

Kyokoは頬を赤く腫らす。血が口から流れ出ている。


Kyoko「あたしは……殴られたのか?」

Kyoko「あたしは『こいつ』に殴られたのか!?」

ほむら「ハァ……ハァ……」

ほむら「こ、これは……!」

543: 2013/03/19(火) 23:43:40.31 ID:WQPQ069po

ほむらは、視界の端に、何かを見た。

上目遣いになってそれを確認する。

「拳」そして「腕」が見える。

それを辿った先にいた……

『糸の塊』


ほむら「い、『糸』が……」

ほむら「糸が……『人』に……!」


ほむらの体から出る半透明の糸スタンド。

そのしなやかな糸が、一本一本が重なり寄り集まり、

塊――人の形を形成した。

それが自らの拳を、Kyokoに叩き込んだらしい。


544: 2013/03/19(火) 23:44:31.49 ID:WQPQ069po

女性的な体格をしている。

有名な彫刻のような存在感があり、

所々が『ほつ』れている。

糸の拳は様々なものを砕きそうな、頑丈さを見て取れる。

鼻腔の奥で、微かに石鹸のような匂いを感じた。


ほむら「こ、『これ』は……」

ほむら「私の……私の『スタンド』が……!」

ほむら「糸が束ねられて丈夫な紐になるように……」

ほむら「糸が集まって!そのパワーが集中してッ!」

ほむら「線が集まって固まれば『立体』になるこの概念!」

ほむら「パワー……」

ほむら「私に『パワー型スタンド』が目覚めたッ!」


545: 2013/03/19(火) 23:45:13.46 ID:WQPQ069po

ほむら「あの時のまどかも……似たような感じだったのかしら……」

ほむら「己の精神の、力強いヴィジョン。これが私の……精神の具象」

Kyoko「ぐ、グフッ……き、貴様……!」

Kyoko「よくも……よくもあたしに向かってそんな舐めた真似を……!」

ほむら「糸が塊になることでパワーが集中した……塊のスタンド」

ほむら「まるで引き裂かれそうだった心を縫い合わせ『繋ぎ』止めたかのように……」

ほむら「しなやかさと力強さが兼ね備えられた……糸のスタンド……」

ほむら「…………」

ほむら「いつだったか……『矢』を大切にしてと、夢の中で会ったまどかは言った」

ほむら「夢とは言え、縁起を担いで得体の知れない『矢』をお守りとした……今も盾の中に入れている」

ほむら「何故唐突にその矢のことを思い出したのかはわからないけど……」

ほむら「名付けよう……お守りにした石の矢に肖って」

546: 2013/03/19(火) 23:46:09.30 ID:WQPQ069po

ほむら「これは既に『糸』を超えた……」

ほむら「……ストーン・フリー」

ほむら「まどかに……何ものにも縛られない自由な未来を与えたい」

ほむら「私は『石作り』の矢と『自由』を手に入れる」

ほむら「聞こえた?『ストーン・フリー』……それが名前」

ほむら「これからは『ストーン・フリー』と呼ぶ!」

Kyoko「……っ!」

ほむら「これは、私の未来への誓い!」

Kyoko「ヤ、ヤバ――」

ほむら「ストーン・フリーッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

糸の塊――『ストーン・フリー』はかけ声を共に拳のラッシュを放った。

スタープラチナを操っていたまどかも、スタンドの声を聞いていたのだろうか。

まどかと同じ、パワー型のスタンド。そう思うだけでますます勇気が湧いてくる。

547: 2013/03/19(火) 23:46:59.81 ID:WQPQ069po

Kyoko「うおわあああああああああッ!?」

Kyoko「こ、このパワーはッ!」

Kyoko「ほ、ほむらァァァッ!」


腕をソウルジェムの前に交差しKyokoは必氏に防御をする。

糸であるにも関わらず、その拳は鉱物のように固く重い。

「オラァッ!」

ドッゴォォッ!

