608: 2013/03/24(日) 23:52:38.41 ID:7yEfXCmko


織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その1】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その2】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その3】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その4】
織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」【その5】


まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その1】
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」【その2】

もう誰にも頼らない
#21『私達、親友だったんだよ』



『ストーン・フリー』


糸の形の時は遠い距離まで行ける……。

でも力が弱く、ダメージも受けやすい……。

立体になり固まれば……力も集中して強くなる。

しかし、逆に距離はせいぜい……二メートル。

この「ストーン・フリー」で鉄板を破れるか?

いや、それは不可能だった。

コンクリートブロックを殴り砕く程度はできる。

突如発現した私の『精神のエネルギー』


まず把握しなくては……能力の汎用性を……。

609: 2013/03/24(日) 23:53:16.50 ID:7yEfXCmko

昨日――病院に生じた結界へ行く前のこと。

美国邸に警察の人間が入っていったのを見かけた。

織莉子が行方不明になったことが、ようやく世間に認知されたようだ。

やっと、だ。今更だ。警察をのろまだのなんだの非難するつもりはない。

数日経ってやっと織莉子の失踪が社会に知れたということは、

逆に言えば白百合女子中学校の連中は今日の今日まで

誰も織莉子の無断欠席を不審に思わなかったということになるからだ。

電話くらいはしただろう。当然留守番電話だ。

それを踏まえてやっと織莉子がこの世からいなくなったという事実へ踏み込んだ。

……織莉子の父親は、政治家だった。

それも人徳があり、尊敬される人物だったそうだ。

その娘である織莉子もまた、敬われた。

しかしそれは、父親が政治家だったからに過ぎなかった。

610: 2013/03/24(日) 23:54:14.54 ID:7yEfXCmko

織莉子の父親は不祥事をやらかして自頃した。

同時に織莉子の評価も地に落ちた。手の平返し。

周りの人間は織莉子の父親の影しか見ていなかったんだ。

汚職議員の娘という肩書きが汚らわしく見えたのだろう、

だから発見が遅れたんだと思う。関心がなくなったんだ。

クラスメートも教師も……織莉子から目を逸らしたんだ。

……織莉子の遺伝子の半分は彼のもの。

過去のことだということもあるし、そんなことをした織莉子の半分を軽蔑する気はない。

非難すべきは、織莉子を見捨てたヤツらだ。

一人暮らしの女子生徒の数日に渡る音信不通を不審に思わない薄情者共だ。

美国議員の娘の失踪がニュースになってマスコミ連中が来たら、

そういうヤツらはぬけぬけと都合の良いことを抜かすんだろう。腹立たしい。

611: 2013/03/24(日) 23:55:40.19 ID:7yEfXCmko

私は違う。

私は織莉子の人間性に惚れ込んだんだ。

織莉子はこんな私に優しくしてくれた。

私を必要としてくれた。頼りにしてくれた。

私の心は織莉子という天使、いや、女神と出会って生まれ変わったんだ。

……いや、生き返ったと言ってもいい。それまでの私の心は氏んでいた。

私こそが織莉子の最愛の人になれる。

織莉子を愛する資格を持つ。

そう思っていた。

だから私の味覚も嗅覚も、織莉子が一番なんだ。


612: 2013/03/24(日) 23:56:21.43 ID:7yEfXCmko

キリカ「恩人には悪いけど……」

キリカ「織莉子のじゃないと、こんなに美味しくない」


織莉子の家にはもう行けない。家にはいたくない。学校へは端から行く気がない。

キリカは今、家出のような形でほむらの家に居候をしている。

こぢんまりとしたアパートの一室。

作り置きの食事が小さなちゃぶ台に置かれている。

料理は上手だが、味覚が合わない。

キリカは昼食を横目にごろりと畳に寝転がる。

床の隅に銃弾が一個転がっていた。

「完璧に見えてどこか抜けている」

一夜ほむらと過ごして感じた内面。

613: 2013/03/24(日) 23:58:20.41 ID:7yEfXCmko

キリカ「恩人は学校へ行ったけど……」

キリカ「昨日の今日で、まどかやさやかは大丈夫なんだろうか」

キリカ「……キョースケっていうのも行方不明になったんだっけか」

キリカ「一人暮らしの織莉子やマミと違って彼は入院患者だ……いなくなったことがわからないということはなかろう」

キリカ「誘拐されたとか、そんな話になるのかな?学校の対応としては……生徒を不安がらせないために、内密にするんだろうか」

キリカ「相談中って、とこだろうか……」

キリカ「……あぁ、落ち着かない」

キリカ「おつかいにでも行こうかな」


キリカは食べかけの食事にラップをして冷蔵庫へ入れた。

居候先の家主から託されたメモと財布。居候として暮らす上の義務を果たすべく、

キリカはそれらと合い鍵を持ち、外出することにした。

そしてふと、最近の天気は晴ればっかりだなと思った。

614: 2013/03/25(月) 00:00:02.61 ID:9VFusYaAo

見滝原中学校は、いつも通りであった。

毎日の通り、仁美は温厚な微笑みと共に丁寧に挨拶をした。

担当教諭の和子は何やら浮かない表情をしていたが、普段通りだった。

今日、さやかは学校を体調不良により欠席した。

まどかは欠席さえしなかったものの、一日中魂が抜け出たかのような沈んだ表情をしていた。

仁美やクラスメート、教師はその様子を心配に思ったが、

まどかは力無く微笑み、大丈夫と言った。

事情を知っているほむらにしてみれば、

その弱々しい笑顔はとてもいじらしい。

ほむらはなるべく、普段通りを振る舞った。

まどかを気にしている内に放課後になっていた。

幸か不幸か、マミと恭介がこの世から消えたということは今のところ誰も知らない。

615: 2013/03/25(月) 00:01:21.24 ID:9VFusYaAo

ほむら「……まどか。大丈夫?」

まどか「うん……大丈夫だよ」

ほむら「…………」

ほむら「……美樹さやかのことが心配なのね」

まどか「…………」

ほむら「……無理もないわ」

ほむら「…………」

仁美「まどかさん。ほむらさん」

ほむら「志筑仁美……」

まどか「……仁美ちゃん」

仁美「……あの、つかぬ事を聞くんですが……」


616: 2013/03/25(月) 00:02:16.52 ID:9VFusYaAo

仁美「さやかさん、メールアドレスを変えたりしてましたか?」

まどか「ううん、してないよ」

ほむら「……どうかしたの?」

仁美「メールを送っても返信がないんですよ」

仁美「明日のことで連絡したいことがあるのに……」

まどか「返事が来ない……?」

仁美「えぇ」

ほむら「そう、返事が……」

ほむら「後でこっちの方でも連絡してみるわ」

ほむら「繋がり次第、あなたに連絡をするように伝えておく」

仁美「すみません。助かります」

617: 2013/03/25(月) 00:03:04.00 ID:9VFusYaAo

仁美「それじゃあ、私は今日もお稽古があるんで」

まどか「……うん」

ほむら「いつも大変ね」

仁美「いえいえ」

仁美「ところで……今日もお二方は『マミさん』のところに行きますの?」

まどか「……ッ!」

ほむら「…………」

仁美「私はなかなか機会がなくてお会いしたことありませんが……」

仁美「いつか私にもマミさんを紹介してくださいね」

まどか「…………」

仁美「……まどかさん?ど、どうかなさいました?」

618: 2013/03/25(月) 00:03:45.45 ID:9VFusYaAo

まどか「……ごめん。わたし、先帰るね」

仁美「え?あ、はぁ……」

ほむら「まどか……」

まどか「また明日ね」

仁美「え、えぇ……」

仁美「今日のまどかさん、どうかしたのでしょうか……?」

仁美「もしかして……『あの日』だったとか……」

ほむら「…………」

ほむら(……巴さんのことを知らないのだから、仕方がないわね)

ほむら「志筑仁美……その……何と言えばいいのか……」

仁美「?」

619: 2013/03/25(月) 00:04:30.81 ID:9VFusYaAo

ほむら「その、まどかとさやかは今……巴さんとケンカをしているの」

仁美「そ、そうだったんですか……?」

ほむら(嘘をついた……でもこのくらいの嘘許されるはず)

ほむら(……それに魔法少女のことを喋る訳にはいかない)

ほむら「だから……二人のことを思うなら、放っておいてあげて」

ほむら「話題に出すなというのもなんだけど……理解して」

仁美「さやかさんも……ですか」

仁美「それなら私……まどかさんに気まずいことを言って……」

ほむら「仕方ないわ。知らなかったのだし……言わなかった私にも落ち度がある」

仁美「…………」

ほむら「これから習い事だというのに後味の悪い思いをさせてごめんなさい」

仁美「い、いえ……ほむらさんが謝ることなんて……!」

620: 2013/03/25(月) 00:05:02.07 ID:9VFusYaAo

仁美「…………」

仁美「……ほむらさん」

ほむら「……何かしら」

仁美「その……」

仁美「変なことを聞くようですが……」

ほむら「?」

仁美「……ほむらさんも、無理してませんか?」

ほむら「……え?」

仁美「私、まだあなたのことあまり存じませんが……」

仁美「何となく……思うんです。ほむらさんも、巴さんと……?」

ほむら「……私は大丈夫よ。何の問題もないわ」

621: 2013/03/25(月) 00:07:17.72 ID:9VFusYaAo

仁美「そう……ですか。ならいいんですが……」

仁美「えっと……それじゃあ、私はそろそろ」

ほむら「えぇ」

仁美「それでは、また明日……まどかさんを、よろしくお願いしますね」

ほむら「……えぇ、さようなら」

ほむら「…………」

ほむら(無理してないか、か……)


志筑仁美……。

元々気遣いができる優しい人ではあるけど、まさか彼女に心配されるなんてね。

この時間軸での巴さんは初対面なのに無理してるとか言われたけど……。

そんなにもわかりやすいのかしら。私は。

622: 2013/03/25(月) 00:09:17.67 ID:9VFusYaAo

志筑仁美もまた……美樹さやかと同じく、上条恭介に恋心を抱いている。

きっと、この時間軸でもそうだろう。

恋敵であるはずの美樹さやかを気遣い、その好意を隠す、

正々堂々、芯の通った性格をしている。

しかし……何にしても彼の氏をいつか知らされることになる。

大きなショックを受けることになるだろう。

思いを伝えられないまま好きな人を亡くしてしまうなんて……

恋愛にトラウマを抱くなんてことがなければいいが……


ほむら「…………」

ほむら(さて……どうしたものか)


623: 2013/03/25(月) 00:09:50.46 ID:9VFusYaAo

ほむら(美樹さやか……)

ほむら(ケータイの電源を切っているのか、家に置きっぱなしなのか)

ほむら(家に引きこもっているというのは考えにくい)

ほむら(彼女を捜すべきか?)

ほむら(しかし佐倉杏子の様子も気になる)

ほむら(呉キリカにも同行してもらおう)

ほむら(何にしてもまずは一度家に帰らなければならない)

ほむら(まどかを追いかけた方がいいだろうか……)

ほむら(でも……一人にさせた方がいい時というのもある)

ほむら(魔女になるということを知ってる以上……契約することはないだろうけど……)

624: 2013/03/25(月) 00:10:27.96 ID:9VFusYaAo


頭が働かない。


体から力を感じない。体重すら感じない。

まるで関節部分が糸で吊された、操り人形のような気持ちだった。

昨日、マミという尊敬する先輩、恭介という友人の氏を突きつけられた。

昨夜、魔法少女という存在の真実を知った。

その時の幼なじみの失意の表情は、見ていてとても辛かった。

友達が「そんな存在」になった。

友達が「そんな存在」だった。

昨日から、喪失感が心を締めつける。

果たしてどれだけ涙を流したことか、記憶にない。

気が付けば朝だった。

625: 2013/03/25(月) 00:11:31.14 ID:9VFusYaAo

やっと泣かずに家族と会話できるようまで、その感情を抑えられるようになったにもかかわらず、

仁美にマミの名前を出され、逃げるように行ってしまった。

再びわんわんと泣きかねなかったのだ。

そして呑気にもマミという名を出した仁美が、心のどこかで憎らしく思ってしまった。

事情を知らないのだから当然なのに、

気を使わせてしまい、そんなことを思ってしまい、

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「君も僕のことを恨んでいるのかな?」

まどか「…………」


力無く歩むその足下を、いつの間にか並行していたキュゥべえは言う。

可愛らしい小動物に思っていた「それ」も、

末恐ろしい悪魔の使いのように思えた。

626: 2013/03/25(月) 00:12:09.42 ID:9VFusYaAo

昨夜、ほむらから聞いた魔法少女の悲しい真実。

魔法少女の魂はソウルジェム。体を抜け殻にされる。

そして、そのソウルジェムが穢れきると魂は魔女となる。

そのことを内密にし、騙すようにして「搾取」しようとした。

もっともキュゥベえ自身には、人を騙しているという自覚がない。


まどか「……あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる?」

QB「それは無理だね」

まどか「…………」


期待はしていない。

するだけ無駄であるという実感がある。

無駄なことをする気力はない。

627: 2013/03/25(月) 00:13:02.53 ID:9VFusYaAo

まどか「……ねえ」

QB「何かな」

まどか「いつか言ってた、わたしがすごい魔法少女になれるって話……」

まどか「あれは本当なの?」


マミと出会い、そしてキュゥべえと会った日。

その時にキュゥべえは話していた。

まどかには素晴らしい、魔法少女の素質を内包している。

さやかを差し置いてまどかの素質を誉めていた。

そのためさやかは拗ねていた。

あの時は、戸惑いと誇り高い気持ちと照れがあった。

あの時は、魔法少女がどんな職業よりも素敵なものだと思っていた。

628: 2013/03/25(月) 00:13:32.00 ID:9VFusYaAo

QB「すごいなんていうのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ」

まどか「どうして、わたしなんかが……」

QB「僕にも分からないが……君の潜在能力は、理論的にはあり得ない規模のものだ」

QB「君が力を開放すれば奇跡を起こすどころか、宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう」

QB「何故君一人だけが、それほどの素質を備えているのか……」

QB「理由は未だにわからない」


あり得ない程の潜在能力……。

……もし、わたしが魔法少女になって、それで魔女になったらどうなるんだろう。

キュゥべえに聞けば、きっと答えてくれる。

でも……さらっと「日本を滅ぼしかねない」とか言われたら反応ができなくなっちゃう。

629: 2013/03/25(月) 00:14:35.63 ID:9VFusYaAo

まどか「……わたしは自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってた」

まどか「ずっとこのまま誰のためになることも何の役に立つこともできずに……」

まどか「最後までただ何となく生きていくだけなのかなって」

まどか「それは悔しいし寂しいことだけど、でも仕方ないよねって思ってたの」

QB「現実は随分と違ったね」

QB「まどか。君が望むなら全てなかったことにできるよ」

まどか「……なかったこと?」

QB「そう。なかったこと……時間を巻き戻すという意味ではない」

QB「契約なら、さやかの体を元に戻すこともできる」

まどか「……っ」

QB「それだけじゃないよ」

630: 2013/03/25(月) 00:15:08.60 ID:9VFusYaAo

QB「肉体は既に存在しないが、マミやさやかの幼なじみだという上条恭介という少年を生き返らせることだってできる」

QB「君がその気になればだけれど……」

QB「キリカの親友である美国織莉子という人物、杏子と行動を共にしていた千歳ゆまという人物を生き返らせたってお釣りが出るくらいだ」

QB「逆を言えば君でないと取り戻せない。取り戻すに顔を知らなくたって構わない」

まどか「…………」


美国織莉子さん……。

キリカさんにとって、この世の誰よりも大切だという人。

千歳ゆまちゃん……。

ご両親が魔女に殺されて、杏子ちゃんがお世話をしていたという子ども。

わたしなら、その二人を取り戻せる。

さやかちゃんの魂も、マミさんも、上条くんも、大勢の命も、

わたしが魔法少女になれば……。

631: 2013/03/25(月) 00:15:54.82 ID:9VFusYaAo

まどか「……わたしなら、できるの?」

QB「と言うと?」

まどか「わたしがあなたと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せる?」

まどか「マミさんも、上条くんも、織莉子さんもゆまちゃんも取り戻せる?」

QB「その願いは君にとって、魂を差し出すに足る物かい?」

まどか(わたしが願えば、みんな……)