Kyoko「GYAAAAAAAAAHHHHH!……ゲボファ!」


ストーン・フリーの力を込めた一撃により、Kyokoは吹き飛ばされた。

体が宙に浮き、そのまま壁に背中を叩き付ける。

548: 2013/03/19(火) 23:47:28.38 ID:WQPQ069po

ほむら「強い……!」

ほむら「ストーン・フリー……」

ほむら「どうやら人型になると遠くへ行けないらしい……」

ほむら「だけど!その代わりにこのパワー!」

ほむら「これが……これが私のスタンドの真の力!」

ほむら「私の新しい力ッ!新しい武器ッ!」

Kyoko「ゲボッ……グフゥ」

ほむら「ま、まだ生きている……」

ほむら「ソウルジェムは砕けなかったか」

Kyoko「…………」

549: 2013/03/19(火) 23:48:02.33 ID:WQPQ069po

Kyoko「ソウルジェムを砕こうとしたのか……おまえ……」

Kyoko「あたしは……使い魔であると同時に魔法少女の概念でもある」

Kyoko「確かに……ソウルジェムが無事な限り氏にはしない……と思う」

Kyoko「ソウルジェムの穢れは空腹だ。絶望をしない以上、魔法を使いすぎて魂を汚せば餓氏をする」

Kyoko「魔女寄りな存在にでもならん限り、あたしを頃すにはソウルジェムを砕くしかないのさ……」

Kyoko「だのにおまえ、何の躊躇もなくぶっ放しやがって。なにがオラオラだ」

ほむら「初めての割には上手く扱えた……かなり素早いわ!次こそは!」

Kyoko「HEY!ほむら……」

Kyoko「スタンド能力の新しい境地を切り拓いておめでとうと祝ってやりたいとこだが……」

Kyoko「チト詰めが甘い」

ほむら「詰めが……甘い……?」

550: 2013/03/19(火) 23:48:32.67 ID:WQPQ069po

Kyoko「ここはあたしの……依然シビル・ウォーの支配下にあるんだ」

Kyoko「則ち……どっち道、あたしには勝てない」

ほむら「……!」

『酷いよ……そんなの……』

ほむら「ハッ!?」

『ほむらちゃんのバカ……』


先程まで看護婦の遺体だったものが、まどかの姿をしている。

正確には、看護婦の遺体の側にまどかの幻影を作り、幻惑で隠していた。

涙を流しているまどかが恨めしそうな声をあげている。

まどかの幻覚は震える指でほむらの左袖をつまんでいた。

551: 2013/03/19(火) 23:49:53.60 ID:WQPQ069po

Kyoko「シビル・ウォーでもう一体まどかの幻覚を作った!」

Kyoko「よし!触れたな!あんたが捨てたものに……」

ほむら「し、しまっ――」


ドパァァァン

まどかの手が水風船のように破裂して皮膜となる。

ほむらの左腕に、それが巻き付く。

同時にストーン・フリーの左腕が押しつぶされる。

関節と盾が動かなくなった。時間停止と武器を扱えなくなる。


ほむら「う……くッ!?」

Kyoko「左腕を封じたッ!」

Kyoko「幻覚共ッ!こいつの右腕と両脚も封じろォォォ!」

552: 2013/03/19(火) 23:50:27.45 ID:WQPQ069po

Kyokoの背後からわらわらと『まどか』が現れた。

ほむらは、時間遡行の度に見滝原を捨てている。

そのため、まどかの家族やマミ等の幻覚も見せようと思えばできる。

しかし今のシビル・ウォーには、見せられる幻覚のキャパシティが定められている。

体力も魔力もかなり消耗してしまったため、スタンドパワーに余裕がない。

結局、少ない人数で最も追いつめる幻覚は、まどか以外ありえない。


ほむら「……!」

Kyoko「まずは……四肢を潰せ!」

Kyoko「そしてソウルジェムが漆黒に染まるスレスレに喰い頃す」

Kyoko「この傷は……ほむら!」

Kyoko「貴様を喰って癒すッ!」

ほむら「くっ!」

553: 2013/03/19(火) 23:51:03.40 ID:WQPQ069po

まどか『ほむらちゃん……』

まどか『わたし達、友達だよね』

まどか『燃え上がれーって感じでかっこいいよね』

まどか『わたしを救うって、言ってくれたよね』

ほむら(ま、まどかの幻覚が……)

ほむら(このままでは……包囲されてしまう!)

ほむら「くそっ……!」

ほむら(盾が使えない以上……どうすることもできない)

ほむら(ここは……撤退するべきか。脚が動かせる内に……)

ほむら(ここから離れればシビル・ウォーの結界とやらから抜け出せるはず)

ほむら(最悪その結界から一度抜け出せば……きっとこの腕もどうにかなる)

ほむら(ここは……逃げるしかできない!)

554: 2013/03/19(火) 23:52:16.62 ID:WQPQ069po


「逃げるというのは……得策じゃあないよ」


ほむら「!?」

Kyoko「ッ!?だ、誰だッ!」

ほむら「この声は……!」

「遅れてごめんよ。恩人」

ほむら「あなたは……!まさか……!」

ほむら「く……」

ほむら「『呉キリカ』ッ!」

キリカ「YES! I AM!」


眼帯をつけた、黒い魔法少女。

八重歯をニヤリと見せつける、魔法少女。

呉キリカが、参上した。

555: 2013/03/19(火) 23:53:22.20 ID:WQPQ069po

ほむら「……本物、でしょうね」

キリカ「当たり前でしょーが!証拠は出せないけどね」

Kyoko「む……てめぇ……!」

キリカ「さて、キョーコとか言ったか。君の話は聞かせてもらったよ」

キリカ「正確には、恩人がビービー泣いてる様も見させてもらった」

キリカ「なるほど、スタンドねーって感じだ」

Kyoko「シビル・ウォー!幻覚でキリカを捕らえろ!」

ほむら「く、来る!」

ほむら「呉キリカ!盗み見をしてたなら知っているでしょうけど、幻覚に決して触れてはいけないわ!それがルール!」

キリカ「盗み見って……別に意地悪をしたんじゃあないよ。これは偵察と言うんだ」

キリカ「助言ありがとう。恩人」

キリカ「シビル・ウォーとやらは『捨てたもの』……私が捨てたものか。私が見ている『もの』は私が捨てたと認識しているものなのか」

キリカ「自分のことながらいまいち納得いかないところではあるがそれはさておき」


556: 2013/03/19(火) 23:53:50.54 ID:WQPQ069po

キリカは周りの状況に全く興味がないとでも言いたげに、

ゆったりとほむらの方を向き、手を差しのばした。


キリカ「恩人。君は今、逃げようとしたね……敵から一歩下がった風に見えた」

ほむら「…………」

キリカ「それじゃあダメなんだ」

キリカ「生かしておいたら、いざって時、土壇場で障害となりうる」

キリカ「つまり……」

キリカ「私は意地でもヤツを頃すことを推奨するッ!前へ進むんだ!」

ほむら「で、でも……」

ほむら「でも呉キリカ!今、私は……!」

キリカ「何の問題もない」


557: 2013/03/19(火) 23:54:17.45 ID:WQPQ069po


キリカ「恩人。私の手を握るんだ」

Kyoko「……ッ!」

キリカ「ほら、早く」

ほむら「え、えぇ……」

Kyoko「ぼ、亡霊共!早く捕まえ――」


――瞬間。

まどかの幻影の呻き声とKyokoの怒声が途絶えた。

口はゆっくりと動いている。足はじわじわと動いている。

キリカの固有魔法。時間を遅くする魔法。

「ノロマ」な自分を変えるために得た能力。


558: 2013/03/19(火) 23:56:11.73 ID:WQPQ069po


キリカ「周りの時間を遅くした」

キリカ「そして恩人。君はその時間に対応ができるようにした」

キリカ「『時が遅くなった世界に入門させた』とでも言おうか」

キリカ「さぁ、このままこいつをやってしまおう」

ほむら「……えぇ」

キリカ「立てるかい?」

ほむら「大丈夫……よ」


キリカは「捨てたもの」には目もくれず、ほむらの手を引いた。

ほむらは『まどか』を横目に素直に引かれた。左腕が重い。

スローに動く幻覚を避けつつ、二人はKyokoの側に到達する。


559: 2013/03/19(火) 23:57:21.86 ID:WQPQ069po

ほむら「呉キリカ」

キリカ「何だい、恩人」

ほむら「その……ありがとう。助かったわ」

キリカ「……やれやれだよ」

キリカ「もう織莉子以外と手を繋ぐことなんざ」

キリカ「一生ないって思ってたのに」

ほむら「……私も家族を除けば手を繋ぐ相手と言ったら、まどかと巴さんくらいよ」

キリカ「私が第三位ってことかい?」

ほむら「猫を含めてもいいのなら四位」

キリカ「ありゃ……銅メダル逃したね」


560: 2013/03/19(火) 23:59:06.14 ID:WQPQ069po

二人は、シビル・ウォーの本体の側に歩み寄った。

人型のストーン・フリーの射程距離、数メートル範囲。


キリカ「さて……それじゃ、そろそろ終わらせようか」

ほむら「えぇ……」

キリカ「私にはスタンドとかいうものはよくわからないから何とも言えないが……」

キリカ「時間を遅くする魔法はそろそろ解除させてもらうよ。この範囲だけでも結構な燃費がかかるんでね」

ほむら「えぇ、わかったわ」

キリカ「早く早く。これは時間を止めてるわけじゃない。防御の姿勢を取り始めているぞ」

ほむら「……ストーン・フリー」

「オラァァッ!」

ガシャン

Kyoko「――ッ!?」

561: 2013/03/19(火) 23:59:40.06 ID:WQPQ069po

そして時間は、元の早さに動き出す。

使い魔は自分の胸に手をあてがった。


Kyoko「…………」

Kyoko「そ、そんな……ソウルジェ……ム……」

キリカ「ソウルジェムが破壊されたのに生きているよ?」

ほむら「そうね……」

キリカ「ソウルジェムは破壊されると即氏する」

キリカ「……って聞いたのに。その違いがちょっと気になる」

ほむら「こればっかりは『使い魔だから』とでも言ったところかしら……」

キリカ「なるほど……スゲー納得した」

562: 2013/03/20(水) 00:00:15.23 ID:hYDtyF/6o