まどか(みんな、笑顔になれるんだ)

まどか(わたしごときの命で……)

まどか(わたしが願うことでみんな……取り戻せる)

まどか「それなら……わたし……」


「その必要はないわ」

632: 2013/03/25(月) 00:16:46.63 ID:9VFusYaAo

聞き慣れた声がした。

そして同時に、視界の隅に何かが横切った。吹き飛んでいった。

まずは「それ」を確認する。

ゴミ捨て場に放置されていた継ぎ接ぎだらけの人形のような物体。

まどかはそれが何かを知っている。初見で理解できる。

使い魔。

魔女が産む、配下のようなもの。

次に、声のした方を見た。

黒い長髪が揺れ、凛とした目と目が合った。


まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「…………」

633: 2013/03/25(月) 00:17:15.95 ID:9VFusYaAo

ほむら「呉キリカ。まどかは任せるわ」

キリカ「はいよ。恩人」


ほむらの隣にいたのは、眼帯をした黒い魔法少女、キリカだった。

キリカはまどかの横に移動した。

ほむらは振り返り駆けていった。


まどか「え……」

キリカ「怪我はないかい?まどか」

まどか「あ、は、はい……」

キリカ「私から離れるなよ……使い魔が狙ってるからな」

まどか「使い魔……」

まどか「……!」

634: 2013/03/25(月) 00:17:42.71 ID:9VFusYaAo

気が付かなかった。

自分が今いる場所。

空が空でない。

屋内のようで、屋外のようでもある。

歪な形のオブジェが点在している。

無造作に選んだペンキをブチ撒けたかのような色彩感覚。

『魔女の結界』だった。

ほむらが駆けていったのは、魔女の方だった。

ほむらの体が人形に見える程の大型の魔女。

もしかしたら「これ」は、かつて魔法少女だったのかもしれない。

マミのような「いい人」が絶望した姿なのかもしれない。

目を背けたくなる。

635: 2013/03/25(月) 00:18:15.12 ID:9VFusYaAo

キリカ「まどか……目を背けちゃダメだよ」

キリカ「恩人の戦いを見るんだ」

まどか「…………」

キリカ「君がマミから魔法少女ってのがどんなものだと教えられたのかは知らないが……」

キリカ「これが魔法少女だ」

キリカ「そして宿命なんだ」

まどか「宿、命……」

キリカ「……いや、今の君に言っても仕方がないか」

まどか「……?」


キリカは、象の何倍もの大きさの魔女を指さした。

ほむらの華奢な体は、大きな異物に立ち向かっている。

636: 2013/03/25(月) 00:19:13.28 ID:9VFusYaAo

趣味の悪いオブジェとオブジェを、ほむらはタン、タン、と飛び移る。

跳躍力――現在、4m22

魔女への接近を妨げようと、羽根のような突起が生えた使い魔が飛び、向かってくる。

ほむらの跳躍の軌道上に重なってきた。


ほむら「……退きなさい」

ほむら「ストーン・フリー!」


空中でほむらは体幹をひねり、回転と共に腕を突き出す。

ほむらの右腕に半透明の像が浮上し、二本の右腕が使い魔に迫る。

ドグシァッ!

精神力で生成された糸の塊は、虫を払うように何てこともなく使い魔を殴り飛ばした。

ストーン・フリーのパワーであれば一撃で葬れる。

637: 2013/03/25(月) 00:19:56.73 ID:9VFusYaAo

しかし、使い魔を殲滅させるつもりはない。

魔女を急いで倒さなければならない。


ほむら「この魔女……!」

ほむら「よくも『こんな状態』のまどかを狙ってくれたわね」

ほむら「……一気に片をつける」

カチリ

一刻も早く、魔女を葬らなければならないことには変わらないが、

スタンドの経験値を得るためにも銃器は使わない。

遠距離攻撃主体から、近距離攻撃のみの転換。

ストーン・フリーにパワーを備えさせるには、射程距離を犠牲にしなければならない。

しかし、射程距離が短いというのであれば、時間を止めて接近すれば何も問題はない。

638: 2013/03/25(月) 00:21:34.23 ID:9VFusYaAo

――時間停止と近距離武器。

この組み合わせで思うこと。

かつて二人の魔法少女に時間停止の魔法を披露した時のこと。

ゴルフクラブでドラム缶を殴り、近距離武器との相性の悪さを指摘された。

時間停止の使用者が鈍くさかったということもある。

物理で殴るよりも、爆弾を仕掛け爆破させる方が圧倒的に強い。

また、時間停止をしている間、物体は殴る瞬間だけ、その魔法の影響を受けないという特徴がある。

つまり触れた一瞬だけ時間停止の世界に相手を入門させてしまう。

機械操作の技術のように、訓練次第ではその辺りの調節が後付けで、

いつかできるようになるかもしれない。

少なくとも今はできない。

それが時間停止魔法の弱点。


639: 2013/03/25(月) 00:22:32.32 ID:9VFusYaAo

――ほむらの背後から、半透明の人型のヴィジョンが出る。

糸の塊。ストーン・フリーの近距離パワー型のフォルム。


ほむら「射程距離……二メートルに入った」

ほむら「ストーン・フリー!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


ストーン・フリーは勇ましい声をあげながら、

拳の高速ラッシュを叩き込む。

スタンドで触れても、魔女は時間の止まった世界に一瞬だけ片足を入れさせてしまう。

しかし、行動の隙は与えない。

結果的に、いつの間にか近寄られ為す術なくタコ殴りにされる。

至高の戦法。

640: 2013/03/25(月) 00:23:25.60 ID:9VFusYaAo

ただし、アーノルドの使い魔の総称、ヴェルサスはほむらのことを知っている。

時間停止の魔法を知っている。

病院で杏子の姿の使い魔――Kyokoは幻惑魔法により、ほむらを罠に嵌めようとしていた。

あの時、時間を止めて狙撃をしたとしても、あれはシビル・ウォーの幻覚であり偽物だった。

具体的な策は不明に終わったが、時間停止は対策されていた。

同様に、他のヴェルサス相手に通用しない可能性がある。

勝利には常に相手より一手二手先を行き、上回る必要がある。

対策の対策。それが今のほむらの課題。


「オラァァッ!」

ほむら「……やれやれだわ」

ほむら「こんなのを相手に、消耗なんて……していられない」

ほむら「そして時は動き出す」


641: 2013/03/25(月) 00:24:11.61 ID:9VFusYaAo


夕日に照らされた公園。


名前も知らない魔女を撃破し、まどかは二人の魔法少女に連れられた。

まどかはベンチに座らされる。

三人の後をひょこひょことついてきたキュゥべえはその隣に「おすわり」をした。

前方に、ほむらとキリカが立っている。

傾いた日差しにより影のあるキリカの顔は、少し不気味に見えた。


まどか「…………」

まどか「あの、わたし……」

キリカ「……君は『魔女の口づけ』をくらっていたんだ」

まどか「魔女の口づけ……?」

まどか「わたしはいつも通りでしたけど……」

ほむら「自覚がないのが魔女の口づけ」

ほむら「あなたの落ち込んだ気分……そこを狙われてしまったのよ」

642: 2013/03/25(月) 00:24:40.11 ID:9VFusYaAo

ほむらは前屈みになり、まどかの首に手を回し、うなじに触れた。

ひんやりとした指が心地よかった。

そこに魔女の口づけを受けていたらしい。

いつどこでついたのかわからない。


キリカ「それはそうと……しろまる」

キリカ「魔女の口づけがついてまともじゃない精神状態で契約を持ちかけるとはね……つくづくムカつく」

QB「いいや。まどかがいつも通りだと自覚していた通り、まどかの精神はまともだったよ」

QB「この魔女の口づけで、ほんの少し心底の欲求に忠実になっていただけさ」

ほむら「そんなこと……」

QB「疑うなら本人に聞いてみればいいんじゃないかな」

QB「あの時のまどかは、魔女の口づけの補正を考慮した上でも、自分が犠牲になれば、さやかもマミも織莉子もゆまも上条恭介も取り戻せるって、本心で思っていた」

ほむら「…………」

QB「そもそも、気が付いた時には魔女の結界にいたんだ」

QB「僕の勧誘行為はむしろ、魔法少女にさせて魔女から助けてあげようとしていたと言えるんじゃないかな」

643: 2013/03/25(月) 00:25:19.64 ID:9VFusYaAo

ほむらはまどかの目をじっと見つめる。

影のせいで、目から感じさせるものが温かいか冷たいか、それが判断できない。

まどかは目を逸らす。


ほむら「まどか……」

まどか「…………」

ほむら「……本当なの?」

まどか「……え、えっと」

ほむら「本当にあなたは、そう思ったの?取り戻そうと思ったの?」

ほむら「自分の命を引き替えにしてもいいって思ったの?」

まどか「…………」

キリカ「……恩人。私に免じて、攻めるような言い方はやめてあげて」


644: 2013/03/25(月) 00:25:49.78 ID:9VFusYaAo

ほむら「…………」

キリカ「まどかはさ……会ったこともないのに織莉子やゆまって子を生き返らせたいと思ったんだろう」

キリカ「大して親しくもない私や杏子を思って……優しいヤツじゃあないか」

ほむら「……まどかは優しすぎるのよ」

キリカ「そうだね……お人好しが過ぎる」

キリカ(今という現実があるから何とも言えないことだけど……)

キリカ(もしかしたらこんな『気のいいヤツ』を殺さなければならなかったのかもしれなかっただなんて、チト心苦しいな)

キリカ(別に織莉子を否定するつもりはないし……織莉子の命令なら何てこともなく殺せるだろうけど……)

キリカ(……まぁ、今は関係ないことだけどね)

キリカ「まどか。悪いがハッキリ言わせてもらう。君がついでで生き返らせようとした私の織莉子のことだ」

まどか「織莉子さんのこと……?」

645: 2013/03/25(月) 00:26:33.30 ID:9VFusYaAo

キリカ「織莉子はね、予知能力者だったんだ。そういう魔法少女だった」

キリカ「そして、君が滅茶苦茶おっそろしい魔女になるっていう予知を見た」

まどか「え……!」

まどか「恐ろしい……魔女……?」

キリカ「何がどう恐ろしいかは私の口からは言いたくない」

キリカ「しかしまぁ、この際ぶっちゃける。私を軽蔑してくれても構わない」

キリカ「そういう魔女の誕生を未然に防ぐため、私と織莉子は君を頃すつもりでいた」

まどか「ッ!?」


背中にツララをあてられたような気分になった。

冗談ではない。偽りでもない。人頃しの目。氷の瞳。

まどかはごくりと唾を飲んだ。

646: 2013/03/25(月) 00:27:24.37 ID:9VFusYaAo

キリカ「まぁあの時はそれが君だってことは特定するには至ってなかったが……」

キリカ「なんだかんだでその織莉子は殺されてしまった」

キリカ「そして、私は恩人に助けられた」

キリカ「恩人の目的は、君を魔法少女にさせないこと。私達と少し似ていた」

キリカ「その魔女の誕生を防ぐこと。それが恩人の目的」

キリカ「そして、織莉子の遺志だと私は受け取ることにした」

キリカ「まぁ織莉子だったら確実な手段だと言って抹殺の方向性を曲げることはなかったかもしれないが、それはさておき」

キリカ「もし、君が織莉子の遺志を踏みにじる行為に至ろうと言うのであれば……」

キリカ「その時は君を『殺さ』せてもらう」

まどか「……!」

キリカ「痛みは感じさせない。首を斬り落とさせてもらう」

647: 2013/03/25(月) 00:28:02.77 ID:9VFusYaAo

キリカ「異論はないよね。恩人」

ほむら「…………」

まどか「ほ、ほむらちゃ……」

ほむら「…………」

キリカ「沈黙は肯定ととるよ。魔法少女となったまどかに守る意義なし、と」

まどか「そ、そんな……」

キリカ「いいね。命が惜しかったらせいぜいしろまるの言葉を無視することだ」


キリカの口は笑っていたが、目は一切笑っていない。

安心をさせるための笑顔なのかもしれないが、尚更まどかの不安を煽ることになる。

ほむらの無言と、怒っているようで悲しんでいるようにも取れる表情がさらに煽る。

648: 2013/03/25(月) 00:28:42.29 ID:9VFusYaAo

QB「……やれやれ」

QB「契約をすれば頃すだなんて、手厳しい手段をとるものだ」

QB「殺されるとなると、契約をするにできないね」

QB「僕としても、まどかを氏なせたくないからね」


キュゥべえは特に口調を変えるわけでもなく、淡々と言った。

「氏なせたくない」

あたかも人情家を気取るような表現だと、ほむらは思った。


QB「人間がよくよく口にする友情だとか絆だとか……」

QB「ほむら、君にはそういうのはないのかい?」

QB「友達を殺させるのを容認するなんて、わけがわからないよ」

まどか「……」

ほむら「……っ」

649: 2013/03/25(月) 00:30:19.57 ID:9VFusYaAo

キリカ「織莉子を生き返らせる……とっても魅力的だし、是非そうしてくれと言えるならどれだけ幸せなことかと思う」

キリカ「私は……恩人のことを恩人と呼んでいるから、意志に従い君を頃すとか。そういうことを言ってるんじゃあない」

キリカ「覚えておくといい。私個人として、君を頃すことには躊躇はない」

まどか「…………」

キリカ「恩人。私は行く。まどかと二人きりで話すといい」

キリカ「あまり遅くなる前に、まどかを送ってあげてさ……」

キリカ「私は……しばらく歩きたい気分なんでね」

ほむら「……えぇ」

キリカ「あと私個人として腹が立ったからしろまる、おまえは後でケチョンケチョンにしてやる」

QB「えっ」


キリカはキュゥべえの頭を鷲掴み、早歩きで去っていった。

夕日は沈みかけ、橙色の空は藍色に侵食されつつある。

ほむらは何も言わず、まどかの隣に座った。

布が擦れる音と水の音。大型車の遠い走行音が耳に入る。

650: 2013/03/25(月) 00:31:26.64 ID:9VFusYaAo

お互い顔が見れない。

二人とも、地面を見つめている。

沈黙を最初に破ったのはまどかだった。


まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんって、わたしの何なの?」

ほむら「…………」

ほむら「……友達、よ」

まどか「……友達」

まどか「…………」

まどか「……友達って、そんなに悲しい声で言われる言葉なのかな」

ほむら「…………」

651: 2013/03/25(月) 00:31:54.26 ID:9VFusYaAo

まどか「ほむらちゃんは……さやかちゃんやマミさんを……友達と思ってないの?」

まどか「一緒に学校行ったり、お昼ご飯一緒に食べたよね」

まどか「放課後、マミさんの家で美味しそうに紅茶を飲んでたよね」

まどか「ほむらちゃん、全然笑ってくれないけど、とっても楽しんでいるように見えたよ?」

まどか「なのに……それなのに……」

まどか「どうしてそんな冷たい言い方ができるの……?」

まどか「わたし、マミさんが大好きだし、さやかちゃんを助けたい」

まどか「キリカさんのお友達の織莉子さんって人も、ゆまちゃんっていう子も、上条くんも取り戻せるんだよ?」

まどか「わたしなんかが魔法少女になるだけで、みんな元に戻る……笑顔を取り戻せる」

まどか「できることを、どうして止めるの?」

ほむら「…………」

652: 2013/03/25(月) 00:32:44.93 ID:9VFusYaAo

まどか「キュゥべえは……わたしがすごい魔法少女になれるって言ってた」

まどか「それってつまり、どんな魔女にも負けないってことだよね」

まどか「もちろんわたし……怖いよ。魔女……」

まどか「あんなのと戦うのも怖いし、それになっちゃうかもしれないなんて、氏んでも嫌だって思う」

まどか「でもほむらちゃんとキリカさんは……それを知っていたのに、力強く生きてるよね……」

まどか「わたしには、二人がやってることはできないのかな?」

ほむら「…………」

まどか「……わたしにはわからないよ」

まどか「どうしてあなたは、悲しまないなんてことができるのか……」

ほむら「……あなたのためよ」

まどか「……確かに」

まどか「……確かにそうかもね」

653: 2013/03/25(月) 00:33:41.92 ID:9VFusYaAo

まどか「わたしが契約したら魔女になるっていう予知なんだもんね」

まどか「わたしが言ってることが自分勝手なことだってのはわかってる。間違っているってわかってる」

まどか「だけど……だけど契約したら見捨てるだなんて、そんなの酷すぎるよ」

ほむら「…………」

まどか「ごめんね……。わたし、あなたのこと理解できない。わからないよ」

ほむら「……い」

まどか「…………」

ほむら「に……ない……!」

まどか「……ほむらちゃん?」


ほむら「悲しいに決まってるじゃないッ!」

まどか「ッ!」

654: 2013/03/25(月) 00:34:13.94 ID:9VFusYaAo

ほむら「悲しまないなんて……そんなことない……!」

まどか「ほ、ほむらちゃ……」

ほむら「悲しいに……決まってるよ……!」

ほむら「私は……私はそんな……」

ほむら「私は……強くなんかない……!」

まどか「…………」


今まで聞いたことのないような声。

まどかは思わずほむらの方を向いた。

ほむらは泣いていた。

頬にキラキラした線がひかれている。

655: 2013/03/25(月) 00:35:28.20 ID:9VFusYaAo

先程までほむらは、冬場に放置された鉄のような冷たい目、シルク生地のような肌をしていた。

その目からポロポロと雫を落とし、肌は紅潮している。夕日のせいでは決してない。

話している間に、じわじわと涙を滲ませていたのだろうか。

まどかはその変化に、俯いていて気が付けなかった。

溢れる涙を堪えることさえ忘れて、震える声でほむらは言った。


まどか「な、涙……」

ほむら「私だって辛いよ……とっても悲しいよ……」

ほむら「巴さんも、ゆまちゃんも亡くなって……!」

ほむら「美樹さんを助けることができなくて、佐倉さんと巴さんを仲直りさせられなくて!」

ほむら「悲しくて悔しいよッ!」

ほむら「だけど……それでも!それ以上に……!」

ほむら「それ以上にあなたには契約なんてしてほしくないッ!」

ほむら「魔女になるだとか、そんなの関係ない!」

ほむら「私は……犠牲を覚悟して、あなたのために……!」

まどか「わ、わたし……」

656: 2013/03/25(月) 00:36:27.70 ID:9VFusYaAo

ほむらはまどかの両肩を掴み、

涙を溜めた潤んだ瞳で、戸惑いの表情を見つめる。

まどかは、妙な感覚を覚えた。形容しがたい、煙のような感覚。


ほむら「あなたを失えば、それを悲しむ人がいるのに……」

ほむら「あなたを守ろうとしてた人はどうなるというの……!」

まどか「…………」

ほむら「……まどか」

ほむら「お願い……」

ほむら「お願いだから……あなたを私に守らせて……!」

ほむら「何も考えなくてもいい。ただ黙って守られて……」


全てを打ち明けたい。

マミが魔法少女というものを、苦労を共有したいと思ったように、

自分の覚悟をまどかに共有させたい。

657: 2013/03/25(月) 00:37:20.77 ID:9VFusYaAo

しかし、まどかのような優しい性格に、自分のことを話すと間違いなく同情される。

今の精神状態で慰められるのは惨めなだけだ。

もう二度と、弱い自分を出したくない。

あるいは自分で気付いていないだけで既に出ているのかもしれない。


まどか「…………」

ほむら「…………」

ほむら「……ごめんね。わけわかんないよね。気持ち悪いよね」

ほむら「あなたにとっての私は、出会ってからまだ一ヶ月も経ってない転校生でしかないものね」

ほむら「だけど私は……私にとってのあなたは……」

まどか「……お願い」

ほむら「まどか……」

まどか「お願いほむらちゃん。教えて」

ほむら「…………」

658: 2013/03/25(月) 00:38:22.99 ID:9VFusYaAo

まどか「あなたにとってのわたしは、本当はどういう存在なの?」

まどか「ただの友達じゃない、よね……」

まどか「私たちはどこかで……どこかで会ったことあるの?私と」

ほむら「そ、それは……」

まどか「ほむらちゃん。あなたにとってのわたし……それを教えて」

ほむら「まどか……」


……前から、そうだった。

初対面の時も、その次も、その次も、一つ前も、ずっとそうだった。

まどかがたまに見せる、弱々しさと強さの混じった瞳。

その顔で訴えられて「勝った」ことはない。

必ず折れるか逃げてきた。

今この場で話さないわけにはいかなくなった。

659: 2013/03/25(月) 00:39:52.18 ID:9VFusYaAo

まどかは……勘づいてきているんだ。

私が、まどかに抱いているこの感情。この思い。

まどかは……いつだって自身のことを無力だとか鈍くさいだとか言っていた。

あなたが自分でそう言うのなら、確かにそうなのかもしれない。

だけど、私からすればそれはとんでもないこと。

あなたはいつだって、優しくて強い、私の憧れの人。


ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「……私達、親友だったんだよ」


660: 2013/03/25(月) 00:41:11.92 ID:9VFusYaAo

――美樹さやかは考える。


こんなちっぽけな指輪が……あたしの魂だなんて……ね。

自分で言うのもなんだけど、あたしはこんなに強いというのに……、

お腹の宝石が割れたらそれだけで即氏するのか。わけがわからない。

……もしこれをこっから落としたら、あたしは氏ぬんだろうな。

そんな簡単に氏ねてしまう。

これと、ある程度の距離を取るだけでも氏ねる。

うっかりこの指輪をトイレに流しちゃったとしても氏ねる。

氏因がトイレなんて笑い話にも……いや、一周回ってかなり大爆笑。