Kyoko「そうか……あたしは……氏ぬ、のか……」

Kyoko「だ、だが……結界内で氏ねば……」

Kyoko「あたしの、シビル・ウォー……」

Kyoko「結界内で殺されれば……あたしの罪を……おっかぶらせ……」

Kyoko「あたしの……罪……」

Kyoko「あ、ああ……そ、そうだ……!」

Kyoko「ダメだったか……根本的に……ダメじゃねぇか……!」

Kyoko「あたしは……『罪を犯していない』……」

Kyoko「使い魔だから……頃しは生理現象であり、罪悪感が……ない」

ドサァッ

使い魔はその場で倒れた。

前の時間軸の佐倉杏子。

次元を超えて、この時間時にて、二度目の氏亡。

563: 2013/03/20(水) 00:01:55.59 ID:hYDtyF/6o

そのままKyokoは黒い塵となって消えた。

ほむらとキリカは、その様をただ見ているだけだった。

シビル・ウォーの結界は解除される。

当然、まどかの幻影は消える。

ほむらを束縛していた皮膜も消える。

ストーン・フリーはシビル・ウォーに打ち勝った。

Kyokoが氏んだことによって、幻惑魔法、他称メモリー・オブ・ジェットは解かれた。

同時に、空は黒から橙色に置き換わっていた。

丁度、魔女の結界が解かれたらしい。

待合室の遺体はなくなった。全て結界に取り残された。

この病院は、再びいつもと同じ時間が流れ出す。

564: 2013/03/20(水) 00:04:22.37 ID:hYDtyF/6o

血まみれの床や弾痕だからの壁はもうなくなっている。

ほむらは時間を停止させ、人目のつかない場所に移動した。

そして、変身を解除する。魂の浄化もついでで行う。

魔法少女の姿は社会には目立ちすぎるのだ。


キリカ「……勝ったね」

ほむら「……えぇ」

キリカ「しかし……ストーン・フリー?それ恩人のセンス?」

ほむら「……私にとっては縁起のいい名前なのよ」

キリカ「別に悪いとは言ってないけど……」

キリカ「ところでケガは平気?」

ほむら「えぇ……大丈夫。どちらかと言えば精神的な消耗の方が大きいわ」

キリカ「グリーフシードはどうせ持ってるだろう?」

ほむら「えぇ……」

565: 2013/03/20(水) 00:06:37.45 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……呉キリカ。本当によく来てくれたわ……」

ほむら「本当に……。あなたが助けてくれなかったら、私はヤツを殺せなかった」

ほむら「私は逃げていた……結果的にやられていたかもしれない」

キリカ「気にするな恩人」

ほむら「あなたは……強いのね。捨てたものに対して……」

キリカ「私は捨てたものよりも大きいものを奪われたからね」

ほむら「……そう」

ほむら「正直なところ、私は既に自害してこの世にいないとさえ思っていたわ」

キリカ「……うん。まぁね」

キリカ「私……変な『夢』を見たんだよ」

キリカ「夢って言ったけど……頭がぼんやりしてたから本当に夢だったのか、幻覚だったのかイマイチなんだけど」

ほむら「……夢?」

566: 2013/03/20(水) 00:09:42.59 ID:hYDtyF/6o

キリカ「織莉子の声が聞こえたんだ……」

キリカ「『キリカ』……って私の名前を呼ぶんだ」

キリカ「その時、私は織莉子がいない世界なら氏んでしまおうかとか考えていたんだ」

キリカ「だって、織莉子はいつだって頼りになったし……」

キリカ「大好きな織莉子の決断なら、私は何をするにも勇気が湧いて、やれるって気になれたんだ」

キリカ「そしたら、織莉子は……『あなたが決めなさい』って言うんだよ……」

キリカ「『キリカ……行き先を決めるのは、あなた』ってね」

キリカ「私……少し考えて」

キリカ「『恩人のとこに行こう』って思ったら、声が聞こえなくなった……とてもさびしい夢だったよ」

ほむら「夢で……美国織莉子を……?」

キリカ「うん……と、言っても所詮は私の氏にたくないって願望に過ぎないんだろーけどね」

567: 2013/03/20(水) 00:10:55.47 ID:hYDtyF/6o

キリカ「とにかく、私にしたあの時の交渉、乗ることにした」

キリカ「君が守りたいという友達を、私も手を貸そう」

キリカ「契約をさせないという条件付きでね」

キリカ「生き甲斐を失ったから、殺されるまで君のために生きる」

キリカ「君の友達とやらの護衛を引き受けてやれるよ。私は」

ほむら「……」

キリカ「そ、そりゃまぁ彼女を殺そうとは考えてた身分だけれども……」

ほむら「……歓迎するわ」

キリカ「そりゃどうも」

ほむら「それよりも……早く行かないと」

キリカ「ん、どこに?」

568: 2013/03/20(水) 00:11:31.34 ID:hYDtyF/6o

ほむら「美樹さやかがこの結界に巻き込まれたのよ」

ほむら「それに、巴さんも既に来てるかも」

ほむら「魔女を探して使い魔と対峙したから見かけることはなかっ……」

キリカ「…………」

ほむら「……呉キリカ?」

キリカ「恩人……合流する前に話しておくことがある」

ほむら「……何?」

キリカ「まぁ結界が解けたんだから落ち着こうよ」

キリカ「BADニュースとWORSEニュースがある。どっちから聞く?」

ほむら「…………」

569: 2013/03/20(水) 00:12:14.12 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……悪い方から」