そんな体で、人間と名乗るのも人として生きるのも烏滸がましいんじゃなかろうか。

魂のない体。まるで氏体……差詰めゾンビみたいなものだ。

661: 2013/03/25(月) 00:41:38.20 ID:9VFusYaAo

歩道橋の柵に背中を預け、赤い空に向けて腕を伸ばす。

逆光のおかげでこの黒い手に指輪なんてものがないように見えなくもない。

しかし、実際、この指に自分の魂がしっかりとあるのだ。

さやかは学校を欠席し、一日中見滝原を歩き回った。

まどかや同級生――「人間と接したくない」という精神状態にあった。

途中、魔女と出くわし、戦った。

治癒能力を過信した「無茶な戦い方」をした。

心のどこかで「これで氏ねるなら氏んでもいい」という気持ちがあった。

しかし、さやかは強かった。

実際に腕が切断されてもすぐに再生ができ、脚がもげ、胸が抉れても戦えた。

魔女を一匹、使い魔六匹。合計で七匹を、結果的に無傷の状態で切り裂いた。


662: 2013/03/25(月) 00:42:30.17 ID:9VFusYaAo

さやか「…………」

「……こんなとこで何してる」

さやか「……杏子?」


ポニーテールの少女が薄汚れた手提げカバンを片手に、

何を考えているのかわからない、微妙な表情をして立っている。

その表情、勇んでいるわけでも悲しんでいるようにも見えない。


杏子「……さやか、っつったっけか」

杏子「まぁいい。何をしてたんだ?こんなとこで」

杏子「あんたはあたしと違って帰る場所がある……親御さんが心配するぞ」

さやか「…………」

杏子「…………」

663: 2013/03/25(月) 00:42:57.38 ID:9VFusYaAo

杏子「……そうだ。キリカに会ったんだ。ほら、昨日の。あんたの髪が黒くなったようなヤツ」

杏子「昼頃にな……そんで、小遣いだっつって貰った金でロッキーを買った。ふざけたヤツだ」

杏子「……食うかい?」


杏子はパーカーのポケットからロッキーの箱を取り出し、

「一本」をさやかに差し出した。


さやか「…………」

さやか「……いらない」


さやかは、体の向きを反転させた。

今、自分がどんな情けない顔をしているのか想像に難くなく、

弱みを見せるわけにはいかなかった。

車が走る道路を見つめた。

664: 2013/03/25(月) 00:43:29.61 ID:9VFusYaAo

ほむらから、魔法少女の真実を聞いた夜。

自分は自分で大き過ぎるショックを受けながら、

隣で歯を食いしばっていた杏子を見た時、同情をした。

杏子という概念に良い印象は一切ない。

勘違いだったとは言え、マミを殺そうとした。

使い魔を放したり、窃盗しつつの生活も聞いている。

ゆまという子どもを助けようがが家族を亡くしていようが、悪い印象の方が優先される。

『そんなヤツ』に弱みは見せられない。


杏子「いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ。ボンクラ」

さやか「……あたし」

杏子「あん?」

さやか「あたし、もうダメかもしんない」

杏子「……ダメだぁ?」


665: 2013/03/25(月) 00:44:19.70 ID:9VFusYaAo

いきなり何を言い出すんだ。と言わんばかりのトーンに聞こえた。

呆れられるのも馬鹿にされるのも嫌だ。

しかし、自分の素直な感情をぶつけたかった。

さやかは『そんなヤツ』に話を聞いてほしくて仕方がなかった。


さやか「一方的に殺されかけて、氏にたくないって魔法少女になって……」

さやか「なった矢先魔女になるとか言われてさ」

さやか「マミさんが氏んで……恭介、あたしの幼なじみも氏んでさ……」

さやか「こんな、人間なのかゾンビなのかもわからない体になった」

杏子「…………」

666: 2013/03/25(月) 00:44:46.25 ID:9VFusYaAo

さやか「……せめて……せめてさ」

さやか「願い事次第では、恭介も助けられたし……」

さやか「マミさんも氏なせずにすんだかもしんない」

さやか「だけど……結局あたしだけ生き延びた……」

さやか「たった一度の奇跡がこんな形で終わるなんて……無駄遣いもいいとこ」

さやか「嫌なんだよね……こんなの……」

さやか「こんな体、嫌よ……あたし」

杏子「まだ続くか?」

さやか「……もうちょっと聞いてよ」

さやか「あのさ……」

さやか「あたし……さ」

さやか「……恭介が好きだったんだ」

667: 2013/03/25(月) 00:45:26.56 ID:9VFusYaAo

さやか「恭介のことが……好きだった……」

さやか「ずっと前から好きだった」

さやか「恋愛感情はさ……自分で思って、いやいやと自分で否定するような……」

さやか「恥ずかしい気持ちだった。そういう年頃なんだよ。あたしは……さ」

さやか「実際に氏なれて……やっと自分の気持ちに素直になれるなんて……」

さやか「こんなのってないよ……ひどすぎるよね……」

杏子「…………」

さやか「マミさんも氏んだ……」

さやか「マミさんは……気遣ってくれるし……優しいし、大好きだった」

さやか「マミさんと……もっとお話したかったよ」

668: 2013/03/25(月) 00:46:30.09 ID:9VFusYaAo

さやか「生き延びたって何もいいことがない」

さやか「古今東西の魔法少女には悪いけどさ……」

さやか「こんな体……ゾンビみたいなもの……!」

さやか「あたし、あのまま氏んでた方がよかった……」

さやか「もう、いっそのこと……」

さやか「このまま魔女になって誰かに迷惑にならないよう……」

さやか「ソウルジェムを叩き割るかどうか悩んでるって気持ちだよ」

さやか「……キリカさんに助けてもらって、何だけどさ……」

杏子「…………」

杏子「……そうか」


669: 2013/03/25(月) 00:47:04.51 ID:9VFusYaAo

杏子はさやかの横に並び、柵に背を預けた。

道路を眺めるさやかの横顔を見つめる。

涙の跡があるわけでもないが、悲哀の表情をしていることは言うまでもない。


杏子「確かに、あたし達は……いつか魔女になっちまうかもしれない」

杏子「普通の人間と比べるとあっさりと氏んじまうかもしんねぇ」

杏子「マミみたいな……どんなに大きな存在でも、氏ぬ時はあっさり氏んじまう」

杏子「自分の命がこんなちっぽけなガラス玉みたいなのに変わっちまったんだ。ゾンビってのは、割と言い得て妙だと思う」

さやか「…………」

杏子「だがな……柄にもないことを言わせてもらうが……」

杏子「いつかは今じゃないんだよな」

杏子「生きる氏体だとか罵られようとも、あたしは今、生きている」

さやか「…………」


670: 2013/03/25(月) 00:47:30.49 ID:9VFusYaAo

さやか「……それっていつ?」

さやか「絶対に避けられないよ?」

さやか「この苦悩をずるずるといつまでも引きずって生きてくくらいなら、明日って今くらいのつもりで……」

さやか「すぐでも……なれるもんなら楽になりたいとは思わない?」

さやか「どっち道、人間をやめたっていう後ろめたい気持ちを抱えたままじゃ……長持ちしないと思う」

杏子「……あんた、まさかあたしと一緒に心中してくれって言うんじゃなかろうな?」

さやか「そ、そういうわけじゃないけど……」

杏子「…………」

さやか「あたしは……あたしはただ……」

杏子「……そうだな」

杏子「ここで一つ……例え話をしよう」

さやか「……例え話?」

杏子「まぁ聞けよ」

671: 2013/03/25(月) 00:48:26.54 ID:9VFusYaAo

杏子「……暗闇の荒野に地雷がたんまり埋まっているとする。踏めば即氏な」

杏子「あんたは、どの方角であろうがどんくらいの歩幅で進もうが『おまえは七歩進めば必ず地雷を踏む運命だ』って宣告されたら……」

杏子「あんたは進む覚悟ができるか?絶対氏ぬって一方的に決めつけられて、その通りだとして、納得いくか?」

杏子「生憎、あたし達はそんな嫌なことを覚悟できる程タフな精神してねぇし、へぇそーですかと納得できる程さっぱりしていない」

杏子「都合の悪い未来も予め知っていれば幸福だなんて……例えド偉い神父様がそう言ったとしてもあたしは同調しないね」

杏子「万に一つでも億に一つでも、一メートルでも長く一歩でも遠く地雷を踏まずに進める……」

杏子「そういう可能性があると信じられるなら、暗闇の荒野を突き進める覚悟を持てる」

杏子「……って気にはなれないか?」

さやか「…………」

杏子「具体的にいつなのかがわかれば、あるいは自発的にできるなら……」

杏子「氏ぬことも魔女なんていう異形の化け物になるのも、それを覚悟して受け入れられるのか?」

さやか「……どんなに足掻いても揺るがないことなら、あたしはその方がいいな……。あっさりした最期でいいと思う」

杏子「……そうか。こればっかりは考え方の違いだな」

さやか「…………」

672: 2013/03/25(月) 00:48:53.33 ID:9VFusYaAo

いきなりこいつ……何を言ってるんだ?

何でいきなり荒野がでてくるんだよ。

何の覚悟だって?

わけがわからない。杏子って、こんな変なヤツだったのか?


杏子「あたしは、ゆまにもマミにも氏なれちまった」

杏子「あたしにとっては……二人ともすごい大切な人だ」

杏子「ゆまのことが好きだった。マミのことも好きだった」

杏子「あたしはそんなゆまにありがとうって言いたかった。そんなマミにごめんなさいって言いたかった」

杏子「でもそれはできなかった……」

杏子「二人に本当の気持ちを言えなかったし、その気持ちも氏なれてやっと気が付くんだ」

杏子「あんたと、少し同じだな」

さやか「…………」

673: 2013/03/25(月) 00:50:06.98 ID:9VFusYaAo


杏子「あたしはいつだってそうさ……実際に失ってやっと後悔をする」

杏子「あたしは、ゆまの分まで生きることがせめてもの手向けだと思いたいんだ」

杏子「マミは、ほむらの力になってやれと言った。それに応えることで報いたい」

杏子「二人の氏に向き合って、過去を受け入れて、未来に生き続けていたいんだ」

杏子「だからあたしは、暗闇をがむしゃらに足掻いて、自分の信じた道を歩んでいきたい」

杏子「ひとまずは、ほむらに命を預ける。それが今のあたしにとっての道標だ」

杏子「だからこそあたしは、貯蓄していたグリーフシードを持ってきて、共有する所存よ」

さやか「…………」

杏子「なぁ、さやか」

杏子「色んなことがあって悲観的になる気持ちはわかるよ……でもな」

杏子「生きられる限り生きようぜ」

杏子「その……一緒にさ」

674: 2013/03/25(月) 00:50:40.69 ID:9VFusYaAo

さやか「…………」

さやか「……一緒?」

杏子「……あたしの友達になってくれ」

さやか「……は?」

杏子「あたしの友達になるんだ。そして、一緒に生きてほしいんだ」

杏子「正直に告白すると……あたしは、ゆまもマミも失って寂しい」

杏子「それで、ゆまやマミみたいに先立たれて後悔する前に……」

杏子「先にありがとうとごめんを言わせてほしい。荒野を並行してほしいんだ」

さやか「…………」

杏子「何の義理もないのに何を言ってるのかって思うだろうが……」

杏子「何でほむらやキリカを差し置いてあんたにこの話をしたのか……そこんとこよくわからないんだがね」

杏子「自分の願いに後悔してるあんたの姿が、何となくあたしと同じ臭いを感じたんだ」

杏子「都合の良い言葉だが……別の場所で会っていたらあんたと友達になれた気がするってヤツだ」

杏子「おまけにあんたの願いってマミのとほとんど同じなんだよな。あいつは交通事故だったが」

さやか「…………」

675: 2013/03/25(月) 00:51:31.68 ID:9VFusYaAo

……アホの子なのかな。こいつは。

何でこんなに、希望を持った風なことが言えるんだ。

あんたは既に魔法少女だったから、

魔法少女として生活をしていたからある程度割り切れるだろうよ。

でも、あたしは昨日だぞ。

魔法少女になってまだ一日経ったか経ってないかだってのに、

何で、一緒に生きようなんて言えるんだ……。

こんな体で……!こんなあたしに……!

ゆまって子のことはよく知らないけど……、

こんなあたしを、マミさんの代わりにするつもりなのか?

役者不足にも程がある。どう見ても人選ミスだ。

…………だけど

676: 2013/03/25(月) 00:52:34.07 ID:9VFusYaAo

さやか「……杏子って、ほんとバカ」

杏子「あん?なんだとコラ」

さやか「……バカだよ」

さやか「バカすぎる。本当……」


さやかは、杏子の方を向いた。

そして、凍結した表情筋を精一杯に動かし微笑んで見せた。

しかし、目から涙が伝っている。

嬉しかったのか、悲しかったのか、感動したのか、

さやかは何故涙が勝手に流れてくるのか、その理由がわからなかった。

677: 2013/03/25(月) 00:53:02.82 ID:9VFusYaAo

さやか「あんたも……あたしも……大バカだよ……」

杏子「……そうだな。バカかもしれないな」

さやか「やーい……!バァカバーカ……!」

杏子「ぶっ頃すぞてめぇ」

さやか「ふぇ……へへ……バカコンビの……結成だよ」

杏子「……そうだな」

杏子「……ん」

杏子「結成早々だが、行くぞ。さやか」

さやか「……うん。そうだね」


微かに、魂に嫌いな匂いを感じた。

魔女がどこかに現れたらしい。

二人の魔法少女は、行くべき場所へ向かった。


678: 2013/03/25(月) 00:53:34.05 ID:9VFusYaAo

空は藍色になってきている。

二人は噴水公園近くに辿り着いた。

確かにここに魔女の結界は生じた。

しかし、道中でその気配が消えてしまっていた。

その理由を二人は理解している。

それでも、生じた場所へ行く。

そこに行くことに意義がある。

魔女がいる場所に魔法少女あり。

魔女がいた場所に魔法少女あり。

魔法少女に会うことが重要である。


679: 2013/03/25(月) 00:54:06.30 ID:9VFusYaAo


――思ったよりも


思ったよりも、スッキリしなかった。

無意味だ。しろまるなんか苛めても。

ストレス解消どころか、虚無感しか残らない。

しろまるは悪だ。

感情がないのかは知らないが、自分が悪だと思っていない最もドス黒い悪だ。

それなのに、あたかもこっちが不当な虐待をしているような……そんな気分に何故かなる。

なんだかんだ言って……私はしろまるに本心からの願いを叶えてもらってはいる。

だからそんな思いを抱くのかもしれない。ヤツのリアクションが薄いのも加わっている。

意味がないんだ。八つ裂きは八つ当たりに過ぎない。

尚更胸くそ悪い。逃げられてしまった。

680: 2013/03/25(月) 00:54:33.31 ID:9VFusYaAo

キリカ「……ん?」

キリカ「……君達は」


キュゥべえに対する無駄な虐待に飽きたキリカはふと、

人の気配を二つ感じた。

足音から感じる歩き方の気配から察するに、顔見知りの者がくる。

そこには、さやかと杏子がいた。当然といえば当然である。

さやかは微笑んで、手を振っていた。元気そうに見えた。

杏子は初めて会った時よりも表情が柔らかくなっているように見えた。

681: 2013/03/25(月) 00:55:54.90 ID:9VFusYaAo

杏子「……よ」

さやか「どうも。キリカさん」

キリカ「……二人とも。どうしたの。仲いいね」

杏子「いや……魔女の気配がしたんだがね……」

さやか「途中でなくなったってことは……」

キリカ「そうだね。私と恩人で始末した」

さやか「やっぱり」

キリカ「骨折り損させちゃったかな?」

杏子「いや、いいんだ。どうせ、あんたかほむらに会うために向かったようなもんだからな」

キリカ「私ぃ?恩人はともかく、私に?」

さやか「いやー、そうなんですよね。できればキリカさんがよかったんスが、丁度キリカさんでした」

キリカ「?」

682: 2013/03/25(月) 00:56:40.37 ID:9VFusYaAo

杏子「キリカ。ハッキリと聞かせてもらうぞ」

キリカ「うん」

杏子「あんたは……ほむらのどこまで知っている」

キリカ「……どこ、まで?」

キリカ「まだ知り合ったばっかりの領域だから……」

さやか「いえ、『そー』じゃないです」

さやか「何となくわかるんですよね……転校生のことを恩人とか呼んでるけど……」

さやか「キリカさんが転校生のお仲間やってるのって、恩義とかだけじゃないでしょ」

キリカ「…………」

杏子「何か特別な理由がある……違うか?」

683: 2013/03/25(月) 00:57:12.11 ID:9VFusYaAo


杏子「あいつがどこで魔法少女が魔女になるということを知ったのか……あんたは知らないか、と聞いている」

キリカ「…………」

キリカ「……案外鋭いんだね」

キリカ「いいだろう。教えてあげよう」

キリカ「丁度、恩人もまどかに教えてるだろうしね……」

さやか「まどか?」

キリカ「恩人から聞いたよ。ズル休みしたって……その辺ちゃんと話しておきなよ」

さやか「はぁい」

杏子「わかったから。いいから聞かせろよ。あんたが知ってるほむらの全部を」

キリカ「……ん」

キリカ「恩人はさ……未来から来たんだそうだ」

684: 2013/03/25(月) 00:57:45.73 ID:9VFusYaAo

――話せるところまで話し終えた後。


やはりと言えばいいか、まどかは私に同情してくれた。

「今まで辛い思いをしていたんだね。わたしなんかのために」

震えた声でまどかはそう言っていた。

「わたしなんか」……自分を見下すような発言。

なんかではない。私にとって、まどかはそれほど大きな存在なんだ。

それこそ、私なんかの命を犠牲にしてまでも。

……恐らく、私が伝えたかったことの全ては伝わっていない。

当然だ。ハッキリ言って、今のまどかとは無関係なことだからだ。

時間軸という次元に干渉できるのは、私だけ。

ずっと前の時間軸のまどかのことだから、今の時間軸のまどかは実感が湧いていない。

別に、まどかが理解する必要はない。

685: 2013/03/25(月) 00:58:24.84 ID:9VFusYaAo

私にとって大切なのは、

「私」がいる世界のまどかを救うこと。

それに尽きる。

それが、鹿目まどかという概念との約束であり誓い。

私の生き甲斐。

まどかを救うことができて、全てが終わる。

私の時間遡行が終わり、まどかと交わした約束を遂行し、

人生に悔いがなくなるといったところだ。

そのためにも、現行の時間軸のまどかには、

自分の友達が辛い思いをするくらいなら自分が犠牲になるというような、

そういう精神を持たせてはならない。

686: 2013/03/25(月) 00:59:04.06 ID:9VFusYaAo

まどかを家に送った。

軽く手を振って、まどかが帰宅したのを見届けた。

一人暮らしである私の、生活における手伝いをしていて遅くなった。

という言い訳を与えたとはいえ、

たった今、帰りが遅いと怒られていることだろう。心配をかけさせたからだ。

そういうことで怒られるというのは、愛されている証拠。

別に両親に愛されていないわけではなないが、羨ましい。

両親に会いたくないわけではない。

実家が恋しいと思わないこともない。

しかし、会ってはいけない。帰ってはならない。

感傷に繋がるからだ。氏にたくなくなってしまう。

レクイエムの誕生を防ぐために氏ななければならないのに。


687: 2013/03/25(月) 00:59:42.74 ID:9VFusYaAo

まどかの家を後にして数分歩いた頃、

前方から三人分の人影が現れた。

全員魔法少女であり、顔見知り。

赤、青、黒。

佐倉杏子、美樹さやか、呉キリカ。


キリカ「……恩人。話は終わったかい?」

ほむら「……呉キリカ」

ほむら「それに……」

さやか「やっ、ほむら」

杏子「昨日ぶりだな」

ほむら「……美樹さやか、佐倉杏子」

688: 2013/03/25(月) 01:00:12.76 ID:9VFusYaAo

ほむら「……どういう組み合わせ?」

キリカ「いやぁ、たまたま会ってね」

キリカ「あ、そうそう。ねぇ恩人、私とさやかって似てる?」

キリカ「杏子が私のことを髪が黒くなったさやかって言ったんだ」

キリカ「そんな似てないよねぇ?」

ほむら「…………」

ほむら「あなた達、気分はどう?」

杏子「ああ、大分落ち着いたよ」

さやか「ん、あたしももう大丈夫だよ。心配かけたね」

キリカ「こら、無視するな恩人」

689: 2013/03/25(月) 01:00:50.36 ID:9VFusYaAo

さやか「ねぇほむら……」

さやか「キリカさんから、あんたのことを聞いたよ」

杏子「未来から来たとか、色々ぶっ飛んだ人生送ってんだな」

ほむら「…………」

ほむら「……話したのね」

キリカ「うん」

ほむら「改めて言う手間が省けて丁度良かったわ」

ほむら「そう。呉キリカの言う通り」

ほむら「私は、まどかを救うために戦っている」

ほむら「そして、あなた達の氏を何度か見てきたわ」

ほむら「物証はないけど……私は未来人のようなもの」

690: 2013/03/25(月) 01:01:46.46 ID:9VFusYaAo

さやか「うん……信じるよ」

さやか「あたし……怖かったんだ。魔法少女になって……そういう体になって」

さやか「だけど……杏子に勇気づけてもらったんだ」

さやか「あたしは受け入れたよ……マミさんの氏も、恭介の氏も」

さやか「そんで、あんたがまどかのために戦ってるって知って……」

さやか「負けられないなって思ったんだ。あたしの嫁を守るためだなんて……こりゃもう、まどかをあげるしかないね」

さやか「このさやかちゃん。あんたのために全力で戦うよ!」

杏子「あたしもだ……。この命、ほむらに預ける」

杏子「それがマミの遺志だからだ。あたしは、マミがあんたに託したものだ」

杏子「やれる範囲なら何だってやるさ」

691: 2013/03/25(月) 01:02:54.08 ID:9VFusYaAo

ほむら「美樹さやか……佐倉杏子……」

ほむら「…………」

ほむら「本当はあなた達に任せるのは不安なところもないこともない」

ほむら「でも、今はそう言ってられない状況だし……複雑だけど、あなた達しかいないから……」

ほむら「だから……キリカには改めて言うことだけど、いざという時は……」

ほむら「まどかをよろしく頼むわよ」

キリカ「……そうだね。了解。殺されるまでやらせてもらう」

杏子「あたし達を置いて先にくたばるのは絶対に許さないが……まぁいいだろう」

さやか「でも、まっ、あたしに、もーしものことがあったら杏子を託すつもりだし……お互い様ってことで!」

杏子「さやかてめぇ何様のつもりだ」

ほむら「…………」


レクイエムというも存在のため、いつか自害しなければならない。

その運命は言わなかったし、誰にも言っていない。自分一人だけの秘密。

ほむらはジシバリの魔女アーノルド、ワルプルギスの夜、

それらとの戦いの生き残りにまどかを託すことにした。

692: 2013/03/25(月) 01:03:36.50 ID:9VFusYaAo

さやか「ねぇ、ほむら。話は変わるけど」

ほむら「何?」

さやか「あんた……何でも『お守り』があるそうじゃないか」

ほむら「……お守り?」

杏子「あぁ、そうそう。キリカから聞いたよ」

ほむら「……?」

キリカ「君が織莉子の家に来た時に見せたものだよ」

ほむら「……あぁ、あれ」

ほむら「…………」

ほむら「どういう文脈であの矢のことを出したのよ……」

キリカ「さぁ」

693: 2013/03/25(月) 01:05:24.14 ID:9VFusYaAo

さやか「どんな意味があるのかはさておき、あたし達にもその恩恵を分けてよ」

ほむら「恩恵って……別に何もないわよ。そんな神々しいものはないわ」

ほむら「私が勝手に夢で見たからという理由だけで……」

杏子「イワシの頭も信心からってな。学校で習っただろう?」

キリカ「初めて聞いた」

杏子「学校はちゃんと行けよ」

キリカ「君にだけは言われたくないよ」

ほむら「…………」

さやか「ねぇ、見せてぇ」

ほむら「……わかったわよ」

694: 2013/03/25(月) 01:05:57.77 ID:9VFusYaAo

大きさは魂と同程度。

涙滴型の装飾が施されている。材質は石。

この石の矢はストーン・フリーの名前の由来にもなっている。

仮に石でなければストーン・フリーという名前に悲劇が訪れる。

中が空洞なのか、とても軽い。

さやかはほむらから手渡された矢をまじまじと見つめる。


さやか「へー……意外に凝ったデザインしてるねぇ」

さやか「なーむー」

ほむら「拝まないで」

杏子「あたし一応教会出身なんだけど」

さやか「じゃあキリカさん先ね。はいどうぞ。それではご一緒に。なーむー」

キリカ「意外に信心深いんだね。生憎私はそういう類のものは一切信じないんだ。だから結構」

695: 2013/03/25(月) 01:07:01.61 ID:9VFusYaAo

ほむら「ほら、もういいでしょう。返しなさい」

さやか「…………」

杏子「…………」

さやか「ヘイ杏子パース!」

杏子「よっしゃぁぁぁ!」

ほむら「ちょっ!?」

キリカ「お!?」


さやかは杏子に矢を放った。

矢じりは放物線を描き、ゆっくりと回転し、

ポスンと杏子の手に収まる。

696: 2013/03/25(月) 01:08:32.12 ID:9VFusYaAo

ほむら「あなた達!何をしてんのよ!」

杏子「ほれほれ、返してほしけりゃ奪って見せろ!」

杏子「ヘイパース!」

さやか「やっほーい!」

ほむら「返しなさい!あなた達!」

さやか「ヘイヘイヘーイ!」

杏子「ほーい!」

ほむら「……ストーン・フリー!」

シャッ

さやか「ゴェッ!」


697: 2013/03/25(月) 01:10:10.98 ID:9VFusYaAo

さやかの首は「何か」に締めつけられた。

石の矢はコツンと音を立てて地面に落下した。

ギリギリ

さやか「あばばばっばばば」

杏子「うおおおお!ほむら!さやかを離せ!」

ほむら「もう既に解いてるわ」

キリカ「ははは、愉快なヤツらだね」

さやか「ゲホッ!ゲホゲホ!やり……すぎでしょうが……!」

杏子「スタンドは卑怯だろ常識的に考えて……」

ほむら「…………」


ほむらの無表情を見て、杏子は悟る。

698: 2013/03/25(月) 01:11:27.20 ID:9VFusYaAo

――見滝原のとある場所。

朝は見滝原中学校への通学路。その夜道に四人の魔法少女がいる。

ほむらは腕を組み、見下ろしている。

杏子とさやかは、コンクリートの地面に正座をしている。


さやか「マジごめんなさい」

杏子「すまん」

ほむら「……で?何でそんな真似をしたの」

さやか「……い、いやぁ……ほむら笑うかなって」

ほむら「……は?」

さやか「あたし、ほむらの笑った顔見たことないからさ」

ほむら「…………」

杏子「あたしは悪くない。さやかが勝手にやったことだ」

ほむら「…………」

杏子「ごめん」

699: 2013/03/25(月) 01:14:00.17 ID:9VFusYaAo

言われてみれば……ここのところ最近、

……いや、それどころかこの時間軸、一度も笑ったことがない気がする。

別に笑う必要はないし、今の二人の行為は完全に悪ふざけだったが……

気を使わせてしまったか。



ほむら「いくら拾い物だからって人のお守りを投げる?普通……」

キリカ「んー、私も恩人の笑顔には興味あるなぁ……泣きっ面は見たけど」

キリカ「ま、笑顔はさておき正座はさておき、恩人」

ほむら「……何?呉キリカ」

キリカ「図らずともここに魔法少女が揃ったんだ」

キリカ「今後のことを話し合うべきだと私は考える」

キリカ「前の時間軸のスタンドとやらの情報を教えてよ」

ほむら「……確かに、そうね」


700: 2013/03/25(月) 01:15:16.76 ID:9VFusYaAo

杏子「そうだな……あたしの姿をした使い魔はもういないらしいが……」

さやか「スタンドに関して全てを話して、情報を共有しよう」

ほむら「誰が立っていいと言ったかしら」

さやか「女の子に地べた座らすかね?フツー」

ほむら「座りなさい」

さやか「ちぇー」

杏子「なぁさやか」

さやか「何?」

杏子「何かしんないけどどっかで指切ったっぽい。治して」

さやか「ありゃりゃ、血が……」

さやか「もー、杏子ったらお子ちゃまなんだから」


701: 2013/03/25(月) 01:15:51.83 ID:9VFusYaAo

杏子「うっせぇ。てめーも手の平切ってんじゃねーか」

さやか「ありゃ?うわ、ホントだ。ねぇねぇ、服に血ぃついてなぁい?腰とか触っちゃったかも」

杏子「くねくねすんな気持ち悪い」

ほむら「二人とも黙ってくれないかしら」

キリカ「いつの間にこんな仲良くなったんだろーね」


人の成長は未熟な過去に打ち勝つことだ、とある人は言う。

杏子はゆまとマミ。さやかは恭介とマミ。キリカは織莉子。

それぞれは各々の喪失の過去に打ち勝ち、未来に戦いを挑むことを選んだ。

もうイジけた目つきはしていない。

生きることが過去に打ち勝てという終生の試練と受け取った。

ほむらの場合、ワルプルギスの夜より先の未来へ進むこと。

それが試練であり、打ち勝つべき過去である。

ほむらは三人の魔法少女という希望が見えた。

702: 2013/03/25(月) 01:18:19.65 ID:9VFusYaAo

ストーン・フリー 本体:暁美ほむら

破壊力-A スピード-B  射程距離-E
持続力-A 精密動作性-B 成長性-C

一言で言えば糸のスタンド。その性質は「覚悟」
引き裂かれてしまいそうだった心を繋ぎ止めるかのように発現した。
自分の体を解いて糸状にし、その糸を自在に操ることができる。
スタンドの糸を集めて人型にすることで、力が集中しパワー型スタンドになれる。
力が強く丈夫だが、その代わりに射程距離が二メートル程度となる。
糸は「編む」または「縫う」ことができ、汎用性は高い。
糸は石鹸の香りがするらしい。

A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

709: 2013/03/26(火) 23:47:59.98 ID:adZc2fnao

#22『見滝原中学校神隠し事件』


今日という日は、天気もあって明るく感じた。

さやかが登校し、いつもの空気を作り出したためである。

どんよりとした曇り空に、さやかの明るい性格が引き立てられる。

まどかはさやかの空気に感化されてか、昨日よりは笑顔を見せた。

そんな日の放課後。

ほむらとさやかとまどかは、

「今後のこと」を話し合うべく教室に残っていた。

仁美は「委員会の仕事」ということでまだ下校はしていないが、

ほとんどの生徒は既に帰路に立っていて、三人しかいない物静かな教室だった。

杏子とキリカを除いた三人で話す内容。

それはその仁美と恭介のことだった。

四人の内二人の魔法少女はその話についていけない。知らないからだ。

710: 2013/03/26(火) 23:48:31.96 ID:adZc2fnao

さやか「……知らなかったな。仁美も恭介が好きだったなんて」

まどか「…………」

ほむら「私があなた達から意見を聞きたいというのは……」

ほむら「彼女へのフォローのことよ」

ほむら「巴さんもそうだけど、学校の生徒が失踪した……それが人為的なものが自発的なものかはまだ世間ではわかっていない」

ほむら「学校側も気遣っているのか……ともかく生徒の中で知っているのは今のところ私達だけ」

ほむら「氏亡したと結論が出るには時間がかかるでしょうけど……」

ほむら「果たして、彼が氏んだということは伝えるべきか、行方不明のまま内密にするか」

さやか「……言った方が、いいでしょ。行方不明だなんて……もしかしたら帰ってくるかもっていう可能性が否定できなくて、かえって精神的に辛い」

さやか「伝えるのは辛いだろうけど……仁美に秘密にするってのは、あたし達が心苦しい気持ちにもなる」

まどか「わたしも……言ってあげた方がいいと思う」

まどか「わたしが仁美ちゃんだったら……好きな人が行方不明になったら、どうなっちゃったのか、知れるものなら知りたいもん」

ほむら「…………」

711: 2013/03/26(火) 23:49:04.41 ID:adZc2fnao

ほむら「……なるほどね」

ほむら「彼の氏を伝えるのは確かに辛いこと」

ほむら「そうなると、巴さんが亡くなったことも伝えた方がいいかしらね。あなた達とケンカをしてると咄嗟に嘘をついたけど」

ほむら「時期を見て、私の方から伝えておくわ」

さやか「いや……ほむら……あたしが言う」

ほむら「…………」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「仁美はあたしの親友だ。そんで、ライバルにもなるかもしれなかったんだ」

さやか「別に……だからどうこうってわけじゃないけど……あたしが言う」

さやか「あたしの方から言うよ」

ほむら「……そう」

712: 2013/03/26(火) 23:49:46.65 ID:adZc2fnao

灰色の雲のおかげで、電灯のついていない教室は薄暗い。

明度に合った、沈んだ空気に三人は包まれた。

天気予報によれば、夕方には雲は晴れるらしいが……。


さやか「……そろそろ、帰ろうよ」

まどか「うん……そうだね」

さやか「仁美のお仕事もそろそろ終わるかな」

さやか「久しぶりに仁美を連れ出して寄り道しようよ!」

さやか「ここんとこずっとお稽古で一緒に帰ってないもんね」

まどか「うんっ」

ほむら「……そうね」

さやか「そうだ。杏子とキリカさん呼ぼうよ。紹介したい」

ほむら「……呉キリカはともかく、佐倉杏子の連絡先知っているの?」

さやか「まぁね」

713: 2013/03/26(火) 23:50:30.32 ID:adZc2fnao

さやか「ほむら、キリカさんを呼んでよ。あたしは杏子に電話するから」

まどか「さやかちゃん、杏子ちゃんと連絡できるの?でも杏子ちゃんっておうちが……」

さやか「あたしの部屋にこっそり隠してる」

まどか「えっ」

さやか「ま、お父さんお母さんがいない間だけね」

さやか「なんだかんだで冷蔵庫の物を勝手に食べるような卑しいヤツじゃないし」

まどか「ご、ご飯とかはどうしてるの?」

さやか「んー?まぁなんだかんだで大丈夫よ。残り物とか菓子パンとかあげてる。食べ物なら何あげても食べるし」

ほむら「捨て犬じゃないんだから……」

さやか「…………」

ほむら(何かチラチラとこっち見てる……まるで佐倉杏子を養えを言わんばかりに……)