キリカ「美樹さやかが契約した」

ほむら「……ッ!」

キリカ「君を捜していたら、おぼつかない足でうろうろしてたんでね」

キリカ「事情を少し聞いて、グリーフシードを一個あげて結界から出るよう避難させたんだけど……」

キリカ「願い事は『治して』だそうだ。だから傷を癒す魔法が使えるようになった」

キリカ「爆発に巻き込まれたかのような傷跡があったけど……」

ほむら(爆発……)

ほむら(キラー……クイーン)

ほむら(……そんな)


……さやかの契約を防ぐことができなかったのか。

上条恭介の病室をうろ覚えではあったが知らないわけではなかった。

しかし、私は……。

まどかの「さやかを助ける」という約束を差し置いて、魔女を探してしまった。

その結果として、全速力で走るYumaを見かけて、追ってしまった。

間に合わなかったのだ。これは……完全な失態だ。

あの時は『魔女を倒せさえすれば全て丸く収まる』としか考えていなかった。

570: 2013/03/20(水) 00:13:13.45 ID:hYDtyF/6o

ほむら(美樹さやか……)

ほむら「…………」

ほむら(私のせいだ……)

ほむら(認識があまりにも甘すぎた)

ほむら(私は……!)

キリカ「さて、より悪いニュースの方なんだけど……」

ほむら「……?」

キリカ「…………」

ほむら「……うっ」


キリカの表情を見て、ほむらは吐き気を催した。

腹の底からわき上がるような「嫌な感覚」が胃を押し上げた。

ほむらの後悔は、立て続けにのしかかる。

571: 2013/03/20(水) 00:13:52.82 ID:hYDtyF/6o

キリカ「君の先輩とやら……マミだっけ、彼女も氏んだ」

ほむら「……っ」

ほむら「巴さん……が……」

キリカ「さやかと同様、佐倉杏子に出会ってね……」

キリカ「聞いた話では、彼女を庇って氏んだらしい」

キリカ「恩人のとこに辿り着く前にちょいと遺体を確認していたんだが……酷い有様だった」

キリカ「惨氏体よりも行方不明ということにしておいた方がいいと思って、敢えて放置した」

キリカ「結界が消えて、彼女も消えたということさ」

ほむら「…………」

キリカ「氏んだってことは、葬儀に出なきゃならないだろう。冷酷な発想だが、時間が勿体ない」

ほむら「……そう、ね」

ほむら「その通りだわ……」

572: 2013/03/20(水) 00:14:26.36 ID:hYDtyF/6o

いざという時は、見捨てる。

そういう意識があった。

それはあくまでも、いざという時。

美樹さやかのように、救おうと思えば救えた状況で無視することとは違う。

魔女を倒せば全てが終わると先走ることとは違う。

少しでも冷静になっていれば、

美樹さやかを助け出すことができただろうし、

巴さんと合流だってできたに違いない。合流していれば、氏なせるなんてことはあり得なかったはずだ。

……何でこんな結果になるような行動を、私はとってしまっていたのか。

今になって思えば、こういうことも予測できたはずだった。


行動をしている時には気付かないのに、行動を終えた時に気付いてしまう。

ほむらは、自分の頭の働かなさに嫌気が差した。

573: 2013/03/20(水) 00:15:44.65 ID:hYDtyF/6o

――二人は病院から外へ出た。


ほむらは内心、外に出たくなかった。

さやかを魔法少女にしてしまったのは自分のようなもの。

マミを氏なせてしまったのは自分のせいと言っても言い返せない。

まどかに会わす顔がない。

さやかにかける言葉がない。

杏子に触れる勇気がない。


その三人は、病院から少し離れた公園にいた。

外は暗くなりつつあった。この三人以外、この公園に人はいない。

三人はそれぞれの思いの内に苦しんでいた。


まどか「酷いよ……あんまりだよ……!」

まどか「うぅ……うあああぁ……!ヒグッ……エグッ……うぅ」

杏子「…………」

さやか「マミさんまで……そんな……」

574: 2013/03/20(水) 00:16:33.68 ID:hYDtyF/6o

さやかが結界から脱出した時、まどかはまず喜んだ。

そしてさやかが契約してしまったことと、

幼なじみが氏んでしまったことを、まどかは聞かされた。

次いで、佐倉杏子が結界から脱出した。

悲しみに暮れる二人に、杏子は追い打ちのように、

マミの氏を伝えた。

さやかのような性格では「杏子が頃した」と決めつけてもおかしくはない。

しかし、その杏子の声は震えていた。二人は事情を悟った。

まどかはますます泣いてしまった。

さやかは悔しかがった。


そこに、ほむらとキリカが現れる。

575: 2013/03/20(水) 00:17:34.17 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……まどか」