ほむら(別に構わないけど……でも無視しておこう)

714: 2013/03/26(火) 23:51:51.37 ID:adZc2fnao

さやか「ぐぬぬ……」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「このさやかちゃんが頭を下げて遠回しに頼んでいるのに……」

さやか「ふぅ~んそうかい」

ほむら「一ミリも下げてないでしょう」

まどか「?」

さやか「まぁいいや。杏子呼ぼっと。ほむらはキリカさんのアドレス知ってるんだよね」

ほむら「えぇ。まぁどうせウチにいるでしょうけど」

まどか「え?キリカさんほむらちゃんのおうちにいるの?」

ほむら「えぇ」

マミ「それは初耳だわ。どういう事情?」

ほむら「家にいたくないそうです」

715: 2013/03/26(火) 23:53:27.22 ID:adZc2fnao

さやか「ふーん。親と仲悪いのかな?」

ほむら「さぁ……事情は聞いてないわ」

マミ「贅沢な悩みね……私も人生で一度は家出とかしてみたかったかも」

まどか「マミさん……」

マミ「ところで呉さんは暁美さんの家から学校に行けるのかしら?」

ほむら「えぇ、問題ないです」

さやか「……そういや杏子って学校の場所わかるかな?」

マミ「私と一緒に住んでいた時期があるから知っているはずよ。土地勘もいいし」

まどか「あっ、そういえばそうでしたね」

さやか「流石マミさんは杏子のことなら何でも知ってる」

ほむら「…………」

ほむら「……え?」

716: 2013/03/26(火) 23:54:07.10 ID:adZc2fnao

ほむら「……!」

さやか「ん?」

ほむら「そ、そんな……」

まどか「どうしたの?ほむらちゃん」

マミ「具合悪いの?」

ほむら「二人とも離れてッ!」

まどか「えっ!?」

さやか「……あ!」

マミ「危ないわ!」

まどか「……ッ!?」


717: 2013/03/26(火) 23:56:44.94 ID:adZc2fnao

さやか「何……で……!?」

まどか「あ……ああ……!」

ほむら「早く!早く離れなさい!」

マミ「そうよ!急いで!」

さやか「何で……そんな……!」

まどか「ま……マミさん……!」

ほむら「違うわ……まどか」

ほむら「……『こいつ』は巴さんじゃない」

ほむら「ジシバリの魔女アーノルドの使い魔群……ヴェルサスの内一体」

マミ「ふふふ……私は危険よ」

ほむら「……『Mami』!」

Mami「久しぶりにあなた達とお話ができて、嬉しかったわ」

718: 2013/03/26(火) 23:57:20.54 ID:adZc2fnao

ほむらとさやかはたった今『気配』を感じた。

感じていたはずなのに、気付くのが遅れた。

何故気付かなかったのか。

この空間にあまりにも浮きすぎた、魔法少女の姿でいるというのに。

あまりに自然で、不自然すぎて気付かなかった。

――こういう会話ができることは、この場の誰もが望んでいた。

優しい声と、温かい包容力、その微笑みからは母性さえ感じる。

そんなマミの氏を受け入れるのと、望むことは違う。

三人は、マミの声が、マミのことが好きだった。

心のどこかで、氏んだということを認めたくなかったのかもしれない。

そのせいで、気付くのが遅れたのかもしれない。

719: 2013/03/26(火) 23:57:50.54 ID:adZc2fnao

まどか「あ……ああ……!」

さやか「う、うぅぅ……!」


まどかは、恐怖に襲われた。

さやかは、悔しい気持ちになった。

ほむらは、冷静になるよう自分に言い聞かせる。

結界が生じた。

生じていたということは、

キリカと杏子は既に気付いているはずである。

二人とも、見滝原中学校への最短ルートを知っている。

結界ができてどれだけ時間がかかったかはわからないが、

恐らく、すぐにでも二人の魔法少女は合流できる。

720: 2013/03/26(火) 23:58:21.46 ID:adZc2fnao

Mamiは、マミの顔で不敵に微笑んだ。

ほむらとさやかは魔法少女に変身する。

しかし、すぐに攻撃は仕掛けない。することができない。

余裕の表情を見せているため、何か裏があると踏みとどまってしまう。

スタンド使いだからこその警戒。

スタンド使いでないからこその警戒。


Mami「学校にこんな遅くまで残っているなんて……いけない子っ」

ほむら「……あなたは、何をしに、現れた」


ほむらはMamiの笑顔を睨みつける。

Mamiは困ったように眉をひそめ、溜息をついた。

相変わらず、その顔は優しく可愛らしい微笑みの表情。

721: 2013/03/26(火) 23:58:47.31 ID:adZc2fnao

Mami「実は私達はね……ちょっとしたゲームをやっていたの」

さやか「ゲーム……?」

Mami「前の時間軸でスタンド使いだった人を頃すゲーム」

Mami「前の時間軸の概念が現行の世界の概念で葬ること」

Mami「それが過去との因縁を断ちきる……って考え方よ」

Mami「あらかたは頃したわ」

まどか「…………」


かつて憧れた先輩の顔、声から「頃した」という言葉は聞きたくなかった。

使い魔とはいえ、ゲーム感覚で人を頃すことをにこにこと笑みながら語る、

そんな姿は見たくなかった。泣きたいところだが、当然、泣くわけにはいかない。

まどかは、下唇を噛むことでその感情を紛らわしながら、ほむらの袖を強く握った。

722: 2013/03/26(火) 23:59:24.98 ID:adZc2fnao

Mami「それで『残り』の内あなた達が知っている人物を挙げると……」

Mami「鹿目さん、暁美さん、美樹さん、佐倉さん、呉さん、志筑さん、早乙女先生……」

まどか「……ッ!」

さやか「せ、先生まで!?」

Mami「まぁ、落ち着いて。そういうルールなのよ……」

ほむら「何がルールよ……くだらない」

Mami「…………」

Mami「約束するわ。ゲームの参加者は、前の時間軸スタンド使いだった人以外は狙わない」

Mami「まぁ……うざったい虫を払いのけるように、つい頃しちゃったりすることはあるかもしれないけど」

Mami「そこで私は……暁美さん」

Mami「私はあなたとの決闘を希望したい」

ほむら「……!」

723: 2013/03/26(火) 23:59:59.82 ID:adZc2fnao

Mami「拒否権はあるといえばあるわ」

Mami「され、私はこの『三ヶ月前の学校』の……三年生の教室にいる。何組かは言うまでもないわよね?」

Mami「それじゃあね。いい答えを期待するわ」


言うだけ言って、Mamiは教室から出ていった。

凍り付いた空気に閉じこめられた三人は、

ひとまず解放される。

まどかは過呼吸気味になっていた。胸が押しつぶされそうな気持ちになっている。

ほむらはまどかの背中をさすった。

さやかは剣を強く握り、大きく一歩前に踏み込んだ。

それに気付いたほむらは「待ちなさい」と静止させる。

「どこへ行くつもり?」続けて尋ねる。

724: 2013/03/27(水) 00:00:47.66 ID:B3MJg5ALo

さやか「ひ、仁美と先生が危ないから助けに行くんだよ!」

ほむら「なるほど……しかし、一歩下がって元の位置に戻りなさい」

さやか「あたしを……止めるつもりか?」

さやか「それともまずは深呼吸でもして落ち着けって言うのか……!?」

ほむら「魔女を探して叩くことが先決よ」

まどか「え……!?」

さやか「な……!」

さやか「あんた……何て言った……?」

ほむら「魔女を倒すが最優先事項であると言った」

まどか「…………」

さやか「時間が……時間がないんだよ!?仁美が狙われてるんだよ!?」

さやか「まさかあんた……」

725: 2013/03/27(水) 00:02:45.28 ID:B3MJg5ALo

さやか「まさかとは思うけど……仁美を……先生を見捨てろっていうのか!?」

まどか「!」

ほむら「……そうとは言わないわ」

ほむら「冷静に考えなさい。美樹さやか」


ほむらは淡々と言った。

その目はとても冷たく見えた。

さやかはほんの一瞬だけ「こいつ感情あるのか?」と思った。


ほむら「病院の時はほとんど無差別に襲っていたにもかかわらず、わざわざ予告をして存在と行動をアピールした」

ほむら「志筑仁美や早乙女先生を助けに来るだろうと、使い魔は誘っているんだと考えるべき」

ほむら「現に私を誘ってきたし……」

ほむら「ヤツらは私達の戦力を分散させるためにそうしたと推測できるわ」

726: 2013/03/27(水) 00:03:18.78 ID:B3MJg5ALo

ほむら「スタンド使い……本体が氏ねばスタンドも消滅する」

ほむら「アーノルドの使い魔はスタンドで産みだしされたもの……魔女を倒せばそれで全てが終わる」

ほむら「アーノルドを優先し、一気に叩くのが最も合理的」

ほむら「それにゲームの参加者『は』……という表現を使った」

ほむら「ゲームとやらに参加していない使い魔がいると解釈が可能。それらは無差別に狙ってくる可能性がある」

ほむら「つまり、全員を救うことなんて元より不可能なこと。既に犠牲者もいるかもしれない」

ほむら「何人かの犠牲には目を瞑らなければならない……そう考えるべき」

ほむら「犠牲者ゼロではなく、少しでも犠牲を減らすという考え方」

ほむら「そのためにも、魔女を優先し、一秒でも早く頃すことが望ましい」

まどか「そ、そんな……」

さやか「くっ……!」

さやか「そんなの……そんなの納得いかないッ!」


727: 2013/03/27(水) 00:04:17.57 ID:B3MJg5ALo

さやか「百歩、いや、三百歩譲って、多少の犠牲には目を瞑るとしても……」

さやか「救う気ゼロの心構えなんてできるかッ!」

まどか「わたしもさやかちゃんと同じ気持ちだよ……」

ほむら「私だって同じよ。でも状況が状況」

ほむら「スタンド使い相手に、スタンド使いでないあなたの勝機は薄い」

ほむら「私は見えるから、強いて言うのなら私が行くべきなのだけれど……」

ほむら「私はそれをしない」

さやか「確率がいくら低かろうと……そんなんがなんだ!」

さやか「覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開くことだ!」

さやか「諦めず、道を切り開こうとする覚悟が大事なんだ!」

ほむら「私は諦めろと言っているんじゃあない!全滅する危険を冒すことがいけないのよ!」

ほむら「魔女を頃すことがみんなの安全を守ること!」

728: 2013/03/27(水) 00:05:14.29 ID:B3MJg5ALo

さやか「何を言ってんだ!魔女を優先!?じゃあ病院の時のことはどうなのさ!?」

さやか「言っちゃ悪いけどあんたが魔女を優先したからあたしは契約をしたのよ!」

さやか「この学校に魔法少女の素質のある人はもういないと言い切れるの!?」

さやか「あんたは全校生徒のことを掌握できていると言えるの!?」

ほむら「……っ!」

さやか「ほむら!あんたの意見もごもっともだし、あたしは無責任で感情的に助けるって喚いてるに過ぎないかもしんない!」

さやか「あんたのことは尊敬しているが魔女最優先って案には従えない!」

さやか「何のための魔法少女だ!?卑怯な手も使おう!最悪魔女になったって構わない!」

さやか「でも人命を二の次にするってことだけは……」

さやか「できないねッ!」


さやかは振り返り、全速力で走り出した。

机をいとも容易く避け、教室を出ていった。

強化ガラス越しに、さやかの必氏な横顔を見た。

729: 2013/03/27(水) 00:05:46.41 ID:B3MJg5ALo

まどか「さやかちゃん!」

ほむら「ま、待ちなさい!美樹さやかッ!」

ほむら「……くっ」

まどか「ほむらちゃん!さやかちゃんを追いかけようよ!」

ほむら「…………」

ほむら(私に命を預けるって言った昨日の今日で……!)

ほむら(忘れていた……美樹さやかの頑固さを……誓ってくれたからって油断をした……!)

ほむら(とは言え……)

ほむら「……追う必要はない」

まどか「ほむらちゃん!?」

ほむら「追わないというより、追えないわ……」

730: 2013/03/27(水) 00:06:16.57 ID:B3MJg5ALo

ほむら「私は唯一のスタンド使い……敵の最大の驚異と言っていい」

ほむら「私は狙われやすい……それに時間停止もストーン・フリーも対策されている恐れがある」

ほむら「私としても……スタンド使いとの戦いに慣れているわけではないし、あなたや美樹さやかを守りながら戦える自信がない」

ほむら「美樹さやかのような直情タイプは、今は放っておくしかない」

まどか「そんな……そんなのってないよ!仁美ちゃんや先生だけでなく……さやかちゃんまで見捨てるなんてこと……」

ほむら「……昨日話した通りよ」

ほむら「あなたが契約したら……学校の人々どころか、世界が滅ぶ。守るという思考さえままならない」

ほむら「どっちがマシか、とかではない。それを抜きにしてもあなたが最優先。それが私という魔法少女よ」

ほむら「志筑仁美や早乙女先生の氏も、美樹さやかの自滅も、場合によっては仕方ない犠牲」

ほむら「あなたの無事を保証できるまで、余計な行動はできない」

まどか「そんな……そんな言い方あんまりだよ……!」

ほむら「あなたがすることと言えば、大切な人の無事を祈ること」

ほむら「今はあなたを呉キリカに託すことしか私にはできないが……ただ守られていればいい」

731: 2013/03/27(水) 00:06:49.95 ID:B3MJg5ALo

呉キリカが到着したのは、丁度一分三十秒後のことだった。

ぜぇぜぇと息を切らしているが、現在自分以外で最も頼りになる魔法少女。

その間、ほむらとまどかは、一切言葉を交わしていない。

まどかは、ほむらの目を見ることができなかった。


キリカ「お待たせ……恩人……!」

ほむら「思った以上に早かったわね。素晴らしいわ」

まどか「…………」

キリカ「……君が頼みたいこと、何となくわかった」

ほむら「なかなか空気が読めるのね」

キリカ「でも一応、聞かせてよ」

キリカ「恩人はこれからどうするのか、そして私は何をするべきか」

732: 2013/03/27(水) 00:07:52.09 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……私は魔女を探すわ」

ほむら「ヤツらは私がスタンド使いであることを知っているし、佐倉杏子の使い魔の仇でもある」

ほむら「私は確実に狙われる。私は先に魔女を探して、戦況を作る」

ほむら「あなたは佐倉杏子と合流して、状況を伝えて」

ほむら「そしたら佐倉杏子と一緒にまどかを結界から避難」

ほむら「あなたの魔法は私の時間停止魔法と似たようなものだから、避難する分には十分過ぎるわ」

ほむら「まどかを避難させたら、二人で魔女を探して頃すこと」

キリカ「あぁ、わかったよ。別にまどかを頃して織莉子の遺志を継ごうだなんて考えてないもんね」

キリカ「……そんな怖い顔しないで。任せなよ。恩人」

733: 2013/03/27(水) 00:08:36.05 ID:B3MJg5ALo

キリカ「それで?恩人は単独で行動するんだ?」

ほむら「えぇ。私は狙われやすいし、実際一体の使い魔に目をつけられた」

ほむら「私の場合はスタンドが見えるから……まだ渡り合える」

ほむら「それじゃあ……任せたわ。私は行く。杏子もすぐ来てくれるはずよ」

キリカ「わかったよ。恩人」

ほむら「…………」

まどか「…………」


ほむらは、まどかに何か声をかけるわけでもなく、一瞥してから教室を出ていった。

まどかは沈んだ表情をしていた。気を使ったのだろう。

734: 2013/03/27(水) 00:09:20.58 ID:B3MJg5ALo

まどかは、ほむらの魔女最優先という判断に対し「冷酷」と思ってしまった。

昨日ほむらから、自分のために悲しすぎる過去を体験しているということを聞いていた。

嘘だと疑うわけではない。

むしろ自分のことをこれ程までに大切に思ってくれている人がいたことに、嬉しく思った。

そうだとしても、まどかはほむらのことが、自分にとってのヒーローであると同時に……怖かった。

涙を流しながら、いつもと違う口調で話したほむらが、愛おしくいじらしく思えたのも事実。

しかし、そのほむらに、契約をしたら頃すと遠回しに脅されているという事実もある。

脳裏に押し込んだ複雑な気持ちが、再び浮上してきた。

友達なのに、怯えている自分が存在する。

――自分を救うために、悲しい思いをされていること。

全ては自分のためにやってくれていること。しかしその選択を心のどこかで否定している。

まどかは、そういった罪悪感も感じていた。

735: 2013/03/27(水) 00:10:35.69 ID:B3MJg5ALo

ほむらは、取りあえず屋上へ向かっていた。

屋上に魔女がいるかもしれない。何となくそう思い、向かった。

しかし、結論から言うと……ほむらは屋上にたどり着けなかった。

気が付けば、教室にいた。

均等に並べられた、統一感された机と椅子。

床には、見滝原中学校の制服を着た遺体が数体転がっている。

電子機器内蔵されている、何も書かれていない綺麗な白板に血がついている。

「いらっしゃい。暁美さん」

そして、ベレー帽を被った、魔法少女の姿がそこにいる。

先程会った、先輩の概念。前の時間軸の巴マミの概念。Mami。


Mami「あなたが来るのを楽しみに待っていたわ」

Mami「Kyokoの仇だからね」

ほむら「…………」

736: 2013/03/27(水) 00:11:08.28 ID:B3MJg5ALo

ほむら「私は魔女を探して屋上へ行こうと思っていた……」

ほむら「そして、階段を上がっていたと思ったら……」

ほむら「いつの間にかここにいた」

ほむら「……幻覚のスタンドね」

ほむら「志筑仁美がそういう能力を持っていた。名前は確かティナー・サックス」

ほむら「幻覚の迷路で、私をここに誘い込んだ……」

ほむら「そういうことなのね?」

Mami「Esattamente(その通りでございます)」

Mami「アーノルドの使い魔群ヴェルサスのリーダーとして、私はあなたを葬る意義と義務がある」

Mami「元あなたの先輩として、正々堂々と決闘という形で決着をつけなければならない」

Mami「決闘を断る権利はある……しかし、断れない状況を作ることは嘘つきの行動ではない」

Mami「だから、こうなった」

737: 2013/03/27(水) 00:12:05.70 ID:B3MJg5ALo

Mamiは、「同じ顔」をしていた。

「友達」を家に招き入れた際に見る歓迎の微笑み。

それと、全く同じだった。

遺体が転がっている教室にも関わらず、紅茶とケーキをご馳走してきそうな顔だった。


ほむら(決闘……か)

ほむら(使い魔だというのに、そんな人間らしいことを言えるのがこの使い魔の恐ろしいところだ)

ほむら(……さて、どうしたものか)

ほむら(今ここで時間を止めて即、撃ち殺せるのがベストではあるが……)

ほむら(果たして、そんな簡単にいくだろうか)

ほむら(ヤツはわざわざ私をここに呼びよせた……)

ほむら(時間停止魔法が使える私を、わざわざ迎え入れた)

ほむら(ならば当然、時間停止に対して何らかの対策をされているはずだ)

ほむら(されているとすれば、どういう対策か……恐らくスタンドが関係している)

ほむら(ヤツのスタンドもわからない以上……迂闊に行動はできない。ここは様子を見ておくか)

738: 2013/03/27(水) 00:13:10.25 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……質問したいことがある」

Mami「えぇ、どうぞ」

ほむら「私との一対一を望んでいるのね?」

Mami「その通りよ」

ほむら「ティナー・サックスの幻覚が加勢しているようなものじゃないの?」

Mami「それはないわ」

ほむら「この三年生の教室は本物?」

Mami「そうかも……」

ほむら「無関係の人間の遺体が転がっているのは何故?」

Mami「正当防衛よ」

ほむら「ゲームとやらの参加者というのは、使い魔全員を指すの?」

Mami「いいえ」

739: 2013/03/27(水) 00:14:23.42 ID:B3MJg5ALo

ほむら「今までにあなたは何人頃した?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「今スタンド使いの使い魔は全部で何体いる?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「アーノルドはどこにいる?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「あなたはアーノルドを守るためにここにいるの?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「他の使い魔はどこにいる?」

Mami「答える必要はないわ」

740: 2013/03/27(水) 00:14:55.00 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……答えられないという答えが多いようだけど」

Mami「嘘をついても構わないのよ」

Mami「でも私は嘘をついたり騙したりするのはあまり好きじゃないの」

ほむら「……そう」

Mami「さぁ、て、と……無駄話もこれくらいにして……」

Mami「そろそろ、始めましょうか。スタンドバトル」

ほむら「…………」

Mami「あなたのスタンド、ストーン・フリー」

Mami「剛と柔を兼ね備えた糸のスタンド。一方、私のスタンドは不明」

Mami「情報量に差があってフェアではないけど、仕方ないわよね」

ほむら「……そのハンデとして、とまでは言わないけど一つ要求したい」

Mami「あら、何かしら?」

741: 2013/03/27(水) 00:15:24.39 ID:B3MJg5ALo

ほむら「待ってくれない?」

Mami「……なんですって?」

ほむら「あなたとの戦い、少し待ってくれと言ったのよ」

Mami「……怖じ気づいたのかしら?」

ほむら「いいえ。言葉通り。ただ待ってほしい」

Mami「随分とふざけたこと言ってくれるじゃない」

ほむら「待ってくれないの?」

Mami「どうしようかしら」

ほむら「虫けら以下の存在が尊敬する先輩の姿であることへの躊躇を消すための『時間』が欲しい……」

ほむら「私にとっては非常に重要な世界なわけだけど」

Mami「……虫けら以下の存在に交渉が成立すると思って?」

742: 2013/03/27(水) 00:16:59.09 ID:B3MJg5ALo

ほむら「通じるわ。あなたは腐っても巴マミだから。巴マミという概念だから」

ほむら「それなりのプライドがある。挑発に乗らない冷静さがある。戦士としての誇りがある」

ほむら「今のあなたなら、敵と言えど可愛い後輩の頼みは聞いてくれるんじゃないかしら」

Mami「…………」

ほむら「それとも……使い魔になると全部が全部、ただの人食いしか脳のないノミ以下の概念となるの?」

ほむら「敵のスタンドの秘密を知っているというアンフェアな状態で勝てても嬉しいんでしょうね」

ほむら「正々堂々と戦うという当たり前のことができない……あぁ、嘆かわしい」

Mami「ずいぶんと露骨な挑発をするじゃない。人を虫けら以下呼ばわりして……」

ほむら「えぇ、絶賛挑発中……。それとあなた人じゃあないでしょう。あなた如きが人を語るんじゃないわ」

Mami「本当にあなた私と交渉するつもりあるの?」

ほむら「大いにあるわ」

743: 2013/03/27(水) 00:19:33.94 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……いい?あなたにもう一つだけはっきり言っておくわ」

ほむら「あなたと私は精神的に身分が違うのよ。今の私は精神的貴族に位置する」

ほむら「つまり私とあなたとでは考え方が決定的に違うというもの……」

ほむら「もう一度、交渉内容を確認するわ。悔しければ応じなさい」

ほむら「成り上がり貴族を気取りたいならYESと言うべきよ」

ほむら「私は純粋に、心おきなく戦えるために虫けら以下の存在が尊敬する先輩の姿であることへの躊躇を消すための心の準備がしたい」

ほむら「あなたが戦いに誇りを覚えているのなら、全力で戦える私と戦う必要がある。義務がある。意義がある」

ほむら「何もあなたのスタンドの秘密を教えろと言っているわけじゃあないのよ」

Mami「…………」


Mamiの左瞼はピクピクと痙攣していた。

優しい微笑みは、苦笑いと化していた。


744: 2013/03/27(水) 00:21:34.29 ID:B3MJg5ALo

Mami「虫けら以下……ね。まぁブタとかカスとか言わなかっただけ良しとしましょう」

Mami「私も私だし……お腹も一杯だし、すぐに食べるのもあれよね……」

Mami「いいわ。五分だけ待ってあげる」

ほむら「……チョロい」

Mami「何か言った?」

ほむら「感謝すると言ったのよ。小声で」

ほむら(……挑発を交えつつ譲歩を要求する。そうすることで『敢えて』乗ってくる)

ほむら(もし乗らなければ挑発を受けてしまったようで『ダサい』からだ)

ほむら(敢えて相手の欲求を受け入れる。そういう余裕を見せたがる。相手よりも先に引き金を引かない性格)

ほむら(言い方は悪いけど、巴さんには、こういった性格上の欠点がある)

ほむら(それは、巴さんの概念であるヤツにも通用する……『決闘』や『フェア』という言葉を使用したならなおさらのこと)

ほむら(それにしても、よくもまぁここまで口が回ったものね、私……)

Mami「そうそう……暁美さん。ただし、条件があるわ」

ほむら「条件?」

745: 2013/03/27(水) 00:22:12.96 ID:B3MJg5ALo

Mami「……トッカ」

シュルッ

ほむら「ッ!」


使い魔は腕を軽く持ち上げた。

指の先から黄色いリボンが、真っ直ぐに伸びた。

まるでストーン・フリーの糸のようだった。

リボンはほむらの左腕と、盾に巻き付く。


Mami「リボンであなたの左腕を縛った」

Mami「あなたの時間停止能力……止められる前に触れていれば時の止まった世界に入門できる。前の時間軸の経験」

Mami「だから、リボンであなたに触れることにする。拒否は許さない」

Mami「まあ、触れてようがなかろうがそれくらいの調節はできるようになってるかもしれないけど……」

Mami「それを踏まえて左腕……盾を縛った。時は止められても武器は取り出せまい」

746: 2013/03/27(水) 00:23:21.47 ID:B3MJg5ALo

ほむら「……わかったわ。えぇ、当然の発想ね」

ほむら(ストーン・フリーでその気になれば切断できるが……それはさておき)