まどか「……ほむらちゃん」

まどか「うぅ……ほむらちゃぁん……」

まどか「グスッ……」

まどか「ほむらぢゃぁぁぁぁん!」

まどか「うああああぁぁぁ……!ああぁぁぁ……!」


ほむらの姿を見つけた途端、まどかはほむらに飛びついた。

胸に顔を押しつけ、腕を背中に回し抱きしめ、大声で泣いた。

ほむらは、悲しんでいるまどかを身近に感じ、ますます悔しくなった。

自分の浅はかな考え方のせい。

さやかも恭介も救えていた。マミも合流していれば氏なずに済んだはずだった。

急がなければよかった。

576: 2013/03/20(水) 00:18:54.30 ID:hYDtyF/6o

ほむら「……ごめんなさい」

ほむら「……ごめんね。まどか」

ほむら「私……美樹さやかを助けられなかった」

ほむら「巴さんを……犠牲にしてしまった」

まどか「あ゙あ゙あ゙あぁぁ……!うあああ……!」

まどか「うぅぅ……グスッ、ひぐっ、えぐ……!」


キリカ「えー、と……」

さやか「…………」

杏子「…………」

キリカ「グリーフシード……使い切ったなら、私に渡して」

さやか「……はい」

キリカ「……ん」

577: 2013/03/20(水) 00:19:34.97 ID:hYDtyF/6o

ほむら(巴さんが……犠牲になってしまった)

ほむら(いざという時には見捨てると誓っていた)

ほむら(魔女になるくらいなら氏なれた方がマシ……とまで、かつては思っていた)

ほむら(感傷は敵……だから……そう、思っていた……見捨てなければならないって……)

ほむら(だけど……私は……)

ほむら(私は……!)

ほむら「…………」

ほむら(悔いるのは、やめよう……)

ほむら(…………佐倉杏子、呉キリカ、そして美樹さやか)

ほむら(……四人いる)

ほむら(そして何より私には……スタンド……ストーン・フリーがいる)

ほむら(ワルプルギスの夜を越えるに……十分可能性がある)


578: 2013/03/20(水) 00:20:33.03 ID:hYDtyF/6o


――辺りはすっかり暗くなっていた。


まどかは泣き疲れて眠ってしまった。

まどかはほむらの袖を掴んで離さなかった。

仕方なくほむらの膝を枕にベンチで横にさせた。

さやかと杏子はずっと黙りっぱなしだった。

何を考えているのか、想像する気にもなれない。


キリカ「……恩人。まどかは完全に寝たかな」

ほむら「えぇ……」

キリカ「まどかには刺激が強いんで、その方がありがたい」

ほむら「……?」

579: 2013/03/20(水) 00:21:30.06 ID:hYDtyF/6o

キリカはケータイを取り出した。

さやかと杏子は、それに興味を引いたのか、キリカの元に歩み寄った。


ほむら「刺激が強い?」

キリカ「うん……実は、気になることがあるんだ」

キリカ「マミの遺体を写メったんだ」

さやか「なっ……」

杏子「……ッ!」

ほむら「巴さんの……遺体?」

杏子「オイ!テメェ……!」

さやか「マミさんの遺体をそんな……!」

ほむら「……二人とも。静かにして……まどかが起きるわ」

580: 2013/03/20(水) 00:22:18.52 ID:hYDtyF/6o

さやか「……っ」

杏子「……チッ」

キリカ「…………」

キリカ「……いいかな」

キリカ「恩人。これを見て」

ほむら「…………」

ほむら「これは……」


液晶に写っていたのは、今やこの世界に存在しないマミの遺体そのものだった。

画面は赤と黄色と白の三色で構成されているようなものだった。

その顔が安らかに見えたのは、都合の良すぎる見方だとほむらは心の中で改める。

581: 2013/03/20(水) 00:23:16.84 ID:hYDtyF/6o

キリカ「……手首を見てくれ」

ほむら「……手首」

キリカ「これがズームした写真」


赤い絵の具を塗りたくったように真っ赤に濡れている。

どんな攻撃をくらえばこれだけ赤一色になるのか……。

痕跡はMamiのスタンドの推測材料となる。

今の状態ではスタンドの実像は全く想像がつかない。

……そして、マミの手首は『切断』されていた。

指が千切れていたり、肩がもげているというような状態ではない。

それなのに、手首がスッパリと切れているのは、明らかに浮いている。


ほむら「この手についている傷で切断されたものとしては……断面が綺麗すぎる」

ほむら「つまりこれは……『別の要因』で切断された」

キリカ「恩人は察しがいいな」

ほむら「つまり……この手は……」

582: 2013/03/20(水) 00:23:57.48 ID:hYDtyF/6o

ほむら「巴さんがリボンを使って……自分で断った」

キリカ「そうなるんだろうね」

ほむら「巴さんが『自ら手首を斬り落とす』だなんて……」

ほむら「これは……敵スタンドのヒントなのか……」

ほむら「あるいは……何かの『メッセージ』……?」

ほむら「…………」

ほむら「呉キリカ。画像を転送して」

キリカ「わかった……赤外線で?」

ほむら「今後のこともある……メールアドレスを教えるから、メールに添付して」

キリカ「アイアイサー」

583: 2013/03/20(水) 00:25:00.61 ID:hYDtyF/6o

ほむらがカバンからケータイを取り出した時、

今最も聞きたくない声が聞こえた。


「マミが氏ぬなんて……よっぽどの魔女のようだね」

さやか「……キュゥべえ」

杏子「…………」

キリカ「しろまる……」

QB「いや、正確には使い魔か」

QB「今までに前例がないよ。魔法少女と全く同じ姿をした使い魔だなんてね」

ほむら「…………」

杏子「おい、キュゥべえ。あの魔女は……」

杏子「あいつは何なんだよ……!」

杏子「あの魔女は、使い魔は、何がどうなっているんだよ……!」

584: 2013/03/20(水) 00:25:33.96 ID:hYDtyF/6o

QB「僕にもわからないと言ったじゃないか」

QB「……ただ、調査をして最近わかったことがある」

QB「あの魔女は『ある魔法少女が魔女になったもの』だ」

杏子「……は?」

さやか「……え?」

ほむら「……ッ!」

QB「ほむら。君は彼女に会ったことがあったようだね」

QB「M市に住んでいる魔法少女のことだよ」

QB「しかし、彼女は他の魔法少女のテリトリーに侵入するようなことはしないはずなんだけど……」

ほむら(……!あの……魔法少女……?)


スタンドの存在を確認しにいった……指標として活用したM市の魔法少女。

首に切り傷があり、前の時間軸では水を熱湯にするスタンド使い。

何を考えているのかいまいちつかめない、少し背伸びをする性格の少女。

585: 2013/03/20(水) 00:26:23.66 ID:hYDtyF/6o

ほむら(あの魔法少女が……)

ほむら(彼女がアーノルドになったって……!?)

ほむら(確かに……彼女は、引力の魔女レイミになるかもしれなかった魔法少女の知り合いだ)

ほむら(スタンドを作りだした魔女の、生前の知り合いなら……)

ほむら(もしかしたら……スタンドのある魔女もあり得ない話ではないのかもしれない……)