ほむら「今から、きっちり五分ね……わかったわ」

Mami「やれやれ……あなた、ずいぶんと変わってしまったわね」

ほむら「これから私はあなたの顔面をストーン・フリーで殴り潰す覚悟を完了するまで精神統一をする。……だから静かにしててちょうだい」

Mami「……はいはい」


ほむらは透明の壁にもたれかかり、腕を組んだ。

所詮は使い魔。

元より尊敬していた先輩の姿だからといって殴ることに躊躇はない。

精神統一をするというのは真っ赤な嘘。

それでもほむらはそのままじっと床を睨みつけた。

ほむらと先輩の概念の決闘は一時的に凍結される。

747: 2013/03/27(水) 00:23:48.11 ID:B3MJg5ALo


キリカと合流して、ほむらと別れ、何分くらい経っただろうか。


まどかは、ずっとそわそわしていた。

すぐ隣にいるキリカは、契約したら頃すと口に出して言った人物。

そして、仮に織莉子という人物が生きていれば、その人と共に頃しに来ていたであろう人物。

実際は今こうして守られているし、悪い人ではないと思えるが、やはり恐怖は拭えない。


「まどか!キリカ!」


――この瞬間を、まどかはどれだけ待ち望んでいたことか。

ポニーテールの魔法少女の声が、名前を呼んだ。

紅潮している頬に一筋の汗が伝っている。

彼女も彼女で、良い印象を持っているわけではないが、

さやかの友達というだけで、ずっと気楽にその名を呼べる。

748: 2013/03/27(水) 00:24:28.80 ID:B3MJg5ALo

まどか「杏子ちゃん!」

杏子「気配がしたんでな……急いで来たぜ」

キリカ「それはよかった。しかし、よくここがわかったね」

杏子「まぁな。やっぱり覚えてるもんだな。見滝原の地理は」

キリカ「あー、違う違う。私達がこの教室にいるってことだよ」

杏子「あぁ、そっちか。学校ん中は初めてなんでチト迷ったがな」

杏子「まどか。怪我はないか?」

まどか「うん」

杏子「そうか。よかった」

キリカ「君もまどかが大事なのかい?」

杏子「ぶっちゃけ言うほどじゃない。ほむらが大事だっつーなら、あたしが守りたいものでもあるってだけさ」

杏子「マミの遺言だからな。ほむらに尽くすことは……で、そのほむらはどこだ?」

749: 2013/03/27(水) 00:25:06.02 ID:B3MJg5ALo

まどか「ほむらちゃんは一人で行っちゃったよ……」

杏子「そうか……まぁあいつなら大丈夫だろう」

杏子「それで、あたしはどうすればいい?」

キリカ「えーっと……」

キリカ「あれ?君に何か伝えるようなことあったっけ?私ィ」

まどか「…………」

杏子「…………」

キリカ「あ、そうそう。私と一緒にまどかを避難させようってこと」

杏子「何だそんなこと。元よりそのつもりさ」

キリカ「思い出した。私は君にそれを伝えるまで待機していた。で、君にそれを伝えたから、まどかを避難させて再入場」

杏子「なるほどね」

まどか「…………」


750: 2013/03/27(水) 00:25:54.74 ID:B3MJg5ALo

杏子ちゃんもキリカさんも……結界で迷ってる人を助けようって言ってくれない。

わたしは、仁美ちゃんや早乙女先生……みんなを助けてほしい。

でももし言ったら、ダメって言われるだろうな……聞かなくても何となくわかっちゃう。

やっぱりほむらちゃんが言ってた通り……

魔女を早く倒すのが、結果的にはみんなを助けることになるんだよね。

だけど……わたしは……。


「……え?杏子?」

まどか「え?」

キリカ「ん?」

杏子「……さやか?」

さやか「な、何……で杏子がここにいんの?」

さやか「何で、まどかやキリカさんがこんなとこに……?」

751: 2013/03/27(水) 00:27:23.31 ID:B3MJg5ALo

杏子「は?何言ってんだおまえ」

まどか「さやかちゃん……さっき出てったよね?」

杏子「出てった?……と、なると戻ってきたのか」

さやか「いや……あたしにもよくわかんない……」

キリカ「わからない?」

さやか「うん、気が付いたら……ここにいたんスよ」

さやか「……あ、ありのままに起こったことを話すよ!」

さやか「あたしは階段を下りたと思ったらいつの間にか上っていた」

さやか「な、何を言ってるのかわからないと思うけど、あたしもよくわからなかった……」

さやか「超スピードだとか瞬間移動だとかそんなんじゃない!」

さやか「学校を走り回っていると思ったら、ここに戻ってきていたんだ!」

杏子「お、おい……落ち着けよ」

キリカ「…………」

752: 2013/03/27(水) 00:28:07.68 ID:B3MJg5ALo

キリカ「……なんて言ったっけか」

まどか「?」

キリカ「恩人が昨日言ってた……スター……いや違う。『ティナー・サックス』とかいうスタンド」

キリカ「迫真のリアリティーな幻覚の能力。もしかしたら、それでさやか、君は……」

さやか「ゲ、ゲームとかでよく見る、元いた場所に戻って来ちゃう迷いの森的な……?」

杏子「それしかないな……」

まどか「そ、そんな……既に、スタンド攻撃が……」

さやか「言われてみれば……ほら、空が……病院の時みたいに暗くないし……」


さやかは指をさした。三人が振り返ると、その通りだった。

空が黒い。しかし、室内には確かに雲越しの日光が入っている。

まどかはこの光景を見るのは今が初めて。そのため、とても驚いた表情をしている。

753: 2013/03/27(水) 00:28:47.18 ID:B3MJg5ALo

杏子「ん、そう言えば……」

キリカ「うっかりしていたが……そうか」

キリカ「……あくまで一般人には結界を悟らせない、と」

杏子「混乱させない、騒がせないために……幻惑魔法の代理か」

さやか「と、取りあえずまどかを避難させよう!」

さやか「折角戻ってきたし、あたしがまどかを抱えますからさ!一緒に……」

杏子「いや、さやか。キリカには時間を操るタイプの魔法が使えるんだ」

杏子「ほむらはあたしとキリカの二人でと言ったそうだが……こいつ一人で十分」

杏子「さやか。あたしと二人で行くぞ。魔女を優先するして倒そう」

さやか「魔女ぉ!?いやいや!ダメだって!」

まどか「そうだよっ!仁美ちゃん達を助けなくちゃ……!」

杏子「仁美ぃ?気持ちは分かるが甘いこと言ってんじゃないぞ」

754: 2013/03/27(水) 00:29:13.72 ID:B3MJg5ALo

さやか「仁美はあたしの親友だ!助けないと!」

キリカ「さやか……取りあえず落ち着いて」

さやか「キリカさんはどうなの!?あんたはどっち派!?」

杏子「ほむらは魔女を最優先だっつった」

杏子「ほむらがそういう方針ならそれに従うべきだ!」

まどか「そ、それでも……!」

さやか「……まどか。もう二人はほっといて、二人で仁美を捜そうよ」

杏子「だー、もう!勝手な行動をするな!まどかは避難させるのは絶対だろ!」

キリカ「…………」

さやか「だったら仁美を助けに行こうよ!ねぇ!」

755: 2013/03/27(水) 00:29:47.35 ID:B3MJg5ALo

キリカ「…………」

キリカ「……なぁ、三人とも」

まどか「?」

杏子「何だよ」

キリカ「あんまり迂闊に動くな」

さやか「い、いきなり何ですかキリカさん……」

キリカ「正直言ってね、私は疑ってるんだ。元々疑り深い性格なんでね……」

杏子「何を疑ってるっつぅんだよ」

キリカ「使い魔は私達にそっくりだ。つまり、この中に『偽物』がいる可能性を危惧している」

キリカ「杏子かさやか。まどかも案外そうかもしれない」

まどか「えぇっ!?」

756: 2013/03/27(水) 00:30:33.86 ID:B3MJg5ALo

キリカ「さやかは一旦退室したから結局、この教室に最初からいたのはまどかだけだ」

キリカ「疑うのは当然だろう」

さやか「……そ、そんなこと言われてもさぁ」

まどか「…………」

杏子「…………フン」

キリカ「でも心配はいらないよ」

キリカ「実はね……使い魔とモノホンを見分ける方法を見つけたんだ」

さやか「え……ま、マジですか?」

まどか「み、見分けるって……」

杏子「正直、本物も偽物も、あいつらは一応概念っつー『本物』でもあるんだぞ。見分けられんのか?」

757: 2013/03/27(水) 00:31:05.14 ID:B3MJg5ALo

キリカ「この使い魔共はね……『指』で食事するんだ」

キリカ「吸って喰うらしい」

まどか「吸う……?」

キリカ「そう。体に指をぶっ刺してそこからチューチュー吸いとるんだ。蚊やダニが血を吸うみたいにね」

キリカ「そこで、肉に食い込みやすくするよう、使い魔の『指はチト鋭い』んだ」

さやか「えっ!?嘘ッ!?」

まどか「ほ、本当ですか!?」

杏子「んなことがあるわけねぇだろ……」

キリカ「…………」


まどかは目を丸くしてキリカの顔を見つめ、次の言葉を待つ。

さやかは自分の指を見て、そして隣にいる杏子の手を見た。

杏子は呆れた顔をして答えているが、視線の先はキリカの顔ではなく指にいっている。

758: 2013/03/27(水) 00:31:39.41 ID:B3MJg5ALo

キリカ「……ふふ」

キリカ「ああ、嘘だよ……。だが、マヌケは見つかったようだね」

まどか「え?」

さやか「何を言ってんスか?」

杏子「…………」

杏子「……そういう、ことか」

さやか「……?」


杏子はその意図を悟り、視線を移す。

まどかは杏子の動きを察知し、同じものを見る。

さやかは少し考えた。

759: 2013/03/27(水) 00:32:18.64 ID:B3MJg5ALo

杏子「…………」

キリカ「…………」

まどか「……あっ」

さやか「…………あぁッ!?」


さやかは気が付いた。

三人の視線が自分に集中していることに。

そしてさやかは理解した。

自分が置かれている立場。

自分の行動が犯したミス。

まどかがその意味を理解した少し後だった。

760: 2013/03/27(水) 00:34:01.34 ID:B3MJg5ALo

杏子「てめぇ……!」

まどか「……さ、さやかちゃ……」

さやか「…………」

キリカ「なぁ、どうなんだ?さやか」

キリカ「いや……」

キリカ「この『使い魔』ッ!」

さやか「…………」


さやかの姿は眉を潜めてキリカの顔を見る。

そして、口角がじわじわと上がっていく。

前の時間軸の美樹さやかの概念。ヴェルサスのSayakaだった。


Sayaka「……プ――ッ!」

Sayaka「ウヒヒヒヒヒヒヒ!ハハハハハハハハーッ!」


761: 2013/03/27(水) 00:34:58.76 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「ウッ、クックックックックックッ、クックッフヒヒヒ!フッフッフッ、ハハハハフフハハッ!ノォホホノォホ」

Sayaka「ヘラヘラヘラヘラ……アヘ、アヘ、アヘ……ウヒヒヒ!ウハハハハハハハハハ!フハハハハハハハ!」


さやかの姿をしたものは、笑った。自分で自分をあざ笑っている。

杏子はまどかの真横に移動した。キリカは爪を構えている。

ジシバリの魔女アーノルドの使い魔、Sayakaは大声を出して笑った。

まどかは、歪んだ笑顔で笑う幼なじみの姿に戦慄した。

杏子は、全く気付けなかった自分に苛立った。

キリカは、もし違和感を覚えていなかったらまどかがどうなってたことか……そう思い寒気がした。


Sayaka「クックック……ヒヒヒ……いやぁ……」

Sayaka「……シブいねぇ」

762: 2013/03/27(水) 00:35:50.56 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「……キリカさん。ほんと、シブいねぇ」

Sayaka「そっか……そうだよね……」

Sayaka「使い魔だったら指の形が変だ、な~んて言われてもさぁ……」

Sayaka「わざわざ『自分の手』なんざ見るもんじゃないよねェ」

Sayaka「普通、話者の顔とか周りの人の指を見るってもんだ」

Sayaka「だって使い魔じゃないもんよ」

キリカ「……いいや、そうとは限らない」

キリカ「自分の指と『それ』の指を見比べるという意味で……自分の指を見ること自体は何らおかしくない」

Sayaka「ほえ……?」

キリカ「結局のとこ、君は自分で自白したんだよ」

Sayaka「…………」

Sayaka「ふぅー……」

Sayaka「あたしってほんと馬鹿」


763: 2013/03/27(水) 00:37:01.93 ID:B3MJg5ALo

Sayakaは頭をポリポリと掻いた。

そして、その手を首に宛った。


Sayaka「やるじゃない。ちょっと見くびってたよ」

Sayaka「まぁ、あたしとしても……今の演技がバレてもいいとは思っていたんだよね」

Sayaka「惜しかったなぁ……あと少しで一気に『三ポイント』だったのに」

Sayaka「……しかしッ!」

キリカ「!」

ズバァッ!

Sayakaは自身の首を指で掻き切った。

肉を抉りとり、そこから体液が勢いよく噴出される。

その液体は、杏子とまどかにかかる。

まどか「んッ!?」

杏子「うあッ!?」

Sayaka「どうだこの血の目つぶしィッ!」

764: 2013/03/27(水) 00:37:38.20 ID:B3MJg5ALo

キリカ「まどか!杏――」

キリカ「ガフッ!?」

キリカ「ゲホ……?ゲハッ!」


キリカは首を抑え咳き込んだ。

激痛と共に吐血をした。

手に濡れているような感覚。首から出血している。


キリカ「な、何だ……!?」

キリカ「わ、私は……触れられていないのに……」

キリカ「いきなり首の肉が裂け……いや、抉れた……!?」


765: 2013/03/27(水) 00:38:32.53 ID:B3MJg5ALo

Sayaka「まどかはいただくよッ!」

まどか「わあッ!?」

杏子「ああっ!」

キリカ「ぐっ……!ガホッ!」


二人の目がくらんだ隙とキリカが咳き込んでいる突き、Sayakaは駆ける。

スピードには自信がある。

一気に距離を詰め、杏子を突き飛ばす。

そして素速くまどかを抱え、全力で走る。

Sayakaはそのまま教室から出ていった。

杏子は顔を拭い、Kirikaは魔法で首を治癒した。

使い魔を逃がしてしまった。


766: 2013/03/27(水) 00:39:09.55 ID:B3MJg5ALo

キリカ「ハァ、ハァ……」

キリカ「くそぅ……スタンド能力か……名前は確か……『ドリー・ダガー』……」

キリカ「ダメージを転移する能力……いきなり私の首を……くっ、恐ろしい能力だ……」

杏子「うえぇっ、ペッ、ペッ!く、口に入って……!」

キリカ「あーあ……参ったな……まどかが攫われちゃったよ」

キリカ「こりゃ恩人に顔向けできない」

杏子「……え?」

キリカ「いや、こっちの話さ」

キリカ「それよりも、さっさと顔を拭いな。こっちもこっちで大変だよ」

杏子「……?」

杏子「……!」

767: 2013/03/27(水) 00:39:52.95 ID:B3MJg5ALo

Sayakaと入れ替わったかのように、既に別の「人物」がいた。

そこにいたのは、小柄な女性だった。

眼鏡をかけて、にこにこと微笑んでいる。


キリカ「……『早乙女先生』……どうしたんですか?」

和子「いえ、みなさん。学校に遅くまで残って勉強だなんて、感心だなと思いまして」

和子「呉さん。久しぶりですね。担任の先生が心配してましたよ」

キリカ「……何て言うと思った?」

キリカ「貴様は使い魔だ……差詰め『Kazuko』ってとこかい」

Kazuko「やっぱり、気付いてましたか……タイミングがタイミングですしね」

キリカ「かかってきなよ……」

キリカ「私は……絶対にまどかをこの結界から避難させる!」

杏子「…………」

768: 2013/03/27(水) 00:40:33.46 ID:B3MJg5ALo

キリカ「アメリカ方式」

キリカ「フランス方式」

キリカ「日本方式」

キリカ「イタリア、ナポリ方式」

キリカ「世界のフィンガー『くたばりやがれ』だ」

Kazuko「せ、先生をバカにしているんですか!?体罰をします!」

Kazuko「『スケアリー・モンスターズ』ッ!」

キリカ「ふん!首を切り落としてやるさ!」


キリカは爪を構え、使い魔と対峙した。

愛情を一切感じさせない表情を見せる、教諭の概念はヒステリックに叫んだ。

769: 2013/03/27(水) 00:48:46.81 ID:B3MJg5ALo
今回はここまで。お疲れさまでした。

最初は27話構成みたいなこと言いましたが、予定を変更します。
思いの外今回のが長かったんで、戦闘は戦闘で分けたいという理由で急遽ここまでを一話にカウント。
一話追加……正確には最終話をエピローグということにします。
次回戦闘回とか言っておきながらで申し訳ないです。今度こそ、次回から戦闘です。多分今夜投下します
取りあえず言えることは、これ次スレ行きますね。しかも二スレ目が中途半端に終わりそう

ちなみに今回のサブタイトルは魔少年ビーティーのサブタイトルが元ネタだったりする。わかりづれー




引用: まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」