キリカ「……しろまる。今すぐこっから失せてもらいたい」

QB「……聞かれたから答えたのに、人間はいつもそうだ……」

QB「わけがわからないよ……」


QBは闇に溶けるように消えた。

さやかは聞き間違いかと思っていた。

杏子は比喩的な表現かと思っていた。


586: 2013/03/20(水) 00:26:55.52 ID:hYDtyF/6o


杏子「……おい、どういうことだ」

さやか「い、今……キュゥべえが言ったのって……転校生……?」

ほむら「…………」

杏子「お、おい……黙るな。言え……ヤツは、どういう意図があってそんなことを言った!?」

さやか「転校生!まさか、違うよね……!?魔法少女って……もっと良い物だよね……?」

ほむら「…………」

キリカ「……恩人、もう時間がないと呉キリカは考える」

キリカ「ここは、もう教えてやるべきだ」

キリカ「魔法少女の真実を」

ほむら「…………」

さやか「魔法少女の……」

杏子「……真実、だと?」


587: 2013/03/20(水) 00:28:15.63 ID:hYDtyF/6o

ほむら「し、しかし……」

ほむら「いくらなんでも……早すぎるわ……!」

ほむら「美樹さやかは魔法少女になってまだ数時間も……」

キリカ「私は知っているからまだいいが、二人に教えておくに越したことはない」

キリカ「既に一人逝ったんだ。もしそういう時が起きてしまった際、混乱が起きる」

キリカ「起こりうるんだよ。実際に……」

キリカ「さやかだって、私がグリーフシードをあげてなかったら……」

キリカ「私だって、恩人にグリーフシードを貰っていなかったら……」

さやか「キリカさん……あたし、どうなってたっつーんですか……!?」

杏子「ほむら……今すぐに教えろ……!どういう意味だ……!何故、何故そんな辛そうな顔をするんだ……!」

ほむら「……っ」

588: 2013/03/20(水) 00:29:02.78 ID:hYDtyF/6o

「……わたしにも、教えて」

ほむら「!」

ほむら「ま、まどか……!起きていたの……?」

まどか「うん……キュゥべえが来た時に……」

まどか「ほむらちゃん……魔法少女の真実って、何?」

キリカ「……もう、逃げることはできない」

さやか「転校生……!」

杏子「…………」

ほむら「……わかったわ」

ほむら「……みんな。落ち着いて聞いて」

ほむら「ソウルジェムが穢れきると、魔法少女は――」

589: 2013/03/20(水) 00:30:20.05 ID:hYDtyF/6o

ほむらは話すことにした。

魔法少女の残酷な真実。

それを知って、さやかと杏子がどうなってしまうのか。

こればかりは、二人に託すしか他ない。

魂のない肉体、魔女になりうる魂。

最悪、キリカと二人だけで戦うようなことになったとしても、

杏子が絶望して魔女になり襲われるようなことがあっても、

助けてくれなかったとさやかから憎悪の対象にされようとも、

そういうことになる覚悟はできている。

せめて、まどかが契約をしないと思うようになればせめてもの幸いである。

590: 2013/03/20(水) 00:31:40.93 ID:hYDtyF/6o


――この世界のどこでもあり、否なる場所。


魔女の暮らす異空間。

世界の狭間。

ジシバリの魔女アーノルドの結界は、過去の土地をコピーする。

自身というものが存在していないのか、

アーノルドらしさが、この世界にはない。闇、無の空間。

背景のない世界で、その主は持ち込まれた「食糧」を食べている。

そこから少し離れた場所に、アーノルドの使い魔群、ヴェルサスがいる。

もたれ掛かる壁がなければ肘を置けるインテリアもない。

暗闇の世界で、Yuma、Mami、Kirikaが輪をつくって地べたに座り込んでいる。

今日の戦果を報告し合っている。


591: 2013/03/20(水) 00:32:13.61 ID:hYDtyF/6o

Yuma「あ~あ……」

Yuma「なんだ……Kyoko氏んじゃったんだぁ」

Mami「残念ながらね」

Kirika「シビル・ウォーは強いスタンドだが……弱体化してしまった以上仕方がない」

Yuma「それなりに悲しいけど、Yumaにはまだ、お姉ちゃんがいるし……いつまでも悲しんでちゃあいけない」

Mami「その通りよ。Yumaちゃん。よく言ったわ。偉いねぇ~」

Yuma「だからKirikaお姉ちゃんも恋人を殺されたからっていつまでも泣いてちゃダメだよ」

Kirika「あー、うん。そりゃまぁわかってんだけど……」

Mami「それにしたって、情けないわねぇ」

Yuma「Kirikaお姉ちゃんの『チーム』はもう二人も脱落しちゃったよ」

Kirika「ぐぬぬ……」

592: 2013/03/20(水) 00:32:53.42 ID:hYDtyF/6o

Yuma「『追加』する?一人になっちゃったよ?」

Kirika「いや……いいよ。私のクリームは正直単独の方がやりやすい」

Mami「強がりね」

Kirika「違わぁい」

Yuma「じゃあ追加は『Sayaka』のになるね。元々欲しがってたから」

Kirika「好きにしなよ」

Mami「片割れがスタンド使いとは言え、同じ人間にやられたってのはメンツ丸つぶれよね。本当に大丈夫?」

Kirika「大丈夫だってばさぁ、ほむらも『私』もどうにでもなるって」

Mami「ところで、そろそろ『出産』に立ち合いましょうか」

Kirika「うん」

Yuma「わくわくぅ」

593: 2013/03/20(水) 00:34:12.89 ID:hYDtyF/6o


現段階で産まれている同使い魔、ヴェルサスの中に『あるゲーム』をしている小集団がいる。

Oriko、Kirika、Kyoko。対するは、Mami、Yuma、Sayaka。

前の時間軸、概念として対立した間柄。

前の時間軸に関わった概念を多く滅ぼした方のチームの勝ち。

Orikoのチームは美国織莉子と巴マミを殺害した。

Mamiのチームは千歳ゆまと上条恭介を殺害した。

現在同点ではあるが、Orikoのチームは既にKirika以外が脱落している。

『追加』とは、アーノルドが食事を終えて新たに産む使い魔。

その概念はMamiのチームに加入させられる。

594: 2013/03/20(水) 00:34:58.90 ID:hYDtyF/6o

シビル・ウォー 本体:Kyoko

破壊力-なし スピード-C 射程距離-B
持続力-A  精密動作性-C 成長性-D

過去に「捨てたもの」を支配する空間を創造する能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」の幻覚を見せつける。その幻覚は相手に直接襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用する。
結界内で本体が殺された場合、頃した相手に「捨てたもの」を押しつけて生き返るという能力もある。
しかしKyokoは使い魔なので、罪悪感というものがない。
故に押しつける罪も清める罪もないため、罪を押しつけることはできず、殺されると氏ぬ。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

595: 2013/03/20(水) 00:39:14.48 ID:hYDtyF/6o

今日はここまで。お疲れさまでした。
ストーン・フリー覚醒です。やったね!本体よりも胸があるよ!
あとマミさん好きの人ごめんなさい。惜しい人を亡くしました。まだ四話なのに
ネタバレになりますが(個人的な観点で)ハッピーエンドになる予定なんで許してください!何でもしますから!

今更言うのもなんですが、波紋と鉄球はジョジョの空気をメインにしてたけど、スタンド編はまどかの空気がメイン……というのを意識してます
そのコンセプトでこれっていうのも色々とアレな気はいたしますが
いやぁ、ほむらの行動……改めて見るとブチャラティがアバッキオを一人置いて離れた並にもやもやですねぇ……

ちなみにシビル・ウォー戦でキリカが捨てたものってのは、別に何を意識したというのもありません。
織莉子なり親なりきらマギに出てきたえりか(?)なり、フリーにご想像ください


深夜のテンションついでで余計なこと書いておきます。
自演だとかステマだとかは今更過ぎるんで別にどうでもいいことではありますが、
そういったことはしていないと一応は弁明しておきます。元々安定してレスいただいてますからする意味もないですし
まぁどうせ匿名掲示板なんで信じない人は信じないことですが

引用: まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」